判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(73)平成28年 8月26日 東京地裁 平26(ワ)15797号 損害賠償請求事件
判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(73)平成28年 8月26日 東京地裁 平26(ワ)15797号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成28年 8月26日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平26(ワ)15797号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2016WLJPCA08268008
要旨
◆原告が、本件会社の代表社員を務める被告Y1及び被告Y2に対し、主位的に、被告らから勧誘を受け、本件会社を営業者とする匿名組合が原告からの出資金で訴外会社の発行する変動利付社債(本件社債)を購入し、訴外会社が出資金全額を運用して原告が配当を受けること等を内容とする本件各ファンドに出資したが、実際には、同匿名組合は本件社債を購入しておらず、訴外会社は出資金を全く運用していなかったなどと主張して、共同不法行為に基づく損害賠償を求め、予備的に、本件会社は、訴外会社が資産運用を開始する前に出資総額の90パーセントを下回る場合には資産運用を停止することを求める義務、及び訴外会社の運用状況等を随時調査して出資総額の90パーセントを下回らないように監視し、90パーセントを下回る場合には資産運用を停止するよう求める義務を怠ったなどと主張して、会社法597条に基づく損害賠償を求めた事案において、本件会社は原告からの出資金で本件社債を購入し、訴外会社は原告からの出資金等を運用していたと認定した上で、本件会社は原告主張の義務を負っていたとはいえないなどと判断して、請求を棄却した事例
参照条文
民法709条
民法719条
会社法597条
裁判年月日 平成28年 8月26日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平26(ワ)15797号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2016WLJPCA08268008
東京都世田谷区〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 長浜周生
同 五十里隆行
東京都千代田区〈以下省略〉
被告 Y1(以下「被告Y1」という。)
東京都渋谷区〈以下省略〉
被告 Y2(以下「被告Y2」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士 田中信人
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 主位的請求
被告らは,原告に対し,連帯して,2億0798万円及びこれに対する被告Y1については平成26年8月4日から,被告Y2については同年7月18日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 予備的請求
被告らは,原告に対し,連帯して,1億8000万円及びこれに対する被告Y1については平成26年8月4日から,被告Y2については同年7月18日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は,原告が,(1)主位的に,カヴァリエ・インベストメント・パートナーズ合同会社(以下「カヴァリエ」という。)の代表社員を務める被告らから勧誘を受け,①カヴァリエを営業者とする匿名組合が,原告からの出資金で,アルバトロス・インク(以下「アルバトロス」という。)の発行する変動利付社債(以下「本件社債」という。)を購入し,②アルバトロスが,出資金全額について,先物取引等に投資するなどして運用して,原告が配当を受けること等を内容とするワールド・フューチャーズAファンド及びワールド・フューチャーズDファンド(以下,それぞれ「本件Aファンド」及び「本件Dファンド」といい,併せて「本件各ファンド」という。)に出資をしたが,実際には,①匿名組合は,本件社債を購入しておらず,②アルバトロスは,出資金について,全く運用をしていなかったのであり,被告らの詐欺的な勧誘によって本件各ファンドへの出資をさせられたことで出資金等相当額の損害を被ったなどと主張して,被告らに対し,共同不法行為(民法709条,719条)に基づき,損害賠償金2億0798万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求め,(2)予備的に,カヴァリエは,本件各ファンドへの出資に関して,原告に対し,①アルバトロスが資産運用を開始する前に,アルバトロスに対し,出資総額の90パーセントを下回る場合には資産運用を停止することを求める義務,②アルバトロスの運用状況等を随時調査し,出資総額の90パーセントを下回らないように監視して,90パーセントを下回る場合には資産運用を停止するように求める義務を負っていたが,その義務を怠ったため,本来であれば返還を受けることができたはずの出資金の90パーセント相当額の損害を被ったなどと主張して,会社法597条に基づき,損害賠償金1億8000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。
2 前提事実(証拠等を掲記しない事実は当事者間に争いがないか弁論の全趣旨により認められる。)
(1) 当事者等
ア 原告は,株式会社aの代表取締役であり,本件各ファンドに出資をした者である。
イ(ア) 被告Y1は,平成20年12月からカヴァリエの代表社員を務め,平成21年8月からはブルーシールズパートナーズ株式会社(その後,商号変更により,ウルフパックキャピタル株式会社になる。以下,商号変更の前後を問わず,「ブルーシールズパートナーズ」という。)の代表取締役を務めていた者である(甲1,2)。
(イ) 被告Y2は,平成20年12月からカヴァリエの代表社員を,平成23年5月からは同社の清算人を務め,平成21年6月から平成23年4月まではブルーシールズインベストメントアドバイザリー株式会社(平成23年4月,商号変更により,ジェイ・エックス・フィナンシャルグループ株式会社になる。以下,商号変更の前後を問わず,「ブルーシールズインベストメント」という。)の代表取締役を務めていた者である(甲2,3)。
(2) 本件各ファンドの基本的な仕組み及び原告による出資の内容等
ア 本件Aファンドについて(甲5,8,9)
(ア) 本件Aファンドの基本的な仕組み等
a 本件Aファンドは,①原告が,カヴァリエとの間で,原告を匿名組合員とし,カヴァリエを営業者とするワールド・フューチャーズA号匿名組合契約(以下「本件A匿名組合契約」という。)を締結し,②原告が,同匿名組合契約に基づき,カヴァリエに対して出資を行い,③カヴァリエが,同匿名組合契約に基づく営業として,上記②の出資金全額をアルバトロスの発行する変動利付社債(本件社債)に投資し,④アルバトロスが,出資金について,先物取引やオプション取引等に投資するなどして運用を行い,⑤カヴァリエが,本件社債の利息金を元に原告に対して配当を行うことを基本的な内容とするファンドである。
b 原告は,平成21年5月7日,カヴァリエとの間で,本件A匿名組合契約を締結し,同月12日,同契約に基づき,カヴァリエに対し,出資金等として1億0399万円を振り込んだ(甲10)。
(イ) 本件A匿名組合契約の内容
a 営業者 カヴァリエ
b 匿名組合員 原告
c 出資金等 1億0399万円(出資金1億円,申込手数料及び消費税399万円)
d 有効期間 平成21年5月7日から平成23年5月6日まで。ただし,匿名組合員において,契約満了日の90日前までに書面等による終了の通知のない場合は,1年間の有効期間を定めて自動更新される。
e 事業目的 アルバトロスの発行する変動利付社債(本件社債)を購入すること等
f 利益の分配 カヴァリエは,原告に対し,毎月15日に,当該期間について運用実績報告に基づいて計算された損益から利益又は出資金の一部返還として,現金での支払を行う。
g 成功報酬 カヴァリエは,上記fの期間の損益がプラスである場合には,月間利回りが4.5パーセントまでの部分の3分の1と4.5パーセントを超える部分の全額を成功報酬として受領する。
イ 本件Dファンドについて(甲13,14,29)
(ア) 本件Dファンドの基本的な仕組み等
a 本件Dファンドは,原告が,カヴァリエとの間で,原告を匿名組合員とし,カヴァリエを営業者とするワールド・フューチャーズD号匿名組合契約(以下「本件D匿名組合契約」という。)を締結し,上記アと同様に,原告からの出資金を本件社債に投資し,その利息金から原告が配当を受けること等を基本的な内容とするファンドである。
b 原告は,平成22年2月15日,カヴァリエとの間で,本件D匿名組合契約を2件(うち1件は,本件A匿名組合契約の内容を変更するものであり,うち1件は,追加出資に係るものであった。)締結し,同月12日及び同月15日,同契約に基づき,カヴァリエに対し,追加出資金等として1億0399万円を振り込んだ(甲10)。
(イ) 本件D匿名組合契約の内容
a 営業者 カヴァリエ
b 匿名組合員 原告
c 追加出資金等 1億0399万円(出資金1億円,申込手数料及び消費税399万円)
d 有効期間 平成22年2月15日から平成24年2月14日まで。ただし,匿名組合員において,契約満了日の90日前までに書面等による終了の通知のない場合は,1年間の有効期間を定めて自動更新される。
e 事業目的 アルバトロスの発行する変動利付社債(本件社債)を購入すること等
f 利益の分配 カヴァリエは,原告に対し,毎月15日に,当該期間につき運用実績報告に基づいて計算された損益から,利益又は出資金の一部返還として,現金での支払を行う。
g 成功報酬 カヴァリエは,上記fの期間の損益がプラスである場合には,月間利回りが0.1パーセント(出資者配当目標利回り)までの部分の3分の1と0.1パーセントを超える部分の全額を成功報酬として受領する。
(3) 本件の訴え提起等(当裁判所に顕著な事実)
原告は,平成26年6月23日,本件の訴えを提起した。被告は,原告の請求について,同年9月1日の本件口頭弁論期日において,消滅時効を援用するとの意思表示をした。
3 争点
(1) 本件各ファンドへの勧誘について,被告らが共同不法行為責任を負うか否か(争点1)
(2) 被告らが会社法597条に基づく責任を負うか否か(争点2)
(3) 損害の有無及びその額,損益相殺等の可否,消滅時効の成否(争点3)
4 争点に対する当事者の主張
(1) 争点1について
(原告の主張)
原告は,本件各ファンドへの出資に先立ち,被告らから,①原告が,カヴァリエを営業者とする匿名組合に出資を行い,②匿名組合が,アルバトロスの発行する変動利付社債(本件社債)を購入し,③アルバトロスが,本件社債の代金全額について,先物取引等に投資するなどして運用し,④匿名組合が,本件社債の利息金を元に原告に対して配当を行う旨の説明をした。
しかし,実際には,上記②,③の説明に反して,匿名組合は,本件社債を購入しておらず,アルバトロスは,出資金について,全く運用を行っていなかった。
すなわち,被告らは,原告に対する説明に沿う内容の資産運用をするつもりがなかったにもかかわらず,上記のような虚偽の説明を行って原告を本件各ファンドに勧誘し,原告は,被告らによる上記の説明を信じて出資をしたのであるから,被告らは,原告に対し,本件各ファンドへの勧誘について,共同不法行為責任を負う。
(被告らの主張)
匿名組合は,本件社債を購入し,購入代金(原告からの出資金)をアルバトロスに送金した。そして,アルバトロスは,上記の出資金について,オプション取引等に投資するなどして運用している。
よって,原告の主張は失当である。
(2) 争点2について
(原告の主張)
本件D匿名組合契約について,契約書では,各計算期間の末日において,運用状況の悪化等の理由により,出資総額の時価が契約締結時の90パーセント以下に減少したとアルバトロスが判断した場合,契約が終了すると規定されており,契約締結前交付書面では,匿名組合における投資金額が,運用状況の悪化等により,出資総額の時価の90パーセントを下回った時点で,アルバトロスによる運用を停止し,匿名組合員に投資元本と社債利息を償還すると規定されていた。
この規定等によれば,カヴァリエと原告との間で,投資金額が90パーセントを下回った時点でアルバトロスによる運用を即座に停止させる旨の合意があったといえ,カヴァリエは,原告に対し,①アルバトロスが資産運用を開始する前に,アルバトロスに対し,出資総額の90パーセントを下回る場合には資産運用を停止することを求める義務,②アルバトロスの運用状況等を随時調査し,出資総額の90パーセントを下回らないように監視して,90パーセントを下回る場合には資産運用を停止するように求める義務を負っていたといえる。
しかし,被告らは,上記義務を負っていたにもかかわらず,故意又は重大な過失により,これを怠ったものである。
よって,被告らは,会社法597条に基づいて連帯責任を負う。
(被告らの主張)
本件D匿名組合契約において,出資総額の時価が契約締結時の90パーセント以下に減少したか否かを判断するのはアルバトロスであり,アルバトロスがこのような判断をしなければ,契約書の当該条項は適用されない。よって,カヴァリエは,判断の主体ではないから,原告の主張するような義務を負わない。
カヴァリエは,日経平均株価の相場変動等を危惧して,アルバトロスに対し,投資実態に関して数度にわたり問合せを行ったが,投資実態についての情報をアルバトロスから得ることができなかった。その後,カヴァリエは,アルバトロスから,運用資金が投資損失によって全部毀損したと告げられたが,実際には,それ以前に運用資金は全部毀損していた。そもそも,仮に何らかの情報が得られたとしても,本件各ファンドに係る出資金の運用は,アルバトロスに任されていたから,カヴァリエが,アルバトロスの投資実態を逐一調べることはできなかった。よって,カヴァリエがアルバトロスによる投資損失を事前に回避する方法は存在しなかった。
(3) 争点3について
(原告の主張)
ア 損害の有無及びその額
(ア) 主位的請求
原告は,上記(1)(原告の主張)のとおり,被告らの虚偽の説明を信じて,本件各ファンドに係る出資金等として,カヴァリエの名義の口座に,合計2億0798万円を振り込んだ。よって,原告には,出資金等相当額の損害が生じている。
(イ) 予備的請求
原告は,本件各ファンドに係る出資金である2億円が90パーセント以下に減少していたとすれば,その時点で匿名組合契約が終了することから,2億円の90パーセントに相当する1億8000万円の返還を受けることができたはずである。しかし,被告らの任務懈怠によって,同金員の返還を受けることができなかったのであるから,1億8000万円の損害が生じている。
イ 損益相殺等の可否
原告は,被告らから投資名下に金員を騙取され,反倫理的行為に該当する不法行為によって損害を被るとともに,当該反倫理的行為に係る給付を受けて利益を得た被害者であるから,配当金名下で交付を受けた4001万7333円について損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象とすることは許されない。
ウ 消滅時効の成否
原告は,本件各ファンドに係る出資金について,どのように運用されているのか知らなかった。そして,原告が代表者を務める株式会社aは,平成23年2月3日,ブルーシールズパートナーズから,貸金2億円の返還を求める訴訟を提起され,その審理の過程で,アルバトロスが,実際には,出資金の運用をしていなかったことが明らかになった。
原告は,このような経過を経て,被告らに出資金を騙取されたことに気付いたものであるから,原告が損害および加害者を知ったのは,早くとも上記訴訟を提起された平成23年2月3日である。そして,原告は,平成25年12月ないし平成26年1月,被告らに対し,不法行為に基づく損害賠償請求を行うことを催告し,その後,平成26年6月23日,本件の訴えを提起したから,消滅時効は完成していない。
(被告らの主張)
ア 損害の有無及びその額
否認ないし争う。
イ 損益相殺等の可否
原告は,本件各ファンドについて,合計4001万7333円の配当を受けているから,同額については,損害額から控除すべきである。
ウ 消滅時効の成否
原告は,本件各ファンドに係る出資を損害とする不法行為に基づく損害賠償請求をするところ,原告が本件各ファンドについて最後に出資をしたのは平成22年2月15日であり,本件の訴え提起時である平成26年6月23日までに時効期間が経過しているから,原告の請求権は,被告らの消滅時効の援用により消滅した。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
上記第2の2の前提事実と後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 本件Aファンドへの出資に至る経過等
ア 原告は,平成20年12月頃,株式会社aの顧問公認会計士から,被告らの紹介を受けた。被告らは,原告に対し,「プライベート投資プログラム編成のご案内」と題する資料(甲4)を交付し,同資料を示しながら,①原告が,匿名組合契約を締結し,②原告が,同匿名組合契約に基づき,営業者に対して出資を行い,③営業者が,同匿名組合契約に基づく営業として,上記②の出資金全額を本件社債等に投資し,④アルバトロス等が,出資金について,先物取引やオプション取引等に投資するなどして運用を行い,⑤営業者が,本件社債等の利息金を元に原告に対して配当を行うことを基本的な内容とするファンドへの勧誘を行い,アルバトロスは,マレーシアのタックスヘイブンエリアであるラブアン所在のヘッジファンドであり,月次の収支において,過去2年間,マイナスを出したことがないこと,アルバトロスに対する一般的公募資金の受付は実施していないこと,投資家への年間目標利回りが20ないし25パーセントであることなどを説明した。
イ 被告らは,平成21年4月頃,原告に対し,本件Aファンドに関する説明資料(甲5)を交付し,同資料を示しながら,本件Aファンドについて,アルバトロスの変動利付社債(本件社債)のみを匿名組合の購入対象とするほかは上記アのファンドと同一の仕組みであること,営業者がカヴァリエであること,投資家への年間目標利回りが36パーセントであることなどを説明した。
被告らは,その後,原告に対し,「ブルーシールズ・グループ20009年度・組織編制」と題する資料(甲6)を交付し,同資料を示しながら,①B(以下「B」という。)がブルーシールズパートナーズとブルーシールズインベストメントから成るブルーシールズグループの会長であり,アルバトロスの代表者でもあること,②被告Y1がブルーシールズパートナーズの代表取締役であること,③被告Y2がブルーシールズインベストメントの代表取締役であり,カヴァリエの代表者でもあること,④本件Aファンドについて,上記①ないし③のとおり,営業者であるカヴァリエと投資先であるアルバトロスが関連会社であるので,カヴァリエがアルバトロスの運用状況を把握することが可能であるなどと説明した(甲32,原告本人)。
ウ 原告は,上記ア,イの説明を受けて,本件Aファンドに出資することを決めた。そして,原告は,平成21年4月下旬頃,被告らから,本件Aファンドの説明資料である「ALBATOROSS. INC working Flam」と題する書面(甲7)と本件A匿名組合契約の契約締結前交付書面(甲8)の交付を受けた。
エ 原告は,平成21年5月7日,カヴァリエとの間で,本件A匿名組合契約を締結し,同月12日,同契約に基づき,カヴァリエに対し,出資金等として1億0399万円を振り込んだ(第2の2(2)ア(ア)b)。そして,カヴァリエは,同月14日,上記の出資金をアルバトロスに送金した(甲10)。
(2) 本件Dファンドへの出資に至る経過等
ア 被告らは,平成21年10月頃,原告に対し,「資産防衛のためのファミリーオフィス組成案」と題する資料(甲11)を交付し,同資料を示しながら,ファンドに追加出資をするにあたり,タックスヘイブンであるマレーシアのラブアン諸島に法人を設立し,当該法人に配当金の受領権限等を譲渡すれば節税をすることができるなどと提案した。そして,原告は,上記の提案を受けて,被告らに対し,法人の設立を依頼し,被告らは,平成22年1月頃,原告を代表者とするインサイト・インク(以下「インサイト」という。)を設立した(甲12)。
インサイトは,平成22年2月15日,アルバトロスとの間で,社債買取契約を締結し,インサイトは,アルバトロスの社債権者となったが,この社債買取契約においては,インサイトが受領すべき利息の額は定められていない(甲15,16)。
イ 原告は,平成21年12月頃,本件D匿名組合契約の契約締結前交付書面(甲29)及び契約書(甲13,14)の交付を受け,その後,平成22年2月15日,カヴァリエとの間で,本件D匿名組合契約を2件(本件A匿名組合契約の内容を変更する契約1件と追加出資に係る契約1件)締結し,同月12日及び同月15日,同契約に基づき,カヴァリエに対し,追加出資金等として1億0399万円を振り込んだ(第2の2(2)イ(ア)b)。そして,カヴァリエは,同月15日,上記の出資金をアルバトロスに送金した(甲10)。
上記第2の2(2)ア(イ)及びイ(イ)のとおり,本件A匿名組合契約において,カヴァリエへの成功報酬は月間利回りが4.5パーセントまでの部分の3分の1と4.5パーセントを超える部分の全額であったため,原告が受領できる分配金の上限は,月3パーセントであったが,本件D匿名契約においては,原告が受領できる分配金の上限は月0.066パーセントとなった。
ウ 原告とカヴァリエは,上記ア及びイのとおり,本件A匿名契約を本件D匿名契約に変更し,併せてインサイトがアルバトロスとの間で社債買取契約を締結することにより,本件Dファンドに係る配当金のうち,月0.066パーセントまでの部分をカヴァリエから受領し,その余の部分をインサイトがアルバトロスから直接受領することとする旨合意したものと認められる(甲27,28,乙14,19ないし21)。なお,カヴァリエは,原告に対し,平成22年3月分から5月分までの分配金として,出資金の0.066パーセントから源泉税20パーセントを控除した金額ではなく,出資金の0.1パーセントから源泉税20パーセントを控除した金額(16万円)を支払ったことが認められるが(甲10),アルバトロスが原告に対し,平成22年3月分から5月分まで合計19万7496.11米ドルを支払ったこと(争いがない。)に照らすと,カヴァリエが分配上限額の解釈を誤ったにすぎないと解されるから,上記認定を左右しない。
エ 本件D匿名組合契約の契約締結前交付書面は,匿名組合における投資金額が,運用状況の悪化等により,出資総額の時価の90パーセントを下回った時点で,アルバトロスによる運用を停止し,匿名組合員に投資元本及び社債利息を償還すること(以下「キャピタルコール条項」という。)を定めており,本件D匿名組合契約書は,各計算期間の末日において,運用状況の悪化等の理由により出資総額の時価が契約締結時の90パーセント以下に減少したとアルバトロスが判断した場合には,契約が終了すること(以下「契約終了条項」という。)を定めている。
(3) アルバトロスによる運用状況,本件各ファンドに係る配当金の交付の状況等
ア アルバトロスは,原告からの出資金等について,日経平均オプション,株価指数オプション,日経平均先物,株価指数先物等に投資するなどして,比較的堅調な運用を行っていた。
しかし,平成22年5月,ギリシャ危機による日経平均株価の大幅な下落等に伴い,アルバトロスの運用する資金全体に大きな損害が生じて,同年7月頃までにはアルバトロスの運用する資金はほぼ全て毀損した。
被告らは,平成22年5月頃,Bに対し,本件各ファンドについて,ギリシャ危機による株価の下落に伴う影響がないか確認をしたが,特段問題がない旨の回答を受けた。その後,被告らは,同年8月ないし10月頃,Bから,ギリシャ危機によってアルバトロスが大きな損失を被り,本件社債の償還が不可能になる見込みであると伝えられた。
(甲28,30,31,乙3ないし13,乙17の1ないし5,弁論の全趣旨)
イ 原告は,平成21年8月から平成22年12月にかけて,本件各ファンドに係る配当金として,カヴァリエを介して,又は,アルバトロスから直接,合計2108万円及び21万3426.02米ドルの交付を受けた(甲10,18)。
2 争点1について
原告は,①カヴァリエは,本件社債を購入しておらず,②アルバトロスは,出資金について,全く運用を行っていなかったと主張する。しかし,原告の主張を裏付ける的確な証拠はなく,かえって,上記1(1)エ,(2)イ,(3)のとおり,カヴァリエは振込を受けた直後に原告からの出資金をアルバトロスに送金し,アルバトロスはこれらを原資として日経平均オプション等に投資するなどして運用を行い,原告は本件各ファンドに係る配当金を受領していることに照らし,①カヴァリエが原告からの出資金で本件社債を購入したこと,②アルバトロスが,原告からの出資金等について,運用を行っていたことが認められる。
よって,原告の主張を採用することはできない。
3 争点2について
(1) 原告は,カヴァリエと原告との間で,投資金額が出資総額の時価の90パーセントを下回った時点でアルバトロスによる運用を即座に停止させる旨の合意があり,カヴァリエは,アルバトロスが資産運用を開始する前に,アルバトロスに対し,出資総額の90パーセントを下回る場合には資産運用を停止することを求める義務及びアルバトロスの運用状況等を随時調査し,出資総額の90パーセントを下回る場合に資産運用を停止するよう求める義務を負っていたと主張する。
確かに,上記認定事実(1(2)エ)のとおり,①本件D匿名組合契約の契約締結前交付書面は,匿名組合における投資金額が,運用状況の悪化等により,出資総額の時価の90パーセントを下回った時点で,アルバトロスによる運用を停止し,匿名組合員に投資元本及び社債利息を償還すること(キャピタルコール条項)を定めており,②本件D匿名組合契約書は,各計算期間の末日において,運用状況の悪化等の理由により出資総額の時価が契約締結時の90パーセント以下に減少したとアルバトロスが判断した場合には,契約が終了すること(契約終了条項)を定めており,原告は,陳述書及び本人尋問において,カヴァリエが,出資金が10パーセント以上毀損した場合には,原告に対して出資を継続するか否かを確認することなどにより,90パーセントの元本を保証することを約したと供述する。
しかし,本件D匿名組合契約の契約締結前交付書面にも本件D匿名組合契約書にも,本件Dファンドにおいては元本の返還又は契約のいかなる結果も保証がなく,損失の填補もないことが明確に記載されているのに対し,上記①のキャピタルコール条項については本件D匿名組合契約のリスク及び留意点の一つとして,上記②の契約終了条項については契約の終了事由の一つとして,それぞれ掲記されているにすぎない。加えて,証拠(乙14,原告本人)によれば,原告は,本件D匿名組合契約の締結に先立ち,顧問弁護士から,同契約の契約締結前交付書面及び契約書の内容を前提とすれば,出資金の全部がなくなる可能性があり,契約終了条項についても出資金の90パーセントが返還されるという意味ではなく,様々な経費が控除されて出資金があまり返還されない可能性があるなどと指摘を受けて,元本保証等がないことを理解した上で,契約書の内容変更等を求めることのないまま本件D匿名組合契約を締結したことが認められる。以上によれば,上記の①及び②の条項は,アルバトロスにおいて,出資総額の時価が契約締結時の90パーセントを下回ったと判断した場合,運用を停止し,本件D匿名組合契約が終了することを定めるものであって,出資総額の時価の判断はアルバトロスに委ねられているのであるから,原告の主張するように,カヴァリエにおいて,アルバトロスが資産運用を開始する前に,同社に対し,出資総額の90パーセントを下回る場合には資産運用を停止することを求める義務や,アルバトロスの運用状況等を随時調査し,投資金額が出資総額の時価の90パーセントを下回った時点でアルバトロスによる運用を即座に停止させる旨義務を負っていたとはいえないし,カヴァリエが原告に対し,出資金が10パーセント以上毀損した場合,出資を継続するか否かを原告に確認することなどにより,90パーセントの元本を保証することを約したともいえない。
(2) もっとも,原告は,被告らから,ブルーシールズパートナーズ,カヴァリエ,アルバトロス等は全て関連会社であり,一連の投資を全てグループ間で行うことによって運用状況を把握することができる旨の説明を受けて本件各ファンドに出資したと主張するところ,上記認定事実(1(1)イ)及び証拠(甲17,32,乙14,原告本人)によれば,被告らが,原告に対し,①本件A匿名組合契約締結に先立ち,営業者であるカヴァリエと出資先であるアルバトロスが関連会社であるので,カヴァリエがアルバトロスの運用状況を把握することが可能であると説明したこと,②本件D匿名組合契約締結に先立ち,原告の出資金を保全するために,被告ら,アルバトロスの代表者であるB,弁護士や公認会計士等から成るコンプライアンス委員会を開催して,本件Dファンドについて,運用の透明性確保を図る旨述べたことが認められる。そうすると,被告らは,原告に対し,本件各ファンドについて,アルバトロスによる運用状況を確認する義務を負っていたといえる。そして,証拠(甲20の2,21の2,22の2,23の2,24の2,27,28,30,乙17の1ないし5)によれば,被告らは,①アルバトロスから,1か月に1回程度,本件各ファンドの運用成績,投資環境等を記載した運用報告書の交付を受けることによって,アルバトロスの運用状況を確認していたが,それ以上具体的に運用状況を確認していなかったこと,②コンプライアンス委員会についても一度も開催していなかったことが認められ,上記の義務を尽くしたといえるかについては疑問が残る。
(3) しかし,上記認定事実(1(3)ア)によれば,①平成22年5月,ギリシャ危機による日経平均株価の大幅な下落等が原因で,アルバトロスの運用する資金全体に大きな損害が生じて,同年7月頃までにはアルバトロスの運用する資金がほぼ全て毀損したこと,②被告らが,平成22年5月頃,Bに対し,ギリシャ危機による本件各ファンドへの影響を確認したが特段問題がない旨の回答しか得られず,その後,同年8月ないし10月頃に至り,アルバトロスの運用する資金がほぼ全て毀損したことを認識したことが認められる。そうすると,仮に,被告らが,コンプライアンス委員会を開催するなどしてアルバトロスによる運用状況を確認していたとしても,アルバトロスの運用する資金の大半が毀損する前に,アルバトロスの運用状況を的確に把握して,同社への出資金を回収することができたとは認められない。したがって,被告らに上記義務の違反があったとしても,損害との因果関係を認めることはできない。
なお,上記(1)において,カヴァリエが原告に対し,投資金額が90パーセントを下回った時点で即座にアルバトロスに運用を停止させる義務があったと解するとしても,上記のとおり,アルバトロスの運用する資金の毀損は急激なものであり,アルバトロスの運用する資金が毀損する前に,カヴァリエがアルバトロスの運用状況を把握して,アルバトロスの運用を停止させ,出資金を回収することができたとは認められないから,原告の上記(1)の主張は,この点からも理由がない。
(4) 原告は,カヴァリエとアルバトロスとの間の社債買取契約にはキャピタルコールに関する規定が設けられていないため,原告とカヴァリエとの間の本件D匿名組合契約のキャピタルコール条項が実施できるようにはなっておらず,この点に関する被告らの虚偽説明は被告らの不法行為又は会社法597条所定の義務違反を構成するなどと主張する。しかし,上記(3)によれば,仮に,社債買取契約にキャピタルコール条項が定められ,カヴァリエがアルバトロスに対して運用を停止する権利を有していたとしても,現実にカヴァリエが出資金を回収することができたとは認められないから,原告の上記主張も採用することができない。
(5) よって,争点2に係る原告の主張はいずれも理由がない。
第4 結論
以上によれば,原告の請求は,いずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第1部
(裁判長裁判官 後藤健 裁判官 鈴木尚久 裁判官 雨宮竜太)
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