「営業アウトソーシング」に関する裁判例(31)平成28年 3月17日 東京地裁 平26(ワ)306号 不当利得返還等請求事件
「営業アウトソーシング」に関する裁判例(31)平成28年 3月17日 東京地裁 平26(ワ)306号 不当利得返還等請求事件
裁判年月日 平成28年 3月17日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平26(ワ)306号
事件名 不当利得返還等請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2016WLJPCA03178018
要旨
◆原告会社が、同社の社員であった被告Y1に対し、同人の求めに応じて担当業務の実費として仮払金を支払ったが、同人はこのうち一部についてしか領収書を提出せず、残額は着服したとして、同残額の支払を求めるとともに、被告Y1が代表取締役を務める被告会社に対し、訴外会社から譲り受けた被告会社に対する請負代金債権及び原告会社と被告会社との間の請負契約により生じた請負代金債権の支払を求めた事案において、原告会社と被告Y1との間の関係は業務提携ないしはそれに類似する関係にあり、被告Y1は一定程度の裁量権をもって本件業務を処理していたものと認める余地があるとし、また、原告会社の経理処理において少なくとも平成25年6月頃までは領収書の提出は厳密には求められていなかったことなどから、仮払金のうち被告Y1が自己費消し、ないしは目的外に使用された金額は明らかでなく、同金額を推定することも極めて困難であるとして、被告Y1に対する請求を棄却する一方、原告会社の被告会社に対する未払請負代金債権を認めるなどして、同社に対する請求の殆どを認容した事例
参照条文
民法632条
民法703条
民法709条
裁判年月日 平成28年 3月17日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平26(ワ)306号
事件名 不当利得返還等請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2016WLJPCA03178018
東京都台東区〈以下省略〉
原告 株式会社X
代表者代表取締役 A
訴訟代理人弁護士 箕輪正美
同 伊藤慶太
同 宮田直紀
同 澤嶋葉
東京都渋谷区〈以下省略〉
被告 Y1
東京都渋谷区〈以下省略〉
被告 株式会社Y2
代表者代表取締役 Y1
被告両名訴訟代理人弁護士 堀内稔久
主文
1 原告の被告Y1に対する請求を棄却する。
2 被告Y2社は,原告に対し,134万7000円及びこれに対する平成26年2月10日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 原告の被告Y2社に対するその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用のうち,被告Y2社に生じたものは被告Y2社の負担とし,その余は原告の負担とする。
5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 被告Y1(以下「被告Y1」という。)は,原告に対し,378万2039円及びこれに対する平成25年6月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告Y2社(以下「被告会社」という。)は,原告に対し,134万7000円及びこれに対する平成25年2月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1【被告Y1関係】 原告が被告Y1に対し,原告は原告の社員であった被告Y1の求めに応じ,原告担当業務の実費として合計489万8134円の仮払金を支払ったが,被告Y1はこのうち111万6095円分についてしか領収書を提出せず,残額は被告Y1において着服したものであると主張して,前記仮払金のうち領収書の提出のない378万2039円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。
2【被告会社関係】 原告が被告会社に対し,旧商号時の原告が有限会社a(以下「a社」という。)から譲り受けた被告会社に対する請負代金債権23万7000円と,同原告と被告会社間の請負契約により生じた請負代金債権111万円の合計134万7000円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。
3【前提事実】
以下の各事実は当事者間に争いがない。
(1)ア 原告は,主として美容師のアウトソーシング(外部委託)事業,美容院の経営等を目的とする会社であり,A(以下「A」という。)は原告の代表取締役である。
なお,原告は,平成24年11月2日に「株式会社b」の商号で設立され,平成25年2月3日に現在の商号に変更している(以下,商号変更の前後を問わず,「原告」という。)。
イ 被告会社は,芸能人を対象としてヘアメイク(ヘアセッティングとメイクアップ)及びスタイリストの派遣並びに衣裳提供のサービスを行う会社である。被告Y1は,被告会社の代表取締役である。
ウ a社は,一般人を対象に店舗でのヘアメイクを営む会社であり,その代表者はB(以下「B」という。)であった。
(2) 被告Y1は,平成24年11月下旬以降,原告の業務(撮影現場への美容師やスタイリストの派遣等。以下「本件業務」という。)を行っていた。もっとも,原告は,被告Y1は原告の社員として本件業務を行っていたと主張するのに対し,被告Y1は,原告との共同事業提携契約に基づき本件業務を行っていたものであり,原告の社員ではなかったと主張している。
なお,原告は,被告Y1につき平成25年7月16日付け「社員解雇のご通知」と題する書面を原告の顧客等に送付しており(乙65参照),同書面には,原告は不都合が生じたため被告Y1を7月12日付けで解雇した,現時点では顧問弁護士と協議し民事,刑事告発の手続の段階である旨の記載がある。
4【当事者の主張の要旨】
(1) 原告の主張(本件請求原因)
ア〔仮払金関係〕
(ア) 原告は,顧客からの依頼による撮影を行う際,撮影現場に美容師及びスタイリストを派遣する場合には,使用する衣装代,小物レンタル代,現場までの交通費等(以下「実費」ないし「撮影実費」という。)を一旦原告側で立て替えて支払い,当該実費については後日顧客に対して報酬と共に請求する扱いとなっていた。被告Y1は,原告の第2事業部の責任者として,現場ごとにかかる実費について原告に仮払金名目で請求し,原告は,後日領収書の提示により金銭の使途を明らかにすることを条件に,被告Y1に対し,使途を撮影実費の支払に限定して,下記のとおり合計489万8134円を被告Y1に支払った(なお,支払年度はいずれも平成25年である。)。
記
① 1月31日に15万円
② 2月1日に207万3134円
③ 2月25日に77万5000円
④ 4月1日に75万円
⑤ 4月19日に63万円
⑥ 6月21日に52万円
(イ) しかしながら,原告の再三にわたる請求にもかかわらず,被告Y1が原告に提出した領収書の合計金額は111万6095円であって,残額の378万2039円(以下「本件使途不明金」という。)は被告Y1において自己費消の目的で着服したものと考えられる。
なお,被告Y1が本件訴訟において提出した領収書(乙1~57)に関する支出の認否は別紙1(経費認否一覧表)記載のとおりであって,経費であることが明らかなものは20万4741円程度であり,明らかに経費に含まれないものだけでも総額169万9648円に及んでいる。
(ウ) よって,原告は被告Y1に対し,不法行為に基づく損害賠償請求ないしは不当利得に基づく返還請求として,本件使途不明金378万2039円及びこれに対する最後の仮払金の支払日である平成25年6月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
イ〔請負代金請求関係〕
(ア) a社及び原告は,下記のとおり,被告会社から美容師及びスタイリストの派遣業務を請け負った(以下,合わせて「本件請負契約」という。)。
記
① a社関係
稼働日・件数 平成24年10月1日から同月31日まで全8件
請負代金 合計23万7000円
代金の支払 請求を受けた日の翌々月までに支払う。
② 原告関係(但し,旧商号b社時の契約である。)
稼働日・件数 平成24年11月1日から同月30日まで全11件
請負代金 合計111万円
代金支払日 ①と同じ。
(イ) 原告は,会社設立に際し,a社から,a社が派遣した美容師及びスタイリストに対して負う平成24年10月分の給与支払債務の引受けを条件として,前記(ア)①の請負代金債権を譲り受けた(以下「本件債権譲渡」という。)。
(ウ) 原告は,被告会社に対し,前記(ア)①,②の請負代金(以下「本件請負代金」という。)の支払を請求し,請求の日の翌々月末は経過した(なお,原告は「請求の日」を具体的に主張しないが,原告が平成25年2月1日以降の遅延損害金を請求していることに照らし,平成24年11月30日までに請負代金請求をしたと主張する趣旨と解される。)。
(エ) よって,原告は被告会社に対し,本件請負契約及び本件債権譲渡に基づき,本件請負代金合計134万7000円及びこれに対する本件請負代金請求の日の翌々月末の翌日である平成25年2月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(2) 被告らの主張の要旨(本件請求原因に対する認否及び抗弁)
ア〔仮払金関係〕
(ア) 原告は,被告Y1が原告の社員(従業員)であることを前提に,被告Y1において仮払経費を精算せず横領したと主張して,被告Y1にその返還を求めている。
しかしながら,被告Y1は原告との間で共同事業提携契約を締結しており,原告の社員ではなかった。そして,別紙2ないし4(乙68~70)のとおり,被告Y1は自ら営業経費として567万7131円を先行して立替払しているところ,原告からはその一部精算金として合計378万2039円が支払われただけである。このとおり,被告Y1は原告主張の仮払金を自己費消の目的で着服したことはなく,むしろ,被告Y1の立替金のうち189万5092円が未払の状態である。
(イ) なお,上記の立替金のほか,被告Y1は原告に対し,別紙3(乙69)のとおり,平成24年11月から平成25年6月までの車両リース代金の支払遅延,未払によるリース解約の違約金及び損害額として278万5801円の請求権を有している。また,原告は,被告会社所有の衣装約1万点を300万円(ないし360万円)で買い取る旨を約束しながらこれを履行せず,被告会社は原告に対し,衣装レンタル代として329万6500円の請求権を有している(この点,被告らは上記債権について相殺の主張をしておらず,事情として主張する趣旨と解される。)。
イ〔請負代金請求関係〕 原告主張の合計134万7000円の請負代金債権は認めるが,原告も別紙5(乙59)のとおり,a社に対して138万6000円の請負代金債権を有していた。そして,原告と被告会社は,平成24年11月末日頃,原告が被告Y1に対して共同事業提携契約の話を持ち掛けた際,原告がa社からの営業の譲り受けによって引き受けた債務と,被告会社が負う請負代金債務を互いに相殺処理することを合意した。よって,原告主張の請負債権は消滅しており,原告の請求には理由がない。
なお,被告会社は,上記請負代金債権について,「a社,Bとの話し合いで全てまとまっている。」との主張もしているが,それ以上の具体的な主張はしていない。
第3 争点
本件の主要な争点は,①被告Y1は,原告主張の仮払金のうち378万2039円を原告の事業のために使用せず,自己費消したか(争点1),②被告会社の請負代金債務は相殺処理によって消滅しているか(争点2),以上の2点であり,各争点に関する当事者の主張の詳細は,以下のとおりである。
1 原告の主張
(1)【原告の設立及び被告Y1の雇い入れ】
ア〔原告の設立〕 A(原告代表者)は,平成24年8月上旬ころ,B(a社代表者)から,経営不振の状態にあるa社の事業を譲渡したいとの話を持ちかけられた。BとAは,平成24年10月下旬ころ,a社が撮影現場に派遣した美容師及びスタイリストに対して負う給与債務の引き受けを条件として,Aが新会社を設立したうえ,a社が営んでいた事業を新会社が譲り受け,Bを相談役として新会社に迎えることを合意し,その後,平成24年11月2日に新会社(株式会社b。その後,現在の原告の商号に変更)が設立された。
イ〔被告Y1の雇い入れ〕 平成24年10月下旬頃,AはBから芸能関係の仕事に明るい人物として被告Y1を紹介され,Aと被告Y1の話し合いの結果,Aは被告Y1を新会社の社員として月額50万円の固定給で雇用することになった。なお,この際,被告Y1からは「1000万円の売上を必ず達成するので歩合給を支払ってほしい。」旨の申し出があったが,Aは,被告Y1の実績も分からず,原告にどれくらいの純利益が見込まれるのか不透明であったことからその申し出を拒絶し,毎月の入金額や純利益として残る金額等を踏まえて,固定給に加え歩合給を支払うか否かを検討することとなった。しかし,実際には,Aと被告Y1間のやり取りは,被告Y1からの仮払金請求とその精算及び同人に対する領収書提出の要請に終始しており,歩合給について話し合うような状況ではなかった。
なお,被告Y1は同人が原告の社員であったことを争うが,被告Y1が雇用契約書(甲7)に署名していること,被告Y1が原告から毎月50万円の固定給を受領していたことから,被告Y1が原告の社員であったことは明らかである。もっとも,原告の経理上,被告Y1に支払われた仮払金は「仕入外注費」として計上され,また,被告Y1に毎月支払われていた50万円の給与についても「仕入外注費」として扱われ,給与としての扱いはなされていないが,これはあくまで経理上の処理にすぎない。
(2)【原告の概要,被告Y1の担当業務等】 被告Y1が原告に勤務していた当時,原告の正社員数は15名程度であった。また,原告の顧客となる会社は,直接,個人のスタイリストやヘアメイクに仕事を依頼するのではなく,原告のような会社を通じて仕事を依頼するのが通常であることから,フリーランスのスタイリストやヘアメイクは,いくつかの会社に外注のスタッフとして登録を行い,自ら仕事を持ち込んだり,会社から外注先として仕事を請け負う形をとっている。本件当時,原告の外注のスタイリスト,ヘアメイクとして登録しているスタッフ数は200名程度,実働人数は150名程度,そのうち原告専属のスタッフは100名程度であった。
被告Y1は,スタイリスト及びヘアメイクの派遣を主たる業務とする原告の第2事業部の主任として,新規の仕事の取得のための営業活動,撮影現場への立会,各現場への担当者の割り振りを行っており,現場への立会や取引先との打ち合わせ等のため,被告Y1が原告に毎日出社する形はとっていなかった。
(3)【原告における仕事の流れと領収書の取扱い】
ア〔仕事の受注〕 原告設立当初は,新規で仕事を受注する際には,被告Y1ないしはその他の現場スタッフが仕事を持ち込むことが大半であったが,被告Y1が原告を辞める少し前からは,原告に直接仕事の話が持ち込まれることも増えつつあった。受注の際には,顧客となる会社から「予算いくらで仕事を振りたい。」という形で話があり,当該金額については,仕事完了後に多少の値引き修正が入ることもあった。
イ〔担当者の決定から撮影まで〕 各撮影現場への担当者(スタッフ)の割り振りは被告Y1が行っており,担当者の決定後は,各担当者が取引先と打ち合わせを行い,撮影現場にも担当者のみが立ち会っていた。事前の打ち合わせについては電話一本で終わる場合がほとんどであって,被告Y1が打ち合わせや撮影現場に立ち会うことも,ほとんどなかった。
ウ〔取引先への請求から入金まで〕 顧客となる会社は,その会社内部で予算を稟議で通す際に,衣装代,スタイリストのギャラ等,予算に対して費目の割付を行っていることが多いため,請求書を送付する際には,領収書原本の送付を要求する会社が大半である。請求書を送付してから入金があるまでの時間は,取引先により異なるが,概ね請求月の翌々月末に入金となる。
(4)【仮払金の支払について】
ア〔初回仮払金の支払経緯〕 原告の仕事納めの日である平成24年12月29日,被告Y1から,同人が原告に入社以降に立て替えた金員の精算を年内に行ってほしいとの話があった。立替金の精算についてはそれ以前から被告Y1から話があったものの,当初から原告は領収書の提示を支払の条件としており,被告Y1からは一切の領収書の提示がなかったため,同日までに支払が行われていなかった。
そのため,Aは同日も支払を拒んだが,被告Y1から精算が年内になされないと年を越すことができないなどと生活の困窮を長時間にわたって訴えられたため,後日速やかに領収書を提出することを条件として,この支払をもって平成24年中に発生した立替金の精算が全て終了することを確認の上で,社長室の金庫内の現金から,被告Y1に対して立替金の精算及び同人の給与等として188万円を支払った。
イ〔その後の仮払金の支払経緯〕 その後も,被告Y1からは平成24年度中の経費分も含めて領収書の提出がなされない状態が継続したが,同人から「本日中に経費の入金がないと仕事の受注を逃してしまう。」等の訴えが度々なされたため,仕事への支障を考慮して,原告は被告Y1への仮払金の支払を続けざるをえなかった。
ウ〔被告Y1の仮払金に関する主張について〕 なお,被告Y1は,本件の仮払金について,売上に占める経費の割合を2割以内とするとの制限はあったものの,その使途については問われず,領収書の提出も義務付けられていなかったと主張し,その根拠として,被告Y1は原告の通常の社員ではなく,共同経営者ないしはフリーランスの立場で会社に参画する立場にあったことを挙げる(但し,後記2,(3),イのとおり,被告Y1は,領収書の提出を義務付けられていなかったとか,経費の使途は問われなかったとの主張はしていない。)。
しかしながら,原告は原告の社員である被告Y1に領収書の提出義務を免除したり,経費の使途を問わないというような広範な裁量権を与えていないし,原告が取引先に撮影実費の支払を請求する際には,原則として領収書の原本が必要とされていた。また,原告のスタッフの人件費が売上げの5割から7割を占めること,その他にも事務所の家賃等の固定費の支払も必要であることから,撮影実費として使用可能な金額は限られている。平成25年8月から12月までの原告の売上管理票からも明らかなとおり,売上に占める撮影実費の割合はせいぜい1割であって,被告Y1が撮影実費として主張する金額が過大であることは明らかである。
なお,被告Y1がBへ送信したメール(甲6の1)には,「○○メソッドで今後X社の利益となるであろうパートは多少領収書の操作をしましたが」との記載が,また,被告Y1がAへ送信したメール(甲6の2)には,「(領収書を)提出できなかった理由としては,(中略)次なる戦略の経費として使かわせてもらっていたことを理解してもらえなかったことです。」「領収書の紙切れで判断される事が,本当に嫌で嫌で提出できませんでした。」との記載がある。これらの記載からは,被告Y1が原告への領収書の提出を怠っていたことが明らかであり,また,被告Y1が原告から受領した仮払金を原告の事業とは無関係の事業資金に充てていた可能性が高いことが窺われ,また,被告Y1と原告が共同経営の関係になかったことが明らかである。
エ〔被告Y1主張の「事情」等に対する反論〕
(ア) 被告Y1は,同人の車両リース料について原告が負担することで合意していたと主張するが,否認する。平成24年末頃,被告Y1から,突然,「仕事上衣装を運搬するのに車両を使用しており,リース料金が支払われず車両が引き揚げられてしまうと仕事に支障が生じる。」と言われ,やむなく平成25年1月にリース料を支払ったものにすぎない。原告は,その後も被告Y1から車両リース料の支払要求があった際には仕事への支障等を考慮して最終的にはリース料を立替払していたが,原告の再三の請求にもかかわらず被告Y1から経費に関する領収書の提出がない状態が続く中で,同人に対する不信感が募り,平成26年6月支払分についてはリース料を支払わなかったものである。
(イ) また,被告会社が主張する1万点の衣装の買取りの話も否認する。そもそも衣装の点数は4000点程度であり,衣装の所有者は被告会社(株式会社Y2社)ではなく別会社(株式会社c)であった。
(5)【請負代金債権の相殺処理の合意について】 被告ら主張の請負代金債権相殺処理の合意は否認する。原告は,B(a社の代表者)からも,被告Y1からも,a社が被告会社に対して請負代金債務を負っていたという事実を聞かされたことは一切ない。また,当時,被告会社を窓口として仕事を行っていたスタッフから入手した被告会社の稼働表(甲5)にも,被告らが主張するような仕事は一切記載されていない。
2 被告らの主張
(1)【共同事業提携契約締結に至る経緯】
ア〔被告会社のa社に対する請負代金債権〕 被告会社は,もともと芸能人を専門としていた関係で,人手が足りなくなったときに補助的業務をa社に下請け依頼することが多かった。ところが,例外的に,a社が芸能人関連で受注したヘアメイク及びスタイリングの業務を処理できず,平成24年3月から5月までの間,被告会社がa社に対して人材(美容師及びスタイリスト)派遣及び衣裳実費の提供を行っていたことがある。この「逆下請け」によって,被告会社はa社に対して138万6000円の請負代金債権を有していたが,a社はその代金の支払を怠ってきた。
イ〔原告によるa社の債務の承継〕 原告は,その設立にあたり,a社から一般人を対象とするヘアメイク等の美容師業務を含む分野の営業の一切を譲り受けた。換言すれば,原告は,a社のいわゆる「商圏」(営業権)の一切,すなわち取引上発生した債権債務を承継した。
ウ〔原告からの事業パートナーとなることへの勧誘〕 ところが,原告は芸能人に関する分野にほとんど取引関係がなかったことから,芸能人を専門とする分野に食い込んで開拓するため新たに美容事業部を立ち上げることとし,平成24年10月,a社を通じて被告会社に対し,原告が500万円の初期投資をすること,原告が業務の全面的サポートを行うことを条件として事業パートナーにならないかとの提案をした。平成24年11月下旬,被告会社が事業パートナーとして参画するうえで原告から提案された内容は下記のとおりである。
記
① 原告は,被告Y1に月額100万円以上の報酬を支払う。
② 原告は,被告Y1が売り上げた総売上から経費を差し引いた純利益を被告Y1に対して満額配当として支払う。
③ 原告は,事務作業,スタッフマネジメントを全面的にサポートする。
④ 原告は,被告会社所有の衣装約1万点を300万円(ないし360万円)で買い取る。
⑤ 原告は,被告会社で契約している車両のリース代金月額10万6000円を,原告の売上金から代理で支払う。
⑥ 被告会社がa社に対して有する138万6000円の売上債権を,原告が引き受けて精算処理(相殺)する。
エ〔共同事業提携契約の締結〕 原告と被告Y1の話し合いの結果,平成24年11月末日ころ,下記の条件が追加されて,両者間に共同事業提携契約(以下「本件提携契約」という。)が成立した。
⑦ 共同事業を展開する場所として,東京都渋谷区千駄ヶ谷に新しく事務所(通称千駄ヶ谷事務所)を賃借する。その家賃は原告と被告Y1の折半とするが,保証金,敷金,礼金等は原告が全て支払う。
⑧ 営業運転資金として原告が500万円を提供する。
⑨ 被告Y1は,主として芸能人に対するヘアメイクやスタイリングの受注をしてくる。
⑩ 収益や損失の処分は随時協議する。
⑪ 売上金は,いったん原告に納めるので(売上預かり金),費用はそれから支出する。
オ〔原告主張に対する反論〕 なお,原告は,被告Y1が雇用契約書に署名していること及び被告Y1が原告から毎月50万円を受領していたことを理由に,被告Y1が原告の社員(従業員)であった旨の主張をする。しかしながら,①原告は,正式な雇用契約が存在するとした場合に不可欠な法定文書を作成していないこと,②原告は被告Y1に給与明細書を交付しておらず,源泉徴収も行わず,被告Y1に社会保険も適用されていないこと,③原告の総勘定元帳(甲13)において,原告が被告Y1に支払った「給与」や仮払金は「仕入外注費」(社外取引先に対する費用)として記帳されており,人件費,給与等として記帳されていないこと,これらの事実からすれば,被告Y1が原告の社員でなかったことは明らかである。
なお,被告Y1は,原告から提示された雇用契約書に署名をしているが,被告Y1は雇用契約書の内容が事実に背馳しているため捺印を拒否しており,原告と被告Y1間に雇用契約は成立していない。
(2)【原告の本件提携契約の不履行】 被告Y1は,本件提携契約の約定どおり,美容師の仕事を受注して共同事業を処理したが,原告は,以下のとおり本件提携契約を履行しなかった。
① 原告は,千駄ヶ谷事務所につき賃貸借契約を締結して保証金,敷金,礼金を支払ったものの,同金員は,後に総売上から控除されていた。
② 原告は初期投資500万円を提供しなかった。このため,被告Y1は,営業経費として567万7131円を先行して立て替えた。
③ これに対し,原告は売上金の全額3500万円を回収集金しながら,被告Y1に対しは,被告Y1の立替金に対する一部精算金として378万2039円を支払ったのみである。原告は未精算残金189万5092円を支払わないばかりか,上記の一部清算金を仮払金であると詐言して,被告Y1が横領したと主張している。
以上のとおり,原告は,自らは何の仕事もほとんどせず,資金投資もほとんど行わずに被告Y1の行った仕事の成果を横取りしたにすぎない。
(3)【初回の一部精算金が支払われた経緯,領収書の取り扱い等】
ア〔初回の一部精算金の支払〕 平成24年12月下旬,初月の売り上げは1100万円に達し,被告Y1の業務にかかる個人立替金は270万円を超え,全てを差し引いた純利益も320万円であったが,平成24年内に支払われることはなく,被告Y1は,平成25年1月23日,被告Y1の立替金の一部188万円の精算と,固定経費の50万円を手渡しで受領した。同日の段階では,売上高は約2000万円に迫り,被告Y1の立替金も約400万円を超えた状態であった。
イ〔領収書の取り扱い等〕 被告Y1の事務サポートをする原告の常務取締役C(以下「C」という。)は,請求書や精算書の書き方すら知らず,請求書の発行においても,捺印漏れのミスや,部署を間違えて送るなど,事務においては散々な取り組み方で,結局,被告Y1が謝罪しながら請求書を届けた事が立て続けにあった。そのため,撮影の現場業務,撮影の準備,マネジメント,事務業務の全てを被告Y1が行わざるを得ず,原告への領収書の提出が遅れる事は明白であった。そのため,被告Y1は,経費の振り分けや利益幅が分かるよう,売上明細や撮影予算振り分け表をこまめに提出し,誰もが明確に把握できる状態にして業務に取り組んでいた。
なお,経費の精算における原告の対応があまりにもずさんであったため,被告Y1は,領収書や精算書を各スタッフが精算しやすい千駄ヶ谷事務所の会議デスク上で保存管理することとし,その旨をCに伝え,再三にわたり経理事務の仕事として本社に持ち帰って処理してくれるよう頼んでいた。しかし,平成25年2月から7月までの6か月間,Cは千駄ヶ谷事務所に頻繁に行き来していたものの,領収書を持ち帰ることはなかった。さらに,Cは,平成25年6月24日,千駄ヶ谷事務所の退去を進めていた際,同事務所内で被告の精算書と領収書の束を手に持ってチェックをしたが,また机上に戻してそのまま放置し,被告Y1を原告から追放した後も,そのまま1か月間放置した。このことからも,原告が当初より被告Y1から領収書を回収する意思がなかったことは明らかである。
また,本件業務における経費の精算方法は,被告会社の営業手法と事務処理を継続することの了承を得ていた。本件業務の経費は,通常,売上総額の約40%かかるのが通常であるが,被告Y1はこれを20%と目標設定し,全てをデータ化して完全管理した状態で業務に取り組んでいた。また,常に被告Y1の立替払先行で業務をこなしていたので,被告Y1は業務を行うほど個人の損失が膨らむ実情をCやAに何度も相談したが,その都度,平成25年7月一杯で純利益を満額配当する約束を提示されていた。
第4 当裁判所の判断
1【争点1(被告Y1による仮払金の自己費消の有無及び金額)について】
(1)〔被告Y1の原告における地位〕 まず,争点1を検討する前提として,被告Y1の原告における地位について検討する。
ア(雇用契約書について) たしかに,被告Y1は原告と雇用契約書(甲7)を取り交わしている。しかしながら,雇用契約書には「役職 取締役」と記載されており,被告Y1は社員(主任)にすぎなかったとする原告の主張とは食い違っているし,労働基準法15条1項により明示が求められている労働条件のうち,賃金については「昇給 有,歩合給 有,賞与 無,退職金 無」「本年度は上記の通りとし,毎年見直しを協議する」と記載されているのみで,賃金の決定,計算,支払方法,賃金の締切・支払時期に関する事項は記載されていないし,労働時間については全く記載されていないなど,極めて不十分なものである。原告において上記事項が就業規則に規定されているか否かは証拠上明らかでないが,仮に規定されていないとした場合は,およそ雇用契約書の体をなしていないとも評し得るものである。
イ(被告Y1に対して支払われた金員の経理処理について) 原告の主張によっても,原告の経理上,被告Y1に支払われた仮払金は「仕入外注費」として計上され,また,被告Y1に毎月支払われていた50万円についても「仕入外注費」として計上されているというのであるが,そのような経理処理をすべき必要性について,原告は何ら説明していない。また,原告の預金通帳(甲1)には,被告Y1に対する50万円の支払に関し,「Y1給料分仮払金」「給与仮払金」「仮給与」等の手書きの注記が多くなされているが,経費の支払のみならず給与の支払が仮払いとなる理由は明らかでないし,また,その支払日も一定していない。さらに,被告Y1に支払われた50万円については源泉徴収がなされておらず,また,被告Y1に対しては社会保険の適用もなされていないというのであって(Aの供述),以上の各事実からすれば,原告における経理処理の真実性,正確性には大きな疑問があり,また,原告と被告Y1の関係が単純な雇用契約であったといえるか,疑問というべきである。
ウ(被告Y1による立替金の支払) さらに原告は,平成24年12月29日,被告Y1から原告入社以降に立て替えた金員の精算を年内に行ってほしいとの話があり,被告Y1に対して立替金の精算及び同人の給与等として188万円を支払った旨主張するが,仮に給与分が50万円とした場合,被告Y1は原告の社員でありながら原告の経費として138万円という多額の金員を立替払していたことになる。被告Y1が原告の単なる社員であったのであれば,かかる取り扱いは考えられないところである。
エ(結論) 以上の各点に照らせば,被告Y1が原告の単なる社員であったと認めることは相当でなく,原告と被告Y1間の関係は業務提携ないしはそれに類似する関係にあり,被告Y1は一定程度の裁量権をもって本件業務を処理していたものと認める余地があるというべきである。もっとも,被告が主張する本件提携契約の具体的内容(前記第3,2,(1),ウ)については,被告Y1の陳述及び供述以外にはこれを認めるに足る証拠はなく,実際にも被告Y1主張の合意事項はほとんど実現されていないのであって,被告主張の各具体的合意が成立していたと直ちに認めることはできない。
(2)〔本件業務における撮影実費の支払状況及び領収書の処理について〕 次に,被告Y1による撮影実費の支払状況及び領収書の処理について検討する。
ア(最初の仮払金の支払について) 原告は,平成24年12月29日に被告の求めに応じて給料等を含む立替金188万円を支払い,その際,後日速やかに領収書が提出されることを条件として,同支払をもって平成24年中に発生した立替金の精算が全て終了することを確認したと主張する。しかしながら,後日速やかに領収書が提出されることが予定されていたのであれば,当然,領収書で確認された支出金額に応じて過不足額の精算が行われてしかるべきであり,188万円の支払をもって直ちに平成24年中に発生した立替金の精算が全て終了した扱いとしたのは不自然と言わざるを得ない。かかる取り扱いからは,原告の経費精算において領収書の提出が必ずしも重視されていなかったことが窺える。
イ(その後の仮払金の支払について) さらに,原告の主張によれば,原告は被告Y1からほとんど領収書が提出されないまま,前記の188万円に加え,平成25年1月31日から同年6月21日までの間に合計489万円余の仮払金を支払ったというのである。原告は,取引先に経費の支払を請求する際には原則として領収書の原本が必要とされていたとも主張していることに照らせば,領収書の提出は原告の経理処理にとって極めて重要な意義を有していたはずであり,それにもかかわらず,原告が被告Y1から領収書の提出がほとんどないまま約5か月の長期にわたり500万円近くの仮払金の支払を継続していたというのは理解しがたいところある。
かかる事実からも,少なくとも平成25年6月頃までは,原告において領収書の提出は重視されていなかったものと認めることができ,「原告は当初より被告Y1から領収書を回収する意思がなかった。」との被告Y1の主張にも,一定の説得力があるものというべきである。さらにいえば,領収書の提出がほとんどない期間が平成24年12月から6か月以上も継続していたという点に照らせば,「取引先に経費の支払を請求する際には原則として領収書の原本が必要とされていた。」との原告の主張にも疑問が生じ得るところであり,原告は取引先に領収書原本の提出をしないまま取引先から経費(撮影実費)相当額の支払を受けていた可能性もあるといえるのであって,その場合には,仮に被告Y1が原告に撮影実費に相当する領収書を提出せず,又は当該金員を他の支出等に流用していたとしても,原告には損害ないし損失は発生していないことになる。
ウ(経費率について) 本件業務の経費率につき,被告Y1は,「売上総額の約40%かかるのが通常であるところ,20%と目標設定していた。」と主張し,たしかに,別紙4(乙70。「hairmake事業部」との表題において,本件業務の状況の詳細まとめられている一覧表)によれば,平成24年12月から平成25年6月(7月の一部を含む。)までの経費率は平均すれば20%程度であったとされている(同表の「Y1実費欄」参照)。これに対し原告は,「売上に占める経費の割合はせいぜい1割であって,被告Y1が経費として主張する金額は過大である。」旨の主張をし,その証拠として平成25年8月から同年12月までの売上管理票(甲15)を挙げる。
そこで検討するに,Aは「被告Y1担当業務の売上が幾らぐらいになるかは乙第70号証(別紙4)を見てチェックしていた。」旨の供述をするところ,別紙4には下記の記載があり,これによれば,Aは,本件業務につき最大で売上の26%程度の経費(撮影実費)がかかることを認識し,これについて別段,問題としていなかったことが窺える。
記
① 平成24年12-1月
金額総合計 1090万5422円,撮影経費合計 270万5278円
② 平成25年1-2月
金額総合計 1004万6744円,撮影経費合計 275万3328円
(Y1実費)265万4021円
③ 平成26年3-4月
金額総合計 874万6070円,撮影経費合計 106万1133円
(Y1実費)104万1068円
④ 平成26年5-6月
金額総合計 595万6399円,撮影経費合計 95万6574円
(Y1実費)81万6574円
エ(結論) 以上のとおり,原告の経理処理において,少なくとも平成25年6月頃までは領収書の提出は厳密には求められておらず,また,Aは被告Y1の報告により本件業務の経費率が平均して20%程度であることを認識し,これを格別問題としていなかったものと認めることができる。
(3)〔検討〕 以上を前提に,被告Y1による仮払金の自己費消の有無及びその金額について検討する。
ア 以上のとおり,少なくとも平成25年6月頃までは,被告Y1に対して仮払金に関する領収書の提出は厳格には求められていなかったものと認められ,また,Aも売上高に対する20%程度の撮影実費の支出がなされていることを認識し,これを格別問題視していなかったと認められるから,本件訴訟提起前に被告Y1が原告に対して仮払金に対する領収書を111万6095円分しか提出していなかったとしても,領収書のない378万2039円を被告Y1が自己費消したと直ちに認めることはできない。
イ そして,領収書の有無にかかわらず,本件業務の遂行にあたっては一定の撮影実費を要することは明らかであるし(この点,原告は,売上に占める撮影実費の割合は多くても1割である旨の主張をしている。),前記第4,1,(2),イにおいて指摘したとおり,原告の顧客が領収書原本の提示がなくても原告に対して撮影実費分を含む支払をしていたとすれば,顧客において支払済みの撮影実費額は原告の損害ないし損失とはならないものというべきである(なお,原告の主張によっても,「原則として」領収書の原本が必要であるというのであり,領収書原本の提示なく撮影実費が支払われていた場合があることが窺われる。)。
ウ したがって,被告Y1による仮払金の自己費消の有無及び金額を明らかにするためには,本件業務の各現場ごとに,①受注金額,②実際に使用された撮影実費額ないしは相当と認められる実費額,③顧客に対する請求額,④顧客からの撮影実費分の支払の有無及び支払われた金額が明らかにされなければならない。しかしながら,原告は前記①,③及び④について具体的な金額を主張していない一方,被告Y1は,③については,別紙2及び同別紙備考欄記載の各証拠により,一応,各撮影現場ごとに支出した撮影実費額を明らかにしている。
エ もっとも,証拠(甲6の1,6の2)によれば,被告Y1は本件業務以外の事業等に係る経費を本件業務の撮影実費として原告に請求していたことが窺われるところ,原告が被告Y1に対して本件業務以外の事業等に原告の資金を流用することができるほど広範な裁量権を与えていたと認めるに足る証拠はないから,当該部分における資金流用は違法であり,被告Y1は当該金員について原告に対して返還義務を負うというべきである。しかしながら,本件全証拠によっても,その金額は明らかでない。
また,当該撮影現場とは関係のない撮影実費が当該撮影現場における撮影実費として原告に請求されていた場合も散見されるが,被告Y1において,各撮影現場の経費率ないしは各月の経費率を20%程度に調整するために,各撮影現場問において経費の付け替え等を行っていた可能性も考えられる(被告Y1が撮影で使用したトイプードル(玩具犬)につき,「これは経費を基本的に平たくして,自分の中でやりくりをしていくというのがあるんで」と供述しているのも,この趣旨と解される。)。この程度の調整は被告Y1の裁量に任されていたと解する余地もあり,被告Y1が提出した領収書が当該撮影現場で使用されたものでないとしても,直ちに被告Y1が当該領収書相当額を自己費消したと認めることはできない。
オ 以上によれば,本件全証拠によっても,仮払金のうち被告が自己費消し,ないしは目的外に使用された金額は明らかでなく,同金額を推定することも極めて困難であるから,原告の被告Y1に対する請求は棄却を免れない。
2【争点2(被告会社の未払請負代金債務の存否)について】
被告会社の主張は,まず,被告会社がa社に対して合計138万6000円の請負代金債権を有していたことを前提とするが,同債権の存在を認めるに足る証拠はない。すなわち,被告会社は,上記請負代金債権を有していた証拠として別紙3(乙第59号証。1枚目は被告会社のa社に対する請負代金債権をまとめた書面であり,3枚目から8枚目は被告会社が3月度ないし5月度において受注ないし発注した全業務内容の詳細が記載された一覧表である。なお,同一覧表のうち,被告会社主張の請負代金債権に関する欄は黄色で塗られている。)を挙げる。
しかしながら,①別紙3の3枚目から8枚目の一覧表は表計算ソフトを使用して作成したものと推測され,後日における挿入記載等の操作をすることも容易であることに照らし,同一覧表だけでは被告会社主張の請負代金債権が存在していたと認めることはできないところ,発注書等,a社が被告会社に業務を発注したことを示す証拠や,被告会社においてa社から受注した業務を実際に遂行したことを示す証拠は提出されていないこと,②被告主張の請負代金債権について,被告会社がa社に請求書を発行したと認めるに足る証拠はなく,前記一覧表の「請求書発行日」の欄も空欄となっていること,③仮に,被告会社がa社に対して合計138万6000円の請負代金債権を有しており,a社がその支払に応じないのであれば,随時,被告会社においてa社が被告会社に対して有する反対債権と相殺処理すれば足り,敢えて,原告との本件提携契約の中で相殺処理の合意をする必要はないこと,以上の各点に照らし,被告会社主張のa社に対する請負代金債権が存在していたと認めることはできない。
さらに,被告らは,原告が被告Y1に対して本件提携契約の話を持ち掛けた際,原告がa社から引き受けた債務と,被告会社が負う請負代金債務を互いに相殺処理することを合意した旨の主張をするが,同合意の成立を認めるに足る証拠はなく,かえって被告Y1は,被告本人尋問において,相殺処理の話をしたのはBとであり,Aとは話していない旨の供述をしていることに照らし,被告ら主張の相殺合意があったと認めることもできない。
したがって,争点2に関する被告会社の主張には理由がない。
3【結論】 以上によれば,原告の本件請求は,被告会社に未払請負代金債権134万7000円及びこれに対する遅延損害金を請求する限度で理由がある。
なお,原告が被告会社に対して未払請負代金債権を請求した日は証拠上明らかでないから,遅延損害金の起算日は,訴状送達の日の翌日である平成26年2月10日とするのが相当である。
(裁判官 外山勝浩)
〈以下省略〉
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