【営業代行から学ぶ判例】crps 裁判例 lgbt 裁判例 nda 裁判例 nhk 裁判例 nhk 受信料 裁判例 pl法 裁判例 pta 裁判例 ptsd 裁判例 アメリカ 裁判例 検索 オーバーローン 財産分与 裁判例 クレーマー 裁判例 クレプトマニア 裁判例 サブリース 裁判例 ストーカー 裁判例 セクシャルハラスメント 裁判例 せクハラ 裁判例 タイムカード 裁判例 タイムスタンプ 裁判例 ドライブレコーダー 裁判例 ノンオペレーションチャージ 裁判例 ハーグ条約 裁判例 バイトテロ 裁判例 パタハラ 裁判例 パブリシティ権 裁判例 ハラスメント 裁判例 パワーハラスメント 裁判例 パワハラ 裁判例 ファクタリング 裁判例 プライバシー 裁判例 プライバシーの侵害 裁判例 プライバシー権 裁判例 ブラックバイト 裁判例 ベネッセ 裁判例 ベルシステム24 裁判例 マタニティハラスメント 裁判例 マタハラ 裁判例 マンション 騒音 裁判例 メンタルヘルス 裁判例 モラハラ 裁判例 モラルハラスメント 裁判例 リストラ 裁判例 リツイート 名誉毀損 裁判例 リフォーム 裁判例 遺言 解釈 裁判例 遺言 裁判例 遺言書 裁判例 遺言能力 裁判例 引き抜き 裁判例 営業秘密 裁判例 応召義務 裁判例 応用美術 裁判例 横浜地裁 裁判例 過失割合 裁判例 過労死 裁判例 介護事故 裁判例 会社法 裁判例 解雇 裁判例 外国人労働者 裁判例 学校 裁判例 学校教育法施行規則第48条 裁判例 学校事故 裁判例 環境権 裁判例 管理監督者 裁判例 器物損壊 裁判例 基本的人権 裁判例 寄与分 裁判例 偽装請負 裁判例 逆パワハラ 裁判例 休業損害 裁判例 休憩時間 裁判例 競業避止義務 裁判例 教育を受ける権利 裁判例 脅迫 裁判例 業務上横領 裁判例 近隣トラブル 裁判例 契約締結上の過失 裁判例 原状回復 裁判例 固定残業代 裁判例 雇い止め 裁判例 雇止め 裁判例 交通事故 過失割合 裁判例 交通事故 裁判例 交通事故 裁判例 検索 公共の福祉 裁判例 公序良俗違反 裁判例 公図 裁判例 厚生労働省 パワハラ 裁判例 行政訴訟 裁判例 行政法 裁判例 降格 裁判例 合併 裁判例 婚約破棄 裁判例 裁判員制度 裁判例 裁判所 知的財産 裁判例 裁判例 データ 裁判例 データベース 裁判例 データベース 無料 裁判例 とは 裁判例 とは 判例 裁判例 ニュース 裁判例 レポート 裁判例 安全配慮義務 裁判例 意味 裁判例 引用 裁判例 引用の仕方 裁判例 引用方法 裁判例 英語 裁判例 英語で 裁判例 英訳 裁判例 閲覧 裁判例 学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例 共有物分割 裁判例 刑事事件 裁判例 刑法 裁判例 憲法 裁判例 検査 裁判例 検索 裁判例 検索方法 裁判例 公開 裁判例 公知の事実 裁判例 広島 裁判例 国際私法 裁判例 最高裁 裁判例 最高裁判所 裁判例 最新 裁判例 裁判所 裁判例 雑誌 裁判例 事件番号 裁判例 射程 裁判例 書き方 裁判例 書籍 裁判例 商標 裁判例 消費税 裁判例 証拠説明書 裁判例 証拠提出 裁判例 情報 裁判例 全文 裁判例 速報 裁判例 探し方 裁判例 知財 裁判例 調べ方 裁判例 調査 裁判例 定義 裁判例 東京地裁 裁判例 同一労働同一賃金 裁判例 特許 裁判例 読み方 裁判例 入手方法 裁判例 判決 違い 裁判例 判決文 裁判例 判例 裁判例 判例 違い 裁判例 百選 裁判例 表記 裁判例 別紙 裁判例 本 裁判例 面白い 裁判例 労働 裁判例・学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例・審判例からみた 特別受益・寄与分 裁判例からみる消費税法 裁判例とは 裁量労働制 裁判例 財産分与 裁判例 産業医 裁判例 残業代未払い 裁判例 試用期間 解雇 裁判例 持ち帰り残業 裁判例 自己決定権 裁判例 自転車事故 裁判例 自由権 裁判例 手待ち時間 裁判例 受動喫煙 裁判例 重過失 裁判例 商法512条 裁判例 証拠説明書 記載例 裁判例 証拠説明書 裁判例 引用 情報公開 裁判例 職員会議 裁判例 振り込め詐欺 裁判例 身元保証 裁判例 人権侵害 裁判例 人種差別撤廃条約 裁判例 整理解雇 裁判例 生活保護 裁判例 生存権 裁判例 生命保険 裁判例 盛岡地裁 裁判例 製造物責任 裁判例 製造物責任法 裁判例 請負 裁判例 税務大学校 裁判例 接見交通権 裁判例 先使用権 裁判例 租税 裁判例 租税法 裁判例 相続 裁判例 相続税 裁判例 相続放棄 裁判例 騒音 裁判例 尊厳死 裁判例 損害賠償請求 裁判例 体罰 裁判例 退職勧奨 違法 裁判例 退職勧奨 裁判例 退職強要 裁判例 退職金 裁判例 大阪高裁 裁判例 大阪地裁 裁判例 大阪地方裁判所 裁判例 大麻 裁判例 第一法規 裁判例 男女差別 裁判例 男女差别 裁判例 知財高裁 裁判例 知的財産 裁判例 知的財産権 裁判例 中絶 慰謝料 裁判例 著作権 裁判例 長時間労働 裁判例 追突 裁判例 通勤災害 裁判例 通信の秘密 裁判例 貞操権 慰謝料 裁判例 転勤 裁判例 転籍 裁判例 電子契約 裁判例 電子署名 裁判例 同性婚 裁判例 独占禁止法 裁判例 内縁 裁判例 内定取り消し 裁判例 内定取消 裁判例 内部統制システム 裁判例 二次創作 裁判例 日本郵便 裁判例 熱中症 裁判例 能力不足 解雇 裁判例 脳死 裁判例 脳脊髄液減少症 裁判例 派遣 裁判例 判決 裁判例 違い 判決 判例 裁判例 判例 と 裁判例 判例 裁判例 とは 判例 裁判例 違い 秘密保持契約 裁判例 秘密録音 裁判例 非接触事故 裁判例 美容整形 裁判例 表現の自由 裁判例 表明保証 裁判例 評価損 裁判例 不正競争防止法 営業秘密 裁判例 不正競争防止法 裁判例 不貞 慰謝料 裁判例 不貞行為 慰謝料 裁判例 不貞行為 裁判例 不当解雇 裁判例 不動産 裁判例 浮気 慰謝料 裁判例 副業 裁判例 副業禁止 裁判例 分掌変更 裁判例 文書提出命令 裁判例 平和的生存権 裁判例 別居期間 裁判例 変形労働時間制 裁判例 弁護士会照会 裁判例 法の下の平等 裁判例 法人格否認の法理 裁判例 法務省 裁判例 忘れられる権利 裁判例 枕営業 裁判例 未払い残業代 裁判例 民事事件 裁判例 民事信託 裁判例 民事訴訟 裁判例 民泊 裁判例 民法 裁判例 無期転換 裁判例 無断欠勤 解雇 裁判例 名ばかり管理職 裁判例 名義株 裁判例 名古屋高裁 裁判例 名誉棄損 裁判例 名誉毀損 裁判例 免責不許可 裁判例 面会交流 裁判例 約款 裁判例 有給休暇 裁判例 有責配偶者 裁判例 予防接種 裁判例 離婚 裁判例 立ち退き料 裁判例 立退料 裁判例 類推解釈 裁判例 類推解釈の禁止 裁判例 礼金 裁判例 労災 裁判例 労災事故 裁判例 労働基準法 裁判例 労働基準法違反 裁判例 労働契約法20条 裁判例 労働裁判 裁判例 労働時間 裁判例 労働者性 裁判例 労働法 裁判例 和解 裁判例

「営業アウトソーシング」に関する裁判例(30)平成28年 3月28日 東京地裁 平24(ワ)29095号 地位確認等請求事件 〔日本アイ・ビー・エム(原告3名)事件〕

「営業アウトソーシング」に関する裁判例(30)平成28年 3月28日 東京地裁 平24(ワ)29095号 地位確認等請求事件 〔日本アイ・ビー・エム(原告3名)事件〕

裁判年月日  平成28年 3月28日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平24(ワ)29095号
事件名  地位確認等請求事件 〔日本アイ・ビー・エム(原告3名)事件〕
裁判結果  一部認容、一部棄却  上訴等  控訴  文献番号  2016WLJPCA03286001

要旨
◆業績不良を理由とする解雇が無効とされた例

評釈
根本到・ジュリ臨増 1505号237頁(平28重判解)
加茂善仁・ジュリ増刊(実務に効く労働判例精選 第2版) 124頁
鈴木里士・労経速 2286号2頁
細永貴子・労働法律旬報 1867号36頁
加藤大喜・経営法曹 193号99頁

裁判年月日  平成28年 3月28日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平24(ワ)29095号
事件名  地位確認等請求事件 〔日本アイ・ビー・エム(原告3名)事件〕
裁判結果  一部認容、一部棄却  上訴等  控訴  文献番号  2016WLJPCA03286001

当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり

 

 

主文

1(1)  原告X1と被告との間において,同原告が,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
(2)  被告は,原告X1に対し,別紙金銭請求認容額等一覧表記載1の「支払期日」欄記載の日に「支払金額」欄記載の各金員をそれぞれ支払え。
2(1)  原告X2と被告との間において,同原告が,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
(2)  被告は,原告X2に対し,別紙金銭請求認容額等一覧表記載2の「支払期日」欄記載の日に「支払金額」欄記載の各金員をそれぞれ支払え。
3(1)  原告X3と被告との間において,同原告が,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
(2)  被告は,原告X3に対し,別紙金銭請求認容額等一覧表記載3の「支払期日」欄記載の日に「支払金額」欄記載の各金員をそれぞれ支払え。
4  原告らの訴えのうち,被告に対して本判決の確定後に金銭の支払を求める部分をいずれも却下する。
5  原告らの第1項から第3項までで認容された請求及び第4項で却下された訴えに係る請求以外の請求をいずれも棄却する。
6  訴訟費用は,これを3分し,その1を原告らの負担とし,その余を被告の負担とする。
7  この判決は,第1項(2),第2項(2)及び第3項(2)に限り,仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求
1(1)  主文第1項(1)に同じ。
(2)  被告は,原告X1に対し,平成24年8月24日限り4万2062円,同年9月から毎月24日限り,41万9400円,及びこれらに対する各同日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(3)  被告は,原告X1に対し,平成24年12月から毎年6月10日限り40万7736円,12月10日限り78万4996円及びこれらに対する各同日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(4)  被告は,原告X1に対し,330万円及びこれに対する平成24年7月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2(1)  主文第2項(1)に同じ。
(2)  被告は,原告X2に対し,平成24年10月24日限り7万4755円,同年11月から毎月24日限り,35万1400円,及びこれらに対する各同日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(3)  被告は,原告X2に対し,平成24年12月から毎年6月10日及び12月10日限り79万6416円,及びこれらに対する各同日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(4)  被告は,原告X2に対し,330万円及びこれに対する平成24年9月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3(1)  主文第3項(1)に同じ。
(2)  被告は,原告X3に対し,平成24年10月24日限り18万6602円,同年11月から毎月24日限り,49万3700円,及びこれらに対する各同日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(3)  被告は,原告X3に対し,平成24年12月から毎年6月10日及び12月10日限り,79万2480円,及びこれらに対する各同日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(4)  被告は,原告X3に対し,330万円及びこれに対する平成24年9月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要等
本件は,被告に期限の定めなく雇用されていた原告らが,業績不良を理由として解雇されたことについて,解雇事由が存在せず,労働組合員である原告らを解雇して労働組合の弱体化を狙ったものであって,解雇権の濫用として無効であり,不法行為に当たるとして,労働契約に基づく地位の確認,解雇後に支払われるべき賃金及び賞与等並びに不法行為に基づく慰謝料及び弁護士費用を請求する事案である。
1  前提事実(証拠を掲記しない事実は,当事者間に争いがない。)
(1)  当事者等
ア 原告X1は,昭和38年○月○日生まれで,昭和62年3月に早稲田大学法学部を卒業し,同年4月に被告に期限の定めなく採用された者である。
イ 原告X2(以下「原告X2」という。)は,昭和47年○月○日生まれで,平成12年3月に京都大学工学部大学院エネルギー科学研究科を卒業し,同年4月に被告に期限の定めなく採用された者である。
ウ 原告X3(以下「原告X3」という。)は,昭和34年○月○日生まれで,昭和61年3月に慶應義塾大学理工学部数理科学科を卒業し,同年4月に被告に期限の定めなく採用された者である。
エ 原告らは,いずれも被告の労働者によって組織されたa労働組合b支部(以下「本件組合」という。)に所属する労働組合員(以下「本件組合員」という。)であり,原告X1は平成22年2月,原告X2は平成24年9月,原告X3は平成20年12月,それぞれ本件組合に加入した(弁論の全趣旨)。
オ 被告は,情報システムに関わる製品,サービスの提供等を業とする株式会社である。被告の設立は昭和12年6月17日,資本金の額は1353億円である。
(2)  原告X1の被告における経歴及び訴訟に至る経緯(甲A28,弁論の全趣旨)
ア 原告X1は,昭和62年4月に被告に入社後,営業職に配属され,平成元年に副主任となり,バンド6となった(バンドとは,1から10まで設定された被告における従業員の職位であり数字が大きいほど職位が高い。なお,当時バンド6は「職群5」と呼称されていた。)。
イ 原告X1は,平成5年7月,SI営業推進に異動となった。SI営業推進は,コンピュータプログラムの開発を請け負い,又は支援する契約を締結するための社内承認をサポートする業務を行う部署であり,SIとはシステムズインテグレーションの略称である。
ウ 原告X1は,平成18年7月,営業の後方支援事務を行う部署であるSales Transaction Hub(当時の名称は「Deal Hub」。以下「STH」という。)へ異動となった。
エ 被告は,平成24年7月20日,原告X1に対し,同月26日付けで解雇する旨の解雇予告の意思表示(以下「本件解雇①」という。)を行った。
オ 本件解雇①について,本件組合(以下,特に断りなき限り,関連団体と連名で行ったものを含む。)は,同月23日,被告に対し,解雇の意思表示の撤回を要求した。被告は,同月25日,本件組合の要求に回答したが,本件解雇①を撤回しなかった。(甲A1,4,5)
(3)  原告X2の被告における経歴及び訴訟に至る経緯(甲B4)
ア 原告X2は,平成12年4月に被告に入社後,野洲事業所の野洲研究所第二実装技術開発に配属され,積層基板(SLC部門)の研究開発,インシュレーター層の材料選定の業務に従事していた。
イ 原告X2は,平成14年4月に主査に昇進したが,所属部門が事業譲渡されたため,平成16年4月から平成18年2月まで人材派遣会社に出向した。原告X2は,同年2月に被告に復帰し,藤沢事業所に配属され,バッテリー交換関連等の業務に従事した後,光ファイバーケーブル関連業務及びS-Link関連業務を担当するようになった。同年12月に藤沢事業所が事業譲渡されたため,担当部署が横浜北事業所に移り,原告X2も横浜北事業所に配属された。その後,原告X2は,平成23年5月,光ファイバーケーブル業務の担当から外され,S-Link関連業務のみに従事するようになった。
ウ 被告は,平成24年9月18日,原告X2に対し,同月26日付けで解雇する旨の解雇予告の意思表示(以下「本件解雇②」という。)を行った。被告は,本件解雇②の際,同月20日までに自主退職する意思を示した場合はこれを受理し,解雇を撤回した上で,自己都合退職を認め,退職加算金や会社の費用負担で再就職支援会社のサポートを受けられるオプションも用意する考えであることを伝えた。(甲B1)
エ 本件解雇②当時,原告X2は横浜北事業所のグリーンファシリティサービス,グリーンDCサービス開発に所属しており,バンド6であった。
(3)  原告X3の被告における経歴及び訴訟に至る経緯(甲C5,弁論の全趣旨)
ア 原告X3は,昭和61年4月に被告に入社後,h研究所に配属され,グラフィック製品の開発等を担当し,平成4年に副主任となった。
イ 原告X3は,平成19年1月,STHへ異動となり,同部署内におけるディールサポート(ハードウェア製品を中心に提案活動の後方支援を行う課。以下,単に「STG課」という。)に配属となった。
ウ 原告X3は,平成21年7月,STG課からSTH内のビジネス・オペレーションズのメトリクス・チーム(STHの業務で用いられるITの開発・プログラム作成を行う部門)に異動となり,社内組織活動の動向を可視化するための「Metrics集計」に関わるプログラムやITの開発業務を担当した。
エ 原告X3は,平成23年10月,メトリクス・チームからSTH内のビジネス・オペレーションズのオペレーションチームに異動となり,STH内の総務的業務を担当するようになった。
オ 被告は,平成24年9月20日,原告X3に対し,同月28日付けで解雇する旨の解雇予告の意思表示(以下「本件解雇③」という。)を行った。被告は,本件解雇③の際,同月24日までに自主退職する意思を示した場合はこれを受理し,解雇を撤回した上で,自己都合退職を認め,退職加算金や会社の費用負担で再就職支援会社のサポートを受けられるオプションも用意する考えであることを伝えた。(甲C1)
カ 本件解雇③当時,原告X3はバンド6であった。
(4)  被告における人事管理制度
ア 被告は,従業員の業績を示すPBC(Personal Business Commitments)と称する評価制度(以下「PBC評価」という。)を設けている。PBC評価は,従業員とその上司との間で年初に目標設定を行い,その目標に対する当該従業員の1年間の達成度や,会社に対する貢献度の評価を行うことを内容とする。PBC評価の結果は,上から順に「1」(最大の貢献度を達成),「2+」(平均を上回る貢献度),「2」(着実な貢献),「3」(貢献度が低く,業績の向上が必要),「4」(極めて不十分な貢献)の5段階となっている。それぞれの配分については,「1」が10%から20%,「2+」及び「2」の合計が65%から85%,「3」及び「4」の合計が5%から15%とされている相対評価である。(乙3,4)
イ 被告が実施している業績改善プログラム(Performance Improvement Program。以下「PIP」という。)とは,従業員とその上司との間で,一定期間(数か月程度)の改善目標を設定し,その改善の進捗状況を定期的な面談で検証することを内容とする。
(5)  原告らは,平成24年10月15日,本件訴訟を提起した。(当裁判所に顕著である。)
2  争点及び争点に関する当事者の主張
(1)  原告X1の解雇事由(争点(1))
(被告)
ア 原告X1は業績の低い状態が続いており,被告は,その間,様々な改善機会の提供やその支援を試みたにもかかわらず,業績が改善されなかったことから,同原告を解雇したものである。すなわち,原告X1には,①業務の能率,生産性が著しく悪く,ミスも多いという問題,②無断で離席を繰り返すという問題があり,その業績は極めて低かった。上記問題については,同僚や上司が助言・指導を行い,更には業務の変更を試みたにもかかわらず,一向に改善の跡が見られないばかりか,時を経るにつれて悪化していった。その結果,被告はもはや原告X1の業務の改善を期待することができず,その雇用を継続することは不可能であると判断せざるを得なかった。
イ 平成19年の原告X1の業務状況
(ア) 原告X1は,平成18年7月からビッド・マネージャー(以下「BM」という。)として業務に当たっていた。
(イ) 原告X1には,①セールスチームとのコミュニケーションを円滑に行うことができない,②他の社員に対し作業を依頼するに当たり適切な説明を行わない,③自ら行う作業について,作業能率が悪く,ミスも多いなどの問題があり,BMとしての業務を十分に遂行することができず,その結果,セールスチームからクレームが寄せられるほか,同原告と共に仕事をしていた派遣社員からもクレームが生じるという状況にあった。
(ウ) 平成19年の原告X1のPBC評価は3であった。
イ 平成20年の原告X1の業務状況
(ア) 原告X1は,平成20年1月から,業務研修を経た上でSTHにおいてBMとしてセールスチームから提案書の作成依頼を受け,提案書の作成支援を行う業務に当たっていたが,同原告には,①セールスチームとのコミュニケーションを円滑に行うことができない(例えば,セールスチームからの依頼があっても,それに対する返答すら行わない),②他の社員に対し作業を依頼するに当たり適切な説明を行わない,③自ら行う作業について,作業能率が悪く,ミスも多い,④セールスチームから依頼された提案書の納期を徒過する,⑤離席を頻繁に繰り返し自席にいないなどの問題があり,セールスチームからクレームが寄せられるなどして,同年後半頃にはBMとしての業務を十分に遂行することができないという状況が明らかとなっていた。
(イ) 平成20年4月のSTH-GBS(グローバル・ビジネス・サービスの略)月間MVPは,当時の所属長(直属の上司をいう。以下同じ。)であったA2(以下「A2」という。)がモチベーション・意欲を向上させる目的で原告X1に与えたものであり,同原告の業績が他の従業員と比較して良かったわけではない。
(ウ) 平成20年の原告X1のPBC評価は3であった。
ウ 平成21年の原告X1の業務状況
(ア) 原告X1は,平成21年1月から3月にかけて,当時の所属長であったA2とともに,PIPの目標を設定し,これを実施した。
PIPが退職勧奨に応じなかったことの報復として行われた事実はなく,いずれも原告X1の業績が悪かったから実施された。
PIPにおいては,本来BMが処理すべき案件数は1か月で150件であるが,原告X1の申告に基づいて50件を目標とし,そのうち35件に良いコメントをもらえることを目標とした。原告X1は,35件の良いコメントをもらうことはできなかったが,「Shared BM」として50件を処理すること自体はできたことから,PIPは目標を達成したと扱われた。
原告X1は,契約金額が大きい案件が多く50件の処理は容易ではないと主張するが,「Shared BMとしてのサポート」は,1つの案件を最初から最後まで処理するのではなく,案件の一部の作業について他のBMの指示を受けて作業を行えば1件のサポートを行ったものと数えられるため,契約金額が大きい案件のサポートであるからといって1件のサポートの手間や時間が多くなるものではない。なお,進捗管理表(WBS)の作成は,個々の案件において必要な作業項目が契約金額に応じて自動的に表示される書式が用意されており,必要な項目を洗い出す必要はない。また,会議の設定の手間については,被告本社ビルには10人以上が入る大きな会議室が10室以上存在しており,困難な作業ではない。
(イ) その後も原告X1はセールスチームとのコミュニケーションに支障があるなどBMとしての業務を問題なく遂行することができなかったため,平成21年2月からは業務の難易度を下げ,他のBMの下でその指示を受けて作業を行うShared BMとして業務を行うことになった。ところが,このような業務の変更を行った後も,原告X1は他のBMから指示を受けた作業について作業能率が悪くミスが多いなど,業務の改善は見られなかった。
(ウ) 契約例外申請業務は,一度でも経験すれば容易に習得できる単純作業であり,現に金融グループ内のほとんどの従業員が当該業務を行うことが可能であった。原告X1は,日本銀行の案件を自分が担当していたと主張するが,BMとして担当していたのはA3(以下「A3」という。)であって,同原告はA3の指示に基づいて容易な作業を行っていたにすぎない。これは組織図から見ても明らかである。原告X1が契約例外申請業務を担当していたとしても,それは単純な業務であるためShared BMである同原告に担当させたのである。
他の業務についても原告X1は他のBMの指示を受け容易な作業を行っていた。原告X1は,BMとして業務を行っていたと主張するが,株式会社かんぽ生命保険(以下「かんぽ保険」という。)と独立行政法人日本貿易保険(以下「日本貿易保険」という。)に関する契約例外申請業務は,どの案件でも必要とされる項目は基本的に同じであり,同じ作業を繰り返せば足りる業務であるから,案件ごとに異なる例外条項の必要性をセールスチームに確認する必要はなく,契約書等を見ることで分かる事項もある。したがって,原告X1が行っていたのはBMとしての業務とはいえず,仮に同原告がセールスチームにヒアリングをしていたとすれば余計な作業をしていたにすぎない。また,日本銀行,かんぽ保険,日本貿易保険の契約例外申請業務は,契約例外申請が必要とされる項目の数が多いという違いがあるにすぎず,一度経験すれば容易に行うことが可能である。契約例外申請業務の中には,個々の案件ごとに契約条項の交渉が行われ,交渉結果に応じた契約例外申請を行う「都度変更」と呼ばれる複雑な業務があるが,原告X1が行っていたのはこれには当たらない。
(エ) 原告X1が送られてきた感謝のメールとして提出するものは,同原告だけでなく案件に関与した数多くの従業員全員に対して送られている。
(オ) STH-CSW(コミュニケーション・スキル・ワークショップ)のMVP賞は,当時設立して間もなかったSTH全体のコミュニケーションを高めるために1回当たり約10名が参加して行われた研修において,研修によって伸び幅が大きかった者を参加者全員の投票によって選ぶものであり,参加者全員が何らかの賞を受賞している。上記MVP賞は公式のものではなく,参加者の中で最も優秀であった者が選ばれるわけでもない。
原告X1が指摘する平成21年8月の感謝状については知らないが,仮に感謝状授与の事実があったとしても,同原告の業務に対するモチベーション・意欲向上を目的としたものである。
(カ) 平成21年の原告X1のPBC評価は3であった。
エ 平成22年の原告X1の業務状況
(ア) 原告X1は,平成22年に入ってからもShared BMとしての作業について作業能率が悪く,ミスも多い状況が続いており,改善の傾向が見られなかった。そこで,同年3月から,原告X1の担当する業務を更に難易度の低い沖縄BSC業務に変更した。
(イ) 沖縄BSCは,STHが行う提案書作成支援業務のうち複雑な判断が要求されず比較的定型的に進めることが可能な業務を行うことによって経費削減や生産性向上を図るという目的で平成21年1月に設立されたものである。
沖縄BSC設立後,STHの従業員はセールスチームとのコミュニケーションや高度な判断,リーダーシップが要求される業務のみを遂行することになったので,STHの従業員が沖縄BSC業務を行うことは本来想定されていない。それにもかかわらず原告X1に沖縄BSCの業務を行わせたのは,同原告が本来STHが行うべきレベルの業務を行うことができなかったことによる。
沖縄BSCの業務は,それまでSTHのBMが行っていた業務であるから,原告X1にとって新しい業務ではない。原告X1にトレーニングの必要はなく,同原告からその要望を受けた事実もない。沖縄BSCの業務は被告に入社した新入社員が1か月程度で習得できる容易な業務である。
(ウ) ところが,原告X1は,沖縄BSC業務においても作業能率が悪く,案件処理数が極めて少ない状況であった。例えば,沖縄BSCのバンド2相当の社員は案件処理だけでなく,若手の指導等,多種多様なリーダー業務を担当しているが,これらの社員と比較しても原告X1の案件処理数はその半分程度にしか達していなかった。原告X1が担当できる沖縄BSC業務は,当初は単純な作業に限定されていたが,平成22年9月以降は沖縄BSCメンバーと差はない。平成22年第4四半期において,沖縄BSCのメンバーはおおむね1人当たり3000P/H~5000P/H(P/Hとは5分で処理できる業務を1P/Hとして換算した業務の分量を示す単位である。)の業務を行ったのに対し,原告X1の業務はわずか1655P/Hである。これに加え,原告X1にはミスが多く,STHや沖縄BSCのメンバーに迷惑をかけ,多数の問題点の指摘やクレームが出てくる状況が継続した。
(エ) 平成22年3月から原告X1はA4(以下「A4」という。)がグループリーダーを務める官公庁チームに所属していたが,これは沖縄BSC業務と同レベルの業務を行い,特定の分野ではなく複数のBMから指示を受けて業務を行うことになったことを受けて,組織上はいずれかのチームに所属させる必要から上記チームに所属させたものであり,同原告の能力を評価して迎え入れたということはない。この点は,組織図において原告X1について「全セクター対象」と記載があることからも明らかである。また,「捺印処理」とは,他のメンバーが得た社内関連部門の同意・承認に関する情報を取りまとめて「代表取締役捺印申請書」という書類を起票し,他のメンバーが収集した資料と共に担当者に提出するという単純作業である。捺印処理を行うものが承認者から直接質問を受けることはなく,そのために準備をしておく必要はない。
原告X1が新たに習得したと指摘する「Gross/Net計上処理」は誰でもできる事務処理であり,当時これを担当していたのが5名程度に限られていたという事情があるにすぎない。
(オ) このような状況において,直属の上司であるA2は,平成22年4月以降,原告X1との間で度々面談を行い,ミスやクレームが発生する原因を分析するなどし,PIPを実施して業務の改善を図ろうとしたものの,原告X1がPIPを拒否したため実施することができなかった。
PIPは飽くまでも業績が悪い社員について所属長と協議しながら業績改善のためのプログラムを作り,それに従って業務を遂行することで業務の改善を図るという措置であり,退職に追い込むための手段ではない。本人が業績を改善するという意思を示さない以上,PIPによる業績の改善を期待することはできないのであり,PIP実施の必要がなかったわけではない。
(カ) 平成22年9月には,A2の上司であったA5(以下「A5」という。)が原告X1の直属の上司となり,毎月同原告と面談して業務の改善を図ったが,業務が改善されることはなかった。
(キ) これに加え,平成22年においても,原告X1は勤務時間中に上司や同僚に伝えることのないまま無断で席を空けることが多く(1時間に1,2回,10分から数十分程度の離席を繰り返していた。),その結果同僚等から仕事の依頼が滞って困るなどの苦情が寄せられていた。A2やA5は原告X1に対して度々注意を行ったものの,同原告はこの点を改善しなかった。
例えば,平成22年8月に原告X1は1か月間で合計約27時間も離席していたことが確認されている。原告X1の同月の所定労働時間は152時間であったから,その17パーセント以上の時間において離席をしていた。原告X1は,PHSを貸与されており連絡が取れる状態であったかのように主張するが,PHSは頻繁に繰り返される離席に対応するために貸与されているものではなく,頻繁に離席を繰り返すことが正当化されるものではない。
(ク) 平成22年の原告X1のPBC評価は3であった。
オ 平成23年の原告X1の業務状況
(ア) 平成23年に入っても原告X1に改善の傾向は見られなかったため,被告は,同年2月に環境を変えることにより改善を図るべく,同原告をSTH内においてA6(以下「A6」という。)が所属長を務めるグループ(ITTS・MTTS)に異動させ,以降A6が直属の上司となって指導に当たることとなった。A6のグループは,ネットワーク構築に関する提案活動を後方支援するグループであり,そのメンバーはネットワークの知識を有していることが必要であるから,原告X1にネットワークに関する研修を受けてもらうことにした。この研修は,新入社員が受ける程度のレベルの研修であり,かつ,通常は1週間で終えるものであるところ,原告X1については研修期間を2週間に設定した。ところが,原告X1は,研修終了後にその成果を確認するための試験(通常は全員が1回で合格する試験)に不合格となり(100点満点で80点が合格点であるところ,47点であった。),2回目の試験を行っても合格することができなかったため,ネットワークに関連する業務を行うことはできなかった。3回目の試験は実施しなかったが,その判断は不当ではない。
(イ) 平成23年のPBC評価の目標設定において,A6がどのようにスキルアップや業務改善を図りバンド6としてSTHの業務に復帰するか自分自身で検討することを求めたにもかかわらず,原告X1は独力で目標を策定することすらできなかった。
(ウ) 原告X1は,本来求められるSTHの業務ではなく,引き続き沖縄BSC業務を行ったものの,その業務ですら満足に処理できず,その生産性の低さが沖縄BSCのメンバーからも問題視されるようになった。結果として,原告X1が最初から最後までの全過程を処理した案件は0件であった(沖縄BSCのメンバーは1四半期当たり30件前後の案件を処理している。)。なお,原告X1のスキルが低いため自然の成り行きに任せると同原告に仕事の依頼が来ないので,同僚のA7が沖縄BSCのA8(以下「A8」という。)に対して同原告が処理可能な仕事を回すよう依頼し,A8が沖縄BSCの部下に依頼して同原告のための仕事を探していた。
(エ) A6は,やむを得ず原告X1に対し,更に簡易な業務を行わせることとしたが,同原告は,その作業すら最初から最後までの一連の処理をミスなく実施することができないことがあった。原告X1が担当したのはDHRM起票作業であり,これはセールスチームがSTHのBMに対し提案活動の支援業務を依頼する際,依頼に関する情報を書き込むデータベースである「DHRM」に,「保守拡張データベース」(セールスチームがITTS・MTTSに対してソフトウェアの延長保守を依頼する際に依頼に関する情報を書き込むデータベース)の項目のうち約10項目程度をそのまま入力する作業であり,何ら難しい判断を要求される作業ではない。それでも原告X1の業務量は本来1件当たりに必要な時間が10分程度であるDHRM起票作業を1日当たり6~7件程度行うだけであった。
(オ) 原告X1は,平成23年においても,無断離席を繰り返していた。
(カ) 平成23年の原告X1のPBC評価は4であった。
カ 平成24年の原告X1の業務状況
(ア) 平成24年に入っても,原告X1は,沖縄BSCで処理するレベルの案件ですら処理することができず,簡易な部分の作業についてもミスが発生する状況や無断で頻繁に離席を繰り返すという状況も改善されなかった。原告X1は平成24年には主にDHRM起票作業を行っていたが,第1四半期において原告X1が行ったDHRM起票作業は270件にすぎない。DHRM起票作業の実施は午前中だけでよいと指示したのは同年の第2四半期であるから,第1四半期の原告X1の業務量が少ないことの理由にならない。同年度のPBC目標にDHRM起票作業が入っていないのは,それがバンド6の社員として本来行うべき業務ではないからである。また,原告X1がS-Link関連業務を同年6月に9件実施し,目標を達成したと認定されたことはない。
(イ) このような状況から,被告は,もはや原告X1の業績の改善を期待することができず,雇用を継続することは不可能であると判断せざるを得なかった。
(原告X1)
ア 原告X1には,雇用が継続できない業績不良があったとの事実はなく,業務変更も適切ではなく,上司の助言・指導も実際にはされていなかった。
イ 平成19年の原告X1の業務状況
原告X1がセールスチームとのコミュニケーションを円滑に行うことができなかった,他の社員に適切な説明を行わない,作業能率が悪い,ミスが多いなどの被告が主張する点について,被告から具体的事実は明らかにされていない。
ウ 平成20年の原告X1の業務状況
(ア) 平成19年同様,具体的事実の主張がない。
(イ) 原告X1は,平成20年4月に「STH-GBS月間MVP」を受賞した。
(ウ) 原告X1の離席が他の従業員と比較して多かったことはなく,それによって仕事が滞った事実はない。また,被告の従業員には業務で使用するためにPHSが貸与されていたから,必要があれば離席中であっても連絡が取れるようになっていた。
(エ) 平成20年のPBC評価「3」は正当な評価に基づくものではなく,退職強要に応じなかったことによる。
エ 平成21年の原告X1の業務状況
(ア) 平成21年1月から3月にかけてPIPが実施されたのは,原告X1に業績不良があったからではなく,平成20年10月頃から被告が行った退職勧奨に応じなかったため,その報復としてされたものである。被告の退職勧奨は,1300人の退職を目標に,約5000人を対象に全社的に行われ,約1300人が退職した。この退職勧奨においては,ラインマネージャーが結果について責任を負うこととされていたため,退職に応じやすいと思われる者が退職強要の対象とされ,原告X1は普段から上司の指示に素直に応じておりA2から退職に応じやすいと思われていたことから対象とされたものである。退職勧奨は,平成20年12月末頃終了した。
(イ) 原告X1は平成21年1月から3月にかけて行われたPIPの目標を達成した。目標は3か月で案件を50件担当し,依頼者から感謝メールを35件獲得することなどであった。通常感謝メールが送られてくるのは月に2,3件程度であることからすると困難な目標であったが,原告X1はこれを達成したため,PIPは目標を達成して終了した。
契約金額の低い案件(200万ドル未満の案件は社内で「スモール案件」と呼ばれていた。)は,被告において定められた手続の多くを省略することが可能であり,契約書のひな形をそのまま使用できることも多く,1か月に何十件と担当することも可能である。しかし,契約金額が大きい案件(200万ドル以上の案件は社内で「カントリー案件」と呼ばれていた。)は,省略できる手続が多くなく,ひな形と異なる例外が多く発生したり顧客の使用する契約書を使用したりすることもあり複雑となる。そこで複雑な手続を間違えないよう進捗管理表(WBS)を作成しなければならないが,作成に当たって必要となる全ての承認プロセス項目を洗い出してスケジュールを組まなければならない。作成にあたって自動的に表示される項目もあるが,それは標準プロセスであるから,案件ごとに過不足ないよう洗い出す必要がある。関係する部署や人員も増えるのでスケジュール調整や会議室確保にも手間がかかる。そのため,契約金額が大きな案件はせいぜい1か月に10数件をこなすことができる程度である。原告X1が平成19年12月から平成22年2月まで所属していた金融グループはカントリー案件が中心であって,3か月に50件をこなすことも容易ではない。
(ウ) Shared BMとして業務に当たるようになったのは,突出して業務量の多い金融グループの効率化のため,他の人のサポートに重きを置いて専念するよう指示されたからであり,効率化のための単なる役割分担にすぎない。
Shared BMは他の部署から承認を得る作業を担当するところ,これがBMの業務よりも容易なものであるとはいえない。
(エ) 原告X1は,Shared BMとしての業務以外にも,従来から担当していた日本銀行の案件を引き続き担当していた。A3は平成21年頃から日本銀行の案件の一部を担当し始めたが,平成22年7月頃までは契約例外申請業務を原告X1に任せていた。A3が日本銀行の契約例外申請業務を担当するようになったのは,原告X1の業務が沖縄BSCの業務に変更されたからである。日本銀行の案件は,契約例外申請業務が必要とされる複雑な知識が要求されるものであり,10人ほどの金融グループ内でもこれができるBMは原告を含め二,三人程度であった。契約例外申請業務の中にも,被告が使用している標準契約書の文言を1,2か所変更すれば足りるものがあり,「繰り返し変更」と呼ばれているが,原告X1が担当した日本銀行の案件などはこれには当たらない複雑なものである。
(オ) 原告X1は,このほかにも契約例外申請業務が必要とされるかんぽ保険と日本貿易保険の案件も担当した。この2社の案件を以前担当していたBMは,あまりの業務の多さに平成21年に入って退職している。
(カ) 原告X1は,平成21年3月にSTH-CSWのMVP賞を受賞した。これは原告X1が担当した契約例外申請業務が複雑だったからこそである。また,原告X1は,同年8月に感謝状も授与されている。
オ 平成22年の原告X1の業務状況
(ア) 原告X1は,平成22年3月から沖縄BSCの業務を担当したが,その理由は同原告の業績が悪かったからではない。原告X1は,平成22年1月頃より,A5やA9理事,A10役員らによる退職強要のための面談を連日1日に1回又は2回受けるようになったため,本件組合に相談するようになり,同年2月には本件組合に加入した。そのため,被告は上記面談を中止したものの,その報復として同年3月以降原告X1に沖縄BSCと同じ業務しか担当させず,かつ長時間労働を強いることによって退職に追い込もうとした。
(イ) 原告X1は,感謝のメールを平成22年3月から8月までの間だけでも65通受け取っている。
(ウ) 沖縄BSC業務は従前担当していた業務とは業務内容が異なっていたにもかかわらず,何らのトレーニングも受けられず,対応は困難であった。A2は,原告X1に対し,5分で処理できる業務を1ポイントとして,平成22年4月から6月末日までに処理しなければならないポイントを7150ポイントと定めた。このようなポイント制は原告X1及び同様に解雇され地位確認請求訴訟を提起しているA11(以下「A11」という。)に対してのみ適用された。原告X1は当時週に1回うつ病のため通院して半日休んでいたから,この点を考慮して作業可能な業務量を1ポイント5分として算定すると約5276ポイントとなり,目標を達成するためには1日当たり3時間以上残業しなければならないことになる。
(エ) 原告X1の沖縄BSC業務の案件処理が少なかったのは,それまで行ってきた業務と異なるにもかかわらず十分なトレーニングが受けられなかったこと,平成22年7月頃残業代を請求したところ,同年8月から残業を禁止されたこと,うつ病を治療しながら業務に従事していたことなどによる。
しかも,沖縄BSCのメンバーはP/H数の大きいE2E(End to End:案件の最初から最後まで一貫して作業すること)と呼ばれる作業項目や,Complex Menuと呼ばれる作業項目を中心に作業していたため高いP/H数を処理できたのに対し,原告X1にはP/H数の少ない限られたものの処理しか認められず,処理業務の範囲を広げようとしてもさせてもらえなかったため,P/H数が結果的に少なくならざるを得なかった。原告X1の担当できる業務が平成22年9月から沖縄BSCメンバーと差がなかったということはない。
(オ) 原告X1は,平成22年3月以降も沖縄BSCの業務だけでなく,官公庁グループ・金融グループに加えて,製造・中小企業の案件にも引き続き携わり,Shared BMとしての業務を行っていた。同年3月にA4が官公庁グループのグループリーダーに異動になった際は,同時に原告X1を官公庁グループに迎え入れて官公庁顧客の固有で複雑な案件の契約処理の一部(特別な承認を得るための手続である「捺印処理」等)を同原告に任せた。捺印処理のプロセス自体は単純であるが,承認者から質問があった場合には官公庁契約の専門用語に基づいて説明しなければならないため,ごく一部の者のみが有しているスキルであった。
また,金融グループや中小企業担当グループでは,「Gross/Net計上処理」という,STH-GBS内部でも5人ほどしか担当できない非常に特殊な売上げ計上処理のスキルを同年4月から新たに習得して活用していた。
(カ) 平成22年4月以降A2が原告X1と度々面談を行いミスやクレームが発生する原因を分析した事実はない。A2がPIPを提案してきたが,これは原告X1を退職に追い込む手段として実施しようとしたものであり,同原告は本件組合と相談し実施の必要がないなどとしてその実施を拒否したところ,被告は実施を見送った。このときにPIPの実施の必要性がなかったことは明らかである。
(キ) 原告X1が平成22年8月に1か月で約27時間離席していたという証拠の作成経緯は明らかではなく信用できない。トイレに行ったり,喫煙したり,ジュースを買いに行ったりするなどわずか10分程度の離席は解雇理由となり得るものではない。原告X1は,当時BMCallという講義の業務を担当しており,そのために離席することもままあった。
カ 平成23年の原告X1の業務状況
(ア) 原告X1が平成23年にA6のグループに異動したのは,業務上の必要性に基づくものである。
(イ) A6のグループはネットワーク構築に関する提案活動を後方支援するグループであるが,そのメンバーがネットワークの知識を有していることは必須ではない。
(ウ) 原告X1がネットワークに関する研修後の試験に不合格になったのは,試験中に使用していたノートパソコンがフリーズして動かなくなったからであり,同原告の責任ではない。原告X1がこれに抗議したところ,2回目の試験が実施され得点は73点と合格点の80点には達しなかったが,ほとんどが本質的ではない形式に関する減点によるものであり,これらの形式については研修では教えてもらえなかったものである。この試験後,沖縄BSCのメンバーはゲタを履かせてもらって合格したと述べていたのに対し,原告X1が再試験を求めても実施されず,そのために担当可能な業務が減った。
(エ) 原告X1がPBC目標を策定できなかったことはないし,そもそもPBC評価目標は労働者が単独で決定することは予定されていない。
キ 平成24年の原告X1の業務状況
(ア) DHRM起票作業の件数が多くないのは,平成24年は午前中のみ処理すればよい旨神戸MTTSリーダーから業務指示がされたためである。平成24年度のPBC目標ではDHRM起票業務は目標項目から外されている。
(イ) 同年度のPBC目標ではS-Linkという案件の社内承認を得るシステムについて6月に8件実施するという目標が設定されたところ,原告X1は9件実施し,A6に目標を達成したと認定されている。
(2)  原告X2の解雇事由(争点(2))
(被告)
ア 原告X2は業績の低い状態が続いており,被告は,その間,様々な改善機会の提供やその支援を試みたにもかかわらず,業績が改善されなかったことから,同原告を解雇したものである。すなわち,原告X2には,①現に担当している業務以外に新たな業務を行わず(被告が指示する新たな業務を拒否し),その結果,著しく少ない量の業務しか行わない,②職場において円滑なコミュニケーションを行うことができない,③業務上の報告を記載する月次報告書に業務と全く関係がない事項を記載する,セキュリティ上入室が禁じられた部屋へ入室するなどといった問題行動があり,その業績は極めて低かった。このような原告X2の問題については,同僚や上司が助言・指導を行ったにもかかわらず,一向に改善の跡が見られなかった。その結果,被告はもはや原告X2の業績の改善を期待することができず,その雇用を継続することは不可能であると判断せざるを得なかった。
イ 平成20年以前の原告X2の業務状況
(ア) 原告X2は,平成18年当時,ファイバーケーブルに関する事務処理を行っていたが,当該業務のみでは仕事量が不足していた。そこで,原告X2の直属の上司であったA12(以下「A12」という。)は,原告X2に対し,新たな業務としてファイバーケーブルの技術支援の業務を,従前から当該業務を担当していたA13(以下「A13」という。)と一緒に担当するように指示し,それ以来,原告X2はA13のサポートを受けつつ当該業務を行っていた。
その後,A13が平成20年10月に転勤することが決まったため,平成19年後半又は平成20年初め頃,A12は,原告X2に対し,上記の技術支援の業務をA13から引き継ぐ(1人で業務を担当する)よう指示した。しかしながら,原告X2は,平成20年当時も仕事量が不足していたにもかかわらず,同年7月に至って,当該業務を担当する余裕がないなどと不合理な理由を述べて,A13から引き継ぐことを拒否した。この業務はA14(以下「A14」という。)が引き継いだが,原告X2に懲戒を行うことによって同原告に翻意を促すという同原告が主張するようなプロセスを経ず,他の者に業務を引き継がせたとしても不合理な対応ではないし,懲戒が行われなかったからといって原告X2の引継ぎ拒否が正当化されるわけではない。
原告X2は,A13からの引継ぎを指示されたのは平成20年7月頃と主張するが,指示がされたのは平成19年後半又は平成20年初め頃である。また,指示をしたのはA15(以下「A15」という。)ではなくA12である。A13の転勤が決まって原告X2に対しA13の引継ぎ指示をした時点では,A13の転勤時期までは具体的に決まっておらず,引継ぎの指示から実際の引継ぎまでは約10か月の期間があった。また,原告X2は,引継ぎを指示される前の平成18年から,A13のサポートを受けつつAFTS技術支援業務を行っていたのであって,引継ぎ指示を受けてから初めて業務を行ったものではない。ところが,原告X2は,引継ぎを指示されてから半年以上経過した平成20年7月に至って引継ぎを拒否した。
原告X2は,バンド7のA13が担当していた業務を全て引き継ぐことは困難と主張する。しかし,引継ぎを指示されたAFTS技術支援業務はA13が担当していた業務の一部であり,原告X2が引き継ぐことは困難ではない。また,AFTS技術支援業務は,原告X2が既に担当していたFTCSに関する業務と技術的に共通する部分があった。被告は,原告X2が引き継ぐことが困難ではなく,成長する良い機会になると考え,引継ぎを指示した。
原告X2は,引継ぎ拒否の理由としてS-Link業務を挙げるが,S-Link業務を担当するよう指示したのは平成20年8月頃からであり,AFTS技術支援業務の引継ぎを拒否した同年7月より後のことである。また,A16(以下「A16」という。)が在宅勤務したのも,引継ぎ拒否よりも後のことである。
(イ) 原告X2は,業務量があったものとしてS-Link業務を主張するが,同原告が1人であるいはA16とともに担当していたのはS-Link業務のうちの一部(主にIBシリーズの機器についての供給元への見積依頼業務と納品確認)であった。
原告X2は,A16にS-Link業務の適性がなかったと主張するが,そのような事実はなく,A16がS-Link業務の担当から外れたのは,その業務量が2人で行う程度のものではなかったこと及びA16はファイバーケーブル全体に関する業務のリーダーとして当該業務に専念することになったためである。在宅勤務をしていた時期も,A16は基本的に単独で業務を行っていたのであり,原告X2がA16のために行っていた業務としてはA16宛ての電話の取次ぎをする程度であった。
イ 平成21年の原告X2の業務状況
(ア) 原告X2は,平成20年にグリーンDCサービス開発に異動し,当初はファイバーケーブルに関する事務処理業務(顧客から発注されたファイバーケーブルが納品されたことを確認し,当該顧客から代金を徴収する事務処理などを行う業務)を行い,平成20年第4四半期からはこれに加えてS-Linkに関する事務処理作業も担当していた。S-Linkとは,プロジェクト及びメニュータイプのサービス(内容,仕様,料金が固定化した定型のサービス)を対象にしたウェブ環境における案件作成,価格設定,価格承認,業務への依頼等を実行するためのシステムである。しかし,これらの業務を全て合わせても,原告X2と同じバンド6の他の社員と比べて半分程度の業務量であり,平常時であれば1日4時間程度しかかからない業務量であった。そのため,直属の上司であったA15は,原告X2に対し,今のままの仕事では不十分であり新しい業務を担当するよう打診したが,原告X2はこれを拒否し,既に担当している業務以外の業務を行わなかった。また,グリーンDCサービス開発においてある業務について人手が足りない事態が生じ,暫定的にサポートを頼まれた際も,原告X2はサポートを断った。原告X2は,新しい業務を行わない理由として,仕事が重なった場合を想定し,自分にはこれを処理する能力がないなどという不合理な理由を述べるばかりであった。その結果,原告X2は1日4時間程度しかかからない業務のみを行うという状況にあり,業務を行っていない時間には同僚や上司には何も言わずに席を外し,何をしているかも分からない時間があった。さらに,原告X2は現に担当している業務であっても通常の手順とは異なる手順が要求されるような事態が生じた場合には業務を遂行することを拒否していた。原告X2が担当していた業務に緊閑があることは確かであるが,定時を超えて業務を行っていたことはまれであり,業務に要する時間の平均は1日4時間程度であった。
(イ) 原告X2は,Tシャツ,ジーンズにサンダルといった社内の服装マナー基準に違反する服装で出勤しており,A15がこれを注意しても,就業規則に記載していないから自由であるという不合理な主張を行うこともあった。
原告X2の服装は,ズボンはジーンズ,靴はサンダル履きが通常であり,スラックスをはいていることはほとんどなかった。夏はTシャツでいることが多く,派手な色彩のものを着用していることも多々あった。
原告X2が勤務していた事業所には顧客が来訪することが頻繁にあり,オフィス内や廊下等で顧客とすれ違うことも多かったから,顧客に不快感を抱かせないためにも原告X2の服装は許容できないものであった。所属長が幾度も注意したが,同原告は,マナー委員会が作成した服装基準・イラストには効力がないとか,茶髪の外国人に注意をするのかといった不合理な主張を繰り返し,服装を改めなかった。
原告X2は,ジーパンが職場にふさわしくない服装に当たらないなどと主張しているが,そのような認識自体が根本的に誤っている。被告の服装マナー基準は全社で統一されたものであり,開発製造系の事業所であれば服装の自由度が高いということはない。また,上に作業着を着ていたとしても,作業着は工場用のものであって,顧客が来訪するオフィスにおいて着用するような服装ではない。被告が事業所において原告X2が着用していた野洲事業所の作業着を支給していた事実はない。
(ウ) 原告X2は,仕事をえり好みすることから,部門内において同僚と共にチームを組んで仕事をすることも難しい状況にあった。
具体的には,平成20年7月に引継ぎを拒否したAFTS技術支援業務について,A15は改めて業務を担当するように打診したが,原告X2は到底合理的とは思われない理由を述べてこれを拒否した。
このほかにも,グリーンDCサービス開発において,FMA(設備機器について保守サービス等を行う業務)について人手が足りない事態が生じ,暫定的にサポートを頼まれた際も,原告X2はこれを拒否した。
また,PBC目標の設定及びそのための所属長との話し合いは業務そのものであり,その結果設定されたPBC目標は具体的な業務指示というべきものである。
(オ) これらの原告X2の問題点について,A15は新しい業務を担当するように促して改善を図ったが,一向に改善の跡が見られなかった。
(カ) 平成21年の原告X2のPBC評価は3であった。
ウ 平成22年の原告X2の業務状況
(ア) 平成22年に入り,PBCの目標を設定する際に,A15は原告X2に対し,既に担当していたS-Linkに関する業務の幅を広げるよう打診したものの,それ以降も同原告は新しい業務を行おうとせず,わずかな業務しか行わないという問題は改善されない状況が続いた。
(イ) 平成22年の原告X2のPBC評価は3であった。
エ 平成23年の原告X2の業務状況
(ア) 平成23年に入ると,新たに直属の上司となったA17(以下「A17」という。)は,原告X2の業務の幅を広げるべく,それまで担当していたファイバーケーブルに関する業務とS-Linkに関する業務のうち対象とする製品をどちらか一方に絞った上で,一つの製品についてより幅広い業務を行うよう指示をした。その結果,原告X2は,対象製品をS-Linkに絞り,ファイバーケーブルに関しては他のメンバーに引き継ぐこととしたが,引継ぎを行う段階になって同原告は引継ぎを拒否した。その後,最終的には同年5月頃から,対象製品をS-Linkに絞ることになり,ファイバーケーブルに関しては他のメンバーに引き継がれた。しかし,原告X2は,S-Linkについて業務の幅を十分に広げることをしなかったため,業務量は全体として増加せず,依然として1日4時間程度しかかからない業務を行うのみであった。
原告X2は,同原告がファイバーケーブルの在庫管理について社内調査機関に調査するよう意見具申したことをA17が不快に思ってファイバーケーブルの業務から外したと主張するが,そのような事実はない。
(イ) その後もA17は新しい業務を担当するよう何度も話したものの,原告X2の態度は一向に改善せず,そればかりか担当している業務に対する意欲について質問をされた際には,「意欲はこれといってありません」と明言することすらあった。
この発言は,平成23年の上半期が終了した後,中間PBCインタビューの際,原告X2の回答が不十分であるため,A17が担当業務に関する感想などを補足するよう求めたところ,原告X2は「感想はありません」と回答してきたので,A17が現在担当している業務に対する意欲や今後後半に向けての意思をただしたところ,「意欲はこれといってありません」と回答したのであって,自己の担当業務について明言したことは明らかであり,後記(原告X2)の主張オ(ウ)の弁解は不合理である。
(ウ) 原告X2は,業務を行っていない時間に,同僚や上司には何も言わずに席を外し,何をしているか分からない時間が多くあった。
原告X2は,午後の始業後も昼休みから継続して眠ったままでいることがしばしばあり,夕方に自席に座ったまま上を向いた状態で眠り,目を覚ますとそのまま40分以上離席をすることもあった。このような頻繁な居眠りや離席は他のメンバーに悪影響を及ぼし効率的な業務の妨げになるから,A17は原告X2に対し注意を与えていた。なお,原告X2の居眠りや離席によって業務に支障がなかったのは,原告X2がもともと少ない量の業務しか行っていなかったことを示す事情である。
(エ) 平成23年以降,原告X2は,上司との間で口頭によりコミュニケーションをすることを拒否し,逐一メールでのやりとりを要求するなど,円滑なコミュニケーションを行うことができなくなった。
(オ) このように,原告X2は,仕事を選り好みし,円滑なコミュニケーションを行うことができないことから,部門内において同僚と共にチームを組んで仕事をすることも難しく,ましてや顧客と直接コミュニケーションをとるような業務を任せることが難しい状況にあった。
(カ) 平成23年の原告X2のPBC評価は3であった。
オ 平成24年の原告X2の業務状況
(ア) 平成24年に入っても,原告X2の問題に改善は見られなかった。
(イ) 平成24年のPBC目標を設定する際,原告X2は,既に担当している業務を目標として挙げるのみで新たな業務を行おうとせず,新しい業務や資格に挑戦することを促されても,一級建築士資格の取得というおよそ実現困難な目標を掲げ,直後にそれをあっさりと取り下げるなど不合理な態度に終始した。
確かに,原告X2が所属していた部署では一級建築士と技術士の資格を求められる業務を担当しており,これらの資格を有する者も所属していたが,これらの資格取得が相当に困難であることは当該部署所属の者全員が認識しており,同原告も当然認識していた。また,一級建築士資格の取得という目標は,PBC目標に新たな取り組みを追加するように原告X2が指示を受けてから数か月を経た7月になってようやく提示したものであるにもかかわらず(同原告以外の者は全員3月の時点でPBC目標の設定を終えていた。),それをあっさり取り下げた上,それ以降,新たな取り組みについて何も提示しなかった。
(ウ) 原告X2は,引き続き社内の服装マナー基準に違反する服装で出勤する,業務に関する報告を記載する月次報告書に業務と全く関係がない事項を記載する,セキュリティ上入室が禁じられた部屋へ入室するなどといった多くの問題行動をとっていた。
(エ) 月次報告書は,所属長が各メンバーの業務状況を把握するため,またメンバー同士が業務に関する情報を共有するために利用されているものであり,被告のイントラネットに掲載され,各メンバーはいつでも閲覧することが可能である。A17が所属長となった平成23年1月以降,原告X2が作成する月次報告書は納品処理等の業務で使用したエクセルファイルを添付するだけの内容の乏しいものばかりであった。A17は,平成23年1月以降,原告X2を含むメンバー全員に対し,月次報告書には業務内容を記載するだけでなく,遭遇した困難や今後の見通し,感想などを具体的に記載するよう指示していたが,同原告は一度として適切な内容の月次報告書を作成することはなかった。そして,A17が原告X2に対し平成24年6月にS-Link業務に関して具体的記載をするよう促したところ,同原告は被告社長が起こした盗撮事件について記載するという極めて不適切な対応をしてきた。原告X2がコメントを記入したのはこのほかに1回あるが,それも月次報告書に記載が求められているレベルのコメントではなかった。
(オ) A17は平成23年1月に原告X2のセキュリティエリアへの入室を複数回目撃し,いずれもエリア内で他のメンバーや業務委託社員と談笑していた。同月21日に行われた個人面談の際,A17が原告X2に対しセキュリティエリアへの入室を注意すると,構造上の不備があるという不合理な主張を展開し,規則違反を反省する姿勢を全く見せず,入室の理由を説明することもなかった。原告X2はファイバーケーブルの廃棄の目的があったと主張するが,同原告がファイバーケーブルに関する事務処理業務を担当していたといっても現物を取り扱っていたわけではなく廃棄する必要があったとは考えられない。また,原告X2は平成23年5月頃以降ファイバーケーブルに関する業務に従事していないから,平成24年にセキュリティエリアに入る理由にはならない。さらに,グリーンDCサービス開発において部材を廃棄するためには所属長の承認を得る必要があるが,A17は原告X2に対しファイバーケーブルの廃棄の承認をしたことはなく,同原告からそうした報告を受けたこともない。なお,社内調査機関への申告や通報とセキュリティエリアの入室許可の取消しとの間には全く関係がなく,原告X2の他にもセキュリティエリアに関係のない従業員は皆同時に入室許可を取り消されている。
原告X2は,ロー・セキュリティエリアにも入室できると解釈したと主張するが,同原告が入室を許可されていた部屋も,入室を許可されていなかった部屋も,いずれもハイ・セキュリティエリアである。原告X2が許可されていないハイ・セキュリティエリアに入室したことから,A17は,やむを得ず同原告を含む全課員の社員証からもともと入室の許可されていたハイ・セキュリティエリアへの入室権限を取り消さざるを得なくなった。
セキュリティエリアへの入室権限が与えられていない者であっても,管理者による承認を得て,入室時に入り口に設置された入退室者名簿に記録し,入室権限が与えられた者の常時エスコートがあれば入室することができるものとされているが,原告X2は管理者であるA17の承認を得ておらず,入室の条件を満たしていない。被告においては,セキュリティに関する全社員必須の研修を年複数回実施しており,このようなルールは原告X2を含め全社員に対して教育されている。
(カ) このような状況において,被告は,PIPを通じて業績改善の機会を与えようとしたものの,原告X2がこれを拒否したため,被告は,もはや原告X2の業績の改善を期待することができず,その雇用を継続することは不可能であると判断せざるを得なかった。
A17は,PIPを実施しようと試み,平成24年3月に原告X2に対し業績向上に向けたアクションプランを策定するための面談に出席するよう指示をしたが,同原告はA17との面談を拒否してメールでのやりとりを要求したため,上長(所属長の上司をいう。以下同じ。)であるA18(以下「A18」という。)が面談を行うことになった。原告X2はPBC目標すら設定できていなかったことから,まずはそのやりとりに多くの時間が費やされた。面談において,PIPの対象者は特定の意図を持って選ばれたのではなく,前年のPBC評価が3以下の者について例外なく実施していることを説明したが,原告X2は懐疑的な態度を示しPIPを実施できなかった。
(キ) 原告X2には会議への出席姿勢にも問題があった。平成24年7月に開催された複数の会議について,原告X2は出席したと述べているが,実際には出席しておらず,中には欠席したことを自認しつつ連続のミーティングにうんざりしたのか,覚えていないなどと責任感の欠如を隠そうともしない態度であった。
カ 原告X2主張の解雇理由について
(ア) A17が平成23年1月から原告X2と面談を行ったのは,同月からグリーンDCサービス開発の所属長となったA17が,同部門のメンバーの業務内容を確認するために行ったものであり,同原告だけでなくメンバー全員と面談を行っている。この面談では,原告X2が担当していた業務内容の確認が行われた後,A17が新しい業務に挑戦することを提案し,その候補として幾つかの具体的業務を説明した後協議した結果,キッティング業務(サーバーをラックに搭載したり,サーバーとディスク装置をファイバーケーブルで接続したりするなど,IT機器の物理的なセットアップを行う業務)に取り組むことを約束した(ただし,実際には同原告はキッティング業務に一切取り組まなかった。)。この面談の際,原告X2は転職や早期退職プログラムに関心があると話したため,A17はこれに対応したのであり,ハラスメントと評されるようなことはしていない。原告X2の仕事が担当しているファイバーケーブルに関する事務処理業務の範囲が受発注・経費振替処理などごく一部の事務処理業務に限定されていたため,ファイバーケーブルに関するその他の業務(構成作成や見積業務)などを行うことで業務の幅を広げるよう提案したものであるが,同原告は明確にこれを拒否した。原告X2の業務が中途半端であるとしたのは上記のとおり業務の範囲が限定されていたことを指している。
キッティング業務については,平成23年3月には開始され,そのことは課員会議において原告X2を含むメンバーに対して連絡されていたが,同原告はこれを一切行わなかった。
(イ) PIPの実施については,A17が原告X2に対し,業務の幅を広げる,あるいは異なった業務にチャレンジする必要があると説明したところ,原告X2はPIPの「改善目標管理フォーム」は必要ないが,業務改善内容自体は通常の業務範囲として取り組むとの返答があったため,A17はPIPにおいて原告X2が取り組む内容としてあらかじめ考えていた3点を提案した。そのうち3点目には,「プログラミングの初歩をマスターする(予備)」という原告X2がそれまで取り組んだことがない項目があったため,無理しなくてよいと伝えたが,同原告から反対はなく,3点全ての項目に取り組む方向で話し合いが進んだ。しかし,面談の最後に原告X2が3点目は削除することを要望したため,3点目を外して1点目と2点目に取り組むことに同意した。しかし,実際には原告X2はこれらの項目に取り組まなかった。このように,面談ではPIPに関する話し合いがスムーズに行われていたのであり,ハラスメントではない。
(ウ) 原告X2は,社内調査機関への意見具申等を行う原告X2を疎ましく思って解雇したと主張するが,何ら根拠のない憶測にすぎない。
(原告X2)
ア 被告は,原告X2が上司の業務の幅を広げるようにとの指示を拒否したと主張するが,実際には上司が具体的な担当業務を命じた事実はなく,業務命令に違反したものではない。また,服装のマナー違反や月次報告書の記載の不備については,これらを理由に服務規律違反としての処分をされた事実はなく,このようなささいな事象を解雇理由として強調するのは,原告X2に対する解雇がいかに客観的な理由がなく社会通念上相当でないものであるかを浮き彫りにしている。
イ 平成20年の原告X2の業務状況
(ア) 原告X2は,平成18年2月,派遣会社d社から被告の藤沢事務所に復帰し,当初様々な仕事を担当していたが,その後UPS(無停電装置)・バッテリー交換の事務処理業務や技術サポートを担当していた。原告X2は,同年10月頃から,光ファイバーケーブルの関連業務の仕事を命じられた。同業務について,原告X2は,FTCSの事務処理業務及び技術サポート(不良品対応)をA16とともに担当し,AFTSの事務処理と技術サポートの一部の業務をA13とともに担当していた。A16及びA13はバンド7の社員であり,原告X2はバンド6である。
平成20年7月頃(早くても6月頃),A13が名古屋に異動する予定であるとして,原告X2は上司のA15からA13の担当業務を全て引き継ぐよう指示された。しかし,バンド6である原告X2にとっては,技術スキル的にも業務量から見ても,FTCSの業務も担当しつつ,バンド7のA13が担当した業務の全てを引き継ぐのは困難であった。また,A13が異動先である名古屋で実地研修を受けており,わずか2か月間でA13から業務を引き継ぐことも事実上困難であった。そこで,原告X2は,A15に相談した結果,A14(バンド7)がA13のAFTSの業務を引き継ぐこととなった。原告X2の業務の実情を協議しA15も納得して決めたことであり,原告X2がA13の引継ぎを拒否したものではない。
(イ) 平成20年8月頃から,原告X2はA16とともにS-Linkの業務を担当するように指示された。原告X2は,従前から担当していたファイバーケーブルFTCSの業務とS-Linkの業務をA16とともに担当するようになった。
当初,S-Linkの業務はA16と原告X2が半分ずつ担当していたが,A16がS-Linkの業務に適性がないという理由から,同原告が主にS-Linkの業務を行うようになった。
(ウ) 原告X2の1日の業務が4時間程度で処理できるということはない。業務には繁閑があり,4時間で処理できた日もあるが,多忙の際には1日フルタイムを業務に集中しても終わらない日もある。実際,原告X2は通常午前10時から午後5,6時頃まで勤務しており,繁忙時には午後8時頃まで業務を行ったこともある。
ウ 平成21年の原告X2の業務状況
(ア) A16が平成21年2月頃に体調を崩して在宅勤務を行うことになったため,原告X2はA15から命じられてA16が在宅勤務で対応できないFTCSの業務とS-Linkの業務を全て担当するようになった。同年3月頃,A16は横浜北事業所に復帰したが,原告X2が引き続きS-Linkの業務を全て担当し,同時にA16が担当するFTCSの事務処理の一部と技術サポートを担当するようになった。その後,原告X2は平成23年5月まで光ファイバーケーブルの仕事及びS-Linkの業務の一部をA16とともに担当していた。
(イ) 原告X2は,A15から,新しい業務を担当するよう具体的な業務指示を受けた事実は一度もない。ただし,PBCの目標設定の際にA15との間で新たな業務の目標について話し合いを持ったことはある。その際,新しい仕事の幅を広げてみないかなどと抽象的な話が出たことはあり,原告X2は現状の担当業務の質や量についての実情を話して新たな業務を担当することは困難であるという意見を述べた。その際にも新業務を担当するようにと具体的な業務命令を受けておらず,A15と協議の上で原告X2の目標を設定したのである。
(ウ) 原告X2の執務中の服装は,夏はTシャツの上にY社の作業着を羽織り,ズボンは普通のスーツのスラックスをはいていることが多かった。Tシャツの上にY社のロゴの入った作業着(被告の支給品)を着用して執務しており,違和感のある服装ではない。また,原告X2は,デスクワークをしている際にサンダル履きであっただけである。冬場にジーンズをはいて出勤していたこともあるが,そのときも上着はY社のロゴの入った作業着を着用していたし,ジーンズをはいていた者は数は少ないが原告X2以外にもいた。
被告では服装マナー基準が策定されていたが,基本的に社員の自主的な判断に委ねられている事項であった。
原告X2は,A15から服装について2回ほど注意を受けたことはあるが,服装は労働者の良識の範囲で委ねられていること,冬以外はスラックスをはき,Tシャツの上に会社の作業着を着用していることを説明した。
被告は会社の作業着自体がオフィスにおいて着用するような服装ではないと主張するが,当該作業着は原告X2が個人的に所有していた作業着ではなく,事業所のロッカールームにクリーニング済みの作業着が置いてあり使用後はロッカールームに返却するものとして支給されており,原告X2以外の従業員も着用していたものである。
エ 平成22年の原告X2の業務状況
(ア) 平成22年についても平成21年と同様である。
(イ) 原告X2が円滑なコミュニケーションを行うことができなかったということはない。原告X2はA15と通常の業務の相談及びPBCも全て口頭で話し合っていた。ただし,原告X2が不正と考えた事項についてA15は曖昧な答えや発言の変遷があったため,記録を残すため電子メールでやりとりをした。
オ 平成23年の原告X2の業務状況
(ア) S-Linkの業務については,A16が担当から外れて原告X2が1人で担当していたが,平成23年5月になって,同年1月から新たに上司となったA17の指示により,原告X2はファイバーケーブルの仕事から外されてS-Linkの業務のみを行うようになった。
この背景には,平成22年,原告X2がデリバリー部門でのファイバーケーブルの在庫管理のずさんさを改善するように意見を述べたところ課内では対応されず,被告の社内調査機関に在庫管理について調査するように意見を具申したことがあった。
また,開発部門で外注業者が発注を受けたものと考えて,約3000万円もの在庫を抱えたことがあり,この件をめぐって外注業者とのトラブルが発生した。結果的には外注業者側の思い込みによるものとして処理されたが,その経緯が事実と異なると考え,原告X2は,平成23年1月,社内調査機関に通報したことがあった。
これらのことを快く思わなかったA17が,原告X2をファイバーケーブル担当から外したと考えられる。
(イ) 原告X2が頻繁に離席し,業務に支障が生じたという事実はない。そもそも原告X2は裁量勤務制適用の従業員であり,離席そのものを非難される立場ではない。また,離席によって実際に業務に支障が生じたこともない。
(ウ) 原告X2が「意欲はこれといってありません」と言ったのは,意欲があると言えば評価が高くなるとの話が出た際に,意欲という主観的なものではなく業績の結果によって評価されるべきという発言をしたのをA17が曲解したものである。
メールでこのような内容を述べたのは,A17が「感想」や「意欲」という抽象的な質問をしてきており,原告はA17から嫌がらせを受けてきたという事情もあったため,ややぶっきらぼうな表現をしたものである。
カ 平成24年の原告X2の業務状況
(ア) 平成24年のPBC目標設定での話し合いは,あくまで目標設定の話し合いであり,業務拒否というのは不当である。
原告X2が所属する部署では,工事案件を扱うため,一級建築士と技術士(電気電子)が必要であり,実際にも,従業員の中に一級建築士や電気工事の資格を有するものがいた。そこで,原告X2は,自己啓発の目標について問われたため,一級建築士の資格取得を挙げた。ただし,後に一級建築士には実務経験が必要ということが分かったので撤回せざるを得なかった。原告X2が一級建築士の資格を目標として掲げたこと自体は業務に関連があり不合理ではない。
(イ) 月次報告書の件とは,原告X2が月次報告書に,コンプライアンスの研修を受けるよりも,開発部門での在庫のずさんな管理を是正することの方が重要,被告社長のような盗撮をする経営者が出てくることの方が心配と記載したことを指すが,この記述を上司から削除するように指示を受けて盗撮の件については削除に応じた。これは解雇理由となるものではない。
A17が月次報告書にコメントを記載するよう指摘してきたのは平成24年6月からであり,それからはコメントを記載している。
(ウ) 原告X2は,不要になったファイバーケーブルを廃棄する場所がセキュリティエリア内に設置されていたため,同僚がセキュリティエリアに入る際に一緒に入室して破棄したことが2回ある(各回10分程度)。セキュリティエリア入室を許可するには管理者であるA17の許可が必要であり,原告X2の入室は形式的には社内規則に反したことになるが,解雇までにこの件で懲戒処分を受けたことはない。なお,このセキュリティエリアでは開発業務が行われているため入室に制限が加えられていたが,原告X2も以前は入室に関する許可を得ていたところ,社内調査機関への申告や通報をした後に許可が取り消されたという経緯がある。
平成23年1月当時,セキュリティエリアはハイ・セキュリティエリアとロー・セキュリティエリアの2室に分かれており,原告X2にはハイ・セキュリティエリアの入室許可の電磁的情報が組み込まれた社員証が交付されていたが,ロー・セキュリティエリアの入室許可の電磁的情報は組み込まれていなかった。ハイ・セキュリティエリアに入室すると,そこからロー・セキュリティエリアに入室できたため,原告X2は許可がなくとも入室可能であると解釈して入室してしまった。原告X2は,構造に不備があると指摘したことはあるが,故意にセキュリティエリアに関するルールに違反したものではない。
平成24年の入室については,原告X2はセキュリティエリアの入室許可の電磁的情報が組み込まれた社員証を所持しておらず,入室許可を与えられた同僚に依頼して入室した。当時原告X2はファイバーケーブルの担当ではなかったが,同原告の机の中にファイバーケーブルが残っていたため,それを廃棄するために2回入室した。その5か月後に初めて無許可の入室との指摘を受けたので,原告X2はそれ以後は許可を得て入室するようにすると述べた。
セキュリティエリアへの入室については,承認制ではあるが各部門において細則が定められており,エスコートがあれば入室ができる取扱いがされている部署や入室する際に名簿に記載させる部署もあり,エスコートがあれば入室が許可された可能性がある。
(エ) 原告X2がPIPを拒否したことはない。原告X2は,自身の業績がPIPの対象となることについて納得がいかない旨を述べた上,業務命令とされれば拒否はしない旨を述べている。
原告X2はA17以外の上長との面談を希望すると伝えたところ,A18と面談を持つようになったが,そこでPIPの目標設定等の話は出ていない。
(オ) 会議への出席姿勢に問題があったというが,原告X2は欠席した会議については欠席したことを陳謝しており,それ以外の会議には出席している。これは解雇理由に当たらないというべきである。
キ 真の解雇理由
(ア) A17は,平成23年1月から原告X2の上司となった。同月13日,同月21日,同月27日,同年2月17日,同年3月25日の5回,横浜北事業所の会議室等に呼び出されて2人だけで個人面談が行われたが,原告X2が担当している具体的な業務に関するものではなかった。これらの面談で,A17は原告X2に対し,会社を辞めることや仕事が中途半端でいい加減であることなどを話したが,これらはハラスメントに当たる。原告X2は,A17と口頭で話をしても,言った言わないの水掛け論になり精神的に大きな負担になると感じたため,メールでのやりとりを望んだ。A17は,原告X2が社内調査機関に通報して改善意見を出したことを不快に思い,原告X2を疎ましく考えて,PIPなどを受講させた上で退職させようと考えていたと思われる。
なお,キッティング業務については,原告X2はこれを引き受けたが,その後同業務の開始が遅れているとの連絡があり,その後連絡がなかったものであって,同原告がこれを拒否した事実はない。平成23年のPBC目標設定においてもキッティング業務については一切触れられていない。また,キッティング業務は当初の解雇理由とされていない。
(イ) 原告X2は,業務に支障を生じさせたことはなく,新しい業務担当を拒否した,職場の円滑なコミュニケーションを行わなかったなどの事実は一切ない。服装マナー違反などの問題はささいな事情であり,服務規律違反にも当たらないというべきであり,当たるとしても戒告などの処分で足りるものであるから,到底解雇理由にはなり得ない。他方,原告X2は社内調査機関に通報や申告をしており,自らの出向が偽装出向・偽装請負ではないかと考えて違法性を指摘したこともあるので,これらを疎ましがられて解雇されたものである。
(3)  原告X3の解雇事由(争点(3))
(被告)
ア 原告X3は業績の低い状態が続いており,被告は,その間,様々な改善機会の提供やその支援を試みたにもかかわらず,業績が改善されなかったことから,同原告を解雇したものである。すなわち,原告X3には,①頻繁に業務の期限を徒過する,②上司に適時に適切な報告を行わないなどチームとして業務を行うこと(チーム・オペレーション)ができない,③自分の興味のあることには業務上不必要であっても取り組む一方,自分が興味のない業務には必要であっても取り組もうとしない(その結果,業務上必要な作業が行われない),④自己の非を認めない,⑤始業時刻に出勤しなかったり,必要な手続を経ることなく休暇をとったりするなどの問題があり,その業績は極めて低かった。そして,このような原告X3の問題については,同僚や上司が助言・指導を行ったにもかかわらず,一向に改善の跡が見られなかった。その結果,被告は,もはや原告X3の業績の改善を期待することができず,その雇用を継続することは不可能であると判断せざるを得なかった。
イ 平成20年以前の原告X3の業務状況
(ア) 原告X3は,平成19年1月にSTHに異動し,当初はBMとしてSTHに異動する以前のスキルや経験を生かし,セールスチームがハードウェア製品を提案する際の構成作成・見積りや機能・性能に関する問い合わせへの対応を行っていた。ところが,原告X3には,①所属長の指示に対して期限を守らない,②チームにおいて上手くコミュニケーションを行うことができない,③作成すべき成果物を作成しないという問題があった。
(イ) 原告X3は,セールスチームから顧客に提案する製品の構成作成を依頼された場合においても,指定された納期までにこれを行わず,かつ,納期を過ぎることをセールスチームに伝えないということが幾度もあった。原告X3は,セールスチームから指定された納期を守ろうとする意識が極めて乏しく,専ら自分の都合や考えに基づいて業務を行っていた。この結果,原告X3は納期を徒過するのみならず,セールスチームが求めているものと合致しない,独りよがりな内容のものを作成することがあり,他のチームのメンバーが手直しをしなければならないという事態も生じていた。
原告X3は,納期遅れはSTG課全体で恒常的に発生しており同原告個人に起因するものではないと主張する。しかし,原告X3が指摘する全体の遅延率は,当初の納期に遅れた割合であり,調整が行われた後の納期に遅れた割合ではない。短い納期で依頼があり,指定された納期に間に合わせることが難しい場合,BMとしてはコミュニケーションをとって納期を調整し,合意をした上で合意した納期までに依頼された成果物を作成すべきであるが,原告X3はセールスチームとコミュニケーションをとることを嫌い,調整をしないまま指定された納期を徒過するため,セールスチームから連絡なく遅れることのクレームが生じていたことに問題がある。また,原告X3は納期遅れを生じさせる頻度が高く,納期遅れの程度(納期から実際に成果物を作成するまでの時間,日数)も劣っていた。被告においてまとめた表(乙C19)は,セールスチームからBMに対して業務を依頼する際に用いられるデータベースに入力された納期を基準に計上・算出されているが,納期の調整を行ったうち多くの場合はデータベース上の納期も変更されるが,変更されない場合もあり,この表で遅延となっていても連絡しないまま納期を徒過したとは限らない。原告X3は,比較対象が不当である旨主張するが,原告X3に比べて他の者が遅延の発生しにくい状況であったとはいえない。
原告X3は,構成作成は原告X3の担当ではないと主張するが,STG課において誰がどの業務を担当するかが明確に決まっていたわけではない。もっとも,原告X3が納期の調整をしないまま納期を徒過するという問題があったことから,平成20年頃からは,納期の短い案件が非常に少ないNAVIの業務(セールスチームが顧客に自社の新製品を売り込む際に必要な製品に関する情報や競合他社製品の比較情報を集約,分析する業務)を中心に対応させるようにしていた。NAVIの業務が技能を必要とし,派遣社員に任せられないということはなく,派遣社員も担当していた。原告X3と派遣社員の担当していた業務に難易度の差はない。
(ウ) 原告X3は,構成作成の方法等についてチーム内の標準規格・仕様を守ろうとせず,独自の考え方で構成作成を行うことがあり,この点についてチームのメンバーから注意を受けても改善をしようとしなかった。ちなみに,この標準規格・仕様は,平成19年から定められていた。
(エ) 原告X3は,ハードウェア製品を担当するBMとしての業務に必要なスキルを習得しようとしなかったため,対応できる案件の種類が限られていた。
例えば,被告製品について値引の限度額の計算や値引の申請・承認など,値引に関する処理を運用するためのシステムとして「○○」というシステムがあり,ハードウェア製品を担当するBMはこの構成作成を行う際にこのシステムを使用して値引限度額の計算等の作業を行うことになっているが(BMが「○○」を用いて行う当該作業を「プロフィットテスト」と呼んでいる。),原告X3はこのシステムに関するスキルを理解・習得しようとしなかったため,プロフィットテストが必要な案件に対応することができなかった。
原告X3は,プロフィットテスト案件に対応する必要がないと主張するが,プロフィットテストを行うために必要となる○○の操作権限の一部は,平成19年2月2日には権限の承認がされて同原告に授与されており,平成21年1月までの間はプロフィットテストにSTHにおいて対応する必要があった。平成20年春からは派遣社員がプロフィットテスト案件を担当することになったとしても,原告X3が○○に関するスキルを理解・習得してプロフィットテスト案件に対応する必要がなくなったわけではない。
(オ) 原告X3は,頻繁に遅刻をするなど勤務時間の管理に問題があった。
あるときには,上司やチームのメンバーに何も告げないまま所定終業時刻より1時間以上前の午後4時頃に帰宅し,チームのメンバーが原告X3を捜しても見つからないという事態が生じたことがある。翌日直属の上司であるA19(以下「A19」という。)が注意をしても,原告X3は何が悪いのか理解している様子もなく,チームメンバーに謝罪をすることもなかった。原告X3が子どもの迎えのために早退することを事前にメールしていたことはない。原告X3は,子どもの迎えに行かなければならなかったとの説明をしていたが,本件訴訟では会議室にこもっていたと主張している。
(カ) A19は,原告X3の業績を改善すべく,平成20年1月から,隔週で原告X3と一対一の面談を行い,チームのメンバーと協調することの重要性を説明し,自らの問題点に気付いて独りよがりな仕事の仕方を改めるように指導を繰り返したが改善されなかった。
(キ) 平成19年及び平成20年の原告X3のPBC評価はいずれも3であった。
ウ 平成21年の原告X3の業務状況
(ア) 原告X3の業績は低かったため,平成21年5月頃までに計2回のPIPを実施したものの,1回目は目標を達成することができず,2回目は早期にPIPの続行をあきらめるなど,BMとしての業績を改善することが期待できない状況にあった。
なお,平成21年1月に設立された沖縄BSCにSTHの業務の一部を移管させることを内容とする業務があったが,原告X3はこれに一切関与していない。第1回PIPの「改善目標管理フォーム」に記載された内容は,沖縄BSCのメンバーとコミュニケーションをとってその業務に対するサポートを行うということであり,沖縄BSCへの業務移管を行うことではない。直属の上司ではないA5が原告X3に対し移管した業務の実施を指示したことはないし,A5は直属の上司であるA19に対し,同原告にはBMとして問題があるから移管した業務に関与させてはならないと伝えていた。
また,原告X3が,入院したA20(以下「A20」という。)に代わって「システムP」というブランドの製品を扱うチームのチームミーティングを主催し,派遣社員の相談に乗るなどしていた事実はない。チームミーティングを主催していたのは,派遣社員であるA21(以下「A21」という。)である。原告X3は業績が悪くPIPを実施しなければならない状況であり,A21は原告X3より優秀であったことから,やむを得ずA21が主催したのである。
第1回PIPにおいては,派遣社員と同等の100件以上の処理を目標としようとしたところ,原告X3はそのような件数でさえ処理することはできないと述べたことから,目標値を大幅に引き下げて30件以上達成を目標として定めた。それにもかかわらず,原告X3は上記目標を達成できなかった。原告X3は,第1回PIPの際,他の業務も行っていたと主張するが,そのような事実はない。
平成21年3月30日から第2回PIPが実施されることになり,具体的な改善計画が立てられたが,原告X3は,当該PIPの途中で目標の達成をあきらめ,結果として目標を達成することはできなかった。原告X3は,第1回PIPの結果により退職勧奨を受けているとの疑念を持ち達成意欲を失った旨主張するが,PIPが実質的に退職勧奨であるということはなく,上司は同原告に改善が見られた点は評価している。
(イ) そこで,直属の上司であったA19らが原告X3の処遇を検討し,開発系の業務を望む同原告の意向も踏まえて,同年6月の間試験的にSTH内にあるビジネス・オペレーションズのメトリクス・チームにおいて試験的に業務を行わせたところ,同原告は同チームにおいてこれから頑張ってやっていきたいと述べたため,同年7月1日から同チームに異動することになった。しかし,原告X3は,ビジネス・オペレーションズに異動後も,与えられた業務の期限を守らないなどの問題を発生させた。
例えば,原告X3の直属の上司となったA22(以下「A22」という。)は,ビジネスパートナー(被告の製品やサービスを取り扱っている会社)のためのメトリクスの標準フォーマットを作成する業務を与え,レビュー日を設定し,その日を期限として作業を行うことを命じ,完成度が低いものであっても徐々に作成すればよいので期限を守るようにとアドバイスしたが,同原告は期限を守らず,パソコンが壊れて業務ができなかったなどの不合理な弁解を述べるばかりであった。システム上の不具合が生じたという事実はなく,そのような報告はA22にされていない。そもそも,A22が指示したメトリクス・チームの標準フォーマットの作成とは,表計算ソフトに基づく帳票の作成であってプログラムの作成ではないし,その補正に2,3か月を要するような作業ではない。必要な作業は,四則演算レベルの演算式を入力すれば足りる。仮に原告X3がプログラムを作っていたとすれば,A22が指示した業務ではなく,作成の必要もないものであり,正に自分の興味を持った業務上必要のないプログラムの開発に過大な時間をかけていたことになる。
(ウ) 原告X3が期限を守ることのできない大きな原因は,自分が興味を持ったプログラムの開発について,それが業務上必要でないにもかかわらず過大な時間をかけて取り組み,他方で自分が興味を持たない業務には必要があっても取り組もうとしないことにあった。
(エ) 原告X3は,業務を覚えようとする意識に乏しく,例えば数週間経ってもチーム内で用いられる基本的な用語を覚えず他のメンバーに問い合わせるという状態が続いていた。他方で,原告X3は,基本的な用語の意味を理解していないことを指摘されると,基本的なことは分かりきっていると述べて自分の非を認めないという不合理な対応をとることもあり,知った振りをする結果,与えられた業務を正確に理解することもないまま,期限を徒過してやっと成果物を提出しても,それが本来作成すべきものと異なっているという事態が多々発生していた。その聞き方や頻度からして,基本的な用語の意味を理解していたが確認のために問い合わせていたとは考えられない。問い合わせていた用語は,プログラミング用語ではなく,日常業務において用いられる基本的な用語であった。
(オ) 原告X3は,フレックスタイム制の適用対象者であるが,コアタイムの開始時刻までに出勤しないことが度々あったほか,必要な手続を経ることなく休暇を取るなど勤務時間の管理に問題があり,これらの点についてA22が度々注意を行っても改善されることがなかった。コアタイムの開始時刻が過ぎてから休暇の連絡があったときに,勤務管理上遅刻ではなく休暇と処理していたとしても,原告X3の勤務管理に問題があることは明らかである。
(カ) 以上のような問題が原因で,メトリクス・チームのメンバーからは,原告X3と一緒に仕事をしたくないなどといったクレームが上がることとなった。
(キ) 平成21年の原告X3のPBC評価は3であった。
ウ 平成22年の原告X3の業務状況
(ア) 平成22年に入っても,原告X3の問題は改善されることがなかった。
原告X3は,平成22年4月から平成23年3月にかけて「メトリクスデータのRDB(DB2)化とCognosを使った表作成の標準化業務」を与えられていたが,当該業務においても期限までに作業を終えず,不合理な言い訳に終始していた。Cognosを使用するために必要な知識はCognos製品に付随しているヘルプ機能等によって容易に取得可能であり,業務を行うに当たって支障となる事情はなかった。原告X3が指示された業務は,Cognosの基本的な機能(統計分析的処理を簡単な操作で可能とする機能やフォーマットの異なるデータを一元管理することができる機能)を使用すれば十分に可能である。また,原告X3からCognosの使用方法が分からないために業務が滞っているなどの報告がされたこともない。原告X3は,A23がこの業務の担当から外され,A22が担当となったと主張するが,A23は表作成の標準化業務に関して自らが行うべき作業が完了したことから別の業務に取りかかったにすぎず,担当を外されたのではない。A22は責任者の立場であり,原告X3と一緒に具体的な業務を担当していたわけではない。原告X3は,組織における役割分担について正確に理解できておらず,これも問題点の一つであった。A22は仕様について必要最小限のアドバイスをしたことはあるが,原告X3の業務遂行を困難にするようなコメントをしたことはない。以前別の社員が同様の業務を担当したが完成しなかったという原告X3主張の事実はない。
(イ) 原告X3は,平成22年においてもコアタイムの開始時刻までに出勤しないことが度々あったほか,少なくとも20日以上,必要な手続を経ることなく休暇を取るなど,依然として勤務時間の管理に問題があった。
(ウ) A22は,原告X3の業績を改善するべくPIPの実施を提案したものの,原告X3が取り組もうとしなかったため,PIPを実施することはできなかった。
(エ) 平成22年の原告X3のPBC評価は3であった。
エ 平成23年の原告X3の業務状況
(ア) 平成23年に入っても,原告X3の問題は改善されることがなかった。
例えば,原告X3は,平成23年6月から9月にかけて目標処理件数を設定の上,「ライン&BMのレポート作成のためのデータ・レポート作成,支援業務」を与えられていたが,目標を達成した月は一度もなく,時には,その件数を水増ししようとする行為(行っていない業務を行ったものとして報告する,1件を2件として報告する)も見られた。水増しについては誰が見ても1件としか数えることのできない案件を2件として報告していたのであり,原告X3が主張するような件数の捉え方の違いではない。この業務は,誰かから案件を割り振られるという性質の業務ではなく,ライン管理者やBMの会議に参加をしたり,会議議事録などを見たりすることによって,必要なデータ生成作業等を自ら発見して行う業務であり,原告X3以外のメンバーは皆このようにして業務を行っていた。原告X3は自ら発見する姿勢に全く欠けていたため目標件数を設定したが,結局その姿勢は変わらず一度も目標を達成できなかった。ライン管理者会議への参加や会議議事録の閲覧が許されていなかったとしても,BMの会議に参加する,BMと話をする,ライン管理者と話をするなどの方法によって,必要なデータ生成作業等を自ら発見することは十分に可能であった。この業務を行っていたのは,メトリクス・チームのメンバー全員である。上司が原告X3に対し,この業務を行うための環境を整備すると述べたことはない。
(イ) 期限を守らない,自分の興味のある業務しか行わない,勤務時間の管理に問題があるなど原告X3の業績が改善されない結果,同原告には仕事を任せることができない状態となり,メトリクス・チームのメンバーからは,引き続き,同原告と一緒に仕事をしたくないなどといったクレームが上がっていた。
(ウ) 原告X3にはメトリクス・チームの中で与えることが可能な業務がなくなったため,同年10月,やむを得ず,ビジネス・オペレーションズのもう一つのチームである「もの・チーム」(STHの業務に関連する契約関係の処理その他の管理本部的機能を果たす役割を担うチーム)に異動することになった。もっとも,期限を守らない,必要な報告ができない,勤務時間の管理に問題があるといった原告X3の問題点を考えた場合,「もの・チーム」においても,例えば契約書関連の業務を任せることは到底できず,会議設定のサポートというレベルのものしか担当させることはできなかった。しかし,原告X3は,会議設定のサポートの業務ですら,会議の直前になってようやく出社したり,会議の開始時間に遅刻したりするなど,業務を満足に遂行することができなかった。原告X3は遅刻しそうなときは他のメンバーに会議設定を依頼したと主張するが,それ自体意味不明である上,仮に依頼していたとしても,原告X3は自ら満足に会議設定のサポートの業務を遂行できなかったことに変わりはない。その結果,「もの・チーム」においても他のメンバーから原告X3には信頼して仕事を任せられないという意見が噴出することになり,その後は単発の業務を行わせるしかない状況となった。
(エ) 原告X3は,平成23年においても,コアタイムの開始時刻までに出勤しないことが度々あったほか,少なくとも15日以上,必要な手続を経ることなく休暇を取るなど,依然として勤務時間の管理に問題があった。
(オ) 平成23年の原告X3のPBC評価は3であった。
オ 平成24年の原告X3の業務状況
(ア) 平成24年に入っても原告X3の業務遂行状況は変わらず,被告は,もはや同原告の業績の改善を期待することができず,原告X3が遂行することが可能な業務もないため,その雇用を継続することは不可能であると判断せざるを得なかった。
(イ) 原告X3が平成23年及び平成24年の被告社内の部門内大会決勝に進出した事実は認めるが,これは6,7名の従業員が行っていた業務改善活動が評価されたものであり,同原告はプログラミングの部分に参加していたにすぎず,同原告個人の活動が評価されたわけではない。プログラミングの点で役割を果たしたとしても,その内容は他のメンバーが行った要件・仕様の定義に従って,そのとおりにプログラミングを行ったにすぎない。
(ウ) 平成24年の原告X3のPBC評価は3であった。
カ 解雇の目的について
(ア) 原告X3は,被告が同原告に対し本件組合からの脱退を迫り,脱退を拒むと組合員である同原告を排除する目的で解雇を行ったと主張するが,何ら根拠のない単なる憶測にすぎない。
(イ) 平成22年2,3月頃(同年7月ではない。),A22が原告X3に対し本件組合に入った理由を尋ねたことはあるが,理由を尋ねたにすぎず,本件組合に加入していることについて,それ以上にコメントをしたものではない。
(ウ) 平成22年12月頃,A9事業部長は原告X3と同じレストランに居合わせたことがあるが,夕食を共にしたわけではなく,A9事業部長が食事をしていたところに原告X3らが来店したにすぎない。その際,A9事業部長が組合活動が良くないなどの発言をしたことはなく,常識的にも周りに他の従業員がいる中でそのような発言をすることは考えられない。
(エ) 平成23年1月20日頃,A22が原告X3に対し本件組合に入っていると不利な査定がされるなどと話した事実はない。実際にも,本件組合に入っている従業員に不利な査定がされるという事実はない。
(オ) 原告X3をメトリクスデータのRDB化業務の担当から外したのは,原告X3が使用に耐え得るような成果物を作成できなかったからである。
(カ) 業務改善活動へ関与しないよう指示したのは,原告X3が平成23年10月頃から参加していた「AQCT」と呼ばれる業務改善活動が平成24年5月にSTH内にある「DS-A」というセクションの所管業務になったため,関与しないよう指示したにすぎない。A22は,同月31日に,AQCTの件はDS-Aの中で業務としてやっていくことになったと伝えている。同年6月5日には,DS-AのメンバーであるA24が新メンバーとしてミーティングに参加し,同月15日には引継ぎのためのミーティングを行っている。原告X3は,「AQCT」に関する業務が他のセクションの所管業務となったことを理解せず,関与を続けることに固執していたのであり,興味のあることには業務上不必要であっても取り組む一方,興味のない業務には必要であっても取り組もうとしない原告X3の問題点を端的に示す事情である。
(キ) データのバックアップ業務は,STHとは別の部門の専任スタッフが担当している業務であり,原告X3が担当するような業務ではない。原告X3は,単にデータをバックアップするメディアに対する名前の付け方(ラベルの作成方法)に関して,独自の考えで名前を付けてラベルを作成した方が効果的であると述べていたにすぎず,具体的な業務を担当していたものではない。原告X3は,数十分でできる作業に数時間もかかる方法を提案した。A22はそのような作業は必要ないと何度も説明したが,原告X3が一向に納得しなかったため,当該作業は自分で行う旨を伝えた。
原告X3が根拠とする同原告が送信したメールに登場するA25は,データのバックアップ業務を担当していなかったから,A25から同原告が同業務を引き継ぐことはあり得ない。
(原告X3)
ア 原告X3の解雇理由に係る被告の主張はいずれも具体性を欠いている。被告は,本件組合の組合員である原告X3に脱退を迫り,これに応じなかったため同原告から仕事を取り上げ,解雇を行ったものである。
イ 平成20年以前の原告X3の業務状況
(ア) 原告X3は,平成18年12月,社内で実施された認定試験に合格し,「ITスペシャリスト」の資格認定を受けた。原告X3は,同月,上記資格を生かせる部署であるSTHへの異動を打診された。発足間もないSTHの下部機関として,平成19年1月にSTG課が新設されたことに伴い,原告X3はSTG課に配属された。原告X3は,BMとして個々の案件について営業部門から提案書の作成依頼を受け,構成作成・見積りや機能・性能に関する問い合わせ対応を行っていた。
(イ) 原告X3のBMとしての業務において納期に遅れることもあったが,その原因は同原告個人に起因するものではない。STG課全体で担当する件数自体,指定された納期までに行うことが不可能といえるほどの件数であったが,原告X3は何とか納期に間に合わせようとしていたのである。それでも原告X3に限らずSTG課全体で恒常的に納期の遅れが生じていた。遅延率(乙C5)は,セールスチームとの間で調整が行われた後の納期に対する遅延である。原告X3も,指定された納期に間に合わせることが難しい場合には,セールスチームと納期の調整を行っている。
被告は後に作成した資料(乙C19,20)で原告X3の遅延率が高い,遅れの程度が大きいと主張するが,これは後になって作成されたもので信用性に欠ける上,同原告と同じ内容の業務をした者との比較となっていないから,同原告の遅延率が高いことを示す根拠とはならない。また,比較に当たっては,構成作成とは別の業務の多寡や,残業の多さも考慮しなければならないところ,そうした考慮も行われていない。
原告X3が遅延したとされる構成作成の業務は,本来STG課の他のメンバーが担当する業務であり,同原告はこれを担当せずNAVIを担当していたが,納期に間に合わせるべく構成作成の業務に協力していた。派遣社員もNAVIを担当していたが,それは難易度の低い定型的な案件であり,製品の比較情報を集約・分析する技能を必要とする難易度の高い案件は原告X3が担当していた。
原告X3に対し期限に余裕がある案件しか担当させることができなくなったというのは事実に反する。平成21年1月以降,比較的定型的に進めることができる業務を沖縄BSCに移行する方針が採られていたため,原告X3は担当しなくなったにすぎない。
(ウ) ○○システムに関するスキルの習得については,原告X3に求められていない。この業務は沖縄BSCに移行していくことが目標とされており,平成21年度に案件の90%を移行することが目標であった。こうした案件のほとんどを沖縄BSCに移行することを目標としていたから,原告X3が○○システムに関するスキルを習得する必要性は乏しかった。もともと機密性の高い情報を搭載する○○を操作するには特別の権限が必要とされ,原告X3が平成19年の夏期に操作権限の授与申請を行った際は職位がバンド6であるという理由から操作権限は授与されなかった。平成20年春期に派遣社員にも○○を操作する権限を与えられるようになったが,業務分担の観点から派遣社員が○○を用いたプロフィットテスト案件を多く担当するようになったので,原告X3がスキルを習得する必要性は乏しかった。
(エ) 原告X3が遅刻扱いされたことはない。原告X3は体調不良のためコアタイムの開始時刻までに出勤できない場合には事前に連絡を入れ,その上で「半休」で有給休暇を取得しており,被告も承認していた。
原告X3は,平成20年12月,退職勧奨を受け,その後の進退を考えようと夕方に1人会議室にこもっていたことはあるが,何も告げずに早く帰宅したことはない。
子どもの迎えの都合で早退したときは,原告X3はA19に対し,事前に早退することを届け出ている。この件について,当初会議室にこもっていたと主張したのは,被告から不特定な主張されたため心当たりがある事例を述べたにすぎない。
ウ 平成21年の原告X3の業務状況
(ア) 平成21年1月,STG課の業務のうち専門性の高い業務を除く大半の業務を沖縄県所在の部署(沖縄BSC)に移行させることになり,原告X3も通常業務とは別に業務移行に係る業務に取り組んでいた。1回目のPIPにおいて,「沖縄の派遣社員のサポート支援」が目標に掲げられている。また,原告X3は,A5から,沖縄移管プロジェクトに関する資料を作成するように指示され,資料の素案を作成し,沖縄BSCのメンバーの教育計画も策定していた。
(イ) 原告X3がPIP未達成となったのは,PIP対象業務以外の業務を中心に行わざるを得ない状況にあったためである。平成21年1月初旬,STG課で原告X3とチームを組んでいたA20が骨折のため入院することになったため,原告X3は1人でSTG課の下にあるシステムPチーム全体の運営や派遣社員の管理,A20が担当することになっていた「沖縄移行促進計画」を担当することになった。原告X3は,A20に代わってチームミーティングを主催していた。被告はA21がこれを主催した旨主張するが,派遣社員であるA21がチームミーティングを主催したはずがない。
2回目のPIPについても,PIP対象業務以外の業務を担当していた。この頃にはA20は退院し職場に復帰していたが,A20は「沖縄移行変更計画プロジェクト」を遂行するための派遣社員向けのマニュアル作成業務に専ら従事していたため,原告X3はそれ以外の業務を担当せざるを得なかった。また,1回目のPIPの結果を見て,PIPは業績改善を装った退職勧奨にほかならないと感じて,原告X3は達成意欲を失っていた。
(ウ) 平成21年6月,原告X3は,上司のA5から,STH内にあるビジネス・オペレーションズのメトリクス・チームに異動を打診された。これは原告X3がプログラムを作成できる技術者として適任だったからである。原告X3は,同年7月にメトリクス・チームに異動後,沖縄に業務を移行する際に必要なプログラムの作成業務に従事した。
(ウ) 原告X3は,メトリクス・チームにおいて,メトリクスに関するプログラムを作成したが,コンピュータへの負荷によりプログラムが起動しなくなるというシステム上の不具合が生じ,プログラムを補正せざるを得ない事態となり,その作業に2,3か月費やさなければならなかった。
原告X3は,メトリクス・チームのリーダーであるA23から必要な表計算プログラムを作成するよう指示を受けており,A22も出席するミーティングでA23からの指示に基づいて表計算プログラムを作成していることを報告している。
(エ) 被告は,原告X3が業務を覚えようとする意識がなく,基本的な用語を覚えていなかったと主張する。しかし,原告X3が他のメンバーに用語の意味を問い合わせたのは慎重を期して用語の意味を問い合わせたにすぎず,基本的な用語を覚えていないからではない。作成技術の乏しい派遣社員が作成したプログラムには基本用語の使用方法の誤り等が多々見受けられたため,作成者に質問し,回答させることによって基本用語の使用方法に誤りがないか確認していた。
エ 平成22年の原告X3の業務状況
(ア) 平成22年4月からではなく同年8月中旬から開始したメトリクスデータのRD化とCognosを使った表作成の標準化業務については,確かに期限に遅れたが,期限内に業務を終えるのが困難な事情があったためである。Cognosなるソフトは,被告が平成20年に買収した会社の独自のソフトであり,平成22年当時,Cognosを使った業務を行うのに必要なマニュアルは原告X3に手渡されておらず,また,Cognosの使用方法を検索しようにもその環境が調っていなかった。Cognosを使った業務に必要な知識は,製品に付随したヘルプ機能等では取得できない高度なものであり,原告X3はCognosの専門家の紹介を要請していたが,要請を受けたA22はこれを受け入れなかった。加えて,表作成の標準化業務に関する技能を有していたA23が担当から外され,営業出身のA22が原告X3と一緒にCognosを使った表作成の標準化業務を担当することになったが,A22は表作成の標準化業務に関する技能を有していないにもかかわらず,多々口を挟んできたため,一層Cognosの製品を使った業務遂行は困難となった。現に,平成24年8月のPBC中間面談の際,A22は以前原告X3が担当したのと同じCognosの製品を使った業務を長年Cognosの製品を取り扱ってきた社員にやらせたが,2か月かけても完成しなかったと話している。
(イ) PIPの実施が提案されたにもかかわらず原告X3がこれに取り組まなかったのは,以前のPIPが原告X3にとって業績改善を装った退職勧奨にほかならず,業績を改善するためのプログラムとしての意義は失われていたからである。
オ 平成23年の原告X3の業務状況
(ア) 原告X3は,平成23年10月,ビジネス・オペレーションズのオペレーションチーム(STHの業務に関連する契約関係の処理その他の管理本部的機能を果たす役割を担うチーム)に異動となった。
(イ) 被告は,原告X3が「ライン&BMのレポート作成のためのデータ・レポート作成,支援業務」の目標を達成できなかったと主張するが,目標処理件数15件に対し,原告X3に割り振られた件数は15件に満たない件数であった。また,水増しというが,件数の捉え方の違いにすぎず,虚偽報告をした事実はない。
被告は原告X3が行うべき業務を自ら発見すべきと主張するが,そのような環境は調っていなかった。原告X3はライン管理者に該当しないとの理由でライン管理者会議への参加,会議議事録の閲覧が許されていなかった。これに対し,A23はチーム・リーダーという立場のためこれらが許されていた。上司は原告X3に対し作成,支援業務を行う環境を調えると言っておきながら,これを実行しなかった。
(ウ) 原告X3が遅刻などにより会議設定のサポート業務を満足に遂行できなかったことはない。原告X3は会議の開始時刻に遅刻しないよう,自分の体調面を考えて,前もって他のメンバーに会議設定を行ってもらえるよう依頼していた。
カ 平成24年の原告X3の業務状況
平成23年及び平成24年部門内大会決勝に進出したのは,原告X3が担当したプログラムが決め手になったのであり,個人として高く評価されている。
キ 不当な目的による解雇
(ア) 原告X3は,平成20年10月,RAプログラム(再就職支援付の退職勧奨制度)の対象となり,A5から退職勧奨を受けた。原告X3は,面談の際,来年から沖縄に出向してもらう,沖縄に移ってからバンドを下げる,退社を考えたらどうかなどと告げられた。原告X3は,退職に応じないことにし,RAプログラムが終了する直前の平成20年12月に本件組合に加入し,同日,本件組合は被告に対し原告X3が加入したことを通知した。
(イ) 平成22年7月頃,A22から再び退職勧奨を受けており,原告X3はこれを断ったが,その際に組合加入の理由を尋ねられた。
(ウ) 平成22年12月頃,原告X3は所属部門のトップであるA9事業部長らと夕食を共にしたが,その席で,A9事業部長は組合活動は良くないなどと述べた。原告X3は,食事を終えた後,A9事業部長に呼ばれてその隣に座り,上記のような言動を聞いている。
(エ) 平成23年1月20日頃,A22は,原告X3に対し,「組合に入っていると不利な査定がされるという事実を知っているか」とただされ,「イエス・ノーどちらか答えるのは業務命令だ」と言われたが,同原告が「おかしい」と応じると,「忘れてください」と言われた。
(オ) 上記(エ)のやり取りがあってから間もなく,A22は,得意分野で能力を発揮できるメトリクスデータのRDB化業務から原告X3を外した。
(カ) A22は,平成23年10月,原告X3に対し,それまで参加していた自主的な業務改善活動に「参加するな」と申し伝えてきた。「AQCT」に関する業務を「DS-A」というセクションの所管業務とすることが決定されたのは平成24年8月であり,A22から参加しないよう指示されたのはそれより前の同年6月であるから,被告が主張するような所管業務の変更が理由ではない。原告X3は,同年5月31日にA22から「AQCT」に関与するなと言われたため,「AQCT」のリーダーのA26に問い合わせたところ,「AQCT」を「DS-A」の所管業務とすることはその時点ではまだ決定事項ではない旨の回答を得ている。
(キ) A22は,平成24年3月,前年11月から取り組み,成果を上げていたデータのバックアップ業務を原告X3から取り上げた。この業務は,データのバックアップを行う専任スタッフから担当してもらいたいという要請を受けて原告X3が担当するようになったものである。
(ク) 以上のように,被告は,原告X3が本件組合に加入していることから,脱退を迫り,これを拒むと仕事を取り上げ解雇に至ったのであり,組合員である同原告を排除する目的で解雇を行った。
(4)  原告らの解雇は不当労働行為に当たるか。(争点(4))
(原告ら)
ア 被告は,平成24年7月以降,業績が低く改善の見込みがないなどとして社員に対して解雇予告を通告しているが,そのうち本件組合に加入していた者は34名を占める。被解雇者の中で解雇予告当時に組合員であった者の割合は68%に上る。この解雇予告の結果及び労使関係の実情から見れば,一連の解雇が労働組合の正当な活動を嫌悪し,本件組合を弱体化することを企図していることは明らかである。
イ 本件組合は,昭和34年5月12日,c労働組合として結成された。結成当時,従業員770名のうち380名の組合員を結集して発足した。本件組合は,賃上げなどの労働条件の向上に取り組み多くの成果を獲得し,昭和36年には組合員数1638名,組織率9割に達する強力な労働組合に成長した。これに対し,被告は脱退工作や組合員の昇進差別を始めとする激しい攻撃を行い,その結果,多くの脱退者を生じ,昭和44年には約130名まで組合員が激減させられてしまった。そこで,本件組合は,昭和45年,総評傘下のf労働組合に加盟し,f労働組合g支部となった。本件組合は,各地で不当労働行為救済命令の申立てをし,救済命令が発せられ,昭和57年12月6日,中央労働委員会において被告は組合員を主任に昇進させて賃金を是正するとともに差別を是正するための多額の解決金を支払うという和解が成立した。
その後も,本件組合は,労働条件改善のために賃上げ要求や団体交渉などを通じて労働組合活動を行ってきた。なお,平成元年2月,本件組合はf労働組合から脱退して,a労働組合に加盟した。
被告は,従来コンピューター会社であったところ情報システムのIT産業分野を扱う事業組織に改編するために,会社分割や事業譲渡等の様々な企業再編を実施し,それに伴い労働者のリストラ・人員削減を急激に進めるようになった。平成13年,当時の被告代表取締役であったA41社長は,大規模なリストラを実施することを公言し,人事制度改革で日本の毒味役になると述べていた。本件組合は,これに対し労働委員会や裁判闘争に取り組んできた。
被告は,平成20年末から平成21年にかけて,大量の労働者の人員削減を実施した。米国本社の意向を受けて,1300人もの労働者を退職させることとし,業績改善プログラムの名の下で,人事考課が下位15%とされた労働者を対象に退職勧奨,実際には退職強要を組織的に実行した。この当時,退職勧奨対象者は3000人に上り,結果的に1300人もの労働者を退職に追い込んだ。
本件組合は,退職強要を受けた労働者の相談先となり,正に「駆け込み寺」となった。退職強要を阻止するために,平成21年,組合員4名が損害賠償を求める訴えを東京地裁に提起した。
本件組合は,米国本社の指示に基づく被告の様々なリストラに果敢に抵抗し,一定程度押しとどめてきた。ところが,米国から新たな外国人社長が就任した直後の平成24年7月から本件の一連の大量解雇が実施されたのである。
被告は,平成25年以降も現在1万4000人在籍している労働者を,今後3年に1万人にまで削減する計画を立てている。本件組合に加入して退職勧奨に抵抗する労働者が常に存在してきたことから,被告にとって本件組合の存在は,今後の人員削減の大きな障害と認識されており,本件組合に加入すれば不利益になることを通告する発言もある。
ウ 被解雇者25名の組合員のうち,解雇当時,本件組合の中央執行委員及び分会執行委員等の役職者は12名にも上る。組合員数140名であり,役職者12名を含む25名が解雇されたことで本件組合は大きな打撃を受けている。
中央執行委員は,本件組合の中央執行委員会において方針を決定し,労働組合活動の中心を担い,団体交渉に出席し被告と交渉を行う。また,本件組合は事業所ごとに分会を設けており,各事業所の責任者と分会団交を行い,分会執行委員(分会役員)が分会団交の交渉当事者として参加する。中央執行委員会において,被告への要求や申入れを決定した場合には,分会においても各事業所の責任者に分会として申入れを行う活動をしている。これらの日常的な分会活動の中心を担うのが分会役員である。
本件組合は,宣伝チラシなどについて,各事業所において配布活動を行うが,出勤時に,分会役員が中心になり,組合員が事業所玄関付近にて配布する。このような宣伝チラシ配布を本件組合は活発に行っており,月1,2回は実施している。また,組合員の機関誌「△△」(月2回定期発行)は,事業所施設内にて机上配布が慣行として行われており,分会役員が中心になり,原告ら等の組合員が参加し手分けをして全従業員宛てに配布している。
エ 本件一連の解雇では,本件組合は,あらかじめ決まっていた団体交渉があったため,自主退職の期限までに団体交渉の議題に解雇の件を追加して団体交渉を行うことを求めたが,被告は議題の追加を拒否し,別途期日を設定するよう回答し,団体交渉に応じなかった。本件組合は,被告の対応は団交拒否の不当労働行為であるとして東京都労働委員会(以下「都労委」という。)に不当労働行為の救済命令の申立て(都労委平成24年(不)第80号。以下「本件救済命令申立事件」という。)を行ったところ,都労委は,不当労働行為であると認定し,命令書を交付するとともにポストノーティスを行うよう命じた。
被告は,一連の解雇について,本件組合との団体交渉を行うことが可能であるにもかかわらずこれを拒否し,本件組合の関与を忌避し,労働組合の取り組みを弱体化させることを狙っている。
オ 被告社内には,本件組合の組合員に対する否定的意識・反組合意識がはびこっている。原告らに関係する具体的事実しては次のようなものがある。
(ア) 原告X3の所属長であったA19は,平成21年のPIP面談において,同原告に対し,「部下が組合に入ると上司にはバッテンが付く」などと発言している。
(イ) 原告X3の所属長であったA22は,平成22年に同原告に退職勧奨をした際,わざわざ組合加入の理由を尋ねており,平成23年には同原告に対して「組合に入っていると不利な査定がされるという事実を知っていますか」などと発言している。
(ウ) 原告X3の上長であったA9事業部長は,平成22年12月頃,レストランで同原告に対し,指をUの字に曲げて示した上で「お前,これだろう」,「U(ユー),U(ユー)」などと発言した。
(エ) 被告から解雇されたA11の所属長であったA27は,平成23年12月13日のPBC面談の際,人事異動において異動先が組合員の受入れに難色を示すので,組合に加入すると異動が困難になると述べた。
(オ) A11の所属長であったA28も,平成25年1月7日のPBC面談の際,組合員について「腫れ物になっちゃう」,「人で見極めるんじゃなくて,(組合員という)立場で(見極める)」と発言した。
(カ) A11の上長であるA29は,平成25年3月22日の面談の際,「僕は,正直言って,うちの組合は好きではない」,「間違っていると思っているから,やり方が」と発言した。
カ 被告の内部資料においても,組合員が「お荷物」扱いされている。平成20年10月からRAプログラムと称して大量の人員削減を行った際,被告は管理職に対し資料を用いて退職勧奨のための面談の実施方法を細かく説明している。その説明資料の中では,組合員を「センシティブな社員」と位置付けて非組合員と区別し,公式に「お荷物」であるかのような対応を指導している。また,平成22年6月にGTS部門の人事部が作成した資料では,丸ごと1頁を「Union Members」と題して,本件組合の組合員の人数の推移の分析に費やし,平成20年RAプログラムによって組合員数が激増したとの分析が披露されている。被告が組合員の増加を脅威として受け止め,何らかの対策を促す目的で資料を作成したものであることは明らかである。
キ 被解雇予告者は組合員に集中している。
(ア) 被告による一連のロックアウト解雇(解雇予告通知当日直ちに会社からの退去を求めるなどの態様による解雇)が始まった平成24年7月当時,被告の従業員総数は約1万4000名であった。そのうち本件組合に所属する組合員数は約140名であった。つまり,組合組織率は1%未満であった。これに対し,同月1日以降,被告は50名の労働者に対して解雇予告を行ったと主張しているが,そのうち本件組合の組合員は34名(その外に解雇予告後に本件組合に加入した者が一名(原告X2)いる。)である。被解雇予告者に占める組合員の比率は68%に達する。本件組合の組織率と比較して,被解雇予告者に占める組合員の比率の高さは目を見張るものがある。
(イ) これに対し,被告は3年連続PBCが「3」以下の従業員のうち組合員占有率は〈省略〉であること,非組合員の中にはRAプログラムによって自主退職した者が多いこと,それを考慮すれば組合員と非組合員とで大差はないと主張する。しかし,解雇を争っている被解雇者は12名いるが,そのうち少なくとも5名(そのうち1名はA30)は解雇直前の3年間にPBCが「2」以上であったことがあり,3年連続PBCが「3」以下という条件に当てはまっていない。また,別紙1「解雇・退職者の割合」のとおり,RAプログラム実施後に被告に残留した者には組合員も非組合員も多数存在するにもかかわらず,解雇予告を受けたのはほぼ組合員のみである。
ク 組合員が集中的に解雇予告を受けたことは原告らの上司も証言している。
(ア) 原告X3の所属長であったA22は,これまで通算10人程度とRAプログラムの面談をしたこと,そのうち退職した者は1名だけであり,それ以外は被告に残留していること,同原告のみが解雇予告を受けたことを証言している。RAプログラムの対象となった者のうち,原告X3のみが狙い撃ちでロックアウト解雇された。
(イ) 原告X1の所属長であったA6は,平成24年のRAプログラムにおいて同原告を含む4名と面談したこと,そのうち2名は退職したこと,断った2名のうち同原告は解雇されたがもう1名(非組合員)は解雇されなかったことを証言している。RAプログラムの対象となって解雇されたのは組合員である原告X1のみである。
(ウ) A30の所属長であったA31(以下「A31」という。)は,RAプログラムを通算4,5人に実施し,そのうち1名(組合員)のみ退職したこと,A30のみが解雇予告とされたことを証言する。また,A30の上長であるA32は,部下であった組合員2名がRAプログラム又は解雇予告に基づき退職し,A30の解雇によって所管する部門に組合員は一人もいなくなったことを証言する。RAプログラムを断った者のうち組合員だけが狙い撃ちされてロックアウト解雇を受けている。
ケ 業績不良を理由とする解雇であれば,被解雇者の選定は現場レベルで行われるのが自然であるが,実際には現場レベルの意向を離れて人事部門が主導して被解雇者を選定している。
(ア) 原告X3の所属長であったA22は,同原告に解雇予告を受ける2,3週間前に人事部からPBC評価が複数年「3」以下である業績が悪い複数名についてインタビューを受け,その時,人事の労務担当者が同原告の名前を挙げたこと,A22はこのインタビューは勤務状況,勤務実績などの実情をヒアリングする趣旨であり,被解雇者選定の情報収集という理解ではなかったこと,同原告の名前が挙がったことについて理由は分からなかったこと,同原告が解雇予告の対象となったのを知ったのは解雇予告の数日前であったことを証言している。
(イ) 原告X2の所属長であったA17は,同原告が解雇されると知ったのは平成24年9月初め(実際に解雇予告通知がされたのは同月18日)であり,人事部門からの連絡により初めて原告X2が解雇されると知ったこと,この解雇に当たりA17が人事部門に解雇予告の候補者を知らせたことはないこと,原告X2を被解雇者として選定したのは自分ではなく人事部門であり,自分は日常的に行う原告X2の業績評価の報告をしていたにすぎないと認識していること,A17は解雇者選定の基準を知らないことなどを証言している。
(ウ) 原告X1の所属長であったA6は,同原告に対する解雇の決定は人事又はSTH部門,法務その他がしたものであり,A6は何ら選定に関与していないこと,A6はSTH部門の部下4人にRAプログラムを実施したがその対象者の選定についても関与していないことを証言している。
(エ) A11の所属長であったA2は,自分の部下に関するRAプログラムについて,対象者が何人,いかなる基準で選定され,いつ発令されるかについて全く知らず,今まで一度も関わったことがないこと,A11の所属長であったA27は,A11が解雇されるに当たって事前に人事から意見を聞かれるようなことはなかったことを証言している。
(オ) A30の所属長であったA31は,平成25年初め頃,人事部から日常業務に関するヒアリングはあったが,解雇者選定のためのヒアリングではなかったこと,同年3月28日,A31はA30に対してPIPを行うものとし,A30は業績改善進捗管理フォームに署名するのを拒んだが,同年4月1日から6月30日までの3か月間,PIPに代わる面談を月1回設定したこと,A31はA30が解雇予告を受けた同年5月31日の約2週間前にA32から解雇予告する旨を聞いたこと,同年5月末のPIPに代わる初回面談時に報告を受けることなく解雇予告が行われたことを証言する。
一方,A32は,平成25年3月下旬頃,A31と相談の上,A30を解雇するほかないと判断して人事に具申・報告し,同年4月下旬頃,人事部から解雇の連絡があり,同年5月上旬頃A31に伝えたと述べるが,供述は具体性がなく変遷しており,信用できない。
コ これらの状況からすれば,本件組合の組合員に対する一連のロックアウト解雇は,労働組合法7条1号及び3号の不当労働行為に該当し,違法で無効である。
(被告)
ア 原告らに対する解雇が本件組合を弱体化させる目的でされたことは否認する。特に解雇予告後に本件組合に加入した原告X2については不当労働行為が成立する余地は全くない。なお,原告らは解雇予告時に本件組合に加入していた者が25名であると主張するが,被告はそのうち2名の組合員資格を争っている。被告は個々の従業員ごとに就業規則53条2号の事由に該当するか否かを個別具体的に判断して,解雇を行っている。
イ 原告らは,組合員の解雇率が高いと主張するが,業績不良を理由とする解雇予告は,対象者個々人の業績評価や,その業績の改善(又はその可能性)の有無,程度等の種々の個別要素・事情を勘案し,当該対象者について解雇理由があると判断された結果として行われる。解雇予告の対象となり得る母集団の中から一定数の対象者を選別するという行為ではないから,何らかの母集団を念頭において確率計算をするのは適当ではない。確率計算をするためには解雇予告において勘案された種々の要素・事情を基準として母集団を設定するべきであるが,そのようなことは不可能である。仮に確率計算をするにしても,解雇予告された従業員の人数は少ないので有意な数値とはいえない。
そして,原告らが設定している母集団は明らかに不適切である。まず,業績不良である者を対象に解雇予告をしているのであるから,全従業員を母集団とするのは不適切である。また,単年度の業績評価のみを理由に解雇予告を行ったわけではないから,単年度における業績評価における下位評価者全員を母集団とするのは不適切である。例えば2年連続下位評価者を母集団とすると,単年度の下位評価者の人数より著しく少なくなる。さらに,被告は平成4年以降,特別支援金の支給や再就職支援の提供などの支援を付して任意の退職者を募るRAプログラムを継続的に実施しているところ,業績の良い人材が流出するのを防ぐため業績の低い従業員を中心に退職者を募ってきた。RAプログラムにおける傾向として,非組合員はRAプログラムに応じて自主退職する者が多く,非組合員で潜在的に解雇予告の対象となり得る者は自主退職をしていた。また,RAプログラムの対象となった非組合員がそれを契機に本件組合に加入するケースも存在する。
ウ 原告らは,RAプログラムの対象となって解雇予告を受けたのは本件組合の組合員ばかりであると主張する。原告らがその根拠とする原告らの所属している部署における状況は,その部署限りのものにすぎないのであって,被告全体で見ると,RAプログラムの対象となって解雇予告を受けた者の中には非組合員も存在する。
エ 原告らは,原告らに対する解雇予告を決めたのが直属の上司ではなく人事部であることを指摘して,人事部主導による組合員狙い撃ちの解雇である旨主張する。しかし,こうした主張は,多数の者が参加して判断を行うという企業における意思決定のプロセスを全く無視したものであり,企業が従業員の解雇を決める際人事部が関与しないことなどあり得ない。被告は,人事評価の結果や直属の上司を含む関係者からの直接・間接に得た業績情報を踏まえて会社として解雇の判断を行っている。原告らの上司はいずれも部下の業績情報を人事部門に提供している。
(5)  解雇態様の違法性(争点(5))
(原告ら)
ア 被告による原告らに対する解雇は,何らの合理的な理由もないことを知りながら行われたものである。また,その手法は,原告らをいきなり呼び付け,または,一方的に解雇予告通知書を送り付け,何らの弁明も聞かず,同僚社員への挨拶もさせず,その日中に私物をまとめさせて社外に放逐するというものであり,20年以上もの長きにわたり被告において就労を継続してきた原告らに対してあまりに酷な仕打ちである。さらに,理由がないにもかかわらず労働者失格という烙印を押して問答無用の解雇を行いながら,他方で退職加算金をちらつかせて退職を迫っており,労働者の人格を著しく傷つけるものである。
イ 本件解雇は,被告が組織的に行ったいわゆるロックアウト解雇の一環として行われたものであり,その主たる狙いは,会社の意に反し退職強要に抵抗するなどしている本件組合の動きを止め,これを排除する点にある。本件解雇は,本件組合員であることを理由とする不利益取扱いとしての解雇に他ならない。さらに,被告は,原告らに対し,解雇予告通知と同時に,6日以内に自己都合退職を認める旨通告しておきながら,何ら具体的な資料及び解雇理由を示さなかった。これは,本件組合からの要求にもかかわらず団体交渉においても同様であった。これは,団体交渉における誠実交渉義務に違反する。
ウ このような被告の行為は不法行為というべきである。
(被告)
ア 被告が原告らに対し,解雇予告後,私物を整理し速やかに退社するよう伝えた事実はあるが,施設管理権を有する使用者として当然許容される措置である。特に被告は情報システムに関わる業務を行っており,その業務においては高度の機密を扱っている。解雇予告により就労義務を免除しているので被告施設内にとどまる業務上の理由はないし,原告らと被告が対立関係となり得ることは否定し難く,セキュリティ管理上保守的な対応を取らざるを得ない。これは原告らに限らず他の被解雇者についても同様である。
イ 解雇予告に当たって被告から原告らに渡された解雇予告通知書には,就業規則の該当条項とともに当該条項に該当するに至った事実が記載されている。それを基礎付ける個々の事実についてもPBC評価に関して所属長との間で行われる面談,日々の業務における所属長らからの指導,さらに,本件組合からPBC評価の再評価要求やPIP実施への抗議等があった場合における被告からの回答等を通じて各原告に伝えられている。
ウ 被告は,一定の期間までに自ら退職する意思表示を示した場合は自己退職と認め解雇を撤回し,退職加算金を支払い再就職支援のサポートを行う旨を,解雇予告と同時に通知しているが,これは解雇予告のみをする場合に比べ原告らに有利な措置であり,被告が不法行為責任を負うべき理由はない。また,原告らは自らの解雇に至る事実関係について十分認識できる立場にあった。
(6)  原告らの請求額(争点(6))
(原告ら)
ア 原告X1
(ア) 原告X1の本件解雇①前の賃金は,当月分本給が36万1400円,住宅費補助が1万7000円,副主任手当が4万1000円の合計41万9400円である。平成24年8月分賃金のうち4万2062円は未払となっており,同年9月以降,毎月24日限り41万9400円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金が支払われなければならない。
(イ) 原告X1の平成24年6月の賞与の実支給額は18万2220円,平成23年12月の賞与の実支給額は55万9480円であった。本件解雇①がされなければ,平成24年12月以降,毎年少なくとも6月10日限り18万2220円,12月10日限り55万9480円が支払われたはずである。
また,被告においては,Y株式会社企業型年金規約(確定拠出年金)に加入しない場合は,拠出額相当分を賞与支給時に支給するとされている。原告X1は確定拠出年金に加入していないから,6月及び12月の賞与支給時に各22万5516円が支給されるべきである。
(ウ) 解雇態様の違法性及び不当労働行為による解雇の違法性からすれば,不法行為が成立し,原告X1に生じた損害について被告は賠償責任を負う。原告X1の精神的苦痛を金銭的に評価すると300万円は下らない。また,この請求に要する弁護士費用として30万円は被告の行為と相当因果関係にある損害というべきである。
イ 原告X2
(ア) 原告X2の本件解雇②前の賃金は,当月分本給が30万1400円,裁量手当が5万円の合計35万1400円である。平成24年10月分賃金のうち7万4755円は未払となっており,同年11月以降,毎月24日限り35万1400円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金が支払われなければならない。
(イ) 原告X2の平成24年6月の賞与の実支給額は60万8340円,平成23年12月の賞与も60万8340円であった。本件解雇②がされなければ,平成24年12月以降,毎年少なくとも6月10日限り60万8340円,12月10日限り60万8340円が支払われたはずである。
また,原告X2は確定拠出年金に加入していないから,6月及び12月の賞与支給時に各18万8076円が支給されるべきである。
(ウ) 解雇態様の違法性及び不当労働行為による解雇の違法性からすれば,不法行為が成立し,原告X2に生じた損害について被告は賠償責任を負う。原告X2の精神的苦痛を金銭的に評価すると300万円は下らない。また,この請求に要する弁護士費用として30万円は被告の行為と相当因果関係にある損害というべきである。
ウ 原告X3
(ア) 原告X3の本件解雇③前の賃金は,当月分本給が39万6200円,住宅費補助が5万6500円,副主任手当が4万1000円の合計49万3700円である。平成24年10月分賃金のうち18万6602円は未払となっており,同年11月以降,毎月24日限り49万3700円及びこれらに対する各支払日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金が支払われなければならない。
(イ) 原告X3の平成24年6月の賞与の実支給額は79万2480円,平成23年12月の賞与の実支給額も79万2480円であった。本件解雇③がされなければ,平成24年12月以降,毎年少なくとも6月10日限り79万2480円,12月10日限り79万2480円が支払われたはずである。
(ウ) 解雇態様の違法性及び不当労働行為による解雇の違法性からすれば,不法行為が成立し,原告X3に生じた損害について被告は賠償責任を負う。原告X3の精神的苦痛を金銭的に評価すると300万円は下らない。また,この請求に要する弁護士費用として30万円は被告の行為と相当因果関係にある損害というべきである。
(被告)
ア 被告に原告ら主張の金額の支払義務があることは争う。
イ 賞与の支給額及び確定拠出年金拠出額相当額は認める。ただし,賞与は各支払日ごとに賞与基準額,バンド,出勤率,会社業績及び個人業績を勘案して被告が定めるものであって,各支払日における賞与支給額があらかじめ確定しているものではない。
第3  当裁判所の判断
1  争点(1)(原告X1の解雇事由)について
(1)  認定事実
前記前提事実(第2の1)に加え,以下に掲記する証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。
ア 平成20年まで(甲A28,原告X1)
(ア) 原告X1は,昭和62年3月に早稲田大学法学部を卒業し,同年4月に被告に期間の定めなく採用された。原告X1は,採用後,営業職に配属され,セールススクールを受講して卒業し,営業職として勤務していた。原告X1は,営業職として5年半勤務する間,平成元年及び平成4年には,営業目標を100%達成してアメリカ本社から表彰され,平成3年には,アメリカ本社の営業担当副社長及び被告の連名による表彰を受け,台北での表彰式と旅行に招待された。(甲A13,29,30)
(イ) 原告X1は,平成元年に副主任となり,バンド6となった。
(ウ) 原告X1は,平成5年7月にSI営業推進という部署に異動となったが,平成9年頃には,毎日に不安を感じるようになり不眠症状も出て,平成10年頃には休職した。平成11年2月頃,残業を制限して復職し,平成14年頃からは,SI営業推進内において,金融業の顧客に対するSO(ストラテジック アウトソーシング)サービスのビジネス数値の営業目標達成度管理を行う「金融サービス事業部」という部署に所属していた。
(エ) 原告X1の平成17年1月1日から同年12月31日までのPBC評価は「2+」であった。
(オ) 原告X1は,平成18年7月,営業の後方支援事務を行うSTH(当時の名称はDH)へ異動となり,STH-SOと呼ばれる部署(システム運用サービスに関する契約の社内承認の取得を担当)に配属され,BMとなり製造業を担当した。BMはSTH内部の職掌であり,セールスチームとコミュニケーションをとって要求を聞いて交渉し取りまとめ,その要求に基づいて他の部署から承認を得る業務を行う。
(カ) 原告X1の平成18年1月1日から同年12月31日までのPBC評価は「2」であった。
(キ) 原告X1は,平成19年2,3月頃,BMとして金融業を担当するようになった。
(ク) 原告X1は,平成19年12月頃,STH-GBSへ異動となり,金融グループに配属された。そこでの業務は,原告X1が以前担当していたSI営業推進の業務と同じであったが,以前と比べて社内承認を得るための手続は様変わりしており,原告X1は残業をするようになった。
(ケ) 原告X1の平成19年1月1日から同年12月31日までのPBC評価は「3」であった。(乙A4)
(コ) A2は,平成20年1月,原告X1の所属長となった。(乙A29)
(サ) 平成20年2月,後に原告X1と同様に沖縄BSC業務を担当するなどし,解雇されたA11がSTH-GBSの製造グループに異動してきた。
(シ) 原告X1は,平成20年2月頃から,日本銀行の契約例外申請業務を担当した。契約例外申請業務とは,被告の定型の契約書である「標準契約書」では対応できない顧客に対して,顧客との交渉を受けて例外契約書案を作成し,社内承認を申請・取得する業務である。契約例外申請業務の中には,数か所の文言を別の文言に置き換えるような単純で比較的容易なものもあれば,難易度の高いものも含まれていた。
(ス) 原告X1は,平成20年4月1日,同年3月度の月間MVP賞を受賞した。この賞状には,日銀の19件のGBS/ITS案件を同時期に並行して担当し,Jr.BM・ITS BMとのチームワーク,強い責任感と粘りで,無事期日納品を果たしたことが記載されていた。月間MVPは,STH-GBS内の4チームのリーダーの総意によりメンバー総勢30人程度の中から毎月1人選ばれていた。(甲A10)
(セ) 被告では,平成20年10月頃から,1300人の退職を目標に約5000人を対象に退職勧奨を行うRAプログラムが行われた。原告X1はその対象となり,同月頃から同年12月末頃まで,所属長A2,その上司であるA33(以下「A33」という。),STHのHRパートナー(部門内における人事担当者)らと面談が行われたが,原告X1は退職に応じなかった。原告X1に対する退職勧奨は,他の退職者で定員が埋まったことを理由に終了した。
(セ) 原告X1は,リスク・マネジメント部門からBMとして行った作業が明らかに間違っているという指摘を受け,平成20年10月14日,A2に対し,その経過を報告した(乙A12)。
(ソ) 原告X1は,平成20年10月31日,BMとしての対応を求める内容のメールをそのまま転送したため,転送した相手から,単にメールを転送するだけではSTHの価値がないとの指摘を受けた(乙A13)。
(タ) 原告X1の平成20年1月1日から同年12月31日までのPBC評価は「3」であった。(乙A5)
イ 平成21年について(甲A28,32,原告X1)
(ア) 平成21年1月中旬,A4がSTH-GBS金融グループのリーダーとなり,業務体制を変更してShared BMという担当を設け,原告X1は,同年2月23日からその地位に就いた(乙A15)。
(イ) 原告X1は,平成21年1月上旬,A2からPIPの対象となったことを伝えられ,同月5日から同年3月31日まで,PIPを実施した。このときのPIPの改善目標として,Shared BMとして第1四半期にサポート50件を行い,連携しやすかったかどうかを依頼者に尋ね,35件の良いコメントをもらうことを定めており,原告X1はサポート50件を実施し,良いコメント39件をもらったなどとしてPIPは目標達成により終了した。(甲15,18,乙A6)
(ウ) 原告X1は,平成21年2月から,契約例外申請業務が必要となるかんぽ保険と日本貿易保険の業務を担当した。
(エ) 原告X1は,平成21年2月20日から同年5月22日まで,STH-CSW(コミュニケーション・スキル・ワークショップ)を受講し,同月28日,MVPを受賞した。MVPは,参加者全員の総意で選ばれた。その際に授与された賞状には,原告X1の名前を「X1ちゃん」と記載され,常にメモをとっていた積極性,時間感覚の大変な進歩がメンバーに大きな気づきを与えたことが記載されている。(甲A11)
このとき,原告X1以外の参加者に対しても多数の表彰が行われていたが,その中には,参加率100%,宿題提出100%,雰囲気への影響を評価するものなどがあり,一人で複数の表彰を受けている者もいた(乙A20。枝番号含む。)。
(オ) A34(以下「A34」という。)は,平成21年3月から,Shared BMである原告X1及びA11に対して自分がBMとして担当する案件で発生した作業の一部を指示し,教育係を担当した。もっとも,A34が教育係としての役割であることは原告X1に対しては伝えられていなかった。(乙A32)
(カ) 原告X1がBMとして行った業務につき,セールスチームから複数の項目で5段階の最低評価を受け,打ち合わせを行った時点でのスケジュールどおり進行するよう指摘があり,人によってスキルに差があるので,人ではなく組織として安心して依頼できる体制作りの強化を求められたため,A2は,平成21年3月30日,原告X1に対し,状況を報告するよう求めた(乙A19)。
(キ) A36は,平成21年6月25日,原告X1が行った業務に対し前日にセールスチームから寄せられたクレームについて,A4及びA34に対し,同原告のミスが続いているのは問題であり,あと2段階くらいステップアップしてもらう必要があること,昨年末にはほめる方法をとったところ量をこなすようになり,今年に入ってからは追い込む方法をとって更に強化を図ったが断念したことを伝え,A4及びA34にどのようなことができるかを相談した(乙A21)。
(ク) 原告X1は,平成21年8月6日,FSSチーム一同からの感謝状を授与された。この感謝状は宛名が「X1(X1さん)殿」となっており,いつも複雑な契約例外申請の支援と案件対応をしていること,複雑極まりない社内プロセスを粘り強く対応していることが記載されている。また,原告X1は,サポートを実施した後に行われる依頼者からの評価においても,「非常に満足」という5段階中最高の評価を受けることもあった。(甲A12,27)
(ケ) 原告X1は,平成21年9月10日,セールスチームからのメールに対し20時間以上返答していなかったことについて,催促を受けた(乙A22の1)。
(コ) 原告X1は,平成21年9月15日午後3時48分,午前中の電話ですぐに対応すると言ったのに対応できていないとして,苦情を受けた(乙A22の2)。
(サ) 原告X1は,平成21年10月16日,セールスチームから納期を過ぎているとして催促を受けた(乙A23)。
(シ) 原告X1は,平成20年から平成22年にかけて,BM又はShared BMとしての業務に関し,業務を評価する内容のメールを複数受け取っている。もっとも,こうしたメールには,原告X1だけではなく,複数の者に対する感謝を述べたものも多く含まれており,同年3月30日に代表取締役及び執行役員から受け取った業績を評価するメールも,複数の者に対する感謝を述べる内容のものであった。(甲A17から19まで。枝番号含む。)
(ス) 原告X1の平成21年1月1日から同年12月31日までのPBC評価は「3」であった(乙A1)。
ウ 平成22年について(甲A28,32,原告X1)
(ア) 原告X1は,平成22年1月頃から,A5やA9理事,A10役員らによる退職勧奨面談を頻繁に受けるようになったため,同年2月,本件組合に加入した。また,同じ頃,A11も本件組合に加入した。原告X1が本件組合に加入したことが被告に通知されると,退職勧奨のための面談は実施されなくなった。
(イ) 原告X1は,平成22年2月25日,A34の業務を支援している(甲A31)。
(ウ) 平成22年3月,A4が官公庁グループのグループリーダーに異動になり,同じ時期に原告X1も金融グループから官公庁グループに異動になって,担当範囲は全セクターとされた(乙A16)。
(エ) 原告X1及びA11は,平成22年3月1日から,沖縄BSC業務を担当することとなった。原告X1は,同年4月から6月までの第2四半期に沖縄BSCメンバーの倍の7150P/Hポイントを達成するよう指示された。P/Hポイントは,1ポイントが5分でできる業務として設定されていた。(乙A29)
(オ) 原告X1は,平成22年4月から,「Gross/Net計上処理」という売上げ計上処理のスキルを習得して業務に活用した。
(カ) A37は,平成22年5月12日,研修で不在にする間,自分の業務を原告X1に引き継ぐと共に,A4に対し,同原告のフォローを頼んだ(乙A17の1及び2)。
(キ) A2は,平成22年5月26日,原告X1に対し,改訂された改善目標管理フォームの書式を送付し,再度のPIPの実施を提案した。この書式には,「改善計画が達成されなかった場合の対応の可能性(職掌変更,職位・所属変更,減給,降格,解雇など)」が記載されていた。原告X1は,本件組合と相談し,本件組合の方針に基づいてPIP実施の提案を保留し,本件組合を通してほしい旨を伝えた。(甲A25。枝番号含む。)
(ク) 原告X1が沖縄BSCへ依頼した業務に関して,平成22年6月4日,本来と違う依頼のため現場が困惑しているとして,沖縄BSCのA33からSTHのグループリーダーのA35に対し,改善依頼があった。A35は,同日,原告X1に対し,事実関係,事象が起こった原因,改善策をまとめるよう求め,同原告は,迷惑をかけたことを深く反省し謝罪することを伝えた。(乙A8)
その後,A2は原告X1と改善のための面談を行い,これまでも同原告のミスが続いていることを指摘し,今後の再発防止を求めた(乙A9)。
(ケ) 原告X1は,平成22年7月30日付けで,本件組合を通じて被告に対し,平成20年9月から平成22年6月までの未払時間外手当を請求した。被告は,同年12月2日付けで,本件組合に対し,原告X1の未払時間外手当として被告が認めた額を支払うと通知した。(甲A20,22)
(コ) 原告X1は,同年8月から,Shared BMとしての業務を外れ,沖縄BSC業務のみを担当するようになった(乙A29)。
(サ) 沖縄BSCにおける業務には「アラカルト(Complex)業務」と「アラカルト(Simple)業務」とがあり,前者は処理が重いものや依頼者とやり取りが発生する,P/Hポイントが3から192までのものであった。原告X1は,平成22年8月9日,A33に対し,これまでアラカルト(Simple)業務をあまり経験していないが,同案件全般の経験を身に付けるつもりであるとして,同業務についてのこれまでの経験を伝えるメールを送った。そこに記載された同業務は,P/Hポイントは0.5から12までのものであった。(甲A23,33。枝番号含む。)
(シ) 被告では原告X1の業務中の離席状況を調査・記録し,平成22年8月,1か月に26時間58分離席していたこと(労働日数22日であり,1日当たり約73分)が確認された。その中には,5分程度の離席,喫煙場所での滞在が確認されたもの,トイレに向かうのを確認されたもの,パソコンを持参して40分離席したものが含まれていた。(乙A11,29)
(ス) 平成22年9月,原告X1の所属長はA2からA5へ変更となった。原告X1は,月に1度,同年12月まで,A5及び沖縄BSCの所属長であるA33とミーティングを行った。(乙A30)
(セ) 平成22年第3四半期の沖縄BSCのメンバーのP/Hポイントは,1人当たりおおむね3000から5000程度であったのに対し,原告X1は1373であった。同メンバー中P/Hポイントが原告X1よりも低いのは,わずかな期間勤務した1名のみにとどまっていた。(乙A28)
(ソ) 原告X1のBSC業務について,平成22年11月9日,緊急度を高く設定しても回答希望時間を長めに設定するとそれに間に合うよう作業され,緊急度が重要視されていないように感じるなどの問題があることが指摘された(乙A24)。
(タ) A5は,平成22年11月16日,原告X1に対し,同原告の業務は本来期待されるものと大きく異なっており,沖縄BSC業務の達成が目標ではなく,本来のBMとしての業務を行ってもらいたいが,残念ながら同原告の業務に多くのクレームが発生していると伝えた(乙A10)。
(チ) 原告X1は,STHのBMにより行われた沖縄BSC業務を行うメンバーの評価において,平成22同年10月については25名(うち2名は評価なし)中の最下位であり,40点満点中11.3点の評価を受け,同年11月についても25名中の最下位であり,40点満点中11.3の評価を受けた(乙A27)。
(ツ) 同年第4四半期の沖縄BSCのメンバーのP/Hポイントは,1人当たりおおむね3000から5000程度であったのに対し,原告X1は1655であった。P/Hポイントが原告X1よりも低いのは,わずかな期間勤務した2名のみにとどまった。(乙A7)
(テ) 原告X1の平成22年1月1日から同年12月31日までのPBC評価は「3」であった。総評として,広い視野でIMT BMの価値とそのゴールを見直すよう記載されている。(乙A2)
エ 平成23年について(甲A28,32,原告X1)
(ア) 原告X1は,平成23年2月頃,A6が所属長を務めるグループ「STH-ITS・MTS」へ異動した。同グループは,保守サービス契約の提案活動の後方支援を担当していた。原告X1は,業務に必要な知識を取得するため,ネットワークに関する研修を受講したが,その内容は新入社員が受ける程度のレベルのものであった。この研修の最後に行われた試験において,原告X1は100点満点中合格点とされた80点に達せず47点で不合格となった。原告X1は,試験中にパソコンがフリーズしたことを伝え,2回目の試験を受けたが,2回目も73点で不合格となった。沖縄BSCのメンバーで2回目の試験を受けても不合格となった者は原告X1以外におらず,同原告は再度の試験実施を求めたが,実施されなかった。(乙A25,31)
(イ) 原告X1がネットワークに関する試験に不合格となったため,同原告が沖縄BSCで担当できる業務が制限されるため,同僚のA7が同原告のできる沖縄BSCの仕事を見付けてくることになった。それでも原告X1の沖縄BSC業務には間違いが多く,ダブルチェックの必要があったため,同年7月頃,同原告は,DHRMの起票処理という転記作業や,セールスチームがSTHに依頼する際に依頼事項を書き込むためのフォーム作りといった単純作業を行うようになった。(乙A31)
(ウ) 原告X1の平成23年1月1日から同年12月31日までのPBC評価は「4」であった。総評として,四半期当たり25件実施というのは沖縄BSCのメンバーの標準的な達成目標であり,バンド6としての業務を果たしておらず,沖縄BSCの標準メンバーとしての成果を満たせなかったと記載されている。(乙A3)
オ 平成24年以降について(甲A28,32,原告X1)
(ア) STH-ITSのリーダーは,A38に変更となった。
(イ) 原告X1は,平成24年4月24日,被告に対し残業代の支払を求める訴訟を提起した(甲A28)。
(ウ) 原告X1は,平成24年6月頃,RAプログラムの対象となり,同月1日,退職勧奨を受けたが,これに応じなかった(乙A33)。
(エ) 被告は,平成24年7月20日,原告X1に対し,同月26日付けで解雇することを通知した(本件解雇①)。解雇理由証明書には,業績が低い状態が続いており,その間,会社は職掌や担当範囲の変更を試みたにもかかわらず業績の改善がされず,会社はもはやこの状態を放置できないと判断し,これは就業規則53条2項の解雇事由に該当する旨が記載されている。被告は,同日,原告X1に対し,同日以降の出社を禁じ,被告の貸与した物品,鍵等の全てを返却するよう求めるとともに,私物を持ち帰れずに残す場合は後日送付することを伝えた。(甲A1,2)
(オ) 被告は,平成24年7月20日,本件組合に対し,原告X1を解雇したことを通知した。本件組合は,同月23日,被告に対し,原告X1の解雇の撤回や解雇理由の説明を求めたところ,被告は,解雇を撤回しない旨,解雇理由については同原告及び本件組合に対し個別事象を複数挙げ詳細に説明してきたが,業績低迷を根拠付ける事実全てを記載することは不可能であり,本件解雇①の通知に記載した解雇理由証明書のとおりである旨回答した。(甲A3から9まで)
(カ) 前記(イ)の残業代請求訴訟は,平成25年1月,和解により終了した。
(2)  被告は,原告X1の解雇事由として,①業務の能率,生産性が著しく悪く,ミスも多いという問題,②無断で離席を繰り返すという問題があり,その業績は極めて低かったこと,助言・指導や業務変更を試みても改善しないどころか悪化していったことを主張する。
(3)  原告X1の解雇事由に関して当事者双方が主張する個別・具体的な出来事について,認定事実を踏まえて検討する。
ア 原告X1のPBC評価は,SI営業推進に所属していた平成17年は「2+」,途中STHに異動した平成18年は「2」,その後平成19年から平成22年までは「3」が続き,平成23年は「4」である。後述するように,原告X1がSTHに異動してからのBMとしての業績は劣っていると認められるものの,昭和62年4月に採用されてから常時業績が低迷していたとは認められない。
イ 原告X1は,平成20年2月頃,日本銀行の契約例外申請業務を行い,このことも理由として同年3月のSTH-GBS内の月間MVPに選ばれている。契約例外申請業務の難易度については争いがあり,難度の高い業務に当たるとまでは認められないが,原告X1はBMとして問題なく業務を行えていたものもあったと認めることができる。
ウ 原告X1のBMとしての業務については,平成20年下旬に業務内容に対する苦情が複数出ていること,平成20年10月からRAプログラムの対象となっていること,平成21年1月上旬からPIPの対象となっていること,Shared BMとなった経緯についてA2及びA34は同原告の能力に問題があったからであると供述していることなどからすれば,同原告に能力不足があったこと自体は否定できない。
エ 原告X1は平成21年1月からShared BMとなっているところ,同原告はShared BMとしての業務に問題はなかった旨主張する。しかし,原告X1の行った業務について低い評価や問題を指摘するメールが送られていることからすると,Shared BMとしても同原告は能力不足の問題があったものと認めるのが相当である。もっとも,原告X1がShared BMとなった理由がBMとしての能力不足がありA34が教育係としてついたことが同原告に明確に伝えられていたと認めるに足りる証拠がないこと,平成21年に実施されたPIPについてはコメントの内容・趣旨について争いはあるものの少なくとも目標達成により終了していること,同年3月20日から同年5月22日まで行われたSTH-CSWにおいてMVPを受賞していること,同年8月6日にFSSチーム一同から感謝状を授与されていることなどからすると,同原告は業績改善のための努力をし,それについて被告も一定の評価をしていたということができる。
オ 原告X1は,平成22年3月,官公庁グループに異動し,また,沖縄BSCの業務も担当するようになったことについて,官公庁グループのグループリーダーであるA4が同原告の能力に期待していたことによるものと主張するが,異動がそうした理由によるものであることを認めるに足りる証拠はなく,同原告はShared BMとして全セクターを担当するが,便宜上官公庁グループの所属にしていたにすぎないものと認められる。そして,沖縄BSCは,従来STHの業務であったもののうち,比較的定型的に進めることのできるものを契約社員にさせることを目的として同年1月に設立されたものであり(証人A2),原告X1はShared BMとしても能力不足なため,より難度の低い沖縄BSCの業務を担当することになったものと認められる。
カ 沖縄BSCの業務を担当するようになった後も,原告X1の能力に改善の必要があったため,再度PIPの実施が提案されたが,同原告はこれを拒否していること,沖縄BSCの業務についても平成22年6月などに同原告の業務に問題がある旨の連絡を複数受けていたこと,同原告のP/Hポイントは沖縄BSCのメンバーのものに比べて相当低いこと,平成22年10月及び11月にBMにより行われた沖縄BSCの業務を行うメンバーの評価において同原告の評価がいずれも最下位であったことなどからすると,同原告の能力不足は改善されなかったものと認められる。
キ 原告X1は,平成22年8月,1か月に26時間58分離席しており,1日当たり約73分の離席となるが,その中にはパソコンを持参して40分離席したものも含まれており,その間も業務を行っているものが含まれている可能性がある。しかし,離席している時間が増えることによりP/Hポイントを獲得する業務の機会が減ると考えられること,離席しているため連絡がとれずに業務に支障が出ることがあったこと(証人A2,証人A5),離席について所属長が注意しても改善しないこと(証人A2,証人A5,証人A6)などからすると,たとえ離席時にPHSを携帯していたとしても,同原告の離席の多さは業績不良の一態様であると認められる。
ク 原告X1は,平成23年2月から,STH-ITS・MTSへ異動し,その業務に必要な知識を取得するためネットワークに関する研修を受講したが,研修後の試験に2度不合格となっている。原告X1は,1度目の不合格の原因はパソコンがフリーズしたことにあると主張するが,仮にそれが事実であるとしても,2回目も73点で不合格となっていることからすれば,能力不足があったといわざるを得ない。原告X1は,研修が電話での受講であったことや同原告に対する採点は他の者に対するそれより厳しいものであったことなどを主張するが,後者についてはそれを認めるに足りる証拠はない上,2回受験しても不合格であったことを正当化できる事情とまではいい難い。
ケ その後,原告X1の業務はDHRMの起票作業などの単純作業に限定されていたことが認められ,バンド6という原告X1の職位に見合った業務は行われていなかったものと認めるのが相当である。
(4)  以上の経緯からすると,原告X1は平成18年7月にSTHのBMとなって以降業績不良が続き,業務内容の変更やPIPの実施,所属長の面談など業績改善の措置を取ってもバンド6に見合った業務はできなかったものと認められる。被告が主張する解雇事由は,その全てが認められるわけではないものの,上で検討したとおり相当程度これに対応する事実が認められる。
しかし,昭和62年に入社後,原告X1はBMとなる以前はPBC「2+」の評価を受けるなどバンド6に見合った業務ができていたこと,BMとなってからも複数の表彰を受けたりPIPの目標を達成したりするなど業績改善に一定の努力を行い,被告もそれを評価していたこと,業績不良となってから業務内容の変更があったといってもShared BMや沖縄BSC業務もBMとしての業務の一部であることに変わりはないこと,DHRMの起票作業については業務内容に問題があったとは認められないことなどからすると,業績不良は認められるものの,担当させるべき業務が見つからないというほどの状況とは認められない。また,PBC評価はあくまで相対評価であるため,PBC評価の低評価が続いたからといって解雇の理由に足りる業績不良があると認められるわけではないこと,原告X1は大学卒業後被告に入社し,約25年にわたり勤務を継続し,配置転換もされてきたこと,職種や勤務地の限定があったとは認められないことなどの事情もある。そうすると,現在の担当業務に関して業績不良があるとしても,その適性に合った職種への転換や業務内容に見合った職位への降格,一定期間内に業績改善が見られなかった場合の解雇の可能性をより具体的に伝えた上での更なる業績改善の機会の付与などの手段を講じることなく行われた本件解雇①は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であるとは認められないから,権利濫用として無効というべきである。
2  争点(2)(原告X2の解雇事由)について
(1)  認定事実
前記前提事実に加え,以下に掲記する証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。
ア 平成20年まで(甲B4,原告X2)
(ア) 原告X2は,京都大学工学部資源工学科,同大学院エネルギー科学研究科を卒業後,平成12年4月,被告に入社し,野洲研究所の積層基板研究・開発部門(SLC部門。Surface Laminar Circuit)に配属され,積層基板の研究・開発業務に従事し,平成14年4月には,主査に昇進した。平成15年に被告の積層基板部門が事業譲渡されることになって,被告に残るか事業譲渡先に移籍するかは同部門に配属されていた社員の選択に委ねられたが,原告X2は被告に残ることになった。被告に残った同部門の社員らはスペシャルプロジェクト課に配属となり,原告X2は社内外での仕事を見付けることが業務として与えられ,必要に応じて社内外の人物と面接をしたり,社内の学習システムで教育を受けたりするなどした。
(イ) 原告X2は,平成16年4月,人材派遣会社に出向し,同年5月末から平成18年1月半ばまで,ハイブリットカー用のリチウムイオン電池の研究開発業務に従事した。
(ウ) 原告X2は,平成18年2月から被告に復帰し,藤沢事業所に配属された。原告X2が以前所属していた野洲事業所の事業部門は既に他社に売却されていたため,野洲事業所で開発製造を行っていた「グリーンDCサービス開発」という部門は藤沢事業所に置かれており,原告X2は同部門に配属となった。原告X2は,同部門でUPS(無停電装置)・バッテリー交換の事務処理業務及び技術サポートを担当した。(乙B15)
(エ) A12は,平成18年8月から,原告X2の所属長となった(乙B15)。
(オ) 原告X2は,平成18年10月頃,光ファイバーケーブル関連業務の仕事を命じられ,同僚のA16と共にFTCS(主に大型システムに光ファイバーケーブルを供給する事業の名称)の事務処理業務及び技術サポート(不良品対応),A13と共にAFTS(大型システムに光ファイバーケーブルを供給する事業の名称)の事務処理及び技術サポートの一部を担当した。A16及びA13はバンド7であり,原告X2はバンド6であった。藤沢事業所で行っていた業務は,同年末頃に横浜北事業所へ移転されることが決まり,原告X2も同事業所に異動した。
(カ) 原告X2は,平成20年6月以前,A13が名古屋へ異動する予定であるとして,A13と共に担当している業務につきA13の担当部分を引き継ぐよう打診された。原告X2は,バンド7であるA13が担当している業務をバンド6である原告X2が全部引き受けるのは不可能であるなどと述べて,A12の後任であるA15に対し,担当を引き継ぐことに難色を示したため,A13の上記業務をバンド7のA14が引き継ぐこととなった。(乙B16,証人A12)
(キ) 原告X2は,平成20年8月頃,A16と共に担当していたFTCS業務に加えて,S-Link業務の一部を担当するように指示された。S-Link業務は,原告X2とA16の二人で担当するほどの業務量ではなかったため,A16はS-Link業務から外れ,原告X2が一人でこれを担当することになった。この頃の原告X2の業務量は,一日4時間程度で処理できる日もあるが,1日の勤務時間一杯かかったり,残業を要したりする日もあった。なお,この頃,上司から原告X2に対し,担当業務を増やすことを内容とする明確な業務命令は出されていない。(乙B15)
イ 平成21年について(甲B4,12,原告X2)
(ア) A16は,平成21年2月頃,体調を崩して在宅勤務を行い,同年3月頃横浜北事業所に復帰した。
(イ) A15は,平成21年,再度原告X2にAFTSに関する業務を担当するよう打診したが,同原告はこれを断った。また,A15は,原告X2にFMAという保守に関する業務のサポートを求めたが,同原告はこれも断った。(証人A15)。
(ウ) 原告X2の勤務時の服装は,夏はTシャツの上に被告の「Y社」というロゴの入った作業着を羽織っていることが多く,ズボンはスラックスをはき,デスクワーク時はサンダル履きであった。冬は,ジーンズをはいて出勤したこともあった。
(エ) 原告X2の平成21年1月1日から同年12月31日までのPBC評価は「3」であった。(乙B2)
ウ 平成22年について(甲B4,原告X2)
(ア) 平成22年3月3日に被告社内でいわゆる偽装請負の問題に関する講習が行われ,原告X2はこれに参加した。原告X2は,同月18日から,A15に対し,課内の非正社員が偽装請負に当たるのではないかとの疑問を伝え,社内の調査機関にも調査を依頼した。原告X2は,調査機関から偽装請負に当たらない旨の連絡を受け,同年4月1日,A15及び横浜北事業所の同僚らに対し,調査結果により疑問が解消した旨を伝えた。(甲B5,6,12)
(イ) 原告X2の平成23年1月1日から同年12月31日までのPBC評価は「3」であり,S-Link業務の幅を広げるという目標については,達成率0%とされた。(乙B3)
エ 平成23年について(甲B4,12,原告X2)
(ア) A17は,平成23年1月から,原告X2の所属長となった。(乙B17)
(イ) A17は,平成23年1月12日,原告X2を含む部下に対し,月次報告書に記載すべき事項の説明をした。(乙B11)
(ウ) A17は,平成23年1月から,原告X2と面談して業務量を増やすことを提案し,同月13日の面談の際,同原告は,キッティング業務を担当することを約束したが,その後実際にこれに取り組むことはなかった。A17は,同月21日の面談では,原告X2が担当しているファイバーケーブルに関する業務とS-Link業務が中途半端な状況のため,前者の業務の幅を広げるよう提案した。しかし,原告X2がこれを拒否したことを受け,新たな業務へのチャレンジを提案するなどした。その後,A17は,原告X2に対し,ファイバーケーブルに関する事務処理業務とS-Link業務のどちらかに業務を絞り,その業務について幅広い業務を行うよう指示したところ,同原告はS-Link業務に絞りたいとの意向を示した。(甲B8,乙B17)
(エ) 原告X2は,平成23年1月13日,課内MTG等を目的としてハイ・セキュリティエリアへの入室申請をした。申請の表題には,「ISWAC/Restricted space入室者(CAS登録)申請」と記載されていた。(乙B14)
(オ) 原告X2は,光ファイバーケーブルの取引に関し取引先に大量の在庫が発生していることが問題である旨を指摘した。これに対して,被告からは,平成23年3月11日,調査の結果,取引先に在庫が生じているが,被告に法に抵触するような行為は認められず,取引先も特に問題意識は持っていないなどと回答した。
(カ) 原告X2は,平成23年3月25日,A17と同年4月1日から同月31日までを改善の進捗管理期間とするPIPの目標設定についての面談を行った。そこで設定された目標は,新たに割り当てられる業務に真剣に取り組み,スキルの幅を広げると共に,部門ビジネスへの貢献を行うというものであり,改善計画が達成されなかった場合の対応の可能性欄には期間を延長して継続することとされていた。A17は,上長のA39(以下「A39」という。)に報告して署名をもらい,同月28日,原告X2に署名を求めたが,原告X2は署名を拒否した。改善計画に対する結果評価欄には,「改善目標は達成された」欄にチェックがされているが,原告X2の署名はない。(甲B7,乙B17,20)
(キ) A17は,平成23年3月30日,原告X2に対し,新たな業務として自動化サービス業務を担当してもらい,手持ちの業務は他に引き継いでもらうと伝え,そのための打ち合わせを求めた。原告X2は,A17に対し,PIPを発端として業務変更を求められているが,現在の業務の継続を希望しており,業務変更を希望しないと答えた。A17は,原告X2に対し,業務変更はPIPとは関係がなく,ジョブローテーションとして新たな業務に取り組む必要性があると伝えたところ,同原告は,A17に対し,PIPと関係ないというのは無理があり,業務変更は望まないが,業務命令があるなら受け入れると答えた。(甲B13,乙B18)
(ク) 原告X2は,平成23年4月6日から,A17からPBC目標設定に限ってコミュニケーションを求められ,同月20日までメールでやり取りした。この際,A17は,原告X2が考える業務内容では期待するレベル,あるいは,求められているレベルに届かないとして,業務範囲を広げるよう求め,同原告とのやり取りを繰り返し,S-Link業務に絞って業務範囲を広げるのを目標とすることにした。(甲B8,乙B10)
(ケ) 原告X2は,平成23年6月2日,A17の上長であるA39に対し,同年1月から3月までにA17からパワーハラスメント(以下「パワハラ」という。)と感じる言動が多数あったなどと相談し,意見を求めた。A39は,同年6月15日,A17にも確認したがパワハラに当たるとは考えていないこと,原告X2がスキルを向上して活躍することを求めることなどを伝えた。原告X2は,同月16日,パワーハラスメントに当たるかどうかの考え方が違うので別の判断を求めることも検討したが,今回はしないことにしたなどとA39に伝えた。(甲B15)
(コ) 原告X2は,平成23年7月28日,A39に対し,A17のパワーハラスメントの件をA39の上長にやはり相談したいと伝え,同年8月3日,A39の上長であるA40(以下「A40」という。)に対し,パワハラ的要素があるか意見を求めた。A40は,原告X2に対し,パワハラに当たるかどうか判断を求められれば当たらないと思うこと,A39が言うとおりスキルを向上して活躍することを願うこと,必要があれば直接会話する場を持つことなどを伝えた。原告X2は,同日,A40に対し,A17の言動はパワハラには当たらないという判断でよいのか改めて質問するとともに,A40の更に上長に相談する場合は誰にすれば良いかを質問した。A40が,原告X2に対し,直接話をする場をセットするよう求めたところ,同原告は,A40との直接話をする必要はないと判断するが,A40が必要と考えるならば応じる旨伝えた。A40は,原告X2に対し,パワハラの問題について直接話をする必要があるかの判断は同原告がすべきだが,この件を通じて同原告をもう少し知る必要があると思ったので秘書を通じてスケジュール調整をすることを伝えた。(甲B15)
この後,同年10月13日,原告X2は,A40に対し,だいぶ時間が経ったがまだ直接話をする必要があるかなどと質問した。A40は,原告X2に対し,横浜北事業所に行く機会があれば話をする時間を作ることとし,そのときには上司のA17に同原告の仕事の調整をしてもらうと伝え,この間の同原告とのやり取りをA17に対してもメールで送信した。
A17は,同月17日,原告X2に対し,事実無根のことをパワハラと称して多くの人を巻き込んでいることが看過できず,このような状況が継続すると名誉毀損や業務妨害という認識を持たざるを得なくなるとして,同原告が指摘した個々の事実についてのA17の認識を伝えた。A17は,A39やA40からもスキルを向上して活躍することへの期待が述べられていることについて原告X2の気持ちを尋ねたところ,同原告は,今後もスキル向上させ貢献したいなどと答え,A17も,前向きな回答をもらえたので実現を期待するなどと応じた。(甲B15)
(サ) A17は,平成23年7月27日,原告X2に対し,同年度のPBC目標に関して,各項目の現在の進捗状況と今後の見通し,各内容についての感想や今後に向けての意思等をメールでただした。原告X2は,各項目の進捗状況と今後の見通しを回答したものの,感想について言及しなかったため,A17はこの点を補充するよう求めた。これに対し,原告X2は,感想は特にありませんなどと答えたため,A17は,適切な判断ができないとして重ねて補充を求めたところ,同原告は,感想がなく,意欲はこれといってないなどと答えた。(乙B6,17)
(シ) A17は,平成23年9月27日,原告X2を含む部下に対し,月次報告書にはプロジェクトのコメントに自分の考えを盛り込むよう伝えた。また,A17は,同月30日,原告X2を含む部下に対し,月次報告書の感想やコメントの記載により各自の意識や背景などが分かることは重要であると伝えた。(乙B12,13)
(ス) 原告X2は,平成23年,入室許可を受けていないセキュリティエリアに入室したことがあったが,当該部分は同原告が入室の許可を得ている区域から入室が可能な構造になっていた。A17が注意したところ,原告X2は構造に問題があるなどと不服を述べたため,A17は,同原告を含む全課員のセキュリティエリアへの入室権限を取り消し,そこでの会議を行わないこととした。(乙B17)
(セ) 原告X2の平成23年1月1日から同年12月31日までのPBC評価は「3」であった。(乙B4)
オ 平成24年について(甲B4,12,原告X2)
(ア) A17は,平成24年3月7日,原告X2に対し,前年度のPBC評価が芳しくなかったので今年度PIPを実施する必要があるとして,同月9日にインタビューの実施を求めた。原告X2は,口頭ではなく書面でのやり取りを求めるとともに,A17以外の者がインタビューを実施するよう求めた。A17は,書面ではなく直接のインタビューを行うこと,上長であるA18とも相談することを原告X2に伝えた。(甲B11,乙B17)
(イ) 平成24年3月頃,原告X2はPBC目標設定に当たってA17と協議を行った。この協議は同年9月の本件解雇②の頃まで続いたところ,原告X2は,なかなか目標を示さず,同年7月頃になって一級建築士資格の取得を目標として提示したが,すぐに目標から取り下げた。(甲B9,10,乙B17)
(ウ) 原告X2は,平成24年中,入室許可なくセキュリティエリアに2回入っており,エリア内で十数分間雑談したこともあった。原告X2が入室する際は,ロー・セキュリティエリアに入室許可のある同僚に頼み,一緒に入室していた。(乙B17)
(エ) A17は,平成24年8月14日,原告X2に対し,服装の乱れ,出勤の遅さ,休憩時間後の居眠り,全体会議への不参加,業務とは無関係の社用電話の使用,ハイ・セキュリティエリアへの無断立入り及び休暇申請のタイミングについて業務マナーを真摯に是正すべき点もあるのではないかなどとただした。原告X2は,同月16日,休憩時間後の居眠り,全体会議への不参加,業務とは無関係の社用電話の使用,ハイ・セキュリティエリアへの無断立入りについて一部非を認め,服装の乱れ,出勤の遅さ,休暇申請のタイミングについては問題ないという認識であるなどと回答した。(乙B5)
(オ) 原告X2が提出していた月次報告書は,エクセルファイルを添付するのみで,ごく短いコメントが記述されていることもあったが,A17の他の部下が作成したものと対比すると,担当した業務についての具体的な報告という体をなしておらず,内容の乏しいものであった(乙B7から9まで。枝番号含む。)。
(カ) A18は,平成24年,原告X2に対し,RAプログラムを提案したが,同原告はこれを拒否した。
(キ) 被告は,平成24年9月18日,原告X2に対し,同年9月26日付けで解雇することを通知した(本件解雇②)。解雇理由証明書には,業績が低い状態が続いており,その間,会社は様々な改善機会の提供やその支援を試みたにもかかわらず業績の改善がされず,会社は,もはやこの状態を放置できないと判断し,これは就業規則53条2項の解雇事由に該当すると記載されている。他方,被告は,原告X2に対し,同月20日午後5時36分までに自主退職の意思を示した場合は,解雇を撤回し,退職加算金や会社の費用負担で再就職支援会社のサポートを受けられるオプションも用意する考えであることを伝えた。また,被告は,原告X2に対し,被告の物品の返却をするよう求めるとともに,私物を持ち帰れずに残置してある場合は後日送付することを伝えた。(甲B1,2)
(ク) 本件組合は,同年10月9日付けで,被告に対し,原告X2の解雇予告通知に関し解雇理由の説明を求めた(甲B3)。
(2)  被告は,原告X2の解雇事由として,①現に担当している業務以外に新たな業務を行わず(被告が指示する新たな業務を拒否し),その結果,著しく少ない量の業務しか行わないこと,②職場において円滑なコミュニケーションを行うことができないこと,③業務上の報告を記載する月次報告書に業務と全く関係がない事項を記載する,セキュリティ上入室が禁じられた部屋へ入室したりするなど問題行動をとるなどの問題があり,その業績は極めて低かったこと,助言・指導や業務変更を試みても改善しなかったことを主張する。
(3)  原告X2の解雇事由に関して当事者双方が主張する個別・具体的な出来事について,認定事実を踏まえて検討する。
ア 平成20年7月頃の,原告X2の業務量と,グリーンDCサービス開発の他のメンバーの業務量との比較について,同原告は1日4時間程度で業務が終わる日もあったが毎日ではなく,業務にフルタイムかかる日もあれば,時間外労働が必要な日もあったと供述する。原告X2が短い時間で業務が終わることがあったと述べていることからすれば,同原告の業務量が他のメンバーと比較して少なかったことは認められるが(証人A12),それは被告において必要と考える適切な業務量を割り当て,その履行を明確に指示したにもかかわらずこれを行わなかったなどの経過があればともかく,そうした経過が認められないことからすると,原告X2について,少なくとも解雇事由を直接根拠付けるような業績不良があったということはできない。
イ 原告X2は,平成20年7月頃,ファイバーケーブルに関する業務のうち,異動するA13が担当しているAFTS技術支援業務を引き継ぐよう言われたが,これを断っている。原告X2は,A13はバンド7であり,バンド6である原告X2では引き継ぐことはできないと主張するが,A13が担当している業務全てを引き継ぐわけではないこと,原告X2は平成18年10月頃からファイバーケーブルに関する業務を担当しており全く経験のない業務を命じられているわけではないことからすれば,A13の業務を引き継ぐ旨の指示が不合理であるとはいえない。また,原告X2は,引継ぎを指示されてからA13の異動までには期間が短く引継ぎが困難であると主張するが,引継ぎの指示は同原告主張よりも早くから行われていたと認められる上(証人A12),仮に引継ぎの期間が短いとしても,その条件は誰が引き継いでも変わりはなく,何らかの配慮や援助を要するというならともかく,引き継ぎ自体を断る正当な理由とはいえない。もっとも,原告X2の引き継ぎ拒否を受けて,所属長のA15はこれをA14に引き継がせているのであるから,原告X2が能力不足を自認して他の者が引き受けられる仕事を引き受けなかったという評価は可能であるものの,業務命令拒否というほどの義務違反とするのは相当でない。
ウ 原告X2の勤務中の服装がマナー基準に違反していることについては,Tシャツ,ジーンズ,サンダルといった格好をすることがあり,これは被告社内のマナー基準に違反するものと認められ(乙B1),所属長が何度か注意しても改めなかったことが認められるが(証人A12),軽微な懲戒処分をすることなく,解雇の理由とするほどのものとはいえない。
エ 原告X2は,平成21年にもAFTS技術支援業務を担当するよう打診されているが,これを断っている。また,FMAという業務のサポートを求められても断っている。さらに,平成22年にPBC目標としてS-Link業務の幅を広げることを設定したが,その目標の達成率は0%であった。この点について,原告X2は,当時新たな業務が色々と割り振られていたのでその一部を断ったにすぎないと供述しており,A15の供述によっても,業務を担当するよう打診したが断られたので業務を担当させなかったという経過が認められるにとどまるから,明確に業務を命じてもそれに応じなかったという事実までは認められない。そうすると,原告X2が業務に対し極めて消極的な対応を示していたという事実は認められるものの,業務命令拒否に当たるような事実があったということはできない。
オ 原告X2は,平成23年1月にA17が所属長となってから,キッティング業務を担当することを約束したもののこれを実施していない。また,担当しているファイバーケーブルの業務とS-Link業務のうちS-Link業務に絞り,その業務の幅を広げることを自ら選んだものの,業務の幅を広げることは実現できていない。このうち,S-Link業務について,原告X2はA17との間で業務の幅を広げるということで合意しているものの(甲B8),S-Link業務の幅を広げることの具体的な内容・範囲までは明らかにされておらず,その難易も不詳であり,この点について具体的な業務指示があったとまでは認めるに足りない。また,原告X2がキッティング業務を行わなかったことについては同原告個人以外の要因によることがうかがわれ(乙B18),同業務を行うよう具体的な指示があったにもかかわらず,同原告がこれを行わなかったと認めるに足りない。
カ 平成23年4月に原告X2がPIPを拒否したことについては,同原告は業務命令であれば従うと答えたのに対し,A17からは明確な業務命令としてPIPをすべきことを指示したとは認めるに足りない(甲B15,証人A17)。
キ 円滑なコミュニケーションができなかったことについては,A17がコミュニケーションを求めても原告X2はメールによるやり取りを希望したというのであるから,コミュニケーションの方法に一定の制約が生じていたものと認められる。もっとも,原告X2はA17からパワハラを受けていると訴えており,それが違法なパワハラに当たるかどうかはひとまずおくとしても,そうした状況の下でメールでのコミュニケーションを求めたとしても直ちには非難することはできず,メールによるコミュニケーションを取ったことにより具体的な支障が出たとは認められないことからすると,解雇事由の根拠になるような事情であるとまではいえない。
ク 原告X2は平成23年及び平成24年にセキュリティ上入室が禁じられていた部屋に入室している。このうち,平成23年の入室について,原告X2は,入室を許可されていた区域から入室が可能であったためであると主張しているが,そうであったとしても許可のないエリアに立ち入ったことは問題があり,自身の入室権限の有無とその範囲を確認しないなど極めて不注意でもあり,許可のないエリアに入る必要性も認められない。平成24年の入室は,ファイバーケーブルを処分するためにセキュリティエリアの入室が許可されている同僚とともに入室したと主張するものであるが,その当時原告X2がファイバーケーブルをセキュリティエリア内で処分する必要性があったか定かではなく,また,その必要性があるとしても所属長の許可を得ずに同僚に入室させてもらったのは正当なものとはいい難い。
ケ 月次報告書の記載については,A17はコメントを書くよう指示しているが,原告X2はコメントをしないか,したとしても月次報告書へのコメントとしてはふさわしくないものであったと認められる。しかし,コメントの記載に係る指示の頻度は明らかでなく,原告X2のコメントの問題について重ねて指摘がされていたにもかかわらず,これを受け入れない状態が続いていたといった事情までは見当たらない。
コ 会議への出席姿勢や離席,業務中の居眠りについては,A17から注意がされていたことが認められるが(乙B5),注意が繰り返されていたと認めるに足りる証拠はない。
サ 平成24年のPBC目標の設定において一級建築士資格の取得という目標を提示したがすぐに取り下げたことについては,一級建築士の資格自体は原告X2の業務との関連性があり,直ちに不当なものとはいえないが,当初求められていた目標の設定時期を過ぎてから提案されたものであり(証人A17),資格取得に実務経験が必要であるため取り下げたという経緯からすると,真摯な検討を経て提案をしたものか疑わしいというべきである。
(4)  以上の経緯からすると,原告X2は,平成18年からグリーンDCサービス開発に所属していたが,他のメンバーと比較して業務量の少ない状態にあり,所属長が業務量を増やすよう話をしたが,自分にはその能力がないなどといって拒否したり,新たな業務を担当すると述べても実際にはその業務を行わなかったりして業務量の少ない状態が続いていたこと,PIPの実施を拒否しており,平成23年に担当業務についての感想や意欲を尋ねられてもこれに応えず積極性に欠ける態度に終始していたこと,平成23年1月にA17が所属長となってからは直接の面談を避けるなど円滑なコミュニケーションに問題が生じたこと,服装,セキュリティエリアへの入室,会議への出席姿勢,離席,業務中の就寝などにおいて問題行動があり所属長からも注意がされていたことが認められる。被告が主張する解雇事由は,その全てが認められるわけではないものの,上で検討したとおり相当程度これに対応する事実が認められる。
しかし,原告X2が新たな業務に対して消極的であったとしても,そのような態度を続けると業務命令違反であるなどとして明確な指示がされていたとまでは認められないこと,業務量が少ないとしてもその業務内容自体には問題があるとは認められないこと,業務に対し消極的な態度に終始していたことは確かであるが,それは原告X2がA17と対立的な関係となっていたため過剰な反応となっている可能性があり,コミュニケーションの問題にしてもA17からパワハラを受けたと感じたことによるものと考えられる上,こうした事情から業務に具体的な支障が出たとは認められないこと,その余の問題行動は解雇事由となるほど重大なものとはいえないこと,PBC評価は飽くまでも相対評価であるため,PBC評価において低評価が続いたからといって解雇すべきほどの業績不良があると直ちに認められるわけではないこと,原告X2は大学院卒業後被告に入社し,約12年半にわたり勤務を継続して配置転換もされており,職種や勤務地の限定があったとは認められないことなどからすると,その適性に合った職種への転換や業務内容に見合った職位への降格,一定期間内に業績改善が見られなかった場合の解雇の可能性をより具体的に伝えた上での更なる業績改善の機会の付与などの手段を講じることなく行われた本件解雇②は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であるとは認められないから,権利濫用として無効というべきである。
3  争点(3)(原告X3の解雇事由)について
(1)  認定事実
前記前提事実に加え,以下に掲記する証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。
ア 平成20年まで(甲C5,原告X3)
(ア) 原告X3は,昭和61年,慶應義塾大学理工学部数理学科を卒業して被告に入社し,h研究所に配属されてグラフィック製品の開発等を行っていた。
(イ) 原告X3は,平成9年,箱崎にある製品統括本部に異動し,営業担当者が顧客に自社製品を売り込む際に必要な自社製品の性能等をまとめ,営業担当者に情報を提供する業務を担当した。
(ウ) 原告X3は,平成18年12月,被告社内の認定試験に合格し,「ITスペシャリスト」の資格認定を受けた。
(エ) 原告X3の平成18年1月1日から同年12月31日までのPBC評価は「2」であった(乙C6)。
(オ) 原告X3は,同月,STHへ異動することになり,平成19年1月,STH内に新設されたSTG課(ハードウェア製品を中心に提案活動の後方支援を行う課)に配属され,BMとして個々の案件について営業部門から提案書の作成依頼を受け,構成作成・見積りや機能・性能に関する問い合わせ対応を行っていた。具体的には,ハードウェア製品のうち「システムP」というブランドの製品について,セールスチームからの依頼を受けて構成作成・見積り等を行うチームで業務を行っており,①製品の構成作成,②価格見積り,③システム設計,④NAVI,⑤提案書作成等を行っていた。このうち①は要求仕様に合わせた部品表を作成する業務であり,④はセールスチームからの質問・問合せ(製品に関する単純な質問や他社製品比較に関する問合せ)に回答する業務であって,納期が短く,セールスチームとの間で納期の調整等を行う場面は少ない。(乙C25)
(カ) 原告X3は,平成19年2月2日,プロフィットテスト(構成作成を行う際,値引限度額の計算等を行う作業)を行うために必要となる○○(値引の限度額の計算や値引の申請・承認など値引に関する処理を運用するためのシステム)の操作権限の一部を授与されていた。しかし,原告X3がプロフィットテストを行うことはなかった。(乙C21)
(キ) 平成19年の同種業務を行う者の業務の遅延率の平均が19.9%であったのに対し,原告X3の遅延率は33.1%であり,遅延した時間についても1日以上に及ぶものが多かった(乙C19,20)。
(ク) 原告X3の平成19年1月1日から同年12月31日までのPBC評価は「3」であった(乙C4)。
(ケ) A19は,平成20年1月,原告X3の所属長となった。この頃,原告X3の業務について,納期の遅れが多いという問題があったため,同原告は納期の短い案件が非常に少ないNAVIの業務を中心に担当することになった。原告X3以外の者は,派遣社員も含め,NAVIの業務を含む全ての業務を担当していた。(乙C25)
(コ) A19は,同月から,隔週で,原告X3と一対一の面談を行い,チームのメンバーと協調し,独りよがりな仕事の仕方を改めるように指導していた(乙C25)。
(サ) 原告X3は,平成20年10月,RAプログラムの対象となった。原告X3は退職に応じないことにし,同年12月に本件組合に加入し,同日,本件組合は原告X3が加入したことを被告に通知した。(甲C5)
(シ) 原告X3の業務の遅延率は,平成20年,18.3パーセントであり,同種業務を行う者の平均は17.3パーセントであった。また,遅延した時間については,1日以上の遅延が多かった。(乙C19,20)
(ス) 原告X3の平成20年1月1日から同年12月31日までのPBC評価は「3」であった。(乙C5)
イ 平成21年について(甲C5,原告X3)
(ア) 平成21年1月,STG課の業務は,専門性の高い業務を除いて大半を沖縄BSCに移行することになった。
(イ) 原告X3は,平成21年2月4日から同年3月6日まで,PIPを実施した。そこでは,改善点として,所属長の指示に対して回答日時を守ること,チームメンバーとコミュニケーションをとり円滑なチームオペレーションをすること,成果物のドキュメンテーションをすることが設定された。改善計画が達成されなかった場合の対応の可能性としては,職位降格も考慮して人事部門と相談して対応することとされた。原告X3におけるPIPの評価として,チームメンバーとのコミュニケーションには改善が見られたが,所属長から指示された業務の達成,成果物の品質向上などに問題があり,引き続き改善を要するとされ,2回目のPIPを実施することになった。(乙C6から9まで,25)
(ウ) 原告X3は,平成21年3月30日から同年4月30日までを実施期間として1回目と同じ改善点を設定して2回目のPIPを実施したが,途中から達成をあきらめてしまい,改善目標は未達成となった。
(エ) 原告X3は,フレックスタイム制勤務対象者であり,コアタイムは午前10時から午後4時30分とされていた。平成21年2月5日から平成24年5月30日まで,原告はコアタイムが始まった後に休暇取得の連絡をすることがあり,その状況は別紙2「X3 遅刻・欠勤連絡について」のとおりである。また,原告X3は,午後4時頃に無断で帰ってしまうこともあった。(乙C13から18まで,証人A19)
(オ) 原告X3は,平成21年6月,STH内のビジネス・オペレーションズのメトリクス・チームに異動を打診された。原告X3は,メトリクス・チームの業務を1か月間試験的に行うことになり,そのときに仕事を頑張っていきたいという意向を示したことから,正式に異動が実施され,以降,A22が原告X3の所属長となった。(乙C26,27)
(カ) 原告X3は,メトリクス・チームにおいて,メトリクスの標準フォーマットを作成する業務を担当した。A22は,原告X3に対し,完成度は低くても徐々に作成すればよいので期限を守るように指示していたが,同原告は期限を徒過しており,その理由としてパソコンが壊れて業務ができなかったなどと弁解を述べた。(乙C26)
(キ) 原告X3は,メトリクス・チームにおいて,チーム内で用いられる基本的な用語の意味を何度も質問した(乙C26)。
(ク) 原告X3の平成21年1月1日から同年12月31日までのPBC評価は「3」であった(乙C1)。
ウ 平成22年について(甲C5,原告X3)
(ア) 原告X3は,平成22年5月,「メトリクスデータのRDB(DB2)化とCognosを使った表作成の標準化業務」を担当したが,定められていた期限を徒過した(乙C26)。
(イ) 原告X3の平成22年1月1日から同年12月31日までのPBC評価は「3」であった(乙C2)。
エ 平成23年について(甲C5,原告X3)
(ア) 原告X3は,平成23年6月から9月にかけて,目標処理件数を設定の上,「ライン&BMのレポート作成のためのデータ・レポート作成,支援業務」を担当したが,目標を達成した月はなく,件数を実際の数よりも多く報告することもあった(乙C26,証人A22)。
(イ) 原告X3は,平成23年10月,ビジネス・オペレーションズの「もの・チーム」(STHの業務に関連する契約関係の処理その他の管理本部的機能を果たす役割を担うチーム)に異動し,会議の事前準備・当日の設営や備品の管理といった単発の業務を行っていた(乙C26,証人A22)。
(ウ) 原告X3は,平成23年及び平成24年,自主的な業務改善活動に参加し,見積りの誤りを検出するツールの開発に携わり,原告X3の参加したチームは2年連続で部門内大会決勝に進出した。
(エ) 原告X3の平成23年1月1日から同年12月31日までのPBC評価は,「3」であった(乙C3)。
オ 平成24年について(甲C5,原告X3)
(ア) A22は,平成24年5月24日,原告X3との面談の際,RAプログラムが実施されていることを伝え,応募の意思を確認したが,同原告は応募の意思はないと回答した(乙C28)。
(イ) A22は,平成24年5月31日,原告X3に対し,「AQCT」に関する業務(業務改善活動)はSTH内の「DS-A」の所管となったので関与の中止を指示し,今後これに関与する場合はA22の承認を得るよう命令した上,同原告から上記業務への参加について何の報告もなかったことを指摘し,「もの・チーム」に在籍している以上,同チームとしての仕事をすることを求めた(乙C22)。
(ウ) 被告は,平成24年9月20日,原告X3に対し,同年9月28日付けで解雇することを通知した(本件解雇③)。解雇理由証明書には,業績が低い状態が続いており,その間,会社は様々な改善の機会の提供やその支援を試みたにもかかわらず業績の改善がされず,もはやこの状況を放置できないと判断した旨,就業規則53条2項の解雇事由に該当する旨が記載されていた。他方,被告は,上記通知において,同年9月24日午後5時36分までに自主退職の意思を示した場合は,解雇を撤回し,退職加算金や会社の費用負担で再就職支援会社のサポートを受けられるオプションも用意する考えであることを伝えた。また,被告は,原告X3に対し,上記通知時以降の出社を禁止し,被告の物品の返却をするよう求めるとともに,私物を持ち帰れずに残置してある場合は後日送付することを伝えた。(甲C1,2)
(エ) 本件組合は,平成24年10月9日付けで,被告に対し原告X3の解雇予告通知に関し解雇理由の説明を求めた。
(2)  被告は,原告X3の解雇事由として,①頻繁に業務の期限を徒過すること,②上司に適時に適切な報告を行わないなどチームとして業務を行うこと(チーム・オペレーション)ができないこと,③自分の興味のあることには業務上不必要であっても取り組む一方,自分が興味のない業務には必要であっても取り組もうとはしないこと(その結果,業務上必要な作業が行われないこと),④自己の非を認めないこと,⑤始業時刻に出勤しなかったり,必要な手続を経ることなく休暇をとったりすることを主張する。
(3)  原告X3の解雇事由に関して当事者双方が主張する個別・具体的な出来事について,認定事実を踏まえて検討する。
ア 平成19年1月にSTHへ異動しBMとしての業務をするようになってからの原告X3の業務については,納期の遅延が多く発生しており,他のメンバーと比較しても,納期を遅れる場合にセールスチームとの調整も行わなかったため,クレームがあったことが認められる(乙C6,10,証人A19)。なお,被告が作成した遅延率及び遅延時間のデータ(乙C19,20)は,セールスチームと連結を取って納期を変更した場合に,変更した後の納期が反映されているわけではないので,そこに記載された遅延によりセールスチームにどの程度支障が生じたかを直接的に示すものではないが,当初の納期との比較によってセールスチームの当初の希望にどの程度応えられているかを示すものであるから,原告X3のBMとしての業務は,他のメンバーに比べて遅れがちであり,劣っていたと認められる。もっとも,平成19年及び平成20年のPBC評価には納期の遅れのことは指摘されておらず,かえって,平成20年のPBC評価にはA20不在時に迷惑をかけることなく対応したことに感謝する旨が記載されていること(乙C4,5,証人A19),セールスチームからのクレーム内容を具体的に認めるに足りる証拠はないことなどからすると,納期の遅れがあったとしても,それがBMとして業務を任せられないほどのものであったとは認められない。
イ STG課においては,平成19年から構成作成の方法等に関する標準規格・仕様や注意事項が共有されていたところ,原告X3がこれを守らなかったため,他のメンバーが手直しを要する事態を生じさせていたものと認められる(乙C25,証人A19)。
ウ 原告X3は,「○○」に関するスキルを理解・習得しようとせず,プロフィットテストが必要な案件に対応することができなかったと認められる(証人A19)。原告X3は,プロフィットテストをするために必要な権限を授与されていなかったと主張するが,権限は授与されていたと認められる(乙C21)。また,原告X3は,プロフィットテストに関する業務は沖縄BSCに移管されるため,原告X3が習得する必要性が乏しいと主張するが,沖縄BSCに業務を移管するとしても,移管の対象はBMの業務のうち定型的なものに限定されているから(乙C25,証人A19),本来的にはBMの業務といえ,BMである原告X3はその業務の内容を理解しておく必要性があったというべきである。
エ 原告X3は,平成21年2月5日から平成24年5月30日まで,別紙2「X3 遅刻・欠勤連絡について」のとおり,コアタイムの開始時刻を過ぎても出勤せず,その連絡もコアタイムの開始時刻を過ぎて行うこともあったと認められる。この点については,所属長が原告X3に対し何度も注意していると認められ,たとえコアタイムの開始時刻を過ぎてから遅刻や休暇の連絡をしたときに承認が与えられたとしても,事前の連絡がなければ業務を同原告に依頼できない,業務の予定が立てられないなどの支障が生じ得ることは自明のことであるから,この点が同原告の業績不良の理由となることに変わりはないというべきである。
オ 原告X3は,平成21年2月からPIPを実施し,改善は見られたが,目標の達成はできず,同年3月30日から2度目のPIPを実施したが,途中から達成をあきらめ,未達成となっている。原告X3は,このときA20が入院していたためA20の業務を肩代わりする必要があり,PIPの達成に専念できなかったと主張するが,証拠に照らして原告主張の点が不達成の理由になったとは認めるに足りない(乙C6から12まで,25,証人A19)。もっとも,原告X3は最初のPIPにおいて目標とされた9項目のうち5項目では目標を達成しており(乙C8),改善に向けた努力はしていたものと認められる。
カ 原告X3は,平成21年7月にメトリクス・チームへ異動している。これについて,原告X3は自分の能力が高く評価されたためと主張するが,同チームがプログラマーとしての能力を必要としたことは認められるものの,同原告の能力を高く評価して異動させたとは認めるに足りない(証人A19,証人A22)。
キ メトリクスの標準フォーマット作成業務については,原告X3は設定した期限を守らず,システムに不具合が生じたためできなかったなどと述べていたと認められる(証人A22)。この点について,原告X3が行うべき業務は四則演算レベルの処理で足りる数日程度で完了できる作業であると被告は主張するが,被告が主張するところの本来作成すべきであった成果物というのがいかなる内容であるかは必ずしも明らかではないこと,プログラマーとしての能力を有することを前提に原告X3がメトリクス・チームに異動していること,数日で終わる作業に二,三か月かかっていたとすればなぜそれほど時間がかかるのか,不要な作業をしないよう指摘するはずであるが,A22はこうした指摘をしていないこと(証人A22)などからすると,上記業務が数日程度で完了する業務であったとは認められない。他方,その業務の期限を徒過したことにつき,システム上の不具合が原因であり原告X3に責任がないということも認めるに足りない。そうすると,与えられた業務の期限を守ることができなかったという限度で原告X3の業績不良が認められるというべきである。
ク 原告X3は,チーム内で用いられる基本的な用語について何度も同僚に質問していた事実が認められる(乙C26)。この点について,原告X3は,派遣社員が正しく用語を使っているが確認のために聞いていたなどと述べるが,業務に対する理解不足・意欲不足が反映されていたことも疑われるところであり,チーム内で同原告と同僚との間で信頼関係が築けず,士気の低下といった事態を招くことも懸念されるが,上記事実を捉えて解雇事由を基礎付けるような業績不良に当たるとまではいい難い。
ケ 原告X3は,平成22年4月からのメトリクスデータのRDB(DB2)化とCognosを使った表作成の標準化業務について,期限内に成果を上げられなかったと認められる(証人A22)。この点について,原告X3はCognosの使用方法について被告が適切な対応をしなかったためであると主張するが,そのような事実を認めるに足りる証拠はなく,成果を上げられなかったことにつき正当な理由があったとは認められない。
コ 原告X3は,平成23年6月から9月にかけて,ライン&BMのレポート作成のためのデータ・レポート作成,支援業務を与えられたが,目標件数を達成できなかったと認められる(証人A22)。これについて,原告X3は目標件数に見合う案件が割り振られなかったと主張するが,原告X3自ら案件を見付けだすことも業務の内容に含まれていたというべきである(証人A22)。もっとも,上司等から具体的な作業を指示されるわけではなく,自ら案件を見付けだすという業務の性質上,それが達成できなかったとしても,直ちに能力不足・業績不良に当たるとして解雇理由とするのは相当とはいえない。
サ 原告X3は,平成23年10月に「もの・チーム」に異動したが,これはメトリクス・チームにおいて期限を守らない,勤務時間の管理に問題があるなどの業務が改善されない状況が続き,メトリクス・チームのメンバーからも原告X3と一緒に仕事したくないというクレームが出たため,メトリクス・チームの中で原告X3に与えられる仕事がなくなったためであると認められる(証人A22)。
シ 原告X3は,「もの・チーム」においても,期限を守らない,勤務時間の管理に問題があるといった問題があるため,任せられる業務に制限があり,会議室の設営,電話会議の準備,会議室の予約といった単発な業務に限られ,それさえも原告X3は会議開始間際に出社するなど勤務時間の管理に問題があるため,支障があったと認められる(証人A22)。
ス 原告X3は,平成23年及び平成24年,自主的な業務改善活動として部門改善活動に参加し,ツールの開発に携わり,参加したチームは2年連続で部門内大会決勝に進出したと認められる。被告は,原告X3は他のメンバーが行った要件・仕様の定義に従ってプログラムしただけであると主張するが,そうであったとしても部門内大会決勝に進出するツールの開発に携わっていたのであるから,プログラムの能力については一定の評価に値するというべきである。
セ 原告X3は,バックアップ業務について,同原告の業務であるが,嫌がらせで取り上げられたと主張するが,A22はこれを否定しており(乙C26),バックアップ業務が同原告の正式な業務であったと認めるに足りず,嫌がらせ目的で同原告を担当から外したとも認めるに足りない。
ソ 原告X3は,「AQCT」の業務改善活動についても,嫌がらせで取り上げられたと主張するが,業務改善活動が正式に業務として行われ担当部署も定められたため,社員一般が本来の業務以外のものとして行う活動からは外され,こうした立場で活動を行っていた同原告に対しても関与を禁じたという経緯が認められ(乙C22から24まで),嫌がらせ目的で行われたものとは認めるに足りない。
タ 原告X3は,本件組合に入っていたため不当な扱いを受けていると主張するが,原告X3の業績に不良な点があることは上記アからソまでに論じてきたとおりであり,本件組合員であるがゆえに低く評価し,不当な扱いに及んだとは認めるに足りない。
(4)  以上の経緯からすると,原告X3は,平成19年1月にSTH内のSTG課においてBMとして業務を行っていたが,期限の徒過,コミュニケーションの問題などがあり,2回のPIPを実施したが目標達成はできず,メトリクス・チームに異動となったものの,そこでも期限の徒過,勤務時間の管理などに問題があり,任せられる仕事がなくなっていき,「もの・チーム」に異動となったが同様に任せられる仕事は単発の業務となり,それさえも支障があったと認められる。被告が主張する解雇事由は,その全てが認められるわけではないものの,上で検討したとおり相当程度これに対応する事実が認められる。
しかし,原告X3はSTHに異動する前の平成18年のPBC評価は「2」であったこと,「もの・チーム」において,正式の業務ではないとしても,平成23年及び平成24年に自主的な業務改善活動として部門改善活動に参加し,ツールの開発に携わり,所属したチームが部門内決勝に進出したことからすれば,原告X3の能力を生かす業務があった可能性は小さくはないというべきである。また,PBC評価は飽くまでも相対評価であるため,PBC評価の低評価が続いたからといって解雇すべきほどの業績不良があると認められるわけではないこと,原告X3は大学卒業後被告に入社し,約26年間にわたり勤務を継続し,配置転換もされてきたこと,職種や勤務地の限定があったとは認められないことなどの事情もある。そうすると,現在の担当業務に関して業績不良があるとしても,その適性に合った職種への転換や業務内容に見合った職位への降格,一定期間内に業績改善が見られなかった場合の解雇の可能性をより具体的に伝えた上での業績改善の機会の付与などの手段を講じることなく行われた本件解雇③は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であるとは認められないから,権利濫用として無効というべきである。
4  争点(4)(原告らの解雇は不当労働行為に当たるか。)について
(1)  認定事実
前記前提事実に加え,以下に掲記する証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。
ア 本件組合は,昭和34年に結成され,平成元年,a労働組合に加盟し,現在の名称となった(弁論の全趣旨)。
イ 被告は,平成12年ころから,ハードウェア部門の売却を行い,社員数の削減を行ってきた(甲3)。
ウ 被告は,平成19年10月,米国本社のIBM Corporationの直轄管理となった(甲3)。
エ 被告は,平成20年10月から12月まで,RAプログラムを実施し,下位15%に入る社員に対し退職支援金を上乗せした退職勧奨を行い,約1300人が退職した。本件組合に加入することによって退職勧奨が止まる場合もあったため,そのことを理由に本件組合に加入した者もあった。平成21年度の本件組合への新規加入者は60人,平成22年度の本件組合への新規加入者は33人である。(甲3,36)
オ 平成24年7月20日,原告X1に対する本件解雇①が行われ,被告では,これ以降,業績不良を理由とした解雇が複数回行われている。
カ 本件救済命令申立事件について(甲31)
(ア) 本件組合は,平成24年11月5日,被告が本件組合の組合員6名(うち1名は原告X3)に対し同年9月18日から同月20日までに解雇予告等をしたことにつき,同月21日に予定されていた団体交渉の議題に追加するよう求めたにもかかわらず被告がこれを拒否したことが団交拒否の不当労働行為に当たるとして本件救済命令申立事件を申し立てた。
(イ) 都労委は,本件救済命令申立事件について,平成25年8月6日,被告の行為が不当労働行為に当たることを認め,被告に対し文書の掲示及び交付を命じることを決定した。
(ウ) 被告は,平成25年9月10日,上記(イ)の決定を不服として再審査申立てを行った。
(エ) 都労委は,平成26年4月11日,労使双方は,紛争の拡大を招くような行為を控えるなど,格段の配慮を払うよう求める内容が記載された要望書(以下「本件要望書①」という。)を交付した(甲27)。
(オ) 都労委は,同年6月27日,本件要望書①を発したにもかかわらず再度申立人ら(本件組合ら)から審査の実効確保の措置勧告申立てがされるに至ったことは極めて遺憾であり,労使双方は本件要望書①を遵守するとともに被告においても紛争の拡大を招くおそれのある行為を控えるなど,格段の配慮を払われることを強く要望する旨を記載した要望書(以下「本件要望書②」という。)を交付した(甲28)。
(カ) 都労委は,平成27年3月18日,本件要望書①及び本件要望書②を交付したにもかかわらず,その後においても支部組合員に対する退職勧奨や解雇予告等が繰り返し行われるなど,労使関係は不安定化の一途をたどっていると解さざるを得ず,極めて遺憾であるとし,被告において,申立人ら(本件組合ら)の立場を尊重し,円満な集団的労使関係の構築,維持に向け,支部組合員らの解雇等に当たっては,申立人ら(本件組合ら)への協議,説明を十分に行うなど,格段の配慮を払うよう勧告すると記載された勧告書を交付した(甲29)。
(キ) 中央労働委員会は,平成27年6月17日,不当労働行為に当たることを認め,上記(ウ)の再審査申立てを棄却した(甲31)。
キ 本件組合に関する被告従業員の発言
(ア) 原告X3の所属長であったA22は,平成23年,原告X3に対し,組合に入っていると評価は低いと述べた(甲C22,原告X3)。
(この点について証人A22はこのような発言をしていない旨証言するが,本件解雇③がされる1年以上前の平成23年5月19日の時点において原告X3が診察を受けたカルテに,上記のような発言に関する記載があることからすると,同原告の供述は信用でき,これに反する証人A22の上記証言は採用できない。)
(イ) A11の所属長であったA27は,平成23年12月13日のPBC面談の際,A11に対し,言いにくいがA11が労働組合に入ったので異動が困難になる旨を述べた(甲37,43)。
(ウ) A11の所属長であったA28は,平成25年1月7日のPBC面談の際,A11に対し,組合に入るとある意味腫れ物になってしまい,人ではなく立場で見られるようになる旨を述べた(甲38)。
(エ) A11の上長であったA29は,平成25年3月22日の面談の際,組合は好きではない旨及びその理由はやり方が間違っていると思うからである旨述べた(甲39)。
ク 被告の資料における組合の位置付けに関する記載
(ア) 被告がRAプログラムに向けて作成した平成20年10月20日付け資料には,センシティブな社員としてメンタルの社員と組合に属する社員を挙げている。組合に属する社員への対応としては,退職強要ととられるような行為は避けること,組合を通すよう要求された場合は人事に報告するが,面談の中断は不要であること,他の組合員が介入しようとする場合は他者の介入は断固拒否し,人事に報告すること,退職しない意思が固いことが確認された場合は,それ以上のアプローチは不要であることが記載されている。(甲23)
(イ) 被告人事部門が平成22年6月に作成した内部資料には,本件組合の組合員についての記載があり,平成20年1月から平成21年10月までの毎月の組合員数が棒グラフで示され,平成20年第4四半期のRAプログラムにより25人の従業員が組合に加入した旨記載されている(甲16)。
ケ RAプログラムと解雇予告の状況に関する原告らの上司の供述
(ア) 原告X3の所属長であったA22は,RAプログラムを年1回程度行い,通算10人程度と面談をしたが,RAプログラムを受け入れて退職したのは1名だけであり,それ以外は退職を断っており,断った者のうち同原告のみが解雇予告された旨証言する(証人A22)。
(イ) 原告X1の所属長であったA6は,平成24年のRAプログラムにおいて原告X1を含む4名と面談し,そのうち2名が自主退職し,2名(同原告と非組合員)は退職を断ったこと,断った2名のうち同原告は解雇されたが,非組合員であるもう1名は解雇されていない旨証言する(証人A6)。
(ウ) A30の所属長であったA31は,RAプログラムを通算4,5人に実施し,そのうち1名が自主退職し,残りは退職を断ったが,断った者のうちA30のみが解雇された旨供述する(甲42)。
(エ) A30の上長であったA32は,部下であった組合員3名がRAプログラム又は解雇予告に基づき退職し,所管する部署に組合員はいなくなった旨供述する(甲41)。
コ 原告らに対する解雇予告がされる経緯に関する原告らの上司の供述
(ア) 原告X3の所属長であったA22は,同原告が解雇予告される2,3週間前に複数年PBCが「3」以下の複数名の名前を挙げて人事部からインタビューを受けたが,その中に同原告が含まれていたこと,このインタビューの趣旨は勤務状況,勤務実績などに関するヒアリングと理解しており,被解雇者の選定をしているとは理解していなかったこと,複数名の名前が挙げられた中で同原告が被解雇者となった理由は分からないこと,同原告が解雇予告の対象となったのを知ったのは解雇予告の数日前であったことなどを証言する(証人A22)。
(イ) 原告X2の所属長であったA17は,同原告の業績については人事に適切に報告していたこと,同原告は平成24年9月18日に解雇予告されているが,解雇予告の対象となったのを知ったのは同月初め頃であったこと,解雇予告を知らされたのはA17の意見を聴く趣旨も含まれていたと考えられること,A17から人事部に対し解雇予告の候補者をリストアップしたことはないことを証言する(証人A17)。
(ウ) 原告X1の所属長であったA6は,同原告を解雇する旨の決定にもRAプログラムの対象者の決定にも関わっていないこと,業績の悪かった人についての情報提供はしたことを証言する(証人A6)。
(エ) A11の所属長であったA2は,平成20年11月にA11がRAプログラムの対象になったことを知らず,対象者選定には関わっていないことなどを供述する(甲44)。
(オ) A11の所属長であったA27は,A11の業績については人事部に何度も話をしていたこと,A11を解雇することについては当時ラインマネージャーではないので意見を聴かれていないことを供述する(甲43)。
(カ) A30の所属長であったA31は,平成25年初め頃,人事部とA30の日常業務に関するヒアリングがあったこと,同年3月28日にA30と面談を実施しPIPを実施しようとしたが署名を拒否されたこと,同年4月1日から同年6月30日までPIPに代わる面談を月1回行うこととしたこと,A30に対する解雇予告の2,3週間前に解雇予告することを初めて知ったこと,PIPに代わる初回の面談予定であった同年5月30日に解雇予告が行われたことなどを供述する(甲42)。
(キ) A30の上長であったA32は,平成25年3月下旬頃,A31と相談してA30が解雇に値すると人事に具申したが,解雇を決めたのは自分ではないこと,人事部からA30を解雇するように言われたわけではないこと,同年4月下旬頃人事部から解雇の連絡があり,そのことを同年5月上旬頃A31に伝えたことなどを供述する(甲41)。
(2)  原告らは,原告らに対する解雇が本件組合の弱体化を狙って組合員を狙い撃ちして行われたものであると主張するが,次のとおり,組合差別によるものとは認められない。
ア 原告らは,被告における本件組合の組織率に比して,被解雇予告者に占める組合員の比率が高いと主張する。しかし,原告らのPBC評価などからしても,単年度のみではなく複数年PBC評価が3以下であり,業績不良が続いている者を解雇予告の対象にしたものと認められること,業績不良によりRAプログラムの対象となってから本件組合に加入した者も存在することからすると,業績不良により解雇予告の対象となり得る者の比率は,被告全社員中の比率と比較して,本件組合員中の比率は高くなっていたと推測されるので,両者を直接比較するのは適当ではないというべきである。また,解雇予告を受けたのは組合員ばかりではなく,非組合員も一定数存在しており,組合員のみが解雇予告を受けたとは認められない。したがって,解雇予告をされた者に占める組合員の比率から,本件組合を差別的に解雇予告したとは認められない。
イ 原告らは,RAプログラムの対象となった者のうち解雇予告をされたのは本件組合の組合員がほとんどであるかのように主張するが,被告の開示した情報(甲24,26)を整理すると,別紙1「解雇・退職者の割合」のとおりとなり,RAプログラムの対象となって解雇予告を受けた非組合員も存在する。また,上記別紙1のとおり,非組合員の中にはRAプログラムの対象となったことで自主退職した者も多いのであり,RAプログラムの対象となった者のうち自主退職又は解雇予告された者を合わせた割合でみると,組合員が非組合員よりも高い割合で自主退職又は解雇予告されたとは認められない。
ウ 被告の内部資料において組合員をセンシティブな職員として記載していることは認められるが,その中には組合員を狙って退職させるように仕向けるなどの内容は見当たらず,むしろ,そのように誤解されないようにするため,RAプログラム実施に当たってどのように対応すべきかを記載しているにすぎず,不当なものとはいえない。また,別の資料ではRAプログラム後組合員が増加したことが分析されているが,組合員の増加を悪く評価したり,その対策を講じようとたりするものとは認められない。したがって,これらをもって本件組合に対する差別的な意図は認められない。
エ 被告には本件組合に対する嫌悪感があるとして,原告らの上司らも否定的な発言をしていると主張する。確かに,A22は組合に入っていると評価は低いと述べ,A27は組合員は異動が困難であると述べるなど,本件組合に対する否定的な評価の発言をする者が存在するものと認められる。しかし,こうした発言があるからといって原告らに対する解雇の判断に直接つながるような内容の発言とはいえず,また,これらの発言をしている者は,いずれも解雇の対象となった者に対する業績評価はしたものの,解雇の判断には関わっていない旨供述しているのであるから,組合員であることを理由に解雇の対象としたことの裏付けになるとは認めるに足りない。
オ 解雇を決めたのが所属部署ではなく人事部であるということについては,所属部署から人事部に業績の報告はされているものと推認でき,その程度が解雇理由として十分であるかどうかはともかく,原告らそれぞれについて業績不良とみる余地のある事情が認められるから,人事部が解雇の判断をしたことをもって組合員であることを理由に解雇したことの根拠になるとは認められない。
(3)  よって,組合差別による不当労働行為であるとは認められず,不当労働行為であることを理由とする不法行為の成立は認められない。
5  争点(5)(解雇態様の違法性)について
原告らは,解雇態様の違法性を主張するので,これまでの認定事実を踏まえて検討する。
(1)  解雇予告と共に職場から退去させられ出社を禁止されたことについては,被告が情報システムに関わる業務を行う企業であり,原告らの職場でも自社及び顧客の機密情報が扱われていると推認できるところ,一般的には,解雇予告をして対立状態となった当事者が機密情報を漏えいするおそれがあり,しかも,漏えいが一旦生ずると被害の回復が困難であることからすると,上記の措置に違法性があるとはいえない。
(2)  解雇予告時に,具体的な解雇事由を明記せず解雇を伝えるとともに,原告X2及び原告X3に対しては短い期間内に自主退職をすれば退職の条件を上乗せするという提示をしたことについては,実体要件を満たしている限り本来は解雇予告をするまでもなく即日解雇することも適法であること,使用者に解雇理由証明書を交付する義務があるとしても解雇の意思表示の時点で解雇理由の具体的な詳細を伝えることまでは要求されていないこと,期間内に自主退職をすれば退職の条件を上乗せするという提示はそれがない場合と比較して労働者にとって不利益な扱いともいえないことからすると,違法性があるとはいえない。
(3)  したがって,原告らに対する解雇の態様が違法であるとはいえず,これを理由とする不法行為の成立は認められない。そして,本件では,解雇自体は権利濫用に当たり無効であるが,原告らにつきそれぞれ解雇理由とされた業績不良はある程度認められること,解雇時に遡って相当額の給与等の支払がされることにより,解雇による精神的苦痛は相当程度慰謝されるものとみるべきことなども考慮すると,解雇による不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。
6  争点(6)(原告らの請求額)
(1)  以上のとおり,原告らに対する解雇は無効であるから,労働契約に基づきそれぞれの解雇前と同額の賃金債権を有すると認められ,次のとおりとなる。
ア 原告X1の賃金は月額41万9400円であること,当月末日締め当月24日払いであること,平成24年7月24日に36万2612円,同月26日に43万4126円が支払われたことは当事者間に争いがない。平成24年7月分及び8月分の賃金は合計83万8800円であり,解雇予告手当も賃金としての支払とすると,同年8月分が4万2062円未払となり,同年9月分からは月額41万9400円となる。
イ 原告X2の賃金は月額35万1400円であること,当月末日締め当月24日払いであること,平成24年9月24日に25万8998円,同月26日に36万9047円が支払われたことは当事者間に争いがない。平成24年9月分及び10月分の賃金は合計70万2800円であり,解雇予告手当も賃金としての支払とすると,同年10月分が7万4755円未払となり,同年11月分からは月額35万1400円となる。
ウ 原告X3の賃金は月額49万3700円であること,当月末日締め当月24日払いであること,平成24年9月24日に30万1611円,同月26日に49万9187円が支払われたことは当事者間に争いがない。平成24年9月分及び10月分の賃金は合計98万7400円であり,解雇予告手当も賃金としての支払とすると,同年10月分が18万6602円未払となり,同年11月分からは月額49万3700円となる。
(2)  被告における賞与については,給与規程(乙1)によると,毎年6月10日と12月10日に賞与を支給するものとし,社員の職務内容,バンド,業績評価,執務態度及び本給を総合勘案して,賞与基準額を定めるものとし,さらに,賞与基準額,バンド,出勤率,前年1月1日から前年12月末日までの期間の会社業績及び個人業績を勘案して,毎期会社が賞与支給額を定めるものとしている。こうした定めによれば,業績評価等の過程で被告の裁量により支給額を変動させる余地はあるものの,賞与の支給自体は原則的な契約内容を成しているものと解される。また,被告は賞与支給額の算定式について,詳細な定めを置いていることが認められものの(甲34の1から4まで),原告らの賞与をそれぞれの解雇直近の支給額よりも減額すべき事情は見当たらないから,解雇直近の支給額と同額の賞与請求権を認めるのが相当である。
被告において,社内の確定拠出年金に加入していない者については,その拠出額相当分(以下「DC拠出額相当分」という。)を賞与とともに支払うべきものとされており,原告X1及び原告X2が上記年金に加入していないことについては当事者間に争いがないため,上記原告2名はDC拠出額相当分を賞与とともに請求する権利を有する。
原告X1の平成24年6月の賞与支給額は18万2220円,DC拠出額相当分は22万5516円。同年12月の賞与支給額は55万9480円,DC拠出額相当分は22万5516円,原告X2の平成24年6月分及び同年12月分の賞与支給額はいずれも60万8340円,DC拠出額相当分は18万8076円,原告X3の平成24年6月分及び同年12月分賞与支給額はいずれも79万2480円であることは当事者間に争いがない。したがって,原告らは,それぞれ平成24年12月から毎年6月10日及び毎年12月10日限り,それぞれの平成24年分の賞与支給額及びDC拠出額相当分と同額の請求権を有する。
(3)  原告らの賃金,賞与及びDC拠出額相当分の支払を求める訴えのうち,本判決確定後の支払を求める部分については,「あらかじめその請求をする必要がある場合」(民事訴訟法135条)に当たるとは認められないから,不適法でありこれらを却下する。
(4)  不法行為に基づく慰謝料及び弁護士費用の請求は認められない。
(5)  まとめ
ア 原告X1
(ア) 原告X1は,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位確認請求権が認められる。
(イ) 原告X1は,被告に対し,賃金として平成24年8月24日限り4万2062円及び同年9月から本判決確定の日まで毎月24日限り41万9400円並びに各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の請求権を有する(別紙金銭請求認容額等一覧表記載1(1),(2)及び(5))。
(ウ) 原告X1は,被告に対し,賞与及びDC拠出額相当額として平成24年12月から本判決確定の日まで毎年6月10日限り40万7736円及び毎年12月10日限り78万4996円並びにこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の請求権を有する(別紙金銭請求認容額等一覧表記載1(3)から(5)まで)。
イ 原告X2
(ア) 原告X2は,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位確認請求権が認められる。
(イ) 原告X2は,被告に対し,賃金として平成24年10月24日限り7万4755円及び同年11月から本判決確定の日まで毎月24日限り35万1400円並びに各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の請求権を有する(別紙金銭請求認容額等一覧表記載2(1),(2)及び(5))。
(ウ) 原告X2は,被告に対し,賞与及びDC拠出額相当額として平成24年12月から本判決確定の日まで毎年6月10日限り79万6416円及び毎年12月10日限り79万6416円並びにこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の請求権を有する(別紙金銭請求認容額等一覧表記載2(3)から(5)まで)。
ウ 原告X3
(ア) 原告X3は,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位確認請求権が認められる。
(イ) 原告X3は,被告に対し,賃金として平成24年10月24日限り18万6602円及び同年11月から本判決確定の日まで毎月24日限り49万3700円並びに各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の請求権を有する(別紙金銭請求認容額等一覧表記載3(1),(2)及び(5))。
(ウ) 原告X3は,被告に対し,賞与として平成24年12月から本判決確定の日まで毎年6月10日限り79万2480円及び毎年12月10日限り79万2480円並びにこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の請求権を有する(別紙金銭請求認容額等一覧表記載3(3)から(5)まで)。
エ 原告らの訴えのうち,被告に対して本判決の確定後の賃金,賞与及びDC拠出額相当分の支払を求める部分はいずれも不適法である。
オ その余の請求はいずれも理由がない。なお,遅延損害金の請求は,支払期日の翌日から認められる。
第4  結論
以上によれば,原告らの請求は主文1項から3項までに掲記した限度で理由があるから認容し,本判決確定後の金銭支払に係る将来請求部分に係る訴えは却下し,その余の請求部分を棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 吉田徹 裁判官 遠藤東路 裁判官 佐久間隆)

 

別紙
当事者目録
東京都杉並区〈以下省略〉
原告 X1
神奈川県綾瀬市〈以下省略〉
原告 X2
東京都町田市〈以下省略〉
原告 X3
原告ら訴訟代理人弁護士 大熊政一
同 山内一浩
同 並木陽介
同 細永貴子
同 水口洋介
同 今泉義竜
同 本田伊孝
同 穂積剛
同 岡田尚
同 小池拓也
同 河村洋
同 橋本佳代子
同 中野真
同 山田守彦
同 西山寛
同 河村学
同 喜田崇之
同 上出恭子
同 穂積匡史
同 竹村和也
原告ら訴訟復代理人弁護士 笠置裕亮
同 海渡双葉
同 岩井知大
同 石畑晶彦
同 永田亮
東京都中央区〈以下省略〉
被告 Y株式会社
同代表者代表取締役 A1
被告訴訟代理人弁護士 松岡政博
同 宮島和生
同 中村慶彦
同 勝又美智子
同 海老沢宏行
同 井上聡

〈以下省略〉

 

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