判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(242)平成22年12月16日 東京地裁 平20(ワ)27893号 損害賠償請求事件
判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(242)平成22年12月16日 東京地裁 平20(ワ)27893号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成22年12月16日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平20(ワ)27893号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 一部認容 上訴等 控訴(後、和解) 文献番号 2010WLJPCA12168015
要旨
◆原告らが、被告証券会社から複数の金融商品を購入したところ、これらの取引は適合性原則違反、説明義務違反、断定的判断の提供による違法な勧誘行為に基づくものであるとして損害賠償の支払を求めた事案につき、本件各商品を原告らに販売した行為は、リスクが高い商品特性においても、過大な投資規模・価額においても、原告らの知識、経験及び財産の状況等の実情に照らして明らかに過大な危険を伴い原告らの保護に欠ける取引であり、また、被告の従業員らにおいて本件各商品の仕組みや危険性について具体的に理解できる程度の説明を行ったものとは認められないなどとして、原告らの請求を一部認容した事例(過失相殺3割)
裁判経過
控訴審 平成24年 2月10日 東京高裁 和解 平23(ネ)312号
参照条文
民法709条
民法715条
裁判年月日 平成22年12月16日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平20(ワ)27893号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 一部認容 上訴等 控訴(後、和解) 文献番号 2010WLJPCA12168015
神奈川県逗子市〈以下省略〉
原告 X1
千葉県柏市〈以下省略〉
原告 X2
原告両名訴訟代理人弁護士 田中博文
同 中井淳
東京都中央区〈以下省略〉
被告 キャピタル・パートナーズ証券株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 星野健秀
主文
1 被告は,原告X1に対して金1317万7420円及び原告X2に対して金1587万4634円並びにこれらに対する平成20年4月4日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用はこれを20分し,その11を原告らの,その余を被告の各負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告X1に対して金2850万円及び原告X2に対して金3730万7231円並びにこれらに対する平成20年4月4日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告らが被告から複数の金融商品を購入したところ(以下「本件各取引」という。),これらの取引は被告による適合性原則違反,説明義務違反及び断定的判断の提供による違法な勧誘行為に基づくものであると主張し,不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償ないし消費者契約法による取消しに基づく原状回復として,本件各取引の代金,慰謝料及び弁護士費用並びにこれらに対する不法行為ないし取消し後の日である平成20年4月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求し,予備的に,金融商品販売法3条,5条に基づき,元本の欠損金相当額の支払を請求している事案である。
1 争いのない事実等
(1) 被告は,有価証券の売買,市場デリバティブ取引または外国市場デリバティブ取引の媒介,取次ぎまたは代理等を業とする株式会社である。
原告X1(以下「原告X1」という。)は,出版社に勤務する会社員であり,本件各取引の当時29歳であった。
原告X2(以下「原告X2」という。)は,原告X1の母親であり,本件各取引の当時59歳の主婦であった。
(2) 原告X1は,平成19年6月29日,被告から以下の内容の水資源ファンドリンク債(以下「WF債」という。)を2口,合計2500万円で購入した。
ア 証券の名称 米ドル建て 水資源ファンド参照債券(私募)
イ 発行形態 ユーロドルMTN プログラム
ウ 発行者 英国において設立された銀行,クレディ・スイス・インターナショナル
エ 弁済順位 発行体の他の無担保・非劣後債務と同順位(パリパス)
オ 発行金額 660万米ドル
カ 額面金額 10万米ドル
キ 発行価格 額面100%
ク 取引日 2007年7月4日
ケ 発行日 2007年7月10日
コ 受渡日 2007年7月11日
サ 償還日 2012年6月29日(約5年債)
シ 利払日 2008年6月,2009年6月,2010年6月,2011年6月末の各支払営業日
ス 裏付資産 SAMサステイナブル・ウォーターファンド(「アセット」)に想定上投資する2倍にレバレッジされた参照ポートフォリオ
セ クーポン 債権額面と下記式の積として計算される米ドルの額(年1回)
100%×(0,または参照ポートフォリオ償還価値-100%,の大きい方)
ソ 当初評価日 発行日
タ 最終評価日 満期日の5営業日前
チ 償還金額 債権額面と下記式の積として計算される米ドルの額
100%×(0,または参照ポートフォリオ償還価値,の大きい方)
ツ 発行地 英国
テ 預託機関 ユーロクリア
ト 上場 非上場
(3) 原告X2は,平成19年7月9日,原告X1を代理人として,被告から以下の内容の為替連動債を1000万円で購入した。
ア 証券の名称 期限前償還特約付・為替連動債【FXターン債】(私募)
イ 発行形態 ユーロMTNプログラムに基づき発行される債券
ウ 発行体 Lehman Brothers Treasury Co B.V.
エ 信用補完 Lehman Brothers Holdings Incの保証付き
オ 弁済順位 シニア債
カ 発行金額 1億3000万円
キ 円券面 1000万円
ク 発行価格 額面100%
ケ 取引日 2007年6月20日,6月21日,6月25日,6月28日,7月9日
コ 発行日 2007年7月17日
サ 受渡日 2007年7月18日
シ 利息起算日 2007年7月18日
ス 償還日 2037年7月17日(30年間)
セ 償還金額 期限前償還条項により償還される場合は100.00%(円払い)。ただし,本債権が満期日まで継続した場合,償還額は,償還日の10営業日前に発行体が下記金額のうちどちらかを選択することができます。
米ドル81,037.28(=10,000,000円/123.40)
豪ドル95,648.02(=10,000,000円/104.55)
ソ 利払日 毎年7月17日/1月17日 年2回(後払い,円払い)
タ クーポン 当初6か月間 20.00%(円:年率30/360)
以降 下記の式に従って計算されるクーポンの低い方
(USDFXn-USDFXo)×1.00%≧0.00%
(AUDFXn-AUDFXo)×1.00%≧0.00%
(いかなる場合もクーポンは0%を下回ることはありません。)
チ 基準為替 USD:112.84米ドル/JPY スポット為替-〔10.56〕
AUD:94.05豪ドル/JPY スポット為替-〔10.50〕
ツ FX(USD) 各利払日の10営業日前の東京時間午後3時のReauters Page,ミッド・レート
テ FX(AUD) 各利払日の10営業日前の東京時間午後3時のReauters Page,ミッド・レート
ト ターゲット利払総額 円券面12.5%(総利払い額に上限はない)
ナ 累積利払総額 初回利払日から当該利払日までに支払われた利払額の合計
ニ 早期償還条項 本債券は,各利払日(償還日を含まない)において,「支払クーポン累積額」が「ターゲットクーポン」に達するかまたは上回る場合(同額になった場合を含む),当該債券は当該利払日に額面金額の100.00%にて全額期限前償還されます(円払い)。この場合当該利払日に支払われるクーポンは,上記クーポン計算公式どおりに支払われます。
ヌ 発行地 ユーロ市場
ネ 預託機関 ユーロクリア
ノ 上場 非上場
(4) 原告X2は,平成19年7月23日,原告X1を代理人として,被告から以下の内容のGLGペガサス・ファンド(以下「ペガサスF」という。)をユーロ建てで900口,合計1573万5346円で購入した。
ア ファンドの名称 GLGジャパン・ユニット・トラスト-GLGヨーロピアン・ロング/ショート・ユニット・トラスト(愛称:GLGペガサス・ファンド)
イ 形態 ケイマン籍オープンエンド契約型外国投資信託(米ドル建て/ユーロ建て/円建て)
ウ 申込期間 当初募集期間 2007年6月4日から7月23日まで
継続募集期間 2007年7月24日から2008年7月23日まで
エ 申込価格 当初募集期間
クラスH受益証券 1口当たり100米ドル
クラスJ受益証券 1口当たり100ユーロ
クラスM受益証券 1口当たり1万円
継続募集期間
各月の評価日(各月の最終営業日)における受益証券1口当たり純資産価格
オ 申込単位 最低投資口数は100口以上,1口単位
カ 買戻し 買戻しの請求は,買戻日(各月の最初の営業日)の32暦日前までに販売会社に所定の書面で通知する。買戻価格は,買戻日直前の評価日現在の受益証券1口当たりの純資産価格に基づき計算される。
キ 申込手数料 申込金額の上限4.2%(税抜き4.00%)で販売会社が決める料率
ク 代行協会員報酬 純資産価額の年率0.5%
ケ 販売会社の報酬 純資産価額の年率0.5%
コ 運用報酬及び成功報酬 運用報酬は,各クラスの平均純資産価額総額の3%の12分の1の月率(0.25%)で毎月計上され,毎月後払いされる。成功報酬は,各クラスの純資産価額総額の値上がり総額のうち20%相当(ハイ・ウォーター・マーク方式)が毎月発生し,半年毎に後払いされる。
(5) 原告X2は,平成19年9月20日,原告X1を代理人として,被告から以下の内容の会社型外国投資証券であるベトナム・ドラゴン・ファンド(以下「VDF」という。)を4000株,合計7万0190.30米ドルで購入した。
ア 発行者 ベトナム・ドラゴン・ファンド・リミテッド
(Vietnam Dragon Fund Limited)
イ 形態等 記名式普通株式(1株の額面金額0.01米ドル)
ウ 発行地 ザ・バンク・オブ・バミューダ・リミテッド ※※ストリート ハミルトン HM11 バミューダ
エ 発行日 2005年12月16日
オ 発行済普通株式数及び株主資本 1740万株,343,562,109米ドル(2007年12月31日現在)
カ 主たる上場取引所 アイルランド証券取引所
(6) 原告らは,被告に対し,平成20年3月24日到達の内容証明郵便で,原告X1に対して2500万円,原告X2に対して2600万円及び7万0190.30米ドル(平成19年9月末の三菱東京UFJ銀行のTTSレートで807万1885円)の合計3407万1885円の支払を請求するとともに,消費者契約法4条1項及び2項に基づき,本件各取引を取り消す旨の意思表示をした(甲6の1・2)。
2 争点
(1) 適合性原則違反の有無
(原告らの主張)
ア 原告X1は,本件各取引当時,出版社に勤務しており,年収は400万円程度であった。また,原告X1は,本件各取引以前に,自己の判断で投資などを行ったことはなかった。原告X2は,本件各取引当時,パート収入しかない主婦であり,投資などの経験は一切なかった。原告らが被告に提出した証券総合サービス申込書(乙2,6の1)でも,原告X1の年収は500万円程度,保有資産は1000~2000万円程度,投資経験なしとされ,原告X2の保有資産は2000~3000万円程度,投資経験なし,投資方針は利回り・安定重視とされていた。
原告X1は,父親が保有していた合計5000万円程度の貯蓄を保全しておくよう指示され,両親の老後資金の安全確実な管理,保全を目的として,被告に商品の紹介を依頼した。
イ しかし,被告は,原告X1に対し,当初から,私募債で市場で売却できず流動性リスクがある上,機関投資家向けの仕組みが複雑な商品であり,2倍のレバレッジのかかったハイリスク・ハイリターンの商品であるWF債の購入を勧誘して,保有資産として申告した額を超える2500万円を投資させた。
また,被告は,原告X2に対して,大きな為替変動リスクを伴う上,為替相場が不利に動いた場合に30年間も期限前償還できないという多大なリスクを被る商品である為替連動債の購入を勧誘して投資させ,運用リスクと為替変動リスクがある上,運用報酬及び成功報酬が多額になるユーロ建てヘッジファンドであるペガサスFの購入を勧誘して投資させ,さらに,市場で処分できず被告から気配値で買い取ってもらう以外に処分できないという流動性リスクの高い商品で,運用リスクも軽視できないVDFの購入を勧誘して投資させた。
ウ このように,原告らの投資の経験や知識,投資目的及び本件各取引により購入した各金融商品(以下「本件各商品」という。)のリスクの高さからみて,原告らが本件各取引につき適格性を欠いていたことは明らかであり,被告が原告らに対して本件各取引を勧誘したことは,適合性の原則に著しく違反するもので,不法行為を構成する。
(被告の主張)
ア 原告X1は,平成19年5月,被告が開催するカザフ・イーグル・ファンド投資セミナーへの出席を申し込んでこれに参加し,セミナー終了後,被告の従業員B(以下「B」という。)と面談した際,「父親の遺産が約5000万円ある。有利な運用先を探している。」と述べ,Bが説明したVDF等数種の商品に興味を示して資料を持ち帰った。また,同年6月ころ,原告X1は,被告の従業員C(以下「C」という。)に対し,「以前から被告のホームページを見ている。セミナーにも参加して商品の説明も聞いている。国際分散投資をしたい。円資産を外貨資産に変えたい。」などと述べて,ペガサスF投資セミナーへの出席を申し込んでこれに参加し,セミナー終了後にはCらが説明したWF債の購入に強い意欲を示した。
イ Cは,原告X1が提出した口座開設申込書に「証券投資経験なし」と記載されていたことから,リスクが高い商品を勧めることはできないと原告X1に伝えたが,原告X1は,金融関係の用語を十分理解し,商品内容やリスクについての説明も理解した上で,積極的な投資を考えている様子であった。
ウ また,Cは,原告X1が原告X2の資金運用も行いたいと言ったので,原告X2との面談を希望したが,原告X1は,原告X2が体調不良であり,自分が一任されているので自分から説明すると述べ,面談を断った。その後,被告は,平成19年7月6日,原告X2から原告X1を代理人とする旨の代理人届の提出を受けている。なお,原告X2は,同年17日,投資方針を「値上がり益重視」に変更した。
エ 以上のように,原告X1は社会経験を積んだ高学歴の青年で十分な理解力,判断力及び証券取引に関する知識を有し,自らセミナーに参加して積極的に質問し資料を取り寄せるなど投資意欲が高く,原告らが利益を得ることを重視し,かつ,十分な資産を有していたものであるから,適合性原則違反はない。
(2) 説明義務違反,断定的判断の提供の有無
(原告らの主張)
ア 原告X1は,平成19年6月ころ,Cに対し,両親の老後の資金を管理するため,安全で,短期間に売買するようなものではなく,経費があまりかからない商品の紹介を依頼したところ,Cは,WF債について,前記リスクに関する十分な説明をせず,「水に関連するものでトレンドですし,水関連は公共事業でもあるので景気の変動も受けません。しかも利回りは2倍,3倍になるといううちだけの商品で,税金もかかりません。」「機関投資家向けの商品であり,僕のお得意様にだけ売っています。プロ専用の商品ですが,X1さんには事情がありますし,今なら少しだけ手元にあるので,X1さんにも特別に譲ることができます。」「必ず儲かります。損をするわけがありません。考えられません。心配いりません。絶対安全です。僕に任せてください。」「一般人ではなくプロが買うものなので間違いがありません。」「しかも,外貨で運用するので日本円で持つより絶対安全です。」などと述べ,その後も再三電話をかけて安全性と魅力を強調し,残数があとわずかになったなどと購入を勧めた。
同月21日,被告を訪れた原告X1は,Cから「WF債は,すぐに上がって売ることもできます。置いておくだけでも,税金等のコストもかかりません。債券ですので安全です。とりあえず持っておいて後で分散投資についてゆっくり考えたらよい。」などと購入を強く勧められた。
これらの説明により,原告X1は,為替相場やファンドの状況などの不確実な事項について断定的な判断の提供を受け,WF債が将来確実に利益を出す商品であるかのように誤信して,前記争いのない事実等のとおり,WF債を2口購入した。
イ また,同日,Cは,為替連動債について,前記リスクや運用コストについての説明を全くせず,「半年預けておけば100万円の利息がつく,すぐにこの調子で円安になって1000万円戻ってくる。元本保証型のものです。銀行預金などバカみたいでしょ。とりあえず持っておいて損はありませんし,これもプロ向けで数も限られている特別なものです。しかも,現在の為替で買えるのは今しかありません。」と説明し,被告の従業員D(以下「D」という。)も,「WF債とのバランスをとるために持っておいたほうがより安全だ。」と為替連動債の購入を勧めた。
これらの説明により,原告X1は,為替変動によって元本の欠損が生じる可能性について適切な説明もなく投資金はすぐ戻ってくるとの断定的判断の提供を受け,商品の内容を十分理解しないまま,銀行の定期預金のように元本保証で安心であると誤信して,前記争いのない事実等のとおり,原告X2を代理して為替連動債を購入した。
ウ さらに,C及びDは,ペガサスFについて,「円は危ない。」「ユーロも持っていたほうがより万全です。MMFユーロで持っているより利回りが全然いいです。しかも,景気の悪いときにも伸びています。X1さんの場合は,他の資産が大きいのでバランスのために1000口くらいはあった方がいいです。」「ヘッジファンドだから心配ない。万が一の場合の備えになります。」などと,通常の投資信託に比して運用報酬や成功報酬が高額であることや,運用リスク及び為替変動リスクについて的確な説明をせずにペガサスFの購入を勧め,原告X1は,前記争いのない事実等のとおり,原告X2を代理してペガサスFを購入した。
エ 原告X1は,平成19年7月以降,経済情勢が悪くなったことから投資資金の運用状況に疑念を抱き,CやDに解約について相談したが,「今は解約してはいけない。今解約したら絶対損をする。すぐ2倍,3倍になるから待っていた方がよい。」と言われ,同年9月ころには,損失をカバーするためとして,VDFについて,「中国だけ上がってベトナムが上がらないはずはない。純資産に比べてベトナムは安く評価されすぎている。会社の看板商品で今まで高くて買えなかった人がたくさんいる。ようやく下がった今が最大のチャンスです。バランスをとって1000万円ほどが理想です。あといくらありますか。ベトナムはチャイナプラスワンということでアジアの中心になる。高度成長期の日本と同じ状態です。」などと,被告との相対取引以外に処分方法がないという流動性リスクや運用リスクについて的確な説明をせずにVDFの購入を勧め,原告X1は,勧められるままに,前記争いのない事実等のとおり,原告X2を代理してVDFを購入した。
オ しかも,為替連動債,ペガサスF及びVDFの勧誘にいたっては,被告は,原告X2に意思確認すらしておらず,直接の説明を全くしていない。
(被告の主張)
ア 被告は,平成19年6月21日,原告X1に対し,リスク,リターン,分散投資によるリスク低減等,投資に関する基本的な考え方を約1時間にわたって説明した後,Cが,WF債について,最終提案書(乙16の1)に基づき,約1時間にわたって,7つのリスク要因(信用リスク,価格変動リスク,流動性リスク,償還時元本欠損リスク,為替変動リスク,税制リスク,レバレッジリスク)について説明し,①長期的な運用を目的としていること,②レバレッジが2倍の割合で作用することから上がるときも下がるときも2倍と価格変動リスクが大きいことを再三説明した上,過去の運用実績についても月次リターン表(乙3)等に従って,為替変動リスク,元本割れリスクにつき詳細に説明して,原告X1の理解を得た。
その上で,原告X1は,同日,商品内容の説明を受けて十分に理解し,自己の判断と責任において取引を行う旨の重要事項説明及び取引に関する確認書(乙4)に署名押印した。
イ Dは,同年7月4日午後3時ころから約1時間にわたって,為替連動債について,ヒアリングシート(乙20)に基づき,①どのような為替においても,契約締結から6か月経過した際に税込みで年率20%の利息が出ること,②6か月経過した時点で支払われる10%の利息と,次回以降の利払い変動部分の配当金の合計が12.5%を超えた場合には元本1000万円と利息部分の合計額が早期償還されること,③1年目以降は,基準為替よりも円安部分のどちらか低い方(米ドルレート,豪ドルレートの両方に対して)が利息として支払われること,④累計した受取利息の合計が元本の12.5%に達しなかった場合には償還日まで30年間保有することになること,⑤中途換金に関しては,流動性や為替水準などの理由から元本を下回る可能性があること,発行体である金融機関がリーマン・ブラザーズであり,格付けはA+(S&P),A1(ムーディーズ)という投資適格の格付けであることを説明して,原告X1の理解を得た。
その上で,原告X2は,同月6日,商品内容の説明を受けて十分に理解し,自己の判断と責任において取引を行う旨の重要事項説明及び取引に関する確認書(乙21)に署名押印したものを被告に提出した。
ウ Cは,同年6月16日のペガサスF投資セミナー終了後に約20分間にわたって,ペガサスFについて,パンフレット及び販売用資料(補足説明資料)(乙19,甲3)を使用して,①株価の上昇が見込まれる銘柄の買いと,株価の下落が予想される銘柄の売りとを組み合わせて利益を追求するヘッジファンドであり,投資対象は欧州全体とすること,②マスターファンドは,上場株式,非上場株式,投資適格債券,投資不適格債券,通貨,先物,オプション等を投資対象とすること,③マスターファンドは全ての投資対象についてショート・ポジションを取る権利を持っていることから,マスターファンドへの投資を行うペガサスFはその影響を受けること,④マスターファンドの投資対象である株式等が下落した場合は,ペガサスFの純資産価額が下落して損失を被る可能性があり,マスターファンドが空売りしている場合には,マスターファンドの投資対象である株式等が上昇した場合には,ペガサスFの純資産価額が下落して損失を被る可能性があること,⑤マスターファンド,ペガサスFとも外貨建てのため,為替の変動による損失を被る可能性があること,⑥元本保証はないことを説明し,同年7月4日にも約40分間にわたって,上昇局面のみならず下降局面でもリターンを追及する商品であるという点に特色があることを説明して,それぞれ原告X1の理解を得た。
その上で,原告X2は,同年7月22日,重要事項(リスク等)の説明を受けてその内容を十分に理解し,自己の責任で購入する旨の購入申込書,重要事項に関する確認書(乙9)に署名押印したものを被告に提出した。
エ Bは,同年5月12日のカザフセミナー終了後に約1時間にわたって,VDFについて,販売用資料及び補足説明資料(乙22の1・2)を使用して,カザフ・イーグル・ファンド及びクアドリガ・スーパーファンドの説明と併せて,ベトナムは日本と同じく成長企業が多いという観点から共通性があることを説明した。また,Dは,同年9月7日に原告X1から「外貨預金は金利分しか利益が得られない。いいものはないか。」との問合せを受け,電子メールで為替連動債やペガサスFは目先の動きに一喜一憂する商品ではなく,VDFが値下がりしているから押し目買いの好機ではないかと紹介した。同月11日には,原告X1から,MMFとVDFとの違い,国の成長率と純資産の増加との関連について質問があったので,これに回答したことがあった。
その上で,原告X2は,同月18日,商品内容説明書の内容を熟読吟味した上で重要事項の説明を受けてその内容を十二分に理解し,自己の責任で購入する旨の重要事項に関する確認書(乙23)に署名押印したものを被告に提出した。
オ 以上のように,被告は,原告らに対して本件各商品の仕組み及びリスクを適切に説明し,原告らがこれを理解した上で本件各取引を行うことを確認しているから,説明義務違反や断定的判断の提供は一切ない。
(3) 消費者契約法に基づく取消しの可否
(原告らの主張)
前記争点(2)(原告らの主張)のとおり,被告の原告らに対する本件各商品に関する説明内容は,いずれも断定的判断の提供に該当し,これにより原告X1が元本欠損が生じない安全確実な商品であると誤信して本件各商品を購入したものであるから,原告らは,本件各取引を消費者契約法4条に基づき取り消すことができる。
(被告の主張)
前記争点(2)(被告の主張)のとおり,被告は,原告らに対し,本件各商品の仕組みやリスクを十分に説明しており,その際に事実と異なる事項を告げたり,原告らに不利益となる事実を告げなかったりしたことはなく,断定的判断の提供を行ったこともない。また,原告らは,被告の説明を受けて本件各商品の仕組みやリスクについて誤認してもいない。
よって,消費者契約法4条に基づく本件各取引の取消しは認められない。
(4) 損害額
(原告らの主張)
ア 原告X1は,WF債の購入資金として2500万円を被告に支払い,原告X2は,為替連動債,ペガサスF及びVDFの各購入資金として,1000万円,1573万5346円及び7万0190.30米ドル(平成19年9月末の三菱東京UFJ銀行のTTSレートで807万1885円)の合計3380万7231円を被告に支払い,それぞれ同額の損害を被った。
イ 原告らは,前記のような多額の金員を支出させられて極めて大きな精神的負担を背負い,原告X1はうつ状態となってアレルギー反応やじんましんを繰り返し,原告X2は胃潰瘍及び急性ストレス反応となり,通院治療を余儀なくされるなど肉体的苦痛も被った。
これらに対する慰謝料は,原告らにつき各100万円を下らない。
ウ 弁護士費用 原告らにつき各250万円ずつ
(被告の主張)
原告らが主張の金員を拠出した事実は認めるが,その余は争う。
仮に被告に不法行為に基づく損害賠償責任が認められるとしても,原告らの過失は非常に大きいことから,高い割合による過失相殺が認められるべきである。
第3 当裁判所の判断
1 前記争いのない事実等及び証拠(甲1ないし3,5,9ないし11,乙1ないし5,6の1・2,7ないし13,16の1・2,17の1・2,18の1ないし18の3,19ないし21,22の1・2,23,24の1・2,25ないし37,38の1・2,39,49,50,53,54,65,証人C,同D,原告X1本人)並びに弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。
(1) 本件各商品について
ア WF債は,英国のクレディ・スイスの関連会社が発行体となり,世界の水資源に関連する50ないし60の企業の株式に投資する投資ファンドであるSAMサステイナブル・ウォーター・ファンドの純資産価額を指数化したものを参照ポートフォリオとし,これに高度な金融工学の計算式を当てはめ概ね2倍のレバレッジをかけて連動させた,デリバディブを組み込んだ米ドル建ての債券(私募債)である。
したがって,同債券の価格変動要因として投資家が調査・判断すべき対象は,参照ポートフォリオとされたファンドの純資産価額の変動要因である水資源関連企業の動向(株価の動き),レバレッジ効果による影響の大きさ,発行体の信用度,対米ドルの為替変動の要因,流通市場がないことによる流動性リスク(被告との相対取引)等の多岐にわたり,ファンドの純資産価額が発行日を基準に上昇すれば概ね2倍の割合によるクーポン(利息)が年1回支払われ,満期に全額の償還が受けられるが,発行日を基準に下落した場合にはクーポンの支払はなく,満期の償還金額も概ね2倍の割合で欠損が生じるおそれがある。
イ 為替連動債は,米国のリーマンブラザーズの関連会社が発行体となり,米ドル及び豪ドルの為替相場の変動がいずれも確定条件書に記載されたスポット為替から一定の範囲内の円高(基準為替)ないし円安に動けば基準為替に比べて1ドルあたり1円の円安につき年1%の利息が取得でき,当初の半年後に得られる10%の利息との合計が券面額の12.5%に達すれば早期償還条項により元本が償還されるが,同ターゲットクーポンに届かない場合には償還日が30年後となり発行体が選択する米ドル又は豪ドルで券面額を円払い償還するという,通貨オプション取引(売建て)を組み込んでいると考えられる債券(私募債)である。
したがって,同債券の価格変動要因として投資家が調査・判断すべき対象は,対米ドル及び対豪ドルの双方の為替変動の要因,債券に組み込まれていると考えられる売建てオプション取引のリスク,償還日が満期ないしこれに近い長期に及んだ際の時間リスク(インフレによる実質的な価値の下落),発行体の信用度,流通市場がないことによる流動性リスク等の多岐にわたる上,早期償還条項が適用されない場合または同条項の適用まで長期間に及んだ場合には,券面額を下回る欠損は生じないものの,発行体が有利に選択した通貨による為替差損及びインフレによる価値下落で実質的な価値の欠損が生じるおそれがある。
ウ ペガサスFは,欧州の株式市場での株式投資等を対象にしたヘッジファンドに対するユーロ建て外国投資信託であり,株価の値下がり局面でもショートポジションを取って利益を追求する積極的な投資姿勢を特徴とするヘッジファンドをマスターファンドとしているため,平均年14%を超えるような高い運用実績を過去に示しているが,マスターファンド等への報酬額が合計で年4%,成功報酬が純資産値上がり総額の20%(ハイ・ウォーター・マーク方式)の各割合で毎月計上されるという比較的高い設定となっている。
したがって,同投資信託の価格変動要因として投資家が調査・判断すべき対象は,マスターファンドが投資対象とする欧州各国の株式市場の動向,マスターファンドの信用度,対ユーロの為替変動の要因,高額報酬の元本に対する影響等の多岐にわたり,純資産総額が減少した場合及び運用実績が支払報酬を下回った場合の元本欠損のみならず,値上がりによる成功報酬が月単位で発生した後に値下がりが生じた場合には,元本欠損に加えて高額な成功報酬分の欠損が生じるおそれがある。
エ VDFは,アイルランド証券取引所に上場しているベトナム企業の株式及び債券を組み込んだ投資ファンドを株式の形態にした米ドル建て会社型外国投資証券であり,いわゆる新興国の経済成長に着目して中長期的な視点からの投資を目的としたものである。
したがって,同投資証券の価格変動要因として投資家が調査・判断すべき対象は,投資対象となるベトナム国における経済情勢,発行体の信用度,対米ドルの為替変動の要因,流通市場が十分確立されていないことによる流動性リスク等の多岐にわたり,同投資証券には償還期限が設定されておらず,発行体の解散決議がない限り発行体に対する解約や買戻請求により途中換金することができない上,上場されているアイルランド証券取引所における流動性も極めて低いため,買取り希望者が現れない限り売却できず元本全額の損失が生じるおそれがある。
(2) 原告らについて
ア 原告X1は,昭和52年生まれの本件各取引当時29歳であった者で,早稲田大学第二文学部を卒業後に児童の教育関連の企業に就職し,同社を退職後の平成17年9月からは株式会社aという出版会社に勤務しており,本件各取引当時,同社から年収400万円程度の給与所得があった。
原告X1は,被告に対して提出した証券総合サービス申込書(乙2)で,投資の経験はいずれもなし,資産運用期間は中期,投資方針は値上り益重視,推定年収は500~1000万円,金融資産は1000~2000万円の各欄にチェックして提出した。
原告X1は,原告X2と被告との取引に関しても,代理人届を被告に提出し,原告X2の代理人として本件各取引を行った。
イ 原告X2は,昭和23年生まれの本件各取引当時59歳のパート収入しかない主婦であった。原告X2は,被告に対して当初提出した証券総合サービス申込書(乙6の1)で,投資の経験はいずれもなし,資産運用期間は中長期,投資方針は利回り・安定重視,推定年収は300万円未満,金融資産は2000~3000万円の各欄にチェックして提出した。
(3) 取引経過について
ア 原告X1は,被告のホームページを閲覧してカザフスタンの投資ファンドに関するセミナーに興味を持ち,平成19年5月2日,これに参加する旨の申込みを被告に行った。
イ 原告X1は,同月12日に被告において実施された上記投資セミナーに参加し,その終了後にBと面談して,VDF等数種の商品に関する説明を受け,資料を持ち帰った。
ウ 原告X1は,実父から預かった約5000万円の資金の運用等を検討するなかで,同年6月ころ,Cに対し,被告との間で金融商品の取引を開始したい意向を示したことから,Cは,同月16日に被告が開催するペガサスFの投資セミナーに出席するよう原告X1に伝え,原告X1はこれを申し込んで参加した。
エ 原告X1は,同月14日,被告に対し,証券総合サービス申込書(乙2)を作成して提出した。
オ 同月16日のペガサスFのセミナー終了後,Cは,ペガサスFについてあらためて販売用資料に基づいて過去の実績が好調であることを説明するとともに,WF債を原告X1に紹介し,水資源関連企業の業績に対するCの見立てを新聞記事等の資料を示して説明するなどしたところ,原告X1は,WF債の購入に興味を示した。
カ 同月21日,原告X1は,被告においてC,E及びDと面談し,Eから国際分散投資についての全般的な説明を受けた後,CがWF債について説明を,Dが為替連動債についての説明を,それぞれ原告X1に対して行った。Cは,WF債の最終提案書(乙16の1)を使用して,運用成績に関する過去の実績(月次リターン等)が好調であることを説明したが,複数のリスク要因が存することに関しては一般的な説明に止めた。
原告X1は,同日,WF債を購入する意向を示し,WF債に関する商品内容・性格の説明及び取引リスク(信用リスク,価格変動リスク,流動性リスク,償還時元本欠損リスク,為替変動リスク,税制リスク及びレバレッジリスク)に関する説明を受けてこれを理解した旨の記載がある重要事項説明及び取引に関する確認書(乙4)を作成して被告に提出した。
キ 同月22日,原告X1が原告X2の名義でもWF債の購入を希望したことから,Cは,原告X1に原告X2分の必要書類を交付し,原告X1は,同月27日,原告X2に被告から預かった証券総合サービス申込書(乙6の1)を示し,署名押印を得て被告に提出した。
Cは,原告X1に対し,原告X2と直接の面談を行いたい旨を申し入れたが,原告X1は,自己が代理人として行動する旨述べてこれを断った。
ク 原告X1は,同月29日,被告からWF債を2口購入した。同日,原告X1は,Cに電子メールで,原告X2の資産に関しても運用等を開始したいので,スーパーファンド等の情報やWF債のような新しい商品について情報があれば提供してほしい旨を連絡した。
ケ 原告X1は,同年7月4日に被告を訪れて,CないしDから為替連動債及びペガサスFについての説明を受けた。Dは,為替連動債についてのヒアリングシート(乙20)を使用して,主にクーポンの支払条件を説明するとともに,当時の経済情勢について一般的には円安基調にあるとの見立てが多く,早期償還条項が適用される可能性が高い一方で,円高になって早期に償還されない可能性もあると述べたが,その場合に償還期限である30年後まで償還されない可能性については一般的な説明に止めた。また,Cは,ペガサスFについて,投資対象となるマスターファンドが欧州では著名な投資ファンドであり,値段の下落傾向にあってもショートポジションを取り積極的な運用を行って好成績を挙げていることを過去の実績表を使って説明したが,マスターファンドの前記運用姿勢に伴うリスクに関しては一般的な説明に止めた。
原告X1は,原告X2の名義で為替連動債を購入したい旨を被告に申し入れたことから,被告は原告X2との面談を行いたい旨を告げたが,原告X1が代理人となる旨述べたため,代理人届を提出するよう依頼した。
コ 原告X1は,同月6日,為替連動債に関する商品内容・性格の説明及び取引リスク(信用リスク,価格変動リスク,流動性リスク,償還時元本欠損リスク,期限前償還リスク,為替リスク及び税制リスク)に関する説明を受けてこれを理解した旨の記載がある重要事項説明及び取引に関する確認書(乙21)に原告X2が署名押印したもの及び原告X2が原告X1を代理人とする代理人届(乙8)を被告に提出した。
同月9日,原告X1は,Dに電話をして為替連動債の内容について再確認を行った上で,原告X2において,被告から為替連動債を購入した。
サ また,原告X1は,原告X2の名義でペガサスFを購入したい旨を被告に申し入れたが,被告は,原告X2名義での商品の購入金額が証券総合サービス申込書の金融資産欄記載の下限を上回り齟齬が生じたことから,社内決裁の都合上,同月17日に原告X2について届出事項の変更届(乙6の2)を提出させ,金融資産を1億円以上に,投資方針を利回り・値上がり益重視にそれぞれ変更した。その上で,原告X1は,同月22日,ペガサスFに関するリスク等(政治的リスク,規制上のリスク,通貨リスク及び信用リスク等)の重要事項の説明を受けて十分に理解した旨の記載がある購入申込書,重要事項に関する確認書(乙9)に原告X2が署名押印したものを被告に提出し,同月23日,原告X2において,被告からペガサスFを購入した。
シ 原告X1は,同月29日,C及びDに電子メールで,WF債の値動きについて問い合わせるなどしたが,Dは,同月30日,原告X1に対する電子メールで,長期的な視点で価格の推移を見守るようにアドバイスするとともに,国際分散投資の内容として,中長期的な投資であるVDFについて今が価格の下落時期であり購入の好機であるなどとして購入を提案した。
ス 原告X1は,同年8月ころ以降もDないしCと電話で状況を相談をする中で,VDFへの投資についての説明を受け,DないしCは,ベトナムの経済情勢が高度経済成長期の日本のような状態にあり値上がりが期待できること,今が価格の下落時期であり購入の好機であること等の見立てを説明し,分散投資のバランスとして1000万円程度をVDFに投資することが相当であるとの見方を示した。
セ 原告X1は,同年9月7日,Dに対する電子メールで,VDFを3000株購入することを検討していること,検討に1週間程度の時間を要することを申し入れ,さらに,電話で被告に対し,VDFに関する資料を一式送付するよう依頼した。
ソ 原告X1は,同月18日,VDF他2銘柄に関する商品内容・性格の説明及び取引リスク等の重要事項に関する説明を受けてこれを理解した旨の記載がある重要事項に関する確認書(乙23)に原告X2が署名押印したものを被告に提出し,同月20日,原告X2において,被告からVDFを購入した。
2 争点(1)について
(1) 証券会社は,顧客の知識,経験及び財産の状況等の実情や顧客の意向等を総合的に考慮して,明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなどして,投資家の保護に著しく欠けることにならないよう業務を営まなければならず,有価証券等の金融商品取引についても,その具体的な商品特性を踏まえた上で,前記諸要素に照らし,適合性の原則から著しく逸脱した取引を勧誘してこれを行わせたものと認められるときは,当該行為は違法性を有し不法行為にあたるものと解するのが相当である。
(2) これを本件各取引についてみると,前記認定事実によれば,本件各商品は,いずれも複数の価格変動要因とそれに応じたリスクについて,的確な情報収集及び分析判断をして購入や売却の適否を決定することを要することに加え,ペガサスFを除けば流通市場が確立していないことから,保有者が値下がり局面で売却を希望した場合には証券会社との相対取引により買取価格が時価評価を下回る価格となるおそれがある流動性リスクも十分に検討できる知識及び判断が要求されるものであり,いずれも豊富な投資知識・経験を要する非常に複雑でリスクの高い金融商品というべきところ,原告らはいずれも,自ら被告に申告したところによると投資経験は全くなく,本件各商品に関して,豊富な投資知識を有する者と同等程度に適切な判断を行うだけの情報収集能力や分析判断能力を有しているとは到底認められないというべきである。また,前記認定事実によれば,原告らが当初,被告に申告した金融資産は原告X1が2000万円,原告X2が3000万円の合計5000万円程度であったこと,原告X2が投資方針として利回り・安定重視としていたこと,他方で,原告X1が購入したWF債は2500万円,本件各商品の合計購入額が約5800万円と,いずれも申告した金融資産額を超え,実際の保有資産を基準にしても8割以上にあたる価額の金融商品をわずか4か月程度の間に購入したことがそれぞれ認められる。
これらの事実を総合すると,本件各商品を原告らに販売した行為は,そのリスクが高い商品特性においても,過大な投資規模・価額においても,原告らの知識,経験及び財産の状況等の実情に照らして明らかに過大な危険を伴い原告らの保護に欠ける取引であったものと認めるのが相当であり,被告による本件各商品の原告らへの勧誘・販売は,適合性の原則から著しく逸脱したものとして違法性を有するものというべきである。
3 争点(2)について
(1) 証券会社は,一般投資家との間に知識,経験,情報収集・分析能力等において格段の差が存するから,一般投資家である顧客を金融商品の取引に勧誘するにあたっては,投資の適否について的確に判断し自己責任で取引を行うために必要な情報である当該金融商品の仕組みや危険性等について,当該顧客の知識,経験,理解力等に応じて,これらを具体的に理解できる程度の説明を行う信義則上の義務が認められ,証券会社がこれを怠った場合には,当該勧誘行為は説明義務違反により違法性を帯び,不法行為にあたるものと解するのが相当である。
(2) これを本件についてみると,前記2で認定説示のとおり,本件各商品は,複数のリスク要因について的確な情報収集及び分析判断を行い,流動性リスクも十分に検討できるような豊富な投資知識・経験を要する非常に複雑でリスクの高い金融商品であり,情報収集能力や分析判断能力において十分とは認められない原告らが,本件各商品の仕組みや危険性等について投資の適否を的確に判断し自己責任で取引を行うためには,相当程度慎重な説明が求められるというべきところ,前記認定事実によれば,被告の従業員らは,原告X1に対し,本件各商品の仕組みについては概略を理解できる程度の説明を,その危険性については各リスク要因の意味を理解できる程度の説明を,一応は行ったものと認められ,確実に利益が得られるとか元本欠損が生じないなどの断定的判断の提供がなされたものとは認められないものの,各リスク要因がいかなる場合に本件各商品の価値にどの程度影響するのかや,各リスク要因についての見通しが複雑に交錯した場合にいかなる価格変動が予測されると判断すべきか困難な場合があることについて,具体的な説明が十分なされたとは認められず,原告X1が自ら投資セミナーに参加を申し込んだり情報の提供や資料の送付等を求めるなど積極的な投資意向を有していたこと,被告の従業員らに対する電子メールや会話内容をみると,原告X1が金融取引に関する専門用語について一定の知識を有し,説明内容に対しても一定以上の理解力があったことがそれぞれ認められるとはいえ,被告の従業員らが原告X1に本件各商品の仕組みや危険性について具体的に理解できる程度の説明を行ったものとは認められず,その勧誘・販売は,説明義務違反により違法性を有するものというべきである。
4 争点(3)について
前記3で認定説示のとおり,被告の従業員らは,原告X1に対し,本件各商品の仕組みについては概略を理解できる程度の説明を,その危険性については各リスク要因の意味を理解できる程度の説明を,それぞれ行ったものと認められ,本件各商品の利点・利益を強調して説明した側面が否定できないものの,必ず利益が得られるとか元本欠損が生じないなどの断定的判断を提供したり不実の告知ないし不利益事実の不告知を伴う勧誘がなされたことを認めるに足りる証拠はないというべきである。この点,原告X1本人は,被告の従業員らによる断定的判断の提供等を伴う勧誘を受けた旨供述するが,前記認定事実のとおり,原告X1が本件各商品の購入前にリスク要因について最終的な確認を被告の従業員らに電話ないし電子メールで行うなどしていることが認められるにもかかわらず,原告X1の供述は,本件各商品の利点ないし有利な見立てのみを強調してリスク要因について説明されなかったなどと前記認定と矛盾するものであり,内容が不合理でにわかに信用できないといわざるを得ない。
5 争点(4)について
(1) 前記争いのない事実等及び前記認定事実並びに弁論の全趣旨(一件記録中の平成22年5月21日受付に係る本件各商品の概算表を含む。)によれば,原告X1は,WF債の購入に2500万円を,原告X2は,為替連動債,ペガサスF及びVDFの各購入に2573万5346円及び7万0190.30米ドル(買付日である平成19年9月20日の為替相場(116.00円/米ドル)で814万2074円)を支払ったところ,原告らが保有する本件各商品の現存価値(平成22年5月21日現在)は,WF債が評価単価43.83%で788万9400円,為替連動債が評価単価6.5%で65万円,ペガサスFが評価単価86%で866万8800円及びVDFが1株あたり8.2米ドルで3万2800米ドル(同日の為替相場(90.00円/米ドル)で295万2000円)となっていることが認められ,原告X1については,WF債の前記差額1711万0600円が,原告X2については,為替連動債,ペガサスF及びVDFの前記差額合計2160万6620円から為替連動債について取得した利息100万円を控除した2060万6620円が,それぞれ被告の不法行為によって生じた損害と認められる。
他方,不法行為により財産的損害を被った者は,原則として金銭賠償によって財産的損害の回復を図られるべきものであり,特段の事情のない限り,金銭をもって慰謝すべき精神的・肉体的損害を被ったものとは認められないというべきところ,前記認定に係る不法行為の態様,損害金額,その後の経緯,その他本件に顕れた一切の事情を総合してみても,本件において原告らが財産的損害の回復をもってしても慰謝されないほどの精神的・肉体的苦痛を被ったといえるような特段の事情は認められないから,原告らの慰謝料請求は理由がないというべきである。
(2) 過失相殺
前記各認定説示によれば,被告には適合性原則違反や説明義務違反の違法行為が認められる一方で,原告X1は,自身も情報収集を行ったり被告の従業員らに質問を行うなどして,本件各商品に認められる様々なリスク要因につきその意味するところを一応は理解し,被告の従業員らによる勧誘を受けながらも自ら積極的に運用利益を上げるべく本件各商品の取引を実行しており,その危険性を軽視して安易に多額の資金を投下し本件各取引を行ったものであると認められ,これらの事情に鑑みると,原告らにも本件各取引による損害の発生,拡大に一定程度寄与した点があるというべきである。
そして,本件に顕れた諸般の事情を総合考慮すれば,原告の過失割合は3割と認めるのが相当である。
そこで,前記(1)で認定した損害額から3割を控除すると,原告X1が請求しうる損害額は1197万7420円,原告X2が請求しうる損害額は1442万4634円となる。
(3) 弁護士費用
原告らが弁護士である訴訟代理人に本件訴訟の追行を委任したことは本件記録上明らかであるところ,本件事案の性質,難易度,審理の経過,認容額等を斟酌すると,前記不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は,原告X1につき120万円,原告X2につき145万円が相当である。
6 結論
以上の次第で,原告らの請求は,主文第1項の限度で理由があるからこれを認容し,その余はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法65条1項本文,64条本文,61条を,仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
(裁判官 小崎賢司)
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