
「営業支援」に関する裁判例(79)平成24年 2月 8日 東京高裁 平23(行コ)304号 不当労働行為救済命令取消請求控訴事件 〔田中酸素事件〕
「営業支援」に関する裁判例(79)平成24年 2月 8日 東京高裁 平23(行コ)304号 不当労働行為救済命令取消請求控訴事件 〔田中酸素事件〕
裁判年月日 平成24年 2月 8日 裁判所名 東京高裁 裁判区分 判決
事件番号 平23(行コ)304号
事件名 不当労働行為救済命令取消請求控訴事件 〔田中酸素事件〕
裁判結果 控訴棄却 上訴等 上告 文献番号 2012WLJPCA02086004
事案の概要
◇〔事件概要〕
1 会社が、①組合員X1に対し、営業所での営業支援を命じたこと(以下「本件支援命令」という。)及び②組合員X1、X2及びX3の17年冬季、18年夏季及び冬季の賞与及び19年1月以降の月例賃金を減額したことは、労組法7条1号の不当労働行為に当たるとし、③X1に対し注意書を交付したこと及び④X2に対し戒告処分とし、営業所においていわゆる職場八分としたことは、同条3号の不当労働行為に当たるとして、山口県労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審山口県労委は、前記①について、X1を本件支援命令が発せられる前の職場に速やかに復帰させること、②について、17年冬季ないし18年冬季の各賞与について、明確かつ具体的な査定基準と支給手続を明示した上で、再査定に基づいて賞与額を定め、既支給額との差額を支払うこと、19年の月例賃金の基本給を18年と同額とし、既支給額との差額を支払うことを命じ、その余の申立を却下ないし棄却した。
会社は、これを不服として再審査を申し立てたところ、中労委は、初審命令主文第1項(上記①に係る部分)を取り消し、同部分に係る救済申立てを棄却し、初審命令主文第2項を訂正(再査定に関し、組合員3名が組合員であることを考慮しないこと、組合に明示した査定基準及び手続に則って行う内容に訂正)の上、その余の再審査申立てを棄却した。
これに対し、会社は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は会社の請求を棄却した。
本件は、同地裁判決を不服として、会社が東京高裁に控訴した事件であるが、同高裁は控訴を棄却した。
裁判経過
上告審 平成24年11月 9日 最高裁第二小法廷 決定 平24(行ツ)190号・平24(行ヒ)225号 不当労働行為救済命令取消請求事件 〔田中酸素事件〕
第一審 平成23年 8月25日 東京地裁 判決 平21(行ウ)396号 不当労働行為救済命令取消請求事件 〔田中酸素事件〕
関連審決・命令
平成21年 7月 1日 中央労働委員会 平成20年(不再)第14号
出典
中央労働委員会命令・裁判例データベース
裁判年月日 平成24年 2月 8日 裁判所名 東京高裁 裁判区分 判決
事件番号 平23(行コ)304号
事件名 不当労働行為救済命令取消請求控訴事件 〔田中酸素事件〕
裁判結果 控訴棄却 上訴等 上告 文献番号 2012WLJPCA02086004
控訴人 田中酸素株式会社
被控訴人 国
処分行政庁 中央労働委員会
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第 1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 中央労働委員会が中労委平成 20 年(不再)第 14 号事件について平成 21 年 7 月 1 日付けで発した命令のうち主文 2項及び 3 項を取り消す。
第 2 事案の概要
1 本件は, 控訴人が, 田中酸素労働組合(組合)の申立てに係る山口県労働委員会(山口県労委)不当労働行為救済申立事件(山口県労委平成 18 年(不)第 2 号。本件初審事件)において, 組合の組合員である X1(X1), X2(X2)及び X3(X3)の平成 17 年冬季, 平成 18 年夏季及び冬季(以下,「本件係争年」と総称する。)賞与並びに平成 19 年 1 月分以降の月例賃金を減額したこと(以下, 順次「本件賞与減額」,「本件賃金減額」という。)が, いずれも労働組合法(労組法)7 条 1 号所定の不当労働行為に当たるとして, 原判決別紙 1 記載の救済措置(本件各救済措置)を命じられ(本件初審命令), 中央労働委員会(中労委)に再審査の申立て(本件再審査申立て)をした(中労委平成 20 年(不再)第 14 号。本件再審査事件)が, 本件各救済措置に係る部分については棄却の命令を受けた(本件命令。なお, 本件初審命令が控訴人に命じた本件各救済措置以外の救済措置は取り消された。)ことから,本件賞与減額及び本件賃金減額は労組法7 条 1 号所定の不当労働行為ではなく, 本件命令は違法であると主張して, その取消しを求める事案である。
2 原審は, 本件賞与減額及び本件賃金減額は労組法7 条 1 号所定の不当労働行為に当たり, 控訴人の主張は理由がないと判断し, 控訴人の請求を棄却した。
当裁判所も, 控訴人の請求を棄却すべきものと判断した。
3 前提事実及び争点は, 原判決 10 頁 8 行目末尾に「乙 B23, 」を, 11 頁 9 行目の「別表 5」の次に「(同表と別表 1 及び 2 の符号は同一の符号が同一人を指すものではない。)」を, それぞれ加えるほかは, 原判決の「事実及び理由」の「第 2 事案の概要」2 及び 3(原判決 3 頁 6 行目~ 12 頁初行。別紙及び別表を含む。)に記載のとおりであるから, これを引用する。
4 争点に関する当事者の主張は, 原判決の「事実及び理由」の「第 3 争点に関する当事者の主張」(原判決 12 頁 2 行目~ 40 頁 14 行目。別表を含む。)に記載のとおりであるから, これを引用する。
第 3 当裁判所の判断
1 当裁判所の判断は, 次のとおり改めるほかは, 原判決の「事実及び理由」の「第 4争点に対する当裁判所の判断」(原判決 40 頁 15 行目~ 85 頁 9 行目。別紙及び別表を含む。)に記載のとおりであるから, これを引用する。
(1) 原判決 41 頁 18 行目の「44 の 1」の次に「, 乙 B17 の 1 ~ 74」を加える。
(2) 原判決 42 頁 14 行目の末尾に「また, X1ら 3 名は, それぞれ控訴人を被告として, 本件係争年を含む賞与の査定が違法であることを理由として不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起して勝訴し(X1 につき平成 17 年分として 44 万円, 18 年分として 43万円〔甲 E16 の 1〕, X2 につき平成 17 年分として 10 万円, 平成 18年分として 8万円〔甲E16 の 2〕, X3 につき平成 17 年分及び平成 18 年分として各 30 万円〔甲 E16 の 3〕), その弁済を受けた。」を加える。
(3) 原判決 43 頁 6行目末尾に改行して「(乙 B22の 3)」を, 45頁末行の末尾に改行して「(乙 A8, 22, 23 の 1)」を, 49頁 10 行目の「乙 A44」の前に「甲 E37 の 1, 」を, それぞれ加える。
(4) 原判決 60 頁 25 行目の「本件初審事件」の次に「, 本件再審査事件」を, 末行の「乙 B23, 」の次に「67, 」を,「甲 E10 の 1」の次に「, 甲 E20, 乙 A25」を, それぞれ加える。
(5) 原判決 61 頁 14 行目末尾に「控訴人は, 前記(ア)a ~ c で認定した考課点の問題点が 1 次考課者の個性によるものであると主張するが, 同認定のような問題点は, 通常,考課者の個性によって生じる範囲のものとは認められない。」を加える。
(6) 原判決 62 頁初行末尾に「控訴人は, 上記 T, E 及び Gが組合員ではないことから, このことは不当労働行為との関連性を疑う理由にはならないと主張するが, 上記 3 名の者の考課と支給額が整合しない理由が組合員であることにないとしても, 控訴人における賞与額の査定に人事考課ないし勤務成績以外の要素が含まれていることが否定されるものではない。」を加える。
(7) 原判決 63 頁末行~ 64頁初行の「平成 17 年 8 月分及び同年 9月分」を「平成 17年 8 月分~ 10 月分」に改める。
(8) 原判決 64 頁 15 行目の「納得できる説明がない。」の次に「控訴人は, 他の従業員が耐圧試験を担当した際にも 1 本 1000円で評価していると主張するが, 証人 Y1は, 証人尋問において, 1 本 1000 円の換算が会社の内部で公正な換算として広く用いられていることをうかがわせる説明をしておらず, それを裏付ける具体的な証拠も提出されていない。」を, 20行目の「認定事実(3)ウ」の次に「(ア)」を, それぞれ加える。
(9) 原判決 65 頁 15 行目の「月例賃金額」の次に「, S(22 歳・勤続 2 年)との比較」を, 19 行目の「指示したこと」の次に「(控訴人はこの事実を争うが, 証拠(乙 A33 の 1~ 4, 42, 乙 C2, 証人 Y1)によれば, 平成 19 年 4 月ころより前の段階で, 控訴人が X1 の売上目標を月額 460 万円と設定した事実を認めることはできず, Y2 所長が前任者の Z1 の売上額であった月額 200 万円を目標にするよう指示したとの X1 の陳述は信用することができる。)」を, それぞれ加える。
(10) 原判決 68 頁 22 行目の「平成 18 年夏季賞与」から 24 行目の「考えられる」までを「上記控訴人の主張によれば, X1は, 平成 17 年冬季~平成 18年夏季の賞与査定期間中, 控訴人に反抗ないし抵抗する態度を取り続けていたことになるのに, 関係する評価項目と考えられる」に改める。
(11) 原判決 70 頁 3 行目の末尾に「控訴人は, X2 が, 後日把握できる売上額を業務日報に反映させないことは考えられないと主張して, 業務日報を上回る売上額を争うが,本件全証拠によっても, X2 が当時, 自己のリース売上額を把握していたとは認められないから, 控訴人の主張は, いずれにしても採用できない。」を加え, 14 行目, 16行目の各「乙B8 の 5」の前に「甲 E36 の 1, 」を, 24 行目の「乙 B8 の 6」の前に「甲 E36 の 1, 」を,それぞれ加える。
(12) 原判決 73 頁 10 行目の「X1」を「X3」に改める。
(13) 原判決 78 頁初行の「証拠はなく, 」を「証拠はないし, 1 次考課者がうっかり漏らしてしまうような事項が, 賞与の減額を必至であるとするほどの重大な事項であるともいえず, 」に, 8 ~ 9 行目の「合計 269 万 4900 円」を「順に 62万円余, 156 万円余, 50万円余」に, それぞれ改め, 13 行目の「ことができる。」の次に「控訴人は, 業務日報に売上額を記載しないのは X3 自身の責任であるから, 売上額は 0円とみなさざるを得ないと主張するが, 本件全証拠によっても, X3 の売上額を 0 円と評価することが正当化されるような事情は見当たらない。また, 控訴人は, X3の陳述書(乙 A44)の信用性を争うが, 上記認定の売上額は業務日報に記載されたものであるから, 上記陳述書の信用性はその認定を左右しない。」を, 17行目の「0 円としているが」の次に「(甲 E37 の 1, 乙 B8 の 7)」を, それぞれ加える。
(14) 原判決 84 頁 5 行目~ 18 行目を次のとおり改める。
「人事考課表(賃金)において, 各評価項目内の 4 つの評価要素に関して異なる評価がされた場合, X1ら 3 名の各人事考課表(賃金)(乙 B63 の 1 ~ 3)では, 下位の評価に合わせた全体評価が行われる傾向が顕著に見られるが, 他の従業員の人事考課表(賃金)(甲 E21~ 27〈枝番を含む。〉, 乙 B63 の 4 ~ 6)では, 逆に, 上位の評価に合わせた全体評価が行われている場合も多く, X1 ら 3 名と他の従業員との間では, 全体評価の傾向にも相違があることがうかがわれる。」
2 控訴人は, 原判決の証拠の取捨選択は恣意的であり, 多くの事実誤認と事実評価の誤りがあると主張し, ①本件賞与減額については, 控訴人は賞与査定に当たり「3 段階評価方式」を採用しており, 証拠によれば X1ら 3名には控訴人主張の賞与減額事由が認められる, ②本件賃金減額については, 控訴人は, 人事制度運用の手引き(乙 B65)を参考にして職能等級を運用しており, 証拠によれば X1 ら 3 名に控訴人主張の職能等級変更事由が認められる, と主張する。しかし, これらの点についての判断は, いずれも前記引用に係る原判決が認定・説示するとおりである。
控訴人が上記①の賞与の査定基準として主張する「3段階評価方式」は, 控訴人の主張によっても, 考課者の「頭の中にあったもの」を, 原審裁判所の釈明を受けて文書化したものであり, 査定当時に評価基準として客観的に存在していたものではない。そうであるにもかかわらず, 同方式の内容に関する控訴人の主張は, 人事考課表(賞与)の項目のうち, 控訴人にとって「特に重要な項目」を抜粋して「主」とし, 他の「一般的なもの」を「他」とした上で, S氏を「モノサシ」として, 70%以上と判断したものを「A」, 30%以下と判断したものを「c」, 中間を「B」として 3 段階で評価するなど具体的なものとなっている(甲 E55)。実際にこのような具体的な方式で賞与の査定がされたのであれば, それが文書化されていない考課者の思考過程であったとしても, 原判決が認定する本件の経過, すなわち, 本件初審事件や本件再審査事件において同方式に基づく主張立証がなく,証人 Z2 が同方式に言及できず, 査定に用いられた人事考課表(乙 B17の 29 ~ 74, 甲 E4の 1 ~ 3, 5 の 1 ~ 9)に同方式の形跡が見当たらず, 1次考課者の各証言中にも同方式の説明がないことは, 不自然・不合理というべきである。したがって, 控訴人が本件係争年の賞与査定に当たり同方式を採用していたとの主張は採用できない。
また, 控訴人が上記②の職能等級変更の基準として主張する人事制度運用の手引き(乙B65)は, 職能等級を前提にした評価基準であって(3 頁・3 項 1(1)), 評価の結果は, 毎年の昇給に反映され, 昇格候補年の昇格の基本データとしての利用されることが予定されているものの(2 頁 2a ①及び②), 降給・降格への利用については言及がない上, 昇給・昇格を含めてどのような場合にどのように職能等級を変更するかに関する具体的基準を含むものとはなっていない。したがって, 原判決が説示するとおり, 控訴人は, 職能等級変更に関する客観的な基準を具体的に主張, 立証していないというべきである。
そして, 控訴人は, X1 ら 3 名が他の従業員と比較して劣ると主張するが, 以上のとおり,控訴人が, X1 ら 3 名の営業成績等を他の従業員と比較して主張する賞与減額事由及び職能等級変更事由は, いずれも, 従業員に公平に適用される客観的な基準によるものではないのであり, その他, 控訴人が当審において指摘する証拠及び事情を含めて考慮しても,X1 ら 3 名の本件係争年の賞与査定及び平成 19 年 1 月分以降の月例賃金の査定の相当性に対する疑問を払拭するに足りる的確な反証がされているとはいえないことは, 前記引用に係る原判決(前記 1 で加除訂正したもの)が認定・説示するとおりである。
3 以上によれば, 本件命令が, 本件賞与減額及び本件賃金減額を, いずれも労組法7条1 号の不当労働行為に該当すると判断したのは相当であり, 本件各救済措置の内容も相当であるから, 本件命令が違法であるとの控訴人の主張は理由がない。
第 4 結論
よって, 原判決は相当であるから, 本件控訴を棄却することとし, 主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第1民事部
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