「営業 スタッフ」に関する裁判例(10)平成24年10月23日 東京地裁 平23(ワ)4701号 損害賠償請求事件
「営業 スタッフ」に関する裁判例(10)平成24年10月23日 東京地裁 平23(ワ)4701号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成24年10月23日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平23(ワ)4701号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 認容 文献番号 2012WLJPCA10238007
要旨
◆原告が、被告が代表取締役を務めていた会社等に、架空の投資話を持ちかけられて騙されて金員を出捐したと主張し、被告に対し、共同不法行為又は会社法429条(選択的主張)に基づき損害賠償を求めた事案において、被告は、被告が代表取締役を務めていた会社の従業員又は同社の名を利用することを許諾された者が第三者を欺罔して金銭を出捐させる行為を行っている蓋然性を認識しながら漫然とこれを放置したことが推認され、重大な過失に基づく義務違反があったというべきであるとして、被告の会社法429条1項に基づく責任を認定し、原告の請求を全部認容した事例
参照条文
会社法429条1項
裁判年月日 平成24年10月23日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平23(ワ)4701号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 認容 文献番号 2012WLJPCA10238007
和歌山県日高郡〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 本元宏和
同 久保博之
東京都中央区〈以下省略〉
被告 Y
同訴訟代理人弁護士 高田享
同 大久保達
主文
1 被告は,原告に対し,3298万6800円及びこれに対する平成23年3月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。
3 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
主文と同旨。
第2 事案の概要
本件は,原告が,被告が代表取締役を務めていた会社等に,架空の投資話を持ちかけられて騙されて金員を出捐したと主張し,被告に対し,共同不法行為又は会社法429条(選択的主張)に基づき損害賠償を求める事案である。
1 争いのない事実等(認定事実には括弧内に証拠を掲記した。)
(1) 被告は,かつてライズ・キャピタル・アソシエイツ株式会社(旧商号:リゾートキャピタル株式会社。以下「ライズ」という。)の代表取締役であった。
(2) 商業登記簿上,被告は,ライズの代表取締役を平成22年6月30日に辞任した旨,平成23年3月2日受付で登記されている。
2 争点及び争点に関する当事者の主張
(1) 不法行為
〔原告〕
ア 株式会社IAGトラスト(以下「IAGトラスト」という。)は,原告に対し,平成21年5月ころ,IAGトラストが設立する「アメリカン・ストック・アクイジション・ファンド」という名称のファンド(以下「本件ファンド」という。)に出資して,IAグローバル社の優先株式に投資することを勧誘するパンフレットを送付した。
また,ライズは,同じころ,原告に対し,機関投資家向けの金融商品への投資が有利であるとするパンフレットを送付した。
そして,同年6月ころ,ライズのAという人物が,原告に対し,電話で本件ファンドへの出資を勧誘した。
イ 原告は,これにより,本件ファンドへの出資が有利であって必ず利益が出るという説明を信じ,本件ファンドに出捐することを決意し,同年6月24日,IAGトラストに対して500万円を送金した。
ウ IAGトラストは,その後も,原告に対し,本件ファンドへの出資により確実に利益を得るかのような文書を送付し,そのため,原告は,同年9月14日ころまで送金を行い,その合計額は,前項を含めて3150万円となった。
エ しかしながら,そもそも上記パンフレットに記載されたような株式投資スキームによる本件ファンドは実在しないものである。IAGトラスト及びライズは,架空のファンドを実在するかのように偽って原告に告げ,原告をその旨錯誤に陥らせ,本件ファンドへの出資名下に金銭を出捐させたものであって,共同不法行為が成立する。
オ 被告は,上記当時におけるライズの代表取締役であり,ライズの従業員らに対し,上記不法行為を行わせ又はこれらが行われていることを知りながら是正せず助長したのであるから,被告もまた共同不法行為責任を負う。
〔被告〕
ア 原告の主張アないしエのうち,ライズの営業に携わるスタッフにAなる人物がいたことは認め(ただし,ライズの従業員ではない。),その余は全て知らない。原告主張の事実関係のみではライズに不法行為責任が生ずるとはいえない。
原告の主張オのうち,被告がライズの代表取締役であったことは認めるが,その余は否認ないし争う。被告は,ライズがどのような行為を行っていたかは知らず,その業務に関与したこともない。
イ 被告は,平成20年4月ころ,B(以下「B」という。)から新しい事業のため代表取締役の名義を貸してほしいと頼まれて承諾し,ライズの代表者となったが,その事業は全てBが行っており,被告は,当初事務所に顔を出したもののその後は事務所に行くこともなく,名目的な代表取締役に過ぎなかった。
被告は,ライズの業務内容はリゾート会員募集業と認識していたが,平成21年7月ころ,Bと話をしていて,ライズが何か詐欺的な行為を行っているのではないかと考え,代表取締役の退任を申し入れ,了承された。
(2) 会社法429条による責任
〔原告〕
被告は,ライズの原告に対する不法行為に基づく損害賠償債務につき,会社法429条に基づき責任を負う。
〔被告〕
ライズは,Bの管理下にあったから,被告がライズの経営に関与し,従業員等を管理できる状態ではなかった。したがって,ライズの営業スタッフに仮に不適切な勧誘行為等があったとして,被告がこれを阻止しようとしてもそれは不可能であった。
したがって,被告の義務違反と原告の損害との間に因果関係は存しない。
(3) 損害
〔原告〕
ア 原告は,不法行為に基づき,送金額3150万円の損害を被った。
原告の平成22年8月10日付け損害賠償請求に対し,IAGトラストは,同年10月1日に96万円,同月29日に55万2000円を送金してきた。
イ また,原告は,弁護士費用299万8800円の損害を被った。
〔被告〕
争う。
(4) 寄与度による限定
〔被告〕
複数の者が同一の事実に起因して損害を発生させた場合,関与の度合いが低い者については,生じた損害の全額について責任を負わせるのは酷であって寄与度に応じた因果関係の割合的認定を行うのが合理的である。
被告は,ライズの名目的取締役であったにすぎず,同社の業務に全く関与しておらず,出資の勧誘をしたこともない。
したがって,被告に仮に責任が生ずるとしても,その賠償額は相応に減額されるべきである。
〔原告〕
争う。
(5) 過失相殺
〔被告〕
原告は,AやIAGトラスト従業員の勧誘に乗せられて,さしたる根拠もなくファンドから高配当が受けられると信じて購入したものであり,その過失は小さくない。
被告は,自ら違法な勧誘行為に関わっておらず,その責任は限定的であるから,被告との間では相応の過失相殺を認めるべきである。
〔原告〕
争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(不法行為)について
(1) 甲第1,2号証,第3号証の1,2,第4ないし第9号証,第10号証の1ないし14,第11号証の1,2,第12ないし第15号証及び被告本人尋問の結果によれば,次のとおり認められる。
ア 原告は,昭和15年生まれの女性であり,中学校卒業後,大阪で働き,24歳のころ日高川町役場に就職して定年まで勤め,退職後は農業を営んでいる。夫とは57歳のころに死別した。
イ IAGトラストは,原告に対し,平成21年5月,「特定機関投資家用」としてIAグローバル社の優先株式投資のご案内と題する小冊子を送付した。これには,「100年に一度の投資チャンスは今!」と記載され,「今回私どもが組んだファンドは、極めて低リスクで高パフォーマンスが期待できるものと言っていいでしょう。」,「今回対象の企業は、別添しますが大化けの可能性大ですので、ぜひご検討下さい。中々この条件で投資できるチャンスは少ないと思います。」とし,有利な投資先情報は通常個人投資家に届かないが,個人投資家が集合してファンドを形成すれば話は変わり,有利な投資案件が舞い込むとの文面があり,IAGトラストが運営する「アメリカン・ストック・アクイジション・ファンド」という名称の本件ファンドに対する出資を募集すること,IAグローバル社がIAGトラストに優先株の売却を委任すること,出資者のメリットとして半年で5倍の利益が取れたり短期的に10倍の価値になったりする可能性があること,本件ファンドへの出資には7つの優位点があり,「本質としては極めて投資が有利な条件が整っており、ローリスクでハイリターンな商品に仕上がっている」こと,また,その下に小さい字で優先株式投資にかかる主なリスクとして価格変動リスク,外国証券投資に関するリスク及び為替変動リスクがあることの記載がある。
その後ころ,ライズは,原告に対し,「ライズ・キャピタル・アソシエイツインベスタークラブのご案内」と題する2冊の小冊子及びライズの営業部のAという社名入りの名刺を送付した。これらの小冊子は,ライズが,大手ファンドや機関投資家に偏りがちな質の良い投資情報を収集し,個々人ではしづらい投資活動の場を提供してきたことを示し,ライズが運営する投資家会員組織への入会を案内するものであった。
平成21年5月ないし6月ころ,ライズのAを名乗る者が原告に電話をかけ,ライズにおいて本件ファンドの出資募集を請け負っていること,本件ファンドは有利であって買った方がよいこと,平成21年10月には投資額が4ないし5倍になるので必ず儲かることを述べ,IAGトラストの電話番号を教えた。
原告が教えられた電話番号に電話すると,IAGトラストの担当者を称する者が対応し,原告に対し,同様に,平成21年10月には4ないし5倍になると述べて出資を勧誘した。
その後も,毎日のように上記A又はIAGトラスト担当者が原告に電話し,本件ファンドへの出資を勧誘した。
ウ 原告は,平成21年10月までには出資金額が4ないし5倍になると信じて,本件ファンドに出資をすることを決め,IAGトラストの銀行口座宛に,本件ファンドへの出資金として,同年6月24日に500万円,同月25日に600万円,同月29日に430万円,同年7月3日に400万円,同月9日に250万円,同月10日に250万円を,また,同月21日までに70万円を送金し,さらに,同年8月31日に500万円,同年9月8日に100万円,同月14日に50万円を送金した。これらは,原告の老後の蓄えであり,その大部分は原告が得た退職金であった。
エ IAGトラストは,上記の最初の送金の少し後,原告に対し,入金が確認できたので送付するとして,「AD1ストック投資事業組合特定機関投資家向けファンド」の目論見書及び契約書を送付し,出資申込書に記入して返送するよう求めた。なお,この目論見書には,ライズから投資に関する企業情報の提供を受けることを予定していること,IAグローバル社が日本における優先株の引受先としてライズを指定していることが記載されていた。
IAGトラストは,原告に対し,同年7月21日付けで出資金額2000万円の「AD1ストックファンド匿名組合」の組合員証を,同年8月20日付けで出資金額500万円の同組合員証を,同年9月18日付けで「AD1ストックファンド投資事業組合」の組合員証をそれぞれ発行し,送付した。
オ 原告は,平成21年10月になっても返金等がないため,IAGトラストに何回か問い合わせたが,IAGトラスト担当者は,まだ株式市場で値上がりしていないので売却できないが,一,二か月後には売却しているから大丈夫であると返答した。
原告代理人が平成22年8月にIAGトラストに対して不当利得又は不法行為に基づき出資金相当額の支払いを求めた後は,IAGトラスト担当者は,出資金相当額3150万円の支払スケジュールを示すと返答したがこれを違え,代理人からの督促にも応じなかったが,原告に対し,同年10月1日に96万円,同月29日に55万2000円を送金した。
カ 被告は,Bに依頼されてライズの代表取締役に就任したものであるが,被告は,平成21年7月ころBと話をし,その際,ライズは,会員を募集するという名目で集めた金を他の用途に費消しているとの疑念を持ったと表明している。
(2) 以上認定の事実に弁論の全趣旨を併せれば,IAGトラストが原告に対し,投資額が4ないし5倍になるから必ず儲かると述べて,その旨誤信させ,本件ファンドに対する出資金を出捐させた行為は,詐欺に該当し不法行為を構成するというべきである。
そして,上記認定の経過に基づけば,ライズ自体が本件ファンドへの出資募集の任に当たっていたこと,Aは,ライズの従業員として,あるいは少なくともライズにその名を称することを許諾されて,原告に対し,投資額が4ないし5倍になり必ず儲かると述べて実行行為を行っており,原告は,IAGトラストとは別個とみられる者が同じ内容の虚偽の事実を述べることによってその誤信をより強固にしたと考えられることを指摘できるから,Aの行為は,ライズが会社ぐるみで行っていた詐欺行為の一環であったものと推認すべきであり,ライズの行為もまたIAGトラストと並んで原告に対する共同不法行為を構成するというのが相当である。
2 争点(2)(会社法429条による責任)について
(1) 乙第1号証及び被告本人尋問の結果によれば,被告は,Bに依頼されて了解し,ライズの代表取締役に就任したこと,被告は,ライズ事務所に定期的に出勤していたが,その後,出勤しなくなったこと,被告は,取締役報酬として月額20万円程度を受領していたこと,被告は,IAGトラストがファンド出資募集を行い,ライズもまた顧客から金を集める業務を行っていると認識していたことが認められる。
代表取締役は,自ら適正に業務執行し,又は,従業員等が違法な行為を行って顧客等第三者に損害を及ぼさないよう,適正に業務が執行されるように指導監督すべき職責を負うものであり,仮に名目的な代表取締役であってもこの職責を免れるものではない。そして,被告は,上記認定事実に基づけば,ライズ従業員又はライズの名を利用することを許諾された者が第三者を欺罔して金銭を出捐させる行為を行っている蓋然性を認識しながら漫然とこれを放置したことが推認され,重大な過失に基づく義務違反があったというべきである。
(2) 被告は,被告が名目的な代表取締役に過ぎず,その義務違反と結果との間に因果関係がないと主張するが,被告が会社法の定めに則り代表取締役の職責を全うしていれば,自ら適正な業務執行を行い従業員等の違法行為を是正することができたものと推認され,乙第1号証及び被告本人の供述は,これを左右するに足りない。
また,被告は,平成21年7月ころ代表取締役を退任したとも主張し,被告本人も同旨の供述をするが(乙第1号証も同旨。),ライズの商業登記簿上の記載は上記争いのない事実等記載のとおりであって,退任の時期が平成22年6月30日より早かったと認めるに足りない。
したがって,被告は,会社法429条1項に基づく責任を免れない。
3 争点(3)(損害)について
(1) 上記認定事実に基づけば,原告は,3150万円の損害を被ったことが認められ,IAGトラストからの入金額を控除すれば,その額は,2998万8000円となる。
(2) 弁論の全趣旨に基づけば,原告は,代理人弁護士に本件訴訟の提起及び追行を依頼し,弁護士費用の支払いを約したことが認められ,そのうち上記不法行為と相当因果関係のある金額は,299万8800円を下らないということができる。
4 争点(4)(寄与度による限定)及び争点(5)(過失相殺)について
被告は,不法行為に対する寄与度により因果関係を限定的に捉えるべきであること及び過失相殺をすべきことを主張する。
しかし,被告は,その義務違反につき重過失が認められること,上記認定の原告の属性,IAGトラスト担当者及びAの行為態様等を前提とすれば,原告と被告との関係で,因果関係を限定的に解し,又は,過失相殺をすることはいずれも相当でない。
5 結論
以上によれば,原告の請求は理由があるから認容すべきである。
(裁判官 永山倫代)
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