
判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(372)平成15年 9月25日 東京地裁 平14(ワ)21252号 地位確認等請求事件 〔PwCフィナンシャル・アドバイザー・サービス事件・第一審〕
裁判年月日 平成15年 9月25日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平14(ワ)21252号
事件名 地位確認等請求事件 〔PwCフィナンシャル・アドバイザー・サービス事件・第一審〕
裁判結果 一部認容、一部棄却 上訴等 控訴 文献番号 2003WLJPCA09256004
要旨
◆外資系コンサルタント会社のマネージャーが所属する部門の閉鎖により解雇されたことについて、人員整理の必要性は認められるものの、本人がマネージャーとしての能力に欠けていたと客観的に認めることはできず、職務の互換性のある他部門へ配置転換することが不可能であったともいえないので、解雇回避努力義務及び被解雇者選定の合理性の点で不十分であり、また、能力不足を理由とする解雇としても、客観的で合理的な理由を欠いており、解雇権の濫用として無効と判断された事例。〔*〕
出典
労判 863号19頁
評釈
奥野寿・ジュリ 1286号133頁
田中達也・季刊労働法 206号217頁
小畑史子・月刊労働基準 56巻6号29頁
裁判年月日 平成15年 9月25日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平14(ワ)21252号
事件名 地位確認等請求事件 〔PwCフィナンシャル・アドバイザー・サービス事件・第一審〕
裁判結果 一部認容、一部棄却 上訴等 控訴 文献番号 2003WLJPCA09256004
原告 X
上記訴訟代理人弁護士 徳住堅治
同 北村聡子
被告 プライスウオーターハウスクーパース・フィナンシャル・アドバイザリー・サービス株式会社
上記代表者代表取締役 A
上記訴訟代理人弁護士 山﨑和義
同 熊隼人
同 山下彰俊
同 無江みな子
弁護士山﨑和義訴訟復代理人弁護士 三好康之
主文
1 原告が,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は,原告に対し,金45万8005円及びこれに対する平成14年2月26日から支払済みまで年6分の割合による金員,平成14年3月から本判決確定日まで毎月25日限り金72万6800円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6パーセントの割合による金員並びに平成14年6月から本判決確定日まで毎年6月30日及び12月10日限り各金143万8000円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 主文第1項同旨
2 被告は,原告に対し,金45万8005円及びこれに対する平成14年2月26日から支払済みまで年6分の割合による金員,平成14年3月から毎月25日限り金72万6800円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6パーセントの割合による金員並びに平成14年6月以降毎年6月30日及び12月10日限り各金143万8000円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,被告から解雇された原告が,被告の解雇は,整理解雇の要件,能力不足を理由とした解雇の要件を欠き無効であるとして,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに過去及び将来の賃金の支払を求めた事案である。
1 争いのない事実
(1) 当事者
ア 原告は,昭和○年生まれで,平成4年,a教育大学教育学部英語学科を卒業して,b證券株式会社に入社した。その後,cインキ工業株式会社を経て,平成11年に米国公認会計士試験に合格し,平成12年に米国コロンビア大学経営大学院でMBAを取得した後,同年10月1日,被告との間で,期間の定めのない労働契約を締結して被告に入社し,財務コンサルタントとして勤務してきた。
原告が入社した年の年収は,1100万8000円であったが,平成13年7月1日,原告の年収は,1150万4000円となった。
イ 被告は,コーポレイト・ファイナンス及び投資銀行サービスに関するコンサルティング,事業再興・再構築に関するコンサルティングなどを業とする会社である。被告は,米国に本社を置く世界最大の監査法人プライスウォーターハウスクーパース(以下「PwC」という)の子会社として,PwCのグループ会社であった旧青山監査法人と旧中央監査法人のM&A部門を承継する形で,平成11年6月に設立された。被告の設立当初は,五十数名の従業員で,M&Aの外に主たる事業として事業再生のビジネスを行っていた。原告が入社した平成12年10月段階(設立2年目)の社員数は120名であった。
(2) 被告における部門構成
原告の入社当時は,被告の会社組織として,BRS(ビジネスリカバリー・サービス〈事業再生〉)部門,CF&IB(コーポレートファイナンス&インベストメントバンキング〈企業財務&投資銀行〉)部門,PF&P(プロジェクトファイナンス&プライバタイゼーション〈特定事業金融&民営化〉)部門,AIMS(アクチューリアル&インシュアランス・マネージメント・ソルーション〈保険数理関係サービス〉)部門の4部門があった。
(3) 被告における職位
被告には6等級の職位があり,上からパートナー(等級6),マネージング・ディレクター(等級5),ディレクター(等級4),マネージャー(等級3),シニアアソシエート(等級2),アソシエート(等級1)と呼ばれていた。
(4) 原告の等級及び配属先等
ア 原告は,マネージャー(等級3)として採用され,入社後平成13年5月ころまで,CF&IB部門に属していた。その後,同部門がCVC(コーポレートバリュー・コンサルティング〈企業価値コンサルティング〉)部門とIB(インベストメントバンキング〈投資銀行〉)部門の2部門に分かれ,原告は,そのうちのIB部門に属することとなった。なお,被告では,各部門をまたがって,取り扱う業界ごとのチームも結成されていた。
イ 原告は,平成13年9月ころからは,原告が開拓した案件のプロジェクトマネージャーとして,投資先の開拓や調査等のコンサルティングサービスを提供する一方,Bディレクター(等級4)(以下「B(D)」という),Cパートナー(等級6)(以下「C(P)」という)と共に案件開拓を行っていた。同年11月ころからは,前記の自分で開拓した案件を主にやりながら,パートナーの指示で製薬会社の売却案件にも参加した。その案件では,Dマネージング・ディク(ママ)ター(等級5)(以下「D(MD)」という)の手伝いをしていた。
(5) 原告の解雇
ア 被告の就業規則15条は,従業員の解雇事由として,「c)事業の縮小その他の理由により,社員の削減または減失が必要となったとき」,「b)就業態度もしくは能率が著しく不適当であると認められた場合」,「d)その他前各号に準ずるやむを得ない事情があるとき」等を定めている。
イ 被告は,原告に対し,平成14年2月4日,IB部門についてリストラの必要があること,原告は被告で必要とされていないこと,自主的に退職する場合3か月分の賃金相当額の割増退職金を給付することを説明し,雇用契約の合意解約を申し出たが,原告がこれに応じなかったことから,原告を解雇する旨の意思表示をし,同月12日付けで解雇の手続を行った(以下「本件解雇」という)。
2 争点
(1) 本件解雇は,いわゆる整理解雇として有効か―本件解雇について,就業規則c)の事由(事業の縮小その他の理由により,社員の削減又は減失が必要となったとき)が認められるか。
【被告の主張】
ア 業務上の必要性
(ア) 被告の経常利益は,原告が所属していたIB部門の不振から,平成12年6月期に7億9000万円,平成13年6月期に7億3000万円であったものが,平成14年6月期は1億6000万円の損失を計上し,平成13年7月以降8か月間におけるIB部門の損失は,200万ドルにも及んでいた。また,IB部門が担当していたM&Aの分野は,競合他社の追い上げがあり,被告が優位性を保持する可能性は薄く,成功報酬体系を採用していたIB部門の収入確保にも問題があった。そのため,被告は,早急にIB部門を発展的に解消し,本業のBRS部門に注力することとし,平成14年2月初めからIB部門を閉鎖した。
(イ) 被告は,本件解雇に近接して,他2名に対する解雇ないし退職勧奨を行っており,その後も,平成14年3月に173名いた被告社員は,同年7月には149名,平成15年7月10日には122名と合理化が進められている。
(ウ) 原告は,本件解雇後,被告がIB部門において社員を採用したと主張するが,これは,V&S部門,BRS部門における専門職の採用である。
(エ) なお,整理解雇をしたからといって,社員の新規採用がすべて抑制されるわけではない。整理解雇が会社の再建を目的としている以上,新規採用の道が閉ざされれば,会社の活性化が失われるだけでなく,社員の年齢構成にも歪が生ずるなどの弊害が生じ,会社再建そのものが困難になるおそれが大きい。今後会社として重点を置く部門における新規採用,あるいは高度の知識や経験を必要とする専門職,技術職等の新たな採用等も,大量でなく,社員総数削減の中で行われていれば,整理解雇と矛盾する政策ではない。
イ 解雇回避努力
(ア) 被告は,IB部門の閉鎖に代えて,M&Aアドバイザリーグループ部門(以下「M&AA部門」という)を新設した。同部門は,車・製造業・薬品・化学の四つの部門から構成され,同部門に所属できるのは,M&Aに必要な専門能力を有する者のみであったが,原告は,IB部門のマネージャーとして採用されていたにもかかわらず,同部門で要求される能力が不足していた上,M&AA部門で要求される専門知識及び能力を持ち合わせておらず,職場がなくなってしまった。そして,被告における他部門についても,そのいずれもが高度に専門化しており,その部門の経験者あるいは専門家のみを採用していることから,IB部門で能力を発揮できなかった上,他の部門で必要な実務経験,十分な知識,マネジメント能力及びコンサルタントとしての素養のいずれにも欠け,積極性の乏しい原告を他の部門へ配置転換させ,被告の存続を左右するプロジェクトを担当させるのは困難であった。
(イ) また,被告のように高度な専門家集団においては,社員全員に対して一律に希望退職者の募集を実施することは現実的でない。
(ウ) 本件解雇当時,被告は,原告を含む数名に対し,被告の退職勧奨に応じて退職するのであれば,割増退職金(給与3か月分)を支払う旨の提案をすると同時に,原告が新規の就職先を探すことについて,会社として全力をあげて協力をする旨提案した。これは,希望退職者の募集と法的性質を全く同一にするものである。なお,原告の割増退職金額は215万円相当になり,原告の在籍期間が16か月間程度であることを考えれば,金額として妥当である。
ウ 基準の具体性
(ア) IB部門で原告が解雇の対象とされたのは,後記(2)【被告の主張】のとおり,同部門においてマネージャーとして要求された能力を備えていなかったことが明らかになったからであり,原告を被解雇者として選定したのは合理的である。
(イ) 被告は,IB部門の閉鎖に伴い,原告を解雇するとともに,同部門にいたEマネージャー(以下「E(M)」という)に対しても配置転換か,割増退職金を伴う退職に応じるかの提案を行ったが,同人がいずれも受け入れなかったため解雇している。さらに,同部門にいた他の1名の成績低迷者は,会社からの退職勧奨に基づいて,当時,既に会社を退職している。
エ 手続の相当性
被告は,原告に対し,今後IB部門がなくなること及び本人の能力不足の事実を指摘した上で,平成14年2月4日,割増退職金を提案して,雇用契約の合意解約の申出をしたところ,被告の説得にもかかわらず,原告がこれを拒否したことから,同月12日付けで解雇の手続を行ったもので,手続は相当である。
オ 以上の4要素に照らせば,本件解雇は,就業規則c)の「事業の縮小その他の理由により,社員の削減または減失が必要となったとき」に該当し,整理解雇として有効である。なお,これら4要素は法律要件でなく,整理解雇が解雇権濫用に当たるかは,事案毎の個別事情を総合して判断すべきである。
【原告の主張】
ア 本件解雇は,以下のとおり整理解雇の4要件(〈1〉人員削減の必要性,〈2〉解雇回避義務,〈3〉基準及び選定の合理性,〈4〉手続の合理性)をいずれも充足せず,無効である。
イ 人員削減の必要性について
(ア) 被告は,平成13年度7月以降8か月間において,IB部門の損失は200万ドルにも及んでいるとするが,それは,収益に未請求額の約2億2500万円を含めていないからであり,これを収益に含めるとIB部門は損失を出していない。
(イ) 仮にIB部門が損失を出していたとしても,被告全体としては,平成12年6月期35億円,平成13年6月期57億円,平成14年6月期48億円の収益をあげており,社員数からみて被告全体の14%を占めるにすぎないIB部門の損失を十分吸収できる。そもそも,1つのプロジェクトに,様々な部門の人間が関わることが多い被告の業務実態からすると,部門間の収益と経費の割り付けいかんによって,部門単位の収支を操作することができ,IB部門のみを取り上げ,収支を論ずることに意味がない。
(ウ) 被告が新設したM&AA部門は,単なるIB部門の名称を変更したにすぎず,実態において,IB部門とM&AA部門は,その業務内容も人員構成もほぼ変わっていない。被告は,平成14年2月から,F(以下「F(MD))」という)をIB部門のマネージング・ディレクター(等級5)として新規に採用しており,本件解雇が正当であるとの外観を作出するために,形式上,部門の名称を変更したにすぎない。
(エ) 被告全体を見ても,本件解雇後,平成14年2月に7名,同年3月ないし5月にも各1名ずつ新規に社員が採用され,被告の社員数は,本件解雇後,逆に増えており,その後同年3月,4月においてもほとんど減っていない。結局,被告が行っているのは,部門の名称変更や部門間の人員の異動にすぎない。また,同年6月ないし7月にかけての人員削減も,同じグループ内の他社へ異動であって,実質的な人員削減ではなく,その後の人員減は,理由が不明であり,時期的にみても本件解雇とは無関係である。なお,本件解雇に近接して2名が解雇又は退職となっているが,その正当性は明らかでない。
ウ 解雇回避努力について
(ア) 原告の他部門への配転可能性については,何時,どこで,誰が,どのような方法で検討したのか,全く不明である。被告のAIMS部門以外の部門は,その業務が相互に関連,重複しており,米国経営大学院でファイナンスを専攻して,MBA,米国公認会計士の資格を有し,高度な財務・会計知識が備わっている原告は,これらの部門で業務を遂行する能力を十分に有していた。現に被告においては,部門間の異動が頻繁かつ大規模に行われており,本件解雇前もIB部門社員10名が,V&S部門,BRS部門に配置転換となり,本件解雇後のIB部門の廃止,M&AA部門の廃止の際には,ほとんどの社員がBRS部門,V&S部門に異動となっている。また,被告が主張するような条件を満たしていない社員が継続して勤務している。
なお,M&AA部門がIB部門の名称を変更したものにすぎないのは,前記のとおりであり,そこで独自に要求される専門能力というものは,そもそも観念し得ない。
(イ) 原告は,本件解雇当時,唯一人整理解雇されたが,被告は,社員の年間離職率が25%もあり,新規採用さえ止めれば,社員は自ずと減っていく可能性が高く,原告を解雇する必要はなかった。また,人件費以外の削減やパートナー報酬の削減もされてない。
(ウ) 被告の原告に対する退職勧奨及び割増退職金の提案は,原告に対し,弁護士に相談するなどして提案に応ずるか否か検討する時間すらも与えず,わずか10分の間に回答を迫ったもので,形式的なものでしかない。解雇回避努力義務の一つとされる希望退職者の募集は,社員全体に向けたものであることを要し,原告一人に向けられた提案はこれに当たらない。なお,本件解雇前に被告が原告に再就職への協力を申し出た事実はない。
エ 基準及び選定の合理性について
(ア) 被告は,IB部門に所属していた社員26名について,客観的な解雇基準を設定して,解雇者の選定を行ったものではない。むしろ,被告は,経営上の責任を何ら問うことなく,経営戦略について何の責任もない原告を予め標的として解雇しており,極めて不当な人選である。
(イ) また,後記(2)【原告の主張】のとおり,原告が期待された能力を発揮しなかったという事実はない。被告が援用する評価には,過度に主観的なもの,そもそも存在しないもの,整理解雇に向けて故意に作成されたものが含まれており,原告の客観的な能力を正確に反映していない。
(ウ) 被告は,M&AA部門が扱う車・製造業・薬品・化学についてのプロジェクトに従事した経験のない者を同部門の勤務に就かせているにもかかわらず,これまでIB部門の自動車・製造業グループに属し,薬品関係のプロジェクトの経験もある原告を解雇しており,その選定に合理性はない。
(エ) 被告がE(M)に対しても配置転換か,割増退職金を伴う退職に応じるかの提案を行い,同人がいずれも受け入れなかったため解雇していることは認めるが,同人の離職票上の解雇理由は,事業縮小に伴う整理解雇ではなく,単なる「解雇」となっている。被告は,原告が本件解雇を問題視してから,E(M)に対し,配置転換を提案したにすぎず,原告に対しては,配置転換の提案はなかった。なお,他の1名が退職勧奨に基づいて退職したことは知らない。
オ 手続の相当性について
本件では,突然かつ一方的に解雇通告がなされたもので,被告は,原告に対し,IB部門がなくなるとの説明を始め,整理解雇の必要性とその内容(時期・規模・方法)について,納得を得るための説明も行わず,わずか10分の話合いで解雇を通告し,即刻会社から出るよう指示して,原告を職場から半ば強制的に排除した。また,労働組合との協議が行われたのも,本件解雇の後である。さらに,正式な解雇日が平成14年2月12日となっているのは,同月4日から12日の間に協議を行ったとか,合意解約の申出について原告に検討する時間を与えていたというわけでは決してなく,単に,被告が社会保険等の手続を怠った関係上,原告において健康保険の任意継続が不可能となってしまったからにすぎない。
(2) 原告は,就業規則15条b)の事由(就業態度若しくは能率が著しく不適当であると認められた場合)又はd)の事由(その他前各号に準ずるやむを得ない事情があるとき)に該当するか。
【被告の主張】
ア 被告が社員を採用する場合,入社当初から専門家としての能力を十分に発揮してもらうことを前提としており,原告の場合も,当初からIB部門で必要とされる能力を十分に備えた経験者として採用され,即戦力を期待される見返りとして,高額の年俸が支払われていた。この点,主として新規学卒者を採用し,期間の定めのない雇用契約に基づき,終身雇用制を前提として,徐々に専門知識や技術を身につけることを期待するという日本の従来型の雇用形態とは,その意味を著しく異にする。現に被告においては,平成14年1月段階で24名いたIB部門の社員は,退職あるいは他部門への配置転換により,M&AA部門がスタートした同年2月には18名に減少した上,現時点で被告に在籍しているのは9名にすぎず,さらに1名の退職が予定され,被告の評価を行ったC(P),Gマネージング・ディレクター(等級5)(以下「G(MD)」という),D(MD)の3名も退職している。また,平成12年7月に11名いたパートナーは,平成15年6月までに6名が退職している。このように被告では,各社員が出した結果が全てであり,期待された実績を上げることが厳しく求められ,それが果たせなかった場合,直ちに雇用契約を解除されるという厳しい現実がある。
イ(ア) 被告は,原告採用当時,M&A部門を増強する必要があり,MBA取得者である原告が将来十分な能力を発揮することを期待して,一般的なマネージャーの平均年収を上回る1100万円という年収額で原告を採用した。この1100万円をいう金額は,国内における公認会計士補の初任給の2倍をはるかに超える金額であり,原告に対する要求水準が極めて高いことを端的に表している。
(イ) しかし,被告における原告の評価は,入社直後の面談の結果におけるものが,マネージャーとしての能力に欠けるというもので,その後の評価も別表1のとおりであった。すなわち,原告の評価は,極めて低いD評価(改善の余地があり,組織の定める高い水準を満たすには,仕事の成果の質を改善する必要があるとするもの)から始まり,その後,実際にはアソシエイト(等級1)に準じるような業務を担当したり,個人が顧客の小さな案件を担当し,契約が成立しなかった案件について厳しい評価がされなかったなどの結果,平均的なCランクとなったものの,特に著しい業績向上は見られず,平成14年1月に至って,再度最低のDランクに戻ってしまい,マネージャーとしての資質を疑われて十分な評価となっている。このことは,原告のプロジェクトへの関与が減少し,その結果,労働時間が相当程度減少していることからも明らかである。なお,平成13年7月の昇給は,定期的なものである。
(ウ) 原告の能力不足の例として,平成13年4月,被告と業務上密接な関係にある中央青山監査法人(以下「中央青山」という)の重要な顧客の一社であるd電気工業株式会社(以下「d電工」という)に対し,d総合設備株式会社(以下「d設備」という)の株式公開の買付制度について,極秘にアプローチすべき局面において,原告が,重要な機密情報を電話で,しかも担当役員以外の者に話してしまうという極めて不用意な言動を取ったことがある。これにより,被告内及び中央青山内においてはことの成り行きを心配し,混乱状態に陥り,また,d電工内においても情報が漏洩したとなれば,同社が今後行う施策が不成功に終わるおそれも多分にあった。
(エ) 原告は,本訴の尋問の際,原告の上司が行った原告に対する消極的評価に対し,虚偽のものであるとか,意図的・恣意的評価であるとして,少しでもこれに従おうという発言を一言もせず,傲慢で頑な(ママ)な姿勢を明らかにしており,被告に戻ったとしても,十分な能力の発揮とその向上は期待できない。
【原告の主張】
ア 被告は,本件解雇当時,能力不足による解雇という理由を挙げておらず,当該理由による解雇を主張することは許されない。
イ また,次のとおり,原告の能力が,解雇が相当となる程度に不足していたという事実もない。
(ア) 原告が就いたマネージャーという職位は,上から4番目,下から3番目に位置する。本来,顧客を獲得し,部門全体の運営を任されるのは,ディレクター以上のレベルにある者達であり,原告のようなマネージャーは,ある程度入社後の実務経験の積み重ねを経て,能力を発揮することが期待されており,他方,原告の年俸も,日本の都市銀行,証券会社,保険会社,総合商社に比べて殊更に高額であったとはいえない。被告は,外資系とはいえ,年功序列の組織構成であり,そこで行われる人事異動や評価も,これまで述べたとおり全て上司と部下との人的つながりを重視した主観的な判断に基づくものであった。したがって,本件解雇を他の事案と別個に考察することは妥当でなく,能力不足による解雇が認められるためには,一般の裁判例と同様,著しく能力が劣り,しかも向上の見込みがないことが必要というべきである。
(イ) この点,原告は,マネージャーとしての職務を十分に遂行しており,平成13年7月時点で昇給もしている。
(ウ) これに対し,被告が主張する別表1は,次のとおり,概念に混乱が見られ,原告が認識していない評価基準が記載されるなど,被告の評価システムを正確に反映していない上,作成の真偽も疑問である。
A 別表1〈1〉〈3〉〈7〉の評価は,マネージング・ディレクター(等級5)のH(以下「H(MD)」という)が関与して行われたものであるが,原告の知らないところで一方的に作成された虚偽のものか,原告を好ましく思っていないH(MD)の主観が影響したもので,正当な評価でない。別表1〈2〉の評価は,原告が入社した直後のもので,評価者であるG(MD)は適正評価ができる程度に原告と仕事を共にしていない。別表1〈10〉の評価は,〈3〉〈7〉と平仄を合わせるために作出されたものである。
B むしろ,被告が原告の能力不足を証するものとして提出している別表1においても,その〈4〉ないし〈6〉における全項目における3.0の評価は,マネージャーとしては満点であり,原告が,能力不足どころか,マネージャーとして求められる能力を十分に発揮していたことを意味する上,〈4〉〈6〉の評価者は,コメント欄で賞賛の言葉さえ述べている(なお,〈6〉に係るH(MD)のコメントが信用できないのは,前記のとおりである。)。また,別表1〈8〉〈9〉でも,3.0ないし4.0の評価であり,原告が,マネージャーよりもレベルが上のディレクターと同程度の能力を発揮したことを意味し,被告において期待された以上の能力を発揮していたことが示されている。
C 別表1〈11〉の評価は,原告をねらい打ちで解雇する前段階として,解雇理由を強引に作出するため,意図的に作成されたもので,原告の客観的な能力を全く反映していないし,それのみで原告の能力を評価すべきではない。
(エ) d電工の件について
被告は,原告の能力不足を具体的に挙げられないために,この1件のみを殊更に取り上げるが,本件は本件解雇時から1年も前の出来事であり,当時の評価書を見ても,原告の評価は殊更悪くないこと,原告は,電話口で機密漏洩に当たるような詳細な事実まで告げていないこと,当該買収の話が広まったのは,他のルートからであったことからすると,原告の能力不足を表す事情ではない。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)のうち【人員削減の必要性】について
(1) 前記争いのない事実,証拠(〈証拠省略〉)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 被告の収益及び経常利益は,次のとおりである(弁論の全趣旨)。
(ア) 平成12年6月期 収益35億円,経常利益7億9000万円
(イ) 平成13年6月期 収益57億円,経常利益7億3000万円
(ウ) 平成14年6月期 収益48億円,経常損失1億6000万円
イ 被告作成に係る「MONTHLY OPERATING REPORT―AFTER ALLOCATION YTD JANUARY2002」によれば,IB部門における平成13年7月から平成14年1月までの7か月間の収支は,2億0357万9917円の損失となっているが,純報酬収益の項目に示された未実現収益2億2634万1283円については,収益として考慮されていない(〈証拠省略〉)。
ウ 平成13年4月時点において,CF&IB部門には,28名が配属されていたが,同部門が同年5月にCVC部門及びIB部門に分割された後の同年8月時点で,IB部門には33名が配属され,同年11月及び12月のIB部門の配属人員は,31名,32名で,CVC部門の配属人員は,いずれも15名であった(〈証拠省略〉,弁論の全趣旨)。
エ その後の被告における部門毎の人員数(秘書等を除く)の変遷は,別表2記載のとおりであるが,その人員数は,新規採用として,平成13年10月及び11月に各4名,同年12月に2名,本件解雇のあった平成14年2月に7名,同年3月及び4月に各1名が,それぞれ入社した結果及び他の退職,解雇や配置転換を踏まえたもので,例えば,平成13年12月には,3名がIB部門からCVC部門に配置転換され,平成14年2月には,7名が新規採用される一方,原告及びE(M)外2名の計4名が解雇,退職となり,IB部門からBRS部門,V&S部門に5名が配置転換されている。(〈証拠省略〉弁論の全趣旨)。
オ そして,被告は,平成14年2月1日,F(MD)をマネージング・ディレクターとして採用し,IB部門に配属したが,同月15日,IB部門を閉鎖し,M&AA部門を設置した。F(MD)は,IB部門閉鎖後BRS部門に異動した。(〈証拠省略〉,弁論の全趣旨)
カ IB部門は,広範囲の投資銀行業務,企業財務を取り扱う部門として組織されていたが,M&AA部門は,業績向上のため,取り扱う対象を自動車・製造業・薬品・化学の4分野に絞って組織されたものであった(〈証拠省略〉,弁論の全趣旨)。
(2) 以上によれば,被告の経常利益は,平成13年7月以降減少し,期末の平成14年6月では,1億6000万円の損失を計上することとなったが,その原因は,IB部門の業績不良にあり,それは,IB部門が,CVC部門と分離した後,人員を増やし30名以上の人員を抱えていたことにあると認められる。したがって,被告が,広範な業務を取り扱うIB部門を閉鎖し,4部門に特化したM&AA部門を開設して,業績の向上を図ろうとしたことには,経営上の合理性が認められ,IB部門に所属していた者について,人員整理の必要性が認められると解するのが相当である。
ただし,〈1〉IB部門の業績不良は,未実現利益の存在が大きく影響しているところ(前記(1)イ),当該未実現利益は,未だ収益の項目に計上されており,そのすべてが実現不可能であるとは解されないこと,〈2〉CF&IB部門がCVC部門及びIB部門に分割された後,IB部門所属の社員数が増大しているが(前記(1)ウ),それは被告の経営判断によるものであること,〈3〉被告は,本件解雇に近接して7名を新規採用しており(前記(1)エ),被告全体の経営が逼迫していたとは認め難いことからすると,被告に対しては,信義則上,高度の解雇回避努力義務が求められ,被告解雇者選定の妥当性等についても,十分に吟味する必要があるというべきである。
なお,原告は,本件解雇に先立って,被告からIB部門がなくなるとの説明は受けていないとし,F(MD)が本件解雇の直前IB部門に採用されたこと(前記(1)オ)などをもって,IB部門閉鎖は偽装である旨主張するが,原告は,Iパートナー(等級6)(以下「I(P)」という)からIB部門のリストラという説明を受けたとしていること(〈証拠省略〉),I(P)は,IB部門だけでなく事業再生もできる者としてF(MD)を採用した旨証言しているところ(〈証拠省略〉),これを不自然,不合理ということはできないことからすると,IB部門閉鎖が偽装であるということはできず,他にIB部門閉鎖を偽装と認めるに足る的確な証拠はない(甲15は,IB部門の業績悪化が顕在化する以前のもので,また,甲16は,IB部門に関するものか否か不明であり,さらに,甲56は,末尾の「〈C〉2002」との記載からすれば,平成14年当時のものである。)。また,原告は,乙44について,民訴法157条による却下を求めているが,乙44は,口頭弁論終結時までの経過を主張するものであって,時機に遅れたものということはできない。
2 争点(1)のうち【解雇回避努力義務】について
(1) 配置転換の可能性について
ア 被告は,IB部門閉鎖後,原告について,他の部署への配置転換を検討したが,マネージャーとしての能力,知識,経験,素養,積極性等に欠けており,他部門へ配置転換し,プロジェクトを担当させる余地はなかったと主張する。
イ 前記争いのない事実,証拠(〈証拠省略〉)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア)A 原告は,平成11年11月26日,人材紹介会社の紹介により,当時被告のCF&IB部門のパートナーであったJ(以下「J(P)」という)の採用面接を受けた。その際,J(P)は,原告をレベル2のシニア・アソシエイト(年収額900万円)として採用するべきであるとし,その場合の評価を5段階中の4と判断した(〈証拠省略〉)。
B 原告は,次いで,当時CF&IB部門のディレクター(現マネージング・ディレクター)のG(MD)と面談した(〈証拠省略〉)。
C さらに,原告は,平成12年1月14日,当時の被告代表取締役K(以下「K」という)の採用面接を受けた。その際,原告は,b證券株式会社で証券の営業を1年,cインキ工業株式会社で経営企画を3年経験していたにすぎず,コンサルティング業務に必要な実務経験が十分とはいえなかったが,MBA資格を取得する見込みであり,既に米国公認会計士の資格を有していた。被告は,M&A部門を増強する方針であったのにもかかわらず日本国内で適切な人材を集めることができないでいたことから,Kは,原告の雇用を確保すべく,前記AのJ(P)の判断によらず,原告をマネージャーとして採用することとし,原告に対し,一般的なマネージャーの平均年収1000万円を上回る1100万円という年収額を提示した。(〈証拠省略〉,弁論の全趣旨)
(イ) 被告において,社員に開示される方法で行われる評価システムとしては,プロジェクト・レビュー,中間レビュー,年次レビューが存在し,その内容,手続は,次のとおりである(〈証拠省略〉,弁論の全趣旨)。
Aa プロジェクト・レビューは,アソシエイト(等級1)ないしマネージャー(等級3)の者につき,〈1〉大規模なプロジェクトの終了時(およそ80時間以上),〈2〉大規模なプロジェクトの間に少なくとも2か月毎,〈3〉多数の小規模なプロジェクトを担当している者については,最低2か月毎に全てのプロジェクトについて,実施される。
b プロジェクト・レビューの開始は,プロジェクトの完了時又は被評価者が希望する時期に,社員がプロジェクト・レビュー・フォーム(規定の業務評価書)にプロジェクトの情報と自己評価を記入し,評価者(プロジェクトリーダー)に提出することによって開始される。プロジェクト・レビュー・フォームには,11項目の能力評価欄及び1項目のパフォーマンス評価欄が設けられている。
c 11項目の能力評価欄の横には,被評価者による自己採点欄と,評価者による採点欄とが設けられ,双方が,6段階の絶対評価で採点する(マネージャーであれば3がポジション相応の評価,4であればディレクター並の評価,2であればシニアアソシエート並の評価をしたことになる。)。
d 1項目のパフォーマンス評価欄には,評価者による採点欄が設けられ,評価者は4段階で評価をする。4段階の内容は,〈1〉非常に優れている(仕事の成果の質が非常に高く,要求水準をはるかに超えている。パフォーマンスのすべての面において,常に顕著な成果を上げている),〈2〉優れている(仕事の成果の質が優れ,ほとんどの場合,要求水準を超えている),〈3〉期待水準どおり(仕事の成果の質が,組織の定める高い水準を満たしている。以下「C評価」という),〈4〉改善の余地あり(組織の定める高い水準を満たすには,仕事の成果の質を改善する必要がある。以下「D評価」という)となっている。
e 評価者による評価記入後,評価者と被評価者で話合いをし,評価者が被評価者の仕事ぶり等についてコメントを記入し,それに対して被評価者がコメントを記入する。そして,両者がサインをして人事部に提出する。なお,評価者のレベルがディレクター(等級4)以下の場合,マネージング・ディレクター(等級5)ないしパートナー(等級6)が評価を承認する。
Ba 中間レビュー,年次レビューでは,プロジェクト・レビュー及びその他のフィードバックに基づいて評価された能力及びパフォーマンスの評価結果が示される。
b 能力評価及びパフォーマンスの評価は,プロジェクト・レビューと同様である。
c なお,中間レビュー及び年次レビューは,パートナーないしマネージング・ディレクターが,被評価者の評価を取りまとめ,次期における昇進の有無を判断した評価書を作成することで行われるが,その後,被評価者に対する還元として,被評価者と評価者が当該評価書に基づいて意見を交換し,その結果をまとめたものに両者がサインする手続がとられる。
(ウ) 他方,中間レビュー及び年次レビューと同時に,会社側の資料として,パートナー及びマネージング・ディレクターが,被評価者の評価を取りまとめ,次期における昇進の有無を判断した資料が作成されることがある(〈証拠省略〉,弁論の全趣旨)。
(エ)A 原告は,入社後,CF&IB部門のJ(P)の下に配属となり,J(P)は,原告に企業価値評価の実務経験がないことから,戦略部門のLディレクター(以下「L(D)」という)に原告と面接するよう指示した。L(D)は,原告と面接した結果,原告の能力に否定的な評価をし,配属を拒んだ(〈証拠省略〉)。
B その後,原告については,CF&IB部門で自動車・産業製品を担当していたH(MD)が配属を了承し,原告は,入社後平成13年3月ころまでは,CF&IB部門の自動車・産業製品を取り扱うチームのマネージャーとして,同チームディレクター(等級4)のもとで,主に自動車・製造業業界のM&Aの案件開拓のためのリサーチをする一方で,BRS部門での債権売却プロジェクト(S2)等に携わっていた。また,原告は,同年2月には,銀行の買収案件でBRS部門のプロジェクト(T)に約半月の間携わった。(〈証拠省略〉,弁論の全趣旨)
C その後,原告は,同年4月以降7月ころまでは,IB部門の自動車・産業製品チームで,新しく入社したB(D)のもとで,M&Aの案件開拓を共に遂行したり,そこで獲得した顧客のプロジェクト(P)でコンサルティングサービスの提供をしていた(〈証拠省略〉,弁論の全趣旨)。
D 原告は,同年8月ころから,電気メーカー合併後のコンサルティング計画の策定から調査までのプロジェクト(D。なお,結局,正規のプロジェクトまでには発展しなかった)に9人のチームのプロジェクトマネージャー的立場で関与した。と同時に,原告は,B(D)とのプロジェクト,案件開拓も引き続き行っていた。この頃から,原告が所属したIB部門のマネージャーは,どこの業界チームにも属することがなくなり,プールされて,当時IB部門の人材管理をしていたC(P)が,プロジェクトの割当てをするようになった。(〈証拠省略〉,弁論の全趣旨)
E 原告は,同年9月ころからは,原告が案件を開拓した顧客のプロジェクト(K)のプロジェクトマネージャーとして,投資先の開拓や調査等のコンサルティングサービスを提供する一方,B(D),C(P)と共に案件開拓を行っていた。同年11月ころからは,前述の自分で開拓した案件のプロジェクトをメインでやりながら,C(P)の指示で農薬会社の売却案件のプロジェクト(H)にも参加し,D(MD)の手伝いをしていた。(〈証拠省略〉,弁論の全趣旨)
(オ)A 被告においては,原告について,別表1〈1〉ないし〈10〉のとおりの評価を行った。なお,別表1「総合評価」欄記載の評価は,前記(イ)Adの評価である。(〈証拠省略〉)。
B 別表1〈1〉の評価は,H(MD)が原告の配属を受けた直後に被告の指示で行ったもので,H(MD)は,コメントとして,〈1〉原告の能力は,アソシエイト(等級1)と同じ水準であり,マネージャーとして責任を果たすために実務経験を積む必要がある,〈2〉原告は,前向きで意欲的な態度を有し,よきチームプレイヤーではあるが,リーダーシップを身に付ける必要がある,〈3〉恐らくコミュニケーションスキルは,更なる経験を積み,適切な指導があれば改善する,〈4〉原告は,収益性及びビジネス開発に必要な全体像を理解し管理できるようになるため,更なる経験と訓練が必要であると記載した(〈証拠省略〉)。
C 別表1〈2〉の評価は,平成12年12月の中間レビューとして行われたもので,原告が,上司であるG(MD)に対して,自己評価を申告し,G(MD)が,意見を付し,更に,J(P)が承認したものである。G(MD)は,原告の自己申告について,2項目について0.5ランク,2項目について1ランクを下げる評価を行ったものの,原告の能力はマネージャーとして評価した。しかし,J(P)は,G(MD)の評価を更に下げ,2ランク及び1.5ランク下げたものが各1項目,0.5ランク下げたものが2項目,1ランク下げたものが3項目あり,原告の能力をレベル2と評価した。(〈証拠省略〉,弁論の全趣旨)
D 別表1〈3〉の評価は,H(MD)が,会社側の資料として,原告に対する平成12年12月時点での評価をまとめ,次期における昇進の有無を判断したものである。そこでは,10項目中,3項目でC評価,7項目でD評価となっており,昇進の推薦はないが,KM(ママ)Bは(ママ),原告の積極性を評価し,問題は経験不足にあり,時間と適切な訓練があれば,マネージャーとして成長できるとコメントした。(〈証拠省略〉)
E 別表1〈4〉の評価は,プロジェクトTのプロジェクト・レビューであり,原告が,プロジェクトで上司となっていたMマネージャー(以下「M(M)」という)に対して,自己評価を申告し,M(M)が,意見を付し,更に,I(P)が承認したものである。M(M)は,原告の自己申告を訂正せず,I(P)もそのまま承認した。その際,M(M)は,原告のパフォーマンスは非常に信頼のある安定したもので,時機を得た方法,リーダーシップ,メンバー間における頻繁なコミュニケーションでプロジェクトを正しい方向に導き,顧客も感謝しているとコメントした。(〈証拠省略〉)
F 別表1〈5〉の評価は,プロジェクトS2のプロジェクト・レビューであり,原告が,プロジェクトのパートナーであるN(以下「N(P)」という)に対して,自己評価を申告し,N(P)が,意見を付したものである。N(P)は,原告の自己申告を訂正せず,そのまま承認した。その際,N(P)は,プロジェクトは難しいものではなかったが,そのためにないがしろにされがちな顧客に対し,熱心かつプロ意識をもってアプローチしてくれた原告に感謝しているとコメントした。(〈証拠省略〉)
G 別表1〈6〉の評価は,プロジェクトPのプロジェクト・レビューであり,原告が,プロジェクトで上司となっていたB(D)に対して,自己評価を申告し,B(D)が,意見を付し,更に,H(MD)が承認したものである。B(D)は,原告の自己申告のうち,4項目について,4の評価であったものを3に訂正し,H(MD)もそのまま承認した。その際,B(D)は,原告は顧客との良好な関係を維持することにおいて非常にすばらしいものがあったとコメントし,H(MD)は,原告は非常によい態度でプロジェクトに臨んだが,顧客を含めた関係者それぞれの立場を辛抱強く理解する必要があるとコメントした。(〈証拠省略〉)
H 別表1〈7〉の評価は,H(MD)が,年次レビューとして,原告に対する平成13年5月時点での評価をまとめ,次期における昇進の有無を判断したものである。H(MD)は,原告について,顧客との関係及び金融コンサルティングを行う上での感性,技術的側面の応用,言語以外の部分でのコミュニケーションスキル,収益性のマネジメント,ビジネス開発等において欠ける部分があるが,前向きな態度と成功願望は有しているとコメントし,昇進の推薦はしなかった。原告とH(MD)は,同年7月19日,別表1〈7〉の評価について,還元のために協議を持った。(〈証拠省略〉)
I 別表1〈8〉の評価は,プロジェクトDのプロジェクト・レビューであり,原告が,プロジェクトのパートナーであるC(P)に対して,自己評価を申告し,C(P)が,意見を付したものである。C(P)は,原告の自己申告のうち4項目について,1ランクずつ下げる訂正をして承認した。その際,C(P)は,原告について,一生懸命プロジェクトをやっていることは評価できるが,もう少し攻撃的にやってほしいとコメントした。(〈証拠省略〉)
J 別表1〈9〉の評価は,プロジェクトKのプロジェクト・レビューであり,原告が,プロジェクトのパートナーであるC(P)に対して,自己評価を申告し,C(P)が,意見を付したものである。C(P)は,原告の自己申告のうち,1項目について,2ランク下げ,6項目について,1ランク下げて承認した。その際,C(P)は,原告について,顧客との関係に関してはすばらしい成果であり,プロジェクトの収益性も非常によいとコメントした。(〈証拠省略〉)
K 別表1〈10〉の評価は,C(P)が,原告に対する平成13年12月時点での評価をまとめ,次期における昇進の有無を判断したものである。C(P)は,昇進の推薦はしなかったが,原告について,顧客のニーズをつかむためのコミュニケーションスキルを実証し,良きチーム・プレーヤーであり,収益性とリスク管理に優れているとコメントした。(〈証拠省略〉)
(カ)A 別表1〈11〉の評価は,プロジェクトHのプロジェクト・レビューであり,原告が,プロジェクトの上司であるD(MD)に対して,自己評価を申告し,D(MD)が,意見を付したものである。D(MD)は,原告の能力評価についての自己申告のうち,1項目について,2ランク下げ,6項目について,1ランク下げ,3項目について,評価しないと訂正し,パフォーマンスの総合評価をD評価とした。
その際,D(MD)は,原告について,与えられた仕事は概ねこなしたとしつつ,〈1〉顧客との信頼関係,〈2〉英語力,〈3〉タイムチャージの請求の在り方,〈4〉積極性,〈5〉顧客の前での身だしなみ,〈6〉議事録の取り方,〈7〉リーダーシップ等に問題があるとコメントした。
これに対し,原告は,〈1〉顧客と接する機会が少なかったのに,顧客に対する能力を低く評価するのは納得できない,〈2〉英語力は,D(MD)に劣るかもしれないが,他のマネージャー等と比べ劣っているとは思わない,〈3〉当初における資料分析に時間をかけたおかげで,後の進行が迅速になった,〈4〉積極性を発揮する場面自体がなかった,〈5〉プロジェクトに入った翌日の6時間に及ぶ英語での会議について,細部まで議事録をとるのは無理であった,〈6〉リーダーシップをとったからといって顧客がそれを評価するとは限らないなどと反論し,これに対し,D(MD)が更に反論を加え,原告とD(MD)の間で意見の一致を見ることはなかった。
(〈証拠省略〉)
Ba プロジェクトHは,外資系企業(農薬関係)が買収済みであった日本子会社資産の一部を売却するという案件であり,D(MD)が中心となって,平成13年10月から開始された。原告は,同月15日,C(P)からプロジェクトHに加わるよう指示された。当時,原告は,プロジェクトKに従事しており,1日3時間程度しか関与できないことを条件として,D(MD)の下で,プロジェクトHに従事することとなった(〈証拠省略〉)。
b プロジェクトHが開始されてから約1か月後,顧客の側で有力な売却候補先をみつけることができ,その後,同プロジェクトの規模は縮小された(〈証拠省略〉)。
C 原告の平成13年10月から平成14年1月までの勤務時間(このうち「プロジェクト以外」の時間は,顧客にタイムチャージを請求できない時間である)は,別表3記載のとおりであった(〈証拠省略〉)。
D 被告において,原告の解雇を検討し始めたのは,平成13年12月末から平成14年初頭にかけてのことであり,I(P)は,同年1月24日ころ,念のため,D(MD)に対し,原告の評価を行うよう指示し,別表1〈11〉の評価書が作成された(〈証拠省略〉,弁論の全趣旨)。
(キ) 原告は,平成13年4月,d総合設備の株式公開買付制度の件でd電工の担当役員に電話をかけた際,取り次いだ経営企画室の秘書に対し,M&Aの件で電話をしたと話したことがあった。その後,d電工内で,同社がM&Aの対象となっているとの噂が広がり,被告は,d電工から抗議を受けた。しかし,原告は,d電工から被告が抗議を受けたことに関し,何らかの処分を受けたことはない。(〈証拠省略〉)
(ク) 原告の英語力は,TOEICスコア940,TOEFLスコア653,英語検定1級の評価を受けている(〈証拠省略〉)。
(ケ) IB部門所属の社員のうち,平成13年中に2名がBRS部門に,同年12月に3名がV&S部門に,平成14年2月に6名がBRS部門に,それぞれ配置転換となった。そして,M&AA部門が,平成14年2月15日に業務を開始した当時,IB部門所属社員全員が,M&AA部門に配置転換となり,その中には,IB部門でノンバンクの案件を担当していた2名が含まれていた(〈証拠省略〉,弁論の全趣旨)。
(コ) 現時点においても,被告は,V&S部門,BRS部門で,手法は異なるもののM&Aの案件を取り扱っている。M&Aの市場は,我が国においても広がっており,被告としても同分野での業務展開を志向している。(〈証拠省略〉)
(サ) 本件解雇と同時期に解雇されたJ(M)についても,解雇直前に評価書を提出することを求められ,低い評価を受けたが,それ以前の分については,マネージャーとして低い評価を受けていたことはない(〈証拠省略〉)。
以上のとおり認めることができ,前掲各証拠のうち以上の認定に反する部分は採用できない。
ウ 以上によれば,原告は,〈1〉被告から採用されるに当たって,一部の者からマネージャーとしての能力があるとの評価は受けていなかったこと(前記イ(ア)A),〈2〉入社直後の評価で,マネージャーとしての能力に疑義があるとされていたこと(同イ(エ)A,(オ)BないしD),〈3〉本件解雇直前に行われた1つのプロジェクトHに関する評価で,マネージャーとしての能力に欠けると評価されたこと(同イ(カ)A),〈4〉原告の勤務時間のうち,顧客に対してタイムチャージを請求できる時間は,約4分の1であり,また,平成13年12月及び平成14年1月において,労働時間が減少傾向にあったこと(同イ(カ)C)が認められる。
しかし,〈1〉被告に採用された時点で,原告に金融・財務に関する実務経験がほとんどなかったことは明らかで,それにもかかわらず,被告が原告をマネージャーとして,年収1100万円で雇用したのは,MBA資格保有者を確保したいという被告の事情であること(同イ(ア)C),〈2〉原告が入社直後に低い評価を受けたのは,経験不足によるものであり(同イ(オ)B,D),被告は原告に実務経験がほとんどないことを前提に採用している以上,経験不足を理由とした入社直後における低評価を重視することは不相当であること,〈3〉原告が低い評価を受けたプロジェクトHは,原告の関与時間がプロジェクトKとの関係で制限されていたものである上,プロジェクト開始後約1か月で規模が縮小されたものであって(同イ(カ)B),原告の能力を評価するのに最適のものといえるか疑問がある一方,原告が同時期に主として関与していたプロジェクトKの評価は,平均値が3.6で,マネージャーとして期待された能力を上回る評価を受けていること(同イ(オ)J),〈4〉入社直後と本件解雇直前の各評価を除いた平成12年12月から平成13年10月までの評価は,絶対評価として,マネージャーとしての能力に欠けるところはないとされていること(同イ(オ)EないしK),〈5〉プロジェクトHに関する評価は,原告を解雇することが検討され始めた後に行われたもので(同イ(カ)D),また,原告と同時期に解雇されたJ(M)についても,原告と同様に従前必ずしも低い評価でなかったにもかかわらず,解雇直前の評価が低くなっているところ(同イ(サ)),被告から両名以外に対する評価の開示はなく,原告及びJ(M)に対する解雇直前の評価が客観的に行われたものであるか検証できないこと,〈6〉他の従業員の労働時間に関する資料の提出はなく,原告との比較はできないことを総合すると,原告のIB部門における勤務実績において,原告がマネージャーとしての能力に欠けていたと客観的に認めることはできないというべきである。
そして,〈6〉IB部門所属の社員のほとんどが,BRS部門,V&S部門,M&AA部門に配置転換となっており,IB部門でノンバンクの案件を担当していた2名も,ノンバンクの部門がないM&AA部門に配置転換となっていること(同イ(ケ)),〈7〉M&AA部門が閉鎖された現時点においても,被告は,V&S部門,BRS部門で,手法は異なるもののM&Aの案件を取り扱っており,M&Aの市場は,我が国においても広がっているとして,被告としても同分野での業務展開を志向していること(同イ(コ))からすると,IB部門におけるマネージャーとしての能力が欠如しているとは認められない原告について,IB部門と職務の互換性がある他部門へ配置転換することが不可能であったとすることもできない。
エ 以上に対し,H(MD)は,別表1〈7〉の評価は,当時,原告がアソシエイトレベルの仕事を行っていたことから,別表1〈1〉〈3〉の評価よりも甘くなってしまったと証言し(〈証拠省略〉),また,被告は,別表1〈7〉ないし〈9〉の評価は,案件との関係で厳しい評価がされなかったと主張するが,被告における評価は,絶対評価とされているのであり,いずれも採用できない(仮に被告における評価が絶対評価でないのであれば,別表1〈11〉の評価をもって,原告の能力を判断するのは相当でないこととなる。)。
また,被告は,原告の能力不足の例として,d電工に対する電話の件を問題とし,前記のとおり,原告の電話の後にd電工内でM&Aの噂が広がり,被告に対して抗議の電話があったことが認められ(同イ(キ)),また,H(MD)は,別表1〈7〉の評価において,d電工の問題があったことから,「クライアント・リレーションとクオリティー・サービス」を2と評価したと証言するが(〈証拠省略〉),d電工内でM&Aの噂の原因が原告の電話にあると認めるに足る証拠はなく,また,原告は,d電工から被告が抗議を受けたことに関し,何らかの処分を受けたことはない上(同イ(キ)),その後,昇給していること(争いのない事実(1)ア)からすれば,原告の能力不足を示すものと解することはできない(J(P)は,原告の昇給は定時のものであって,d電工の件は考慮していないと証言するが(〈証拠省略〉),能力主義を掲げる被告の態度として一貫せず,採用できない。)。
さらに,Jは,現在のM&Aは高度化しており,B(D),D(MD)らも苦戦していると証言するが(〈証拠省略〉),M&Aの内容の変化は,誰もが未経験のものであって,原告について,対応能力に欠けると断ずるに足る証拠はない。
なお,プロジェクトHに関する評価において,D(MD)が原告の問題点として指摘した点は,原告のマネージャーとしての能力欠如を客観的に示しているか検証できないところであるが,これに対する原告の反論(同イ(カ)A,〈証拠省略〉)に照らすと,およそ事実無根の内容でなく,上司の助言としての意義がないということもできない。そして,これに対する原告の対応は,弁解じみたものであったり(同イ(カ)A,〈証拠省略〉),認める部分はなく,従う気もない(〈証拠省略〉)というものであって,これをみると,原告は,組織の一員としての適性にやや問題があるとされてもやむを得ないというべきである。しかし,その程度のことをもって,原告の解雇を正当化するような能力不足が認められるとすることもできない。
そして,他に原告の能力不足を的確に示す証拠はない。
(2) 他の経費項目の削減について
I(P)は,平成13年7月から平成14年1月の間,赤字を計上しているIB部門において,4名のパートナー給与として1億1582万4280円,クライン(ママ)トサービススタッフ給与として1億8405万9910円,旅費・交通費,交際費等として1516万5414円,事務所賃借料として4849万1537円,コンピューター関連費として2016万1865円,顧問料として1623万1744円といった多額の経費が生じていることについて,一番大きいクライン(ママ)トサービススタッフ給与の削減を第1に考え,他の経費項目の削減はできないと証言するが(〈証拠省略〉),他の経費項目を削減できないことを示す具体的資料は提出されておらず,その合理性は明らかでない。
(3) 退職勧奨及び割増退職金の提案について
被告は,原告に対し,退職勧奨及び割増退職金の提案をしたことをもって,解雇回避努力義務が尽くされた旨主張するが,かかる提案は,雇用契約を終了させる点において,解雇と異なるところはなく,他の解雇回避措置を取ることが困難な場合において,初めて,整理解雇を正当化する要素となる余地があるというべきである。しかし,前記(1)及び(2)によれば,被告において,他の解雇回避措置をとることが困難であると認めることはできないから,これらの事実をもって,解雇回避努力義務が尽くされたということはできない。
(4) 以上検討したところによれば,本件において,被告が解雇回避努力義務を尽くしたということは困難というほかない。
3 争点(1)のうち【被解雇者選定の合理性】について
前記2(1)によれば,原告について,マネージャーとしての能力が著しく劣っていたとすることは困難であり,原告を整理解雇の対象としたことについて,合理性は認められない。
4 以上検討したところによれば,本件解雇については,人員整理の必要性は認められるものの,解雇回避努力義務及び被解雇者選定の合理性のいずれの点においても,十分な努力及び合理性があるとは認められないというべきである。したがって,本件解雇は,解雇手続の相当性について判断するまでもなく,就業規則15条c)に該当する事由があるとすることはできず,解雇権を濫用したものとして,無効である。
5 争点(2)について
(1) 証拠(〈証拠省略〉)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成14年1月28日,I(P)と面談した際,I(P)から「マネージャーとしての資質がない」と言われ,また,O人事部長と話をした際,同人事部長から「IBのヘッドであるIさんが君の事をマネージャーとしての資質がないといっているが,どうするんだ。君は前からそういう話があった。」と告げられたことが認められる。
原告は,本件解雇に当たって,被告から能力不足との理由を告げられておらず,能力不足を解雇理由とする事は許されない旨主張するが,原告の当該主張は,前提を欠くもので理由がない。
(2) しかしながら,原告がマネージャーとしての能力をおよそ発揮できなかったといえないことは,前記2(1)のとおりであり,客観的に見て,就業規則15条b)(就業態度若しくは能率が著しく不適当であると認められた場合),d)(その他前各号に準ずるやむを得ない事情があるとき)のいずれにも該当しないというべきである。したがって,この点においても,本件解雇は,客観的で合理的な理由を欠き,解雇権の濫用として,無効である。
(3) なお,被告は,外資系コンサルタント会社の人事システムの特殊性を主張し,証拠(〈証拠省略〉)及び弁論の全趣旨によれば,被告においては,大学の新卒社員は採用せず,若くとも30歳前後の実務経験者を中心に採用しており,その者の能力に応じて年収額が定められていること,被告を始めとしたコンサルティング業界においては,キャリアアップのため,一般の社員はもちろん,役員クラスであっても,転職を繰り返すのが通常であることが認められ,これに反する原告の供述は,不自然・不合理であって採用できず,原告の年収も社会的に見て相当高額であることは明らかである。また,原告と被告の雇用契約書(〈証拠省略〉)には,「当社は日本においては比較的新しい分野において事業を開始したばかりである。この分野とは,世界の資本の流れ,様々な日本の資産の取引,世界経済の状況によって,成功が左右される分野である。従って,社員の雇用の確保はこれらの要因によるものである」との記載がある。
しかし,このようなコンサルティング業界に身を置く者であるとしても,賃金により生計を立てている以上,キャリアアップに適した転職の機会が訪れるまでの間,会社に在職することについて合理的期待を抱いているというべきであり,その者を解雇するに当たって,客観的で合理的な理由が必要であることは,他の業界の場合と異ならないというべきである。そして,前記のような被告の雇用形態及び原告の年収額を考慮したとしても,本件において認定することができる事実をもって,本件解雇に客観的で合理的理由があるということができないのは,前記(2)のとおりである。
6 以上によれば,原告の解雇は無効であり,原告は,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び解雇された日以降の賃金(毎月25日払月額72万6800円〔交通費7800円を含む〕,毎年6月30日及び12月10日の賞与各143万8000円)(〈証拠省略〉)を被告に請求することができる。ただし,仮に原告が勝訴した場合,その判決の確定後もなお賃金の支払がなされない特段の事情が存しない限り,賃金請求のうち本判決確定日の後に履行期が到来する賃金の支払を請求する部分は,あらかじめ請求する必要があるとはいえず,訴えの利益を欠くというべきであるところ,本件では前記特段の事情は認められない。
7 よって,原告の請求は,主文掲記の限度で理由がある。
(裁判官 增永謙一郎)
別表1
〈省略〉
別表2 従業員数の推移(2002/1~2003/7)
〈省略〉
別表3
〈省略〉
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