【営業代行から学ぶ判例】crps 裁判例 lgbt 裁判例 nda 裁判例 nhk 裁判例 nhk 受信料 裁判例 pl法 裁判例 pta 裁判例 ptsd 裁判例 アメリカ 裁判例 検索 オーバーローン 財産分与 裁判例 クレーマー 裁判例 クレプトマニア 裁判例 サブリース 裁判例 ストーカー 裁判例 セクシャルハラスメント 裁判例 せクハラ 裁判例 タイムカード 裁判例 タイムスタンプ 裁判例 ドライブレコーダー 裁判例 ノンオペレーションチャージ 裁判例 ハーグ条約 裁判例 バイトテロ 裁判例 パタハラ 裁判例 パブリシティ権 裁判例 ハラスメント 裁判例 パワーハラスメント 裁判例 パワハラ 裁判例 ファクタリング 裁判例 プライバシー 裁判例 プライバシーの侵害 裁判例 プライバシー権 裁判例 ブラックバイト 裁判例 ベネッセ 裁判例 ベルシステム24 裁判例 マタニティハラスメント 裁判例 マタハラ 裁判例 マンション 騒音 裁判例 メンタルヘルス 裁判例 モラハラ 裁判例 モラルハラスメント 裁判例 リストラ 裁判例 リツイート 名誉毀損 裁判例 リフォーム 裁判例 遺言 解釈 裁判例 遺言 裁判例 遺言書 裁判例 遺言能力 裁判例 引き抜き 裁判例 営業秘密 裁判例 応召義務 裁判例 応用美術 裁判例 横浜地裁 裁判例 過失割合 裁判例 過労死 裁判例 介護事故 裁判例 会社法 裁判例 解雇 裁判例 外国人労働者 裁判例 学校 裁判例 学校教育法施行規則第48条 裁判例 学校事故 裁判例 環境権 裁判例 管理監督者 裁判例 器物損壊 裁判例 基本的人権 裁判例 寄与分 裁判例 偽装請負 裁判例 逆パワハラ 裁判例 休業損害 裁判例 休憩時間 裁判例 競業避止義務 裁判例 教育を受ける権利 裁判例 脅迫 裁判例 業務上横領 裁判例 近隣トラブル 裁判例 契約締結上の過失 裁判例 原状回復 裁判例 固定残業代 裁判例 雇い止め 裁判例 雇止め 裁判例 交通事故 過失割合 裁判例 交通事故 裁判例 交通事故 裁判例 検索 公共の福祉 裁判例 公序良俗違反 裁判例 公図 裁判例 厚生労働省 パワハラ 裁判例 行政訴訟 裁判例 行政法 裁判例 降格 裁判例 合併 裁判例 婚約破棄 裁判例 裁判員制度 裁判例 裁判所 知的財産 裁判例 裁判例 データ 裁判例 データベース 裁判例 データベース 無料 裁判例 とは 裁判例 とは 判例 裁判例 ニュース 裁判例 レポート 裁判例 安全配慮義務 裁判例 意味 裁判例 引用 裁判例 引用の仕方 裁判例 引用方法 裁判例 英語 裁判例 英語で 裁判例 英訳 裁判例 閲覧 裁判例 学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例 共有物分割 裁判例 刑事事件 裁判例 刑法 裁判例 憲法 裁判例 検査 裁判例 検索 裁判例 検索方法 裁判例 公開 裁判例 公知の事実 裁判例 広島 裁判例 国際私法 裁判例 最高裁 裁判例 最高裁判所 裁判例 最新 裁判例 裁判所 裁判例 雑誌 裁判例 事件番号 裁判例 射程 裁判例 書き方 裁判例 書籍 裁判例 商標 裁判例 消費税 裁判例 証拠説明書 裁判例 証拠提出 裁判例 情報 裁判例 全文 裁判例 速報 裁判例 探し方 裁判例 知財 裁判例 調べ方 裁判例 調査 裁判例 定義 裁判例 東京地裁 裁判例 同一労働同一賃金 裁判例 特許 裁判例 読み方 裁判例 入手方法 裁判例 判決 違い 裁判例 判決文 裁判例 判例 裁判例 判例 違い 裁判例 百選 裁判例 表記 裁判例 別紙 裁判例 本 裁判例 面白い 裁判例 労働 裁判例・学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例・審判例からみた 特別受益・寄与分 裁判例からみる消費税法 裁判例とは 裁量労働制 裁判例 財産分与 裁判例 産業医 裁判例 残業代未払い 裁判例 試用期間 解雇 裁判例 持ち帰り残業 裁判例 自己決定権 裁判例 自転車事故 裁判例 自由権 裁判例 手待ち時間 裁判例 受動喫煙 裁判例 重過失 裁判例 商法512条 裁判例 証拠説明書 記載例 裁判例 証拠説明書 裁判例 引用 情報公開 裁判例 職員会議 裁判例 振り込め詐欺 裁判例 身元保証 裁判例 人権侵害 裁判例 人種差別撤廃条約 裁判例 整理解雇 裁判例 生活保護 裁判例 生存権 裁判例 生命保険 裁判例 盛岡地裁 裁判例 製造物責任 裁判例 製造物責任法 裁判例 請負 裁判例 税務大学校 裁判例 接見交通権 裁判例 先使用権 裁判例 租税 裁判例 租税法 裁判例 相続 裁判例 相続税 裁判例 相続放棄 裁判例 騒音 裁判例 尊厳死 裁判例 損害賠償請求 裁判例 体罰 裁判例 退職勧奨 違法 裁判例 退職勧奨 裁判例 退職強要 裁判例 退職金 裁判例 大阪高裁 裁判例 大阪地裁 裁判例 大阪地方裁判所 裁判例 大麻 裁判例 第一法規 裁判例 男女差別 裁判例 男女差别 裁判例 知財高裁 裁判例 知的財産 裁判例 知的財産権 裁判例 中絶 慰謝料 裁判例 著作権 裁判例 長時間労働 裁判例 追突 裁判例 通勤災害 裁判例 通信の秘密 裁判例 貞操権 慰謝料 裁判例 転勤 裁判例 転籍 裁判例 電子契約 裁判例 電子署名 裁判例 同性婚 裁判例 独占禁止法 裁判例 内縁 裁判例 内定取り消し 裁判例 内定取消 裁判例 内部統制システム 裁判例 二次創作 裁判例 日本郵便 裁判例 熱中症 裁判例 能力不足 解雇 裁判例 脳死 裁判例 脳脊髄液減少症 裁判例 派遣 裁判例 判決 裁判例 違い 判決 判例 裁判例 判例 と 裁判例 判例 裁判例 とは 判例 裁判例 違い 秘密保持契約 裁判例 秘密録音 裁判例 非接触事故 裁判例 美容整形 裁判例 表現の自由 裁判例 表明保証 裁判例 評価損 裁判例 不正競争防止法 営業秘密 裁判例 不正競争防止法 裁判例 不貞 慰謝料 裁判例 不貞行為 慰謝料 裁判例 不貞行為 裁判例 不当解雇 裁判例 不動産 裁判例 浮気 慰謝料 裁判例 副業 裁判例 副業禁止 裁判例 分掌変更 裁判例 文書提出命令 裁判例 平和的生存権 裁判例 別居期間 裁判例 変形労働時間制 裁判例 弁護士会照会 裁判例 法の下の平等 裁判例 法人格否認の法理 裁判例 法務省 裁判例 忘れられる権利 裁判例 枕営業 裁判例 未払い残業代 裁判例 民事事件 裁判例 民事信託 裁判例 民事訴訟 裁判例 民泊 裁判例 民法 裁判例 無期転換 裁判例 無断欠勤 解雇 裁判例 名ばかり管理職 裁判例 名義株 裁判例 名古屋高裁 裁判例 名誉棄損 裁判例 名誉毀損 裁判例 免責不許可 裁判例 面会交流 裁判例 約款 裁判例 有給休暇 裁判例 有責配偶者 裁判例 予防接種 裁判例 離婚 裁判例 立ち退き料 裁判例 立退料 裁判例 類推解釈 裁判例 類推解釈の禁止 裁判例 礼金 裁判例 労災 裁判例 労災事故 裁判例 労働基準法 裁判例 労働基準法違反 裁判例 労働契約法20条 裁判例 労働裁判 裁判例 労働時間 裁判例 労働者性 裁判例 労働法 裁判例 和解 裁判例

「営業 スタッフ」に関する裁判例(6)平成28年 6月21日 東京地裁 平26(ワ)11259号 地位確認等請求事件

「営業 スタッフ」に関する裁判例(6)平成28年 6月21日 東京地裁 平26(ワ)11259号 地位確認等請求事件

裁判年月日  平成28年 6月21日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平26(ワ)11259号
事件名  地位確認等請求事件
上訴等  控訴  文献番号  2016WLJPCA06218003

裁判経過
控訴審 平成28年12月 7日 東京高裁 判決 平28(ネ)3574号 地位確認等請求控訴事件

裁判年月日  平成28年 6月21日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平26(ワ)11259号
事件名  地位確認等請求事件
上訴等  控訴  文献番号  2016WLJPCA06218003

東京都杉並区〈以下省略〉
原告 X
訴訟代理人弁護士 戸舘圭之
同 田村優介
同 結城祐
東京都千代田区〈以下省略〉
被告 Y生命保険相互会社
代表者代表取締役 A
訴訟代理人弁護士 茅根熙和
同 春原誠
同 和田健児

 

 

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。
2  訴訟費用は原告の負担とする。

 

事実及び理由

第1  請求
1  原告が、被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2  被告は、原告に対し、平成25年4月から本判決確定の日まで、毎月21日限り30万8490円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3  被告は、原告に対し、平成25年6月から本判決確定の日まで、毎年6月23日及び12月10日限り各46万2740円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
4  被告は、原告に対し、100万円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
本件は、平成18年4月に被告に入社し、平成24年4月から企業開拓チームに配属され、平成25年3月に被告を退職した原告が、①原告は当時、長年にわたる被告の退職強要行為によって、原告自身の社員としての地位に関する正常な判断が不可能な状態に陥っていたから、原告がした退職の意思表示を強迫により取り消す、または、退職に向けた意思表示の不存在、意思能力の欠缺若しくは錯誤により原告がした退職の意思表示は無効である、あるいは、②原告は平成24年3月に同年4月の企業開拓チームへの配転命令を受け、退職に向けた精神的圧力を感じ続けた末に平成25年3月に退職しているところ、前記配転命令には法的根拠がなく、または、法的根拠があるとしても権利濫用で無効であり、無効な配転命令により精神的圧力を受けてした退職の意思表示には瑕疵があって、無効であるか、取り消されるべきであると主張して、被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める(請求第1項)とともに、退職の翌月である同年4月から本判決確定の日までの給与及び賞与並びにこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求め(請求第2、第3項)、さらに、長年にわたる被告の退職強要行為が不法行為を構成すると主張して、慰謝料100万円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(請求第4項)事案である。
1  前提事実
以下の範囲の事実は、当事者間に争いがない。
(1)  被告は、生命保険業等を目的とする相互会社である。
(2)  原告は、平成18年4月、被告に期間の定めのない従業員として採用され、研修を受けた後、平成18年10月から平成20年3月まではf支社において、平成20年4月から平成21年3月まではg支社において、平成21年4月から平成23年3月まではh支社において、平成23年4月から平成24年3月まではi支社において、それぞれ勤務した。そして、平成24年4月からは被告本社の総務人事統括部門における企業開拓チーム(以下「企業開拓チーム」という。)に配属されていたところ、平成25年3月29日付けをもって被告を退職する旨の意思表示(以下「本件退職の意思表示」という。)をした。
なお、原告は、企業開拓チームからの異動を求めていたところ、本件退職の意思表示をする前に、企業開拓チームからj本社事務教育ユニットへの異動の内示を受けていた。
(3)  原告と被告との間の雇用契約(以下「本件雇用契約」という。)は、以下の内容であった。
ア 月例賃金は、職能加算、役割給及び成果給A・Bにより構成される年間給与合計額を14分割した金額が支給されることになっており、毎月末締め、当月21日払のほかに6月23日と12月10日にも月例賃金額が支給され、1年間に合計14回月例賃金額が支給されていた。本件退職の意思表示直前の原告の年間給与は431万8820円であり、月例賃金額は30万8490円であった。
イ 賞与は、月例賃金の半額に年度ごとに定める一定の係数を乗じた金額の50%ずつが年に2回支給され、6月23日と12月10日にそれぞれ支給されることになっており、その賞与額は各15万4250円であった。原告の賞与としては、毎年6月と12月にそれぞれ46万2740円が月例賃金とは別に支給されていた。
2  争点
本件における争点は、①本件退職の意思表示における無効又は取消事由の存否、②原告に対する不法行為の成否(退職強要行為の有無)であり、当事者の主張は次のとおりである。
【原告の主張】
(1) 本件退職の意思表示における無効又は取消事由の存否について
ア 被告による継続的な退職勧奨
(ア) h支社における継続的かつ直接的な退職勧奨
a 原告は、平成21年4月、h支社に配属されたところ、同月17日の原告の歓迎会当日、h支社k営業所のB所長(以下「B所長」という。)及びh支社のC支社長(以下「C支社長」という。)から退職勧奨を受けた。特に、B所長からは、同月17日に二度にわたって「退職届を出してくれ。」といわれ、原告は、それ以降、平成23年4月まで、k営業所に所属していた時期にはB所長から、その後はC支社長から、退職勧奨を受け続けた。
b この結果、原告は、平成21年6月ころから、うつ状態、適応障害の診断を受けるなど、多大な精神的苦痛を受け続けたが、その旨の診断書を被告に提出するなどして退職を拒否し続けた。
(イ) i支社における仕事を与えない間接的な退職勧奨
a 原告は、平成23年4月、h支社からi支社に異動した。
i支社では、「研修サポート」という業務を任されることになったが、実際には、損保の研修がある以外にはほとんど仕事が与えられなかった。そして、同年5月ころ以降は、「身体が弱い」という理由で「研修サポート」から「業務部付」への配置転換を命じられ、ここでは、資料作成業務に従事するという名目で、実際には何らの仕事も与えられず、原告自身の机に座り続ける日々が平成24年4月まで続いた。
b このように、何らの仕事を与えられないまま机に座り続ける日々を過ごしてきたことから、原告は、その心理的負荷により不安障害の診断を受け、睡眠障害等(以下「本件疾病」という。)の症状に悩まされるようになり、平成24年3月初旬ころからは、平成24年度以降はどのような過酷な待遇を受けるかもしれないという不安から、本件疾病による症状が悪化した。
(ウ) 被告における「セカンドライフ支援退職制度」の実施
被告は、平成24年1月、「セカンドライフ支援退職制度」を実施した。これは、被告によれば、被告における平成23年度末の総合職及び基幹経営職数が平成24年度以降の総合職及び基幹経営職の必要要員(ポスト)数を160名程度上回ると予想されたことと、被告の総合職及び基幹経営職の年齢構成において40歳以上の比率が高く30歳代が著しく少ない構造であったことから、平成24年1月16日から同月20日までを募集期間として160名の希望退職を募ることで人員の削減を図るものであった。この募集に対し、被告従業員から190名以上が応募した。
(エ) 企業開拓チームへの配転命令による退職勧奨
a 被告は、平成24年3月、原告に対し、同年4月以降企業開拓チームに配転することを命令した(以下「本件配転命令」という。)。
b 原告は、前記(ア)及び(イ)のとおり、平成21年4月ころから被告の退職勧奨を受け続け、平成23年度に至っては何らの仕事を与えられないまま机に座り続ける日々を過ごしてきたことから、その心理的負荷により本件疾病の症状に悩まされ、さらに、平成24年3月初旬ころからは、平成24年度以降の待遇への不安から、その症状が悪化し、出向業務を遂行することが極めて困難な状況に陥っていた。
加えて、このとき企業開拓チームへの配転命令を受けた35名のうち、原告以外の者全員が、被告から「セカンドライフ支援退職制度」に応募するよう退職勧奨を受けてこれを拒否した従業員であること、企業開拓チームで予定していたのが主に自分自身の出向先企業を探すという作業(以下「本件作業」という。)で、同作業が被告業務の実態を有しないこと、企業開拓チームが退職強要を目的とした部署であるのは従業員にとって周知の事実であったこと等から、原告としては、企業開拓チームで本件作業をさせることにより原告を退職させようという被告の意図は配属前から明らかに予想でき、これにより原告の病状は更に悪化した。
c そこで、原告は、二度にわたって診断書を提出し、本件配転命令を再考するよう被告に再三強く求めた。また、東京労働局からの指導も行われた。しかし、被告はこれを一切聞き入れなかった。
(オ) 一切昇給しない旨の宣言
a 原告は、平成25年3月下旬、企業開拓チームからの配転の内示を受けたが、同月中旬には、被告本社の総務人事統括部門のD部長(以下「D部長」という。)から退職勧奨を受け、その際、原告から自主退職しなかった場合のその後の処遇を質問したところ、Dから「もう給与は一切上がらない。」などと言われ、原告が被告に在籍していたとしても一切昇給しない旨を宣言された。
b 原告は、かつて被告に存在した企業開拓チーム類似の「キャリア開発室」に配置されていたE(以下「E」という。)からは「追い出し部屋にいたことにより最低給に落とされ、そこから一切昇給昇格がない。」と、人事ユニットに在籍したこともあるF(以下「F」という。)からは「今までXが普通に仕事をしていても認めてこなかったのだから、これから結果を出しても認められるわけがない。」、「一度企業開拓チームという色がついてしまうと今後は難しい。」、「一日考えてみたけれど、辞めた方がいいと思う。」と言われたことを思い出し、企業開拓チームから配転されるとしても、被告から本件作業以上の苦痛を受けるかもしれず、その苦痛に耐え続けたとしても今後の昇給昇格等は期待できないことが容易に予想でき、これ以上被告に在籍することにつき筆舌に尽くし難い恐怖を感じ、心の底から絶望した。
(カ) 小括
以上のとおり、原告は、平成21年4月から平成25年3月までの間、被告から直接、間接の退職勧奨を受け続けた。これら一連の退職勧奨行為は、その全体が原告を退職させる目的で行われ、原告の退職の意思決定の自由を奪うものであり、その実質は退職強要行為である(以下、前記(ア)ないし(オ)の一連の退職勧奨行為を包括して「本件退職強要行為」という。)。
そして、原告は、本件退職強要行為により、多大な心理的負荷を負い続けた上、今後一切昇給しない旨の宣告を受けたことで、被告において勤務を継続することに恐怖を感じて絶望し、平成25年3月19日、本件退職の意思表示をした。
イ 本件配転命令の瑕疵
(ア) 労働者に義務なきことを命じている点で無効
a 使用者が有効に配転を命じるためには、配転命令権が労働協約や就業規則の定め等によって労働契約上根拠づけられていることが必要であるとともに、かかる配転命令の大前提として、そもそも、配転先における業務が労働契約上、労働者に義務づけられているものでなければならない(民法623条、労働契約法6条)。
しかるに、労働契約において、自らの出向先を探し出すという行為を労働者の義務として観念するのは、労働契約の本質と相容れないものといわざるを得ない。何故なら、労働契約関係に入る労働者にとって、当該労働契約関係を前提としつつ、自らの出向先を探し出すということ自体背理であり、類型的、一般的におよそ労働者がかかる行為をすることを自らの義務として受け入れることは考えられないからである。また、使用者にとっても、当該労働者との労働契約関係に入る以上、労働者が自らの出向先を探し出すことを賃金支払の対価として行わせる労働として当該労働者に義務づけること自体背理である。
したがって、本件配転命令は、労働契約において労働者の義務として観念し得ない行為(自らの出向先を探し出す行為)を労働契約上の義務として位置づけた上で配転命令を発している点で、労働者に義務のないことを命じているといわざるを得ず、一般的な配転命令の有効性について判断するまでもなく無効である。
b しかも、本件配転命令は、以下の点でも無効である。
(a) 被告が生命保険業等を目的とする相互会社であるにもかかわらず、保険業とは全く関係のない、自らの出向先を探し出すことを業務内容とすることは、およそ労働契約によって労働者に義務づけることのできない行為を内容としており、かかる部署への配転を命じる本件配転命令は、労働契約上の根拠を有しない違法、無効な命令である。
(b) 企業開拓チームにおける研修は、出向先開拓のノウハウも有する再就職支援会社である株式会社cによる机上研修で、出向先確保の基礎知識の習得であるとされているが、出向先開拓の具体的手法として指導されたのは、①公益財団法人lセンターからの斡旋、②一般求人企業に応募し採用面接等の中で信頼関係を築いた上での出向の折衝、③社員個人の人脈の活用等である。
株式会社cが転職エージェントとして正社員の転職に関する業務を担当していること、同社が企業開拓チームの従業員に対して行った研修のうち、②は就職時に行われるものと類似し、③は転職時に行われるものと類似していることからすると、企業開拓チームは従業員に転職を見据えた行動をとらせていたものといえ、転職を前提とした出向先の確保を業務として義務づけて、労働者の義務として観念し得ない行為を業務内容としている点で、本件配転命令は無効である。
(イ) 権利濫用
a 使用者は、配転命令権に根拠があるとしてもこれを無制約に行使し得るものではなく、配転命令権の行使が権利濫用に当たる場合には、当該配転命令は無効となる(労働契約法14条)。
そして、権利濫用に当たるか否かの判断は、配転を命ずる業務上の必要性、人員選択の合理性(対象人数、人選基準、人選目的等の合理性)、労働者に与える職業上又は生活上の不利益、当該配転命令に至る動機・目的等を勘案して判断すべきである(最判昭和61年7月14日等)。
b 本件配転命令は、権利濫用であり、無効である。
(a) 配転を命じる業務上の必要性がない
被告は、企業開拓チーム創設の目的について、「総合職・営業所経営職のポストが足りなくなる中、新たな収益改善の方策として、出向先を拡大するという方針のもと、専任の担当者を配置することにした」旨主張し、被告のG取締役(以下「G取締役」という。)は、出向先の拡大が何故収益の向上につながるのかという点について、出向先での勤務による役務の提供の見返りとして出向先企業から被告に報酬が支払われるところ、この報酬は人件費の観点からすると被告の負担を減少させる旨述べている。
しかし、総合職・営業所経営職のポスト不足という問題と新たな収益改善の方策という問題は無関係である。また、収益改善に関する分析及び検討をしないまま、単に余剰人員を出向先企業に回しても収益改善にはつながらず、実際に平成24年度の出向先開拓活動の結果(乙20)をみると、出向者19名のうち14名が銀行支店の案内・警備・庶務業務に携わることになっているところ、従前総合職・営業所経営職であった者を単純作業に従事させても収益改善につながらないことは自ずと明らかである。
したがって、本件配転命令に業務上の必要性はない。
(b) 人選が不合理である
被告が主張するように総合職・営業所経営職のポスト不足という問題を解決するためであれば、広くかかるポストにある者を対象として配転命令を発すればよいし、新たな収益改善の方策という問題を解決するためであれば、広く被告従業員を対象として配転命令を発すればよい。
しかるに、本件配転命令の対象とされた者のうち、原告以外は、総合職・営業所経営職のポストにあっただけでなく、平成24年1月に「セカンドライフ支援退職制度」に応募するよう退職勧奨を受け、これを拒否した者であるから、この従業員らに出向を強制し被告から排除するために本件配転命令を発した疑いが濃厚といわざるを得ない。一方、原告は、30代で唯一本件配転命令の対象とされており(乙20)、広く30代から選出していないことからして、原告を排除するために本件配転命令を発したとみるほかはない。
このように、本件配転命令は、人選基準、人選目的とも不合理である。
(c) 原告に与える生活上の不利益が大きい
原告は、本件配転命令と同日の平成24年3月12日、不安障害で通院加療中で、同月初旬ころから睡眠障害を含む症状の増悪があり、病状から判断すると出向勤務を遂行することは極めて困難であると診断されている(甲6の1)。さらに、原告は、既に本件配転命令により企業開拓チームに配属され出向先を確保する業務に従事していた同年4月10日、不安障害で通院しており、現在の職場環境のストレスが本人の状態に影響している可能性が高く、部署異動などの環境調整が望ましいと診断されている(甲6の2)。これらのことからすると、原告は、本件配転命令に従って企業開拓チームにおける業務に従事することで不安障害を悪化させる可能性が高い状態にあったといえる。
このように、本件配転命令が原告に与える生活上の不利益は大きかった。
(d) 配転命令に至る動機・目的等
前記(b)のとおり、本件配転命令に至る動機・目的は、被告のいう総合職・営業所経営職のポスト不足や新たな収益改善の方策ということではなく、被告が不必要と判断した従業員の排除にある。
(e) 小括
以上のとおり、本件配転命令は、業務上の必要性、人選の合理性を認めることはできず、原告の受ける生活上の不利益や配転命令に至る動機・目的にも照らすと、本件配転命令は人事権の濫用として無効というほかない。
ウ 本件退職の意思表示の無効・取消し
(ア) 強迫による取消し
a 被告の強迫
(a) 不適切な配置転換、評価の連続
そもそも、i支社において、原告に仕事を与えなかった処遇は不適切であったし、h支社及びi支社における原告の評価及びこれに基づく賃金減額は不適切であった。
また、「セカンドライフ支援退職制度」は不適切であった。
以上の不適切な異動、評価により、原告は精神的に追い詰められていた。
(b) 企業開拓チームでの本件作業
そもそも、企業開拓チームにおける本件作業は被告業務の実態を有しておらず、原告は、企業開拓チームにおいて、不適切かつ無意味な作業を強要されていたし、企業開拓チームにおける待遇は劣悪であった。
このようにして、企業開拓チームは、実際に退職勧奨の効果を挙げており、このチームは、いわゆる「追い出し部屋」として社会問題化したため、被告は、これを後に廃止した。被告において、企業開拓チームが退職強要目的によるものであるという認識は一般化していた。
(c) 原告の精神状態
以上を総合すれば、被告は、原告を含め、企業開拓チームに配転した従業員らの自主退職を当初から望み、原告の甘受し難い不利益を一切考慮せずに不当な異動を繰り返し、実質的な退職勧奨の場としての企業開拓チームに送り込むことにより、原告を精神的、肉体的に追い詰めた。これにより、原告は、今後被告において働き続けたとしても、退職勧奨の対象となった不要な人材であるとのレッテルを貼られ、昇給、昇格等も一生望めないことを確信し、正常な判断ができないほどに恐怖を感じた。
(d) 小括
以上のとおり、被告の一連の行為は、全体として原告を退職に追い込むことを目的とした退職強要行為(本件退職強要行為)であり、全体として強迫に該当する。
そして、原告は、被告の強迫によって恐怖心を生じ、その結果として本件退職の意思表示をしたのである。
b 取消しの意思表示
原告は、平成25年8月17日、本件退職の意思表示を取り消す旨の意思表示をし(甲15の1)、これは同月19日に被告に到達した(甲15の2)。
(イ) 意思表示の不存在又は意思能力の欠缺による無効
原告は、確認書(甲11の2)及び退職願承認通知(乙16)の作成時、長年にわたって継続された本件退職強要行為の結果、意識が朦朧として、正常な判断が不可能な状態であったにもかかわらず、被告は、原告に対し、退職願承認通知(乙16)を一方的に手交し、確認書(甲11の2)への署名押印を強要した。
したがって、原告による退職に向けた有効な意思表示は存在せず、また、形式的に意思表示が存在していたとしても、意思能力を欠いており、無効である。
(ウ) 錯誤無効
原告は、正常な判断が不可能な状態で、被告に強要されるがままに、書面の内容を明確に認識せずに確認書(甲11の2)に署名押印したのであり、原告自身の意に反して退職に向けた手続が進められたことは明らかであるから、本件退職の意思表示は錯誤により無効である。
(2) 原告に対する不法行為の成否(退職強要行為の有無)について
原告は、本件退職強要行為により、多大な精神的苦痛を被った。
特に、原告は、平成23年4月1日に妻と入籍し、平成24年○月○日に第一子を授かっているところ、本件退職強要行為により異動先を恣意的に決められた結果、単身赴任を余儀なくされた上に、第一子を授かってますます家計が苦しくなる最中に、本件退職強要行為の一環として賃金を低下させられ続けていたのであり、その苦痛は甚大であった。また、第一子出産日当日も、企業開拓チームの業務の一環として、被告業務の実態を有しない会社説明会への参加、採用面接を強要され、出産に立ち会うことができなかった。
さらに、企業開拓チームで被告業務の実態を有しない本件作業を強要するという取扱いは、いわゆる「追い出し部屋」問題として社会問題化し、このような部署に所属していた経歴があることの一事をもって、原告は被告を退職して以降も、他社との関係で理不尽な処遇、評価を立て続けに受けることになった。
以上の精神的苦痛、不利益によって原告が受けた損害は100万円を下らない。
よって、原告は、被告に対し、不法行為による精神的損害の賠償として100万円の支払を求める。
【被告の主張】
(1) 本件退職の意思表示における無効又は取消事由の存否について
ア 事実経過
(ア) h支社時代について
a B所長及びC支社長が原告に退職勧奨をした事実はない。原告の主張は、原告がh支社に異動するまで面識のなかったB所長が異動後早々に退職勧奨をするなどという通常考えられない内容を含んでおり、到底信用できない。
b 原告は、平成21年度は営業スタッフとしてk営業所に駐在し、新人営業職員が行う営業活動の支援(設計書の作成指導や営業活動に同行して商品説明の手本を見せること等)を担当したが、所長から言われないと設計書の作成指導をしない、同行しても顧客と積極的に話をしようとしないなど、通常の営業スタッフは当然に行っている業務も遂行できず、また、うつ病を理由として2か月間の長期休暇をとっていて、戦力にはなっていなかった。
そのため、原告は、同年10月からh支社に配属され、m研修センターでの支社全体の新人営業職員研修と、人手が足りない営業所(△△近辺の営業所)の支援を担当することになった。しかし、受講者の理解を考えずに一方的な講義をしたり、「(自分は)Hに似ている」などと研修と関係ない原告自身の話をすることが多いなど、研修内容は散漫でレベルが低く、受講者から改善の要望が再三被告に寄せられた。また、支援先の営業所でも、上司らの指導にもかかわらず、k営業所におけるのと同様の状況が改善せず、営業職員から同行を拒絶されるという有様であった。
このように、原告は、平成21年度、平成22年度とも、h支社への貢献度は低かった。
c 被告における社員の人事評価は賃金のうちの成果給(A及びB)のランクとして表れ、単年度の評価である業績評価は成果給Bのランクとして、中長期的な見地からなされる総合評価は成果給Aのランクとして表れる。そして、業績評価は、担当業務の達成状況や組織貢献度合い等の観点から年度毎になされ、「01」から「31」まで31段階のランクがあって、数字が大きいほど良い評価ということになる。また、職位によって評価の幅は異なり、職位が高いほど、評価の上限が高くなって、原告が位置していた主任クラスでは、概ね「01」から「15」の幅の中で評価される。資格の取得は、たとえ被告の業務と関連する資格であっても、与えられた業務をこなさなければ、評価は上がらない。
h支社時代には、被告は、前記のような原告の業務遂行状況から、原告の業績評価を平成21年度は「06」、平成22年度は「03」とし、それに応じた成果給を支払った。
(イ) i支社時代について
a 被告は、平成23年4月、原告がi支社に着任した際に、新人営業職員の研修の講師業務を命じ、原告は実際に講義をしていたが、原告は、講師になった直後のころから、別の講師が担当する研修の研修室に用もないのに入り込み、「(○○の)Hです。」などと黒板に板書するといった奇行を行い、上司のI実践教育課長(以下「I課長」という。)が注意しても、何度も同じことを繰り返すなどした。
このころ、原告の上席に当たる社員からは、原告から仕事の量が限界であるとか体調不良で研修業務に支障を来しているなどと聞いた旨の報告があり、I課長らが原告に医師の受診を勧めたところ、原告が就労可能だが不安障害がある旨の診断書(乙4)を持参したことから、被告は、前記奇行や、受講者から声が小さくて何を言っているのか聞き取れない旨の苦情があったこと等を併せ考慮し、同年6月、営業所毎の営業成績をとりまとめた資料や、業務施策に関する資料、会議資料等の作成業務及び会議の設営、運営の補佐等の事務業務に原告の担当を変更した。この業務でも、原告は、各営業所への報告督促の電話をしなかったり、エクセルの知識が不足して資料等の作成が遅かったりして、また、誤字脱字が多かったりもしたが、被告は、体調不良(不安障害)により仕事の量が限界であるとか自席にいるのが苦痛であるなどの申出があったことから、業務遂行状況を勘案して、量を加減しながらこれらの業務を与えていた。
b このように、原告は、新人研修担当としても、事務業務担当としても、成果は不十分であり、不安障害という健康面の事情を考慮しても、i支社への貢献度は低いといわざるを得なかった。
被告は、前記のような原告の業務遂行状況から、原告の業績評価を平成23年度は「03」とし、それに応じた成果給を支払った。
(ウ) 企業開拓チーム時代について
a 被告は、平成24年3月9日、原告の企業開拓チームへの異動を所属長に内示し、同月12日、社内イントラネットに発令内容を掲示した。
これに対し、原告が、(出向先も業務も決まっていないのに)出向業務の遂行は困難とする同日付け診断書(甲6の1)を提出していたことから、被告は、産業医に異動の可否について意見を聴いたところ、原告が東京勤務を希望していたことや、東京は医療環境が整っていて、異動による健康上の問題はない旨の意見を得たことから、原告の異動を実施した。
b 企業開拓チームは、所属員を含む被告社員の出向先企業を確保することをその業務として、平成24年4月に創設された部署である。それまでも、出向先企業の開拓は人事部門が主体となって取り組んでいたが、総合職・営業所経営職のポストが足りなくなる中、新たな収益改善の方策として、出向先を拡大するという方針のもと、専任の担当者を配置することにしたものである。
企業開拓チームは、原告を含めて35名の所属員で発足し、同チームの社員は、平成24年4月は、出向先開拓のノウハウも有する再就職支援会社である株式会社cによる机上研修で出向先開拓の基礎知識の習得を行った。
そして、同年5月からは実際の出向先の開拓活動に入り、その結果、7社19名の出向が実現した。
これに対し、同チームに配属された社員35名のうち、自らの意思で退職した者は原告を含めて3名にすぎず(退職者としては、ほかに定年退職者が1名いた。)、原告以外の2名は体調等を理由として平成25年7月以降の退職であった。
c 企業開拓チームでは、所属する社員の業務遂行状況は、各自が活動日報を記載して被告に提出することになっており、被告はそれが事実かどうか、確認はしていなかったので、原告が活動日報記載のとおり活動していたかどうかは正確には不知であるものの、これによれば、原告は主に一般求人情報のインターネットサイトからメールで応募し、面接を受けていた。
d 企業開拓チームに異動して以降、原告は、被告に不安障害である旨の診断書(甲6の2)を提出したり、活動日報に本来記載すべきでない業務上の不満や企業開拓チームからの異動を求める旨、さらに、原告において同チームのことを新聞社に伝えており、被告が異動に関する原告の求めに応じてくれれば、新聞記事に被告の社名が出ないように、さらには新聞記事自体が書かれないように働きかける旨を記載したり、あるいは面談を申し出たりしていたが、これに対し、被告は、産業医に面談させたり、D部長やJ担当部長(以下「J部長」という。)が面談して原告から健康上の問題や業務上の不満について聴取し、さらに人事ユニットによる面談も行って、企業開拓チームが退職勧奨のための部署ではなく、出向先の開拓という新規事業の部署であること、原告を不要人員などとは考えていないこと、昇格・昇進は毎年の評価の積み重ねであり、まずは所属する同チームの業務である出向先開拓をしっかりやっていくことが肝要であること等を繰り返し説明していた。なお、産業医は、原告は病気でないとの所見を示し、原告を異動させなければ健康上の問題が生じるという見解ではなかった。
(エ) 企業開拓チームからの異動の内示について
a 被告は、平成25年3月8日、原告に対し、企業開拓チームからj本社の事務教育ユニットの主任への異動を内示した。
この異動の内示までの経緯として、以下の事情がある。
(平成24年12月7日)
面談の際に、原告から、株式会社dという会社から出向ではなく正社員としての内定が出た旨の報告があった。原告は、内定に対する返答期限がないことのほか、同社の年俸が500万円で、外部の会社から500万円の価値があると認められたのだから、被告でも年間500万円の給与が欲しい旨述べ、これに対し、被告は、昇給については給与規程があり、全社員がこれに基づいて決定されているので原告だけを特別扱いはできない旨述べた。
(同年12月31日)
a新聞に企業開拓チームに関する記事が掲載された。
(平成25年2月8日)
D部長及びJ部長が原告と面談し、従前企業開拓チームとして行ってきた新規出向先開拓活動を平成25年度は行わない方向であること、原告は異動対象者として異動先の選定を進めていくことを伝えた。その際、J部長が、異動先を検討するために不安障害の状況を原告に確認したところ、原告は、異動に支障はない旨返答した。同月18日の産業医との面談でも、異動に健康上の問題はないとのことであった。
b 原告は、同年3月12日及び13日、活動日報に「ずっと考えてきましたが、給与が上がらなければ退職で調整願います」などと記載した。
これを受けて、D部長及びJ部長は、同月14日、原告と面談して被告の給与や評価の仕組みを説明し、さらに、勤務考課で考慮するのは組織への貢献度合いであり、企業開拓チームでは出向できたかどうか(出向先を開拓できたかどうか)が一番考慮され、そのほかに出向先開拓の取組状況が勘案されること、その意味で、原告の平成24年度の評価は同チーム内で相対的に下位の位置づけになり、それ故に平成25年度の原告の給与は下がる可能性が高いことを伝えた。
こういった説明を聞き、原告は、納得したものの、今後原告の給与が上がるのかどうかという点についてと、原告は退職すると被告に配慮なく行動することができ、そうなるとまたマスコミが騒ぎ出すことになるし、原告が民事訴訟を起こすこともあるが、被告はそういったリスクを考慮すべきであるという点について、被告人事ユニットの見解を求めるとともに、円満退社のために社宅からの引越代や雑費を被告において負担することを求めた。
これに対し、被告は、同月15日の面談で、給与については今後相当頑張らなければ上がらないことと、どのように頑張れば上がるのかという原告の問いに対しては、原告の異動先であるj本社事務教育ユニットの組織目標への貢献度合いで評価されることを伝えた。
c 原告は、同月18日の面談の際、被告の人事OBの先輩から意見を聞いたとして、今後給与が上がる見込みがないのであれば退職の道を選ぼうと思う旨、退職の意思を被告に伝えた。
このとき、原告は、引越費用(運送費用)を被告が負担することのほか、支度金として50万円強を支払ってほしい旨希望し、被告は、規程上は引越費用も含めてそのような金銭を支払う規定はないものの、退職後のトラブルを未然に防止するといった観点から、支度金を支払った上で債権債務の不存在を確認する旨の確認書を取り交わすのが最善の対応であると判断し、原告の希望を了承した。
そこで、原告は、同月19日、同月29日をもって退職する旨の退職願(甲11の1)を被告に提出し、被告は、同月26日、退職願の承認通知書(乙16)及び被告が原告の社宅明渡後に支度金50万円を支払うことや、それらにより原告被告間に債権債務が存在しないこと等を内容とする確認書(甲11の2)を原告に手交し、原告は、この確認書の内容を確認の上、これに署名・押印して被告に提出した。
こうして、原告は、同月29日をもって被告を退職し、被告は、同年4月4日に確認書記載の支度金50万円を原告に送金して支払った。なお、引越費用は、被告が直接引越会社に支払った。
d 以上のとおり、企業開拓チームからj本社事務教育ユニットへの異動の内示に際して、被告が原告に「今後給与は一切上がらない」と述べた事実はなく、被告が原告に退職を強要したことはない。このことは、退職時に再雇用申込みの登録をしておき、退職後に再雇用の申込みをした原告の行動にも表れている。
イ まとめ
前記事実経過からすれば、原告が退職に向けた意思表示をしたことが認められ、そこに瑕疵を認めることはできない。本件で、原告は、企業開拓チームからの異動の内示後に、被告の給与と転職した場合の給与を比較して、より高額の給与が支給される転職先に就職するために被告を退職したのであって、意思能力の点も含めて、本件退職の意思表示に瑕疵はない。
なお、原告は、本件配転命令が無効であるなどと主張しているが、争う。また、本件配転命令の有効、無効が本件退職の意思表示の瑕疵の有無とリンクするものでもない。
(2) 原告に対する不法行為の成否(退職強要行為の有無)について
前述のとおり、被告が原告に対し退職を強要した事実はなく、企業開拓チームも退職強要を目的としたものではないし、同チームからの異動の内示の際に、被告が「今後給与は一切上がらない」と述べた事実もない。原告が主張する退職強要行為はない。
第3  当裁判所の判断
1  本件退職の意思表示における無効又は取消事由の存否について
(1)  原告が主張する事実経過について
ア h支社における継続的かつ直接的な退職勧奨について
(ア) 原告は、平成21年4月、h支社に配属された後、同月17日の歓迎会の当日、k営業所のB所長及びh支社のC支社長から退職勧奨を受け、特に、B所長からは、同月17日に二度にわたって「退職届を出してくれ。」といわれ、それ以降、平成23年4月まで、k営業所に所属していた時期にはB所長から、その後はC支社長から退職勧奨を受け続けた旨主張し、原告の陳述書及び原告本人尋問の結果には、細かな事実経過も含めて、これに沿う部分があるほか、企業開拓チーム在籍中に原告が作成した書面等にもそういった記載が散見される。
しかし、そもそも、B所長は、それまでは原告と面識がなかったのであり、異動してきたばかりの原告に退職勧奨をすること自体非常に不自然で、B所長もこれを否定する(乙29、証人B)ところ、原告は、Bから退職勧奨を受けたと述べるものの、特に裏付けとなるものはなく、B所長からの退職勧奨に関して、原告の主張及びこれに沿う供述等は容易に採用することができない。
また、C支社長からの退職勧奨に関しては、原告は、本件訴訟提起時は前記のとおり主張していたのに対し、本人尋問では、1年目は退職勧奨はなかった旨述べ、ここには明らかな変遷がある上、特に裏付けとなるものがないのはB所長の場合と同様であるから、C支社長からの退職勧奨に関しても、原告の主張及びこれに沿う供述等は容易に採用することができない。
この点、平成21年5月30日付け診断書(乙25)には「病名 うつ状態」、「ストレス因性の抑うつ状態にある。ストレス要因は、地域環境に適応できない事が主なものである。」と記載され、職場の人間関係等ではなく「地域環境」が主なストレス要因とされている。原告自身、平成23年3月11日付けあっせん申請書(乙21。原文のまま引用する。)には、「あっせんを求める事項及びその理由」欄に「…今までの5年間、ずっと“どさ回りコース”として地方支社を転々とし、その結果『うつ状態』『適応障害』などを患い、ここ2年間、病院の精神科に通院中。」と記載しているほか、「紛争の経過」欄には「5年間ずっと首都圏の希望を出し、『結果の出せる部署(場所)』も書面と口頭で伝えているが、今までずっと平行線。…適性のないところで結果を求められる状態。また、同時期に、別室で『辞めるつもりはないのか?』『X君なら他の仕事が見つかるんじゃないか?』と聞かれ、歓迎会当日には『退職届をすぐ出せ』と2度言われ、度々退職勧奨を受ける(証拠なし)。」と、「その他参考となる事項」欄には「…東京へ一事戻ると、すぐに回復した。…“どさ回りコース”になるまでは心身とも問題がなく普通に仕事をしていた。」と記載した上で、同申請書別紙における「会社に求めたい事項」「首都圏を希望する理由」として、「地方支社のスタッフ(内勤)に求められる事項は、営業職員の代行業となり、いつも一緒(隣)にいることが求められる。しかし、その業務が私にはとでも苦痛で精神病気の悪化へとつながった。しかも、長時間の飲み会の強制参加や公私混同の原則、就業時間内に行われる営業所内の飲み会(食事会)などもあり、酒にコンプレックスがある私にとっては辛いものとなる。今、自分が置かれている現状は、地方の支社を転々として将来は良くて地方支社の小さな営業所の所長、良くなければ今のままずっと営業担当のスタッフにされる方針になっている。しかし、上記で示すように私は地方支社での適性が無く、営業という職務、詳しくは機関駐在(支援)の業務にあまり適していない以上、今の異動方針のままでは確実に失敗することが予想され、事実、今までも現実の結果として失敗している。」、「適性の無い地方支社での勤務と、自身のキャリアビジョンが見えなくなってしまったことにより2年前から精神病気を患い、今も病院の精神科に通院中。」と記載しているのであって、退職勧奨に触れてはいるものの、その位置づけは本件訴訟における主張とは異なるところがあり、自らの処遇に関する不満等が原告の前記症状の原因であることがうかがわれる。この点でも、原告の主張及び供述等は採用し難いものといわざるを得ない。
(イ) 証拠(甲18、乙3、25、29、証人B)及び弁論の全趣旨によれば、以下の経緯が認められる。
a 原告は、平成21年度は営業スタッフとしてk営業所に駐在し、新人営業職員が行う営業活動の支援(設計書の作成指導や営業活動に同行して商品説明の手本を見せること等)を担当したが、所長から言われないと設計書の作成指導をしない、同行しても顧客と積極的に話をしようとしないなど、通常の営業スタッフの行っている業務を遂行できなかった。一方で、同年5月30日には青森市所在のはなぞのクリニックで前記のとおりうつ状態との診断を受け、また、同じころ、同市所在のとよあきクリニックでパニック障害、自律神経失調症との診断を受けて抗不安薬を処方され、同年6月から同年7月末まで2か月間休職した。
このため、原告は、同年10月からh支社に配属され、m研修センターでの支社全体の新人営業職員研修と、人手が足りない営業所(△△近辺の営業所)の支援を担当することになった。しかし、受講者の理解を考えずに一方的な講義をしたり、「(自分は)Hに似ている」などと研修と関係ない原告自身の話をすることが多いなど、研修内容は十分なものではなく、受講者から改善の要望が再三被告に寄せられた。また、支援先の営業所でも、k営業所におけるのと同様の状況が改善せず、営業職員からは同行を拒絶されるという状態であった。一方で、平成22年7月31日、東八戸病院で不安障害、睡眠障害との診断を受けて抗不安薬、睡眠導入剤を処方され、月1回、平成23年3月28日まで通院した。
b 被告は、平成21年度、平成22年度とも原告のh支社への貢献度は低いと判断し、原告の業績評価を平成21年度は「06」、平成22年度は「03」として、それに応じた成果給を支払った。
イ i支社における仕事を与えない間接的な退職勧奨について
原告は、平成23年4月、h支社から異動したi支社で、「研修サポート」の業務を任されることになったが、実際には、損保の研修がある以外にはほとんど仕事が与えられず、同年5月ころ以降は、「研修サポート」から「業務部付」への配置転換を命じられ、ここでは、資料作成業務に従事するという名目で、実際には何らの仕事も与えられず、自身の机に座り続ける日々が平成24年4月まで続いた旨主張し、原告の陳述書及び原告本人尋問の結果には、これに沿う部分がある。
しかし、被告はこれを否認し、平成23年4月のi支社着任時から、原告には新人営業職員の研修の講師業務を命じ、原告は実際に講義をしていたこと、しかるに、原告は、その直後ころから、別の講師が担当する研修の研修室に用もないのに入り込み、「(○○の)Hです。」などと黒板に板書するといった奇行を行い、上司のI課長が注意しても、何度も同じことを繰り返すなどしたこと、このころ、上席社員からは、原告から仕事の量が限界であるとか体調不良で業務に支障を来しているなどと聞いた旨の報告があり、I課長らが原告に医師の受診を勧めたところ、原告が就労可能だが不安障害がある旨の診断書(乙4)を持参したこと、被告は、前記奇行や、受講者から声が小さくて何を言っているのか聞き取れない旨の苦情があったこと等を併せ考慮し、同年6月、各種資料等の作成業務及び会議の設営、運営の補佐等の事務業務に原告の担当を変更したこと、これらの業務でも、原告の仕事ぶりは十分なものではなかったが、被告は、体調不良(不安障害)により仕事の量が限界であるとか自席にいるのが苦痛であるなどの申出に鑑みて、量を加減しながら業務を与えていたことを主張する。
そして、I課長も同様の経緯を述べる(乙31、証人I)ところ、資料作成業務等の仕事を与えられていたことは原告において自認しており(原告の平成26年9月30日付け準備書面12頁、15頁等)、実際に当時原告が作成した資料も存在する(乙26)。また、「H」云々と黒板に板書するなどしたことも原告は認めており(乙3、原告本人)、「病名 不安障害」、「平成23年5月28日当科を初診。現在症状は軽減しており、5月30日より就労可能な状態であることを認める。」と記載された平成23年5月28日付け診断書(乙4)が被告に提出されているのであって、これらの点を併せ考慮すると、原告の主張及びこれに沿う供述は容易に採用することができず、概ね被告主張に係る経緯が認められるほか、被告が、原告のi支社への貢献度は低いと判断し、原告の業績評価を平成23年度は「03」として、それに応じた成果給を支払ったことが認められる。
ウ h支社及びi支社における原告の評価について
人事管理の一環として行われる考課ないし評定は、基本的には、使用者の裁量的判断により行われるべきものであるが、性別や社会的身分といった、およそ差別的取扱いの基礎とすることができないような事由に基づいて差別的な評価がなされた場合だけでなく、使用者が嫌がらせや見せしめなど不当な目的の下に、特定の労働者に対して著しく不合理な評価をした場合など、社会通念上到底許容できない評価が行われたと認められる場合には、人事権の濫用があったものとして、労働契約上又は不法行為法上違法と評価するのが相当であるところ、本件について、人事権の濫用と評価するだけの事実は認定できない。かえって、企業開拓チームに在籍中の平成24年6月19日に行われた人事ユニットとの面接(人事面接)におけるやりとり(乙3)と前掲証拠を併せ考えると、原告については、g支社では業務担当をしていたところ、他の従業員からクレームが出る事態となり、様々な指導を受け、原告自身が業務担当から外すように嘆願したこと(同期に営業担当が多く、自分も営業担当になりたかったからであるという。)、h支社では営業担当をしていたところ、ここでも他の従業員からクレームが出る事態となり、様々な指導を受け、原告が自分には営業担当としての適性がない旨を申し出たこと(h支社では営業担当を続けられないと思ったからであるという。)、i支社では研修担当をしていたところ、他の従業員の仕事を取るようなことをしたために様々なクレームが出て、研修担当を外されたこと、かかる経緯から、支社・営業所での勤務が大半を占める被告としては、総合職である原告の配属に困るような状況であったことが認められる。
なお、原告は、被告入社以来の資格取得が正当に評価されていない旨も主張するが、被告においては、資格取得(資格ポイントの取得)が直ちに評価に結びつくのではなく、業務に取り組む意欲等が評価に当たって重視されているところ(乙2、3)、使用者からみて、資格を取得したこと自体ではなく、資格等を生かしてどのように業務に取り組んでいたのかといったことを重視するのは自然なことといえ、少なくとも、こういった評価の在り方が不当であるとは到底いえず、原告において資格を取得したことが必ずしも高く評価されていないからといって、人事権が濫用され、不当な評価がなされているとはいえない。
エ 企業開拓チームへの配転命令による退職勧奨及び一切昇給しない旨の宣言について
(ア) 被告が、平成24年3月、原告に対し、同年4月以降企業開拓チームに配転することを命令したこと(本件配転命令)は争いがない。
(イ) 本件配転命令までの経緯に関して、原告は、次のとおり主張する。
原告は、平成21年4月ころから退職勧奨を受け続け、平成23年度に至っては何ら仕事を与えられない日々を過ごしてきたことから、心理的負荷により睡眠障害等(本件疾病)の症状に悩まされ、平成24年3月初旬ころからは、平成24年度以降の待遇への不安から、症状が悪化し、出向業務を遂行することが極めて困難な状況に陥っていた。加えて、本件配転命令と同時期に企業開拓チームへの配転命令を受けた35名のうち、原告以外の者全員が、被告から「セカンドライフ支援退職制度」に応募するよう退職勧奨を受けてこれを拒否した従業員であったこと、企業開拓チームで予定していたのが主に自分自身の出向先企業を探すという作業(本件作業)で、同作業が被告業務の実態を有しないこと、企業開拓チームが退職強要を目的とした部署であるのは従業員にとって周知の事実であったこと等から、原告としては、企業開拓チームで本件作業をさせることにより原告を退職させようという被告の意図は配属前から明らかに予想でき、これにより原告の病状は更に悪化した。そこで、原告は、二度にわたって診断書を提出し、本件配転命令を再考するよう再三求めたが、被告はこれを聞き入れなかった。
(ウ) しかし、原告の主張する本件配転命令までの経緯のうち、h支社及びi支社における直接、間接の退職勧奨については、前記のとおり、そのような事実は認め難く、平成23年ころ以降の原告に睡眠障害等の症状があったりしたにしても、それらが退職勧奨によるものであると認めるのは困難である。
(エ) 証拠(甲9、10、12の1・2、13、乙2、3、5から8まで、20)及び弁論の全趣旨によれば、企業開拓チームの業務は、同チームの所属員ら本人に限らず、広く被告社員の出向先企業を開拓することであり、そのことは机上研修の資料(乙7)に明記されていたほか、原告本人は、i支社で本件配転命令を伝えられた際にもその旨の説明を受けていた(乙3)。
その経緯をみると、被告においては、それまでも出向が行われており、人事部門が主体となって出向先企業の開拓を行っていたが、総合職・営業所経営職のポストが不足してきた中で、人件費を削減し、収益を改善する方策として、出向先を拡大するという方針の下で、専任の担当者を配置する部署として企業開拓チームを平成24年4月に創設したものであり、D部長及びJ部長が同チームの担当部長となった。
同チームは、原告を含めて35名の所属員で活動を開始しているところ、原告以外は平成24年1月に「セカンドライフ支援退職制度」に応募するようにとの勧めを拒否した者であり、年齢構成をみると、30代の者は原告のみであり、40代の者が9名、50代の者が25名いた。
所属員らは、同年4月は、出向先開拓のノウハウも有する再就職支援会社である株式会社cによる机上研修を受けて、出向先開拓に関する基礎知識を習得し、同年5月以降、出向先企業の開拓作業を開始した。そして、平成25年3月までの間に、7社19名の出向が実現したが、19名のうち14名は、銀行支店の案内・警備・庶務業務に携わるというものであった。一方で、原告を含めて3名が自らの意思で退職し、このほかに1名が定年退職したが、退職勧奨がなされた事実を認定するに足る証拠はない(このうち、原告に関する事実経過は、後記(カ)において判示するとおりであり、原告から「退職勧奨」といった発言がなされた事実はあるものの、実際に被告の側から退職勧奨がなされた事実を認定するに足る証拠はない。)。
この間、所属員らは、毎日の活動内容を日報等によって報告していたほか、定期的にミーティングを開催し、出向先開拓の方法等について協議したりすることを予定しており、被告としては、単に出向先企業を開拓するというにとどまらず、その方法に関するノウハウを見出し、集積するということを意図し、面談等でもその旨を所属員らに伝えていた。こういった観点から、被告は、D部長及びJ部長において、各所属員らからの相談等に応じて、出向先開拓に向けてアドバイスしたりすることも予定しており、実際に、当初は求人募集であった案件につき、D部長と相談しながら想定問答を作成し、面接で想定どおり回答できたことで出向に成功した例もあった。
なお、平成24年の年末ころ以降、全国紙の新聞等で被告の企業開拓チームが他社のいわゆる追い出し部屋とされる部署等と並べて報道されたことがあり、被告は、平成25年1月ころ、厚生労働省の調査を受けている。
その後、実際の出向について一定の成果が上がり、ノウハウも集積できたとして、同年2月ころ、企業開拓チームとして行ってきた新規出向先開拓活動は来年度行わない方向となり、企業開拓チームは同年3月末をもって廃止された。
(オ) 原告は、企業開拓チームへの配転命令(本件配転命令)が退職勧奨であると主張する。
しかし、企業開拓チームにおける業務は、前記のとおり、従前人事部門が主体になって行っていた出向先の開拓を新設部署として行うものであり、所属員ら本人に限らず、広く被告社員の出向先企業を開拓することを予定していたことからすれば、それ自体が被告における業務の実態を有しないと即断できるものではないし、企業開拓チームへの配転命令(本件配転命令)が不当であると即断できるものでもない。そして、企業開拓チームへの配転命令(本件配転命令)自体が退職勧奨の趣旨なのであれば、これに合わせて更に退職勧奨がなされるのが自然ではないかと思われるのに、そのような働きかけがなされた事実は認められないから、本件配転命令自体が退職勧奨である旨の原告の主張は採用することができない。
(カ) 続いて、企業開拓チームにおける事実経過をみると、証拠(甲6の2・3、10、11の1・2、22、乙2、3、9から19まで、22、27、28、証人D、原告本人。なお、書面を引用する際には原文のままとする。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の原告の言動及びこれに対する被告側の対応等が認められる。
(平成24年4月11日)
原告は、同月10日付けで「診断名:不安障害」、「現在の職場環境のストレスが本人の状態に影響している可能性は高いと考えます。本人の状態の改善のためには、環境調整(部署異動など)が望ましいと考えます。」とする診断書(甲6の2)を提出した。
その際、原告は、安定剤は一番軽いものを処方され、不安を感じたときに飲んでいること等を述べたほか、「自分は出向するのであれば、同期の●●くんが行っている●●銀行のホールセラーが希望。」と述べた。
(同年5月9日)
原告は、「現状報告&提案書」と題して、「私はY生命保険相互会社に入社し、今年で7年目となるが、これまではずっと表舞台に立てず、パワハラやイジメとの戦いが続く日々であった。」で始まり、具体例なるものを挙げた上で、「上記の他にも多々実例はあるが、これ以上掘り下げて争っていてもまったく先が見えず、今後は子供を含む家族の将来を最優先し、自身が定年までの長い約29年を、周りと同じく普通に勤務・生活をするために、以下の提案をする。」として、以下の内容での和解を提案した。
「私が受け入れる条件
1.今まで受けてきた陰湿なパワハラ・イジメによる会社側からの認定・謝罪・賠償を一切放棄する。
2.私がY生命退社後を含めて、『歓迎会当日に2度も個別で『退職願を出してくれ』と言われた』などという話を、今後は社内外を含めて一切口外しない。
3.今後、一切は『地方支社での勤務は向いていない』との発言を行わない。
会社側が受け入れる条件
1.周りの同期・後輩と同じジョブ・ローテーションの提供と、同様の昇進・昇給を行う。
2.自身の所属を企業開拓チームから外す。
3.今後、去年と同様に社内でリストラ策を打ち出しても、二度と同様のチーム(企業開拓チームのような部署)に配属させない。」
(同年5月10日)
原告は、J部長との面談において、「体調は今のところ問題ない。自分は他のメンバーと違い定年まで20年ある。これから生まれてくる子供のためにも、毎日職探しをしている今の状態から早く脱出したい。いろんな人にも相談している。退職を進める人もいるが、がんばって入社したY生命でがんばりたいという気持ちもある。診断書を2回提出したが現状は何も変わらない。」と述べた。
また、同日付けの活動日報には、「一番早くやらなければならないことは、3つあります。『①企業開拓チームを1日でも早く出ること』、『②周りと同じ普通の職務に就いて、周りと同じ昇給・昇格のラインに乗ること』、『③今後、二度と企業開拓チーム(不要人員が入れられる部屋など)へ配属にならないこと』。この3つの内、早急に進めていかなければならないことが、①と②です。これ以上、会社側と話し合っても、先にはまったく進んでいかないため、公的な東京労働局への相談等も、早めに進めていく必要があると思っています。」と記載した。
(同年5月11日)
原告は、同日付けの活動日報に、「東京労働局へ相談した場合、会社側に求める事項は、『周りと同じ普通のジョブ・ローテーションを提供し、周りと同じ昇給・昇格のラインに乗せること』、『企業開拓チームを抜けること』、『今後は二度と企業開拓チーム(不要人員が入れられる部屋など)に配属しないこと』。一方、私が受け入れる条件は、『今までに受けてきた悪質なパワハラ・イジメの会社側による認定・謝罪・賠償を一切放棄する。』、『今後は、飲み会やY生命退社後を含め、『h支社では自身の歓迎会当日に二度も“退職願を出せ”と言われた』等の事実を一切口外しない』。会社側にとっては、普通のジョブ・ローテーションを提供し、普通に給与を支払っていくだけで、これ以上はパワハラの話を聞くことなく、認定しなかったパワハラ(イジメ)の事実を、今後は口外されずに済むのですから、お互いにとって有益だと思います。」と記載した。
(同年5月14日)
原告は、同日付けの活動日報に、「本日は、大手町の産業医のところへ行ってきました。結果は、病気ではないため、今まで提出した診断書記載の通りとのことで、特に具体的な治療などは何もありませんでした。事実、飲んでいる薬も治療用ではなく頓服であるため、環境さえ変えて周りと同じく普通に働けば、もう二度と身体のことで心配することはないと思います。」などと記載した。
(同年5月22日)
原告は、「現状報告&提案書②」と題して、採用試験を受けていた広告制作会社から内定を受けたことを報告した上で、「私がその広告制作会社へ入社するには、出向ではなく正社員での入社が条件になります。しかし、この求職活動こそが、会社側の指示により行われたことであるため、私から以下の提案をします。」として、以下の内容での和解を提案した。
「1.その広告制作会社は、業界の中でも優良企業に入りますが、若手が中心の会社であるため、私が定年まで勤務するのは難しいと感じるところもあります。そんな関係から私がY生命との雇用関係を解消した後も、私が希望した場合には、復職を認めることを条件とし、法的な書面で以下のように契約できればと考えております。
2.Y生命の復職後は、キャリアを活かして、以下3つの役職に就くこととします。『①広報Uの課長補佐~GM』、『②代理店事業Uの課長補佐~審議役』、『③都市圏(過密地区)での営業所長』」
(同年5月24日)
原告は、J部長及びD部長との面談において、「企業開拓チームを出たいとの思いはわかったが、現に今は企業開拓チームに在籍しているので、ミッションに沿った活動を行ってもらいたいし、活動内容によって評価することになる。面接等は新規出向先企業開拓にあたるので、活動日報に記載しておくことで、Xさんの活動報告につながるので、ぜひそうしてください。」、「なかなか厳しいとは思うが、企業開拓チームにいる以上、c社やlセンターのカウンセラーとも相談しながら、活動方法を考え、がんばっていこう。」と言われたのに対し、「妻はリストラ部屋に配属されたことにショックを受けている。一日も早く出たい。」と述べ、「企業開拓チームはリストラ部屋ではない。外でそうした言葉は使わないように。」と注意された。
(同年6月12日)
原告は、同日付けの活動日報に、「…『同じ会社にいるので、同じ職場環境・近い職務内容をさせてくれ』と言うつもりはありませんが、せめて同じ会社に勤める職員同士であれば、毎日出社することが楽しく、いきいきと働ける環境を整え、本人の適材適所で配置を決める必要はあるように感じました。もし、それができない原因が『今まで結果を出してきていないから』と言うのであれば、本人の調書をしっかりと見て、結果の出る環境を提供することが、会社としての最低限行わなければならない責務だと思います。」と記載した。
(同年6月16日)
原告は、「診断名:不安障害」、「現在の職場環境のストレスが本人の状態に影響している可能性は高いと考えます。本人の状態の改善のためには、環境調整(部署異動など)が望ましいと現時点でも考えます。」とする診断書(甲6の3)を提出した。
(同年6月19日)
原告は、人事ユニットの面接(人事面接)を受けた。
人事ユニットは、原告から提出されている提案書についてと、企業開拓チームでの状況について尋ね、原告は、診断書を見てほしい、病気ではなく職場さえ変われば治る、今は自分の転職先を探すだけの活動になっていて、配転前に業務部長から聞いた話とは違っているなどと述べた。これに対し、人事ユニットからは、診断書の提出をもって異動とは考えていない、会社としては、原告に限らず、総合職に対しては、勤務する所属部署での活躍を期待しており、本人の活躍や希望、所属部署の状況や方針を確認した上で、会社の収益拡大や本人の成長を考えて総合的に判断して配置をしているので、活躍しているとしても、全員の希望が叶うものではないことを理解してもらいたいと説明した。また、企業開拓チームにおける職務は、新規出向先企業の開拓という新しいミッションであり、営業職員の指導教育やバックオフィスである支社業務担当として活躍、能力発揮が思わしくなかった原告にとって、新たな活躍の場と考えていること、出向先を見つけることができれば、出向をして、他業種・業態の多様な職務経験を積んで被告にいると気付かない知恵や工夫、業務運営方法を身につけ、会社にフィードバックしてほしいこと、そのような機会を得られなくても、ノウハウの蓄積やその過程での原告の成長を期待していることを説明するとともに、出向先開拓の方法として自分を売り込むのは会社が提案する一方法であって、方法は問わないし、自分が出向しなければならないものではないこと、現状では、ミーティングで後ろ向きの発言が目立つ、疑問や質問は結構だが所属部署全体の前向きな取組みに心がけてほしいことを伝えた。
(同年6月20日)
原告は、同日付けの活動日報に、「…少し勝手なことかもしれませんが、明日から数日間(日数は不明)、有給休暇を取らせて頂ければと思い、本日、申請を致しました。理由は以下の通りです。①今年の3月・4月から今日までにかけて、体調は悪くなる一方で、今は薬で何とかごまかしている状態であること。②医者の診断書通り、今の所属がまったく合っていないため、ここまで病状が悪化した関係上、これ以上の企業開拓チームへの出社は難しいと考えられること。③去年から『来年は出向関連・職探しの部署への異動だけは絶対に避けたい』と思っており、実際に勤務を続けて、合っていないことが分かったこと。④昨日の採用試験など、多くの面接を受ける中で、“超買い手市場”の中で一般公募から内定を頂き、そこから雇用形態を出向に切り替え、そこで長く働いていくことは、今までの活動を通じて、ほぼ不可能だと感じたこと。⑤去年、資格・検定ポイントで『36』を取りながら、今年も減給し、モチベーションが保てなくなったこと。3年前は休職という形で『休み』を取りましたが、その時は支社によるイジメ(パワハラ)が直接的の原因で、実際に復職の際は、『休職』の形を取ったため、とても苦労した経験があります。従いまして、今回は今残っている有給休暇を使い、そこから会社で医者の診断書通り、他部署への異動を申請できればと考えております。」と記載した。
(同年7月5日)
原告は、同日付けの活動日報に、「…FP2級の個人資産相談業務の試験に合格していました。これでFP2級は2科目取ったことになります。これで今年も4ポイントを獲得し、FP2級で生保顧客資産相談業の他にまた1科目取ったということで、『副長への昇格と、周りと同様の昇進・昇格の実施』、『企業開拓チームを出て、周りと同じ普通のジョブ・ローテーションで、普通の部署で普通の仕事を経験させて欲しい。そして、2度と同じような部署に戻らないこと』を、正面から堂々と言って叶えてもらう権利と資格は、十分に得たと思っています。実際に受けたのは今年の5月下旬で、企業開拓チーム在籍中に取った形となるため、『モチベーションがよく保てたな』と自分で自分を感心してしまいます。」と記載した。
(同年7月12日)
原告は、D部長及びJ部長との面談において、「今の思いとして、①他の会社に転職してしっかりした仕事をしたい、②Y生命に残って定年まで勤めたいという2つがある。」、「今年も減給となり、②の選択肢は厳しいのかなとは思っている。」、「訴訟やあっせん申立てを行って会社と戦うつもりはない。」、「会社に残りたい気持ちも強く、稚拙なやり方で申し訳ないが、新聞社に申し出た。」、「最後の嘆願書を提出するので、検討してほしい。」、「いつまでに回答してほしいという期限はない。」などと述べた。
そして、「嘆願書③」と題して、「私は今まで企業開拓チームを出て普通に働き、家族と普通に暮らすため、東京労働局やeユニオンなどへ行き、助けを求めてきましたが、まったくの不調で終わりました。…先日“最後の助けのメール”を全国紙の新聞社へ送りました。新聞社名は言えませんが、すぐ返信が返ってきまして、電話とメールで取材を受けました。そして、翌日(13日)に直接本社で取材を受ける予定です。某新聞社側の見解は、東京労働局やeユニオンとまったく同じで、『企業開拓チーム』の存在自体に反対の意見を示してくれました。従って、全国紙の記事として『現代におけるリストラ部屋の実情(仮名)』を発表しても良いと言ってくれました。つきましては、私から提案する点は1つしかありません。換言するなら、以下の2つしか選択肢はなく、“中間”などという話し合いは一切無いということです。」とした上で、以下の提案を記載した書面を提出した。
「※提案①
私がその某新聞社に『Y生命』の社名を出さないでもらうか、記事を出さないで頂くよう頼みます。その代わり、以下の3つの条件を認めてもらいます。
①私が1日でも早く企業開拓チームを抜け、同期・近い年次の総合職と同じジョブ・ローテーションを経験させる。
②副長への昇格と、周りと同じく昇給を行い、今後も継続させる。
③もう二度と同様の職探し・出向先探しの部署には配属させない。
※提案②
提案①の条件を認めない代わりに、私が取材を受けた際、率直に現状を話し、ありのままの記事を全国紙に載せて頂く。」
(同年7月18日)
原告は、同日付けの活動日報に、「本日、新聞社の2度目の取材が行われる予定です。それだけ、今回の事件に新聞社も本気だということです。『何故、全国紙の新聞社がここまで動くのか』。これは、会社側で真摯に考えてみるべきだと思います。」などと記載した。
(同年7月26日)
原告は、同日付けの活動日報に、「…新聞社の方から3度目の取材についての連絡が入り、来週になる見込みです。私としてはこれ以上、大事にしたくはないので、嘆願書③で示した3つの条件は認めて頂ければと思っております。そんなに難しい条件ではなく、『周りの職員と同様に』と言っているだけです。その3つを認めて頂ければ、すべては解決する話です。」などと記載した。
(同年7月30日)
原告は、同日付けの活動日報に、「今日、新聞社の本社で3度目の取材があります。五輪期間中にも関わらず、一企業が行っている“職場いじめ”の取材のために、その被害者が新聞社の本社へ呼ばれるという事実はよく考えてみるべきだと思います。一昨日、病院の心療内科へ行ってきました。そもそも、私が心療内科へ通い始めたのは、3年前のパワハラ(いじめ)が原因です。つまり、もう3年以上も通い続けていることになります。そんな状況下でも、3年前に比べ、通院頻度・薬の飲む量とも、今の方が3倍~4倍は多いです。それだけ、今の職場環境が合っていないことを意味していますが、既に3年以上、言い続けても変わらない現状と悪化の方に進む社内の体制に、物凄い疑問を感じています。」と記載した。
(同年8月10日)
原告は、同日付けの活動日報に、「今後に向けて提案が2つあります。まず1つ目は、事態をこれ以上の大事にはしたくないので、嘆願書③の条件は、3つとも認めて頂ければ幸いです。」などと記載した。
(同年8月27日)
原告は、妻から「Y生命を辞めた方がいいのではないか」と言われ、「会社は私にやめてもらいたいと思っているのか」、「私のこれからの会社人生において回復・活躍できる余地はあるのか」という質問をJ部長にした。これに対し、J部長は、「私は、会社が辞めてもらいたいと考えることはなく、いかに個々の職員が力を発揮して、会社収益の向上に貢献してもらえるかということを考えていると思っている。ふたつめの質問についていうと、余地はもちろんあるが、これは一朝一夕に達成できるものではない。一年一年与えられたミッションに対して結果を出し、実績を積み上げていくことで後からついてくるものだと思う。」と説明した。
(同年9月12日)
原告は、同日付けの活動日報に、「昨日、ようやく新聞社から正式に現状を具体的に記事化するとの連絡がありました。振り返ると、3年半前に始まったパワハラ(職場いじめ)から今は企業開拓チームに在籍し、ここまでたどり着くのに3年以上もの歳月を要しました。…私は新聞記事から世論を味方に付け、これからも争っていこうとは一切考えておらず、記事(特集)も第一弾で終わりにできれば理想だと思っています。従って、嘆願書③の3つの条件を1日でも早く認めて頂き、目標にもある普通の仕事・普通の生活を1日でも早く送れるようになることを日々願っております。」と記載した。
(同年9月25日)
原告は、J部長との面談において、「以前提出した『嘆願書③』の提案を受け入れていただきたい…新聞社は、『Y生命・c社のやっていることは間違っている』ということを読者に伝えようとしている。」、「社内の仕事を与えないで、出向先探しの仕事させていること、それを再就職支援会社が支援していることがおかしいと言っている。他社でも同様の事例があるそうで、人減らしビジネスが成り立ってきている社会を知ってもらいたいようだ。自分としては、できれば第一段で終わりにしたいと思っている。ただ、企業開拓チームから異動しても、異動先で色メガネで見られ、結果、いじめ・パワハラに合うのではないかは心配している。」、「現在、母親は『会社で良く評価されていないのであれば、リセットして転職した方が良い』と言っている。一方、妻は『以前は転職を勧めたが、非正規雇用が大半を占める今の厳しい転職市場を考えると、退職しない方が良い』と言っている。」、「今より収入が多い正規採用の会社に再就職できるのであれば、転職を考えるかもしれないが、最近の再就職事情から見ると、難しいと感じている。」と述べ、嘆願書③の提案受入れに関して、優先事項としては企業開拓チームを出ることかと確認されたのに対し、これを肯定した。
(同年9月26日)
原告は、同日付け活動日報に、「…昨日、お話にあった妥協案(和解案)の最低条件としては、嘆願書③でも示した以下の3点になります。『①私が1日でも早く企業開拓チームを抜け、同期・近い年次の総合職と同じジョブ・ローテーションを経験させる』、『②副長への昇格と、周りと同じく普通の昇給を行い、今後も継続させる』、『③もう二度と同様の職探し・出向先探しの部署には配属させない』。これは、私がかなり妥協して出した案だとも言えますし、自分の場合は去年、早期退職(セカンドキャリア支援退職制度)を拒んで企業開拓チームに配属された他のメンバーとは根本的に立場が違いますので、上記の条件を認めてもらう権利は十分にあると思っています。」と記載した。
(同年10月22日)
原告は、D部長及びJ部長による期中面接を受けた。その際、原告が、同期の中で最低の評価が続いており、評価の差を埋めていくために同期と同じチャンスが欲しい旨述べたのに対し、両部長は、「同じチャンスと言うが、たとえば支社営業担当職の発令を受けた者は、みな同じスタートラインに立って当年度実績により評価される。良い所属・悪い所属があるわけではない。」と説明し、また、原告が、i支社では仕事を与えてもらえず、実績を残すために能力開発ポイントを人の9倍がんばった旨述べたのに対しても、「能力開発ポイント取得自体は良いことではあるが、それは支社の収益拡大に直結していかないので、それだけをもって評価が上がるわけではない。」、「一般的に、評価は会社が求めるものさしに対する実績で行われる。」などと説明した。
(同年11月21日)
原告は、同日付けの活動日報に、「…某新聞社から記事化が遅れるとの連絡がありました。理由を聞くと、問題の根の深さが物凄く深刻だと真剣に考えさせられました。こういう時だからこそ初心に返り、私がよくh支社時代に言っていた台詞を振り返ると、以下の通りです。『元厚生労働大臣のKさんが言っていた台詞、『地方には何故、無医村が多いのか。それは、単純に希望する医者が少ないためです。それなら、医者の中で地方勤務を希望した者には、“君は地方の病院で勤務をしたので、次の海外留学のチャンスは君に譲る”などの良い条件を出すことがその解決の最善策です』、さすがに海外留学を会社に求めたりはしませんが、自分にも普通のジョブ・ローテーションを受ける権利はあると思います』。」などと記載した。
(同年11月28日)
原告は、J部長との面談において、人事ユニットから原告と面接(人事面接)を行いたい旨の申出があると伝えられたのに対し、面接を拒否した。そして、同日付けの活動日報に、「人事Uからの話に関しては、3つの条件をそのまま認めて頂く以外で、話合いの場を持つことは、事実上不可能だと思います。“それでも話がある”と言うのなら、公的機関を中に入れるか、eユニオンに同席して頂くか、の選択が最良の方法です。」と記載した。
(同年11月29日)
原告は、D部長及びJ部長との面談において、改めて人事ユニットから面接(人事面接)を行いたい旨の申出があると伝えられ、人事面接ではおどしを受け、精神的にダメージを受けたなどとしてこれを改めて拒否したが、両部長から、被告で働き続けようと考えているのであれば、人事部門が業務上必要と考えている面接に応じなかったりするのは得策でなく、応じた上で自分の考えを伝える方がよいと説得され、検討することにした。
(同年11月30日)
原告は、J部長に対し、人事ユニットの面接に応じる、「ただし、ひとつ条件があります。嘆願書③の3条件(①同期と同じジョブローテーションを経験、②副長への昇格と昇給、③二度と出向先探しの部署に配属しない)について、協議し、80%~90%は認める方向で考えて欲しいということです。」と述べた。これに対し、J部長は、「事前に認めることを前提にして話し合いをするということはおかしい。そうした要望の意味合い等を確認するための話し合いをするということ。」と回答し、原告は、「お互いの考えを話し合い、前向きに3条件について考える場としてほしい。」という言い方で応じた。
(同年12月7日)
原告は、J部長から人事面接実施の指示文書を交付された際、株式会社dから内定が出て、年俸は500万円と言われていること、そして、自分は外部の会社から500万円の価値があると認められたので、被告でも500万円の給与が欲しい旨を述べた。J部長は、「昇給については昇給規程があり、全職員これに基づき、評価・決定されています。Xさんだけ特別扱いをすることはありません。」と説明した。これに対し、原告は、「人減らしの企業開拓チームに異動させられ、普通の仕事を与えられず、職探しをさせられている。自分の力が発揮できるところに代わりたい。」、「新聞記事は12月に掲載されると言われている。先日のNPO法人への相談でも今回の件はパワハラに該当するかもしれないとの回答があった。会社も私の主張を受け入れてほしい。」と述べた。
(同年12月12日)
原告は、人事ユニットの面接(人事面接)を受けた。
人事ユニットは、原告から提出されている嘆願書③等の要望について、その内容を確認するとともに、書面では記載し切れなかった部分の説明を受ける一方で、会社の考えを説明する旨の話があった。原告は、新聞社、eユニオンや労働局が、企業開拓チームについて出向先開拓を行う部署であり間違っている、悪いといった判断をしていることを強調した上で、出向先企業開拓の結果が出ていないのは原告の30代という年齢が原因で、自分に足りないところはあるかも知れないが、今は何が足りないか分からないなどと述べ、人事ユニットからは、上司に相談する等の工夫が足りない、企業開拓チームの善し悪しとは別に、まず所属部署で頑張ることが評価や処遇につながるとして、前回(同年6月19日)の人事面接と同様の説明がなされたほか、ある会社の面接を受けなかった原告の行動により原告に係るlセンターとの契約更新を拒否されたことについて、被告を代表した行動という認識が足りない、職務への取組み姿勢に問題がある旨の指摘があった。さらに、原告の企業開拓チームにおける状況は、今までの所属部署での状況と同じであり、自分だけ特別扱いにしてほしいといった身勝手な要求をしているように思える旨の指摘のほか、原告が盛んに、チャンスはもらえて当然である、これまではパワハラ等散々であったから特別扱いではないとか、発令を受けたときにありがとうございますと言える部署への異動を求める旨を述べたのに対し、評価は、担当業務への取組み、目標に対する成果や能力・意欲・実績・期待値を踏まえ、人事部門・所属長が行うのが一般的であり、原告についても同様であって、異動も、所属部署や会社の事情、自己申告の内容等で総合的に判断して会社が決定する旨と、適性については、営業が得意な者に事務をやってもらうことや逆もあり、幅を広げるためにもそのようなことがあり、異動については様々であること、希望は言ってもらって結構だが、与えられた部署・業務で自分の能力を最大限発揮することに注力すべき旨、パワハラについては以前の説明のとおりである(認められない)旨が伝えられた。
なお、この面談の冒頭で、原告は、「面接の前に、脅し、退職勧奨、恐怖をあおる、仕事をさせない等の話はやめてほしい」と申し入れたが、人事ユニットから、前回の面接でも、脅しや退職勧奨などはしていない。今までも、これからもそうです。今回の面談でもそういったことはない。」と言われている。また、途中では、「…改めて会社の考えをお伝えします。また、Xさんのお考えもお伺いしますので、よろしくお願いします。」と言われ、「聞くのが怖いので、脅迫等はしないでほしいです。」と答えたのに対し、「わかりましたが、会社の考えを聞くのもXさんの今後の職務遂行にとって大切です。」と説明されている。そして、この面接の終わりには、人事ユニットから、「お互いに話をできたという認識でよいですか。」と尋ねられて、「そうではないかと思う。」と、「脅しや強圧的態度についても大丈夫でしたよね。」と尋ねられて、「Lさんから会社の考えを聞いたことはショックでしたが、『評価が低い』を何度も言われた時は、胸に突き刺さるものがあった。」と答えている。
(同年12月18日)
原告は、「嘆願書④」と題して、「以下の要望は、私個人としての要望ではなく、私と同じ考えを持つ企業開拓チーム全員の要望として、書面による契約して頂きたい事項になります。私はこれ以上、マスコミなどの外部機関(公的機関)へ相談を続ける考えは持っておりません。しかし、現実問題として全国紙での記事化が決まり、私の勝利、つまりは私の言い分(考え)に間違えがなかったことを証明できた形になりました。従いましては、もう二度と同じ事態が起きないためにも、会社側に和解案としての要望を伝えたいと思います。まず、今いる企業開拓チームのメンバー全員に、『残りたいか?』『ここを出て普通の部署で普通に勤務をしたいか?』のアンケートを取ります。恐らくは、後者が大半を占めるとは思いますが、その後者を選んだ人たちは、口契約(口頭の約束)ではなく、書面による契約書を結んで頂ければと考えております。その契約書は以下の主旨になります。」とした上で、以下の提案をした。
「★『普通の部署での勤務を選んだ者』が結ぶ約束(条件)
①もう二度とマスコミ・外部機関(公的機関)へは相談しない。
②企業開拓チームを出た後も、これまでの辛かった詳細を外部に伝えない。
★『会社側』が結ぶ約束(条件)
①原則、年内で企業開拓チームを解散させる。
②もう二度と不要人員を入れる部署を社内に作らない。(近い部署も禁止)
③『普通の部署での勤務を選んだ者』には、周りと同じジョブ・ローテーションを提供する。
④国が定めたパワハラの要件にもある『仕事を与えない行為』を、今後は一切行わない。
⑤一般的に正常と思われる昇給・昇格を行う。
⑥チャンスを平等に与え、誰でも結果の出しやすい環境を整える。
⑦一般的に見て無理な人事異動は、今後一切行わない。
⑧適材適所の配置を実現させる。(本人の希望が最優先)
⑨当人のコース設定を撤廃する。(『ドサ回りコース』など)」
(同年12月28日)
原告は、同日付けの活動日報に、「今年を振り返ると、企業開拓チームに配属されたことがすべてに感じます。それでも、東京労働局やeユニオン、全国紙の新聞社が私の味方になってくれた点、そして会社側に助言・指導を行い、記事化を進めて頂いた点に関しては、被害者側の視点から“本当によくやった”と思っています。…もう少し早い段階で和解し、会社側から謝罪の一言と、普通のジョブ・ローテーション提供の約束(契約)さえあれば、全国紙での実名報道までには発展しなかったと思います。…」などと記載した。
(平成25年1月4日)
原告は、同日付けの活動日報に、「もう第二段・第三段には進めたくないので、嘆願書④で示した和解案を早く結べればと思っています。個人的にはこれ以上、全国紙の一面・二面に記事は載って欲しくはなく、事態の沈静化を図るには早急な和解と、二度と同じような部署を作らないという契約(約束)が必要だと思います。」などと記載した。
(同年1月9日)
原告は、同日付けの活動日報に、「昨日の夕刊と本日の朝刊に『追い出し部屋』の記事がまた載っていました。要約するならば、今までは民間企業の経営に介入してこなかった国が、いよいよ本腰を入れて取り調べを始めるというものです。そもそもは、約4年前、h支社時代の“B所長による歓迎会当日の2度の退職勧奨”から始まった問題でした。」などと記載した。
(同年1月23日)
原告は、同日付けの活動日報に、「…よくMさんが『業務(仕事)としてやっている』と私に言ってきますが、業務として仕事(出向先)探しを平然と行っているために、eユニオンや全国紙のマスコミが動いて、最後は国(厚生労働省)まで動く自体に発展しました。つまり、業務として行うこと自体に大きな間違えがある訳で(そうでなければマスコミは動かない訳で)、そこの意識(土台)の根底を変えることが、まずは早急に求められます。※一番は企業開拓チームが無くなれば一番良いのですが。」と記載した。
(同年1月29日)
原告は、同日付けの活動日報に、「去年、人事異動の発表を聞いてから、『人事U・関連事業Uが今まで行ってきた出向先開拓を、来年度からは営業担当を就けて行う』との方針を知り、『それなら、配属されるのは1名か2名、多くて3名だな』と思ったところ、結果、35名も配属されていました。その瞬間、『(最も恐れていた)自分の出向先探しだな……』と絶望的な気持ちになりました。そこからは、ジグソーパズルのように前々から考えていたことが当たり、ここまで事態が発展しました。本来であれば、1枚目の診断書を提出した時点で、普通のジョブ・ローテーションを経験させることが、最も良い方法だったように感じます。そうしなかったばっかりに、今日も全国紙の一面に記事が載り、ヤフーニュースにもトップで載っていました。こうならない方法が今までに多くあっただけに、今はとても残念な気持ちでいっぱいです。」と記載した。
(同年2月4日)
原告は、同日付けの活動日報に、「去年の3月上旬から睡眠障害になり、異動発表は病院のベッドの上で聞きました。恐らくは前代未聞のことですが、その異動先が企業開拓チームということを考えれば、睡眠障害も異動発表時に病院のベッドの上にいたことも理解ができます。つまり、その時点で企業開拓チームへの配属は無理だったということを意味しており、異動発表の前から身体は拒否反応を示していた形になります。それでも、h支社へ異動する前とは違い、支社の送別会に参加し、そこで挨拶をできたことは、営業スタッフの早期退社組と違った行動になったので良かったと思います。」と記載した。
(同年2月5日)
原告は、同日付けの活動日報に、「本日発売の週刊bにも『追い出し部屋』の記事が載るようです。昔、N知事が『週刊誌に書いてあることの殆どは嘘』と言っていましたが、今回のケースは“嘘か?本当か?”を問う記事ではないような気がします。今後二度と企業開拓チームの問題が生まれないためにも、まずは嘆願書⑤で示した15の事項の内、“5つから”そして“残りの5つ”、最後に“残りの5つ”といった形で実現に向けて取り組むことが、同じ轍を踏まないための最善策になると思います。※決して難しい事項は1つもないため、努力次第では十分実現可能だと思います。」と記載した。
(同年2月6日)
原告は、「嘆願書⑤」と題して、前記「嘆願書④」と同様の提案をした。
(同年2月8日)
原告は、D部長及びJ部長と面談し、(前の週にも伝えられていたこととして)企業開拓チームとして平成24年度に行ってきた新規出向先開拓活動は来年度行わない方向で進んでいること、原告は異動対象者として、他の総合職と同じように異動先の選定等が進められていくこと、具体的な異動先は3月の異動発令までは分からないことを伝えられた。
そして、同年度に原告から提出された診断書に記載されていた不安障害の状況について確認され、異動に問題ない旨を回答し、産業医の面談を受けることになった。
(同年2月19日)
原告は、同日付けの活動日報に、「私がY生命に入社をしてから、最も周りに比べ劣っているものが、表舞台での経験と横とのコミュニケーションだと思います。こればっかりは地方支社に長くいると(特に私の場合は)、形成するのが難しく、時間と共に開いていく一方になってしまいます。できれば、もう少し前に手を打っておくべきだったとは思いますが、もう今は企業開拓チームに在籍し、社内での仕事が無い以上は、まずは一歩一歩、周りと同じ舞台・土俵に上がることを最低ラインにできればと思います。」と記載した。
(同年2月25日)
原告は、同日付けの活動日報に、「今日の朝刊にも追い出し部屋の特集が載っていました。しかも、今回はY生命の事例を含めて法的な問題(判例)についてです。もうここまで事態が発展してしまうと、“勝ち負け”や“どっちが正しいか?”“追い出し部屋の有無”“去年も人事U・関連事業Uで行ってきた業務”等の問題(言い分)以前に、早急な和解案の成立と、二度と同様の部署を作らない努力が必要になってきます。」などと記載した。
(同年3月1日)
原告は、同日付けの活動日報に、「…私も『地方支社での勤務が合わない』と分かった段階で違うコース(周りと同じコース)に進んでいれば、今は企業開拓チームにも在籍せずに、普通の部署で普通に働いていたと思います。」などと記載した。
(同年3月12日)
原告は、同日付けの業務日報に、「ずっと考え抜いてきましたが、給与が上がらなければ退社で調整願います。」と記載し、J部長に宛てて同旨のメール(乙27)を送信した。
(同年3月13日)
原告は、同日付けの業務日報に、「先週からずっと考えていますが、今後も引き続き給与が上がらないのなら、退社の方向で調整して頂ければと思います。」と記載した。
(同年3月14日)
原告は、D部長及びJ部長による期末面接を受けた。
その際、両部長は、「所属長説明時補助シート」や「フィードバックシート」を用いて給与及び評価の仕組みと、勤務考課で考慮することは「組織への貢献度合」で、第1順位は「出向できたかどうか」、第2順位は「活動面の創意工夫」、「積極性」、「活動量」になること、それにより、原告の今年度の所属内での相対的位置づけは「下位」となるため、来年度の給与は下がる可能性が高いことを説明した。
そして、原告が同月12日、13日と業務日報に「給与が上がらなければ退社で調整願います」と記載していることに関連して、退社するか否かは本人が判断することであり、その結論はどうなるのか尋ねた。
これに対し、原告は、「…今後給与が上がるのかどうか教えてもらったうえで決断したい。」、「もし私が退職するとなると、Y生命の職員ではなくなるので、会社に遠慮なく行動することができる。そうなるとまたマスコミが騒ぎ出すことになる。私から民事訴訟を起こすこともある。②会社はそうしたリスクを考慮すべきである。」と述べ、被告からの回答を求めた。両部長は、翌日午前9時半にできる範囲の回答をする旨を約した。なお、原告からは、円満退社のための和解案として、引越代、雑費を被告が負担することが考えられないかという申出もあり、被告の側で検討することになった。
(同年3月15日)
D部長及びJ部長が原告と面談し、今後の給与は上がるのかどうかという原告の質問に対し、相当がんばらねば給与は上がらない旨の人事の見解を伝えた。原告からは、さらに、具体的にどうすればいいのかという質問があり、両部長からは、原告に対しては既にj本社事務教育ユニットへの異動の内示があったことから、異動先の事務教育ユニットの平成25年度組織目標への貢献度合で評価される旨を説明した。原告からは、たとえGMが評価しても人事で原告の給与は上げないことができるようになっているのではないかという質問もなされ、両部長はそのようなことはない旨を回答した。
引越代に関しては、全額を被告が負担し、敷金・礼金見合いの支度金も検討する旨を伝えた。原告は、敷金・礼金2か月分などと考えると50万円くらいほしいと述べ、両部長からは、退職するのか事務教育ユニットに異動するのか同日結論を出すように求めたが、原告は結論はまだ出せない旨を述べ、翌週の月曜日(同月18日)午前9時15分に最終回答という予定になった。
(同年3月18日)
J部長が午前9時15分に原告に声を掛けたところ、もう少し待ってほしいと言われ、午前10時に原告との面談が開始された。
原告は、「土日再度よく考えた。特に人事OBの先輩には幾度となく親身になって相談にのってもらった。その先輩からは『Xくんの話を聞くと、これから相当がんばっても昇格昇給で追い付いていくことは厳しいかもしれない。30代後半40代になっての再就職はより厳しくなることを考えると、今の転職先は悪くないのではないか』といったご意見をいただいた。今後給与が上がる見込みがないのであれば退職の道を選ぼうと思います。」と述べ、退職する意向を表明した。
ただし、退職願は翌日に原告が持参することになった。
また、引越費用及び支度金のうち、支度金について50万円強を希望する旨の申出が原告からあり、被告からは翌日午前10時半に面談し、回答することになった。
(同年3月19日)
支度金についてはなお検討中である旨の回答がなされた。
原告は、退職事由を「看護」とした同日付け退職願(乙19)を提出し、その後、退職事由を「育児」に変更して、同日付け退職願(甲11の1)を提出し直した。これらの退職願には、再雇用規程に基づく再雇用の登録を希望する旨が記載されていた(「1.希望する」の数字に丸が付されていた。)。
(同年3月26日)
J部長から、原告の退職願(2通目)を承認した旨の同月25日付け承認通知書(乙16)を原告に交付した。また、原告と被告との間で、本件雇用契約を解消することに伴って、両者の間における債権債務等に関して、被告が原告に対して引越に関する支度金の趣旨で50万円を支払うこと等を内容とする確認書(甲11の2)が作成された。
原告からは、育児を退職事由として退職したが、3年後の再雇用を希望する旨の発言があった。
(同年4月5日)
被告は、同日付けで、原告の再雇用資格認定書(乙17)を発行した(同書面には、「具体的な再雇用の可否については、当社再雇用規程に則り、貴殿からの再雇用申込みの後に実施する面接等所定の選考手続きを経て決定することになりますので、予めご承知おき願います。」と記載されている。)。
(同年4月17日)
原告は、再雇用の申込みをした。
この再雇用の申込みに係る書面(乙18)には、育児と父親の介護が理由で退職せざるを得なかったが、仕事のできる状況に変わったので、復職を希望する旨が記載されていた。
(その他)
原告は、活動日報における「活動目標」欄等に企業開拓チームを早く出て普通の仕事がしたいなどとしばしば記載していた。
(キ) このように、原告は、企業開拓チームに在籍中、同チームがリストラ部屋であるなどとして、同期等と同じジョブ・ローテーションを提供し、企業開拓チームから異動させること等を求める書面を度々提出し、面談、面接でもその旨を述べていたのに加え、東京労働局に相談に行ったり、新聞社に情報を提供し、その取材を受けて記事が全国紙に掲載されることになった事態をも利用して、会社から譲歩を引き出そうと交渉を試み続けて、企業開拓チームからの異動の内示を受けた後に、今後の昇給の見通しを尋ねた上で、退職する旨の意思表示(本件退職の意思表示)をしたという経緯がある。
これに対し、被告の側は、必要に応じて産業医の診断も受けさせたりしながら、原告に対し、企業開拓チームが「追い出し部屋」「リストラ部屋」などではなく、出向先企業の開拓という業務を行う部署であり、原告が不必要な人員でないこと等を説明するとともに、同チームの所属員として、より積極的に出向先企業の開拓という業務に携わるべきであるなどと説得を続けていたものであって、このような説明と説得をすること自体に不当とすべきところはない。
(ク) 原告は、平成25年3月下旬、企業開拓チームからの配転の内示を受けたが、同月中旬には、被告本社の総務人事統括部門のD部長から退職勧奨を受け、その際、原告から自主退職しなかった場合のその後の処遇を質問したところ、D部長から「もう給与は一切上がらない。」などと言われ、原告が被告に在籍していたとしても一切昇給しない旨を宣言されたと主張する。
しかし、実際の事実経過は前記のとおりであり、D部長は、原告から求められ、今後の見通しとして、昇給には相当の努力が必要である旨を説明した上で、給与が上がらないのであれば退職で調整願いたいという言い方をする原告に対し、原告本人が退職するかどうかを決定する旨の当然のことを伝えて、退職するにしても、退職せずに企業開拓チームからの異動に応じるにしても、原告本人が決断しなければならないという話をしていたのであって、原告に対し、自発的な退職の意思表示を慫慂する働きかけをしていたわけではなく、「もう給与は一切上がらない。」などと断言したわけでもない。原告の主張は理由がない。
(ケ) 原告は、かつて被告に存在した企業開拓チーム類似の「キャリア開発室」に配置されていたEから「追い出し部屋にいたことにより最低給に落とされ、そこから一切昇給昇格がない。」と、人事ユニットに在籍したこともあるFから「今までXが普通に仕事をしていても認めてこなかったのだから、これから結果を出しても認められるわけがない。」、「一度企業開拓チームという色がついてしまうと今後は難しい。」、「一日考えてみたけれど、辞めた方がいいと思う。」と言われたことを思い出し、企業開拓チームから配転されるとしても、被告から本件作業以上の苦痛を受けるかもしれず、その苦痛に耐え続けたとしても今後の昇給昇格等は期待できないことが容易に予想でき、これ以上被告に在籍することにつき筆舌に尽くし難い恐怖を感じ、心の底から絶望したと主張し、原告の陳述書等にはこの主張に沿う部分がある。
しかし、これらの事実を認めるに足る的確な裏付けは存在しない上、特に原告の心理状態に関しては、前記事実経過に符合しないことからしても、原告の主張は容易に採用することができない。
(2)  本件退職の意思表示に関する原告の主張について
ア 意思表示の不存在又は意思能力の欠缺による無効の主張について
原告は、確認書(甲11の2)及び退職願承認通知(乙16)の作成時、長年にわたって継続された本件退職強要行為の結果、意識が朦朧として、正常な判断が不可能な状態であったとして、原告による退職に向けた有効な意思表示は存在せず、また、形式的に意思表示が存在していたとしても、意思能力を欠いており、無効であると主張する。
しかし、前記認定に係る事実経過からすれば、本件退職の意思表示は存在すると認められる一方で、原告の意識が朦朧として、正常な判断が不可能な状態であったとは認められない(この点、原告は、不安障害等とする診断を受けているが、その具体的な状況として、原告の主張する精神状態であったと直ちに認められるものではない。O医師の意見書(甲18)も、前記認定に符合しない事実経過を前提とする点で、原告の精神状態に関する部分は採用し難いといわざるを得ない。)。また、意思能力は、有効に意思表示をする能力であり、具体的には行為の結果を弁識し得る能力(事理弁識能力)を指し、一般には小学校卒業程度の知的な判断力とされているところ、以上の事実経過からすれば、原告が意思能力を欠いていたとは認められない。
したがって、原告の主張は理由がない。
イ 強迫取消しの主張について
原告は、被告の一連の行為は、全体として原告を退職に追い込むことを目的とした退職強要行為(本件退職強要行為)であり、全体として強迫に該当するところ、原告は、被告の強迫によって恐怖心を生じ、その結果として本件退職の意思表示をしたと主張する。
しかし、前記認定に係る事実経過からすれば、原告が畏怖し、それによって本件退職の意思表示をしたとは認められず、むしろ、原告は、被告側からごく一般的な説明等を受けた上で、様々なことを考え、特に経済的な面での検討をして、家族の者にも相談しながら、原告なりに利害得失を判断した結論として、被告を退職する意向を固め、本件退職の意思表示をしたものと認められる。この点に関して、原告は、D部長、J部長及び人事ユニットとの間で面談、面接を重ね、その際、様々な説明を受けただけでなく、同人らから職務に臨む姿勢等を批判されたりもしているが、これらの批判等はごく一般的な会社員としての姿勢を説くものであって、困難を強いて退職を強要し強迫にわたるものではなく、これをもって退職強要行為に当たるとはいえない(原告は、平成24年11月29日のD部長及びJ部長との面談の際に、「いじめ、パワハラを受けたかどうかは受ける側の気持ちである。今日のように面接勧奨を受けることもいじめと感じている。」と述べ(乙2)、このほかの面談、面接の際の発言からしても、ごく一般的で、通常といえる業務上の指示・指導や説明等であっても、自分の意に沿わない内容を伴うものは、いじめ、パワハラになるかのような発想でいることがうかがわれるが、だからといって、前記認定に係る一般的な説明や批判等が直ちに強迫に当たるとはいえない。)。
したがって、原告の主張は理由がない。
ウ 錯誤無効の主張について
原告は、正常な判断が不可能な状態で、被告に強要されるがままに、書面の内容を明確に認識せずに確認書(甲11の2)に署名押印したのであり、原告自身の意に反して退職に向けた手続が進められたことは明らかであるから、本件退職の意思表示は錯誤により無効であると主張する。
しかし、前記認定に係る事実経過からすれば、本件退職の意思表示について、同意思表示から推測される意思と表意者である原告の真実の意思とが食い違っているという関係は認められず、原告の主張は理由がない。なお、原告については、被告を退職することに心から納得していたのではなく、渋々退職することにしたという内心の状態もうかがわれるが、これは、本件退職の意思表示をすることに対する原告の感情といったものであり、意思表示に対応する内心的効果意思というものとは別の事柄である。
エ 本件配転命令に瑕疵がある旨の主張について
原告は、本件配転命令には法的根拠がないか、法的根拠があるとしても権利濫用で無効であり、無効な配転命令により精神的圧力を受けてした退職の意思表示には瑕疵があって、無効であるか、取り消されるべきであると主張するところ、原告のこの主張は、本件配転命令により「精神的圧力を受けてした」本件退職の意思表示に無効又は取消しとなるべき瑕疵があるというものであり、その瑕疵は、結局既に検討した事由と重複するものと解される。そして、原告が畏怖していたとか、正常な判断が不可能な状態で、被告に強要されるがままに本件退職の意思表示をしたとは認められないことは前記判示のとおりであるから、本件配転命令の有効、無効について検討するまでもなく、原告のこの主張は理由がない。
2  原告に対する不法行為の成否(退職強要行為の有無)について
これまでの検討結果によれば、本件において、被告が原告に退職を強要した事実を認めるに足る的確な証拠はなく、証拠上認められる事実経過を総合しても、退職を強要したと評価することはできない。この点に関連して、従前の事実経過中に原告にとって不本意な出来事があったとしても、これが退職の強要に当たるとは認められず、企業開拓チームの在り方に関する事情をもって退職の強要と評価することもできない。すなわち、証拠(甲7、8の1・2)及び弁論の全趣旨によれば、同チームの所属員を集めた部屋が他の部署と引き離されたような状態であったこと、原告以外の所属員は「セカンドライフ支援退職制度」に応募するようにとの勧めを拒否した者であったことが認められるが、出向先企業の開拓自体は従前から人事部門が主体となって行われていたところ、人事部門でこういった業務に従事していた者が不必要な人員であったとはうかがわれないし、企業開拓チーム所属員に対して退職強要ないし退職勧奨に当たる働きかけがあったとも認められず、同チームが活動していた期間に退職したのは原告を含めても3名にとどまることからすれば、被告が不必要と判断した従業員の排除という動機・目的があったとまで認めることはできず、ほかに原告の主張を認めるに足る的確な証拠はない。
したがって、被告が原告に対して長年にわたって退職強要行為を続けていた旨の原告の主張は理由がなく、本件において、被告の原告に対する不法行為が成立するとは認められない。
3  結論
よって、原告の本件請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判官 湯川克彦)

 

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