判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(105)平成27年10月27日 東京地裁 平25(ワ)26638号 損害賠償請求事件
判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(105)平成27年10月27日 東京地裁 平25(ワ)26638号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成27年10月27日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)26638号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 認容 文献番号 2015WLJPCA10278034
裁判年月日 平成27年10月27日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)26638号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 認容 文献番号 2015WLJPCA10278034
神戸市〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 田島浩
東京都文京区〈以下省略〉
被告 Y
主文
1 被告は,原告に対し,5709万1399円及びこれに対する平成25年2月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
本件は,外国為替証拠金取引(以下「FX取引」という。)によって預かり資産を運用するファンドであるTemecula Alpha FX Fund(以下「本件ファンド」という。)に投資した原告が,本件ファンドにおいては,現実には運用資金元本が毀損された状態にあったのに,架空の収益を計上して出資金を配当に当てたり,FX取引とは無関係の経費支払に出資金を流用したりする行為が行われていたと主張して,本件ファンドの運用者である被告に対し,出資金8909万1399円から配当金3200万円を控除した差額である5709万1399円の損害を原告に発生させたとして,不法行為に基づき,損害賠償金5709万1399円及びこれに対する最後の不法行為日である平成25年2月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
第3 争点及び当事者の主張
本件の争点は,被告が不法行為に基づく損害賠償責任を負うか否かである。
1 原告の主張
(1) 本件ファンド
本件ファンドは,FX取引により出資金額の5パーセントを超える収益を上げることができておらず,毎月の分配金と経費等を控除すると運用資金元本が毀損し続ける状態であった上,同ファンドを運営する被告がFX取引において既に損失を出していた平成24年中には,運用資金元本を大きく割っていた。そして,本件ファンドの名称で出資金を集めていた者は,FX取引による現実の収益の有無に関係なく,架空の収益を計上し,当該架空の収益から顧客への分配金(当初投資金額の5パーセントに相当する金員)を控除した額を成功報酬として収受して自己の経費等に費消する意図の下,実際にこれに沿った取扱いを行っていた。
しかし,本件ファンドの投資勧誘においては,顧客に対して上記意図や取扱いを秘匿し,FX取引による利益から顧客への分配金を控除した額を成功報酬として収受し,運用資金のドローダウン(FX取引の失敗による運用資金元本の毀損)が20パーセントに達した場合は,顧客に対しその後の信託を継続するか否かを問う連絡をすると称して詐欺的な勧誘が行われていた。また,本件ファンドにおいては,顧客との契約内容で定められたFX取引の運用やこれに関連する費用と関係のない経費の支払や金融商品取引業の登録のない業者に対する支払に,顧客から得た出資金を充てる業務上横領行為が行われていた。
(2) 不法行為
被告は,ファンドの組成・管理及び運用等を業とする分離前被告株式会社Limit Investageの代表取締役として,本件ファンドへの出資金名下に集められた金員をFX取引により実際に運用していた。また,被告は,原告への配当が途絶えた平成25年6月以降,原告に対し,平成24年段階から月5パーセントの配当が可能となるような利益を上げられておらず,架空の収益を計上し顧客から集めた出資金を配当に回していたことを認めていた。そうすると,被告は,上記(1)の詐欺又は横領行為の本質部分を熟知しつつ資金の運用を行っていたものであるから,故意の不法行為に基づく損害賠償責任を負う。
また,被告は,自らが運用するFX取引のための出資金が,出資者に対してどのような説明がされた上で集められた金であるのか,真実の運用結果が出資者に対してなされているかについて確認した上で出資金を運用するべきであった。したがって,被告には,巨額の出資金を預かり運用するに際して,顧客の意思確認につき過失があるから,過失の不法行為に基づく損害賠償責任を免れない。
仮に,被告が原告に対しては上記意思確認の義務を負わないとしても,被告は,出資金の運用を被告に任せていた分離前被告A(以下「A」という。)に対し,本件ファンドの運用状況について正確な報告をすべき義務を負っていた。しかし,被告は,同義務を怠り,その結果,原告ら顧客に誤った運用状況が報告され,原告は預託金の回収の時期を逸したどころか追加出資にも応じてしまった。したがって,被告は,上記義務に違反した過失の不法行為に基づく損害賠償責任を負う。
(3) 損害の発生及び数額
原告は,自ら本件ファンドへの投資を行うとともに,友人のB(以下「B」という。)から資金を預かって本件ファンドへの投資を行った。Bの資金については,本件ファンドへの送金自体はBが自身の名で行ったが,原告とBとの間では,原告がBに対して,出資金の元本から本件ファンドに対して当初支払う手数料と送金手数料を差し引いた金額は必ず返還すること,ただし,本件ファンドの運用による配当はBが取得するが,Bが得た配当額は原告がBに返還すべき金額から控除するという合意が成立していた。したがって,原告は,被告の不法行為により,自ら支払った出資金相当額の損害を被ったほか,Bに対し,Bの出資金の元本から上記手数料及び送金手数料を差し引いた金額を返還する義務を負っているため,同金額の損害をも被ったといえる。
(4) よって,原告は,被告に対し,不法行為に基づき,原告及びBが本件ファンドに預託した合計金額8909万1399円から受領済みの配当金合計3200万円を控除した5709万1399円及びこれに対する最後の不法行為日である平成25年2月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 被告の主張
否認する。原告と被告は一切無関係である。
第4 争点に対する判断
1 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1) 原告は,平成24年6月頃,C(以下「C」という。)からの紹介により,自らをA1と称するAと知り合い,Aから,本件ファンドが海外のFX取引により預かり資産の運用を行うものであって出資金の元本が毀損する可能性が存在すること,運用利回りは運用益が5パーセント以上であれば5パーセントであること,運用資金元本の毀損が20パーセントに達した場合には運用責任者である被告から連絡があり,本件ファンドへの投資を続けるか否かの確認が行われることなどについて説明を受けた。また,原告は,Aから,原告が預託した金員はFX取引の運用やこれに関連する費用に充てられるべき金員であり,ファンド自体の経費は手数料と成功報酬によって賄われるものである旨の説明を受けた。
これを受けて,原告は,本件ファンドの運用利回りの高さ及び運用資金元本の毀損が20パーセントに達した場合は撤退を選択できる点でミドルリスク・ハイリターンの魅力的な投資先であると考え,本件ファンドへの投資を行うことにした。(甲17,甲18,甲30,乙E1,原告本人,弁論の全趣旨)
(2) Aは,原告に対し,平成24年6月23日,本件ファンドに関する送金先及び送金に際しての留意事項などを連絡するメール(甲1)を送信した。同メールにおいて,Aは,原告に対し,シンガポールのJPモルガンチェース銀行のG.K. Goh FInancial Services,Pte LTD名義の預金口座(口座番号〈省略〉。以下「本件振込先口座」という。)にドル建てで送金すること,連絡事項・備考欄に本件ファンドの口座番号と口座名義を忘れずに記入することなどを指示した。(甲1,甲30)
(3) 原告及びBによる出資金の支払
ア 原告は,平成24年7月4日,The Hongkong and Shanghai Banking Corporation Limited(以下「HSBC銀行」という。)を通じて,本件振込先口座に対し,54万0107USドルを送金した。その後,原告は,同月5日,Temecula Financial Resources INC.(以下「タミキュラ社」という。)の事務担当者であるDと名乗る人物から,上記送金額からファンド手数料を控除した53万4700USドル(当時の為替レート1USドル=79.77円に換算すると4265万3019円)のタミキュラ社作成に係る同日付け投資預り金証明書(甲4)をメールで受領した。(甲2から甲5まで,甲30)
イ 原告は,平成24年9月頃,香港の銀行を通じて,本件振込先口座に対し,約21万8000USドルを送金した。その後,原告は,上記送金額からファンド手数料を控除した21万6420USドル(当時の為替レート1USドル=77.69円に換算すると1681万3670円)のタミキュラ社作成に係る平成24年9月26日付け投資預り金証明書(甲6)をメールで受領した。(甲6,甲7,甲30)
ウ Bは,原告から本件ファンドの紹介を受けてこれに出資することにしたが,Aらと面識がないので,原告に対して資金を預け,原告を通じて本件ファンドからの配当や返金を受けることとし,原告との間で,原告がBに対し出資金元本から本件ファンドに対して当初支払う手数料及び送金手数料を控除した残金を返還する,ただし,本件ファンドの運用による配当もBが取得するが,Bが得た配当額は原告がBに返還すべき金額から控除するとの合意をした。もっとも,Bは,本件振込先口座への送金自体は自らの名義で行うこととした。(甲20,甲30)
エ Bは,平成24年10月頃,香港の銀行を通じて,本件振込先口座に対し,約6万4000USドルを送金した。その後,Bは,上記送金額からファンド手数料を控除した6万3660USドル(当時の為替レート1USドル=80.14円に換算すると510万1712円)のタミキュラ社作成に係る平成24年10月25日付け投資預り金証明書(甲8)をメールで受領した。(甲8,甲9,甲20)
オ 原告は,平成25年2月7日,HSBC銀行を通じて,本件振込先口座に対し,15万8940.55USドルを送金した。その後,原告は,上記送金額からファンド手数料を控除した15万7350USドル(当時の為替レート1USドル=93.51円に換算すると1471万3799円)のタミキュラ社作成に係る平成25年2月13日付け投資預り金証明書(甲11)をメールで受領した。(甲10,甲11,甲15)
カ Bは,平成25年2月7日,HSBC銀行を通じて,本件振込先口座に対し,約10万5960.37USドルを送金した。その後,Bは,上記送金額からファンド手数料を控除した10万4900USドル(当時の為替レート1USドル=93.51円に換算すると980万9199円)のタミキュラ社作成に係る平成25年2月13日付け投資預り金証明書(甲14)をメールで受領した。(甲12から甲15まで)
(4) 被告は,本件ファンドにおいて,顧客から集められた出資金をFX取引により運用するとともに,本件ファンドの出資金運用を行う証券口座のID及びパスワードを単独で管理する立場にあり,本件ファンドの営業を行うブローカーらの統括等を行うAとともに,本件ファンドの運営に携わっていた。(乙E1,A)
(5) 原告は,本件ファンドから毎月配当を受領し,合計3200万円を得たが,平成25年6月以降,本件ファンドからの配当が途絶えた。
原告は,本件ファンドに対して出資を行ってから配当が途絶えるまでの間,毎月,本件ファンドの運用実績について確認していたが,本件ファンドの運用資金元本が毀損されている状態にあったことを認識したことはなく,また,本件ファンドの同元本の毀損が20パーセントに達したとの連絡を受けたり,本件ファンドへの投資を続けるか否かの意思確認を求められたりしたことも一度もなかった。(甲30,原告本人)
(6) 本件ファンドからの配当が途絶えたことから,原告は,Aに対し,本件ファンドを運用する被告に会わせてくれと依頼し,平成25年6月,原告及びBらが被告と面談した。その際,被告は,平成24年の段階から運用に失敗しており,FX取引により月5パーセントの配当が可能となるような利益を上げられていなかったこと,架空の収益を計上して顧客から集めた出資金を配当に充てていたこと,そのため,同年中には運用資金元本が大きく毀損されており,Aにも運用結果を正確に報告していなかったことなどを述べた。
また,被告は,Aに対しても,平成25年6月,それまで本件ファンドにおいて運用益が出ていると虚偽の報告をし,改ざんした運用履歴を見せてきたが,実際には,本件ファンドの運用資金元本が毀損されており,実質的に破綻していたこと,平成24年9月頃には出資金を顧客に対する配当金に流用していたことなどを述べた。(甲30,乙E1,原告本人,A)
2 以上を前提に,争点について判断する。
(1) 不法行為
上記認定事実によれば,本件ファンドは,原告がAから本件ファンドの勧誘を受けて出資を開始した平成24年当時から,その運用資金元本が大きく毀損され,月5パーセントの割合による配当を行い得る運用状態になかったことが認められる。また,同年9月頃からは,本件ファンドの運用及び運用資金の管理を行っていた被告が,架空の収益を計上して,FX取引から得られた利益ではなく顧客から集められた出資金を配当に流用し,平成25年6月に至るまで原告ら顧客に対し分配していたことが認められる。
そして,Aが原告に対し,本件ファンドへの投資勧誘に際して,FX取引により得られる運用益から顧客に対し月5パーセントの配当を行うことなどの取引内容を説明して勧誘行為を行ったことは,上記認定事実のとおりであるところ,被告は,本件ファンドにおいて,出資金の運用及びその管理を行う立場にあり,Aとともに本件ファンドの運営を行っていた者であるから,Aや本件ファンドの営業を行うブローカーらが,本件ファンドの投資勧誘に際し,顧客に対して上記のような勧誘行為を行って出資金を集めていたことを認識していたものと考えられる。
そうすると,被告は,本件ファンドの上記運用状態及び出資金の流用の事実を秘し,Aをして顧客に対し虚偽の事実を告げる上記勧誘行為をさせ,これにより,顧客である原告に当該勧誘の内容が真実であると誤信させて本件ファンドに対する出資を行わせ,財産上の損害を被らせたものであるから,このような行為は,詐欺に当たり,不法行為を構成する。
(2) 損害の発生及び数額
原告は,被告の上記不法行為により,Aの勧誘内容が真実であると誤信して本件ファンドへの出資金を支出したものであるから,当該出資金相当額は,不法行為と相当因果関係を有する損害である。また,原告は,Bとの合意に基づき,Bから預託された本件ファンドへの出資金につき手数料等を差し引いた金額を返還する義務を負ったから,原告が被告の上記不法行為により負った債務相当額である当該金額もまた,不法行為と相当因果関係を有する損害であると認められる。
したがって,被告が原告に対し賠償すべき損害の額は,原告が自ら支出した出資金相当額である4265万3019円,1681万3670円及び1471万3799円並びに原告がBに対し返還義務を負う510万1712円及び980万9199円の合計額である8909万1399円から,原告が配当として受領したことを自認する合計3200万円を控除した5709万1399円及びこれに対する最後の不法行為日である平成25年2月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金である。
3 よって,原告は,被告に対し,不法行為に基づき,5709万1399円及びこれに対する平成25年2月7日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の損害賠償請求権を有する。
第5 結論
以上によれば,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第48部
(裁判官 猪股直子 裁判官 今泉さやか 裁判長裁判官小川秀樹は,転補につき署名押印することができない。裁判官 猪股直子)
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