
「成果報酬 営業」に関する裁判例(46)平成26年 2月25日 東京地裁 平23(ワ)15002号 損害賠償請求事件
「成果報酬 営業」に関する裁判例(46)平成26年 2月25日 東京地裁 平23(ワ)15002号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成26年 2月25日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平23(ワ)15002号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2014WLJPCA02258021
要旨
◆被告Y2及び被告Y4から被告Y3社が開発するゲームに投資を持ちかけられ、被告Y2が代表者である被告Y1社との間で投資契約を締結し、同社に4000万円を支払った原告が、本件投資契約による投資の話自体が被告Y1社及び被告Y3社による詐欺であるなどとして、被告らに対し、損害賠償を求めた事案において、被告らには、原告主張に係る説明義務は認められず、また、欺罔行為も認められないとしたが、被告Y1社は、被告Y3社に対する本件配信権に係る対価の一部を支払わなかったことにより、被告Y1社と被告Y3社との間の業務委託契約を解除され、本件配信権を失ったのであるから、投資を受けた被告Y1社の責めに帰すべき事由により、本件投資契約が履行できなくなったものといえ、被告Y1社は、本件投資契約の債務不履行に基づく損害賠償義務を負うなどとして、同社に対する請求を一部認容した事例
参照条文
民法415条
民法709条
民法719条
会社法429条1項
裁判年月日 平成26年 2月25日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平23(ワ)15002号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2014WLJPCA02258021
東京都渋谷区〈以下省略〉
原告 株式会社X(旧商号 株式会社a)
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 望月賢司
東京都小平市〈以下省略〉
被告 株式会社Y1
同代表者代表取締役 Y2
東京都目黒区〈以下省略〉
被告 Y2
東京都港区〈以下省略〉
被告 有限会社Y3
同代表者取締役 Y4
東京都板橋区〈以下省略〉
被告 Y4
上記2名訴訟代理人弁護士 大森秀昭
鈴木一
主文
1 被告株式会社Y1は,原告に対し,3987万2912円及びこれに対する平成23年5月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,原告に生じた費用の4分の1及び被告株式会社Y1に生じた費用を被告株式会社Y1の負担とし,原告に生じたその余の費用並びに被告Y2に生じた費用,被告有限会社Y3及び被告Y4に生じた費用を原告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 被告らは,原告に対し,連帯して,3987万2912円及びうち987万2912円に対する平成21年11月4日から,うち1000万円に対する平成21年12月28日から,うち1000万円に対する平成22年1月4日から,うち500万円に対する平成22年4月1日から,うち500万円に対する平成22年4月30日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 仮執行宣言
第2 事案の概要
1 本件は,原告が,その取締役であったAを通じて,被告Y2及び被告Y4から被告有限会社Y3が開発するゲームに投資を持ちかけられ,被告Y2が代表者である被告株式会社Y1との間で投資契約を締結し,4000万円を同社に対し支払ったが,上記投資契約により受けた配当が約13万円程度であり,被告らに上記投資契約についての説明義務違反があったとか,上記投資契約による投資の話自体が被告株式会社Y1と被告有限会社Y3による詐欺であるなどとして,①被告ら4名に対し,共同不法行為に基づく損害賠償請求として,②被告株式会社Y1の代表取締役である被告Y2及び上記投資契約締結時に同社の取締役であった被告Y4に対し,それぞれ会社法429条1項に基づく損害賠償請求として,③仮に上記詐欺が認められないとしても,被告株式会社Y1には上記投資契約の債務不履行があるとして,同社に対し,債務不履行に基づく損害賠償請求として,④仮に上記詐欺等が認められないとしても,被告有限会社Y3が訴外株式会社bとの間で,業務委託契約を締結した結果,被告株式会社Y1と訴外株式会社bとの間の業務委託契約が解約されたとして,被告有限会社Y3の上記契約締結行為が不法行為を構成するとして,同社に対し,不法行為に基づく損害賠償請求として,⑤被告Y4に対し,上記④に基づく被告有限会社Y3の不法行為責任を前提とした会社法429条1項に基づく損害賠償請求として,それぞれ3987万2912円及びこれに対する原告の被告株式会社Y1に対する投資金の各支払日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか,争うことを明らかにしない事実及び掲記の証拠又は弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 原告は,アパレル製品の企画,製造,販売等を目的とする株式会社である。
被告株式会社Y1(以下「被告Y1社」という。)は,デジタルコンテンツ関連の情報提供サービス等を目的とする株式会社であり,被告Y2(以下「被告Y2」という。)はその代表取締役である。
被告有限会社Y3(以下「被告Y3社」という。)は,コンピュータソフトウェアの開発及び販売等を目的とする有限会社であり,被告Y4(以下「被告Y4」という。)はその取締役である。
(2) 原告と被告Y1社が作成した平成21年11月6日付け「『○○』に対する投資契約書」(以下「本件契約書」という。)には,○○プラス(本件契約書上,ゲームソフトのタイトルは「○○」となっているが,弁論の全趣旨から,○○プラスの開発に係る投資契約であることは明らかであるので,以下,○○プラスを「本件ソフト」という。)というゲームソフトに係る投資契約(以下,本件契約書による投資契約を「本件投資契約」という。)につき,概要以下の内容が記載されている。原告と被告Y1社は,上記同日,本件投資契約を締結した(甲1)。
ア 本件契約書は,被告Y1社が企画開発を進めている本件ソフトによる携帯ゲーム事業(以下「本件プロジェクト」という。)につき,原告が投資を行い,被告Y1社が本件プロジェクトを推進することを目的とする(第1条)。
イ 原告及び被告Y1社は,本件ソフトの開発を被告Y3社に委託することに合意する(第3条)。
ウ 本件プロジェクトの企画開発総予算を4000万円とし,原告は,被告Y1社に対し同金額の投資金を以下のとおり支払う(第4条)。
① 第1回 平成21年11月4日 1000万円
② 第2回 同年12月28日 500万円
③ 第3回 平成22年1月29日 500万円
④ 第4回 平成21年2月26日 500万円
⑤ 第5回 同年3月31日 500万円
⑥ 第6回 同年4月30日 500万円
⑦ 第7回 同年5月31日 500万円
(上記④ないし⑦の支払期日は,年を誤記しており,「平成22年」と記載されるべきものと解される。)
エ 被告Y1社は,本件プロジェクトの運営作業対価経費として,サイト制作及び運用とゲームアプリ更新作業につき,それぞれ本件ソフトの販売定価の10パーセント,合計20パーセントを管理する(第7条)。
オ 本件プロジェクトのサービス提供により発生した収益の按分については,被告Y1社が得られた累計収益から,上記対価経費を除いた累計収益金額を基礎として,原告が75パーセント,被告Y1社が25パーセントを按分する(第8条)。
カ 本件プロジェクトに係る著作権等は被告Y3社に帰属する(第10条)。
キ 契約期間は契約締結日から3年とする(第14条)。
(3) 原告は,被告Y1社に対し,本件投資契約に基づく投資金を,次のとおり分割して支払った(甲2)。
ア 平成21年11月4日 1000万円
イ 同年12月28日 1000万円
ウ 平成22年1月4日 1000万円
エ 同年4月1日 500万円
オ 同年4月30日 500万円
(4) 被告Y1社と訴外株式会社b(以下「b社」という。)が作成した平成21年12月15日付業務委託契約書には,本件ソフトを顧客に配信するための業務委託について,次のとおり規定されている(丙14,以下,同契約書に基づく業務委託契約を「旧業務委託契約」という。)。被告Y1社とb社は,上記同日,旧業務委託契約を締結した。
ア b社が顧客に提供するモバイルサイトの開発等を被告Y1社に対し委託することを目的とする(第1条)。
イ b社が被告Y1社に対し委託する業務内容は,以下のとおりである(第2条)。
① b社が独自のモバイルサイトとして顧客に提供するサイトの企画・開発及び運用業務
② 上記サイトに係るプロモーション支援,キャリア向け企画書作成,申請業務,カスタマーサポート業務,実績データの提供業務等(以下省略)
ウ 被告Y1社は,b社に対し,上記サイト及びサイト内のコンテンツ素材が,第三者の著作権等の知的財産権その他一切の権利を侵害しないことを保証する(第8条)。
(5) 被告Y1社と被告Y3社が作成した平成22年6月1日付「業務提携契約確認書」には,本件ソフトに係る本件プロジェクト及び配信権付与等について,次のとおり規定されている(丙15,以下,同確認書に基づく契約を「本件業務委託契約」という。)。
ア 本件業務委託契約は,平成21年11月1日に締結していたものである(前文)。
イ 本件ソフトの全ての権利は被告Y3社に帰属する。被告Y3社は,本件ソフトを携帯電話キャリアの各公式メニュー内サービスとして配信する権利(以下「本件配信権」という。)を,被告Y1社に対し許諾する(第2条)。
ウ 被告Y3社は,ゲームのサーバ部分,アプリ部分の開発,保守,更新等を,被告Y1社は,サーバの構築,配信用サイトの開発,保守,更新,カスタマーサポート,販売促進業務等をそれぞれ担当する(第3条)。
エ 本件配信権の対価は,4725万円(税込)とし,支払条件は次のとおりとする(第10条)。
① 第1回 平成21年10月30日 450万円
② 第2回 平成22年12月31日 1000万円
③ 第3回 平成22年1月29日 500万円
④ 第4回 同年2月26日 500万円
⑤ 第5回 同年3月31日 500万円
⑥ 第6回 同年4月30日 500万円
⑦ 第7回 同年5月31日 500万円
⑧ 第8回 同年6月30日 775万円
(上記②の支払期日は,年を誤記しており,「平成21年」と記載されるべきものと解される。)
(6) 被告Y3社は,被告Y1社から,本件業務委託契約に基づき,本件配信権の対価の一部として2890万円(平成21年11月6日450万円,同年12月29日500万円,平成22年1月4日500万円,同年2月1日500万円,同年4月1日500万円,同年5月12日440万円)を受領した。
(7) 被告Y1社と被告Y3社が作成した平成22年7月15日付「契約解除に関する覚書」には,本件業務委託契約を合意解除する旨,合意解除の原因が被告Y1社による本件業務委託契約に基づく本件配信権の対価の不払(1835万円)を原因とするものであること,被告Y3社が受領した2890万円の返金方法につき,本件ソフトによる売上げ(平成25年7月までか,本件ソフトの売上げがなくなるまで)の25パーセントを被告Y1社に返金する旨が記載されている(丙16)。
(8) 被告Y1社とb社が作成した旧業務委託契約に係る平成22年7月16日付の「解約合意書」には,旧業務委託契約を合意解約する旨が記載されている(丙17)。
(9) 被告Y4は,被告Y1社の設立時から平成21年12月10日に退任するまで,同社の取締役として商業登記簿に登記されていた。
(10) 被告Y1社は,原告に対し,本件投資契約に基づく収益の配当金として,平成22年9月から同年11月にかけて合計12万7088円を支払った。
(11) 本件訴状は,平成23年5月14日に,被告Y1社に送達された。
3 原告の請求原因事実
(1) 被告ら4名による不法行為
ア 注意義務違反による不法行為
原告は,被告Y2から本件ソフトの開発に係るプロジェクト(以下「本件プロジェクト」という。)及びその収支予測に関する説明を受けた。かかる収支説明は,被告Y2が被告Y3社及び被告Y4と相談の上,とりまとめたものであった。
しかし,被告Y1社は,本件プロジェクトによりわずかな収益を上げたのみで,遂行不能となった。
被告らは,本件プロジェクトに参加する原告に対し,本件プロジェクトについて予測通りの収益を上げられない可能性がある旨を説明すべき義務があるのにそれをせず,ただ儲かることのみを強調して投資を進め,原告に損害を生じさせた。これは,被告4名の原告に対する注意義務違反であり,不法行為に該当する。
イ 詐欺
本件プロジェクトは,わずかな収益しか上げられておらず,当初から被告Y1社は本件プロジェクトの遂行能力がなかったといわざるを得ない。被告らは,被告Y1社に本件プロジェクトを遂行する能力がなく,投資金を支払っても本件プロジェクトに係る収支表(甲11,以下「本件収支表」という。)に示された収益を上げる見込みもないのに,原告へのプレゼンの場でこれがあるように装い,原告にその旨を誤信させ,原告から投資金名目下に金員を詐取した。
ウ 損害
上記ア及びイの不法行為により発生した損害は,原告が本件投資契約に基づき投資した4000万円から,同契約に基づき受領した収益12万7088円の差額である3987万2912円である。
(2) 被告Y2及び被告Y4の会社法429条1項に基づく請求
被告Y2と被告Y4は,本件投資契約の際,被告Y1社の代表取締役及び取締役であり,同契約に関し,原告代表者と契約締結交渉をし,投資金を振り込ませた。被告Y2と被告Y4の契約締結交渉における行為は,被告Y1社に契約履行の能力がないことを知りつつ,これがあるかのように原告を欺罔し,原告に投資を勧誘したという悪意または少なくとも重大な過失があり,これにより原告は損害を被った。
よって,被告Y2と被告Y4は,会社法429条1項の責任を負う。
(3) 被告Y1社の債務不履行
被告Y1社は,原告との間で本件投資契約を締結していたが,平成22年7月15日付「契約解除に関する覚書」により,被告Y3社との間で同月31日をもって業務提携契約を解除した。これにより,被告Y1社は,本件ソフトに係るサービスの提供が不可能となり,原告との間で締結していた本件投資契約の履行が不能となった。被告Y1社が原告に対する本件投資契約に係る債務を履行するためには被告Y3社の協力が不可欠であったにもかかわらず,被告Y1社は,本件業務提携契約を合意解除しており,かかる行為により,原告の本件投資契約に規定する投資金の回収を不能たらしめたものであるから,本件投資契約の債務不履行責任を負う。そして,かかる債務不履行により,原告は,本件投資契約により投資した4000万円から,同契約に基づき受領した収益12万7088円の差額である3987万2912円の損害を被った。
(4) 被告Y3社による不法行為
被告Y1社は,b社との間で平成21年12月15日付け業務委託契約を締結していたのに,同契約が平成22年7月16日に解約されるよりも先立つ同月9日,被告Y3社はb社との間で本件ソフトに係る業務委託契約を締結している。
被告Y3社の上記行為は,本件投資契約の遂行を阻害し,履行不能に至らしめた決定的行為であり,原告に対し,不法行為責任を負う。
(5) 被告Y4の会社法429条1項に基づく責任
被告Y4は,被告Y3社の取締役として,上記(4)の不適切な契約行為を行っており,悪意または重大な過失により第三者である原告に損害を負わせたものであり,会社法429条1項に基づく責任を負う。
4 争点
(1) 被告らに原告に対する本件プロジェクトに係る説明義務違反が認められるか(争点1)。
(2) 被告らに被告Y1社には本件プロジェクトの遂行能力がないのにこれをあるかのごとく装ったという欺罔行為が認められるか(争点2)。
(3) 被告Y1社の債務不履行責任の成否(争点3)
(4) 被告Y3社がb社との間で業務委託契約を締結したことが原告に対する不法行為を構成するか(争点4)。
(5) 被告Y2についての会社法429条1項に基づく責任の成否(争点5)
(6) 被告Y4についての会社法429条1項に基づく責任の成否(争点6)
5 争点に関する当事者の主張の要旨
(1) 争点1について
(原告の主張)
ア 原告の現代表者(当時は取締役であった)A(以下「A」という。)は,被告Y2及び原告の元従業員B(以下「B」という。)に紹介され,平成21年10月頃,被告Y3社の事務所を訪問し,被告Y4と面談した。その後,Aは,被告Y3社の事務所周辺の喫茶店において被告Y4から「自分が作ってきたゲームでこけたことはない」,「全てうまくいっていてゲームが今は一番堅い投資だ」等と説明した(以下,平成21年10月頃の被告Y3社の事務所及びその周辺の喫茶店での面談を「本件面談」という。)。
イ また,被告Y2は,その後,原告方を訪れ,Aに対し,被告Y3社の素晴らしさを話し,銀行借入れをして投資をすればよいとか,ゲームが一番儲かるからゲームの開発に投資しないかなどと,原告を本件プロジェクトに勧誘した。
ウ 被告Y4は,本件面談の約2週間後,原告方を訪れ,「絶対に失敗はない」とか,「絶対売れる」などと述べて,原告を本件プロジェクトに勧誘した。さらに,被告Y4は,その約2週間後,原告方を訪れ,ゲームキャラクターのデザインを説明するなどした。
エ 被告らは,原告に対し本件プロジェクトの勧誘を行う際,被告Y2がAに対して示した本件収支表のような収益が上がらない可能性があることを説明すべきであった。それにもかかわらず,被告らは,本件プロジェクトにつき,ただ儲かることのみを強調し,原告を勧誘しており,かかる行為には,被告らの上記説明をすべき義務違反があった。
(被告Y1社及び被告Y2の主張)
原告が主張する上記の事実経緯(アないしウ)は,被告Y2がAに対し銀行借入れを勧めたとの経緯を除き概ね認めるが,不法行為であるとの主張は争う。
(被告Y3社及び被告Y4の主張)
ア 被告Y3社及び被告Y4が原告に対し本件プロジェクトへの投資を勧誘した事実はない。
イ 被告Y4は,平成21年10月頃,Aと本件面談をした際には,本件ソフトの内容等について一般的な説明をしたにすぎない。
原告が主張するような事実経緯はなかったのであるから,被告Y3社及び被告Y4は,原告が主張するような説明義務を負わない。
(2) 争点2について
(原告の主張)
被告らは,被告Y1社において,被告Y2がAに対して示した本件収支表に記載された収益を上げる能力もないのに,これがあるように装い,原告を本件プロジェクトに勧誘し,原告を誤信させて本件投資契約を締結させ,4000万円を投資させたものである。
かかる行為は,被告らによる欺罔行為であり詐欺に該当する。
(被告Y1社及び被告Y2の主張)
本件ソフトは,平成22年5月にソフトバンクモバイルから,同年7月にKDDIからそれぞれb社を通じて発売されており,被告Y1社及び被告Y2には,本件プロジェクトを推進する意思があった。
(被告Y3社及び被告Y4の主張)
ア 被告Y3社及び被告Y4が,被告Y1社について,原告が主張するような事実を誤信させるような言動を行ったことはない。
イ 本件ソフトは,平成22年5月にソフトバンクモバイルから,同年7月にKDDIから,同年10月にドコモからそれぞれ配信されているのであるから,本件プロジェクトが実現されたことは明らかである。したがって,被告Y1社が本件プロジェクト活動を行う意思も能力もないのにこれがあるかのように装ったという欺罔行為はない。
そもそも,本件ソフトは,当時b社が販売していた他のコンテンツほど多くのユーザーを獲得できなかったに過ぎない。原告の主張は,結果的に本件プロジェクトにおいて原告が想定していた収益を上げることができず,当初予定していた投下資本の回収がなしえなかった責任を被告らに転嫁するものであり不当である。
(3) 争点3について
(原告の主張)
原告と被告Y1社は,本件投資契約において,被告Y3社に本件ソフトの開発を委託したことを合意していた。そして,被告Y1社は,本件業務委託契約において,被告Y3社に対し,本件ソフトの開発,保守,更新を委託しており,それらの行為は本件ソフトのソースコードと著作権を保有している被告Y3社にしか行い得ない業務である。したがって,被告Y1社において本件ソフトの開発を前提とする本件投資契約の履行には,被告Y3社の協力が不可欠であった。それにもかかわらず,被告Y1社は,被告Y3社との間の本件業務委託契約を平成22年7月31日に解除した。これにより,被告Y1社は,本件プロジェクトに係る本件ソフトのサービス提供が不可能となり,原告との間の本件投資契約が履行不能となった。
(被告Y1社の主張)
争う。
(4) 争点4について
(原告の主張)
被告Y1社は,本件投資契約の遂行に関し,b社との間で,旧業務委託契約を締結していた。しかし,被告Y3社は,旧業務委託契約が解約された平成22年7月16日よりも前である平成22年7月9日にb社との間で本件ソフトの配信に係る業務委託契約(以下「新業務委託契約」という。)を締結した。これにより,被告Y1社は,本件投資契約の履行が不可能となった一方,本件プロジェクトの対象となった本件ソフトによる売上げは,被告Y3社が独占することになった。
被告Y3社による新業務委託契約は,本件投資契約の履行を不可能たらしめており,原告に対する不法行為を構成する。
(被告Y3社の主張)
ア b社が旧業務委託契約に基づき本件ソフトの配信を行うためには,被告Y1社において本件ソフトに係る配信権の保有を明らかにする必要があった。すなわち,被告Y1社は,b社に対し,本件ソフトの配信権の保有及び同ソフトの配信が第三者の権利を侵害することがないことを証明するため,著作権者である被告Y3社からの配信権付与契約を示す必要があった。しかし,被告Y1社は,本件業務委託契約に基づく本件配信権の対価の一部を被告Y3社に対し支払っていなかったため,b社に対し,本件配信権に係る契約を提示できなかった。そのため,被告Y1社は,平成22年6月頃,b社から,旧業務委託契約を維持することができないと通知され,その後,b社との間で旧業務委託契約を合意解約したのである(丙17)。
イ 以上の経緯に照らせば,仮に旧業務委託契約の合意解約により,本件プロジェクトが履行不能になったとしても,そのことに被告Y3社及び被告Y4に帰責性はない。また,b社は,既に本件ソフトの配信を開始していたため,コンテンツプロバイダとして,突然本件ソフトの配信を中断するわけにはいかなかったことから,被告Y3社との間で新業務委託契約を締結したに過ぎない。
(5) 争点5及び6について
(原告の主張)
被告Y2と被告Y4は,いずれも本件投資契約締結同時,被告Y1社の取締役であった。被告Y2と被告Y4は,本件投資契約に関し,原告の取締役と契約締結交渉をし,投資金を振り込ませたものである。被告Y2及び被告Y4は,本件投資契約の契約締結交渉の際に,会社が契約履行の能力がないことを知りつつ,これがあるかのように原告を欺罔し,原告に本件の投資を勧誘したという悪意又は重大な過失があり,これにより原告に損害を負わせた。したがって,被告Y2及び被告Y4は,会社法429条1項に基づく責任を負う。
また被告Y4は,被告Y3社の代表者取締役であるから,被告Y3社の不適切な契約締結行為(b社との間の新業務委託契約の締結行為)について,悪意又は重過失により,会社法429条1項に基づく責任を負う。
(被告Y2の主張)
被告Y1社には,本件プロジェクトを実際に推進する意思があり,原告に対し本件投資契約に基づく配当金も支払っているのであるから,詐欺行為があったなどということはできない。したがって,被告Y2は,被告Y1社の取締役としての個人責任を負うものではない。
(被告Y4の主張)
被告Y4は,被告Y1社の取締役として登記されていたが,実質的な取締役としての活動は全くしていないし,その経営状況についても被告Y2から何も知らされていない。
そもそも,被告Y1社は,本件プロジェクトを実現させており同社において当初から本件投資契約に係る本件プロジェクトを遂行する意思も能力もなかったという事実はない。
また,被告Y3社によるb社との間の新業務委託契約の締結は,本件ソフトの配信が既に開始されていたことから,顧客に対するサービスの提供を継続するために必要な行為であり,不法行為は成立しない。
したがって,被告Y4は,原告に対し,被告ら4名による詐欺及び被告Y3社によるb社との間の新業務委託契約の締結行為を理由とした,会社法429条1項に基づく責任を負うものではない。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前提事実,証拠(各項後掲のもののほか,甲12,乙3,5,証人C,原告代表者(A),被告Y2本人及び被告Y4本人。ただし,後記のとおり採用できない部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 原告は,平成21年10月6日,その従業員であったBを通じて,被告Y2に対し,被告Y3社との面談を要望した。本件投資契約締結に係る原告の意思決定は,事実上,その取締役であったAが行っていた。Aは,その後,本件投資契約の締結に先立ち,被告Y2及び被告Y4と本件面談を行った。その際,被告Y4は,被告Y3社の会社概要や本件ソフトの概要を説明するなどした(甲4)。
(2) 原告は,平成21年10月末頃から,その従業員であったBを通じて,被告Y2との間で,本件投資契約の締結交渉を行った。Bと被告Y2は,同契約締結交渉において,主に本件投資契約に基づく原告の投資金を5000万円とするか4000万円とするか並びにその支払時期及び回数について話し合っていた(甲4ないし6)。
(3) 被告Y2は,Bに対する平成21年10月18日付電子メールにおいて,本件プロジェクトに係る収支表を提示した(甲5)。その後,被告Y2は,原告(A)に対する本件プロジェクトの説明資料として複数の収支表を作成している。被告Y2がAに対する説明資料として提示した資料には本件収支表(甲11)が含まれているが,その作成時期及びAに対する提示時期は明らかではない。
(4) 本件収支表によれば,当初3か月に限定しても,本件プロジェクトによる原告の収益を約600万円,1か月あたりの新規会員数を後述のリアルアフィリエイトによる会員7000人,携帯電話からの直接購入による会員6000人の合計1万3000人と予測されていた(甲11)。
(5) 本件ソフトは,b社によるリアルアフィリエイトの形式で,顧客を獲得することが予定されていた。リアルアフィリエイトとは,携帯電話ショップや飲食店などの実際の店舗において,店頭スタッフが来店顧客にサービス説明,会員登録への誘導等を行い,実際に登録件数に応じて成果報酬を支払う一連の形態である。
(6) 被告Y3社は,平成21年11月頃,被告Y1社との間で,本件ソフトの開発及び本件配信権の付与に係る本件業務委託契約を締結した。被告Y3社及び被告Y4は,本件配信権を被告Y1社に付与する対価としては,4725万円(税込)と考えていたところ,被告Y2から,原告から4000万円の投資を受けられるところまで話がまとまっていること,原告と交渉して本件ソフトとは別のソフト(以下「2タイトル目」という。)の契約を取るので,その際は8505万円で本件ソフトと2タイトル目の配信権を付与してほしいこと,万が一,被告Y1社が原告から2タイトル目についての投資を受けられないのであれば,被告Y1社又は被告Y2において原告からの投資金4000万円と上記4725万円の差額の725万円を拠出する旨を告げられた。そこで,被告Y4は,被告Y2の申し出を受け,本件配信権の付与の対価は4725万円とし,2タイトル目の配信権付与の対価を3780万円とすることを了承した(甲15)。
(7) 他方,被告Y2は,Aに対し,当初,投資金を5000万円とした本件プロジェクトを持ちかけていたが,原告はそのような資金的な余裕がないなどと回答したことから,4000万円に減額した案を提示していた。これと併せて,被告Y2は,Aに対し,2タイトル目の提案も行っていたが,本件プロジェクトもまとまっていなかったこともあり,Aからは2タイトル目についての好意的な回答は得られなかった。しかし,被告Y2は,Aに対し,被告Y3社及び被告Y4が2タイトル目の契約を前提として本件プロジェクトを考えていたことを伝えておらず,そのため,本件投資契約上も投資金について4000万円とする旨の規定のみが記載されることになった。
(8) 本件投資契約締結後,本件プロジェクトにおいて,本件ソフトは,被告Y3社によって制作され,b社と被告Y1社との旧業務委託契約に基づき,b社をコンテンツプロバイダとして,平成22年5月にソフトバンクモバイルから,同年7月にKDDIから,同年10月にドコモからそれぞれ配信が開始され,一定の顧客による購入・利用が始まった(丙1ないし10)。
(9) b社による本件ソフトの販売は好調なものとはいえなかった。その原因は,本件ソフトがリアルアフィリエイトによる顧客獲得を予測していたところ,b社の経営する携帯電話ショップに来店する顧客層と本件ソフトがターゲットとして予定していた顧客層が異なっていたことで,リアルアフィリエイトによる顧客獲得が低調であったこと,本件ソフトの販売がグリーやモバゲーなどのオンラインゲーム会社が台頭してきた時期と重なってしまったことなどにあった。
(10) 本件プロジェクトは,被告Y1社と被告Y3社との間の本件業務委託契約が解除されたことにより,被告Y1社において遂行できなくなった。本件業務委託契約の解除原因は,被告Y1社が,被告Y3社に対する本件配信権の対価について一部未払があったことにある(丙16)。
2 争点1について
(1) 原告は,被告ら4名につき,本件投資契約について,本件投資契約締結に先立ち被告Y2がAに対して契約締結交渉において示した本件プロジェクトに係る本件収支表につき,本件投資契約における合意内容になっているとか,被告らにおいて,本件プロジェクトにおける収益が同収支表記載のとおりにならない可能性がある旨を説明する義務があったと主張する。
(2) しかし,そもそも,本件投資契約には,本件収支表の収益を保証したような記載はなく,他に原告と被告Y1社が本件収支表の収益を保証する格別の合意がなされたと認めるに足りる証拠はない。そうすると,本件収支表記載の収益を上げることが本件投資契約における被告Y1社の義務となっていたということはできない。
(3) 被告Y2が本件収支表を用いてAに対して本件プロジェクトの収支予測を説明していたことが認められるものの,本件プロジェクトがいわゆる投資事案であること,原告も被告Y1社も互いに法人であることに鑑みれば,原告においても,同収支表どおりの収益はあくまで予測であり,同収支表記載の収益が上げられない可能性があり,投資金が回収できないリスクも認識していたものといわざるを得ない。そうすると,被告らにおいて本件投資契約における収益が大幅に下回るような具体的な事情を認識しながら,あえてこれを秘匿して原告に伝えなかったような特段の事情が認められる場合を除き,被告らに本件プロジェクトによる収益が本件収支表を下回る可能性について,原告(A)に対し特に説明しなければならない義務があったとまではいえない。そして,本件においては,上記のような特段の事情はうかがえない。
(4) なお,原告は,Aが被告Y2及び被告Y4から,ただ儲かることのみを強調して本件プロジェクトに勧誘されたとか,被告Y4は「4000万円の投資ならば少なくとも1年で回収が見込める」,「絶対失敗はない」,「絶対に売れる」などと断定的な文言で本件プロジェクトに勧誘された旨主張しこれに沿う供述をする。しかし,原告の元従業員Bと被告Y2との間で電子メールによる本件投資契約の契約締結交渉が行われているところ(甲4ないし7),これらのメールを見ても被告Y2においてただ儲かることのみを強調したことをうかがわせるような記載はない。また,被告Y4は,上記のような断定的な判断の提供をしたことはないと否定しており,そのような被告Y4の発言や判断の提供を裏付けるような客観的な資料は原告からも被告Y2からも提出されていない。そうすると,上記の点におけるAの供述を採用することはできないといわざるを得ない。
(5) 以上から,原告の請求のうち,不法行為(説明義務違反)に係る主張は,その前提となる被告らの作為義務が認められず,採用することはできない。
3 争点2について
(1) 前提事実によれば,本件プロジェクトによる原告の収益は,3か月間で約13万円程度しか上がっておらず,被告Y2が原告に提示した本件収支表(3か月間で約600万円の予測)とは大幅に異なる事業内容となっており,被告Y2において本件プロジェクトに対する収支予測が十分になされた上で作成されたものであるかは明らかではない。
(2) 前提事実及び認定事実によれば,被告Y1社が本件投資契約締結後である平成21年12月15日にb社との間で本件ソフトの配信に係る旧業務委託契約を締結していること,被告Y1社が被告Y3社との間で本件業務委託契約を締結し,本件配信権の対価の一部(2890万円)を同社に対し支払っていること,被告Y3社は本件業務委託契約に基づき本件ソフトを制作し,被告Y3社に一時的に配信権を付与していたこと,本件プロジェクトにおいて,本件ソフトは平成22年5月以降,b社と被告Y1社との旧業務委託契約に基づき,b社をコンテンツプロバイダとして,携帯電話キャリア各社から随時販売され,一定の顧客による購入・利用が始まっていたこと,少額(約13万円)ながら被告Y1社から原告に対し本件投資契約に基づく収益の配当がなされていること,b社による本件ソフトの販売は不調であり,その原因がb社の経営する携帯電話ショップに来店する顧客層と本件ソフトがターゲットとして予定していた顧客層とが異なっていたことや本件ソフトの販売がグリーやモバゲーなどのオンラインゲームが台頭してきた時期と重なってしまったことなどにあったこと,本件プロジェクトが被告Y1社において遂行できなくなった原因が被告Y3社に対する債務不履行(本件配信権の対価についての一部未払)であることがそれぞれ認められる。
(3) 上記事実につき検討するに,まず,被告Y3社は,本件業務委託契約に基づき本件ソフトを制作し,被告Y1社に対し,本件配信権を付与しており,被告Y3社がなすべき業務を行っているものといえる。そうすると,被告Y1社が被告Y3社に対して本件配信権の対価の一部が未払となった理由が証拠上明らかでないこと,被告Y3社が被告Y1社に対し未払の本件配信権の対価を請求したことを裏付ける客観的な証拠がないことを考慮しても,被告Y1社が,本件プロジェクトにつき遂行する意思も能力もないのに,これに共謀して荷担したとまでは評価できない。
(4) また,原告は,被告Y4が被告Y1社の取締役であり,被告Y4が本件収支表の作成に関与したとか,被告Y4が同席した本件プロジェクトに係る打ち合わせの際に本件収支表が示され,被告Y4が当然にその内容を知っていたなどと主張し,原告と被告Y1社との間でやりとりされた電子メール(甲5,6)を提出し,A及び被告Y2もこれに沿うような供述をする。確かに,上記各電子メールには,被告Y2が被告Y4又は被告Y3社との調整をするとか確認をするなどの記載があるが,甲第5号証の電子メールで被告Y2が被告Y3社と調整するとしているのは投資金の金額及び支払方法であると解されること,甲第6号証の電子メールで被告Y2が被告Y4と最終調整するとしている数字は,同メールに添付されている本件契約書のドラフトにおいて記載されている投資金の金額のことを指すものと解されることに照らすと,上記各電子メールは,被告Y4が本件収支表の作成に関与したことを示すものとはいえない。そして,Aは,被告Y4が同席の上での打ち合わせの際に,本件収支表が示されたこと供述するが,被告Y4がこれを否定していること,その打ち合わせの時期が必ずしも明らかでないことなどに照らすと,その供述のみをもって被告Y4が本件収支表の作成に関与したものと認めることは困難といわざるを得ない。
そうすると,被告Y4は,本件プロジェクトについて原告に対し不当な勧誘をしたとまでは認められず,被告Y3社の代表者として,上記(3)で説示したとおり,本件ソフトの制作等を行っているのであるから,被告Y1社が,本件プロジェクトにつき遂行する意思も能力もないのに,これに共謀して荷担したとまでは評価できない。
(5) 次に,被告Y1社及び被告Y2につき検討するに,上記(3)及び(4)において説示したとおり,被告Y3社及び被告Y4には共謀が認められないのであるから,上記2名と共謀して,原告を欺罔したということはいえない。
そして,被告Y1社が被告Y3社に対し本件業務委託契約に基づく本件配信権の対価の一部(2890万円)を支払っていること,本件ソフトが平成22年5月以降,b社と被告Y1社との旧業務委託契約に基づき,b社から販売されていること,少額ながら原告に対し本件投資契約に基づく配当金を支払っていること,証拠(丙1ないし3)によれば,b社がコンテンツプロバイダとして販売しているゲームソフトには,月間の利用契約者数が1万人を超えるものもあることが認められ,本件ソフトについてもそのような売上げ見込みが皆無であったとまではいえず,原告に対する違法性の高い不当な勧誘を行ったものとまでは認められないことなどの事情によれば,本件収支表において被告Y1社及び被告Y2が予想した本件プロジェクトの収益が予測を大幅に下回っていることを考慮しても,本件投資契約締結当時に,本件プロジェクトを遂行する意思も能力もないのに同契約を締結したと推認することはできないといわざるを得ない。
(6) したがって,原告の請求のうち,不法行為(詐欺)に係る主張は,前提となる被告らの欺罔行為を認めることはできず,その余の点を判断するまでもなく理由がない。
4 争点3について
(1) 前提事実及び認定事実によれば,本件プロジェクトは,被告Y1社が被告Y3社から本件配信権を受けることが前提となっていたことが認められる。そうすると,被告Y1社は,本件プロジェクトを遂行し,本件投資契約を履行する上で,本件投資契約において,少なくともその契約期間である3年間は,本件ソフトの配信権を維持することが当然の前提として,原告に対する義務として負担していたものと解するのが相当である。
(2) 他方,前提事実及び認定事実によれば,本件配信権の付与が合意された本件業務委託契約は被告Y1社の被告Y3社に対する債務不履行により解除されたことが認められる。そうすると,被告Y1社は,被告Y3社に対する債務不履行により,本件業務委託契約を解除されたことにより,上記(1)の本件投資契約における本件ソフトの配信権を維持する義務についても債務不履行となったものと認められる。
(3) 本件投資契約は原告による投資を目的とするものであるところ,投資が一般に自己責任であり,リスクが伴うものであって,収益予測が異なっていたなどという理由では,特段の事情のない限り,債務不履行を構成するものとはいい難いが,投資を受けた者の責めに帰すべき事由により,その者に生じた事情で投資契約が履行できなくなったような場合には,債務不履行に基づく損害賠償を認めるべきである。
(4) 本件では,被告Y1社は,被告Y3社に対する本件配信権に係る対価の一部を支払わなかったことにより,本件業務委託契約を解除され,本件配信権を失ったのであるから,投資を受けた被告Y1社の責めに帰すべき事由により,本件投資契約が履行できなくなったものといえる。したがって,被告Y1社は,本件投資契約の債務不履行に基づく損害賠償義務を負うというべきである。
なお,上記債務不履行による損害は,本件投資契約に基づき原告が投資した金額4000万円から,原告が受領した配当金12万7088円を控除した3987万2912円が相当因果関係のある積極損害であると解するのが相当である。そして,債務不履行に基づく損害賠償債務は請求を受けた日の翌日から遅滞に陥るものと解されるから,被告Y1社は,本件訴状による請求により,同訴状送達の日の翌日から,上記債務不履行に基づく損害賠償債務につき履行遅滞となったものと解される。
(5) したがって,被告Y1社は,原告に対し,3987万2912円及びこれに対する平成23年5月15日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。
5 争点4について
(1) 前提事実及び認定事実によれば,被告Y1社は,本件業務委託契約に基づき,被告Y3社に対し本件配信権の対価として4725万円を平成22年6月末日までに全額支払うとの義務を負っていたこと,本件ソフトは本件業務委託契約に基づき被告Y3社により開発され,平成22年3月にはソフトバンクモバイルから配信可能な状態となり,その後KDDI及びドコモからも配信されたこと,被告Y1社は,本件業務委託契約に基づく本件配信権の対価のうち1835万円が未払であったこと,かかる未払を原因として被告Y3社は,平成22年7月15日,本件業務委託契約を解除したこと,被告Y3社は,上記解除に先立ち,同月9日,b社との間で,新業務委託契約を締結したことがそれぞれ認められる。
(2) 上記事実及び経緯によれば,被告Y3社による本件業務委託契約の締結は,被告Y1社の同契約上の債務不履行を原因とするものであり,不当なものとはいえない。そして,被告Y3社による新業務委託契約の締結は,上記解除の時点において本件ソフトの配信が始まっていたことから,本件ソフトが急に配信できなくなると不測の事態が発生することになるので,上記解除に先立ち,本件ソフトに係る利用者へのサービス提供の継続のために,新業務委託契約を締結したものと解される。
この点,被告Y1社及び被告Y2は,上記解除に係る覚書(丙16)につき,被告Y3社及び被告Y4により脅されたとか,強要されたものであるなどと主張するが,被告Y2が本人尋問において,被告Y1社の債務不履行を認め,やむを得ない解除であったと供述していることに照らすと,その主張を採用することはできない。
さらに,被告Y2は,被告Y1社が原告から受領した4000万円のうち500万円を別の投資に係る返還金とすること及び別の500万円については被告Y1社がその利益として先に受領することを,被告Y4が指示及び了承したと主張し,これに沿う訴外Dの陳述書を提出するとともに,被告Y2も同旨の供述をする。しかし,そもそも被告Y4の上記指示や了承や,500万円が別の投資に係る返還金に充てられたことをそれぞれ裏付ける客観的な証拠はない。また,本件プロジェクトにつき収益もあがっていない段階において,被告Y1社のみが,自らの利益相当分を先に原告の投資金から取得するというのは不自然であるし,被告Y2が本件業務委託契約を解除する覚書を作成し,本人尋問において被告Y3社に対する本件ソフトに係る配信権の対価の一部が未払であることを認め,やむを得ない解除であったと供述をしていることによれば,上記陳述書及び被告Y2の供述を採用することはできない。なお,仮に,被告Y1社が本件投資契約に基づく投資金の一部を流用したことがあったとしても,被告Y3社に対する本件配信権の対価の支払金額及びその支払時期については何らの変更も受けないことによれば,被告Y1社及び被告Y2の主張は理由がない。
(3) 原告は,被告Y3社がb社との間で,上記解除に先立ち,新業務委託契約を締結したことが本件プロジェクトを遂行不能にした決定的行為であると主張する。確かに,被告Y1社の債務不履行に起因し,被告Y3社が本件業務委託契約を締結し,新業務委託契約を締結したことにより,被告Y1社が本件投資契約に基づき原告に対し収益を配当することは不能となったものといわざるを得ない。しかし,上記認定のとおり,被告Y3社が上記解除に先立ち新業務委託契約を締結した行為は,既に被告Y1社を通じて配信が開始されていた本件ソフトの顧客に対するサービスを維持するための措置であったものと認められるし,被告Y3社は原告に対し,電子メールにより被告Y1社による本件配信権の対価の未払の事情を説明した上で新業務委託契約の締結に及んでいること(甲10)に鑑みれば,原告に対する不法行為を構成するほどの不当性,不相当性を有する行為であるとはいえない。
したがって,被告Y3社の新業務委託契約の締結行為が原告に対する不法行為になるとはいえない。
6 争点5及び争点6について
原告は,被告Y2及び被告Y4につき,被告Y1社に請求原因(1)の不法行為が成立することを前提として,被告Y4につき被告Y3社に請求原因(5)の不法行為が成立することを前提として,それぞれ会社法429条1項に基づく取締役の責任を主張する。
しかし,上記で説示したとおり,被告Y1社及び被告Y3社には,原告が主張する不法行為は成立しないのであるから,原告の被告Y2及び被告Y4に対する会社法429条1項に基づく主張は,その前提を欠くといわざるを得ない。
したがって,原告の被告Y2及び被告Y4に対する会社法429条1項に基づく請求には理由がない。
7 よって,原告の本件請求には主文掲記の限度で理由があるからこれを認容することとし,その余の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判官 木山智之)
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