【営業代行から学ぶ判例】crps 裁判例 lgbt 裁判例 nda 裁判例 nhk 裁判例 nhk 受信料 裁判例 pl法 裁判例 pta 裁判例 ptsd 裁判例 アメリカ 裁判例 検索 オーバーローン 財産分与 裁判例 クレーマー 裁判例 クレプトマニア 裁判例 サブリース 裁判例 ストーカー 裁判例 セクシャルハラスメント 裁判例 せクハラ 裁判例 タイムカード 裁判例 タイムスタンプ 裁判例 ドライブレコーダー 裁判例 ノンオペレーションチャージ 裁判例 ハーグ条約 裁判例 バイトテロ 裁判例 パタハラ 裁判例 パブリシティ権 裁判例 ハラスメント 裁判例 パワーハラスメント 裁判例 パワハラ 裁判例 ファクタリング 裁判例 プライバシー 裁判例 プライバシーの侵害 裁判例 プライバシー権 裁判例 ブラックバイト 裁判例 ベネッセ 裁判例 ベルシステム24 裁判例 マタニティハラスメント 裁判例 マタハラ 裁判例 マンション 騒音 裁判例 メンタルヘルス 裁判例 モラハラ 裁判例 モラルハラスメント 裁判例 リストラ 裁判例 リツイート 名誉毀損 裁判例 リフォーム 裁判例 遺言 解釈 裁判例 遺言 裁判例 遺言書 裁判例 遺言能力 裁判例 引き抜き 裁判例 営業秘密 裁判例 応召義務 裁判例 応用美術 裁判例 横浜地裁 裁判例 過失割合 裁判例 過労死 裁判例 介護事故 裁判例 会社法 裁判例 解雇 裁判例 外国人労働者 裁判例 学校 裁判例 学校教育法施行規則第48条 裁判例 学校事故 裁判例 環境権 裁判例 管理監督者 裁判例 器物損壊 裁判例 基本的人権 裁判例 寄与分 裁判例 偽装請負 裁判例 逆パワハラ 裁判例 休業損害 裁判例 休憩時間 裁判例 競業避止義務 裁判例 教育を受ける権利 裁判例 脅迫 裁判例 業務上横領 裁判例 近隣トラブル 裁判例 契約締結上の過失 裁判例 原状回復 裁判例 固定残業代 裁判例 雇い止め 裁判例 雇止め 裁判例 交通事故 過失割合 裁判例 交通事故 裁判例 交通事故 裁判例 検索 公共の福祉 裁判例 公序良俗違反 裁判例 公図 裁判例 厚生労働省 パワハラ 裁判例 行政訴訟 裁判例 行政法 裁判例 降格 裁判例 合併 裁判例 婚約破棄 裁判例 裁判員制度 裁判例 裁判所 知的財産 裁判例 裁判例 データ 裁判例 データベース 裁判例 データベース 無料 裁判例 とは 裁判例 とは 判例 裁判例 ニュース 裁判例 レポート 裁判例 安全配慮義務 裁判例 意味 裁判例 引用 裁判例 引用の仕方 裁判例 引用方法 裁判例 英語 裁判例 英語で 裁判例 英訳 裁判例 閲覧 裁判例 学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例 共有物分割 裁判例 刑事事件 裁判例 刑法 裁判例 憲法 裁判例 検査 裁判例 検索 裁判例 検索方法 裁判例 公開 裁判例 公知の事実 裁判例 広島 裁判例 国際私法 裁判例 最高裁 裁判例 最高裁判所 裁判例 最新 裁判例 裁判所 裁判例 雑誌 裁判例 事件番号 裁判例 射程 裁判例 書き方 裁判例 書籍 裁判例 商標 裁判例 消費税 裁判例 証拠説明書 裁判例 証拠提出 裁判例 情報 裁判例 全文 裁判例 速報 裁判例 探し方 裁判例 知財 裁判例 調べ方 裁判例 調査 裁判例 定義 裁判例 東京地裁 裁判例 同一労働同一賃金 裁判例 特許 裁判例 読み方 裁判例 入手方法 裁判例 判決 違い 裁判例 判決文 裁判例 判例 裁判例 判例 違い 裁判例 百選 裁判例 表記 裁判例 別紙 裁判例 本 裁判例 面白い 裁判例 労働 裁判例・学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例・審判例からみた 特別受益・寄与分 裁判例からみる消費税法 裁判例とは 裁量労働制 裁判例 財産分与 裁判例 産業医 裁判例 残業代未払い 裁判例 試用期間 解雇 裁判例 持ち帰り残業 裁判例 自己決定権 裁判例 自転車事故 裁判例 自由権 裁判例 手待ち時間 裁判例 受動喫煙 裁判例 重過失 裁判例 商法512条 裁判例 証拠説明書 記載例 裁判例 証拠説明書 裁判例 引用 情報公開 裁判例 職員会議 裁判例 振り込め詐欺 裁判例 身元保証 裁判例 人権侵害 裁判例 人種差別撤廃条約 裁判例 整理解雇 裁判例 生活保護 裁判例 生存権 裁判例 生命保険 裁判例 盛岡地裁 裁判例 製造物責任 裁判例 製造物責任法 裁判例 請負 裁判例 税務大学校 裁判例 接見交通権 裁判例 先使用権 裁判例 租税 裁判例 租税法 裁判例 相続 裁判例 相続税 裁判例 相続放棄 裁判例 騒音 裁判例 尊厳死 裁判例 損害賠償請求 裁判例 体罰 裁判例 退職勧奨 違法 裁判例 退職勧奨 裁判例 退職強要 裁判例 退職金 裁判例 大阪高裁 裁判例 大阪地裁 裁判例 大阪地方裁判所 裁判例 大麻 裁判例 第一法規 裁判例 男女差別 裁判例 男女差别 裁判例 知財高裁 裁判例 知的財産 裁判例 知的財産権 裁判例 中絶 慰謝料 裁判例 著作権 裁判例 長時間労働 裁判例 追突 裁判例 通勤災害 裁判例 通信の秘密 裁判例 貞操権 慰謝料 裁判例 転勤 裁判例 転籍 裁判例 電子契約 裁判例 電子署名 裁判例 同性婚 裁判例 独占禁止法 裁判例 内縁 裁判例 内定取り消し 裁判例 内定取消 裁判例 内部統制システム 裁判例 二次創作 裁判例 日本郵便 裁判例 熱中症 裁判例 能力不足 解雇 裁判例 脳死 裁判例 脳脊髄液減少症 裁判例 派遣 裁判例 判決 裁判例 違い 判決 判例 裁判例 判例 と 裁判例 判例 裁判例 とは 判例 裁判例 違い 秘密保持契約 裁判例 秘密録音 裁判例 非接触事故 裁判例 美容整形 裁判例 表現の自由 裁判例 表明保証 裁判例 評価損 裁判例 不正競争防止法 営業秘密 裁判例 不正競争防止法 裁判例 不貞 慰謝料 裁判例 不貞行為 慰謝料 裁判例 不貞行為 裁判例 不当解雇 裁判例 不動産 裁判例 浮気 慰謝料 裁判例 副業 裁判例 副業禁止 裁判例 分掌変更 裁判例 文書提出命令 裁判例 平和的生存権 裁判例 別居期間 裁判例 変形労働時間制 裁判例 弁護士会照会 裁判例 法の下の平等 裁判例 法人格否認の法理 裁判例 法務省 裁判例 忘れられる権利 裁判例 枕営業 裁判例 未払い残業代 裁判例 民事事件 裁判例 民事信託 裁判例 民事訴訟 裁判例 民泊 裁判例 民法 裁判例 無期転換 裁判例 無断欠勤 解雇 裁判例 名ばかり管理職 裁判例 名義株 裁判例 名古屋高裁 裁判例 名誉棄損 裁判例 名誉毀損 裁判例 免責不許可 裁判例 面会交流 裁判例 約款 裁判例 有給休暇 裁判例 有責配偶者 裁判例 予防接種 裁判例 離婚 裁判例 立ち退き料 裁判例 立退料 裁判例 類推解釈 裁判例 類推解釈の禁止 裁判例 礼金 裁判例 労災 裁判例 労災事故 裁判例 労働基準法 裁判例 労働基準法違反 裁判例 労働契約法20条 裁判例 労働裁判 裁判例 労働時間 裁判例 労働者性 裁判例 労働法 裁判例 和解 裁判例

「営業会社 成功報酬」に関する裁判例(11)平成30年 9月28日 東京地裁 平29(ワ)8865号 損害賠償等請求事件

「営業会社 成功報酬」に関する裁判例(11)平成30年 9月28日 東京地裁 平29(ワ)8865号 損害賠償等請求事件

裁判年月日  平成30年 9月28日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平29(ワ)8865号
事件名  損害賠償等請求事件
文献番号  2018WLJPCA09288003

裁判年月日  平成30年 9月28日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平29(ワ)8865号
事件名  損害賠償等請求事件
文献番号  2018WLJPCA09288003

埼玉県越谷市〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 山室匡史
同 岡田照久
福岡市〈以下省略〉
被告 Y株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 五十嵐孝明
同 金秀香
同訴訟復代理人弁護士 榎本哲也

 

 

主文

1  被告は,原告に対して,1331万2000円及びこれに対する平成28年10月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  原告のその余の請求を棄却する。
3  訴訟費用は,これを8分し,その1を被告の,その余を原告の各負担とする。
4  この判決第1項は,仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求
1  被告は,原告に対して,1億0209万1759円及びこれに対する平成28年10月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  被告は,原告に対して,10万2200円及びこれに対する平成28年11月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要等
1  事案の概要
本件は,原告が,被告に対して,被告代表者から被告の取締役兼従業員に勧誘され,これに応じて前職のa株式会社(以下「a社」という。)を退職したところ,被告が原告を採用せず,原告に損害が発生し,これが被告の信義則上の注意義務違反によるものであると主張して,a社に勤務していたならば得られたはずの生涯賃金とa社の退職金減額相当分と弁護士費用の合計1億0209万1759円及び遅延損害金の支払を求め(請求の趣旨1項関係),原告が被告の営業活動のために交通費等10万2200円を立て替えて支出したと主張して同額及び遅延損害金の支払を求める(請求の趣旨2項関係)事案である。
2  前提となる事実(争いのない事実,掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)
(1)  原告は,a社の従業員であった(争いのない事実)。
被告は,紳士服・婦人服の製造並びに販売,情報提供サービス業務等を目的とする会社であり,株式上場を目指している(弁論の全趣旨)。
(2)  原告は,平成27年6月10日,被告の第三者割当による新株発行につき株式120株を引き受けた(甲1)。
(3)  原告は,平成28年2月末にa社を退職した(争いのない事実)。
(4)  被告代表者は,原告に対して,ソーシャルネットワーキングサービスのLINEのメール(以下「LINE」という。)を通じて,次の連絡をした。
① 平成28年2月23日7時21分には「前回,話したb社さんとの雇用の契約について,3/25日にXさんと打ち合わせをしたいのですが,25日の18時ぐらいからあいませんか?」
② 同年7月28日9時45分には「常に相談しながら進めるので,また,Xさんは,社内で取締役扱いにしてますので,量産納品からは,手を引いてください。次に何か?有ったら,XさんとBさんの責任問題になる。僕とBさんでやります。誰も僕の責任問題にはしない。すると会社が止まるから,僕は責任を取らされない。Bさんも取締役扱いでは無いので,よっぽどの事がない限り,資任は取らされない。」
③ 同日9時49分には「7月から,9月までの暫定の取締役がある。C,D,A,の多数決で決まる。僕の一存で会社を動かせない仕組みが入ってます。」
④ 同日9時52分には「9月からの取締役にXさんに入ってもらう。6名から7名・A,C,E,X,F,が9月から取締役内定者です。XさんとEさんは社外取締役です。」
⑤ 同年8月4日9時04分には「7/11にCさんが会長。一か月早く,8/1日から管理部にFさんが入って,9月に向けて組織作りに入りました。管理部長。Gさんは社外コンサルにXさんはiot事業部の部長で取締役会のメンバーです。」
⑥ 同月31日7時02分には「僕は営業なしで,サイネージ=情報端末が売れる仕組みを作ります。Xさんは,今までの経験で営業でサイネージを売ってください。」(争いのない事実,甲11)。
(5)  原告は,平成28年3月に,株式会社b(以下「b社」という。)に入社し,被告は,b社との間で顧問契約書(甲2)及び覚書(甲3)を作成して,顧問契約を締結した(争いのない事実)。
(6)  被告は,平成28年10月6日,b社に対して顧問契約を解除する旨の意思を表示した(争いのない事実)。
(7)  原告は,平成29年2月にb社を退職した(争いのない事実)。
3  争点
(1)  原告と被告との間で,平成27年6月頃,原告を被告の取締役兼従業員として勤務させる合意(以下「本件合意」という。)が成立したか否か
(2)  本件合意違反による被告の責任の有無
(3)  本件合意違反による原告の損害額
(4)  立替払請求の可否
4  当事者の主張
(1)  争点(1)(原告と被告との間で,平成27年6月頃,原告を被告の取締役兼従業員として勤務させる本件合意が成立したか否か)について
ア 原告
(ア) 本件合意の成立と原告の退職
原告は,平成11年10月18日にa社に入社し,平成27年に,その営業部長の職にあったところ,a社の従業員と被告の従業員から被告代表者を紹介された。
被告代表者は,同年3月から4月頃から,原告に対して直接に面談するという方法で,勧誘を始め,a社において原告の働き振りが評価されていないこと,被告が平成28年12月に株式上場を目指して組織を拡大していること,原告を取締役兼従業員として迎え入れたいことを伝えて,被告に入社するよう勧誘した。取締役部分については委任契約,従業員部分については雇用契約の勧誘である。
原告が,被告代表者に対して,a社での年収が約840万円であることを伝えたところ,被告代表者は年収1000万円の支払を提示し,原告は,平成27年5月頃,被告の申出を受諾し,遅くとも同年6月の時点で,原告と被告との間で,原告を被告の取締役兼務従業員として年収1000万円で雇用することの本件合意が成立した。
なお,被告は,当時,第三者割当の方法で新株を発行しようとしており,a社に株式の引受けを申し込み,a社はこれに応じなかったが,原告は,被告の業務内容を聞き,将来被告の取締役に就任することもあり,自分の力で株式上場に携われるのであればと思い,株式120株を引き受けた。
原告は,平成27年11月下旬頃,a社に対して,平成28年2月末をもって退職する旨の意思を表示し,同月末にa社を退職した。
(イ) 被告の顧問契約
被告代表者は,平成28年2月末頃,原告に対して,同業を営むa社において営業部長であった原告を被告で直ちに直接雇用することはコンプライアンス上問題があると言い出し,当初は,原告と被告との間の直接の顧問契約(甲17)の締結が提示された。これに対して,原告が社会保険の加入が必要であることを伝え,原告と被告代表者との協議の結果,原告が同年3月から同年6月までb社に在籍し,被告がb社と顧問契約を締結し,同年7月から原告が被告に取締役兼従業員として勤務することになり,被告とb社との間で顧問契約書(甲2)及び覚書(甲3)が作成された。
また,実態としても原告は被告の従業員として活動しており,平成28年5月2日付の被告が株式会社c(現在の株式会社c1,以下「c社」という。)に宛てて発行した2通の見積書には,被告の担当者として原告の印鑑がおされ,管理部の押印には「H」の押印があり,c社との取引において,原告が被告の担当者であったことから,このような記載になった。また,被告は,韓国の会社との取引に際して,通訳人であるBと原告の2名しか派遣していない。自社の取引において他社の人物しか派遣しないことはあり得ない。
なお,原告の給料については,被告がb社に顧問料名目で支払い,b社がこれを原告に支払うこととなり,被告は,b社在籍中の原告の社会保険料も支払おうとしていた。被告代表者は,b社との顧問契約を締結する際の報酬を月額60万円と決めるとき,原告に対して,年収960万円とするが,月例の給料は60万円に据え置き,平成28年9月と平成29年3月にそれぞれ月例給料に60万円を上乗せして支払うと約束していた。これは,平成27年3月ないし4月頃に被告代表者が原告に対して年収1000万円という条件を示して勧誘し,同年5月後半頃に原告がこれを受諾したという前提があり,顧問契約締結時にそれに近い水準を確保するという趣旨から定められた支払方である。
(ウ) 本件合意が存在したことを示すメールのやり取り
被告代表者は,原告に対して,平成28年7月に入っても,原告を取締役に就任させないことのあいまいな説明を繰り返していたものの,LINEにより,同月3日午前7時17分には「会社のNo.2として,会社全体を見て,会社全体の為に行動してください。」と,同月28日9時45分には「常に相談しながら進めるので,また,Xさんは,社内で取締役扱いにしてますので,量産納品からは,手を引いてください。」と,同日9時52分には「9月からの取締役にXさんに入ってもらう。6名から7名・A,C,E,X,F,が9月から取締役内定者です。XさんとEさんは社外取締役です。」と,同年8月4日9時04分には「7/11にCさんが会長。一か月早く,8/1日から管理部にFさんが入って,9月に向けて組織作りに入りました。管理部長。Gさんは社外コンサルにXさんはiot事業部の部長で取締役会のメンバーです。」と,同月31日7時02分には「僕は営業なしで,サイネージ=情報端末が売れる仕組みを作ります。Xさんは,今までの経験で営業でサイネージを売ってください。」と連絡するなどしており,同年7月28日の時点で原告は被告の取締役として社内で扱い,同年8月31日の時点でも同年9月以降被告のiot事業部長の従業員として,被告の営業活動を実際に行うことが予定されており,本件合意の存在が裏付けられる。被告が主張するような外部のコンサルタントという位置付けではあり得ない。
なお,役員就任の条件交渉や取締役の就任承諾の意思表示は面談時に行い,LINEでは行わない。
(エ) 被告代表者の変節
被告代表者は,遅くとも平成28年7月28日頃には原告を被告の社内的には取締役として扱っていたし,同年8月4日頃には原告を被告の9月以降には対外的にも取締役に就任する内定者であるかのように扱っていたところ,1か月と経たないうちに,何らの正当な理由ないしは,正当化する具体的な出来事なしに,態度を翻して,原告を取締役に就任させなかったのであり,一方的に約束を反故にし態度を変節させた。
なお,原告は,同年9月6日になって,被告代表者が変節して,約束を反故にしたときに,口頭でその場で抗議を申し入れ,被告に対して同年10月17日付け内容証明郵便(甲5の1)を送付している。
(オ) 本件合意違反
被告は,平成28年10月6日,b社に対して顧問契約を解除する旨の意思を表示し,これによって,原告と被告との間で交わされた,原告を被告の取締役兼務従業員として雇用するという約定は実現しないことが確定した。
イ 被告
(ア) 本件合意は存在しない。原告提出に係る原告と被告代表者との間のLINEのやり取りを見ても,原告がa社に在籍していた平成28年2月までの間に本件合意を裏付ける発言,示唆はないし,同年6月以降も,被告代表者に対する原告による抗議等の発言が一切ない。
被告代表者は,原告から原告がa社を退社する話を聞いてはいたが,被告代表者から被告への就職を勧誘したことは一度もない。a社を介したc社への1200台の納品は,平成28年6月頃より開始され同年12月に終了したが,同年9月の段階における被告の最大の取引先はa社であり,当該案件は,被告が小企業であることからクレジットリスクを回避することを理由にc社が被告との直接取引を拒否し,a社が間に入ることを条件に成約したものであるため,a社との関係が悪化すれば,3億3000万円の商談が破談になるおそれが非常に高かった。このような危険を生じさせるような原告の引き抜き行為を被告が行うと,a社と無用の紛争を招きかねず,3億3000万円の売上げを失う危険な状態を招くことになるから,被告がこれを行うはずがない。
(イ) また,被告代表者は,原告のb社への入社に関しても一切関わっていない。b社は,空調の工事以外の業態拡大のために,原告を迎え入れ,サイネージ販売・設置事業部門を立ち上げ,被告の商品の販売代理を行うことを企図し,原告もまた被告の事業に期待をしていたことから,a社を退社後も被告事業に関与したいと考え,原告とb社の思惑が一致し,原告がb社に入社し,b社がサイネージ販売・設置事業部門を立ち上げて,被告と顧問契約を締結し,原告がb社の被告担当者として,被告商品の製造や販売代理業務を行うこととなった。
(ウ) 被告代表者は,3億3000万円のc社事業が成功したことから,共に営業に回っていた原告に対して,ゆくゆくは被告の後継者になり得る人材ではないかとの期待を有しており,将来的には被告の「取締役」や「社外取締役」に取り立てる可能性もあることから,被告の取締役同様の気概を持って仕事をしてほしいと思い,「取締役」や「社外取締役」との言葉を使用したこともあったにすぎない。
(エ) 被告代表者は,当初より,取締役就任には取締役会の承認が必要であること,取締役就任に納得を得られるような業績が必要であること,売上げを上げるために,後継者のつもりで頑張ってほしいと言っていた。
しかし,原告は,b社において被告商品の売上げがなく,経費の不正利用を行っており,また,顧問契約上の義務の履行(被告取締役会等に招集させたにもかかわらず出席しなかった。顧問契約第4条)も一切行わなかった。
被告は,b社が何ら成果を上げることができず,また,将来的にも成果が上がらない可能性が高かったため,平成28年9月,b社との顧問契約を解除した。
なお,原告は,平成29年2月までb社に勤めていた。
(オ) 被告は,b社に対し,顧問料を支払っていたが,これは原告の給料としてではなく,b社の販売業務に対して支払われていたものである。
原告は,被告とb社の平成28年9月の顧問契約終了後,平成29年2月頃まで勤務を続けていたが,b社の空調設備事業においても何らの実績も上げられなかったため,平成29年2月をもって解雇されたものである。
(2)  争点(2)(本件合意違反による被告の責任の有無)について
ア 原告
(ア) 契約準備段階に入ったものは,一般市民間における関係とは異なり,信義則の支配する緊密な関係に立つのであるから,のちに契約が締結されたか否かを関わらず,相互に相手方の人格・財産を害しない信義則上の注意義務を負い,それに違反して相手方に損害をおよぼしたときには,契約締結に至らない場合でも,当該契約の実現を目的とする準備行為当事者間にすでに生じている契約類似の信頼関係に基づく信義則上の責任として,相手方が契約が有効に成立するものと信じたことによって蒙った損害の損害賠償を認めるのが相当である(最高裁判所昭和59年9月18日判決)。
(イ) 本件においても,遅くとも平成27年6月の時点で,原告と被告との間で,原告を被告の取締役兼務従業員として年収1000万円で雇用することが内定し,原告は平成28年2月末をもって前職のa社を退職しているから,その後被告が原告を取締役兼務従業員として雇用しないのであれば,原告は,a社を退職することによって得られなくなった収入相当額や退職金相当額の損害を蒙ることになる。
したがって,被告の行為は,原告の人格・財産を害しないという信義則上の注意義務に反して原告の財産を侵害したものであり,不法行為を構成する。
(ウ) なお,原告の請求は,内定の不当破棄に基づく請求ではない。
イ 被告
原告の主張は本件合意が存在することを前提としており,本件ではその前提を欠くものである。また,契約締結上の過失責任が認められるためには,①契約締結(交渉)の成熟度が高いこと,及び②信義則違反と評価される帰責性が被告に認められることが必要であるところ,本件では,契約締結の成熟度がまったくないから,被告は契約締結上の過失責任を負わない。
すなわち,被告の取締役就任に関しては,原告の承諾は一切なく,また,取締役就任に伴う報酬等についての交渉についても一切なされておらず,立証もなされていないし,LINEのやり取りにおいても,取締役ないし社外取締役としての委任契約の内容は全く議論されていない。
そのうえ,被告代表者は平成28年9月末頃にも原告への期待を維持し,原告を鼓舞している一方で,原告から被告代表者への返信はほとんどなくなり,原告が被告代表者からのLINEを無視し,何らの対応も行わず,被告代表者との間での交渉を打ち切っているから,被告及び被告代表者に信義則違反もない。
原告と被告代表者は,平成28年1月19日,被告の上場政策担当者であるG(以下「G」という。)を交えて会談し,a社との関係から,原告が直ちに被告に取締役等として就任,採用されることは不可能であることが確認され,顧問契約をして外部の立場で活動することが合意され,原告が被告に取締役等として就任,採用されるためには,①原告が被告に入社することをa社が了承するような状況を創り上げること,又は②被告とa社との取引が中止,解消されるような状況になってもそれを補うに足りる営業実績と能力・意欲を原告が示すことが条件であった。しかるに,原告は,同日,Gが原告の被告への入社等について反対意見を述べたことについて不満ないし恨みを持ち,Gを排除することを強く被告代表者に働きかけ,被告代表者もその方向で検討したが,Gは,被告が念願としていた上場に不可欠な人材であったため,叶わず,この点に関する不満から,原告は,最終的に被告が要請した社外取締役としての就任を拒絶した。
顧問契約締結後(あるいはa社退社後)の原告の動きと被告との関係性の経過を見ると,当初はc社の成約実績があり,原告に対する被告代表者の評価が極めて高かったが,その後平成28年7月に至り,c社案件のクレーム等もあって徐々に評価が低下し,他方で原告自身も,Gの処遇その他原告が当初期待していた体制等と異なることとなり,消極的になり,平成28年9月以降は両者の信頼関係は失われ,原告の怠業も発覚し,解除となったもので,被告が損害賠償責任を負う謂れはない。
(3)  争点(3)(本件合意違反による原告の損害額)について
ア 原告
(ア) 給料相当額の損害
原告は,被告代表者の言動を信頼してa社を退職したのであるから,信頼利益の損害として以下の損害がある。
原告がa社に勤務していた最終年である平成27年1月1日から同年12月31日までの給与収入は815万1000円である。原告は,昭和44年○月○日生まれであり,a社退職日である平成28年2月末時点で46歳11か月であり,定年退職(a社では満65歳に達する月)まで18年1か月を残していた。
原告が蒙った給料相当額の損害は,815万1000円に,11.690(就労可能年数18年のライプニッツ係数)を乗じた9528万5190円である。被告は,原告が被告のために獲得してきた取引先に対して原告と取引しないように働きかけるなど,原告の再就職を作為的に妨害しているため,原告の労働能力喪失率を100パーセントとして計算するのが相当である。
仮に,原告の労働能力喪失率を100パーセントと見る期間を再就職に必要となる社会相当な期間(たとえば6か月程度)と限定するとしても,それ以降の期間についての逸失利益も考慮しなければならない。まず,再就職に必要となる社会的相当期間6か月間については,a社での収入の全額407万5500円(=815万1000円÷2)が,その後は,高校卒業が最終学歴である原告が賃金センサス474万2300円(平成28年度)と815万1000円との差額340万8700円を永続的に失ったのであるから,これを815万1000円で除した42パーセントが原告の再就職までの相当期間経過後の労働能力喪失率であり,これに基づくと3859万5637円が7か月目以降の原告の逸失利益であり,これらを考慮すると原告の逸失利益は4467万1137円を下回ることはない。
(イ) 退職金減額分相当額の損害
a社では,勤続年数(上限は55歳)に基本給を乗じて2で除した金額を退職金として支給しており,原告の平成27年12月時点での基本給は43万5000円,定年退職までの勤続年数は24年4か月であるから,定年退職時の退職金見込額は531万0480円である。しかし,実際に支給された退職金は,16年4か月分である355万2500円であるから,原告は差額175万7980円の損害を蒙った。
(ウ) 損益控除
被告は,b社を介して,原告に対して,顧問料名目で,平成28年4月1日,同月28日,同年5月31日,同年6月30日,同年7月29日,同年8月31日及び同年9月30日にそれぞれ60万円を支払っている。この合計420万円は,原告がa社を退職しなければ得られなかったものであるから,損益控除をするのが相当である。
(エ) 弁護士費用相当額の損害
原告が蒙った弁護士費用相当額の損害額は,(ア)及び(イ)を合算し,(ウ)を控除した金額の1割に相当する928万1069円である。
イ 被告
争う。仮に,本件において,被告が契約締結上の過失責任を負うとしても,被告が賠償する損害は信頼利益にとどまる。
なお,原告が主張する180万円は被告会社が原告の年収960万円を支払う約束をしたものではなく,原告への成功報酬のようなものとして話をしていた。
(4)  争点(4)(立替払請求の可否)について
ア 原告
(ア) 原告と被告は,原告が被告の営業活動のために支出した交通費を翌月原告に支払う旨合意していた。これは,平成28年3月1日付覚書第1項の「顧問契約第2条第1項の『乙が,その委託業務に要した費用』については,乙の旅費規程により認められた費用とする。」と定められているところから明らかであり,原告が支出した交通費実費を,b社を介して被告が支払う合意が存在する。
(イ) 原告は,平成28年8月28日の福岡出張の際に,航空機を利用し,航空券代8万7200円とホテル宿泊料1万5000円の合計10万2200円支払った。これらの領収証は残っていない。b社の国内出張規則によれば,原告のような部長の区分の人物が国内出張をした場合の宿泊費は1万5000円とされ,飛行機路を利用した場合は普通席の料金相当額が支給されていた。
(ウ) 原告は,同年9月13日に同月8月分の経費精算書を提出し,同年10月17日には同日付内容証明郵便にて被告に対して支払を催告したが,被告はこれを支払わない。
(エ) よって,原告は,被告に対して,10万2200円及びこれに対する催告後相当期間を経過した同年11月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。
イ 被告
争う。原告主張に係る合意はないし,仮に,原告の主張どおりの合意があったとしても,ホテル宿泊料は交通費には含まれず,請求根拠はない。
なお,被告とb社とは,b社が被告の委託業務に要した費用は一切被告が負担することを合意している(甲2)。
第3  当裁判所の判断
1  前記前提となる事実,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)  a社は,シーリング印刷,スクリーン印刷などの特殊印刷関係,特殊機器の製造,店舗向け販促用品・照明機材などの販売等を行っており,古くから,北海道を拠点とするコンビニエンスストアチェーン店○○を運営するc社と取引をしていた。
原告は,平成11年10月18日にa社に中途採用として入社し,平成27年当時は同社の市場開発部部長の職にあり,c社に対する営業を担当しており,c社からサイネージの液晶ユニット付き自動販売機の試作を依頼されていた。(甲29,乙10ないし13,原告本人)
(2)  被告は,小型,大型ディスプレイを取り入れた電磁看板事業・デバイスの開発を主な事業内容とするベンチャー企業であり,株式上場を目指しているところ,平成27年4月1日付けでa社と代理店取引に関する取引基本契約を締結し,a社と共同して,c社から試作の依頼を受けたサイネージの液晶ユニット付き自動販売機に係る事業を行うことになり,被告代表者と原告が知り合い,試作の打合せをするようになった。(甲29,乙7,22,原告本人,被告代表者)
(3)  原告と被告代表者は,打合せを重ねるにつれ,原告がa社の中で上司との見解の相違があることや被告代表者が営業能力のある人材を求めていることを相互に理解するようになり,被告代表者は,平成27年4月頃,原告を有為の人材と考え,原告に対して,ベンチャー企業である被告が上場を目指しているので,a社を退職して,被告に転職して一緒に仕事をすることを勧誘した。原告は,原告自身の生活の安定を考え,一旦は,この誘いを断った。
また,被告代表者は,その頃,原告に対して,被告の第三者割当による新株発行につき,被告株式の引受けを勧誘した。
被告代表者は,平成27年5月頃,原告に対して,年収1000万円で被告の取締役兼営業部長に就任するという条件で,ふたたび被告への転職を勧誘し,原告は,何回かの勧誘の後,遅くとも同年6月頃,この勧誘に応じることを決め,本件合意が成立した。原告は,退職までの間は,営業部長としての業務が円滑に引き継がれるよう準備しつつ,自動販売機ユニットの完成の案件も進めることとした。
一方,被告に転職することを決めた原告は,同月10日,被告の第三者割当による新株発行につき,被告株式の引受けを申し出て,1株5万円を120株合計600万円を出資した。募集株式は普通株式1470株であり,これにより増加する資本金の額3675万円を予定していた。(前記前提事実(2),甲1,29,原告本人)
(4)  c社,a社及び被告は,平成27年7月1日,秘密保持契約を締結し,同年11月2日には,自動販売機ユニットに関する覚書を締結した(乙16,17,22,被告代表者)。
(5)  原告と被告代表者は,c社,a社及び被告の平成27年7月1日の秘密保持契約の締結以降,メールのほか,LINEを通じても頻繁に打合せをし,サイネージの液晶ユニット付き自動販売機の試作や営業について連絡を取り,共に北海道に頻繁に行き,原告がa社で担当した客先を被告代表者が知ることができるようにもした。(甲11,乙22,原告代表者)
(6)  原告は,平成27年11月下旬頃,a社に対し,平成28年2月末をもって一身上の都合により退職する意思を伝え,平成27年12月14日に退職届を提出した(甲29,原告本人)。
(7)  b社は,空調の設置,補修等を業とする会社であるが,同社代表取締役I(以下「I」という。)は,原告のa社以前の勤務先企業と関係があったことから原告と旧知の仲であり,原告は,Iに,被告の事業の説明をして,被告代表者を紹介をした。また,原告は,平成27年12月5日12時27分,被告代表者に対し,「こちらもI+1名と私で来週は北海道なので…社長の戦略に乗せるように動きます」と,b社が被告の事業に協力すること及び原告がIと行動を共にしていることを連絡した。
Iは,b社が被告からサイネージの液晶ユニット付き自動販売機の取り付け工事の事業を受注するために,被告代表者から被告の株式の譲渡を受け,平成27年12月17日付け「株式譲渡に関する覚書」(乙1)を締結した。同第1条には,I及びb社と被告代表者が,平27年12月より,被告と同社が製造・製作及び運営する商品及びサービス・システム等の設置及びメンテナンス等を関東中心に国内全域を専属的に請け負うことを条件として,被告株式の譲渡を受ける旨の記載がある(甲11,29,乙1,22)。
(8)  a社は,原告に対して,原告の退職に当たり競業避止義務を定める誓約書の提出を求め,原告はこれを被告代表者と相談したところ,被告代表者は,原告に対して,平成28年2月3日9時16分に「そんなややこしい事をしなくても,正々堂々と,このグローバル化の時代に,国際都市東京では,同族会社は生き残れたい(原文ママ〉と判断し辞めます。Y社のAさんとパートナーを組んで日本を変えますと言ってしまえば」と,原告が被告代表者とパートナーを組むことをa社に伝えることを唆す連絡をした。(甲11,29)
(9)  しかし,被告の上場政策担当者であるGは,被告代表者に対して,同業を営むa社において営業部長であり,3年間程度c社の担当者であった原告を,被告がa社の退職後に直ちに直接雇用することはコンプライアンス上問題があり,原告を雇用するとなると,取引先であるa社から違法な引き抜き行為と見られて無用な紛争を招きかねず,c社との締結が見込まれるデジタルサイネージの大量発注の取引が破談になる可能性が高いことを指摘し,被告代表者は原告を取締役として採用することを翻意し,被告代表者,G及び原告は,平成28年1月から同年2月にかけて,原告が社外取締役となる選択肢,原告が顧問として被告に関与する選択肢などを検討した。(甲29,乙22,23,原告本人,被告代表者,弁論の全趣旨)
(10)  Gは,平成28年2月,顧問契約案を作成し,被告の社印を押印した上で,原告に対して提示し,被告代表者は,その後,この顧問契約案の内容を説明した。
同顧問契約案の内容は,被告が原告に対し,同年3月1日から同年8月31日までの6か月の間,被告が,原告に対して,被告のビジネススキーム構築に関する指導及び相談並びに被告の経営方針に関する相談に係る業務を委託し,原告はこれを受託するというものであり,被告は,その報酬として,原告に対し,同年3月から同年6月までの4か月の間,月額60万円を毎月末日支給し,原告が委託業務に要した費用は被告が一切負担するというものであった。原告は,原告の社会保険加入の必要上から,この提案を断った。(甲17,29,原告本人,弁論の全趣旨)
(11)  そこで,原告の提案により,平成28年2月25日頃,原告と被告代表者は,b社が被告と顧問契約を締結し,b社が原告を雇用する形式を採用することに合意し,被告とb社は,平成28年2月29日,顧問契約を締結し,同年3月1日から同年8月31日までの6か月の間,被告が,b社に対して,被告のビジネススキーム構築に関する指導及び相談並びに被告の経営方針に関する相談に係る業務を委託し,b社はこれを受託することを合意した。被告とb社との間では同顧問契約に関する報酬として,被告がb社に対して同年3月から同年6月までの4か月間は月額60万円を支払い,委託業務に関する費用は被告が一切負担することを合意した。b社が被告から受領した報酬月額60万円は,原告がこれを受領し,その額は420万円になった。
同顧問契約の更新等の定めはなく,原告は,一定期間が経過した後は被告に入社することが予定されていた。(甲2,11,29,原告本人,弁論の全趣旨)
(12)  原告は,平成28年2月末にa社を退職し,平成28年3月にb社に正式に入社し,同社のデジタルマーケティング事業部の部長として勤務し,b社の名刺(乙2)も渡されていた。
また,被告は,この頃,原告に対して,被告の「IoT事業本部本部長」の肩書きを付した名刺を交付し,名刺記載の原告に被告から発行されたメールアドレスのドメインには被告の社名が表記されており,原告と被告は,このメールアドレスを相互連絡に用いていた。(前記前提事実(3),甲10,22,24,29,原告本人,乙2)
(13)  a社は,平成28年3月頃から,被告がc社に納入した商品の補償ができる態勢をとるために,c社と被告との間の商流に介入することとなり,被告はa社に見積りを出し,a社がc社と取引をすることとなり,原告は,被告とa社との間の取引に名前を出すことが困難となった。そのため,被告がa社に対して提出する見積書では原告の名前を出してトラブルを発生させることがような配慮がなされていた。(甲11,29,乙3,4,原告本人,弁論の全趣旨)
(14)  原告は,平成28年5月2日,被告管理部に対して,営業上の必要から,被告のc社宛ての窓枠型デジタルサイネージに係る見積書2種類の作成を依頼し,被告管理部は,これに応じて,担当者欄に「X」と原告名を押印し,社印を押した見積書のファイルを原告の被告メールアドレスに送信し,被告代表者もこれを同時にカーボンコピーで受領した。(甲18の1・2,22,23の1・2,24,原告本人)
(15)  被告は,a社との共同事業である自動販売機の試作機の開発に成功し,a社から,平成28年5月11日,窓枠型デジタルサイネージ1200台を代金3億3323万1600円で受注した。
a社と被告との共同事業の総売上げは,平成27年年始から平成28年6月頃までは,自動販売機の試作についての500万円であり,同年5月に発注を受けたものは,被告に対して,同年6月から平成29年3月までの間に3億3000万円の支払があった。被告代表者は,原告に対して,この3億円の売上げが原告の努力によるものであることを説明する旨を約束した。(甲11,20の2,29,乙19,原告本人)
(16)  a社と被告は,平成28年6月30日,売買,外注に関する取引基本契約を締結した(乙15)。
(17)  被告代表者は,原告を被告の取締役とする件については,Gから指摘を受けたコンプライアンス上の問題及び違法な引き抜き行為と見られることによるa社との間での無用な紛争が発生することから,依然として慎重な態度をとっており,平成28年6月10日には,原告に対して,新規に受注する会社が現れたことでで翌年の上場が決まり,原告が被告の二番手となるとか原告が本流となる旨のLINEを送ったりしたものの,同年7月には,c社への納品分の中で照度センターの不良で輝度調整が不能であったり,輝度が不足したり,配線がファンに絡み異音が発生する欠陥品が発生したことで,さらに慎重な態度となり,原告に対して口頭で,同月1日から取締役に就任させる約束であったことを認め,a社に原告の取締役就任の事実を伝えづらいことを説明し,同年7月28日9時45分には「常に相談しながら進めるので,また,Xさんは,社内で取締役扱いにしてますので,量産納品からは,手を引いてください。次に何か?有ったら,XさんとBさんの責任問題になる。僕とBさんでやります。誰も僕の責任問題にはしない。すると会社が止まるから,僕は責任を取らされない。Bさんも取締役扱いでは無いので,よっぽどの事がない限り,資任は取らされない。」,同日9時49分には「7月から,9月までの暫定の取締役がある。C,D,A,の多数決で決まる。僕の一存で会社を動かせない仕組みが入ってます。」,同日9時52分には「9月からの取締役にXさんに入ってもらう。6名から7名・A,C,E,X,F,が9月から取締役内定者です。XさんとEさんは社外取締役です。」と,原告が社外取締役になること,その時期は同年7月からではなく,同年9月からであることを説明し,同年8月4日9時04分には「7/11にCさんが会長。一か月早く,8/1日から管理部にFさんが入って,9月に向けて組織作りに入りました。管理部長。Gさんは社外コンサルにXさんはiot事業部の部長で取締役会のメンバーです。」等の連絡をするなどして,原告が被告の中で取締役扱いとなっていること,取締役内定者であること,社外取締役となること等を繰り返し伝えたものの,具体的な決定は先延ばしにしていた。原告は,被告代表者から提示のあった社外取締役という条件についても承諾をした。(前記前提事実(4),甲11,20の2,29,原告本人,弁論の全趣旨)
(18)  原告は,このような被告代表者の態度を見て,被告代表者を信用できないと考えて,被告代表者との打合せにおける会話を録音したところ,LINEでのメールのやり取りを裏付ける被告代表者の発言が繰り返されていた。(甲19ないし21の各1・2,29)
(19)  原告は,平成28年9月13日,被告に対し,同年8月分の経費として17万0961円の精算を求め,うち被告所在地である福岡までの出張費明細書を作成し,その金額を11万2140円であるとした。(甲15,16)
(20)  被告は,平成28年10月6日,b社に対して,同年9月30日をもって,b社との間の顧問契約を解除する旨の意思を表示し,原告に対して被告が貸与していたパソコンの返却も求めた。これによって,原告は,b社から収入を受領することが続けられなくなった。(前記前提事実(6),甲4の1・2,29)
(21)  原告は,平成28年10月17日付け同月19日到達の内容証明郵便により,原告訴訟代理人弁護士を通じて,被告に対し,被告が原告の就職を勧誘して年収1000万円を保証したこと等を主張して,本件請求をし,被告は,同年11月10日付けで,被告訴訟代理人弁護士を通じて,原告訴訟代理人弁護士に対して,原告の請求を拒否する旨の回答をした。(甲5の1・2,6)。
(22)  原告がa社に勤務していた最終年である平成27年1月1日から同年12月31日までの給与収入は815万1000円であり,原告の平成27年12月時点での基本給は43万5000円であり,これに役付手当5万円,通勤手当2万5010円,養育手当3万円が支給されていた。
原告は,a社の退職に当たり,脱退一時金として250万1250円の支給を受ける権利を取得し,退職金として356万7000円の支払を受けた。(甲7ないし9,弁論の全趣旨)
(23)  a社の就業規則は,退職金の支給を退職金規程に定め(76条),正社員は満60歳で定年となる(77条)。退職金規程では,退職金は原則として基本給を算定基礎額とし,この算定基礎額に勤続年数を乗じたものを2で割った額となる(3条)。原告が定年退職を迎える平成41年3月31日までの勤続期間は29年5か月であるが,勤続年数の上限は55歳に達する平成36年3月31日となる。(甲12,13の2)
(24)  被告とb社は,平成28年2月29日付けの顧問契約締結に当たって,同年3月1日付けの「覚書」を取り交わし,被告が委託業務に関して負担する費用については,b社の旅費規定により定められた費用であるとした。同旅費規定では,公共交通機関についての領収書は不要で正規料金精算とし,宿泊費は部長級であれは1泊1万5000円である。(甲2,3,14,29,弁論の全趣旨)
(25)  原告は,平成29年1月31日まで勤務し,同年2月にb社を退職した(前記前提事実(7),甲29,原告本人)。
2  争点(1)(原告と被告との間で,平成27年6月頃,本件合意が成立したか否か)について
(1)  前記認定事実(3),(6),(9)ないし(12)のとおり,被告代表者は,平成27年4月頃,原告に対して,ベンチャー企業である被告が上場を目指しているので,a社を退職して,被告に転職して一緒に仕事をすることを勧誘し,原告は,原告自身の生活の安定を考え,一旦は,この誘いを断ったものの,その後の同年5月頃,被告代表者から,年収1000万円で被告の取締役兼営業部長に就任するという条件を提示されて,被告代表者の勧誘に応じることを決め,本件合意が成立し,原告が被告株式の引受けをしたものの,原告がa社に対して退職をする意思を伝えた後の平成28年1月から同年2月において,Gからのコンプライアンス上の問題,取引先であるa社との間で違法な引き抜き行為を理由とする無用な紛争の恐れから,原告が直ちに被告の取締役に就任することを変更して,原告が社外取締役となる選択肢,原告が顧問として被告に関与する選択肢などを検討し,その結果,被告は一旦は原告が被告の顧問となる契約を提案し,原告がb社との顧問契約を締結して原告がb社に入社する対案を提案して,原告が同月末にa社を退職して,同年3月にb社に入社したものと認められる。
(2)  これに対して,被告は,本件合意は存在しないと主張し,LINEのやりとりでも原告がa社に在籍していた平成28年2月までの間に本件合意を裏付ける発言等はなく,被告の最大の案件であるa社との取引が原告の引き抜きにより悪化すると,3億3000万円の商談が破談になる危険があるからこれを行うはずがなく,被告代表者は,原告のb社への入社に関しても一切関わっておらず,原告が将来的には被告の「取締役」や「社外取締役」になる可能性もあることから,被告の取締役同様の気概を持って仕事をしてほしいと思い「取締役」や「社外取締役」との言葉を使用したこともあったにすぎいない等と主張し,これに沿った陳述書(乙22,23)を提出し,被告代表者もこれに沿った供述をする。
しかし,前記認定事実(5)のとおり,LINEのやりとりは本件合意成立後の同年7月以降であり,前記認定事実(13),(15)のとおり,a社がc社と被告との間の商流に介入してきたは平成28年3月頃であり,被告とa社との取引が3億円規模のものとなるのは同年5月のことであって,本件合意の成立した平成27年6月,原告が退職の意思を伝えた同年11月の時期よりも後のことであり,被告の主張はその前提を欠き,a社を退職している原告に対して,被告の取締役同様の気概を持って仕事をしてほしいと思い,「取締役」等の文言を用いたという供述は原告の置かれた境遇に照らして極めて不自然である。
しかも,前記(1)において説示したとおり,原告がa社に対して退職をする意思を伝えた後の平成28年1月から同年2月において,Gからのコンプライアンス上の問題,取引先であるa社との間で違法な引き抜き行為を理由とする無用な紛争の恐れから,原告が直ちに被告の取締役に就任することが変更されたのであるから,被告の上記陳述書及び被告代表者の供述部分は信用することができない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(3)  以上により,原告と被告との間で,遅くとも平成27年6月頃,本件合意が成立したものと認められる。
3  争点(2)(本件合意違反による被告の責任の有無)について
(1)  契約準備段階に入った者は,契約締結には至らなかったが、その準備段階で損害を生ぜしめた場合についても、当事者間に契約締結についての交渉が始まるとともに、信頼関係を基礎とする法定債務関係を生じ、当事者の一方が故意又は過失によつてその信頼を裏切る行為をしたときは、このような債務関係に反するものとして、信義則上,相手方に対し損害賠償の義務を負うものと考えられ(最高裁判所昭和59年(オ)第152号昭和59年9月18日第3小法廷判決集民142号311頁参照),本件の事実関係のものでは,遅くとも平成27年6月の時点で,原告と被告との間で,原告を被告の取締役兼務従業員として年収1000万円で雇用することの本件合意が成立して,原告はこれに沿って平成28年2月末をもって前職のa社を退職したものの,被告はその後のa社との関係により,原告を取締役兼務従業員として雇用しないのであるから,原告は,a社を退職することによって得られなくなった収入相当額の損害を蒙ったものであり,原告の転職に伴うコンプライアンス上の問題や取引先であるa社との間で紛争の懸念は,被告代表者が原告に対して勧誘を開始したときから十分に予見することが可能なものであるというべきである。
したがって,被告代表者の行為は,その勧誘に応じて退職したことによる原告の収入の不利益を生じさせたものであって,原告に対する不法行為を構成するというべきである。
(2)  これに対して,被告は,契約締結上の過失責任が認められるためには,契約締結(交渉)の成熟度が高いことが必要であるところ,本件では,契約締結の成熟度がまったくないと主張するが,前記2の説示に照らして,到底採用することができない。
また,被告は,原告と被告代表者とGが平成28年1月19日に会談して,a社との関係から,原告が直ちに被告に取締役等として就任,採用されることは不可能であることが確認され,顧問契約をして外部の立場で活動することが合意され,原告が被告に取締役等として就任,採用されるためには,①原告が被告に入社することをa社が了承するような状況を創り上げること,又は②被告とa社との取引が中止,解消されるような状況になってもそれを補うに足りる営業実績と能力・意欲を原告が示すという条件があったと主張するが,被告の主張する条件は,本件合意が成立した後に被告が原告を就任させないように条件を積み上げていったものにすぎず,そのような条件を被告が提案したとしても,被告の損害賠償責任が減じられるものではないというべきである。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
4  争点(3)(本件合意違反による原告の損害額)について
(1)  前記認定事実(22)のとおり,原告がa社に勤務していた最終年である平成27年1月1日から同年12月31日までの給与収入は815万1000円であり,原告はa社を退職した平成28年2月末からb社を退職した平成29年2月までの期間は,前記認定事実(9)ないし(11)のとおり,被告代表者の翻意により原告が顧問としてb社に就職することとなりそれ以外の何らかの就職活動をすることができなかったと認められ,また,原告がb社を退職した月の翌月である同年3月から1年間の期間が再就職先を定めるに相当な期間と認められる。
したがって,原告は,被告代表者との間で成立した本件合意を信頼してa社を退職したのであるから,原告がa社を退職してから就職活動をすることができなかったと考えられる1年間の得べかりし収入額815万1000円から被告とb社との間の顧問契約により原告が収入を得た420万円を損益控除をした額及び原告が再就職先を定めるに相当な期間の1年間に得べかりし収入額815万1000円の合計1210万2000円が原告の信頼利益の損害額であり,これに弁護士費用相当額121万円を加えた1331万2000円を被告は賠償すべきである。
(2)  これに対して,原告は,被告が取引先に対して原告と取引しないように働きかけるなど,原告の再就職を作為的に妨害しているため,原告の労働能力喪失率を100パーセントとして計算するのが相当であるとして,原告の給料相当額の損害815万1000円に退職までの就労可能年数18年のライプニッツ係数11.690を乗じた9528万5190円が損害となると主張するが,退職までの18年間の部分が全額損害となるという因果関係は認められない。
また,原告は,原告の労働能力喪失率を100パーセントと見る期間を再就職に必要となる社会相当な期間と限定するとしても,それ以降の期間についての逸失利益も考慮しなければならないからと高校卒業が最終学歴である原告が賃金センサス474万2300円と原告の収入815万1000円との差額が損害となると主張するが,かかる因果関係は認められない。
さらに,原告は,退職金減額分相当額の損害として,a社で得られたはずの退職金見込額531万0480円と実際に支給された退職金額355万2500円との差額175万7980円が損害であると主張するが,原告がa社において定年まで退職をすることが明らかであるとは認められない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
5  争点(4)(立替払請求の可否)について
原告は,原告と被告は,原告が被告の営業活動のために支出した交通費を翌月原告に支払う旨合意していたとして,平成28年3月1日付覚書第1項の「顧問契約第2条第1項の『乙が,その委託業務に要した費用』については,乙の旅費規程により認められた費用とする。」をその根拠として援用する。
しかし,前記認定事実(24)によれば,原告主張の覚書は,被告とb社との間で締結されたものであり,b社が請求することは格別として,原告が請求することができる根拠ではない。
その他,被告が原告に対して原告主張の立替払金を支払う合意は認められない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
6  まとめ
以上によれば,原告の被告に対する本件請求は,不法行為に基づく1331万2000円の限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから,これを棄却することとする。
よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第5部
(裁判官 吉村真幸)

 

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