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判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(99)平成28年 2月18日 東京地裁 平25(行ウ)550号 法人税更正処分取消等請求事件

判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(99)平成28年 2月18日 東京地裁 平25(行ウ)550号 法人税更正処分取消等請求事件

裁判年月日  平成28年 2月18日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平25(行ウ)550号
事件名  法人税更正処分取消等請求事件
裁判結果  請求棄却  上訴等  控訴  文献番号  2016WLJPCA02188021

要旨
◆原告が、税務署長から、本件事業年度の法人税に係る原告の確定申告は、ビルの売却に関して架空の譲渡原価を計上し、固定資産売却益を過少に申告したものであるとして、更正処分及び重加算税の賦課決定処分(本件更正処分等)を受けたため、異議申立てをしたが3か月を経過しても決定がなく、さらに審査請求をしたが3か月を経過しても裁決がなかったことから、本件更正処分等の取消しを求めたところ、その後の本件裁決により本件更正処分等が一部取り消された事案において、調査手続、本件通知書の送達手続、同通知書の理由付記等、及び原告の実質的経営者の別件刑事事件に係るほ脱税額との齟齬に関する各違法は認められないとし、また、原告による架空の譲渡原価の計上を認めるなどして、本件ビルの譲渡原価に係る申告額の損金算入を否定するとともに、原告主張に係る簿外経費及び貸倒損失の各損金算入も認められないとして、本件裁決により一部取り消された後の本件更正処分等は適法と認定し、請求を棄却した事例

裁判経過
控訴審 平成28年12月14日 東京高裁 判決 事件番号不詳〔1〕

参照条文
国税通則法24条
国税通則法26条
国税通則法28条
国税通則法74条の2(平23法114改正前)
地方法人税法130条
行政手続法14条
行政事件訴訟法3条2項

裁判年月日  平成28年 2月18日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平25(行ウ)550号
事件名  法人税更正処分取消等請求事件
裁判結果  請求棄却  上訴等  控訴  文献番号  2016WLJPCA02188021

東京都港区〈以下省略〉
原告 株式会社湊開発
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 加藤豊三
同 佐久間敦子
同 松本大
同 岡本広海
東京都千代田区〈以下省略〉
被告 国
同代表者法務大臣 B
処分行政庁 麻布税務署長 C
指定代理人 W1
同 W2
同 W3
同 W4
同 W5
同 W6

 

 

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。
2  訴訟費用は原告の負担とする。

 

事実及び理由

第1  請求
麻布税務署長が平成22年9月29日付けでした原告の平成17年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち,所得金額マイナス5416万1127円,納付すべき税額0円を超える部分及び重加算税の賦課決定処分(ただし,いずれも平成27年5月7日付け裁決により一部取り消された後のもの)をそれぞれ取り消す。
第2  事案の概要
本件は,原告が,平成17年1月1日から同年12月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について確定申告(以下「本件確定申告」という。)をしたところ,麻布税務署長から,本件確定申告は,ビルの売却に関して架空の譲渡原価を計上し,固定資産売却益を過少に申告したものであるとして,更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び重加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい,本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)を受けたことから,本件更正処分等には手続上の瑕疵がある上,計上した譲渡原価は架空のものではなく,他にも損金の額に算入すべき未申告の費用や貸倒損失等が存在しているなどと主張して,本件更正処分等(ただし,いずれも平成27年5月7日付け裁決により一部取り消された後のもの)の取消しを求める事案である。
1  前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)  原告等について
原告は,昭和62年3月23日に,東京都港区〈以下省略〉を本店所在地として設立された,ゴルフ場の経営及びゴルフ会員権の売買等を事業目的とする資本金1000万円の株式会社であり,設立以降,代表取締役が数回にわたり変更された後,平成17年1月6日付けでA(以下「A」という。)が代表取締役に就任し,現在に至っている。
D1ことD(以下「D」という。)は,原告の実質的な経営者である。
(2)  aビルの売買の経緯等
ア 東京都中央区〈以下省略〉に所在した通称「aビル」という地下1階,地上6階建ての商業ビル(以下「aビル」という。)は,昭和3年に地下1階と地上5階までの部分(以下「A部分」という。)が建築され,昭和40年10月に5階の一部と6階部分(以下「B部分」という。)が増築されたものである(乙17,18,弁論の全趣旨)。
なお,aビルの敷地については,昭和58年12月以降,有限会社豊藤(以下「豊藤」という。)が所有権を有し,aビルのために借地権を設定している(乙19,弁論の全趣旨)。
イ 原告は,平成10年11月13日,東京地方裁判所の競売手続において,A部分の持分4分の3について,保証金6265万円を提供して買受けの申出をし,平成11年7月22日,残代金2億5057万円を納付してその所有権を取得した(買受価額合計3億1322万円)(甲4(3頁),乙17,36(4頁),弁論の全趣旨)。
ウ 原告は,平成11年3月4日頃,A部分の残りの持分4分の1について,株式会社日地から,豊藤の借地権譲渡の承諾を停止条件として,代金2億7000万円で買い受ける旨の売買契約を締結し,その後,2回にわたる代金減額の合意を経て,平成12年12月25日頃までに最終的な売買代金2億2000万円の支払を終了してその所有権を取得した(甲4(3頁),弁論の全趣旨)。
エ 原告は,平成16年6月24日,秀吉商事株式会社(以下「秀吉商事」という。)との間で,秀吉商事が原告に対してB部分の所有権を移転し,原告に対する秀吉商事の全株式の譲渡代金と併せて合計4億7000万円を原告が秀吉商事に支払う旨の契約をし,その代金を支払った(乙20,弁論の全趣旨)。
オ 原告は,平成17年7月27日,株式会社クオンツ(以下「クオンツ」という。)との間で,aビルにつき,代金44億円の借地権付建物売買契約を締結し,同月29日,クオンツから,豊藤への借地権譲渡承諾料等合計4億3000万円を差し引いた売却代金残額39億7000万円を振込送金により受け取った。(甲4(4頁),乙36(6頁),弁論の全趣旨)
(3)  原告の確定申告等
ア 原告は,設立以来,法人税の確定申告を行っていなかったが,平成17年3月8日,青色申告書以外の申告書により,平成12年1月1日から同年12月31日までの事業年度(以下「平成12年12月期」という。)ないし平成16年1月1日から同年12月31日までの事業年度の5期分の法人税について,期限後申告をした(乙2~6)。
また,原告は,平成17年3月8日,麻布税務署長に対し,平成18年1月1日から同年12月31日までの事業年度(以下「平成18年12月期」という。)から,法人税の申告書を青色申告書によって提出したい旨の青色申告の承認申請をした(乙28)。麻布税務署長は,平成18年12月期終了の日までに上記申請につき承認又は却下の処分を行わなかったことから,法人税法125条1項(平成19年法律第6号による改正前のもの)の規定により,原告は,平成18年12月期終了の日において当該申請につき承認を受けたものとみなされた。
イ 原告は,平成18年2月28日,本件事業年度の法人税につき,青色申告書以外の申告書により,所得金額をマイナス5416万1127円,納付すべき税額を0円として,本件確定申告をした。なお,原告は,本件事業年度における所得金額の計算において,aビルの売却収入44億円を益金の額とし,その譲渡原価39億6439万6016円を損金の額として計上し,その差額4億3560万3984円を固定資産売却益としていた。(乙7,12,弁論の全趣旨)
(4)  本件訴訟に至る経緯等
ア 麻布税務署長は,平成22年9月29日付けで,原告の本件事業年度の法人税につき,所得金額を26億7732万3977円,納付すべき税額を9億4577万4300円とする本件更正処分及び重加算税の額を3億3101万9500円とする本件賦課決定処分をした。
なお,本件更正処分等に係る通知書(以下「本件通知書」という。)には,本件更正処分について理由の付記はされておらず,本件通知書は,平成22年9月29日付けで,麻布税務署長から当時Dが勾留されていた東京拘置所に簡易書留郵便によって発送され,同月30日に東京拘置所に配達された(甲1,乙27,70,弁論の全趣旨)。
イ 原告は,平成22年11月24日,麻布税務署長に対し,本件更正処分等を不服として,異議申立てをした。
ウ 原告は,上記イの異議申立てをした日の翌日から起算して3か月を経過しても同異議申立てについての決定がなかったことから,平成24年9月24日,国税不服審判所長に対し,本件更正処分等を不服として,審査請求をした。
エ 原告は,上記ウの審査請求をした日の翌日から起算して3か月を経過しても同審査請求についての裁決がなかったことから,平成25年8月29日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。
オ 国税不服審判所長は,平成27年5月7日付けで,本件更正処分のうち,所得金額26億3094万4113円,納付すべき税額9億2919万円を超える部分,及び,本件賦課決定処分のうち,重加算税の額3億2521万6500円を超える部分をいずれも取り消す旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をした(乙70)。
(5)  別件刑事事件の経緯等
ア 東京国税局査察部(以下「査察部」という。)及び東京地方検察庁特別捜査部(以下「特捜部」という。)は,平成21年10月6日,合同で原告に対する国税犯則取締法に基づく調査(以下「本件犯則調査」という。)に着手し,平成22年1月20日,合同で原告の関係先の捜索を行い,同日,特捜部は,D及びAを法人税法違反の嫌疑で逮捕した。
イ 東京地方検察庁検察官は,平成22年2月9日,Dを法人税法違反の罪で東京地方裁判所に起訴した(以下「別件刑事事件」という。)。
ウ 東京地方裁判所は,平成24年3月16日,別件刑事事件について,Dに対し,懲役2年6月及び罰金2億円とする旨の判決を宣告し,その後,東京高等裁判所は,同年10月24日,Dの控訴を棄却し,最高裁判所は,平成26年1月28日,Dの上告を棄却した(甲4,6,乙70,弁論の全趣旨)。
2  被告の主張する本件更正処分等の根拠及び適法性
本件更正処分等(ただし,本件裁決により一部取り消された後のもの)の根拠及び適法性に関する被告の主張は,別紙のとおりである。なお,別紙に記載した略語は,以下でも用いることとする。
3  争点
本件の争点は,本件更正処分等の適法性であり,具体的には,次の点が争われている。
(1)  調査手続に関する違法の有無
(2)  本件通知書の送達手続に関する違法の有無
(3)  本件通知書の理由付記等に関する違法の有無
(4)  別件刑事事件に係るほ脱税額との齟齬に関する違法の有無
(5)  aビルの譲渡原価に係る申告額の損金算入の可否
(6)  簿外経費の損金算入の可否
(7)  貸倒損失の損金算入の可否
4  争点に対する当事者の主張の要旨
(1)  争点(1)(調査手続に関する違法の有無)について
(原告の主張の要旨)
麻布税務署長は,特捜部及び査察部の指示に基づき,特捜部の起訴に都合を合わせて本件更正処分等をしたのであり,原告に関する税務調査を行っておらず,原告が本件更正処分等に対する異議申立てをした際も,税務調査資料がないので答弁ができない旨回答している。
したがって,本件更正処分は,適法な税務調査に基づいてされたものでないから,違法というべきである。
(被告の主張の要旨)
麻布税務署長は,査察部から,本件確定申告について過少申告の事実がある旨の連絡を受けたため,国税通則法24条に規定する調査を行うこととし,平成22年6月7日,麻布税務署の統括国税調査官2名が,東京拘置所に勾留中のDと接見し,原告に対する税務調査を行う旨を伝えた。そして,麻布税務署長は,査察部から送付された資料及び麻布税務署において保管する資料に基づいて検討した結果,査察部から連絡を受けた本件事業年度の所得金額及び税額等が適正なものと認められたことから,本件更正処分を行ったのであり,同処分に至るまでの麻布税務署長の一連の行為は,調査方法,時期など,その具体的手続について,税務署長に認められた広範な裁量権の範囲で行われたものであって,国税通則法24条に規定する調査に該当するというべきである。
したがって,本件更正処分は,麻布税務署長の調査に基づいて行われたものであり,適法である。
(2)  争点(2)(本件通知書の送達手続に関する違法の有無)について
(原告の主張の要旨)
更正処分は更正通知書を送達して行う必要があるところ(国税通則法28条1項),本件更正処分は原告の本件確定申告を対象とするものであるから,本件通知書について「その送達を受けるべき者」(同法12条1項)は原告である。そして,原告の代表者であるAは,平成22年1月26日,検察官の取調べにおいて,原告の事務所が本店所在地に存在している旨供述していたのであるから,麻布税務署長は,原告の事務所が本店所在地に存在していることを認識できた。また,Aに対する供述の録取が行われていること,Aが保釈決定において住所を制限されていたこと,麻布税務署の担当者がAと電話で会話していることからすれば,麻布税務署長は,Aの所在を容易に知り得た上,平成23年3月15日に国税不服審判所に対する審査請求ができる旨の教示書を郵便送達していることからすれば,Aの所在を確実に認識していたといえる。しかるに,本件通知書は,原告の本店所在地やAの所在地に対して送達されず,当時,東京拘置所に収容されていたDに送達された。
したがって,本件更正処分は,本件通知書の送達手続に瑕疵があるから,違法というべきである。
(被告の主張の要旨)
ア 本件通知書を送達した平成22年9月29日当時,原告については,本店所在地に事務所が存在せず,本店所在地以外に事務所を有していた事実も認められなかったところ,原告の登記簿上の代表取締役とされていたAも,その所在を把握できていない状態であった(なお,Aは,供述録取が行われた同年1月28日当時,東京拘置所に勾留されていたが,同年2月9日に釈放された後は所在不明であった。)。他方,原告の実質的経営者であるDは,平成22年1月20日に法人税法違反の嫌疑により逮捕され,その後も引き続き東京拘置所に勾留されていて,その所在する場所も明らかであった。かかる特段の事情が認められる本件においては,麻布税務署長が,原告の実質的経営者で東京拘置所に収容中のDに対し,簡易書留郵便により本件通知書を郵送したことは,原告に対する本件通知書の送達として適法というべきである。
イ 仮に,本件通知書の送達に瑕疵があったとしても,本件通知書は原告の下に到達し,その後,原告において法定の異議申立て及び審査請求を行っているのであるから,原告が不利益を被った事実はない。したがって,本件通知書の送達の効力に影響を及ぼすものではなく,本件更正処分の取消事由とはならないというべきである(最高裁昭和29年(オ)第222号同30年6月21日第三小法廷判決・裁判集民事18号835頁参照)。
(3)  争点(3)(本件通知書の理由付記等に関する違法の有無)について
(原告の主張の要旨)
ア 法人税法が白色申告書に係る更正処分について理由付記を不要とした趣旨は,青色申告の承認を受けていない自営業者は,通常,総勘定元帳等を整備しておらず,税務署長は白色申告書に係る更正処分において推計課税を行うしか合理的な課税方法がないため,このような場合にまで更正処分に理由付記を求める必要はないということにある。そうすると,麻布税務署長は,総勘定元帳に基づいて本件確定申告をしている原告については,たとえ青色申告の承認を受けていなかったとしても,青色申告の場合と同様,総勘定元帳に基づく税務調査が可能であり,推計課税をする必要がなかったのであるから,本件更正処分については,行政手続法14条が適用され,理由付記が必要というべきである。
イ 原告は平成18年12月期以降の事業年度について既に青色申告の承認を受けていたのであるから,行政手続法14条の立法趣旨を踏襲した法人税法130条2項の趣旨に照らすと,平成22年9月29日にした本件更正処分については,理由付記が必要というべきである。
ウ 更正処分は,青色申告書,白色申告書の区別なく,納税者に対する不利益処分であるから,憲法31条の要請として,その処分理由と適用法条を必ず付記するべきであり,理由付記を青色申告書に係る更正処分に限定する法人税法130条2項の規定は,行政手続法14条及び憲法31条に違反しているというべきである。なお,平成23年法律第114号によって国税通則法74条の2が改正され,白色申告書に係る更正処分についても行政手続法14条が適用されることとなったのは,法人税法130条2項の規定が,行政手続法14条及び憲法31条に違反していたからである。
エ 麻布税務署長は,査察部の査察結果に基づき,国税通則法27条によって本件更正処分をしたのであるから,本件通知書には,同法28条2項各号に掲げる事項の記載に加え,本件更正処分が同法27条の調査に基づくものである旨を付記する必要があった。しかるに,本件通知書には,更正前と更正後の課税標準等及び税額等の記載が欠如しているだけでなく,国税通則法27条の調査に基づくものである旨の付記も欠如していた。
オ 以上のとおり,本件通知書には,理由の付記など必要な記載が欠如していたのであるから,本件更正処分は違法というべきである。
(被告の主張の要旨)
ア 平成23年法律第114号による改正前の国税通則法74条の2(以下「旧国税通則法74条の2」という。)は,申告書が総勘定元帳等に基づいて作成されたか否か,あるいは,更正処分が推計課税によってなされたか否かを問わずに,一律に,明文で,国税に関する法律に基づき行われる処分等に行政手続法14条の適用がない旨を規定し,また,法人税法130条2項も白色申告書に係る更正処分について更正の理由の付記を要求していない。そして,更正処分の理由付記は,青色申告制度によって創設された特典のうちの一つであって,更正処分の不利益処分としての性質上当然に納税申告者に認められるものではない。したがって,総勘定元帳等に基づく申告をしている場合であっても,白色申告書に係る更正処分について,理由付記は不要である。
イ 原告は,麻布税務署長に平成18年12月期から法人税の申告書を青色申告書によって提出したい旨を記載した青色申告の承認申請書を提出したことによって,平成18年12月期以後の事業年度について青色申告の承認がされたのであるから,青色申告の承認がされる前の本件事業年度にその効果が及ぶものではない。したがって,本件更正処分は,原告が青色申告の承認を受けた後にされたものであるとしても,理由付記は不要である。
ウ 法律の優先関係は,制定の先後関係や一般法特別法の関係によって決定されるものであるから,法人税法130条2項が行政手続法14条に違反するということはあり得ない。また,憲法31条に規定する法定の手続の保障とは,刑事手続に関する法定の手続の保障であり,同条が直接に行政上の不利益処分である更正処分に理由が付記されるべきことを保障していると解することはできず,理由の記載を更正処分の手続上の要件とするかどうかは立法府の決定に委ねられているものと解すべきであるから,憲法違反の問題は生じない。したがって,法人税法130条2項は,憲法31条に違反するものでない。
エ 本件更正処分は,査察部の調査結果に基づいて行われたものではなく,本件犯則調査において把握された原告に関する資料等の送付を受けて,麻布税務署長が原告に対する税務調査を実施し,その調査結果に基づいて行われたものであるから,国税通則法27条ではなく,同法24条に規定する「調査」に基づく更正処分に該当する。したがって,本件通知書に,本件更正処分が国税通則法27条の調査に基づくものである旨を付記する必要はない。また,国税通則法28条2項所定の記載事項は,全て本件通知書に記載されている。
オ 以上より,本件通知書は,必要な記載を欠くものではないから,本件更正処分は適法である。
(4)  争点(4)(別件刑事事件に係るほ脱税額との齟齬に関する違法の有無)について
(原告の主張の要旨)
ア 本件更正処分における納付すべき法人税額9億4577万4300円は,査察部が認定した原告の本件事業年度の納付すべき法人税額及び東京地方検察庁検察官の起訴状に記載されたほ脱税額8億0245万2000円との間で1億4332万2300円の齟齬があり,ほ脱税額と本件更正処分の納付すべき法人税額が一致していないから,本件更正処分は違法である。
イ また,東京地方裁判所が,別件刑事事件において,原告の本件事業年度における法人税額を7億8763万6400円と認定したことにより,麻布税務署長は,本件更正処分において法人税額を1億5813万7900円過大に更正していたことを知ったのであるから,国税通則法26条に基づき,本件更正処分に係る再更正を行う義務があった。しかるに,麻布税務署長は,再更正処分を怠っているのであるから,本件更正処分は,国税通則法26条に違反し,違法というべきである。
(被告の主張の要旨)
ア 法人税の更正処分における納付すべき税額とほ脱事件において検察官が訴因として設定した税額は,その性質が異なるものであるから,本件更正処分における納付すべき法人税額がほ脱事件において検察官が訴因として設定した税額と一致していないとしても本件更正処分が違法になることはない。
イ 麻布税務署長は,本件更正処分における納付すべき税額と別件刑事事件におけるほ脱税額が一致していないことを理由として,本件更正処分に係る再更正をする必要はないから,本件更正処分が国税通則法26条に違反するものではない。
(5)  争点(5)(aビルの譲渡原価に係る申告額の損金算入の可否)について
(原告の主張の要旨)
原告が,本件事業年度の所得金額の計算上,損金の額に算入したaビルの譲渡原価のうち,B部分の取得費用,E及びFに対する支払手数料については,以下に述べるとおり,架空の譲渡原価を計上したものではないから,これらの譲渡原価は,本件事業年度の所得金額の計算上,損金の額に算入されるべきである。
ア B部分の取得費用 24億9000万円
(ア) 原告は,平成16年6月24日,秀吉商事との間で,原告が秀吉商事からB部分及び秀吉商事の株式を4億7000万円で買い受ける旨の合意をし,同日,東京工営に対し,秀吉商事の株式を4億9000万円で売却した。その後,原告は,平成17年7月27日,東京工営から,秀吉商事の株式を25億円で買い受け,同月29日,東京工営に対し,東京工営への貸金4億9000万円を控除した20億1000万円を支払った。かかる原告と東京工営との間の売買は,B部分の所有者である秀吉商事の株式を売買することにより,B部分の所有権を原告から東京工営へ,東京工営から原告へと順に移転させることを企図してしたものである。
このように,原告は,B部分を所有する秀吉商事の株式を25億円で東京工営から取得したことから,本件確定申告において,B部分の取得費用を上記東京工営からの買受代金25億円の範囲内である24億9000万円とした。
したがって,B部分の上記取得費用24億9000万円は,aビルの譲渡原価として損金算入されるべきである。
(イ) なお,原告と東京工営は,平成10年,aビルの地上げを共同して行い,東京工営がテナントに対する立退交渉などを行い,地上げが成功した場合には,原告が東京工営に対して成功報酬を支払う旨の合意をし,平成16年6月,上記成功報酬の金額を20億1000万円とする旨の合意をした。そのため,原告が平成17年7月29日に東京工営に対して支払った20億1000万円は,上記成功報酬としての意味をも有するものであった。
したがって,仮にB部分の取得費用として24億9000万円を損金算入することができないとしても,少なくとも上記20億1000万円は,地上げ報酬そのものと評価し,aビルの譲渡原価として損金算入されるべきである。
イ Eに対する支払手数料 5億円
原告は,A部分のテナントの立退交渉を東京工営に任せていたが,思うように進展しなかったことから,平成11年秋頃,Eに対してもその立退交渉を依頼した。そして,原告は,Eから,A部分の賃借人が秀吉商事,転借人が各テナントとなっているため,原告が各テナントに対して賃料の支払を直接請求すれば,各テナントが秀吉商事に対する賃料の支払を躊躇するようになり,秀吉商事も原告に賃料を支払うことができなくなること,賃料不払いを理由に秀吉商事との賃貸借契約を解除すれば,転借人である各テナントも建物利用権を失い,原告に建物の明渡しをせざるを得なくなることなどの説明を受けたことから,これを実行し,秀吉商事との賃貸借契約を解除することができた。
そして,原告は,平成12年9月4日,Eに対し,額面5億円の手形を交付するとともに,同年12月末日までに,現金5億円を同手形と引換えに支払う旨約束し,同月26日,手数料5億円を現金で渡し,これと引換えに同手形を回収した。
このように,原告は,Eに対し,A部分のテナントの立退交渉の手数料として,5億円を支払ったのであるから,同金員はaビルの譲渡原価として損金算入されるべきである。
ウ Fに対する支払手数料 2億8000万円
原告は,暴力団関係者がB部分の一室(53号室)を占拠していることが判明したことから,B部分の他の立退交渉とは切り離して,53号室の立退交渉をFに依頼し,立退料及び手数料として,Fに対し,平成16年7月15日に1億8000万円,平成17年1月7日に1億円の合計2億8000万円を支払った。
このように,原告は,Fに対し,B部分の53号室の立退交渉の手数料等として,2億8000万円を支払ったのであるから,同金員はaビルの譲渡原価として損金算入されるべきである。
(被告の主張の要旨)
原告が,本件事業年度の所得金額の計算上,損金の額に算入したaビルの譲渡原価のうち,B部分の取得費用,E及びFに対する支払手数料については,以下に述べるとおり,所得金額を過少に申告するため,架空の譲渡原価を計上したものであるから,これらを譲渡原価として損金の額に算入することはできない。
ア B部分の取得費用について
(ア) 原告は,aビルの譲渡に関して架空の譲渡原価を計上して課税負担を免れるため,B部分について,秀吉商事から東京工営に4億9000万円で譲渡されたとする虚偽の不動産売買契約書及び領収書等を作成し,東京工営から原告に24億9000万円で譲渡されたとする虚偽の不動産売買契約書及び領収書等を作成するとともに,その不動産売買契約どおりに資金が移動したような形跡をつけるために,形式的に東京工営名義の預金口座を開設して入金し,その後すぐに入金額と同額を引き出した。そして,原告は,平成17年7月27日,B部分を東京工営から24億9000万円で取得したとして,これを借地権勘定に計上し,aビルの譲渡原価に振り替えた。したがって,かかる架空の譲渡原価を損金の額に算入することはできない。
なお,原告は,本訴訟において,B部分の所有者である秀吉商事の株式を売買することにより,B部分の所有権を原告から東京工営へ,東京工営から原告へと順に移転させた旨主張するが,不動産を所有する法人の発行済株式を全部取得した者が,当該法人が所有する不動産の所有権を法的に取得するものでなく,仮に原告が主張する経緯を前提にしたとしても,B部分の所有権は,そもそも原告から東京工営に移転しておらず,当然に,東京工営から原告に移転することもないから,原告が東京工営から秀吉商事の株式を取得する際の取得費用がB部分の取得原価となるものではない。
(イ) 東京工営のGが原告から受領したaビルの取引に関する報酬は,1500万円である。原告が平成17年7月29日に東京工営名義の預金口座に入金した20億1000万円は,原告がB部分の所有権をあたかも東京工営から取得したかのように仮装するためのものにすぎず,同日,東京工営の預金口座から同額の現金出金をし,Dが持ち帰っている。したがって,原告は,東京工営に対し,地上げ報酬として20億1000万円を支払っておらず,同金額を譲渡原価として損金の額に算入することはできない。
イ Eに対する支払手数料について
原告は,aビルのテナントの立ち退きに関する手数料5億円をEに支払ったとして,これを平成12年12月28日付けで借地権勘定に計上し,aビルの譲渡原価として本件事業年度の損金の額に算入した。
しかしながら,本件犯則調査における関係者の供述等によれば,Eがaビルのテナントの立退業務に関与した事実はなく,また,原告がEに5億円の手数料を支払った事実も認められないから,Eへの支払手数料として計上した5億円は架空のものである。
ウ Fに対する支払手数料について
原告は,aビルの立ち退きに関する支払手数料2億8000万円をFに支払ったとして,これを平成17年1月7日付けで借地権に計上し,aビルの譲渡原価として本件事業年度の損金の額に算入した。
しかしながら,本件犯則調査における関係者の供述等によれば,Fがaビルの立退業務に関与した事実はなく,また,原告がFに2億8000万円の手数料を支払った事実も認められないから,Fへの支払手数料として計上した2億8000万円は架空のものである。
なお,原告は,B部分の53号室を賃借していた株式会社東亜企画(以下「東亜企画」という。)に対する建物明渡等請求訴訟をしていたが,平成16年7月5日付けで和解が成立し,東亜企画は同年9月1日付けで53号室を明け渡しており,立退料の支払はされていない。
(6)  争点(6)(簿外経費の損金算入の可否)について
(原告の主張の要旨)
原告は,本件事業年度において,以下に述べるとおり,未申告の経費を支出しているから,当該経費は,本件事業年度の所得金額の計算上,損金の額に算入されるべきである。
ア Gに対する支払手数料 5000万円
原告は,平成17年7月29日,DとGらが共に北部信用組合本店を訪れた際,Gに対し,aビルの地上げに関する手数料として,5000万円を支払った。東京工営の平成17年2月1日から平成18年1月31日までの事業年度(以下「平成18年1月期」という。)の決算報告書に計上されているコンサルタント収入4320万5956円は,上記5000万円の一部を計上したものである。
したがって,上記5000万円は,aビルの譲渡原価として,本件事業年度の所得金額の計算上,損金の額に算入されるべきである。
イ 支払利息 合計15億0022万9740円
原告は,本件事業年度において,以下に述べる利息の支払をしているから,その支払利息は,法人税法22条3項2号の「その他の費用」として,本件事業年度の所得金額の計算上,損金の額に算入されるべきである。
(ア) 株式会社十王開発に対する支払利息 2億6400万円
原告は,平成元年から平成3年にかけて,東京工営や株式会社日英興産(以下「日英興産」という。)に対する貸付けの資金とするため,株式会社十王開発(以下「十王開発」という。)から合計24億1968万円を借り入れた。その後,原告は,aビルの地上げが完成し,平成17年7月29日,クオンツから売買代金の入金を受けたことから,十王開発に対し,同日に5億円(利息7764万7059円を含む。),同年11月25日に12億円(利息1億8635万2941円を含む。)を支払った(支払利息合計2億6400万円)。
(イ) 株式会社大都商会に対する支払利息 9億3622万9740円
原告は,平成2年から平成9年にかけて,株式会社ケイ・ピー・ハーベスト(以下「ケイ・ピー・ハーベスト」という。),株式会社鳳物産(以下「鳳物産」という。),H(以下「H」という。),株式会社ヤマハ企画(以下「ヤマハ企画」という。)及びI(以下「I」という。)に対する貸付けの資金とするため,株式会社大都商会(以下「大都商会」という。)から合計21億7300万円を借り入れ,平成10年以降,aビルの地上げに必要な資金とするため,大都商会から合計6億6137万1469円を借り入れるなど,多数の借入れをしていた。そして,原告は,大都商会との間で,①平成14年1月28日,同日までの借入金残高が30億円であることを確認するとともに,利益が入った場合には年利6%の利息を支払う旨の合意をし,②平成16年8月25日,aビルが売却できた場合には,利息の一部として10億円を支払う旨の合意をした。
その後,原告は,aビルの地上げが完成し,平成17年7月29日,クオンツから売買代金の入金を受けたことから,大都商会に対し,利息の一部として,同日に8308万7576円,同年8月9日に1億1001万5136円,同月19日に5億2310万7028円の合計7億1620万9740円を支払ったほか,同年8月9日に別途2億2002万円を支払った(支払利息合計9億3622万9740円)。
(ウ) あじさい観光株式会社に対する支払利息 2億5000万円
原告は,平成12年12月25日,Eに対する手数料5億円の支払等の資金とするため,あじさい観光株式会社(以下「あじさい観光」という。)から6億円を借り入れた。その後,原告は,aビルの地上げが完成し,平成17年7月29日,クオンツから売買代金の入金を受けたことから,同日,あじさい観光に対し,8億5000万円(利息2億5000万円を含む。)を支払った。
(エ) Jに対する支払利息 5000万円
原告は,J(以下「J」という。)から,原告が利益を上げた場合に年利3%程度とする旨の合意により,平成11年7月16日頃に2億5000万円,同年10月頃に1億円,平成16年12月14日に3000万円,同月27日に1000万円を借り入れた。原告は,上記2億5000万円はA部分の持分4分の3の競売代金の支払に充て,上記1億円はA部分の残り4分の1の持分を取得するための代金の支払に充てた。その後,原告は,平成17年7月29日,Jに対し,上記合計3億5000万円の借入金の利息として,5000万円を支払った。
ウ 強制執行費用 52万3100円
原告は,aビルに入居していたbレストランを立ち退かせるため,強制執行の申立てを行い,これに関連して,平成16年8月19日,K弁護士に対し,強制執行補助者の手数料及び鍵交換費用として5万円,遺留品の保管代として47万3100円の合計52万3100円を支払った。
したがって,上記合計52万3100円も,本件事業年度の強制執行費用として,本件事業年度の所得金額の計算上,損金の額に算入されるべきである。
(被告の主張の要旨)
原告が簿外で支払ったとする費用は,以下に述べるとおり,本件事業年度の所得金額の計算上,損金の額に算入することはできないというべきである。
ア Gに対する支払手数料について
仮に原告が,平成17年7月29日,Gに対し,aビルの地上げに関する手数料として5000万円を支払い,同日,Gから領収証を徴していたのであれば,同金額を本件事業年度の費用として計上することに何ら支障はないはずであるにもかかわらず,原告はこれを費用として計上していないのであり,そのことについて合理的な説明はない。なお,東京工営の平成18年1月期の決算報告書に計上されているコンサルタント収入4320万5956円は,株式会社東営エンジニアリング及びユウ・アイ・リアルエステート株式会社からの収入である。
したがって,原告が,Gに対し,aビルの地上げに関する手数料として5000万円を支払ったとは認められない。
イ 支払利息について
(ア) 十王開発に対する支払利息について
十王開発の平成18年度総勘定元帳及び第14期確定決算書に記載されている貸付金の相手先は,原告ではなく日英興産であるとされている。
また,原告が,東京工営に対して21億1000万円,日英興産に対して5億5000万円をそれぞれ貸し付けたとは認められず,その貸付けの原資とするために十王開発から借入れをしたとも認められない。
したがって,原告が主張する十王開発からの借入金は存在せず,利息の支払も認められない。
(イ) 大都商会に対する支払利息について
大都商会の平成17年4月1日から平成18年3月31日までの事業年度の決算書には,貸付金自体の計上がない。
また,原告が,ケイ・ピー・ハーベスト,鳳物産,H,ヤマハ企画及びIに対して金員を貸し付けたとは認められず,その貸付けの原資とするために大都商会から借入れをしたとも認められない。
したがって,原告が主張する大都商会からの借入金は存在せず,利息の支払も認められない。
(ウ) あじさい観光に対する支払利息について
あじさい観光の平成16年6月1日から平成17年5月31日までの事業年度の決算書及び同年6月1日から平成18年5月31日までの事業年度の決算報告書には,貸付金自体の計上がない。
また,原告が,Eに対し,aビルのテナントの立退業務の手数料として5億円の手数料を支払ったとは認められないのであるから,その支払の原資とするためにあじさい観光から借入れをしたとも認められない。
したがって,原告が主張するあじさい観光からの借入金は存在せず,利息の支払も認められない。
(エ) Jに対する支払利息について
平成12年12月期から本件事業年度までの原告の決算書には,Jからの借入れは一切記載されていない。また,Jは,Dの配偶者であるから,J1(J)名義の領収書(甲34)があるからといって,直ちに原告がJに対し,上記金額を簿外の支払利息として支払ったものと認められない。さらに,原告は,DがJから平成16年に4000万円を借り入れたとしているが,Jは,Dの平成16年分の所得税の確定申告書において,控除対象配偶者(所得税法2条1項33号。生計を一にする配偶者のうち合計所得金額が38万円以下である者)として氏名が記載されており,少なくとも平成16年において,Jが原告に対して4000万円を貸し付けるだけの原資があったとは考え難い。
したがって,原告が主張するJからの借入金は存在せず,利息の支払も認められない。
ウ 強制執行費用について
強制執行費用52万2500円については,平成16年1月1日から同年12月31日までの事業年度の総勘定元帳の借地権勘定に計上された上,最終的には,aビルの譲渡原価として,本件事業年度の所得金額の計算上,損金の額に算入されている。
(7)  争点(7)(貸倒損失の損金算入の可否)について
(原告の主張の要旨)
原告は,本件事業年度において,以下に述べる貸金債権が貸倒れになったのであるから,その貸倒損失は,法人税法22条3項3号の「当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの」として,本件事業年度の所得金額の計算上,損金の額に算入されるべきである。
ア ケイ・ピー・ハーベストに対する貸金債権 12億円
原告は,ケイ・ピー・ハーベストに対し,平成2年8月31日に2億円,同年10月26日に10億円の合計12億円を貸し付けた。しかし,ケイ・ピー・ハーベストは,上記貸金の元金を全く返済しないまま,平成4年3月13日に破産宣告を受け,平成6年6月14日に費用不足による破産廃止決定が確定した。また,ケイ・ピー・ハーベストの連帯保証人である会社はいずれも倒産しており,個人で連帯保証人になっていた者も行方不明であるなど,貸金を回収することはできなかった。なお,原告は,上記貸金について,Lが所有する不動産に株式会社丸惣建設(以下「丸惣建設」という。)名義で抵当権の設定を受けていたところ,平成17年1月7日に担保不動産競売による売却がされ,710万円を回収し,これをケイ・ピー・ハーベストの未払利息に充当した。このように,ケイ・ピー・ハーベストに対する貸金債権は,本件事業年度において全額が貸倒れになった。
イ Hに対する貸金債権 2億3000万円
原告は,平成5年2月25日,Hに対し,3億5000万円を貸し付け,同月26日,Hが所有する土地及び建物に,上記貸金債権を被担保債権とする抵当権設定仮登記を受け,平成7年12月18日,Hが所有する別の建物にも同様に抵当権設定仮登記を受けた。原告は,平成7年にはH及びその連帯保証人が返済不能の状態になったことから,上記H所有の土地及び建物について,同年12月11日,同月8日代物弁済を原因とする所有権移転登記を受け,原告が同土地及び建物を売却して,上記貸金債権と精算することにした。一方,上記土地及び建物の先順位の抵当権者が,平成8年に不動産競売の申立てをしたことから,原告は当該抵当権者に8000万円を支払い,同申立ての取下げと抵当権設定登記の抹消をしてもらった。その後,原告は,平成17年3月30日,あじさい観光に対し,上記土地及び建物を2億円で売却し,これを上記8000万円と貸金債権の元金の一部1億2000万円に充てた。このように,原告のHに対する貸金債権は,本件事業年度において,残高が2億3000万円となったが,H及び連帯保証人の資力からみて,これ以上の回収の見込みはなく,貸倒れとなった。
ウ ヤマハ企画に対する貸金債権 4億6500万円
原告は,平成7年9月18日,ヤマハ企画に対し,M(以下「M」という。)を連帯保証人として,4億6500万円を貸し付け,Mの親族が持分を有する不動産に,丸惣建設名義で抵当権設定仮登記を受けた。しかし,ヤマハ企画は,上記貸金の元金を全く返済しないまま,事実上倒産し,Mも平成17年以前に死亡した。また,原告は,上記不動産に先順位の抵当権者がおり,Mの相続人にもめぼしい資産がなく,貸金回収の見込みはなかったことから,平成17年9月9日,Mの相続人からの申し出により,同相続人から300万円を受領して未払利息に充当し,上記抵当権設定仮登記を抹消した。このように,ヤマハ企画に対する貸金債権は,本件事業年度において全額が貸倒れになった。
エ 日英興産に対する貸金債権及び手形債権 15億5000万円
原告は,平成元年から平成2年にかけて,日英興産に対し,合計5億5000万円を貸し付けた。しかし,日英興産に対する貸金債権は,日英興産の倒産によって貸倒れとなった。
また,日英興産は,平成元年9月27日,原告に対し,東京工営の原告に対する借入債務10億円を担保するため,額面10億円の約束手形を差し入れたが,結局,日英興産の倒産によって同手形は不渡りとなった。そのため,日英興産に対する手形債権は,全額が原告の損金となった。
(被告の主張の要旨)
そもそも,原告は,ケイ・ピー・ハーベスト,H,ヤマハ企画及び日英興産に対する貸金債権を,平成12年12月期ないし本件事業年度のいずれの決算書にも計上しておらず,しかも,原告がこれらの貸金債権を簿外で処理していたことについて,合理的な説明はない。また,以下に述べるとおり,原告が提出する証拠等によっても,原告が上記の者らに対して貸金債権を有していたと認めることはできない。したがって,上記貸金債権に係る貸倒損失を,本件事業年度の所得金額の計算上,損金の額に算入することはできない。
ア ケイ・ピー・ハーベストに対する貸金債権について
ケイ・ピー・ハーベストを借主とする平成2年8月31日付けの2億円の借用証書(甲36の1)及び同年10月26日付けの10億円の借用証書(甲37の1)は,いずれも,貸主欄が空欄であるから,原告が貸付けを行ったことを証するものとはいえない。また,ケイ・ピー・ハーベスト名義の平成2年10月26日付け領収証(甲37の2)は,宛名として記入された原告の名称が後日書き加えられた可能性がある。さらに,L所有の北佐久郡軽井沢町内の土地に対して平成2年10月29日受付で設定された抵当権は,抵当権者が,原告ではなく,丸惣建設とされている。
したがって,原告がケイ・ピー・ハーベストに対して貸付債権を有していたと認めることはできない。
イ Hに対する貸金債権について
Hを借主とする平成5年2月25日付けの3億5000万円の借用証書(甲46の1)は,貸主欄が空欄であるから,原告が貸付けを行ったことを証するものとはいえない。
また,原告がHから代物弁済を原因とする所有権移転登記を受けた土地及び建物については,平成17年3月30日受付でその所有権が原告からあじさい観光に移転しているところ,その登記原因は,「売買」ではなく,「真正な登記名義の回復」となっており,登記申請書に添付された登記原因証明情報には,「2.登記の原因となる事実または法律行為」として,「本不動産の所有者であったH氏と株式会社湊開発は平成7年12月20日に代物弁済契約を締結しその登記を平成7年12月25日受付第32077号で済ませたが,本来の債権者はあじさい観光株式会社である。契約上便宜にあじさい観光株式会社が株式会社湊開発の名義を借り,権利者として株式会社湊開発としていた。」と記載されている。このように,原告自らが,Hに対する貸付金の真実の債権者は,原告ではなくあじさい観光であったとしているのであるから,そもそも,原告がHに対して3億5000万円の貸付金を有していたと認めることはできない。
ウ ヤマハ企画に対する貸金債権について
ヤマハ企画を借主とする平成7年9月18日付けの4億6500万円の借用証書(甲51の1)は,貸主欄が空欄であり,原告が貸付けを行ったことを証するものとはいえない。また,Nが持分3分の1を所有する松戸市松戸字柿ノ木台の土地に対して平成7年9月22日受付でされた債務者をヤマハ企画とする抵当権設定仮登記は,抵当権者が,原告ではなく,丸惣建設とされている。そのため,原告がヤマハ企画に対して貸金債権を有していたと認めることはできない。
エ 日英興産に対する貸金債権について
日英興産を借主とする借用証書(甲21の1,23,24の1,25)は,いずれも貸主欄が空欄であり,原告が貸付けを行ったことを証するものとはいえない。そして,借入金の返済に関する確約書(甲55の1)についても,作成日が平成4年4月9日であるとされているにもかかわらず,確約書に押印されている確定日付印は,上記作成日から19年6月も経過した平成23年10月19日とされていることからすれば,確約書の作成日が平成4年4月9日であるかは極めて疑わしい。そのため,原告が日英興産に対して貸金債権を有していたと認めることはできない。
また,原告の東京工営に対する10億円の貸金債権は存在しなかったというべきであるから,日英興産が東京工営の債務を担保するために約束手形を原告に差し入れる必要はなく,原告が日英興産に対して10億円の手形債権を有していたと認めることはできない。仮に原告が日英興産に対する手形債権を有していたとしても,それが本件事業年度において回収不能であることが客観的に明らかになったということはできない。
第3  当裁判所の判断
1  争点(1)(調査手続に関する違法の有無)について
(1)  原告は,麻布税務署長は,特捜部及び査察部の指示に基づき,特捜部の起訴に都合を合わせて本件更正処分等をしたのであり,原告に関する税務調査を行っておらず,原告が本件更正処分等に対する異議申立てをした際も,税務調査資料がないので答弁ができない旨回答しているのであって,本件更正処分は,適法な税務調査に基づいてされたものでないから,違法というべきである旨主張する。
そこで,以下,本件更正処分の取消原因となるべき調査手続に関する違法の有無について検討することとする。
(2)  国税通則法24条は,税務署長は,納税申告書の提出があった場合において,その納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったとき,その他当該課税標準等又は税額等がその調査したところと異なるときは,その調査により,当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正する旨定め,調査を更正処分の要件としているところ,同条にいう調査とは,課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味し,課税庁の証拠資料の収集,証拠の評価あるいは経験則を通じての要件事実の認定,租税法その他の法令の解釈を経て更正処分に至るまでの思考,判断を含む極めて包括的な概念であると解される。
そして,国税通則法(平成23年法律第114号による改正前のもの)が調査の方法,時期等の具体的手続についてなんら規定していないことからすると,その方法,時期,範囲に関しては,課税庁の合理的な裁量に委ねられているものと解される。
また,課税調査と犯則調査はその目的,機能を異にする別個の手続であり,両者が法制度上区別されている趣旨に鑑みると,犯則事件が存在するとの嫌疑もないのに,専ら課税資料を収集する目的で国税犯則取締法上の強制調査を行い,この調査によって得た資料のみに基づいて課税処分をすることは許されないというべきであるが,収税官吏である国税査察官が犯則嫌疑者に対し,適法な犯則調査を行った場合において,課税庁が同犯則調査又はその過程で収集された資料を引き継ぎ,これを上記犯則嫌疑者に対する課税処分を行うために利用することは許されると解するのが相当である(最高裁昭和62年(行ツ)第77号同63年3月31日第一小法廷判決・裁判集民事153号643頁参照)。
(3)  これを本件についてみるに,証拠(乙65)及び弁論の全趣旨によれば,麻布税務署長は,本件犯則調査により収集された資料等に基づき,原告の本件事業年度における所得金額等を調査するなどして本件更正処分を行ったものであると認められる。そして,前記前提事実のとおり,本件犯則調査の結果,別件刑事事件に至っているのであって,本件については,犯則事件が存在するとの嫌疑もないのに,専ら課税資料を収集する目的で本件犯則調査が行われたとの事情は認められない。なお,麻布税務署長が,特捜部及び査察部の指示に基づき,特捜部の起訴に都合を合わせて本件更正処分等をしたとの事実や,原告が本件更正処分等に対する異議申立てをした際,麻布税務署長が税務調査資料がないので答弁ができない旨回答したとの事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって,本件更正処分は,国税通則法24条が定める「調査」に基づくものということができるから,本件更正処分の取消原因となるべき調査手続の違法があるとはいえない。
2  争点(2)(本件通知書の送達手続に関する違法の有無)について
(1)  原告は,更正処分は更正通知書を送達して行う必要があるところ(国税通則法28条1項),麻布税務署長は,原告の事務所が本店所在地に存在していることを認識できた上,原告の代表者であるAの所在を確実に認識し又は容易に知り得たにもかかわらず,本件通知書を原告の本店所在地やAの所在地に対して送達せず,当時,東京拘置所に収容されていたDに送達したのであるから,本件更正処分は,本件通知書の送達手続に瑕疵があり,違法というべきである旨主張する。
そこで,以下,本件更正処分の取消原因となるべき本件通知書の送達手続に関する違法の有無について検討することとする。
(2)  国税通則法は,24条から26条までの規定による更正又は決定は,税務署長が更正通知書又は決定通知書を送達して行うものとし(28条1項),国税に関する法律の規定に基づいて税務署長等が発する書類は,郵便等による送達又は交付送達により,その送達を受けるべき者の住所又は居所(事務所及び事業所を含む。)に送達する旨定めている(12条1項本文)。そして,会社法4条が会社の住所はその本店の所在地にあるものとする旨定めていることからすれば,税務署長等が会社に対して上記書類を送達する場合の送達すべき場所は,原則として,当該会社の本店の所在地であると解するのが相当である。
この点,前記前提事実のとおり,本件通知書は,平成22年9月29日付けで,麻布税務署長から当時Dが勾留されていた東京拘置所に簡易書留郵便によって発送され,同月30日に東京拘置所に配達されたのであり,原告の本店所在地(東京都港区〈以下省略〉)に送達されたものではない。
しかしながら,そもそも,国税通則法が送達に関する規定を設けた趣旨は,国税に関して税務署長等が発する書類がその趣旨のものとして名宛人の下に確実に,かつ,速やかに送達され,当該送達によってその後の手続が適正に進行することを確保することにあると解される。
そして,証拠(乙22~26)及び弁論の全趣旨によれば,麻布税務署長が本件更正処分をした平成22年9月29日当時,原告の本店の所在地に原告の事務所はなく,本店の所在地以外の場所にも原告の事務所はなかったこと,原告の登記簿(乙1),法人税の確定申告書(乙2~7)及び法人設立届出書(乙26)に記載された原告の代表者であるAの住所(東京都港区〈以下省略〉)にAは居住していなかったこと,麻布税務署長はAの所在を把握することができなかったことが認められる。他方,前記前提事実並びに証拠(甲1)及び弁論の全趣旨によれば,原告の実質的経営者であるDは,平成22年1月20日に法人税法違反の嫌疑で逮捕され,同年2月9日に同法違反の罪で東京地方裁判所に起訴され,同年9月29日当時,東京拘置所に勾留されており,その所在が明らかであった。そして,前記前提事実のとおり,原告は,平成22年11月24日,麻布税務署長に対し,本件更正処分等を不服として,異議申立てをしているのであるから,原告は,Dを通じて本件通知書を速やかに受領したものと認められる。
そうすると,かかる事情が認められる本件については,先に述べた送達に関する規定の趣旨に照らし,麻布税務署長が,本件通知書を東京拘置所に収容中のDに対して郵送したことは,原告に対する送達として適法というべきである。
(3)  原告の主張について
原告は,Aが,平成22年1月26日,検察官の取調べにおいて,原告の事務所が本店所在地に存在している旨供述していたのであるから,麻布税務署長は,原告の事務所が本店所在地に存在していることを認識でき,また,Aに対する供述の録取が行われていること,Aが保釈決定において住所を制限されていたこと,麻布税務署の担当者がAと電話で会話していることからすれば,麻布税務署長は,Aの所在を容易に知り得た上,平成23年3月15日に原告に対して国税不服審判所に対する審査請求ができる旨の教示書を郵便送達していることからすれば,Aの所在を確実に認識していたといえる旨主張する。
しかしながら,本件更正処分がされた平成22年9月29日当時,原告の本店の所在地に原告の事務所が存在していなかったことは先に述べたとおりであるし,仮に麻布税務署長がAの所在を認識し得たとしても,上記(2)において述べた事情に鑑みると,原告は,結局,本件通知書を自己に宛てられた更正決定として受け取ったものと解されるのであって(なお,本件更正処分に対する異議申立てにおいては,税理士を代理人に選任し,書類の送達先を同税理士とする旨の申出も行っている。乙62,63),本件通知書の送達が無効であるということはできず(最高裁昭和29年(オ)第222号同30年6月21日判決・裁判集民事18号835頁参照),本件通知書の送達について,本件更正処分の取消原因となるべき違法があるともいえない。
3  争点(3)(本件通知書の理由付記等に関する違法の有無)について
(1)  原告は,総勘定元帳に基づいて本件確定申告をしている原告については,たとえ青色申告の承認を受けていなかったとしても,青色申告の場合と同様,総勘定元帳に基づく税務調査が可能であり,麻布税務署長は推計課税をする必要がなかったのであるから,本件更正処分については,行政手続法14条が適用され,理由付記が必要というべきである旨主張する。
しかしながら,旧国税通則法74条の2は,国税に関する法律に基づき行われる処分については,不利益処分の理由の提示について定める行政手続法14条の規定は適用しない旨を定めている。
また,法人税法は,税務署長は,内国法人の提出した同法121条に規定する青色申告書に係る法人税の課税標準又は欠損金額の更正をする場合には,その更正に係る国税通則法28条2項に規定する更正通知書にその更正の理由を付記しなければならない旨定めている一方(130条2項),青色申告書以外の申告書に係る法人税の課税標準又は欠損金額の更正をする場合については,更正の理由を付記しなければならない旨の規定を置いていない。このように青色申告書とそれ以外の申告書によって取扱上の差異を認めているのは,法人税法が青色申告書に係る同法の課税標準又は欠損金額については,その計算を法定の帳簿書類に基づいて行なわせ,その帳簿書類に基づく実額調査によらないで更正されることのないよう保障している関係上(同法130条1項),その更正に当たっては,特にそれが帳簿書類に基づいていること,あるいは帳簿書類の記載を否定できるほどの信憑力のある資料によったという処分の具体的根拠を明確にする必要があり,かつ,それが妥当であるとしたからにほかならず,合理的な理由に基づくものというべきである(最高裁昭和36年(オ)第84号同38年5月31日第二小法廷判決・民集17巻4号617頁,最高裁昭和39年(行ツ)第65号同42年9月12日第三小法廷判決・集民88号387頁参照)。
そして,旧国税通則法74条の2及び法人税法130条2項は,いずれも,申告書が事実上,総勘定元帳に基づいて作成されたか否か,あるいは,更正処分が推計課税によってなされたか否かによって,その取扱いを区別していないのであるから,青色申告書以外の申告書に係る更正処分については,理由付記を求めていないと解するのが相当である。
この点,前記前提事実のとおり,原告は,平成18年2月28日,本件事業年度の法人税につき,青色申告書以外の申告書により,本件確定申告をした。
したがって,麻布税務署長には,本件更正処分について,その理由を付記すべき義務はないというべきであるから,この点に関する原告の主張を採用することはできない。
(2)  原告は,平成18年12月期以降の事業年度について既に青色申告の承認を受けていたのであるから,行政手続法14条の立法趣旨を踏襲した法人税法130条2項の趣旨に照らすと,平成22年9月29日にした本件更正処分については,理由付記が必要というべきである旨主張する。
しかしながら,本件更正処分の当時,原告が平成18年12月期以降の事業年度について青色申告の承認を受けていたとしても,その承認の効果が本件事業年度に遡及するものではないから,本件更正処分に理由を付記すべき義務はないとの前記判断を左右するものではない。したがって,この点に関する原告の主張を採用することはできない。
(3)  原告は,更正処分は,青色申告書,白色申告書の区別なく,納税者に対する不利益処分であるから,憲法31条の要請として,その処分理由と適用法条を必ず付記するべきであり,理由付記を青色申告書に係る更正処分に限定する法人税法130条2項の規定は,行政手続法14条及び憲法31条に違反している旨主張する。
しかしながら,憲法31条が直接に,行政上の不利益処分である更正処分に理由が付記されるべきことを保障していると解することはできない。そして,行政手続法14条1項本文が,不利益処分をする場合に同時にその理由を名宛人に示さなければならないとしているのは,名宛人に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み,行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解されるところ,法人税法が青色申告書とそれ以外の申告書によって理由付記について取扱上の差異を設けていることが,合理的な理由に基づくものであることは,先に述べたとおりである。
したがって,法人税法130条2項の規定は,行政手続法14条及び憲法31条に違反していないというべきであるから,この点に関する原告の主張を採用することはできない。
(4)  原告は,本件通知書には,更正前と更正後の課税標準等及び税額等の記載が欠如しているだけでなく,国税通則法27条の調査に基づくものである旨の付記も欠如していたのであるから,本件更正処分には,国税通則法28条2項に違反する違法がある旨主張する。
しかしながら,法人税の課税標準は各事業年度の所得金額であるところ(法人税法21条),証拠(甲1)によれば,本件通知書には,本件更正処分前と本件更正処分後の所得金額又は欠損金額,納付すべき法人税額等の記載があるほか,本件更正処分によって増加する納付すべき税額の記載もあると認められるから,国税通則法28条2項各号所定の記載すべき事項を欠いているとはいえない。また,前記1において述べたとおり,本件更正処分は,国税通則法24条が定める調査に基づくものであり,同法27条が定める調査に基づくものではないから,本件通知書に,本件更正処分が同条の調査に基づくものである旨を付記する必要はない。したがって,この点に関する原告の主張を採用することはできない。
(5)  以上より,本件通知書は,必要な記載を欠くものではないから,理由の付記等に関する違法があるとはいえない。
4  争点(4)(別件刑事事件に係るほ脱税額との齟齬に関する違法の有無)について
(1)  原告は,本件更正処分における納付すべき法人税額の合計額9億4577万4300円は,査察部が認定した原告の本件事業年度の納付すべき法人税額及び東京地方検察庁検察官の起訴状に記載されたほ脱税額8億0245万2000円との間で1億4332万2300円の齟齬があり,当該ほ脱税額と本件更正処分の納付すべき法人税額が一致していないから,本件更正処分は違法である旨主張する。
しかしながら,犯則嫌疑者の納付すべき法人税額に関する査察部の認定は,国税に関する犯則事件について告発をするか否かを判断するための調査の一環としてされるものにすぎず,また,起訴状記載の公訴事実に係る訴因の設定は検察官の裁量に委ねられているのであり,査察部の上記認定や起訴状の記載ないし当該起訴状に係る起訴が,納付すべき法人税額を確定させる効力や税務署長の更正処分の内容を拘束する効力を有するものではない。
したがって,査察部が認定した原告の本件事業年度の納付すべき法人税額及び東京地方検察庁検察官が別件刑事事件の起訴状に記載したほ脱税額と本件更正処分の納付すべき法人税額が一致していないとしても,それが本件更正処分の違法事由となるものではないから,この点に関する原告の主張を採用することはできない。
(2)  原告は,東京地方裁判所が,別件刑事事件において,原告の本件事業年度における法人税額を7億8763万6400円と認定したことにより,麻布税務署長は,本件更正処分において法人税額を1億5813万7900円過大に更正していたことを知ったのであるから,国税通則法26条に基づき,本件更正処分に係る再更正を行う義務があったのであり,それにもかかわらず,麻布税務署長は,再更正処分を怠っているのであるから,本件更正処分は,国税通則法26条に違反し,違法というべきである旨主張する。
しかしながら,上記(1)で述べたことによれば,本件において原告主張のような再更正をすべき義務があったと直ちにいえるものではない。また,再更正処分は,税務署長が,更正処分をした後,その更正をした課税標準等又は税額等が過大又は過少であることを知ったときに,その調査により,当該更正に係る課税標準等又は税額等を更正するものであり(国税通則法26条),そもそも,再更正処分を怠っていることそれ自体が先にされた更正処分の違法事由となるものでもない。
5  争点(5)(aビルの譲渡原価に係る申告額の損金算入の可否)について
(1)  法人税法は,法人税の課税標準を各事業年度の所得金額とし(21条),各事業年度の所得金額は,当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した額とする(22条1項)旨定めている。そして,固定資産を譲渡した場合,所得金額の計算上,その譲渡対価の額は益金の額に算入され(法人税法22条2項),譲渡原価の額は,通常,同条3項1号所定の原価の額として損金の額に算入されることになる(同項)。
前記前提事実のとおり,原告は,本件事業年度の所得金額の計算において,aビルの売却収入44億円を益金の額とし,その譲渡原価39億6439万6016円を損金の額として計上し,その差額4億3560万3984円を固定資産売却益としていた。
この点につき,被告は,原告が,本件事業年度の所得金額の計算上,損金の額に算入したaビルの譲渡原価のうち,B部分の取得費用,E及びFに対する支払手数料については,所得金額を過少に申告するため,架空の譲渡原価を計上したものであるから,これらを損金の額に算入することはできない旨主張するのに対し,原告は,架空の譲渡原価を計上したものではないから,これらの譲渡原価は損金の額に算入されるべきである旨主張する。
そこで,以下,本件事業年度の所得金額の計算上,原告の申告に係る上記各譲渡原価を損金の額に算入することができるか否かについて検討することとする。
(2)  B部分の取得費用について
ア 認定事実
前記前提事実及び掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。なお,Dの別件刑事事件における供述(乙73,74)中,下記認定に反する部分は,掲記の証拠等に照らし,採用できない。
(ア) Dは,暴力団組織の組長であり,原告の実質的経営者としてその業務全般を統括していた。Aは,原告が組長を務める暴力団組織の組員であった者である。(甲4,6,乙13)
(イ) Gは,東京工営の代表取締役である(乙13)。
(ウ) 原告は,平成16年6月24日,秀吉商事との間で,B部分及び秀吉商事の全株式を代金4億7000万円で買い受ける旨の契約をし,その代金を支払った(前記前提事実)。これにより,原告は,B部分の所有権を取得した。
(エ) Dは,原告がaビルを売却することによって生じる固定資産売却益を圧縮するため,平成17年4月ないし5月頃,Gに対し,B部分の売買契約について,契約当事者である秀吉商事と原告との間に東京工営を介在させ,秀吉商事から東京工営,東京工営から原告へと順次B部分が譲渡されたように仮装し,東京工営と原告との間の売買代金を25億円程度とすることにより,aビルの譲渡原価を水増しすることについて協力を求めた。これに対し,Gは,当時,東京工営に65億円を超す繰越欠損金があり,25億円程度の架空売上を計上しても,税負担が生じない見通しであったことから,これに応じることとした。(乙13)
(オ) その後,Dは,本件確定申告までに,Gや配下の者に指示をするなどして,B部分の売買に関する内容虚偽の契約書及び領収証,すなわち,①秀吉商事が東京工営に対してB部分を4億9000万円で譲渡する旨の平成16年6月24日付け不動産売買契約書(乙29),②東京工営に宛てられた秀吉商事名義の3億9000万円の同日付け仮領収証(乙31)及び③1億円の同年8月31日付け領収証(乙32),④東京工営が,原告に対し,秀吉商事の全株式を1000万円,B部分を24億9000万円で譲渡する旨の同年6月24日付け株式譲渡及び建物売買契約書(乙30),⑤原告に宛てられた東京工営名義の3億9000万円の同日付け受領書(乙33),⑥1億円の同年8月31日付け受領書(乙34)及び25億円(上記⑤及び⑥の金額を含む。)の平成17年7月29日付け領収証(乙35)を作成させた(乙13,36(4~6頁))。
(カ) 原告は,平成17年7月27日,クオンツとの間で,aビルにつき,代金44億円の借地権付建物売買契約を締結し,同月29日,クオンツから,豊藤への借地権譲渡承諾料等4億3000万円を差し引いた売却代金残額39億7000万円を振込送金により受け取った(前記前提事実)。なお,クオンツからの上記振込送金は,北部信用組合の原告名義の預金口座になされた(乙74(54頁))。
(キ) Gは,平成17年7月27日,Dから指示を受けて,北部信用組合の本店において,東京工営名義の預金口座を新規に開設し,1000円を入金したが,その預金通帳及び届出印はDが持ち帰った(乙13,37,38)。
(ク) Dは,平成17年7月29日,北部信用組合の本店において,原告の預金口座から21億円を出金し,東京工営名義の預金口座に20億1000万円を入金した。Gは,同日,Dから指示を受けて,北部信用組合の本店において,東京工営名義の預金口座から現金20億1000万円を出金する手続をしたが,この現金はすべてDが持ち帰った。(乙13,37,38)
(ケ) Dは,平成19年6月6日,北部信用組合の本店において,東京工営名義の預金口座の解約手続を行い,同口座の残金1000円の支払を受けた(乙37,38)。
(コ) 原告は,B部分を東京工営から24億9000万円で取得したとして,これを平成17年7月27日付けで借地権勘定に計上し,aビルの譲渡原価の一部として本件事業年度の損金の額に算入した上で,本件確定申告をした(乙7,12,36(12頁参照))。
イ 上記認定事実を総合すると,原告は,aビルをクオンツに対して44億円で売却したことにより,本件事業年度において,多額の固定資産売却益が生じ,多額の法人税が課されることが見込まれたことから,その税負担を免れるため,原告の実質的経営者であるDの主導により,B部分の所有権が,秀吉商事から東京工営に4億9000万円で譲渡され,東京工営から原告に24億9000万円で譲渡されたように仮装し,原告の本件事業年度の所得金額の計算上,上記24億9000万円をaビルの譲渡原価として損金の額に計上し,固定資産売却益を不正に圧縮し,本件確定申告をしたものであると認められる。
したがって,原告は,本件事業年度の所得金額を過少に申告するため,B部分の取得費用24億9000万円について,架空の譲渡原価を計上したものであるから,かかる譲渡原価を損金の額に算入することはできないというべきである。
ウ 原告の主張について
(ア) 原告は,平成16年6月24日,秀吉商事との間で,原告が秀吉商事からB部分及び秀吉商事の株式を4億7000万円で買い受ける旨の合意をし,同日,東京工営に対し,秀吉商事の株式を4億9000万円で売却した後,平成17年7月27日,東京工営から,秀吉商事の株式を25億円で買い受け,同月29日,東京工営に対し,東京工営への貸金4億9000万円を控除した20億1000万円を支払ったのであり,B部分の所有権を有する秀吉商事の株式の売買により,B部分の所有権が原告から東京工営へ,東京工営から原告へと順に移転したのであるから,上記B部分の取得費用24億9000万円は,aビルの譲渡原価として損金算入されるべきである旨主張する。
しかしながら,かかる原告の主張を前提としても,原告は,秀吉商事との間で,B部分及び秀吉商事の株式を4億7000万円で買い受ける旨の合意をしたのであり,これによって,原告はB部分の所有権を秀吉商事から直接取得し,秀吉商事はB部分の所有権を失っているのであるから,その後に,原告が,秀吉商事の株式を東京工営に売却し,これを東京工営から買い戻したとしても,原告が東京工営からB部分の所有権を取得したことにはならない。また,そもそも,不動産を所有する会社の発行済み株式を全部取得したとしても,これによって,当該株式の取得者が,当該不動産の所有権を取得するものではないから,原告が主張するように,B部分の所有権を有する秀吉商事の株式を売買することによって,B部分の所有権が原告から東京工営へ,東京工営から原告へと順に移転するものではない。
したがって,この点に関する原告の主張を採用することはできない。
(イ) また,原告は,原告と東京工営は,平成10年,aビルの地上げを共同して行い,東京工営がテナントに対する立退交渉などを行い,地上げが成功した場合には,原告が東京工営に対して成功報酬を支払う旨の合意をし,平成16年6月,上記成功報酬の金額を20億1000万円とする旨の合意をしていたのであるから,少なくとも東京工営に支払った20億1000万円は,地上げ報酬そのものと評価し,aビルの譲渡原価として損金算入されるべきである旨主張する。
しかしながら,上記認定事実によれば,原告が平成17年7月29日に東京工営名義の預金口座に入金した20億1000万円は,同日,同預金口座から出金され,Dがそのまま持ち帰っており,同預金口座の預金通帳及び届出印も始めからDが保持していたものであり,上記20億1000万円の資金の移動は,原告があたかも東京工営からB部分の譲渡を受けたかのように仮装するためものにすぎないというべきであるから,原告が東京工営に対して20億1000万円の支払をしたと認めることはできない。かえって,証拠(乙13)及び弁論の全趣旨によれば,Gがaビルの地上げに関して原告から受領した報酬は,1500万円であったと認められる。なお,aビルに関する東京工営の報酬を25億円とする原告と東京工営間の合意書(甲74の1)は,以上に述べたところに照らし,その信憑性を肯定することはできない。
したがって,この点に関する原告の主張を採用することはできない。
(3)  Eに対する支払手数料について
ア 認定事実
前記前提事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。なお,Dの別件刑事事件における供述(乙73)中,下記認定に反する部分は,掲記の証拠等に照らし,採用できない。
(ア) Eは,Dが属する暴力団組織における東北地区の相談役を務めていた者であり,平成14年9月に死亡した(甲4(19頁))。
(イ) Dは,原告がaビルを売却することによって生じる固定資産売却益を圧縮するため,原告が,Eに対し,aビルの売買の交渉及びaビルのテナントの立退交渉に関する業務を委託し,その報酬として5億円を支払ったように仮装して,当該5億円をaビルの譲渡原価として水増しすることとし,本件確定申告までに,Gや配下の者に指示をするなどして,内容虚偽の契約書及び領収証,すなわち,①原告がEに対して上記業務を委託し,その報酬を5億円とする平成11年3月4日付け業務委託契約書(乙40,49)及び②原告に宛てられたE名義の5億円の平成12年12月26日付け仮領収証(乙41)を作成させた(乙36(7~11頁))。
(ウ) 原告は,A部分のテナントの立ち退きに関する手数料5億円をEに支払ったとして,これを平成12年12月28日付けで借地権勘定に計上し,aビルの譲渡原価の一部として本件事業年度の損金の額に算入し,本件確定申告をした(乙7,36(12頁参照))。
イ 上記ア及び前記(2)アの認定事実を総合すると,原告は,aビルをクオンツに対して44億円で売却したことにより,本件事業年度において,多額の固定資産売却益が生じ,多額の法人税が課されることが見込まれたことから,その税負担を免れるため,原告の実質的経営者であるDの主導により,原告が,Eに対し,aビルの売買の交渉及びaビルのテナントの立退交渉に関する業務を委託し,その報酬として5億円を支払ったように仮装し,原告の本件事業年度の所得金額の計算上,上記5億円をaビルの譲渡原価として損金の額に計上し,固定資産売却益を不正に圧縮し,本件確定申告をしたと認められる。
したがって,原告は,本件事業年度の所得金額を過少に申告するため,Eに対する支払手数料5億円について,架空の譲渡原価を計上したものであるから,かかる譲渡原価を損金の額に算入することはできないというべきである。
ウ 原告の主張について
原告は,Eに対し,A部分のテナントの立退交渉の手数料として,5億円を支払ったのであるから,同金員はaビルの譲渡原価として損金算入されるべきである旨主張する。そして,原告は,これを裏付ける証拠として,①原告に宛てられたE名義の5億円の平成12年9月4日付け約束手形預り書(甲14),②受取人欄に「E」と記載された約束手形番号○○○の手形控耳(甲15),③原告に宛てられたE名義の5億円の平成14年9月12日付け領収証(甲16の1),④Eの同日付け印鑑登録証明書,⑤原告とEとの間の業務委託契約に係る平成12年6月14日付け協定書(甲17)を提出している。
しかしながら,先に述べたとおり,原告の実質的経営者であるDは,aビルの固定資産売却益を不正に圧縮するため,Gや配下の者に指示をするなどして,内容虚偽の関係書類を多数作成させていること,上記①の約束手形預かり書,③の領収証及び⑤の協定書の筆跡は,先に述べた内容虚偽の平成12年12月26日付け仮領収証(乙41)の筆跡と酷似していること,Dも別件刑事事件において上記①の約束手形預かり書はEが記載したものではない旨供述していること(乙73(37頁))に鑑みると,これらの書類はいずれもEが作成したものであるとは認められず,Eへの支払を仮装するために作成された可能性があり,また,上記②の手形控耳の受取人欄も,当初は空欄であり,後から「E」と書き加えられたと認められるから(乙73(79~81頁)),これらの証拠はいずれも信憑性を欠くものというべきである。さらに,Aが,Dの配下の者や貸付先の顧客は,普段から不定期に,Dに対して,印鑑登録証明書や登録印鑑を預けさせられていた旨供述していること(甲4(17頁))に鑑みると,上記③の印鑑登録証明書も,上記③の領収証とは無関係であるとみることができる。
したがって,原告がEに対して5億円を支払ったとは認められないから,この点に関する原告の主張を採用することはできない。
(4)  Fに対する支払手数料について
ア 認定事実
前記前提事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。なお,Dの別件刑事事件における供述(乙73)中,下記認定に反する部分は,掲記の証拠等に照らし,採用できない。
(ア) Fは,暴力団組織の組長を務めていた者であり,平成17年1月に死亡した(乙36(9頁),弁論の全趣旨)。
(イ) Dは,原告がaビルを売却することによって生じる固定資産売却益を圧縮するため,原告が,Fに対し,aビルの52号室の立退料として,2億8000万円を支払ったように仮装して,当該2億8000万円をaビルの譲渡原価として水増しすることとし,本件確定申告までに,配下の者に指示をするなどして,内容虚偽の領収証,すなわち,①原告に宛てられたF名義の1億8000万円の平成16年7月15日付け仮領収証(乙43)及び②2億8000万円の平成17年1月7日付け領収証(乙44)を作成させた(乙36(9~11頁),42)。
(ウ) 原告は,aビルの立ち退きに関する支払手数料2億8000万円をFに支払ったとして,これを平成17年1月7日付けで借地権勘定に計上し,aビルの譲渡原価として本件事業年度の損金の額に算入し,本件確定申告をした(乙12,36(12頁参照))。
イ 上記ア及び前記(2)アの認定事実を総合すると,原告は,aビルをクオンツに対して44億円で売却したことにより,本件事業年度において,多額の固定資産売却益が生じ,多額の法人税が課されることが見込まれたことから,その税負担を免れるため,原告の実質的経営者であるDの主導により,原告が,Fに対し,aビルの52号室の立退料として,2億8000万円を支払ったように仮装し,原告の本件事業年度の所得金額の計算上,上記2億8000万円をaビルの譲渡原価として損金の額に計上し,固定資産売却益を不正に圧縮し,本件確定申告をしたと認められる。
したがって,原告は,本件事業年度における所得金額を過少に申告するため,Fに対する支払手数料2億8000万円について,架空の譲渡原価を計上したものであるから,かかる譲渡原価を損金の額に算入することはできないというべきである。
ウ 原告の主張について
原告は,Fに対し,B部分の53号室の立退交渉の手数料等として,2億8000万円を支払ったのであるから,同金員はaビルの譲渡原価として損金算入されるべきである旨主張する。
しかしながら,原告に宛てられたF名義の1億8000万円の平成16年7月15日付け仮領収証(乙43)及び2億8000万円の平成17年1月7日付け領収証(乙44)には,立退料の支払先として「aビル52号室」が挙げられているのであって,原告が主張する53号室は明示されていない。また,原告は,B部分の53号室を賃借していた東亜企画に対する建物明渡等請求訴訟をしていたが,平成16年7月5日付けで和解が成立し,東亜企画は同年9月1日付けで53号室を明け渡しており,立退料の支払はされていないと認められる(乙20,51)。
したがって,原告がFに対して2億8000万円を支払ったとは認められないから,この点に関する原告の主張を採用することはできない。
6  争点(6)(簿外経費の損金算入の可否)について
(1)  原告は,本件事業年度において,未申告の経費として,Gに対する支払手数料5000万円,借入金に対する支払利息合計15億0022万9740円,強制執行費用52万3100円を支出しているから,当該経費は,本件事業年度の所得金額の計算上,損金の額に算入される旨主張するのに対し,被告は,原告がこれらの経費を簿外で支払ったとは認められないから,これらを損金の額に算入することはできない旨主張する。そして,証拠(乙2~12)及び弁論の全趣旨によれば,原告の主張する上記経費は,原告の決算書類や帳簿に記載されていなかったと認められる。
ところで,本件更正処分の適法性を主張する被告は,法人税の課税標準である各事業年度の所得の金額(法人税法21条)について主張立証責任を負うと解されるところ,所得の金額が当該事業年度の益金の額から損金の額を控除して算出されること(同条2項)からすれば,益金の額のみならず,損金の額についても被告に主張立証責任があるというべきである。
もっとも,法人税法は,内国法人に対し,事業年度ごとに所得金額及び法人税額等を記載した申告書を提出するよう義務付け(74条1項),当該申告書には,当該事業年度の貸借対照表及び損益計算書等の書類を添付しなければならないものとするなど,確定した決算に基づいて正しい申告をすべきことを求めている上,損金となる費用の存在が納税者にとって有利な事実であり,その証憑書類を整理・保存し,帳簿に計上することも容易であることからすれば,原告が損金として未申告の簿外経費が存在すると主張するときは,当該証拠との距離からみても,原告が損金となる簿外経費の存在を合理的に推認させるに足りる程度の具体的な反証を行わない限り,当該簿外経費は存在しないとの事実上の推定が働くものというべきである。
そこで,以上に述べたところを踏まえ,本件事業年度の所得金額の計算上,原告が簿外で支払ったとする未申告の費用を損金の額に算入することができるか否かについて検討することとする。
(2)  Gに対する支払手数料について
原告は,平成17年7月29日,DとGらが共に北部信用組合本店を訪れた際,Gに対し,aビルの地上げに関する手数料として,5000万円を支払ったのであるから,この5000万円は,aビルの譲渡原価として,本件事業年度の損金の額に算入されるべきである旨主張する。そして,原告は,これを裏付ける証拠として,①原告に宛てられた東京工営名義の5000万円の平成17年7月29日付け領収証(甲19),②コンサルタント収入として4320万5956円が計上されている東京工営の平成18年1月期の決算報告書(甲20)を提出している。
しかしながら,先に述べたとおり,原告の実質的経営者であるDは,aビルの固定資産売却益を不正に圧縮するため,Gや配下の者に指示をするなどして,内容虚偽の関係書類を多数作成させていること,Aが,Dの配下の者や貸付先の顧客は,普段から不定期に,Dに対して,印鑑登録証明書や登録印鑑を預けさせられていた旨供述していることに加え,Gが,本件犯則調査において,aビルの地上げに関する報酬は1500万円であり,東京工営のゴム印をDに預けていた旨供述していること(乙13)に鑑みると,上記①の領収証は,東京工営への支払を仮装するために作成された可能性があるから,信憑性を欠くものというべきである。また,東京工営は,平成18年1月期の総勘定元帳(乙52)において,株式会社東営エンジニアリング及びユウ・アイ・リアルエステート株式会社からのコンサルタント収入として,合計4320万5956円を計上していることからすれば,東京工営の平成18年1月期の決算報告書(甲20)に計上されているコンサルタント収入4320万5956円が原告からの収入であるとは認められない。
以上に述べたところによれば,原告がaビルの地上げに関する手数料として5000万円をGに対して支払ったとの事実はないと認めるのが相当であり,この認定を覆すに足りる的確な証拠はない。
したがって,Gに対する支払手数料5000万円を本件事業年度の損金の額に算入することはできない。
(3)  支払利息について
ア 十王開発に対する支払利息について
原告は,平成元年から平成3年にかけて,東京工営や日英興産に対する貸付けの資金とするため,十王開発から合計24億1968万円を借り入れた後,aビルの地上げが完成し,平成17年7月29日,クオンツから売買代金の入金を受けたことから,十王開発に対し,同日に5億円(利息7764万7059円を含む。),同年11月25日に12億円(利息1億8635万2941円を含む。)を支払った(支払利息合計2億6400万円)旨主張する。
しかしながら,十王開発は,平成18年度の総勘定元帳(甲26の1)及び平成10年4月1日から平成11年3月31日までの事業年度の確定決算書(甲26の2)において,貸付けの相手方を日英興産と記載している。
また,原告の平成12年12月期から本件事業年度までの決算報告書及び勘定科目内訳書(乙2~7)には,原告が主張するような東京工営や日英興産に対する貸金債権の記載はなく,東京工営の平成16年2月1日から平成17年1月31日までの事業年度の勘定科目内訳書(乙46)及び同年2月1日から平成18年1月31日までの事業年度の勘定科目内訳書(乙47)にも,借入先として原告が記載されていない。そして,原告を貸主,東京工営を借主とする借用証書(甲9の1,10の1,11の1,12の1)は,作成当時,貸主欄は空欄であり,我が国において郵便番号が7桁になった平成10年2月2日以降に原告の社判(郵便番号が7桁である。)が押印されたものであると認められること(甲6(6~8頁),乙48),日英興産を借主とする借用証書(甲21の1,23,24の1,25の1)は,貸主欄が空欄であることからすれば,これらの借用証書は,原告が主張するような東京工営や日英興産に対する貸付けを裏付けるものとはいい難い。
さらに,Dは,原告だけでなく,十王開発をも実質的に経営していたと認められる(乙71(1頁),73(83,97頁))。
以上に述べたところによれば,原告が十王開発から借入れをしたとの事実や合計2億6400万円の利息を支払ったとの事実はないと認めるのが相当であり,この認定を覆すに足りる的確な証拠はない。
したがって,十王開発に対する支払利息2億6400万円を本件事業年度の損金の額に算入することはできない。
イ 大都商会に対する支払利息について
原告は,平成2年から平成9年にかけて,ケイ・ピー・ハーベスト,鳳物産,H,ヤマハ企画及びI(以下,併せて「ケイ・ピー・ハーベスト等」という。)に対する貸付けの資金とするため,大都商会から合計21億7300万円を借り入れ,平成10年以降,aビルの地上げに必要な資金とするため,大都商会から合計6億6137万1469円を借り入れるなど,多数の借入れをしていたが,大都商会に対し,利息の一部として,平成17年7月29日に8308万7576円,同年8月9日に1億1001万5136円,同月19日に5億2310万7028円の合計7億1620万9740円を支払ったほか,同年8月9日に別途2億2002万円を支払った(支払利息合計9億3622万9740円)旨主張する。そして,原告は,これを裏付ける証拠として,①大都商会を貸主,原告を借主とする30億円の平成14年1月28日付け借用証書(甲29の1),②約36億円の借入れや今後の利息支払を確認する大都商会に宛てられた原告名義の平成16年8月25日付け確約書(甲30の1),③原告に宛てられた大都商会名義の平成17年8月19日付け領収書(甲31の1)及び2億2000万円の同月9日付け領収書(甲31の2)を提出している。
しかしながら,先に述べたとおり,原告の実質的経営者であるDは,aビルの固定資産売却益を不正に圧縮するため,Gや配下の者に指示をするなどして,内容虚偽の関係書類を多数作成させていること,Aが,Dの配下の者や貸付先の顧客は,普段から不定期に,Dに対して,印鑑登録証明書や登録印鑑を預けさせられていた旨供述していることに加え,Dは,子であるOを大都商会の代表取締役に据えるなどして,大都商会を実質的に経営していたと認められること(乙13,71(1頁),73(82,97頁))に鑑みると,上記①から③までの証拠は,貸付けや支払を仮装するために作成された可能性があるから,いずれも信憑性を欠くというべきである。
また,大都商会は,平成17年4月1日から平成18年3月31日までの事業年度の決算報告書(乙54)において,貸付金を記載していない。
さらに,原告の平成12年12月期から本件事業年度までの決算報告書及び勘定科目内訳書(乙2~7)には,原告が主張するようなケイ・ピー・ハーベスト等に対する貸金債権の記載はない。そして,ケイ・ピー・ハーベスト等を借主とする借用証書(甲27の1,28の1,36の1,37の1,46の1,51の1)は,貸主欄が空欄であることからすれば,これらの借用証書は,原告が主張するようなケイ・ピー・ハーベスト等に対する貸付けを裏付けるものとはいい難い。
以上に述べたところによれば,原告が大都商会から借入れをしたとの事実や合計9億3622万9740円の利息を支払ったとの事実はないと認めるのが相当であり,この認定を覆すに足りる的確な証拠はない。
したがって,大都商会に対する支払利息9億3622万9740円を本件事業年度の損金の額に算入することはできない。
ウ あじさい観光に対する支払利息について
原告は,平成12年12月25日,Eに対する手数料5億円の支払等の資金とするため,あじさい観光から6億円を借り入れ,平成17年7月29日,あじさい観光に対し,8億5000万円(利息2億5000万円を含む。)を支払った旨主張する。そして,原告は,これを裏付ける証拠として,原告に宛てられたあじさい観光名義の2億5000万円の平成17年7月29日付け領収書(甲33)を提出している。
しかしながら,先に述べたとおり,Eに対する手数料支払の事実は認められない。そして,原告の実質的経営者であるDは,aビルの固定資産売却益を不正に圧縮するため,Gや配下の者に指示をするなどして・内容虚偽の関係書類を多数作成させていること,Aが,Dの配下の者や貸付先の顧客は,普段から不定期に,Dに対して,印鑑登録証明書や登録印鑑を預けさせられていた旨供述していることに加え,Dは,家族をあじさい観光の代表取締役に据えるなどして,あじさい観光を実質的に経営していたと認められること(乙71(1頁),73(83,97頁))に鑑みると,上記証拠は,支払を仮装するために作成された可能性があるから,いずれも信憑性を欠くというべきである。
また,あじさい観光は,平成16年6月1日から平成17年5月31日までの事業年度の決算報告書(乙55)及び同年6月1日から平成18年5月31日までの事業年度の決算報告書(乙56)において,貸付金を記載していない。
そうすると,原告があじさい観光から借入れをしたとの事実や2億5000万円の利息を支払ったとの事実はないと認めるのが相当であり,この認定を覆すに足りる的確な証拠はない。
したがって,あじさい観光に対する支払利息2億5000万円を本件事業年度の損金の額に算入することはできない。
エ Jに対する支払利息について
原告は,Jから,平成11年7月16日頃に2億5000万円,同年10月頃に1億円,平成16年12月14日に3000万円,同月27日に1000万円を借り入れ,上記2億5000万円をA部分の持分4分の3の競売代金の支払に充て,上記1億円をA部分の残り4分の1の持分を取得するための代金の支払に充て,平成17年7月29日,Jに対し,上記合計3億5000万円の借入金の利息として,5000万円を支払った旨主張する。そして,原告は,これを裏付ける証拠として,原告に宛てられたJ1(J)名義の平成17年7月29日付け領収書(甲34)を提出している。
しかしながら,先に述べたとおり,原告の実質的経営者であるDは,aビルの固定資産売却益を不正に圧縮するため,Gや配下の者に指示をするなどして,内容虚偽の関係書類を多数作成させていること,Aが,Dの配下の者や貸付先の顧客は,普段から不定期に,Dに対して,印鑑登録証明書や登録印鑑を預けさせられていた旨供述していることに加え,JがDの配偶者であること(乙71(1頁))に鑑みると,上記証拠は,支払を仮装するために作成された可能性があるから,信憑性を欠くというべきである。
したがって,原告がJから借入れをしたとの事実や5000万円の利息を支払ったとの事実はないと認めるのが相当であり,この認定を覆すに足りる的確な証拠はない。
したがって,Jに対する支払利息5000万円を本件事業年度の損金の額に算入することはできない。
(4)  強制執行費用について
原告は,aビルに入居していたbレストランを立ち退かせるため,強制執行の申立てを行い,これに関連して,平成16年8月19日,K弁護士に対し,強制執行補助者の手数料及び鍵交換費用として5万円,遺留品の保管代として47万3100円を支払ったのであるから,上記合計52万3100円も,本件事業年度の強制執行費用として,本件事業年度の所得金額の計算上,損金の額に算入されるべきである旨主張する。そして,原告は,これを裏付ける証拠として,原告に宛てられたK弁護士名義の52万3100円の平成16年8月19日付け領収書(甲35の4)を提出している。
しかしながら,証拠(甲35の4,乙11,36(12頁))及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成16年6月から8月までの間に,K弁護士に対し,aビルに係る強制執行に関し,合計212万0250円を支払ったこと,上記領収書に記載された52万3100円のうち,送金料600円を除く52万2500円は,上記212万0250円の一部であったこと,原告は,本件事業年度の所得金額の計算上,上記212万0250円をaビルの譲渡原価として損金の額に算入しでいたことが認められる。なお,原告の総勘定元帳に上記送金料600円が計上されていないと認められること(甲35の4,乙11)に鑑みると,上記600円は原告の負担においてK弁護士に支払われたものではないと認めるのが相当であり,これを覆すに足りる証拠はない。
したがって,原告が主張する強制執行費用52万3100円のうち,52万2500円は既に本件事業年度の損金の額に算入済みであり,残額の600円は支払の事実が認められないから,これらを本件事業年度の損金の額に算入することはできない。
7  争点(7)(貸倒損失の損金算入の可否)について
(1)  原告は,本件事業年度において,ケイ・ピー・ハーベストに対する貸金債権12億円,Hに対する貸金債権2億3000万円,ヤマハ企画に対する貸金債権4億6500万円,日英興産に対する貸金債権及び手形債権合計15億5000万円が貸倒れとなったから,これらの貸倒損失は,本件事業年度の所得金額の計算上,損金の額に算入される旨主張するのに対し,被告は,原告がこれらの貸金債権を有していたとは認められないから,これらを損金の額に算入することはできない旨主張する。
ところで,証拠(乙2~12)及び弁論の全趣旨によれば,原告が主張する貸金債権は,原告の決算書類や帳簿に記載されていなかったと認められるところ,未申告の簿外の貸倒損失についても,前記6(1)において未申告の簿外経費に関して述べたことと同様のことがいえるから,原告が損金として簿外の貸倒損失が存在すると主張するときは,当該証拠との距離からみても,原告が損金となる貸倒損失の存在を合理的に推認させるに足りる程度の具体的な反証を行わない限り,当該貸倒損失は存在しないとの事実上の推定が働くものというべきである。
そこで,以上に述べたところを踏まえ,本件事業年度の所得金額の計算上,原告が主張する未申告の貸倒損失を損金の額に算入することができるか否かについて検討することとする。
(2)  ケイ・ピー・ハーベストに対する貸金債権について
原告は,ケイ・ピー・ハーベストに対し,平成2年8月31日に2億円,同年10月26日に10億円の合計12億円を貸し付けたが,ケイ・ピー・ハーベストや連帯保証人である会社はいずれも破産ないし倒産し,個人で連帯保証人になっていた者も行方不明であるなど,貸金を回収することはできなかったところ,平成17年1月7日に行われた担保不動産競売によって710万円を回収し,これをケイ・ピー・ハーベストの未払利息に充当しており,ケイ・ピー・ハーベストに対する貸金債権は,本件事業年度において全額が貸倒れになった旨主張する。そして,原告は,これを裏付ける証拠として,①ケイ・ピー・ハーベストを借主とする2億円の平成2年8月31日付け借用証書(甲36の1),②原告に宛てられたケイ・ピー・ハーベスト名義の2億円の平成2年8月31日付け領収証(甲36の2),③ケイ・ピー・ハーベストを借主とする10億円の平成2年10月26日付け借用証書(甲37の1),④原告に宛てられたケイ・ピー・ハーベスト名義の10億円の平成2年10月26日付け領収証(甲37の2),⑤ケイ・ピー・ハーベストに係る平成2年10月6日付け印鑑証明書(甲38の1),⑥ケイ・ピー・ハーベストの代表取締役であるPに係る印鑑登録証明書(甲38の2),⑦「ミナトカイハツ」を依頼人,「(株)ケーピーハーベスト」を受取人とする6億6000万円の振込金受取書(兼手数料受取書)(甲39)を提出している。
しかしながら,先に述べたとおり,ケイ・ピー・ハーベストを借主とする上記①及び③の借用証書は,貸主欄が空欄であることからすれば,原告が貸付けを行ったことを裏付けるものとはいい難い。また,先に述べたとおり,原告の実質的経営者であるDは,aビルの固定資産売却益を不正に圧縮するため,Gや配下の者に指示をするなどして,内容虚偽の関係書類を多数作成させていること,Aが,Dの配下の者や貸付先の顧客は,普段から不定期に,Dに対して,印鑑登録証明書や登録印鑑を預けさせられていた旨供述していることに加え,上記のとおり借用証書の貸主欄は空欄であることに鑑みると,上記②及び④の領収証は,原告名が後から書き加えられるなど,原告による支払を仮装するために作成された可能性があるから,信憑性を欠くものというべきである。上記⑦の振込金受取書(兼手数料受取書)は,既に述べたところに加え,原本を紛失したとして,写しとして証拠提出されたものであること(顕著な事実)に鑑みると,作為が加えられた可能性を否定できないから,その信憑性を肯定することはできない。
また,ケイ・ピー・ハーベストを債務者とする債権額12億円の抵当権設定登記(甲41)は,抵当権者が丸惣建設となっている。この点につき,原告は,上記抵当権設定登記は名義貸しである旨主張し,これを裏付ける証拠として,ケイ・ピー・ハーベスト名義の平成2年10月29日付け同意書(甲44の1)及び丸惣建設名義の同日付け念書(甲44の2)を提出しているが,既に述べたところに加え,Dは,配下の者を丸惣建設の代表取締役に据えるなどして,丸惣建設の名義を恣意的に利用していたと認められること(乙71(1頁),73(83~84頁),74(10,20頁))に鑑みると,名義貸しを仮装するために作成された可能性があるから,その信憑性を肯定することはできない。
以上に述べたところによれば,原告がケイ・ピー・ハーベストに対して貸付けをしたとの事実はないと認めるのが相当であり,この認定を覆すに足りる的確な証拠はない。
したがって,ケイ・ピー・ハーベストに対する貸金債権12億円については,その存在が認められず,貸倒損失が生じることの前提を欠くものであるから,これを本件事業年度の損金の額に算入することはできない。
(3)  Hに対する貸金債権について
原告は,平成5年2月25日,Hに対し,3億5000万円を貸し付け,平成7年12月11日,Hが所有する土地及び建物について,同月8日代物弁済を原因とする所有権移転登記を受け,平成17年3月30日,あじさい観光に対し,2億円で売却し,これを原告が負担した先順位の抵当権設定登記の抹消費用8000万円と貸金債権の元金の一部1億2000万円に充てたが,H及び連帯保証人の資力からみて,これ以上の回収の見込みはなかったから,原告のHに対する残元金2億3000万円の貸金債権は,本件事業年度において貸倒れとなった旨主張する。そして,原告は,これを裏付ける証拠として,①Hを借主とする3億5000万円の平成5年2月25日付け借用証書(甲46の1),②H及び連帯保証人に係る同日付け印鑑登録証明書(甲46の2・3),③平成7年12月8日代物弁済を原因とするHから原告への所有権移転登記や原告を権利者とする抵当権設定仮登記がされた土地及び建物の登記事項証明証(甲47の1~4)を提出している。
しかしながら,上記①の借用証書は,貸主欄が空欄であることからすれば,原告が貸付けを行ったことを裏付けるものとはいい難い。また,原告は,上記③の土地及び建物について,あじさい観光に対し,真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記をしているところ,その際,Hから原告への代物弁済を原因とする所有権移転登記について,Hに対する本来の債権者はあじさい観光であり,あじさい観光が原告の名義を借りていたものである旨,法務局に提出した登記原因証明情報に記載していること(乙58)に鑑みると,上記③の登記事項証明証の原告に関する記載についても,原告が主張するようなHに対する貸付けを裏付けるものとはいい難い。
以上に述べたところによれば,原告がHに対して貸付けをしたとの事実はないと認めるのが相当であり,この認定を覆すに足りる的確な証拠はない。
したがって,Hに対する貸金債権2億3000万円については,その存在が認められず,貸倒損失が生じることの前提を欠くものであるから,これを本件事業年度の損金の額に算入することはできない。
(4)  ヤマハ企画に対する貸金債権について
原告は,平成7年9月18日,ヤマハ企画に対し,4億6500万円を貸し付け,連帯保証人であるMの親族が持分を有する不動産に,丸惣建設名義で抵当権設定仮登記を受けたが,ヤマハ企画は,上記貸金の元金を全く返済しないまま事実上倒産し,Mも平成17年以前に死亡しており,上記不動産には先順位の抵当権者がいて,Mの相続人にもめぼしい資産がなく,貸金回収の見込みはなかったことから,平成17年9月9日,Mの相続人からの申し出により,同相続人から300万円を受領して未払利息に充当し,上記抵当権設定仮登記を抹消したのであり,ヤマハ企画に対する貸金債権は,本件事業年度において全額が貸倒れになった旨主張する。そして,原告は,これを裏付ける証拠として,①ヤマハ企画を借主とする4億6500万円の平成7年9月18日付け借用証書(甲51の1),②ヤマハ企画に係る同日付け印鑑証明書(甲51の2),③ヤマハ企画の代表取締役であるMに係る同月19日付け印鑑登録証明書(甲51の3)を提出している。
しかしながら,上記①の借用証書は,貸主欄が空欄であることからすれば,原告が貸付けを行ったことを裏付けるものとはいい難い。
また,ヤマハ企画を債務者とする債権額4億6500万円の抵当権設定登記(甲53)は,抵当権者が丸惣建設となっている。この点につき,原告は,上記抵当権設定登記は名義貸しである旨主張し,これを裏付ける証拠として,M名義の平成7年9月18日付け同意書(甲52の1)及び丸惣建設名義の同日付け念書(甲52の2)を提出しているが,既に述べたところに照らすと,名義貸しを仮装するために作成された可能性があるから,その信憑性を肯定することはできない。
以上に述べたところによれば,原告がヤマハ企画に対して貸付けをしたとの事実はないと認めるのが相当であり,この認定を覆すに足りる的確な証拠はない。
したがって,ヤマハ企画に対する貸金債権4億6500万円については,その存在が認められず,貸倒損失が生じることの前提を欠くものであるから,これを本件事業年度の損金の額に算入することはできない。
(5)  日英興産に対する貸金債権について
ア 原告は,平成元年から平成2年にかけて,日英興産に対し,合計5億5000万円を貸し付けたが,その貸金債権は,日英興産の倒産によって貸倒れとなった旨主張する。そして,原告は,これを裏付ける証拠として,①日英興産を借主とする2億円の平成元年8月4日付け借用証書(甲21の1),②日英興産に係る平成元年7月20日付け印鑑証明書(甲21の2),③日英興産を借主とする2億円の平成元年12月7日付け借用証書(甲23),④日英興産を借主とする1億5000万円の平成2年2月28日付けの借用証書(甲24の1),⑤日英興産に係る平成2年2月20日付け印鑑証明書(甲24の2),⑥日英興産の代表取締役であるQ(以下「Q」という。)に係る平成2年1月25日付け印鑑登録証明書(甲24の3),⑦原告に対する借入金が合計5億5000万円あり,これを東京工営と共同責任で返済する旨の日英興産名義の平成4年4月9日付け確約書(甲55の1),⑧日英興産に係る同日付け印鑑証明書(甲55の2),⑨Dのところから5億5000万円を借り入れたことを自認する内容の日英興産の代表取締役であるQの陳述書(甲56)を提出している。
しかしながら,上記①,③及び④の借用証書は,貸主欄が空欄であることからすれば,原告が貸付けを行ったことを裏付けるものとはいい難い。また,上記⑦の確約書は,作成日が平成4年4月9日とされているにもかかわらず,それから19年以上も経過した平成23年10月19日という確定日付が付されていることからすれば,その作成日が真正なものであるかも疑わしく,既に述べたところにも照らすと,貸付けを仮装するために作成された可能性があるから,その信憑性を肯定することはできない。さらに,上記⑨の陳述書についても,Qは,貸主が誰であるかは確認していない旨述べていることからすれば,原告が貸付けを行ったことを裏付けるものではない。
以上に述べたところによれば,原告が日英興産に対して貸付けをしたとの事実はないと認めるのが相当であり,この認定を覆すに足りる的確な証拠はない。
したがって,日英興産に対する貸金債権5億5000万円については,その存在が認められず,貸倒損失が生じることの前提を欠くものであるから,これを本件事業年度の損金の額に算入することはできない。
イ 原告は,日英興産は,平成元年9月27日,原告に対し,東京工営の原告に対する借入債務10億円を担保するため,額面10億円の約束手形を差し入れたが,結局,日英興産の倒産によって同手形は不渡りとなったのであるから,日英興産に対する手形債権は,全額が原告の損金となった旨主張する。そして,原告は,これを裏付ける証拠として,①原告を貸主,東京工営を借主とする10億円の借用証書(甲9の1),②日英興産を連帯保証人とする10億円の平成2年1月25日付け借用証書(甲57の1),③Qに係る同日付け印鑑登録証明書(甲57の2),④原告に宛てられたアートメガネ産業有限会社及び日英興産を共同振出人とする10億円の約束手形(甲58)を提出する。
しかしながら,上記④の約束手形には,金融機関作成の不渡付箋が添付されていないから,当該約束手形が不渡りとなったことを裏付けるものではない。また,そもそも,手形債権は,原因債権と法律上別個の債権ではあっても,経済的には同一の給付を目的とし,原因債権の支払の手段として機能しこれと併存するものにすぎないから,担保のために振り出された約束手形が不渡りになったとしても,それによって直ちに当該約束手形に係る手形債権の金額を損金として計上できるものではない。
したがって,日英興産に対する手形債権10億円を本件事業年度の損金の額に算入することはできない。
8  本件更正処分等の適法性
(1)  本件更正処分の適法性
これまでに述べたところに加え,別紙掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件更正処分(ただし,本件裁決により一部取り消された後のもの。以下同じ。)の根拠及び適法性は,別紙記載1及び2のとおりであると認められるから,本件更正処分は適法である。
(2)  本件賦課決定処分の適法性
これまでに述べたところによれば,本件賦課決定処分(ただし,本件裁決により一部取り消された後のもの。以下同じ。)の根拠及び適法性は,別紙記載3のとおりであると認められるから,本件賦課決定処分は適法である。
第4  結論
以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小林宏司 裁判官 徳井真 裁判官 堀内元城)

 

〈以下省略〉

 

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