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「営業支援」に関する裁判例(124)平成19年 4月13日 大阪地裁 平11(ワ)12705号 損害賠償請求事件 〔長銀事件〕

「営業支援」に関する裁判例(124)平成19年 4月13日 大阪地裁 平11(ワ)12705号 損害賠償請求事件 〔長銀事件〕

裁判年月日  平成19年 4月13日  裁判所名  大阪地裁  裁判区分  判決
事件番号  平11(ワ)12705号・平12(ワ)994号
事件名  損害賠償請求事件 〔長銀事件〕
裁判結果  請求棄却  文献番号  2007WLJPCA04139003

要旨
◆平成9年9月の中間決算期において、その当時会計慣行とされていたのは、いわゆる税法基準であり、銀行が、半期報告書の財務諸表欄の貸倒引当金の繰入を税法基準に基づいて行っていたことから、虚偽の記載があったとは認められないとして、株主らの損害賠償請求を棄却した事例
◆日本長期信用銀行株式を購入した原告らが、長銀元役員である被告らに対し、平成9年9月当時の中間決算期におけるいわゆる税法基準に基づいた貸倒引当金の繰越処理等を記載した半期報告書について、重要な事項に虚偽記載があったため長銀が国有化され、株価低下による損害を被ったとして損害賠償を請求した事案において、税法基準はその当時における公正な会計慣行とされていたものであるから、重要な事項について虚偽記載があるとはいえないとして、原告の請求を棄却した事例

裁判経過
控訴審 平成20年 2月28日 大阪高裁 判決

出典
裁判所ウェブサイト
判タ 1256号297頁
判時 1994号94頁

参照条文
証券取引法21条1項1号(平17法87改正前)
証券取引法21条1項3号(平17法87改正前)
証券取引法22条1項(平18法65改正前)
証券取引法24条の5第5項(平18法65改正前)
商法32条2項(平17法87改正前)
商法285条ノ4(平11法125改正前)

裁判年月日  平成19年 4月13日  裁判所名  大阪地裁  裁判区分  判決
事件番号  平11(ワ)12705号・平12(ワ)994号
事件名  損害賠償請求事件 〔長銀事件〕
裁判結果  請求棄却  文献番号  2007WLJPCA04139003

主文
1  甲事件原告ら及び乙事件原告らの請求をいずれも棄却する。
2  訴訟費用は,甲事件については甲事件原告らの,乙事件については乙事件原告らの各負担とする。

事実及び理由
第1  請求
1  平成11年(ワ)第12705号事件(以下「甲事件」という。)
被告らは,甲事件原告らに対し,連帯して別紙損害一覧表1「被害額」欄記載の金員及びこれに対する平成11年12月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  平成12年(ワ)第994号事件(以下「乙事件」という。)
被告らは,乙事件原告らに対し,連帯して別紙損害一覧表2「被害額」欄記載の金員及びこれに対する平成12年2月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3  訴訟費用は被告らの負担とする。
4  仮執行宣言
第2  事案の概要
本件は,甲乙両事件とも,平成9年9月30日以降に訴外日本長期信用銀行(以下「長銀」という。)の株式を購入した原告らが,長銀の当時の役員であった被告Y1,被告Y2,被告Y3,被告Y4,被告Y5,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9及び被告Y10(以上10名を以下「被告元役員ら」という。)並びに長銀の監査をした被告監査法人に対し,被告元役員らが同年4月1日から同年9月30日までの期間(以下「本件中間期」という。)を対象とする半期報告書(以下「本件半期報告書」という。)の財務書類について,債権償却特別勘定への繰入額を過少に算定し,同繰入額を含む貸倒引当金の金額を過少に記載し,被告監査法人が本件半期報告書につき有用な会計情報を表示しているものと認める旨の監査証明を行っていたところ,その後,貸倒引当金の計上不足が明らかになり,長銀の株価が低下し,さらには国有化されて株価が0円と決定されたために,原告らが主位的には株式の購入価格と処分額との差額分,予備的には購入価格と購入当時粉飾がなければ形成されていたであろう価格との差額分の損害を被ったとして,被告元役員らについては証券取引法24条の5第5項,22条,21条1項1号に基づき,被告監査法人については同法24条の5第5項,22条,21条1項3号に基づき,各別紙損害一覧表「被害額」欄記載の金員及びこれに対する甲事件については平成11年12月10日から,乙事件については平成12年2月13日から,それぞれ支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求した事案である。
1  争いのない事実等(証拠を掲記した事実以外は争いがない。)
(1)  当事者
長銀は,長期信用銀行法に基づき設立された長期信用銀行である。
被告元役員らは,いずれも,本件中間期から本件半期報告書作成までの間,長銀の取締役であった者である。被告Y1,被告Y2,被告Y3,被告Y4,被告Y5,被告Y6,被告Y7及び被告Y10はそれぞれ代表取締役,被告Y9及び被告Y8は取締役であった(甲1)。
被告監査法人(a監査法人)は,本件半期報告書につき,証券取引法上の監査を行ったものであり,被告訴訟承継人(新日本監査法人)は,平成12年4月1日,合併によって,被告監査法人を包括承継したものである(以下被告訴訟承継人も含めて「被告監査法人」という。)。
(2)  本件半期報告書(甲3,乙F18)
長銀は,当時,証券取引所に上場されている有価証券の発行者として,証券取引法24条の5に基づき,毎事業年度が開始した日以後6か月間の営業及び経理の状況を記載した半期報告書を,当該期間経過後3か月以内に大蔵大臣(当時。現在は総理大臣)に提出する義務を負っていた。
これに従い,長銀は,平成9年12月22日,大蔵大臣に対し,本件中間期に係る本件半期報告書を提出した。
本件半期報告書中の中間財務諸表(以下「本件中間財務諸表」という。)において,本件中間期末時点における貸倒引当金は4841億2500万円,負債の部合計は26兆9632億2200万円と記載されていた。
これに先立ち,被告監査法人は,平成9年12月12日,長銀の本件中間財務諸表に対する中間監査報告書において,一般に公正妥当と認められる中間財務諸表の作成基準に準拠して長銀の本件中間期に関する有用な会計情報を表示しているものと認める旨の意見を表明した。
なお,本件半期報告書には,中間財務諸表の追加情報として,「銀行業の決算経理基準が平成9年7月31日に改正され,当事業年度末決算から適用されることに伴い,当事業年度末決算においては,資産の自己査定結果を踏まえた新たな償却及び引当金の計上基準を定め,その基準に基づき貸出金償却及び貸倒引当金を計上することになりました。この結果,当事業年度末決算においては多額の貸倒引当金繰入等が見込まれます。」と記載されていた。
(3)  原告らによる株式購入
原告らは,別紙「損害一覧表」のとおり,平成10年1月28日ないし同年7月3日にかけて,長銀の株式を購入した(甲損1ないし59,ただし一部に主張と証拠の齟齬がある。)。
(4)  長銀の国有化
長銀は,平成10年10月23日,金融機能の再生のための緊急措置に関する法律68条2項に基づき,金融再生委員会に対し,特別公的管理の申出をし,同日,同委員会より特別公的管理開始決定を受け,事実上経営破綻に至った。これがいわゆる長銀の国有化である。
長銀の国有化に伴い,長銀の株価は0円と決定された。
(5)  証券取引法の規定
証券取引法24条の5第5項,22条1項,21条1項1号3号によれば,半期報告書のうちに重要な事項について虚偽の記載があった場合,当該半期報告書を提出した会社の提出のときにおける取締役及び当該半期報告書に係る監査証明において当該監査証明に係る書類について記載が虚偽であるものを虚偽でないものとして証明した監査法人は,それぞれ,当該記載が虚偽であることを知らないで,当該半期報告書の提出者が発行者である有価証券を募集又は売出しによらないで取得した者に対し,記載が虚偽であることにより生じた損害を賠償する責任を負うこととされている。
ただし,上記取締役が,記載が虚偽であることを知らず,かつ,相当な注意を用いたにもかかわらず知ることができなかったことを立証した場合,上記監査法人が,上記の(監査)証明をしたことについて故意又は過失がなかったことを立証した場合は,それぞれ,賠償責任を免れることができる(証券取引法24条の5第5項,22条2項,21条2項1号2号)ともされている。
(6)  銀行における貸倒引当金の計上基準に関する法令及び通達
ア 商法
商法(平成11年法第125号による改正前のものを指す。以下同じ。) 285条の4は,会社の会計帳簿に記載すべき金銭債権の価額について,第1項において,債権の名目上の金額によるのを原則とし,第2項において取立不能のおそれがあるときにその見込額を控除することを求めている。
しかし,商法は,取立不能見込額の判定基準については何らの規定も設けておらず,「商業帳簿ノ作成ニ関スル規定ノ解釈ニ付テハ公正ナル会計慣行ヲ斟酌スベシ」(平成17年法第87号による改正前の同法32条2項。以下同じ。)と定めるのみである。
なお,商法281条1項が定める貸借対照表の記載方法等については,株式会社の貸借対照表,損益計算書,営業報告書及び附属明細書に関する規則(以下「計算書類規則」という。)によるとされているが,長期信用銀行については「株式会社の貸借対照表,損益計算書,営業報告書及び附属明細書に関する規則の特例に関する省令」(昭和57年法務省令第42号)第3条により,計算書類規則の適用が排除され,別途長期信用銀行法施行規則(昭和57年大蔵省令第13号)に定めるところによるものとされているところ,長期信用銀行法施行規則は,貸出金の償却・引当について具体的な基準を定めていない。
イ 公正なる会計慣行
前述のとおり,商法32条2項は,「商業帳簿ノ作成ニ関スル規定ノ解釈ニ付テハ公正ナル会計慣行ヲ斟酌スベシ」と規定するので,同法285条の4の解釈に当たっては,公正なる会計慣行が斟酌されることになる。
しかしながら,「企業会計原則」及び「企業会計原則注解」は,一般的に,公正なる会計慣行を要約したものと理解されているが,いかなる場合に,いかなる額の償却・引当を行うべきかについての基準は示していなかった。
ウ 決算経理基準(甲5)
本件中間期当時,大蔵省は,大蔵省銀行局長昭和57年4月1日付蔵銀第901号通達「普通銀行の業務運営に関する基本事項等について」(平成10年6月8日蔵銀第1443号により廃止される以前のものを指す。)と題する通達をもって,銀行が遵守すべき経営姿勢,営業所,営業日と営業時間,資産運用,経理,認可届出など,銀行経営を詳細に規制していた。
銀行の決算経理の実務は,基本的には,上記通達のうち,「第5 経理関係」の「1 決算経理基準」(平成9年7月31日付蔵銀第1774号による改正前のものを指す。決算経理基準についての同改正は,平成9年度期末決算から適用されることとされており,本件中間期におけるその適用はない。以下「決算経理基準」という。)に従って行われていた。
決算経理基準は,次のとおり規定する。
① 回収不能と判定される貸出金及び最終の回収に重大な懸念があり損失の発生が見込まれる貸出金については,これに相当する額を償却するものとする。
なお,有税償却する貸出金については,その内容をあらかじめ当局に提出するものとする。
② 貸倒引当金(債権償却特別勘定・・・を除く)は,税法で容認されている限度額を必ず繰り入れるものとし,・・・
③ 債権償却特別勘定への繰入れは,税法基準のほか,有税による繰入れができるものとする。なお,有税繰入れをするものについては,その内容をあらかじめ当局に提出するものとする。
②にいう「貸倒引当金」とは,税法上の貸倒引当金(貸付金の残高に法人税法施行令97条に示された法定繰入率を乗じたもの。債権償却特別勘定繰入額を含まない。)である。本件中間財務諸表の貸借対照表においても,税法上の貸倒引当金として,税法上の貸付金の3.0/1000に相当する額を計上している。
これに対し,従来から,計算書類においては,上記の税法上の貸倒引当金に加え,個別的な債権償却特別勘定繰入額も含めて「貸倒引当金」として計上されることもあり,長銀の本件中間財務諸表における貸借対照表においても同様であった(以下,単に「貸倒引当金」というときは,貸借対照表における記載額を指し,債権償却特別勘定繰入額を含むこととする。)。
そして,②によれば,銀行は,税法上,債権償却特別勘定へ繰り入れることのできる金額については,必ず貸倒引当金に計上しなければならないものとされていた。
なお,③のとおり,銀行側が任意に債権を有税償却することも認められていたが,平成10年度以降にいわゆる税効果会計が認められるなどして有税償却の不利が緩和されるまでは,有税償却が行われる例は少なかった(本件においても,有税償却の要否は争点とされていない。)。
エ 法人税基本通達
法人税基本通達9-6-4(平成10年6月23日付課法2-7による改正前のものを指す。以下同じ。)は,法人の有する貸金等に係る債務者が「債務者につき債務超過の状態が相当期間継続し,事業好転の見通しがないこと,当該債務者が天災事故,経済事情の急変等により多大の損害を被ったことその他これらに類する事由が生じたため,当該貸付金の相当部分(おおむね50%以上)の金額につき回収の見込みがないと認められるに至った場合」には,「その回収の見込みがないと認められる部分の金額」をその該当することとなった事業年度において損金経理により債権償却特別勘定に繰り入れることができると規定する。
つまり,
① 債務者につき債務超過の状態が相当期間経過し,
② 事業好転の見通しがなく,
③ 当該貸金等の相当部分(おおむね50%以上)の金額につき回収の見込みがないと認められるに至った場合
という3要件を満たす場合には,その回収の見込みがないと認められる部分の金額を債権償却特別勘定に繰り入れて,税法上の損金として処理できる(いわゆる「無税償却」。以下この呼称による。)というのである。
この無税償却に当たっては,所轄税務署長の認定が必要と規定されているが(上記通達9-6-4),銀行については,次に述べるとおり,不良債権償却証明制度が実施されていた。
オ 不良債権償却証明制度の運用基準ー実施要領(甲6の3)
銀行については,大蔵省と国税庁の協議によって,債権償却特別勘定への繰入れは,銀行が明細表を作成した上で大蔵省金融証券検査官に不良債権償却証明を申請し,その証明を得られれば,原則として法人税法上損金に認められるという制度(以下「不良債権償却証明制度」という。)が実施されていた。
平成5年11月29日付蔵検第439号「不良債権償却証明制度等実施要領について」(以下「実施要領」という。)7(2)ハ②は,法人税基本通達9-6-4について,次のとおり定める。
「事業好転の見通しがないこと」において,事業好転の見通しの有無は,事例に応じて個別的に判断するほかにないが,次に該当する場合は,「事業好転の見通しがない」と判断することは原則として適当ではないと考えられる。
a 合理的な合併計画や再建計画が作成中あるいは進行中である場合。ただし,9-6-5に該当する場合(引用者注:倒産手続の申立て及び手形取引停止処分があった場合)は,この限りではない。
b 債務者に対して追加的な支援(融資,増資・社債の引受,債務引受,債務保証等)を予定している場合
(7)  早期是正措置制度及び自己査定
本件中間期当時,平成8年夏の金融三法の成立により,平成10年4月1日から,銀行監督行政において,早期是正制度が導入されることが予定されていた。
早期是正措置の下では,各金融機関が自主的に資産を査定し(自己査定),必要と判断した償却・引当処理を行って決算をなすものとされ,監督官庁は各金融機関の決算から算出される自己資本比率の数値に従って監督措置をとることとなった。これに伴い,平成9年3月ないし7月に,決算経理基準の改正(平成9年7月),資産査定通達(甲7)の発出(平成9年3月),4号実務指針(甲8)の発出(平成9年4月)など,通達や実務指針が整備されていた。
本件中間期における自己査定制度の採用は,金融機関の裁量に委ねられており,長銀は,これを採用していなかったので(他のほとんど全ての金融機関も同様であった。),長銀の本件中間期決算において自己査定制度の適用はない。
(8)  本件関連親密先
次に挙げる各社を総称して,以下「本件関連親密先」という。
以下のうち,日本リース株式会社(以下「日本リース」という。),エヌ・イー・ディー株式会社(以下「NED」という。),長銀インターナショナルリース(以下「長銀リース」という。),日本ランディック株式会社(以下「ランディック」という。),第一ファイナンス株式会社(以下「第一ファイナンス」という。)及び株式会社ジャリック(以下「ジャリック」という。)は,長銀内部においても大蔵省の金融検査においても,長銀の関連ノンバンクと位置づけられていた。
日比谷総合開発株式会社(以下「日比谷総合開発」という。),エル都市開発株式会社(以下「エル都市開発」という。)及び日比谷総合開発の子会社である軽井沢総合開発(以下,この3社を「日比谷総合開発等」という。)は,長銀及び長銀関連ノンバンクの事業化会社と位置づけられていた。事業化会社とは,長銀及び長銀関連ノンバンクの有する貸付債権の担保物件を長銀グループの支配下におきつつ,事業化によって不良債権の回収を図るために設立された会社をいう。長銀及び関連ノンバンクは,その保有する担保付きの貸金債権を事業化会社に譲渡し,融資先の担保不動産を事業化会社に譲渡させるとともに,事業化会社に対し,貸金債権及び担保不動産を取得するために必要な資金を融資していた。
ア 日本リースグループ
日本リースは,昭和38年にリコー系リース会社として設立された国内初のリース会社であり,昭和49年ころより,代表取締役に長銀出身者が就任するようになり,長銀の関連ノンバンクとしての性格を持つに至った。日本リースは,新たな収益源を求め,不動産向けの営業貸付業務を拡大させていた。
日本ビルプロヂェクト株式会社(以下「ビルプロ」という。)は,複合商業ビルの開発業務を手がけていた不動産会社であり,長銀や日本リースからの借入金を原資として,土地を買収し,賃料収入又は転売による利益をねらったプロジェクト事業を展開していた。ビルプロには,下記ビルプロ3社その他の子会社があり,これを総称して「ビルプログループ」という。
四谷プランニング株式会社(以下「四谷プランニング」という。),木挽町開発株式会社(以下「木挽町開発」という。),竜泉エステート株式会社(以下「竜泉エステート」という。)の3社は,平成5年11月,日本リース及びその他の長銀関連会社により設立された株式会社であり,「ビルプロ3社」と呼ばれていた(以下この呼称に従う)。
有楽エンタープライズ株式会社(以下「有楽エンタープライズ」という。)は,日本リースのグループ会社の一つである事業化会社であった。
以上,日本リース,ビルプロ,ビルプログループ各社及び有楽エンタープライズを以下「日本リースグループ」と総称する。
イ NEDグループ
NEDは,日本最初のベンチャーキャピタル(今後陽の目を見るであろう技術や商品の開発力を持つ中小・零細企業を発掘,資金を投資するといった企業の育成指導により,最終的には株式公開(IPO)を支援する業務)として昭和47年に設立された。長銀は当初より主要株主として出資しており,本件中間期末時点で,役員12人中6人を長銀出身者が占めるなど,親密な関係を保っていた。
エクセレーブファイナンス株式会社(以下「エクセレーブファイナンス」という。)は,NEDが約79%,後記日本ランディックが約21%の株式を保有するNEDの子会社である。NEDのための多額の資金を金融機関から調達するための会社であり,その資産のほとんどはNEDに対する貸付債権であった。
また,青葉エステート株式会社(以下「青葉エステート」という。)は,NED主導で設立された,NEDの関連会社であり,NEDの有する債権の移管を受けていた。青葉エステートの百パーセント子会社であるグラベス株式会社,ユニベスト株式会社,プロクセル株式会社,日本ビゼルボ株式会社,ペストーネ株式会社,コーポレックス株式会社,マーベスト株式会社,キャピセル株式会社を以下「青葉エステート子会社8社」という。
以上,NED,エクセレーブファイナンス,青葉エステート及び青葉エステート子会社8社の合計11社を以下「NEDグループ」と総称する。
ウ 長銀リースグループ
長銀リースは,長銀直系の総合リース会社として昭和61年に設立され,平成4年に国内リース部門を日本リースに移管した後は,国際リース主体の総合ファイナンス会社と位置づけられていた。
長銀リースの子会社であるあずさ興産,FAC,ALC及びALCの子会社であるRSC,MSC,KUC,DSC,BIC,PKC,メープル,ファイブの合計11社を,以下「(長銀リース)子会社等11社」という。
以上,長銀リースを含む合計12社を以下「長銀リースグループ」と総称する。
エ ランディックグループ
ランディックは,賃貸ビル事業,マンション事業,不動産仲介事業を行うために昭和49年に設立され,訴外長銀不動産の事業部署の営業譲渡を受けて,営業を開始した長銀の関連ノンバンクであり,不動産事業及び営業貸付けを業務としていた。
ランディックの百パーセント子会社である芝中央ファイナンス株式会社(以下「芝中央ファイナンス」という。),ランディックの受皿会社13社,不動産子会社6社を,以下「ランディックグループ」と総称する。
オ 第一ファイナンスグループ
第一ファイナンスは,昭和56年3月に金銭貸付け及びその仲介業務等を目的として設立され,信販会社との提携ローン等の業務を行っていた長銀の関連ノンバンクである。平成9年9月末時点で,役員は全て長銀出身者で占められていた。
第一ファイナンスは,平成7年7月に正常貸付債権を平河町ファイナンス(平成6年11月設立)に移管し,平成9年9月時点では,破綻した取引先ノンバンクの最後配当を待ちつつ,残存債権の回収業務に専念していた。また,第一ファイナンスは,同時に,長銀の取引先である事業会社,金融機関の株式のうち,保有割合5%を超える場合や他の銀行とのバランスへの配慮から長銀が直接保有できない株式を保有する役割も担っていた。
すずらん恒産株式会社(以下「すずらん恒産」という。)及びはまなす興産株式会社(以下「はまなす興産」という。)は,従来は平河町ファイナンスが出資していたが,平成7年に第一ファイナンスの百パーセント子会社となった。
以上,第一ファイナンス,すずらん恒産及びはまなす興産を以下「第一ファイナンスグループ」と総称する。
カ ジャリックグループ
ジャリックは,その前身は昭和45年に設立された不動産売買情報提供などの仲介業務を行う「日本不動産取引情報センター」であるが,その後,長銀の関連ノンバンクとして,不動産担保金融,抵当証券業務にも進出した長銀の関連ノンバンクである。
その後,仲介部門をランディックに移管させるなどして,本件中間期には,長銀グループ向けを主とする貸出業務と株式保有業務とを担っていた。
ジャリック及びその子会社であるジェーイーコーポレーションを,以下「ジャリックグループ」という。
キ 日比谷総合開発等
日比谷総合開発は,平成6年2月に主として長銀の関連ノンバンクが権利を有する不動産の事業化を推進するために設立された。エル都市開発は,平成2年8月に,主として長銀本体が権利を有する不動産の事業化を進めるために設立された。軽井沢総合開発は,平成7年3月に設立されたグループ会社である。
2  争点
(1)  商法285条の4第2項を本件中間期当時の公正なる会計慣行を斟酌して解釈したところに照らして,長銀の本件関連親密先に対する貸出債権につき,いかなる会計基準で債権償却特別勘定への繰入額を算定すべきであったか。
(2)  (1)の会計基準を用いた場合,本件関連親密先に対する貸出債権につき,本件財務諸表の債権償却特別勘定への繰入額及びそれに基づいて記載された貸倒引当金の記載が虚偽であったといえるか。
(3)  被告Y10につき,上記貸倒引当金への計上額が虚偽であったことを知らず,かつ,相当な注意を用いたにもかかわらず知ることができなかったといえるか(証券取引法24条の5第5項,22条1項2項,21条2項1号・1項1号)。
(4)  被告監査法人につき,監査証明をしたことについて故意又は過失がなかったといえるか(証券取引法24条の5第5項,22条1項2項,21条2項2号・1項3号)。
(5)  被告Y3につき,上記貸倒引当金への計上について,無過失であったといえるか。
(6)  損害及び虚偽記載との相当因果関係
3  争点についての当事者の主張
(1)  争点(1)(繰入基準)について
【原告らの主張】
ア 実施要領の「支援」の内容の意義
商法285条の4第2項は,回収可能性の見地から金銭債権を把握しようという趣旨であり,将来の回収可能性の判定によって,回収不能見込額が決せられることになる。
実施要領は,追加的支援を予定している場合について,事業好転の見通しがないと判断することは「原則として」適当でないと規定しているに過ぎず,例外を認めている。
実施要領7(2)②のa項は,「合理的な」再建計画等との限定を付しているにもかかわらず,b項については,回収見込みのない追加支援でもよいという解釈は不合理である。やはり,b項にいう追加的支援も,当然,それによって債務者の事業好転・元本回収が見込まれることが前提となっていると解すべきである。
文献資料(甲16・80頁)においても,「金融機関が,経営上の困難に直面した貸出先に対して金利減免等により支援を行っている債権は,関係者の努力により元本が回収されることを前提に合理的な再建計画が実施されている先に対するものであり,金利減免債権などについては,有税引当を行うことについて,将来にわたって貸出金の元本の一部の回収を自ら否定することになるとして……」とあるように,「支援」は,それによって債務者の事業が好転し,もって元本が回収されることが前提となっていた。
例えば,金融検査での査定に関し,「当面の貸出金等査定におけるⅢ分類及びⅣ分類の考え方について」と題する平成7年4月13日大蔵省金融検査部管理課長発の事務連絡(乙F2,以下「平成7年事務連絡」という。)において,関連ノンバンクへの貸金債権について,関連ノンバンクに体力がない場合,「再建計画が策定されていない場合」と「形式的に策定されてはいるが,実行可能性等に疑義がある場合」は同列に扱われていた。銀行の決算は,決算経理基準に従って行われるところ,大蔵省の金融検査は銀行の決算が決算経理基準に適合して正しく行われているか否かを検査するのであり,大蔵省の金融検査は銀行の決算処理と結びついていた。
したがって,上記b項における「支援」とは,元本の回収を前提とした合理的な計画に基づく「支援」を指すものと解される。そして,計画の合理性については,平成11年に定められた実務指針を参考にすれば,実質債務超過の解消が求められているというべきであり,計画の実現可能性を判断するに当たっては,当該計画が5年程度の期間を目途に策定されており,かつ計画終了時には実質債務超過が解消されることが予定されていることが必要となる(甲8,甲29の30,31,66頁以下,甲31の1)。
また,支援する側の銀行に,計画に沿った「支援」をするだけの財務面の体力がない場合には,計画の実現可能性がないと判断されることになる(A供述参照)。
実質債務超過額に当該関連親密先の借入れにおける特定の銀行からの借入れの比率を乗じて,回収不能額を算定する方式をプロラタ方式という。
支援計画に合理性がなく,当該関連親密先の実質債務超過の解消が見込まれない場合,当該関連親密先に対する貸出債権については,プロラタ方式により算定された額又は回収不能額を,回収不能額として債権償却特別勘定に繰り入れ,本件財務諸表において,貸倒引当金として計上すべきであった。
なお,長銀に関する刑事事件の公判においても,支援先かどうかで評価に差はなく(甲29・35頁),償却・引当先に対して追加貸出をするかどうかは経営判断であり,償却・引当と追加貸出は会計上は無関係である(甲29・86頁以下)として,支援の有無と,償却・引当は原則として無関係であることが証言されている。
イ 被告らの主張への反論
(ア) B氏の著書の記述(乙A2・52頁)の趣旨は,通常,追加融資をするということは回収が予定されているので,回収不能として償却するのは矛盾であるというにすぎない。
(イ) 日本興業銀行の住専に対する債権放棄については,母体行主義(母体行が損失を優先的に負担する方式)によれば全額回収不能,プロラタ方式(各債権者が損失を按分で負担する方式)によれば約40%は回収可能という事実関係のもとで,貸倒処分(直接償却)の要件である全額回収不能と認定できるかが問題とされ,国税当局と高裁,地裁及び最高裁とで判断が分かれたのである。
また,長銀の第一住金に対する債権の無税償却の否認も,日本興業銀行と同じく,修正母体行主義による全額回収不能を前提とする貸倒償却が否認されたものにすぎない(東京地裁平成16年3月25日判決・判例時報1852号21頁の同57頁3行目)。
本件においては,原告らは,母体行主義に基づく回収不能額の可否を争点としないため,あえて,より引当償却計上額の少ないプロラタ方式で主張しているものである。
【被告らの主張】
ア 原告らの主張への反論
(ア) 公正なる会計慣行であることの主張立証
原告らの主張する基準は,当時の会計慣行に反するものであり,事実に基づいたものではない。
商法32条2項にいう「会計慣行」と認められるためには,広く会計上のならわしとされているという一般性及び相当の時間繰り返し行われているという反復継続性という2要件を満たしていなければならないが,原告らのいうような「支援先であっても,実質債務超過に陥っていれば,実質債務超過分をプロラタ方式で按分した額を貸倒引当金として計上する。」という方法につき,当時の事実としての慣行に即して,上記の2要件が満たされないのは明らかであるし,そのような計上をすべきであるという見解につき,主張立証はない(被告Y3ら)。
(イ) 唯一性の主張立証
商法285条の4第2項の「取立不能ノ虞アリタルトキ」は,債権の評価という極めて評価的要素が高いものについての規定であり,その算出過程において会計慣行,主観的判断及び予見的要素等が入らざるを得ず,複数の方法が「公正なる会計慣行」と認められることは当然の前提となっている(被告Y3ら)。
したがって,被告の用いた会計基準が公正なる会計慣行に反し商法上違法なものであったというためには,原告らは,自己の主張する会計基準が唯一の「公正なる会計慣行」であることを主張立証する必要があるにもかかわらず,原告らは,その主張立証をも欠いている(被告Y3ら)。
イ 被告らの主張
(ア) 間接償却の例外性
本件中間期当時の償却・引当の基準は,全体としてみれば,税法上の法定繰入率による限度額を税法上の貸倒引当金として計上するほか,形式基準(法人税基本通達9-6-5)による場合は一定の割合を,認定による場合は税務当局の認定した額を債権償却特別勘定に繰り入れるべきものとするのが,公正なる会計慣行であった(被告Y9)。
長銀は,本件中間期において,全ての貸付残高に1000分の3を乗じるという一般貸倒引当金を計上しており,このように,期末残高に一定率を乗じるという会計処理は,商法の「取立不能ノ虞アリタルトキ」の解釈として,商法の注釈書及び公認会計士協会が合理的と認めているものであった(被告Y3ら)。
当時の実務において,貸倒引当金の計上は,税法上の貸倒引当金のみを計上するのが原則であり,債権償却特別勘定への繰入れにより計上するのは,あくまで例外であった。法人税基本通達は,昭和42年に「実質基準による無税の間接償却」を認めることを定めたが,課税対象法人によって利益調整の方法として利用される可能性があったため,税務当局は,恣意的な利用がされないように,一貫して,無税の間接償却を認める範囲を厳格に運用する態度を示しており,金融機関については,後記の不良債権償却証明制度の実施要領のとおり,厳格に運用されていたのであって,それが公正なる会計慣行として定着していた(被告Y3ら,被告Y9)。
債権償却特別勘定繰入れによる無税償却につき,税務当局が法人税基本通達9-6-4の「回収不能」の認定を厳しく制限する解釈運用をしていたことは,母体行である興銀が住専に対する債権を閣議決定に沿って債権放棄し,回収不能であると判断して損金処理をしたところ,国税当局がこれを否認したという最高裁判決平成16年12月24日(民集58巻9号2637頁)の事案からも明らかである(被告Y3ら)。
さらにいえば,関連親密先について,銀行が将来において事業廃止を予定していた場合も,損失計上時期の恣意的な選択を許さない立場から,具体的に清算等を実行した時点でしか無税償却が認められない扱いが一般的であった。このことは,平成8年1月に閣議決定された処理案による住専処理における税務当局の対応からも明らかであり,長銀も住専の1社である第一住宅金融株式会社に対する約2672億円の債権放棄が平成8年3月期において有税扱いとされている(被告監査法人)。
むしろ,大蔵省は,銀行の関連ノンバンクに対する支援の問題を,法人税基本通達9-4-2の問題と捉え,同通達による損金算入を認める手続を整備拡充することにより,銀行に対し,金融支援を促していた(乙B4・146頁以下)。
(イ) 支援を予定している貸出先に対する債権についての実務慣行
本件当時の実務では,実質債務超過に陥っているなど業況不振の債務者であっても,主力銀行が消極方針に転じず,資金支援を継続している場合には,当該債務者の経営破綻は回避され,支援先の金融機関に対する支払が遅滞に陥ることはないので,貸付金が回収不能に陥ることはないと考えられていた。したがって,支援が予定されている場合にも,貸出債権が回収不能の状態に陥ることはないと考えられていた(被告Y3ら,被告)。
このように,当時の実務の考え方として,支援先,特に関連ノンバンクに対する貸付金について,支援をしながら債権償却特別勘定へ繰り入れ,貸倒引当金に計上することには矛盾する側面があると考えられていた(乙F3ないし5,被告監査法人,被告Y3ら)。
したがって,実施要領に規定されていたとおり,支援を予定している先に対する貸付金については,債権償却特別勘定への繰入れはできないというのが会計慣行であったのである(被告Y3ら)。このような場合に,仮に支援を予定している先について,償却証明申請を出す金融機関があったとしても,当然,受け付けられるはずがなかった(被告Y1)。
また,銀行が自らの関連ノンバンク等の関連会社に対する貸付金について,償却証明制度に基づく債権償却特別勘定への繰入れを申請することなどは,およそ考えられないことであったし,仮にそのような申請を行ったとしても,受け付けられるはずもなかった。
大蔵省金融検査部も,金融機関が支援を継続しながら,他方で,貸出金に回収リスクがあるとして償却引当を行うことは自己矛盾であり,このような処理をとりえないとの見解を示していた(乙F5・1頁,乙B4・161頁)。当時の大蔵省大臣官房金融検査部審査課長補佐B氏の著書(乙A2・52頁)においても,「債務者に対して追加融資を予定している場合,無税償却適状にならないことは当然であるが,このとき有税償却すれば追加融資自体が背任的な行為となるおそれがある点に留意する必要がある。」と述べられている(被告Y1)。
なお,原告らが引用する平成7年事務連絡には,「関連ノンバンクに対するⅣ分類と償却の関係については,当面,考慮せず査定作業を行うこととする。」との注記が付されており,本件で問題となっている税法基準の解釈や貸出金の償却とは関係がない。むしろ,上記注記は,関連ノンバンク向け貸出金については,たとえ金融検査でⅣ分類とされたとしても,償却証明が出されるわけではなかったことを示すものである。
(ウ) 実施要領の解釈
大蔵省金融検査部は,実施要領において,法人税基本通達9-6-4のうち,「事業好転の見通しがないこと」という要件につき,「a合理的な合併計画や再建計画が作成中あるいは進行中である場合」のほか,「b債務者に対して追加的な支援(融資,増資・社債の引受,債務引受,債務保証等)を予定している場合」には,事業好転の見通しがないと判断することは適当ではないとの解釈指針を示していた。
法人税基本通達9-6-4は,恣意的な無税償却が利益調整の手段に用いられるのを防ぐために無税償却の範囲を限定する趣旨で設けられている規定であり,実施要領7(2)ハ②もその判断基準を示した規定であるから(実施要領1「方針」参照),「合理的な」支援でなければならないなどという明文にない要件を読み込んで,無税償却の範囲を拡大させるのは,規定の趣旨に反する(被告Y3ら,被告Y9)。
実施要領の前記規定のa項には,「合理的な」合併計画,再建計画という条件が付されているが,同項は,具体的な支援がない場合や再建計画が作成中の場合であっても,再建計画等の合理性が証明できる場合には無税償却の対象としないという規定である。対して,b項は「追加的な支援を予定している場合」としか規定しておらず,「合理的な」という文言はなく,かつ,具体的な支援の存在を前提とするa項と同列に考えることはできないから,b項の支援が「合理的な」支援を意味すると解することはできない(被告監査法人)。a項は債務者サイドの状況に関する規定であり,b項は,金融機関の債務者に対する支援姿勢に関する規定であり,b項は,追加支援の具体例として主要な貸借対照表に計上される与信取引(融資,増資・社債の引受,債務引受,債務保証等)を例示したものであり,メインバンク・母体行の債務者に対する姿勢が消極又は取りやめに転じない限り,法人税基本通達9ー6-4の適用は認めないということを明示している(被告Y9)。
したがって,銀行がその関連親密先に対し,新規融資,既往融資の折り返しの実行などの「支援」を行う意思を有する場合には,これら関連親密先に対する貸付金については,法人税基本通達9-6-4に基づく無税による債権償却特別勘定への繰入れが認められる余地はなかった。
原告らは,長銀刑事事件における証言等(甲29等)も引用するが,その引用部分は,全て,早期是正措置制度及び自己査定制度下における行政上の指針等の解釈が述べられているに過ぎず,税法基準の内容について述べられたものではない。
(エ) 「支援」の意義
ここにいう「支援」とは,債権放棄・現金贈与等による損益支援のみならず,残高維持(返済期限の繰延べや借換え,新規融資を行うことにより貸付債権について即時回収を図らず,貸付額を一定に保つことをいう。)・資金繰り支援・営業支援・人材派遣・恒常的な母体行としてのバックアップ体制の採用等,当該企業を存続発展させるための幅広い支援も含まれる(被告監査法人,被告Y1)。
原告らは,支援の目標が元本の回収にあることが必要である旨主張するが,経営不安に陥った関連親密先の再建のために,母体行として行うべき支援は,当該企業の債務超過を収益支援により直ちに一掃することまで目的とするものではない(被告Y1)。
なぜなら,日本のメインバンクシステムの下では,当該関連親密先の財務内容が雪だるま式に悪化している状況を回避し,他行の信頼を保てるレベルまで収益支援を行い,その後は,母体行としての恒常的な支援を続けることにより,収益力を回復させ,当該企業が自力で回転しうる体力を付けさせることで支援の目標は達せられると考えられていたからである(被告Y1)。
原告らの援用する平成11年の実務指針については,早期是正措置導入に伴い,行政上の指針が変遷した後のものであり,本件中間期当時の会計慣行の裏付けとはなりえない(被告Y3ら)。
(オ) 長銀の資金支援の体力の必要性
原告らは,債権償却特別勘定繰入れの要件として長銀の体力の存否を主張し,「支援の体力がない場合」には繰入れが認められる旨主張するが,銀行側の体力の存在は,法人税基本通達及び実施要領において,債権償却特別勘定への繰入れの要件となっておらず,かかる主張は失当である(被告監査法人)。原告らの主張は,乙F4号証におけるAの報告中,「支援する銀行の体力がなく支援自体が現実的でない場合をのぞき,分割処理も可能と理解していました」との記載を根拠とするようだが,この記載は,支援損の分割処理に関する記載に過ぎない(被告監査法人)。
(2)  争点(2)(繰入額の算定及び虚偽記載の有無)について
ア 総論
【原告らの主張】
(ア) 原告らが本件関連親密先に対する債権の回収不能額を算出したのは,各甲号証に基づく。刑事事件と本件とで,対象となる会計基準時が異なることは認めるが,本件関連親密先各社の経営,財務状況の判断資料としては,刑事事件における証拠も有用である。
原告らが本件関連親密先及びその関連会社等の含み損を検討しているのは,回収可能性を検討するためには,当該債務者の実質的な財務内容が問題になるからであり,実施要領の「7審査基準」(2)ハ①においても,「債務超過は,資産について再評価を行い,実質的に債務超過になっているかどうかで判定する。」と明記されている。
したがって,法人税基本通達9-6-4に該当するか否かを判断する際には,貸付先の資産を時価評価して,債務超過か否かを算定することが求められている。
(イ) 本件関連親密先各社の経営,財務状況の資料は,本件中間期と平成10年3月期とで概ね共通であり,各社の経営・財務状況の判断についても,概ね一致するものであるから,刑事事件における供述調書も信用に足りるものというべきである。
(ウ) 長銀の資金支援の体力
常務会資料(甲13等)によれば,長銀に資金支援する体力が既になかったことは明らかである。
【被告らの主張】
(ア) 原告らは,刑事事件の供述調書及びこれに添付された各種資料を参考として本件関連親密先各社の損益状況ないし実質債務超過額等を推計したものと思われる。しかし,これらの資料の大半は,早期是正措置の導入を控え,不良債権処理の促進等を部内で検討するために計数等を記載したものであり,特に関連ノンバンク,関連親密先各社の「貸借対照表」については,その時点において清算をしたと仮定したいわゆる「清算バランス」によって作成されており,事業の継続を前提とした資産評価を行ったものではない。このような清算バランスは,当該企業をその時点で法的破綻をさせた場合の評価方法であり,税法基準では,例えば,保有不動産の評価損失が無税償却の対象として認められていなかったことをみても明らかなように,国税当局は,このような清算バランスに基づく損益支援計画を認めていなかった。
上記資料は,常務会の経営判断の資料として,一定の目的から便宜的に作成された書類というべきである。
例えば,甲11で,関連ノンバンクの「含み損益」と標記されているものは,貸付金の無担保部分を機械的に全額回収不能と扱い損失に計上しているものと推察され,平成10年3月期の会計基準(担保による回収できない部分についても,Ⅲ分類,Ⅳ分類債権の回収可能性に応じて回収可能額を検討することとされていた。)よりも厳格な評価である。しかも,貸付先における不動産の含み損の評価の問題としてみれば,不動産の含み損はいわゆる減損会計の導入によって認識されるべきものであり,現時点においてすら強制されていないものである(乙F6,7)。甲11は,常務会の経営判断の資料として便宜的に作成された書類であり,償却・引当金の算出の資料とするのは妥当でない(被告Y1)。
少なくとも本件中間期当時は,会計制度上,取得原価主義がとられ,時価会計は採用されていなかったのである(被告Y9)。
むしろ,平成10年3月末を基準日とする日銀考査においても,本件関連親密先に対する貸付金に関する長銀の自己査定と日銀考査には差異がほとんどなく,Ⅳ分類債権も全く存在しなかった(被告監査法人)。
(イ) また,長銀の刑事事件における供述調書は,自己査定制度を前提とする平成10年3月期決算に関するものであり,本件中間期については全く意識しないまま作成されたものであるから,信用性の保証はない(被告Y1)。
(ウ) 長銀の資金支援の体力(被告監査法人,被告Y1)
仮に,長銀の支援のための体力が問題になったとしても,長銀の業務純利益は,平成7年度約2036億円,平成8年度約1966億円,平成9年度約1647億円と,2000億円前後で推移しており(乙F16の1ないし3),本件中間期時点において,毎年2000億円前後の支援を続ける体力があったことになる。長銀に体力があったことは,金融監督庁が平成10年3月末を査定時点として平成10年9月に行った検査の結果において,長銀の平成10年3月期の自己資本が7871億円存し,要追加償却額2747億円と含み損1684億円を差し引いても3440億円存したとされていることからも裏付けられる(乙F17)。
また,長銀は,本件中間期において,必要資金の6割強を金融債の発行によっており,当時の長銀の金融債に対する格付は投資適格であったから(S&PではBBB+(BBB以上が投資適格),ムーディーズではBaa2(Baa以上が投資適格)),資金調達能力にも問題はなかった。
長銀が事業継続能力が喪失したのは,平成9年11月に,拓銀が破綻したことを契機として日本の金融システムに対する不安が生じ,平成10年6月から,法の不備をついた外資による株式の空売り攻勢を受け,同年夏ころに格付が下げられ,複雑な政治的思惑が絡み合った結果,特別公的管理開始決定を受けることになったという本件中間期以降の事情による。
したがって,本件中間期当時,支援計画の実現性を疑うべき事情はなかった。
(エ) 法人税基本通達9-6-4により,債権償却特別勘定に繰り入れて損金処理を行うためには,争いのない事実(6)エに摘示されている3つの要件を満たす必要があり,「事業好転の見通しがない」がいかなる場合に当たるかについて,実施要領は,7(2)ハ②a項及びb項に該当する場合は「事業好転の見通しがない」と判断することは適当ではないという指針を示し,上記a項及びb項に該当する事実の有無が「事業好転の見通しがない」と言えるか否かのメルクマールとなっていた。
そして,平成9年9月期当時,原告らが償却引当不足を主張しているすべての関連親密先に対して,支援を予定していたのであるから,関連親密先については,実施要領7(2)ハ②b項に該当する事由が存在し,法人税基本通達9-6-4による債権償却特別勘定への繰入れができなかったことは明白である。
原告らは,実施要領の要件について,平成9年9月期当時,関係親密先において,②「事業好転の見通しがない」という事由が存在していたと主張しているが,当時の税法基準の解釈として,原告らの主張を裏付ける証拠はなく,実質上,実質債務超過の事実のみで法人税基本通達9-6-4による債権償却特別勘定への繰入要件を満たすと述べているに等しく,主張は失当である(被告Y3ら)。
イ 日本リースグループ
【原告らの主張】
(ア) 日本リース本体
日本リースは,不動産向けの営業貸付業務を拡大していたが(甲46・3~5丁),平成2年以降のいわゆるバブル崩壊により,不動産業者向け貸付金の多くが不良債権化し,平成3年3月期には,受皿の事業会社に対する元加利息や未収利息を収益から除いた実質ベースでは,赤字決算に陥っていた(甲46・5,6丁)。
その後も事業化未了物件の含み損は拡大していき,平成6年3月期には,不良債権が1兆円を超え,形式上は貸借対照表の資本の部は735億円となっていたが,飛ばし債権(日本リースの一般貸付先に対する貸付金が不良債権化したため,当該不良債権を日本リースが日本リースの事業会社に融資し,当該事業会社に,当該不良債権又は担保物件を不良債権額の簿価で買い取らせたもの。日本リースは受皿会社に対する貸付債権を有することになるが,その大部分は回収不能であった。)を除いた債権の含み損等のみを含めただけでも,2260億円の実質債務超過であった(甲46・資料1,5丁)。
そこで,日本リースは,平成6年4月以降長銀に支援要請し,長銀は,日本リースの有する不良債権約1兆1500億円のうち,飛ばし部分約4500億円を秘匿したまま事業会社に分離し,公表した不良債権7600億円に対する支援として5年間で2440億円の損益支援(債務者の損益の改善に繋がる現金贈与・貸付債権の放棄などの支援を行うことをいう。)を行う計画を作成し,国税庁に提出した(甲46・17~19頁)。その後,日本リースは,平成8年3月期までに,資本勘定の取崩しや長銀からの2か年で約1600億円の損益支援(甲36号証3頁)により,約4500億円の不良債権処理をして,長銀からの支援を終了させたものの,平成8年3月期時点で,決算上553億円の債務超過であり,さらに不良債権,不動産等の含み損を加えると,約6058億円の実質債務超過であった。長銀は,他の銀行系のノンバンクの動きに合わせて,平成8年3月期の決算前に不良資産処理の収束感を打ち出すために,支援を終了させたのである。
日本リースは,本件中間期において,公表決算では資本確定222億円であったところ,実際には,日本リースが有する貸付債権(リースを除く)1兆0334億円(未収利息454億円を除く)のうち,回収不能額は6326億円に上り,5160億円(6326億円-1166億円)が償却・引当不足であったので(甲44・資料1,甲44・資料32丁以下),4938億円の実質債務超過であった(甲45・資料5,末尾から5丁)。
そして,平成9年3月期の日本リースの営業利益は256億円であったが,この内約80億円は日本リースの事業会社に利息相当分を追い貸しして,それを原資にして利息を支払ったことにしたもので,実質の営業利益は約176億円であった(甲37号証7,8頁 資料2,3)。
したがって,日本リースが自己の収益のみで実質債務超過を解消するとなると28年以上かかる計算となり,しかも,既に平成9年11月時点で4000億円の資金ショートが予測され,かつ,長銀に資金支援する体力が既になかったのであるから,日本リースは遅くとも平成9年9月には実質的に破綻していたというべきである。実際,日本リースは資金繰り破綻を回避するため,平成10年1月から3月は新規リース契約の成約をストップせざるを得なくなったのである(甲36・7~17頁 資料2末尾の資料,甲37・10頁 資料5)。
したがって,本件中間期当時,長銀の支援によって日本リースの実質債務超過の解消が見込まれるという状況にはなかったから,合理的な支援を予定していたという場合には当たらない。
よって,日本リースの債務超過額4938億円につき,日本リースの借入金総額2兆1715億円に対する長銀からの借入金2557億円の比率を乗じた金額(プロラタ方式),すなわち,
4938億円/2兆1713億円×2557億円=581億円
を債権償却特別勘定に繰り入れなければならなかった。
なお,日本リースの受皿子会社に対して長銀は1836億円の貸付けがあり,これらの相当部分についても貸倒引当金に計上されるべきであったと考えられるが,ビルプロ3社,有楽エンタープライズ以外の受皿子会社の状況が不明なので,本訴訟では主張しない。
(イ) ビルプロ
ビルプロは,バブルの崩壊等によって平成2年から経営状況が急激に悪化し,平成5年7月には大幅な債務超過で経営破綻していることが明らかになり,長銀・日本リース以外の金融機関の多くは平成6年3月までにビルプロに対する債権を債権買取機構に売却したが,法的処理等によって長銀・日本リースの不良債権を一括償却することは長銀・日本リースの存続にもかかわることから,同年11月ころからビルプロの処理を先延ばしする目的で再建計画が立てられることになった。
そして,それに伴い,各金融機関から日本リースに対して,ビルプログループ向け不良債権の圧縮を求められたため,平成5年11月,ビルプロ3社を設立し,ビルプロ3社が長銀からの約458億円の借入れを原資として日本リースのビルプロに対する不良債権約470億円を簿価で買い取ることになった。同不良債権は移管当時から200億円以上の担保割れであり,額面の半分以下の担保しかない不良債権を簿価で譲渡することには,法律上・税務上の問題があるため,担保物件に事業計画があることにし,4~5年は事業化を進めて最終的にできなかったとすることで,引当償却を先へ延ばすことが合意された(甲41・1~37丁)。
ビルプロ3社のうち,木挽町開発移管債権の担保物件と四谷プランニング移管債権の担保物件については,事業化の理屈をつけることもできなかったため,平成9年7月時点で長銀も償却引当を予定していた。残る竜泉エステート移管債権の担保物件については,平成8年7月にパチンコ業者との間で事業用定期借地権締結に向けた合意書が取り交わされたことを理由に償却引当を回避する意向が示されていたが,現実には本契約締結の目途も立っていなかった(甲41・65~68頁)。現に,平成9年11月の長銀特定債権対策委員会においても,ビルプロ3社は事業化は全く進捗しておらず,実質破綻先として担保非カバー分はⅣ分類と査定するしかないことが報告されている(甲41・91~92頁)。
平成8年7月期において,ビルプログループに対する長銀グループの貸付けは合計2817億円,長銀グループ以外の金融機関からの借入れを含めたビルプログループの借入金合計は5622億円であったのに対し,ビルプログループの資産は,簿価では借入額合計と同じ5622億円であるものの,その時価は1190億円に過ぎず,極端な債務超過であった。しかも,同期での損益は,最終損失366億円,繰越損失795億円であった。
このように,ビルプロは平成8年7月時点で既に破綻しており,長銀は,平成9年9月までビルプロに対する金利一部免除の支援を続けていたものの,支援を再開するとしても,実質債務超過の解消に向けた支援は実現不可能であった。
平成9年9月8日時点での長銀グループのビルプログループに対する債権額は1844億円(元本1595億円,未収利息249億円)であったが,そのうち1616億円(元本1367億円,未収利息249億円)は回収不能であった(甲41・資料11)ので,長銀は,ビルプログループに対する債権のうち1616億円を債権償却特別勘定に繰り入れなければならなかった。
(ウ) 有楽エンタープライズ
有楽エンタープライズは,平成8年4月ころまでに大阪市日本橋以外の保有物件を全て売却して多額の売却損を計上し,平成9年3月期で決算上も総資産161億円に対して30億円の債務超過であった。日本橋の物件についても,パチンコビルを建築する計画があったが,平成8年9月賃借予定のパチンコ会社が倒産したため事業計画は白紙になっていた。
本件中間期末時点で,有楽エンタープライズ保有地全体の時価評価は20億円(日本橋の土地の簿価(取得価格)は約153億円)に過ぎなかったのに対し,長銀からの借入れは約63億円,日本リースからの借入金は約130億円であった(甲38号証,甲39号証)。
このように,有楽エンタープライズは既に破綻していたのであるから,実質債務超過の解消に向けた支援は実現不可能であり,長銀の貸付債権のうち,担保によりカバーされない43億円(保有不動産は長銀の優先担保が設定されていた)は回収不能であり(甲44・資料1,2丁),債権償却特別勘定に繰り入れなければならなかった。
(エ) 小括
以上によれば,長銀は,本件中間期において,日本リースに対する債権について581億円,ビルプログループに対する債権について1616億円,有楽エンタープライズに対する債権について43億円の,合計2240億円を債権償却特別勘定に繰り入れ,貸倒引当金に計上しなければならなかった。
【被告らの主張】
(ア) 日本リース
日本リースは,長銀の業務を補完する関連ノンバンクであった。日本リースは,流通業などが相次ぐ大型店舗の建設・出店などに対応して土地取得資金や店舗建設資金について融資業務も併せ行うことを通じ,営業貸付部門が拡大していたが,バブルの崩壊によって,同部門における不良債権化が拡大した(被告Y9)。
日本リースに対しては,長銀は平成3年度,5年度に資金面での支援を行ってきたが,同社の経営状況はその後も悪化していた(被告Y1,被告Y9)。
そこで,長銀は,平成6年3月以降,支援計画を検討し,平成7年3月期を初年度とし3年間で1025億円の損益支援を行うとともに,日本リース自体も自社保有資産の含み益及び剰余金を取り崩すことによって,不良債権の重みを克服し,再び自転可能な状態に復元させることを目的とする再建計画を策定し,国税当局の承認を得た(被告Y9,被告Y1,被告監査法人)。
なお,原告らは,上記日本リースの再建・損益支援計画について『不良債権のうち飛ばし部分4500億円を秘匿したまま,・・・損益支援計画を国税庁に提出』と主張し,あたかも支援計画に胡散臭さがあるかのごとく主張している。しかしながら,不動産の評価損については,税法上,損金計上が認められていなかった。したがって,日本リースに対する損益支援計画においても,それらの不動産は法人税基本通達9-4-2による子会社に対する損益支援の対象として認められなかった。長銀は,原告らが主張する不動産については,国税当局に開示しており,秘匿などしていなかった(被告Y9)。
配当事件判決(東京地裁平成17年5月19日判決(乙B4))も,長銀が「日本リースに対する貸出金を全額放棄し,同社は,他の金融機関からも一部債権放棄を受けるなどして不良債権の含み損等6000億円の損失を処理するとの計画が示された」と判示して,再建計画の存在を認めている(被告監査法人)。
こうして,長銀は初年度の平成7年3月期に490億円(491億円)の損益支援を実施し,さらに,平成8年3月には,予定額の倍近い1100億円(1098億円)の損益支援を前倒しで実施した(被告Y9,被告Y1,被告監査法人)。
この結果,日本リースは自転可能な状態になり,再建に目処が立ったため,長銀はこれをもって損益支援を完了した(被告Y9,被告Y1)。本件中間期において,具体的な損益支援の予定はなかったものの,それは必要な支援を実施済みであったからである(被告監査法人)。
また,日本リースは,このように自転できる状況に復帰した上,長銀から引き続き広義の支援を受けていた(被告Y9)。長銀は,本件中間期において,日本リースグループに対して,従前と同様に支援することを予定していたこと(乙B2)は,原告らも認めるところである(被告Y3ら)。
そして,日本リースは,当時,朝日監査法人による監査済みの財務諸表上で,平成9年3月期における経常利益は18億7000万円,平成10年3月期における経常利益は37億1800万円(乙F8)であり,黒字を上げて自転していたのであり,本業部門の営業基盤は確立されていたことから,事業好転の見通しがなかったとはいえない(被告監査法人)。
したがって,日本リース及びそのグループ会社に対する貸出債権は,債権償却特別勘定繰入れの要件を満たしていなかった。
なお,原告らは,平成9年11月時点において日本リースの資金ショートの可能性や,同社の新規リース成約ストップを指摘して,平成9年9月中間期には同社経営は既に破綻していたと主張している。しかし,そもそも,平成9年11月の北海道拓殖銀行,山一證券,三洋証券の相次ぐ破綻による未曾有の金融危機は,本件中間期以降に発生した現象である。このような金融危機において,金融機関の貸出姿勢が一斉に消極化した以上,日本リースが新規リース契約を一時的にストップしたのはいわば当然の施策であった。新規リース契約の一時的ストップとは,リース事業の拡大を一時断念することであって,既存のリース契約は継続していたので,リース事業を中断したわけではない。こうした動きは,日本リースばかりでなく,他の大手リースも金融機関からの資金調達難を踏まえ,同様に行っていたことであり,金融環境が落ち着きを見せてきた翌年の平成10年4月からは,日本リースも新規リース契約を再開しているのである(被告Y9)。
(イ) ビルプロ,ビルプロ3社及び有楽エンタープライズ
ピルプロ3社及び有楽エンタープライズ等に対する融資は,それ自体,事業化会社を利用して,担保対象不動産を移管させて,これを開発・事業化させるという日本リースに対する「事業化支援」の一環として行われたものであった(被告Y1)。
上記各社は,日本リースから融資不動産を買い取り,長銀は,その買取資金を融資し,以後,事業化が完了するまでは,長期借入金については返済条件の変更という形で残高維持(返済期限の繰延べや借換え,新規融資を行うことにより貸付金債権について即時回収を図らず,貸付額を一定に保つことをいう。)を予定していたのであり,「追加的な支援」を予定していた(被告監査法人)。
このうち,ビルプロは,平成5年11月から平成7年10月にかけて第1次自主再建計画を策定し,取引金融機関に対しては期間中の約定弁済の猶予と金利一部支払を要請したが,市況が依然として低迷していたため,本件中間期当時,平成7年11月から平成9年10月までの第二次自主再建計画を実行中であり,従業員をほぼ半減させるなどの人件費削減を行った上,大型物件を売却し,賃貸物件の稼働率を向上させていた。各金融機関も上記計画の進行を見守っており,「再建計画が進行中」であった(被告監査法人)。
ビルプロ3社及び有楽エンタープライズにおいても,保有物件について,複合共同ビルの建設計画(四谷プランニング)やパチンコ店舗建設計画(竜泉エステート),パチンコ業者向け賃貸ビル建設計画(有楽エンタープライズ)といった事業化計画があり,「再建計画」が作成中あるいは進行中であった(被告監査法人)。
したがって,長銀は,日本リース及び上記各社に対する貸出債権について,債権償却特別勘定に繰り入れることはできなかった(被告監査法人)。
確かに,日本リースの有楽エンタープライズ,ビルプロ3社を含む事業化会社が保有する不動産に関し,引取り後の地価下落により含み損失が生じていたが,事業化会社はこれら不動産について逐次事業化を進め,金利等のキャリングコストの吸収に努めていたのであり,支援の合理性は明らかである(被告Y9)。
また,事業化会社による対象物件の活性化は,一種のプロジェクトファイナンスであったから,事業化が完成するまではキャッシュフローを生まず,赤字が累積することは当然の前提であった(被告Y1)。
ウ NEDグループ
【原告らの主張】
(ア) NED本体
NEDは本来はベンチャー企業に対する融資を目的とした会社であったが,バブル期に不動産関連融資を一気に増やし,バブル崩壊により,その業績を著しく悪化させた。
NEDは長銀グループの協力の下,不良債権を受皿会社9社などに簿価譲渡するなどして業績悪化の隠蔽を図ったが,国税庁の指導により平成9年3月期には受皿会社へとばした不良債権等をNED本体に買い戻した(甲57・2~4頁,甲59号証5~11頁)。なお,同不良債権は,平成8年3月時点でその約87%が回収不能見込みであるⅣ分類債権であった(甲58・資料⑪)。
NEDの実質債務超過額は,平成9年3月期は1306億円,平成10年3月期は2706億円であった(なお,甲58・14頁では平成9年3月期は2318億円の実質債務超過とされている。甲58・資料⑪,⑬では平成8年3月,10年3月期の資産状況が表示されているが,資料⑫の平成9年3月期は資産の部がおそらく刑事弁護人の不同意により白紙となっているので,資料としては確認できない。平成8年3月期から10年3月期までの実質債務超過額の推移を見ると,甲58・14頁の方が正しいと考えられるが,原告らとしては債務超過額の少ない甲11・27丁によるものとする)。
NEDの基礎収益たる経常利益をみると,平成9年3月期に13億0300万円,平成10年3月期に16億6800万円を計上しているものの,これは表面的な数字に過ぎず,実質的な利益といえない未収利息等を控除すると,平成9年3月期,平成10年3月期の経常利益合計は,実質的には大幅な赤字であった(13億0300万円+16億6800万円-108億2400万円=-78億5300万円,甲58・資料⑪~⑬)。
このように,NEDは,平成9年3月期,10年3月期には,実質大幅な経常赤字かつ実質債務超過であり,また,NEDが国税局へ提出した支援計画を予定通りに平成10年3月期まで実施しても債務超過の解消には全く足りない状況にあり,実質債務超過解消の目途は立っていなかった。NEDに対する支援計画は,NEDの再建に向けられたものではなく,NEDの破綻隠しのために最小限の債権放棄をしていただけである(甲57,59)。
したがって,長銀は,NEDに対する貸付債権のうち,平成9年3月期の債務超過1306億8200万円からエクセレーブファイナンスからの借入れ450億円を除いた856億8200万円をプロラタ方式で按分した
856億8200万円×15億1081万円/(4976億0100万円-450億円)=292億4700万円(原告の平成15年7月15日付準備書面記載の原文のママ。)
を債権償却特別勘定に繰り入れなければならなかった(なお,平成9年3月期の長銀借入額は不明であったため,負債額等は平成10年3月期の金額を使用した)。
(イ) 青葉エステート(甲51-2,甲58・資料⑬,甲11・27丁)
青葉エステート及びその子会社8社はいずれも本店所在地を同じくし,いずれも当初から従業員が全くおらず,NEDに業務委任をしているという,全く幽霊会社であった(甲51~56)。
青葉エステートの平成9年3月時点の借入れは494億5500万円(借入先の内訳は長銀247億8400万円,第一勧銀246億7100万円),資産の時価は38億8600万円であり,実質資産としては,不良資産たる不動産,短期信託受益権のみで,負債が実質資産の約13倍ある破綻会社であった。
したがって,その実質債務超過の解消に向けた支援は実現不可能であった。青葉エステート及びその子会社8社とエクセレーブファイナンスは,そもそも実態の存在しない受皿会社であり,「再建」について論じるまでもない。
長銀は,債務超過分を借入額で按分した
456億5200万円×247億8400万円/494億5500万円=228億7800万円
を債権償却特別勘定に繰り入れなければならなかった。
なお,母体行主義をとれば長銀貸付全額が回収不能となるが,母体行主義をとることは強制ではないので,按分方式(プロラタ方式)による。
また,青葉エステート子会社8社についても,平成9年3月期にNEDが不良債権を買い戻した後,不良債権保有時のキャリングコスト(利息追貸分,不良資産売却損など)に相当する借入れのみが残り,一方資産が全くない完全な破綻先となっており,実質債務超過の解消に向けた支援は実現不可能であった。
したがって,長銀は,上記8社に対する貸付金126億3000万円については,その回収が見込まれないので,債権償却特別勘定に繰り入れなければならなかった。
(ウ) エクセレーブファイナンス(甲58・11,12頁 資料⑥~⑩)
エクセレーブファイナンスの業務は長銀やその他の長銀グループから融資を受けて無担保でNEDに貸し付けることであり,その業務をNEDに委託していた。すなわち,NEDが長銀グループから資金調達する際のトンネル会社に過ぎず,その資産総額450億7300万円のうち,450億円がNEDに対する貸付けであった。
したがって,長銀グループのエクセレーブファイナンスへの貸付けの回収可能性は,エクセレーブファイナンスのNEDへの貸付けの回収可能性と全く一致するものであった(甲58・5~12頁)。
NEDは前記のように平成9年3月には既に2千億円以上の巨額の債務超過で実質的に経営破綻しており,合理的な支援は実現不可能であったから,エクセレーブファイナンスのNEDに対する無担保貸付けは全額回収不能であるので,本件中間期には,長銀は,エクセレーブファイナンスに対する貸付債権300億円全額を債権償却特別勘定に繰り入れなければならなかった。
(エ) 小括
以上によれば,本件中間期,長銀はNEDグループに対する債権について,少なくとも
①NED本体について  292億4700万円
②青葉エステートについて  228億7800万円
③青葉エステート子会社8社について  126億3000万円
④エクセレーブファイナンスについて  300億円
の合計947億5500万円を債権償却特別勘定に繰り入れなければならなかった。
【被告らの主張】
(ア) NED本体
NEDは,ベンチャーキャピタルとして設立された長銀の関連ノンバンクである(被告Y9)。
長銀としては,上場大企業が証券市場の発展に伴い資金調達の場を間接金融から直接金融に軸足を移していく方向が予測される中,NEDによるベンチャーキャピタル業務(IPO支援業務)の展開が最重要な施策であると判断してきた。NEDについては,本業を補完する観点から営業貸付部門に取り組んできたが,この事業部門においてバブルの崩壊,地価の下落から不良債権が拡大したため,NEDは,取引金融機関からの借入を維持継続させるべく,黒字決算確保に向け,保有資産の売却益を計上するなどの自助努力につとめた。
しかし,NEDの自助努力のみでは限界があり,母体行の長銀では,国税当局から承認を得た期間5年,損益支援総額1854億円の再建計画に基づき,平成6年3月期から支援を開始し,平成9年3月期までの4年間に1051億円の支援を行っており,残高維持といって資金支援も継続されていた。その後も地価が持続的に下落したことから,再建計画の見直しを行う必要を生じた。新たな見直し計画は,平成10年3月期から平成14年3月期までの5年計画であり,支援総額2951億円(当初計画からの通算4002億円)とするものであった。国税当局は,長銀の申出が他の関連ノンバンクである長銀リースの見直し計画と時期が重なること,長銀リース,ランディック2社の前倒し終了と輻輳することなどから,NEDについては,平成10年3月期は当初計画の承認残枠の範囲で損失処理を認めることとし,見直し計画の承認は平成11年度に行うことにしたい旨要請した。そこで長銀は国税当局の要請を受け,本件中間期よりも後の平成10年3月期に200億円(202億円)の損益支援を行ったのである(甲11・1,2丁,被告Y9,被告監査法人)。
配当事件判決(乙B4)でも,「平成10年3月23日開催の常務会において,当初の計画を延長し,5年間(平成10年3月期から平成14年3月期まで)で,総額2951億円の支援を行い,不良債権3010億円を処理する修正計画を立案・了承し,この計画に基づき,国税当局と折衝して,新たに無税の承認を受けて,エヌイーディーの不良債権を処理し,同社の本業部門(ベンチャーキャピタル業)を不良債権部分から分離しこれを再建する計画を実施する旨決定した。」旨判示されているように,再建計画は明確に存在した(被告監査法人)。
よって,長銀は,本件中間期において,NEDグループに対して,今後の追加的支援を予定していたことは明らかである(乙B2,被告Y3)。
また,上記の支援の結果,NEDは,朝日監査法人(現あずさ監査法人)による会計監査済みの計算書類上も,平成9年3月期に13億0300万円,平成10年3月期に16億6800万円の経常利益を計上しており,事業好転の見込みを有していた(乙F25,26)(被告監査法人)。
(イ) 青葉エステート
青葉エステート及びその受皿子会社8社の不良債権は,NEDの再建計画及び支援計画に組み込まれており,平成14年3月期までの支援により全て処理される予定とされていた(甲11中の「エヌイーディー(株)の処理について」別添1,被告Y9)。
上記9社につき,NEDグループ会社一体として支援計画を立てられていたことは,甲11・22丁中段左側の枠内の「受け皿会社に対する当行資金支援」との記載からも明らかであり,上記NED支援計画においては,一体処理について国税局の承認を得ていた。また,受皿会社の債務については,全てNEDが保証又は保証予約していた。したがって,その債務は実質的にNEDの債務と同視できるものであったから,受皿会社に対する債権につき,NEDと切り離して債権償却特別勘定に繰り入れることは不可能であった(被告Y3,被告監査法人)。
(ウ) エクセレーブファイナンス
NEDにとっては,長銀からの損益支援(債権放棄)は,損益面の償却・引当財源となるとともに,資金面の手元資金となる。したがって,NEDのエクセレーブファイナンスからの借入金は,この手元資金増加分により返済できるわけであるから,長銀のNEDに対する損益支援計画の対象先として,エクセレーブファイナンスを挙げる必要は全くなかった。
換言すれば,エクセレーブファイナンスのNEDに対する貸出金は,常時,回収可能な資産である。
したがって,長銀のエクセレーブファイナンスに対する貸付金について償却・引当すべき理由はなかった。
(エ) 小括
NEDグループ各社については,以上のように,支援が予定されてたのであるから,本件中間期において,これらに対する貸出債務について,債権償却特別勘定繰入れの要件を満たしていなかった。
エ 長銀リースグループ
【原告らの主張】(甲11・13丁以下)
長銀リースは本来償却すべき不良債権の償却を免れるため,不良債権を関連11社に簿価譲渡をするなどして償却をせずに済ませてきたが,監査法人等の指摘もあり,これらの不正な決算対策を修正するため,受皿会社向け債権約300億円を償却する必要が生じた。しかし,長銀リースは自力で資金調達が困難な状況であった。
このような状況下,長銀は平成6年3月期から平成10年3月期まで5か年で合計565億円の債権放棄による支援を計画し,平成9年3月期までに505億円の債権放棄を実施したにもかかわらず,長銀リースは,受皿会社に対する貸付金を全く償却することができなかった(甲11・13丁)。
長銀リースの平成9年3月期の資産状況は,16億円の資産超過,時価で913億円の債務超過であり,長銀グループ向け債権のうち,ビルプログループに対する債権についての28億円の回収不能額を加えると941億円であった(なお,関連11社向け貸付け及び連結子会社株式は,これらが破綻会社でありかつ無資産であることから,時価評価は0円として算定した。また,長銀グループ向け貸付け及び未収収益については,多額の含み損があったと予想されるが,現在その内容が判明しないので,時価と簿価を同一として計算している)。一方,税引き前利益は3600万円に過ぎなかった。
また,長銀リース関連11社の平成9年3月期の資産状況も,簿価で301億円,時価で362億円の債務超過であり,また,経常利益は29億円以上の赤字であり,全くの破綻状態であった。
以上を連結し,関連11社の債務超過分と長銀リースの債務超過分を合計すると1303億円となり,これから長銀リース保有の関連11社に対する貸付金及び株式を控除すると,平成9年3月期で長銀リースグループで約1060億円の債務超過,約295億円の当期損失であったことになる。
また,平成9年3月には,長銀リースは既に新規貸出を実質的にストップし,資産及び負債の整理を進めるだけの会社になっていた。その後,平成10年3月には,長銀は,平成10年3月期から平成14年3月期まで合計1014億円の債権放棄による支援を計画したが,計画終了後の清算を予定せざるを得なかった(甲11・15丁)。長銀リースグループに対する支援計画は,甲11・16丁で対外的には支援終了を装いつつ,約260億円の不良債権は平成13年3月期まで処理をしないこと及び不動産受皿会社の処理はしないことが明記されているように,一部の不良債権を隠蔽した支援計画であり,損失処理の先延ばしを図るだけのものであった。甲11・17丁では,平成13年3月期以降は清算も含めて検討することとされており,存続が困難との認識があった。
以上によれば,長銀リースは,既に長期間(少なくとも3年以上)大幅な債務超過であり,新規貸出はしていないなど事業好転どころか事業の将来への継続自体予定されていなかったのであるから,合理的な支援計画は存在しなかったといえ,長銀の長銀リースグループに対する貸付金約1571億円のうち,1000億円以上の回収不能が見込まれていた(甲9)。
したがって,長銀は,本件中間期において,少なくとも,長銀リースグループ全体の実質債務超過額1303億円につき,全体の借入額2878億円における長銀からの借入額1571億円の比率に従って按分した711億円を,回収不能見込額として債権償却特別勘定に繰り入れなければならなかった(平成9年3月期の金額に基づき算出)。
【被告らの主張】
長銀リースは,長銀の国際融資業務と一体をなし,これを補完するものであった(被告Y1)。
長銀リースは,バブル崩壊後,営業貸付部門の不良債権が拡大したため,長銀は同社の再建計画を作成し,平成6年3月期から同10年3月期まで5年間,損益支援総額797億円とする支援計画について国税当局の承認を得て,この計画に基づき平成9年3月期まで4年間で合計505億円の支援を行った(被告Y9,被告監査法人)。
この再建計画は,前記NEDに関する事由と同様の事情により,見直しが必要となったため,長銀は,平成10年3月期を1年目とし,同14年3月期を最終年度とする期間4年とし,損益支援総額1014億円(当初計画からの通算金額は1519億円,平成10年3月期に441億円の損益支援)とするさらなる支援計画につき国税当局の承認を得ており(甲11・2,13丁),本件中間期において,今後の追加的な支援を予定していた(乙B1)。なお,長銀は不良債権の前倒し処理を急ぐため,国税当局の了解を得て,同10年3月期に,798億円の損益支援を行うことにより,見直し後の損益支援を1年で完了させた(被告Y9,被告監査法人)。
また,上記の支援の結果,長銀は長銀リース本体及び受皿会社全社に関する不良債権を全て処理し(甲11),自転可能な状態に復した(被告Y9,被告Y1)。長銀リースは,平成9年3月期及び平成10年3月期に約10億円の経常利益を挙げており(乙F23),事業の継続が可能な状態であった(被告監査法人)。
したがって,長銀リース及び受皿会社に対する貸出金については,債権償却特別勘定繰入れの要件を満たしていなかった。
なお,長銀リース関連11社については,長銀リース等からの貸付けがなされているのみで,長銀本体からの貸付けはないので,これらの会社に対する無税償却の可否を検討する必要はない(被告監査法人)。
オ ランディックグループ
【原告らの主張】
平成9年3月期当時,ランディック単独で時価で1969億円の債務超過,ランディックグループで時価で2994億円以上の債務超過であった。
そして,収益状況をみると,平成8年3月期に652億円の経常損失,平成9年3月期に382億円の経常損失を上げており,資産売却及び長銀グループからの追加融資(大幅債務超過,経常大幅赤字への追加融資である)によって資金不足を補填するしかない状態であった。実際,長銀グループからの借入れは,平成7年3月期から平成10年3月期にかけて,3134億円から4627億円まで増加している(甲11・5丁)。
一方,長銀によるランディックグループに対する支援計画は,乙B1・9丁に「支援終了後も関係会社貸付は相当残る」,「残存不良債権のキャリング負担」とあるように,一括償却すべき損失の一部のみを償却・引当していく手段でしかなかった。
このように,ランディックグループは大幅な債務超過及び長期にわたる経常損失の状態にあったのであり,長銀は,平成9年3月には総額1973億円の支援(うち,平成9年3月期は302億円)及びランディックの百パーセント子会社である伸栄開発向け不良債権400億円につき,肩代わりによる支援をしたものの(甲11・4丁),これにより,実質債務超過の解消が見込まれていたわけではなく,事業好転の見通しもなかったので,長銀の貸付債権は,債権償却特別勘定への繰入要件(第1,6)に該当するものであった。
そして,ランディック本体については,実質債務超過額1969億円,総負債6375億円,うち長銀からの借入れは1511億円であるから,プロラタ方式による長銀の回収不能見込額は,466億円であり,その他グループ会社については,実質債務超過額2158億円,総負債5612億円,うち長銀からの借入れは2773億円であるから,プロラタ方式による長銀の回収不能見込額は1066億円であった。
よって,長銀は,ランディックグループ全体に対する貸出債権4284億円のうち,1532億円を債権償却特別勘定に繰り入れなければならなかった。
なお,ランディックグループの長銀グループ向け貸付けについては,その内容(相手先の特定など)が分からないので,含み損(回収不能見込額)は0として算定したものであり,長銀グループ向け貸付けの内容が判明すれば,さらに回収不能見込額は増加するものである。
【被告らの主張】
銀行にとって,不動産事業,すなわち土地の売買情報の入手,これによる売買仲介,さらには自らの買取による賃貸ビルやマンションの建設保有等は,銀行業務を補完する必須の業務であり,ランディックは長銀にとって重要な関連ノンバンクであった。ランディックは,副業として行ってきた営業貸付部門において,バブルの崩壊,地価の大幅,かつ持続的な下落を背景に不良債権が増大し,平成9年以降は,含み資産による自力決算が不可能となった(被告Y1,被告Y9)。
このため長銀では,期間5年の再建計画を作成し,5年間総額1,973億円の損益支援につき国税当局の承認を得て,平成9年3月期に302億円,平成10年3月に1671億円(合計1973億円)の損益支援を実施した。平成10年3月期には,国税当局の了解を得て,3年前倒しの損益支援を実施したものである(甲11No.1,被告Y9,被告Y1)。
この損益支援によって,ランディック本体は自転可能な状態となった(被告Y1)。
このように,長銀が本件中間期において,ランディックに対するさらなる支援を予定したことは明らかであり(甲11,乙B1),債権償却特別勘定繰入れの要件を満たしていなかった(被告Y3)。
また,明和監査法人による会計監査済みの計算書類上も,ランディックは,長銀の残高支援等のもと,平成9年3月期には52億5400万円(乙F28),平成10年3月期には2億1000万円(乙F29)の経常利益を上げており,本業たる賃貸ビル事業は,稼働率がほぼ100%という高水準を維持していたため,事業継続が可能な状態にあった(被告監査法人)。
ランディックの受皿13社,不動産子会社6社については,長銀からの貸付けはなく,ランディック等からの貸付けがされているにすぎないことから,長銀として独立に無税償却の可否を検討する余地はない(被告監査法人)。また,ランディックの不動産子会社については,国税当局が不動産の評価損失については無税処理を認めないこととしているので,事業化や事業化物件の稼働率向上により活性化することとしたが,長銀ではランディックの営業力・事業力からみて十分可能であると判断していた(被告Y9)。
芝中央ファイナンスについては,その借入債務につきランディックの保証又は保証予約がされていることから,ランディックと一体として評価すべきである(被告監査法人)。
以上より,本件中間期において,ランディック本体及び芝中央ファイナンス(及び受皿子会社13社,不動産子会社6社)に対する貸出金については,債権償却特別勘定繰入れの要件を満たしていなかった。
カ 第一ファイナンスグループ
【原告らの主張】
第一ファイナンスは,バブル経済の崩壊後不良債権が急増し業績が悪化し,特に平成7年度に入って,取引先の関西系ノンバンクが破綻し,外部資金の調達が困難となったため,経営危機に陥った。
そのため,平成7年7月ころ,第一ファイナンスの正常債権と不良債権とが分離され,平河町ファイナンスに正常債権と他行からの借入れが移管され,第一ファイナンスは不良債権と多額の含み損を抱えた有価証券を資産とする,長銀のみを借入れ先とする清算予定会社となった。これ以後,第一ファイナンスは新規融資は行わず,保有する不良債権の回収のみが業務という事業実態のない実質清算会社となっていた。
また,すずらん恒産及びはまなす興産は,平河町ファイナンスが出資した,第一ファイナンスの不良債権の受皿会社であったが,上記正常債権と不良債権との分離に合わせて,平河町ファイナンスの負担を軽減するため,同時期から第一ファイナンスの百パーセント子会社に変更された。
このように,第一ファイナンスには,再建計画も,再建見通しもなく,長銀の決算を繕うために清算・処理が先延ばしにされていただけの状態であった(甲11・28丁,甲32,甲35)。
第一ファイナンスは,平成8年9月時点で,長銀からの借入れ1302億円,他からの借入れ2億円に対し,本体の資産(時価)が875億円,グループ全体の資産が765億円(時価。グループ子会社の資産と負債との差から算出される債務超過額を,第一ファイナンスの資産から控除する。以下同じ。)であった。資産のうち,第一ファイナンスグループの外部に対する貸付金は,簿価で578億円(602億円-204億円+180億円)であったが,このうち,545億円の貸付債務についての平成10年3月時点での状況は,甲11・28,30丁のとおりであり,大部分の貸付先が破産,特別清算,会社整理など既に法的に破綻しており(新京都信販は平成8年6月自己破産,他は法的破綻日不明),ヒロシ興産,大阪ファイナンス,九州流通サービスは,平成9年12月までに実質的に破綻しており(甲34・5~8丁),甲11・30丁で唯一正常先とされていたTISC,DIMについても,甲11・28丁では「利払いを継続しているが,元本償還は困難」とされており,いずれも法的・実質的な破綻先として,担保等により回収が見込まれない部分は,法人税基本通達9-6-1,2に基づき,直接償却すべき債権であった。なお,資産の保有株式のうち,非上場株式44億円は,長銀グループの株式であり,実質上は無価値か著しく価値が下がっていることは明らかであるが,その価格低下分は時価に算入していない。
その後,第一ファイナンスグループの資産状況はさらに悪化し,平成10年3月時点では,長銀からの借入れ1246億円,他からの借入れ2億円に対し,本体の資産(時価)が588億円,グループ全体では資産(時価)が450億円であったから,この時点で,長銀の第一ファイナンスに対する貸付け1246億円のうち,798億円は回収の見込みがなかったといえる。
一方,当然であるが,第一ファイナンスグループでは,不良債権の回収によるわずかな収入しかなく,平成8年3月以降,一貫して大幅な赤字を続けていた。
以上のとおり,第一ファイナンスグループの実態は不良債権の回収のみを行う実質清算会社であり,かつ平成9年3月期には既に負債(長銀借入れ)が資産(時価)の2倍に及ぶ全く破綻企業であったから,清算処理を先延ばしにしていたものであり,実質債務超過に向けた支援計画の実現は不可能であった。
よって,本件中間期の資産を時価評価した証拠資料はないが,少なくとも平成9年3月期の実質債務超過分604億円は,明らかに本件中間期末でも回収不能であったといえ,長銀は,これを債権償却特別勘定に繰り入れなければならなかった。
【被告らの主張】
第一ファイナンスは,金融機関系ノンバンクなどを中心に,貸出業務を拡大したが,関西系ノンバンクの破綻に伴い長銀以外の金融機関からの資金調達が円滑に進まないおそれが生じた。このため,長銀は平成6年11月に設立した平河町ファイナンスに,同7年7月に正常貸付債権及びこれに見合う借入金を移管するという抜本的なリストラを実施した(被告Y9)。
第一ファイナンスは,このリストラ実施以降,長銀のみの一行取引とし,債権回収業務に専念することになったが,債権回収業務の完了にはまだ相当な年数を要する見込みであったし,有価証券保有という形態で,長銀に代替して出資するという機能を引き続き担っていたので,長銀にとっては,なお極めて重要な関連ノンバンクであった(被告Y9)。
そこで,長銀は,本件中間期当時,母体行として,第一ファイナンス及びそのグループ会社に対し,折返し融資(ロールオーバー)の実行,新規融資や返済条件の変更による残高維持,回収・管理のための人材派遣等の支援を継続しており,追加的な支援を予定していた(甲11中の「第一ファイナンス(株)の処理について」No.2,乙B1)(被告Y9,Y3ら,被告監査法人)。
また,第一ファイナンスは,資産の約半分が市場性のある有価証券であり,証券市場の動向によっては財産状態に大幅な改善の可能性を有しており(甲11・30丁),追加的な支援によって,将来の精算時はいざ知らず,当面の事業の維持は可能であった(被告監査法人)。
原告らは,第一ファイナンス及びその子会社について,事業実態のない実質清算会社であり,長銀決算取り繕いのため清算処理を先延ばししてきたなどと主張するが,第一ファイナンスは前記のとおり,依然として長銀にとって重要な機能を有していたのであり,支援を継続していたのであるから,原告らの主張は失当である。
また,原告らは,平成8年の大蔵省検査において同社の保有有価証券がⅣ分類と査定された事実があると指摘している。しかし,この大蔵省検査は,平成7年4月13日事務連絡にしたがって関連ノンバンクの査定を行ったものであるが,同事務連絡の脚注に記載されているとおり,大蔵省検査における関連ノンバンクの資産査定は,償却・引当とは無関係に行われていた。同社の保有有価証券については,低価法により査定され,評価損はⅣ分類とされたが,これは,償却・引当とは結びつくものではない。
ちなみに,甲11によれば,長銀は,平成10年3月期に第一ファイナンス向け債権のうち,同社の繰越損失相当額部分138億円について有税償却しており,同時期ですら,有税による処理しかできなかったのであるから,自己査定制度の導入以前である本件中間期に,無税償却ができるはずがないことは明らかである(被告Y3ら,被告監査法人)。
はまなす興産及びすずらん恒産については,長銀本体からの貸付けはないので,独立して無税償却の可否を検討する必要はない(被告監査法人)。
キ ジャリックグループ
【原告らの主張】
ジャリックグループの平成8年3月期の資産状況は,簿価で33億7700万円,時価で39億8400万円以上の債務超過であった(甲13・4ないし6丁)。
損益をみると,ジャリックは,平成7年3月期で400万円,平成8年3月期で900万円の税引前利益を計上していたが,これらは,平成7年3月期においては,未収利息2億2700万円,資産売却益1億5400万円を,平成8年3月期においては未収利息6900万円,資産売却益1億3100万円を計上したことなどの決算調整によるものであり,実態は,平成7年3月期で3億7700万円以上の当期損失,平成8年3月期は1億9100万円以上の当期損失であり,資産売却によって資金繰りをつけていたものである(甲12・4丁,甲13・4丁)。
このようにジャリックは,純資産の約80%にも上る貸付金についての含み損を計算に入れなくとも,既に債務超過であり,かつ数期連続の実質赤字であった。
ジャリックグループに対する支援計画については,グループ各社はいずれも長銀からの借入れにより長銀グループの不良資産を買い取った受皿会社であり,その破綻を表面化させないため,元本返済を猶予し,利息分を負い貸ししていただけであり,これを「支援」ということはできない。
よって,ジャリックグループの実質債務超過額は67億円(実質債務超過額39億円に長銀グループ向け貸付け以外の貸付金の回収不能見込額28億円を加算したもの)であり,長銀からの借入金は830億円,その他(長銀グループ)からの借入れが105億円であったから,長銀は,プロラタ方式により,
67億円×830億円/(830億円+105億円)=59億円
を債権償却特別勘定に繰り入れなければならなかった。
【被告らの主張】
ジャリックは,昭和45年に設立された不動産売買情報提供などの仲介業務を行う「日本不動産取引情報センター」を前身とし,その後,不動産担保金融,抵当証券業務にも進出した長銀の関連ノンバンクであるが,その後,仲介部門をランディックに集中移管するなどして,本件対象期の本件中間期には,貸出業務(長銀グループ向けが大部分)と株式保有業務とを主体としていた(被告Y9)。
長銀は,本件中間期において,母体行として,ジャリック及び同社グループに対し,返済資金の融資による借換えの方法による残高維持などの資金支援を行っており,かつロールオーバーに応じるなどの追加支援を予定していた(乙B1,被告Y3ら,被告監査法人)。
また,明和監査法人による監査済みの計算書類によれば,ジャリックは,貸借対照表においても債務超過ではなく,経常利益を上げて自転していた(乙F30,31,被告監査法人)。
したがって,ジャリック及び同社グループに対する長銀の貸出金は,本件中間期において,債権償却特別勘定繰入れの要件を満たしていなかった。
なお,原告らは,ジャリック及び同社のグループ会社であるジェーイーコーポレーションについて,その実質債務超過額は67億円に達しており,これに応じた償却・引当が必要であると指摘するが,原告ら引用の書証は,長銀が大蔵省検査に際し,不良債権処理を促進する観点から作成し提出した清算バランスの評価方式による試算結果であり,企業評価の一つの基礎資料に過ぎず,企業会計上の基準による貸出金の評価ではない(被告Y9)。
ク 日比谷総合開発等
【原告らの主張】
日比谷総合開発は,平成6年3月期において,総資産が簿価1億円,借入れが0円,平成7年3月期において,総資産が簿価753億円(時価644億円),借入れが753億円(全て長銀)であり,平成7年3月期までは実体がなく,同期に長銀又は長銀関連会社の受皿会社として長銀の融資で不良資産を簿価で買い取っただけの会社であった。そして,平成8年3月期には,簿価で13億円の債務超過,時価で114億円以上の債務超過であり,10億円の当期損失を計上していた。
このように同社は,平成7年3月期に受皿会社として不良資産を長銀の融資で簿価で購入しただけの会社で,元々実質債務超過であり,簿価譲渡後も大幅な赤字計上を続けるだけの決算対策のためだけの破綻企業であった(以上,甲13・4~6丁)。
なお,同社の長銀グループ向け債権359億円については,その貸付先及び内容が分からないので,含み損を0円として算定してあるが,それが判明すれば,粉飾額はさらに増加する。
エル都市開発は,平成7年3月期に長銀及び長銀グループからの融資によって不良資産を簿価で購入していることから分かるように,長銀及び長銀グループ各社の受皿会社であった。
エル都市開発は,平成6年3月期以降,大幅な当期損失を出しており,平成8年3月期で,長銀からの借入れは1366億7000万円,簿価で86億4600万円,時価で666億6900万円以上の債務超過であり,283億9900万円の当期損失であった。
このように,エル都市開発も,大幅な債務超過でかつ連続大幅赤字であり,単に債権者である長銀及び長銀グループが債権を回収しないことによって存続できている実質破綻会社であった(以上,甲13・4~6丁)。
以上によれば,日比谷都市開発等は,いずれも長銀からの借入れにより長銀グループの不良資産を買い取った受皿会社であり,その破綻が表面化しないため,元本返済を猶予し,利息分を負い貸ししていただけであり,これをもって「支援」ということはできない。
よって,日比谷都市開発の借入れは全て長銀からであるので,長銀は,日比谷総合開発に対する貸付債権のうち,同社の実質債務超過額114億円を債権償却特別勘定に繰り入れるべきであり,エル都市開発の長銀からの借入れ1366億円のうち,実質債務超過額666億円,他からの借入金1,309億円(なお,全て長銀グループからの借入れである。)であるので,
666億円×1,366億円/(1,366億円+1,309億円)=338億円
は回収不能見込額といえるので,これを債権償却特別勘定に繰り入れなければならなかった。
なお,長銀グループ借入れの債権者が特定されれば,その長銀グループ会社の債務超過額は増加し,同社に対する長銀の粉飾額はさらに増加する。また,エル都市開発の長銀グループ向け貸付金は107億円あるが,これも貸付先が判明しないため含み損を0としているが,貸付先が判明すればエル都市開発の債務超過額はさらに増加し,長銀の粉飾額も増加するものである。
【被告らの主張】
長銀は,バブル崩壊により,長銀及び関連ノンバンク(NED,長銀リース,ランディック及び日本リース)の有する不良債権について,値の下がった担保不動産を債務者から切り離し,その事業化により付加価値を付け,事業収益を確保するため,平成2年,主として長銀本体が権利を有する不動産の事業化を進めるために,エル都市開発を設立し,次いで,平成6年,関連ノンバンク各社の権利を有する不動産について事業化を本格的に進めるために,日比谷総合開発を設立し,担保不動産を移管させるとともに,不動産取得に必要な資金を融資した(被告Y9,被告Y1)。
不動産の事業化は,計画の立案から竣工までに数年の期間が必要な一種のプロジェクトファイナンスであり,事業化が完成するまではキャッシュフローを生まず,事業収益が得られるまでの金利などのキャリングコストについては,支援が不可欠である(被告Y9,被告Y1)。
したがって,長銀は日比谷総合開発及びそのグループ会社と,エル都市開発に対し,事業収益が得られるに至るまで金利等のキャリングコストについて,返済資金の融資による借換えの方法によって,残高維持の資金支援を行っており,本件中間期においても,追加的な支援を実施する予定であった(乙B1,被告Y3ら,被告監査法人)。
また,各社とも,長銀及び関連ノンバンクの融資担保不動産のうち優良物件を鑑定価格にて取得し,権利関係等の調整をした上で,保有物件について賃貸ビル・マンション等の開発・事業化を計画しており,「再建計画」が作成中あるいは進行中であった(被告監査法人)。
したがって,上記各社に対する長銀の貸出金は,本件中間期において,債権償却特別勘定繰入れの要件を満たしていなかった。
なお,原告らは,上記の点に関し,エル都市開発を取り上げ,大幅債務超過,連続大幅赤字,実質破綻会社であるとの主張をするが,不動産の事業化に当たっては,前記の理由で,赤字が累積することは当然の前提であるという事業化会社の特色等を考慮しない短絡的な見方というべきである(被告Y1,被告Y9)。不動産価格のさらなる下落により,含み損を抱えることになった事例も少なくないが,このことから直ちに当時の事業化会社の構想が合理性を欠いていたとはいえない。
ちなみに,平成8年に行われた大蔵省検査においても,日比谷総合開発,エル都市開発及び両社のグループ会社についてはⅡ分類の査定とされていた(甲13・の資料6,被告Y9)。
ケ 本件中間期以後の有税償却について
【被告監査法人の主張】
自己査定導入後においても,債権償却特別勘定繰入れ要件の認定による無税償却はあいかわらず容易ではなく(乙F21),原告らが,本件中間期に法人税基本通達9-6-4により無税償却できたと主張する債権の一部について,長銀は,平成10年3月期に償却・引当を実施しているが,現実に支援を実施して支援損が認められた長銀リース,ランディック,NEDを除き,全て有税による償却・引当となっている。NED,エクセレーブファイナンス,青葉エステート,日本リース等に至っては,平成11年3月末までに特別清算や会社更生を申し立てているにもかかわらず,相当部分について有税引当を余儀なくされている。
そもそも,有税償却は課税金額を増大させるだけでなく,税効果会計導入前の当時においては税引後利益の額をも圧縮するのであるから,無税償却できるものをわざわざ有税償却する理由は一切ない。
仮に原告らが主張するように,長銀が無税償却のための開示によって本件関連親密先の実態が明らかになることを恐れていたのであるなら,一部について無税償却し,課税金額の増加を防止する方が合理的であり,すべてを有税償却することはない。
したがって,上記債権については,平成10年3月期においてさえ,無税償却することはできなかったのである。
さらに,国有化後の平成11年3月期においてすら,本件関連親密先のうち少なくともNED,エクセレーブファイナンス,青葉エステート,日本リース等については,相当部分について有税引当を余儀なくされている。
【原告らの主張】
原告らが貸倒引当金に計上すべきと主張する債権の一部について,長銀が,平成10年3月期において,有税償却せざるを得なかったのは,不良資産を隠蔽し,各社の経営状況,財務状況を良好に見せかけていたためである(甲33・16頁以下)。無税償却を避けたのは,本件関連親密先の実態が明らかになるのを回避するためである(各供述調書)。
コ まとめ
【原告らの主張】
以下に述べるところによると,貸倒引当金の計上額の粉飾及びそれに基づく本件半期報告書の虚偽記載の内容は以下のとおりである。

貸倒引当金の粉飾額(債権償却勘定に繰り入れるべきであった金額)の内訳

日本リースグループ 2240億円
NEDグループ 947億円
長銀リースグループ 711億円
ランディックグループ 1532億円
第一ファイナンスグループ 604億円
ジャリックグループ 59億円
日比谷都市開発等 452億円
合計 6545億円
貸倒引当金
本件中間報告書における計上額 4841億円
真正に計上すべき額 1兆1386億円
負債の部 合計
本件中間報告書における計上額 26兆9632億円
真正に計上すべき額 27兆6177億円
資本の部 合計
本件中間報告書における計上額 9544億円
真正に計上すべき額 2999億円
中間純利益
本件中間報告書における計上額 100億円
真正に計上すべき額 △6445億円

【被告らの主張】
本件半期報告書に記載した貸倒引当金の金額は適正なものである。
本件関連親密先に対する貸付債権につき,債権償却特別勘定に繰り入れるべきものはなかった。
サ 中間財務諸表の監査の特殊性等
【原告らの主張】
(ア) 中間財務諸表作成基準(乙F10)によれば,「中間財務諸表は,中間決算のために特に必要と認められる会計処理を除き,正規の決算に適用される会計処理の原則及び手続に準拠して作成されなければならない。」(第一,二89頁)と明記されている。
そして,被告監査法人の引用する中間財務諸表監査基準(乙F9)によれば,中間財務諸表の監査は,「中間会計期間に係る有用な会計情報を提供しているかどうかを確かめる」ことを目的として,「中間財務諸表作成の基礎となった会計記録の信頼性及び中間財務諸表項目の金額の妥当性を確かめ」,「中間財務諸表の作成の基礎となった会計記録については,取引記録に関する通常実施すべき監査手続によって,信頼性の程度を確かめる」と明記されている(上記第一)。
このように,中間財務諸表の監査においても,中間財務諸表の項目の金額の妥当性が監査の主たる対象であり,監査法人は,除外事項の指摘,意見表明差し控えその他の監査意見の表明を義務づけられている(上記第二)。
また,中間財務諸表に基づく有価証券半期報告書にも,証券取引法上虚偽記載の規定があることは,前記争いのない事実等のとおりである。
したがって,中間監査においても,中間財務諸表の項目の金額の妥当性について,監査法人が監査責任を負うことは明らかである。
(イ) 被告監査法人への反論
本件半期報告書の注記は,自己査定の導入に伴い,従前の債権償却特別勘定繰入額等だけでなく,これまで貸出金償却及び貸倒引当金に計上されていなかった要注意先債権,破綻懸念先債権の相当額についても償却又は引当を計上しなければならなくなるという予告であり,従前から計上すべきであった債権償却特別勘定繰入額についての粉飾の問題を何ら是正するものではない。
【被告監査法人の主張】
中間財務諸表は,一事業年度の上半期という独立の会計期間でない期間について,有用な会計情報を提供するものである(乙F9・中間財務諸表監査基準)。有用な会計情報とは,当該中間会計期間を含む事業年度の損益予測に資する会計情報という意味である。
すなわち,中間財務諸表は,当該中間会計期間を独立した会計期間として期末時点における期間損益確定のための損益状況についての会計情報を提供するものではなく,事業年度末時点における期間損益確定のための損益状況についての会計情報を提供する財務諸表とはその性格を大きく異にしている。
ところで,金融機関については,早期是正措置の導入により,自己資本比率が金融機関の健全性を表す最重要指標とされることに伴い,平成10年3月期決算から,自己資本比率算定に重要な影響を持つ償却・引当制度について大幅な変革がなされることとなっていた。すなわち,早期是正措置の不可分の前提として,従来,大蔵省検査に基づいて行われてきた資産分類を金融機関自らが行う自己査定制度が導入され,この自己査定制度に基づく新しい償却・引当制度を平成10年3月期決算から導入するために,資産査定通達や4号実務指針が新たに作成された。資産査定通達や4号実務指針は,税法基準以外に,金融機関が従うべき償却引当の会計処理の具体的な実務指針をはじめて明らかにしたものである。
そして,各金融機関では,これらの実務指針が示されたことにより,自己査定導入後の平成10年3月期決算では,償却・引当の大幅な積み増しが予定されていた。
以上のような事情から,本件中間報告書では,監査証明の対象となる中間財務諸表自体の追加情報として,「銀行業の決算経理基準が平成9年7月31日に改正され,当事業年度末決算から適用されることに伴い,当事業年度末決算においては,資産の自己査定結果を踏まえた新たな償却及び引当金の計上基準を定め,その基準に基づき貸出金償却及び貸倒引当金を計上することになりました。この結果,当事業年度末決算においては多額の貸倒引当金繰入れ等が見込まれます。」と記載し,中間貸借対照表,中間損益計算書と当該追加情報を合わせて読むように注意を促していた。
本件中間財務諸表は,かかる注記事項も含めて,長銀の実態に応じた有用な情報,すなわち事業年度末の損益予測に資する情報を提供していることは明らかであり,仮に貸倒引当金の計上額がある程度誤っていたとしても,全体としてみれば,虚偽記載はなかった。
(3)  争点(3)(被告Y10の善意無過失の抗弁)について
【被告Y10の主張】
被告Y10が長銀の常務取締役であったのは,平成8年12月から平成10年初めまでである。
被告Y10は,資金調達担当の常務取締役であったことから,本件関連親密先に対する債権の処理を行っていた事業推進部の作業に関わる立場になかったため,関連親密先の財務内容については,取締役会,常務取締役会を通じて,各会が開催されている時間内に,そこに提出された資料及びその説明によってのみ,関連親密先に関する半期決算報告の当否を判断することができたに過ぎないのであり,そこに,不正の存在を示す根拠があれば格別,そうでない限り一般的な注意義務としての個々の貸付けの返済状況や関連親密先の財務内容について,自ら必要資料を調査する注意義務はなかった。
被告Y10は,本件中間期決算に先立って,本件中間期決算案が平成10年3月期決算からの早期是正措置の導入に備えるためのトライアルであること,本件中間期決算が被告監査法人により無限定適正意見を得ていること,関連親密先のうちで財務内容が悪化しているものについては担保不動産を用いた事業化計画があり,または,追加支援により収益率の高い事業展開を行わせて債権回収を図る計画となっていることなどにより債権回収の見込みが立っていることなどの説明を受けた。その際の資料及び説明には,上記説明に不正があることを窺わせるに足りるものは何一つ存在しなかった。
しかも,長銀の年間業務純益は2000億円に達し,その他有価証券や不動産の含み益,剰余金取崩可能額を勘案すれば,従前の他の金融機関との協調融資を前提とする限り,本件関連親密先に対する支援の体力にも何の不安もなかった。
そこで,被告Y10は,本件中間期決算案を承認したのであり,そこにおける貸倒引当金の額が虚偽であることを知らず,かつ,相当な注意を用いたにもかかわらず知ることができなかった。
【原告らの主張】
被告Y10は,常務取締役会に出席し,提出された資料を閲覧し,それに関する説明を聴いていたことを認めている。
甲10ないし13,28及び甲36,41,43,47,50の供述調書添付資料のうち,「常務会資料」と記載されたものは,常務取締役会提出資料であり,これらはいずれも本件関連親密先に対する不良債権の状況を開示し,その不良債権の処理を認識せしめたものであり,常務取締役以上の役員は,粉飾に直接関与していたのである。
(4)  争点(4)(被告監査法人の善意・無過失)について
【被告監査法人の主張】
日銀考査は,個別金融機関との契約によって行われるものであるが,当該契約は日本銀行法44条に基づくものであり,契約を締結しなければ,日銀と取引を行うことができず,結果,各種決済業務を行うことができなくなることから,事実上強制されたものである。
日銀考査は,金融機関への立入調査などの手法により実施され,金融庁による検査に準じた調査が実施されるものであり,また,金融機関の関連ノンバンクに対する償却については,他の金融機関における処理を比較して実施していることから,当時の金融機関における償却引当の実務を忠実に反映していた信頼性の高い考査であった。
本件の場合,日銀考査は,平成10年3月末を基準日として,同年5月から6月について実施されたが,その日銀考査の結果は,長銀が平成10年3月に行った自己査定と大きく食い違っておらず,むしろ,第一ファイナンスやジャリックにおいては,日銀考査の方が自己査定よりもⅠ分類債権が多かった。
また,長銀の第一住宅金融株式会社に対する約2672億円の債権放棄が平成8年3月期において有税扱いとされている事実は,銀行が関連親密先について事業廃止を予定している場合も,税務当局が銀行による損失時期の恣意的な選択を許さない立場から,具体的に清算等を実行した時点でしか無税償却を認めない扱いをしていたことを示していた。
さらに,日本興業銀行における住専に対する債権放棄の有税扱いの可否について,地裁・最高裁が無税,高裁が有税というようにその判断が分かれるという状況であった。
したがって,平成9年9月当時において,長銀が本件関連親密先に対する債権について無税償却しなかったことを許容し,証明したとしても,被告監査法人に故意又は過失はない。
【原告らの主張】
主張は争う。
(5)  争点(5)被告Y3らの無過失について
【被告Y3らの主張】
仮に,被告Y3らが主張する「公正なる会計慣行」とは異なる会計基準により,違法な会計処理であると認定されたとしても,被告Y3らは,当時の会計慣行に従った会計処理を行ったのである。
また,その会計慣行が適法なものと信じた根拠について,これまで述べてきたように,商法上の法解釈や税務上の指針,大蔵省などの行政の見解に従ってきたもので,類似の民事事件と刑事事件とでも判断が分かれているところである。
したがって,このよう会計処理は,「公正なる会計慣行」と信頼できるものであったから,被告Y3らは,無過失である。
【原告らの主張】
主張は争う。
(6)  争点(6)損害及び相当因果関係について
【原告らの主張】
ア 主位的主張
(ア) 平成10年10月10日よりも前に株式を処分した原告らの損害額は,「取得額から処分額を控除した残額」である(別紙損害一覧表1の原告ら番号15,24,25の欄参照)。
本件半期報告書における虚偽記載と,処分時に取得時よりも株価が下落していたこととの間には,相当因果関係がある。
(イ) 株式を処分していない原告らの損害額は,「取得額から口頭弁論終結時における時価を控除した残額」であるが,長銀株式は,平成10年10月10日,特別公的管理開始決定により時価が0円に確定しているので,その金額は「取得額」そのものとなる(別紙損害一覧表1の原告ら番号15,24,25以外の欄参照。なお,甲23・570頁2行から7行及び,甲第22・284頁9~14行,同285頁 注(9),甲24・513頁,517頁注(7)参照)。
イ 予備的主張
購入価格と,購入当時粉飾がなければ形成されていたであろう価格との差額を損害として主張する。
上場株式の市場価格は,多数の不確定な要因で形成されているものであり,本件想定価格を立証することは,その性質上極めて困難であるため,民訴法248条が適用されるべきである。
裁判所が相当な損害額を認定する際の一つの算定方法として,類似業種比準方式が考えられる(甲62)。類似業種比準方式は,非公開大会社の株価を鑑定,算定する際に一般的に行われている方法である。
ウ 被告への反論
長銀は,健全な銀行が風評などによって予想外の破綻をしたものではなく,虚偽記載によって隠蔽していた真実の経営状況が露呈したために破綻したのである。
【被告らの主張】
ア 本件半期報告書には,前記のとおり,平成10年3月期決算において多額の貸倒引当金繰入れが見込まれる旨の追加情報があるから,当時の株価はこれを織り込んだ価格になっていたはずであり,本件半期報告書の貸倒引当金の数字に虚偽があったことと,株価の下落との間には因果関係がない。
すなわち,自己査定の導入により平成10年3月期には償却・引当の大幅積み増しが予定されていたことは証券市場において公知の事実であり,かつ,本件半期報告書自体でも平成10年3月期年度末決算での償却の大幅積み増しが予定されていることが追加情報によって開示されていたのである。原告らは,これらの情報が開示された後に長銀の株式を購入しており,この時点で,平成10年3月期に大幅に貸倒引当金が増加するという予測も含めて市場価格が形成されていたことは明らかである。実際に,長銀は,平成9年11月25日に,中間期決算短信の参考資料中で「自己査定制度が導入される平成10年3月期に貸倒引当金を3600億円以上,大幅に積み増すことになる。」旨公表し,その直後に株価は大幅に下落していた(被告Y10)。
さらに,平成10年2月以降は,「金融ビジネス」「財界」「経済界」「週間東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「日経ビジネス」「投資経済」等の経済誌,週刊誌「サンデー毎日」が,相次いで,資産自己査定により,長銀の貸倒引当金が大幅な積み増しとなる見通しであることや,それに伴う長銀株の株価下落に基づく株式評価損の計上等についての予測記事が掲載されており,原告らが株式を購入した当時の株価は,本件半期報告書に計上された貸倒引当金の金額だけでなく,後発事情も考慮して決定されていた(被告Y10)。
そして,長銀は平成10年3月期において貸倒引当金を大幅に積み増している(被告監査法人)。原告らの過半数は,長銀の平成10年3月期決算が公表された同年5月以降に株式を取得しており,この当時の株価には,なおさら,償却・引当の大幅な積み増しは織り込まれている。長銀は,本件中間期の後に,拓銀破綻などによる平成9年から平成10年にかけての金融システムに対する極度の不安,平成10年6月を中心として,法の不備を突いた外資による長銀株の空売り攻勢及び行政的・政治的思惑が複雑に絡み合った結果,特別公的管理開始決定を受けているのであり,「虚偽記載」が明らかになったことにより,長銀が公的管理となったという関係にはない(被告監査法人)。
イ 原告らは,虚偽記載がなければ株式を取得しなかったので,取得価額自体が損害であり,口頭弁論終結時に価値があればこれを控除すればよいと主張しているが,そのような主張を認めることは,実質的に証券取引法19条の適用を認めることになり,妥当でない。
すなわち,証券取引法19条は,有価証券の発行市場において,発行会社自身により不適切な開示がされると,発行会社以外による不実開示や流通市場における不実開示よりも不公正な資金配分が行われる蓋然性が高いことから,特に投資家保護のために定められたものであり,本件のような,有価証券の流通市場における責任又は発行市場における役員等の責任には適用されないものである。
ウ 原告らの主張する類似業種比準方式は,取引相場のない株式の評価方式であること,30%の減価をしていること(この減価は,非公開会社株式の評価において,換金性のなさを根拠に行われるものである。)から,何ら合理性のない算定である。
第3  争点に対する判断
1  認定事実
前記争いのない事実,関係各証拠(括弧書きしたもののほか,乙B5,7,乙F3ないし5)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認定することができる。
(1)  貸倒引当金の計上にに係る法令及び通達の変遷について
ア 商法
旧商法285条の4第2項(平成11年法第125号による改正前のもの。以下同じ。)は,会社の会計帳簿に金銭債権の額を計上するに当たり,債権の名目上の額を基準としつつも,取立不能の虞があるときは,その見込額を控除することと規定していた。
しかしながら,「取立不能ノ虞アルトキ」とはどのような場合をいうのかにつき,同条は何ら規定することがなく,その解釈の方向性としては,個別的な債権につき取立不能の虞につき個別的に判定する場合と,同種の集合的な金銭債権につき集団的又は全体的に判定する場合があると説明されていた。しかし,そのような説明によっても,取立不能の虞の有無及びその見込額を具体的,数値的にどのように評価するのかにつき,何らの指針も条文上,規定されていなかった。
他方,旧商法32条2項(平成17年法第87号による改正前のもの。以下同じ。)は,商業帳簿の作成に関する規定の解釈に当たっては,「公正ナル会計慣行」(以下,特に断りがなければ,片仮名を平仮名に改めて記載する。)を斟酌するよう規定しており,同法285条の4第2項の解釈に当たっても,同様に「公正なる会計慣行」を斟酌して解釈すべきものとされていた。しかしながら,ここでも「公正なる会計慣行」とは何か,いかなる会計慣行がこれに当たるかにつき,何らの解釈上の指針は明らかではなかった。
なお,長銀においては,「株式会社の貸借対照表,損益計算書,営業報告書及び附属明細書に関する規則の特例に関する省令」(昭和57年法務省令第42号)により,一般の株式会社に適用される「株式会社の貸借対照表,損益計算書,営業報告書及び附属明細書に関する規則」は適用されず,「長期信用銀行法施行規則」(昭和57年大蔵省令第13号)によるべきものとされていたが,同規則にも,回収不能な債権の貸倒引当金への繰入れに関する基準について,具体的基準を定めるところがなかった。
イ 企業会計原則
企業会計原則及び企業会計原則注解は,「企業会計の実務の中に慣習として発達したものの中から,一般的に公正妥当と認められたところを要約したもの」とされており,一般的には,公正なる会計慣行を要約したものと理解されている。
そして,企業会計原則の「貸借対照表原則四の(一)」では,「受取手形,売掛金その他の債権に対する貸倒引当金は,原則として,その債権が属する科目ごとに債権金額または取得価額から控除する形式で記載する。」と規定し,同注解18においても,「将来の特定の費用又は損失であって,その発生が当期以前の事象に起因し,発生の可能性が高く,かつ,その金額を合理的に見積もることができる場合には,当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰り入れ,当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部又は資産の部に記載するものとする。・・・発生の可能性の低い偶発事象に係る費用又は損失については,引当金に計上することはできない。」としている。しかし,この規定によっても,いかなる場合に,いかなる額を償却・引当すべきかの基準は明確となっているとはいえない。そのため,本件においては,企業会計原則そのものをもって「公正なる会計慣行」とすることはできない。
ウ 監査委員会報告
昭和40年4月6日付監査委員会報告第5号「貸倒引当金に関する会計処理及び表示と監査上の取扱い」(昭和51年4月6日改正,甲60)は,貸倒引当金の会計処理及び会計監査における基準を示している。
その中の「1 意義及び性格」によると,「企業は決算に際し期末における債権についてその回収可能性を検討し,合理的かつ客観的基準に基づいて貸倒見積高を算出し費用に計上しなければならない。対象債権は,右記費用計上に当たって直接減額されることなく,貸倒引当金として引当計上されることにより間接評価される」と規定し,「解説」においては,そのⅢ2(1)①において,「貸倒見積高算出の方法として示されているところは単なる例示にすぎずこのいずれかによるべきものであることを要求しているものではない。重要なのは,期末における債権に対する将来の貸倒見積額をいかに適正に算出するかにあるのであり,種々の方法が考えられよう。
また,適正な貸倒見積高を算出することが目的であるから一定の算出基準を定めてその基準を継続して適用すればよいということにはならず,見積時の経済状況,金融状況及びその業種の状況等を常に勘案してその算定基準が適正な貸倒見積高を算出するものであるように補正をしなければならない。」と記載し,同②では,
「a 総括的に見積もる方法
イ期末残高に一定率を乗ずる方法
ロ個々の勘定ごとに主として年令調べによって算出する方法
(注)税法規定による貸倒引当金は右記イの方法に属するものと考えられる。
b 個別的に見積る方法
個別的に債務者ごとに債権の取立見込を実地に調査して貸倒見積額を算出しかつ個別的に管理する方法
(注)税法の債権償却特別勘定はこの方法に属するものである。
実務上は,右記の方法のうちいくつかを組合せた方法を採用している企業が多く見られるようである。」としている。
もっとも,上記基準のうち,長銀をはじめとする金融機関は,貸倒引当金の算定について,いわゆるaの総括的に見積もる方法のうち,イを採用しており,後述する決算経理基準においても,この方法が採用されていた。
一方,bの個別的に見積もる方法は,後述する法人税基本通達9-6-4により無税償却を行う場合がこれに当たるが,これは,貸倒引当金の見積方法としてはむしろ例外的な処理であった。
エ 税法及び法人税基本通達
税法は,一般貸倒引当金及び債権償却特別勘定として,一定額を税法上の損失と定めている。そして,以下のような経緯により,無税の間接償却が形式的基準からだけではなく,実質的基準からも認められるようになった。
昭和25年,法人税基本通達(直法1-100)により,貸金が回収不能と認められる場合について「実質基準による直接償却」が認められることとなった。また,昭和29年に「売掛債権の償却の特例について」(直法1-140)により,一部切捨につき債権の貸倒の特例-4として「形式基準による直接償却」を認めるとともに,債権償却引当金勘定の設定につき債権貸倒の特例-1として「形式基準による間接償却」を認め,昭和39年の法人税基本通達の改正により,条文が整備された。
そして,昭和42年,法人税基本通達の改正により,それまで,形式基準でしか認められていなかった無税の間接償却が,債務超過先等にかかる貸金債権についても,実質基準に基づいて認められるようになり,国税庁長官発昭和44年5月1日直審(法)25(例規)において,法人税基本通達9-6-4として整備された。
昭和57年4月1日付蔵銀第901号通達「普通銀行の業務運営に関する基本事項等について」の決算経理基準(平成10年6月8日付蔵銀第1443号通達により同月10日限りで廃止。)は,銀行が遵守すべき経営姿勢,営業所,営業日と営業時間,資産運用,経理,認可届出など銀行経営を詳細に規制したもので,決算経理基準は,銀行の決算経理の実務を規制するものであった。
決算経理基準においては,貸倒引当金の計上の仕方についての規定があり,その内容は,「①回収不能と判定される貸出金及び最終の回収に重大な懸念があり損失の発生が見込まれる貸出金については,これに相当する額を償却するものとする。なお,有税償却する貸出金については,その内容をあらかじめ当局に提出するものとする。②貸倒引当金(債権償却特別勘定・・・を除く)は,税法で容認されている限度額を必ず繰り入れるものとし,・・・③債権償却特別勘定への繰入れは,税法基準のほか,有税による繰入れができるものとする。なお,有税繰入れをするものについては,その内容をあらかじめ当局に提出するものとする。」(争いのない事実(6)ウ)とされていたが,貸倒引当金の計上にあたっては,法人税法及び法人税基本通達との関係が問題となった。
旧法人税法52条1項(平成13年3月30日法律第6号による改正前のものを指す。以下同じ。)は,「内国法人が,その有する売掛金,貸付金その他これらに準ずる債権(略)の貸倒れによる損失の見込額として,各事業年度において損金経理により貸倒引当金勘定に繰り入れた金額については,当該金額のうち,当該事業年度終了の時における貸金の額を基礎として制令で定めるところにより計算した金額に達するまでの金額は,当該事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入する。」と規定し,これに対応して,旧法人税法施行令97条3項(平成10年3月31日政令第105号による削除前のものを指す。以下同じ。)は,「金融及び保険業 千分の三」として,損失の見込額を定率的に定め,又は過去3年分の経験値による貸倒見込額のいずれかに限定しており,長銀もこの規定に従って,貸倒引当金を計上していた。
また,貸倒引当金の計上との関係で,法人税基本通達は,法人税法上の規定のほかに,損金処理が認められる場合を規定していた。本件との関係でいえば,法人税基本通達9-4-2及び同通達9-6-4がこれに当たる。
法人税基本通達9-4-2は,以下のとおり,無利息貸付についての寄附金課税の例外を規定していた。
「法人がその子会社等に対して金銭を無償又は通常の利率よりも低い利率で貸し付けた場合においても,その貸付が例えば業績不振の子会社等の倒産を防止するために緊急に行う資金の貸付で合理的な再建計画に基づくものである等その無償又は低い利率で貸し付けたことについて相当な理由があると認められるときは,その貸付は正常な取引条件に従って行われたものとする。」
この規定により,金融機関の関連ノンバンクに対する損益支援等は,税法上,寄附金ではなく,損金として処理することが許容されることになった。もっとも,この規定は,「合理的な再建計画に基づくものである等」,「相当な理由があると認められるとき」という文言により「支援」について損金処理が認められる場合につき一定の要件を付し,無税償却が認められる範囲を限定していた。また,この規定は,当期において支援を実施することを前提としていたため,将来の支援予定分については適用がないとされていた。
法人税基本通達9-6-4(昭和55年12月25日直法2-15(例規)によるもの。なお,平成10年6月23日課法2-7(例規)による改正前のものを指す。)は,法人の有する貸金等に係る債務者が「債務者につき債務超過の状態が相当期間継続し,事業好転の見通しがないこと,当該債務者が天災事故,経済事情の急変等により多大の損害を被ったことその他これらに類する事由が生じたため,当該貸付金の相当部分(おおむね50%以上)の金額につき回収の見込みがないと認められるに至った場合」には,「その回収の見込みがないと認められる部分の金額」をその該当することとなった事業年度において損金経理により債権償却特別勘定に繰り入れることができると規定していた(争いのない事実(6)エ)。
これにより,税法においては,個々の債権を直接評価することは行わないとする原則に対し,例外として,法人税基本通達9-6-4に示されている上記事由に該当する場合は,債権償却特別勘定に繰り入れることが許されることとなった。すなわち,この通達により,実質基準による無税の間接償却が認められることとなったのである。
ただし,その運用に際しては,課税対象法人によって利益調整の方法として利用される可能性があったため,税務当局は一貫してその適用範囲を明確にし,恣意的な利用がなされないよう厳格に対処してきた。金融機関については,後述する不良債権償却証明制度の実施要領の厳格な適用により,上記の法人税基本通達9-6-4の適用が制限されてきたものである。
オ 不良債権償却証明制度及び実施要領
平成5年11月29日付蔵検第439号「不良債権償却証明制度等実施要領について」(平成6年2月8日付蔵検第53号一部改正)(甲6の3)は,不良債権償却証明制度の運用に関する通達であるが,その中では,金融證券検査官による決算期末の審査における調査事項について,「要償却債権の全貌(申請債権のほか要償却債権の有無,その金額について調査する。)」とされている。この実施要領に規定された審査を経て承認が得られれば,法人税基本通達9-6-4が適用され,債権償却特別勘定への計上が認められることとなる。
債権償却特別勘定への計上が認められる要件として,「「事業好転の見通しがないこと」において,事業好転の見通しの有無は,事例に応じて個別的に判断するほかにないが,次に該当する場合は,「事業好転の見通しがない」と判断することは原則として適当ではないと考えられる。
a 合理的な合併計画や再建計画が作成中あるいは進行中である場合。ただし,9-6-5に該当する場合(引用者注:倒産手続の申立て及び手形取引停止処分があった場合)は,この限りではない。
b 債務者に対して追加的な支援(融資,増資・社債の引受,債務引受,債務保証等)を予定している場合」
と規定していた(争いのない事実(6)オ)。
この結果,債権償却特別勘定への繰入れが認められれば,決算経理基準に基づき,貸借対照表上は貸倒引当金として計上し,償却引当をしなければならないこととなった。
また,金融機関に対しては,決算経理基準に従いつつ,上記の支援額についてのみ,順次償却する計画的段階処理が認められていた。
もっとも,不良債権償却証明制度を利用するためには,上記のとおり,金融証券検査官が審査した上,大蔵大臣の承認を得ることが必要であり,,不良債権償却証明制度は,実施要領に基づき,厳格に運用されていた。すなわち,「金融機関等が必要な償却を行い,資産内容の充実を図ることは望ましいが,証明官の審査が厳に失し,あるいは寛に流れるときは本制度の本来の意義を失うおそれがあるので,税務当局と密接な連絡を保ちつつ,適正且つ慎重に審査を行うこととする。」とし(甲6の3),慎重な審査・運用が行われていた。
なお,決算経理基準においては,前記のように,債権償却特別勘定に繰り入れなくとも,有税償却(企業会計上は損失として経理することが認められるが,税務上は当期の損金としては認められない債権の償却)を任意で行うことも認められていた。
もっとも,本件当時の金融機関は,無税償却が認められる限度で貸倒引当金への計上を行い,かつ,法人税基本通達9-4-2により,関連ノンバンクの支援については,支援損として計上し,税法上の損金処理を行うのが一般的であり,有税による引当償却も,会計上の不利が大きいことから,あまり活用されてはいなかった。
本件との関連でいえば,当時としては,支援先を有税償却の対象とすること自体,支援を決定していながら,損金として貸倒引当金に計上することとなり,自己矛盾に当たると考えられており,さらには,貸倒引当金に計上するような支援を行うこと自体,回収不能の虞を認識しながら支援を行うことになるため,背任行為に当たるおそれもあると指摘されていた(乙A2)。
なお,事業好転の見込みの判断要素の1つとなる大蔵省の金融検査における資産査定の分類基準について,以下の通り定義されていた(甲6の2)。
Ⅰ分類 Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ分類以外の資産
Ⅱ分類 債権確保上の諸条件が満足に充たされないため,或は信用上疑義が存する等の理由により,その回収について通常の度合を超える危険を含むと認められる債権及び何等かの理由により銀行資産として望ましくないとされる債権。
Ⅲ分類 最終の回収又は価値について重大な懸念が存し,従って損失の発生が見込まれるが,その損失額の確定し得ない債権(Ⅲ分類額の50%相当額は正味自己資本算定上損失とする。)。
Ⅳ分類 回収不可能又は無価値と判定される債権。
この定義とほぼ同内容の定義が,後述する資産査定通達や金融検査マニュアルにも採用されていた(ただし,分類は,正常先,要注意先,破綻懸念先,実質破綻先,破綻先と5分類とされている。)。
この資産査定の分類との関係で,平成7年4月13日付検査官宛事務連絡「当面の貸出金等の査定におけるⅢ分類及びⅣ分類の考え方について」(以下「平成7年事務連絡」という。乙F2。なお,平成9年4月21日付検査官宛事務連絡により廃止。乙D3。)が出されている。これは,関連ノンバンクに対する貸出金の査定の考え方を含め,不良債権の内容について,より実態を反映した形で把握するため,Ⅲ分類及びⅣ分類の査定の考え方をまとめたものである。
平成7年事務連絡によると,関連ノンバンクの取扱いについて「原則として,営業貸付金の査定結果を親銀行の貸出金の査定に当たって,Ⅳ,Ⅲ,Ⅱ分類の順に充当する」と規定した上で,(注3)として「関連ノンバンクに対するⅣ分類と償却の関係については,当面,考慮せず査定作業を行うこととする。」と記載していた。これは,大蔵省の資産査定によってⅣ分類と査定されたことと,それを債権償却特別勘定に繰り入れ,貸倒引当金に計上し償却すべきかということとは,必ずしも関連しないことを意味していた。このことは,関連ノンバンクに対する再建計画の策定の有無によって区別はされていたが,その内容は大きく異ならなかった。ただし,再建計画が策定されている場合は,支援損等の計上が予定されている場合について,支援損相当額をⅣ分類とし,その他をⅡ分類とすることが許容されていた。
(2)  平成9年当時における会計の在り方について
ア 本件当時,会計処理については,いわゆる税法基準で行うのが一般的であるとされていた。税法基準とは,企業決算を税法の運用を前提にした内容でもって確定させる基準のことをいう。我が国の企業会計法制が,商法,証券取引法及び税法の各規制が相互に影響を及ぼし,あるいは牽制しあう「トライアングル体制」であり,税法基準は,企業の確定した決算を前提に法人税の課税義務を決することから根拠づけられる基準である。なお,税法基準は,金融機関以外にも,様々な業種の企業において,採用されていた(乙B2)。
イ 中間財務諸表は,一事業年度の上半期という独立の会計期間ではない期間について,有用な会計情報の提供が目的であって(乙F9),確定された決算数字を示すものではない。有用な会計情報とは,当該中間会計期間を含む事業年度の損益予測に資する会計情報のことをいう。ただし,中間財務諸表に基づく有価証券半期報告書についても,証券取引法上,虚偽記載や重要な事項の不実記載に対する刑罰や損害賠償責任についての規定が存在する。
ウ 自己査定基準は,平成10年4月1日から導入された早期是正措置に伴い導入されたものである。その策定に当たっては,資産査定通達や4号実務指針の分類に拘束されるというものではなく,合理的に説明できれば,資産査定通達と異なる内容のルールを定めることが容認されており,それぞれの金融機関の実情に沿ったより詳細な自己査定に関する基準を自主的に作成することが望ましいとされていた。
平成8年のいわゆる金融3法の制定により,早期是正措置の導入に伴い,自己査定基準の策定が求められたが,早期是正措置は平成10年4月1日から導入されることになっていた。そのため,平成9年当時は,自己査定基準は,トライアルの段階に過ぎず,実際に平成9年9月期中間決算において,自己査定基準を採用していたのは株式会社東京三菱銀行(現株式会社三菱東京UFJ銀行。以下「東京三菱銀行」という。)1行のみであり,長銀を含めた他の金融機関については,これを採用した例はなかった。すなわち,本件当時,早期是正措置に基づく通達等の適用はなかったものである。
(3)  本件中間期以降の会計基準の変容について
ア 自己査定基準導入の経緯
長銀は,平成8年3月期決算において,長銀系列の住専の1つであった第一住宅金融に対する2672億円の債権放棄について,無税償却を前提とした申告を行ったところ,課税庁により否認され,過少申告課税を含む更正処分を受けた。長銀は,平成8年9月,この処分に対して国税不服審判所に審査請求したが,平成9年10月請求棄却され,同年11月,さらに更正処分の取消訴訟を東京地裁に提起したが,前記のとおり,長銀が国有化されたため,訴えは取下げとなった。
平成8年4月から6月にかけて,長銀に対して,大蔵省による資産の検査査定が行われた。この資産査定は,大蔵省が銀行監督行政上の手段として4,5年に1度のサイクルで行われていたものである。
平成8年夏,いわゆる金融三法が成立し,不良債権処理の加速のため,平成10年4月1日より早期是正措置の導入されることに伴い,金融機関に対して,自己査定基準の策定が求められた。
平成8年11月11日,長銀の内部で「今後の不良債権処理について」(甲25)という常務会資料が作成されているが,これによると,同年6月の大蔵省による長銀に対する検査査定の結果が明らかとなり,関連親密先との関係では,Ⅱ分類が9904億円,Ⅲ分類が5140億円,Ⅳ分類が1961億円と査定されていた。Ⅳ分類の中には,ランディック,NED,長銀リース,第一ファイナンスが含まれていた。長銀の処理計画としては,NED,第一ファイナンスについては,将来的な清算を視野に入れつつも,企業維持が前提とされていた。そのほかの関連親密先についても,支援が予定され,平成9年度は,1460億円を償却処理する予定であった。
平成8年12月26日,大蔵省に設けられた早期是正措置に関する検討会より,「早期是正措置に関する検討会中間とりまとめ」が公表された。ここでは,自己査定ガイドラインや有税償却の活用のために,税効果会計を導入することなどの提言が盛り込まれていた(甲29)。この中で,「各金融機関においては,このガイドラインをベースに創意・工夫を生かし,それぞれの実情に沿ったより詳細な自己査定に関する基準を自主的に作成することはむしろ望ましい」として,自己査定基準の策定に当たっては,資産査定通達のガイドラインを前提としつつも,各金融機関の一定程度の独自性が認められていた。
平成9年3月5日付蔵検第104号「早期是正措置制度導入後の金融検査における資産査定について」(資産査定通達,甲7)は,早期是正措置制度の導入に伴い,平成10年4月1日以降に適用されるものである。
これは,早期是正措置制度導入後の金融検査における資産査定が,金融機関による自己査定を前提として,より適切かつ統一的に行なわれるために作成されたもので,金融証券検査官宛に出されたものであった。また,金融機関に対し,自己査定のための体制整備を促すものであった。
ただし,金融機関の策定する自己査定基準に関し,債務者区分及びそれに基づく資産分類についての指針を示しているが,その分類結果に基づきどのような償却引当を行うべきかは言及していない。
平成9年4月15日付日本公認会計士協会銀行等監査特別委員会報告第4号「銀行等金融機関の資産の自己査定に係る内部統制の検証並びに貸倒償却及び貸倒引当金の監査に関する実務指針」(4号実務指針,甲8)は,日本公認会計士協会が,自己査定制度の整備状況の妥当性及び査定作業の査定基準への準拠性を確かめるための実務指針を示し,貸倒償却及び貸倒引当金の計上に関する監査上の取扱いを明らかにしたものである。資産査定通達と同じく,自己査定基準の導入を前提としているから,原則として平成10年4月1日以降に適用される。
ただし,4号実務指針は,平成9年9月期中間決算について,自己査定に係る内部統制を構築し,その旨表示した場合のみ適用されると規定されていた。しかし,後述するとおり,当時,ほとんどの金融機関で自己査定基準が導入されておらず,長銀も導入していなかったので,長銀においても適用されることはなかった。
平成9年4月21日付事務連絡として,「金融機関等の関連ノンバンクに対する貸出金の査定の考え方について」が金融証券検査官宛に出された。これによると,「関連ノンバンクに対する貸出金については,当面の方針として,当該貸出金の分類額が直ちに引当・償却に結びつけられるか否かは別にして,いわゆる母体行主義を前提とし,将来の親金融機関等の経営に与える影響等を総合的に把握することに重点を置き,査定を行っているところである。」との記載があった(乙D3)。
平成9年4月28日付「早期是正措置への対応と今後の不良債権処理について」(甲26)は,自己査定基準について大蔵省のガイドラインと長銀の策定した自己査定基準との対比を行った長銀の常務会資料である。この資料を基に,自己査定基準の策定及び不良債権処理のための対応が検討された。また,一般先と関連親密先とで,査定の基準や不良債権の処理方法について,異なる対応を取ることも検討された。
平成9年5月23日付「早期是正措置への対応について」(甲28)は,早期是正措置への対応をするための自己査定基準の策定及び不良債権処理の方針を検討した常務会資料である。この中で,関連親密先に対する長銀独自の自己査定基準の策定や自己査定トライアルに向けたスケジュールが検討された。
平成9年7月4日,不良債権償却証明制度が廃止された。これにより,銀行が不良債権の範囲を自ら認定し,引当金を積み増したり,償却を行うかどうかを自ら決定できるようになった。同月11日,この廃止を受けて,全国銀行協会連合会により,関連ノンバンク向けの「『資産査定について』に関するQ&A(案)」が作成され,各金融機関に送付された(甲17)。
平成9年7月31日付蔵銀第1714号により,決算経理基準の一部改正がなされた(甲5。ただし,この改正条項は,平成10年3月期決算から適用され,本件中間期決算には適用されない。)。この改正は,平成10年4月1日からの早期是正措置の導入に伴い,各金融機関が自己査定基準を策定し,それに従って償却引当処理を行うことになるから,それに沿うように表現を改めたものであった。
平成9年9月2日,「自己査定トライアル結果と97年度不良債権償却計画」と題する長銀の内部資料が作成された。これによると,平成9年6月を基準時とした長銀による自己査定トライアルの結果が明らかになり,これを受けて,平成9年度不良債権償却計画が策定されたが,平成9年9月期中間決算には,他の金融機関が東京三菱銀行以外,自己査定基準をまだ採用していなかったこともあって,トライアルの結果を反映させなかった(甲9)。自己査定トライアルの結果は,大蔵省の平成8年の検査査定の結果とほぼ同水準であったが,関連親密先との関係では,Ⅱ分類が全体で2700億円増加し,Ⅲ分類は200億円の増加,Ⅳ分類は,ほぼ同じ水準であった。
平成9年11月ころ,大蔵省は,再び決算経理基準を改正し,銀行の保有有価証券について,従来の低価法から原価法・低価法の選択制に変更した。
平成9年11月10日,常務会資料として「今後の当行グループ会社の管理・運営について」と題する書面が作成,配布された(乙B1)。この資料によれば,長銀は,関連親密先について,平成9年11月以降も,いわゆる母体行主義に基づいて,それぞれの自主性を重んじながらも,経営に関与し,支援していく方針を明らかにしていた。
平成9年11月25日,長銀は,本件半期報告に基づき,中間財務諸表に添付された中間決算短信にて,業績予想を行い,不良債権処理額の見込み及び債権償却特別勘定の残高予定額を記載し,発表した。その参考資料中,追加情報として,平成10年3月期決算において,自己査定基準の導入に伴い,貸倒引当金について3600億円以上の積み増し予想を記載したところ,これを受けて長銀の株価が下落した。
イ 平成10年以降の動向
平成10年3月期決算時,長銀は,本件中間報告書の業績予想のとおり,直接償却も含めて,本件中間期と比べて新たに5197億円の償却引当を行った(甲4)。そのうち,損益支援が認められたNED,長銀リース,ランディックを除いては,有税償却となった。これにより,結果的に,長銀は,約1333億円の課税負担を負った。
平成10年3月23日,長銀の内部資料として,「関連ノンバンク支援税務問題」と題する資料が作成された(甲11)。これは,平成10年3月期決算における支援計画の見直しと平成10年度の処理方針を検討するために作成されたものである。この中で,長銀リース及びランディックに対する支援の前倒し処理による終了,NEDに対する継続的支援が検討されていた。
また,第一ファイナンスについての不良債権処理の方針及び将来的な清算予定についても検討されていた。
平成10年4月1日,早期是正措置制度が導入され,自己査定基準の適用が始まった。これに伴い,資産査定通達,4号実務指針が適用されることとなった。長銀も,独自の自己査定基準を用いて,関連親密先の資産査定を行っていた。
平成10年5月21日から,平成10年3月期決算を基準とする日銀考査のため,日銀の検査官による長銀内部の立入検査が行われた。その中で,長銀の担当者と日銀の検査官との間で,長銀の自己査定基準の債権者の分類をめぐり,意見の相違がみられた(甲30)。もっとも,その結果は,後述するとおり,長銀の自己査定に基づく数字と,大きな差があったわけではなかった。
なお,日銀考査とは,日本銀行法44条に基づき,信用秩序の保持・育成などを目的に,取引先金融機関等の業務及び財産の状況について,当該金融機関等に日銀が立ち入って行う調査のことをいう。対象金融機関との契約に基づき実施されるものであるが,当該契約の締結は事実上強制されており,銀国監査当局による考査として大蔵省検査に準じた調査が行われている。日銀は,当該業務に専属する考査局を設け,都市銀行を含む全国の金融機関を対象に考査を継続して実施している。
平成10年6月22日,大蔵省から独立して,金融監督庁が発足した。そして,平成10年7月から9月にかけて,金融監督庁により,長銀に対して,金融検査として,平成10年3月期決算を基準時とする資産査定が実施されたが,NEDに対する支援,再建計画については,合理性有りとして,破綻懸念先と認められた(甲31の1,2)。
平成10年8月以降,金融監督庁において,金融検査マニュアルのとりまとめが始まり,平成10年12月22日,金融検査マニュアル中間とりまとめが公表された(乙D2)。
平成11年3月期決算において,長銀は,既に特別清算や会社更生を申し立てているNED,エクセレーブファイナンス,青葉エステート,日本リースについても,貸倒引当金の計上を行ったが,相当部分につき,有税引当となった。
平成11年法第125号による商法改正により,旧商法285条の4に第3項が新設され,市場価格のある金銭債権について時価主義の採用がされた。なお,この改正前の商法は,資産評価について,原則として額面主義を採用しており,金銭債権については,取得時価格主義(取得原価主義)をとっており,時価主義が一部について採用されたのは平成11年の商法改正以降であった。
また,平成11年3月期決算より,銀行については,税効果会計(有税償却に関して一定の要件を具備したものは,将来減額される税金相当額の繰延税金資産としての計上を認める会計方法)が前倒し導入された。これにより,貸倒引当金の有税償却・引当をした場合でも,会計上の不利は,解消されることとなった。
平成11年4月8日,金融監督庁より金融検査マニュアルの最終とりまとめが公表された(乙D4)。
平成11年7月1日付金検第177号「預金等受入金融機関に係る検査マニュアルについて」が金融証券検査官等を名宛人として発せられ,別紙として金融検査マニュアルが添付された。なお,これに伴い資産査定通達が廃止された。
この通達によると,金融検査マニュアルの性質について,「・・・金融検査マニュアルはあくまでも検査官が金融機関を検査する際に用いる手引書として位置づけられるものであり・・・,マニュアルの各チェック項目は,検査官が金融機関のリスク管理態勢及び法令等遵守態勢を評価する際の基準であり,これらの基準の達成を直ちに法的に義務づけるものではない。マニュアルの適用に当たっては,金融機関の規模や特性を十分に踏まえ,機械的・画一的な運用に陥らないよう配慮する必要がある・・・」との記載があった。
(4)  母体行主義及びメインバンク制度
ア 母体行主義
母体行主義とは,銀行が母体行責任を負う,いわゆる関連ノンバンク等の関係会社については,母体行がこれら関係会社の経営に特別の影響力と責任を有してその信用保証機能を負担することをいう。本件当時,それが金融システムの秩序を維持するため不可欠の仕組みとして認知されていた。そのため,決算経理基準の下においても,母体行が関係会社に対して有する債権については,偶発的損失のリスクが極めて少ないこと,経営に問題のある関係会社に対する母体行の「支援」としての債権放棄や追加融資が存在すること等の,一般債務者に対する債権の場合とは質的に異なった要素を考慮した会計方法が合理的会計方法として通用していた。
このシステムのもとで,銀行は企業に対してメインバンクとしての貸手及び株主であるばかりでなく,平常時においても,役員の派遣・人材の供給・営業機能の住み分け及び営業支援等により,企業の経営に深く関与し,確実にその企業を自行のグループ企業として位置づけてきた。
母体行主義のもとでは,メインバンクに求められているコーポレートガバナンスの担い手としての機能,他行が資金を供給する際メインバンクに求める事実上の信用保証機能は更に明確となり,メインバンク制度を容認して金融システムの安定の根幹としてきた行政の期待もメインバンクに対する以上に強いものがあった。
こうした母体行と関係会社の密接な関係は,金融取引の基本的ネットワークを形成し,母体行としての各銀行がこのシステムを維持することは,金融システム維持の根幹を担う基本ルールとして守られてきた。
計画的段階処理とは,支援の対象とする関係会社に対する貸出金については,大蔵省の金融検査において当該ノンバンク等に対する貸出金の査定分類がいかなるものであったかとは連動することなく,大蔵省の提出した再建計画に基づき各年ごとの支援額のみを順次償却していく決算処理のことをいう。
税務との関連では,銀行は関連ノンバンク等に対する複数年にわたる損益支援(債権放棄等)による再建計画を事前に国税当局に提出して承認を得た上で,これをその承認の範囲内で計画的に実行することにより,各年度の債権放棄等につき寄附金課税を受けることもなく,無税による償却が認められていた(法人税基本通達9-4-2)。
イ メインバンク制度
戦後の日本経済の発展成長過程では,企業に対する資金供給は間接金融を中心に行われてきた。
日本の間接金融の仕組みは,メインバンクを頂点として,多数の銀行が協調的に参加する形を取るのを常とし,これにより企業は銀行借入による安定的な資金調達を確保することができた。
メインバンクは,融資先企業の経営状態を常時監視するとともに(監視機能),その企業の信用度を「融資の実行」という形で他の銀行に伝達することにより(借用補償機能),他の銀行からの貸出を誘い出し,単独では満たし得ない企業の旺盛な資金需要を満たす役割を果たしていた。
このシステムのもとで,銀行はメイン先を超えた幅広い企業貸出基盤を形成でき,それが銀行の収益・審査能力に結びついていた。
反面このシステムにおいては,メインバンクは融資の安全性を事実上他の銀行に対し「保証」していることになるため,借入企業が経営危機に瀕した際は,率先して救済に乗り出すことが求められた。こうした暗黙の了解に基づく銀行間の協調関係が,我が国の金融システムの安全弁として働いていた。
我が国においては,大企業間で広範に「株式の持合制度」が存在した。
銀行についても取引先の株式保有が認められ,貸手及び株主の二重の立場から企業に関与することが可能であった。その結果,メインバンクは平時においては「声なき安定株主」の地位に留まっていたが,いざというときには大株主として,借入企業の経営に介入し得る権利を行使し,経営の判断・役員の派遣等を通じ,再建を進めるという役割を担ってきた。このような制度は,取引先に対し,資金の安定供給を確保するためにも,融資の安定性及びメインバンクとしての名声を維持確保するためにも有効であった。
(5)  本件関連親密先の財務状況と支援の実体について
ア 長銀の支援体力について
長銀の支援体力は,平成10年7月の金融監督庁の検査(資産査定通達及び4号実務指針をもとに,厳格に実施されたもの)によっても,平成10年3月期の自己資本は,約7871億円あり(甲4),要追加償却額2747億円と含み損1684億円を差し引いても,自己資本はまだ3440億円はあった(乙F17)。
長銀の年間業務純益は,約2000億円であり,有価証券や不動産の含み益,剰余金取崩可能額を勘案すれば,他の金融機関との協調融資を前提とする限り,支援体力に何ら不安はなかった。
長銀は,長期資金の安定供給のための専門銀行であり,また,その所要資金は主に金融債の発行(利付金融債,割引金融債)により賄ってきたため,証券市場に最も関係の深い銀行であった。
それに,本件中間期における長銀の投資適格の格付について,投資格付会社であるS&Pによる格付は,BBB+(BBB以上が投資適格),同じく投資格付会社のムーディーズでは,Baa2(Baa以上が投資適格)という格付であり,長銀の資金調達能力の面でも問題がなかった。
長銀が破綻した原因は,平成9年11月の山一證券,北海道拓殖銀行の相次ぐ経営破綻により金融不安があおられ,平成10年6月の月刊誌「現代」の記事による長銀に対する信用不安により,平成10年7月31日,S&Pの格付がBBB-から投資不適格であるBB+に,同年8月12日にムーディーズの各付けがBaa3から投資不適格のBa1に引き下げられたことも影響していた。これにより,金融債の主な購入先であった機関投資家が長銀の金融債を購入することが困難となり,長銀の資金調達の途が事実上閉ざされ,事業継続能力を喪失していった。また,平成10年2月以降,各種経済誌,週刊誌等により,長銀の貸倒引当金の大幅積み増しの見通しや株価下落による株式評価損の計上等について予測記事を掲載されるようになり,海外の投機筋から,長銀株が大量に空売りされ,株価が暴落した。そして,政府の方針として,銀行への公的資金注入に対する拒否反応という国民感情を重視して,公的資金注入による再建ではなく,金融不安を早期に脱するべく,政府の不良債権処理に対する姿勢をより積極的に見せるという政策的判断から,長銀の国有化が実行されることとなった。
このように,長銀の破綻の原因は,単に経営体力がないことを隠すために財務諸表の虚偽記載を行ったということよりも,他の金融機関の破綻による風評被害や外資による長銀株の空売り攻勢,金融不安を早期に乗り切りたいという政策運営の結果など複合的要因によるものであった。
イ 支援の意義
実施要領7(2)ハ②にいう「支援」には,債権放棄・現金贈与等による損益支援のほか,残高維持(返済期限の繰延べや借換え,新規融資を行うことにより貸付債権について即時回収を図らず,貸付額を一定に保つこと)・資金繰り支援・営業支援・人材派遣・恒常的な母体行としてのバックアップ体制の採用等も含むものとされていた。
長銀は,関連親密先に対する債務免除などの損益支援などについて,計画的段階的処理に基づき,大蔵省による承認を受け,法人税基本通達9-4-2の適用により,損金処理をしていた。
前述の母体行主義によると,経営不安に陥った関連親密先の再建のために,母体行として行うべき支援は,当該期の債務超過を収益支援により直ちに一掃するものでなくともよかった。その理由は,当該関連親密先の財務内容が雪だるま式に悪化している現状を回避し,他行の信頼を保てるレベルまで収益支援を行い,その後は,母体行としての恒常的な支援を続けることにより,収益力を回復させ,当該企業が自力で回復しうる体力を付けさせることで,支援の目的は達せられると考えられていたからである。
そして,長銀は,関連親密先に対して,自転が可能になったものも含めて,平成9年11月以降も追加支援の予定があった(乙B1)。それが,母体行の関連ノンバンクに対する態度として,当時,当たり前とされていたことであった。もっとも,このことにより,関連親密先の長銀からの借入が,他行からの借入と比して増大していくという状況になり,長銀への借入の依存度が高まっていたのも事実であった。
前述のとおり,平成10年5月から6月にかけて,長銀に対し,平成10年3月期を基準時とする日銀考査が実施された。このときの日銀考査は,自己査定基準導入後であったことから,資産査定等において,資産査定通達等を前提とする厳格な審査がなされた。しかし,その結果は,以下のようなものであった。
すなわち,NEDの平成11年3月期の支援予定額400億円のみ,Ⅳ分類と査定された。また,長銀リースについて96億3100万円,日比谷総合開発について189億1800万円,エル都市開発について577億6600万円と,それぞれⅢ分類に査定された債権が増えたものの,日本ランディック,日本リースについては,長銀の自己査定基準の結果とほぼ同じ査定であり,第一ファイナンス,ジャリックに至っては,第一ファイナンスが440億円あまり,ジャリックが620億円あまりとむしろⅠ分類の方が増えていた。
以上のように,自己査定基準導入後の日銀考査の結果は,長銀の自己査定の結果と類似していた。
ウ 関連親密先について
(ア) 日本リースグループ
a 日本リースは,昭和38年に設立されたリコー系リース会社であり,我が国最古のリース会社であった。昭和40年ころまでは,長銀は主力銀行に過ぎなかったが,昭和49年長銀の常務であったC氏の社長就任より,関連ノンバンクとなった。本件当時は,業界第2位のリース会社であった。
その後,日本リースは,流通業などの相次ぐ大型店舗の建設・出店などに対応して土地取得資金や店舗建設資金について融資業務も併せ行うことを通じ,営業貸付部門を拡大していったが,平成2年以降のバブルの崩壊により同部門における不良債権が拡大した。
長銀は,平成3年11月ころ,事業化などの所要資金について支援融資を行い,平成5年5月ころから,不稼働資産の移管のために受皿会社に対して支援融資を行った。
しかし,平成6年3月,日本リースの経営状況はますます悪化し,自力再建不可能として,長銀に対し支援要請をしてきた。
そこで,長銀は,平成7年3月期から期間3年で,1025億円の損益支援(債務者の損益の改善に繋がる現金贈与・貸付債権の放棄などの支援を行うことをいう。)を実施して,さらに日本リース自らが自社保有資産の含み益及び剰余金の取崩しにより不良債権の重みを克服し再び自転可能とする再建計画を策定し,国税当局から承認を得た。
長銀は,平成7年3月期に,初年度491億円の損益支援を実行した。すると,平成8年初めころ,日本リースの基礎収益力は,長銀の損益支援及び日本リースの自助努力の成果により,目標であった年間200億円に回復することが明らかになった。
そこで,長銀は,平成8年3月期に1098億円の損益支援を行い,さらに剰余金等の取崩しを実行することで,支援を計画より早めに終了させた。しかし,その後も,長銀は,長銀以外の金融機関からの借入残高を維持させるため,母体行として日本リースのために肩代わり支援を行うなどの支援を継続していた。
結果として,日本リースは,長銀の支援により自転可能となり,朝日監査法人による監査によっても,平成10年3月期の負債は2兆2192億8300万円で,純資産は237億5200万円であり,債務超過は認められなかった(乙F8)。
確かに,平成10年1月から3月ころにかけて,日本リースの新規リース契約が一時期ストップしてはいたものの,既存のリース契約は継続しており,金融環境が落ち着きを見せてきた同年4月ころからは,新規リース契約を再開した。
それでも,日本リースの経常利益は,平成9年3月期決算では18億7000万円,平成10年3月期決算では37億1800万円であった(乙F8)。
b ビルプロについて
ビルプロは,日本リースの担保物件の内,優良物件を取得し,これを開発・事業化することが主業務(後述するビルプロ3社,有楽エンタープライズも同様の業務をしていた。)であった。長銀は,担保対象不動産を移管させ,開発・事業化するという日本リースに対する事業化支援の一環として,ビルプロへの融資を行っていた。平成2年ころからバブルの崩壊により,地価が下落したため,ビルプロの経営状況が悪化し,平成6年3月ころまでには,長銀及び日本リースを除く多くの他の金融機関は,ビルプロに対する債権を債権買取機構に売却していた。しかし,長銀は,融資不動産の買取資金を融資しつつ,事業化が完了するまでは,返済条件の変更という形での残高維持を予定していた。長銀は,ビルプロについて,将来的には法的清算を予定しつつも,それまでは,企業が維持されるよう支援していた。少なくとも,本件中間期においては,ビルプロを清算する予定はなかった。
そして,長銀は,ビルプロについて,平成5年11月から同7年10月にかけて再建を行う第1次自主再建計画を策定し,取引金融機関に対しては期間中の約定弁済の猶予と金利の一部支払を要請したが,市況が依然として低迷していたため,同年11月から同9年10月にかけて再建を行う第2次自主再建計画を策定し実行中であり,人件費削減や大型物件の売却,賃貸物件の稼働率を向上させるなどの再建計画を実施していた。各金融機関も,上記再建計画の進行を見守っていた。
確かに,ビルプロの保有する不動産に関し,引取り後の地価下落により含み損失が生じていたが,事業化を進めることで,長銀は,金利等のキャリングコストの吸収に努めていた。また,ビルプロには,長銀からの短期借入金があったので,これを返済条件の変更という形での,残高維持が行われていた。
なお,長銀は,ビルプロの無担保債権部分約513億円について,平成10年3月期に引当実施したが,有税扱いとなった。
c ビルプロ3社(四谷プランニング,木挽町開発,竜泉エステート)について
ビルプロ3社も,平成5年11月に設立された長銀の保有物件の事業化及び活性化を主業務とする会社である。複合共同ビルの建設計画やパチンコ店舗建設計画等の事業化計画が存在した。前記ビルプロと同様の目的で,長銀は,融資を行っていた。
長銀は,ビルプロ3社について,金利の一部免除の支援を行い,不良債権処理の検討をしていた。ビルプロ3社も,逐次事業化を進めており,金利等のキャリングコストの回収に努めていた。また,長銀は,新規融資や返済条件の変更等の残高維持の支援を行っており,日本リースは,ビルプロ3社の借入債務について,保証予約を行っていた。
d 有楽エンタープライズについて
有楽エンタープライズも,主にパチンコ業者向け賃貸ビル建設の事業化を主業務としていた。日本リースの保有不動産の事業化のために,長銀は,融資を行っていた。有楽エンタープライズは,不動産の引取り後の地価下落により,保有不動産について含み損失が生じていたものの,逐次事業化を進めており,金利等のキャリングコストの回収に努めていた。長銀も,残高維持等の支援を行っていた。
(イ) NEDグループ
NEDは,昭和47年設立された,ベンチャー企業に対する融資を目的としたベンチャーキャピタルとしての機能を持つ長銀の関連ノンバンクである。NEDは,長銀自体の証券業務への進出と表裏一体の戦略として,次なる融資基盤の早期醸成のため必要なものと位置づけられており,NEDの役員12人中6人は,長銀出身者で占められていた。
NEDは,本業補完の観点から営業貸付部門に取り組んでいたが,この事業部門において,平成2年ころから,バブル崩壊や地価の下落により不良債権が増大していた。その後も,株価低迷や地下の下落が止まらなかったため,NEDは,保有資産の含み益を失い,経営状況は悪化していった。
長銀は,平成6年3月期から期間5年,損益支援総額1854億円の再建計画を策定し,国税当局から承認を受けて,支援を開始し,平成9年3月期までに1051億円の損益支援を行った。
しかし,その後も地価の持続的下落に歯止めがかからなかったため,新たな再建計画の見直しが必要となったことから,長銀は,平成10年3月期を起点に期間5年間で,総額2951億円の計画(当初計画から通算4002億円)を策定し,国税当局に届け出た。
国税当局は,後述する長銀リースの再建計画の見直しと時期が重なり,長銀リース,ランディック2社の支援の前倒し終了と輻輳することから,平成10年3月期は当初計画の承認残枠の範囲で損失処理を認めることとし,見直し計画は平成11年度に行うようにとの要請をしてきた。これを受け,長銀は,平成10年3月期,202億円の損益支援を行った。
なお,朝日監査法人(現あずさ監査法人)による会計監査は,平成9年3月期,同10年3月期とも適法意見であった。平成10年3月期において,NEDの負債は4976億円,純資産は,154億5300万円であった(乙F26)。
また,NEDは,平成9年3月期決算には13億0300万円,平成10年3月期決算には16億6800万円の経常利益を上げた(乙F25,26)。
なお,平成10年5月の日銀考査においてⅣ分類と評価された400億円の債権については,平成10年3月期における支援損の分割計上である。
また,青葉エステート及びその受皿会社8社の計9社については,NEDの再建計画及び同社の支援計画に組み込まれており,国税当局の承認も得て,平成14年3月期までの支援によりすべて処理される予定だった(甲11)。青葉エステートなど受皿9社については,NEDが借入債務について保証予約をしており,再建計画もグループ一体として作成していた。
なお,エクセレーブファイナンスは,NEDに対するファイナンスカンパニーであり,その資産はほぼすべてNEDに対する貸付金であった。
(ウ) 長銀リースグループ
長銀リースは,昭和61年に設立されたもので,船舶や航空機等の製造のために,大規模なファイナンススキームが海外において開発されて,長銀が国際業務の重要分野として,このスキームの一翼に参加した際のリース形態のファイナンスの受皿として,長銀の国際融資業務と一体をなし,補充する役割があった。
しかし,バブル崩壊により営業貸付金部門の不良債権が拡大したことから,長銀リースは,保有資産の含み益を失い,経営不振に陥った。
長銀は,平成6年3月期を起点に5年間,総額797億円の支援計画を策定し,国税当局の承認を得て,平成9年までの4年間に総額505億円の支援を実施した。
平成10年3月期,前記NEDグループと同様の理由により,支援計画の見直しが必要になったことから,同年3月期を起点に期間4年で総額1014億円の計画(当初計画から通算1519億円)を策定し,国税当局から承認を得て,同年3月期に441億円の損益支援を実施した。しかし,長銀としては,不良債権の前倒し処理を急ぐため,さらに798億円の損益支援を行い,見直しの損益支援を1年で完了した。その結果,長銀リース本体及び受皿会社の不良債権をすべて処理し(甲11),長銀リースは,自転可能な状態となった。
なお,受皿会社11社の債務は,長銀リースからの貸出しのみであり,長銀本体からの貸付けはないことから,長銀の独立の償却の対象外であった。また,長銀の支援計画の中には,受皿会社11社も長銀リースと一体として,支援対象としていた。
長銀リースの受皿会社11社の清算予定のため,債務超過予定額358億円について,長銀は,平成10年3月期に貸倒引当金として計上をしたが,有税となった。
長銀リースは,平成9年3月期決算には10億0500万円,平成10年3月期決算には10億4000万円の経常利益を上げ,平成10年3月期において,負債は,2293億6900万円,純資産は,18億4500万円であった(乙F23,24)。
(エ) ランディックグループ
ランディックは,昭和49年,賃貸ビル事業,マンション事業,不動産仲介業を行うため,長銀不動産の事業部門より営業譲渡を受けることで設立された。銀行にとって,不動産事業は,銀行業務を補完する必須の業務であり,設備資金などの長期資金の貸出しを本業とする長銀にとって,ランディックの不動産業務は,他銀行との差別化,取引先との接点強化の視点から不可欠の関連ノンバンクであった。
ランディックは,平成2年前半ころまでは,保有資産の含み資産により自力決算が可能であった。
しかし,副業の営業貸付部門において,バブル崩壊,地価の大幅かつ持続的な下落により,不良債権が増大していた。平成8年以降は,不動産市況の長期低落傾向により,ランディックは,経営不振となり,長銀からの支援が必要となった。
長銀は,平成9年3月期から期間5年総額1973億円の損益支援の計画を策定し,国税当局から承認を得た。
しかし,平成9年3月期に302億円,平成10年3月期には,計画の3年前倒しにより,1221億円の損益支援の実施をして,不良債権処理を完了させ,その結果,ランディックは自転可能な状態となった。その後は,長銀は,残高維持といった資金支援も予定していた。
芝中央ファイナンスは,ランディックが100パーセント出資する金融子会社であり,不稼働資産処理を一体として行っていた。ランディックは,芝中央ファイナンスの借入債務について保証予約をしており,長銀は,平成10年3月期,芝中央ファイナンスの債権について397億円を貸倒引当金として計上し,有税引当を実施した。
受皿会社13社及び不動産子会社6社の債務は,ランディックが貸付けをしているもので,長銀が直接融資を行っているものではないから,償却の対象外である。不動産子会社については,国税当局が不動産の評価損失については無税処理を認めないこととしているので,事業化や事業化物件の稼働率向上により,活性化を図っていた。
明和監査法人によれば,ランディックは,平成10年3月期決算において,債務超過も認められず,むしろ増益傾向であった。本業である賃貸ビル事業も,稼働率がほぼ100パーセントであった。
ランディックは,平成9年3月期決算には52億5400万円,平成10年3月期決算には2億1000万円の経常利益を上げ,負債は,4949億9100万円,純資産は,43億1900万円であった(乙F28,29)。
(オ) 第一ファイナンスグループ
第一ファイナンスは,昭和56年3月,金銭貸付及び金銭貸付の仲介業務を行うために設立され,信販会社との提携ローン等の業務を行ってきた関連ノンバンクである。第一ファイナンスの役員はすべて長銀出身者であった。第一ファイナンスの主な業務としては,有価証券の投資及び運用業務を目的として,長銀の取引先である事業会社や金融機関の株式の保有を業務としており,長銀関連会社に対する出資も行っていた。
第一ファイナンスは,貸出業務を拡大していたが,平成7年ころの関西系ノンバンクの破綻に伴い長銀以外の金融機関からの資金調達が進まなくなった。
第一ファイナンスは,平成7年7月,平成6年11月に設立されていた平河町ファイナンスに対し,正常貸付先債権及びこれに見合う借入金を移管して,長銀の1行取引とし,提携先であった新京都信販の提携ローン先からの回収業務及び大阪銀行等関西系銀行の関連ノンバンクの清算処理期間に合わせ,適切な回収を行い,回収の極大化に努めていた。
第一ファイナンスが長銀に代替して出資する機能は,有価証券保有という形で引き続き担っており,債権回収業務の完了にも相当な年数が必要であった。実際,第一ファイナンスの資産の約半分は,市場性のある有価証券であった。長銀は,母体行として融資面につきロールオーバー(折り返し融資)を実行し,新規融資や返済条件の変更による残高維持を行い,貸付金の回収・管理のために人材派遣等の支援を行っていた。
甲11によれば,第一ファイナンスは,将来的には清算する予定はあったようにみえるが,それは,早くても関西系ノンバンクの最終配当が行われる平成13年度以降のことであり,少なくとも本件当時は,企業維持の方針を打ち出していた。
なお,はまなす興産,すずらん恒産については,長銀本体からの貸付けはないことから,長銀の償却の対象外であった。
平成10年3月期決算において,長銀は,第一ファイナンスの繰越損失相当額部分138億円につき有税による引当(間接償却)を行った。
(カ) ジャリックグループ
ジャリックは,昭和45年,不動産売買情報提供などの仲介業務を行う日本不動産取引情報センターとして設立され,不動産担保金融,抵当証券業務にも進出していた関連ノンバンクである。
ジャリックは,不動産仲介部門をランディック流通販売に移管し,本件当時は貸出業務と株式保有業務とを主体にしていた。明和監査法人による監査済みの計算書類によると,債務超過もなく,黒字を上げて自転していた。
長銀は,ジャリックに対しては,残高維持などの資金支援を行っており,ロールオーバーに応じるなどの追加支援も予定していた。
ジャリックは,平成9年3月期決算には3354万7000円,平成10年3月期決算には2億2899万9000円の経常利益を上げており,純資産は,平成10年3月期において,3億3187万円であり,負債は782億8979万6000円であった(乙F30,31)。
なお,ジャリックの融資先であるジェーイーコーポーレーションは,長銀の直接の融資先ではないため,長銀の償却の対象外であった。
(キ) 日比谷総合開発等
エル都市開発は,平成2年8月に設立され,日比谷総合開発は,平成6年2月設立,平成7年には,軽井沢総合開発が設立された。いずれも,長銀ないし関連ノンバンクの担保不動産の事業化会社である。
これら事業化会社は,バブル崩壊によって生じた不良債権について,担保不動産を債務者から切り離し,その事業化により付加価値をつけて,事業収益を確保するため,不動産の売買・賃貸借・仲介・管理及び鑑定,住宅の建設,不動産に関するコンサルティング業務を行っていた。エル都市開発は主に長銀から,日比谷総合開発と軽井沢総合開発は,関連ノンバンク各社から,担保対象不動産を移管されており,取得に必要な資金については長銀が融資をしていた。長銀としては,不動産の事業化には計画の立案から竣工まで数年の期間が必要であるから,事業収益を得られるに至るまで,金利などのキャリングコストが不可欠であると考えていた。
しかし,バブル崩壊による地価の下落傾向に歯止めがかからず,日比谷総合開発等の事業化会社もその影響が避けられなかった。
長銀は,事業収益が得られるに至るまで金利等のキャリングコストについて,返済資金の融資による借換えによって残高維持の資金支援を行い,かつ追加支援を行う予定であった。各社は,優良物件を鑑定価格に沿って取得し,権利関係を調整の上,賃貸ビル・マンション等の開発・事業化を計画していた。
なお,平成8年の大蔵省検査では,日比谷総合開発等及びそのグループ企業に対する資産査定の評価は,Ⅱ分類の査定であった(甲13)。
エ 常務会の資料について
平成9年における自己査定トライアルの準備や結果を受けて作成された長銀の各種常務会の資料等(甲25等)は,関連親密先について,企業維持を前提とせず,現時点で法的に清算した場合の資産評価を記載した,いわゆる清算バランスに基づいて作成されており,関連親密先の現状の評価ではなく,仮に法的に破綻させた場合の評価を記載したものであった。また,当時,まだ採用されていなかった時価会計による資産査定を行い,自己査定基準において採用されるであろう,厳格な査定基準を当てはめたものであり,関連親密先の資産状況を極めて厳格に査定したものであった。
関連親密先は,いずれも本件中間期の時点では,法的に清算をする予定はなく,長銀としては,母体行として関連親密先に対する支援を継続し,少なくとも企業維持を図っていく予定であった。
(6)  被告らの刑事事件等の関連事件について
被告Y1,被告Y8及び被告Y9は,平成10年3月期決算の粉飾決算による違法配当を理由に証取法違反及び商法違反の罪により起訴され,第1審で有罪(東京地裁平成11年(特わ)第2139号,平成14年9月10日判決。甲65)となった(なお,控訴も棄却された。東京高裁平成15年(う)第1244号,平成17年6月21日判決参照)。
ただし,刑事事件の第1審判決の理由中においては,少なくとも平成10年3月期以前の会計慣行は,早期是正措置以降の新基準とは異なるとの認定がされた。すなわち,「早期是正措置が導入される以前の金融機関においては,不良債権償却証明制度において認められた限度において,貸出金等の償却・引当を行うのが一般的な傾向であったことは弁護人らが指摘するとおりであったと認められる。・・・平成10年3月期決算においては,早期是正措置制度を有効に機能させるために策定された,資産査定や償却・引当のあり方等に関する資産査定通達等の趣旨に沿った会計処理を行うべきであって,それ以前に許容されていた税法基準に従った償却・引当の方法であっても,この趣旨に反する会計処理は「公正なる会計慣行」と評価することはできない」と判示されている(甲65)。
他方,平成10年3月期決算に基づく配当が違法配当に該当するか否かが争われた民事訴訟においては,第1審(東京地裁平成11年(ワ)第28164号,平成17年5月19日判決。乙B4)及び控訴審(東京高裁平成17年(ネ)第3769号,平成18年11月29日判決。乙B8)とも,その判決理由中において,当時の会計慣行が税法基準であったとの認定がされ,関連親密先に対する支援につき損金計上が過少,違法ではないことが認定された。
なお,同種の事案である日債銀の民事事件においても,京都地裁は,税法基準が当時の公正なる会計慣行であるとして,株式取得者からの損害賠償請求を棄却し(乙F13),大阪高裁は,第1審の判断を維持して,控訴を棄却した(乙F14)。
2  争点(1)について
(1)  本件当時の「公正なる会計慣行」
上記認定事実によれば,本件で問題とされている平成9年9月の本件中間期当時,「公正なる会計慣行」とされていたのは,いわゆる税法基準に基づく会計処理であると認められる。
すなわち,銀行の貸出金については,原則として大蔵省検査によるⅣ分類と査定された貸出金について,無税による償却・引当の義務を負うこと及び関連ノンバンク向け貸出金に対する償却・引当については,銀行が関連ノンバンクに対する支援を継続する限り,償却・引当てを不要とする(但し,支援損の計上を通じて計画的段階的に処理する。)ことが決算経理基準を補充する一般的な会計慣行となっていたものであり,本件当時,この具体的基準は,商法32条2項を介し,「公正なる会計慣行」として法規としての効力を取得するに至っていたものというべきである。
もともと,会計慣行とは,一般的に広く会計上の習わしとして,相当の期間繰り返し行われてきた会計処理に関する具体的基準ないし処理方法をいうものと解すべきところ,企業会計の技術性や多様性に照らし,関係法令や通達の改変に伴い,その内容が実務の運用動向に応じて変化し,発展して行くことが前提とされていることは明らかであり,時と共に異なりうるものであることも明らかである。
すなわち,会計基準は,相対的なものであり,絶対的な概念はなく,当該企業会計の実態を反映しているものであれば,いかなる会計基準を採用してもよいといえる。例えば,資産を取得時の原価で評価するのか,会計時の時価で評価するのかは,会計処理の考え方の違いであって,そのいずれかが絶対的に正しいというものではない。また,会計基準の合理性は,経済活動の発展によっても,変化していくものであるから,事後的に会計基準の妥当性を評価するのではなく,あくまでも本件中間期に広く採用されていた会計基準の妥当性が判断されるべきである。
したがって,原告らの主張する新会計基準(改正後の決算経理基準をいうものと解される。)が本件当時,「公正なる会計慣行」として斟酌されるべきものかどうかは,それがその当時,唯一絶対の会計基準とまではいえないまでも,少なくとも,他の会計基準に比較して,会計「慣行」として確立したものであり,それが適正であったことが立証される必要がある。すなわち,この点は,当時の会計に関連する法令や通達などを手がかりとして,会計基準が実務上,どのように運行されていたかを検討することにより判断されるべきものである。
前記のとおり,「公正なる会計慣行」といえるためには,一般的に広く会計上の習わしとされていて(一般性),相当の時間繰り返して行われていること(反復継続性)が必要であると解すべきである。なぜなら,一般性を有していなければ,会計基準として,そもそも適切なものとはいい難い特殊な基準としか評価できないし,反復継続性がなければ,慣行としての規範性を有するとはいえないからである。
まず,会社の会計帳簿等を作成する上での根拠となる商法の規定をみると,旧商法285条の4第2項において取立不能のおそれのある金銭債権を控除すべきことについて規定があるものの,具体的な基準については規定がなく,同32条2項の文言からは,「公正なる会計慣行」にしたがって,会計に関する規定を解釈すべきとされているものの,何が「公正なる会計慣行」とされるかは,文言上明らかではないことは前記のとおりである。
また,企業会計原則及び同注解は,一般的に企業における「公正なる会計慣行」を明文化したものとされるが,貸倒引当金の計上については,いずれも具体的な算定基準を規定していないことから,やはり,「公正なる会計慣行」ということはできない。
銀行が実務運営の指針としていた通達である決算経理基準によると,貸倒引当金のうち税法上容認されている限度額については必ず繰り入れるものとし,債権償却特別勘定への繰入れは,税法基準の他,有税によってもなし得ると規定されていたことは前記のとおりである。
しかしながら,長銀を初め,殆どの銀行では,前記認定事実のとおり,本件中間期も法人税法施行令97条3項に基づき貸付債権の内3.0/1000を貸倒引当金として計上しており,税法上許容された範囲内という最低限度の要求は満たしていた。
また,法人税基本通達9-6-4の適用については,不良債権償却証明制度における実施要領の運用実態及び解釈が問題となるが,上記認定事実によれば,当時の大蔵省は,各金融機関が抱えている不良債権処理を推進することを目的としつつも,無税償却の範囲をできる限り厳格に解釈し,金融機関の抱える不良債権処理を進める一方で,債権の償却に関しては,税の徴収機関としての立場から,課税対象法人による利益調整の方法として利用されないよう,無税償却の恣意的な利用を防止すべく,無税の間接償却が認められる範囲を極めて限定して解釈していたものである。
また,関連親密先について,銀行が将来において事業廃止を予定していた場合でも,具体的に清算等を実行した場合にのみ無税償却を認めていたに過ぎず,このことは,長銀が平成8年3月期に第一住建に対する債権の償却を行った際も有税扱いとされた事実からも明らかである。また,本件中間期後に自己査定制度が導入された平成10年3月期決算においても,無税償却の範囲が制限され,関連親密先の債権の大半を有税償却しなければならなかったことも前記認定のとおりである。
そして,当時の大蔵省としては,不良債権処理のための制度は,法人税基本通達9-6-4による無税償却によるのでなく,債権放棄などを前提とした法人税基本通達9-4-2による運用,すなわち,貸倒引当金として個別に債権償却特別勘定に計上するのではなく,段階的処理に基づき,損益支援を寄附金とはせずに,損金扱いする例外規定の活用を通じ処理する方法を重視していたことが窺える。その理由は,バブルの崩壊により経営体力の落ちいていた関連ノンバンクの貸付金を一斉に回収することにより,関連ノンバンクが倒産し,結果的に親銀行の経営状況をも圧迫し,連鎖的に金融機関の破綻が生じることを恐れたからであろうと推認される。元来,銀行は,貸出先の資金需要に応え,与信をして経済活動の発展を図り,経営不振の事業者についても,その再建を援助して貸出金の回収を図ることが業務上の使命であり,貸出先の一時的経営不振により,直ちに貸出金の回収を図ったり,回収不能として回収を断念することは,慎重でなければならないとされ,特に,母体行主義のもとでは,関連ノンバンクへの支援を容易にするため,法人税基本通達9-4-2を活用することによって損益支援を損金扱いにして,事実上無税とする一方,上記のとおり,法人税基本通達9-6-4の適用範囲を制限し,個別的な償却引当を認めないとする運用をしていたのである。
不良債権処理を監督する主務官庁である大蔵省は,平成10年6月の金融監督庁の発足に至るまで,銀行業務につき強力かつ広範な監督権限を有し,その通達の示すところに従い,各銀行は決算処理を行うこととされてきたことも公知の事実であって,この基準が上記のような税法基準であったことは,これを否定することができないものである。
このように,税法基準は,主務官庁の方針そのものであり,その監督下にある金融機関は,その方針に従うのが最も合理的であり,かつ一般的であったといえるのであって,資産査定通達などを先取りした資産の自己査定による会計処理は,却って莫大な有税償却を行わなければならないことになり,これによる税負担の増大からくる会計上の不利益も無視できなかったということができる。そうであるとすれば,金融機関にとって,税法基準に基づき会計処理を行うのが最も一般的な会計基準であったということができる。
そして,税法基準による会計処理は,長銀のみならず他の金融機関や他業種の企業でも広く採用されていたのであり,早期是正措置の導入が行われるまでは,最も一般的かつ合理的運用であったと認められることから,一般的に広く会計上の習わしとして,反復継続して,相当の期間繰り返し行われていたということができる。
まして,有税償却は,課税負担が増加し,償却に必要な資金が倍増することから,ほとんど行われることがなかったことも金融機関における一般的な会計処理であったことは前記認定のとおりである。
また,関連親密先等の支援先に対する債権については,無税であれ有税であれ,償却の対象としないのが,当時の銀行実務であった。特に,母体行主義の下では,関連ノンバンク等に対して,継続的な支援を予定しているものであり,支援を約束しながら,貸付金を回収不能として貸倒引当金に計上して,償却の対象とすることは,矛盾した行動であり,場合によっては,背任的行為とすらされたからである(乙A2)。
以上のとおり,本件当時,税法基準による会計処理が一般的であり,貸倒引当金の計上については,税法上定められている限度を超えて,無税償却したり,有税償却を行うような慣行があったものとは認められず,原告ら主張の新基準が当時の「公正なる会計慣行」であったことを認めることはできない。
(2)  本件中間期以降の会計基準
他方,平成10年4月1日から早期是正措置に基づく自己査定基準が導入されることとされていたので,それに先立つ形で,平成9年7月ころから,同年6月を基準に自己査定トライアルによる資産査定が一部で実施されている。しかしながら,それは,あくまで試行段階であって,本件当時は,自己査定基準の導入が法令によって義務づけられていたものではないから,本件中間決算において,自己査定トライアルに基づく会計処理を行わなかったことが,違法となるものとはいえない。
前述のとおり,税法基準により,支援先については,原則として償却の対象外とするのが当時の会計慣行であった。そのような運用が,結果的に不良債権処理の足かせとなったとしても,この当時の会計慣行が不適切だったと法的に評価することまではできない。行為規範の遵守につき,事後的な規範によって判断することはできないからである。
本件中間決算期当時,平成10年4月1日に向けて,長銀が自己査定基準を作成し,その基礎となる資産査定通達によるトライアルを実行し,早期是正措置の導入に備えていたことは前記のとおりである。しかしながら,それが即座に「公正なる会計慣行」といえるほどに一般的なものであったかは,明らかではない。事実,本件当時,自己査定基準を前提とした会計処理を行っていた金融機関は,大手では東京三菱銀行1行のみで,ほかの金融機関は自己査定基準をいまだ採用してはいなかったことから,資産査定通達はもちろん,4号実務指針が本件当時に適用された事例はほとんどなかったといえる。この点からしても,改正後の決算経理基準(自己査定基準)は,平成9年9月期当時,いまだ,広く一般的な会計上の習わしとなっていたということはできない。
改正後の決算経理基準は,早期是正措置が平成10年4月1日より導入され,金融機関が自己査定基準に基づき,資産査定を行うようになり,平成11年3月期から有税による償却であっても会計上の問題を解消する税効果会計が導入されたことにより,初めて,会計慣行としての一般性を有するに至ったものと認められるのであって,この基準による会計処理が「公正なる会計慣行」となったといえるのは,早くとも,平成10年3月期決算以降,実際には,金融検査が大蔵省から独立した金融監督庁の手に委ねられ,金融検査マニュアルに則った改正後の決算経理基準に基づき,自己査定を厳格に審査する慣行が定着した後に,これが一般的な会計慣行になったというべきである。前記のとおり,行政上の資産査定の運用は,平成10年3月から同11年にかけて,極めて大きな変容をし,金融監督庁と税務をつかさどる大蔵省とが分離したことにより,税務とは切り離されて厳格な資産査定をし,関連親密先の実態を個別具体的に明らかにした上で,必要な償却等が行われるようになったものである。
よって,本件中間期当時は,自己査定基準が導入される前の税法基準による会計処理が,「公正な会計慣行」であったというべきであり,平成10年3月期から実施されるべき資産査定通達や4号実務指針の考え方を取り込むという慣行は,確立していなかったのである。
(3)  この点につき,原告らの主張は,自己査定基準の導入前であっても,資産査定通達や4号実務指針の考え方が採用されるべきであったというものであり,あるいは,従来からの会計基準そのものの変更はなかったとしながら,商法285条の4第2項の趣旨からして,回収可能性の見地から金銭債権を個別具体的に把握し,実質的回収可能性の判定によって,回収不能見込額が決せられるべきであったと主張するものである。そして,実施要領7(2)②のa項は,「合理的な」再建計画等との限定を付しているにもかかわらず,b項については,回収見込みのない追加支援でもよいという解釈は不合理であり,b項にいう追加的支援も,当然,それによって債務者の事業好転・元本回収が見込まれるようなものでなければならないと主張する。
確かに,金融機関が経営上の困難に直面した貸出先に対して支援を行うことは,関係者の努力により元本が回収されることを前提にしており,そのため,合理的な再建計画が実施されている貸付先等に対するものでなければならないことは主張のとおりであり,支援を行っても,将来の破綻がほぼ確実であると見込まれる貸付先に対する支援が相当でないことも主張のとおりである。
しかしながら,前記のように,税法基準によれば,債権の回収可能性を個別的,実質的に判断した上,回収不能見込額の引当を行うことは,原則として行われていなかったのである。
また,法人税基本通達9-6-4は,法人の有する貸金等に係る債務者が「債務者につき債務超過の状態が相当期間継続し,事業好転の見通しがないこと,当該債務者が天災事故,経済事情の急変等により多大の損害を被ったことその他これらに類する事由が生じたため,当該貸付金の相当部分(おおむね50%以上)の金額につき回収の見込みがないと認められるに至った場合」には,「その回収の見込みがないと認められる部分の金額」をその該当することとなった事業年度において損金経理により,債権償却特別勘定に組み入れることができたが,この無税償却に当たっては,所轄税務署長の認定が必要と規定されており(上記通達9-6-4),銀行については,不良債権償却証明制度が実施されていたことも前記のとおりである。しかるところ,その運用基準である実施要領(甲6の3)においては,7(2)ハ②において,「事業好転の見通しがないこと」について,事業好転の見通しの有無は,事例に応じて個別的に判断するほかにないが,次に該当する場合は,「事業好転の見通しがない」と判断することは原則として適当ではないと考えられる,として,a 合理的な合併計画や再建計画が作成中あるいは進行中である場合。ただし,9-6-5に該当する場合(引用者注:倒産手続の申立て及び手形取引停止処分があった場合)は,この限りではない。b 債務者に対して追加的な支援(融資,増資・社債の引受,債務引受,債務保証等)を予定している場合を規定しているところ,本件において,関連ノンバンクや,関連親密先に対し,長銀の支援が予定されていたこと,この中には,合理的な再建計画が大蔵省によっても承認されたものもあることからすれば,いずれも上記abに該当することが明らかである。
また,平成9年4月21日付事務連絡として,「金融機関等の関連ノンバンクに対する貸出金の査定の考え方について」が金融証券検査官宛に出されたが,これによると,「関連ノンバンクに対する貸出金については,当面の方針として,当該貸出金の分類額が直ちに引当・償却に結びつけられるか否かは別にして,いわゆる母体行主義を前提とし,将来の親金融機関等の経営に与える影響等を総合的に把握することに重点を置き,査定を行っている」との記載があり(乙D3),前記に説示した母体行主義やメインバンクシステムの下では,母体行がこれら関係会社の経営に特別の影響力と責任を有してその信用保証機能を負担し,それが金融システムの秩序を維持するため不可欠の仕組みとして認知されていたこと,決算経理基準の下においても,母体行が関係会社に対して有する債権については,偶発的損失のリスクが極めて少なく,「支援」としての債権放棄や追加融資が期待できることから,一般債務者に対する債権の場合とは質的に異なった要素が考慮できること,母体行主義のもとでは,メインバンクに求められているコーポレートガバナンスの担い手としての機能,他行が資金を供給する際メインバンクに求める事実上の信用保証機能が明確であり,メインバンク制度を容認して金融システムの安定の根幹としてきた行政の期待も強かったこと,こうした母体行と関係会社の密接な関係は,金融取引の基本的ネットワークを形成し,母体行としての各銀行がこのシステムを維持することが金融システム維持の根幹を担う基本ルールとして守られてきたことなどの諸事情を考慮すると,支援とは,対象とする関係会社に対する貸出金につき査定分類がいかなるものであったかどうかとは連動することなく,少なくとも,破綻の可能性が相当程度確実に見込まれる場合を別として,母体行等からの有形無形の経済的援助等のすべてを指すものというべきである。
すなわち,aの場合と異なり,母体行からの支援が予定されている場合は,上記のように,原則として事業の好転が見込まれ,債権の回収が期待できる状況が招来されることが事実上期待できるところから,aの場合と異なり,相当性,合理性要件等を規定しなかったものと認められる。
そこで,「支援」の解釈については,次のとおりに考えるべきである。
実施要領7(2)ハ②b項にいう「支援」とは,融資等の積極的な資金援助のみならず,債権放棄や人材派遣等も含む広義の「支援」をいい,必ずしもその内容について,元本回収の見込みがある等の合理性があることは規定上要求されていないが,これは,母体行主義等を前提とする以上,経営不振に陥った貸付先に対し,原則として支援が期待され,これにより事業好転も期待され,これにより債権回収が期待できるという事実上の期待の見込みがあるからである。したがって,破綻の可能性が相当程度確実に見込まれる場合を別として,母体行等からの有形無形の経済的援助等のすべてを指すものというべきである。
よって,実施要領の7(2)ハ②のb項の「支援」について,合理性の存在という文言にない要件を加えることは妥当ではない。
他方,支援体力の有無を「支援」の要件とするか否かも問題となるが,支援する側の母体行の当時の支援体力及び関連親密先の経営状況を総合的に考慮した上で,実施要領にいうところの「支援」と評価できるかどうか判断すべきであり,前記認定事実及び後記判断によれば,長銀は,これを有しているものと判断される。
3  争点(2)について
(1)  長銀の支援体力
本件において,長銀による「支援」があったといいうるか,以下,検討を加える。
第3の2(3)で述べたとおり,実施要領にいう「支援」を行うためには,母体行も,相応の支援体力を有していなければならない。もっとも,貸借対照表などから,客観的に債務超過に陥っていないなど事情が認められる場合には,原則として,支援体力があったと認めてよい。
この点,上記認定事実のとおり,長銀の支援体力は,平成9年9月期中間決算当時は,自己資本に余裕があり,平成10年3月期の貸借対照表上も債務超過には陥っていなかった。また,平成10年7月から9月にかけて実施された金融検査の結果を受けて,大蔵省から指示された要追加償却額や含み損の部分を差し引いてもなお,長銀の自己資本に余裕があったと認められる。
よって,本件中間期における長銀の関連親密先に対する支援体力は,十分にあったものといえる。
(2)  関連親密先に対する支援
支援の実効性の判断に当たっては,母体行の支援体力のほか,支援先の債務超過額,再建計画の期間,再建可能性の有無等を考慮する必要がある。ただし,前述のとおり,「支援」は,必ずしも合理的なものであることまでは要せず,客観的に「支援」の実が上がっていないような場合にのみ,「支援」といえないと判断されるだけである。したがって,元本回収の見込みが直ちにあるいは短期間に期待できるとまではいえなくとも,「支援」によって収支が持ち直したとか,企業維持に支障が生じていなければ,「支援」として評価してよいといえる。
上記認定事実によれば,関連親密先の経営状況について,不良債権が増大し,その先行きが懸念されつつも長銀による支援計画そのものは,存在したと認められる(甲11,乙B1)。その内容も,形式的な支援ではなく,関連親密先の経営の建直しや少なくとも企業維持を図るための支援であり,「支援」として実効性のあるものであったといえる。
上記認定事実のとおり,関連親密先のうち,日本リース,NED,長銀リース,ランディック及びジャリックは,数字の上では,経常利益を上げていた上に,日本リース,長銀リース,ランディック及びジャリックは,自力で経営を進めていたのである。それゆえ,長銀の支援は,関連親密先に対して,業績を好転させ,あるいは再建という目的にとって,有効であったといえる。また,母体行主義の下では,母体行の責任として,関連ノンバンクを維持し,業績を好転させていく役割があったのであるから,いわゆる企業維持が目的であっても「支援」と評価して良いのである。よって,関連親密先の経営にも関与したり,残高維持を図ることなど,消極的な支援であっても,実施要領の「支援」に該当するといえる。
以下,関連親密先の各グループごとに検討を加える。
ア 日本リースグループについて
上記認定事実によれば,日本リースは,長銀の損益支援によって,収益力を回復させ,いわゆる自転可能な状態になっていた。また,長銀は,追加的な支援も予定しており,日本リース本体の経営改善策とも相まって,今後の業績の回復も見込まれていたことから,事業好転の見通しがなかったとはいえない。よって,前述した税法基準を前提にすれば,法人税基本通達9-6-4に該当しないため,債権償却特別勘定に繰り入れることはできず,償却の対象であったとはいえない。
この点,原告らは,日本リースが新規リース成約のストップや資金ショートの可能性を指摘して,日本リースは既に破綻していたと主張する。しかし,平成9年11月当時は,山一證券の破綻などにより,本件中間期以降に発生した後発事情によって,すべての金融機関は危機にさらされ,このような状況下において,金融機関の貸出姿勢が消極的になるのは,むしろ,当然のことであるし,実際,他の大手リースも同様の対応をしていた。そのほか,新規リース契約の一時的なストップは,リース事業の拡大を一時断念するだけのことであり,既存のリース契約は継続していたのだから,日本リースが実質的に破綻していたことの根拠とはならない。
また,日本リースのグループ会社である,ビルプロやビルプロ3社,有楽エンタープライズについても,不良債権が累積し,赤字状態であったとはいえ,事業化計画がなかったとまではいえず,長銀も本件中間期において,清算する予定はなかったものである。ビルプロ等は,いわゆる事業化会社であって,プロジェクトファイナンスであったことから,事業が軌道に乗るまでは,赤字の状態が続くことは,当然のことであった。むしろ,長銀は,企業維持のために残高維持等の支援を予定していたことから,実施要領のb項の「支援」の予定があったといえ,法人税基本通達9-6-4には当てはまらず,回収不能見込額を無税償却することはできなかった。
原告らは,ビルプロ等について,事業化計画が存在しなかったと主張する。しかし,事業化計画は,プロジェクトファイナンスであって,相当程度の期間を要することから,本件中間期に計画が具体的に実現していないことをもって,事業化計画がなかったということはできない。
よって,長銀の日本リースグループに対する債権については,無税償却はできないので,貸倒引当金に計上することはできない。
イ NEDグループについて
上記認定事実によれば,NED本体は,再建計画の途中ではあったが,長銀の損益支援の影響もあって,経常利益は上げていた。また,NEDの再建のためには,なお追加の損益支援が必要であり,長銀は,その見直し計画も含めて策定済みで,大蔵省の承認も得ていた。よって,税法基準に照らすと,法人税基本通達9-6-4に該当しなかったため,債権の償却はできなかった。
また,青葉エステート及びその子会社8社についても,長銀が直接貸し付けているのではないから,長銀は直接償却の対象とすることはできず,また,NEDと一体となった再建計画が策定されていたことから,NED本体と合わせて償却の可否を考えるべきである。前述のとおり,NEDには,追加支援が行われ,償却することはできなかったことから,グループ会社だけとりあげて,個別に償却することはできない。
原告らは,青葉エステートやその子会社8社について,そもそも支援の対象にも当たらないと主張するが,NED本体と一体となった支援計画が承認されていた以上,支援先ですらないということはできない。
エクセレーブファイナンスについては,その資産は全てNEDに対する貸付金であり,NEDに対する長銀の損益支援により,NEDの手元資金が増加することで,この貸付金は回収可能な資産となる。換言すれば,NEDに対する支援により,結果的にエクセレーブファイナンスの支援にもなることから,実施要領にいう「支援」に該当する。よって,長銀のエクセレーブファイナンスに対する貸付について,法人税基本通達9-6-4の適用はないことになり,償却引当の対象とはならない。
ウ 長銀リースグループについて
上記認定事実によれば,長銀リースは,長銀の損益支援等により,再建計画が完了し,いわゆる自転可能な状態であった。そのため,本件当時の会計慣行であった税法基準によれば,合理的な再建計画があったといえ,法人税基本通達9-6-4に該当せず,また,自転可能であったことからも,事業好転の見込みがなかったとはいえないことから,有税による償却もできなかった。
また,長銀リースの子会社12社については,長銀からの直接の貸付がないことから,長銀の直接の償却の対象とはならない。そして,長銀リースが追加支援を受けており,子会社もそのグループとして,再建計画に組み込まれており,一体として評価すべきであるから,無税でも有税でも償却の対象とはならない。
エ ランディックグループについて
上記認定事実によれば,ランディックは,長銀の損益支援等により,再建計画が完了し,いわゆる自転可能な状態であった。そのため,本件当時の会計慣行であった税法基準によれば,合理的な再建計画があったといえ,事業好転の見込みがないとはいえないことから,法人税基本通達9-6-4の適用はなく,また,有税によって償却すべき場合にも当たらない。
ランディックは,経常利益だけをみれば,平成9年3月期と平成10年3月期とを比較すると,下降傾向にあったが,純資産はまだ十分にあり,原告らの主張するような経営破綻状態ではなかった。また,長銀も追加的な支援を予定していたことから,事業好転の見込みがなかったとはいえず,やはり,法人税基本通達9-6-4の適用はなかったといえる。
また,芝中央ファイナンスをはじめとする,ランディックの不動産子会社6社,受皿会社13社についても,長銀からの直接の借入がないことから,グループを全体として評価すべきである。となると,ランディックグループについても,ランディック本体の支援が完了していた以上,償却の対象とはならない。
オ 第一ファイナンスグループについて
上記認定事実によれば,長銀は,第一ファイナンスに対し,母体行として,残高維持の支援を行っており,また,企業維持のための追加支援の予定があった。そのため,本件当時の会計慣行であった税法基準によると,「支援」があった場合に該当するから,法人税基本通達の適用はなく,償却引当の対象とはならない。
確かに,第一ファイナンスの保有する有価証券が,平成8年の大蔵省の検査によって,Ⅳ分類と査定された。しかし,これは,平成7年事務連絡に基づく検査で,関連ノンバンクの資産査定は,償却・引当とは無関係に行われたものであり,保有有価証券については,低価法によって査定され,評価損をⅣ分類とされたが,これは,償却・引当に結びつくものではなかった。
また,すずらん恒産及びはまなす興産については,長銀からの直接の出資はないことから,長銀による償却の対象とはならない。それゆえ,そもそも法人税基本通達9-6-4の適用はない。
カ ジャリックグループについて
上記認定事実によれば,ジャリックは,本件中間期当時から,黒字を上げて自転しており,債務超過もなかった。長銀としても,ジャリックに対しては,残高維持などの資金支援やロールオーバーに応じるなどの追加支援を行っていた。よって,本件当時の会計慣行であった税法基準によれば,そもそも,経営状況が悪化していたわけでもなく,また,長銀による追加的な支援も予定されていたことから,法人税基本通達9-6-4の適用の前提を欠いており,償却引当の余地はない。
なお,ジェーイーコーポレーションについては,ジャリックの子会社であり,長銀による直接の貸付はなかったことから,長銀による償却の対象とはならなかった。
キ 日比谷総合開発等について
上記認定事実によれば,長銀は,日比谷総合開発等に対しては,担保不動産の取得のための融資のほか,残高維持等の支援を行っていた。事業化会社というのは,一種のプロジェクトファイナンスであり,事業が軌道に乗るまでの間,しばらく赤字が続くのは,むしろ当然のこととされていた。それゆえ,経営が破綻していると評価するには,事業化の計画がないか,実効性に乏しいものでなければならないというべきである。この点,日比谷総合開発等については,保有不動産について事業化計画が策定され,実行に移されている段階であり,事業は軌道に乗ろうとしていたところであって,長銀としても追加的な支援を行っていた。それゆえ,本件当時の会計慣行であった税法基準によれば,「支援」が行われていた場合に該当し,法人税基本通達9-6-4の適用はなかったことから,償却の対象とはならない。
確かに,不動産価格の下落によって,含み損を抱える事例も少なくはないが,それのみを理由として,不動産の事業化会社に合理性がないとはいえない。むしろ,不動産価格以外の付加的な価値により,収益を上げていくという意味では,一定の合理性のある事業といえる。
原告らは,日比谷都市開発等を不良資産を購入しただけの,実質破綻会社と主張するが,事業化会社を単に資産価値だけで破綻会社とはいえない。それに,事業化会社は,不動産価格の変動に影響されるが,本件中間期において,不動産価格の下落が続くのか持ち直しがあるのかは,判断が難しいところから,不動産価格の下落のみをもって,不良資産と断定するのは,早計に過ぎる。
以上によれば,本件の関連親密先は,いずれも長銀の支援によって回復基調をみせていたか,少なくとも企業維持が図られており,そのほか,将来における支援予定もあったことから,実施要領b項の追加的な「支援」を予定している場合に該当し,法人税基本通達9-6-4には該当しないことになる。
したがって,本件半期報告書において,関連親密先に対する貸付債権について,貸倒引当金を計上しなかったことについては,当時の会計慣行であった税法基準にかなうものであって,虚偽の記載であるとは認められない。
(3)  これに対し,原告らは,刑事裁判の供述調書等に添付された資料や常務会資料をもって,関連親密先は,既に債務超過に陥っており,実質的には破綻状態であったと主張する。しかし,これらの資料は,早期是正措置の導入に備えて,不良債権処理の促進を検討するために作成され,また,貸借対照表は,その時点において清算した場合を仮定したいわゆる清算バランスによるものであり,当該企業をその時点で法的破綻させたような場合の極端な評価方法であるところ,少なくとも,長銀としては,その時点において関連親密先を清算することは予定していなかったのであるから,その数字のみをもって関連親密先のほとんどが破綻状態にあったと評価するのは早計である。また,常務会の資料は,減損会計ないし時価会計を厳格に適用して,資産評価をしているが,本件当時は,資産評価について,いわゆる減損会計ないし時価会計ではなく,取得時価格会計が主流であったことから,清算バランスによる資産評価が必ずしも当時の「公正な会計慣行」と位置づけられていたわけではなかったから,被告らによる査定の結果の当否を後の時価会計といった基準を前提に判断することは,本件当時の実態を正確に表したものとはいえない。
(4)  仮に,減損会計や時価会計を用いて,資産評価をした結果が,最もよくその企業の資産状況及び経営状態を表すものであるとしても,本件当時,その会計方法が主流とはいえなかった以上,直ちに虚偽の数字を記載したとか,粉飾決算であったとかと評価することはできないのである。
仮に,関連親密先が実質的に破綻していたとしても,上記認定事実のとおり,長銀は,追加の支援予定をしていた以上,不良債権償却証明制度の承認を得ることはできなかったのであるから,原告らの主張するような貸倒引当金に計上し,無税償却をすることはできなかったはずである。
すなわち,関連親密先が実質的には,債務超過であったとしても,それが直ちに法人税基本通達9-6-4の適用対象となるのではなく,相当期間,債務超過が継続し,しかも事業再建の見込みがない等,前記要件が備わらなければならないのであり,実施要領の「支援」に該当すれば,すなわち事業再建の見込みがないとはいえない以上,この「支援」が認定できる限り,実質的に債務超過であっても,貸付債権について無税償却はできなかったことに変わりはないのである。
そして,大蔵省の資産査定において,Ⅳ分類とされた債権についても,それをもって,必ず貸倒引当金として計上し,無税償却の対象となるわけではないことは,平成7年通達のとおりである。本件当時は,大蔵省が銀行の監督行政として行う資産査定と,税法基準において不良債権償却証明制度が承認されるかということとは別の問題であった。
この点につき,原告らは,被告らの刑事事件の供述調書や公判調書及びそれに添付された長銀の常務会の資料をもって,関連親密先が実質的に破綻していたと主張する。しかし,原告らの引用する刑事事件の被告元役員らや長銀の元関係者の調書については,反対尋問を経ていない以上,その信用性が保障されているとはいえず,この供述のみから直ちに,本件半期報告書や関連親密先の会計が全て粉飾であり,関連親密先の経営状況が実質的に破綻していたと認めることはできない。また,刑事事件は,平成10年3月期決算についての平成10年に行われた金融監督庁による資産査定を前提とし,長銀の作成した自己査定基準の内容の当否が争われており,自己査定基準の適用のない本件とは,前提を異にする。
むしろ,長銀の刑事事件における金融監督庁のn検査官の証言では,金融査察などで,関連親密先に対する債権について,破綻懸念先とはされても,実質破綻先と評価されたものは少なかったと認められる。再建計画の見直しが必要であったNEDグループにおいても,大蔵省はその再建計画の合理性を認め,破綻懸念先に留めていた(甲31の1)。しかも,それは,平成10年3月期を基準とした資産査定においてのことである。同様のことは,同じく平成10年3月期を基準にして行われた日銀考査についてもいえることである(甲30)。その結果が長銀の自己査定の結果と大きく異ならなかったことは,前述のとおりである。そして,税法基準よりも厳しい基準で査定された金融監督庁の金融査察や日銀考査においても,刑事事件で問題視された長銀の自己査定の結果と大きな差はなかったのであるから,本件半期報告書の記載は,まさに税法基準に従ったものであり,その記載が虚偽であるとはいえないことが明らかである。
さらに,原告らは,被告らが「支援」の内容を明らかにしていないと主張するが,原告らが長銀の粉飾決算を主張する以上,原則としては,原告らの方が「支援」と評価できないことや,事業好転の見込みがないことを明らかにする必要があり,ひいては,決算書の虚偽性を立証する必要があるところ,これらの証明がないことも前記のとおりである。
(5)  また,原告らは,平成9年8月に実施された自己査定トライアルによる資産評価を前提に,会計処理を行うべきであったとも主張するようである。しかし,自己査定トライアルは,あくまで来たるべき自己査定基準に備えた試行期間に過ぎず,自己査定トライアルに基づく会計処理は,会計慣行として一般化されていたとはいえない。
よって,自己査定トライアルの結果に基づく財務諸表の作成が義務づけられていたとはいえず,このことから,長銀の関連親密先に対する「支援」がなかったということや,「支援」があったとしても不良債権処理を先送りにするだけの不合理なものであったということはできない。
また,上記認定事実のとおり,本件中間期後の平成10年3月期決算において,長銀は,本件中間期に比して5197億円増の貸倒引当金を計上したが,無税償却が認められたのは,支援損が認められたNED,長銀リース,ランディックのみで,その他は有税償却となった。また,長銀が既に国有化された平成11年3月期においても,相当額が有税引当となったことからすれば,仮に本件中間期に原告らの主張どおり,関連親密先について貸倒引当金を計上したとしても,不良債権償却証明制度の承認を得られず,そのため債権償却特別勘定の繰入れを認められないことにより,無税償却はできなかった可能性が高いのである。
この点につき,原告らは,長銀が関連親密先や経営の実態を隠蔽して有価証券報告書等を作成したから,有税償却にならざるを得なかったと主張する。しかしながら,繰り返し述べてきたとおり,本件当時の大蔵省が法人税基本通達9-6-4の適用について,不良債権償却証明制度の実施要領の「支援」を広義に解釈しており,不良債権償却証明制度の適用範囲を制限していたことから,長銀が原告らの主張どおりの貸倒引当金を計上しても,その全額について無税償却はできなかった可能性は高いのであって,長銀としては,実態を隠蔽するという意図などはなく,「公正なる会計慣行」とされていた税法基準に従って,関連親密先に対する債権を貸倒引当金に計上しなかったにすぎないのである。また,わざわざ関連親密先の実態を隠蔽せんがために,長銀にとって,課税負担が大きく,会計上の不利益も大きい有税償却を行うことが合理的な経営判断であるともいえない。
よって,原告らの主張には理由がない。
(6)  中間財務諸表の特殊性
中間財務諸表は,上記認定事実のとおり,中間会計期の期間損益や中間期末日時点での資産,負債を確定するものではなく,一事業年度の上半期という独立の会計期間ではない期間について,当該期間を含む事業年度の損益予測に資する有用な会計情報を提供するものである。そして,本件半期報告書では,監査証明の対象となる中間財務諸表自体の追加情報として,「銀行業の決算経理基準が平成9年7月31日に改正され,当事業年度末決算から適用されることに伴い,当事業年度末決算においては,資産の自己査定結果を踏まえた新たな償却及び引当金の計上基準を定め,その基準に基づき貸出金償却及び貸倒引当金を計上することになりました。この結果,当事業年度末決算においては多額の貸倒引当金繰入等が見込まれます。」と記載し,中間貸借対照表,中間損益計算書と当該追加情報を合わせて読むように注意を促していた(乙F18)。
中間期決算の性格からすれば,中間財務諸表は,一般投資家に対し,必ずしも確定的な数字を呈示しなくても,有益な会計情報を提供していればよい。
そして,虚偽記載か否かは,単に数字の相違だけではなく,それが重要な事項であり,一般投資家の誤解をもたらさないものか否かで判断すべきところ,平成10年3月期には,自己査定制度の導入により,従来より多額の有税引当を行うことになるべきことが確定的であった一方,どれほどの貸倒引当金が積み増しされるかは必ずしも明確ではなかったことから,年度末決算に多額の貸倒引当金を繰り入れするとの注記があれば,一般投資家であれば,年度末決算に多額の貸倒引当金の計上が行われることが想定できるのであるから,誤解をもたらすとまではいえない。なお本件中間期決算の数字が虚偽とはいえないことは,前述のとおりである。
そして,長銀は,実際に平成10年3月期決算において,多額の貸倒引当金を計上し,償却引当を実行している。その基礎となる数値も,上記認定した関連親密先の経営状況からすれば,税法基準による処理に従っている以上,不合理なものとまでいうことはできない。
また,原告らは,貸倒引当金の計上時期についても,支援の実施の決定時にすべきであり,実施時に先送りすることは許されないと主張する。しかし,原告らの引用する文献は,一般論として,独立の会計年度における損失の計上の先送りをすることは妥当でないとしていると解されるところ,中間決算では,独立の会計年度の途中で有益な会計情報を示すものであるから,損失として確定していない場合も考えられるのであり,必ずしも中間期に計上をしなければならないというものではない。会計情報としては,決算時に貸倒引当金の大幅な積み増しが予告されていれば十分と考えられる。
(7)  以上によれば,長銀の本件半期報告書における虚偽事実の記載を前提とする原告らの主張には,そもそも理由がない。
4  争点(6)の因果関係について
そもそも,原告らが長銀の株を購入した時期は,上記争いのない事実で述べたとおり,平成10年1月30日から同年7月3日にかけてのことであり(甲損1ないし59),長銀の株価は,既に,貸倒引当金を大幅に積み増すという本件中間報告書の注記の追加情報を受けて下落していた時期であった。また,原告らの一部は,本件中間期より平成10年3月期決算の内容をみて,長銀の株を取得したとも評価しうるのである。すなわち,長銀の株価が底値をうったとみて,株価の値上がりを期待した買いであることも考えられ,本件半期報告書の数字を信頼しての購入といえるかにも疑問がある。
また,長銀が国有化されるに至った原因は,本件中間期における粉飾決算というよりも,長銀を取り巻く金融環境及び金融行政の変化や当時の政府の政治的判断によるところも大きいといえることから,原告らに損害が生じた主たる原因は,本件半期報告書以外にもあるといいうるのである。そして,長銀の株価が0円となり,ほぼ無価値になったのは,国有化に伴うものであって,本件中間期における本件半期報告書の記載が,直接の原因になっているとはいえない。
よって,原告らが,本件半期報告書の記載内容に基づいて,長銀の株を購入したのかが明らかではなく,仮に何らかの損害が発生したとしても,因果関係は認められない。
よって,いずれにしろ,原告らの請求には理由がない。
なお,これは,終局判決である。
5  結論
よって,その余の争点を検討するまでもなく,本訴請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担につき,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判官 鳥飼晃嗣 裁判官 島崎卓二)
裁判長裁判官三代川俊一郎は,転補につき,署名押印することができない。裁判官 鳥飼晃嗣
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