【営業代行から学ぶ判例】crps 裁判例 lgbt 裁判例 nda 裁判例 nhk 裁判例 nhk 受信料 裁判例 pl法 裁判例 pta 裁判例 ptsd 裁判例 アメリカ 裁判例 検索 オーバーローン 財産分与 裁判例 クレーマー 裁判例 クレプトマニア 裁判例 サブリース 裁判例 ストーカー 裁判例 セクシャルハラスメント 裁判例 せクハラ 裁判例 タイムカード 裁判例 タイムスタンプ 裁判例 ドライブレコーダー 裁判例 ノンオペレーションチャージ 裁判例 ハーグ条約 裁判例 バイトテロ 裁判例 パタハラ 裁判例 パブリシティ権 裁判例 ハラスメント 裁判例 パワーハラスメント 裁判例 パワハラ 裁判例 ファクタリング 裁判例 プライバシー 裁判例 プライバシーの侵害 裁判例 プライバシー権 裁判例 ブラックバイト 裁判例 ベネッセ 裁判例 ベルシステム24 裁判例 マタニティハラスメント 裁判例 マタハラ 裁判例 マンション 騒音 裁判例 メンタルヘルス 裁判例 モラハラ 裁判例 モラルハラスメント 裁判例 リストラ 裁判例 リツイート 名誉毀損 裁判例 リフォーム 裁判例 遺言 解釈 裁判例 遺言 裁判例 遺言書 裁判例 遺言能力 裁判例 引き抜き 裁判例 営業秘密 裁判例 応召義務 裁判例 応用美術 裁判例 横浜地裁 裁判例 過失割合 裁判例 過労死 裁判例 介護事故 裁判例 会社法 裁判例 解雇 裁判例 外国人労働者 裁判例 学校 裁判例 学校教育法施行規則第48条 裁判例 学校事故 裁判例 環境権 裁判例 管理監督者 裁判例 器物損壊 裁判例 基本的人権 裁判例 寄与分 裁判例 偽装請負 裁判例 逆パワハラ 裁判例 休業損害 裁判例 休憩時間 裁判例 競業避止義務 裁判例 教育を受ける権利 裁判例 脅迫 裁判例 業務上横領 裁判例 近隣トラブル 裁判例 契約締結上の過失 裁判例 原状回復 裁判例 固定残業代 裁判例 雇い止め 裁判例 雇止め 裁判例 交通事故 過失割合 裁判例 交通事故 裁判例 交通事故 裁判例 検索 公共の福祉 裁判例 公序良俗違反 裁判例 公図 裁判例 厚生労働省 パワハラ 裁判例 行政訴訟 裁判例 行政法 裁判例 降格 裁判例 合併 裁判例 婚約破棄 裁判例 裁判員制度 裁判例 裁判所 知的財産 裁判例 裁判例 データ 裁判例 データベース 裁判例 データベース 無料 裁判例 とは 裁判例 とは 判例 裁判例 ニュース 裁判例 レポート 裁判例 安全配慮義務 裁判例 意味 裁判例 引用 裁判例 引用の仕方 裁判例 引用方法 裁判例 英語 裁判例 英語で 裁判例 英訳 裁判例 閲覧 裁判例 学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例 共有物分割 裁判例 刑事事件 裁判例 刑法 裁判例 憲法 裁判例 検査 裁判例 検索 裁判例 検索方法 裁判例 公開 裁判例 公知の事実 裁判例 広島 裁判例 国際私法 裁判例 最高裁 裁判例 最高裁判所 裁判例 最新 裁判例 裁判所 裁判例 雑誌 裁判例 事件番号 裁判例 射程 裁判例 書き方 裁判例 書籍 裁判例 商標 裁判例 消費税 裁判例 証拠説明書 裁判例 証拠提出 裁判例 情報 裁判例 全文 裁判例 速報 裁判例 探し方 裁判例 知財 裁判例 調べ方 裁判例 調査 裁判例 定義 裁判例 東京地裁 裁判例 同一労働同一賃金 裁判例 特許 裁判例 読み方 裁判例 入手方法 裁判例 判決 違い 裁判例 判決文 裁判例 判例 裁判例 判例 違い 裁判例 百選 裁判例 表記 裁判例 別紙 裁判例 本 裁判例 面白い 裁判例 労働 裁判例・学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例・審判例からみた 特別受益・寄与分 裁判例からみる消費税法 裁判例とは 裁量労働制 裁判例 財産分与 裁判例 産業医 裁判例 残業代未払い 裁判例 試用期間 解雇 裁判例 持ち帰り残業 裁判例 自己決定権 裁判例 自転車事故 裁判例 自由権 裁判例 手待ち時間 裁判例 受動喫煙 裁判例 重過失 裁判例 商法512条 裁判例 証拠説明書 記載例 裁判例 証拠説明書 裁判例 引用 情報公開 裁判例 職員会議 裁判例 振り込め詐欺 裁判例 身元保証 裁判例 人権侵害 裁判例 人種差別撤廃条約 裁判例 整理解雇 裁判例 生活保護 裁判例 生存権 裁判例 生命保険 裁判例 盛岡地裁 裁判例 製造物責任 裁判例 製造物責任法 裁判例 請負 裁判例 税務大学校 裁判例 接見交通権 裁判例 先使用権 裁判例 租税 裁判例 租税法 裁判例 相続 裁判例 相続税 裁判例 相続放棄 裁判例 騒音 裁判例 尊厳死 裁判例 損害賠償請求 裁判例 体罰 裁判例 退職勧奨 違法 裁判例 退職勧奨 裁判例 退職強要 裁判例 退職金 裁判例 大阪高裁 裁判例 大阪地裁 裁判例 大阪地方裁判所 裁判例 大麻 裁判例 第一法規 裁判例 男女差別 裁判例 男女差别 裁判例 知財高裁 裁判例 知的財産 裁判例 知的財産権 裁判例 中絶 慰謝料 裁判例 著作権 裁判例 長時間労働 裁判例 追突 裁判例 通勤災害 裁判例 通信の秘密 裁判例 貞操権 慰謝料 裁判例 転勤 裁判例 転籍 裁判例 電子契約 裁判例 電子署名 裁判例 同性婚 裁判例 独占禁止法 裁判例 内縁 裁判例 内定取り消し 裁判例 内定取消 裁判例 内部統制システム 裁判例 二次創作 裁判例 日本郵便 裁判例 熱中症 裁判例 能力不足 解雇 裁判例 脳死 裁判例 脳脊髄液減少症 裁判例 派遣 裁判例 判決 裁判例 違い 判決 判例 裁判例 判例 と 裁判例 判例 裁判例 とは 判例 裁判例 違い 秘密保持契約 裁判例 秘密録音 裁判例 非接触事故 裁判例 美容整形 裁判例 表現の自由 裁判例 表明保証 裁判例 評価損 裁判例 不正競争防止法 営業秘密 裁判例 不正競争防止法 裁判例 不貞 慰謝料 裁判例 不貞行為 慰謝料 裁判例 不貞行為 裁判例 不当解雇 裁判例 不動産 裁判例 浮気 慰謝料 裁判例 副業 裁判例 副業禁止 裁判例 分掌変更 裁判例 文書提出命令 裁判例 平和的生存権 裁判例 別居期間 裁判例 変形労働時間制 裁判例 弁護士会照会 裁判例 法の下の平等 裁判例 法人格否認の法理 裁判例 法務省 裁判例 忘れられる権利 裁判例 枕営業 裁判例 未払い残業代 裁判例 民事事件 裁判例 民事信託 裁判例 民事訴訟 裁判例 民泊 裁判例 民法 裁判例 無期転換 裁判例 無断欠勤 解雇 裁判例 名ばかり管理職 裁判例 名義株 裁判例 名古屋高裁 裁判例 名誉棄損 裁判例 名誉毀損 裁判例 免責不許可 裁判例 面会交流 裁判例 約款 裁判例 有給休暇 裁判例 有責配偶者 裁判例 予防接種 裁判例 離婚 裁判例 立ち退き料 裁判例 立退料 裁判例 類推解釈 裁判例 類推解釈の禁止 裁判例 礼金 裁判例 労災 裁判例 労災事故 裁判例 労働基準法 裁判例 労働基準法違反 裁判例 労働契約法20条 裁判例 労働裁判 裁判例 労働時間 裁判例 労働者性 裁判例 労働法 裁判例 和解 裁判例

「営業アウトソーシング」に関する裁判例(74)平成23年 9月14日 福井地裁 平21(ワ)136号 地位確認請求事件

「営業アウトソーシング」に関する裁判例(74)平成23年 9月14日 福井地裁 平21(ワ)136号 地位確認請求事件

裁判年月日  平成23年 9月14日  裁判所名  福井地裁  裁判区分  判決
事件番号  平21(ワ)136号
事件名  地位確認請求事件
裁判結果  請求棄却  上訴等  控訴  文献番号  2011WLJPCA09146011

要旨
◆Y2社からY1社に派遣されていたXが、Y1社との労働契約成立を主張して、Y1社に対し期間の定めのない労働契約上の地位確認、賃金支払を求め、Yらに対しては不法行為による損害賠償を求めた事案において、XとY1社間には当初から黙示的な労働契約は成立していないから、YらとXの関係は労働者派遣であって職安法4条6項の労働者供給や同法44条違反には当たらないといえ、また、労働者派遣法の制度によれば、派遣可能期間の経過を知りつつ労働者派遣の受入れを継続していたことをもって派遣先と労働者間に労働契約が成立する旨のXの主張は採用できないとした上で、同法が守ろうとする派遣労働者の利益は、不法行為法上、法的保護に値する利益とまでは評価できず、また、XがYらに対し労働契約継続の希望を明示しなかった本件事情によれば、XとY2の労働関係終了につき不法行為は成立しないなどとして、各請求を棄却した事例
◆労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律は、派遣元及び派遣先の各事業者に対して様々な規制を加えることによって間接的に派遣労働者の権利利益を守ろうとしているに止まるから、同利益は、派遣元及び派遣先の各事業者の違反行為につき不法行為法上の違法性まで直ちに根拠付けるものとは言えず、不法行為法上、法的保護に値する利益とまでは評価できないとされた事例

裁判経過
上告審 平成27年 1月23日 最高裁第二小法廷 決定
控訴審 平成25年 5月22日 名古屋高裁金沢支部 判決 平23(ネ)259号 地位確認等請求控訴事件

出典
労判 1118号81頁<参考収録>
労働法律旬報 1756号78頁

評釈
河村学・民主法律時報 472号3頁
海道宏美・労働法律旬報 1756号34頁
海道宏美・民主法律 287号51頁

参照条文
民法623条
民法709条
労働基準法6条
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律2条1号
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律35条の2第2項
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律40条の2第1項
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律40条の4
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律48条1項
職業安定法4条6項
職業安定法44条

裁判年月日  平成23年 9月14日  裁判所名  福井地裁  裁判区分  判決
事件番号  平21(ワ)136号
事件名  地位確認請求事件
裁判結果  請求棄却  上訴等  控訴  文献番号  2011WLJPCA09146011

原告 X
訴訟代理人弁護士 海道宏実
同 茂呂信吾
同 島田広
同 吉川健司
同 村上昌寛
同 吉村悟
同 麻生英右
同 坪田康男
同 黛千恵子
同 綿谷史枝
同 三田恵美子
同 北川慎治
同 山本晋太郎
同 村田浩治
同 河村学
被告 Y1株式会社(以下「被告Y1社」という。)
代表者代表取締役 A
訴訟代理人弁護士 国谷史朗
同 魚住泰宏
同 牟礼大介
同 山浦美卯
被告 株式会社Y2(以下「被告Y2社」という。)
代表者代表取締役 B
訴訟代理人弁護士 置田文夫
同 賴政忠
同 荒鹿高行
同 村田純江
同 服部達夫
同 中野勝之

 

 

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。
2  訴訟費用は原告の負担とする。

 

事実及び理由

第1  請求
1  原告は、被告Y1社に対し、期間の定めのない労働契約上の地位を有することを確認する。
2  被告Y1社は、原告に対し、平成21年3月15日以降、毎月15日限り、26万1135円を支払え。
3  被告らは、原告に対し、連帯して、100万円及びこれに対する平成21年4月2日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4  訴訟費用は被告らの負担とする。
5  2項及び3項につき、仮執行宣言
第2  事案の概要
1  本件は、原告が被告Y1社との間で労働契約が成立していると主張し、
(1)  被告Y1社に対し、
ア 期間の定めのない労働契約上の地位にあることの確認、
イ 賃金として、平成21年3月15日以降、毎月15日限り、26万1135円の支払、
(2)  被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料100万円及びこれに対する不法行為後である平成21年4月2日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払
を求める事案である。
2  基礎となる事実(当事者間に争いがないか、掲記の証拠により容易に認定できる事実)
(1)  当事者
ア 被告Y1社
a株式会社は、平成17年4月1日、a1株式会社と商号を変更した。〔証拠〈省略〉〕
b株式会社は、平成17年4月1日、b1株式会社と商号を変更した。〔証拠〈省略〉〕
b1株式会社は、平成20年4月1日、a1株式会社など傘下の子会社7社を吸収合併し、商号をY1株式会社(以下、その時期を問わず「被告Y1社」という。)とした。〔証拠〈省略〉〕
被告Y1社は、本社を大阪府門真市に置き、電気及び電子部品の製造、販売等を業とする株式会社である。
イ 被告Y2社
株式会社cは、昭和53年9月1日に設立された資本金1200万円の会社である。京都市内に本店を置き、平成4年3月5日には商号を株式会社Y2(被告Y2社)と商号を変更した。〔証拠〈省略〉〕
被告Y2社は、全国各地に事業所を置き、「ファクトリーアウトソーシング、製造業務請負、人材派遣、アウトプレースメント」を事業内容とし、売上高510億円(平成19年度)であった。〔証拠〈省略〉〕
ウ 被告Y1社及び同被告が所属する企業グループと被告Y2社との間では、相互の株式保有などの資本面、役員の派遣など人事面のいずれにおいても関連はなく、それぞれ独立した株式会社である。
(2)  被告Y1社と被告Y2社の契約関係
ア 業務請負契約
被告Y1社は、平成11年8月6日、被告Y2社との間で、キーボードスイッチまたは自動車スイッチの製造業務につき、業務請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結し、また、取引基本契約・品質保証協定を締結した。〔証拠〈省略〉〕
さらに、被告Y1社と被告Y2社は、順次、業務請負覚書(平成14年3月25日付けで、作業毎の単価を定める内容となっている。)、安全衛生管理に関する覚書、機械設備賃貸借に関する覚書及び建物賃貸に関する覚書(いずれも平成15年4月1日付け)を定めていた。〔証拠〈省略〉〕
イ 労働者派遣契約
被告Y1社(当時は、a1株式会社)は、平成18年10月31日、被告Y2社との間で、同被告の労働者を被告Y1社に派遣することに関する労働者派遣基本契約を締結した。〔証拠〈省略〉〕
被告Y1社は、平成18年11月1日、被告Y2社との間で、業務内容を民生用スイッチ組立・検査、派遣人員を18名、期間を同日から平成19年4月30日まで、就業場所を福井県f市内の被告Y1社(dグループ)とする労働者派遣個別契約を締結した。〔証拠〈省略〉〕
その後も平成18年11月21日付け、平成19年5月1日付け、平成19年11月1日付け、平成20年5月1日付け(派遣人員15名)、平成20年11月1日付け(派遣人員12名)で同趣旨の労働者派遣個別契約が締結された。〔証拠〈省略〉〕
(3)  原告とY2社の契約関係
ア 原告は、被告Y2社との間で、期間雇用契約書により、雇用期間を平成17年1月21日から平成18年5月20日までとする労働契約を締結し、さらに平成17年2月21日にも、同日から平成17年5月20日までの期間3か月の期間雇用契約書を作成した。〔証拠〈省略〉〕
その後も平成17年5月19日付け、同年8月19日付け、同年11月18日付け、平成18年1月18日付け、同年5月19日付け、同年9月13日付けで期間雇用契約書が作成された。〔証拠〈省略〉〕
イ 原告は、平成18年11月1日、被告Y2社との間で、労働契約書(労働者派遣就業条件明示書)により、派遣労働者(平成18年11月1日から同月20日)として就労することを内容とする労働契約を締結した。〔証拠〈省略〉〕
その後も平成18年11月21日付け、平成19年2月16日付け、同年5月16日付け、同年8月16日付け、同年11月16日付け、平成20年2月16日付け、同年5月16日付け、同年8月16日付け、同年11月1日付け、平成21年2月1日付けで労働契約書(労働者派遣就業条件明示書)が作成された。〔証拠〈省略〉〕
最終の労働契約書〔証拠〈省略〉〕によれば、派遣期間は、平成21年3月31日と定められていた。
ウ 原告の平成20年12月分給与は総支給額27万5140円、平成21年1月分のそれは27万3066円、同年2月分のそれは23万5198円、同年3月分のそれは11万4906円であった。〔証拠〈省略〉〕
(4)  人員削減
ア 被告Y2社は、平成20年10月24日、被告Y1社のdグループで稼働している派遣労働者に対し、「生産減少に伴う人員削減について」と題する書面により、「この度、○○スイッチ製造チームでは大幅な受注減少に伴う生産減少とクライアントの他工場からの人員受け入れにより在籍人員調整を平成20年11月30日より段階的に実施せざるを得なくなりました。最終的には在籍0となります。」との説明とともに、「生産減少に伴うアンケート」を配付し、①同年11月30日付けで希望退職に応じるか否か、②被告Y2社との契約継続を希望する場合、派遣先としては自宅通勤圏内に限るのか否か、③任地を問わない者については地域、条件、部署、勤務形態の希望があれば聞かせて欲しいとするアンケートを実施した。〔証拠〈省略〉〕
イ 被告Y2社は、平成20年12月1日、「この度、○○スイッチ製造チームでは大幅な受注減少に伴う生産減少と社員対応化により在籍人員調整を平成21年1月31日までに実施せざるを得なくなりました。」として、上記アと同趣旨アンケートを再度実施した。〔証拠〈省略〉〕
(5)  是正指導
福井労働局長は、平成20年12月18日、被告Y1社及び被告Y2社に対し、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(以下「労働者派遣法」という。)48条1項に基づき、是正指導書を発出した(以下「本件是正指導」という。)。
この是正指導書のなかでは、被告Y1社と被告Y2社との間で、平成11年8月6日から平成18年10月31日までの間、業務請負として行われていた各種スイッチ製造業務の実態は「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号)の下記事項〈省略〉を満たさないため、適正な請負事業とは判断されず労働者派遣事業に該当すると指摘したうえ、
ア 適正な労働者派遣契約の締結がされていないことから、労働者派遣法26条1項に違反する、
イ 派遣先事業主(被告Y1社)・派遣元事業主(被告Y2社)の講ずべき措置が適正に講じられていないことから、労働者派遣法3章3節(被告Y1社)・同章2節(被告Y2社)の各条項に違反する、
ウ 平成18年11月1日から労働者派遣契約に切り替え、同一の就業場所において行わせているこれらの業務については、派遣受入期間の制限を受ける業務であり、既に派遣可能期間である3年を超えており、被告Y1社については、現在まで継続して労働者派遣の役務の提供を受けていることから、労働者派遣法40条の2第1項に、被告Y2社については、現在まで継続して労働者派遣を行っていることから、労働者派遣法35条の2第1項に違反するとの指摘をし、
そして、是正のための措置として、被告らに対して、被告Y2社の各種スイッチ製造業務に係る労働者派遣とその受入れについて、それぞれ労働者の雇用の安定を図るための措置を講ずることを前提に、労働者派遣とその派遣の役務提供を受けることを中止するよう求めるとともに、これらの措置について平成21年1月23日までに書面で報告することを求めた。〔証拠〈省略〉〕
(6)  被告らの対応など
ア 被告Y1社
(ア) 被告Y1社は、平成21年1月16日、同月20日及び同月28日、本件是正指導に基づき、原告を含め対象となる派遣労働者に対して、下記の労働条件を示し、被告Y1社との労働契約の締結を希望する場合は、説明会の日から1週間以内に意思表示をするよう説明した。〔証拠〈省略〉〕
契約期間:3か月単位とし、最大でも2年11か月までとする。
賃金:基本給は時給810円。その他、超勤手当及び通勤費補助あり。賞与はなし。
退職金:なし。
年金:企業年金の適用なし。
社会保険:各種社会保険に加入(法定資格に基づく)。
勤務時間:通常勤務:午前8時30分から午後5時。経営状況により勤務時間変更の可能性あり。交代制勤務の場合は、別途設定。
年次有給休暇:法定の年次有給休暇を付与。
福利厚生:事業場内の福利厚生施設の利用可。
教育訓練:知識・技能力向上のための教育訓練を必要の都度行う。
(イ) 被告Y1社は、上記各説明会の際、本件是正指導に基づき、対象となる派遣労働者に対し、被告Y1社の所属する企業グループの会社であるe株式会社(以下「e社」という。)と契約期間の定めのある労働契約を締結することができること、被告Y1社の説明会の後に、e社の説明会を開催することを説明した。
e社は、その説明会において、①e社が期間の定め(2か月から6か月)のある労働契約を締結するにあたっては、賃金及び福祉条件については被告Y2社と同一とすること、②対象派遣労働者のうち、e社との労働契約の締結を希望する者全員と契約すること、③労働契約の契約期間経過後、正社員登用等の評価制度を導入することなどを説明し、e社との労働契約の締結を希望する場合は、説明会の日から1週間以内に意思表示をするよう説明した。〔弁論の全趣旨〕
(ウ) 原告は、被告Y1社の提示した労働条件を前提とする労働契約の締結、e社の提示した労働条件を前提とする労働契約の締結はいずれも希望しなかった。
イ 被告Y2社
(ア) 被告Y2社は、平成21年1月30日、原告に対し、別作業をすることを提案し、それができないのであれば休業してもらうことを伝えたところ、原告は、直ぐに返答はできない、現在の業務を変更する必要はないと回答した。
被告Y2社は、平成21年2月2日、原告に対し、上記の別作業をすることの提案に対する回答がないのであれば休業してもらうと伝えた。
(イ) 被告Y2社は、平成21年2月13日、原告に対し、「……2009年3月31日をもってY1株式会社△△様との派遣契約を残念ではございますが終了することになりました。」として、今後、①希望退職に応じる、②被告Y2社で仕事を続けたい、③e社での就労を希望する、のいずれを希望するかなどを尋ねるアンケートを配布した。〔証拠〈省略〉〕
原告は、このアンケートへの回答を拒否した。
(7)  組合交渉等
ア h労働組合総連合、i労働組合総連合及び地域労働組合jは、平成21年1月29日、被告Y1社に対して、原告の待遇に関して、原告を速やかに正社員と同様の労働条件で雇用することを求め、団体交渉の申入れをした。〔証拠〈省略〉〕
イ h労働組合総連合、i労働組合総連合及び地域労働組合jは、平成21年2月26日、被告Y1社に対して、原告の待遇に関して、原告を速やかに雇用すること、被告Y1社がこれまでに提示した労働条件は不十分であり、さらにその他の労働条件を明らかにするよう求め、団体交渉の申入れをした。〔証拠〈省略〉〕
ウ 被告Y1社は、平成21年2月27日、上記申入れに対して、原告と被告Y1社との間に労働契約がない以上、団体交渉には応じられないとの回答をした。〔証拠〈省略〉〕
エ 被告Y1社は、平成21年3月4日、h労働組合総連合、i労働組合総連合及び地域労働組合jとの間で団体交渉ではなく、話し合いには応じた。
(8)  本訴提起
原告は、平成21年3月6日、本訴を提起した。
3  主な争点
原告は、原告と被告Y1社との間には、①当初より黙示的に労働契約が成立している(争点1)、②労働者派遣法40条の4により労働契約が成立している(争点2)、と主張する。
また、原告は、原告と被告Y1社との間に労働契約が成立している場合、成立していない場合のいずれについても、被告らの行為が不法行為を構成すると主張する(争点3)。
したがって、主な争点は以下の3点である。
(1)  争点1-黙示的に労働契約が成立していると認められるか。
(2)  争点2-労働者派遣法40条の4により労働契約が成立していると認められるか。
(3)  争点3-被告らの行為が不法行為を構成すると認められるか。
4  争点に関する当事者の主張
(1)  争点1-黙示的に労働契約が成立していると認められるか。
(原告の主張)
ア(ア) 労働契約の本質は使用者が労働者を指揮命令及び監督し、労働者が賃金の支払を受けた労務を提供することにあるから、黙示の合意により労働契約を締結したか否かは、当該労務供給契約の具体的実態により両者間に事実上の使用従属関係、労務提供関係、賃金支払関係があるかどうか、この関係から両者間に客観的に推認される黙示の意思の合致があるかどうかによって判断すべきである。
(イ) 被告Y1社は、原告に対して、指揮命令を行い、原告は、被告Y1社に対して労務の提供を行っている。原告に対する労務管理も被告Y1社が行っている。被告Y1社と原告との間の使用従属関係、労務提供関係は明らかである。
(ウ) 原告に対する賃金は、形式的には被告Y2社から支払われていたが、被告Y2社が原告に対する賃金支払の原資とするのは、原告が被告Y1社に対して行った労務提供の対価として支払われる金員からしかあり得ず、被告Y2社が得た利益は原告に対する賃金の一部を不当に中間搾取したものと評価されるに過ぎない。
(エ) 原告の労務の提供と、原告が得た賃金の労務対価性は明らかである。
以上からすれば、原告と被告Y1社との間には客観的に推認される黙示の意思の合致があるとみるべきであって、両者の間には雇用契約が存在するというべきである。
イ 被告Y1社による採用行為
(ア) 原告は、被告Y2社の社員に対し、被告Y1社で働きたい旨伝えたところ、被告Y2社の社員は、被告Y1社の存在するf市で面接を実施することを回答した。これは面接が被告Y1社のためのものであることを示している。
(イ) 原告は、被告Y2社のk営業所社員C(以下「C」という。)から福井県f市所在のファミリーレストランで採用面接を受けたが、給料が高くなる夜勤で働きたいと希望を伝えると、「クライアントに聞いておく」などと回答がなされ、Cは「クライアントに聞いて受かったら電話します。万が一、松下がダメだったら他の会社に行きますか。」とも聞いてきた。このように面接では被告Y1社が採否を決める前提で話しがされた。
(ウ) 被告Y1社のl工場で就労を始めた当日朝、Cは、原告に対し、「クライアントが期待しているから頑張って」と発言したが、これは、被告Y1社が原告の資質等を踏まえて採否を決定したことを示している。
(エ) さらに、Cは、契約期間について「とりあえずは最初の期間は3か月にしておくけれど、ずっと働くことができるから」と、原告と被告Y2社の契約期間は形式上のものに過ぎず、被告Y1社で長期間働くことができることを述べたもので、これは被告Y1社が原告を長期間働くことのできる労働者として採用したことを示している。
(オ) また、Cは、被告Y1社の工場に行けば、同被告の社員が仕事を教えてくれるから大丈夫と説明し、実際にも工場では被告Y1社の社員D(以下「D」という。)から、担当作業の説明を受け、機械の操作方法等の説明を受けた。これは被告Y1社が原告を被告Y1社の労働者として採用したことを示している。
(カ) これらの事情からも被告Y1社が、原告の採否を決め、同被告の労働者として採用したことが認められ、少なくとも被告Y1社が原告の採用に関与していたことは明らかである。
ウ 被告Y1社による指揮命令
(ア) 原告は、成形係の業務に関する研修・指導を被告Y1社の社員であったDから受けた。
現実の業務に関する指揮命令も被告Y1社の社員であったDやEが行っていた。その指揮命令のもと、原告のほか他の会社から派遣された者、被告Y1社の社員が混在して業務に従事していた。
(イ) 業務は、午前8時から午後8時30分までのA勤務と、午後8時30分から午前9時までのB勤務の二交替制で行われていた。どの業務に従事するかは被告Y1社の社員が決めていた。
(ウ) 原告が従事する業務に関し、被告Y2社が指揮命令することはなかった。被告Y2社の作業監督者等は同事業場には存在していなかった。
エ 被告Y1社による労務管理
(ア) 原告の出退勤管理は被告Y1社が行っていた。具体的には、原告に対しては、被告Y1社の社員と同じように、同被告の社員から出勤計画表を提出され、それに従うことが義務付けられていた。
原告に対する休日出勤命令、早出出勤命令などは、被告Y1社の社員から直接なされていた。
原告は、有給休暇を取得する場合、被告Y1社に連絡していた。
(イ) 原告の業務に関する指揮命令は、被告Y1社の社員からなされ、原告は、主な業務とは別に、以下のような業務指示を被告Y1社の社員から受けていた。
原告は、出社後、午前8時から10分間被告Y1社の社員とともに職場の掃除が義務付けられていた。
掃除後午前8時30分から行われる入力デバイスチームの朝会への参加が義務付けられていた。朝会では、被告Y1社の社歌を唱和し、社訓・スピーチを聞かされた。
その後、成形係での朝会が行われ、業務に関する連絡事項や指示が成形係の係長からなされ、その後、□□班での朝会があり、班長から細かな作業指示が与えられた。
(ウ) 原告が業務に従事するための研修・教育も被告Y1社の社員によって行われた。原告は、入社後しばらくして、「□□成形」工程の射出成形機運転作業について、被告Y1社から作業能力の確認認定を受けた。
(エ) 原告の出退勤・作業指示・業務に関する研修・教育等に被告Y2社は一切関わっておらず、労務管理は専ら被告Y1社が行っていた。
オ 被告Y1社による賃金支払
原告は、賃金は被告Y2社から振込送金の方法により支払を受けていたが、被告Y2社は業務や労務管理等に関しての関与が全くなく、賃金の支払代行をしているに過ぎなかった。
なお、原告の平成21年1月末現在の労働条件は、以下のとおりであった。労働時間は午後8時30分から翌午前8時45分まで(うち休憩時間1時間15分)の11時間勤務で、賃金は時給1184円、時間外給与1480円の毎月末日締め翌月15日払いであった。そして、直前3か月の平均賃金は26万1135円であった。
(被告Y1社の主張)
ア(ア) 黙示の意思表示は、表示価値のより高い明示の意思表示に反したり、それと対立するものであってはならない。故に、黙示の意思表示の認定にあたっては、挙動や行動と両立し、矛盾しないよう厳格になされなければならず、具体的な事実によって表示された意味の解釈という限界を超えることはできない。
(イ) そして、原告と被告Y2社は、労働契約を締結する意思を明示して労働契約を締結し、原告も被告らもそれを前提とした行動をしている以上、原告と被告Y1社との間に労働契約を締結する意思があったとは到底解することはできない。
(ウ) さらに、黙示の労働契約の成立が認定されるためには、①派遣元が派遣先等に資本上、人事上従属し、派遣先等との関係で独自性がないと認められる事情、②派遣先が、採用、失職、就業条件の決定、殊に賃金を実質的に決定し、その支払を直接行っている事情、③派遣元が派遣労働者の労務管理を行っていない事情、④派遣先等が派遣労働者の配置、懲戒を行っている事情、⑤派遣先等と派遣労働者の間に事実上の使用従属関係があると認められる特段の事情が必要である。
(エ) 本件においては、上記(ウ)の事情はどれも認められないのであるから、黙示の労働契約の成立が認められることはない。
イ 被告Y1社による採用行為
(ア) 原告は訴状や、原告の意見陳述においては、被告Y1社による採用への関与には何ら触れていない。本訴提起から1年以上も経過してから採用行為への被告Y1社の関与を主張するようになったもので、原告の主張の信用性は極めて乏しい。
(イ) Cの発言・説明はいずれも知らない。
(ウ) 被告Y1社が被告Y2社による原告の採用に関与したことはない。
ウ 被告Y1社による指揮命令
(ア) 被告Y1社のDが原告に対し、当初3か月に限り、安全衛生徹底等の観点から、被告Y1社に設置された成形機の運転方法等を直接説明したことは認める。また、被告Y2社に対し、連絡事項と緊急異常時における対応等の申し送りなどをしていたことは認めるが、その余は否認する。被告Y1社は、派遣労働者を含む他社の労働者に対し、自己の労働者に対して行うのと同程度の指導や教育等はしていない。
(イ) 被告Y1社の労働者が平成18年10月末までの間、原告が所属する被告Y2社の労働者に対し、作業に関する連絡事項の申し送りをしたことがあることは認め、その余は否認する。原告が主に勤務していた成形工程における夜間の時間帯については、原告を含む被告Y2社の労働者のみが従事しており、他の請負会社や被告Y1社の労働者と混在はしていない。
(ウ) 原告の勤務時間帯は、午後8時30分から翌日午前8時30分まで(後に、午後8時30分から翌日午前8時45分まで)で、被告Y1社は、被告Y2社の誰が、いつ、どの業務に従事するかを具体的に決定したことはない。
エ 被告Y1社による労務管理
(ア) 被告Y2社は、平成18年10月末日まで、原告を含め自己の労働者に対し、入退社の確認、勤務管理(勤務状況についての指導)、給与計算、社会保険被保険者資格得喪、福利厚生運営等の基本的な雇用者としての管理を行っており、現場責任者としてm事業所担当チーフを被告Y1社のl工場に定期的に巡回させていた。
チーフは、朝(午前8時から午前10時頃)及び夕方(午後5時から午後8時頃)の時間帯はl工場におり、被告Y1社のl工場で就業していた。チーフは朝、タイムカードの前に立ち、被告Y2社の労働者につき、出退勤の確認、個別の連絡、声掛けをし、請負工程を巡回し、勤務状況確認や被告Y1社の責任者と打ち合せをし、それに基づき被告Y2社の労働者に対する連絡徹底をしていた。夕方も、再度、被告Y2社の労働者への対応に従事していた。さらにチーフは必要に応じて、被告Y1社のl工場において、被告Y2社の労働者の管理監督をしていた。
(イ) 平成18年10月末日まで、原告の出退勤は、被告Y2社が管理していた。出勤計画表は、便宜的に被告Y1社の労働者と共通のものを使用し、被告Y1社も原告ら被告Y2社の労働者の出退勤状況を確認していたことは認める。ただし、被告Y2社は、同日まで、被告Y1社のl工場にタイムカードを設置し、現場責任者による確認と併せて、被告Y2社の労働者の出退勤を管理していた。
被告Y2社の労働者の希望に応じて作成され、同社により管理された出勤計画が、被告Y1社の労働者の出勤計画表と共通の用紙に記載されて被告Y1社のl工場に掲示されていたことは認める。もっとも被告Y1社が、平成18年10月末日まで、原告に対し、上記出勤計画に従うよう義務付けたことはない。
休日出勤命令及び早出出勤命令は被告Y2社の担当者がすることになっていた。
被告Y2社は、平成18年10月末日まで、被告Y2社の労働者に対し、欠勤する場合や年次有給休暇を取得する場合は、被告Y2社に連絡するよう指示し、そのように運用されていた。被告Y1社に連絡してくる者があった場合、同被告は被告Y2社に連絡していた。
(ウ) 原告が午前8時から約10分間、掃除をしていたことは認める。被告Y1社は、平成18年10月末日まで、被告Y2社に対し、作業場の安全衛生を確保するために整理整頓の励行と、掃除の実施に関する協力要請をしていた。係る協力要請に基づき原告ら被告Y2社の労働者が掃除を実施していたもので、被告Y1社が義務付けたことはない。
原告が被告Y1社の朝会の場に居たことは認め、その余は否認する。被告Y1社は、労働者派遣契約前(平成18年10月末日以前)、被告Y2社の労働者に朝会への出席を義務付けたことはないし、所感などの発表もさせていない。
朝会のあとの成形工程のミーティングにおいて、被告Y1社の社員が被告Y2社の労働者に、作業内容の確認及び事故防止の観点から、生産の進捗状況、品質異常時の対応、安全面での注意事項等を連絡していたという限りで認める。
(エ) 被告Y1社が原告の作業者認定をしたことは認める。これはISOの認定を受けるためで、教育ではない。
オ 被告Y1社による賃金支払
被告Y2社が原告に対し、原告の賃金を支払っていたことは認める。被告Y2社は、平成18年10月末日まで、自己の労働者に対する入退社の確認、勤務管理、給与計算、社会保険被保険者資格得喪、福利厚生運営等基本的な雇用管理をしていた。平成18年11月1日以降、被告Y2社は、労働者派遣元として業務を実施している。
被告Y2社が被告Y1社の賃金の支払代行機関に過ぎないなどということはない。
(2)  争点2-労働者派遣法40条の4により労働契約が成立していると認められるか。
(原告の主張)
ア 労働者派遣法は、製造業など一般業務について、派遣可能期間を超えて派遣労働者を使用するときは、当該派遣労働者に対して雇用契約の申込みをしなければならないと規定する。被告Y1社は、派遣可能期間の延長に関する労働組合等の意見聴取の手続をしていないので、原告については、1年を経過した平成18年2月21日が来るまでに原告に対して雇用契約の申込み義務を履行しなければならなかった。
被告Y1社はこれをすることなく、派遣労働者の受入れを継続した。
このような場合には、同日の時点で雇用契約申込義務を履行したものと評価すべきであり、派遣労働者の応諾(具体的には就労の継続)により、雇用契約が成立するものと解すべきである。
イ 労働者派遣法40条の4は、派遣元事業主から法の規制に抵触する日について通知があった場合の規定とされているが、派遣先は自ら派遣可能期間の期限を知りうる立場にあり、また、通知自体は派遣元事業主の単なる手続違反に過ぎないのであるから、この手続の不存在をもって同条の適用を回避すべき理由とはならない。
ウ 被告Y1社は、原告との雇用契約の内容について、特段の意思表示をしていないのであるから、被告Y1社に雇用される通常の労働者と同様の処遇をする意思を有していたと推認されるから、通常の労働者が採用された場合と同様になる。少なくとも原告は被告Y1社に対する労務の提供により賃金を得ていたのであるから、その労働条件が両者の契約内容になる。
(被告Y1社の主張)
ア 労働者派遣法40条の4に基づく直接雇用契約申込義務が発生するには、①派遣元事業主から抵触日の通知を受けること、②抵触日以降も継続して当該通知を受けた派遣労働者を使用すること、③抵触日の前日までに派遣労働者から派遣先に直接雇用を希望するとの申出がされていることが必要である。
イ 上記各要件はいずれも充足していない。被告Y2社から被告Y1社に対して抵触日の通知はされていないし、被告Y1社は、抵触日以降も継続して当該通知を受けた派遣労働者を使用してはいない。また、抵触日は既に経過しているが、抵触日前日までに原告から被告Y1社に直接雇用の希望の申出はない。したがって、被告Y1社に労働者派遣法40条の4の直接雇用契約申込義務が発生することはない。
ウ 被告Y1社が、平成18年2月21日から平成21年1月16日まで、原告に対して、直接雇用の申込みをしなかったことに争いはない。契約締結の申込みがない以上、意思表示の合致による契約の成立ということもあり得ない。
なお、被告Y1社は、平成21年1月16日、本件是正指導に従い、直接雇用の申込みをしたが、原告は、被告Y1社の提示した労働条件による労働契約の締結については承諾しなかった。
(3)  争点3-被告らの行為が不法行為を構成すると認められるか。
(原告の主張)
ア 被告Y1社と原告との間に労働契約が認められる場合
(ア) 正社員として取り扱われる利益の侵害
① 被告らは、原告と被告Y1社との労働契約の成立を認めず、被告Y1社の雇用責任を回避させる目的で、被告らの間で本件請負契約を締結し、被告Y2社と原告との間で労働契約を締結したとして、それ以外には契約関係が存在しないかのように偽装した。
これらの契約は、それぞれ職業安定法44条、労働者派遣法40条の2、26条労働基準法6条に違反する違法なものであった。
② 仮に、就労当初からは黙示の労働契約が成立していないとしても、被告Y1社は、労働者派遣法40条の4に従い、原告に対して雇用契約の申込みをする義務があるのにこれを行わなかった。
③ 被告らの偽装行為により、あるいは被告Y1社が労働者派遣法40条の4に違反し、雇用契約の申込みをしなかったことにより、原告は被告Y1社の直接雇用労働者として取り扱われる利益(直接雇用労働者であれば認められたであろう安定的処遇、他の直接雇用労働者との平等的処遇)を侵害された。
(イ) 違法解雇
被告らは、これらの違法行為を是正するための申告をした原告に対し、労働者派遣法49条の3第2項に違反して違法な解雇をした。
(ウ) 故意・過失
被告Y2社の業務内容や被告Y1社の企業規模、派遣労働者等の使用実態等からして、被告らには、被告Y1社の雇用責任回避及び法違反の存在について故意・過失がある。
(エ) 損害
原告は、被告らの不法行為により、不安定な間接雇用という形態での就労を余儀なくされ、また違法な解雇をされたことにより精神的苦痛を被った。
被告Y2社が取得した利益は、原告の労働の対価として原告が取得すべき賃金の一部であり、被告Y2社が適法に取得しうる利益ではなく、被告らは共同して、原告に利益相当分の経済的損失を与えている。この点も慰謝料として考慮すべきである。
原告の被った精神的苦痛を金銭的に評価すれば、少なくとも100万円を下回ることはない。
イ 被告Y1社との労働契約が認められない場合(予備的)
(ア) 雇用の安定を図る措置を執るべき義務違反
① 被告らは、被告Y1社の雇用責任を回避させる目的で、被告らの間で本件請負契約を締結し、被告Y2社と原告との間で労働契約を締結したが、これらの契約はそれぞれ職業安定法44条、労働者派遣法40条の2、労働者派遣法26条等に違反する違法なものであった。
被告らは、原告に対して原告を被告Y1社に直接雇用することも含め、雇用の安定を図りつつ、この違法状態を是正する義務を負っていたにもかかわらず、被告らは雇用に対して何らの措置も執らなかった。
② 雇用契約申込義務違反
被告Y1社は、労働者派遣法40条の4に違反し、原告に対して雇用契約を申し込まなかった。
③ 違法解雇
被告らは、原告が労働局への申告をしたことに対する報復として、請負契約及び労働契約を解除した。被告らの行為は、労働者派遣法49条の3第2項に違反する違法なものであった。
(イ) 故意・過失
被告Y2社の業務内容や被告Y1社の企業規模、派遣労働者等の使用実態等からして、被告らには、被告Y1社の雇用責任回避及び法違反の存在について故意・過失がある。
(ウ) 損害
原告は、被告らの不法行為により、被告Y1社に直接雇用され、または被告らから雇用の安定を図る措置を執られることにより、就労を継続できる利益(法的に保護される期待権)が侵害され、また、違法な解雇を強いられたことにより、精神的苦痛を被った。
また、被告Y2社が取得した利益は、原告の労働の対価として原告が取得すべき賃金の一部であり、被告Y2社が適法に取得し得る利益ではなく、被告らは共同して、原告に利益相当分の経済的損失を与えている。
原告の被った精神的苦痛を金銭的に評価すれば、少なくとも100万円を下回ることはない。
(被告Y1社の主張)
ア 被告Y1社は、原告に係る業務請負及び労働者派遣に関して、労働者派遣法違反をしていない。仮に、労働者派遣法に適合しない部分があったとしても、原告と被告Y2社との間に労働契約が存在する以上、職業安定法44条違反となることはない。また、労働基準法6条に違反することもなく、実際、被告Y1社が中間搾取を行った事実はない。
イ 被告Y1社が平成18年2月21日、原告に対して直接雇用の申込みを行ったことがないことは認め、その余は否認ないし争う。
被告Y1社は、原告主張の法的義務を負うものではないが、福井労働局の行政指導に従い、原告を含む対象派遣労働者の雇用の安定を図るため、平成21年1月16日、原告らに対して直接雇用の申込みを行ったが、原告はこの申込みを承諾しなかった。
ウ 被告Y1社は、原告を解雇しておらず、原告と被告Y2社との間の労働契約の終了について何ら関与していない。
被告らは、行政指導を尊重し、平成21年1月13日、それぞれが原告を含む対象派遣労働者の雇用の安定を図るための措置を独自に講じたうえで、双方が合意して同年3月末日をもって本労働者派遣契約を終了させたに過ぎない。
エ 原告は、被告Y2社と期間の定めのある労働契約、いわゆる登録型の雇用契約を締結し、派遣労働者として働いていたのであるから、被告Y1社と被告Y2社との間の労働者派遣契約が終了したことに伴い、原告と被告Y2社との間の労働契約もその契約期間終了をもって終了した。だからといって、法的保護に値する精神的苦痛を被ったとはいえない。
オ したがって、原告の不法行為に基づく慰謝料請求はいずれも理由がない。
(被告Y2社の主張)
ア 原告は、被告Y1社のl工場で働きたいと希望していたのであって、被告Y1社との間で労働契約を締結していたのではない。そして、雇用主が被告Y2社と明示された契約書に署名して、被告Y2社との間に労働契約を成立させているのであるから、原告と被告Y1社との間に労働契約成立のための意思が合致することはない。したがって、原告と被告Y1社との間に労働契約が成立していることを前提とする主張は失当である。
イ 原告と被告Y2社との労働契約、被告Y2社と被告Y1社との本件請負契約には、労働者派遣法その他の法令違反(職業安定法44条、労働者派遣法40条の2、40条の4、労働基準法6条違反等)はない。
したがって、原告の正社員として取り扱われる利益を侵害してはおらず、また、原告の主張する雇用の安定を図る措置を執るべき義務を負担してはいない。
ウ 原告と被告Y2社の労働契約は、期間満了により終了したのであって、被告Y2社は原告を解雇していない。
エ 原告は、自らの意思で被告Y2社との間で、短期間の雇用を前提とする労働契約を締結していたのであるから、原告主張の精神的苦痛は生じる余地はない。
オ 被告Y2社が得た利益は、被告Y2社と被告Y1社間の本件請負契約及び労働者派遣契約に基づく適法なものである。
カ したがって、原告の不法行為に基づく慰謝料請求はいずれも理由がない。
第3  当裁判所の判断
1  当裁判所は、原告の請求はいずれも理由がないから、これを棄却すべきものと判断するが、その理由は以下のとおりである。
2  争点1-黙示的に労働契約が成立していると認められるか。
(1)  原告の就労等の実態について
ア 被告Y1社による採用行為
(ア) 原告は、被告Y1社が少なくとも原告の採用に関与していたと主張し、Cの言動等を指摘する。また、原告はその主張に沿う内容の供述等〔証拠〈省略〉、原告本人〕をする。
(イ) まず、Cの言動を裏付けるのは原告の供述等しかないところ、原告の主張の経緯に照らせば、その供述等を直ちには信用し難いところである。
そして、被告Y1社は原告採用への関与を否定し、その関与を必要とする客観的な状況も認められないうえ、被告Y2社が被告Y1社から独立した会社であることや、同被告の企業規模及び業務内容〔基礎となる事実(1)〕にも照らせば、原告の主張するCの言動が認められるとしても、その言動から、被告Y1社が原告の採用に関与していたことを認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって、原告の上記主張を認めることはできない。
イ 被告Y1社による指揮命令・労務管理
(ア) 原告は、平成17年2月21日から被告Y1社のl工場でdチーム成形係□□成形班で射出成形機のオペレーターとして稼働し始めたが、成形班のリーダーDから、組織・設備・作業内容等の説明を受け、当初の3か月ほどは設置されている成形機の運転方法等の指導も受けていた。
(イ) 原告が稼働していた職場においては、昼勤務において、被告Y1社の労働者3名と被告Y2社他の請負会社の従業員3、4名が同じフロアで作業に従事していた。夜勤務においては、被告Y2社の労働者だけが作業に従事していた。
しかしながら、いずれの勤務であっても、被告Y2社が請け負ったとされる作業について、具体的な指揮命令を担当する同被告の担当者はいなかった。そして、問題が生じたときは、原告ら被告Y2社の労働者は、同被告に対してではなく、被告Y1社の従業員に対して報告・相談をし、指示を受けていた。〔証拠〈省略〉、原告本人〕
(ウ) 被告Y1社では、同被告の労働者と原告ら被告Y2社の労働者が同じ出勤計画表に記載され、そこには「上記計画で出勤をお願いします。尚、納期トラブルが発生した場合は、日程変更をお願いすることがあります。」、「社外工の方は出勤出来ない日に【休】と記入してください」、「社員の方は計画年休日に【年休】と記入してください」などの注意書きがされていた。このようにして被告Y1社も原告ら被告Y2社の労働者の出退勤状況を確認していた。〔証拠〈省略〉〕
(エ) 原告は、その職場において、被告Y1社の労働者とともに、午前8時からの約10分間の掃除に従事し、結果報告をしていた。〔証拠〈省略〉〕
さらに、原告ら被告Y2社の労働者は、被告Y1社の朝会のあとで実施される成形工程のミーティングにおいて、被告Y1社の社員から、作業内容の確認及び生産の進捗状況、品質異常時の対応、安全面での注意事項等の連絡を受けていた。
(オ) 休日出勤命令及び早出出勤命令は被告Y2社の担当者がすることになっていたと被告Y1社は主張するが、その具体的な手順やそのような手続のもと命令が発出されていたことを窺わせる証拠はなく、原告の供述等〔証拠〈省略〉、原告本人〕によれば、原告は被告Y1社の社員からの求めに応じて休日出勤・早出出勤をしていたものと認められる。
(カ) 欠勤する場合や年次有給休暇を取得する場合の手続について、被告Y1社は、被告Y2社の労働者に対しては、被告Y2社に連絡するように指示がされていたし、そのように運用されていたと主張する一方、被告Y1社に連絡してくる者があったことも認めている。
上記指示の周知がさほど困難なことではないことからすれば、被告Y1社に連絡してくる者がいるということは、この欠勤ないし休暇の取得が被告Y1社にとって必要な情報であったことを示しているものと認められる。
(キ) 被告Y2社は、被告Y1社のl工場にタイムカードを設置していた。そして、被告Y2社の現場責任者が朝夕に被告Y2社の労働者の出退勤の状況を確認し、管理していた。
(ク) 被告Y2社は、原告を含め自己の労働者に対し、入退社の確認、勤務管理、給与計算、社会保険被保険者資格得喪、福利厚生運営等の基本的な雇用者としての管理を行っていた。〔証拠〈省略〉〕
ウ 被告Y1社による賃金支払
(ア) 原告は、被告Y2社は労務管理等に関しての関与が全くなく、賃金の支払代行をしているに過ぎず、被告Y1社が原告の賃金を決定し、支払っていたと主張する。
(イ) 原告に対しては被告Y2社から賃金が支払われており、平成18年10月末日までは、定額の基本給を基礎とする給与体系によるものであった。〔証拠〈省略〉〕
被告Y1社は、原告の賃金決定への関与を否定し、被告Y2社が被告Y1社から独立した会社であること、被告Y2社の企業規模及び業務内容〔基礎となる事実(1)〕、同被告が原告らの出勤・有給を管理し、賃金・社会保険を管理していたこと〔証拠〈省略〉〕に照らせば、被告Y1社が原告の賃金を事実上にしろ決定して、支払っていたことを裏付ける的確な証拠のない本件においては、原告の上記主張を認めることはできない。
(2)  原告と被告Y1社との間に当初より黙示の労働契約が成立していたとの原告主張について検討するに、原告主張の見地から検討しても、基礎となる事実と上記(1)で認定した事実によれば、原告の採用につき被告Y1社が関与していたとは認められず(上記(1)ア)、さらに原告が被告Y2社から支払を受けていた給料等の金額を被告Y1社において事実上決定していたとは認められないこと(上記(1)ウ)、さらに被告Y2社は、原告を含め自己の労働者に対し、入退社の確認、勤務管理、給与計算、社会保険被保険者資格得喪等の基本的な雇用者としての管理を行っていたこと(上記(1)イ(キ)、(ク))を総合勘案すると、原告の上記主張を認めることはできず、他に上記主張を認めるに足りる証拠はない。
原告は、当初、被告Y2社との間で、期間雇用契約書により、雇用期間を平成17年1月21日から平成18年5月20日までとする労働契約を締結してその後就労を開始したのであり、上記契約書の記載内容からすれば、当然、原告も被告Y2社との間で労働契約を締結したとの認識を有していたと認められるのであるから、被告主張の見地からすれば、原告が黙示的にしろ被告Y1社との労働契約締結の意思表示をしていたとは到底評価できないところである。
いずれにしろ、原告と被告Y1社との間に、当初より黙示的な労働契約が成立していたとは認められない。
(3)  なお、原告の被告Y1社のl工場での就労は、被告らの間の本件請負契約に基づくものではあるものの、上記(1)イ(ア)ないし(カ)の認定によれば、被告Y2社は、その請け負った業務の遂行管理に係る具体的な指示命令をする担当者を現場に置いてはおらず、それは被告Y1社の社員によって行われていたものと認められるのであるから、法的に請負契約と評価することはできない。
そして、原告と被告Y1社との間には、上記(2)で認定のとおり、労働契約の成立は認められないのであるから、被告Y1社と被告Y2社及び原告との関係は、労働者派遣法2条1号の労働者派遣に該当すると解すべきである。そして、このような労働者派遣も、それが労働者派遣である以上は、職業安定法4条6項にいう労働者供給には該当せず、同法44条違反ともならない(最判平成21年12月18日・民集63巻10号2754頁)。
なお、労働者派遣法の趣旨及びその取締法規としての性質、さらには派遣労働者を保護する必要性等からすれば、労働者派遣法に違反する労働者派遣が行われた場合においても、特段の事情のない限り、そのことだけによっては派遣労働者と派遣元との間の労働契約が無効になることはない。
(4)  以上のとおり、原告と被告Y1社との間に当初より黙示的に労働契約が成立しているとは認められない。
3  争点2-労働者派遣法40条の4により労働契約が成立していると認められるか。
(1)  労働者派遣法は、派遣可能期間を定めるとともに(同法35条の2、40条の2)、「派遣先は、第35条の2第2項の規定による通知を受けた場合において、当該労働者派遣の役務の提供を受けたならば第40条の2第1項の規定に抵触することとなる最初の日以降継続して第35条の2第2項の規定による通知を受けた派遣労働者を使用しようとするときは、当該抵触することとなる最初の日の前日までに、当該派遣労働者であって当該派遣先に雇用されることを希望するものに対して、雇用契約の申込みをしなければならない」(同法40条の4)と定める。
(2)  労働者派遣法には、上記規定の実効性を確保するための主な規定として、次のとおりの規定を設けている。
ア 厚生労働大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、労働者派遣をする事業主及び労働者派遣の役務の提供を受ける者に対し、労働者派遣事業の適正な運営又は適正な派遣就業を確保するために必要な指導及び助言をすることができる。(同法48条1項)
イ 厚生労働大臣は、派遣元事業主が当該労働派遣事業に関しこの法律その他労働に関する法律の規定に違反した場合において、適正な派遣就業を確保するため必要があると認めるときは、当該派遣元事業主に対し、派遣労働者に係る雇用管理の方法の改善その他当該労働者派遣事業の運営を改善するために必要な措置を講ずべきことを命ずることができる。(同法49条1項)
ウ 厚生労働大臣は、…第40条の2第1項、第40条の4…の規定に違反している者に対し、第48条第1項の規定による指導又は助言をした場合において、その者がなお…第40条の2第1項、第40条の4…の規定に違反しており、又は違反するおそれがあると認めるときは、当該者に対し、…第40条の2第1項の規定に違反する派遣就業を是正するために必要な措置をとるべきこと又は第40条の4若しくは第40条の5の規定による雇用契約の申込みをすべきことを勧告することができる。(同法49条の2第1項)
エ 厚生労働大臣は、派遣先が第40条の2第1項の規定に違反して労働者派遣の役務の提供を受けており、かつ、当該労働者派遣の役務の提供に係る派遣労働者が当該派遣先に雇用されることを希望している場合において、当該派遣先に対し、第48条第1項の規定により当該労働者を雇い入れるように指導又は助言をしたにもかかわらず、当該派遣先がこれに従わなかったときは、当該派遣先に対し、当該労働者を雇い入れるように勧告することができる。(同法49条の2第2項)。
オ 厚生労働大臣は、前2項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができる。(同法49条の2第3項)
(3)  このように労働者派遣法は、同法40条の4の規定の実効性を確保するために、厚生労働大臣による指導又は助言、さらに労働契約締結の申込みの勧告、それに従わないときは勧告を受けた者の公表という、あくまでも間接的な方法で労働契約締結の申込み(意思表示)を促すという制度を採用しているに止まる。
そうとすると、派遣可能期間が経過していることを知りながら労働者派遣を継続して受け入れていた場合、これらの事実をもって派遣先と派遣労働者との間に労働契約の成立が認められるべきであるという原告の主張は、労働者派遣法の上記制度のもとにおける解釈論としては採用できないというべきである。
(4)  さらに、被告Y1社は原告に対して、本件是正指導以前に直接雇用の申込みの意思表示をしてはおらず、本件是正指導以降に被告Y1社が原告に対してした直接雇用の申込みについては、同被告提示の労働条件を原告が承諾しておらず、いずれにしろ労働契約の成立は認められない。
(5)  したがって、労働者派遣法40条の4により、原告と被告Y1社との間に労働契約が成立しているとの原告の主張には理由がない。
4  上記2及び3の認定判断のとおり、原告と被告Y1社との間に労働契約の成立は認められないのであるから、原告の被告Y1社に対し、期間の定めのない労働契約上の地位にあることの確認請求、平成21年3月15日以降、毎月15日限り、26万1135円の賃金の支払請求はいずれも理由がない。
5  争点3-被告らの行為が不法行為を構成すると認められるか。
(1)  上記のとおり、原告と被告Y1社との間には労働契約の成立が認められないのであるから、その成立を前提とする慰謝料請求は理由がない。
そこで、原告と被告Y1社との間に労働契約の成立が認められないことを前提にし、被告らの行為には「雇用の安定を図る措置を執るべき義務違反」があるとしての慰謝料請求につき検討する。
(2)  原告は、被告らが、実態は労働者派遣であるにもかかわらず請負契約の法形式を利用して労働者派遣法等の制約を潜脱し、直接雇用の申込義務を履行せず、最終的には報復として原告と被告Y2社の労働契約すら終了させたことが、原告に対する不法行為を構成すると主張する。
(3)ア  まず、上記2で認定判断のとおり、被告Y1社と被告Y2社との本件請負契約は請負契約とは評価できず、実質は労働者派遣であり、被告Y1社と原告との間には労働契約の成立は認められないのであるから、この三者間の関係は、労働者派遣法2条1号にいう労働者派遣に該当すると解すべきである。そして、このような労働者派遣も、それが労働者派遣である以上は、職業安定法4条6項にいう労働者供給には該当せず、同法44条違反ともならない(最判平成21年12月18日・民集63巻10号2754頁)。
イ  さらに、労働基準法6条は、「業として他人の就業に介入して利益を得てはならない」と規定するところ、労働者派遣は派遣元と労働者との間に労働契約関係及び派遣先と労働者との間の指揮命令関係を合わせたものが、全体として当該労働者の労働関係となるものであり、したがって派遣元による労働者の派遣は、労働関係の外にある第三者が他人の労働関係に介入するものではないと解されるのであるから、本件において、労働基準法6条違反の問題は生じない。
ウ  しかしながら、原告の就労については、労働者派遣契約が締結された平成18年11月1日までは、労働者派遣法による法規制が無視されるという違法な状態が、それ以降も就業可能年数の制限などに関する法規制に違反する状態が続いたものと認められる。
したがって、被告らが労働者派遣法に違反する状態にあることを知りながら(被告らの企業規模、業務内容に照らせば、原告の就業が労働者派遣法に違反するものであることは認識していたものと容易に推認できる。)原告を派遣労働者として被告Y1社のもとで就業させ、さらにその労働関係が終了するに至ったことが、原告に対する不法行為を構成するかについて検討する必要がある。
(4)  原告の主張する雇用の安定を図る措置が執られることにより就労を継続できる利益について検討する。
ア 労働者派遣法は、その目的規定(同法1条)からも明らかなように、直接には、労働者派遣事業の適正な運営の確保に関する措置を講じ、派遣労働者の就業に関する条件の整備等を図るための取締法規であり、派遣元及び派遣先の各事業主に対する様々な規定を設けている。
そして、実効性確保のために、基本的には、各事業主に対する厚生労働大臣による指導、助言及び勧告、改善命令、公表等という制度を採用しているに止まり、派遣労働者に何らかの権利・権限等を認めるということまでは認めていない。
したがって、労働者派遣法は、派遣元及び派遣先の各事業主に対して様々な規制を加えることによって、間接的に派遣労働者の権利利益を守ろうとしているに止まると解されるのである。
イ そうとすると、労働者派遣法が守ろうとしている派遣労働者の利益は、派遣元及び派遣先の各事業主の違反行為につき、不法行為法上の違法性まで直ちに根拠付けるものとは言えず、不法行為法上、法的保護に値する利益とまでは評価できないというべきである。
したがって、被告らの行為が労働者派遣法に抵触するにしても、それが原告に対する不法行為を構成するとは認められない。
(5)  原告の主張する直接雇用されることによる就労を継続できる利益について検討する。
労働者派遣法40条の4は、一定の場合に派遣先が派遣労働者に雇用契約の申込みをしなければならないことを規定する。
しかしながら、派遣先はこの雇用契約の申込みをするか否かを自由に選択できるうえ、申し込む際の契約内容(労働条件)についても自由に選択できることからすると、派遣労働者の地位は派遣先の判断によって労働契約の申込みを受けるかもしれないというものに止まるのであって、その利益は上記条項の違反につき不法行為を構成するほどの法的利益とまでは評価することはできない。
したがって、労働者派遣法40条の4に違反していた被告らの行為が原告に対する不法行為を構成するとまでは認められない。
(6)  原告の主張する解雇の違法について検討する。
まず、原告と被告Y2社の労働契約が終了したのは、その契約期間が終了したことによると認められる。
そして、被告らは、平成20年10月24日までには経済情勢の悪化に伴い派遣労働者数を減少させることを企図してその準備を開始していたこと、本件是正指導により、労働者派遣とその派遣の役務提供を受けることを中止するよう求められていたこと、その前提として労働者の雇用の安定を図るための措置を講ずることが求められていたが、基礎となる事実(6)のとおり、被告Y1社は原告に対して直接雇用の申込みなどをし、被告Y2社も労働契約を継続することを前提にその意向調査をするなどしていたこと、そしてその内容は、原告の満足するものでなかったにしても、原告を排除するために劣悪な労働条件が提示されたものとは評価できないこと、原告は、被告Y1社の提案する労働条件での労働契約の締結についてはこれを承諾せず、また、被告Y2社からの意向調査には回答を拒み、労働契約継続の希望を明示しなかったなどの本件における事情のもとでは、原告と被告Y2社の労働関係が終了したことについて、被告らに何らかの不法行為責任が生じるものとは認められない。
また、被告らが原告に対する報復など違法な目的をもって、原告と被告Y2社の労働契約を終了させたことを認めるに足りる証拠はない。
(7)  以上のとおり、原告の被告らに対する不法行為に基づく慰謝料請求はいずれも理由がない。
6  よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 坪井宣幸 裁判官 平野剛史 裁判官 仲井葉月)

 

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