
「営業 スタッフ」に関する裁判例(18)平成21年 3月 5日 東京地裁 平19(ワ)18896号 損害賠償請求事件
「営業 スタッフ」に関する裁判例(18)平成21年 3月 5日 東京地裁 平19(ワ)18896号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成21年 3月 5日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平19(ワ)18896号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2009WLJPCA03058011
要旨
◆被告との共同事業契約に基づく債務を履行したと主張する原告が、被告が営業努力を怠り、一方的に契約を解消したため、得べかりし利益を喪失したとして、損害賠償請求をした事案について、原被告間の契約は、原告が受注に繋がる情報を発信し、入手した情報を被告に引き継ぐというもので、被告が成約に至った場合は一定の手数料を支払うというものであったが、被告が営業努力を怠ったために成約がなかったとはいえないし、契約の存続期間も定められておらず、原告が主張する成約が見込まれた状況にあったともいえない以上、被告が清算手続に入り、契約が解消されたのはやむを得ないから、被告に不法行為や債務不履行責任はないとした事例
参照条文
民法415条
民法709条
裁判年月日 平成21年 3月 5日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平19(ワ)18896号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2009WLJPCA03058011
東京都港区〈以下省略〉
原告 株式会社りぶネットワーク
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 下村文彦
同 伊藤惠子
同 植草美穂
同 佐藤慎
埼玉県春日部市〈以下省略〉
原告補助参加人 Z
東京都千代田区〈以下省略〉
被告 株式会社アルファプライム・ジャパン
同代表者代表清算人 B
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
3 補助参加によって生じた訴訟費用は,原告補助参加人の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,1億3164万7500円及びこれに対する平成19年8月10日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は,原告が,被告との間で締結していた共同事業契約に基づき,原告がその債務を履行したことにより,相当額の報酬が得られたはずであるのに,被告が営業努力を怠り,かつ,一方的に同契約を解消したため,同契約が存続していれば将来得られたであろう得べかりし利益を喪失したとして,債務不履行又は不法行為を理由として,逸失利益相当額等の支払を求めた事案である。
2 前提事実(争いのない事実及び証拠によって容易に認定できる事実)
(1) 当事者
原告(旧商号は「株式会社童話舎」であり,平成18年10月20日に現商号に変更した。)は,映画の企画及び制作並びに出版業を業とする株式会社である。
被告は,東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)における「ベンチャー起業人」公募制度によって平成10年10月9日に設立された,建築の請負,企画,監理,調査及びコンサルタント業務等を業とする株式会社であるところ,平成18年11月16日に解散決議をし,現在清算手続中である。
原告補助参加人(以下「Z」ということがある。)は,平成18年1月ころ,経営企画室長として被告に入社し,本件に関与することとなった。
(2) 契約の締結
原告は,ダイナースクラブの会員(以下「DC会員」という。)向け会報誌「21世紀を住む」(年4回発行,以下「本件雑誌」という。)の版権を有していたところ,平成17年3月11日,被告との間で,次のとおりの内容の契約(以下「本件契約」という。)を口頭で締結した(なお,以下に記載する以外の契約内容については,後記のとおり当事者間に争いがある。)。
ア 原告は,本件雑誌を通じて被告の受注に繋がるキャンペーンスタイルのハウジング関連情報を継続して発信し,DC会員からの資料請求を確保する。
イ DC会員からの反応に関しては,原告は,会員専用ホットライン,資料請求カード,会員専用ホームページでの受付,被告のショールームである「ハウスコンシェルジュ青山」(以下「HC青山」という。)を直接訪問する会員への対応を含め,全て,被告に引き渡す。
ウ DC会員からの反応に関する営業活動は,被告が行い,その結果,成約に至った場合には,被告は原告に対して手数料を支払う。
エ 本件雑誌の掲載料は無料とし,このことは他社に口外しないこととする。
(3) 原告は,本件契約に基づき,平成17年4月10日号(本件雑誌26巻)から平成18年7月10日号(同31巻)までを発行して会員に送付した。同32巻(同年10月号)については,発行前に,被告が原告に対して発行の中止を依頼したため,発行されなかった。
(4) 原告は,平成18年9月ころ,被告に対し,成約に至ったDC会員に関する報酬として合計36万7500円を請求したところ,被告は,そのころ同金額を支払った。
3 争点及びこれに対する当事者双方の主張
(1) 債務不履行ないし不法行為の成否(争点(1))
(原告の主張)
ア 原告と被告は,平成17年3月11日,DC会員を対象に,東京電力とのオール電化のマーケッティング活動のデータに基づいて,共同で,オール電化住宅の普及をベースにした幅広いビジネス分野で事業展開していくことを目的として,少なくとも2年以上の存続期間を前提として,共同事業契約としての本件契約を締結した。
その内容は,原告は,本件契約に基づき,①DC会員に対して本件雑誌を通じて被告の受注に繋がるハウジング関連情報を継続して発信し,会員からの資料請求を確保する義務及び②会員からの反応に関しては,問い合わせや会員からの情報を全て被告に引き渡す義務を負い,被告は,本件契約に基づき,①新築,改築を担当する工務店を組織し,②原告からの情報等により,原告の発信に反応したDC会員に対して成約に至るよう営業活動を行い,③成約に至った場合には,被告が組織した工務店と請負契約を締結して,会員工務店が工事を施工し,被告は工事代金の15%程度とされる工事設計監理料を取得して,原告に対し,上記設計監理料の少なくとも10%の手数料を原告に支払う義務を負うというものである。
イ 原告は,本件契約に基づき,本件雑誌を順次発行し,DC会員に関する対応の結果等を引き渡すなど債務を履行した。ところが,被告は,電化住宅の普及を目的とした工務店ネットワーク「電化住宅倶楽部」(以下「本件倶楽部」という。)を設立したものの,住宅専門の営業マンをHC青山に配置するなどの営業努力を怠り,原告からの営業面の改善方の申入れについても誠実に対応せず,反応のあったDC会員に対して有効な手だてを講じることができなかった。
そうするうち,被告は,平成18年5月ころには,本件倶楽部の会員である工務店とのトラブルが発生,展開して,被告内部に深刻な問題を抱えるに至り,同年9月20日過ぎ,一方的に本件雑誌32巻の発行をやめるよう原告に求め,同年10月には,被告が倒産するとの話を伝え,同年11月中旬になると,清算手続を開始して本件契約を一方的に解消する旨を伝えた。
ウ このように,被告は,少なくとも2年間は継続することが予定されていた共同事業としての本件契約に基づく取組みを,期間満了前に一方的に解消したのであり,これは,原告に対する債務不履行ないし不法行為に該当する。そして,この時期は,約1年半にわたる原告による情報発信の結果,営業で多くの成約が見込まれた時期であり,今後も成約が見込まれる状況になっていたのに,被告は,故意に成約という条件成就を妨げ,その結果,原告は,得べかりし利益を失った。
(被告の主張)
ア 被告は,平成17年3月ころ,住宅関係のエンドユーザーとの商談用スペースとして,約2000万円以上の資金を投じてHC青山を開設したところ,HC青山開設の直前ころ,原告は,被告に対し,本件雑誌の相談サロンの役割をHC青山に担当してもらいたいとの申入れをしてきた。
被告は,原告から,本件雑誌に原告との提携広告を掲載し(広告掲載料は無料とする。),広告に反応したDC会員を被告に紹介することにより,被告は,紹介された会員の相談,対応をHC青山において行い,被告が客と成約に至った場合には原告に手数料を支払うという内容の提案を受け,その条件であれば費用倒れのリスクがないことからこれに応ずることとし,本件契約を締結した。
イ しかしながら,HC青山に来訪したDC会員の大半は,具体的な新築,リフォーム計画を立てる前の段階における一般的な相談をするに止まり,具体的な商談に移行できるような案件はほとんどなかった。その結果,HC青山を閉鎖するに至るまでの成約案件は2件しかなかった。他方,被告は,HC青山の維持費として,毎月約170万円の家賃,光熱費を負担したほか,毎月約100万円の人件費が必要であったことから,被告にとっては過剰な負担となった。そして,原告はHC青山の開設に関与しておらず,HC青山を維持する期間を保証したような事実もないから,本件契約が継続する期間は,被告がHC青山を維持している期間内に限られるというべきである。よって,被告が平成18年秋にHC青山を閉鎖したことにより,本件契約は当然に終了することになる。
(2) 原告の被った損害額(争点(2))
(原告の主張)
ア 本件契約に基づき,原告が受け取るべき手数料については,工事内容,規模及び被告の利益率によりその都度協議して決定することとされたが,同契約締結時点から,少なくとも,被告の受領した工事設計監理料の10%以上とする合意が存在していた。
したがって,原告は,争点1に記載した被告の債務不履行ないし不法行為により,被告が清算手続に入って事業を廃止した結果,次のイ,ウのとおり,少なくとも2億3430万6738円の得べかりし利益を喪失した。
イ 被告は,本件倶楽部の主宰者として,原告とのキャンペーン事業を通じ,本件倶楽部加盟会員79社に対し,最低でも2件,上記案件情報を紹介することになっていたから,HC青山への資料請求者中,見込客として有力な予算を記入した会員数70件の平均金額6107万1428円を1件当たりの平均予算として,158(79社×2件)を乗じて計算すると,工事代金総額にして96億4928万5624円の案件を紹介できることになる。したがって,原告は,少なくとも,被告が受ける工事監理設計料(工事代金の15%)の10%,即ち,上記工事代金の1.5%を紹介手数料として請求することができる。よって,その報酬額は,下記計算式のとおり,1億4473万9284円ということになる。
計算式 9,649,285,624×0.15×0.1=144,739,284
ウ また,原告は,本件雑誌の発行に関し,先行投資として,別紙届出債権金額算出根拠に記載のとおり,合計8233万0500円を支出しているところ,上記不法行為等により,これらの先行投資費用を回収する機会を失うことになったから,同額の損害を被った。
エ よって,原告は,被告に対し,債務不履行又は不法行為に基づく損害の賠償として,2億3430万6738円の内金である1億3164万7500円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成19年8月10日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告の主張)
争う。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(債務不履行ないし不法行為の成否)について
(1) 前記前提事実,証拠(甲4の7ないし11,4の12の1・2,6ないし11,15,16の1・2,乙1ないし4,証人C,同Z,原告代表者。ただし,甲16の1・2,証人Z,原告代表者の供述中,後記認定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,同認定を左右するに足る証拠はない。
ア 被告は,平成16年7月11日,株式会社電化住宅倶楽部(以下「電化住宅倶楽部社」という。)との間で,次のとおりの内容の業務委託契約(甲4の8),代理店契約(甲4の9)及び業務提携基本契約(甲4の11)を締結した。
(ア) 業務委託契約
電化住宅倶楽部社は,本件倶楽部を運営し,その加盟会員を募集し,加盟会員との間で業務提携基本契約を締結する。被告は,本件倶楽部を主宰し,同契約の内容を監修する。
(イ) 代理店契約
被告は,電化住宅倶楽部社に対して電化住宅導入キット(パソコンとCADソフト等がセットになったもの)を販売し,販売価格のうちの一部を販売活動費として電化住宅倶楽部社に支払う。電化住宅倶楽部社は,工務店にこれを販売する方法により会員を募集する。
(ウ) 業務提携基本契約
電化住宅倶楽部社は,勧誘活動及び会員に対するノウハウの提供や工事案件の紹介等を行い,会員工務店との間で業務委託契約を締結し,会員工務店は入会金等を支払う。電化住宅倶楽部社は,会員に対し,入会日から起算して2年以内に,電化住宅倶楽部社が直接又は営業会員を通じて獲得した案件情報を最低2件以上紹介することとし,2年を経過しても履行されない場合には,電化住宅倶楽部社は会員に対して既納リース料の2年分相当を補填する。
イ 被告は,平成17年3月ころ,電化住宅倶楽部社との関係で,住宅関係のエンドユーザーとの商談用スペースとして,約2000万円以上の資金を投じてHC青山を開設し,スタッフを配置して,その維持費として,毎月,家賃,光熱費等で170万円,人件費で100万円を要したが,その費用は全て被告が負担した。なお,HC青山は,平成18年秋に閉鎖された。
ウ 原告と被告は,平成17年3月11日に前記前提事実(2)に記載の内容の本件契約を口頭で締結したが,その際,成約に至った場合の手数料や同契約の存続期間については,具体的に決められなかった(ただ,少なくとも,成約の場合に被告が受領する設計監理料の10%を支払うという限度では合意があった。)。原告,被告とも,同契約の実施により,DC会員との間で多数の商談がまとまり,成約に至るケースが相当数あるものと期待していたが,現実には思うようにいかず,最初の1年間で成約に至った事例はなく,その後も,DC会員の相談件数は伸びず,新築等に関する一般的な相談客が多かったことなどもあって,商談は進まなかった。
その結果,本件契約が解消されるまでの間に成約に至った案件は,2件のみであり,原告は,その手数料として,被告から36万7500円の支払を受けたに止まったが,成約案件に関する清算自体は終了した。
エ 原告は,平成11年以降,ハウジング情報誌として,本件雑誌を年4回継続的に発行していた(なお,原告は,本件雑誌に出稿する会社の広告収入で成り立っている。)が,平成17年4月発行の26巻(甲16添付資料10)の表紙には,「21世紀を住む」との表題の下に,ハウジングガイド・ネットワークと記載され,「ハウジングガイド」が同誌を表すものとして表示されている。また,同誌では,HC青山が開設されたことが紹介され,ハウジングガイド・ネットワークがHC青山と協力していくことが記載されている。
オ HC青山で稼働する被告及び電化住宅倶楽部社の従業員に対しては,「ダイナースクラブ会員のための『リフォーム&新築相談』会員専用ホットライン」と題する名刺が作成,交付され,原告から引き継がれたDC会員に対する営業活動に際して用いられていたが,同名刺には,担当者の氏名,地位が記載されていたほか,ハウジングガイド『ハウスコンシェルジュ青山』として住所が記載されていた。
カ 電化住宅倶楽部社は,会員に対して2年間に最低2件以上行うものとされていた工事案件紹介を実行できなかったため,平成17年秋以降,会員からの問い合わせやクレームが多数持ち込まれるようになり,平成18年5月ころになると,本件倶楽部の主催者たる被告や東京電力にまで同様の問い合わせ等が寄せられるようになったほか,そのころには,電化住宅倶楽部社が,被告に知らせないまま多数の工務店を本件倶楽部に入会させて入会金を徴収し,これらに対する導入キットの販売代金もすべて取得するようになるなどの事実も発覚し,会員から入会金等の返還を請求される事態となったため,東京電力としてもこの問題を放置できなくなった。そこで,東京電力は,調査に乗り出し,その結果,会員に対する救済措置が必要と判断したことから,会員との間で契約を合意解除して会員工務店に対して金銭的補償をする方向で支援を進めることとし,他方で,被告については,後記キの事情で解散もやむなしとの判断がなされた(乙3)。
この間,被告は,平成18年5月19日到達の書面をもって,電化住宅倶楽部社に対し,前記代理店契約及び業務委託契約を解除するとの意思表示をしている(甲4の12の1・2)。
キ また,被告は,平成18年6月30日に開催された被告の定時総会において,本件倶楽部の運営に関する電化住宅倶楽部社との間でトラブルが生じていること,会員との間のトラブルも想定されること,電化住宅倶楽部社に対する多額の貸付金,売掛金の回収ができないことなどが報告され,これらのため,被告のキャッシュフローが深刻な状態になる可能性があり,最悪の場合には事業継続が不能となるおそれが生じている旨が報告された。なお,その際,併せて,対応策の一環として,HC青山の撤退も検討されている旨が報告されている(乙1)。
その後,被告は,同年9月ころ,原告に対し,本件雑誌32巻(10月号)の発行をやめるよう申し入れ,同年秋にはHC青山を撤退した。そして,同年11月16日の被告の臨時株主総会で解散決議を行い(乙3),清算手続に入った。
(2) 前記前提事実及び(1)で認定したところによれば,本件契約は,原告が,本件雑誌を通じて被告の受注に繋がるキャンペーンスタイルのハウジング関連情報を継続して発信し(本件雑誌への掲載料は無料),DC会員からの資料請求を確保した上で,DC会員からの反応については,会員専用ホットライン,資料請求カード,会員専用ホームページでの受付,HC青山を直接訪問する会員への対応を含め,これを全て被告に引き渡し,被告は,上記のとおり反応のあったDC会員に対する営業活動を行い,その結果,成約に至った場合には,原告に対して一定の手数料を支払うというものであって,その存続期間は特段決められておらず,上記手数料の決定方法についても,成約の場合に被告が受領する設計監理料の10%を支払うという限度では合意があったものの,これ以外の点については具体的に決められてはいなかったということができる。
この点に関し,原告は,本件契約を締結するに際して,存続期間は2年以上,手数料は成約に至った場合の工事代金の1.5%(被告の設計監理料は工事代金の15%相当であって,その10%が原告に対する手数料となる。)とする旨の合意があった旨主張するが,期間については,証人Z及び原告代表者の当裁判所における供述によっても,同人らがそのように理解していたというに止まり,被告との間でこの点に関する明確な合意があったとまでいうことはできないし,手数料の点についても,上記主張を認めるべき的確な証拠はなく,したがって,原告の同主張を採用することはできない。
また,原告は,本件契約と本件倶楽部及び電化住宅倶楽部社の問題とは一体であることを前提として主張を展開し,本件契約の内容として,被告は新築,改築を担当する工務店を組織することも含まれていたなどと主張するが,前記(1)アで認定したとおり,被告は,平成16年7月11日の時点で,電化住宅倶楽部社との間で業務委託契約,代理店契約及び業務提携基本契約を締結し,工務店の組織については既に完成していたということができるから,その前提を異にしており,採用できない。
(3) 次に,原告は,本件契約に基づく原告の債務を履行したのに,被告が成約に向けての営業努力を怠り,原告からの営業面の改善方の申入れにも誠実に対応しなかったために成約に至らなかった旨主張する。しかしながら,前記(1)で認定した事実経過に照らせば,被告は,HC青山において,原告から引き継いだDC会員に対し,スタッフを配置し,成約に向けての営業活動を実施していたということができ(被告がHC青山を多額の費用をかけて開設し,毎月約270万円もの維持費を自ら負担して賃借し続けていたことに照らすと,被告が成約に向けて積極的な努力をしないなどということは考えがたいというべきである。),被告が営業努力をことさらに怠ったとか,原告からの改善要求に誠実に対応しなかったことを認めるべき的確な証拠はない。
そもそも,原告がその主張の前提とする平成18年3月以降における成約の見通しについては,十分な根拠があったと言えるかにつき疑問があるといわざるを得ないところである。即ち,原告のこの点に関する主張は,Zが原告に対して平成18年3月ころに原告に説明した,「被告が営業力を強化し,熟練の営業スタッフを配置するなどすることにより,DC会員からの資料請求のうち少なくとも半分程度の成約を見込んでおり,資料請求者の約30%は商談が進み,約40%については今後1年から2年以内の計画をしていることから継続して商談を進め,残り30%については具体的な計画はないものの,将来を見越して被告が主宰する友の会に入会してもらい,本件雑誌を送ることとし,キャンペーン開始から1年後には商談が進んだ30%について契約締結とする。」という内容に基づくものと解されるが(原告の平成19年11月2日付け準備書面(2)),本件契約締結後,現実に成約に至ったのが僅か2件であり,前記のとおり相談件数が伸び悩み,一般的な建築相談が多かったという顧客サイドの問題点があることなどの事情に照らすと,Zや原告が描くような多数の成約が期待できるような実情にあったとは到底考えられないというべきである。したがって,これとの比較において,2件しか成約がなかったことから営業努力をしなかったとの原告の上記主張はその前提を異にし,採用できない。
(4) 次に,被告が解散決議をして清算手続に入ることになった経緯についてみるに,(1)で認定した事実によれば,被告が上記のとおり解散せざるを得なくなった事情としては,(1)キに記載したとおり,本件倶楽部を巡り,その運営を担当していた電化住宅倶楽部社に対して会員工務店から種々の苦情が寄せられ,被告及び東京電力にも同様の苦情等が寄せられるようになって,収拾がつかなくなったことから,電化住宅倶楽部社に対して前記のとおり業務委託契約等の解除の意思表示を行ったが,会員との間のトラブルを放置できなくなって,東京電力が乗り出してその救済に当たることとなり,その影響と電化住宅倶楽部社に対する貸金及び売掛金の回収の目処がつかないことで,被告について,同年9月末の段階で当期損失が12億円に及び,事業の継続が不可能であると判断されたため,清算手続に移ることとなったものということができる。以上の経緯に照らせば,被告において,清算決議を行うに至った点についてはやむを得ないものというべきところ,その結果として,本件契約を継続することができなくなったのであるから,この点に関しても,同様にやむを得ない合理的な理由があるということができる。
この点に関し,原告は,本件契約を解消した時期は,約1年半にわたる原告による情報発信の結果,多くの成約が見込まれる時期であり,今後も成約が見込まれる状況にあった旨主張するが,これが理由のないことは,以上に説示したところから明らかであり,理由がない。
そうすると,本件契約につき存続期間は定められておらず,また,原告が主張するような成約が見込まれていた状況にはなかったことを考慮すると,本件においては,被告が清算手続に入った結果,原告の意向に関わりなく一方的に本件契約が解消されるに至ったとしても,その故に,それが直ちに原告に対する不法行為に当たるということはできないし,被告に本件契約における債務不履行があるということもできない。
(5) 以上に認定,説示したところによれば,原告の請求は,いずれも理由がないというべきである。
2 以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求が理由のないことは明らかであるから,これを棄却すべきである。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判官 奥田正昭)
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