【営業代行から学ぶ判例】crps 裁判例 lgbt 裁判例 nda 裁判例 nhk 裁判例 nhk 受信料 裁判例 pl法 裁判例 pta 裁判例 ptsd 裁判例 アメリカ 裁判例 検索 オーバーローン 財産分与 裁判例 クレーマー 裁判例 クレプトマニア 裁判例 サブリース 裁判例 ストーカー 裁判例 セクシャルハラスメント 裁判例 せクハラ 裁判例 タイムカード 裁判例 タイムスタンプ 裁判例 ドライブレコーダー 裁判例 ノンオペレーションチャージ 裁判例 ハーグ条約 裁判例 バイトテロ 裁判例 パタハラ 裁判例 パブリシティ権 裁判例 ハラスメント 裁判例 パワーハラスメント 裁判例 パワハラ 裁判例 ファクタリング 裁判例 プライバシー 裁判例 プライバシーの侵害 裁判例 プライバシー権 裁判例 ブラックバイト 裁判例 ベネッセ 裁判例 ベルシステム24 裁判例 マタニティハラスメント 裁判例 マタハラ 裁判例 マンション 騒音 裁判例 メンタルヘルス 裁判例 モラハラ 裁判例 モラルハラスメント 裁判例 リストラ 裁判例 リツイート 名誉毀損 裁判例 リフォーム 裁判例 遺言 解釈 裁判例 遺言 裁判例 遺言書 裁判例 遺言能力 裁判例 引き抜き 裁判例 営業秘密 裁判例 応召義務 裁判例 応用美術 裁判例 横浜地裁 裁判例 過失割合 裁判例 過労死 裁判例 介護事故 裁判例 会社法 裁判例 解雇 裁判例 外国人労働者 裁判例 学校 裁判例 学校教育法施行規則第48条 裁判例 学校事故 裁判例 環境権 裁判例 管理監督者 裁判例 器物損壊 裁判例 基本的人権 裁判例 寄与分 裁判例 偽装請負 裁判例 逆パワハラ 裁判例 休業損害 裁判例 休憩時間 裁判例 競業避止義務 裁判例 教育を受ける権利 裁判例 脅迫 裁判例 業務上横領 裁判例 近隣トラブル 裁判例 契約締結上の過失 裁判例 原状回復 裁判例 固定残業代 裁判例 雇い止め 裁判例 雇止め 裁判例 交通事故 過失割合 裁判例 交通事故 裁判例 交通事故 裁判例 検索 公共の福祉 裁判例 公序良俗違反 裁判例 公図 裁判例 厚生労働省 パワハラ 裁判例 行政訴訟 裁判例 行政法 裁判例 降格 裁判例 合併 裁判例 婚約破棄 裁判例 裁判員制度 裁判例 裁判所 知的財産 裁判例 裁判例 データ 裁判例 データベース 裁判例 データベース 無料 裁判例 とは 裁判例 とは 判例 裁判例 ニュース 裁判例 レポート 裁判例 安全配慮義務 裁判例 意味 裁判例 引用 裁判例 引用の仕方 裁判例 引用方法 裁判例 英語 裁判例 英語で 裁判例 英訳 裁判例 閲覧 裁判例 学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例 共有物分割 裁判例 刑事事件 裁判例 刑法 裁判例 憲法 裁判例 検査 裁判例 検索 裁判例 検索方法 裁判例 公開 裁判例 公知の事実 裁判例 広島 裁判例 国際私法 裁判例 最高裁 裁判例 最高裁判所 裁判例 最新 裁判例 裁判所 裁判例 雑誌 裁判例 事件番号 裁判例 射程 裁判例 書き方 裁判例 書籍 裁判例 商標 裁判例 消費税 裁判例 証拠説明書 裁判例 証拠提出 裁判例 情報 裁判例 全文 裁判例 速報 裁判例 探し方 裁判例 知財 裁判例 調べ方 裁判例 調査 裁判例 定義 裁判例 東京地裁 裁判例 同一労働同一賃金 裁判例 特許 裁判例 読み方 裁判例 入手方法 裁判例 判決 違い 裁判例 判決文 裁判例 判例 裁判例 判例 違い 裁判例 百選 裁判例 表記 裁判例 別紙 裁判例 本 裁判例 面白い 裁判例 労働 裁判例・学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例・審判例からみた 特別受益・寄与分 裁判例からみる消費税法 裁判例とは 裁量労働制 裁判例 財産分与 裁判例 産業医 裁判例 残業代未払い 裁判例 試用期間 解雇 裁判例 持ち帰り残業 裁判例 自己決定権 裁判例 自転車事故 裁判例 自由権 裁判例 手待ち時間 裁判例 受動喫煙 裁判例 重過失 裁判例 商法512条 裁判例 証拠説明書 記載例 裁判例 証拠説明書 裁判例 引用 情報公開 裁判例 職員会議 裁判例 振り込め詐欺 裁判例 身元保証 裁判例 人権侵害 裁判例 人種差別撤廃条約 裁判例 整理解雇 裁判例 生活保護 裁判例 生存権 裁判例 生命保険 裁判例 盛岡地裁 裁判例 製造物責任 裁判例 製造物責任法 裁判例 請負 裁判例 税務大学校 裁判例 接見交通権 裁判例 先使用権 裁判例 租税 裁判例 租税法 裁判例 相続 裁判例 相続税 裁判例 相続放棄 裁判例 騒音 裁判例 尊厳死 裁判例 損害賠償請求 裁判例 体罰 裁判例 退職勧奨 違法 裁判例 退職勧奨 裁判例 退職強要 裁判例 退職金 裁判例 大阪高裁 裁判例 大阪地裁 裁判例 大阪地方裁判所 裁判例 大麻 裁判例 第一法規 裁判例 男女差別 裁判例 男女差别 裁判例 知財高裁 裁判例 知的財産 裁判例 知的財産権 裁判例 中絶 慰謝料 裁判例 著作権 裁判例 長時間労働 裁判例 追突 裁判例 通勤災害 裁判例 通信の秘密 裁判例 貞操権 慰謝料 裁判例 転勤 裁判例 転籍 裁判例 電子契約 裁判例 電子署名 裁判例 同性婚 裁判例 独占禁止法 裁判例 内縁 裁判例 内定取り消し 裁判例 内定取消 裁判例 内部統制システム 裁判例 二次創作 裁判例 日本郵便 裁判例 熱中症 裁判例 能力不足 解雇 裁判例 脳死 裁判例 脳脊髄液減少症 裁判例 派遣 裁判例 判決 裁判例 違い 判決 判例 裁判例 判例 と 裁判例 判例 裁判例 とは 判例 裁判例 違い 秘密保持契約 裁判例 秘密録音 裁判例 非接触事故 裁判例 美容整形 裁判例 表現の自由 裁判例 表明保証 裁判例 評価損 裁判例 不正競争防止法 営業秘密 裁判例 不正競争防止法 裁判例 不貞 慰謝料 裁判例 不貞行為 慰謝料 裁判例 不貞行為 裁判例 不当解雇 裁判例 不動産 裁判例 浮気 慰謝料 裁判例 副業 裁判例 副業禁止 裁判例 分掌変更 裁判例 文書提出命令 裁判例 平和的生存権 裁判例 別居期間 裁判例 変形労働時間制 裁判例 弁護士会照会 裁判例 法の下の平等 裁判例 法人格否認の法理 裁判例 法務省 裁判例 忘れられる権利 裁判例 枕営業 裁判例 未払い残業代 裁判例 民事事件 裁判例 民事信託 裁判例 民事訴訟 裁判例 民泊 裁判例 民法 裁判例 無期転換 裁判例 無断欠勤 解雇 裁判例 名ばかり管理職 裁判例 名義株 裁判例 名古屋高裁 裁判例 名誉棄損 裁判例 名誉毀損 裁判例 免責不許可 裁判例 面会交流 裁判例 約款 裁判例 有給休暇 裁判例 有責配偶者 裁判例 予防接種 裁判例 離婚 裁判例 立ち退き料 裁判例 立退料 裁判例 類推解釈 裁判例 類推解釈の禁止 裁判例 礼金 裁判例 労災 裁判例 労災事故 裁判例 労働基準法 裁判例 労働基準法違反 裁判例 労働契約法20条 裁判例 労働裁判 裁判例 労働時間 裁判例 労働者性 裁判例 労働法 裁判例 和解 裁判例

「営業アウトソーシング」に関する裁判例(83)平成22年12月27日 東京地裁 平21(ワ)7808号 賃金等請求事件 〔日本ベリサイン事件〕

「営業アウトソーシング」に関する裁判例(83)平成22年12月27日 東京地裁 平21(ワ)7808号 賃金等請求事件 〔日本ベリサイン事件〕

裁判年月日  平成22年12月27日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平21(ワ)7808号
事件名  賃金等請求事件 〔日本ベリサイン事件〕
裁判結果  一部認容  上訴等  控訴  文献番号  2010WLJPCA12278016

要旨
◆被告会社による内部監査室長である原告への懲戒処分は合理的な懲戒理由を欠き社会通念上認められないからこれによる減給処分は無効であること、その後に被告会社が原告との信頼関係喪失を理由になした解雇も無効であることを認定判示して、減給前の差額賃金請求並びに雇用契約上の地位確認及び解雇後の賃金請求を認容したが、月例給与の減額無効を理由とする差額賃金請求は給与引上げがなされたことを前提とする原告の主張を認めることはできないとして、上記懲戒に伴う減給処分に対する不法行為を理由とする慰謝料請求とともにいずれも棄却した事例

裁判経過
控訴審 平成24年 3月26日 東京高裁 判決 平23(ネ)726号 賃金等請求控訴事件 〔日本ベリサイン事件〕

評釈
慶谷典之・労働法令通信 2240号16頁

参照条文
労働契約法16条
民法709条
民法710条

裁判年月日  平成22年12月27日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平21(ワ)7808号
事件名  賃金等請求事件 〔日本ベリサイン事件〕
裁判結果  一部認容  上訴等  控訴  文献番号  2010WLJPCA12278016

神奈川県鎌倉市〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 大塚一郎
同 千葉友美
東京都中央区〈以下省略〉
被告 Y株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 角山一俊
同 檀柔正
同 沢崎敦一
同訴訟復代理人弁護士 奥野信之

 

 

主文

1  被告は,原告に対し,3万6585円及びこれに対する平成21年1月24日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2  原告が被告に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
3  被告は,原告に対し,平成21年9月25日から本判決確定の日まで,毎月25日限り1か月92万0900円の割合による金員及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
4  原告のその余の請求をいずれも棄却する。
5  訴訟費用は,これを20分し,その11を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
6  この判決は,第1項,第3項に限り,仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求
1  主文第1項,第2項同旨
2  被告は,原告に対し,400万円及びこれに対する平成20年12月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3  被告は,原告に対し,347万4600円及びうち57万9100円に対する平成21年3月26日から,うち57万9100円に対する同年4月26日から,うち57万9100円に対する同年5月26日から,うち57万9100円に対する同年6月26日から,うち57万9100円に対する同年7月26日から,うち57万9100円に対する同年8月26日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
4  被告は,原告に対し,平成21年9月25日から本判決確定の日まで,毎月25日限り1か月150万円の割合による金員及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
1  本件は,原告が被告に対し,①平成20年12月16日付け減給処分は懲戒事由がないのにされた違法な懲戒処分であると主張して, 原被告間の雇用契約に基づき,差額賃金3万6585円及びこれに対する支払期日の翌日である平成21年1月24日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金, 不法行為に基づく損害賠償請求として,慰謝料300万円及び弁護士費用100万円の合計400万円及びこれに対する不法行為の日である平成20年12月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求め,②原告の同意がないにもかかわらず,月例給与が150万円から92万0900円に減額されたとして,同雇用契約に基づき,差額賃金合計347万4600円及び平成21年3月から同年8月まで毎月57万9100円に対する各支払期日の翌日である上記各月26日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,③被告の原告に対する平成21年7月29日付け解雇の意思表示は,解雇権の濫用に当たり無効であるとして,同雇用契約に基づき, 雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認, 平成21年9月25日から本判決確定の日まで毎月25日限り1か月150万円の割合による未払賃金及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める事案である。
2  前提事実(証拠等の掲記のない事実は争いがない。)
(1)  当事者
被告は,情報通信ネットワークにおける暗号技術を用いた当事者の登録,確認(認証)業務並びに通信情報の確認(認証)業務等を目的とする株式会社である。
原告(昭和29年○月○日生の男性)は,平成17年7月6日に正社員として被告に雇用され,同月27日以降,内部監査室長として勤務し,平成21年3月1日付けで代表取締役付部長代理に異動となり,同年8月31日の時点においても,同職位にあった者である。
(2)  a株式会社の子会社化
平成17年当時,被告は,総合的な情報セキュリティサービスプロバイダーとしてサーバ証明書発行サービスや法人向け電子認証局運用のアウトソースサービスを中心に事業拡大を図っていたところ,a株式会社(以下「a社」という。)は,リモートオペレーションセンターを通じた運用監視,障害対応,運用代行等のアウトソーシングサービスを営んでいた。
そこで,被告は,a社の株式を取得して同社を子会社化することによって,顧客向け運用サービスの充実,効率化を図ることができると考え,同年9月30日,取締役会において,a社の株式を約60億円で取得し,同社を子会社化することを決議し,同年10月には,買収手続のすべてが完了した。
ところが,被告は,平成18年5月ころから,取締役会において,a社の買収に関する減損処理について検討するようになり,平成20年1月25日には,取締役会において,第12期会計年度(平成19年1月1日から同年12月31日まで)の連結決算でのれん減損損失35億1300万円を特別損失として計上することを決定し,第12期会計年度の最終損益として,連結当期純損失25億9200万円が計上され,平成20年2月6日,決算短信においてその旨が発表された。(乙2,弁論の全趣旨)
(3)  雇用契約の締結
原告は,平成17年7月6日,被告との間で,要旨,以下の内容の雇用契約を締結し,同月27日以降,被告において就労した。
ア 期間 定めなし。ただし,定年退職の場合,満60歳の誕生月の末日を退職日とする。
イ 配属部署 内部監査室
ウ 役職 内部監査室長
エ 給与 給与は,年俸制(変動要素を含む。以下,当該年俸制の下での給与総額を「基準年俸」という。)とし,入社時の基準年俸を1200万円とする。基準年俸は,月例給与と賞与とに分けて支給する。
オ 月例給与 月例給与は,基準年俸の17分の16を12分割した94万1200円とする。ただし,勤務日数が1か月に満たない場合は,日割計算とする。
カ 支払方法 当月末締め25日払い
キ 就業場所 東京オフィス。ただし,従事する業務により変更することがある。
(4)  就業規則の定め
ア 平成21年4月1日改定実施前の被告の就業規則(平成18年1月1日改定実施。甲2。以下「改定前就業規則」という。)には,以下の規定がある。
「第46条(服務の心得)
社員は職場の秩序を保持し,業務の正常な運営を図るため,次の各号の事項を遵守しなければならない。
1)略
2)職務の権限を越えて,専断的なことを行わないこと
3)ないし13)略
14)本就業規則その他諸規程を遵守すること
15)前各号のほか,これに準ずるような社員としてふさわしくないことを行わないこと
第53条(懲戒)
社員が次の各号の一つに該当する場合は,次条により懲戒を行う。
1)ないし9)略
10)会社の指示命令,通達に従わず,または上司への報告義務を怠ったとき
11)業務上不当な行為または失礼な行為をしたとき
12)略
13)本規則,その他会社の定める諸規程に違反したとき
14)略
15)前各号に準ずる行為をしたとき
第54条(懲戒の種類および程度)
懲戒は,その情状により,次の6区分に従って行う。
1)譴責:訓戒書を交付し,または始末書を提出せしめ,将来を戒める。
2)減給:訓戒書を交付し,または始末書を提出せしめ,給与または賞与を減じて将来を戒める。ただし,減給1回の額は平均給与の半日分以内とする。以下略。
3)略
4)降格:訓戒書を交付し,または始末書を提出せしめ,下位のグレードに引き下げる。
5)及び6)略
2  略」
イ  被告の就業規則(平成21年4月1日改定実施。乙40。以下,単に「就業規則」という。)には,以下の規定がある。
「第42条(解雇)
社員が次の各号の一つに該当する場合は解雇する。
1)略
2)就業状況が不良により,あるいは技能または仕事の能力が甚だしく劣り一定期間の改善指導をおこなっても職務遂行上必要な水準まで上達する見込みがないと認められるとき
3)略
4)事業の縮小または合理化の必要により剰員となり,他に適当な配置箇所がないとき
5)及び6)略
7)協調性に欠け,社内の調和を乱す者と会社が判断したとき
8)役職,職務,成果を約して雇用した者が,目標を達成できなかったとき
9)略
10)前各号に準ずる解雇に相当する合理的な事由があるとき」
(5) 内部統制システムの構築の基本方針
被告は,会社法362条4項6号,同法施行規則100条3項2号に基づき,被告の取締役会において内部統制システムの構築の基本方針(甲6。以下「基本方針」という。)を定めている。基本方針においては,監査役の職務を補助すべき使用人の懲戒について,監査役会の同意を得るものとするとされている。
(6) 原告の賃金の推移
原告の賃金の推移は,以下のとおりである。
ア  平成17年度(同年7月27日から同年12月31日まで)
(ア) 基準年俸 1200万円
(イ) 月例給与 基本給94万1200円
(ウ) 賞与 基準年俸の17分の1を基準として業績に応じて8月と2月に支給
イ  平成18年度(同年1月1日から同年12月31日まで)
(ア) 基準年俸 1200万円
(イ) 月例給与 基本給94万1200円
(ウ) 賞与 基準年俸の17分の1を上期(1月から6月まで)と下期(7月から12月まで)とに分け,各目標達成評価に応じて支給
ウ  平成19年度(同年1月1日から同年12月31日まで)
(ア) 想定年収 1236万円
(内訳) 基本年俸 上期568万5600円,下期556万2000円
賞与 上期49万4000円,下期61万8000円(ただし,100%目標を達成した場合の想定賞与)
(イ) 月例給与 基本給上期94万7600円,下期92万7000円
(7) 減給等
ア  被告は,平成20年12月16日付けで,原告に対し,改定前就業規則54条1項2号に基づき,平成21年1月分給与において3万6585円の減給処分とし(減給1回。0.5日分),平成20年12月19日までに始末書を提出するように命じた(以下「本件減給処分」という。)。
本件減給処分に係る懲戒処分通知書(甲1)には,本件減給処分の理由として,原告が,①平成20年6月24日に代表取締役から直接明確な業務命令があった件について,既退職者2名とともにその命令に反する業務に携わり,外部業者への発注についてその状況を認識していながら上司への報告をせず,そのようなことはないと虚偽の供述をし,②同年7月23日前後にその外部業者からの成果物の内容を閲覧していたにもかかわらず上司への報告を行わず,③同年8月18日ころに原告宛に届いたかかる請求書について,主管が法務部であるにもかかわらず,かつ,かかる支払処理を促すことを目的に,当該成果物の被告としての受領を確認していないのに,それらが完了したことを示唆するコメントを当該請求書に記載した結果,外部業者への発注及び納品について,主管部門あるいは被告として認識のない状況となり,その成果物についても被告内においては未だ不明であり,その内容を被告として認識,検証していないにもかかわらず,これを外部マスコミの者が被告の文書として保持していることが確認されるといった極めて深刻な状況を招いているところ,原告の上記各行為は,改定前就業規則46条2号に違反し,同規則53条10号,11号,13号の懲戒事由に該当するから,結果的にもたらされた深刻な状況及び内部監査室長の職にある者が行った行為であることを総合的に考慮して,原告を減給処分とする旨の記載がある。
イ  原告に対しては,平成20年4月から平成21年2月まで,毎月25日を支払期日とする賃金として月額150万円が支給されたが,被告は,平成21年3月10日,原告に対し,平成21年度(同年1月1日から同年12月31日まで)の賃金を想定年収1300万円(基本年俸:1105万円,賞与:195万円,月例給与[基本給]92万0900円,賞与:半期97万5000円)と決定した旨通知し(甲13),同年3月から同年8月まで,各支払期日において月額92万0900円を支給した(以下「本件給与減額」という。)。
(8) 解雇の意思表示
被告は,平成21年7月29日付け解雇通知をもって,原告に対し,同年8月31日付けで解雇する旨の意思表示をした(以下「本件解雇」という。)。
そして,本件解雇に係る解雇理由証明書(甲31)には,「原告は,内部監査室長として被告に採用されたが,内部監査室長として与えられた業務を適切に遂行することができなかったことその他諸々の事情から,被告及び親会社の現経営陣,監査役会や財務部門等,内部監査室長として業務を遂行する上で,信頼関係,協力関係を築くことが不可欠の部門からの信頼を著しく失い,内部監査室長として業務を遂行することが困難な状態となった。被告において,原告の経歴等をも考慮し,原告に担当してもらう業務の有無を検討したが,被告にはそのような業務は存在していない。したがって,原告に被告に復帰して業務を遂行してもらうことは現実的な選択肢ではなくなった。更に,被告が退職パッケージを用意し,円満退職を勧めるも,これに応じてもらえず,現状を総合判断して,原告の雇用を継続することが極めて困難となったことを理由として解雇することとなった。これらの事情は,就業規則42条2号,4号,7号,8号,10号に該当する。」旨の記載がある。
3  争点及び当事者の主張
(1)  本件減給処分の効力
(被告の主張)
以下のとおり,原告には,改定前就業規則53条10号,11号,13号所定の懲戒事由に該当する事実が存在するから,本件減給処分は有効である。
ア 業務命令違反(改定前就業規則53条10号)
(ア) 平成20年6月24日,被告代表取締役B(以下「B」という。)は,森・濱田松本法律事務所において,内部監察室長原告のほか,執行役員管理本部長C(以下「C管理本部長」という。)及び執行役員法務部長D(以下「D法務部長」という。)に対し,口頭で,「あなたたちは,旧経営陣を訴えることを法律事務所に依頼したが,a社の買収と旧経営陣の問題は,代表取締役である自分が判断するので,独断で動いてはならない。もし今までにこれに関する活動を行っているなら,今ここですべて報告するように。特に東京証券取引所等第三者と連絡を取っている者があれば,今ここですべて報告するように。」との業務命令を発した(以下,当該業務命令を「本件業務命令」という。)。
原告は,同月23日ころには,C管理本部長及びD法務部長と共に,a社買収問題に関連して,b株式会社(以下「b社」という。)に対してレポートの作成を発注していながら(以下,当該発注に係るb社作成のレポートを「b社レポート」という。),同月24日の時点において,これをBに報告しなかった。
(イ) 原告は,同年7月23日ころ,b社を訪問し,b社レポートの内容を確認したにもかかわらず,これを被告に報告しなかった。
(ウ) 原告は,同年8月18日ころ,b社からb社レポートに関する請求書を受け取ったにもかかわらず,所定の会計処理を履践せず,当該請求書について被告に報告しなかった。
(エ) 原告の上記(ア)ないし(ウ)の各行為は,本件業務命令に違反し,内部監察室長としての報告義務等に違反しているから,改定前就業規則53条10号に該当する。
イ 業務上の不当行為(改定前就業規則53条11号)及び越権行為(同規則46条2号,同53条13号)
(ア) 被告においては,物品及びサービスに係る経費の支払については,原則としてすべて購買部が発注品書と納品書と請求書の3点を照合して行うこととされており(3 Way Matching。以下「3WM」という。),機密性が極めて高く購買部に発注や成果物の具体的内容を開示することが適当でない顧問料や弁護士費用等が,例外的に購買部の3WMによらないで経費処理することが認められているにすぎないところ,原告は,b社レポートの代金の支払につき購買部の3WMによる通常の経理処理プロセスに載せて処理すべきであったにもかかわらず,b社の請求書に,「本件,『SR社買収』に係る森・濱田松本法律事務所への調査に関連した『調査費用』です。C氏退社の為,代理確認いたします。内部監察室長 X」と記載し,購買部の3WMによる通常の経費処理プロセスから逸脱させ,平成20年8月19日ころには,被告をして,b社に対してb社レポート代金470万1637円を支払わせたため,被告は,同額の損害を受けた。
(イ) 原告の上記(ア)の行為は,業務上,不当な行為であり,内部監査室長としての権限を越えた行為であるから,改定前就業規則46条2号,53条11号,13号に該当する。
ウ 原告は,本件減給処分について被告の基本方針違反を指摘するが,原告は,平成20年10月24日開催の監査役会において,監査役の職務を補助すべき使用人の地位を解かれたから,本件減給処分の当時,監査役の職務を補助すべき使用人ではなかった。したがって,被告には,基本方針違反はない。
(原告の主張)
本件減給処分は,改定前就業規則53条10号,11号,13号所定の懲戒事由に該当する事実がないにもかかわらずされたものであるし,原告が監査役の職務を補助すべき使用人であるのに,基本方針所定の監査役会の同意を得ていないから,無効である。
(2)  不法行為の成否
(原告の主張)
本件減給処分は,改定前就業規則所定の懲戒事由がない上,基本方針違反という手続的相当性を欠いてなされた違法な処分であるから,不法行為を構成するところ,本件減給処分によって原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料は300万円を下らないし,弁護士費用100万円は,当該不法行為と相当因果関係にある損害である。
(被告の主張)
否認ないし争う。
(3)  本件給与減額の可否
(原告の主張)
ア 被告は,平成20年4月1日付けで,原告の平成20年度(同年4月1日から平成21年3月31日まで)の賃金について,以下のとおり決定した(以下「本件給与引上げ」という。)。
(ア) 想定年収 1980万円
(内訳) 基準年俸 1800万円
賞与 180万円(基準年俸の10%を基礎とし,達成した業績に応じて支給する。)
(イ) 月例給与 基本給150万円
イ 被告は,いったんは本件給与引上げをしたものの,原告の同意がないにもかかわらず本件給与減額をしており,本件給与減額は,一方的な労働条件の切下げであり,無効である。
(被告の主張)
執行役員及び本部長以上の従業員以外の従業員の労働条件に関する方針の決定には社長(代表取締役)の決済が必要であるにもかかわらず,本件給与引上げは,当時の代表取締役であったBの決済を経ずして行われたものであり,もとより無効であるから,本件給与減額は,原告の賃金を従前の賃金水準に是正したにすぎず,有効である。
(4)  本件解雇の効力
(原告の主張)
原告は,被告の内部監査室長として適切に業務を遂行し,被告の改定前就業規則及び就業規則に違反することなく勤務してきたのであるから,本件解雇は,解雇理由がないのにされたものであり,無効である。
(被告の主張)
以下のとおり,本件解雇は,客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当と認められるから,有効である。
ア 原被告間の信頼関係の喪失
(ア) 内部監査の不遂行
原告は,内部監査室長として,毎年,内部監査計画を立案し,当該計画に従い内部監査を実施する責任を負っていたにもかかわらず,平成20年上期(1月から6月まで)について,内部監査計画を作成せず,内部監査を全く実施しなかった。被告は,再三にわたり,内部監査を実施するように口頭で注意したものの,原告は,多忙及び必要性の欠如を理由に従わなかった。また,原告は,同年下期(7月から12月まで)についても,同年8月末になってようやく内部監査計画案の草稿を作成したにとどまり,同年において初めて内部監査が実施されたのは,10月に入ってからであった。
(イ) 内部統制プロジェクト責任者としての職務不達成・責任放棄
被告は,平成19年5月ころ,米国SOX法404条に対応するためのプロジェクトの開始を決定したため,内部監査室長である原告がその責任者に就任した。ところが,原告は,当時の被告最高経営責任者(CEO)E及び最高財務責任者(COO)Fからの具体的な指示がなかったなどとして,同プロジェクトについて何も行わず,同プロジェクトが著しく停滞したため,被告は,平成20年5月30日,原告を同プロジェクトの責任者から更迭した。
また,被告は,同月9日付けで,リバンププロジェクト(Revamp Project)という名称のプロジェクトの一環として,米国SOX法対応目的で現行業務プロセスを再検討し,業務効率の改善を図るとともに,IBMに外注してそれに伴う関連ITシステムの再構築を行うという内容のプロジェクトを開始した。原告は,同プロジェクトの責任者及びリバンププロジェクト全般のプロジェクトオーナー代行に任命されたが,部下であるGに対して威圧的態度で臨むなどしてコミュニケーション上のトラブルを引き起こし,コンサルティング会社も適切に活用できなかったため,同年7月末の時点で,被告から上記責任者及びプロジェクトオーナー代行の地位から退くように勧告され,受け入れた。
以上のように,原告は,内部監査室長として,各種プロジェクトを的確に進めることができず,各責任者の地位から更迭されたにもかかわらず,全く反省しなかったため,原告と被告との信頼関係は決定的に破壊された。
(ウ) 不正な給与引上げの看過及び職務放棄
被告においては,平成20年4月及び同年6月に,取締役会又は社長(代表取締役)等の権限のある機関の承認を経ずに,執行役員等の給与が不正に引き上げられたが,原告は,その当時,内部監査業務を一切行わず,その問題性を意識していながら,本件給与引上げを含む上記給与引上げの適否について調査せず,これを看過し放置した。
(エ) 内部監査室長としての資質の欠如
原告は,平成20年8月28日,被告監査役会において,被告取締役会のC管理本部長及びD法務部長に対する同年7月28日付け退職勧告等決議に関し,自ら作成した「C氏,D氏への退職勧告(7月28日開催取締役会決議)」と題する文書(乙36)に基づき両名に対する退職勧告に懸念を表明したが,同文書は,当該退職勧告決議等の事由となった事実についての確認をせずに作成されたものであり,被告からその回収を命ぜられるなどしたため,被告は,原告に対する不信感を強めた。また,同年10月24日開催の監査役会においても,原告の内部監査室長としての資質に疑問がある旨の発言があり,原告は,監査役の職務を補助すべき使用人の地位を解かれた。
(オ) 平成20年12月3日のミーティングにおける無責任な発言
被告は,平成20年11月10日付け「Xさんへの質問」と題する文書(乙37)を原告に交付し,SOX法404条への対応を放置したことや執行役員の不正な給与引上げについて被告に報告しなかったことなどについて質問したところ,原告からは,同月18日付け文書(乙38の1)をもって,自らの対応に非はない旨の回答がされた。被告は,同年12月3日,原告の上記文書に基づき,原告との間で,ミーティングの機会を設けたが,原告は,自らの責任を他人に転嫁するなどして無責任な発言に終始した。
(カ) 自らの過ちを素直に認めない態度
原告は,平成20年12月3日及び同月10日において,被告に対して本件業務命令違反を認めたにもかかわらず,これに基づき本件減給処分がされると,前言を翻し,自己を正当化する主張を繰り返した。
(キ) 平成20年度評価
平成21年2月ころ,原告について,平成20年度のパフォーマンス評価がされたが,上期(1月から6月まで)の評価は,シフトチームの構成員(SHIFT TEAM Member)としての業務については3(目標/期待を達成)であったが,内部監査については1(目標/期待水準に大きく未達),リバンププロジェクトの責任者(Revamp Project Acting Owner)としての職務については2(目標/期待水準に未達)であり,下期(7月から12月まで)の評価は,内部監査については3であったが,シフトチームの構成員(SHIFT TEAM Member)としての業務については1であった。上記各評価に基づく総合評価は,1.5点でCランク(下位から2番目のランクに当たる。)であり,平成20年度の原告の評価は低調であった。
イ 原告の担当可能な業務の不存在
被告は,上記アの諸事情にかんがみ,原告を内部監査室長から更迭することとし,平成21年2月27日付けで,原告に対し,代表取締役付部長代理への異動とともに,自宅待機を命じた。その後,被告は,新たに原告に担当させる業務を検討したものの,原告が被告の信頼を失っている状況では,被告において,原告の経歴・能力をいかすことができる業務は存在しない。
ウ コンプライアンス違反の指摘
原告は,平成21年3月17日,原被告双方代理人間の話合いの際,代理人弁護士を通じて,被告に対し,被告には,重大なコンプライアンス違反がある旨指摘したものの,被告の求めにもかかわらず,具体化することができず,被告を脅迫したものと理解せざるを得ない。
エ 解雇回避努力
上記アないしウの諸事情に基づき,被告は,原告に対し,原告の解雇を回避するために,被告の提示する退職パッケージの支払と引換えに自主退職することを打診しつつ,話合いの機会を持つことを提案したものの,原告は,これを拒否したため,本件解雇をしたものである。
オ まとめ
上記アの諸事情は,就業規則42条2号,7号,8号,10号に,イ及びエの各事情は,同条4号,10号に,ウの事情は,同条7号,10号にそれぞれ該当し,本件解雇は,客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当であるから,有効である。
第3  争点に対する判断
1  争点(1)(本件減給処分の効力)及び争点(2)(不法行為の成否)について
(1)  前記第2の2の前提事実に加えて,証拠(各事実末尾掲記の各書証,甲66,乙60,67の1・2,証人B,原告本人,被告代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。
ア 被告は,代表取締役社長E(以下「E前社長」という。)及び代表取締役副社長Fの任期満了退任に伴って,平成20年2月27日,同年3月21日開催の株主総会で選任予定の新経営陣のために,被告の経営の円滑,正当,かつ一貫性を維持した業務執行の移管に必要な業務を遂行する目的で,「VSJ経営移行チーム」(以下「シフトチーム」という。)を発足させた。シフトチームの主な役割は,①新経営陣の委嘱の下,ベリサイングループの経営方針と戦略を基本として,被告の重要な経営及び業務執行の事前確認と意思形成を行い,新経営陣への報告と助言を行うこと,②チームメンバーは,執行役員会議に出席して,①記載の事前確認と意見形成を行い,その結果を新経営陣へ報告すること,③本目的のためにチームメンバーは,必要に応じた被告役員・社員への照会と質問を行うことであった。シフトチームのコアメンバーは,C管理本部長を代表とし,D法務部長,原告ほか1名の4名であった。(乙6)
イ 被告においては,同年3月21日付けで3名の取締役及び1名の常勤監査役が退任し,同日開催の株主総会において,B及びH(以下「H取締役」という。)ほか3名が取締役に,I(以下「I監査役」という。)が常勤監査役に,ロビン.D.シスコが監査役にそれぞれ選任され,その後に開催された取締役会において,Bが代表取締役に選任された(乙3ないし5)。また,同日開催の株主総会においては,被告が第12期会計年度の連結決算でa社の買収に関するのれん減損損失35億1300万円を特別損失として計上したことについて,株主からa社の買収価格の適正性についての質問が相次いだため,Bは,同総会後の会社説明会において,買収価格の決定の際に依頼した第三者評価機関に対する守秘義務との関係上,買収価格の公表が可能か否か調査し,可能な範囲で回答する旨を説明し,a社買収問題に関し,必要な範囲で調査することを決定した(乙51の1・2)。
ウ Bは,同月25日,I監査役及びC管理本部長に対し,主として,①当該評価機関との間の守秘義務契約の存否,②当該守秘義務契約の対象となる事項の範囲,③当該守秘義務契約の締結の経緯及びその効力等について検討するため,法律事務所を選定することを指示した(乙19の1・2)。
エ 被告は,同年4月4日開催の臨時取締役会において,C管理本部長及びD法務部長ほか3名の計5名を執行役員に選任するとともに,シフトチームを再編し,早期解決すべき社内横断的な経営課題を解決すべく活動させることを目的として,前記コアメンバーの4名に加えて,H取締役ほか3名をシフトチームの新たなメンバーに加えた(乙7,8)。
オ H取締役は,同月11日,Bに対し,旧経営陣によるa社買収の際の買収価格が不当に高額であったとして,株主等から新経営陣に対して提起される虞のある訴訟に対処するために必要なあらゆる行動を行うべきであり,専門の事実調査チームを編成し,旧経営陣に対する質問等を開始するように提案した(甲18)。これに対し,Bは,a社買収問題への対処方法については,慎重に検討すべきであると考えており,同年5月20日,H取締役に対し,法律事務所に対して前記守秘義務契約に関する調査を超えて委任する業務の範囲については,自ら決定する旨を指示するとともに,法律事務所の選定に関しては,森・濱田松本法律事務所に委任する旨を伝えた(甲19)。
カ D法務部長は,同年6月4日,H取締役及びC管理本部長と共に森・濱田松本法律事務所を訪問し,同事務所に対し,関係資料(乙22の1ないし4)を示し,被告によるa社買収に伴い発生した損失に関し,被告の旧経営陣の責任を追及したいので訴訟提起の検討をしてほしいとの依頼をした。これに対し,同事務所のJ弁護士(以下「J弁護士」という。)は,上記関係資料を検討した結果,同資料を裏付ける客観資料が不足している上,評価額の大きく異なる二つの株価評価根拠資料が存在し,どちらの評価が妥当であるのか判断できなかったため,D法務部長に対し,勝訴の蓋然性がない状況で訴訟提起することはできないことなどを伝える一方,訴訟提起の件とは別に,a社買収に伴い発生した損失の減損処理の時期に関して,金融庁,証券取引等監視委員会,東京証券取引所等から平成19年度の決算で処理すべきであった減損の先送りがあると見られた場合には,調査を受けて課徴金納付命令を受けたり,上場規則上の不利益処分を科されたりする虞があるため,十分な留意が必要であることなどを伝えた。また,その際,J弁護士は,D法務部長に対し,当時の意思決定関係の資料及び買収関係当事者のリストの収集・整理に加えて,買収価格の決定に関する専門家・専門業者の検討等を依頼した。そこで,D法務部長は,翌5日,a社買収前後の事情をよく知る内部者として原告を同行して上記法律事務所を訪問し,J弁護士と面談したが,J弁護士は,訴訟提起の可否の判断の決め手となるような証拠や情報を得ることはできなかったため,D法務部長に対し,改めて買収当時の当事者に対する事情聴取を早急に実施し,その結果を報告するように依頼した。(甲22,乙62)
キ D法務部長は,同月9日ころ,J弁護士に対し,同年9月末に臨時株主総会を開催し,a社買収について責任のあった役員の解任を検討している旨説明し,そのための手続調査を依頼したところ,J弁護士は,同月17日,「取締役・監査役の終任(辞任・解任)等の件」と題する文書を作成し,D法務部長に送付した。J弁護士は,当該文書において,実務上の留意点として,取締役・監査役を株主総会において解任することは,不祥事によって失墜した信用を早期に回復するといったメリットもある一方で,経営の混乱という印象を対外的に与える危険もあるから,大株主の意向も踏まえ,当該取締役・監査役に自主的な辞任を求めるのが一般的であり,株主総会を開催しての解任議案の付議には,慎重な検討を要する旨指摘した。(乙17,62)
ク H取締役は,同月13日,Bに対し,a社の買収に関する減損処理の遅れの問題性を指摘するとともに,旧経営陣に対する責任追及訴訟に可及的速やかに確実に勝訴すること,責任あるすべての現在及び過去の取締役並びに監査役を解任することなどを提案した(甲20,乙24)。
ケ D法務部長は,同月19日,Bに対し,C管理本部長及び原告ほか1名の4名連名で電子メールを送信し,①a社の買収に関する減損処理については,金融商品取引法又は東京証券取引所の上場規則に違反する可能性があること,②a社の買収に関係した旧経営陣に対し,責任追及訴訟を提起するとともに,当時の役員の解任等を至急行うべきであること,③被告代表取締役A(以下「A」という。)及びH取締役は,当該問題について十分な能力を欠くため,解任すべきであることなどの意見を述べた(乙45の1・2)。
コ J弁護士は,同月20日,再度,D法務部長と面談し,被告における関係者の事情聴取の進捗状況を確認したところ,E前社長及びF前副社長等の当時の経営責任者の事情聴取も行われていない上,その他の資料の作成も進んでおらず,追加情報もなかったため,D法務部長に対し,事実調査が進まない限り訴訟提起はできないこと,弁護士は株価評価の専門家ではないため,買収価格の妥当性について判断することができず,第三者による客観的評価が存しない限り,提訴可能性の判断すら不可能であることを伝えた(乙62)。
サ Bは,同月24日,H取締役,D法務部長,C管理本部長及び原告と共に森・濱田松本法律事務所を訪問し,K弁護士(以下「K弁護士」という。)及びJ弁護士と面談した(以下「本件面談」という。)。Bは,別室において,まず一人で,K弁護士及びJ弁護士と面談し,両弁護士に対し,これまでの事実経過を確認したところ,両弁護士から,D法務部長からa社買収に関して旧経営陣の提訴及び関係役員の解任の準備等を依頼されているなどの説明を受けたため,両弁護士に対し,a社買収に関しては,役員の利益相反行為でもない限り,当該役員に対する責任追及訴訟を提起したいとは思わないし,同年9月末に開催予定の臨時株主総会において,役員の解任は予定されていない旨を伝えた。(乙62)
シ K弁護士及びJ弁護士は,D法務部長の説明とは異なり,Bが旧経営陣に対する責任追及訴訟の提起等に消極的であることに驚いたものの,Bから,E前社長に対してa社の株価評価及び売主との間で合意した価格に関する決定手続・方法等について事情聴取するための原稿を作成する以外には,更なる対応を取らないようにしてほしいと改めて指示を受けたため,同指示を受け入れ,その後は,上記原稿の作成以外の対応をしていない。その一方で,両弁護士は,同年7月26日付けのB宛電子メールにおいて,被告がa社買収に関して旧経営陣に訴訟提起すべきとのアドバイスはできないこと,平成18年度にa社買収に伴う損失を減損処理しなかったことについて,被告や役員及び会計士の法的責任がないことになるわけではないことを注意すべきであることなどを指摘した。(乙27の1・2,62)
ス 他方,C管理本部長は,J弁護士からa社の買収価格に関する第三者による客観的評価の必要性を指摘されたことから,同年6月23日,D法務部長とともにb社を訪問し,b社に対し,a社の買収価格の合理性についての分析・評価を依頼することとし,同月24日,関係資料を送付するとともに,同日,b社から提案見積書(乙10)の送付を受けたため,同月25日,b社に対し,上記分析・評価を正式に発注した(乙9,11)。
セ Bは,同年7月22日,上記ケの電子メールに回答する形で,D法務部長,C管理本部長及び原告ほか1名の計4名に対し,被告が東京証券取引所に対して開示すべきことがあるか否か,旧経営陣を訴追する必要があるか否かについての意見を求め,従前の意見に変更がない場合にAと共にどのようにして働くことができるか質問するとともに,Aをサポートできない場合には,やむを得ず辞職を受け入れざるを得ない旨指摘し,D法務部長に対し,旧経営陣を訴追し,a社買収に関与した者を全員退任させるべきとする意見は重大な間違いである旨指摘したところ(乙46の1・2),D法務部長,C管理本部長及び原告からは,旧経営陣に対する責任追及の意思はない旨の回答があった。
ソ b社は,上記発注に基づく分析・評価の作業を開始し,同年7月23日,b社を訪問したC管理本部長,D法務部長及び原告は,成果物であるb社レポートの内容を確認した。C管理本部長は,同月25日,b社からa社の企業価値評価報告書の電子ファイル(PDF)を電子メールの添付書類として受領し,同月28日,D法務部長及び原告のほか,法務部職員L(以下「L」という。)にも転送した。(甲24,乙11)
タ b社は,同年8月18日,C管理本部長宛にb社レポート作成に関する請求書を送付したものの,C管理本部長は,同年7月28日ころに退職し,被告に在籍していなかったため,原告は,同年8月19日ころ,同請求書に「本件,『SR社買収』に係る森・濱田松本法律事務所への調査に関連した『調査費用』です。C氏退社の為,代理確認致します。内部監査室長 X」と記載してLに請求書を手渡した。Lは,同日,発注書・納品書・請求書の照合をして同請求書を会計処理した。(乙12の1・2,12の1の2)
チ Aは,同年11月18日,ブルームバーグの記者からの取材をきっかけとして,ブルームバーグが何らかの方法で被告の関係者から流出した可能性のあるb社レポートを所持していることを知って,初めてb社レポートの存在そのものを知り,急遽,社内調査を実施したところ,前記のとおりのb社レポートの発注から受領までの経緯が明らかになった。
ツ 被告主張に係る本件業務命令については,業務命令書又は指示書等の文書は存在せず,原告のほか,C管理本部長及びD法務部長は,本件業務命令の存在を争っている(甲16,17)。
(2)  上記(1)の事実関係を前提として,本件業務命令の存否及び本件業務命令に係るBの発言の評価等について検討する。
被告の主張によっても,本件業務命令は,Bが本件面談においてH取締役,C管理本部長,D法務部長及び原告ら出席者に対して口頭でされたというものであり,これを直接裏付ける証拠としては,Bの供述及び陳述書(乙67の1・2)が存在するのみである。
この点,確かに,a社買収に関与した旧経営陣に対する責任追及について,Bは,一貫して消極的態度を示し,H取締役,C管理本部長又はD法務部長ほかの取締役や執行役員に対し,訴訟提起の準備をするように指示したことはなかったにもかかわらず,新経営陣の経営方針に対して助言可能な立場のシフトチームのメンバーでもあったH取締役,C管理本部長及びD法務部長は,a社買収を巡る問題を深刻に受け止め,Bからa社買収時の買収価格の開示の可否等に関する調査を指示されたことから,独自に,森・濱田松本法律事務所に対して旧経営陣に対する訴訟提起の準備等を依頼したため,本件面談においてH取締役,C管理本部長及びD法務部長の方針や行動経過を覚知するに至ったBが,自らの方針とは相いれない同人ら及び原告を名宛人として本件業務命令に類する趣旨の発言をした可能性もないとはいえない。
しかし,本件業務命令については,その後に改めて発令されたり,正式の業務命令書や指示書等の形で文書化されたりすることもなかったし,本件面談に立ち会ったJ弁護士も,本件業務命令の存在については直接言及していない上(乙62),原告のほか,C管理本部長及びD法務部長は,いずれも本件業務命令の存在そのものを争っているのであるから,上記(1)の事実関係を前提としても,本件面談において本件業務命令のとおりの文言内容の業務命令を発したとするBの上記供述等を直ちに採用することはできないといわざるを得ない。
もっとも,上記(1)の事実関係を前提とすれば,本件業務命令に類する何らかのBの発言があった可能性もあるが,本件面談の際にK弁護士及びJ弁護士からBに伝えられた問題意識からは,法的には,旧経営陣に対する責任追求よりもa社買収に係る損失の減損処理の時期の遅れが問題となる可能性が高く,その場合,東京証券取引所の上場規則上の制裁を科されるという重大な事態にもなりかねないため,Bは,H取締役,C管理本部長,D法務部長及び原告に対し,東京証券取引所との接触の有無に重点をおいた質問をするとともに,東京証券取引所に対する接触等を禁ずる趣旨の発言をし,原告ほか3名もBの発言をその限度で理解し,それを前提として当該発言に対して「何もない」旨の回答をした可能性もあり(原告本人の供述中,これに沿った供述部分がある。),結局のところ,本件業務命令の文言内容のとおりの業務命令の存在まで認定することはできないといわなければならない。
したがって,本件業務命令の存在を前提とする被告の主張は,前提において失当であり,採用することができないといわなければならない。
被告は,原告が平成20年12月3日のAらとの面談及び同月10日のBとの面談において本件業務命令の存在を前提として,自らの間違いを認めていた旨主張し,被告代表者本人及びBは,これに沿った供述及び陳述(乙60,67の1・2)をしている。しかし,上記各面談は,被告代表者Aないし元代表者Bが,b社レポートの流出問題についての原告の関与を疑い,人事上又は懲戒手続上の処分を念頭にその弁明を聞く趣旨で開催されたものと評価され,面談の性質上,質問者であるAないしBと原告との間には,査問する上司と査問される部下との間の力関係の大きな相違があったこと,各面談は,いずれも本件業務命令があったとされる同年6月24日から5か月以上経過した時期に行われたものであり,本件面談に関する原告の当時の記憶も不明確であったことが容易に推認されること,原告とAないしBとの上記関係及び原告の記憶状態等を前提として,各面談の会話内容を録取・再現した証拠(乙42,68の1ないし3)を点検すれば,原告は,必ずしも自ら本件業務命令の存在を明確に認めているわけではなく,AないしBによる本件業務命令の存在を前提とした質問に対して迎合的に応じる形で回答していることが認められるにとどまることなどに照らせば,上記各面談における原告の発言をもって,直ちに本件業務命令の存在を認めることはできないといわなければならない。
(3)  被告は,仮に本件業務命令が存在しなかったとしても,原告が内部監査室長としての報告義務等に違反した旨主張する。
この点,上記(1)の事実関係によれば,D法務部長及びC管理本部長がb社を訪問したのは,本件面談前日の平成20年6月23日であり,b社レポートを正式に発注したのは,本件面談翌日の同月25日であるから,原告は,本件面談の時点において,b社レポートの正式発注を知りようがないし,同月23日の経緯を知っていたことを認めるに足りる証拠もない。したがって,原告には,本件面談の時点における報告義務等違反を認めることができないことは明らかである。
次に,原告が平成20年7月23日にb社を訪問してb社レポートの内容を確認した際及び同年8月19日にb社から請求書を受け取った際の各報告義務等違反の有無について検討する。
この点,本件業務命令の存在が認められない場合には,原告は,本件面談の際のBの発言(同人の発言の中には,本件業務命令に類する発言があった可能性もあるが,これを本件業務命令のとおりの内容であると認めることができないのは前記判示のとおりである。)からb社レポート発注の問題性を察知することはおよそ不可能であるといわざるを得ないし,そもそもb社レポートを発注したのは,執行役員であるC管理本部長であるところ,本件全証拠によっても,平成20年7月23日及び同年8月19日の当時においても,原告が執行役員の発注したb社レポートについて当該発注の適否ないし当否に疑義を差し挟み,直ちに上司に報告すべきであったとする事情はうかがわれない。また,C管理本部長は,同年7月25日にb社からb社レポートの電子ファイルを受領すると,同月28日には,D法務部長及び原告に加えて,法務部職員Lにも同ファイルを転送し,Lは,同年8月19日付けで当該請求書を会計処理しているのであるから,原告は,被告の執行役員及び法務部(D法務部長はその責任者である。)がb社レポートの存在を当然に認識しているものと理解していたはずである。そうすると,同年7月23日及び同年8月19日の各時点において,原告がb社レポートの存在を問題視することはおよそ不可能であるから,b社レポートの存在について,被告代表者A等の上司に報告しなければならない義務があったとまでは認められないというべきであり,他にこれを認めるに足りる証拠もない。
したがって,同年7月23日及び同年8月19日の時点における原告の報告義務等違反も認めることはできない。
(4)  更に,被告は,原告が,C管理本部長に代わってb社から受け取った請求書に「本件,『SR社買収』に係る森・濱田松本法律事務所への調査に関連した『調査費用』です。C氏退社の為,代理確認致します。内部監査室長 X」と記載してLに当該請求書を手渡したことが,虚偽の記載に基づく不当行為及び越権行為である旨主張する。
しかしながら,本件業務命令の存在を前提としなければ,b社への依頼は,シフトチームのコアメンバーでもあり執行役員のC管理本部長が訴訟準備等を依頼した法律専門家であるJ弁護士の助言の下で行ったものであり,当時の被告代表者Bの方針に合致しないからといって,当該依頼に基づく被告とb社との間の委任契約ないし請負契約が,直ちに無効となるわけではないから,被告には,原則として,当該契約に基づく成果物たるb社レポートの契約上の対価を支払う義務があることは明らかである。そうすると,前記認定の経緯で発注されたb社レポートが,結果として,Bが森・濱田松本法律事務所に最終的に依頼した調査内容の下では不要となり,同事務所の手に渡らず利用されないままとなってしまったとしても,そのことのみから,原告が当該請求書に記載した内容が直ちに虚偽であると評価することはできないし,少なくとも,原告は,当該内容が虚偽であるとは認識していなかったというべきである。
したがって,上記内容が虚偽であることを前提とする被告の主張も失当であり,採用することができないといわなければならない。
(5)  以上によれば,本件懲戒処分は,その存在が直ちには認められない本件業務命令を前提とするものであり,その他,被告主張に係る懲戒事由の存在も認めることができないから,結局のところ,合理的な懲戒事由を欠き,社会通念上相当とは認められないというべきである。
したがって,本件減給処分は無効であるから,被告には,原告に対し,平成21年1月23日を支払日とする差額賃金3万6585円を支払うべき義務がある。
(6)  また,原告は,本件減給処分が違法であり,不法行為を構成すると主張して慰謝料等を請求するが,本件減給処分は,被告が用意する懲戒処分の中でも戒告に次ぐ比較的軽い処分に当たるし,本訴において,本件減給処分の無効が確認され,差額賃金及びこれに対する遅延損害金が支払われることによって,原告の財産的損害は回復されることになるところ,これを超えて原告に慰謝料を認めるべき特段の事情もうかがわれないから,原告の不法行為に基づく損害賠償請求は,認められないというべきである。
したがって,原告の不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。
2  争点(3)(本件給与減額の可否)について
(1)  前記第2の2の前提事実に加えて,証拠(各事実末尾掲記の各書証,甲66,乙60,67の1・2,証人B,原告本人,被告代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。
ア 被告においては,執行役員及び本部長以上の職位の従業員の給与額の決定等を含む労働条件に関する重要な方針の決定については,執行役員会が事前協議し,取締役会が決裁することとされ,それ以外の従業員の給与額の決定等を含む労働条件に関する方針の決定については,執行役員会が事前に協議し,社長が決裁した上,取締役会に報告することとされている(乙18)。そして,Bは,平成20年3月下旬ころには,被告の社長に就任していた。
イ Bは,同月下旬ころ,H取締役及び当時のシフトチームの代表であったC管理本部長との間で,被告の業務に関する全般的な打合せをした際,C管理本部長から同人,D法務部長及び原告の給与引上げを検討すべきである旨の指摘があったため,給与引上げの検討に入ることに同意した。
ウ また,被告人事総務部長M(以下「M人事総務部長」という。)は,同年4月4日開催の臨時取締役会終了後の同月上旬ころに,C管理本部長から,Bの指示であるとして,上記取締役会において執行役員に選任されたC管理本部長,D法務部長ほか2名に加えて,原告の各給与を引き上げるように指示され,C管理本部長作成に係る各人の改定給与額の記載されたメモ(乙16)を手渡された。そこで,M人事総務部長は,執行役員の給与引上げについての取締役会決議及び原告の本件給与引上げについてのBの承認があったものと思い,人事上の所定の事務手続を履践した上,そのころ,原告に対しては,本件給与引上げを通知する旨の被告人事総務部長名義の平成20年4月付け「2008年度給与決定通知書」(甲12)を手渡した。その後,原告及び関係執行役員に対しては,上記給与引上げに基づく金額の各給与の支払がされていたが,被告は,平成21年3月10日,原告に対し,平成21年度の賃金を想定年収1300万円と決定した旨通知した(本件給与減額)。
エ 本件給与引上げが実施されることによって,原告の想定年収は,平成20年4月1日付けで約1200万円から1980万円になり,その引上率は約1.6倍に上ることになる。また,同日付けの給与引上げが実施されることによって,C管理本部長は,想定年収1200万円から2200万円になり,引上率は1.8倍にも上ることになるほか,他の執行役員の引上率についても,軒並み約1.2倍から1.7倍に上ることになる。
オ Bは,平成20年4月28日,移行委員会(シフトチーム)において,H取締役,C管理本部長,D法務部長ほか2名の執行役員らとの間で,不公平な人事評価,給与につき賃金の補填を喫緊に行うべきであり,人件費増加はやむを得ないとする内容の議論をした上(甲67の1・2),Aも,同年5月9日,移行委員会において,H取締役,C管理本部長,D法務部長ほか2名の執行役員らとの間で,従業員の年俸是正の点について,短期的には,11名分の不公平な年俸評価につき同月末までに是正作業を終了すること,長期的には,被告の年俸制度及び評価制度を見直し,Aの社長就任後可及的速やかに実施することなどを議論し(甲69の1・2),そのころ,被告人事部においては,シフトチームのメンバーを除く従業員の給与額改定の検討を開始した(甲73)。
カ 平成20年6月上旬ころにも,M人事総務部長は,C管理本部長から,Bの指示であるとして,C管理本部長及びD法務部長ほか1名の給与の引上げを指示され,C管理本部長作成に係る各人の改定給与額の記載されたメモ(乙17)を手渡された。M人事総務部長は,執行役員の給与引上げについての取締役会決議があったとものと思い,給与引上げに関する人事上の所定の事務手続を履践した。当該給与引上げが実施されることによって,C管理本部長の想定年収は,同月1日付けで2623万2000円となり,同年4月1日付けの給与引上げ前の想定年収1200万円との比較では,約2.2倍にも上ることになる。その後,関係執行役員に対しては,上記給与引上げに基づく金額の各給与の支払がされた。
キ Aは,I監査役から,平成20年6月6日付け「新体制に於ける執行役員会に関する件」と題する文書(乙26)をもって,同年4月1日付けの執行役員の給与引上げに関し,取締役会決議がされていないのではないかとの指摘がされたため,調査を開始した。
ク 平成20年7月28日開催の取締役会において,C管理本部長が,Bの権限を濫用して取締役会決議やBの承認も経ずに2度にわたり執行役員の給与を大幅に引き上げるとともに,同年4月1日には原告の給与も引き上げたし(本件給与引上げ),D法務部長も2度にわたる執行役員等の大幅な給与引上げを黙認したとして,C管理本部長については退職勧告が,D法務部長については給与水準を適正水準に戻すことがそれぞれ決議された。C管理本部長は,同年7月28日,早速Bと面談し,Bからの退職勧奨を受け入れ,被告を自主退職した。また,D法務部長は,同月29日から被告に出社せず,しばらくの間,連絡の取れない状態が続いたが,同年10月3日付けで諭旨退職処分とされた。
なお,C管理本部長は,被告を退職するに当たり,被告から一時金として1200万円の支払を受けたところ,Aは,同一時金の額を算出するに際し,M人事総務部長に対し,同年4月から同年7月までの間に前記のとおり引き上げられて支給された給与の差額分の合計297万6800円を控除するように指示し(甲74の1,同2の1・2),被告において,そのとおり処理された模様である。
(2)  前記第2の2の前提事実及び上記(1)の事実関係を前提として,まず,本件給与引上げが適正な手続に基づいてされた適法なものであるのか否かについて検討する。
この点,原告は,①M人事総務部長作成に係る前記給与決定通知書(甲12)があるし,②被告においては,シフトチーム及びその意向を受けた人事部において,シフトチームのメンバー以外の従業員についての全般的な人件費の引上げや人事評価制度の見直しが議論されていたことをもって,本件給与引上げがBの決裁の下で適正な手続に基づいてされた適法なものである旨主張する。
しかし,①については, Bは,本件給与引上げを含む原告及び執行役員に対する給与の引上げを指示ないし同意したことを明確に否定しているし,執行役員の給与引上げに関して取締役会決議が開催された形跡はないこと, M人事総務部長は,C管理本部長からの指示で,上記給与決定通知書の発送等の給与引上げに関する人事上の諸手続をしたことがうかがわれ,M人事総務部長が当該給与引上げについて,Bや取締役会の意向を確認した形跡はないこと, 被告の取締役会においては,C管理本部長が,Bの承認を経ず,また,取締役会決議がないにもかかわらず,本件給与引上げを含む給与引上げをしたことや,D法務部長がこれを黙認したことが問題として取り上げられ,少なくともC管理本部長については,退職勧告決議がされた末,Bの個別の退職勧奨に従う形で急遽被告を退職し,被告においては,C管理本部長に対し,過払いの差額賃金の返還をさせる形をとった上で一時金1200万円の支払をしていること, 本件給与引上げの引上率は約1.6倍であり,大幅な引上げとなっているが,その具体的な理由は必ずしも明らかでないし,C管理本部長及びD法務部長に至っては,短期間のうちに2度にわたって大幅な給与引上げがされたことになり,そのうちのC管理本部長については,3か月弱の短期間の内に,給与の引上率は約2.2倍に上ることになり,不自然というほかないことなどを指摘することができる。 ないし の諸事情によれば,前記給与決定通知書(甲12)があるからといって,直ちに本件給与引上げが適正な手続に基づいてされた適法なものであるということはできないといわざるを得ない。
次に,②について,被告において,シフトチームのメンバー以外の人件費の引上げや人事評価制度の見直しが議論されていたからといって,そのことのみから,本件給与引上げが適正にされたことが裏付けられるわけでないことは明らかである。この点について,原告は,甲73号証の作業表を前提として,執行役員の給与引上げ及び本件給与引上げがなければ,執行役員又は原告よりも下位の職位の者の給与水準が執行役員又は原告の給与水準と同等かそれを上回ることになり不自然である旨主張するが,証拠上,実際に甲73号証の作業表のとおりの給与引上げが実施されたのか明らかでないし,原告指摘に係る従業員の職位が執行役員又は原告の職位とどのような関係にあり,当該従業員の昇級の理由等についても必ずしも明らかでないから,原告指摘の事実のみから,給与水準の齟齬が直ちに不自然であると評価することはできない。また,仮にそれが不自然であるとしても,そのことのみから執行役員の給与引上げ及び本件給与引上げが裏付けられるものでもない。
原告は,Bが東京証券取引所宛に提出した平成20年10月24日付け「半期報告書の適正性に関する確認書」(甲71)に,「全ての経営上の重要な情報や業務執行状況が,取締役会に適切に付議,報告がなされていることを確認した」旨記載されているから,本件給与引上げが適正にされたことを裏付ける旨主張するが,上記確認書作成当時,Bが,どのような事実関係を認識し,当該事実関係をどのように評価して,かかる記載をしたのか必ずしも明らかではないから,上記確認書が存在するからといって,直ちに,本件給与引上げが適正にされたことが裏付けられるわけではない。
また,原告は,C管理本部長が1200万円という高額な一時金の支払を受けて退職したものであるし,退職に当たって差額給与の控除がされた事実の説明を受けていないから,本件給与引上げは,C管理本部長が独断で行ったものではなく,適法なものであった旨主張する。しかし,本件全証拠によっても,被告のC管理本部長に対する一時金1200万円の支払の決定の経緯は明らかになっていないし,その金額算定に当たっては,Aの指示で平成20年4月から同年7月までの間に引き上げられた過払いの差額給与分の返還が考慮されたことが認められるにとどまり,その他,被告がいかなる要素をいかに評価して一時金の額を1200万円と決定したのかについては必ずしも明らかでないといわざるを得ず,当該金額の多寡を論ずることもできないから,かかる事実のみをもって,本件給与引上げが適正にされたと認められることになるわけではない。そして,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(3)  そうすると,本件給与引上げが適正にされたことを前提とする原告の主張は,いずれも採用することができないし,被告が本件給与引上げを追認するなどした旨の主張立証もないから,本件給与引上げは,そもそも効力を生じていないことになり(過払分の賃金の清算は,不当利得返還法理によることになるが,被告は,本件訴訟において,原告に対して当該清算を求めない旨を明らかにしている。なお,その場合,原告については,平成20年4月以降の賃金請求権の根拠を失うことになるとも考えられるが,弁論の全趣旨によれば,被告は,同月以降の原告の賃金について,少なくとも平成19年度の想定年収1236万円の範囲内での賃金支払義務を是認していたものと認めるのが相当である。),本件給与減額は,法的には,原告の賃金額が平成20年4月以降においても平成19年度の水準のままであったことを前提として,新年度の年俸を決定したにすぎないものと解すべきであり,平成21年度の想定年収1300万円は,平成19年度の想定年収1236万円を上回っているのであるから,労働条件の切下げということはできず,何ら違法・不当ではないというべきである。
したがって,原告の本件給与減額に基づく差額給与の請求は理由がない。
3  争点(4)(本件解雇の効力)について
(1)  前記第2の2の前提事実に加えて,証拠(各事実末尾掲記の各書証,甲66,乙60,67の1・2,証人B,原告本人,被告代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。
ア 内部監査室は,業務執行部門とは独立した会長又は社長に直属する機関であるところ,被告の業務分掌規程(乙31)において,内部監査室の業務は,①内部監査の立案及び実施に関する事項,②内部監査報告書の作成及び報告に関する事項,③業務改善の勧告及びフォロー・アップに関する事項とされている(同規程第3条)。
イ 内部監査室長である原告は,内部監査室を取りまとめ,その中心となって,内部監査計画の立案,計画的な内部監査の実施,内部監査報告書の作成,コンプライアンスの徹底,業務改善の勧告及びそのフォロー・アップ等を行う職責を担っていた。そのため,原告には,効率的で質の高い内部監査を実施するため,被告及びその親会社であるc社(以下「c社」という。)の経営陣との信頼関係の構築はもちろんのこと,内部監査室と被告及びc社の各監査役会,会計監査人との間の信頼関係の構築,連携に配慮することが求められていた。
ウ 被告は,c社の子会社であるため,平成16年ころから,毎年,c社からは米国SOX法404条に基づき要求される内部統制システムの整備を進めるように指示されていたところ(以下,当該内部統制システムの整備を「SOX法404条対応」という。),原告は,平成17年7月に被告に入社し,以後,SOX法404条対応の実務担当の責任者として業務を遂行していた。また,原告は,我が国の金融商品取引法に基づき要求される被告の内部統制システムの構築を進めるべき立場にもあった。
エ 被告においては,平成20年3月21日開催の取締役会において,経営陣が刷新された。そこで,原告は,同年4月8日,新たに代表取締役に就任したB及び常勤監査役に就任したI監査役に対し,「2008年度の内部監査室の業務目標と体制(要員)提案」と題する文書を電子メールで送信した(甲36の1ないし4)。同文書において,原告は,業務目標として,①内部監査室は,c社のガイダンスと協力を得て,平成20年度末のSOX法404条対応の業務遂行を実施すること,②平成20年度においては,SOX法404条対応が最優先事項となるので,内部監査室は,通常の内部監査を法令(個人情報保護法)に要求されるものに限定したいこと,③平成19年度以前の内部統制とコーポレートガバナンスに対する有効性の調査を確実に行うことなどを掲げるとともに,内部監査室の職員の退職に伴う要員の補充を要望した。そして,原告は,上記文書に基づく業務目標及び要望提案について,あらかじめH取締役及びI監査役の承認を得た上で,Bに対し,意見又は承認を求めたところ(甲43の1ないし3,44の1・2,45,46の1・2),Bは,平成20年4月30日までに,内部監査室要員の補充活動については,いったん停止してその必要性を検証することとするが,その他の業務目標については承認するとともに(甲47及び48の各1・2),原告に対し,リバンププロジェクトと称するプロジェクトのプロジェクトオーナー代行への就任を打診した。
オ その後,被告においては,同年5月9日付けで正式にリバンププロジェクトが発足し,原告がプロジェクトオーナー代行に就任した。リバンププロジェクトの体制は,原告のほか,職員が2名であり,外部コンサルティングは,IBMビジネスコンサルティングサービス株式会社(以下「IBM」という。)に依頼された。リバンププロジェクトの方針は,被告の業務プロセスを日本の市場と顧客にとって,最も効率的で合理的なものに刷新させること,業務プロセス全般について,効率的ITシステムを用いて効果的な内部統制を実現することであり,目標期限は,基本構想策定(フェーズ1)が平成20年7月末,開発・導入によって全ての業務の完了する(フェーズ2)のが平成21年半ばころと予定されていた。リバンププロジェクトの方針及び目標期限等については,平成20年5月23日開催の取締役会において報告された。また,同年6月26日開催のランチミーティングにおいて,原告,A,H取締役,I監査役ほか4名の出席の下,リバンププロジェクトの日程の概要及び今後の計画等について話し合われた後,同年7月28日開催の取締役会においては,リバンププロジェクトの基本構想策定(フェーズ1)の結果が報告された。同年8月18日開催の執行役員会議においては,①リバンププロジェクトは,基本構想策定(フェーズ1)についても,当初目的が100%達成には至らなかったが,80%程度の達成は見たこと,②現行業務プロセスの内部統制課題(弱点と欠陥)の「体系的・相対的なレビュー結果」という一定の成果物が紹介された一方,当初目的である「新業務プロセス+ITシステム導入」を維持できなかったこと,③「抜本的な業務効率と内部統制課題の改善」について,c社とリバンププロジェクトのプロジェクトチームとの間に終始アプローチの不一致があったこと,④SOX法404条対応を優先させた結果,被告の要員不足等の制約もあり,リバンププロジェクトを基本構想策定(フェーズ1)の段階で目標変更せざるを得なかったこと,⑤「新プロセス及び関連ITシステム導入」は,別のプロジェクトとして新たに発足し,リバンププロジェクト自体は,発展的に解散されることなどが報告された。ただし,当該報告においては,リバンププロジェクトが目標変更の上,解散せざるを得なかったことの原因について,原告の責任が問題とされたり,指摘されたりした形跡はない。(甲37ないし39の各1・2,51の1ないし4,52の1・2)
カ その一方で,c社のSOX法404条対応の担当者は,平成20年5月ころの時点において,原告が実務担当の責任者として遂行していた被告のSOX法404条対応の進捗状況の遅れについて不満を抱き,I監査役に対して電子メールで不満を表明することもあった上(乙64ないし66の各1・2),原告が同月9日からリバンププロジェクトのプロジェクトオーナー代行としての業務を開始し多忙であったことから,Aは,原告をSOX法404条対応の実務担当の責任者から外し,財務部NをSOX法404条対応の実務担当の責任者としたところ(甲50の1・2),財務部Nは,同年12月末までにc社の期待するSOX法404条対応の業務を完了した(乙70の1・2)。
キ 原告は,同年8月29日,A及びI監査役に対し,「2008年度下半期内部監査計画」と題する文書を電子メールで送信し,当該計画の承認を求めた(乙32の1・2)。同文書においては,年間内部監査方針として,①新任の管理本部長が同年9月上旬に入社するのを待つ必要があるため,最初の監査実施を同年10月とすること,②被告が実施予定の各部門の職務内容の再設定の後,各部門が効率化に取り組むことを掲げるとともに,③常勤監査役からの監査主題をまとめ,併せて,監査項目の内の幾つかの項目について選択し,時期を決定する旨等が記されていた。
ク c社上級副社長・財務統括役員Oは,同年10月18日,Aに対し,原告の問題点として,①職務責任の欠如,②ビジネスへの率先的な参加の不足,③他人の成功に対する障害,④専門性と倫理観の欠如,⑤監査役会メンバー共通の意見としての信頼性低下を指摘した(乙53の1・2)。また,I監査役も,同月20日,Aに対し,同様に原告の問題点として,①執行役員等の給与お手盛り問題について疑問を持ちH取締役又は監査役に照会すべき立場にあったのに,これを怠ったこと,②内部監査室長として,内部統制を担う立場にありながら,売上計上問題,お手盛り不祥事,滞債権問題等において,必要な業務を遂行していないこと,③C管理本部長及びD法務部長の件があり,情報管理上の懸念から監査役会の審議には参加させず,原告に対する信頼感が得られなくなったこと,④全ての部門の社員に関係する内部監査室は,コミュニケーション能力が要求されるが,被告及びc社社内の業務執行部門での評判が良くないため,内部監査業務に適していないと判断されることを指摘した(乙54)。そして,被告監査役会は,同月24日開催の監査役会において,監査役使用人を原告から法務部職員Lに変更する旨の決議をした(乙25)。
ケ 原告は,同月27日から同月31日までの間,管理本部,総務部及び法務部の各内部監査を実施し,同年11月27日付け内部監査報告書を取りまとめて,常勤監査役宛に提出した(乙33の1・2)。
コ 原告の被告における平成20年度の人事評価は,上半期(1月から6月)目標達成度評価については,①シフトチームメンバーとしての業務につき5点満点中3点(目標/期待を達成),②内部監査につき1点(目標/期待水準に大きく未達),③リバンププロジェクトのプロジェクトオーナー代行につき2点(目標/期待水準に未達)であり,下半期(7月から12月)目標達成度評価については,①シフトチームメンバーとしての業務につき1点,②内部監査につき3点であり,総合評価は,5点満点中1.525点で,5段階評価中(上からS,A,B,C,D)のCであった(乙35の1ないし5)。
(2)  上記(1)の事実関係のほか,これまで判示してきた事実関係の一切を前提として,本件解雇の効力について検討する。
ア 原被告間の信頼関係の喪失について
(ア) 被告は,原告が平成20年上半期(1月から6月まで)に内部監査を実施せず,同年下半期(7月から12月まで)にも10月になって初めて実施したことが,就業規則42条2号,8号,10号に該当する旨主張する。
しかし,原告は,平成20年においては,年初来,内部監査室長としての本来業務のほか,被告の経営陣の刷新に伴うシフトチームのコアメンバーとしての業務を担当しながら,同年7月末までは,リバンププロジェクトのプロジェクトオーナー代行としての業務をも担当していたところ,同年4月の時点において,Bのほか,H取締役及びI監査役に対し,内部監査室の要員不足を指摘するなどしたが,要員の補充もないまま,各種業務に忙殺される状況にあったことが推認される。また,原告は,経営陣が刷新され,Bが代表取締役に就任して間もない同月の時点において,H取締役及びI監査役のほか,Bに対しても,平成20年の内部監査室の業務目標として,SOX法404条対応に重点を置かざるを得ないため,日常的な監査業務についてはポイントを絞った監査とせざるを得ない旨を報告し,Bらの承認を得ていた。その結果,原告は,リバンププロジェクトのプロジェクトオーナー代行としての業務が一段落した同年8月以降,同年の内部監査計画案を作成し,同年10月末にこれを実施した。
そうすると,例年と比較すれば,平成20年の原告の内部監査が不十分であると評価されるにしても,原告は,同年10月末において,一応の内部監査を実施している上(本件において,当該監査内容の当否は問題とされていない。),当該監査がこの時期までずれ込んだ理由も一概に不合理とはいえないし,内部監査の簡素化については,あらかじめ経営幹部の了承を得ていたということもできる。したがって,被告指摘に係る内部監査の不遂行が,直ちに就業規則42条2項,8項,10項に該当するということはできない。
なお,被告は,就業規則42条8項の適用に当たって,原告が被告に就職するに当たっては,内部監査室長に職種を限定する旨の特約があった旨主張するが,原告の「採用内定通知書および雇用契約書」(乙13)の配属部署・役職欄には,「入社後,本人の希望または業務の都合により転換することがある。」と記載されているし,実際にも,原告は,平成21年3月1日付けで内部監査室長の職を解かれ,代表取締役付部長代理に異動になっているのであるから(甲9),原被告間の雇用契約において,内部監査室長に職種を限定する旨の特約があったということはできない。
(イ) 被告は,原告が,平成20年5月30日付けでSOX法404条対応の実務担当の責任者の地位を解かれるとともに,部下又はIBMの担当者との関係悪化等を原因として,リバンププロジェクトのプロジェクトオーナー代行の地位から退くことを勧告され,受け入れたことが,就業規則42条2項,7項,8項,10項に該当する旨主張する。
しかし,上記(1)の事実関係によれば,確かに,原告がc社の子会社としての被告に係るSOX法404条対応について,c社の期待する業務を遂行することができず,少なくともc社のSOX法404条対応の担当者に不満が募っていたことがうかがわれるが,そもそも,本件全証拠によっても,原告がSOX法404条対応の実務担当の責任者として担当すべきであった具体的業務内容のほか,c社が原告に期待する業務範囲やその水準については,必ずしも明らかになっているとはいえず,c社の不満が正当なものであるのか,判断することができないといわざるを得ない。また,原告がSOX法404条対応の実務担当の責任者の地位を解かれた理由には,要員不足の中での原告の過重な業務の解消といった面もなかったわけではなく,Aは,その当時,c社側の不満等に対処するばかりではなく,原告の置かれていた状況に配慮して原告を同責任者の地位から外し,原告には,日常的な内部監査業務のほか,リバンププロジェクト及びシフトチームの各業務に専念させることを企図したものと解することもできるから,原告がSOX法404条対応の実務担当の責任者の地位を解かれたことを過度に否定的に評価するのは相当でない。そして,原告がリバンププロジェクトのプロジェクトオーナー代行の地位から退いたことについても,そもそも被告においては,リバンププロジェクト自体,一定の成果を残して発展的に解散された旨が確認されており,リバンププロジェクトが原告の責任で終了したことを示す的確な証拠もない。被告は,原告とその部下やIBMの担当者との関係悪化を指摘するが,その程度や原因は必ずしも明らかでなく,すべてを原告の責任とすることはできない。
そうすると,原告は,リバンププロジェクトの解散に伴ってプロジェクトオーナー代行の地位を退いたものと認められるにとどまるというほかなく,被告指摘に係る内部統制プロジェクト責任者としての職務不達成・責任放棄を認めることはできない。したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(ウ) また,被告は,原告が平成20年4月及び同年6月に執行役員等の給与が取締役会の決議等を経ずに不正に引き上げられたことを看過したことが,就業規則42条2項,8項,10項に該当する旨主張する。
確かに,内部監査室長である原告の職務には,抽象的に,被告のコンプライアンス上の諸手続が適正に実施されていることを確認することが含まれるものと思われる。他方,原告が当該給与の不正引上げを「看過した」と評価するためには,当該給与の不正引上げの方法,実態ばかりでなく,当時の被告のコンプライアンス態勢及び環境,原告の取り得る具体的な監査手法等に照らして,少なくとも,原告が,その当時,当該給与引上げの適正性に疑義を差し挟み,それが不正であると判断することが可能であったことが必要である。
しかしながら,被告の主張によれば,上記各給与引上げは,執行役員であるC管理本部長の「お手盛り」であったにもかかわらず,前記判示のとおり,M人事総務部長は,C管理本部長の指示を受けて,当該指示に何ら疑問を差し挟むこともなく,給与引上げのための人事上の諸手続を経由したことになり,当該給与引上げの指示が極めて巧妙に行われたか,又は当時の被告の人事管理部門がかかる不正な給与引上げを安易に許容するような杜撰な態勢にあったものと推認されるところ,本件全証拠によっても,原告が,その当時に取り得た具体的な監査手法等に照らして,主管部門である人事総務部において看過した給与引上げについて,実際にその適正性に疑義を差し挟み,それが不正であったと判断することが可能であったといえるか必ずしも明らかでないといわざるを得ない。
したがって,原告が不正な給与引上げを看過したと直ちに判断することはできないから,被告の上記主張は採用することができないし,仮に不正な給与引上げ看過の事実があったとしても,被告が,当該不正な給与引上げが発覚した平成20年7月ころの時点において,その看過について,原告に対して直ちに責任を追及し指導・注意した形跡もうかがわれないことによれば,被告は,当該不正な給与引上げの看過に関する原告の責任について,それほど重視していたものとは解されないから,本件解雇の効力を判断するに当たり,この点を重く見るのも相当ではないといえる。
(エ) 更に,被告は,平成20年度の原告の人事評価が低調であったと主張する。
しかしながら,これまで認定・判示してきたところによれば,当該評価については,前提事実の存否及び評価をそのまま受け入れることはできないというべきであるし,そもそも被告の主張によっても,原告の評価は,評価項目の中には3点で,期待を達成しているものもあるし,総合評価も,5段階評価中下から2番目のC評価であり,最低の評価というわけではないのであるから,当該評価をもって,原告の解雇を相当と認めることはできないといわなければならない。
被告は,平成20年12月3日及び同月10日の原告とA又はBとの各面談における原告の態度を問題視するが,本件業務命令違反の事実を認めるに足りないことは前記判示のとおりであるから,同命令違反の存在を前提とする原告の態度を論難するのは相当でない。また,被告は,原告の内部監査室長としての資質の欠如として,原告が同年8月28日開催の監査役会においてC管理本部長及びD法務部長の退職勧告等決議に懸念を表明するなどしたことが,監査役会の不信感を強めた旨主張するが,かかる意見表明等のみをもって,内部監査室長としての資質の欠如を認定することはできない。
(オ) 以上のとおり,原被告間の信頼関係の喪失という解雇事由は,認めることができないか,解雇を相当とするには足りないというべきである。
イ 原告の担当可能な業務の不存在等について
被告は,前記原被告間の信頼関係の喪失等を前提として,原告には,被告において担当可能な業務が存在しない旨主張するが,これまで判示したとおり,被告が指摘する事実関係を前提として,客観的に,原被告間の信頼関係の喪失があると認めることはできないし,その他,原被告間の信頼関係の喪失を裏付ける的確な証拠もないといわざるを得ない。また,本件全証拠をもってしても,被告において,原告に担当可能な業務が存在しないと認めることもできない。そして,被告主張の解雇回避努力とは,原告の退職を前提としての退職パッケージの支払や原告の退職に向けての話合いをいうものであって,かかる事情のみをもって,被告が解雇回避努力を尽くしたと評価することもできない。
更に,被告は,原告が被告のコンプライアンス違反を指摘しながら,被告の求めに応じてその内容を具体化をしなかったことをもって,被告を脅迫したものと理解せざるを得ないなどと主張するが,かかる事実のみをもって,原告が被告を脅迫したものと解することはできない。
ウ まとめ
以上によれば,本件解雇は,解雇を相当とする事情がないのにされたものであり,社会通念上相当とは認められないから,解雇権の濫用に当たり無効であるといわざるを得ない。そうすると,原告は,雇用契約上の権利を有する地位にあるし,民法536条2項に基づき,解雇期間中の賃金請求権を失わないと解すべきである。
したがって,原告の被告に対する雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認,平成21年9月25日から本判決確定の日まで毎月25日限り1か月92万0900円の割合による未払賃金及びこれらに対する遅延損害金の支払を求める部分は理由がある。
4  結論
以上の次第で,原告の本訴請求中,①差額賃金3万6585円及びこれに対する支払期日の翌日である平成21年1月24日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める部分,②雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める部分,③平成21年9月25日から本判決確定の日まで毎月25日限り1か月92万0900円の割合による賃金及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は,理由があるから認容し,その余の部分は,いずれも理由がないから棄却することとする。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判官 菊池憲久)

 

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