判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(234)平成23年 3月23日 東京地裁 平21(ワ)7797号 損害賠償請求事件
判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(234)平成23年 3月23日 東京地裁 平21(ワ)7797号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成23年 3月23日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平21(ワ)7797号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2011WLJPCA03238018
要旨
◆原告百貨店の代表者であった被告が、訴外会社との間で秘書業務、運転手業務等を委託する旨の業務委託契約を締結し、業務委託の実態がないにもかかわらず、原告らをして、訴外会社に業務委託費名目の金員を支払わせるなどして原告らに損害を与えたことが、善管注意義務及び忠実義務に違反するとして、原告が被告に損害賠償の支払を求めた事案につき、被告は原告らの経営を任されていた立場に乗じて、原告らの業務の遂行にとって何ら関係のない被告の私的な支出資金を捻出するために原告らを代表して訴外会社と契約していたと認められるとして、原告の請求を認めた事例
参照条文
民法709条
会社法423条1項
裁判年月日 平成23年 3月23日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平21(ワ)7797号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2011WLJPCA03238018
東京都渋谷区〈以下省略〉
原告 株式会社松屋百貨店
(原告兼原告東京レジャーサービス株式会社及び
原告関東レジャーサービス株式会社訴訟承継人)
代表者監査役 A
訴訟代理人弁護士 山崎浩一
同 鍬田則仁
同 日置雅晴
同 富田裕
千葉県浦安市〈以下省略〉
被告 Y
訴訟代理人弁護士 柴田勝之
同 矢田悠
訴訟復代理人弁護士 白坂守
主文
1 被告は,原告に対し,6035万7500円及びこれに対する平成21年3月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを25分し,その24を被告の負担とし,その余は原告の負担とする。
4 この判決は,原告勝訴の部分に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,6287万7500円及びこれに対する平成21年3月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告株式会社松屋百貨店(以下「原告松屋」という。)が,原告松屋,平成22年7月1日に原告松屋に吸収合併された東京レジャーサービス株式会社(以下「東京レジャー」という。)及び関東レジャーサービス株式会社(以下「関東レジャー」という。)の代表取締役を務めていた被告が,原告松屋,東京レジャー及び関東レジャー(以下「原告ら」という。)に対して負う善管注意義務及び忠実義務に違反し,かつ,B(以下「B」という。)と共謀し,原告らを代表してBが代表者を務める有限会社スリーウェイ(以下「スリーウェイ」という。)との間で秘書業務,運転主業務等を委託する旨の業務委託契約を締結し,業務委託の実態がないにもかかわらず,原告らをしてスリーウェイに対し業務委託費名目の金員を支払わせ,また,原告松屋を代表してスリーウェイとの間で企画・調査及びコンサルティング等の業務を委託する業務委託契約を締結し,原告松屋をしてスリーウェイに対し業務委託費名目の金員を支払わせ,原告ら及び原告松屋に損害を与えたと主張し,被告に対し会社法423条1項又は不法行為に基づき,原告ら及び原告松屋がスリーウェイに支払った業務委託費名目の金員に相当する損害金及び弁護士費用相当の損害金の合計6287万7500円及びこれに対する請求の後の日であり,かつ,不法行為の後の日である平成21年3月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実)
(1) 原告ら
ア 原告らは,いずれもパチンコ店営業,ホテル・レストラン業等を目的とするジャパンレジャーサービスグループ(以下「JLSグループ」という。)に属する株式会社であり,パチンコ店営業を主たる事業としている。C(以下「C」という。)は,原告松屋が主張する業務委託契約のなされた当時から現在までJLSグループの最高責任者の地位にある。
イ 東京レジャー及び関東レジャーは,平成22年7月1日,いずれも原告松屋に吸収合併された。
(2) 被告及びB
ア 被告は,平成13年6月30日から平成20年8月29日までの間,原告松屋の代表取締役の地位にあり,平成11年7月10日から平成20年8月29日までの間,東京レジャーの代表取締役の地位にあり,平成14年10月3日から平成20年8月29日までの間,関東レジャーの代表取締役の地位にあった。
イ Bは,平成11年3月31日に設立されたコンピュータソフトウェアの開発,開発受託及び販売に関する業務等を目的とするスリーウェイの代表者(取締役)である。
(3) 金銭の支払
ア 原告らは,スリーウェイに対し,平成15年12月から平成20年7月までの間,業務委託費の名目で別紙「(有)スリーウェイへの支払実績(業務委託料)」記載のとおり合計3102万7500円を支払った。
イ 原告松屋は,スリーウェイに対し,平成16年3月5日,原告松屋の茂原店についての業務委託費の名目で2625万円を支払った。
2 争点及び当事者の主張
本件の争点は,①被告がBと共謀し,被告が不正の利益を得ることを企図して原告らとスリーウェイとの間で実態のない業務委託契約を締結させたか否か,②被告がBと共謀し,原告松屋とスリーウェイとの間で原告松屋がパチンコ遊技場茂原店の駐車場用地を利用するについては必要のない業務委託契約を締結させたか否か,③原告らの実質的な100%株主であるCがスリーウェイとの間の各業務委託契約の締結に先立ち,その締結に同意し,又は事後的に被告の責任を免除したか否かであり,これらの争点についての当事者の主張は次のとおりである。
(1) 争点①及び②について
(原告松屋の主張)
ア 被告は,JLSグループの最高責任者であるCから厚い信頼を得て,関東方面を中心とする原告らの経営を任されていた立場に乗じてBと共謀し,原告らからスリーウェイに対する業務委託の実態がないにもかかわらず,これを知りながら,原告らから業務委託費の名目でスリーウェイに金銭を支払わせることにより,被告が不正の利益を得ることを企図し,原告らを代表して平成15年12月1日,スリーウェイとの間で,原告らがスリーウェイに対して①代表取締役の秘書業務,②代表取締役専用車の運転手業務,③その他これらに付随する業務を委託し,その対価として月額各15万7500円ずつ(平成18年3月分から月額21万円に増額)を支払う旨の業務委託契約(以下「甲契約」という。)を締結し,原告らをして平成15年12月から平成20年7月までの間に甲契約に基づく業務委託費として合計3102万7500円を支払わせ,原告らそれぞれに対し1034万2500円の損害を与えた。
イ 被告は,原告松屋が千葉県茂原市小轡所在の別紙茂原店駐車場明細記載Aの土地(以下「本件用地」という。)に建設する遊技場(パチンコ遊技場茂原店,以下「茂原店」という。)の駐車場とするために,同明細記載Bの部分の4筆の土地(以下「本件駐車場用地」という。)につき,地主に支払う地代と同額又は少し上乗せした程度の委託料の支払をすれば本件駐車場用地の賃借人となる者が存在し,同賃借人から転借して本件駐車場用地を利用することができ,スリーウェイとの間で業務委託契約を締結する必要がなかったにもかかわらず,Cから厚い信頼を得て,関東方面を中心とする原告松屋の経営を任されていた立場に乗じてBと共謀し,スリーウェイに利得させる目的で,原告松屋を代表して平成16年1月15日,スリーウェイとの間で,原告松屋がスリーウェイに対して企画・調査及びコンサルティング等の業務を委託する旨の業務委託契約(以下「乙契約」という。)を締結し,原告松屋をして平成16年3月5日,乙契約に基づく業務委託費として2625万円を支払わせ,原告松屋に対しこれと同額の損害を与えた。
ウ 原告らは,原告らの訴訟代理人らに本件訴訟の追行を委任し,原告らが被った損害額の約1割に相当する金額を弁護士費用として支払うことを約したから,被告は,上記ア及びイの行為によって,原告に対し,560万円の弁護士費用相当の損害を与えた。
(被告の主張)
ア 被告がJLSグループの最高責任者であるCから厚い信頼を得ていたこと,原告らとスリーウェイが甲契約を,原告松屋とスリーウェイが乙契約を締結したこと,原告らがスリーウェイに原告らの主張する金員を支払ったことは認める。その余の事実は否認し,主張は争う。
イ 甲契約は,スリーウェイが資金調達,M&A等に関して有益な情報の収集・提供及び相手先企業の紹介並びに当該相手先企業との交渉を行うことを主眼とし,付随的に被告の秘書業務及び運転手業務を行う契約であった。被告は,実際に,Bから多くの情報提供を受け,取引先候補の紹介を受けたし,B自身が相手先企業との交渉に当たったこともある。原告らは,スリーウェイに対し,甲契約に基づく正当な対価として業務委託費を支払った。
ウ 原告松屋は,平成16年1月当時,茂原店の出店のため,駐車場を確保する必要があった。しかし,風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営法」という。)の制限により駐車場用地を原告松屋又はJLSグループが賃借人となって賃借することができなかった。そこで,原告松屋は,スリーウェイとの間で,スリーウェイが賃借人となって地主との間で賃貸借契約を締結し,本件駐車場用地を茂原店の駐車場として使用するために必要な準備行為を行うことを内容とする乙契約を締結した。原告松屋は,スリーウェイに対し,乙契約に基づく正当な対価として業務委託費を支払った。
(2) 争点③について
(被告の主張)
ア 甲契約について
(ア) 原告らが甲契約を締結することについては,被告は,平成14年6月又は7月ころに当時のJLSグループ本社経理部長D(以下「D」という。)から報告を受け,又はCがJLSグループ関東営業部の監督役として派遣したE(以下「E」という。)による日常的な報告を受けたCからの了解を得ており,また,同年7月又は8月ころにはCからBが経営する会社に対して業務委託費を支払うことの了解を得た。
したがって,甲契約の締結については,それに先立ち,原告らの実質的な100%株主であるCの同意があったから,被告の原告らに対する善管注意義務及び忠実義務の違反はなく,違法性も認められない。
(イ) Eは,甲契約の締結に関与しており,原告らの実質的な100%株主であるCは,Eからも甲契約に基づく業務委託費の支払についての報告を受けていた。
したがって,被告の原告らに対する善管注意義務及び忠実義務違反による損害賠償義務は事後的に免除されている。
(ウ) Cが甲契約の締結について同意しながら,原告松屋が被告に対して損害賠償を請求することは信義則に反する。
イ 乙契約について
(ア) 原告松屋が乙契約を締結することについては,被告は,乙契約の締結に先立つ平成15年12月ころ,Dに対し,近隣に保護施設があるため,駐車場用地はBが経営する会社に取得させる,そのためBには報酬を支払う旨伝え,Dを経てCの了解を得た。そうではないとしても,被告は,Eから上記報告を受けたCから乙契約の締結についての了解を得た。
したがって,乙契約の締結については,それに先立ち,原告松屋の実質的な100%株主であるCの同意があったから,被告の原告松屋に対する善管注意義務及び忠実義務の違反はなく,違法性は認められない。
(イ) Eは,乙契約の締結に関与しており,原告松屋の実質的な100%株主であるCは,Eからも乙契約に基づく業務委託費の支払について報告を受けていた。
したがって,被告の原告松屋に対する善管注意義務及び忠実義務違反に基づく損害賠償義務は事後的に免除されている。
(ウ) Cが乙契約の締結につき同意しながら,原告松屋が被告に損害賠償を請求することは信義則に反する。
(原告松屋の主張)
被告が主張する事実のうち,Cが原告らの実質的な100%株主であることは認める。その余のア(ア)及び(イ)並びに同イ(ア)及び(イ)の事実はいずれも否認し,ア(ウ)及びイ(ウ)の主張は争う。
第3 当裁判所の判断
1 前提となる事実関係
本文各項末尾に掲記した前提事実及び各証拠並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1) 原告らは,いずれもパチンコ店営業,ホテル・レストラン業等を目的とするJLSグループに属する株式会社であり,パチンコ店営業を主たる事業としている。JLSグループの最高責任者はCであり,Cは,平成10年3月からJLSグループの会長とJLSグループに属する主要な会社の代表取締役に就任し,Cが直轄する京都本社の総務部及び経理部がJLSグループの全体の総務及び経理を掌握している。被告は,同年9月ころ,原告らの営業を統括するJLSグループ関東営業部の営業部長に就任し,原告らの経営を任せられ,平成11年7月10日に東京レジャーの,平成13年6月30日に原告松屋の,平成14年10月3日に関東レジャーの代表取締役にそれぞれ就任した。(前提事実(1)ア及び(2)ア,甲10,28及び39,乙イ17及び18,証人C)
(2) JLSグループに属する株式会社メディアスケープ(以下「メディア社」という。)とBが代表取締役を務めるブレイン・トラスト・コンサルティング株式会社(以下「ブレイン社」という。)は,平成14年9月4日,業務期間を同月1日から平成15年2月末日まで,業務受託費を契約着手時300万円,月額コンサルティング顧問料50万円,成功報酬額を資金調達総額の5%とする約定で,メディア社がブレイン社に対し,原告松屋の新店舗開発における資金調達支援業務並びにM&Aを含むベンチャー事業のアドバイザリー業務及びアライアンス業務(以下「新店舗開発支援業務等」という。)を委託する旨の契約(乙ロ3,以下「丙契約」という。)を締結し,メディア社は,ブレイン社に対し,平成14年9月5日,受託費300万円を支払った。(乙ロ1,乙ロ3の1~5,乙ロ4,証人B)
(3) JLSグループは,平成14年10月,M&Aにより株式会社レキシントン(後の関東レジャー,以下「レキシントン」という。)を取得したが,レキシントンの買収に関しては,被告が関与しているものの,ブレイン社については,丙契約に基づく買収資金の調達その他の業務を何ら行っていない。なお,レキシントンは,その後,商号を関東レジャーサービス株式会社に変更した。(甲28,乙イ18及び21,証人B,証人C)
(4) Bは,被告から,丙契約に係る新店舗開発支援業務等以外の顧問業務を行うことを依頼したいとの申入れを受け,被告に対し,契約の主体をブレイン社からスリーウェイに変更することを求め,その結果,原告らとスリーウェイは,平成15年12月1日,甲契約を締結した。甲契約に係る契約書(乙イ3の1~3,以下「甲契約書」という。)には,原告らがスリーウェイに対し,①代表取締役の秘書業務,②代表取締役専用車の運転手業務,③その他,これらに付随する業務を委託し,その対価として,月額各15万円ずつを支払うとの約定が記載されているが,原告らは,スリーウェイに対し,新店舗開発支援業務等をも委託している。もっとも,Bは,原告らに対し,数社の買収候補先を紹介したり,JLSグループ関東営業部の代々木事務所において被告と打合せ等を行うなどしたものの,投資に見合う案件はなく,JLSグループにおいて買収が成立した案件や資金調達先を探した案件もなかった。そして,原告らは,スリーウェイに対し,甲契約に基づき消費税を含む業務委託料として,平成15年12月から平成18年2月までは各原告ごとに月額15万7500円,合計47万2500円を,平成18年3月から平成20年7月までは各原告ごとに月額21万円,合計63万円を支払った。(前提事実(3)ア,甲14,乙イ3の1~3,乙イ16及び18,乙ロ1及び2,証人B)
(5) 原告松屋は,本件用地に茂原店の建設を計画した。被告は,本件駐車場用地を茂原店の駐車場にしようとしたが,本件駐車場用地が茂原市立東郷小学校から100メートル以内に存在するため,風営法4条2項2号,同法律施行令6条1号ロ,千葉県同法律施行条例5条2号所定の距離制限規定(以下「本件距離制限規定」という。)の規制にかかることが明らかとなったことから,本件駐車場用地をJLSグループ以外の者の名義で確保することとし,Bの協力を求めた。そして,被告は,原告松屋を代表し,スリーウェイとの間で,平成16年1月15日,真実は本件駐車場用地を確保する目的でありながら,原告松屋がスリーウェイに対し,本件用地における原告松屋と大和工商リース株式会社との事業用借地権付店舗建設に係る事業が計画どおりに遂行できるよう,企画・調査・コンサルティング及び代行業務を行うことを委託し,その報酬として,同年3月5日限り2500万円を支払うとの乙契約に係る契約書(乙イ4,以下「乙契約書」という。)を交わした。原告松屋は,本件駐車場用地を除外した本件用地のみを茂原店の店舗敷地及び駐車場とする風俗営業の許可を申請し,公安委員会からの許可を受け,その後,スリーウェイは,乙契約に基づき,本件駐車場用地を確保し,同年12月20日,株式会社玉川工産がFから賃借した本件駐車場用地を期間平成16年12月25日から平成36年12月24日までの20年間,賃料月額76万6500円との約定で転借し,更にこれを原告松屋に対し賃料月額87万円との約定で再転貸した。(甲21~23,25及び26,乙イ4,9及び18,乙ロ1,証人B,被告本人)
(6) Bは,乙契約の締結に当たり,被告及びJLSグループ関東営業所の渉外部長を務めるEから,赤字会社を用意し,スリーウェイが乙契約に基づき受け取った業務委託費2625万円から原告松屋の運転資金として上記赤字会社を通じて2000万円を戻して欲しいとの依頼を受けた。Bは,株式会社アスタリック(以下「アスタリック」という。)の代表者であるG(以下「G」という。)に依頼し,スリーウェイがアスタリックに対し,平成16年3月10日限り2000万円を支払う旨記載されたスリーウェイとアスタリックとの間の同年1月15日付け業務委託契約書(乙ロ15の2の1)を作成し,原告松屋から乙契約に基づき,同年3月5日に2625万円の支払を受けた上で,同月10日,2100万円をアスタリックの預金口座に振り込み,同口座から現金で払い戻して用意した2000万円を,JLSグループの関東営業部代々木事務所において被告及びEに手渡した。なお,Bは,Gに対し,手数料として59万円を支払っている。(甲23及び28,乙イ17,乙ロ2,乙ロ15の1,乙ロ15の2の1~3,乙ロ15の3の1~3,証人B,被告本人)
(7) スリーウェイは,平成15年12月から平成20年7月までの間,①原告らから支払を受けた甲契約に基づく業務委託費,②乙契約に基づき原告松屋から支払を受けた業務委託費から原告松屋に戻した2000万円とGに支払った手数料とを控除した額及び③平成16年12月から平成20年7月までの間,本件駐車場用地の転借料と原告松屋から支払を受けた転貸料との差額に相当する金員を取得した。しかし,スリーウェイは,被告から甲契約に基づく顧問業務としてスリーウェイが原告らから支払を受けた業務委託費等から下記各金員を支払うように指示され,スリーウェイ又はBが資金を管理している会社等を通してこれらを支払った。これらのスリーウェイが被告の指示に基づき支払った金員と甲契約及び乙契約に基づきスリーウェイが原告らから支払われた業務委託費並びに本件駐車場用地においてスリーウェイが負担した転借料と原告松屋がスリーウェイに支払った再転借料との差額に相当する収入金額は別表⑤記載のとおりである。(甲14及び21~23,乙ロ2,乙ロ15の1,乙ロ15の2の2,乙ロ15の3の1,証人B)
ア スリーウェイは,運転手としてH(以下「H」という。)を雇用し,Hを原告らに派遣し,平成15年12月から平成17年2月まで被告の運転手兼秘書業務を行わせ,Hの報酬として別表①のとおり月額30万円,合計415万9452円を支払った。(甲31,乙イ18,乙ロ2,乙ロ12の1~3,証人B)。
イ スリーウェイは,平成16年後半ころから被告と愛人関係になったI(以下「I」という。)の居住するマンションの賃貸借契約に基づく敷金,礼金,仲介手数料及び各月の賃料(以下「賃料等」という。)相当額の金員を支払うように求められ,別表②のとおり,平成16年8月18日から平成20年7月まで,Iが居住したマンションの賃貸借契約に基づく賃料等相当額を支払った。なお,Iは上記期間に2度転居している。(甲40,乙ロ2,乙ロ13の1~4,乙ロ13の5の1~4,乙ロ13の6,証人H,証人B,被告本人)。
ウ スリーウェイは,被告の妻であるJ(以下「J」という。)の母親であるK(以下「K」という。)に対し,別表③のとおり,平成18年7月から平成20年7月まで顧問料名目で月額23万円を支払った。Kは,本件駐車場用地に建築する建物において,うどん屋を営業するために平成16年8月3日に設立され,同年12月ころから原告松屋の茂原店及び市川店のホール内で遊戯をする顧客に飲み物を販売するワゴンサービス(以下「本件ワゴンサービス」という。)を行うようになった有限会社弘真企画(乙ロ14の3,以下「弘真企画」という。)の代表者であるLと交際し,後に婚姻した者である。なお,弘真企画は,ウェルジャパン株式会社(以下「ウェルジャパン社」という。)に対し,スリーウェイがKに上記金員の支払を開始する前である平成18年3月31日,茂原店及び市川店において行っていた本件ワゴンサービスの営業及び茂原店において準備中のうどん屋の営業権を譲渡している。(甲25及び31,乙イ18,乙ロ2,乙ロ14の1,乙ロ14の2の1~3,乙ロ14の3,証人B)。
エ Bは,被告からスリーウェイ名義で車両を購入して欲しいとの依頼を受け,株式会社オリエントコーポレーション(以下「オリコ」という。)との間で立替払契約を締結してトヨタのアルファード(以下「本件車両」という。)をスリーウェイ名義で購入し,スリーウェイは,オリコに対し,平成18年3月27日から別表④のとおり立替金を支払った。この支払をするようになったことに伴い,スリーウェイが甲契約に基づき原告らから支払を受ける消費税相当額を含む業務委託費は,同月以降,月額47万2500円から63万円に増額された。(甲14,乙イ13~15及び18,乙ロ2,乙ロ16の1の1~3,乙ロ16の2,証人B,被告本人)。
(8) 被告は,スリーウェイから派遣されたHに対し,次の業務を行わせた。
ア Hは,平成15年12月1日ころから平成16年夏ころにかけて被告の使用する車両の運転手として運転業務に従事した。この間,Hは,被告のゴルフ場への送迎なども行ったほか,被告の妻であるJのために買い物や病院への送迎,被告が購入し,車両使用者名義をJとするポルシェの任意保険加入手続を行ったこともあった。また,Hは,Bの私用で車両の運転を行うこともあり,平成16年初めころにはEに命じられて株式会社ランドスケープインターナショナル(以下「ランド社」という。)の事務所探しを行った。(甲31及び40,乙イ18,証人H)
イ Hは,平成16年8月ころ,被告から弘真企画が営業することになるうどん屋の開業準備をするように命じられ,同年12月ころからは弘真企画が営業を開始した本件ワゴンサービスの業務に従事した。(甲31,乙イ18,証人H,証人B)。
ウ Hは,被告から命じられ,Iの居住するマンションにつき,2回にわたり物件探しを行い,平成16年8月23日にはIが最初に居住したマンションの賃貸借契約の手続を,同年12月17日にはIが転居したマンションの賃貸借契約の手続をそれぞれ行った。(甲31及び40,乙ロ13の1及び2,証人H,被告本人)
(9) 平成16年夏にHが運転業務を行わなくなってから,M(以下「M」という。)が被告の使用する車両の運転手として勤務し,その後原告らにおいては,東京レジャーが株式会社トーケイ(以下「トーケイ」という。)との間で締結した自家用自動車管理請負契約に基づき,同年10月18日から平成18年1月17日までの間,トーケイから派遣されたN(以下「N」という。)が被告の使用する車両を運転していた。また,その後は,平成17年12月12日に東京レジャーにCの運転手として採用されたO(以下「O」という。)が,Cが京都本社にいることから,被告の使用する車両を運転していた。(甲15~17の各1及び2,甲18,19,24,29及び31,証人H,被告本人)
2 争点①についての判断
(1) 原告松屋が被告の責任原因として主張する事実のうち,被告がJLSグループの最高責任者であるCから厚い信頼を得ていたこと,原告らとスリーウェイが甲契約を締結したこと,原告らがスリーウェイに対し原告らの主張する金員を支払ったことは当事者間に争いがなく,上記1(1)で認定したとおり,被告が平成10年9月ころ,原告らの営業を統括するJLSグループ関東営業部の営業部長に就任し,原告らの経営を任せられ,平成11年7月10日に東京レジャーの,平成13年6月30日に原告松屋の,平成14年10月3日に関東レジャーの代表取締役にそれぞれ就任したとの事実が認められ,これらの事実によれば,被告は,JLSグループの関東方面を中心とする原告らの経営を任されていた立場にあったということができる。
(2) そこで,被告が,原告らの経営を任されていた立場に乗じて,原告らからスリーウェイに対する業務委託の実態がないにもかかわらず,これを知りながら,原告らから業務委託費の名目でスリーウェイに金銭を支払わせることにより,被告が不正の利益を得ることを企図し,原告らを代表して甲契約を締結したということができるのかについて検討する。
ア 上記1(2)及び(4)で認定したとおり,JLSグループに属するメディア社とBが代表取締役を務めるブレイン社は,平成14年9月4日,メディア社がブレイン社に対し,原告松屋の新店舗開発支援業務等を委託する旨の丙契約を締結していたが,Bは,被告から,丙契約に係る新店舗開発支援業務等以外の顧問業務を行うことを依頼したいとの申入れを受け,被告に対し,契約の主体をブレイン社からスリーウェイに変更することを求めた結果,原告らとスリーウェイは,平成15年12月1日,甲契約を締結したこと,甲契約に係る契約書である甲契約書には,原告らがスリーウェイに対し,①代表取締役の秘書業務,②代表取締役専用車の運転手業務,③その他,これらに付随する業務を委託するとの約定が記載されているが,原告らは,スリーウェイに対し,新店舗開発支援業務等をも委託し,Bは,原告らに対し,数社の買収候補先を紹介したり,JLSグループ関東営業部の代々木事務所において被告と打合せ等を行うなどしていたとの事実が認められる。
しかし,他方で,上記1(4)で認定したとおり,甲契約書には,そもそも原告らがスリーウェイに委託する業務として新店舗開発支援業務等の記載がないこと,スリーウェイが行った新店舗開発支援業務等については,投資に見合う案件はなく,JLSグループにおいて買収が成立した案件や資金調達先を探した案件もなかったことが認められること,上記1(7)で認定したとおり,スリーウェイは,被告からの委託を受けて,スリーウェイが被告の運転手兼秘書業務を行わせるためにHを原告らに派遣し,Hに対する報酬を支払ったこと,Iの居住するマンション賃貸借契約に基づく賃料等相当額の金員,Kに対する顧問料名目の金員,スリーウェイ名義で購入した本件車両の立替金を支払ったこと,これらのスリーウェイが被告の指示に基づき支払った金員と甲契約及び乙契約に基づきスリーウェイが原告らから支払を受けた業務委託費並びに本件駐車場用地においてスリーウェイが負担した転借料と原告松屋がスリーウェイに支払った再転借料との差額に相当する収入金額は別表⑤記載のとおりであることが認められ,これらの事実によれば,スリーウェイが原告らから得た収入金額の相当部分が被告の委託に基づく支払に充てられているということができるから,甲契約の主たる目的は,スリーウェイにおいて新店舗開発支援業務等以外の甲契約書に記載された顧問業務を行うことにあったと認めるのが相当である。
この点,被告は,甲契約は,スリーウェイが資金調達,M&A等に関して有益な情報の収集・提供及び相手先企業の紹介並びに当該相手先企業との交渉を行うことを主眼とし,付随的に被告の秘書業務及び運転手業務を行う契約であったとの主張をするが,被告の主張は,上記説示したところに照らし採用することができない。
イ そこで,被告の指示に基づきスリーウェイが行った各金員の支払が原告らの業務を遂行するために必要なものであったか否かについて検討する。
(ア) Hの報酬について
上記1(7)ア及び(8)アで認定した事実によれば,Hは,平成15年12月1日ころから平成16年夏ころにかけて被告の使用する車両の運転手として運転業務に従事していたというのであるから,この間,Hが被告のゴルフ場への送迎なども行ったほか,Jのために買い物や病院への送迎,被告が購入し,車両使用者名義をJとするポルシェの任意保険加入手続を行ったこと,Bの私用で車両の運転を行ったこと,Eに命じられてランド社の事務所探しを行ったことがあったとしても,なお,被告の使用する車両の運転業務に支障を来したとの事実が認められない以上は,Hに対する報酬の支払が原告らの業務を遂行するために必要なものでなかったとまでは認めることができない。
他方,上記1(7)ア及びウ,(8)イ及びウ並びに(9)で認定したとおり,Hは,平成16年8月ころから平成17年2月までの間は,原告らとは別法人である弘真企画が営業することになるうどん屋の開業準備と弘真企画が営業を開始した本件ワゴンサービスの業務に従事するとともに,Iの居住するマンションにつき,2回にわたり物件探しを行い,これらのマンションの賃貸借契約の手続を行ったこと,Hが運転業務を行わなくなってから派遣が終了するまでの間は,被告の使用する車両の運転はM及びNが行っていたとの事実が認められ,これらの事実によれば,Hが被告の使用する車両の運転業務を行わなくなった平成16年8月以降のHに対する報酬の支払は,原告らの業務とは何ら関係のないものであったといわざるを得ない。
(イ) Iの居住するマンションの賃料等相当額の支払について
上記1(7)イで認定した事実によれば,Iは平成16年後半ころから被告と愛人関係になったというのであるから,Iの居住するマンションの賃料等相当額の支払が原告らの業務に必要な支払でなかったことは明らかである。
(ウ) Kに対する顧問料名目の金員の支払について
上記1(7)ウで認定したとおり,弘真企画が本件駐車場用地に建築する建物において,うどん屋を営業するために設立され,原告松屋の茂原店及び市川店のホール内で遊戯をする顧客に飲み物を販売する本件ワゴンサービスを行っていたことが認められるとしても,KがJの母親であること,スリーウェイがKに顧問料を支払うようになった平成18年7月には,弘真企画が本件ワゴンサービス及び茂原店において準備中のうどん屋の営業権をウェルジャパン社に譲渡していることが認められることからすれば,Kに対する顧問料名目の金員の支払が原告らの業務に必要なものでなかったことは明らかである。
(エ) 本件車両の立替金の支払について
上記1(7)エ及び(9)で認定したとおり,Bがスリーウェイ名義で本件車両を購入した当時,原告らには,平成17年12月12日に東京レジャーにCの運転手として採用されたOがおり,Cが通常は京都本社にいることから,Oが被告の使用する車両を運転していたとの事実が認められることからすれば,当時,原告らにおいては,被告が使用する車両を保有し,かつ,同車両を運転するOを雇用していたということができる。そうだとすれば,被告が原告らの業務を遂行するために原告らが保有する上記車両の他に本件車両が必要であったということはできないから,本件車両に係る立替金の支払が原告らの業務に必要なものであったということはできない。
(オ) 上記(ア)ないし(エ)で検討したところによれば,スリーウェイが被告の指示に基づき行った各金員の支払は,平成15年12月1日から平成16年7月までのHの報酬を除き,原告らの業務を遂行するために必要なものであったと認めることはできない。
この点,被告は,甲契約に基づく正当な対価として業務委託費を支払った旨主張するが,被告の主張は,上記検討したところに照らし,採用することができない。
ウ 上記アで説示したとおり,甲契約の主たる目的がスリーウェイにおいて新店舗開発支援業務等以外の甲契約書に記載された顧問業務を行うことにあったと認めるのが相当であることに加え,上記イで説示したとおり,スリーウェイが被告の指示に基づき行った各金員の支払は,平成15年12月1日から平成16年7月までのHの報酬を除き,原告らの業務を遂行するために必要なものであったと認めることができないこと,Hが被告の使用する車両の運転業務に従事していた期間が上記のとおりわずか8か月に過ぎないことを考慮すれば,被告は,原告らの経営を任されていた立場に乗じて,原告らの業務の遂行にとって何ら関係のない被告の私的な支出をするための資金を捻出するために,原告らを代表して甲契約を締結したと認めるのが相当である。そうだとすれば,被告がスリーウェイに対して各金員の支払等の業務を委託したとの事実が認められるとしても,それは,原告らの業務を委託したものと評価することはできないから,甲契約は,被告が原告らからスリーウェイに対する業務委託の実態がないにもかかわらず,これを知りながら,原告らから業務委託費の名目でスリーウェイに金銭を支払わせることにより,被告が不正の利益を得ることを企図して締結されたものと認めざるを得ない。
(3) 以上によれば,被告が原告らを代表してスリーウェイとの間で甲契約を締結し,これに基づき業務委託費をスリーウェイに支払ったことは,被告がBと共謀したとの事実が認められるか否かにかかわらず,原告らに対して負担する代表取締役としての善管注意義務及び忠実義務に違反し,その任務を懈怠したものというべきであり,かつ,不法行為に基づくものと認めるのが相当である。したがって,被告は,原告松屋に対し,甲契約に基づく業務委託費の支払によって原告らが被った損害を賠償する義務を負うというべきである。そして,原告らが被った損害額は,原告らからスリーウェイに支払われた業務委託費の合計3102万7500円から平成15年12月から平成16年7月までのHの報酬相当額である240万円(30万円×8か月)を控除した2862万7500円と認めるのが相当である。
3 争点②についての判断
(1) 原告が被告の責任原因として主張する事実のうち,被告がJLSグループの最高責任者であるCから厚い信頼を得ていたこと,原告松屋とスリーウェイが乙契約を締結したこと,原告松屋がスリーウェイに対し原告らの主張する金員を支払ったことは当事者間に争いがなく,上記2(1)で説示したとおり,被告がJLSグループの関東方面を中心とする原告松屋の経営を任されていた立場にあったということができる。
(2) そこで,被告が,原告松屋の経営を任されていた立場に乗じて,スリーウェイとの間で乙契約を締結する必要がなかったにもかかわらず,原告松屋を代表して乙契約を締結したということができるのかについて検討する。
ア 上記1(5)で認定したとおり,被告は,原告松屋が本件用地に建設する茂原店のために,本件駐車場用地を駐車場にしようとしたが,本件駐車場用地が茂原市立東郷小学校から100メートル以内に存在するため,本件距離制限規定の規制にかかることが明らかとなったことから,本件駐車場用地をJLSグループ以外の者の名義で確保することとし,Bの協力を求め,原告松屋を代表し,スリーウェイとの間で,真実は本件駐車場用地を確保する目的で,この目的が記載されていない乙契約書を交わすことによって乙契約を締結し,原告松屋が本件駐車場用地を除外した本件用地のみを茂原店の店舗敷地及び駐車場とする風俗営業の許可を受けた後にスリーウェイが転借した本件駐車場用地を再転借したことが認められる。
しかし,本件駐車場用地が本件距離制限規定の規制にかかることが明らかになったというのであるなら,被告としては,原告松屋の代表者として本件距離制限規定の規制を回避するために乙契約を締結してまで本件駐車場用地を確保すべきではなかったというべきである。この点をさておくとしても,証拠(甲25,乙イ9)及び弁論の全趣旨によれば,原告松屋は,平成18年11月には,本件距離制限規定の規制にかからない別紙茂原店駐車場明細記載Cの土地(以下「C土地」という。)を茂原店の駐車場として確保したとの事実が認められるから,原告松屋は,本件距離制限規定の規制にかからないC土地その他の土地を茂原店の駐車場として確保することができたと推認することができる。
イ また,上記1(6)で認定したとおり,乙契約の締結に当たり,Bは,被告及びEから赤字会社を用意し,スリーウェイが乙契約に基づき受け取った業務委託費2625万円から原告松屋の運転資金として上記赤字会社を通して2000万円を戻して欲しいとの依頼を受け,赤字会社として用意されたアスタリックの預金口座を経由して用意した2000万円を被告及びEに手渡したこと,スリーウェイは,アスタリックの代表者であるGに対し,手数料として59万円を支払ったことが認められることからすれば,乙契約に基づき原告松屋がスリーウェイに支払った2625万円のうち2059万円については,本件駐車場用地を確保するために必要な金員であったということはできない。この点,被告は,本人尋問において,スリーウェイから戻された2000万円は,地元の有力者に支払う資金として使用した旨の供述をするものの,同供述を裏付ける客観的な証拠がない以上,被告の上記供述は信用することができないから,上記2000万円が本件駐車場用地を確保するための地元対策費として使用されたとの事実を認めることはできない。仮に被告の供述どおりの事実が認められるとしても,乙契約は,専ら上記2000万円を捻出するために締結されたものであって,スリーウェイが乙契約の締結に基づいて本件駐車場用地を確保するために締結されたものではなかったことになる。これらのことに加え,上記1(5)で認定したとおり,スリーウェイが乙契約に基づき本件駐車場用地を転借し,更にこれを原告松屋が再転借したことが認められるとしても,スリーウェイが本件駐車場用地を確保するためにどのような業務を行ったのかについては,証拠上何ら明らかではないことを考慮すると,地主に支払う地代に少し上乗せした程度の委託料の支払をすれば本件駐車場用地の賃借人となる者が存在し,同賃借人から転借して本件駐車場用地を利用することができたということができ,原告松屋としては,本件駐車場用地を確保するために乙契約を締結する必要はなかったといわざるを得ない。
この点,被告は,乙契約は,原告松屋がスリーウェイとの間で,スリーウェイが賃借人となって地主との間で賃貸借契約を締結し,本件駐車場用地を茂原店の駐車場として使用するために必要な準備行為を行うことを内容とするものであり,原告松屋は,スリーウェイに対し,乙契約に基づく正当な対価として業務委託費を支払った旨主張するが,被告の主張は,上記検討したところに照らし,到底採用することができない。
ウ 上記検討したところによれば,乙契約は,原告松屋が本件駐車場用地を確保するためのものとしては何ら締結する必要がなかったものといわざるを得ず,それにもかかわらず,被告が原告松屋を代表してスリーウェイとの間で乙契約を締結し,業務委託費の名目で2625万円を支払ったことは,これについて被告がBと共謀したか否か,スリーウェイに利得させる目的があったか否かにかかわらず,原告松屋に対して負担する代表取締役としての善管注意義務及び忠実義務に違反し,その任務を懈怠したものというべきであり,かつ,不法行為に基づくものと認めるのが相当である。したがって,被告は,原告松屋に対し,乙契約に基づく業務委託費の支払によって原告松屋が被った損害を賠償する義務を負うというべきである。そして,上記イで説示したとおり,乙契約が2000万円を捻出するために締結されたものであって,スリーウェイが乙契約の締結に基づいて本件駐車場用地を確保するために締結されたものではなかったことを考慮すると,乙契約の締結によってスリーウェイに支払われた業務委託費2625万円全額が原告松屋の被った損害と認めるのが相当である。
4 争点③についての判断
(1) 甲契約について
ア 被告は,平成14年6月又は7月ころには当時のJLSグループ本社経理部長であったDから報告を受け又はEから日常的な報告を受けた原告らの実質的な100%株主であるCから了解を得ており,同年7月又は8月ころにはCからBが経営する会社に対して業務委託費を支払うことの了解を得た旨の主張をする。そして,被告は,陳述書(3)(乙イ19,以下「甲陳述書」という。)において,上記主張に沿う記載をする。
しかし,甲陳述書には,平成14年6月又は7月ころ,レキシントンの買収資金がBの紹介で調達できそうだが,コンサルティング契約を結ばないと前に進まないと説明し,Bに対しコンサルティング料を支払うことにつきDの承諾を得たこと,同年7月又は8月ころ,被告がCに対し,Bの会社とコンサルティング契約を結びコンサルティング料を支払うことを説明し,了解を得た旨の記載がある。しかし,上記1(2)ないし(4)で認定した事実によれば,甲契約が締結されたのが平成15年12月1日であるから,甲陳述書記載に係るコンサルティング契約は,平成14年9月4日にメディア社とブレイン社との間で締結された丙契約のことであるということができ,しかも,レキシントンの買収に関しては,被告が関与しているものの,ブレイン社については,丙契約に基づく買収資金の調達その他の業務を何ら行っていないというのであるから,甲陳述書の記載は,上記事実に照らし到底信用することができない。この点,被告は,甲陳述書及び本人尋問において,甲契約は丙契約を切り替えたものである旨の記載及び供述をする。しかし,上記2(2)アで説示したとおり,甲契約の主たる目的は,スリーウェイにおいて新店舗開発支援業務等以外の甲契約書に記載された顧問業務を行うことにあったと認めるのが相当であるから,甲契約は,丙契約とは異なる契約であったということができる。そうだとすれば,仮に被告が丙契約の締結についてCの了解を得ていたとしても,これをもって甲契約の締結についてCの了解を得たことにはならない。したがって,被告の上記主張に沿う甲陳述書の記載及び供述は,その内容において到底信用することができず,これに依拠する被告の上記主張は採用することができない。
なお,被告は,陳述書(1)(乙イ17)において,JLSグループ各社の経理は,C又はその管掌下にある京都本社の経理部が一元的に管理・監督しており,C以外の代表取締役は,単独で経営判断をして支出を行うことは認められなかった,事前決裁は,金額等の形式面のみをもって判断されるのではなく,内容面にわたってチェックが入り,C又は経理部長から支出の必要性について弁明を求められることもしばしばあった,原告らの経営する各店舗の売上げは,毎日,JLSグループ京都本社の経理部が管理する銀行口座に送金され,原告らにはほどんど現金がなく,被告が多額の支出を行うことは実際上も不可能だった,原告らの支出は常に京都本社の許可を得て行っていたと記載し,陳述書(2)(乙イ18,以下「乙陳述書」という。)において,甲契約及び乙契約に基づく出費は,JLSグループにおいて有用性が認められ,京都本社経理部の正規のチェックを経て承認された上で支出された旨の被告の上記主張に沿う記載をする。しかし,仮にJLSグループの京都本社の決裁を経て甲契約に基づく業務委託費が支出されたとしても,上記2(2)ウ説示したとおり,被告が原告らの経営を任されていた立場に乗じて,原告らの業務の遂行にとって何ら関係のない被告の私的な支出をするための資金を捻出するために,原告らを代表して甲契約を締結したということができる以上,この事情を知り得ないJLSグループの京都本社の経理部の事前の決裁があったからといって,Cが甲契約に基づき業務委託費が支出されることについて了解していたと認めることは到底できない。
イ 被告は,Cが派遣したEが甲契約の締結に関与しており,原告らの実質的な100%株主であるCは,Eからも甲契約に基づく業務委託費の支払についての報告を受けていたから,被告の原告らに対する善管注意義務及び忠実義務違反による損害賠償義務は事後的に免除されていると主張する。
しかし,CがEを派遣したこと及びEが甲契約の締結に関与していたとの被告の主張する事実が仮に認められるとしても,これによって当然に被告の原告らに対する善管注意義務及び忠実義務違反による損害賠償義務が事後的に免除されるものではない。
また,被告は,甲陳述書において,CがEから甲契約の締結について事前又は事後に報告を受けているはずである旨記載するものの,甲陳述書の記載を裏付ける客観的な証拠がないこと,Cは,その作成に係る陳述書(甲39,以下「C陳述書」という。)において,CがEから甲契約に基づく業務委託費の支払につき報告を受けたことはない旨記載していることに照らせば,甲陳述書の上記記載から,CがEから業務委託費の支払についての報告を受けていたとの事実を認めることもできない。
したがって,被告の上記主張には理由がない。
ウ 被告は,Cが甲契約の締結について同意しながら,原告松屋が被告に損害賠償を請求することは信義則に反するとも主張する。
しかし,上記2(2)ウで説示したとおり,被告が原告らの経営を任されていた立場に乗じて,原告らの業務の遂行にとって何ら関係のない被告の私的な支出をするための資金を捻出するために,原告らを代表して甲契約を締結したということができることに加え,C陳述書(甲39)には,Cが被告から甲契約を締結することに関する事実を聞いたことも報告を受けたこともなく,了解したこともない旨の記載があることをも併せて考慮すれば,Cが甲契約の締結に同意したとの事実を認めることはできない。
したがって,被告の上記主張は,その前提において失当である。
(2) 乙契約について
ア 被告は,原告松屋が乙契約を締結することについては,被告が平成15年12月ころ,Dに対し,近隣に保護施設があるため,駐車場用地はBが経営する会社に取得させ,Bに報酬を支払う旨伝え,Dを経てCの了解を得たし,そうではないとしても,Eから上記報告を受けたCの了解を得た旨主張する。そして,被告は,甲陳述書及び乙陳述書並びに本人尋問において,被告の上記主張に沿う記載及び供述をする。
しかし,甲陳述書,乙陳述書の記載及び被告の供述を裏付ける客観的な証拠はない。また,上記3(2)イで説示したとおり,乙契約は,専ら2000万円を捻出するために締結されたものであって,スリーウェイが乙契約の締結に基づいて本件駐車場用地を確保するために締結されたものではなかったということができるのであるから,このような乙契約の実態について被告が自ら又はEを通じてCに報告し,その了解を得たとの事実があったと推認することは到底できない。これらに加え,Dがその作成に係る陳述書(甲38)において,被告から被告が主張する上記事実は聞いていないし,風営法の件はよくわからないのでCに説明できるはずはない旨の記載をしており,CもC陳述書において,CがDから被告が主張する上記事実を聞いたことはなく,了解もしていないと記載していることをも併せて考慮すれば,甲陳述書及び乙陳述書の記載及び被告の供述は信用することができず,これらの証拠に依拠する被告主張の上記事実を認めることはできない。
したがって,被告の上記主張は失当である。
イ 被告は,Cが派遣したEが乙契約の締結に関与しており,原告松屋の実質的な100%株主であるCは,Eからも乙契約に基づく業務委託費の支払について報告を受けていたから,被告の原告松屋に対する善管注意義務及び忠実義務違反による損害賠償義務は事後的に免除されていると主張する。
しかし,CがEを派遣したこと及びEが乙契約の締結に関与していたことが仮に認められるとしても,これによって当然に被告の原告松屋に対する善管注意義務及び忠実義務違反による損害賠償義務が事後的に免除されるものではない。
また,被告は,甲陳述書において,CがEから乙契約の締結について事前又は事後に報告を受けているはずである旨記載するものの,甲陳述書の記載を裏付ける客観的な証拠がないこと,Cは,C陳述書において,CがEから乙契約に基づく報酬の支払につき報告を受けたことはない旨記載していることに照らせば,甲陳述書の上記記載から,CがEから乙契約に基づく業務委託費の支払についての報告を受けていたとの事実を認めることはできない。
ウ 被告は,Cが乙契約の締結につき同意しながら,原告松屋が被告に損害賠償を請求することは信義則に反する旨主張する。
しかし,上記3(2)イで説示したとおり,乙契約は,専ら2000万円の金員を捻出するために締結されたものであって,本件駐車場用地を確保するために乙契約を締結する必要はなかったということができるから,Cがこのような乙契約の締結や乙契約に基づく業務委託費の支払に同意することは通常考えられないことに加え,Cの同意があったことを裏付ける客観的な証拠がないこと,C陳述書には,Cが乙契約に基づく業務委託費の支払については,D,E及び被告から報告を受けたこともなく,了解したこともない旨の記載があることをも併せて考慮すれば,Cが乙契約の締結に同意したとの事実を認めることはできない。
したがって,被告の上記主張は,その前提において失当である。
5 弁護士費用相当の損害
上記のとおり,被告が原告らを代表してスリーウェイとの間で甲契約を締結し,これに基づき業務委託費をスリーウェイに支払ったこと及び被告が原告松屋を代表してスリーウェイとの間で乙契約を締結し,これに基づき業務委託費をスリーウェイに支払ったことは,被告が原告らに対して負担する代表取締役としての善管注意義務及び忠実義務に違反し,その任務を懈怠するものであり,かつ,不法行為に基づくものということができる。そして,本件事案及び本件訴訟の経過を総合すれば,原告らが本件訴訟の提起及び遂行に要した弁護士費用は,甲契約及び乙契約を締結したことによって原告らが被った損害額の合計5487万7500円の1割に相当する548万円と認めるのが相当である。したがって,被告は,原告松屋に対し,6035万7500円及びこれに対する請求の後の日であり,かつ,不法行為の後の日である平成21年3月30日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。
6 結論
よって,原告松屋の請求は,主文1項掲記の限度において理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判官 小濱浩庸)
〈以下省略〉
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