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「営業 スタッフ」に関する裁判例(13)平成22年10月 7日 東京高裁 平21(行コ)313号 不支給処分取消請求控訴事件

「営業 スタッフ」に関する裁判例(13)平成22年10月 7日 東京高裁 平21(行コ)313号 不支給処分取消請求控訴事件

裁判年月日  平成22年10月 7日  裁判所名  東京高裁  裁判区分  判決
事件番号  平21(行コ)313号
事件名  不支給処分取消請求控訴事件
上訴等  上告及び上告受理申立て(上告棄却及び不受理決定)  文献番号  2010WLJPCA10076006

要旨
〔判示事項〕
◆中古車販売店の店長として勤務していた者が心房細動に起因する血栓形成により脳梗塞を発症した場合において,同人は,心房細動を発症しやすい基質が形成され,血栓が形成されやすいという素因を有していたところ,同発症前1か月間の時間外労働時間は「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(基発1063号)が定める時間外労働時間を大幅に下回り,同発症前2か月間ないし6か月間の1か月当たりの平均時間外労働時間も同基準が定める平均時間外労働時間を相当程度下回るものであり,ノルマの達成,異動の頻度等による精神的肉体的負担もそれ程大きかったとはいえないなどとして,同人の発症した脳梗塞が業務上の疾病には当たらないとされた事例

裁判経過
上告審 平成23年7月1日 最高裁第二小法廷 平23(行ツ)14号・平23(行ヒ)16号
第一審 平成21年 8月26日 東京地裁 判決 平19(行ウ)608号 不支給処分取消請求事件

出典
訟月 58巻7号2670頁

評釈
濵中淳一・訟月 58巻7号2670頁

参照条文
労働者災害補償保険法7条

裁判年月日  平成22年10月 7日  裁判所名  東京高裁  裁判区分  判決
事件番号  平21(行コ)313号
事件名  不支給処分取消請求控訴事件
上訴等  上告及び上告受理申立て(上告棄却及び不受理決定)  文献番号  2010WLJPCA10076006

主文

1  原判決を取り消す。
2  被控訴人の請求を棄却する。
3  訴訟費用は,第1,2審を通じて,被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた裁判
1  控訴の趣旨
主文同旨
2  控訴の趣旨に対する答弁
本件控訴を棄却する。
第2  事案の概要
1(1) 本件は,中古車販売店の店長であった被控訴人が,脳梗塞を発症し,後遺障害が残存していることについて,被控訴人の脳梗塞(本件疾病。原判決4頁 12 行目参照)の発症は過重な業務に起因したものであるとして,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく障害補償給付の請求をしたところ,三鷹労働基準監督署長が本件疾病は業務上の疾病には当たらないとして平成 15 年6月 11日付けで障害補償給付を支給しない旨の処分(以下「本件不支給処分」という。)をしたので,控訴人に対し,その取消しを求めた事案である。
(2)  原審は,脳梗塞の基礎となり得る素因や危険因子(以下「素因等」という。)を有していた被控訴人が,勤務先の中古車販売店であるbマイカーセンター(以下「bセンター」という。)における質量ともに過重な業務に従事し,これにより素因等が自然経過を超えて増悪し脳梗塞を発症させるに至ったとして,被控訴人の業務と本件疾病との間には相当因果関係があり,被控訴人の障害は労災保険法所定の業務上の疾病に当たるとして,本件不支給処分の取消しを求める被控訴人の請求を認容したので,控訴人が,これを不服として控訴した。
2  前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張の要旨は,原判決を次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中の第2の2ないし4に記載するとおりであるから,これを引用する。
(1)  原判決7頁 11行目の「加重性」を「過重性」に改める。
(2)  同 11頁 21 行目の「推定するのがことが」を「推定するのが」に改める。
(3)  同 21頁初行から同 22頁5行目までを次のとおり改める。
「 平成 13年 12 月 12 日付けの厚生労働省労働基準局長通達(基発 1063 号)に規定される認定基準(本件認定基準)は,上記の業務起因性の法的判断の枠組み及び専門検討会の検討結果を踏まえて,脳・心臓疾患の発症が業務上のものと認定されるための具体的な条件を定めたものであり,これによると,業務起因性が認められるためには,[1]発症直前から前日までの間において,発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと(異常な出来事),[2]発症に近接した時期において,特に過重な業務に就労したこと(短期間の過重業務),[3]発症前の長期間にわたって,著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと(長期間の過重業務)のいずれかが認められることが必要とされている。そして,上記[3]の「長期間の過重業務」については,「発症前1か月間に概ね 100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月当たり概ね 80 時間を超える時間外労働が認められる場合は,業務と発症の関連性が強いと評価できる。」とされており,また,「発症前1か月間ないし6か月間にわたって1か月当たり概ね 45 時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど,業務と発症との関連性が徐々に強まる。」とされている。
これは,脳・心臓疾患の発症と睡眠時間に関する研究,報告によれば,長期間にわたる長時間の労働やそれによる睡眠不足に由来する疲労の蓄積が血圧の上昇などを生じさせ,その結果,血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させる可能性があるとされていることを前提とするものであり,本件認定基準は客観的な判断手法として合理性を有するものである。
(2) 被控訴人が特に過重な業務に就労していたとは認められないこと(上記[1]の危険性の要件(原判決 20頁参照)を欠くこと)以下の諸点を総合考慮すれば,被控訴人の業務は,血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させる程度に過重であったとはいえない。
ア 被控訴人は,発症直前から前日までの間において異常な出来事に遭遇していない。
イ 被控訴人の時間外労働時間数は,業務と発症との関連性が強いと評価できる時間外労働時間数を下回っている。
(ア) 控訴人の本件疾病の発症前6か月間の時間外労働時間数は,原判決別表2〈省略〉記載のとおりであり,本件認定基準において業務と発症との関連性が強いと評価できるとされる時間外労働時間数(発症前1か月間に概ね 100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月当たり概ね 80 時間)を下回っている。
時期(算定期間)  時間外労働時間 平均時間外労働時間
[1] 発症前1か月間 37 時間 23 分
[2] 発症前2か月間 73 時間 35 分 55時間 29 分
[3] 発症前3か月間 75 時間 29 分 62時間 09 分
[4] 発症前4か月間 71 時間 34 分 64時間 30 分
[5] 発症前5か月間 43 時間 05 分 60時間 13 分
[6] 発症前6か月間 92 時間 30 分 65時間 36 分
(イ) 仮に時間外労働時間に関する原判決の認定判断によったとしても,被控訴人の時間外労働時間は次のとおりであり,本件認定基準において業務と発症との関連性が強いと評価できるとされる時間外労働時間数(発症前1か月間に概ね 100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月当たり概ね 80 時間)を下回っている。
時期(算定期間)  時間外労働時間 平均時間外労働時間
[1] 発症前1か月間 40 時間 06 分
[2] 発症前2か月間 78 時間 15 分 59時間 10 分
[3] 発症前3か月間 82 時間 46 分 67時間 02 分
[4] 発症前4か月間 78 時間 39 分 69時間 56 分
[5] 発症前5か月間 49 時間 30 分 65時間 51 分
[6] 発症前6か月間 94 時間 55 分 70時間 41 分」
(4)  同 25 頁 12 行目から 13 行目にかけての「本件か手帳」を「本件手帳」に改める。
(5)  同 28 頁 25 行目から 31 頁 12 行目までを次のとおり改める。
「 エ 被控訴人に課せられたノルマの達成は殊更困難なものではなく,被控訴人の業務は殊更精神的緊張下に置かれたものではなかった。
平成 11年1月から7月までのbセンターのノルマ達成率は本件会社の中古車販売店 12 センター中5位であり,この間の平均ノルマ達成率は 91.2パーセントで,12 センターのノルマ達成率の平均である 86.6パーセントを上回っており,bセンターは比較的成績の良い販売店であった。また,本件会社では,ノルマ達成率が 90 パーセント以上の場合には実績給が支給されるが,これを 100 パーセント達成できなくてもペナルティを課されることはなかった。そして,被控訴人は,約 10年間にわたりセンター長を勤めた実績があり,優秀な営業マンとして表彰された経歴もあったから,ノルマがあるというだけで被控訴人の肉体的,精神的負荷が過重であったとはいえない。
オ Aの不在による業務負担の過重性被控訴人は,Aの欠勤,遅刻により被控訴人に過度の負担がかかっていたと主張する。
しかし,Aの業務は,特に緊急を要するようなものではなく,他の従業員の応援などにより十分対応できていたから,Aの不在によって被控訴人の業務が特に過重になったというような事情はなかった。
カ bセンターにおける被控訴人の勤務状況は,それまでの被控訴人の勤務状況や他のセンター長のそれと特に異なるところはなく,また,これまで他のセンター長が脳梗塞等の脳・心臓疾患を発症した例はなかった。
キ まとめ
以上のとおり,被控訴人は,本件疾病の発症の前日までに異常な出来事に遭遇しておらず,その労働時間も過重とはいえず,また,特に精神的緊張がある状況にあったなどの過度の負担を負っていたものでもない。さらに,被控訴人の業務は,それまでの被控訴人自身のセンター長としての業務や他のセンター長の業務と比較しても殊更過重であたとはいえず,仕事に支障をきたすほどの疾患が被控訴人にはなく,他のセンター長にも脳・心臓疾患の発症例がなかったことに照らすと,被控訴人の業務が血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ,脳梗塞を発症させるほど過重なものであったということはできない。
(3) 本件疾病は,心房細動による心原性脳梗塞であるが,業務起因性がないこと(上記[2]の現実化の要件(原判決 20 頁参照)を欠くこと)
ア 被控訴人の脳梗塞は,心房細動により形成された血栓が脳に到達したことよる心原性の脳梗塞であると考えられる。
心房細動は,不整脈の一つであるが,加齢によって一定程度発症する疾患であるところ,心臓自体が心房細動を発症しやすい基質になることにより発症し,発症することにより更に心臓は心房細動を生じやすい基質に変質して再発を繰り返すと考えられている。そして,心房細動を来しやすい疾患には,僧帽弁疾患,高血圧,甲状腺機能亢進症,心筋症による心不全があるが,高血圧が心房細動の主なリスクファクターであり,過労やストレスはリスクファクターとはされていない。したがって,心房細動は,心臓の基質が心房細動を発生しやすい基質に変質することにより発症,再発する疾病で,その発症や再発は業務とは無関係である。
また,心房細動が発症した場合に血栓が形成される可能性はあるが,当然に形成されるわけではない。そして,血栓の形成についても,高血圧はリスクファクターとされているが,過労やストレスとは関係がないと考えられている。
イ 被控訴人に初めて心房細動が認められたのは平成 10年2月の健康診断時であり,被控訴人の血圧は,平成7年 12 月4日時点で 170/110,平成9年3月4日時点で 144/90,平成 10 年2月 16 日時点で 140/82 と高かったから,平成 10 年2月に発症した心房細動は,この影響によるものと考えられ,さらに,その後の血圧は,平成 11 年3月時点が130/84,同年6月 16 日時点が 145/90,本件疾病発症前日である同年9月2日時点が 139/93,発症当日の同月3日時点が 142/80 であり,高血圧の状態であったから,被控訴人の心房細動は,高血圧により心房細動を発生しやすい基質が形成され,加齢等もあって自然に発症したものであり,血栓の形成についても同様と考えられる。
そしてこのことは,被控訴人が本件疾病を発症し,同年9月4日に入院して業務から離れた後の同月8日にも心房細動を再発し,さらに,平成 14 年8月2日にも再度心原性の脳梗塞を発症していることからも明らかである。
ウ 以上のとおり,被控訴人は心房細動を発症しやすく,また,血栓を形成しやすい素因等を有しており,これにより本件疾病が発症したのであり,本件疾病の業務起因性は否定されるべきである。」
第3  当裁判所の判断
1  当裁判所は,本件不支給処分を違法として取り消した原審の判断とは異なり,本件不支給処分は適法であるからその取消しを求める被控訴人の本件請求には理由がなく,これを棄却すべきものと判断する。その理由は,原判決を次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中の第3「当裁判所の判断」に説示するとおりであるから,これを引用する。
(1)  原判決 31頁 19 行目から同 34頁 14 行目までを次のとおり改める。
「(1) 被控訴人の業務内容やbセンターにおけるノルマ達成率等(証拠〈省略〉)
ア 被控訴人(昭和 24年○月○日の男性)は,昭和 46 年4月1日,a株式会社(本件会社)に入社し,昭和 48 年5月から中古車販売に従事しており,平成元年9月1日には,「cマイカーセンター」で初めてセンター長に就任した。その後,被控訴人は,平成5年2月に「eマイカーセンター」のセンター長に,平成7年9月に「dマイカーセンター」のセンター長に,平成9年 10 月に「eマイカーセンター」のセンター長にそれぞれ就任し,平成 11年1月以降,bセンターのセンター長として勤務していた。
本件会社のマイカーセンターのセンター長は,同一のセンターで3年程度は勤務して異動するのが通例であったが,被控訴人は,上記のとおり,平成5年2月に「eマイカーセンター」のセンター長に就任して以降,1年3か月ないし2年7か月という通例よりは短い在任期間で異動していた。
イ bセンターには,平成 11年1月から9月までの時点で,センター長である被控訴人のほか,営業担当の従業員3名(以下「営業スタッフ」という。)と事務担当の女性従業員であるAが配置されていた。営業スタッフは,週末に行われるイベント以外は主として事務所外での販売活動に従事しており,事務所を不在にすることが多かった。
ウ センター長の主な業務は,マイカーセンターに入庫される中古車の査定と販売価格の決定,営業スタッフの販売実績等の本社への報告等であった。
中古車の入庫台数は,休み明けには一時的に増加することもあるが,その余は概ね1日当たり4,5台程度であり,その査定等に要する時間は1時間程度であった。また,センター長は,営業スタッフから販売活動等に関する報告を受け,毎日,営業日報を作成し,本社に報告する事務を担当していたが,その所要時間は 30 分から1時間程度であった。その他,センター長は,営業スタッフの販売活動を支援指導する役割もあったが,販売活動自体は営業スタッフが主として担当していたから,センター長はこれを支援するという関与に止まるのが通常であり,営業スタッフが事務所に戻るのを待つという待機時間も少なくなかった。
なお,センター長は,毎月2回,本社において開催される会議(営業会議及びセンター長会議)に出席し,その開催前にはノルマの達成状況を本社へ報告することとなっていた。そして,センター長は,毎月1日ころに開催される営業会議に備えて,前月末ころには同月の販売実績等を本社に報告し,また,毎月 20日ころに開催されるセンター長会議に備えて,毎月半ばころまでにはそれまでの販売実績をまとめて,月末までの販売見込みを本社に報告するとともに,会議では,状況を報告し,本社の担当者からそれらの報告を基にしたノルマの達成などについて指示を受けていた。
エ 本件会社では,マイカーセンターごとに中古車販売の月間のノルマが課せられていた。このノルマの達成は,基本的には営業スタッフの販売活動によることになり,センター長は,営業スタッフを支援しながらその成果の向上を目指していたが,不足があるときは自ら販売活動に当たることもあった。そして,ノルマが達成できなかった場合には,本社で開催される会議などで原因や対策等の説明を本社の担当者から求められることもあり,販売実績の上がらない販売店のセンター長にとってはノルマの達成が精神的な負担となることもあった。
しかし,本件会社においては,ノルマが達成されなかった場合のペナルティは定められておらず,しかも,小売台数のノルマ達成率 90パーセントで実績給が支給されることとされており,100 パーセント以上のノルマの達成を強く求められていたわけではなかった。
また,平成 11 年1月から7月までのbセンター及び 12あるマイカーセンター全体の中古車販売のノルマ達成率は次のとおりであり,bセンターは,全体の順位が5位であり,全体のノルマ達成率が平均 89.8 パーセントであったのに対して,これを上回る 91.
2  パーセントで実績給の支給を受けられる水準に達していた。
bセンター  マイカーセンター全体
[1]  平成 11 年1月  77.8%  88.3%
[2]         2月  108.0%  93.0%
[3]         3月  96.6%  98.3%
[4]         4月  100.0%  90.3%
[5]         5月  67.9%  83.7%
[6]         6月  80.8%  89.0%
[7]         7月  107.4%  85.7%
平均  91.2%  89.8%
オ bセンターにおいて現金の管理や帳簿の作成等の経理事務を担当していたAは,体調不良などによる遅刻や欠勤が少なくなかった。Aが担当する業務量自体はそれほど多いものではなく,被控訴人や営業スタッフの応援により対応できていたが,営業スタッフを除くと唯一の常勤従業員であるAの勤務状態についてセンター長として何らかの対応を要すると考えた被控訴人は,本件手帳の7月7日の欄に「A 遅」と記載したのを初めとして,同日以降,Aの勤務状況を記録し,また,8月 21日には,Aの自宅を訪問した(本件手帳の同日の欄には,「A宅 11:30」との記載がある。)が,直ちに改善が図られるという状況ではなかった。」
(2) 同 36 頁5行目の次に,行を改めて次のとおり加える。
「(エ) 被控訴人と同様に本件会社のセンター長として勤務している者の中で,脳・心臓疾患を発症させた者はいなかった。」
(3) 同 36 頁 16行目の「証拠〈省略〉」の次に「証拠〈省略〉」を加える。
(4) 同 37頁 12 行目から同 38頁4行目までを次のとおり改める。
「 (エ) 平成 11年3月 15 日 f病院(人間ドック 証拠〈省略〉)
血圧 130/84
アルコール性肝障害,高脂血症,高尿酸血症,肥満が指摘され,「アルコールを控え運動を心がけてください」との指導を受けている。
(オ) 平成 11年6月 16日及び 17 日 g病院(証拠〈省略〉)
被控訴人は,g病院を6月 16 日受診し,17 日に MRI 検査を受けた。その際,「脳梗塞の疑い」との診断名が付けられた。
血圧 145/90(6月 16 日)
なお,このころ,頭痛を訴えた被控訴人が,Aに「頭痛がする。何科に行けばいいの」と聞いたことがあったが,本件疾病の発症まで高血圧について積極的な治療を受けたことはなかった(証拠〈省略〉)。
(カ) 平成 11年9月4日からのh病院への入院時
被控訴人が,本件疾病によりh病院へ緊急搬送された際の心電図は洞調律であったが,翌5日には2:1ないし3:1の心房粗動が,同月8日には心房細動が記録されている(証拠〈省略〉)。
(キ) 被控訴人は,h病院に入院中の平成 14年8月2日,心原性の脳梗塞を発症した。
ウ 心房細動について(証拠〈省略〉)
心房細動は,不整脈の一つであり,心房内を毎分 400 ないし 600回の頻度で電気的興奮が不規則に旋回し,房室桔節を介して心房から心室へ無秩序に電気的興奮が伝導するため心室興奮も不規則となり,心拍数も 80ないし 130/分となるものをいい,一般に肺静脈を起源とした上室性期外収縮が引き金になって生じるとされている。
心房細動のリスクファクターとしては,僧帽弁疾患,高血圧,甲状腺機能亢進症,心筋症による心不全などがあるが,高血圧は心房細動の主なリスクファクターであるとされ,過労やストレスは,誘因であってもリスクファクターとはされていない。そして,心房細動は,上記リスクファクターの存在や加齢により心臓が心房細動を発症しやすい基質に変化していく中で発症するとされており,また,一旦心房細動を経験した心臓は,これによりさらに心房細動を発症しやすい基質に変化していくと考えられている。また,血栓の形成についても,心房細動と同様に高血圧はリスクファクターとなるが,過労やストレスとは関係なく発生するとされている。」
(5) 同 38頁 24行目及び同 39頁5行目の「同調律」をいずれも「洞調律」に改める。
(6) 同 47頁3行目の「参加した」を「参加したこと」に改める。
(7) 同 48頁 11行目から同 52頁 19行目までを次のとおり改める。
「 オ まとめ
以上の検討を踏まえて被控訴人の労働時間を算定すると原判決別表3〈省略〉のとおりであり,発症前6か月間の時間外労働時間数及び発症前2か月間ないし6か月間の平均時間外労働時間は次のとおりとなる。そしてこれによれば,被控訴人の時間外労働時間は,本件認定基準において,「業務と発症との関連性が強いと評価できるとされる時間外労働時間」である「発症前1か月間に概ね 100時間」及び「発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月当たり概ね 80 時間」をいずれも下回っていることが明らかである。
時期(算定期間)  時間外労働時間 平均時間外労働時間
[1]  発症前1か月間 40時間 06 分
(8月5日から9月3日)
[2]  発症前2か月間 78時間 15 分 59 時間 10 分
(7月6日から8月4日)
[3] 発症前3か月間 82時間 46 分 67 時間 02 分
(6月6日から7月5日)
[4]  発症前4か月間 78時間 39 分 69 時間 56 分
(5月7日から6月5日)
[5]  発症前5か月間 49時間 30 分 65 時間 51 分
(4月7日から5月6日)
[6] 発症前6か月間 94時間 55 分 70 時間 41 分
(3月8日から4月6日)
(3) 被控訴人の業務の過重性について
ア センター長の主な日常業務は,納入された中古車の査定と販売価格の決定,営業日報等の作成及び本社への報告等であるが,これらはいずれも事務的な作業であること,中古車の査定に要する時間は1日平均約1時間程度であり,平成元年からセンター長として勤務していた被控訴人にとって大きな負担を生ずるような業務であったとは考えられないこと,営業日報等を作成して,本社へ報告する事務は,営業スタッフの販売活動等の状況をまとめ,データを集計し報告するものであり,多くとも1時間程度で終了する内容であったこと,販売活動自体は営業スタッフが主体となり,センター長はこれを支援する立場である上,昭和 48 年以降,中古車販売の業務に従事してきた被控訴人にとって大きな負担となるものとは考えられないこと,毎月1回ずつ本社で開催される営業会議やセンター長会議への出席自体は,その準備も含めてそれ程の過重な負担を生ずるものではなかったことに照らすと,センター長の日常的な業務自体が過重な肉体的,精神的負担を生ずるものではなかったというべきである。
イ 本件疾病の発症前6か月間の1か月当たりの時間外労働時間は,(2)で認定したとおり約 40時間から約 95時間となっているから決して短いものではなかったということができる。しかし,発症前1か月間の時間外労働時間は,平成 11年8月9日から同月 18 日まで連続して 10 日間の夏季休暇を取得していることもあって,本件認定基準にある「概ね 100 時間」を大幅に下回っており,また,発症前2か月間ないし6か月間の1か月当たりの平均時間外労働時間も,本件認定基準にある「1か月当たり概ね 80 時間」を約9時間ないし約 20時間(11 パーセントないし 25パーセント)も下回っている。したがって,被控訴人の時間外労働時間数を見る限り,被控訴人には発症前2か月間ないし6か月間に疲労が蓄積するほどの過重な業務があったということはできないし,また,日常の業務によってある程度の疲労の蓄積が生じていたとしても,発症前1か月間である平成 11年8月9日から同月 18日まで連続した 10日間の休暇を取得したことによりその回復が図られたものと推認することができる。
ウ また,本件会社のマイカーセンターにはそれぞれ中古車販売についてのノルマが課せられていたが,それが達成されなかった場合でもペナルティがあるわけではなく,他方,達成率 90 パーセントで実績給が支給されていたところ,平成 11 年1月から7月までのbセンターの達成率は実績給の支給対象となる 90 パーセントを超える 91.2パーセントであり,12 あるマイカーセンターの平均達成率である 86.6 パーセントを上回り,また,その順位も全体で5位と中間より上に位置していたのであり,ノルマの達成について被控訴人の精神的な負担が特に大きなものではなかったと推認することができる。
エ さらに,通例よりは短い在任期間で異動が繰り返されたことは上記認定のとおりであり,これらの異動に伴いある程度の精神的な負担が増加すること自体は一般論としては肯定できるというべきであるが,センター長としての業務自体は異動の前後によって基本的に異なるものではなく,また,bセンターに異動したのは平成 11 年1月のことであり,本件発症まで半年以上が経過しているのであり,本件においてこれらの異動により被控訴人に特に大きな負担が生じたと認めるに足りる証拠はないから,通例よりは短い在任期間で異動が繰り返されたことにより被控訴人の負担が過重になったとは認めることができない。
オ また,Aの問題については,体調不良等による遅刻や欠勤が少なくなかったことが窺われるところであり,センター長としてこの問題の解決に向けた対応をするについて一定の負担があったものとは推認されるものの,被控訴人の具体的な対応としては,Aの勤務状況を記録していたほか,自宅を1回訪問した程度であり,また,Aの担当業務自体はそれ程困難なものではなかったのであるから,これにより被控訴人の時間外労働時間が特に長期化して,業務の負担が過重になり,精神的負担ないし肉体的負担が相当程度大きくなったとまでは認めることができない。
カ 以上を総合すると,本件疾病発症前の6か月間の被控訴人の時間外労働時間は決して短いとはいえないものの,本件認定基準が定める基準を相当程度下回るものであり,被控訴人が指摘するノルマの達成,異動サイクルの短さ及びA問題による被控訴人の精神的,肉体的負担もそれ程大きかったとは認められないのであるから,被控訴人が,本件疾病発症前1か月以内である平成 11年8月9日から同月 18日まで連続して 10日間の夏季休暇を取得しており,これにより相当程度の疲労回復が図られたものと推認されることを考慮すると,被控訴人の業務は過重なものではなかったと判断するのが相当である。
(4) 被控訴人の基礎疾患の本件疾病発症に対する影響ア 労働基準法及び労災保険法に基づく保険給付は,労働者の業務上の疾病等について行われるが,この業務上の疾病とは,業務に起因して発症した疾病をいい,業務と疾病との間には相当因果関係が認められることが必要であると解される(最高裁昭和 51年 11 月 12 日第二小法廷判決・裁判集民事 119号 189頁参照)。
また,労働基準法及び労災保険法による労働者災害補償制度は,業務に内在する各種の危険が現実化して労働者に疾病等が発生した場合に,使用者等に過失がなくとも,その危険を負担して損失の補填の責任を負わせるべきであるとする危険責任の法理に基づくものであるから,上記の業務と疾病等との相当因果関係の有無は,その疾病等が業務に内在する危険が現実化したものと評価し得るか否かによって判断するのが相当である。
そして,脳・心臓疾患の発症の基礎となり得る素因等を有する者が発症する場合には,様々な要因が素因等に作用してこれを悪化させ,発症に至るという経過をたどると考えられるから,その素因等の内容や程度,他の危険因子との関係等を踏まえて,医学的知見に照らし,業務に従事することによって,その者が有する素因等を自然経過を超えて増悪させたと認められる場合には,その増悪は業務に内在する危険が現実化したものとして業務との相当因果関係を肯定するのが相当である(最高裁平成9年4月 25日第三小法廷判決・裁判集民事 183 号 293頁,最高裁平成 12 年7月 17日第一小法廷判決・裁判集民事 198号 461 頁参照)。
イ 本件疾病発症の業務起因性について
(ア) 前記1(3)(原判決 36頁以下参照)で認定した本件発症前後の被控訴人の症状,健康診断の結果等に照らせば,本件疾病は,心房細動が発症した結果,血栓が形成されて脳梗塞を発症させたものと認めるのが相当である。
(イ) ところで,本件において,平成 11 年9月3日の被控訴人の心房細動発症の機序を明確にする証拠はない。
しかしながら,高血圧は心房細動や血栓の形成についてリスクファクターとなるものとされているところ,被控訴人の血圧は,平成7年 12月4日が 170/110,平成9年3月4日が 144/90,平成 10年2月 16日が 140/82,平成 11 年3月 15 日が 130/84,同年6月 16 日が 145/90,同年9月2日が 139/93,同月3日(本件疾病の発症当日)が 142/80であり(原判決 36頁 15行目以下及び上記前記1(3)参照),平成 11年3月 15日の測定では 130/84と正常範囲内になっているものの,その前後の測定結果を総合すると,被控訴人は高血圧の状態にあったものと認めることができる。
そして,被控訴人は,平成 10 年2月に心房細動と診断されていること,本件発症直後の平成 11年9月8日にも心房細動が発症していること,さらに業務による負担が全く考えられない平成 14年8月2日にも脳梗塞を再発していることに照らすと,高血圧というリスクファクターを有していた被控訴人は,平成 10 年2月に心房細動を発症して以降,心房細動が発症しやすい基質が形成され,本件発症時点では心房細動の発症,再発を繰り返し易い基質が形成されていたものと推認するのが相当である。
(ウ) 以上によれば,【判示事項】被控訴人は,心房細動を発症しやすい基質が形成され,血栓が形成されやすいという素因を有していたところ,本件発症前1か月間の被控訴人の時間外労働時間は,本件認定基準を大幅に下回り,また,本件発症前2か月間ないし6か月間の1か月当たりの平均時間外労働時間も,本件認定基準の1か月当たり平均時間外労働時間を相当程度下回るものであり,他方,被控訴人が指摘するノルマの達成,異動の頻度及びAの問題等による精神的,肉体的負担もそれ程大きかったとはいえず,業務の過重性を肯定するのは困難であること(前記(3)),また,業務による負担の可能性が全く考えられない平成 14年8月2日にも脳梗塞を発症していることに照らすと,本件疾病は,上記の素因を有していた被控訴人が業務に従事することによって,その有する素因等を自然経過を超えて増悪させたとは認めることができず,本件疾病が労災保険法所定の業務上の疾病に当たるということはできない。
(5) その他
ア 被控訴人の主張について
(ア) 被控訴人は,センター長の一般的な日常業務,ノルマの達成,異動及びAへの対応により被控訴人が少なくない精神的,肉体的負担を受けていたと主張する。たしかに,センター長という職場を管理運営する立場にあって,部下を指導監督しながらノルマを達成しようとすること自体に一定の精神的,肉体的な負担を伴うことは避けられないことであり,その意味において被控訴人の主張も理解できないわけではない。しかしながら,被控訴人は,本件疾病を発症するまで約 10年間にわたり本件会社においてセンター長を勤めてきたのであり,被控訴人が主張するような事由は職場を管理運営する立場にある者としては当然想定されるものであり,前記認定判断したような内容の状況から受ける精神的,肉体的な負担が本件疾病の原因になったとは到底認定することができず,被控訴人の上記主張は採用することができない。
(イ) なお,被控訴人は,本件認定基準もこの要件とは異なる形態で発症する疾病を全て否定しているわけではなく,本件認定基準に該当しない疾病であっても業務と疾病との間に相当因果関係が認められる以上,業務上の疾病に当たるというべきであると主張する。しかしながら,本件認定基準は,各分野の専門家で構成された「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会」が作成した「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会報告書」(証拠〈省略〉)を踏まえて作成された合理的なものであり,これに基づき業務起因性を判断することは相当というべきであるのみならず,前記認定判断したところによれば,本件認定基準を別としても,本件疾病と業務との間に相当因果関係を認めることは困難というべきであるから,被控訴人の主張を採用することはできない。
イ また,被控訴人がh病院に入院した際の主治医であるF作成の診断書(証拠〈省略〉)には,本件疾病の発症について,「過労やストレスが誘因になった可能性がある」との記載がある。しかし,これは本件疾病の発症前に被控訴人に過労やストレスがあった場合の可能性に言及しているにすぎず,前記の認定判断を左右するに足りるものとはいえない。
第4  結論
以上によれば,本件疾病は労災保険法所定の業務上の疾病には当たらないから,被控訴人に対して障害補償給付を支給しないとした本件不支給処分は相当であり,これを取り消すべき違法はないと判断するのが相当である。」
2 よって,被控訴人の本件請求は理由がないから棄却すべきところ,これと異なる原判決は相当ではなく,本件控訴は理由があるから,原判決を取消したうえ,被控訴人の本件請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判官 奥田隆文 裁判官 加藤就一 裁判官 黒津英明)
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