「成果報酬 営業」に関する裁判例(2)平成30年 6月14日 東京高裁 平29(ネ)1746号 広告取引代金支払請求控訴事件
「成果報酬 営業」に関する裁判例(2)平成30年 6月14日 東京高裁 平29(ネ)1746号 広告取引代金支払請求控訴事件
裁判年月日 平成30年 6月14日 裁判所名 東京高裁 裁判区分 判決
事件番号 平29(ネ)1746号
事件名 広告取引代金支払請求控訴事件
裁判結果 原判決変更・一部認容 文献番号 2018WLJPCA06146006
事案の概要
◇第一審被告Y1社と広告取引契約を締結した第一審原告会社が、第一審被告Y1社に対し、未払代金及びその遅延損害金の支払を求めるとともに、第一審被告Y1社の取締役である第一審被告Y2に対し、同契約について連帯保証契約を締結したとして、未払代金相当額及びその遅延損害金の支払を求めたところ、原審が請求を一部認容したことから、第一審原告会社及び第一審被告らがそれぞれ控訴した事案
裁判経過
第一審 平成29年 3月24日 東京地裁 判決 平27(ワ)30693号 広告取引代金支払請求事件
裁判年月日 平成30年 6月14日 裁判所名 東京高裁 裁判区分 判決
事件番号 平29(ネ)1746号
事件名 広告取引代金支払請求控訴事件
裁判結果 原判決変更・一部認容 文献番号 2018WLJPCA06146006
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主文
1 第1審原告及び第1審被告らの本件各控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。
(1) 第1審被告らは,第1審原告に対し,連帯して,5億5209万6250円及びこれに対する平成27年11月22日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(2) 第1審原告のその余の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを10分し,その1を第1審原告の負担とし,その余を第1審被告らの連帯負担とする。
3 この判決は,1項(1)に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 第1審原告
(1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 第1審被告らは,第1審原告に対し,連帯して,6億0056万円及びこれに対する平成27年11月22日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(3) 第1審被告らは,第1審原告に対し,連帯して,967万円及びこれに対する平成28年1月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 第1審被告ら
(1) 原判決中第1審被告ら敗訴部分を取り消す。
(2) 上記部分につき,第1審原告の請求をいずれも棄却する。
第2 事案の概要
1 本件は,第1審原告が,第1審被告株式会社Y1(第1審被告会社),と継続的に広告取引契約を締結したところ,第1審被告会社がその代金の一部を支払わないとして,第1審被告会社に対し,①未払代金合計6億0056万円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成27年11月22日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金,②訴状送達をもって請求した未払代金合計967万円及びこれに対する催告後の平成28年1月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の各支払を求め,上記契約について連帯保証契約を締結した第1審被告Y2(第1審被告Y2)に対し,保証債務履行請求として,第1審被告会社と連帯して,上記①及び②の各支払を求めた事案である。
原審は,第1審原告の請求のうち,第1審被告らに対し,連帯して,①につき5億9619万4000円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容し,②につき全部認容したところ,これに対して,第1審原告及び第1審被告らがそれぞれ敗訴部分につき控訴を提起した。
2 前提事実
次のとおり改めるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 前提事実」に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決2頁23行目の「被告会社の取締役である。」を「後記連帯保証契約の当時,第1審被告会社の取締役であり,現在は,第1審被告会社の代表取締役である。」と改める。
(2) 原判決3頁2行目末尾に「第1審原告と第1審被告会社は,本件広告取引契約について基本契約書を作成せず,個別取引毎の契約書も作成しなかった。」を加える。
(3) 原判決3頁12行目の「24日,同年12月2日及び9日」を「25日」と改め,同13行目から14行目にかけての「,同年12月6日,13日,20日及び27日」を削る。
(4) 原判決5頁9行目から同14行目までを次のとおり改める。
「8 覚書等の作成及び連帯保証契約締結の経過
(1) 第1審被告会社は,資金繰りが厳しくなり,平成26年11月頃に第1審原告に対し,支払の猶予を求めたところ,第1審原告から債務総額の確認とその支払方法に関して文書の作成を要求されたことから,第1審原告と第1審被告会社は,平成26年12月31日付けの覚書(甲3)を作成し,次のとおり合意した。
ア同日時点の第1審被告会社の債務残高が4億2847万4079円(税別)であることを確認するとともに,同残高の毎月の分割払額を別紙1「支払予定表」の「滞留分支払予定額」のとおり定め,イ平成27年1月1日から同年11月30日までの間に第1審被告会社からの発注に基づき発生する債務(以下「発注予定額」という。)を,同表「15年4月以降請求分30日サイト支払分」のとおり定め,ウ第1審被告会社は,第1審原告に対し,同表「総支払予定額(入金額)」のとおり銀行口座振り込みにより支払い,エ発注予定額に変更が生じた場合,別途協議の上精算するとし,オ第1審被告会社がウの債務の履行を怠った場合,第1審原告は第1審被告会社との取引を即刻停止するとともに,第1審被告会社は期限の利益を失い,上記債務の未払分全額を直ちに支払う。
(2) 第1審被告会社は,上記「総支払予定額(入金額)」のとおり,平成27年1月に2000万円,同年2月に3248万円,同年3月に8000万円を支払ったが,同年4月予定の1億円については支払ができず,2000万円のみを支払った。そこで,第1審原告は,再度,第1審被告会社に対し,支払計画書を作成することを求めるとともに,連帯保証人を付すよう求めた。
これを受けて,第1審被告会社は,平成27年5月15日,債務承認兼支払計画書(甲2)を作成し,同時に第1審被告Y2は,第1審原告との間で,同書面により上記承認に係る債務につき連帯保証契約(以下「本件連帯保証契約」という。)を締結した。同債務承認兼支払計画書では,同日時点の残債務額を5億9121万4000円と確認し,その明細が添付され,支払方法は同月末日より毎月2000万円以上,24か月以内に支払を終えることとされている。(甲2,3,原審証人F,原審第1審被告Y2本人)
9 詐欺取消しの意思表示
第1審被告Y2は,第1審原告に対し,平成29年8月24日の当審第1回口頭弁論期日において,本件連帯保証契約を取り消すとの意思表示をした。」
3 争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 第1審原告と第1審被告会社との間の本件広告取引契約の一般的な取引態様(争点1)
(第1審原告の主張)
ア 本件広告取引契約においては,基本契約書及び個別取引毎の契約書は作成されておらず,第1審原告からのテレビCM,新聞,雑誌広告及びウェブサイト用動画広告等の企画提案に対し,第1審被告会社代表者(以下「B社長」という。)との協議及び承認,決裁を経て,第1審原告が宣伝等の広告業務を実施し,実施した月の末日に第1審原告から第1審被告会社に請求書を交付し,第1審被告会社は翌月末日を支払期日として広告代金を支払うという形態で行われた。
具体的には,①B社長から第1審原告への広告取引の依頼,②第1審原告からB社長へ企画の提案,③同人による企画提案への承諾,④同人への見積もり提示,⑤第1審原告による広告制作・納品,⑥B社長が見積書の提出を受け,金額を承諾後,請求書を作成,⑦代金の支払という流れで個別取引を繰り返してきた。ただし,④の見積もりの提示は,月末に20件から30件ほどの見積もりを一括して行っていたため,⑤の広告制作と時期が前後することはあった。上記のやり取りのうち,③の企画や④の見積もりの提示は,基本的には,第1審原告担当者F(以下「F」という。)がB社長と直接面会し,企画書や見積書を提示し,同人の口頭での決済を受けるという方法により実施されていた。本件で覚書(甲3)及び債務承認兼支払計画書(甲2)が作成され,その作成過程において,第1審被告らが何ら異議を唱えなかったことは個別取引の存在を基礎付ける重要な間接事実である。
イ 第1審原告は,第1審被告会社との間で,平成26年6月30日から平成27年7月31日までの間に,原判決別紙1請求債権一覧表(以下「一覧表」という。)の「売掛金」欄記載の各代金額にて,一覧表の「件名」欄記載の各広告業務を実施することを約し,第1審原告は,第1審被告会社に対し,一覧表の「実施日」欄記載の各期日までに,各広告業務を完成し実施した。また,各取引の個々の契約締結日については,原判決別紙2の「契約締結日」欄記載のとおりである。
ただし,平成26年9月30日実施の折込チラシ制作費については,広告取引代金を190万円との約定で実施し,うち47万2000円は既に第1審被告会社から支払われている。
ウ 第1審原告は,第1審被告会社に対し,上記イ記載の各実施日後,平成27年7月25日,同月28日,同月31日実施分(以下「未請求項目分」という。)を除き,一覧表の「請求日」記載の各期日に各請求書を交付した。
したがって,本件広告取引契約に基づく広告代金債権の支払期日は,未請求項目分を除き,請求書交付日の各翌月末日である一覧表「支払日」記載の各日に到来した。
既に第1審原告による請求により支払期日が到来し,第1審被告会社から支払われた広告取引代金を除く未払額は合計6億0056万円である。また,第1審原告は,第1審被告会社に対し,本件訴訟の訴状送達をもって,未請求項目分の広告取引代金合計967万円の支払を請求する。
(第1審被告らの主張)
ア 第1審原告の主張は否認する。
広告業界における一般的な契約については,初めに大筋の基本契約を締結し,その後,個々に具体的な契約を締結することになり,通常は,①見積依頼,②見積作成,③発注,④納品(CM放送),⑤請求書作成,⑥支払という流れとなるところ,第1審原告については上記のような流れではなかった。すなわち,本件広告取引契約では基本契約を締結していないほか,①第1審被告会社が第1審原告に広告取引を依頼,②第1審原告がCM等の商品を作成,③明細の記載のない総額だけの請求書が送付され,④支払,⑤見積書の送付という流れになっていた。また,個々の広告取引についても契約書などが交わされることはなく,全て口頭でのやり取りでなされていた。
イ 上記のやり取りの場合,実際の支払後でなければ各請求内容の具体的内容が分からないため,第1審被告会社は,第1審原告に対し,事前に見積書を作成するよう何度も依頼したが,第1審原告は,「社長には伝えている。」などとして第1審被告会社の要求に応じなかった。また,支払後に送付される見積書に関し疑問点や不明な点があり,第1審原告に詳しい説明を求めても,第1審原告は,「社長は了解している。」などとしか回答せず,各広告取引の具体的内容について説明をすることはなかった。そのため,第1審被告会社は,第1審原告から送付される請求書のまま支払をせざるを得なかった。
ウ 第1審原告は,覚書(甲3)及び債務承認兼支払計画書(甲2)の作成の際,債務総額の具体的な内容を説明せず,現在の債務総額及び支払方法に関する文書を一方的に作成し,第1審被告会社に記名押印を求めるのみであった。第1審被告会社は,時間的余裕を与えられなかったことや第1審原告が大手広告代理店であり,長年取引を継続してきたことから信用し,指示されたとおりにこれらの書面に押印した。
(2) CM放送の請求額の当否(争点2)
(第1審原告の主張)
ア CM放送契約に関する取引の態様及び商慣習
テレビCMを放送するには,第1審原告のような広告代理店がテレビ局との間で,3か月分を1クールとして,4月から9月又は10月から3月の2クールの番組提供枠を,放送開始時点の1か月から3か月前に,広告主を定めて購入する必要がある。一度購入した2クール分の番組提供枠の広告主を変更することは原則としてできず,また,番組提供枠自体を解約することができないのが商慣習となっている。そのため,Fは,CM放送の提案については,必ず,B社長に対して,料金が明記された提案書を交付していた。
広告代理店は,事件や事故,破産等により,広告主のCMが放送できない事態が生じた場合,新たな広告主を探してテレビ局の許可を得てCMを放送(リセール)するか否かをテレビ局と協議しなければならない。
イ 平成26年11月以降のCM放送契約の合意解除の有無
本件広告取引契約において,Fは,平成26年10月下旬,B社長から,資金繰りが厳しく,また,製品の供給が遅れる事態が生じているため,キャンセル料がかかってもかまわないのでCM放送を解除したい旨を申し入れられた。
第1審原告は,商慣習上,今後の放送を解除することはできなかったので,解除が不可能であることを伝え,リセールに注力して第1審被告会社の負担を減らすよう交渉する旨回答し,B社長の了承を得た。そして,実際にリセールに成功したものについては,第1審被告会社が,本来の広告費と実際に放送された他社との広告費の差額を支払うことで合意した。
実際にリセールできた番組提供枠は,全体の中のごくわずかにすぎなかった。第1審原告は,リセールできた部分(合計180万円)を含む合計320万円を値引きとして本来の費用から減額して請求した。
ウ 平成27年4月以降のCM放送契約について
B社長とFは,平成27年1月頃,同年4月から9月まで2クール分の番組提供枠の購入を合意した。
しかし,第1審被告会社は,同年4月30日,テレビ媒体の出稿の早期の打切りを求めるとともに,再度支払の猶予を申し入れた。この申入れは,第1審被告Y2が担当し,同人から債務承認件支払計画書が提出されるに至った。そこで,第1審原告は,同年5月で第1審被告会社のCM放送を打ち切った。
第1審原告が同年6月分以降のテレビCMについて請求している「キャンセル固定費」は,一度購入した2クール分の番組提供枠の広告主を変更することは原則としてできず,また,番組提供枠自体を広告主の都合で解約することができないという前記商慣習に基づいて発生する費用であり,リセール等で転売された分を控除した番組提供枠の料金相当額の損害であり,第1審原告と第1審被告会社との間では,CM取引を開始する時点で,このようなキャンセル固定費が商慣習に従って発生する旨の合意が存在していた。
エ 放送されていないCMがあるとの主張について
第1審被告らが指摘する10桁のCMコードは,日本民間放送連盟(以下「民放連」という。)に加盟している媒体社に対して放送確認書に記載することが求められている事項であるが,株式会社a(以下「a社」という。)は,民放連に加盟していないから放送確認書に10桁のCMコードを記載する必要はない。
第1審原告が代金を請求したCMは,媒体社であるa社の運行表に記載され,かつ,媒体社の名前で放送確認書が発行されていること,その期間には放送事故がなかった旨の月例報告書が発行されていることからすると,運行表に記載された日時に確実に放送されていたことが明らかである。平成26年11月のテレビ媒体CM進行スケジュールに「■■チャンネル」に関する記載がないことは,記載漏れにすぎない。
オ 商品AのCMについて
放送中のCMを新商品に改定するためには,新たにテレビ局の考査を経る必要があり,さらに,化粧品のCMの場合,通常の考査に加えて薬機法(医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律)の観点からも厳格なテレビ局の考査を経る必要があり,差替えに一定の期間を要することとなる。また,新商品に改定する場合,通常,広告会社は,半年から3か月前に広告主から説明を受け,CMの改定作業等に着手する。しかし,第1審原告が,B社長から商品Bに改定することについての説明を受けたのは,平成27年1月末から2月にかけてであり,販売開始まで1か月に迫ったタイミングであった。そこで,第1審原告は,B社長に対し,上記のような理由でCMの差替えに時間がかかる旨を説明したところ,同人は,商品Aと商品Bの内容に本質的に差異がないため,新たに改定した商品BのCMについてテレビ局から許可が出るまでは,商品Bの販売時期にかかわらず商品AのCMを流すよう第1審原告に要請し,第1審原告もこれを了承した。
したがって,第1審原告は,第1審被告会社との間の合意に基づき,差替えまでの期間,商品AのCMを放送した。
カ 不要な企業CMの放送がされたとの主張について
第1審被告らの主張は否認ないし争う。第1審被告らは,覚書(甲3)及び債務承認兼支払計画書(甲2)の作成の際,企業CMのCM放送の代金が含まれているにもかかわらず,異議を述べていなかった。
(第1審被告らの主張)
ア 平成26年11月以降のCM放送契約の合意解除について
第1審被告会社は,平成26年10月26日,第1審原告に対し,今後のCM放送等を解除したい旨を申し入れた。そうしたところ,第1審原告は,急なCM契約の解除は難しいし,中途解約などをすると今後の放送枠を確保する時に確保できないことなども考えられるため,番組枠を他の企業にリセールするなどして新たなCM経費を抑えながら,今後のCM実施に影響とならないように,CM契約の早期の解約を進める旨回答し,第1審被告会社のために早急にCMを打ち切る旨の対応をすることを約束した。しかし,第1審原告は,第1審被告会社との約束を反故にして,その後も第1審被告会社のCMを流し続け,その後のCM放送を打ち切ることはしなかった。
第1審被告会社は,同年11月以降のCM放送の打ち切りを申し出ており,第1審原告もCM放送の打切りを了承していたのであるから,同月1日以降のCM放送に関する請求は過剰請求である(合計3億0118万8000円)。
イ 平成27年4月以降のCM放送契約について
第1審被告会社は,平成27年4月以降のCM放送にかかる番組提供枠を購入する旨の意思表示をしたことはない。
したがって,少なくとも同月以降については,第1審原告と第1審被告会社間でCM放送に関する取引契約が成立していないから,同月4月以降のCM費用は過剰請求である。
ウ 平成27年6月27日以降のキャンセル固定費について
第1審原告は,平成27年6月27日以降のキャンセル分として,合計1919万円を請求している。しかし,第1審被告会社の求めに応じずにCM放送を継続していたのは第1審原告であり,このような事情の下で中止後のCMキャンセル固定費を第1審被告会社に請求するのは不当である。そもそも,キャンセル固定費に関する合意を第1審原告と第1審被告会社間でしておらず,当該キャンセル固定費は根拠がない。
エ リセール分の請求について
第1審被告会社のCM放送の解除申出に際し,第1審原告は,平成26年11月のCM枠については,他の企業にリセールするなどして,第1審被告会社側にできる限り負担がかからないよう配慮することも約束した。そこで,同月以降,第1審原告が第1審被告会社の放送枠を他の企業にリセールするようになった。
しかし,第1審被告会社の放送枠がリセールされ,他社のCMが流されていたにもかかわらず,第1審原告は,当該リセール分についても第1審被告会社に請求しており,過剰な請求となっている。その合計額は1716万5000円である。なお,乙1の見積書には一部「値引き」や「サービス」の記載があるが,これは本件広告取引契約が毎月多額に渡ることから第1審原告が定期的に値引きやサービスをしていたものであり,リセール分の値引きというものではない。
オ 放送されなかったCMがあること
第1審原告は,CS11月放映分番組提供料として16万6000円を請求している。このうち,「■■チャンネル」については実際には放映されなかった。したがって,放映されなかった分として10万8000円が過剰請求である。a社が民放連に加盟していなかったとしても,正確性担保のために放送確認書に10桁のCMコードの記載は要求されていると考えられる。
カ 商品AのCM代金について
(ア) 第1審被告会社は,平成26年7月から平成27年2月まで,商品Aを製造販売していたが,同年3月以降は商品をリニューアルし,商品Bを製造販売することになり,商品Bの販売に併せて商品Aの製造販売を取りやめることにしていた。また,第1審被告会社は,平成26年12月中旬,遅くとも平成27年1月中旬には商品リニューアルに伴い,同月以降は商品Bを製造販売し,商品Aの製造販売を中止する旨を第1審原告に伝えており,商品Bにかかるパンフレットの作成も第1審原告に依頼していた。
第1審被告会社は,平成26年12月中旬の商品レクチャーの際に,商品Aが廃版となり今後は順次商品Bに切り替える旨を第1審原告に告知している。また,第1審被告会社は,平成27年1月に,第1審原告に対し同年2月号の情報誌の制作を依頼しているが,この2月号の情報誌には商品Aは販売終了商品として掲載しない旨を伝えており,実際に商品Aは掲載されていない。
しかし,第1審原告は,手違いにより同年3月以降も旧商品である商品AのCMを流し続けたため,同月以降は第1審被告会社にとって全く意味のないCMが放送されることになった。
第1審原告は,意味のないCM放送分についても第1審被告会社に請求しており,その額は合計5251万8000円となる。
(イ) また,第1審原告は,平成27年3月以降に誤って商品AのCMが流れていることに気づいたため,同月下旬以降から順次CM内容を修正し,商品BのCMを流すようになったが,第1審原告は,第1審被告会社にTVCM改定編集費として216万1000円を請求している。
しかし,そもそも同月以降に商品AのCMが流れたのは第1審原告の落ち度であるにもかかわらず,そのTVCM改訂編集費を第1審被告会社に請求するのは不当な請求である。また,編集といっても第1審原告は画像を加工し,商品の一部に「organic」という文字を加えただけであるにもかかわらず,216万1000円という高額な費用を第1審被告会社に請求するのも不当な請求というべきである。
仮に,平成27年3月1日から商品BのCMを放送することが困難であったとしても,第1審原告は,第1審被告会社に対し,商品BのCM放送が間に合わないとの説明をしていない。そのため,第1審被告会社は,これに対する対応を執ることができなかった。
同月以降も商品AのCMが流れたことにより,そのCMを見た顧客から商品Aの注文や問い合わせが多数入ることとなった。もっとも,同商品の製造販売は既に終了していたため,第1審被告会社は既に同商品の製造販売が終了していることを顧客に説明してお詫びするとともに,注文のあった顧客に対しては商品Aと商品Bの差額をもらわずに商品Bを発送することとした。そのため,合計440万7425円の損害を被ることとなった。この損害額は,請求額から控除されるべきである。
キ 不要な企業CMの放送について
第1審原告は,平成26年11月以降のCM放送を中止せず,当面の間は商品ではなく企業CMを流した方が良いなどとして,結果的に第1審被告会社の企業CMを流すこととなった。しかし,第1審原告が第1審被告会社の求めに応じて早急にCM放送を打ち切っていれば企業CMを放映しないことが可能であったにもかかわらず,第1審原告は,何らの対応も執らずに漫然と企業CMを放映したのであるから,当該CM放送分の合計額2514万3500円を第1審被告会社に請求することは過剰請求である。
(3) PR活動費の請求額の当否(争点3)
(第1審原告の主張)
第1審原告が請求しているPR活動費合計420万円は,第1審原告がPR会社である株式会社b(以下「b社」という。)に対して依頼していた業務に対するものであり,第1審原告は,平成25年9月から平成27年3月まで,b社に対して,第1審被告会社に対する請求額と同じ月額70万円を支払っている。PR活動の業務内容は,PR会社が依頼会社に対し,企業のイメージ向上のための広告戦略の提供,不祥事の際の企業対応のアドバイス,人脈構築のための助言等を行うもので,その業務範囲は広範囲に及んでいる。報酬は毎月一定の金額と定められ,取引期間も特に設定されていない。企業とPR活動会社との間の契約は,企業にとって有事に備えた顧問契約的な色彩が強く,毎月の報酬は,毎月の労務に対する対価ではなく,顧問料的な性格のものである。
なお,第1審被告会社は,福岡地方裁判所において提起した不当利得返還請求事件(同裁判所平成28年(ワ)第1584号。以下「別訴」という。)において,上記期間のPR活動に関する契約が存在することを自認している。
(第1審被告らの主張)
第1審原告は,平成26年10月分から平成27年3月分までのPR活動費として420万円を請求している。
しかし,実際のところ,第1審原告は上記期間中に何らのPR活動をしておらず,また,第1審被告会社も第1審原告から当該PR活動について何の報告も受けていないのであって,当該請求は不当なものである。
第1審原告は,PR活動費の業務内容は,有事に備えた顧問契約的な色彩が強く,その報酬も顧問料的な性格であるとするが,第1審原告と第1審被告会社との間には,契約書は交わされておらず,第1審原告が主張する内容の契約は締結していない。
(4) 撮影費等の請求額の当否(争点4)
(第1審原告の主張)
ア 商品撮影費
情報誌の2015年1月号,3月号及び4月号の商品撮影費は,下請会社である株式会社c(以下「c社」という。)からの請求に基づいて第1審被告会社に請求するものであり,正当な請求である。2015年1月号及び3月号の画像処理費は,商品撮影を前提としない画像の処理に要した費用である。
同年4月号の商品撮影は,平成27年3月14日にc社の社内で撮影されたから,カメラマンの個人事務所である株式会社d(以下「d社」という。)が撮影していないことと矛盾しない。
イ 画像処理費
第1審原告は,第1審被告会社に対し,これまで10年近く,情報誌制作費と画像処理費を別々に請求しており,第1審被告会社も支払を続けていたのであるから,第1審被告らの主張するように,画像処理費が情報誌制作費のページ単価に含むという合意はなされていない。
ウ ディレクション費
ディレクション費は,実際の作業を行う技術者や制作スタッフに対して広告主の意向を説明し,共有してもらうことにより,最終的な成果物にブランドイメージを反映させるための一連の作業費及び報酬である。第1審原告は,必ず,F,その他の担当者又はc社の担当者が,写真撮影の現場に立ち会い,指示,監督していた。第1審被告会社は,取引を開始した平成17年頃から何ら異議を唱えることなく撮影作業に要した費用の何%という形でディレクション費を全額支払っており,第1審原告との間で合意があった。
情報誌の2014年10月号ないし12月号及び2015年2月号の商品撮影費については,そもそも立会を必要としない商品撮影であり,別途c社に指示はしているから,ディレクション費は発生している。
(第1審被告らの主張)
ア 第1審原告は,平成26年9月から平成27年5月までの情報誌撮影費として合計2713万2000円を請求している。
イ 商品撮影費
第1審原告は,商品撮影業務をc社に依頼し,c社は,d社に依頼していた。
(ア) 乙9の1が作成された平成26年10月の時点では,商品撮影は,ミラー撮影(周りに小物を配置せずに,単に商品のみを撮影する撮影方法)に切り替わっており,第1審被告会社がc社に商品を直接送付し,それをd社のカメラマンが一人で撮影するという段取りになっていた。したがって,乙9の1に記載された商品撮影費のうち,スタイリスト費10万円,撮影美術費5万円,諸雑貨10万円及びこれらに対するディレクション費は過剰請求である。同様に乙9の2(2014年11月号),9の3(2014年12月号)及び9の5(2015年2月号)についても過剰請求である。なお,情報誌の2015年5月号及び同年6月号については,見積書が発行されておらず,請求内容が不明であり,同様に過剰請求と考えられる。
(イ) 乙9の4及び乙9の6については,撮影なしとされているにもかかわらず,画像処理費が請求されており,不自然であって過剰請求である。
(ウ) 乙9の7については,情報誌の2015年4月号の商品撮影(平成27年3月14日)は行われておらず,商品撮影費の全てが過剰請求である。
ウ 画像処理費
第1審原告は,写真撮影費の中で独立した項目として,画像処理費を計上しているが,画像処理は,実際には情報誌を作成する過程で必要となるものであるから,商品撮影時と情報誌制作時の2回処理する必要はなく,第1審原告と第1審被告会社の間において画像処理費は情報誌制作費のページ単価に含むものと合意されていた。しかし,第1審原告は,ページ単価以外に別途写真撮影費の1項目として画像処理費も請求しているのであり,二重請求となっている。したがって,画像処理費の合計2005万5000円は過剰請求である。
エ ディレクション費
第1審原告は,ディレクション費を請求しているが,第1審原告の担当者は写真撮影の場に立ち会うことはなく,撮影の指示や統括等をしている実態はない。当該請求合計331万5000円は活動実態のない不当な請求である。
(5) 情報誌制作費の請求額の当否(争点5)
(第1審原告の主張)
ア 情報誌制作費の単価は,平成23年頃,B社長の了解により増額した。これは,第1審原告と第1審被告会社との取引が開始してしばらくした平成21年頃,コスト削減のために単価が引き下げられたが,B社長が,第1審被告会社の情報誌制作を専属で担当することとなったc社に一定のコストがかかることに経営者として理解を示し,元の単価に引き上げることを提案したため,増額に至ったものである。
第1審原告は,単価変動があった平成23年3月に,B社長の指示により単価が改訂された旨を赤字で記載した見積書を第1審被告会社に提出したが,本件訴訟に至るまで,この点について異議が唱えられたことはない。
イ 第1審原告は,情報誌の裏表紙の広告について,第1審被告らの主張するような合意はしていない。第1審原告は,一度だけ広告料金に近い金額を第1審被告会社に支払ったが,これは広告を掲載した企業から支払われた広告料ではない。
e社及びf社の広告は,有償の広告掲載契約に基づいて掲載されたものではない。Fは,B社長の要請に基づき,e社及びf社から無料で原稿を借りる手配をし,情報誌の裏表紙が空欄になることを回避したものである。
ウ(ア) 流用コピーによりチラシを作成できる場合とは,表裏全てが同一のデザインである場合であり,第1審被告会社の主張する折込チラシは,表面のデザインが異なっているため,流用して作成できる場合に該当しない。
(イ) ある特定の媒体に出演するためにタレントを起用し,画像や動画を撮影した後,後にそれを別の媒体で使用することになった場合,所属事務所との関係で新たにタレント起用料が発生することがある。
第1審原告は,Gのメディア出演を管理する株式会社g(以下「g社」という。)からの請求に基づき,平成26年12月号の情報誌出演料として,40万円及びこれに対するコーディネート費7%を支払った。また,第1審原告は,同じくg社からの請求に基づき,平成27年2月の折込チラシの出演料として100万円及びこれに対するコーディネート費7%を支払った。これは,媒体や使用される地域等が異なれば,露出機会が拡大し,所属事務所との間で,当初合意した出演範囲を超えることになり,新たな契約が必要になるからである。第1審原告は,Gを折込チラシに起用する場合,別途出演料が発生することを第1審被告会社に説明して了承を得ており,折込チラシに関してタレント費用がかからず,2次使用料のみの低料金になると説明したことはない。なお,第1審原告は,第1審被告会社に対し,g社から請求された出演料にマージンを加えてタレント起用料を請求しているから,g社の請求額と第1審原告の請求額が異なるのは当然である。
(第1審被告らの主張)
ア 不当に高額な料金への変更
情報誌制作費について,平成23年2月までは,表紙イラスト制作費として20万円,新規制作ページ費(新規にページを制作する際に必要となる費用。前記の画像処理費もここに含まれる。)として1ページあたり10万円,リデザイン費(新規作成ページに変更を加えた場合の費用)として1ページあたり7万5000円,リデザイン微調整ページ費(新規作成ページに若干の修正を加えた場合の費用)として1ページあたり4万円と設定されていた。
しかし,第1審原告は,同年3月以降,合意なく新規制作ページ費が1ページあたり13万円,リデザイン費が1ページあたり10万円,リデザイン微調整費が1ページあたり7万円と金額を変更した。これらの合意のない料金請求は不当な請求である。常にコストダウンを念頭に置いていたB社長が,値上げ前後において情報誌の質や内容はほとんど変わっていないにもかかわらず,情報誌制作費の単価の値上げを指示したり,了承するはずがない。
したがって,第1審原告が,平成26年10月から平成27年6月までに第1審被告会社に対して過剰に請求した額は別紙2記載のとおり合計3236万7250円となる。
イ 裏表紙の広告収入の控除
第1審被告会社は,会員向けの情報誌の発行を第1審原告に依頼していたところ,当該情報誌の裏表紙に広告を掲載することもあった。第1審被告会社と第1審原告は,情報誌に広告の掲載をした場合,毎月の第1審原告の請求金額から広告収入代金として1件当たり120万円(消費税別)が差し引かれる形で精算することにつき合意していた。
第1審被告会社は,第1審原告に依頼し,平成18年2月号から平成21年2月号までの情報誌において,裏表紙に広告を掲載したが,現在まで,1件当たり120万円(消費税別)として毎月の請求から差し引いて計算されたことはない。仮に合意がなかったとしても,他社広告が掲載されたから,その広告収入分につき請求額から控除すべきである。
したがって,当時の消費税5%を含む1260万円は,第1審原告の請求から差し引かれるべきである。
ウ 折込チラシにかかる過剰請求
(ア) 第1審被告会社は,第1審原告に対し,平成27年2月の折込チラシとして,①B社長の写真及び「大阪の方限定」と記載されたもの(以下「折込チラシA」という。)及び②タレントのGの写真及び「埼玉県の方限定」と記載されたもの(以下「折込チラシB」という。)の作成を依頼した。
折込チラシAと折込チラシBは,両者の裏面が同一内容であるため,どちらか一方は,見積書の請求項目として「デザイン・コピー・撮影・フィニッシュ一式」となるが,もう一方については,既存データの流用となるため,「デザイン・流用コピー・撮影・フィニッシュ一式」の項目となる。しかし,第1審原告は,いずれの折込チラシについても,前者の項目で第1審被告会社に請求しており,少なくとも13万円が過剰請求となっている。
(イ) 折込チラシBの作成に先立ち,第1審被告会社は,第1審原告に対し,平成26年12月号の第1審被告会社会報誌(▼▼)の作成を依頼した。同月号では,Gのスペシャルインタビューの特集が組まれており,同誌発行に当たり同人の写真撮影も行われた。
第1審被告会社は,折込チラシBの依頼をする際,第1審原告から,「Gの写真は▼▼12月号の際に撮影しており,折込チラシBには当該写真を流用するのでタレント起用料はかからず二次使用料のみの低料金になる。」旨の説明を受けていた。しかし,第1審原告は,新規に撮影したのと同様にタレント費として150万円を被告会社に対して請求した。第1審被告会社は,第1審原告からGのタレント起用料が150万円になるとの説明は受けておらず,そのような提案書も存在しない。また,g社の請求額と第1審原告の請求額は異なっており,第1審原告の請求は不合理である。
(ウ) 第1審原告は,これらの費用及びこれらにかかるX社管理進行費(10%)の合計179万3000円を過剰に請求している。
(6) タレント出演料の請求額の当否(争点6)
(第1審原告の主張)
タレント出演料は,出演依頼の態様等により異なり,第1審原告は,タレント事務所やキャスティング会社等からタレント出演料の請求額が増額した場合,それに合わせて第1審被告会社に請求しているのであって,第1審原告が不合理に増額して請求することはない。例えば,第1審被告会社の指摘するCは,平成23年6月の情報誌出演時には,平成22年11月の出演時とは異なり,第1審被告会社の商品の愛用者としての出演依頼となり,タレントによるエンドースメント(注:企業がタレント等に報酬を支払う一方でタレントが当該企業の商品を使用するなどの契約形態)が付加されたことや取材内容も増加している。
したがって,タレント出演料は,出演依頼の態様等に応じて合理的に定められている。第1審原告は,上記金額の設定についてB社長の了承を得ている。
(第1審被告らの主張)
各タレントの出演料について,不合理に値上げがされている。平成19年4月時点でのタレント出演料単価は概ね40万円程度であったものの,平成27年3月時点では,合意なく80万円を超えるようになった。
そうすると,第1審原告は,タレント出演料を合意なくして通常価格より少なくとも30%ほど過剰に請求しており,合計1768万5000円のうち30%に当たる530万5505円は過剰な請求といえる。
(7) アフィリエイトに関する請求額の当否(争点7)
(第1審原告の主張)
第1審被告会社が主張するアフィリエイトLP制作費及びプロモーション紹介文の値上げは,第1審原告とB社長との間で合意した。
また,アフィリエイト成果報酬とX社管理進行費は全く異なる性質のものであって,前者は,アフィリエイト広告掲載のための媒体費(成果連動型)であるのに対し,後者はアフィリエイト用LP制作に対する管理費であるから,第1審原告は,第1審被告会社に対し,アフィリエイト収入に対する手数料を二重に請求していない。
(第1審被告らの主張)
ア 第1審原告は,平成26年9月30日実施のアフィリエイトLP制作費として45万6000円,同年10月31日実施のアフィリエイトLP制作費追加分として92万4000円の合計138万円を請求している。
しかし,第1審原告は,アフィリエイトLP制作費について,平成24年6月時点では1本あたり7万3500円であったところ,平成26年10月時点では1本あたり14万5000円に合意なく値上げし,プロモーション紹介文についても1本あたり1万0500円であったのが1万7500円に合意なく値上げして請求した。そうすると,甲1の8のうち,アフィリエイトLP制作費の差額分7万1500円の7点分とプロモーション紹介文の差額分7000円の2点分の合計51万4500円が過剰な請求である。
イ 第1審原告は,アフィリエイトの成果報酬として毎月一定額を第1審被告会社に請求する以外にX社管理進行費として12万5500円を請求している。
しかし,これらアフィリエイト成果報酬とX社管理進行費は,第1審被告会社のアフィリエイト収入に対する手数料として実質的に同一であり,第1審原告は,請求の費目を変えてアフィリエイト収入に対する手数料を第1審被告会社に対し,二重に請求している。したがって,重複分の合計64万円が過剰請求である。
(8) 本件連帯保証契約の錯誤無効又は詐欺取消しの成否(争点8)
(第1審被告Y2の主張)
第1審原告は,当初,債務承認兼支払計画書(甲2)を作成する際に,B社長個人の連帯保証を求めていたが,その当時同人の体調が思わしくなかったため,第1審被告Y2に連帯保証を求めた。第1審被告Y2は,第1審原告が不正をしたり,経理上の間違いをするわけがないと第1審原告を信頼していたため,その求めに応じて本件連帯保証契約を締結した。しかし,前記のとおり,本件では,個々の取引に関し,第1審原告による数々の過剰請求や不正請求が行われていた。
よって,本件連帯保証契約は,錯誤により無効であり,又は第1審原告の詐欺に基づく行為として取り消しうべき行為となる。
(第1審原告の主張)
第1審被告Y2の主張は否認する。債務承認兼支払計画書(甲2)は,B社長に代わり第1審被告Y2が窓口となり,同書面の別紙明細に記載されている個々の広告取引の内容を確認し,返済額につき協議した上で,作成されたものであるから,その作成過程に第1審原告が詐欺行為を行ったことをうかがわせる事情は一切なく,第1審被告Y2の錯誤が認められるような事情も一切存在しない。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は,控訴人の請求は,①につき5億5209万6250円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がないと判断する。その理由は,次のとおりである。
2 争点1(第1審原告と第1審被告会社との間の本件広告取引契約の一般的な取引態様)について
(1) 認定事実
前提事実,各項末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 第1審被告会社は,B社長が平成11年9月に創設した化粧品の通信販売を主力事業とする企業であり,その業態からテレビCM放送,折込広告及び会員向けの情報誌の制作等の広告宣伝活動が営業活動の中心であった。第1審被告会社は,設立当初は,第1審原告も含めた広告代理店数社と広告取引を継続していたが,平成17年頃から取引する広告代理店を第1審原告1社に集中し,本件広告取引契約を開始した。(前提事実1及び2,甲15,乙32,33,弁論の全趣旨)
イ 第1審被告会社と第1審原告との間の本件広告取引契約においては,基本契約は締結しておらず,個別の広告取引についても,日常的に大量かつ流動的であったことから個別の取引毎の契約書も作成されなかった。
個別取引においては,第1審被告会社の決裁権限は創立者であるB社長が専ら単独で行使しており,第1審原告担当者のFが企画書ないし提案書によりB社長と面談して広告の企画提案をし,B社長が広告媒体及び広告内容を口頭で了承し,ほとんどの場合,第1審原告において事前に書面で見積書を提出することなく広告業務の実施に着手し,納品した後,個別の広告代金の総額を記載した請求書及びその内訳が記載された見積書が同時に第1審被告会社に提出され,第1審被告会社がこれに従って代金を決済するという流れで取引していた。第1審被告会社は発注書を発行しておらず,納品の確認が書面でされることもなかった。
FがB社長に提案した企画書には金額が記載されているものと記載されていないものがあり,記載されているものについても,内訳が記載されていなかったり,修正や価格の変動が留保されているものがあった。また,B社長がFから提案された企画内容の修正もしくは追加又は価格の変更を依頼した場合に,広告業務の実施前にこれらを反映した見積書が提示されることはなかった。Fは,第1審被告会社に請求書及び見積書を郵送する直前に,同じ物をB社長に渡していたが,B社長は,多忙であったこと及び大手広告代理店である第1審原告及びFを信頼していたことから,これらの請求書又は見積書を精査していなかった。第1審被告会社に請求書及び見積書が送付された後,第1審被告会社の社員がFに対してその内容について問い合わせても,FはB社長の了承を得ているとのみ答え,その説明をしなかった。そこで,第1審被告会社の社員らは,請求書及び見積書の内容については,B社長とFの間で合意がされているものと理解し,請求書どおりの請求額を支払ってきた。(甲15,乙32,33,46,47,56,原審証人F,原審第1審被告Y2本人,弁論の全趣旨)
ウ B社長は,平成26年10月26日,Fに対し,メールで,取引先関係者が入院して商品供給が間に合わないことを理由に,全ての広告媒体の契約解除を申し入れた。その後,B社長は,Fに対し,資金繰りが厳しいことを説明し,広告代金の支払猶予を求めたため,協議の上,第1審原告と第1審被告会社は,前提事実8のとおり合意した。Fは,債務残高については,その総額を確認しただけで,個別の内訳については説明しなかった。(前提事実8,甲3,4,7,8,15,乙33,原審証人F,原審第1審被告Y2本人,弁論の全趣旨)
エ 第1審被告会社は,覚書(甲3)の記載の支払計画に従って,平成27年1月に2000万円,同年2月に3248万円,同年3月に8000万円を各支払ったが,同年4月に支払予定の1億円については支払ができず,2000万円のみを支払った。そこで,第1審原告は,再度,第1審被告会社に対し,支払計画書を作成することを求めるとともに,連帯保証人を付すよう求めた。この頃,B社長は体調を崩していたため,第1審原告との対応は第1審被告Y2が担当するようになった。第1審被告会社は,平成27年5月15日,第1審原告の作成した債務承認兼支払計画書(甲2)に押印し,第1審被告Y2が連帯保証人となり,第1審原告に提出した。同書面には残債務の明細が添付されていたが,Fは,同書面の債務残高については,その総額を確認しただけで,個別の内訳については説明しなかった。(前提事実8,甲2,15,乙33,原審証人F,原審第1審被告Y2本人,弁論の全趣旨)
(2) 以上の認定事実によれば,本件広告取引契約においては,基本契約が締結されておらず,個別の取引においても契約書が作成されていない上,B社長が了承した広告業務内容について,その実行前に見積書が作成されておらず,また,第1審被告会社の意思ないし認識を客観的に示す第1審被告会社の発注書や納品確認の書類も作成されていないことが認められるから,個別取引の成立,取引の内容,代金額の合意,第1審原告の業務遂行の有無及びその内容について,争いがある場合には,第1審原告が広告業務の実施後に作成した請求書及び見積書(この場合の見積書は主として請求書の内訳明細としての機能を有するに過ぎない。)が,第1審被告会社との間で成立した合意に基づいて作成されたものであり,当該合意に基づいて業務を遂行した(納品した)ことを第1審原告が個別に立証する必要があるというべきである。
第1審原告は,第1審被告会社が,請求書及び見積書について異議を述べずに請求書記載の金額を支払い続けてきたことからすれば,第1審被告会社が,請求書及び見積書記載内容につき了承していたことが推認される旨主張する。しかし,前記認定事実のとおり,Fは,B社長との面談において,広告業務の内容については了承を得ていたものの,最終代金額やその内訳については説明や詰めをしないまま,広告業務を実施し,その後に請求書及び見積書を交付し,第1審被告会社の社員には,B社長と請求書及び見積書の内容についても了承を得ている旨述べて支払を受けていたものであるから,第1審被告会社が,請求書及び見積書について異議を述べずに請求書記載の金額を支払い続けてきたことをもって,第1審被告会社が,請求書及び見積書記載内容について了承していたと推認することはできない。
また,第1審原告は,覚書(甲3)及び債務承認兼支払計画書(甲2)が作成され,その作成過程において,第1審被告らが何ら異議を唱えなかったことからすれば,個別取引の存在が推認される旨主張する。しかし,B社長及び第1審被告Y2は,第1審原告及びFに対する信頼から,これらの書面記載の債務内容が正しいものと信じて上記各書面を作成したが,個別取引の内容まで確認したわけではない旨供述(乙32,33,原審第1審被告Y2本人)するところ,前記認定事実のとおり,Fは,第1審被告会社に対し,覚書(甲3)及び債務承認兼支払計画書(甲2)作成の際に,それぞれの債務総額について個別取引の内訳を説明して確認していないこと,覚書においては,明細が添付されておらず,また,B社長は,合意時点で個別取引が確定していない発注予定額まで承認し,その支払債務についても期限の利益喪失合意を承諾していること,債務承認兼支払計画書作成時には,本件広告取引についてFと交渉,決済していたB社長が体調を崩し,それまで本件広告取引に関与していなかった第1審被告Y2が債務承認兼支払計画書に関する交渉を担当したことからすると,上記B社長及び第1審被告Y2の供述は採用できるというべきである。そうすると,上記各書面が総体としての本件広告取引契約に基づく未払債務の存在を推認させるものであるとしても,個別の取引における取引の存在,代金額の合意,第1審原告の業務遂行の有無等について客観的かつ正確にこれを担保するものとは言い難いから,第1審原告による前記の個別立証がない場合に,上記各書面が存在することの一事をもって,直ちに上記各事実の存在を推認するには足りないというべきであり,他の証拠関係及び間接事実に照らして上記各事実の有無につき慎重に判断すべきである。
上記の観点を前提に各個別取引毎の争点について以下検討する。
3 争点2(CM放送の請求額の当否)について
(1) CM放送に関する取引の態様等
証拠(甲24,26,原審証人F)及び弁論の全趣旨によれば,企業がテレビCM(タイムCM)を放送する場合,第1審原告のような広告代理店がテレビ局との間で,3か月分を1クールとして,4月から9月又は10月から3月の各2クールの番組提供枠を,放送開始時点の1か月から3か月前に,広告主を定めて購入する買切りがなされ,一度購入した2クール分の番組提供枠(買切り枠)の広告主を変更することは原則としてできず,また,番組提供枠自体を解約することを想定していないこと,広告主につき事件や事故,破産等の事情が生じ,広告主のCMが放送できない場合,広告代理店が買い切った番組提供枠については,広告代理店において,新たな広告主を探してテレビ局の許可を得てCMを放送(リセール)するか否かをテレビ局と協議するのが取引慣行となっていることが認められる。
したがって,第1審原告と第1審被告会社のCM放送に関する取引においても,特別の事情がない限り,上記の取引慣行に従った合意がされたものというべきであり,本件で特別の事情は認められない。
(2) 平成26年11月以降のCM放送契約の合意解除の有無
前提事実3及び甲7によれば,第1審被告会社は,第1審原告に対し,平成26年10月26日,同年11月以降のCM放送の解除を申し出ているところ,第1審被告らは,第1審原告もCM放送の解除を了承し,合意解除により契約が終了した旨主張する。
しかし,甲7によれば,B社長は,同日,Fに対し,メールで,取引先関係者が入院して商品供給が間に合わないことを理由に,全ての広告媒体の契約解除を申し入れたところ,Fは,B社長に対し,メールで,CM放送の契約については,もともと契約解除やキャンセルという概念がないこと及び平成27年1月以降のキャンセルを強引に行った場合には,かなり大きな問題となり,第1審被告会社のイメージが悪化することが懸念されることを伝え,平成26年11月及び同年12月については企業広告にするという方法を提案し,またキャンセルではなく,リセールに注力して第1審被告会社の負担を大きく減らせるように努力する旨を回答し,B社長もこの方針を了承したことが認められる。
このように,第1審原告は,第1審被告会社に対して,前記(1)の取引慣行に照らし,CM放送の契約の解除は困難であり,リセールの手段によって負担を軽減することを説明し,第1審被告会社もこれを了承したことに照らすと,第1審被告会社と第1審原告が平成27年3月までのCM放送の契約につき合意解除したと認めることはできない。他にこれを認めるに足りる証拠もない。
したがって,第1審被告らの合意解除の主張は採用することができない。
(3) 平成27年4月以降のCM放送契約の締結の有無
証拠(甲3,9,10,15,16,原審証人F)及び弁論の全趣旨によれば,第1審被告会社と第1審原告は,平成27年1月頃,同年4月から9月まで2クール分の番組提供枠について,従前の予算規模を月額2200万円に縮小した上で,その購入を合意した事実が認められる。
第1審被告らは,平成27年4月以降のCM放送にかかる番組提供枠を購入する旨の意思表示をしたことはないと主張し,第1審被告Y2の陳述書(乙33)の記載及び原審第1審原告Y2本人の供述中にはこれに沿う部分がある。
しかし,第1審被告Y2は,Fに対し,平成27年4月30日,メールで,商品の出荷遅れによる入金の遅延のために第1審原告に対する予定通りの入金が困難となったことを理由として,テレビ媒体の出稿の早期の打ち切りを要請しており(甲11の1),同月以降もテレビCM放送の契約が継続していることを前提としていること,前記債務承認兼支払計画書(甲2)添付の明細には平成27年4月に実施された広告業務としてテレビ番組名が明記されており,一見してテレビCMが行われたことは明らかであることに照らすと,上記陳述書の記載及び供述は採用することができない。
したがって,第1審被告らの主張は採用できない。
(4) 平成27年6月27日以降のキャンセル固定費について
第1審原告は,2クールの途中でCM取引を解約した場合,リセール等で転売された分を控除した番組提供枠の料金相当の損害という費用が商慣習に基づいて発生し,第1審原告と第1審被告会社との間では,CM取引を開始する時点で,このようなキャンセル固定費が商慣習に従って発生する旨の合意が存在したと主張する。
そして,前記(1)のとおり,第1審被告会社と第1審原告は,一度購入した2クール分の番組提供枠は,買い切りであって解約を想定していないという取引慣行に従って契約したものと認められるところ,B社長は,前記(2)の解除の申出をした後に,Fに対し,「キャンセル料をいくばかり取られても,致し方無いと思っております。・・・・他のクライアントに安売りを出来ませんか?差額は弊社にでも。」とメールを送信しており,番組提供枠のリセール後のキャンセル料について言及しており(甲7),B社長において,中途解約により何らかのキャンセル料(損害賠償債務)が発生する可能性があることは認識していたと認められる。
しかし,契約締結時に,中途解約により損害賠償債務が発生すると認識していたとしても,損害賠償額の予定について具体的に合意しない限り,損害の立証がないのに損害賠償義務が生じるものではない。第1審原告と第1審被告会社との間で,CM取引を開始する時点で,第1審原告主張の合意が成立したと認めるに足りる証拠はない。なお,本件において,中途解約による損害の立証もない。
よって,第1審原告の「キャンセル固定費」967万円(未請求項目分)の請求は理由がない。
(5) リセール分の請求について
証拠(甲13,14,乙1の1,3,5及び7)及び弁論の全趣旨によれば,第1審原告は,「○○」(番組名)の平成26年11月11日,18日,25日,同年12月2日及び9日放送分,「△△」(番組名)の同年11月15日,22日,29日,同年12月6日,13日,20日及び27日放送分につき,リセールしたと認められる。
第1審原告は,上記のうち,「○○」の平成26年12月2日及び9日放送分,「△△」の同年12月6日,13日,20日及び27日放送分はリセールしていないと主張しているようにも解されないではないが,これらの放送分についてリセールしたことについては自白が成立していること(第1審原告の平成28年2月26日付け第1準備書面)及び証拠(乙1の5及び7)により,リセールしたものと認められる。
第1審被告会社は,第1審原告が上記リセール分を控除せずにCM放送の費用を請求していると主張する。
しかし,前提事実3,証拠(甲13,14,28)及び弁論の全趣旨によれば,第1審原告の請求額は,「○○」の平成26年11月11日,18日及び25日放送分については,月額600万円のところ,リセール分90万円を控除した510万円,「△△」の同年11月15日,22日及び29日放送分については,月額800万円のところ,リセール分90万円を控除した710万円にそれぞれ減額していることが認められる。よって,上記放送分については,リセール分が控除されているというべきである。
第1審原告は,「○○」の平成26年12月2日及び9日放送分並びに「△△」の同年12月6日,13日,20日及び27日放送分については,リセール分を控除していないことを自認している。ところで,上記各控除額からすると,第1審原告は,契約額及びリセール日数にかかわらず,1番組1月内のリセール分については90万円を控除していると認められるから,「○○」の平成26年12月2日及び9日放送分並びに「△△」の同年12月6日,13日,20日及び27日放送分のリセール代も,少なくとも各90万円を下回らないと認定するのが相当である。リセール代金が上記金額を超えるとの証拠はない。
よって,リセール分についての第1審被告らの主張は,合計180万円の限度で理由がある。
(6) 放送未了のCMの有無
証拠(甲5,18の1~5,19,20)によれば,平成26年11月10日から14日の間,「■■チャンネル」において第1審被告会社のCM放送が実施された事実が認められる。
第1審被告会社は,放送確認書(甲5)に10桁のCMコードの記載がないこと,平成26年11月分のテレビ媒体のCM進行スケジュール(乙23)に上記放送分の記載がないことをもって,上記放送が実施されなかった旨主張する。
しかし,媒体社であるa社は民放連に加入していないから,CMコードの記載は必ずしも義務付けられているわけではなく(甲17,弁論の全趣旨),上記各甲号証によれば,a社の運行表に上記CM放送が記載され,放送事故も存在せず,a社により放送確認書が作成されていることが認められるから,平成26年11月分のテレビ媒体のCM進行スケジュール(乙23)に上記放送分の記載がないことは上記認定を左右しない。
したがって,第1審被告らの主張は採用することができない。
(7) 商品AのCM代金について
第1審被告会社は,第1審原告が手違いにより平成27年3月以降も旧商品である商品AのCMを流し続けたため,同月以降は第1審被告会社にとって全く意味のないCMが放送されることになったとして,係る放送分の請求は不当である旨主張する。
しかし,証拠(甲33~35)及び弁論の全趣旨によれば,テレビ局が制作されたCMを放送するにはCM考査の手続を経る必要があり,特に化粧品の場合は薬機法等の関係法令に抵触するか否か厳しい審査基準が存在すること,広告主が既に放送している商品のCMを新商品のCMに切り替える場合,考査期間も考慮して,通常,相当期間を置いて事前に広告会社に対して新商品の説明をして改訂作業に着手することが認められる。そうすると,第1審被告会社が主張するように平成27年1月に第1審原告に商品の切り替えを伝えたとしても,CM考査の期間を考慮すると,同年3月下旬まで切り替えが実施できなかったことにつき第1審原告に責任があるとはいえない。
第1審被告らは,平成27年3月以降も商品AのCMが流れたことにより,注文や問い合わせが多数入り,注文のあった顧客に対して商品Aと商品Bの差額をもらわずに商品Bを発送したため,合計440万7425円の損害を被ったと主張する。しかし,第1審被告らの主張する顧客からの商品Aの注文や問い合わせとテレビCMとの間の因果関係を認めるに足りる証拠はない。
また,商品Aと商品Bを切り替えたことによるTVCM改定編集費216万1000円が編集内容に照らして不当に高額であるとの証拠はない。
したがって,第1審被告らの主張は採用することができない。
(8) 不要な企業CMの放送について
第1審被告らは,第1審原告が第1審被告会社の求めに応じて早急にCM放送を打ち切っていれば企業CMを放映しないことが可能であったにもかかわらず,第1審原告は,何らの対応も執らずに漫然と企業CMを放映したと主張する。
しかし,前記(2)のとおり,第1審被告会社と第1審原告が平成27年3月までのCM放送の契約につき合意解除したと認めることはできないから,リセールが実施できなかった放送番組の時間帯については,第1審被告会社の何らかのCMを放送する必要があったといえる。そして,前記(2)の認定事実によれば,B社長は,Fに対し,メールで,取引先関係者が入院して商品供給が間に合わないことを理由に,全ての広告媒体の契約解除を申し入れたところ,Fは,B社長に対し,キャンセルではなく,リセールに注力して第1審被告会社の負担を大きく減らせるように努力するとの前提で,平成26年11月及び同年12月については企業広告にするという方法を提案し,B社長もこの方針を了承したことが認められるから,第1審原告が早急な対応を執らずに漫然と企業CMを放映したということはできない。
したがって,第1審被告らの主張は採用することができない。
4 争点3(PR活動費の請求額の当否)について
証拠(甲2,15,21の1・2,22の1・2,原審証人F)によれば,第1審原告は,平成26年10月分から平成27年3月分までPR会社のb社に対し,第1審被告会社を代行してPR活動費月額70万円(合計420万円)を支払った事実が認められる。
第1審被告会社は,第1審原告が上記期間中,何らのPR活動をしておらず,また,第1審被告会社も第1審原告から当該PR活動について何の報告も受けていないとして,当該請求は不当である旨主張する。
しかし,証拠(甲21の1・2,22の1・2)によれば,第1審被告会社は,別訴において,第1審原告が上記の期間にPR会社のb社から月額70万円の請求を受け,同額を第1審被告会社に請求しているところ,当該請求は正当である旨自認していることが認められるから,第1審被告らの主張は採用することができない。
したがって,第1審原告の第1審被告会社に対するPR活動費合計420万円の請求は理由がある。
5 争点4(撮影費等の請求額の当否)について
(1) 画像処理費について
第1審被告会社は,第1審原告との間において画像処理費は情報誌制作費のページ単価に含むと合意したから,画像処理費は二重請求であると主張し,第1審被告Y2の陳述書(乙33)及び原審第1審被告Y2本人の供述中にはこれに沿う部分がある。
しかし,証拠(甲16,46の1・2,47の1・2,48)及び弁論の全趣旨によれば,画像処理費は,撮影した商品画像又は既存の画像を用いたCG加工処理の費用であり,その性質上必ずしも情報誌制作費に包含されるものとはいえず,情報誌制作費に画像処理を含むとの合意を裏付ける客観証拠もないから,上記陳述書及び供述は採用できない。
したがって,第1審被告らの主張は採用することができない。
(2) 商品撮影費等の請求額について
ア 情報誌2014年10月号,同年11月号,同年12月号及び2015年2月号について
証拠(乙69,74)及び弁論の全趣旨によれば,第1審原告から撮影業務を委託されたc社から,さらに再委託を受けたカメラマンのH(d社)は,2014年10月号の商品撮影の時点では,イメージカットの撮影はしておらず,商品単体の撮影のみ実施しており,2015年6月までの間に2月号のみスタイリストを雇い,小物を使用したこと,撮影現場に立ち会いはなく,ディレクションが必要な作業ではなかったこと,諸雑貨は請求していないこと,画像処理費として時間単価で請求したことはないことが認められ,上記認定を覆すに足りる証拠はない。
そうすると,第1審原告の情報誌2014年10月号の請求(乙9の1)のうち,スタイリスト費10万円,撮影美術費5万円,諸雑貨10万円,画像処理費168万円及びディレクション費22万1000円,同年11月号の請求(乙9の2)のうち,スタイリスト費10万円,撮影美術費5万円,諸雑貨10万円,画像処理費115万5000円及びディレクション費16万8500円,同年12月号の請求(乙9の3)のうち,スタイリスト費10万円,撮影美術費5万円,諸雑貨10万円,画像処理費73万5000円及びディレクション費12万6500円並びに2015年2月号の請求(乙9の5)のうち,諸雑貨10万円,画像処理費115万5000円及びディレクション費16万8500円の各費用の請求は理由がない。
イ 情報誌2015年5月号及び6月号について
第1審原告は,情報誌2015年5月号及び6月号の各撮影費として,各185万3000円を請求する(甲1の134及び142)が,第1審原告が具体的な業務を実施したことを認めるに足りる客観的証拠はない。また,5月号について,債務承認兼支払計画書(甲2)の別紙に費用が計上されていることをもって上記合意の存在を直ちに推認することができないことは,前記2(2)で説示したとおりである。
したがって,第1審原告の上記請求は理由がない。
ウ 情報誌2015年1月号及び3月号について
第1審原告は,情報誌2015年1月号及び3月号について,商品撮影は実施していない前提で,画像処理費及びディレクション費のみを請求するところ(乙9の4,9の6),撮影業務を実施したd社の請求と第1審原告の第1審被告会社に対する請求は対応しない(乙69,73)。また,1月号及び3月号に関するc社名義の見積書(甲45の1,45の3)は,正規の見積書であることを否定する乙73ないし76の記載内容に照らし,採用できない。そして,他に第1審原告が実施した画像処理の業務につき具体的な立証はないから,第1審原告の情報誌2015年1月号の画像処理費及びディレクション費の合計103万9500円及び3月号の画像処理費及びディレクション費の合計92万4000円の各請求は理由がない。
エ 情報誌2015年4月号について
第1審原告は,情報誌2015年4月号の商品撮影費として総額185万3500円を請求する(甲1の118,乙9の7)。また,c社の見積書(甲45の3)には,平成27年3月14日に撮影を実施したことが記載されている。
しかし,証拠(乙73ないし76)及び弁論の全趣旨によれば,H(d社)は,同日の撮影の実施を否定しており,c社の代表者I及び担当者Jも上記見積書(甲45の3)が正規に発行したものではないことを認めていることからすると,上記見積書は採用できず,これを前提にした第1審原告の請求書(甲1の118),見積書(乙9の7)も採用できない。また,他に同日の商品撮影業務の実施を認めるに足りる証拠はない。
したがって,第1審原告の情報誌2015年4月号の商品撮影費の請求は理由がない。
6 争点5(情報誌制作費の請求額の当否)について
(1) 単価の値上げについての合意の有無
第1審原告は,平成23年頃,B社長が単価の引上げを提案し,増額に至った旨主張し,Fの陳述書(甲16,29)及び原審証人Fの証言中にはこれに沿う部分がある。
しかし,①B社長が平成21年頃,コスト削減のため単価を引き下げたにもかかわらず,平成23年頃,自ら単価の引上げを提案したというのは不自然であること,②B社長が単価の引上げを提案した理由について,第1審原告は,平成28年2月26日付け第1準備書面においては,「B社長から,費用が上がっても構わないので,情報誌の質を上げて欲しいとの指示を受けて,B社長の了解を得て費用を変更した」と主張していたが,その後,「B社長が,第1審被告会社の情報誌制作を専属で担当することとなったc社に一定のコストがかかることに経営者として理解を示した」旨主張し,主張内容が変遷していること,③単価引上げの前後で情報誌の質の変化は認められない(乙52の2~5,53の2~4,弁論の全趣旨)こと,④経営者が,取引先から要望があったわけでもないのに,取引先のコストを考慮して,自ら単価を引き上げることを提案するというのは不自然,不合理であることに照らし,上記Fの陳述書及び証言は採用できない。
証拠(甲30)及び弁論の全趣旨によれば,第1審原告作成の上記値上げ当時の平成23年3月31日付け御見積書には,それぞれ項目の欄に「※今月よりB社長へご確認の上,単価変動しております。」と記載されていることが認められる。しかし,Fが上記記入のある見積書をB社長に渡したとの証拠はないこと及び前記認定のとおり,FがB社長から了承を得ていると述べると第1審被告会社の社員はそれ以上追及しなかったことからすれば,上記見積書の記載をもって,B社長が了承していたと推認することはできない。
また,第1審被告会社は,同月以降,平成26年の本件未払債務が発生するまで上記変更後の単価による情報誌制作費の請求に対し,支払を継続してきたことが認められるが,前記のとおり,支払継続の事実のみから,個別取引の金額が合意されていたと推認することはできない。
したがって,第1審原告の情報誌制作費の請求のうち,別紙2記載のとおり,平成26年10月から平成27年6月までの情報誌制作費の差額分合計3236万7250円の部分は理由がない(なお,平成27年5月分及び6月分については,新規作成ページ,リデザインページ,リデザイン微調整ページの具体的なページ数が不明であることから,直近の同年4月分における請求額に占める差額分の割合を当該月分に乗じて差額分を推計したものである。)。
(2) 裏表紙の広告収入の控除
ア 第1審被告らは,第1審原告との間で,情報誌の裏表紙に他社の広告の掲載をした場合,毎月の第1審原告の請求金額から広告収入代金として1件当たり120万円(消費税別)を差し引くことを合意していた旨主張する。
そして,証拠(甲16,38の1及び2,乙25,26の1ないし10)及び弁論の全趣旨によれば,B社長は,コスト削減の一環として,第1審被告会社発行の情報誌の裏表紙に他社の広告を掲載することを発案し,広告料を1件120万円とする営業資料を作成し,Fに,広告掲載企業獲得の営業を依頼したこと,第1審原告は,平成18年2月号から平成21年2月号までの上記情報誌の裏表紙にFが提供したe社及びf社の広告を掲載したこと,第1審原告は,第1審被告会社に対し,平成18年5月,媒体買掛金として123万5000円を支払ったことが認められ,B社長とFとの間で,第1審原告の営業により,広告掲載企業が獲得され,第1審原告が同企業から広告料を取得した場合は,これを第1審被告会社に支払う旨の合意が成立していたと認められる。
この点,第1審原告は,B社長はFに対し,裏表紙の広告スペースが空欄とならないように,広告料が支払われなくても良いので,広告掲載企業を見つけて欲しいと要請し,Fはこの要請に基づきe社及びf社から無料で原稿を借りる手配をし,広告を掲載したと主張する。しかし,B社長の上記発案はコスト削減を理由とするものであるのに,自社の製品と関係のない他企業の広告を無料で掲載するというのは不合理であること及び第1審原告は媒体買掛金名目で第1審被告会社に支払をしたことがあることに照らし,第1審原告の上記主張は採用することができない。
イ しかし,上記のとおり,B社長とFの上記合意は,第1審原告が広告掲載企業から広告料を取得した場合は,これを第1審被告会社に支払うとの合意であると認められるところ,上記掲載された広告につき,第1審原告がe社及びf社との間で契約を締結していないことは当事者間に争いがない。そうすると,第1審原告が上記2社から広告代金を徴収していないことは明らかであるから,第1審被告会社の上記合意に基づく広告代金収入の控除は認められない。
したがって,第1審被告らの上記主張は採用することができない。
(3) 折込チラシの請求
ア 第1審被告らは,折込チラシAと折込チラシBは,両者の裏面が同一内容であるから,どちらか一方は既存データの流用となるため,13万円が過剰請求であると主張する。
しかし,第1審原告は,流用コピーによりチラシを作成できる場合とは表裏全てが同一のデザインである場合であると主張するところ,証拠(乙27,28)によれば,折込チラシAとBでは,裏面は同一内容であるが,表面のデザインは異なるから,表面については既存データを流用できず,一定の作業が必要となると認められる。そうすると,一方を「デザイン・流用コピー・撮影・フィニッシュ一式」の項目として計上すべきであるとは解されないから,第1審被告らの主張は採用することができない。
イ 第1審被告会社は,折込チラシBの依頼をする際,第1審原告から,Gの写真は▼▼12月号の際に撮影しており,折込チラシBには当該写真を流用するのでタレント起用料はかからず2次使用料のみの低料金になる旨の説明を受けたと主張し,第1審被告Y2の陳述書(乙33)及び原審第1審被告Y2本人の供述中にはこれに沿う部分がある。
しかし,上記合意を裏付ける客観証拠はない上,情報誌と折込チラシBとでは,媒体,使用地域,配布対象範囲等が異なるところ,証拠(甲40の1~3)によれば,第1審原告は,Gのメディア出演を管理するg社から折込チラシBのタレント出演料100万円及びコーディネート費7%を請求され,これを支払った事実が認められることに照らすと,上記陳述書の記載及び供述は採用できない。
したがって,第1審被告らの主張は採用することができない。
7 争点6(タレント出演料の請求額の当否)について
第1審被告らは,各タレントの出演料について,合意なく値上げがされた旨主張する。
しかし,証拠(甲16,31,32)及び弁論の全趣旨によれば,タレント出演料は,出演依頼の態様等により金額が異なるのであって,第1審原告は,第1審被告会社との間で合意したタレント出演の実施に伴い,タレント事務所やキャスティング会社等からタレント出演料の請求を受け,これを基に第1審被告会社に請求していると認められるから,第1審原告が第1審被告会社との合意の範囲を超えてタレント出演料の値上げをしたとは認められない。
したがって,第1審被告らの主張は採用することができない。
8 争点7(アフィリエイトに関する請求額の当否)について
(1) 前記前提事実7によれば,アフィリエイトLP制作費の単価について,平成24年6月時点では1本あたり7万3500円であったところ,平成26年10月時点では1本あたり14万5000円に値上げされ,プロモーション紹介文についても1本あたり1万0500円であったのが1万7500円に値上げされているところ,第1審原告は,上記各値上げにつき第1審被告会社との間で合意した旨主張し,Fの陳述書(甲16)及び原審証人Fの証言中にはこれに沿う部分がある。
しかし,第1審被告会社は,上記合意の存在を否認するところ,上記合意の存在を裏付ける客観証拠はなく,前記前提事実8及び証拠(甲4,7,8)によれば,第1審被告会社は,平成26年8月から同年12月頃までに予定外の多額の出費が重なり,同年10月26日には,第1審原告に対し,全ての広告媒体の契約の解除を申し出たことからすると,第1審被告会社において,平成26年9月ないし10月の時点で,値下げどころか上記各値上げに合意することは第1審被告会社の財政状況に照らして不自然であるから,上記陳述書の記載及び証言は採用できない。また,債務承認兼支払計画書(甲2)の別紙に費用が計上されていることをもって上記合意の存在を直ちに推認することができないことは,前記2(2)で説示したとおりである。
したがって,第1審原告のアフィリエイトLP制作費の請求(甲1の8)のうち,単価の値上げにつき合意があったとは認められないから,アフィリエイトLP制作費の差額分7万1500円の7点分とプロモーション紹介文の差額分7000円の2点分(乙19)の合計51万4500円の部分は理由がない。
(2) 第1審被告らは,アフィリエイト成果報酬とX社管理進行費は,第1審被告会社のアフィリエイト収入に対する手数料として実質的に同一であり,第1審原告が第1審被告会社に対し,二重に請求している旨主張する。
しかし,証拠(甲16)及び弁論の全趣旨によれば,アフィリエイト成果報酬は,アフィリエイターに支払われるアフィリエイト広告掲載のための媒体費(成果連動型)であるのに対し,X社管理進行費は,第1審原告がコーディネートしているアフィリエイト用LP制作に対する進行管理費であり,それぞれ性質の異なる費用であると認められるから,第1審原告が実質的に同一の費用を二重請求しているとはいえない。
したがって,第1審被告らの主張は採用することができない。
9 争点8(本件連帯保証契約の錯誤無効又は詐欺取消しの成否)について
第1審被告Y2は,第1審原告を信頼して本件連帯保証契約を締結したところ,個々の取引に関し,第1審原告による数々の過剰請求や不正請求が行われていたから,本件連帯保証契約は,錯誤により無効であり,又は第1審原告の詐欺に基づく行為として取り消しうべき行為であると主張する。
しかし,本件連帯保証契約の主債務に係る本件広告取引契約は,継続的かつ大量の個別取引であって,個々の取引を精査し,代金額を是正した結果,総額としての債務残高の修正が必要となることがあり得ることは本件連帯保証契約においても通常予定されていると解されるから,本件連帯保証契約締結時点における第1審被告会社の適正な残債務総額につき連帯保証するという第1審被告Y2の意思表示には,要素の錯誤があるとは認められず,また同様に,残債務総額を減額する必要があるからと言って直ちに第1審原告に詐欺行為があったということもできない。他に第1審被告Y2の主張を認めるに足りる的確な証拠はない(なお,第1審被告Y2は,強迫による取消しも主張するようであるが,本件連帯保証契約締結における第1審原告による強迫の具体的事実について主張がないから主張自体失当である。)。
したがって,第1審被告Y2の主張は採用することができない。
10 小括
以上に加え,証拠(甲1の1~152〔前記認定に反する部分を除く〕,7,15,16,原審証人F)及び弁論の全趣旨によれば,原判決別紙1請求債権一覧表記載の第1審原告の第1審被告らに対する請求は,別紙3計算書記載の控除額を控除した5億5209万6250円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成27年11月22日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由がある。
第4 結論
そうすると,第1審原告の第1審被告らに対する請求は,連帯して,5億5209万6250円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成27年11月22日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却すべきところ,これと異なる原判決は一部失当であって,第1審原告及び第1審被告らの本件各控訴はそれぞれ一部理由があるから,原判決を上記のとおり変更し,主文のとおり判決する。なお,仮執行免脱宣言については,相当でないからこれを付さないこととする。
東京高等裁判所第2民事部
(裁判長裁判官 白石史子 裁判官 針塚遵 裁判官 鈴木義和)
別紙
当事者目録
東京都港区〈以下省略〉
第1審原告 株式会社X
上記代表者代表取締役 A
上記訴訟代理人弁護士 遠藤常二郎
同 川端克俊
同 松尾耕太郎
同 遠藤純
同 今津信裕
同 飯塚順子
同 長瀬恵利子
福岡市〈以下省略〉
第1審被告 株式会社Y1
上記代表者代表取締役 B
福岡市〈以下省略〉
第1審被告 Y2
上記両名訴訟代理人弁護士 桃原健二
同 馬場勝
以上
〈以下省略〉
*******
コメント ( 0 )
トラックバックは利用できません。
この記事へのコメントはありません。