判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(218)平成23年10月24日 東京地裁 平22(ワ)20062号 請負代金等請求事件
判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(218)平成23年10月24日 東京地裁 平22(ワ)20062号 請負代金等請求事件
裁判年月日 平成23年10月24日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平22(ワ)20062号
事件名 請負代金等請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2011WLJPCA10248002
要旨
◆原告が、被告に対し、主位的には、原被告間で本件芸能人を被告の主催するショーに出演させることを内容とする請負契約等を締結したとして、出演料等の支払を求め、予備的には、被告が上記支払を免れる目的で、訴外Dとの間で、被告の前記債務とDの被告に対する債務とを相殺できる旨の条項を盛り込んだ契約を締結し、その相殺を実行して原告に損害を負わせたとして、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案において、原被告間で原告主張の上記請負契約等が締結されたとは認められないなどとして、主位的請求は理由がないとし、又、予備的請求については、時機に後れた攻撃防御方法であるとの被告の主張を排斥したものの、被告の代表者が債務免脱目的でDとの契約を締結したとも認められず、理由がないとし、原告の請求をいずれも棄却した事例
参照条文
民法555条
民法632条
民法709条
民事訴訟法157条
裁判年月日 平成23年10月24日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平22(ワ)20062号
事件名 請負代金等請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2011WLJPCA10248002
東京都港区〈以下省略〉
原告 有限会社ジュクネン
代表者代表取締役 A
訴訟代理人弁護士 影山光太郎
同 小川基幸
同 園山佐和子
同 中村亮
大阪府大阪市〈以下省略〉
被告 株式会社デカナル
代表者代表取締役 B
訴訟代理人弁護士 徳井義幸
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
(1) 主位的請求
被告は,原告に対し,743万8740円及びうち673万8740円に対する平成22年4月14日から,うち70万円に対する平成22年6月4日から,それぞれ支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。
(2) 予備的請求
被告は,原告に対し,743万8740円及びこれに対する平成21年11月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,主位的に,被告との間で芸能人であるCを被告の主催するショーに出演させることを内容とする請負契約及びCのポスターの販売契約を締結したとして,これらの契約に基づき,出演料及びポスター代金並びに弁護士費用の支払を求め,予備的に,被告が上記代金の支払を免れる目的で,原告に損害を与えること,D(以下「D」という。)が無資力であることを認識しながら,敢えてDとの間で,被告のC出演料等の支払債務とDの被告に対する債務とを相殺できる旨の条項等を盛り込んだ契約を締結して,Dとの債権債務関係を相殺により清算したことにより,原告に上記代金額相当の損害を負わせたとして,不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。
1 前提事実(証拠を掲げたもの以外は,当事者間に争いがない。)
(1) 原告は,演劇,演芸,コンサート等の興業及び仲介,あっせん業,広告及び宣伝業等を業とする特例有限会社である。
被告は,各種イベントの企画及び制作,広告代理業等を業とする株式会社である。
(2) 原告は,平成19年秋ころ,Cが所属するノーリーズン株式会社から,被告作成の同社宛て企画書のファックスを交付された。この企画書には,関西圏において,市民会館等の自治体が運営する比較的小規模の会場で高齢者向けにCショーを開催したいこと,今後10数か所の展開が見込めること等が記載されていた。
原告の担当者でCのマネージャーをしているE(以下「E」という。)は,被告代表者との間で出演料等の交渉を行ったが,折合いが付かず,交渉は打ち切られた。
(3) その後,原告は,兵庫県宝塚市在住のD(本件記録上,「D1」「D2」という名称も使用されているが,同一人物であると認める。)を原告の大阪での窓口とし,同人に被告との間で出演料等に関する交渉をさせることとし,被告にその旨を連絡した。
(4) 被告は,平成21年1月17日から同年8月28日にかけて,関西圏でCショーを合計8件開催した。
(5) 原告は,被告に対し,Cポスター代金として,平成21年11月19日に14万7000円を,平成22年1月15日に3万円を,それぞれ請求した(甲1,2)。
(6) 被告は,平成22年1月30日,同月31日に,四国においてCショーを合計2件開催した(甲7)。
(7) 被告は,平成22年3月5日に兵庫県神戸市で,同月6日に和歌山県有田市で,同月7日に京都府綾部市で,同月13日に大阪府泉南市で,同月14日に京都府亀岡市で,それぞれCショーを合計5件開催した(以下,この期間のCショーを,合わせて「本件ショー」という。)。
(8) 原告は,被告に対し,本件ショーの出演料として,平成22年3月5日に同日から同月7日までのショー出演料として409万5000円を,同月13日に同日及び同月14日のショー出演料として273万円を,それぞれ請求した(甲3,4)。
(9) 被告は,平成22年4月1日,原告に対し,26万4760円を振り込み送金した(甲6)。
(10) 原告代理人は,被告に対し,上記(5)のポスター代金及び上記(7)の本件ショーの出演料の残額合計673万8740円を支払うよう,平成22年5月11日付け請求書を送付し,同請求書は翌12日に被告に到達した(甲5の1,2)。
(11) 被告代理人は,原告代理人に対し,被告は原告との間に何らの契約関係もないこと,被告はDとの間の契約に基づき,全て清算済みであること,原告の請求はDに対してなされるべきものであること等を内容とする平成22年6月2日付け回答書を送付し,同回答書は同月4日に原告代理人に到達した(乙1の1,2)。
2 争点及び当事者の主張
(1) 原告と被告は,本件ショーにCを出演させる旨の請負契約及び同人のポスター販売契約を締結していたか(主位的請求)。
(原告)
原告の担当者であるDは,平成21年秋ころ,被告との間で,1件当たりの出演料130万円(消費税込みで136万5000円),支払期日を各ショーの開催日から30日後の約定で,Cを本件ショーに出演させる旨の請負契約,本件ショーの宣伝・広告のための同人のポスターの販売契約(以下,合わせて「本件契約」という。)を口頭で締結した。原告と被告間で本件契約が締結されているのは,原告が本件契約に関する請求書を被告に送付していること,被告からその一部につき支払を受けていること,本件契約に係るポスターも原告から被告に直接送付していること,本件ショー以前にも原告は被告に対し合計10本のショーを提供し,被告から直接支払を受けていること等から明らかである。
本件ショーの各支払期日はいずれも経過した。
よって,原告は,被告に対し,本件契約に基づき,本件契約の残代金673万8740円及び被告の債務不履行と相当因果関係がある本件訴訟提起追行のための弁護士費用70万円の合計743万8740円並びに上記残代金に対する最終弁済期の翌日である平成22年4月14日から,上記弁護士費用に対する訴状送達の日の翌日である同年6月4日から,それぞれ支払済みまで商事法定利率年6パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告)
被告が原告との間で本件契約を締結した事実はない。被告がCショーの出演等に関する契約を締結した相手方はDである。被告とDとの間の契約では,支払先がDの指定先となっており,Dは原告の口座を支払先として指定していたため,被告は原告の口座に振込みをしていた。
被告は,Dとの間の契約において,被告とDとの間で別途契約したFの公演契約書において発生したDの被告に対する出演料等債務と本件ショーにおいて発生した被告のDに対する出演料等債務とを相殺することを予め合意しており,本件ショーに関する債権債務は全て清算されている。
(2) 被告の不法行為責任(予備的請求)
(原告)
被告は,Cの出演料等の支払を免れるため,Dとの間で,自らが利得を確保し,損失のリスクを原告に負わせる不当な条項を盛り込んだ契約書を周到に準備した上,Fの公演の損失が既に確定した平成22年2月の時点で,原告の口座に振り込まれるべき金銭からその損失が填補されること,Dが無資力であることから,本件ショーが行われる前に,原告がCの出演料の全額を得ることができなくなるのを知っていながら,これを秘して,原告に上記出演料を得られるものと誤信させたまま,Cを本件ショーに出演させ,その報酬額相当の損害を原告に負わせたものである。
よって,原告は,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償として,被告の不法行為と相当因果関係のある損害である本件契約の残代金相当額673万8740円及び弁護士費用70万円の合計743万8740円並びにこれらに対する不法行為が開始された後の日である平成21年11月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告)
ア 原告は,証拠調べを終了した後になって予備的請求を追加したが,これは主位的請求とは訴訟物も請求原因も全く異なり,請求の基礎に変更がないとはいえない不適法な訴え変更であるし,そうでなくとも時機に後れた背信的ともいうべき請求の追加であって,その審理により著しく訴訟手続が遅延することになるから,かような請求は許されない。よって,予備的請求に対しては却下を求める。
イ 仮に予備的請求の追加が許された場合でも,①原告が問題としている相殺合意は平成20年11月20日に行われ,それ以降の平成21年1月から平成22年1月までの10回の公演については原告はCの出演料を回収しており,原告も詐欺であるなどとは主張していないこと,②当初から,被告とDとの契約書(乙2)にはFの公演料を380万円とする旨が明記されており,公演のチケットがどれだけ売れるかは様々な不確定要素によって決定され,利益が出るか損失が出るかは被告自身が決定し得る事柄ではないこと,③Dと被告との各契約書(乙2ないし10)はいずれも真正に成立し,いわゆる契約の自由の原則の範囲内のものであるから,被告の行為には何ら違法性がないことからすれば,被告に不法行為が成立する余地はない。
第3 当裁判所の判断
1 上記第2の1の前提事実及び後掲証拠並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1) 被告代表者は,平成19年秋ころ,Eに対し,平成20年4月から平成21年3月までの期間に被告が主催する予定のショーにCを出演させる旨の依頼をし,出演料を電話において交渉したが,Eと金額面の折り合いが付かず,交渉は中断した(前提事実,甲19,乙11,証人E,被告代表者)。
(2) 原告は,関西圏の営業強化のために連絡事務員を配置することとし,平成20年3月17日,Cの知合いから紹介を受けたDと,新橋の中華料理店で面談し,同人を関西圏での連絡事務員として採用した(甲11の1ないし3,甲12,19,証人E)。
原告は,Dに対し,同年4月25日に行動費・交通費として7万6480円,同年5月から平成22年1月まで外注費として1か月当たり5万円を支払ったが,それ以外に給与等の名目で金員を支払ってはおらず,Cショーにおける成功報酬等も特段支払っていない(甲12,13,証人E,同D)。また,Dは,原告の社会保険,健康保険,労災保険及び雇用保険のいずれにも加入していない(証人D)。
原告は,Dが関西圏で営業活動を行うための足がかりが必要となったこと,被告から以前に受けた提案では10数か所のまとまった公演回数が見込まれたことから,被告の主催するショーにCを出演させたいと考えた。Eは,平成20年3月ころ,被告代表者に対し,被告からの以前の申し出について,Dを原告の連絡事務員として派遣するので出演料も含めて交渉してほしい,企画書にあるとおり会場取りを進めてほしい旨を電話で伝えた。これに対して,被告代表者は,公演といっても急に決まるものではないから考えさせてほしいと述べた。(甲19,乙11,証人E,被告代表者。これに対して,Eは,このときの被告代表者との電話において,出演料については130万円(消費税別)にすることが合意された旨を供述するが,被告代表者はこれを否定する供述をしており,Dもまた,同人が被告代表者と面談した際にはCの出演料は未だ決まっていなかった旨供述しているから,Eの上記供述は採用できない。)
被告代表者は,同年3月下旬か同年4月上旬ころ,Dと面談した。Dは,被告代表者に対し,「オフィス○○」という名刺を渡し,自分は「協愛」という会社の社員であったこと,これまでにいろんなタレントを扱った仕事をしたことがあること,現在は原告と提携して西日本地域でのCショーについてスケジュール管理等を任されているなどと述べたため,被告代表者は,Dを原告の従業員ではなく,独立した仲介業者であると判断した。被告代表者は,当初のEの対応に不満を抱いていることをDに告げ,E側とは契約をしたくない,Cショーについても回答を留保したいと述べたところ,Dは,自分は会社を退社したところで今は大変な状況である,生活のためにいろんな仕事に取り組みたいなどと発言したため,被告代表者はDとの間で他のタレント公演の共催事業や自主興業の話をしながら,C公演についても交渉を継続することとした。(乙11,証人D,被告代表者)
(3) 被告とD(オフィス○○。同人の屋号である。)は,平成20年11月10日ころ,平成21年1月から平成22年3月までの期間に関する企画の取決めについて,概ね次のような内容の「2009年度事業の取決め(覚書)」と題する文書(以下「本件取決め」という。)を締結した(乙2,11,証人D,被告代表者)。
ア 被告及びDは,平成21年1月から平成22年3月までに,各公演の取決め(スケジュール本数及び金額)を行い,誠実に履行する(1条)。
① 被告はDとの間で,上記期間にC出演の公演を制作し,また,営業,ゲスト出演を含み最低10本の出演依頼をすることとし,出演料130万円(消費税別)で契約する。
② Dは被告との間で,上記期間にF・Gの公演について,最低5本の共催事業及び会館自主興業を約束する。ただし,Dは,他社に販売せず,直接市町村と取引する。
イ Dは,被告の提供する「G・演歌祭り」及び「F・ふれあいコンサート」の事業を5本以上約束した上で,被告はDに対し,決定した本数当たり20万円を支払うことを約束する。これは,C出演料に対する被告からDへの謝礼と考え特別手当として取り決める。(2条)
ウ 被告は,C公演において,出演料を当該公演の終了後30日以内に振り込みにより支払うこととする。原告は,Dが決定した「G・演歌祭り」及び「F・ふれあいコンサート」に関する契約本数の5本×20万円の謝礼金に関しては,各公演契約日より30日以内にDの指定する口座へ振り込む。Dは,被告が同公演の支払に関し,各自治体と被告が直接契約を締結するのを認める。また,被告とDとで契約を締結する場合は,公演終了後30日以内に,Dは被告の指定する口座に振り込むこととする。(4条)
エ (前略)最終の支払事項に関して,双方の支払が重なった場合,被告及びDの各指定の振込先より相殺することとする(5条)。
(4) また,被告及びD(オフィス○○)は,平成20年11月10日ころ,平成21年1月17日に松原文化会館で被告が主催するCショーについて,①Cの営業に関し,1公演130万円(消費税別),その他経費は被告の負担,②支払期日は公演終了月の翌月末にDの指定する銀行口座に振り込む等を内容とする公演契約書を締結した(乙3,11,証人D,被告代表者)。
(5) 被告及びD(オフィス○○)は,平成20年秋ころ,平成21年1月18日から同年8月28日までに実施予定のCショーに関して,上記(4)と同様の内容の公演契約書を順次締結した(乙4,5,11,証人D,被告代表者,弁論の全趣旨)。
(6) 被告は,平成21年1月17日から同年8月28日にかけて,関西圏でCショーを8件開催した(前提事実)。これらのショーの出演料は,いずれも,原告から被告に対して請求書が送付され,平成21年1月27日から同年9月28日にかけて,被告により原告の口座に振り込まれた(甲7ないし9,甲19,証人E,同D,被告代表者)。これは,出演料130万円(消費税別)の中にDの取り分がないにもかかわらず,同人が支払を受けると源泉税や消費税の問題が発生するため,同人が,被告に対し,請求書は直接原告から送付させるし,振込も原告の口座に振り込んでほしいと指示したためであった(乙11,証人D,被告代表者)。
(7) Dは,本件取決めに基づいてF等の公演を主催するための営業活動を行ったが,契約が取れなかったため,被告の紹介で,被告と取引のある民間企業が管理している地方自治体の会館を無料で提供してもらい,形式的には当該地方自治体と被告とが契約する形で共催事業を行うが,実質的にはDが主催することとした。もっとも,同人には資金がなく,F公演の経費を支出することができなかったため,主催者が負担することとなる経費についても被告が立て替えることになった(証人D,被告代表者)。
D及び被告は,平成21年秋ころ,①Dが平成22年2月11日,同月13日,同月20日,同月21日に実施予定の「F・ふれあいコンサート」を被告に委託する,②各公演の契約金額を各380万円(消費税別)とするが,チケット代金と相殺し,チケット代金が契約金額を上回る場合は,被告はDの指定する口座に30日以内に当該金額を振り込むこととし,チケット代金が契約金額に満たない場合は,Dは被告の指定する口座に当該金額を振り込むこととする,③清算に関し,30日を過ぎてもDが被告に支払わない場合は,本件取決めに基づきCショーにおけるDの指定する口座に振り込まれるべき金額と相殺する,被告がDに支払わない場合は,本件取決めに基づき,被告は違約金として1公演当たり130万円(消費税別)×2公演分を違約金として支払うものとする等を内容とする公演契約書を締結した(乙8,9,証人D,被告代表者)。
さらに,被告及びDは,平成21年秋ころ,上記「F・ふれあいコンサート」で生じた経費の一部と本件取決めに基づくCショーにおけるDの謝礼金80万円(20万円×4公演)とを相殺する旨を合意し,経費の残金は被告が立替払し公演終了後に清算する等を内容とする「株式会社デカナルとOFFICE △△の経費契約」(OFFICE △△はDの屋号である。)を締結した(乙10,証人D,被告代表者)。
(8) また,被告及びD(OFFICE △△)は,平成21年秋ころ,平成22年1月30日,31日に実施予定のCショー及び同年3月実施予定の本件ショーに関して,上記(4)と同様の内容の公演契約書を順次締結した(乙6,7,11,証人D,被告代表者,弁論の全趣旨。なお,乙7の公演契約書では,本件ショー以外に平成22年3月12日の桜井市民会館の公演が記載されているが,実際にはCのスケジュールの都合により実施されていない。)。
(9) Dは,原告に対し,上記の各契約書を被告との間で締結したことを告げなかった(証人D)。
(10) Dや当時原告の社員であったH(以下「H」という。)と,被告代表者や被告の取締役との間で,上記の各公演についての事前準備が行われた(甲19,20,弁論の全趣旨)。
(11) 原告は,平成21年11月19日及び平成22年1月15日に,被告に対し,本件請求に係るCのポスターを送付した(甲10)。
(12) 原告は,平成21年12月18日,大阪市の住之江競艇場でCをショーに出演させたが,主催者側からDが出演料200万円を受領したにもかかわらず,これを原告に送金しないということがあった。
Eは,平成22年2月ころ,被告代表者に対し,上記の点や,Dが体調を崩していたことから,今後はDを連絡員から外して原告の社員が直接打合せをしたい旨伝え,被告代表者もこれを了解した。それ以降は,Hと被告側で行程表の確認,ショー当日に販売するCDの手配,新幹線等のチケット受領等の事前準備が進められた。
(甲19,20,乙11,証人E)
(13) 平成22年2月11日から21日にかけて,西条市丹原文化会館,砥部町文化会館,光市民ホール,福山市神辺文化会館において,被告の制作した「F・ふれあいコンサート」が各開催された。Dは,ポスターの配布やチケットの配布,宣伝活動を行い,これらの公演のうち,利益が出た公演もあったが,チケットが思うようには売れず,赤字で終わった公演もあった。(甲17,乙8,9,証人D,被告代表者,弁論の全趣旨)
(14) 平成22年3月,本件ショーが開催され,Hらは,被告の取締役に対し,本件ショーの各請求書を直接手渡しした(甲19,20)。
(15) Dは,平成22年2月23日から同年3月11日ころまでの間,脳幹出血により入院した(証人D)。
(16) 被告代表者は,Dの退院後に同人と面会し,これまでの取引の清算を行ったところ,Dから被告に支払うべき債務が残ったため,これを被告が本件ショーにおいて支払うべき出演料から相殺する旨述べた。Dは,差額については原告の口座に振り込んでほしいと述べたため,被告は,平成22年4月1日,26万4760円を原告の口座に振り込んで支払った。(前提事実,証人D,被告代表者)
Eは,同月下旬ころ,被告代表者に対し,残額の支払を督促したところ,被告は,本件ショーにかかる契約はDとの間で締結したものであり,Dとは相殺により清算済みであるとして,原告への支払を拒絶した(甲19,証人E)。
2 争点(1)について
(1) 原告は,原告の交渉担当者であるDを介して,被告との間で,本件契約を口頭で締結した旨主張し,証人Eはこれに沿う陳述(甲19),供述をする。
しかし,上記1認定の事実によれば,本件ショーに関する契約を含め,D個人と被告間の各契約書(乙2ないし10)が存在し,Dと被告のいずれも,これらの契約書が真正に成立した旨を供述していること,Dは,原告から外注費として,Dの活動費月額5万円及び平成20年3月17日の面談日の交通費の支払を受けたものの,それ以外に原告から給与等の名目で金員の支払を受けておらず,Cの契約に関しても成功報酬はなかったこと,Dは原告の社会保険,健康保険,労災保険及び雇用保険に加入していないこと,D自身,原告の従業員であるという認識はなく,原告とは独立した立場で被告との間で本件ショーに関する契約を締結した認識である旨を供述していること(証人D尋問調書39頁)に照らせば,かえって,被告とDとの間でCショーに関する契約が締結されたと認められるのであって,原被告間で本件契約が締結された事実を認めることができない。
(2) これに対して,原告は,被告の提出するDとの間の各契約書(乙2ないし10)は,作成日の記載のないものがあったり,CとF等の各公演についてのバーター取引,清算時の相殺合意など,業界の慣行に沿わない不自然な記載が多い旨主張する。しかし,Dと被告代表者のいずれも,上記各契約書はバーター取引や相殺合意の約定を含め,記載内容どおりに成立したものであり,また,後から遡って作成されたものではないことを明確に供述しており,これらの供述に特段,不自然,不合理な点も認められないから,原告の上記主張は採用することができない。
また,原告は,原被告間で本件契約が締結されたことを裏付ける事情として,原告が出演料等の請求書やCのポスターを被告に直接送付し,被告から原告の口座に直接に出演料等の振込みがされていること,本件ショー以前にも,被告の主催する合計10本のCショーの出演料については,原告の請求により被告から原告の口座に振り込まれてきたことを挙げている。しかし,原告側に支払うべきCの出演料130万円(消費税別)の中にはDの取り分がないにもかかわらず,同人が被告から支払を受けると源泉税や消費税の問題が発生するため,Dは被告に対し,請求書は直接原告から送付させるし,振込も原告の口座に振り込んでほしいと指示していたこと,Dが原告に対し,被告との間で直接に契約を締結したことやその契約内容について告げていなかったことは上記1認定のとおりであり,これらの事実を考慮すれば,原告の主張する事情は原被告間に契約関係がないとする上記結論を左右するものとはいえない。
(3) したがって,その余の点を判断するまでもなく,原告の主位的請求は理由がない。
3 争点(2)について
(1) 原告は,本件の証拠調実施後に予備的請求を追加し,被告が,Cの出演料等の支払を免れるため,Dとの間で,自らが利得を確保し,損失のリスクを原告に負わせる不当な条項を盛り込んだ契約書を周到に準備した上,Fの公演の損失が既に確定した平成22年2月の時点で,原告の口座に振り込まれるべき金銭からその損失が填補されること,Dが無資力であることから,本件ショーが行われる前に,原告がCの出演料の全額を得ることができなくなるのを知っていながら,これを秘して,原告に上記出演料を得られるものと誤信させ,Cを出演させたという不法行為により,その出演料相当額の損害を被らせた旨主張する。
(2) これに対して,被告は,原告の予備的請求の追加は請求の基礎に変更がないとはいえないし,時機に後れているから却下を求める旨主張する。
しかし,原告は,当初,原被告間に契約関係があることを前提に被告に対し出演料等の支払を請求したところ,被告は,原告との間に契約関係はなく,Dとの間に契約関係がある旨を陳述したので,原告は従前の請求に加え,被告の上記陳述を前提とした場合,被告の行為が不法行為に当たるとする損害賠償請求を予備的に追加したという経過に照らせば,仮に請求の基礎に変更があるとしても,訴えの追加的変更を許さないとすべきものではない(最判昭和39年7月10日・民集18巻6号1093頁参照)こと,確かに,原告の予備的請求の追加は,時機に後れていることが否めないが,口頭弁論終結時までに被告から反論もなされていること,既に実施した証拠調べにおいて,被告とDとの各契約締結に至る経緯やその後の経過全般にわたって尋問が行われたため,予備的請求に対して新たな審理を行う必要まではなく,全体として著しく訴訟手続を遅滞させたとはいえないことに照らせば,原告の訴えの追加的変更を許さないとまですべきものではないから,被告の上記主張はいずれも採用できない。なお,本件の尋問の結果に照らしても,原告代理人らが,当初から予備的請求を追加する予定で尋問を行ったとまで認めることはできない。
(3) しかし,原告の上記不法行為の主張は,被告が,Cの出演料等の支払を免れるため,Dとの当初の契約の締結段階から,F等の公演において損失が出ることを予想し,Dが被告に対して支払えない場合のリスクを原告に負わせることを意図していたことが前提となるものであるところ,被告とDが本件取決め及び平成21年1月ないし8月のCショーに関する契約を締結した平成20年秋の時点において,F等の公演については未だ実施時期や公演場所の予定が立っておらず,「F・ふれあいコンサート」の公演契約書及びこれに関する経費契約を締結した平成21年秋の時点においても,上記公演は平成22年2月に実施される予定であり,そもそも,各自が主催する公演において利益が出るか,損失が出るかは,各公演におけるチケットの売上結果によるところも大きいと考えられることを考慮すれば,被告代表者が,Dとの間で上記各契約を締結する時点において,当初からF等の公演において損失が出ることを予想していたとまでは認めることができないし,本件記録上,被告代表者がそのように予想し,Cの出演料等の支払を免れようとの意図を有していたとまで認めるに足りない。また,Dは,証人尋問において,Fの出演料がCに比して高額であること等を述べ,被告との各契約の内容について,今にして思えばもっと違う契約内容であってよかったとか,原告と被告とで直接に契約を締結してもらえばよかったという趣旨の供述をしているものの,同人は,被告との間で各契約書(乙2ないし10)の記載内容のとおりの合意をした旨の供述をしているから,仮に被告がFの公演において損失が発生するであろうことを予想しながら,乙7の公演契約書に基づき本件ショーを主催し,その後,Dとの間で上記各契約書に記載された清算,相殺の処理を行ったのであったとしても,契約当事者の態度として非難されるべきものとはいえない。したがって,原告の不法行為に関する主張は採用することができない。
これに対して,原告は,被告が不法行為を行った根拠として,被告代表者がDをそそのかし,あるいは強制して各契約書に押印させたこと,DはFの公演の主催者に仕立て上げられたダミーであること,原告が各契約書の存在を知らなかった旨主張する。しかし,Dは,被告代表者に利用されたとか,脅されたという認識はない旨を供述していること(証人D36頁),Fの公演については,被告との契約でDが最低5本の共催事業又は自主興業を行うことになっていたものの,Dが契約が取れず,被告の紹介で,被告と取引のある民間企業が管理している地方自治体の会館を無料で提供してもらい,形式的には当該地方自治体と被告とが契約する形とし,またDに資金がなかったため,同人が主催者として負担すべき経費を被告が立て替える形になったことは上記1認定のとおりであるが,本件全証拠に照らしても,被告がDをダミーに仕立て上げる意図を有していたと認めるに足りないこと,Dが原告に対し,被告との間の各契約の存在,内容を告げなかったのは上記1認定のとおりであり,被告もまた,原告側にDとの間の契約の存在について特段伝えていなかった旨供述しているが,本件記録上,被告がDに対して原告に上記の点を告げないよう積極的に指図したなどの事情も窺うことができないことに照らせば,原告が不法行為の根拠として主張する点はいずれも採用することができない。その他原告は,被告による不法行為が成立する理由を縷々主張するが,いずれも当裁判所の上記の結論を左右するものとはいえない。
(4) したがって,その余の点を判断するまでもなく,原告の予備的請求もまた理由がない。
4 よって,原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判官 小池あゆみ)
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