判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(75)平成28年 8月10日 東京地裁 平26(ワ)10398号 報酬金支払請求本訴、損害賠償等請求反訴事件
判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(75)平成28年 8月10日 東京地裁 平26(ワ)10398号 報酬金支払請求本訴、損害賠償等請求反訴事件
裁判年月日 平成28年 8月10日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平26(ワ)10398号・平27(ワ)16211号
事件名 報酬金支払請求本訴、損害賠償等請求反訴事件
裁判結果 認容(本訴)、請求棄却(反訴) 文献番号 2016WLJPCA08108023
要旨
◆被告会社から、訴外V社との間の事業譲渡契約についての事務処理及び助言等を内容とするアドバイザリー業務を受託し、被告会社及びその代表取締役である被告Y1(被告ら)から、訴外K社及び訴外W社との間のM&A契約についての事務処理及び助言等を内容とするアドバイザリー業務を受託した原告会社が、本件各アドバイザリー契約上の未払成功報酬として、被告会社に対しては1050万円及び遅延損害金の支払を求め、被告らに対しては、連帯して210万円及び遅延損害金の支払を求めた(本訴)ところ、被告会社が、原告会社に対し、同社の債務不履行を理由に訴外V社についてのアドバイザリー契約を解除したとして、不当利得に基づき、既払報酬の返還を求めた(反訴)事案において、本件各アドバイザリー契約に基づく成功報酬請求権は発生しているとする一方、原告会社に債務不履行は認められないなどとして、本訴請求を認容し、反訴請求を棄却した事例
出典
ウエストロー・ジャパン
参照条文
民法415条
民法541条
民法703条
民法704条
裁判年月日 平成28年 8月10日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平26(ワ)10398号・平27(ワ)16211号
事件名 報酬金支払請求本訴、損害賠償等請求反訴事件
裁判結果 認容(本訴)、請求棄却(反訴) 文献番号 2016WLJPCA08108023
平成26年(ワ)第10398号,
同27年(ワ)第16211号
報酬金支払請求本訴,損害賠償等請求反訴事件
東京都中央区〈以下省略〉
原告(反訴被告) みらいエフピー株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 田中克幸
東京都港区〈以下省略〉
被告(反訴原告) 大栄青果株式会社
同代表者代表取締役 Y1
同所
被告 Y1
被告両名訴訟代理人弁護士 湊谷秀光
同 金山裕亮
主文
1 被告大栄青果株式会社は,原告に対し,1050万円及びうち105万円に対する平成25年1月16日から,105万円に対する同年2月16日から,105万円に対する同年3月16日から,105万円に対する同年4月16日から,105万円に対する同年5月16日から,105万円に対する同年6月16日から,105万円に対する同年7月16日から,105万円に対する同年8月16日から,105万円に対する同年9月16日から,105万円に対する同年10月16日から,各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 被告らは,原告に対し,連帯して,210万円及びうち105万円に対する平成25年1月16日から,105万円に対する同年2月16日から,各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 被告大栄青果株式会社の反訴請求を棄却する。
4 訴訟費用は,本訴反訴を通じてこれを17分し,その16を被告大栄青果株式会社の,その余を被告Y1の負担とする。
5 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 本訴
主文1,2項と同旨
2 反訴
原告は,被告大栄青果株式会社に対し,525万円及びこれに対する平成27年6月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え
第2 事案の概要
本件は,被告会社から,株式会社ビクトリーフーズ(以下「ビクトリー」という。)との間の事業譲渡契約についての事務処理及び助言等を内容とするアドバイザリー業務を,被告らから,株式会社根菜倶楽部(以下「根菜倶楽部」という。)及び株式会社ワンダーファーム(以下「ワンダーファーム」という。)との間のM&A契約についての事務処理及び助言等を内容とするアドバイザリー業務を,それぞれ受託した原告が,各アドバイザリー契約上の未払成功報酬として,被告会社に対しては,1050万円及びこれに対する支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を,被告らに対しては,連帯して,210万円及びこれに対する支払期日の翌日から支払済みまで同割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(争いがないか後掲証拠又は弁論の全趣旨により認められる。)
(1) 原告は,企業の事業譲渡,資産売買,資本参加,業務提携及び合併に関する調査,企画並びにそれらの斡旋,仲介に関する業務等を目的とする株式会社である。(甲1)
被告大栄青果株式会社(以下「被告会社」という。)は,青果仲買業,青果小売業等を目的とする株式会社であり,被告Y1(以下「被告Y1」という。)は被告会社の代表取締役である。(甲2)
(2) アドバイザリー契約1について
ア 原告と被告会社は,平成24年10月1日,要旨,以下の内容の契約(以下「アドバイザリー契約1」という。)を締結した。(甲3)
① 被告会社は,自ら主体的に実施するビクトリーからの事業譲渡を目的として,これに関する事項及びこれに関連又は付随する事項についての事務処理及び助言等(以下「アドバイザリー業務1」という。)を原告に委託し,原告はこれを受託する。(1条)
アドバイザリー業務1は,上記目的の範囲内で,原告の判断により,被告会社が必要とする資料及び情報の収集活動並びに収集された資料及び情報の提供又は口頭による報告,被告会社の役職員のビクトリーへの訪問外交への同伴,その他これらに付随する書類の作成及び助言等の方法により行う。(2条1項)
② 被告会社は,アドバイザリー業務1が上記目的の成功を目指すものであるが,その成功を約するものではないことをあらかじめ確認し,自らの最終的判断,危険負担及び責任において上記目的を履践することを確認する。(2条4項)
③ 被告会社は,同社又はその子会社とビクトリーとの間で事業譲渡に関する最終契約等が締結され,事業譲渡が実行された場合,成功報酬として1200万円(消費税別)を支払うものとし,事業譲渡が実行された時点で200万円を,残りはその翌月15日から毎月15日に100万円ずつ10回にわたり支払うものとする。(3条1項,2項)
④ 被告会社は,契約の履行に関連して,原告の責による事由で現実に損害を被った場合,金銭による損害賠償の請求をすることができる。ただし,損害賠償の請求額は原告が受領済みの成功報酬相当額までとし,原告は受領済みの成功報酬相当額の全部又は一部を返還することを超えて損害賠償の支払義務を負わない。(8条1項,2項)
イ 被告会社とビクトリーは,ビクトリーが破産手続を開始することを前提に,平成24年11月28日,ビクトリーが営むカット野菜事業の被告会社への譲渡に関し,以下の基本合意を締結した。(甲4,弁論の全趣旨)
① 事業譲渡対象資産
取引先(トオカツフーズ,ヨシケイグループ,デリシャスクック等)との各契約上の地位,事業譲渡日時点において保有している棚卸資産,カット野菜製造工場である「a工場」(埼玉県草加市。以下「本件工場」という。)の建物賃貸借契約における契約上の地位,高速裁断機等のリース契約上の地位,本社内に備え付けられた什器備品,その他本件事業を営むのに必要な一切の資産
② 事業譲渡の実施日
平成24年11月29日
③ 対価
871万1000円(消費税込)(事業譲渡実施日支払)
ウ 被告会社は,破産裁判所から許可を受けたビクトリーの破産管財人との間で,概ね上記イの基本合意に沿って,平成24年12月5日,代金667万2500円(消費税込),同日を事業譲渡実施日として,ビクトリーが営むカット野菜事業を被告会社に譲渡する旨の事業譲渡契約(以下「本件事業譲渡契約」という。)を締結した。(甲5)
なお,上記イの基本合意においては,承継する什器備品の中に消防法対応設備が含まれることを前提にしていたが,破産手続開始によりこれが承継できなくなったことから,譲渡代金から同設備相当額を差し引く趣旨で代金額が減額されたものである。(甲4,甲5,乙9)
エ 被告会社は,原告に対し,平成24年12月5日,アドバイザリー契約1の成功報酬のうち210万円を支払った。
そして,両者は,同月6日,アドバイザリー契約1の業務が完了し,残額1000万円(消費税別)を除いては,アドバイザリー契約1に関する一切の債権債務が存在しないことを相互に確認する旨の確認書を交わした。(争いがない,甲6)
(3) アドバイザリー契約2について
ア 原告と被告らは,平成24年12月19日,要旨,以下の内容の契約(以下「アドバイザリー契約2」という。)を締結した。(争いがない,甲7)
① 被告らは,被告らが主体的に実施する根菜倶楽部及びワンダーファームとのM&Aを目的とし,これに関する事項その他これに関連又は付随する事項についての事務処理及び助言等(以下「アドバイザリー業務2」という。)を原告に委託し,原告はこれを受託する。(1条)
アドバイザリー業務2は,原告の判断により,被告会社が必要とする資料及び情報の収集活動並びに収集された資料及び情報の提供又は口頭による報告,被告会社の役職員の根菜倶楽部及びワンダーファームへの訪問外交への同伴,その他これらに付随する書類の作成及び助言等の方法により行う。(2条1項)
② 被告らと根菜倶楽部株主の間,被告らとワンダーファーム株主の間でM&Aに関する最終契約が締結された場合,被告らは,連帯して,成功報酬として,M&A契約締結時に300万円(消費税別)を,当該翌月15日及び翌々月15日に100万円ずつ(消費税別)を支払う。
また,平成25年6月30日時点で被告らがM&A契約を解除しない場合,追加成功報酬として,平成25年7月1日に300万円(消費税別),当該翌月15日及び翌々月15日に100万円ずつ(消費税別)を支払う。(3条1項ないし4項)
③ 被告らは,契約の履行に関連して,原告の責による事由で現実に損害を被った場合,金銭による損害賠償の請求をすることができる。ただし,損害賠償の請求額は原告が受領済みの成功報酬相当額までとし,原告は受領済みの成功報酬相当額の全部又は一部を返還することを超えて損害賠償の支払義務を負わない。(7条1項,2項)
イ 被告Y1と,根菜倶楽部の100パーセント株主であり,同社の代表取締役でもあるB(以下「B」という。)は,平成24年12月26日,要旨,以下の内容の資本業務提携契約を締結した。(甲8)
① 被告Y1は,Bから,根菜倶楽部の発行済普通株式60株のうち42株を1株1000円(総額4万2000円)で譲り受ける。
② 被告会社又は被告Y1は,根菜倶楽部の株式会社エスシー倶楽部(以下「エスシー倶楽部」という。)からの借入金(本契約日時点元本残高135万0221円)の返済資金を平成24年12月27日から30日以内に貸し付ける。
③ 被告Y1は,被告会社をして,根菜倶楽部の販売・仕入を含め,根菜倶楽部の事業の発展のために必要な支援を行う。
④ 被告Y1は,契約締結日から1年間はいつでも契約を解除することができる。
ウ 被告Y1と,ワンダーファームの株主であり,同社の代表取締役でもあるC(以下「C」という。)は,平成24年12月26日,要旨,以下の内容の資本業務提携契約(以下,イの資本業務提携契約と併せて「本件各資本業務提携契約」という。)を締結した。(甲9)
① 被告Y1は,Cから,ワンダーファームの発行済普通株式40株のうち28株を1株1000円(総額2万8000円)で譲り受ける。
② 被告Y1は,被告会社をして,ワンダーファームの生産品の販売・仕入を含め,同社の事業の発展のために必要な支援を行う。
③ 被告Y1は,契約締結日から1年間はいつでも契約を解除することができる。
エ 被告会社は,原告に対し,平成25年1月7日,アドバイザリー契約2の成功報酬として315万円を支払った。(争いがない)
オ 被告Y1とB,及び被告Y1とCは,平成25年1月25日,本件各資本業務提携契約を合意解除した。(乙4,乙5)
2 争点及び当事者の主張
(1) アドバイザリー契約1の成功報酬請求権の発生要件は何か,本件においてこれを充足するか
(原告の主張)
ア 成功報酬は,事業譲渡契約が締結,実行された場合に支払うものとされており,被告会社とビクトリーが事業譲渡契約を締結し,事業譲渡が実行された以上,成功報酬請求権が発生している。
また,アドバイザリー業務1を履行したことが成功報酬請求権の発生要件であるとしても,原告は,被告会社に対し,ビクトリーから提出を受けた各種資料を交付したほか,「株式会社ビクトリーフーズ 2012/9/4」と題する資料を作成,交付したことに加えて,数回にわたる被告によるビクトリーの工場見学等への同行,社員からのヒアリングへの同行,販売先へのヒアリングへの同行,破産管財人との打合せや事業譲渡契約締結への同行などをして,アドバイザリー業務1の本旨に従った履行をしている。
イ アドバイザリー契約1の契約書に記された原告の業務は,原告の判断により,被告会社が必要とする資料及び情報の収集活動並びに収集された資料及び情報の提供又は口頭による報告を行うことであり,これは字義どおり,原告の主観的判断により,必要とする資料の提供等を行うことを意味するというべきであって,当該M&Aにとって重要な事項だからといって,報酬が高額であることなどを根拠に,契約書に記載がない業務まで原告が行うべき義務を負うというのは,契約の解釈を超えるものである。
以上に照らすと,被告会社が主張する,トオカツフーズ株式会社(以下「トオカツフーズ」という。)に対して事業譲渡の趣旨を十分に説明し,引継ぎを確実にするための文書を取り交わすなどの万全の手段を講じることはそもそも原告の義務には含まれていないし,この点を措くとしても,原告は,トオカツフーズとの取引継続を強調していたということはなく,ビクトリーの破産管財人がトオカツフーズとの取引継続を保証できないと述べていたことも説明しているし,原告が設けたトオカツフーズとの面談の場において,被告Y1は,今後の取引継続の見込みについて直接回答を得ているから,被告会社の主張する債務不履行はない。
また,本件工場の操業も含め,カット野菜事業に関する許認可等を調査する業務はアドバイザリー契約1における原告の業務には含まれていないし,この点を措くとしても,原告は,本件工場の操業に関して騒音や臭いによって近隣住民との間にトラブルが生じていることは認識していたが,違法操業状態であるとか,これに関して草加市からの指導があったことは関知しておらず,このことを被告会社に隠していたということもないし,被告会社のもう1社のアドバイザーである株式会社リテイルマーケティング研究所(以下「リテイルマーケティング」という。)が,被告Y1に対して許認可等は問題ないと報告しているのに,原告が重ねて調査を行う理由もないから,被告会社の主張する債務不履行はない。
(被告会社の主張)
ア アドバイザリー業務1を原告が履行することが債務の本旨であって,事業譲渡の実行自体は債務の本旨ではない。したがって,少なくともアドバイザリー業務1を履行しない限りは,成功報酬請求権は発生しないというべきである。
イ アドバイザリー契約とは,企業の合併,買収等のM&Aの仲介依頼する契約であるが,M&Aは,事業や会社を取引対象とする特殊専門的な内容であるゆえ,専門業者の仲介が必要となり,その報酬額も不動産売買の仲介手数料などと比較して極めて多額にのぼるのであるから,契約書に具体的,個別的に記載されていないとしても,当該M&Aにとって重要な事項は,アドバイザーの行うべき業務内容になると解すべきである。その意味で,「原告の判断により」という文言は,字義どおりに原告の完全な自由裁量を意味すると解すべきではない。
本件事業譲渡契約におけるビクトリーの事業は,主に加熱用のカット野菜の製造であり,M&Aの目的に照らせば,原告は,アドバイザリー業務1の内容として,その最大の資源であるカット野菜の製造施設と優良な販売先を適法かつ有効に承継し,事業を継続するための事務処理及び助言を行うべき義務,具体的には,最大の販売先であるトオカツフーズに対し,事業譲渡の趣旨を十分に説明し,引継ぎを確実にするための文書を取り交わすなどの万全の手段を講じるべき義務があったというべきであり,また,原告がもともとはビクトリーの経営コンサルタントとして同社の内情を深く認識していたことも併せ考えれば,原告は,本件工場が草加市から指導を受けていた事情を踏まえて,同工場の操業に何らかの問題が生じていないかを調査し,特別な事情がない限り,工場として永続的に使用できることを確認すべき義務があったというべきであるところ,原告はこれらを怠った。
その結果,被告会社は,トオカツフーズを取引先として引き継ぐことができなかった上,本件工場が第一種中高層住居専用地域に所在するため,本来は工場を操業できず,将来の操業停止の可能性も否定できない状況にあることを知らずに本件事業譲渡契約を締結することになった。
このように,原告は債務の本旨に従った履行をしていない以上,成功報酬請求権は発生していない。
(2) アドバイザリー契約2の成功報酬請求権の発生要件は何か,本件においてこれを充足するか
(原告の主張)
ア 成功報酬は,M&Aに関する最終契約が締結された場合に支払うものとされており,被告Y1が,B及びCとの間で本件各資本業務提携契約を締結した以上,成功報酬請求権が発生している。
また,アドバイザリー業務2を履行したことが成功報酬請求権の発生要件であるとしても,原告は,被告会社に対し,根菜倶楽部及びワンダーファームから提出を受けた各種資料を交付したほか,各社に関する資料を作成,交付したことに加えて,打合せへの同行,契約締結への同行,打合せ等のアレンジ等をし,アドバイザリー業務2の本旨に従った履行をしている。
イ 被告Y1は,原告の営業部長であるD(以下「D」という。)に対し,被告Y1が,根菜倶楽部のエスシー倶楽部に対する借入金の返済資金を貸し付けることに関し,1年以内に資本業務提携契約が解除された場合には速やかに被告Y1に返済されるべきこと及びその返済方法についてBに書面を作成してもらいたいなどと要請したと主張するが,そのような要請を受けたことはないから,原告に債務不履行はない。
ウ 本件各資本業務提携契約は後に合意解除されているが,発生した報酬請求権には影響しないというべきである。
また,被告らは,被告Y1とBに共通の錯誤があるから,両者の間の資本業務提携契約が無効であると主張するが,被告らの主張を前提にしても,上記貸付金が返済されるべきものかどうかについて,被告Y1とBとで異なる認識を有していたのであるから,共通の錯誤があったとはいえない。
(被告らの主張)
ア アドバイザリー業務2を履行することが債務の本旨であって,資本業務提携契約の実行自体は債務の本旨ではない。したがって,アドバイザリー業務2を履行しない限り,成功報酬請求権は発生しないというべきである。
イ 本件各資本業務提携契約が対象とする事業譲渡の対価と比して,原告の成功報酬額が極めて高額であることに照らせば,原告のアドバイザリー業務2の内容は,単に資本業務提携契約を締結するだけでなく,被告会社が,継続的に根菜倶楽部及びワンダーファームの業務執行に関与することができる程度の関係性を形成すること,及びそのための助言や調査義務が原告にあるものと解すべきである。
しかしながら,被告Y1は,根菜倶楽部との間で資本業務提携契約を締結した際,契約書に明記された根菜倶楽部に対する貸付金について,資本業務提携契約が被告Y1により1年以内に解約された場合には速やかにこれが返済されるよう,返済方法についての書面をBに差し入れて欲しい旨Dに要請し,同人もこれを約束していたのにもかかわらず,同人はこれをBに伝えておらず,かえって,Bは,解約後であっても債務負担するいわれはないとの認識を示した。これを原因に,信頼関係がなくなったとして本件各資本業務提携契約は合意解除され,継続的に被告らが根菜倶楽部らの業務執行に関与する関係性を形成するには至らなかった。
このように,原告は,被告会社に対する義務を怠り,債務の本旨に従った履行をしていない以上,成功報酬請求権は発生しない。
ウ 上記イの点を措くとしても,本件各資本業務提携契約は合意解除されているから,「M&Aに関する最終契約が締結された場合」には当たらない。
また,上記のとおり,貸付金の返済の要否という,契約の前提ないし基礎として双方が予定した事項に共通の錯誤があり,両者間の資本業務提携契約は無効であるから,やはり「M&Aに関する最終契約が締結された場合」には当たらない。
(3) 被告会社が原告に支払った525万円の既払報酬が不当利得に当たるか
(被告会社の主張)
上記(1)及び(2)のとおり,成功報酬請求権は発生していない。また,原告の上記債務不履行を理由に,被告会社は,反訴状をもってアドバイザリー契約1を解除するとの意思表示をしたから,仮に成功報酬請求権は発生したとしても,消滅している。したがって,被告会社が既に支払った成功報酬合計525万円は,原告が法律上の原因なくして利得したものといえる。
(原告の主張)
争う。
第3 争点についての判断
1 認定事実
(1) 本件事業譲渡契約に至る経緯
ア ビクトリーは,平成11年に設立されたカット野菜の加工・製造を主な事業内容とする株式会社である。創業者であり代表取締役でもある亡E(以下「E社長」という。)が発行済株式の100%を保有していた。
同社は,埼玉県草加市に本店及びカット野菜の製造工場である本件工場を置いており,平成23年10月当時の同社の主要売上先はトオカツフーズ(売上比率22.6%),ヨシケイグループ(同20.4%),デリシャスクック(同15.7%)等であった。(甲22)
イ ビクトリーは,事業再生を目的として,主要事業であるカット野菜事業を譲渡するため,原告との間で,平成23年11月1日,スポンサー発掘・選定に関する事項,資本参加等に関する事項,事業譲渡等に関する事項,その他これらに関連又は付随する事項についての事務処理及び助言等を原告が行うことを内容とするアドバイザリー契約を締結するとともに,上記事項に関し最終契約等が締結された場合には,最低報酬800万円と,これに資産等の価額の総額に応じた手数料率を乗じた成功報酬を支払う旨合意し,原告は,上記アドバイザリー契約に基づき,ビクトリーのスポンサー企業を探していた。(甲25の1,3,甲32,証人D)
ウ 平成24年6月から7月ころ,原告は,リテイルマーケティングから,スポンサー候補先として被告会社の紹介を受け,被告会社は,リテイルマーケティングから,ビクトリーのカット野菜事業の買収を提案されるとともに,ビクトリーのアドバイザーである原告の紹介を受けた。
カット野菜の将来性に着目しており,買収案に興味を示した被告会社は,リテイルマーケティングを通じて原告との間で具体的な条件交渉を行ったものの,将来的な黒字の見通しを踏まえても,現状の累積赤字額に比して買収額が高額であったことから,買収を断念した。(乙11,乙13,証人D,被告Y1)
エ そうした折,E社長が平成24年9月2日に逝去した。原告は,一人株主であり,一人取締役であるE社長を失う事態が生じた以上,会社の存続は困難であると考え,ビクトリーの従業員及び新たに株主となったE社長の相続人とも協議の上で,破産手続開始を申し立てた上で,破産管財人を通じて事業譲渡を行うスキームをとることとした。
そこで,同月7日又は8日ころ,原告の代表取締役であるA氏,D及びリテイルマーケティングの取締役であるF氏が被告Y1の下を訪れ,Aらは,E社長が逝去したこと,同人の相続人らは相続放棄する意向であること,仮取締役を選任の上,破産手続開始申立てに移行せざるを得ないことなどを説明し,破産申立てをすれば債務を承継することはないことから,再度スポンサー企業として買収を検討するよう持ち掛けた。また,その際の条件として,事業譲渡の対価は500万円程度になる見込みであること,原告がビクトリーからアドバイザー報酬を得られなくなることから,別途被告会社との間でアドバイザー契約を締結し,報酬として1200万円程度支払を受けたいことなどを説明した。(甲32,乙11から乙13まで,証人D)
オ 被告会社は,平成24年9月19日,700万円でビクトリーからカット野菜事業の事業譲渡を受けるとのスポンサー意向表明書をビクトリーに提出した。(甲18)
カ 被告会社は,平成24年10月1日,原告との間でアドバイザリー契約1を締結した。
他方で,そのころ,被告会社は,すでにリテイルマーケティングとの間においても,同社に対し,事業譲受等の方法によるビクトリーの取得に関してアドバイザーの専門的な業務を委託し,成功報酬として500万円(税別)を支払うものとするM&Aアドバイザリー契約を締結していた。(乙7,被告Y1)
キ ビクトリーは,原告を通じて,破産手続開始申立前に,被告会社を含む複数の会社に対して事業譲渡を打診していたところ,被告会社以外に2社が前向きな姿勢を示していた。
同年10月31日ころ,被告会社は他の2社に金額面で後れをとっていることが判明したことから,被告会社は意向表明における譲渡対価を850万円に引き上げた。その結果,事業譲渡候補先の中で優先スポンサーの地位を得た。(乙9,乙11,乙13,乙19,証人D)
ク ビクトリーは,本件工場の工場長であったG(以下「G」という。)を仮取締役に選任する手続をとった上で,平成24年11月30日ころ,さいたま地方裁判所越谷支部に破産手続開始を申し立てた。
破産手続開始後の平成24年12月4日,被告会社に対する事業譲渡について裁判所の許可決定があり,これに従って本件事業譲渡契約が締結された。(甲5,乙9,乙11,乙12,証人G)
ケ 原告は,アドバイザリー業務として,ビクトリーの概況を説明した「株式会社ビクトリーフーズ 2012/9/4」という資料や,ビクトリーの営業権評価を試算した資料を被告に交付して説明をした上,平成24年12月5日までの間に,複数回にわたる本件工場の見学への同行,同社社員からのヒアリングへの同行,フジタカベスト,中野食品,旭商事,トオカツフーズ,デリシャスクックといった取引先への訪問への同行をし,同行時には被告Y1に代わって必要な発言をした。また,ビクトリーを通じて入手した情報を被告会社に報せて必要な検討を促したり,ビクトリーやその破産管財人との間で所要の打合せを行って事業譲渡契約の詳細を交渉し,同契約締結に立ち会うなどもした。(甲22,甲32から甲36まで,甲39,乙11,乙13,乙18,乙19,証人D,弁論の全趣旨)
(2) トオカツフーズとの取引継続の可否をめぐる事情
ア 平成24年11月28日,原告,G,被告Y1,リテイルマーケティングのF氏らが,トオカツフーズを訪問した。
トオカツフーズ側の出席者から,5年先,10年先の事業継続の約束はできない,ビクトリー社にお願いしている仕事は,日清フーズの冷凍食品の部材の中の野菜であり,トオカツフーズも受注が約束されているわけではないから,取引量に幅ができてしまうことは理解いただきたい,現場では取引をやめる云々の話は考えていないなどという発言があった。(甲28,甲36,乙11,弁論の全趣旨)
イ 後の本件事業譲渡契約においては削除されたが,前記スポンサー意向表明書においては,被告会社が義務を履行するための条件として,事業譲渡日までに,トオカツフーズを含む主要取引先との間の取引が継続されることが確認されていることが挙げられる(4条2項)とともに,上記取引先との契約のいずれも引き継がれないことが明らかになった場合は,被告会社は意向表明を取り消すことができる(13条2項)とされている。(甲5,甲18)
(3) 本件工場の操業の可否をめぐる事情
ア 本件工場建物は,昭和60年ころに建築された建物であり,建築確認申請時の申告によれば,主要用途は倉庫(自己用),延床面積は418.14平方メートルで,当時の第2種住居専用地域に位置しており,現在は第1種中高層住居専用地域内に位置している。
当時の建築基準法及び同法施行令においては,第2種住居専用地域において原則として工場は建築してはならず,作業場の床面積が50平方メートル以内であり,かつ,出力合計が0.75キロワット以下の原動機を使用するパン屋などこれらに類する食品製造業を営むものは例外的に建築できるものとされていたが(建築基準法別表二(ろ),同法施行令130条の6),現在の第1種中高層住居専用地域内においては,工場が建築できないこととされている。(建築基準法別表第二(は))(乙2の1,乙3,弁論の全趣旨)
イ 本件工場について,草加市が,ビクトリーや被告会社に対して指導等をした経過及びこれに対する両社の対応の状況は,概ね以下のとおりである。(甲27,乙1の1・2,乙12,証人G)
① 平成23年6月21日,本件工場の周辺住民から,野菜カット後の洗浄時に水が外壁から漏れ,漏れた水が腐敗して悪臭を放っているとの苦情があったことから,ビクトリーの担当者にその旨を伝えて,対策を回答するよう指導し,同年9月26日にも,同じ住民から苦情があったことから,本件工場長に電話で注意した。
② 同月28日,上記と同じ住民から苦情があったことから,立入調査を行ったところ,ビクトリー側は,苦情の連絡をもらって以降,毎日1回以上は掃除をして臭いを減らす努力をしているが,改築などの根本的な改善には多額の費用がかかるため,当面は掃除の回数を増やし,掃除の水をなるべく排水口に流すことで対応したいと回答した。
③ 平成24年7月13日,同じ住民から,同月20日に本件工場側と周辺住民とが騒音・悪臭に関して話し合いをする予定であるが,これに備えて騒音を測定してほしいとの依頼を受けた。調査の結果,室外機2カ所と高圧洗浄作業付近で市条例の規制基準超過が見られた。
④ 同年8月21日,上記苦情者から,話合いの結果,同月中にビクトリー側の対応について回答がある予定であるが,騒音が気がかりであるからと,再度の測定を依頼された。測定の結果,市条例の規制基準50dbに対し,コンテナの洗浄音が59,大根を砕く音が65ないし69dbであったことから,規制基準を超える作業についてビクトリー側に対応の検討を依頼した。
⑤ 平成24年11月ころ,昭和60年に倉庫として市の建築確認を得た当時は第2種住居専用地域であり,50平方メートル以下,0.75キロワット以下の原動機を使用するのであれば工場として認められていたものの,現在は第1種中高層住居専用地域にあり,操業は認められないこと,既存不適格として今後も操業可能かどうかを確認するためには図面が必要であり,違反状態であると特定工場として許可できないことを伝え,工場側に,本件工場の平面図等の提出を求めた。
⑥ 平成25年2月19日,すでに被告会社が事業を承継していたところ,上記苦情者から騒音の苦情があったことから,再度図面の提出と騒音の苦情に対応するよう指示した。これを受けて,被告会社は,平面図を草加市役所に提出した。
⑦ 同年3月13日,現状150平方メートル程度の作業場がある様子であり,原動機も基準値を超えている様子であるから,本社と相談して対応を決めるよう指導した。
⑧ 同月14日,被告Y1から,知人である市会議員を通じて,事業開始届を受理したにも関わらず,今になって操業できないというのはどういうことかと問い合わせがあったことから,今すぐ操業をやめろとは言わないが,用途地域違反や騒音問題など,法律,条例に適合するように対処してもらいたい旨,同議員に回答した。
⑨ 同年11月21日,工場長に対し,現状,用途地域違反状態であり,住民から苦情が来ることのないように対応を指導した。
ウ 他方,原告は,平成24年10月11日時点で,カット野菜事業(加熱用)だけであれば,許可を得なくても,届出のみで操業可能である旨の情報を草加保健所から得ており,同年11月27日時点で,リテイルマーケティングのF氏も,直接草加市役所に出向き,保健所への届出のみで操業可能であることを確認していた。(甲26,弁論の全趣旨)
そして,被告会社は,草加市役所市税課に本件工場における法人としての事業開始の届出をしたところ,これが受理された。(甲27,乙11)
(4) 本件各資本業務提携契約締結及び合意解除の経緯
ア 根菜倶楽部は,平成19年2月に設立されたカット野菜の製造,販売,卸売を事業内容とする会社であり,代表取締役であるBが100パーセント株式を保有していた。
同社は,当時エスシー倶楽部からのものも含めた借入金の返済負担や,仕入れ代金が安定しないことが原因で,資金調達に困窮しており,原告に対してスポンサー企業の探索等を委託していた。(甲23,甲32,乙17)
ワンダーファームは,平成22年2月に設立された農産物の生産,販売を事業内容とする会社であり,代表取締役であるCが75%の株式を保有しており,取締役の一人をBが務めていた。同社は,根菜類を中心とした野菜を生産し,これを根菜倶楽部等に販売していたが,販売先が限定されていたために,生産効率に問題があった。(甲24,甲37,弁論の全趣旨)
原告は,根菜倶楽部と被告会社とが資本業務提携することで,互いにカット野菜事業の売上拡大に資することや,ワンダーファームが生産する野菜を被告会社において売却できることなどから,三者にとってメリットがあると考え,被告Y1とBらとを引き合わせることとし,面談機会をもった。(甲32,甲37,証人D)
イ 面談時,Bは,根菜倶楽部においてワンダーファームの根菜を使えば効率よく運営できると考えていたが,必要なときに畑に根菜がなく,畑に根菜があるときには必要がないなど,バランスが取れていない,他方で,成功しているカット野菜会社は,被告会社のように青果卸系の会社であり,そうした会社は驚くほど仕入値が安い印象を受けているとの発言のほか,ワンダーファームの野菜を被告会社に売ってもらえれば生産量が増加できるとの発言をしており,被告会社に対し,安定した価格で野菜を仕入れてもらうことや,野菜の販売先となってもらうことを強く期待している様子がうかがわれた。(甲37,弁論の全趣旨)
ウ 原告は,それまでの協議を踏まえ,事前に,本件各資本業務提携契約と同様の資本業務提携契約書の案を被告Y1,B及びCに送付し,弁護士にも確認させるよう求めた。(甲30から甲32まで,被告Y1)
その上で,同月26日,本件各資本業務提携契約が締結された。
エ 被告Y1は,平成25年1月,Bに対し,もし資本業務提携契約が解約された場合には,前提事実(3)イ②の借入金約130万円について返済してもらう必要があるため,その返済計画案を作成するよう求めていたはずである旨告げると,返済が必要であるとの話は聞いておらず,また返済能力もないから,返済計画書の提出はできない旨拒否された。(乙16,乙17)
その後,本件各資本業務提携契約は合意解除された。
2 争点1(アドバイザリー契約1の成功報酬請求権の発生要件,本件においてこれを充足するか)
(1) アドバイザリー契約1は,ビクトリーとの間の事業譲渡を実現させることを目的として,その目的を実現するための事務処理及び助言等を,被告会社が原告に対して委託することをその趣旨とするものであるから,原告が履行すべき債務の本旨は,アドバイザリー業務1を遂行することにあり,そうだとすれば,成功報酬も,同業務に対する対価の性質を有するといえる。
他方,アドバイザリー契約1においては,成功報酬を支払うべき要件について,「事業譲渡に関する最終契約等が締結され,事業譲渡が実行された」ということのほかに,特段の要件は加重されていない。また,アドバイザリー業務1に対する対価として,着手金,中間金や,月額報酬などの形で,原告が事業譲渡の実行までに逐次行う業務に対する対価は定められておらず,もっぱら成功報酬のみが定められている。加えて,損害賠償の規定(8条)は,原告の責めに帰すべき債務不履行がある場合,成功報酬の支払を受けることを前提に,受領済みの成功報酬を返還するという方法で原告が損害賠償義務を履行することを定めている。
以上の契約条項を合理的に解釈すれば,事業譲渡契約が締結,実行された場合は,その実行に至るまでに行われた原告のアドバイザリー業務1がその本旨に従って履行されたものとみなして成功報酬請求権を発生させることにし,仮に原告の責めに帰すべき同業務の不履行があった場合でも,債務不履行を理由に成功報酬請求権の発生は妨げないものとした上で,原告の債務不履行により被告会社に損害が生じた場合は,別途損害賠償規定(8条)により調整することを定めたものといえる。
したがって,原告にアドバイザリー業務1の不履行があったから成功報酬支払請求権が発生しないという被告会社の主張を採用することはできない。
そして,被告会社は,ビクトリーとの間で本件事業譲渡契約を締結し,証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によれば,事業譲渡日(平成24年12月5日)に事業譲渡は実施されたものと認められることから,原告の被告会社に対する1200万円(消費税抜き)の成功報酬支払請求権は発生している。
(2) もっとも,上記損害賠償規定(8条)は,原告が受領済み成功報酬を返還する方法で損害賠償義務を履行することを定める一方,未受領の成功報酬請求権の帰趨を明示していないところであり,被告会社に生じた損害額の限度ではその行使を許さないこととする趣旨と解釈する余地もある。
被告会社の主張は,要するに,原告にはアドバイザリー業務1の不履行があるため,成功報酬支払請求権は発生していないことはもとより,これを行使することもできないというものであり,原告の債務不履行による損害額が未受領の成功報酬額と同額以上であるから,上記損害賠償規定により本件報酬請求権を行使することはできないとの趣旨も含むものと解される。
そこで,本件報酬請求権の行使要件を満たすか否かを判断するため,原告にアドバイザリー業務1の不履行があったか否かを検討する必要がある。
(3) アドバイザリー契約1は,原告のアドバイザリー業務1における事務処理及び助言等の方法として,「被告会社が必要とする資料及び情報の収集活動並びに収集された資料及び情報の提供又は口頭による報告」を行うと定めているが,資料や情報の具体的な内容を定めるものではない上に,「原告の判断により」上記業務を行うものとしており,原告に相当程度の裁量を認める趣旨を読み取ることができる。
そこで,原告にアドバイザリー業務1の不履行があったか否かは,被告会社がアドバイザリー契約を締結した目的に照らして,原告が上記裁量の範囲を逸脱して,行うべき資料及び情報の収集活動,事務処理及び助言等を懈怠したと認められるか否かにより,判断すべきである。
本件において,被告会社は,トオカツフーズとの取引が継続できなかったことと,本件工場が適法に操業できないことに関しての原告の債務不履行を問うものであるから,これらの点に絞って検討することとする。
(4) トオカツフーズとの取引継続について
ア 本件事業譲渡に係る対象事業の取引先のうち,最も売上比率の大きい取引先がトオカツフーズであるから,同社との取引関係が承継されるか否かは,被告会社にとって重大な関心事であったと考えられ,そのことは,被告会社が,スポンサー意向表明書において,取引先との取引継続が確認されていることを被告会社の義務履行の条件としていることからもうかがわれる。
そうすると,被告会社がアドバイザリー契約1を締結した目的に照らし,原告は,トオカツフーズとの取引継続の可否に関する情報や資料のうち,事業譲渡契約の締結及び実行以前に把握していた情報や資料については,特段の事情がない限り,これを提供する義務を負うというべきであって,これを怠った場合には,原告に与えられた裁量の範囲を逸脱するものというべきである。
イ 原告は,本件事業譲渡契約直前の平成24年11月28日,ビクトリー,トオカツフーズ及び被告会社の面談に同行し,その際,トオカツフーズ側の出席者から,5年先10年先までの事業継続の約束はできないし,取引量に幅ができてしまうことは理解して欲しいが,取引をやめるという考えはない旨の発言があったところであり,この時点では,取引継続が見込まれていたということができる。
それにもかかわらず,トオカツフーズが被告会社との取引を行わない方針をとった理由は,被告Y1の本人尋問における供述によっても結局明らかでないが,少なくとも,原告が,本件事業譲渡契約の締結及び実行以前に,その理由となるような情報や資料を得ていたと認めるに足りる証拠はなく,むしろ,事業譲渡契約締結直前に,上記のとおり直接面談して取引継続が確認され,被告会社にもそのことが知らされている以上,原告がそれ以上の情報提供をしたり,取引継続を確実にするための文書作成等を行うべきであるとはいえず,原告がトオカツフーズとの取引継続の可否に関する情報や資料の提供を怠ったとは認められない。
(5) 本件工場の操業の可否について
ア ビクトリーの中心事業はカット野菜の加工・製造であり,その工場が本件工場であるから,本件事業譲渡において,本件工場が稼働できるか否かは,被告会社にとって重大な関心事であったといえる。
そうすると,被告会社がアドバイザリー契約1を締結した目的に照らし,原告は,本件工場の操業の可否等に関する問題点についての情報や資料のうち,事業譲渡契約の締結及び実行以前に把握していた情報や資料については,特段の事情がない限り,これを提供する義務を負うというべきであって,これを怠った場合には,原告に与えられた裁量の範囲を逸脱するものというべきである。
イ この点に関し,被告Y1は,原告がビクトリーのアドバイザーとして,本件工場の建築条件等を調べていないということはなく,本件工場が違法状態にあること若しくはその可能性について認識していたはずであり,これを原告が隠ぺいしたとの考えを述べている(乙13,被告Y1本人)が,Dは,騒音や臭気に関する近隣住民との間のトラブルはE社長から聞き及んでいたが,違法操業状態であることや,草加市の指導があったことは認識していなかったと陳述し,証言している。(甲32,証人D)
前記認定事実のとおり,本件工場については,かねてから近隣住民との間で臭気や騒音に関するトラブルが起き,そのたびに草加市から指導されていたようであるが,建築基準法に適合するか否かといった観点では,本件事業譲渡契約の直前である平成24年11月ころ,本件工場を適法に操業するには,床面積が50平方メートル以下で,0.75キロワット以下の原動機を使用しなければならないなどと初めて具体的に指摘され,平面図の提出を求められたというのであり,それまで具体的に違法操業の疑いをかけられていたと認めるに足りる証拠はない。そして,Gは,上記指摘を受けた後,そのことをビクトリーの代理人弁護士には伝えたが,同弁護士は確認する旨回答しただけで,その後同弁護士から特段の連絡はなかったと証言している。D証言によれば,同弁護士は本件原告訴訟代理人と同じ法律事務所に所属する弁護士であるが,当時両名が原告の代理人であったものでもなく,上記Gの申告が,ビクトリーの代理人から原告に伝わっていたかどうかは明らかでない。
そうすると,本件事業譲渡契約の締結及び実行の段階で,原告が,草加市側から上記のとおり違法操業の可能性がある旨の指摘を受けていた事実を認識していたとか,同事実を隠ぺいしたことを認めるに足りる証拠はなく,原告が本件工場の操業の可否等の問題点について情報や資料の提供を怠ったとは認められない。
ウ なお,被告会社の主張には,上記平成24年11月ころの草加市からの指摘を原告が認識していたか否かに関わらず,原告には,本件工場が永続的に使用できることを調査,確認すべき義務を負っていたのにこれを怠ったと指摘する部分が見受けられる。
アドバイザリー業務1の事務処理及び助言の内容に,当然に上記のような調査,確認義務が含まれるものとはいえず,また,リテイルマーケティングの行うべきアドバイザリー業務とのすみわけも不明確であることは原告が指摘するとおりであるが,カット野菜事業における本件工場の重要性に照らせば,操業の可否を疑わせるような何らかの事情を把握しているのであれば,そのことを掘り下げて調査,確認することも,同契約の業務内容に含まれると解する余地がある。
しかしながら,本件工場は平成15年9月ころから稼働し(甲26),かねてから近隣住民とのトラブルも生じていたにもかかわらず,平成24年11月ころに初めて用途地域違反による違法操業の疑いを具体的に指摘されたものであること,しかもこの時点においては違法操業であると断定されたものではなく,図面の提出を求められたにとどまること,そして,前記認定事実によれば,被告会社が事業を承継した後も,草加市側は,将来の移転を視野に入れながら,移転を実現するまでの間は,騒音等による近隣住民との軋轢を生じないようにするよう求めるにとどまっており,即時移転を求めてはいないこと,上記指摘を受けたGも,今後トラブルを起こさないようにやっていき,行く行くは移転を進めていくという認識であり,緊迫した考えではなかったと証言していること,現に被告会社による事業開始の届出が草加市に受理されていることなど,本件工場の置かれた稼働状況や行政側の対応の状況,ビクトリー関係者の認識等に照らせば,原告が,騒音等の問題とは別に,用途地域違反により違法操業であるなどと指摘される状況にあることまで調査,確認しなかったとしてもやむを得ない事情があるといえ,アドバイザリー業務1の不履行があったと認めるのは相当でない。
(6) 以上のとおり,アドバイザリー業務1について不履行があったとは認められないから,被告会社に未払報酬額を超える損害が生じたか否か等について検討するまでもなく,被告会社の主張を採用することはできない。
3 争点2(アドバイザリー契約2の成功報酬請求権の発生要件,本件においてこれを充足するか)
(1) アドバイザリー契約2は,成功報酬の発生要件及び債務不履行による損害賠償について,アドバイザリー契約1と同趣旨の定めを置いており(3条,7条),被告Y1が本件各資本業務提携契約を締結した以上,2(1)で指摘したところと同様の理由により,成功報酬請求権は発生しているというべきである。
(2) 被告らは,被告Y1が,資本業務提携契約を締結する際,Dに対して,被告Y1の根菜倶楽部に対する貸付金につき,資本業務提携契約が1年以内に解約された場合には速やかにこれが返済されるよう,返済方法についての書面をBに差し入れて欲しい旨要請し,これを契約の条件として示していたのに,原告がこれをBに伝えなかったという債務不履行があるから,成功報酬請求権は発生していないと主張する。
上記3(1)のとおり,原告にアドバイザリー業務2の不履行があったことを理由に成功報酬請求権が発生しない旨の被告らの主張を採用することはできないが,アドバイザリー契約1と同様,上記損害賠償規定(7条)は,原告の債務不履行による損害が報酬額を超える場合は,その限度で報酬請求権の行使を許さないとする趣旨とも解釈できる。
そこで,原告に上記債務不履行があったか否か,及びこれにより被告会社に損害が生じたか否かを検討するに,そもそもDは上記要請があったことを否定する証言をしているところ,その旨要請したとの被告Y1の供述自体,直ちに信用できるものではない。また,被告Y1は,上記主張とは異なり,本人尋問においては,本件各資本業務提携契約締結の後,Bに対する貸付金の返済計画を定めていなかったことに気づき,文書を交わしておくべきだったと考えて,その時点でDに連絡をして上記要請をしたとの趣旨を述べている。仮にそうだとすれば,その要請は本件各資本業務提携契約締結後の事情であるから,Bが返済方法を書面で示すことが契約の条件になっていたとはいえないし,アドバイザリー業務2の内容として原告が上記要請に応えるべき義務が含まれていたというのも疑問である。
さらに,前記認定事実によれば,Bは,被告Y1との間の資本業務提携契約により安定的な仕入れが実現されることを強く期待していたことがうかがわれ,被告Y1も,仕入代金の点で協議が整わなかったことも合意解除の原因の一つである旨本人尋問で述べていることに照らすと,原告が上記要請をBに伝えなかったからといって,そのことのみを原因として信頼関係が破壊され,合意解除に至ったということはできない。
結局のところ,契約条項に「貸付け」と明記されているのに,その返済は要しないものとBが一方的に誤解していたことが,合意解除の一因となっているというにすぎないというべきである。
以上の事情に照らすと,原告に債務不履行があったとは認められないし,債務不履行を原因として合意解除に至り,被告会社に損害が生じたとは認められない。
(3) 次に,被告らは,本件各資本業務提携契約が合意解除されていることから,「M&Aに関する最終契約が締結された場合」に当たらないと主張する。
しかしながら,アドバイザリー契約2の成功報酬に関する規定(3条1項ないし4項)においては,本件各資本業務提携契約が1年以内であれば無理由で解除できることを前提に,M&Aに関する最終契約時に500万円,その後6月30日までに解除されない場合にさらに500万円の成功報酬を支払うものとしていることからすると,後に契約が解除されたとしても,契約締結時の成功報酬は返還しないことを前提にしていると解される。
そうすると,後に本件各資本業務提携契約が合意解除されたからといって,成功報酬請求権の発生は妨げられないというべきであり,被告らの主張は採用できない。
(4) さらに,被告らは,被告Y1とBに共通の錯誤があり,同人らの資本業務提携契約は錯誤により無効(民法95条本文)であるから,その意味でも「M&Aに関する最終契約が締結された場合」に当たらないとも主張する。
しかしながら,その錯誤の内実は,要するに,被告Y1とBとの間の資本業務提携契約において,エスシー倶楽部への返済資金を貸し付ける旨定められていることに関し,その後に資本業務提携契約が解除された場合,その貸付金の返還を要するか否かについて,被告Y1はこれを要するものと,Bはこれを要しないものと考えていたというものであって,互いに異なる内容の錯誤に陥っていたというべきであるから,共通錯誤という主張は前提を欠くものである。
また,この点を措くとしても,もともと「貸付け」であることが資本業務提携契約書に明記されており,Bがその返還を要しないものと考えていたというのは甚だ疑問であるし,被告Y1において返還を要するものだという認識であったとすれば,同人に錯誤はなかったことになる。被告らは,貸付金の返済方法について書面を作成することを求めていたと主張するが,仮にそうした要請があったとしても,上記3(2)のとおり業務提携契約締結後に要請したにすぎないのであるから,契約締結の条件に錯誤があったということはできない。
したがって,被告らの錯誤無効の主張を採用することはできない。
(5) なお,被告らは,M&A当事者間の契約後の根菜倶楽部やワンダーファームとの間の関係形成までが原告の義務内容であるという趣旨の主張もするが,このような関係形成はM&A当事者に委ねられるべき事柄であって,本来的なアドバイザーとしての業務内容を超えるものであるし,本件においてそのような特別な義務を負うと解すべき根拠も見出せないから,かかる主張を採用することはできない。
4 争点3(既払報酬が不当利得に当たるか)
以上の2,3で説示したところによれば,原告の本訴請求に係る成功報酬請求権は発生しており,これを行使することを妨げる事情もない。また,原告に債務不履行があったことを前提とする解除の主張も認められない。被告会社の主張を採用することはできない。
5 そのほか,被告会社は,カット野菜事業の売上が損益分岐点を超えるまでアドバイザリー契約1の報酬金の支払猶予を申し入れ,原告もこれを了承していたとも主張する。
しかしながら,証拠(甲10から甲17まで,乙6)によれば,被告会社が,上記同趣旨の支払猶予を申入れた事実は認められるものの,結局,アドバイザリー契約2の成功報酬も含めて,その支払義務の有無及び支払方法についての交渉が決裂し,本件訴訟提起に至ったことが認められ,そのような支払猶予の合意に至ったと認めるに足りる証拠はない。
6 よって,本訴請求は全部理由があり,反訴請求は理由がないから,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第45部
(裁判官 池田幸司)
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