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「営業支援」に関する裁判例(148)平成16年12月22日 大阪地裁 平15(ワ)3262号 損害賠償請求事件 〔ダスキン株主代表訴訟事件・第一審〕

「営業支援」に関する裁判例(148)平成16年12月22日 大阪地裁 平15(ワ)3262号 損害賠償請求事件 〔ダスキン株主代表訴訟事件・第一審〕

裁判年月日  平成16年12月22日  裁判所名  大阪地裁  裁判区分  判決
事件番号  平15(ワ)3262号・平15(ワ)4262号
事件名  損害賠償請求事件 〔ダスキン株主代表訴訟事件・第一審〕
裁判結果  甲事件一部認容、乙事件請求棄却  上訴等  控訴  文献番号  2004WLJPCA12220004

要旨
◆料理飲食店の経営等を業とする会社が、無認可の添加物を使用した「大肉まん」を販売して同会社に損害を与えた場合、同会社の取締役に善管注意義務違反があったとして、株主の同取締役に対する損害賠償請求が認容された事例

新判例体系
民事法編 > 商法 > 商法〔明治三二年法律… > 旧第二編 会社〔平成… > 第四章 株式会社 > 第三節 会社ノ機関 > 第二款 取締役及取締… > 第二六六条 > ○取締役の会社に対す… > (二)法令、定款違反の行為
◆会社が具体的な法令に違反している可能性があることを認識した取締役は、取締役会ないし代表取締役に報告する義務があり、これを怠ったときは、取締役の善管注意義務に違反する。

 

裁判経過
控訴審 平成18年 6月 9日 大阪高裁 判決 平17(ネ)568号 損害賠償請求控訴事件 〔ダスキン株主代表訴訟事件・控訴審〕

出典
判タ 1172号271頁
判時 1892号108頁
金商 1214号26頁
資料版商事法務 250号186頁
新日本法規提供

評釈
松井秀征・旬刊商事法務 1836号4頁(下)
松井秀征・旬刊商事法務 1835号20頁(中)
松井秀征・旬刊商事法務 1834号4頁
中野修・金法 1767号20頁
高橋均・金商 1235号57頁
長畑周史・法学研究(慶應義塾大学) 82巻12号593頁
石山卓磨・法学研究(愛知学院大学) 48巻3号23頁
伊勢田道仁・法と政治(関西学院大学) 57巻1号85頁
阿南剛・JICPAジャーナル 17巻11号62頁
大塚和成・銀行法務21 647号66頁
大塚和成・銀行法務21 658号95頁
小林量・リマークス 32号80頁(2006年上)
加賀譲治・創価法学 38巻1号29頁(上)
加賀譲治・創価法学 38巻2号31頁(下)

参照条文
商法254条3項
商法254条ノ3
商法266条
商法266条1項
商法266条1項5号
商法267条
商法267条1項
商法267条3項
民法644条

裁判年月日  平成16年12月22日  裁判所名  大阪地裁  裁判区分  判決
事件番号  平15(ワ)3262号・平15(ワ)4262号
事件名  損害賠償請求事件 〔ダスキン株主代表訴訟事件・第一審〕
裁判結果  甲事件一部認容、乙事件請求棄却  上訴等  控訴  文献番号  2004WLJPCA12220004

原告 X
同訴訟代理人弁護士
中山嚴雄
金子武嗣
松原弘幸
坂野真一
小谷眞一郎
松浦由加子
加藤真朗
細見孝次
香川朋子
東忠宏
壇俊光
同訴訟復代理人弁護士 中村昌樹
甲事件被告 Y1
同訴訟代理人弁護士 今中道信
同 吉永透
同 山﨑末記
甲事件被告 Y2
外5名
乙事件被告 Y8
外2名
上記9名訴訟代理人弁護士 玉生靖人
同 植村公彦
同 武智順子
甲事件被告 Y11
同訴訟代理人弁護士 宮原民人

 

主文
1  甲事件被告Y2は,株式会社ダスキン(本店の所在地・大阪府吹田市豊津町〈番地略〉)に対し,5億2955万円及びこれに対する平成16年2月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  原告の甲事件被告Y2に対するその余の請求並びにその余の甲事件被告ら及び乙事件被告らに対する請求をいずれも棄却する。
3  訴訟費用は,原告に生じた費用の100分の1と甲事件被告Y2に生じた費用の20分の1を甲事件被告Y2の負担とし,原告及び甲事件被告Y2に生じたその余の費用並びにその余の甲事件被告ら及び乙事件被告らに生じた費用を原告の負担とする。
4  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1  請求
甲事件被告ら及び乙事件被告らは,株式会社ダスキン(本店の所在地・大阪府吹田市豊津町〈番地略〉)に対し,連帯して,106億2400万円及びこれに対する平成16年2月24日(ただし,甲事件被告Y1は同月21日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
本件は,株式会社ダスキン(以下「ダスキン」という。)の株主である原告が,ダスキンの取締役兼代表取締役,取締役又は監査役であった甲事件被告ら及び乙事件被告ら(以下,総称して「被告ら」という。)に対し,(1)ダスキンが,食品衛生法(平成11年法律第160号による改正前のもの。以下同じ。)6条に違反して,人の健康を損なうおそれのない場合として厚生大臣(当時。以下同じ。)が定めていない添加物であるt−ブチルヒドロキノン(以下「TBHQ」という。)を含む「大肉まん」を販売したことについて,被告らは,①食品衛生法上販売が許されていない添加物がダスキンの販売する食品に使用されることがないようなリスク管理体制を構築する善管注意義務(商法254条3項,民法644条,商法280条)があったのにこれを怠り,②食品衛生法上販売が許されていない添加物の使用を発見した場合に取締役等がどのように報告し行動しなければならないのか等についてマニュアルを作成し周知徹底させ,違法行為等があれば即座にコンプライアンス部門等を通して取締役会に報告される体制を構築するなどの善管注意義務があったのにこれを怠り,その結果,ダスキンにミスタードーナツ加盟店営業補償,キャンペーン関連費用等の出捐や支払を余儀なくさせ,合計106億2400万円の損害を与えた,また,(2)ダスキンが,「大肉まん」がTBHQを含んでいることを知らせたZ(以下「Z」という。)に対して6300万円を支払ったことについて,被告らは,取締役等が恐喝等違法行為の疑いがある事実を認識した場合には,直ちにコンプライアンス部門に報告し,同部門は必要な調査をした上,取締役会に報告する体制を構築する善管注意義務があったのにこれを怠り,ダスキンに上記支払額と同額の損害を与えた,さらに,(3)被告らがTBHQを含んだ「大肉まん」が販売されたことを認識した後,上記事実を公表するなどしなかったことについて,被告らは,上記事実を公表し,上記「大肉まん」を回収し,謝罪等の被害回復措置をとるべき善管注意義務があったのにこれを怠り,その結果,ダスキンに上記(1)の出捐や支払を余儀なくさせ,合計106億2400万円の損害を与えたと主張して,商法266条1項5号,277条,278条に基づき,連帯して,上記損害額及びこれに対する請求の趣旨拡張申立書送達の日の翌日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金を同社に対し賠償するよう求めた株主代表訴訟である。
1  当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実
(1)  当事者等
ア ダスキンは,昭和38年2月4日設立された,環境衛生及び清掃用資器財等の製造及び販売,料理飲食店等の経営並びにこれらの事業を経営するフランチャイズ店に対する経営指導及び業務委託等を目的とする株式会社であり,発行済株式の総数は1399万2472株,資本の額は113億5294万6000万円である(甲1号証)。
イ 原告は,平成15年1月14日の6か月以上前から引き続きダスキンの株式を有する株主である(甲2号証)。
ウ 被告らは,ダスキンの取締役兼代表取締役,取締役又は監査役であった者であり,その在任期間等は別紙「在任期間等」のとおりである。なお,甲事件被告Y1(以下「被告Y1」という。)は,遅くとも平成13年6月13日までに取締役を辞任したものである(甲3号証の1)。
エ 分離前の相被告A(以下,単に「A」という。)及び同B(以下,単に「B」という。)は,ダスキンの取締役であった者であり,その主な経歴は次のとおりである。なお,Aは,ダスキンとの間で顧問契約を締結し,平成13年7月1日から顧問に就任し,月額320万円の報酬を受領していたが,同年12月末をもって顧問契約を解除された。そのため,Aは,平成13年12月26日,ダスキンに対して,解除は無効であるとして報酬の支払を求める訴訟を提起した。(乙ア5号証の1,2)
(ア) A
平成6年6月 取締役生産本部長就任
平成9年4月 常務取締役事業本部運営担当就任
平成11年4月 専務取締役フードサービス事業グループ担当
平成13年6月 退任
(イ) B
平成12年6月 取締役ミスタードーナツフランチャイズ事業本部長就任
平成13年12月 退任
(2)  TBHQ
TBHQは,主にパーム油の酸化防止剤である。日本では,食品衛生法上,人の健康を損なうおそれのない場合として厚生大臣が定める場合を除いては,添加物及びこれを含む食品は,これを販売等してはならないと定められている(同法6条)ところ,TBHQは,厚生大臣によって定められていない添加物である。
なお,国連食糧農業機関(以下「FAO」という。)及び世界保健機関(以下「WHO」という。)によって設立された合同添加物専門家委員会(JECFA)が定めたTBHQの1日摂取許容量は,0.7mg/kg body(体重50kgの人の1日摂取許容量は35mg)であり,アメリカ,中華人民共和国(以下「中国」という。)を始め,十数か国で使われている(乙ウ62ないし66号証)。
(3)  TBHQが含まれた「大肉まん」の販売
ダスキンは,テスト販売を開始した平成12年4月から同年12月20日ころまでの間に,食品衛生法上使用が許されていない添加物であるTBHQが含まれた「大肉まん」を1314万個(同年12月1日以降で約300万個)日本全国のミスタードーナツ店頭で販売した(甲5号証 以下「本件販売」という。)。
上記「大肉まん」は,ダスキンが株式会社ハチバン(以下「ハチバン」という。)から供給を受けたものであったが,ハチバンは,株式会社ニッキーフーズ(以下「ニッキーフーズ」という。)にその製造を委託し,同社は,中国の子会社である山東仁木食品有限公司(以下「仁木食品」という。)の中国工場で「大肉まん」を製造していた。TBHQは,仁木食品が「大肉まん」の皮の部分の原材料として使用したショートニング(加工植物性油脂で,天然のパーム油に化学合成品の酸化防止剤を入れたもの)に含まれていた。(甲4号証の1)
(4)  Zへの6300万円の支払
ア ダスキンは,株式会社○○(以下「○○社」という。)の代表取締役であるZに対し,平成12年12月13日に800万円,同月15日に2500万円をそれぞれ支払った。
イ Bは,平成13年1月18日,三和紙器株式会社(以下「三和紙器」という。)から3000万円を借り入れ,同日,Zに対して同額を支払った(以下,ア,イを総称して「本件支払」という。)。
ウ ダスキンは,平成14年2月20日,三和紙器に対して3000万円を支払った。
(5)  本件販売の発覚,行政処分及び略式命令
ア 本件販売の事実は,平成14年5月21日,新聞報道された(甲9号証の1,2)。
イ 大阪府は,平成14年5月31日,ダスキンに対し,食品衛生法23条に基づき,本件販売を理由に,中国で製造された「大肉まん」について,次の処分解除の要件が確認できるまでの間,仕入れ及び販売を禁止することを命じた(甲63号証の1,2 以下「本件行政処分」という。)。
(ア) 安全性チェック機能の強化について
ダスキンが,品質管理体制の強化,品質管理に関する方針や目標を明記した文書等を提出することにより,大阪府が確認できること。
(イ) 違反品・不良品確認時の対応策策定について
ダスキンが,事故発生時の初期対応体制,事故拡大防止の対策,再発防止の対策,情報の公開等についてのマニュアルを作成し,大阪府が確認できること。
(ウ) 輸入品については,常に安全性をチェックし,適正に管理すること。
ウ ダスキンは,平成15年9月4日,本件販売を理由に,食品衛生法違反の罪で罰金20万円に処せられた(乙エ1号証 以下「本件略式命令」という。)。
(6)  食品衛生法違反問題に関する出捐
ダスキンは,食品衛生法に違反して「大肉まん」を販売したことに関して,第41期(平成14年4月1日から平成15年3月31日)において,次のとおり合計105億6100万円の出捐をした(甲68号証,弁論の全趣旨 以下「本件出捐」という。)。
ア ミスタードーナツ加盟店営業補償
57億5200万円
イ キャンペーン関連費用 20億1600万円
ウ CS組織員さん優待券及びSM・MM等特別対策費用ほか 17億6300万円
エ 新聞掲載・信頼回復費用 6億8400万円
オ 飲茶メニュー変更関連費用 3億4600万円
(7)  提訴請求等
ア 原告は,ダスキン(監査役C,同D,同E及び同F)に対し,平成15年1月14日に到達した書面で,甲事件被告ら並びにA及びBの責任を追及する訴えを提起するよう請求したが,ダスキンは,上記請求の日から60日を経過するも,訴えを提起しなかった(甲7号証の1,2)。
イ 原告は,ダスキン(監査役C,同D,同E及び同F)に対し,平成15年2月17日に到達した書面で,乙事件被告らの責任を追及する訴えを提起するよう請求したが,ダスキンは,上記請求の日から60日を経過するも,訴えを提起しなかった(甲7号証の3,4)。
ウ 原告は,平成15年4月4日,甲事件にかかる訴えを提起した。
エ 原告は,ダスキン(代表取締役乙事件被告Y9(以下「被告Y9」という。))に対し,平成15年5月15日に到達した書面で,甲事件被告Y7(以下「被告Y7」という。)の責任を追及する訴えを提起するよう請求したが,ダスキンは,上記請求の日から60日を経過するも,訴えを提起しなかった(甲51号証の1,2)。
2  争点
(1)  被告Y7に対する訴えの適法性
(2)  「大肉まん」にTBHQが使用されたことについて,被告らに善管注意義務違反が認められるか。
(3)  本件販売について,被告らに善管注意義務違反が認められるか。
(4)  本件支払について,被告らに善管注意義務違反が認められるか。
(5)  被告らが,本件販売を認識した後,当該事実を公表するなどしなかったことについて,被告らに善管注意義務違反が認められるか。
(6)  被告らが,本件販売を認識した後,当該事実を公表するなどしなかったことと本件出捐及び本件支払との因果関係
(7)  被告Y1が,平成13年2月に何らかの食品衛生法上使用が許されていない添加物が「大肉まん」に含まれていたとの噂があった旨の事実しか認識していなかった場合,同被告が,上記事実を取締役会に報告するなどしなかったことについて善管注意義務違反・忠実義務違反が認められるか。
3  争点に対する当事者の主張
(1)  争点(1)(被告Y7に対する訴えの適法性)について
(被告Y7の主張)
平成15年1月14日に到達した書面による提訴請求は,監査役についての提訴請求を受領する代表権のない監査役に対するものであり,同年5月15日に到達した書面による提訴請求は,原告が被告Y7に対して本件訴訟を提起した後の提訴請求であるから,ダスキンに対して真に訴えを提起する機会を与えたことにはならず,提訴請求としての効力が認められないものである。
したがって,被告Y7に対する本件訴訟は不適法なものといわざるを得ないから,却下を免れない。
(原告の主張)
争う。
(2)  争点(2)(TBHQ使用についての善管注意義務違反)について
(原告の主張)
ア リスク管理体制の構築
(ア) あるべきリスク管理体制(総論)
取締役は,自ら法令を遵守するだけでなく,従業員が会社の業務を遂行する際に違法な行為に及ばないよう,会社全体として法令遵守経営を実現しなければならない。そこで,取締役は,平成12年11月当時,次のような法令遵守体制(コンプライアンス体制)を構築していなければならなかった。
a 行動規範の内容
法令遵守体制を構築・機能させるためには,その会社の事業に従事する者(取締役及び従業員。以下,総称して「従業者」という。)が,(a)違法行為を行わないようにするため,具体的場面に応じていかに行動すべきかという具体的な行動規範(違法行為を未然に防ぐための行動規範)及び(b)違法行為を発見した場合にいかに行動すべきかという具体的な行動規範(違法行為を発見した際の行動規範)を示さなければならない。
b マニュアルの作成
取締役ないし取締役会が,常時,全従業者の行動を監督し,逐一具体的行動を指示することは,従業員が少人数の会社であれば格別,現実的に不可能である。そこで,行動規範を文書化したマニュアルを作成することが必要不可欠である。
マニュアルを作成するに当たっては,企業の活動領域において最も重要な法令(食品会社であれば,食品衛生法)に焦点を当てなければならない。また,法律のみならず政令,ガイドライン及び判例等を詳細に検討しなければならない。さらに,その言葉遣いは,従業者が広く一般的に理解することができるように平易で分かりやすいものでなければならない。
c 行動規範教育の必要性(マニュアルの周知徹底)
取締役は,上記マニュアルが,各従業者の日常業務において行動規範として機能するように,これを周知徹底する必要がある。具体的には,マニュアルを従業者すべてに配布し,常時確認が可能なように閲覧に供しておかなければならない。そして,研修会,講習会,勉強会等を開催し,法令遵守の必要性を深く理解させるとともに,具体的場面に即した具体的な行動を理解させる必要がある。さらに,マニュアルを理解したことを確認する作業(例えば,確認書への署名を求めたり,マニュアルの理解の程度を確認するためにテストを実施する等)も必要である。
d 組織の整備
上記のように個別の教育を施すだけでは不十分であり,別途法令が遵守されるような,自らが違法行為を行えば,それを他人に認識され得る組織体制を構築しなければならない。
(a) 専門部門の設置
経営効率,利潤追求だけを考えれば,法令を無視する事態が発生してもおかしくないから,法令遵守を徹底するためには,経営効率等を考える部門とは別個に,専門性と独立性を有し,法令遵守に関する調査権限を持ち,法令を遵守していないことが判明した場合には強制的に是正する権限を付与された部門を構築しなければならない。そして,上記専門部門は,マニュアルの対象となっている法令(特に当該会社にとって最も重要な法令)や判例の動向に常に注意を払い,法令改正や判例変更があった場合には,速やかに担当取締役,取締役会等に報告し,マニュアルを改訂すべく動かなければならない。
① コンプライアンス部門及び品質管理機関の設置
食品会社の場合,上記専門分野としては,法令全般に関するコンプライアンス部門のほか,これとは別個独立の機関として,食品衛生法遵守及び正当な品質の食品の提供のための専門部門(品質管理機関)を設置しなければならない。ここにいう品質管理機関は,①食品衛生法厳守のため,専門性と独立性を有し,調査権限を持ち,法令を遵守していないことが判明した場合には製造販売を中止させる等の強力な権限を有し,かつ,②違法がなくとも,企画・製造・販売の過程において,正当な品質の食品が提供されているか否かを調査・監督する機関であり,輸入食品をも含めて,各商品の品質管理をしなければならない。
② コンプライアンス部門及び品質管理機関の位置付け
コンプライアンス部門及び品質管理機関は,取締役直轄の部門でなければならない。
また,食品の企画・製造・販売部門の担当取締役が品質管理機関を一括管理していたのでは実効性が期待できないから,品質管理機関については食品の企画・製造・販売以外の部門の担当取締役(又は代表取締役)が直轄すべきである。
そして,全従業者は,業務に関し,何らかの違法行為又はその疑いのある事実(以下,総称して「違法行為等」という。)を発見した場合には,コンプライアンス部門又は品質管理機関に報告しなければならず,同部門若しくは同機関又はその担当取締役は,違法行為等を発見した場合には,即座に取締役会に報告しなければならない。
③ 苦情等の受理及び秘密保持
コンプライアンス部門及び品質管理機関は,違法行為等の存否を自ら調査するのみならず,違法行為等に関する情報提供を広く受け得る体制を整えておくことが必要である。この情報提供には消費者からの情報提供のみならず会社内部からの情報提供(いわゆる内部告発)も含まれ,内部告発者が告発によって不利益を被ることがないように,コンプライアンス部門及び品質管理機関は,取締役に対して,氏名等内部告発者を特定し得る情報を伝達してはならない。
(b) 社外専門家による検査
会社外の食品専門家や食品関係の法律に詳しい専門家が,前記マニュアルの内容,従業者への周知徹底の程度,組織体制について,全般的に調査検討等のチェックをすることができる体制をとるべきである。
e 法令違反認識後の行動規範
従業者が違法な企業活動の存在やその可能性に気付いた場合に,コンプライアンス部門又は品質管理機関にこれを報告する制度や手続が整備されていなければならない。
また,違法行為を行った場合の懲戒処分について適正な手続を定めなければならない。
さらに,違法行為が確認された場合に,それによって生じた被害を救済するために講じる措置もコンプライアンス体制の一環として定めなければならない。
f コンプライアンスプログラムの作成・実施・修正
前記のとおり,法令遵守体制を構築するためには,マニュアルの作成,従業者への個別の教育並びに違法行為の抑止及び違法状態からの速やかな回復を可能とする組織体制の整備をし,さらに,それらを外部からチェックする体制も具備する必要がある(以下,これらを総称して「コンプライアンスプログラム」という。)。
そして,取締役会は,会社全体としてコンプライアンスプログラムを実施するために,自ら率先してこれを理解し,従業者に対する関連情報の伝達,研修,監視を実施すべく,マニュアルを作成し,コンプライアンス部門及び品質管理機関の設置とその適正な運営を尽くさなければならない。そして,法改正や判例変更があった場合等,具体的に不都合が生じれば,その都度取締役会の関与の下で,マニュアルの改訂やコンプライアンス部門及び品質管理機関の体制改正を図らなければならない。
監査役は,上記体制が構築されていなければ,これを構築するよう指示しなければならない。
(イ) あるべきリスク管理体制(各論)
ダスキンは,例えば,①当時構築しておくべきであった品質管理機関から「大肉まん」の試作品製造過程に人材を派遣する,②試作品を品質管理機関において検査する,③第三者の学識者に大肉まんの試作品の検査を依頼する,④原材料及び使用添加物も含め,大肉まんの製造に使用した材料の詳細を報告させ,それを品質管理機関がチェックする等の措置を講ずべきであった。
イ リスク管理体制の不備
ダスキンには,前記アのようなリスク管理体制がなく,株式会社皇宮(以下「皇宮」という。)等の製造委託業者を盲目的に信用するのみで,「大肉まん」の品質を自ら全くチェックしなかった。そのため,「大肉まん」にTBHQが使用されたものである。
ウ 被告らの責任原因
(ア) 被告Y1,甲事件被告Y2(以下「被告Y2」という。),同Y3(以下「被告Y3」という。),同Y4(以下「被告Y4」という。),同Y11(以下「被告Y11」という。),同Y5(以下「被告Y5」という。),同Y6(以下「被告Y6」という。)及び乙事件被告ら(以下,総称して「被告取締役ら」という。)は,ダスキンの取締役として,前記アのようなリスク管理体制を構築すべき義務があったのに,これを怠った。
(イ) 被告Y7は,ダスキンの監査役として,前記アのようなリスク管理体制を構築するよう指摘すべき善管注意義務があったのに,これを怠った。
(被告らの主張)
争う。
ア 原告の主張ア(ア)(あるべきリスク管理体制(総論))について
(ア) あるべきリスク管理体制とは,あらゆる不祥事の発生を未然に防止できる完璧なシステムを意味するものでないことはもちろん,同業他社に比して卓越したシステムや,事件発生後において,当該事件の具体的内容,原因等を分析検討することにより導き出される防止システムを意味するものでもなく,当該事件発生当時において,同業他社が導入済みの一般的普遍的システムを意味する。
(イ) 原告の主張ア(ア)a(行動規範の内容)について
現代社会が複雑化すればするほど,そして法令が多岐にわたればわたるほど,従業者が直面するあらゆる場面を想定して,その行動規範を具体的に一つ一つすべて示すことなど不可能といわざるを得ないのであって,原告の上記主張は高論ではあっても,役員の善管注意義務を画する基準とはなり得ない。
(ウ) 原告の主張ア(ア)b,c(マニュアルの作成,周知徹底)について
コンプライアンス部門の設置にしても,コンプライアンスマニュアルの作成にしても,日本の各企業は,まさに今その取組みをしている状況であって,本件事案が発生した平成12年11月時点において,いまだコンプライアンスマニュアルが策定されていなかったからといって,その一事をもって被告らに善管注意義務違反があるとは到底認められない。
(エ) 原告の主張ア(ア)d(組織の整備)について
a 本件事案が発生した平成12年11月当時においては,わが国の企業は,法令遵守体制の構築に向けた取組みが緒につき始めた状況であって,いまだコンプライアンス部門が設置されていなかったからといって,それ自体が取締役等の善管注意義務違反を基礎づけることにはなり得ない。
b コンプライアンス部門を設置しておかなければならなかったかどうかはさておくとして,わざわざ別組織の専門機関としての「品質管理機関」をもう一つ設けなければ食品衛生法の遵守が困難になるとは考えられない。
c わが国において,各企業が内部告発制度を導入し始めたのは,まさにここ1,2年のことにすぎず,したがって,ダスキンにおいて,平成12年11月当時内部告発制度がなかったとしても無理からぬ話であって,取締役等の義務違反を構成するとは到底考えられない。
d 当時,原告主張のような社外専門家による外部からのチェック体制が敷かれていなかったからといって,不備があるとは認められない。
(オ) 原告の主張ア(ア)e(法令違反認識後の行動規範)について
本件は,ダスキンの従業員が不祥事を働いたという事案ではなく,食品衛生法上使用が許されていないTBHQが「大肉まん」に含まれている事実が発覚した後においてその販売を継続したのも,Zに6300万円を支払ったのも,取締役であったA及びBであるから,懲戒処分制度の是非が問われるべき事案ではない。
イ ダスキンの平成12年11月当時の品質管理体制
(ア) ミスタードーナツFC本部における品質管理部門
ミスタードーナツFC本部には,商品開発部門から独立した品質管理部門として品質管理室が設置されていた。
品質管理室は,①消費者からのクレーム対応,②衛生管理ガイドに基づく衛生検査,③すべての仕入先から提出を受ける原材料規格書の管理,原価構成表及び商品成分データの管理,商品成分一覧表の作成,消費者からの商品成分に関する問い合わせに対する対応,④営業通信への品質管理ワンポイントセミナーの掲載等の業務を行っていた。
(イ) ミスタードーナツFC本部における商品の企画・開発段階での品質確保のためのシステム
「大肉まん」等のようにその製造を業者に委託する商品の場合,製造業者のほかに技術指導業者を加えて,ダブルチェックが働く体制の下で商品の企画・開発が行われるようにしていた。
ミスタードーナツFC本部(商品開発本部)は,品質保持のため,取引先選定基準に準拠して製造業者等を選定し,製造業者の生産工場については,HACCP導入工場又はISO9001認証工場に準ずる工場であること等を条件としていた。そして,海外工場の生産立ち上げ時には,商品開発本部の担当者が,必ず実際に現地工場に赴いて,上記条件を満たす工場であるかどうかを確認していた。
そのほか,品質管理室は,製造業者から当該商品の原材料規格書を提出させ,保管していた。
(ウ) ミスタードーナツFC本部における品質管理マニュアルの策定
ミスタードーナツFC本部においては,「ミスタードーナツ品質管理職務内容」及び「ミスタードーナツ衛生管理ガイド」がマニュアルとして作成され,品質管理室がこれに基づいて品質管理及び衛生管理に関する運用を行っていた。
(エ) その他の品質管理体制
a 食品衛生専門家の招聘
ダスキンは,大阪府の食品衛生監視員等の経験者を渉外対策本部に招聘し,クレーム等の対処法等の指導,再発防止のための改善指導,予防指導に当たらせたほか,フードサービス事業部門の店長や加盟店を担当する支部長に対して,食品衛生に関する基本的な講義を行わせていた。
b 取引先選定基準の設定
ダスキンは,厳格に取引先を選定するための取引先選定基準を設定していた。これは,各事業本部が取引先候補とする会社について,法務部が帝国データーバンクの調査結果に基づいて,当該会社の財務内容,収益力,事業内容,評判信用等を勘案してコメントを付し,原則として信用度がC以上の企業のみが候補として認められるというものである。そして,当該候補企業は,稟議規定に基づき,経理担当役員によって新規取引先として承認されて初めて,正式な取引業者として取引が許されることとなっていた。
ウ 「大肉まん」にTBHQが使用されたことについて,被告らに善管注意義務違反が認められないこと。
(ア) ダスキン(ミスタードーナツFC本部)は,「大肉まん」について,信頼の置ける実績のある業者にその製造を委託した上,さらに,当該製造業者とは別の,信頼の置ける実績のある業者に技術指導という形でその製造をチェックさせるという体制の下に,その開発・製造を行ったものであるから,「大肉まん」の品質等について疑義を差し挟むべき特段の事情がない限り,食品衛生法その他の法令に従った適法かつ品質的に問題のない製品が製造されていると信頼することが許される。
ダスキンは,「大肉まん」の製造を伊藤ハム株式会社(以下「伊藤ハム」という。)とハチバンに委託し,皇宮に技術指導をさせていた。そして,伊藤ハムは,その中国工場において「大肉まん」を製造し,ハチバンは,ニッキーフーズにその製造を再委託し,同社は,中国の子会社である仁木食品の中国工場で「大肉まん」を製造していた。
伊藤ハムは,東京証券取引所第1部等に上場している日本有数の食品メーカーであって,ダスキンは昭和57年から伊藤ハムと取引をしていた。ハチバンは,昭和46年に設立された食品製造加工・販売及び飲食店経営等を事業目的とする会社であってジャスダックに店頭登録しており,ダスキンは,平成10年からハチバンとワンタンの取引を開始していた。ニッキーフーズは,昭和40年に設立された飲茶,点心,餃子,肉まん,シュウマイ等の製造販売を主たる事業目的とする会社であり,仁木食品は,ニッキーフーズの子会社として平成9年に中国山東省に設立され,同年からJAS認定工場としてその稼働を開始し,平成10年には品質の世界基準であるISO9002認証を当該工場で取得していたものであって,当該工場で生産した商品は全量ニッキーフーズを経由して日本に輸出しており,ダスキンは直接には取引をしていなかったが,平成11年から仁木食品の当該工場で生産されたシュウマイをニッキーフーズ及びハチバンを経由して購入していた。これに加え,仁木食品は,ニッキーフーズ経由で日本のスーパー,生協等に肉まんを含む中華惣菜等を広く供給していた上,ハチバンが平成11年8月から店舗展開を始めた中華料理店「チャイナパン」で扱っていた肉まんは,仁木食品の当該工場で生産されたものがニッキーフーズ経由で輸入されたものであった。したがって,仁木食品の当該中国工場で製造された肉まんの日本における販売実績が当時既に存在していたものである。そして,皇宮は,サントリー株式会社の子会社であって,点心料理のテイクアウトショップ,手作り餃子店等を経営していた。ダスキンは,ミスタードーナツFC本部が飲茶事業に進出したことから,皇宮との間において,平成4年11月13日以来,「ダスキン・皇宮技術提携覚書」を締結し,多くの飲茶点心商品の開発に関し,皇宮からしかるべき技術指導を受けていたものであって,「大肉まん」の開発に関しても,皇宮の担当者が,開発期間中,このプロジェクトにほぼ専念していた。
したがって,ダスキンとしては,「大肉まん」について,信頼の置ける実績のある業者にその製造を委託した上,さらに,当該製造業者とは別の,信頼の置ける実績のある業者に技術指導という形でその製造をチェックさせるという体制の下に,その開発・製造を行ったものであるから,「大肉まん」の品質等について疑義を差し挟むべき特段の事情がない限り,食品衛生法その他の法令に従った適法かつ品質的に問題のない製品が製造されていると信頼することが許されるものである。
なお,皇宮の担当者のみならず,ダスキン(商品開発本部)の担当者も,中国での生産立ち上げに先立って現地工場に赴き,衛生品質面で問題がないかどうかをあらかじめ検証していた。
(イ) ダスキンによる自社検査が必要とまではいえない。
食品に関わる専門業者である以上,メーカー,商社,卸売業者,小売業者の別にかかわらず,自らが扱う当該食品に食品衛生法上使用が許されていない添加物が含まれていないかどうかを,他人任せにせずに自らの品質管理部門で検査し,あるいは学識者に検査依頼する等の体制をとらなければならないとは必ずしもいえない。食品販売業者が,実績があって信頼の置ける食品メーカーからその食品を仕入れたとすれば,当該食品メーカーが適法かつ品質上問題のない食品を製造していると信頼することが許されるはずであり,そうでなければ,製造・販売過程に関わる各業者はすべて,幾重にも同じ検査を実施することを強いられてしまうからである。
(ウ) 平成12年11月当時,各企業とも,食品衛生法上使用が許されていない添加物が自社商品に含まれていないかどうかのチェック体制について,原告が主張するほど厳重なシステムを構築していたわけではない。
TBHQは,FAO及びWHOがその安全性を確認し,アメリカ,中国,韓国,オーストラリア,ニュージーランド,マレーシア,シンガポール等十数か国において広く使用されていたものである。すなわち,TBHQは,海外ではまさに食品添加物として取り扱われており,そのため,本件において誤って使用されたものであり,他に四つの使用例が存在していた事実が判明している。
(エ) 以上のとおり,被告取締役らに善管注意義務違反が認められない以上,被告Y7には何らの責任も認められない。
(3)  争点(3)(本件販売についての善管注意義務違反)について
(原告の主張)
ア リスク管理体制の構築
(ア) 前記(2)原告の主張ア(ア)と同じ。
(イ) あるべきリスク管理体制(各論)
a ダスキンは,違法添加物の使用を発見した際,どのように報告し行動しなければならないのか等について,マニュアルを作成し,それを従業者に周知徹底していなければならなかった。
b ダスキンは,違法行為等があれば即座にコンプライアンス部門又は品質管理機関を通して取締役会に報告される体制を構築し周知徹底していなければならなかった。
イ リスク管理体制の不備
ダスキンは,前記ア(イ)aのマニュアル作成及び周知徹底を怠り,同b記載の体制の構築及び周知徹底を怠った。そのため,A及びBは,本件販売を決定したものである。
ウ 被告らの責任原因
(ア) 被告取締役らは,ダスキンの取締役として,前記アのようなリスク管理体制を構築すべき義務があったのに,これを怠った。
(イ) 被告Y7は,ダスキンの監査役として,前記アのようなリスク管理体制を構築するよう指摘すべき善管注意義務があったのに,これを怠った。
(被告らの主張)
争う。
ア 前記(2)被告らの主張アと同じ。
イ 原告の主張ア(イ),イについて
(ア) A及びBは,TBHQ使用の事実を知りながら「大肉まん」を販売すれば,食品衛生法に違反するということも,違法行為をしてはならないということも,百も承知していた上で,あえて販売を継続したものであるから,まさに確信犯的行動であったといえる。そのようなA及びBに対しては,たとえどのようなマニュアルを用意しておいたとしても,すべて無意味である。
(イ) 本件において,ミスタードーナツFC本部内の商品本部プロダクトマネージャー統括部長G(以下「G」という。)は,「大肉まん」にTBHQが使用されている事実を聞かされると直ちにこれをミスタードーナツFC本部の担当取締役であったBに伝えてその指示を仰いだものであり,このことは,たとえコンプライアンス部門が存在していたとしても許される選択であり,まさに当を得たものであった。ところが,事実関係を調査した結果,「大肉まん」にTBHQが使用されていた事実が判明し,AがBから当該事実をすぐに伝え聞いたにもかかわらず,上記両名は,TBHQを含んだ「大肉まん」の国内在庫分をそのまま販売したものである。
しかも,ダスキンの稟議規定によれば,経営上の重要な情報は,取締役会に報告しなければならないとされていたにもかかわらず,前記両名は,これを無視して取締役会に報告せず,本件販売の事実を隠ぺいし続けた。
このように,複数の取締役が意を通じて法令及び社内の稟議規定を無視して秘密裏に「大肉まん」の販売を進め,平成12年12月20日ころにはTBHQを含んだ「大肉まん」の国内在庫分を売り切ってしまったものであって,被告らにはこれを防ぐ手立てはなかった。
ウ ダスキンの本件販売当時の違法行為抑止等のリスク管理体制
(ア) 社員研修
ダスキンは,すべての新入社員に対し,ダスキンの従業員として遵守すべき内容を記載したテキストを配布するとともに,新人研修において,その内容をすべて説明し周知徹底を図っていた。上記テキスト中には,ミスや突発的な問題は最優先で報告すること,ダスキンの規則やマニュアルの重要性等が記載されている。
(イ) 稟議規定
ダスキンは,稟議規定において,「経営上の重要な情報(特にお客様,加盟店,支店,店,工場,取引先の問題・課題)」を取締役会への報告事項と定め,これを全役員間で確認しており,社内で法令違反の事実が認められた場合には,取締役会に報告するという手続を踏むことが周知徹底されていた。
(ウ) 法律相談
ダスキンは,「法務相談」制度を設け,顧問弁護士が,毎週2日間,午後1時から午後5時までの間,本社において相談を受け付ける体制をとっていた。
(エ) コールセンター
ダスキンは,その取扱商品及びサービスに対するクレームを消費者から直接受け付ける窓口としてコールセンターを設置していた。
(オ) 就業規則
ダスキンは,就業規則において,会社の名誉を汚し,業務上の機密事項を漏らし,会社に不利益をもたらした場合や,同規則,職務上の指揮命令等にしばしば違反し,会社内の風紀,秩序を乱した場合には,懲戒又は解雇処分とすることを定め,従業員が故意又は重大な過失によって会社に損害を与えたときは,その損害を賠償すべき旨を定めるなど,違法行為を行った場合の懲戒処分について適切な手続を定めていた。
(カ) 危機管理セミナーの実施
ダスキンは,平成12年6月に雪印乳業株式会社の集団食中毒事件が発生したことを受けて,同年7月13日,取締役会開催後に全取締役及び監査役出席のもとで,富士火災海上保険株式会社顧問を招いてセミナーを開催し,危機原因の分析,危機への対応方法についての講義を通じて,全取締役に危機管理の重要性を周知徹底した。
エ 以上のとおり,被告取締役らに善管注意義務違反が認められない以上,被告Y7には何らの責任も認められない。
(4)  争点(4)(本件支払についての善管注意義務違反)について
(原告の主張)
ア リスク管理体制の構築
(ア) 前記(2)原告の主張ア(ア)と同じ。
(イ) あるべきリスク管理体制(各論)
ダスキンは,従業者が恐喝等違法行為の疑いがある事実を認識した場合には,直ちにコンプライアンス部門に報告し,同部門は必要な調査をした上,取締役会に報告するという体制を整えておかなければならなかった。
イ リスク管理体制の不備
ダスキンは,前記ア(イ)の体制を構築し周知徹底していなかった。そのため,A及びBは,本件支払を決定したものである。
ウ 被告らの責任原因
(ア) 被告Y5について
a 被告Y5は,本件支払当時,経理本部担当取締役として,会社の支払が正当か否かを確認すべき善管注意義務を負っていた。
しかるに,被告Y5は,本件支払については,①Bの個人口座あてにいったん振り込まれていること,②Bが個人的に取引先から3000万円を借り入れて支払っていること,③前記②の3000万円について,2万円と2998万円に分けて支払われていること,④Bの個人口座あてに,「異物混入調査費用」として300万円が,「異物混入」という名目で2500万円がそれぞれ振り込まれていることといった不自然,不可解な点があったにもかかわらず,漫然とこれを見逃した。
b 伝票の数が多いからチェックできないというのであれば,「人海戦術」によらなくても違法・不当な支出を事前に防止できる体制を構築しておかなければならなかったところ,被告Y5はそのような体制を構築することを怠った。
(イ) 被告Y5を除くその余の被告取締役らは,ダスキンの取締役として,前記アのようなリスク管理体制を構築すべき義務があったのに,これを怠った。
(ウ) 被告Y7は,ダスキンの監査役として,前記アのようなリスク管理体制を構築するよう指摘すべき善管注意義務があったのに,これを怠った。
(被告Y5の主張)
争う。
ア ダスキンの平成12年度(平成12年4月1日から平成13年3月31日まで)における仕訳レコード件数は,借方と貸方を別々に数えると422万8026件であるから,本社経理本部の担当取締役が,自ら又は部下をしてその支払に関する帳票をいちいちチェックするなどということは事実上ほとんど不可能であった。
イ そこで,ダスキンにおいては,稟議規定に定められた決裁権限の範囲内で各事業部門に権限が委ねられ,各事業部門の統括責任者及び担当役員の責任の下に,伝票入力から証票等のチェック,伝票の承認行為に至るまでの処理が,複数者間で牽制が働くようにしながら各事業部門で完結されるシステムが採用されていたものである。したがって,仕訳データの処理及び銀行振込手続等も,上記承認行為をもって自動処理され,本社経理本部には伝票が回ってこないシステムとなっていた。
ウ よって,ダスキンにおいては,各事業部門で発生したすべての経理伝票を本社の経理部門が事前にチェックするということは事実上不可能であり,したがって,そのようなシステムにはなっていなかったものであって,そうである以上,被告Y5には何らの善管注意義務違反も認められない。
(被告Y5を除くその余の被告らの主張)
争う。
ア 前記(2)被告らの主張アと同じ。
イ 前記(2)被告らの主張ア(エ)cのとおり,本件支払当時,内部告発制度が構築されていなかったからといって,何ら取締役等の善管注意義務違反になるものではない。
ウ A及びBは,その気さえあれば簡単に取締役会に報告できたはずであって,コンプライアンス部門がなかったから金銭を支払ったなどという因果の流れにあるわけでは決してなく,TBHQを含んだ「大肉まん」の販売を継続する一方,実態のない業務委託契約書を作成してまで,何ら支払ういわれがない金銭を,そうと知りながらあえて支払ったということにすぎず,コンプライアンス部門の有無は本件支払と一切関係がないことが明らかである。
エ 以上のとおり,被告取締役らに善管注意義務違反が認められない以上,被告Y7には何らの責任も認められない。
(5)  争点(5)(本件販売認識後の対応についての善管注意義務違反)について
(原告の主張)
ア 被告らの被害回復措置をとるべき善管注意義務
(ア) 食品衛生法の趣旨にかんがみた善管注意義務
指定制度の範囲を原則として添加物全体に拡大した平成7年の食品衛生法改正の趣旨からすれば,安全性の判断は国家の専権事項であり,TBHQは食品衛生法において使用を禁じられている以上,それを使用した商品を販売することなど取締役としてあり得ない判断であり,取締役の権限外の事項である。
したがって,被告取締役らは,「大肉まん」を回収するなど被害回復措置をとるべき善管注意義務を負っていた。
そして,本件のように,商品が不特定多数の者の手に渡っている場合,これを回収するためにはマスコミ等を通じて公表するしかないから,被告取締役らは,TBHQを含んだ「大肉まん」を販売した事実を公表するべき善管注意義務を負っていた。
(イ) 消費者の信用を構築・維持・発展させる善管注意義務
a 消費者の信用
商売は,単純化すれば,売り手と買い手によって成り立ち,売り手が利益を上げるためには,多数存在する売り手の中で,買い手に自己を選んでもらう必要がある。本件についていえば,ファーストフード業界における競争相手の中から,消費者にミスタードーナツを選んでもらう必要がある。
そして,消費者は,大前提として,危険なものを食べたくないところ,商品を見ただけで違法添加物が含まれているか否かを判別することは不可能であるから,安全な食品を購入したいと考えれば,売り手を信用するしかない。すなわち,消費者は,安全な食品を提供してくれる売り手を選択して食品を入手するしかない。
b 客観的安全性と消費者の信頼は別物である。
前記のとおり,商品を見ただけでは,商品が安全であるか否かを判別することは不可能であることが多いから,いくら客観的に安全な商品を提供していたとしても,消費者に「この売り手は信用できない」と思われれば,商品は売れない。
したがって,客観的安全性を確保すべきことは言うまでもないが,さらに,消費者の信頼を構築・維持・発展させなければならない。
本件において,もし,消費者が,「TBHQは安全であるから問題ない」と考えたのであれば,ダスキンの商品を買い控えることはなかったのであるが,消費者は,「大肉まん」が客観的に危険であったか否かよりも,食品衛生法を無視・軽視しているというダスキンの姿勢を疑問視し,あるいはこれに怒りを覚え,ダスキンの商品を買わなくなったのである。
c 公表しないことによる損害発生の予見可能性
(a) 被告取締役らが本件販売の事実を認識した時点において,Zが本件販売の事実を公表することが予見されたのであり,上記事実を非公式に処理することは不可能であった。
(b) 前記bのとおり,本件販売の事実が露見すれば,TBHQが実際に人体に有害であるか否かにかかわらず,ミスタードーナツを利用している一般消費者に不安感を与え,その信頼感を損なう結果,ダスキンの売上げに深刻な悪影響が生じるであろうことが予見可能であった。
(c) 被告取締役らが本件販売の事実を認識した時点より前も後も,違法添加物の含まれた商品を販売した他の食品会社は,一般的対応として,積極的に公表し,被害回復措置をとっていた。
d 以上により,被告取締役らは,TBHQを含んだ「大肉まん」を販売した事実を公表し,上記「大肉まん」を回収し,謝罪,被害弁償等の被害回復措置をとるべき善管注意義務を負っていた。
(ウ) リスク管理体制を構築する善管注意義務
ダスキンは,違法行為を認識したら,直ちに違法添加物を食べさせた消費者に被害回復を申し出る体制を構築しなければならなかった。
イ 被告取締役らの責任原因①−隠ぺい工作等
(ア) 被告Y1は,平成13年2月ころ,当時ダスキンの顧問であったM(以下「M」という。)から,「大肉まん」にTBHQが含まれていることを知らされ,A及びBから上記事実を確認した。
しかるに,被告Y1は,他の被告らに対して上記事実が発覚しないように指示した。
(イ) 被告Y9は,平成12年12月中旬ころ,Mから,「大肉まん」にTBHQが含まれていることを知らされた。
しかるに,被告Y9は,上記事実を被告Y1に報告したり取締役会に上程するなどしなかった。
(ウ) 乙事件被告Y8(以下「被告Y8」という。)は,平成12年12月中旬ころから平成13年1月中旬ころ,Mから,「大肉まん」にTBHQが含まれていることを知らされた。
しかるに,被告Y8は,上記事実を被告Y1に報告したり取締役会に上程するなどしなかった。
(エ) 被告Y2は,平成12年12月下旬ころ,Mから,「大肉まん」にTBHQが含まれていることを知らされた。
しかるに,被告Y2は,上記事実を被告Y1に報告したり取締役会に上程するなどしなかった。
ウ 被告取締役らの責任原因②−被害回復措置をとるべき善管注意義務違反
(ア) 被告取締役らは,前記ア(ア),(イ)の義務に違反し,TBHQを含んだ「大肉まん」を販売した事実を公表せず,上記「大肉まん」を回収せず,謝罪,被害弁償等の被害回復措置をとらなかった。
(イ) 被告Y1を除くその余の被告ら(以下「被告Y2ら」という。)は,経営判断の原則により免責されない。
a 経営判断の不存在
本件販売の事実を積極的に公表しないという被告Y2らの経営判断は存在しない。
b 経営判断の手続的瑕疵
経営判断の原則の適用を受けるためには,判断時点で合理的に利用可能な情報を十分に収集した上で,かつ,時間の許す限り慎重な検討を経たものであることを要する。
本件についていえば,「大肉まん」に違法添加物が含まれていたという事態に対応した善後策を検討することは,食品を販売するダスキンにとって生命線ともいうべき食品衛生法に関する事項であり,対応を誤れば莫大な損害が発生する事項であるから,違法添加物使用に関する他社の事例及び法律専門家の意見等の情報を収集すべきであるとともに,取締役会において決定しなければならなかった(ダスキンの稟議規定によっても,取締役会において決定しなければならなかった。)。
しかるに,被告Y2らは,TBHQの人体への影響についての情報以外の情報を収集せず,被告Y2,同Y3及び同Y4の3名(及び監査役被告Y7)のみで,本件販売の事実を積極的に公表しないことを決定した。
エ 被告取締役らの責任原因③―リスク管理体制構築義務違反
被告取締役らは,ダスキンの取締役として,前記ア(ウ)のようなリスク管理体制を構築すべき義務があったのに,これを怠った。
オ 被告Y7の責任原因
(ア) 被告Y7は,ダスキンの監査役として,被告取締役らが前記ア(ア),(イ)の義務を履行するよう指摘すべき善管注意義務があったのに,これを怠った。
(イ) 被告Y7は,ダスキンの監査役として,前記ア(ウ)のようなリスク管理体制を構築するよう指摘すべき善管注意義務があったのに,これを怠った。
(被告Y1の主張)
争う。
ア 原告の主張イ(ア)の事実は否認する。
被告Y1は,取締役を辞任するまでの間,ダスキンがTBHQを含んだ「大肉まん」を販売したこと及びZに対して6300万円を支払ったことを知らなかった。
(ア) 被告Y1は,平成13年2月22日ころ,Mから,ミスタードーナツの肉まんに食品衛生法上使用が許されていない添加物が入っているという噂がある旨を聞かされ,A及びBに事実を確認したところ,上記両名は,そのような噂はあったが,実際には「大肉まん」にそのような添加物は含まれていない旨説明し,これに符合する厚生省の指定検査機関の証明書を示した。
また,被告Y1が,平成13年2月22日又は23日ころ,被告Y4に対し,上記の経緯を説明したところ,同被告は,「大肉まん」に食品衛生法上使用が許されていない添加物が含まれていたという話は初耳だと明言したことから,被告Y1は,「大肉まん」に食品衛生法上使用が許されていない添加物が含まれていたという事実はないものと認識した。
(イ) 被告Y1は,平成13年4月27日に取締役兼代表取締役を辞任した。
(ウ) 被告Y1は,平成13年5月18日,三和紙器の社長から,Bが同社から3000万円を借り入れてZに対して支払った旨を聞いたことから,同月21日から同年6月11日ころにかけて,被告Y2及び同Y4等ダスキンの他の取締役に対し,上記金員の支払に関する真相解明を促したが,その進捗ははかばかしくなかった。また,被告Y1は,Bに対して事のてんまつを知らせるよう求めたが,同人は,平成13年7月終わりか8月初めころになってようやく事情を明らかにした。
(エ) 以上のとおり,被告Y1は,取締役を辞任した平成13年4月27日(仮に商業登記簿の記載が正しいとした場合,同年6月13日)までの間,ダスキンがTBHQを含んだ「大肉まん」を販売したこと及びZに対して6300万円を支払ったことを知らなかったものである。
イ TBHQは,アメリカ,中国等においては安全性において問題がないものとして使用が許されており,食品衛生法上の指定手続がとられていなかったために許されていないにすぎず,もし指定手続がとられていればおそらく使用が許されていたと思料されるものであって,顕著に人の健康に影響を及ぼし被害をもたらすものでは決してなかった。しかも,ミスタードーナツで販売された「大肉まん」からはTBHQが検出されておらず,当時,その販売により国民に健康被害が発生し,又はその被害が発生する危惧が顕著に認められたものではなかった。
したがって,仮に,被告Y1が,取締役在任中にダスキンがTBHQを含んだ「大肉まん」を販売したことを了知していたとしても,同被告が上記事実を外部(国民)に提供すべき義務を負っていたとはいえない。
ウ 仮に,被告Y1が,ダスキンの取締役としてダスキンがTBHQを含んだ「大肉まん」を販売したという情報を外部(国民)に提供すべき義務を負っていたとしても,未消化のままの情報を直ちに外部に漏らすと,かえって真相が的確に伝わらず無用な混乱をきたし,ダスキンの不当なイメージダウンをもたらすことが大いに憂慮され,これを回避することはダスキンの企業経営をあずかる取締役としての当然の責務でもあるから,情報を的確に把握して,情報を外部(国民)に提供する時期,方法等は慎重に配慮して決定すべきであり,これは,取締役の裁量に委ねられた経営判断に属するものである。
(被告Y2らの主張)
争う。
ア 原告の主張ア(ア)(食品衛生法の趣旨にかんがみた善管注意義務)について
(ア) 厚生大臣によって人の健康を損なうおそれのない場合として定められていない添加物が使用された食品を,当該使用の事実を知って販売する行為が食品衛生法6条に違反するとしても,当該販売がされた後になって,その事実の公表,商品の回収,謝罪等の措置をとるべきであるかどうかは,同法とは別の問題であり,同法が上記措置をとるよう求めているわけではない。
(イ) 食品衛生法6条が,所定の手続を経た厚生大臣による指定がされていない添加物の使用を一律に禁止しているのは,食品の安全確保を図るという目的達成のための手段であって,世界中で作り出される添加物のすべてについて事前にその使用の可否を決定するなどということは事実上不可能であるから,そのように取り扱われているにすぎず,一律に禁止すること自体が目的であるわけではない。そうすると,仮に,食品衛生法6条の趣旨から,厚生大臣によって人の健康を損なうおそれのない場合として定められていない添加物が使用された食品の公表回収等の義務が導かれることがあり得るとしても,客観的見地からその安全性に問題のないことが確かであって,申請さえあれば使用が許されるべき添加物についてまで,その公表や回収をさせることを同法が求めているとは解されない。
しかるに,TBHQは,FAO及びWHOによって設立された,添加物の国際的安全性評価を行っている機関であるFAO/WHO合同添加物専門家委員会(JECFA)においてその安全性が確認され,アメリカ,中国,韓国,オーストラリア,ニュージーランド,マレーシア,シンガポール等十数か国において広く使用されていたものである。
したがって,本件において,食品衛生法6条の趣旨から,本件販売の事実の公表及び「大肉まん」の回収等をするべき義務が導かれることはない。
(ウ) 被告Y2らが本件販売の事実を知ったのは,平成13年7月の社内調査開始以降であって,上記販売終了後既に半年以上が経過していたものであり,もはやそのすべてが消費されて回収等の応急措置を講じ得る状況ではなかった。
イ 原告の主張ア(イ)(消費者の信用を構築・維持・発展させる善管注意義務)について
(ア) 商品の安全性を確保することが消費者の信用に結びつくのであるから,消費者の信用云々ということも商品の安全性を確保すべき義務の中で論じれば足りるし,仮に同義務に包摂されない事象が生じた場合には,各事案の実情を踏まえて個別に取締役の善管注意義務の内容を検討すれば事足りる。
(イ) ダスキンの信用が平成14年5月の事件発覚によって大きく失墜したとすれば,それはまさに,食品衛生法上使用が許されていないTBHQが「大肉まん」に含まれている事実を平成12年11月末日時点で一部役員が知っていたにもかかわらず,国内在庫分の販売を中止せずに販売を継続させたためであって,食品衛生法にあえて違反する当該販売行為そのもの,さらには,それに関して一部役員が6300万円もの不明朗な金員を支払っていたことが悪質であるとの不評,ひんしゅくを買ったからにほかならず,決してダスキンが当該事実を積極的に公表しなかったなど当該事実が世間に知れるプロセスが問題視されたわけではない。
(ウ) 商品の問題を公表するかどうかについては,商品を回収する必要があり,あるいは商品が健康や安全に関わることから飲食に供されることを回避する必要があり,そのため速やかな情報開示が要請されるというような場合は格別,そうでない以上は,それを公表しないという判断が企業経営者として特に不合理,不適切なものでない限り,善管注意義務違反の問題は生じない。
前記ア(ア)のとおり,TBHQを使用することは形式的には食品衛生法に違反するものの,アメリカ,中国等においてはその安全性に問題がないものとして使用が許されていたこと,及びBらがTBHQ使用の事実を知って「大肉まん」を検査したところ,TBHQは検出されず,したがって「大肉まん」のショートニングに使用されていたTBHQは極めて微量であったと認められたことから,TBHQを含んだ「大肉まん」によって消費者に被害が生じていたとはおよそ考えられず,現にそのような被害発生の状況は何らうかがわれなかった。したがって,被告Y2らが被害回復措置をとる必要はなかったし,TBHQ使用の事実を積極的に公表しなければならなかったわけではない。
ウ 原告の主張ア(ウ),エ(リスク管理体制を構築する善管注意義務違反)について
原告が「違法行為を認識したら,直ちに違法添加物を食べさせた消費者に被害回復を申し出る体制」と主張するときの消費者の被害とはどのような被害であって,被害回復を申し出る体制とは具体的にどのような体制であるのか,およそ不明であるといわざるを得ない。
エ 原告の主張イ(隠ぺい工作等)について
原告の主張イ(イ)から(エ)までの事実はいずれも否認する。
なお,被告Y2らが,ダスキンが食品衛生法上使用が許されていない添加物(TBHQ)を含んだ「大肉まん」を販売したことを認識した時期は,次のとおりである。
(ア) 乙事件被告Y10(以下「被告Y10」という。)
平成13年7月12日ころ
(イ) 被告Y7,同Y4,同Y2及び同Y3
平成13年7月18日ころ
(ウ) 被告Y6 平成13年7月26日ころ
(エ) 被告Y11 平成13年9月中旬ころ
(オ) 被告Y5 平成13年10月ころ
(カ) 被告Y8及び同Y9 平成13年11月中旬ころ
オ 原告の主張ウ(被害回復措置をとるべき善管注意義務違反)について
本件においては,実際に行われた取締役の経営判断そのものを対象として,その前提となった事実の認識について不注意な誤りがなかったかどうか,また,その事実に基づく意思決定の過程が通常の企業人として著しく不合理なものでなかったかどうかという観点から審査を行った場合,事実の認識に不注意な誤りがあったとは認められないし,意思決定の過程が著しく不合理であったとも認められないから,被告取締役らについて善管注意義務違反は認められない。
被告Y2らが本件販売の事実を認識した後,ダスキンとしてこれを自ら積極的に公表することはしないという経営判断をするに至った過程は,次のとおりである。
(ア) 被告Y4及び同Y7が平成13年7月20日にBに対して事情聴取を行った結果,「大肉まん」にTBHQが使用されていた事実が明らかとなったため,被告Y4及び同Y7は,TBHQの安全性を確認することが先決と考え,Gに対し,安全性の確認内容の報告を求めた。Gは,平成13年7月下旬ころ,TBHQは,アメリカではポテトチップスを揚げるのによく使用されているほか,中国でも使用されている酸化防止剤であり,厚生省指定検査機関である社団法人日本油料検査協会による検査の結果,「大肉まん」からはTBHQは検出されなかった経緯にあるとの報告を受け,資料の提出を受けた。被告Y4らは,Gに指示して,更に資料を収集し,多くの国で使用が認められている事実や,量的な面においても「大肉まん」の安全性にはまったく問題がないことが明らかとなった。
(イ) 平成13年10月1日に発足した「MD調査委員会」の調査検討が進められていたころ,被告Y2,同Y3,同Y4及び同Y7は,本件販売の事実を厚生労働省又は保健所に届け出ることができるかどうかを非公式に検討したが,Gから,当該「大肉まん」の販売が中止されてから既に1年近くが経過していて現物も存在せず,厚生省指定検査機関の検査でもTBHQが検出されなかった等の理由から,届け出ても受け付けられないとの報告がされたため,被告Y2は,届出について断念した。
(ウ) 被告Y2,同Y3,同Y4及び同Y8は,前記の状況を踏まえ,平成13年11月28日,ダスキンの最高経営顧問らの意見を仰いだが,万一,指摘を受けた際にきちんとした説明ができるように準備しておくべきであるとの意見はあったものの,直ちに積極的に公表すべきであるとの意見は出されなかった。
(エ) 以上のとおり,TBHQを含んだ「大肉まん」の摂取によって消費者に健康被害が生ずる危険性はないものと考えられ,実際に被害発生の状況は何らうかがわれなかったこと,公表によって商品を回収できる状況にもなかったことに加え,厚生労働省又は保健所に届け出る術もないということであったことから,被告Y2は,同Y3,同Y4及び同Y7の意見を徴し,最高経営顧問の意見も聴いた上で,平成13年11月末ころまでに,ダスキンとして本件販売の事実を自ら積極的に公表することはしないという経営判断を行うに至った。
カ 被告Y7の責任について
以上のとおり,被告取締役らに善管注意義務違反が認められない以上,被告Y7には何らの責任も認められない。
(6)  争点(6)(本件販売認識後の対応と本件出捐等との間の因果関係)について
(原告の主張)
ア ダスキンに対する社会的非難は,被告らがいつ違法添加物の使用を知り,いつ「大肉まん」の販売が終了したかに関係なく,仮に「大肉まん」の販売が終了していたとしても,被告らが違法添加物使用の事実を公表するシステムを欠いたまま隠ぺいし続けたという点に集中している。したがって,被告らが本件販売の事実を早期に公表しなかったことによって損害が拡大したものであるから,因果関係が認められる。
イ 仮に,被告らが本件販売の事実を隠ぺいしたのではなく積極的に公表しなかったにとどまるとしても,被告らが本件販売の事実を早期に公表しなかったことによって損害が拡大したものであるから,因果関係が認められる。
(被告らの主張)
争う。
本件出捐は,①ミスタードーナツ加盟店に対する営業補償金,②営業活動及び販売活動の自粛後の売上げ向上のためのキャンペーン費用等,③顧客に対する謝罪の意思を表すなどのために発行した優待券の回収費用等,④新聞掲載費用等,⑤「大肉まん」の在庫品,仕掛品等の廃棄に伴う損失から成るが,ダスキンが本件販売を行った以上,たとえ平成13年7月以降において早期に本件を公表していたとしても,本件行政処分,「大肉まん」の販売中止,顧客の離反(売上げの減少)を免れることはできず,したがって,信頼回復及び売上向上のための諸活動をする必要があるのは明らかであり,本件出捐は不可避的に発生していたものであるから,被告Y2らの本件販売認識後の対応と本件出捐との間には因果関係がない。
(被告Y1の主張)
本件出捐の中には,ダスキンが政策的配慮から又は社会的儀礼上任意に支出したと見られるものが多く含まれており,そのすべてが被告Y1の善管注意義務違反行為と法律上の因果関係を有するものではない。本件販売や本件支払の事実が公表されダスキンの信用が失墜させられたとしても,これはA及びBの行為から生じた不可避の結果であってその他の取締役の行為に起因する結果ではなく,所せん他の取締役においてこの結果を阻止,防止する余地はなかった。仮に,ダスキンの取締役会が設置した調査委員会の活動が多少手間取り,対策の樹立,非違事実の公表,謝罪等が遅れたとしても,本件出捐がA及びBを除く他の取締役の行為と相当因果関係を有するということはできない。
(7)  争点(7)(被告Y1が噂を取締役会に報告するなどしなかったことについての善管注意義務違反・忠実義務違反)について
(原告の主張)
仮に,被告Y1が,平成13年2月当時,何らかの食品衛生法上使用が許されていない添加物が「大肉まん」に含まれていたとの噂があった旨の事実しか認識していなかったとしても,同被告は,上記噂の出所,検査機関の適正性,検査事項及び検査方法の適正性並びに問題となっている添加物の種類及び人体への影響力等について,自ら又は部下に指示して積極的に調査,確認するとともに,上記噂があったことを取締役会に報告し,上記調査結果を取締役会に上程し,その結果いかんによっては,一般消費者に事実を公表しなければならない善管注意義務・忠実義務を負っていた。
しかるに,被告Y1は,上記義務を怠った。
(被告Y1の主張)
争う。
被告Y1は,会社の職制上責任者とされているA及びBから,裏付け証拠を示しつつ「大肉まん」に食品衛生法上使用が許されていない添加物が使用されていたという事実がなかった旨弁明を受け,その説明を信用してそれ以上特段の調査を要しないと考えたものであり,同被告の判断や措置は,誠にやむを得ないところであった。
第3  当裁判所の判断
1  争点(1)(被告Y7に対する訴えの適法性)について
被告Y7は,平成15年1月14日に到達した書面による提訴請求は,監査役についての提訴請求を受領する代表権のない監査役に対するものであり,同年5月15日に到達した書面による提訴請求は,原告が被告Y7に対して本件訴訟を提起した後の提訴請求であるから,ダスキンに対して真に訴えを提起する機会を与えたことにはならず,提訴請求としての効力が認められないものであるから,同被告に対する訴えは却下を免れない旨主張するので,検討する。
提訴請求を株主代表訴訟の訴訟要件とする趣旨は,会社に対して,被告に対する責任追及の訴えを提起することの要否及び当否について検討する機会を与えることにあるところ,本件では,株主代表訴訟の提起後であるとはいえ,提訴請求がされたのであるから,ダスキンに責任追及の訴えを提起することの要否及び当否について検討する機会は与えられたものである。そして,本件においては,ダスキンが,上記のとおり責任追及の訴えを提起することの要否及び当否について検討する機会を与えられたにもかかわらず,60日間,訴えを提起し,訴訟に参加し,又は何らかの意思を表明しなかったのであるから,提訴請求の制度趣旨に照らして,このような場合にまであえて訴えを却下する必要はないものと解される。
この点,会社が請求に応じて訴えを提起したとしても,その訴えは二重起訴に当たるものとして却下されるおそれがあるから,訴え提起後に提訴請求をしても,会社に対して真に訴えを提起する機会を与えたことにはならないとの考え方もあり得るが,この場合,むしろ株主代表訴訟の方が瑕疵が治癒されず不適法な訴えとして却下されるものと解するのが相当であるから,訴え提起後の提訴請求であっても会社に対して真に訴えを提起する機会を与えたことになるといえる。
したがって,被告Y7に対する本件訴えは適法であり,同被告の前記主張は理由がない。
2  事実経過
前記第2の1の事実に関係証拠(甲4号証の1ないし3,5号証,9号証の1ないし3,10号証の1ないし6,11号証の1ないし8,71号証,75号証の1,3ないし5,8,10,81号証,乙イ5号証,乙ウ1号証,3ないし10号証,14号証,17号証,24号証の2,30号証,32号証の1ないし4,33号証の1,2,35号証,36号証,39号証の1,2,40号証の1,2,41ないし44号証,46号証,50号証,55号証,68号証,71号証,72号証,84号証の3,85号証,乙エ2号証,3号証)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。
(1)  ダスキンの組織,決裁権限の分配等
ア ダスキンの平成12年11月から平成13年1月当時の本社組織は,大別して五つの事業部門(生産本部,訪販事業グループ,ケアサービス事業グループ,フードサービス事業グループ,レントサービス事業)と管理部門(人事本部,総務本部,経理本部等)とから成り立っていた(乙ウ1号証)。
イ ダスキンは,平成12年7月10日,全事業部門を「完全資金独算会社」とし,権限と責任を各事業部門の責任者に委譲する旨の稟議規定の改定を行った(乙ウ3号証)。
稟議規定には,各事業部門(本社スタッフ部門を含む。)ごとに,金額による決裁範囲が定められていた。この金額による決裁範囲は,部門内スタッフ,スタッフ責任者,部門責任者,担当役員,総括責任者の順に大きくなり,総括責任者の決裁範囲(1億円以下とされる部門と5億円以下とされる部門があった。)を超える案件については,経営情報担当専務取締役被告Y3又は役員協議会(取締役会)が決裁権限を有することとされていた。また,部門内スタッフの決裁枠については,各部門内で定めることとされていた(乙ウ3号証)。ただし,業務委託契約の締結に関する件は,関係部門(人事,総務,経理,監査)の役員及び被告Y3の決裁・確認の上,役員協議会(取締役会)による最終決裁が必要であった(乙ウ3号証)。
ウ ダスキンのフードサービス事業グループ(担当専務取締役A)は,フードサービス事業本部(本部長取締役被告Y11)とミスタードーナツFC本部(本部長取締役B)とから成り立っていた(乙ウ1号証)。
ダスキンは,本件支払当時,稟議規定において,ミスタードーナツFC本部の3000万円以下の案件についてはBの単独決裁とし,3000万円超1億円以下の案件についてはAとBの共同決裁と定めていた(乙ウ3号証)。
(2)  皇宮との間の技術提携覚書
ダスキンは,ミスタードーナツ事業本部(ミスタードーナツFC本部の当時の名称。以下「MD本部」という。)が展開するミスタードーナツ事業に飲茶点心類を導入するに当たり,平成4年11月13日,サントリー株式会社の子会社であり,餃子専門店等を経営している皇宮との間で,次のような内容を含む技術提携覚書を締結した(乙ウ17号証,36号証)。
ア MD本部は,ミスタードーナツ事業の新商品として飲茶点心類を取り扱い,皇宮は,MD本部が希望する飲茶点心類の開発・提案をMD本部に対して行うとともに,皇宮がその権利を有するレシピを開示しかつ技術指導をして,飲茶点心類の生産・供給体制を支援するものとする。
イ 飲茶点心類は,MD本部と皇宮が協議し決定した製造業者にMD本部が製造を委託するものとし,MD本部が指定する流通業者を通じて,MD本部が主宰統括する加盟店の店舗に直接納品させるものとする。
ウ 皇宮は,イの製造業者に対し,自己の権利に属するレシピを開示しかつ技術指導を行いMD本部の指示する品質の商品開発と製造を行わしめるものとする。
エ(ア) MD本部は,皇宮に対し,飲茶点心類の商品開発委託金として1億円を支払うものとする。
(イ) MD本部は,皇宮の商品の開発提案,レシピの開示・技術指導の対価として,年間2億円を上限として,MD本部が主宰統括する加盟店に対する飲茶点心類全類の納品価格の2パーセント相当の生産技術協力費を支払うものとする。
ただし,この上限額については,正式導入開始後6年を経過したときに双方協議の上見直しをするものとする。
(ウ) (ア),(イ)の支払方法等については,MD本部と皇宮の間で別途協議の上決定するものとする。
(3)  ハチバンとの間の製造委託契約締結の経緯等
ア ハチバンを含むハチバングループは,当時,ラーメンのフランチャイズチェーン(昭和40年代以降),中華ファミリーレストラン(平成9年以降)等を経営していた。また,ハチバングループは,生ラーメン,蒸し餃子及び冷凍ワンタン等を自社工場で製造し,販売していた。そして,ハチバンの子会社である株式会社ハチバントレーディングは,食品及び食材の輸入及び販売事業等を行っていた(乙ウ39号証の1)。
ハチバンは,平成5年にその株式を店頭登録していた(乙ウ39号証の2)。
イ ダスキンは,平成10年当時,「新規仕入先選定マニュアル」(乙ウ46号証)を策定していた。同マニュアルでは,新規仕入先を選定するに当たっては,①情報の収集分析(現地調査,信用調査等による必要な情報の収集,書類審議(信用調査の結果がCランク以上を対象とする等),工場調査(生産体制・品質管理体制の調査)),②購買条件の交渉,③仕入先決定,④契約というステップを経ることとされていた(乙ウ46号証,弁論の全趣旨)。
ダスキンは,平成10年以降,ハチバンからワンタン麺及びワンタンスープの具材として冷凍ワンタンを仕入れていたが,ダスキンは,上記仕入れを開始するに当たり,上記「新規仕入先選定マニュアル」に従って,「新規仕入先評価表」(乙ウ42号証)及び「新規仕入先提案書」(乙ウ41号証)を作成していた。新規仕入先評価表においては,「品質管理能力」という項目(着眼点として,「品質管理が組織的かつ機能的に実施されているか」「過去に発生したクレームに対して適切な処理を行ったか」等が挙げられる。)が設けられ,評価者の所見・コメントとして,「品質管理センターを置き,原材料と製品の検査実施を徹底している。」(ハチバンは,工場製品を始め社外と取引している商品,原材料について,成分,味,細菌数,その他の品質が決められた基準の範囲内にあるか検査し,基準外のものについては入出荷停止等の指示を行う部署として品質管理センターを設けていた(乙ウ39号証の1)。)と記載され,10点満点中7点の評点が付けられていた。また,新規仕入先提案書には,ハチバンの主な仕入先及び主な販売先が記載されていたほか,「品質管理」という項目が設けられ,ハチバンが材料受入検査部門及び出荷検査部門を有していることが記載され,また,下請工場を利用していないことなどが記載されていた(乙ウ41号証,42号証)。
ダスキンは,上記新規仕入先評価表及び新規仕入先提案書等を資料として,稟議の上,平成10年7月22日,ハチバンとの取引を決定した(乙ウ40号証の1,2)。
ウ ダスキンは,平成12年7月13日現在で,ハチバンが製造する「大肉まん」について,「原材料規格書」(乙ウ50号証)を徴求していた。同規格書には,「製品概要」(供給責任を負う販売会社がハチバンであること,品質責任を負う生産工場が仁木食品であり,HACCPを導入済みであること,輸入者が株式会社ニッキートレーディング(以下「ニッキートレーディング」という。)であること等の記載がある。),「配合表」(原材料名,重量(百分率),原産国・生産地等の記載があるほか,アレルギー成分等特記の必要な成分として,動物性油脂(豚脂)及び肉系成分(豚肉)の記載がある。),「衛生規格」(一般生菌数10の4乗以下,大腸菌群陰性,黄色ブドウ球菌陰性,サルモネラ陰性,カビ・酵母陰性との記載がある。)等の記載がある。(乙ウ50号証)
なお,上記原材料規格書の配合表には,ショートニングについて,パーム油100パーセントとの規格・指定が記載されている。
エ 仁木食品は,麺類,中華点心の製造及び販売を事業内容とするニッキーフーズが中国に設立した会社であり,その工場は,平成9年に農林水産省食肉加工食品認定工場として稼働し,平成10年にISO9002認証を取得しており,平成14年にはHACCP認証を取得した(乙ウ43号証,44号証)。
ニッキーフーズは,昭和40年5月に株式会社大阪ワンタン本舗として設立された株式会社であり,中国所在の工場として仁木食品を擁していたほか,国内においても2か所の工場を有していた。ニッキートレーディングはニッキーフーズの関連会社である(乙ウ43号証)。
オ ダスキンは,平成12年10月1日,ハチバンとの間で,次のような内容の「大肉まん」の製造委託契約を締結した(乙ウ24号証の2)。
(ア) 製造供給量は月産400万個を目処とし,店舗数,売上げの増減により変動する。
(イ) 製造供給日は平成12年10月とする。
(ウ) 「大肉まん」の仕様は開発したレシピ・原材料規格書に基づく。
(エ) 価格は別途協議の上決定する。
(オ) 品質管理・衛生管理は万全を期し,ミスタードーナツの基準を満たすこと。
(カ) 生産工場はHACCP又はISO9001の基準に準ずる工場であること。
(キ) 発注期間は平成12年10月から平成13年9月までとし,双方話し合いにより1年ごとに更新する。
(ク) その他の事項については,双方話し合いによって決定する。
(4)  ダスキンの違法行為防止に関する取組み等
ア 危機管理行動チェックリスト
ダスキンは,本件販売及び本件支払当時,「危機管理行動チェックリスト」において,ダスキンで考えられる危機の種類として「企業の過失・犯罪」を掲げ,違法行為について,内部摘発があれば総務本部及び監査役が対応し,関係機関からの摘発があれば「法務奉行」という担当者を中心に特別対応チームを編成して対応し,社会問題化したり企業責任が追及されたり社内から逮捕者が出た場合には全社緊急対策本部を設置して対応する旨を定めていた。また,ダスキンは,上記チェックリストにおいて,「欠陥商品」を掲げ,健康障害について,顧客からのクレームや消費者協会等の改善指摘があれば該当事業本部が対応し,訴訟になった場合には「PL奉行」という担当者を中心に特別対応チームを編成して対応し,顧客への被害が多数発生したり製品を回収する事態になる等の場合には全社緊急対策本部を設置して対応する旨を定めていた。(乙ウ30号証)
イ 稟議規定
ダスキンは,本件販売及び本件支払当時,稟議規定において,経営上の重要な事項,特に「お客様,加盟店,支店,店,工場,取引先等の問題・課題」について,担当取締役は役員協議会(取締役会)に報告するように定めていた(乙ウ3号証)。
ウ 社員研修
ダスキンは,すべての新入社員に対し,ダスキンの社員として遵守すべき内容を記載した「〈教育マニュアル〉新人働きさん教育テキストⅠ,Ⅱ,Ⅲ」を配布するとともに,新人研修において,このテキストの内容をすべて説明し,周知徹底を図っていた。「〈教育マニュアル〉新人働きさん教育テキストⅢ」の中には,ミスや突発的な問題は素早い対応が望まれるため,最優先で報告すること,連絡が遅れた分だけ事態が悪化すること等が記載されている。(乙ウ32号証の1ないし4,33号証の1,2,弁論の全趣旨)
エ 危機管理セミナー
ダスキンは,平成12年7月13日,富士火災海上保険株式会社顧問を招いて,「雪印乳業集団食中毒事件の問題点と反省点〜「危機管理」の欠如で被害拡大〜」と題するセミナーを開催した。同セミナーでは,(1)事件の概要(雪印乳業の大阪工場が製造し出荷した製品による集団食中毒事件が発生したこと,前後して発生した参天製薬の目薬への異物混入事件で同社が損失を覚悟で短時間で250万個の製品の回収を決定し完了させたことと比較され,社会的に批判を受けていること等),(2)問題点((ア)社内のルール違反(①事実の確認の欠如,②報告,連絡の欠如,③現場と管理部門との連携の欠如,④製品の回収指示が遅れたこと,⑤製造工程に問題があったこと,⑥工場に保管されるべき洗浄記録の欠落,⑦責任体制の欠如),(イ)マスコミ対策の不十分さ(①マスコミ(危機広報)対策が不十分であったこと,②マスコミに対して隠ぺい(ミスリード)した事実があったこと,③窓口一本化対策が推進されていなかったこと)),(3)反省点(対応策)(①事実確認と実態調査,②経営トップの認識,③プロジェクトチームの編成,④事件,事案への基本方針の決定,⑤監督官庁への報告,連絡,⑥関係部門の連携,協力,⑦製品回収の決定と指示,⑧広報対策の推進,⑨被害(消費者,量販店,関係業者等)補償対策の推進,⑩訟務対策の推進)といった点が説明された。(乙ウ35号証)
(5)  ダスキンの本件支払当時の経理に関する規定等
ア ダスキンの経理本部(当時本部長取締役被告Y5)は,同社の単独及び連結の各予算業務及び各決算業務(具体的には,月次決算報告,経営資料作成,営業報告書作成,株主総会資料作成,予算対比管理,予算実績進捗把握,国際会計基準経営基盤作成,連結決算処理統一基準策定等)を業務内容としていた。
イ ダスキンにおいては,前記(1)イのとおり,稟議規定に定められた決裁権限の範囲内で,各事業部門に権限が委譲され,各事業部門の統括責任者及び担当役員の責任の下に,伝票入力から証票等のチェック及び伝票の承認行為に至るまでの処理が各事業部門内で完結するシステムが採用されていた。したがって,上記承認行為をもって,仕訳データの処理及び銀行振込手続等も自動的に行われ,本社経理本部には伝票が回ってこないシステムとなっていた。(乙ウ55号証,弁論の全趣旨)
ウ ダスキンにおいては,随時更新される最新の経理データを,いつでも誰でも検索,照会,ダウンロードすることが可能な経理システムが採用されていた。そして,すべてのデータについて履歴が保持され,入力,変更及び承認のいずれについても,いつ,誰が,何をしたのかが時系列で記録される仕組みとなっていた。(乙ウ55号証,弁論の全趣旨)
エ ダスキンにおける平成12年4月1日から平成13年3月31日までの仕訳レコード件数は,借方と貸方を別々に数えると,422万8026件(1か月平均35万2336件(小数点以下四捨五入。以下同じ。),1日平均1万7617件(1か月の稼働日数を20日として計算))であった(乙ウ55号証)。
(6)  「大肉まん」へのTBHQの使用及び本件販売
ア 仁木食品が「大肉まん」の皮の原材料として使用したショートニングの中に,TBHQが含まれていた(TBHQ(g)/肉まん重量(kg)=0.00012g/0.12kg=0.001g/kg 甲4号証の1,2)。
イ Zは,後記(8)のとおり○○社において「大肉まん」のテスト製造をしていた際に,ハチバンが製造した「大肉まん」に日本では使用が許されていない添加物であるTBHQが含まれたショートニングが使用されていることを知り,平成12年11月30日,ダスキンを訪問し,ミスタードーナツFC本部のGらに対し,上記事実を告げた。なお,その場に,Mも同席をしていた。
Gは,直ちにBにこのことを報告し,同人は,事実関係を至急調査するように指示した(乙ウ14号証,乙エ3号証)。
仁木食品は,同年12月2日,ショートニングの仕入先に確認して,「大肉まん」に使用しているショートニングには日本で使用が許されていない添加物が含まれていることが判明したため,自主的に操業を停止した。ダスキンから出張した品質管理担当者は,同日,Gに対し,日本では使用が許されていないTBHQが「大肉まん」に使われていることと,午後からの工場の操業停止を報告した。(甲4号証の2)
Bは,同日ころ,Aに対し,ハチバンが製造した「大肉まん」に日本では使用が許されていない添加物であるTBHQが使用されていた旨を連絡するとともに,国内の公的機関に「大肉まん」の食品分析を依頼しており,同月6日に結果が出るので,在庫品の廃棄等は待って欲しい旨要望し,Aはこれを了解した(甲71号証,81号証,乙イ5号証,乙エ3号証)。
Gは,同日,定量下限0.01g/kgでの検査において,「大肉まん」の2検体からTBHQが検出されなかった旨をBに報告した(乙ウ14号証)。
ウ A及びBは,平成12年12月8日ころ,ハチバンが製造した「大肉まん」について販売を継続することを決定した(甲5号証,81号証,乙ウ14号証)。
ダスキンは,「大肉まん」について,平成12年4月にテスト販売を開始し,同年10月6日に本格販売を開始した。そして,同年12月20日ころまでの間に,テスト販売期間中に販売したものも含め,TBHQが含まれた「大肉まん」を1314万個(同年12月1日以降で約300万個。この中には,同月7,8日に通関した68万4000個,同月10日船積み,同月15日通関した65万6560個が含まれる。)販売した。(甲5号証,乙ウ14号証)
(7)  本件支払に関する経理処理
ア 平成12年12月11日,「異物混入調査費用」という名目で,Bに対する300万円の小切手による仮払いが,ミスタードーナツFC本部から経理本部あてに依頼され,同月12日,B名義の預金口座に振り込まれた(乙ウ4号証)。Bは,同月13日,Zに対して上記300万円を支払った。
イ 平成12年12月12日,○○社に対する500万円の小切手による仮払いが,ミスタードーナツFC本部から経理本部あてに依頼され,同月13日,Z名義の預金口座に振り込まれた(乙ウ5号証)。
ウ ダスキン(ミスタードーナツFC本部)は,平成12年12月15日,Zに対し,2500万円を支払った。○○社(代表取締役Z)は,これを受けて,ダスキン(ミスタードーナツFC本部)あてに業務委託料(手付金分)800万円及び業務委託料(残金)2500万円をそれぞれ受領した旨の同日付の領収書2通を交付した(乙ウ9号証,10号証)。
エ 平成12年12月19日,「異物混入」という名目で,Bに対する2500万円の振込みによる仮払いがミスタードーナツFC本部から経理本部あてに依頼され,同日,支払が実行された(乙ウ8号証)。
オ Bは,平成13年1月18日,三和紙器から3000万円を借り入れ,同日,Zに対してこれを支払った。
(8)  ダスキンと○○社の交渉経過
ア Aは,平成12年5月にZを紹介されたものであるが,同年7月には,Zから「大肉まん」の製造をしたい旨の申入れを受けた(甲4号証の2,乙ウ14号証)。
イ ○○社は,平成12年8月ころから「大肉まん」のテスト製造を始めたが,同年9月に至っても予定の水準に達せず合格品を製造することができなかった(甲4号証の2,乙ウ14号証,弁論の全趣旨)。
ウ Gは,平成12年10月,Aに対し,同年9月に訪中し,○○社が「大肉まん」を実際に製造させるとしていた工場を視察したが,特に設備面,衛生管理面に問題があり,現状では同工場での生産は難しい(何らかの投資をする必要がある上,日本サイドでの品質管理をどうするかという問題もある。),また,既に伊藤ハムの2工場及びハチバンの1工場が立ち上がっており,現状ではこの3工場でも供給が間に合う旨を報告した(乙ウ14号証)。
エ ダスキン(ミスタードーナツFC本部(B))は,平成12年12月5日,○○社に対し,次のような前提条件を含む「MD肉まん製造依頼書」を交付した(乙ウ14号証)。
(ア) 製造供給量は全量の3分の1(月産200万個)を目処とする。
(イ) 製造供給日は平成13年2月を目処とする。
(ウ) 現行肉まんと同品質(味・外観・大きさ・使用原材料)であること。
(エ) 価格は工場出し価格29.53円とする。
(オ) 品質管理・衛生管理には万全を期し,ミスタードーナツの基準を満たすこと。
(カ) 生産工場はHACCP又はISO9001の基準に準ずる工場であること。
(キ) 発注期間は平成13年1月から同年12月までとする。
オ Zは,平成12年12月7日,皇宮に対し,商品開発の指導を怠ったとして7000万円の損害賠償を要求した。同月8日,Zに対する対応は,Aの了解の下,Bがすることとなった。(乙ウ14号証)
カ ダスキン(ミスタードーナツFC本部(B))と○○社は,平成12年12月13日付けで,平成13年1月1日から同年12月31日までを契約期間とし,○○社がダスキンの品質基準に基づいたミスタードーナツオリジナル肉まんを安定供給し(供給量は月産200万個),ダスキンが委託料年額3300万円を支払う旨の業務委託契約を締結した(乙ウ6号証)。
なお,上記業務委託契約締結に際して,被告Y10(当時ミスタードーナツFC本部内の管理本部長)が平成12年12月15日に起案した「稟議決裁書」(乙ウ7号証)は,次のような内容であった。すなわち,「大肉まん」については,発売当初よりすべて中国本土において生産し冷凍加工後に輸入して対応しているが,昨今,異物混入が相次いだことから,危機対策室が再度中国本土に赴いて製造工程の再々チェックや現地での再発防止の協議をしている。それと並行して,ハチバンと伊藤ハムの工場だけでは不安定要素が払拭できないとの判断から,急きょ,Aの決断により,○○社と業務委託契約(契約期間平成13年1月1日から同年12月31日までの1年間,委託料年3300万円)を締結する形としたい。(乙ウ7号証)
Bは平成12年12月15日,Aは同月19日,それぞれ上記の稟議を承認する旨の決裁をした。しかしながら,役員協議会(取締役会)の最終決裁はもちろん,関係部門の役員や被告Y3の決裁・確認もされていなかった。(乙ウ7号証)
キ 皇宮は,平成12年12月15日,ダスキン(ミスタードーナツFC本部)に対し,「一連の管理責任不徹底のお詫びと今後の事業発展に向けての弊社開発体制の再提案」と題する書面を提出し,皇宮がダスキンから受領していたロイヤルティを,平成13年1月1日納品分より,ダスキン購入価格の1パーセントに変更したい旨提案した(乙ウ14号証,乙エ2号証)。ただし,皇宮は,平成12年10月1日にも,「大肉まん」の生産技術協力費を,同年12月31日までの納品分については納品価格の1.6パーセントとし,平成13年1月1日以降の納品分については納品価格の1パーセントとする旨を提案していた(乙ウ68号証)。
また,皇宮は,平成12年12月15日,ハチバンに対し,「ダスキン様「大肉まん」技術協力のお詫びと今後にむけての協力のお願い」と題する書面を提出し,ハチバンの「大肉まん」廃棄損の一部として500万円を負担したい旨提案したが,同社はこれを受領しなかった(乙ウ14号証)。
ク ダスキンミスタードーナツFC本部内の品質管理室室長H(以下「H」という。)は,平成13年4月20日,○○社が「大肉まん」を実際に製造させるとしていた工場(なお,同年3月に製造工場が変更された。)を調査し,Gに対し,次のように報告した。すなわち,設備が完成状態ではなく,最終判断できる段階に至っていないが,今のままでは不適格である。同年5月7日に設備が完成した段階で,75点(適格とは認められないが,要注意の取引先としては取引を開始することが可能である点数)となるだろうと想定している。同日に設備は最低限整うことになるが,品質管理体制は未熟である。少なくとも,不備を自主的に発見し,改善できるまでには至っていない。(乙ウ14号証)
Hは,同月11日に再度上記工場を調査し,Gに対し,次のように報告した。すなわち,前回の指摘項目は,施設及び設備についてすべて改善されている。ダスキンの指摘とは別に行政からの改善指導があり大規模な改修工事をしている。その工事がまだ終わっていない段階で,工事現場のようにセメントは乾いておらず,ペンキ塗り立ての状態である。総合評価は,適格取引先ではなく要注意取引先である。(乙ウ14号証)
ケ ダスキンは,平成13年9月10日,○○社に対し,①中国当局の輸出許可,国内輸入許可の目処等の輸出入許認可状況,②現在までに生産し備蓄している「大肉まん」の数量,③現在の生産数量(日産)及び生産計画等の報告を求めた。これに対し,○○社は,同月13日,①中国当局の輸出許可は取得済みであり,国内輸入許可についても,同月末ころに手続が完了する見込みである,②同月12日現在で「大肉まん」約72万個を備蓄している,③現在の生産数量は日産5万5000個で,10月又は11月を目処に日産8万個という生産計画を立てているといった内容を報告した(乙ウ14号証)。
コ ダスキンは,平成13年10月30日付け通知書をもって,○○社に対し,同社との間の業務委託契約及び同社に対するMD肉まん製造依頼を同年12月末日をもって解約する旨の意思表示をした(甲4号証の3,乙ウ85号証)。
なお,○○社から,ダスキンに対し,上記業務委託契約に基づき納品された「大肉まん」は,同年10月31日から同年12月27日までで,合計262万2640個であった(乙ウ84号証の3)。
サ ○○社は,平成14年3月9日,ダスキンを被告として,契約上の地位確認請求訴訟を当庁に提起した(甲4号証の3)。
(9)  ダスキンの本件販売後の対応等
ア ダスキンは,平成13年9月18日に,社外取締役の被告Y6が代表取締役社長の被告Y2に対し,調査委員会の設置を提言したことに基づき,本件販売及び本件支払について調査するために,「MD調査委員会」を発足させた。同委員会は,取締役の被告Y11(フードサービス事業本部長)を委員長とし,同Y10(ミスタードーナツカンパニー社長),同Y5(経理本部長),監査役の被告Y7のほか,社内からG,I(監査部部長),J(ミスタードーナツカンパニー総務部法務管理主任),ミスタードーナツ加盟店の社長Kの合計8名で構成された。その目的は,主として担当者の処分と今後の方針等について検討することにあり,同年10月1日から同年11月5日までの間に合計5回,委員会が開催された。同委員会は,社内関係者からの事情聴取に基づき,ダスキンと○○社の交渉経過等について調査し,同月6日付けで,被告Y2あてに調査報告書を提出した。上記調査報告書には,同委員会の所見として,本件販売及び本件支払について,A及びBに善管注意義務違反が認められる旨等が記載され,担当者の処分その他今後の方針等について,Zについては速やかに取引関係を解消しなければならないこと,同委員会の調査にかかる情報の開示については,性質上,慎重を期する必要があるので,内容の開示に際しては,その時期,方法,内容等について十分留意されたいこと等が記載されている。(乙ウ14号証,72号証)
イ ダスキンは,前記MD調査委員会の調査報告書の提出を受けて,平成13年11月29日開催の取締役会において,本件販売及び本件支払に関し,Bの取締役辞任を受理すること,Aとの間の顧問契約を解約すること,被告Y10を1か月間100分の10の減給とすること等の処分を決定した(甲75号証の1)。
ウ ダスキンは,平成13年11月末ころまでに,本件販売に関するTBHQ問題について,自ら積極的には公表することをしないこととした(乙ウ72号証)。
エ ダスキンの本件販売については,厚生労働省又は農林水産省への匿名による通報があり,平成14年5月15日,保健所が大阪府下のミスタードーナツ店8店舗に立入検査をしたことをきっかけとして,同月20日,共同通信社からダスキンに対し取材がされた。そこで,ダスキンは,同日,記者会見をして,本件販売の事実を公表した。翌21日以降,新聞等のマスコミで本件販売及び本件支払等について,大きく報道された。特に,ダスキンが食品衛生法上使用が許されていない添加物を含んだ「大肉まん」の販売を故意で継続するという食品衛生法違反行為を行ったこと,当該事実を指摘した業者に「口止め料」を支払ったこと,更に被告Y1により隠ぺいがされたこと等の疑惑が大きく報道された。(甲4号証の3,9号証の1ないし3,10号証の1ないし6,11号証の1ないし8,乙ウ71号証,72号証)
オ 大阪府は,平成14年5月31日,ダスキンに対し,本件行政処分をした。
ダスキンは,同日,上記処分を受けて,被告Y2の報酬を3か月間全額カットすること,同Y3を代表取締役副社長から代表取締役専務に降格し,その報酬を3か月間30パーセントカットすること,同Y4を常務取締役から取締役に降格し,その報酬を3か月間20パーセントカットすること並びに同Y11,同Y10,同Y8及び同Y9の報酬をそれぞれ3か月間20パーセントカットすること等の処分を決定した(甲75号証の3)。
カ ダスキンは,平成14年6月20日開催の取締役会において,「ダスキン再生委員会」の発足を決定した(甲75号証の4)。
ダスキン再生委員会は,本件販売及び本件支払等の事実関係を調査し,同年9月25日,被告Y2に対し,報告書を提出した(甲4号証の1ないし3,75号証の10)。
キ ダスキンは,平成15年9月4日,本件販売を理由に,食品衛生法違反の罪で,本件略式命令を受けた。
(10)  本件出捐の内訳
ア 本件出捐のうち,「ミスタードーナツ加盟店営業補償」57億5200万円は,本件販売の発覚によりミスタードーナツ事業の加盟店の売上げが減少したことを受けて,ダスキンが,上記加盟店に対し,各加盟店ごとの平成14年5月21日から同年9月30日までの減収額(同一期間における過去3年の平均売上高と比較した場合の減収額)に,過去3年の平均限界利益率を乗じた利益相当額を補償したものである(甲75号証の8,弁論の全趣旨)。
イ 本件出捐のうち,「キャンペーン関連費用」20億1600万円は,ダスキンが,本件販売の発覚を受けてミスタードーナツ事業について営業活動及び販売活動を自粛した後,その売上げを向上させるために行ったキャンペーンの費用並びに上記自粛によって不要となった販促ツール(景品類)の回収費用及び本件販売の発覚を受けて実施前に中止されたキャンペーンの中止までに要した費用である(弁論の全趣旨)。
ウ 本件出捐のうち,「CS組織員さん優待券及びSM・MM等特別対策費用ほか」17億6300万円は,ダスキンがミスタードーナツ事業の顧客向けに発行し,顧客が加盟店で使用した優待券を加盟店から引き取った費用並びにダスキンのクリーンサービス事業対策費用,サービスマスター事業及びメリーメード事業の加盟店等への営業支援費用等である(甲75号証の5,弁論の全趣旨)。
エ 本件出捐のうち,「新聞掲載・信頼回復費用」6億8400万円は,ダスキンが,本件販売の発覚を受けて,新聞広告を掲載した費用,信頼回復及び売上回復のためにセールチラシの折込み等を実施した費用並びに店頭でのお知らせポスター等の製作費等である(弁論の全趣旨)。
オ 本件出捐のうち,「飲茶メニュー変更関連費用」3億4600万円は,本件販売の発覚を受けて,ダスキンが「大肉まん」等の販売を中止したことによる「大肉まん」等の在庫品及び仕掛品の廃棄損並びにミスタードーナツ事業の売上げ低下によって生じた賞味期限切れ商品の廃棄損である(甲75号証の5,8,弁論の全趣旨)。
3  争点(2)(TBHQ使用についての善管注意義務違反)について
(1)  前記2(3)の事実関係によれば,ダスキンは,平成10年,社内規定に従って,ハチバンが品質管理を組織的かつ機能的に実施しているか等について検討し,同社が品質管理センターを置いて原材料と製品の検査実施を徹底していると認定した上で同社と冷凍ワンタンの取引を開始したものであり,平成12年に「大肉まん」の製造を委託するまでの間,ハチバンから供給を受けた冷凍ワンタンについて品質上の問題が発生したという事実は認められない。ダスキンとしては,ハチバンが,国内において,「大肉まん」と類似の蒸し餃子及び冷凍ワンタン等を自ら製造販売してきた実績を有し,かつ,上記のとおり原材料と製品の検査実施を徹底していることを確認した上で同社に製造を依頼するのであるから,ハチバンが自ら製品を製造しない場合であっても,同社は,国内において適法に販売することのできる食品を製造することのできる品質管理体制を有する事業者を選定してこれに「大肉まん」を製造させると通常予測するところである。そして,ダスキンは,実際に「大肉まん」を製造する事業者が仁木食品(前記のとおり,当時農林水産省食肉加工食品認定工場であるのみならずISO9002認証を取得していた。)であることを確認しているから,仁木食品が国内における中華点心等の製造及び販売実績を有するニッキーフーズによって設立された会社であり,上記認証を取得するなどしている以上,具体的に原材料に食品衛生法において指定されていない添加物の一つ一つについてそれが含まれていないかを検査しているか否かを確認しなくとも,食品衛生法に関する一定の知識(個別に指定を受けない限り,添加物を使用することはできないこと等)を有することを前提に,一定の品質管理体制を有していると信頼したとしてもこれを非難することはできない。さらに,ダスキンは,ハチバンに「大肉まん」の製造を委託するに先立って,原材料の原産国・生産地等の記載のある原材料規格書を徴求し,品質面に問題がないことを確認し,原材料の品質に疑いが生じた場合の追跡可能性を確保している(製造された「大肉まん」の一部に品質上の問題が生じた場合,原材料の生産者までたどることで原因を究明し,問題の拡大を防止し解決を図ることができる。)。以上の諸事情を総合すると,ダスキンとしては,平成12年当時,ハチバンから「大肉まん」の供給を受けるについて品質確保のために必要な措置を講じていなかったとまでは認めることができない。
(2)  これに対して,原告は,被告取締役らが,「大肉まん」に食品衛生法上許されていない添加物が使用されないように,社内に品質管理機関を設置し,①同機関から「大肉まん」の試作品製造過程に人材を派遣する,②試作品を品質管理機関において検査する,③第三者の学識者に大肉まんの試作品の検査を依頼する,④原材料及び使用添加物も含め,大肉まんの製造に使用した材料の詳細を報告させ,それを品質管理機関がチェックする等の措置を講じるべきであった旨主張する。
しかしながら,食品を販売する会社であるからといって,他の食品製造業者から食品の供給を受ける際,当然にかつ一律に,自社においても独自に検査等をしなければならないとか,試作品製造過程に自社の人材を派遣しなければならないということはできず,前判示のとおり,ダスキンとしては,平成12年当時,ハチバンから「大肉まん」の供給を受けるについて品質確保のために必要な措置を講じていなかったとまでは認めることができないから,原告の上記主張は採用することができない。
また,原告は,総論的にマニュアルの作成及び周知徹底等のリスク管理体制構築義務の懈怠を主張するが,本件において,ダスキンとしては,自社において独自に検査等をしなくとも,ハチバンから「大肉まん」の供給を受けるについて品質確保のために必要な措置を講じていなかったとまでは認めることができないから,マニュアルの作成及び周知徹底等の有無が善管注意義務違反の有無に関する判断を左右しないことは明らかである。
(3)  以上のとおり,ダスキンは,平成12年当時,ハチバンから「大肉まん」の供給を受けるについて品質確保のために必要な措置を講じていなかったとまではいえないから,この点に関する限り,当時フードサービス事業グループ担当専務取締役であったA及びミスタードーナツFC本部長取締役であったBについて,業務担当取締役又は使用人兼務取締役としての善管注意義務違反は認められない。
したがって,当時代表取締役会長兼社長であった被告Y1について,監督義務の懈怠は認められず,同被告を除くその余の被告取締役らについて,監視義務の懈怠は認められない。また,被告Y7について,監査役としての善管注意義務違反も認められない。
4  争点(3)(本件販売についての善管注意義務違反)について
(1)  リスク管理
健全な会社経営を行うためには,目的とする事業の種類,性質等に応じて生じる各種のリスク,例えば,信用リスク,市場リスク,流動性リスク,事務リスク,システムリスク等の状況を正確に把握し,適切に制御すること,すなわちリスク管理が欠かせず,会社が営む事業の規模,特性等に応じたリスク管理体制(いわゆる内部統制システム)を整備することを要する。
もっとも,整備すべきリスク管理体制の内容は,リスクが現実化して惹起する様々な事件事故の経験の蓄積とリスク管理に関する研究の進展により充実していくものである。したがって,現時点で求められているリスク管理体制の水準をもって,本件の判断基準とすることは相当でないというべきである。また,どのような内容のリスク管理体制を整備すべきかは経営判断の問題であり,会社経営の専門家である取締役に,広い裁量が与えられているというべきである。
(2)  本件は,食品販売に関する事業部門の業務担当取締役及び使用人兼務取締役が,自社が販売していた食品に食品衛生法上使用が許されていない添加物が含まれていることを知ったにもかかわらず,その販売を継続するという違法行為に出たという事案である。そこで,ダスキンの本件販売当時におけるリスク管理体制のうち,違法行為を未然に防止するための法令遵守体制(具体的な取組みを含む。)について検討するに,前記2(4)のとおり,ダスキンは,当時,担当取締役は経営上の重要な事項(販売していた食品に食品衛生法上使用が許されていない添加物が含まれていたことは,食品を販売する会社にとっては経営上極めて重要な問題であるのは明らかである。)を取締役会に報告するよう定め,従業員に対しても,ミスや突発的な問題は速やかに報告するよう周知徹底しており,違法行為が発覚した場合の対応体制についても定めていた(「内部摘発」による違法行為の発覚も想定されている。)。また,その上で,実際に起こった食中毒に関する企業不祥事の事案を取り上げて注意を促すセミナーも開催していたものである。これらを総合してみると,ダスキンにおける違法行為を未然に防止するための法令遵守体制は,本件販売当時,整備されていなかったとまではいえないものというべきである。
(3)  これに対して,原告は,違法行為等があれば即座に「コンプライアンス部門」又は「品質管理機関」を通して取締役会に報告される体制を構築し周知徹底しておかなければならなかった旨主張する。
しかしながら,株式会社であれば当然にかつ一律に「コンプライアンス部門」を設置しなければならないとか,食品を販売する会社であれば当然にかつ一律に,違法行為等の情報を収集し取締役会に報告する,食品の企画・製造・販売の部門から独立した機関としての「品質管理機関」を設置しなければならないとまではいうことができず,前判示のとおり,ダスキンにおける違法行為を未然に防止するための法令遵守体制は,本件販売当時,整備されていなかったとまではいえないから,原告の上記主張は採用することができない。
なお,確かに,本件の場合,Zからハチバンが製造した「大肉まん」にTBHQが使用されていることを知らされたGが,自己の上司に当たるBに対してのみならず,フードサービス事業グループの外の機関(取締役会を含む。)に対しても上記事実を報告していれば,本件販売が決定されなかった可能性があることは結果論としては否定できない。しかしながら,フードサービス事業グループは,前記2(1)のとおり,ダスキンにおいて,他の事業部門と並んでそれ自体あたかも一つの企業のように独立して一定の権限と責任を与えられた一つの事業部門であるところ,Gは,そのような事業部門における指揮命令系統に従ってBに上記事実を報告して指示を仰いだものであり,その事実はBを通じて当該事業部門の最高責任者であるAにも報告されたものであるから,フードサービス事業グループの指揮命令系統は正常に機能していたといえる。本件は,そうであるにもかかわらず,事業部門の最高責任者であったA及びこれに次ぐ地位にあったBが,稟議規定に違反して上記事実を取締役会に報告せず秘密裏にあえて違法行為を行うという意思決定をしたという事案であり,本件販売当時,そのような場合をも想定して,従業員に対し,自己の属する事業部門の指揮命令系統に従って情報を伝達するのみならず,当該事業部門の外にある機関にも同じ情報を伝達することを義務づける体制を構築しておかなければならなかったとまではいうことができない。
(4)  また,原告は,取締役会は,違法添加物の使用を発見した際,どのように報告し行動しなければならないのか等について,マニュアルを作成し,それを従業者に周知徹底させなければならなかった旨主張する。
しかしながら,A及びBは,「大肉まん」に食品衛生法上使用が許されていないTBHQが含まれていることを知りながら,あえてその販売継続を決定したのであって(当事者間に争いがない。),食品衛生法上使用が許されていない添加物の使用を発見した際にどのように報告し行動しなければならないのか等について無知であったがゆえに販売を継続したものではないから,原告の上記主張は理由がない。
(5)  以上のとおり,ダスキンにおける違法行為を未然に防止するための法令遵守体制は,本件販売当時,整備されていなかったとまではいえないから,被告取締役らについて善管注意義務違反は認められない。また,被告Y7について,監査役としての善管注意義務違反も認められない。
5  争点(4)(本件支払についての善管注意義務違反)について
(1)  ダスキンは,前記2(1)のとおり,本件支払当時,全事業部門を「完全資金独算会社」とし,権限と責任を各事業部門の責任者に委譲する旨の稟議規定の改定を行っており,フードサービス事業グループの場合,3000万円以下の案件についてはBの単独決裁によって,3000万円超1億円以下の案件についてはA及びBの共同決裁によって,原則として被告Y3や取締役会の決裁を要することなく処理することが認められていた。ダスキンのように全く種類の異なる分野にまたがって事業を展開する会社において,事業分野ごとに当該事業を取り巻く環境等様々な考慮要素を的確に把握して総合的に評価し,時機を失することなく経営判断をすることを可能にする,本社部門が全社戦略に専念することを可能にする等の観点から,各事業分野ごとに自律性・独立性の高い組織(事業部,事業部門,カンパニー等)を設け,当該事業部門に権限と責任を委譲することは,会社の組織のあり方として一定の合理性を有する。そして,そのような組織体制を構築する以上,事業部門がその権限の範囲内で出捐をする場合に,本社部門が常にその出捐の必要性,相当性等を審査しなければならないとまではいうことができず,本社部門にどのような内容の経理体制を整備すべきかは,経営判断の問題であり,会社経営の専門家である取締役に,広い裁量が与えられているというべきである。
そして,前記2(5)イのとおり,ダスキンは,稟議規定に定められた決裁権限の範囲内で,各事業部門の統括責任者及び担当役員の責任の下に,伝票入力から証票等のチェック及び伝票の承認行為に至るまでの処理が各事業部門内で完結され,経理本部がその出捐の必要性,相当性等を審査しないシステムを採用していたものであるが,同時に,履歴付きの経理データをいつでも検索,照会等することができるシステムを採用しており,一度特定の事業部門の出捐について疑義が生じれば,当該出捐を含む当該事業部門の出捐についてさかのぼって調査することができる追跡可能性が確保されていたこと(前記2(5)ウ),ダスキンの平成12年4月1日から平成13年3月31日までの仕訳レコード件数は,借方と貸方を別々に数えると1日平均1万7617件と多数に及んでおり(同エ),経理本部においてこれらの経理処理を事前に審査する体制を構築するためには相当の人員と費用を投じなければならないものと推認されることに加え,そもそも経理本部の業務内容は予算業務及び決算業務であったこと(同ア)等をも併せ考慮すれば,経理本部が事業部門の出捐の必要性,相当性等を審査する体制を構築しなかったからといって,当時経理担当取締役であった被告Y5について,使用人兼務取締役としての善管注意義務違反は認められない。
したがって,当時代表取締役会長兼社長であった被告Y1について,監督義務の懈怠は認められず,同被告を除くその余の被告取締役らについて,監視義務の懈怠は認められない。また,被告Y7について,監査役としての善管注意義務違反も認められない。
(2)  これに対し,原告は,本件支払について,Bの個人口座あてにいったん振り込まれているなどの不自然,不可解な点があったにもかかわらず,被告Y5が漫然とこれを見逃した旨主張するが,前判示のとおり,そもそも,経理本部が事業部門の出捐の必要性,相当性等を審査する体制を構築しなかったからといって,被告Y5について善管注意義務違反は認められないのであるから,上記主張は理由がない。
なお,乙ウ14号証及び弁論の全趣旨によれば,ダスキンは,MD調査委員会の報告を受けて,平成13年10月1日から,取締役,従業員等の個人口座への振込額に100万円という限度額を設定し,同額を超える金額の振込みが必要な場合には,経理本部長に直接連絡することを要するシステムに変更したことが認められ,本件支払当時,同様のシステムが存在すれば,一度は経理本部長の審査を経たであろうとうかがわれる。しかしながら,前判示((1))の事実関係に照らせば,本件支払当時,上記システムを採用しなければ善管注意義務違反になるとまではいえないのであって,上記システム変更は前記結論を左右しない。
6  争点(5)(本件販売認識後の対応についての善管注意義務違反)について
(1)  被告Y1について
ア 被告Y1が本件販売の事実を隠ぺいしたことを理由とする責任について
原告は,被告Y1は,平成13年2月ころ,Mから,「大肉まん」にTBHQが含まれていたことを知らされ,A及びBから上記事実を確認したにもかかわらず,他の被告らに対して上記事実が発覚しないように指示したと主張し,これに沿う証人Aの証言,供述調書(甲71号証)及び陳述書(乙イ5号証)がある。
しかしながら,①そもそも,Aは,Bと共に,平成12年12月,「大肉まん」にTBHQが含まれていることを知りながら,本件販売を決定したものであり,本件販売について直接責任を負わなければならない立場にあり,被告らと共に株主代表訴訟を提起されている(平成15年(ワ)第3262号の1事件)。また,Aは,ダスキンの取締役を退任した後も同社と顧問契約を締結し,月額320万円の報酬を受領していたものであるが,被告Y1の働き掛け及び被告Y2ら当時のダスキンの経営陣の判断によって上記顧問契約を解除されるに至ったと認識している(証人A)。これらの事実からすると,Aが,自己の責任を軽減するために,また,被告Y1に対する悪感情から,ダスキンの当時の代表取締役会長兼社長である被告Y1が本件販売の事実を隠ぺいすることを指示したと供述した可能性が相当程度認められる。また,②Aの供述内容は,被告Y1から本件販売については誰にも言うな,「墓場まで持って行こう」と指示されたにもかかわらず,被告Y1の指示を受けた直後に,被告Y2及び同Y4に本件販売について告げたというものであり,それ自体極めて不自然,不合理である。さらに,③Aの証言によれば被告Y1による隠ぺい指示の現場に同席したとされるBは,本件訴訟が提起される前に被告Y1から上記指示を受けていない旨の書面を作成したほか(乙ア3号証の1ないし5),本件訴訟においてBが提出した陳述書(乙エ3)にも被告Y1から上記指示を受けた旨の記載はない。そして,④Aは,前記2(6)イのとおり,「大肉まん」にTBHQが含まれていたことを平成12年12月2日ころに知りながら,平成13年2月に至るまで被告Y1にこのことを報告しなかった理由について,同被告の心労を考えたからであると供述するが(甲71号証,乙イ5号証),違法な上記「大肉まん」の販売を行うか否かという極めて重大な経営判断の場面において,単に心労を気遣ったという理由から被告Y1に対して報告をせず,自ら販売を決定し,しかも2か月以上も報告をしなかったというのは極めて不合理であるといわざるを得ない。むしろ,被告Y1に報告をすることなく秘密裏に本件販売を決定し,その事実を同被告に知られないようにしていたことがうかがわれる。その上,⑤被告Y1は,平成13年2月,Mから,「大肉まん」に食品衛生法上使用が許されていない添加物が入っているという噂が出ている旨告げられて,A及びBを呼び出したが,同人らがそのような噂が出たことは事実であるが,実際には上記添加物は検出されなかった旨報告し,「不検出」という検査結果の記載された公的機関の証明書を示したので同被告はこれを信頼して特に事実関係の調査,確認をしなかった旨供述しており(被告Y1),上記供述は,A及びBが秘密裏に本件販売の継続を決定したこと,実際に上記証明書が作成されていることといった客観的事実関係に照らして合理的であり,信用することができるところ,Aの供述はこれと矛盾する。
以上によれば,証人Aの証言並びに供述調書及び陳述書の各記載はいずれも直ちに採用することができない。
また,Mの司法警察員に対する供述調書(乙ウ87号証)及び陳述書(甲70号証)中にも,被告Y1がAとBに「大肉まん」にTBHQという日本で使用が許されていない添加物が入っていたという話を聞いたが本当かと確認すると,事実である旨の答えがあり,その後,被告Y1から「この話は墓場まで持って行け」との指示があったとの記載がある。しかしながら,上記の指示以外に,具体的なやりとりの記載はなく,不自然なものであって,直ちに採用することができない。そして,他に原告の上記主張事実を認めるに足りる証拠はない。
イ 被告Y1が本件販売の事実を積極的に公表する等の措置をとらなかったことを理由とする責任について
本件全証拠によっても,被告Y1が,取締役を辞任するまでの間に,本件販売の事実を認識したものと認めることができない。なお,原告は,被告Y1が,平成13年5月18日に,三和紙器の代表取締役社長から,Bが同社から3000万円を借りてこれをZに渡した旨を聞いて,Bに事情を報告するよう指示したと供述していることを根拠に,同被告が,遅くとも同月中には,本件販売の事実を知っていた旨主張するが,被告Y1がBの3000万円の借入れとZへの供与の事実を認識したとしても,それだけで直ちに本件販売の事実を認識するに至るとはいえないから,上記主張は理由がない。
したがって,被告Y1が本件販売の事実を積極的に公表する等の措置をとらなかったことについて善管注意義務違反は認められない。
ウ 内部統制システム構築義務違反を理由とする責任について
原告は,ダスキンは,違法行為を認識したら,直ちに違法添加物を食べさせた消費者に被害回復を申し出る体制を構築しなければならなかったと主張する。しかしながら,原告は,上記体制の内容等を何ら具体的に主張しないから,上記主張はそれ自体失当である。
エ 以上の次第で,本件販売後の対応について,被告Y1に善管注意義務違反は認められないから,被告Y1の善管注意義務違反を前提とする被告Y7の善管注意義務違反は認められない。
(2)  被告Y2について
ア 被告Y2が「大肉まん」に使用が許されていない添加物が含まれていた事実を認識した時期
(ア) 証拠(甲70号証,乙ウ70号証,74号証,87号証,乙エ3号証)及び弁論の全趣旨によれば,ダスキンの仕事納めの日である平成12年12月29日(金曜日)ころ,クリーニング業を営み,ダスキンとも昭和42年からホームクリーニングの取引がある××株式会社の代表取締役であるMが,年末の挨拶を兼ねて,当時,仕事の窓口担当者であり,ダスキンの取締役で生産本部運営本部長をしていたLのもとを訪れ,「大肉まん」に何かが含まれていた(「何が」含まれていたと告げたのかについては争いがある。)旨を告げたところ,上記Lが,専務取締役で生産本部担当の被告Y2を呼ぶことにしたこと,そこで,Mが被告Y2に対し,「大肉まん」に何かが含まれていた(「何が」含まれていたと告げたのかについては争いがある。)旨を告げたこと,当該指摘を受けて,被告Y2がBに電話をして事実関係を確認したことが認められる。
Mが被告Y2に対して告げた「大肉まん」に含まれていた物につき,被告Y2は,「何かが混入していた」と聞いたのみである旨主張している(なお,Lの陳述書(乙ウ74号証)にも,同人はMから「異物が入っていた」という話を聞いたのみである旨の記載がある。)のに対し,Mの司法警察員に対する供述調書(乙ウ87号証)及び陳述書(甲70号証)は,「日本で認可されていない酸化防止剤のTBHQが入っていた」旨を述べたと記載されているので,次に検討する。
(イ) 証拠(甲85号証)によれば,ダスキン(当時の取締役兼代表取締役社長は被告Y2であった。)は,Aとの間の報酬金請求事件(大阪地方裁判所平成13年(ワ)第13800号 以下「別件訴訟」という。)において,裁判所に対し,平成14年9月11日付けの準備書面(以下「別件準備書面」という。)を提出しているところ,同準備書面には,「被告会社のY2現社長は,平成12年12月末頃,Mから大肉まんに未認可添加物が混入されていた問題があったことを教えられた。しかし,当時,Y2は,フード部門とは別の生産部門担当専務取締役であり,フード部門の問題について詳細を知らない立場であったことから,当該未認可添加物問題については,被告会社フード部門担当取締役のBに報告するようMに申し入れたところ,Mからは,それ以上に詳細な事実関係の説明等はなかったのである。」との記載(以下「別件記載」という。)がある。
別件準備書面は,別件訴訟におけるAの平成14年6月27日付け準備書面(以下「A準備書面」という。)に対する認否・反論を記載したものである(乙ウ88号証)。A準備書面には,第1の3項として「違法酸化防止剤t―ブチルヒドロキノン(以下略して「TBHQ」という)問題の経緯(善管注意義務等違反③について)」という項目が設けられ,顧問契約の解消事由としての善管注意義務等違反についての主張(反論)が記載されている。上記第1の3項(4)には,順次,①Aは,TBHQの混入した「大肉まん」の処理について,事前に役員会に報告していないこと,②Aは,平成13年2月8日,被告Y1に対してTBHQ問題に関する報告をし,了解を得たこと,③「なお,現在の被告会社Y2社長に対しては平成12年12月末頃,MからTBHQが混入していた旨の報告がなされている。」こと,④Aは,ミスタードーナツ事業は被告Y1が最も力を入れて育て上げた事業であり,フランチャイズチェーン加盟店のためにも公表すべきでないと考え,フード部門の最高責任者としての判断でBらの処理について承認を与えたこと,⑤ダスキンは,Aの上記判断を非難しているが,いずれも被告Y1の事後的な了解を得ているのであって,今になって善管注意義務違反などの主張が出てくること自体不思議であること,⑥被告Y2は,TBHQ問題発生後の早い時点で知っていたのであり,取締役会に付議するというのであれば自ら招集を促すなどの手段をとることも可能であったはずで,Aだけに善管注意義務違反等を問うことは許されないこと等が記載されている。
別件準備書面の第1には,A準備書面に対する反論が記載されており,その3項(4)には,A準備書面の第1の3項(4)について,「否認ないし不知。」とする記載がされ,前記②の記載について,Aが主張する事実の一部については被告Y1が了承した事実がないことが記載され,その後に別件記載がある。そして,別件準備書面の第1の5項には,「(小結)」として,「結局,大肉まん取引について,原告の主張するところは,原告だけでなく,他の取締役にも善管注意義務・忠実義務の違反が存したことを主張するだけであって,何ら原告自身の免責理由にはならず,むしろ,原告自身,自己の善管注意義務・忠実義務の違反を自認するものであるから,その責任は明らかである。」との記載がある。
以上のような別件準備書面の位置付け,A準備書面の対応部分との対照及び別件準備書面の文言等を総合すれば,別件記載の趣旨は,被告Y2が,平成12年12月末ころ,Mから「大肉まん」にTBHQが含まれていた問題があることを告げられたという事実は否認するか又は知らないが,そのころ,Mから「大肉まん」に「未認可添加物」すなわち使用が許されていない添加物が含まれていた問題があることを告げられたことを認めるところにあると解するのが相当である。
これに対して,被告Y2は,別件記載にいう「当該未認可添加物問題」とは,後刻判明したところによれば使用が許されていない添加物に関する問題という趣旨であり,実際には,被告Y2は,当時,Mから「異物混入」という話を聞いたにすぎない旨主張する。しかしながら,「大肉まん」についての違法な添加物以外の「異物混入」に関するクレームは以前から多数あったと認められるところ(乙ウ88号証中の「原告は,Bからハチバンの製品に人毛や異物の混入などが相次ぎ,お客様からのクレームが頻発し」という記載の横には「○」が書き込まれている。また,乙ウ69号証によれば,「大肉まん」を本格販売した平成12年10月6日から同年11月30日までの56日間で合計142件に上る主として異物混入を理由とするクレームがあったことが認められる。),別件記載においてはあえて「異物混入」という文言ではなく「未認可添加物」という記載がされている上,単なる異物混入であれば,被告Y2が直ちにBに事実確認までしていることと符合しないから,上記主張は採用することができない。また,被告Y2は,別件訴訟の争点はA自身に顧問契約の解除を相当とすべき事由が認められるかどうかということに尽き,その他の取締役についての善管注意義務違反等の存否は争点とまったく無関係であるから,この点についての認否・反論が正確かつ厳密に行われなかったものである旨主張する。確かに,前記のとおり,別件準備書面第1の5項には上記主張に沿う記載がある。しかしながら,他の取締役に対する報告やその者の了承といった事実がAの善管注意義務違反等を否定する要素となる可能性もあるのであり,ダスキンは,前記のとおり,別件準備書面において,Aが主張する事実の一部については被告Y1が了承した事実がないとしてAの主張事実を否認している。したがって,上記主張は採用することができない。
(ウ) また,Mは,平成14年6月11日,司法警察員に対し,「Mは,平成12年12月30日ころ,被告Y2に対し,『大肉まん』に認可されていない酸化防止剤のTBHQが入っていた旨告げた。」と供述しており(乙ウ87号証),陳述書(甲70号証)にも同旨の記載がある。Mの上記陳述書には,他にも,被告Y9及び同Y8にも「大肉まん」にTBHQが含まれていたことを告げた旨の記載があるところ,これらの記載については,後記(3)アのとおり,その内容が極めて不合理な上に抽象的であって具体的な裏付けを欠くものであって到底採用することができない。しかしながら,被告Y2とのやり取りについての記載に関する限り,一定程度具体的であり,別件記載や同被告の陳述書(乙ウ70号証)の記載(Mが,平成12年末にダスキン生産本部を訪れ,被告Y2に対し,「『大肉まん』に何かが混入していたらしい。」と告げた。)とも重要部分で一致する。
この点,被告Y2は,Mは,自己の経営するクリーニングを業とする××株式会社がダスキンから加工業務委託契約(平成13年7月31日に協栄工場契約から切り替えられたもの。)を解消されたことから,協栄工場契約の終了を決定した被告Y2に対する私怨を抱いていること,Mは,原告及びZと共に,大阪弁護士会に対して被告Y7の懲戒請求をしていること(乙ウ56号証)といった背景事情等から,Mの陳述書の記載は採用することができない旨主張する。確かに証拠(乙ウ70号証,74号証,被告Y1)及び弁論の全趣旨によれば,平成12年12月当時,Mは,ダスキンとの取引を継続するために同社への働き掛けをしていたことがうかがわれる。しかし,そうであればなおさら,Mが自己の経営する会社との取引の担当部門であった生産本部の担当専務取締役であった被告Y2に対し,働き掛けの一環としてダスキンの不祥事を知らせるという行動は自然であるといえる。そして,前判示のとおり,「大肉まん」についての違法な添加物以外の「異物混入」に関するクレームは以前から多数あったと認められることからすると,「大肉まん」に異物が混入していたという程度の話では,被告Y2に揺さぶりをかけて自己の経営する会社との取引を有利に進めるという目的を達成することは困難であると考えられるのであり,上記目的の達成のために,使用が許されていない添加物が含まれていたという話をしたとする方が自然である。
(エ) このほか,Bの陳述書(乙エ3号証)には,被告Y2が,平成12年12月ころ,Bに対して,「大肉まん」へのTBHQ混入に関する事実確認の電話をしてきた旨の記載があり,この記載は,被告Y2がBに対して「大肉まん」に関して事実関係を確認したという限りにおいて,被告Y2の陳述書(乙ウ70号証)の記載と符合する。
(オ) 以上によれば,「大肉まん」への異物混入に関するクレームは以前から多数あったこと,これに対し,Mの告知後,Lは直ちに被告Y2を呼び,被告Y2は直ちにBに事実確認をしていることからすると,Mの告知事項は相当重要な事項であったと推認されること,別件準備書面における別件記載から認められる被告Y2の当時の認識(なお,被告Y2が当時ダスキンの代表取締役社長であった。)は,M及びBの供述と重要部分において一致していることを総合すると,被告Y2は,平成12年12月29日ころ,Mから,「大肉まん」に使用が許されていない添加物が含まれていた問題があることを告げられたものと推認される。
(カ) これに対して,被告Y2の陳述書(乙ウ70号証)には,同被告は,平成12年末に,Mから,「大肉まん」に何かが混入していたらしいと聞かされ,Bに対し,事実関係を確認したが,その件は既に処理が済んでいるとのことであった,当時,MからもBからも「大肉まん」に混入していたものが未認可添加物のTBHQであるとはまったく聞かされておらず,異物か何かの類だろうと思っていた旨の記載があり,Lの陳述書(乙ウ74号証)にも同旨の記載がある(ただし,「何かが混入していた」というのではなく「異物が入っていた」という記載となっている。)。
しかしながら,前記(イ)のとおり,「大肉まん」についての異物混入に関するクレームは以前から多数あったのであるから,そのような事実を聞かされたからといって,被告Y2が直ちに自らBに事実関係を確認するというのは不自然であるし,「『大肉まん』に何かが混入していたらしい。」との,それが異物かどうか明らかでない極めて抽象的な話しか聞いていないのであれば,どのようにしてBに事実関係を確認することができたのか疑わしく,また,そのような抽象的な話しかなかったにもかかわらず,何を根拠にしてBが「その件は既に処理が済んでいる」と回答したのかについても疑問が残るといわざるを得ない。
したがって,被告Y2及びLの各陳述書の上記各記載は,いずれも直ちに採用することができない。
イ 被告Y2の善管注意義務違反
(ア) 以上のとおり,被告Y2は,本件販売が行われた直後の平成12年12月29日ころに,「大肉まん」に使用が許されていない添加物が含まれていたことを知ったものであるところ,食品販売事業を営む会社であるダスキンが,使用が許されていない添加物を含んだ食品を販売する行為は具体的な法令に違反している可能性があるということは,たとえ当該事業を担当していない取締役であっても認識することができる。
(イ)  複数の事業を営む相当程度規模の大きい会社において,複数の業務担当取締役の間の職務分掌を定める以上,特定の事業部門に関する事実については担当取締役が処理をすればよいというのが原則であるといえる。しかしながら,他方において,取締役会は,会社の全事業について取締役の職務執行を監督する機関であり,取締役はその構成員である。そして,ダスキンにおいては,稟議規定において,経営上の重要な事項については,役員協議会(取締役会)に報告するように定められていた(前記2(4)イ)ところ,食品販売事業を営む会社において,使用が許されていない添加物を含んだ食品を販売するという,具体的な法令に違反している可能性のある行為が経営上の重要な事項に該当することは明らかである。したがって,取締役が,具体的な法令に違反する可能性のある事実を認識した以上,担当取締役から合理的な説明(例えば,既にとった具体的対応策や客観的な証拠を示しての法令違反の事実がない等の説明)がされるなどの特段の事情が認められない限り,役員協議会(取締役会)に対して報告するか,少なくとも業務執行機関の最高責任者である代表取締役社長等に報告しなければならない善管注意義務を負うに至るものと解する。
本件において,被告Y2は,前記(ア)のとおり,具体的な法令に違反する可能性のある事実を認識したものであるから,担当取締役であるBに単なる事実確認をするにとどまるのではなく(被告Y2の陳述書(乙ウ70号証)によれば,「大肉まん」に何か問題があったのか,との問いかけに対し,Bは,その件は既に処理が済んでいると答えたにとどまるというのであり,仮に上記陳述書の記載のとおりであったとしても,上記特段の事情を認めるには到底足りない。),被告Y2としては,少なくとも,当時ダスキンの業務執行機関の最高責任者であった代表取締役会長兼社長の被告Y1に報告しなければならない善管注意義務を負っていたものといえる。しかるに,被告Y2は,上記義務を怠ったものである。
(3)  被告Y3,同Y4,同Y11,同Y5,同Y6,同Y7及び乙事件被告ら(以下「被告Y3ら」という。)について
ア 被告Y9及び同Y8が本件販売の事実を隠ぺいしたことを理由とする責任について
原告は,被告Y9及び同Y8は,平成12年12月中旬ころから平成13年1月中旬ころまでの間に,Mから,「大肉まん」にTBHQが含まれていることを知らされたにもかかわらず,上記事実を被告Y1に報告したり取締役会に上程するなどしなかったと主張し,これに沿うMの陳述書(甲70号証)がある。
しかしながら,上記陳述書の記載は,①Mが平成12年11月30日には「大肉まん」にTBHQが含まれていたことを認識しながら,平成13年2月8日に至るまで被告Y1に上記事実を告げずに,まず最初に,当時,ダスキンの各事業に共通する行催事の計画,実行,地域の事業運営を行う支社長のサポート等を業務内容とする地域統轄本部担当取締役であった被告Y9に上記事実を告げたこと,②同じく,当時,ケアサービス事業グループの担当常務取締役であった被告Y8に,同Y9と並んで最も早い時期に,「大肉まん」に使用が禁止されている添加物が含まれていたという事実を伝えたこと,③被告Y8に4回にもわたり同じ話をしたにもかかわらず取り合われなかったというのに,平成13年2月8日までの間被告Y1に知らせるなどの行動に出なかったこと等極めて不合理な内容を含んでいるほか,全体的に被告Y9及び同Y8との会話について抽象的な記載があるにとどまる上,的確な裏付けを欠く。また,Mの司法警察員に対する供述調書(乙ウ87号証)には,被告Y2に対して「大肉まん」にTBHQが含まれていたことを告げた旨の記載があるにもかかわらず,同Y9及び同Y8についてはそのような記載がない。
したがって,Mの陳述書の記載は到底採用することができず,他に原告の上記主張事実を認めるに足りる証拠はない。
イ 内部統制システム構築義務違反を理由とする責任について
原告は,ダスキンは,違法行為を認識したら,直ちに違法添加物を食べさせた消費者に被害回復を申し出る体制を構築しなければならなかったと主張する。しかしながら,原告は,上記体制の内容等を何ら具体的に主張しないから,上記主張はそれ自体失当である。
7  争点(6)(本件販売認識後の対応と損害の間の因果関係)について
(1)  被告Y2について
ア 本件支払の性格
(ア) まず,○○社には食品製造についての実績がなく(弁論の全趣旨),平成12年9月に至っても予定の水準に達する「大肉まん」の試作品も製造できず,業務委託契約締結から約5か月を過ぎた平成13年5月の段階でもいまだ同社の準備した工場は工事中という状況であったこと(前記2(8)イ,ク)からすると,伊藤ハムやハチバンとは別個に,あえて○○社に対して「大肉まん」の製造を委託する必要性はなかったことが推認される(Gも,平成12年10月に,Aに対し,既に伊藤ハムの2工場及びハチバンの1工場が立ち上がっており,現状ではこの3工場でも供給が間に合う旨を報告していた(前記2(8)ウ)。)。
(イ) 次に,○○社の準備した工場がまだ工事中であり,同社とダスキンの間の業務委託契約締結に関する稟議書も起案されていない同年12月13日の時点で,同社から○○社に対して800万円が支払われていること,しかも,うち300万円については,「異物混入調査費用」という名目で,ダスキンからB個人に対する仮払いがされた後に同人が○○社に対して支払うという特異な支払方法がとられていること(前記2(7)ア,イ),ダスキンにおいては,業務委託契約に関することは役員協議会(取締役会)における稟議事項とされているところ(乙ウ3号証),フードサービス事業グループ内においては,業務委託契約の締結(業務委託料3300万円)という名目で稟議,決裁がされたにもかかわらず,ミスタードーナツFC本部と経理本部との間においては,上記800万円を除く2500万円についても「異物混入」という名目で経理処理がされ,しかも,ミスタードーナツFC本部から○○社に対して支払われた後にダスキンからB個人に対する仮払いがされるという特異な支払方法がとられていること(前記2(7)エ),Bが,ダスキンからの支払手続をとらずに,取引先である三和紙器から個人名義で3000万円を借り入れて,Zに対し支払うとの支払方法がとられていること(前記2(7)オ)を総合すると,本件支払を決定し指示したA及びこれを実行したB(Aが本件支払を決定,指示し,Bがこれを実行したこと自体は当事者間に争いがない。)は,ダスキンにおける正規の手続を経ることを避け,フードサービス事業グループ内部で事務を処理し,○○社に対して早期に金員を支払うことを優先させたことが推認される。
(ウ) また,○○社は,平成12年8月ころから「大肉まん」のテスト製造を始めていたものであるが(前記2(8)イ),同年11月30日に,Gらに対し,ハチバンが製造した「大肉まん」にTBHQが含まれたショートニングが使用されている旨告げた(前記2(6)イ)後の同年12月7日に至って初めて,皇宮に対して商品開発指導を怠ったとして7000万円の損害賠償を要求するに至った(前記2(8)オ)。そして,A及びBは,同月13日には,まず3300万円を支払い,その後,Bが三和紙器から3000万円を借り入れて支払うという異例な方法によって合計6300万円を支払ったものであるが,上記損害賠償の内容について検討したことをうかがわせる証拠はない。
(エ) 前記(ア)ないし(ウ)の事実を総合すると,A及びBは,○○社又はZに利益を供与することで,「大肉まん」にTBHQが含まれていた事実が同人らから外部に伝わることを防ぐ目的で(いわゆる「口止め料」として),本件支払を決定したものと推認することができる。
したがって,本件支払による6300万円は,A及びBの行為に基づくダスキンの損害であると認められる。
イ 本件出捐の性格
本件出捐は,前記2(10)のとおり,①ダスキンが,本件販売の発覚を受けて,「大肉まん」の販売を中止したことに伴う費用(「大肉まん」の在庫品及び仕掛品の廃棄損(前記2(10)オ)),②同社が,本件販売の発覚を受けて,「大肉まん」以外の商品の販売を中止したり,キャンペーンを自粛したことに伴う費用(同イ,オ),③ミスタードーナツ事業の売上げ低下によって生じた同事業の他商品の廃棄損(同オ),④同社が,信頼回復,売上げ向上のために広告,キャンペーン等の措置を講じたことに伴う費用(同イ,ウ,エ),⑤同社が,加盟店の売上げ減少を補てんするために支出した費用(同ア)等であるところ,いずれも,本件販売の事実を消費者が知った結果,ダスキンのミスタードーナツ事業及びその他の事業の信用が損なわれ,売上げが減少したことによって,同社が負担しなければならなくなった費用であるものと認められる。
ウ  本件支払及び本件出捐との因果関係
本件において,被告Y2が,「大肉まん」に使用が許されていない添加物が含まれていたという事実を知ったのは,本件販売の終了後約9日が経過した時点であり,当時,「大肉まん」は,店頭において直ちに食べられるように蒸した状態でのみ販売されていた(乙ウ72号証,被告Y4,弁論の全趣旨)とはいえ,購入者が自宅に持ち帰った後,冷蔵ないし冷凍保存をするケースなども考えられなくもないのであるから,およそ全く回収の余地がないとはいえない状況であった。したがって,その時点において,被告Y2が,「大肉まん」に使用が許されていない添加物が含まれていたという事実を当時代表取締役会長兼社長であった被告Y1に報告していたとすれば,同被告が取締役会を招集するか,あるいは自らの職務権限を行使して,本件販売の対象となった「大肉まん」を回収する措置を早期に講じる可能性があったといえる。また,被告Y2が上記報告をしていれば,本件支払のうち,平成13年1月18日に,BがZに支払った3000万円については,支払を止めることが可能であったと推認される。さらに,マスコミは,本件販売及び本件支払について,ダスキンが食品衛生法上使用が許されていない添加物を使用した「大肉まん」の販売を故意で継続するという食品衛生法違反行為を行ったこと及びそれにからんで当該事実を指摘した業者に「口止め料」を支払っていたこと,被告Y1により隠ぺいがされたこと等の疑惑等を大きく報道しているところ(前記2(9)エ),被告Y2の善管注意義務違反行為がなければ,同年1月18日支払の3000万円の支払を防止することはもちろん,既に支払済みの3300万円についても早期解決が図られた可能性も否定できないし,その後の隠ぺい疑惑も生じる余地がなかったから,マスコミによる上記報道の内容も相当程度異なっていた蓋然性があったと推認される。そうすれば,ダスキンのミスタードーナツ事業及びその他の事業の信用が損なわれ,売上げが減少したことによって,同社が負担しなければならなくなる費用を本件出捐の額よりも少なくすることができる蓋然性があったと認められる。
したがって,被告Y2の善管注意義務違反行為と本件出捐及び本件支払のうち平成13年1月18日支払の3000万円との間の法律上の因果関係が否定されることはない。
なお,被告Y1は,平成13年2月に,Mから「大肉まん」に食品衛生法上使用が許されていない添加物が入っているという噂が出ている旨を告げられて,A及びBを呼び出したが,上記添加物が検出されなかった旨の証明書を示されて,それ以上の事実関係の調査,確認をしていない(前記6(1)ア)が,被告Y2の善管注意義務違反行為があった当時は,平成12年12月末の段階であって,本件販売終了後約9日経過しただけであり,かつ,本件支払のうち3000万円の支払は未だされていない段階であることや,ダスキンの当時の専務取締役の被告Y2からの指摘であることを考慮すると,上記のとおり,早期に「大肉まん」の回収の措置をとる蓋然性や本件支払のうち3000万円の支払を防止する蓋然性があったと認めるのが相当である。
エ  しかしながら,そもそも,食品販売事業を営む会社が,過去に,飲食に関する衛生の見地から法律上使用することが許されていない添加物を含んだ食品を故意で販売していたという事実(食品衛生法違反の犯罪行為に該当する。)に加えて,「口止め料」の支払がされていた事実等を消費者が知った場合,上記事実を消費者が知った時期や同社が上記事実を自ら積極的に公表するか否かにかかわらず,消費者は,同社が販売する食品の安全性について不信,不安を抱き,その結果として,同社の食品販売事業の信用が損なわれ,同社が販売する食品の売上げが減少する蓋然性があるほか,同社の営む他の事業についても信用が損なわれ,売上げが減少する蓋然性があるものと推認される。食品は体内に摂取するものであって,一般に,消費者はその安全性について敏感に反応するものであるところ,たとえ,当該会社が,法律上使用することが許されていない添加物を含んだ食品を販売していたという事実を自ら公表したとしても,同社が現在及び今後販売する食品が当然に安全であると信頼するものではなく,やはり同社が販売する食品の安全性について不信,不安を抱くものと推認される上,消費者は,必ずしも特定の会社の営む複数の事業を峻別せず,ある事業について法令に違反した会社は,他の事業についても法令に違反するのではないかという不信,不安を抱く蓋然性があるものと推認されるからである。
そして,本件においては,A及びBが,食品衛生法違反を認識しながら本件販売の継続を決定し実行していたから,何らかの原因,方法によってその事実を消費者が知る蓋然性があった。したがって,被告Y2が「大肉まん」に使用が許されていない添加物が含まれていたという事実を当時代表取締役会長兼社長であった被告Y1に報告し,ダスキンにおいて,本件販売の終了後早期に,「大肉まん」の回収の措置をとり,本件支払のうち3000万円の支払を防止していたとしても,やはり,消費者が本件販売の事実を知ってダスキンの販売する食品の安全について不信,不安を抱き,その結果として,同社の信用が損なわれ,売上げが減少し,同社が本件出捐のような性格を有する多額の費用を負担しなければならなくなる蓋然性があったものである。
そうすると,被告Y2に対し,本件出捐や本件支払(そのうち3000万円)という損害の全額について賠償させるのは公平を失するから,寄与度に応じた因果関係の割合的認定を行うのが合理的であり,A及びBが食品衛生法違反を認識しながら本件販売の継続を決定し実行するという重大な法令違反行為が先行していること,上記行為が本件出捐及び本件支払という損害の発生に不可欠な原因となっており圧倒的に寄与していると考えられること,被告Y2が「大肉まん」に使用が許されていない添加物が含まれていたという事実を認識した時点においては既に本件販売が終了し,本件支払のうち3300万円も支払われていたこと等を斟酌し,同被告は,本件出捐相当額である105億6100万円及び本件支払のうち3000万円の合計額105億9100万円のうち,5パーセントに当たる5億2955万円の限度で責任を負うものとするのが相当である。
(2)  被告Y3らについて
ア 被告Y3らが本件販売の事実を認識した時期
前記6(3)のとおり,本件全証拠によっても,被告Y3らが平成12年12月から平成13年2月までの間に本件販売の事実を認識したものと認めることはできない。そして,被告Y3らが本件販売の事実を認識した時期が,同被告らが主張する平成13年7月よりも早いと認めるに足りる証拠はない。
そこで,同被告らが,少なくとも同月以降に本件販売の事実を認識したものとして,その後平成14年5月まで本件販売の事実を積極的には公表する等の措置をとらなかった点について,公表する義務があったかどうかとの点はしばらく置き,まず,積極的に公表しなかったことと本件出捐との間に因果関係があるか否かを検討する。
イ 被告Y3らが本件販売の事実を認識した当時の状況
前判示のとおり,本件販売当時,「大肉まん」は,店頭において直ちに食べられるように蒸した状態でのみ販売されていたから,被告Y10,同Y7,同Y4,同Y3及び同Y6が本件販売の事実を認識した平成13年7月の時点においては,本件販売の対象となった「大肉まん」は消費され尽くしており,これを回収する余地はなかったものと推認される。また,証拠(乙ウ62ないし66号証)及び弁論の全趣旨によれば,上記「大肉まん」1個に含まれていたTBHQは0.12mgであったのに対し,FAO及びWHOによって設立された合同添加物専門家委員会が定めたTBHQの1日摂取許容量は0.7mg/kg body(体重50kgの人の1日摂取許容量は35mg)であり,アメリカ,中国を始め,十数か国では酸化防止剤として使われていること,及び本件販売によって生命又は身体に被害を被った消費者はいなかったことが認められる。
ウ そもそも,前判示のとおり,食品販売事業を営む会社が,過去に,飲食に関する衛生の見地から法律上使用することが許されていない添加物を含んだ食品を故意に販売していたという食品衛生法違反の犯罪行為に該当する事実及び「口止め料」の支払がされていた事実等を消費者が知った場合,上記事実を消費者が知った時期や同社が上記事実を自ら積極的に公表するか否かにかかわらず,消費者は,同社が販売する食品の安全性について不信,不安を抱き,その結果として,同社の食品販売事業の信用が損なわれ,同社が販売する食品の売上げが減少する蓋然性があるほか,同社の営む他の事業についても信用が損なわれ,売上げが減少する蓋然性があるものと推認される。
そして,本件は,被告Y3らに関する限り,前記イのとおり,本件販売の対象となった「大肉まん」を回収する余地がなくなっており,通常の使用量では健康に影響は出ないものであって,現に本件販売によって生命又は身体に被害を被った消費者はいなかったし,口止め料の支払も終了していたという事案である。そうすると,本件全証拠を総合しても,本件販売や本件支払の事実を消費者が知った時期が,被告Y10,同Y7,同Y4,同Y3及び同Y6が本件販売の事実を認識した平成13年7月や,ダスキンが自ら積極的には公表をしないこととした同年11月ではなく,本件販売や本件支払の事実が新聞報道された平成14年5月であったことによって,ダスキンのミスタードーナツ事業及びその他の事業の信用がより損なわれ,売上げがより減少したものと認めるには足りないし,平成13年7月以降にダスキンが本件販売の事実を積極的には公表する等の措置をとらないことによってダスキンのミスタードーナツ事業及びその他の事業の信用がより損なわれ,売上げがより減少する蓋然性があったものと認めるにも足りない。したがって,被告Y3らが本件販売の事実を積極的に公表する等の措置をとらなかったことと本件出捐との間に因果関係があるものとは認められない。
これに対して,原告は,ダスキンに対する社会的非難は,被告らがいつ違法添加物の使用を知り,いつ「大肉まん」の販売が終了したかに関係なく,仮に「大肉まん」の販売が終了していたとしても,被告らが違法添加物使用の事実を公表するシステムを欠いたまま隠ぺいし続けたという点に集中しており,被告らが本件販売の事実を早期に公表しなかったことによって損害が拡大したものであるから,因果関係が認められると主張する。しかしながら,前記6のとおり,被告Y2らがことさら本件販売の事実を隠ぺいしたものとは認められないから,上記主張は前提を欠き当を得ない。
なお,原告提出の甲69号証には,①企業が製品の回収を実施するに当たり,新聞社告等で告知して行う場合と,告知しないで行う場合についてそれぞれどう感じるかという問いに対して,前者については「その企業やブランドに対する信頼はかえって高まる」との回答が43.7パーセントに上り,後者については「回収効果に支障がなくても,告知すべきと思う」との回答が83.0パーセントに上るとのアンケート結果や,②人の生命・身体に関わる事故や火災の発生等の危険が及んでいない,品質や性能に関する不具合等が生じた場合の製品の回収について,「不具合等がある以上,事実を公表して回収すべきと思う」との回答が84.6パーセントに上るとのアンケート結果が記載されている。しかしながら,本件では,前記(2)のとおり,本件販売によって生命又は身体に被害を被った消費者はいなかったという場合で,かつ,本件販売の対象となった「大肉まん」を回収する余地がなくなった時点以降に本件販売の事実を積極的に公表する等の措置をとらなかったことと本件出捐との因果関係が問題となっているから,上記記載は前記認定を左右しない。
エ 以上の次第で,被告Y3らが本件販売の事実を積極的に公表する等の措置をとらなかったことと本件出捐との間に因果関係があるものとは認められないから,被告Y3らが本件販売の事実を積極的に公表する等の措置をとらなかったことについて善管注意義務違反が認められるか否か(争点(5))について判断するまでもなく,この点について被告Y3らの責任は認められない。
8  争点(7)(被告Y1が噂を取締役会に報告するなどしなかったことについての善管注意義務違反・忠実義務違反)について
原告は,仮に,被告Y1が,平成13年2月当時,何らかの食品衛生法上使用が許されていない添加物が「大肉まん」に含まれていたとの噂があった旨の事実しか認識していなかったとしても,同被告は,上記噂の出所,検査機関の適正性,検査事項及び検査方法の適正性並びに問題となっている添加物の種類及び人体への影響力等について,自ら又は部下に指示して積極的に調査,確認するとともに,上記噂があったことを取締役会に報告し,上記調査結果を一般消費者に公表するなどの善管注意義務・忠実義務を負っていた旨主張する。
しかしながら,被告Y1は,平成13年2月,Mから,「大肉まん」に食品衛生法上使用が許されていない添加物が入っているという噂が出ている旨告げられて,A及びBを呼び出したが,同人らが,そのような噂が出たことは事実であるが,実際には上記添加物は検出されなかった旨報告し,「不検出」という検査結果の記載された公的機関の証明書(乙ウ14号証参照)を示したので,同被告はこれを信頼して特に事実関係の調査,確認を指示しなかったというのであり(前記6(1)ア),そのような状況下において,被告Y1において,原告主張の事実関係について自ら又は部下に指示して積極的に調査,確認しなければならない善管注意義務・忠実義務や,上記噂があったことを取締役会に上程しなければならない善管注意義務・忠実義務を認めることはできないから,原告の上記主張は理由がない。
9  結論
よって,原告の請求は,甲事件については主文第1項の限度で理由があるからこれを認容し,甲事件についてのその余の請求及び乙事件についてはいずれも理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担について民訴法64条本文,61条,65条1項本文を,仮執行の宣言について同法259条1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・揖斐潔,裁判官・永井裕之,裁判官・齋藤毅)

別紙  在任期間等〈省略〉
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