【営業代行から学ぶ判例】crps 裁判例 lgbt 裁判例 nda 裁判例 nhk 裁判例 nhk 受信料 裁判例 pl法 裁判例 pta 裁判例 ptsd 裁判例 アメリカ 裁判例 検索 オーバーローン 財産分与 裁判例 クレーマー 裁判例 クレプトマニア 裁判例 サブリース 裁判例 ストーカー 裁判例 セクシャルハラスメント 裁判例 せクハラ 裁判例 タイムカード 裁判例 タイムスタンプ 裁判例 ドライブレコーダー 裁判例 ノンオペレーションチャージ 裁判例 ハーグ条約 裁判例 バイトテロ 裁判例 パタハラ 裁判例 パブリシティ権 裁判例 ハラスメント 裁判例 パワーハラスメント 裁判例 パワハラ 裁判例 ファクタリング 裁判例 プライバシー 裁判例 プライバシーの侵害 裁判例 プライバシー権 裁判例 ブラックバイト 裁判例 ベネッセ 裁判例 ベルシステム24 裁判例 マタニティハラスメント 裁判例 マタハラ 裁判例 マンション 騒音 裁判例 メンタルヘルス 裁判例 モラハラ 裁判例 モラルハラスメント 裁判例 リストラ 裁判例 リツイート 名誉毀損 裁判例 リフォーム 裁判例 遺言 解釈 裁判例 遺言 裁判例 遺言書 裁判例 遺言能力 裁判例 引き抜き 裁判例 営業秘密 裁判例 応召義務 裁判例 応用美術 裁判例 横浜地裁 裁判例 過失割合 裁判例 過労死 裁判例 介護事故 裁判例 会社法 裁判例 解雇 裁判例 外国人労働者 裁判例 学校 裁判例 学校教育法施行規則第48条 裁判例 学校事故 裁判例 環境権 裁判例 管理監督者 裁判例 器物損壊 裁判例 基本的人権 裁判例 寄与分 裁判例 偽装請負 裁判例 逆パワハラ 裁判例 休業損害 裁判例 休憩時間 裁判例 競業避止義務 裁判例 教育を受ける権利 裁判例 脅迫 裁判例 業務上横領 裁判例 近隣トラブル 裁判例 契約締結上の過失 裁判例 原状回復 裁判例 固定残業代 裁判例 雇い止め 裁判例 雇止め 裁判例 交通事故 過失割合 裁判例 交通事故 裁判例 交通事故 裁判例 検索 公共の福祉 裁判例 公序良俗違反 裁判例 公図 裁判例 厚生労働省 パワハラ 裁判例 行政訴訟 裁判例 行政法 裁判例 降格 裁判例 合併 裁判例 婚約破棄 裁判例 裁判員制度 裁判例 裁判所 知的財産 裁判例 裁判例 データ 裁判例 データベース 裁判例 データベース 無料 裁判例 とは 裁判例 とは 判例 裁判例 ニュース 裁判例 レポート 裁判例 安全配慮義務 裁判例 意味 裁判例 引用 裁判例 引用の仕方 裁判例 引用方法 裁判例 英語 裁判例 英語で 裁判例 英訳 裁判例 閲覧 裁判例 学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例 共有物分割 裁判例 刑事事件 裁判例 刑法 裁判例 憲法 裁判例 検査 裁判例 検索 裁判例 検索方法 裁判例 公開 裁判例 公知の事実 裁判例 広島 裁判例 国際私法 裁判例 最高裁 裁判例 最高裁判所 裁判例 最新 裁判例 裁判所 裁判例 雑誌 裁判例 事件番号 裁判例 射程 裁判例 書き方 裁判例 書籍 裁判例 商標 裁判例 消費税 裁判例 証拠説明書 裁判例 証拠提出 裁判例 情報 裁判例 全文 裁判例 速報 裁判例 探し方 裁判例 知財 裁判例 調べ方 裁判例 調査 裁判例 定義 裁判例 東京地裁 裁判例 同一労働同一賃金 裁判例 特許 裁判例 読み方 裁判例 入手方法 裁判例 判決 違い 裁判例 判決文 裁判例 判例 裁判例 判例 違い 裁判例 百選 裁判例 表記 裁判例 別紙 裁判例 本 裁判例 面白い 裁判例 労働 裁判例・学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例・審判例からみた 特別受益・寄与分 裁判例からみる消費税法 裁判例とは 裁量労働制 裁判例 財産分与 裁判例 産業医 裁判例 残業代未払い 裁判例 試用期間 解雇 裁判例 持ち帰り残業 裁判例 自己決定権 裁判例 自転車事故 裁判例 自由権 裁判例 手待ち時間 裁判例 受動喫煙 裁判例 重過失 裁判例 商法512条 裁判例 証拠説明書 記載例 裁判例 証拠説明書 裁判例 引用 情報公開 裁判例 職員会議 裁判例 振り込め詐欺 裁判例 身元保証 裁判例 人権侵害 裁判例 人種差別撤廃条約 裁判例 整理解雇 裁判例 生活保護 裁判例 生存権 裁判例 生命保険 裁判例 盛岡地裁 裁判例 製造物責任 裁判例 製造物責任法 裁判例 請負 裁判例 税務大学校 裁判例 接見交通権 裁判例 先使用権 裁判例 租税 裁判例 租税法 裁判例 相続 裁判例 相続税 裁判例 相続放棄 裁判例 騒音 裁判例 尊厳死 裁判例 損害賠償請求 裁判例 体罰 裁判例 退職勧奨 違法 裁判例 退職勧奨 裁判例 退職強要 裁判例 退職金 裁判例 大阪高裁 裁判例 大阪地裁 裁判例 大阪地方裁判所 裁判例 大麻 裁判例 第一法規 裁判例 男女差別 裁判例 男女差别 裁判例 知財高裁 裁判例 知的財産 裁判例 知的財産権 裁判例 中絶 慰謝料 裁判例 著作権 裁判例 長時間労働 裁判例 追突 裁判例 通勤災害 裁判例 通信の秘密 裁判例 貞操権 慰謝料 裁判例 転勤 裁判例 転籍 裁判例 電子契約 裁判例 電子署名 裁判例 同性婚 裁判例 独占禁止法 裁判例 内縁 裁判例 内定取り消し 裁判例 内定取消 裁判例 内部統制システム 裁判例 二次創作 裁判例 日本郵便 裁判例 熱中症 裁判例 能力不足 解雇 裁判例 脳死 裁判例 脳脊髄液減少症 裁判例 派遣 裁判例 判決 裁判例 違い 判決 判例 裁判例 判例 と 裁判例 判例 裁判例 とは 判例 裁判例 違い 秘密保持契約 裁判例 秘密録音 裁判例 非接触事故 裁判例 美容整形 裁判例 表現の自由 裁判例 表明保証 裁判例 評価損 裁判例 不正競争防止法 営業秘密 裁判例 不正競争防止法 裁判例 不貞 慰謝料 裁判例 不貞行為 慰謝料 裁判例 不貞行為 裁判例 不当解雇 裁判例 不動産 裁判例 浮気 慰謝料 裁判例 副業 裁判例 副業禁止 裁判例 分掌変更 裁判例 文書提出命令 裁判例 平和的生存権 裁判例 別居期間 裁判例 変形労働時間制 裁判例 弁護士会照会 裁判例 法の下の平等 裁判例 法人格否認の法理 裁判例 法務省 裁判例 忘れられる権利 裁判例 枕営業 裁判例 未払い残業代 裁判例 民事事件 裁判例 民事信託 裁判例 民事訴訟 裁判例 民泊 裁判例 民法 裁判例 無期転換 裁判例 無断欠勤 解雇 裁判例 名ばかり管理職 裁判例 名義株 裁判例 名古屋高裁 裁判例 名誉棄損 裁判例 名誉毀損 裁判例 免責不許可 裁判例 面会交流 裁判例 約款 裁判例 有給休暇 裁判例 有責配偶者 裁判例 予防接種 裁判例 離婚 裁判例 立ち退き料 裁判例 立退料 裁判例 類推解釈 裁判例 類推解釈の禁止 裁判例 礼金 裁判例 労災 裁判例 労災事故 裁判例 労働基準法 裁判例 労働基準法違反 裁判例 労働契約法20条 裁判例 労働裁判 裁判例 労働時間 裁判例 労働者性 裁判例 労働法 裁判例 和解 裁判例

「成果報酬 営業」に関する裁判例(76)平成18年10月25日 東京地裁 平17(ワ)2672号 賃金等請求事件 〔マッキャンエリクソン事件〕

「成果報酬 営業」に関する裁判例(76)平成18年10月25日 東京地裁 平17(ワ)2672号 賃金等請求事件 〔マッキャンエリクソン事件〕

裁判年月日  平成18年10月25日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平17(ワ)2672号
事件名  賃金等請求事件 〔マッキャンエリクソン事件〕
裁判結果  一部認容  上訴等  控訴  文献番号  2006WLJPCA10250005

要旨
◆広告代理店を業とする被告会社の従業員である原告が、管理職である給与等級から非管理職である給与等級に降級されたことを不服として、降級前の地位にあることの確認を求めるとともに、降級前の賃金と降級後の賃金の差額の支払を求めた事案につき、差額賃金の請求にとどまらず待遇上の階級を表す地位の確認を求める訴えにつき確認の利益を認めた上、降級処分が退職勧奨を拒否したことに理由があるものと推認され、降級処分は権限の裁量の範囲を逸脱したものとして無効と判断された事例

新判例体系
公法編 > 労働法 > 労働基準法〔昭和二二… > 第二章 労働契約 > 労働契約 > ○労働契約 > (二)労働契約の内容 > F 賃金・賞与
◆広告代理店の業務部次長が、給与等級七級から六級に降級された処分は、降級基準である勤務態度が七級に期待されたものと比べて著しく劣っていたこと、著しい能力の低下・減退があったことが認められず、権限の裁量の範囲を逸脱したものであって無効である。

 

評釈
中垣内健治・判タ別冊 22号322頁(平19主判解)
水口洋介・労働法学研究会報 58巻23号4頁
石井妙子・労経速 1963号2頁

参照条文
民事訴訟法134条
民法1条
民法1条3項
労働基準法2章

裁判年月日  平成18年10月25日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平17(ワ)2672号
事件名  賃金等請求事件 〔マッキャンエリクソン事件〕
裁判結果  一部認容  上訴等  控訴  文献番号  2006WLJPCA10250005

原告 甲山A男
上記訴訟代理人弁護士 水口洋介
同 坂本雅弥
被告 株式会社マッキャンエリクソン
上記代表者代表取締役 戊野D男
同訴訟代理人弁護士 八代徹也

 

主  文

1  原告は、被告において、給与等級7級の労働契約上の地位を有することを確認する。
2  被告は、原告に対して、2003年4月から2004年3月までの間、毎月15日限り各8万6142円、2004年4月から2005年4月までの間、毎月15日限り各2万4481円及びこれらに対する支払日の翌日である各月16日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3  原告のその余の請求を棄却する。
4  訴訟費用はこれを3分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
5  この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求
1  主文第1項と同旨
2  被告は、原告に対して、別紙給与一覧表の差額賃金欄各記載の各金員及びこれに対する各支払期日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
本件は、被告の従業員である原告が、給与等級7級から6級に降級されたことを不服として、降級前の7級の地位にあることの確認を求めるとともに、降級前の賃金と降級後の賃金との差額の支払を求めた事案である。
1  争いのない事実等(証拠等により認定した事実は当該証拠等を文末に掲記し、当事者間に争いのない事実は、文末に何も掲記しない)
(1)  当事者
ア 被告は、米国法人であるマッキャンエリクソン社と日本法人である博報堂の共同出資により、1960年12月に設立された広告代理店(当時の商号は株式会社マツキヤンエリクソン博報堂)である。米国マッキャンエリクソン社は、1994年、博報堂から株式を買い取り、現在の商号に変更した。
イ 原告は、1984年4月、被告に入社し、同社媒体局に配属され、広告代理店業務に従事してきた。原告は、2002年1月以降、被告のメディアマーケティング本部業務部(以下「業務部」という)に所属し、同部の業務に従事している。
(2)  被告のこれまでの賃金制度
被告の2001年9月当時の給与規程(以下「旧賃金規程」という)は、次のとおりの内容であった(甲1)。
(給与体系)
第2条 給与体系は次の通りとする。
1.基準内給与
(1)基本給 号俸給、身分給、年齢給
(2)手当 家族手当、住宅手当、残業補填手当、管理職手当、通勤手当
2.基準外給与 超過勤務手当
(3)  新賃金制度の導入
ア 新賃金制度
被告は、2001年10月1日、旧賃金規程に代え、いわゆる成果主義賃金体系を基礎とする新賃金制度を導入した。原告は、新賃金制度導入に当たり、全従業員に対し、「成果報酬制度について」と題する文書(甲4、以下「新賃金規程」という。なお、新賃金規程が就業規則であることについては当事者間に争いがない。)において新賃金制度の内容を明らかにしているところ、新賃金規程には、次の内容が記載がされている。
(ア) 目的
新賃金制度導入の目的は、成果報酬制度を採用することにより、「功績に報いる」、「優秀な人材を認める」ためであり、「人件費削減のためではない」とされている。
(イ) 制度変更の概要
a 給与等級6級以下(非管理職)は、新しい給与制度を設けそれに移行する。給与等級7級は、現在8級・9級を対象に実施している年俸制の体系に移行し、管理職(7級~9級)として、年俸制の給与制度とする。
b 非管理職(給与等級2~6級)の給与制度
〈1〉 裁量労働制を導入し、適用対象者には、残業時間数をそのまま処遇に反映させることを廃止し、定額の裁量労働手当を支給することとし、裁量労働制の非適用者には、時間外勤務手当を支給する。
〈2〉 家族手当、住宅手当を廃止する。
〈3〉 基本給与は、給与等級ごとに、下記のとおり、上限額、下限額を定める給与レベルとする。
等級 下限 上限
6級 657万円 804万円
5級~2級 省略
〈4〉 年間の業績確定後に、会社と個人の業績を反映させるために査定評価を経てインセンティブを支給する。これらの職務等級ごとの給与額、裁量労働手当額、インセンティブ単価表は書面で発表する。
〈5〉 以上の結果、給与等級2級から6級の従業員の賃金は、裁量労働制適用の労働者については、基本給与、裁量労働手当、インセンティブの3要素から構成され、裁量労働制非適用の労働者については、基本給与、時間外勤務手当、インセンティブの3要素から構成されることになった。
c 管理職(給与等級7~9級)の給与制度
〈1〉 年俸制をとり、年俸は、基本年俸と業績年俸とで構成する。管理職の年収は下記の算式のとおりである。
年収=基本月俸×(15か月±査定評価)
=基本年俸…基本月俸×12か月
+業績年俸…基本月俸×(3か月±査定評価)
なお、7級に移行するにあたっては、年俸額を次のように計算する。
年俸額=(従来の)基本給×18+140万円
そして、年俸(15か月)の上限・下限額は、次のとおりである。
等級 下限 上限
9、8級 省略
7級 950万円 1200万円
〈2〉 業績年俸については、人事評価に従って支給月数を決定する。すなわち、評価が最高(+10)の場合には5.5か月、評価が±0の場合には3か月、評価が最低(▲6)の場合には1.5か月をそれぞれ支給する。
〈3〉 年俸額(15か月)の改定を毎年1月1日付けで行い、年俸額改定表を用いて、査定評価により年俸額を増減する。
昇格は原則として4月に行う。
評価の結果、本人の顕在能力と業績が、属する資格(=給与等級)に期待されるものと比べて著しく劣っていると判断した際には、資格(=給与等級)と、それに応じて処遇を下げることもあり得る。
〈4〉 以上の結果、給与等級7~9級の管理職の賃金は、基本年俸と業績年俸の2要素から構成されることになった。
イ 新賃金制度導入に伴う原告の格付けと給与額
原告は、旧賃金規程が適用されていた2001年9月当時、給与等級7級であり、月例給与額は、基本給48万2200円、残業補填手当5万円、家族手当1万9000円、住宅手当3万3500円の合計58万4700円であった。原告は、2001年10月1日の新賃金制度導入に当たり、給与等級7級に格付けされ、基本月俸は67万1980円となった。原告の基本月俸は、その後、2002年4月に67万2000円、同年7月に66万5340円となった。
(4)  原告の降級と賃金減額
ア 新賃金規程における降級についての記載内容
被告では、新賃金制度を導入したことに伴い、初めて、降級制度を導入した。すなわち、新賃金規程によれば、降級制度について、次のような規定を設け、従業員に周知した(甲4、証人乙川【4頁】、原告【12頁】)。
「(c) 降級
評価の結果、本人の顕在能力と業績が、属する資格(=給与等級)に期待されるものと比べて著しく劣っていると判断した際には、資格(=給与等級)と、それに応じて処遇を下げることもあり得ます。
(注)降級制度に対する考え方
降級はあくまで例外的なケースに備えての制度と考えています。著しい能力の低下・減退のような場合への適用のための制度です。
通常の仕事をして、通常に成果を上げている人に適用されるものではありません。また、病気、怪我による休暇・欠勤・休職は降級の対象ではありません。」
イ 被告における昇格・降級制度の運用等
(ア) 従業員の昇格、降級は、被告の人事評価によって決定される。評価基準は、-3から-1、0、+1から+3までの7段階評価となっている。評価に当たっては、一次評価者としてグループアカウントディレクター(室長・局次長・副本部長・場合により局長)レベルが、二次評価者としてディビジョンディレクター(局長・場合により本部長)レベルが、最終評価者として役員レベルが評価することになっている。ただし、場合によっては、一次評価者と最終評価者で決定し、二次評価者の評価が省略されることがある。なお、最終評価については、役員で構成される人事評議会(人事評価会議)を経て、最終的な了承了解は代表取締役である社長が行う。(乙5ないし11、12の1及び2)
(イ) 被告においては、-1の評価を2年連続受けた者、-2の評価を当該年度受けた者が、降級の対象者となり、「昇格会議」(昇格・降級を決定する会議)で審議され、降級させるか否かを決定することになっている。しかし、上記降級基準は従業員には明らかにされていない。(乙7、8、証人乙川【4、26頁】、同丙谷【31ないし33頁】、原告【13、36頁】)
ウ 原告の降級と賃金の減給
(ア) 原告は、2001年1月から同年12月までの間、被告メディアマーケティング本部テレビ局テレビ2部(以下「テレビ2部」という)次長であったが、同年度の評価は-1であった。原告は、2002年1月、同本部業務部次長に配置換えとなったが、同年度の評価は-2であった。そこで、被告は、前記イ(イ)の基準に照らし、降級の対象者とし、「昇格会議」で審議し、2003年4月以降、給与等級7級から同6級に降級させることにし、同年3月、これを原告に伝えた(以下「本件降級処分」という)。
(イ) 本件降級処分に伴い、被告は、2003年4月、原告の基本給与月額を、従前の66万5340円(基本月俸)から45万9400円に減額した。そして、原告の月額基本給は、2004年4月に47万0200円と改定された。なお、原告は、本件降級処分に伴い、給与等級6級として、2003年4月から2005年3月までは裁量労働制非適用の従業員として、月額基本給のほか時間外勤務手当、インセンティブの支給を受け、2005年4月からは、裁量労働制適用の従業員として月額基本給の裁量労働手当(月額11万5000円)、インセンティブの支給を受けるようになった。(甲4、乙24の1ないし3、同25、弁論の全趣旨)
(5)  原告・被告間の争い
原告は、被告の原告に対する2002年度の人事評価-2は原告を不当に低く評価したものであり、また、本件降級処分は、裁量権を逸脱したものであり無効であると主張している。これに対し、被告は、原告に対する2002年度の人事評価及び本件降級処分はいずれも相当なものであって、裁量権の逸脱はないと反論している。
2  争点
(1)  原告の求める地位確認請求は確認の利益があるか(争点1)。
【被告】
原告は、「給与等級7級の労働契約上の地位を有すること」の確認を求めている。他方で、原告は、給与等級7級にあることを前提に、本件降級処分が無効であるならば得られたであろう給与等級7級の賃金と現実に支給を受けている6級との賃金の差額についても給付請求をしている。そうだとすると、本件は、上記差額賃金についての給付請求権の存否によって法律上の紛争を解決することができる。よって、原告の被告に対する上記地位確認請求は、確認の利益がない。そもそも、特定の賃金を受ける権利(特定の給与等級にあるという労働契約上の地位)というものは存在せず、原告の前記地位確認請求はこの点においても不適法であり、却下を免れない。
【原告】
ア 【被告】の主張は争う。
イ 本件降級処分が違法とされた場合、給与等級7級には支払う必要のない時間外勤務手当、裁量労働手当やインセンティブなどを別途清算する必要があるところ、これらの清算処理のためには、単に、原告の差額請求を認めるだけでは足りず、給与等級7級としての地位を確認しておく必要がある。また、被告の退職金制度によれば、給与等級7級の場合には、規定退職金に加えて7級以上の等級在任期間に応じて退職金が加算される。給与等級7級の場合にはその在任期間毎に1年で65万円が加算されることになっており、したがって、給与等級7級としての地位確認請求には確認しておくだけの法律上の利益が存在する。
(2)  被告の就業規則は降級に関する規定が不明確であり、被告は従業員に対し具体的降級決定権を有していないか(争点2)。
【原告】
ア 2001年10月から施行されている新賃金規程によれば、「評価の結果、本人の顕在能力と業績が、属する資格(=給与等級)に期待されるものと比べて著しく劣っていると判断した際には、資格(=給与等級)と、それに応じて処遇を下げることもあり得ます。」と規定している。しかし、新賃金規程には、給与等級に期待される職務能力については何らの定めがなく、その職務能力を評価する基準も何ら明らかにされていない。ただ、被告から原告ら従業員に対し、「前年度評価Feed-Backと新年度目標設定・自己開発表」と題する文書(甲10)が配布され、原告は、期首において同人の目標設定を記載したが、前記文書にも、評価基準は何ら明らかにされていない。
イ 以上のとおり、被告の新賃金規程においては、降級制度の前提となる給与等級、資格制度、人事評価の基準は一切存在しない。これでは、降級決定権行使についての要件が定められていないというに等しい。このように降級に関する制度が不明確な場合には、使用者である被告は、従業員に対し、具体的な降級決定権を持っていないと解するのが相当である。このような当事者の意思の合致から逸脱した降級決定権により、従業員(原告)の賃金を約3割も減額することは、合意された労働契約からの逸脱であり、ひいては労基法24条違反となると解すべきである。
【被告】
ア 【原告】の主張ア、イは争う。
イ 被告における人事処遇は、従業員の評価にしろ、職位にしろ、使用者の裁量権に基づいて行われるものであり、その裁量権の行使の態様を一々労働契約で規定していなければ行使できないというものではない。したがって、原告の主張は理由がない。
ウ 原告は、被告においては給与等級に期待される職務能力については何らの定めがないと主張するが、事実に反する。被告は、各資格等級に求められる能力について、「期待される能力像」(1996年10月、以下「期待される能力像」という)と「期待される能力像の具体化モデル」(1999年秋、以下「期待される能力像の具体化モデル」という)を従業員に配布し、明確に説明している。なお、被告は、2001年10月の成果報酬制度を実施するに際し、同年7月に同制度を記載した冊子(新賃金規程)を配布するとともに、全社員に対して説明会を開き、質疑応答を行ない、更に評価用紙等の配布・回覧を行った。また、2001年10月の成果主義賃金体系に基づく新賃金制度導入については、被告の従業員で組織されているマッキャンエリクソン労働組合の同意を得ている。
エ 原告は、同人の賃金が約3割も減ることは、労働契約からの逸脱であると主張する。しかし、原告は、本件降級処分により、給与は年収ベースでみると、約988万円から約950万円に減額されたにすぎず、本件降級処分が労働契約からの逸脱であるとの原告の主張は理由がない。
(3)  本件降級処分及びこれに伴う減給は裁量権を逸脱したものか。また、本件降級処分の前提となった、被告が原告の2002年度の人事評価を-2としたことは人事評価権の濫用か否か。(争点3)
【原告】
ア 被告は、新賃金規程の中で、降級について、「あくまで例外的なケースに備えての制度と考えています。著しい能力の低下・減退のような場合への適用のための制度です。通常の仕事をして、通常に成果を上げている人に適用されるものではありません。」と規定している。すなわち、降級が実施されるのは、当該給与等級に期待されるものと、本人の顕在能力、業績とを比較して著しく劣っている場合、また、従業員に著しい能力の低下・減退がみられる場合であり、例外的なケースの場合としている。
イ 原告には、2002年1月以降、労働能力の著しい低下・減退はない。にもかかわらず、被告において、原告を給与等級7級から同6級に降級させ、賃金を減額したことは、上記アの降級基準に反する。原告に著しい能力の低下・減退がないことは、下記ウないしオの各記載からも明らかである。
ウ 原告の担当職務
(ア) 原告は、2002年1月、業務部に配属された。業務部には、原告を含めて2名が配置されていた。原告が担当した業務は、テレビ、ラジオ番組等のコマーシャル(以下「CM」という)の素材指示連絡及びCMビデオの送稿と管理、放送確認書の管理(以下「CM素材送稿管理等」という)が主要な業務である。
(イ) 前記CM素材送稿管理等の業務とは、具体的には、次の内容を指す。業務部は、営業担当部署から、テレビ・ラジオのCM枠の購入決定と、当該CM枠で放送するCM素材の連絡を受ける。これを受けて、業務部は、指定されたCM素材を放送スケジュール表に書き込み、CM素材であるビデオにCM連絡表をつけ、これを放送局に送稿(送付)する。放送局は、当該CMを放送後、業務部に対しCM素材を戻し、業務部はこれを保管する。また、放送局は、当該CMを放送後、業務部に対し、当該CMが放送されたことを確認する放送確認書を送付し、業務部は、送付された放送確認書を確認し、これを管理する。
(ウ) 原告は、前記CM素材送稿管理等の業務のほか、CM考査、EDI(Electric Data Interchangeの略、以下「EDI」という)推進作業も担当していた。CM考査とは、CMが放送コード等に抵触していないか否かの相談を受けた際にこれをチェックする業務であるが、この業務は作業量としては主要業務と比較して多くはなく、年間20件程度である。また、EDI推進作業とは、放送局と広告会社とを結ぶネットワークを構築し、発注からCM進行作業までをオンライン化する、CM進行全体のデータ処理の電子化計画である。EDI推進作業は中長期的な計画であり、前年評価の対象となるような業務内容ではない。
エ 担当職務の定型的業務性
原告が担当しているCM素材送稿管理等の業務は、前記ウ(イ)のとおり、営業担当部署から得意先(顧客)が希望するCMの指定を受けて、放送局が間違いなく当該素材を放送するようにスケジュール表作成等の管理をし、CM素材(ビデオ)を放送局に送付し、また返却されてきたCM素材を管理する進行業務である。CM素材送稿管理等の業務は、決定事項を間違えないように正確に管理することに特徴がある。当該業務は、膨大な作業を迅速かつ正確に行うことを要求されるが、裁量性の低い業務である。したがって、原告の主要担当職務は、顕在能力及び業績が大幅に低下したり減退する等の性質の作業ではない。
オ 原告の業務遂行能力
原告は、2002年1月から同年12月までの間、上記CM素材送稿管理等の業務を担い、迅速かつ正確にCM素材送稿管理等業務を行ってきた。原告は、被告に対し、期首に当該年度の目標項目を設定し、これを記載した目標管理表(以下「目標管理シート」という)を提出し、被告の承認を得ているが、2002年度、原告は設定した目標項目を十分に達成した。
カ 以上によれば、原告には、顕在能力及び業績が著しく劣っている又は能力が著しく減退・低下したなどという事実はない。そうだとすると、被告が原告の2002年度の人事評価を-2としたのは人事評価権を濫用したものであり、また、当該評価を前提とする本件降級処分は無効というべきである。
【被告】
ア 原告は、2002年1月、業務部次長の地位にあった。業務部長はテレビ局長である丁沢C男(以下「丁沢局長」という)が兼務していたため、業務部は、同部次長である原告が、実際上管理監督し、取りまとめていくことが期待されていた。原告の下にはスタッフが約6名(正社員4名、派遣社員2名、ただし派遣社員は時期によって変動がある)所属していた。業務部の主たる業務は、テレビCM進行、テレビ請求書照会、テレビ放送確認書チェック、CM考査、EDI推進作業、CMコード(広告主、広告会社、CM制作会社、テレビ局がCM素材に共通のコードを使うことによって、CM業務の合理化と放送事故防止を実現する目的で、広告主コード(4桁)と素材コード(6桁)を組み合わせた10桁のコード)登録推進、新聞・雑誌の原稿チェック・入稿チェック、メディアマーケティング本部の各媒体取扱高報告資料の作成、同本部全体の庶務業務などである。
イ 原告は、2001年当時管理職(テレビ2部次長)の地位にあり、給与等級7級であったが、同年度の人事評価は-1であった。
ウ 被告は、原告の2002年度の人事評価を-2としたが、その理由は、次のとおりである。
(ア) 原告は、CM素材送稿管理等の業務自体は通常どおり遂行したが、当該業務は、たとえミスなく行なってもそれ自体高い評価が得られる種類の業務ではない。
(イ) 他方、原告は、給与等級7級の管理職として、以下の点が不十分であった。
a 業務部をまとめてリーダーシップを発揮することがなかった。
b 業務部に所属する社員を管理し、その相談に乗ったり、面倒を見るなどのいわゆる管理業務を行わなかった。
c 原告の上司にあたる部長、副本部長、本部長や、本部内各局のリーダー層とのコミュニケーションがとれなかった。
d 業務改善や工夫を積極的に行なわなかった。
e 緊急時の対応に柔軟性がなく、取りまとめができなかった。
f 部における各作業の効率化ができず、またCM考査の交渉(いわゆる放送コードに抵触するか否かは、民放各社が独自に基準を設けており、そこには観念的、抽象的な部分も含まれているため、放送局に対し説明、説得を行う者の力量が、考査の結果や会社の業務効率を左右する)において、原告が担当すべきところを他のテレビ局の担当部長が代行することにならざるを得ず、他部門からの信頼を失い、ひいては会社の期待を裏切った。
エ 被告は、原告に対し、2001年度の人事評価が-1であることを伝え、2002年1月1日付けでテレビ2部から業務部に配置転換を行い、業務等の改善を勧告した。それにもかかわらず、原告は、2002年度も改善の跡がみえず、人事評価は-2と2001年度の評価よりも下がった。そこで、被告は本件降級処分を行ったものであり、本件降級処分には裁量権の濫用や逸脱はなく、適法であり、本件降級処分の前提となった2002年度の人事評価も相当である。
(4)  本件降級処分によって被った原告の賃金は幾らか(差額賃金請求の範囲、争点4)。
【原告】
ア 原告は、2002年7月から本件降級直前である2003年3月までの間、給与等級7級の従業員として、被告から、基本月俸66万5340円の支給を受けていた。
イ 原告は、2003年4月、給与等級7級から6級に本件降給処分をされた。その結果、原告は、被告から、2003年4月から2004年3月までの間は基本給与月額45万9400円、2004年4月から2005年4月までの間は基本給与月額47万0200円の支給しか受けていない。
ウ 前記(3)の【原告】の主張でも述べたとおり、本件降級処分は無効である。したがって、被告は、原告に対し、別紙給与一覧表記載のとおり、原告が給与等級7級のままでいたら得られたであろう基本月俸(66万5340円)と給与等級6級として現実に支給を受けた基本給与月額(45万9400円又は47万0200円)との差額及びこれに対する各支払期日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。
エ 【被告】の主張に対し
(ア) 被告は、本件降級処分の結果、原告は給与等級6級となり、時間外勤務手当、裁量労働手当、インセンティブを受給するようになったので、差額賃金請求においてはこれを考慮したうえで判断すべきであると主張するが、これらの賃金要素は不確定である。このような不確定要因がある時間外勤務手当、裁量労働手当、インセンティブを加味して年収を比較すべきではない。
(イ) 労働契約上、労働者が、毎月請求することができる金額はあくまで基本月俸(給与等級6級の場合は基本給与月額)である。労基法24条の賃金全額払いの趣旨からすれば、仮に業績年俸やインセンティブが多額に支給されても、毎月の給与を減額することは許されない。したがって、労働契約上、請求することができる賃金月額の差額を請求することは法律上当然のことである。
(ウ) 本件降級処分が違法とされ、本来、原告が給与等級7級の地位にあるとして、差額賃金請求が認められた場合、7級には支払う必要のない時間外勤務手当、裁量労働手当、インセンティブは、別途、原告・被告間で清算することになり、被告が、原告に対し、不当利得返還請求をすれば足りる問題である。
【被告】
ア 【原告】の主張に対する認否は次のとおりである。
(ア) 【原告】の主張アは認める。
(イ) 【原告】の主張イのうち、原告が本件降級処分を受けたこと、原告の2003年4月から2005年3月までの間の基本給与月額が原告主張のとおりであることは認めるが、2005年4月の基本給与月額は48万1000円であるのでこれを否認する。なお、原告は、2003年4月以降、給与等級6級として時間外勤務手当、裁量労働手当、インセンティブ等の支給を受けており、これらを含め、給与等級7級と6級との賃金差額を比較すべきであり、月額の基本月俸と基本給与月額の差額だけを比較することは無意味であり、失当である。
(ウ) 【原告】の主張ウは争う。
イ 原告の差額賃金請求は、賃金支払に関する他の支給要素(時間外勤務手当、裁量労働手当、インセンティブ)を無視している。原告の請求する2003年4月から2005年4月までの間、原告は、時間外勤務手当として231万1364円、裁量労働手当として11万5000円、賞与・インセンティブとして537万7340円を取得しており、月額給与は減少するとしてもこれら増加分を考慮すれば、原告が差額賃金請求として求めている額500万8100円より多額の賃金の支給を受けている。したがって、原告の差額賃金請求は理由がない。
原告の請求のように、月額給与だけの比較では意味がない。なぜなら、本件降級前と後とでは、月額で支給する費目(支給要素)が異なっているからである。被告からの支給が成果報酬制度に基づく賃金支給である以上、その総合計額(つまり、年間の総収入額)で本件降級前と後とを比較する以外、方法はない。
第3  当裁判所の判断
1  地位確認請求についての確認の利益の存否について(争点1)
(1)  被告は、原告において給与等級7級にあることを前提に差額賃金が発生しているとして、当該差額賃金請求をしている以上、これに加えて、給与等級7級の地位にあることを確認する法的な利益はないと主張する。確かに、差額賃金請求で紛争解決ができているならば、被告のいうとおりである。そこで、以下、差額賃金請求に加え、給与等級7級の地位にあることについて確認を求める法的利益があるのか否かについて検討することにする。
(2)  前記争いのない事実等、証拠(文末に掲記したもの)によれば、次の事実が認められる。
ア 被告において、給与等級7級から9級の者は管理職に位置づけられ、その給与については年俸制が採られている。他方、給与等級2級から6級までの者は非管理職として位置づけられ、その給与については月給制が採られている。そして、給与等級7級から9級の者の年俸は基本年俸と業績年俸から構成されており、業績年俸の支給月数は人によって異なり、最低1.5か月から最高5.5か月まで幅があり、最低査定額である1.5か月分は12月に、残りは査定評価を経て翌年2月に支給される。また、給与等級2級から6級の者の賃金は基本給与額、時間外勤務手当(裁量労働手当)、インセンティブから構成されており、さらに、基本給与額は基本給与月額(基本給与額の16.5分の1)、夏期賞与(同16.5分の2.25)、冬期賞与(同16.5分の2.25)に分かれており、夏期賞与は6月10日、冬期賞与は12月10日に支給される。(前記争いのない事実等(3)ア、甲4、乙14)
イ また、給与等級6級の者の基本給与部分の上限は804万円、下限は657万円であり、7級の者の年俸額の上限は1200万円、下限は950万円である。給与等級6級の者が時間外労働、休日労働をすれば時間外勤務手当又は裁量労働手当が支給されるが、7級の者には深夜勤務手当だけが支給される。(前記争いのない事実等(3)ア、甲4、乙14)
ウ 被告の退職金制度によれば、給与等級7級の者には、規定退職金に加えて7級以上の等級在任期間に応じて退職金が加算され、給与等級7級の場合、その在任期間毎に1年65万円が加算される。(甲4、弁論の全趣旨)
エ 原告は、給与等級7級と6級との差額賃金は7級の基本月俸と6級の基本給与月額との比較において行うべきであるとして両者の差額を請求している。これに対し、被告は、基本給与月額だけでなく、給与等級6級の者に支給されている時間外勤務手当、裁量労働手当、インセンティブも加えて計算すべきであると主張している。結局のところ、給与等級7級と6級との場合で、原告が被っている賃金の不利益額について正確に計算することは困難な状況にある(弁論の全趣旨)。
(3)  以上によれば、被告において給与等級7級は管理職であり、これに対し6級は非管理職であり、両者で給与体系が異なっていること、また、給与等級7級の従業員が受給する業績年俸と6級の従業員が受給する賞与とで受給時期も異なり、退職金計算も異なっていることが認められる。以上のように、原告の求めている給与等級7級の地位にあることの確認請求は、単に差額賃金だけを決める指標にとどまらず、より広い被告における待遇上の階級をも表す地位の確認を求めていると解することができる。そうだとすると、原告において、本件降級処分に伴う差額賃金の請求に加え、給与等級7級の地位にあることの確認を求めることには正当な理由があるというべきであり、あえて、当該地位確認請求を求める法的な利益がないということは困難である。よって、給与等級7級の地位にあることの確認請求は確認の利益がないとの被告の主張は採用することができない。
2  被告の就業規則は降級に関する規定が不明確であり、被告は具体的降級決定権を有していないか(争点2)。
(1)  原告は、新賃金規程には、給与等級に期待される職務能力については何らの定めがなく、その職務能力を評価する基準も何ら明らかにされておらず、被告は、従業員に対し、具体的降級権を有していないと主張するので、その主張の成否について判断する。
(2)  確かに、証拠(甲4)及び弁論の全趣旨によれば、原告の主張するとおり、新賃金規程には、給与等級に期待される職務能力については何らの定めがなく、その職務能力を評価する基準も明らかにされていないことが認められる。しかし、これらの事実が存在するからといって、使用者である被告が、従業員に対する具体的降級権を有していないと結論付けることは、早計にすぎるというべきである。
(3)  前記争いのない事実等(4)アによれば、被告は、新賃金規程の中で、従業員の降級について、次のように規定し、これを従業員に周知していることが認められる。
「(c) 降級
評価の結果、本人の顕在能力と業績が、属する資格(=給与等級)に期待されるものと比べて著しく劣っていると判断した際には、資格(=給与等級)と、それに応じて処遇を下げることもあり得ます。
(注)降級制度に対する考え方
降級はあくまで例外的なケースに備えての制度と考えています。著しい能力の低下・減退のような場合への適用のための制度です。
通常の仕事をして、通常に成果を上げている人に適用されるものではありません。また、病気、怪我による休暇・欠勤・休職は降級の対象ではありません。」
(4)  また、証拠(乙12の1及び2、証人乙川【21頁】、原告【31頁】、被告代表者【34、35頁】)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 被告は、1996年10月、従業員に対し、「期待される能力像」を配布し、各資格等級に求められる能力について明らかにしてきた。そして、各資格等級に求められる能力については、新賃金規程施行後も、前記「期待される能力像」が基準になっていることには何ら変化はない。例えば、媒体職の資格等級7級・副参与に期待される能力像は、職能レベルは「プロジェクトリーダー」であり、職能・職務内容は「プロジェクトのリーダーとして責任を持って仕事を遂行し、チームの業務推進/士気高揚に努める。管理職としての自覚を持ち、部下の育成・管理ができる。」と規定されている。
イ また、被告は、1999年秋、従業員に対し、「期待される能力像の具体化モデル」を明らかにし、従業員に対する評価を行うに当たっての具体的評価項目を明示し、当該基準は、新賃金規程のもとでも変わっていない。例えば、原告の職務内容を対象とするメディア・トラフィックアドミニストレーターの場合、次のようになっている。
「 JOB DESCRIPTION
メディア・マーケティング本部
○ エキスパート ほぼ1人で達成可能
◎ リーダー   優れており、その分野では問題なし
基本的には、現行の「能力像」に則るが、より具体的評価項目として下記の項目を参考とし、評価を行う
メディア・トラフィックアドミニストレーター(7級)
PCテクニック             ◎
AS400進行             ◎
CM進行/新聞・雑誌送稿作業      ◎
CM制作/印刷工程に関する知識     ◎
CM考査に関する知識          ◎
メディアとのコミュニケーション/交渉力 ◎
部内でのコミュニケーション       ◎
営業とのコミュニケーション/交渉力   ◎
総務・人事とのコミュニケーション    ◎
ベンダーとのコミュニケーション/統率力 ◎
メディア他部門の仕事への知識/関心   ◎
仕事の効率化に対する意識        ◎
メディア全般に関する知識        ◎
マーケティング全般に関する知識     ◎
部下(後輩)への指導力         ◎
管理職としてのリーダーシップ      ○
管理職としての会社への貢献度      ○ 」
(5)  裁判所の判断
以上によれば、被告は、新賃金規程の中で、降級の基準を明確にしており、また、1996年10月には、「期待される能力像」の中で各資格等級に求められる能力について、さらには、1999年秋には、「期待される能力像の具体化モデル」の中で人事評価の具体的評価項目について、従業員に対し、明らかにし、このことは新賃金規程のもとでも変わっていない。そうだとすると、被告における降級基準は、従業員に明らかにされているというべきであって、この点に関する原告の主張は理由がない。よって、以下においては、上記従業員に対し明らかにされている評価基準を基に、原告に対する本件降級処分に理由があるのか否かについて検討を進めることにする。
3  本件降級処分の有効性の存否(争点3)
(1)  前提事実
前記争いのない事実等、証拠(文末に掲記したもの)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 被告における新賃金制度の導入
(ア) 被告は、2001年10月1日、これまでのいわゆる年功や勤務時間を基礎とした旧賃金規程に代え、従業員の成果、業績、能力等を評価し、それらを賃金に反映させる、いわゆる成果主義の新賃金制度を導入し、新賃金規程を設け、これを従業員に周知した(前記争いのない事実等(2)、(3)ア、弁論の全趣旨)。
(イ) 新賃金規程では、従業員の給与等級を1級から9級までの9ランクに分け、9級から7級までは管理職と位置づけ年俸制をとり、6級から1級までは非管理職と位置づけ、新しい給与制度が適用となり、時間外勤務に応じて時間外勤務手当が支給される職種と、裁量労働制を採用し裁量労働手当が支給される職種とに分けた(前記争いのない事実等(3)ア、甲4)。
(ウ) 被告では、新賃金制度を導入したことに伴い、初めて、降級制度を導入した。すなわち、新賃金規程によれば、降級制度について、次のような規定を設け、従業員に周知した。(前記争いのない事実等(4)ア、証人乙川【4頁】)。
「(c) 降級
評価の結果、本人の顕在能力と業績が、属する資格(=給与等級)に期待されるものと比べて著しく劣っていると判断した際には、資格(=給与等級)と、それに応じて処遇を下げることもあり得ます。
(注)降級制度に対する考え方
降級はあくまで例外的なケースに備えての制度と考えています。著しい能力の低下・減退のような場合への適用のための制度です。
通常の仕事をして、通常に成果を上げている人に適用されるものではありません。また、病気、怪我による休暇・欠勤・休職は降級の対象ではありません。」
イ 被告における昇格・降級制度の運用等
(ア) 従業員の昇格、降級は、被告の人事評価によって決定される。評価基準は、-3から-1、0、+1から+3までの7段階評価(ただし、1から7までの7ランクで表示することもある)となっており、この点は、従業員も自己の人事評価を上司から伝えられるため、知っている。従業員は、被告から交付された目標管理シートに、期首又は中間に自己の目標設定を記入し、上司がこれを確認する。評価に当たっては、目標管理シートに記載されている事項が達成されているかどうか、「期待される能力像」「期待される能力像の具体化モデル」、直属の管理・監督者や他者からの情報等を基に、一次評価者としてグループアカウントディレクター(室長・局次長・副本部長・場合により局長)レベルが、二次評価者としてディビジョンディレクター(局長・場合により本部長)レベルが、最終評価者として役員レベルがそれぞれ評価することになっている。ただし、場合によっては、一次評価者と最終評価者で決定し、二次評価者の評価が省略されることがある。なお、最終評価については、役員で構成される人事評議会(人事評価会議)を経て最終的な了承了解は代表取締役である社長が行う。(前記争いのない事実等(4)イ、乙5ないし11、12の1及び2、同16、19、証人丙谷【1、2、5、7、23頁、28ないし30頁】)
(イ) 被告においては、-1の評価を2年連続受けた者、-2の評価を当該年度受けた者が降級の対象者となり、「昇格会議」(昇格・降級を決定する会議)で審議され、降級させるか否かを決定することになっている。しかし、かかる降級基準はこれまで従業員には明らかにされていない。(前記争いのない事実等(4)イ(イ)、乙19、証人丙谷【7、8、32頁】、原告【36頁】)
ウ 原告の被告における地位等
(ア) 原告は、1984年4月、被告に入社し、同社媒体局に配属され、広告代理店業務に従事してきた。原告は、1998年4月には業務推進部次長に、1999年4月にはテレビ2部次長としてテレビ局を担当するバイヤー(所定の媒体プランに基づき、媒体スペースを購入するためのスペース確保とコスト交渉を行う職種)として稼働していた。原告は、旧賃金規程が適用されていた2001年9月時点の給与等級は7級であり、月例給与額は、基本給48万2200円、残業補填手当5万円、家族手当1万9000円、住宅手当3万3500円の合計58万4700円であった。(前記争いのない事実等(3)イ)
(イ) 原告は、2001年10月1日の新賃金制度導入に当たり、管理職である給与等級7級に格付けされ、年俸制の適用を受ける従業員(管理職)となり、基本月俸は67万1980円となった(前記争いのない事実等(3)イ)。
エ 原告らに対する退職勧奨
(ア) 被告の親会社である米国マッキャンエリクソン社は、2001年10月、被告に対し、今後、広告ビジネスの成長が鈍化する可能性もあるので、被告の人員を削減するよう指示した。これを受け、被告人事部は、退職勧奨の対象者をリストアップし、メディアマーケティング本部に所属する退職勧奨対象者に対しては、同本部長である戊野D男取締役副社長(以下「戊野副社長」という)が退職勧奨の任に当たることになった。当時メディアマーケティング本部に所属していた者のうち、少なくとも、原告、庚崎D男、辛田E男、壬岡F男、癸井G男、丑木H男、寅葉I男、卯波某ら約8名が退職勧奨の対象になり、戊野副社長がこれらの者に対し、退職勧奨したところ、卯波某はこれに応じたが、それ以外の者は退職勧奨を拒否した。(乙23、原告【3、17頁】、被告代表者【37、38、40、41頁】、弁論の全趣旨)
(イ) 戊野副社長は、2001年10月ころ、原告に対し、「経営構想外である。給料があがらなくなるから他社に行ったらどうか」等退職を勧奨したが、原告は退職することを拒否した。戊野副社長は、上記退職勧奨から約1週間後、再度、原告に対し、退職勧奨した。原告は、戊野副社長の退職勧奨を再度拒否したところ、同副社長は、原告に対し、「この先、給料が上がると思うな。はいつくばって生きていけ。」などと発言した。(甲11、原告【2、18頁】、被告代表者【39頁】)
オ 業務部への異動と2001年度の人事評価
(ア) 原告は、1999年4月から2001年12月までの間テレビ2部次長として勤務したが、1999年度(1999年1月1日から同年12月31日までの間)の人事評価は+1であり、2000年度(2000年1月1日から同年12月31日までの間)の人事評価は0であり、2001年度(2001年1月1日から同年12月31日までの間)の人事評価は-1であった。(原告【18頁、33ないし35頁】)
(イ) 原告は、2002年1月1日、人員の削減等もあって、テレビ2部次長から業務部次長に異動した。原告は、2002年3月、丁沢局長から、2001年度の人事評価が-1であることを告げられた。原告は、2001年度の人事評価が-1であることについて、当初設定した目標に自分の実績が達しておらず、やむを得ない評価であるとしてこれを受け入れ、何ら異議を述べなかった。原告は、2001年度の評価を励みに、2002年度の仕事に取り組もうとした。(原告【3、18頁、33ないし35頁】、被告代表者【19、20頁】、弁論の全趣旨)
カ 業務部の組織、業務内容
(ア) 業務部は、業務部長である丁沢局長がテレビ局長を兼務していたため、業務部次長である原告が、同部の実質的トップとして同部を実質上管理・監督していた。原告の部下としては、2002年当時、TV/ラジオ担当として辰口某(5級、49歳)、新聞雑誌担当として乙川B男(8級、57歳、以下「乙川」という)、巳上某(5ないし6級、52歳)、庶務担当として午下(6級、42歳)の正社員4名が、また、それ以外に2名の派遣社員が配置されていた。(甲11、原告【6、19、20頁】、弁論の全趣旨)
(イ) 業務部の主たる業務は、テレビCM進行、テレビ請求書照会、テレビ放送確認書チェック、CM考査、EDI推進作業、CMコードの登録推進、新聞・雑誌の原稿チェック・入稿チェック、メディアマーケティング本部の各媒体取扱高報告資料の作成、同本部全体の庶務業務などである(甲11、乙20、原告【24、25頁】、被告代表者【3頁】)。
(ウ) 原告は、業務部の実質上のトップとして業務全体の管理・監督のほか、主としてCM素材送稿管理等の業務に従事していた。CM素材送稿管理等の業務とは、具体的には、次の内容を指す。業務部は、営業担当部署から、テレビ・ラジオのCM枠の購入決定と、当該CM枠で放送するCM素材の連絡を受ける。これを受けて、業務部は、指定されたCM素材を放送スケジュール表に書き込み、CM素材であるビデオにCM連絡表をつけ、これを放送局に送稿(送付)する。放送局は、当該CMを放送後、業務部に対しCM素材を返却し、業務部はこれを保管する。また、放送局は、当該CMを放送後、業務部に対し、当該CMが放送されたことを確認する放送確認書を送付し、業務部は、これを確認した後、保管する。(甲9、11、乙20、原告【5、6、20、21頁、24ないし26頁】、被告代表者【4、5頁、7ないし9頁】)
(エ) 原告は、前記CM素材送稿管理等の業務のほか、CM考査、EDI推進作業も担当していた。CM考査とは、CMが放送コード等に抵触していないか否かの相談を受けた際にチェックする業務である。また、EDI推進作業とは、放送局と広告会社とを結ぶネットワークを構築し、発注からCM進行作業までをオンライン化するCM進行全体のデータ処理の電子化計画であり、これは中長期的な計画である。(弁論の全趣旨)
(オ) 原告が業務部で担当しているCM素材送稿管理等の業務は、前記(ウ)のとおり、営業担当部署から得意先(顧客)が希望するCMの指定を受けて、放送局が間違いなく当該素材を放送するようにスケジュール表作成等の管理をし、CM素材(ビデオ)を放送局に送付し、また返却されたCM素材を保管する進行業務であり、決定された事項について間違えないように正確に遂行することに特徴がある。すなわち、CM素材送稿管理等の業務は、膨大な作業を迅速かつ正確に行うことを要求されるが、裁量性の低い業務であり、したがって、従業員の顕在能力及び業績が大幅に低下したり減退する等の作業ではないところに特徴がある。(甲11、証人乙川【9、10頁】、原告【7、20頁】、被告代表者【29頁】、弁論の全趣旨)
キ 原告の2002年度の勤務内容
(ア) 原告が提出した目標管理シートの記載内容
a 原告は、2002年3月、丁沢局長から、2001年度の人事評価が-1であることを告げられ、2002年5月7日、同年度の目標管理シートを、作成し、これを被告に提出した(乙16、原告【12頁】)。
b 目標管理シートの目標設定及び期待・達成レベルは、社員(被評価者)と一次評価者が話し合って定め、一次評価者は目標項目及び期待・達成レベルについて事前に二次評価者と打ち合わせて行うことになっているところ、原告は、丁沢局長と協議の上、目標項目及び期待・達成レベルを決定した。目標項目及び期待・達成レベルは4項目に分けられている。第1の項目である「顧客の視点/財務の視点」などについて、原告は、目標項目として、「業務部作業の効率化、派遣社員の削減」を記載し、期待・達成レベル(定量/定性)について「業務部内の作業に対する人員配置の改善」を挙げている。第2の項目である「新しさ・イニシアティブの視点」などについて、原告は、目標項目として、「本部長役員会レポート作成、MMC主導の他代理店提携作業送稿のコントロール」を記載し、期待・達成レベル(定量/定性)について「各バイイング部門より情報収集、コモンズ、JICとの連携作業」を挙げている。第3の項目である「社内・本部内への貢献の視点」などについて、原告は、目標項目として、「10桁CMコードの徹底、EDIの推進事業、AS400リニューアル作業への参加」を記載し、期待・達成レベル(定量/定性)について「社内得意先すべてに付番、各局、社内関連の部署との窓口となり推進」を挙げている。第4の項目である「学習と成長の視点」などについて、原告は、目標項目として、「デジタル放送の将来像における知識修得。他代理店の業務システムの研究」を記載し、期待・達成レベル(定量/定性)について「テレビ局からの情報収集と参考文献より修得。代理店業務部との会合を通して情報収集。」を挙げている。(乙16、原告【12頁】)
c 目標管理シートには、期首に設定した目標設定について、中間時点での目標の見直し欄があり、必要がある場合にのみ記載することになっているところ、原告は、2002年10月28日、第3の項目である「社内・本部内への貢献の視点」などについてのみ、「MBAS作業においてリーダーより聞き取りがない為参加出来ていない」と記載し、同日、丁沢局長もこれを承認した旨の署名がされている(乙16、証人丙谷【19頁】)。
(イ) 原告の2002年度の勤務内容
a 原告は、2002年1月から、業務部の実質上のトップとして業務全体の監督のほか、主としてCM素材送稿管理等の業務に従事していた。CM素材送稿管理等の業務は、何よりも正確かつ確実に送稿を行うことが求められているところ、原告は、着実に当該業務を行っており、この点について何ら問題は認められない。(甲11、16、乙16、証人乙川【1頁】、弁論の全趣旨)
b 原告は、業務部次長として、部全体の業務が円滑に遂行できるよう努めるべき地位についていたところ、業務部所属の従業員はベテランの者ばかりで、技術面で原告が面倒をみる必要はなかったが、定期的に月1回程度、懇親会を設定するなどして業務部に所属する従業員相互のコミュニケーションを図るとともに、従業員において仕事上の悩みなどないか気にかけていた。原告は、素材送稿について、部下がトラブルやミスをした場合、その問題解決に機敏に対応した。その結果、業務部内の風通しも良くなり、チームワークの面でも結束力が強くなった。(甲11、16、証人乙川【1、2頁】、原告【6、7頁】、弁論の全趣旨)
c 原告は、2002年1月から同年12月までの間、業務部において、次のような業務の改善や工夫を行っていた(甲11、16、証人乙川【2ないし4頁、15ないし21頁】、原告【8ないし13頁、26、29頁】、被告代表者【30頁】)。
〈1〉 原告は、乙川とともに、雑誌専用の「定期バイク便増設」の提案を行った。被告においては、当時、1日1回の自動車便を設けていたが、当該提案には、雑誌専用の定期便を夕方に増設し、雑誌社への原稿入稿及び校正のピックアップを行うことにより、コスト高の臨時バイク便を使用せずに、自動車便に間に合わない原稿を入稿することができるという利点があった。当該提案は、スポンサーとの間でコスト面の問題が克服されていないために実現に至っていない。
〈2〉 原告は、EDI推進作業、デジタル送稿の推進も行った。このことにより、送稿時間の短縮や配送ミス等が減少した。
〈3〉 原告は、テレビCMの進行作業を正確・確実に行うために10桁CMコードを推進した。その結果、被告では、他代理店より早く10桁コードが社内に浸透し、素材の間違いがなくなり、素材の差し替えの迅速化が図られた。
d 原告は、2002年1月から同年12月までの間、約20件のCM考査を行ったが、行ったCM考査には何ら問題がなかった。なお、営業担当者が、業務部ではなく、テレビ局の部長に持ち込んでCM考査の交渉をするケースもあったが、これは原告のCM考査に問題があったからではない。なお、二次評価者である戊野副社長は、原告に対する二次評価の際、原告のCM考査に問題があったことを認識しておらず、原告のCM考査の内容等が、本件降級の理由とはされていない。(甲11、乙19、原告【10、11頁】、被告代表者【28頁】、弁論の全趣旨)。
(ウ) 目標管理シートに基づく自己評価等
a 原告は、2002年12月26日、目標管理シートに、同年度の自己評価を記載した。第1の目標項目である「顧客の視点/財務の視点」などについては、「派遣社員2名の削減を行い、現在のビリングに対応した人員配置は出来ている。但し今後売り上げ増により作業件数増加の際は人員増を望む。」と自己評価し、一次評価者である丁沢局長も同じ評価であった。(乙16、原告【12頁】)
b 原告は、第2の目標項目である「新しさ・イニシアティブの視点」などについては、「新作業として本部長役員会レポートを毎月提出する事とした。どの位役に立っているかは本部長の評価次第だが改善点があればアドバイスを頂きたい。」と自己評価したが、一次評価者である丁沢局長の特段のコメントはない。(乙16、原告【12頁】)
c 原告は、第3の目標項目である「社内・本部内への貢献の視点」などについては、「EDI推進事業のリーダーシップを取り、センター接続局全社と交渉した結果今年1年で14局から25局へ増加。10桁コードCMの啓蒙を社内で行い今年1年15社に付番。扱いがまたがっている得意先以外はすべて付番」と自己評価し、一次評価者である丁沢局長も同じ評価であった。(乙16、原告【12頁】)
d 原告は、第4の目標項目である「学習と成長の視点」などについては、「CM連絡会議等々、文献によるデジタル関連での情報は収集している。現在地上波デジタルのCMバンク構想をにらんだブロードバンド用のCM送稿会議にも参加して、情報を収集している。他代理店との交流は少なく業務システムの情報はとれていない。」と自己評価し、一次評価者である丁沢局長は、「情報収集したら、それをスタッフに伝達することを積極的に考えて欲しい」とコメントしている。(乙16、原告【12頁】)
(エ) 目標管理シート等に基づく一次評価、二次評価
a 一次評価者である丁沢局長は、2003年1月24日、原告が2002年の期首に挙げた4点の目標管理について上記(ウ)のとおりのコメントを記載し、また、顕在的能力評価について、「部署的に能力を発揮するというよりは正確に業務を進行させる事が優先であり、それに関しては支障なく遂行出来ている」とコメントし、一次評価として4(±0)の評価をした(乙16)。
b これに対し、二次評価者である戊野副社長は、2003年1月末ころ、原告の評価について、目標管理シートの第1の目標項目である「顧客の視点/財務の視点」などについては、「部次長としてのジカクがない。部長は兼務であり、部長に代る位置として部全体のリーダーシップがない」とコメントしている。第2の目標項目である「新しさ・イニシアティブの視点」などについては、「人に対してプレゼンテーションするその気持が重要であり、表現プレゼ能力を持っているか。」とコメントしている。第3の目標項目である「社内・本部内への貢献の視点」などについては、「新しく出来るトラフィックとの関係をどうするかも今後の課題である。」とコメントしている。第4の目標項目である「学習と成長の視点」などについては、「全社的なイニシアティブがない。」とコメントしている。(乙16、20、被告代表者【13、22頁】)
c 二次評価者である戊野副社長は、顕在的能力評価に対するコメントは記載せず、原告の二次評価を3(-1)と評価した。なお、戊野副社長は、原告を評価する資料として、新聞・雑誌部の大友部長、女性、テレビ局の若い従業員からの情報を基にしている。(乙16、20、被告代表者【13、14、25、26頁】)
ク 原告に対する2002年度の評価決定、本件降級決定
(ア) 2003年2月6日、被告において、2002年度の従業員の人事評価を決定する評価会議が開かれた。評価会議は、役員を中心に各部門の代表者から構成され、グループ間・ディビジョン間の評価の適正化を図るために開かれる会議である。評価会議では、メディアマーケティング本部所属の給与等級7級以上の従業員の評価が他部門の7級職以上の従業員に比較して評価が甘いのではないのかとの意見が出され、メディアマーケティング本部所属の7級職以上の従業員の評価の修正が求められた。そこで、戊野副社長は、メディアマーケティング本部の林局長らと協議し、原告の評価を二次評価の-1から-2に修正した。その結果、原告の2002年度の評価は最終的に-2となった。(乙19、20、証人丙谷【1、30、31、33頁】、被告代表者【14ないし17頁、19、46、47頁】)
(イ) 2003年2月20日、被告において、2002年度の従業員の昇格、降級を決定する昇格会議が開かれた。昇格会議は、評価会議と同じメンバーで構成されている。降級については、当年度の評価が-2以下の者、2年連続で評価が-1以下の者が対象となるところ、原告も、降級対象者として審議の対象者となり、降級が相当とされた。(乙19、20、証人丙谷【9、10頁】、被告代表者【18、19頁】)
(ウ) 戊野副社長は、丁沢局長同席のもと、2003年3月、原告に対し、2002年度の評価が-2であり、2003年4月1日以降、給与等級7級から6級に降級することになることを告げた。原告は、その際、戊野副社長に対し、本件降級の理由を尋ねたところ、戊野副社長は、「7級の人間の中で、在社時間が少ない。そういことで、君は働いていないだろう」と述べるにとどまり、それ以上詳しい説明はなかった。原告は、2003年3月19日、被告に対し、「前年度評価Feed-Backと新年度目標設定・自己開発表」の中で、2002年度の評価について、「目標項目とした達成レベルは満たしていると認めつつ、戦略がなく、質が低いといった理由で一方的に降級までさせられた事実は到底納得がいくものでない。会社への20年間の貢献が会社の一時的な経済状況と、たまたま現在の部署にいるという理由で、あらかじめ決められていたが如く悪い評価をされた事にショックを感じた。社員の一生を左右する事柄に関して慎重に決定される事を望む。」と述べ、被告に対し、異議の申出をした。(甲10、11、原告【5、21、22、24頁】、被告代表者【20、45、46、50、51頁】、弁論の全趣旨)
ケ 戊野副社長から退職勧奨を受けた者の評価等
(ア) 被告において、新賃金制度施行後降級したものは、社内全体で、2002年4月(2001年度評価)に8名、2003年4月(2002年度評価)に6名、2004年4月(2003年度評価)に3名と少数に止まっている(乙18、原告【31頁】)。
(イ) ところで、戊野副社長が、2001年10月に退職勧奨したことが判明しているメディアマーケティング本部に所属する従業員は、原告、庚崎D男、辛田E男、壬岡F男、癸井G男、丑木H男、寅葉I男、卯波某ら約8名であるところ、そのうち、原告、庚崎、辛田、壬岡、丑木、寅葉の6名が降級処分を受けており、辛田に至っては2回にわたって降級処分を受けている。すなわち、降級制度が始まって3年間で降級された者は延べ17名であるところ、そのうち、延べ7名が戊野副社長から退職勧奨を受けた者であり、高い割合を示している。なお、癸井G男、卯波某は被告を退職している。(乙18、23、被告代表者【41、42頁】、弁論の全趣旨)
(2)  当裁判所の判断
前記前提事実等を踏まえて、本件降級処分が有効か否かについて判断する。
ア 降級の判断基準
(ア) 被告は、成果主義賃金体系に基づく新賃金制度を導入したことに伴い、2001年度の人事評価から、従業員に対する降級制度を設けた。被告は、降級の基準について、全従業員に対し、次のような基準を明らかにした。すなわち、「評価の結果、本人の顕在能力と業績が、属する資格(=給与等級)に期待されるものと比べて著しく劣っていると判断した際には、資格(=給与等級)と、それに応じて処遇を下げることもあり得ます。」、「降級はあくまで例外的なケースに備えての制度と考えています。著しい能力の低下・減退のような場合への適用のための制度です。通常の仕事をして、通常に成果を上げている人に適用されるものではありません。」という基準を明らかにした。(前記前提事実ア(ウ))
(イ) 被告においては、従業員の人事評価を毎年1回行っており、評価基準は、-3から-1、0、+1から+3までの7段階評価(ただし、1から7までの7ランクで表示することもある)で行っている。そして、-1の評価を2年連続受けた者及び-2の評価を当該年度受けた者が、降級の対象者となり、役員を中心に各部門の代表者からなる昇格会議で審議され、降級させるか否かを決定することになっている。そして、従業員は、評価基準が7段階評価であることは知っていたが、前記降級基準は被告から知らされていなかった。(前記前提事実イ(ア)、(イ))
(ウ) 以上によれば、従業員に対する降級基準は、従業員に明らかにされている基準で行うのが相当であり、そうだとすると、「従業員本人の顕在能力と業績が、属する資格(=給与等級)に期待されるものと比べて著しく劣っている」、換言すると、「著しい能力の低下・減退」があったか否かによって判断するのが相当である。そして、被告内部において降級基準とされている、-1の評価を2年連続受けた者及び-2の評価を当該年度受けた者という基準は、前記「著しい能力の低下・減退」の一つのメルクマールであると捉えるのが相当である。そうすると、本件降級処分が有効か否かを判断するに当たっては、原告の2002年度の勤務態度が、原告の給与等級である7級に期待されているものと比べて著しく劣っていたか否か、原告に著しい能力の低下・減退がみられたか否かを検討すればよいことになる。以下、この点について、検討を進めることにする。
イ 給与等級7級に期待される顕在能力・業績と被告が主張する原告の勤務態度
(ア) 被告が媒体職の資格等級7級に期待するものは、「期待される能力像」によれば、「プロジェクトのリーダーとして責任を持って仕事を遂行し、チームの業務推進/士気高揚に努める。管理職としての自覚を持ち、部下の育成・管理ができる。」者であるとしている。また、被告が従業員に配布した「期待される能力像の具体化モデル」によれば、媒体職の給与等級7級の評価に当たっては、「CM進行/新聞・雑誌送稿作業、CM考査に関する知識、部内、部外とのコミュニケーション力、仕事の効率化に対する意識、部下(後輩)への指導力、管理職としてのリーダーシップ」等が評価の対象になるとされている。(前記2(4)で認定した事実)
(イ) ところで、被告は、原告を給与等級7級から6級に降級したのは、次の理由からであると主張している(争点3【被告】の主張ウ(イ)参照)。
a 業務部をまとめてリーダーシップを発揮することがなかった。
b 業務部に所属する社員を管理し、その相談に乗ったり、面倒を見るなどのいわゆる管理業務を行わなかった。
c 原告の上司にあたる部長、副本部長、本部長や、本部内各局のリーダー層とのコミュニケーションがとれなかった。
d 業務改善や工夫を積極的に行なわなかった。
e 緊急時の対応に柔軟性がなく、取りまとめができなかった。
f 部における各作業の効率化ができず、またCM考査において、原告が担当すべきところを他のテレビ局の担当部長が代行することとならざるを得ず、他部門からの信頼を失い、ひいては会社の期待を裏切った。
ウ 被告の主張する本件降級処分の理由の存否
そこで、以下、被告の主張する前記イ(イ)の降級理由が証拠上が認められるか否かを、前記前提事実を踏まえながら検討することにする。
(ア) 被告のイ(イ)aの主張について
被告は、原告が業務部をまとめてリーダーシップを発揮することがなかったと主張する。しかし、前記前提事実カの(イ)ないし(オ)によれば、業務部は、素材の送稿作業を行うことが主たる業務であり、何よりも正確かつ確実に送稿を行うことが求められていることが認められる。このような業務部の業務内容の特質を考えると、業務部次長として求められるリーダーシップとは、業務部のスタッフの作業の正確性を担保して、単調な作業であっても確実にこなす職場環境を作り、これを維持することにあるところ、前記前提事実キ(イ)bによれば、原告は、業務部次長に就任した2002年度中、部下の従業員に対し声をかけ、コミュニケーションを図るように努力していることが認められ、リーダーシップに欠けると認めるに足りる的確な証拠は存在しない。
また、前記前提事実キ(イ)cによれば、原告は、2002年度、EDI推進作業についても、率先して準備作業を担当していたこと、部下である乙川とともに、送稿業務の「定期バイク便増設」を提案する等のリーダーシップを発揮していることが認められる。
以上によれば、被告の主張する前記イ(イ)aの降級理由は、これを認めるに足りる証拠がなく、理由がないというべきである。
(イ) 被告のイ(イ)bの主張について
被告は、原告が業務部に所属する社員を管理し、面倒を見るなどの管理業務をしていないと主張する。しかし、本件全証拠を検討するも、これを認めるに足りる的確な証拠は見当たらない。かえって、前記(ア)のとおり、原告は、業務部次長として、作業の正確性や確実性を確保するために部下の従業員を管理・監督していたことが認められる。それにとどまらず、前記前提事実カ(ア)、キ(イ)bによれば、業務部に所属していた原告の部下はいずれもベテラン従業員ばかりであり、技術面で原告が面倒をみる必要はなかったが、定期的に懇親会を設定するなどして業務部に所属する従業員相互のコミュニケーションを図るとともに、従業員において仕事上の悩みなどないか気にかけていたこと、その結果、業務部内の風通しも良くなり、チームワークの面でも結束力が強くなったことが認められる。
以上によれば、被告の主張する前記イ(イ)bの降級理由は、これを認めるに足りる証拠がなく、理由がないというべきである。
(ウ) 被告のイ(イ)cの主張について
被告は、原告には業務部長、本部長、本部内各局のリーダー層とのコミュニケーションが不足していたと主張する。しかし、前記前提事実キ(エ)a及び弁論の全趣旨によれば、業務部の送稿業務を間違いなく円滑に遂行するためには、テレビ部長、新聞雑誌部長、総務部長と十分なコミュニケーションを図ることが必要不可欠であるところ、原告が送稿業務を通常通り遂行していたことは原告の上司である丁沢局長も認めているところである。そうだとすると、被告のイ(イ)cの主張も理由がないというほかない。
(エ) 被告のイ(イ)dの主張について
被告は、原告は業務改善や工夫を積極的に行わなかったと主張する。しかし、前記前提事実キ(イ)c〈1〉及び弁論の全趣旨によれば、原告は、乙川と共に、素材の送稿作業に当たって、雑誌校正の配布ルートを効率化するために、「定期バイク便増設」を提案したこと、前記提案は顧客(得意先)への原稿配送ルートを増やし、校正をよりスムーズかつ頻繁に行うための改善案であったことが認められる。また、前記前提事実キ(イ)c〈2〉によれば、原告は、EDI事業、デジタル送稿の推進も行い、このことにより、送稿時間の短縮や配送ミス等が減少したことが認められる。さらに、前記前提事実キ(イ)c〈3〉によれば、原告は、テレビCMの進行作業を正確・確実に行うために10桁CMコードを推進し、その結果、被告では、他代理店より早く10桁コードが社内に浸透し、素材の間違いがなくなり、素材の差し替えの迅速化が図られたことが認められる。
以上によれば、原告は、業務部において業務改善や工夫を積極的に行っており、被告の主張する前記イ(イ)dの降級理由は、これを認めるに足りる証拠がなく、理由がないというべきである。
(オ) 被告のイ(イ)eの主張について
被告は、原告は緊急時の対応に柔軟性がなく、取りまとめができないと主張する。しかし、前記前提事実キ(イ)bによれば、原告は、素材送稿について、部下がトラブルやミスをした場合、その問題解決に機敏に対応したことが認められ、その他、本件全証拠を検討するも、被告のイ(イ)eの主張を認めるに足りる的確な証拠は存在しない。したがって、被告のイ(イ)eの降級理由も理由がないというべきである。
(カ) 被告のイ(イ)fの主張について
被告は、原告は「部における各作業の効率化」及び「CM考査の交渉」を実施しなかったと主張する。
しかし、前記前提事実カ(オ)、キ(イ)c、d、証拠(被告代表者【28頁】)、及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
業務部の主たる業務である送稿業務は定型的業務であり、長年の積み重ねにより業務の効率化が行われてきている。その中でも、原告は、定期バイク便の増設などを提案して、効率化を図るよう工夫をしてきた。また、原告はCM考査も、年間20件程度の交渉を行ってきた。ただし、営業担当者が、業務部ではなく、テレビ局の部長に持ち込んで交渉をするケースもあった。しかし、これは原告のCM考査に問題があったからではなく、原告に責任を負わせることは困難である。のみならず、被告は、本件降級処分に当たり、原告のCM考査については何ら問題にしておらず、降級理由としていなかった。
以上によれば、被告の主張する前記イ(イ)fの降級理由は、理由がないというべきである。
エ 小括
以上によれば、従業員を降級させるためには、原告の2002年度の勤務態度が、給与等級7級に期待されたものと比べて著しく劣っていたこと、原告に著しい能力の低下・減退があったことが必要であるところ、上記で判断したとおり、原告の2002年度の業務部での勤務振りは、通常の勤務であり、被告の主張する降級理由がいずれも認めるに足りる的確な証拠の存在しない本件にあっては、本件降級処分は、権限の裁量の範囲を逸脱したものとして、その効力はないものと解するのが相当である。前記前提事実エ(イ)、ケで認定した、戊野副社長が退職勧奨の際原告に対し発言した内容及び戊野副社長が退職勧奨をしながらもこれに応じなかった従業員が降級している割合が高いことが認められる本件にあっては、本件降級処分は、原告が退職勧奨を拒否したこととの関連が強く推認されるところである。
したがって、原告を給与等級7級から6級に降級した本件降級処分は効力がなく、原告は、依然として、給与等級7級の地位にあると認めるのが相当である。そうだとすると、原告の当該地位確認請求は理由があるということになり、これを認容するのが相当である。
4  差額賃金請求の成否(争点4)
(1)  原告は、本件降級処分によって給与等級7級から6級に降級したことにより被った賃金の不利益について支払請求をしている(第5回口頭弁論)。そして、原告は、本件降級処分によって被った賃金の不利益について、給与等級7級の従業員が受給する基本月俸と6級の従業員が受給する基本給与月額との差額が不利益であると主張する。しかし、前記原告の主張は不合理であり採用することはできない。なぜなら、前記争いのない事実等(3)ア、(4)ウ(イ)によれば、原告は、新賃金制度適用後の給与等級7級の在位時代は、基本年俸(これを12分の1したものが基本月俸)に加え業績年俸を受給しており、本件降級後の2003年4月から2005年3月までの間には月額基本給与のほか時間外勤務手当及びインセンティブを受給し、また、2005年4月からは月額基本給与のほか裁量労働手当及びインセンティブを受給していることが認められるのであって、そうだとすると、本件降級処分による原告の被った賃金の不利益は、これら原告が年間(年俸の期間が毎年4月から翌年3月までの1年間であることに照らすと、同期間)に受給した、あるいは受給することができたはずの賃金総額を比較して決めるのが合理的かつ相当である。この点、原告の前記主張は、自己に最も有利な支払項目だけを比較(基本月俸と月額基本給与)し、支払請求をするものであり、賃金についての不利益を正確に反映したものといえず、採用することができない。
(2)  賃金の不利益額
ア 2003年4月から2004年3月までの間
(ア) 前記争いのない事実等(3)ア(イ)c〈3〉、(3)イ及び弁論の全趣旨によれば、被告においては、昇格、降級は毎年4月に決められていること、昇格、降級がない場合の7級以上の管理職の年俸の期間は毎年4月から翌年3月までの1年間であること、本件降級前の2003年3月時点の原告の基本月俸は月額66万5340円であったことが認められる。
以上の事実を前提にすると、本件降級処分が無効な本件にあっては、人事評価が平均の±0だとすると(本件降級が無効の場合、査定評価も±0の蓋然性が強い)、原告の給与等級が7級のままであったとした場合、原告は2003年4月から2004年3月までの間、998万0100円(66万5340円×15=998万0100円)を受給できたはずということになる。
(イ) ところが、証拠(乙25)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、2003年4月から2004年3月までの間、被告から、別紙「実際の支給金額」のとおり、月額基本給与のほか、時間外勤務手当、インセンティブ、賞与等合計894万6393円(2003年4月の精算額2万0010円は給与額に加える)の支給を受けただけであることが認められる。
(ウ) 前記(ア)(イ)によれば、原告は、本件降級処分がなかったならば、1か月当たり、8万6142円{(998万0100円-894万6393円)÷12=8万6142円}の賃金の不利益を被ったというべきである。したがって、原告は、被告に対し、2003年4月から2004年3月までの間、賃金支給日である毎月15日限り各8万6142円及びこれらに対する支払日の翌日である各月16日以降支払済みまで商事法定利率年6分の遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないというべきである。
イ 2004年4月から2005年4月までの間
(ア) 前記ア(ア)でみてきたとおり、本件降級処分が無効であり、原告が給与等級7級のままであったとしたら、原告は、2004年4月から2005年4月までの間、1081万1775円(66万5340円×15×13÷12=1081万1775円)を受給できたはずである。
(イ) ところが、証拠(乙25)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、2004年4月から2005年4月までの間、被告から、別紙「実際の支給金額」のとおり、月額基本給与のほか、時間外勤務手当、裁量労働手当、インセンティブ、賞与等合計1049万3511円を受給したことが認められる。
(ウ) 前記(ア)(イ)によれば、原告は、本件降級処分がなかったならば、1か月当たり、2万4481円{(1081万1775円-1049万3511円)÷13=2万4481円}の賃金の不利益を被ったというのが相当である。したがって、原告は、被告に対し、2004年4月から2005年4月までの間、毎月15日限り各2万4481円及びこれらに対する支払日の翌日である各月16日以降支払済みまで商事法定利率年6分の遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないというべきである。
5  結論
以上の検討結果から明らかなとおり、原告の請求は、給与等級7級の労働契約上の地位を有することを確認する部分、2003年4月から2004年3月までの間、毎月15日限り各8万6142円、2004年4月から2005年4月までの間、毎月15日限り各2万4481円及びこれらに対する支払日の翌日である各月16日以降支払済みまで商事法定利率年6分の遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないというべきである。よって、以上の限度で原告の請求を認容することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 難波孝一)

 

給与一覧表〈省略〉
実際の支給金額〈表省略〉

 

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