判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(280)平成21年 1月16日 東京地裁 平20(ワ)29119号 損害賠償請求事件
判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(280)平成21年 1月16日 東京地裁 平20(ワ)29119号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成21年 1月16日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平20(ワ)29119号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 全部認容 文献番号 2009WLJPCA01168008
要旨
◆原告が、被告に対し、被告の実質上の代表者であるFらの詐欺により損害を被ったと主張して、会社法350条に基づく損害賠償を請求した事案において、Fは、当初から株式を処分等する目的であるにもかかわらず、これを秘して当該株式は担保であると告げて、融資契約を締結させ、当該株式を交付させて騙取したなどとして、Fの不法行為を認めた上で、Fが被告の代表者印を管理し、被告の実質上の代表者として行動し、これを被告は許容していたことなどからすると、被告は、会社法350条類推適用により、あるいは禁反言、信義則に照らし、Fの不法行為により原告が被った損害を賠償する責任があるとして、請求を認容した事例
参照条文
民法1条2項
民法709条
民法719条
会社法350条
裁判年月日 平成21年 1月16日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平20(ワ)29119号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 全部認容 文献番号 2009WLJPCA01168008
東京都港区〈以下省略〉
原告 ゲームヤロウ株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 大橋俊二
東京都新宿区〈以下省略〉
被告 株式会社日本ダイレクトメッセンジャー
同代表者代表取締役 B
主文
1 被告は,原告に対し,10億3157万6000円及びこれに対する平成20年3月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決の第1項は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
主文第1項と同旨
第2 事案の概要
1 請求原因
(1) 当事者
ア 原告
原告は,インターネットのオンラインゲームの企画及び運営等を営む会社である。
原告は,平成20年3月当時,ジャスダック上場企業である株式会社ジャレコホールディング(以下「ジャレコ」という。)の発行済み株式総数の約16.56%に当たる4197万8000株(以下「本件株式」という。)を保有する株主であった。
イ 被告
被告は,登記簿上は,生活情報サービスに関わるチラシ,パンフレット,フリーペーパー等の配布を目的とする会社であるが,実態は不明である。
(2) 融資契約等の締結
ア 原告では,別件の企業買収契約に基づく買収代金残額約8億円の支払期限が平成20年3月25日に迫っていたが,同月初めになっても資金調達の目処が立っていなかった。
原告は,当時,C及びDとコンサルタント契約を締結し,原告の企業買収等の資金調達を委託するとともに,ジャレコに対して原告の意向を反映させるため,両者をジャレコの取締役として派遣していた。
このような状況の中,Cは,原告に対して,上記買収代金の資金調達を自分が行う旨を申し出て,原告からその委託を受けた。
イ Cは,平成20年3月17日,Dに対して,資金調達の仲介をしてくれる者として,分離前相被告Eを紹介した。Cによれば,Eは,北海道の知人から紹介された者であり,グローバル・インベストメント・テクノロジー株式会社(以下「グローバル」という。)の顧問で,今回の資金調達を手伝ってくれるということであり,本件株式を担保として約8億円の融資をしてくれる者を知っているという話であった。
しかし,その後,Cが資金調達業務を続けることができなくなったため,DがCの後を引き継いでEと交渉等をすることになった。
ウ Eは,平成20年3月18日,Dに対して,融資をしてくれる被告の代表者として,分離前相被告Fを紹介した。
その際には,Eによって既に融資契約書のドラフトが用意されており,その内容は後に締結された後記の融資契約とほとんど同じであり,7億7000万円の融資の担保として本件株式全部の差入れを求める内容となっていた。
また,この融資契約書のドラフトに記載されている被告の住所は,東京都港区〈以下省略〉となっており,登記簿上の本店所在地と異なっていた。そこで,Dが,Fに対して,その旨を尋ねると,Fは,現在,会社の本店を西新橋に移転し,代表者を自分に変更する登記をしているところだと説明した。
エ 原告は,平成20年3月19日,Eによって,グローバルとの間に,グローバルに対して,資金調達の仲介を委託し,その報酬として成功報酬で調達額の5%を支払う旨のファイナンシャルアドバイザリー契約(以下「本件アドバイザリー契約」という。)を締結させられた。
オ Fは,平成20年3月25日,Eと他に2名の男性を同行して原告事務所を訪れ,同所において,Dが原告を代理して,Fとの間で,被告を契約の相手方として,被告が原告に対し,7億7000万円を,弁済期日は同年6月24日,利息は月1%で3か月分前払とし,本件株式を担保として差し入れるとの約定で融資するとの内容の融資契約(以下「本件融資契約」という。)を締結した。
F及びEは,小切手で4億4100万円,現金で2億6740万円を所持しており,Dに対してこれらを交付し,DはFに対して別紙株券目録記載の本件株式の株券(以下「本件株券」という。)を担保として預け渡した。
カ 原告は,平成20年3月25日,Eに対して,本件アドバイザリー契約に基づく成功報酬として3850万円を交付した。
(3) 本件株式の処分
ア 本件融資契約が締結された後,Gから平成20年4月1日にジャレコ株に関する大量保有報告書及び変更報告書がジャレコに提出され,同人が同年3月25日に時間外にてジャレコ株2100万株を取得し,同月26日に1100万株を市場で処分したことが判明した。
イ これを受けて,原告は担保として預け入れた本件株式が売却されたのではないかとの疑念を抱き,Fに対して,株式の保有について確認を求めたところ,Fは,平成20年4月4日付保管証明を提出して,原告を安心させた。
ウ 原告は,その後,Fに対して,期限前に借受金を返済するので本件株式を返還するよう度々求めたが,Fはこれに対して何ら応答せず,Fとの連絡が途絶えた。また,Fが被告の事務所として紹介した日比谷セントラルビルから事務所が引き払われていた。
エ 原告は,この時点で,被告らが本件株式を既に処分したことを確信し,調査を始めた。
その結果,原告が被告らに預け渡した本件株券の全てについて,平成20年3月31日から同年4月28日までの間に,名義書換がなされていることが判明した。
(4) 不法行為の成立
ア 本件株式に関する詐欺
(ア) F及びEは,共謀の上,当初から本件株式を処分する目的であるにもかかわらずこれを秘して担保であると告げて原告を錯誤に陥れ,原告をして本件融資契約を締結させて,本件株式を交付させ,もってこれを騙取したものである。
そのため,F及びEの前記行為は詐欺に当たり,同人らには共同不法行為が成立する(以下「本件不法行為1」という。)。
(イ) 本件株式の市場価格は,前記不法行為の前日である平成20年3月24日の終値で1株42円,4197万8000株で17億6307万6000円であったから,本件不法行為1の時点における本件株式の価値は,17億6307万6000円である。
したがって,原告は,本件不法行為1によって,17億6307万6000円の損害を被ったから,同金額の損害賠償請求権を有していることになる。しかし,本件においては,原告は本件融資契約に基づく融資金としてFから7億7000万円の交付を受けているので,これを控除した残額9億9307万6000円が原告が被告に支払を求める金額である。
イ 本件アドバイザリー契約に関する詐欺
さらに,F及びEは,前記の詐欺を行うにもかかわらずこれを秘して,原告をしてグローバルとの間で本件アドバイザリー契約を締結させ,もって原告から成功報酬として3850万円を騙取したため,同人らには共同不法行為が成立する(以下「本件不法行為2」という。)。よって,原告は,本件不法行為2に基づいて3850万円の損害賠償請求権を有している。
(5) 被告の責任
被告は,実質上の代表者であるFが,被告を代表して原告に対して融資を行うに当たり行った本件不法行為1及び本件不法行為2につき,会社法350条に基づく損害賠償責任を負い,原告に対して,10億3157万6000円の支払義務がある。
ただし,登記簿上は,現時点においても,被告の代表取締役はBのままであり,本店所在地も東京都新宿区〈以下省略〉のままである。
(6) 結語
よって,原告は,被告に対し,会社法350条に基づく損害賠償として,10億3157万6000円及びこれに対する不法行為日である平成20年3月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 請求原因に対する認否
(1) 請求原因(1)のうち,イは認め,アは知らない。
(2) 請求原因(2)ないし(4)はいずれも知らない。
(3) 請求原因(5)のうち,被告の登記簿上の代表取締役がBであること及び被告の本店所在地が東京都新宿区〈以下省略〉であることは認め,その余は争う。
第3 当裁判所の判断
1 請求原因について
(1) 請求原因(1)(当事者)のうち,アは証拠(甲1,5)及び弁論の全趣旨によって認められ,イは当事者間に争いがない。
(2) 請求原因(2)(融資契約等の締結)及び同(3)(本件株式の処分)の各事実は,証拠(甲2ないし8)及び弁論の全趣旨によって,これを認めることができる。
(3) 請求原因(4)(不法行為の成立)について判断する。
ア 本件株式に関する詐欺(本件不法行為1)の成否について
前記請求原因(2)及び(3)の各事実によれば,原告は,平成20年3月25日,Fとの間に本件融資契約を締結して,本件株式を被告からの融資金の担保として預け渡したにもかかわらず,本件融資契約の当日には,第三者であるGが,市場外でジャレコ株の発行済み株式総数の約8.29%に当たる2100万株を取得して,翌26日には,そのうち1100万株を市場で処分していること,本件株式の全てについて,本件融資契約の直後である同月31日から同年4月28日までの間に名義書換がなされており,本件株式の全てが本件融資契約締結直後に同契約における担保の趣旨に反して処分されていること(なお,本件融資契約(甲4)の約定では,本件株式の市場売買価額総額が契約日の市場売買価額総額より15%以上下落した場合は,原告は,債権者である被告の承認する増担保を3営業日以内に差し入れる等しなければならず,被告がその旨請求したにもかかわらず,原告が増担保の差入れ等をしないときには,本件株式について,代物弁済として被告あるいは第三者に所有権を移転されても異議を述べないとされているが,被告が原告に対し,同約定に基づいて増担保の請求をしたとの事実はない。),さらに,Fは,本件株式の少なくとも一部が既に処分されているにもかかわらず,原告に対し,本件株式は被告において保管している旨虚偽の記載をした平成20年4月4日付の書面(甲7)を作成・交付したことが認められるところである。
これらの事実からすると,Fは,当初から本件株式を処分等する目的であるにもかかわらず,これを秘して本件株式は担保であると告げて原告を代理するDを欺いて,その旨誤信させた上,本件融資契約を締結させて,本件株式を交付させ,もってこれを騙取したものと認めるのが相当であり,Fの上記行為は不法行為に当たるというべきである。
イ 本件アドバイザリー契約に関する詐欺(本件不法行為2)の成否について
前記請求原因(2)及び(3)の各事実によれば,Fは,当初より原告から担保として本件株式の交付を受け,これを処分する意図を有していたこと,EがDに対し融資をしてくれる被告の代表者としてFを紹介した平成20年3月18日の時点で,既に本件融資契約の契約書(融資契約書及び担保差替書,甲4)とほとんど同じ内容のドラフトが用意されていたこと,翌19日,原告とグローバルとの間で,原告がグローバルに対し,資金調達の仲介を委託し,その成功報酬として調達額の5%を支払う内容の本件アドバイザリー契約が締結されたことが認められる。また,本件融資契約書である「融資契約書及び担保差替書」(甲4)と本件アドバイザリー契約書である「ファイナンシャルアドバイザリー契約書」(甲3)とは,文字の形態等からして同じ機種のプリンターで印刷されたものと認められ,原告の代理人であるDに被告(F)を紹介したのはEであることなどの本件経過等からすると,FとEとは密接な関係があることも窺われるところである。
これらの事実からすると,Fは,当初より原告から担保の目的で交付を受ける本件株式を処分等する意図であったにもかかわらず,Eと共謀の上,本件株式は担保であると告げて原告を代理するDを欺き,その旨誤信させた上,原告を代理するDをして,グローバルとの間に本件アドバイザリー契約を締結させて,本件アドバイザリー契約に基づく報酬金3850万円を交付させ,もってこれを騙取したものと認めるのが相当である。
したがって,F(及びE)の上記行為は不法行為に当たるというべきである。
なお,仮に原告がEに本件アドバイザリー契約に基づく成功報酬として3850万円を交付したことが不法行為に該当しないとしても,Fによる本件不法行為1(本件融資契約の締結)がなければ,原告がEに3850万円を交付することがなかったことは明らかであり,Eに交付された3850万円は本件不法行為1と相当因果関係のある損害と認められるから,いずれにせよ,被告(F)は,Eに交付された3850万円について,原告に対する損害賠償義務を免れない。
(4) 請求原因(5)(被告の責任)について判断する。
ア 前記請求原因(1)イ及び(2)ウの各事実のほか,証拠(甲2,4,5,7)及び弁論の全趣旨によれば,被告の登記簿上の代表取締役はBである一方で,Fは,登記簿上監査役となっており,代表取締役にも取締役にも選任されていないが,Fが被告の代表者印を管理しており,実質上の代表者はFであること,Fは,被告の実質上の代表者として職務を行うについて,前記各不法行為をなしたことが認められる。
そこで,被告の責任について検討すると,Fは,登記簿上監査役となっているとしても,被告の代表取締役にも取締役にも選任されていないのであるから,会社法350条を適用することはできない。
しかし,Fは,被告の代表者印を管理し,被告の代表機関としての外形を有する実質上の代表者として行動しており,被告(代表者B)はFがそのように行動することを許容していたこと,原告(代理人であるD)は,Fが正当な権限を有する被告の代表者でないことを知らず,知らないことについて重大な過失があるとも認められないこと(前記請求原因(2)ウの事実)からすると,被告は,会社法350条の類推適用により,あるいは禁反言,信義則に照らし,Fの前記各不法行為により原告が被った損害を賠償すべき責任があるといわなければならない。
イ そこで,損害額について検討すると,証拠(甲9)及び弁論の全趣旨によれば,原告がFに対して預け渡した本件株式の市場価格は,本件株式が預け渡された日の前日である平成20年3月24日の終値で1株42円であり,4197万8000株の合計金額は17億6307万6000円であったことが認められるから,原告が本件不法行為1によって被った損害は17億6307万6000円であると認められる(なお,原告は,同金額から本件融資契約に基づく融資金としてFから交付された7億7000万円を控除した残額9億9307万6000円の支払を請求している。)。また,原告が本件不法行為2によって被った損害(あるいは,本件不法行為1と因果関係のある損害のうち,原告がEに3850万円を交付したことによる損害)は,Eに対して本件アドバイザリー契約に基づく成功報酬として交付した3850万円と同額をもって損害と認めるのが相当である。
2 結論
以上のとおりであり,原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 村田渉 裁判官 大嶋洋志 裁判官 平野望)
〈以下省略〉
*******
コメント ( 0 )
トラックバックは利用できません。
この記事へのコメントはありません。