
「営業代行」に関する裁判例(23)平成25年 2月12日 東京地裁 平23(ワ)2279号 違約金請求事件
「営業代行」に関する裁判例(23)平成25年 2月12日 東京地裁 平23(ワ)2279号 違約金請求事件
裁判年月日 平成25年 2月12日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平23(ワ)2279号
事件名 違約金請求事件
文献番号 2013WLJPCA02128010
東京都中央区〈以下省略〉
原告 ビ・ハイア株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 和田慎一郎
東京都文京区〈以下省略〉
被告 株式会社ゼロシステム
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 北村聡子
主文
1 被告は,原告に対し,金244万1250円及びこれに対する平成22年10月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
主文同旨
2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第2 事案の概要
本件は,原告が,被告が原被告間の業務委託契約を一方的に解約したと主張して約定による違約金244万1250円及びこれに対する解約月末日(約定による違約金の弁済期)の翌日である平成22年10月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求め,これに対し,被告が,原告の債務不履行により上記契約を解除したのであるから違約金支払義務を負わないなどと主張して請求棄却の判決を求めた事案である。
1 基本的事実(以下の事実は,証拠等を掲げた箇所を除き当事者間に争いがない事実か,弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実か,当裁判所に顕著な事実である。)
(1) 原告は,アニメ業界,漫画業界及びゲーム業界に特化した求人サイト,営業サポート等を主たる業務とする株式会社である。
(2) 被告は,パソコンゲーム,プレイステーション用ゲーム,携帯電話ゲームの開発,販売等を業とする株式会社である。
(3) 原告と被告は,平成22年3月23日,原告が運営する「aサービス」と称するサービス(以下「本件サービス」という。)を提供し,これに対して被告が手数料を支払うことを内容とする業務委託契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
ア 契約期間 平成22年4月1日から3年間
イ 手数料 毎月7万8750円(消費税を含む。)
ウ 支払方法 当月分を前月末日限り支払う。
(4) 被告は,平成22年4月から同年8月まで,原告に対し,平成22年4月分から8月分までの本件契約の手数料として,合計39万3750円を支払った。
(5) 被告は,平成22年9月9日,原告に対し,「契約不履行」を理由に本件契約を解除する旨の記載がある「通告書」(甲5)を送付した。
(6) 被告は,原告に対し,平成23年9月26日の本件弁論準備手続期日において,原告の従業員らの説明義務違反の不法行為による民法715条に基づく損害賠償請求権(損害額283万5000円)をもって,原告の本訴請求権とその対当額において相殺するとの意思表示をした。
2 争点
原告に債務不履行があったことにより被告が本件契約を解除した場合,被告に違約金の支払義務がないことについては,当事者間に争いがない。
本件の主たる争点は,(1)原告の債務内容,(2)原告が債務の本旨に従った履行をしたか,(3)被告に要素の錯誤があったか,(4)被告に重過失があったか,(5)違約金額,(6)原告の従業員らに説明義務違反があったか,という点である。
(1) 争点(1)(原告の債務内容)について
(被告の主張)
ア 被告代表者は,「aサービス規約」と称する本件契約に係る規約(甲2。以下「本件規約」という。)について,その提示や内容の説明を受けた事実はなく,また,本件規約2条にあるような本件サービスについて詳細に記載した資料の提示を受けた事実もない(原告の専門求人事業部部長C(以下「C」という。)が被告代表者に送信した電子メール(甲1)には,本件規約及び本件サービスに関する資料(甲7。以下「本件資料」という。)の電子データが添付されている体裁となっているが,被告代表者は,当時使用していたメーラーのセキュリティのため添付ファイルを開けない状況にあり,上記電子データの内容を認識していなかった。)から,本件規約及び本件資料は原被告間の合意した契約内容ではない。
イ そして,原告の従業員らは,すぐに受注につながる具体的な仕事(発注案件)を紹介して欲しいと述べていた被告代表者及び被告の取締役D(以下「D」という。)に対し,下記(ア)ないし(ウ)のとおり,本件契約を締結すれば,1か月に2件以上の具体的な発注案件の紹介を受けることができる旨の説明を行い,被告は,かかる説明を受けて,月額7万8750円という高額の手数料を支払うことになる本件契約を締結したのであるから,本件契約における原告の債務内容(本件サービスの内容)は,被告に対し,具体的なゲーム開発等の仕事(発注案件)について発注先を探している企業を紹介し,被告と当該企業との商談を設定することであり,単なる人脈や将来の潜在的顧客拡大のための紹介及び面談設定はこれに含まれない。
(ア) Cは,平成22年3月上旬頃,被告を訪問し,被告代表者及びDに対し,勧誘資料を示しながら,本件サービスは具体的な開発等の仕事(発注案件)を紹介するシステムであり,原告が発注先の紹介依頼を受けている案件は発注時期等まで決まった具体的な案件ばかりであり,1か月に2件以上の具体的な発注案件を提案できるなどと説明した。
(イ) さらに,Cは,平成22年3月18日頃,再び被告を訪問し,上記(ア)と同様の説明をした。
(ウ) さらに,原告の専門求人事業部のE(以下「E」という。)は,平成22年3月23日,被告を訪問し,被告代表者及びDに対し,予算額,開発期間,開始時期,人月単価,ジャンルその他の具体的な仕事内容が記載された多数の具体的な発注案件リストの見本をスマートフォンの画面に表示させて示しながら,被告が希望する案件を指定すれば原告が当該案件の発注元企業名を開示し,発注元企業との商談を設定すること,これにより被告は1か月に2件以上の具体的な発注案件の紹介を受けることができることなどを説明した。
ウ また,本件資料に記載してある「新規案件」とは,その文言から常識的に解釈すれば,具体的な仕事の発注案件という意味である。
(原告の主張)
ア Cは,平成22年2月下旬ないし3月上旬頃,被告代表者から,電話で本件サービスへの加入を検討している旨を告げられたことから,同月11日,被告代表者に対し,本件規約及び本件資料の電子データを電子メールの添付ファイルとして送信した上,同月12日,被告代表者に対し,電子メールで本件サービスへの加入意思を確認し,これに対し,被告代表者は,同月23日,原告に対し,本件契約の申込みをしたのであるから,本件規約及びこれが引用する本件資料は本件契約の内容となっている。
イ そして,本件規約2条1号には,本件サービスの内容として,「乙(原告)がデータベースとして保持する顧客先リスト(略)を活用した,メール又は電話等による営業代行」と記載されているが,これは,原告が作成した「案件項目リスト」を,毎週,本件サービスに加入した企業に電子メールの添付ファイルとして送信し,加入企業が面談を希望した企業との面談を設定するサービスであり,同号による原告の債務の内容は,被告に対し,直ちに仕事を発注したいと考えている企業のみならず,直ちに仕事を発注したいと考えているわけではないが,将来的に仕事を発注したいと考えている企業,協力企業を探している企業,本件サービスに加入した企業が提案した企画等で良い企画があれば仕事を発注したいと考えている企業及び人脈の拡大を目的とする企業等の潜在顧客を紹介し,面談を設定することであり,直ちに仕事を発注したいと考えている企業との商談を設定することに限定されるものではない。
そもそも,原告の従業員らが本件契約締結前に被告に示した本件規約及び本件資料には,直ちに仕事を発注したいと考えている企業との商談を設定することが本件サービスの内容であることを示すような記載がない。
また,原告の従業員であるC及びEが,被告代表者やDに対し,本件サービスが直ちに仕事を発注したいと考えている企業のみを紹介するサービスである旨を説明したことはない。Cについては,平成22年3月上旬頃及び同年3月18日頃に被告を訪問したことすらなく,また,Eについても,被告を訪問したのは,被告代表者が本件契約の「御見積書兼申込書」(甲3)を送付した後である上,その際,Eは,被告代表者に対し,本件サービスの加入者に紹介する企業は,直ちに仕事を発注したいと考えている企業ばかりでなく,案件項目リストに記載されている案件には,協力企業を探している企業の紹介や将来的に仕事を発注したいと考えている企業の紹介も含まれていることを説明し,具体的な仕事内容が記載されていない案件が多数掲載してある案件項目リストを示している。
ウ さらに,「案件」とは,「問題となっている事柄」という意味にすぎない上,本件サービスは,本件資料に記載されているとおり,あくまでも「案件」を「発掘」するものであるから,直ちに仕事を発注したいと考えている企業との商談を設定することのみが本件サービスの内容であると考えることには無理がある。
(2) 争点(2)(原告が債務の本旨に従った履行をしたか)について
(原告の主張)
原告の債務内容は,被告に対して潜在顧客を紹介し面談を設定することであるところ,原告は,被告に対し,被告に仕事を発注する可能性のある潜在的顧客である企業を紹介し,そのうち13社と面談を設定しており,債務の本旨に従った履行をした。
(被告の主張)
原告の債務内容は,被告に対し,具体的な発注案件について発注先を探している企業を紹介し,被告と当該企業との商談を設定することであるところ,原告が被告に対して紹介した案件は,いずれも具体的な発注案件が存在しなかったのであるから,原告は債務の本旨に従った履行をしたとはいえない。
(3) 争点(3)(被告に要素の錯誤があったか)について
(被告の主張)
被告は,本件契約締結の際,真実は本件サービスの内容が具体的な仕事(発注案件)の紹介でなかったにもかかわらず,具体的な仕事(発注案件)の紹介であると誤信してこれを締結したのであるから,本件契約は要素の錯誤により無効である。
(原告の主張)
被告は,本件サービスが直ちに仕事を発注したいと考えている企業のみを紹介するサービスでないことを十分に認識しており,被告が錯誤に陥っていたという事実はない。
(4) 争点(4)(被告に重過失があったか)について
(原告の主張)
仮に,被告に要素の錯誤があったとしても,本件規約及び本件資料に被告を誤信させるような記載はなく,また,原告の従業員らが被告を誤信させるような説明をしたことはないから,被告には重過失があった。
(被告の主張)
被告の錯誤は,原告の担当者の被告を誤信させる説明及び勧誘資料によって生じたものであるから,被告に重過失はない。
(5) 争点(5)(違約金額)について
(原告の主張)
本件規約5条には,「甲(被告)が,業務委託手数料を分割で乙(原告)に支払っている場合であって,甲の都合(略)により,サービス業務を中途で解約し(略)た場合には,年間契約金額から既に甲から乙に対して支払われた金員を控除した残額を当該解約月末日までに乙に対して支払うものとする。」とあるところ,ここに「年間契約金額」とは,本件規約4条に「甲は契約時にいずれかのプランを年間契約として選択するものとし」とあり,1年契約のみならず,2年契約及び3年契約についても「年間契約」と表現していることからすれば,契約期間の業務委託手数料全額を意味するというべきである。
(被告の主張)
本件規約5条によれば,申込者が支払うべき違約金額は,「年間契約の金額から既に(略)支払われた金員を控除した残額」とされているから,年間金額すなわち1年分の契約金額から既払額を控除した差額であると解される。
したがって,仮に,被告が違約金の支払義務を負うとしても,その金額は,年間契約金額94万5000円と既払額39万3750円との差額である55万1250円を超えない。
(6) 争点(6)(原告の従業員らに説明義務違反があったか)について
(被告の主張)
仮に,原告の債務の内容が被告の主張と異なるのであれば,原告の従業員らは,信義則上の説明義務に違反して,被告代表者及びDに対し,本件サービスの内容について,潜在顧客の紹介である旨の説明をしなかったばかりか,前記のとおり,かえって具体的な仕事(発注案件)の紹介である旨の虚偽の説明をし,その旨誤信させる内容の勧誘資料を示して,被告をして,本件契約を締結すれば,1か月に2件以上の具体的な仕事(発注案件)の紹介を受けることができるものと誤信させ,本件契約を締結させ,本契約の手数料総額283万5000円と同額の損害を被らせたということになるから,原告は,被告に対し,説明義務違反の不法行為(民法715条・709条)に基づき,283万5000円の損害賠償債務を負う。
(原告の主張)
原告は,本件契約締結前に,本件契約について必要な情報が記載されていた本件規約及び本件資料を被告に送付しており,また,原告の従業員らが,被告代表者又はDに対し,本件サービスが直ちに仕事を発注したいと考えている企業のみを紹介するサービスである旨の説明したことはなく,かえって,本件サービスの加入者に紹介する企業は,直ちに仕事を発注したいと考えている企業ばかりでないことを説明しているから,原告の従業員らに説明義務違反はなく,不法行為責任を負うことはない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(原告の債務内容)について
(1) 証拠(甲1,2,7,乙9,被告代表本人)及び弁論の全趣旨によれば,被告代表者は,Cが平成22年3月11日午後6時40分頃に送信した電子メール本文の内容により,本件規約及びこれが引用する本件資料の存在を認識した上,本件契約を締結したことが認められ,かかる事実によれば,被告代表者は,本件規約及び本件資料の内容を具体的に認識していたか否かにかかわらず,原被告間にこれと異なる合意がなされたなどの特段の事情がない限り,本件規約及びこれが引用する本件資料を本件契約の内容とする意思で本件契約を締結したものというべきである。
(2) そこで,上記特段の事情の有無について検討する。
被告は,本件契約を締結すれば,1か月に2件以上の具体的な仕事(発注案件)の紹介を受けることができる旨の原告の従業員らの説明を受けて本件契約を締結したのであるから,本件契約に係る原告の債務内容(本件サービスの内容)は,被告に対し,具体的なゲーム開発等の仕事(発注案件)について発注先を探している企業を紹介し,被告と当該発注企業との商談を設定することであり,単なる人脈や将来の潜在的顧客拡大のための紹介及び面談設定はこれに含まれない旨主張し,被告代表者も同旨の陳述をする。
しかしながら,被告代表者の陳述を裏付ける的確な客観的証拠がないこと(なお,証拠(乙6)によれば,Cが平成22年8月14日に被告代表者及びDに対して送信した電子メールには,「案件」の定義に関して謝罪する内容の記載があるが,他方で,同時に,被告が考える「案件」の紹介とそのうち「案件」になりそうな企業の紹介を並行して提案できればと考えている旨の記載があることからすれば,Cは,被告が考える「案件」(具体的な発注案件)のみならず,そのうち具体的な発注案件になりそうな企業の紹介も本件サービスの内容であるとの認識を有していたものと認められるから,かかる電子メールの内容は,被告の上記主張を裏付けるものとはいえない。),Eが被告の主張事実と反対の事実を証言をしていること,被告は,Cが,平成22年3月上旬頃及び同月18日頃,被告を訪問し,上記のような説明したと主張するが,かかる事実を裏付ける的確な客観的証拠がないばかりか,証拠(甲12)によれば,被告代表者は,同月17日午後3時52分の電子で,Cに対し,打合せの日程調整を申し入れたこと,これを受けて,Cは,同月18日午後2時17分の電子メールで,被告代表者に対し,同月23日午後4時の訪問を申し入れたこと,これを受けて,被告代表者は,同月18日午後5時57分の電子メールで,Cに対し,上記申入れを受け入れたことが認められ,このようなやり取りが同月17日ないし同月18日にあったことからすれば,Cが同月18日頃に被告を訪問したものとは到底考え難いことを考慮すると,原告の従業員らが,本件サービスにつき,具体的な仕事(発注案件)の紹介を受けることができる旨の説明をした旨の被告代表者の陳述はたやすく採用することができず,他に原被告間に本件規約及びこれが引用する本件資料の内容と異なる合意がなされたなどの特段の事情があったものと認めるに足りる証拠はない。よって,被告の上記主張は採用することはできない。
(3) そして,証拠(甲2,7)及び弁論の全趣旨によれば,本件契約2条1号には,本件サービスの内容として,「乙(原告)がデータベースとして保持する顧客候補先リスト(略)を活用した,メール又は電話等による営業代行」と記載されていること,本件規約及び本件資料に,直ちに仕事を発注したいと考えている企業との商談を設定する債務を本件サービスの内容とする旨の記載がないことが認められ,これに証拠(甲2,7,10,11,証人E)及び弁論の全趣旨を併せ考慮すれば,本件サービスは,毎週,本件サービスに加入した企業に電子メールの添付ファイルとして送信し,加入企業が面談を希望した企業との面談を設定するサービスであり,原告の債務の内容は,被告に対し,直ちに仕事を発注したいと考えている企業のみならず,直ちに仕事を発注したいと考えているわけではないが,将来的に仕事を発注したいと考えている企業,協力企業を探している企業,本件サービスに加入した企業が提案した企画等で良い企画があれば仕事を発注したいと考えている企業及び人脈の拡大を目的とする企業等の潜在顧客を1か月につき平均2件以上紹介し,面談を設定することであり,直ちに仕事を発注したいと考えている企業との商談を設定することに限定されるものではないものと認められる。
(4) 被告は,本件資料に記載してある「新規案件」とは,その文言から常識的に解釈すれば,具体的な仕事の発注案件という意味である旨主張するが,この「案件」という文言は,マーケッティングにおけるいわゆる「営業案件」(opportunity)を意味するものと思料され,受注につながる機会という程度の意味しか認められないから,被告の上記主張は採用できない。
2 争点(2)(原告が債務の本旨に従った履行をしたか)について
証拠(甲4の1ないし24・26ないし28,10,11,乙3,4,5の1ないし7)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成22年4月1日から同年9月9日までの間に,被告に対し,少なくとも被告に仕事を発注する可能性のある企業(潜在的顧客)を13社を紹介し,面談を設定したことが認められるから,債務の本旨に従った履行をしたものといえる。
3 争点(3)(被告に要素の錯誤があったか)及び同(4)(被告に重過失があったか)について
被告は,本件契約締結の際,真実は本件サービスの内容が具体的な仕事(発注案件)の紹介でなかったにもかかわらず,具体的な仕事(発注案件)の紹介であると誤信してこれを締結した旨主張し,被告代表者は,同旨の陳述をする。
証拠(甲4の25,11,乙6,9,被告代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,本件サービスが,実際より容易に仕事の受注につながるものと期待していたことが認められるものの,しかしながら,他方で,前記のとおり,本件規約及び本件資料に,直ちに仕事を発注したいと考えている企業との商談を設定する債務を本件サービスの内容とする旨の記載がないこと,証拠(甲11,乙5の1ないし7,証人E,被告代表者本人)によれば,被告代表者は,毎週送付されてきた案件項目リストに「協力会社探し」及び「人脈作り」といった被告の認識では本件サービスの内容に該当しないものが記載されていることを認識しながら,平成22年7月1日まで,これに特段疑義を述べなかったことからすると,被告代表者において,内容が具体的な仕事(発注案件)の紹介のみが本件サービスの内容であると信じていたと認めるには疑問が残るものといわざるを得ず,他に,被告の上記主張を認めるに足りる証拠はない。
また,被告に錯誤があったとしても,本件規約及び本件資料に,直ちに仕事を発注したいと考えている企業との商談を設定する債務を本件サービスの内容とする旨の記載がないこと(仮に,被告において,本件契約締結前に本件規約及び本件資料の内容を確認していないとすれば,前記のとおり,被告代表者は,これらの存在を認識していたのであるから,それ自体重大な過失があったものと認められる。),原告の従業員らが被告を誤信させるような説明をしたものと認めるに足りる証拠がないことからすれば,それにもかかわらず,本件サービスの内容が具体的な仕事の紹介であると信じたことにつき,被告には重過失があったものと認められる。
4 争点(5)(違約金額)について
証拠(甲2)によれば,本件規約5条には,「甲(被告)が,業務委託手数料を分割で乙(原告)に支払っている場合であって,甲の都合(略)により,サービス業務を中途で解約し(略)た場合には,年間契約金額から既に甲から乙に対して支払われた金員を控除した残額を当該解約月末日までに乙に対して支払うものとする。」とあること,本件規約4条には,「甲は契約時にいずれかのプランを年間契約として選択するものとし」とあり,1年契約のみならず,2年契約及び3年契約についても「年間契約」と表現していることがそれぞれ認められ,これらの事実からすれば,上記5条の「年間契約金額」とは,契約期間の業務委託手数料全額を意味するものと解するのが相当であり,これに反する被告の主張は採用できない。
5 争点(6)(原告の従業員らに説明義務違反があったか)について
被告は,原告の従業員らは,被告代表者及びDに対し,本件サービスの内容について,潜在顧客の紹介である旨の説明をしなかった旨主張するが,かかる事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
かえって,証拠(甲1,7,10)及び弁論の全趣旨によれば,Cが本件契約締結前に被告代表者に送信した電子メールに添付してあった本件資料には,直ちに仕事を発注したいと考えている企業との商談を設定することを本件サービスの内容とする旨の記載がない上,本件資料の5頁及び6頁には,本件サービスが潜在顧客との出会いを作り,ビジネスチャンスを提供するものである旨の記載があるから,原告は,被告に対し,本件サービスの内容について,潜在顧客の紹介である旨の説明をしたものと認められる。
また,被告は,原告の従業員らが,被告代表者及びDに対し,本件サービスの内容について,具体的な仕事の紹介である旨の事実に反する説明をした旨主張するが,かかる事実を認めるに足りる証拠がないことは前記のとおりである。
さらに,被告は,原告の従業員らが,被告代表者及びDに対し,本件サービスの内容について,具体的な仕事の紹介である旨誤信させる内容の勧誘資料を示した旨主張し,証拠(甲7)によれば,本件資料の7頁には,「aサービス実績」として発注に至った事例が紹介されていることが認められるが,本件資料の5頁及び6頁には,前記のとおり,本件サービスが潜在顧客との出会いを作り,ビジネスチャンスを提供するものである旨が明記されているから,かかる事例の記載をもって,本件資料を具体的な仕事の紹介である旨誤信させる内容の勧誘資料ということはできず,他に,原告の従業員らが,被告代表者及びDに対し,本件サービスの内容について,具体的な仕事の紹介である旨誤信させる内容の勧誘資料を示したものと認めるに足りる証拠はない。
そうすると,原告の従業員らに説明義務違反があったものとは認められないから,不法行為の成立は認められず,被告による相殺の抗弁は採用できない。
6 結論
以上によれば,原告の本訴請求は理由があるから認容し,主文のとおり,判決する。
東京地方裁判所民事第10部
(裁判官 堀田匡)
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