「成果報酬 営業」に関する裁判例(66)平成22年 4月21日 東京地裁 平21(ワ)9798号 報酬金請求事件
「成果報酬 営業」に関する裁判例(66)平成22年 4月21日 東京地裁 平21(ワ)9798号 報酬金請求事件
裁判年月日 平成22年 4月21日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平21(ワ)9798号
事件名 報酬金請求事件
裁判結果 認容 文献番号 2010WLJPCA04218009
要旨
◆インターネット広告代理店業等を営む原告が、ネイルスクールの経営などを営む被告より広告掲載業務を受注し、原告はこれを実施したが、被告が、報酬の一部を支払わないとして、被告に対し、報酬金を請求し、Cが発注権限を有していたかが争点となった事案において、被告代表者は、平成19年12月までは原告との取引をCに任せていたことを認めていること、平成19年12月に取引額が100万円を超えるようになって、これを問題視し、原告との契約を解約する方向で検討したものの、現に解約するようにとの指示をCに直接していないこと、被告代表者は3月までで原告との取引を終了したとしているのに、Cが4月以降も被告の社内で打合せをしていても社内的に問題となっていないこと、Cも会社の方針に反しているとの認識がなかったことに照らすと、Cの取引権限が現に制限されたとまでは認められず、Cには取引をする権限があったと推認するのが合理的であるなどとしてCによる有権代理を認めて、請求を全て認容した事例
参照条文
民法99条
民法656条
裁判年月日 平成22年 4月21日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平21(ワ)9798号
事件名 報酬金請求事件
裁判結果 認容 文献番号 2010WLJPCA04218009
東京都千代田区〈以下省略〉
原告 株式会社オプト
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 後藤勝也
同 雨宮美季
千葉県市川市〈以下省略〉
被告 N-MEネイルアカデミー株式会社
同代表者代表取締役 B
主文
1 被告は,原告に対し,432万0772円及びこれに対する平成21年1月31日から支払済みに至るまで年6分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。
3 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
主文と同旨
第2 事案の概要
1 請求原因
(主位的請求原因―有権代理)
(1) 原告は,インターネット広告代理店業を営む株式会社であり,被告は,主にネイルアートスクールの経営及びネイルアートの通信教育などを営む株式会社である。
(2) 被告は,原告に対し,平成17年7月から平成20年12月までの間,下記のとおり,広告掲載業務等(以下「本件委託業務」という。)を発注し,原告は,これを受注し(これによって成立した契約を「本件各契約」という。),本件委託業務を実施した。当該発注は,被告においてその権限を有するC(以下「C」という。)によって行われていた。
ア クロスフィニティSEOLite 平成19年12月から平成20年12月まで
対象キーワード「ネイリスト」,対象:URL:http://〈省略〉として,検索エンジンにおいて対象キーワードで検索したときの検索結果において対象URLが上位に表示されるように最適化を行う業務である。報酬は月額で30万円と固定されており,契約期間中に利用停止又は解約となった場合は,3か月分の月額固定報酬を上限として違約金が発生する約定であった。
イ Googleモバイル 平成19年1月から平成20年5月まで
グーグル社のモバイルのウェブページに広告が掲載され,クリックされるごとに課金される形の広告掲載業務である。
ウ Overtureモバイル 平成18年6月から平成20年7月17日まで
オーバーチュア株式会社のモバイルのウェブページに広告が掲載され,クリックされるごとに課金される形の広告掲載業務である。
エ オプトSEM SEM管理手数料 平成19年9月から平成20年7月17日まで
イ及びウのモバイルのウェブページに広告を掲載するに当たって,その管理・運用をする業務である。上記各広告が掲載されている間,月額手数料として2万円の約定であった(月の途中で終了した部分については,日割計算となる。)。
オ FIVE 平成19年1月から平成20年11月まで
タウン誌,フリーペーパー等への広告掲載を行い,その広告への問い合わせ件数で課金する形態の広告掲載業務である。初期費用10万円,月額利用料5万円,通話料,成果報酬を支払う約定であった。なお,この業務に係る委託契約は,平成20年8月27日に解約されたが,掲載紙における広告の有効期間との関係で,成果報酬と通話料は平成20年11月末まで発生する。
カ ADPLAN SPモバイル 平成19年6月
上記イ及びウの広告効果を測定するツールを使い,上記各広告の適正化を行う業務である。
キ Overtureスポンサードサーチ 平成19年10月から平成20年7月まで
PCのウェブページに広告が掲載され,クリックされるごとに課金される形態の広告掲載業務である。
(3) 本件委託業務の報酬について,被告は,平成20年4月分及び5月分を支払ったのみであり,同年3月分及び同年6月分から12月分の報酬を支払わない。未払報酬の内訳は,次のとおりであり,その合計額は,411万5023円であり,これに消費税を加えると,432万0774円となる。
ア クロスフィニティSEOLite 240万円
イ Googleモバイル 13万2126円
ウ Overtureモバイル 52万7119円
エ オプトSEM SEM管理手数料 8万0322円
オ FIVE 18万0250円
カ ADPLAN SPモバイル 10万円
キ Overtureスポンサードサーチ 69万5206円
(予備的請求原因―会社法14条1項に基づく責任)
(4) 仮にCに発注権限がなかったとしても,Cは,取締役営業本部長という肩書の名刺を使用して被告の広告掲載などに関する業務の処理を委任されており,本件各契約の内容はいずれも被告の広告を掲載することに関係する業務であり,これをCが原告に依頼する行為は,客観的にみて,Cが被告から委任された事項の範囲内であるから,会社法14条1項にいう「事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人」に該当し,かつ,被告は,Cに発注権限がないとは知らなかったから,同条所定の「善意の第三者」となり,被告は,原告に対し,同条に基づき責任を負う。
(予備的請求原因―表見代理)
(5) 被告は,Cに「取締役営業本部長」という肩書を付した名刺を使用させていたことから,本件各契約に先立って,原告に対してCに被告との営業行為に関する一切の代理権限を授与した旨を表示していたというべきであり,また,本件各契約の内容は,いずれも被告の広告掲載に係る業務であって,本件各契約の締結は表示された代理権限の範囲内であるから,民法109条に基づく表見代理が成立する。
(6) 被告は,大口でない取引については,Cに発注権限があることを認めているところ,Cに「取締役営業本部長」との肩書を使用させていること,本件各契約は従前の被告が認めている取引の延長としてされていること,本件各契約に基づく本件委託業務について被告の本社で定期的に会議を行ってきたことに照らすと,原告がCに本件各契約をする権限があると信じたことには正当な理由があり,民法110条に基づく表見代理が成立する。
(7) 上記に述べた各事情からすれば,少なくとも,民法109条と同法110条の重畳適用に基づく表見代理が成立する。
2 請求原因に対する認否等
(1) 請求原因(1)の事実は,認める
(2) 同(2)の事実は,否認する。
平成19年11月27日以降の発注分(甲3の3以降の発注書分)は,被告担当者のCの個人の印が押され,被告の会社印が押されていないことから明らかなように,被告の発注ではない。
また,Cには,そのような多額の債務が発生するような業務委託をする権限はなかった。
(3) 同(3)の事実は,否認する。平成20年3月分報酬の158万8510円については,その請求書(甲6の1)が同年5月に同年4月分報酬(101万7700円)の請求書とともに送付されてきたが,既に支払済みであるとの認識から支払わなかったものである。
(4) 同(4)ないし(6)については,争う。Cが「取締役営業本部長」の肩書の名刺を使用していたことは不知である。また,Cが原告の担当者と定期的に会議をしていたからといって,正当な理由を基礎付けるものではない。
3 争点
(1) Cが原告と本件各契約をしたか否か
(2) Cに本件各契約を締結する権限があったか否か
(3) 被告は会社法14条1項に基づく責任を負うか否か
(4) 本件各契約について表見代理が成立するか否か
第3 当裁判所の判断
1 Cが原告と本件各契約をしたか否かについて
証拠(甲3の1ないし7,甲4のないし3,甲5,甲6の1ないし8,甲7の1,2,甲8,13,21,22,証人D)によれば,Cが被告と請求原因(2)記載の本件各契約をしたことが認められ,これに反する証拠はない。
2 Cに本件各契約を締結する権限があったか否かについて
(1) 証拠(各認定事実の末尾に掲記する。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実を認めることができる。
ア 原告は,インターネット広告代理店業を営む株式会社であり,被告は,主にネイルアートスクールの経営及びネイルアートの通信教育などを営む株式会社である。(争いのない事実)
イ 被告と原告は,平成18年2月から,原告が被告から広告宣伝業務の委託を受けるという取引を開始した。その取引額は,平成19年9月ころまでは少額であったが,同年10月ころから増加し,同年12月以降は100万円を超えるものとなっていた。(甲15)
ウ 被告代表者は,Cが平成18年2月から原告と取引をしていることは知っていたが,各取引について事前に被告代表者による許可を求めたことはなく,Cに任せていた。ところが,被告代表者は,原告との取引額が平成19年12月に100万円を超える金額となったので,問題であると判断し,常務取締役のE,総務部長のFと協議し,違約金の期間(3か月)をみて解約することとし,平成20年3月までで取引をやめることとしたが,被告代表者自身は,そのことをCに直接指示をしたわけではなく,被告側から原告に解約の申し入れをしたことを確認したわけではなかった。(被告代表者)
エ 原告の従業員であるD(以下「D」という。)は,被告との営業を担当することになり,平成20年3月25日,前任者であるGとともに被告を訪問したところ,これに応対したのは,Cであり,被告の職員であるHも紹介された。この席で,Cは,Dに対し,「取締役営業本部長」の肩書の名刺を渡した。この名刺のフォーマットは被告のもので,被告において取引先に発注したものであった。(甲12,22,証人D,被告代表者,弁論の全趣旨)
オ Dは,同年4月11日,5月27日,6月24日,7月10日,広告宣伝業務の打合せ(原告によるサービスの実施状況等の報告)のため,被告の事務所を訪問し,Cと打合せをした。4月と5月の打合せには,Dの上司の平野が,5月と6月の打合せには,訴外クロスフィニティ株式会社のIが,7月の打合せには,原告のJとKがそれぞれ同席していた。被告の事務所はマンションの一室のような部屋であり,DらがCと打ち合わせた場所には,他の社員もいた。(甲22,証人D)
カ Dは,メールでCのみならず,Hとも広告宣伝業務について連絡を取り合っていた。(甲13,14,21)
キ 原告は,被告に対し,平成20年3月分158万8510円の請求書(甲6の1),同年4月分65万1910円の請求書(甲6の2),同年5月分45万0464円の請求書(甲6の3)を送付したところ,被告は,4月分及び5月分を支払ったが,3月分は支払わず,また,同年6月分以降も支払わなかった。(当事者間に争いがない。)
ク 被告代表者は,原告との紛争が顕在化した後,Cから事情を聴取したが,Cは,普通どおり,言われたとおりやっているつもりだと回答した。(被告代表者)
(2) 以上の事実からすれば,Cには本件各取引をする権限があったと推認するのが相当である。被告代表者は,平成19年12月までは原告との取引をCに任せていたことを認めていること,平成19年12月に取引額が100万円を超えるようになって,これを問題視し,原告との契約を解約する方向で検討したものの,現に解約するようにとの指示をCに直接していないこと,被告代表者は3月までで原告との取引を終了したとしているのに,Cが4月以降も被告の社内でCと打合せをしていても社内的に問題となっていないこと,Cも会社の方針に反しているとの認識がなかったことに照らすと,Cの取引権限が現に制限されたとまでは認められず,Cには本件各取引をする権限があったと推認するのが合理的である。なお,被告代表者の供述の中には,Cに原告との本件各契約を解約するように指示したとする部分があるが,他の供述部分と整合せず,採用できない。
(3) 以上によれば,請求原因(1)ないし(4)(有権代理の主張)を認めることができ,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求には理由がある。
3 以上によれば,原告の請求は理由があるのでこれを認容することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,仮執行の宣言につき同法259条1項を各適用して,主文のとおり判決する。
(裁判官 齊木敏文)
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