判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(289)平成20年 5月14日 東京地裁 平19(ワ)2549号 報酬金請求事件
判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(289)平成20年 5月14日 東京地裁 平19(ワ)2549号 報酬金請求事件
裁判年月日 平成20年 5月14日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平19(ワ)2549号
事件名 報酬金請求事件
裁判結果 認容 文献番号 2008WLJPCA05148004
要旨
◆被告らとの間でM&A取引に関するアドバイスを行うことを主たる内容とするアドバイザリー契約を締結した原告が、契約終了後にM&A取引が成立した場合であっても成功報酬が支払われる旨の特約に基づいて、被告らに対して成功報酬の連帯支払を求めた事案について、本件においては、特約に定められた、原告が契約有効期間中に本件M&A取引に関して接触した企業と被告らとの間で契約終了後12か月以内にM&A取引が成立したものと認められ、本件特約の適用には、原告の接触行為とM&A取引との間の因果関係は不要であって、被告らは商法503条1項、511条1項によって連帯債務を負うとして、請求を認容した事例
参照条文
商法503条1項
商法511条1項
裁判年月日 平成20年 5月14日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平19(ワ)2549号
事件名 報酬金請求事件
裁判結果 認容 文献番号 2008WLJPCA05148004
東京都世田谷区〈以下省略〉
原告 株式会社ジェイ・ティ・ピー
上記代表者代表取締役 A
上記訴訟代理人弁護士 中川武洋
同 熊谷健太
東京都千代田区〈以下省略〉
被告 投資事業有限責任組合アドバンテッジパートナーズ
エム・ビー・アイファンド二号
上記代表者無限責任組合員 株式会社エイ・ピー・エム
上記代表者代表取締役 B
同所
被告 アドバンテッジパートナーズ投資組合八号
上記代表者清算人 アドバンテッジパートナーズ有限責任事業組合
上記代表者組合員 B
同所
被告 アドバンテッジパートナーズ投資組合八号-B
上記代表者清算人 アドバンテッジパートナーズ有限責任事業組合
上記代表者組合員 B
同所
被告 アドバンテッジパートナーズ有限責任事業組合
上記代表者組合員 B
被告ら訴訟代理人弁護士 飯村北
同 杉原光俊
主文
1 被告らは,原告に対し,連帯して1763万9940円及びこれに対する平成18年12月19日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 この判決は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
本件は,被告アドバンテッジパートナーズ有限責任事業組合(以下「被告有限責任事業組合」という。)を除く被告ら(以下「被告ファンド」という。)との間でM&A取引に関するアドバイスを行うことを主たる内容とするアドバイザリー契約を締結した原告が,同契約の有効期間終了後であっても12か月以内にM&A取引が成立した場合には成功報酬を支払う旨の特約に基づいて,被告ファンド及び被告ファンドのうち一部(民法上の組合)の業務執行組合員であった被告有限責任事業組合に対し,連帯して成功報酬の支払を請求している事案である。これに対し,被告らは,上記特約の不適用等を主張して,その支払を拒んでいる。
1 前提事実(すべて当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告は,資産の管理及び運用に関するコンサルティング業務等を目的とする株式会社である。
イ 被告投資事業有限責任組合アドバンテッジパートナーズエム・ビー・アイファンド二号(以下「被告ファンド二号」という。)は,投資事業有限責任組合契約に関する法律に基づく投資事業有限責任組合である。
被告アドバンテッジパートナーズ投資組合八号(以下「被告投資組合八号」という。)及び被告アドバンテッジパートナーズ投資組合八号-B(以下「被告投資組合八号-B」という。被告ファンド二号,被告投資組合八号及び被告投資組合八号-Bを「被告ファンド」と総称することは上記のとおりである。)は,いずれも民法上の組合であり,その業務執行の決定及び業務執行は業務執行組合員である被告有限責任事業組合が行っていた。なお,被告投資組合八号及び被告投資組合八号-Bの業務執行組合員は,平成17年10月3日までは株式会社アドバンテッジパートナーズであったが,同日をもって被告有限責任事業組合がその地位を承継した。
被告有限責任事業組合は,有限責任事業組合契約に関する法律に基づく有限責任事業組合である。
(2) アドバイザリー契約の締結
原告と被告ファンドは,平成17年8月1日,原告が被告ファンドに対してM&A取引に関するアドバイスを行い,被告ファンドが原告に対して報酬を支払うことを主たる内容とするアドバイザリー契約(以下「本件契約」という。)を締結した。本件契約の主な内容は,次のとおりである。
ア 原告が行う業務の内容(本件契約1条)
原告は,下記イのM&A取引に関して,被告ファンドの株式価値の最大化を目的としたアドバイスを行い,株式価値の最適案を被告ファンドに提示すべく努力する。
イ M&A取引の対象(本件契約1条)
原告が被告ファンドに対して行うアドバイスの対象であるM&A取引は,被告ファンドが保有する,株式会社キーポートソリューションズ,同社の子会社である株式会社オーディーケイ情報システム及び株式会社エス・クルーを含むeコンパスグループ(以下「対象会社」という。)の株式の売却等の取引(以下「本件M&A取引」という。)である。
ウ 報酬(本件契約4条)
本件契約の有効期間中,被告ファンドは,原告に対し,リテイナーフィーとして毎月100万円(消費税は別途)を支払う。
本件契約の有効期間中に本件M&A取引が成立した場合には,被告ファンドは,原告に対し,当該取引の対価の払込時から10営業日以内に成功報酬を支払う。本件M&A取引が対象会社の株式の一括売却等対象会社の包括的な売却という形態をとる単一の取引であった場合の成功報酬の金額は,被告ファンドが売却する分に対して支払われる取引対価の総額に下記の料率を適用した金額とする。
(料率)12.5億円以下の部分の取引対価については1.6%
12.5億円を上回る部分の取引対価については15.0%
エ 有効期間(本件契約9条)
本件契約の有効期間は4か月間とするが,いずれかの当事者から解除の意思表示がない限り,1か月ごとに自動更新する。
オ 特約(本件契約10条。以下「本件特約」という。)
本件契約の有効期間終了のときから12か月以内に,被告ファンド若しくは対象会社(又は持株会社を含む)が,原告が本件契約の有効期間中に対象会社(又は持株会社を含む)の社名を開示したかしなかったかは問わず,何らかの形で本件M&A取引に関して接触したいずれかの企業との間においてM&A取引に関する契約を締結した場合,本件契約の有効期間中に同契約が締結されたものとみなし,被告ファンドは原告に対し,本件契約4条所定の成功報酬を支払うものとする。(原告が接触する企業に関しては,原告によるコンタクト開始時に被告ファンドの許可を得た先に限定するものとする。また,対象企業には,本件契約の有効期間中に被告ファンドに直接対象会社(又は持株会社を含む)の買収の打診をしてきた先も含めるものとする。)ただし,原告の責に帰すべき理由により本件契約が解除された場合にはこの限りではない。
(3) 株式会社インテックへの接触
原告は,平成17年9月初めころ,被告ファンドの許可を得て,買手候補者として株式会社インテック(以下「インテック」という。)に接触し,本件M&A取引に興味がないかどうかを打診した。その際,原告は,同月13日,インテックにおいて営業企画本部新規事業企画担当の地位にあったCに本件M&A取引に関する「投資案件のご案内」と題する書面及び秘密保持契約書の案文を電子メールで送付した。また,原告は,同月21日にCに電話をかけ,現在検討中である旨の回答を得た。その後,原告は,同年10月上旬ころ,Cから本件M&A取引について現状では興味がない旨の連絡を受けた。
(4) 本件契約の有効期間の終了
本件M&A取引に興味を示した買手候補者数社において対象会社に対するデューデリジェンスが実施されるなど本件M&A取引に関する交渉は進展をみせたが,結果的には,いずれの買手候補者との間でも契約条件で折り合いがつかず,本件M&A取引の成立には至らなかった。被告ファンドは,平成17年12月中旬ころ,原告に対し,同月末日で本件M&A取引の検討を中断する旨の連絡をして,同日をもって本件契約の有効期間が終了した。原告は,被告ファンドから同月分までのリテイナーフィーの支払を受けた。
(5) 株式会社インテックホールディングスとのM&A取引の成立
被告ファンドは,平成18年12月4日,株式会社インテックホールディングス(以下「インテックホールディングス」という。)との間で,被告ファンドが保有していた対象会社の株式を譲渡する旨の契約(以下「本件株式譲渡契約」という。)を締結した。
上記契約により被告ファンドに支払われた取引対価は,合計10億4999万6448円(被告ファンド二号については10億0830万4360円,被告投資組合八号については2272万4872円,被告投資組合八号-Bについては1896万7216円)であった。
なお,インテックホールディングスは,同年10月2日に,インテックとインテック・ウェブ・アンド・ゲノム・インフォマティクス株式会社(以下「インテック・ウェブ」という。)が株式移転(以下「本件株式移転」という。)により設立した持株会社である。
(6) 原告は,平成18年12月14日,被告ファンドに対し,本件契約に基づいて1763万9940円(上記(5)の取引対価合計10億4999万6448円の1.6%である1679万9943円に消費税83万9997円を加えた金額)の成功報酬の支払を請求したが,被告ファンドないし被告有限責任事業組合は,その支払を行わない。
2 争点
(1) インテックホールディングスが,本件特約にいう「本件M&A取引に関して接触したいずれかの企業」に該当するか否か
(原告の主張)
ア 「接触したいずれかの企業」の射程範囲
M&A取引において,契約当事者はM&A取引のスキームに左右され,取引を進めるに当たって接触する者と,最終的な契約当事者とは必ずしも一致しない。最終的な契約当事者は買手側の組織内で検討されるべきものであって,最初の接触の時点で最終的な契約当事者を見定めることは不可能であるし,その必要性もない。
したがって,M&A取引を進めるに当たって最も適した対象に話を持ち掛けることが本件契約で予定された接触行為であり,ある会社に接触した場合,当該会社のグループ企業又は当該会社が関与して将来設立する会社等,当該会社に接触することにより本件M&A取引の契約当事者となることが検討又は想定され得る関係にある者は,「本件M&A取引に関して接触したいずれかの企業」に該当すると解すべきである。
イ 「接触したいずれかの企業」に該当すること
インテックは,インテックグループの中核的企業であり,本件M&A取引の相手方を探すという意味では,インテックに接触することが最も効率的かつ適切であった。そして,インテックホールディングスは,本件契約の有効期間終了後にインテックが本件株式移転によって設立したインテックの純粋持株会社であり,それまでインテックが有していたインテックグループにおけるM&A取引に関する機能をインテックから引き継いだ者である。
こうした事情に照らせば,インテックホールディングスは,本件特約にいう原告が「本件M&A取引に関して接触したいずれかの企業」に該当するというべきである。
(被告らの主張)
ア 「接触したいずれかの企業」に該当しないこと
原告は,インテックホールディングスに対し,本件契約に基づく接触行為を一切行っていないから,同社と法人格を異にするインテックに対する接触行為をもって本件特約に該当するという原告の主張は理由がない。
本件契約には,原告の接触した会社が株式移転により新会社を設立した場合において,当該新会社を原告の接触した企業とみなす旨の規定は存在しない。
イ 原告の主張が法的解釈としての妥当性を欠くこと
本件特約のように契約終了後も一方当事者に契約の拘束を及ぼす規定は,拘束を受ける一方当事者の利益を不当に害することのないよう,厳格かつ限定的に解釈されるべきである。
インテックホールディングスは,本件M&A取引と全く無関係にインテックとインテック・ウェブとの共同株式移転によって設立された法人であり,被告らは本件株式移転には一切関与していない。また,インテックホールディングスが本件株式譲渡契約を締結したのは,アビームM&Aコンサルティング株式会社(以下「アビーム」という。)の紹介によるものであり,インテックホールディングスは,原告がインテックに接触した事実を知らずに本件株式譲渡契約を締結している。さらに,原告のインテックに対する接触行為は,Cに対して電子メールを送信し,電話をかけたのみであって,インテックホールディングスによる本件株式譲渡契約の締結に何ら因果を及ぼしていない。
したがって,本件においてインテックホールディングスの法人格の独立性が否定され,原告のインテックに対する接触行為がインテックホールディングスに対する接触行為と同視される理由はない。
ウ 原告の主張が本件特約の文理に反すること
「企業」という概念は,一定の計画に基づき,継続的意図をもって独立の組織により営利行為を実現する主体を意味し,独立性をその重要な要素としているところ,本件特約における「本件M&A取引に関して接触したいずれかの企業」という文言にグループ企業等が含まれるという原告の主張は,法人格の独立性を考慮しない点で不合理である。
なお,本件契約において「会社」等の法人格を前提とした文言が用いられなかったのは,M&A取引の当事者となる者の中には「会社」とはいえない企業があるからにすぎず,法人格の独立性を否定する趣旨でないことは明らかである。
エ 原告の主張が本件契約の他の文言と整合しないこと
本件契約において「企業」とは別に「グループ企業」という文言が規定されているし,本件特約においても「対象会社(又は持株会社を含む)」と注記されているのであるから,「本件M&A取引に関して接触したいずれかの企業」という文言にグループ企業等が含まれるのであれば,その旨が明示されていてしかるべきであるところ,このような注記はされていない。
(2) 原告の接触行為とM&A取引との間の因果関係の要否
(被告らの主張)
ア 本件契約における成功報酬の性格
本件契約の報酬体系が成功報酬とリテイナーフィーから構成され,リテイナーフィーが月額100万円と本件契約に関する原告の日々の業務の対価として十分な金額であったこと,成功報酬支払請求権が本件M&A取引の成立によって初めて発生する仕組みになっていることに照らせば,本件契約における成功報酬が本件M&A取引の成立に向けたインセンティブを原告に与える趣旨であったことは明らかである。
原告は,インテックのCに対して電子メールを送信し,電話をかけたほかは何らの行動をとっていないにもかかわらず,本件株式移転によって設立されたインテックホールディングスが原告のインテックへの接触行為とは全く無関係にアビームの紹介により本件株式譲渡契約を締結したことにより,原告が多額の成功報酬を取得できるとするのは不合理である。
イ 本件特約の趣旨
本件特約の趣旨は,被告ファンドが本件契約の有効期間終了後に本件M&A取引を買手側と成立させることにより,原告に対する成功報酬の支払義務を潜脱することを防止する点にあるところ,被告ファンドがインテックホールディングスとの間で本件株式譲渡契約を締結したことは,成功報酬の支払義務の潜脱には当たらない。
ウ 本件特約の適用には因果関係が必要であること
したがって,原告のインテックに対する接触行為と本件株式譲渡契約の成立との間に全く因果関係のない本件に本件特約を適用することは,信義則ないし権利濫用法理に照らして許されないというべきである。
(原告の主張)
ア 本件特約の適用に因果関係が不要であること
本件特約の文言上,原告の接触行為により本件M&A取引に関する契約が締結されたという因果関係を読み取ることはできない。
本件特約は,「原告が本件契約の有効期間中に対象会社(又は持株会社を含む)の社名を開示したかしなかったかは問わず」,「対象企業には,本件契約の有効期間中に被告ファンドに直接対象会社(又は持株会社を含む)の買収の打診をしてきた先も含めるものとする。」と規定しているところ,対象会社の社名を開示しない接触行為と本件契約の有効期間終了後にM&A取引が成立することとの間に因果関係が認められることはあり得ないし,対象企業が被告ファンドに直接買収の打診をしてきた場合に上記因果関係が認められることはあり得ないから,被告らが主張する因果関係は要求されていない。
イ 本件契約における成功報酬の性格
本件契約に「原告は,被告ファンドの株式価値の最大化を目的としたアドバイスを行い,株式価値の最適案を被告ファンドに提示すべく努力する。」旨規定されていることからも明らかなとおり,本件契約において原告が提供する業務は,単なる買手の紹介業務や仲介業務ではなく,本件M&A取引のための目論見書の作成,複雑なストラクチャーの検討,買手候補者によるデューデリジェンスの対応等を含んだ,顧客の利益を最大化するための総合的なアドバイザリー業務である。
本件契約における成功報酬が本件M&A取引の成立を条件に支払われるのは,取引が成立しなければ委託者の利益が現在化しないからにすぎず,成功報酬は,それまでのアドバイザリー業務全体の対価という性格を有するというべきである。
ウ 本件特約の趣旨
本件特約の趣旨は,被告らが主張するような成功報酬の潜脱防止に限定されるものではなく,本件M&A取引が成立せずに本件契約の有効期間が終了した場合であっても,その後一定期間内に案件が再燃した場合には,他のアドバイザーに依頼すれば成功報酬の二重払いになる可能性があるという事実上の強制力により,再び原告にアドバイザリー契約の依頼が来ることを期待する意味がある。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(インテックホールディングスが,本件特約にいう「本件M&A取引に関して接触したいずれかの企業」に該当するか否か)について
(1) 後掲各証拠によれば,以下の各事実を認めることができる。
ア M&A取引の慣行(甲12,乙1,原告代表者本人)
M&A取引においては,買手候補者が子会社やSPCを設立してM&A取引に関する契約を締結させる場合があるように,最終的に契約の当事者がどの法人となるかは個々のM&A取引のスキームに左右されるため,アドバイザーが買手候補者として接触する者と,最終的な契約当事者とは必ずしも一致しない。
M&A取引の買手候補者の選定においては,秘密保持が重視されるため,買手候補者がグループ企業を形成している場合には,アドバイザーとしては,グループ企業のうちどの法人のどの部署に接触するのが最も効率的かを検討した上,グループ企業の中核的位置にある法人の中のM&A取引を検討する部署に接触することが多い。アドバイザーがグループ企業に属する法人すべてに接触することは,秘密保持の面からも効率性・迅速性の面からも現実的ではなく,顧客の望むところではない。
このようにして買手候補者として接触を受けた部署は,M&A取引に関する情報をグループ企業の中で当該取引に利害関係の大きい法人に伝え,グループ企業内において買手になるか否かの検討が進められる。最終的にどの法人をM&A取引に関する契約の当事者とするかは,主として買手候補者たるグループ企業内で検討されるべき問題であり,交渉が進んだ段階で,接触を受けた部署が,グループ企業の中で契約当事者としてふさわしい法人をアドバイザーに伝えることが多い。
イ インテックとインテックホールディングスとの関係(甲10の1ないし3,甲12,乙2)
原告がインテックに接触した平成17年9月当時,インテックは,十数社をもって構成するインテックグループの中核的企業であり,インテックグループに係るM&A取引に関する検討を行う役割は,主としてインテックが担っていた。
インテックホールディングスは,平成18年10月2日にインテックと同社が発行済株式の63.21%を所有するインテック・ウェブが本件株式移転によって設立したインテックグループの純粋持株会社である。インテックホールディングスの設立により,インテックグループに係るM&A取引に関する検討を行う役割は,主としてインテックホールディングスが担うに至った。
ウ 本件株式譲渡契約に至る経緯(原告代表者本人,弁論の全趣旨)
アビームは,対象会社とのビジネス上の交流の中で被告ファンドが対象会社を売却する可能性があることを知り,被告ファンドのM&A取引に関するアドバイザーに就任し,平成18年8月ころ,設立予定だったインテックホールディングスを買手候補者として被告ファンドに提案した。被告ファンドは,インテックホールディングスが設立されるまでの間はインテックのDを買手候補者側の担当者としてデューデリジェンス等の手続を進め,同年10月2日にインテックホールディングスが設立された後は,インテックからインテックホールディングスへと転籍したDとの間で交渉を継続し,同年12月4日に本件株式譲渡契約を締結するに至った。
(2) 上記(1)の認定事実に基づいて本争点について検討する。
原告は,本件契約の有効期間中に,M&A取引の慣行に従い,被告ファンドの許可を得てインテックグループの中核的企業であって同グループに係るM&A取引の交渉相手として適切かつ効率的というべきインテックに買手候補者として接触したが,本件M&A取引が成立することなく本件契約の有効期間が終了し,その後被告ファンドにおいてアビームの紹介を契機にインテックのDを買手候補者側の担当者として本件M&A取引に向けた交渉が行われるに至り,最終的にはインテックがインテックグループの純粋持株会社として設立したインテックホールディングスが本件株式譲渡契約の当事者となったという本件における一連の事実経過に,原告が本件契約の有効期間中にいまだ設立されていなかったインテックホールディングスに接触することはそもそも不可能であったこと及び上記(1)アで認定したM&A取引の慣行を考え併せると,インテックホールディングスは,信義則(民法1条2項,本件契約8条)に照らして,本件特約にいう原告が「本件M&A取引に関して接触したいずれかの企業」に該当すると認めるのが相当である。
(3)ア これに対し,被告らは,本件特約のように契約終了後も一方当事者に契約の拘束を及ぼす規定は,拘束を受ける一方当事者の利益を不当に害することのないよう,厳格かつ限定的に解釈されるべきであると主張する。
しかし,被告ファンドは,本件契約の有効期間終了後も12か月間という比較的短い期間に限っては本件契約の拘束力が及ぶ旨の本件特約を設けることに自らの意思で同意したのであるから,上記期間中は本件特約に沿った拘束を受けることもやむを得ないというべきであって,本件特約を特別厳格に解釈すべき理由はないし,上記(1)で認定した本件における一連の事実経過に照らせば,インテックホールディングスが信義則上「本件M&A取引に関して接触したいずれかの企業」に該当すると認めたとしても,被告ファンドを不当に害する結果となるとはいい難いし,本件特約の射程範囲が不当に広がるともいえない。本件特約の解釈に当たっては,本件契約の目的,M&A取引の慣習,信義則等に従って本件契約の当事者の意思を合理的に解釈すべきである。
イ 次に,被告らは,インテックホールディングスは本件M&A取引と全く無関係に本件株式移転によって設立された法人であり,被告らは本件株式移転には一切関与していないと主張する。
しかし,インテックホールディングスが本件M&A取引のためだけに設立された法人ではないとしても,被告ファンドがインテックのDを買手候補者側の担当者として本件M&A取引に向けた手続を進め,その後にインテックが中心となってインテックホールディングスを設立し,同社に移籍したDが中心的役割を果たして本件株式譲渡契約が成立したという経緯に照らせば,本件特約の解釈に当たって,信義則上原告のインテックへの接触行為をインテックホールディングスへの接触行為と同視したとしても,不当とはいえない。
ウ また,被告らは,インテックホールディングスは原告がインテックに接触した事実を知らずにアビームの紹介により本件株式譲渡契約を締結しており,原告のインテックに対する接触行為と本件株式譲渡契約との間には因果関係がないと主張する。
しかし,後記2で述べるとおり,本件特約の適用に当たって原告の接触行為と本件株式譲渡契約との間の因果関係は要求されないから,被告らの上記主張は理由がない。
エ さらに,被告らは,原告の主張が本件特約における「企業」という文言の文理解釈に反すると主張する。
しかし,「企業」という文言は,「会社」や「法人」という概念よりも広い意味で用いられることが多く,「グループ企業」という用語にみられるように,必ずしも法人格の独立性を必須の要素とする概念とは認められないから,被告らの上記主張は採用できない。
オ 加えて,被告らは,本件契約において「グループ企業」や「持株会社」という文言が規定されていることを理由に,原告の主張が本件契約の他の文言と整合しないと主張する。
しかし,当裁判所の判断は,一般的に「本件M&A取引に関して接触したいずれかの企業」の解釈として「グループ企業」や「持株会社」を含むべきというものではなく,本件事案に照らせばインテックホールディングスは信義則上原告が「接触したいずれかの企業」に該当するというものであるから,被告らの上記主張は,当裁判所の判断を左右するものではない。
(4) 以上によれば,インテックホールディングスが本件特約にいう「本件M&A取引に関して接触したいずれかの企業」に該当する旨の原告の主張は理由がある。
2 争点(2)(原告の接触行為とM&A取引との間の因果関係の要否)について
(1) 被告らは,本件契約の有効期間中であるか有効期間終了後12か月間の本件特約の適用期間であるかを問わず,被告ファンドが原告に対して成功報酬の支払義務を負うのは,原告の接触行為とM&A取引との間に因果関係がある場合に限られる旨主張する。
しかし,本件契約の有効期間中の成功報酬の支払義務の発生の要件について,本件契約4条は,「本件M&A取引が成立した場合」と規定しているのみであるし,本件契約の有効期間終了後12か月間における成功報酬の支払義務の発生について,本件特約は,「何らかの形で本件取引に関して接触したいずれかの企業との間においてM&A取引に関する契約を締結した場合,本件契約の有効期間中に同契約が締結されたものとみなし,被告ファンドは原告に対し,本件契約4条所定の成功報酬を支払うものとする。」と規定しているにとどまっており,本件契約の他の規定をみても,原告の接触行為とM&A取引との間に因果関係が要求されていることはうかがわれない。
かえって,本件特約は,「原告が本件契約の有効期間中に対象会社(又は持株会社を含む)の社名を開示したかしなかったかは問わず,何らかの形で」本件M&A取引に関して接触したいずれかの企業との間においてM&A取引に関する契約を締結した場合という規定や,「対象企業には,本件契約の有効期間中に被告ファンドに直接対象会社(又は持株会社を含む)の買収の打診をしてきた先も含めるものとする。」という規定を置いているところ,原告が本件契約の有効期間中に対象会社の社名を開示せずに接触したにすぎない場合や,買手が本件契約の有効期間中に被告ファンドに直接対象会社の買収の打診をしてきた場合には,通常原告の接触行為とM&A取引との間には因果関係が認められないと考えられるから,本件特約は,上記の因果関係を要求していないというべきである。
したがって,本件特約の適用される場合を原告の接触行為とM&A取引との間に因果関係のある場合に限定すべきとの被告らの主張は,理由がない。
(2)ア これに対し,被告らは,本件契約における成功報酬が本件M&A取引の成立に向けたインセンティブを原告に与える趣旨であると主張するが,成功報酬の趣旨が被告らの主張するようなものであるとしても,原告の接触行為とM&A取引との間に因果関係を要求する解釈には直ちに結びつかないというべきである。
イ また,被告らは,インテックホールディングスが原告のインテックへの接触行為とは全く無関係にアビームの紹介により本件株式譲渡契約を締結したことにより,原告が多額の成功報酬を取得できるとするのは不合理であると主張する。
しかし,原告が本件契約の有効期間中に作成した目論見書等の資料(甲11の1・2)や原告が本件契約の有効期間中に被告ファンドに伝えた対象会社の株式の価値についての情報等が,被告ファンドとインテックホールディングスとの間の本件株式譲渡契約の成立に影響を及ぼしていることは容易に推認することができるから,原告が成功報酬を取得できるとしても,不合理とまではいえない。
ウ さらに,被告らは,本件特約の趣旨が,被告ファンドにおいて本件契約の有効期間終了後に本件M&A取引を成立させることにより,原告に対する成功報酬の支払義務を潜脱することを防止する点にあると主張する。
しかし,本件特約の趣旨は,上記の潜脱防止のみに限定されるものではなく,本件M&A取引が成立しないまま本件契約の有効期間が終了した場合であっても,原告が有効期間中に行った業務の影響が残る期間(12か月間)を定めて原告が成功報酬を得る機会を確保し,その期間内に案件が再燃した場合には再び原告にアドバイザリー契約の依頼が来ることを促す趣旨や,原告が有効期間中に成功報酬を得ようとして被告ファンドの利益に反してでもM&A取引を成立させようとすることを防止し,被告ファンドの利益を図る趣旨もあると解するのが相当であるから,被告らの上記主張は理由がない。
さらにいえば,本件契約の有効期間終了後にM&A取引が成立した場合には,原告が有効期間中に行った業務と有効期間終了後に被告ファンドが成立させたM&A取引との間に因果関係があることを原告において立証することが事実上困難であるため,本件特約は,原告が接触した買手候補者との間で有効期間終了後12か月以内にM&A取引が成立したという客観的な要件を満たせば,本件契約の有効期間中にM&A取引が成立したものとみなし,原告において成功報酬を取得できることとして,原告による上記因果関係の立証を不要としたものというべきである。
3 被告らの連帯責任について
(1) 被告ファンドの連帯債務について
弁論の全趣旨によれば,被告ファンドは,いずれも自己の名をもって利益を得て譲渡する意思をもって株式の有償取得又は譲渡等を目的とする行為(商法501条1号)を行うことを業とする者であるから,商人(商法4条)に当たる。そうすると,被告ファンドが本件契約を締結する行為は,商人がその営業のためにする行為として,商行為(商法503条1項)に該当し,被告ファンドが本件契約に基づいて原告に対して負う成功報酬の支払義務は,数人の者がその一人又は全員のために商行為となる行為によって負担した債務として連帯債務となる(商法511条1項)。
(2) 被告有限責任事業組合の連帯債務について
また,被告投資組合八号及び被告投資組合八号-Bは,いずれも民法上の組合であるから,その構成員であった被告有限責任事業組合は,被告投資組合八号及び被告投資組合八号-Bとともに原告に対して成功報酬の支払義務を負う(民法675条)ところ,被告有限責任事業組合が業務として行う行為は商行為となる(有限責任事業組合契約に関する法律10条)から,被告有限責任事業組合が民法上の組合の構成員として民法上の組合とともに負う債務は,数人の者がその一人のために商行為となる行為によって負担した債務として連帯債務となる(商法511条1項)。
4 附帯請求の起算日について
本件契約4条によれば,原告の被告らに対する成功報酬請求権の履行期は,本件株式譲渡契約の締結日である平成18年12月4日から10営業日後である同月18日であると認められるから,附帯請求の起算日は,その翌日である同月19日となる。
5 結論
よって,原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容することとして,主文のとおり判決する。
(裁判官 坂田大吾)
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