判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(197)平成24年 8月20日 東京地裁 平22(ワ)43525号 報酬金請求事件
判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(197)平成24年 8月20日 東京地裁 平22(ワ)43525号 報酬金請求事件
裁判年月日 平成24年 8月20日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平22(ワ)43525号
事件名 報酬金請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2012WLJPCA08208001
要旨
◆原告が、被告に対し、コンサルティング契約を締結し、業務を提供したと主張して、同契約又は商法512条に基づいて報酬の支払を求めた事案において、原告が本件契約において提供すべき業務は、被告の代表者が緊急を要する優先事項とした訴訟への対応を含め、相当程度の業務が行われている一方、全ての業務が提供されたとまでは認めることができないとした上で、本件覚書における各業務が独立して提供する価値を有するものと認められること等からして、被告は、提供を受けた業務に応じた報酬を支払う義務があるとして、原告が提供した業務の内容等から約定報酬額の2分の1相当額の報酬支払義務が発生していると認めた上、弁護士法違反、公序良俗違反等の抗弁をいずれも排斥して、請求を一部認容した事例
参照条文
民法90条
民法95条
民法96条1項
商法512条
裁判年月日 平成24年 8月20日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平22(ワ)43525号
事件名 報酬金請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2012WLJPCA08208001
東京都港区〈以下省略〉
原告 株式会社パック・エックス
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 伊藤修一
同 今西順一
群馬県高崎市〈以下省略〉
被告 株式会社ペック・コーポレーション
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 根岸茂
主文
1 被告は,原告に対し,1863万7500円及びこれに対する平成22年8月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は,原告に対し,3727万5000円及びこれに対する平成22年8月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 仮執行宣言
第2 事案の概要
1 本件事案の要旨及び争点
本件は,原告が,被告との間で,コンサルティング契約を締結し,コンサルティング業務を提供したとして,被告に対し,コンサルティング契約又は商法512条に基づき,報酬の支払いを求める事案である。
これに対し,被告は,①契約内容が原告の主張と異なる,②原告が契約に基づく業務を遂行していない,③契約内容が弁護士法に違反して無効である,④原告の商法が公序良俗に違反するから契約が無効である,⑤被告は原告による詐欺に基づき,錯誤に陥って契約締結の意思表示をしたから契約は無効であると主張してこれを争う。
したがって,本件の争点は,①契約に基づく原告の債務の内容,②原告が契約に従った業務を提供したか,③弁護士法違反の有無,④公序良俗違反の有無,⑤詐欺又は錯誤の成否である。
2 前提事実(証拠を掲記した事実以外は当事者間に争いがないか,弁論の全趣旨から認定できる事実である。)
(1) 当事者等
原告は,パチンコ店運営会社の人材採用支援事業,教育・研修支援事業その他コンサルタント業務等を行う株式会社である。
被告は,パチンコ店の経営等を業とする株式会社である。被告は,ペックグループという企業グループに属している(甲3)。
株式会社エフ・アール・シー・ジャパン(以下「FRCJ」という。)は,経営に関するコンサルティング業務等を主な事業内容とする会社である(甲9)。
(2) 原告と被告のコンサルティング契約の締結
原告と被告は,平成20年11月下旬ころ,同月20日付で,以下の内容のコンサルティング契約(以下「本件契約」という。)を締結した(甲2の1,乙4)。
ア コンサルティング業務の内容
(ア) 効率的かつ科学的な人材採用の戦略立案と,それに伴う人材育成・評価制度の構築などに関する助言・指導
(イ) 効率的な経営を行うための財務全般の改善や,生産性の高い設備投資の戦略立案及びそれに伴う助言
(ウ) 競合店分析の科学的手法や店舗演出に関する助言・指導
(エ) 経営効率を上げるためのコンピュータシステムに関する助言・指導
(オ) その他業務遂行上直面する問題点解決のための助言・指導
イ 関与者
コンサルティング業務に関与する者は,原告以外に原告の指定する弁護士,公認会計士,税理士,コンサルタントによって構成され,関与者の選定方法については原告に一任されるものとする。
ウ 報酬
3550万円(税別)
エ 報酬支払方法
平成21年4月から同年9月まで毎月末日限り 100万円(税別)
平成21年11月末日限り 600万円(税別)
平成22年1月末日限り 600万円(税別)
平成22年3月末日限り 600万円(税別)
平成22年5月末日限り 600万円(税別)
平成22年7月末日限り 550万円(税別)
オ 原告の役務に関しては,原告から原告の指定する代理人弁護士に業務を委託し,被告から原告の指定代理人に委任状が提出された時点で完了するものとする。
(3) ペックグループに属する株式会社アクトビル管理(以下「アクトビル管理」という。)は,株式会社田原屋(以下「田原屋」という。)から,群馬県高崎市所在の商業ビルを賃借して転貸していた。田原屋は,平成20年10月6日,アクトビル管理を被告として,賃料不払を理由とする建物明渡請求訴訟(東京地方裁判所平成20年(ワ)第28213号。以下「田原屋訴訟」という。)を提起した。
(4) 被告は,本訴第1回口頭弁論期日において,原告に対し,本件契約を解除する旨の意思表示をした(当裁判所に顕著)。
3 争点に関する各当事者の主張
(1) 本件契約の内容
(原告の主張)
本件契約の具体的内容は,以下のとおりである。
ア 田原屋訴訟対応の方針に関する助言その他コンサルタント活動等
イ 株式会社サミーデザイン(以下「サミーデザイン」という。)に対する工事代金支払債務のリスケジュール及び交渉方針に関する助言その他コンサルタント活動等
ウ オリックス株式会社(以下「オリックス」という。)に対する債務のリスケジュール及び交渉方針に関する助言その他コンサルタント活動等
エ 東芝ファイナンス株式会社(以下「東芝ファイナンス」という。)に対する債務のリスケジュール及び交渉方針に関する助言その他コンサルタント活動等
オ ユニファイド債権回収株式会社(以下「ユニファイド債権回収」という。)との交渉方針に関する助言その他コンサルタント活動等
カ あおぞら債権回収株式会社(以下「あおぞら債権回収」という。)との交渉方針に関する助言その他コンサルタント活動等
キ 港債権回収株式会社(以下「港債権回収」という。)との交渉方針に関する助言その他コンサルタント活動等
ク 有限会社エー・アール・ケー(以下「ARK」という。)から被告への拠出金を0円とするための助言その他コンサルタント活動等
(被告の主張)
原告の主張する本件契約の具体的内容は,本件契約の契約書(甲2の1。以下「本件契約書」という。)と同一でなく,一部にすぎない。
本件契約書の文言は原告が作成したものであり,これと異なる合意が成立していたものではない。
(2) 本件契約についての履行の有無
(原告の主張)
原告は,本件契約に基づき,被告が金融機関等に対して提出する事業計画書の内容審査・意見書作成等の業務を行った。
原告は,FRCJの担当者,田原屋訴訟担当弁護士,被告の担当者とともに,月に2ないし3回の頻度で,田原屋訴訟の解決を中心とした戦略会議を行っていた。原告は,平成21年1月16日の戦略会議において,現状分析,資金負担を抑えながらリスケジュールを行う事を中心に,資料を提供して提案し,議論が行われた(甲36の1,2)。田原屋訴訟は,最終的に,①田原屋とアクトビル管理との間の賃貸借契約が解除されず,解除に伴う違約金1億3000万円の支払いを免れ,②転借人山崎屋から1800万円の未払転借料を回収し,③転借人ビーリングから400万円の未払転借料を回収するという成果を上げて訴訟上の和解により終了した。
原告は,アクトビル管理がサミーデザインに負っていた債務について,被告代表者の意向を担当弁護士に伝達し,また,サミーデザインの担当者に対し,ペックグループの毎月の支払額を抑えるよう懐柔するなどの対応をしている(甲39)。原告は,その活動により,原告の介入後である平成20年12月から平成21年4月までの間,毎月700万円を支払う債務を負っていたところを毎月150万円の返済額に抑えるという経済的利益を被告に与えている。
よって,被告は,原告に対し,本件契約に基づき,3727万5000円の支払債務を負っている。
(被告の主張)
報酬請求権は,契約に従った役務提供がされて初めて発生する。
仮に,事業計画書の内容精査・意見書作成等の業務が行われたとしても,それだけでは本件契約の目的達成に寄与することにはならない。
原告は,被告の企業再生に貢献する役務を提供しなかった。
被告は,原告の債務不履行を理由として,本件契約を解除する。
(3) 商法512条に基づく請求権の有無(予備的主張)
(原告の主張)
原告は商人である。原告は,被告のために,リスケジュール活動を行った。原告は,被告に対し,相当な報酬として,3727万5000円を請求しうる。
(被告の主張)
争う。
(4) 弁護士法違反の有無
(被告の主張)
本件契約においては,原告の業務に関しては,原告から原告の指定する代理人弁護士に業務を委託し,被告から原告の指定代理人に委任状が提出された時点で終了するものとする,とされているが,これは弁護士紹介にすぎず,弁護士紹介業は弁護士法72条,27条に違反するもので公序良俗に反し無効である。
(原告の主張)
代理人弁護士は,被告と,本件契約とは別個に委任契約を締結し,原告は弁護士紹介自体について対価を得ていない。したがって,業として周旋をしたものではない。
(5) 公序良俗違反の有無について
(被告の主張)
原告は,返済のリスケジュール及び支払い停止が本件契約における業務であるとの原告の主張から明らかなとおり,最初から本件契約書又は覚書(甲2の2)に記載された役務を提供する意思がなかったもので,社会通念上,最初から実現不能な再生策につき,恰もこれが実現可能であるかの如く告げ,相手方から高額の報酬を取り立てるというものである。
かかる商法は公序良俗に違反する。
(原告の主張)
原告は,契約に基づいてその役務を実行しており,被告の主張はその前提を欠く。
(6) 錯誤・詐欺
(被告の主張)
原告は,融資がすぐにでも実行されるとの事実に反する告知をし,断定的判断を告知し,また,既にFRCJに費用を立て替えてしまっているとの詐言を用いて被告に対して契約締結を迫ったものであるから,本件契約締結の意思表示は,錯誤に基づくもので無効である。また,被告は,詐欺を原因として,本件契約締結の意思表示を取り消す。
(原告の主張)
争う。
第3 当裁判所の判断
1 当事者間に争いのない事実,証拠(甲1から2の2まで,8,10から15まで,37から39まで,80,乙1から4まで,8,10,12,13,26,原告代表者,被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 原告は,パチンコ業界に特化したコンサルタント活動を行っていた(甲8)。
(2) 原告代表者は,平成19年8月10日,被告代表者に対し,原告が,弁護士,会計士及び元都銀出身者等とチームを組み,弁護士が代理人となって,原告の関連サービサーが,金融機関のパチンコホール経営会社に対する債権を安く買い取る交渉を金融機関と行うことにより,パチンコホール経営会社の負債総額を減少させ,返済期間を長期化するというサービスを提供している旨を伝達した(甲10)。
被告代表者は,そのころ,原告代表者に対し,被告の財務状況に関する資料を交付し,原告代表者は,FRCJに対し,同資料を交付した(原告代表者,被告代表者)。
(3) 原告と分離前相被告株式会社ピッセム(以下「ピッセム」という。)のコンサルティング契約の締結
ピッセムは,ペックグループ内の法人である。
原告とピッセムは,平成20年3月28日付で,以下の内容のコンサルティング契約(以下「ピッセム契約」という。)を締結した(甲1)。
ア 役務提供内容
(ア) 原告が資金調達を含む財務改善を含むピッセム及びその関連会社への資金調達を含む財務改善活動を行うにあたり,原告のリスク分析や収益力調査,資金調達先などへの資料作成及び打ち合わせ・関係先との交渉など全般の業務
(イ) 原告がピッセム及びその関連会社の財務改善のための資金調達を含む下記の直接的改善業務
a 資金調達
b 債権譲渡先の確定(a同様に現在の債権を解消し,返済が長期化される肩代わり先の確定)
c 現在の債権者との間での債権の延長及び返済の分割・長期化(同じくaと同様の効力を持つ)
d ピッセムの関連会社の(有)ルビコンへの債務圧縮と,それを上回る資金額の調達(調達額が現在の価格の14億円を下回っても,債権買取額そのものを調達額以下に減少させた場合)
イ 報酬
原告がピッセムに対して行うアの役務提供に対する報酬は以下のとおりである。
(ア) 固定報酬 1200万円(税別)
(イ) 成功報酬 8800万円(税別)
(4) 本件契約締結前の被告の状況
ペックグループは,平成20年10月当時,総額26億円余りの負債を負い,毎月2000万円に及ぶ弁済をしていた(甲11)。
ペックグループ内のアクトビル管理は,同月当時,田原屋訴訟への対応が必要となっていた。
被告は,本件契約の締結前において,資金繰りが逼迫していた(弁論の全趣旨)。
(5) 原告代表者は,平成20年11月18日,被告代表者に対し,本件契約書の文言のうち,原告の役務提供が被告から代理人に委任状が提出された時点で完了するものとする,となっているのは,弁護士以外に法律事務を行うことを禁ずる弁護士法に抵触しないためである旨記載したメールを送信した(乙3)。
(6) 覚書作成に至る交渉経緯
ア 原告代表者は,平成20年11月25日,被告の担当者であるC(以下「C」という。)に対し,近日中に本件契約書に捺印して持参するよう依頼すると共に,原告の役務内容としては,状況に合わせて刻々と内容が変わることもあるものの,いったん契約を締結した上で大きな変動がある場合は修正するなどの手続をしたい旨通知した(乙4)。
イ 原告は,ペックグループから財務改善のサービス提供を受けたい旨打診され,FRCJと協議し,平成20年12月10日,被告代表者及びCに対し,ペックグループにおけるパチンコホールの店舗のうち,証券化されている店舗に係る事業は今後も継続し,証券化されていない店舗に係る事業については全額完済を目指さないリスケジュールを行いつつ,最終的に清算する方向性での戦略を提案した(甲12,乙8)。
ウ 原告代表者は,平成20年12月16日,Cに対し,FRCJが被告にとって最善の方向性を導き出す日本ではこれ以上ない専門家集団であること,原告が先にFRCJに活動費を支払っている部分があること,FRCJが絶対無価値の方向に被告を導くことはあり得ないことを告知した(乙10)。
エ 原告代表者は,平成20年12月18日,Cに対し,過去の例を見てもFRCJに依頼して成果のでなかった会社はない旨及び同日融資案件の最終の詰めに入る旨告知した(乙12)。
オ 被告代表者は,平成20年12月19日,原告代表者に対し,成功した場合にのみ報酬を支払うのではなく,原告の活動による到達目標を示した上で毎月の費用を支払うことも吝かではないこと,到達目標に達する期間を示した上,それまでに完結すれば報酬の残金を支払い,解決が遅れた場合には被告に解約権を与えることを要望した(甲13)。
カ 原告代表者は,同日,被告代表者に対し,到達目標として,本件契約の覚書文案(以下「本件覚書文案」という。)を示した上,本件契約の報酬は,資金調達の状況によって被告の意向に沿うこと,具体的には原告が先にFRCJに立て替えて支払うこと,ただし,報酬の支払いは固定報酬で変わらないこと,報酬の支払いの件は書面上は明記して後は原告が何とか調整することなどを通知した(甲14,乙13)。
キ 被告代表者は,同月20日,原告代表者に対し,本件覚書文案についての意見を回答した。その意見の内容は,本件契約の本筋は金融機関との交渉と解決であること,田原屋との交渉が緊急を要する優先事項であることであった(甲15)。
(7) 原告と被告は,平成20年12月下旬ころ,同年11月20日付で,以下の内容の覚書(以下「本件覚書」という。)を作成した(甲2の2,15)。
ア 田原屋訴訟において,和解解決を主たる方向性として目指す。
(ア) 田原屋からの請求額を免除でき,立体駐車場使用権を利用して転貸借人へ返還する保証金・敷金等も極力発生しないような解決方向性。
(イ) 解決金が発生したとしても,その額の減額交渉や分割返済などを交渉し,できる限りの長期払いへの合意を目指す。
イ サミーデザインリスケ案件:12月から1年間リスケ交渉を目指す。
ウ オリックスリスケ案件:12月から1年間リスケ交渉を目指す。
エ 東芝ファイナンスリスケ案件:1年間毎月50万円×14回払いを目指す。
オ パストラルインベストメント(ユニファイド債権回収)との交渉。
カ あおぞら債権回収との交渉。
キ 港債権回収との和解交渉(できる限り低額で)を目指して交渉し,最悪競売になる場合でも被告側が継続的に店舗営業ができる状態:何処かが落としても低額賃料で借りられる事などを目指す。
ク アクトビル管理の解決の目途をつける時期的目安の平成21年3月ころまでは,場合により必要に応じて限定的にARKより経営判断による額の拠出金が発生する事があるものの,それ以降に関してはARKからの拠出金を0円にすることを目指す。
ケ 報酬の総額は3550万円(税別)の固定報酬で,支払いスケジュールは本件契約書のとおりであるが,万が一上記ア~キの経済効果が当初の目論見よりも著しく乖離する場合には,被告原告双方で誠意を持って協議を行い,その支払いスケジュールの再度長期化を双方で再検討して決定するものとする。
本件覚書の内容は,上記クを加えたほか,本件覚書文案と同一の内容であった(甲2の2,14)。
(8) 原告が提供した業務
ア 原告は,田原屋訴訟について,被告に対し,弁護士D(以下「D弁護士」という。)を紹介した。
原告は,D弁護士,FRCJの担当者と概ね毎月2回から3回程度,会議を開催し,田原屋訴訟及び債権者に対する対応策の協議を行った。被告代表者又は被告の担当者も同会議に同席していた(甲80,原告代表者)。
田原屋訴訟は,平成21年4月8日,①田原屋とアクトビル管理間の建物賃貸借契約が有効に継続していることの確認,②賃貸借契約の内容について,月額賃料を920万円に変更すること等の合意,③アクトビル管理が田原屋に対し未払賃料1億5286万2454円の支払債務を負うことの確認,④アクトビル管理が田原屋に対し立体駐車場を売却すること,⑤④の売却代金及びアクトビル管理が転借人に対して有する転借料債権を田原屋に対して譲渡することにより未払賃料債務と相殺したことの確認等を内容とする訴訟上の和解により終了した(甲37。以下「田原屋訴訟和解」という。)。
イ アクトビル管理は,平成19年12月31日時点で,サミーデザインに対して約2億9000万円余りの債務を負っていた。アクトビル管理は,サミーデザインに対する債務について,手形を振り出していた。原告代表者及びFRCJのEは,被告に対し,サミーデザインとの間の交渉を有利に進めるために,一度手形を不渡りにすることを検討するよう依頼した(甲80,原告代表者,被告代表者)。
原告代表者は,平成20年11月27日,被告代表者に対し,アクトビル管理が倒産した場合,従前は,ARKに影響が及ぶことはないとの前提で検討していたが,契約書等の詳細な検討の結果,ARKにも影響が及ぶことが判明したとして,ARKへのリスク波及を勘案の上,アクトビル管理の振り出している手形を不渡りにさせるか否かの経営判断を求めた(甲38)。なお,ペックグループは,ARKから,パチンコ店舗の運営を委託されていた(弁論の全趣旨)。
原告代表者は,平成21年1月8日,サミーデザインの担当者から被告及びアクトビル管理の案件についての問い合わせを受け,同担当者に対し,同案件にはFRCJが入っていること等から,直ちにサミーデザインの要望とおりに弁済を受けることは難しいものの,強硬な態度を取るよりゆっくり解決していく方が望ましいとの趣旨の回答をした(甲39)。
ウ 被告のオリックスに対する毎月の返済額は,元々は,380万円であったが,その後,被告又は被告が原告の協力によらずに選任した代理人による交渉の結果,100万円となっていた。
原告代表者は,平成20年11月27日,被告代表者に対し,D弁護士がオリックスと交渉していることを報告した(甲38)。原告は,本件契約締結後,D弁護士をしてオリックスと交渉させることにより,平成21年の前半の約半年間に関しても,100万円に抑制することを継続するよう交渉した(原告代表者)。
エ 被告の東芝ファイナンスに対する毎月の返済額は,104万円であったが,原告が東芝ファイナンスと交渉することにより,前記ウと同様の期間,50万円に抑制された(原告代表者)。
オ 被告のユニファイド債権回収に対する毎月の返済は,本件契約締結後,原告がユニファイド債権回収と交渉することにより,半年間は支払を停止した(原告代表者)。
カ 被告代表者は,原告に対し,原告が本件契約書記載の内容の業務を提供していないことについて異議を述べたことはない(被告代表者)。
(9) 田原屋は,平成23年1月19日,アクトビル管理,被告及び株式会社ペックマネジメントを被告として,アクトビル管理が田原屋訴訟和解に基づく賃料支払債務を履行しなかったため,賃貸借契約を解除した,被告はアクトビル管理の債務を黙示的に保証していたと主張して,アクトビル管理及び被告に連帯して賃料相当損害金等約1億2953万円の支払を求めると共に,アクトビル管理及び株式会社ペックマネジメントに対し連帯して約313万円の支払を求める訴訟を東京地方裁判所に提起し(東京地方裁判所平成23年(ワ)第1490号),同訴訟において,平成23年7月7日,アクトビル管理の田原屋に対する請求額と同額の債務を認めた上で,アクトビル管理が756万円を平成24年9月までに分割して支払った場合にはその余の支払義務を免除する内容の和解が成立した。同訴訟におけるアクトビル管理,被告及び株式会社ペックマネジメントの訴訟代理人は,本訴における被告代理人であった(乙1,2)。
2 本件契約の内容(原告が提供すべき業務内容)について
前記1に認定の本件覚書作成に至る原告代表者と被告代表者又はCとの交渉内容のとおり,原告は,本件契約の役務内容が変動することを前提に本件契約書への捺印を求め,被告は,原告に対して提供すべき業務の内容を明らかにするよう求め,これに応じて原告が本件覚書の内容を被告に提示し,本件覚書が作成されていることからすれば,原告及び被告の間において,本件契約において原告が提供すべき具体的業務内容は,本件覚書記載の内容であることが合意されていたものと認められる。
3 本件契約に定める業務提供債務の履行の有無
(1) 田原屋訴訟について
原告は,本件契約に基づき,田原屋訴訟について,弁護士を紹介し,会議を開催して訴訟対応の方針を協議し,田原屋訴訟が最終的に田原屋訴訟和解で解決していることからすると,田原屋訴訟に関しては,業務を提供していると認められる。
被告代表者は,田原屋訴訟和解は,履行できない内容であった旨述べるが(被告代表者),結果として田原屋訴訟和解の履行ができず,田原屋から再度訴訟を提起されたとしても,そのことのみから原告の業務内容が本件契約の履行として不十分であるとは認めることはできず,他に原告の業務内容が契約の本旨に従ったものでないと認めるに足りる証拠はない。
(2) サミーデザインについて
原告は,FRCJと共に,被告に対して,サミーデザインとの間の交渉について助言をしているほか,サミーデザインからの問い合わせに対し,被告の資金繰りに有利にさせようとする回答をしていることからすれば,被告に対して,サミーデザインに対する債務のリスケジュールを目的とする業務を提供したものと認められる。
なお,原告の被告に対する助言内容は,手形を不渡りにさせるというものであり,一般に手形振出人の経済的信用が手形の不渡りにより失われることからすれば,かかる提案は被告の経済的再生という本件契約の目的に沿うものか,疑問がないではないが,上記のとおり,他の業務も行っていることからすれば,原告が債務を履行していないものと認めるには足らない。
さらに,被告は,原告の交渉の結果,サミーデザインに対する月額支払額が増加した旨主張するが,支払額の減額交渉の結果,実際に減額ができなかったとしても,直ちに債務を履行していないものと認めるには足らない。
(3) また,オリックス,東芝ファイナンス,ユニファイド債権回収に対する債務についても,前記認定のとおり,原告は,被告に対し,本件契約に沿った業務を提供しているものと認められる。
(4) 被告は,サミーデザイン,オリックス,東芝ファイナンス,ユニファイド債権回収との交渉について,ピッセム契約と業務内容が完全に重複していると主張するところ,ピッセム契約においては,ピッセムの関連会社の財務改善を目的として,原告が,ピッセムに対し,債権の延長及び返済の分割・長期化の業務を提供するとされているものの,ピッセム契約におけるピッセムの関連会社及び債権者の範囲は必ずしも明確ではなく,本件覚書記載の債権者との交渉がこれに含まれるか否かも明らかではないから,採用することができない。
(5) 一方,あおぞら債権回収との交渉,港債権回収との和解交渉,ARKからの拠出金を0円にすることを目指す業務については,原告がこれを行ったと認めるに足りる証拠はない。
(6) 以上のとおり,原告は,本件契約において原告が提供すべき業務のうち,被告代表者が緊急を要する優先事項とした田原屋訴訟への対応を含め相当程度の業務を行っている一方,全てを提供したものとまでは認めることができない。
本件覚書における各業務は,全部が提供されない限り契約を締結する意味をなさないものではなく,独立して提供する価値を有するものと認められること,原告と被告の本件覚書作成に至る交渉経緯に照らし,契約当事者が,業務提供の程度に応じて報酬の支払いについて柔軟に対応することが予定されていたものと解されることからすれば,被告は,本件契約に基づき,原告に対し,その提供を受けた業務に応じた報酬を支払うべき義務を負うものと認められる。
なお,本件契約における原告が提供すべき業務の内容からすれば,被告が本件契約解除の意思表示をしていることは,上記限度における被告の報酬支払義務を否定する事情ではないと認められる。
そして,本件契約書及び本件覚書において,個々の業務毎には報酬額が定められていないこと,前記認定の原告が提供した業務内容,本件契約の当事者が同業務内容について考えていた優先順位からすると,少なくとも本件契約における約定報酬額の2分の1に相当する1775万円(消費税込み1863万7500円)の報酬支払義務が発生しているものと認めるのが相当である。
4 商法512条に基づく請求権について
前記3に認定の事実に照らし,原告の提供した業務に対する相当な報酬額が1863万7500円を超えるものとは認められない。
5 弁護士法違反の有無
被告又はペックグループ内の他の法人の債権者らとの交渉のうち,法律事務に関するものを実際に行ったのは弁護士であること,原告は,弁護士が債権者らと交渉するにあたってFRCJや被告とその交渉方法,方針等について協議をし,提案をするなどの業務を行っていることからすると,本件契約は,原告が弁護士紹介を業として報酬を得る内容ではなく,原告代表者によるメール(前記1(5))の記載内容を考慮しても,弁護士法に違反するものとまでは認めることができない。
6 公序良俗違反の有無について
前記認定事実からすれば,原告が契約締結当初から本件契約の定める役務を提供する意思がなかったものとは認められないから,本件契約が公序良俗に違反するものとまでは認められない。
7 錯誤・詐欺について
前記認定のとおり,原告代表者は,被告の担当者に対し,FRCJに依頼した場合の成果及び融資の見込みについて,断定的な表現を用いて告知している。
しかし,被告がパチンコ店の経営等を業とする株式会社であり,被告代表者が複数の企業からなるペックグループを率いていること(甲3),被告代表者が,原告の本件契約書案に対し,報酬支払いを成功した場合にのみ支払うとの内容にすることを要望した上で最終的には固定報酬とすることに合意していることからすると,上記事情から直ちに被告代表者が錯誤に陥ったと推認することはできず,錯誤に基づき本件契約を締結する意思表示をしたものと認めることはできない。
また,原告がFRCJに対して費用を既に立て替えている旨告知することにより,被告代表者が本件契約締結を決意したと認めるに足りる的確な証拠はない。
したがって,錯誤又は詐欺による取消は認められない。
第4 結論
以上によれば,原告の本訴請求は,1863万7500円及びこれに対する平成22年8月1日から商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容することとし,その余は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条本文を,仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
(裁判官 進藤光慶)
*******
関連記事一覧
コメント ( 0 )
トラックバックは利用できません。
この記事へのコメントはありません。