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「営業アウトソーシング」に関する裁判例(53)平成25年 5月31日 東京地裁 平23(ワ)10618号 事業譲渡契約否認に基づく価額償還請求事件

「営業アウトソーシング」に関する裁判例(53)平成25年 5月31日 東京地裁 平23(ワ)10618号 事業譲渡契約否認に基づく価額償還請求事件

裁判年月日  平成25年 5月31日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平23(ワ)10618号
事件名  事業譲渡契約否認に基づく価額償還請求事件
裁判結果  一部認容、一部棄却  上訴等  控訴  文献番号  2013WLJPCA05318006

裁判経過
控訴審 平成25年12月 5日 東京高裁 判決 平25(ネ)4014号・平25(ネ)5173号 事業譲渡契約否認に基づく価額償還請求事件

裁判年月日  平成25年 5月31日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平23(ワ)10618号
事件名  事業譲渡契約否認に基づく価額償還請求事件
裁判結果  一部認容、一部棄却  上訴等  控訴  文献番号  2013WLJPCA05318006

東京都港区〈以下省略〉
株式会社エクセルキュー破産管財人
原告 X
同破産管財人代理弁護士 高橋綾
同 渡部香菜子
東京都港区〈以下省略〉
被告 株式会社PCI MUSIC
同代表者代表取締役 A
東京都港区〈以下省略〉
被告 株式会社ポニーキャニオン音楽出版
同代表者代表取締役 B
上記両名訴訟代理人弁護士 竹内康二
同 後藤千惠
同 平山大樹
同 金裕介

 

 

主文

1  被告株式会社PCI MUSICは,原告に対し,5435万9544円及びこれに対する平成21年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  原告の被告株式会社PCI MUSICに対するその余の請求及び被告株式会社ポニーキャニオン音楽出版に対する請求をいずれも棄却する。
3  訴訟費用の負担は,次のとおりとする。
(1)  原告に生じた費用の2分の1と被告株式会社PCI MUSICに生じた費用の全部を被告株式会社PCI MUSICの負担とする。
(2)  原告に生じた費用の2分の1と被告株式会社ポニーキャニオン音楽出版に生じた費用の全部を原告の負担とする。
4  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求の趣旨
1  被告株式会社PCI MUSICは,原告に対し,5435万9544円及びこれに対する平成21年4月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2  被告株式会社ポニーキャニオン音楽出版は,原告に対し,4212万1181円及びこれに対する平成21年4月21日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
本件は,破産者株式会社エクセルキュー(以下「破産会社」という。)の破産管財人である原告が,(1)被告株式会社PCI MUSIC(以下「被告PCI」という。)に対し,①破産会社が平成21年3月18日に被告PCIとの間で締結した事業譲渡契約(以下「本件事業譲渡契約1」といい,この契約に係る事業譲渡を「本件事業譲渡1」という。)について,これが破産法161条1項所定の要件を満たすものであると主張して否認権を行使し,同法168条4項に基づき,破産財団に復すべき財産の価額から現存利益を控除した額である5435万9544円の償還及びこれに対する本件事業譲渡1の日の翌日である同年4月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による金員の支払を,②予備的に,本件事業譲渡1当時の破産会社の代表取締役であるC(以下「C」という。)がその事業譲渡代金により行った7191万8012円の弁済は,支払不能の状態にある破産会社の代表取締役として,債権者に対して公平に弁済する義務に違反する違法な行為であり,当時の被告PCIの代表取締役であるD(以下「D」という。)は,この行為に被告PCIの代表取締役の職務の執行として加功したと主張して,会社法350条又は民法709条に基づき,原告の被った損害7191万8012円のうち5435万9544円及びこれに対する同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,(2)被告株式会社ポニーキャニオン音楽出版(以下「被告ポニーキャニオン音楽出版」という。)に対し,①破産会社が同月15日に被告ポニーキャニオン音楽出版との間で締結した事業譲渡契約(以下「本件事業譲渡契約2」といい,この契約に係る事業譲渡を「本件事業譲渡2」という。また,本件事業譲渡契約1と本件事業譲渡契約2を併せて「本件各事業譲渡契約」といい,本件事業譲渡1と本件事業譲渡2を併せて「本件各事業譲渡」という。)について,これが破産法161条1項所定の要件を満たすものであると主張して否認権を行使し,同法168条4項に基づき,破産財団に復すべき財産の価額から現存利益を控除した額である4212万1181円の償還及びこれに対する本件事業譲渡2の日の翌日である同月21日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による金員の支払を,②予備的に,本件事業譲渡2当時の破産会社の代表取締役であるCがその事業譲渡代金により行った4212万1181円の弁済は,支払不能の状態にある破産会社の代表取締役として債権者に対し公平に弁済する義務に違反する違法な行為であり,当時の被告ポニーキャニオン音楽出版の代表取締役であるE(以下「E」という。)は,この行為に被告ポニーキャニオン音楽出版の代表取締役の職務の執行として加功したと主張して,会社法350条又は民法709条に基づき,原告の被った損害4212万1181円及びこれに対する同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。
なお,原告は,被告PCIに対する請求について,本件口頭弁論終結後,6335万9544円及びこれに対する平成21年4月1日から支払済みまで年6分の割合による金員の支払を求めるものから,5435万9544円及びこれに対する同日から支払済みまで年6分の割合による金員の支払を求めるものに減縮する旨申し立て,被告PCIはこの請求の減縮に同意した。
1  前提事実(当事者間に争いがない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1)  当事者等
ア 破産会社は,CD・DVD・ビデオ等の録音・録画物の原盤の企画・制作・製造販売及び輸出事業,タレントのマネジメント及びプロモート事業等を目的とする株式会社であり,平成21年10月16日,東京地方裁判所に破産手続開始を申し立て,同月28日,破産手続開始決定を受け,原告が破産管財人に選任された。
本件各事業譲渡がされる以前の破産会社の主たる事業は,①流通事業,②原盤権の管理業務,③音楽出版事業,④新人開発育成マネジメント事業及び⑤制作事業であった(弁論の全趣旨)。
イ 被告PCIは,平成21年3月5日に設立された録音,録画物の製造,販売,配給並びに輸出入に関する業務等を目的とする株式会社であり,株式会社ポニーキャニオン(以下「ポニーキャニオン」という。)の子会社である(甲5ないし7)。
ウ 被告ポニーキャニオン音楽出版(平成21年5月1日に「株式会社M&I MUSIC」から現商号に変更)は,録音,録画物の製造,販売,配給並びに輸出入に関する業務等を目的とする株式会社であり,ポニーキャニオンの子会社である(甲11,38)。
エ Dは,被告PCIの設立時から平成23年3月1日までの間,その代表取締役の地位にあり,また,平成19年11月30日から平成21年3月19日までの間,破産会社の取締役の地位にあった(甲2,6,乙8)。
(2)  本件事業譲渡契約1
破産会社は,平成21年3月18日,被告PCIとの間で,流通事業及び原盤権の管理業務(上記(1)アの①及び②)に係る事業を代金7000万円(消費税別)で譲渡する旨の本件事業譲渡契約1を締結し,被告PCIは,同月31日,破産会社名義のゆうちょ銀行の通常貯金口座(以下「本件口座1」という。)に事業譲渡代金7350万円(消費税込み)を振り込んだ(甲3,4)。
(3)  債権者への弁済その1
破産会社は,平成21年3月31日,同日までの取引先に対する未払債務(CD仕入代金等)への弁済として,合計7191万8012円を別紙1記載のとおりそれぞれ支払った(以下,この弁済を「本件各弁済1」という。甲4,弁論の全趣旨)。
(4)  本件事業譲渡契約2
破産会社は,平成21年4月15日,被告ポニーキャニオン音楽出版との間で,音楽出版事業(上記(1)アの③)に係る事業を代金8000万円(消費税別)で譲渡する旨の本件事業譲渡契約2を締結し,被告ポニーキャニオン音楽出版は,同月20日,破産会社のりそな銀行池袋支店の普通預金口座(以下「本件口座2」という。)に事業譲渡代金8400万円(消費税込み)を振り込んだ(甲9,10)。
(5)  債権者への弁済その2
破産会社は,平成21年4月20日までの取引先に対する未払債務(著作権使用料等)に対する弁済として2942万7660円,同月21日までの未払債務(上に同じ。)に対する弁済として1269万3521円,合計4212万1181円をそれぞれ別紙2記載のとおり支払った(以下,別紙2記載の弁済を「本件各弁済2」という。甲10,弁論の全趣旨)。
2  本件の争点
本件の争点は,以下のとおりである。
(1)  原告が本件事業譲渡契約1を否認し被告PCIに対し価額償還を求めることができるか否か
ア 本件事業譲渡契約1に破産法161条1項の適用があるか否か
イ 本件事業譲渡契約1に破産法161条1項の適用がある場合の被告PCIの財団債権の有無及び金額
(2)  原告が本件事業譲渡契約2を否認し被告ポニーキャニオン音楽出版に対し価額償還を求めることができるか否か
ア 本件事業譲渡契約2に破産法161条1項の適用があるか
イ 本件事業譲渡契約2に破産法161条1項の適用がある場合の被告ポニーキャニオン音楽出版の財団債権の有無及び金額
(3)  被告PCIが本件各弁済1について会社法350条又は民法709条に基づき損害賠償責任を負うか否か
ア Cが本件各弁済1を行ったことが不法行為を構成するか否か
イ 本件各弁済1に関し,Dが被告PCIの代表取締役として不法行為を構成する行為を行ったか否か
(4)  被告ポニーキャニオン音楽出版が本件各弁済2について会社法350条又は民法709条に基づき損害賠償責任を負うか否か
ア Cが本件各弁済2を行ったことが不法行為を構成するか否か
イ 本件各弁済2に関し,Eが被告ポニーキャニオン音楽出版の代表取締役として不法行為を構成する行為を行ったか否か
3  争点に関する当事者の主張
(1)  争点(1)(原告が本件事業譲渡契約1を否認し被告PCIに対し価額償還を求めることができるか否か)について
ア 本件事業譲渡契約1に破産法161条1項の適用があるか否か
(原告の主張)
以下のとおり,本件事業譲渡契約1は,破産法161条1項の要件をいずれも満たすものであって,同項の適用がある。
(ア) 事業譲渡が「財産の処分」及び「種類の変更」に当たること
事業譲渡により,その譲渡対象事業は相手方に譲渡され,その種類が事業から隠匿等の容易な金銭になるのであるから,事業譲渡は,「財産の処分」及び「種類の変更」に当たる。
(イ) 本件各弁済1が「破産債権者を害する処分」に当たり,本件事業譲渡契約1がその「おそれを現に生じさせるもの」に当たること
a 一般に本旨弁済が「破産債権者を害する処分」に該当しないと考えられているのは,本旨弁済が,通常は有用の資に充てられるものだからである。そうであるとすれば,本旨弁済であっても,それが有用の資に充てられない,すなわち,債務者の事業や取引の維持や継続可能性の増大に全く寄与せず,債務者に何らの利益も与えないような場合には,破産法161条1項1号にいう「破産債権者を害する処分」に当たるものというべきである。
b 本件各弁済1は,本件事業譲渡契約1の譲渡対象事業に係る債権者らに対してのみ行われたものであるところ,破産会社において,本件事業譲渡契約1の後にこれらの債権者らと取引を行うことは予定されていなかったのであるから,そのような弁済は譲渡後に破産会社に残される事業に関する取引の維持や継続可能性の増大には全く寄与せず,破産会社に何らの利益も与えないから「破産債権者を害する処分」に当たる。
そして,本件事業譲渡契約1は,その譲渡代金を専ら譲渡対象事業に係る債権者への弁済に充てることを当初から予定して行われたものであるから,「破産債権者を害する処分」をする「おそれを現に生じさせるもの」に当たる。
(ウ) 破産会社が,本件事業譲渡契約1の当時,本件各弁済1をするという「破産債権者を害する処分」をする意思を有していたこと
本件事業譲渡契約1は,破産会社と被告PCIとの間で,その譲渡代金を譲渡対象事業に係る債権者への弁済に充てることを当初から予定して行われたものであるから,破産会社は,本件事業譲渡契約1の当時,本件各弁済1をするという「破産債権者を害する処分」をする意思を有していた。
(エ) 被告PCIが,本件事業譲渡契約1の当時,破産会社が本件各弁済1をする意思を有していることを知っていたこと
本件事業譲渡契約1は,破産会社と被告PCIとの間で,その譲渡代金を譲渡対象事業に係る債権者への弁済に充てることを当初から予定して行われたものであるから,被告PCIは,本件事業譲渡契約1の当時,破産会社が本件各弁済1をするという「破産債権者を害する処分」をする意思を有していることを知っていた。
(被告PCIの主張)
以下のとおり,本件事業譲渡契約1は,破産法161条1項の要件をいずれも満たさず,同項の適用はない。
(ア) 本件事業譲渡契約1が「財産の処分」及び「種類の変更」に当たらないこと
事業譲渡が「財産の処分」及び「種類の変更」に当たるかどうかは,譲渡対象事業を構成する個別財産が他の種類の財産に変更されることに着目して判断されるべきものであり,事業譲渡という,一定の営業目的により組織づけられた有機的一体としての資産,負債,取引関係等の集合体の処分が一体として「財産の処分」に当たるものではない。
また,事業は,これを構成する個別財産とは区別して評価した場合に,その価値として評価されるのは当該事業を構成する有形無形の資産や負債そのものではなく,それが将来的に生み出す金銭であるから,これを譲渡することの対価として金銭を得ることは「種類の変更」に当たるものでもない。
(イ) 本件各弁済1が「破産債権者を害する処分」に当たらず,本件事業譲渡契約1がその「おそれを現に生じさせるもの」に当たらないこと
a 破産法161条1項1号において隠匿や無償の供与が例として挙げられているのは,適正価格売買の場合に否認の対象となる行為の範囲を破産者の純資産の減少を伴うおそれを現に生じさせるような行為に限定,明確化する趣旨からであり,「破産債権者を害する処分」も同様に,破産会社の純資産の減少を伴うような行為である必要がある。したがって,債務の額面と同額の金銭が減少するにとどまり,純資産の減少を伴わない本旨弁済は,「破産債権者を害する処分」には当たらない。
b 本件各弁済1はいずれも本旨弁済であり,「破産債権者を害する処分」に当たらず,本件事業譲渡契約1はその「おそれを現に生じさせるもの」に当たらない。
c なお,仮に原告の主張を前提としても,本件各弁済1は,破産会社が譲渡をせずに残した事業を維持発展させ,音楽業界で生き残るために,遅滞した債務の弁済を行うという事業戦略の一環として行われたものであることなどからすれば,破産会社に残される事業に関する取引の維持や継続可能性の増大に寄与し,破産会社に利益を与えるものであって,いずれにせよ「破産債権者を害する処分」には当たらないのであるから,本件事業譲渡契約1も「破産債権者を害する処分」をする「おそれを現に生じさせるもの」に当たらない。
(ウ) 破産会社に「破産債権者を害する処分」をする意思がないこと
本件各弁済1は「破産債権者を害する処分」に当たらない以上,破産会社が,本件事業譲渡契約1の当時,本件各弁済1を行うことを予定していたとしても,そのことをもって「破産債権者を害する処分」をする意思を有していたこととはならない。
(エ) 被告PCIが,本件事業譲渡契約1の当時,破産会社が本件各弁済1をする意思を有していることを知らなかったこと
破産会社は,自らの意思で本件各弁済1を行うことを決定したのであって,被告PCIは,破産会社が本件各弁済1をする意思を有していることを知らなかった。
イ 本件事業譲渡契約1に破産法161条1項の適用がある場合の被告PCIの財団債権の有無及び金額
(被告PCIの主張)
本件事業譲渡契約1の譲渡代金7000万円は,その全額が本旨弁済に充てられており,破産会社は同額の債務を免れ,また同額のその他の財産の減少を免れたといえ,反対給付によって生じた利益は破産財団中に残存しているのであるから,被告PCIは,破産法168条2項1号に基づき,本旨弁済に充てられた金額である7000万円と同額の財団債権を有する。
(原告の主張)
否認ないし争う。
(ア) 否認権行使の対象たる行為に係る反対給付が本旨弁済に充てられた場合であっても,当該本旨弁済が破産法161条1項1号「破産債権者を害する処分」に当たるときは,同弁済は債務者に何らの利益を与えなかったものなのであるから,反対給付によって生じた利益は破産財団中に現存しないというべきである。
(イ) 本件各弁済1は,いずれも「破産債権者を害する処分」に当たるものであるから,本件事業譲渡契約1の譲渡代金7000万円のうち,反対給付によって生じた利益として破産財団中に現存するものは存在しないのが原則である。
もっとも,原告は,上記7000万円の一部を原資として弁済を受けた金羊社に対し,偏頗弁済として否認権を行使していたところ,和解の成立により664万0456円の返還を受けたので,同金額については,反対給付によって生じた利益が破産会社の破産財団中に現存しているといえるものの,被告PCIは,破産法161条2項3号に基づき664万0456円の財団債権を有するにとどまる(なお,原告は,メモリーテック株式会社[以下「メモリーテック」という。]に対しても,上記7000万円の一部を原資として偏頗弁済を受けたと主張して否認権を行使していたところ,和解の成立により900万円の返還を受けたことから,前記事案の概要のとおり,本件口頭弁論終結後に請求を減縮する旨の申立てをしたものである。)。
(2)  原告が本件事業譲渡契約2を否認し被告ポニーキャニオン音楽出版に対し価額償還を求めることができるか否か
ア 本件事業譲渡契約2に破産法161条1項の適用があるか否か
(原告の主張)
以下のとおり,本件事業譲渡契約2は,破産法161条1項の要件をいずれも満たすものであって,同項の適用がある。
(ア) 事業譲渡が「財産の処分」及び「種類の変更」に当たること
前記(1)ア(原告の主張)(ア)のとおり,一般に,事業譲渡は,「財産の処分」及び「種類の変更」に当たる。
(イ) 本件各弁済2が「破産債権者を害する処分」に当たり,本件事業譲渡契約2がその「おそれを現に生じさせるもの」に当たること
本件各弁済2は,本件各弁済1と同様に,本件事業譲渡契約2の譲渡対象事業に係る債権者に対してのみ行われたものであって,譲渡後に破産会社に残される事業に関する取引の維持や継続可能性の増大に全く寄与せず,破産会社に何らの利益も与えないので「破産債権者を害する処分」に当たる。
そして,本件事業譲渡契約2は,その譲渡代金を専ら譲渡対象事業の債権者への弁済に充てることを当初から予定して行われたものであるから,「破産債権者を害する処分」をする「おそれを現に生じさせるもの」に当たる。
(ウ) 破産会社が,本件事業譲渡契約2の当時,本件各弁済2をするという「破産債権者を害する処分」をする意思を有していたこと
本件事業譲渡契約2は,破産会社と被告ポニーキャニオン音楽出版との間で,その譲渡代金を譲渡対象事業に係る債権者への弁済に充てることを当初から予定して行われたものであるから,破産会社は,本件事業譲渡契約2の当時,本件各弁済2をするという「破産債権者を害する処分」をする意思を有していた。
(エ) 被告ポニーキャニオン音楽出版が,本件事業譲渡契約2の当時,破産会社が本件各弁済2をする意思を有していることを知っていたこと
本件事業譲渡契約2は,破産会社と被告ポニーキャニオン音楽出版との間で,その譲渡代金を譲渡対象事業に係る債権者への弁済に充てることを当初から予定して行われたものであるから,被告ポニーキャニオン音楽出版は,本件事業譲渡契約2の当時,破産会社が本件各弁済2をするという「破産債権者を害する処分」をする意思を有していることを知っていた。
(被告ポニーキャニオン音楽出版の主張)
以下のとおり,本件事業譲渡契約2は破産法161条1項の要件をいずれも満たさず,同項の適用はない。
(ア) 本件事業譲渡契約2が「財産の処分」及び「種類の変更」に当たらないこと
前記(1)ア(被告PCIの主張)(ア)のとおり,事業譲渡は「財産の処分」及び「種類の変更」に当たらない。
(イ) 本件各弁済2が「破産債権者を害する処分」に当たらず,本件事業譲渡契約2がその「おそれを現に生じさせるもの」に当たらないこと
本件各弁済2はいずれも本旨弁済であり,「破産債権者を害する処分」に当たらず,本件事業譲渡契約2はその「おそれを現に生じさせるもの」に当たらない。
なお,仮に原告の基準によって判断するとしても,本件各弁済2は,破産会社が譲渡をせずに残した事業を維持発展させ,音楽業界で生き残るために,遅滞した債務の弁済を行うという事業戦略の一環として行われたものであることなどからすれば,破産会社に残される事業に関する取引の維持や継続可能性の増大に寄与し,破産会社に利益を与えるものであって,いずれにせよ「破産債権者を害する処分」には当たらないのであるから,本件事業譲渡契約2も「破産債権者を害する処分」をするおそれを現に生じさせるものに当たらない。
(ウ) 破産会社に「破産債権者を害する処分をする意思」がないこと
本件各弁済2は「破産債権者を害する処分」に当たらない以上,破産会社が,本件事業譲渡契約2の当時,本件各弁済2を行うことを予定していたとしても,そのことをもって「破産債権者を害する処分」をする意思を有していたこととはならない。
(エ) 被告ポニーキャニオン音楽出版が,本件事業譲渡契約2の当時,破産会社が本件各弁済2をする意思を有していることを知らなかったこと
破産会社は,自らの意思で本件各弁済2を行うことを決定したのであって,被告ポニーキャニオン音楽出版は,破産会社が本件各弁済2をする意思を有していることを知らなかった。
イ 本件事業譲渡契約2に破産法161条1項の適用がある場合の被告ポニーキャニオン音楽出版の財団債権の有無及び金額
(被告ポニーキャニオン音楽出版の主張)
本件事業譲渡契約2の譲渡代金はいずれも本旨弁済に充てられており,破産会社は同額の債務を免れ,また同額のその他の財産の減少を免れたといえ,反対給付によって生じた利益は破産財団中に残存しているのであるから,被告ポニーキャニオン音楽出版は,破産法168条2項1号に基づき,本旨弁済に充てられた金額である4212万1181円と同額の財団債権を有する。
(原告の主張)
否認ないし争う。
本件事業譲渡契約2の譲渡代金8000万円により行われた弁済のうち4212万1181円の弁済(本件各弁済2)については,いずれも「破産債権者を害する処分」に当たるものであり,同金額については反対給付によって生じた利益として破産財団中に現存するものは存在せず,被告ポニーキャニオン音楽出版は同金額の財団債権を有するものではない。
(3)  被告PCIが本件各弁済1について会社法350条又は民法709条に基づき損害賠償責任を負うか否か
ア Cが本件各弁済1を行ったことが不法行為を構成するか否か
(原告の主張)
(ア) 支払不能の状態にあり,事業を継続することにより債務を完済することが事実上不可能な状態に至った債務者は,破産法の趣旨に従い債権者に対して公平に弁済する義務を負い,そのような債務者である会社の機関たる代表取締役は,同様に,公平に弁済する義務を負うのであるから,代表取締役が,会社が支払不能の状態にあることを認識しながら,一部の債権者に対して偏頗弁済を行うことは,この義務に違反し,他の債権者に対する弁済の原資となる破産財産を減少させる行為として,不法行為を構成する。
(イ) 破産会社は,本件各弁済1の当時,10億円を超える弁済期の到来した債務を一般的かつ継続的に弁済することができない支払不能の状態にあった。破産会社の代表取締役であったCは,そのことを認識しながら,専ら本件事業譲渡1の譲渡対象事業に係る債権者に対する偏頗弁済を行うことを企図し,本件各弁済1を行ったのであり,この行為は,債権者に公平に弁済する義務に違反し,破産財団を減少させる行為として不法行為を構成する。
(被告PCIの主張)
偏頗弁済も本旨弁済である以上,民商法上は適法であり,破産法上は債権者の公平の観点から否認の対象となっているにすぎないのであって,支払不能の状態にある会社の代表取締役が原告の主張するような義務を負うものではなく,偏頗弁済は,そもそも不法行為を構成しない。
したがって,Cが本件各弁済1を行ったことは不法行為を構成しない。
イ 本件各弁済1に関し,Dが被告PCIの代表取締役として不法行為を構成する行為を行ったか否か
(原告の主張)
(ア) 債務者が支払不能の状態にあることを知っている者は,債務者又はその機関たる代表取締役が債権者に対して公平に弁済する義務に反して偏頗弁済することに加功してはならない義務を負っているというべきであり,この義務に違反する行為は不法行為を構成する。
(イ) Dは,破産会社が支払不能の状態にあること及びCが本件事業譲渡1の譲渡代金を原資として本件各弁済1を行うつもりであることを知りながら,被告PCIの代表取締役として破産会社との間で,本件事業譲渡契約1を締結し,その譲渡代金を支払い,Cに本件各弁済1を実行させたのであり,この行為は,上記の偏頗弁済に加功してはならない義務に違反する行為であるから,Dは,被告PCIの代表取締役として,不法行為を構成する行為を行ったものである。
(被告PCIの主張)
Cが本件各弁済1を行ったことが不法行為を構成することを前提とする原告の主張は失当である。
なお,本件各弁済1は,Cが中心となって弁済先を決定し,Cの決断の下で実行されているものであるから,いずれにしても,本件各弁済1に関し,Dは,被告PCIの代表取締役として,不法行為を構成する行為を行っていない。
(4)  被告ポニーキャニオン音楽出版が本件各弁済2について会社法350条又は民法709条に基づき損害賠償責任を負うか否か
ア Cが本件各弁済2を行ったことが不法行為を構成するか否か
(原告の主張)
破産会社は,本件各弁済2の当時,10億円を超える弁済期の到来した債務を一般的かつ継続的に弁済することができない支払不能の状態にあった。破産会社の代表取締役であったCは,そのことを認識しながら,専ら本件事業譲渡2の譲渡対象事業に係る債権者に対する偏頗弁済を行うことを企図し,本件各弁済2を行ったのであり,この行為は,債権者に公平に弁済する義務に違反し,破産財団を減少させる行為として不法行為を構成する。
(被告ポニーキャニオン音楽出版の主張)
支払不能の状態にある会社の代表取締役が原告の主張するような義務を負うものでないことは前記のとおりであり,偏頗弁済は,そもそも不法行為を構成しないから,Cが本件各弁済2を行ったことは不法行為を構成しない。
イ 本件各弁済2に関し,Eが被告ポニーキャニオン音楽出版の代表取締役として不法行為を構成する行為を行ったか否か
(原告の主張)
Eは,破産会社が支払不能の状態にあること及びCが本件事業譲渡2の譲渡代金を原資として本件各弁済2を行うつもりであることを知りながら,被告ポニーキャニオン音楽出版の代表取締役として,破産会社との間で,本件事業譲渡契約2を締結し,その譲渡代金を支払い,Cに本件各弁済2を実行させたのであり,この行為は,偏頗弁済に加功してはならない義務に違反する行為であるから,Eは,被告ポニーキャニオン音楽出版の代表取締役として,不法行為を構成する行為を行ったものである。
(被告ポニーキャニオン音楽出版の主張)
Cが本件各弁済2を行ったことが不法行為を構成することを前提とする原告の主張は失当である。
なお,本件各弁済2は,Cが中心となって弁済先を決定し,Cの決断の下で実行されているものであり,Eが,破産会社が支払不能の状態にあること及びCが本件事業譲渡2の譲渡代金を原資として本件各弁済2を行うつもりであることを知っていたとの事実は存在しないから,いずれにしても,本件各弁済2に関し,Eは,被告ポニーキャニオン音楽出版の代表取締役として,不法行為を構成する行為を行っていない。
第3  当裁判所の判断
1  認定事実
前記前提事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)  Cは,平成18年6月30日,破産会社の代表取締役に就任した(甲2)。
(2)  Eは,平成19年6月18日までにポニーキャニオンの取締役に就任した(甲7)。
(3)  Dは,平成19年11月30日,破産会社の取締役に就任した。Dが破産会社で担当したのは,主に本件事業譲渡1の対象事業である流通事業であった(以上について,甲2,30,乙8,弁論の全趣旨)。
(4)  破産会社は,平成20年5月22日,メモリーテックとの間で,破産会社のメモリーテックに対する売買代金債務4137万5808円の弁済期を同年12月31日とするとともに,その担保として,破産会社の有する原盤等に係る所有権,著作権法上定める権利及び利用権をメモリーテックに譲渡する旨の譲渡担保契約(以下,「本件譲渡担保契約」といい,これにより譲渡された原盤等に係る権利を「本件原盤権」という。)を締結した(甲36)。
(5)  Eは,平成20年6月18日までに被告ポニーキャニオン音楽出版の代表取締役に就任した(甲38)。
(6)  Cは,平成20年11月頃,ポニーキャニオンに対し,破産会社の流通事業の譲渡を提案した。これに対し,ポニーキャニオンは,流通事業のみを譲り受ける考えはなく,本件原盤権及び音楽出版事業と一緒であれば流通事業の譲受けを検討してもよいとの意向を示した。その後,Cは,当時のポニーキャニオンの従業員であるA(以下「A」という。)から,事業譲渡について,譲受会社はポニーキャニオンではなく,被告PCIと被告ポニーキャニオン音楽出版とする旨告げられた。また,破産会社とポニーキャニオンは,全事業の譲渡代金を1億5000万円とすることとし,破産会社は,ポニーキャニオンから,本件事業譲渡1の譲渡代金を7000万円,本件事業譲渡2の譲渡代金を8000万円とする旨の提示を受け,最終的にこれを了承した(以上について,甲22,弁論の全趣旨)。
(7)  破産会社は,平成20年12月29日,メモリーテックとの間で,本件譲渡担保契約の被担保債権の弁済期を同月31日から平成21年3月31日に変更する旨合意した。(甲25,37,弁論の全趣旨)。
(8)  C,D及び破産会社の経理を担当していたF(以下「F」という。)は,平成21年2月から3月にかけて,本件各事業譲渡の譲渡代金による弁済方針について協議し,その結果,事業譲渡の譲渡代金による弁済は,基本的にはその譲渡対象事業に関係する債務について行われるべきであるという考えに基づき,破産会社に残った流通事業及び音楽出版事業に関する債務については,当該債務の取引先が事業譲渡先へ承継されるものであるかどうかを問わず弁済するとの方針が採用された。なお,Dは,特に本件事業譲渡1の譲渡代金による弁済先については,流通事業の担当取締役として,より細かな相手方の確定にも関わった。
また,D,C及びFの間では,この協議の際,本件各事業譲渡の譲渡代金は,専ら本件各弁済1及び本件各弁済2の弁済の原資とすることが前提とされ,他の債権者に対する弁済の原資とすることは予定されていなかった(以上について,甲22,乙8,証人D,弁論の全趣旨)。
(9)  Dは,上記の協議がされた頃,ポニーキャニオンから,本件事業譲渡1の譲受人がポニーキャニオンではなく近く設立予定のポニーキャニオンの子会社である被告PCIになる旨を聞いた(以上について,乙8,証人D)。
(10)  Dは,平成21年2月ないし3月頃,メモリーテックに対し,同月末頃に本件事業譲渡1を計画していること及びその譲渡の対象に本件譲渡担保契約により譲渡された本件原盤権が含まれていることを告げた上,本件事業譲渡契約1の譲渡代金からメモリーテックに対する未払債務額の8割に相当する金額を一括で弁済するので,残額を免除するとともに本件譲渡担保契約を解除してほしい旨申し入れた。
破産会社は,その後,メモリーテックに対して,「債務の弁済について」と題する書面(甲26)により,上記と同様の要請をした(以上について,甲25,26,弁論の全趣旨)。
(11)  ポニーキャニオンは,Dに対し,被告PCIの代表取締役になることを打診し,Dは,この打診を受け入れ,平成21年3月5日,被告PCIの設立と同時にその代表取締役に就任した。
Dが被告PCIの代表取締役に就任したのは,Dは本件事業譲渡1の譲渡対象事業である破産会社の流通事業の担当取締役であったことから,本件事業譲渡1を円滑に進めるとともに,被告PCIにおいて,その後は譲渡された流通事業の責任者として同事業を成功させるためであった(以上について,甲6,乙8,証人D)。
(12)  Dは,平成21年3月13日頃,金羊社の担当者であるG(以下「G」という。)に対し,同月末日までに金羊社に対する売掛金債務を弁済をすることができないことを告げるとともに,本件事業譲渡1の計画があること,その譲渡代金から金羊社に対する未払債務額の8割に相当する金額を一括で弁済するので残債務は免除してもらいたいと求め,金羊社は最終的に免除の求めに応じることとした。
なお,破産会社は平成19年頃から金羊社に対する弁済を遅滞し始めていたが,破産会社は,その頃から,金羊社に対し,ロックバンドである○○(以下,単に「○○」という。)が活動を再開すれば多額の収益が上げられるので弁済についてはそれまで待ってほしい旨懇願していた(以上について,甲27,弁論の全趣旨)。
(13)  平成21年3月18日,本件事業譲渡契約1が締結されたが,本件事業譲渡1に係る「事業等譲渡契約書」(甲3)の第3条第1項では,本件事業譲渡1の対象となる財産は,平成21年3月31日において破産会社が保有するインディーズ流通部門に係る事業に関する契約,資産,負債及び取引先との取引関係並びに本件事業譲渡1の契約書の別紙5記載のレコードに関し破産会社が有する一切の原盤権と特定されている(甲3)。
本件事業譲渡1により被告PCIに移転するレコード商品売上等に係る事業等は,破産会社の売上げの50パーセント程度を占めるものであった(甲21,証人D,弁論の全趣旨)。
(14)  破産会社は,平成21年3月31日,本件事業譲渡1の譲渡代金により,本件各弁済1を行ったが,この弁済はCの指示,承認の下で行われた(乙8,証人D,弁論の全趣旨)。
破産会社は,当時,本件事業譲渡1の対価である7350万円を併せても,預貯金として8162万8071円を有するにとどまっていた(甲4,10,12ないし16)。
また,破産会社の第5期(平成20年4月1日ないし平成21年3月31日)決算報告書によれば,破産会社の同期末の資産合計は8億7652万4312円,負債合計は8億3719万3420円,純資産合計は3933万0892円であるとされている一方で,破産会社は,同日の時点で,弁済期の到来した簿外債務として,少なくとも,株式会社ソリッドアコースティックスに対する9億0622万7798円を負担しており,上記負債と合計すると17億4342万1218円の債務を負っていた(甲18ないし21,弁論の全趣旨)。
(15)  破産会社の株式会社ソリッドアコースティックスに対する債務((14)参照),については,平成19年12月5日の入金が最後の弁済であり,金羊社に対する債務については,平成20年12月から平成21年3月31日まで,本件事業譲渡1の譲渡対価に基づく弁済以外の弁済がされることはなかった(甲18,25,27)。
(16)  メモリーテックは,平成21年3月31日,破産会社との間で,メモリーテックが被担保債権の8割相当額である3257万3448円の弁済を受けたときは残額を免除し本件譲渡担保契約を解除する旨を合意し,破産会社は,同日,メモリーテックに対しその約定どおりの弁済を行った(甲4,甲28)。
(17)  金羊社は,平成21年3月31日,破産会社との間で,破産会社の金羊社に対する未払債務2490万1709円の8割相当額である1992万1367円の弁済を受けたときは残額を免除する旨を合意し,破産会社は,同日,その約定どおりの弁済を行った(甲29)。
(18)  平成21年4月15日に本件事業譲渡契約2が締結されたが,本件事業譲渡契約2に係る「事業譲渡契約書」(甲9)の第3条第1項では,事業譲渡の対象となる財産は,破産会社の音楽出版に係る事業に関する資産及び本件承継契約等とされている(甲9)。
本件事業譲渡2により被告ポニーキャニオン音楽出版に移転する出版印税売上に係る事業等は,破産会社の売上げの20パーセント程度を占めるものであった(甲21,証人D,弁論の全趣旨)。
(19)  破産会社は,平成21年4月20日から同月21日にかけて,本件各弁済2を行ったが,破産会社は,その当時,本件事業譲渡2の譲渡代金である8400万円(消費税込み)を併せても,預貯金として8577万8215円を有するにとどまっていた一方で,株式会社ソリッドアコースティックスに対する9億0622万7798円,株式会社ネクスターコーポレーションに対する2億2600万3497円,株式会社EMIミュージックジャパンに対する3950万4996円の合計11億7173万6291円の弁済期到来債務を負担していた(甲4,10,12ないし16,18ないし20,弁論の全趣旨)。
(20)  Eは,平成21年4月22日,被告ポニーキャニオン音楽出版の代表取締役を辞任した。(甲38)
(21)  本件各事業譲渡の後,破産会社の業績は回復することはなく,破産会社は,平成21年10月16日,東京地方裁判所に破産手続開始を申し立て,同月28日,破産手続開始決定を受けた(甲1,39,弁論の全趣旨)。
(22)  Dは,平成23年3月1日に被告PCIの代表取締役を退任し,Aは,同日,被告PCIの代表取締役に就任した(甲6,弁論の全趣旨)。
(23)  破産会社の破産手続においては,73件合計16億5702万3492円の届出債権が存在するが,このうち,本件各事業譲渡が検討され始めた時期である平成20年11月頃までに発生原因が存する債権の合計額は,12億4436万3365円であり,本件事業譲渡1が行われた平成21年3月18日までに発生原因が存する債権の合計額は,12億4971万1259円であり,本件事業譲渡2が行われた同年4月15日までに発生原因が存する債権の合計額は15億0831万5983円である(甲39,弁論の全趣旨)。
2  争点(1)(原告が本件事業譲渡契約1を否認し被告PCIに対し価額償還を求めることができるか否か)及び争点(2)(原告が本件事業譲渡契約2を否認し被告ポニーキャニオン音楽出版に対し価額償還を求めることができるか否か)について
(1)  原告は,本件各弁済1及び本件各弁済2は,本件各事業譲渡の対象事業に係る債権者に対してのみ行われたものであって,本件各事業譲渡後に破産会社に残される事業に関する取引の維持や継続可能性の増大に全く寄与するものではないから,破産法161条1項1号にいう「破産債権者を害する処分」に当たる旨主張する。
(2)  そこで,検討するに,破産法161条は,破産者の責任財産の実質的な減少を防ぐとともに,破産者の財産の処分の相手方となる者の利益を不当に害することのないよう,同法160条に規定する詐害行為の否認の特則として,相当な対価を得てした財産の処分行為の否認について定めるものである。そして,同法161条1項1号が「破産債権者を害する処分」の例示として,「隠匿」及び「無償の供与」を掲げているのは,これらにより破産者の責任財産が事実上又は法律上減少することになるからである。
ところで,一般に,債務の本旨に従った弁済については,その弁済に充てられた債務者の積極財産が減少するものの,その分債務が消滅するため,債務者の純資産を増減させないものであるから,その点において,債務を減少させることなく,一方的に債務者の財産を責任財産から逸出させてしまう「隠匿」や「無償の供与」とは質的に異なるものであり,このことは,当該弁済が特定の債権者に対してのみされたという事実によって左右されるものではない。破産者の責任財産の実質的な減少を防ぐという破産法161条の立法趣旨に照らして,このような債務の本旨に従った弁済の債務者の財産状態に与える影響の実質を考えると,債務の本旨に従った弁済は,それが偏頗弁済として弁済自体が否認の対象となり得るものであったとしても,破産債権者を害する程度において「隠匿」や「無償の供与」と同程度のものであると評価されるべき特段の事情がある場合を除き,同条1項1号にいう「破産債権者を害する処分」には当たらないと解するのが相当である。
これを本件各弁済1及び本件各弁済2について見ると,本件各弁済1及び本件各弁済2が債務の本旨に従った弁済であることは,当事者間に争いがないところ,本件全証拠によっても,これらにつき破産債権者を害する程度において「隠匿」や「無償の供与」と同程度のものであると評価されるべき特段の事情があるとは認められない。
したがって,本件各弁済1及び本件各弁済2が破産法161条1項1号にいう「破産債権者を害する処分」に当たるとする原告の主張は,採用することができない。
(3)  そうすると,本件各事業譲渡契約については,破産法161条1項所定の否認の要件を満たさないものというべきであるから,同法168条4項に基づき被告らに対し価額償還を求める原告の請求は,その余の点について検討するまでもなく,いずれも理由がないというべきである。
3  争点(3)(被告PCIが本件各弁済1について会社法350条又は民法709条に基づき損害賠償責任を負うか否か)について
(1)  Cが本件各弁済1を行ったことが不法行為を構成するか否か
ア 偏頗弁済が不法行為を構成する場合について
債務者たる会社が支払不能の状態にあり,破産手続開始に至る高度の蓋然性があるものと認められる場合には,当該会社の代表取締役は,債権者に対して公平に弁済する義務を負い,その代表取締役が,当該会社が支払不能の状態にあり,破産手続開始に至る高度の蓋然性があることを認識しつつ,当該会社に益するところのない偏頗弁済を行うことは,上記の義務に違反し,将来の破産財団を構成する財産を不当に減少させる違法な行為として,破産財団ないし破産管財人に対する関係で不法行為を構成するというべきである。
イ 破産会社が平成21年3月頃に支払不能の状態にあり,破産手続開始に至る高度の蓋然性があったこと
(ア) 前記認定事実によれば,破産会社は,ポニーキャニオンに対し事業の譲渡を提案した平成20年11月頃の時点で,その頃以前に発生原因が存する債務として12億円を超える債務を負担しており,遅くともその頃から弁済期の到来していた債務の総額が弁済の原資とすることができる財産を大幅に上回っており,この状態は,本件事業譲渡1の譲渡代金による本件各弁済1が行われた平成21年3月31日まで継続していたことが認められ,このことからすれば,破産会社は,平成20年11月頃から平成21年3月31日に至るまで,支払能力を欠くために,破産会社の債務のうち弁済期にあるものについて一般的かつ継続的に弁済することができない状態である,支払不能の状態にあったと認められる。
そして,前記認定事実のとおり,①ポニーキャニオンは,破産会社に対し,本件事業譲渡1の譲渡対象事業の一部たる流通事業のみを譲り受ける考えはなく,本件事業譲渡1の譲渡対象事業の残部たる本件原盤権と,本件事業譲渡2の譲渡対象事業たる音楽出版事業と一緒であれば,流通事業の譲受けを検討してもよいとの意向を示したこと,②Cは,Aから,事業譲渡について,譲受会社はポニーキャニオンではなく,被告PCIと被告ポニーキャニオン音楽出版とする旨告げられたこと,③破産会社とポニーキャニオンは,全事業の譲渡代金を1億5000万円とすることとし,破産会社は,ポニーキャニオンから,本件事業譲渡1の譲渡代金を7000万円,本件事業譲渡2の譲渡代金を8000万円とする旨の提示を受け,最終的にこれを了承したことからすれば,ポニーキャニオンと破産会社との間では,本件各事業譲渡は併せて行うことが予定されていたことが認められる。
このことと,前記認定事実のとおり,①本件事業譲渡1により破産会社の売上げの約50パーセント,本件事業譲渡2により破産会社の売上げの約20パーセントを占める事業が破産会社から失われる状態にあったこと,②破産会社の業績は,本件事業譲渡1の後に回復することなく,破産会社は,本件事業譲渡1の約7ヶ月後には破産手続開始決定を受けていること,及び本件全証拠によっても,平成20年11月頃から平成21年3月31日までの間に,破産会社において,近い将来において,弁済の原資とすることができる財産の大幅な増加が期待できる状態にあったとは認められないことを併せて考えると,破産会社については,平成21年3月頃までには,破産手続開始に至る高度の蓋然性があったものと認められる。
(イ) この点について,Dは,平成21年3月31日以降に,○○の公演等による収益が期待できた旨証言しているところ,メモリーテックの担当者であるH(以下「H」という。)や金羊社の担当者であるG(以下「G」という。)も,Cから,○○の復活公演に関する業務によって業績の回復が見込める旨の説明を受けていたと述べる陳述書を作成している(Hにつき甲25,Gにつき甲27)。
しかしながら,前記前提事実のとおり,Dは被告PCIの元代表取締役であり,また,弁論の全趣旨によれば,メモリーテック及び金羊社は原告から否認の訴えを提起されたこと,H及びGの陳述書は,当該訴えにおいてメモリーテック及び金羊社の責任を否定するための証拠として作成された可能性が高いものであることが認められるから,破産会社の業績を肯定的に評価するDの証言並びにH及びGの陳述書は,たやすく採用することができず,他に,○○の公演等による収益による業績の回復が,破産会社が平成21年3月頃に支払不能の状態にあり破産手続開始に至る高度の蓋然性があったと認められるということを覆すに足る,具体的かつ現実性のある計画であったと認めるに足りる証拠はない。
ウ 本件各弁済1が破産会社に益するところがない偏頗弁済であることについて
(ア) 前記認定事実のとおり,本件各弁済1は,Cの指示,承認の下に行われたこと,本件各弁済1は,譲渡対価による弁済は譲渡対象事業に係る債権者に対して行うべきであるという考え方に基づいて行われたものであること,特にメモリーテックに対する弁済を行った理由は,本件事業譲渡1の譲渡の対象となっていた原盤権に設定された譲渡担保権を消滅させることにあったことが認められる。
そうすると,本件各弁済1は,譲渡対象事業ひいては本件事業譲渡1の譲受人である被告PCIのために行われたものであって,破産会社ないし破産会社に残存する事業のために行われたものとは認められず,支払不能の状態にあり,破産手続開始に至る高度の蓋然性があると認められる破産会社において,その業績を回復し,残存する事業の債権者らに対する弁済の原資を作出するようなものとはいえないので,かかる弁済は破産会社に益するところのない偏頗弁済であると認められる。
(イ) この点について,被告PCIは,①本件各事業譲渡の目的は,破産会社のノンコア事業を切り離し,これに付随する販売管理費を圧縮するとともに必要なインフラをアウトソーシングすることにあり,これは破産会社の業績回復にとり有用なものであったところ,本件各弁済1は,かかる有用な本件事業譲渡1を実現するために必要であったという点から破産会社のために有益であるし,②本件事業譲渡1の譲渡代金による弁済の目的が,破産会社がその後も音楽業界で事業を継続していくことにあったことからすれば,本件事業譲渡1の譲渡代金により同業界の債権者に対して弁済を行うこと自体が破産会社のために有益でもある旨主張し,その旨述べるC及びFの陳述書や,Dの証言が存在する(甲22,乙8,証人D)。
しかしながら,破産会社において,事業を譲渡するに当たり,譲渡対象事業の販売管理費の圧縮や必要なインフラのアウトソーシングが検討されていたことを裏付けるような証拠は存在せず,上記の陳述書ないし証言はたやすく採用できないばかりか,上記のとおり,破産会社は,平成21年3月頃,支払不能の状態にあり,破産手続開始に至る高度の蓋然性があったと認められ,本件事業譲渡1からは7か月,本件事業譲渡2からは6か月という短期間で破産申立てをするに至っており,その間に,破産会社に残された事業において,具体的に状態を好転させ得るような収益が上がる現実的な見込みがあったとはうかがわれず,かえって,前記認定のとおり,破産会社とポニーキャニオンとの間では,本件事業譲渡1と本件事業譲渡2は併せて行うことが予定されており,本件事業譲渡1により破産会社の売上げの約50パーセント,本件事業譲渡2により破産会社の売上げの約20パーセントを占める事業が破産会社から失われる状態にあったことが認められることからすれば,本件事業譲渡1が破産会社の業績回復にとり有益なものであったものと認められず,本件各弁済1が破産会社の事業継続に資する有益なものであったとも認められないから,被告PCIの主張は採用できない。
エ 小括
以上によれば,破産会社は,平成21年3月頃当時,支払不能の状態にあり,破産手続開始に至る高度の蓋然性があるものと認められるから,破産会社の代表取締役であるCは,債権者に対して公平に弁済する義務を負っていたというべきである。しかるに,Cは,破産会社が支払不能の状態にあり,破産手続開始に至る高度の蓋然性があることを認識しつつ,破産会社に益するところのない偏頗弁済である本件各弁済1を行ったのであるから,この行為は,上記の義務に違反し,将来の破産財団を構成する財産を不当に減少させるものとして,破産財団ないし破産管財人に対する関係で不法行為を構成するものというべきである。
(2)  本件各弁済1に関し,Dが被告PCIの代表取締役として不法行為を構成する行為を行ったか否か
ア 破産会社の代表取締役以外の者による偏頗弁済への関与が不法行為を構成する場合について
上記のとおり,債務者たる会社の代表取締役が,当該会社が支払不能の状態にあり,破産手続開始に至る高度の蓋然性があるものと認められる場合に,そのことを認識しつつ当該会社に益するところのない偏頗弁済を行うことは,不法行為を構成するところ,当該会社の代表取締役以外の者が,当該会社が支払不能の状態にあり破産手続開始に至る高度の蓋然性があること及び当該会社に益するところのない偏頗弁済が行われることを認識しつつ,その偏頗弁済の実行に必要不可欠な行為を行うなどして,当該偏頗弁済に積極的に加功する行為は,同様に,破産財団ないし破産管財人に対する関係で不法行為を構成するというべきである。
イ Dによる破産会社の財務状態の認識について
上記のとおり,破産会社は遅くとも平成20年11月頃から支払不能状態にあり,平成21年3月頃には破産手続開始に至る高度の蓋然性があったものと認められるところ,Dは,その当時,破産会社の取締役だったのであるから,具体的な債権者や個々の債権者に対する債務額などはともかくとしても,少なくとも破産会社が平成21年3月頃,そのような状態にあることは認識していたと認められる。
この点について,Dは,破産会社がそのような状態にあったことは知らなかった旨述べるが(甲30,証人D),前記認定のとおり,破産会社は,平成20年11月頃から平成21年3月頃までの間,合計12億円を超える債務を負担しており,弁済期の到来していた債務の総額は弁済の原資とすることができる財産を大幅に上回り,弁済期の到来した債務について弁済できない状態が続いていたのであって,破産会社の財務状態は極めて悪化していたと認められることからすれば,これをたやすく採用することはできない。
したがって,Dは,平成21年3月頃までには,破産会社が支払不能の状態にあり,破産手続開始に至る高度の蓋然性のあることを認識していたものと認められる。
ウ Dによる偏頗弁済の認識について
前記認定事実によれば,Dは,破産会社において,主に本件事業譲渡1の譲渡対象事業を担当する取締役として,C及びFと,その譲渡代金による弁済を譲渡対象事業に係る債権者に対して行うことを協議し,具体的な弁済先の確定作業を行っていたこと,この協議の際には,本件各事業譲渡の譲渡代金は,専ら本件各弁済1及び本件各弁済2の弁済の原資とすることが前提とされていたことが認められるのであるから,Dは,本件事業譲渡1の譲渡代金によって,破産会社に益するところのない偏頗弁済たる本件各弁済1を行うことが予定されていることを認識していたと認められる。
エ Dが行った行為について
前記認定事実によれば,Dは,被告PCIの代表取締役として,破産会社との間で本件事業譲渡契約1を締結し,その譲渡代金を支払ったことが認められるところ,前記認定事実のとおり,破産会社は本件事業譲渡契約1の譲渡代金を原資として本件各弁済1を行うことを予定していたと認められることと,上記のとおり,破産会社は,平成21年3月頃当時,支払不能の状態にあり,破産手続開始に至る高度の蓋然性があるものと認められるのであって,他に本件各弁済1の原資とすることができる財産が存在したものとは認められないことからすれば,Dの上記の行為は,被告PCIの代表取締役としての行為であるとともに,本件各弁済1の実行に必要不可欠な行為であり,本件各弁済に積極的に加功する行為であると認められる。
オ 小括
以上によれば,Dは,破産会社が支払不能の状態にあり破産手続開始に至る高度の蓋然性があること及び破産会社に益するところのない本件各弁済1が行われることを認識しつつ,被告PCIの代表取締役として,破産会社との間で本件各譲渡契約1を締結し,その譲渡代金を支払うという,本件各弁済1の実行に必要不可欠な行為を行い,本件各弁済1に積極的に加功する行為を行ったと認められるから,この行為は,破産会社の破産財団ないし破産管財人に対する関係で不法行為を構成するものというべきである。
(3)  まとめ
以上によれば,被告PCIは,会社法350条により,本件各弁済1に加功したDの行為によって,破産会社の破産財団ないし破産管財人が被った損害を賠償する責任がある。そして,これまで述べたとおり,本件各弁済1は,譲渡対象事業ひいては被告PCIの利益となるものであるものの,破産会社,破産会社に残存する事業ひいては破産会社に対する本件各弁済1の対象とされなかった債権者の利益となるものではなかったことからすれば,破産会社の破産財団ないし破産管財人は,本件各弁済1により,その弁済相当額7191万8012円の損害を被ったものと認められる。
4  争点(4)(被告ポニーキャニオン音楽出版が本件各弁済2について会社法350条又は民法709条に基づき損害賠償責任を負うか否か)について
(1)  Cが本件各弁済2を行ったことが不法行為を構成するか否か
前示のとおり,破産会社は平成21年3月頃までに支払不能の状態にあり,破産手続開始に至る高度の蓋然性があったものと認められるところ,前記認定事実によれば,かかる状態は,本件各弁済2が行われた同年4月頃の時点でも異なるものではないと認められる。
そして,前記認定事実によれば,本件各弁済2は,Cの指示,承認の下で行われたこと,本件各弁済2は,譲渡対価による弁済は譲渡対象事業に係る債権者に対して行うべきであるという考え方に基づいて行われたものであることが認められる。そうすると,本件各弁済2は,譲渡対象事業ひいては本件事業譲渡2の譲受人である被告ポニーキャニオン音楽出版のために行われたものであって,破産会社ないし破産会社に残存する事業のために行われたものとは認められず,支払不能の状態にあり,破産手続開始に至る高度の蓋然性があると認められる破産会社において,その業績を回復し,残存する事業の債権者らに対する弁済の原資を作出するようなものとはいえないので,かかる弁済は破産会社に益するところのない偏頗弁済であると認められる。なお,この点について,本件事業譲渡2そのものないしその譲渡代金による本件各弁済2が破産会社にとり有益なものであったという被告ポニーキャニオン音楽出版の主張が採用できないことは,3(1)ウにおいて述べたところと同様である。
以上によれば,破産会社は,平成21年4月頃当時,支払不能の状態にあり,破産手続開始に至る高度の蓋然性があるものと認められ,破産会社の代表取締役たるCは,このことを認識しつつ,破産会社に益するところのない偏頗弁済である本件各弁済2を行ったのであるから,この行為は,債権者に対し公平に弁済する義務に違反し,将来の破産財団を構成すべき財産を不当に減少させるものとして,破産会社の破産財団ないし破産管財人に対する関係で不法行為を構成するものというべきである。
(2)  本件各弁済2に関し,Eが被告ポニーキャニオン音楽出版の代表取締役として不法行為を構成する行為を行ったか否か
原告は,Eは,破産会社が支払不能の状態にあること及びCが本件事業譲渡2の譲渡代金を原資として本件各弁済2を行うつもりであることを知りながら,被告ポニーキャニオン音楽出版の代表取締役として,破産会社との間で,本件事業譲渡契約2を締結し,その譲渡代金を支払い,Cに本件各弁済2を実行させた旨主張する。
前記認定事実によれば,①ポニーキャニオンは,実質的に本件各事業譲渡の譲渡代金を決定したこと,②被告ポニーキャニオン音楽出版はポニーキャニオンの子会社であり,Eは,平成20年6月18日から平成21年4月22日までの間,被告ポニーキャニオン音楽出版の代表取締役とポニーキャニオンの取締役を兼任していたことが認められる。
しかしながら,本件全証拠によっても,EがDのように本件各弁済2の弁済先の確定に関わるなどしたとは認められないのであって,上記の事実によっては,破産会社の取締役でないEが,破産会社が支払不能の状態にあり破産手続開始の高度の蓋然性のあることを認識していたとも,本件事業譲渡2の譲渡代金を原資とする本件各弁済2が予定されていたことを認識していたとも認めるに足りず,他にこれらを認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告の上記主張は採用できない。
(3)  まとめ
以上によれば,被告ポニーキャニオン音楽出版が本件各弁済2について会社法350条に基づき損害賠償責任を負うものとは認められない。
なお,原告の,被告ポニーキャニオン音楽出版が,民法709条に基づき損害賠償責任を負うとの主張は,法人である被告ポニーキャニオン音楽出版自身が同条により直接に不法行為責任を負うことを前提とするものであるから,主張自体失当である。
第4  結論
以上検討したところによれば,原告の被告PCIに対する請求は,原告が会社法350条に基づき請求する損害賠償金5435万9544円及びこれに対する不法行為の後の日である平成21年4月1日から支払い済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その限度でこれを認容し,その余の請求は理由がないから棄却することとし,被告ポニーキャニオン音楽出版に対する請求は理由がないからこれを棄却することとする。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 増田稔 裁判官 堀田匡 裁判官 粟津侑)

 

〈以下省略〉

 

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