
「営業支援」に関する裁判例(55)平成26年 9月25日 東京地裁 平23(ワ)6356号 損害賠償等請求事件
「営業支援」に関する裁判例(55)平成26年 9月25日 東京地裁 平23(ワ)6356号 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成26年 9月25日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平23(ワ)6356号
事件名 損害賠償等請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2014WLJPCA09258001
要旨
◆コンビニエンス・ストア事業を行う原告が、広島地域において、原告がフランチャイザーとして、訴外H社をフランチャイジーとして、本件会社の助言指導の下、新業態店舗をフランチャイズ展開する事業を行ったことについて、本件会社が助言指導義務等に違反したために原告が損害を被ったとして、本件会社を合併した被告に対し、債務不履行又は不法行為による損害賠償請求権に基づき損害の填補を求めた事案において、事業開始時点において原告に提供された簡易な立地診断システムが不相当・不合理であったとはいえず、本件会社に助言指導義務違反があったとはいえない上、同社には原告に対する商品の選定、品揃え、新製品の開発に係る経営指導義務・技術指導義務違反も認められないなどとして、原告の請求を棄却した事例
参照条文
民法415条
民法709条
裁判年月日 平成26年 9月25日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平23(ワ)6356号
事件名 損害賠償等請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2014WLJPCA09258001
広島市〈以下省略〉
原告 H&Bパートナーズ株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 大本和則
東京都豊島区〈以下省略〉
被告 株式会社ファミリーマート
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 遠藤隆
同 辻あかね
同訴訟復代理人弁護士 大島崇志
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,3億0480万3445円及びこれに対する平成23年3月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,コンビニエンス・ストア事業を行う原告が,被告(合併前の株式会社エーエム・ピーエムジャパン。以下特に合併前の同社を示す場合には「エーエム・ピーエム」という。)との間の平成18年3月15日付け「am/pmエリア・フランチャイズ契約」(別紙契約目録記載の契約。以下「本件FC契約」という。)に基づき,広島地域において,原告がフランチャイザーとなり,株式会社白菱(以下「白菱」という。)をフランチャイジーとして,エーエム・ピーエムの助言指導の下,新業態「Foodstyle」の店舗をフランチャイズ展開する事業(以下「本件フードスタイル事業」という。)を行ったことについて,エーエム・ピーエムが助言指導義務に違反したために原告が損害を被ったとし,合併により同義務を承継した被告に対し,本件FC契約の債務不履行又は不法行為による損害賠償請求権に基づき,原告が被った損害(合計3億0480万3445円)の賠償及びこれに対する訴状送達日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 当事者
ア 原告は,平成6年3月10日に設立され,フランチャイズシステムによるコンビニエンス・ストア事業の経営,コンビニエンス・ストアの加盟店の募集,経営に関する調査,研究,研修,広告宣伝及び印刷物の発行等を目的(平成22年1月15日に変更)とする会社であり,A(以下「A」という。)が代表者を務める。
イ エーエム・ピーエムは,平成2年4月2日に設立された,フランチャイズシステムによるコンビニエンス・ストア事業の経営,コンビニエンス・ストアの加盟店の募集,経営に関する調査,研究,研修,広告宣伝及び印刷物の発行等を目的とする会社で,平成22年3月1日,被告と合併し解散した。
ウ Aは,原告の代表者を務めるほか,広島市内に本店を置く,酒類,食品の卸売業を営む株式会社白菱(以下「白菱」という。)の代表者も務めている。
(2) 本件フードスタイル事業
本件フードスタイル事業とは,am/pm店舗に利用したサービスインフラを利用して,女性の社会進出,核家族化の拡大,高齢化社会の進行などの生活環境の変化等に合わせた野菜や精肉などの少量パック販売,一人分を下調理した商品などを販売し,その価格を100円に統一することを内容とする新しい業態の店舗を展開する事業であり,平成17年1月頃にエーエム・ピーエムの新規事業開発プロジェクトにより立ち上げられたものである。本件FC契約においては,原告が従来のコンビニエンス・ストア「am/pmストア」を展開することも内容とするが,優先的にフードスタイル事業に係る店舗(以下「フードスタイル店舗」という。)を展開する旨の定めがある。フードスタイル店舗は,「am/pm」のロゴと「Food Style」のロゴの両方を使用することとしているが,am/pmストアとは異なる業態の店舗であり,取り扱う商品,店舗の内外装が異なるほか,エーエム・ピーエムが作成した店舗内外装計画,職員研修,売り場展開等のマニュアル等も異なる独自のものである。(甲18,乙22の1~3,同23ないし29,42)
(3) エーエム・ピーエムと原告との間の本件FC契約
ア エーエム・ピーエムは,平成17年12月21日,白菱との間で,白菱がam/pmシステムを活用し,広島県全域を契約地域として,エリア・フランチャイズ店舗を出店し,白菱がフードスタイル店舗の展開を優先的に行う定めがあるエリア・フランチャイズに関する基本合意書をもって,エリア・フランチャイズに係る基本合意が締結された。(乙1)
イ 白菱は,上記アの基本合意に基づき,原告を広島地域におけるエリア・フランチャイザーとし,原告との間で白菱がフランチャイズ契約を締結してフードスタイル店舗を展開することとし,原告が,平成18年3月15日,エーエム・ピーエムとの間で,コンビニエンス・ストア事業の経営等を目的とする本件フランチャイズ契約を別紙契約目録記載の条項により締結した。(甲2)
ウ 原告は,平成18年4月18日,白菱との間で,白菱をフランチャイジーとして,広島市中区幟町にフードスタイル店舗(以下「a店」という。)を出店することを内容とするフードスタイル・フランチャイズ契約を締結し,同年5月11日に同区十日市町内にフードスタイル店舗(以下「b店」という。)を,同月23日に同市西区庚午北にフードスタイル店舗(以下「c店」という。)を,同月に同市中区田中町にフードスタイル店舗(以下「d店」という。)を,同年7月13日に同市佐伯区五日市にフードスタイル店舗(以下「e店」という。)を,同年8月22日に同市中区富士見町にフードスタイル店舗(以下「f店」という。)を,平成19年6月5日に同区住吉町にフードスタイル店舗(以下「g店」という。)を,同年11月27日に同市中区立町にフードスタイル店舗(以下「h店」という。)をそれぞれ出店することを内容とするフードスタイル・フランチャイズ契約を締結した。原告と白菱との間のフードスタイル・フランチャイズ契約には店舗建物をフランチャイジーが所有,賃借するAタイプ,エーエム・ピーエムが賃借しフランチャイジーに無償貸与するCタイプの方式があり,g店及びh店がCタイプの契約を,それ以外の店舗がAタイプの契約を締結した。(甲3ないし10)
(4) 白菱によるフードスタイル店舗の出店及びその後の経緯
ア 白菱は,平成18年4月24日にa店を開店し,同年5月17日にb店を,同月27日にc店を,同年6月8日にd店を,同年7月21日にe店を,同年9月12日にf店を開店した。
イ 白菱は,平成18年8月1日にc店を閉店し,同年10月31日にe店を閉店し,平成19年2月28日にb店の閉店を決定し,同年4月30日に同店を閉店した。
ウ 白菱は,平成19年7月8日,g店を開店し,同年12月18日,h店を開店した。
エ 白菱は,平成21年7月1日,h店を閉店した。
(5) 本件FC契約の合意解約
ア エーエム・ピーエムは,平成20年8月19日,原告との間で,同日付け覚書(甲12。以下「本件覚書」という。)により,1年を目処に本件FC契約を合意解約し,フードスタイル店舗は原告が独自運営することを内容とする合意をした。また,本件覚書には,「値入差額支援を含む一切の精算及び支援を行わない」との条項が入れられた。(甲12)
イ エーエム・ピーエムは,平成21年4月23日,同日付け合意解約書(甲13。以下「本件合意解約書」という。)により原告との間で本件FC契約を解約する旨の合意をした。(甲13)
2 争点及び争点に関する当事者の主張
(1) エーエム・ピーエムの原告に対する立地診断,店舗開発システムに係る助言指導義務違反及び店舗の建設,管理に係る助言指導義務違反の有無
(原告の主張)
原告は,本件フードスタイル事業に基づいてフードスタイル店舗を営業展開するため,平成18年1月20日に設立した会社であり,原告は,本件フードスタイル事業を含め店舗営業の経験がないことから,エーエム・ピーエムが原告に店舗に関する経営指導,技術指導を行い,原告がエリア・フランチャイザーとして,エーエム・ピーエムの経営指導及び技術指導を確実に遂行する合意をした(本件FC契約2条)。
エーエム・ピーエムは,本件FC契約に基づき,原告に対し,エリアFC店の立地診断,店舗開発システムに関する助言及び指導(本件FC契約9条3号)並びにエリアFC店舗の建設,管理に関する助言及び指導(本件FC契約9条4号)を行う義務を負担していることからすれば,原告に客観的かつ的確な売上予測を提供すべき注意義務を負担していた。
エーエム・ピーエムは,原告のエリアFC店舗の計画日販について,原告に対し,a店が59万2000円,b店が39万5000円(当初は50万円),c店は38万1000円,d店33万3000円,e店24万7000円と報告していた。しかし,上記各エリアFC店舗の実際の売上げは,日販予測の平均約59.1%しかなかった。
上記日販予測の誤りは,エーエム・ピーエムが需要動向に合わせた活動ができず,その独自の立地診断や日販予測が誤っていたことが原因であり,その検証すらされなかったのであって,エーエム・ピーエムも,原告との事業計画に係る会議において,広島地域への情報伝達,広島地域の需要に応じた商品導入の不備等のほか,立地選定について選定基準が不明確であること日販予測システムの精度が低いことのほか,既存店の検証が不十分であることを会議において報告していた。
また,エーエム・ピーエムは,平成18年9月頃,原告に対し,新たな営業計画を提案したが,a店,b店及びd店の平均計画日販を同年9月が32万円,同年10月が35万円,同年11月が38万3000円,同年12月が40万7000円と報告したが,実際には同年9月が30万8000円,同年10月が30万1000円,同年11月が28万8000円,同年12月が28万8000円であり,3199万1000円を計画していた利益も2374万9000円しかなく,粗利益率も同年9月が22.5%,同年10月が23.3%,同年11月が24.3%,同年12月が25.3%であったが,実際の平均粗利益率は21.9%にとどまった。
(被告の主張)
ア エーエム・ピーエムが本件FC契約9条3号に基づいて原告に負担している債務は,エーエム・ピーエムが候補の店舗の立地診断を行うのに際し使用している売上予測の方法及び理想と考える建物の建築与件の数値等を提供することであり,売上げについては,原告の組織・人員が整備されるまでの間は原告が収拾し,エーエム・ピーエムに提供される各種データに基づいて上記売上予測の方法により売上予測を行い,その結果を原告に報告すること,フードスタイル店舗数の増加した場合,必要に応じ,売上予測の方法を見直し,原告に提供することであり,客観的かつ的確な売上予測を提供すべき注意義務を負担しているものではない。また,本件FC契約9条4号は店舗の建設,管理に関する助言,指導を定めたものであり,売上予測とは関係がない。
イ また,本件においては,原告の人員及び組織が確立されていなかったことから,原告及びエーエム・ピーエムは,候補店舗の環境に関する調査,収集を原告が行い,そのデータをエーエム・ピーエムに提供し,同データを基礎にエーエム・ピーエムが売上予測を行ってその結果を提供していたものである。
ところで,売上は,一般的に,個々の店舗の運営力,季節・気候等の自然的要因,景気変動,消費支出の伸縮といった経済的要因,競合店の出店,集客施設の開設等の市場環境等の多種の要因により左右されるものであり,売上予測が売上実績と必ずしも一致するものではないことは承認されている。
さらに,本件フードスタイル事業は,エーエム・ピーエムにおける新企業態として展開中の事業であり,既存店舗数も32店舗で,出店戦略や品揃えに関する戦略も十分に固まっていない段階であり,他業態(コンビニエンス・ストア)の店舗も参考に試行錯誤しながら策定していた状態であったのであり,予測と実績とが大きく乖離する可能性があるほか,フードスタイル事業の店舗についても,関東地域と広島地域とでは商品・価格の需要等に際があり得るため,一般の場合よりも大きく乖離が生じる可能性があった。
エーエム・ピーエムは,原告に対し,本件フードスタイル事業の売上予測と売上実績とが大きく乖離する可能性等を説明したところ,原告は,コンビニエンス・ストア事業ではなくフードスタイル事業に発展性を感じているとし,早期に広島地域においてフードスタイル店舗を展開することを希望した。このため,エーエム・ピーエムは,平成18年1月頃,原告に対し,エーエム・ピーエムが使用していた売上予測の方法を説明した上で,その売上予測を行うために必要なデータの内容(店前通行量,商圏人口,世帯数等)とその計測,調査方法等を説明した。原告は,同説明を基礎に同年4月24日から平成19年12月18日までの間に,8店舗について,調査を行い,その結果をエーエム・ピーエムに提供したことから,エーエム・ピーエムは,平成18年4月24日にa店が59万2000円,同年5月17日にb店が39万5000円,同月27日にc店が38万1000円,同年6月8日にd店が33万3000円,同年7月21日にe店が24万7000円,同年9月12日にf店が48万4000円,平成19年7月3日にg店が26万7000円,同年12月18日にh店が42万2000円であるとの日販予測をし,同結果を原告に提供した。
ウ エーエム・ピーエムは,原告に対し,各店舗を出店するにあたり,理想とされる建築与件の数値等と当該店舗の建物与件の数値等を示しており,原告が,同建物与件の数値等を比較し,また,日販予測を検討することにより,その責任と判断において立地診断をしていた。そして,エーエム・ピーエム及び原告は,a店,b店,c店は,以後の立地診断の参考にするべく,立地特性の異なる店舗をあえて選択し,その実績と予測結果との対比を行うこととしていた。
h店においては,原告の社内決裁のために,売上予測を上方修正するよう求められ,上方修正した数値を原告に提供していた。エーエム・ピーエムは,上記8店舗のうち,e店,g店については売上予測の数値が低かったことから出店を反対していたほか,a店は夜間人口,世帯人口の少なさ,b店は他店競合による影響,c店及びh店は売り場面積が狭いことをそれぞれ指摘していた。
原告は,エーエム・ピーエムから上記のようにして提供された立地診断を基礎に,白菱との協議した上で,本件フードスタイル事業に係るフードスタイル店舗の出店を行うとの裁量を行使したものである。
(2) エーエム・ピーエムの原告に対する商品選定,品揃え,新製品の開発が不十分であったことによる経営指導及び技術指導義務違反の有無
(原告の主張)
エーエム・ピーエムは,本件フードスタイル事業に係るフードスタイル店舗における店舗経営に関するノウハウの提供と研修指導義務(本件FC契約9条5号)及び商品の選定と品揃えを行う義務(本件FC契約9条7号)を負担していたにもかかわらず,上記フードスタイル店舗においては,加工食品,デイリー商品,菓子,雑貨について多くの欠品が発生し,原告等が発注しても商品が揃わなかった。このことは,エーエム・ピーエムも,平成18年9月6日の協議において配付した提案書(甲14)や同年12月20日頃に作成された報告書(甲24)において,エーエム・ピーエムの東京本部と広島支店との間の情報伝達の不備,広島対応の担当者がいないこと,広島地域に必要とされる商品の導入ができなかったこと,商品の安定供給ができなかったことを業績不振の原因として挙げている。
(被告の主張)
エーエム・ピーエムは,本件FC契約に基づいて商品供給をする義務は負わない。すなわち,本件FC契約5条は店舗経営に関するノウハウを提供するが,同ノウハウとは,店舗作りやレイアウト,商品の発注,品質・鮮度管理,陳列,積極等の営業的側面に関するノウハウや人事,税金等の管理的ノウハウに分かれるが,マニュアルの交付や原告従業員の研修指導等を行っていたのであり,これらの業務は履行している。そして,商品選定,品揃え,新商品の開発というエーエム・ピーエムの本件FC契約9条7号の業務は,いずれもフランチャイジーの発注に応じて商品を供給する仕入先の整備やシステムの構築のことを指し,関東地域におけるフードスタイル店舗の標準的な品揃えに準じる内容の一覧表を提供し,これらの商品構成等を売上等と対比しながら見直すこととし,関東地域における商品の仕入先を中心に,当該商品の発注があった場合には供給する旨の約束を取り付け,発注処理システムを構成する情報機器を提供した。また,エーエム・ピーエムは,新商品開発として,新商品の企画・開発を行い,その仕入先の確保をした上で原告に提供していた。
原告は,本件フードスタイル事業に係るフードスタイル店舗において,欠品,商品の種類不足,発注商品の未納入が生じていたことをもって,エーエム・ピーエムに債務不履行があったと主張するが,これらの場合,上記問題が生じないようフランチャイジーに指導,助言をする義務を負担するのはフランチャイザーである原告であり,上記ノウハウの提供を超えて指導,助言をする義務を負担するものではない。
(3) 被告の本件フードスタイル事業撤退によるエーエム・ピーエムの継続的に行う業務の債務不履行の有無
(原告の主張)
エーエム・ピーエムは,平成19年7月頃,東京本部を本件フードスタイル事業から撤退させることを決定したのであり,その頃,原告に本件フードスタイル事業に基づく業務を継続することが不可能になった。関東地域において不採算となった事業が,広島地域において採算を確保できる事業になるとはいえず,また,東京本部に本件フードスタイル事業を行う部門が存在しなくなることにより,広島地域においても対応ができなくなった。
また,エーエム・ピーエムは,平成20年5月頃,120億円の特別損失を被ったとの報道がなされ,エーエム・ピーエムに対する信用不安が広がり,エーエム・ピーエムの名称による事業展開が困難になった。同年9月,エーエム・ピーエムの親会社であるレックス・ホールディングスからエーエム・ピーエムを売却する旨決定したとの報道がされ,平成21年2月,コンビニエンス・ストアチェーン会社がエーエム・ピーエムを買収すると発表された。エーエム・ピーエムにおいては,その経営権を失うなど本件フードスタイル事業を断念せざるを得ない状況に陥っていたのであり,原告に対して継続的に助言指導義務を履行できない状況に陥っていたといえる。
(被告の主張)
関東地域における本件フードスタイル事業を撤退した後も,広島地域においては本件フードスタイル事業が支障なく継続されていたのであり,多額の特別損失等が発生したとの報道後もエーエム・ピーエムに信用不安が生じたことはない。エーエム・ピーエムは,企業買収される旨の報道がされた後も本件FC契約に基づく債務を履行していたのであり,各債務が履行不能となったことはない。
エーエム・ピーエムは,平成19年度に不採算店舗の閉鎖による120億円の特別損失を計上し,これが報道されたことにより,財政状況が悪化したため,経営資源をコンビニエンス・ストア事業に集中することとなり,本件フードスタイル事業が順次縮減され,同年7月に関東地域から本件フードスタイル事業を撤退することが決定された。しかし,広島地域における本件フードスタイル事業は,同年7月以降も人員態勢を維持していたのであり,業務は継続していた。なお,エーエム・ピーエムは,平成21年,株式会社ローソン等に買収される旨の報道がされたが,信用力の高い企業との合併する旨の報道であって,信用不安は起きていない。エーエム・ピーエムは,広島地域において,合意解約により定められた平成22年4月末日までの間,本件フードスタイル事業に基づく業務を行い,フードスタイル店舗が他業態(小売業)に移行することに協力していたのであり,その業務に支障が生じたことはない。
(4) 原告の損害
(原告の主張)
原告は,エーエム・ピーエムの本件FC契約における債務不履行又は不法行為により,別紙損害金明細のとおり,次の損害を被った。
ア 店舗閉店に伴う損害
(ア) h店 2785万7100円
店舗内簿価1248万4500円,平成21年5月時点の残リース債務962万5350円,店舗賃貸借契約違約金312万2250円及び店舗内外装撤去費用262万5000円が損害となる。
(イ) a店 3059万5210円
店舗内外装簿価1308万3000円,店舗内外装什器等リース等簿価1226万2210円,店舗賃貸借契約中途解約金240万円及び店舗内外装撤去費用285万円が損害となる。
(ウ) d店 2578万8000円
店舗内外装簿価1333万5000円,店舗内什器等リース等簿価982万8000円及び店舗内外装撤去費用262万5000円が損害となる。
(エ) f店 1824万9210円
店舗内外装簿価1106万7000円,店舗内什器等リース等簿価350万7210円,店舗賃貸借契約中途解約金105万円及び店舗内外装撤去費用262万5000円が損害となる。
イ 平成18年1月から平成19年6月までの経費 873万4000円
原告は,平成19年2月28日,エーエム・ピーエムとの間で,原告及び白菱が支出した経費を本件フードスタイル事業の再構築と業務改善を行う目的にエーエム・ピーエムジャパンが一部を負担する合意をし,その後,エーエム・ピーエムが損害の一部を賠償したが,賠償されていない損害として873万4000円がある。
ウ 計画値入率と実績値入率との差額 2554万9366円
エーエム・ピーエムは,平成19年2月28日,c店,b店,e店における平成20年5月分までの実績値入率と計画値入率との間の差額を賠償する旨の合意をしたが,その他の店舗の平成19年7月から平成22年4月までの計画値入率(26%)と実績値入率との差額が賠償されておらず,a店(544万5921円),d店(537万1152円),f店(774万3414円),g店(606万5489円),h店(92万3390円)の各店舗における実績値入率と計画値入率との差額が損害となる。
エ 計画日販と実績日販との間のロイヤルティーの差額 4759万4679円
エーエム・ピーエムは,原告に対して計画日販を示して約束をしていたものであり,計画日販と実績日販との差額は,a店1988万1787円,b店536万4712円,c店107万7142円,d店586万7449円,e店93万7841円,f店423万5193円,g店742万6124円,h店280万4431円となり,同金額が損害となる。
オ 加盟金 5000万円
(被告の主張)
ア 店舗閉店に伴う損害
(ア) h店
h店は,Aの知人が物件の紹介者であったことから,原告が売上予測を水増しして出店したのであり,h店閉鎖に伴う損害を原告が賠償する理由はない。また,店舗内外装簿価,リース料残債務,店舗内外装撤去費用を明らかにする証拠もない。さらに,店舗に係る賃貸借を中途解約したのは原告であり,同違約金をエーエム・ピーエムが賠償する理由はないし,予告期間を設ければ違約金は発生せず,即時解約をしても契約では3か月分の賃料のみが発生するのみである。
(イ) a店
a店は,白菱の行うミニスーパーマーケット事業(小売業)であるモラドール店(以下「モラドール店」という。)へ移行した後に閉店したのであり,モラドール店として閉店に至ったとしても,その損害を賠償する理由はない。店舗内外装残存簿価額を示すものとして提出された証拠は,内外装工事の請負代金であって残存簿価額を示すものではなく,契約者も白菱であって原告ではない。店舗内什器等や店舗内外装は残置されたのであり,同リース料等の残存簿価額が損害とはならないし,実際に撤去工事がされたことを示す証拠もない。
(ウ) d店
d店は,モラドール店に移行しており,現在も営業している。店舗内外装,店舗内什器等は現在も使用されており,これらが損害とはならないし,請負工事代金の見積書における契約者は白菱であって原告ではない。
(エ) f店
f店は,モラドール店に移行しており,現在も営業している。店舗内外装,店舗内什器等は現在も使用されており,これらが損害とはならないし,請負工事代金の見積書における契約者は白菱であって原告ではない。違約金が発生した根拠が不明であり,賃貸借契約の賃借人は白菱であって原告ではない。
イ 平成18年1月から平成19年6月までの経費
原告は,平成19年2月28日,エーエム・ピーエムとの間で,原告及び白菱が支出した経費を本件フードスタイル事業の再構築と業務改善を行う目的にエーエム・ピーエムジャパンが一部を負担する合意をしたが,同合意は,原告とエーエム・ピーエムとで負担する合意をしたものである。エーエム・ピーエムが負担していない部分を損害として賠償することはできない。
ウ 計画値入率と実績値入率との差額
争う。
エ 計画日販と実績日販との間のロイヤルティーの差額
争う。
オ 加盟金
争う。
(5) 原告と被告との間の合意解約における清算(抗弁)
(被告の主張)
本件エリアFC契約は,平成21年4月23日,エーエム・ピーエムと原告との間で合意解約されたが,その際に作成された合意解約書(甲13)には,エーエム・ピーエムの損害賠償義務に関する記載はなく,同合意解約によりエーエム・ピーエムの原告に対する債務不履行に基づく損害賠償請求権が存在しないことが確認された。
すなわち,エーエム・ピーエムは,平成20年8月19日,原告との間で,本件FC契約の合意解約を交渉する中で,本件覚書(甲12)を作成したが,同覚書8条2項は,「今後の対応」として,「値入差額支援を含む一切の精算及び支援を行わない。」と定め,その頃まで行われていた計画値入と実績値入との差額の補てん等を行わず,一切の金銭の支払を行わない旨の合意をした。原告は,同月6日,本件覚書の作成にあたり,上記条項の削除を求めていたが,エーエム・ピーエムは,これに応じず,最終的に同条項が本件覚書に記載され,その後の平成21年4月23日に合意解約書(甲13)が作成され,合意解約に至ったのであり,同合意解約書では加盟金の返還等を含めて記載されなかった。原告は,上記合意解約書による合意解約後,エーエム・ピーエムとの間で複数回面談をしたが,いずれの機会においても損害賠償請求等をせず,同年12月14日に至って加盟金5000万円及び損害金の精算を求めたものである。
(原告の主張)
原告とエーエム・ピーエムとの間で損害賠償その他の金銭給付をしないということを前提として合意解約をしたことはない。原告は,エーエム・ピーエムとの間で後日原告に対する賠償額を協議する約束で合意解約に応じたものであり,覚書(甲12)では,合意解約の内容について別途協議することとされながら,合意解約書(甲13)において清算条項が置かれなかった理由は,別途協議するためである。また,合意解約に向けた協議についてエーエム・ピーエムが作成した議事録(甲19)には,原告が加盟金返還をした上で合意解約する意見を述べたことが明らかである。
このように,原告とエーエム・ピーエムとの間の合意解約においては,原告のエーエム・ピーエムに対する損害賠償請求権について別途協議する旨合意されたものである。
(6) 合意解約に係る原告の錯誤無効ないし信義則違反による無効(被告の合意解約の抗弁に対する再抗弁)
(原告の主張)
本件の合意解約は,エーエム・ピーエムが被告との間の合併の支障となる原告からの訴訟を免れるためにしたものであって,信義誠実の原則に反するものである。また,仮に,原告の被告に対する債務不履行に基づく損害賠償請求権を含む一切の債権債務が清算される合意解約がされたとすれば,原告には,被告に対する損害賠償請求権を放棄する意思はなかったのであるから,同合意解約は錯誤により無効である。
(被告の主張)
否認する。
(7) 計画値入率と実績値入率との差額及び計画日販と実績日販とのロイヤルティーの差額に係る清算合意(抗弁)
(被告の主張)
エーエム・ピーエムは,平成19年2月28日,原告との間で,計画値入率と実績値入率差額について,同年6月分までの差額については,738万5000円をエーエム・ピーエムが負担し,残りを原告が負担することとするとともに,今後エーエム・ピーエムが一切の支援を行わない旨合意した。したがって,平成19年7月以降の計画値入率と実績値入率との差額を補填する義務はなく,また,「今後一切の精算及び支援を行わない。」(甲11)との記載からすれば,計画日販と実績日販とのロイヤルティーの差額についても金員の支払を請求しない旨の合意が成立している。
(原告の主張)
否認する。原告は,エーエム・ピーエムとの間で,エーエム・ピーエムに対して損害賠償その他金銭給付しないという前提で合意をしたことはない。
(8) エーエム・ピーエムの原告に対する平成19年7月以降の計画値入率と実績値入率との差額の支払(抗弁)
(被告の主張)
エーエム・ピーエムは,平成19年7月から平成20年5月までの間,計画値入率(27%)と実績値入率との差額を補填し,同年6月以降は実績値入率が計画値入率を上回っていた。
(原告の主張)
否認する。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(エーエム・ピーエムの原告に対する立地診断,店舗開発システムに係る助言指導義務違反及び店舗の建設,管理に係る助言指導義務違反の有無)について
(1) 第2の1の事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 原告が本件フードスタイル事業を行うに至る経緯
(ア) エーエム・ピーエムは,平成17年1月頃,新規事業開発プロジェクトチームを立ち上げ,従来のコンビニエンス・ストア店舗を展開する事業を基礎に,消費者の低価格志向,高齢者・単身者・働く女性等の需要に応じる店舗を顧客対象とするべく,コンビニエンス・ストアで行っていたサービスに加え,肉,魚,青果を小分けして販売し,かつ,その価格を低価格に統一する新業態の店舗を展開する事業を開発することを決定した。エーエム・ピーエムは,同年3月頃,東京都目黒区内に1店目のフードスタイル店舗を出店し,同年7月頃には3店目のフードスタイル店舗を関東地域に出店し,同年9月にはフードスタイル店舗を多店舗展開することが決定され,エーエム・ピーエム本社にフードスタイル事業本部が設置され,平成18年3月には,関東地域を中心に32店のフードスタイル店舗が展開された。(乙42)
(イ) エーエム・ピーエムは,平成17年5月頃,三菱商事株式会社の担当者から広島地域におけるエリア・フランチャイザーの候補として,白菱を紹介され,創業者であったAが紹介された。白菱は,当時,広島地域を中心に事業展開しており,卸売業から小売業への進出を図っていた。エーエム・ピーエムは,当初,白菱に対し,フランチャイズ事業の実績が豊富にあり,業態が確立している従来のコンビニエンス・ストア店舗の展開を勧め,また,関西地域のエリア・フランチャイザーとの連携が図れることから,複数店加盟方式が提案され,展開する店舗及び加盟方式について協議が続けられた。
Aは,従来のコンビニエンス・ストア事業よりも,新業態であるフードスタイル店舗を展開する事業に興味を示し,同月頃,東京都目黒区内に出店した1店目のフードスタイル店舗を見学するなどしており,同年11月頃,エーエム・ピーエムの担当者であったC(以下「C」という。)に対し,本件フードスタイル事業が開発途中であり,同事業を協働で確立させていくことを前提に,広島地域においてフードスタイル店舗をエリア・フランチャイズの形態で展開することを希望する旨伝え,エーエム・ピーエムもこれに応じ,同年12月21日,白菱とエーエム・ピーエムとの間で,エリア・フランチャイズに関する基本合意書(乙1)によるエリア・フランチャイズ契約が締結された。
エーエム・ピーエムは,同基本合意に基づいて業務を行うため,平成18年1月16日に広島支店を設置し,Cが同支店長として広島市内に常駐するようになった。白菱は,同基本合意に基づいて,フードスタイル店舗の展開を行うに当たり,同事業のエリア・フランチャイザーを不動産管理業者であった原告(当時の商号は株式会社福菱)の新規事業として行わせることとし,同年3月15日,原告とエーエム・ピーエムとの間で本件FC契約の締結がされた。エーエム・ピーエムは,Cが同業務に当たったほか,平成19年3月からは1名増員して2名態勢に,同年10月には4名態勢となり,原告は,A,同社の管理部長であるD(以下「D」という。)のほか5名が担当し,白菱は,フランチャイジーとしてAのほか6名がフードスタイル店長として業務に従事していた。
(以上につき,甲2,乙1ないし3,42,証人D,証人C)
(ウ) エーエム・ピーエムは,エリア・フランチャイザーに対し,フランチャイズの店舗を出店するか否かの判断に必要な情報について,「立地診断,店舗開発のシステムに関する助言,指導」として①売上予測,②理想的な店舗の建築与件等の基準を設定及び候補店舗の建築与件等の評価からなる立地診断システムを提供していたところ,フードスタイル事業においては,平成17年9月に立地診断システムの確立に向けた準備を開始し,平成18年1月には上記②の店舗の建築与件等の基準を策定し,同年3月には既存のフードスタイル店舗及び従来から展開しているコンビニエンス・ストア店舗の知識,経験を基礎に,簡易な売上予測システムを作成していた。同立地診断システムは,数学的な統計解析に必要なフードスタイル店舗のサンプル数が得られなかったことから,飽くまでも代替手段であり,エーエム・ピーエムでは,同立地診断システムによる①売上予測及び②店舗の建築与件等の基準を参考にとどめるとの申し合せがされていた。エーエム・ピーエムは,原告との間で,上記立地診断システム自体が確立していないことを前提に,広島地域において立地条件が異なる店舗を展開し,それらの店舗の売上予測及び売上実績を集積することを目的とし,a店,b店及びc店を実験店とする旨の合意をした。そして,原告は,エーエム・ピーエムに対し,立地診断システム自体の提供ではなく,同立地システムを用いて算出することまでも依頼し,各候補店舗の時間別の店前通行量,商圏人口(総人口,成人男性,成人女性,昼間人口,夜間人口),世帯数(総世帯数,1人世帯数,2人世帯数,その他)等のデータや,導線(駅からの距離,視認性,店頭展開,店舗面積,間口),競合(地場スーパーマーケット(24時間営業),地場スーパーマーケット,酒ディスカウントショップ,ドラッグストア,八百屋,コンビニエンス・ストア)といったデータを収集した上で,エーエム・ピーエムに提供し,エーエム・ピーエムは,同データを基礎に1日の来客数の基本係数を算出し,これに修正をした上で,日販予測を算出したほか,上記3店舗に係る理想的な店舗の建築与件等を間口,店頭,店前通行量,店舗面積,売場面積,視認性,ファサード,接近性,商圏,競合,設備の各項目に分けて提供した。エーエム・ピーエムが上記立地診断システムによって算出した日販予測は,同年4月24日にa店について59万2000円,同年5月17日にb店について39万5000円,同月27日にc店について38万1000円として,それぞれ原告に伝えられた。
Cは,原告に上記立地診断に係る情報を提供する際,原告に対し,立地診断システムによる売上予測や店舗の建築与件等が,一般的に実績と乖離が生じる可能性があることに加え,本件フードスタイル事業に係る立地診断システムが関東地域のみにおける既存店舗及び従来のコンビニエンス・ストアの実績を考慮していることから,予測情報が実績と乖離する可能性がある参考値であることを説明していたほか,Dは,c店について,企業努力をすることを前提に上方修正するよう依頼し,エーエム・ピーエムも,c店の日販予測について,上方修正した予測値を伝えていた。
(以上につき,甲14,乙31の1~3,同33の1・2,42,証人D,証人C)
(エ) 原告は,エーエム・ピーエムから提供された日販予測及び候補店舗の建築与件等を参考に白菱にa店,b店,c店を開店させることとし,エーエム・ピーエムは,原告に対し,フードスタイル店舗開店に向け,フードスタイル店舗営業表示の設営,賃貸借契約書等の提供,白菱従業員の研修,店舗仕様基準及び店舗レイアウトの提供,什器仕様の提供,関東地域における商品一覧,仕入先の紹介及び仕入発注システムの提供,店舗会計処理システムの提供,研修教材及びノウハウ・マニュアル等の提供,レジスターシステム機器の提供並びに会計処理プログラムの提供等の経営指導及び技術指導を実施した。エーエム・ピーエムは,原告に対し,上記各経営指導及び技術指導は,上記3店舗以外のその後に白菱が開店した他のフードスタイル店舗にも提供した。(甲3ないし10,乙4の1,同10ないし30(枝番を含む。),42,証人D,証人C)
(オ) a店は,平成18年4月24日に開店したが,開店1月後の実績日販は約38万4000円と計画日販(59万2000円)の約64.8%にとどまり,b店は,同年5月17日に開店したが,開店1月後の実績日販は約24万6000円と計画日販(39万5000円)の約62.2%,c店は,同月27日に開店したが,開店1月後の実績日販は約13万5000円と計画日販(38万1000円)の約35.4%にとどまった。また,同年6月8日に開店したd店の1月後の実績日販は,約26万5000円と,計画日販(33万3000円)の約79.5%であったものの,同年10月1日に開店したe店の1月後の実績日販は,約13万3000円と,計画日販(24万7000円)の約53.8%にとどまった。(甲14,26ないし28)
イ エーエム・ピーエム及び原告の本件フードスタイル事業の業務改善
(ア) 原告は,エーエム・ピーエムに対し,平成18年8月頃,本件フードスタイル事業の業績が芳しくなく,c店が同月1日に閉店したことから,その業務改善策を提案するよう求め,エーエム・ピーエムは,同年9月6日,広島地域における既存のフードスタイル店舗のうち既存店舗であるa店,b店及びd店の同年7月までの実績等を分析し,対策を提案する協議を行った。エーエム・ピーエムは,同協議において,広島地域における本件フードスタイル事業の振り返りによる問題点として,魅力ある売場作りができていないこと,広島地域の商品の改廃を行う仕組みの不足,値入率改善のための商談不足及び立地診断システムの精度の低さを指摘し,課題としてSV及び店長育成の遅れ,広島地域におけるマーチャンダイジング機能確立の遅れ,立地診断システムの見直しを挙げ,各課題に対する対策と同年12月末までの対策を実施するスケジュールを説明した。(甲14,25,証人D,証人C)
(イ) 原告は,平成18年12月7日,エーエム・ピーエムに対し,上記(ア)の提案を受けた同年9月からエーエム・ピーエムの東京本部や広島支店の指導,支援を得たが,なお売上,利益,値入率,粗利率の目標値に達する可能性がない状況にあるとし,平成19年1月以降もそれまでの支援(平成18年8月31日に実施された廃棄費用200万円の補填や割引券の費用負担)の継続を希望するとともに,エーエム・ピーエムの立地診断システムにより提供された日販予測と実績との間に大きな乖離があったことを理由に,エーエム・ピーエムには原告の同年4月から8月までの営業損失と閉店したフードスタイル店舗の閉店費用について負担する責任があるとし,同営業損失,c店及びe店の開設費用,同店舗の閉店時の解体費用等,賃貸借解約に係る違約金,閉店後に転用可能な什器備品費用について負担するよう求めた。Cは,同年12月20日,エーエム・ピーエムのフードスタイル事業本部に対し,上記原告の提案について,広島地域の本件フードスタイル事業の業態が本件FC契約後9か月経過しても確立できておらず,エーエム・ピーエムの担当業務である商品の安定供給及び計画値入率の実現がいずれも達成できていないことから,フードスタイル店舗の収支改善や原告の損益の黒字化の達成が困難な状況にあるとし,本件フードスタイル事業について,過去の精算を行った上で,平成19年1月以降に撤退に向けた取り組みをするべきであるとの意見とともに,原告から求められている上記損害の負担について割合的に応じる旨の意見を記載した報告書を提出した。エーエム・ピーエムは,同年2月16日,本社事務所において,原告に対する支援の可否に係る会議を行い,原告に対する支援を行うことを決定するとともに,本件フードスタイル事業からの撤退の可否について,関東地域における実験店の成果を2か月程度見た上で最終的な意思決定をするよう決定した。(甲16,24,乙44,60,証人C)
(ウ) エーエム・ピーエムは,平成19年2月28日,原告に対し,上記(イ)の原告の提案について,平成18年4月以降に発生した広告宣伝費については5割を,c店及びb店の賃貸借解約費用及び撤去費用については6割を,e店の賃貸借解約費用及び撤去費用については4割を,c店及びe店の内外装残存簿価額については前者の6割と後者の4割を,c店,b店及びe店の原告が負担するリース残額については前2者の6割と後者の4割を,b店の内装残存簿価額については6割を,平成18年4月から8月に発生した店舗再計営業損益の損失額から200万円を控除した金額の8割を,同年9月から12月までの店舗営業計画における営業利益と実際の営業利益との差額から253万1000円を控除した金額の7割を,平成19年1月から6月までの計画値入率と実績値入率との差額の10割をそれぞれエーエム・ピーエムが負担することとし,同負担部分から算定した上記各費用のうち合計9420万5000円を同年7月31日から12月28日までの間に分割支払又は商品代金と相殺する方法により提供することとし,今後一切の精算及び支援を行わない旨明記した同年2月28日付け「広島FS事業に関する合意書」(甲11)を起案した上で提案し,原告もこれに承諾したことから,上記合意書による合意がされた。エーエム・ピーエムは,原告に対し,同合意書に基づき,平成19年8月末日から同年12月末日までの間,予測値入率と実績値入率との差額の支払をしたほか,平成20年1月から6月までも値入差額補填金として,予測値入率と実績値入率との差額を支払った。(甲11,乙43の1~11,乙60,証人C)
ウ エーエム・ピーエムの原告に対する本件FC契約の解約の申入れ
(ア) エーエム・ピーエムは,平成19年3月9日,本社事務所において,広島地域における本件フードスタイル事業継続の可否について会議をし,同会議において広島地域において日販40万円,値入率26%で30店舗開店すれば収支が合うとの計算結果を基礎に,広島地域においても本件フードスタイル事業を継続する可能性があるとの意見が出され,改めて本件フードスタイル事業を検証した上で同年4月に同事業の撤退の可否について結論を出す旨決定した。エーエム・ピーエムは,同年5月16日,本社事務所において,本件フードスタイル事業の撤退の可否についての会議をし,本件フードスタイル事業から撤退することを前提に円滑に撤退できる計画案を策定することを決定したが,出席者からは,広島地域において,原告がフードスタイル店舗数を増加させている現状があることに考慮するよう指摘もされた。
エーエム・ピーエムは,同月24日,原告との間で会議をし,原告に対し,社内決定前であるものの,月内にはエーエム・ピーエム東京本部がフードスタイル事業を凍結する決定をする旨を伝え,原告との間で本件フードスタイル事業の将来について改めて協議を行うことを提案した。Dは,エーエム・ピーエムに対し,東京本部におけるフードスタイル事業の撤退により本件フードスタイル事業が事実上継続できなくなるとして,原告が事業全体で被った損害の負担について協議する必要があることを伝え,さらに,加盟金の返還や閉店店舗の残債務の精算等といった問題があることを伝え,エーエム・ピーエムのフードスタイル事業本部長が,Dに対し,エーエム・ピーエム広島支店を中心にフードスタイル店舗の独自運営が可能となる方策を検討しているほか,他のチェーンへの移管についても検討している旨伝えた。また,Cは,Dに対し,エーエム・ピーエムが原告に加盟金を返還した上で広島においてエーエム・ピーエムが再展開する場合には優先交渉権を付与するなどの条件付合意解約付き和解をするなど,原告が事業継続するできる体制を構築できるようにすることを提案し,同事業本部長は,同年7月以降の原告に対する支援策として計画値入率(26%)と実績値入率との差額をロイヤルティーの減額等により補う方策を示した。(甲19の2,乙45,46)
(イ) エーエム・ピーエムは,平成19年7月11日,エーエム・ピーエム本社の会議において,関東地域におけるフードスタイル事業の撤退,広島地域におけるフードスタイル事業の継続,関東及び広島地域において撤退をした場合のリスク総額の算定を決定した。原告は,同年8月4日及び同月9日,エーエム・ピーエムに対し,広島地域におけるフードスタイル事業の継続をする明確な回答を求めるとともに,本件フードスタイル事業への支援の継続を依頼する要望書を送付した。エーエム・ピーエムは,同年7月から平成20年5月までの間,設定された計画値入率27%と実績値入率との差額を補填のため支払った。また,エーエム・ピーエムは,平成19年4月から平成22年4月までの間,3000種類以上の商品をフードスタイル店舗に提供していたが,その商品仕入れ先への説明会や基本契約締結の支援等を行い,新商品候補の通知等を行い,平成20年1月25日,関東地域で使用されていた事業説明資料を参考にして,広島地域における本件フードスタイル事業の事業説明資料を作成して原告に交付したほか,同年6月11日には,本件フードスタイル事業のため,広島地域のフードスタイル店舗で販売を検討するため商品の案内等を送付するなどしていた。(甲20,25,乙24,35ないし41(枝番を含む。),42,43の1~11,同47,60)
(ウ) 原告は,平成20年4月21日,エーエム・ピーエムに対し,同年6月にd店を,同年7月にh店を,同年8月にg店を,同年9月にa店を,同年10月にf店をそれぞれ10月頃までに原告の展開するモラドール事業に移行する計画を了承するよう求め,その中で新事業に移行した後もエーエム・ピーエムのインフラを継続使用できるようにすること,原告が平成19年5月頃から始めた生鮮三品を中心とするミニスーパーマーケット業態の店舗「モラドール」を展開する事業(以下「モラドール事業」という。)の事業基盤が確立するまでの間,エーエム・ピーエムからの経営指導の指導,協力を得られるよう申入れがされた。(乙48)
(エ) エーエム・ピーエムは,平成20年5月10日発行の経済雑誌において,平成19年度の決算において120億円の特別損失を計上したことが報道された。原告は,同年7月10日,エーエム・ピーエムに対し,平成19年度の決済の結果,エーエム・ピーエムからの支援により原告の本件フードスタイル事業が黒字化したものの,平成20年度は赤字が続き売上向上と損失削減に向けて努力をすること,今後フードスタイル店舗の展開を予定していること,今後も支援を継続することを希望し,具体的にはロイヤルティー料の減額,社員派遣料の免除,営業時間の変更,値入率補てんの継続を希望した。エーエム・ピーエムは,同月11日,白菱の本社事務所において原告との間で会議を開き,原告の要望に対し,あくまでも本件FC契約を合意解約により将来解消することを前提に,当面は原状の基準を維持しながら,最低限度の人員を配置し,原告及びエーエム・ピーエムのコストを減らすべく努力するべきであると回答した。エーエム・ピーエムは,同年8月4日の社内会議において,本件FC契約について,営業支援金の名目でロイヤルティー相当額を原告に支払うこと,原告への一部業務移管,エーエム・ピーエム広島支店の人員削減,原告の店舗の営業時間の変更を決議し,同月6日,原告に対し,その要望に対する回答として,本件フランチャイズ事業を原告が独自運営化することを前提に,ロイヤルティー相当額の支援,2名に減員した上で社員派遣料の免除ができる旨伝え,合意解約後の独自事業化までの期間について平成21年6月末頃とすることを内容とする協議がされたほか,「値入率支援を含む今後一切の精算及び支援を行わない。」とする文言についてもその要否が協議されたが,最終的には維持する方向で原告が検討することとなった。(乙49ないし54,60,証人D,証人C)
(オ) 原告は,平成20年8月19日,エーエム・ピーエムとの間で,同日付け覚書をもって,本件FC契約について合意解約することを前提に平成20年9月1日から平成21年6月末日までの期間について,ロイヤルティー料相当額の支援金の支払を約し,これとロイヤルティー料を相殺すること,エーエム・ピーエムが2名の人材を月10万円で派遣すること,店舗営業時間を変更できる定めを置くこと,エーエム・ピーエムは原告に対し,値入差額支援を含む一切の精算及び支援を行わないこと,本合意は本件FC契約の合意解約を前提とし,合意解約内容については別途協議して定めることをそれぞれ合意した。同覚書に基づいて,エーエム・ピーエムは,原告に対する業務支援を続け,人材派遣業務等に対応するよう,広島支店の人員を3名態勢に変更した。(甲12,乙42)
(カ) 原告は,平成21年1月29日,白菱の本社事務所において,エーエム・ピーエムと協議をし,平成23年9月まで本件FC契約を継続すること,原告の経営を成り立たせるため,平成21年4月以降モラドール事業を原告が行うこと,d店及びh店をモラドール店舗に移行すること,a店,f店及びg店は平成23年9月までフードスタイル店舗として経営することを要望し,エーエム・ピーエムは,リース契約関係の明確化,平成21年6月までにフードスタイル店舗の全店をモラドール店舗にし,原告に業務移管すること,これらのことをした上で本件FC契約を対外的に存続させる措置をとすることを要望すると回答し,また,同交渉において,原告からエーエム・ピーエムに対して加盟金5000万円の返還をするよう要望したが,エーエム・ピーエムは同返還ができないとして,これを拒絶した。原告は,同年2月頃,エーエム・ピーエムが被告以外のコンビニエンス・ストアチェーン会社から買収される報道がされたことに伴い,同月26日,白菱の本社事務所においてエーエム・ピーエムと会談をし,エーエム・ピーエムに対し,本件FC契約が維持されるよう措置やその権利保障を明確することを要望した。(乙55,56,60)
(キ) 原告は,平成21年4月23日,エーエム・ピーエムとの間で,本件合意解約書をもって,本件FC契約を平成22年4月末日に合意解約すること,エーエム・ピーエムは同日までにフードスタイル店舗をモラドール店舗に切り替えることを条件に同切替えに同意し,原告は同日までに自己の責任でフードスタイル店舗を独自運営店舗に移管すること,原告はエーエム・ピーエムから青果の商品供給業務を引き継ぎ,原告の責任で商品供給すること,原告は独自運営店舗においての運営のすべてを原告の責任で行うこと,原告は,平成21年7月1日以降,エーエム・ピーエムからフードスタイル店舗の商品案内等業務の移管を受けること,本合意書締結によるフードスタイル店舗の減少に伴う商流,物流変化による影響について,原告がエーエム・ピーエムの責任を問わないこと,平成22年4月末日までロイヤルティー相当額の支援を継続すること,平成21年6月30日までエーエム・ピーエムの原告に対する2名の人材派遣態勢を維持し,同年7月1日から平成22年4月末日まで1名の人材を月5万円で派遣することを内容とする合意をした。(甲13,乙60。以下「本件合意解約」という。)
エ 原告とエーエム・ピーエムの合意解約後の交渉
(ア) エーエム・ピーエムは,本件合意解約に基づきロイヤルティー料と同料相当額の支援金を相殺処理し,原告に対する人材派遣を継続し(平成21年7月に広島支店が2名態勢に変更された。),原告は,同年7月1日にd店をモラドール店舗に移行し,平成22年3月29日にa店を,同年4月5日にf店を,同月14日にg店をモラドール店舗に移行した。上記各店舗においては,店舗建物の造作や内装設備はモラドール店舗に承継されて継続利用されていた。原告は,平成21年12月14日,エーエム・ピーエムに対し,合意解約に伴い加盟金5000万円の返還及び損害金の精算を要望しており,これらについての協議を行うことを求める協議申入書を送付したが,エーエム・ピーエムは,加盟金の返還義務はないとして同返還に係る協議には応じられない旨回答し,合意解約の手続についてのみ協議に応じる旨回答した。(甲21,乙42,57,60)
(イ) 被告は,平成21年12月頃,エーエム・ピーエムの全株式を取得する形で完全子会社とし,平成22年3月1日,エーエム・ピーエムを吸収合併した。原告は,平成23年2月23日,本件合意解約に伴い閉店(移行)した4店舗の損害,その他の店舗に係る損害のうち賠償されていない部分の賠償及び加盟金の返還を求めて,本件訴えを提起した。(乙42)
(2) エーエム・ピーエムの原告に対する助言指導義務
ア 原告は,エーエム・ピーエムが本件FC契約に基づいてエリアFC店舗の立地診断,店舗開発システムに関する助言及び指導義務を負担するところ,同義務によれば原告に対して客観的かつ的確な売上予測を提供する義務を負担していたとし,にもかかわからず本件フードスタイル事業に係る各店舗の計画日販が実績日販と大きく異なっていたことが,原に対する上記助言指導義務に違反している旨主張する。
イ 確かに,前記(1)ア(ウ)及び(オ)に判示の各事実によれば,エーエム・ピーエムが原告にa店,b店,c店の日販予測を提供し,原告が同日販予測を前提に事業計画を建てていたこと,上記各店舗開店後の実績日販は,a店が約64.8%,b店が約62.2%であったものの,c店は約35.4%にとどまったほか,その他の2店舗(d店,e店)においても,その実績日販は計画日販の約79.5%及び約53.8%にとどまったことが認められ,前記(1)イ(ア)に判示の事実によれば,エーエム・ピーエム自体,本件フードスタイル事業の業績不振の原因分析において日販予測システムの精度不足を挙げていることが認められる。
しかしながら,開店前に売上及び収益の予測を行うべく,1日当たりの販売予測を行う手法は,飽くまでも予測に過ぎないものであり,実績売上や収益がこれに至らなかったことから直ちに助言指導義務違反があったということはできない。そして,販売予測の手法については,既存のフランチャイズ店舗の実績,類似の環境にある既存店舗の実績,候補店舗の商圏範囲,候補店舗付近の居住者等といった客観的事実を基礎にして算出されるが,個々のフランチャイズや店舗,業態等によって多種多様であることから,販売予測の手法として何が最良のものであるか否かについて,定型的な手法が確立しているということはできないのであり,そうすると,最良の方法以外の手法をもって算出された売上及び収益予測を提供したとしても,そのことから助言指導義務があったということもできない。
また,前記(1)ア(ア)及び(イ)に判示のとおり,エーエム・ピーエムが原告又は白菱との間で本件フードスタイル事業に係る事業展開を行うべく,本件FC契約締結の交渉を開始した平成17年5月当時,フードスタイル事業は,エーエム・ピーエムのコンビニエンス・ストア事業と異なり,業態が確立されておらず,同年1月頃に新規事業プロジェクトとして開始し,同年3月に1号店が開店したばかりの新しい事業であり,原告及び白菱は,これらの事実を認識した上で,新業態の将来性を有望視し,原告又は白菱とエーエム・ピーエムとが協力して業態確立を行いながら,広島地域においてフードスタイル店舗を展開することを前提に本件FC契約が締結されたものであり,その立地診断システムも既存店舗の実績及び従来のコンビニエンス・ストアの情報を基礎に作成された簡易的な代替手段としてのシステムであり,一般的な立地診断システムと比較して予測値と実績値に乖離が生じる可能性が高いことについて説明を受けていたと認められる。
このような業態を確立する段階にある新しい業態の店舗に係る売上及び収益予測の手法は,フランチャイズ自体が確立されておらず,店舗展開も限定的にしかされていないのであって,既存店舗数が少なく,その展開地域も限定されることにより,類似店舗環境の実績値の種類も不足し,実績を蓄積する期間自体も不足するなど,その立地診断システムに一定の不確実性があることは性質上やむを得ないものといえ,前記(1)ア(イ)に判示のとおり,原告が白菱との間の基本合意に基づいて白菱の事業活動の一環として,上記不確実性を認識した上で本件FC契約締結に及んだこと,エーエム・ピーエムが本件FC契約において負担する義務は,立地診断システムに係る助言指導義務にとどまり,同契約上は,立地診断システムを用いた立地診断自体はエリア・フランチャイザーである原告の行う業務であったことも考慮すれば,エーエム・ピーエムから原告に簡易な立地診断システムによって提供された予測値が上記のような不確実性を内含するものであり,実際にその予測値と実績値との間に大きな乖離が生じたとしても,同立地診断システムが不相当,不合理な手法によって予測値を提供しているものでなければ,その助言指導義務に違反したということはできない。
そして,前記(1)ア(ア)及び(ウ)に判示の事実によれば,エーエム・ピーエムが原告に提供した立地診断システムに基づく日販予測や候補店舗の建築与件等の基準に係る情報は,平成18年3月当時にエーエム・ピーエムが保有していたフードスタイル店舗の実績はもちろん,上記事情により不足する実績情報を補うべく,既存のコンビニエンス・ストア店舗に係るフランチャイズシステムにおいて蓄積した情報を参考として加味して構築したものであり,当時エーエム・ピーエムが保有していた情報を合理的に組み合わせて構築したものといえるし,また,原告は,候補店舗に係る建築与件等の基準と比較するための基礎情報の調査収集を行ったほか,実験的な出店として店舗環境の異なる3店舗(a店,b店,c店)の先行的出店に同意するなど,その立地診断システムの確立のためにもエーエム・ピーエムと協働関係にあったといえ,そもそも未確立な立地診断システムが提供されることが当事者間では前提事実となっていたといえ,このことは,平成18年中に出店された3店舗(d店,e店,f店)についても,同様であり,原告は,その不確実性等を認識した上で上記3店舗に係る出店判断に至ったものと認められる。
以上の事実を総合すれば,エーエム・ピーエムが,平成18年の本件フードスタイル事業開始時点に,原告に対して提供した簡易な立地診断システムが不相当ないし不合理であったということはできず,同立地診断システムにより算出された日販予測や当該候補店舗に係る建築与件等の基準に係る情報を提供したことをもって,エーエム・ピーエムの原告に対する助言指導義務に違反したということはできない。
ウ これに対し,原告は,エーエム・ピーエムがフードスタイル事業に係る日販予測システムを修正しなかったことをもって,原告に対する助言指導義務に違反していると主張し,確かに,前記(1)イ(ア)に判示の各事実によれば,エーエム・ピーエムは,平成18年9月6日の協議において,立地システムの評価見直しをすることを提案していたことが認められ,にもかかわらず,証拠(証人C)によれば,エーエム・ピーエムは本件合意解約に至るまでの間,本件フードスタイル事業に係る日販予測システムを修正しなかったことが認められる。
しかし,前記(1)イ(イ)に判示の各事実によれば,エーエム・ピーエムにおいては,平成18年12月20日頃の時点において,広島地域における本件フードスタイル事業の業態確立ができていないことやエーエム・ピーエムの担当業務である商品の安定供給や計画値入率の達成ができていないとし,平成19年1月以降,本件フードスタイル事業から撤退することも考慮に入れた対応を検討することとなり,前記(1)ウ(ア)及び(イ)に判示の各事実によれば,エーエム・ピーエムは,同年5月24日以降,エーエム・ピーエムが関東地域におけるフードスタイル事業から撤退することを前提に,原告との間で,本件フードスタイル事業を継続するか撤退するかについて協議を継続したのであり,これらの事情を考慮すると,エーエム・ピーエムでは,遅くとも平成18年12月頃には,本件フードスタイル事業から撤退する可能性があることを前提に,それ以前の計画とは別途の対応を検討していたものであり,平成19年5月24日以降は,原告に対し,そのような検討をしていることを前提に対応していたといえ,そうすると,平成18年9月時点において原告に提案された立地診断システムの修正等の作業が本件合意解約までの間にされなかったことから,直ちにエーエム・ピーエムが原告に対する助言指導義務に違反したということはできない。
そして,証拠(乙58ないし60,証人D,証人C)によれば,エーエム・ピーエムは,g店の出店については,既存の立地診断システムをもってしても立地条件の劣悪さを指摘した上で,出店不適格の物件であるとの回答をし,そのような立地診断の結果を前提にした上で原告が出店をする旨の判断をしたこと,h店についても,立地診断システムにより算出された日販予測について,原告から,原告の社内決裁のために,参考値として,上方修正した数値を提供する申入れがされ,同申入れに応じて提供された数値が修正された日販予測であったことが認められ,そうすると,上記2店舗に係る立地診断システムを用いた日販予測等の立地診断の結果の提供について,その内容が不正確であることを理由に,義務違反があったということはできない。
そうすると,エーエム・ピーエムにおいて,g店及びh店の出店について,従来の立地診断システムを用いた結果を提供したことをもって,その助言指導義務違反があったと認めることはできない。
エ したがって,エーエム・ピーエムが本件FC契約に基づいて原告に提供した各店舗の計画日販について,原告に対する助言指導義務に違反していたと認めることはできない。
2 争点(2)(エーエム・ピーエムの原告に対する商品選定,品揃え,新製品の開発が不十分であったことによる経営指導及び技術指導義務違反の有無)について
(1) 原告は,エーエム・ピーエムが,本件FC契約9条5号によりノウハウを提供し,研修指導を行う義務を負担していたにもかかわらず,同義務が履行されず,また,本件FC契約9条7号により負担する経営指導,技術指導義務について,本件フードスタイル事業に係るフードスタイル店舗においては,加工食品,デイリー商品,菓子,雑貨について多くの欠品が発生し,原告等が発注しても商品が揃わず,同義務が履行されなかった旨主張し,証拠(甲14,24)には,原告の本件フードスタイル事業の業績不振の原因として,エーエム・ピーエム社内の情報伝達の不備,広島地域の担当者の不足,広島地域向けの商品導入等が挙げられている。
(2) しかしながら,前記1(1)ア(エ)に判示の認定事実によれば,エーエム・ピーエムは,本件フードスタイル事業に係る開店準備のため,エーエム・ピーエムにおいて作成等した店舗使用基準,店舗レイアウトの提供,什器仕様の提供,研修教材,ノウハウ・マニュアル等の提供を行ったと認められ,更に上記各店舗の開店準備のほか,経営に係る助言等を行うため,エーエム・ピーエム広島支店を設置し,同支部にCを配置し,原告に対する助言指導等を行っていたのであり,前記1(1)ア(エ),同ウ(イ)の事実によれば,エーエム・ピーエムは,原告に対し,フードスタイル店舗における商品選定や品揃えについて確保するため,平成18年3月当時の関東地域におけるフードスタイル店舗の取扱商品一覧を提供したほか,広島地域における仕入先の紹介,同仕入先との間の契約等の支援,仕入発注システムの提供等を行ったほか,平成22年頃に至るまで,フードスタイル店舗における商品陳列等を行うに足りる商品等の仕入先の確保等を行い,新商品候補に係る通知等を行っていたと認められる。
また,エーエム・ピーエムは,原告に対する上記各業務を行うべく,前記1(1)ア(イ),同ウ(オ)及び同エ(ア)に判示のとおり,エーエム・ピーエム広島支部の人員を増減させ,これに対応させていたことが認められる。
他方,原告の本件フードスタイル事業に係る業績不振の原因として,エーエム・ピーエムにおける情報伝達やその商品の品揃え等の不備があったことについて指摘する提案書(甲14)や報告書(甲24)が存在しているが,証拠(乙60,証人C)によれば,上記提案書における情報伝達の不備,担当者不足,商品導入の不備は,いずれも整備等を行いながら不十分であるといえる点を指摘したものであると認められ,また,報告書(甲24)における商品の安定供給等の不備については,業績自体に影響が生じるような欠品等が生じたことを報告する内容ではなく,誤記の疑いもあることが認められ,そうすると,これらの証拠から,原告の業績不振の直接の原因となるような情報伝達態勢や商品流通等に係る態勢に不備があったと認めることはできず,他方,エーエム・ピーエムのノウハウ提供,研修指導のほか,情報伝達態勢や商品流通態勢について,特定の不備が存在し,同不備によって原告の業績不振が引き起こされたことを指摘する具体的事実の主張はなく,また,そのような事実があったことを認めるに足りる証拠もない。
(3) したがって,エーエム・ピーエムの原告に対する商品選定,品揃え,新製品の開発に係る経営指導義務及び技術指導義務違反があったと認めることはできない。
3 争点(3)(被告の本件フードスタイル事業撤退によるエーエム・ピーエムの継続的に行う業務の債務不履行の有無)について
(1) 原告は,平成19年7月頃,エーエム・ピーエムが本件フードスタイル事業から東京本部を撤退させたことから,本件フードスタイル事業に基づく業務を継続することが不可能になり,また,平成20年5月頃には,エーエム・ピーエムが120億円の特別損失を被ったとの報道により,信用不安が広がり,エーエム・ピーエムの名称による事業展開が困難になった事に加え,同年9月には,エーエム・ピーエムの親会社がエーエム・ピーエムを売却する旨の報道し,平成21年2月に,コンビニエンス・ストアチェーン会社がエーエム・ピーエムを買収すると発表するなどしたことから,同月頃には,エーエム・ピーエムが本件フードスタイル事業を断念せざるを得ない状況に陥っていたのであり,原告に対して継続的に助言指導義務を履行できない状況に陥っていたものと認められる旨主張する。
(2) 確かに,前記1(1)ウ(イ),(エ)及び(カ)によれば,エーエム・ピーエムが平成19年7月11日にフードスタイル事業の関東地域からの撤退,平成20年5月の特別喪失に係る報道,その後のエーエム・ピーエムの売却,買収等に係る発表の事実が認められる。
しかしながら,前記1(1)ウ(ア)ないし(キ)に判示した各事実によれば,エーエム・ピーエムは,平成19年5月24日には原告に対して関東地域からのフードスタイル事業の撤退意向を原告に伝えるとともに,同日以降,原告との間で,本件フードスタイル事業の将来に係る協議を重ね,その交渉過程においては,当然に本件フードスタイル事業からエーエム・ピーエムが撤退することが前提となっていたものではなく,仮にエーエム・ピーエムが本件フードスタイル事業から撤退することとなっても,フードスタイル店舗等を原告(又は白菱)が新業態であるモラドール店舗として展開する事業を存続するか,又は本件フードスタイル事業を原告が独自運営し,フードスタイル店舗の経営を継続するか等の協議がされていたものと認められ,実際にエーエム・ピーエムが本件フードスタイル事業から撤退し,原告に対する本件FC契約に定められた義務の履行を行わなくなったのは,平成21年4月23日の合意解約から1年2か月が経過した平成22年6月30日以降であったといえ,同日が本件フードスタイル事業の撤退に係る協議が開始された時点から約3年間が経過し,原告がエーエム・ピーエムの履行不能時期であると主張する平成21年2月頃からも1年4月が経過していたこと,上記年月日自体,本件合意解約によって原告からの同意を得て定められた年月日であり,既にエーエム・ピーエムの買収等に係る報道等がされた後であったことを考慮すれば,少なくとも,平成21年2月の時点において,エーエム・ピーエムが客観的に本件フードスタイル事業を継続できない履行不能の状態に陥っていたと認めることはできない。
したがって,エーエムが平成21年2月の時点で原告に対する助言指導義務を継続的に履行することができない履行不能に陥っていたと認めることはできない。
4 以上からすれば,その余の争点を判断するまでもなく,原告の被告に対する本件FC契約の債務不履行を理由にその損害の賠償を求めることはできないことは明らかである。
これに対し,原告は,本件FC契約について,短期間で事業が継続できなくなるにもかかわらず,加盟金5000万円を支払わせたことが信義誠実の原則に違反するとか,本件合意解約においても加盟金5000万円の返還が提案され,加盟金の返還を前提に本件合意解約がされたなどと主張する。
しかしながら,前記1(1)に判示のとおり,原告は,フードスタイル事業が業態確立していない段階であることを前提に本件FC契約を締結し,加盟金支払に係る明確な条項が存在すること,エーエム・ピーエムの原告に対する業務の内容がノウハウ等の提供及び助言指導が中心であって,これらの情報等の提供等が契約開始時期にある程度集中して提供され,その後の契約期間においては,持続的に一定の業務が提供されるにとどまること,原告は,エーエム・ピーエムに対して加盟金を契約時に支払うほか,ロイヤルティーを業務提供の対価として支払う内容となっていることからすれば,仮に本件FC契約における契約期間(9年9月)が経過する前の平成22年6月末日で終了したとしても,(エ)エーエム・ピーエムが契約残期間等に比例した加盟金の返還をしなければならない義務が性質上当然に発生するものということはできず,エーエム・ピーエムが原告に対して本件フードスタイル事業を原告の独自事業として継続することができるよう,相応の支援を相当期間にわたり継続していたことや,フードスタイル店舗を新業態のモラドール店舗に移行し,その内外装等の流用も承諾していたことなども考慮すると,加盟金の返還をしなかったことが信義誠実の原則に反するということはできず,他に同事情を認めるに足りる証拠もない。
また,前記1(1)ウ(カ)に判示の事実によれば,エーエム・ピーエムは,遅くとも平成21年1月29日までには,本件合意解約に当たり,本件FC契約に係る加盟金を原告に返還することはできない旨明確に回答していたと認められ,加盟金の返還の有無が本件合意解約の効力自体に影響を与えるということもできず,他に本件合意解約の効力を左右するような事情を認めるに足りる証拠もない。
5 よって,原告の請求は,理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判官 小島清二)
〈以下省略〉
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