判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(321)平成19年 6月28日 東京地裁 平17(ワ)27220号 損害賠償請求事件
判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(321)平成19年 6月28日 東京地裁 平17(ワ)27220号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成19年 6月28日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平17(ワ)27220号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2007WLJPCA06288022
要旨
◆原告が、証券業務を展開するための事業資金の出資先を求めていたところ、被告会社の代表者から虚偽の説明を受け欺罔されたことにより被告会社とコンサルティング契約を締結し各種支出をさせられ、また威力又は偽計の方法で業務妨害をされたとして、被告代表者らに対しては不法行為等に基づき、被告会社については同不法行為が被告会社の職務執行につきされた行為であるとして旧商法に基づき、それぞれ損害賠償を求めるなどした事案において、被告代表者が虚偽説明をしたとは認められず、また、被告代表者が原告の経営陣の退陣や業務改善策の作成を求めたことなどが業務妨害に当たることもないなどとして、原告の請求がいずれも認められなかった事例
参照条文
民法44条
民法709条
商法78条(平17法87改正前)
商法261条(平17法87改正前)
商法266条ノ3(平17法87改正前)
裁判年月日 平成19年 6月28日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平17(ワ)27220号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2007WLJPCA06288022
東京都中央区〈以下省略〉
原告 ミスター証券株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 山崎馨
同 小林剛
同 佐藤達哉
東京都新宿区〈以下省略〉
被告 株式会社ウイズプロヴィジョン
同代表者代表取締役 Y1
東京都小金井市〈以下省略〉
被告 Y1
上記両名訴訟代理人弁護士 堤義成
同 田宮武文
同 依田修一
同 栁澤泰
同 村上智裕
兵庫県芦屋市〈以下省略〉
被告 Y2
同訴訟代理人弁護士 松川雅典
同 渡邊徹
同 川井一将
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 主位的請求
(1) 被告株式会社ウイズプロヴィジョン(以下「被告ウイズ」という。)及び被告Y1(以下「被告Y1」という。)は,原告に対し,連帯して4202万0913円及びこれに対する被告ウイズについては平成18年1月11日から,被告Y1については平成18年1月9日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
(2) 被告らは,原告に対し,連帯して1000万円及びこれに対する平成18年1月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 予備的請求(被告ウイズについての上記1(1)に対する予備的請求)
被告ウイズは,原告に対し,2730万円及びこれに対する平成18年9月26日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 主位的請求について
(1) (1)について
原告が,証券業務を展開するための事業資金の出資先を求めていたところ,被告ウイズの代表者である被告Y1から,大阪再生スキームなる計画に参加することにより確実に15億から20億の出資が得られるなどと欺罔されたことにより,原告は被告ウイズとコンサルティング契約を締結し,コンサルタント料や原告の事務所の賃貸借契約上の共益費などを支出させられたとして,主位的に,被告Y1については,不法行為に基づき,被告ウイズについては,被告Y1の不法行為が被告ウイズの職務執行につきなされた行為であるとして,商法(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成17年法律第87号)による改正前のもの。以下「旧商法」という。)261条3項,78条2項,民法44条1項に基づき損害賠償請求を,予備的に,被告Y1については,将来の見通しをつけてアドバイスをすべきであったにもかかわらず,コンサルタント契約に基づく任務上の義務を怠り,前記損害を被らせたとして,旧商法266条の3に基づき,被告ウイズについてはコンサルタント契約に基づく善管注意義務違反による債務不履行に基づき損害賠償請求をしている事案である。
(2) (2)について
被告Y1と被告Y2(以下「被告Y2」という。)が相談の上,威力又は偽計の方法で原告の営業を妨害したとして,上記両被告については,不法行為に基づき,被告ウイズについては,被告Y1の不法行為が被告ウイズの職務執行につきなされた行為であるとして,旧商法261条3項に基づき損害賠償請求をしている事案である。
2 予備的請求について
上記コンサルティング契約が被告Y1の欺罔により締結されたから,詐欺により取り消したとして,また,仮に欺罔がなかったとしても,コンサルティング契約締結の際に,原告には資金調達が可能になるという契約の中核部分について錯誤があったから,錯誤無効であるとして,原告が被告ウイズに対し,コンサルティング契約に基づいて支払った金員について不当利得に基づく返還請求をしている事案である。
3 前提事実
(1) 当事者及び関係者
ア 原告は,平成16年7月14日に設立された証券取引等を業とする株式会社である。
イ 被告ウイズは,経営コンサルタントを業とする株式会社であり,その代表取締役が被告Y1である。
ウ 被告Y2は,平成16年秋ころ,同人が代表取締役を務めていた株式会社オンの取引先を介して,当時,原告の代表取締役であったB(以下「B」という。)と面識を持ったものである。
エ Bの経歴は,原告のホームページ(乙イ1)によれば,三洋証券株式会社に入社,三洋経済研究所で企業調査アナリスト,エコノミストを経て,株式ファンドマネージャーとなり,米国カリフォルニア州に投資顧問会社を設立するとともに外国為替取引事業を立ち上げ,現在の株式会社外為どっとコムの設立に関わる,などというものである。
オ 株式会社大阪ワールドトレードセンタービルディング(以下「WTC」という。)は,大阪市と民間企業が共同出資して設立された第三セクターの会社であり,大阪市住之江区所在の55階建てのビル「コスモタワー」を建築・監視する会社であるが,平成15年6月に特定調停を申し立て,平成16年2月に調停が成立した経営再建途上の会社である。
(2) 本件コンサルティング契約
ア 原告は,資本金を3億円として設立された後,インターネットを利用した証券取引を中心とした証券業務を展開するために事業資金の出資先を探していた。
イ 平成16年10月上旬ころ,Bは,資金調達について三洋証券株式会社で一緒に勤務したことのある被告Y1に相談をしたところ,Y1は,Bに対し,経営再建中のWTCが管理するコスモタワーにおいて,株式公開を目指しているインターネット関連の民間企業を中心に誘致し,これらの企業に金融サービスを提供する構想(以下,この構想を「大阪再生スキーム」という。)を説明し,これに原告が参加することにより関西方面の企業から出資をしてもらうという案が出された。
ウ 平成16年11月2日,原告は被告ウイズとの間で,秘密保持契約及び下記を要旨とするコンサルティング契約を締結した(以下「本件コンサルティング契約」という。)。
記
① 業務対象 金融インフラ全般(資本政策及び金融調達)
② 着手金 1000万円(消費税別)
③ コンサルティング料 毎月10日限り月額200万円(消費税別)
④ 報酬金 第三者割当増資の募集金額の5パーセント
エ 原告は,被告ウイズに対し,本件コンサルティング契約に基づく着手金1050万円及びコンサルティング料8か月分の合計1680万円(税込)を支払った。
オ 原告と被告ウイズは,平成17年7月15日,本件コンサルティング契約を解約した。
(3) 本件賃貸借契約
ア 原告は,平成17年4月8日,WTCとの間で下記事項を含む賃貸借契約を締結した(以下「本件賃貸借契約」という。)。
記
① 目的 コスモタワー○○○○-○号室,△△△△-△号室
② 期間 平成17年5月1日から平成19年3月31日まで
③ 賃料 月額合計121万7673円(税込み127万8556円)
④ 共益費 月額合計178万9236円(税込み187万8697円)
⑤ 特約 平成17年5月1日から平成18年4月30日までは共益費のみの請求とする。この期間内に解約する場合は,賃料単価1平方メートル当たり1225円を基準として,平成17年5月1日から解約日までの賃料相当額を違約金として支払う。
イ 原告とWTCは,平成17年8月29日,本件賃貸借契約を同月31日付けで解約した(甲9)。
ウ 原告は,WTCに対し,本件賃貸借契約に基づく共益費として751万4788円を支払い(甲12の1ないし4),また,解約違約金として511万4224円及び退去に伴う78万5284円を預け入れていた敷金から控除された(甲13)。
4 争点及び当事者の主張
(1) 主位的請求(1)について
① 被告Y1から原告に対する欺罔行為はあったか(争点①)。
(原告の主張)
Bが,被告Y1と面談し,原告の考えている事業計画を説明し,資金調達に協力してくれる先を紹介して欲しいと求めた。被告Y1は,Bに対して,Bの考えるような事業規模だと成功しない,もっと大きな資金で事業展開をしなければうまくいかないと話した。
そして,被告Y1はBに対して,大阪再生スキームに参加すれば,大阪市の紹介により関西方面の財界から出資をしてもらうことができ,最低でも15億円から20億円の出資を集めることができると説明した。
Bは,被告Y1の説明を真実のものと考えて,被告Y1に出資の仲介をしてもらおうと考えて,被告ウイズとの間で本件コンサルティング契約を締結した。
その後,平成16年12月後半ころから,Bと被告Y1は,関西方面の企業を訪問して大阪再生スキームの事業計画を説明し,出資を求める活動を始めたが,出資に応じてくれる企業は現れなかった。平成17年3月に入ると,被告Y1は,Bに対して,大阪再生スキームに関して大阪市に誘致審査委員会が設置され,4月には予算が一部ついているなどと説明した。また,同年3月下旬ころには,近々,大阪市が主体となり大阪再生スキームについてプレスリリースをし,そのセレモニーに原告も参加して欲しいなどと言い,同年4月に入ると,新聞記者に大阪再生スキームの説明をし,4月7日の夕刊に新聞発表がなされるとBに説明した。被告Y1は以上に挙げたように,あたかも,大阪再生スキームが今まさに現実化する間際であるが如くの説明をした。
しかし,実際には,被告Y1の説明と異なり,大阪市に大阪再生スキームに関する誘致審査委員会という組織は存在せず,誘致審査委員会の予算がついているという事実もなかった。また,4月7日の日本経済新聞に記事は載ったものの,その内容は,大阪市による大阪再生スキームのプレスリリースではなく,WTCのコスモタワーに民間会社が入居することが簡単に紹介されただけであった。
その後も,出資に応じる企業は現れず,結局,被告Y1を介して出資を受けられたのは平成17年5月末にWTCからわずか500万円だけにすぎなかった。
被告Y1は,当時,平成14年に起きた住倉工業事件にかかわったこともあり,仕事量が減少していたと推測され,被告Y1や被告ウイズが資金的に困っていたことも推測できる。
そして,コンサルタント契約を締結した後も,被告Y1は,Bに気が付かれないように,月額のコンサルタント料を継続的に得るべく,大阪市の幹部職員をBに紹介したりして,Bを信用させたままの状態にしたのである。
このように,大阪再生スキームに参加することで平成17年3月末までに15億円から20億円を調達するという説明や大阪市に誘致審査委員会が設置されたという被告Y1の虚偽の説明により,前提事実記載の支出に加え,大阪再生スキームに参加するために,交通費や飲食費などの実費として少なくとも130万6617円を出捐した。
(被告Y1及び被告ウイズの主張)
被告Y1は,当初からBの証券会社の運転資金面について見通しの甘さを指摘し,資金調達に関する協力要請に対し,消極的であった。
しかし,Bが資本金3億円で原告を設立し,さらに12億円規模の増資を得る予定もできていると述べて,さらなる協力要請をしてきた。それに対してもインターネット証券会社の経営を軌道に乗せるための運転資金(信用取引を行う上での決済資金等)についての調達の当てがないとのことであったことから,「やめた方がよい」と進言していた。それでもBは協力を要請してきたので,構想中であった大阪再生スキームの話をしたところ,「是非,参加させてほしい」と述べるようになった。
被告Y1は,それまでの間は,昔のよしみから無料で相談に応じてきたが,大阪再生スキーム構想の実現には大阪市や関係企業へのプレゼンテーション・折衝等が必要で,体・時間・費用が取られることが予想されたため,原告と被告ウイズとの間で正式にコンサルティング契約を締結することとしたのである。
被告Y1は,大阪再生スキームを説明する際,「最低でも15億から20億円の出資を集めることができる」などといった説明はしていない。また,大阪再生スキームはあくまで構想であり,内容について確定したものでないことについてはBも十分に理解していた。
したがって,被告Y1の説明が虚偽だということはない。
また,平成17年4月7日の新聞報道に関しては,Bが「プレス発表をしたい」と述べたのを受け,被告Y1がその手筈を整えたものである。
被告Y1は,大阪市に誘致審査委員会との組織が設置され,誘致審査委員会に予算がついているとの説明はしていない。甲第4号証に「誘致審査委員会」という記載があるが,これはあくまで企画書であり,この作成に関与したBが誘致審査委員会の設置が決まったものでないことは当然に知っている。
② 被告Y1の任務懈怠及び被告ウイズの債務不履行があったといえるか(争点②)。
(原告の主張)
被告Y1は,経営コンサルタントを業としている被告ウイズの代表取締役であるから,同社の代表取締役として,コンサルタント契約を締結する相手方に対しては,将来の見通しをつけてアドバイスをするべき任務上の注意義務を負う。しかし,被告Y1は,原告の資金調達の見通しをつけなければならないのに,契約締結時やその後において任務を果たせないことを認容し又は怠るという任務懈怠があった。そして,かかる被告Y1の任務懈怠により被告ウイズの債務不履行が基礎付けられる。
すなわち,被告Y1は,原告への資金調達の見込みがないことを容易に認識できるにもかかわらず,原告に被告ウイズとのコンサルタント契約を締結させ,さらには,コンサルタント契約締結後,被告Y1は,原告の資本政策が適切に行われるように,状況を判断してアドバイスすべき義務を負っていたのにもかかわらず,具体化もしていない大阪再生スキームに原告を関与させたり,また,当初の予想に反して資金調達がうまくいかないことが分かった場合には(実際に,被告ウイズが原告の資金調達を実現させたのはWTCからの500万円にすぎず,契約上の義務も果たしていない。),直ちに大阪再生スキームへの関与を取りやめるように助言すべきであったのに,それをしないまま漫然と原告からコンサルタント料を受け取り続け,原告をWTCに入居させたものである。
このように,被告Y1が本件コンサルティング契約締結当初に見込み違いをしていたことには重過失があるし,少なくとも,資金調達が予測に反してできない状況であったにもかかわらず,そのままコンサルタント料を徴して何ら原告を止めることなくWTCに入居させたことには,任務懈怠の悪意があることは明らかである。
このように被告Y1の行為に任務懈怠があるのであり,被告ウイズに本件コンサルタント契約の受任者としての善管注意義務に違反した債務不履行があることも明らかである。
(被告Y1及び被告ウイズの主張)
被告Y1は,適切にコンサルティング業務を行っていたのであり,被告Y1の任務懈怠,被告ウイズの債務不履行の事実はない。
平成16年11月半ばころから,被告ウイズは,原告とともに,大阪再生スキームを成功させるべく,同スキームの具体的内容についての企画・立案にかかった。甲第3号証は,大阪市やWTC,関係企業に対して,原告の事業内容や大阪再生スキームについて提案・説明するための企画書であり,原告の意向が多く取り入れられている。
被告ウイズは,この企画書をもって,大阪市やWTC,大阪市から紹介を受けた各企業を訪問し,大阪再生スキームに対する理解と支持を訴え,また,原告の業務構想について優れた点を説明し,同スキームの実現に努力した。
WTCとの間では,1年間賃料無料,共益費1平方メートル当たり4000円といった破格の条件で本件賃貸借契約を締結することができたのである。
ところが,その後,原告が株式会社ファイテックラボ・ジャパン(以下「ファイテック社」という。)から未払請負費用合計2億7000万円の請求を受けたことを契機に(これについては,被告Y1が折衝して約7000万円を支払うことで解決した。),これまで原告が被告ウイズに対して,財務内容について虚偽の説明をしていたことが判明したのである。
すなわち,Bがファイテック社への約5億円のシステム開発の発注を黙っており,これにより証券取引法で規制された自己資本規制比率に違反してしまうという問題が生じ,また,12億円のB独自のルートでの出資確保という話も虚偽であったことから,原告は,被告Y1に対し,原告の財務内容について虚偽の説明をしていたことは明らかである。
そこで,被告Y1は,Bに対し,原告の財務内容を開示するように求めたがこれを拒否された。また,業務改善策の作成も申し入れたが,これについても不誠実な対応であった。
このような多くの問題を抱える会社に対する資金政策を行うことは,自らの責任が問われかねないと判断し,被告ウイズは,原告に対し,本件コンサルティング契約の解約を申し入れたものである。
以上のとおり,被告Y1に任務懈怠もないし,被告ウイズに債務不履行もない。
(2) 予備的請求について
① 詐欺取消の可否(争点③)
(原告の主張)
本件コンサルティング契約を締結するにあたり,被告Y1はBをして多額の資金調達ができるものと信じ込ませて欺罔した結果,原告は被告ウイズとの間で本件コンサルティング契約を締結した。
原告は,平成18年9月25日の弁論準備手続期日において,本件コンサルティング契約について詐欺を原因として取り消す旨の意思表示をした。
(被告ウイズの主張)
被告Y1において,原告を欺罔したことはない。
② 原告に錯誤があったかどうか(争点④)。
(原告の主張)
Bは多額の資金調達ができると誤信していたところ,この動機は本件コンサルティング契約を締結するにあたり被告ウイズに表示されており,多額の資金調達ができると信じたからこそ本件コンサルティング契約を結んだのだから,この中核部分に誤信があり,意思表示の重要な部分に錯誤があった。
(被告ウイズの主張)
コンサルタント契約は,企業に対して助言行為を行うことを本質としているものであり,助言の結果,成功するかどうかについては,コンサルタント契約の有効性の判断において考慮されるものではない。
成功しなければ成功報酬が発生しないだけであって,成功するか否かについて錯誤が生じることなどない。
また,被告ウイズが原告に対し,多額の資金調達が確実に可能であるなどとの見込みを述べた事実はないし,原告は,大阪再生スキームの内容を認識しており錯誤はない。
(3) 主位的請求(2)について
被告Y1及び被告Y2による業務妨害行為の有無(争点⑤)
(原告の主張)
被告Y1と被告Y2は,原告を自分らが自由に操作できる会社にするために,以下のような業務妨害行為をした。
被告Y1は,Bに対して,原告の経営陣の退陣を迫ったり,大阪再生スキームに参加するために大阪市に提出する業務改善策を記載した書面を作成するように迫った。
被告Y2は,同人を原告の役員に就任させる旨の念書(乙ロ1)をBに無理に作成させ,原告の大株主であるNに対してその保有する株式を廉価で被告Y2に取得させるように迫った。被告Y2は,原告の経理担当者に対して,経費の支出をしないように指図して,原告の円滑な代金支払業務を妨害しようとした。
さらに,平成17年7月13日午後,Bや原告の他の役員全員が本社を不在にしているときに,被告Y1と被告Y2は,相談の上,事前の連絡なく,原告の本社を訪れた。そして,被告Y2は,業務に従事している従業員に対して業務を中断させて,原告の営業は立ち行かない状況になっており,社長であるBや他の役員には辞めてもらい,被告Y2が社長になると明言し,従業員の不安をあおった。この時,被告Y1も原告の事務所内の別の部屋におり,被告Y2の発言は聞こえていたのである。
この際,Bも社長を辞めることを約束していないし,他の取締役も取締役を辞任することを約束していない。
このような,被告Y2や被告Y1の強行の結果,原告の社内は混乱し業務にならなかった。また,このような事態が監督官庁の知るところになれば,信用を失い大変な事態に至ることになる。さらに,退職した従業員はいないものの,転職先を探し始めた人物がいることも確かである。
なお,その後,被告Y2は,自ら証券会社を立ち上げて,この会社に被告ウイズの役員が就任しているのであり,このような流れから見ても被告Y2と被告Y1が原告を乗っ取ろうとしていたことが裏付けられる。
以上のとおりであり,原告が業務上受けた無形の損害は極めて大きく,1000万円は下らない。
(被告Y1及び被告ウイズの主張)
被告Y1がBに対して,業務改善策を記載した書面を作成するように申し入れたことは事実であるが,それは,前記のとおり,財務内容について虚偽の説明がなされていたことなど多くの問題があり,そのような状況の中で被告Y1が出資を集めれば被告ウイズの責任問題となることから,Bに対し業務改善策の作成を求めたものである。
被告Y1が原告の現経営陣の退陣を迫ったことはない。
被告Y1は,平成17年7月13日午後に,原告本社を訪れたが,被告Y2の求めに応じ同行したにすぎない。
(被告Y2の主張)
被告Y2は,出資を手配した出資者や出資者探しに協力してくれた人物などから,被告Y2が出資者から大金を集める以上,被告Y2も出資者に対して原告の経営の責任を持つべきであり,そのために被告Y2自身が原告の役員になるべきであるとの助言・指摘を受けた。また,Bから,被告Y2に対して,原告の経営に参加して欲しい旨の要請があった。そこで,被告Y2は,当該内容を明確にしておくために,Bに対して,被告Y2が原告の役員に就任する可能性について書面に残して欲しい旨を伝えたにすぎない。そうして作成されたのが乙ロ第1号証の念書である。
さらに,原告がファイテック社への約5億円のシステム開発の発注を被告Y2に対して黙っていたために,被告Y2が集めた出資1億5千万円のうち,約1億2000万円がその支払に充てられることになってしまった。被告Y2は,自ら資金を集めた以上,出資者に対して原告の事業計画の遂行状況などを説明する責任があると考えたため,Bに対して,上記の支出を黙っていた理由などを追及したものの納得のいく説明を得ることはできず,平成17年7月に入ると,Bと連絡をとることができなくなった。そのため,平成17年7月13日,被告Y2は,原告の本社に行った。原告の従業員と話はしたが,原告の営業が立ち行かない状況になっていること,社長であるBや他の役員に辞めてもらうこと,被告Y2が次の社長になることを明言して原告の従業員の不安をあおるようなことはしていない。その際に,やむなく,原告の従業員に対して,必要なものを除き,経費の支出は慎重にするように伝えたのみであって,原告の円滑な代金支払業務を妨害した事実はない。
第3 当裁判所の判断
1 前提事実,証拠(甲3,4,5,8の1,14,15,16,17,18,23,24,25,26,乙イ2,乙ロ1,2の1,2の2,3,4,5,6,7,証人C,証人B,被告Y1本人,被告Y2本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 平成16年6月中旬から下旬ころ,Bは,被告Y1を訪ね,自ら証券会社を立ち上げることを伝え,出資金集めに協力を依頼した。Bは,事業計画について,インターネット証券であること,資本金は3億円であること,その後さらに資金を調達して1年後を目処に6,7億円くらいまでもっていきたいと考えていることなどを説明した。被告Y1は,「もうインターネット証券としての勝負は終わったんだ」,「もう大手5社に対抗するようなことを考えるのはばかだ」などと述べるとともに,証券会社の運営には資金が必要であり,Bの計画する規模の資金では運営することはできないこと,少なくとも12億円ないし15億円は必要であることなどと意見を述べ,証券会社の設立に反対した。
(2) Bは,平成16年7月14日,資本金3億円で原告を設立し,代表取締役に就任した。
(3) 平成16年8月6日,Bは,被告ウイズの事務所を訪れ,被告Y1に対し,原告を設立したことを伝え,また,GLトレードというインターネット証券取引に関するシステムを見せ,再度,資金調達についての協力を要請したが,被告Y1は否定的な姿勢を示した。Bは,その後も何度か被告Y1に対し,電話を掛けて協力要請を続けたが,被告Y1は,否定的な姿勢のままであり,やめた方がよい旨述べた。
(4) 平成16年10月上旬,Bは,被告ウイズの事務所を訪れ,被告Y1に対し,自ら12億円の増資の予定ができたと述べ,出資者として株式会社日本ユニコム,株式会社証券新報及び個人投資家のDの3名を挙げた。被告Y1は,Bに対し,顧客の規模が増えて1万人,2万人になった場合,株の信用取引の顧客も増えることとなり,その場合には12億円,15億円では資金が不足することとなるが,その場合の決済資金についてはどのように考えているのかについて質問をしたところ,Bにおいてはこの点の検討ができていなかった。
被告Y1は,Bの経営についてのビジョンが欠けていると判断し,再度,今からでもやめた方がよいと述べ,Bの翻意を促し,ベンチャー企業の経営がいかに難しいか,資金調達がいかに困難であるかということなどを説明した。
しかし,Bは,諦めることなく協力要請をしてきた。
被告Y1は,そのころ,大学時代の先輩であり,大阪市東成区長であった山本晋次から,大阪市がWTCやATC(アジア太平洋トレードセンター)等について民間の力を使って再生させたいと考えているとの情報や,これに協力しないかといった話を受けており,WTCやATCに金融センターと株式公開を目指すベンチャー企業を集約するといった大阪再生スキームを構想中であったことから,Bに対し,その構想が成功して大阪市から関西企業を紹介してもらうことができれば15億円から20億円といった資金調達の緒になる可能性がある旨話をした。
これに対し,Bは,事業パートナーに相談すると述べた。
被告Y1は,大阪再生スキームに原告を参加させていくに当たっては,被告ウイズとのコンサルタント契約を締結して,報酬を払ってもらう必要があること,被告ウイズの標準額として着手金1000万円,月々のコンサルティング料200万円であることを伝えた。
(5) 平成16年11月2日,Bは,新報投資顧問株式会社のEとともに,被告ウイズの事務所を訪れた。被告Y1は,大阪再生スキームについて説明し,原告と被告ウイズの間で本件コンサルティング契約及び秘密保持契約が締結された。
なお,そのころ,被告Y1は,Bに,前記山本晋次を紹介し,山本晋次は,大阪の第三セクターでつぶせないもののうちWTCとATCがあり,民間の活力を使わないといけないこと,大阪市も民間企業の誘致をバックアップするとの話をした。
(6) 本件コンサルティング契約が締結された平成16年11月以降,大阪再生スキームへの参加を前提として出資を求める際に使用する原告の事業計画書や原告の説明資料(甲3)を作成した。同説明資料では,大阪再生スキームについて,「大阪市コスモスクエア再生スキーム(金融コアセンター及びネットバレー構想)」と記載され(19ページ),また,その収益計画(22ページ)においては,システム管理関係費の初期投資額について,4838万円と記載されている。なお,平成17年3月段階における説明資料(甲4)においては,大阪再生スキームについて,「大阪市コスモスクエア再生スキーム(金融コアセンター及びネットアイランド構想)」と記載され,また,「誘致審査委員会」との記載が追加され(7ページ),システム管理関係費の初期投資額について,4800万円と記載されている(17ページ)。
(7) 平成16年12月以降,被告Y1及びBらは,大阪市経済局や港湾局を訪れ,同説明資料に基づいて,大阪市幹部に大阪再生スキームについての理解と支持を訴え,また,原告の事業・業務構想の内容の優れた点を売り込んだ。
特に,同年12月3日,大阪市を訪れた際には,大阪市経済局企画部長のF,前記山本晋次などの大阪市の関係者が20名程度で,Bらを歓待し,大阪市の南港地区のコスモスクエア地区を船で案内したり,大阪再生スキームについて大阪市が具体的に考えていること,コスモスクエア地区の電車の料金を下げることなど,原告にとって魅力のある説明をした。
これら大阪市幹部からの説明において,大阪再生スキームについて被告Y1の説明する内容と異なるところは全くなかった。
(8) 被告Y1やBらは,大阪市から紹介を受けた関西の大手企業などを訪問し,上記説明資料を用いながら,資金調達への協力を依頼した。
具体的には,平成16年12月21から22日,三井住友銀行,関西NTTドコモ,日本生命など,平成17年1月18から19日,三井住友銀行本店,日本生命,日本ベンチャーキャピタル,セレンディ(大阪ガスの子会社),松下電産など,同年2月3日,三井住友銀行船場支店,関西電力,大阪ガス,セレンディ,同年3月10から11日,千島土地,セレンディ,三井住友銀行船場支店を訪問した。
しかし,関西NTTドコモ,日本生命,関西電力などには明確に断られるなど資金調達は難航した。
(9) 平成16年12月29日,Bと被告Y1は,ファイテック社の代表者G,GLトレードのHとシステム開発に関して会合をもった。
被告Y1は,甲第3号証の説明資料におけるシステム管理関係費が初年度合計5億3156万円となっており,これは年間の課金システムも含めた費用であり,当初は4838万円との計画であると認識していたところ,その会合の中で当初から4億円といった話が出ていたことから,「けたが違います」と述べ,会合は物別れに終わった。
(10) 平成17年1月6日,B,被告Y1は,GLトレードの前記H,ファイテック社のシステム担当者と簡単な会合を持ったが,その中で,被告Y1は,原告について4月までに20億円の増資をしていきたい旨述べた。
被告Y1は,システムについては明るくなかったことから,システム開発に関してはBに,その進捗状況を何度か尋ねる程度であった。
(11) 平成17年1月24日,被告Y1は,Bを大阪市のI理事,大阪市都市再生本部事務局プロジェクト室長J,大阪市市長室監理団体総括担当部長Kを紹介した。
(12) 平成17年1月26日,原告は,ファイテック社に対し,システム(名称「ミスタートレード」)導入・開発を4億9621万9500円(消費税込み)で発注した。
(13) 平成17年1月27日,Bは,被告Y2に対し,原告について第三者割当増資を計画しており,その株式引受人の募集を依頼した。その際,Bは,「再生スキームの中の位置づけ」(甲3の19ページ)を示しながら大阪再生スキームについて,民間企業が群を作って,未上場の業績のよい企業を支援していくこと,大阪市は行政としてできる範囲でそれを支援していくといった概要を説明し,これに参加するための資金及びシステム構築資金として,増資を計画している旨述べた。
Bは,全体で30億円の増資を予定しており,既に27億円は埋まっている,被告Y2の募集分は3億円までである旨述べた。また,27億円の内訳について,大体5億円単位で,日本ユニコム,松下電器,大阪ガス,三井住友銀行といった企業名を挙げた。
しかし,実際には,この段階で出資を引き受けるという企業は全く現れていなかった。
被告Y2は,出資者の出資額の5パーセント相当額を手数料として,自らが代表を務めるオン株式会社に支払ってもらうという条件で,これに協力することとなり,原告との間で秘密保持契約を締結した。
なお,この被告Y2に対する資金調達に関する協力要請について,被告Y1は認識していなかった。
(14) その後,Bは,被告Y2に対し,同人ルートの出資が大きくなり,その比率が高くなるなら,当然に原告の役員として迎え入れるという趣旨の話をした。
(15) 平成17年2月21日,被告Y2は,Bを介し,初めて被告Y1と会うこととなり,被告Y1から大阪再生スキームについての説明を受けた。
(16) 平成17年2月ころから3月ころ,被告Y1は,Bに対し,企業に対する説明において,Bがシステムのことばかりを話し,投資した資金がどうなっていくのか,投資に対するリターンがどうなるのかについての説明がないことを指摘するとともに,企業経営について経営者としてのパッションやビジョンを語るように要請した。また,その中で,自らが経営者であれば20億円くらい集められる自信がある旨の発言もした。
(17) 平成17年3月14日に,原告の証券業の登録が完了した。
なお,当初,証券業の登録は平成17年2月の予定であり,これが遅れていることについて,Bは,被告Y1から何度も指摘されていた。
(18) 平成17年4月7日,日本経済新聞の夕刊に,WTCに原告を含め民間企業6社が入居する旨記事が掲載され,その中で,大阪市幹部の発言として「地域の産業拠点という当初の構想に近づけたい」との発言が紹介されている。
平成17年4月8日,WTC内において,テレビ局,新聞社などに対するプレス発表の場が設けられ,その取材を受ける中,原告は,WTCとの間で本件賃貸借契約を締結した。
被告Y1は,WTCの別の会議室において,WTCやATCの関係者に対し,大阪再生スキームについての説明会を開催した。
(19) 平成17年4月ころ,被告Y1は,Bに対し,システム開発費について質問したところ,4億円との返答であったため,その値下げ交渉の余地があるかどうか確認するため,発注書を出しているかどうかを質問したところ,発注書は出していないという返答をした。そこで,被告Y1は,システムに詳しいクネルブのL,スキルアップジャパンのMにファイテック社との値下げ交渉を依頼したところ,同人らを通じ,既に原告から平成17年1月26日付けの発注書が出されており,そうなると自己資本規制比率に抵触する可能性があることが判明した。
被告Y1は,自己資本規制比率に抵触する会社に出資を募ることは,被告ウイズの責任問題ともなりうることから,Bに対し,原告の帳簿を開示するように求めたが,Bはこれに応じなかった。また,そのころ,Bが当初述べていた12億円の出資の見込みがある旨の説明が虚偽であったことも判明した。
(20) 被告Y2は,出資候補者から原告の試算表を出すように依頼され,Bから平成17年4月30日付けの貸借対照表の交付を受けたが,そこにはファイテック社に対する負債の記載がなされていなかった。
(21) 平成17年5月9日,Bは,大阪市に赴き,日本経済新聞の記者と面会し,大阪再生スキームの動向について確認したところ,大阪市内部で話は出ているが煮詰まってはいないとの話であった。
そこで,Bは,同月10日のコンサルティング料の支払を停止した。
(22) 平成17年5月30日,原告は,第三者割当増資により4000万円の増資をした。このうち500万円は,WTCからの出資であった。
(23) 平成17年6月に入り,被告Y1は,Bから,本件コンサルタント契約に基づく業務の継続を依頼され,ファイテック社との間のシステム開発費に関する交渉をするとともに,原告に対し,大阪再生スキームに参加するために大阪市に提出する業務改善策を記載した書面の作成を要請した。
なお,5月分と6月分のコンサルティング料等は,平成17年6月23日に支払われた(甲10の8,9)。
(24) 平成17年6月7日,Bは,「2005年6月17日を払い込み最終日とするミスター証券株式会社の第三者割当増資にあたり,Y2氏の紹介投資家からの1億円以上の増資払い込み完了を条件に,次期役員会で役員の変更を行い,Y2氏の役員就任を推挙する事を約束します。」との念書を作成し,被告Y2に交付した。
これは,被告Y2が出資候補者から,被告Y2自身が経営に関与すべきであるとの意見を受けていたことやBが被告Y2からの出資額が大きくなってきた場合には被告Y2を役員に迎え入れるなどと述べていたことから作成されることになったものである。
(25) 原告は,第三者割当増資を実施し,平成17年6月17日に9000万円,同月29日6000万円の増資をしたが(甲23),いずれも被告Y2が募った投資家からの出資であった。
(26) 平成17年6月28日,ファイテック社の代理人弁護士から,原告に対し,請負費用等合計2億7063万1500円の支払を求める旨の通知書が送付された。
被告Y2は,同日,Bから増資が完了したとの電話連絡を受けたが,Bからファイテック社ともめていることを伝えられ,ファイテック社からの上記通知書をファックスで受け取った(乙ロ2の1。「2005/06/28火 12:03 ミスター証券(株)」との表示がある。)。
被告Y2は,それまで原告がファイテック社にシステム開発を依頼していることは認識していたものの約5億円もの発注を出していることは認識していなかった。
被告Y2は,募集した投資家に原告がそのような負債がある会社であることを説明しておらず,虚偽の説明をして出資をさせたことになってしまうこと,自己資本規制比率に抵触し業務停止となってしまうおそれがあることから,これが事実であれば詐欺に当たるのではないかと考え,Bに面会して説明を求めるとともに,出資金についての保全策が必要であると考えた。
(27) 平成17年6月29日,原告の事務所において,Bは,被告Y2に対し,翌日に定時株主総会が予定されており,被告Y2を株主に紹介したいと述べた。被告Y2は,「紹介どころじゃないでしょう。まず,ご自分がお金を戻すことをまず考えましょう。」と述べた。
(28) 平成17年6月30日,原告とファイテック社との間で,システム開発費として7000万円を支払うことで合意をした。この合意は,被告Y1が取りまとめたものであった。
(29) 同日,被告Y2は,原告の定時株主総会の場において,ファイテック社からの通知書を示し,Bが虚偽の報告をして詐欺をしているという趣旨の発言をした。これに対し,原告設立当初100パーセント株主であったNは,自分は何も知らない,出資した3億円は原告の設立当時の取締役であったO(平成17年3月18日に辞任している。甲23)に持っていかれた等という発言をした。被告Y2は,Bその他の経営陣及びこれを選任したNの責任追及をする旨の発言をした。
なお,この株主総会が開かれた日付について,原告は,平成19年5月16日付け準備書面(4)(9ページ)においては,6月28日に開かれたとしているが,平成18年4月24日付け準備書面(1)(5ページ)においては,6月30日に開催されたと認めている。
(30) 平成17年7月に入り,被告Y1は,原告設立の際の資本金3億円について,この出資者となっているNが,原告に出資した覚えはなく,原告の設立当時の取締役であったO(平成17年3月18日に辞任している。甲23)がNに無断で行ったことである旨述べていることを認識した。
そのころ,被告Y1においても,被告Y2においても,Bとの連絡が取れない状況が続いた。
(31) 被告ウイズは,原告に対し,平成17年7月7日付けの「契約解除通知書」を送付したが,その中では,「貴社による度重なる重要書類及び重要事項の隠匿行為及び貴社役員・社員による一般常識から逸脱したビジネスマナーにより,当社及び関係者は困惑を隠せない状況にあります。」などと記載した上,本件コンサルティング契約の解除を申し入れた。
(32) 被告Y2は,原告に対し,平成17年7月7日付けの「催告書」を送付したが,その中では,平成17年6月7日付けの念書,同月22日付けの原告の業務改善策を前提とした条件のもとで,前記の合計1億5000万円の増資を実現させたこと,Bと連絡が取れない状況が続いていること,「出資者からの出資法違反及び詐欺被害の可能性等に対する不信感を考慮し,本日貴社のP氏に一定の必要経費を除いて,資金の流出を停止して戴く様御依頼申し上げました。」といったことが記載されている。
(33) 平成17年7月12日,Nの代理人弁護士の事務所において,被告Y2,被告Y1,N,同人の代理人弁護士及びBとが面談し,被告Y2はNの株主責任を追及した。
平成17年7月13日午前,八重洲富士屋ホテルで,被告Y2は,N・Bと会い,被告Y2はNの株主責任を追及した。
(34) 同日午後,被告Y2は,原告の本社を訪れた。その後,被告Y1も被告Y2の求めに応じて,原告の本社に到着した。
被告Y2は,15分程度の時間にわたって,原告の従業員8名から9名に対し,Bが原告の社長を辞任し,被告Y2が新たに社長になった,それまでにやってきた仕事次第で今後も従業員として使うかどうか決めるので,どのような仕事をしてきたのかA4用紙にまとめて提出してほしいなどと発言をした。その間,被告Y1は別室にいた。
(35) Bと被告Y2は,平成17年7月14日時点の確認事項として,Nの株主責任論を棚上げにしたうえで,被告Y2がいずれNの持ち株6000株を2億円のキャッシュで購入することを明言したこと,Bら現役員が退陣し,新たに被告Y2らが役員に就任すること,Bは再任すること,これらはN氏の了解を得ることが前提であること,E,被告Y1の了解を得ることをBが被告Y2に要望したことなどを記載した書面を作成した。
(36) 平成17年8月9日,原告の臨時株主総会が開催され,被告Y2を新役員に選任する議案が提出されたが,否決された。
(37) 平成17年8月29日,原告とWTCは,本件賃貸借契約を同月31日付けで解約した。
(38) 平成17年8月30日,本店所在地を大阪市〈以下省略〉,代表取締役を被告Y2,取締役に被告ウイズの取締役でもあるQとした証券会社が設立された(甲15)。
(39) 平成18年10月18日,Bは,自分自身が経営に向いていないとの理由から原告の代表取締役を辞任した。
2 上記認定事実を前提として,争点について判断する。
(1) 争点①について
ア 原告は,被告Y1から,大阪再生スキームなる計画が確定したものであり,これに参加することにより確実に15億から20億の出資が得られると欺罔されて,本件コンサルティング契約を締結した旨主張し,Bも同旨の証言をし,同人の陳述書にもその旨の記述がある。
しかし,前記認定によれば,大阪再生スキームというものは,被告Y1が,大阪市の山本晋次区長からの相談に基づいて,あくまで構想として検討をしていたものであり,原告と被告ウイズが共同で作成した説明資料(甲3,4)からも明らかなとおり,その内容も流動的なものであり,そのことをBも認識していたことは明らかである。
したがって,本件コンサルティング契約締結段階において,被告Y1がBに対し,それが確定的なものであるといった説明をしたとするBの上記証言等は信用できない。
また,被告Y1はBのベンチャー企業の経営者としての考えが甘いと考えていたことなどから証券会社の設立に反対していたこと,大阪再生スキームが構想中のものにすぎないこと,原告が証券業の登録も済ませていない状態であったこと,Bの経歴からして経済に相当程度通じているものであること,出資はあくまで投資家の判断を前提とするものであることなどからすると,本件コンサルティング契約締結段階で,被告Y1が,Bに対し,15億円から20億円の資金調達が確実であるなどと言うとは到底考えられない。
前記認定のとおり,被告Y1においては,大阪再生スキームの構想が成功すれば,原告が必要とする資金が調達できる可能性がある旨述べていたに止まると認めるのが相当である。
イ ただし,被告Y1の大阪再生スキームに関する説明とBが面談した大阪市の幹部の説明に異なるところが全くなかったこと,大阪市の幹部がBらの大阪訪問を歓待していること,Bらにおいて大阪市から紹介された大手企業との面談を実現させていること,原告がWTCに入居する際の新聞報道において,大阪市幹部の発言として「地域の産業拠点という当初の構想に近づけたい」との記事が掲載されたことなどからすれば,大阪市においても被告Y1の描く大阪再生スキームの実現に期待をしており,可能な範囲での支援をする考えであったことがうかがわれるのであって,大阪再生スキームが実現可能性がないというようなものではなかったと認められる。
このことは,その後,被告Y2がWTCに別途,証券会社を立ち上げていることからも推認することができる。
そして,本件コンサルティング契約締結後の関西の企業に対する説明状況,大阪市の幹部との面談状況,被告Y1におけるWTCでの大阪再生スキームについての説明会の開催状況などに照らせば,被告Y1は,原告を金融の中心に据えた大阪再生スキームの実現に向けた活動をするとともに,それと並行して原告の資金調達を実現するための活動を実施していたと認められる。
それでも被告Y1の予測に反し,資金調達が不調であり,そのためにBに対し,企業に対する説明において,システムのことばかりではなく投資家の関心を惹く説明をするように指導したり,証券業の登録を早く済ませるように指導していたと認められる。
そして,前記認定のとおり,原告の経理処理上の問題などが発覚したことにより,本件コンサルティング契約が解約となり,原告が大阪再生スキームから離脱することになったにすぎないものである。
ウ Bは,本件コンサルティング契約契約締結前に,12億円の資金調達が可能となったと述べたことはないと証言している。
しかし,被告Y1は,Bが証券会社を設立することについて,資金面からも強く反対していたものであること,株式会社日本ユニコム,株式会社証券新報及び個人投資家のDについては,Bの関係者であって,Bがこれらの名称を挙げたということは,出資が見込まれる者として紹介したと考えるのが相当であること,Bは平成17年1月27日の段階で,出資を引き受ける企業が全く現れていなかったにもかかわらず,被告Y2に対し,増資予定額が30億円であり27億円は確定している趣旨の発言をしているが,27億円あるいは30億円という金額は原告の主張によってもそれまで被告Y1すら掲げていない金額であるところ,この27億円は被告Y1が可能性があるとしていた15億円に12億円を足した金額と一致することなどに照らし,Bが被告Y1に対し,12億円の資金調達の目処が立ったと述べて,資金調達について協力要請をしたと認めるのが相当である。
なお,原告は,Bが被告Y2に対し,27億円は埋まっている旨発言したことからしても,被告Y1において出資が確実であると説明したことが分かると主張する。
Bが事実と異なる説明をしてまでも被告Y2に資金調達の協力要請をした意図は必ずしも明らかではないが,仮に被告Y1がBに対し,出資が確実であると説明し,Bも必要な資金が確実に調達できるものと信じていたのであれば,Bが被告Y1に相談することなく,被告Y2に資金調達の協力要請をするとは考え難いのであって,原告の主張は採用の限りではない。
エ Bは,ファイテック社に対する約5億円のシステム開発の発注について,被告Y1が認識していたと証言する。
しかし,Bは,ファイテック社に対する発注書を出したことを被告Y1に報告したかどうかについては,明確な記憶がないとあいまいな証言をしており,被告Y1がこれを認識していたという証拠はない。かえって,説明資料(甲3,4)には,当初のシステム管理関係費としては4800万円程度との記載となっていること,原告の貸借対照表にもファイテック社に対する負債が計上されていないこと,被告Y1がBに対し,帳簿類の開示を求めたこと及び業務改善策の作成を指示したこと,被告ウイズが原告に送付した内容証明郵便には,「貴社による度重なる重要書類及び重要事項の隠匿行為及び貴社役員・社員による一般常識から逸脱したビジネスマナーにより,当社及び関係者は困惑を隠せない状況にあります。」といった記載がなされていることなどに照らすと,被告Y1はファイテック社に対する約5億円のシステム開発の発注については認識していなかったと認めるのが相当である。
オ 原告は,被告Y1が,大阪市に誘致審査委員会との組織が設置され,誘致審査委員会に予算がついていると述べた旨主張する。
しかし,説明資料(甲4)をみても,大阪再生スキームの構想として「誘致審査委員会」という記載をしていることは明らかである。
平成17年3月の段階で,被告ウイズやクネルブやWTCらが委員となっている「誘致審査委員会」なるものが設置されたものでないことは,Bは当然認識していたはずであり,また,企業や大阪市に対する説明資料となる資料に,大阪市に「誘致審査委員会」が設置されたという前提でこのような記載をするとは考えられないのであって,そうである以上,被告Y1がBに対し,大阪市に「誘致審査委員会」が組織されたなどと説明することも考えられない。
カ 原告は,被告Y1や被告ウイズが資金的に困っていたことも推測できるなどとして,原告を騙して本件コンサルティング契約を締結し,それを継続してコンサルティング料を支払わせた旨主張するようであるが,被告Y1がBの協力要請に極めて消極的であったことは前記認定のとおりであって,原告の上記主張は採用しない。
キ 原告は,本件コンサルタント契約締結後も,被告Y1がコンサルタント料を得るべく,大阪市の幹部職員をBに紹介したりして,Bを信用させたままの状態にしたと主張する。
しかし,Bを騙し続けるために大阪市の幹部に面談させるなどということは,大阪市の幹部らと被告Y1がBを騙すことについて口裏合わせなどしていない限り考えられないものであり,そのような事実を裏付ける証拠は全くない。被告Y1がBを大阪市の幹部に面談させたのは,大阪再生スキームの実現及び原告の資金調達のためと認められるのであって,原告の主張は採用しない。
以上のとおりであり,被告Y1の欺罔行為を認めるに足りる証拠はない。
そうすると,被告Y1の欺罔行為による不法行為があることを前提とする原告の主張は理由がない。
(2) 争点②について
ア 大阪再生スキームが実現可能性がないというものでなかったことは前記認定のとおりであり,原告への資金調達の見込みがないことを容易に認識できたなどとは認められないのであるから,被告Y1が原告に本件コンサルティング契約を締結させたことが任務懈怠になるということはない。
イ また,被告Y1が大阪再生スキームの実現及び原告の資金調達のための活動を実施していたことは前記認定のとおりであり,特に被告Y1が任務懈怠をしていたと認めるに足りる証拠はない。むしろ,原告がWTCとの間で1年間賃料無料という条件で本件賃貸借契約を締結していること,WTCから500万円の出資を受けていることは本件コンサルティング契約の効果であるといえる。
出資の募集が予測に反して不調であったことについては,証券業の登録の遅れも影響していたことはBも証言しているところであるし,Bの企業に対する説明ぶりについても問題があったと認められる。
そして,投資家に対しての説明が1回や2回で済むというものでないことは被告Y1が供述しているところであり,原告の証券業の登録は当然として,大阪再生スキームの具体化などとの兼ね合いの中で,投資家の判断がなされるものであって,平成17年4月の段階で,WTCへの入居を止めさせるべきであったとか,大阪再生スキームから離脱させるべきであったなどという原告の主張は採用できない。
したがって,被告Y1の任務懈怠や被告ウイズによる債務不履行があったとする原告の主張は理由がない。
(3) 争点③について
被告Y1は,Bに対し,本件コンサルティング契約締結前,資金調達の可能性があるとの説明をしていたにすぎず,何ら欺罔行為がないことは前述のとおりであって,本件コンサルティング契約の詐欺取消をいう原告の主張は理由がない。
(4) 争点④について
被告Y1が,Bに対し,本件コンサルティング契約締結前,資金調達の可能性があるとの説明していたにすぎないこと,Bが資金調達が確実に可能であると信じていたものでないことは前記認定のとおりであって,本件コンサルティング契約締結にあたり,原告に錯誤があったとは認められない。
したがって,本件コンサルティング契約にあたり錯誤があるとの原告の主張は理由がない。
(5) 争点⑤について
ア 原告は,被告Y1がBら経営陣の退陣を求めたこと,業務改善策の作成を求めたことが業務妨害に当たると主張し,Bは,平成17年6月ころ,被告Y1から,このままだと会社がつぶれる,営業力のある被告Y2を社長にすれば立ち直るかもしれないと何度も言われた旨証言する。
そして,被告Y1自身,遅くとも平成17年7月12日の時点では,適任者がいればBは代表取締役を代わった方がよいと考えていた旨供述している。
しかるに,ファイテック社に対する発注問題,貸借対照表の虚偽記載,12億円の出資についての虚偽説明などが発覚していたことに加え,前記認定事実によれば,被告Y1がBの経営者として営業力が不十分であると考えていたと認められることからしても,平成17年6月ころの段階で,被告Y1がBに対し,Bが上記証言するような発言をしていたことも十分に考えられる。
しかし,仮に,そのような事実があったとしても,上記のような問題が発覚していたような状況に照らせば,原告のためにコンサルタントとして,Bの退任を促すことも不合理なものとはいえない(実際に,Bは自らが経営に向いていなかったとして原告代表者を辞任している。)。
また,前記認定のとおり,被告Y1は,Bに対し,業務改善策の作成を要請しているところ,その内容は必ずしも明らかではないが,これは上記のような問題が発覚する中,原告が大阪再生スキームに参加するために大阪市に提出するものとして作成を要請したものであって,これをもって業務妨害行為と認めるに足りる証拠はない。
イ 原告は,被告Y2が,同人を原告の役員に就任させる旨の念書を作成させたり,Nに対して株式を廉価で取得させるように迫ったり,経理担当者に対して,経費の支出をしないように指図して,原告の円滑な代金支払業務を妨害しようとした旨主張する。
しかし,被告Y2が上記念書を作成させたのは,被告Y2ルートの出資候補者から被告Y2の役員としての関与を求められていたことやBが被告Y2ルートの出資が増えた場合には原告の役員として迎え入れる旨述べていたことからであって,これをもって原告の業務を妨害したとはいえない。
また,被告Y2がNに対して株主としての責任を追及したのは,Bが被告Y2に交付した貸借対照表にファイテック社に対する負債が記載されていないような資料を出資者に渡すなどして,ファイテック社に対する負債状況についても,自己資本規制比率に抵触するおそれがある会社であるということについても認識することのないまま1億5000万円もの出資を募った被告Y2としては,出資の募集が詐欺的なものになってしまったとの認識のもと,出資者を納得させられる策として,大株主であるNの株数を減らさせることを企図したものであって,被告Y2の置かれた立場から見れば,理解できないものではなく,これをもって原告の業務を妨害したともいえない。
さらに,被告Y2が原告の経理担当者に対し,一定の必要経費を除いた資金の支出を停止するように要請したことは認められるが,これも被告Y2の置かれた立場からすればむしろ当然の要請だったといえるのであり,原告に対する不法行為になるとはいえない。
ウ 原告は,平成17年7月13日に,被告Y2と被告Y1が相談の上,被告Y2において,原告の従業員らに対し,Bが辞めさせられたなどと述べて業務を妨害した旨主張する。
たしかに,前記認定のとおり,平成17年7月13日,被告Y2は,原告の事務所において,原告の従業員らに対し,Bが辞任して,自らが社長になったなどといったことを述べた事実が認められる。
この時点で,Bが辞任したといった事実はなかったのであるから,事実と異なる被告Y2によるこのような発言が原告内に少なからず混乱を招くものであったことは容易に推認される。
しかし,これも被告Y2の置かれた立場を踏まえれば,自らの出資者への責任を果たすために原告の経営に参加し,財務内容の健全化を図る趣旨によるものであったと考えられる。
しかも,その翌日14日には,それまでの確認事項として,Bと被告Y2との間において,Bら現経営陣が退陣すること,被告Y2らが役員に加わることを確認しているのであって(乙ロ6),13日の段階においても,Bが辞任する方向で話が進んでいたことは明らかである。
さらに,被告Y2の発言が外部に伝わったということもないことが認められ(証人C),対外的に原告の信用が低下したといった事情も認められないことにも照らすと,被告Y2の上記発言が原告に対する不法行為を構成するとまではいえない。
また,被告Y2の上記発言中に別室にいたと認められる被告Y1についても,業務妨害行為を認めるに足りる証拠はない。
なお,原告は,被告Y2が証券会社を立ち上げたことなどを挙げて,被告Y2と被告Y1が原告を乗っ取ろうとしていた旨主張している。
しかし,被告Y2が原告の役員になろうとしたのは,出資者への責任を果たすためとみるのが相当であるし,証券会社を立ち上げた事実も,そのための選択肢の一つであったと認めるのが相当である(乙ロ7,被告Y2本人)。
原告の前記主張は採用しない。
以上のとおり,業務妨害の不法行為を前提とする原告の主張は理由がない。
3 以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判官 小原一人)
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