判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(356)平成17年 9月16日 東京地裁 平16(ワ)5465号 報酬金請求事件
判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(356)平成17年 9月16日 東京地裁 平16(ワ)5465号 報酬金請求事件
裁判年月日 平成17年 9月16日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平16(ワ)5465号
事件名 報酬金請求事件
裁判結果 認容 文献番号 2005WLJPCA09160004
要旨
◆原告が企業提携を仲介したことによる成功報酬の支払を被告に求めた事案につき、被告の主張を排斥し、原告の請求を認容した事例
参照条文
商法543条
裁判年月日 平成17年 9月16日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平16(ワ)5465号
事件名 報酬金請求事件
裁判結果 認容 文献番号 2005WLJPCA09160004
原告 伊藤忠マネジメントコンサルティング株式会社
同代表者代表取締役 X
同訴訟代理人弁護士 野村晋右
同 目黒裕子
被告 株式会社アパマンショップホームプランナー
同代表者代表取締役 Y
同訴訟代理人弁護士 上田英友
同 南谷敦子
同 堀哲郎
被告補助参加人 A
同訴訟代理人弁護士 黒須雅博
主 文
1 被告は、原告に対し、2898万円及びこれに対する平成15年10月30日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
本件は、原告が、株式会社グランビル(以下「グランビル」という。)から依頼を受けた企業提携の仲介交渉が成功したとして、同社を合併しその地位を承継した被告に対し、グランビルとの仲介契約に基づく報酬請求及びこれに対する請求日以後の日から支払済みまでの商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払いを求めた事案である。
1 当事者間に争いのない事実並びに以下掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実
(1) 原告は、企業経営全般に関するコンサルティング事業、企業提携の仲介・斡旋等を業とする株式会社である。
グランビルは、後記(2)の契約の当時、土木建築工事の設計、住宅の建築、増改築、物品の輸入・販売等を業とする株式会社であった。
被告は、不動産の売買、仲介、賃貸、斡旋等を業とする株式会社である。
(2) 平成14年12月1日付けで、原告とグランビルは、企業提携仲介依頼書(以下「本件依頼書」という。甲1)により、仲介契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
同依頼書には以下のとおり記載されている(「当社」とはグランビル、「貴社」とは原告を指す。)。
「第1条(依頼事項)
当社は、貴社に対し、当社の煉瓦外装工法の日本国内におけるFC権の売却を中心とする企業提携候補企業(以下「相手方」という)の探索、企業提携の仲介・斡旋、企業提携に関する助言等を依頼いたします。なお、企業提携とは、資本の移動を伴わないものを含むすべての提携を言います。
第2条(守秘義務)
当社は、相手方との企業提携交渉の事実、及び貴社を通じて入手した相手方の資料等及び情報を、相手方の事前の同意なくして第三者に開示もしくは漏洩いたしません。
(2)当社は、企業提携が成約に至らなかった場合、相手方より直接、または貴社を介して入手した資料等(その写しも含む)を、貴社に遅滞なく返還いたします。
第3条(交渉)
当社は、貴社を介して、相手方と企業提携に関する交渉を行い、貴社の同意がない限り、相手方との直接交渉はいたしません。
第4条(資料等提供義務)
当社は、貴社に対し、企業提携に必要な資料等及び情報を提供し、貴社がその提供された資料等及び情報を相手方に示すことを承認いたします。
第5条(通知義務)
当社は、提供済みの資料等及び情報に関する内容の変更等、企業提携交渉に影響を及ぼすおそれのある事態が発生した場合には、直ちにその旨を貴社に通知いたします。
第6条(リテイナーフィー)
当社が相手方候補企業の探索・選定及びそれに続く提携交渉を開始する平成15年1月1日以降、当社は、貴社に対し月間60万円及びそれに対する消費税をお支払いたします。
(2)前項のリテイナーフィーは、企業提携の成立不成立を問わず、貴社に対して返還を請求できないものとします。
第7条(成功報酬)
当社は、貴社の仲介により当社と相手方とのFC権の売却を中心とする企業提携が成立した場合、下記料率により計算した額より第6条のリテイナーフィーの額を控除した額及びそれに対する消費税を成功報酬としてお支払いいたします。但し、FC権の売却を中心とする対価が2億円未満の場合は、別途協議させていただきます。
仲介手数料率表
FC権の売却等の価額 料率
5億円以下の部分 5%
5億円超~10億円以下の部分 4%
10億円超~50億円以下の部分 3%
50億円超~100億円以下の部分 2%
100億円超の部分 1%
第8条(特別経費)
第1条で当社が依頼した事項を、貴社が遂行する上で必要な経費のうち、通常の経費を超える特別な経費(宿泊出張旅費、弁護士・公認会計士・不動産鑑定士の費用等)を要した場合は、当社は請求があり次第、その費用をお支払いいたします。
第9条(相手方からの依頼)
貴社が、相手方からも、企業提携の仲介・斡旋等の依頼を受け、それに関して、相手方から手数料等を受領することがありましても、当社は、異存ありません。
第10条(有効期間)
本依頼書の有効期間は、平成14年12月1日より平成15年3月31日までといたします。但し、有効期間満了日においてなお、企業提携に関わる交渉が継続する場合は、交渉終了時点まで自動延長されるものといたします。なお、本依頼書の有効期間満了後18か月以内に貴社が紹介した相手方と企業提携が成立した場合には、当社は第7条に定める成功報酬をお支払いいたします。
第11条(誠意解決)
本依頼書に関して、当社と、貴社または相手方との間で争いが生じた場合は、当社は誠意をもって解決に努力いたします。 以上」
(3) 平成15年2月24日当時、グランビルの発行済株式数は14万株であり、このうち12万3600株を同社の代表者補助参加人A(以下「補助参加人」という。)が、残りの1万6400株を同社の取締役のB(以下「B」という。)がそれぞれ所有していた(以下グランビルの株式を「本件株式」という。)。
(4) 同年8月8日付けで、補助参加入及びBと株式会社アパマンネットワーク(以下「ネットワーク」という。)との間で、同日付けの「基本合意書」(甲2)が作成され、その旨合意された。
同合意書1条には、補助参加人及びBを売主、ネットワークを買主とし、売主が買主に、売主の保有する本件株式を売却し、買主が売主から本件株式を購入するための契約締結に向けて信義誠実に則った協議を行うこととし、平成15年8月末日を目処に、本件株式の売買の条件及び合意内容を確定する法的拘束力のある契約を締結し、上記譲渡を完了させるため、互いに尽力し協力する旨が記載されている。
(5) 同年9月19日付けで、補助参加人及びBと被告との間で、本件株式につき売買契約が締結され、同契約書(甲3)が作成された。
また同日付けで、被告を保証人、ネットワークを立会人、グランビルを委託者、補助参加人を受託者とする顧問契約が締結され、同契約書(甲4)が作成された。
(6) 平成16年6月7日、被告は、グランビルを吸収合併した。
2 争点及びこれに対する当事者の主張
(1) 争点1-本件契約の報酬額についての変更合意の有無及び同契約に基づくグランビルの債務につき補助参加人による免責的債務引受、あるいは本件契約の合意解除とそれに代わる原告と補助参加人による新契約の締結の有無-被告の抗弁
(被告及び補助参加人の主張)
ア(ア) 平成15年2月21日、原告とグランビルとの間で、本件契約に基づく報酬額を売却等の価格の1パーセントとする変更契約が成立した。
(イ) 上記のとおり本件契約の報酬額が変更されたのは、次の事情による。すなわち、グランビルは、原告に企業提携の仲介を依頼したが、原告からは提携交渉相手の紹介もなかったことから、平成14年12月24日から独自にネットワークとの交渉を始め、その結果、平成15年2月20日に、ネットワークから本件株式の100パーセント譲渡、代金額はデューデリジェンス(適正評価手続。以下「DD」という。)後提示、スケジュールは2月末に基本合意契約、4月始めに代金支払いとの要望が示された。
そこで、グランビルは、早急に原告との報酬を決め、原告にネットワークとの仲介を頼むか否かを決める必要があったため、その翌日、担当社員であるC(以下「C」という。)に報酬を1パーセントとする交渉をさせるため、原告のところに行かせたところ、原告担当者D(以下「D」という。)により、その了解を得たものである。
(ウ) 以下の事情も、原告とグランビルとの間で変更契約が締結されたことを示している。
a 平成15年8月18日に、原告からグランビルに、「本年2月にご依頼のA社との契約に関し、契約内容・金額及びスケジュールが当初説明と著しく異なって来ましたので、成功報酬の最低金額を弊社他客先と同等の3千万円と明記し、契約書を差し替えたく」とのメールが送信されたこと。
これは、前記(ア)の変更契約がなされたことを前提に、その後、ネットワークとの交渉の結果、本件株式の売却額等が原告の当初予想額より少額であったため、原告が報酬につき最低金額3000万円を確保しようとしたものである。
b また、本件契約と、その後に原告が送付した差替用の企業提携仲介依頼書を比較すると、本件契約がそのまま継続していれば必要のない、依頼事項や成功報酬の変更がなされていること。
c 原告は、平成15年2月21日の後、同年3月分及び4月分のリテイナーフィーを請求していないこと。
d グランビルは、同年8月18日、同年9月11日に、原告から最低報酬金額3000万円に基づく請求を受けたのに対し、その都度1パーセントの合意があったことを述べ、これを拒否していること。
e 原告は、早期に報酬額を決める意向を持っていたのに、同年9月24日、グランビル代表者らが原告を訪ねるも会って話し合いをしなかったこと。
f 上記(ア)の変更契約が書面になっていないのは、原告関連会社との緊密な信頼関係や、原告に対する信頼という事情があったからであること。
イ(ア) 本件契約は、原告とグランビル間で成立し、上記ア(ア)の変更契約も原告とグランビル間で成立した。
(イ) その後、被告と補助参加人間で、本件契約等に基づく報酬を含む費用負担については、株式譲渡代金や顧問料を得る補助参加人が負担することになり、原告もこれを了承した。
(ウ) 以上は、グランビルが原告に対し負担していた報酬支払債務につき、補助参加人が免責的債務引受をし、原告がこれを承諾したか、あるいは、原告とグランビルとの本件契約を解除し、原告と補助参加人との契約に変更したものということができる。
(原告の主張)
ア(ア) 原告とグランビルとの間で、本件契約の成功報酬を1パーセントとする変更契約をした事実はない。
(イ) 原告は、グランビルから提携先候補としてあげられた4社のうち3社と自ら提案した2社に対して交渉活動を行い、平成15年2月24日に、グランビルから指示されたネットワークあるいは被告(以下両者を合わせて「被告等」という。)との交渉にも多くの時間を費やし、その結果、基本合意書、株式売買契約書及び顧問契約書が締結され、グランビルと被告等との企業提携が成立したのである。
(ウ)a 平成15年8月18日の原告からグランビルあてのメールは、本件契約に関するグランビルからの情報及び要望が変遷したため、それを指摘したものであり、また、本件契約の当初の依頼書には成功報酬額の最低額を明示していなかったため、グランビルに対し、それを説明して、依頼書の差し替えを要求したにすぎない。
しかし、この差替用の依頼書は、グランビルがそれを預かりながら署名押印しなかったので、グランビルと原告との契約は本件契約の当初の本件依頼書によるもののみである。
しかし、原告は、グランビルが成功報酬を全く支払わない一方、9月末の決算時期が迫り早期決着を図る必要があったことから、やむを得ず、成功報酬額を3000万円に減額する申し入れをしたのである。
b 本件契約にはあらゆる形態の企業提携が含まれているから、FC権売却であっても全株式譲渡であっても、依頼事項に変更があることにならず、差替用の依頼書にある文言も企業提携の形態を限定する趣旨ではない。また、成功報酬についてもその最低額を明示したにすぎない。
c 原告が、平成15年3月分及び4月分のリテイナーフィーを請求していないのは、担当の交代に伴う引き継ぎのミスによるものであり、いずれ成功報酬額の算定の際に控除されることが予定されていたため、その際に一括処理するつもりであったからである。
d 原告は、平成15年8月18日ころ、本件契約の依頼書の差替えをグランビルに依頼したが、その際、補助参加人は預かるとのみ回答し、1パーセントの合意がある旨の主張はなかった。
また、同年9月11日ころ、同年9月末のグランビルの純資産に影響を与えない方法として同社の関連会社である株式会社ハウステック(以下「ハウステック」という。)から成功報酬を支払うことを提案し、ハウステックあてに請求書を送付したが、それに対して、グランビルから何らのコメントもなかった。
さらに、同年9月16日の会議において、原告は、グランビルに対し、成功報酬を同月30日に支払うよう依頼したが、それに対し、補助参加人は1パーセントの合意の存在を主張せず、結果を見て査定すると回答した。
その後、同月22日ころ、補助参加人は、原告に対し、成功報酬の3年間にわたる延払いの依頼をしている。
イ(ア) 本件契約は、終始変わらず原告とグランビルとの間の契約であり、その依頼事項、報酬に変更はない。
(イ) また、本件契約の当事者にも変更はない。
本件契約は、終始変わらず原告とグランビルとの間のものである。
(ウ) したがって、本件契約が解除され、原告と補助参加人間の契約に変更された事実はないし、補助参加人が免責的にグランビルとその債務を引き受けたとしても、原告はそのような合意の存在を知らされていないし、同意をしたこともない。
(2) 争点2-原告の成功報酬額
(原告の主張)
ア 本件契約による成功報酬は、本件依頼書1条及び7条に基づいて算出されるものであるが(別紙のとおり)、原告は、グランビルに対し、平成15年9月11日付けで書面を送付し、成功報酬金額を、最低額の3000万円とし、それから本件依頼書7条に基づき平成15年3月以降グランビルが支払ったリテイナーフィーの合計240万円を控除した2760万円に消費税を加えた2898万円を請求した。
イ 原告が、本件契約につき実現させた内容は次のとおりである。
(ア) 平成15年9月19日付けでの補助参加人及びB保有の本件株式につき、被告との株式売買契約の成立
(イ) 同日付け補助参加人とグランビルとの顧問契約の成立
ウ 成功報酬の算出にあたっては、以上の企業提携仲介交渉の成果のほか、次の項目が算定の基礎となる。
(ア) ハウステックの簿価
ハウステックは、グランビルの元100パーセント子会社であり、親会社であるグランビルの全株式譲渡というスキーム上、ハウステックも間接的に譲渡の対象となっていた。しかし、内部留保金を持つのみの会社である同社を譲渡することは意味がないので、ハウステックをそのまま補助参加人の元に残したのである。
確かに、補助参加人がグランビルからハウステックの株式を2000万円で買い取っているが、結局のところ、グランビルの資産としてみれば、プラスマイナスゼロとなったから、これはグランビルの時価評価には含まれていない。
(イ) 訴訟関係の戻り金
グランビルを当事者とする訴訟が係属しており、訴訟関係の戻り金はグランビルに属する債権であるが、被告等は、グランビルに対し、それを買収金の支払対象項目にしないこと及びそのことを株式売買契約書に明記することを要求した。これは、実質的には勝訴が確定した場合の債権を、グランビルが被告等に代価なしで譲渡することを意味する。
原告は、そのような要求を阻止するため交渉し、その結果、訴訟で回収できた額から回収費用を控除した金額がグランビルから補助参加人に支払われることになった。このように、訴訟戻り金は、原告の交渉により株主の取得権益となったので、成功報酬の算定基礎となる。
(ウ) 基本顧問料・業績顧問料
上記各顧問料は、名目は顧問料であるが、将来収益たる営業権の代償(のれん代)あるいはその延長上のものである。グランビルの業績がその作成に係る事業計画書に掲げた目標に至らず、被告等より営業権価値はゼロと評価されたが、原告は、グランビルの将来収益を被告等に考慮させるため、補助参加人とグランビルとの間で顧問契約を締結させ、顧問料として将来収益の対価を得るという方法を考案し、被告等と交渉し、その結果、顧問契約が締結されたのである。したがって、顧問契約に基づいて補助参加人に支払われるべき報酬も成功報酬算定の基礎の一つとなる。
(エ) 値引き阻止額
FC年会費、不用資材、取引保証金は、当初回収が不確定であるとして、グランビルの時価に評価されていなかったが、原告が交渉した結果、これらの項目も買収金の支払い対象となった。したがって、これらも成功報酬の算定基礎となる。
(被告及び補助参加人の主張)
ア 前記のとおり、原告とグランビルとの間で、平成15年2月21日、成功報酬をグランビル株の売却価格の1パーセントとする合意をした。
原告主張のその余の項目は、いずれも算定の基礎とはならない。
イ(ア) ハウステックの簿価について
ハウステックについては、当初、補助参加人と被告等の代表者で買収対象外とされ、補助参加人が簿価で買い取ることで合意され、現に同人が2000万円を支払い引き取っている。そして、この2000万円はグランビル社の時価に評価されている。よって、ハウステックの簿価は成功報酬評価の対象外である。
(イ) 顧問料について
顧問料のうち、基本顧問料は、補助参加人が顧問として会社に残り、業務を行うことに対する業務遂行の基本報酬と考えられるから、営業の対価と考えるべきでない。
業績顧問料は、グランビルと補助参加人との契約上、売上、粗利の目標額を達成することを条件に達成率に応じて支払われる不確実な停止条件付きの債権である。しかも、営業権の評価については、被告等は、平成15年6月9日時点では評価できないとしており、最終実績を見て評価することとし、株式譲渡時一括支払いをしないこととなったから、極めて弱い不確実な債権である。しかも、その目標の達成はほぼ不可能であり、そのようなものを現実の成功報酬の対象とはなし得ない。
(ウ) 値引き阻止額について
これは、既にグランビルの資産として計上され、グランビルの簿価として計上されていることから、これを算定することは、二重カウントすることになり、したがって、報酬の対象額とならない。
(3) 争点3-原告の本件請求の信義則違反または権利濫用の該当性
(被告及び補助参加人の主張)
グランビルが原告に依頼した業務は、平成15年2月21日までは進捗していなかったので、グランビルには同日までの業務に関する報酬の支払義務はない。また、同日以降に原告が行った業務は、補助参加人の依頼に応じてグランビルを対象会社とする株式の売却に関する仲介・斡旋、助言等の業務を行ったのであるから、依頼をした補助参加人は格別、対象会社であるグランビルに報酬の支払義務がないことは明らかである。また、原告に依頼された業務の内容が変更され、業務を依頼する当事者もグランビルから補助参加人に変更されたのであるから、原告は、本件契約を解除し、新たに補助参加人との間で依頼された業務に即した契約を締結すべきであった。しかるに、原告は、本件契約が合意解約されていないことを奇貨として、本件契約を根拠に、株式売却の対象会社であるグランビルに対して報酬の請求を行っているが、これは自己の不始末による合意解約の不備を利用して金銭請求を行う行為であるから、矛盾する行為の禁止として信義則に反し、あるいは権利の濫用に該当するというべきである。
(原告の主張)
本件契約は、変更も、合意解約もされていない。
また、原告は、本件契約を履行し、その結果、グランビルと被告等との企業提携が成立した。
そして、原告は、本件契約に従ってその相手方であるグランビル及びその承継人の被告に対し、成功報酬の請求を行っているのであって、権利濫用等の成立する余地はない。被告は、原告に対し、成功報酬を支払った上で、本件企業提携で恩恵を受けた補助参加人に求償すべきところ、たまたま企業提携のスキームとして全株式譲渡という形がとられたことを奇貨として、当事者の交代を訴えているのである。
第3 争点に対する判断
1 前記第2、1の事実のほか、証拠(甲1から4、5の1及び2、6、9、10、11の1から4、12の1及び、13から15、17、丙1から6、8から10、証人D、同C、同補助参加人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1)ア グランビルは、昭和48年5月11日設立された株式会社で、補助参加人が代表取締役に、その長男であるB等が取締役に就任しており、平成14年11月までは補助参加人自宅を本店とし、土木建築工事の設計、管理及び請負等を目的としていた。グランビルの発行済株式は、14万株であったが、そのうち、補助参加人が12万3600株、Bが1万6400株を所有していた。
また、同社は、資材仕入れ担当のハウステックという100パーセント子会社を有していた。
イ 補助参加人は、平成14年11月ころ、グランビルにつき企業提携等を図る方針から、取締役のC(以下「C」という。)をその担当とし、同月15日ころ、補助参加人及びCが、原告のビジネス推進グループM&A室室長であるD(以下「D」という。)と会い、グランビル側から、同社が、日本、米国及び欧州において、レンガの外装材の構造とその施工方法に関する特許を持ち、多数の会社とフランチャイズ契約を締結していること、そのフランチャイズの権利(以下「FC権」という。)を最低でも30億円で売却することを希望していること等を説明し、原告に対し、そのための交渉を依頼した。
ウ 原告は、その依頼を受けることとし、原告が作成した本件依頼書をグランビルに提示したところ、グランビルは、その6条の提携交渉開始の始期を平成15年1月と訂正した上で署名押印して原告に返還し、本件契約が平成14年12月1日付けで締結された。
グランビルは、それに向けて、同年7月1日、会社の目的にフランチャイズチェーンシステムによる土木建築工事の設計、管理及び請負の加盟店の募集並びに加盟店のコンサルティング業務等を加えて変更し、また、同年12月1日、本店を東京都豊島区池袋に移転した。
(2) 上記グランビルと原告との話し合いの際、グランビルから提携先候補として4社が挙げられ、原告にはネットワークを除く3社との交渉が指示されたが、ネットワークについてはグランビル側でアプローチし、同社との交渉については後で指示するとされた。
そこで、原告は、Dが担当者となり、グランビルが指示した3社を交渉の相手方とし、グランビルに関する資料等を送付するなどしたり、補助参加人やCを伴って相手方に出向いて事業計画等を説明するなどして提携に向けた活動をしていたが、いずれについても、平成15年1月から2月にかけて、相手方会社から提携あるいは売却の申し出を断られるなどしていた。その間、原告は、自ら交渉対象として2社を提案し、そのうち1社とは同年2月ころから交渉をしていた。
(3) その間、補助参加人はネットワーク代表者Yと交渉していたところ、同年2月20日までに、メール(丙2)により、ネットワークに対して、グランビルの本件株式の譲渡、その対価として12億円の一括払い又は半額程度の支払いと3ないし5年の残金払いの希望を告げていた。これに対し、当時、ネットワークは、対価としては3ないし5億円とし、共同住宅の営業のみグランビルに認め、支払いに関しては、受注契約の都度、受注額の1ないし2パーセントを支払うとの意向を示していた。さらに、ネットワークは、補助参加人の提案どおり株式100パーセントの譲渡を希望すること、金額について互いに歩み寄りができると理解しており、金額算出根拠としてDDを希望すること、その委託企業として三井住友銀行の担当部署とすること、スケジュールとして同年2月末には基本合意契約、3月初めにDD開始、同月末には契約調印等とすることなどの要望を出してきた。
(4) グランビルは、ネットワークの要望を検討した結果、それを基本的に了承することとした。
そこで、同年2月24日、グランビル本社において、補助参加人、C、取締役のE(以下「E」という。)が出席し、Dに対し、上記(3)のネットワークの要望を示し、グランビルとネットワークとの間で、グランビルの全株式をネットワークに売却する合意が成立したので、その交渉を開始してほしいと指示した。
そして、同日、ネットワークに対し、メール(丙4)により、前記提案を基本的に了承し、その提案に沿って進めたいと考えていること、その件につき、グランビルの代理人として原告が担当することを連絡した。
(5)ア 同月27日以降、原告担当者Dは、ネットワーク側のアドバイザーである大和証券SMBC株式会社(以下「大和証券」という。)と交渉を開始した。
前記のとおり、グランビルとネットワークとの間では、全株式譲渡という企業提携の方法の点では一致した考えであったが、その希望する譲渡価格には大きな開きがあった。
そのため、同年3月初旬ころから、原告担当者Dは、ネットワーク・大和証券から要求されたグランビルの事業計画書等の資料を提出するなどしていた。
そして、同年3月18日、ネットワークから、意向表明書-1(甲11の1)が示された。同書において、発行済全株式14万株の譲受価額として役員退職慰労金と株式譲受金額合算で1億5000万円をめどとすること、役職員の雇用について、補助参加人、B及び監査役のF(以下「F」という。)については本件株式の譲受時に退任してもらい、ネットワークが必要と考えた場合は引継期間として一定期間雇用する場合もあること、グランビルに勤務しているその他の親族の取扱に関しては、相談の上対応すること、補助参加人、B及びFの3人の退任に伴って、同人らがグランビルから借りている金銭の精算、被保険者となっている積立保険契約の解約、保証人となっている契約の保証人解除及びその他個人が関連する一切の商取引の清算を株式譲受までに行ってもらいたいこと、ネットワークは不動産を所有しないことを経営上の方針としているので、モデルルームとなっている土地及び建物以外の全ての不動産については、株式譲受までに売却に努力してもらうこと、子会社であるハウステックは今回の買収の対象外とすること、株式譲受までにグランビルとハウステック並びに株式会社エストとの間の金銭の貸借に関しては清算をすることが依頼事項としてあげられていた。また、今後のスケジュールとして、同年6月末に株式譲渡契約を締結することをめどに進めたいとの意向が示された。
なお、原告は、交渉相手として、同年4月28日ころまでは他の1社との交渉も続けていた。
イ 同年5月12日、ネットワークから意向表明書-2(甲11の2)が示された。同書においては、譲受価額が役員退職慰労金と株式譲受金額(営業権の金額は含まず)合算で3億円をめどとするとし、営業権の金額については、グランビルと事業計画等について協議した上で決定したいこと、買収監査の結果、譲受価格に影響を与える事柄が発生した場合は、グランビルと協議した上で譲受価格の修正があり得ることを上げ、役職員の雇用については前回の表明書と同様の意向を示し、さらに、依頼事項として、不動産については、前回のとおり、株式譲受までに簿価以上で売却する努力をするよう要望するほか、売れ残った商品、土地建物及び分譲用地の残地の土地を簿価で買い取ること、不動産売却代金については、有利子負債の返済に充当すること、有価証券等の余剰資産については、不要と思われるものについては株式譲受までに売却の上、有利子負債の返済に充当すること、ハウステックについては買収の対象外とするので、簿価で買い取りをお願いすることが記載されていた。
さらにスケジュールについては、同年6月末の株式譲渡契約締結は、今後の交渉状況及びDDの内容等によっては、遅れることもあり得るとされていた。
(6)ア その間、グランビル・原告は、営業権を3億から4億円とすることを提案したり、数字を変えた事業計画書を数回、ネットワークに提出していたが、平成15年5月度の月次売上実績が、直近の事業計画書を大きく下回ったことから、グランビル事業計画書に対するネットワークの信用を失い、営業権の価値を評価しないとされたこともあった。
これに対し、原告では、同年5月からDのほかGが交渉担当に加わり、営業権に関わる対価の支払いの代わりに、事業計画の達成実績に応じて補助参加人に顧問料を支払うとの提案をしていた。
イ そして、同年6月18日付けの、ネットワークの意向表明書-3(甲11の3)においては、同年7月末をめどに、株式譲渡契約書の締結をすること、但し、レンガ工法等に関し、第三者からクレームがあった場合や、その他経済的信用を失墜してグランビル・ネットワーク間の契約を継続することが困難であると認められる等、信頼関係を害する事由が発生した場合には、ネットワークはその契約を解除することができるものとすること、実際の株式譲受代金の支払いは、平成15年9月末時点での時価純資産価額を株式譲受金額に反映した上で、同年12月末をめどに支払うことを考えていることが挙げられていた。
さらに、営業権の取扱については、営業権の形での支払いではなく、補助参加人と顧問契約を締結し、予算達成率に応じたインセンティブボーナスを支払うことを考えていること、その顧問契約の具体的内容として、契約期間を平成15年10月1日から平成16年9月30日までの1年間とし、契約更新は、契約期間終了時に達成率を勘案して決定し、達成率が不芳の場合には、期間途中の解任もあり得ること、補助参加人には代表権を与えず、固定給として月々30万円、インセンティブボーナスとして、要約損益計算書にある全社売上高及び営業損益の達成率に応じて、基準金額に一定比率を乗じたものを支払うこと、その基準金額は、平成16年9月期は1億円、平成17年9月期は1億300万円、平成18年9月期は1億6000万円とすること、ネットワークによる紹介案件は上記の達成率に含まれないこと、上記ボーナスの支払スケジュールは、平成16年9月期は、同年10月末とし、以降も同様とすることが示されていた。その上で、さらに、契約締結の際には、弁護士による精査が必要であることや今までの提示は、ネットワークがアドバイザー経由でグランビルから入手した資料を検討した上でのものであり、今後グランビル経営陣との面談及び買収監査、あるいは現時点で開示されていない情報の追加開示等によって、追加あるいは修正される可能性があることが示されていた。
これに対し、グランビル・原告から対案を出すなどして、ネットワーク・大和証券との間で交渉が重ねられた。
ウ 同年6月27日に、ネットワークから意向表明書-4(甲11-4)が示された。回書は、前記意向表明書-3についてグランビルが出した対案を検討した上でのものであり、株式譲渡契約書の締結を事前買収監査が終了する同年8月末をめどとし、同年5月12日付け意向表明書に示した補助参加人らの退任、関係会社及び不動産の買戻等の履行の完了を条件に、株式譲受代金の3分の1を上限として支払うとともに、グランビル発行済み株式総数の3分の1を上限として取得すること、グランビルで平成15年9月期決算を確定した上で、ネットワークが同月末日を基準日として再度事後買収監査を実施し、時価純資産価額の増減により株式譲受金額を金額調整した上で残金を支払うとともに、グランビル発行済み株式総数の残部を取得することを表明し、さらに、営業権の取扱について、前記のインセンティブボーナスの基準金額を平成16年9月期及び平成17年9月期はいずれも2億円とし、この基準金額に乗じる一定比率を決める達成率については、土地活用部門における売上目標又は粗利目標に対する実績の比率とするものとし、その目標として、売上目標が平成16年9月期は41億3600万円、平成17年9月期は48億1000万円、粗利目標が平成16年9月期は8億3600万円、平成17年9月期は9億5500万円とすることが示された。
(7) 同年7月11日には、ネットワークの代表者、C、E、補助参加人、原告担当者Dらが出席して会議が行われ、補助参加人の代表権の帰趨や、本件株式が譲渡され、ネットワーク側の販売網がどう利用できるか、それによる売り上げ実績をどう考慮するかなどが検討された。また、同月14日にはDDが開始され、同月18日まで実施されることなどが相談された。
(8) その後も交渉が重ねられ、その結果、同年8月8日付けで、補助参加人及びBとネットワークとの間で、基本合意がなされた。
上記基本合意を示した基本合意書においては、同年8月末日をめどに、補助参加人とBの保有するグランビルの株式を全部ネットワークに売却する条件及び合意内容を確定する法的拘束力のある契約を締結し、本件株式の譲渡を完了させるため互いに尽力し協力すること、譲渡価格は、ネットワークによる事前調査(同年7月末日をめどに行う、グランビルの業務、会計及び法務に関する調査)の結果を踏まえ、正式契約の締結までに双方協議の上、正式契約において決定すること、正式契約締結後、本件株式の株券の一部引渡(発行済み株式の3分の1を上限とする。)と譲渡代金の一部支払い(3分の1を上限とする。)を行い(第一決済)、その後、ネットワークによる事後調査(第一決済完了及び同年9月期決算確定後行う、グランビルの業務、会計及び法務に関する調査)を実施し、その完了後、第一決済で引き渡された残りの株券の引渡とその代金の支払いを行う(第二決済)ことが記載され、その他、これまでの意向表明書等による交渉において対象事項とされていた売主の義務(補助参加人等らの貸借金の返還、保険契約の解約等、ハウステック等との契約等の解約又は清算、不動産、有価証券の売却処分等)、役職員の処遇(補助参加人等の辞任等)及びネットワークと補助参加人との顧問契約の締結等が記載されていた。なお、顧問契約については、前記同年6月27日の意向表明書-4後の交渉により、この基本合意書において、その有効期間が平成15年10月1日から3年間、基本顧問料が毎月50万円、業績顧問料を、平成17年9月期、平成18年9月期の売上又は粗利目標に対する実績比率により、それぞれ平成17年11月末日、平成18年11月末日に支払う旨に内容が変更され、さらに、達成率を算定するに当たっては、ネットワークがグランビルに紹介したことを端緒として成約した案件についても、売上及び粗利目標の実績に算入することができることとされた。
さらに、グランビルと顧問契約を締結している者の処遇及び待遇等並びにグランビルに勤務している補助参加人の親族の処遇及び待遇等については継続協議とされた。
そして、この基本合意書の有効期間は、平成15年8月末日までとし、さらに、レンガ工法その他グランビルが保有する特許権その他の知的財産に関して、第三者から訴訟の提起、クレーム等を受けた場合等グランビルによる権利の保有が明確でなくなった場合や、補助参加人ら又はグランビルが経済的信用を失墜し、この契約を継続することが困難であると合理的に認められる場合、事前調査の実施中において、グランビルに修復不可能な財産、財務若しくは営業上の瑕疵又はグランビルの営業継続に重大な悪影響を与える事項が発見された場合、ネットワークが提供を受けた資料又は情報等に虚偽、詐欺的記述その他重要な点において誤解を生ぜしめる資料、記載等があり、信頼関係を継続することが困難となった場合に該当する場合は、ネットワークは、補助参加人らに通知することにより、この契約を解除し、本件譲渡の検討を中止することができる旨及び補助参加人等又はネットワークは、相手方がこの契約の各条項に違反し、又は相手方が提供した情報が不正確若しくは虚偽であったことに起因又は関連してそれぞれが負担した全ての損害、損失及び費用を補償する旨が定められていた。(甲2)
(9) ところで、グランビルと原告が平成14年12月1日付け企業提携仲介依頼書により本件契約を締結した当初は、グランビルからの依頼がそのFC権を30億円で売却するということであり、その依頼に応じた企業提携方法が第一に検討されていたが、その後、譲渡価格が変更されたり、提携方法が変更されたり、あるいは譲渡価格の交渉においてグランビルの営業権が低く評価されることなどの事情が生じたことから、原告においては、当初の本件依頼書7条記載の算定方法では、少なくとも同社がM&Aコンサルティングの成功報酬の一般的な最低金額と考えている3000万円を下回ることが心配された。
そこで、原告は、上記成功報酬の最低金額を確保するため、平成15年8月18日、グランビルで行われた会議において、Dから補助参加人に対し、一般的なM&Aコンサルティングの成功報酬の最低金額が3000万円であることを説明した。
その上で、Dから、グランビルのCあて依頼していたグランビルの全従業員名簿、Eとグランビルとの顧問契約書の写しにつき、再度、送付依頼するメール(丙3)において、「貴社とは、昨年12月1日付で一般的な企業提携仲介契約を締結して居りますが、本年2月にご依頼のA社との契約に関し、契約内容・金額及びスケジュールが当初説明と著しく異なって来ましたので、成功報酬の最低金額を弊社他客先と同等の3千万円と明記し、契約書を差し替えたく、添付の契約書に捺印の上、バイク便にて送付お願い申し上げます。」と記載し、そのメールに本件依頼書1条、7条に変更を加えた依頼書(丙1)を添付して送信した。なお、変更された7条には、仲介手数料率につき、FC権の売却等の価額及び料率欄に、「6億円以下の部分一律3000万円」と記載され、リテイナーフィーを控除する旨の記載と「但し、FC権の売却を中心とする対価が2億円未満の場合は、別途協議させていただきます。」との記載が削除され、代わりに「但し、成功報酬の最低金額は3000万円及びそれに対する消費税といたします。」との文言が加えられた。また、本件依頼書作成当時、企業提携として当初想定していた提携方法と異なる方法が基本合意書にて選択されたことから、上記差替えの依頼書1条の文言のうち「当社の煉瓦外装工法の日本国内におけるFC権の売却を中心とする企業提携候補企業」との部分が、「当社の経営戦略に適うと思われる企業提携候補企業」と変更された。
グランビルは、この差替用の書面を受け取ったが、その後、この書面に署名押印して原告に返還することはしなかった。
(10) 同年8月29日、上記基本合意書につき変更が加えられ、変更合意書が作成され、また、グランビル及び補助参加人に対し、株式売買契約書(案)が提示されていた。
なお、ネットワークは、その後、子会社である被告において、補助参加人から本件株式を譲り受けることとし、上記株式売買契約書(案)では、買主をネットワークから被告に変更していた。
さらに、同年9月4日、被告は、グランビルに対し、株式譲受価格について、買収監査の結果、〈1〉平成15年6月30日現在の簿価純資産価額が5億5013万2000円、〈2〉買収監査における調整価額が3億7545万2000円、株式売買契約における譲受価額は、〈1〉から〈2〉を控除した1億7468万円とする意向を示し、さらに、その価額は、事後調査によって調整されることがある旨記載した書面(丙10)を送付した。
そして、その後も、グランビル・原告と、被告等・大和証券との間で、株式譲渡価格等につき交渉が続けられていた。
(11) 同年9月11日、原告は、株式譲渡契約及び顧問契約が同月20日から同月末ころの締結に向けて微調整の段階となり、その契約が成立し、同年10月初めに予定される第一決済以降の段階では、グランビルの経営陣が一新されることを考慮して、グランビルに対し、成功報酬を確定する必要があること、9月末のグランビルの純資産に影響を与えない方法として、成功報酬の請求をハウステックへのものとし、原告としては9月末付けで売上計上し、同年10月末日に回収したいと考えていること、成功報酬額としては、原告の成功報酬の最低額である3000万円から、ネットーワーク等との交渉が開始された同年3月以降に支払いを受けたリテイナーフィーの総額240万円を差し引いた2760万円(税抜き)で請求したいことを記載し、同年9月30日付け請求書(請求合計金額を消費税込みで2898万円、支払日を平成15年10月30日とする。)を添付した文書(甲12の1及び2)をグランビルあて送付した。
(12)ア 同年9月19日、補助参加人及びBと被告との間で、本件株式について株式売買契約が、グランビルと補助参加人との間で顧問契約が締結され、それぞれその契約書(甲3、4)が作成された。
これらの契約は、同年8月8日付け基本合意書及び同月29日付け変更合意書を基にしたものである。
イ そのうち、株式売買契約書(甲3)においては、基本合意書の内容がほぼ含まれるほか、本件株式の譲渡価額が1株につき1353円、合計1億8942万円とされ、さらに、事後調査により調整されることがあること、第1決済においては、5万株の譲渡として6765万円が支払われること、その実行日は同年9月26日とすること、第2決済の実行日は平成16年1月5日とすることなど具体的な定めがされた部分もあった。また、上記契約書締結時においては、グランビルが当事者である訴訟は、3件のみであることも確認された。
ウ また、顧問契約書(甲4)においては、ネットワークあるいは被告と補助参加人との間ではなく、グランビルと補助参加人とが、グランビルの業務の円滑な引継、業績向上を目的として顧問契約を締結すること、基本顧問料及び業績顧問料は、ほぼ基本合意書のとおりであるが、達成率の決定の前提となる売上及び粗利目標については、ネットワーク又は被告がグランビルに紹介したことを端緒として成約した案件のほか、ネットワークを本部とするフランチャイズ・チェーンの加盟店に対する一定条件でのレンガ外壁材その他資材営業の案件についても、それを実績として算入することができるとされた。
さらに、グランビルについて、同社を消滅会社等とする吸収合併等がなされるなど承継事由が発生した場合には、この顧問契約に基づく業務範囲、業績顧問料の算定方法その他承継事由により影響を受ける条項について、グランビル、補助参加人、ネットワーク及び被告は、この契約の更改、変更又はこの契約に基づくグランビルの地位の承継その他の取扱につき協議すること、被告は、グランビルと連帯して、この顧問契約に基づくグランビルの補助参加人に対する支払債務を保証することなどが定められた。
(13) 同月22日午後5時から、補助参加人、E、CとDとの間で、原告の成功報酬に関し話し合いが持たれ、補助参加人からは、本件株式売買契約の対価が2億円未満になったこともあって一括払いが困難になったとし、3年間に渡る延べ払いの依頼がなされた。
これに対し、Dからは、成功報酬は一括現金払いが業界の原則であること、成功報酬最低価格は、対価とは関係なく決まっており、原告の他の案件で、契約対価が1円であった案件においても、成功報酬は最低価格の3000万円を遙かに超えたものをもらっていること、グランビルの9月末の時価純資産に影響を与えない方策としてハウステックへの請求策を提案したが、これが賛同してもらえなかったと理解したこと、原告としては、同年9月19日付けでグランビルに対し2760万円(税抜き)の請求を起こすが、同月29日までに補助参加人の支払い確約をもらえない場合には、同月30日に大和証券及びネットワークに対し、グランビルの実計上未払金が2760万円ある旨を連絡せざるを得なくなることがメール(甲10)で伝えられた。
(14) さらに、同月29日付けで、Dからグランビル経理財務部係長あてに、「アパマン案件企業提携仲介契約サクセスフィーの件」と題する書面(甲5の1)が送付され、同書面には、次の理由により、同月30日に請求書に基づく売上計上をするので、グランビルにおいても、同月30日までの日付で費用(未払金)計上の実行をお願いする旨記載されていた。
ア 今回の請求は、本件契約に基づく、正式かつ適法な請求行為であること。
イ 原告の請求権発生時点が、株式売買契約書及び顧問契約書の締結日である9月19日であるため、原告中間決算締切日の9月30日に原告として売上計上が必要であること。
ウ 9月30日は又、株式売買契約書に規定されている第2決済の基準日であるので、グランビルにおいても遅くとも9月30日付けで経理処理の上、決算計上をお願いすること。
エ グランビル側も9月30日は決算の締め切りであり、2898万円は決算に響く金額であるので、グランビルの臨時マネジメントである、ネットワークの秋本マネージャには、本日電話で連絡し、請求書コピーをファクシミリ送信したこと。
(15) これに対し、グランビル及び補助参加人から、Dに対し、同日付けで、「仲介契約サクセスフィーの件」と題する書面(甲6)が送付された。
同書面には、本件契約が締結されたのはそのとおりであるが、原告のDとグランビルのCが話し合い、本件契約7条の成功報酬につき協議の結果、契約の手数料率をFC権の売却等価格の1パーセントに変更することに合意したので、本件契約は唯一正式の契約である等との主張は受け入れられないこと、同年8月に至り、原告から成功報酬はミニマムで3000万円であり、これが一般水準であるとの意向が示されたが、これは到底受け入れることはできないこと、グランビルとしては、成功報酬については、その後何ら変更する合意はない以上、料率は1パーセントとする変更契約がそのまま適用されると考えていることが記載され、また、「貴社の言われるように、成功報酬率の1%への変更合意は仮令アパマンとのM&Aについての契約が3月末なり、4月早々に成立するという予想を前提にしたものであったとするなれば、3月末なり4月早々の見込みが先に延び、前提なり事情が変わった時点で第7条の成功報酬の料率1%につき、貴社より申し出られ、双方協議検討して何らかの結論を得て合意すべきものと存じます。」と記載されていた。
さらに、原告で成功報酬計算の根拠とする取得権益の過半を占める部分である4億円の業績顧問料は、向こう2年目、3年目の長期にわたる実績対価の最高額であり、かつ付帯諸条件もあって不確定であること、その報酬については違った対応措置がなされてしかるべきが合理的であること、成功報酬の計算書のハウステックの金額が違い、支払った資本金が差し引かれなければならないこと等が記載され、最後に、原告の請求や主張を認めるものではないが、原告との今日までの経緯や長期にわたる尽力により、1%にこだわるものではなく、株式売買契約の対価や顧問契約の実情を踏まえて、成功報酬額(支払方法を含む)につき、原告と合理的な考え方で誠実に話し合い、合意を得たいと考えていると記載されていた。
(16)ア これに対し、原告担当者Dから、同日付けで、補助参加人及びグランビルの経理財務部係長あて、「企業提携仲介契約サクセスフィーの件(2)」と題する書面(甲5の2)が送付された。
同書面においては、グランビルと原告との企業提携仲介契約は、平成14年12月1日付けのものが唯一の正式な契約書であること、ネットワーク社案件に関しても、平成15年2月末の依頼であり、当然本件契約の対象となること、成功報酬は、本件契約の7条に従い、企業提携が成立した時点、つまり、株式売買契約書及び顧問契約書が調印された平成15年9月19日にグランビルに対する請求権が発生していること、成功報酬額も本件契約の1条及び7条に規定のあるリーマン方式で計算すると、3341万9378円となるが、基本合意書締結後の同年8月18日に説明したように、グランビルへの請求額は成功報酬の最低額である3000万円とするので、実際の請求書は、ネットワーク案件の交渉が始まった本年3月以降に支払われたリテイナーフィー合計240万円を差し引いた金額2760万円(プラス消費税)となることが説明され、本件契約書、アパマン社案件成功報酬額計算書及び請求書の写しが添付されていた。
なお、上記リテイナーフィーの合計240万円とは、グランビルが、平成15年5月から8月まで本件契約に定める毎月60万円のリテイナーフィーを支払ったその合計額である。
イ また、同書面には、補助参加人から原告の交渉成果に対する不満表明があったことについて、原告が、株主のために次のような権益を勝ち取ったことを認識してもらいたい旨記載されていた。
(ア) 営業権の評価が6月10日時点で、一旦ネットワーク側からゼロと言われたものを、業績リンク型のアイデアを提唱し、最終的に最大限4億円の業績顧問料の実現にこぎつけたこと。
(イ) 上記業績顧問料の最大額取得の確度を高めるために、当初は除外されていたアパマン効果の取り込みに成功し、それに加え当初の1ないし2年目での達成ノルマを2ないし3年目と1年ずらさせ、かつノルマ額(売上・粗利)そのものも1年遅らせることによる増額を阻止できたこと。
(ウ) 基本顧問料も月額50万円とし、契約期間も当初の2年を3年に延長できたこと。
(エ) 9月17日の時点まで値引き対象となっていた〈1〉FC年会費、〈2〉不要在庫、〈3〉ミジョーメタル取引保証額の、合計1275万9000円を正式契約締結の前日の時点で値引き対象から外すことに成功したこと。
(オ) 正式契約の前日までもめた訴訟関係2件(共生テクノ、オークデザイン)の戻り金問題も、前日の深夜に別途覚書を交わすという了解を、ネットワークから書式で取り付けたこと。
(17) なお、グランビルの商業登記簿上、平成15年9月26日付けで補助参加人以下取締役及び監査役が辞任し、同日付けでネットワークの代表者であるYほか3名の新取締役と1名の監査役が就任している。
さらに、グランビルは、平成16年6月7日、被告に吸収合併され、解散した。
2 争点1について
(1) 前記1の事実によれば、本件契約後、グランビルと原告との間で、同契約を変更する合意がなされたことを認めることはできない。
(2)ア 被告及び補助参加人は、変更契約が成立した事情として、原告が企業提携交渉相手を紹介せず、ネットワークとの間で本件株式売買についての合意ができ、スケジュールも提示されたため、グランビルと原告との間で早急に報酬を決め、原告にネットワークとの仲介を頼むか否かを決める必要があったと主張し、補助参加人はその陳述書(丙5)及びその尋問において、ネットワークとの合意は大筋ができ、売却価格などを決めるだけであり、その交渉について誰かを選任しなければならないと考えた、原告に頼む必要はなかったが、これまで頼んでいたので引き続き頼んでもよいと思ったなどと供述している。
これに対し、原告担当者Dは、その陳述書(甲14)や尋問において、本件契約後、他社との交渉を始め、ネットワークとの交渉が開始されてからも、本件株式に係る株式売買契約書及び顧問契約書が正式締結されるまでにはかなりの交渉を必要とし、そのために時間等もかなり費やした旨供述しているところ、ネットワークからグランビルに対し多数の資料を要求した書面(丙9)や、グランビルとネットワーク及び被告間でやり取りされた意向表明書、基本合意書、株式売買契約書及び顧問契約書における株式譲渡価格や顧問料その他の条項内容の加入、変遷状況等は、Dの供述にほぼ沿ったものということができる。また、原告提出の「G社案件/社外会議リスト」と題する書面(甲9)に記載された、原告担当者のグランビルや大和証券、ネットワークとの交渉日時、時間及び被告提出の交渉経緯表(丙8)も、いずれもDの供述内容にほぼ沿ったものである。
そうすると、補助参加人の前記供述をそのまま信用することはできず、むしろ、Dの供述に信用性があるというべきである。
イ そして、成功報酬を1%とする変更合意の有無についても、Dと補助参加人及びCの供述は食い違う。
この点、Cの供述は、補助参加人の供述に沿い、原告の報酬を1パーセントとすることの交渉を補助参加人から頼まれたというものであるが、その1パーセントにつきDの承諾を得たのは、そのことを初めてDに話した当日であり、そのために話したのは30分ほどであったという内容である。
しかし、被告及び補助参加人が変更合意が成立したと主張する平成15年2月21日の段階では、本件株式の譲渡代金は確定しておらず、その後、営業権の評価が問題となり、それを巡って、その後株式売買契約書作成の直前までその価額が変遷するような状況であったこと、さらに、グランビルからネットワークに提案された売却代金は12億円であり、それを基に本件契約に基づき成功報酬を算定すれば、少なくとも5000万円は超えることが想定されるが、1パーセントとの約定をすれば、原告の利益は大幅に減少しかねないこと、しかも、原告は、M&Aコンサルティングの成功報酬の一般的な最低金額を3000万円と考えていたことに照らせば、わずか30分の、しかも、原告の一担当者にすぎないDの了解のみを得たというだけの話し合いで、原告が金額も不確実、しかも大幅に利益が減少するのが確実というべき内容で、成功報酬の約定を変更する契約をしたとは到底考えられない。
したがって、Cの上記供述もそのまま信用することはできない。
ウ さらに、被告及び補助参加人は、平成15年8月18日に原告からグランビルに送信されたメールの内容をもって、変更契約が成立したことの根拠としている。
しかし、同メールは、同月8日に基本合意書が作成されたが、それまでに、企業提携先がグランビルが当初原告に交渉を指示しなかったネットワークとなり、提携方法も当初グランビルが希望したFC権売却でなく、全株式譲渡となり、しかも、譲渡価格もなかなか定まらず、基本合意書においても、その後の事後調査によるとされ、提携のスケジュールも再三変更されるといった経過をたどった状況において、原告が、一般的なM&Aコンサルティングの成功報酬の最低金額と考える3000万円も確保されないことをおそれて、その旨を事前に説明したことを踏まえて送信されたものであり、そのメールの文面と、上記状況に矛盾はない。
そして、そのメールで差替えを依頼した書面(丙3)の文言の変更も、本件契約を実質的に変更するものとも解されない。上記書面記載の7条が本件依頼書7条と異なる文言となってはいるが、新たな書面の7条では、成功報酬の最低金額を3000万円を明記することが主目的であり、同条の他の変更部分はそれに合わせるようになされたにすぎないことが窺われる。
なお、原告は、当初、上記8月18日に3000万円を前提にグランビルに対し報酬請求したと主張していたが、前記のとおり、本件株式の売買代金が正式に確定していないこの時期において、先んじて報酬請求することはあり得ず、前記のメール(丙3)のほか証拠(甲12の1及び2)によっても、原告が、一般的な成功報酬最低金額をこのグランビルの件についても適用することとし、それにより実際に報酬請求したのが、その後の平成15年9月11日ころであるのは明らかである。
したがって、同年8月18日に報酬請求をしたことを前提に1パーセントの変更契約をしたとの主張自体その前提を欠くものである。
エ 被告及び補助参加人は、原告が、平成15年2月21日の後、同3月分及び4月分のリテイナーフィーを請求しなかったことを変更契約成立の根拠として主張する。
しかし、仮に変更契約をしていれば、グランビルから平成15年5月以降リテイナーフィーを支払うこともなかったはずであって、グランビルのその後の支払い自体が、変更契約の不存在を窺わせるものというほかない。
そして、同年3月及び4月分に関しては、本件依頼書ではリテイナーフィーは成功報酬から控除されることとなっていたから、引継ぎのミスで請求を怠ったが、いずれ成功報酬請求時に控除されることを念頭に、その後も請求までしなかったという原告の主張には合理性がないとはいえない。
オ 被告及び補助参加人は、原告の最低報酬金額3000万円に基づく請求に対し、その都度1パーセントの合意があったことを述べ、これを拒否していると主張する。
しかし、本件証拠上、補助参加人が1パーセントの合意について言及したことが現れるのは、平成15年9月29日付けで、Dからグランビル経理財務部係長あてで、「アパマン案件企業提携仲介契約サクセスフィーの件」と題する書面が送付されたのに対し、グランビル、補助参加人が送付した同日付け返答文書におけるのが初めてである。
しかも、その文書には、一応、「貴社の言われるように」といかにも原告が1パーセントの合意について従前何らかの形では問題にしていたかのような体裁をとってはいる部分があるが、この部分は、上記Dからの本件契約をもとにした請求の内容を全く無視し、それと何ら脈絡もなく、それ自体意味不明のものである。
上記の書面以前に、グランビル、補助参加人が1パーセントの合意を主張したとの事実を認めるに足りる証拠はない。
かえって、前記のとおり、上記返答文書を送付する直前の、平成15年9月22日には、グランビルから原告に対し、成功報酬の延べ払いの要求が出されていたこと、同年9月26日付けで、補助参加人は取締役から退任していたことに照らせば、グランビルは、新役員の方針で、これまで認めていた成功報酬の支払いを理由なく拒むことにしたことも窺われる。
カ 被告及び補助参加人は、1パーセントの変更契約が書面になっていないのは、原告関連会社との緊密な信頼関係や、原告に対する信頼という事情があったからであると主張する。
しかし、グランビルは、本件契約の本件依頼書に署名押印する際には、同書6条のリテイナーフィーの前提となる提携交渉開始の始期でさえ訂正していたこと、グランビルに対しては、平成15年8月18日に、原告から本件依頼書の差替えの要求がなされ、差し替え用の書面が送付されていたから、変更契約をしていたのであれば、それに訂正を加えるなどして変更契約をしたことを明らかにしようとすることは容易であったことを考慮すれば、原告に対する信頼から訂正しなかったという主張は到底採用できない。
(3)ア(ア) 被告及び補助参加人は、さらに、変更契約の後、被告と補助参加人間で、本件契約等に基づく報酬を含む費用負担については、株式譲渡代金や顧問料を得る補助参加人が負担することになり、原告もこれを了承したと主張する。そして、その根拠として、株式売買契約書や顧問契約書の各一般条項に契約諸費用の負担は各当事者とするとの条項があり、これを原告担当者Dが知っていたことを挙げるようである。
(イ) しかし、その各契約は、当該契約の当事者、すなわち、補助参加人及びBとホームプランナー、あるいは補助参加人とグランビルを拘束するにすぎず、その当事者で本件契約による成功報酬を含めた費用の負担を定めたとしても、それが原告に何らかの効果を及ぼすものではない。
そして、証人Dの証言によれば、Dは、上記契約書の内容は全て知っていたと認められるが、それは当該契約の締結こそが原告の本件契約による依頼の最終目的であり、成果であったからであって、単にそれのみで、法律上、原告の本件契約に基づく成功報酬の支払義務者がグランビルから補助参加人に変更されることはあり得ないし、原告がそのようなことまで了解したことを認めるに足りる証拠はない。
そもそも、弁論の全趣旨によれば、補助参加人が成功報酬支払義務を負うという被告及び補助参加人の主張は、そのような補助参加人の負担合意時期、態様について変遷してきたことが認められるのであって、そのこと自体からしても、それが事実に基づくものとは解されない。
イ 他に、グランビルが原告に対し負担していた報酬支払債務につき、補助参加人が免責的債務引受をし、原告がこれを承諾した事実、原告とグランビルとの本件契約を解除し、原告と補助参加人との契約に変更した事実のいずれについてもそれを認めるに足りる証拠はない。
3 争点2について
(1) 前記のとおり、原告とグランビルとの間の本件契約に変更はなく、その内容は本件依頼書によることとなる。なお、成功報酬額についての被告及び補助参加人の主張は、前記のとおり、その前提となる本件契約の変更契約の成立が認められないからその主張を採用することはできない。
そして、原告は、グランビルに対し、本件契約1条及び7条に基づき算出された成功報酬は、別紙のとおり、3341万9378円であるところ、これを減額して、原告が成功報酬の一般的最低額と考える3000万円から本件契約7条により受領済みのリテイナーフィーを控除した2898万円を請求している。
(2) そこで、原告の請求内容について検討するに、まず、前記のとおり、原告の仲介により、グランビルと被告等とは、基本合意書を基になされた株式売買契約及び顧問契約という方法により企業提携が成立したのであって、グランビルが原告に依頼した本件契約の目的が達成されたということができる。
そして、本件契約では、本件依頼書の有効期間は平成15年3月31日までであるが、有効期間満了日においてなお企業提携に関わる交渉が継続する場合には、交渉終了時点まで自動延長されると定めているから、ネットワーク等との交渉が、同年2月24日ころに始まり、その後交渉が継続して、上記各契約の締結に至ったのは、本件依頼書の有効期間内のことである。
以上から、本件依頼書7条にいう、FC権の売却等の価額には、上記基本合意書を基になされた株式売買契約及び顧問契約という企業提携によりグランビル側(会社及び株主)が実質的に得た対価が含まれるということができる。
ア 上記対価に、株式売買契約に定める本件株式の譲渡価額1億8944万円が含まれるのはいうまでもない。
イ 原告は、さらに、ハウステックの簿価も含まれるとし、被告及び補助参加人は含まれないと主張する。
前記のとおり、上記契約の成立に至る過程において、ハウステックは買収対象外とされていたから、その簿価が、本件株式の譲渡価額に含まれて評価されているとはいえない。
ところで、証拠(甲2、5の2、13、証人D、同補助参加人)及び弁論の全趣旨によれば、グランビルはハウステックの全株式を所有しており、その簿価は少なくとも6500万円であったこと、ハウステックを買収対象外としたのは、原告と大和証券との交渉により、ネットワーク等による買収価格を低くするためであったこと、ハウステックの株式も、DDの対象とされていたこと、同株式は補助参加人が2000万円で買い取ったこと、基本合意書7条6項及び7項によれば、グランビルは、正式契約の締結までに、保有する有価証券等を市場価格(売主(補助参加人及びB)による買取の場合は簿価を適用する)で売却等処分し、その処分代金は、グランビルの有利子負債の返済に使用しなければならないとされていることが認められる。
そうすると、ハウステックの全株式は買収対象外とされ、その価値が譲渡代金という形では評価されないとしても、基本合意書により、売主が買い取ればその代金分は負債の返済に使用され、買い取った売主側にその余の価値が残ることになるから、結果として、株式売買契約等の一連の企業提携によりグランビル及びその株主にとって一定の利益を生じさせたという評価をすることができる。
したがって、ハウステックの簿価も、原告の仲介により得られた「FC権の売却等の価額」に含めることには合理性があるということができる。
ウ 原告は、訴訟関係の戻り金も含まれると主張する。
証拠(甲3、4、5の2)及び弁論の全趣旨によれば、株式売買契約及び顧問契約締結当時、グランビルを当事者とする民事訴訟が3件係属していたこと、その契約の前日まで、訴訟関係2件について、戻り金の問題がグランビルとネットワークとの間で検討されていたところ、これについては、原告の交渉により、グランビルとネットワークとの間で、別途覚書を交わすと書面が作成されたこと、そして、株式譲受価額の算定については、最終修正の段階で、訴訟関係の戻り金、すなわち、売掛金及び訴訟引当金の合計2446万円が修正額として考慮されていたことがそれぞれ認められる。
そうすると、この訴訟関係の戻り金も、原告の仲介による成果としての「FC権の売却等の価額」に含めることができる。
エ 原告は、顧問契約に基づく顧問料も含まれると主張する。
(ア) 前記のとおり、グランビルが原告に依頼した企業提携につき、ネットワークによるグランビル株式の譲受という方法が選択されたが、当初、グランビルとネットワークとの間では、株式譲渡価格につき大きな開きがあったこと、その後の原告と大和証券との交渉において、株式譲受金額がなかなか定まらず、また、営業権を評価するかどうかが問題となり、グランビルの平成15年5月度の月次売上実績が、直近の事業計画書を大きく下回ったことから、ネットワークの、グランビル事業計画書に対する信用を失い、営業権の価値を評価しないとされたこともあったこと、そこで、原告では、営業権に関わる対価の支払いの代わりに、事業計画の達成実績に応じて補助参加人に顧問料を支払うとの提案をしたこと、そして、ネットワーク・大和証券でも、営業権の取扱については、営業権の形での支払いではなく、補助参加人と顧問契約を締結し、予算達成率に応じたインセンティブボーナスを支払うことを考えるようになったこと、その後、その顧問契約の契約期間や顧問料について検討がなされていたところ、当初、契約期間は1年間、顧問料は、当初月々30万円、インセンティブボーナスの達成率については、ネットワーク紹介案件は含まれないとされていたところ、その後の原告の交渉により、最終の顧問契約においては、有効期間はおおむね3年間、顧問料は基本顧問料が月額50万円、業績顧問料は、達成率によるが、その達成率算定の前提となる売上及び粗利目標に対する実績には、ネットワーク等の紹介案件のほか、ネットワークを本部とするフランチャイズ・チェーンの加盟店に対する一定条件での資材営業も含まれるとされたこと(「アパマン効果」と言われている。)、加えて、上記達成率がより容易に実現されるよう、上記売上及び粗利目標設定時期を1年先送りした平成17年及び平成18年の各9月期としたことが認められる。
そうすると、上記のように、営業権に関わる対価の支払いを顧問料という形にして確保し、その金額等の内容もグランビルの株主である補助参加人がより多くを得られるよう改善されてきたのも、原告の交渉の結果であり、したがって、顧問契約による顧問料も、原告の仲介による成果として、「FC権の売却等の価額」に含めることができる。
そして、その顧問料は、証拠(甲4、13)によれば、顧問契約の有効期間(7条)は、3年間であり、その間の基本顧問料(月額60万円)の合計額として1800万円、業績顧問料としては、補助参加人、ネットワーク代表者及びDらの話し合いにおいて有効期間内で4億円と想定されていたことが認められるから、これらの金額が上記「FC権の売却等の価額」に含まれるということができる。
(イ) これに対し、被告及び補助参加人は、基本顧問料は営業の対価ではないとか、業績顧問料は、不確実な停止条件付の債権であり、しかも、その目標の達成は不可能であるなどと主張している。
しかし、一般的な場合はともかくとして、本件では、グランビル・原告とネットワーク・大和証券との交渉の結果、営業権に関わる対価を補助参加人に対する顧問料という形式で支払うとの合意がされたのであって、そのうち、基本顧問料は固定的に支払うもの、業績顧問料は、売上及び粗利の目標達成に応じて支払われるものとされたにすぎない。
また、業績顧問料4億円という金額は、顧問契約締結までに作成された損益計算書(甲15)による売上及び粗利を前提にすれば達成可能な金額であり、また、証拠(甲16)によれば、平成16年8月期において、顧問契約におけるグランビルの地位を承継した被告は、グランビルとの提携により得た乾式煉瓦壁工法にて建築する「煉瓦の家」等の商品展開に注力し、不動産取引も堅調であったため、年売上高を大幅に伸ばしていることが認められ、前記目標につき達成が不可能であると断言することはできない。
なお、補助参加人提出の損益計算書(丙7)は、合併直前のものであるが、業績顧問料の算定に当たり売上及び粗利目標を設定された時期は、その1年以上も後の時期であることから、上記計算書の数値により、目標達成が不可能であると断定するのは相当でない。
オ 原告は、FC年会費、不用資材、取引保証金の合計1275万9000円も、原告が交渉した結果、買収金の支払い対象となったと主張する。
証拠(甲4)及び弁論の全趣旨によれば、株式売買契約における株式譲受価額の算定において、平成15年9月18日の段階で、売掛金、資材及び仮払金がそれぞれ算定金額に加えられ、株式譲受価格が修正されている。
これに証拠(甲5の2)を合わせ見れば、上記金員が最終段階で株式譲受価額の算定に含まれたのも、原告の仲介による成果であると見ることができる。
したがって、上記1275万9000円も「FC権の売却等の価額」に含まれるということができる。
カ 以上によれば、上記アからオの合計額約7億0965万9000円が成功報酬算定の基礎となる「FC権の売却等の価額」であるということができる。
(3) 上記金額を基に、本件契約7条所定の算定式により成功報酬額を算定すると、3338万6000円となる。
(4) 前記のとおり、原告は、本件依頼書1条及び7条により算定した金額から減額した3000万円を成功報酬額の最低金額とし、これから本件依頼書7条所定のリテイナーフィー合計240万円を差し引いており、その残額及びそれに対する消費税額である合計2898万円は、本来原告が本件契約に基づき請求し得る成功報酬の一部請求ともいうべきものである。
したがって、この金額を成功報酬として認めることができる。
4 争点3について
前記1のとおり、原告は、グランビルとの本件契約に基づき、同契約の目的を達成した上で、本件依頼書の約定に基づく成功報酬の内の一部を請求したというべきものであって、本件請求に、信義則に反するとか、権利濫用であると評価されるような事情は一切ない。
被告及び補助参加人の主張は、自らの主張を前提にそれに反する原告の本件請求が不当であるというにすぎず、そのような主張を採用することはできない。
5 よって、原告の成功報酬額及びこれに対するグランビルに対する請求日以後の日である平成15年10月30日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払いを求めた本件請求には理由があるからこれを認容し、訴訟費用につき民訴法61条を、仮執行宣言につき同法259条1項を適用し、また、仮執行免脱宣言の申立ては相当でないから、これを付さないこととし、主文のとおり判決する。
(裁判官 桑原直子)
(別紙)
アパマン社案件成功報酬額計算書
[株主の取得権益]
1)純資産部分:グランビル社時価 189,440,000円
(平成15年6月末)
ハウステック社簿価 65,825,158円
(平成14年7月末)
訴訟関係の戻り金 24,460,288円
2)営業権部分:基本顧問料 18,000,000円
(50万円×36ケ月)
業績顧問料 400,000,000円
(平成17~18年)
権益合計 697,725,446円
3)値引阻止額:FC年会費/不要資材 12,759,000円
/取引保証金
弊社交渉による成果額合計 710,484,446円
リーマン方式による成功報酬額計算:
A)500,000,000円×5%=25,000,000円
B)210,484,446円×4%= 8,419,378円
成功報酬額合計 33,419,378円
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