「成果報酬 営業」に関する裁判例(34)平成27年 1月30日 東京地裁 平26(レ)719号 業務委託報酬請求控訴事件
「成果報酬 営業」に関する裁判例(34)平成27年 1月30日 東京地裁 平26(レ)719号 業務委託報酬請求控訴事件
裁判年月日 平成27年 1月30日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平26(レ)719号
事件名 業務委託報酬請求控訴事件
文献番号 2015WLJPCA01308019
裁判年月日 平成27年 1月30日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平26(レ)719号
事件名 業務委託報酬請求控訴事件
文献番号 2015WLJPCA01308019
東京都千代田区〈以下省略〉
控訴人 株式会社日本ビデオトランス
同代表者代表取締役 A
東京都品川区〈以下省略〉
被控訴人 株式会社DYM
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 本多基記
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要等
1(1) 本件は,被控訴人が,控訴人に対し,被控訴人が控訴人の委託を受けて行ったディレクトリ登録サービス業務に係る報酬29万1900円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成26年3月14日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
(2) 原審は,被控訴人の請求を全部認容したことから,控訴人がこれを不服として控訴した。
2 前提事実は,原判決「事実及び理由」欄中「第2 事案の概要」の「2 争いのない事実等」のとおりであるから,これを引用する。
ただし,原判決2頁8行目から11行目までを次のとおり改める。
「(2) ウェブスタージャパン株式会社(以下「ウェブスタージャパン」という。)は,従前,被告(控訴人)との間で,被告(控訴人)の運営に係るウェブサイトのSEO効果(検索エンジンの最適化,検索順位の上昇)を高めることを目的とする契約(以下「SEOコンサルティング契約」という。乙1,3)を締結していた。」
3 争点
(1) 債務の本旨に従った履行の有無
(控訴人の主張)
控訴人が従前,ウェブスタージャパンとの間で締結していたSEOコンサルティング契約は,平成24年6月21日から被控訴人に引き継がれ,その後,控訴人は,被控訴人との間で,控訴人のウェブサイトのディレクトリ登録によるSEO効果を高め,SEO対策費用を低減するため,被控訴人が控訴人の指定するウェブサイトをディレクトリ型検索サイトに登録し,控訴人が報酬を支払うこと等を内容とする契約(本件契約)を締結した。そして,被控訴人は,ディレクトリ登録について,「ショットで半永久的にSEO効果がある」などと説明していた。したがって,被控訴人は,1度のディレクトリ登録によって半永久的なSEO効果をもたらす債務を負っていた。しかし,被控訴人によるディレクトリ登録後,控訴人ウェブサイトの検索順位は下降したから,被控訴人は,半永久的なSEO効果をもたらす債務を履行しなかったといえる。
(被控訴人の主張)
控訴人がウェブスタージャパンとの間で締結したSEOコンサルティング契約は,平成24年7月20日に解約となり,その後,控訴人は,被控訴人との間でSEOコンサルティング契約の更新等をしなかった。また,被控訴人は,控訴人に対し,1度のディレクトリ登録により,将来にわたって確実に検索順位が上昇することを約束していない。
(2) 錯誤無効又は詐欺取消し
(控訴人の主張)
被控訴人は,ディレクトリ登録について,「ショットで半永久的にSEO効果がある」などと説明しており,控訴人は,本件契約は1度のディレクトリ登録によって半永久的なSEO効果をもたらすものであると信じた。しかし,各検索エンジン会社のガイドラインに違反した場合にはSEO効果は消滅するものであり,ディレクトリ登録に半永久的なSEO効果がないことは社会的に明らかであって,被控訴人も認めるところである。現に,被控訴人によるディレクトリ登録後,控訴人ウェブサイトの検索エンジンでの順位は下降した。
したがって,控訴人は,本件契約の重要な要素について錯誤があったから,本件契約は無効である。また,控訴人は,控訴人の詐欺によって本件契約を締結したから,本件契約を取り消すとの意思表示をした。
(被控訴人の主張)
ア 被控訴人は,本件契約に係るディレクトリ登録業務を実施した場合にSEO効果が生じることを伝えたが,確実に検索順位が上昇することまで確約するものではない。被控訴人が別途SEOコンサルティング契約を提案したのに,控訴人が本件契約のみを締結したのは,費用を重視して従前のSEO効果を得られなくてもやむを得ないと判断したからであり,従前のSEO効果を維持,向上させる目的をもって本件契約が締結されたものではないし,仮に控訴人がそのような目的を持っていたとしても,明示又は黙示に表示されてないから意思表示の内容になっていたとはいえない。したがって,被控訴人の本件契約に係る意思表示に錯誤は認められない。
また,控訴人は,SEOコンサルティング契約の提案を受けておきながらその点について確認もせず放置していたから,重過失があり,錯誤無効を主張することはできない。
イ 被控訴人は,ディレクトリ登録により永久的にSEO効果が必ず発生すると断定するものではなく,成果を保証する見解も示していない。被控訴人は,ホームページが存在する限りSEO効果が生じることを説明しており,ディレクトリ登録を行うことによって検索が容易になってSEO効果が発生するから,事実に反することを殊更に述べたものではない。被控訴人は,ディレクトリ登録が効果的であることが期待される旨伝えたのであって,これは,取引通念上認められる程度の表現である。したがって,被控訴人の控訴人に対する勧誘は詐欺に当たらない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(債務の本旨に従った履行の有無)について
(1) 控訴人は,控訴人とウェブスタージャパンとの間のSEOコンサルティング契約が控訴人と被控訴人との間に承継された旨主張する。しかし,本件全証拠によっても,この事実を認めるに足りない。かえって,証拠(甲8,乙1,3,4)によれば,ウェブスタージャパンの担当者は,平成24年6月下旬,控訴人代表者に対し,本件契約とは別個の成果報酬型のSEO効果を期待できる契約(SEOコンサルティング契約)に係る申込書を送付したこと,また,その後,被控訴人の担当者は,控訴人代表者に対し,同年8月10日付けのメールで「SEOの更新及びディレクトリ登録などの件」の検討状況を尋ね,同月23日付けでSEOコンサルティング契約の見積書を送付し,同年10月9日のメールで成果報酬型SEO対策についての検討を依頼したことが認められる一方,控訴人は,同月10日,ディレクトリ登録業務の委託を内容とする本件契約を申し込んでいる(甲2)のであるから,控訴人と被控訴人との間において,SEOコンサルティング契約が承継されなかったものと認められる。
(2) 控訴人は,本件契約によって,被控訴人は,控訴人に対し,1度のディレクトリ登録によって半永久的なSEO効果を生じさせる債務を負っていたと主張し,証拠(乙4,18)によれば,被控訴人は,ウェブサイト上で,「ディレクトリ登録では,1度登録するだけでHPが存在する限り半永久的にSEOに効果を発揮します。」と記載していたこと,被控訴人の担当者は,平成24年7月20日,本件契約を勧誘する際,控訴人代表者に対し,「ショットで半永久的にSEO効果があるため,長期的なSEOを考えているのであれば,費用対効果はかなり高いものが期待できます。」との記載を含むメールを送ったことが認められる。
本件契約により定められた被控訴人の業務はディレクトリ登録の申請であるところ,ディレクトリ登録とは,指定したウェブサイトをディレクトリ型(カテゴリ型)検索サイトへ登録することをいい,これにより一定のSEO効果(あらかじめ顧客が指定したキーワードを検索エンジンで検索した際に,特定のホームページが検索結果の上位に表示されるようにウェブページを書き換えること)が生じ,その効果は逓減しながらも継続するが,検索順位の上昇というSEO効果を発生,継続させるためには,ディレクトリ登録のみならず,外部リンクの作成等の外部施策が必要である。(弁論の全趣旨)
そして,被控訴人の担当者が,控訴人代表者に対し,平成24年7月30日のメールで,「外部リンクに関しましては,弊社のドメインやサーバー,作成したテキストのリソースとなりますので,契約終了後は徐々に外れていく形となってしまいます。」と述べていること(乙4),被控訴人の担当者が,控訴人代表者に対し,検索順位が上位10位以内に入った場合には1日当たりの成功報酬が発生するSEOコンサルティング契約を本件契約とは別個に勧めていること(乙1)から,控訴人代表者は,本件契約締結時において,ディレクトリ登録のみによってSEO効果が得られる保証がないことを認識していたと認められる。
そうすると,上記のウェブサイトの記載や被控訴人担当者の勧誘文言によって,被控訴人が控訴人に対し,半永久的なSEO効果を生じさせる債務を負っていた事実を認めることはできず,他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって,本件契約に係るディレクトリ登録業務後に控訴人ウェブサイトの検索エンジンでの順位が下降したこと(乙7)をもって,被控訴人に債務不履行があるということはできない。
2 争点(2)(錯誤又は詐欺取消し)について
(1) 上記1(1)のとおり,ディレクトリ登録により一定のSEO効果が生じ,継続することからすれば,上記のウェブサイト上の「ディレクトリ登録では,1度登録するだけでHPが存在する限り半永久的にSEOに効果を発揮します。」との記載(乙18)及び被控訴人の担当者によるメール上の「ショットで半永久的にSEO効果があるため,長期的なSEOを考えているのであれば,費用対効果はかなり高いものが期待できます。」との記載(乙4)が虚偽であるとはいえない。
この点に関し,控訴人は,ディレクトリ登録は各検索エンジン会社のガイドラインに違反した場合にはSEO効果は消滅するものであり,また,ディレクトリ登録に半永久的なSEO効果がないことは社会的に明らかであって,被控訴人も認めるところであると主張する。
証拠(乙9~17)によると,平成22年ころから3年間程度続いたディレクトリ登録によるSEO対策は,平成25年ころには有力検索サイトからガイドライン違反となる場合があると指摘されるなどしており,ディレクトリ登録のみによってSEO効果が生じないだけでなく,違反と認められた場合にペナルティが科せられることもあるという状況となっていたことが認められるが,いずれも本件契約締結時における状況を示すものではないから,控訴人の主張を採用することはできない。
(2) 上記1(1)のとおり,控訴人代表者は,本件契約締結時において,ディレクトリ登録のみによってSEO効果が得られる保証がないことを認識していたものと認められる。そうすると,本件契約締結に際し,控訴人代表者に錯誤があったとは認められない。
したがって,控訴人の錯誤無効及び詐欺取消しの主張は理由がない。
3 その他の主張について
控訴人は信義則違反についても主張するが,上記1及び2で説示したところに照らすと,被控訴人が控訴人に対して本件契約に基づく報酬の支払を求めることが信義則に反する事情は認められないから,控訴人の主張は採用できない。
第4 結論
以上によると,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 後藤健 裁判官 杜下弘記 裁判官 中村玲子)
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