「成果報酬 営業」に関する裁判例(72)平成20年10月31日 東京地裁 平19(ワ)10991号 損害賠償請求事件
「成果報酬 営業」に関する裁判例(72)平成20年10月31日 東京地裁 平19(ワ)10991号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成20年10月31日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平19(ワ)10991号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2008WLJPCA10318024
要旨
◆投資事業有限責任組合契約を締結して投資事業有限責任組合の有限責任組合員になった原告らが、上記契約を締結したのは、同組合の無限責任組合員である被告株式会社ステーシアの代表者及び被告インヴァスト証券株式会社の従業員の共謀に基づく詐欺であると主張して損害賠償を求めた事案において、原告らが被告ステーシアの代表者の詐欺行為として具体的に主張する事実を認定することはできないとして、原告らの請求を棄却した事例
参照条文
民法44条
民法715条
裁判年月日 平成20年10月31日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平19(ワ)10991号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2008WLJPCA10318024
東京都千代田区〈以下省略〉
原告 株式会社エクセ
同代表者代表取締役 A
東京都千代田区〈以下省略〉
原告 株式会社クラム・インベストメント
同代表者代表取締役 B
原告ら訴訟代理人弁護士 青木信昭
同訴訟復代理人弁護士 鈴木芳乃
同 田上潤
東京都港区〈以下省略〉
被告 インヴァスト証券株式会社
同代表者代表取締役 C
同訴訟代理人弁護士 中島茂
同 栗原正一
同 浅見隆行
同 原正雄
同 本村文夫
同 早川明伸
同 寺田寛
東京都中央区〈以下省略〉
被告 株式会社ステーシア
同代表者代表取締役 D
同訴訟代理人弁護士 鍛冶良明
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告らは,原告株式会社エクセに対し,連帯して912万円及びうち812万円に対する平成17年1月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは,原告株式会社クラム・インベストメントに対し,連帯して912万円及びうち812万円に対する平成17年1月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は,投資事業有限責任組合契約を締結して投資事業有限責任組合契約に関する法律に準拠して組成された投資事業有限責任組合の有限責任組合員になった原告らが,上記契約を締結したのは,同組合の無限責任組合員である被告株式会社ステーシア(以下「被告ステーシア」という。)の代表者及び被告インヴァスト証券株式会社(以下「被告インヴァスト」という。)の従業員の共謀に基づく詐欺によるものであると主張して,被告ステーシアについては代表者が加えた損害の賠償として,被告インヴァストについては使用者責任に基づく損害賠償として,被告らに対し連帯して上記契約に基づいて原告らがそれぞれ出資した1000万円から,それぞれ支払を受けた188万円を控除した812万円及び弁護士費用100万円の合計912万円並びに812万円に対する原告らがそれぞれ出資金を支払った日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員の支払を求める事案である。
2 前提となる事実
当事者間に争いのない事実,証拠(甲1,2,4,5の1及び2,乙イの2)及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。
(1) 当事者等
ア 原告株式会社エクセ(以下「原告エクセ」という。)は,建築工事の企画,設計及び工事監理の受託等を目的とする株式会社であり,原告株式会社クラム・インベストメント(以下「原告クラム」という。)は,投資事業組合財産,投資事業有限責任組合財産の運用及び管理等を目的とする株式会社である。
イ 被告インヴァストは,有価証券の売買及び有価証券指数等先物取引等を目的とする株式会社であり,被告ステーシアは,有価証券に関する投資顧問業務等を目的とする株式会社である。被告インヴァストの商号は,平成17年6月までは「こうべ証券株式会社」であり,その後「KOBE証券株式会社」となり,平成19年4月1日,現在の商号となった。
ウ E(以下「E」という。)は,平成16年1月ころ,被告インヴァストの法人本部に所属し本部長の職位にあり,その後の所属及び職位は,(a)平成17年2月1日に第三営業本部,執行役員本部長,(b)同年7月1日,第三営業本部兼法人三部,執行役員本部長兼部長,(c)同年10月1日,KOBEベンチャーキャピタル設立準備室,執行役員室長,(d)平成18年4月1日,IPO本部兼IPO事業推進部,執行役員本部長兼部長,(e)同年7月13日,管理統括本部,執行役員部長であり,平成18年10月13日に被告インヴァストを退職した。
D(以下「D」という。)は,被告ステーシアの代表取締役である。
(2) 被告ステーシアを無限責任組合員として,(a)平成16年8月31日に別紙組合目録1のとおりのKSロマン1号投資事業有限責任組合(以下「ロマン1号ファンド」という。)の組合契約の効力が生じ,(b)平成17年1月31日に別紙組合目録2のとおりのKSロマン2号投資事業有限責任組合(以下「ロマン2号ファンド」という。)の組合契約の効力が生じた。
上記両ファンドは,事業者に対する投資事業を行うために投資事業有限責任組合契約に関する法律に準拠して組成された投資事業有限責任組合(以下「ファンド」という。)である。組合員は,無限責任組合員及び有限責任組合員とで構成され,無限責任組合員は,ファンドの業務執行を行い,その債務を無限に責任負担する組合員であり,有限責任組合員は,ファンドの債務について,その出資額を限度としてその債務を弁済する責任を負う組合員である。
(3) 被告ステーシアは,平成16年12月1日,被告インヴァストとの間で,被告インヴァストにロマン2号ファンドの組合契約の締結を媒介することを委託する旨の業務委託契約を締結した。
(4) 原告らはいずれも,被告インヴァストの従業員に勧誘されて,平成17年1月21日,ロマン2号ファンドに係る投資事業有限責任組合契約を締結し,原告エクセは同月24日,原告クラムは同月28日にそれぞれ1000万円を出資し,有限責任組合員となった。
原告クラムは,上記出資時の名義は株式会社バリュー・リンクであったところ,平成17年9月1日,会社分割により設立された株式会社バリュー・リンク・インベストメントにロマン2号ファンドの有限責任組合員としての地位が承継され,平成18年6月1日,現在の商号となった。
第3 争点及びこれに対する当事者の主張
本件の争点は,原告らがロマン2号ファンドに係る投資事業有限責任組合契約を締結するについて,E及びDが原告らに対し,詐欺の不法行為をしたかどうかである。
1 原告らの主張
(1) EとDの共謀について
EとDは,遅くとも平成16年8月ころまでに,ファンドの設立及び勧誘等に関し,次の内容の合意をした。
ア 被告ステーシアがファンドの無限責任組合員となる。
イ ファンドの出資者(有限責任組合員)の勧誘は,被告インヴァストの営業担当者が同社の顧客等に対して行う。
ウ イの勧誘に際しては,投資委員会が投資対象を選定するかのように説明するが,実際にはファンドの投資対象のうち非上場株式の一定数については被告ステーシアが投資対象を選定し,その余の投資対象の選定や売買等はEに一任する。
(2) Eの詐欺行為について
ア Eは,被告ステーシアに次の(ア)ないし(ウ)のとおりロマン2号ファンドを運用させる意思がないにもかかわらず,事情を知らない被告インヴァストの営業担当者に指示して(ア)ないし(ウ)のとおりに運用される旨を述べて営業活動を行わせ,原告らをはじめとするロマン2号ファンドの出資者を勧誘させた。このEによる勧誘行為は詐欺行為に該当し不法行為となる。
(ア) 未公開株式の投資の対象は,レーターステージ(株式公開準備期)を中心とし,少なくともエクスパンションステージ(成長期)以降の3年以内に上場可能な成長企業とする。株式公開までに3年以上の期間を要するアーリーステージ(初期段階)の企業の株式に投資することは想定しない。
(イ) 上場株式への投資については,中長期的な投資を予定する。
(ウ) 投資先の決定については,選定銘柄を被告らが協力して発掘厳選した上で投資委員会における最終審査を経て行うものとし,不明確,不明朗なところには投資しない。
イ ロマン2号ファンドの設立後,エクスパンションステージ以前のアーリーステージの企業やファンドに投資がされ,上場株式については短期売買が繰り返し行われており,投資委員会の審査を経ずに投資が行われた。Dは,Eの行為を容認しており,両名には,もともと上記アのとおりの運用を行う意思はなく,(1)のとおり,ロマン2号ファンドへの出資の勧誘時に詐欺の故意を有していたことが明らかである。
Eには,(a)被告インヴァストの従業員として自己の営業成績を向上させること,(b)Eが面識を有する者の経営している会社に投資させること及び(c)個人的にも利益をあげ得るという詐欺の不法行為をするについての動機があった。また,Dにも,(a)多額の手数料収入をあげること及び(b)被告インヴァストと他の仕事を行う上でEと緊密な関係を築くことというEの詐欺行為に加担する動機があった。
(3) 原告らの損害
ア 原告らはいずれも,ロマン2号ファンドに1000万円出資した。これは,E及びDの詐欺によって上記(2)アの(ア)ないし(ウ)のとおりの投資が行われるものと誤信して出資したものである。
原告らは,それぞれE及びDの不法行為により出資金1000万円及びその返還請求のための弁護士費用100万円を支出し,合計1100万円の損害を被った。
原告らは,平成20年7月22日付けで被告ステーシアから,ロマン2号ファンドの清算を進める旨の通知を受け,その後,同年8月8日,原告らはそれぞれ188万円の支払を受けた。
イ Eは,上記の詐欺行為をした当時,被告インヴァストの従業員であり,これは同社の事業の執行につき行われたものであるから,同社は,使用者責任を負う。
Dは,被告ステーシアの代表取締役であるから,同社は,代表者の詐欺行為によって損害を被った原告らに対して損害賠償責任を負う。
2 被告らの主張
(1) 被告インヴァストの主張
ア EとDとが共謀したとの事実は,否認する。
イ 被告インヴァストのロマン2号ファンドにおける役割は,出資希望者を募る媒介の受託及び銘柄の選定協力にすぎない。
被告インヴァスト及びEは,ロマン2号ファンドの無限責任組合員及び有限責任組合員のいずれでもなく,自由に利用できる投資資金を確保できるような立場にないから,原告らの主張する詐欺行為を行うことはできない。被告インヴァスト及びEは,原告らの主張する詐欺の故意を有することはできないのである。
原告らは,Eには詐欺を行う動機があった旨主張する。しかしながら,次の(ア)ないし(ウ)の事情からいって,同人にそのような故意が存しないことは明らかである。
(ア) ロマン2号ファンドの勧誘は,被告インヴァストの重要顧客に対して行われ,実際に同ファンドに出資した組合員のほとんどの者は,被告インヴァストの重要顧客であった。こうした顧客の信用を失うような事態となればEの被告インヴァストにおける評価は低下するのであって,Eに原告らの主張する詐欺を行う動機が生じるはずはない。
(イ) Eは,ロマン2号ファンドの勧誘によって成果報酬を受け取る立場にはなく,実際にも受け取っていない。また,Eが同ファンドに関連して被告インヴァストにおいて昇進したこともない。
(ウ) Eが個人的な利益を得た事実もない。
ウ ロマン2号ファンドの投資対象に関し,上場株式の銘柄選定に当たって,長期的な運用を予定することを前提としたことはない。また,投資委員会を開催するか否かは,無限責任組合員である被告ステーシアや原告らのような有限責任組合員が決定すべき事柄であり,被告インヴァストは関与のしようがないことである。
(2) 被告ステーシアの主張
ア DがEとの間で原告らの主張する詐欺に係る共謀をしたとの事実は否認する。
被告ステーシアは,ロマン2号ファンドの組成に当たって,被告インヴァストとの間で,(a)被告ステーシアが無限責任組合員になること及び(b)出資者の勧誘は被告インヴァストの営業担当者が行うとの合意をしたが,Eと個人的に合意をしたものではない。ロマン2号ファンドの投資対象をEに一任するとの合意は,被告インヴァストとの間においても存しない。
イ ロマン2号ファンドの組成に当たっては,被告らの間で,(a)存続期間,(b)上場株式の運用の是非及び(c)被告インヴァストの組合員募集に係る手数料に関して意見の対立があった。これらの点については,結局,被告インヴァストの意向に沿って,(a)存続期間は3年6か月とするが,無限責任組合員の裁量による2年間の延長を認めることにする,(b)総資産の3割を上限として上場株式の売買を取り入れる,(c)被告インヴァストの手数料は4%とする,ということに決まり,その後,準備手続を経た上で,被告インヴァストが組合員を募集した。被告ステーシアは,Eの内心の意思がどのようなものであったか,及び被告インヴァストがどのように組合員を勧誘したかについては知らないが,ロマン2号ファンドを募集するに当たって作成した募集案内(甲3)として記載した内容に虚偽はない。
第4 当裁判所の判断
1 ロマン2号ファンドについて
前提となる事実,証拠(甲2,3,8,9,27)及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。
(1) ロマン2号ファンドは,「(a)未公開株式(公開市場に上場されていない株式)で東京証券取引所が開設するマザーズ等に上場される可能性のある株式等及び上場株式に投資を行い,組合資産の増加を追求することを投資目的とする,(b)投資対象になる未公開企業は,3年以内に上場可能なエクスパンションステージ以降の成長企業とする,(c)投資対象となる上場企業に投資する額は全資産の3割以内とする,(d)未公開株式への投資は組合資産の5割ないし7割を目指す,(e)組み入れ銘柄の選定に当たっては潜在成長力が高いと見込まれる銘柄を厳選し,集中的に投資する,(f)銘柄選定は,被告らが協力して発掘厳選し投資委員会を経て投資を決定する。」旨を基本方針とされ,その規模は15億円とすることが予定され,期間は,平成17年1月31日から3年6か月とし,無限責任組合員の裁量で2年間を限度として期間を延長することができるものとされた。
(2) ロマン2号ファンドについては,平成17年1月31日に投資事業有限責任組合契約の効力が生じたところ,その後の各期における決算は,次のとおりであった。
ア 平成17年1月31日ないし同年12月31日までの第1期においては,未公開会社への投資としては,9社及び2投資事業組合に対してされた。上場会社への投資については,3251万5226円の売却益をあげたが,結局,当期における損失は,1億1235万5620円であった。
イ 平成18年1月1日ないし同年12月31日までの第2期においては,未公開会社への投資としては,11社及び2投資事業組合に投資を実行し,上場会社への投資については,1480万1821円の売却損を計上した。当期における損失は,1億7959万4923円であった。
ウ 平成19年1月1日ないし同年12月31日までの第3期においては,未公開会社への投資としては,11社及び2投資事業組合に投資を実行し,上場会社への投資については,償却損1533万7400円を計上した。当期における損失は,1億0948万3335円であった。
(3) 上記第2期及び第3期について監査を行った独立監査人(第2期については新日本監査法人,第3期については清和監査法人)は,いずれも,貸借対照表に計上されている投資は,投資事業有限責任組合契約で合意された評価基準に準拠して処理されており,貸借対照表,損益計算書及び業務報告書(会計に関する部分に限る。)等は法律及び上記組合契約に従って適正に作成されているものと認めた。
2 原告らは,Eの詐欺行為の具体的な内容として,Eは被告インヴァストの営業担当者をして,(a)未公開株式の投資の対象は,少なくともエクスパンションステージ(成長期)以降の3年以内に上場可能な成長企業とする,(b)上場株式への投資については,中長期的な投資を予定する,(c)投資先の決定については,投資委員会における最終審査を経て行うものとする,旨を述べてロマン2号ファンドの出資者を勧誘させたが,Eには被告ステーシアにこのような運用をさせる意思がなかったとし,ロマン2号ファンドの実際の運用は(a)ないし(c)とは全く異なったものである旨主張する。
しかし,以下に検討するとおり,(a)及び(c)については,ロマン2号ファンドの実際の運用がこれらと異なったものであると認定するには足りないし,(b)については,ロマン2号ファンドへの出資を勧誘するに当たって被告インヴァストの担当者がこの点を明確にして説明していたものと認めることはできない。
ア (a)の未公開株式について
上記1(2)のとおり,ロマン2号ファンドは多額の損失を計上しており,投資した未公開株式会社についても,民事再生手続開始決定を受けたもの(シェンペクス,ユビキタス・エクスチェンジ),破産手続開始決定を受けたもの(ドクターズアンドバイオケミスト,オートプロジャパン,ボードファーム)があることが認められる。(甲9,27)
しかし,上記の民事再生手続開始決定又は破産手続開始決定を受けた各株式会社について,ロマン2号ファンドが投資を決めた当時において,3年以内に上場可能なものと判断することが許されないものであったことを認めるに足りる証拠は存しない。
イ (b)の上場会社について
(ア) ロマン2号ファンドの出資を勧誘するために作成された募集案内(甲3)には,上場企業に係る基本方針として,上記のとおり,「投資する額は全資産の3割にとどめること及び銘柄の選定にあたっては潜在成長力の高いと見込まれる銘柄を厳選し,集中的に投資する」旨が記載され,また,選定基準として「(a)業績予想の上方修正が期待できる,(b)売り上げ利益率の上昇が期待できる,(c)業績の回復が期待できる,(d)株価が中期成長率から見て割安である,(e)期中において株式分割等の株主優遇政策が期待できる」ことがあげられている。
この基本方針及び選定基準から,直ちに中長期的な投資を予定することを明確にしているものと解することは困難である。
(イ) 原告エクセにおいては,F(以下「F」という。)が,平成16年12月ころ,被告インヴァストの従業員であるGからロマン2号ファンドへの出資の勧誘を受けたところ,Fは,Gから募集案内(甲3)を見ながら説明を受け,その説明から上場株式について短期売買を行うことを予想しなかった旨述べるものの,Gがロマン2号ファンドにおいては中長期的な投資のみをし,短期売買はしない旨を明確に説明していたものとは述べていない(甲23,F)。これに,上場株式については相場の動向から短期間に売買をすることもあり得る旨を述べる他の証拠(E,D)を考え合わせると,ロマン2号ファンドにおいて上場株式への投資は中長期的なものに限る旨を方針としていたものとは認められないし,出資を勧誘するに当たって,上場株式について中長期的投資のみをする旨を明確にして出資を勧誘していたものと認められない。
ウ (c)の投資委員会について
(ア) 証拠(甲3,10ないし13,D)及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。
a ロマン2号ファンドでは,投資銘柄の選定については被告らが協力して発掘し,投資委員会を経て被告ステーシアにおいて決定することが予定された。
b 投資委員会のメンバーについては,被告ステーシアが,被告インヴァストのアドバイスに従って選定した。そのメンバーは,H(当時,店舗流通ネット株式会社代表取締役),I(当時,株式会社菱和ライフクリエイト代表取締役)及びJ(当時,株式会社夢真ホールディングス取締役)の上場会社役員3名並びに被告ステーシアの役員であるD,K及びLの3名,合計6名であった。
c 第1回投資委員会会議は,平成17年2月8日,被告インヴァスト会議室において開催された。この会議において,3銘柄についての承認を受けた。
d Eが投資先として推薦した未公開会社等として,少なくとも次の3件があることが明らかである。
(a) ボードファーム株式会社
Eが従前から同社の代表者と面識があった。同社については,平成17年3月ころ,投資を決定し,5500万円投資した。しかしながら,平成18年1月11日,同社は破産開始決定を受けた。
(b) オートプロジャパン株式会社
Eが紹介し,平成17年3月ころ,4000万円を投資した。ところが,平成18年7月14日,破産開始決定を受けた。
(c) SIP知的創造投資事業有限責任組合(以下「SIPファンド」という。)
Eは,SIPファンドの代表者であるMと面識があったところ,平成17年3月ころ,投資することが決められた。ところで,SIPファンドは,平成16年7月1日に設立され,存続期間を平成26年6月30日までとしていた。これによると,上記のとおり,ロマン2号ファンドの存続期間は平成17年1月31日から3年6か月であり,2年間延長するとしても平成22年7月30日までであることによると,SIPファンドに投資しても,途中で資金を引き揚げざるを得なくなることから,同ファンドは投資対象として適切ではなかったものといい得る。しかしながら,これについて,Eは同ファンドの存続期間を認識していなかった旨供述している(E)ことによると,これによってEの詐欺を推認することは困難である。
(イ) ロマン2号ファンドは,未公開会社につき,上記のとおり第1期において11の会社等,第2及び第3期において13の会社等に投資しているところ,Eが関与しているものと明らかに認められるのは上記3件にすぎないことによると,投資対象についてEが一任されていたものと認めることは困難である。
確かに,平成17年2月8日に開催された第1回投資委員会にオブザーバーとして出席していたEは,投資委員会のメンバーに対し,上場会社の投資委員は忙しいことから,今後,被告インヴァスト(当時のKOBE証券株式会社)が万全の対応で臨むのでまかせていただきたい旨の発言をし,投資委員の賛同を取り付けたことが認められる(甲19,D。この点については,これを否定するEの証言があるが,同証言は採用できない。)。このEの発言内容は,ロマン2号ファンドにおいては投資委員会が投資の対象を決定していく方針をとっていたことによると,適当なものということはできないし,これにDをはじめとする投資委員が賛同したことは不適切であったといい得る。しかしながら,これにより,E及びDが,当初から投資委員会を開催する意思がなかったことを推認することは困難である。また,投資委員会は6名の投資委員から構成されていたことによると,上記の上場会社の投資委員3名が出席しないと投資委員会が開催されたことにならないということはできない。
また,Eが推薦した上記のボードファーム株式会社及びオートプロジャパン株式会社については,急いで投資を決定するように求められたことが認められる(甲10,11)。しかしながら,投資委員会としては,いずれの会社についても,過去3年分の決算書及び事業計画書等の資料を検討し,各代表者から事業計画等の説明を受けた上で投資を決定したことが認められるところであって(甲10,11),これらの投資を決定した段階において不明朗,不適切な点があったことを認定するに足りる証拠は存しない。
(ウ) 上記に検討したところによると,投資委員会が開催されず,投資対象の選定についてはEに一任されていたとの原告らの主張を認めることはできない。
3 原告らは,「EとDは,ファンドの投資対象のうち非上場株式の一定数については被告ステーシアが投資対象を選定し,その余の投資対象の選定や売買等はEに一任する。」と合意していた旨主張する。
この点に関し,被告ステーシア又はDが,被告インヴァスト又はEの銘柄選定を非難していたことを示す証拠(甲15の2,16ないし18,21の2,22,乙ロの1,D)が存する。しかしながら,この事実は,EとDとの間において,原告らの主張する共謀があったとはいえないことを示すものというべきである。そして,この銘柄選定についての非難があったことをもってEに詐欺の意思があったことを認定することはできない。
4 以上のとおりであって,原告らがEの詐欺行為として具体的に主張する事実を認定することはできず,他にEに原告らの主張する詐欺の意思があったことを認めるに足りる証拠は存しないから,その余の点について判断するまでもなく,Eの詐欺を理由とする原告らの本件請求を認めることはできない。
5 原告らの文書提出命令の申立てについて
原告らは,被告インヴァストの所持する同社作成のロマン2号ファンドに関する顧客勘定元帳及び被告ステーシアが所持するロマン2号ファンド名義の銀行預金通帳について,提出命令を申し立てる。
しかし,本件における争点である原告らの主張するE及びDの詐欺行為の立証について上記各文書を採用する必要性は乏しいものといわざるを得ない。したがって,上記各文書に係る文書提出命令の申立ては理由がない。
6 よって,原告らの被告らに対する請求は,いずれも理由がないので,棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判官 佐久間邦夫)
〈以下省略〉
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