「成果報酬 営業」に関する裁判例(25)平成28年 3月14日 東京地裁 平26(ワ)27925号 業務委託料請求事件
「成果報酬 営業」に関する裁判例(25)平成28年 3月14日 東京地裁 平26(ワ)27925号 業務委託料請求事件
裁判年月日 平成28年 3月14日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平26(ワ)27925号
事件名 業務委託料請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2016WLJPCA03148014
要旨
◆原告が、被告との間で、被告が運営する学習塾等の建物賃貸借契約についての賃料減額交渉の補助を内容とする業務委託契約を締結したところ、被告が約定に反して原告による受託業務の遂行を妨げたことから、債務不履行を理由に報酬減額等の合意を解除したと主張して、被告に対し、既に履行した業務分についての未払報酬の支払を請求した事案において、本件変更覚書により被告が原告に対して被告が運営する学習塾等の全物件についての個別具体的な本件業務を直ちに依頼したとは認められず、本件45物件を除く全物件について、被告が原告の要請に応じて本件業務に着手するための資料提供等をしなかったため原告が本件業務に着手できなかったとしても、被告に債務不履行は認められないとして、原告の請求を棄却した事例
参照条文
民法415条
裁判年月日 平成28年 3月14日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平26(ワ)27925号
事件名 業務委託料請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2016WLJPCA03148014
東京都渋谷区〈以下省略〉
原告 株式会社オーシャン・ワイド
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 伯母治之
同 法師人久江
同 伊藤慎也
同 松尾浩順
千葉県市川市〈以下省略〉
被告 株式会社市進ホールディングス
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 大貫裕仁
同 新保勇一
同 俣野紘平
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,272万0491円及びこれに対する平成26年11月2日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告が被告との間で,被告が運営する学習塾等の建物賃貸借契約についての賃料減額交渉の補助を内容とする業務委託契約を締結したところ,被告が約定に反して原告による受託業務の遂行を妨げたことから,債務不履行を理由に報酬減額等の合意を解除したと主張して,被告に対し,既に履行した業務分についての未払報酬272万0491円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成26年11月2日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を請求する事案である。
1 争いのない事実等
(1) 原告は,不動産の売買,賃貸,管理,運営業務及び弁護士法72条が許容する範囲内で賃貸人との間で賃料減額交渉の補助等を行うことを業とする株式会社である。
被告は,幼児・小中学生及び高校生・社会人の学習指導並びに受験指導に関する業務等を行うことを目的とする株式会社である。
(2) 原告と被告は,平成22年7月16日,被告が賃借している物件を対象として,原告が弁護士法72条が許容する範囲における賃貸借契約更新の交渉補助業務等のコンサルティング業務(以下「本件業務」という。)を行い,その成果につき被告が別途締結する覚書による報酬を支払うことを内容とする業務委託契約を締結した(甲1,以下「本件基本契約」という。)。
本件基本契約2条には,本件基本契約に基づく本件業務の対象とする物件(以下「対象物件」という。)を「別紙のとおり」とする旨の定めがあるものの,同契約書に別紙は添付されていなかった。
(3) 原告と被告は,同日,本件基本契約における成果報酬に関し,以下の内容の覚書を締結した(甲2,以下「本件報酬覚書」という。)。
ア 被告が賃貸人に支払う賃料等について現行賃料等から減額合意がされたときは,被告は原告に対し,個別物件ごとに引下げ月額の5.5か月分を新条件による更新手続完了のときに一括して支払う。
イ 被告が賃貸人に差し入れた保証金又は敷金の一部又は全部について,賃貸借契約に基づく期限以前の返還合意がされたときは,被告は原告に対し,返還される保証金又は敷金の3%をその返還手続完了のときに一括して支払う。
(4) 原告と被告は,平成25年6月14日,以下の内容の覚書を締結した(甲3,以下「本件変更覚書」という。)。
ア 被告と原告は,本件基本契約に関して,被告が賃借している特定の45物件(以下「本件45物件」という。)に限定して本件業務を行うことにつき次のとおり合意した。
イ 本件基本契約2条の対象物件は,被告及び被告の関連企業が賃借するすべての物件(以下「全物件」という。)とする。
ウ 本件報酬覚書の定めに関わらず,本件45物件については,被告が賃貸人に支払う賃料等について現行賃料等から減額合意がされたときは,被告は原告に対し,個別物件ごとに引下げ月額の4か月分を新条件による更新手続完了のときから4か月に分割して支払う(消費税別)。
エ 本件変更覚書に記載した以外の事項については,本件基本契約及び本件報酬覚書に従う。
(5) 原告は,平成25年7月から同年8月にかけて,本件45物件について本件業務を行った。
その後,原告は,被告に対し,本件45物件を除く全物件について本件業務に着手するための資料の提供等の要請を行ったが,被告はこれに応じなかった。
(6) 原告は,被告に対し,平成26年11月1日に送達された本件訴状をもって,被告の合意違背の債務不履行に基づき,本件変更覚書を解除するとの意思表示をした。
2 争点
(1) 全物件について本件業務が依頼されたか。
(原告の主張)
ア 原告は,平成25年5月,被告から業績悪化に伴い被告の経営する220教室について本件業務を行ってほしいとの依頼を受け,220教室の各賃貸借契約の詳細が記載された一覧表の交付を受けたが,全てを同時並行して本件業務を行うことは不可能であるため,賃料が高い教室から優先順位をつけたシミュレーション表を作成して被告に示し,被告がこれを検討した結果,同年6月,特に経費節減の必要が高い本件45物件について先行して本件業務に取り掛かることが決定された。その際,原告は,被告から,成果報酬については本件報酬覚書による引下げ月額の5.5か月分ではなく4か月分に減額してほしいとの要請を受けたが,被告の提案では成果報酬が大幅に減額されるから,その条件を受ける代わりに約300件ある全物件を対象として本件業務を行うこととすることを提案し,被告の了解を得た。
このように,本件変更覚書の締結にあたり,原告による本件業務の対象を全物件に広げ,本件45物件についての本件業務が完了したときはこれを除く全物件にも着手することと,原告が成果報酬の大幅な減額及び分割払という厳しい条件変更を了承することは,表裏一体であるとの認識で協議が行われ,その旨の合意が成立した。そうでなくとも,対象物件を全物件に広げたことにより,被告は,本件45物件についての本件業務が終了した後にこれを除く全物件につき具体的な本件業務を依頼する義務がある。
イ しかし,原告は,本件45物件を除く全物件について本件業務に着手すべく資料提供等の要請を行ったものの,被告がその実施に協力しようとしなかったためこれに着手できず,被告は,本件45物件以外には具体的に本件業務を依頼したことはなく,依頼を約束したこともないとして協議に応じなかった。
そこで,原告は,本件変更覚書を被告の債務不履行により解除した。
本件45物件につき本件業務の十分な成果が上がらなかったのは,被告の担当部長が交渉への協力要請に対応せず円滑な交渉が進行しなかったことや,依頼者である被告の要請を受けて交渉を打ち切ったことに起因しており,その原因は被告にある。
(被告の主張)
ア 被告は,教室を運営するため多数の不動産を賃借しているが,賃貸借契約の更新等の交渉は被告従業員が行ってきており,原告による交渉補助等を必要としていなかったため,本件基本契約の締結時には具体的に本件業務を依頼する物件もその範囲も決まっておらず,本件基本契約の締結後も依頼件数は年間数件程度にすぎなかった。
被告は,平成25年に大幅な経費節減を達成するべく,年間数件程度だった本件業務の具体的な依頼件数をまとまった数となる本件45物件として本件変更覚書を締結することとしたが,原告に支払う成果報酬も節減する必要があったため,原告に対し,通常とは異なるまとまった件数の本件業務を一度に依頼する代わりに,成果報酬を引下げ月額の4か月分に減額することを提案し,原告はこれを受け入れた。
イ このように,本件変更覚書は,本件45物件に限定してまとめて本件業務を依頼するにつき報酬の減額に合意したものであり,対象物件を全物件とする定めは,本件基本契約には対象物件を定めたはずの別紙が存在せずその範囲が不明確であったことから,本件基本契約に基づく具体的な本件業務を依頼することができる範囲を全物件と定めることに了解したものにすぎず,全物件について個別具体的に本件業務を依頼したものではない。本件基本契約には,対象物件について原告に個別具体的な本件業務を依頼すべき義務や,同依頼の時期ないし期限等は何ら定められていない。被告が原告に220教室の一覧表を交付し,原告がシミュレーション表を作成したことはあるが,これはどの物件について個別具体的な本件業務の依頼をすべきか検討するための検討資料にすぎず,本件45物件以外については本件45物件についての本件業務の成果を見てから検討する旨を明確に伝えた。
ウ 原告が本件45物件について賃料等の減額を実現したのは目標の20%にも満たない水準にすぎなかったことから,その成果は,被告単独でも達成可能な水準であり満足のいくものではなく,その後に信頼関係が失われたため具体的な本件業務の依頼を差し控えたが,被告には,個別具体的な本件業務を依頼すべき義務はなく,原告が全物件について本件業務に着手させるよう要請したのに被告がこれに応じなかったとしても,これが被告の債務不履行となるものではない。
(2) 本件変更覚書の解除の効果
(原告の主張)
ア 本件変更覚書の解除により,本件報酬覚書で合意した成果報酬の定めが効力を有することになるから,原告は,被告に対し,本件45物件のうち賃料等の減額合意ができた23物件について,引下げ月額の5.5か月分から既に支払われた4か月分の成果報酬を控除した272万0491円(消費税込み)の報酬請求権を有する。
前記解除の効果は将来効であるから,原告がした業務が実施されなかったことになるものではなく,報酬請求権がなくなるものでもない。
イ 予備的主張として,本件変更覚書は,報酬の定めという極めて重要な要素を変更するものであり更改契約に当たるから,原告は新たな債務の不履行を理由に更改契約を解除でき,それにより更改前の契約である本件報酬覚書の効力が復活することになる。
(被告の主張)
準委任契約である本件変更覚書の解除は将来に向かってのみその効力を有するから,既に本件業務が履行された部分には解除の効力は及ばない。被告は,本件45物件についての本件業務の成果報酬として,平成26年4月30日までに引下げ月額の4か月分全額を支払済みである。
本件変更覚書は,報酬支払額を変更したほかは本件基本契約及び本件報酬覚書に従うとしており,本件基本契約の債務の要素を変更するものではないから更改契約には当たらず,本件基本契約の存在を基礎にして締結した個別契約にすぎない。仮に更改契約であったとしても,更改契約自体の債務不履行はあり得ず,更改後の新たな債務に不履行があったことを理由に更改契約自体を解除することはできない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(全物件について本件業務が依頼されたか。)について
(1) 前記争いのない事実等及び証拠(甲7ないし9,14,乙1,証人C,原告代表者本人)並びに弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。
ア 被告は,学習塾等の教室運営のために多数の不動産を賃借しており,各賃貸借契約の更新時には,被告の店舗開発部門の従業員が,経費節減のために賃料減額や敷金・保証金の返還交渉を独自に行っていた。
イ 被告は,本件基本契約及び本件報酬覚書の締結に際して,同時点で被告が賃借している多数の物件のうち,原告に本件業務を依頼する物件の範囲や依頼の時期等を具体的に決めておらず,本件基本契約においてもこれらは明示的に合意されなかった。
そのため,被告は,原告に本件業務を依頼する物件を必要に応じて順次選定した上で,その都度原告に個別具体的な本件業務を依頼していたもので,被告が原告に個別具体的な本件業務を依頼した件数は,本件変更覚書の締結に至るまでは年間数件程度にとどまり,平成24年度には2件のみであった。
ウ 被告は,少子化の影響や競争の激化などが原因で平成25年になって財務状況が一層厳しくなり,可能な限りの経費節減により同年度決算を改善することとし,その一環として多数ある賃借物件の賃料削減による大幅な経費節減を図るべく,その節減効果の見込み等について原告に相談した。
原告は,被告に対し,被告が賃借している全教室の賃貸借契約の詳細を明らかにするよう求め,同年5月21日,被告からこれを記載した一覧表(甲7)の交付を受けた上で,これをもとに各物件の適正賃料と現行賃料との乖離や減額要請額を試算し,220教室のうちどの物件から本件業務を実施するのが節減効果が高いかを検討して,同月31日,優先順位を記載したシミュレーション表(甲8)を被告に示した。
エ 被告は,原告に対して支払う成果報酬についても減額して経費節減を図りたいと考えたことから,前記検討依頼に合わせて報酬減額についても交渉を申し入れ,成果報酬を従前の引下げ月額の5.5か月分から4か月分に減額するよう要請した。
原告代表者と被告の担当部長であったC(以下「C」という。)は,同年6月14日に協議を行い,Cが改めて成果報酬を引下げ月額の4か月分に減額して4回の分割払とすることを要請したところ,原告代表者は,本件業務の対象物件を全物件とするのであれば前記減額要請に応じるとした。Cは,全物件の件数を約300件と確認した上でこれを了承した。
オ 被告は,同年6月26日,原告がシミュレーション表で優先順位1とした62物件のうち本件45物件について本件業務を依頼することとし,その旨を原告に伝えた。
そこで原告は,本件変更覚書の草案を作成して同月28日頃にこれを被告に送付し,文言の確認等を求めた。被告は,前記草案を確認した上で修正を求めることなくこれを了承し,同年8月中旬頃にこれに押印して原告に送付し,本件変更覚書が締結された。
(2) 前記争いのない事実等及び前記認定事実によれば,本件変更覚書は,本件45物件についての成果報酬の減額及び分割払の合意に加えて,本件基本契約の対象物件を全物件とするとの合意を含むものであったところ,本件変更覚書の締結以前は,本件基本契約における対象物件が不特定なままであっても,被告が特定の物件について本件業務を依頼すれば本件基本契約が適用されてきたことや,本件基本契約には,対象物件について原告による本件業務の着手時期や被告による情報提供義務の履行時期の定めがないことからすると,本件業務に着手すべき物件や着手時期の特定は,被告の依頼に基づき当事者間で協議して決定されていたと認めるのが相当であり,本件基本契約における対象物件の定めは,被告が原告に本件業務を依頼する物件の範囲を定めたものであって,対象物件の全てについて個別具体的な本件業務を直ちに依頼することを合意したものではなく,そのことを被告に義務付けたものでもないというべきである。
(3) この点,原告は,成果報酬の大幅な減額と全物件についての本件業務の実施が表裏一体の関係であり,全物件について本件業務の依頼がなければ採算割れに近い報酬減額に応じることはなかったと主張し,原告代表者もこれに沿う供述をするが,前記認定事実のとおり,被告は,本件変更覚書の締結以前には年間数件程度しか本件業務を原告に依頼していなかったところ,本件変更覚書の締結時には本件45物件をまとめて依頼したのであって,多数の依頼を受ける代わりに報酬を減額するという条件はこの場合でも当てはまるというべきであるし,全物件について直ちに本件業務に着手できなくとも,対象物件を全物件と定めることにより,優先順位の高い本件45物件についての本件業務の成果に被告が満足すれば,原告は被告と協議の上で件数及び時期を定め,引き続き多数の依頼を受けることが可能となることが確認されたのであり,その限度では本件変更覚書は原告に有利な内容も含むというべきであるから,原告の前記主張は直ちに採用できない。原告は,平成25年10月3日の面談におけるCの発言(甲13の1・2)を指摘し,被告も本件変更覚書により全物件について本件業務を依頼することに合意したとの認識を有していたと主張するが,同面談におけるCの発言を総合すると,Cは,全物件を対象物件とする合意は継続的な取引を検討していきたいという趣旨であって,本件45物件についての本件業務が終わればすぐにこれを除く全物件についても本件業務を依頼するとの約束はしていないと述べていることが認められるから,これが本件変更覚書を原告主張のように解すべき根拠となるとはいい難い。
(4) したがって,本件変更覚書により被告が原告に対して全物件についての個別具体的な本件業務を直ちに依頼したとは認められず,本件45物件を除く全物件について,被告が原告の要請に応じて本件業務に着手するための資料提供等をしなかったため原告が本件業務に着手できなかったとしても,被告に債務不履行は認められないというべきである。
2 結論
以上によれば,その余の争点につき判断するまでもなく,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判官 小崎賢司)
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