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判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(336)平成19年 1月16日 福岡高裁 平17(う)394号 住居侵入,強盗殺人,現住建造物等放火,死体損壊,殺人,詐欺被告事件

判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(336)平成19年 1月16日 福岡高裁 平17(う)394号 住居侵入,強盗殺人,現住建造物等放火,死体損壊,殺人,詐欺被告事件

裁判年月日  平成19年 1月16日  裁判所名  福岡高裁  裁判区分  判決
事件番号  平17(う)394号
事件名  住居侵入,強盗殺人,現住建造物等放火,死体損壊,殺人,詐欺被告事件
裁判結果  控訴棄却  文献番号  2007WLJPCA01168002

要旨
◆強盗殺人及び保険金詐取目的の殺人等を犯した被告人らが、供述調書は任意性がなく証拠能力が認められないのに、その任意性を認めて証拠能力を肯認した原判決には訴訟手続の法令違反、事実誤認、量刑不当があると主張して控訴した事案において、原判断に訴訟手続きの法令違反はなく、供述調書の任意性に疑いがあるとは言えず、被告人両名の共謀による住居侵入、強盗殺人、現住建造物等放火及び死体損壊の事実を認定した原判決に所論のような事実の誤認はないとし、また死刑に処した原判決の量刑は相当であるとしてこれを維持した事例

裁判経過
上告審 平成22年11月 8日 最高裁第二小法廷 判決 平19(あ)337号 被告人Aに対する住居侵入、強盗殺人、現住建造物等放火、死体損壊、殺人、詐欺、被告人Bに対する住居侵入、強盗殺人、現住建造物等放火、死体損壊、殺人被告事件
第一審 平成17年 5月16日 福岡地裁小倉支部 判決 平14(わ)215号 住居侵入、強盗殺人、現住建造物等放火、死体損壊、殺人、詐欺被告事件

参照条文
刑法108条
刑法130条
刑法190条
刑法199条
刑法240条

裁判年月日  平成19年 1月16日  裁判所名  福岡高裁  裁判区分  判決
事件番号  平17(う)394号
事件名  住居侵入,強盗殺人,現住建造物等放火,死体損壊,殺人,詐欺被告事件
裁判結果  控訴棄却  文献番号  2007WLJPCA01168002

上記AことY1に対する住居侵入,強盗殺人,現住建造物等放火,死体損壊,殺人,詐欺被告事件,上記BことY2に対する住居侵入,強盗殺人,現住建造物等放火,死体損壊,殺人被告事件について,平成17年5月16日福岡地方裁判所小倉支部が言い渡した判決に対し,被告人両名からそれぞれ控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官牧野忠出席の上審理し,次のとおり判決する。

 

 

主文

本件各控訴を棄却する。

 

 

理由

本件各控訴の趣意は,被告人AことY1(以下「被告人Y1」という。)については主任弁護人成瀬裕及び弁護人朝雲秀が連名で提出した控訴趣意書に(なお,主任弁護人は,当審第1回公判期日において,控訴理由は訴訟手続の法令違反,事実誤認,量刑不当の主張であり,控訴趣意書の中で理由不備,理由齟齬及び審理不尽があるとしている点は事実誤認に関する主張である旨釈明した。),被告人BことY2(以下「被告人Y2」という。)については弁護人市丸信敏が提出した控訴趣意書及び「上申書」と題する書面に,それぞれ記載されたとおりであるから,これらを引用する。
第1  被告人Y1の弁護人の訴訟手続の法令違反の論旨について
論旨は,要するに,C(以下「C」という。)を被害者とする原判示第1の住居侵入,強盗殺人,現住建造物等放火,死体損壊事件(以下,これを「C事件」ともいう。)に関する被告人Y1の捜査段階における供述調書は,任意性がなく証拠能力が認められないのに,その任意性を認めて証拠能力を肯認した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある,というのである。
しかし,記録を調査し,当審における事実取調べの結果を加えて検討しても,原判示第1の住居侵入,強盗殺人,現住建造物等放火及び死体損壊の犯行についての被告人Y1の捜査官に対する供述調書の任意性を肯認した原判決の判断に誤りがあるとは考えられず,原判決が「事実認定の補足説明」2(1)アで認定,説示するところも,正当として是認できるのであって,原判決に所論のような訴訟手続の法令違反はない。以下,所論(当審弁論も含む。)にかんがみ,補足して説明する。
1  所論は,C殺害を被告人Y2に指示したことを認める内容の被告人Y1の捜査段階における供述は,被告人Y1が,捜査官から,被告人Y2と共謀してCを殺害するなどしたと認めれば,死刑にならないような調書を作り,検察庁が死刑の求刑をしないことにより,死刑にならないようにしてやるといった利益誘導がされたり,C殺害やC方への放火について被告人Y1が認めないのであれば,被告人Y1が死刑になり,また,被告人Y1の内妻や親族に不利益が及ぶかもしれないと脅されたりして供述したもので,任意性がない旨主張する。
そこで検討するに,福岡県警察本部のD警部補の原審公判供述等の関係証拠によれば,被告人Y1がC事件について自白をするに至った取調べ経緯等は,原判決が「事実認定の補足説明」2(1)アbで認定するとおりである。
すなわち,被告人Y1は,平成14年3月1日,原判示第2のE(以下「E」という。)に対する殺人の事実(以下,これを「E事件」ともいう。)で起訴された後,同月4日,C事件の被疑事実で通常逮捕され,同日から,福岡県八幡東警察署において,D警部補が取調官として,上記八幡東警察署のF司法巡査が補助官として,C事件について,被告人Y1に対する取調べが開始されたこと,被告人Y1は,当初から,C事件のうち,住居侵入及び強盗の点は認めていたが,C殺害やC方への放火を被告人Y2に指示したことはないなどと供述していて,同月5日に,C事件のうち,住居侵入及び強盗の点は認めるが,殺人及び現住建造物等放火の点は否認する旨の被告人Y1の警察官調書(原審検乙65号)が作成されて以降,同月13日まで,被告人Y1は,C殺害やC方への放火を被告人Y2に指示したことを否定し続け,被告人Y1の供述に実質的な進展がなかったことから,同日までの間,C事件の罪体に関する被告人Y1の供述調書は作成されなかったこと,同月13日は,D警部補が取調官として,福岡県警察本部のG巡査部長がF巡査に代わって補助官として,被告人Y1の取調べに当たっていたが,同日,C殺害を被告人Y2に指示したことを認める内容の警察官調書(原審検乙66号)が作成されたこと,被告人Y1は,同月26日,H副検事に対し,被告人Y2からCを殺害した旨の連絡を受けた際,被告人Y2に対し,「証拠は残すなよ。」と言って,罪証隠滅工作をするよう指示したが,その指示には,C方に火を点けろという意味も含んでいたなどと供述し,C方への放火を被告人Y2に指示したことを認める内容の検察官調書(原審検乙80号)が作成されたこと,以上の事実が関係証拠から明らかである。
そして,原審公判において,D警部補は,被告人Y1が,同月13日昼ころ,Cに対し申し訳ないことをしたと言って,C殺害を被告人Y2に指示したことを認める内容の供述をし始めたため,同日,C殺害を被告人Y2に指示したことを内容とする警察官調書(原審検乙66号)が作成された,同月13日の取調べの際,G巡査部長が,被告人Y1に対し,同被告人の内妻のI(以下「I」という。)や被告人Y1の祖母のことを持ち出して脅したことはなく,D警部補,F巡査及びG巡査部長が,被告人Y1に対し,C事件について自白すれば,死刑にならないようにしてやるなどと言ったこともなかった旨供述するところ,同供述は,被告人Y1の各供述調書から認められる同被告人の客観的な供述経過に符合していて,自然なものである上,取調べに当たって,被告人Y1に対し,被告人Y2がC事件について認めていることを告げたとか,弁護人と接見した用件を聞いたことがあるなどという,問題になりかねない事柄に関しても素直に述べるなど,自己の記憶に基づいて事実をありのままに供述しているとうかがわれるものであること,被告人Y1は,C殺害を被告人Y2に指示したことを認めた同月13日以降も,警察官に対しては,C方への放火を被告人Y2に指示したことを一貫して否認していたこと,被告人Y1は,C事件に関して,同月4日に逮捕されてから同月26日に起訴されるまでの間,弁護人と四,五回は接見をしており,また,上記のようにC殺害を被告人Y2に指示したことを認めた同月13日までの間にも,弁護人と接見をしていたこと,同月13日以降に作成された被告人Y1の供述調書に,被告人Y1が被告人Y2にC事件の犯行を初めて持ち掛けた時期等,C事件に関する重要な事実について,被告人Y2の捜査段階における供述とは食い違う内容の供述部分が存在すること,以上からすると,D警部補の上記供述は十分信用することができる。
これに対し,被告人Y1は,原審及び当審公判において,所論に沿う内容の供述をするが,信用性の高いD警部補の原審公判供述等に照らして信用できない。
そうすると,被告人Y1が,同月13日に,C殺害を被告人Y2に指示したことを自白するに至ったのが,所論の主張するような捜査官による利益誘導や脅しによるものとはいえず,その自白の任意性に疑いはない。所論は採用できない。
2  所論は,①被告人Y1は,平成14年3月4日にC事件の被疑事実で逮捕されてから,殺人や放火の事実について否認していたところ,同月13日に,C殺害を被告人Y2に指示したことを認める内容の警察官調書(原審検乙66号)が作成されているが,供述変遷の理由が不明確であり,この供述の変遷は,不自然である,②被告人Y1の供述調書が平成14年3月5日に作成されてから同月13日に作成されるまでの間,被告人Y1の取調べは朝から夜まで行われているにもかかわらず,C事件の罪体に関する被告人Y1の供述調書が作成されていないが,このことは,捜査官側の意向に沿う形の供述調書のみを作成しようという捜査官側の意図や,被告人Y1に対する相当に強固な利益誘導及び脅しが存在したことをうかがわせるものである,③C殺害を被告人Y2に指示したことを認める内容の被告人Y1の検察官調書は,被告人Y1が,検察官に対し,殺害を指示していない旨述べても,検察官から供述を変遷させると不利になると言われて取り合ってもらえず作成されたものであり,また,「証拠を残すなよ」という指示に放火の指示も含まれていたという内容の被告人Y1の検察官調書(原審検乙80号)には,それらを無理やり結び付けようとする検察官の強引さが見て取れるのであって,被告人Y1の検察官調書には任意性がない,以上の諸点を指摘して,被告人Y1の捜査官に対する供述調書には任意性がない旨主張する。
しかし,①について,C殺害を被告人Y2に指示したことを認める供述に変わった理由に関して,被告人Y1の平成14年3月13日付け警察官調書(原審検乙66号)には,「毎日,刑事さん達と話している内に気持ちが変わってきました。私は,大分の保険金目的の替え玉殺人があるだけでも罪が重いことはよく分かっています。その上にこのCさんに対する強盗殺人が加わると思うととても本当の話はできませんでした。しかし,やっと話す決心ができました。Cさんに対して本当に悪いことをしたと思うのでCさんの冥福を祈るためにも,これから話すことは真実です。私が,Y2(被告人Y2のこと。以下同じ。)に命じてCさんを殺して施工契約書や現金を奪うように指示したのは,事実ですのでその時のことを話します。」との記載があり,また,被告人Y1の同月26日付け検察官調書(原審検乙81号)には,「私が殺したことを認めた理由は,その前日の夜に,私の夢にCさんが出て来たからです。その夢の内容は,次のとおりです。私がCさん方リビングで,Cさんの奥さんから食事をご馳走になっていました。その食事は,パンとスパゲッティでした。私が食事をご馳走になっている最中,Cさんが外出先から帰宅して,リビングで食事をしている私に気付き,ニコッと笑って『来てたん』と声をかけてくれたのでした。この時点で私の目が覚めたのでした。夢に出て来たCさんの顔は,とても穏やかで何とも言えない良い表情をしていたのでした。私とY2に殺されたCさんが,鬼の形相をして夢に出てくるのならともかく,とても穏やかで何とも言えない良い表情をして出て来たのでした。そのようなことから,私は,Cさんを殺したことを否認し続ければ,亡くなったCさんに申し訳がないと思い,やったことはやったこととして,素直に認めたのでした。」との記載があり,このような供述の内容は,格別不自然なものではあるとはいえず,被告人Y1が,罪を悔いる心境になって,C殺害を被告人Y2に指示したことを認めるに至ったものとみて差し支えがないから,所論が主張するように被告人Y1の供述の変遷が不自然なものとはいえない。②について,平成14年3月5日から同月13日までの間,C事件の罪体に関する被告人Y1の供述調書が作成されなかったのは,前記のとおり,被告人Y1の供述に実質的な進展がなかったからであると認められるのであり,その供述内容が実質的に変わらない場合には,改めて同じ内容の供述調書を作成しなかったとしても不自然ではないから,所論指摘の事情が,捜査官による被告人Y1に対する利益誘導や脅しが存在したことをうかがわせる事情とはいえない。③について,前記のとおり,被告人Y1は,C殺害を被告人Y2に指示したことを認める内容の警察官調書(原審検乙66号)が作成された平成14年3月13日以降も,警察官に対しては,C方への放火を被告人Y2に指示したことを否認していたのであって,決して捜査官の言うとおりの供述調書の作成に応じていたわけではないことからすると,検察官が被告人の弁解に取り合わないことがあったとしても,それが検察官調書の任意性を疑わせるような事情になるとはいえない。また,被告人Y1の検察官調書(原審検乙80号)の内容をみると,同調書には,「問 あなたがこの時言った『証拠は残すなよ』という意味は何か。答 要するに,殺害現場であるCさん方に転がっているCさんの死体,Y2が付けた指紋,Cさんの体から流れた血など,およそ犯行が発覚するもの全てをなくすことです。問 具体的には,どのような方法でするのか。答 指紋や血は拭き取り,死体は床下の防空壕に隠すことです。問 それ以外の方法は,何を考えていたか。答 家に火を点けることです。問 家に火を点ければ,何故証拠を残さないようになるのか。答 家自体が燃えれば,当然家の中に残っている全ての証拠も消失するからです。」などと問答形式で供述が録取されているところ,その供述経過からみても,検察官が,「証拠は残すなよ」の意味について,被告人Y1に対し慎重に尋問していることがうかがわれるのであって,所論が主張するように,「証拠を残すなよ」という被告人Y1の被告人Y2への指示に,放火の指示も含まれていたことを,検察官が,被告人Y1の認識を押さえ付けて強引に結び付けたものとは考えられない。
以上のとおりであるから,所論指摘の事情から,被告人Y1の捜査官に対する供述調書の任意性に疑いがあるとはいえず,所論は採用できない。
3  その他,所論がるる主張する諸点を検討しても,C事件についての被告人Y1の捜査官に対する供述調書の任意性に疑いがあるとはいえない。
論旨は理由がない。
第2  被告人Y1の弁護人の原判示第1の事実(C事件)に関する事実誤認の論旨について
論旨は,要するに,被告人Y1は,被告人Y2との間で,Cを殺害する旨の共謀を解消していたのであるから,被告人Y1と被告人Y2との間で殺人の共謀はなく,また,被告人Y1は,C方への放火を被告人Y2に指示していないから,被告人Y1と被告人Y2との間で現住建造物等放火及び死体損壊の共謀もなく,被告人Y1には住居侵入罪のほかに強盗罪が成立するにすぎないのに,信用性のない被告人Y2の原審公判供述及び被告人Y1の検察官調書等の証拠に基づき,原判示第1のとおり,被告人Y1が,被告人Y2と共謀の上,住居侵入,強盗殺人,現住建造物等放火及び死体損壊に及んだとの事実を認定した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,というのである。
しかし,記録を調査し,当審における事実取調べの結果を加えて検討しても,被告人Y2の原審公判供述は信用できると認められ,同供述を含む原判決挙示の証拠によれば,原判示第1の事実を優に認定することができ,原判決が「事実認定の補足説明」で説示する被告人両名の原審公判供述や被告人Y1の捜査段階の供述の信用性の評価及びそれらの信用性評価に基づいてした原判決の事実の認定には,C事件に至る経緯や被告人両名の共謀状況に関し,被告人Y2の原審公判供述を信用できず,被告人Y1の捜査段階の供述あるいは原審公判供述を信用できるとしたことについて,一部首肯できない部分があるものの,被告人Y1が,被告人Y2と共謀の上,原判示第1の住居侵入,強盗殺人,現住建造物等放火及び死体損壊に及んだ事実を認定した点において,原判決に事実の誤認はない。
すなわち,C事件に関する被告人Y2の原審公判供述は,記憶が曖昧な部分もあるものの,自己の記憶に基づいてかなり明確に供述しているものと認められる上,関係証拠から認められるCの死因や負傷状況,C方住居の焼損状況,放火に使用した石油ファンヒーターのカートリッジの状況,被告人Y1との通話状況等の犯行状況に関する客観的事実及びこれから推認される事実と符合していて,自然である。また,被告人Y1の養母であったJ,E事件の共犯者であるK1ことK(以下「K」という。),被告人Y1経営の飲食店の従業員であったL,M及びNらの捜査官に対する各供述調書等の関係証拠によれば,被告人Y1は,被告人Y2を服従させていたことや,E事件について,被告人Y1が,具体的な犯行計画の殆ど全てを立案し,それを被告人Y2に脅し文句等を使って了解させ,被告人Y2に指示,命令して実行させていたことが認められるところ,C事件に関する被告人Y2の原審公判供述は,被告人両名の上記のような関係ともよく整合している。したがって,被告人Y2の原審公判供述の信用性は高いと考えられる。他方,被告人Y1の原審及び当審公判供述は,被告人両名の上記のような関係に照らして,不自然な内容のものであって,被告人Y2にその責任を押しつけようとする傾向が強くうかがわれ,また,自己の刑事責任を軽減する方向で不自然に供述を変遷させるなどしていて,そのまま信用することはできない。また,被告人Y1の捜査段階における供述には,信用できるところも多くあるが,C事件の殺人や放火の点について当初は否認し,殺人の点については捜査段階の途中で認めたものの,放火の点については最終的にようやく認めたという供述経過があり,その供述は,できるだけ自己の刑事責任の軽減を図ろうとする思惑の中でされたものとうかがわれること,被告人Y1は,検察官調書(原審検乙46号)において,謀議の時期等に関しては,「私とY2との今回の事件についての話し合いの時期などについては,実際,私もメモなどに残しておらず,また,この当時は,後に大分県で起こした保険金目的の替え玉殺人事件の計画と同時に進めていたこともあって,今回の事件についての話し合いをした日時などが,もしかしたら違っていたりするかも知れませんし,また,Y2とほとんど毎日と言っていいほど会っていましたから,その際,詳しい話し合いまではしないにしても,今回の計画が話題に上ったことは当然あったと思います。」などと供述していることなどからすれば,とくに,被告人両名の共謀状況等に関して,被告人Y2の原審公判供述と異なる内容についての信用性を判断するに当たっては,被告人Y1の上記供述経過等を踏まえた上で個々的に判断する必要がある。以下,所論(当審弁論も含む。)にかんがみ,補足して説明する。
1  所論は,原判決が,「事実認定の補足説明」2(2)アないしエにおいて,「被告人Y1が被告人Y2に対し最初に犯行の実行を持ち掛けた時期」,「平成14年1月3日における謀議の有無及び内容」,「同月6日の武雄競輪場における謀議の有無及び内容」,「同月7日から8日にかけての深夜の謀議の有無及び内容」については,いずれも被告人Y2の原審公判供述には信用性がないとして排斥しているにもかかわらず,被告人両名の関係や放火の指示等の点については,被告人Y2の原審公判供述を信用できるものとして採用し,それに沿った事実を認定しているのは明らかに矛盾しており,被告人Y2の原審公判供述は全体として信用性がないと評価すべきである旨主張する。
しかし,被告人両名の関係や放火の指示等の点を含めて,C事件に至る経緯や被告人両名の共謀状況についての被告人Y2の原審公判供述及びそれに沿う当審公判供述は,前記のとおり,客観的事実及びこれから推認される事実とよく符合している上,被告人両名の前記のような関係ともよく整合していて自然であって,高い信用性が認められる。以下,被告人両名の各供述の要旨を摘示した上,その信用性について説示する。
(1)  被告人両名の各供述の要旨
被告人両名の各供述は,大要,以下のとおりである。
ア 被告人Y1が被告人Y2に対し最初に犯行の実行を持ち掛けた時期及び平成13年12月中の謀議の内容について(原判決の「事実認定の補足説明」2(2)アの事項)
a 被告人Y1の捜査段階(検察官調書〔原審検乙46号〕)並びに原審及び当審公判における供述
被告人Y1は,平成13年12月20日ころ,O(以下「O」という。)から原判示第3の詐欺事件(以下「O詐欺事件」という。)で詐取した工事代金の返還を強く求められたことから,同月24日,佐世保競輪場からの帰りの車中で,被告人Y2に対し,総裁から頼まれた仕事であるとして犯行を持ち掛けたのが,被告人Y2に犯行を持ち掛けた最初であるが,その時には被告人Y2は承諾しなかった。
b 被告人Y2の原審及び当審公判における供述
被告人Y2は,平成13年11月5日に拘置所から出所した際,被告人Y1から,被告人Y2の借金の関係でやくざが動き,借金の総額が八,九千万円くらいになったと言われ,「八幡のやくざから頼まれた仕事がある。山の上に住む老夫婦が2人いるけれど,それを殺してほしい。その家には現金と預金通帳を含めて1000万円のお金が転がっているから,それをついでに取ってくればいい。証拠隠滅のために,火を点けて燃やせ。その印鑑と通帳でお金を引き出せばいい。」などと言われて,Cらの殺害計画を持ち掛けられたが,断った。その後も,被告人Y2は,被告人Y1から,Cらの殺害を持ち掛けられ,被告人Y2が加入した生命保険の保険料を支払った同年12月18日以降は,頻繁に持ち掛けられるようになり,被告人Y1から,「お前の身柄を総裁に渡す。総裁はやくざだから,お前のことを殺して腎臓でも肝臓でも売ってお金が入ってくる。その上に,生命保険のお金も俺のところに入ってくるから,俺はお前の面倒をみる手間が省けるし,俺は得をする。」などと言われて,Cらの殺害計画をするように迫られ,同月下旬ころ,承諾した。
イ 平成14年1月3日における謀議の有無及び内容について(原判決の「事実認定の補足説明」2(2)イの事項)
a 被告人Y1の捜査段階(検察官調書〔原審検乙46号〕)における供述
被告人Y1は,平成14年1月3日,被告人Y1方マンションの駐車場に停めた車の中で,被告人Y2に,総裁の仕事としてCらの殺害計画の話を切り出し,「相手は老人2人で,義理の兄妹らしい。俺が妹の方を連れ出すから,その間に,お前が男の方を後ろから首を絞めて,刃物で刺して殺せ。そして,書類や現金を探して奪え。上手くいったところで,電話で俺に連絡しろ。そしたら,俺が妹を連れ帰るので,同じように殺せ。」,「首を絞めて殺せ。でも,お前がやり損なったと思ったら,ナイフで首の頸動脈を切って止めを刺せ。」,「(2人の死体は)真空パックに入れて,血が出ないようにして,段ボール箱に入れて台車で車まで運び込み,死体をお前の行橋の実家の床下か山に捨てるぞ。」などと言い,また,「灯油をペットボトルに入れて持っていき,相手を殺した後,家に火を点けて燃やせよ。」とも言い,被告人Y2に対し,殺害や放火の方法等について実行できるかどうか確認したところ,被告人Y2は,「大丈夫でしょう。」,「大丈夫です。」などと言って了解した。
b 被告人Y1の原審及び当審公判における供述
被告人Y1が,被告人Y2に,平成14年の正月休みの間に,被告人Y2の死亡診断書を偽造してくれる医者を探すよう指示していたので,同年1月3日は,主としてその結果を聞くために被告人Y2を呼び出し,被告人Y1方マンションの駐車場に停めた車の中で話を聞いたところ,被告人Y2から,偽造の死亡診断書を取ることはできないと言われ,被告人Y2を責めると,被告人Y2が,前に話していた総裁の仕事をしますから許してくださいと言ってきたことがきっかけで,C事件に関する謀議が始まった。その際,相手は義理の兄妹2人であり,被告人Y2が2人を殺害して家の中にあるO詐欺事件の証拠となる日本クリーンサービスの預かり証等を強奪することは話したが,具体的な殺害方法については話していない。この日は,2人を殺害することを前提に,捜査段階で述べたような死体処理の方法について話し合った。
c 被告人Y2の原審及び当審公判における供述
被告人Y2は,平成14年1月3日,被告人Y1方において,同被告人から,Cらの殺害計画について指示され,「足を刺して殺せ。真空パックに詰めろ。それを段ボールに詰めて,氷を詰めて,宅急便を装って持ち出せ。トラックの荷台の上まで持っていったら,2人とも頸動脈を狙って止めを刺せ。お前のところの実家は競売にかかっているけれども,すぐには売れないだろうから,翌日に,床下をはぐってそこに穴を掘って埋めろ。スコップとか台車とか車とか段ボールとかは俺が手配する。」などと指示された。
ウ 平成14年1月6日の武雄競輪場における謀議の有無及び内容について(原判決の「事実認定の補足説明」2(2)ウの事項)
a 被告人Y1の捜査段階(検察官調書〔原審検乙46号〕)並びに原審及び当審公判における供述
被告人Y1は,平成14年1月6日,被告人Y2を武雄競輪場の特別観覧席に呼び出し,C事件の実行日が1月8日に決まったこと,場所が八幡東で,相手がCという人の所であることを告げた上,総裁に話をするのでC事件の犯行を行う意思があるか確認するくらいのことしか話していない。
b 被告人Y2の原審及び当審公判における供述
被告人Y1から,平成14年1月6日,「総裁に会わせるから。」などと言われて,武雄競輪場に呼び出され,「今度殺すお父さんとこは日本クリーンサービスのお客さんで,俺とトラブルがあるところだ。殺した後,現金,預金通帳とともに日本クリーンサービスの工事関係の承諾書とか請求書,納品書(これらの書類を,以下,「本件工事関係の書類」ともいう。),そういう物を全部取ってこい。」,「ジェーシーエス時代に,俺のお客さんでトラブルが起こっている人がいるから,俺のことを知りすぎているから殺してくれ。」,「最初から刃物を使うな。首を絞めて殺せ。」,「宅急便を装って入る。お母さん(O)の方はおれば外に連れ出しておくから,まずお父さん(C)の方をやれ。お父さんの方を首を絞めて殺せ。屋根裏部屋かどこかに隠しておけ。女性が帰ってきたら同じように首を絞めて殺せ。真空パック詰めにして段ボールの中に詰めて,氷を入れて,宅急便を装って,『どうもありがとうございました,また何かあったらお願いします。』と玄関で叫んで,火を点けて出ろ。」,「できたらお母さんが帰る前に現金,印鑑,通帳と日本クリーンサービスの工事関係の書類を探して見つけろ。すぐに帰ってきたら,後になるのは仕方ない。下に停めているトラックの中まで運べ。トラックの荷台の中で,暗いところで,2人とも頸動脈を狙って止めを刺せ。」などと言われ,首を絞める動作をするなどして,Cらを殺害するとともに同人方から現金,預金通帳,印鑑及びCが保管していた本件工事関係の書類を奪うように指示され,現金を渡されナイフや手袋などを買っておくように言われた。
エ 平成14年1月7日ないし8日における謀議の有無及び内容について(原判決の「事実認定の補足説明」2(2)エの事項)
a 被告人Y1の捜査段階(検察官調書〔原審検乙46号〕)における供述
平成14年1月7日,被告人Y2と運転免許試験場に行き,その帰りの車内で,C事件に関する謀議をし,被告人Y1がOを連れ出しておく間に,被告人Y2がCを殺害し,預り証や現金を奪うことを確認した上,現金の束の置かれている場所は明日教えるなどと言った。また,被告人Y1は,被告人Y2に,宅配便を装わせてC方に侵入させることにし,重厚なナイフや,宅配便を装うための上下の作業服,顔を見られにくくするための帽子や,手袋などの道具を購入するように指示し,現金2万円を渡した。被告人Y1は,翌8日午前零時過ぎころ,小倉から被告人Y1方に向かう車の中で,被告人Y2に,「妹の方は殺さんでいいから。」などと言って,Oの殺害は中止する旨指示した。その日は,被告人Y1方駐車場で,被告人Y2と別れた。
b 被告人Y1の原審公判(第11回公判期日)における供述
被告人Y1は,平成14年1月7日の朝,被告人Y2と合流し,博多区役所に行って用事を済ませた後,運転免許試験場に行き,その帰りの車の中で,C事件に関する話をし,宅配便を装ってC方に侵入することやC方に現金があることを話し,作業服や帽子,ナイフの購入を計画して,午後から被告人Y2が買いに行った。被告人Y1は,同日夕方,被告人Y2とともに小倉に行く車内で,被告人Y2に,CとOの2人とも殺害することを中止する旨指示した。被告人両名は,同月8日午前1時17分に,古賀サービスエリアから福岡インターまでの間で,被告人Y1の内妻のIに電話をかけて,20分後にカレー屋に着くから,カレー屋にカレーを予約しておいてくれと頼み,同日午前1時40分ころカレーを受け取り,同日午前1時50分から1時55分ころまでの間に帰宅したので,被告人Y1方では謀議をしたことはない。
c 被告人Y1の当審公判(第2回公判期日)における供述
被告人Y1は,平成14年1月7日の朝,被告人Y2と合流し,博多区役所に行って用事を済ませた後,運転免許試験場に行き,午前11時半過ぎに同試験場を出たが,その道中で,あるいは,運転免許試験場に行ったあたりで,Cを殺害して,帰ってきたOを殺害する話をし,帽子や手袋,作業服を準備する話をしたので,運転免許試験場を出るときにはCらの殺害の謀議は終わっていた。被告人Y1は,同日午後1時40分ころの電話で,被告人Y2に「(ナイフを)買わんでいい。」と言った。被告人Y1は,同日夕方,小倉に行く車内で,被告人Y2に,CとOの2人とも殺害することを中止する旨指示した。翌8日未明に被告人Y1方で,被告人Y2とC事件の謀議をしたことはない。
d 被告人Y2の原審及び当審公判における供述
被告人Y2は,平成14年1月7日の朝,被告人Y1に携帯電話で起こされ,博多区役所に行ったり,被告人Y1に付き合って運転免許試験場に行き,1人でディスカウントショップなどに行って,被告人Y1と電話でナイフの種類を確認するなどしながら,犯行の際に着用する作業服,帽子及び手袋を購入した。被告人両名は,小倉まで車で行って,飲食するなどした後,小倉から被告人Y1方まで車で戻り,翌8日午前1時40分過ぎころ,被告人Y1方において,C事件の謀議をした。その際,被告人Y2は,被告人Y1から,「レンタカーが借りられなくなった。死体を外に運び出すことが不可能になった。お母さんを俺が前のとおり呼び出しておく。宅急便の振りをして家に入れ。最初から刃物を使うな。お父さんの後ろから首を絞めて殺せ。お母さんが帰ってきたら首を絞めて殺せ。」,「お父さんを殺した後,お母さんが戻ってくるまでの間に,現金,印鑑,通帳,それと日本クリーンサービスの工事関係の書類を探しておけ。」,「殺した後に,1人は屋根裏部屋に運んだ後に頸動脈を狙って止めを刺せ。1人は,仏壇の部屋の和室の畳をはぐって,床下が防空壕で広くなっているから,そこに埋めて隠せ。」などと指示された。その際,被告人Y1は,「お父さんと俺は喧嘩するぐらいトラブルをしていて殺してほしいんだけど,お母さんの方はそうしようかな,生かしておこうかな,殺す必要もないような気もするしな。」などとOの殺害には迷っていたが,結局,そのときの話ではOを殺すよう指示する一方,放火については中止するように指示した。被告人Y2は,同日午前8時30分過ぎころ,被告人Y1方駐車場から,被告人Y1が運転する自動車(ベンツ)の助手席に乗車し,九州自動車道及び北九州都市高速を経由して,九州ミナミ興産有限会社(以下「九州ミナミ興産」という。)事務所に向かい,その車中で,被告人Y1から,「お母さんは殺さなくていい。」などと言われて,O殺害については中止することを指示された。
オ 犯行当日(平成14年1月8日)の電話での放火に関する指示内容について(原判決の「事実認定の補足説明」2(2)オの事項)
a 被告人Y1の捜査段階(検察官調書〔原審検乙49号,51号,80号〕)における供述
被告人Y1は,平成14年1月8日午後1時12分ころ,九州ミナミ興産の事務所にいる時,被告人Y2からの電話で,「通帳と印鑑がありました。」と言われたので,C方に火を点けろという意味も含めて,被告人Y2に対し,「証拠は残すなよ。早よ出れ。」と言った。
b 被告人Y1の原審公判(第10回公判期日)における供述
被告人Y1は,同日午後1時12分の被告人Y2からの電話を受けた時,既にOとともに車(ベンツ)に乗り込み,C方に向かっていた途中であり,被告人Y2から,「通帳と印鑑がありましたので,もう少し時間を延ばしていいですか。」と言われたので,「いやもうこちらを出ましたが。」と返事をし,「灯油を撒いた。」と言われたので,「ああ,そうか。」と返事しただけで,「証拠は残すなよ。」とは言っていない。
c 被告人Y1の当審公判(第2回公判期日)における供述
被告人Y1は,同日午後1時2分ころの被告人Y2からの電話で,「ありませんでした。」と言われたので,被告人Y2に,「諦めよう。」,「屋根裏か床下に隠して出ろ,証拠を残すなよ。」と言ったところ,被告人Y2から,「(時間的に)無理ですか。」と聞かれたので,「こっちも限界や。出ろ。」と指示した。被告人Y1が,事務所を出て,OとともにベンツでC方に向かった途中の車中で,同日午後1時12分ころ,被告人Y2から電話がかかり,被告人Y2から,「通帳がありました。まだ探すとあると思いますので無理ですか。」と聞かれたので,「こちらを出ましたが。」と返事をし,「灯油を撒いた。」と言われたので,「分かりました。」と言っただけである。
d 被告人Y2の原審及び当審公判における供述
被告人Y2は,同日午後零時43分ころ,C方の固定電話機の子機を使って,被告人Y1に電話をかけ,その指示を受けながら,押入れの中をもう一度探してみたり,部屋の中に敷かれたままの布団をひっくり返したりしたが,本件工事関係の書類や現金等は見つからなかった。そこで,被告人Y2は,同日午後1時2分ころ,被告人Y1に電話をかけ,指示された場所を探しても本件工事関係の書類や現金等はやはり見つからないと伝えたが,被告人Y1から,引き続き探すように指示された。また,被告人Y2は,この時の電話で,被告人Y1に対し,Cの血液が大量に出ていて,畳や襖の敷居にまで血が溜まっていることを報告すると,被告人Y1から,血をきれいに拭き取って片付けて,床下が防空壕みたいに深いからそこに隠せないかとか,2階の屋根裏部屋に運べないかと言われたが,被告人Y2は,血が多量に出ているので無理であると返事した。その後,被告人Y2は,C方から預金通帳と印鑑を見つけ,同日午後1時12分ころ,C方から被告人Y1に電話をかけ,被告人Y1に対し,通帳と印鑑2本を見つけたが,現金と本件工事関係の書類は見つからないことやCの血を拭き取ることもできないことを報告すると,被告人Y1は,被告人Y2に対し,「そんなら火を点けて燃やせ。」,「死体に火を点けて,その上で,証拠になる手袋とか証拠品を燃やしたらいいやないか。」などと言って,逃走するように指示した。
(2)  被告人両名の各供述の信用性についての検討
原判決は,「事実認定の補足説明」2(2)アないしオにおいて,オの「犯行当日の電話での放火に関する指示内容」の項については,被告人Y2の原審公判供述に信用性を認めるものの,アの「被告人Y1が被告人Y2に対し最初に犯行の実行を持ち掛けた時期及び平成13年12月中の謀議の内容」,イの「平成14年1月3日における謀議の有無及び内容」,ウの「平成14年1月6日の武雄競輪場における謀議の有無及び内容」,エの「平成14年1月7日ないし8日における謀議の有無及び内容」の各項については,被告人Y1の捜査段階あるいは原審公判における供述に信用性を認め,「犯罪事実関係」第1の2(7)の「共謀状況」の項でも,信用性を認めた被告人Y1の供述に沿う事実を認定しているが,後記のとおり,前記アないしエの各項についても,基本的に被告人Y2の原審公判供述及びこれと同旨の当審公判供述は信用できると認められ,原判決が,これらの各項について,被告人Y2の原審公判供述を信用できないとした点は首肯することができない。
すなわち,前記アの点について,原判決は,「事実認定の補足説明」2(2)アにおいて,被告人Y2の原審公判供述は信用できず,被告人Y1の捜査段階及び原審公判における供述が信用できるとしており,その理由として,被告人Y1は,平成13年11月ころは,被告人Y2にJらの養子となる旨の養子縁組届を提出させてその姓をJに変えさせ,J姓で新たに消費者金融会社等から金員を借り入れさせるなどして急場をしのいでいたが,同年12月ころになると,被告人Y2がJ姓でも金員を借り入れることが困難となり,飲食店の経営でも金銭的に追いつめられていたこと,被告人Y2が釈放された同年11月5日ころは,被告人Y1には,Oから要求されている工事代金をすぐにでも返還しなければ,同女に対する詐欺事件が発覚するといった切迫した状況や,Oから本件工事関係の書類をすぐにでも奪い取らなければならないような切迫した事情がなく,本件工事関係の書類を奪い取るためにC事件を起こす必要に強く迫られていなかったこと,被告人Y1は,平成13年12月上旬ころには,飲食店の運転資金等を得るために,被告人Y2の死亡を偽装して生命保険金を詐取することを企てていて,同年12月中旬ころまでの被告人両名の謀議の中心は,被告人Y2の死亡を偽装した生命保険金等の詐取にあったと考えられるので,被告人Y1が,これと併行して,被告人Y2にC事件の犯行を具体化させて持ち掛けていたとも考え難いことなどを指摘する。
しかし,関係証拠によれば,被告人Y1は,平成13年11月ころから,突然,飲食店の経営が悪化して運転資金等に窮したわけではなく,同年7月分として600万円を超える赤字を出すなど,同年10月ころまで,月々百数十万円から600万円くらいずつ継続的に赤字を出し続けており,同年11月ころには運転資金等に窮するようになっていたこと,被告人Y1は,同年夏ころから,月一,二回の割合でOから工事代金の返還を求められていて,Oには,その度に「金はすぐに戻ってくる。」などと言って誤魔化しており,同年10月の時点では,月二,三回の割合で工事代金の返還を求められ,もはや単に金がすぐ戻ってくるなどとOに言っても通用しないと思い,「会社には書類を出していますから,間もなくお金は返ってきますよ。」などと言っていたところ,同年10月末ころには,もはや,Jからも金員を騙し取ることができなくなっていて,Oに対して返還するなどと誤魔化してはいたものの,その見込みは全く立たない状況にあって,C事件を企図するに足りる十分に差し迫った状況にあったといえることからすれば,被告人Y1が,CとOを殺害して,O詐欺事件の問題を解決するとともに,その所持金や通帳を強取しようと考えて,同年11月5日に,被告人Y2にその計画を持ち掛けたとしても,格別不自然とはいえない。そして,被告人Y1が,同年12月20日ころ,Oから電話で金の返還を催促され,Oに,「会社から書類が届いているでしょう。」,「私の方で会社に確認してみます。遅くとも正月明けには届くと思います。」などと工事代金が返還されるはずである旨返事をしたことについては,同年10月までにも,Oには工事代金を返還する旨言い続けていたことにかんがみれば,被告人Y1が,同年11月5日までにCらの殺害を企図していたことと何ら矛盾するものではないし,被告人Y1が,同年11月ころは,消費者金融会社等からの借り入れで急場をしのいでいたとしても,また,同年12月中旬ころまでに被告人Y1が計画,立案したのが,主に被告人Y2の死亡を偽装した生命保険金の詐取であったとしても,それらの点も,被告人Y1が,現実に保険金詐取等の複数の犯行計画を同時に立案しながらC事件に及んでいることからすれば,被告人Y1が,同年11月5日までにCらの殺害を企図していたことと矛盾するものではない。以上からすると,原判決が指摘する事情は,前記アの点についての被告人Y2の原審公判供述の信用性を揺るがすものとはいえず,同供述は信用できると考えられる。
前記イの点について,原判決は,「事実認定の補足説明」2(2)イにおいて,被告人両名は,平成14年1月3日,被告人Y1方マンションの駐車場に停めた車の中で,C及びOの殺害方法やその死体の処分方法について具体的な謀議をし,また,この日に,上記両名の死体の処分方法の一つとして,C方に放火をして,C方ごと死体を焼損する方法も話し合った旨の被告人Y1の捜査段階の供述が最も信用性が高く,同月3日は,主に死体の処分方法のみを謀議した旨の被告人両名の各原審公判供述は信用できないとし,その理由として,殺害の場所,方法,特に,付近に被害者の血液等が飛ぶ可能性のある刺殺等の方法か否かによって,犯跡隠ぺいのための死体の処分方法は異なってくると考えられるにもかかわらず,具体的な殺害方法が決まらないままに死体の処分方法について詳しい謀議をしたというのは,不自然,不合理であること,被告人Y1が,C事件の犯行時にOを外に連れ出すために,同月5日に同女に電話をかけたこととも符合しないことを指摘する。
しかし,被告人Y2は,前記のとおり,原審公判において,同月3日の謀議について,被告人Y1から,「足を刺して殺せ。真空パックに詰めろ。それを段ボールに詰めて,氷を詰めて,宅急便を装って持ち出せ。トラックの荷台の上まで持っていったら,2人とも頸動脈を狙って止めを刺せ。」などと指示された旨供述しているのであり,具体的な殺害方法についても供述しており,また,被告人Y1も,前記のとおり,捜査段階においては,同月3日の謀議で,Cらの殺害方法について,被告人Y2の上記の原審公判供述とほぼ同旨の内容の話が出たことを認めている。そして,被告人Y1が,電話で,Oに対し,同月8日に訪れる旨を伝えたのが,同月5日のことで,同月3日の時点では,Oを誘い出せるかどうか確定していなかったところ,被告人Y1が,被告人Y2にナイフによるCらの刺殺を指示し,被告人Y2も,Cらを殺害すること自体については了解していたことからすれば,現実には難しいCら2人の死体の処分方法について,殺害方法についてよりも詳しく被告人Y2に指示していたとしても格別不自然なこととはいえない。他方,被告人Y1は,原審及び当審公判において,同月3日,被告人Y2が偽造の死亡診断書を取ってこれず,被告人Y2の方からC事件をさせてくださいなどと被告人Y1に申し出た旨供述するところ,この供述は,被告人Y1の捜査段階の供述から不自然に変遷している上,偽造の死亡診断書を取ってこれないことから,殺人をさせてくれなどと申し出ることは,事案の軽重からして考えにくく,不自然であって,信用できない。以上からすると,原判決が指摘する事情は,前記イの点についての被告人Y2の原審公判供述の信用性を揺るがすものとはいえず,同供述は信用できると考えられる。
前記ウの点について,原判決は,「事実認定の補足説明」2(2)ウにおいて,被告人Y2の原審公判供述は信用できず,被告人Y1は,平成14年1月6日,被告人Y2を武雄競輪場の特別観覧席に呼び出したが,この日は,被告人Y2にC事件の実行日と実行場所及び相手の名前を告げた上,犯行を行う意思があるか確認しただけで,それ以上の謀議はしていない旨の被告人Y1の捜査段階及び原審公判における供述が,信用できるとし,その理由として,Pの警察官調書(原審検甲141号)によれば,被告人両名やPは,車券を買うためにしばしば特別観覧席からの出入りを繰り返していたことが認められ,被告人両名には,Pに聞かれては困るC事件に関する打合せを,被告人Y2が原審公判において供述するようにジェスチャーも交えながら詳しく行う余裕があったとは考え難く,この点で被告人Y2の原審公判供述は不自然である一方,上記の被告人Y1の捜査段階及び原審公判における供述は自然であるといえること,被告人両名は,同月3日に,CとOの殺害方法及び死体の処理方法について相当具体的な謀議をしたと認められるのであり,かつ,同月6日の時点では,その時に立てた犯行計画について大きな変更点はなかったのであるから,その日に,第三者がいつ来るかもしれないような場所でC事件に関する詳しい謀議をするまでの必要性はなかったことを指摘する。
しかし,関係証拠によれば,被告人Y1は,C及びOの殺害を同月8日に実行することに決め,同月5日,両名の死体を運び出すためのレンタカーを予約するとともに,C方に電話をかけ,Oに対し,同月8日に訪れる旨を伝えたことが認められるところ,同月5日の時点で,具体的にOから同女を誘い出すことについて約束を取り付けて,計画が初めて具体化したのであり,それまではOを外に連れ出せるかどうかが確定的ではなかったのであるから,被告人Y1が,翌6日に,その計画が具体化したことに従って,宅配便を装って侵入することや,殺害方法及び死体処理の方法等について,被告人Y2に具体的な指示をしたとみて,何ら不自然ではない。そして,被告人Y1が,被告人Y2をわざわざ武雄競輪場の特別観覧席まで呼び出したのに,単に,被告人Y2にC事件の実行日と実行場所及び相手の名前を告げた上,犯行を行う意思があるか確認しただけで,それ以上の謀議はしていないとするのは,同月5日にOから同女を誘い出すことについて約束を取り付け,犯行計画が具体化したことや,その実行が2日後に迫っていることに照らせば,不自然である。また,被告人Y1から,「総裁」に会わせると言われて武雄競輪場の特別観覧席に呼び出された旨の被告人Y2の原審公判供述は,Pが特別観覧席にいたことから裏付けられる上,被告人Y2が原審公判において供述する程度の被告人Y1からの指示内容であれば,Pが席を外したときなどに伝えることが十分可能であると考えられる。さらに,被告人Y1が,同月6日に武雄競輪場で被告人Y2と会うまでは,C事件のために使用する作業服,帽子等の購入を被告人Y2に指示していたとはうかがわれず,被告人Y2が,それらの道具を購入したのが同月7日であり,被告人Y1が取引先の酒店に電話をかけ,死体を外に運び出す際に使う台車を調達したのも同月7日であることからすれば,被告人Y1が,同月6日に,2日後に迫った犯行に向けて,被告人Y2に対し,具体化した犯行の内容について指示したとみる方が自然である。以上からすると,原判決が指摘する事情は,前記ウの点についての被告人Y2の原審公判供述の信用性を揺るがすものとはいえず,同供述は信用できると考えられる。
前記エの点について,原判決は,平成14年1月7日ないし8日における謀議の有無及び内容に関して,「事実認定の補足説明」2(2)エにおいて,被告人Y2の原審公判供述は信用できず,被告人Y1の捜査段階及び原審公判における供述が信用できるとし,その理由として,被告人両名は,同月7日の朝,運転免許試験場等に行ってから別れ,被告人Y2は,被告人Y1から受け取った現金で,手袋,帽子,作業服などC事件に用いる道具を購入したことから,その前に,被告人Y1との間でC事件に関する謀議,とりわけ,C事件を実行するための準備に関する謀議があったと考えるのが自然であること,被告人Y1が使用していた携帯電話機の通話記録(原審検甲255号)等によれば,被告人両名は,同月8日午前零時30分ころに北九州市内を出発して福岡市内の被告人Y1方に向かい,その途中,午前1時17分ころに,被告人Y1が内妻のIに電話をかけ,カレー屋(カレーハウスCoCo壱番屋福岡南バイパス店)にカレーの注文をするよう頼んだ上,カレー屋に寄ってカレーを受け取ったことが認められることに照らすと,被告人両名が被告人Y1方に到着したのは相当遅い時間であり,被告人Y1が原審公判において供述するように同日午前1時50分近くになっていた可能性も十分にある一方で,被告人Y2が使用していた携帯電話機の通話記録(原審検甲257号)等によれば,被告人Y2は,同日午前2時6分ころ,スナックのママに対し電子メールを発信しており,このころには被告人Y1と別れていたものと認められ,被告人両名が被告人Y1方に到着した後,別れるまでの間に,被告人両名に,被告人Y2が原審公判において供述するような詳しい謀議をする時間があったのか疑問が残ること,当時,被告人Y1方で同被告人と同居していたIの警察官調書(原審検甲135号)によれば,同女は,被告人Y2が,同月8日午前1時過ぎに被告人Y1方に来たことを全く認識していないことを指摘する。
しかし,被告人Y2が,C事件に用いる道具を購入したことから,同日のその前に,被告人両名の間でC事件に関する謀議があったと考えるのが自然であるとする原判決指摘の点については,被告人Y2の原審公判供述によれば,少なくとも同月6日には,宅配便を装う手段で犯行を行うことを被告人Y1から指示されており,翌7日の朝に被告人Y1と行動を共にし,別れた後も,電話で連絡をとり合いながら犯行に用いる道具を買ったというのであって,被告人両名の一連の謀議の経過等にかんがみれば,原判決が指摘する同月7日にそれらの道具を購入したことが,被告人Y2の原審公判供述と矛盾するものでもなければ,被告人Y1の捜査段階及び原審公判供述だけの信用性を高めるものともいえない。さらに,聞き込み捜査報告書(当審検2号)によれば,被告人Y1が,前記カレー屋でカレーを受け取ったのは,同月8日午前1時27分ころであると認められるところ,捜査報告書(当審検3号)によれば,前記カレー屋から被告人Y1方までの距離は,道路のコースによって若干の違いはあるが,約4.1キロメートルないし4.6キロメートルであることからすると,遅くとも同日午前1時40分以前には被告人Y1方付近に到着したと認められるのであって(被告人Y1も,最終的には当審公判でほぼそのことを認めている。),前記のとおり,被告人Y2が原審公判で供述するような内容の謀議を15分ないし20分程度行うことは十分に可能であったと考えられる。被告人Y1は,原審公判において,同日午前1時17分ころのIに対する電話で,20分後にカレー屋に着くからカレー屋にカレーを予約しておいてくれと頼んだとか,その電話をかけた場所からカレー屋まで20分はかかるなどとして,カレー屋に到着した時刻を午前1時40分ころであると供述していたが,上記聞き込み捜査報告書(当審検2号)によれば,同日午前1時27分ころに,被告人Y1はカレー屋でカレーを受け取ったことが認められることからすると,同日午前1時17分ころのIに対する電話で,20分後にカレー屋に着くからと言ってカレーの予約を頼んだとする被告人Y1の原審公判供述は,被告人Y1方に到着した時刻を実際よりも遅らせることによって,被告人Y1方での謀議が存在しなかったことにするための虚偽供述である疑いが強い。そして,Iは,被告人Y1の内妻であったこと,Iは,被告人Y2を嫌な人物として避けており,そのことは被告人Y1も知っていたと認められること,被告人両名が謀議したとされる場所が,被告人Y1方の玄関近くの作業場と呼ばれる部屋であったことなどからすれば,Iが,被告人Y2が15分ないし20分程度の短時間,被告人Y1方を来訪していたことを知らなかったとしても,格別不自然とはいえない。これに対して,被告人Y1の供述は,被告人Y1が被告人Y2に対し,O1人の殺害を中止すると告げたのか,それともCとOの2人とも殺害を中止すると告げたのか,それを告げた時期はいつかという重要な点で,捜査段階における供述と原審及び当審公判における供述とで変遷している上,被告人Y1の原審及び当審公判供述は,OだけでなくCの殺害も中止するよう指示したというのであるが,そうであれば,Cの目撃供述によって犯人が発覚する可能性が高くなるから,犯行の方法を変更するかどうかについても話が出ていて当然であると考えられるのに,そのようなことについて話し合ったことはないというのであるなど,不自然なものであって,信用できない。以上からすると,原判決が指摘する事情は,前記エの点についての被告人Y2の原審公判供述の信用性を揺るがすものとはいえず,同供述は信用できると考えられる。
前記オの点については,原判決も,「事実認定の補足説明」2(2)オにおいて適切に説示するように,犯行当日の電話での放火に関する指示内容についての被告人Y2の原審公判供述は,前記のとおり,C事件に関する客観的事実及びこれから推認される事実とよく符合していて,自然であり,高い信用性が認められる。とくに,被告人両名の原審及び当審各公判供述等の関係証拠によれば,平成14年1月8日午後1時2分ころの電話で,被告人Y1が被告人Y2に対し,Cの死体をC方の防空壕か,屋根裏部屋に隠せないかなどと指示したことが認められるが,突然に指示されたとしても探すのに時間を要するであろう上記のような場所にCの死体を隠す旨の指示が,その時の電話でされたということは,被告人両名の間で,事前にそのような話が出ていてしかるべきであるところ,被告人Y2の原審及び当審公判供述によれば,同日午前1時40分ころの被告人Y1方での謀議で,被告人Y1から被告人Y2に同旨の指示,命令があったというのであって,この点でも,被告人Y2の原審及び当審公判供述は,自然かつ合理的であるといえる。そして,被告人Y1が被告人Y2に対し,「証拠は残すなよ。早よ出れ。」と言ったとする被告人Y1の検察官調書(原審検乙49号,51号,80号)の内容については,被告人Y1が,被告人Y2に対して,それまで犯行方法を事細かに指示していた事実に照らすと,放火の指示言辞の点では,「証拠は残すなよ。」といったものより詳細なものであったと推認されるものの,被告人Y1が被告人Y2に放火を指示したことを認める点では信用性が認められるのであって,被告人Y2の原審及び当審公判供述を裏付けるものといえる。これに対して,被告人Y1の原審及び当審公判供述は,同月8日午後1時12分ころの電話で,被告人Y2から,更に金品を探したい旨言われたとする一方,既に灯油を撒いた旨言われたというものであって,今後も金品を物色しようとする者がすでに灯油を撒いていたとする点で,不自然であり,また,被告人Y1の当審公判供述は,被告人Y2に説明したこともない屋根裏部屋等の場所にCの死体を隠匿するよう指示したというのであるから,被告人Y2がそのような場所にCの死体を隠すためには,相当の時間を要するはずであるのに,その時の電話で被告人Y2がすぐにC方を出ると思ったなどと供述する点でも,不自然である上,被告人Y1の原審及び当審公判供述は,捜査段階における供述を合理的な理由もなく変遷させるものであるから,これを信用することはできない。
以上のとおりであるから,C事件の犯行状況のほか,犯行に至る経緯,被告人両名の共謀状況等の点も含めて,被告人Y2の原審及び当審公判供述は基本的に信用できると考えられ,被告人Y2の原審及び当審公判供述等の関係証拠によれば,被告人両名の関係や放火の指示等の点についても,おおむね被告人Y2の原審及び当審公判供述のとおりと認定できるのであって,被告人Y1が,被告人Y2と共謀の上,原判示第1の住居侵入,強盗殺人,現住建造物等放火,死体損壊に及んだとの事実を優に認定することができる。所論は採用できない。
2  所論は,C事件のうち殺人の共謀の点について,①被告人Y1にとって,殺害の真の対象はOであり,Cは,付随的な立場にあったにすぎず,Oの殺害を中止したのであれば,同時に,Cの殺害も中止したと解するのが合理的である,②当初は,殺害用に刃にギザギザが付いた重厚なナイフが準備されるはずであったにもかかわらず,被告人Y1は,犯行直前の段階では,コンビニエンスストアででも入手できる程度の果物ナイフでも構わないとしていて,その性能や品質にこだわっておらず,ナイフに対する関心を失っていたから,ナイフは殺害用の凶器としての役割を喪失し,単に,Cから抵抗を受けた場合に,被告人Y2がCの足を刺して現場を離脱しやすいようにするための道具としての意味を有するにすぎなくなったと考えるべきである,③C事件の犯行当日には,被告人両名は,ペットボトルに入れた灯油を準備していないから,放火による犯跡隠ぺいを考えておらず,また,死体を運ぶ台車やレンタカーを準備しておらず,死体を入れて隠すための段ボール箱や真空パックも準備していなかったから,死体をC方の外へ運び出すことも考えていなかったのであって,そうすると,Cを殺害するが死体はそのまま放置して,被告人Y1がOをC方へ送り届ける段取りになっていたことになりかねないが,死体の隠ぺい方法については詳細な検討を加え,一時はC方に火を点けてまで証拠を隠ぺいしようと考えた被告人Y1が,突如として被害者の死体を隠すことなく直ちに発見される状態で現場に放置することに決したとするのは,不合理であり,仮に死体を床下や屋根裏部屋に隠すことに計画を変更したのだとしても,作業の負担が大きく犯行現場からの離脱に時間を要し,容易に死体が発見されるおそれが高いので,計画を変更する合理性に欠ける,④被告人Y2の原審公判供述によれば,被告人Y2が,被告人Y1に,Cを殺害して逃げていることや,現金や本件工事関係の書類等が見つからなかったことを告げると,被告人Y1から一番最初に出たのが,「そんな馬鹿なことがあるか」という言葉であり,また,被告人Y1は,Cが死ぬときの状況を何度もしつこいくらいに聞いたというのであり,被告人Y2によるCの殺害が被告人Y1にとって予想外であって衝撃を受けたため,被告人Y1としては事の真偽を確かめようとして,しつこく何度も尋ねたと考えるのが自然である,以上の諸点を指摘して,被告人Y1は,CとOの両名について殺害を中止するよう被告人Y2に指示したとみるべきであるとして,殺人の共謀は事前に解消されていた旨主張する。
しかし,①について,被告人Y1の当審公判供述によっても,被告人Y1が立案したC事件の計画の内容は,O詐欺事件を隠ぺいする等のため,O及びCの両名とも殺害して行方不明になったようにしようとしていたというのであるから,被告人Y1にとっては,O及びCの両名とも殺害の対象であって,とくにCが殺害の対象として付随的立場であったわけではない上,被告人Y1は,C殺害時にはOと行動を共にするので,OがCを殺害したときのアリバイ証人となることなどから,迷った挙げ句,Oについては殺害を中止したとみても格別不自然ではなく,また,被告人Y2の原審及び当審公判供述によれば,被告人Y1は,平成14年1月8日午前1時40分過ぎの謀議で,Cとは喧嘩するぐらいトラブルがあったからCを殺してほしい旨を被告人Y2に話していて,Cに対する恨みを持っていたとうかがわれることからすると,被告人Y1がOの殺害を中止したことから,Cの殺害も中止したと解するのが合理的であるとはいえない。②について,被告人Y1は,被告人Y2に,C事件の犯行当日,ローソン小倉中津口店で果物ナイフを購入させていることからして,ナイフに対する関心を失っていたとはいえず,また,被告人Y2の原審公判供述によれば,殺害に関する最終的な共謀の内容は,Cの首を絞めて,頸動脈をナイフで刺すというものであったのであるから,そのような殺害方法であれば,重厚なナイフでなくても果物ナイフで足りるのであって,被告人Y1にとって,ナイフが所論指摘のような役割のものに変わったとは考えられない。③について,被告人Y2の原審公判供述等によれば,平成14年1月8日午前1時40分過ぎころ,被告人Y1方において,被告人Y1は,被告人Y2に対し,CやOの殺害後のことについて,「殺した後に,1人は屋根裏部屋に運んだ後に頸動脈を狙って止めを刺せ。1人は,仏壇の部屋の和室の畳をはぐって,床下が防空壕で広くなっているから,そこに埋めて隠せ。」などと指示したと認められるのであって,所論が主張するように,被告人Y1が,Cの死体を隠すことなく直ちに発見される状態で現場に放置しようとしたわけではない。また,所論が計画変更の合理性に欠けると主張している点については,被告人Y1の当審公判供述によれば,被告人Y1は,本件工事関係の書類等の所在場所がおおよそ分かっていたことからそれらを奪うことにはそれほど時間がかからないと考えていたというのであるから,死体を隠す作業に多少時間がかかっても格別支障が生ずるわけではないと考えていたと見て不自然ではなく,したがって,死体を屋根裏部屋等に隠す計画に変更したことが格別不合理であるとはいえない。④について,被告人Y2の原審公判供述等によれば,被告人Y1は,C事件の犯行後,被告人Y2に対し,同被告人が本件工事関係の書類や現金が引き出せる通帳等を奪ってこなかったことについて叱責や暴行を加えるなどしたが,Cを殺害したことについては格別責めなかったと認められ,被告人Y1が「そんな馬鹿なことがあるか」という言葉を発したのも,その前後の被告人Y1の言動からみて,被告人Y2が現金も本件工事関係の書類等も見付けることができなかったと述べたことに対してであると考えられるから,所論指摘の被告人Y1の言動をもって,被告人Y1がC殺害やC方への放火を意外に思っていたことを示すものとは考えられない。所論は採用できない。
3  所論は,C事件のうち現住建造物等放火の事実について,①原判決は,被告人Y2の原審公判供述に依拠して,被告人Y1が,被告人Y2に対し,平成14年1月8日午後1時12分ころの電話で,「だったら燃やして逃げろ。」,「死体に火を点けて,証拠になる手袋とかをそこで燃やしたらいいやないか。」などと言って指示した旨認定しているが,被告人Y1の原審公判供述によれば,被告人Y1は,Oとともに,被告人Y2からの同日午後1時2分の電話から間もなく事務所を出ており,同日午後1時12分ころには自動車(ベンツ)にOを同乗させて都市高速を走っていたから,被告人Y1が電話で上記のような指示をすれば,同乗していたOの耳に入るおそれがあるので,そのような指示があったとする被告人Y2の原審公判供述は不自然かつ不合理である,②被告人Y2は,原審公判において,同日午後1時23分ころ,被告人Y2が河内茶屋の公衆電話から被告人Y1に電話をかけた際,被告人Y1から,「俺も今お母さんを連れてそちらに戻っているから,近くで待っとけ。」と言われたと供述するが,そのころ,被告人Y1が運転する自動車(ベンツ)の助手席に,Oが座っていたことは動かしがたい事実であるから,被告人Y2の原審公判供述不自然極まりない,③被告人Y2の原審公判供述によれば,被告人Y2は,同日午後1時12分に電話で被告人Y1から放火を指示されて,灯油を探すため,C方勝手口から屋外に出てC方を半周し,玄関近くの収納庫のシャッターを開けて探そうとしたが諦め,更に半周して再び勝手口から家の中に戻り,こたつのある部屋(6畳間)にストーブがあるのを思い出し,この部屋に移ってストーブからカートリッジを引き抜いて8畳仏間に戻り,ふたを開けて灯油を死体にかけたほか,導火線の役割を果たさせるため畳に垂らそうと思ったところ,カートリッジが空になったので,カートリッジを持って6畳間に戻り,ストーブに元どおりに戻し,台所へ移動して,石油ファンヒーターのカートリッジを取り出して,再び8畳仏間へ戻り,死体だけでなくその周りにも灯油を十分撒き,導火線がわりにしようとしたところ,残りが少なく,カートリッジを近くに投げ捨て,6畳間に移動して新聞を見つけ,折り込みチラシ2枚を選び出してくしゃくしゃに丸め,放火の媒介物にしようとし,台所へ行きガスレンジで広告紙に火を点けようと試みたが点かず,再び8畳仏間へと戻り,仏壇にあったチャッカマンで火を点けようとしたが点かず,仏壇の引き出しを探してマッチ箱を見つけ,中にマッチが1本入っていたのでこのマッチを取り出し,擦って火を点けて,チラシに火が移るのを待ち,Cの死体に火を点けるため,死体の上に落とし,段々死体に炎が広がり,最後には応接台一杯に広がり,手袋をはずし,帽子とともに火の中に入れ,炎が応接台の上の灯油に燃え移り,これ以上は危険と感じる状態になるまで待って部屋を出て,8畳仏間から勝手口へと移動して,ズックを履いて裏戸を閉め,敷地から外へ出て河内茶屋まで戻り,被告人Y1に同日午後1時23分に電話をかけたことになるが,11分弱の間でこれだけのことをするのは到底不可能といわざるを得ない,以上の諸点を指摘して,被告人Y2の原審公判供述は信用できない旨主張する。
しかし,①について,被告人Y1は,原審公判においては,平成14年1月8日午後1時8分にIに電話をかけた時には,既にOとともに九州ミナミ興産の事務所を出ていた旨供述しているが,同日午後1時2分の電話で,被告人Y2に対し,これからOとともにC方に向かうので,犯行現場を離脱するように指示したなどとは供述していないのに,当審公判においては,同日午後1時2分の電話で,被告人Y2に対し,これからOとともにC方に向かうので,犯行現場を離脱するように指示し,それから事務所を出たなどと供述して,重要な事実についてその供述を不自然に変遷させている。しかも,上記のとおりの被告人Y1の当審公判供述は,信用できる被告人Y2の原審及び当審公判供述に反する上,同日午後1時8分には既に事務所を出ていたという被告人Y1のY2審及び当審公判供述は,同日午後1時12分の被告人Y2からの電話が,被告人Y1が事務所にいた最後の電話で,その電話を切って間がないころ,Oを送り届けるために,Oをベンツに乗せた旨の被告人Y1の検察官調書(原審検乙49号)の内容に反するものであるから,これらの供述を信用することはできない。②について,被告人Y2の供述する所論指摘の会話の内容は,被告人Y1がOをC方まで送り届け,被告人Y2と合流する際の会話として自然なものである上,上記会話の内容だけでは,Oが格別不審に思うような事柄ではないと考えられるから,この点の被告人Y2の原審公判供述を不自然であるとはいえない。③について,被告人Y2の原審公判供述によれば,被告人Y1から放火を指示された被告人Y2がとった行動は,所論指摘のとおりと認められるが,その行動は,要するに灯油等を探してそれを撒いて火を点け,C方から逃げたというものであり,C方家屋の外周が約60メートルで,C方の内部もさほど広くはなく,すでに室内を物色してC方の状況を把握していたと考えられる被告人Y2にとっては,C方での移動等にもさほど時間を要しないと認められ,また,C方から河内茶屋まで約130メートルであって,その場から早く離れたいと思っていたであろう被告人Y2にとっては,その間の移動にもさほど時間を要するものとも認められないから,被告人Y2が灯油を探し始めてから河内茶屋に戻り,同日午後1時23分に被告人Y1に電話をかけるまで,約11分弱であったとしても格別不自然とはいえず,所論指摘の事情が,被告人Y2の原審公判供述の信用性を揺るがすものとはいえない。所論は採用できない。
4  その他,所論がるる主張する諸点を検討しても,被告人Y2の原審及び当審公判供述の基本的部分の信用性を揺るがすものはなく,原判示第1の被告人両名の共謀による住居侵入,強盗殺人,現住建造物等放火及び死体損壊の事実を認定した原判決に所論のような事実の誤認はない。論旨は理由がない。
第3  被告人らの各弁護人の量刑不当の各論旨について
各論旨は,要するに,被告人両名をそれぞれ死刑に処した原判決の量刑は重すぎて不当である,というのである。
そこで,記録を調査し,当審における事実取調べの結果をも加えて検討する。
本件は,①日本クリーンサービスの営業課長であった被告人Y1が,Cと同居していた同人の義妹のOからC方の床下工事代金名下に金員を詐取しようと企て,平成12年7月中旬ころから同年9月8日ころまでの間,2回にわたり,同女に対し,不良工事による補償として工事代金を返戻する制度はなかったにもかかわらず,これあるように装い,嘘をついて,同女をして,工事終了後,工事代金全額が返戻されるものと誤信させ,同女から,Cを介し,床下工事代金名下に現金合計440万円を騙し取った詐欺(原判示第3の1及び2。O詐欺事件),②上記会社を退職していた被告人Y1が,株式会社大阪ミナミ興産なる架空会社の九州支社長を装い,同社が共済組合の代理業務として,訪問販売等による被害者の被害回復手続あるいは節税対策手続を行っているように仮装して,Jからこれらの手続金名下に金員を詐取しようと企て,平成13年1月中旬ころから同年5月16日ころまでの間,4回にわたり,上記手続を行う意思はなく,自己の遊興費等に充てる意図であるのにこれを秘し,嘘をついて同女を騙し,5回にわたり,同女から,上記手続金名下に現金合計1054万5525円を騙し取った詐欺(原判示第4。以下,これを「J詐欺事件」ともいう。),③被告人両名が,共謀の上,Oと同居していたCを殺害して,O詐欺事件の証拠となる工事関係の書類のほか金品を強取することを企て,平成14年1月8日,被告人Y2において,C方に侵入し,同人(当時73歳)を殺害した上,貯金通帳等を強取し,さらに,共謀の上,C方に放火して犯跡を隠ぺいしようと企て,被告人Y2において,C方を全焼させて焼損するとともに,Cの死体を焼損して損壊した住居侵入,強盗殺人,現住建造物等放火,死体損壊(原判示第1。C事件),④被告人両名が,Kと共謀の上,被告人Y2を被保険者とする生命保険金を詐取する目的で,同被告人の身代わりとなる者を殺害しようと企て,同月31日,被告人Y2において,E(当時62歳)を殺害した殺人(原判示第2。E事件)の事案である。
1  本件各犯行に至る経緯,犯行状況等
被告人Y1が原判示第1ないし第4の各犯行に,被告人Y2が原判示第1及び第2の各犯行にそれぞれ及んだ経緯,動機,態様,結果,被告人両名の果たした役割及び被告人Y2の前科関係等は,おおむね原判決が「被告人両名の身上・経歴」,「犯罪事実関係」第1の2(1)ないし(5),3,第2ないし第4,「量刑の理由」において詳細に認定,説示するとおりであると認められる(ただし,C事件のうち,原判決の「事実認定の補足説明」2(2)アないしエの「被告人Y1が被告人Y2に対し最初に犯行の実行を持ち掛けた時期及び平成13年12月中の謀議の内容」,「平成14年1月3日における謀議の有無及び内容」,「平成14年1月6日の武雄競輪場における謀議の有無及び内容」及び「平成14年1月7日ないし8日における謀議の有無及び内容」については,おおむね,前記第2の1で要約した被告人Y2の原審及び当審公判供述のとおりであると認められる。)。
2  C事件及びE事件の全体的な量刑事情についての検討
(1)  まず,C事件及びE事件の各犯行において,被告人両名の果たした役割等について検討する。
ア 被告人Y2の原審公判供述及び被告人Y1の捜査段階における供述を含む関係証拠によれば,原判決が「犯罪事実関係」及び「量刑の理由」において認定,説示するとおり,被告人Y1は,C事件に関しては,Cらを殺害して本件工事関係の書類や金品を強取することを企て,被告人Y2に対し,暴力団関係者の存在をちらつかせながら,あるいは,報酬や逃走資金の供与を約束するなどして,被告人Y2を巧みに犯行に誘い込み,殺害方法,犯行に使用する道具の調達,死体処理の方法等について被告人Y2に事細かに指示した上,自らは,実行犯役を行うことがないよう立ち回り,Cと同居していたOを外におびき出し,その間に,被告人Y2に殺害等の実行をさせるなどしたものであり,E事件に関しても,被告人Y2を同様に巧みに犯行に誘い込んだほか,共犯者Kを成功報酬を約束するなどして犯行に誘い込み,Eの殺害方法,共犯者間の役割分担等を決定した上,睡眠導入剤を準備するなどし,自らは,実行犯役を行うことがないよう立ち回り,終始主導して被告人Y2に殺害を実行させるなどしたものであって,被告人Y1は,C事件及びE事件のいずれについても犯行を発案,主導した主謀者といえる。
他方,被告人Y2は,平成13年12月18日ころ,被告人Y1から,被告人Y2の身代わりとなる者を殺害して同被告人を被保険者とする生命保険金を詐取する保険金殺人の計画(E事件に発展するもの)を持ち掛けられ,その計画どおりいけば,保険金が入り,被告人Y1から報酬等をもらえ,借金から逃がれて別人として生活できると考えたこともあって,その計画に加担することとし,その後の同年12月下旬にはC事件に加担することも承諾して,C事件及びE事件のいずれについても,殺害等の実行行為を行ったものであるが,その背景には,被告人Y2が,被告人Y1から執ように各犯行の実行犯役を持ち掛けられ,被告人Y1やその背後にいると信じていた暴力団への恐怖感から,被告人Y1の指示や意向に逆らえば,場合によっては殺害されるかもしれないとの恐怖心を抱いていたという事情があったものと認められる。
イ 被告人Y1の弁護人の所論(当審弁論も含む。)は,①被告人Y2は,原審及び当審公判において,被告人Y1の背後に暴力団がいると信じ,被告人Y1から逃げても,その背後の暴力団等から執ように追いかけ回され,果ては殺されるのではないかと思い込み,とくに,生命保険に加入した後は,殺されるかもしれないと思い,逃げられなかった旨供述するが,被告人Y2は,被告人Y1の背後にいるという暴力団組員とは実際に会ったことも話したこともないのに,被告人Y1の背後に暴力団がいると信じていたということ自体不自然であるし,暴力団というだけでむやみに人を殺すとは考え難く,被告人Y2が,生命保険に加入したことにより,恐怖を抱いたのであれば,自ら契約を解約すればよかったのであって,上記供述は信用できない,②被告人Y2は,原審及び当審公判において,白川ハウス事件で釈放された平成13年11月5日に,被告人Y1から,被告人Y2の借金のことでやくざが動いたため,その借金が8000万ないし9000万円に膨らみ,それを返済する必要があるなどと言われ,その借金が原因でやくざに殺されるのではないかと非常に怖くなり,総裁からの依頼であるというC事件を行った旨供述するが,被告人Y2の言うやくざが動く原因となった借金は,合計400万ないし500万円であり,それが元の金額の20倍あまりの8000万ないし9000万円に膨らんだというのは馬鹿げた話であり,かかる話を信じたということや,このような馬鹿げた話を被告人Y1が被告人Y2にしたということ自体,不自然であるから,被告人Y2の上記供述は信用できない,③被告人Y2は,原審及び当審公判において,被告人Y1に対する恐怖からその元を離れなかった旨供述するが,被告人Y1の供述によれば,被告人Y2が被告人Y1の元を離れなかったのは,被告人Y2が,Qという人物から借金返済の追及を受けており,Qが,被告人Y2に生命保険を掛けており,被告人Y2がQへの返済を怠れば,Qには,被告人Y2を殺害して,生命保険金で回収しようという意思があったことから,被告人Y2が,Qに殺されると恐怖を感じており,被告人Y1が暴力団関係者の息子であったことを利用して,Qからの追及に対する盾としようとして,被告人Y1の元から離れなかったのであって,被告人Y2が,被告人Y1に対する恐怖からその元を離れなかったのではない,以上の諸点を指摘して,被告人Y2の原審及び当審公判供述は信用できない旨主張する。
しかし,①について,被告人Y1の背後に暴力団がいるなどと信じた旨の被告人Y2の原審及び当審公判供述は,被告人Y2が,日本クリーンサービスの名前で勝手に営業活動をしていたとして,同社の支店長であるRに支払った金の件や被告人Y1に渡した金の件で,弁護士に相談するなどしたものの,被告人Y1が出費して依頼した探偵に捕まるなどして,被告人Y2が,弁護士に対する相談を取り下げていること,被告人Y1は,被告人Y2を,平成13年11月8日,Jらと養子縁組させて同女らの養子とさせ,同月12日から翌月11日ころまでの間に,被告人Y2に,消費者金融会社等から多額の現金を借り入れさせ,また,同月中旬ころ,被告人Y2に信販会社とローン契約を組ませて,被告人Y1が使用する車(ベンツ)を購入したこと,被告人Y1は,同年12月7日,被保険者を被告人Y2として,死亡保険金3200万円,保険金の受取人をJとする生命保険及び搭乗者傷害の場合に1000万円の保険金が下りるなどの内容の自動車の任意保険の各契約の申込みをし,同月18日にはその保険料を支払っていること,被告人Y1が,被告人Y2に対し,C事件を,ヤクザ関係の総裁の仕事であるとして持ち掛けていることなど,関係証拠から認められる諸事実によって裏付けられている。また,背後に暴力団関係者がいるなどという被告人Y1の嘘は,被告人Y2が注意深ければ,嘘であることに気付くこともできたと思われるが,現実に父親が暴力団組長であった被告人Y1の言動等から,その背後に暴力団がいると思い恐怖を感じていた旨の被告人Y2の原審及び当審公判供述の内容が格別不自然とはいえない。さらに,被告人Y1は,検察官調書(原審検乙45号,46号)においては,被告人Y1が背後に暴力団がいると被告人Y2に言い,被告人Y2がそれを信じたことを認める供述をしている。以上によれば,所論指摘の事情が,被告人Y1の背後に暴力団がいると信じていたという被告人Y2の原審及び当審公判供述の信用性を揺るがすものとはいえない(もっとも,後記ウで説示するとおり,被告人Y2が,被告人Y1の指示,命令を全く拒否できないような極めて差し迫った状況にあったとまでは認められず,被告人Y2が,被告人Y1の元から離れないで,C事件やE事件の各犯行に及んだのには,それが被告人Y2にとっても利益になるという被告人Y2自身の考えもあったものと認められる。)。②について,総裁から依頼された仕事と嘘をついて,C事件を被告人Y2に持ち掛けたことは,被告人Y1も認めているところ,被告人Y1は,平成13年12月ころ,Iにも,被告人Y2が多額の借金を負いヤクザから追い込みをかけられている旨話していること,被告人Y2の借金が膨らんだ旨の被告人Y1の嘘は,冷静にみれば稚拙な内容であり,被告人Y2が注意深ければ,嘘であることに気付くことができたと思われるが,現実に高利貸しが横行している現状や暴力団が理不尽にも多額の金銭を要求してくることは十分にあり得る話であることなどからすれば,被告人Y1がその旨の発言をし,その発言内容を疑わなかった旨の被告人Y2の原審及び当審公判供述の内容が不自然であるとはいえない。③について,被告人Y1は,原審及び当審公判において,「Qという人物と会った際,Qは,ヤミ金業者であると名乗り,被告人Y2に金を貸していると言い,私に立て替えて支払ってくれるのかと聞いたが,これを断った。Qは,このとき私が暴力団関係者の息子であることは被告人Y2から聞いて知っていた。Qから,被告人Y2に生命保険を掛けており,被告人Y2がQへの返済を怠れば,Qが被告人Y2を殺害し,生命保険金で回収しようという意思があると聞いた。被告人Y2がC事件やE事件を行うことになったきっかけは,Qからの追及が怖かった被告人Y2が,その追及から逃れようとしたことにある。平成14年1月3日に偽造の死亡診断書の件で,被告人Y1が被告人Y2から,医者のところに行っていないと聞き,俺(被告人Y1)は手を引く,Qとの接触は自分でやれと言うと,被告人Y2が,前に話していた総裁の仕事をしますから許してくださいと言ってきた。」などと供述する。しかし,被告人Y1の上記供述は,Qなる人物の存在について否定する被告人Y2の原審及び当審公判供述に反する。また,被告人Y1は,当審公判において,捜査段階では,捜査官にQの話をしていない旨供述したり,Qの話をしていた旨供述するなど一貫しないところ,いずれにせよ,Qという人物に関する被告人Y1の供述が事実であるとすれば,C事件やE事件の契機となるそのような重要な事実が,捜査段階の調書に記載されていないのは不自然であり,被告人Y1の原審及び当審公判における上記供述は,捜査段階における供述を不自然に変遷させるものである。また,被告人Y1は,当審公判において,Qが被告人Y2に生命保険を掛けていることを,被告人Y2から聞いたと供述したり,Qから聞いたと供述したり,どちらから聞いたのか分からないなどと供述するなど,供述を変遷させている。以上からすれば,Qという人物に関する被告人Y1の原審及び当審公判供述は,到底信用できない。
ウ 被告人Y2の弁護人の所論(当審弁論も含む。)は,①被告人Y2は,被告人Y1を暴力団関係者でその背後には暴力団がいると信じ込まされ,被告人Y1に支配されて隷従する関係に置かれていたが,とくに,被告人Y2は,被告人Y1の指図に従って,被保険者を被告人Y2とする多額の生命保険に加入させられた平成13年12月7日以降は,被告人Y1から,総裁に身柄を引き渡せば,被告人Y2が殺されて保険金が入ることになるなどと言われて,死に対する極度の恐怖心を植え付けられ,警察への助けを求めたり,被告人Y1から逃げたりすることができず,C事件やE事件を敢行しないと,被告人Y2自身がいつ殺害されるかもしれないという極めて差し迫った立場に置かれていたのであり,その状況は,あたかも,戦場から逃亡すれば死刑になるという極限の状況下で,兵士として駆り出された市民が人間性を失って殺人マシーンと化することを強いられる状況にも類するもので,結局,被告人Y2が,C事件やE事件の実行犯役として加担した一番の要因は,被告人Y1に支配されて隷従していたことにある,②被告人Y2が,被告人Y1に支配されて隷従し,死に対する極度の恐怖心を植え付けられていた状況にかんがみれば,被告人Y2は,同被告人の固有の利益のために積極的にC事件やE事件を敢行したものではなく,被告人Y1による非人間的,絶望的な支配から脱したいと思って両事件を行ったものである,以上の諸点を指摘して,被告人Y2を強く非難することはできない旨主張する。
そこで検討するに,①について,確かに,被告人Y2が,被告人Y1やその背後にいると信じていた暴力団への恐怖感から,被告人Y1の指示や意向に逆らえば,場合によっては殺害されるかもしれないとの恐怖心を抱いていたことは否定できず,そのことが,C事件やE事件の実行犯役として加担した要因の一つとなっているといいうる。しかし,被告人Y2の捜査段階並びに原審及び当審公判における供述によれば,被告人Y2は,平成13年11月5日に,被告人Y1から,最初にC事件について持ち掛けられた後も,度々,C事件について持ち掛けられ,自己を被保険者とする生命保険の保険料を支払った同年12月18日以降も,頻繁に脅し文句を言われるなどして持ち掛けられたというのであるが,同年12月下旬に同事件の実行犯役をすることを承諾するまでは,断っており,また,交通事故を装って被告人Y2の育ての親であるSを殺害して保険金を詐取する計画を被告人Y1から誘われても断っているのであり,また,それらを断ったことで,暴力団関係者から危害を加えられるなどの制裁があったともうかがわれないことからすると,被告人Y2自身に,C事件に加担するか否かについて選択の余地があったといえるとともに,そもそも,被告人Y2が,被告人Y1に絶対的に服従する関係に置かれていたとするならば,被告人Y1が被告人Y2に対して,繰り返し脅し文句を言ってC事件を持ち掛ける必要もなかったといえる。しかも,被告人Y2は,被告人Y1から始終監視されていたわけではない。このような状況からみて,被告人Y2は,被告人Y1の不当な指示,命令に対しては,法的に許容される正当な方法で対処するのが当然であり,また,そうすることもできたと考えられる。ところが,被告人Y2は,同年11月5日に釈放された後,被告人Y1から,食事代や小遣いをもらって生活をしていたり,ソープランドや競輪に被告人Y1の金で連れていってもらったり,被告人Y1経営の飲食店の従業員とされるなどして,被告人Y1から経済的な支援を受けて,同被告人に依存して生活しており,そのことも,被告人Y2が,被告人Y1から離れなかった事情の一つになっていたとみられる。E事件に至る保険金殺人の計画は,被告人Y2自身が死亡するのではなく,死亡診断書を偽造することや,被告人Y2の身代わりとなる者を殺害することを企てていたものであるが,そのことは,被告人Y2も了解していたからこそ,保険契約の保険料の支払い等の手続を自らあるいは被告人Y1とともにしたと考えられる。また,被告人Y2は,C事件に加担することを承諾して以降の謀議においては,被告人Y1に対して,死体を運ぶのに台車がいるなどと提案したりもしている。さらに,被告人Y2は,後記のとおり,自分にとっても,保険金殺人による報酬を得て,新たな人生をやり直すことができる利益があるという考えもあって,C事件及びE事件の各犯行に及んだと認められる。以上によれば,被告人Y2が,被告人Y1の指示,命令を全く拒否できない立場や状況にあったとは認められず,所論が主張するような極めて差し迫った状況に被告人Y2が置かれていたとはいえない。②について,被告人Y2は,検察官調書(原審検乙31号)において,平成13年12月18日ころ,被告人Y1から,ホームレスを被告人Y2の身代わりにするという保険金殺人の計画を持ち掛けられ,「ホームレスをやったら逃走資金をやるから,北陸の方に逃げろ。しばらくしたら,中国の戸籍を2000万円で買ってやるから中国に逃げろ。2か月位したら保険金が下りるから,300万円はやる。250万円は店の資金に回してくれんか。」などと言われ,その計画どおりいけば,保険金が入るとともに,被告人Y2が死んだことになって,被告人Y2名義の借金を支払わなくて済むし,被告人Y1から逃走資金をもらえ,保険金が下りたら300万円をもらえ,そのうち50万円は自由に使え,将来は,借金から逃がれた別人として,中国に逃げられるので,計画どおり実行したいと思い,同日,保険料の支払いに行ったなどと供述している上,原審公判(第4回公判期日)でも,検察官から,「他面,正芳(被告人Y1のこと)の言うことを聞けばお小遣いももらえるだろうし,何らかの報酬ももらえるという気持ちもあったわけですか。」と質問されて,「それもあるし,白川ハウスの件じゃないんですけど,自分が逃亡できると思ってたんですけど。」,「保険金が下りたら,そのお金で逃亡できると思ってたんです。」と答えており,原審公判(第7回公判期日)でも,検察官から,「今回,Cさんの事件と大分の事件(E事件のこと)と2つ事件があるわけですけれども,(中略)あなたは中国の方に逃げるつもりだったと言った覚えもありますか。」と質問されて,「はい,それはあります。」と答え,逃げればサラ金等への借金を返済しなくてよくなることに関して,検察官から,「それは,裏を返せば,あなたにとっては1つのメリットになるんじゃありませんか。」と質問され,「おっしゃるとおりです。」と答えているのであって,以上によれば,被告人Y2は,被告人Y1が進めていたE事件に至る保険金殺人が計画どおりいけば,保険金を詐取することができ,その詐取金の一部を報酬としてもらうなどして,別人として人生をやり直せると考えて,C事件やE事件の各犯行に及んだことを自認しているといえる。したがって,被告人Y2が,被告人Y1の元から離れないで,C事件やE事件の各犯行に及んだのには,それが被告人Y2にとっても,経済的な利益を含めて利益になるという被告人Y2自身の考えもあったものと認められ,これを否定する所論は,被告人Y2の上記供述に反するといわざるを得ず,採用できない。
(2)  そこで,C事件についてみると,被告人両名は,Cを殺害して本件工事関係の書類や金品を強取することを企て,具体的な殺害方法や死体処理の方法等について謀議を重ね,犯行全体について用意周到に打ち合わせ,宅配便業者を装ってC方に侵入するための作業服等を準備した上,被告人Y1が,Oを外に誘い出し,その間に,被告人Y2がC殺害に及んだものであって,計画的な犯行といえる(ただし,C事件のうち,現住建造物等放火及び死体損壊については,計画的であるとまではいえない。)。
C殺害の点についてみると,被告人Y2は,被告人Y1の指示に従い,宅配便業者を装ってC方に侵入し,宅配便業者と信じていたCに突然襲いかかり,同人の首を絞め付けながら同人を仏間に押し込んで行き,必死に抵抗する同人の手を振り払ったりしながら,応接台の上に同人を仰向けに倒して馬乗りになり,上から強く首を絞め付けたまま,その後頭部を応接台に叩きつけ,同人の眉間の辺りを手拳で殴りつけるなどし,同人が死亡していないと見るや,その頸部をナイフで2度にわたり突き刺して殺害したものであって,その犯行態様は,強固な殺意に基づく極めて残虐なものである。また,C方への放火の点についてみても,被告人Y2が,被告人Y1の指示に従い,C方にあった石油ストーブや石油ファンヒーターのカートリッジ内にあった灯油を,Cの死体やその周りに撤いた上,マッチで点火した広告紙を死体の上に置いて放火し,炎が1メートルほど上がるのを確認してから,同人方を逃走したものであって,その犯行態様も,極めて悪質なものである。
Cは,Tと婚姻し,2人の子をもうけ,現在の新日本製鐵株式会社を定年退職した後は,C方において妻及びその妹のOと3人で暮らしていたが,平成12年に妻を亡くした後は,同所でOと2人で平穏に暮らしていたのである。しかるに,Cは,たまたま被告人Y1の標的にされたことから,何の落ち度もないのに,突如このような残酷な方法で生命を奪われたのであり,その無念さはいかばかりかと察せられる。この間のCの恐怖や苦痛も,筆舌に尽くし難いものがあると認められる。C方が全焼した結果や周囲に与えた不安感も大きい。したがって,Cの次男やOら遺族が,被告人両名に対し極刑を望む旨述べているその心情は,無理からぬものがある。
以上の諸事情に照らすと,C事件は,その罪質,犯行の態様,結果,更には遺族の処罰感情等いずれをとってみても,犯情が極めて悪いというほかない。
(3)  つぎに,E事件についてみると,被告人両名は,C事件を敢行したわずか3週間余り後に,C事件と併行して計画を進めていた,保険金を詐取するため被告人Y2の身代わりとなる者を殺害する企てを実行しようとして,殺害の対象となる者を探し,当初殺害の対象としていたホームレスに不審感を抱かれて逃げられるや,即座に同じくホームレスをしていたEを被告人Y2の身代わりとして殺害することにし,睡眠導入剤を服用させて溺死させるなどの犯行方法や各人の役割分担を具体的に決めた上,被告人Y2においてE殺害の実行行為に及んだのであって,これまた計画的な犯行である。
その犯行態様は,被告人Y2が,被告人Y1の指示に従い,Eに睡眠導入剤を服用させた上,熟睡して無抵抗となった同人を川岸まで運び,その両足首を両手で持って宙づりにし,同人が身動きしなくなるまで,10分間近くにわたってその上半身を川の中に沈めて溺死させた上,顔の判別がつき難くするために,その死体の顔の上に石を落とすなどしたものであって,強固な殺意に基づく残虐非道なものである。
Eは,現在の北九州市において出生し,日雇い人夫などをした後,ここ数年は同市小倉北区においてホームレスをしていたが,たまたま被告人らの標的にされたことから,何の落ち度もないのに,突如として,あまりにも残酷な方法で生命を奪われたのであり,その無念さはいかばかりかと察せられ,その遺族が,被告人両名に対し極刑を望む旨述べているその心情は,これまた無理からぬものがある。
以上の諸事情に照らすと,E事件も,C事件と同様,その罪質,犯行の態様,結果,更には遺族の処罰感情等いずれをとってみても,犯情が極めて悪いというほかない。
3  被告人両名の個別的な量刑事情についての検討
(1)  被告人Y1について
ア まず,情状判断の中心となるC事件及びE事件の各犯行に至る経緯及び動機について検討する。
C事件のうち,強盗殺人の犯行の経緯,動機は,被告人Y1が,その経営する飲食店等が赤字であったりして経済的に逼迫していたことから,C及びOの両名を殺して,本件工事関係の書類のほかC方にある現金や通帳等を強取しようと企て,被告人Y2を誘い込み,C事件を計画,立案し,最終的には,C1人を殺害する計画になったものであって,利欲的で冷酷非道なものである。C事件のうち,現住建造物等放火及び死体損壊の犯行は,Cの死体を隠すのが困難になったことなどから,犯跡を隠ぺいするため,延焼等の重大な結果が生じるおそれがあるのも意に介さず,被告人Y2に指示して敢行させたものであって,自己中心的で非情なものである。
また,E事件の経緯,動機は,C事件と併行して,被告人Y2の身代わりとなる者を殺害することにより生命保険金を詐取することを計画していた被告人Y1が,強盗殺人等といった重大なC事件を起こしたのに,思い止まることなく,多額の生命保険金を詐取しようとして敢行したのであり,極めて利欲的かつ自己中心的で非道なものである。
以上のとおり,C事件及びE事件の各犯行に至る経緯及び動機には,酌量の余地が皆無である。
イ その役割についてみると,被告人Y1は,前記のとおり,C事件及びE事件のいずれについても,犯行を発案,主導した主謀者であって,その果たした役割は極めて大きい。しかも,被告人Y1は,自らは実行犯役を行うことがないよう狡猾に立ち回っている。
ウ O詐欺事件及びJ詐欺事件についてみても,いずれも悪質な犯行である。すなわち,O詐欺事件についてみると,被告人Y1は,多額の負債を抱えたため,勤務していた大分市役所を退職し,かつ,破産宣告を受けるまでに至ったにもかかわらず,日本クリーンサービスでは営業成績と昇進及び給与とが直接連動するシステムがとられていたことから,営業課長の地位から上位の次長に昇任するために営業ノルマを達成しようとして,犯行に及んだのであり,その利欲的で自己中心的な経緯,動機に酌量の余地はなく,騙取した金額は,前記のとおり多額であり,被告人Y1は,これを飲食店の運転資金や自己の遊興費等に費消して,被害弁償を全く行っておらず,その犯情は悪質である。また,J詐欺事件についてみると,被告人Y1は,日本クリーンサービスでの自らの不当な営業方法の結果,同社の金を使い込み,それが発覚して,平成12年12月ころ,同社を退職した後,それまでに蓄えた預貯金のほとんどをつぎ込んで飲食店の経営に乗り出すことにしたが,日本クリーンサービスに勤務していた際に顧客から肩代わりした工事代金のローンを抱えて,その支払いに窮するようになり,飲食店の開店資金や上記ローンの支払資金等を得るため,犯行に及んだものであって,その利欲的で自己中心的な経緯,動機に酌量の余地はなく,騙取した金額は,前記のとおり多額であるのに,被告人Y1は,被害弁償を全く行っておらず,その犯情も悪質である。
エ また,被告人Y1は,C事件及びE事件の各被害者の遺族に対して,何ら慰謝の措置を講じていない。
オ そして,被告人Y1は,O詐欺事件及びJ詐欺事件の各犯行に及びながら,それに止まらず,C事件やE事件等を計画し,実行していったのであって,規範意識の鈍麻には顕著なものがある。
カ 他方,被告人Y1に有利な情状として,前記のとおり,C事件のうち,現住建造物等放火及び死体損壊の点は,計画的な犯行とまではいえないこと,C事件のうち住居侵入及び強盗の各犯行と,E事件,O詐欺事件並びにJ詐欺事件の各犯行については,捜査,公判を通じて認めており,またC及びEの冥福を毎日祈っている旨供述するなど一応の反省の態度を示していること,生育歴及び家庭環境の点で必ずしも恵まれてはいなかったこと,被告人Y1には前科がないことなどの諸事実が認められる。
(2)  被告人Y2について
ア 被告人Y2がC事件及びE事件の各犯行に至った経緯,動機についてみると,前記のとおり,被告人Y2は,平成13年12月18日ころ,被告人Y1から,被告人Y2の身代わりとなる者を殺害して同被告人を被保険者とする生命保険金を詐取する保険金殺人の計画を持ち掛けられ,その計画どおりいけば,保険金が入るとともに,被告人Y2が死んだことになって,被告人Y2名義の借金を支払わなくて済むし,被告人Y1から逃走資金をもらえ,保険金が下りたら300万円をもらえ,そのうちの50万円は自由に使え,将来は,借金から逃がれた別人として,中国に逃げられると考えたこともあって,その計画に加担することとし,その後の同年12月下旬にC事件に加担することも承諾して,C事件及びE事件の各犯行に及んだのであり,被告人Y2が,被告人Y1の指示,命令を全く拒否できない立場や状況にあったとは認められず,被告人Y2がC事件及びE事件の各犯行に及んだのには,E事件が計画どおりいけば,保険金が下りて,被告人Y1から報酬をもらえたり,借金から逃れて別人として生活できるなど,被告人Y2にとっても利益にもなるという被告人Y2自身の考えもあったと認められるのであって,被告人Y2が,被告人Y1やその背後にいると信じていた暴力団への恐怖感から,被告人Y1の指示や意向に逆らえば,場合によっては殺害されるかもしれないとの恐怖心を抱いていたことや,被告人Y2が,被告人Y1から指示,命令されてこれらの犯行に及んだことを踏まえて考えても,その動機は,他人の生命の尊さなどを顧みない極めて身勝手なものといわざるを得ない。
イ その役割についてみると,被告人Y2は,前記のとおり,C事件及びE事件を通じて,実行犯として必要不可欠な役割を果たしたものであり,自己らの利益のために,自らの手で,何の落ち度もない2人の人命をためらいを見せることなく極めて残酷な方法で奪うなどしたものであって,これらの犯行は,主謀者である被告人Y1の指示,命令に忠実に従って実行行為を行った被告人Y2がいたからこそなし得たものと考えられ,実行行為者である被告人Y2の果たした役割は極めて大きい。
ウ また,被告人Y2も,各被害者の遺族に対し何ら慰謝の措置を講じていない。
エ そして,被告人Y2は,C事件においてCの凄惨な死に直面しているにもかかわらず,それが,被告人Y2にとって,E事件を思い止まらせるものとなっておらず,加えて,被告人Y2は,平成13年11月に建造物侵入,窃盗,有印私文書偽造,同行使,詐欺未遂の罪で,懲役1年4月,4年間執行猶予に処せられたのに,その猶予期間中に,自重することなく本件各犯行を敢行したことなどにかんがみれば,その規範意識は著しく鈍麻していたといわざるを得ない。
オ 他方,被告人Y2に有利な情状として,被告人Y2は,C事件及びE事件のいずれにおいても,被告人Y1から指示,命令されて,同被告人が立案した犯行計画に従ってこれらの犯行に及んだものであること,被告人Y1やその背後にいると信じていた暴力団への恐怖感から,被告人Y1の指示や意向に逆らえば,場合によっては殺害されるかもしれないとの恐怖心を抱いていたことが,被告人Y2が,C事件及びE事件の実行犯役として加担した要因の一つとなっていること,被告人Y2は,捜査及び公判を通じて,各犯行を素直に認めて誠実に供述していること,被告人Y2が,E事件で逮捕された後,C事件についても自白したことが,これらの事件の解明に繋がったと認められること,その後は,これらの犯行に及んだことを反省悔悟しており,被害者らの冥福を祈る日々を送っていることなどの諸事実が認められる。
4  結論
そこで,以上検討してきたC事件及びE事件の全般的な犯情に加え,被告人両名の個別的な情状をも併せて,被告人両名をいずれも死刑に処した原判決の量刑の当否について考察する。
死刑は,究極の峻厳な刑であり,慎重に適用すべきものであることは疑いがない。しかし,死刑制度を存置する現行法制の下では,犯行の罪質,動機,態様,ことに殺害の手段方法の執よう性・残虐性,結果の重大性,ことに殺害された被害者の数,遺族の被害感情,社会的影響,犯人の年齢,前科,犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき,その罪責が誠に重大であって,罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合には,死刑の選択をするほかないものといわなければならない。
これを本件についてみると,これまで述べてきたところから明らかなとおり,C事件及びE事件はいずれも,その罪質,犯行の動機の悪質性,殺害の手段方法の執よう性・残虐性,結果の重大性,遺族の被害感情の深刻さ,社会的影響の大きさ等からして,凶悪な重大事件であるといわなければならず,その主謀者である被告人Y1及び実行行為者である被告人Y2の各刑事責任はいずれも極めて重大であって,前記の被告人両名にとって有利な各情状を十分考慮し,その他,所論がるる主張する諸点を検討しても,また,死刑が,誠にやむを得ない場合における究極の刑罰であることに思いを致してみても,罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも,被告人両名を死刑に処するのはやむを得ないものといわざるを得ない。そうすると,被告人両名をいずれも死刑に処した原判決の量刑は相当であって,これが重すぎて不当であるとはいえない。
各論旨はいずれも理由がない。
第4  よって,刑事訴訟法396条により本件各控訴を棄却することとし,当審における訴訟費用を被告人両名に負担させないことについて同法181条1項ただし書を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 濱﨑裕 裁判官 長倉哲夫 裁判官 杉山正明)

 

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