【営業代行から学ぶ判例】crps 裁判例 lgbt 裁判例 nda 裁判例 nhk 裁判例 nhk 受信料 裁判例 pl法 裁判例 pta 裁判例 ptsd 裁判例 アメリカ 裁判例 検索 オーバーローン 財産分与 裁判例 クレーマー 裁判例 クレプトマニア 裁判例 サブリース 裁判例 ストーカー 裁判例 セクシャルハラスメント 裁判例 せクハラ 裁判例 タイムカード 裁判例 タイムスタンプ 裁判例 ドライブレコーダー 裁判例 ノンオペレーションチャージ 裁判例 ハーグ条約 裁判例 バイトテロ 裁判例 パタハラ 裁判例 パブリシティ権 裁判例 ハラスメント 裁判例 パワーハラスメント 裁判例 パワハラ 裁判例 ファクタリング 裁判例 プライバシー 裁判例 プライバシーの侵害 裁判例 プライバシー権 裁判例 ブラックバイト 裁判例 ベネッセ 裁判例 ベルシステム24 裁判例 マタニティハラスメント 裁判例 マタハラ 裁判例 マンション 騒音 裁判例 メンタルヘルス 裁判例 モラハラ 裁判例 モラルハラスメント 裁判例 リストラ 裁判例 リツイート 名誉毀損 裁判例 リフォーム 裁判例 遺言 解釈 裁判例 遺言 裁判例 遺言書 裁判例 遺言能力 裁判例 引き抜き 裁判例 営業秘密 裁判例 応召義務 裁判例 応用美術 裁判例 横浜地裁 裁判例 過失割合 裁判例 過労死 裁判例 介護事故 裁判例 会社法 裁判例 解雇 裁判例 外国人労働者 裁判例 学校 裁判例 学校教育法施行規則第48条 裁判例 学校事故 裁判例 環境権 裁判例 管理監督者 裁判例 器物損壊 裁判例 基本的人権 裁判例 寄与分 裁判例 偽装請負 裁判例 逆パワハラ 裁判例 休業損害 裁判例 休憩時間 裁判例 競業避止義務 裁判例 教育を受ける権利 裁判例 脅迫 裁判例 業務上横領 裁判例 近隣トラブル 裁判例 契約締結上の過失 裁判例 原状回復 裁判例 固定残業代 裁判例 雇い止め 裁判例 雇止め 裁判例 交通事故 過失割合 裁判例 交通事故 裁判例 交通事故 裁判例 検索 公共の福祉 裁判例 公序良俗違反 裁判例 公図 裁判例 厚生労働省 パワハラ 裁判例 行政訴訟 裁判例 行政法 裁判例 降格 裁判例 合併 裁判例 婚約破棄 裁判例 裁判員制度 裁判例 裁判所 知的財産 裁判例 裁判例 データ 裁判例 データベース 裁判例 データベース 無料 裁判例 とは 裁判例 とは 判例 裁判例 ニュース 裁判例 レポート 裁判例 安全配慮義務 裁判例 意味 裁判例 引用 裁判例 引用の仕方 裁判例 引用方法 裁判例 英語 裁判例 英語で 裁判例 英訳 裁判例 閲覧 裁判例 学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例 共有物分割 裁判例 刑事事件 裁判例 刑法 裁判例 憲法 裁判例 検査 裁判例 検索 裁判例 検索方法 裁判例 公開 裁判例 公知の事実 裁判例 広島 裁判例 国際私法 裁判例 最高裁 裁判例 最高裁判所 裁判例 最新 裁判例 裁判所 裁判例 雑誌 裁判例 事件番号 裁判例 射程 裁判例 書き方 裁判例 書籍 裁判例 商標 裁判例 消費税 裁判例 証拠説明書 裁判例 証拠提出 裁判例 情報 裁判例 全文 裁判例 速報 裁判例 探し方 裁判例 知財 裁判例 調べ方 裁判例 調査 裁判例 定義 裁判例 東京地裁 裁判例 同一労働同一賃金 裁判例 特許 裁判例 読み方 裁判例 入手方法 裁判例 判決 違い 裁判例 判決文 裁判例 判例 裁判例 判例 違い 裁判例 百選 裁判例 表記 裁判例 別紙 裁判例 本 裁判例 面白い 裁判例 労働 裁判例・学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例・審判例からみた 特別受益・寄与分 裁判例からみる消費税法 裁判例とは 裁量労働制 裁判例 財産分与 裁判例 産業医 裁判例 残業代未払い 裁判例 試用期間 解雇 裁判例 持ち帰り残業 裁判例 自己決定権 裁判例 自転車事故 裁判例 自由権 裁判例 手待ち時間 裁判例 受動喫煙 裁判例 重過失 裁判例 商法512条 裁判例 証拠説明書 記載例 裁判例 証拠説明書 裁判例 引用 情報公開 裁判例 職員会議 裁判例 振り込め詐欺 裁判例 身元保証 裁判例 人権侵害 裁判例 人種差別撤廃条約 裁判例 整理解雇 裁判例 生活保護 裁判例 生存権 裁判例 生命保険 裁判例 盛岡地裁 裁判例 製造物責任 裁判例 製造物責任法 裁判例 請負 裁判例 税務大学校 裁判例 接見交通権 裁判例 先使用権 裁判例 租税 裁判例 租税法 裁判例 相続 裁判例 相続税 裁判例 相続放棄 裁判例 騒音 裁判例 尊厳死 裁判例 損害賠償請求 裁判例 体罰 裁判例 退職勧奨 違法 裁判例 退職勧奨 裁判例 退職強要 裁判例 退職金 裁判例 大阪高裁 裁判例 大阪地裁 裁判例 大阪地方裁判所 裁判例 大麻 裁判例 第一法規 裁判例 男女差別 裁判例 男女差别 裁判例 知財高裁 裁判例 知的財産 裁判例 知的財産権 裁判例 中絶 慰謝料 裁判例 著作権 裁判例 長時間労働 裁判例 追突 裁判例 通勤災害 裁判例 通信の秘密 裁判例 貞操権 慰謝料 裁判例 転勤 裁判例 転籍 裁判例 電子契約 裁判例 電子署名 裁判例 同性婚 裁判例 独占禁止法 裁判例 内縁 裁判例 内定取り消し 裁判例 内定取消 裁判例 内部統制システム 裁判例 二次創作 裁判例 日本郵便 裁判例 熱中症 裁判例 能力不足 解雇 裁判例 脳死 裁判例 脳脊髄液減少症 裁判例 派遣 裁判例 判決 裁判例 違い 判決 判例 裁判例 判例 と 裁判例 判例 裁判例 とは 判例 裁判例 違い 秘密保持契約 裁判例 秘密録音 裁判例 非接触事故 裁判例 美容整形 裁判例 表現の自由 裁判例 表明保証 裁判例 評価損 裁判例 不正競争防止法 営業秘密 裁判例 不正競争防止法 裁判例 不貞 慰謝料 裁判例 不貞行為 慰謝料 裁判例 不貞行為 裁判例 不当解雇 裁判例 不動産 裁判例 浮気 慰謝料 裁判例 副業 裁判例 副業禁止 裁判例 分掌変更 裁判例 文書提出命令 裁判例 平和的生存権 裁判例 別居期間 裁判例 変形労働時間制 裁判例 弁護士会照会 裁判例 法の下の平等 裁判例 法人格否認の法理 裁判例 法務省 裁判例 忘れられる権利 裁判例 枕営業 裁判例 未払い残業代 裁判例 民事事件 裁判例 民事信託 裁判例 民事訴訟 裁判例 民泊 裁判例 民法 裁判例 無期転換 裁判例 無断欠勤 解雇 裁判例 名ばかり管理職 裁判例 名義株 裁判例 名古屋高裁 裁判例 名誉棄損 裁判例 名誉毀損 裁判例 免責不許可 裁判例 面会交流 裁判例 約款 裁判例 有給休暇 裁判例 有責配偶者 裁判例 予防接種 裁判例 離婚 裁判例 立ち退き料 裁判例 立退料 裁判例 類推解釈 裁判例 類推解釈の禁止 裁判例 礼金 裁判例 労災 裁判例 労災事故 裁判例 労働基準法 裁判例 労働基準法違反 裁判例 労働契約法20条 裁判例 労働裁判 裁判例 労働時間 裁判例 労働者性 裁判例 労働法 裁判例 和解 裁判例

「営業アウトソーシング」に関する裁判例(71)平成23年12月28日 東京地裁 平21(ワ)17789号 損害賠償等請求事件 〔日本アイ・ビー・エム事件〕

「営業アウトソーシング」に関する裁判例(71)平成23年12月28日 東京地裁 平21(ワ)17789号 損害賠償等請求事件 〔日本アイ・ビー・エム事件〕

裁判年月日  平成23年12月28日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平21(ワ)17789号・平21(ワ)41390号
事件名  損害賠償等請求事件 〔日本アイ・ビー・エム事件〕
裁判結果  請求棄却  上訴等  控訴  文献番号  2011WLJPCA12288001

要旨
◆原告らが、被告に対し、被告が原告らに対してした退職勧奨が違法な退職強要であるなどとして、損害賠償等を求めた事案において、被告が原告らに対してした退職勧奨には違法があるとは認められず、また、被告が原告らに対してした業績評価及びそれに基づく面談における説明等についても業績評価に係る裁量権の濫用又は逸脱の違法があるとは認められない上、面談における説明等の方法や態様につき社会通念上相当と認められる範囲を逸脱するような違法があるとも認められないとして、請求を棄却した事例

裁判経過
控訴審 平成24年10月31日 東京高裁 判決 平24(ネ)763号 各損害賠償等請求控訴事件 〔日本アイ・ビー・エム事件〕

評釈
徳住堅治・ジュリ 1445号121頁
豊川義明・季刊労働者の権利 295号2頁
細永貴子・季刊労働者の権利 295号16頁
増田陳彦・労働法令通信 2287号22頁
鈴木里士・労経速 2133号2頁
今泉義竜・労働法律旬報 1771号58頁
小宮文人・法セ増(新判例解説Watch) 12号259頁
勝井良光・ビジネスガイド 783号63頁

参照条文
民法709条
民法710条

裁判年月日  平成23年12月28日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平21(ワ)17789号・平21(ワ)41390号
事件名  損害賠償等請求事件 〔日本アイ・ビー・エム事件〕
裁判結果  請求棄却  上訴等  控訴  文献番号  2011WLJPCA12288001

平成21年(ワ)第17789号 損害賠償等請求事件(甲事件)
平成21年(ワ)第41390号 損害賠償等請求事件(乙事件)

東京都町田市〈以下省略〉
甲事件原告 X1(以下「原告X1」という。)
東京都世田谷区〈以下省略〉
甲事件原告 X2(以下「原告X2」という。)
東京都中野区〈以下省略〉
甲事件原告 X3(以下「原告X3」という。)
東京都江東区〈以下省略〉
乙事件原告 X4(以下「原告X4」という。)
上記4名訴訟代理人弁護士 鍛冶利秀
同 岡田尚
同 大熊政一
同 水口洋介
同 山内一浩
同 穂積剛
同 小池拓也
同 並木陽介
同 今泉義竜
同訴訟復代理人弁護士 本田伊孝
甲事件原告ら訴訟復代理人弁護士 細永貴子
東京都中央区〈以下省略〉
甲事件・乙事件被告(以下「被告」という。) Y株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 牛島信
同 小島健一
同 高橋健一
同訴訟復代理人弁護士 山中力介
同 菱田彩子
同 前田直哉
甲事件被告訴訟復代理人兼乙事件被告訴訟代理人弁護士 柳田忍

 

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。
2  訴訟費用は原告らの負担とする。

 

事実及び理由

第1  請求
被告は,原告らに対し,それぞれ330万円及びこれらの各金員に対する原告X1,同X2及び同X3については平成21年6月6日から,原告X4については平成21年11月21日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
1  本件は,原告らが,被告に対し,被告が原告らに対してした退職勧奨が違法な退職強要であり,これにより精神的苦痛を被ったとして,不法行為による損害賠償請求権に基づき,それぞれ損害賠償金330万円(内訳:慰謝料300万円,弁護士費用30万円)及びこれらの各金員に対する不法行為の後である平成21年6月6日(原告X1,同X2及び同X3に係る訴状送達の日の翌日)又は同年11月21日(原告X4に係る訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2  前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)  当事者
ア 被告
被告は,情報システムに係わる製品,サービスの提供等を業とする株式会社であり,その全株式を有限会社aホールディングスが所有し,同社は米国のbコーポレーション(以下「米国b社」という。)の100%子会社となっている。被告は,日本において99か所の事業所と1か所の研究開発拠点を有し,従業員(以下,従業員を「社員」と表記することもある。)数は平成4年の時点で約2万5千人であった。しかし,同年から実施された,外部にキャリアを求める従業員に対して特別に支援を与える「セカンドキャリア支援プログラム」の実施等により従業員数は減少し続け,平成8年には約2万人,平成20年12月31日現在では1万6111名となった。
イ 原告ら
原告らは,いずれも被告従業員であり,全日本金属情報機器労働組合Y社支部(以下「支部組合」という。)の組合員である。
(ア) 原告X1(昭和25年○月○日生)は,昭和56年9月に被告との間で期限の定めのない労働契約を締結し,平成4年12月に箱崎の「パワーシステムズ」の製品販売支援の部署「パワーシステム事業部」(現名称は「パワーシステム事業部・製品企画」である。)に配属され,以降同部署にて勤務し,平成22年5月29日に被告を定年退職した。
原告X1のPBC評価(後記(2)ア(ア))は,平成17年が「3」,平成18年及び平成19年が「2」であった。
(イ) 原告X2(昭和33年○月○日生)は,昭和58年4月1日に被告との間で期限の定めのない労働契約を締結し,大和研究所,東京プログラミング・センター,パーソナル・システム事業,ソフトウェア事業を経て,平成16年にアウトソーシング事業に配属されて現在に至っている。
原告X2のPBC評価は,平成17年から平成19年まで,いずれの年も「2」であった。
(ウ) 原告X3(昭和40年○月○日生)は,平成2年4月に被告との間で期限の定めのない労働契約を締結し,新人研修の後,製造SI(システム・インテグレーション)に配属されて顧客情報管理アプリケーション,データ移行プログラム設計,開発,テスト等の業務に従事し,平成18年1月から東日本ソリューション・サービスに配属され,インフラ構築等の業務に従事し,平成20年1月からは○○システムズ・サービスの第五オープン・サーバー技術に配属されている。
原告X3のPBC評価は,平成17年及び平成18年が「3」,平成19年が「4」であった。
なお,平成19年6月22日,原告X3は,平成18年12月26日から平成19年4月9日までの間の69労働日間(うち41日につき出社できない旨の連絡があったが,28日は無断欠勤であった。)にわたり出社しなかったことを理由に,出勤停止5労働日の懲戒処分を受け,バンド(後記(3))については6から4に降格され,職位(個々の社員に対して与えられた職務の名称)についても「ITスペシャリスト」から「コーディネイティング・Admin・Spec」に降格された。(乙12)
(エ) 原告X4(昭和38年○月○日生)は,昭和62年4月に被告との間で期限の定めのない労働契約を締結し,ゼネラルビジネス事業,システム・インテグレーション事業,コンサルティング事業を経て,セキュリティ事業に配属されて現在に至っている。
原告X4のPBC評価は,平成17年が「2」,平成18年が「3」,平成19年が「2」であった。
(2)  業績評価と任意退職者支援(甲1,21,乙1ないし4,59,62)
ア PBC評価と賞与制度
(ア) 平成16年,被告は,人事業績評価制度として新しいPBC(Personal Business Commitment。以下「PBC」という。)を導入した。
a PBCは,従業員個人の目標管理型業績評価制度であり,従業員に支払われる賞与及び後記のGDPの額,従業員の昇給,従業員に対する業務についての指導並びに従業員の育成の必要性等を決定する上での基礎情報となるものであり,従業員は,年初に,その年に自身が達成しようとする目標を設定し,管理職であるファーストライン(被告においては,部門の長を「ラインマネージャー」と称し,一番下の階層の部門長を「ファーストライン」,その上の階層の部門の長を「セカンドライン」,更にその上の部門の長を「サードライン」と称している。)の承認を受ける。その目標に従って従業員は業務を行っていくが,日常的にラインマネージャーなどとコミュニケーションし,設定した目標に正しく向かっているかを検討することが求められる。年末,ラインマネージャーは,ファーストライン以上のラインマネージャーが参加する会議において,各従業員のPBC評価を決定するが,評価対象は,設定された目標を達成したか,どのように目標を達成したかである。
b 被告は,平成15年以前の評価においては,上から「A」,「B」,「C」,「D」の4段階評価(実際には「A」と「B」の間に「B+」があった。)で「A」の割合が10~15%,「B+」と「B」の合計が65~70%,「C」と「D」の合計が15~25%として運用していたのに対し,新たなPBC評価の運用では,上から「1」(最大の貢献度),「2+」(平均を上回る貢献度),「2」(着実な貢献度),「3」(低い貢献度),「4」(極めて低い貢献度)の5段階評価とし,「1」が10~20%,「2+」と「2」の合計が65~85%とし(評価比率は各ビジネス・ユニットの業績に応じて所定の範囲内で変動する。),「3」,「4」を併せて5~15%として運用していた。
c 被告は,PBCについて,従業員個人の目標と被告の事業戦略とをより明確に連携させるためのものとして,また,「パフォーマンス・ボーナス」につき各従業員の会社への貢献度に応じたよりきめ細かな処遇を実現させるためのものとして位置付けた。
(イ) パフォーマンス・ボーナスは,各従業員に設定された年収基準額の6%相当額を基礎として算定され,その支給額は,当該従業員のPBC評価結果や所属ビジネス・ユニットの業績によっても増減する。
なお,パフォーマンス・ボーナスは,平成19年度賞与(平成20年支払分)から導入されたGDP(Growth Driven Profit-sharing。以下「GDP」という。)に替わったが,GDPも,パフォーマンス・ボーナスと同様,PBC評価の結果との関係で賞与額の増減に影響するものであった。
(3)  バンド(乙9)
被告は,従業員に対する職位の等級を表す名称として「バンド」を定めており,バンド2から10までを設定する。このうち,バンド8以上が管理職に相当するものであり,新入社員は「トレイニー」としてバンドの制度外に置かれている。
従業員の昇給額の決定に当たっては,バンド及び職種ごとに設定されている給与レンジの中における当該従業員の給与額,当該従業員のPBC評価の結果いかん等が総合的に考慮されている。
(4)  「2008 4Q リソース・アクション・プログラム」(甲2,3,6,7)
ア 特別セカンドキャリア支援プログラム(以下「特別支援プログラム」という。)は,被告が,被告を退職する者が外部のキャリアで活躍できるようにするため,これに応募した者に対し,通常の退職金に加えて特別加算金を支払い,また,再就職支援サービス会社によるサービスを提供する等を定めた任意退職者支援制度である。
平成20年10月10日付けの「2008 4Q リソース・アクション・プログラム」(以下「RAプログラム」という。)は,上記の特別支援プログラムを実施するために策定された施策であり,そこには,特別支援プログラムの具体的内容の説明,同プログラムへの応募を勧める対象者の基準,応募を勧める方法等が定められていた。
イ RAプログラムの概要
(ア) 被告人事担当取締役執行役員であるB(以下「B」という。)は,同月14日及び15日,各部門長(ラインマネージャー)を招集して説明会を催し,RAプログラムを実施する旨通知した。その中で,Bは,部門長の強いリーダーシップのもとで,RAプログラムを強力に推進して予定数を確実に達成することを求めた上で,予定数の達成がリーダー各人の結果責任となるとした。
RAプログラム(原告がいずれも正社員であることから,以下においては,正社員のみを対象とするものであっても,単に「RAプログラム」と表記することがある。)には以下のような記載がある。
(イ) RAプログラムの対象とする正社員
a ボトム15%として特定された社員のうち,Y社グループ外にキャリアを探してほしい社員
b 何らかの事情でボトム15%社員に含まれなかったが,以下に当てはまる場合には対象となる。
(a) 継続的にPBC評価が3以下の社員
(b) 昨年度PBC評価が3又は4で特に改善していない社員
(c) 昨年度のPBC評価は2だが本年度の業績が低下していて今後も業績向上や高い貢献は見込めないと判断できる社員
(d) 50歳以上かつ今後高い貢献を期待できない社員(原則昨年度PBC評価が2+以上・・・は除く)
(e) 今後も継続して定型業務又はアウトソーシング可能な業務への従事が見込まれ,組織変更が難しい社員
(ウ) 主な制度の内容(特別支援プログラムの内容)
a 正社員に対しては,加算金を最大15か月分支給する。
b 再就職支援サービスとして,日本の再就職支援サービス会社から1社を選択できる。また,再就職支援会社と連携し,社員が退職を決意する前に,社員の意思決定プロセスを支援するため,再就職支援会社のコンサルタントによるカウンセリングを提供する。
(エ) ラインマネージャーに対する研修等
ラインマネージャーは,同月26日までに,講義やロール・プレイングを内容とする面接研修を受講する。
(オ) 対象者に伝達すべき事項
RAプログラムの対象となる社員に対して,以下の内容を伝える。
a RAプログラムが「充実した経済的支援」として退職支援制度を準備しており,また,安心感を持って再就職活動を実施できるように選択可能な再就職支援会社を増やし,事前カウンセリングの充実等を用意していること
b 今後同様の支援制度の予定がなく,限定された特別に用意されたものであること
c 会社が,対象社員につき明確に業績上問題があり,キャリアも限界と判断していること
d 対象社員の業績と処遇上の対応,具体的には,PBC評価が「3」又は「4」であり,「4」が最低の5%,次の最低10%が「3」であること,現在の業績が年末まで継続するとPBC評価が「3」又は「4」になること,平成20年度の賞与プログラムは,PBC評価に応じて,実年収ベースで大幅なインパクトがあること,平成21年の賞与プログラムについても本年以上に厳しい減額を行うことも検討していること,PBC評価が「4」の社員で継続して業績の改善が見られない社員に対しては同時にバンド降格を行うこと等
(カ) 留意事項
a 退職強要をすることはできないので,あくまで本人の「自由意志」に基づいて決断するようにコミュニケーションすること。具体的な注意事項として,以下の点を指摘する。
(a) 「退職を強要するような言動は違法となりますので,面接を行う際は言葉遣いや態度には十分気をつけてください。特に,人格を傷つけるような言動や解雇の意思表示と感じさせるような言葉は決して使わないで下さい。」
(b) 「当該社員の話を,よく聞く態度で臨んでください。(説得ではなく,応諾の答えを引き出すことを心がけてください)急ぎすぎず,自らが話しすぎないようにしてください。」
(c) 「感情的になった場合は,面接を一時中断し,次回の面談の日時を決めて終了するようにしてください。」
(d) 「1回の面談は,30~40分程度を目安にしてください。」
(e) 「1週間に3回以上の面談はしないようにしてください。」
b また,基本的な注意事項として,更に以下の点を指摘する。
(a) 「本人の話を,よく聞く」
(b) 「同情や言い訳,当プログラム実施に反することは言わない」
(c) 「人格を傷つけるような言動はしない」
(d) 「協力的だが,きっぱりした口調で話す」
(e) 「結論を急ぎすぎないよう(説得しようとして,自らが話しすぎない)」
(f) 「繰り返し退職支援制度,再就職支援サービスに,言及する」
(g) 「感情的になった場合は,面談を一時中断し,日を改めて面談する約束をして終了する」
(h) 「パフォーマンス評価に引き続き,今後のキャリアの可能性について話をし,適切な進路選択を促すということを,基本的な進め方とする」
(i) 「1回の面談は30分程度を目安とする」
(キ) 面談スケジュール
a 1回目の面談は説明会(10月14日,同月15日)参加後,10月21日までに完了すること
b 特にセンシティブな会話を要する社員との面談が予想されるラインは,必ず,再就職支援会社によるマネージャー向け面談研修に参加してから始めるようにし,遅くとも10月28日までに完了すること
c 1回目の面談が完了次第,10月28日までにその結果を報告すること
(ク) 退職手続の期限
本人からの退職願の提出,RAプログラムに基づく人事での退職手続の実施については,12月19日までに完了すること
(5)  被告社員に対する通知文書(甲9,10)
ア 平成20年11月7日,被告代表者(当時)名で作成された,被告社員宛て「High Performance Cultureの一層の推進について」と題する文書が発表された。同文書には以下のような記載がある。
「・・・世界経済が再び厳しい状況に直面する中,我々が競争に勝ち抜き,業界のリーダーとして事業活動をしていくためには,これまで以上の努力が求められています。会社は皆さん一人ひとりが目標を達成できるようにHigh Performance Cultureを一層推進し,貢献度の高い社員には然るべき処遇で報い,もてる力を発揮していただく機会を提供していきます。一方,業績が低く,改善が見られない社員に対しては,これまでどおりの仕事や処遇の維持は難しく,その場合は,本人のスキルや能力をより有意義に活用できる機会を,社外も視野にいれてみつけることを奨励していきます。
能力と業績を重視した真に強いチームを継続することが,日本Y社が今後もリーダーとしての地位を末永く不動にする鍵になります。また個々人にとって最適のキャリア選択に繋がると信じています。」
イ 上記アの文書と併せて,B名で作成された「High Performance Cultureの方針と内容」と題する文書が発表された。同文書には,キャリア選択援助計画の終了(甲5)の件と併せて,以下のような記載がある。
「キャリア選択援助計画の終了は,当社がHigh Performance Cultureを推進し,ますます競争が激化するビジネス環境において経営体質を強化するためのワンステップに過ぎません。・・・職務の基準を満たさず貢献度が低い従業員への対処方法について明確な方針を打ち出していきます。例えば,貢献度が低くこれまでどおりの仕事や地位,勤務地等が維持されなくなるケースや,給与処遇を調整する場合の取り扱い等です。こうした措置の判断は,社員一人ひとりに対して会社が求める職務基準を満たしているかによって左右されます。
世界中に拡大した金融危機とそれが実態経済に及ぼす影響については・・・Y社にとっても例外ではありません。・・・基準に満たない業績や会社が必ずしも必要としない職務分野については,必要に応じてスキルや能力を発揮する場をY社以外で探すよう奨めることも行っていきます。高い業績の社員に対しては業績に見合った地位や報酬を与える努力をしていきます。
高い業績をあげる社員こそがY社社員と言えます。・・・業績が低く改善が見られない社員は社外でキャリアを求めることを含め,将来について真剣にご検討,ご判断をいただきたいと思います。」
(6)  PBC低評価者に対する電子メール送信(甲11)
平成20年11月中旬ころ,被告は,ラインマネージャーを通じて,現在の業績が年末まで続いた場合にPBC評価が「3」又は「4」となる見込みの従業員に対し,その旨知らせる電子メール(以下「メール」と表記する。)を送信した。
それらメールの文面(PBC4の場合)は概ね以下のとおりであった。
「面談の際にお伝えしたように,現在の業績が年末まで継続した場合は,PBC4となります。
ご存じの通り,PBC4となると,賞与/定期俸については,所定の減額が実施されることになります。・・・また,PBC4は降格の対象者にもなります。
念のため,メールで御連絡いたします。」
3  争点
(1)  被告の原告らに対する退職勧奨行為の違法性の有無(争点1)
(2)  原告らの損害額の算定(争点2)
4  争点に対する当事者の主張
(1)  争点1(被告の原告らに対する退職勧奨行為の違法性の有無)
ア 原告らの主張
(ア) 原告らに対する退職強要の背景
a 平成20年9月のリーマンショック前後に策定が開始されたRAプログラムはボトム15%の従業員を対象としたが,被告がその理由として主張するリーマンショックによって非常に経営環境が難しく,業績が悪かったとの点は虚偽である。なぜなら,経常利益は平成19年度が1644億円,平成20年度が1626億円であり,純利益はそれぞれ1039億円と950億円となっており,ほとんど同水準であるからである。事業計画上の数値を大幅に下回ったとしても,それは前年を大幅に上回る無謀な事業計画を掲げていたにすぎないのであって,RAプログラムの対象となる従業員を恣意的に拡大させたものというべきである。
b 被告は,管理職であるラインマネージャーに対し,退職強要プログラムであるRAプログラムに関するレクチャーを開始したが,これは,被告が違法な退職強要を組織的に強行することを示すものであった。
c RAプログラムには「予定数の達成が,我々リーダー一人ひとりのAccountability(結果責任)となります。」と記されており,「予定数の達成」ができなかった場合には,そのラインの責任になると通告するものであり,しかも「結果責任」とあるように,達成できなかった理由が何であれ,達成できなかった以上はラインに責任を負わせるとの問答無用の脅迫も同然であったため,現場のラインマネージャーが強引な手段に依拠してでも「予定数の確実な達成」を確保しようと,常軌を逸した違法な退職強要を行うに至ったのは当然である。
d RAプログラムは,PBC評価による不利益と期間限定の退職支援制度を利用した組織ぐるみの退職強要指令であり,ラインマネージャーに対しては,組織的に繰り広げようとしていた大規模なリストラ計画のための退職強要を成功させる講義とロールプレイを内容とする面談者トレーニングが実施された。こうして,被告の当初スケジュール通り,平成20年10月16日以降において,RAプログラム対象社員に対する一斉の退職勧奨がされた。
e 同年11月7日には,上記2(4)の文書が被告社員に対して通知された。これは,業績の悪い社員は辞めろと露骨に述べるものであり,同年10月以降において行われていた水面下の組織的リストラを公然化させ,退職に応じないRAプログラム対象者を組織的に退職に追い込むことの決意を公に宣言するものであった。また,それらの文書は,貢献度が低い従業員は12月末までの「セカンドキャリア支援プログラム」に応じて退職した方が得策であり,そこまでに退職を決断するようにと脅迫し,あるいは強制的に退職に追い込むことも辞さないとの被告による「宣戦布告」でもあった。そして,被告は,上記宣戦布告直後,上記2(5)の「PBC低評価予告」というべきメールを,ラインマネージャーを通じてRAプログラム対象者に対して一斉に送信して,退職に応じなければ評価を意図的に引き下げるとの嫌がらせをしたのである。
(イ) 原告X1に対する退職強要行為の違法性
a 原告X1の上司であるC(ファーストライン。以下「C」という。),D(セカンドライン。以下「D」という。)及びE(サードライン。以下「E」といい,C,Dと併せて「Cら3名」ともいう。)らは,RAプログラムに沿って,平成20年10月28日以降,原告X1に対して「あなたの業績が悪い。会社に貢献していない。」旨述べて退職を強要し,原告X1がこれを明確に断っているにもかかわらず,「2008年度のPBC評価が3になる。3になれば賞与は大幅減額になり,降格もあり得る。」などと脅し,また,弁護士資格を有する執行役員との面談を要求し,さらには,その面談に応じなければ解雇を含む処分があり得るとまで恫喝し,違法に退職を強要した。
b 原告X1は,平成20年10月28日にCからRAプログラムへの応募の検討を求められ,原告X1が退職意思のないことを伝えたにもかかわらず,同年11月6日には「特別セカンドキャリア支援プログラムのご案内」と題する書面(甲25)をCから一方的に交付された。そこで,原告X1は,退職に応じる意思がないことを示す意味で,平成22年5月29日の60歳定年退職の場合の退職一時金額と年金額を書面で知らせることを求めるメモをCに交付した。
c 同月13日,原告X1は,Dから宿題のことがあるからと言われて,D及びEによる2対1の面談を受けたが,Eは,原告X1に対し「60歳までY社で働かなければならない理由が分からない。」。「会社が要らない,別の道を考えるように言っているのだから,そうすればいい。考えない,ということが分からない。」などと述べて約20分にわたって退職を強要した。また,Dは,原告X1が平成17年度のPBC評価「3」の低評価について言及すると,「営業部門に対する対応が悪い。苦情もいくつか来ている。その積み重ねがある。」などと事実無根の発言をする等,心理的な圧力をかけた。そして,その直後,Eは,PBC評価を前年度の「2」から「3」に引き下げ,賞与の大幅な減額や職務変更,降格があり得るとの脅しである「PBC低評価予告メール」を送信した。
d 平成20年11月14日,原告X1が,Cに対し,前日の退職強要に抗議し,平成20年のPBC低評価の理由が誤解である旨伝えたところ,Cは,「あなたの営業担当者に対する支援的でない姿勢は一度や二度ではなく,度重なる蓄積がある。」と述べた。原告X1はこれについて事情を説明したものの,全く言い分に耳を傾けぬ不誠実な態度を示し,不当に低いPBC評価を退職強要の道具として使っていたのである。
e 同年12月3日,Eは,既に支部組合に加入していた原告X1に対し,Eの上級で法務担当執行役員であるF(以下「F」という。)との面談を要求するメールを送信した。
これに対し,原告は,支部組合を通すこと,退職意思はなく執行役員との面談は不要であるので断る旨伝える等したところ,同月4日,Eは,メールにおいて,面談が業務の一環であり,組合を通す必要がない旨,面談が業務上の要請である旨,面談を断ると解雇を含む処分があり得る旨伝え,退職強要の面談に応じるよう恫喝した。
f Cら3名によるこれらの行為は,原告X1を退職に追い込むためにされた退職強要行為であり,原告X1の自由な意思を制圧し,困惑,不安にさせる等,社会通念上の相当性を逸脱した違法な退職強要である。
(ウ) 原告X2に対する退職強要行為の違法性
a 原告X2の上司であるG(ファーストライン。以下「G」という。)及びH(セカンドライン。以下「H」といい,Gと併せて「Gら」ともいう。)は,RAプログラムに沿って,平成20年10月22日以降,5回にわたる面談等により原告X2に対して退職を強要し,原告X2がこれを明確に断っているにもかかわらず,面談を拒否すると業務の話である等と欺き,又は,面談を拒否すれば解雇する等と脅すことによって面談を強要し,面談の中で原告の意思を無視して,原告の人格を傷つけるかのように述べて執拗に退職を促し,これに応じなければPBC評価を下げることを背景として原告X2に退職を迫り,違法かつ不当に退職を強要した。
b 平成20年10月22日,Gは,原告X2に対し「この会社では60歳まで働くことはあり得ない。」と被告における将来がないかのように述べ,「転職する気はないか。」等と述べ,原告X2が転職意思がないと伝えたのに,退職を検討するよう申し渡した。
c 同月24日には,Gは,就業時間後の午後7時,原告X2を再度呼び出し,原告X2に対し,「何歳まで働くつもりなのか。自分のキャリアプランを考え直してほしい。60歳まで働ける人は例外で,50歳代で転職するのは当たり前だ。」と再び退職勧奨を始め,また,原告X2が適切に業務を遂行していたにもかかわらず,「今年のあなたの評価は悪くなる。」等と退職しなければ評価を下げると脅し,「今なら転職プログラムがあり,退職金の割増しと転職支援会社の支援が受けられるのでチャンスだ。」と今すぐ退職するよう誘導し,「積極性がない。」,「受け身だ。」,「そこがダメだ。」と原告X2の人格を傷つけるよう非難し,転職支援会社のパンフレットを渡したのである。
なお,同日の面談が実施された経緯は上記のとおりであり,原告X2がGに対して申し入れて実施されたものではない。また,原告X2は,同日の面談の時点では支部組合に加入しておらず,「退職勧奨の話は組合を通してもらいたい。」旨の発言をするはずがない。
d 同年11月10日,原告X2がHから退職勧奨ではなく前向きな業務の話であると言われたため面談したところ,Hは「あなたの給料は高すぎる。」,「あなたの評価は悪い。」,「ハイパフォーマンス・カルチャーにあなたは合っていない。」などと人格を傷つけるかのように一方的に指摘した。
e 同月12日には,Hは,原告X2との面談を実施し,再び,原告X2に対し,退職拒否の意思の撤回を迫るかのように否定的な発言をし,退職を強要した。
f 同月13日には,Hは,原告X2に対し「あなたの今年のPBC評価は3になる。」との「PBC低評価予告メール」を送信した。
g 同月19日,Hは,原告X2との面談を実施し,原告X2に対し,あくまでも退職しない限りPBC評価を低評価とする意思を示した。
h Gらによるこれらの行為は,退職しない意思を明示する原告X2に執拗に働きかけてその意思を撤回するように迫る違法かつ不当な退職強要である。
(エ) 原告X3に対する退職強要行為の違法性
a 原告X3の上司であるI(以下「I」という。)は,原告X3が,平成20年10月24日の面談において,「あなたは今後会社にどう貢献していくつもりか。別の進路を考える気はないか。」などと退職を示唆してきたので,原告X3は,退職に応じる意思がないことを口頭で伝えた。
b 同年11月4日,Iは,原告X3が上記のとおり退職勧奨を明確に拒否したにもかかわらず,再度,原告X3を呼び出し,同日午後2時5分から午後3時30分までの間,原告X3に対し,「今後,どのように会社に貢献していくつもりか。」と問い質し,原告X3の説明にも耳を貸さず,会社に貢献するスキルがなく,新たに担当させる仕事がなく,不要な人材であることを繰り返し執拗に述べて原告X3の人格を傷つけた。また,退職勧奨に応じない旨回答した原告X3に対し,激昂して,右膝を高く上げ,右足を床にドンドンと7,8回激しく足を打ち付けて激しい音を出し,原告X3を威嚇した。また,お茶のペットボトルを原告X3の顔から30センチメートルの至近距離で振り回す等の行為をしたり,Iの面談が退職強要であり,労働組合に相談したことを話すと,Iは「あー,ふざけんなよ。貴様。」などと言いながら机を蹴り上げて立ち上がった。さらには,原告X3が退職強要に当たる旨述べると,Iは「そんなことはここでいわなくてもいいから。」と言って再びペットボトルを原告X3の顔付近で振り回した。
c 同年12月26日,I及びその上司のJ(以下「J」という。)は,原告X3に対し,退職勧奨を拒否した報復として,PBCの最低評価である「4」を伝えた。
d Iによるこれらの行為は違法な退職強要であり,また,労働者の身体の安全,平穏に就労する権利を侵害する違法な行為である。
(オ) 原告X4に対する退職強要行為の違法性
a 原告X4の上司であるK(ファーストライン。以下「K」という。)及びその上司であるL(セカンドライン。以下「L」といい,Kと併せて「Kら」ともいう。)は,原告X4が退職する意思がないと再三明確に表明したにもかかわらず,退職を強要して執拗に原告の人格を傷つけた上,PBC評価を下げて減給,降格を示唆し,業務改善プログラムを強要して,退職に追い込もうとした。
b 平成20年10月7日及び同月21日,Kは,原告X4との面談を実施し,原告X4に対して特別支援プログラムの提示,その概要と割増退職金の説明等をし,同月28日の面談時には,再就職支援会社を訪問する具体的スケジュールが立てられた。
c しかし,原告X4が再就職支援会社から紹介された会社は原告X4の満足するものではなかったため,同年11月11日の面談時において,原告X4は,Kに対し,特別支援プログラムに参加して退職する意思のないことを伝えた。すると,Kは,原告に対し,「今まで応じる素振りを見せておいて今さら何だ。」,「あなたは貢献度が低い。」,「会社はあなたを必要としていない。」,「転職した方があなたのためだ。」と1時間にわたり退職を強要してきた。
d 同年12月1日,Kらは,原告X4に対する面談を実施し,原告X4に対し,原告X4が既に退職する意思がないことを伝えていたにもかかわらず,「あなたに与える仕事はない。」,「あなたの居場所はない。自分で異動先を探せ。」と暴言を吐き,原告X4が退職強要であり違法であると述べると,「我々は会社の指示どおりにやっている。会社にも弁護士がいるんだぞ。」と開き直り,合計1時間もの長時間にわたって退職を強要した。そして,同日夜,Kは,原告X4に対し,「現在の業績が年末まで継続した場合には,PBC4となります。ご存じのとおり,PBC4になると,賞与/定期俸については,所定の減額が実施されることになります。また,PBC4は降格の対象者にもなります。」とのメールと同時に「求人案内を転送します。」という再就職支援会社のメールをセットで送り付けたが,これは退職しなければ降格させるという脅しである。
e 同月25日,Kは,原告X4に対する面談を実施し,原告X4に対し「メールで警告したとおり,あなたの今年のPBC評価は4です。」,「あなたの業績はバンド6にも値しない。(心の病で)休職したMさんより貢献度は低い。PBC4が妥当である。」,「転職を考えた方がいいのでは。」,「ここには居場所がない。」,「仕事がない。」などと述べた。原告X4は,社長宛ての抗議の内容証明を出したこと,低評価は受け入れられないことを告げ,「この恣意的な低評価は退職強要に当たる」ことをKに口頭で何度も通知したが,全て「会社の指示です。」と無視された。
f 平成21年1月20日,Kらは,原告X4をPBCフォローと称して面談に呼び出し,「あなたの業績は低いよね。」,「PBC評価4に同意しますね。」と何度もPBC評価への同意を迫った。原告X4は同意できない旨何度述べても,両名が同じ質問を繰り返すので,「こんなふうに低評価を認めるよう迫るのも退職強要ですよ。」と何度も述べたが,両名は「会社の指示です。」と言うだけで,「あなたの仕事はバンド7に値しない。」と降格を示唆した。
g 同年2月23日,Kは,原告X4を「仕事の件で」と会議室に呼び付け,仕事の話を5分で終了して「業績改善プログラムを開始します。」と述べた。原告X4が業績改善プログラムの対象者について聞くと,Kは「PBC評価が低い社員が対象である。どう改善するか考えてきてください。」と述べた。同月26日,原告X4がKに対し,PBC評価4に同意していないので同評価は確定しておらず,上記プログラムの対象とはならない旨述べると,Kは,「業績改善プログラムは会社の正式な制度である。それを拒絶するなら,人事にそれなりの報告をする。」と脅してきた。そこで,原告X4は命令かと問うと,Kは業務命令ではないとしたため,原告X4は業務命令でないならば拒絶する旨回答した。
h 同年3月9日,Kは,メールで,原告X4に対し「業務命令で業績改善プログラムを開始する。」旨通知し,同プログラムを開始した。
そして,同年4月3日,Kらは,原告X4との面談を実施し,コミュニケーションスキルの改善を指示した。この際,原告X4は,フォーム中に「改善計画が達成されなかった場合の対応の可能性」に「降格/解雇」の文字があったため,このプログラムは退職強要の延長,継続である旨何度も抗議したが,「会社の指示どおりやっています。」と無視した。
しかし,業務改善プログラムは「コミュニケーションスキルの向上を図る」などとしていたものの,スキルを高めるための研修や訓練はなく,要は「コミュニケーションスキルを高めるため努力せよ。その結果は,(原告X4が参画する)防衛大学校プロジェクトとALISSプロジェクトのメンバーから評価をヒアリングして会社が判断する。評価が悪ければ,目標未達成として降格/解雇する」というものであり,従業員のスキル向上を目的とするものではなく,解雇や降格の証拠作りのためのものである。
原告X4は,被告が「業績改善プログラム」を手段として退職に追い込もうとしているのに憤りを感じ,Kらに対し,メールで「会社の指示で行った退職強要でも,会社ではなく,実行者であるL氏とK氏個人を訴える用意がある。」旨通知したが,無視された。
i 同年6月9日,Kらは,業務改善プログラムの中間チェックとして,原告X4に対する面談を実施し,「あなたの居場所はない。自分で移動先を探せ。」などと言った。原告が「このプログラムは退職強要の延長,継続である。」と何度も抗議したところ,前回と同様,「会社の指示どおりやっています。」と無視した。
しかるに,Kらは,同年7月14日,突然,「改善目標が達成されたため,業績改善プログラムを終了する。」とだけ通知したが,どのような点で改善されたかという具体的な内容は全くなかったのであり,上記の業務改善プログラムは,原告X4が退職強要に屈しなかったことから行われた,原告X4を退職に追い込むために用意されたプログラムであった。
j Kらによるこれらの行為は,退職しない意思を明示する原告X4に執拗に働きかけてその意思を撤回するように迫る違法かつ不当な退職強要である。
イ 被告の主張
(ア) RAプログラムについて
a 平成20年夏ころ,世界的な経済危機を理由とする平成21年以降の業績悪化が予想されたため,被告は,今後の市場競争力を維持するべく,人員削減によるコスト圧縮に踏み切らざるを得ない状況であった。そこで,被告は,平成20年10月半ばから,被告社員に対して,手厚い退職者支援を内容とする上記2(4)アの特別支援プログラムに応募してもらうべく,部門長を通じてRAプログラムを実施することとしたものである。
b RAプログラムの内容は概ね上記2(4)イ(ア)ないし(キ)のとおりである。
すなわち,RAプログラム対象者は,従業員の業績を主たる基準として「ボトム15%のうち,Y社グループ外にキャリアを探してほしい社員」等と設定され,各従業員の日々の職務状況を間近で見聞きしているファーストラインを含む現場のラインマネージャーらにその選定を委ね,彼らは相互に協議の上,対象者を公正に選定していった。また,ラインマネージャーがRAプログラム対象者との面談を通じて特別支援プログラムを紹介し,対象者の応募意思を確認するため,これら面談に先立って,平成20年10月中旬から,ラインマネージャーらに対してRAプログラムの説明会,講義・ロールプレイングを内容とする面談研修を行い,対象者の人格を傷つけるような言動をしないこと等,具体的な注意事項を説明し,適法で適切な面談を実施できるように必要な知識を与え,対象者が必要かつ正確な情報を得た上で,自由意思に基づいて応募決定できるように重ねて注意喚起した。ラインマネージャーらは,上記の説明会や面談研修の内容等を踏まえ,部門ごとに人事担当者と相談の上,面談のタイミングや回数,面談者等,対象者の自由意思を阻害しないよう慎重に決定していった。
そして,被告は,RAプログラム対象者が自らに対する評価を正確に理解し,特別支援プログラムに応募すべきか否かを適切に判断してもらうべく,平成20年のPBC評価が「3」又は「4」と予想される者に対して,現在の業績が年末まで継続した場合のPBC評価の見込みを通知し,また,面談過程において,RAプログラム対象者が特別支援プログラムの内容を正確に理解できるよう,同プログラムにおける加算金の特別支援金額等を記載した「特別セカンドキャリア支援プログラムのご案内」を交付した。
c 被告は,正当な目的に基づき,退職勧奨対象者への手厚い支援策を内容とする特別支援プログラムへの応募を勧めるため,適法かつ適切にRAプログラムを実施するよう十分に準備して,同プログラムを実施したものであり,退職強要や違法な退職勧奨は一切行われていない。
(イ) 原告X1について
a 原告X1がRAプログラムの対象となった経緯等
原告X1は,平成20年10月当時,システム製品事業・プラットフォーム・パワー事業部(現在「パワーシステム事業部」。以下,このように称することがある。)の製品企画に所属しており,営業担当者からの依頼に応じて各製品販売のための必要な対応をする等を業務としていた。
しかし,営業担当者から顧客の要望に応じるための通常業務の流れと異なる対応を要請された際,本来であれば同担当者と米国b本社担当者との間に入り,必要な折衝をして同本社に必要な措置をとってもらうよう手配するのが製品企画の重要な業務の一つであるにもかかわらず,原告X1はこれを拒否し,原告X1の上司に苦情や相談が入ることもしばしばであり,営業のサポートという製品企画本来の業務目的を阻害した。また,平成20年には,原告X1は自己に割り当てられていた製品情報の整理及び発信作業もほとんど行わなかった。原告X1の業績はこうしたことから低い評価に止まらざるを得なかったため,原告X1がRAプログラム対象者として選定された。
b 原告X1との面談の状況等
平成20年10月28日,Cは,D,E及びシステム製品事業の人事担当者と相談の上,原告X1と面談し,簡単に特別支援プログラムを紹介し,その検討を提案したところ,原告X1は現時点で退職する意思がない旨返答した。しかし,Cは,原告X1に対し,後日改めて意思確認させてほしい旨伝えた上,必要な検討資料を渡すことを約した。
同年11月6日,Cが原告X1に対して規定退職金等と特別支援金の各金額が記載された「特別セカンドキャリア支援プログラムのご案内」と題する書面を手渡したところ,原告X1は定年退職(平成22年5月に定年)時の規定退職金額を教示するよう求めるメモをCに手渡したため,Cは,原告X1が特別支援プログラムの検討意思があると理解して上記の回答を準備した。
平成20年11月13日,E及びDが上記回答を用意して原告X1との面談を実施したが,Dが,原告X1がRAプログラム対象者として選定された理由となった営業部門担当者に対する対応の問題について指摘すると,原告X1はこれに納得せず,話の途中で激昂して一方的に部屋から退出し,面談を最後まで行うことができなかった。
同日,Eは,原告X1に対し,メール(乙8)を送信したが,これは,原告X1に自らの立場を正確に理解し,特別支援プログラムを検討する上での一資料としてもらい,また,今後の課題を示した上で業務改善を促すためのものである。
同月14日,Cは,原告X1が上記メールにつき不当に低く評価したものであると抗議してきたため,仕事の取組み方などの観点からざっくばらんに話したい旨伝え,別室にて営業担当者への対応の点を中心に話をしたのである。なお,原告X1は,これに対し,営業担当者に対する「教育的指導」等と称して自己を正当化するにとどまった。
同年12月3日,Eは,原告X1が自己の業務態度を素直に顧みず不当に低く評価されている等と主張し,面談を途中退出して話合いに応じようとしなかったため,法務部門の立場からRAプログラムに関与していたFの同席の下で,同月4日の面談を要請した。もっとも,同日の面談はFの都合により中止された。
c 以上のとおり,Cら3名が原告X1に対してした行為には何らの退職強要の要素はなく,不当な言いがかりである。
(ウ) 原告X2について
a 原告X2がRAプログラムの対象となった経緯等
原告X2は,平成20年10月当時所属していたアウトソーシング事業において,アウトソーシングの営業活動に必要な予算を算定し,これと当該営業活動による契約獲得の可能性や契約により会社にもたらされる利益を比較した上,当該営業活動が行うに値するものであるか否かを判断する会議の運営全般を担当しており,独立して自主的に業務を行うべきバンド7の等級,係長相当の地位にあった。したがって,原告X2は,会議前にアウトソーシング事業の営業担当者と情報を共有し,理解し,効率的な会議運営を支援し,会議後に必要に応じて関係部門との協議を行うこと,営業活動予算の管理と使用状況の分析を行い,適切な予算配分が行われるよう,財務その他各部門と使用予算額の折衝を実施するなどの調整を行い,アウトソーシング事業所属の営業担当者に対して助言すること等も業務として担当していた。しかし,原告X2は,出席者のスケジュール調整や資料の準備等単純な事務作業しか行わず,上記の業務は全て同僚に押し付けていた。同事業所属の営業担当者から予算を獲得する方法の助言を求められても,それは自分の仕事ではないと告げる有様であった。原告X2の上司らは過去の個別面談で改善を促したり,原告X2のチームミーティングで原告X2の業務を再確認させたりしたが,原告X2のパフォーマンスが改善することはなかった。したがって,原告X2がRAプログラム対象者として選定されたのはむしろ当然であり,何ら問題もない。
b 原告X2との面談の状況等
平成20年10月23日,Gは原告X2との面談を行い,今後のことについて問うたところ,原告X2は定年まで働き,転職を考えていない旨述べた。Gは特別支援プログラムの内容を説明し,原告X2の考えを聞こうとしたが,時間切れとなって終了した。
同月24日,Gは,原告X2の求めに応じて面談を行い,現在の業績が続けば評価が低くなると話した上,特別支援プログラムを説明して転職支援会社のパンフレットを渡したが,原告X2は,業績を改善し,60歳まで働き続けたいと述べたため,Gは,原告X2がこれまでの実績とスキルの棚卸しをし,定年の60歳までどのように仕事をしていくかについて一緒に考えることを提案した。この段階で,Gは,H及び部門人事担当者に面談内容を報告し,原告X2に対しては,今後も被告でキャリアを積み重ねていくために必要な業務改善を支援していくこととなった。
同年11月10日,Hは,原告X2に対して同原告がなすべき具体的な業務内容,原告X2がこれら業務を行っていないことを指摘して現状認識を促す等し,原告X2が業務改善に前向きに取り組む姿勢を示したため,Hは,同原告に対して具体的な改善策を考えるよう助言し,面談は終了した。
同月12日,Hは,Hの助言に対する原告X2の回答が単に「頑張ります。」等の抽象的な内容に終始し,具体性も現実性もなかったため,「頑張ります。できるようになります,だけでは苦しい。何をするかが重要だ。」と述べ,これまでのパフォーマンスが年末まで継続した場合にはPBC評価が「3」になることを伝え,同月13日にはPBC評価の見込みを知らせるメールを送信した。
同月19日のHと原告X2との面談では,上記のPBC評価見込みが話題となり,Hは,原告X2がなすべき業務を行っていないこと等の上記の評価根拠を説明したところ,原告X2は積極的に業務改善を図る旨述べたのである。
c 以上のとおり,G又はHが原告X2に対してした行為は退職強要や違法な退職勧奨ではない。
(エ) 原告X3について
a 原告X3がRAプログラムの対象となった経緯等
原告X3は,上記2(1)イ(ウ)のとおり,平成19年6月に長期間の無断欠勤を理由に懲戒処分を受け,バンド及び職位もそれぞれ降格された。原告X3所属のITSソリューション・センターは顧客先でインフラシステム等を構築する業務を行っているところ,同部署ではバンド6以上の者でなければ顧客と単独で直接やり取りする業務はできないため,原告X3は上記部署の主たる業務を行えない状態であった。
しかるに,原告X3は,本来業務を行うために早くバンド6に昇格するべく必要な勉強等をしなければならないにもかかわらず,まともに勉強すらせず,また,平成20年のPBC目標設定で約束した,システムエンジニア対象の資格取得のほか,被告社内技術者認定試験等の講義の受講等も全く怠っていた。このため,原告X3の業績は圧倒的に低く,ボトム15%に選定されたのは当然である。
被告は,同年12月26日,原告X3に対し,同年のPBC評価が「4」となったことを伝えたが,上記のとおり努力を怠る業務態度からすると,上記評価は極めて正当であって,退職勧奨拒否の報復などではない。
b 原告X3との面談の状況等
平成20年10月24日,Iは,原告X3との面談において特別支援プログラムへの応募を勧めたところ,原告X3が応募の意思がない旨回答したため,原告X3の今後の業務内容につき話し合うこととして,同年11月4日に面談日が設定された。
同日の面談で,Iは,原告X3に対し,原告X3の業務の現状を報告させ,新たな業務の割当てを行うべく同業務の説明をし,原告X3が業務遂行可能か検討を指示した。しかるに,原告X3は,同面談を無理やりRAプログラムに関連付け,執拗にRAプログラムの話をしようとした。Iはこの面談がRAプログラムとは関係ないと説明したが,原告X3は支部組合からIに対して何らかのアクションがあるかも知れないなどとまで発言した。こうして双方がかみ合わない問答をしている間,Iはこの面談とRAプログラムとの関係を否定する趣旨の動作として思わず1回空のペットボトルを手に持って振ったのであるが,原告X3に向けられたものではなく,暴力行為というものではない。また,Iが激昂して激しく足を踏みならした,机を蹴り上げたなどというのは事実無根である。さらに,原告X3は,面談終了後,会議室から出て自席に戻ろうとするIに対し,再度,面談がRAプログラムと関係あるのかと聞いてきたため,Iは,重ねて,面談は何らRAプログラムとは関係ない旨説明しているが,この際,Iは空のペットボトルを振り回した事実はない。
c 以上のとおり,被告が原告X3に対してした特別支援プログラムへの応募を勧める面談は同年10月24日に一度行われたのみである。同年11月4日の面談は,原告X3が退職しないことを前提とした将来業務の遂行に関するものであり,Iは,当該業務の担当従業員に対し,原告X3に対する当該業務の説明を依頼し,原告X3も同従業員に対して業務遂行上の連絡方法等を問い合わせているのである。
上記の11月4日の面談において,Iが原告X3に対してした行為は,そもそも暴力行為ではなく,退職強要や違法な退職勧奨が行われた事実もない。
(オ) 原告X4について
a 原告X4がRAプログラムの対象となった経緯等
原告X4は,平成20年10月当時,被告の「セキュリティ・デリバリー」という部署に属し,被告のセキュリティ製品を顧客の環境に合わせてカスタマイズする業務を行い,また,被告の他部署が主導して顧客のシステム構築を行うプロジェクト等に参加し,当該プロジェクトにおけるセキュリティ面の担当となって業務を行うこともあった。
原告X4は,当時,「主任ITスペシャリスト」の職位にあり,複数人が参加するプロジェクトではリーダー又はサブリーダーとなることもあったことから,円滑な業務遂行のため,顧客担当者や他部署のメンバー,協力会社(外部委託先)関係者らと円滑にコミュニケーションをとることが必要であった。しかるに,原告X4は,表現の仕方が良くない,自分の主張を通そうとする,けんかになる,プロジェクトが進まない,やりにくい,物言いが攻撃的である,等と周囲から指摘される等,コミュニケーション能力に大いに問題を抱えていたため,原告X4のファーストラインのLのもとに「チーム内のコミュニケーション不足」などを理由として,原告X4から他の者へのリーダー交代を求める苦情が寄せられていた。また,原告X4は顧客に対して自らが取り扱うセキュリティ製品の提案ができなかったが,その原因は,製品知識不十分,更には技術者としてのベースとなるスキル不足にあった。原告X4も問題点を認識していたため,かねてから,IT以外の部門への異動を希望し,被告の他部門主導のプロジェクトに応募するものの,プロジェクトマネージャーによる面接の段階で不採用となることが多かった。そのため,一つのプロジェクトが終了した後,次のプロジェクトに原告X4が割り当てるまでの期間が長く空くことが度々あり,原告X4の稼働率は,Kの下の従業員中圧倒的に低い状況であった。Kらは,原告X4の稼働率を少しでも上げるべく,原告X4に割り当てられる仕事を紹介して面接を受けさせる等尽力したが,原告X4が安易に断ったり,紹介先から断られたりする等したため,原告の稼働率は十分向上せず,原告X4に新たな業務を割り当てられない状況が続いていた。そうした事情により,原告X4がRAプログラムの対象者として選定されたのである。
b 原告X4との面談の状況等
(a) 原告X4に業務を割り当てられない上記の状況の下,Kは,平成20年9月,原告X4に対し,自分をアピールするレジュメ(履歴書)の作成を指示し,この完成を待って業務の割当てに関する面談を行うことを提案し,同年10月7日に同面談が実施された。
同日の面談において,Kは,原告X4に対し,今後,プロジェクトの中での技術者としての業務又はプロジェクトの管理の業務のいずれを希望するかを尋ねたところ,原告X4はいずれの方向も難しく,IT以外の部門への異動を希望し,異動先を自ら探す一方でKにも探してもらいたい旨述べた。Kは,原告X4の要請を了解したが,異動先がすぐには見つからないと思われたため,まずは,原告X4自身が現部署で技術系のスキルを身に付けて業務の割当てを増えるよう努力することとなった。したがって,この面談では特別支援プログラムは話題にはなっていない。
(b) 同月21日,Kは,原告X4との面談を実施し,原告X4に対し,特別支援プログラムの概要を紹介し,応募の検討を求め,次回の面談で更に具体的な話をすることとして同日の面談は終了した。
(c) 同月28日,Kは,原告X4との面談を実施し,原告X4に対し,上記の検討結果を尋ねたところ,原告X4は転職先が見つかるのであれば転職も考える旨述べたため,Kは原告X4に実際に再就職支援会社の訪問を勧めた。これを受けて,原告X4は同年11月7日に同会社を訪問してカウンセリングを受けた。
(d) 同月11日,Kは,原告X4との面談を実施し,原告X4がカウンセリングを受けた結果につき尋ねたところ,原告X4は自分に合う会社はなかったが,希望条件を伝えたので良い情報があれば連絡をもらえることになっている旨,転職先が確定してから退職届を出したい旨述べ,転職先が見つかるならば退職を検討する態度を示していたのであり,原告X4がKに対して「再三にわたり退職する意思がないと伝えた。」事実はない。
(e) 同年12月1日,Kらは,原告X4との面談を実施し,転職先の検討状況を尋ねたところ,原告X4は求人案内が一件もないと回答したため,Kは,同年11月12日にKが再就職支援会社から受信した求人情報を見る気があるか尋ね,原告X4は送ってくれれば見る旨回答した。また,Lは,原告X4に対し,原告X4に業務を受け持ってもらうために他部門に紹介したり,業務割当てのための面談を受けてもらったりと手を尽くしているが,なかなか原告X4が採用されない状況であること,その原因として,原告X4の仕事に対する周囲の評価が芳しくないこと等を述べ,原告X4にそうした認識があるか尋ねたところ,原告X4は,現在の仕事が自分に合っていないと思っている旨述べた上,自ら異動先を探してもよいか,異動先を探すのはラインの仕事であると認識しているか,所属長のKらも異動先を探すつもりがあるか,等と尋ねたため,Lは,原告X4が自ら異動先を探すことについて問題ない旨回答し,また,Kらは原告X4の異動先を探してみる旨回答した。なお,Kは,原告X4に対し,同面談実施日の22時4分,上記の求人情報に関するメールを転送し,22時25分,原告X4自身の評価を正確に認識してもらうため,現在の業績が年末まで継続した場合のPBC評価見込みを知らせるメールを送信した。
(f) 被告は,毎年年末に,ラインマネージャーが部下の従業員と面談し,その年のPBC評価と評価根拠の説明をし,低いPBC評価を受けた従業員自身については自身の問題点を認識させて業務改善等に資するようできる限り自己の評価に対する納得を得るよう努めるべきこととされている。そこで,同年12月25日,Kは,原告X4との上記面談を実施し,原告X4に対し,PBC評価が対象者の稼働率,ビジネスに対する貢献,部門に対する貢献などを総合的に考慮して決定されたものであること,相対評価であるPBC評価を付けるため部署のメンバーを並べたところ,原告X4が最下位であったことなどを説明したが,原告X4は,評価方法については理解した旨述べたが,自己の評価については納得しなかった。
(g) 平成21年1月20日,Kらは,平成20年のPBC評価について再度原告X4に説明する機会として面談を行い,原告X4の納得を得ようとしたが,原告X4が,これは退職勧奨,退職強要であるなどと述べたため,話は平行線のまま終わったのである。
(h) 上記のとおり,原告X4の業績が非常に低かったため,業務改善プログラムが行われることとなり,同年2月23日,Kは,原告X4に対する面談を実施し,同プログラムの簡単な説明を行い,改善目標管理フォームに改善計画等の案の記入を要請したところ,原告X4はこれに同意し,面談終了後,「改善目標管理フォーム」をメールで送信し,同月26日に面談をして記載内容を確定することとなった。
(i) しかるに,同日の面談において,原告X4は,Kに対し,業務改善プログラムの実施は退職強要に当たる,原告X4のPBC評価4は確定しておらず,業績改善プログラムの対象とはならない等と述べ,同プログラムを拒否した。
Kは,業績改善プログラムが従前から実施されている正式な人事制度上のプログラムであり,これを社員が拒否する場合にはその旨人事に報告する必要があるためその旨告げたところ,原告X4は支部組合と相談する旨述べた。
(j) 同年3月9日,Kは,原告X4に対し,改めて業績改善プログラムを開始することを告知し,改善目標管理フォームの記載案の作成を指示し,同プログラムが行われることとなり,同月12日,原告X4から改善目標管理フォームの記載案がKに提出された。
(k) その後,原告X4から上記記載案の修正案が提出されたため,同年4月3日,Kらは,原告X4に対する面談を実施し,具体的な改善点につき,「4月より参画する防衛大学保守プロジェクトにおいて,プロジェクトメンバーとのコミュニケーション向上を図る」こと,「ALISS技術支援のサポートメンバーとして,部門メンバーとのコミュニケーション向上を図る」こととされたほか,「達成すべき内容/要求水準」,「評価方法/確認サイクル」などの内容も決定され,その後もフォームの内容につきKと原告X4間でやり取りが続けられ,原告X4の了解の上で決定された。
(l) 同年6月9日,Kらは,原告X4との面談を実施した。その理由は,業績改善プログラムでは,改善期間内の改善目標の達成を目指すため,ラインマネージャーと従業員との間で随時面談を行うことが推奨されているからである。同面談において,Kらは,原告X4に対する業績改善プログラムの進捗状況を確認し,防衛大学保守プロジェクトにおいて原告X4の否定的評価はなく,ALISS技術支援業務については今後評価の聴き取りをする旨説明した。Kらは「あなたの居場所はない。自分で異動先を探せ。」など発言していないし,原告X4も「退職強要の延長,継続」と何度も抗議をした等の事実はない(Kが議事録のメールを送信したが,原告X4はこれに何ら抗議等をしていない。)。
(m) 同月30日に原告X4に対する業績改善プログラムの進捗管理期間が終了したが,Kらは,防衛大学保守プロジェクトについては否定的評価がなかったこと,ALISS技術支援業務についても他のメンバーからの原告X4の評価は全体的に低かったものの改善点とされたコミュニケーションの観点からは悪くなかったことを考慮し,上記プログラムにおける改善目標が達成されたと判断した。
このため,Kらは,原告X4に判断理由とともにその旨説明した。
c 以上のとおり,Kらが原告X4に対してした,RAプログラムの実施過程,PBC評価の実施過程,業績改善プログラムの実施過程における行為は,いずれも退職強要又は違法な退職勧奨ではない。
(2)  争点2(原告らの損害額の算定)
ア 原告らの主張
原告らは,上記のとおり,被告による一連の違法な退職強要により精神的苦痛を被った。これを慰謝するための慰謝料は各300万円を下らない。
また,損害として被告が負担すべき弁護士費用は,原告ら各自につき各30万円を下らない。
よって,原告らは,それぞれ330万円の損害を被ったものである。
イ 被告の認否
原告らの上記主張は否認ないし争う。
第3  当裁判所の判断
1  争点1について
(1)  RAプログラム
ア 前記前提事実,証拠(甲2ないし4,乙80,81,94,証人B,証人Nのほか,認定に供した証拠は認定事実中に摘示した。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア) RAプログラム実施までの経緯等
平成4年以降,被告は,本件とは規模や対象者の範囲等の点で異なるものの,継続的に任意退職者を募るプログラムを実施しており,平成20年においても,同年第2四半期の業績が芳しくなかったため,同年8月ころから企業体質強化を図る施策として,同年中に任意退職者を募るプログラムの実施を検討していた。しかるところ,同年9月中旬,被告は,リーマン・ショックにより事業環境に関する将来見通しが更に不透明となったことを受けて,また,Y社本来の企業文化として標榜する「ハイ・パフォーマンス・カルチャー」(従業員一人ひとりが自らの業績を向上させる努力を怠らず,また,被告も従業員に対して,従業員自らの業績向上のための努力を求めるという企業文化を意味するものとされる。以下「本件企業文化」という。乙94)を一層推進する必要性も相俟って,当初の予定よりも大規模な任意退職者募集のための特別支援プログラムを実施する必要があると判断し,米国b社との報告,相談を重ねた上で,特別支援プログラムを実施するRAプログラムを立案した。(甲9,10)
(イ) 特別支援プログラムの内容(退職者支援制度の内容)
被告が正社員に対して提示した退職者支援の主な内容は,①所定の退職金に加えて,特別支援金として,月額給与額の最大で15か月分を支給すること,②自ら選択した再就職支援会社から再就職支援を受けること,である。そして,上記①については,被告は,特別支援金の算定に当たり,年間に支給される賞与や諸手当を含めた年収総額を十二分した金額を基礎とした。また,上記②については,特別支援プログラムに応募して退職する者が,再就職支援サービス業界最大手二社を含む三社の中から自分に適合した会社を選択できる上,被告の全額費用負担で,自らの再就職実現まで無期限の再就職活動の支援を受けられ,しかも,再就職後6か月以内に退職した場合には再び自己負担なしで就職活動の支援を受けられるというものであった。
(ウ) RAプログラムの内容
特別支援プログラムを実施するために立案されたRAプログラムは,概ね前記第2の2(4)イ(ア)ないし(キ)に記載のとおりであるが,具体的な内容は以下のとおりであった。
a 特別支援プログラムの応募勧奨の対象者
被告は特別支援プログラムに応募して任意に退職する者の予定数を1300人と設定したが,過去において退職者支援プログラムを実施してきた経験から,応募者予定数の2.5倍から3倍の人数の従業員を対象に特別支援プログラムの応募勧奨(以下「退職勧奨」と表記することがある。)をすれば応募者が予定数に達するだろうと見込んだ。
そして,RAプログラムの対象となる正社員については,業績の低い従業員を中心に退職者を募る方針の下,「ボトム15%として特定された社員のうち,Y社グループ外にキャリアを探してほしい社員」を基本とし,更に前記第2の2(4)イ(イ)b(a)ないし(e)の条件を設定し,特別支援プログラムへの応募を検討してもらうべく退職勧奨する対象者の範囲を広げたものである。
これは,被告があくまで任意退職者を募集する方針を堅持していたため,仮に特別支援プログラムへの応募を勧奨したものの応募しない従業員が相当数出た場合でも,上記の目標の応募者予定数を十分に達成できるように検討されたことによるものであった。
b ラインマネージャーに対する説明会及び面談研修
(a) 被告は,これまでに,日常的にコンプライアンスを徹底するべく,ビジネス・コンダクト・ガイドライン(企業行動基準)を定めて全社員にコンプライアンス教育を実施し,嫌がらせや差別,脅迫,粗暴な振舞い等について,これらを解雇又は懲戒処分の対象となる等として厳しく戒めてきた(乙106)。
また,被告は,特別支援プログラムの応募者を募るに当たっても,全てのラインマネージャーに対してコンプライアンスを遵守させ,ラインマネージャーがRAプログラム対象者に対して特別支援プログラムへの応募を検討するための必要な情報と説明を提供し,その自由な意思に基づいて応募してもらえるような適切な面談を実施するべく,RAプログラム上に留意すべき事項(前記第2の2(4)イ(カ))を掲載して周知を図ったほか,以下のような指導・支援を実施した。
(b) すなわち,被告は,ラインマネージャーによるRAプログラム対象者との面談に先立ち,平成20年10月中旬ころから,ラインマネージャーに対し,各部門のHRパートナー(人事,エリア人事と称する部署に所属し,各ラインマネージャーの人事管理業務をラインマネージャー近くで日常的に支援する職責を担う。)によるRAプログラムの説明会,外部の人事コンサルタントによる面談研修(面談研修ではロール・プレイングも行われた。)を実施した。これにより,各ラインマネージャーは,RAプログラムの内容を正確に把握し,また,RAプログラム対象者との面談の過程で人格を傷つけるような言動をしないなど適法かつ適切な面談を行う上で必要な知識と訓練を受けることができた。そこでは,ラインマネージャーが,RAプログラム対象者から,はっきりと明確に退職する意思はないと言われた場合には,何回もRAプログラムへの応募を促すような蒸し返しをしないように注意もされていた。また,ラインマネージャーは,RAプログラム対象者との面談開始後も,RAプログラムの面談を進める過程で不明な点や相談することがあれば,常時HRパートナーと協議することが可能であった。
c 結果責任
被告は,特別支援プログラムの応募者予定数を達成するため,部門長によるRAプログラムに対する真剣な取組みを促す必要があった。しかし,部門長は,売上げ目標達成や,サービス製品の提供こそが本来の業務であり,ビジネス上の最優先事項であるという意識が強いため,RAプログラムのような人事管理業務の優先順位を低く捉えがちであった。このため,被告は,RAプログラムの実施を伝達する際,各部門長を宛先として,「予定数の達成が,我々リーダー一人ひとりのAccountability(結果責任)となります。」と冒頭に掲げたほか,全体で1300人とした応募者予定数をビジネス・ユニットごとに概ね所属人数比で割り振り目標人数を設定した(目標人数の割振りは,ビジネス・ユニットの中で,更に下の部署に割り振られることとなった。)。そして,被告人事担当取締役執行役員でRAプログラムの責任者であるBは,RAプログラム実施の進捗状況を随時把握し,これに基づき,特別支援プログラムの応募を勧奨する対象者の人数があまり増えていないビジネス・ユニットに対しては,同ユニットの責任者である部門長に対し,特定の対象者に固執せず,早い段階から退職勧奨の対象者数を増やすよう指示することがあった。
(エ) 特別支援プログラムの応募締切り
RAプログラムによれば,特別支援プログラムに対する応募者予定数は1300人,同プログラムに基づく退職手続の実施期限(締切日)は平成20年12月19日とされていた。しかし,応募者が予定数に達したことから,上記期限よりも10日以上早い同月7日ころに特別支援プログラムへの応募が締め切られた。これにより,RAプログラムは同日ころをもって終了したこととなる。
イ 検討
(ア) 特別支援プログラムについて
前記前提事実及び上記アの事実によれば,特別支援プログラムの中核となる退職者支援のうち,退職に際して所定の退職金に加えて支払われる最大15か月分の特別支援金については,通常の月額給与額又はそれより少額となるであろう月額基本給を基礎とせず,年間に支給される賞与や諸手当を含めた年収総額を十二分した金額を基礎とするため,前者の算定方法に比べて相当額加算された金額となること,退職後の再就職支援についても再就職実現まで被告が全額費用を負担することが認められるところ,これらを内容とする特別支援プログラムにおける退職者支援制度は,退職勧奨に応じて定年前に退職する社員に対して解雇予告手当相当の金員しか支払わない等恩典をほとんど提供しない,又は,仮にそのような恩典があったとしても退職後の生活保障にとってほとんど資することのない若干の退職金の上積みや一時金支給をするにとどまる企業が少なくない(業績が低いこと等を理由にごく僅かな一時金等を提供して社員を退職させる企業が相当数存在する事実は当裁判所には顕著である。)中,これら企業の希望退職者募集の施策と比較すると,大規模な退職勧奨を実施しなければならない厳しい経営環境の中で,被告社員の退職後の将来を慮った充実した内容であるということができる。
(イ) RAプログラムについて
前記前提事実及び上記アの事実によれば,特別支援プログラムが平成20年9月のリーマンショックによる被告の経営環境悪化を契機に実施された希望退職者募集のための制度であり,RAプログラムが特別支援プログラムを実施するために立案されたものであること,RAプログラムでは,特別支援プログラムの応募者予定数を1300人と設定した上で,同プログラムの応募勧奨対象者の範囲については,これまで実施された退職者支援プログラムでの蓄積に基づき無理なく応募者予定数を確保できるように上記予定数の2.5倍ないし3倍に相当する人数に応募勧奨すると定めたこと,対象者の選定基準については,業績の低い「ボトム15%として特定された社員」又はこれに準ずる位置付けをされた社員を中心としたこと,退職勧奨するに際しては退職強要とならないような種々留意すべきことを示し,具体的方法についての講義や面接研修を施す等したこと,その一方で,被告は,退職勧奨を実行する部門長,更には部門長を通じてその下位にあるラインマネージャーに対し,退職勧奨について自覚と責任をもって実施してもらいたい旨の意識を持たせるために,上記目標となる応募者予定数の達成いかんについて各人の結果責任を問う趣旨とも受け取れる注意喚起をしたこと,以上の事実が認められる。
これらによれば,特別支援プログラムを実施するためのRAプログラムが,特別支援プログラムの応募勧奨者を目標人数の2.5倍から3倍に設定したこと,勧奨対象者を業績の低い水準にある社員を中心としたことについては,本件企業文化を標榜する被告の経営権の行使として合理的であるし,また,社員に対する退職強要を回避するべく種々の注意を喚起したり,それを担保する各種研修を実施したりしたことについても,紛争リスク回避のための合理的な措置であると認めることができる。
もっとも,業績の低い社員に対する退職勧奨を実施するに当たり,現場責任者である部門長又はその下位にあるラインマネージャーを実行者とし,彼らに対して,目標数値の達成につき結果責任を問う旨知らしめた場合,そのような責務を果たすべきラインマネージャーは,本来的な職務遂行で実績を上げなければならない職責を担いながら,これに加えて,本来の職務とは異質で,かつ,精神的負荷の高い人事上の重要案件を遂行しなければならない職責を担わなければならないこととなる。そのため,上司が部下に対して退職勧奨したにもかかわらず,当該部下がこれを拒否したため当初の思惑通りに事態が進行しない場合,そうした精神的負荷と重圧のある心理状態に起因する上司の感情的な高ぶり等により,平穏になされるべき退職勧奨は,上司の言葉遣いや態度次第では,部下にとって圧迫と受け取られかねない危険が想定される(また,部下が退職勧奨を拒否した場合,上司とその職場に残留する当該部下との間に新たな感情的なしこりが残る危険もある。)。
(2)  原告らに対する退職勧奨
ア 退職勧奨の違法性の判断基準
(ア) 退職勧奨は,勧奨対象となった労働者の自発的な退職意思の形成を働きかけるための説得活動であるが,これに応じるか否かは対象とされた労働者の自由な意思に委ねられるべきものである。したがって,使用者は,退職勧奨に際して,当該労働者に対してする説得活動について,そのための手段・方法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱しない限り,使用者による正当な業務行為としてこれを行い得るものと解するのが相当であり,労働者の自発的な退職意思を形成する本来の目的実現のために社会通念上相当と認められる限度を超えて,当該労働者に対して不当な心理的圧力を加えたり,又は,その名誉感情を不当に害するような言辞を用いたりすることによって,その自由な退職意思の形成を妨げるに足りる不当な行為ないし言動をすることは許されず,そのようなことがされた退職勧奨行為は,もはや,その限度を超えた違法なものとして不法行為を構成することとなる。
(イ) 本件では,被告は,退職勧奨の対象となる社員に対し,当該社員が退職勧奨の対象となった理由(平成20年のPBC評価が低い見通しであることとその根拠等,当該社員の業績不良の具体的事実)を説明したり,また,本件企業文化を標榜する被告に現状のまま在籍した場合には低い評価を受けることとなるがそれに甘んずることなく更なる業務改善に努めることが要求される旨認識させたりする一方で,特別支援プログラムが立案された経緯(上記(1)ア(ア))や,充実した退職者支援の具体的内容(上記(1)ア(イ))を詳しく説明し,退職勧奨に応じるよう説得することとなる(その説得活動そのものは何ら違法なものではない。)。
業績不振の社員がこうした退職勧奨に対して消極的な意思表示をした場合,それらの中には,これまで通りのやり方で現在の業務に従事しつつ大企業ゆえの高い待遇と恩恵を受け続けることに執着するあまり,業績に係る自分の置かれた位置付けを十分に認識せずにいたり,業務改善を求められる相当程度の精神的重圧(高額の報酬を受ける社員であれば,なおさら,今後の更なる業績向上,相当程度の業務貢献を求められることは当然避けられないし,業績不良により上司・同僚に甚だ迷惑をかけている場合には,それを極力少なくするよう反省と改善を強く求められるのも当然である。)から解放されることに加えて,充実した退職支援を受けられることの利点を十分に検討し又は熟慮したりしないまま,上記のような拒否回答をする者が存在する可能性は否定できない。また,被告は,退職者に対してほとんど利益を提供しない企業(上記(1)イ(ア))に比べて充実した退職者支援策を講じていると認められ,また,被告自身もそのように認識しているがゆえに,当該社員による退職勧奨拒否が真摯な検討に基づいてなされたのかどうか,退職者支援が有効な動機付けとならない理由は何かを知ることは,被告にとって,重大な関心事となることは否定できないのであり,このことについて質問する等して聴取することを制約すべき合理的根拠はない。
(ウ) そうすると,被告は,退職勧奨の対象となった社員がこれに消極的な意思を表明した場合であっても,それをもって,被告は,直ちに,退職勧奨のための説明ないし説得活動を終了しなければならないものではなく,被告が,当該社員に対して,被告に在籍し続けた場合におけるデメリット(被告の経営環境の悪化のほか,当該社員の業績不良による会社又は上司・同僚らの被る迷惑が残ること,当該社員が待遇に相応した意識改革・業績改善等のための一層の努力を求められること等),退職した場合におけるメリット(充実した退職者支援を受けられること,当該支援制度は今回限りであること(前記第2の2(4)イ(オ)b),業績改善等を要求される精神的重圧から解放されること等)について,更に具体的かつ丁寧に説明又は説得活動をし,また,真摯に検討してもらえたのかどうかのやり取りや意向聴取をし,退職勧奨に応ずるか否かにつき再検討を求めたり,翻意を促したりすることは,社会通念上相当と認められる範囲を逸脱した態様でなされたものでない限り,当然に許容されるものと解するのが相当であり,たとえ,その過程において,いわば会社の戦力外と告知された当該社員が衝撃を受けたり,不快感や苛立ち等を感じたりして精神的に平静でいられないことがあったとしても,それをもって,直ちに違法となるものではないというべきである。
当該社員が被告に対して退職勧奨に応ずることによる有利不利の諸事情を比較検討した上で退職勧奨に応じない選択をしたこと,更なる説明ないし説得活動を受けたとしても退職勧奨に応じない意思は堅固であり,この方針に変更の余地のないこと,したがって,退職勧奨のための面談には応じられないことをはっきりと明確に表明し,かつ,被告(当該社員の上司)に対してその旨確実に認識させた段階で,初めて,被告によるそれ以降の退職勧奨のための説明ないし説得活動について,任意の退職意思を形成させるための手段として,社会通念上相当な範囲を逸脱した違法なものと評価されることがあり得る,というにとどまると解するのが相当である。
(エ) 以上に基づき,原告らの上司が原告らに対してした退職勧奨につき,検討する。
イ 原告X1に対する退職勧奨
(ア) 前記前提事実,証拠(甲57,乙58ないし60,70,71,証人C,証人D,証人E,原告X1本人のほか,認定に供した証拠は末尾に摘示)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
a 原告X1がRAプログラムの対象とされた経緯
(a) 原告X1は,平成20年10月当時,被告パワーシステム事業部の製品企画に所属しており,同部署の取り扱う製品の発表に関する業務,製品情報の整備・発信に関する業務及び営業担当者を支援する業務に従事していた。このうち,営業担当者に対する支援業務は,営業担当者を通じて依頼された顧客の要望,例えば緊急事態を理由に納期を早めてもらいたい旨の要望が出された場合,これに応えるべく米国b社の担当者と交渉する等して営業部門を支援すること等を内容とするものであった。
(b) しかるに,原告X1は,実際には米国b社と交渉しなければ納期を早められるかどうか分からないのに,「営業担当者の教育のため」等としてそのような努力を全くせず,営業担当者に対して,顧客の要望には応えられない旨回答してしまう等,営業担当者の質問への回答や依頼への対応を拒否することが度々あった。そのため,他の同僚がその営業担当者からの苦情を受け,直ちに米国b社の担当者と連絡をとって事情を説明すると,上記の依頼に沿った対応が可能であったということが幾度もあったのである。原告X1は,営業担当者を支援する努力を怠る,極めて不親切,非協力的な執務態度であり,営業担当者からのクレームが度々来ていたのであるが,CやD等上司の度重なる注意にもかかわらず,原告X1は,私は頑固ですから,とか,若手の人達に対する教育的指導である,等と述べてこれを聞き入れず,その業務態度を変えることがなく,反省の態度を全く示さなかった。また,原告X1は,平成20年のPBCの業務目標に掲げていた製品の情報の整備・発信に関する業務(製品の情報が記載されたWebページやパンフレット等の資料中の情報のうち更新を必要とするものをリストアップして更新作業の担当者(原告X1自身も含む。)を決めたり,作業の優先順位を定めたりする業務)を業務目標として掲げていたものの,同業務を行わなかった。(乙7)
(c) 上記(b)の事実,ことに,原告X1が顧客に対する適切な態度をとらず,周囲の同僚にも迷惑をかけ,上司から注意されたにもかかわらず真摯に反省する態度を全く示さなかったこと等が重視され,原告X1は,総合的に着実な貢献があったとは評価されず,製品企画及びその上位のパワーシステム事業部,更に上位のプラットフォームのいずれの組織単位でみても,他の従業員に比べて低くならざるを得なかった。このため,PBC評価に当たっては,平成20年度の貢献度が低く,業績の向上が必要と評価される見通しとなった。
(d) Cら3名は,特別支援プログラムに応募してもらう社員を選択するに際し,原告X1に関する上記事情と評価見通しを踏まえ,原告X1の執務態度の問題が看過できない深刻なものと捉え,原告X1をRAプログラムの対象者の一人として選定した。
b 原告X1に対する退職勧奨に係る事実経過
(a) 平成20年10月28日,Cは,原告X1と15分程度の面談を実施し,原告X1に対し,被告の厳しい経営環境と,退職金に加えて特別支援金の支払及び再就職支援サービスを内容とする特別支援プログラムの存在を簡単に伝え,応募意思の有無を問うたところ,原告X1は60歳の定年まで勤めたい旨返答した。しかし,Cは,原告X1が特別支援プログラムについての資料や情報を得ていないため十分検討しないまま上記の返答をしたと考え,原告X1に対し,改めて特別支援プログラムへの応募を検討してもらうため,その詳細を後日伝える旨述べ,原告X1は特に明確な拒否態度を示すことがなかった。
(b) 同年11月6日,Cは,原告X1に対して特別支援プログラムへの応募の検討資料としてもらうため,原告X1の席に赴き,「特別セカンドキャリア支援プログラムのご案内」と題する書面(甲25)を交付し,原告X1はこれを受け取った。しかし,その直後,原告X1は,Cに対し,60歳の定年退職時の退職金等の情報を求めたい旨のメモを交付したことから,Cは,原告X1が,特別支援プログラムに応募した場合と定年退職した場合の各退職条件を比較検討した上で,特別支援プログラムに応募するか否かを判断しようとしているものと考えた。
(c) 同月13日,Dは,原告X1に対し,上記のとおり開示を求められた情報を提供すること等を含め,特別支援プログラムへの応募を勧奨することを目的として面談に応じるよう求めた。これに対し,原告X1は「退職のことなら,断ったはずですが。」と発言したが,Dは,上記のとおり開示を求められた情報を説明し,その情報を基に十分な検討をしてもらった上で特別支援プログラムに応募するかどうかを判断してもらう必要があると考え,「宿題があるから。」等として面談に応じてもらい,Eとともに面談を実施した(なお,Dが原告X1に対して開示する予定であった上記情報については,退職金算定上の不確定要素が存在するために書面で明確に金額表示するのが困難であることから,口頭でしか情報提供できないものであった。)。
そして,Dが,原告X1に対し,まず,RAプログラムの対象となった理由である上記a(b)の執務態度の問題や業績評価の低さ,具体的には営業部門からの苦情等を説明し,平成20年のPBC評価が低くなる見通しを示した。すると,突然,原告X1は,被告の自らに対する評価が不当であるとEらを非難する等し,興奮して「60歳まで働く権利がある。」,「今辞める理由はない。」等と発言し,怒鳴る等して席を立って会議室を出てしまった。この間,面談を開始してから10分ないし15分程度しか経過していなかった。このため,Dは,結局,原告X1が開示を求めた上記情報を含む特別支援プログラムに関する資料や情報等を伝える機会を逸したままとなったが,D及びEは,原告X1の態度から,原告X1が特別支援プログラムに応募することを期待するのは困難であると判断して,原告X1に対する退職勧奨を断念した。(甲27)
(d) 上記(c)の経緯を踏まえ,Eは,今後,現部署にこのまま在籍する原告X1が及ぼすであろう他の従業員の士気や執務態度に対する悪影響を回避し,部門の業務を適切かつ円滑に運営するべく,原告X1に対して執務態度を含む業務改善を求めることとした。そして,Eは,上記(c)の面談終了後,同日中に,平成20年のPBC評価が「3」となる見込みであることに加え,執務態度の問題点の説明と業務改善を促す目的で,「次工程はお客様,という姿勢に立ち戻り,fieldあるいはお客様/partner様からくる,例外的,あるいは従来からの対応では困難な課題について,innovativeな提案を持って解決するようにお願いします。」という内容のメール(甲28,乙8)を送信した。しかしながら,原告X1は,その直後,これを謙虚に受け止めることなく,Eのメールに激しく抗議する内容のメール(甲29)を送信し,Eが原告X1に対して求める真摯な反省と業務改善への取組みを拒否する姿勢を示し,また,翌14日には,業務開始早々,原告X1は,Cの席に来て,PBC評価「3」が不当に低く,納得がいかないと抗議してきた。Cは,他の従業員のいる場所で話すような話題ではないため,速やかに別室に移動することが適切であると判断して原告X1に仕事の取組み方等の観点から意見交換をしたい等として別室に誘導し,PBC評価の根拠事実について具体的に説明をしたが,原告X1の納得を得ることはできなかった。
(e) Eは,原告X1の上記メールやCに対する抗議とその後のやり取りの状況に係る報告を受け,サードラインであるEに対してさえも強硬に抗議してくることを踏まえると,再度,Eらラインマネージャーらが原告X1に対して業務改善について理解を得ようとしても困難であると判断し,コンプライアンスの観点も考慮して,双方の第三者的な立場としての役割を期待して,弁護士でもあるFが同席する面談を実施することとし,原告X1に対して同年12月4日に面談を実施するので来てもらいたい旨のメールを送信した。しかし,原告X1は,上記面談の申入れを,特別支援プログラムへの応募勧奨であるとして上記面談を拒否する旨,組合支部の幹部の同席を求める旨返信したため,Eは,原告X1に対し,業務改善と今後の業務に対する取組み方を話し合う場であり,組合支部を通す必要がない旨,面談を拒否すると処分対象となる旨再度返信して原告X1を説得しようとした。なお,上記面談は,Fの都合により実現には至らなかった。(甲30ないし35)
(イ) 検討
a 上記(ア)の事実によれば,Cら3名が平成20年10月28日から同年11月13日までの間に原告X1に対してした退職勧奨行為について,その手段・方法等が社会通念上相当な範囲を逸脱するような態様であったことを客観的に裏付ける具体的事実は認められない。また,同日以降におけるCら3名の原告X1に対してしたPBC評価の見通し等に係る説明等を含む面談等についても,それが原告X1の低い業績を改善することを目的としていること,前提となる原告X1に対する評価に係る裁量権の濫用又は逸脱を裏付ける具体的事実を認めるに足りる証拠がない(退職勧奨に応じないことに対する報復とは認められない。)ことからすると,その面談方法や説明等が社会通念上相当な範囲を逸脱する不当な態様でなされたと認めることは困難である。
b 原告X1は,Cら3名から特別支援プログラムへの応募を勧奨された事実経過につき,前記第2の4(1)ア(イ)のaないしeのとおり主張し,これに沿う供述をする。
しかし,原告X1は,第1回目の面談時(平成20年10月28日)において,Cから「原告X1の業績が悪く,会社に貢献していない」旨指摘されたと供述するところ,特別支援プログラムへの任意の応募を働きかけようとするCが,かねてから自己に対する業務上の注意を受けることに多大な不平,不満を抱く原告X1に対し,面談が開始された当初の段階で,単に原告X1を激昂させ,感情的な反発を招く危険のある発言をあえてするとは考え難い。
また,第2回目の面談時(同年11月13日)においても,Eから「60歳までY社で働かなければならない理由がわからない。・・・会社が要らない,別の道を考えるように言っているのだからそうすればいい。」など退職強要された旨供述するが,Cだけでは特別支援プログラムへの応募勧奨が功を奏しない状況下で,日頃上司に対して反抗的な態度を示す原告X1に対し,まさに特別支援プログラムに任意で応募してもらおうとしているE及びDが,ことさら原告X1の感情を逆撫でするような失言をするとも考え難い。
原告X1は,Cら3名の退職勧奨行為が社会通念上相当な範囲を逸脱する違法性を有することについて,これを主張立証する責任を負担するところ,原告X1の主張事実を認めるに足りる具体的で客観的かつ明確な証拠はない。かえって,原告X1は,サードラインのEに対してすら,自らに対する低評価に猛然と抗議し,かつ,退職勧奨拒否,更には,面談ですら途中で席を蹴って退席する等強硬な姿勢を示し,他の社員が執務する中でも堂々とそのための話をしようとする態度も示す等していたことからすると,Cら3名が,このような原告X1に対し,原告X1を更に激昂させる結果を招来しかねない強要等を敢行するとは到底考え難いといわざるを得ない(なお,原告X1は,60歳の定年退職時の退職金等の情報開示を求めた理由につき,定年時の退職金の方が金額的に有利であり,これをCら3名に知らしめて早期退職の意思がないことを示そうとした旨供述するが,原告X1は,Cら3名に対して退職勧奨拒否の根拠として上記情報を基にした説明をする等した形跡は全くない。そうすると,仮に原告X1がそのような意図を真実有していたとしても,原告X1がCら3名に対してその旨明確に認識させていない以上,平成20年11月13日の時点で,Cら3名が,原告X1にはなお退職勧奨に応じる可能性があるものと認識していたとしてもやむを得ず,原告X1主張に係る退職強要の故意があったと認めることも困難である。)。
(ウ) まとめ
以上によれば,被告が原告X1に対してした退職勧奨又はその後の説明や面談等について,違法があるとは認められない。
ウ 原告X2に関する事実経過
(ア) 前記前提事実,証拠(甲58,79の1ないし6,79の7の1ないし9,乙61,62,72,73,証人G,証人H,原告X2本人のほか,認定に供した証拠は末尾に摘示)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
a 原告X2がRAプログラムの対象とされた経緯
(a) 原告X2は,平成20年当時,被告アウトソーシング事業部門の中の事業推進・事業企画部門に所属し,ファーストラインは,同年6月までがH,同年7月以降がGであった。)に所属し,ストラテジック・アウトソーシング・オポチュニティー・マネジメント・カウンシル(アウトソーシング事業に関して営業から提案される営業活動が行うに値するものであるか否かを判断したり,当該営業活動のために営業から提案される予算を承認するか否かを判断したりするための会議である。以下「SO-OMC」という。)の運営を担当する業務に従事し,同業務従事歴2年以上,被告における勤続25年,バンド7の等級になってから17年経過するベテランとして,自らの判断で案件を主導することが求められる立場にあった。すなわち,営業から提案された営業活動が行うに値するものか否か,当該営業活動のために営業担当者から提案された予算を承認するか否か等のSO-OMCに求められる判断を実質的に支援するべく,営業活動の実績や予算の使用状況を検証し,その結果をSO-OMCの場で参考情報としてメンバーに伝えたり,財務部門と交渉してアウトソーシングの営業活動に使える予算を獲得し,予算が必要な案件に予算配分されるようにしたりすることにより,上記メンバーの判断を支援すること等の業務を積極的に遂行することが求められていた。(乙9)
(b) しかるに,原告X2は,他の同僚が自らのスキルを高める努力を怠らず,自分以外の従業員と連携して業務を効率よく効果的に行う創意工夫を日々こらしているのに,上記の本来的に要請される業務遂行を果たすことができず,会議のスケジュール調整や資料準備等,SO-OMCの単純な事務作業を行うにすぎず,Oを始め他の同僚が原告X2が行うべき業務を肩代わりする等せざるを得ない状況もあった。そして,このような原告X2の業務遂行状況は,Gが事業企画のファーストラインマネージャーに就任した後である平成20年7月半ばに部下の将来のキャリアの希望等を聴取するために行った面談において,Gが原告X2に対し,上記(a)の原告X2に求められる業務等の仕事の担当範囲の拡張要請に応える必要性等につき指導した後においても,十分に改善されることがなかった。このように必ずしも良好でない原告X2による上記の業務状況については,Gのみならず,Gの前任者でありセカンドラインマネージャーであるHも認識を共有していた。
(c) 平成20年9月末ないし10月初めころ,Hは,特別支援プログラムへの応募を検討してもらう社員を部門の中から選定するため,G及び事業推進・エンゲージメント・プロセス部門のファーストラインマネージャーのPと協議し,上記(b)の業務状況を踏まえ,原告X2をその対象者の一人として選定した。
b 原告X2に対する退職勧奨に係る事実経過
(a) 平成20年10月23日,Gは,原告X2との15分程度の面談を実施し,原告X2に対し,同年7月半ばの面談(将来のキャリア等について)を踏まえて話を切り出そうとしたが,原告X2が上記面談内容につき覚えていない様子であったため,やむなく,「Y社で何歳まで働くつもりですか。別のキャリア,次のキャリアをどう考えていますか。」等と尋ねたところ,原告X2が質問の趣旨を理解しかねる様子であった。そこで,Gは,原告X2の業務の幅と責任の遂行度合いが不十分であること,現状のままでは昨年のPBC評価を維持できないこと等を話した上,退職の選択肢と特別支援プログラムの存在を紹介したところ,原告X2は,「60歳まで働くつもりです。転職は考えていません。」と返答した。Gは,15分の予定時間が経過したため,特別支援プログラムの具体的な内容等の説明をしておらず,原告X2に十分な判断材料を提供しないまま退職勧奨を終えることはできないと考え,退職勧奨につき面談を続行する旨伝えて,第1回面談を終えた。
Gは,上記面談後,Hに対して上記面談の経過を報告したところ,特別支援プログラムの具体的条件を説明して検討してもらう必要がある旨の意見で一致し,また,第2回面談については,時間を空けて翌週にでも改めて実施することとなった。
(b) しかし,翌24日午後,原告X2がGに対して昨日の話の続きをしたい旨の申入れをしたことから,Gは,上記(a)の面談の続行をするべく,会議室にて,原告X2に対する退職勧奨を目的とする第2回面談を実施した。ところが,原告X2は,突然,「こういう話をすること自体が違法行為です。退職勧奨は違法行為です。このような話をするときは今後組合を通してください。」旨述べて,退職勧奨に応じない意思を明確にした。
Gは,原告X2の普段と異なる強い口調に不安と戸惑いを感じたが,原告X2が自らの低い業績評価を理由に退職に追い込まれると危惧してこのような発言に至ったものと理解し,原告X2に対し,原告X2の今後のキャリアの選択肢の一つとして特別支援プログラムが用意されているので詳細を見てもらいたいだけであるとして,同プログラムの概要を説明し,また,原告X2の業績が上記a(a)及び(b)のとおり良好でないこと,業務遂行が受け身であり,バンド7としての職責が果たされておらず,業績改善の努力もうかがえないことを指摘して,特別支援プログラムへの応募を検討するよう求めた。
しかし,原告X2は,上記の説明を踏まえ,Gに対し,60歳までY社で働き続けたい旨返答したため,Gは,もはや,原告X2に対する退職勧奨を継続することは困難であると判断し,今後,原告X2が在職することを前提として,その実績とスキルを検証して今後10年間の業務への取組み等につき一緒に考えたい旨述べて,第2回面談を終了した。
(c) Gは,Hに対して上記の面談の経過を報告し,人事担当者と協議することとした。そして,同月29日の協議を踏まえ,原告X2に対する退職勧奨を行うことを取り止め,Gらは,原告X2に対する業績改善のための支援を行うこととなった。
(d) 同年11月4日,原告X2は,Gらによる面談を翌5日に実施したい旨のメールを受信したが,同面談が退職勧奨目的によるものであると考え,Gらに対し,支部組合に加入したので今後は支部組合を通してもらいたいとして,同面談に応じることを拒否する旨のメールを返信した。
そこで,Hは,上記面談の目的が原告X2のパフォーマンスや今後のキャリアについて話し合う位置付けであり,通常業務の一部であるから,支部組合に加入することとは無関係である旨メールで送信した。しかし,原告X2は,上記面談が退職勧奨目的であると確信していたため,通常業務の一部とは見なせず,今後一切直接話をすることを拒否する旨のメールを返信したところ,Hは,上記の趣旨での面談を実施したい旨のメールを改めて送信したが,原告X2は,上記の認識に基づき,上記面談を通常業務のためのものとは見なせないとして拒否した。
(甲42)
(e) 同月7日,Hは,原告X2に対し,面談事務は業務であること,面談の趣旨は,会社の置かれている状況や今後Y社がどういう方向で進むかを理解してもらいたいことと,原告X2のパフォーマンスやキャリアについて確認することであり,面談に応じてもらいたい旨のメールを送信した。しかし,原告X2は,Hに対し,再度面談を拒否する,支部組合が被告に面談強要を止めるよう文書で申し入れている旨のメールを返信した。
そこで,Hは,原告X2に対し,上記送信メールの面談に関する趣旨を繰り返すとともに,この面談ができなければPBC評価や業務に係る面談もできなくなり,面談拒否を続けると業務に支障も出てくるし,業務拒否の可能性があるので考慮してもらいたいこと,退職勧奨目的の面談であると勘違いせずに対応してもらいたいこと,原告X2が支部組合への加入によりHの原告X2に対する対応や言動が変わることは断じてないことを内容とするメールを送信した。
すると,原告X2は,Hに対し,Hの求める面談が退職勧奨目的であった上記の第1回及び第2回の各面談と同様のものであると理解し,これ以上そのような面談を不要と考えて回答したこと,業務として必要で,退職勧奨を目的としない前向きなPBC評価や業務に関する面談であれば拒否しないこと,Hの求める面談が,退職勧奨目的でないこと,業務向上のために前向きな内容であると明らかにしてもらいたいこと,以上を内容とするメールを返信した。
これに対し,Hは,原告X2に対し,退職勧告はあり得ないし,Gも「退職勧告などしていないと考え」ていること,被告と原告X2の現状認識に係る理解と具体的な改善について話すのを目的とすることを内容とするメールを送信した。
(甲43)
(f) 同月10日,上記(d)及び(e)のやり取りを踏まえ,Hと原告X2との間で第3回目の面談が実施された。その際,Hは,原告X2に対し,年収1000万円強の給与額に見合うだけの仕事をしてほしい旨,本件企業文化を明確に打ち出しているからきちんとやらないと厳しく,頑張るしかない旨述べて,原告X2の課題(上記a(a)及び(b))を指摘して改善策を検討するように指示したところ,原告X2は,素直に応答して「頑張ります。」と返答した。
(g) 同月12日,Hは,原告X2に対して第4回面談を実施し,上記(f)で検討を指示した具体的な業務改善策を聴取することとした。しかし,原告X2が特に具体案を検討していなかったため,Hは,原告X2に対し,G及びOと話し合った後に再度面談を行い,具体的な改善策の確認をすることとして,同面談が終了した。
なお,その際,Hは,原告X2に対し,自らが若いころに会社に泊まり込む等血へどを吐く思いで仕事に取り組んだ経験談を話し,それくらいに頑張って真剣に,仕事に取り組んでもらいたい趣旨の発言をして改善のための努力を求める旨,また,定年まで被告で勤務を継続するとしても,客観的な業績と自己の認識とのかい離を持ったまま定年を迎えるのはどうかとの思いから,会社内でのキャリア,どういう職種を選択して仕事をしていくかについても,この機会に考えた方がよい旨も併せて話した。
そこで,原告X2は,上記の面談結果におけるHの指導を踏まえ,同日中に,G及びOに対して,SO-OMCの仕事分担調整についてのミーティングを求め,Gらはこれを承諾した。
(甲44,乙66,89)
(h) 同月13日,上記(g)の面談結果を踏まえて,Hは,原告X2の業績と自己の認識とのかい離を明確にし,原告X2にそれを理解してもらう目的で,業務改善に係る後記(j)の第5回面談に先立ち,原告X2に対し,現状の業績が継続した場合にはPBC評価が「3」となる見通しである旨のメールを送信した。(甲45)
(i) 原告X2は,既に支部組合に所属していたものの,上記(g)の面談経過及び面談結果並びに上記(h)のPBC評価見通しに対して特に反発したり異議を述べたりする様子もなく,そのまま数日が経過した。そして,同月17日,原告X2は,上記(g)の予定通り,G及びOとミーティングを行った。
しかし,原告X2は,その際,業績改善のための抽象的な意見に終始したため,同月18日,Gは,原告X2に対し,同原告の業務改善に資するミーティングを提案したところ,原告X2もこれに同意し,同日中にミーティングが行われた。
(j) 同月19日,Hは,上記(i)のG,O及び原告X2とのミーティングに係る報告を受け,同日に原告X2との第5回面談を実施し,その後,原告X2に対する業務改善の支援がなされることとなった。この際,原告X2は,Hに対し,上記(h)のPBC評価「3」の見通しについて,何度も,「PBC評価『3』は何とか撤回できませんか。」,「何とかなりませんか」等と懇請したものの,Hは,同評価が確定的ではないものの,現時点の業績が改善しなければ上記の見通しが変わることはない旨説明した。(乙90,93)
(k) こうして,Gらは,原告X2に対する業務改善を支援し,原告X2自身も自らのこれまでの低い業績を認識した上で,業務改善に取り組んでいく姿勢を見せていると思っていた。
ところが,同月25日に実施された第6回面談において,原告X2は,突然,Gに対し,「同年10月24日のGとの面談以降,ショックで体調が悪化した。」,「PBC評価『3』の通知を取り消さない限り,労基署に行って話すので,Gのキャリアに傷がつく。」,「業績改善プランは自分一人で策定し実行する。信用できない上司の支援は必要ない。」等と一方的に通告し,Gからの話しかけには取り合おうとせず,その日の面談は終了した。
そして,同年12月2日,原告X2は,Hに対し,上記(h)のメールに係るPBC評価が不当であり撤回を要求する旨,同メールが原告X2の支部組合加入に対する報復であり不当労働行為であると抗議する旨のメールを送信した。(甲46)
(イ) 検討
a 上記(ア)の事実によれば,Gが平成20年10月23日及び同月24日に原告X2に対してした退職勧奨行為について,その手段・方法等が社会通念上相当な範囲を逸脱するような態様であったことを客観的に裏付ける具体的事実は認められない。また,Hが同年11月10日,同月12日及び同月19日に原告X2に対してした原告X2の業務改善に係る説明等を含む面談や,同月13日に原告X2に対して送信したPBC評価の見通し等についても,当時の時点における原告X2の低業績に基づいて原告X2に対して業務改善を図ることを目的としていたこと,前提となる原告X2に対する評価に係る裁量権の濫用又は逸脱を裏付ける具体的事実を認めるに足りる証拠がないことからすると,その面談方法やその過程でされた説明(メール送信を含む。)等が社会通念上相当な範囲を逸脱するような不当な態様でなされたと認めることはできない。
b 原告X2は,Gらから特別支援プログラムへの応募を勧奨された事実経過につき,前記第2の4(1)ア(ウ)のaないしgのとおり主張し,これに沿う供述をし,また,実施された各面談の経緯についても上記認定と異なる供述をする。
しかし,第2回面談の経緯について検討するに,仮にGが第1回面談を実施した翌々日,しかも就業時間後の午後7時にわざわざ原告X2を呼び出して再度退職勧奨をしたとすれば,それは,Gが原告X2に対して特別支援プログラムに早期に応募させようとする意図を有していたからと解さざるを得ないが,そのような面談実施方法は,あまりに性急であってRAプログラムの留意事項(前記第2の2(4)イ(カ)b(e))に反する上,Gが第2回面談実施後の早い時期に原告X2から特別支援プログラムに応募する旨の返答を早急に得ようとした様子は全くうかがえないこと(原告X2が第3回面談に応じるよう要請されたのは,同年11月4日,すなわち第2回面談日から10日以上も経過した後である。)からすると,原告X2の主張に係る第2回面談の経過は不自然であり,採用することは困難である。
なお,原告X2の「退職勧奨の話は組合を通してもらいたい。」旨の発言についても,Gにとっては退職勧奨が事実上不可能となる衝撃的な内容であり,そのような明確な記憶に対する信用性は高いというべきである(原告X2の支部組合への加入時期は必ずしも明らかではないが,仮に第2回面談後であったとしても,原告X2は,支部組合への正式加入に先立って,支部組合に退職勧奨に対する対応等につき相談した可能性があり,その際に支部組合関係者から上記趣旨の発言をすることにつき助言を得ていた可能性もある。そうすると,原告X2の支部組合への正式加入の時期と上記発言の順序が逆であるからといって,直ちに,第2回面談時における上記発言の不存在を客観的に裏付けることにはならない。)。
また,第3回以降の面談の経緯についても検討するに,原告X2は,OやGと業務改善に関するミーティングに応じており,その過程で,原告X2は任意かつ継続的に指導を受けているのであり,原告X2自身も,業績改善プランの策定と実施そのものについては拒否していない。そうすると,Hによって実施された第3回以降の面談は,原告X2に対する退職勧奨目的ではなく,原告X2の業務改善目的で実施されたと推認することができるから,原告X2の供述は採用することができない。
(ウ) まとめ
以上によれば,被告が原告X2に対してした退職勧奨又はその後の説明や面談等について,違法があるとは認められない。
エ 原告X3に関する事実経過
(ア) 前記前提事実,証拠(甲59の1,乙63,74ないし78,証人I,原告X3本人のほか,認定に供した証拠は末尾に摘示)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
a 原告X3がRAプログラムの対象とされた経緯
(a) 原告X3は,平成18年12月26日から平成19年4月9日までの69労働日にわたって出社せず,このうち年次有給休暇23日分を含む41日分については所属長に対して出社できない旨の連絡を入れていたが,残り28日分については無断欠勤であった。このため,原告X3は,同年6月22日,出勤停止5労働日(同月28日から同年7月4日まで),バンド6から4への降格,同年6月27日まで始末書を提出すること,を内容とする懲戒処分を受けたものである。(乙12)
(b) 平成20年当時,原告X3は,被告において,顧客のインフラシステム等を構築する業務を担当するITSソリューション・センター第五オープンサーバー技術部門に所属していたところ,バンド4のままでは,社内ルールにより,単独で「デリバリー」業務,すなわち,顧客とやり取りしながらシステムの構築,保守及び運用等のサービスを提供する業務に従事することができなかった。
このため,原告X3は,バンド6に昇格して上記業務に従事できるようになることを希望し,Iも,原告X3が平成20年のPBC目標として,バンド6に昇格するべく,①「70-290マイクロソフト・ウィンドウズ・サーバー2003環境の管理及びメンテナンス」の資格を取得すること,②技術者認定試験のための「Y社技術者認定試験対応x Series/System xの概要とハンズオン」(1RE061JP)の講義を受講すること,③「RE064 System X障害監視ハンズオン」の講義を受講すること,を設定したことを承認した。
(乙13,102,103)
(c) しかるに,原告X3は,上記のPBC目標がシステムエンジニアであれば誰でも達成可能な内容であり,ましてや,部門の本来の業務である「デリバリー」を行っていなかったために時間的余裕も十分にある立場であったにもかかわらず,上記①の資格取得のための試験を受けることさえせず(乙101の1ないし3),上記②及び③の技術者認定試験の講義も受講しなかったものである。
(d) 原告X3は,こうした業務態度によりバンド昇格の意欲がなく,真摯に仕事に取り組む意思もなくしていると見られたため,特別支援プログラムに応募してもらう社員の一人として選定された。
b 原告X3に対する退職勧奨に係る事実経過
(a) 平成20年10月24日,Iは,原告X3に対する面談を実施し,原告X3に対し,特別支援プログラムの概要を説明し,同プログラムに応募する意思があるかを尋ねたところ,原告X3は応募する意思がない旨返答した。
Iは,原告X3の所属長になった当初の面談において,原告X3から「以前,早期退職プログラムで肩たたきにあったので,自分の身を守るために組合に入った。」旨聞いていたため,今回の特別支援プログラムへの応募も断るだろうと予想していた。そして,上記のとおり,原告X3が退職勧奨を拒否する旨回答したため,一旦交付した「特別セカンドキャリア支援プログラムのご案内」と題する書面を返戻させ,同面談を終了した。そして,Iは,同日中に,上司であるJに対して原告X3の対応等を報告し,Jは「意思が固いのであればこれ以上面談はやらない方がいいですね。」,「会社に残るのであればちゃんと仕事をやってもらわないといけませんね。」等とコメントし,以降,I及びJは,原告X3に対して,RAプログラムのための面談を実施しないことを決定した。
(乙14,99,100)
(b) Iは,上記(a)の面談以前の時点で,部下のQ(以下「Q」という。)から,都庁の地震サーバー関連の案件(以下「都庁案件」という。)を主に担当する人を選定してもらいたい旨の要請を受けており,この担当候補者として,原告X3を充てることを検討していた。そして,上記(a)のとおり,原告X3が特別支援プログラムへの応募を拒否し,その結果,被告に在職して業務を継続することが明確となったため,Iは,上記検討を実行に移すべく,Jとも意見交換しながら準備に着手した。(乙91)
(c) そこで,同月31日,Iは,原告X3に対し,来週火曜日(同年11月4日)の午後2時から午後3時まで,9月及び10月の実績内容と,今後の原告X3自身が考える被告への貢献の内容について面談したい旨メールで申し入れた。これに対し,原告X3は,面談を了承したものの,退職勧奨を拒否する返事をする点で繰り返しとなるがそれでもよいか,と念押しした上,特別支援プログラムと関係があるのか,と問う趣旨の返信メールを送った。それを受けて,Iは,原告X3に対し,上記(a)の面談では,原告X3が今後の被告に対する業務貢献につき真剣に考えているとは受け取れなかったので,改めてその趣旨で面談したいこと,この面談は特別支援プログラムへの応募勧奨とは無関係である旨メールで再度送信した。
そして,同日,Iは,都庁案件に係る資料一式を原告X3に読ませるため,Qに対し,上記資料一式をI宛てに送るようメールで指示し,Qは,同年11月3日,Iの指示に従い,上記資料一式を添付して返信メールを送信した。
(乙15,67)
(d) 同月4日午後2時ころ,Iは,原告X3に都庁案件に関する業務を担当してもらうべく,被告本社11RS-121会議室(以下「本件会議室」という。)において,原告X3との面談に臨んだ(以下「本件X3面談」という。)。
なお,本件会議室は他の会議室とも隣接し,また,他の従業員の執務室とも近接しており,複数の部屋が並ぶ長方形の空間の一つである。その中央には長方形の会議室用テーブル2卓(横幅約90センチメートル,縦幅は不明だが,横幅よりも相当程度長い。)が縦に並べて設置されている。その両側には椅子が5席ずつ並べられており,人が向かい合って座り会話できる構造となっているが,両側の5席ずつの椅子の間隔は狭く,また,椅子に人が着席すると椅子とその後方との壁との距離はかなり狭くなり,人が身体を横に向けなければ通れないほどである。また,本件会議室の床は,パソコン等の配線が床上に露出しないように床上約5センチメートルの位置にパネル床が設置され,更にその上にタイルカーペットが敷き詰められた構造となっている(パネル床と建物の床との間には空間が設けられている。)。(乙92,96ないし98)
(e) Iは,本件X3面談において,原告X3による本件X3面談と特別支援プログラム応募勧奨との関連についての問いに対し,無関係である旨明言した。そして,原告X3に都庁案件を担当してもらうためには,現在原告X3が担当する「エスコン」という社内作業参加を終了してもらい,都庁案件に専念してもらう必要があると考えていたことから,業務の現状を聴取するべく,9月及び10月の仕事,成果の内容から聴き取ることとした。しかし,原告X3から聴取した内容は,「エスコン」の資料収集と英語の勉強等にとどまっていたため,Iは,原告X3に対し,英語のスキル向上は自己研鑽の一環であるから,「会社の業務ではなく自由時間にやってもらいたい。」旨要請するとともに,「エスコン」業務等を通じて,原告X3自身も希望していた「デリバリー」業務に従事するためのスキルを取得するためにどのようなことをしてきたかを重ねて質問した。しかるに,原告X3は「自由時間は別にやりたいことがある。」旨述べて英語の勉強を業務外で行うことについて難色を示したり,Iの質問をはぐらかすように,平成18年1月の人事異動に対する不平不満を縷々述べたりして,なかなか前向きな態度を示すことなく,さらには,Iにとっては,異動後の所属部門で新たなスキルを取得できなくとも,過去のスキルだけで仕事を分担させるのが上司としての当然の責務であるかのような趣旨に受け取れる発言に終始した。
Iは,過去はともかく,現在使えるスキルがあるかどうかが重要である旨説明し,原告X3の理解を得ようと努めていたが,原告X3は,都庁案件(原告X3に打診している段階であるため,具体的なプロジェクト名を伏している。)の担当につき消極的な姿勢を示す一方で,繰り返し,上記のとおり人事異動の経緯等に不満を述べたり,異動の理由を調査してもらいたい旨の後ろ向きの発言をしたり,上司は部下のスキルに見合った仕事を担当させるべきである趣旨に受け取れる発言をしたりした。また,原告X3は,都庁案件の業務担当に係る会話の流れとは全く無関係に,支部組合から事業所長に対して申入書を出す等の発言,支部組合に対して支部組合を通じて過去の自らに対する人事異動の経緯を調べてもらう旨申し入れる旨の発言,人事異動と退職勧奨を絡める発言をする等した。
これに対し,Iは,都庁案件を担当してもらいたいこと,この仕事を遂行することによって原告X3をバンド6に戻したいと考えていること等を話して仕事に前向きに取り組むように説得するとともに,退職勧奨との関連に疑いを抱いている点については,面談に先立って送信したメール(上記(c))の内容のとおり,本件X3面談が特別支援プログラムとは無関係である旨繰り返し説明する等し,最終的には,原告X3に対し,都庁案件の検討をするよう求めて原告X3の了承を取り付け,本件X3面談は終了した。
なお,原告X3は,本件X3面談中の原告X3とIとの間で交わされた会話につき録音をしていた。
(甲60の1ないし3,乙86の1の1及び2,乙86の2)
(f) Iは,本件X3面談後,原告X3に対し,Qから送信された都庁案件資料一式を転送し,同じ週の金曜日(同月7日午後4時30分)までに回答するよう求める一方,Qに対しては,原告X3に都庁案件の話をしたので丁寧に説明してもらいたい旨要請した。また,原告X3は,Qに対し,資料検討過程で質問等が生じた場合には支援をお願いしたい旨のメールを送信した。(乙16)
(イ) 検討
a 上記(ア)の事実によれば,Iの原告X3に対する特別支援プログラムへの応募勧奨は,平成20年10月24日におけるIと原告X3との面談で実施されたこと,原告X3はIに対して退職勧奨には応じない旨明確に述べたこと,I及びJは,原告X3の上記の意思表明に基づき,原告X3に対して退職勧奨をしないことを決定したこと,以上の事実が認められ,これらの事実によれば,同日の面談においてされた退職勧奨は社会通念上相当な範囲を逸脱するような状況は認められないし,また,これ以降,被告が原告X3に対して特別支援プログラムへの応募勧奨した事実を認めることはできないのであるから,被告が原告X3に対してした退職勧奨が違法である旨の原告X3の主張は理由がなく失当である。
b なお,本件X3面談において,Iが原告X3に対してした意見聴取や説明,説得等について検討するに,その目的は,原告X3に対する退職勧奨ではなく,自らの所管する部門全体の円滑な業務遂行を図り,また,原告X3がバンド4に甘んずることなく,都庁事案を担当することによりバンド6に復活して堅実に業務を遂行できることを企図したものであって,被告の厳しい経営環境下における人材の有効活用を図るものとして,一部門を掌理する長として掲げるべき業務目的として合理的である。
もっとも,その態様については,Iがやや興奮した物言いや動作等をしたことは否めないが,Iの真摯な質問又は働きかけに対する原告X3の上記のとおりの不誠実な回答内容や意欲に欠ける態度を踏まえると,Iがそのような感情の高ぶりを覚えたとしても必ずしも責められるべきものではない。加えて,Iと原告X3との会話のやり取りが途中で断絶することなく継続していること,原告X3がIの言動に対して「セキュリティ呼びましょうか。」,「何でそんな脅しをかけるの。」,「感情的になられるのは・・・部下が萎縮しますし。」等と,落ち着いた素振りともいえる態度を見せつつ,自らの発言が録音されることを意識してIを挑発する言動をしており,原告X3がIに恐怖している様子が全くうかがえないこと,Iが本件X3面談は退職勧奨目的ではない旨繰り返し述べているにもかかわらず,原告X3自身の業務不良の事実を指摘されると「退職勧奨」に結びつけてIを牽制する態度をとっていること(これらの事実はいずれも証拠(乙86の2)により認められる。)に照らすと,Iの本件X3面談における言動等が,業務指示に関する説明ないし説得の在り方として適切であったかどうかはともかく,社会通念上相当な範囲を逸脱するようなものであったと認めることは困難である(上司が業績不振の部下との間で部下の業務改善を目的とした面談を実施する際,部下自身も自らの業績不振を自覚しているのであるから,上司の面談における言動・所為は,当該部下にとって,相当程度の精神的負荷をもたらすものであり,些細な物言いであっても,詰問口調である等との印象を与えかねないものである。上司は管理職のスキルとしてその旨十分に留意すべきであるが,上司にそのようなスキルがなかったために部下がそのような印象を受けたからといって,上司のそれら言動等が直ちに違法となるものでもない。)。
c なお,Iが物理的動作としてしたペットボトルを振る等の行為(机を叩く行為を含む。)や,床を蹴る等の行為について検討するに,前者については,Iが原告X3に対して自分の考えを表現するためにしたことは認められるものの,これらの行為が原告X3の身体や心理状態を威圧する態様でされたと認めるに足りる証拠はない(上記認定のとおり,原告X3は何ら動揺していない。)。また,後者については,原告X3は,本人尋問において,Iが床を蹴る行為態様に係る尋問に対し,「テーブルからある程度離れた状態で,椅子を後ろにやって足を七,八回」踏みならした旨,「右足の膝を高く上げて床にたたきつけるような音をドンドンと10回程度」したよりも「もっと激しかったかもしれない」ようなものであった旨供述し,Iの威嚇行為を再現するとして,証人席の椅子を後方に引いた上,右足の膝を高く振り上げて床に向けて激しくドンドンと複数回叩き付けたのであるが,それは,法廷内に地響きのように強く響き渡り,階下の法廷にも迷惑をかけるかもしれないと思われるほどの激しい騒音をかき立てるものであったところ(当裁判所に顕著である。),上記認定に係る本件会議室の構造からすると,Iの椅子の背後の壁や横の椅子による極めて狭隘な空間においてそのような大仰な動作をとることはおよそ困難であるといわざるを得ないし,本件会議室が他の会議室や従業員執務室と隣接していることからすると,上記のような激しい物音と地響き(本件会議室の床構造からすると法廷で再現した以上に激しい音と揺れを生じさせるであろう。)を伴う常軌を逸するような行動をIがするとも考え難い。そもそも,そのような行動をすれば,当然,原告X3は驚愕し,会話の流れが長時間途切れるにとどまらず,支部組合に属し,かつ,本件会議室に録音装置まで持ち込む知識と用心深さを併せ持つ原告X3は,Iに対し,どうしてそのような威圧的な行動をするのか等と録音装置を意識して激しく抗議等するはずである。しかるに,原告X3がそのような対応をした形跡は全くないのである。しかも,原告X3は,本件X3面談後,Iの指示通りに,都庁案件につきQと意思疎通を図ろうとしているのである。そうすると,Iが物理的動作としてした上記各行為に係る原告X3の供述は,あまりに誇張に過ぎ,机の蹴り上げ行為を含めて,全体として信用性に乏しく,原告X3の主張に係る脅迫的又は威圧的な態様であったとは到底認められない。
それらのIの動作は,Iが自らの考えを体で表現したもの,または,不誠実な回答に終始する原告X3に対する苛立ちの現れとしての軽微な動作又は癖(貧乏揺すり)にすぎなかったものと認められ(乙87,乙95の1ないし4),原告X3を畏怖させるほどの違法な態様であったとは認められない。
(ウ) まとめ
よって,被告が原告X3に対してした退職勧奨又はその後の同原告に対する面談における説明や説得等の言動について,違法があるとは認められない。
オ 原告X4に関する事実経過
(ア) 前記前提事実,証拠(甲61,80,乙64,65,79,証人L,証人K,原告X4本人のほか,認定に供した証拠は末尾に摘示)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
a 原告X4がRAプログラムの対象とされた経緯
(a) 被告は,システム開発等のプロジェクトについては,プロジェクトごとに仕事を割り当てる社員を決める仕組みをとっており,プロジェクトの規模によっては,複数の部署から必要なスキルを持つ社員を招集することもあった。その場合,プロジェクトマネージャーが面接等によりメンバーを選別するため,スキルの高い社員には仕事が多く割り当てられたのに対し,スキルの低い社員に割り当てられる仕事は少なくならざるを得なかった。
(b) 原告X4は,平成20年当時「セキュリティ・サービス」という部署に所属していたものであり,セキュリティ製品を顧客の環境に合わせて変更し,システムとして構築する業務に従事していたところ,原告X4は仕事の割当てが少なく,稼働率(勤務時間に対する顧客に報酬を請求できる有償の稼働時間の割合で,月単位で形式的に決まるものである。)の低いことが問題となっていたため,Kらは,所属部署で適当な仕事がない場合には他部署のプロジェクトに紹介する等していた。しかし,原告X4が先方に断られたり,原告X4自身が何かと理由をつけて断るなどしていたため,上記の問題は解消されず,仕事の割当ての少ない時期が続いていた。
(c) このため,所属長のKは,同年9月18日,「休暇前に一度会話した」面談につき「中間PBCとして会話しましょう。」とのメールを原告X4に送信し,原告X4の今後の仕事の割当てについての面談に応じてもらうべく連絡して日程調整をし,同年10月7日,原告X4に対する第1回面談を実施した。この面談において,Kは,プロジェクトの技術系業務と管理系業務のうち,どちらの方面への進路を希望するか尋ねたところ,原告X4は,いずれの方面の業務も厳しく,IT以外の部門があればそこに異動したい旨,異動先については原告X4自身も探してみたい旨回答し,現在所属する部門での仕事が自らに適合していない旨の認識を示した。(乙30,31)
(d) 同月半ばころ,Lは,上司からRAプログラムの対象者を選定するよう指示を受けたことにより,Kを含むファーストラインの部下に相談した。Kは,原告X4が複数のプロジェクトマネージャーから物言いが攻撃的でけんかになる,コミュニケーションに問題があってプロジェクトが進まない等の理由で評判が良くなく,稼働率もKの部下の中で最下位で業績が悪かったことから,原告X4を選定し,原告X4をRAプログラムの対象者としてはどうかと提案した。Lは,以前に原告X4の直属の上司であったために上記の実情を熟知していたことから,この提案を了承した。
b 原告X4に対する退職勧奨にかかる事実経過
(a) 平成20年10月21日,Kは,原告X4に対する第2回面談を実施し,原告X4に対し,特別支援プログラムの概要を説明した上,次回の面談まで検討してもらいたい旨要請し,原告X4はこれを了承した。そして,同月28日に第3回面談が実施され,原告X4は,Kに対し,「良い転職先が見つかれば考えたい。」旨述べ,その後,再就職支援会社のカウンセリングを受けることとなり,その後に,改めて面談が実施されることとなった。(乙32)
(b) 同年11月11日,Kは,原告X4に対する第4回面談を実施した。この面談において,Kが原告X4に対してカウンセリングの結果等につき質問したところ,再就職支援会社には自分に適合する案件がなかったこと,希望条件を伝えたので良い情報があれば連絡をもらうこととなっていること,転職先が決まってから退職届を提出したいことを述べていたため,転職の会話はその程度で終わり,雑談を交わして上記面談は終了した。
Kは,同面談終了後,原告X4の転職の活動状況につき再就職支援会社に電話して問い合わせてみたところ,同社担当者から,原告X4が良い求人情報があれば後日知らせてもらいたい旨依頼したものの,個人的なメールアドレスを知らせていないことを聞いた。このため,Kは,原告X4が転職にあまり積極的でないとの印象を受けた。そして,翌12日,上記担当者から原告X4の希望条件に適合する案件があるとの連絡を受けたため,とりあえず,Kは,自らのメールアドレス宛てに情報を送信してもらうこととしたが,原告X4自身が上記担当者にメールアドレスを知らせていない状況であったので,Kから原告X4に転送することはしなかった。
(乙32,34)
(c) その後,原告X4から特に連絡等がないまま時間が推移したため,Kは,原告X4と日程調整をした上で,同年12月1日に第5回面談を実施した。なお,Lは,Kから,原告X4の意向やKと原告X4とのやり取り等につき報告を受けていたが,状況確認するべく,上記面談に立ち会うこととした。
第5回面談において,Kは,原告X4に対し,現状のままでは平成20年のPBC評価が「4」となること等,原告X4に対する評価等につき伝えた。また,Kが原告X4に対して転職の検討状況を尋ねたところ,原告X4が自分の希望に見合う仕事がなかったこと,退職勧奨に応ずることにつき消極的である旨述べた。Kは,上記(b)の転職情報の検討いかんを尋ねたところ,原告X4は検討していない旨返答したため,Kは,原告X4に対し,転送するので検討するように求め,原告X4も,良い転職先であれば応募すると返答した。
そこで,Kは,同面談が終了した後である同日午後10時4分,原告X4に対して上記転職情報を送信し,併せて,転職について話を進める場合にはKにも知らせてもらいたい旨要請した。また,その直後の同日午後10時25分,Kは,原告X4に対し,被告に在職する選択をした場合の評価を正確に認識してもらう必要もあると考え,上記面談でも伝えたとおり平成20年のPBC評価が「4」となること,賞与,定期俸が所定のとおり減額されることをメールで送信した。
同月2日,原告X4は,Kに対し,Kの送信した転職情報が年齢や経験の点で条件が適合していないとして,特別支援プログラムに応募することについて「不可能あるいは無駄だと思います。」として,明確に退職勧奨を拒否する旨の回答をした。
(乙33,34,55)
(d) Kらは,原告X4からの上記の回答を受けたことから,その後,特別支援プログラムに応募するよう働きかけることをしないまま時間が経過し,RAプログラムは,上記(1)ア(エ)のとおり,同月7日ころに終了した。
(e) 同月8日,Kは,原告X4を含む所属の部下ら25名に対し,年末のPBC評価の時期を迎えたことから,そのための面談を実施するべく,同月19日以降で日程調整を図りたい旨メール送信した。なお,上記のPBC評価に係る面談は,PBC評価が社員本人の同意がなくても確定するのだが,当該社員の自己に対する評価と根拠を納得することによってその後の当該社員の改善につながる,との考えから実施されていたものである。
原告X4との第6回面談は,日程調整の結果,同月25日に実施されたのであるが,その際,Kが,原告X4の業績,すなわち,Kの部署の部下中最下位であったため,PBC評価が「4」となった旨説明した。すると,原告X4は,評価「3」なら納得できるが「4」は納得できない旨,降格されるレベルではない旨述べた。Kは,PBC評価「4」になったとしても直ちに降格されるわけではない旨説明すると,原告X4は,PBC評価が「4」になっても降格されないのであれば納得するが,しかし,口約束では駄目であり,やはり不同意である旨反論し,また,退職勧奨を目的とする恣意的な評価である旨言い立てた。
(乙35)
(f) Kは,上長であるLからも説明をしてもらう必要性があると判断し,上記(e)の経緯を説明してLの同席を求め,Lはこれを了承した。そして,平成21年1月20日,第7回面談が実施された。
しかし,第7回面談においても,原告X4は,PBC評価「4」に納得せず,結局,原告X4に対するPBC評価は,同原告の不同意のまま確定した。
そして,被告は,原告X4の業績不良を理由に業績改善プログラムを実施することとなり,同年2月23日及び同月26日の面談を経て,これを実施した。原告X4に対する業績改善プログラムの進捗管理期間は同年6月30日に終了することとされていたところ,Kらは,そのころ,原告X4の業務態度等について,同業務に従事した周辺同僚らから聴取し,改善目標が達成されたと判断し,同年7月14日,原告X4との面談に臨み,原告X4に対して同プログラムを終了する旨の判断結果と理由を説明した。
(乙44ないし52)
(イ) 検討
a 上記(ア)の事実によれば,Kが原告X4に対して実施した第1回面談は,原告X4の業績不振を踏まえ,原告X4の被告内における将来の職種又は進路の選択に関する同原告の意向聴取がされたものにすぎず,また,その聴取の態様等についても社会通念上相当な範囲を逸脱するようなものは認められないから,違法な退職勧奨である旨の原告X4の主張は理由がなく失当である。
また,RAプログラムが実施された平成20年10月半ば以降で,原告X4がRAプログラムの対象者として選定された以降にされた第2回ないし第5回面談について検討するに,原告X4は,特別支援プログラムに応募するべく再就職支援会社のカウンセリングを受け,かつ,具体的な再就職候補会社の紹介を受けていたのであり,少なくとも同年12月2日に退職勧奨を明確に拒否する意思を表明するまでの間,転職を将来の選択肢として検討する姿勢を示していたものであり,これに加え,上記認定のとおり原告X4の業績不良の現状を踏まえると,K又はLが,同月1日の第5回面談時まで,原告X4に対し,具体的な転職先の条件の検討を要請等し,特別支援プログラムへの応募を積極的に検討してもらいたい旨働きかけるのはむしろ当然である。しかも,K又はLの原告X4に対する説明等の勧奨方法等には社会通念上相当な範囲を逸脱するようなものは認められないのであるから,被告が原告X4に対してした退職勧奨について違法があるとは認められない。
さらに,第6回面談以降において被告が原告X4に対してした業績改善プログラムについては,原告X4の業績不良という厳然たる事実を踏まえ,原告X4が被告に在籍するのであれば業務改善を図ってもらうことが必要であるとの方針の下に実施されたものであるところ,被告が原告X4のPBC評価に係る裁量権の濫用又は逸脱したことを裏付ける具体的事実を認めるに足りる証拠がない(退職勧奨拒否に対する報復等とは認められない。)から,上記面談及びそれ以降の業績改善プログラムの実施等について違法があるとは認められない。
b 原告X4は,平成20年10月7日の第1回面談時にも退職勧奨があり,また,同年12月25日の第6回以降の面談時にも退職勧奨があったが,それらは違法な退職強要である旨主張し,それに沿う供述をする。しかし,前者については,第1回面談が,RAプログラムの実施(同年10月半ば開始)よりも前に行われたことからすると,その供述は信用性に乏しいものといわざるを得ないし,また,後者についても,RAプログラムが既に終了している(同年12月7日ころに終了)にもかかわらず,Kらが原告X4に対してことさら退職勧奨するとは到底考え難いことからすると,やはり原告X4の供述は採用することができない。加えて,原告X4の主張に係る自らに対するPBC評価「4」の低評価が退職勧奨拒否の報復等である旨の主張についても,原告X4がそもそもRAプログラムの対象者として選定された経緯,すなわち,Kの所掌部署の部下の中で最低の業績であったことを踏まえると,評価に係る裁量権の濫用又は逸脱は認め難く,上記主張は到底採用することができない。
(ウ) まとめ
以上によれば,被告が原告X4に対してした退職勧奨又はその後の説明や面談等,更には業績改善プログラムの実施等について,違法があるとは認められない。
(3)  退職勧奨の違法性の成否に係るまとめ
上記(1)及び(2)アないしオの検討結果のとおり,被告が原告らに対してした退職勧奨には違法があるとは認められない。また,被告が原告らに対してした業績評価及びそれに基づく面談における説明等についても,業績評価に係る裁量権の濫用又は逸脱の違法があるとは認められない(上記認定のとおり,そもそも原告らがRAプログラムの対象に選定された理由が原告らの低い業績にあるのだから,原告らに対する低いPBC評価について,これを退職勧奨拒否に対する報復と認定することは困難である。)し,面談における説明等の方法や態様につき社会通念上相当と認められる範囲を逸脱するような違法があると認めることもできない。
2  結論
以上によれば,原告らの請求は,争点2を検討するまでもなく理由がないからいずれも棄却すべきである。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判官 渡邉和義)

 

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