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「営業会社 成功報酬」に関する裁判例(18)平成30年 6月 1日 東京地裁 平26(ワ)25640号 商標権侵害差止等請求事件、虚偽事実告知・流布行為差止等請求事件

「営業会社 成功報酬」に関する裁判例(18)平成30年 6月 1日 東京地裁 平26(ワ)25640号 商標権侵害差止等請求事件、虚偽事実告知・流布行為差止等請求事件

裁判年月日  平成30年 6月 1日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平26(ワ)25640号・平27(ワ)10995号
事件名  商標権侵害差止等請求事件、虚偽事実告知・流布行為差止等請求事件
裁判結果  一部認容(甲事件)、一部認容(乙事件)  文献番号  2018WLJPCA06019006

事案の概要
◇個人の誕生年月日に基づいて個性を分析するという考え方を用い、カウンセリング、講座の運営等及び関連業務を業とし、競業関係にある原被告間において、原告商標権を有し、原告各著作物の著作権及び著作者人格権、並びに12動物60種類の動物キャラクターの名称の編集著作物の著作権を有する原告Xが、被告らに対し、商標権侵害、及び著作権侵害を主張して差止め等及び損害賠償を求めた(甲事件)のに対し、乙事件原告ら(甲事件被告ら)は、原告らが被告各標章の使用は、原告商標権を侵害する行為であるなどの虚偽事実の告知又は流布をしたことが不正競争防止行為に当たると主張して、その差止め等及び損害賠償を求めた(乙事件)事案

出典
裁判所ウェブサイト

裁判年月日  平成30年 6月 1日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平26(ワ)25640号・平27(ワ)10995号
事件名  商標権侵害差止等請求事件、虚偽事実告知・流布行為差止等請求事件
裁判結果  一部認容(甲事件)、一部認容(乙事件)  文献番号  2018WLJPCA06019006

甲事件原告・乙事件被告 X
(以下「原告X」という。)
甲事件原告・乙事件被告 株式会社個性心理學研究所
(以下「原告会社」といい,原告Xと併せて「原告ら」という。)
原告ら訴訟代理人弁護士 窪田英一郎
乾裕介
今井優仁
中岡起代子
甲事件被告・乙事件原告 一般社団法人ISD個性心理学協会
(以下「被告協会」という。)
甲事件被告・乙事件原告 株式会社ISDエデュケイションズ
(以下「被告エデュケイションズ」という。)
乙事件原告 株式会社アイエスディーマネージメント
(以下「乙事件原告マネージメント」といい,被告協会,被告エデュケイションズと併せて「乙事件原告ら」という。)
甲事件被告 Y1
(以下「被告Y1」という。)
甲事件被告 Y2
(以下「被告Y2」といい,被告協会,被告エデュケイションズ,被告Y1と併せて「被告ら」という。)
上記5名訴訟代理人弁護士 飯田圭
外村玲子
佐竹勝一

 

主文

1 被告協会及び被告エデュケイションズは,別紙被告物件目録記載1のテキストを複製又は譲渡してはならない。
2 被告協会及び被告エデュケイションズは,別紙被告物件目録記載2のレポートを複製,譲渡又は公衆送信(送信可能化を含む。)してはならない。
3 被告協会は,別紙被告物件目録記載1のテキストを廃棄せよ。
4 被告協会及び被告エデュケイションズは,別紙被告物件目録記載2のレポートを廃棄せよ。
5 被告協会及び被告エデュケイションズは,別紙被告物件目録記載2のレポートを格納したCD-ROM等の記録媒体を廃棄し,又はこれらの記録媒体から同レポートの記録内容を消去せよ。
6 被告協会,被告エデュケイションズ及び被告Y1は,原告会社に対し,連帯して,1677万3281円及びこれに対する被告協会につき平成26年10月28日から,被告エデュケイションズにつき同月30日から,被告Y1につき同月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7 被告協会,被告エデュケイションズ及び被告Y1は,原告Xに対し,連帯して,247万3751円及びこれに対する被告協会につき平成26年10月28日から,被告エデュケイションズにつき同月30日から,被告Y1につき同月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
8 原告Xは,第三者に対し,別紙告知行為目録記載1の事実の告知をしてはならない。
9 原告Xは,被告協会に対し,55万円及びこれに対する平成27年5月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
10 原告Xは,被告エデュケイションズに対し,55万円及びこれに対する平成27年5月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
11 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
12 乙事件原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
13 訴訟費用は,甲事件・乙事件を通じ,原告Xと被告協会との間に生じたものは,これを3分し,その1を原告Xの負担とし,その余を被告協会の負担とし,原告会社と被告協会との間に生じたものは,これを3分し,その1を原告会社の負担とし,その余を被告協会の負担とし,原告Xと被告エデュケイションズとの間に生じたものは,これを3分し,その1を原告Xの負担とし,その余を被告エデュケイションズの負担とし,原告会社と被告エデュケイションズとの間に生じたものは,これを3分し,その1を原告会社の負担とし,その余を被告エデュケイションズの負担とし,原告らと乙事件原告マネージメントとの間に生じたものは乙事件原告マネージメントの負担とし,原告らと被告Y1との間に生じたものは,これを5分し,その3を原告らの負担とし,その余を被告Y1の負担とし,原告らと被告Y2との間に生じたものは原告らの負担とする。
14 この判決は,主文第1項,第2項,第6項ないし第10項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1  請求の趣旨
1  甲事件
(1)  被告らは,別紙被告役務目録記載の役務の提供にあたり,その提供を受ける者の利用に供するテキストに別紙被告標章目録記載の各標章を付してはならない。
(2)  被告らは,別紙被告役務目録記載の役務の広告に別紙被告標章目録記載の各標章を用いてはならない。
(3)  被告らは,別紙被告標章目録記載の各標章を付したテキスト,パンフレットを廃棄せよ。
(4)  被告協会は,インターネット上の別紙被告ウェブサイト目録記載のウェブサイト1の表示画面から別紙被告標章目録記載の各標章を抹消せよ。
(5)  被告エデュケイションズは,インターネット上の別紙被告ウェブサイト目録記載のウェブサイト2の表示画面から別紙被告標章目録記載の各標章を抹消せよ。
(6)  被告らは,別紙被告物件目録記載1のテキストを複製又は譲渡してはならない。
(7)  被告らは,別紙被告物件目録記載2の各レポートを複製,譲渡又は公衆送信(送信可能化を含む。)してはならない。
(8)  被告協会は,別紙被告物件目録記載1のテキストを廃棄せよ。
(9)  被告らは,別紙被告物件目録記載2の各レポートを廃棄せよ。
(10)  被告らは,別紙被告物件目録記載2の各レポートを格納したCD-ROM等の記録媒体を廃棄し,又はこれらの記録媒体から同レポートの記録内容を消去せよ。
(11)  被告らは,原告会社に対し,連帯して,9900万円及びこれに対する被告協会につき平成26年10月28日から,被告エデュケイションズにつき同月30日から,被告Y2及び被告Y1につき同月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(12)  被告らは,原告Xに対し,連帯して,1700万円及びこれに対する被告協会につき平成26年10月28日から,被告エデュケイションズにつき同月30日から,被告Y2及び被告Y1につき同月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(13)  被告らは,被告協会の管理するURLを「http://以下省略」とするウェブサイトのトップページ及び被告エデュケイションズの管理するURLを「http://以下省略」とするウェブサイトのトップページに,別紙甲事件謝罪広告目録記載の内容の謝罪広告を本判決確定の日の翌日から1年間掲載せよ。
(14)  甲事件の訴訟費用は被告らの負担とする。
(15)  仮執行宣言
2  乙事件
(1)  原告らは,第三者に対し,別紙告知行為目録記載の告知をし,又は別紙流布行為目録記載の流布をしてはならない。
(2)  原告らは,乙事件原告ら各自に対し,連帯して,1000万円及びこれに対する平成27年5月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)  原告らは,乙事件原告マネージメントに対し,連帯して,2570万円及びこれに対する平成27年5月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)  原告Xは,乙事件原告マネージメントに対し,27万3001円及びこれに対する平成27年5月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5)  原告らは,被告エデュケイションズに対し,連帯して,640万円及びこれに対する平成27年5月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6)ア(主位的請求)
原告らは,別紙乙事件広告目録記載第1の謝罪広告を同目録記載第2の要領で掲載せよ。
イ(予備的請求)
原告らは,別紙乙事件広告目録記載第3の訂正広告を同目録記載第4の要領で掲載せよ。
(7)  乙事件の訴訟費用は原告らの負担とする。
(8)  仮執行宣言
第2  事案の概要等
1  甲事件の概要
甲事件の概要は,次のとおりである。
(1) 原告Xは,別紙原告商標権目録記載の商標権(以下「原告商標」又は「原告商標権」という。)を有するところ,被告らの使用するテキスト,パンフレット及び被告協会又は被告エデュケイションズが管理する別紙被告ウェブサイト目録記載の各ウェブサイト(以下,併せて「被告各ウェブサイト」という。)に,別紙被告標章目録記載の各標章(以下,同目録記載1の標章を「被告標章1」,目録記載2の標章を「被告標章2」といい,併せて「被告各標章」という。)を使用することが原告Xの商標権を侵害すると主張し,商標権侵害に基づき,①被告らに対し,テキストに被告各標章を付す行為の差止め(請求の趣旨1〔上記第1,1(1)に対応する。甲事件について以下同様。〕),②被告らに対し,広告に被告各標章を用いる行為の差止め(請求の趣旨2),③被告らに対し,被告各標章を付したテキスト及びパンフレットの廃棄(請求の趣旨3),④被告協会及び被告エデュケイションズに対し,被告各ウェブサイトから被告各標章の抹消(請求の趣旨4,5),⑤被告らに対し,商標権侵害の信用回復措置としての謝罪広告の掲載(請求の趣旨 13)を求めるとともに,後記(3)記載の損害賠償を求める。
(2) 原告Xは,別紙原告著作物目録記載1~6の各著作物(以下「原告各著作物」という。)の著作権及び著作者人格権を有し,同目録記載7記載の12動物60種類の動物キャラクターの名称(以下「12動物60種類の文言」という。)の編集著作物の著作権を有するところ,被告らの使用するテキスト,レポートにおいて原告各著作物をそれぞれ引き写して複製又は翻案して使用し,テキストを頒布し,レポートを頒布,公衆送信していることが原告Xの著作権(複製権,翻案権,公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権,氏名表示権)を侵害すると主張し,著作権侵害に基づき,①被告らに対し,別紙被告物件目録記載1のテキスト(以下「被告テキスト」という。)の複製,譲渡の差止め(請求の趣旨6),②被告らに対し,別紙被告物件目録記載2の各レポート(以下,同目録記載2(1)のレポートを「被告レポート1」,同2(2)のレポートを「被告レポート2」といい,被告レポート1及び2を併せて「被告レポート」という。また,同目録記載の各著作物を総称して「被告各著作物」という。)の複製,譲渡,公衆送信(送信可能化を含む。)の差止め(請求の趣旨7),③被告協会に対し,被告テキストの廃棄(請求の趣旨8),④被告らに対し,被告レポートの廃棄(請求の趣旨9)及び被告レポートを格納した記憶媒体の廃棄,記録内容の消去(請求の趣旨 10),⑤被告らに対し,著作者人格権侵害の名誉回復措置としての謝罪広告の掲載(請求の趣旨 13)を求めるとともに,後記(3)記載の損害賠償を求める。
(3) 原告Xは,被告らに対し,連帯して,商標権侵害,著作権侵害及び著作者人格権侵害に基づく損害賠償請求の一部請求として,1700万円(内訳:商標法38条3項に基づく使用料相当額の損害金100万円,著作権法114条3項に基づく使用料相当額の損害金1100万円,著作者人格権侵害に基づく損害金400万円及び弁護士費用100万円)並びに不法行為の後の日である訴状送達の日の翌日(被告協会につき平成26年10月28日,被告エデュケイションズにつき同月30日,被告Y2及び被告Y1につき同月27日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(請求の趣旨 12)。
原告会社は,原告Xから原告商標の独占的通常使用権及び原告各著作物の独占的利用権の設定を受けていると主張して,被告らに対し,連帯して,商標法38条2項に基づく商標権侵害に係る損害賠償金4000万円,著作権法114条2項に基づく著作権侵害に係る損害賠償金のうち5000万円及び弁護士費用のうち900万円の合計9900万円並びに不法行為の後の日である訴状送達の日の翌日(被告協会につき平成26年10月28日,被告エデュケイションズにつき同月30日,被告Y2及び被告Y1につき同月27日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(請求の趣旨 11)。
2  乙事件の概要
乙事件の概要は,次のとおりである。
乙事件原告らは,原告らが後記(1)~(5)記載の虚偽事実の告知又は流布をしたことが不正競争防止行為(不正競争防止法2条1項15号)に当たると主張し,①原告らに対し,同各告知又は流布行為の差止め(請求の趣旨1〔上記第1,2(1)に対応する。乙事件について以下同様。〕),②原告らに対し,原告会社のウェブサイトにおける広告(主位的に謝罪広告,予備的に訂正広告)の掲載(請求の趣旨6),③原告らに対し,(ⅰ)不正競争行為により生じた逸失利益の賠償として,乙事件原告マネージメントに対する2570万円(請求の趣旨3),被告エデュケイションズに対する640万円の各連帯支払(請求の趣旨5),(ⅱ)信用棄損による無形損害の賠償及び弁護士費用として,乙事件原告らに対する各500万円の各連帯支払(合計1000万円。請求の趣旨2)並びにこれらに対する不法行為の後の日である平成27年5月9日(乙事件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払,④原告Xに対し,乙事件原告マネージメントが後記K及びLのために負担した弁護士費用として,同乙事件原告に対する27万3001円及びこれに対する遅延損害金の支払(請求の趣旨4)を求める。
(1)  原告Xは,被告協会の東京千代田アンビシャス支部K(以下「K」という。)に対し,被告各標章の使用が原告商標権を侵害し,Kが配信するメールマガジンの表現が原告Xの著作権及び著作者人格権を侵害するとの内容証明郵便を送付した(以下「本件告知行為1」という。)。
(2)  原告Xは,被告協会のさいたま浦和L支部L(以下「L」という。)に対し,被告各標章の使用が原告商標権を侵害し,Lが開催するセミナーで配布するテキストの表現が原告Xの著作権及び著作者人格権を侵害するとの内容証明郵便を送付した(以下「本件告知行為2」という。)。
(3)  原告Xは,株式会社アシッドエデュケーションズ(以下「アシッドエデュケーションズ社」という。)に対し,同社がネット販売するレポートの表現が原告Xの著作権及び著作者人格権を侵害するとの内容証明郵便を送付した(以下「本件告知行為3」といい,本件告知行為1~3を併せて「本件告知行為」という。)。
(4)  原告らは,原告会社が認定した有資格者(以下「原告有資格者」という。)を通じて,不特定多数の者に対し,被告協会らが被告各標章を使用する行為は原告の商標権を侵害するものであり,また,被告協会らが被告テキスト及び被告レポートを使用する行為は原告Xの著作権及び著作者人格権を侵害するとの事実を流布した(「以下「本件流布行為1」という。)。
(5)  原告らは,原告有資格者を通じて,被告協会及び被告エデュケイションズの行為は原告Xの商標権,著作権及び著作者人格権を侵害する旨記載した電子メールを送信し,同メールに記載された内容を不特定多数の者に流布した(以下「本件流布行為2」といい,本件流布行為1及び2を併せて「本件流布行為」という。)。
3  前提事実(当事者間に争いがない事実並びに文中掲記した証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実)
(1)  当事者等
ア 当事者
(ア) 原告Xは,原告会社の代表取締役である。また,原告Xは,個人として,個性心理學に係る事業を展開している。(甲3,4)
(イ) 原告会社は,心理学的手法を用いた個性判断及びフランチャイズチェーンシステムによる経営等を業とする株式会社である。同社は,平成26年6月1日以前は,株式会社アットマーク・ノアという商号であったが,同日,その当時存在した株式会社個性心理學研究所(以下「旧個性心理學研究所」という。)を吸収合併し,商号を株式会社個性心理学研究所へと変更した。
(ウ) 被告協会は,ISD個性心理学の講座の監修,指導者の資格認定,ISD個性心理学の普及,啓発等を業とする一般社団法人である。被告協会は,平成10年頃からみなし法人として活動を開始し,平成24年8月7日に一般社団法人化された。(乙203,259)
(エ) 被告エデュケイションズは,平成16年3月17日に設立されたインターネット,その他メディアを利用した各種コンテンツの企画,制作,販売及びこれらに関するサービス運営を業とする株式会社であり,平成22年2月9日に有限会社ISDエデュケイションズから商号変更した。
(オ) 乙事件原告マネージメントは,平成25年10月1日に設立されたISD個性心理学に関する教育事業及びコンサルタント事業などを業とする株式会社であり,被告協会にISD個性心理学に関する事業の実施を委託している。(乙102,204)
(カ) 被告Y1は,被告協会の代表理事及び被告エデュケイションズの代表取締役である。
(キ) 被告Y2は,被告エデュケイションズの取締役であり,被告協会の会長の肩書を有する。
イ 原告らと乙事件原告らとの競業関係
原告らと乙事件原告らは,いずれも,個人の誕生年月日に基づいて個性を分析するという考え方を用いて,カウンセリング,講座の運営,指導者の資格認定,講習会などの活動及び関連業務を業として行っており,両者は競業関係にある。
(2)  原告商標と被告らによる被告各標章の使用等
ア 原告Xは,原告商標権を有している。
イ 被告Y1は平成11年7月頃から,被告Y2は平成14年頃から,被告エデュケイションズは設立された平成16年3月17日以降,被告協会は一般社団法人化された平成24年8月7日以降,共同して,別紙被告役務目録記載の役務(セミナーの企画・運営又は開催,動物イメージを用いた占い,動物イメージを用いた占いに関する情報の提供。以下「被告役務」という。)を行うに当たり,以下のような態様にて被告各標章を使用している。
(ア) セミナーの受講生に配布するテキスト(甲8)における被告各標章の使用
(イ) 被告各ウェブサイト(甲5,9~11)における被告各標章の使用
(ウ) パンフレット(甲6,7)における被告各標章の使用
ウ 被告協会の商標権と商標登録無効審判請求
(ア) 被告協会は,平成26年12月19日,「一般社団法人ISD個性心理学協会」という商標(登録第5727870号。指定商品16類,指定役務41類)について,設定登録を受けた。(乙8~10)
(イ) 被告協会は,平成27年1月23日,「ISD個性心理学」という商標(登録第5735833号。指定役務41類)について,設定登録を受けた。(乙11~13)
(ウ) 被告協会は,平成27年10月30日,「ISD個性心理学協会」という商標(登録第5803839号。指定商品16類,指定役務41,44,45類)について,設定登録を受けた。(乙247)
(エ) 原告Xは,上記(ア)~(ウ)の各商標について,出願時にすでに周知であった原告商標と類似しており,原告Xの役務と被告協会の役務が類似しているから,商標法4条1項11号により商標登録を受けることができないことなどを理由として,商標登録無効審判請求をしたが(無効2015-890090号,無効2015-890091号,無効2016-890038号),特許庁は,平成28年7月4日に上記(ア)の商標について,同年8月12日に上記(イ)の商標について,同年12月6日に上記(ウ)の商標について,いずれも無効不成立との審決をした。(乙229,230,247)
(オ) 原告Xは,上記各審決を不服として,知的財産高等裁判所に審決取消請求訴訟を提起したが,同裁判所は,いずれについても請求を棄却する判決をし,同各判決は,平成30年1月25日,最高裁判所の上告棄却及び上告不受理決定により確定した。(乙251~253,271~273〔乙252は枝番を含む。以下,証拠に枝番がある場合は,特に断らない限り,枝番を含むものとする。〕)
(3)  原告各著作物及び被告各著作物等
ア 別紙原告著作物目録記載1の「個性心理學 基礎講座」と題するテキスト(甲12。以下「原告テキスト1」という。),同目録記載2の「個性心理學 資料集」と題するテキスト(甲13。以下「原告テキスト2」といい,原告テキスト1及び2を併せて「原告テキスト」という。),同目録記載3の「個性心理學 人間の英知の集大成」と題するスライド(甲14。以下「原告スライド」という。),同目録記載4の「あなたの本質」と題するレポート(箇条書きではないもの。甲15。以下「原告レポート1」という。),同目録記載5の「あなたの本質」と題するレポート(箇条書きのもの。甲16。以下「原告レポート2」という。),同目録記載6の「あなたの個性分析一覧表」と題するレポート(以下「原告レポート3」といい〔甲17〕,原告レポート1~3を併せて「原告レポート」という。また,同目録記載の各著作物を総称して「原告各著作物」という。)は,いずれも遅くとも平成9年頃までには作成され,原告Xにおいてその事業で使用するようになった。
イ 被告らは,開始時期は明らかではないものの,現在に至るまで,被告テキストをセミナー等において使用している。また,被告らは,平成19年4月から現在まで,そのウェブサイト「ISDねっと」からダウンロードするという形態で被告レポート1及び2の販売をしている。
被告Y1は,原告各著作物に依拠して被告各著作物を作成した。
ウ 乙86別紙3の著作物(以下「本件共同著作物」という。)は,平成9年頃,原告レポート1に先立って作成され,原告レポート1は,本件共同著作物に依拠して作成された。
本件共同著作物以外の本件に関連する先行著作物としては,以下のものがある。
① 三命方象著「個性学入門 生まれ日による個性と相性」(洛陽書房,昭和47年12月1日発行。以下「個性学入門」という。乙59。)
② 石井憲正(以下「石井」という。)著「天分を磨く」(平成5年発行。乙60。以下「天分を磨く」という。)
③ 株式会社オービスジャパン(以下「オービス社」という。)作成に係るセミナー資料(乙61。以下「オービス・セミナー資料」という。)
④ 株式会社オピニオン(以下「オピニオン社」という。)作成に係る「個性学基礎講座テキスト」(乙62。以下「オピニオン・基礎テキスト」という。)
⑤ オピニオン社作成に係る「個性學 エキスパートコーステキスト」(乙63。以下「オピニオン・エキスパートテキスト」という。)
⑥ 株式会社日本個性學研究所発行「自己発見レポート」(平成27年4月15日発行。乙64。)
⑦ 「an・an 特別編集版 鬼谷算命学SPECIAL」中の記事(1997年(平成9年)7月10日発行。乙65。以下「an・an の記事」という。)
⑧ 紫寶珠著「愛の六十花占い」(株式会社サンマーク出版,平成3年5月20日発行。乙226。以下「愛の六十花占い」という。)
⑨ 三命方象著「生まれ日占星術 個性学入門 4・5年版」(株式会社洛陽書房,平成4年1月1日発行。乙227。以下「生まれ日占星術」という。)
⑩ 秋山勉唯絵著「幸運をつかむ 四柱推命」(日東書院,平成8年7月20日発行。乙228。以下「幸運をつかむ」という。)
エ 原告らは,別紙対比表1~6(以下,別紙対比表1~6をその番号に応じて「対比表1」などといい,同対比表に記載された「原告表現」を「原告表現1-1」などという。)のうち,対比表1は,被告テキスト,原告テキスト及び原告スライド並びに先行著作物の記載を対比したもの,対比表2は,被告レポート1,原告レポート1,本件共同著作物及びその他の先行著作物の記載を対比したもの,対比表3は,被告レポート1,原告レポート2の箇条書き部分,本件共同著作物及びその他の先行著作物の記載を対比したもの,対比表4は,被告レポート1及び原告レポート2の各動物説明部分並びに辞書等の記載を対比したもの,対比表5は,被告レポート2,原告レポート3及び先行著作物の記載を対比したもの,対比表6は本件共同著作物と同著作物に先行するそれ以外の著作物の記載を対比したものである。
オ 原告各著作物とその著作権等を侵害したと主張されている被告各著作物の対応関係は,次のとおりである。

(4)  原告Xによる告知行為等
ア 原告Xは,その代理人を通じ,平成26年10月17日付け文書(乙69)により,被告協会の東京千代田アンビシャス支部のKに対し,①Kが「ISD個性心理学」及び「ISD個性心理学協会 東京千代田アンビシャス支部」を含む商標を使用して各種セミナー等を開催する行為は原告商標権を侵害する,②Kが配信するメールマガジンにおいて使用されている表現は,12動物60種の文言及び「目標指向型」,「状況対応型」,「未来展望型」,「過去回想型」,「MOON」,「EARTH」,「SUN」,「マイペース」,「マイウェイ」,「ピース」,「ロマン」などの表現の著作者である原告Xの著作権,編集著作権,著作者人格権を侵害する旨を通知した(本件告知行為1)。
イ 原告Xは,その代理人を通じ,平成26年10月17日付け文書(乙71)により,被告協会のさいたま浦和L支部のLに対し,①Lが「ISD個性心理学協会 さいたま浦和L支部」,「ISD個性心理学アドバイザー講座」等の商標を使用して各種セミナー等を開催する行為は原告商標権を侵害する,②Lがセミナーにおいて受講生に配布する「ISD個性心理学 アドバイザー講座テキスト」の表現は,「MOON」,「EARTH」,「SUN」のそれぞれのイメージに関する表現,これらの発生比率を記した円グラフ,12種類の動物の関係を示す円グラフなどについての原告Xの著作権,著作者人格権を侵害する旨を通知した(本件告知行為2)。
ウ 原告Xは,その代理人を通じ,アシッドエデュケーションズ社に対し,平成26年10月17日付け文書(乙108)により,同社が「ISDねっとNEW」というウェブサイトを通じて販売している「あなたの本質」,「総合分析」等と題するレポートの内容が,12動物60種の文言及びその説明についての原告Xの著作権及び著作者人格権を侵害する旨を通知した。(本件告知行為3)
エ 原告Xは,平成26年10月21日,原告有資格者に対し,原告らが被告らを相手方として甲事件を提起したこと,甲事件の請求の内容及び請求原因の概略,被告らの行為は原告Xの著作権,著作者人格権,商標権を侵害するものであることなどを記載したメール(以下「本件メール」という。甲44,乙75)を送信した(なお,同メールの発信名義人は「個性心理學研究所 所長 X’」であり,原告Xが原告会社の代表者としての立場も兼ねて同メールを送信したかどうかについては当事者間に争いがある。)。
なお,同メールの末尾には「本メールの内容は発行者が指定した宛先の方にのみ有効な情報のため,内容を転送・コピーする行為や情報の再利用は固くお断りいたします。」と記載されている。
原告らは,上記メールの内容を,原告有資格者のみがアクセス可能な原告らのホームページ上に3か月程度掲載した。
4  争点
(1)  商標権侵害につき(甲事件)
ア 原告商標と被告各標章の類否
イ 普通名称又は記述的商標としての使用に当たるか
ウ 無効の抗弁ないし権利濫用の抗弁の成否
エ 登録商標使用の抗弁の成否
(2)  著作権侵害につき(甲事件)
ア 原告各著作物の著作物性
イ 12動物60種類の文言の編集著作物性
ウ 原告各著作物及び編集著作物についての使用許諾の有無
(3)  甲事件について原告らの損害の発生及びその額並びに責任主体
(4)  不正競争につき(乙事件)
ア 本件告知行為及び本件流布行為の有無
イ 本件告知行為及び本件流布行為の内容が虚偽の事実に当たるか
ウ 原告らの故意・過失の有無
エ 正当行為としての違法性阻却の成否
オ 差止めの必要性
カ 信用回復措置の要否
(5)  乙事件について乙事件原告らの損害の発生及びその額
第3  争点に関する当事者の主張
1  争点(1)ア(原告商標と被告各標章の類否)について
〔原告らの主張〕
(1) 被告各標章のうち特に強い識別力を有する部分
ア 被告各標章のうち,識別力を有し,出所識別標識として需要者に強い印象を与えるのは,次のとおり,「個性心理学」の部分である。
(ア) 辞書等における「個性心理学」の使用例は50年以上も前のものであり,原告商標の登録時及び侵害行為時には「個性心理学」は普通名称ではなかった。
すなわち,「個性心理学」という語は,広辞苑第二版(昭和44年発行。乙5)及び同第三版(昭和58年発行。乙6)には掲載され,同第四版(平成3年発行,乙233),同第五版(平成10年発行,乙232)及び同第六版(平成20年発行,乙231)には「差違心理学」の項目の中で説明されている。しかし,同第四版ないし第六版の記載は,昭和59年発行の学術文献(乙2)の記載と同様であることから,同年当時の事情を示したものにすぎない。
また,大辞林(甲214~216)には,第一版(昭和63年発行)から「個性心理学」という語は掲載されておらず,心理学に関する一般的な辞典等(甲217~233)にも「個性心理学」という語は掲載されていない。
さらに,被告らが挙げる学術文献(乙2~4)は,昭和31年から昭和59年までに発表されたものである。
比較的最近のもので「個性心理学」という語が掲載されている文献としては,大辞泉等の小学館の辞典(乙1,14~17,243)があるが,これも昭和59年当時の事情を示すものにすぎず,乙19の学術文献には「個性心理学」についての説明はない。加えて,被告らが提出する新聞記事(乙20~25)はいかなる意味において「個性心理学」という語を用いているのか不明である。
(イ) 仮に「個性心理学」が普通名称等であるとしても,それは学問や研究の対象としての「心理学」を指しているにすぎない。本件で問題とされている役務の対象は「占い」であり,純粋な学問や研究とは異なることから,「個性心理学」は「占い」等の役務を意味する造語である。
(ウ) 原告らは,①講座に使用するタイトルに一貫して「個性心理学」という語を使用し(甲33の2),②講座の受講生は2万人に達し,個性心理学のカウンセラーとしての資格を有する者は平成26年4月時点で2000名程度であり(甲33の1),支所・支局の数も国内45か所,海外1か所に上り(甲33の4),③平成10年以降,雑誌や新聞等で個性心理学に係る記事が多数掲載され(甲33の3,35~37,57~176など),原告Xにおいて個性心理学に関する約50冊の書籍を執筆し(甲35の1,45,57,58など),④原告Xの個性心理学に係る事業は,テレビを初めとして様々なメディアに紹介され(甲35の2,177~179など),⑤個性心理学に関する他社とのイベントも企画され,個性心理学に関するグッズも販売されている(甲180~207など)。
このような「個性心理学」の使用実績は,原告らの事業の知名度を上げ,宣伝として機能するものであるから,その豊富な実績もあいまって,原告商標は原告らの商品・役務を示すものとして強い識別力を獲得した。
(エ) 原告らは,原告商標にⓇマークを付して原告らが運営するウェブサイト(甲208)において表示してきたものであり,これに接した需要者は原告らが「個性心理学」に関する事業の主体であると認識し得る。
(オ) 被告らは,原告らが出所表示標識として旧字体の「學」の字を使用していると主張するが,原告らが旧字体の「學」の字を使用することがあったとしても,「學」が「学」の旧字体であることは誰もが知っているので,その標章(「個性心理學」)が原告商標と異なる商標であると認識されることはない。
イ 被告各標章のうち「ISD」の部分は,次のとおり,識別力を有しない。
(ア) 「ISD」は,3文字のアルファベットの羅列にすぎず,需要者は「ISD」が何の略称か知らないのであるから,この部分が強い識別力を有することはない。被告らは,「ISD」は被告ら独自の考え方であると主張するが,個人の誕生年月日からその者の性格を分析すること自体は被告らの独自の考え方ではない。
(イ) 被告らは,被告各標章は平成10年以降継続して広く使用され,需要者の間で周知であると主張するが,被告らの事業活動は,講座の受講者,インストラクターの数,雑誌,記事における紹介の回数,メディアへの出演回数等のいずれの点についても,その期間及び規模において,原告らの事業活動に遠く及ばない。
また,被告らが被告各標章を継続的に使用してきたと主張するが,被告各標章のうち「ISD」の部分が継続的に使用され,需要者に強い印象を与えたということはできない。
(ウ) 被告らは,支部のホームページやチラシ等(甲30の1~11,264~270,乙41,43,45,46)において,自ら「個性心理学」を「ISD個性心理学」の略称として用いており,セミナーの受講者等もISD個性心理学の講座を単に「個性心理学」と称していることが多い(甲242~262)。
(2) 被告各標章と原告商標との類否
被告各標章のうち「個性心理学」の部分は識別力を有するので,この部分を抽出し,原告商標と比較すべきである。
ア 外観
原告商標の外観は「個性心理学」の文字からなるのに対し,被告標章1の外観は「ISD個性心理学」の文字からなり,被告標章2の外観は「ISD個性心理学協会」の文字からなるものであって,被告各標章のうち「ISD」の部分は識別力が弱いことも踏まえると,両者の外観は類似する。
イ 称呼
原告商標からは,「コセイシンリガク」との称呼を生じる。これに対し,被告標章1からは「アイエスディコセイシンリガク」との称呼が生じるが,この称呼は冗長であり,「ISD」と「個性心理学」とは字種が異なる上,被告標章1の中で特に強い識別力を有するのは「個性心理学」の部分であることから,「コセイシンリガク」との称呼も生じる。
また,被告標章2からは「アイエスディコセイシンリガクキョウカイ」との称呼が生じるが,被告標章2は被告標章1に団体を示す普通名称である「協会」が付加されたものにすぎず,被告標章1と同様の理由から,その余の部分について「コセイシンリガク」との称呼も生じる。
そうすると,原告標章と被告各標章は類似しているということができる。
ウ 観念
原告商標からは,原告らが実践する「個性心理学」との観念が生じるところ,被告標章1からは,原告らが実践する「個性心理学」との観念が生じ,被告標章2からも,原告らが実践する「個性心理学」を取り扱う協会との観念が生じる。被告各標章に含まれているアルファベット3文字「ISD」は特に意味をなさない文字列であるから,「ISD」からは何の観念も生じない。
エ 取引の実情
被告らの事業は,原告らの事業に関するシステムやノウハウ等をそのまま模倣,利用したものであり,需要者は原告商標と被告各標章を混同するおそれが十分にある。
オ 以上のとおり,被告各標章と原告商標とは,外観,称呼及び観念がいずれも類似しており,全体として類似しているということができる。
(3) 原告商標の指定役務と被告役務との類否
被告役務であるセミナーの企画・運営又は開催,動物イメージを用いた占い,動物イメージを用いた占いに関する情報の提供は,それぞれ,原告商標の指定役務である第41類の「セミナーの企画・運営又は開催」,第44類の「動物イメージを用いた占い」,「動物イメージを用いた占いに関する情報の提供」に含まれる。
(4) したがって,被告役務における被告各標章の使用は,原告商標権を侵害する(商標法37条1号,2条3項3号,8号)。
〔被告らの主張〕
(1) 被告各標章のうち特に強い識別力を有する部分
ア 被告各標章のうち「個性心理学」の部分は,商品又は役務の普通名称であり,商品の品質又は役務の質を表示するものであるから,識別力を有しない。
(ア) 「個性心理学」とは,個人の性質や能力などの差違を研究することにより個性や民族性等を明らかにしようという研究を意味する(乙1など)。「個性心理学」という語は,昭和24年頃には既に心理学の一分野として使用されており(乙2の1,乙245),昭和31年や昭和59年に発行された文献にも記載されるなど(乙3,4の1),古くから心理学の一分野であると認識され,多くの研究論文や学会発表などにおいて同様の意味で使用されている(乙18,19)。また,「個性心理学」という語は,広辞苑や国語大辞典においても「個人差を扱う心理学。差異心理学。」(乙5,6),「個人差を研究対象とする心理学」(乙7)という意味を有すると説明され,多くの新聞記事において普通名称として使用されている(乙20~25)。
原告らは,近時の広辞苑には「個性心理学」という語が掲載されていないと主張するが,例えば,平成20年発行の広辞苑第六版には「差異心理学」という語について「特に,個人差を取り扱うものを個性心理学という。」と説明されている(乙231)。
(イ) 「占い」とは,一般に,個人に備わっている何らかの指標に基づいて,個人の性質,特徴,傾向,未来などを分析,予想するものであり,これはまさに個性や民族性などを明らかにしようとする「個性心理学」そのものであるから,「個性心理学」と「占い」の実質的な内容はほぼ同一である。
(ウ) 原告らは,原告商標が周知であると主張するが,原告らが挙げる証拠の多くは,出所表示機能を有する態様で「個性心理学」という語を使用したものではなく,単に書籍の題号,記事の内容の一部等として「個性心理学」という語を使用しているにすぎない。このため,これらの書籍等において「個性心理学」という語が使用されていたとしても,需要者が原告らの商品又は役務の出所表示標識であると認識することはない。
(エ) 原告らは,その業務に係る商品又は役務において「個性心理學」という名称を用いており,旧字体の「學」の字が使われているのであるから,「学」の字を用いた原告商標は出所表示標識として認識されていない。
イ 被告各標章のうち,特に強い識別力を有し,出所識別標識として需要者に強い印象を与えるのは「ISD」の部分である。
(ア) 「ISD」は,「Institute of Self-Discovery」の頭文字をとったものであり,これは,個性心理学の考え方を更に発展させ,自らの個性を理解することにより,他人との違いを明らかにし,対人関係をスムーズにすることが可能になるという被告ら独自の考え方である(乙28,107)。ISD個性心理学は,人の個性を研究した統計学,分類学であり(甲6),占いではない。
(イ) 被告各標章は,平成10年以降継続して広く使用されてきたものであり,周知の標章である。
すなわち,被告らは,①平成13年から「ISD個性心理学」を学ぶための講座を開講し(乙28,106,107,115~174など),これまでの受講生は約2700人を超え(乙35,175の7~10),平成26年12月末日時点でのインストラクターは839名であり(乙28),②「ISD個性心理学」の講演会,シンポジウム等を全国において開催するとともに(乙38~47,116,138~169,175の6,175の11,176~196など),学会においてその研究成果を発表し(乙28,35,36,106など),③100社を超える企業において講演を行い(乙28~30,106など),④新聞等においても紹介され(乙49,50など),⑤協会アワード実行委員会が主催する「協会アワード」において,平成25年及び平成27年に賞を受賞するなどしている。
このように「ISD」は,その採択から長期間にわたって使用され,需要者の間で被告らの提供する商品・役務の出所識別標識として認知されるに至っている。
(2) 原告商標と被告各標章との類否
被告各標章のうち「個性心理学」の部分には識別力がないので,この部分を抽出して原告商標と比較することは許されず,被告各標章全体と原告商標とを比較すべきである。
ア 外観
原告商標と被告各標章の外観は明らかに相違し,明確に区別することができる。
イ 称呼
原告商標からは,「コセイシンリガク」との称呼を生じるのに対し,被告標章1からは「アイエスディコセイシンリガク」との称呼が生じ,被告標章2からは「アイエスディコセイシンリガクキョウカイ」との称呼が生じるところ,被告各標章の称呼のうち識別力を有するのは「アイエスディ」の部分であるから,原告商標と被告各標章の称呼は類似しない。
ウ 観念
原告商標からは,心理学の研究分野としての「個性心理学」の観念が生じるのに対し,被告各標章は自らの個性を理解するという「ISD」の考え方に重点を置いた被告ら独自の考え方が観念されることから,被告各標章及び原告商標の観念は類似しない。
エ 取引の実情
被告らは,当初から「ISD個性心理学」は原告らの「個性心理学」とは異なることを積極的に表明してきたのであり,被告各標章は周知であることからすると,需要者が被告各標章を原告商標と混同するとは考えられない。
オ 以上のとおり,被告各標章と原告商標とは外観,称呼及び観念のいずれの点においても類似しない。
(3) 原告商標の指定役務と被告役務との類否
被告役務が原告商標の指定役務である第41類及び44類に含まれることは認める(ただし,44類については,「占い」が学問的な側面も有する占いを含む通常の意味であることを前提とする。)。
(4) したがって,被告役務における被告各標章の使用は,原告商標権を侵害していない。
2  争点(1)イ(普通名称又は記述的商標としての使用に当たるか)
〔被告らの主張〕
被告各標章は,原告商標権の指定役務である「セミナーの企画・運営又は開催」,「動物イメージを用いた占い」及び「動物イメージを用いた占いに関する情報の提供」の普通名称,あるいはその役務の内容を記述的に説明した名称である「個性心理学」を含むものであるから,原告商標権の効力は被告らによる被告各標章の使用行為には及ばない(商標法26条1項3号)。
〔原告らの主張〕
被告各標章中の「個性心理学」の部分は普通名称又は記述的商標ではないから,原告商標権の効力は被告各標章の使用行為に及ぶ。
3  争点(1)ウ(無効の抗弁ないし権利濫用の抗弁の成否)について
〔被告らの主張〕
原告商標は,その指定役務である「セミナーの企画・運営又は開催」,「動物イメージを用いた占い」及び「動物イメージを用いた占いに関する情報の提供」の普通名称であるし,その内容を記述的に説明した「個性心理学」を商標とするものであるから,原告商標権は無効審判により無効とされるべきものである(商標法46条,3条1項1号又は3号)。
したがって,原告Xは,被告らに対し,原告商標権を行使することができない(商標法39条,特許法104条の3)。
なお,除斥期間が経過しているとしても,権利濫用に当たるか否かの判断に当たっては,無効理由が存在することを考慮し得ると解すべきである。
〔原告らの主張〕
原告商標は普通名称でもなく,また,商品の品質・役務の質を示しているものでもないから,原告商標は無効事由を有さない。
加えて,原告商標については登録がなされた平成18年10月6日から既に5年の除斥期間が経過しており,無効審判によって無効とされることはないから(商標法47条1項),被告らの無効の抗弁の主張は失当である。
4  争点(1)エ(登録商標使用の抗弁の成否)について
〔被告らの主張〕
仮に原告商標と被告各標章とが類似すると判断され,かつ,被告各標章の使用行為に商標法26条1項3号が適用されないとしても,被告協会は,「一般社団法人ISD個性心理学協会」(指定役務は16類及び41類)及び「ISD個性心理学」(指定役務は41類)(乙8~11)について商標権を有しており,被告協会による被告各標章の使用行為は被告協会が保有する登録商標を使用する行為にすぎないので(商標法25条),原告商標権の侵害とはならない。
〔原告らの主張〕
そもそも登録商標使用の抗弁なるものは抗弁として認められていないから,被告らの主張は失当である。
5  争点(2)ア(原告各著作物の著作物性)について
〔原告らの主張〕
(1) 原告各著作物の作成者及び作成の経緯
原告Xは,平成9年4月に個性心理學研究所を設立し,その後,株式会社ノア(後に原告会社の商号に商号変更した。以下「ノア社」という。)の代表者となった。ノア社は,M(以下「M」という。)を代表者とする株式会社のら(以下「のら社」という。)との間において,同年5月20日付け「契約書(COMPASに関する契約書)」(乙79)を締結し,個性心理学に関するソフトウェアの開発を依頼することとした。
原告Xは,同契約成立後の平成9年5月ないし7月頃からMとソフトウェアに搭載するコンテンツの創作を開始した。その作業は,原告Xが個性心理學研究所のテキストや資料をのら社に提供し(乙81),Mが本件共同著作物の下書きを原告Xに交付し,原告Xがその下書きに大幅に加筆するという形で進められ,同年8月中旬までには本件共同著作物が完成し,その後,原告Xは,同年11月頃までに原告レポート1を完成させた。
そして,原告Xは,平成9年11月頃までに,本件共同著作物を要約・整理して原告レポート2の箇条書き部分及び動物説明部分を創作するとともに,新規に原告レポート3を創作した。
また,原告Xは,平成9年7月中旬頃までに,単独又はMらとともに,原告テキストの基となるテキストを創作し,同月頃までに,単独で原告スライドを創作した。
さらに,原告Xは,平成9年7月中旬までには「月(MOON)」,「地球(EARTH)」,「太陽(SUN)」などのキーワードを決め,同年9月又は10月までに12動物60種類の文言を創作した。
他方,被告Y1は,本件共同著作物の創作に全く関与していない。
(2) 原告各著作物の著作物性(全体)
個性心理学とは,人間の個性をその誕生日によって,12動物60種類のキャラクターを初め,「思考2分類」,「モチベーション2分類」,「左右2分類」,「レール」,「リズム」のカテゴリーに分類し,各人の個性を分析するものであるところ,原告各著作物は,これらの要素を用いて,各人の個性を明快かつ面白く解説し,仕事上,恋愛上の指針になるようにしたものであり,思想を創作的に表現した言語の著作物である。
被告らは,対比表2~5において,先行著作物における表現と原告各著作物の表現とを比較して原告各著作物の創作性を否定するが,著作物の創作過程をみると,無数の単語や文節から適切と思われるものを選択して一つの文章を構成し,そのような文章を複数組み合わされて段落,章を構成することにより,一つの著作物が創作される。短い文章がありふれた表現であって創作性がないとしても,当該文章を含めた複数の文章からなる段落や著作物全体の創作性が失われることにはならない。
なお,原告らは,著作物の単位について,別表において番号の振られている一群の表現(例えば,原告表現2-1-1など)が1個の著作物であることを前提としている。
(3) 原告各著作物の著作物性(各著作物について)
原告各著作物は,次のとおり,いずれも創作性を有する。
ア 原告テキスト1及び原告スライド
原告テキスト1及び原告スライドのうち,①原告表現1-2については,「諦める」という文言は「受け入れる」という意味では通常使わないので,そこに原告Xの個性が発揮され,②原告表現1-5~7の各表現は,「MOON」,「EARTH」,「SUN」に対応する性格を示す文章を組み合わせたものであり,そこに原告Xの個性が発揮され,③原告表現1-8,9については,「人」,「城」,「大物」を「月(MOON)」,「地球(EARTH)」,「太陽(SUN)」に置き換えた点に原告Xの個性が発現しており,④原告表現1-10については,オービス・セミナー資料等では「独自型」,「自然型」等の語句が用いられているのに対し,12動物を示す語句を用いた点に原告Xの個性が発揮されているなど,いずれも創作性を有する。
イ 原告レポート1
(ア) 本件共同著作物の著作者
原告レポート1は本件共同著作物の二次的著作物であり,本件共同著作物の著作者は原告X及びMである。
被告らは,被告Y1が本件共同著作物の著作者の一人であることを前提として,その二次的著作物である原告レポート1を被告Y1が利用することを原告らが妨げるのは著作権法65条3項により許されないと主張するが,被告Y1は本件共同著作物に関して何らの権利も有していないのであるから被告らの主張は前提を欠く。
なお,被告らは,当初,本件共同著作物の著作者は原告X及び被告Y1らであると主張していたが,その後,この主張を予備的主張とし,Mが単独著作者であるとの主張を主位的主張とするに至った。これは自白の撤回であり,原告らは同意しない。
(イ) 本件共同著作物の創作性
本件共同著作物と先行著作物との間には表現が異なる箇所が多く見られ,それがありふれた表現ともいえないから,本件共同著作物の表現に創作性があることは明らかである。
(ウ) 原告レポート1の創作性
被告らは,原告レポート1は本件共同著作物及び先行著作物と酷似しており,創作性を有しないと主張する。しかし,原告表現1-1-1~120の各表現は,対比表2に掲げられている本件共同著作物以外の先行著作物の表現とは短い単語を共通にする程度であり,類似していない。
そして,原告レポート1のうち,本件共同著作物と共通する表現については,少なくとも原告Xが本件共同著作物の著作権者の一人である以上,本件共同著作物に係る表現に基づいて権利行使することができるのであるから,本件共同著作物を先行著作物として対比をすること自体が失当である。
仮に,原告Xが本件共同著作物の著作者でないとしても,原告レポート1のうち本件共同著作物と表現が重ならない部分は,原告Xが創作したものであり,創作性を備えているから,当該部分の表現について原告Xは著作権を有している。
ウ 原告レポート2の箇条書き部分
原告レポート2は,本件共同著作物を要約したものであるところ,上記のとおり,本件共同著作物の創作性は否定されず,同著作物を要約し,箇条書きを作成する過程に原告Xの個性が発揮されているから,創作性を有する。
原告Xが本件共同著作物の著作権者の一人である以上,本件共同著作物を先行著作物として対比をすること自体が失当であることは,原告レポート1の場合と同様である。
エ 原告レポート2の動物説明部分
原告レポート2の動物説明部分については,各動物の性質を取捨選択し,いかなる順番でどのように表現するかなどの点で原告Xの個性が発揮されているものであり,その創作性は否定されない。
オ 原告レポート3
原告レポート3の各表現のうち,原告表現4-1-1~120については,原告Xは an・an の記事の掲載前に完成しているので,同記事に依拠したものではない。また,原告レポート3の表現は an・an の記事とは類似しておらず,被告らが類似すると指摘する部分は,その表現を短い文言に切り分けた上で比較しているにすぎず,その創作性は否定されない。
〔被告らの主張〕
(1) 原告各著作物の作成者及び作成の経緯
原告各著作物の著作者が原告Xであることは否認する。
(2) 原告各著作物の著作物性(全体)
原告各著作物は先行著作物に依拠して創作された二次的著作物であり,先行著作物と一致する表現がほとんどである。二次的著作物については,原著作物と共通し,その実質を同じくする部分には著作権は生じず,新たに付与された創作部分にのみ生じるところ,原告各著作物のうち先行著作物と異なる部分については,極めて限られている上,その表現は平凡かつありふれたものであり,創作性がない。
(3) 原告各著作物の著作物性(各著作物について)
原告各著作物は,次のとおり,創作性を有しない。
ア 原告テキスト1及び原告スライド
原告テキスト1及び原告スライドは,「天分を磨く」等の先行著作物の複製物であり,創作性を有する部分はない。すなわち,①原告表現1-1は,「天分を磨く」やオービス・セミナー資料と実質的に同一であり,②原告表現1-2は,「諦める」の語句の意味を説明するありふれた表現にすぎず,③原告表現1-3は,「天分を磨く」やオピニオン・エキスパートテキストと実質的に同一であり,④原告表現1-4はオピニオン・エキスパートテキストにおける角田忠信教授の書籍の引用であり,⑤原告表現1-5~7は,個性学の「人志向型」,「城志向型」,「大物志向型」の3分類を「MOON」,「EARTH」,「SUN」に置き換えて表現することにより,個性学における各分類の特徴を整理したにすぎず,⑤原告表現1-8,9は,オービス・セミナー資料,オピニオン・基礎テキストの「人」,「城」,「大物」を上記と同様に置き換えたものにすぎず,実質的にその内容は酷似している。
イ 原告レポート1
(ア) 本件共同著作物著作者
平成9年春から夏の終わり頃まで,原告X,被告Y1を含むノア社側の講師らとのら社側のM,N(以下「N」という。)らは,多数回にわたり,文書作成会議を行い,12種類の動物を選定した。また,Mは,個性学における「人志向」,「城志向」,「大物志向」の3分類を「新月」,「満月」,「地球」,「太陽」の4分類とし,本件共同著作物の下書きを作成してNに渡し,Nは被告Y1等と相談しながら加筆して本件共同著作物を作成した。
本件共同著作物の上記作成経緯に照らすと,本件共同著作物の創作性が認められる場合,その著作者はMである(主位的主張)。原告らは,原告XがMから本件共同著作物の下書きを受け取り,これに加筆したと主張するが,原告XがMから受領した文書に加筆をしたことを示す証拠はなく,原告Xは本件共同著作物の共同著作者ではない。仮に,Mの単独著作物ではないとすると,原告Xと被告Y1の関与の程度は同程度であるから,被告Y1も原告Xらとともに本件共同著作物の共同著作者と認められるべきである(予備的主張)。
共同著作物に係る著作権はその共有者全員の合意によらなければ行使することができないが(著作権法65条2項),他の共有者の利用を妨げることは同条3項の正当な理由を欠くものとして許されないのであるから,原告Xは被告Y1が本件共同著作物及びその二次的著作物である原告レポート1を利用することを妨げることはできない。
なお,被告らは,当初,上記予備的主張のみをしており,後に主位的主張を追加したが,これは,主要事実に関する主張を翻したものではないから,自白の撤回に当たらない。仮に自白の撤回に当たるとしても錯誤に基づくものである。
(イ) 本件共同著作物の創作性
本件共同著作物は,先行著作物の表現を寄せ集めたものにありふれた変更等を加えたものにすぎず,創作性がないか,創作性は極めて限定した範囲・程度にとどまる。
(ウ) 原告レポート1の創作性
原告レポート1は,本件共同著作物と実質的に同一であり,本件共同著作物以外の先行著作物とも類似するものであり,創作性を有しない。また,仮に,本件共同著作物と原告レポート1の表現に差違があるとしても,その部分は,ありふれた変更等を加えたものにすぎず,表現も平易かつありふれたものであって,創作性がない。
ウ 原告レポート2の箇条書き部分
原告レポート2の箇条書き部分は,先行著作物又は本件共同著作物を箇条書きに整理したにすぎず,その寄せ集めにすぎないか,ありふれた表現であるから,創作性が認められないか,極めて限られた範囲・程度の創作性が認められるにすぎない。
エ 原告レポート2の動物説明部分
原告レポートの2の動物説明部分は,辞書などに記載されている動物としての特徴を客観的に説明する表現の寄せ集めであり,全体として平凡かつありふれたもので創作性を有しない。
オ 原告レポート3
原告レポート3は an・an の記事やオピニオン・エキスパートテキストに依拠し,これらから抜粋した文章のみで構成されているものであって,創作性を有しない。また,原告らは,原告Xが an・an の記事の掲載前に原告表現4-1-1~120を完成していたと主張するが,これを裏付ける証拠はない。
6  争点(2)イ(12動物60種類の文言の編集著作物性)について
〔原告らの主張〕
原告テキスト2及び原告レポート3には,「狼」などの12動物を示す名称に「ネアカの」などの60種類の修飾語を組み合わせた12動物60種類の文言(別紙原告著作物目録記載7)が記載されている。これは,原告Xが易占の知識経験に基づいて選択したものであり,その素材の選択及び配列には原告Xの個性が現れており,創作性があることから,編集著作物に該当する。被告らは,12動物60種類の文言は an・an の記事を複製したものであると主張するが,同記事は12動物60分類の文言における動物キャラクターの表現とは異なるものであるから,その編集著作物としての創作性は否定されない。
〔被告らの主張〕
12動物60種類の文言は,その先行著作物である「個性学入門」やオピニオン・エキスパートテキストのカテゴリーに動物をあてはめたにすぎず,素材を編集したものではないし,素材の選択に創作性がないから,編集著作物に当たらない。また,12動物60種類の文言は,an・an の記事(乙65,236)に依拠し複製して作成されたものであり,この点からも創作性が認められない。
7  争点(2)ウ(原告各著作物及び編集著作物についての使用許諾の有無)
〔被告らの主張〕
原告Xは,被告らが本件共同著作物,原告各著作物及び12動物60種類の文言を使用することについて明示的又は黙示的に承諾していた。これは,①原告Xが,被告Y1らに対し「皆で協力して新しいものを作りたい。皆で作ったものだから皆で使えるものにしよう。」などと繰り返し発言したこと,②のら社が単独で12種類の動物を用いた個性の分類を説明する内容を含む雑誌,記事を発行したことに対して原告Xが異議を述べなかったこと,③のら社が「個性心理学」,「動物占い」などの商標登録出願を行ったことに対して原告Xが異議を述べなかったこと,④のら社が「動物占い公式サイト」を運営していることに対して原告Xが異議を述べていないことなどの事実から明らかである。
〔原告らの主張〕
原告Xは,被告らが本件共同著作物,原告各著作物及び12動物60種類の文言を使用することについて,許諾していない。これは,①被告Y1は原告レポート1などの共同作成者ではないので,被告Y1にその利用を許諾することは考えられないこと,②原告Xが「皆で作ったものだから皆で使えるものにしよう。」と述べたことを示す証拠はないこと,③被告Y1は,平成9年9月20日及び同年12月,原告レポート1等が格納されたソフトウェア及びパソコンを合計350万円で購入したこと(甲24,25),④被告Y1は,平成10年3月24日にノア社にファックスを送信し,原告レポート1等のコンテンツを利用する際に被告Y1から原告Xに対価を支払うことを提案していること(甲239)などから明らかである。
8  争点(3)(甲事件について原告らの損害の発生及びその額並びに責任主体)について
〔原告らの主張〕
(1) 商標権侵害について
ア 損害の発生
原告Xは,平成9年から平成26年6月1日までは旧個性心理學研究所とともに,同日以降は原告会社とともに,原告商標を付したテキストを利用し,個性心理學に係るセミナーを企画・運営又は開催し,また,各人の誕生年月日に応じた動物イメージを用いた占いに関する情報を格納したソフトウェアを販売した。なお,旧個性心理學研究所及び原告会社は,原告Xから原告商標について独占的通常使用権の設定を受けていた。原告X,旧個性心理學研究所及び原告会社の事業は,被告らの事業と競合するため,原告らは,被告らの行為により損害を被った。
イ 損害額(商標法38条2項)
被告らは,平成18年10月6日(商標登録日)から平成26年9月30日までの間に,被告役務の提供により1年当たり少なくとも500万円,少なくとも合計4000万円の利益を上げた。
したがって,原告会社は,被告ら各自に対し,商標法38条2項により4000万円の損害賠償請求権を有する。
そして,原告Xは,被告ら各自に対し,商標法38条3項により400万円(被告らが得た利益額4000万円に対して,使用料率10%を乗じて算定したもの)の損害賠償請求権を有するところ,その一部である100万円の支払を求める。
(2) 著作権侵害について
ア 損害の発生
原告Xは,原告各著作物及び12動物60種類の文言の著作者かつ著作権者であり,原告会社は,原告Xからこれらの著作物又は編集著作物の独占的利用権の設定を受けており,原告らは,これらの著作物等を使用して個性心理学に係る事業を展開していた。
被告らも,被告各著作物を使用して原告らと同じ事業を営んでいるところ,原告各著作物と被告各著作物は内容が同一であり,対象者を共通とするから,原告らは,被告らの行為によって損害を被った。
原告会社には,被告らが被告テキスト及び被告レポートの販売により得た利益相当額の損害が生じ(著作権法114条2項),原告Xには,原告各著作物及び12動物60種類の文言の使用料相当額の損害が生じた(同条3項)。
イ 原告会社の損害額
被告らは,被告テキスト並びに被告レポートの販売により,平成16年10月11日から平成29年7月9日までの間に,1億0804万4350円の利益を上げた。したがって,原告会社は,被告ら各自に対し,1億0804万4350円の損害賠償請求権を有する。
(内訳)
(ア) 被告テキストによる利益額 1803万6000円
a 利益額
売上額2004万円(単価3000円×販売数6680冊)から,印刷費として10%を控除して,利益額は1803万6000円である。
b 送料
被告らは,送料を控除すべきと主張するが,被告らがレターパックを利用していることや,送料を負担していることを示す証拠はない。また,被告Y1や被告Y2が講師を務める場合など,必ず送料が発生するとは限らない。
c 被告テキストにおける侵害部分の割合
また,仮に,原告各著作物に係る著作権を侵害する部分が被告表現1-5~10のみであったとして,被告表現1-5~10の重要性に照らせば,著作権侵害による損害額は限界利益の80%を下回ることはないから,その額は,最低でも1442万8800円である。
(イ) 被告レポートによる利益額 9000万8350円
a 被告レポートの販売形態について
被告らの主張を前提とすると,被告レポートをダウンロードにて購入する者は,①通常価格(被告レポート1につき1000円,被告レポート2につき2000円)でダウンロードする,②被告らが設定する各種月額プラン(平成16年10月1日から平成25年9月30日の間は,月額800円,同1800円,同5800円プランの3種のプラン,平成25年10月1日から平成29年7月9日の間は,月額500円,同1000円,同2000円,同1万5000円の4種のプラン)に加入し,割引された価格又は無料でダウンロードする(月額800円,同1800円,同500円又は同1000円のプランでは割引価格で,月額2000円,5800円又は月額1万5000円のプランでは無料でダウンロードすることができる。)という方法があった。上記①の通常価格での被告レポートのダウンロード販売はなく,上記②による利益額は次のとおりである。
なお,ダウンロード販売については,変動費が存在しないから,売上額が限界利益額である。この点について,被告らは,システムの移行費用や保守費用を控除すべきと主張しているが,これらは変動費ではないので控除すべきではない。
b ダウンロード販売による売上げ(上記②) 合計132万9600円
(内訳)
被告レポート1 20万6800円
被告レポート2 112万2800円
c 月額料金のうち,被告レポートの対価に相当する部分(上記③)
被告らの主張によれば,支払われた月額料金総額は次のとおりである。
(a) 平成16年10月1日~平成25年9月30日

(b) 平成25年10月1日~平成29年7月9日

上記のうち,(a)(平成16年10月1日~平成25年9月30日)については,月額プランの対象に被告レポート以外のレポートが含まれていたか不明であり,全額を被告レポートの対価とみるべきであるから,779万1000円が被告レポートの売上額(利益額)となる。
次に,(b)(平成25年10月1日~平成29年7月9日)については,月額料金によりダウンロードできるレポートの種類・内容などに照らしてみれば,上記額の50%を被告レポートの売上げが占めているというべきである。したがって,月額料金総額中の被告レポートの売上額(利益額)は,8088万7750円(=1億6177万5500円×50%)となる。
以上を合計すると,月額料金中の被告レポートの販売による利益額は,8867万8750円である。
なお,被告らは,アンケート結果を根拠として,月額料金のうちレポート1,2のダウンロードや閲覧の割合は多くとも10%程度などと主張するが,アンケートには,時期的・人数的な範囲の狭さや設問が不適切であることなど数々の問題点があり,「ISDねっと」の利用状況を正しく反映していないから,被告らの主張には根拠がない。
d 被告レポートにおける侵害部分の割合
先行著作物における表現と被告表現が同一であるとみなせる部分があることを考慮したとしても,被告レポートにおける著作権侵害部分の割合は低くとも80%である。
また,のら社は原告レポートの販売を含め「個性心理學」に係る事業をしておらず,原告各著作物を利用していないから,のら社との関係で原告らが被告らに請求し得る損害額を減額する理由はない。
したがって,仮に,著作権が侵害されている部分の割合を考慮したとしても,被告レポートの有料でのダウンロードによる損害額は106万3680円(132万9600円×0.8)を下回ることはなく,月額料金中の被告レポートの販売による利益額は,少なくとも7094万3000円(〔779万1000円+8088万7750円〕×0.8)である。
ウ 原告Xの損害額
原告各著作物及び12動物60種類の文言の使用料率は売上額の10%である。そして,被告テキストの売上額は2004万円であり,被告レポートの売上額は9000万8350円であるから,原告各著作物及び12動物60種類の文言の使用料相当額は,1100万4835円である。
したがって,原告Xは,被告ら各自に対し,1100万4835円の損害賠償請求権を有する。
(3) 著作者人格権侵害に基づく原告Xの損害
原告Xは原告各著作物の著作者であるが,被告らの行為によって著作者人格権(同一性保持権,氏名表示権)を侵害され,これにより精神的苦痛を被った。これを慰謝するには500万円が相当である。
(4) 弁護士費用
原告らは,甲事件の訴訟遂行を原告ら訴訟代理人弁護士に委任した。被告らの不法行為と相当因果関係のある弁護士費用額は,原告会社について2000万円,原告Xについて100万円を下らない。
(5) 請求額(一部請求)
ア 原告会社
原告会社は,被告ら各自に対し,不法行為に基づく1億6804万4350円の損害賠償請求権を有するが,このうち9900万円を請求する。その内訳は,商標権侵害によるものが4000万円,著作権侵害によるものが5000万円,弁護士費用が900万円である(商標権侵害によるもののみ全額を請求)。
イ 原告X
原告Xは,被告ら各自に対し,不法行為に基づく2100万4835円の損害賠償請求権を有するが,このうち1700万円を請求する。その内訳は,商標権侵害が100万円,著作権侵害が1100万円,著作者人格権侵害が400万円,弁護士費用が100万円である(弁護士費用のみ全額を請求)。
(6) 被告らの責任
ア 被告協会及び被告エデュケイションズの行為は,被告Y1及び被告Y2の行為を通じてなられるから,被告Y1及び被告Y2は,個人としても,被告協会及び被告エデュケイションズと連帯して,不法行為に基づく損害賠償責任を負う。
被告Y1と被告Y2は,被告協会や被告エデュケイションズにおけるISD個性心理学に関する事業活動の中心的役割を担っており,その一環として,被告テキスト及び被告レポートの販売に積極的に関与していた。
また,被告協会の一般社団法人化(平成24年8月7日)前は,被告Y1がISD個性心理学協会の名称で活動をしていたから,被告協会成立前の「ISD個性心理学協会」の行為は被告Y1の行為にほかならない。
イ 被告Y1は,被告協会及び被告エデュケイションズの設立時から現在まで一貫して,それぞれの代表理事,代表取締役を務めていた。
そして,被告Y1は,被告協会及び被告エデュケイションズによる本件侵害行為に関する任務懈怠につき悪意又は重過失があるから,被告協会の行為に関しては一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般社団法人法」という。)117条1項,被告エデュケイションズの会社法施行前の行為に関しては旧有限会社法30条ノ3第1項(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律25条により,旧有限会社法30条ノ3第1項が適用される。),同社の会社法施行後の行為については会社法429条1項に基づき,原告らに対して損害賠償責任を負う。
ウ 被告Y2は,被告協会の「会長」の肩書を有していたこととあいまって,被告協会の設立時から事実上の理事の地位にあるというべきである。また,被告Y2は,被告エデュケイションズにおいては平成22年2月9日の現在の商号への変更時から現在まで取締役の地位にある。
また,被告Y2には,被告協会及び被告エデュケイションズによる本件の不法行為に関する任務懈怠につき悪意又は重過失があるから,被告協会の行為に関しては一般社団法人法117条1項の類推適用,被告エデュケイションズの行為については会社法429条1項に基づき,原告らに対して損害賠償責任を負う。
エ 被告エデュケイションズ(平成16年3月17日設立)は,「ISD個性心理学」のコンテンツを開発する法人であり,とりわけ,被告レポートを販売するウェブサイト「ISDねっと」を運営している(甲19,20)。そして,被告エデュケイションズの代表取締役は,設立されてから現在まで,被告協会の代表者である被告Y1であり,被告協会の事実上の理事である被告Y2も被告エデュケイションズの取締役であって,被告協会と役員が共通する。したがって,被告エデュケイションズは,被告協会と共同して,被告テキスト及び被告レポートの販売に積極的に関与している。
オ 被告協会は,平成10年頃,いわゆるみなし法人として設立され,平成24年8月7日に一般社団法人化したところ,それ以降現在に至るまで,被告テキスト,被告レポート1及び2の販売をしているので,その著作権及び著作者人格権侵害行為について共同不法行為に基づく損害賠償責任を負う。被告協会が責任を負うのは平成24年8月7日以降の行為であるが,被告テキスト及び被告レポート1及び2は,被告協会の設立以降に販売されたものがほぼ全てである。
カ なお,被告らは,答弁書において,被告らが平成19年4月からウェブサイトを通じて被告レポートを販売していることを認めていたのであり,その後,被告協会以外は被告レポートの販売に関与していない旨の主張に変更したが,これは自白の撤回に当たり,原告らは自白の撤回に同意しない。
〔被告らの主張〕
(1) 損害の発生及びその額に関する原告らの主張は争う。
(2) 著作権侵害に基づく損害について
被告テキスト及び被告レポートについて著作権侵害の成立が認められ,原告らに損害が生じたとした場合,損害額は次のとおりである。
ア 被告テキストの販売による限界利益 1683万3600円
平成16年10月1日から平成29年7月9日までの被告テキストの売上額は2004万円である。
原告らは,印刷費として10%(一冊当たり300円)のみを経費として控除する旨主張するが,被告テキストは日本郵便のレターパックライト(料金360円。乙262)により講師に送付され,講師から受講生に対して配布されるものであるところ,講師に送付されるテキストの冊数は通常1~2冊であるから,1冊当たり少なくとも送料180円(360円÷2冊)を要するので,これを加えると,変動費は1冊当たり480円である。
そうすると,被告テキストの販売による限界利益は,売上額2004万円(1冊3000円×6680冊)から印刷代と送料分合計320万6400円(6680冊×480円)を控除した1683万3600円である。
その上で,仮に,被告テキストについて著作権侵害が認められるとしても,被告テキストに占める侵害部分は本文33頁中の4頁(割合にして12%であるから,限界利益はその分に相当する金額(202万0032円)に減額されるべきである。
イ 被告レポートの販売による限界利益
(ア) ダウンロード販売による売上げ
被告レポート1 20万6800円
被告レポート2 112万2800円
(イ) 月額料金のうち,被告レポートの対価に相当する部分
被告協会が会員から受領した月額料金額は原告らが援用して主張するとおりである。
ところで,「ISDねっと」の会員にとって,被告レポートのダウンロードは多数の特典の一つにすぎず,会費総額に被告レポートが占める割合は数%に過ぎない。「ISDねっと」の会員が利用できる特典としては,全14種類の診断書の閲覧及び無料又は割引価格での全20種類の診断書等のダウンロード等があり,インストラクターを務める会員はこうしたサービスを利用することにより,第三者に対して的確なアドバイスをすることが可能になる。
また,会員に対するアンケート結果(乙260)は,会員にとって被告レポートの位置付けがそれほど大きくないことを示している。これは,いずれの特典を利用するために「ISDねっと」を利用しているのかに関するアンケート結果をもとに,各特典に重み付けをしたものである。その結果,被告レポートのダウンロードに係る特典の点数(全体を100とする。)は,全プラン平均で,被告レポート1につき 3.19 点(5.67点),被告レポート2につき 6.41 点(11.17 点)であった(カッコ内は被告レポートの閲覧に係る特典の点数)。
「ISDねっと」は,平成25年10月からシステムを現行のものに移行し,プランも変更したが,システム移行前の「ISDねっと」(以下「旧ISDねっと」ということがある。)についても,会員は多数の特典を利用できたのであるから,被告レポートが占める割合も,上記の全プラン平均と同程度(被告レポート1につき 3.19 点(8.86 点),被告レポート2につき 6.41 点(17.59 点))となると推測できる。
さらに,「ISDねっと」の構築には総額426万7000円を要しており,平成25年10月1日から平成29年7月9日(約33か月)における1か月あたりの費用は12万9303円である。加えて,「旧ISDねっと」から「ISDねっと」への移行費は莫大で,少なくとも月当たり100万円を要しており,保守費用は月額20万円を要している。これに対し,月額会費(被告協会の収入額)は月当たり490万2287円であるから,経費割合は売上高の6.89%であり,利益の算出に当たっては,これを月額総額から控除すべきである。
(ウ) 被告レポートの侵害部分の割合
a 原告レポート1,2は,相当程度の部分が先行著作物と同一であり,当該部分には創作性がないから,被告レポートが当該部分の複製等を含んでいたとしても原告Xの著作権を侵害しているとはいえない。当該部分を考慮すると,被告レポート1の著作権侵害部分は42.42%であり,被告レポート2の著作権侵害部分は57.04%である(乙261,270)。
b さらに,原告レポート1,2は本件共同著作物に依拠したものであり,本件共同著作物の著作権者はのら社(M)であるから,のら社(M)が,原告レポート1,2の著作権の70%を有していることが明らかである。したがって,損害額の算定に当たっては,少なくとも70%を減額すべきである。
(エ) 被告レポートの販売による損害額
以上を考慮して計算すると,被告レポート1(甲21)及び被告レポート2(甲22)の販売により生じた著作権侵害に基づく損害額の合計は,241万4218円(=被告レポート1につき21万8450円,被告レポート2につき219万5768円)である。仮に,ダウンロード特典のみならず閲覧特典が占める割合も評価した場合は合計665万8284円である。
(3) 被告らの責任について
被告テキスト及び被告レポートの販売は,一般社団法人化の前後を問わず,一貫して被告協会が行っており,被告エデュケイションズがこれを行ったことはなく,また,被告Y1及び被告Y2が個人として行ったこともないから,被告エデュケイションズ,被告Y1及び被告Y2は,被告テキスト,被告レポートの販売に関し,不法行為責任を負わない。被告レポートは「ISDねっと」において送信可能化されているが,「ISDねっと」の運営は,乙事件原告マネージメントから委託を受けた被告協会が行っている。
そして,被告Y1は,原告Xから黙示の許諾を得たと考えて被告テキスト,被告レポートを使用してきたのであり,被告協会の代表理事としての任務について悪意,重過失により懈怠したものではないから,被告協会の代表理事としての任務懈怠に基づく責任を負わない。また,被告Y2は,被告協会の事実上の理事ではないから,被告協会の理事としての責任を負わない。
9  争点(4)ア(本件告知行為及び本件流布行為の有無)について
〔乙事件原告らの主張〕
(1) 本件告知行為について
原告Xは,本件告知行為1~3(前記第2,3(4)アないしウ)を行った。
(2) 本件流布行為について
ア 原告会社及びその代表取締役である原告Xは,甲事件に係る訴え提起後の平成26年10月頃から,自ら又は原告有資格者を通じて,不特定多数の者に対し,原告らが被告協会らに対して提起している著作権侵害及び商標権侵害訴訟において原告らが勝訴するとの事実,被告協会らが被告各標章を使用する行為は原告商標権を侵害するとの事実並びに被告協会らが被告テキスト及び被告レポートを使用する行為は原告Xの著作権及び著作者人格権を侵害するとの事実を流布した(本件流布行為1)。
本件流布行為1が行われたことを示すものとして,①被告協会の博多品川支部の講師であるP(以下「P」という。)のセミナーの受講生が,平成26年12月から平成27年1月頃,原告会社の担当者に被告協会との違いを尋ねたところ,「今,裁判をやっていますから」「たぶん,こちらが勝ちますよ。」との説明を受け,またPの知人が原告会社の担当者から乙事件原告らを相手に訴えているとの説明を受けたこと(乙73),②原告会社の講師等として活動するQ(以下「Q」という。)が,平成28年1月5日,訴外Aに対し,「Xが生み出した大事な60キャラをずっと勝手に使用していた団体がいたので。今差し止めになっているので。」などの発言をしたこと(乙215),③原告会社の講師等として活動するR1及びR2(以下「Rら」という。)が,平成27年12月18日,訴外Bに対し,「ISD個性心理学。ウチをパクったやつです。」,「いま訴えていますから。」などの発言をしたこと(乙218)などを挙げることができる。
イ 原告らは,原告有資格者に対し,平成26年10月21日,本件メールを送付したところ(前記第2,3(4)エ),被告協会のS支部で講師として活動しているS(以下「S」という。)は,全く関係のない第三者から本件メールについて尋ねられたことがあり,また,「訴えられているそうですが,ISD個性心理学協会は大丈夫ですか?」などの質問を受けた(乙74)。これによれば,本件メールはその宛先から転送され,原告らもそのことを意図又は容認していたと考えられる。
そうすると,原告らは,本件メールを原告有資格者等に送信することにより,虚偽の事実を不特定多数の者に流布したということができる(本件流布行為2)。
〔原告らの主張〕
(1) 本件告知行為について
原告Xが本件告知行為1~3を行ったことは認める。
(2) 本件流布行為について
ア 本件流布行為1については,否認する。原告らはもとより,原告会社の担当者で,乙事件原告らが主張するようなことを述べた者はおらず,原告らが本件流布行為1をしたことはない。Pの陳述書は伝聞にすぎず,その信用性は低く,また,Q,Rらの陳述書の内容は,発言の状況が不明であり,本件流布行為1として乙事件原告らが主張する内容を含むものではない。
イ 本件流布行為2に関し,原告Xが原告有資格者に本件メールを送付したことは認めるが,原告会社の代表者として送信したものではない。また,原告会社は,有資格者に対し,メールの転送を禁止していたのであり,流布に当たる行為はしていない。Sの陳述書は,その内容が事実であるとしても,本件電子メールの内容が何らかの事情でS等に伝わったことを意味するにすぎず,原告らが自ら又は原告有資格者等を通じて本件電子メールを拡散したことを裏付けるものではない。
10  争点(4)イ(本件告知行為及び本件流布行為の内容が虚偽の事実に当たるか)について
〔乙事件原告らの主張〕
原告らによる本件告知行為及び本件流布行為は,被告らが原告商標権を侵害する行為をしたという内容を含むが,被告らが被告各標章を使用する行為は原告商標権を侵害するものではない。
また,本件告知行為及び本件流布行為は,被告らが原告Xの著作権,著作者人格権を侵害したという内容を含む。具体的にいうと,例えば,本件告知行為1は,原告テキスト1及び2並びに原告レポート3に記載された表現が著作権,著作者人格権の侵害に当たり,本件告知行為2は,原告テキスト1に記載された表現が著作権,著作者人格権の侵害に当たり,本件告知行為3は,原告テキスト2並びに原告レポート2及び3に記載された表現が著作権,著作者人格権の侵害に当たるという趣旨を含むものであると考えられる。
しかし,被告らが被告各著作物又はこれらに記載された表現を使用する行為は原告Xの著作権及び著作者人格権を侵害するものではない。
したがって,原告らによる本件告知行為及び本件流布行為の内容は虚偽である。
〔原告らの主張〕
否認又は争う。乙事件原告らが被告各標章を使用する行為は原告商標権を侵害するものであり,また,被告協会等が原告レポート,原告テキスト又はこれらに記載された表現を使用する行為は原告Xの著作権及び著作者人格権を侵害するものであるから,本件告知行為及び本件流布行為は虚偽の内容を含むものではない。
11  争点(4)ウ(原告らの故意・過失の有無)について
〔乙事件原告らの主張〕
原告らによる本件告知行為及び本件流布行為は,いずれも原告らの故意,又は,少なくとも過失に基づいて行われたものである。
〔原告らの主張〕否認又は争う。
12  争点(4)エ(正当行為としての違法性阻却の成否)について
〔原告らの主張〕
本件告知行為1及び2並びに本件メールの送信及び同内容のホームページへの掲載は,通常の権利行使の範囲内であり,商標権,著作権等の侵害行為の中止を求める必要性は高く,その告知等の範囲も必要最小限である上,本件メールについては転送を禁止する旨の記載を付すなど,事実が必要以上に拡散して伝わないように配慮したのであるから,やむを得ない理由に基づく必要最小限の範囲内の行為であり,正当行為として違法性が阻却される。
〔乙事件原告らの主張〕
原告らは,原告らの行為は正当行為として違法性が阻却されると主張するが,商標権,著作権,著作者人格権侵害が否定された場合には虚偽事実の告知・流布に該当する。原告らの指摘する事情は,違法阻却事由ではなく,故意・過失の有無として判断されるべきである。また,原告らは,K及びLに対してのみ通知をしているが,これは乙事件原告らの営業上の信用を害するために告知行為を行ったと考えざるを得ず,また,本件流布行為2は原告らが不特定多数の者に本件メールが転送されることを意図又は容認していたというものであるから,その行為を正当化することはできない。
13  争点(4)オ(差止めの必要性)について
〔乙事件原告らの主張〕
原告らによる本件告知行為及び本件流布行為は,乙事件原告らの営業上の信用を害する虚偽の告知又は流布行為に該当することが明らかであるから,乙事件原告らは,不正競争防止法3条1項に基づき,原告らに対し,本件告知行為及び本件流布行為の差止請求権を有する。
ところで,原告Xは,原告会社の代表取締役であるとともに原告会社が実践する個性心理学の創始者であり,原告会社に対して多大な影響力を有しており,共同して個性心理学の事業活動を行っているから,ほとんどの場合,原告Xの行為は同時に原告会社の行為であるといえる。このため,原告X名義の内容証明郵便の送付による本件告知行為も,同時に原告会社の行為であるということができる。また,本件メールは「個性心理學研究所 所長 X’」名義で送付されているが,原告Xと原告会社の一体性からすれば,本件流布行為は,両者の共同行為と評価できる。このように,原告らは乙事件原告らの営業上の利益を侵害するおそれがあるから,乙事件原告らは,原告ら両者に対して差止めを求める。
〔原告らの主張〕
争う。なお,原告会社は「営業上の利益を…侵害するおそれがある者」に該当せず,差止請求の対象となる余地はない。原告会社と原告Xとは別人格であり,また,原告会社が損害賠償請求権を行使しているからといって,本件告知行為及び本件流布行為を将来行う可能性が生ずるものではない。
14  争点(4)カ(信用回復措置の要否)について
〔乙事件原告らの主張〕
ISD個性心理学は各個人の個性から他人との関係や個人の生き方を分析するものであり,乙事件原告らの信用,信頼が高くなければ成り立たないものであるから,原告らによる本件告知行為及び本件流布行為によって信用,信頼が傷つけられたことによる影響は甚大であり,金銭賠償のみで乙事件原告らの営業上の信用,信頼が回復され得るものではない。
他方,原告らをして別紙広告目録記載第1の謝罪広告を同目録記載第2の要領,すなわち原告会社のホームページに3か月間掲載させる程度のことであれば,同じ業界の関係者,需要者が同ホームページを見ることによって乙事件原告らの営業上の信用を回復できる一方で,広く世間一般に公開するものではないから,乙事件原告らの営業上の信用回復する方法として必要最小限であり,請求として相当かつ妥当なものである。
仮に原告らをして別紙乙事件広告目録記載第1の謝罪広告を同目録記載第2の要領で掲載させることが過大であるとしても,原告らをして別紙乙事件広告目録記載第3の訂正広告を同目録記載第4の要領で掲載させることは謝罪文言を含まないものであるから,乙事件原告らの営業上の信用回復する方法としてより最小限であり,請求として相当かつ妥当なものである。
なお,乙事件原告マネージメントと被告協会とは,ISD個性心理学に関する事業に関して,実質的・経済的に一体であることから,本件告知行為又は本件流布行為において乙事件原告マネージメントが侵害行為の主体として特定されていないとしても,同乙事件原告による原告らに対する謝罪広告等掲載の請求も認められるべきである。
〔原告らの主張〕
否認又は争う。被告協会らは実際に原告Xの著作権及び著作者人格権を侵害したのであるから,原告らの行為は虚偽の事実の告知行為又は流布行為に当たらず,信用回復措置の請求の根拠がない。また,万が一,原告らの行為が虚偽の事実の告知行為と評価されても,金銭賠償のみで足り,信用回復措置までを負担させる必要性はない。
なお,本件告知行為又は本件流布行為において,乙事件原告マネージメントの名前が現れない限り,本件告知及び流布行為の相手方は,同乙事件原告のことを想起することはなく,その社会的評価が低下することはないのであるから,同乙事件原告による信用回復措置の請求は失当である。
15  争点(5)(乙事件について,乙事件原告らの損害の発生及びその額)について
〔乙事件原告らの主張〕
(1) 逸失利益の金額
乙事件原告マネージメントはISD個性心理学に関する事業の実施を被告協会に委託する関係にあり,ISD個性心理学に関する事業の収入(講座などの受講料収入及び物品販売収入)は乙事件原告マネージメントが得ている。また,被告エデュケイションズは,ISD個性心理学に関する各種コンテンツの企画,制作及び販売に関するサービス運営を行っているが,その対価として,毎月,乙事件原告マネージメントから,ISD個性心理学に関する事業収入を基礎とするライセンス料を得ている。
原告らが,平成26年10月頃から,本件告知行為及び本件流布行為を行ったことによって,乙事件原告らの営業上の信用が害されたために集客力が減少し,また,支部や受講生などに対して説明やお詫びを行うなどの対応を余儀なくされたことから,乙事件原告らは,当初計画していた平成26年10月以降の東京,大阪,名古屋,福岡及び鹿児島における講演会,プロモーション活動などの実施回数を減少せざるを得なくなり,支部においても,本件告知行為1を受け,Kが東京千代田アンビシャス支部における導入セミナーを中止するなどした。その結果,ISD個性心理学に関する講座の受講者や物品の販売数が減少し,事業売上げが当初の見込みよりも減少した。具体的には,平成26年度において,乙事件原告マネージメントが得たISD個性心理学に関する事業の収入(講座などの受講料収入及び物品販売収入)は当初見込んでいた収入よりも1億2853万9319円減少した(乙58)。乙事件原告マネージメントの利益率は少なくとも20%を下らないことから,乙事件原告マネージメントは逸失利益として少なくとも2570万円の損害を被った。
また,被告エデュケイションズはISD個性心理学に関する事業収入の少なくとも5%の実施料を乙事件原告マネージメントから得ていたので,被告エデュケイションズには,逸失利益として少なくとも640万円(≒1億2853万9319円×5%)の損害が生じた。
(2) 無形損害
原告らによる本件告知行為及び本件流布行為によって乙事件原告らの営業上の信用が害された。特に,乙事件原告らの行っているISD個性心理学は各個人の個性から他人との関係や個人の生き方を分析するというものである以上,乙事件原告らの信用,信頼が高くなければそもそも成り立たないものであるから,原告らによる本件告知行為及び本件流布行為によって信用,信頼が傷つけられたことによる影響は甚大である。
以上から,乙事件原告らの信用が棄損されたことによって生じた無形の損害は少なく見積もってもそれぞれ500万円は下らない。
(3) K及びLの弁護士費用
K及びLは原告Xから送付された内容証明郵便に対応するため,それぞれ弁護士に委任した。そして,この対応については,被告各標章の使用が原告商標権を侵害するか否かといった乙事件原告らが自ら対応すべき問題に関する事項であったことから,乙事件原告マネージメントとK及びLとの間において,本件告知行為1及び2に対応するために要した弁護士費用の全額を乙事件原告マネージメントが負担することで合意した。
K及びLが内容証明郵便への対応を委任した弁護士の費用は,それぞれ15万1200円及び12万1801円であったが,上記合意により,乙事件原告マネージメントが各弁護士に対して支払った(乙256,257)。
したがって,K及びLに対する内容証明郵便の送付によって,乙事件原告マネージメントには,27万3001円の損害が生じた。
(4) 弁護士費用
乙事件原告らは,訴訟代理人弁護士に対し,乙事件の訴え提起及び訴訟追行を委任し,着手金及び成功報酬金として500万円を支払うことを約した。
(5) 請求額
以上より,乙事件原告らは,不正競争防止法4条に基づき,①原告らに対し,連帯して,乙事件原告マネージメントへの損害賠償として,逸失利益相当額の2570万円を,②原告Xに対し,乙事件原告マネージメントへの損害賠償として,K及びLの弁護士費用27万3001円を,③原告らに対し,連帯して,被告エデュケイションズへの損害賠償として,逸失利益相当額の640万円を,④原告らに対し,連帯して,乙事件原告ら各自への損害賠償として,無形損害500万円及び弁護士費用相当額500万円の合計1000万円を,それぞれ請求する権利を有する。
〔原告らの主張〕
(1) 乙事件原告らの主張に対する認否
否認又は争う。乙事件原告らの主張する損害は,原告Xの告知行為とは相当因果関係がなく,また,損害の発生について立証がない。
(2) 逸失利益
乙事件原告らは,事業売上の減少について乙事件原告マネージメントが作成した総合推移損益計算書(乙58)を根拠として得べかりし利益を失ったと主張するが,同表には客観的な裏付けがない上,同表によれば,平成26年4月ないし平成27年3月の各月の売上は1400万円ないし1800万円前後で変わらず推移しているから,同表記載の売上高が事実であるとしても,乙事件原告らは,原告Xによる告知により何ら被害を被っていない。
また,乙事件原告らは,本件告知行為1を受け,Kが導入講演会などを中止したと主張するが,これにより失った利益についても客観的な根拠はない上,Kは現在でも被告協会の支部において活動しているのであるから,同人が原告Xからの内容証明郵便を受領したことにより,ISD個性心理学に係る事業に影響が生じたとは考えられない。
(3) 無形損害
乙事件原告らに無形損害が生じたことについて立証がない。仮に受講生数が減少していたとしても,それは,景気の影響や乙事件原告らの内部の問題によるものであり,本件告知行為又は本件流布行為とは関係がない。
(4) K及びLの弁護士費用
K及びLの弁護士費用については,K及びLが負担すべきものであって,乙事件原告マネージメントが負担すべき合理的な理由はない。また,その負担は,本件告知行為1及び2とは関係がない。
第4  当裁判所の判断
1  認定事実
前記第2,3の前提事実に加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。
(1)  原告会社設立までの事実経緯
ア 原告Xは,平成4年頃,日本個性學研究所の代理店をしていたオービス社を通じて,同研究所の代表者である石井の「個性学」の講義を受けるようになり,石井と知り合った。「個性学」は,四柱推命,算命学等を起源として,人間の個性をその誕生年月日により分類する考え方である。被告Y1は,平成7年,オービス社の主催する石井のセミナーに参加し,原告Xと知り合った。(甲271,乙77,90)
イ その後,オービス社は分裂し,平成7年頃,オピニオン社が設立され,同社は石井と連携して「個性学」に関する事業を展開するようになった。オピニオン社は,オービス社のテキストを参考にして作成した教材を使用し,原告X及び被告Y1は,平成8年頃,そのインストラクターとして活動をしていた。(乙62,63,77,90,207)
ウ 原告Xは,平成9年4月,被告Y1を含むオピニオン社の講師らとともに同社を離れ,個性心理學研究所を設立し,同年5月,原告会社の前身であるノア社の代表取締役に就任した。(甲4,46の2,271,乙90)
(2)  原告各著作物等の作成経緯
ア ノア社は,テキスト等の教材を新たに作成することとし,原告Xは,平成9年5月,かねてから四柱推命,陰陽五行学などに強い関心を抱き,その研究をするなどしていたMと知り合い,Mが代表者を務めるのら社との間で,平成9年5月20日,個性心理学の普及のためのソフトウェア開発を共同で行うことを内容とする契約を締結した。(甲271,乙79,237,証人M,原告X)
イ Mは,「生まれ日占星術」,「愛の六十花占い」,「幸運をつかむ」などを参考にして,生年月日の十干十二支から算出する分類に応じた120種類のレポートを作成していたところ,同契約に基づく役割分担として,プログラムコンテンツとなる文章作成を担当することとなり,これを完成させた。Nは,Mが作成したレポートをプラグラムに搭載し,そのパイロット版をノートパソコン「リブレット」にインストールしてノア社に渡した。(乙237,証人M)
ウ 原告X,被告Y1,M,Nらは,平成9年8月頃,文書作成会議と呼ばれる会議を複数回開催し,四柱推命の12運勢又は個性学における性格12分類について,動物を用いて表すことに決定し,それぞれの分類を表すのに適した12の動物を選定した。また,上記会議の過程において,Mの作成した上記レポート(これ自体には12動物の表示はされていない。)に若干の修正が加えられた。「リブレット」にインストールされた同レポートのファイルの最終的な更新日は,そのほとんどが同月13日から16日までの間であり,これらの更新を経たものが本件共同著作物(乙86の別紙3)である。(乙77,90,237,証人M,被告Y1)
エ のら社は,平成9年9月30日,ノア社にソフトウェアを納品したが,ノア社は残代金の支払を拒絶した。これにより,ノア社とのら社の関係は悪化し,ノア社はのら社に対してソフトウェア開発を委託することを断念し,同年10月中旬,第三者である有限会社フォーチュンソフト(以下「フォーチュンソフト社」という。)に対し,ソフトウェアの開発を依頼した。(甲271,乙246,原告X)
オ 原告Xは,平成9年11月頃までに,上記ウで決定した12の動物に修飾語を付して(例「長距離ランナーのチータ」),12動物60種類の文言を作成した。12動物60種類の文言は,Mが作成した120種類のレポートに対応するものである。(甲271,証人M,原告X)
また,原告Xは,平成9年11月頃までに,本件共同著作物に加筆して原告レポート1を作成し,また,本件共同著作物を箇条書きにまとめて,原告レポート2を作成するとともに,an・an の記事(乙65)などを参考にして,原告レポート3を作成した。(甲271,乙90,原告X)
さらに,原告Xは,オービス・セミナー資料(乙61),オピニオンエキスパートテキスト(乙63)などを参考にして,原告テキスト1,2(甲12,13)及び原告スライド(甲14)を作成し,平成9年秋に発行した。(原告X)
カ フォーチュンソフト社は,平成9年11月末,ノア社に対し,原告レポートが格納された「個性心理學システム Ver1.0」を納品した。(甲271,乙246,原告X)
(3)  被告各著作物の作成及び販売等
ア ノア社は,フォーチュンソフト社から納品されたソフトウェア(原告レポートが格納されたもの)の販売を開始し,被告Y1は,平成9年12月頃までに,ノア社から,同ソフトウェアがインストールされたデスクトップパソコン等を合計350万円で購入した。(甲24,25)
イ 被告Y1は,自らが代表を務めていた株式会社アーク(以下「アーク社」という。)の事業に,上記「個性心理學システム」を使用しようと考え,平成10年3月24日,ノア社に対し,アーク社がノア社の上記ソフトウェアの販売権等を有し,30%の著作権使用料を支払うという内容の契約の締結を提案した。(甲239,271)
ウ その後,ノア社ないし個性心理學研究所とアーク社は事業提携をし,ノア社又は個性心理學研究所は,セミナー事業及び上記ソフトウェアの販売をアーク社に委託をすることとなった。しかし,平成10年10月頃までには,両社間の関係は悪化し,その提携関係は解消された。(乙238,239,240)
エ 被告Y1は,平成10年頃からISD個性心理学協会の名称を用いてISDロジックに基づく個性心理学のセミナーを開催するようになり,原告テキストや上記アで購入したデスクトップパソコン等に組み込まれていた原告レポートなどを利用し,被告テキスト(甲8)及び被告レポート(甲22)を作成した。(甲18,乙90,91,被告Y1)
オ 被告協会又は被告エデュケイションズは,平成19年4月2日,「ISDねっと」という名称の会員サービスを開始した。「ISDねっと」の会員は,被告レポートを含むコンテンツをインターネット経由で閲覧及びダウンロードすることができる。「ISDねっと」は,平成25年10月1日に新システムに移行されたが,システム移行前及び移行後の会員区分は次のとおりである(いずれも税抜き価格)。
(ア) システム移行前(旧ISDねっと)

なお,被告レポート1に当たる「あなたの本質」のダウンロードの通常価格は1000円であり,被告レポート2に当たる「総合分析」の通常価格は2000円である。
(イ) システム移行後

なお,被告レポートの通常価格はシステム移行前と同じである。
(甲19~22,275,乙258,259)
(4)  被告Y2の地位,活動等
被告Y2は,平成12年,個性心理學研究所の副所長に就任し,平成13年4月1日,原告Xが代表取締役を務めていた株式会社キャラナビ・ドット・コムに入社したが,平成14年2月3日に退社した。(甲26~28,乙91,被告Y2)
被告Y2は,平成15年以降,ISD個性心理学の講演等の活動を行うようになり,被告エデュケイションズの設立以降,その取締役を務め,平成24年8月7日に被告協会が設立されてからは,同協会の会長を称しているが,被告協会の理事ではない。(乙91,203,被告Y2)
2  争点(1)ア(商標権侵害につき原告商標と被告各標章の類否)について
(1)  商標の類否は,対比される商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に,その商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかも,その商品又は役務に係る取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁,最高裁平成6年(オ)第1102号同9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁)。そして,複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されない(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁参照)。
(2)  被告各標章のうち識別力を有する部分の有無
原告らは,被告各標章のうち,取引者,需要者に対して商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるのは「個性心理学」の部分であることから,この部分を抽出し,原告商標と対比して類否を判断すべきであると主張するので,以下,検討する。
ア 原告らは,「個性心理学」という言葉は,原告商標の登録時及び侵害行為時において普通名称として認識されていなかったと主張する。
(ア) しかし,「個性心理学」という言葉は,心理学者の渡辺徹が大正13年から日本大学において「個性心理学」という名称の講義を行ったことなどにより,昭和24年頃にはすでに心理学の一分野を示す語として使用され(乙2の1,乙18,245),昭和31年や昭和59年に発行された文献にも記載されるなど,古くから心理学の一分野と認識されていたと認められる(乙3,4の1)。例えば,髙嶋正士著「ゴールトン及びキャテルの生涯とその業績について」(乙4の1)には,「現代心理学の基礎研究領域は多岐にわたっているが,その中に差異心理学 differential psychology がある。これは個人差の問題を扱う領域で,また個性心理学 psychology of individual ともいわれる。」と記載されている。
また,原告商標の登録後の平成20年4月7日付けの日本学術会議による「学士課程における心理学教育の質的向上とキャリアパス確立に向けて」と題する対外報告には,心理学教育の基準カリキュラムの「説明理論/知識習得(専門領域科目)」として「個性心理学」が掲げられている(乙19の4頁及び9頁)。
このように,個性心理学は,昭和20年代当初から近時まで,学問・研究分野において心理学の一分野を指す普通名称として認識されているというべきである。
(イ) 「個性心理学」という語は,広辞苑(乙5,6,231~233),大辞泉(乙14,242,243),国語大辞典(乙7,241),日本国語大辞典(乙15~17)などの国語事典等にも掲載され,「個人差を扱う心理学。差異心理学。」,「個人差を研究対象とする心理学」(乙7,241)という意味を有する概念であると説明されている(なお,広辞苑第四版から第六版まで〔乙231~233〕においては,「差異心理学」の語の説明において「特に,個人差を取り扱うものを個性心理学という。」と記載されている。)。上記の国語事典のうち,例えば広辞苑第六版(平成20年発行。乙231),大辞泉第二版(平成24年発行。乙243)などは,原告商標の登録後のものであり,近時においても,「個性心理学」という語が一般名称と理解されていることを示している。
(ウ) 原告らは,近時の心理学の専門的な辞典(事典)では「個性心理学」という語は取り上げられていないことなどを指摘するが,前記のとおり,「個性心理学」は個人差の問題を扱う心理学として存在し,現時点でも,国語に関する辞書にその説明が記載されていることは前記判示のとおりである。原告らの指摘する点を考慮しても,「個性心理学」の心理学における一つの理論体系としての存在が揺らぐものではなく,「個性心理学」という語がいわゆる死語と化したと認めることはできない。
(エ) 以上によれば,「個性心理学」という語は,現在でも心理学という学問の一分野を示す普通名称であると認めるのが相当である。
イ 原告らは,仮に「個性心理学」が普通名称等であるとしても,それは学問や研究の対象としての「心理学」を指しているにすぎず,原告商標の役務である「占い」との関係においては造語であると主張する。
しかし,「占い」は,対象となる個人の誕生日などの指標に基づき,その性格,行動傾向,運勢,将来などを分析,予測するものであるから,個人差に着目してその性格や行動傾向の分析を行う点で個性心理学と共通又は近接する面があり,取引者,需要者において,「占い」を役務とする標章において「個性心理学」という語を用いた場合,それが造語であり,一般名称ではないと認識するとは考えがたい。
ウ 原告らは,原告商標は,長年にわたり雑誌,新聞,テレビで多数回紹介されるなどして強い出所識別力を獲得したと主張し,これを裏付けるものとして多数の証拠(甲33,35~37,45,57~207など)を提出している。
しかし,これらの書籍,雑誌,新聞,メディアにおける表示は,「動物キャラナビ」,「マスコット占い」,「ラブナビ」などとして表記又は紹介されている例が多数であり,他方,「個性心理学」の表示は,そのほとんどが書籍の題号又は副題,心理学の一分野としての表記・紹介,原告の肩書の一部などとして使用されているにすぎず,原告らの役務の出所表示として使用されているものとは認められない。
また,原告らは,講座の受講者数,カウンセラー数,支所・支局数などを原告商標が周知であることを示す根拠して挙げるが,これらの事実をもってしても,原告商標が取引者,需要者に広く認識されていると認めることはできない。
そうすると,「個性心理学」という表示が原告らの業務に係る役務の出所を表示するものとして取引者,需要者の間に広く認識されていたと認めることはできない。そして,原告らが「個性心理学」にⓇマークを付して表示していたことは,この判断を左右しない。
エ したがって,被告各標章における「個性心理学」の部分が,取引者,需要者に対し役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認めることはできない。原告商標と被告各標章を対比するに当たっては,被告各標のうち「個性心理学」の部分を抽出することなく,その全体をもって原告商標と対比することが相当である。
(3)  原告商標と被告各標章の類否
ア 外観
原告商標の外観は「個性心理学」の文字からなるのに対し,被告標章1の外観は「ISD個性心理学」の文字からなり,被告標章2の外観は,「ISD個性心理学協会」の文字からなるものであって,両者の外観は類似しない。
イ 称呼
原告商標からは,「コセイシンリガク」との称呼を生じるのに対し,被告標章1からは「アイエスディコセイシンリガク」との称呼が生じ,被告標章2からは「アイエスディコセイシンリガクキョウカイ」との称呼が生じるものであり,原告商標と被告各標章の称呼は類似しない。
ウ 観念
原告商標からは,「心理学の一分野である個性心理学」との観念が生じるのに対し,被告標章1からは「ISDという名称の心理学の一分野である個性心理学」との観念を生じ,被告標章2からは「ISDという名称の心理学の一分野である個性心理学に関する会員が協力して設立・維持する会」との観念を生じるのであって,原告商標と被告各標章の観念は類似しない。
エ このように,原告商標と被告各標章は,外観,称呼,観念のいずれにおいても類似するとは認められないので,取引の実情について検討するまでもなく,原告商標と被告各標章は類似しているとはいえない。
(4)  したがって,その余の点について判断するまでもなく,商標権侵害を理由とする原告らの請求には理由がない。
3  争点(2)(著作権侵害の成否)について
(1)  原告各著作物の著作物性(争点(2)ア)について
原告らは,被告各著作物は原告各著作物及び12動物60種類の文言に係る著作権(複製権,翻案権,公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権,氏名表示権)を侵害すると主張する。なお,原告各著作物とその著作権等を侵害したと主張されている被告各著作物の対応関係は,前記第2,3(3)オの表記載のとおりである。
これに対して,被告らは,原告各著作物は先行著作物と実質的に同一であり,また先行著作物との間に差違があるとしてもそれはありふれた表現にすぎないなどと主張して,その創作性を争う。
そこで,以下,原告各著作物について順次検討する。
ア 原告スライド及び原告テキスト1について
(ア) 原告スライド及び原告テキスト1の内容等
原告スライド及び原告テキスト1は,いずれも個性心理学の講座等で使用するものであり,これに対応するのは被告テキストである。
(イ) 原告表現1-1~4の創作性
原告スライド(原告表現1-1~4)は原告Xが作成したものと認められるところ,その表現は,次のとおり,いずれも先行著作物と実質的に同一又はありふれた表現であり,創作性があると認めることはできない。
a 原告表現1-1は,植物に関するツリー構造の図であるところ,同表現とオービス・セミナー資料(植物に関する部分)を対比すると,そのツリー構造自体が類似しており,樹木のうち「桜」,「梅」,「松」,桜の種類のうち「八重桜」「しだれ桜」が共通していることが認められる。原告表現1-1の分類自体は一般的なものにすぎず,原告表現1-1とオービス・セミナー資料との差違は,樹木の種類として「竹」が挙げられていること,「ボタン桜」の代わりに「そめい吉野」が挙げられていることなど,ささいなものにすぎない。
したがって,原告表現1-1に創作性を認めることはできない。
b 原告表現1-2は,「あきらめる」ことが「あきらかにみとめる」,「受け入れる」ことと同義であることを段階的に表わしたものであるが,「あきらめる」とは,そもそも「明らかにすること」や「悪い状態を受け入れること」を意味する語句である(乙66,67)ので,原告表現1-2は「あきらめる」という語句の一般的な意味を記載しているにすぎない。
したがって,原告表現1-2に創作性を認めることはできない。
c 原告表現1-3は,オピニオン・エキスパートテキストが引用しているスウェーデン産婦人科医師の「誕生の神秘」という表現を引用し,レイアウトや色彩を変えたものにすぎない。
したがって,原告表現1-3に創作性を認めることはできない。
d 原告表現1-4は,オピニオン・エキスパートテキストが引用している角田忠信教授著「脳の発見」の表現を引用し,レイアウトや色彩を変えたものにすぎない。
したがって,原告表現1-4に創作性を認めることはできない。
(ウ) 原告表現1-5~10の創作性及び被告表現との対比
原告テキスト1は原告Xが作成したと認められるところ,その表現(原告表現1-5~10)には創作性が認められ,対応する被告表現1-5~10はその複製又は翻案に当たると認められる。
a 原告表現1-5~7について,被告らは,個性学の「人志向型」,「城志向型」,「大物志向型」の3分類を「MOON」,「EARTH」,「SUN」に置き換えて表現したにすぎないと主張するが,原告表現1-5~7と同一又は類似する表現が先行著作物に存在すると認めるに足りる証拠はない。
そうすると,原告表現1-5~7は創作性を有すると認められるところ,これを被告表現1-5~7を比較すると,その表現のほとんどが原告表現と同一又は酷似している。
したがって,被告表現1-5~7は原告表現1-5~7を複製又は翻案したものと認めるのが相当である。
b 原告表現1-8,9について,被告らは,対比表1の対応部分に記載された先行著作物の「人」,「城」,「大物」を「MOON」,「EARTH」,「SUN」に置き換えて表現したにすぎないと主張する。
この点,確かに円グラフ及び各分類の割合,関係図の構成や各要素の関係はほぼ同一であるものの,その文字部分の表現自体が異なり,絵柄が追加されているなどの差違があることから,原告表現1-8,9の創作性は否定されないというべきである。
原告表現1-8,9と被告表現1-8,9とを対比すると,ほぼ同一であるということができるので,被告表現1-8,9はそれぞれ原告表現1-8,9の複製又は翻案に当たる。
c 原告表現1-10は,対比表1の対応部分に記載された先行著作物の「実益型」,「挑戦型」などの表現を12動物に代えたものであり,円グラフの形状などは類似しているが,その分類に係る表現自体が異なり,動物の絵柄が追加されているなどの差違があり,原告表現1-10の創作性は否定されないというべきである。
原告表現1-10と被告表現1-10を対比すると,円グラフ状の図におけるキャラクターの名前,配置,割合はほぼ同一であり,動物の絵柄が若干異なり,月などの絵柄が描かれている点で異なるとしても,被告表現1-10に接した者はこうした原告表現1-10の表現上の特徴を直接感得することができるというべきである。
そうすると,被告表現1-10はそれぞれ原告表現1-10の翻案に当たる。
(エ) したがって,被告テキストの被告表現1-5~10は,原告テキスト1の原告表現1-5~10の複製又は翻案に当たるから,原告テキスト1に係る著作権を侵害し,かつ,原告Xの著作者人格権を侵害する。
なお,被告テキスト(甲8)は,3頁から33頁までの本文部分と目次(1頁)及び表紙,奥付,裏表紙からなるもので,そのうち著作権等の侵害に当たると認められる被告表現1-5~10は,頁数にして4頁である。
イ 原告レポート1について
(ア) 原告レポート1の内容等
原告レポート1は「あなたの本質」という表題であり,対象者の氏名と生年月日の記載の下に,12種類の動物のうちのいずれかの動物の絵柄があり,その横に各動物の特徴が文章(対比表4の原告表現の欄記載のもの)により表現されており,さらにその下に,対比表2の原告表現の欄記載の文章が記載されているものであり,これが,男女別に12動物60種の合計120種類存在する。
これに対し,被告レポート1は「あなたの本質」という表題であり,対象者の氏名と生年月日の記載の下に,12種類の動物のうちのいずれかの動物の絵柄及びそれに対応する12動物60種類の文言があり,その横に各動物の特徴が文章により表現されている。そして,その下には対比表2の被告表現欄記載の文章が記載されており,さらにその下に,対比表3の被告表現欄記載の箇条書きの文章が記載されており,これが,男女別に12動物60種の合計120種類存在する。12動物60種の分類は原告レポート1,2と同一であり,分類には12動物60種類の文言が用いられている。
(イ) 原告レポート1の著作者及びその創作性について
a 本件共同著作物の著作者
原告らは,原告レポート1が本件共同著作物の二次的著作物であることを前提とした上で,本件共同著作物の著作者は原告XとMであると主張する。
そこで検討するに,本件共同著作物の原案を作成したのがMであることは,その旨をMが証言するのみならず,原告X及び被告Y1ともに認めるところである(原告X7頁,被告Y137頁)。
原告Xは,Mが本件共同著作物を作成するに当たり,必要なテキストや資料を提供し,またMから受け取った原案に大幅に加筆したことを根拠に自らも本件共同著作物の著作者であると主張するが,原告XがMに対して提供したと主張するテキストや資料は証拠として提出されておらず(原告X43,44頁),提供されたことをうかがわせる客観的な証拠もない。また,原告Xが本件共同著作物に大幅に加筆したと認めるに足りる証拠もない。そうすると,原告Xが本件共同著作物の著作者の一人であると認めることはできない。
なお,前記認定のとおり,原告X,被告Y1,M,Nらは,平成9年8月頃,文書作成会議と呼ばれる会議を複数回開催し,その過程においてMが作成した本件共同著作物の原案に修正が加えられたとの事実が認められる。しかし,本件共同著作物の更新日に照らし,これが完成したのは平成9年8月中旬から9月にかけての頃であると認められるところ,それまでの間に行われた加筆・修正が大幅であり,原案の本質的な部分が変更されたと認めるに足りる証拠はない。このため,上記事実は本件共同著作物の著作者の認定を左右しない。
以上のとおり,本件共同著作物の著作者はMであると認められる(なお,原告らは,被告らが本件共同著作物の著作者がMであると主張することは自白の撤回に当たると主張するが,これが自白の撤回に当たるとしても,本件共同著作物の著作者はMと認められることから,自白は錯誤に基づくものとして撤回されたものと認める。)。
b 本件共同著作物の創作性
被告らは,原告レポート1の原著作物である本件共同著作物は,先行著作物の表現を寄せ集めたものにありふれた変更等を加えたものにすぎず,創作性がないか,創作性は極めて限定した範囲・程度にとどまると主張する。
しかし,対比表6からも明らかなとおり,本件共同著作物が「生まれ日占星術」(乙237)と共通する表現はそれほど多くなく,また,「幸運をつかむ」(乙228)についても,対比表6に引用されている表現の中で共通するとされる部分はそれほど多くの部分を占めていない。「愛の六十花占い」(乙226)についても同様である。また,同一又は実質的に同一の表現であると指摘される部分も,文章又は段落がそのまま引用されているものは少なく,先行著作物の一部の語句や一節を用いているのが大半であるということができる。
そうすると,本件共同著作物はMの個性が発揮されたものであり,創作性を有すると認めるのが相当である。
c 原告レポート1の創作性
上記aのとおり,本件共同著作物の著作者はMであると認められるところ,原告表現2-1-1~120と本件共同著作物の表現とが相違する部分については,前記認定のとおり,平成9年11月までの間に原告Xが加筆修正した部分であると認められる。二次的著作物の著作権は,二次的著作物において新たに付与された創作的部分のみについて生じ,原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じないと解するのが相当であるので(平成4年(オ)第1443号同平成9年7月17日第一小法廷判決・民集51巻6号2714頁),原告Xが著作権によって新たに付与された部分に創作性が認められるかどうかについて,以下検討する。
この点,被告らは,原告レポート1と本件共同著作物の相違部分には創作性がないと主張する。しかし,対比表2を参照して,原告表現2-1-1~120と本件共同著作物の表現を対比すると,原告表現の文章の長さは,いずれも対応する本件共同著作物の文章の長さよりも,相当程度に長く,概ね1.5倍程度になっていることから,原告表現2-1-1~120の少なくとも3分の1は,原告Xが新たに創作した部分であると認められる。
そして,原告Xが加筆した部分は形式的な修正にとどまらず,例えば,原告表現2-1-1において「マスコットがチータのあなたは,人生の目標を大きく持ち,それを達成するまで何度もチャレンジを続けます。世界中を飛び回って活躍するような,ダイナミックな一生を送りたいと思っているでしょう。」との表現が付加されているように,原告レポート1には本件共同著作物にはない新たな文章が付加されており,その部分がありふれているということはできない。
また,本件共同著作物と原告表現2-1-1~120とで文章の位置が入れ替わっているものも多くみられる。例えば,原告表現2-1-1についてみると,対応する本件共同著作物の第2段落(「実行力は旺盛で」で始まる段落),第3段落(「常に何かを求めながら」で始まる段落),第6段落(「金銭的にはしまり屋で」で始まる段落)の記載順序が入れ替えられ,原告表現2-1-1の第4段落にまとめて記載され,しかも,上記第3段落の文章の一部は同表現の第2段落に配されていることが看取される。
このように,原告表現2-1-1~120には原告Xが独自に創作した新しい文章が付加されている部分,本件共同著作物の文章の順序が変更されている部分などが多くみられるのであり,これによれば原告レポート1と本件共同著作物の相違部分に係る表現は創作性を有するものと認めるのが相当である。
なお,被告らは,原告レポート1と本件共同著作物以外の先行著作物を対比し,原告レポート1に係る表現は創作性を有しないとも主張するが,前記bと同様の理由から採用し得ない。
(ウ) 原告表現2-1-1~120と対応する被告表現との対比
対比表2記載の原告表現と被告表現を比較すると,被告表現2-1-55以外の被告表現は,対応する原告表現とほぼ同一であるか,又は対応する原告表現の一部が変更されているものの,相当程度の割合において原告表現と同一の表現を用い,対応する原告表現の表現上の特徴を直接感得することができるものであることから,複製又は翻案に当たると認められる。
被告表現2-1-55については,他の被告表現と明らかに異なり,趣旨の異なる三つの文書を組み合わせて作成されたものであり,原告表現と同一の表現を用いている部分も多くないことから,対応する原告表現の複製又は翻案に当たるとは認められない。
したがって,被告表現2-1-1~120(55を除く。)は,原告表現2-1-1~120(55を除く。)を複製又は翻案したものと認められる。
ウ 原告レポート2(箇条書き部分)について
(ア) 原告レポート2(箇条書き部分)の内容等
原告レポート2(箇条書き部分)は原告Xが作成したものと認められるところ,その表現(原告表現2-2-1~120)は,本件共同著作物に依拠し,その内容を箇条書きに要約・整理したものであり,本件共同著作物の二次的著作物に当たる。前記のとおり,原告レポート2(箇条書き部分)に対応する被告著作物は被告レポート1(その一部)である。
(イ) 原告レポート2(箇条書き部分)の創作性
被告らは,原告表現2-2-1~120は,先行著作物又は本件共同著作物を箇条書きに整理したにすぎず,その寄せ集めにすぎないか,ありふれた表現であるから,創作性が認められないか,極めて限られた範囲・程度の創作性が認められるにすぎないと主張する。
しかし,対比表3を参照して原告表現2-2-1~120と本件共同著作物の対応する表現との相違部分を比較すると,原告表現の方が文字数にして半数以下になっており,本件共同著作物を要約・整理する過程で原告Xの個性が発揮されているということができる。
また,原告表現2-2-1~120には,本件共同著作物にはない項目が追加されているもの(例えば,原告表現2-2-7)や,表現が追加され又は記載の順序が入れ替えられているもの(例えば,原告表現2-2-1)もあると認められ,これらの相違部分は創作性を有するものと認められる。
以上によれば,原告表現2-2-1~120と本件共同著作物の対応する表現との相違部分は創作性を有すると認められる。
なお,被告らは,原告レポート2(箇条書き部分)は,本件共同著作物以外の先行著作物との対比においても創作性を有しないと主張するが,本件共同著作物以外の先行著作物と原告表現2-2-1~120の共通する部分はごく一部の文節や単語等にとどまっており,被告らの上記主張は採用し得ない。
(ウ) 原告表現2-2-1~120と対応する被告表現との対比
原告表現2-2-1~120と被告表現2-2-1~120とを対比すると,被告表現2-2-1~120は,対応する原告表現と大部分において同一であり,その複製に当たると認めることができる。
エ 原告レポート2(動物説明部分)について
(ア) 原告レポート2(動物説明部分)の内容等
原告レポート2(動物説明部分)は原告Xが作成したものと認められるところ,その表現(原告表現3-1~120)に係る動物は12種類であり,これに対応する被告著作物は被告レポート1(その一部)である。
(イ) 原告レポート2(動物説明部分)の創作性
被告らは,原告レポートの2の動物説明部分は,辞書等(乙93~100)に記載されている動物としての特徴を客観的に説明する表現の寄せ集めであり,全体として平凡かつありふれたもので創作性を有しないと主張する。
しかし,対比表4を参照して,原告表現3-1~120と辞書等の記載を対比すると,原告表現3-1~120は,いずれも特定の辞書等の記載を引き写したものではなく,関係する辞書等において説明又は紹介されている各動物に関する様々な特徴(外見,種類,餌,生息地域,行動態様,人間との関わり等)から一定の特徴に着目し,それを簡潔に要約してまとめたものであり,記載すべき特徴の選択及びそれに基づく記述には原告Xの個性が発揮されているということができる。
したがって,原告表現3-1~120には創作性があると認められる。
(ウ) 原告表現3-1~120と対応する被告表現との対比
原告表現3-1~120と被告表現3-1~120を対比すると,全て同一であるから,被告表現3-1~120は,対応する原告表現を複製したものと認められる。
オ 原告レポート3について
(ア) 原告レポート3の内容等
原告レポート3は,「あなたの個性の分析一覧表」という表題の下に,対象者の氏名と生年月日の記載があり,その下に,表形式で,上から「3分類」,「4分類」,「思考の2分類」,「特性の2分類」,「左右の2分類」,「60分類」,「リズム」及び「レール」の各欄があり,同各欄に対応するイラスト,説明等が記載されているものであって,原告Xが作成したものであると認められる。このうち,原告らが著作権等の侵害を主張する部分は,「思考の2分類」,「特性の2分類」,「リズム」及び「レール」の各欄に記載されている文章である。「リズム」及び「レール」欄の文章は各10種類,「思考の2分類」及び「特性の2分類」欄の文章は各2種類あり,それぞれが組み合わせられて原告レポート3全体で合計120種の一覧表が作成されている。
これに対し,被告レポート2は,各欄の項目名が異なるものはあるものの,実質的には同一の構成であり,一覧表の種類も120種類と同一である。
(イ) 原告レポート3の創作性
被告らは,原告レポート3は an・an の記事やオピニオン・エキスパートテキストに依拠し,これらから抜粋した文章のみで構成されているものであって,創作性がないと主張する。
a 「リズム」欄の表現について
(a) an・an の記事の二次的著作物かどうかについて
原告レポート3における「リズム」欄の記載は,「大樹」等の10種類に分類され,各項目について説明がされているところ,その先行著作物である an・an の記事(乙65)においても「主精」を「樹」等の10種類に分類した上でその説明がされており,その項目名は若干異なるものの,その内容は対応しているということができる。そして,各項目の記載を対比すると,共通する部分が少なくない。
そうすると,原告レポート3における「リズム」欄の記載は,an・an の記事に依拠し,これを要約又は加筆することにより作成された二次的著作物であると認めるのが相当である。
これに対し,原告Xは,an・an の記事に依拠したことはないと主張するが,an・an の記事が掲載された雑誌の発行時期が平成9年7月10日と原告らが原告レポート3の完成時期(同年11月頃)と近接していること,an・an が広く一般に販売されている雑誌であって容易に入手可能であること,原告表現との共通部分が,原告レポート3の「リズム」欄の分類全てにわたっており,表現についても共通する部分が多いことに照らすと,原告らの主張は採用し得ない。
(b) an・an の記事との相違部分の創作性について
原告レポート3の「リズム」欄に係る原告表現(原告表現4-1-1~120)と an・an の記事の表現とを対比すると,原告レポートにおいては,an・an の記事の表現を利用しながらも,その文章をそのまま引き写すのではなく,語句や文節を利用しながら,その記載を半分以下に要約しているものであり,その抜粋する箇所の選択には原告Xの個性が発揮されているということができるので,an・anの記事と原告レポート3の「リズム」欄の表現の相違部分について創作性がないということはできない。
b 「レール」欄の表現について
(a) an・an の記事の二次的著作物かどうかについて
原告レポート3における「レール」欄の記載は,「マイペース」等の10種類に分類され,各項目について説明がされているところ,その先行著作物である an・an の記事においても「10大主星」を「貫索星」等の10種類に分類した上でその説明がされており,その項目名は異なり,共通する表現は「リズム」欄の記載に比べて少ないものの,その記載内容は類似し,全ての項目において同一又は類似する表現が使用されていることが認められる。このため,同欄の表現も an・an の記事に依拠し,これを要約又は加筆することにより作成された二次的著作物であると認めるのが相当である。
(b) an・an の記事との相違部分の創作性について
原告レポート3の「レール」欄に係る原告表現(原告表現4-1-1~120)と an・an の記事の表現とを対比すると,原告レポートは an・an の記事を半分以下に要約している上,共通する表現はそれほど多いとはいえず,相当程度の割合を新しく作成された文言が占めているということができる。このため,an・an の記事と原告レポート3の「レール」欄の表現との相違部分について創作性がないということはできない。
c 「思考2分類」及び「モチベーション2分類」欄の表現
被告らは,「思考2分類」欄及び「モチベーション2分類」欄に記載された原告表現(それぞれ原告表現4-3-1~120及び同4-4-1~120)について,先行著作物であるオピニオン・エキスパートテキスト(乙63)に照らして創作性がないと主張する。
しかし,対比表5の該当部分から明らかなように,両者の共通する部分は短い語句にすぎず,同各欄の表現内容がありふれたものであるということもできないので,原告レポート3における同各欄の表現は創作性を有するということができる。
(ウ) 原告表現4-1-1~4-4-120と対応する被告表現との対比
被告レポート2に係る被告表現4-1-1~4-4-120は,原告レポート3に係る原告表現4-1-1~4-4-120と同一であるから,同各原告表現の複製に当たると認められる。
(2)  12動物60種類の文言の編集著作物性(争点(2)イ)について
ア 素材の選択又は配列に創作性を有する編集物は編集著作物として著作権法上の保護を受ける(著作権法12条1項)。前記認定のとおり,原告テキスト2及び原告レポート3に含まれる12動物60種類の文言は原告Xが作成したものと認められるところ,被告らは,同文言は an・an の記事(乙65,236)に依拠し複製して作成されたものであり,創作性がないと主張する。
しかし,an・an の記事には,「ネアカ」,「クリエイティブ」など,12動物60種類の文言の修飾語の一部は記載されているものの,修飾語を動物と組み合わせて分類し,その特徴を記載しているものではない。12動物60種類の文言における修飾語の選択や動物との組合せには何らかの規則性や必然性があるものではないから,その素材の選択と配列には創作性があると認められる。
イ 被告レポート1及び2には,その分類に12動物60種類の文言が用いられているから,被告レポート1及び2を複製・販売等することは原告Xの編集著作権を侵害し,原告Xの氏名が表示されていない点において著作者人格権(氏名表示権)を侵害すると認められる。
(3)  原告各著作物及び編集著作物についての使用許諾の有無(争点(2)ウ)について
被告らは,①原告Xが被告Y1らに対して「皆で作ったものだから皆で使えるものにしよう。」などと繰り返し発言したこと,②のら社による雑誌,記事の発行,商標登録出願,ウェブサイトへの掲載について原告Xが異議を述べなかったことなどを理由として,原告Xは被告らが本件共同著作物及び原告各著作物を使用することについて明示的又は黙示的に承諾していたと主張する。
しかし,原告Xが上記発言をしたこと(上記①)を示す客観的な証拠はなく,また,仮にその趣旨の発言がされたとしても,同発言から直ちに黙示の使用許諾があったと推認することは困難である。また,原告Xがのら社による雑誌掲載等について異議を述べなかったこと(上記②)についても,のら社に権利行使をしなかったことをもって,被告らに対する使用許諾があったと認めることはできない。
かえって,上記認定(第4,1(3)ア,イ)のとおり,被告Y1は,平成9年12月頃までに,原告レポート1等が格納されたソフトウェアがインストールされたデスクトップパソコン等を合計350万円で購入していること(甲24,25),被告Y1は,平成10年3月24日にノア社にファックスを送信し,原告レポート1等のコンテンツを利用する際に被告Y1のアーク社から原告Xのノア社に対価を支払うことを提案していること(甲239)の各事実が認められる。これによれば,被告Y1は,原告各著作物の利用について原告Xの許諾が必要であると認識していたというべきである。
したがって,原告Xは被告らが本件共同著作物及び原告各著作物を使用することについて明示的又は黙示的に承諾していたとは認められない。
(4)  小括
以上によれば,被告各著作物に係る表現(被告表現1-1~4,被告表現2-1-55を除く。)は,対応する原告表現に係る原告Xの著作権(複製権,翻案権,公衆送信権),編集著作権及び著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)を侵害するものというべきである。
4  甲事件について原告らの損害の発生及びその額並びに責任主体(争点(3))について
(1)  責任の主体
被告らのうち,被告協会が,被告各著作物の販売及び公衆送信をしていることについては当事者間に争いがないが,被告らは,被告エデュケイションズ,被告Y1,被告Y2が侵害行為の主体であることについて争うので,以下,この点から判断する。
ア 被告エデュケイションズについて
被告らは,「ISDねっと」の運営主体は被告協会であり,被告テキスト及び被告レポートの販売も被告協会が行っており,被告エデュケイションズがこれを行ったことはないと主張する。
しかし,被告エデュケイションズは,インターネット等を利用した各種コンテンツの企画,制作,販売及びこれらに関するサービス運営を業とする株式会社であるところ,同被告のウェブサイト上で「ISDねっと」が開始された旨の告知がされていること(甲19,20),被告レポートは「ISDねっと」からダウンロードする形で販売されていること(甲275,乙258,259),被告エデュケイションズの代表者である被告Y1は被告協会の代表者でもあり,被告テキスト及び被告レポートの作成に深く関与していること,被告エデュケイションズはISD個性心理学のテキストの発行(乙127),勉強会の開催(乙137),「個性診断情報提供システム」の販売(乙124,125)などに関与していたことがうかがわれることなどの事実が認められ,これによれば,被告協会と被告エデュケイションズは意思を連絡して被告各著作物を販売していると認めるのが相当である。
イ 被告Y1について
被告協会及び被告エデュケイションズの代表者である被告Y1は,原告各著作物の作成に関与し,その著作権が原告Xにあることを容易に知り得る立場にあったにもかかわらず,原告Xの許諾を得ることなく,被告協会において被告テキスト及び被告レポートを販売したのであるから,原告Xの著作権及び著作者人格権侵害に関し,取締役としての職務を行うについて少なくとも重大な過失があったといわざるを得ない。したがって,被告Y1は,被告協会及び被告エデュケイションズの代表者として,被告協会の行為に関しては一般財団法人法117条1項,被告エデュケイションズの行為に関しては会社法429条1項に基づき(平成18年5月1日以前の行為に関しては当時の有限会社法30条ノ3第1項に基づき),賠償責任を負う。
また,被告Y1は,被告協会の一般社団法人化(平成24年8月7日)前は,個人としてISD個性心理学協会の名称で活動をしていたから,同日より前の著作権等侵害行為について責任を負う。
ウ 被告Y2について
被告Y2については,被告協会の理事ではなく,実質的な経営者の地位にあったともいうことができず,また,被告エデュケイションズの取締役ではあるものの,被告テキストや被告レポートの作成に関与したと認めるに足りる証拠もない。
したがって,被告エデュケイションズの取締役としての任務懈怠について,被告Y2に故意又は重過失があったとは認められない。
なお,原告らは,被告らは自ら被告レポートを販売していることを自白しており,その撤回に同意しないと主張するが,被告Y1及び被告Y2は販売行為を行っていないと認められるから,自白は錯誤に基づくものとして撤回されたものと認める。
エ したがって,被告協会,被告エデュケイションズ及び被告Y1は,被告テキスト及び被告レポートの販売により原告らに生じた損害について,連帯して責任を負う。
(2)  被告テキストの販売による原告らの損害額
ア 売上高
平成16年10月1日から平成29年7月9日までの被告テキストの販売数量は6680冊,売上額は2004万円である。(当事者間に争いがない。)
イ 変動費
経費としては,印刷費10%(一冊当たり300円)を控除するのが相当であり,その金額は,合計200万4000円(6680冊×300円)である。
被告らは,被告テキストの送料も変動費に当たると主張するが,被告テキストが講師に通常1,2冊ずつ郵送されていたのかどうかも含め,受講者及び講師に被告テキストがどのような方法で送付又は交付されていたかは明らかではなく,実際にレターパック等を利用して講師等にテキストが送付されていたことを示す証拠も提出されていないので,送料を変動費として認めることはできない。
ウ 被告テキストの販売による限界利益額
以上から,被告テキストの販売による限界利益額は,2004万円から200万4000円を控除した1803万6000円である。
エ 上記のうち,著作権侵害により生じた利益額
前記3(1)のとおり,被告テキストのうち著作権侵害に当たるのは頁数にして本文33頁のうち4頁分であることに照らすと,被告テキストに係る著作権侵害行為により被告に生じた利益額は,被告らの主張するとおり上記ウの12%の限度で認めるのが相当であり,その額は216万4320円である。
オ 原告らの損害額
(ア) 原告会社の損害額
著作権法114条2項により,被告協会が著作権侵害行為により得た利益は原告各著作物の独占的利用権を有する原告会社が受けた損害の額と推定されるところ,被告協会が得た利益額は上記エのとおり216万4320円である。しかし,下記(イ)のとおり,そのうち24万0480円は被告協会が原告Xに支払うべき額であって,被告協会の利益とはならないから,これを控除した192万3840円が被告協会の利益額である。
(イ) 原告Xの損害額
原告Xは,使用料相当損害金の請求をしているところ,被告テキストの売上額は上記アのとおり2004万円である。原告Xは,使用料率は売上額の10%であると主張しているところ,この料率が不合理ということはできないので10%と認め,前記のとおり,被告テキストの売上のうち原告各著作物の使用による部分は12%である。
そうすると,原告Xが得るべき使用料相当の損害額は,24万0480円(2004万円×12%×10%)である。
(3)  被告レポートの販売による損害
ア 被告レポートの売上額
(ア) 被告レポートは,月額料金を支払って「ISDねっと」の会員登録をした者に対し,インターネット経由でダウンロードする方法により販売がされている。「ISDねっと」は被告協会の講座の受講者向けのサービスであり,被告レポートの販売料金は,会員が選択した月額プランにより,通常価格から30~50%割引した額となり,無料でダウンロードできる月額プランもある。なお,通常価格は,被告レポート1が1000円,被告レポート2が2000円であるが,通常価格により販売された事例はない。
(イ) 被告レポートを有料(割引価格)のダウンロードにより販売したことによる売上額が次のとおりであることについては,当事者間に争いがない。
被告レポート1 20万6800円
被告レポート2 112万2800円
(ウ) 次に,被告レポートは,会員が選択した月額プランに応じて,無料又は割引価格で販売されるものであり,会員には,被告レポートを無料又は割引価格で購入するために会費を支払う者が相当数いるものと推認されるから,会費の一部は,被告レポートの1,2の対価に相当すると認められる。
そして,会員から支払われた月額料金総額は,合計1億6956万6500円であることについて当事者間に争いがない。
(内訳)
期間:平成16年10月1日~平成25年9月30日(期間①)
779万1000円
期間:平成25年10月1日~平成29年7月9日(期間②)
1億6177万5500円
(エ) 前記1(3)オのとおり,「ISDねっと」の会員には,期間①では会費が月額800円,1800円,5800円のプランがあり,期間②では会費が月額500円,1000円,2000円,1万5000円のプランがある。そして,これらのプランは,それぞれ,被告レポートのダウンロードの際の割引割合が異なるのみならず,利用できるサービスも異なり,高額なプランほど利用できるサービスが増える(甲275,乙259)。
(オ) 原告らは,上記(ウ)の期間①については月額料金全額が,期間②についてはその50%が被告レポートの対価と評価できると主張する。
しかし,期間①及び②のいずれにおいても,被告レポートのダウンロードは「ISDねっと」の会員が利用できる様々な特典の一部にすぎない。例えば,期間②における「ISDねっと」のすべてのプランにおいては,被告レポートのほかに18種類の診断書を有償又は無償でダウンロードするとともに,無償で閲覧することができ,加えて「組織分析」などのコンテンツの閲覧もすることができる。期間①についても,利用できる診断所等の数は異なるものの,様々な特定を利用できる点では同様である。
このように,「ISDねっと」の会員に与えられた特典には様々なものがあり,会員のニーズも多様であると考えられること,利用できるコンテンツの種類,数,内容,被告協会の行ったアンケート結果なども総合的に考慮すると,期間①及び②を通じ,上記月額料金総額のうち被告レポートの対価と評価できる部分は,被告レポート1(あなたの本質)につき10%,被告レポート2(総合分析)につき15%と認めるのが相当である。
(カ) 以上から,会費のうち被告レポートの対価と評価すべき額は次のとおりである。
被告レポート1 1695万6650円
1億6956万6500円×10%
被告レポート2 2543万4975円
1億6956万6500円×15%
(キ) 以上をまとめると,被告レポートの売上額は次のとおりとなる。
被告レポート1 1716万3450円
(20万6800円+1695万6650円)
被告レポート2 2655万7775円
(112万2800円+2543万4975円)
イ 変動費
被告レポートは,インターネット経由での閲覧又はダウンロードによる販売がされているから,変動費はないというべきである。被告らの主張する経費は,いずれも,被告レポートの販売数量により変動するものではないから,限界利益の算定に当たり控除するのは相当ではない。
ウ 著作権侵害による利益額
(ア) 被告レポート1
前記判示のとおり,被告レポート1は,本文(原告レポート1に対応),箇条書き部分(原告レポート2の箇条書き部分に対応),動物説明部分(原告レポート2の動物説明部分に対応),12動物60種類の文言から構成されるところ,そのいずれも原告Xの著作権及び著作者人格権を侵害するものと認められる(ただし,同レポートの動物絵柄部分と被告表現2-1-55の部分を除く。)。
この点について,被告らは,被告レポート1のうち先行著作物(本件共同著作物以外のもの)との対比において実質的に同一とはいえない部分は41.99%であるから,この部分が著作権侵害部分であると主張する。また,原告レポート1及び2は本件共同著作物の二次的著作物であり,同各レポートのうち原告Xの著作権の割合は30%であるから,更に70%を減額すべきであると主張する。
これに対し,原告らは,先行著作物における表現と被告表現が同一であるとみなせる部分があるとしても,著作部権侵害部分の割合は80%を超えると主張する。
そこで,検討するに,被告レポート1のうち原告レポート1及び2に対応する部分(本文及び箇条書き部分)は相当程度大きいと考えられるところ,原告レポート1及び2は本件共同著作物の二次的著作物であり,同各レポートのうち原著作物と同一又は酷似した部分は少なくとも半分以上を占めることなどを総合的に考慮すると,被告レポート1の利益額(売上額と同額)のうち,原告Xの著作権が侵害された部分に対応する利益額はその40%であると認めるのが相当である(被告らは,本件共同著作物以外の先行著作物との対比も根拠としているが,原告レポート1及び2は本件共同著作物以外の著作物の二次的著作物とは認められないので,この点は考慮に入れていない。)。
そうすると,被告レポート1について,著作権侵害による利益額は,686万5380円である。
(イ) 被告レポート2
被告レポート2は,「3分類」,「12分類」,「60分類」,「リズムの本質」,「レール」,「思考2分類」,「モチベーション2分類」「左右2分類」及び「仕事の役割4分類」の各欄から構成されており,それぞれ説明文や図柄が記載されているところ,このうち,原告Xの著作権又は編集著作権を侵害しているのは,その一部(「60分類」,「リズムの本質」,「レール」,「思考2分類」及び「モチベーション2分類」)である。そして,「リズムの本質」及び「レール」については,被告レポートの中でも比較的重要な記載であると考えられるところ,同欄の記載は an・an の記事の二次的著作物であり,特に「リズムの本質」については,an・an の記事とその表現内容及び表現の順序も含め同記事の表現と類似する部分が多いことは前記判示のとおりである。このような事情を総合的に考慮すると,被告レポート2の利益額のうち,原告Xの著作権が侵害されたことによる利益額はその30%であると認めるのが相当である。
そうすると,被告レポート2について,著作権侵害による利益額は,796万7332円である。
エ 原告らの損害額
(ア) 原告会社の損害額
以上を総合すると,被告レポートについて,著作権侵害により被告協会に生じた利益額は,合計1483万2712円であり,著作権法114条2項により,被告協会が著作権侵害行為により得た利益は原告会社が受けた損害の額と推定される。しかし,下記(イ)のとおり,そのうち148万3271円は被告協会が原告Xに支払うべき額であって,被告協会の利益とはならないから,これを控除した1334万9441円が被告協会の利益額である。
(イ) 原告Xの損害額
原告Xは,使用料相当損害金の請求をしているところ,被告レポートの売上額は上記アのとおり,被告レポート1について1716万3450円,被告レポート2について2655万7775円である。使用料率については売上額の10%が相当であると認められ,また,被告レポートの売上のうち原告Xの著作物を使用による部分は,被告レポート1について40%,被告レポート2について30%と認めるのが相当である。
そうすると,原告Xは得るべき使用料相当の損害額は148万3271円(1716万3450円×40%×10%+2655万7775円×30%×10%=68万6538円+79万6733円)である。
(4)  原告Xの著作者人格侵害による損害額
前記3のとおり,被告各著作物は原告Xの著作権を侵害するものであるが,いずれの被告各著作物についても原告Xの氏名が表示されていない点において氏名表示権を侵害する(著作権法19条1項)。また,被告各著作物が対応する原告各著作物の翻案と認められるものについては,同一性保持権(同法20条1項)を侵害する。
そして,上記著作者人格権侵害に係る表現の創作性の程度や侵害の態様,翻案に係る表現の創作性の程度や侵害の態様,原告各著作物の一部は二次的著作物であり,原告Xの著作権の及ぶ範囲は一部にとどまること,原告各著作物にも原告Xの氏名の表示はなく,被告らがあえて氏名を削除したものではないことなどを総合的に考慮すると,著作者人格権侵害に係る慰謝料は50万円と認めるのが相当である。
(5)  弁護士費用
甲事件の請求額,認容額及び事実経緯などの諸事情を総合考慮すると,被告らの著作権侵害の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は,原告会社について150万円,原告Xについて25万円と認めるのが相当である。
(6)  総額
以上から,甲事件について,原告会社の損害額は1677万3281円,原告Xの損害額は247万3751円である。
なお,原告らは,信用回復措置として別紙甲事件謝罪広告目録記載の内容の謝罪広告の掲載を求めるが,著作権及び著作者人格権侵害に係る表現の内容,侵害の程度・態様等に照らすと,金銭賠償のほかに信用回復措置をとるべき必要性があると認めることはできない。
5  争点(4)(不正競争防止法2条1項15号の不正競争行為による請求の可否(乙事件))について
(1)  本件告知行為及び本件流布行為の有無(争点(4)ア)について
原告Xが本件告知行為1~3を行い,本件メールが原告有資格者に送信されたことについては,当事者間に争いがない。当事者間に争いがあるのは,原告らによる本件流布行為1及び2の有無である。
ア 本件流布行為1について
乙事件原告らは,原告らが,不特定多数の者に対して,自ら又は原告有資格者を通じて,不特定多数の者に対し,原告らの被告協会らに対する商標権侵害訴訟等において原告らが勝訴するとの事実,被告協会らが原告の商標権を侵害しているとの事実,被告協会らが原告Xの著作権及び著作者人格権を侵害しているとの事実を流布したと主張するが,次のとおり,本件流布行為1が行われたと認めることはできない。
すなわち,乙事件原告らは,本件流布行為1の存在を裏付けるものとして,Pの陳述書(乙73)を挙げる。しかし,同陳述書の記載内容は伝聞にすぎず,セミナーの受講生等に対応したとされる原告会社の担当者の氏名や説明の行われた具体的な状況及び説明内容は明らかでなく,また陳述書の記載内容を裏付ける客観的な証拠もない。
また,乙事件原告らは,本件流布行為1の存在を裏付けるものとして,原告会社の講師等であるQ及びRらとの会話(乙215,218)を挙げる。しかし,仮にQ及びRらがそのような発言をしたとしても,同発言に至った経緯,発言の相手方,発言前後の会話内容や発言の場所など具体的な状況は不明というほかない。また,QやRらが原告らと乙事件原告らとの間の訴訟について誰からどのように知ったのか,仮に原告らから説明を受けたとして,その具体的なやりとりも明らかではない。そうすると,仮にQ及びRらが上記発言をしたとしても,原告らが,その発言内容に沿った事実を流布したと認めることはできない。
したがって,原告らが本件流布行為1を行ったと認めることはできない。
イ 本件流布行為2について
本件流布行為2に関し,「個性心理學研究所 所長 X’」名義の本件メール(甲43,44,乙75)が原告有資格者及び原告会社の支所・支局長に対して送信されたことについては当事者間に争いがないが,次のとおり,原告らが同メールに記載された内容を拡散するなどして本件流布行為2を行ったと認めることはできない。
すなわち,乙事件原告らは,被告協会の講師であるSが全く関係のない第三者から本件メールについて尋ねられ,また「訴えられているそうですが,ISD個性心理学協会は大丈夫ですか?」などの質問を受けたと主張し,これに沿うSの陳述書(乙74)を証拠として提出する。しかし,Sが第三者から質問や照会を受けた状況は明らかではなく,仮にそのような質問等があったとしても,当該第三者が原告らと乙事件原告らとの間の訴訟を知るに至った経緯も不明というほかないのであり,同陳述書をもって本件流布行為2の存在を認めることはできない。
また,本件メールには,その内容を原告会社のセミナー受講生や第三者に伝達することを指示し又は慫慂する内容は含まれておらず,かえって,同メールの末尾には「本メールの内容は発行者が指定した宛先の方にのみ有効な情報のため,内容を転送・コピーする行為や情報の再利用は固くお断りいたします。」と記載され,ホームページ上の掲載も原告有資格者のみがアクセス可能とし,その掲載期間も3か月程度にとどまっている。こうした事実によれば,一般的にメールに記載された内容は当該メールが転送されるなどして伝播しやすい性質を有することを考慮しても,本件において原告らが本件メール及びその内容を不特定多数の者に転送又は伝播することを意図又は容認していたと認めることはできず,また,実際にその内容が転送又は伝播されたことを客観的に裏付ける証拠はない。
したがって,原告らが本件流布行為2を行ったと認めることはできない。
(2)  本件告知行為が虚偽の事実の告知に当たるか(争点(4)イ)について
ア 商標権侵害の事実の告知について
本件告知行為1及び2は,いずれも,被告各標章の使用が原告商標権を侵害する旨の内容を含むところ,前記判示のとおり,被告各標章の使用は原告商標権を侵害していないので,本件告知行為1及び2における商標権侵害に係る事実の告知は虚偽の事実の告知に当たる。
イ 著作権等侵害の事実の告知について
(ア) 本件告知行為1について
本件告知行為1は,Kが配信したメールマガジンの表現が12動物60種の文言及び「MOON」,「EARTH」,「SUN」等に係る原告Xの著作権及び著作者人格権を侵害することを内容とするものであるところ,上記メールマガジンが乙事件原告らの主張するような内容を含むとしても,前記判示のとおり,被告テキストの「MOON」等に係る表現及び被告レポートの12動物60種の文言は原告Xの著作権及び著作者人格権を侵害する行為であると認められるので,本件告知行為1は虚偽の事実の告知に当たらない。
(イ) 本件告知行為2について
本件告知行為2は,被告テキストの表現が原告Xの著作権及び著作者人格権を侵害することを内容とするものであるところ,前記判示のとおり,被告テキストの表現は原告Xの著作権及び著作者人格権を侵害すると認められるので,本件告知行為2は虚偽の事実の告知に当たらない。
(ウ) 本件告知行為3について
本件告知行為3は,被告レポート1及び2の表現が原告Xの著作権及び著作者人格権を侵害することを内容とするものであるところ,前記判示のとおり,被告レポートの表現は原告Xの著作権及び著作者人格権を侵害すると認められるので,本件告知行為3は虚偽の事実の告知に当たらない。
ウ 以上のとおり,本件告知行為1及び2における商標権侵害を内容とする部分は虚偽の事実の告知に当たるが,本件告知行為1及び2のその余の部分及び本件告知行為3は虚偽の事実の告知に当たらない。
(3)  原告らの故意・過失の有無(争点(4)ウ)について
原告らは,本件告知行為1及び2に係る虚偽事実の告知について,故意・過失はなかったと主張するが,証拠(乙26)によれば,原告Xは平成10年1月の時点で「個性心理学」が普通名称であると認識していたと認められる上,原告Xは,前記認定に係る事実,すなわち,「個性心理学」という語は近時においても普通名称として用いられていること,「個性心理学」と「占い」が共通性・近接性を有すること,新聞,雑誌,書籍等において「個性心理学」という表示が原告らの出所を表示するものとして使用されている例は多くないことなどを容易に認識し得たというべきである。
そうすると,原告Xは,本件告知行為1及び2を行うに先立って通常必要とされる事実調査及び法律的検討を行えば,被告各標章が原告商標権を侵害しないことを容易に知り得たのに,あえて商標権侵害に当たる旨の告知をしたというべきであるから,原告Xには少なくとも過失があったということができる。
(4)  正当行為としての違法性阻却の成否(争点(4)エ)について
原告らは,本件告知行為1及び2は,やむを得ない理由に基づく必要最小限の範囲内の行為であり,正当行為として違法性が阻却されると主張する。
しかし,前記のとおり,原告Xが平成10年1月の時点で「個性心理学」という語が普通名称であると認識していたと認められる上,本件告知行為1及び2を行うに先立って通常必要とされる事実調査及び法律的検討を行えば,被告各標章が原告商標権を侵害しないことを容易に知り得たのにあえて商標権侵害に当たる旨の告知をしたということができる。
そうすると,本件告知行為1及び2がやむを得ない理由に基づく必要最小限の範囲内の正当行為であるということはできず,原告らの主張は採用し得ない。
(5)  差止めの必要性(争点(4)オ)について
本件告知行為1及び2の主体は原告Xであるから,原告Xに対して別紙告知行為目録記載1の告知についての差止めを求めることについては理由がある。
乙事件原告らは,原告会社に対しても差止めを求めるが,原告会社と原告Xとは別人格であり,原告会社については虚偽の事実の告知ないし流布行為をした事実が認められないから,原告会社に対する差止請求には理由がない。
(6)  信用回復措置の要否(争点(4)カ)について
原告Xによる虚偽の事実の告知は,被告協会の支部として活動する者2名に対する警告書の送付によるものであり,その態様及び内容に照らすと,金銭賠償のほかに信用回復措置の掲載が必要と認めることはできない。
なお,乙事件原告らは,仮に謝罪広告の掲載に関する請求が過大であるとしても,別紙乙事件広告目録記載第3の訂正広告を同目録記載第4の要領で掲載させることは最小限の営業上の信用回復措置であると主張するが,同様の理由から金銭賠償で足りるというべきであり,信用回復措置としての訂正広告の掲載が必要であるということはできない。
6  争点(5)(乙事件について,乙事件原告らの損害の発生及びその額)について
以下,本件告知行為1及び2により乙事件原告らに生じた損害について検討する。
(1)  逸失利益について
乙事件原告らは,原告らの本件告知行為及び本件流布行為により受講生が減少したことなどによる逸失利益が生じた(乙58)と主張する。
しかし,本件告知行為1及び2は,被告協会の支部に所属する2名に対する各1度の告知行為にすぎず,それにより,セミナーの開催回数が相当程度減少し,受講生に対する説明やお詫びをする必要が生じるなどして,乙事件原告らの収入に影響を及ぼしたとは考え難く,同事実を認めるに足りる客観的な証拠はない。
また,乙事件原告らの主張する逸失利益は,乙事件原告マネージメントが当初目標としていた収入を達成できなかった差分をいうものであって,本件告知行為1及び2がなければ,当初目標としていたとおりの収入が得られたと認めるに足りる証拠はない。実際のところ,乙事件原告マネージメントの平成26年度の売上額(乙58)をみると,同各告知前の4~9月の平均額に比べて同各告知後の10月~3月の平均額の方が高くなっており,この点からも同各告知により乙事件原告らの利益が減少したとは認められない。
したがって,乙事件原告らによる逸失利益の賠償請求は理由がない。
(2)  無形損害について
原告Xによる本件告知行為1及び2は,被告協会,被告エデュケイションズが商標権侵害行為を行ったという虚偽の内容を含むものであり,これにより同被告らの営業上の信用が害されたものと認められるところ,その告知内容,方法,回数,相手方の数,被告協会らの対応等の本件に顕れた事情を考慮すると,同各告知において侵害行為の主体として明示された被告協会及び被告エデュケイションズに生じた無形損害は,各50万円と認めるのが相当である。
乙事件原告らは,乙事件原告マネージメントについてもその営業上の信用が害されたと主張するが,乙事件原告マネージメントは本件告知行為1及び2において商標権侵害行為の主体としてその名前が挙げられていない以上,その営業上の信用が害されたと認めることはできない。
(3)  K及びLの弁護士費用について
乙事件原告らは,乙事件原告マネージメントがK及びLの対応に要した弁護士費用を負担したことが乙事件原告マネージメントの損害であると主張する。
しかし,K及びLは,自らの行為が原告商標権の侵害に当たる旨の通知を受けた場合には自らの判断及び計算により対応すべきであって,その弁護士費用を乙事件原告マネージメントが当然に負担すべき理由はない。
したがって,K及びLの対応に要した弁護士費用についての乙事件原告マネージメントの請求には理由がない。
(4)  弁護士費用
乙事件の請求額,認容額,事実経緯等本件に顕れた事情を総合すると,本件の原告Xの不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は,被告協会及び被告エデュケイションズにつき各5万円と認めるのが相当である。
(5)  合計額
以上から,被告協会及び被告エデュケイションズに生じた損害額は,各55万円である。
7  結論
以上のとおり,甲事件原告らの請求については,被告協会,被告エデュケイションズ及び被告Y1に対し,原告会社が1677万3281円,原告Xが247万3751円及びこれらに対する不法行為の後の日である甲事件訴状送達の日の翌日(被告協会につき平成26年10月28日から,被告エデュケイションズにつき同月30日から,被告Y1につき同月27日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,併せて被告協会及び被告エデュケイションズに対し,被告テキストの複製,譲渡及び被告レポートの複製,譲渡又は公衆送信(送信可能化を含む。)の差止め並びに被告レポート,被告レポートを格納したCD-ROM等の記録媒体の廃棄を,被告協会に対し被告テキストの廃棄を求める限度で理由があるから,この限度で認容し,その余の請求には理由がないからこれらを棄却することとし,乙事件原告らの請求は,原告Xに対し,別紙告知目録記載1の告知の差止めを求め,被告協会及び被告エデュケイションズが原告Xに対し,それぞれ55万円及びこれに対する不法行為の後の日である乙事件訴状送達の日の翌日(平成27年5月9日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その限度で認容し,その余の請求にはいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,主文第3項ないし第5項に係る仮執行宣言の申立ては相当ではないのでこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
(裁判長裁判官 佐藤達文 裁判官 遠山敦士)
裁判官勝又来未子は,転補のため,署名押印することができない。裁判長裁判官 佐藤達文

 

別紙

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