「営業アウトソーシング」に関する裁判例(21)平成29年 3月 8日 東京地裁 平26(ワ)16874号 地位確認等請求事件
「営業アウトソーシング」に関する裁判例(21)平成29年 3月 8日 東京地裁 平26(ワ)16874号 地位確認等請求事件
裁判年月日 平成29年 3月 8日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平26(ワ)16874号
事件名 地位確認等請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2017WLJPCA03089004
事案の概要
◇被告との間で期限の定めがない雇用契約を締結していた原告が、被告からの意思表示によりされた本件解雇は、その理由とされた業績不良や能力不足などの解雇事由が存在しないことから解雇権の濫用として無効であり、また、原告が加入する労働組合の弱体化を狙って行った不当労働行為でもあるから強行法規である労組法7条違反の解雇としても無効であるとして、被告に対し、労働契約に基づいて地位の確認並びに解雇後に支払われるべき賃金等の支払を求めるとともに、本件解雇が不法行為に当たるとして慰謝料等の支払を求める事案
裁判年月日 平成29年 3月 8日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平26(ワ)16874号
事件名 地位確認等請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2017WLJPCA03089004
主文
1 原告の訴えのうち,本判決確定の日の翌日以降,毎月24日限り49万4100円,毎年6月10日限り78万2560円及び毎年12月10日限り76万2220円並びにこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6%の割合による金員の支払を求める部分を却下する。
2 原告と被告との間において,原告が,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
3 被告は,原告に対し,平成26年4月から本判決確定の日まで,毎月24日限り49万4100円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
4 被告は,原告に対し,平成26年12月から本判決確定の日まで,毎年12月10日限り76万2220円及び毎年6月10日限り78万2560円並びにこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
5 被告は,原告に対し,21万5849円及びこれに対する平成26年6月11日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
6 原告のその余の請求を棄却する。
7 訴訟費用は,これを3分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
8 この判決は,第3項ないし第5項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 主文第2項及び第5項と同旨
2 被告は,原告に対し,平成26年4月から毎月24日限り49万4100円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
3 被告は,原告に対し,平成26年12月から毎年12月10日限り76万2220円及び毎年6月10日限り78万2560円並びにこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
4 被告は,原告に対し,330万円及びこれに対する平成26年3月28日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
本件は,被告との間で期限の定めがない雇用契約を締結していた原告が,被告から平成26年3月10日に同月28日付けで解雇する旨の意思表示によりされた解雇(以下「本件解雇」という。)は,その理由とされた業績不良や能力不足などの解雇事由が存在しないことから解雇権の濫用として無効であり,また,原告が加入する労働組合の弱体化を狙って行った不当労働行為でもあるから強行法規である労働組合法(以下「労組法」という。)7条違反の解雇としても無効であるとして,被告に対し,労働契約に基づいて地位の確認並びに解雇後に支払われるべき賃金及び賞与並びにこれらに対する各支払期日の翌日からの商事法定利率年6%の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,本件解雇が不法行為に当たるとして不法行為に基づいて慰謝料及び弁護士費用相当額の損害金並びにこれらに対する不法行為日(本件解雇の効力発生日)からの民法所定年5%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか証拠又は弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実である(証拠によって認定した事実は,末尾に証拠番号を掲げる。)。
(1) 当事者
ア 被告は,明治44年(1911年)にアメリカ合衆国で創立された(省略)(設立時名称は(省略))の関係会社として,昭和12年6月17日に本邦において設立され,現在,情報システムに関わる製品,サービスの提供等を業とし,平成27年時点における資本金の額を1353億円とする株式会社である。
イ 原告は,昭和36年○月○日生まれの男性であり,昭和61年3月に私立α1大学経済学部を卒業し,同年4月1日,被告との間で期限の定めがない労働契約を締結した者である。(甲24の1ないし4,甲114〔3頁〕,弁論の全趣旨)
(2) 就業規則の定め
原告に適用される被告の就業規則の概略は,別紙1のとおりである。
本件解雇に関する規定として,解雇事由について「社員が,技能または能率が極めて低く,かつ上達または回復の見込みが乏しいかもしくは他人の就業に支障を及ぼす等,現職または他の職務に就業させるに著しく適しないと認められるときには解雇する」こと(就業規則53条2号),解雇手続について「前条の規定により会社が社員を解雇する場合には,30日以内に予告するか,又は30日分の平均賃金(労働基準法〔以下「労基法」という。〕12条に定める平均賃金をいう。以下同じ。)を支給して即日解雇する」こと(就業規則54条)が定められている。(乙1)
(3) 給与規程の定め
原告に適用される給与規程の概略は,別紙2のとおりである。
本件に関する主要な規定は,次のとおりである。
ア 給与の種類(給与規程2条)
本給(同条1号),裁量勤務手当(同条2号),専門職手当(同条3号),副主任手当(同条4号),勤務手当(同条5号),別居手当(同条6号),通勤費(同条7号),賞与(同条8号)等
イ 給与の計算期間(給与規程3条)及び給与の支払日(同4条)
通勤費,賞与及びGDP(Growth Driven Profit-sharing)を除く給与の計算期間は,本給,裁量勤務手当,専門職手当,副主任手当,海外出張特別手当,出向調整手当及び別居手当については当月1日から当月末日までとし,海外出張特別手当及び出向調整手当を除く勤務手当については前月1日から前月末日までとし,毎月24日(ただし,当日が休日に当たるときは,順次その前日に繰り上げるものとする。)に支払う。
ウ 本給の形態(給与規程13条)及び本給の支給方法(同14条)
社員の本給の形態は月給とし,欠勤,遅刻,早退及び私用外出の有無にかかわらず,月によって決められた金額を全額支給する。
エ PBC(給与規程20条)
会社は,社員の業績及び執務態度について,PBC(Personal Business Commitments。以下「PBC」という。)を行い,その手続,方法については別に定める。(乙3)
(4) 格付規程の定め
原告に適用される格付規程の概略は,次のとおりである。
ア 用語の定義(格付規程2条)
(ア) 職位 個々の職員に対して与えられた職務の内容
(イ) バンド 職位の等級を表す名称
(ウ) 格付 個々の社員の給与調整,専門職の給与調整及び本俸の調整
イ 格付及びバンド(格付規程3条)
バンドは10~2とし,職位及びバンドは被告がこれを定め,現在のバンドに照らしてふさわしくない業績あるいは執務態度が継続する場合又は懲戒処分を受けた場合には,バンドを降格することがある。
ウ 格付基準(格付規程4条)及び格付の発令(同5条)
格付は,職務内容,執務態度,業績,本給(ただし,バンド8,9及び10の専門職については本俸)を評定の基準として,所属長が行い,格付の発令は,被告が定めた給与調整期日の当月15日までに行う。
エ 本給及び本俸の調整(格付規程6条)
本給及び本俸の調整は,上記ウ(格付規程4条)の定める格付基準に基づいて,毎年,被告が定めた給与調整期日に実施し,賞与基準額及び定期俸基準額の調整についても,同様の方法による。上記格付基準に基づき,業績が職務内容に対して著しく低いと判断された場合には,本給,賞与基準額,本俸及び定期俸基準額を減額することがある。(乙2)
(5) 人事管理制度
ア 被告は,従業員の業績を示すPBCと称する評価制度(以下,同制度による評価を「PBC評価」という。)を設けている。
(ア) PBC評価は,従業員とその上司との間で年初に目標設定を行い,その目標に対する当該従業員の1年の達成度や会社に対する貢献度の評価を行うことを内容とする。
(イ) PBC評価の結果は,上から順に「1」(最大の貢献度を達成),「2+」(平均を上回る貢献度),「2」(着実な貢献),「3」(貢献度が低く,業績の向上が必要),「4」(極めて不十分な貢献)の5段階になっており,そのおおむねの分布は,「1」が全体の10~20%,「2+」及び「2」が全体の65~85%,「3」及び「4」が全体の5~15%を占めるという相対的な評価である。
(ウ) PBC評価は,ライン専門職により,以下のとおり定められる。
a 1 Among the top contributors this year(最大の貢献度を達成)
卓越した成果を達成し,特に際立った貢献をあげている,又は(省略)を真に体現できている社員と認められる場合に「1」と評価される。
b 2+ Above average contributor(平均を上回る貢献度)
職務上の責任を上回る成果,多くの同僚と比較して優れた業績をあげている,又は,業績・貢献の範囲と影響を拡大していると認められる場合に「2+」と評価される。
c 2 Solid contributor(着実な貢献)
職務上の責任を遂行している,確実に結果を出している,又は知識,スキル,効果性,イニシアティブを発揮していると認められる場合に「2」と評価される。
d 3 Among the lowest contributors, need to improve(貢献度が低く,業務の向上が必要)
他の社員と比較して,職務上の責任を十分に遂行していない,又は遂行してはいるが,目立った成果をあげていないか,知識,スキル,効果性,イニシアティブをあまり発揮していないと認められる場合に「3」と評価され,「3」と連続して評価された場合,業績の抜本的な向上が必要とされる。
e 4 Unsatisfactory(極めて不十分な貢献)
必要な知識やスキルを発揮,又は活用していない,職務上の責任を遂行していない,連続してPBC3評価を受けたが業績の向上が見られない,又は,早急に顕著な業績の向上を示しそれが継続されなければならないと認められる場合に「4」と評価される。そして,業績の向上が示されない場合には,所定の業績向上のための措置が実施される。(甲125,乙4,弁論の全趣旨)
イ 被告は,業績改善プログラム(Performance Improvement Program。以下「PIP」という。)を実施している。
PIPとは,通常のPBCサイクル(年初の年間目標設定~年度末の業績評価)での目標管理に加え,所属長が特に業績改善が必要であると考える項目にフォーカスして短期間での改善目標を設定して業績改善を図るプログラムであり,業務の一環として実施されるものであり,概略次のとおり,従業員と上司との間で,数か月程度の改善目標を設定し,その改善の進捗状況を定期的な面談で検証するものである。
期間 原則として,30日間から90日間の間で設定するが,180日間を限度として延長設定を行うことがある。
進め方の主な手順
① 改善計画の策定
改善計画は,所属長が策定し,上長がレビューする。改善計画の策定に際しては,対象者にコメントを述べる機会が与えられる。
② 改善進捗管理
③ 改善計画に対する結果評価
結果評価は,「業績改善進捗管理フォーム」上に記載した期間の終了後,所属長が判定し,上長がレビューする。結果評価については,対象者にコメントを述べる機会が与えられる。
結果評価後の措置
① 改善目標が「達成」された場合
上長のレビューがフォームに記入されると同時に,今回のPIPのプロセスは終了し,PBCサイクルでの目標管理のみとなる。
② 改善目標が「未達成」の場合
本プロセスを継続することで改善が期待できると所属長が判断する場合には,再度PIPを実施する。
改善目標が未達成であった場合には,人事上の措置として,所属長の判断により,減額給与調整,降格とそれに伴う減給,職務の変更(業務アサインの変更),所属変更(他部門への異動)のいずれか,もしくは複数を実施する。ただし,被告の裁量により,いずれも実施しないこともある。
上記のアクションは,再三にわたり改善の機会が与えられたにもかかわらず,なお改善がみられない場合等,被告が就業規則に基づく対応を行う可能性を排除するものではない。(甲63,弁論の全趣旨)
(6) (省略)株式会社(以下「□」という。)への出向
ア 原告は,平成18年10月頃,被告から□に出向となり,第二製品需給管理部に配置された。
イ 原告は,平成22年12月頃,同じく□第一SO業務部(以下「SO業務部」という。)のα2事業所へ異動した。同部における業務内容の概略は以下のとおりである。
(ア) 被告におけるアウトソーシングサービス
被告は,顧客が中核業務に集中できるように,それ以外の情報システムに関する企画・開発・運用・システム保守アプリケーション開発・機械保守をその責任を含め長期継続的に請け負う戦略的なアウトソーシング(Strategic Outsourcing)のサービス(以下「SOサービス」という。)を行っていた。
被告がSOサービスを行うに当たっては,特定の顧客にSOサービスを提供するプロジェクト(以下「SOプロジェクト」という。)を立ち上げ,SOプロジェクトごとに特定のチーム(以下「SOプロジェクトチーム」という。)に担当させている。
(イ) SO業務部の役割
□のSO業務部は,SOプロジェクトを直接担当するものではなく,SOプロジェクトチームがSOサービスを提供するに当たって必要なハードウェア及びソフトウェアの発注処理・請求書発行・入金状況の管理といった調達のサポート,SOプロジェクトのコスト管理,人員・備品の管理などを行うことにより,SOプロジェクトチームの後方支援業務を担当していた。なお,被告は,SO業務部について,同事業部の各メンバーが標準労働時間のうち同業務部の主たる業務であるSOプロジェクトの後方支援業務を行った時間の割合を示す Billable 比率により業務の管理を行っていた。
SO業務部には,α2事業所のチーム(以下「α2チーム」という。),α3事業所のチーム(以下「α3チーム」という。),本社のチーム,α4事業所のチーム,α5事業所のチームのほか,α6の協力会社におけるチーム(以下「α6チーム」という。)があり,各チームの役割は以下のとおりである。
a α2チーム
α2チームは,SOプロジェクトチームからのハードウェアやソフトウェアの発注処理・請求書発行・入金管理その他の問合せに対する対応や,α3チーム及びα6チームからの照会に対する対応を担当するとともに,SO業務部全体におけるSOプロジェクトの適正化に関する各指標の管理を担当している。
b α3チーム
α3チームは,約40社のSOプロジェクトについて,SOプロジェクトチームからのハードウェアやソフトウェアの発注処理・請求書発行・入金管理その他の問合せに対する対応を担当している。
c α6チーム
α6チームは,すべてのSOプロジェクトについて,請求書のデータ入力・作成・発行等の機械的な事務作業の処理を担当している。
なお,α6チームは,被告の協力会社である(省略)有限公司の「(省略)デリバリーセンター」に所在するチームであり,被告とは採用基準も給与体系も異なっている。
(ウ) 原告の業務内容
原告は,SO業務部においてはα2チームに所属し,SOプロジェクトチーム,α6チーム及びα3チームからの質問・照会に回答するという相談窓口業務のほか,次のような業務も担当していた。なお,繁忙期には,α6チームの発注処理の補助をすることもあった。
a AR/DSO改善活動及びSIH Process
これらの業務は,顧客に請求書を発行してから入金されるまでの期間(入金サイクル)の改善に関わるものであり,AR/DSO改善活動は,契約期間中のSOプロジェクトにおいて入金サイクルを短縮したり,又は入金遅延が生じた場合に対応策を講じたりする活動を内容とする。AR(Account Receivable)とは顧客に対する売掛金,DSO(Days Sales Outsourcing)とは売上債権回転率を指す。
SIH Process は,契約更新の場合を含む新規のSOプロジェクトについて,顧客の契約内容を検討する会議(SIH/QA Meeting)への参加者に対し,入金サイクルの改善に関する提案を行う活動を内容とする。SIH(Service Integration HUb)とは,被告社内で規定された一定金額を超える契約案件に対して,内容の査定を行う過程を意味する。
b 「担当委員会」の業務
この業務は,「SBU Failure」(以下「SBU指標」という。)などのSO業務全体におけるSOプロジェクトの適正化に関する各種の管理指標の管理をするものであり,原告は,SBU指標,「MA&AAS」(以下「MA&AAS指標」という。),「Direct to SO changing control」(以下「Changing指標」という。)及び「CFT/S Closure」(以下「CFT/S指標」という。)の4つの管理指標管理を担当していた。
SBU指標(SBUとはShipped but uninstalledの略称。)とは,被告の製品を顧客に出荷してから顧客先に据え付けるまでの期間が被告の社内規定で定める期間を満たしたか否かを内容とする指標である。
MA&AAS指標(MAは Maintenance Agreement,AASはAdvanced Administrative Systemの略称。)とは,AASの機械構成どおりのMA情報が登録されているか否かを内容とする指標である。
Changing 指標とは,Direct 契約方式からSO契約方式に変更する際に生じるデータ変更が完了しているか否かに関する指標であり,原告は「Change of jurisdiction matter completion to SO from direct sale」とも呼称する。
CFT/S指標とは,既に終了したプロジェクトであるが,コード上に残っているものについて,終了を確認してシステム上から消去していく作業に関する指標である。
c DEMAND業務
ハードウェアの需給管理部門に対し,すべてのSOプロジェクトを対象として,何時頃,どのようなハードウェア製品が何台程度必要になるかという発注見込みを調査し,報告する業務である。(甲114〔12,13頁〕,乙6,63,78〔5ないし8,10頁〕,弁論の全趣旨)
ウ 原告は,SO業務部の上司であるα7から,平成24年(評価期間は同年3月26日から同年12月31日まで)及び平成25年(評価期間は同年3月25日から同年12月31日まで)のPBCについてそれぞれ3との評価を受けたことから,α7の上記各評価に対し,いずれも同意できない旨意見を記載した。(乙5,6)
(7) 原告が労働組合に加入した経緯
ア 原告は,平成25年3月25日,α7から業績改善進捗管理フォームに署名を求められ,同月26日にいったんはこれを拒否したものの,α7からPIPの実施は業務命令であり,拒めば懲戒処分の対象となることがある旨伝えられたことから,これに応諾し,同月29日,同フォームに署名した。(甲64,乙8)
イ 原告は,同年4月4日,(省略)労働組合(省略)支部(以下「本件組合」という。)に加入し,本件組合は,同月26日,被告に対し,「α8組合員へのPBC不当評価とPIP強要に対する抗議」と題する書面を差し入れ,原告のPBC評価は2以上と再評価すべきことを要求し,業績改善の必要性がないにもかかわらずPIPを提示したとして,これに対する抗議をした。(乙9,弁論の全趣旨)
(8) 原告が本件訴えを提起した経緯等
ア 被告は,平成26年3月10日,原告に対し,同月28日付けで解雇する旨の解雇予告の意思表示を行い,原告を解雇した(本件解雇)。本件解雇に係る解雇予告通知書には,「貴殿は,業績が低い状態が続いており,その間,会社は様々な改善機会の提供やその支援を試みたにもかかわらず,業績の改善がなされず,会社は,もはやこの状態を放っておくことができないと判断しました。以上が貴殿を解雇する理由となります。これら貴殿の状態は,就業規則第53条2項の解雇事由に該当します。」との記載がある。(甲1)
イ 本件組合は,同月13日,被告に対し,本件解雇の撤回及び具体的な解雇理由の開示を求めたが,被告は,本件解雇を撤回しないことを回答した。(弁論の全趣旨)
ウ 原告の給与関係
原告は,被告において平成25年6月分以前には,本給39万6600円,副主任手当4万1000円,住宅費補助5万6500円の合計49万4100円の給与を支給されていたが,同年7月分以降は,住宅補助費を本給に組み入れられた上,本給41万9500円,副主任手当4万1000円の合計46万0500円の給与を支給されることになり,本件解雇時に至っている。原告は,この賃金の減額(以下「本件賃金減額」という。)が無効であると主張して,平成25年,被告に対し,未払賃金請求訴訟(東京地方裁判所平成25年(ワ)第○号。以下「先行訴訟」という。)を提起したところ,平成27年11月25日,被告がこの請求を認諾した。
また,原告は,賞与として,平成25年6月期に78万2560円(所得税等の控除後58万0418円),上記同年7月の本件賃金減額をはさんで同年12月期に64万7980円(所得税等の控除後49万1256円),平成26年6月期に48万1774円(所得税等の控除後46万4684円)の支給を受け,平成26年6月期分の賞与については,先行訴訟における被告の認諾に基づいて,平成27年12月1日,被告から原告に対し,8万4937円の支払がされている。また,先行訴訟における認諾の対象となった権利関係の前提となった平成25年12月期の賞与のあるべき数額は,76万2220円であった(甲6の1ないし3,甲7の1ないし3,甲92,93,95,弁論の全趣旨)
エ 原告は,平成26年7月3日,東京地方裁判所に対し,本件訴えを提起した。(当裁判所に顕著な事実)
2 争点
(1) 本件解雇の事由の存否及び解雇権濫用の該当性の有無
(2) 本件解雇の不当労働行為該当性
(3) 本件解雇の不法行為該当性
(4) 賃金額,賞与額,損害など
3 争点に対する当事者の主張
(1) 争点(1)(本件解雇の事由の存否及び解雇権濫用の該当性の有無)
【被告の主張】
本件解雇は,原告の技能又は能率が就業規則53条2項に定める「技能または能率が極めて低く,かつ上達または回復の見込みが乏しいかもしくは他人の就業に支障を及ぼす等,現職または他の職務に就業させるに著しく適さないと認められるとき」とする解雇事由に該当しており,客観的合理的な理由に基づくもので,社会通念上相当というべきものであるから,解雇権の濫用に当たらない。
ア 技能又は能率が極めて低いこと
原告は,平成18年10月頃から行っていた第二製品需給管理部での業務,平成22年12月頃に異動したSO業務部におけるSOプロジェクトの後方支援業務,AR/DSO改善活動,SIH Process,担当委員会の業務及びDEMANDに関する業務のいずれの業務においても,以下のとおり,被告の従業員として,その技能又は能率が極めて低いと評価すべきことは明らかである。
(ア) 第二製品需給管理部における業務
原告は,平成18年10月頃から□第二製品需給管理部において,被告製品の周辺機器の在庫管理や納期管理を行っていたが,過剰な在庫を発生させるなど,管理能力が不足しており,また,当時の所属長から「業務を単に流しているだけで問題解決意欲無い。言われてからしか動かない」と評価されたり,「組織全体のことを考えて対応」するようにと注意されたりするなどその業務態度に問題があった。
(イ) SOプロジェクトの後方支援業務
a SOプロジェクトチームに対する不適切な対応
(a) 平成24年5月頃のSOプロジェクトチームα9からの問合せに対する不適切な対応
顧客に発行する請求書の送付先住所は,CFT/Sというシステムに登録された情報を利用して検索することが可能であり,このことは,SO業務部のメンバーであれば,日常業務を行う上で,必ず知っているべき基礎的な事柄であるところ,原告は,同月頃,α9から顧客への請求書の送付先の登録情報に関する質問を受けた際,CFT/Sを用いて,自分で顧客への請求書送付先を検索し,その結果を回答しなければならなかったのに,業務上必要な知識を欠いていたため,CFT/Sを使用すればよいということが分からず,また,正しい問合せ先も分からないままに,無関係の売掛管理部に問合せを行った。
原告は,その後,CFT/Sを用いて請求書の送付先を確認できる旨の教示を受けたが,それでも意味を理解することができず,さらに別の部門(財務部門)に対して,照会のメールを送信した(なお,原告は,当該メールのCCに再度売掛管理部の別の担当者を入れ,当該担当者からCCに入れる理由がない旨の注意を受けた。)。
(b) 平成24年5月頃のSOプロジェクトチームα10からの問合せに対する不適切な対応
SO業務部が行っていたDEMAND業務に関するデータベースである「SO HW Demand Forecast DB」(以下「HW DEMANDデータベース」という。)は,SO業務部がその管理を担当し,アクセス権の付与や削除を行う管理者はSO業務部の管理職以外には考えられないところ,原告は,同月頃,α10からHW DEMANDデータベースのアクセス権の付与又は削除に関する問合せを受けた際,SO業務部内で確認することもないままに,全く別の部門(SOプロセス・ツール ヘルプ・デスク(以下「ヘルプ・デスク」という。))に問い合わせるように回答した(その後,α10は,ヘルプ・デスクに問合せをしたが,結局,当時のSO業務部の原告の上長であるα11に問い合わせるよう回答され,二度手間になった。)。
原告は,HW DEMANDデータベースの担当者としての役割をSO業務部の他のメンバーから引き継いだのであるから,当該データベースがSO業務部で管理を行っているものであることは,当然認識していなければならないし,少なくとも容易に認識し得たはずであり,また,「RAD」というシステムでデータベースの管理者を検索することも可能であり,当然認識していたはずである。そうすると,原告は自らSO業務部内で確認を行う等の対応をすることがただ面倒であったことから,他の部門(ヘルプ・デスク)にたらい回しにする対応をしたと考えざるを得ない。
(c) 平成25年10月頃のSOプロジェクトチームα12の問合せに対する不適切な対応
AAS製品(パーソナルコンピューター以外の小型,中型又は大型機械)についてはSPISというシステムを,QCOS製品(パーソナルコンピューター等の小型機械等)についてはQCOSというシステムを使用して製品検索することが可能であり,SO業務部のメンバーには,SPIS及びQCOSのいずれのシステムについてもアクセス権が付与されていたところ,原告は,同月頃,α12から,発注を申請する予定のハードウェア製品について,AAS製品とQCOS製品のいずれに分類されるかという質問を受けた際,自らこれらのシステムを用いて分類を確認し,その確認結果をSOプロジェクトチームに回答すべきであったのに,これを確認せず,これらのシステムに対するアクセス権がないα12に対して,これらのシステムの画像を添付して,SOプロジェクトチームで確認することを求めた。このような原告の対応は,本来はSO業務部の業務そのものである後方支援業務をSOプロジェクトチームにさせようとするもので,SO業務部の存在意義を否定する対応である。
また,原告は,α12から,AAS製品とQCOS製品の分類に併せて,ソフトウェア製品の発注申請は,ハードウェア製品の発注申請とは別に行う必要があるのかという質問を受けたのに対し,特定のSOプロジェクトについてソフトウェアの発注が必要となった場合には,ハードウェアとは別に発注申請を行う必要があり,SO業務部のメンバーとしては,当然その旨を回答しなければならないのに,α6チームの判断でいずれの方法によっても発注可能であるかのような誤った回答をした。
(d) 平成25年11月頃のSOプロジェクトチームα13からの問合せに対する不適切な対応
被告において起票に使用すべき帳票は,当然,依頼の内容に応じて適切な1つを選択する必要があるところ,原告は,同月頃,α13から,「磁気媒体(テープ)」の廃棄処理のためにはMAX(SOプロジェクトにおける各種申請・承認・処理プロセスを管理しているデータベース)でどのような依頼項目の起票を行えば良いかという問合せを受け,これに対して,原告が自らMAXで「廃棄」をキーワードにして検索した結果,表示された過去の帳票の顧客名や依頼内容等の一覧を画像添付したメールを送信し,そこに表示された帳票例のうち好きなものを選択して,内容に「廃棄依頼」と記入して起票すれば良いと回答した。このような原告の対応は,SOプロジェクトチームのメンバーは担当外のSOプロジェクトにおける起票例に対するアクセス権を有しておらず,α13が原告のした検索結果を得ることができないことを看過したものであるとともに,情報セキュリティの観点から見ても,不適切な対応である。
b α6チームに対する不適切な対応
(a) 平成24年3月頃の問合せに対する不適切な対応
SOプロジェクトにおいて,発注処理は発注の申請がされた当月中に完了しなければならないものであったところ,原告は,同月頃,その日が月末の最終営業日であったにもかかわらず,α6チームに対して発注情報の入力を依頼した後,発注処理の完了を見届けることなく,また,α6チームに対して発注処理に問題がないか確認することもなく帰宅したことから,SO業務部の他のメンバーであるα14がその後のα6チームからの発注処理の問合せに対応せざるを得なかった。
(b) 平成25年6月頃の問合せに対する不適切な対応
SO業務部のメンバーは,発注依頼書を見て,当該SOプロジェクトにおける発注内容を確認することが可能であったところ,原告は,同月頃,α6チームから,あるSOプロジェクトで行おうとしている発注が,①以前申請された発注の変更であるか,追加発注であるかの確認及び②発注対象の機器の確認を依頼され,自分で該当する発注依頼書の内容を確認して回答しなければならなかったのに,自ら確認作業を行うことなく,代行申請した者か申請承認した者に確認するように返答した。α6チームは,結局,原告とは別の者であるα14に問合せを行い,同人から適切な回答を得た。
なお,原告は,このように業務を途中で丸投げし,丸投げ後は結果確認すら行わず,他のメンバーからの助けを受けても,自らをサポートした者にお礼を述べたり,後にキャッチアップに努めたりすることもなく,組織の一員としてチームワークを発揮する行動を全くとれなかった。
(c) 平成25年9月頃の問合せに対する不適切な対応
原告は,同月頃,α6チームから,あるSOプロジェクトの関係で発注済みのソフトウェアについて,発注のキャンセル処理をして良いかとの問合せを受けた際,自ら当該ソフトウェアの発注を行ったSOプロジェクトチームに対してキャンセルの可否を確認した上で,キャンセル申請を行うように指示する必要があったのに,このようなプロセスを理解せずに,無関係の「△」という部門に対して,キャンセルの可否の確認とキャンセル処理の依頼を行い,SOプロジェクトチームへの確認を行うことのないまま,α6チームに対して,キャンセル対象である旨返答するという不適切な対応をとった。
また,原告は,その後α14から,SOプロジェクトチームに対して確認し,α6チームにキャンセル申請をするよう指示するよう指摘され,キャンセル処理の対象であるソフトウェア発注の際の起票を探そうと試みたが,これをすることができず再度無関係な「△」に問合せを行った。
(d) α6チームのサポートに対する消極性
SO業務部では,請求書のデータ入力・作成・発行等の機械的な事務作業はα6チームが担っていたが,決算期等で,当該作業が大量に発生する場合には,SO業務部の他のメンバーもその作業を行い,α6チームのサポートを行っており,少なくとも,平成24年以降においては,原告が所属長から,α6チームのサポート体制の構築及び進捗管理を行うように指示されていたのに,実際にα6チームのサポートを行ったのはα3チームであり,原告はα6チームのサポート業務について極めて消極的であった。
c 平成25年12月頃の◎プロジェクトチームα15からの問合せに対する不適切な対応
被告において変動料金制と呼ばれる料金設定の契約に関する請求を合算して請求書を一本化する場合,□内のα3Financial Support(以下「α3FS」という。)という部門との間で,変動料金管理手続書の更新手続をとる必要があったところ,原告は,同月頃に,α15から,顧客との間で締結している契約の請求に新たに締結される追加契約の請求を合算して,1つの請求書を発行するために必要となる手続について問合せを受けた際,社内手続の知識が不足していたため,請求管理部門であって全く無関係な他部門の「SO Contract」に対して,具体的にどうしたらよいかを問い合わせるなどして,的確な対応ができなかった。そして,そのために,必要な社内手続がされないままとなり,被告のシステム上,顧客に対して未回収金が発生しているかのような状態が作出され,SO業務部の他のメンバーが事後処理及び◎プロジェクトチームに対する状況説明をせざるを得ない状況になった。
(ウ) AR/DSO改善活動やSIH Process
AR/DSO改善活動やSIH Processは,いずれもSOプロジェクトにおいて顧客に請求書を発行してから入金されるまでの期間(入金サイクル)を改善するための活動であり,具体的には,AR/DSO改善活動は,契約期間中のSOプロジェクトにおいて入金サイクルを短縮したり,入金遅延の可能性が生じた場合に対応策を講じたりするという活動で,SIH Processは,新規(契約更新の場合を含む。)のSOプロジェクトについて,顧客との契約内容を検討する会議体の参加者に対して,入金サイクル改善に関する提案を行うという活動であり,原告は,このような活動をすることが求められていたのに,これらの活動に貢献したことを示す資料を提出しなかった。
原告から報告があった内容は,被告の関係部門に請求書発送の締切日をリマインドしたり,または請求書発行のための社内手続の進捗確認等をしたりしたにすぎず,こうしたことは当然行わなければいけない業務であって,AR/DSO改善活動と評価できるものではない。
(エ) 担当委員会
原告は,SOプロジェクトの適正化に関する指標を管理する担当委員会に所属し,SO業務部の各メンバーからそれぞれが担当するSOプロジェクトについて,指標に関する情報を原告に提供するよう依頼し,その結果提供された情報を整理し,月に1回SO業務部内で報告するという業務を担当していたところ,原告は,SBU指標についてSO業務部の他のメンバーから提供された情報をまとめきれず,年間を通じて不安定な管理しかすることができず,MA&AAS指標についても,自分が担当するSOプロジェクトの情報は管理していたものの,SO業務部の他のメンバーの情報を管理できず,さらに,Changing指標については,所属長に対し記載内容の一部が見ることのできない状態の表を貼り付け加工したファイルで報告を行うなど適切な整理・報告ができなかった。
(オ) 原告の基本的な能力の欠如
a 平成25年3月頃に発覚したクローズ支援業務の無理解
SO業務部は,クローズ支援業務(SOプロジェクトが終了した旨の所定のシステムへの登録に関する業務)に関するレポートであるClosure Reportを管理しており,原告も,平成23年及び平成24年にクローズ支援に関するシステムの構築及び改修に関与し,平成25年以降も担当委員会の業務としてクローズ支援に関する指標の管理を行っていたところ,原告は,同年3月頃,海外の部門((省略)グループのアジア各国における指標を管理する部門)から,当該レポートの管理状況について問合せを受けたが,どのような内容か知らない,その情報を有していないなどと不適切な回答をした上,そのことを所属長などに報告することもしなかった。
b 平成25年3月の情報共有の不適切さ
α2チームのメンバーは,各々が担当するSOプロジェクトの後方支援業務に関して,問題が生じた場合又は問題が生じそうになった場合には,適時に所属長や他のメンバーに報告するなど適切な情報提供を行って大きなトラブルになることを回避することが求められていたところ,原告は,同月頃,α7から,特定のSOプロジェクトチームの契約内容に関する確認を行うように指示された際,α7をCCに入れないまま(本来はSOプロジェクトチームと共有する必要のない)SO業務部の部門内部のメールや資料を添付したり,会議体の主催者である海外部門のチームについて一参加者にすぎないかのような不適切な内容を記載したりして,メールのやり取りを行うなどした。
c α6チームとの窓口の拒否
α2チームでは,α6チームが行っている請求書のデータ入力・作成業務について,繁忙時にα6チームのサポート体制を構築し,その進捗管理を行う方針であったのに,原告は,平成25年5月頃,α7からα6チームのサポート業務の担当者になるよう依頼されたにもかかわらず,これを即座に拒否し,業務に対して全く積極性をみせなかった。
d 平成25年7月頃に発覚した社内承認手続の無理解
被告において新たなシステムを使用する際には,申請者の所属長が検証を行った上で,所属長とは別の最終承認者(オーナー)の承認が必要となり,検証の後の手続が進まない場合には,当該最終承認者に対し,当該承認の手続を行うように依頼しなければならず,被告の社員であればごく当然に理解しているプロセスであるところ,原告は,同月頃に,新たなシステムを使用する際,既に検証を行ったα7に対して再度検証を行うように依頼するなど,明確に誤った対応をしていた。
e 平成25年9月頃に発覚した初歩的なシステムの無理解
PCS CUBEというシステムは,SO業務部のメンバーにとって初歩的なシステムであったところ,原告は,同月頃,α7から,固定資産台帳上のシリアル番号を修正するために,PCS CUBEに登録された情報を変更するように指示を受けたが,システム自体がわからず,α14に問い合わせてみるなどと回答した。
f 平成25年12月頃に発覚したプロジェクトコードの無管理
被告内の一部門である「Service Transaction Support」は平成25年12月頃,原告に対するSOプロジェクトにおいて契約のレビューが実施される旨の通知をしたが,同部門はレビュー対象となる契約に関する個々のSOプロジェクトのプロジェクトコードの管理とは無関係な部門であった。しかるに,原告は,上記契約書レビューの依頼を受けた際に,自分が担当するSOプロジェクトのうち,契約レビュー対象となるSOプロジェクトに関するプロジェクトコードすらも把握していなかったため,上記の無関係な部門に対する問合せをした。
g 基本的な能力不足
原告は,平成25年12月頃,α7から,顧客との契約締結が同月に予定されていたSOプロジェクトについて,請求書をどのようなタイミングで発行することが想定されているか,締結予定の契約書の内容を確認するように指示されたが,α7に対し,契約書の内容を確認したとは思われない内容の回答をした上,何度も同じ質問を繰り返した。
h 原告の業務量の低さ
SO業務部の主たる業務はSOプロジェクトの後方支援業務であり,SO業務部おいて各メンバーが標準労働時間のうち当該後方支援業務に費やした時間の割合を示す指標であるBillable比率が低いことは,当該メンバーの貢献度がSO業務部のメンバーとして求められる程度に達していないことを意味するところ,平成25年1月から同年8月頃のBillable比率について,原告以外のSO業務部のメンバーがおおむね70~90%台であったのに対し,原告については20~40%台という著しく低い水準であった。このように原告の業務量は,著しく少ないものであった。
また,原告の平成25年9月から同年12月頃のBillable比率は60~70%台になっているが,これは,SOプロジェクトの後方支援業務に費やす時間を増加させたからではなく,単に自分が担当していないSOプロジェクトのコードでもLabor Claimを計上するという不適切な処理を始めたことによるものである。
i 勤務態度の問題
原告は,勤務時間中であるにもかかわらず,しばしば,自席において大声で私用の電話を行い,同僚やα7から注意されたが,その後もこのような私用電話の態度に改善はみられなかった。
原告は,α7から残業を行う場合には事前に目的を連絡するように指示を受けていたにもかかわらず,事前にそのような連絡をせずに残業を行ったり,事前にα7への連絡をすることなく毎朝午前9時半頃に出社したりするなどの問題行動をとっていた。
(カ) 小括
原告は,以上の業務について,被告から,平成24年及び平成25年のPBC評価を「3」(貢献度が低く,業績の向上が必要)とされており,このことからも,技能又は能率が極めて低いことは明らかである。なお,被告の従業員の業績評価の制度であるPBC評価は,制度上「1」,「2+」,「2」,「3」及び「4」の5段階評価になっているが,「4」の評価を受ける従業員は極めて稀であり,また2年連続で「3」という低評価を受ける従業員もほとんどいない。
イ 上達又は回復の見込みが乏しいかもしくは他人の就業に支障を及ぼす等,現職又は他の職務に就業させるに著しく適さないこと
(ア) 原告がPIPの実施を途中で拒否ないし事実上拒否したこと
PIP(業績改善プログラム)は,業績の低迷する従業員について改善の機会を付与する被告の正式な制度であるところ,原告は,平成25年の上半期及び下半期の2回にわたり,被告からPIPの実施を指示されたが,上半期のPIPは途中で実施を拒否し,下半期に指示されたPIPは,著しく低い内容を目標として設定することを求めただけでなく,改善計画を所属長から何度も催促されても何週間も放置し,実施することができなかったのであるから,原告は自ら業績改善の機会を放棄したものであり,上達又は回復の見込みが乏しいことは明らかである。
原告は,PIPの不当性を主張するが,PIPは被告において業績が低迷する従業員について業績の改善を図るために長年にわたって実施されている実績がある制度であり,業績改善を図ることは,使用者として当然の措置である。そして,仮にPIPを指示された従業員が業績改善を達成できなかった場合,人事上不利益な措置が取られることは,従業員として当然に受け入れなければならない。
(イ) Labor Claimの不適切な付け方
Billable比率は,標準労働時間のうちSO業務部の主たる業務であるSOプロジェクトの後方支援業務を行った時間の割合であるところ,原告は,原告の所属長であったα7から,Billable比率を上げるように,すなわち後方支援業務の業務量を増やすように指示されたが,自分が担当しておらず,作業が発生するはずのないSOプロジェクトのコードでLabor Claimを付けることによって対応しようとして,後方支援業務を増やすことはなかったのだから,原告に業績改善の意思がなかったことは明らかである。
(ウ) PBCに関して原告が業務目標の設定,自己評価及び所属長の面談に非協力的かつ消極的な態度をとっていたこと
PBC制度における業務目標の設定,自己評価及び所属長との面談は,被告の従業員が過去1年間における業績を振り返り翌年に改善すべき問題点を認識する機会で,業績改善の契機になるところ,原告は,PBCの業務目標の設定に当たり,具体性のない目標案を提出して所属長から注意され,また,業績評価も指定された期限までに所属長に自己評価を提出せず,所属長との面談も延期を求めるなど,非協力的かつ消極的な態度をとっていたのだから,原告が自分の業績を改善しようとする意思を欠いていたことは明らかである。
(エ) 原告が改善の必要性を認めていなかったこと
原告は,普段の業務を行う中で,所属長から,頻繁に業務上の問題点及び改善の必要性を指摘されていたが,これに対し,業績改善の必要性を一切否定したり,注意に対して返信もしないという態度をとったり,また,所属長以外の者に対しても,自身の誤りを認めず,むしろ相手を非難するような態度をとっており,原告の業務には改善の必要があるのに,自ら改善の必要性を認めていなかった。
ウ 本件解雇の社会的相当性
(ア) 被告は,原告が格付規程によれば研修期間を修了した新入社員に付与されるバンド6の職位にあることから,原告をこの職位から降格させてまで雇用関係を維持しなければならない必要はない。
(イ) 原告に不足している能力や知識は,所属する企業における所定の社内手続理解,所定のシステムに対する理解,自分の所属する部門の存在意義の理解であり,被告のいかなる業務においても共通して求められる基礎的な事柄であるところ,原告はSO業務部に異動した後3年以上経過してもこれらを欠く状況であり,改善をしようとしなかったのであるから,原告の他部門への異動を調整することは困難であり,配転は現実的な選択肢ではなかった。
エ 本件解雇が整理解雇である旨の原告の主張に対する反論
原告は,本件解雇は整理解雇である旨主張するが,被告は,あくまでも,原告の業績を考慮の上,「技能または能率が極めて低く,かつ上達または回復の見込みが乏しいかもしくは他人の就業に支障を及ぼす等,現職または他の職務に従事させるに著しく適しない」と判断したものである。
【原告の主張】
就業規則53条2項が定める解雇事由である「技能または能率が極めて低く,かつ上達又は回復の見込みが乏しいかもしくは他人の就業に支障を及ぼす等,現職または他の職務に就業させるに著しく適しないと認められるとき」に当たるためには,単なる成績不良では足りず,その成績不良が著しく,体系的な教育,指導を実施してもなお当該労働者の労働能力の向上を図る余地がないなど,当該労働者を企業から排除しなければならない程度に至っていることが必要であるところ,本件解雇について被告が主張する解雇理由は,いずれも上司による一方的かつ極めて抽象的主観的な評価にすぎず,原告を被告から排斥せざるを得ないほどの能力不足や成績不良の程度が著しいことを示す事由には当たらない。したがって,本件解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないことは明らかであるから,解雇権の濫用として無効である。
ア 技能又は能率が極めて低いとはいえないこと
(ア) 第二製品需給管理部に配属されるまでの業務及び同部における業務
a 原告は,□に出向となるまでに所属したPC事業本部において,VLH需給管理業務を行い,顧客の要望する製品を適量,適時に供給し,多くの担当者から数々の感謝をされたほか,平成9年頃に,納品スピードを上げ被告倉庫の在庫をなくし送付経費を減らすために社外メーカーから直接納品するシステムを構築し,当時の所属長から「直納の工場から物流費のSavingに貢献があった」と評価され,「B」(現在のPBC評価では「2」に対応する。)と評された。
原告の平成15年のPBC評価は「2」で,所属長の総合評価では「Un-Schedule Orderの削減,First CCADの90%達成等,VLH製品のServiceability向上に貢献した。Inventoryに関しては年初設定した目標は達成した」と評価され,平成16年のPBC評価は「2+」であり,所属長の総合評価では「VLH InventoryをY/ETarget($300k)の半分近くまでにブランドと協力して削減したのは見事である。日常のお客様への常にベストの回答をする努力も評価に値する」と評価されたし,平成17年のPBC評価も「2」であった。
b 原告の平成18年のPBC評価は「2」で,所属長の総合評価では「VLH需給管理業務において職務上の責任を遂行していただきました」との評価を,平成19年のPBC評価も「2」で,所属長の総合評価でも「2007年も営業部門他からの様々な要望に対して柔軟に対応し,部門目標およびビジネスの最大化のために貢献を頂きました。特にMeasurement管理に関しては,年間を通しての集計作業をありがとうございました。」との意見が付されている。原告のその後のPBC評価も,平成20年につき「3」,平成21年につき「2」,平成22年につき「3」と評価されているが,総合評価には原告に対する非難が記載されているわけではない。
c そうすると,原告は,SO業務部に異動する前,被告からおおむね高評価を得ていたのであって,原告の業務遂行能力が根本的に欠けているとか劣っているわけではない。
(イ) SO業務部内の原告の状況と業務量の増加
SO業務部の人員は,原告が異動した平成23年頃には,セカンドライン,ファーストラインを除いて合計21名であったのが,平成24年頃には実働18名,平成25年頃には実働12名になり,同年12月にはα2に6名,α4に1名,α5に1名の合計8名となった。このような状況下で原告は,SO業務部の他のチームメンバーに教えてもらうなどの協力を得ることが難しくなり,また,以下のとおり,業務量が増加したのであるから,仮に原告にいくつかの不適切な業務対応があったとしても,それらは原告の深刻な能力不足,業績不良を示すものではない。
a 平成24年頃の原告が担当するSOプロジェクトの数は109個から130個以上に増えたことから,相談窓口の業務が増えた。また,原告は,同年4月17日にはα16が退職したことに伴い,同人が担当していたDEMAND業務を引き継ぐことになった。
b 平成25年頃の原告が担当するSOプロジェクトの数は130個以上から212個程度までに増え,SOプロジェクトチームからの問合せに対する回答を午前中から午後2,3時頃にかけてまで行わざるを得ない状況となった。
また,原告は,同年4月にα17がα18から引き継いだDEMAND業務を,同年6月末頃にα17の退職に伴い引き継ぐことになり,DEMAND業務のほぼすべてを担当することになった。
c 原告は,平成25年3月末頃から,本来3人分の業務である担当委員会の指標管理のうち,SBU指標,MA&AAS指標,Changing指標及びCFT/S指標の4つの管理を担当することになった。
d 原告が担当していたSOプロジェクトは,ヘルプ要請が少なく対応を求められる時間が比較的少ない独立完結型のプロジェクトが多いため,Billable比率が低くなっていた。また,原告は,所属長のα11から,DEMAND業務のうちプロジェクトが特定できるものは,Labor Claimに付けるように指示されており,これに従ったにすぎないから,非難されるようなものではない。
(ウ) 原告の従前の社内経歴
SO業務部での業務遂行においては,MAX,PCS CUBE,RADなどのデータベースを使用する必要があったが,原告は,SO業務部に異動する前には一度もこれらを使った経験はなかった。
また,原告がSO業務部に異動するに当たって受けた研修は,先輩社員から3日間程度にわたって簡単に行われたもので,データベースやシステムの存在を教えてもらうにとどまり,その具体的な使用場面や使用方法等について具体的に教えてもらうことはなかった。
そうすると,そもそも,SO業務部において必要な知識・技術等を原告が獲得するために時間をかける必要があったことを前提として,原告の業務遂行内容を評価しなければならない。
(エ) SOプロジェクトの後方支援業務について
a(a) 原告は,平成24年頃には,130個以上のSOプロジェクトの担当をし,多くの質問や照会に対して,誠実かつ的確に回答してきたところ,被告は,原告の業績不振の例として,同年における原告の不適切な回答,対応をした事象を挙げているが,具体的には同年5月頃のSOプロジェクトチームα9からの問合せ,同頃のSOプロジェクトチームα10からの問合せ及び同年3月頃のα6チームからの問合せの3件しか挙げていないのだから,このことにより,原告の業務上の知識・スキルが著しく不足していたとはいえない特にα9及びα10からの問合せは,当時は重大な問題として捉えられておらず,本件訴訟が提起された後に付け加えられたものでしかない。これらの質問に係るメールのやり取りに関する事由は重大な解雇事由には当たらない。
(b) 原告は,平成25年頃には,212個程度のSOプロジェクトの担当をし,多くの質問や照会に対して,誠実かつ的確に回答してきたところ,被告は,原告の業績不振の例として,同年10月頃のSOプロジェクトチームのα12からの問合せ,同年11月頃のSOプロジェクトチームのα13からの問合せ,α6チームからの同年6月頃及び同年9月頃の問合せなどのいくつかの件しか指摘していないのであるから,このことにより,原告の業務上の知識・スキルが著しく不足していたとはいえない。
原告は,自分だけで答えられるものは当然回答し,疑問があるものについては,正確な回答をするため実態や解決方法を知っていそうな心当たりのある他の関連部署への問合せを行っていたのであり,深刻な業務の停滞も混乱も生じさせたことはなく,最終的にはSOプロジェクトチームの業務に貢献した。
b SOプロジェクトチームに対する不適切な対応について
(a) α9からの問合せについて
被告は,SOプロジェクトの請求書送付先の登録情報についてはSO業務部において調査可能である旨主張するが,SO業務部において調査可能なのはシステム上の住所であり,実態としてどこに請求されているかは分からないから,CFT/Sの使用の有無にかかわらず,実際の請求先を問い合わせる必要があったのであり,原告の対応に問題はない。
(b) α10からの問合せについて
問合せのあったHW DEMANDデータベースは,SO業務部のα16が担当していたところ,原告は,平成24年4月7日に,退職するα16から引き継いだばかりで,かつ,当該データベースのアクセス権限やオーナーがSO業務部であること,当該データベースが「Sofia Project Master」(各プロジェクトを構成する営業担当者その他のメンバーの登録名簿台帳のようなもの)とリンクしている設計であることなどの詳細について引継ぎがされなかったのであるから,引継ぎから1か月しか経っていない段階で,原告に正確な回答を求めることには無理がある。
(c) α12からの問合せについて
α6チームの担当者も,α12に対して,「AIMSシステムにて78に検索できる機器はAASですが,80にて検索できる機器はQCOSです」と回答していることから,α12にSPIS及びQCOSの各システムのアクセス権限があると認識していたのであって,原告だけが非難されるようなものではない。そして,原告がSOプロジェクトのメンバーに課題解決の道筋を示すこと自体は非難されるものではない。
また,原告以外のSO業務部のメンバーも,ソフトウェアの発注とハードウェアの発注について,原告と同様にα6チームの指示に従うように回答していたのであるから,原告だけが非難されることではない。
(d) α13からの問合せについて
α13も情報保護については当然十分に認識しているのであるから,「廃棄依頼例」として一つの例を提示し質問者が分かりやすいように画面を表示したからといって,実態として情報セキュリティ管理上の問題は何ら生じていない。
c α6チームに対する不適切な対応について
(a) 平成24年3月頃のα6チームからの問合せについて
α6チームからの◇のプロジェクトに関する問合せの対応の件については,SO業務では当時3名体制をとり,リーダーをα16からα14に引継ぎ中であったところ,原告は,同月30日午後4時32分に担当者としての承認申請を終わらせ,その旨のメールを同人らにも送信したのであるから,責任を持って最後まで対応しなかったとか,同僚に適切な引継ぎができなかったなどと非難されるいわれはない。
(b) 平成25年6月頃のα6チームからの問合せについて
α6チームのα19からの質問に関しては,発注依頼書は申請代行者が発注の中身を作成し,その部門長である申請者がシステム上の申請という形で承認して発注するのであるところ,α19が申請者でも分からないと質問してきたのだから,もう一人の申請代行者に確認するように指示をしただけである。
原告は,発注依頼書の中身を確認して検討したが,機械構成の話であったことから,SO業務部が決めることではない。
なお,原告は,α19に対して上記指示を行った後,午後7時頃までの約1時間,追加の質問が来ないか待機し,追加の質問が来ていないことを確認してから帰宅したのであって,被告の主張は事実と異なる。
(c) 同年9月頃のα6チームからの問合せについて
SO業務部の原告が,ファイナンス部門のα20が探し出せる情報を探せなかったとしても,部門によって保持する手がかりの量に差があるのだから,業務上の知識能力が欠如していたとはいえない。
(d) α6チームのサポートに対する消極性について
α2チーム及びα3チームがα6チームのサポート業務を行うことになっていたが,α2チーム及びα3チームをとりまとめてα6チームをサポートする体制を構築し,進捗管理することを求められていたのは,α3チームのα21であり,原告ではない。あくまでも,原告は,α7から,α2事業所とα4事業所を含む本土のとりまとめを依頼されたにすぎない。そして,原告は,α2チームの中で,最も時間を割いて対応し,α6チームに積極的に協力していた。
d 平成25年12月頃の◎プロジェクトチームのα15からの問合せに対する不適切な対応について
α15からの問合せは,「A01」本体に問題の「B13」の請求分を含め「B13」については請求書を発行しない形にしたいという極めてイレギュラーな案件であったが,原告は本件解雇により対応をすることができなくなったのであるし,被告に取り返しのつかない現実の深刻な損害を生じさせたわけではない。
また,原告は,そもそもα3FSから送付される更新された変動料金管理手続書によって,初めて「契約が追加される際に必要な手続」を知ることができるのであり,それが送付されていなければ,それぞれの案件で異なる契約が追加される際に必要な手続を理解することはできない。
(オ) AR/DSO改善活動やSIH Processについて
原告は,平成25年に1人で約23億1600万円もの入金遅延防止を実現するなど十分な活動を行い,所定の報告フォーマットに記入してAR/DSOの改善活動の取組み内容を報告している。
(カ) 担当委員会について
a 平成25年頃に,SBU指標のフォロー基準が,製品を顧客に出荷してから顧客先で据え付けるよう依頼のメールを発出するだけでは足りず,すべての案件で据付けが完了しなければ目標達成とならないという扱いに変更され,原告の負担は著しく増加した。
b 原告は,MA&AAS指標について,自己の分だけでなく他のメンバーが担当するSOプロジェクトもきちんと管理していた。
c 原告は,Changing指標についても,適切にアップデート等を行ってきちんと管理していた。
d 仮に,原告が担当委員会に関する業務を完全にこなしきれなかった点があったとしても,その根源的な原因は,SO業務部の大幅な人員削減にあるのであって,これを原告の不十分な貢献とか能力不足とすることは誤りである。
(キ) 原告の基本的な能力の欠如について
a 平成25年3月頃に発覚したクローズ支援業務の無理解とこれに基づく問合せについて
原告は,同月の時点で,クローズ作業の進捗に関して収集したデータをまとめたエクセル表を作成したことがなく,Closure Reportがどのようなものか知らないとの回答を行ったとしてもやむを得ない。
b 平成25年3月の情報共有の不適切さについて
原告は,意図的にα7をメールのCCから外し,口頭による報告を行わなかった事実はないし,α7の前任者であるα22からは,すべてのメールについてCCに入れることを求められておらず,かつ,入れないことについて問題視されたこともなかった。
したがって,原告には,報告・結果連絡などの適切な情報共有の欠如と評される事実はなく,それにより被告に深刻な損失を生じさせたこともない。
c α6チームとの窓口の拒否について
原告は,平成25年5月頃のα7からの提案に対して,α2事業所とα4事業所を含む本土チームの中で,持ち回りでリーダーを担当することを求めたのであって,理由なく被告主張の回答をしたわけではない。なお,原告による平成23年1月から同年8月頃までのα6チームに対するサポート件数は合計9件であり,他の担当者に比べても多く,積極的にサポート業務を行っていた。
d 平成25年7月頃に発覚した社内承認手続の無理解について
原告は,同年6月25日に新システムの検証の申請をし,α7から検証を受けたが,いつまで経っても承認がされなかったところ,リソースオーナーが長期間承認しないことは考えられないことであるから,システム上の表示が間違っているのではないかと考え,他の部門の責任として連絡する前に,α7に確認する趣旨で,α7に検証を依頼する旨のメールを送信したにすぎない。
そして,原告は,その後,リソースオーナーに問い合わせ,調査してみると,リソースオーナーの変更が承認されていないために原告の申請が承認されないという極めて特殊な状態であったのであるから,原告が社内の承認手続を理解していなかったわけではない。
e 平成25年9月頃に発覚した初歩的なシステムの無理解について
原告は,平成25年4月末頃にPCS CUBEのユーザー登録申請を行ったが,却下され,実際に使用することができず,かつ,システムマニュアルをじっくり読んでいる時間はなかったのだから,その内容を知らなかったとしてもやむを得ない。
f 平成25年12月頃に発覚したプロジェクトコードの無管理とこれに基づく問合せについて
原告はα23及びα24に対してプロジェクトコードの問合せをしたが,そもそも,契約書のレビューはα23の依頼であり,α24はα23と同じ部署に所属しており,α23が真摯に回答しているのだから,全く無関係の部署に問い合わせてなどいない。
g 基本的な能力不足について
原告は,平成25年12月頃に,α7からメールで質問を受けたが,被告がいうように当該システムをまだ使う予定があるかという趣旨には受け取れないから,そもそもα7の質問に問題がある。
また,原告は,α7から,請求書発行ができない根拠を問われたことに対して,当該顧客との契約書提出予定日を回答したが,これは,そもそも平成25年12月26日から同月27日にかけての質問で,上記契約書提出予定日が就業時間外である同日午後6時となっていたのであるから,原告が年内の請求書発行はできないと判断することは社会通念上当然である。
h 原告の業務量の低さについて
被告の主張は,原告の業務量について,ことさらにBillable比率だけを切り取ったものであり,原告の業務量全体を適切に評価していない。Billable比率は,個々の担当プロジェクトに直接サポートを行った場合に使用されるカテゴリーであるところ,原告は,それ以外にも,SO業務全体における全SOプロジェクトの生産性向上や効率化のためのサポートも行っており,特に,平成25年は,主として原告が上記業務を担っていたのであるから,それらに時間を要するのは当然である。また,原告が担当していたプロジェクトは,プロジェクトからのヘルプ要請が少ないために対応を求められる時間も比較的少ない独立完結型のプロジェクトが多かったため,Billable比率が低くなったという側面もある。
i 勤務態度の問題について
被告が指摘する原告の電話は,離れて暮らす耳の悪い高齢の母親からの相談事をされ,母親は耳が遠いためやむを得ず大声となったにすぎない。このように被告が主張する大声で私用電話をしたというのは,やむを得ないものであったというべきであるから,このことが原告の能力や適性の欠如が著しいことを示す事由にはならない。
また,残業せざるを得ない場合には,緊急の場合もあり,常に事前に目的を連絡することが可能であるとは限らず,また,平成24年6月から□の全部門でフレックス勤務となり,午前9時半出勤について事前の承認を得ることも不要である。
イ 上達又は回復の見込みが乏しいかもしくは他人の就業に支障を及ぼす等,現職又は他の職務に就業させるに著しく適さないといえないこと
(ア) PIPの実施について
被告のPIPは,労働者を退職に追い込むための道具であり,真に業績改善の機会として実施されているものではない。すなわち,これまで,被告が低業績者と決めつけた労働者について,曖昧な評価基準の下で業績を恣意的に評価し,対象労働者の問題点をあげつらい,週1回など定期的に行われる所属長との面談では,散々未達成をなじられ,従業員が退職を選択せざるを得ないように仕向け,挙句に退職に追い込む道具として実施してきたのであるから,これを拒否したとしても,原告が業績改善の機会を自ら放棄したとは評価できない。
a 平成25年上半期のPIP拒否の点について
原告は,同年3月25日のα7との面談の際に,同人から,業務改善進捗管理フォームを渡され,PIPの実施を求められたため,同人に対して,手書きで1~3項目からなる質問を記載し,回答を求めたが,同人から回答はなく,かえって同人から「当プログラムの実施は業務命令にあたるものであり,拒否されることは就業規則上の一般的服務心得違反あるいは懲戒処分の対象となる」と記載したメールを送られ,署名を強要された。
原告は,署名したものの,業務改善進捗管理フォームの「具体的に改善を要する点」や「達成すべき目標」などが極めて曖昧で,α7から事前の説明がなかったため,恣意的に悪評価を付けられ,退職に追い込まれると感じたことから,平成25年4月4日,本件組合に加入し,本件組合が,被告に対して抗議書を提出し,同業務改善進捗管理フォームの問題点を指摘し,PIPの内容については,本件組合の団体交渉の場で交渉するので交渉中は実施しないことを申し入れ,団体交渉の議題として取り上げられ,現にその実施の要否,実施内容,評価基準等について協議されていたのであるから,その協議が整うまでに,PIPに応じなかったとしても,原告が業績改善の機会を自ら放棄したとは評価することはできない。
b 平成25年下半期のPIP拒否の点について
原告は,同年8月19日以降,α7から,2回目のPIPの実施のため,受諾を迫られたが,相変わらず,評価方法が極めて抽象的であって,客観的な評価基準が示されておらず,評価方法も不明であったことから,α7に対して,客観的具体的な評価基準や方法になるように質問したり,対案を提示したりするなど協議を行い,一部の項目については合意に至っていたが,結局はα7が一方的にメールでの協議を打ち切っており,原告が拒否したわけではなく,原告が業務改善の機会を自ら放棄したと評価することはできない。
(イ) Labor Claimの付け方について
原告は,平成23年12月,当時の所属長であるα22から,「少々面倒でも,プロジェクトが特定できる仕事はBillableでClaimして下さい」と指示され,この指示に従って,作業時間を記録したのであるから,不適切な付け方をしていたわけではない。
また,終了コードの数も異常に多く,振替先探しは手作業で行っていることから,付け間違いが生じることは当然であり,付け間違いをしていたのは原告に限ったことではない。
そして,原告は全SOプロジェクトのDEMAND業務を担当しており,プロジェクトが特定できるものについてはプロジェクトに認知されたコードとして処理していたのであって,これらは原告の担当していたSOプロジェクトである。DEMAND業務の時間の計算については,各プロジェクトに費やされる時間を集計すれば分割可能である。
したがって,原告が不適切なLabor Claimの付け方を繰り返したことはなく,担当SOプロジェクトの業務状況について不適切な管理はなかった。
(ウ) PBCの目標設定等について
PBCでの評価は相対的であり,3及び4が全体の5~15%を占めるように常に一定数は低評価者が発生する仕組みであり,必ずしも当該従業員の責任によってのみ定まるわけではなく,所属部署全体の業績を考慮するもので,かつその評価方法は極めて主観的で,客観性が担保された評価基準とはいえないのであるから,原告が,これに対して非協力的かつ消極的な態度をとっていたことから,直ちに原告が自分の業績を改善しようとする意思を欠いていたとはいえない。
ウ 本件解雇に社会的相当性がないこと
(ア) 解雇の重大性をはかる一つの指標として,当該労働者の非違行為等によって使用者にどの程度の経済的損害や信用失墜,顧客喪失等の損害を被らせたか,またその頻度等が挙げられるが,原告は,SO業務部の業務遂行によって,被告に直接的な経済的損害や信用失墜,顧客喪失等の損害を生じさせたことは全くないから,被告が主張する解雇事由はいずれも解雇がやむを得ないほど重大なものではないことが明らかである。
(イ) 被告は,いずれ消滅することが既定方針だったSO業務部から原告を別の部署に異動させることで,これまでの実績を踏まえた原告の業務能力や知識,経験が発揮されるのは確実であって,原告について,雇用契約の履行に支障を及ぼす債務不履行事由が将来にわたって継続するとは到底予測できない。
(ウ) 被告は,原告が職種・地位の限定がない社員であって管理職でないにもかかわらず,本件解雇予告に際して,配置転換を打診したことも降格を検討したこともなく,原告について解雇回避義務を尽くしたとは到底いえない。
(エ) 使用者が労働者を解雇する際には,当該労働者に要求されている職務遂行能力のレベルから見て,再々の指導,教育,研修の付与によっても容易に是正し難い程度に達していることを要し,このような改善の機会の付与に当たっては,当該労働者はこれを改善の最後の機会と認識し得るやり方によってされる必要があるところ,原告に対して「業績・能力改善が現実に図られなかったならば解雇が不可避になる」との警告がされたことは一切ない本件解雇は,改善の機会が与えられないままにされたものである。
(オ) 被告においては,以前からPBC評価に賞与額が連動するレファレンスサラリー制度が採用され,貢献度が低いと評価された場合には,その低い業績に相当する額の賞与しか支払わなくて済むし,仮に,そうであれば,被告は降格措置を採るなどして解雇を回避する手段を模索すべきであったのに,これをすることはなかったのだから,解雇回避措置がとられていない。
(カ) 原告は,被告に入社して以来,一度も被告に対して重大な損害を加えたことはないし,懲戒処分も受けたことはなく,他方で,平成22年10月には被告から表彰されている。
(キ) 原告は,本件解雇時,52歳であり,その年齢からしてIT業界における再就職が極めて困難であり,また,妻と10歳(平成28年9月当時)の子供を養う必要があり,本件解雇が有効であるとすれば,それを回復することは大変困難である。
(ク) 被告は,原告がPIPを拒否したことなく業績改善の機会を自ら放棄したことはないにもかかわらず,適正な業務改善プログラムを実施することなく,本件解雇を強行したのであって,解雇の可能性を具体的に伝えて業績改善機会を付与することはなかったのであるから,本件解雇は,社会的相当性を著しく欠いた不当なやり方である。
エ 本件解雇が整理解雇であること
全世界的な人員削減策,そのための費用を計上していること,その計上の時期と本件の一連のロックアウト解雇予告の時期が完全に一致していること,上司らの発言等に照らせば,本件解雇は,真に労働者の業績不良を理由とした解雇ではなく,まず人員削減目標が決定されており,その削減目標の達成のため,整理解雇法理の適用を免れようと業績不良を偽装してされたものである。
(2) 争点(2)(本件解雇の不当労働行為該当性)
【原告の主張】
ア 本件解雇は,組合員に共通して抽象的な解雇理由のみを挙げていること,実質的に一切の交渉を拒否していること,被告における被解雇者の中で組合員の比率が高いことからすれば,被告の意に反し,退職強要に抵抗するなどしている労働組合の動きを止め,これを排除するためにされたものであるといえ,本件組合に対する支配介入に当たるとともに,労働組合員であることを理由とする不利益取扱いに当たり,強行法規である労組法7条1号,3号に反して違法無効である。
(ア) 平成24年当時,被告の従業員総数は約1万4000人であるのに対し,本件組合の組合員は約140名であり,組合組織率が1%未満であったところ,被告において平成24年7月20日から平成27年3月17日までの間に解雇予告を行った50名のうち,原告を含む35名が本件組合の組合員であり,被解雇予告者に占める組合員の比率は68%を占めるとともに,RAプログラムに応じなかった者のうち,本件組合の組合員ばかりが集中的に解雇予告を受けたことは明らかであるから,当該解雇予告は本件組合の組合員を狙い撃ちにしたものである。
a 被告は「3年連続でPBCが『3』以下であった従業員」を母数にするが,被解雇者の多くは「3年連続でPBCが『3』以下」という条件に合致せず,被告の主張は前提を誤っている。
b 被告は,RAプログラムで自主退職とロックアウト解雇という全く異なる退職理由を一緒くたに取り扱って,1%対68%を覆い隠そうとしている。
(イ) 被告が主張するように,本件解雇が業績不振を理由とした解雇であれば,被解雇者の選定は,当該従業員の業績を把握している現場レベルで行われるのが自然であるのに,本件では現場レベルの意向を離れて,人事部が主導して被解雇者を選定したのであるから,本件組合の組合員を狙い撃ちにして解雇したものである。
(ウ) 被告は,単なる解雇と異なり,解雇予告の時点において「業績不良」の具体的な事実を明らかにせず,労働者を直ちに社屋から退去させ,以後の出社を禁じた上で,極めて短い期限を設定し,当該期限までに労働者が自己都合退職を申し出る場合は解雇を撤回して割増金を支払うことを提案するという内容の解雇予告をしており,これにより,本件組合の組合員に自由な意思による選択の余地を与えず,本件組合の「駆け込み寺」としての機能を果たせなくするものであり,本件組合の弱体化を図ったものである。
イ 被告は本件解雇予告通知と同時に,一週間以内に自己都合退職の意思表示をすれば本件解雇を撤回して自己都合退職を認める旨通告しておきながら,何ら具体的な資料及び解雇理由を示さなかったし,団体交渉でも同様の対応をしたことから,団体交渉における誠実交渉義務に違反する。
【被告の主張】
ア 本件解雇には合理的な理由が存在するから,原告の主張はその前提を欠くし,被告は,原告の個々の業績及び勤務態度,並びにその改善の有無を個別具体的に判断して解雇を行ったにすぎない。
業績不良を理由に解雇された従業員のうち本件組合の組合員が占める割合が高いという原告の主張は,そもそも業績の不良な者に占める組合員の割合が高い場合にも生じ得るし,非組合員が自主退職する傾向が強いことに鑑みれば,業績不良者に占める組合員・非組合員別の割合や自主退職プログラムによる退職者の存在といった複数の要素を考慮する必要があるため,およそ採り得ない。
イ 被告は,原告に対し,解雇予告通知書において,就業規則の該当条項とともに,当該条項に該当するに至った事実を記載し,これを基礎づける個々の事実についても,本件組合からの照会に対する回答において明らかにし,また,PBC評価に関する面談,日々の業務における指導においても所属長などを通じて伝えているから,誠実交渉義務違反の事実はない。
(3) 争点(3)(本件解雇の不法行為該当性)
【原告の主張】
ア 本件解雇において,解雇予告直後に被告の監視の下で原告を社外に排除したこと,被告が原告から要求された具体的な解雇理由を説明しなかったことは,いずれも原告の人格権・名誉感情を侵害し,また労基法22条2項が保障した原告の具体的解雇理由を知る法的な利益を侵害したものとして,不法行為に当たる。
(ア) 本件解雇は,事前に何の示唆もなく,突然解雇予告通知書を読み上げられ,何らの原告の弁明も聞かず,同僚社員への別れの挨拶も許さず,その日中に私物をまとめるよう指示し,人事担当者ら複数人による監視の下で社外に放逐し,翌日以降は入館証が無効とされ,被解雇者が社内に立ち入ることを一切許さないという対応であり,このような態様をとることに何ら合理的な理由もなく,労働者の名誉を著しく傷つけ,多大な精神的苦痛を意図的に与えるものであり,悪質な態様である。
(イ) 被告は,本件解雇に当たり,原告に対して他の被解雇者とほぼ同一の文言で解雇理由を示したのみであった上,団体交渉でも具体的な解雇理由を明示することはなかった。そして,これまでに述べたとおり,本件解雇は,客観的合理性も社会的相当性も認められないものであったところ,被告はこれを認識していたのにあえて解雇に及んだものであるから,不法行為が成立する。
イ 本件解雇は,被告が組織的に行った人員削減の一環としてされたものではあるが,ロックアウト解雇自体は本件組合の組合員に集中して行われ,その主たる狙いは,被告の意に反して退職強要に抵抗するなどしている本件組合の動きを止め,これを排除する点にあったのだから,組合員であることを理由とする不利益取扱い,支配介入にほかならず,本件組合の弱体化を狙った解雇という点で不当な動機に基づくもので,不法行為に当たる。
【被告の主張】
ア(ア) 一般に,使用者が労働者に対して解雇予告を行い,当該通知のときから労務の提供の必要がない旨を通知した後,私物の整理を行って速やかに退社するよう指示をすることは,施設管理権を有する使用者として当然許容され,特に被告は情報システムに関わる業務を行っていることから,セキュリティ管理上,保守的な対応をとらざるを得ないのであり,違法と評価される理由はない。
(イ) 本件解雇に当たり,解雇予告通知書には就業規則の該当条項とともに,当該条項に該当する事実が記載されているし,被告は,PBC評価に関して所属長との間で行われる面談,日々の業務における所属長からの指導,さらに本件組合からPBC評価の低評価理由説明の要求やPIP実施への抗議等があった場合における回答等を通じて,原告に解雇理由を伝えており,原告の具体的解雇理由を知る法的な利益ないし権利を侵害するものではない。
イ 本件解雇は,個々の従業員ごとに解雇事由に該当するか否かを個別具体的に判断しているのであって,従業員が組合員であるか否かという属性は全く判断要素としていないのであって,不当労働行為に当たらないことはもとより,不法行為にも当たらない。
(4) 争点(4)(賃金額,賞与額,損害など)
【原告の主張】
ア(ア) 本件解雇後の月額賃金について
原告の平成25年4月から6月までの月額賃金は,合計49万4100円(本給39万6600円,住宅補助額5万6500円,副主任手当4万1000円)である。
なお,原告は,平成25年7月の本件賃金減額の結果,本給を36万3000円に引き下げられるとともに,住宅補助額を本給に繰り入れられることとなり,同月から合計46万0500円(本給41万9500円,副主任手当4万1000円)に減給されたが,このような賃金の引き下げは無効であり,そのことは,前提事実(8)ウの被告の請求認諾により明らかである。
(イ) 本件解雇後の賞与について
a 原告の平成26年6月10日支給分の賞与について,21万5849円が未払である。
b 原告の平成26年12月以降の賞与である6月分78万2560円,12月分76万2220円が未払である。
イ 不法行為に基づく損害賠償請求における損害について
原告は,本件解雇によって,人間の尊厳を傷つけられ,著しい精神的苦痛を受けるとともに,生活もままならず,当たり前の家族生活が奪われているのであって,本件解雇は客観的合理的理由が欠けているのにあえてされたものであり,本件組合を弱体化されるという不当な動機に基づくものであることと併せ考えれば,その慰謝料は300万円を下らず,弁護士費用も30万円を下らない。
【被告の主張】
ア(ア) 本件解雇により,原告には賃金も賞与も発生していない。
(イ) 原告を含め,被告の従業員の賞与支給額は,各支払日ごとに賞与基準額,バンド,出勤率,会社業績及び個人業績等を勘案して被告が定めるものであり,各支払日における賞与支給額が予め確定しているものではない。
イ 不法行為に基づく損害賠償請求における損害について
原告が主張する損害は争う。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前提事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 原告がSO業務部に異動になるまでの経過
ア 原告は,平成6年4月頃,出向先から被告に戻ってPC事業本部製品企画に配置され,平成10年頃,同事業本部AP(アジアパシフィック)&PCオプションVLH(ベンダーロゴハードウェア)製品に異動となった。原告は,その頃,同部の所属長であった α25から,「本年度はVLHの直納の向上から物流費の Saving に貢献があった。今後はVLH内のProcess の改善等により,Customer SATの向上に期待したい」として,総合評価B(職務の要求どおりの業績であった)と評価された。(甲100,114〔4,5頁〕,弁論の全趣旨)
イ 原告は,被告にバンド制度が導入された平成9年3月1日頃,当時の所属長からバンド6と格付けされ,そのまま本件解雇に至るまで,バンド6であった。このバンド6の職位等級は,新入社員が研修期間を終了した時点で最初に獲得するものである。(甲114〔5頁〕,弁論の全趣旨)
ウ 原告は,平成12年頃から平成18年6月頃までの間,被告α26事業所生産管理VLHに配置され,VLH需給管理業務を担当した。原告は,同部の所属長から,平成15年のPBC評価について「Achieved/exceeded commitments」,平成16年のPBC評価について「2+:Above average contributor」,平成17年及び平成18年のPBC評価について「2:Solid contributor」とそれぞれ評価された。
もっとも,平成19年10月16日頃に原告の上司がα27からα28に交替した際,原告に対する引継ぎ内容として,「VLH需給業務。業務を単に流しているだけで問題解決意欲無い。言われてからしか動かない。」ことが申し送られていた(甲83,101ないし103,114〔6,7頁〕,乙59,72,弁論の全趣旨)
エ(ア) 原告は,平成18年7月頃からシステム製品事業・システムX事業部システムX製品企画でのVLH需給管理その他の業務を担当した後,同年10月頃,□に出向となり,第二製品需給管理部に配置され,同様にVLH需給管理業務を担当した。
(イ) 原告は,平成20年10月6日午前9時25分頃,第二製品需給管理部のα28から,取扱製品の同年9月末の在庫が,従来と比較してかなり多いとの指摘を受けた。
(ウ) 原告は,同年11月頃,被告に対し,同年12月29日の休暇申請をしたところ,同年11月25日午後零時16分頃,α28から,年末の繁忙期であり,緊急サポートが発生することが想定され,必要に応じて出社を要請する可能性がある前提で承認する旨の回答を得たが,同日午後3時9分頃,α29から,基本的に期末日の休暇は認めにくいので理由を教えるようにとの連絡を受けた。
原告は,同月26日午前10時53分頃,α28に対し,担当が代わり仕事のピークが月末から月初に変更になったことなど,休暇を申請した理由を説明したところ,同月27日午前8時53分頃,α28から,年末の繁忙期には需給管理内でのサポートが必要なケースが想定されるため,可能な範囲で協力して欲しい,同年6月頃には原告も他のメンバーからサポートしてもらったのだから理解して欲しいとの休暇取得を翻意することを説得する回答を受けた。
(エ) 原告は,第二製品需給管理部の所属長から,平成19年から平成22年まで次のようなPBC評価を受けた。
平成19年は,「2:Solid contributor」とされ,「営業部門他からの様々な要望に対して柔軟に対応し,部門目標およびビジネスの最大化のために貢献を頂きました。特にMeasurement管理に関しては,年間を通しての集計作業をありがとうございました。今後は,Specialistとして集計結果の分析および提言をして頂けることを期待しております。2008年は,さらにリーダーシップを発揮して頂き,第二製品需給管理部のみならず,需給管理本部およびIFSCへの貢献を引き続きよろしくお願いします。」とのコメントが付された。
平成20年は,「3:Among the lowest contributors, need to improve」とされ,「Measurement データの分析やラック在庫管理などにおいて改善の必要な点がありましたが,一部については地道に対応頂けたことを評価しております。今後は担当業務に関して,組織目標を共通認識した上で,進捗管理にも配慮頂いた対応を期待しております。」とのコメントが付された。
平成21年は,「2:Solid contributor」とされ,「実直なサポートありがとうございました。課題認識やコミュニケーション方法において,一層の向上を要する点も見受けられますが,多くの面で想定に近い実績であったと認識しております。今後は,組織目標に対してのさらなる貢献を期待しております。」とのコメントが付された。
平成22年は,「3:Among the lowest contributors, need to improve」とされ,「プロセス改善や Prebuid 業務にご尽力頂き,ありがとうございました。良かった点は,プロセス改善ではリーダーを強力にサポート頂いたこと,Prebuid も丁寧に対応頂いたことです。今後はサービス業務の中でレベルアップを意識して頂きたいです。長い間の需給管理でのサポートありがとうございました。」とのコメントが付された。
これらの評価の一方において,同年10月5日,被告から,需給管理本部の代表として,CS委員を約3年間にわたって務め,本部内のCS活動に対する意識向上に貢献し,また,マニュアル作業を厭わず集計・検証を行い,業務品質の実態把握及び向上に寄与した功績が「Japan IOT Value Program」の対象となるとして,記念品を贈呈された。(甲14,15の1・2,甲104,105,114〔7ないし10頁〕,乙60,61,弁論の全趣旨)
オ 原告は,平成22年12月頃,□のSO業務部へ異動となり,α2事業所に配属された。なお,当時のα2事業所には,原告を含めて約12名在籍しており,所属長はα22であった。(甲110,114〔10,14頁〕,証人α7〔34頁〕,原告本人〔7頁〕)
(2) 平成23年頃の原告の業務状況
ア 原告は,平成23年頃,SO業務部において,SOプロジェクトの直接の相談窓口,クローズ支援データベースの構築業務,AR/DSO改善活動を担当していた。AR/DSO改善活動とは,契約期間中のSOプロジェクトについて,入金サイクルを短縮したり,又は入金遅延の可能性が生じた場合に対応策を講じたりするという活動である。
イ 原告は,同年5月頃,α2チームに所属していたα30から,◎プロジェクトを引き継いで担当することになった。◎プロジェクトでは,変動料金の請求書(契約書内で単価を決めて顧客に提供したサービス内容に応じた金額で,契約書ごとに発行するタイミングを定める請求書)が用いられており,残業代,帰宅タクシー代などの交通費,プロジェクト内の出張費用,その他突発的な費用が生じた際に対応する必要が生じる。
なお,変動料金請求書発行のフローについては,□サービス業務本部が作成した「SO業務概説」に詳細に記載がある。
ウ α22は,平成23年12月26日,原告を含むSO業務部のメンバーに対し,「多少面倒でも,プロジェクトが特定できる仕事は Billable でClaimして下さい。」とメールで指示を出した。
エ 原告の平成23年のPBC評価は「2:solid contributor」であり,所属長からは「◎様の変動料金の業務も引継ぎ,問題なく処理していただいています。休日勤務対応などでも確実にDSO改善に取り組んでおり感謝いたします。今年は,日常業務外の活動(CS活動)でも期待しています。プロジェクトから信頼される業務を目指して頑張ってもらいたいと思います。」とのコメントが付された。甲87,89,114〔12,13頁〕,乙63〔30ないし32頁〕,78〔6,7頁〕)
(3) 平成24年頃の原告の業務状況
ア ◇の件に対する対応
原告は,◇の件のMAX代行起票を担当していたところ,平成24年3月30日午後4時18分頃,被告の関連会社の(省略)株式会社の◇担当のα31に対し,MAXというシステムの決済を保留してあるので同日中に承認するよう依頼した。MAX(Marketing Admin Transaction)とは,日々の案件依頼の申請・承認・処理プロセスをフォローするためのデータベースである。
α31は,同日午後4時23分頃,原告に対し,起票のプロジェクトコードを6桁に修正するか,自分で修正するためにそれを教えるように依頼するとともに,残りの起票の数を確認したところ,原告から,同日午後4時30分に,プロジェクトコードを6桁に修正した旨,同日午後4時32分に,AMSはこの4件ですべて終了である旨の回答を得た。(甲35,弁論の全趣旨)
イ α6チームからの問合せに対する対応
α6チームのα32は,平成24年3月30日午後8時2分頃,原告に対し,システム上で予算の照合を行ったところ,予算オーバーとなったことから,その理由に関する問合せを行ったところ,α2チームのα14は,原告に代わって,同日午後8時14分頃,α32に対する回答をした。(乙26)
ウ DEMAND業務の引継ぎ
DEMAND業務は,SOプロジェクトチームに発注見込みの機器情報を所定のデータベースに報告するように催促し,当該報告をデータの内容を検証して集計し,エクセルファイルにまとめ,各SOプロジェクトで必要になるハードウェアの数及び時期の見込みをハードウェアの需給管理を行う部門に報告するという業務であり,α18がSOの発注見込みの原データをまとめ,α16が月次の需給管理とSOプロジェクト側への確認対応,最終的なとりまとめと会議への報告などを担当していた。
原告は,平成24年4月17日,α16の退職に伴い,同人が担当していたDEMAND業務を引き継ぐことになった。(甲45,46,114〔15頁〕,乙63〔24頁〕,78〔8頁〕)
エ α9からの問合せに対する原告の対応
(ア) SOプロジェクトチームのα9が担当する顧客番号(省略)の件について,同顧客の住所情報が移転前のままで古い情報であったために,α9がその修正依頼をしようとしたところ,カスタマーナンバーには「(省略)」と「(省略)」の2種類あるということに気付いたことから,平成24年5月14日午後6時2分頃,α6チームα33に対して,「(省略)」の登録内容の確認を求めた。
α33は,「(省略)」の意味が分からなかったことから,平成24年5月17日午後2時39分頃,原告に対し,カスタマーナンバーには「(省略)」と「(省略)」があるようであり,「(省略)」の意味について教えて欲しいとの問合せをしたところ,同日午後3時44分頃,原告から,請求書を送付する宛先のことである「(省略)」という意味であるとの回答を得た。
同回答をCCで共有していたα9は,同日午後6時9分頃,原告に対し,「(省略)」の現在の登録情報を確認する方法について問い合わせた。
(イ) そこで,原告は,同日午後6時46分頃,請求・売掛管理本部売掛管理部のα34に対し,請求先顧客NOが(省略)となっている顧客NO(省略)について,現状の請求書送付先を問い合わせたところ,同月18日午前8時36分頃,同人から,自分は適切な問合せ先ではないのになぜ自分に問合せをしたのかと逆に問われたことから,同日午前9時36分頃,同人に対し,請求・売掛管理本部売掛管理部の方は当然知っていると考えていると返信した。
α34は,同日午前9時48分頃,原告及び請求業務部のα35に対し,原告からの問合せの対応を売掛管理部ではなく,請求業務の方が適切であるから,α35に対応を依頼すること,加えて原告には,今後は,窓口担当者一覧を参照して問合せをするように求めた。
α35は,同日午前10時21分頃,原告に対し,CRIS上の請求先顧客NOはシステム上どこにも共有されておらず,CFT/S上の請求先に請求書が発行されていると思われるので,確認するよう求めた。
CFT/Sにおいて,(省略)を検索すると,顧客名に「金融セクター用ダミー(共同化プロジェクト用)」と記載されており,「(省略)」の欄が空欄になっていることが分かる。
(ウ) 原告は,平成24年5月18日午前11時34分頃,財務・資金管理部門のα36に対し,CRIS上(省略)に使用禁止とのコメントが入っており,どのように請求先顧客NOを設定すれば良いか問い合わせた。なお,この際,原告が同メールに添付したCRISのスクリーンショットには,顧客NO.(省略)について,「使用禁止(問合せ先:組織コード○,α36)」との記載がある。もっとも,上記添付ファイルは,売掛管理部のα37が削除の措置をとった。
上記原告の問合せをCCで共有していた「Finance & Planing GBS Group」のα38は,同日午後6時44分頃,原告に対し,(省略)は共同化案件のコストセンターとするためのダミーコードで,「(省略)」はこのようなダミーコードの「(省略)」として使用している顧客NOであり,請求書の発行はないこと,そしてその旨をα9に説明したことをメールで回答した。
(エ) 原告は,前記(イ)のとおりα34から請求業務部のα35を紹介された後も,α37に対し,上記α36へのメールをCCで送信していたことから,同日午前11時42分頃,原告からCCで情報をもらう理由がなく,今後のやり取りから外すように求める連絡を受けた。(甲33,乙25,64,弁論の全趣旨)
オ α10からの問合せに対する原告の対応
(ア) SOプロジェクトチームのα10は,平成24年5月頃,原告に対し,HW DEMANDデータベースのアクセス権付与/削除依頼に関して問い合わせたところ,原告から,ヘルプ・デスクに問合せをして,指示どおりに申請して欲しいとの回答を得た。そこで,平成24年5月17日,ヘルプ・デスクに対して問合せをしたものの,結局,SO業務部のα11を紹介された。
α11は,同年5月18日午前9時34分頃,α10から,アクセス権付与/削除をその担当者に依頼するよう頼まれたことから,同日午前10時45分頃,α22に対してこの件をフォローするよう依頼し,同人が対応した。
(イ) SO業務部のα39は,同日午後4時34分頃,原告に対し,上記アクセス権付与/削除に関して,HW DEMANDデータベースはSO業務部が運営しており,被告の従業員であれば,アクセス制限がされている文書以外については,アクセスすることができることを指摘した上で,このアクセス権に関して問合せがあった場合の対応について提案した。
その後,上記α39のメールをCCで共有したSO業務部のα40は,同月21日,上記α39の提案を受けて,データベースの使い方をアップデートした上で,α39との間で当該記載内容について検討し,意見を交わした。
原告は,同日午後3時56分頃になって,α39及びα40に対して,上記記載内容について自らの意見を述べたが,翌22日午前11時51分頃,α40から当該意見の趣旨が分からない旨を指摘され,午後1時19分になって,上記記載内容のアップデートを保留させながら,再度理解し直すと回答した。なお,結果的に原告の見解は誤っていた。(乙27,原告本人〔53頁〕,弁論の全趣旨)
カ α11による退職勧奨
原告は,平成24年8月27日及び同年9月19日,α11から「RAプログラム」に則って早期退職しないか打診されたが,これを断った。(甲114〔20頁〕)
キ 上司の交代
SO業務部における原告の上司(所属長)は,平成24年9月頃,α22からα7に交代した。(甲89,110)
ク 原告は,平成24年12月12日,SO業務部のメンバーに対し,SOプロジェクトのクローズ支援データベースの運用改善及びクローズプロセスの更新を行うため,それぞれ確認するように依頼した。(甲112)
ケ 原告の平成24年のPBC評価とα7の指導
(ア) 原告は,α7から,同年のPBC評価を下から2番目の「3」(貢献度が低く,業績の向上が必要)と評価された。α7からは,「あなたの2012年の活動に感謝します。いくつかの安定したパフォーマンスが見受けられましたが,多くの点において,リーダーシップを発揮して,さらに深い対応をする必要があり,残念ながら,そのような対応は見ることができませんでした。良い点はそのままに保ち,2013年にはさらなる貢献を期待します。」とのコメントが付され,α11からは,「私はマネージャーによる2012年のPBC評価に同意します。2012年のパフォーマンスの幾つかは,我々が期待した十分なパフォーマンスではありませんでした。2013年にはSO業務のイニシアティブをとるリーダーシップや,あなたの知識,経験そして英語能力の向上を期待します。」とのコメントが付された。これに対し,原告は,「今年初めに設定された目標はすべて達成されたため,私は評価「2」を期待しておりました。それゆえに,この評価には同意いたしません。」と意見を所定欄に記載した。(乙5)
(イ) 原告は,平成25年1月21日に設けられた平成24年度PBC評価会議の席上,α7から,「それが60でもいいんで40聞いちゃうでもいいと思っているんです。・・・無理に,80%を目指すために,自分でがちがちとやるよりも,聞いたほうが早いと,フレキシビリティがあったほうがいいと,今は思います。」といった趣旨の指導を受けた。(甲114〔27頁〕,証人α7〔51頁〕,原告本人〔15頁〕)
(4) 平成25年頃の原告の業務状況
ア 海外部門からの問合せに対する原告の対応
被告のグループの海外部門(アジア各国における指標を管理する部門)のα41は,平成25年2月27日午後5時25分頃,マレーシアのα42及び中国のα43に対し,Closure Reportなどメール添付に係る管理表一覧に属する複数のレポートについてどのシステムを用いて作成するのか,その管理状況を照会したが,α43から各レポートのオーナーに照会するように回答された。
そこで,α41は,改めて同年3月4日午後6時17分頃,原告らに対し,上記同旨の問合せをしたところ,原告は,同月5日午後4時26分頃,α41に対し,自分は Closure Reportがどのような内容のものかを知らず,照会に係る情報を有していないため,当該レポートのオーナーに確認するようにお願いしたい旨の回答を行った。
しかしながら,Closure Reportとは,SOプロジェクトが終了した旨を所定のシステムに登録することに関するクローズ支援業務に関するものであり,原告においても,当該レポートの担当者として当然に内容及び作成方法を認識しておくべきものであった。(乙57,78〔30,31頁〕,弁論の全趣旨)
イ 被告によるPIPの実施依頼と原告の対応
(ア) 平成25年上半期のPIP
a 原告は,平成25年3月25日,α7と面談を行い,同人から説明資料と改善計画を示されながらPIPを実施するように依頼されたが,これに応じることはできない旨回答した。
α7は,同月26日午後8時47分頃,原告に対し,PIPを実施できないか再度検討するように促し,「当プログラムの実施は業務命令に当たるものであり,拒否されることは就業規則上の一般的服務心得違反あるいは懲戒処分の対象となることがありますので申し添えいたします。」と記載したメールで連絡した。
原告は,同月29日午後5時39分頃,α7の上記メールに対し,拒否しない方向で行こうと考えている旨を返信し,同日頃,業績改善進捗管理フォームに署名した。
b 原告は,同年4月4日,本件組合に加入した。
c 原告は,α7に対し,同月7日午前11時14分頃,同月2日から同月5日までの週間報告を,同月15日午後6時10分頃,上記の修正版と同月8日から同月15日までの週間報告を,同月22日午後7時14分頃,同月15日から同月19日までの週間報告を,それぞれ提出したところ,同月26日午後6時18分頃,α7から,4月分の内容について面談を申し込まれた。
d 本件組合は,同月26日,被告に対し,「α8組合員へのPBC不当評価とPIP強要に対する抗議」と題する書面を差し入れ,原告のPBC評価は2以上と再評価すべき旨要求し,業績改善の必要性がないにもかかわらずPIPを提示したことに対して抗議した。
また,原告は,同日午後6時28分頃,α7に対し,PIPの内容,実施などについては団体交渉で本件組合と被告との間で協議する予定であるため,質問があれば本件組合を通すようにと要求し,その後α7と何度かやり取りをした後,同年6月4日午後6時32分頃,α7から,同年5月末が期限であったのに対応がないためPIP未達成という結果とするとの連絡を受けた。原告は,PIP未達成という評価を受けたことについて本件組合と相談し,本件組合は,同月11日頃,被告に対し,PIPの内容は協議中であり,その内容すらも決まっていないにもかかわらず,一方的に設定した期間をもって未達成という評価を下すことは不当行為であるとし,未達成との評価を撤回するよう要求した。
e 被告は,同年7月12日,本件組合に対し,『「α8組合員へのPBC不当評価およびPIP強要に対する抗議」への回答』と題する書面を交付し,本件組合の上記抗議に対して,原告をPBC評価3とした理由を説明し,要求には応えられないことを回答した。(甲64,乙8,9,10,18,43の1・2,114〔36頁〕,原告本人〔18ないし21,23頁〕,弁論の全趣旨)
(イ) 平成25年下半期のPIP
a α7は,平成25年8月13日午後8時48分頃,原告に対し,期間を同月19日から同年10月18日までとするPIPの改善計画を記載した業務改善進捗管理フォームの案を作成し,PIPを実施するように依頼した。これに対し,原告は,同年8月15日午後7時49分頃,α7に対し,評価方法が曖昧であるなどとして,改善計画案の内容を求めるメールを送信し,以降,原告とα7は,改善計画の内容についてのやり取りを重ねたが,原告は,自己の執務状況について「日常業務が回っていない状態」であるかどうかを争ったり,Billable比率を5%以上には上げられないなど,確実に実現できること以上の計画は拒否するという態度をとったりして,PIP実施を受け入れない状態のまま同年11月に至った。
b そこで,α7は,同月22日午後10時頃,原告に対し,「本年度の実施はこれ以上望めないと判断し,本年度PIPは改善無しで終了とさせていただきます。年開けにリセットとし,来年度必要に応じて再会を別途検討したと思います。」とする連絡をした。(乙13の1・2,原告本人〔22,23頁〕)
ウ 担当委員会
原告は,平成25年3月頃から,担当委員会の業務として,SBU指標,MA&AAS指標,Changing 指標及びCFT/S指標の4つの指標管理を担当することとなった。(甲114〔25頁〕,乙78〔6頁〕)
エ α7からの注意
(ア) 原告は,平成25年3月22日午後6時2分頃,α7から同月25日を目処にSOプロジェクトチームに対し契約内容の確認をするよう指示されたことから,同月22日午後7時13分頃,SOプロジェクトチームのメンバーに対し,▽のQA REVIEWに「WORLD WIDE(シンガポール)」が参加することになり,同月26日にREVIEWがあるため,同月25日を目安に,添付ファイルに記入して返送するよう依頼した。しかし,同日までに返信がなかったため,原告は,同日午前11時49分頃,SOプロジェクトチームに対して催促の連絡をした。なお,当該連絡メールには,α7からの依頼メールが引用され,SIH Processの文書が添付されていた。
原告は,同日午後2時30分頃,被告の銀行第一システム部のα44に対しても,同人がDPE(デリバリーフェイズの責任者)であるとして,上記回答を依頼したところ,α44は,同日午後3時18分頃,α45ら関係ありそうなメンバーに原告のメールを添付し,「F.Y.I」(For your information)と付記して転送した。
これを受けて,SOプロジェクトチームのα45は,同月26日午後5時頃,原告に対し,この件については特にフォローしなくても良いことを回答した。
α7は,同月25日午後4時55分頃,原告に対し,原告がSOプロジェクトチームに対して送った連絡メールに関し,SIH Process の内部文書を添付する必要がなかったこと,α7からの依頼メール部分は削除すべきであったこと,WORLD WIDEは参加者ではなく主催者であることを指摘し,今後は注意するようにと伝えた。
(イ) 原告は,同年4月3日午後零時41分頃,α7から,α17とα46に対する引継ぎの連絡の際に,α7のメールを引用した形でメール送信した点を注意されたため,同日午後零時58分頃,α7に対し,削除しなかった理由は引継ぎ主体を明確にするためであったから理解して欲しいと返した。
α7は,同日午後1時10分頃,原告の上記返答に対し,そうであれば,原告自身の言葉で説明すべきであったと指摘した。(乙11の1・2,乙51)
オ AR/DSO改善活動など
(ア) 原告は,AR/DSO改善活動及びSIH Process を担当した。このSIH Processとは,AR/DSO改善活動(前記(2)ア)と同様に,顧客に請求書を発行してから入金がされるまでの期間(入金サイクル)の改善に関する活動であり,新規のSOプロジェクトについて,顧客との契約内容を検討する会議体の参加者に対し,入金サイクル改善に関する提案を行う活動である。(乙78〔6,7頁〕)
(イ) 原告は,平成25年5月9日及び同年6月10日,被告のFS管理に対し,◎◎株式会社(以下「◎◎」という。)宛て請求書の着期限が間近であったことから,その承認の催促をした。
原告は,同年7月5日,SO業務AR/DSO改善活動の報告において,上記原告の対応を,「入金改善 有」,「入金遅延防止」と評価した。(甲48,49)
(ウ) 原告は,平成25年5月22日午後1時55分頃,FS管理に対し,同月17日に承認を依頼した◎◎◎株式会社(以下「◎◎◎」という。)の請求書の承認をするように催促したところ,同月24日午後3時2分頃,顧客との契約の開始日や終了日等の契約情報を被告所定のシステムに入力する部門である「SO Contract業務」のα47から,上記請求書に関し,金額変更契約があった場合には,新しい契約書番号への上書き処理が行われ,同請求書に係る契約でも上書き処理が行われていることから,上記請求書記載の契約番号とは異なる「(省略)」という番号で月額料金が発生している旨の指摘をされた。
そこで,原告は,同日午後3時30分頃,◎◎◎担当者α48に対し,契約書番号の末尾の表示を「(省略)」から「(省略)」に戻したいと思うが,担当者として(省略)と(省略)のいずれがよいか問い合わせ,同日午後4時17分頃,同人から(省略)に戻すことで構わないと回答を得,同月27日午後4時35分頃,α47に対し,契約書番号を(省略)としてお願いしたいと指示した上,原告がすべきことがあれば指摘して欲しいと依頼した。
原告は,同年7月5日,SO業務AR/DSO改善活動の報告において,上記原告の対応を,FS管理とα3請求業務(SO Contract業務)に作業催促をしたとして,「入金改善 有」,「入金遅延防止」と評価した。(甲50,乙78〔21頁〕)
(エ) 原告は,平成25年6月12日午後3時1分頃,メールでα6Invoicing Support業務課のα49から,◎◎◎◎株式会社(以下「◎◎◎◎」という)に対する「(省略)」の請求書の確認を依頼されたため,これを確認し,同日午後3時56分頃,同月14日に着くように発送するよう回答した。上記の確認依頼は,◎◎◎◎の消費税調整システムが壊れたことにより,被告において,本来被告では消費税を切捨て処理しているところ,◎◎◎◎の処理である四捨五入で対応するため,被告において手作業で行っていたことによるものである。
ところが,α49が,同月13日午前10時29分頃,原告を含む被告の担当者に対し,上記請求書に関して発送を一時止めすることになったと連絡したことから,原告は,同日午前11時1分頃,メールで,α50に対し,同請求書の締め切りが同月14日となっていることから,DSOに影響が出ないように配慮して対応して欲しい,同日は原告が休暇のため,必要があればα50においてバイク便の手配等の対応をして欲しいと依頼した。
原告は,同年7月8日,SO業務AR/DSO改善活動の報告において,上記原告の対応を,作業の催促をしたものであるとして,「入金改善 有」,「入金遅延防止」と評価した。(甲47,弁論の全趣旨)
(オ) 原告は,平成25年6月18日,(省略)担当のα51に対し,月初請求30日以内の支払という契約条件に沿った入金がされていない例があることを指摘し,請求書発行日を早めにすることなどで対応が可能かどうかなどと問いただした。このような原告指摘の案件は,改善の余地があるかもしれないという案件に含まれていた。
原告は,同年7月5日,SO業務AR/DSO改善活動の報告において,上記原告の対応を,「入金改善 無」と評価した。(甲51)
カ DEMAND業務の引継ぎ
DEMAND業務は,平成24年4月にα16が退職し,原告とα18が担当することになったが,平成25年4月頃に α18が退職したことに伴い,同人が担当していたDEMAND業務を α17が引き継いだものの,同人も同年6月頃に退職した。そのため,原告は,そもそも自分が担当していた業務に加え,α17がα18から引き継いだDEMAND業務も引き継ぐことになり,DEMAND業務のほとんど全てを担当するようになった。(甲114〔24,25頁〕,原告本人〔11頁〕)
キ α6チームのサポート依頼
(ア) SO業務部のα52は,α7からα6チームのサポート体制を整備するよう緊急の依頼がされたため,平成25年5月23日午前10時11分頃,α7及びα21らに対し,本土とα3との間のサポート体制を構築する必要があり,α21がα3の担当となるため,α7も担当を選ぶように依頼した。
(イ) α7は,同日午前11時24分頃,原告に対し,α6チームのサポートの担当を引き続き原告にお願いできないか依頼した。これに対し,原告は,同日午前11時27分,昨年担当したため,別の方にお願いしたいとの回答をした。(乙37)
ク 原告が採った社内手続
原告は,平成25年6月25日午前11時26分頃,α7に対し,α17の退職に伴ってデマンド業務に必要なQUERY(CISTO)をコピーしたいとして,その承認手続のために必要な検証を依頼したところ,同日午後零時48分頃,α7から検証が完了した旨のメールによる回答を得た。
上記の承認手続には,原告にもアクセス可能なPCS Cubeログイン画面,PCS Cube業務手続書上に登録申請手順の説明が存在し,申請手続に当たっては,使用目的とともに,製品保守の目的以外に使用しないことが明示されていない限り,使用承認がされないことが明記されているが,原告は,上記承認の申請手続に当たって,その旨を明示していなかった。
原告は,システム上,依然として原告の状況が「承認待ち」になっていたことから,同年7月8日午後5時11分頃,α7に対し,承認待ちになっているとして,再度の検証を依頼したが,同日午後5時14分頃,α7から,α7の役割は検証であって,承認は承認者に確認するように指摘された。
原告は,同年8月1日午前10時33分頃,α53に対し,CISTOの承認を依頼したところ,同日午後1時6分頃,誰の引継ぎになるのかを問われた。CCで原告の依頼内容を共有していたα54は,同日午後2時1分頃,α53に対し,以前はα55が実施しており,現在ヘルプ・デスクに承認中のまま止まっている理由を確認していると回答し,原告に対しては,謝罪した後,リソースオーナーの変更が完了したら連絡するため,再度申請をお願いしたいと回答した。
その後,α7は,同月6日午後1時16分頃,原告に対し,やむを得ないので再申請をお願いしたい,検証をすぐ通すので連絡して欲しいと伝えた。(甲38,乙39,68の1・2,弁論の全趣旨)
ケ α6チームからの問合せに対する原告の対応
原告は,平成25年6月28日午後5時20分頃,α6チームのα19から,2件のOOCODの発注に関し,これらが初回の発注の変更なのか,新しい発注なのかの確認及び同発注に係る対象機器の確認を求められたが,同日午後5時29分頃,α19に対し,MAXの代行申請をした者又は申請承認した者に確認して欲しいと回答した。
α19は,同日午後5時38分頃,原告に対し,申請者でも把握ができていないので,SO業務担当者へ確認させていただきたく,OOCOD発注について,申請者にガイドしていただけないかと,対応を依頼したところ,原告は,同日午後5時45分頃,「申請代行者なら,元帳票を起票された方なので分かるはずです。以上」と回答した。
そこで,α19は,やむなく同日午後6時9分頃,α14と連絡を取って原告に対応を拒否された依頼を行って,連絡を取り合いながら上記の確認作業を進め,同日午後9時53分頃,α14に対し,やり取りの記録を残すために,OOCD発注の対象機器に関して,(省略)が6個,(省略)が96個ということでよいのか,確認して指示して欲しいと依頼するメールを送信し,α14も,同日午後9時59分頃,確認したので発注をお願いしたい旨のメールを送信した。
α7は,これら一連の原告の対応等を踏まえ,平成25年7月4日,原告に対し,原告に代わってα14が処理しているにもかかわらず,原告がα14の作業の進捗状況を確認することも,お礼をいうこともなく,途中で帰宅してしまったことについて,チームワークを著しく損ねる対応としてクレームが出ていることを指摘した。
なお,原告は,α19に対する同日午後5時45分頃のメール発出後に,午後7時頃までα19からの新たな質問を待った等として,上記α7の指摘は事実誤認である旨を主張するが,上記α19とα14とのやり取りに照らしてにわかに採用することができない。(乙12,40,41の1・2)
コ α6チームからの問合せに対する対応
α6チームのα56は,平成25年8月30日午後2時35分頃,SOContract 業務に対し,CFT/Sのインプットのタイミングが間違っているかもしれないため確認して欲しいと依頼したところ,SO Contract業務のα57は,同日午後2時43分頃,α56に対してはSO業務部に対応を依頼した旨の回答をし,原告に対しては,上記α56からの問合せに対して回答するように依頼した。
原告は,同日午後2時57分頃,SO Contract業務に対し,報告書を早めに受領したため同年8月中にCFT/Sにインプットしたこと,請求書発行日は同年9月9日になっているので,同月になってから発行される旨回答した。
SO Contract業務は,同日午後3時48分頃,原告に対し,通常処理希望日が Billing Dateとなるため,同年8月29日での依頼とされたため,Billing Dateを同日で設定されたようであると確認し,同日発行分をマイナスし,同年9月9日付けで発行されるよう変更する必要があるか問い合わせるとともに,α15に対し,この件の対応を依頼した。
原告は,同年8月30日午後4時11分頃,α48及びα15に対し,◎プロジェクトの同月実績分の請求書について,通常は同年9月1日以降に請求書が発行されるが,同年8月29日付けで請求書がでるとプロジェクトに問題があるか問い合わせた。
α15は,同月30日午後4時15分頃,α48に対し,問題ないのではないかと回答したが,同日午後4時26分頃,α48から同月実績なのに同月29日付けの請求書はおかしいため,同年9月1日以降,せめて同年8月31日付けとするように指示され,さらに,現場の都合ではなく,顧客との合意事項(運用手順書)を優先して判断するようにと指摘された。
α15は,同月30日午後4時31分頃,原告に対し,同年9月1日以降に請求書を発行するよう依頼し,原告は,同月30日午後4時38分頃,SO Contract業務のα58に対し,同月29日付けで発行された請求書を同年9月初旬で発行されるように変更する手順を問い合わせたところ,同年8月30日午後5時頃,α58から,同人において週明けに変更処理をする旨の回答を得た。
原告は,同日午後5時13分頃,α58に対し,原告が同年9月2日は休暇を取っているため,緊急処理が必要であれば,所属長経由で連絡をするよう伝えた。
上記一連の経緯をCCで情報共有していたSO業務部のα59は,同年8月30日午後5時17分頃,原告に対し,同月に発行された請求書であるから,同日中にマイナス処理をしないと,多方面に影響するため,α3チームに同日中の処理の交渉をするなどの対応が必要であると指摘した。
原告は,α58に対し,同日午後5時20分頃,同日中のマイナス処理をメールにより依頼したが返事を得られず,改めて同日午後6時4分頃にも,同日中のマイナス処理を依頼し,同人から了承を取り付けた。
α59は,同日午後6時8分頃,α7に対し,上記指摘について原告がα3チームと交渉しているか分からず不安であると報告した。そのため,α7は,α14に対し,上記マイナス処理の進捗状況の確認を依頼し,α14は,α7からの依頼に従って,上記マイナス処理の進捗状況を確認した上,同日午後10時58分頃,α7に対し,SO Contract業務のα58がマイナス処理をしたことを報告した。(甲90,乙76)
サ α7からの指示に対する原告の対応
(ア) 原告は,平成25年4月26日午後3時54分頃,被告においてハードウェア製品のシリアルナンバーを管理するためのシステムであるPCS Cubeのユーザー登録申請をしたところ,同日午後6時9分頃,これが却下された。
(イ) 原告は,平成25年9月11日午後1時7分頃,α7から,固定資産台帳上のシリアル番号を修正するため,「PCS CUBE」システムに登録された情報を変更するように指示されたが,同日午後1時13分頃,α7に対し,「実はPCS CUBEがどういうものかよくわかっておりません」とメールに記載しながら,そのシステムを理解していないのでα14に問い合わせてみる旨を回答した。
(ウ) なお,PCS Cubeの利用申請については,「Online User登録・更新・削除申請方法」と題する文書に,記載例とともに申請手順の概略が記載されている。(甲39,乙44,68の1・2,乙78〔16頁〕)
シ α6チームからの問合せに対する原告の対応
原告は,平成25年9月11日午前11時49分頃,α6チームのα60から,発注済みのSWについて,エラーがあり,作業中断されていることから,これのキャンセルが可能か問合せを受けたため,同日午後5時46分頃,△業務部のα61に対し,当該SWがキャンセル対象かどうか確認した。
α61は,同日午後5時57分頃,アセット業務部のα62に対し,原告にキャンセル対象として回答して問題ないか問い合わせ,α62は,同日午後7時4分頃,原告に対し,発注済みのSWについて,ESWに注文を入力したのか尋ねるとともに,入力しているのであれば,システム上キャンセルするよう回答した。
原告は,同月12日午前9時38分頃,α60に対し,キャンセル対象であると回答したところ,CCでこの回答を共有し認識したα14は,同日午前10時33分頃,原告に対し,α6チームはSOプロジェクトチームからのMAX依頼がなければキャンセル処理はできないと思うため,原告がSOプロジェクトの担当者に確認し,キャンセル依頼をするように指摘した。
原告は,同日午後5時48分頃,α61に対し,上記キャンセル処理にかかる注文MAX番号を問い合わせたところ,同日午後6時17分頃,CCで情報を共有していたα62から,MAXで検索した結果,注文時の情報が分かったとの回答を得た。
α14は,同日午後6時27分頃,α7に対し,α62が△に確認することではないと原告に指摘した上でSWのMAXも検索して添付してくれた旨報告し,なぜ原告がSWのMAXを探せないのかと,原告の業務遂行能力に疑問を呈した。(乙45)
ス 原告のLabor Claimの申告
(ア) 被告は,その従業員において,プロジェクトごとに作業内容,作業時間を正確に管理するための作業記録であり,Billable 比率の計算に用いられているLabor Claimを申告するという制度を設けて運用しており,このLabor Claimは,記録された時間に当該従業員の単価を乗じた金額が当該プロジェクトにコストとして計上され,被告はこれを基にコスト管理を行うという重要なものであるため,各従業員には正確かつ厳密に作業時間の記録をすることが求められる。
(イ) しかるに,原告は,平成25年10月10日午後2時51分頃,Labor Claimの管理部門から,申請のあったプロジェクト1件について現在すでに終了し,現在クローズ処理をしているため,修正をするようにとの依頼を受け,同日午後3時6分頃,同管理部門に対し,修正した旨回答した。
(ウ) 原告は,同年11月12日午後4時51分,Labor Claimの管理部門から,申請のあったプロジェクト8件について現在すでに終了しているため,修正をするようにとの依頼を受け,同日午後5時1分頃,同管理部門に対し,修正した旨回答した。
(エ) 原告は,同年12月10日午後零時21分頃,Labor Claimの管理部門から,申請のあったプロジェクト11件について現在終了しているため,修正をするようにとの依頼を受け,同日午後2時32分頃,同管理部門に対し,CFT/Sで確認できたものに変更したが,時間内に間に合わない場合は同管理部門の判断で処理するように回答した。
原告は,同月11日午前9時26分頃,同管理部門から,CFT/Sでの確認ではなく,契約終了日を目安として処理して欲しいと指摘されたため,同日午前9時29分頃,同管理部門に対し,それであれば同部門の判断で処理して欲しいと回答したところ,同日午前10時38分頃,CCで情報を共有していたα14から,終了するプロジェクトを申請すると,費用が計上され,クローズ処理ができなくなるため,注意して申請するように,また,管理部門の判断ではなく原告の判断で修正するように指摘された。
(オ) 原告は,平成26年1月10日午後6時32分頃,Labor Claimの管理部門から,申請のあったプロジェクト8件について,現在,契約終了もしくは既にCFT/SでCloseしている業務にClaimしているとして,修正をするようにとの依頼を受けた。(乙16,78〔27,28頁〕)
セ α6チームからの問合せに対する原告の対応
SO業務部は,平成25年10月15日,α6チームのα56から,◎◎◎◎に対する請求書について,同年9月作業分の請求金額がほかの月と比べて8万2000円多いことから,請求金額の確認を依頼された。
原告は,上記依頼を受けて,同日中に,◎プロジェクトの担当者に対し,増額理由を聴取し「DWHサーバーUPS交換用バッテリ」の料金である旨の回答を得たことから,その旨を◎◎◎◎の担当者に電話で回答した。(甲19)
ソ α12からの問合せに対する原告の回答
(ア) SOプロジェクトチームのα12は,平成25年10月24日午後4時44分頃,原告に対し,α6チームからHW発注MAXを依頼する際に,AAS製品とQCOS製品とに分けて別々に申請するように指示されたことから,これらの区別の仕方を教えて欲しい,また,HWとは別にSWに発注申請をする必要があるのかなどと問い合わせた。
AAS(Advanced Administrative System)とはパーソナルコンピュータ以外の小型・中型又は大型機械を意味し,QCOS(Quantity Control System)とはパーソナルコンピュータ等の小型機械等を意味する。
(イ) 原告は,同月25日午前10時37分頃,α12に対し,QCOSとSPIS SYSTEMを使えばα12自身で調べることができると回答したが,同日午前10時47分頃,α12から同システムが分からないため原告に確認してもらえないかと再度依頼されたことから,午前10時50分頃,調べて回答する旨を伝えた。
原告は,同日午後5時9分頃,α12に対し,QCOS製品とAAS製品の区別の仕方を伝え,また,α6チームからHWとは別にSWの発注申請の要望があれば別にすればよいし,要望がなければ一緒でもよいと回答し,α12から感謝された。
(ウ) 原告は,同年12月頃,α7から,上記のα12の問合せに対する回答について,「SPIS/QCOS」の検索方法を回答したことが業務対応とは思えないと指摘されたが,最終的に問題はなかったと応じた。(乙28ないし30,78〔18頁〕)
タ α13からの問合せに対する原告の回答
(ア) SOプロジェクトチームのα13は,平成25年11月11日午後2時48分頃,原告に対し,磁気媒体(テープ)の廃棄に関する起票について問い合わせた。
原告は,同月12日午前9時53分頃,α13に対し,MAXと呼ばれるデータベースで「廃棄」というキーワード検索をすると帳票例が検索結果として表示されるため,その中から好きなものを選択し,内容に「廃棄依頼」と記入して起票すればよいとして,当該検索結果を画像添付して,回答したところ,α13から,同日午前9時58分頃,α13のアクセス権では参照できない起票例を添付してもらい,助かったと感謝された。(乙30,31)
(イ) 原告は,同年12月頃,α7から,α13の問合せに対する回答について,個別に対象機器を確認した上で具体的な指示をすべきと指摘されたが,最終的に問題はなかったと応じた。(乙30)
チ α15からの問合せに対する原告の回答
原告は,平成25年12月2日午後1時38分頃,SOプロジェクトチームのα15から,請求書を統合するために必要な手続について問合せを受け,同日午後3時39分頃,SO Contract業務に対し,具体的にどのようにすればよいのか自らも問合せをしたところ,同日午後4時10分頃,同部門のα63から同部署では不明であり,契約内容を確認の上,担当営業と連携するよう回答された。なお,原告は上記SO Contract業務に対する問合せを,請求管理部門のα64に対しても,CCで送信していた。
その後,原告は,同日午後4時48分頃,α7から,問合せ先の不適切さを指摘され,有効契約書の存在から請求書の明細表示をどうするのか原告とα15との間で調整すればよいのではないかと指摘され,また,α64をCCに入れている狙いは何かを問いただされた。(乙47,69)
ツ α7からの問合せに対する原告の回答
原告は,平成25年12月10日午後9時34分頃,α7から,原告の担当する契約書レビューの依頼を受け,同月11日午前9時22分頃,Service Transaction Support部門のα24及びα23に対し,プロジェクトコードの特定を求める問合せをした。しかし,α7の依頼は,もともとα23から顧客会社に対するレビュー用資料の作成を依頼されたことを受けるものであり,Service Transaction Supportは,SOプロジェクトにおける契約のレビューが実施されることを通知した部門でしかなかった。そのため,α24は,同日午前10時17分頃,α7に対し,α23をCCに入れながら,「意味わからん(笑」と記載し,原告のメールを転送したが,その後,α23において,原告に対し,レビューすべき契約書についての連絡をした。(甲37,乙38,弁論の全趣旨)
テ α7からの問合せに対する原告の回答
α7は,平成25年12月26日午後2時43分頃,原告に対し,月内契約予定又は締結済みとなっている契約に係る請求発行状況について,契約書の内容を確認して,調査することを依頼したところ,同日午後5時59分頃,原告から,特定の請求書について,同月27日捺印予定でG-MAXで起票中なので,年内の請求は不可能であり,これといった変化はない旨回答された。
α7は,同日午前11時3分頃,原告に対し,G-MAXで起票中と年内請求不可能の関連性について問いただした上,年内に契約締結と入力まで完了した場合,それでも年内請求はあり得ないとする趣旨かと質問をしたところ,同日午前11時54分頃,原告から,契約書提出予定は本日午後6時である旨の回答を得た。
α7は,同日午前11時57分頃,原告に対し,契約書提出予定が午後6時であることで,今月の請求発行の有無が判別可能なのかと質問したところ,同月31日午後5時頃,原告から,同日時点でα3チームの確認中である旨の回答を得たことから,同日午後10時34分,原告に対し,処理進捗の報告ではなく支払計画を聞いており,原告の回答は処理中だから回答不能と回答する趣旨か問いただした。(乙54)
ト 原告の平成25年のPBC評価
原告は,α7から,平成25年のPBC評価を下から2番目の「3」(貢献度が低く,業績の向上が必要)と評価された。α7からは,「当初の目標に比べると低いパフォーマンスが幾つか見受けられます。私は,2014年には,あなたがさらに積極的に最善を尽くし,より深いレベルまで貢献することを期待します。」,「ローカルの日常業務管理については,以下のとおり不満な点が幾つか見受けられます。」,「残念ながら,あなた自身の業績と一部の管理項目は低かったと言わざるを得ず,もっと良い方法があったはずです。あなたは,話し合いの時間を設けて,チームと誠実に話をしたり,いつでも躊躇することなく私に報告したりするべきでした。」と指摘され,SBU指標について,「年末まで不安定な状況が続きました。(本項目について自分自身の担当分の管理及び全体の管理担当者としての管理双方を含む)」,MA&AAS指標について,「あなたは自分の業績を報告しましたが,他のメンバーの業績も同時に報告しなければなりませんでした。あなたは他のメンバーの状況を詳細に管理していなかったことが見受けられます。(本項目について自分自身の担当分の管理及び全体の管理担当者としての管理双方を含む)」,changing 指標について,「あなたは最後まで明確にアップデートせず,あなたの分析の結果がないまま終了されました。」,「(本項目について自分自身の担当分の管理及び全体の管理担当者としての管理双方を含む)」,SIH Processについて,「業績報告の内容は著しく欠けており,改善及び改善の根拠は全く判断できません。業績及びあなたが貢献したとする根拠は全くなく,実施したとみなすにはあまりにも不十分な業績です。あなたは,自分の業績を誰にでも容易に理解してもらえるよう明確にすべきです。」,「最適な役割の明確化」について,「日常業務の多くの部分に,適切な役割であることの明確化からは明らかに程遠いものがあり,そのことが,不明瞭な領域をさらに増加させました。」,「第3四半期には12時間,第4四半期には50時間についてレーバークレームの報告がありました。このことは,あなたが自分のクレームのために,他のメンバーのプロジェクトコードを使用したことを意味します。さらに,あなたは既にクローズされた(省略)(作業番号)を,自分の月次報告に使用しましたが,このことは,ある月の財務に影響を与えました。このことは,あなたが自分で自分の管理すべきものを管理できないためだと考えることができます。」,「私が何度目的を伝えても,私が繰り返しお願いした確認をせずに最後まで回答が完了しないことが何度もありました。」,「あなたの職務活動や行動は,あなたの周辺の同僚の一部があなたに不信感を抱くようになり,また,円滑にアドバイスをするのにより多くの時間が掛かるという影響を与えました。」,「同じバンドの他の同僚と比較して,あなたのパフォーマンスは,測定結果/レーバークレーム報告/日々の職務活動に係る幾つかの項目の観点において低いものでした。」,「あなたは本来の潜在力を素直に見直し,チームとのコミュニケーションをより増やすべきです。」,AR/DSO改善活動について「あなたはDSOの悪化を避けることに注意を向けてフォローをしただけであり,その後のトラッキング(進捗管理)についての証拠及び最終業績の証拠は何もありません。目に見えるのは,途中までで終了した活動だけです。」といったコメントが付された。
原告は,こうしたα7の評価に対し,SBU指標について,「sbu fail管理は相手の同意があって成功できます。すべて当職のせいにしてもらっては困ります。」,MA&AAS指標について,「当件については証拠を添付して説明しています。よって「α7さんの指摘」は当たりません。」,changing 指標について,「当件については証拠を添付して説明しています。よって「α7さんの指摘」は当たりません。」,SIH process及びAR/DSO改善活動について,「結果報告書内容は以下のⅠ項目(省略)を証拠として記載してあり,問題ありません。証拠を無視した不当評価です。」,最適な役割の明確化については,「エクセルの表を添付して明確に説明してありますので明瞭です。」,「この職務は全体に関連して行っていますので,すべてのプロジェクトコードにて請求し得るものです。私は代表のコードに移し替えて請求をしましたので,財務に対する影響はありません。」,「α7さんの悪意のある主観は,組合員を見下すものであり,労働組合法によって禁止されています。」,「私は測定結果/レーバークレーム報告/日々の職務活動に係る幾つかの項目の観点について証拠をつけて説明していますが,α7さんからは他と比べて低い根拠による説明はありませんでした。よってなぜα8が低いのかは検証できません。」,「これは相対評価に関わることではありますが,α7さんはα8がどのポジションにいるかについて証拠を示すべきであるのに,証明を行っていません。たとえ恣意的な評価がなされるとしても,評価される側として反論ができないのは可笑しいと思います。」などとする意見を所定欄に記載した。(乙6)
(5) 平成26年の原告の業務状況
ア PBC評価の面談
α7は,平成26年1月22日午前9時34分頃,原告に対し,平成25年のPBC評価の面談の日程を調整するために,候補日程を指定して連絡したところ,同月22日午前9時50分頃,原告から,PBCは同月28日であり,仕事が詰まっており十分な資料を用意できないため,翌週に面談を設定して欲しいと返答があった。
α7は,同日午前10時3分頃,原告に対し,そもそも2週間前に依頼していたのだから,何も準備できていないことに疑問を呈し,同月24日が国内組織としての最終締切であるし,原告以外の社員は既に完了している状態だから,原告の申出は許可できないと伝えたところ,同日午前10時10分頃,原告から,同月26日午後4時からお願いしたいとの回答を得て,その後のやり取りを経て,結局同日午後5時から午後6時までの間において面談を行うことになった。(乙24)
イ ◎プロジェクトの請求書統合に係る対応
(ア) 原告は,平成26年2月18日午後3時25分頃,α15に対し,平成25年12月2日に同人から寄せられた問合せの件で,契約内容からすれば別の独立した内容のものについて,顧客からの月次報告書により一つにまとめて金額を修正していることが,契約書の観点から問題がないのかOperationsと契約渉外に確認し,その確認結果を平成26年2月21日までに知らせて欲しいと依頼した。
α15は,平成26年2月18日午後5時2分頃,原告に対し,契約渉外へ何を確認すればよいか分からないが,当初の契約の追加になるため,請求書の統合をして欲しいという顧客要請に従った処理を依頼していると回答した。
α7は,同日午後6時15分,α15に対し,上記原告の依頼の趣旨は顧客の依頼に基づいて2つの締結済みの契約書に基づく請求書金額の合算表示について,金額的に大本の契約金額の一部に含める形でよいのか確認するものであるとして,二つのチャート図を添付して連絡した。
原告は,同月19日午前10時38分頃,α48及びα15に対し,当初契約から追加された分がシステム上売掛として残っているため,このような請求を削除するかどうかについて確認を求められているとして,α7が添付したチャート図を引用して回答を求めた。
α48は,同日午前11時6分頃,原告に対し,チャートの意味が分からないので,確認のしようがなく,月次報告書に記載のあるとおり,追加請求分は当初契約書に統合する形になるため,そのように処理して欲しいと伝えるとともに,システム上売掛として残っている理由と,その削除処理に要する費用及びその時期について回答を求めたが,原告は,同月25日になっても回答をしなかったため,同日午前12時57分頃のメールにより改めて原告に対して回答の督促をした。
(イ) α7は,同月24日午前10時1分頃,原告に対し,報告書で発行した金額部分と追加請求だけで発行されている部分とが重複で請求発行されているかどうかの確認をして欲しいだけであり,今週中には解消が必要であるから,その進捗状況を報告し,自力での解消が困難であれば対応を検討する旨連絡した。
原告は,同日午前10時30分頃,α7に対し,α48から「チャートの右の内容の意味が良くわからない(右も左も同じ)ので,確認のしようがありません。」といわれており,DPE,営業と理解が成立していない状況であると報告し,別の請求についての対応もあり時間的余裕がないため,自力で解消することが困難であると伝えた。
α7は,同日午前11時25分頃,原告に対し,自力解消が不可能であるということだから,α7の方で預かるとして,月次報告書のもとになっている資料,月次報告書の作成要領,変動請求書の計算ロジック,月次報告書の金額になっているすべての対象請求書番号を送るように依頼したところ,同日午後零時10分頃,原告から,月次報告書作成はSOプロジェクトチームが行っており,基にしている資料も,作成要領も分からないと回答したほか,変動請求書の計算ロジック及び対象請求書番号を回答した。
原告は,同日午後零時57分頃,α7から追加で資料の提出を求められたため,同日午後1時39分頃,α7に対し,第一SO業務DBに一時的にファイルを保存した旨連絡し,同データベースにファイルを共有した。
(ウ) α48は,上記(ア)の同年2月25日の督促にもかかわらず,原告から何も返答がないことを不満に思い,同年3月3日午前10時26分頃,α14に対し,具体的な削除処理の時期及び金額を説明するよう求めるとともに,原告に質問したにもかかわらず,返答がないままに処理が進められていることが不快であると伝えたところ,同日午前11時2分頃,α14から,請求修正作業を同月解消予定であり,実際の削除処理に要する費用はない旨の回答を得た。
(エ) α48は,同月19日午後3時34分頃,FS管理から,変動分の修正でRRCが計上される旨の連絡を受け,同日午後4時10分頃,α14に対し,削除処理に要する費用は掛からないと理解していたのに,RRCが出ると報告されたのはなぜか報告を求めたところ,同日午後4時36分頃,α14から,平成25年10月分から追加契約分を含めて算出しないままに変動請求書を発行していたことが判明し,同年10月から平成26年1月までの請求の修正を行って,RRCが計上され,本日(平成26年2月19日)承認されることになった旨の報告がされた。
α48は,同日午後5時29分頃,α14の上記回答に対し,上記の事態が判明したことについて,関係部署に対する何の連絡もなく進めることは納得できないとして,経緯説明及び責任の所在を明らかにするよう求めたところ,同日午前1時37分頃,α14から,謝罪と事実経過についての報告がされた。(甲72,73,乙48の1・2,乙49,50,74)
ウ α7からの問合せに対する原告の回答
原告は,平成26年2月24日午後7時8分頃,α7から,KP1というシステムについて,最後のログオンが一昨年の10月になっているが,現在使っているか,使っているのであればその使用目的を知らせるようにと問合せを受け,同月25日午前7時54分頃,α7に対し,2年も前なので記録は残っていないが,KP1はSAPへの登録PRODUCTを調べる道具として使われ,納期改善があったときに当該製品を調べるために使われたのではないかと自己の見解を述べた。
α7は,同日午前9時47分頃,原告に対し,まだ使っているということなのかと回答の趣旨を確認し,今後使うかどうかを確認していると改めて質問の趣旨を伝えたところ,同月27日午後5時8分頃,原告から,今は別のシステムがあるため使っていないとの回答を得た。(乙53)
(6) 退職勧奨及び本件解雇
ア 原告は,平成26年2月21日,α7から同年3月末日を退職日とする早期退職プログラム(RAプログラム)を利用しないかなどと言われ,退職勧奨されたが,同月5日,α7に対し,これを拒否する旨を連絡した。
イ 被告は,平成26年2月5日付けで,本件組合から,原告について退職勧奨の候補になることが予想されるから,評価内容について団体交渉により協議するとして,原告のPBC評価が「3」であった理由を回答するように求められたため,同月27日付けで,本件組合に対し,『「個別組合員のPBC低評価理由説明の要求:α8組合員」への回答』と題する書面を交付し,SBU指標及びMA&AAS指標の管理状況,SIH Process及びClarity Optimal Roleへの貢献,DSOの活動のいずれも不十分であったことを指摘した。
ウ 原告は,同年3月10日,被告から,同月28日付けで解雇する旨の解雇予告(本件解雇)を受けた。本件解雇に係る解雇予告通知書には,「貴殿は,業績が低い状態が続いており,その間,会社は様々な改善機会の提供やその支援を試みたにもかかわらず業績の改善がなされず,会社は,もはやこの状態を放っておくことができないと判断しました。以上が貴殿を解雇する理由となります。これら貴殿の状態は,就業規則第53条2項の解雇事由に該当します。」,「会社は,期日(通知から一週間以内)(必達)までに,郵送もしくは持参にて貴殿が添付書式にて2014年3月28日付にて自ら退職する意思を示した場合はこれを受理し,解雇を撤回したうえで,貴殿の自己都合退職を認める考えです。この場合,退職加算金や,会社の費用負担で再就職支援会社のサポートを受けられるオプションも用意する考えです。詳細は,別途,口頭にて説明します。なお,期限を過ぎた場合,提出書類に不備があった場合などはこの限りではありませんのでご留意ください。これら対応は,会社と貴殿との間の雇用契約を円満に終了したいとの考えに基づくものです。」との記載がある。
エ 本件組合は,被告に対し,平成26年3月13日,原告を含む本件組合の組合員に対する解雇について,団体交渉を申し込み,具体的な解雇理由を文書で示すことを求め,同月14日,自主退職通告期限の延長,解雇決定の際の資料の提出,解雇予告手当額と自主退職を選択した場合の加算金額の回答を求めた。
オ 被告は,同月19日,本件組合に対し,原告に関して以下のとおり回答した。
「1 窓口業務の担当者でありながら,問い合わせメールの内容が読解出来なかったり,確認すべき相手が理解できなかったり,所属長やメンバーに対して進捗を報告することが出来ませんでした。また,メールの写し先を外すことで情報共有を滞らせる対応をし,何度注意しても改善されませんでした。
2 組織一体となってチームワークを発揮する業務対応が全く出来ず,途中で丸投げし,丸投げ後は結果確認すらせず,お礼のコミュニケーションも無く,周りのメンバーに悪影響を与えることで,チームワークを損ねていました。グループがおかれている状況を全く理解せず,意識改革の改善も見られませんでした。
3 所属長が,同組合員の業務改善のため必要な指導を最大限行うことを申し入れているにも関わらず,その改善の必要性を認めず,現状のままの業務方法を肯定し続けるだけで,改善姿勢が全くみられず将来性も全く期待できなかった。」(甲1,2,3,4,70,114〔1ないし3頁〕,乙20,21,原告本人〔13,14頁〕)
2 争点(1)(本件解雇の有効性の存否及び解雇権濫用の該当性の有無)について
被告は,原告には,①第二製品需給管理部での不適切な業務(被告主張(1)ア(ア)),②SOプロジェクトの後方支援業務における知識不足による不適切な対応(同(イ)a),③α6チームからの問合せに対する不適切な対応(同(イ)b),④◎プロジェクトチームに対する不適切な対応(同(イ)c),⑤AR/DSO改善活動及びSIH Process の不十分な活動(同(ウ)),⑥担当委員会における不適切な業務(同(エ)),⑦基礎的な能力の欠如(同(オ)),⑧業績改善の見込みがないこと(同(1)イ)などの事情が認められることから,「技能または能率が極めて低く,かつ上達または回復の見込みが乏しいかもしくは他人の就業に支障を及ぼす等,現職または他の職務に就業させるに著しく適しない」(就業規則53条2項)場合に当たり,本件解雇は有効である旨主張する。そこで,以下,被告が指摘する個別の事情について検討した上で,本件解雇の有効性について検討する。
(1) 第二製品需給管理部における業務について
被告は,原告が第二製品需給管理部において,過剰な在庫を発生させるなど管理能力が不足し,所属長から低い評価を受けたり,業務態度に問題があったりした旨主張し,認定事実(1)エ(イ)(ウ)によれば,原告は,平成20年10月頃,同僚から在庫数が従来と比較して多い旨指摘されたこと,同部で繁忙度が高い時期に休暇を取ろうとしたことなどこれに沿うような事実関係が認められる。
しかしながら,認定事実(1)エ(エ)によれば,原告の平成19年及び平成21年のPBC評価はそれぞれ「2」であり,また,同部における原告の功績が讃えられて記念品を贈呈されていることが認められ,これによれば,同部における原告の業務能力が極めて低かったとは認められない。
(2) SOプロジェクトチームの後方支援業務について
ア 平成24年5月頃のα9からの問合せへの対応について
被告は,α9からの問合せについて,原告が自らデータベースを用いて検索し回答しなければならなかったのに,全く無関係の部門に問合せをした旨主張する。
そして,認定事実(3)エ(ア),(ウ)によれば,そもそもα9は,CSTNOBがダミーコードであり請求書が送付されていないことが分からずに,請求書の現在の送付先の確認を求めていたのであり,これに対しては,α38が回答したとおり,ダミーコードであり請求書の送付がない旨回答すべきであった。そして,認定事実(3)エ(イ)によれば,原告がα34から指摘されたCFT/Sにおいて(省略)を検索すると,顧客名に「金融セクター用ダミー(共同化プロジェクト用)」と表示され,「(省略)」の欄も空欄になっていることからすれば,原告において自ら調査した上で回答することができたと認められるから,原告がこのような対応を怠ったことは,不適切な対応であったと認められる。この点,原告は,認定事実(3)ケ(イ)のような指導が上司であるα7からあったことをもって,原告の問合せには問題がなかった旨主張するが,他部門・部署の関係者に対し照会するには,相応の事前の調査を行った上で判明しない事柄について,当該相手方が照会に係る情報を有していると判断する合理的な根拠を踏まえて行われるべきであって,一般的な社会人ないし組織人の常識としても,上記α7の指示が自らは何らの調査もすることなく,探索的に照会することまでを内容としているものとみることはできないから,上記不適切であるとの判断を左右するものではない(この点は,以降の原告の他部門・部署への問合せにおいても同様である。)。
また,本件とは無関係の売掛管理部のα34に問合せをしたことや,同部が無関係であることが判明した後も,同部のα37をCCに入れてメールを送ったことが不適切であったことは,原告も自認するところである(原告本人〔24ないし26頁〕)。
他方で,原告がα36に対して問合せをした点については,認定事実(3)エ(ウ)によれば,CRIS画面に,「使用禁止(問合せ先:組織コード○,α36)」との記載があり,これを見てα36に問い合わせることはやむを得ないものであったといえる。
イ 平成24年5月頃のα10からの問合せへの対応について
被告は,α10からの問合せについて,HW DEMANDデータベースのアクセス権の付与や削除を行う管理者はSO業務部の管理者であるから,原告は,SO業務部内で確認して対応すべきであったのに,ヘルプ・デスクに問い合わせるよう指示するという不適切な対応をした旨主張する。
そして,認定事実(3)オによれば,HW DEMANDデータベースのアクセス権の付与や削除はSO業務部が担当していたところ,α10も最終的に問合せ先としてSO業務部の α11を紹介していることからすれば,ヘルプ・デスクに問い合わせるよう伝えた原告の対応は不適切であったと認められる。
この点,原告は,α16から引継ぎがされたばかりの状態であり,しかも十分な引継ぎがなかったために適切な対応を取ることができなかった旨主張し,これに沿う供述をするが,仮にそうであったとしても,原告において,α10に回答する前に,SO業務部の他の従業員に確認するなどしておけば,上記データベースのアクセス権付与や削除がSO業務部の担当業務であることは容易に判明したと考えられるのであり,原告が主張する事情は,原告による上記行為を正当化するものではない。
ウ 平成25年10月頃のα12の問合せへの対応について
(ア) 被告は,α12からの問合せについて,発注予定のハードウェア製品がAAS製品とQCOS製品とにどのように分類されるかを,原告が自ら確認して回答すべきであったのに,確認方法のみを記載してSOプロジェクトチームで行うようにと回答するなどSO業務部の存在意義を否定する対応をした旨主張し,前提事実(6)イ(イ)によれば,SO業務部の役割はSOプロジェクトチームの後方支援業務であり,認定事実(4)ソ(ア)によればα12は原告に対してAAS製品とQOCS製品を区別することを依頼していたのであるから,原告としては,これらの区別の方法ではなく,具体的な区別を調査して回答すべきであったことが認められる。
しかしながら,認定事実(4)ソ(イ)のとおり,上記対応の後,原告は,α12から再度調査を依頼され,問合せがあってから約1日程度で調査し,その確認結果を回答していることも併せ考えれば,原告の対応を一連のものとしてみるとき,その対応は必ずしも十分に職責を果たすものではなかったが,不適切なものであるとまでは認めることができないから,この点に関する被告の上記主張は採用できない。
(イ) 被告は,α12がHW(ハードウェア)とは別にSW(ソフトウェア)について発注申請を行う必要があるかと問合せをした点ついて,特定のSOプロジェクトについてソフトウェアの発注が必要となった場合にはハードウェアとは別に発注申請を行う必要があり,原告はそのように回答すべきであったのに,α6チームの判断で発注方法が選べる旨の誤った回答をした旨主張する。
しかしながら,原告のこのような回答が誤りであったと認めるに足りる証拠はなく,かえって,認定事実(4)ソ(ウ)の平成25年12月頃のα7の原告に対するα12への対応に関する指摘の中に,上記事項に関するものはなかったこと(乙30)からすれば,原告の上記回答が誤りであったとはいえないか,誤りであったとしてもこれが執務内容に現実的な支障を惹起するような誤りであったとまで認めることはできない。したがって,この点に関する被告の上記主張は採用できない。
(ウ) そうすると,α12からの問合せに対する原告の対応は,不十分なものではあるが,必ずしも不適切なものであるとまでは認めることができない。
エ 平成25年11月頃のα13の問合せへの対応について
(ア) 被告は,原告が起票に使用すべき適切な帳票を回答する必要があったのに,好きなものを選べばよいと回答するという不適切な対応をした旨主張する。
しかしながら,認定事実(4)タによれば,α13は原告からの回答に対して起票例が参考になったと返答しているのであり,α13は原告からの回答によって起票することができたと認められるのであるから,原告の対応が必ずしも不適切なものであると認めることはできない。そうすると,この点に関する被告の上記主張は採用できない。
(イ) 被告は,原告が α13からの問合せに対して,α13にアクセス権のないデータベースの画像を添付するという不適切な対応をした旨主張する。
そして,認定事実(4)タによれば,原告は,α13からの問合せに対して,α13にアクセス権のない情報を添付して回答したことが認められ,いくら同じ会社の社員であるからといって,当該従業員にはアクセス権のない情報を提供し,当該情報にアクセスしたと同視し得る事態を惹起すること自体が不適切なのであって,アクセス権がないα13に情報を提供すること自体が不適切な対応であると認められる。
この点,原告は,α13が情報保護については当然認識しており,実態として情報セキュリティ上の問題は生じなかった旨主張するが,アクセス可能な社員を限定して保秘の実効性を上げようとするアクセス権設定の趣旨に照らし,これに理由がないことは明らかである。
(ウ) そうすると,α13からの問合せに対する原告の対応には,不適切な点があったと認められる。
(3) α6チームからの問合せに対する対応について
ア 平成24年3月頃の問合せについて
被告は,原告が対応するα6チームからの発注処理の問合せについて,対応の途中で帰宅し,SO業務部の他の社員に迷惑をかけた旨主張する。
しかしながら,認定事実(3)イによれば,α14がα6チームの問合せに対して原告に代わって回答したことが認められるものの,α6チームからの問合せは就業時間外である午後8時頃に突発的にされたものであって(乙26),原告が自らこれに対応できなかったことをもって,不適切な対応とすることはできないから,この点に関する被告の上記主張は採用できない。
イ 平成25年6月頃の問合せについて
被告は,原告が,α6チームからの問合せに対して,自ら発注依頼書の内容を確認して回答しなければならないのに,自ら確認作業を行うことなく,別の者に聞くように返答し,不適切な対応を行った旨主張する。
そして,認定事実(4)ケによれば,原告は,α6チームからの初回の発注の変更か新発注なのかの確認及び同発注に係る対象機器の確認の問合せに対して,代行申請した者又は申請承認した者に確認して欲しいと返答したこと,結局,α6チームは,原告と同じSO業務部のα14に対して問合せを行い,的確な回答を得たことがそれぞれ認められ,原告の上記対応では不十分なものであったことがうかがえるから,原告の対応は不適切であると認められる。
この点,原告は,発注依頼書の中身を確認して検討したものの,SO業務部で対応できるものではなかった旨主張するが,上記のとおり,現にα14が的確な回答をしていることから,原告の上記主張は採用できない。
ウ 平成25年9月頃の問合せについて
(ア) 被告は,原告が,α6チームからの問合せに対して,自らSOプロジェクトチームに対してキャンセルの可否を確認した上で,キャンセル申請を行うように指示する必要があったのにもかかわらず,無関係の「△」という部門にキャンセルの可否の確認とキャンセル処理の依頼をした上,SOプロジェクトチームへの確認をしないまま,α6チームに対してキャンセル対象である旨回答するという不適切な対応を行った旨主張する。
そして,認定事実(4)シによれば,原告は α6チームからの問合せを受け,△業務部のα61に対して問合せをしたが,α61では回答できず,α61からアセット業務部のα62に対して更なる問合せがされ,結局α62から原告に対する回答がされたこと,その後,これらのやりとりをCCで共有していたα14が,原告に対して,SOプロジェクトチームにキャンセルの可否について確認した上でこれを指示するよう指摘したこと,原告がMAXで注文番号が検索できなかったために α61に対して問合せを行ったところ,CCで情報を共有していたアセット業務部のα62からMAXの検索結果の回答を得たこと,原告自身でMAXを探せなかったことについてα14から疑問が呈されていることがそれぞれ認められ,これらの事実によれば,本来,原告においてSOプロジェクトチームにキャンセルの可否等について確認すべきであった上,MAXの検索についても原告が真摯に行えば自らすることができたことがうかがわれるのであるから,他の業務部を巻き込むような原告の上記対応には,不適切な点があったと認められる。
この点,原告は,部門によって保持する手がかりの量に差があるから,業務上の知識能力が欠如していたわけではない旨主張するが,前提事実(6)イによれば,SO業務部は発注処理を担当し,キャンセル処理の手続についても当然対応を求められるのであるから,この点について原告が自ら対応できなかったことは,原告の業務能力の不足を示すものといわざるを得ず,原告の上記主張は採用できない。
エ α6チームのサポートに対する積極性の有無について
被告は,原告がα6チームのサポート体制の構築及び進捗管理をすべきであったのに,実際に行ったのはα3チームであり,原告は消極的な対応にとどまった旨主張する。
そして,証拠(甲36)によれば,α6チームのサポート体制においては,α3チームが窓口となって対応し,α2チームは処理発注の一担当をするにすぎないことが認められ,α2チームの原告が,サポート体制の構築や進捗管理を行うべきであったと認めるに足りる証拠はない。
もっとも,証拠(乙66)によれば,α2チーム内の原告のα6チームの平成23年9月から平成25年12月までの間におけるサポート処理件数は88件と,他のメンバーが,78件(平成25年で異動又は退職),197件,112件(平成24年5月で異動又は退職),209件,146件(平成25年で異動又は退職),100件,182件,89件(平成24年9月で異動又は退職),250件,122件(平成25年のみ)処理していることに照らして少なく,原告がα6チームのサポートに対して消極的であったものと推認することができる。
この点,原告は,他のメンバーの各時期の件数と比較して,その積極性について主張するが,平成23年9月から平成25年12月までの期間において,平成24年9月から同年12月までを除く期間については,他の社員と比較しても,件数が有意に少なかった(乙66)のであるから,原告の上記主張は採用できない。
(4) ◎プロジェクトチームからの問合せに対する回答について
被告は,原告がα15からの問合せに対して,社内手続の知識不足から無関係な部署に対して問い合わせるなど的確な対応ができず,被告のシステム上未回収金を計上させ,事後処理が必要な状況を作出した旨主張する。
そして,認定事実(2)イ,(4)チによれば,原告は平成23年5月頃に◎プロジェクトを引き継いで担当することになったものであるところ,原告は請求書統合手続に関するα15からの問合せに自ら回答できず,無関係な部門に問合せを行い,結局,α7から原告とα15との間で調整すべきとの指摘を受けたことがそれぞれ認められ,これによれば,原告はα15からの問合せに対して自ら調整して適切な回答をすることができたにもかからず,無関係な部署に問合せをして,事務を遅滞させたことが認められる。また,認定事実(5)イによれば,平成25年12月にα15から依頼のあった請求書統合手続に関して,平成26年2月18日頃,売掛金が未回収になっており対応が必要になっていること,しかるにその対応について原告がα7に依頼し,結局α14が処理してα48に対して謝罪する事態に陥ったことがそれぞれ認められ,これらの事実によれば,原告の対応が不十分なために,他の者が対応を余儀なくされたと認められる。そうすると,◎プロジェクトチームからの問合せに対する原告の回答や対応は不適切であったと認められる。
この点,原告は,α3FSから送付される更新された変動料金管理手続書によって,「契約が追加される際に必要な手続」が分かるところ,α15からの問合せの際にはかかる書類が送付されてこなかったのであるから,原告が的確な回答をすることはできない旨主張するが,仮にそうであれば,その旨をα15に対して伝えているはずであるのに,本件でα15にこうした回答をしたとは認められないから,原告の上記主張は採用できない。
(5) AR/DSO改善活動やSIH Processについて
被告は,原告がAR/DSO改善活動やSIHProcess に貢献したことを示す資料を提出したことがなく,また原告から報告のあった内容は,当然行わなければならない業務であり,上記各活動と評価することができない旨主張する。
しかるに,認定事実(4)オ(ア)によれば,AR/DSO活動とは,SOプロジェクトにおいて顧客に請求書を発行してから入金されるまでの期間(入金サイクル)を短縮する活動のほか,入金遅延の可能性が生じた場合に対応策を講じるという活動を含むところ,認定事実(4)オ(イ)ないし(オ)によれば,原告は,AR/DSO活動の評価について,◎◎の請求書について被告のFS管理に対して承認を催促し,これを「入金改善有」と評価したこと,◎◎◎の請求書についてFS管理とα3請求業務に対して作業催促をし,これを「入金改善有」と評価したこと,◎◎◎◎の請求書について期限どおりに発出できるよう手配し,これを「入金改善有」と評価したこと,契約条件に沿った入金がされていない例について請求書発行日を早めにすることで対応するように依頼し,これを「入金改善無」と評価したことがそれぞれ認められ,原告の指摘するAR/DSO活動がことさらに評価すべきものであるかどうかは別にして,AR/DSO活動それ自体には当たり得るというべきである。そうすると,この点に関し,原告による活動自体を否定する被告の上記主張は採用できない。
(6) 担当委員会について
被告は,原告がSOプロジェクトの適正化に関する指標を管理する担当委員会の委員であるにもかかわらず,各指標について,その管理や適切な整理報告ができなかった旨主張し,認定事実(4)トによれば,平成25年の原告のPBC評価の中で,α7からSBU指標について,「年末まで不安定な状況が続きました。(本項目について自分自身の担当分の管理及び全体の管理担当者としての管理双方を含む。)」,MA&AAS指標について,「あなたは自分の業績を報告しましたが,他のメンバーの業績も同時に報告しなければなりませんでした。あなたは他のメンバーの状況を詳細に管理していなかったことが見受けられます。(本項目について自分自身の担当分の管理及び全体の管理担当者としての管理双方を含む)」,Changing 指標について,「あなたは最後まで明確にアップデートせず,あなたの分析の結果がないまま終了されました。(本項目について自分自身の担当分の管理及び全体の管理担当者としての管理双方を含む)」,SIH process について,「業績報告の内容は著しく欠けており,改善及び改善の根拠は全くなく,実施したとみなすにはあまりにも不十分な業績です。あなたは,自分の業績を誰にでも容易に理解してもらえるよう明確にすべきです。」と評価されたことが認められる。
しかしながら,こうしたα7の評価に対して,原告は,SBU指標について,「sbu fail管理は相手の同意があって成功できます。すべて当職のせいにしてもらっては困ります。」,MA&AAS指標について,「当件については証拠を添付して説明しています。よって「α7さんの指摘」は当たりません。」,Changing 指標について,「当件については証拠を添付して説明しています。よって「α7さんの指摘」は当たりません。」,SIHprocess 及びAR/DSO改善活動について,「結果報告書内容は以下のⅠ項目(省略)を証拠として記載してあり,問題ありません。証拠を無視した不当評価です。」,「エクセルの表を添付して明確に説明してありますので明瞭です。」との意見を付しており(認定事実(4)ト),α7が評価の前提とした事実関係について争いがあり,α7が前提とした具体的な事実を明らかにしそれを認めるに足りる的確な証拠はないから,原告が各指標についてその管理や適切な整理報告をすることができなかったとは認められず,この点に関する被告の上記主張は採用できない。
(7) 基礎能力について
ア クローズ支援業務の理解について
被告は,原告が平成25年3月頃に海外の部門からクローズ支援業務に関するレポートの管理状況について問合せを受けたにもかかわらず,適切な回答をしなかったことから,クローズ支援業務について全く理解していない旨主張する。
そして,認定事実(2)ア,(3)ク及び証拠(甲114〔21頁〕,乙63〔11頁〕)によれば,SO業務には終了管理業務が含まれ,原告は,平成24年12月12日にクローズ支援データベースの改善を主導して行っていたほか,原告は平成24年のPBC評価の際に自らクローズ支援改修プロジェクトに参加していたと申告していた(乙5には「Participate in close support DB repair PROJECT.」との記載がある。)のであるから,原告は,クローズ支援業務について一定の経験を有していたことが認められ,原告としては,クローズ支援業務に関するレポートの管理状況について対応が可能であったし,また少なくともSO業務部内において確認をとるなどの対応をすることができたはずであるのに,認定事実(4)アによれば,原告は,α41の問合せに対してレポートの内容が分からない,答えられないなどと回答するにとどまり,上記対応を怠ったことが認められ,このような原告の対応は不適切であると認められる。
この点,原告は,クローズ作業の進捗に関して収集したデータをまとめたエクセル表を作成したことがなく,Closure Reportがいかなるものか分からなくてもやむを得ない旨主張するが,上記のとおり,原告の対応がやむを得なかったとは到底いえないから,原告の上記主張は採用できない。
イ 情報共有について
被告は,原告がα7からの指示に従って契約内容に関する確認をした際,α7をCCに入れないままSO業務部の部門内部のメールや資料を添付してメールを送信したり,原告が海外部門のチームが会議体の主催者であるにもかかわらず,参加者の一員にすぎないかのような内容を記載して,メールを送ったりしたことが不適切な対応である旨主張する。
そして,認定事実(4)エによれば,原告はSOプロジェクトチームに対して,▽の「QA REVIEWにWORLD WIDE(シンガポール)」が参加することになったと誤った情報を伝えたこと,同連絡に際してはSIH Process の内部文書を添付して送付したこと,これらについてα7から注意を受けたことがそれぞれ認められ,これらの事実によれば,原告のメールの内容及び方法は不適切であると認められる。
ウ α6チームとの窓口について
被告は,原告が平成25年5月頃にα7からα6チームのサポート業務の担当者になることを依頼されたが,即時に拒否し,業務に対して全く積極性がなかった旨主張し,認定事実(4)キによれば,原告はα7からの担当依頼に対して,依頼から3分後に直ちに,昨年担当したため,別の者にお願いしたい旨伝えていることが認められるから,原告がその前月である同年4月頃にDEMAND業務をα17から引き継ぎ,原告の繁忙度が増したこと(認定事実(4)カ)を考慮しても,業務に対する積極性が欠けていたといわざるを得ない。
エ 社内承認手続について
被告は,原告が社内承認手続について理解せず,誤った対応をしていた旨主張し,認定事実(4)クによれば,原告は検証したα7に対して,承認を求めるという誤った依頼をしたことが認められる。
そして,確かに認定事実(4)クによれば,原告は,DEMAND業務に必要なCISTOのコピー承認の依頼をしたが,一向に承認されず,調査の結果,再申請が必要になったという経緯が認められるものではあるが,原告がDEMAND業務に必要なCISTOを利用できなかった根本的な原因は,原告において登録申請手順をきちんと確認することなく,そのために許可の要件である目的外使用をしない旨の明示を行わなかったことにあるといえるから,原告は社内承認手続について理解せず,誤った対応をしていたものと認められる。
オ 初歩的なシステムの理解について
被告は,原告が初歩的なシステムであるPCS Cubeを理解していなかった旨主張する。
そして,認定事実(4)サ(イ),(ウ)によれば,原告は,α7から固定資産台帳上のシリアル番号を修正するため,「PCS CUBE」システムに登録された情報を変更するように指示されたが,これを理解していないため,α14に問い合わせる旨回答したこと,PCS Cubeについては,記載例と申請手順の概略が分かる文書があること,原告が上記α7からの指示を受けたのは,原告がSO業務部に異動になった後約3年後であったことがそれぞれ認められ,原告は,PCS Cubeを利用できる環境にあったことがうかがえるのに,α14に尋ねなければ分からない状況になっていたのであるから,原告の業務知識が不足していたことが認められる。
この点,原告は,PCS Cubeの登録申請をしたが断られ,これまで使ったことがない旨主張し,それに沿う事実関係が認められる(認定事実(4)サ(ア))。しかしながら,PCS Cubeの登録申請を拒否されたからといって原告がPCS Cubeに係るシステムを使うことができない根拠にはなり得ず,原告の上記主張は採用できない。
カ プロジェクトコードについて
被告は,原告が自ら担当するSOプロジェクトのプロジェクトコードを把握せず,無関係な部署に対して同コードの問合せを行ったことから,同理解を欠いている旨主張し,認定事実(4)ツによれば,原告は,α7から契約書レビューの依頼を受け,α7がそもそも契約書レビューの実施を通知した部門であるService Transaction Supportに対してプロジェクトコードの特定について問合せをしたこと,もともと,α7の依頼はα23から顧客会社に対するレビュー用資料の作成を依頼されたことを受けるものであること,そのためにα24は,「意味分からん(笑」と記載したメールをα7に転送したことがそれぞれ認められ,こうした堂々巡りのような照会が原告から行われたことはα7の立場ないしSO業務部への信頼を失わせるものであった可能性があることを否めない。
しかしながら,認定事実(4)ツによれば,原告はα23から的確な回答を得ているのであるから,同部に対して依頼を送信したことが必ずしも不適切であるとまでいうことはできない。
キ 基本的な能力について
被告は,原告が平成25年12月頃にα7から契約書の内容を確認して回答することを求められたにもかかわらず,契約書の内容を確認したとは思われない回答を行い,かつ,何度も同じ質問をしていた旨主張する。
そして,認定事実(4)テによれば,原告はα7から契約書の中身を確認して請求発行状況について調査することを求められたにもかかわらず,特定の請求書について年内請求が不可能である旨回答したことが認められ,これによれば,α7の質問の趣旨を汲まずに回答したもので,不適切な回答であったことが認められる。
ク 業務量について
被告は,原告の平成25年1月頃から同年8月頃の Billable 比率が20~40%と著しく低い水準であり,業務量が著しく少なかった旨主張する。
この点,前提事実(6)イによれば,Billable 比率とはSO業務の主要な業務であるSOプロジェクトの後方支援業務に費やした時間の割合を示すものであるから,同部内において,このような業務に時間を費やすことが求められていることは認められるものの,他方で,前提事実(6)イ(ウ),認定事実(2)ア,(3)ウ,(4)ウ・オ・カによれば,原告は,かかるSOプロジェクトの後方支援業務の他に担当委員会,AR/DSO改善活動,DEMAND業務を行うべきことも指示されていたのであるから,Billable比率が上がらなかったとしても,このことから直ちに原告の業務量が少なかったということはできない。
したがって,この点に関する被告の主張は採用できない(なお,被告はLabor Claimの付け方を指摘しているところ,原告のLabor Claimの付け方が適切であるかという問題はあるが,原告の業務量について指摘するときには,全体の業務量をみるべきであって,Labor Claimの付け方の如何によって全体の業務量を把握できるものではないから,被告の上記主張も採用できない。)。
ケ 勤務態度について
(ア) 被告は,原告が自席において大声で私用電話をしていた旨主張し,証拠(乙12)及び弁論の全趣旨によれば,少なくとも母親を通話相手とする私用電話で,大声で話していたことが認められる。
この点,確かに,母親から電話が来て対応することはやむを得ない側面がある(勤務時間中における電話内容の緊急性・対応の必要性については,これを認定する証拠がないので措く。)としても,他の社員がいる中で,私用電話を大きな声ですることは,職場に対して悪影響を及ぼす場合があるから,極力避けて席を外して対応するなど,より適切な社会人としてあるべき配慮に沿った方法があったといえることから,原告の上記対応は勤務態度が良好ではないと評価されてもやむを得ないというべきである。
(イ) 被告は,残業を行う場合には事前に目的を連絡するように指示をしていたが,原告は事前に連絡をすることなく残業していた旨主張する。
この点,原告は,被告から上記指示があったこと自体は争っていないところ,原告はこれをすることなく残業を行っていたのであるから,業務上の指示に違反する不適切な対応であったと認められる。
(ウ) 被告は,原告が事前に連絡することなく,毎朝午前9時半頃に出社していた旨主張し,これに沿う事実が認められる。
この点,証拠(乙58)によれば,被告のフレックスタイム制勤務規定では,フレックスタイム制勤務対象者は円滑な業務遂行を妨げないよう次週の勤務予定時刻を所属長に申告するものとする(同規定20条1項)と定められており,原告は所属長に対して勤務予定時刻を所属長に対して申告すべきであったのに,これをしていなかったのであるから,かかる原告の勤務態度は内規に違反するものであると認められる。
(エ) 以上によれば,原告の勤務態度は必ずしも良好であったと認めることはできない。
(8) 改善の見込みについて
ア PIPの拒否について
被告は,原告がPIPの実施を途中で拒否ないし事実上拒否した旨主張する。
しかしながら,認定事実(4)イによれば,原告は,α7からPIPの実施を依頼され,いったんはこれを拒否したものの,その後拒否しない方向で行くと回答したこと,もっとも,原告はその後本件組合に加入しPIPの実施に係る団体交渉を行う中で,あるいはα7とのメールを介した交渉によってPIPの実施内容について協議していたことなどが認められること,そして,原告の主張(争点(1)に係る(1)イ(ア))及び陳述(甲114〔36頁〕)内容を併せ考慮すると,原告は,業務改善進捗管理フォームの「具体的に改善を要する点」や「達成すべき目標」などが極めて曖昧であると感じ,被告において恣意的に悪評価を付けて原告を退職に追い込むための道具としてPIPを用いるのではないかと考えていたことが認められるのであり,これらの事実を総合すれば,原告はPIPの実施内容に関して疑問を抱いていたにすぎないのであって,原告の上記態度が事実上PIPの実施を拒否するものであると評価されるものであるとしても,それをもって原告に業績改善の意思がないとまで認めることはできない。
イ Labor Claimの付け方について
被告は,原告がLabor Claimの付け方を変えたにすぎず,後方支援業務の業務量を増やさなかったのであるから,業務改善の意思がなかった旨主張する。
この点,原告の Labor Claimの付け方は,認定事実(4)スのとおりであり,同(ア)のLabor Claimを付ける趣旨及びその重要性にかんがみると,不適切きわまりないものといわざるを得ない。しかしながら,他方において,認定事実(2)ウによれば,原告は,α22からDEMAND業務に関しても,特定できるものについては,Labor Claimを付けるようにとの指示を受けていたことから,原告はこれに従ってLabor Claimを付けたにすぎないとも認められるところ,認定事実(4)ス(ア)のような Labor Claimを付ける趣旨については,通常人において容易に理解し得るものであるところ,α22の指示内容は,原告が行ったような付け方を指示するものでも,示唆するものでもないことは明らかであるから,認定事実(4)ス(イ)ないし(オ)で認定した原告によるLabor Claimの付け方は原告の理解能力ないし注意力の低さ,あるいはいい加減さ故の付け方であると考えざるを得ない。また,原告は甲80号証をもって,原告の付けたもの以外にも多数の不適切なものがあったことを指摘するが,それにより原告の付け方が問題ないことになるわけではない。しかしながら,これらの事象が,原告の業績改善の意思がなかったことの徴表であるとするには,論理に飛躍があると考えざるを得ないのであって,そうすると,Labor Claimの付け方をもって原告に業績改善の意思がなかったと関連づけて認めるには足りないといわざるを得ない。被告の上記主張は採用できない。
ウ PBCについて
被告は,原告がPBCに関して非協力的かつ消極的な態度をとっており,原告には業績改善の意思が見られない旨主張する。
この点,確かに,認定事実(5)アによれば,原告は,α7からのPBC面談の申出に対して,仕事が繁忙であることを理由に先延ばしにしようとしたこと,原告以外の社員は既にPBC面談を終えて残りは原告のみであったことがそれぞれ認められ,これらの事実によれば,原告だけがPBCの入力が遅れ同面談も遅滞して他の社員にも影響が生じていることがうかがえるのであるから,原告の上記対応は不適切であったというべきである。しかしながら,業務改善の方法はPBCの制度によるもの以外にあり得ないわけではなく,PBCに非協力的かつ消極的な態度をとることと,業績改善の意思の欠如とは必ずしも同一の事象ではないのであって,原告に業務改善の意思がなかったとまではいえず,被告の上記主張は採用できない。
エ 原告の態度について
被告は,原告が所属長やそれ以外の者からの指摘に対して自らの誤りを認めず,むしろ相手を非難するような態度をとっており,自ら改善の必要性を認めていなかった旨主張する。
そして,認定事実(3)エ(イ)によれば,原告は,無関係な売掛管理部のα34に対して問合せを行い,苦情が出たのに対して,当然知っていると考えているなどと謝意の見られない対応をしたこと,α34からα35を紹介してもらうとともに,窓口担当者一覧を見るようにと注意されたことが認められ,これによれば,原告は,明らかに原告自身が誤っており,これを正された場合であっても,自己に非はないという態度をとっていたことがうかがわれ,このような原告の態度は,社会人としても,会社組織の中でみたものとしても,全く不誠実で不適切な対応であると認められる。
(9) 本件解雇の有効性について
以上検討したとおり,被告の主張する原告の不適切な対応等については,そのほとんどが認められるものであって,そこからは原告の技能及び能率が相当程度に低いものであること,不適切な対応をとった現務等に関しては上達の見込みもさほどなく,時として他人の就業に負荷をかけて支障を及ぼすものであったことが十分に認められるものであるが,さりとて,原告の不適切な対応が恒常的に行われ,被告ないし所属するSO業務部の業務に重大な,あるいは回復困難な支障ないし損失を与えるものであったとまでは認められないし,また,原告に対する被告の人事評定としても,そもそもPBC評価は相対的な評価であるところ,本件解雇直近の原告のPBC評価は5段階評価のうち「3」で一番下ではないこと(前提事実(5)ア,認定事実(4)ト),□に出向する前のPBC評価が「2」や「2+」のときもあったこと(認定事実(1)ア,ウ)や,原告について他の部門ないし部署への配置転換による被告社内における処遇が困難であったことを認めるに足りる証拠もないことに照らせば,原告の執務上の対応の不適切さが解雇を検討すべきほどまでに重大な程度に至っているとは認め難く,かえって,原告については今一度はその適性に合った職への配置転換や業務上の措置を講ずることを職位等級であるバンドを引き下げることも含めて検討すべきであったというべきである。してみると,このような検討をすることなくされた本件解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当とはいえないから,権利濫用として無効というべきである。
3 争点(2)(本件解雇の不当労働行為該当性)について
(1)ア 原告は,本件解雇は,組合員に共通して抽象的な解雇理由のみを挙げていること,実質的に一切の交渉を拒否していること,被解雇者予告を受けた者の中で組合員の比率が高いことからすれば,被告の意に反し,退職強要に抵抗するなどしている本件組合の動きを止め,これを排除するためにされたものであるといえ,本件組合に対する支配介入に当たるとともに,労働組合員であることを理由とする不利益取扱いに当たる旨主張する。
しかしながら,認定事実(3)カ,(4)イによれば,原告は,平成24年8月27日及び同年9月19日にα11から退職勧奨を受けていたところ,同年のPBC評価を「3」と評価され,平成25年3月にはPIPの実施依頼があったことから,解雇の不安を感じ,本件組合に加入し,同年のPBC評価も「3」と評価され,結局平成26年3月に本件解雇をされたという一連の経過が認められ,これらの事実によれば,そもそも,原告が解雇を不安に感じて本件組合に加入したのであり,その後原告が解雇されたからといって,それは本件組合員を対象に解雇を行ったという理由でされたとは到底いえず,かえって,争点(1)で説示のとおり,本件解雇の有効性はともかく,原告には相当程度の技能及び能率の低さに起因する業績不良が認められたことから,本件解雇に至ったことがうかがえるのであるから,本件組合に対する支配介入であるとか,労働組合員であることを理由とする不利益取扱いに当たるとは認められず,原告の同主張は採用できない。
イ 原告は,被解雇予告者の中で組合員の比率が高いことを理由に,本件解雇は本件組合の組合員を狙い撃ちしてなされたものである旨主張するが,上記アのとおり,原告が本件組合に加入する前から,原告は,被告から低い評価を受けており,少なくとも被告の有する基準によれば解雇に相当すると評価し得る事情があったことや,本件組合には,原告と同様に解雇されるおそれを感じて本件組合に加入した者が少なからず存在することがうかがえること(甲96〔132ないし134頁〕,97〔107ないし109頁〕)に照らせば,被解雇予告者の中における組合員の比率をもって,本件解雇が,本件組合の組合員を狙い撃ちにした恣意的なものであるとはいえないから,原告の上記主張は採用できない。
ウ さらに,原告は,実際に業務内容を目の当たりしている所属部署の長ではなく,人事部が主導して解雇を行っていることを根拠に,本件組合の組合員を狙い撃ちにして解雇予告が行われた旨主張するが,使用者である会社が,解雇対象の従業員の評価情報等を所属部署における直属の上司から人事部に提供させ,人事部が全社的な基準に基づいて解雇の要否・適否を検討することは何ら奇とするに当たらず,そのことが直ちに労働組合の組合員を狙い撃ちにした解雇が行われていることの徴表となるわけでもない。そして,被告においては,その従業員を解雇するに当たっては,当該従業員についてその上長が勤務評定等の資料を人事部に対して提出するなどの情報提供を行っていること(乙62〔31,32頁〕)に照らすと,原告の本件解雇も,原告のSO業務部における勤務評定等の資料に基づいて解雇を行っているとみることができるのであって,原告の上記主張は前提を欠く。
エ 原告は,本件解雇が,解雇予告の時点において「業績不良」の具体的事実を告げないなどして本件組合の組合員に自由な意思による退職という選択の余地を与えず,本件組合の弱体化を図った旨主張するが,認定事実(6)によれば,被告は,自主退職の申出の期限までに本件組合に対して原告の解雇理由について書面で回答しており,このような事情も併せ考えれば,原告が指摘する上記事情により,本件組合の組合員に自由な意思による退職という選択の余地を与えなかったとはいえないから,原告の同主張は採用できない。
(2) 原告は,被告が団体交渉の際に,何ら具体的な資料及び解雇理由を示さなかったから,団体交渉における誠実交渉義務に違反する旨主張する。
しかしながら,認定事実(6)ウによれば,被告は,本件解雇の意思表示後,本件解雇の効力発生時までの間に,本件組合に対して,原告の解雇理由について書面をもって回答しており,その内容についても必要かつ十分なものであると認められるのであるから,これをもって団体交渉における誠実交渉義務に違反するなどと認めることはできず,原告の上記主張は採用できない。
4 争点(3)(本件解雇の不法行為該当性)
(1) 原告は,解雇予告直後に被告の監視の下で社外に排除し,被告が原告から要求された具体的な解雇理由を説明せずに本件解雇をしたことが不法行為に当たる旨主張する。
しかしながら,一般的に会社が解雇予告をしたことにより,会社と対立状態に陥った労働者において,会社の機密情報を漏えいするおそれがあり,機密情報はいったん漏えいしてしまえば被害の回復が非常に困難であることからすれば,被告が,原告に対して解雇予告をした後に,被告の社屋への立入りを禁止したことには合理性があり,このことから直ちに原告の権利侵害があったとは認められない。また,解雇の意思表示の時点で,解雇理由の具体的な詳細を伝えることが望ましいとはいえ,そのようにしなければならないことまで要求されていないというべきであるから,この点からも原告の権利侵害を認めることはできない。
そうすると,原告に対する本件解雇の態様が違法であるとはいえず,これを理由とする不法行為の成立を認めることはできない。
(2) 原告は,本件解雇は,被告が組織的に行った人員削減の一環としてされたものではあるが,ロックアウト解雇自体は本件組合員に集中して行われ,その主たる狙いは,被告の意に反して退職強要に抵抗するなどしている本件組合の動きを止め,これを排除する点にあったのだから,組合員であることを理由とする不利益取扱い,支配介入にほかならず,本件組合の弱体化を狙った解雇という点で不当な動機に基づくもので,不法行為に当たる旨主張するところ,証拠(甲70,114〔20,23,36頁〕,乙62の1〔16ないし18頁〕,原告本人〔8,9頁〕)及び弁論の全趣旨によれば,本件解雇当時,被告において組織的なものとして人員削減を行っていたことは認められるものの,しかしながら,上記3で説示したとおり,本件解雇をもって不当労働行為とみることはできないから,結局,原告の上記主張は前提を欠くものであって採用できない。
5 争点(4)(賃金額,賞与額,損害など)について
(1) 賃金額について
争点(1)の説示のとおり,原告に対する本件解雇は無効であるから,原告は,被告に対して労働契約に基づき解雇前と同額の賃金債権を有すると認められ,その具体的額は以下のとおりである。
すなわち,前提事実(8)ウによれば,原告の平成25年6月当時の給与は,本給45万3100円(住宅補助費を含む。),副主任手当4万1000円の合計49万4100円であったが,本件賃金減額により,本件解雇時において原告に支給されていた月給額は,本給41万9500円,副主任手当4万1000円の合計46万0500円となっていたものであるが,原告がその無効を主張する本件賃金減額については,被告は,本件訴訟において,その有効性を主張立証しておらず,かえって,原告が,本件解雇に先立ち被告において行った本件賃金減額が無効であると主張して未払賃金の支払を求めた先行訴訟において,被告が原告の請求を認諾していることに照らすと,本件賃金減額を無効と認め,本件解雇当時に原告に支払われるべき賃金は,本給45万3100円,副主任手当4万1000円の合計49万4100円であることが認定できる。
そして,前提事実(8)アによれば,原告は平成26年3月28日付けで解雇され,前提事実(3)イによれば,本給及び副主任手当は,当月1日から当月末日までの給与を当月24日に払うことになっていることから,同年4月24日払分から未払になっていると認められ,同日以降,月額49万4100円が未払である。
(2) 賞与額について
ア 平成26年12月以降の未払賞与について
給与規程(乙3)によれば,毎年6月10日と12月10日に賞与を支給するものとし,社員の職務内容,バンド,業績評価,執務態度及び本給を総合勘案して,賞与基準額を定めるものとし,さらに,賞与基準額,バンド,出勤率,前年1月1日から前年12月末日までの期間の会社業績及び個人業績を勘案して,毎期会社が賞与支給額を定めるものとしており,このような定め方からすれば,賞与の具体的金額は被告の裁量により変動があるものの,原則として賞与の支払があることが本件労働契約の内容となっているものと認めるのが相当である。そして,その支給すべき額についてみると,原告の賞与は,無効である本件賃金減額及び本件解雇の影響がないと考えられる直近時期の支給額よりも減額すべき事情は認められないから,このような直近時期の支給額である6月期賞与については平成25年6月10日支払分である78万2560円,12月期賞与については平成25年12月10日に支給されるべきであった76万2220円に相当する金額について,平成26年12月以降未払になっているものと認めるべきことになる。
イ 平成26年6月10日支払分について
原告の平成26年6月10日支給分の賞与は,前記アにおいて検討したとおり78万2560円であるべきであるところ,これに対しては,既に48万1774円の支給及び8万4937円の追加支払がされているから,差額に係る21万5849円が未払であると認められる。
(3) 給与及び賞与の将来請求の分について
原告の賃金及び賞与請求に係る訴えのうち,本判決確定後の給与及び賞与の支払を求める部分については,地位確認の認容部分が確定することにより,任意の履行が期待できると考えられ,これが期待できないことをうかがわせる特段の事情も証拠上見当たらないから,「あらかじめその請求をする必要がある場合」(民事訴訟法135条)に当たるとは認められず,不適法なものとして却下する。
(4) 不法行為に基づく慰謝料及び弁護士費用の請求は,不法行為が成立しない以上,認められない。
第4 結論
以上の次第で,原告の本判決確定の日の翌日以降の金銭支払の将来請求に係る訴えを却下し,原告の請求は,労働契約上の権利を有する地位の確認を求め,解雇が無効であることによる本判決確定の日までに支払期日が到来する未払賃金及び未払賞与並びにこれらの遅延損害金の支払を認める限度で理由があるから,主文第2項ないし第5項の限度で認容し,その余を棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第11部
(裁判長裁判官 佐々木宗啓 裁判官 原島麻由 裁判官 大橋勇也)
別紙
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