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「営業 スタッフ」に関する裁判例(3)平成30年 1月31日 東京地裁 平28(ワ)5927号 地位確認請求事件

「営業 スタッフ」に関する裁判例(3)平成30年 1月31日 東京地裁 平28(ワ)5927号 地位確認請求事件

裁判年月日  平成30年 1月31日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平28(ワ)5927号
事件名  地位確認請求事件
文献番号  2018WLJPCA01318030

裁判経過
控訴審 平成30年 6月27日 東京高裁 判決 平30(ネ)1180号 地位確認請求控訴事件

裁判年月日  平成30年 1月31日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平28(ワ)5927号
事件名  地位確認請求事件
文献番号  2018WLJPCA01318030

東京都府中市〈以下省略〉
原告 X
東京都新宿区〈以下省略〉
被告 株式会社Y
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 吉村龍吾
同 斎藤三義
同 古田暁洋

 

 

主文

1  原告が,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2  被告は,原告に対し,平成26年10月25日から本判決確定の日まで,毎月25日限り,72万9114円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3  被告は,原告に対し,15万5224円及びこれに対する平成26年9月26日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
4  原告のその余の請求をいずれも棄却する。
5  訴訟費用は,これを3分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
6  この判決は,第2項及び第3項に限り,仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求
1  原告が,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2  被告は,原告に対し,平成26年10月25日から本判決確定の日まで,毎月25日限り,72万9114円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3  被告は,原告に対し,14万7647円及びこれに対する平成26年9月26日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
4  被告は,原告に対し,248万4582円及びうち14万6583円に対する平成25年5月26日から,うち14万6583円に対する同年6月26日から,うち14万6583円に対する同年7月26日から,うち14万6583円に対する同年8月26日から,うち14万6583円に対する同年9月26日から,うち14万6583円に対する同年10月26日から,うち14万6583円に対する同年11月26日から,うち14万6583円に対する同年12月26日から,うち14万6583円に対する平成26年1月26日から,うち14万6583円に対する同年2月26日から,うち14万6583円に対する同年3月26日から,うち14万6583円に対する同年4月26日から,うち14万6583円に対する同年5月26日から,うち14万6583円に対する同年6月26日から,うち14万6583円に対する同年7月26日から,うち14万6583円に対する同年8月26日から,うち13万9254円に対する同年9月26日からそれぞれ支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
5  被告は,原告に対し,平成26年10月25日から本判決確定の日まで,毎月25日限り,月額17万0886円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
6  被告は,原告に対し,88万3421円及びこれに対する平成26年9月26日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
7  被告は,原告に対し,56万1703円及びこれに対する平成28年1月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
8  被告は,原告に対し,69万2658円及びこれに対する平成27年6月26日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
9  被告は,原告に対し,300万円を支払え。
第2  事案の概要
1(1)  原告は,被告との間で雇用契約(以下「本件雇用契約」という。)を締結し,その後,被告から新設分割により設立され,本件雇用契約に基づく権利義務を承継した株式会社a(以下「a社」という。)の開発部において,専門業務型裁量労働制(以下「本件制度」という。)の適用を受けながら就労していたところ,原告について,平成23年6月1日,月額賃金を減額する代わりに別途賞与を支給する旨の賃金改定(以下「本件賃金改定①」という。)が行われ,また,平成25年4月1日の本件制度の廃止に伴い,同年5月支給分の給与より,それまで同制度が適用される従業員に支給されていた職種手当の支給が廃止され,さらに,平成26年8月21日,開発部付から営業部の課長への異動が命じられる(以下「本件配転命令」という。)とともに,月額賃金を減額する旨の賃金改定(以下「本件賃金改定②」という。)が行われたが,原告は,同年9月18日,本件配転命令に従わなかったことを理由に普通解雇された(以下「本件解雇」という。)。
なお,本件訴訟に先立ち,原告は,本件賃金改定①が無効であるなどと主張して,a社に対し,同改定により減額された未払給与等の支払を求める訴訟(以下「前件訴訟」という。)を提起し,同訴訟において,本件賃金改定①が無効であるとする判決(以下「前件判決」という。)が確定している。
(2)  本件訴訟において,原告は,本件配転命令と本件賃金改定②には密接な関わりがあり,本件配転命令は,労働条件の不利益変更を就業規則等の根拠や労使間の合意なく一方的に行うもので無効であり,同命令に従わなかったことを理由として行われた本件解雇も,客観的に合理的な理由を欠き,無効であるなどと主張して,その後,a社を吸収合併した被告に対し,本件雇用契約に基づき,原告が労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める(請求1)とともに,本件解雇から本判決確定までの間の各月の給与(職種手当を除く。)の支払(各支給日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を含む。)(請求2)のほか,在職中の平成26年9月支給分の給与について,本件賃金改定②による減額分の未払給与の支払(支給日の翌日から支払済みまで上記同様の遅延損害金の支払を含む。)(請求3)をそれぞれ求めている。
また,原告は,本件制度の廃止に伴う職種手当の支給廃止について,労使間の合意なく一方的に労働条件を不利益に変更するものであり,無効であるなどと主張して,被告に対し,本件雇用契約に基づき,同支給廃止から本判決確定までの間の各月の職種手当の支払(各支給日の翌日から支払済みまで上記同様の遅延損害金の支払を含む。)を求める(請求4及び5)とともに,在職期間中の割増賃金等について,本件賃金改定①が無効であることなどに基づく未払分があると主張して,被告に対し,本件雇用契約に基づき,同未払分の支払(最終支給日の翌日から支払済みまで上記同様の遅延損害金の支払を含む。)を求めている(請求6)。
さらに,原告は,前件判決確定後,本件賃金改定①後に受領した賞与をa社に返還したことにより,a社が同賞与の支給に際し納付した社会保険料合計56万1703円について還付請求権が発生しているなどと主張して,被告に対し,不当利得に基づき,同額の支払(原告による催告後の日である平成28年1月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を含む。)を求める(請求7)とともに,a社には,失効した有給休暇について一定額の手当を支給する制度があったなどと主張して,被告に対し,同制度に基づき,69万2658円の支払(支給日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を含む。)を求める(請求8)ほか,a社には,本件制度の導入に際し,従業員に対して虚偽の事実を告げ,多額の割増賃金の支払を免れるなどした不法行為があり,これにより精神的苦痛を被ったなどと主張して,被告に対し,不法行為に基づき,慰謝料300万円の支払を求めている(請求9)。
2  前提事実(以下の事実は,当事者間に争いがないか,後掲証拠(枝番があるものは枝番を含む。以下,同様である。)及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる。)
(1)  当事者等(乙2,証人B)
ア 被告は,電子計算機の利用・応用・運用に関する企画及びコンサルティング,ソフトウェア等の研究,開発及び販売等を目的とする株式会社である。
イ 原告は,平成7年6月,被告(当時の商号は,「株式会社a」であり,その後,順次,「a1株式会社」,「a2株式会社」へと商号変更された。)との間で,期間の定めのない雇用契約(本件雇用契約)を締結した。
ウ 平成23年4月1日,被告から新設分割によりa社が設立されたことに伴い,a社は,本件雇用契約に基づく権利義務を承継した。なお,a社は,被告が商号をa1株式会社に変更する際,その全従業員を転籍させて設立した会社であり,被告の完全子会社であった。
a社は,平成26年9月18日,原告を普通解雇した(本件解雇)。
エ 被告は,平成29年4月1日,a社を吸収合併するとともに,現在の商号である「株式会社Y」に商号変更した。
(2)  a社における就業規則等の定め(乙4,17,23)
a社の就業規則,給与規程及び給与規程運用則(いずれも平成25年4月1日以降のもの)には,別紙1のとおりの定めがある。
(3)  原告の賃金改定の経緯等
ア 平成23年5月20日時点の賃金(甲2,37,乙18,19)
a社における原告の同日時点の賃金は,以下のとおりであった。
(ア) 給与 月額90万円(基本給10万円,能力給62万9114円,職種手当17万0886円)
毎月20日締め,当月25日払い(以下,例えば,同月21日から同年6月20日までの給与(同月25日支給分)を「平成23年6月給与」といい,他の期間の給与についても同様の呼称を用いる。)
(イ) 賞与 支給されず。
なお,a社においては,平成10年2月21日から,新商品又は新技術の研究開発の業務及び情報処理システムの分析又は設計の業務に従事する従業員を適用対象として,専門業務型裁量労働制(本件制度)を導入するとともに,原告を含む本件制度が適用される従業員に対し,月30時間の時間外労働に対応するみなし時間外労働手当を,職種手当として支給していた。
また,原告は,平成16年3月,CD/DVD研究開発部の部長職から一般職に降格し,同降格に伴う賃金改定により,賞与の支給対象外とされていた。
イ 本件賃金改定①(甲2)
a社は,平成23年6月1日,原告に対し,同年5月21日(同年6月給与)より,以下のとおり原告の賃金を改定する旨の賃金改定を行った(本件賃金改定①)。
(ア) 給与 月額77万2000円(基本給10万円,能力給52万5417円,職種手当14万6583円)
(イ) 賞与 基準額を77万2000円として,営業成績及び勤務成績を勘案した査定後の金額を,年2回(6月,12月)支給する。
ウ 職種手当の支給廃止(甲6,8ないし10,40,41,乙4,17,23)
a社は,平成25年4月1日,本件制度を廃止し,原告を含む本件制度が適用されていた従業員に対し,同年5月給与から,職種手当の支給を廃止する代わりに,時間外労働時間に応じた割増賃金を時間外労働手当として支給することとし,経過措置として,1年間,時間外労働時間が月30時間に満たない従業員に対して,その時間差分に応じた割増賃金を調整給として支給することとした。
これにより,原告の同年5月給与以降の割増賃金を除く給与は,月額62万5417円(基本給10万円,能力給52万5417円)となった。その後,能力給については,平成26年4月給与から,1円増額された52万5418円(割増賃金を除く月額賃金は合計62万5418円)となった。
なお,原告は,同年4月以降も,月30時間を超える時間外労働をしていたため,調整給の支給対象とはならなかった。
エ 本件配転命令及び本件賃金改定②(甲5,6,39)
a社は,平成26年8月21日,原告に対し,DE事業部の開発部付からDE事業部の営業部の課長への異動を命じた(本件配転命令)。
また,a社は,同日,原告に対し,同日(同年9月給与)より,以下のとおり原告の賃金を改定する旨の賃金改定を行った(本件賃金改定②)。
(ア) 給与 月額52万円(基本給10万円,能力給37万円,役職手当5万)
ただし,部門異動後の経過措置として,同年9月から平成27年8月までの1年間,改定後の差額である月額10万5418円(62万5418円-52万円)を,調整手当として支給する。
なお,役職が課長となったことから,管理監督者(労働基準法41条2号)に当たるとされ,割増賃金のうち時間外労働手当及び休日労働手当は支給されないこととなった。
(イ) 賞与 基準額を52万円として,営業成績及び勤務成績を勘案した査定後の金額を,年2回(6月,12月)支給する。
(4)  前件訴訟の経緯等
ア 前件訴訟の経緯(甲3,4,乙14)
原告は,平成25年,本件賃金改定①が無効であるなどと主張して,a社に対し,別紙2「未払賃金計算書」記載の未払賃金合計513万9648円から平成23年6月から平成26年6月までの間に原告に支払われた賞与の手取額合計278万4351円を控除した235万5297円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める訴えを東京地方裁判所に提起し,(同裁判所平成25年(ワ)第7627号未払賃金請求事件),同裁判所は,平成27年3月19日,原告の請求を全部認容する判決(前件判決)を言い渡した。
その後,前件判決に対しa社が控訴した(東京高等裁判所同年(ネ)第2252号未払賃金請求控訴事件)ものの,同裁判所は,同年11月26日,本件賃金改定①は,給与規程その他の就業規則に根拠を有するものではなく,労働者及び使用者の合意によらずに使用者の一方的な措置により労働契約の内容である労働条件を変更しようとするもので,労働契約法その他の法令が許容するものと解する余地はなく,無効であり,これを実質的にみても,労働契約の内容を原告の不利益に変更するものであり,原告がこれに合意していない以上,労働契約法8条により無効であるというほかないなどとして,控訴を棄却する判決を言い渡し,その後,前件判決が確定した。
なお,原告は,前件訴訟の控訴審において,本件賃金改定①が無効であることなどに基づく未払の割増賃金があると主張して,46万4633円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める内容の附帯控訴をしていたが,その後,同附帯控訴を取り下げた。
イ 前件訴訟後の経緯(甲34,35,乙14ないし16,24)
(ア) a社は,平成27年11月30日,原告に対し,前件判決において認容された235万5297円から社会保険料等を控除した後の額である200万3970円に遅延損害金16万6801円を加算した217万0771円を支払った。
(イ) a社は,同年12月21日(振込日は同月18日),原告に対し,前件判決における認容額の額面残額35万1327円及びこれに対する遅延損害金とともに,原告の求めに応じ,原告が附帯控訴において請求していた未払割増賃金等を追加して支払うこととし,90万2506円を支払ったが,原告は,同月21日,a社に対し,同額を返金した。
(5)  原告は,平成28年2月25日,本件訴訟を提起した。(当裁判所に顕著な事実)
3  争点
(原告の請求(第1)のうち,第1項ないし第3項の各請求に関する争点)
(1)  本件配転命令及び本件賃金改定②の有効性(争点1)
(2)  本件解雇の有効性(争点2)
(同第4項及び第5項の各請求に関する争点)
(3)  本件制度の廃止に伴う職種手当の支給廃止の有効性(争点3)
(同第6項の請求に関する争点)
(4)  未払割増賃金等の有無等(争点4)
(同第7項の請求に関する争点)
(5)  賞与支給時の社会保険料の納付に関する不当利得の有無等(争点5)
(同第8項の請求に関する争点)
(6)  失効した有給休暇に関する未払手当の有無等(争点6)
(同第9項の請求に関する争点)
(7)  本件制度の導入に関する不法行為の有無等(争点7)
4  争点に関する当事者の主張
(1)  争点1(本件配転命令及び本件賃金改定②の有効性)について
(被告の主張)
ア 本件配転命令の有効性について
(ア) 本件配転命令は,次のとおりの業務上の必要性の下,就業規則第28条1項に基づき行われたものであり,原告に転居等の不利益を生じさせるものでもなく,有効である。
すなわち,被告グループにおいては,主力商品の売上の減少に伴い,平成21年12月期には連結営業赤字に転換したため,従前のソフトウェア基盤技術事業(ミドルウェア事業)から総合エンターテインメント関連事業へとビジネスモデルの転換を図ることとなったが,平成24年12月期から平成26年12月期まで3期連続で営業損失及び営業キャッシュ・フローのマイナスを計上し,継続企業の前提に関する重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在するに至った(なお,当時,a社は,完全親会社であった被告に対して,その成果にかかわらず発生した費用に利益を乗せて請求しており,被告グループ全体の業績を見るべきである。)。このような状況を受け,被告グループは,総合エンターテインメント関連事業からテクノロジー関連事業への回帰,中でもM2M(Machine to Machine)やIoT(Internet of Things)等の新規テクノロジー関連事業(ハードウェアの開発と提供等を含むソリューション事業)への事業構造の転換を余儀なくされ,子会社の清算,縮小等による新規テクノロジー関連事業の営業への注力や,事業所の移転,人件費の大幅削減等による大幅なコスト削減等を行った。
このような事業構造の大転換に伴い,原告が所属する技術部門においても,M2M及びIoTについて新規販路及び新規顧客の開拓が最優先の課題となっていたことから,その配属者の多くを営業部門に配置転換し,営業部門を強化する必要があった。本件配転命令も,その一環として行われたものであり,原告には,顧客に対する技術的な背景の説明や,技術的な知識のない部下に対する指導を行うなど,主に技術的な面から営業部を支援することが期待された。なお,原告は,M2MやIoTの専門家ではなく,開発部門における業績評価も,平成22年10月以降,5段階評価中,最低のD又はCにとどまり,当初から細かい点に配慮して開発を進める必要があるM2M及びIoT製品の開発業務に携わる適性に欠けるものと判断された。
(イ) これに対し,原告は,本件配転命令と本件賃金改定②には密接な関わりがあると主張する。しかし,a社においては,いわゆる職階制度は採用されておらず,能力給は,当該従業員の経験,技能,職務遂行能力,勤務成績等を勘案して決定されるところ(給与規程第10条),本件賃金改定②は,偶々,本件配転命令と同じ時点で上記要素を勘案して行われたものにすぎず,その有効性は,人事権の行使としての本件配転命令の有効性とは別に判断されるべきである。
また,本件雇用契約において,原告の職種は限定されていなかった。このことは,同契約締結当時,被告は,従業員数18名程度の小規模の企業であり,組織らしい組織もなく,従業員らは,職種の枠を超えて様々な業務に取り組むことが求められており(原告も,CD/DVD研究開発部の部長として営業面を含めた部の統括を行ったり,ソフトウェアの営業,契約交渉,サポート等の業務を行ったりしていた時期があった。),職種を限定して採用することはあり得ないことや,被告にはこれまで職種を限定した雇用契約を締結した従業員はおらず,職種を超えた異動が頻繁に行われていたことからも明らかである。
イ 本件賃金改定②の有効性について
上記のとおり,本件賃金改定②は,本件配転命令とは別個独立して行われたものであり,次のとおり,それ自体も有効である。
すなわち,本件賃金改定②のうち,役職手当5万円の支給は,原告を課長として処遇することに伴い,同等の課長に支給される役職手当を支給することとしたものである。
また,当時,a社では,被告グループの厳しい業績状況を受け,全従業員の給与の適正性を検討していたところ,原告の能力給の改定も,この一環として,その経験,技能,職務遂行能力,勤務成績等を勘案して行われたものである。具体的には,原告の給与は,開発部門の非管理職や営業部門の管理職の各平均給与と比較しても突出して高額であったところ,原告は,販売済み製品の回収や技術認証の再申請,ロイヤリティ回収への支障といった問題を生じさせたことがあり,その後もその職務遂行能力や勤務成績が改善されることはなく,その人事評価も低かったため,賃金改定を行わざるを得なかった。
なお,a社は,経過措置として,1年間,本件賃金改定②による能力給の差額を調整手当として支給することとし,実際に平成26年9月給与において,調整手当として能力給の差額を支給している。
(原告の主張)
ア 原告は,平成26年8月28日,a社から,本件賃金改定②についての通知書を,職種変更に伴う減給であるとの説明とともに交付されており,本件配転命令と本件賃金改定②には密接な関わりがある。
また,原告が,平成7年当時,10数年の経験を有するコンピュータソフトウェア設計・開発技術者であり,被告の開発技術者の求人に応募し,同技術者としての知識・能力を審査する試験や面接を経て,被告にシニア・エンジニアとして採用され,その後,19年にわたり一貫して開発職として就労していたこと(なお,製品の技術的特徴等を説明するために営業職に協力するなどしたことはあったが,売上を上げるといった営業活動は行っていない。)からも明らかなように,本件雇用契約においては,原告を開発職に限定して配置する旨の合意がされていた。
しかるに,本件配転命令は,原告について,開発職から営業職への職種変更や大幅な賃金減額(支給されなくなった時間外労働手当を含めると,半額に近い減額となる。)といった労働条件の不利益変更を,就業規則等の根拠や労使間の合意なく一方的に行うものであり,原告の賃金を減額して原告を退職に追い込もうとする不当な目的によりされたものといえるのみならず,その内容も客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認めることができないことから,無効である。
イ これに対し,被告は,本件配転命令に業務上の必要性があった旨を主張する。しかし,a社は,平成25年から平成27年まで3期連続で黒字であり,その経営状況に特段の問題はなかったこと,原告は,平成19年3月から平成24年1月までM2MやIoTの開発部門に所属し,これらのシステム開発に従事していたこと,原告の業務評価も,前件判決において指摘されたとおり,抽象的かつ曖昧なものであり,同評価が原告の業務成績を適正に反映したものとはいえないことからすると,被告の主張はいずれも失当である。
(2)  争点2(本件解雇の有効性)について
(被告の主張)
ア 原告は,本件配転命令に従わず,座席の移動や開発部門用の高性能パソコンの交換を拒否するなどし,業務遂行に支障を生じさせるとともに,営業部長からの再三の要請にもかかわらず,営業部において毎日行われていた営業ミーティングにも参加せず,これらの状況について改善の見込みもなく,本件解雇には,客観的に合理的な理由が存在した。
さらに,原告は,その業績評価が芳しいものではないにもかかわらず,高額の給与を得ていたが,営業部長の度重なる説得にも一切聞く耳を持たず,他の従業員の業務の妨げとなっており,他に原告を受け入れることができる部署もなかったため,a社としては,原告を解雇するほかなく,本件解雇は,社会通念上相当なものであった。
したがって,本件解雇は有効である。
イ 仮に本件解雇が無効であったとしても,原告は,本件解雇から平成28年2月25日に本件訴訟を提起するまでの1年半近くの間,a社に対して復職を求めるなどしておらず,少なくとも同日まで就労の意思を有し,これをa社に示していたとはいえないから,同日までの賃金相当額の支払は認められない。
さらに,原告は,本件解雇後,他社において就労するなどして,少なくとも月額45万円の収入を得ていたものと推認されるから,同額に応じた中間利益を控除すべきである。
(原告の主張)
ア 上記(1)の原告の主張のとおり,本件配転命令は無効であり,同命令に従わなかったことを理由としてされた本件解雇も,客観的に合理的な理由を欠き,解雇権を濫用したものとして,無効である。
また,原告は,本件配転命令を拒否したが,就業を拒否していない。すなわち,原告は,本件配転命令後,営業部長から指示された業務を行っていたが,平成26年9月12日に使用していた業務用パソコンを撤去され,同月18日に本件解雇を言い渡されたため,就業できなくなったにすぎず,本件解雇は,社会通念上の相当性を欠くものであることからしても,解雇権を濫用したものとして,無効である。
イ なお,原告は,前件訴訟においても,本件解雇について訴訟提起を予定していることを表明しており,本件解雇後も勤務の意思を失っていない。
また,原告は,本件解雇後,他社において就労しておらず,配偶者の収入を頼りに生活しており,控除されるべき中間利益も存在しない。
(3)  争点3(本件制度の廃止に伴う職種手当の支給廃止の有効性)について
(被告の主張)
a社は,本件制度の廃止に伴い,職種手当の支給を廃止したが,同手当に代わる時間外労働手当を支給しており,原告に実質的な不利益を与えていない。したがって,職種手当の支給廃止は有効である。
(原告の主張)
本件制度の廃止に伴い,労使間の合意なく一方的に,基本的な賃金の一部である職種手当の支給を廃止して賃金を減額することは,労働条件の不利益変更に当たり,無効である。
また,後記(7)の原告の主張のとおり,a社は,本件制度導入時,能力給の一部を職種手当に割り振ったのであるから,職種手当の支給を廃止する際に能力給に再び組み戻さないことは,権利の濫用に当たり,許されない。
(4)  争点4(未払割増賃金等の有無等)について
(原告の主張)
ア 平成25年5月給与から平成26年9月給与までの各給与における本件賃金改定①後の差額に基づく未払割増賃金等について
(ア) 法内時間外労働時間に応じた未払額 6340円
前件判決のとおり,本件賃金改定①は無効であるところ,これに基づく上記期間の未払割増賃金等のうち,法内時間外労働時間に応じた未払額は,別紙3-1のとおり,以下の計算式により算定される合計4万4583円から同改定後に支給された合計3万8243円を控除した6340円である。
72万9114円(本件賃金改定①前の基本給10万円と能力給62万9114円の合計)÷160時間(月平均所定勤務時間)×(法内時間外労働時間)
(イ) 深夜労働時間に応じた未払額 162円
同様に,深夜労働時間に応じた未払額は,別紙3-1のとおり,以下の計算式により算定される1140円から本件賃金改定①後に支給された978円を控除した162円である。
72万9114円÷160時間×25%×(深夜労働時間)
(ウ) 法外時間外労働時間に応じた未払額 68万8652円
同様に,法外時間外労働時間に応じた未払額は,別紙3-1のとおり,以下の計算式により算定される合計484万2069円から本件賃金改定①後に支給された合計415万3417円を控除した68万8652円である。
72万9114円÷160時間×125%×(法外時間外労働時間)
イ 平成26年8月及び同年9月の時間外労働時間の漏れに基づく未払時間外労働手当について
(ア) 平成26年8月1日から同月31日までの原告の時間外労働時間は,就業管理システムに記録された53時間49分であったが,同年9月給与においては,上記期間における原告の時間外労働時間を38時間35分として計算された時間外労働手当が支給されていた。
そこで,上記期間における漏れていた時間外労働時間15時間14分に応じた時間外労働手当の支払を求める。その額は,別紙3-2のとおり,上記ア(ウ)の計算式により算定される8万6773円であるが,被告が主張する8万6754円を争うものではない。
(イ) また,同年9月1日から同月18日までの原告の時間外労働時間は,就業管理システムに記録された17時間49分であったが,同年10月給与においては,上記期間における時間外労働手当が全く支給されていなかった。
そこで,上記期間における漏れていた時間外労働時間17時間49分に応じた時間外労働手当の支払を求める。その額は,別紙3-2のとおり,上記ア(ウ)の計算式により算定される10万1494円であるが,被告が主張する10万1466円を争うものではない。
ウ なお,原告は,平成27年12月21日にa社から振り込まれた90万2506円について,同日中に,a社に対し,正確な計算及び明細がない以上,同金銭を受け取ることができない旨を伝えた上で返金しており,同額の弁済を受けていない。
(被告の主張)
ア 平成25年5月給与から平成26年9月給与までの各給与における本件賃金改定①後の差額に基づく未払割増賃金等について
(ア) 法内時間外労働時間に応じた未払額について
原告は,前件訴訟において同額を請求していなかったにもかかわらず,本件訴訟において請求することは不当である。
なお,原告が請求する平成25年5月給与における未払分292円及び同年6月給与における未払分2096円について,消滅時効を援用する。
(イ) 深夜労働時間に応じた未払額について
原告主張の未払額を認める。
もっとも,a社は,平成27年12月21日,原告に対し,同額を支払済みである。
(ウ) 法外時間外労働時間に応じた未払額
原告の請求のうち,平成26年1月給与以前の給与における未払分合計34万4171円について,消滅時効を援用する。
また,原告は,前件訴訟において,職種手当として支給されるみなし時間外労働時間月30時間分を控除して請求していたが,本件訴訟では,これを控除せずに請求している。しかし,被告は,前件判決確定後,原告に対し,同判決の認容額に含まれるみなし時間外労働時間月30時間に相当する職種手当の差額分を支払済みであるため,仮に原告の請求が認められるとしても,原告が主張する同年2月給与以降の給与における未払分から時間外労働時間月30時間分を控除した後の額である合計15万0026円にとどまる。
イ 平成26年8月及び同年9月の時間外労働時間の漏れに基づく未払時間外労働手当について
原告は,前件訴訟において,平成26年8月分の未払時間外労働手当を8万6754円,同年9月分の未払時間外労働手当を10万1466円とそれぞれ計算していたところ,a社は,平成27年12月21日,原告に対し,上記各額を支払済みである。
(5)  争点5(賞与支給時の社会保険料の納付に関する不当利得の有無等)について
(原告の主張)
a社は,平成23年6月から平成26年6月までの間に原告に支給した賞与について,社会保険料合計56万1703円を納付していた。その後,原告は,a社に対し,受領した上記賞与を返還しており,上記社会保険料は過納となっており,還付請求権が発生している。
a社は,原告に対し,不当利得に基づき,上記額を支払うべき義務を負うところ,原告は,平成27年12月30日,a社に対し,同額の支払を求めた。
(被告の主張)
原告が指摘する社会保険料は,a社が原告に対する賞与の支払から控除して納付していたものである。前件訴訟において,原告が未払給与と相殺したのは,賞与の手取額のみであり,賞与にかかる社会保険料等の控除額は相殺の対象となっておらず,a社に不当利得は存在しない。
(6)  争点6(失効した有給休暇に関する未払手当の有無等)について
(原告の主張)
ア a社には,前年4月1日から当年3月31日までの間に失効した有給休暇について,当該期間において支給した給与を基に計算した手当を毎年6月に従業員に支給する制度が存在する。
平成26年7月に原告の有給休暇19日が失効したため,原告は,被告に対し,平成27年6月25日限り,上記手当として69万2658円(72万9114円×19日÷20日)の支払を求める。
イ これに対し,被告は,労働条件が賞与なしの従業員については上記手当が支給されない旨を主張する。しかし,a社は,全従業員を対象とした説明会でそのような説明をしておらず,a社が従業員に配布した資料にもそのような記載はなく,むしろ,全従業員が支給対象となる旨の記載があった。
(被告の主張)
a社は,過去に,給与規程運用則第8条に基づき,当年6月10日に被告に在籍し,退職の意思を表していない従業員に対し,前年4月1日から当年3月31日までの間に失効した有給休暇に対する手当を,会社の業績等の合理的な事情を考慮して,当年6月の賞与の一部として支給したことがあった。
しかし,原告の労働条件は,前件判決確定後,賞与なしとなるのであるから,原告は,上記手当の支給を受ける地位になかった。また,原告は,本件解雇により平成27年6月時点で被告の従業員としての地位を有しておらず,この点からも,原告には,上記手当の受給資格がなかった。
さらに,当時の被告グループの業績に鑑みても,上記手当を支給しないことは合理的であった。
(7)  争点(7)(本件制度の導入に関する不法行為の有無等)について
(原告の主張)
a社は,本件制度の導入に際し,原告ら開発職の従業員に対して,本来,月30時間のみなし時間外労働時間に対応する割増賃金を別途支給すべきであったにもかかわらず,従前の能力給の一部を職種手当との名前に変更するだけであり,賃金額は変わらないとの虚偽の事実を告げ,同説明を受けた従業員らをして,従前の能力給を減額するのみならず,みなし時間外労働時間分の割増賃金を支払わないことが適法であると誤信させ,能力給を減額するとともに15年強もの長期間にわたり多額の割増賃金(みなし時間外労働時間分の割増賃金に限ったとしても3000万円近くとなる。)の支払を免れてきたものであり,これらのa社の行為は,不法行為に当たる。
上記不法行為による原告の精神的苦痛を慰謝するための慰謝料額としては,300万円が相当である。
(被告の主張)
原告が主張する本件制度導入の経緯は,否認する。
また,いずれにしても,原告は,本件制度導入後,職種手当について,15年以上にわたり何ら異議を申し立てずにその支給を受けており,原告には少なくとも黙示の同意があった。
なお,仮にa社に何らかの不法行為が成立するとしても,原告が同不法行為に基づく請求をした平成28年12月1日から3年より前の損害にかかる請求について,消滅時効を援用する。
第3  争点に対する判断
1  争点1(本件配転命令及び本件賃金改定②の有効性)及び争点2(本件解雇の有効性)について
(1)  本件配転命令の有効性について
ア 前提事実(前記第2の2)(3)エのとおり,a社は,本件配転命令と本件賃金改定②を同日付けで行ったものであるところ,被告は,本件賃金改定②は,偶々,本件配転命令と同じ時点で,給与規程第10条に定める考慮要素を勘案して行われたものにすぎず,本件配転命令の有効性と本件賃金改定②の有効性は別個に判断されるべきであると主張する。
しかし,前提事実(3)エのとおりの本件配転命令及び本件賃金改定②の内容からすれば,本件賃金改定②は,本件配転命令により原告がDE事業部の開発部付から同営業部の課長に異動することに伴い,課長職として役職手当を支給する代わりに,課長職の従業員が管理監督者であるとされていたことに伴い,それまで支給されていた時間外労働手当及び休日手当を支給しないこととし,給与の総額について,営業部の管理職の平均給与が月額56万円であったこと(証人B)を踏まえ,月額52万円に減額したものと認められ,本件配転命令に伴って行われたものであることが明らかである。
このことは,原告が,平成26年8月28日に本件賃金改定②に係る賃金改定通知書(甲6)を交付された際,職種変更に伴う減給であるとの説明を受けていたこと(甲36,原告本人)や,被告自身も,本件賃金改定②が役職・職種の変更によるものである旨を主張していること(平成28年5月16日付け被告準備書面(1)・9頁)からも裏付けられる。他方で,仮に被告が主張するとおり,同時期に原告以外の従業員の中に給与を減額された者がいたとしても,このことから直ちに,原告に対して行われた本件賃金改定②が本件配転命令に伴って行われたものであることが否定されるものではなく,その他,被告が種々指摘するところを考慮しても,被告の上記主張を採用することはできない。
イ 以上によれば,本件配転命令の有効性を判断するに際しては,これに伴い原告が被る不利益として,本件賃金改定②の内容をも踏まえた検討が求められるというべきである。
この点,証拠(乙1,2,22,証人B)によれば,当時,a社を含む被告グループにおいては,業績不振により平成24年12月期から多額の営業損失及び経常損失を計上するなどしたため(もっとも,平成26年12月期末時点での保有資金や連結自己資本比率からは,継続企業の前提に関する重要な不確実性までは認められないと判断されていた。),M2MやIoT等のテクノロジー関連事業を中心とする事業構造への転換を図ることとし,創業当初からのソフトウェア基盤技術事業を担っていた人員のM2MやIoT等のテクノロジー関連事業への配置転換を進めるなどし,特に顧客開拓のため営業部門を強化することとしたことから,原告以外にも開発部門等の他部門から営業部門に異動した職員がいたことが認められる。
もっとも,本件配転命令は,これに伴い,原告の職種を変更するにとどまらず,原告の月額賃金について,能力給を15万円以上減額するとともに,役職手当5万円を新たに支給する代わりに,これまで月30時間を超える時間外労働を行い,概ね月20万円を超える時間外労働手当を受給していた原告(甲18ないし26)について,同手当を支給しないとするものであり,労働条件の中で最も重要な要素である賃金を大幅に減少させるという大きな不利益を生じさせるものである。そして,賃金を減額するには,それが配転に伴うものであったとしても,労働者との合意によるか,就業規則等労働契約上の明確な根拠がなければならないところ,上記の原告の賃金減額は,原告との合意なく,労働契約上の明確な根拠もなくされたものである(そもそも被告の主張によっても,同根拠は明らかにされていないが,給与規程第10条及び第17条1項を同根拠とすることができないことは,前件判決において判示されたとおりである。)。
そうすると,本件配転命令は,これに伴い,何らの法的根拠もなく,原告に賃金の大幅な減額という大きな不利益を生じさせるものであるから,被告が主張する業務上の必要性等を考慮しても,人事権を濫用したものといえ,本件労働契約において原告を開発職に限定して配置する旨の合意がされていたか否かにかかわらず,本件賃金改定②を含めて全体として無効であるといわざるを得ない。
なお,証拠(甲30,31,45,乙21,原告本人)によれば,原告は,本件雇用契約を締結するまでの間,10年以上にわたりコンピュータソフトウェアの設計・開発業務に携わっていたところ,平成7年にシステム設計とC言語による開発を職務内容とする開発職の求人を行う旨の被告の求人広告を見て,被告に転職することを希望し,本件雇用契約締結後も,本件配転命令がされるまで一貫して開発職として職務に従事していたものと認められ,少なくとも開発職としてのキャリアを形成していくことに期待を有していたといえるが,営業職に配転されることによるキャリア形成上の不利益も,本件配転命令に伴い原告が被る不利益として,同命令が無効であるとの上記判断を補強する一事情となるものである。
(2)  本件解雇の有効性について
上記(1)のとおり,本件配転命令は無効であるところ,原告が同命令に従わないことを理由とする本件解雇も,客観的に合理的な理由を欠き,解雇権を濫用したものとして,無効であるといわざるを得ない。
なお,仮に被告が主張するとおり,本件配転命令の有効性と本件賃金改定②の有効性を別に考慮し,本件配転命令自体は有効であるとしたとしても,上記(1)において判示した各事情に照らして,原告において,本件賃金改定②が本件配転命令に伴うものと考え,本件配転命令の有効性を争うこともやむを得ないものといえ,さらに,原告が,本件配転命令後,営業部のC部長から指示された座席の移動,営業スタッフ用の業務端末やノートパソコンへの交換,ミーティングへの参加等を拒んだ一方で,同部長の指示に従い,ブルートゥース技術を扱う会社を調査してその結果を報告しており,営業部において職務を全く行っていなかったとまではいえないこと(乙3,5ないし13,証人B,原告本人)からすると,本件解雇は,社会通念上相当であると認められず,解雇権を濫用したものとして,無効であることに変わりはないというべきである。
(3)ア  以上によれば,原告の請求(第1)のうち第1項及び第2項の各請求については,いずれも理由がある。
もっとも,第3項の請求(平成26年9月給与に関する請求)については,前提事実(3)エのとおり,本件賃金改定②により原告の月額給与が10万5418円減額されたものの,経過措置として,同月から1年間,同額を調整手当として支給することとされ,同月給与についても,実際に同額が調整手当として支給されていること(甲26)からすると,結果的には未払給与はないものといえ,同請求を認めることはできない。
イ  これに対し,被告は,原告が,本件解雇後,本件訴訟提起まで,a社に対して復職を求めるなどしておらず,同社における就労の意思を有しておらず,むしろ,他社において就労するなどして収入を得ていたなどと主張する。
しかし,証拠(甲43)によれば,原告が本件訴訟提起までに本件解雇の有効性を争う意向を示し,復職を求めていたことは明らかであるし,本件解雇後,原告が他社において就労するなどして収入を得ていたと認めるに足りる証拠もなく(むしろ,甲第44号証によれば,平成27年及び平成28年には,原告の所得はなかったものと認められる。),被告の上記主張はいずれも採用できず,その他,被告が種々主張するところを考慮しても,上記アの結論は左右されない。
2  争点3(本件制度の廃止に伴う職種手当の支給廃止の有効性)について
(1)  原告は,本件制度の廃止に伴う職種手当の支給廃止が,労使間の合意によらない労働条件の不利益変更に当たり,無効であるなどと主張する。
(2)  しかし,前提事実(3)のとおり,a社においては,平成10年2月21日から本件制度を導入し,原告を含む同制度が適用される従業員に対し,月30時間の時間外労働に対応するみなし時間外労働手当を職種手当として支給していたところ,平成25年4月1日の本件制度の廃止に伴い,同制度が適用されていた従業員に対し,同年5月給与から,職種手当の支給を廃止する代わりに,時間外労働時間に応じた割増賃金を時間外労働手当として支給することとしたものである。
そして,同年4月以降,月30時間を超える時間外労働を行っていた原告についても,同年5月給与から,その時間外労働時間に応じた時間外労働手当が支給されており(甲18ないし26。なお,本件賃金改定①が無効であることなどに基づく未払割増賃金等の有無等については,後記3において別途検討する。),実質的にみて,職種手当の支給廃止により原告の労働条件に不利益変更があったということはできない(なお,職種手当の支給廃止は賞与の基準額にも影響を及ぼすものであるが,原告については,前件判決のとおり,本件賃金改定①が無効であるため,賞与が支給されない同改定前の労働条件が適用されることになる。)。
これに対し,原告は,本件制度導入時,能力給の一部が職種手当に割り振られたことを前提として,職種手当の支給を廃止する際に能力給に再び組み戻さないことは,権利の濫用に当たるとも主張する。しかし,本件制度導入に際し,能力給について原告が主張するとおりの減額がされたと直ちに認めることができず,また,仮に何らかの減額がされていたとしても,従前の能力給がどのような性質のものであり,どのような経緯により同減額がされたのかも明らかではないことは,後記6判示のとおりであり,職種手当の支給廃止について,権利の濫用に当たるといえるまでの事情があったと直ちに認めることはできない。仮にこの点を措くとしても,原告の請求のうち第4項及び第5項の各請求に関する本争点において問題となるのは,本件制度導入時の労働条件の変更(職種手当の支給自体)の有効性ではなく,それまで支給されていた職種手当の支給を廃止することの有効性であり,上記のとおり,少なくとも同廃止の前後で原告の労働条件に不利益変更があったとはいえない以上,同廃止自体が無効であるということはできず,原告の上記各請求を認めることはできない。
3  争点4(未払割増賃金等の有無等)について
(1)  平成25年5月給与から平成26年9月給与までの各給与における本件賃金改定①後の差額に基づく未払割増賃金等について
ア 法内時間外労働時間に応じた未払額について
(ア) 前提事実(2)及び(3)に加え,証拠(甲18ないし26)によれば,a社は,原告の平成25年5月給与から平成26年給与までの各給与において,それぞれ,別紙3-1の「法内時間外時間」欄記載のとおりの法内時間外労働時間(いずれも前月1日から前月末日までのもの)に応じて,本件賃金改定①後の基礎賃金62万5417円(基本給10万円及び能力給52万5417円の合計額)を基に月平均所定労働時間を160時間として算定した,同「改定後支給済」欄記載のとおりの法内時間外手当(1円未満切り上げ)を支払っていたものと認められる。
もっとも,前件判決のとおり,本件賃金改定①は無効であり,基礎賃金は72万9114円(基本給10万円及び能力給62万9114円の合計額)となるため,同額を基に上記と同様に法内時間外手当を算定すると,別紙3-1の「改定前」欄記載のとおりの額となり,同改定後の支給済額との差額は,同「差額」欄記載のとおりの額となる。なお,原告は,前件訴訟において同差額を請求していなかったものであるが,このことから直ちに本件訴訟において同請求をすることが許されなくなるものではない。
(イ) 他方で,上記差額のうち,平成25年5月給与及び同年6月給与に係る請求権については,既に消滅時効が完成しているところ,被告は,同消滅時効を援用するため,原告の請求は,3952円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
イ 深夜労働時間に応じた未払額について
(ア) 上記につき162円の未払があることは,当事者間に争いがない。
(イ) もっとも,証拠(甲34,35,乙14ないし16,24)によれば,a社が平成27年12月21日に原告に対して支払った90万2506円の中には,上記162円及びこれに対する平成26年9月26日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金(ただし,所得税等を控除した後のものであったが,原告も同控除について事前に了解していた。)が含まれており,a社は,上記支払に先立ち,原告に対して,その旨を伝えていたと認められることからすると,上記の90万2506円の支払により,少なくとも深夜労働時間に応じた未払割増賃金については,債務の本旨に従った有効な弁済がされたものといえる。
なお,その後,原告は,a社に対し,計算書等がないことを理由として,上記90万2506円を返金しているものの(前提事実(4)イ),計算書等がないことから直ちに有効な弁済とならないものではなく,同返金により,上記のとおり既に有効にされた弁済の効果が覆されるものではない。この点に関し,a社は,上記支払に際し,原告に対し,源泉控除を希望する場合には返金してほしい旨を伝えているものの(乙15),これは,上記支払のうち,前件判決における認容額の額面残額及びこれに対する遅延損害金の支払に限られたものであり,上記の未払割増賃金の弁済の効力に影響を及ぼすものではない。
ウ 法外時間外労働時間に応じた未払額について
(ア) 前提事実(2)及び(3)に加え,証拠(甲18ないし26)によれば,a社は,原告の平成25年5月給与から平成26年給与までの各給与において,それぞれ,別紙3-1の「法外時間外時間」欄記載のとおりの法外時間外労働時間(いずれも前月1日から前月末日までのもの)に応じて,本件賃金改定①後の基礎賃金62万5417円を基に月平均所定労働時間を160時間として算定した,同「改定後支給済」欄記載のとおりの法外時間外手当(1円未満切り上げ)を支払っていたものと認められる。
もっとも,前件判決のとおり,本件賃金改定①は無効であり,基礎賃金は72万9114円となるため,同額を基に上記と同様に法外時間外手当を算定すると,別紙3-1の「改定前」欄記載のとおりの額となり,同改定後の支給済額との差額は,同「差額」欄記載のとおりの額となる。
(イ) 他方で,上記差額のうち,平成25年5月給与から平成26年1月給与までの各給与に係る請求権については,既に消滅時効が完成しているところ,被告は,同消滅時効を援用するため,原告が請求できるのは,同年2月給与から同年9月給与までの各給与における差額(以下「本件差額」という。)に限られる。
さらに,a社が,前件判決確定後に原告に対して支払った同判決における認容額(及び遅延損害金)の中には,同年2月給与から同年9月給与までの本件賃金改定①後の職種手当の差額(月額2万4303円(17万0886円-14万6583円)であるが,同年9月給与については,日割計算で請求されており,2万3088円(2万4303円×19日÷20日)となるため,合計で19万3209円となる。)が含まれるところ(前提事実(4)),同職種手当の差額は,本件差額の一部(月30時間の法外時間外労働時間分)に当たるものである。
そうすると,最終的に原告の請求は,別紙3-1の同年2月給与から同年9月給与までの各給与における差額(本件差額)合計34万4481円から,上記のとおり支払済みの同各給与における職種手当の差額合計19万3209円を控除した15万1272円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
(2)  平成26年8月及び同年9月の時間外労働時間の漏れに基づく未払時間外労働手当について
ア 上記につき,同年8月の時間外労働時間の漏れに応じた未払額が8万6754円であること,同年9月の時間外労働時間の漏れに応じた未払額が10万1466円であること(いずれも原告が前件訴訟において請求していた額である。)は,当事者間に実質的な争いがない。
イ もっとも,証拠(甲34,35,乙14ないし16,24)によれば,a社が平成27年12月21日に原告に対して支払った90万2506円の中には,上記の未払額の合計18万8220円及びこれに対する平成26年9月26日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金(ただし,所得税等を控除した後のものであったが,原告も同控除について事前に了解していた。)が含まれており,a社は,上記支払に先立ち,原告に対し,その旨を伝えていたと認められることからすると,上記の90万2506円の支払により,少なくとも平成26年8月及び同年9月の時間外労働時間の漏れに基づく未払時間外労働手当については,債務の本旨に従った有効な弁済がされたものといえる。
なお,その後,原告は,a社に対し,計算書等がないことを理由として,上記90万2506円を返金しているものの(前提事実(4)イ),同返金により,上記のとおり既に有効にされた弁済の効果が覆されるものではないことは,上記(1)イにおいて判示したとおりである。
(3)  以上によれば,原告の請求のうち第6項の請求は,15万5224円及びこれに対する平成26年9月26日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
4  争点5(賞与支給時の社会保険料の納付に関する不当利得の有無等)について
(1)  a社は,本件賃金改定①により,平成23年6月から平成26年6月まで,原告に対し,社会保険料等を控除した上で賞与を支給していたところ(甲13ないし16),原告は,前件判決の確定により,上記のとおり支給された賞与をa社に返還したことから,a社に対し,上記の社会保険料合計56万1703円について不当利得返還請求権を有していると主張する。
(2)  しかし,上記の社会保険料の納付に際し,原告は何らの出捐もしていない以上,後に原告が上記のとおり支給された賞与の手取額をa社に返還したとしても,原告の損失によりa社に利得が生じたということはできず,原告の主張する不当利得返還請求権の存在を認めることはできない。
5  争点6(失効した有給休暇に関する未払手当の有無等)について
(1)  労働者は,失効した有給休暇について,使用者に対して当然に手当等の支払を求める権利を有するわけではなく,同権利が認められるためには,同支払が就業規則の定め等により労使間の労働契約の内容となっている必要がある。
そして,前提事実(2)のとおり,a社の給与規程運用則においては,賞与について定めた第3章の中に,失効した有給休暇に対する手当に関する第8条の規定が置かれていたことからすると,同手当は,毎年6月に支給される賞与の一部として支給されるものであったと認められる。この点に関し,「a2社グループにおける働き方」と題する書面(甲40)には,毎年6月に,前年4月1日から翌年3月31日の間に失効した有給休暇に対して手当を支給する旨が記載され,そのFAQ(甲41)には,「失効した有給休暇に対する手当は,一般社員のみでなく,担当課長職以上のマネージャーにも適用されるという認識で正しいのでしょうか。」との質問に対し,「全社員が対象となります。」との回答が記載されているものの,これらの記載から直ちに,a社において,給与規程運用則の上記規定を超え,賞与の支給とは無関係に上記手当を支給する制度が存在していたと認めることまではできない。
そうすると,前件判決のとおり,本件賃金改定①が無効であるため,賞与の支給を受けない原告について,a社に対し,上記手当の支払を求める権利が存在したと認めることはできない。
また,給与規程運用則第8条3項の規定によれば,上記手当については,当然に定まった額が支給されるものではなく,そもそも,a社により具体的な支給額が決定されていない段階で,原告について,同手当に関する具体的な請求権が発生していると認めることも困難である。
(2)  以上によれば,失効した有給休暇に対する手当に関する原告の請求を認めることはできない。
6  争点7(本件制度の導入に関する不法行為の有無等)について
(1)  原告は,a社には,本件制度の導入に際し,原告を含む従業員に対し,従前の能力給の一部を職種手当との名前に変更するだけであり,賃金額は変わらないとの虚偽の事実を告げ,従前の能力給を減額するのみならず,みなし時間外労働時間分の割増賃金を支払わないことが適法であると誤信させ,能力給を減額するとともに長期間にわたり多額の割増賃金の支払を免れてきたという不法行為があるなどと主張し,a社は,本件制度を導入する前から,従業員に対して割増賃金を全く支払っていなかったため,従業員らは,手当の名前を能力給から職務手当に変更するだけで何も変わらないとのa社による説明を信じてしまったなどと供述する。
(2)  しかし,原告の上記主張等によれば,a社は,従前より従業員に対して割増賃金を全く支払っていなかったにもかかわらず,本件制度を導入することとし,しかも,同制度が適用される従業員に対し,月30時間の時間外労働により得られる時間外労働手当と同額の職種手当を新たに支給する一方で,従前から支給されていた能力給について,職種手当の支給額分を減額したこと(つまり,従前も今後も実質的には時間外労働に対して何らの支払もしないこと)になるが,そもそも,a社において,なぜ本件制度を導入する必要があったのか,また,本件制度や職種手当の内容について説明を受けた従業員らにおいて,これまで割増賃金の支払を全く受けていなかったことや今後も時間外労働に対して何らの支払も受けられないことについて不満が出されなかったのか疑問があり,少なくとも原告が主張するような本件制度の導入前後で賃金額が変わらないとの説明のみで従業員らの納得が得られたとは考え難いものである。
さらに,a社が本件制度導入前に従業員に対して割増賃金を全く支払っていなかったことを認めるに足りる客観的な証拠はなく,本件制度導入前に原告に支給されていた賃金の内訳も明らかとはいえないことからすると,甲第46号証等の本件各証拠によっても,本件制度の導入に際し,能力給について原告が主張するとおりの減額がされたと直ちに認めることはできない。また,仮に何らかの減額がされていたとしても,従前の能力給がどのような性質のものであり,どのような経緯により同減額がされたのかも明らかではない。
このように,原告が主張する事実関係には,直ちには採用し難い内容が含まれ,これを認めるに足りる客観的な証拠もないことからすると,本件制度の導入に際し,a社に不法行為に該当するまでの行為が存在したと認めることはできず,原告の上記主張は採用できない。
第4  結論
以上によれば,原告の請求は,主文第1項ないし第3項の限度で理由があるからこれを認容し,その余はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第36部
(裁判官 船所寛生)

 

〈以下省略〉

 

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