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判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(327)平成19年 3月16日 東京地裁 平18(特わ)498号 証券取引法違反被告事件 〔ライブドア証券取引法違反事件・第一審〕

判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(327)平成19年 3月16日 東京地裁 平18(特わ)498号 証券取引法違反被告事件 〔ライブドア証券取引法違反事件・第一審〕

裁判年月日  平成19年 3月16日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平18(特わ)498号・平18(特わ)1026号
事件名  証券取引法違反被告事件 〔ライブドア証券取引法違反事件・第一審〕
裁判結果  有罪  上訴等  控訴  文献番号  2007WLJPCA03160003

要旨
◆ポータルサイトの運営等を主な業務とする株式会社の連結子会社が投資事業組合を経由して行った親会社の株式売却による利益を、親会社が連結損益計算書に売上げとして計上したことが、有価証券報告書に重要事項につき虚偽の記載をしたことに当たるとされた事例
◆株式売買のため及び株式の相場の変動を図る目的をもって、偽計を用いるとともに、風説を流布した3か月ないし9か月後に当該株式を売却して得た利益が、証券取引法198条の2の必要的没収・追徴の対象に当たらないとされた事例
◆上記親会社の代表者が、同社の取締役らと共謀の上、同社の子会社が他社を株式交換によって買収するに当たり、株式交換及び上記子会社の四半期の業績に関し虚偽の事実を公表し、同社の株式売買のため及び同株式の相場の変動を図る目的をもって、偽計を用いるとともに、風説を流布した事案、さらに、上記重要事項につき虚偽の記載のある有価証券報告書を提出した事案について、懲役2年6月の実刑が言い渡された事例

新判例体系
公法編 > 産業経済法 > 証券取引法〔昭和二三… > 第六章 有価証券の取… > 第一五八条 > ○偽計・風説の流布 > (一)該当事例
◆株式会社ライブドアの子会社であるVCJ(現商号株式会社メディアイノベーション)がマネーライフ社との株式交換に関して行った各公表には、交換比率に虚偽があるから、証券取引法第一五八条が禁止する偽計及び風説の流布に該当する。

公法編 > 産業経済法 > 証券取引法〔昭和二三… > 第八章 罰則 > 第一九七条 > ○罰則 > (一)虚偽記載有価証… > B 該当事例
◆脱法目的で組成された投資事業組合を経由してなされた本件ライブドア株式の売却益を、ライブドアの連結損益計算上売上げとして計上した本件有価証券報告書には、重要な事項につき虚偽の記載があるというべきである。

 

裁判経過
控訴審 平成20年 7月25日 東京高裁 判決 平19(う)1107号 証券取引法違反被告事件 〔ライブドア証券取引法違反事件・控訴審〕

出典
判タ 1287号270頁
判時 2002号31頁
新日本法規提供

評釈
弥永真生・会計・監査ジャーナル 29巻3号40頁
渋谷卓司・ジュリ増刊(実務に効く企業犯罪とコンプライアンス判例精選) 143頁

参照条文
刑法60条
証券取引法24条1項(平18法65改正前)
証券取引法158条
証券取引法197条1項1号(平18法65改正前)
証券取引法197条1項7号(平16法97改正前)
証券取引法207条1項1号(平18法65改正前)

裁判年月日  平成19年 3月16日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平18(特わ)498号・平18(特わ)1026号
事件名  証券取引法違反被告事件 〔ライブドア証券取引法違反事件・第一審〕
裁判結果  有罪  上訴等  控訴  文献番号  2007WLJPCA03160003

上記の者に対する証券取引法違反被告事件について,当裁判所は,検察官髙橋久志,同市川宏,同藤野晃俊出席の上審理し,次のとおり判決する。

 

主文
被告人を懲役2年6月に処する。
未決勾留日数中40日をその刑に算入する。
訴訟費用は被告人の負担とする。

 

理由
(罪となるべき事実)
被告人は,ポータルサイトの運営,企業の買収・合併等を主な業務とし,発行する株式を東京証券取引所(以下「東証」という。)マザーズ市場に上場していた分離前の相被告人株式会社ライブドア(以下「ライブドア」という。)の代表取締役兼最高経営責任者であり,かつ,ライブドアの子会社で,インターネットによる広告,広告代理等を業務とし,発行する株式を東証マザーズ市場に上場していた分離前の相被告人株式会社メディアイノベーション(平成17年5月31日までの商号はバリュークリックジャパン株式会社で,平成18年8月31日までの商号は株式会社ライブドアマーケティング。以下,商号変更の前後を問わず「VCJ」という。)の取締役であったものであるが,
第1  VCJにおいて,ライブドアの完全子会社で,企業買収等を行うことを業務とする株式会社ライブドアファイナンス(同社は,平成16年9月27日に同じくライブドアの子会社であるライブドア証券株式会社に吸収合併されており,以下,同合併後のライブドア証券株式会社も含めて「ライブドアファイナンス」という。)がVLMA2号投資事業組合の名義で既に買収済みの株式会社マネーライフ社(以下「マネーライフ社」という。)との間で,同社の企業価値を過大に評価した株式交換比率で同社をVCJの完全子会社とする株式交換を行う旨公表するとともに,株式を100分割する旨も公表し,さらに,同社において実際には平成16年12月期第3四半期通期(同年1月1日から同年9月30日)に経常損失及び当期純損失が発生していたのに,架空の売上げ,経常利益及び当期純利益を計上して虚偽の業績を発表することにより,同社の株価を維持上昇させた上で,上記株式交換により実質的にライブドアファイナンスがVLMA2号投資事業組合の名義で取得するVCJ株式を売却し,同売却益をライブドアの連結売上げに計上するなどして利益を得ようと企て,当時,ライブドアの取締役を辞任していたが,同社の財務等に関する業務を実質的に統括していた分離前の相被告人乙川A雄(以下「乙川」という。),ライブドアの取締役であり,VCJの代表取締役社長の内定者あるいは同代表取締役社長として同社の業務全般を統括していた分離前の相被告人丙谷B郎(以下「丙谷」という。),ライブドア・グループのファイナンス業務に従事していた分離前の相被告人丁沢C介(以下「丁沢」という。),ライブドアの従業員で,企業買収業務を担当していた戊野D作,及びVCJの代表取締役社長あるいは最高財務責任者であった己原E平と共謀の上,VCJ株式の売買のため及び同株価の維持上昇を図る目的をもって,真実は,VCJとマネーライフ社との株式交換は,上記企てのもとに行われ,株式交換比率を,乙川らが,マネーライフ社の企業価値を大幅に超える株数のVCJ株式の発行を実質的にライブドアファイナンスに受けさせるためマネーライフ社の企業価値をあえて過大に評価して決めるなどしたものであったにもかかわらず,同年10月25日,東証が提供する適時開示情報伝達システムであるTDnetにより,VCJが,取締役会において同年12月1日を期日とする株式交換によりマネーライフ社を完全子会社とすることを決議した旨を公表するに際し,「株式交換比率(1対1)については,第三者機関が算出した結果を踏まえ両者間で協議の上で決定した」旨の虚偽の内容を含む公表を行い,次いで,同年11月9日,上記TDnetにより,同月8日に公表されたVCJ株式の100分割に伴い上記株式交換の交換比率を100(VCJ)対1(マネーライフ社)に訂正する旨公表し,さらに,真実は,VCJは同年12月期第3四半期通期において,経常損失及び当期純損失が発生していたのに,架空の売上げ,経常利益及び当期純利益を計上して,同年11月12日,上記TDnetにより「VCJの第3四半期の売上高は約7億5900万円,経常利益は約7200万円,当期純利益は約5300万円である。当期第3四半期においては,前年同期比で増収増益を達成し,前年中間期以来の完全黒字化への転換を果たしている」旨虚偽の事実を公表し,もって,有価証券の売買その他の取引のため及び有価証券の相場の変動を図る目的をもって,偽計を用いるとともに,風説を流布し,
第2  ライブドアの取締役であった乙川及び丙谷,ライブドアの従業員であった丁沢,ライブドアの執行役員あるいは取締役であった分離前の相被告人庚崎F吉(以下「庚崎」という。),ライブドアから証券取引法193条の2に基づく有価証券報告書の財務計算に関する書類等の監査証明を目的とする監査を受嘱していた港陽監査法人(平成16年6月30日までの名称は神奈川監査法人。以下,名称変更の前後を問わず「港陽監査法人」という。)の代表社員として,ライブドアの平成15年10月1日から平成16年9月30日までの連結会計年度における上記監査に関与していた辛田G夫(以下「辛田」という。)並びに港陽監査法人の元代表社員であった壬岡H雄(以下「壬岡」という。)と共謀の上,ライブドアの業務に関し,平成16年12月27日,さいたま市中央区新都心1番地1所在の財務省関東財務局において,同財務局長に対し,ライブドアの上記連結会計年度につき,同年度に経常損失が3億1278万4000円(1000円未満切捨て。以下本文において同じ。)発生していたにもかかわらず,売上計上の認められないライブドア株式売却益37億6699万6000円並びに株式会社ロイヤル信販及び株式会社キューズ・ネットに対する架空売上げ15億8000万円を,それぞれ売上高に含めるなどして経常利益を50億3421万1000円として記載した内容虚偽の連結損益計算書を掲載した有価証券報告書を提出し,もって重要な事項につき虚偽の記載のある有価証券報告書を提出したものである。
(証拠の標目)
括弧内の甲,乙の番号は,証拠等関係カードにおける検察官請求の証拠番号を,弁の番号は,同カードにおける弁護人請求の証拠番号をそれぞれ示す(ただし,書証について不同意部分がある場合には,その不同意部分を除く。)。
判示事実全部について
・ 被告人の公判供述
・ 第21回ないし第24回公判調書中の被告人の供述部分(ただし,第23回公判調書中の被告人の供述部分については,弁論更新に当たり,取り調べない旨の決定をした部分を除く。)
・ 被告人の検察官調書(乙1ないし4)
・ 公判調書中の証人癸井I郎(第1回),同丑木J介(第2回),同寅葉K作(第3回),同己原E平(第4回),同乙川A雄(第5回ないし第9回),同丁沢C介(第10回ないし第14回),同丙谷B郎(第14回,第15回),同庚崎F吉(第16回),同戊野D作(第17回),同卯波L平(第18回),同辰口M吉(第19回),同巳上N子(第19回),同壬岡H雄(第19回),同午下O雄(第20回),同辛田G夫(第20回)の供述部分
・ 戊野D作(甲31ないし38),未山P郎(甲39,40),申川Q介(甲41ないし46),酉谷R作(甲47),丑木J介(甲48ないし51),癸井I郎(甲52ないし54),亥野T吉(甲55,56),甲川U夫(甲57),乙谷V雄(甲58),丙沢W郎(甲59),丁野A郎(甲60),卯波L平(甲61,62,64),戊原B介(甲65,66),己崎C作(甲67),庚田D平(甲68),辛岡E吉(甲69,70),壬井F夫(甲71ないし73),己原E平(甲74ないし78),辰口M吉(甲79,80,233),癸木G雄(甲81),丑葉H郎(甲82,83),寅波I介(甲84),卯口L吉(甲85,86),辰上K平(甲87ないし90。ただし,甲88については,第25回公判で証拠として採用した部分を含む。),巳下L吉(甲91),寅葉K作(甲93ないし96),巳上N子(甲97ないし102,104,106),未川N雄(甲107ないし111),申谷O郎(甲114ないし116),酉沢P介(甲118),戌野Q作(甲119),亥原R平(甲120),乙川A雄(甲131ないし144,147)(いずれも謄本),丙谷B郎(甲148ないし158)(いずれも謄本),丁沢C介(甲159ないし172,174,229)(いずれも謄本),庚崎F吉(甲175,177,179ないし184,212。ただし,甲183については,第25回公判で証拠として採用した部分を含む。)(いずれも謄本),辛田G夫(甲185,186,188ないし190,192,193。ただし,甲186については,第25回公判で証拠として採用した部分を含む。)(いずれも謄本),壬岡H雄(甲194ないし201。ただし,甲198については,第25回公判で証拠として採用した部分に限る。)(いずれも謄本),甲谷S美(甲214,215)の検察官調書
・ 乙沢T夫の質問調書(甲122)
・ 捜査報告書(甲15,18,204,210,227,弁24[写し])
・ 捜査報告書(甲12ないし14,206,208,222ないし226,228,230)
・ 調査官報告書(甲1ないし5,8,16,209)
・ 報告書(弁17ないし23,25ないし30)
・ 回答書(甲17)
・ 履歴事項全部証明書(甲19,21,123[謄本],129[謄本],219,220,263)
・ 閉鎖事項全部証明書(甲20,22ないし24,27ないし29,124ないし126[いずれも謄本],130[謄本],221,262)
・ 閉鎖商業登記簿謄本(甲127,128)
判示第1の事実について
・ 庚崎F吉の検察官調書(甲234)
・ 捜査報告書(甲211)
・ 報告書(弁31,34)
・ 履歴事項全部証明書(甲25)
・ 閉鎖事項全部証明書(甲26)
・ 株式交換契約書写し(弁32)
・ 「株式交換契約書の変更に関する覚書」と題する書面写し(弁33)
判示第2の事実について
・ 証人丙野U雄の公判供述
・ 公判調書中の証人未川N雄(第4回),同甲川U夫(第16回),同辰上K平(第18回),同丙野U雄(第24回)の供述部分
・ 巳上N子の検察官調書(甲103)
・ 丁原V代(甲112),戊崎W江(甲113),巳田A介(甲121)の質問調書
・ 捜査報告書(甲231)
・ 調査官報告書(甲6,7,11)
・ 報告書(弁39,58,59,63,66ないし68)
・ 履歴事項全部証明書(甲30)
・ メールデータを印刷した物(甲235ないし255)
・ 「ファンド&株式交換を利用したエッジ株の売買」と題する書面写し(甲256)
・ 「投資事業組合に対する支配力基準及び影響力基準の適用に関する実務上の取扱い(案)」及び「「投資事業組合に対する支配力基準及び影響力基準の適用に関する実務上の取扱い(案)」の公表」と題する書面写し(弁38)
・ VLMA1号投資事業組合第1期事業報告書写し(弁41)
・ VLMA1号投資事業組合第2期事業報告書写し(弁42)
・ VLMA2号投資事業組合第1期事業報告書写し(弁43,44)
・ M&Aチャレンジャー1号投資事業組合第1期事業報告書写し(弁48)
・ M&Aチャレンジャー1号投資事業組合解散報告書写し(弁49)
・ 「JMAMサルベージ1号投資事業組合財務諸表目次」と題する書面写し(弁53)
・ 「JMAMサルベージ1号投資事業組合決算報告」と題する書面写し(弁54)
(事実認定の補足説明等)
第1  当事者等
1  被告関連会社の概要
(1) ライブドアの概要
ライブドアは,平成8年4月22日,コンピュータネットワークに関するコンサルティング等を目的とする有限会社オン・ザ・エッヂとして,被告人により設立され,平成9年7月31日に株式会社オン・ザ・エッヂに組織変更し,平成15年4月1日エッジ株式会社に,平成16年2月1日株式会社ライブドアに,それぞれ商号変更した(以下,「ライブドア」というときは,組織変更前及び商号変更前も含む。)。
ライブドアは,設立当初は資本金600万円の有限会社であったが,平成16年9月30日当時で資本金239億6770万5491円にまでなっており,平成12年4月6日には東証マザーズ市場に株式を上場し,発行株式の時価総額も,平成13年9月30日約127億4032万円,平成15年9月30日約295億6675万円,平成16年9月30日には約2528億4320万円と増大し,さらに,M&Aで取得したり,事業部門を独立させたりなどして,多数の子会社等(同月末時点で子会社27社,関連会社1社)を持つ企業集団(ライブドア・グループ)を形成していた。
ライブドアでは,創業者である被告人が,平成15年9月30日当時発行済株式総数の約50.67パーセント,平成16年9月30日当時約36.43パーセントに相当する株式を保有する筆頭株主で,平成18年1月24日に解任されるまで,唯一代表権を有する代表取締役社長の地位にあり,最高経営責任者(CEO)の肩書きも有していた。また,乙川が,平成11年7月25日に取締役に就任して,財務面の責任者となり,同年終わりころからは,最高財務責任者(CFO)の肩書きも有するようになって,平成16年10月25日にいったん辞任し,同年12月26日に再度就任しているものの,平成18年1月24日に辞任するまで取締役の地位にあった。その他,丙谷が,平成15年12月19日に就任して平成18年1月25日に辞任するまで取締役の地位にあり,庚崎が,平成16年12月26日に取締役に就任し,被告人が代表取締役を解任された平成18年1月24日に被告人に代わって代表取締役社長に就任しているが,同年2月22日に代表取締役を,同年3月13日に取締役をいずれも辞任している。
ライブドアでは,毎週月曜日に,被告人を含む役員らと各事業部門の責任者が集まる会議を開催しており,そのうち,毎月10日以降の最初の月曜日と毎月25日以降の最初の月曜日の会議を「戦略会議」,それ以外の会議を「営業会議」と呼んでいた。また,ライブドアは,毎年10月1日から翌年9月30日までを事業年度としている。
なお,ライブドアは,平成18年4月14日,上場廃止となった。
(2) VCJの概要
VCJは,平成10年11月16日,資本金1000万円で,インターネットでの広告業務等を目的とするバリュークリックジャパン株式会社として設立され,その後,東証マザーズ市場に株式を上場し,資本金も11億2709万5590円(平成12年5月30日当時)になったが,平成16年2月23日から同年3月22日までの間,ライブドアが株式公開買付けを行い,発行済株式総数の約84.68パーセントに相当する株式を取得したため,同社の子会社となり,同年11月1日,株式会社イーエックスマーケティング(以下「EXマーケティング」という。)を吸収合併し,平成17年6月1日株式会社ライブドアマーケティングに,平成18年9月1日株式会社メディアイノベーションに,それぞれ商号変更した。
VCJでは,ライブドアの子会社になる以前は,庚岡B作(以下「庚岡」という。)が代表取締役社長の地位にあったが,同社の子会社となった後の平成16年3月30日,ライブドア側から被告人,辰上K平(以下「辰上」という。)ほか1名が取締役に就任し,同年6月ころには,丙谷がEXマーケティングとの合併期日に合わせて代表取締役社長に就任することが内定していた。そして,同年8月1日に庚岡が代表取締役社長を辞任すると,丙谷が就任するまでの間,取締役兼経理部長であった己原E平(以下「己原」という。)が代表取締役社長に就任し,同年11月1日,予定どおり,丙谷が代表取締役社長に就任して,己原は代表取締役兼最高財務責任者となった(同年12月31日辞任)。その後,VCJでは,丙谷が平成18年1月24日に解任されるまで代表取締役社長の地位にあり(取締役は同月25日に辞任),被告人も同月24日に辞任するまで取締役の地位にあった。
また,VCJは,毎年1月1日から12月31日までを事業年度としている。
なお,VCJは,平成18年4月14日,上場廃止となった。
(3) ライブドアファイナンスの概要
ライブドアファイナンスは,ライブドアが東証マザーズ市場に株式を上場したのと同じ時期である平成12年4月11日に,ベンチャー・キャピタル業務を担当する部門は同業務に関連して守秘義務が発生するため,別会社にした方がよいとの理由から,資本金4億円で,同社の完全子会社として設立され,平成15年4月23日エッジファイナンスアンドコンサルティング株式会社に,平成16年2月1日株式会社ライブドアファイナンスにそれぞれ商号変更した(以下,「ライブドアファイナンス」というときは,商号変更前も含む。)。その後,ライブドアファイナンスは,同社の証券関連業務部門をライブドア証券株式会社(以下「ライブドア証券」という。)に移管するため,同年9月27日,同社に合併していったん解散するとともに,同月22日,ライブドアファイナンスの証券関連事業以外の業務を行う目的で,株式会社ライブドアファイナンス(以下「新ライブドアファイナンス」という。)が新たに設立され,同年12月31日,ライブドア証券からその営業の譲渡を受けた。
ライブドアファイナンスでは,被告人,乙川及び丁沢は設立当初から,丙谷は平成15年12月19日から,いずれも解散時まで取締役の地位にあった。
ライブドアファイナンスでは,毎週木曜日に「定例会議」と呼ばれる会議を開催しており,主として,被告人を含むライブドアの役員やライブドアファイナンスのM&A担当者が出席し,M&A案件についての進捗状況等が報告されていた。また,ライブドアファイナンスは,毎年10月1日から翌年9月30日までを事業年度としている。
2  被告人及び共犯者等の経歴
(1) 被告人の経歴
被告人は,大学入学後,コンピュータ関連会社でのアルバイトを通じてインターネット事業に興味を持ったことから,大学在学中であった平成8年4月22日,ライブドアの前身である有限会社オン・ザ・エッヂを創業し,代表取締役社長に就任した。その後,被告人は,同社を株式会社に組織変更して,商号も株式会社ライブドアに変更し,同社における唯一代表権を有する代表取締役社長の地位に就き,最高経営責任者の肩書きも有していたが,平成18年1月23日,本件で逮捕されたことから,同月24日,同社の代表取締役を解任され,同月25日,取締役も辞任した。
また,被告人は,平成12年4月11日,ライブドアファイナンスの設立時に同社の取締役に就任し,同社がライブドア証券に吸収合併されて解散するまでその地位にあったほか,平成16年3月30日,VCJの取締役に,同年9月22日,新ライブドアファイナンスの取締役に,それぞれ就任したが,平成18年1月24日にVCJの取締役を,同月25日に新ライブドアファイナンスの取締役を,いずれも辞任した。
なお,被告人は,平成16年7月16日に二種証券外務員資格を,同年8月10日に一種証券外務員資格を,それぞれ取得している。
(2) 乙川の経歴
乙川は,高等学校卒業後,横浜市内の税理士事務所に就職し,平成7年12月に税理士試験に合格して平成8年2月に税理士登録した。同年3月ころ,乙川は,ライブドアを設立するに当たり顧問税理士を探していた被告人と,知人の紹介で知り合い,同社の税務申告業務等を依頼されるようになった。そして,乙川は,ライブドアの役員に欠員が生じた時期に被告人から同社の株式公開の支援を要望されたことから,平成11年7月25日,ライブドアの取締役に就任し,財務面の責任者となり,同年終わりころからは,最高財務責任者の肩書きも有するようになった。
また,乙川は,平成12年4月11日,ライブドアファイナンスの設立時に同社の取締役に就任し,新ライブドアファイナンスの設立時にも取締役に就任したほか,平成16年6月4日,マネーライフ社の取締役に就任した。
その後,乙川は,同年10月25日,イーバンク銀行株式会社(以下「イーバンク」という。)の子会社化に失敗した責任をとって,ライブドア,マネーライフ社及び新ライブドアファイナンス等の各取締役を辞任したが,実際には,ライブドアの従業員として従前同様同社の財務等に関する業務を統括し続け,同年12月26日にはライブドアの取締役に復帰した。乙川は,平成18年1月23日,本件で逮捕されたことから,同月24日,同社の取締役を辞任した。
(3) 丁沢の経歴
丁沢は,大学卒業後,公認会計士を目指したものの断念し,会社勤務を経た後,高等学校の同級生であった乙川の勧誘により,平成11年12月1日,ライブドアに入社して,同社の株式公開の準備作業等に携わり,平成12年4月11日,ライブドアファイナンスの設立時に同社の取締役に就任し,乙川とともにライブドア・グループのファイナンス業務に従事していた。その後,丁沢は,平成16年6月4日から平成17年1月20日までの間,マネーライフ社の取締役の地位にあり,また,平成16年9月22日,新ライブドアファイナンスの設立時にも同社の取締役に就任し,平成17年2月1日には代表取締役社長に就任したが,平成18年1月23日,本件で逮捕されたことから,同月25日,代表取締役及び取締役をいずれも退任した。
(4) 丙谷の経歴
丙谷は,大学卒業後,会社勤務などを経て,平成11年9月,インターネットのウェブ製作請負業等を営む株式会社アライブネットを設立して同社の代表取締役社長に就任したが,平成14年ころ,同社のレンタルサーバー事業の管理部門をライブドアに売却した機会に,被告人及び乙川と知り合い,乙川から共同事業を持ちかけられ,平成15年3月,ライブドア75パーセント,株式会社アライブネット25パーセントの共同出資によるEXマーケティングを設立して,同社の代表取締役社長に就任し,さらに,同年12月19日,ライブドア及びライブドアファイナンスの取締役に就任し,平成16年9月22日,新ライブドアファイナンスの取締役にも就任した。
その後,丙谷は,平成16年11月1日,前記のとおりEXマーケティングを吸収合併したVCJの代表取締役社長に就任して同社の業務全般を統括していたが,本件で逮捕されたことから,平成18年1月24日,同社の代表取締役を解任され,同月25日,ライブドア,VCJ及び新ライブドアファイナンスの取締役をいずれも辞任した。
(5) 庚崎の経歴
庚崎は,大学卒業後,証券会社に就職し,ベンチャー企業に対する投資業務等に従事していたところ,当時ライブドアファイナンスの代表取締役であった辛井C平(以下「辛井」という。)と知り合い,同人の勧誘により,平成14年1月,ライブドアに入社するとともに,ライブドアファイナンスに出向して,ライブドア・グループのファイナンス業務に従事し,同年8月ころ,ライブドアに戻り,経営企画管理本部担当執行役員副社長に就任し,経営企画,財務経理及び人事部門の責任者となって,主として同社の資本政策及び投資家向け広報活動業務を担当するようになった。
その後,庚崎は,平成16年12月26日にライブドアの取締役に就任し,平成18年1月24日,被告人が代表取締役社長を解任されると,被告人に代わって代表取締役社長に就任したが,本件で逮捕され,同年2月22日に代表取締役を辞任し,同年3月13日には取締役も辞任した。
(6) 辛井の経歴
辛井は,大学卒業後,証券会社に勤務し,平成12年1月,ライブドアに入社した。そして,同年4月11日,ライブドアファイナンスの設立時に,同社の代表取締役社長に就任して,ベンチャー・キャピタル業務に従事したが,平成14年6月3日にこれを辞任した。辛井は,同月14日,エイチ・エス証券株式会社(以下「HS証券」という。)に入社し,また,同社の子会社である株式会社エイチ・エスインベストメント(以下「HSI」という。)の代表取締役社長に就任するなどした。
なお,辛井は,平成18年1月18日,死亡した。
3  関連会社等の概要等
(1) 港陽監査法人の概要等
港陽監査法人は,平成10年7月24日,壬岡らによって監査法人神奈川監査事務所(平成12年7月5日神奈川監査法人に,平成16年7月1日港陽監査法人に,それぞれ名称変更)として設立され,平成12年9月期から平成17年9月期までライブドアにおける証券取引法193条の2に基づく連結財務諸表等の監査を行ってきた。
壬岡は,大学卒業後,昭和57年8月,公認会計士第3次試験に合格して,公認会計士として登録し,また,昭和58年6月には税理士登録をした。壬岡は,監査法人勤務や会計事務所における税理士業務を経て,平成10年7月24日,知人の公認会計士とともに港陽監査法人を設立して,同監査法人の社員となり,平成12年11月13日には代表社員となった。
壬岡は,平成8年ころ,税理士会での活動を通じて乙川と知り合い,平成11年6月ころ,乙川からライブドアの株式公開の支援業務を依頼されて引き受けたことから,同社の会計監査を港陽監査法人として受嘱し,平成12年9月期から平成15年9月期まで,同社の連結財務諸表等の監査について,関与社員として監査報告書の作成を行った。
ところで,壬岡は,平成12年6月ころ,乙川や申谷O郎弁護士と,「ゼネラル・コンサルティング・ファーム」という名称で法務,税務サービスを提供するグループを組織し,ライブドア・グループから税務申告業務等を受託するなどしていたところ,ライブドアファイナンスの経理業務も受託することとなったため,平成15年7月1日,買い取った休眠会社の商号を株式会社ゼネラル・コンサルティング・ファームに変更した上,同社で上記の経理業務を行うこととし,また,同年10月1日,税務業務を受託するために税理士法人ゼネラル・コンサルティング・ファームを設立した。壬岡は,ライブドアファイナンスの経理業務を受託しながら,関与社員としてライブドアの監査に従事することは不都合であると考え,自らは,同年12月25日に乙川に代わって株式会社ゼネラル・コンサルティング・ファームの代表取締役に就任し,他方,港陽監査法人については,同月19日付けで脱退した。その結果,壬岡の同監査法人での関与先企業は,ライブドアを含めて,同監査法人の公認会計士である辛田が引き継いだ。
辛田は,大学卒業後,平成4年2月,公認会計士第3次試験に合格して,同年4月,公認会計士として登録し,平成5年8月には税理士登録もしている。辛田は,監査法人や会計事務所での勤務を経て,平成12年4月ころから,壬岡の依頼で,ライブドアの投資先企業の株式公開支援業務を補助するなどし,同年8月ころには,同人の勧誘で港陽監査法人に入り,同年11月13日,同監査法人の社員に,平成14年7月29日には代表社員になった。辛田は,平成12年9月期からライブドアの連結財務諸表等の監査に従事し,平成14年9月期から平成17年9月期までの間は同監査法人の関与社員として同監査の監査報告書を作成した。
(2) 関連会社の概要
ア クラサワコミュニケーションズ株式会社の概要
クラサワコミュニケーションズ株式会社(以下「クラサワ」という。)は,平成元年2月10日,携帯電話の販売等を事業内容とする株式会社として設立された。クラサワは,事業拡大の目的で株式会社MKSコンサルティング(以下「MKS」という。)がコンサルタント契約を締結していた海外の投資ファンドに第三者割当増資を引き受けてもらったため,平成12年12月の時点では,同ファンドがクラサワの発行済株式総数の約74パーセントに相当する株式を保有する株主となっていた。MKSでは,クラサワの業績が上がらず,社債の償還も困難となったことから,平成15年初めころ,同社の代表取締役とも合意の上,海外投資ファンドの保有するクラサワ株式を売却することとし,その売却先を探していた。
イ ウェッブキャッシング・ドットコム株式会社の概要
ウェッブキャッシング・ドットコム株式会社(以下「ウェッブ」という。)は,平成12年3月21日,事業金融を営む株式会社ニッシン(以下「ニッシン」という。)の完全子会社として設立された株式会社であり,インターネット上で消費者金融の申込みができるサイトの運営を事業内容としていた。そして,ウェッブは,平成14年11月,インターネット上のウェッブ広告等を業とする株式会社アイ・シー・エフ(以下「ICF」という。)との間で,株式交換を行い,同社の完全子会社となった。上記株式交換により,ニッシンが,ICFの大株主となったため,ウェッブの経営に影響力を有していた。
ウ マネーライフ社の概要
マネーライフ社は,平成11年1月13日,株式会社サイビズ(以下「サイビズ」という。)等が出資して資本金1600万円で設立した,金融関係の出版業等を事業内容とする株式会社であり,平成12年4月に増資して,資本金が5000万円となった。マネーライフ社は,主婦の友社から編集委託を受けて,単行本等の取材及び編集を行い,雑誌「マネーライフ」や,上場企業が設けている株主優待制度を掲載した株主優待大図鑑を年2回発行するなどして,平成15年12月期の決算報告書によれば,約1292万円の経常利益を計上したが,累積損失があるため,約1364万円の債務超過であった。
エ 株式会社キューズ・ネットの概要
株式会社キューズ・ネットは,平成12年6月6日,それまで,キューズシステムサービスの名称で結婚仲介サービス業を営んでいた己崎C作とその妻により有限会社キューズ・ネット(後に株式会社に組織変更。以下,組織変更の前後を問わず,「キューズ・ネット」という。)として設立された。キューズ・ネットは,法人化した後も売上げを伸ばし,平成13年1月には1か月の売上げが約1億1000万円とピークを迎えたが,会員数が増加したことから,積極的な広告を止めるなどしたため,その後,減少傾向に転じ,平成16年初めには1か月の平均売上げが約3500万円まで落ち込んだ。
己崎C作は,平成15年ころから,知人の証券会社従業員にキューズ・ネットの売却先を探すよう依頼していたところ,ライブドアから株式交換の方法による買収を打診されたが,現金買収を前提とする己崎C作の意向と一致しないでいた。ところが,他社との間で,キューズ・ネットを売却する話が持ち上がり,平成16年1月ころには,上記売却に関するアドバイザリー契約を締結することとなったが,ライブドアから,上記証券会社の従業員を通じて,その売却代金を上回る額で現金買収する意向が伝えられたので,己崎C作は,ライブドアと売却交渉をすることとした。そして,交渉の結果,己崎C作及び同人の妻は,キューズ・ネットの持分全部を24億1600万円でライブドア側に売却することとなり,ライブドア側が投資事業組合名義による買収を希望したことから,同年6月3日付けで,JMAMサルベージ1号投資事業組合(以下「サルベージ1号」という。)との間で,持分譲渡契約書を交わした。
その後,キューズ・ネットは,同年7月1日,株式会社に組織変更し,サルベージ1号の業務執行組合員である日本エムアンドエイマネジメント株式会社(以下「JMAM」という。)の取締役である申川Q介が形式上の代表取締役に就任し,同年10月12日,株式交換によりライブドアの完全子会社になり,同月13日,申川Q介に代わって,ライブドアファイナンスの従業員で,キューズ・ネット買収の担当者であった卯波L平(以下「卯波」という。)が代表取締役に就任して,平成18年2月17日には,ライブドアに吸収合併されて,解散している。
オ 株式会社ロイヤル信販の概要
株式会社ロイヤル信販は,消費者金融を主たる事業内容とする株式会社ロイヤルローンとして設立され,同社で支店長を務めていた壬井F夫(以下「壬井」という。)らが買収し,昭和59年5月30日,株式会社ロイヤル信販(以下「ロイヤル信販」という。)に商号を変更したものである。壬井は,昭和62年3月に代表取締役社長に就任したが,平成12年ころからロイヤル信販の減収,減益が続き,平成15年には,経常利益が平成12年当時の半分を切るような状況に至り,平成16年には,健康上の不安もあって,条件次第では同社を売却したいと考えるようになった。
壬井は,同年4月,知人からライブドアの従業員である辛岡E吉(以下「辛岡」という。)を紹介され,同人からロイヤル信販を買収する意向を伝えられたので,ライブドアと交渉をすることとした。当初,ライブドア側からは株式交換の方法による買収が提案されたが,壬井がそれを拒絶して,現金買収を要求すると,ライブドア側もこれを了解した。そして,交渉の結果,壬井らは,ロイヤル信販の株式全部を29億5200万円で売却することとなり,ライブドア側が投資事業組合名義による買収を希望したことから,同年7月8日付けで,サルベージ1号との間で,株式譲渡契約書を交わした。
その後,ロイヤル信販は,同年9月24日,壬井を除く取締役が全員辞任し,代わりに,ライブドアから,辛岡,被告人,ライブドアの執行役員で,ライブドアファイナンスの代表取締役でもあった丑葉H郎,及び乙川が取締役に就任し,同月27日,壬井が代表取締役及び取締役を辞任すると,辛岡が代表取締役に就任して,同年10月12日には株式交換によりライブドアの完全子会社になっている。なお,ロイヤル信販は,同年12月1日,株式会社ライブドアクレジットに商号変更している。
(3) 投資事業組合の概要
ア M&Aチャレンジャー1号投資事業組合の概要
M&Aチャレンジャー1号投資事業組合(以下「チャレンジャー1号」という。)は,平成15年11月ころ,同月18日付けの組合契約書によって組成された民法上の任意組合である。チャレンジャー1号は,当初,業務執行組合員を辛井が代表取締役を務めるHSIとし,一般組合員をライブドアファイナンスとしていたが(なお,同社がイーバンクと共同出資をして組成する投資事業組合から出資を受けるということも検討されていたが,両社間の交渉が決裂したことから実行されなかった。),その後,一般組合員を最初からライブドアファイナンスではなくEFC投資事業組合(以下「EFC組合」という。)にして組み直すこととし,平成16年3月ころ,その旨の組合契約書に差し替えられた。また,業務執行組合員についても,HSIではなく,最初からパシフィック・スマート・インベストメント・リミテッド(PACIFIC SMART INVESTMENT LIMITED。以下「PSI」という。)とするとしたり,再度,最初からHSIであるとしたりして,その都度,その旨の組合契約書と差し替えられている。
なお,チャレンジャー1号は,平成17年8月31日付けで,解散している。
イ VLMA1号投資事業組合の概要
VLMA1号投資事業組合(以下「VLMA1号」という。)は,平成15年11月ころ,同月26日付けの組合契約書によって組成された民法上の任意組合である。VLMA1号は,業務執行組合員を丑木J介(以下「丑木」という。)が代表取締役を務め,投資事業組合の管理運用等を目的とする株式会社バリュー・リンク(以下「バリュー・リンク」という。)とし,一般組合員をチャレンジャー1号としており,チャレンジャー1号からの出資金の払込みについては,ライブドア株式が充てられている。
なお,VLMA1号は,平成16年9月30日付けで,解散している。
ウ VLMA2号投資事業組合の概要
VLMA2号投資事業組合(以下「VLMA2号」という。)は,平成16年3月ころ,同月17日付けの組合契約書によって組成された民法上の任意組合である。VLMA2号も,VLMA1号同様,業務執行組合員がバリュー・リンクで,一般組合員がチャレンジャー1号であり,チャレンジャー1号からの出資金の払込みについては,ライブドア株式が充てられている。
なお,VLMA2号は,平成17年7月29日付けで,解散している。
エ EFC組合の概要
EFC組合は,平成16年3月中旬ころ,平成15年11月1日付けの組合契約書によって組成された民法上の任意組合である。EFC組合は,業務執行組合員がライブドアファイナンスで,一般組合員がライブドアである。
オ サルベージ1号の概要
サルベージ1号は,平成16年5月中旬ころ,同月31日付けの組合契約書によって組成された民法上の任意組合である。サルベージ1号は,業務執行組合員がJMAMであり,一般組合員は,当初はチャレンジャー1号であったが,その後,VLMA2号と,スイス法人であるドクター・ハウリ(DR.Hauri AG)となっている。
第2  争いのない事実及び証拠上容易に認定できる事実
本件は,大きく4つの事件に分かれており,これらが同時並行的に進行していることから,1で,クラサワ及びウェッブとの株式交換を利用したライブドア株式売却益の計上を,2で,キューズ・ネット及びロイヤル信販を利用したライブドアの架空売上げを,4で,VCJとマネーライフ社の株式交換に関するVCJの虚偽の公表を,5で,VCJの平成16年12月期第3四半期(通期)の業績状況等に関するVCJの虚偽の公表を説明する。3では,1及び2を受けて,ライブドアが有価証券報告書を提出した事実をみることとする。
1  クラサワ及びウェッブとの株式交換を利用したライブドア株式売却益の計上
以下,(1)では,クラサワとの株式交換を利用したライブドア株式売却益の計上スキームの形成過程等を,(2)では,ウェッブとの株式交換を利用したライブドア株式売却益の計上スキームの形成過程等を,(3)では,クラサワ及びウェッブとの間で行われた実際の株式交換,これに伴う買収資金の移動,被告人からの貸株の手続等を,(4)では,貸株分のライブドア株式の売却状況とその後の資金移動等を,(5)では,株式交換により発行されたライブドア株式の売却状況とその後の資金移動等を,(6)では,ライブドアでは,上記のライブドア株式売却益を見越して業績予想値を上方修正しているので,その公表状況等を,(7)では,ライブドアが,実際に,連結売上げに計上したライブドア株式売却益をみることとする。
(1) クラサワとの株式交換を利用したライブドア株式売却益の計上スキームの形成過程等
ア 最初のスキーム
乙川は,平成15年7月ころ,JMAMの酉谷R作からクラサワの買収を持ちかけられたことから,買収担当者として,ライブドアの従業員で,当時,ライブドアファイナンスに出向中であった戊野D作(以下「戊野」という。)を指名した上,同人とともにMKSの従業員らとの間で買収交渉を進めた。乙川は,ライブドアには資金が豊富にあるわけではないので,株式交換による買収を考えており,同年10月2日には,クラサワの買収案件に関してアドバイザリー契約を締結していたJMAMを介して,MKS側に対し,クラサワを株式交換により8億円で買収したいとの意向を伝え,さらに,同月6日付けで,同旨の意向表明書も送付していた。
しかしながら,MKS側は,株式交換による買収では,ライブドア株式の株価下落リスクを伴うため,あくまでも現金買収の方法によることを強く要求した。そこで,乙川は,ライブドア株式の引取先を確保して同株式の現金化ができれば,双方の要求を満たすことができると考え,同月上旬ころ,戊野を伴って辛井に会い,同人に株式交換後に同株式をすぐに引き取ってくれるところを見つけて欲しい旨依頼した。
ところが,辛井からは,ライブドア株式の引取先を見つけることができなかったとの回答がなされ,その代わりに,次のスキーム(仕組み)が提案された。すなわち,ライブドアはクラサワを株式交換により買収するが,あらかじめライブドアファイナンスがライブドアの大株主である被告人からライブドア株式の貸株を受け,これを市場で売却して現金化しておき,その中から買収代金である8億円をクラサワの株主に支払い,同株式が発行された後,クラサワの株主からこれを取得して,被告人に返還するという内容であった(以下,クラサワとの株式交換に関連するスキームを「クラサワ・スキーム」ともいう。)。併せて辛井からは,被告人からライブドア株式の貸株を受けるに当たり,被告人が貸株している事実を隠すために,被告人が直接ライブドアファイナンスに貸株をするのではなく,その間に辛井の用意するシェルカンパニーを介在させることの提案もなされた。乙川は,辛井から,上記スキームについて,手書きの図面に基づいて説明を受けたことから,同図面を持ち帰って,これを戊野に渡し,MKSに対する説明用資料の作成を命じた。そこで,戊野は「クラサワ貸株スキーム」と題する図面(以下「クラサワ貸株スキーム図」という。)を作成した。
そして,同月21日,乙川,戊野,MKSの癸葉E夫及び未山P郎並びにJMAMの申川Q介及び酉谷R作が,クラサワ買収について協議を行い,ライブドアがクラサワの企業価値を8億円と評価して株式交換で買収すること,実際には,ライブドア側がクラサワの株主が取得するライブドア株式全株を現金8億円で買い取ること,株式交換におけるライブドア株式の評価は12万円又は株式交換契約締結日前日の終値のいずれか高い方にすることなどが了解事項とされた。
イ スキームの変更
平成15年10月23日,乙川,丁沢,戊野,辛井の4名は,クラサワ・スキームについての打合せを行い,辛井から,ライブドアファイナンスがライブドア株式を売却することについて,ライブドアファイナンスのインサイダー取引規制に抵触する可能性があり,また,子会社が親会社株式を取得売却することになるといった問題点が指摘され,ライブドアファイナンスが直接ライブドア株式を売却せずに,ライブドアファイナンスの代わりに同社が出資をして組成する投資事業組合において,被告人から貸株を受けて市場で売却すること,また,株式交換におけるライブドア株式の単価を,過去の株価の加重平均値とすることによって低く設定し,クラサワの株主にライブドア株式をその時点の実勢価格で計算した株式数よりも多く割り当て,それを譲り受けた投資事業組合が市場で売却し,クラサワの株主に支払う代金を控除した残額をライブドアファイナンスに分配金として還流させ,これを利益として同社の売上げに計上し,最終的にはライブドアの連結売上げにも計上することを決めた。
戊野は,同日,電子メール(以下,単に「メール」という。)で,JMAMの酉谷R作及び申川Q介あてに,クラサワ・スキームを変更したことを連絡した。そして,申川Q介は,同月24日,酉谷R作及び辛井とともに,MKSを訪問し,ライブドアとの株式交換によりクラサワの株主が取得するライブドア株式は投資事業組合が8億円で買い取ること,別途株式売買契約を締結する必要があることなどを説明したものの,投資事業組合がライブドア株式の貸株を受けることや同株式を市場で売却することなどは説明しなかった。
乙川らは,クラサワとの株式交換におけるライブドア株式の価格について,戊野に計算させるなどし,最終的には,同年7月11日から同年10月10日までの3か月間の株価の加重平均値を採用し,8万7586円とした。そして,上記株価を前提とすると,株式交換に際して発行されるライブドア株式は9134.15株となるところ,乙川らは,当初は,その全株式について被告人から貸株を受けようと考えていたが,被告人がライブドア株式の大量保有報告書の提出義務者に該当し,当該貸株についてその変更報告書の提出を要することが判明したため,同報告書の提出を要しない5100株のみ被告人から貸株を受けることとし,残りの約4000株はライブドアの元取締役であった丑波F雄(以下「丑波」という。)から借りることとした。その後,乙川らは,丑波と上記貸株の交渉をしたものの,結局は断られてしまったが,当時,ライブドアの株価が上昇しており,被告人からの貸株分でクラサワの買収代金8億円を賄える見込みであったことから,丑波からの貸株は問題とはならなかった。
なお,ライブドアでは,公募増資をしていたことから平成16年3月13日までは株式交換による場合も含めて新株発行ができないでいたところ,このことは,平成15年10月24日,庚崎から,被告人を含めたライブドアファイナンスのM&A関係者のメーリングリストあてにメールで送信されている。
そして,同年11月ころ,チャレンジャー1号が同月18日付けで組成された。
ウ VLMA1号の組成等
丁沢は,平成15年11月中旬ころ,辛井から,日本の証券会社では,証券口座の名義人と入庫した株式の名義人が異なる場合いろいろと確認を受けることから,香港の証券会社で売却した方がよいとの提案を受け,香港所在のゲインウェル・セキュリティーズ・カンパニー・リミテッド(以下「ゲインウェル証券」という。)で貸株を売却することとし,同社に証券口座を開設することとした。ところが,証券口座の開設が遅れ,クラサワの株主に対する買収代金の支払が間に合わなくなってしまうことが予想されたため,丁沢は,ライブドアから5億円を借り,残額3億円をライブドアファイナンスの自己資金で賄い,これをライブドアファイナンスがチャレンジャー1号に出資金として支払い,同買収資金の約8億円を捻出することとした。
また,そのころ,丁沢は,辛井から,同人がかつてライブドアファイナンスの代表取締役であったことから,HSIが業務執行組合員となっているチャレンジャー1号でライブドア株式を売却すると,同人自身がインサイダー取引規制に抵触していると疑われるおそれがあるとして,同人の知人に新たな投資事業組合を組成させて,同組合を経由してライブドア株式を売却することを提案されて,これを了承し,新たな組合を組成することとし,以上の経過を乙川に報告した。そして,辛井がバリュー・リンクの丑木に依頼して,同月26日付けで,VLMA1号が組成され,そのころ,ゲインウェル証券に同組合名義の証券口座が開設された。
なお,以上の経過について,乙川は,丁沢から報告を受けていた。
(2) ウェッブとの株式交換を利用したライブドア株式売却益の計上スキームの形成過程等
乙川は,平成15年春ころからウェッブの買収を検討しており,当初は,飛び込みで買収交渉するなどしたものの,高額の買収価格の提示を受けるなど相手にされなかった。しかし,同年10月ころになって,ウェッブの親会社ICFの株主である翼システム株式会社(以下「翼システム」という。)がその資金繰りに窮して,ウェッブを売却する意向を示したため,買収交渉が開始された。
乙川は,ライブドアの従業員で,ライブドアファイナンスに出向中であった甲川U夫(以下「甲川」という。)を買収担当者として指名し,同人とともに,ウェッブの取締役らと買収交渉を行った。乙川らは,ウェッブの買収について,株式交換による方法を考えていたところ,高値での売却を望んでいるICFや翼システムの意向だけでなく,前記のとおり,ウェッブの元親会社で同社の経営に影響力を有していたニッシンが,ライブドアによる買収後もウェッブに対する支配力を維持したいとの意向から,買収後にウェッブ株式をライブドアから買い取りたいとの考えを示していたため,これらに配慮しながら交渉を進め,同年11月末ころ,ICF,翼システム及びニッシンとの間で,ライブドアがウェッブを8億5000万円で株式交換の方法により買収し,株式交換後に,ライブドアがニッシンに対し,取得したウェッブ株式の40パーセントを3億4000万円で売却する旨の合意が成立した。そして,甲川は,同年12月4日,メールで被告人を含むメーリングリストあてに,ウェッブの買収価格について8億5000万円で合意に達した旨報告し,被告人も,同日,「すばらしい!」などと返信した。
ところが,その後間もなくして,翼システムから現金買収による方法を強く要求されたことから,乙川は,クラサワと同様の買収方法を採ることとした。すなわち,ライブドアとウェッブが株式交換契約を締結すること,ライブドアファイナンスが出資して組成した投資事業組合が,ICFから同社が株式交換で取得するライブドア株式を上記出資金8億5000万円で買い取ること,投資事業組合が株式交換後にライブドア株式を市場で売却して同買取資金を回収し,利益が出た場合には分配金としてライブドアファイナンスに還流させ,同社の売上げに計上し,最終的にライブドアの連結売上げにも計上すること,ウェッブ株式については,株式交換後,ライブドアファイナンスがライブドアから全株式を取得して,その40パーセントをニッシンに3億4000万円で売却することを内容とするものであった。
そして,同月11日,被告人も出席したライブドアファイナンスの定例会議において,甲川が,ウェッブの買収に関して説明し,ニッシンとの間で合意に達したこと,手続が二つのフェーズに分かれ,第1フェーズではライブドアとウェッブが株式交換契約を締結し,ウェッブの株主であるICFはライブドア株式を投資事業組合に売却すること,第2フェーズでは,ライブドアファイナンスがライブドアからウェッブ株式全株を買い取った上,その40パーセントをニッシンに移動させることなどを報告した。
(3) クラサワ及びウェッブとの株式交換,買収資金の移動,貸株手続等
ア クラサワとの株式交換等
クラサワとの株式交換について,ライブドアでは,被告人も出席した平成15年11月19日開催の取締役会で承認決議がなされ,同日付けで,クラサワとの間で,ライブドアを完全親会社,クラサワを完全子会社,株式交換日を平成16年3月15日とする株式交換契約を締結した。また,平成15年11月19日付けで,クラサワの株主らから,同株主らが上記株式交換により保有することとなるライブドア株式を,チャレンジャー1号名義で合計約8億円で買収する旨の契約が締結された。
上記ライブドア株式の買収資金については,ライブドアが,被告人による契約締結稟議を経た上,同月20日付けでライブドアファイナンスに5億円を貸し付けて送金し,同月21日及び同月25日に同社からチャレンジャー1号名義の口座に合計8億円が振り込まれ,さらに,同月26日,同口座からクラサワの株主らに合計7億9928万7393円が振り込まれている。
なお,ライブドアでは,同月19日開催の前記取締役会で,平成16年2月20日を効力発生日とする株式100分割の承認決議を行い,当日,その旨公表している。
イ ウェッブとの株式交換等
ウェッブとの株式交換について,ライブドアでは,被告人も出席した平成15年12月15日開催の取締役会で承認決議がなされ,同日付けで,ウェッブとの間で,ライブドアを完全親会社,ウェッブを完全子会社,株式交換日を平成16年3月15日とする株式交換契約を締結した。また,平成15年12月18日付けで,ICFから,同社が上記株式交換により保有することとなるライブドア株式48万0771株を,チャレンジャー1号名義で8億5000万円で買収する旨の契約が締結された。
上記ライブドア株式の買収資金については,ライブドアが,同月15日開催の前記取締役会での決議を経た上,同月16日,ライブドアファイナンスに10億円を貸し付け,同月17日,同社からチャレンジャー1号名義の口座に8億5000万円が振り込まれ,さらに,同月18日,同口座からICFに8億5000万円が振り込まれている。
ウ 貸株の手続等
被告人は,平成15年11月下旬ころ,チャレンジャー1号との間で同月21日付け「株券等貸借取引に関する基本契約書」,同月28日付け同付属覚書及び「一般貸株等にかかる有価証券の消費貸借に関する個別取引契約書」に署名押印し,その保有に係るライブドア株式5100株を同組合に貸し付ける旨の契約を締結した。そして,同月28日,ライブドア株式5100株が被告人名義の証券口座から直接ゲインウェル証券のVLMA1号名義の証券口座に移管されているが,同ライブドア株式は,チャレンジャー1号がVLMA1号に対して現物出資をしたものとされている。
なお,上記ライブドア株式5100株のうち100株については,同年12月24日,辛井の指示により上記証券口座から出庫されて,被告人に返還されたため,チャレンジャー1号からVLMA1号に対する現物出資もライブドア株式5000株とされた。
また,乙川は,ライブドアの株主名簿の閉鎖時に被告人が貸株をしたままであると,被告人の保有株数の減少が発覚するなどと考え,被告人からの貸株を解消するため,丑波から貸株を受けることとし,同月24日又は同月25日ころ,チャレンジャー1号名義で,丑波との間で,ライブドア株式5000株を借り受ける旨の契約を締結し,同日,丑波からの貸株をもって,被告人に返還した。
(4) 貸株分のライブドア株式の売却及び売却代金の移動
前記のとおり,ゲインウェル証券のVLMA1号名義の証券口座に入庫されたライブドア株式5000株については,平成15年12月2日から同月19日までの間(いずれも約定日)に順次売却され,同月25日までに,同口座に合計13億3600万6524円が入金された。
そして,上記売却代金については,上記VLMA1号名義の証券口座から,同月30日にバリュー・リンクに設立報酬名目で210万円が支払われているほか,平成16年2月19日,9億8194万6643円がチャレンジャー1号名義の口座に送金されている(なお,同金員のうち1億円は,チャレンジャー1号に対する仮払金として処理され,同年6月29日,PSIが業務執行組合員となっているチャレンジャー1号名義の口座からVLMA1号名義の口座に1億円が送金されている。)。
チャレンジャー1号名義の口座からは,同年2月20日,8億4673万8719円がライブドアファイナンスに振込送金され,同社では,同日,ライブドアに対し,8億4700万円を送金している(なお,チャレンジャー1号名義の口座から,同年3月1日,ライブドアと株式会社トライン(以下「トライン」という。)との株式交換によって発行されたライブドア株式の買収代金名目で,1億円がトラインの株主である寅口G子名義の口座に送金されている。)。
また,VLMA1号の解散に当たり,出資金の払戻名目で,同年9月6日,同組合名義の証券口座から残高のほぼ全額である合計4億5100万円が外国送金されて,同月7日,バリュー・リンクの口座に99万1664円,チャレンジャー1号名義の口座に4億4977万2166円が,それぞれ入金されている。
そして,チャレンジャー1号名義の口座からは,出資金の払戻名目で,同月10日,EFC組合名義の口座に,4億5000万円が送金されている。そして,この4億5000万円は,後記のとおり,VLMA2号によるライブドア株式売却益とともに,同月24日ライブドアファイナンス及びライブドアにそれぞれ出資割合に応じて支払われている。
(5) 株式交換により発行されたライブドア株式の売却及び売却代金の移動等
ア EFC組合及びVLMA2号の組成
辛井は,平成16年2月ころ,クラサワとの株式交換を利用したライブドア株式売却益の利益計上スキームを知った壬岡から,このままでは監査法人が困るとの指摘を受けたため,ライブドアファイナンスとチャレンジャー1号との間に,別の投資事業組合を介在させようと考え,同月下旬から同年3月上旬ころ,丁沢に対し,その旨提案した。そして,同月中旬ころ,EFC組合が日付をさかのぼらせて平成15年11月1日付けで組成された。
また,丁沢は,平成16年2月下旬ころ,クラサワ及びウェッブとの株式交換によって発行されるライブドア株式の売却方法について,辛井から,VLMA1号は,被告人から貸株を受けたライブドア株式を売却しているため,被告人からの貸株を売却した事実が発覚しないようにするためにも,同組合を清算し,別の投資事業組合を組成してライブドア株式を売却することの提案を受けて,これを了承した。そして,VLMA1号と同様に,辛井がバリュー・リンクの丑木に依頼して,同年3月ころ,VLMA2号が同月17日付けで組成された。
イ 株式交換により発行されたライブドア株式の移動
前記のとおり,ライブドアとクラサワとの株式交換により発行されたライブドア株式91万3407株(株式100分割後の株数)及びウェッブとの株式交換によって発行されたライブドア株式48万0771株の合計139万4178株は,いったん,チャレンジャー1号が取得した。そして,丑波から借りていた50万株を平成16年3月24日付けで同人に返還し,残りの89万4178株は,同組合名義で取得されたトラインとの株式交換によるライブドア株式4万4448株を含めて,ゲインウェル証券のVLMA2号名義の証券口座に,同月18日52万5219株,同月24日41万3407株がそれぞれ入庫された。なお,同ライブドア株式は,チャレンジャー1号がVLMA2号に対して現物出資をしたものとされている。
ウ 平成16年3月末までのライブドア株式の売却及び売却代金の移動
ゲインウェル証券のVLMA2号名義の証券口座に入庫された前記ライブドア株式93万8626株のうち,トラインとの株式交換により発行された4万4448株は,平成16年4月16日,同口座からPSI名義の口座に移管された。その余のクラサワ及びウェッブとの株式交換によって発行された89万4178株については,同年3月18日から同月31日までの間(いずれも約定日)に86万8000株が順次売却され,同年4月5日までに合計42億0298万3689円が上記VLMA2号名義の証券口座に入金された。
そして,上記売却代金については,上記VLMA2号名義の証券口座から,同年3月24日に3億円,同月25日に9億円の合計12億円が,チャレンジャー1号名義の口座に送金されており,同日,チャレンジャー1号名義の口座から12億円がEFC組合名義の銀行口座に送金され,さらに,同日,EFC組合名義の口座から12億円がライブドアファイナンスに送金されている。
また,同月31日,上記VLMA2号名義の証券口座から15億5450万3655円がチャレンジャー1号名義の口座に送金され,同年4月5日,同口座から丑波に対するライブドア株式の貸株料5450万4495円が支払われたほか,同月23日,10億5191万6963円がEFC組合名義の口座に送金され,さらに,同月26日,同口座から,10億5000万円がライブドアファイナンスに,139万1963円がライブドアにそれぞれ送金されている。
エ 残りのライブドア株式の売却及び売却代金の移動
さらに,上記売却で残ったライブドア株式2万6178株についても,平成16年6月7日から同月14日までの間(いずれも約定日)に順次売却され,同月17日までに合計1億3649万3199円がゲインウェル証券のVLMA2号名義の証券口座に入金された(なお,上記VLMA2号名義の証券口座からは,同年5月20日,バリュー・リンクに設立報酬名目で210万円が支払われているほか,同年6月7日に4200万円,同年7月2日に3000万円が,それぞれ株式会社UFJ銀行のVLMA2号名義の口座に送金されている。後記のとおり,上記4200万円については,マネーライフ社の買収資金として,同年6月8日,同社の株主であるサイビズに支払われ,また,3000万円については,マネーライフ社に対する増資の払込みとして,同年7月2日にマネーライフ社に支払われている。)。
さらに,同月23日,ゲインウェル証券のVLMA2号名義の証券口座からチャレンジャー1号名義の口座に3億1312万2996円が送金され,チャレンジャー1号名義の口座からEFC組合名義の口座に,同年8月30日に3億3450万円が,同月31日に出資金の払戻名目で3億5000万円がそれぞれ送金されている。
そして,EFC組合名義の口座には,前記のとおり,同年9月10日付けでチャレンジャー1号名義の口座から4億5000万円も振り込まれているところ,同月24日,11億8894万2316円が出金され,ライブドアファイナンスに11億8700万円が,ライブドアに89万0636円がそれぞれ支払われるなどしている(なお,同年7月30日,ゲインウェル証券のVLMA2号名義の証券口座からサルベージ1号名義の口座あてに,10億円が送金されている。)。
(6) ライブドアにおける平成16年9月期の業績予想値の公表等
ア 連結経常利益予想値20億円の公表
ライブドア経営企画管理本部の未川N雄(以下「未川」という。)は,平成15年9月ころから,乙川の指示を受けて同社の平成16年9月期(平成15年10月1日から平成16年9月30日まで)の予算案の作成作業を始めた。
未川は,平成15年10月になって,各事業部及び各子会社から提出された予算案を取りまとめて,修正を施した上,ライブドアファイナンスの投資事業を除いたライブドア・グループ全体の予算案を作成し,その結果,売上高が100億円から110億円,営業利益が七,八億円となり,その旨,被告人に報告したものの,営業利益が前年度の実績値を下回ったことなどから,その納得を得られなかった。
未川は,丁沢や甲川に,ライブドアファイナンスの投資事業に関する予算案の提出を依頼していたところ,同月16日ころ,甲川から,イーバンクと共同で組成する投資事業組合からの管理報酬及び成功報酬等が大半を占める売上高約10億円の予算案の提出を受け,グループ全体として売上高約142億円,営業利益約19億円の予算案を作成した。
ところが,同月下旬ころ,ライブドアファイナンスとイーバンクとの提携が困難な状況になってきたため,共同で組成する投資事業組合からの報酬を骨格とする上記予算案も見直しが必要となり,丁沢は,クラサワとの株式交換を利用したライブドア株式売却益の利益計上が計画されていたことから,クラサワとの株式交換により,有価証券の売上げ18億円,原価8億円(クラサワの株主からのライブドア株式の買収代金)で,粗利が10億円が見込まれるとの予算の修正を行い,未川に対して,その旨連絡した。これを受けて,未川は,上記イーバンク関連の売上げの大半を消去し,代わりに,同年12月と平成16年1月に,投資有価証券売却による売上げを各9億円,同原価を各4億円とする予算案に変更し,平成15年11月7日ころ,グループ全体として,売上高約136億円,営業利益約19億円などとする予算案を作成した。
未川は,乙川から,営業利益が20億円に達していないと被告人の承認は得られないと言われたので,更に上記予算案を修正し,売上高を約140億円,営業利益を約20億円と増額し,同月7日,被告人に対し,修正された予算案をメールで送信した。
ところが,同月10日,大和生命ビルのレストランで,被告人,乙川及び未川で予算についての打合せをした際,未川は,被告人から,連結経常利益の予想値を20億円とするよう指示された。そこで,未川は,丁沢に対し,被告人から連結経常利益が約2億円足りないと言われたなどとして,クラサワとの株式交換を利用した有価証券の売却益を上積みするように依頼したところ,丁沢が,投資有価証券売上げを18億円から20億円に,利益も10億円から12億円に各増額することに応じた。未川は,上記の修正を踏まえて,全体として,売上高約152億円,営業利益約22億円,経常利益約20億4300万円,当期純利益約12億2600万円とするライブドアの連結予算案を作成した。そして,未川は,同月17日,被告人に対し,その旨メールで報告し,同日,被告人からメールで「おおむねOKでしょう。」との返事を得た。
ライブドアは,同年11月19日,同年9月期の決算短信(連結)において,平成16年9月期の連結業績予想を,売上高152億円,経常利益20億4300万円,当期純利益12億2600万円と公表した。
イ 連結経常利益予想値30億円への上方修正の公表等
(ア) 貸株分のライブドア株式売却益の計上(第1四半期)
ライブドアファイナンスの経理業務の外注を受けていた株式会社ゼネラル・コンサルティング・ファームの寅葉K作(以下「寅葉」という。)は,平成16年1月5日ころ,丁沢から,ライブドアファイナンスの第1四半期(平成15年10月1日から同年12月31日まで)におけるチャレンジャー1号からの分配金を計算するよう指示された。
寅葉は,VLMA1号からチャレンジャー1号に対する分配金が8億8194万6643円と決まっており,チャレンジャー1号からVLMA1号に現物出資されたライブドア株式5000株について4億5000万円の売上げと評価されていたので,チャレンジャー1号の第1四半期の売上げを合計13億3194万6643円と算出した。そして,同金額から売上原価,報酬等を控除し,ライブドアファイナンスの出資口数(1650口/1651口)に応じた8億5093万1830円(後に,8億4673万8719円に修正)を,チャレンジャー1号からライブドアファイナンスに対する分配金とするなどの計算を行った。
そして,ライブドアファイナンスでは,上記ライブドア株式の売却益がその大部分を占める8億6714万0978円を,平成15年12月における投資事業組合等管理収入として計上している。この数値自体は,平成16年1月19日開催のライブドアの戦略会議資料にも記載されており,そのドラフトは,同月15日,メールで被告人も含まれているメーリングリストあてに送付されており,被告人も同メールを見た上,これに返信している。
(イ) 連結経常利益予想値30億円への上方修正等
未川は,平成16年1月下旬ころ,庚崎から,株価も上昇しており,また,ウェッブの件もあるからなどと言われ,同年9月期のライブドアの連結経常利益の予想値を30億円に上方修正する準備をするよう指示された。未川は,ウェッブについても,クラサワと同様に株式交換を利用したライブドア株式売却益の利益計上を行うものと考え,丁沢に対し,ライブドアファイナンスの予算案の増額を依頼した。丁沢は,最終的に,第1四半期に計上した貸株分を除き,クラサワ及びウェッブとの株式交換を利用したライブドア株式の売却によって,第2四半期以降,投資有価証券売上げ27億円,同原価12億円(クラサワ及びウェッブの株主からのライブドア株式の買収代金合計16億5000万円から第1四半期で計上済みである貸株分の4億5000万円を控除),粗利15億円を計上することとして,その旨,未川に伝えた。未川は,ライブドアの第1四半期(平成15年10月1日から同年12月31日まで)の実績値について,前記ライブドア株式の売却益がその大部分を占める投資事業組合等管理収入8億6943万7111円を計上するなどして,連結経常利益を6億3482万1578円とした上,第2四半期以降の予想値について,ライブドアファイナンスの上記修正予算案を反映させるなどして,平成16年9月期の連結経常利益の予想値を約30億円に上方修正した。そして,未川は,被告人,乙川及び庚崎に対し,同年2月2日,その旨,メールで報告した。
ライブドアは,被告人も出席した同年2月5日開催の取締役会で,連結経常利益を6億3500万円などとする同年9月期第1四半期の業績値の報告がなされた上,同年9月期の連結経常利益の予想値を30億円に上方修正することを可決承認し,当日,上記業績値及び上方修正等を公表した。
ウ 連結経常利益予想値50億円への上方修正の公表等
(ア) 株式交換により発行されたライブドア株式売却益の計上(第2四半期)
寅葉は,平成16年3月22日ころ,丁沢から,ライブドアファイナンスの第2四半期(同年1月1日から同年3月31日まで)における投資事業組合からの分配金を計算するよう指示されたので,同年4月9日,辛井からVLMA2号の第2四半期の事業報告書を入手するなどした。同報告書によれば,株式交換により発行されたライブドア株式の同年3月中の売却益について,VLMA2号からチャレンジャー1号に対する分配金が29億7077万6067円であったので,ライブドアファイナンスの売上げも概算で約28億円計上できるものと考えられていた。
ところが,乙川と丁沢は,利益を平準化した方がよいと考え,上記ライブドア株式売却益を第2四半期に全額計上するのではなく,第2四半期と第3四半期で半額ずつ計上することとした。そして,丁沢は,同年4月14日,寅葉らと投資事業組合の処理について打合せを行い,寅葉に対し,第2四半期のライブドアファイナンスに対する分配金を14億5000万円とするよう指示した。寅葉は,上記分配金となるように,EFC組合及びチャレンジャー1号の損益を計算し,その結果,VLMA2号からの分配金を15億6790万9338円とする必要があったことから,同月20日,辛井に対し,同組合の事業報告書を変更するよう依頼した。
そして,ライブドアファイナンスでは,上記ライブドア株式の売却益がその大部分を占める14億6485万5904円を,同年3月において投資有価証券売上高として計上していた。この数値自体は同年4月26日開催のライブドアの戦略会議資料にも記載されており,そのドラフトは,同月22日,メールで被告人も含まれているメーリングリストあてに送付されている。
(イ) 連結経常利益予想値50億円への上方修正等
平成16年5月20日開催のライブドアの取締役会において,同年9月期中間決算短信(連結)の内容が報告されたところ,中間期(平成15年10月1日から平成16年3月31日まで)の業績値が連結経常利益で21億2000万円となっている一方,同年9月期の連結経常利益の予想値が30億円にとどまったことから,被告人は,同予想値を50億円に上方修正することを提案し,その旨可決承認された。
そして,ライブドアは,上記取締役会の開催日当日に,同年9月期中間決算短信(連結)において,上記業績値及び上方修正等を公表した。
エ 株式交換により発行されたライブドア株式売却益の計上(第3四半期)等
寅葉は,平成16年6月30日ころ,丁沢,辛井,バリュー・リンクの取締役癸井I郎(以下「癸井」という。)と打合せをした際に,丁沢から,ライブドアファイナンスの第3四半期(同年4月1日から同年6月30日まで)におけるEFC組合からの分配金を計算するよう指示された。
その打合せの機会等に,寅葉は,丁沢や辛井から,トラインとの株式交換により発行されたライブドア株式4万4448株については,チャレンジャー1号からVLMA2号に対し,最初から現物出資していなかったことにする旨指示された。寅葉は,同年7月7日,癸井から,VLMA2号の第2四半期の事業報告書について修正を加えたもの(ただし,同組合からチャレンジャー1号に対する分配金は従前の金額と同額となっている。),並びに,前記のとおり,第2四半期から繰り越したライブドア株式売却益及び同年6月中に売却された残りの同株式の売却益を基礎に分配金を14億9971万7313円などとする第3四半期の事業報告書の送付を受けた上,第2四半期及び第3四半期のチャレンジャー1号のEFC組合に対する分配金,さらに,EFC組合からライブドアファイナンスに対する分配金を計算した。その際,EFC組合が第1四半期には存在していなかったが,第1四半期から存在するものとして計算し,その結果,EFC組合からライブドアファイナンスへの第3四半期の分配金は14億6542万4906円となった。なお,EFC組合からライブドアファイナンスに対する分配金は,後に更に修正され,同年9月1日付けで,差額である558万5158円を追加で売上計上している。
そして,ライブドアファイナンスでは,上記ライブドア株式の売却益である14億6542万4906円を,同年6月において投資有価証券売上高として計上しており,これは同年7月開催のライブドアの戦略会議資料にも記載されている。
さらに,ライブドアは,被告人も出席した同年8月5日開催の取締役会で,連結経常利益を34億円などとする同年9月期第3四半期通期(平成15年10月1日から平成16年6月30日まで)の業績値の報告がなされ,当日,上記業績値等を公表した。
(7) ライブドアが連結売上げに計上したライブドア株式売却益
前記のとおり,ライブドアファイナンスでは,平成16年9月期において,クラサワ及びウェッブとの株式交換を利用したライブドア株式の売却により,第1四半期に8億4673万8719円(修正後),第2四半期に14億5000万円の各売上げを計上し,第3四半期には14億6542万4906円を売上計上した後,558万5158円を追加で計上しており,さらに,第4四半期では,75万2238円の赤字を計上していることから,合計で37億6699万6545円の売上計上をしたこととなる。そして,同売上げについては,同年9月期のライブドアの連結決算において,消去されておらず,連結売上げとして計上されている。
2  キューズ・ネット及びロイヤル信販に対する架空売上計上の経緯等
以下,(1)で,平成16年8月当時のライブドアの連結経常利益予想値50億円の達成状況等を,(2)のアで,キューズ・ネットを利用した架空売上げの計上を,(2)のイで,ロイヤル信販を利用した架空売上げの計上を,(2)のウで,ライブドアにおける架空売上計上の状況を,(3)で,架空売上げに係る証憑類の作成状況をみることとする。
(1) 平成16年8月当時の連結経常利益予想値50億円の達成状況等
前記のとおり,ライブドアでは,平成16年5月20日,同年9月期の連結経常利益の予想値を50億円に上方修正していた。しかしながら,第3四半期通期では約34億円の連結経常利益を計上したものの,同年7月は連結経常損益が約3億7700万円の赤字を計上し,同年8月も約1億7700万円の赤字を計上すると予想されたため,同月時点では,連結経常利益予想値50億円を達成するには,経常利益が約21億円不足している状況であった。
期末まで約1か月となった段階で,経常利益50億円の業績予想が達成困難な状況であったことから,乙川は,まず,子会社化の計画が頓挫したイーバンクの株式の売却や,株式上場が予定されていた株式会社インタートレード(以下「インタートレード」という。)の株式を保有する投資事業組合に係るライブドアファイナンスの出資持分の売却を検討したが,それでもなお十数億円の不足が見込まれた。そこで,乙川は,同年8月末ころ,庚崎と相談して,サルベージ1号名義で買収済みであったものの同年9月期にはライブドアの連結対象に含めていなかったキューズ・ネット及びロイヤル信販から,上記不足額を補うために実体の伴わない発注を行うなどして,上記予想値を達成しようと考えた。乙川は,同年8月下旬か同年9月上旬ころ,丁沢に対し,上記架空発注を行うよう指示した。
(2) 架空売上げの計上
ア キューズ・ネットに対する架空売上げの計上
(ア) キューズ・ネットに対する指示
上記指示を受けて,丁沢は,平成16年9月上旬ころ,ライブドアファイナンスの従業員で,キューズ・ネットの買収を担当し,買収後は同社の運営を担当していた卯波に対し,広告プロモーション費名目で,月額4500万円,同年7月から同年9月までの3か月間で1億3500万円の,キューズ・ネットからライブドアのメディア事業部に対する費用計上をするよう指示し,キューズ・ネットではそのとおり計上することとした。
さらに,丁沢は,同年9月27日,卯波に対し,上記広告プロモーション費以外にも,キューズ・ネットからライブドアの各事業部等に対して費用計上するよう指示した。キューズ・ネットでは,卯波が,丁沢から各事業部ごとに計上する大まかな金額を示されたことから,具体的に,ライブドアのモバイル事業部に対してモバイルソリューション費(月額3000万円,同年7月から同年9月までの3か月間で9000万円)及びモバイルマーケティング・コンサルティング費(月額4000万円,同年7月から同年9月までの3か月間で1億2000万円)の各名目で合計2億1000万円,ネットワーク事業部に対してネットワークコンサルティング費(4000万円)及びサーバー監視・保守メンテナンス費(月額3000万円,同年7月から同年9月までの3か月間で9000万円)の各名目で合計1億3000万円,コンサルティング事業部に対してウェブサイトコンサルティング費(月額4000万円,同年7月から同年9月までの3か月間で1億2000万円)及びウェブサイト設計費(6000万円)の各名目で合計1億8000万円,そして,ライブドアの子会社であるEXマーケティングに対するコールセンター代行費名目で,月額4000万円,同年7月から同年9月までの3か月間で1億2000万円の各費用を計上することとした。
そして,キューズ・ネットでは,卯波の指示により,キューズ・ネットの元従業員で,ライブドアの経営企画管理本部に所属していた戊原B介が,同年9月27日,電子稟議システムにより,メディア事業部に対する広告プロモーション費も含めた上記各費用に関する発注稟議,及びライブドアに対する6億5500万円(税別),EXマーケティングに対する1億2000万円(税別)の各支払依頼を申請し,同申請はいずれも承認され,同月29日,それに従った資金移動がされた。
(イ) 被告人の決裁及び売上計上
ライブドアでは,キューズ・ネットで計上した上記費用に対応する売上げについて,戊原B介が,平成16年9月8日付けでメディア事業部の売上げに係る広告プロモーション契約の契約締結稟議書を,同年10月7日付けでモバイル事業部,ネットワーク事業部及びコンサルティング事業部での各売上げに係る業務委託契約の契約締結稟議書をそれぞれ起案して稟議の申請をし,各稟議とも戊原B介の所属する経営企画管理本部の担当執行役員であった庚崎が承認した上,被告人が決裁している。
また,被告人は,同年9月27日,電子稟議システムにより,キューズ・ネットに対する上記広告プロモーション費1億3500万円,同モバイルソリューション費等合計2億1000万円,同ネットワークコンサルティング費等合計1億3000万円並びに同ウェブサイトコンサルティング費等合計1億8000万円の各売上計上を承認している。
そして,ライブドアは,同年9月期において,キューズ・ネットに対し,上記各売上げ合計6億5500万円に,EXマーケティングの上記コールセンター代行費1億2000万円,そして,後記のとおり,VCJのメディア広告費等合計1億0500万円を加えた8億8000万円を連結売上げとして計上したが,上記各売上げのうち,ライブドア及びEXマーケティングのキューズ・ネットに対する売上げは,少なくとも同年9月期中にはその根拠となる取引の存しない,いわゆる架空売上げであった。
イ ロイヤル信販に対する架空売上げの計上
(ア) 平成16年9月中に計上した架空売上げ
a ロイヤル信販に対する指示
乙川は,平成16年9月下旬ころ,ライブドアの従業員でロイヤル信販買収の担当者であった辛岡に対し,同年9月期末のライブドアの利益が足りないから,同社にロイヤル信販から4億円くらい発注したことにして欲しいなどと依頼した。ところが,ロイヤル信販の代表取締役社長の壬井が上記発注に難色を示したことから,乙川は辛岡と相談の上,壬井に替えて辛岡をロイヤル信販の社長にすることとし,同月27日,壬井が代表取締役を辞任し,辛岡が代表取締役に就任した。
そして,丁沢は,同日,辛岡に対し,ロイヤル信販からメディア事業部に対して広告プロモーション費名目で,月額6000万円,同年7月から同年9月までの3か月間で1億8000万円,モバイル事業部に対してモバイルマーケティング・コンサルティング費名目で,月額4000万円,同年7月から同年9月までの3か月間で1億2000万円,ネットワーク事業部に対してネットワークコンサルティング費名目で2000万円,コンサルティング事業部に対してウェブサイトコンサルティング費名目で,月額4000万円,同年8月から同年9月までの2か月間で8000万円の合計4億円(税別)の費用計上を指示し,ロイヤル信販では,そのとおり計上することとし,同年9月末,それに沿った資金移動がされた。
b 被告人の決裁及び売上計上
ライブドアでは,ロイヤル信販で計上した上記費用に対応する売上げについて,被告人が,電子稟議システムにより,平成16年9月29日に,同社に対するモバイルマーケティング・コンサルティング費1億2000万円,同ネットワークコンサルティング費2000万円及び同ウェブサイトコンサルティング費8000万円,また,同年10月3日には,同広告プロモーション費1億8000万円の各売上計上を承認している。
そして,ライブドアは,同年9月末時点では,同年9月期において,ロイヤル信販に対する上記各売上げ合計4億円を計上したが,同売上げは少なくとも同年9月期中にはその根拠となる取引の存しない架空売上げであった。
(イ) 架空売上額の増額
a ロイヤル信販に対する指示
ところが,平成16年10月に入って,前記の各売上げを計上してもなお,同年9月期の連結経常利益が50億円の予測値に約3億円不足していることが判明したため,乙川と丁沢は,ロイヤル信販からの発注額を4億円から7億円に増額することとし,同年10月上旬か中旬ころ,乙川が,辛岡に対し,ライブドアから増資又は貸付けをすることを前提として,上記増額を指示した。そして,具体的には,同月14日,ライブドア経営企画管理本部で財務経理担当のマネージャーをしていた巳上N子(以下「巳上」という。)から,辛岡に対し,メディア事業部に対する上記費用を1億8000万円から3億1500万円に,モバイル事業部に対する上記費用を1億2000万円から2億1000万円に,ネットワーク事業部に対する上記費用を2000万円から3500万円に,コンサルティング事業部に対する上記費用を8000万円から1億4000万円にそれぞれ増額するように指示された。
ロイヤル信販は,同月19日付けでライブドアから3億円を借り入れ,同借入金により,同月20日,上記増額分3億円(税別)を同社に支払った。
b 被告人の決裁及び売上計上
ライブドアでは,上記のとおり増額した費用に対応する売上げについても,被告人が,電子稟議システムにより,平成16年10月14日に,ロイヤル信販に対するモバイルマーケティング・コンサルティング費2億1000万円,同ネットワークコンサルティング費3500万円及び同ウェブサイトコンサルティング費1億4000万円,また,同月20日には,同広告プロモーション費3億1500万円の各売上計上を承認している。
そして,ライブドアは,最終的に,同年9月期において,ロイヤル信販に対する売上げ合計7億円を計上したが,同売上げも少なくとも同年9月期中にはその根拠となる取引の存しない架空売上げであった。
ウ ライブドアが連結売上げに計上したキューズ・ネット及びロイヤル信販に対する売上げ
前記のとおり,ライブドアでは,平成16年9月期において,キューズ・ネットに対して8億8000万円,ロイヤル信販に対して7億円,合計15億8000万円を連結売上げに計上した。
(3) 証憑類の作成
庚崎は,平成16年11月2日午後4時16分ころ,ライブドアの同年9月期の監査に従事していた港陽監査法人の辛田から,ライブドアのキューズ・ネット及びロイヤル信販に対する売上げ,並びにライブドアの連結子会社であるEXマーケティングのキューズ・ネットに対する売上げについて,同売上計上が株式交換契約締結以降のもので,かつ,売上げの計上先が同年10月時点では子会社であるから,実質連結子会社との取引になるとして,少なくとも連結決算では消去するよう求めるメールの送信を受け,同メールは,CCで乙川らにも送信された。
上記メールを読んだ乙川は,同年11月2日午後4時41分ころ,辛田に対し,メールで,実質子会社というのは大きな過ちであり,上記取引をやめるのは不可能である旨返信し,キューズ・ネット及びロイヤル信販に対する売上げを連結消去することを拒否した。その後,乙川は,壬岡から電話を受け,同人から上記売上計上を非難されたが,ライブドアでは同年9月期業績の速報値を既に公表しているので数値の修正はできないこと,売上げに見合う成果物を作成しておくことを告げた。そして,乙川は,辛田からも提示すべき資料等を列挙したメールの送信を受けたことから,丁沢に対し,各執行役員に成果物の作成を急がせるよう指示した。
一方,庚崎は,同年11月2日に辛田から前記メールの送信を受け,さらに,同月4日にも,同人から,キューズ・ネット及びロイヤル信販に対する売上げについて,売上げの内容,請求書,契約書等を確認させてもらえない状況にあるなどと,その実在性に問題があるとのメールの送信を受けていたところ,同月5日ころ,それまで従事していたライブドアによる球団買収の仕事が終わって同社に戻った際,上記売上げを連結消去すると,同年9月期の連結経常利益の予想値50億円に約15億円不足する旨報告を受けた。そして,そのころ,庚崎は,辛田と直接会い,キューズ・ネット及びロイヤル信販に対する売上げの計上を認めて欲しいと頼んだところ,同人から証憑類を早急に提示するよう求められたため,契約書,請求書等については既に作成作業が開始されていたことから,モバイル事業部,ネットワーク事業部及びコンサルティング事業部の各担当執行役員に対し,最終提案資料等を日付をさかのぼらせてもよいから作成するよう指示し,作成を急がせた。
その後,辛田らは,同年12月26日付けで,港陽監査法人としてライブドアの同年9月期の連結財務諸表について無限定適正意見を表明する監査報告書を作成し,代表社員及び関与社員として,署名,押印し,同社に提出した。
3  有価証券報告書の提出
ライブドアは,被告人も出席した平成16年11月18日開催の取締役会において,前記ライブドア株式売却益37億6699万6000円(1000円未満切捨て。以下本文において同じ。)並びにキューズ・ネット及びロイヤル信販に対する売上げ15億8000万円を連結売上げに含め,連結経常利益を50億3421万1000円とする連結損益計算書に基づいて同年9月期の決算を承認した。
そして,乙川がライブドアの取締役から退任したことに伴い,有価証券報告書の作成,提出事務の責任者となった庚崎らは,同年12月27日,上記取締役会で決算が承認されたことを踏まえ,上記連結損益計算書と同内容の連結損益計算書が掲載され,無限定適正意見を付した上記監査報告書を添付したライブドアの同年9月期有価証券報告書(以下「本件有価証券報告書」という。)を,電子開示システム(EDINET)によりさいたま市中央区新都心1番地1所在の関東財務局に提出した。
4  VCJとマネーライフ社の株式交換に関する公表等
以下,(1)で,ライブドアファイナンスがVLMA2号名義でマネーライフ社を買収した経緯を,(2)のア,イで,マネーライフ社との株式交換に,EXマーケティングとの合併手数料及びキューズ・ネットに対する売上分を上乗せした経緯を,(2)のウで,株式交換比率算定報告書を作成した経緯を,(3)で,VCJとマネーライフ社との株式交換に関する公表内容を,(4),(5)で,株式100分割を決定し,これを公表した経緯を,(6)で,その後のVLMA2号におけるVCJ株式の売却状況等をみることとする。
(1) VLMA2号名義でマネーライフ社を買収した経緯
乙川は,平成16年2月下旬ころ,マネーライフ社の株主であるサイビズの代表取締役丙沢W郎からサイビズの買収を持ちかけられ,その交渉を戊野に任せていたところ,その過程でマネーライフ社買収の話が持ち上がった。戊野は,サイビズとの間で,マネーライフ社の買収交渉を進め,同年3月24日ころには,乙川や丁沢とともに,同社のデューデリジェンス(適正評価手続)を行い,純資産価格としては債務超過であるが,収益等を勘案して,企業価値を4000万円から5000万円程度と算定し,サイビズとの交渉の結果,買収金額4200万円で合意に至った。
戊野が,同年4月27日,被告人も出席したライブドアファイナンスの定例会議において,ライブドアにてマネーライフ社を4200万円で買収することを提案すると,買収金額については了承を得られたものの,被告人がライブドアで買収してもメディア部門とのシナジー効果が見込めないなどとして消極的な意向を示したため,ライブドアファイナンスで買収することとなった。
その後,乙川は,投資事業組合で買収すれば,マネーライフ社が赤字になってもライブドアの連結財務諸表に直ちに反映させないで済むこと,買収後に転売することもある程度見込んでおり,売却等がしやすいことなどから有利と考え,ライブドアファイナンスが直接買収するのではなく,投資事業組合名義で買収することとした。また,VLMA2号名義の口座に流用できる資金があり,丑木らから買収案件があったら同組合名義での買収を依頼されていたため,投資事業組合としてはVLMA2号を利用することとした。
戊野が,同年6月3日,被告人も出席したライブドアファイナンスの定例会議において,マネーライフ社の買収について,買収金額を4200万円とし,投資事業組合で買収することなどを報告した。そして,同月4日付けで,サイビズからマネーライフ社の発行済株式1000株全部をVLMA2号名義にて4200万円で買い取る旨の株式売買契約が締結され,乙川及び丁沢がマネーライフ社の取締役に就任した。
(2) VCJとマネーライフ社の株式交換
ア マネーライフ社の企業価値に合併手数料を上乗せした経緯
前記のとおり,VLMA2号名義でマネーライフ社を買収した後は,戊野が同社の業務管理を担当して,営業活動をするなどし,平成16年7月3日には3000万円の増資を行ったが,同社の業績が特に大きく向上するということはなかった。
そして,戊野は,同年8月初旬ころ,当時,VCJの代表取締役社長に就任することが内定していた丙谷に対し,VCJでマネーライフ社を買収することを持ちかけ,当初1億5000万円であった買収金額を1億円に減額するなどした。
ところで,ライブドア・グループでは,グループ内での合併等がライブドアファイナンスの仲介により行われた場合には同社に手数料を支払うこととなっていたところ,VCJは,同年11月1日にEXマーケティングを吸収合併する予定であり,その手数料1億5000万円をライブドアファイナンスに支払わなければならなかった。そして,マネーライフ社をVCJに売却したい乙川と,上記手数料を現金で支払うことによりVCJの損益状況が悪化することを避けたい丙谷は,株式交換を利用したライブドア株式の売却益を計上するスキームをマネーライフ社の買収にも応用することで合意した。すなわち,VLMA2号名義で買収済みであるマネーライフ社をVCJが株式交換により買収すること,その際,マネーライフ社の企業価値に上記手数料を上乗せして過大に評価して,VLMA2号名義で発行を受けるVCJ株式の株数を多くすること,同株式を同組合名義で売却して,その売却益を分配金としてライブドアファイナンスに還流させてその売上げに計上し,上記手数料の支払に代えることを内容とするスキームである。
イ マネーライフ社の企業価値にキューズ・ネットに対する売上分を上乗せした経緯等
さらに,乙川と丙谷は,後記のとおり,平成16年9月中旬ころ,VCJでは第3四半期にキューズ・ネットに対する1億0500万円の売上げを計上することとなったので,同売上げについても,マネーライフ社の企業価値に上乗せすることとした。
そして,同年9月末か10月初めころ,乙川と丙谷は,株式交換におけるマネーライフ社の企業価値を,本来の価値1億円に,前記合併手数料1億5000万円及びキューズ・ネットに対する売上分1億0500万円を加算し,さらに,株価変動によるライブドアファイナンスのリスク等を考慮して,4億円とすることとした。
ウ 株式交換比率算定報告書の作成
そこで,乙川は,戊野に対し,マネーライフ社の企業価値を4億円とする株式交換比率算定報告書書を作成するよう指示した。戊野は,他の評価方法ではマネーライフ社の企業価値を4億円と評価するのは困難であることから,DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)を採用して,マネーライフ社の企業価値を約3億8878万円と算出し,株式交換比率をVCJが1に対し,マネーライフ社が0.7499とする株式交換比率算定報告書案を作成して,その旨乙川に報告した。乙川は,株式交換によってVLMA2号名義で取得できるVCJ株式の株数を更に増やして同株式の売却益を増大させることを意図して,戊野に対し,株式交換比率を1対1とすることを指示した。そこで,戊野は,マネーライフ社の企業価値は変えず,VCJ株式の評価期間を変えて,株式交換比率が1対1となるようにJMAM作成名義に係る株式交換比率算定報告書案を作成した。そして,戊野は,JMAMの申川Q介に対し,上記株式交換比率算定報告書案に押印するよう依頼し,同社では,形式面の確認をしたのみで,算定内容の正当性等については一切検討することなく,代表取締役及び所属公認会計士の各印を押印した。
(3) VCJとマネーライフ社の株式交換に関する公表
東証の制定した「上場有価証券の発行者の会社情報の適時開示等に関する規則」(以下「適時開示規則」という。)によれば,株式交換は開示が求められる会社情報であるところ,VCJとマネーライフ社の前記株式交換については,戊野が,前記クラサワとの株式交換の際に使用した開示資料を基にして原案を作成し,同原案にVCJの従業員で,投資家向け広報活動業務を担当していた辰口M吉(以下「辰口」という。)が修正を加え,最終的には,己原又は丙谷が承認するなどして,「株式交換による株式会社マネーライフ社の完全子会社化に関するお知らせ」と題する開示資料を作成した。
そして,平成16年10月25日,被告人も出席したVCJの取締役会において,丙谷と辰口が,上記開示資料を配付して説明するなどした上,VCJを完全親会社,マネーライフ社を完全子会社とし,株式交換により発行されるVCJ株式を普通株式1600株,株式交換比率を前記のとおり1対1,株式交換日を同年12月1日とする株式交換契約の締結が承認された。
さらに,VCJは,上記取締役会の開催日当日に,東証が提供する適時開示情報伝達システムであるTDnetにより,上記開示資料を提出するなどして,上記株式交換について,株式交換比率が1対1であり,また,「株式交換比率については,第三者機関が以下の方法で算出した結果を踏まえ,両者間で協議のうえ,決定いたしました。」などと公表した。
(4) VCJ株式の100分割を決定した経緯
乙川は,平成16年11月1日ころ,VCJ株式の100分割を実施することにより,前記スキームによる同株式の売却益を増大させようと企て,その旨,丙谷に提案した。すなわち,VCJとマネーライフ社との株式交換日である同年12月1日以前に分割基準日を設定してVCJ株式の100分割を実施すれば,一般株主が分割の効力発生日である平成17年1月20日まで子株を取得できないのに対し,VLMA2号では,上記株式交換日に上記株式分割を反映した100倍のVCJ株式(16万株)を取得できることとなり,これを,上記株式分割により株価が上昇傾向にある局面で売却しようとしたのである。
ところが,己原が,平成16年11月5日ころ,丙谷に対し,マネーライフ社との株式交換に合わせて,VCJ株式の100分割を行うことは,マネーライフ社の株主である投資事業組合に対してのみ利益を供与するものであり,同組合の実態はライブドアなのだから,結局,ライブドアだけに利益を供与することになって違法,不正であるとして,やめるべきであるなどと,上記株式100分割に反対した。
そこで,丙谷は,乙川や丁沢に相談したところ,同人らから,海外も含めた複数の投資事業組合を介在させており,業務執行組合員もライブドアとは無関係なので,利益がライブドアに還流していることが発覚しないようになっていると説得されたことなどから,上記スキームの実行を決断した。
(5) VCJ株式の100分割に伴う株式交換比率変更の公表
平成16年11月8日,VCJの取締役会において,分割基準日を同月30日,効力発生日を平成17年1月20日とする株式100分割の実施が承認され,当日,その旨公表された。なお,上記取締役会には,被告人は出席していない。
そして,VCJは,平成16年11月9日,TDnetにより,同月8日に公表した上記株式100分割に伴い,同年10月25日公表のマネーライフ社との株式交換について,株式交換比率を1対1から100(VCJ)対1(マネーライフ社)に訂正する旨の「株式交換に関するお知らせの訂正」と題する開示資料を提出して,その旨公表した。
(6) VCJ株式の売却状況等
ア 株式交換日の変更
前記のとおり,乙川らは,株式交換日である平成16年12月1日より前の同年11月30日にVCJ株式の100分割の基準日を設定することによって,株式交換により発行されるVCJ株式を16万株とし,これを高値で売却することを目論んでいたが,同月下旬ころ,顧問弁護士に株主平等原則に違反する旨の指摘を受けたことなどから,同年12月1日に16万株を発行することを断念し,株式交換日を株式分割の効力発生日である平成17年1月20日に変更した。
イ VCJ株式の売却等
VLMA2号名義で取得される予定のVCJ株式16万株については,丁沢の指示により,平成16年12月30日付けで,乙川が購入したシェルカンパニーであるエバトン・エクイティー・リミテッド(以下「エバトン」という。)に対して,8億0800万円で売却する旨の売買契約が締結され,株式発行後の平成17年2月3日にエバトン名義の口座に移管された。そして,同月9日から同年7月28日の間,合計15万8240株のVCJ株式が売却され,エバトン名義の口座に合計9億2814万1855円が入金された。
エバトン名義の口座からVLMA2号名義の口座に,同年1月28日,上記VCJ株式の売却代金の名目で8億0800万円が入金され,その後,同月31日には,辛井の指示により,上記VLMA2号名義の口座からチャレンジャー1号名義の口座に7億8561万6435円が送金され,さらに,同年2月1日にチャレンジャー1号名義の口座からEFC組合名義の口座に6億9803万4992円が振り込まれ,同金員は同月2日に配当金の名目でライブドアファイナンス及びライブドアに支払われている。
5  VCJの平成16年12月期第3四半期業績状況の公表等
以下,(1)で,VCJの平成16年12月期第2四半期の業績状況を,(2)で同第3四半期の業績状況等をみることとし,特に,(2)のうち,アで,同年9月開催の戦略会議を,イで,キューズ・ネットに対する売上計上を,ウで,キューズ・ネットからVCJに対する資金移動を,エで,証憑類の作成状況をみて,最後に,(3)で,同年12月期第3四半期通期の業績状況の公表等をみることとする。
(1) 第2四半期の業績状況
己原は,平成16年7月12日に開催され,被告人も出席したライブドア戦略会議で,VCJの同年12月期第2四半期(同年4月1日から同年6月30日まで)の業績について,営業損益が約1099万円の赤字で,経常損益も約934万円の赤字である旨報告した。
そして,己原は,同年7月13日,丙谷あてに,「昨日の戦略会議で,指示があったとおり,バリュークリックの四半期業績を黒字にするために,ライブドア事業部から,コンサルフィーを貰う事を考えています。」などと記載したメールを送信した。
その後,VCJでは,第2四半期の営業損益及び経常損益とも黒字を計上し,同年8月5日の同年12月期中間決算短信(非連結)の公表に際し,「第2四半期(4~6月期)におきましては,昨年の第2四半期以来1年ぶりに営業収益および経常収益が黒字に転換しております。」などと発表した。
(2) 第3四半期の業績状況等
ア 平成16年9月開催の戦略会議
己原は,平成16年9月13日に開催され,被告人も出席したライブドア戦略会議で,VCJの業績見込みについて,同年12月期第3四半期(同年7月1日から同年9月30日まで)は,営業利益約1243万円,経常利益約1220万円といずれも黒字であるが,同四半期通期(同年1月1日から同年9月30日まで)では,営業損益が約2702万円,経常損益が約2553万円のいずれも赤字である旨報告した。上記報告を受けた被告人は,VCJの代表取締役社長に就任することが内定していた丙谷に対し,第3四半期通期でも黒字にするよう指示した。
イ キューズ・ネットに対する売上げの計上
丙谷は,被告人の上記指示を受けて,直ちに,乙川に相談した。その結果,丙谷らは,キューズ・ネットから広告代金の名目で約1億円の発注を受けてVCJを黒字化することとし,同発注分については,前記合併手数料と同様に,マネーライフ社との株式交換の際に,同社の企業価値に上乗せして,投資事業組合が受け取るVCJ株式の株数を多くし,その分ライブドアファイナンスの売上げを増加させることにより,返済することとした。
そして,丙谷は,乙川の指示により,キューズ・ネットの運営を担当をしていた卯波と打ち合わせ,平成16年7月から同年9月までの3か月間広告配信をしたことにして,代金は月額3500万円で,合計1億0500万円とし,その旨,乙川に報告した。
その後,丙谷は,具体的な費目等について,己原に検討を指示するなどして,最終的に,広告掲載費用(自社メディアMeetme)月額1500万円,メール広告配信費用月額1500万円,コンサルティング費用月額500万円とし,これを卯波に通知した。
キューズ・ネットでは,VCJ側で決めてきた費目で費用計上することとし,卯波の指示を受けた戊原B介が,同年9月22日,電子稟議システムにより,上記各費用について,同年7月から同年9月までの3か月分に関する発注稟議,及びVCJに対する1億0500万円(税別)の支払依頼を申請し,同申請はいずれも承認された。
そして,VCJは,同年12月期第3四半期において,キューズ・ネットに対し,同年7月から同年9月までの3か月間に,広告売上げ(Meetme)合計4500万円,メール広告売上げ合計4500万円及びコンサルティング売上げ合計1500万円を計上した。
ウ キューズ・ネットからVCJに対する支払
ところで,上記支払依頼書によれば1億0500万円の支払予定日は,平成16年10月31日であったところ,キューズ・ネットでは,前記のとおり,同年9月29日にライブドア及びEXマーケティングに対して合計7億7500万円(税別)の支払をしたため,同月30日現在の現預金残高が約2967万円となってしまい,VCJに対する支払ができなくなるという事態が発生した。そこで,卯波は,乙川に相談して,いったん,上記支払を分割払とすることにしたが,最終的には,ライブドアのメディア事業部からキューズ・ネットに対し,システム売却代金一式2億円(税別)を発注したことにして,キューズ・ネットが,その代金の中から上記1億0500万円をVCJに支払うこととした。そして,ライブドアでは,被告人も出席した同年10月29日開催の取締役会で上記承認決議をなし,上記金員をキューズ・ネットに支払い,同年11月10日,VCJに1億0500万円が支払われた。
エ 証憑類の作成
己原は,平成16年9月中旬から下旬ころ,辰口に対し,キューズ・ネットに対する上記売上げに関する証憑類を作成するよう指示した。そこで,辰口は,同月下旬から同年10月上旬にかけて,日付をさかのぼらせるなどして,同年7月から同年9月までの3か月分の広告出稿依頼書,同年7月1日付けのキューズ・ネットとの間の業務委託契約書及び同年7月1日から同年9月30日までの期間中週2回の検収を行った旨の記載のある検収書を作成するなどした。
(3) 第3四半期業績状況の公表等
以上の経緯で,VCJでは,キューズ・ネットに対する1億0500万円の売上げを計上するなどして,平成16年12月期第3四半期通期において,売上高約7億5900万円,営業利益約7100万円,経常利益約7200万円及び当期純利益約5300万円を各計上することとなり,同年10月25日には,被告人も出席した取締役会において,第3四半期は,四半期ベースで前年比を超える売上げ,利益を回復し,当期純利益としても黒字に転換したなどとして,上記売上高及び営業利益等が報告された。
そして,東証マザーズ市場の上場会社は,第3四半期における業績概況についても,適時開示規則に基づく開示をしなければならないところ,同年11月12日,VCJは,TDnetにより,第3四半期通期の売上高が約7億5900万円,営業利益が約7100万円,経常利益が約7200万円,当期純利益が約5300万円(なお,開示資料の業績欄には当期純利益が約5700万円と記載されているが,業績の状況欄や添付の四半期損益計算書の記載によれば誤記であることは明らかである。)であり(いずれも百万円未満切捨て),「当期第3四半期におきましては,前年同期比で増収増益を達成し,前年中間期以来の完全黒字化への転換を果たしております。」などと記載された「平成16年12月期第3四半期業績状況(非連結)」と題する開示資料を提出して,その旨公表した。
第3  争点に対する判断
1  争点
本件の争点は,公判前整理手続の結果,判示第1の事実(偽計及び風説の流布)について,①VCJとマネーライフ社との間の株式交換に関する平成16年10月25日及び同年11月9日の各公表が虚偽であるか否か( 株式交換比率を1対1と公表しているところ,この点が虚偽といえるのか。 株式交換比率については第三者機関が算出した結果を踏まえて決定した旨公表しているところ,この点が虚偽といえるのか。),②VCJの平成16年12月期第3四半期(通期)の業績状況に関する同年11月12日の公表が虚偽であるか否か(売上高が約7億5900万円であるなどと公表しているところ,キューズ・ネットに対する合計1億0500万円の売上げは架空であって,この点が虚偽といえるのか。),③上記虚偽事実の各公表に関する被告人の犯意及び共謀の有無,④上記虚偽事実の各公表は,VCJ株式の売買のため,又は同株価の維持上昇を図る目的をもって行われたものか否かの4点と整理され,また,判示第2の事実(虚偽有価証券報告書の提出)について,⑤ライブドアは,重要な事項につき虚偽の記載がある本件有価証券報告書を提出したか否か( ライブドアは,本件有価証券報告書掲載の連結損益計算書において,ライブドア株式の売却益37億6699万6000円を売上高に含めて,同額の連結経常利益を計上しているところ,同株式売却益は売上計上の許されないものか否か。 ライブドアは,本件有価証券報告書掲載の連結損益計算書において,15億8000万円を売上高に含めて,同額の連結経常利益を計上しているところ,このうち,14億7500万円が架空売上げであることは争いないが,VCJのキューズ・ネットに対する合計1億0500万円の連結売上げが架空であるか否か。上記②と同様。),⑥上記虚偽記載のある本件有価証券報告書の提出に関する被告人の犯意及び共謀の有無の2点と整理されたほか,その後,公判手続において,弁護人から,⑦検察官の公訴権の濫用を理由として公訴棄却を求める申立てがなされた。
上記公訴棄却の申立ては,その主な理由が,被告人の無罪を前提とするものであることから,まず,上記①から⑥までの各争点に対する当裁判所の判断を示し,その後に,公訴棄却の申立てについての判断を示すこととする。
なお,前記第2で認定したとおり,判示第1の事実(VCJとマネーライフ社との間の株式交換)は,判示第2の事実に係る仕組み(株式交換を利用してライブドア株式売却益を売上計上する仕組み)を応用するなどしていることから,判示第2の事実に関する争点から先に判断することとする。
2  ライブドアが重要な事項につき虚偽の記載がある本件有価証券報告書を提出したか否かについて(争点⑤)
(1) 判断過程
ライブドアが平成16年12月27日関東財務局長あてに提出した本件有価証券報告書に虚偽の記載があるかどうかについて, 同報告書掲載の連結損益計算書で売上げに計上されているライブドア株式の売却益37億6699万6000円が,売上げとして計上することが許されないものであるか否か, 同報告書記載の連結損益計算書で連結売上計上されているVCJのキューズ・ネットに対する合計1億0500万円の売上げが架空であるか否かの2点のうち,ここでは前者の を検討し,後者の は争点②で検討することとする。
ところで,有価証券報告書中の連結損益計算書は,連結財務諸表の用語,様式及び作成方法に関する規則(以下「連結財務諸表規則」という。)に基づいて作成されなければならず(証券取引法193条),連結財務諸表規則1条1項によれば,その作成方法等については,同規則の定めるところによるものとし,同規則において定めのない事項については,「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」に従うものとされている。そして,財団法人財務会計基準機構・企業会計基準委員会が平成14年2月21日付けで公表した企業会計基準第1号「自己株式及び法定準備金の取崩等に関する会計基準」(以下「自己株式等に関する会計基準」という。)は,一般に公正妥当と認められる企業会計の基準として取り扱われているところ,同基準によれば,連結子会社が親会社の株式を処分した場合,連結損益計算書上,処分差益等は収益に計上せず,連結貸借対照表上の資本の部の「その他資本剰余金」に計上するものとされている(21,30,65,85項等参照)。
この点,検察官は,チャレンジャー1号,VLMA1号,VLMA2号及びEFC組合の各投資事業組合(以下「本件各組合」という。)がライブドアファイナンスの「ダミーファンド」であって,組合名義で行われたライブドア株式の取得,売却は,ライブドアファイナンスに帰属することになり,結局,ライブドアファイナンスが親会社であるライブドアの株式の取得,売却を行ったことにほかならないから,その売却益をライブドアの連結損益計算書において,売上げに計上することは許されないと主張する。
これに対し,弁護人は,検察官主張について,「ダミーファンド」という独自の用語を設定して,本件各組合がライブドアファイナンスのダミーファンドに該当するなどとするものであって,会計規則等には「ダミー」という概念はないのであり,失当であると批判し,本件では,投資事業組合からの分配金としてライブドアファイナンスに帰属した現金を会計的にどう処理すべきかという会計規則等の解釈が問題になるのであって,EFC組合がライブドアファイナンスの連結対象となることは争わないが,その他の組合についてはいずれも連結対象とはならないと主張している。
当裁判所は,本件各組合について,それをダミーというかどうかは別として,いずれも脱法目的で組成された組合であり,当該取引においてその存在を否定すべきであるから,実質的には,ライブドアファイナンスがライブドア株式を売却したものと認めたものである。以下,その理由を説明する。
(2) チャレンジャー1号について
検察官は,チャレンジャー1号がライブドアファイナンスのダミーファンドである根拠として,以下の間接事実を主張するので,順次検討する。
ア 間接事実①について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実①として,チャレンジャー1号は,ライブドアファイナンスがライブドア株式を売却して益出ししていることが発覚しないようにするために,株式及び資金の流れを隠ぺいすべく,ライブドアファイナンスに代わって,被告人からライブドア株式の貸株を受けて同株式を売却し,売却益をライブドアファイナンスに還流させるために組成されたことを主張し,同事実については乙川,丁沢及び戊野の各供述により認めることができるとする。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,①トラインとの株式交換に伴って発行されたライブドア株式及びその売却代金の乙川らによる個人流用の事実を指摘して,クラサワ・スキームは,ライブドアファイナンスに帰属すべき資産を簿外に回し,乙川らがほしいままに処分できるようにするために策定されたいわば「会社資産私物化スキーム」であること,②クラサワ・スキームを策定した乙川らには会計基準を潜脱する意図が認められないことなどを指摘して,その立証がないと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
a 前記第2で認定したとおり,クラサワを株式交換の方法によって買収するに当たり,当初,乙川らは,ライブドアファイナンスにおいて,被告人から借りたライブドア株式を市場で売却して現金化し,これをクラサワの株主に支払った上,株式発行後にクラサワの株主から同株式を取得して被告人に返還することを計画した。その後,ライブドアの完全子会社であるライブドアファイナンスがライブドア株式を取得,売却する点が,インサイダー取引規制(証券取引法166条)や子会社による親会社株式の取得規制(平成17年法律第87号による改正前の商法[以下「旧商法」という。]211条の2)に抵触する可能性があるとの指摘がされたため,乙川らは当初の計画を変更し,ライブドアファイナンスに代えて,同社の出資するチャレンジャー1号にその役割を代替させることとしたものである。その際,乙川らは,株式交換におけるライブドア株式の評価単価を市場の実勢価格より低く設定し,その差額分に相当するライブドア株式の売却益を投資事業組合からの分配金としてライブドアファイナンスに還流させて同社の売上げに計上し,最終的にはライブドアの連結売上げに計上することも決めている。
このように,チャレンジャー1号の組成された経過から,その組成目的が,ライブドアファイナンスでライブドア株式を取得,売却した場合の法律上の問題,すなわち,インサイダー取引規制や子会社による親会社株式の取得規制を回避し,併せて,ライブドア株式の売却により生じた利益をライブドアの連結売上げに計上することにあったことは優に認められるところである。
問題は,検察官が主張するように,チャレンジャー1号の組成目的に,「ライブドアファイナンスがライブドア株式を売却して益出ししていることが発覚しないようにするために,株式及び資金の流れを隠ぺいする」目的があったか否か,すなわち,ライブドアファイナンスがライブドア株式を売却してもライブドアの連結決算上はその売却益を資本勘定に計上するほかないが,投資事業組合を介することによって損益勘定としてライブドアの連結決算上で売上計上できるという会計処理の潜脱目的が存したか否かの点にある。
関係各証拠によると,チャレンジャー1号からの分配金としてライブドアファイナンスが直接あるいはEFC組合を介して受け取るすべてが,ライブドア株式を売却したものに由来し,それ以外のものが含まれていないこと,チャレンジャー1号の組成目的が,ライブドア株式の売却により生じた利益をライブドアの連結売上げに計上することにあり,しかも,その売上げを見越して,ライブドアの連結経常利益予想値の上方修正がなされていること,後記認定のとおり,チャレンジャー1号の業務はライブドア株式を他の投資事業組合に現物出資して,同株式の売却益を分配金として受け取り,これをライブドアファイナンスに支払うことのみであって,その余の業務を行っていないこと,チャレンジャー1号を介在させる手法は,ライブドアファイナンスによるライブドア株式の売却という当初の目的を実現するために考案されたものであり,その後の資金移動に鑑みると,その主たる目的は維持されていることなどが認められ,これらの事情を総合すると,チャレンジャー1号の組成目的には,会計処理を潜脱する目的,すなわち,ライブドア株式をライブドアファイナンスで売却したのでは同売却益をライブドアの連結決算において損益勘定の売上げとして計上できないことから,投資事業組合であるチャレンジャー1号で売却し,同組合からの分配金として受け取ることによって損益勘定に組み入れることを可能にする目的も,含まれていたと認めることができる。
b(a) 弁護人は,乙川らが,トラインとの株式交換に伴って発行されたライブドア株式を勝手に処分していること等を指摘して,チャレンジャー1号を含む本件各組合は,乙川らがライブドアファイナンスの資産を私物化するために組成したものである旨主張する。
確かに,前記第2で認定した事実によれば,トラインとの株式交換に伴って発行されたライブドア株式4万4448株は,いったんはチャレンジャー1号からVLMA2号に現物出資した形となっていたが,平成16年4月16日にVLMA2号名義の口座からPSI名義の口座に移管された上,最初からVLMA2号には現物出資していなかった扱いにすることとして処理されている。そして,関係各証拠によれば,同ライブドア株式は同年5月14日から同年6月11日にかけて合計約2億6589万円で売却され,同売却代金はPSIを業務執行組合員とするチャレンジャー1号名義の口座に送金された上,同年6月29日に約1億5259万円が,乙川及び丁沢が辛井から勧められて購入していた海外法人であるパイオニア・トップ・インベストメント・リミテッド(PIONEER TOP INVESTMENT LIMITED。以下「PTI」という。)名義の口座に送金され,その後,同口座から乙川及び丁沢の個人口座に金員が送金されるなどしている。この点,乙川及び丁沢は,上記4万4448株は辛井に対する追加報酬であり,乙川らに対する送金は辛井からの借入金であるなどと供述しているが,同金員は生活費等に費消してしまい,返済もしていないというのであり,また,返済を予定していたことをうかがわせる事実も認められないから,乙川らが上記金員を個人的に費消したことが強く疑われる。この点では,乙川らがライブドアファイナンスの資産を私物化してるとの弁護人の指摘は正しい側面を持っている。
しかしながら,VLMA1号,VLMA2号が受け入れたライブドア株式は,VLMA1号で5000株(100分割前のもの。ただし,被告人に返却した100株を除く。),VLMA2号で93万8626株(100分割後。ただし,丑波に返却した50万株を除く。)であって,トラインとの株式交換に伴って発行されたライブドア株式4万4448株は,全体の約3パーセントにすぎず,そのほかの大部分のライブドア株式の売却益は,チャレンジャー1号から直接あるいはEFC組合を介してライブドアファイナンスに分配金として戻されているのである。しかも,乙川や丁沢以外の戊野,未川らが,被告人あて,あるいは被告人を含むメーリングリストあてに,クラサワ・スキームについて,ライブドア株式を売却し,その売却益をライブドア又はライブドアファイナンスに分配するなどと説明したメールを送信していることを併せ考えると,クラサワ・スキームは,株式交換によって発行されるライブドア株式を売却し,その売却益をライブドアファイナンスに還流させることを目的としており,このような目的で作られたクラサワ・スキームを利用して,乙川らが,トラインとの株式交換で発行されたライブドア株式の売却益を個人的に費消したものと考えるのが相当である。
この点,弁護人は,平成15年12月に丑木と辛井がチャレンジャー1号の業務執行組合員を変更する組合契約書について弁護士と相談していること,平成16年1月14日に辛井が寅葉に対しチャレンジャー1号の業務執行組合員を平成15年12月3日付けでPSIに変更した旨伝えていることなどを指摘して,乙川らは平成15年12月には既に上記個人流用の意図を有していた旨主張する。
しかしながら,後記認定のとおり,丁沢は,平成15年12月25日には,被告人を含むメーリングリストあてに,トラインの買収をクラサワと同様のスキームで行う旨のメールを送信しているのであって,その時点で,丁沢らにトラインとの株式交換で発行されるライブドア株式の売却益を個人的に費消する意図があったものとは認められない。また,辛井は,平成16年1月ころ,ライブドアファイナンスから経理業務の外注を受けていた株式会社ゼネラル・コンサルティング・ファームの寅葉に対して上記業務執行組合員の変更を告げており,丁沢も,同月19日,辛井あてに,稟議のために必要だとして,チャレンジャー1号の業務執行組合員の変更内容を問い合わせるメールを送信しているのであって,同変更を被告人に隠す意図はなかったものと認められる。
したがって,乙川らが平成15年12月には既に上記個人流用の意図を有していたとは認められず,この点の弁護人の主張は理由がない。
むしろ,乙川らがトラインとの株式交換で発行されるライブドア株式の売却益を個人的に費消しようと考えたのは,実際に株式交換によって発行されたライブドア株式が高値で売却された後か,少なくともその見込みが立ってからと認めるのが相当である。
(b) 弁護人は,チャレンジャー1号の組成目的に,会計処理の潜脱の目的も含まれていたとするには,クラサワ・スキームを策定した乙川らに,ライブドアファイナンスが親会社であるライブドア株式を売却した売却益をライブドアの連結売上げに計上することが許されないという会計処理の知識が必要であるにもかかわらず,乙川らにその知識も,認識もなかった旨主張する。
しかしながら,乙川の供述によれば,乙川は,本件当時から自己株式取引が資本取引となり,その処分差益が資本勘定となることは認識していたのであって,連結基準については深く勉強していなかったというものの,ライブドアファイナンスがライブドアの連結子会社となることは当然認識していたものと認められる。さらに,関係各証拠によれば,乙川及び丁沢は,平成16年1月,ライブドアの監査を行っていた港陽監査法人所属の公認会計士戌野Q作(以下「戌野」という。)から,クラサワ・スキームに関して,ライブドア株式売却益の収益計上について「まずい。」などと指摘されたにもかかわらず,同売却益をライブドアの連結売上げから除外することを全く検討していないことが認められ,このような乙川らの対応やその際の説明内容に照らすと,乙川らにおいて,ライブドア株式の売却益を同社の連結売上げに計上できないことを知った上で,投資事業組合を利用して同株式の売却等を行うことにより,投資事業組合からの分配金として連結売上げに計上することを認識していたものと認められる。
以上のとおり,弁護人の主張は理由がない。
c したがって,チャレンジャー1号の組成目的には,会計処理を潜脱する目的が含まれていたと認めることができる。
イ 間接事実②について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実②として,チャレンジャー1号名義の業務は,業務執行組合員とされていたHSIやPSIの自主的判断により行われていたものではなく,丁沢の指示により行われていたことを主張し,同事実については,丁沢及び寅葉の各供述により認めることができるとしている。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,チャレンジャー1号の運営は辛井が主体的に行っていたなどとして,その立証がないと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
a チャレンジャー1号の業務内容は,寅葉供述によると,ライブドアファイナンスからの出資金で購入したライブドア株式をVLMA1号及びVLMA2号に現物出資し,同組合から同ライブドア株式の売却益を分配金として受け取り,これを,ライブドアファイナンスに直接又はEFC組合を介して支払うことであり,その他の投資業務等は行っていないことが認められる。
この点,平成16年5月28日,チャレンジャー1号名義の口座から投資事業組合であるサルベージ1号名義の口座に24億3500万円が振り込まれており,そして,この資金が,サルベージ1号においてキューズ・ネットの買収資金として使われていることが認められる。もっとも,寅葉供述によると,チャレンジャー1号の口座にあった24億3500万円のうち21億円は,上記振り込みの数日前である同月21日にEFC組合から振り込まれた資金であり,同年8月30日には,サルベージ1号から全額返済され,そのままEFC組合に振り込まれていることが認められる。また,関係各証拠によると,丁沢が辛井に指示して送金させたものであること,丁沢が寅葉に対して,上記チャレンジャー1号名義の口座からサルベージ1号名義の口座に振り込まれた24億3500万円を仮払金として処理するように指示していることも認められる。上記の事情を総合すると,上記24億3500万円の送金は,ライブドア側がキューズ・ネットの買収に係る資金を移動するに当たり,チャレンジャー1号名義の口座を経由させたにすぎず,チャレンジャー1号がその業務として独自の判断による投資を行ったものではないと認められる。
また,平成16年3月1日,チャレンジャー1号名義の口座から寅口G子の口座に1億円が振り込まれている。これは,トラインとの株式交換によって発行されたライブドア株式の買取代金で,ライブドアファイナンスがトラインの債務超過を解消するために貸し付けた金員の返済に充てるための資金であって,乙川らの指示によるものであるから,チャレンジャー1号がその業務として独自の判断による投資を行ったものではないと認められる。
b(a) 関係各証拠によると,チャレンジャー1号の投資として行われたVLMA1号及びVLMA2号へのライブドア株式の現物出資は,チャレンジャー1号の組成目的からして,乙川,丁沢及び辛井らがあらかじめ計画していたものであって,辛井の自主的な判断に基づいた投資とはいえないことは明らかである。
チャレンジャー1号が,ライブドアファイナンス又はEFC組合に,ライブドア株式の売却益として,平成16年2月20日に8億4673万8719円を,同年3月25日に12億円を,同年4月23日に10億5191万6963円を,同年8月30日に3億3450万円を,同月31日に3億5000万円を,同年9月10日に4億5000万円をそれぞれ送金していることは前記認定のとおりである。そして,丁沢供述によれば,口座の資金移動はライブドア側で判断し,これを辛井に伝えていたというのであり,また,同年3月25日の12億円は,日本グローバル証券株式会社(ライブドア証券の前商号)及びVCJの買収資金が必要となることから,丁沢が辛井に指示して送金させたものであるというのである。
さらに,チャレンジャー1号名義の口座からの他の支出をみても,平成16年5月28日に,チャレンジャー1号名義の口座からサルベージ1号名義の口座へ24億3500万円が振り込まれているが,これは,丁沢が指示したものであり,また,同年3月1日に,チャレンジャー1号名義の口座から寅口G子の口座へ1億円が振り込まれているが,これも,乙川,丁沢,辛井の打合せによって決められている。
(b) 弁護人は,平成16年3月25日になされたチャレンジャー1号からEFC組合への12億円の送金について,日本グローバル証券株式会社及びVCJの買収資金が必要となることから指示して送金させたという丁沢供述は,同年2月26日付けのライブドア取締役会議事録の記載に反して信用できないと主張している。
関係各証拠によれば,確かに,上記議事録には,弁護人の指摘するとおり,日本グローバル証券株式会社の買付資金は銀行から借り入れて,同年4月以降に公募増資を行って資金調達して返済する旨の記載があり,また,VCJについても,公開買付けを行う場合は預金残高証明等を提出しなければならないので,公開買付開始日である同年2月23日以前に資金を準備しておく必要があることも弁護人指摘のとおりである。しかしながら,銀行借入れのほかに上記12億円を買収資金に充てたとしても何ら不自然ではなく,また,買収資金に見合う預金があっても,それとは別に資金調達することも不自然ではない。実際,同年3月23日付けのライブドア取締役会議事録によれば,同社は日本グローバル証券株式会社及びVCJの買付資金として,実行日を同月25日等とする銀行借入れの承認決議をしていることが認められ,このことを裏付けてもいる。
これらの事情を総合すると,辛井が資金移動を自主的判断に基づいて行っていたとは考えられない。
c 加えて,平成16年9月期第2四半期におけるライブドアファイナンスに対する分配金は約28億円となるはずであったところを,丁沢が14億5000万円とするようチャレンジャー1号の経理担当者である寅葉に指示し,寅葉はチャレンジャー1号の収益を逆算するなどして,丁沢の指示どおりの分配金にしていることも認められるのであって,チャレンジャー1号では,丁沢の指示に基づき,資金移動や経理処理が行われていたものと認められる。
d 弁護人は,①辛井が,乙川らに対し送ったメールで,チャレンジャー1号の契約書原案のポイントとして「収益を再投資できる点」等を挙げていること,②寅葉が丁沢に対しチャレンジャー1号とVLMA1号の出資金額の差額について説明を求めたところ,丁沢がうまく説明できなかったこと,③丑木と辛井がチャレンジャー1号の契約書を作成し直そうとしていたこと,④チャレンジャー1号の業務執行組合員の変更が辛井主導で行われたことなどを指摘して,チャレンジャー1号は,辛井が主体的に運営しており,その業務が丁沢の指示により行われていた事実は認められない旨主張する。
しかしながら,前記のとおり,辛井は,チャレンジャー1号の組成目的を十分認識しながら,乙川らの計画に加担していたのであるから,チャレンジャーの業務執行組合員HSIの代表取締役として,業務を行っていたとしても,同組合に対する丁沢の指示を否定する理由にはならないことは明らかである。
さらに,①については,仮に,この段階で再投資が予定されていたとしても,それがライブドアファイナンス側の指示に基づくものであれば,丁沢の指示を否定する理由にはならない。②については,寅葉が丁沢に説明を求めた事項は,チャレンジャー1号の経理に関する細かな事項であるから,丁沢がその詳細を知らなくても不自然ではなく,むしろ,チャレンジャー1号の業執行組合員であるHSIの代表取締役であり,契約書や金銭等を現実に管理している辛井に確認するよう指示するのが自然である。③及び④については,仮に辛井や丑木が,チャレンジャー1号の契約書を作成し直そうとしても,それだけでは丁沢の指示を否定する理由にはならず,また,業務執行組合員をHSIからPSIに変更しても,結局,辛井の支配する会社であり,ライブドアファイナンスにとって実質的な変更ではなく,その旨丁沢にも知らされているのであるから,丁沢の指示を否定する理由にはならない。
以上のとおり,弁護人の主張はいずれも理由がない。
e したがって,チャレンジャー1号の業務は,業務執行組合員とされていたHSIやPSIの自主的判断により行われていたものではなく,丁沢の指示により行われていたことが認められる。
ウ 間接事実③,④について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実③として,チャレンジャー1号名義の銀行口座には,ライブドアファイナンスからの合計16億5000万円の払込み以外には,払込みがなされていなかったこと,間接事実④として,チャレンジャー1号名義の売上げは,すべてライブドア株式の売却益であったことを主張し,間接事実③については寅葉及び丁沢の各供述により,そして,間接事実④については寅葉の供述によって,いずれも認めることができるとしている。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,間接事実③,④は,チャレンジャー1号が丁沢の指示で動いていたことを示すものではないと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
a 検察官主張の間接事実③のチャレンジャー1号への出資関係をみると,関係各証拠によると,チャレンジャー1号の組成時の出資者は,契約の名義上は,業務執行組合員のHSIと,一般組合員のライブドアファイナンスの二者のみであったことが認められる。さらに,寅葉の供述によると,ライブドアファイナンスからは出資金として16億5000万円の払込みがなされており,これらはクラサワ及びウェッブの株主から株式交換に伴って発行されるライブドア株式を買収するための資金に充てられていること,他方,HSIからは,出資に見合う金員の払込みはなく,出資すべき金100万円は分配金と相殺処理されていることが認められる。加えて,丁沢及び寅葉の各供述によると,丁沢らがHSIの出資金100万円は支払われていないと認識していることが認められる。以上を総合すると,チャレンジャー1号は,実質的には全額ライブドアファイナンスが出資した投資事業組合であったと認めることができる。
b 弁護人は,HSIの出資金100万円が未払であった理由は,辛井らがチャレンジャー1号の業務執行組合員をPSIに変更することを予定していたからであり,同未払の事実によりチャレンジャー1号の出資が形式上のものであったとはいえないと主張する。
確かに,辛井が,平成16年1月9日,寅葉あてに,業務執行組合員の変更の可能性があることを理由にHSIからの出資金は未払とするよう記載したメールを送信している事実は存するが,これは,組合組成時に出資金に見合う支払をしなかった理由とはならず,弁護人の主張は理由がない。
c 検察官主張の間接事実④のチャレンジャー1号の売上げをみると,関係各証拠によれば,チャレンジャー1号からライブドアファイナンス又はEFC組合に対し,ライブドア株式の売却益として,平成16年2月20日から同年9月10日までの間に,前後6回,合計42億3315万5682円が送金されていること,また,VLMA1号からチャレンジャー1号に対し,ライブドア株式の売却益として,同年2月19日及び同年9月7日,2回にわたり,合計13億3171万8809円が,VLMA2号からチャレンジャー1号に対し,ライブドア株式の売却益として,同年3月24日から同年7月23日までの間に,前後4回にわたり,合計30億6762万6651円がそれぞれ送金されている。その資金移動からすると,チャレンジャー1号名義の売上げはすべてライブドア株式の売却益であったと認めることができる。
d したがって,チャレンジャー1号は,実質的には全額ライブドアファイナンスが出資した投資事業組合であり,その売上げはすべてライブドア株式の売却益であったと認めることができる。
エ まとめ
上記アないしウで認定した事情,すなわち,チャレンジャー1号が,ライブドア株式をライブドアファイナンスで売却したのでは同売却益をライブドアの連結決算において損益勘定の売上げとして計上できないことから,投資事業組合であるチャレンジャー1号で売却し,同組合からの分配金として受け取ることによって損益勘定に組み入れることを可能にすることを目的として組成されたものであること,現に,チャレンジャー1号の業務内容が,ライブドア株式を他の投資事業組合を介して売却し,その売却益を直接又は間接にライブドアファイナンスに還流させるのみであること,その主要な資金移動や経理処理がライブドアファイナンスの指示によって行われており,辛井の自主的判断が介在している事情がうかがえないこと,実質的な出資者がライブドアファイナンスのみであること,チャレンジャー1号名義の売上げはすべてライブドア株式の売却益であったことなどの事情に,チャレンジャー1号は,辛井が代表取締役を務めるHSIを業務執行組合員として平成15年11月18日付けで組成されているが,辛井が,投資事業組合を利用した上記スキームを乙川らに提案し,当然上記組成目的も十分理解していたことを併せ考慮すると,チャレンジャー1号が,上記会計処理上の潜脱目的を達成するために組成され,現実にも,目的達成に沿った実態であったと認められる。
(3) VLMA1号について
検察官は,VLMA1号がライブドアファイナンスのダミーファンドである根拠として,以下の間接事実を主張するので,順次検討する。
ア 間接事実①について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実①として,VLMA1号は,ライブドアファイナンスがライブドア株式を売却して益出ししていることが発覚しないようにするために,株式及び資金の流れを隠ぺいすべく,チャレンジャー1号に代わって,ライブドア株式を売却することを目的として組成されたことを主張し,同事実については,乙川,丁沢及び丑木の各供述により認めることができるとする。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,VLMA1号でライブドア株式を売却しても,会計的にはライブドア株式及びその売却益の流れをたどることは可能であり,乙川らに資金等の流れを分かりにくくする意図がなかったことがうかがえることから,検察官の主張は論理的に破綻しており,また,丑木はライブドア株式を売却して戻してほしいとの要請を受けていたと供述するが,丑木がVLMA1号からの分配金の支払を拒絶していることなどから信用できず,間接事実①は立証ができていないと主張している。
(ウ) 当裁判所の判断
a 前記第2認定の事実によれば,丁沢が,辛井から,チャレンジャー1号でライブドア株式を売却した場合の問題点,すなわち,同人が同組合の業務執行組合員HSIの代表取締役であるとともに,かつてライブドアファイナンスの代表取締役でもあったため,同人のインサイダー取引規制への抵触が疑われる可能性があるとの指摘を受け,この点を回避するために,チャレンジャー1号ではなく,辛井の知人に依頼して組成してもらった投資事業組合を経由してライブドア株式を売却しようと企て,VLMA1号が組成されたことは明らかである。
そして,丑木の供述によると,丑木が,辛井から,VLMA1号の組成に当たり,VLMA1号名義の口座に入庫されたライブドア株式を売却して現金化したら,手数料を除いて全部チャレンジャー1号に戻して欲しいとの要請を受けていたことが認められ,この事実からすると,ライブドア株式を売却して,その売却益をライブドアの連結売上げに計上するというクラサワ・スキームの目的自体が,維持されたままであったと認められる。さらに,チャレンジャー1号の組成が,会計処理を潜脱する目的,すなわち,ライブドア株式をライブドアファイナンスで売却したのでは同売却益をライブドアの連結決算において損益勘定の売上げとして計上できないことから,投資事業組合であるチャレンジャー1号で売却し,同組合からの分配金として受け取ることによって損益勘定に組み入れることを可能にすることを目的としていたものであることは前記認定のとおりである。これらの事情に,VLMA1号の組成が,クラサワ・スキームの中で,売却主体として当初予定していたチャレンジャー1号では他の法規制への抵触が懸念されたため,それを回避する目的で組成された組合であることを併せ考えると,VLMA1号は,上記スキームを維持するために,そのスキームの中に組み込まれた組合であり,その組成目的は,結局のところ,チャレンジャー1号と同じであると認められる。
丁沢供述によると,同人がVLMA1号について,ライブドア株式の売却益をライブドアファイナンスやライブドアに戻して売上げ,利益に計上するための手段,道具として認識していたことは明らかであり,また,丑木供述によると,同人においても,VLMA1号が,組成されてもどこにも投資できないという点で,これまでバリュー・リンクで組成した投資事業組合とは異なっていたと認識していたことは明らかである。いずれも上記認定に沿うものである。
b この点,弁護人は,VLMA1号には,平成15年12月25日,ライブドア株式の売却代金約13億3600万円が入金されていたにもかかわらず,丑木が分配金の支払を拒絶し,平成16年2月19日になって,その一部である約8億8000万円を分配金として支払っているにすぎないことから,上記丑木供述は,客観的な資金の流れに矛盾して信用できない旨主張する。
確かに,弁護人指摘のとおり,丑木は,ライブドア株式の売却益約13億3600万円を得ておりながら,直ちに,チャレンジャー1号に支払っていないことが認められる。しかしながら,丑木は,辛井から受けた当初の要請が,VLMA1号名義の口座に入庫されたライブドア株式を売却して現金化したら,手数料を除いて全部チャレンジャー1号に戻して欲しいというものであったというのであって,その後に別の事情で支払を拒んだとしても,この点では矛盾しない。現に,丑木は,分配金を直ちに支払わなかった理由について,当時報酬の増額を要求して辛井と交渉中であったので,その交渉材料としていたと供述しているのであり,丑木の供述は,分配金の支払が遅れたことと矛盾するものではない。
さらに,弁護人は,VLMA1号でライブドア株式を売却しても,会計的にはライブドア株式及びその売却益の流れをたどることは可能であるから,資金等の流れは何ら分かりにくくなっていないなどと主張する。
本件では,ライブドア株式の売却益が投資事業組合からの分配金として会計処理されており,ライブドア株式の売却益がライブドアファイナンスに入るまでの間に介在する投資事業組合が多くなればなるほど,ライブドア株式の売却益が還流している事実が発覚しにくくなるのであって,弁護人の主張は理由がない。
c したがって,VLMA1号は,辛井がチャレンジャー1号の業務執行組合員HSIの代表取締役であるとともに,かつてライブドアファイナンスの代表取締役でもあったため,同人のインサイダー取引規制への抵触が疑われる可能性があることから,それを回避するために,組成したものであるが,VLMA1号は,クラサワ・スキームを維持するために,そのスキームの中に組み込まれた組合であり,その組成目的は,結局のところ,チャレンジャー1号と同じであると認められる。
d もっとも,検察官は,VLMA1号が,ライブドア株式を売却して益出ししている事実を隠ぺいするために,組成されたものであると主張するが,当初の目的は上記の辛井のインサイダー取引規制への抵触回避であったのであるから,この限度で,その主張は失当である。
イ 間接事実②,③について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実②として,VLMA1号名義の業務は,業務執行組合員とされていたバリュー・リンクの自主的判断により行われていたものではなく,辛井を介した丁沢の指示により行われていたこと,間接事実③として,VLMA1号は,チャレンジャー1号から現物出資という形式で保有したライブドア株式を売却しただけで解散したことを主張し,間接事実②については,丁沢及び丑木の各供述により,間接事実③については,丑木及び癸井の各供述によって,いずれも認めることができるとしている。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,間接事実②について,丑木の2625万円の資金流用,組合契約書の修正等を指摘して,VLMA1号は丑木が主体的に運営,管理していたものであることを主張し,間接事実③についても,丑木及び癸井の各供述は,VLMA1号の実態に反し信用できず,その立証がないと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
a 検察官が間接事実②として主張するVLMA1号の業務内容をみると,丑木の供述によれば,VLMA1号は,丑木が,辛井から依頼されて,丑木が代表取締役を務めるバリュー・リンクを業務執行組合員として平成15年11月26日付けで組成されたものであって,その際,辛井から,ライブドア株式を現物出資として受け入れてこれを売却し,その売却益をチャレンジャー1号に戻すことが目的であり,他の投資業務等を行うことは予定しないと説明を受けていたことが認められる。現に,VLMA1号は,チャレンジャー1号から現物出資として受け入れたライブドア株式5000株を売却し,その売却益を分配金としてチャレンジャー1号に支払い,その他の投資業務等を行うことなく,平成16年9月30日付けで解散していることが認められる。
加えて,丑木の供述によると,VLMA1号の出資者は,名義上,業務執行組合員のバリュー・リンクと,一般組合員のチャレンジャー1号であるところ,チャレンジャー1号からは現物出資としてライブドア株式5000株を受け入れているが,バリュー・リンクからは出資に見合う金員の払込みはなく,出資金100万円は設立報酬と相殺処理されていることが認められ,VLMA1号が受け入れた現実の出資が,チャレンジャー1号からのライブドア株式5000株のみであったというのである。
b さらに,検察官が間接事実②として主張するVLMA1号の業務に関する辛井を介した丁沢の指示についてみると,関係各証拠,とりわけ,丁沢及び丑木の各供述によれば,VLMA1号の唯一の資産である,チャレンジャー1号から現物出資として受け入れたライブドア株式5000株を売却するに当たり,丁沢が,辛井に対し,当時ライブドアでは株式100分割を公表していた関係で,ライブドア株式がいわゆる権利落ちとなることが予想されたため,貸株分のライブドア株式を権利落ちとなる前の平成15年中になるべく高額で売却するよう指示し,それを受けて,辛井が,バリュー・リンクに売却するライブドア株式の株数や金額を指示したり,直接ゲインウェル証券に売却注文したりしたことが認められる。
加えて,関係各証拠によると,平成16年2月19日にVLMA1号からチャレンジャー1号に9億8194万6643円が送金され,これが,8億8194万6643円のライブドア株式売却益の分配金と,1億円の貸付金として経理処理されていることが認められる。丁沢,丑木及び癸井の各供述によると,この送金自体,丁沢の意向を受けた辛井がバリュー・リンクに指示したものであり,しかも,この1億円についても,乙川や丁沢らが,トラインの買収資金1億円を捻出するに当たり,VLMA1号名義の口座にある資金を流用することを決め,その意向を受けた辛井がバリュー・リンクに指示して,VLMA1号からチャレンジャー1号に対する貸付金としたことが認められる。このように,VLMA1号では,丁沢らの意向を受けた辛井の指示に基づき,株式売却や資金移動が行われていることが明らかである。
c 弁護人は,①乙川や丁沢の了解を得ずに,勝手に,VLMA1号の口座からPSIの口座に2625万円が送金され,それが私的に流用されていること,②VLMA1号の組合契約書の条項が,業務執行組合員であるバリュー・リンクの権限を強化するように修正されていることなどを指摘して,VLMA1号は丑木が主体的に運営,管理していた組合であるといえると主張する。
①については,関係各証拠によれば,確かに,乙川及び丁沢の了解を得ずに,平成16年1月28日,VLMA1号名義の口座からPSI名義の口座に2625万円が送金され,その後,同口座から,バリュー・リンクが業務執行組合員であるバリュー・リンクT-1号投資事業組合に900万円,バリュー・リンクに500万円,丑木の個人口座に約150万円がそれぞれ支払われていることが認められることは弁護人指摘のとおりである。関係各証拠によると,同年6月29日には上記2625万円と同額が返金されており(もっとも,その原資は,トラインとの株式交換で発行されたライブドア株式の売却代金やVLMA2号からの送金である。),経理上も,仮払金として処理されていることが認められ,辛井及び丑木が乙川らに秘してVLMA1号の資金を一時的に流用したと考えるのが相当である。もっとも,業務全体に占める割合からしても,この事実から,VLMA1号全体の業務が丑木の自主的な判断で運営されていたと認めることはできない。
②については,関係各証拠によれば,確かに,VLMA1号の組合契約書は,出資金の払戻しについて,「組合員の要請により」となっていたのを「業務執行組合員の要請により」と修正されているが認められことは弁護人指摘のとおりである。癸井の供述によると,実態に合うように契約書を作り直したというのであり,それによって,実際にバリュー・リンクの権限が強まったような事実は認められない。
以上のとおり,弁護人の主張はいずれも理由がない。
d したがって,VLMA1号は,チャレンジャー1号から現物出資として受け入れたライブドア株式5000株を売却し,その売却益を分配金としてチャレンジャー1号に支払い,その他の投資業務等を行っておらず,VLMA1号では,丁沢らの意向を受けた辛井の指示に基づき,株式売却や資金移動が行われていることが明らかである。
ウ まとめ
上記ア及びイで認定した事情,すなわち,VLMA1号が,ライブドア株式を売却して,その売却益をライブドアの連結売上げに計上するというクラサワ・スキームの目的の下に,スキームの中に組み込まれた組合であり,会計処理を潜脱する目的が存していること,その業務内容はチャレンジャー1号から現物出資として受け入れたライブドア株式を売却し,その売却益をチャレンジャー1号に還流させることであること,ライブドア株式の売却や資金移動がライブドアファイナンスの意向を受けた辛井の指示によって行われていることなどの事情に,実質的な出資者がライブドアファイナンスを唯一の出資者とするチャレンジャー1号のみであること,バリュー・リンクでは,通常,業務執行組合員として投資事業組合を組成する際には自ら組合契約書の作成を行っているところ,VLMA1号については,バリュー・リンクでは作成せずに,辛井が契約書を作成していることなどの事情を併せ考慮すると,VLMA1号が会計処理を潜脱する目的を持ち,その実態も,ライブドア株式の売却及び売却益の連結売上計上のために法規制等を回避するという上記組成目的に沿ったものとなっていることが認められる。
もっとも,関係各証拠によっても,その業務執行組合員であるバリュー・リンクの代表取締役丑木や取締役癸井がその組成目的を明確に認識していたとまでは認められない。
(4) VLMA2号について
検察官は,VLMA2号がライブドアファイナンスのダミーファンドである根拠として,以下の間接事実を主張するので,順次検討する。
ア 間接事実①について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実①として,VLMA2号は,ライブドアファイナンスがライブドア株式を売却して益出ししていることが発覚しないようにするために,株式及び資金の流れを隠ぺいすべく,VLMA1号に代わって,ライブドア株式を売却することを目的として組成されたことを主張し,同事実は,乙川,丁沢,丑木及び癸井の各供述により認めることができるとしている。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,乙川や丁沢の供述によっても,VLMA2号の組成目的は,被告人の所有しているライブドア株式が大量に市中に出回っている事実を隠すためであって,検察官の主張の組成目的は論理的に成り立たず,また,検察官の主張に沿う丑木供述は,VLMA2号の組合契約書に,投資ができる旨の規定及び業務執行組合員の報酬規定が新設されていることなどから,信用できないなどと指摘し,その立証がないと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
a 前記第2で認定したとおり,丁沢は,辛井から,クラサワ及びウェッブとの株式交換に伴って発行されるライブドア株式をVLMA1号で売却した場合の問題点,すなわち,VLMA1号は被告人から借りたライブドア株式5000株を売却しているので,被告人が所有しているライブドア株式を売却している事実が明るみに出る可能性があると指摘され,その発覚を防ぐために,別途VLMA2号を組成して,同組合を経由して上記ライブドア株式を売却することとしたものであることは明らかである。
そして,丑木の供述によると,辛井から「VLMA1号のときと同じように,ライブドアの株をチャレンジャーが現物出資して,その株を売るファンドをもう一度作ってほしい。」と依頼されていたことが認められる。この事実からすると,VLMA1号と同様に,ライブドア株式を売却して,その売却益をライブドアの連結売上げに計上するというクラサワ・スキームの目的自体が,維持されたままであったと認められる。さらに,チャレンジャー1号の組成が,会計処理を潜脱する目的であったことは前記認定のとおりである。これらの事情に,VLMA2号の組成が,クラサワ・スキームの中で,売却主体として当初予定していたVLMA1号では被告人によるライブドア株式売却の発覚が懸念されたため,それを防ぐ目的で組成された組合であることを併せ考えると,チャレンジャー1号にとってのVLMA2号の位置づけは,VLMA1号と同様,スキーム全体が発覚することを防ぐことにあり,スキームを維持するために,そのスキームの中に組み込まれた組合であって,その組成目的は,チャレンジャー1号と同じということになる。
b 弁護人は,上記丑木の供述につき,VLMA2号の組合契約書では,投資事業組合への投資ができる旨の規定や管理報酬及び成功報酬の規定も新設されており,VLMA2号では投資をすることを予定していたものであって,信用できない旨主張する。
しかしながら,癸井の供述によると,癸井は,平成16年3月初旬ころ,丑木から,ライブドア株式の現物出資を受け入れ,証券口座でこれを売却する投資事業組合の組成を命じられた際,VLMA1号では,ライブドア株式を売却するのみで,投資業務を行っていなかったため,投資をしない投資事業組合は異例であると言ったところ,丑木が,辛井に投資をさせてもらうように言っておくなどと説明していたことが認められるのであって,丑木がこのような発言をするということは,VLMA2号では投資を行わないことが前提となっていた証左である。弁護人指摘の条項が入れられた経緯は不明であるが,現実の運用は,辛井と丑木とで口頭によって合意されていたと考えることができ,上記契約書中の条項の存在から,丑木の供述が信用できないとはいえない。
c したがって,VLMA2号は,VLMA1号で被告人が所有していたライブドア株式を売却していた関係で,さらに多数のライブドア株式を売却した場合に,被告人がライブドア株式を手放している事実が明るみに出るのを防ぐために,組成したものであるが,VLMA2号は,クラサワ・スキームを維持するために,そのスキームの中に組み込まれた組合であり,その組成目的は,結局のところ,チャレンジャー1号と同じであると認められる。
d 検察官は,VLMA2号が,ライブドア株式を売却して益出ししている事実を隠ぺいするために,組成されたものであると主張するが,当初の目的は上記の被告人がライブドア株式を手放している事実を隠すためであったのであるから,この限度で,その主張は失当である。
イ 間接事実②について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実②として,VLMA2号名義の業務は,業務執行組合員とされていたバリュー・リンクの自主的判断により行われていたものではなく,辛井を介した丁沢の指示により行われていたことを主張し,同事実について,丁沢,丑木,癸井及び寅葉の各供述により,認めることができるとしている。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,VLMA2号からPSIに1305万7600円が送金されていること,VLMA2号はサルベージ1号に出資をしていること,VLMA2号はバリュー・リンクVL-1号投資事業組合(以下「VL-1号」という。)に出資をしていることを指摘して,VLMA2号は丑木が主体的に運営,管理していたものであると指摘し,その立証がないと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
a VLMA2号の業務の内容をみると,丑木の供述によれば,丁沢らは,丑木に対し,VLMA1号と同様に,ライブドア株式を現物出資として受け入れ,これを売却するための投資事業組合の組成を依頼し,そのための投資事業組合としてVLMA2号が,バリュー・リンクを業務執行組合員として平成16年3月17日付けで組成されたことが認められる。そして,癸井の供述によると,VLMA2号の業務としては,チャレンジャー1号から現物出資として受け入れたライブドア株式89万4178株を売却し,その売却益を分配金としてチャレンジャー1号に支払うことにあり,独自の判断で投資業務等を行ったことはなかったというのである。
この点を更に検討すると,前記第2認定のとおり,VLMA2号は,上記ライブドア株式の売却のほかに,平成16年6月4日にマネーライフ社を買収しており,その後,同年10月25日にVCJとの間で株式交換を行い,それに伴い取得したVCJ株式を同年12月30日にエバトンに8億0800万円で売却していることが認められる。しかしながら,丁沢,丑木及び癸井の各供述によると,マネーライフ社の買収は,当初ライブドアファイナンスで検討され,同社の戊野がマネーライフ社の株主と交渉していたが,乙川が投資事業組合で買収することとしたため,急遽VLMA2号を買主としたものであって,業務執行組合員であるバリュー・リンクは,その交渉に関与しておらず,ライブドアファイナンス側の指示により事務手続を行っただけであること,マネーライフ社は,買収後の同年7月3日に,3000万円の増資を行っているが,これも,ライブドアファイナンス側で判断したものであり,バリュー・リンクは,丁沢又は辛井の指示により送金手続等を行っただけであること,マネーライフ社はVCJに株式交換により買収されているが,同買収にバリュー・リンクは関与していないこと,同株式交換によりVLMA2号に割り当てられたVCJ株式の売却についても,丁沢がバリュー・リンクに売却時期,売却先,売却代金等を指示していることが認められる。これらのマネーライフ社に関する一連の活動は,ライブドアファイナンスの指示により行われたもので,VLMA2号が独自の判断で投資を行ったものでないことは明らかである。
b 次に,VLMA2号の業務執行に関する指示についてみると,関係各証拠によれば,丁沢が,VLMA2号名義の証券口座に入庫されたライブドア株式をすぐに売却しようとして,辛井に対し,平成16年3月中にできるだけ多く売却するよう指示を出し,これを受けた辛井が,バリュー・リンクに対して,売却するライブドア株式の株数や金額を指示したり,直接ゲインウェル証券に売却注文したりしていること,同年3月24日及び25日にVLMA2号からチャレンジャー1号に送金された合計12億円については,VCJ等の買収資金として丁沢が辛井を介してバリュー・リンクに対して送金を指示したものであること,VLMA2号では,同年9月期第2四半期におけるチャレンジャー1号に対する分配金が29億7077万6067円となったところ,丁沢らがライブドアファイナンスが同四半期に計上するライブドア株式の売却益を14億5000万円と決め,丁沢の指示を受けた寅葉から同分配金の額を15億6790万9338円と指定されたことから,約14億円の仮受金を計上するなどして当期利益を圧縮し,指示どおりの分配金としたことが認められる。このような事情を考慮すると,VLMA2号では,丁沢又は同人の意向を受けた辛井の指示に基づき,株式売却,資金移動及び経理処理が行われていたことが認められる。
c(a) 弁護人は,VLMA2号の運営につき,①平成16年7月30日にVLMA2号名義の口座からサルベージ1号名義の口座に振り込まれた10億円が,VLMA2号のサルベージ1号に対する出資であること,②同年10月5日にVLMA2号名義の口座からVL-1号名義の口座に振り込まれた1億5000万円が,VLMA2号のVL-1号に対する出資であることなどを指摘し,VLMA2号は投資を行っていると主張する。
しかしながら,①については,関係各証拠によれば,確かに,弁護人指摘の資金移動が存するが,丁沢及び丑木の各供述並びにサルベージ1号の業務執行組合員であるJMAMの取締役申川Q介の検察官調書(甲42)によれば,VLMA2号名義の口座から振り込まれた10億円とドクターハウリから送金された約45億円の合計55億円を原資としてロイヤル信販を買収し,残った約24億円はチャレンジャー1号に返金されていることが認められ,VLMA2号名義の口座からサルベージ1号名義の口座への10億円の送金は,丁沢又は辛井がバリュー・リンクに指示してなされたものであるから,VLMA2号が独自の判断で投資を行ったということはできない。
②については,関係各証拠によれば,確かに,弁護人指摘の資金移動が「出資金」名目でなされていることが認められる。もっとも,関係各証拠,とりわけ丁沢及び癸井の各供述によると,平成17年7月29日,上記VL-1号の1億5000万円の返済として,バリュー・リンクVL-2号投資事業組合(以下「VL-2号」という。)からVLMA2号に対して同額が返済されていること,VL-1号及びVL-2号とも業務執行組合員はバリュー・リンクであることが認められ,また,癸井の供述によると,バリュー・リンクが,同社の運営する投資事業組合の資金にしようとして,丁沢の了解を得てVLMA2号から借り入れたものと認識していたことが認められるのであって,VL-1号における分配金としての精算手続がなされていないことを併せ考慮すると,VLMA2号にあった資金を,丑木が一時無利息で借り入れしたと認めるのが相当であり,これをVL-1号への投資と認めることはできない。
以上のとおり,この点に関する弁護人の主張は理由がない。
(b) 弁護人は,VLMA2号の業務執行に関する指示について,VLMA2号名義の口座からPSI名義の口座に,平成16年6月29日,丁沢及び乙川の了解なしに1305万7600円が送金されていることから,丑木独自の判断で運営されていると主張する。関係各証拠によれば,確かに,VLMA2号名義の口座からPSI名義の口座に上記金員が送金されており,これは,トラインとの株式交換によるライブドア株式4万4448株の売却手数料ということで,辛井の指示に基づいて送金されたものと認められる。丁沢及び乙川がこの点を了解していたとの証拠はなく,丁沢らがこの送金を知らなかったと認めざるを得ないが,全体の業務に比べると,この1305万円余りの金額は僅少であって,VLMA2号の業務全体が,丑木らの自主的判断によって運営されていたとは認められない。
以上によれば,弁護人の主張は理由がない。
d したがって,VLMA2号名義の業務は,業務執行組合員とされていたバリュー・リンクの自主的判断により行われていたものではなく,辛井を介した丁沢の指示により行われていたものと認められる。
ウ 間接事実③について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実③として,VLMA2号が出資の形式で受け入れたものは,バリュー・リンクからの100万円の名目的出資以外には,チャレンジャー1号からのライブドア株式89万4178株の現物出資だけであったことを主張し,同事実については,丑木及び癸井の各供述によって,認めることができるとしている。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,間接事実③は,業務執行組合員の主体性の有無を判断する要素にはなり得ないと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
関係各証拠によると,VLMA2号の出資者は,VLMA1号と同様,名義上,バリュー・リンクとチャレンジャー1号であるところ,バリュー・リンクからは100万円が,チャレンジャー1号からは現物出資としてライブドア株式89万4178株が出資されていることが認められる。バリュー・リンクからの上記100万円は現実に支出されているものの,チャレンジャー1号が出資したライブドア株式は,VLMA2号の第1期事業報告書によると,時価12億5184万9200円に相当するものであって,それに比して,バリュー・リンクの拠出分は,その1251分の1にしか相当せず,その利益の大部分がチャレンジャー1号に帰属し,バリュー・リンクが受け取る分配金が少ないことが認められる。
エ まとめ
上記アないしウで認定した事情,すなわち,VLMA2号が,VLMA1号と同様,ライブドア株式を売却して,その売却益をライブドアの連結売上げに計上するというクラサワ・スキームの目的の下に,スキームの中に組み込まれた組合であり,会計処理を潜脱する目的が存していること,その業務内容は,主としてチャレンジャー1号から現物出資として受け入れたライブドア株式を売却し,その売却益をチャレンジャー1号に還流させることであること,企業買収等の活動も辛井を介してライブドアファイナンスの指示に基づいて行われていること,ライブドア株式の売却や資金移動がライブドアファイナンスの意向を受けた辛井の指示によって行われていることなどの事情に,ライブドア株式の売却益の大半がチャレンジャー1号に帰属することなどの事情を併せ考慮すると,VLMA2号が,会計処理を潜脱する目的を持ち,その実態も,ライブドア株式の売却及び売却益の連結売上計上のために法規制等を回避するという上記組成目的に沿ったものとなっていることが認められる。
(5) EFC組合について
検察官は,EFC組合がライブドアファイナンスのダミーファンドである根拠として,以下の間接事実を主張するので,順次検討する。
ア 間接事実①について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実①として,EFC組合は,ライブドアによる自己株式売却益の連結売上げへの計上の発覚を恐れた辛田及び壬岡が,辛井を介してライブドア側に対し,資金等の流れを隠ぺいするための更なるダミーファンドの組成・介在を指導し,これを受けて丁沢らが被告人の了承を得て,ライブドアファイナンスがライブドア株式を売却して売却益を還流させていることが発覚しないようにするために,チャレンジャー1号の出資者がEFC組合であるかのように装うべく,事後的に組成したものであることを主張し,同事実は丁沢及び乙川の各供述並びに辛田及び壬岡の各供述調書により認めることができるとしている。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,EFC組合を介在させても資金の流れは明確であり,検察官の主張自体が矛盾していること,EFC組合では平成17年9月期に投資をしていること,辛田及び壬岡の各供述調書には信用性がないことを指摘して,検察官の主張は失当である旨主張している。
(ウ) 当裁判所の判断
a 前記第2で認定したとおり,丁沢が,ライブドア株式売却益の利益計上スキームを知った壬岡から,このままでは監査法人が困るとの指摘を受け,平成16年3月中旬ころに,ライブドアファイナンスとチャレンジャー1号との間に投資事業組合を介在させるべく,平成15年11月1日付けに日付をさかのぼらせてEFC組合を組成したものであることは明らかである。
そして,丁沢の供述によると,EFC組合は,ライブドアから100万円,ライブドアファイナンスから8億円の出資をそれぞれ受けた形になっているが,実際にはこのような出資はされておらず,形だけであったことが認められ,同組合の口座等を経由することによって資金の流れを複雑化し,チャレンジャー1号の組成目的を達成するために設けられたものにほかならないのであるから,その目的は,結局のところ,前記各投資事業組合と同じである。
b 弁護人は,EFC組合を介在させても資金の流れは明確であり,返って,同組合の業務執行組合員がライブドアファイナンスであるから同社と投資事業組合との関係が密接になる旨主張する。しかしながら,チャレンジャー1号は,被告人から貸株を受けたり,株式交換で発行されるライブドア株式を取得しているのであるから,EFC組合を介在させなければ,ライブドアファイナンスがチャレンジャー1号への直接の投資者となるのであり,EFC組合を介在させることによって,チャレンジャー1号との関係が希釈化され,ライブドアファイナンスが,投資事業組合を経由してライブドア株式を売却し,その売却益を還流させていることがより発覚しにくくなるものであり,少なくとも,丁沢らがそう考えたとしても不自然ではない。
なお,弁護人は,EFC組合組成の経緯等に関する辛田(甲186)及び壬岡(甲198)の検察官調書について,本件で問題となる本件各組合がライブドアファイナンスの連結対象となるか否かの記載がないのは不自然であるなどとして,信用できないと主張する。しかしながら,関係各証拠によれば,壬岡,戌野,辛田らは,平成16年1月24日ころから同年2月4日ころまでの間,クラサワ・スキームに関して,メールでやり取りをしており,その内容を見ると,本件各組合が連結対象か否か議論されていないのであるから,上記各検察官調書に,当時の壬岡らの認識として,本件各組合が連結対象となるか否かの供述記載がなくても不自然ではない。
以上のとおり,弁護人の主張はいずれも理由がない。
c EFC組合は,その口座等を経由することによって資金の流れを複雑化し,チャレンジャー1号の組成目的を達成するために設けられたものにほかならない。
イ 間接事実②について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実②として,EFC組合名義の業務は,丁沢の指示により行われていたことを主張し,同事実については,寅葉の供述によって認めることができるとしている。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,EFC組合の業務執行組合員はライブドアファイナンスなのであるからその役員である丁沢の指示に基づいて同組合の業務が行われることは至極当然であり,同組合がダミーファンドであることを基礎づける事実にはならないなどと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
a 前記第2で認定した事実及び関係各証拠によれば,EFC組合は,ライブドアファイナンスが業務執行組合員,ライブドアが一般組合員として組成されていること,業務については,ライブドアファイナンス又はライブドアとチャレンジャー1号との間で資金移動をする際に,EFC組合名義の口座を経由させているだけで,少なくとも本件当時は何らの業務を行っていないことが認められ,以上の事実によれば,EFC組合は,ライブドア株式の売却益をライブドアファイナンスに還流させるのに,名目的に介在させられた実体のない組合であって,その実態も上記組成目的に沿ったものとなっている。
b 弁護人は,EFC組合が投資をしていることを指摘しているが,弁護人の主張によっても投資が行われたのは平成17年9月期であって,本件当時のことではない。そして,上記のとおりの目的で組成された組合が,その後,実際に投資業務等を行うようになったとしても不自然ではない。
c 以上のとおり,EFC組合は,本件当時は業務を行っていない組織であるということができる。
ウ まとめ
上記ア及びイの事実からすると,EFC組合がクラサワ・スキームの一環として,資金の流れを複雑化し,チャレンジャー1号の組成目的を達成するために設けられたものにほかならず,また,その業務も行っていないことに照らすと,EFC組合は,ライブドア株式の売却及び売却益の連結売上計上のために法規制等を回避するために組成されたものとみることができる。
(6) 小括
以上のとおり,前記ライブドア株式の売却は,ライブドアの最高財務責任者である乙川らによって,同社あるいはライブドアファイナンスによる企業買収の資金を捻出するとともに,その売却益をライブドアの連結売上げに計上することを目的として行われたものである。その際,乙川らは,ライブドアの完全子会社であるライブドアファイナンスでライブドア株式の売却等を行った場合,証券取引法上のインサイダー取引規制及び旧商法上の子会社による親会社株式の取得規制に抵触し,その取引の効力が争われるばかりか,インサイダー取引規制に違反した者(平成17年法律第87号による改正前の証券取引法198条19号)あるいは違法な親会社株式の取得に関与した子会社の取締役等(旧商法498条1項12号の2)として制裁を受けるおそれがあり,加えて,そもそも,ライブドア株式の売却益をライブドアの連結決算において損益勘定の売上げとして計上できず,あえて行った場合,虚偽の有価証券報告書を提出した者(平成18年法律第65号による改正前の証券取引法197条1項1号)として刑事罰が科されることから,投資事業組合を介在させてそれらの規制等を回避し,損益勘定としてライブドアの連結決算上で売上計上するという会計処理の潜脱目的を達成しようとして,本件各組合を組成したものである。そして,実際に組成された本件各組合も,ライブドアファイナンスの指示に基づきライブドア株式を売却し,その売却益を還流させているのであって,その実態も上記目的に沿ったものであった。
これらの事実からすれば,前記ライブドア株式の売却は形式上は複数の投資事業組合を経由してなされてはいるが,同組合はいずれも,ライブドアファイナンスが違反者に刑事罰が科せられるような法規制等を回避するためにいわば脱法目的で組成した組合であって,そのように,一定の独立性が認められている組合を悪用してなされた取引においては,当該組合の存在を否定すべきであるから,実質的には,ライブドアファイナンスがライブドア株式を売却したものと認めるのが相当である。
そして,前記のとおり,本件各組合は,本来許されないライブドア株式売却益の売上計上をも目的として組成されたのであるから,会計処理上も,前記ライブドア株式はライブドアファイナンスが売却したものとみるべきであって,その売却益37億6699万6000円は連結子会社による親会社株式の処分差益となり,これをライブドアの連結損益計算書上,売上げとして計上することは許されないこととなる。
したがって,本件有価証券報告書中の連結損益計算書には,上記売上計上を前提とした連結経常利益50億3421万1000円が計上されており,連結損益計算書中の連結経常利益が「重要な事項」であることは明らかであるから,本件有価証券報告書には重要な事項につき虚偽の記載があることとなり,ライブドアは,重要な事項につき虚偽の記載のある有価証券報告書を提出したものである。
(7) その他弁護人の主張についての判断
ア 投資事業組合の連結対象該当性
弁護人は,本件で問題とすべきは,本件各組合がライブドアファイナンスのダミーか否かではなく,連結対象か否かであり,EFC組合以外の投資事業組合はいずれも連結対象ではないと主張するが,前判示のとおり,本件各組合が法規制等を回避するためにいわば脱法目的で組成された組合であり,ライブドアファイナンスがライブドア株式を売却したものと評価すべきであるから,本件各組合がライブドアファイナンスの連結対象か否かは問題とならない。
弁護人は,経済社会において,ある法人が子会社を設立し,親会社が直接行えない事業を子会社において行うことは,日常的に何ら問題視されることはなく,当該子会社がダミーといわれることもない旨主張する。しかしながら,弁護人の主張は,正常な事業活動を前提とするものであり,本件各組合のように脱法目的で組成されたものについて当てはまるものではない。
イ 貸株を受けた自己株式の処分差益の利益計上
(ア) 前記第2で認定したとおり,ライブドアが平成16年9月期の連結売上げに計上したライブドア株式売却益のうち8億4673万8719円については,被告人から貸株を受けたライブドア株式の売却益であるところ,弁護人は,貸株(借株)が有価証券の消費貸借契約であって,有価証券返還債務の消滅という点に着目すれば,借株の対象が自己株式でも,自己株式の処分によって生じた損益として会計上処理すべきものでなく,上記売却益は,投資事業組合の実態いかんを問わず,損益取引として売上計上する処理も許容されていた旨主張する。
そこで,検討するに,日本公認会計士協会・会計制度委員会の委員長等を歴任し,平成12年1月31日付け会計制度委員会報告第14号(最終改正平成14年9月17日)金融商品会計に関する実務指針(以下「実務指針」という。)の策定にも関与した証人丙野U雄(以下「丙野証人」という。)の公判廷における供述によって明らかなように,一般の貸株(借株)の場合,貸株は実務指針9項により「金融商品」とされ,有価証券の消費貸借であるから,その会計処理については,貸株を受けただけでは損益は生ぜず,これを売却等しても,その処分価格と同額と評価される返還債務を負担することになるから,結局,その時点では損益は発生しない。そして,別途取得した株式で借株を返還した時点で,その返還債務が消滅して同債務の価額と取得価額の差額について処分差益が発生し,有価証券運用益として利益計上することとなるのである。
しかしながら,貸株の対象が自己株式である場合,上記の一般の貸株と同様の処理をするのかが問題となる。この点,丙野証人も供述しているとおり,実務指針3項では,「金融商品」について「金融資産,金融負債及びデリバティブ取引に係る契約」と規定しているところ,同4項が「金融資産」を「他の企業の株式その他の出資証券」と定めており,自己の企業の株式すなわち自己株式を除外する定め方をしていること,実務指針は平成12年1月31日に作成され,平成14年9月17日に最終改正されているが,自己株式の取得を原則として認めるようになった平成13年の商法改正の際,別段,この点の実務指針の変更が行われていないことからすると,自己株式は金融商品に該当せず,自己株式の貸株には実務指針が適用されないこととなる。
ところで,自己株式については,前記のとおり,自己株式等に関する会計基準が公表されているところ,丙野証人の供述から明らかなように,同基準は商法の予定している自己株式の取得,処分を前提としており,自己株式の貸株を受けた場合を想定して規定されたものではない。しかしながら,同基準は,自己株式の資産性を否定して,資本の控除として取り扱い,その取得,処分を資本取引としているのであるから,自己株式を取り扱う以上,その貸株についても,同基準を適用すべきであると解するのが相当である。この理は,自己株式の貸株を受けて高価で売却し,その後,安価で取得した株式で返還して,売却額と取得額の差益を得る場合と,自己株式を安価で取得して高価で売却して差益を得る場合とでは,経済的実態が実質的に同一であることからも明らかである(しかも,本件では自己株式[親会社株式]の取得,売却を前提に,早期の現金化を企図して貸株を利用しているだけである。)。ただ,同基準には貸株を受けた場合の会計処理についての規定はないので,貸株を受けた時点の会計処理は,実務指針の規定を参考にせざるを得ないが,別途取得した自己株式で貸株を返還したことにより発生する処分差益は,同基準21項により,その他資本剰余金として計上しなくてはならないことになる。
そして,本件では,連結子会社であるライブドアファイナンスが親会社であるライブドアの株式の貸株を受けたものであるが,同基準84項によれば,子会社の有する親会社株式は,連結財務諸表においては,企業集団で考えて親会社の保有する自己株式と同様の性格とされており,同基準30項で,親会社株式の売却損益の会計処理は,親会社における自己株式処分差額の会計処理と同様にするものとされているのであるから,自己株式の貸株についての上記判示がそのまま当てはまり,その売却益は,連結財務諸表において,その他資本剰余金に計上しなければならず,売上計上は許されないこととなる。
(イ) 弁護人は,丙野証言の考え方自体に明確な根拠がなく,論理的に整合しない部分があること,自身の考えが唯一絶対のものであると考えているわけではなく,他の考えをする会計関係者もあり得る余地を認めていることなどを指摘して,その他資本剰余金に振り替えるとの会計処理が唯一絶対のものとは認められないし,少なくとも検察官による立証はなされていないと主張している。
しかしながら,丙野証人は,自己株式等に関する会計基準を策定した背景を考慮すると,自己株式を借株した際も,同基準に沿って考えるべきであり,損益に掲げる会計処理は間違っていると明確に供述しており,ただ,損益計上する会計士がいないのかと問われ,絶対にいないとはいえないと供述しているが,その趣旨は,特異な考えをもった会計士が存在する可能性を言ったにすぎず,それが一般的に是認された扱いということを言ったものではない。
以上によれば,弁護人の主張は理由がない。
なお,本件では,前記のとおり,被告人からの貸株については,丑波からの貸株で返還されるなど借換えがなされているが,処分差益は,その他資本剰余金に計上することに変わりない。
3  虚偽の記載のある本件有価証券報告書の提出に関する被告人の犯意及び共謀の有無について(争点⑥)
(1) 判断過程
前記2(争点⑤)で判示したとおり,前記ライブドア株式の売却益37億6699万6000円はライブドアにおいて連結売上計上の許されないものであるから,同売上計上を前提とした平成16年9月期の連結経常利益50億3421万1000円が虚偽であることは明白である。
また,前記第2で認定したとおり,ライブドアは,同年9月期において,キューズ・ネット及びロイヤル信販に対する連結売上げ合計15億8000万円も計上しているところ,そのうち,ライブドア及びEXマーケティングの売上げ14億7500万円が架空売上げであることには争いがない。また,VCJのキューズ・ネットに対する売上げ1億0500万円についても,後記5(争点②)で判示するとおり,架空売上げと認められるから,上記連結経常利益50億3421万1000円のすべてが虚偽であることとなる。
そして,当裁判所は,遅くとも,被告人が,平成16年11月18日開催のライブドアの取締役会において,上記連結経常利益が記載された連結損益計算書に基づいて同年9月期の決算を承認し,上記連結経常利益が本件有価証券報告書掲載の連結損益計算書に記載されることを認識した時点で,虚偽の記載のある有価証券報告書を提出することを認識,認容し,かつ,同報告書を提出することにつき乙川らとの間で共謀が成立したものと認めたものである。
そこで,まず,(2)で,ライブドア株式売却益の連結売上計上についての被告人の犯意及び共謀の有無を検討し,次に,(3)で,架空売上げの連結売上計上についての被告人の犯意及び共謀の有無を検討することとする。
(2) ライブドア株式売却益の連結売上計上について
検察官は,ライブドア株式売却益の連結売上計上についての被告人の犯意及び共謀の根拠として,以下の間接事実を主張するので,順次検討する。
ア 間接事実①について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実①として,平成15年10月下旬ころ,辛井が,乙川及び丁沢とともに,被告人に対し,クラサワとの株式交換により発行するライブドア株式を,辛井が代表取締役を務めるHSIを名目上の業務執行組合員とするダミーファンドの名義で買い受けて売却し差益を得ることとするが,上記ライブドア株式の発行及び買受けまで期間があることから,先にダミーファンド名義で被告人から貸株を受けてこれを市場で売却して利益を確定し,それにより見込まれる自己株式売却益をライブドアの連結売上げに計上することを提案したところ,被告人が,これを了承した上,自己株式売却益を連結売上げに計上することを前提に,これをライブドアの平成16年9月期の連結業績予想に織り込むよう指示したことを主張し,同事実は乙川,丁沢,未川及び庚崎の各供述によって認めることができるとする。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,検察官が裏付け証拠として挙げている①乙川及び丁沢の各供述につき,両名は,検察官の立証事実は具体的に供述するが,それ以外は何ら具体的な供述がなされておらず,不自然であること,平成15年10月下旬ころは,被告人,乙川,丁沢及び辛井の4名が一堂に会する時間帯がないこと,両名は10億円程度の利益が出ると供述しているが,客観的事実に反し不合理であること,経常利益についての乙川と丁沢の供述が一致していないことを指摘し,②乙川の供述につき,同人の供述内容が,貸株スキーム図が作成されるまでの経緯について,申川Q介の供述調書や戊野の供述と食い違っていること,乙川自身,主尋問では検察官調書の内容を繰り返しただけで記憶に基づいて供述していないことを認めていること,乙川は貸株料についてぼかした供述をしていることを指摘し,さらに,③丁沢の供述につき,丁沢は戊野がスキームについて説明した内容を具体的に供述できていない一方,被告人の言動だけは具体的に供述していること,丁沢は検察官調書に記載されていないことを公判廷で供述していることを指摘し,乙川及び丁沢の供述は信用できないとして,間接事実①は立証されていないと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
被告人に対する変更後のスキームの報告について判断する前提として,まず,最初のスキームの報告について検討する。
a 最初のスキームの報告について
(a) 乙川は,公判廷において,戊野が,平成15年10月ころに開催されたライブドアファイナンスの定例会議で,被告人に対し,クラサワ・スキームの内容について説明したこと,その際,戊野は,クラサワ貸株スキーム図を使用して,シェルカンパニーで貸株人からライブドア株式の貸株を受けた上で,ライブドアファイナンスが更にこれを借り受け,市場で売却してクラサワの買収資金8億円をあらかじめ用意しておき,株式交換により発行されるライブドア株式を,同資金でMKS側から買い取るなどと説明したこと,被告人からは貸株人についての質問があり,乙川が大株主である被告人を考えていると答えたこと,被告人が,冗談だと思うが,「貸株料とかくれるの。」などと言ったので,乙川は「会社のためなので。」などと返答したこと,被告人が,貸株をして損をすることはないのかなどと尋ねてきたので,乙川が大丈夫である旨答えたこと,戊野は,被告人からシェルカンパニーについて聞かれたので,誰が貸株をしたのか分からなくするためであると説明していたことを供述している。
また,丁沢も,公判廷において,戊野が,平成15年10月中旬ころに開催されたライブドアファイナンスの定例会議で,被告人に対し,クラサワ・スキームについて説明したこと,クラサワ貸株スキーム図(全く同じ図面かどうかは分からない。)を使用し,ライブドア株式の貸株人については,乙川が大株主である被告人から貸してもらいたいと言うと,被告人が少し不安そうな様子で損をしないかと尋ねてきたので,乙川は株式交換によって発行される株式数だけ借りるので問題はない旨返答したこと,被告人が,冗談半分だと思うが,「貸株料をくれないの。」などと言ったので,乙川は「会社のためだから勘弁してください。」などと答えたこと,乙川は,シェルカンパニーを介在させることについて,被告人が貸株をしていることを対外的に分からなくするためであると説明したことを供述している。
(b) そこで,上記各供述の信用性について検討することとする。
戊野は,公判廷において,同人が,被告人も出席している平成15年10月中に開催された定例会議で,クラサワ貸株スキーム図に基づいて,クラサワの株主が株式交換ではなく現金を望んでおり,貸株を行うことによってこれを市場や第三者に売却し,新規で発行する株式の下落を防ぐといった内容を口頭で報告したことを供述している。
そして,関係各証拠によると,戊野は,平成15年10月21日午後8時11分ころ及び同日午後8時38分ころに,下記①及び②のメールを被告人を含むM&A担当者のメーリングリストあてに送信し,これに対して,被告人が,同月22日午後2時53分ころ,インラインで返信文を記載した(返信元のメールを引用し,その行間に返信文を入力してある。)下記③のメール(引用部分は( )で表示する。)を返信していることが認められる。

発信日時:平成15年10月21日午後8時11分
発信者:戊野
受信者:被告人を含むM&A担当者のメーリングリスト
件名:クラサワ議事録
内容:クラサラコミュニケーションズ議事録
日時:10月21日(火)18:30-
出席者:未山氏,癸葉氏(MKSパートナーズ),酉谷氏申川氏(M&Aマネジメント),乙川,戊野
内容:株式交換,企業価値で8億円。
エッジ株式株価は契約日前日終値か一株120,000円のいずれか高値。
デット部分4億円はデットエクイティスワップ。
以上で決定しました。

発信日時:平成15年10月21日午後8時38分
発信者:戊野
受信者:被告人を含むM&A担当者のメーリングリスト
件名:クラサワ議事録
内容:戊野です。
少し補足いたします。
ディールの成立は下記の点をクリアした後となります。
―経営陣と従業員の処遇の決定
―キャリアであるボーダフォンの許可
以上よろしくお願いいたします。

発信日時:平成15年10月22日午後2時53分
発信者:被告人
受信者:戊野,被告人を含むM&A担当者のメーリングリスト
件名:Re:クラサワ議事録
内容:〔戊野です。
少し補足いたします。
ディールの成立は下記の点をクリアした後となります。
―経営陣と従業員の処遇の決定〕
これは微妙ですな。
〔―キャリアであるボーダフォンの許可〕
こっちは,最悪Green社長に押し込みましょう。
〔以上よろしくお願いいたします。〕
被告人が,戊野からの上記①及び②のメールを受けて,その趣旨を理解して③のメールを送信していることは明らかである。戊野からの上記①及び②のメールの内容はそれのみでは意味不明であり,被告人もこれについて特段質問していないことからすれば,被告人がクラサワとの株式交換についての説明を事前に受けていることが強く推認できる。
なお,被告人は,上記①のメールは読んでいないと思うなどと供述するが,上記②のメールは補足事項のみを記載したにとどまり,その前提となる①のメールを読まなければ,内容を理解できないことからすると,被告人が①のメールを読んだものと認めることができる。
すると,戊野の供述は,上記①ないし③のメールから推認される,被告人がクラサワとの株式交換について事前に説明を受けていたとの事実に符合するのであって,信用性が高いということができる。
そして,乙川及び丁沢の各供述は,戊野が,被告人も出席している定例会議において,クラサワ貸株スキーム図に基づいてスキームの内容を説明をしたことなど,主要な部分で信用性の高い戊野供述と一致している。また,乙川及び丁沢の各供述は,スキームの説明に当たりクラサワ貸株スキーム図が使用されたこと,被告人が冗談半分に貸株料をもらえるのかと尋ねたことなど特徴的な点において一致しており,相互にその信用性を裏付けている。したがって,乙川及び丁沢の上記各供述は信用できる。
(c) 弁護人は,乙川の供述について,乙川は,弁護人からの反対尋問で,被告人は以前に貸株をしたときは貸株料をもらっていないことを指摘されると,「まあ冗談では言いますよ。」などとぼかす供述をしており,信用できないと主張する。
しかしながら,乙川は,主尋問においても,被告人から貸株料とかくれるのと言われたが,会社のためなのでと答えたと供述しているにすぎず,被告人が本気で貸株料を要求していると思ったというものではなく,また,被告人が貸株料について冗談半分で言ったということは,丁沢も供述しており,弁護人の指摘は当たらない。
弁護人は,丁沢の供述についても,①最初のクラサワ・スキームについて,戊野がどのような説明をしたのか具体的に供述できていないのに,被告人の言動だけ思い出したということが不自然であること,②被告人が貸株料をくれないのとか,貸株をして損をしないのかという発言をしたことは,丁沢の検察官調書に記載されていないことなどから,信用できないと主張する。
しかしながら,①については,戊野の説明は,定例会議における報告としてなされたものであるから,同人が具体的にどのように説明をしたかまで丁沢が事細かく記憶していなくても不自然であるとまではいえず,また,これに対して印象的な被告人の言辞についてのみ,具体的な記憶があっても不自然ではない。②については,確かに,丁沢は,公判廷では被告人が「貸株料をくれないの。」とか,貸株をして損をしないかなどと言ったとしながら,検察官調書にはその旨の記載がないことも供述している。そして,この点,丁沢は,検察官の取調べにおいてその旨の話はしたが,調書に記載されなかったと供述している。被告人の言辞は重要な証拠価値を有することが多いが,丁沢は,貸株料の要求については,公判廷でも冗談半分だと思うと述べており,検察官がこれを重視しなかったとも考えられる。また,検察官がどこに重点を置いて供述を録取するかは,当該検察官,事案の性質,供述者の立場等によって異なるというべきであって,丁沢の取調べを担当した検察官が,最初のスキームの報告の場面では,被告人に対する説明を中心に録取し,それに対する被告人の反応を重視せず,これを録取しなかったことも十分考えられるから,捜査段階でもその旨述べたという丁沢の上記供述にも一応の合理性が認められる。以上のとおり,検察官調書に記載がなかったことをもって,被告人が「貸株料をくれないの。」とか,貸株をして損をしないかとかなどと言ったとする丁沢の公判廷における供述を虚偽であると評価することはできない。
(d) したがって,信用性の高い乙川及び丁沢の各供述等によると,戊野及び乙川が,上記定例会議で,被告人に対し,クラサワを株式交換の方法で買収すること,クラサワの株主が現金買収を望んでいること,ライブドアファイナンスが,シェルカンパニーを介して被告人からライブドア株式の貸株を受け,これを売却して買収資金を捻出すること,クラサワの株主から株式交換で発行予定のライブドア株式を買い取り,同株式が発行されたら,これを被告人に返還することなどの,最初のクラサワ・スキームの内容について,説明がなされたことが認められる。
b 変更されたスキームの報告について
(a) 乙川は,公判廷において,辛井が,平成15年10月下旬ころ,ライブドアファイナンスを訪れ,同社2階の会議室で,被告人に対し,クラサワ・スキームの変更について説明したこと,その場には,乙川と丁沢が同席したこと,辛井が,ホワイトボードに図を書き(戊野が,スキームの変更後に作成した「貸株スキーム」と題する図面(以下「貸株スキーム図」という。)と同様のもの),被告人に対し,投資事業組合で被告人からライブドア株式の貸株を受けて売却し,クラサワ側から株式交換で発行されるライブドア株式を買い取ること,同株式で被告人からの貸株を返還すること,ライブドア株式の売却金額と株式交換での株価との差額で利益が生じるので,同利益を分配金としてライブドアファイナンスが収益計上すること,売却金額は,ライブドアの当時の株価が約20万円,発行されるライブドア株式が約9000株で総額18億円となり,原価はクラサワ側からのライブドア株式の買取価格8億円であるから,約10億円の利益が生じることなどを説明したこと,被告人は笑いながら「そんなにもうかっちゃうの。じゃあ予算に乗せないとね。これでケイツネ20億行くね。うほほっ。」などとと言ったことを供述している。
丁沢は,公判廷において,辛井が,平成15年10月下旬ころ,ライブドアファイナンスの会議室で,被告人に対し,変更後のスキームを説明したこと,その場には,乙川と丁沢も同席していたこと,辛井が,貸株スキーム図と同様の図をホワイトボードに書き,被告人に対し,スキームについて,辛井が組成する投資事業組合にライブドアファイナンスが出資をし,被告人がその投資事業組合にライブドア株式の貸株をし,同組合がライブドア株式を市場で売却して現金を得ること,その現金をMKS側に買収代金として支払い,株式交換によりライブドア株式が発行された後にMKS側から投資事業組合に同株式が引き渡され,同組合が被告人に同株式を返却すること,投資事業組合がライブドア株式の売却により利益を得たら,ライブドアファイナンスに配当として戻すことを説明したこと,ライブドア株式について,当時の株価が約20万円であるのに対し,株式交換での株価は約9万円であり,株式交換により発行される株式数が約9000株であるから,約10億円の利益を生じ,これをライブドアファイナンスの売上げに計上できることを説明したこと,被告人は,非常にうれしそうに,「そんなもうかっちゃうの。予算に計上しなくちゃねえ。」などと言っていたこと,その場で,辛井又は被告人から,被告人がライブドア株式の大量保有報告書の提出義務者であり,上記貸株についてその変更報告書を提出すると被告人が貸株をした事実が対外的に分かってしまうことが指摘されたので,丁沢と辛井が,被告人の貸株について大量保有報告書の変更報告書の提出が必要となるか調査をして,被告人に報告するとしたことを供述している。
(b) そこで,上記各供述の信用性について検討することとする。
庚崎は,公判廷において,同人が,平成15年11月上旬ころ,会議が終わった後に被告人と二人で会議室に残り,被告人に対し,クラサワ・スキームを説明しようして,ホワイトボードに,ライブドアとクラサワが株式交換を行うこと,投資事業組合がMKSから株式交換により発行されるライブドア株式を買い取ること,投資事業組合は被告人から貸株を受け市場で売却すること,投資事業組合はライブドアファイナンスと「HS」が出資をしており,ライブドアファイナンスに分配金が戻ることを示した図について,各当事者を記載し,矢印で結び,被告人のところに貸株などと書いたところで,被告人は,「ああ知ってる知ってる。それ聞いてる。」などと言ったことを供述している。
そして,関係各証拠によると,庚崎と被告人との間で,平成15年11月17日午後6時48分ころから同日午後10時41分ころまでの間に,下記④ないし⑦のメールのやり取りがなされていることが認められる。

発信日時:平成15年11月17日午後6時48分
発信者:庚崎
受信者:被告人
件名:株券の引き出しの件
内容:(省略)
クラサワの貸し株の件で,5100株程度を大和から引き出そうと思いますが,よろしいでしょうか?(具体的な株数が決まりましたらまたご報告します。)

発信日時:平成15年11月17日午後10時18分
発信者:被告人
受信者:庚崎
件名:Re:株券の引き出しの件
内容:はい。あれ,これって丑波氏からじゃなかったっけ?

発信日時:平成15年11月17日午後10時26分
発信者:庚崎
受信者:被告人
件名:Re:株券の引き出しの件
内容:5%ルールで報告義務が生じない範囲で社長の株を貸し株し,残りを丑波氏のものを使う方向で考えています。

発信日時:平成15年11月17日午後10時41分
発信者:被告人
受信者:庚崎
件名:Re:株券の引き出しの件
内容:はい。
被告人が,庚崎からの上記④及び⑥のメールを受けて,その趣旨を理解して⑤及び⑦のメールを送信していることは明らかである。庚崎からの上記④及び⑥のメールの内容はそれのみでは意味不明であり,被告人も,「クラサワの貸し株の件」について質問することもなく,庚崎の依頼に応じているので,事前にクラサワ・スキームで貸株をするという説明を受けており,また,「これって丑波氏からじゃなかったっけ?」などと返信していることからすれば,丑波から貸株を受けるという話も聞いていたものと推認できる。さらに,庚崎は,「クラサワの貸し株の件で」というのみで,その内容について説明をすることもなく,被告人の保有するライブドア株式の出庫の許可を求めていることから,被告人がクラサワ・スキームで貸株することを了解していると認識していたものと推認できる。
すると,被告人にクラサワ・スキームを説明しようとしたところ,被告人が知っているなどと言っていたとする前記庚崎の供述は,上記推認に沿うものであって,信用性は高いということができる。
なお,弁護人は,庚崎が,被告人に上記説明をする前に,辛井及び丁沢からクラサワ・スキームについて説明を受けた旨供述しているところ,丁沢がその旨供述していないことをもって,庚崎の供述の信用性に疑問が残る旨主張している。
しかしながら,丁沢は庚崎に説明した事実を否定しているわけではなく,単に言及していないだけである。そして,庚崎の供述は,捜査段階で,被告人に説明するために書いたというスキーム図を再現していることからすると,具体的な記憶が保持されているものと認められるのであって,その信用性は高いということができる。
(c) そして,信用性の高い庚崎供述によると,庚崎が会議室で被告人に対して投資事業組合を使ったクラサワ・スキームを説明しようとした平成15年11月上旬ころよりも前に,被告人が,それを知っていた事実が認められる。乙川及び丁沢の各供述は,辛井が,同年10月下旬ころ,ライブドアファイナンスの会議室で,乙川及び丁沢の同席の下,被告人に対し,ホワイトボードに図を書いて,変更後のスキームを説明したとする点で,上記認定事実に符合しているのである。
また,前記判示のとおり,被告人に対しては変更前のクラサワ・スキームが説明されており,変更後のスキームについても説明がなされるのが自然である上,乙川と丁沢の各供述は,辛井が,被告人に対し,投資事業組合において,被告人から貸株を受けたライブドア株式を売却すること,時価と株式交換での株価との差額で利益が生じ,同売却益をライブドアファイナンスで収益計上すること,約10億円の利益が見込まれることを説明したことなど主要部分が一致している上,辛井がライブドアファイナンスに来て説明をし,その際,ホワイトボードに貸株スキーム図と同様の図を書いたことなど,特徴的な点においても一致しているのである。乙川及び丁沢の上記各供述は相互にその信用性を裏付けており,信用できるということができる。
(d) 弁護人は,①乙川及び丁沢は,辛井が,被告人に対し,クラサワ・スキームで売却できるライブドア株式の株数を9000株と説明したと供述しているが,当時,株式交換におけるライブドア株式の価格は約6万8346円で検討されており,同価格を前提とすると株数は約1万2000株となるから,乙川らの供述は客観的事実に反すること,②乙川は,被告人が「ケイツネ20億行くね。」などと言ったと供述しているが,丁沢はそのようなことを供述していないこと,③スケジュールを見ると,平成15年10月下旬ころは,被告人,乙川及び丁沢の日程が同時に空いている時間帯はなく,上記3名に辛井を含めた4名が同時に同一場所にそろうことは物理的に不可能であること,④被告人に対する説明がされたとする平成15年10月下旬ころは,乙川,丁沢らライブドアファイナンスの従業員全員がイーバンクに移駐し,同社の日常業務等の掌握に懸命となっていた時期であるから,辛井がライブドアファイナンスに突然来て,被告人,乙川及び丁沢と会議をしたのであれば,印象的であるのに,具体的な供述がなされていないことなどを指摘して,乙川及び丁沢の各供述が信用できないと主張している。
①については,確かに,戊野が,平成15年10月27日,JMAMに対して送信したメールには,ライブドア株式の価格について,1か月(8万3595円),3か月(6万8346円)及び6か月(5万2579円)の各単純平均値を算出した結果を添付して,ライブドア株式の価格を3か月平均とする旨記載されており,また,同人が,同年11月12日に,辰下弁護士あてに発信したメールには,クラサワとの株式交換におけるライブドア株式の価格を3か月平均で6万8346円とする株価算定書を作成添付し,加重平均値で8万7586円に変更する旨記載されていることは弁護人指摘のとおりである。しかしながら,ライブドア内部においては,別の株価を前提に利益額等を見込んでいても決して不自然ではなく,現に,関係各証拠によれば,丁沢は,同年10月下旬ころに,ライブドアファイナンスの予算について,ライブドア株式1株20万円を前提に,クラサワ・スキームによる有価証券売上げ18億円,原価8億円,粗利10億円を見込んだ修正を行い,その旨未川に連絡しており,また,同年11月7日が最終更新日となっているライブドアファイナンスの予算案にも,投資有価証券売却高18億円,原価8億円が記載されているのである。そもそも,乙川及び丁沢の各供述によると,辛井の説明した利益額は概算の見込額であり,確定的な数字でないことは明らかであることから,戊野の上記メールから,同年10月下旬の時点で,辛井がライブドア株式の株数が9000株であることを前提として利益を10億円と説明したという乙川及び丁沢の各供述は信用できないとはいえない。
②については,被告人の発した言葉について,乙川と丁沢とで記憶が異なっていても格別不自然ではなく,かえって,乙川の上記供述は被告人の指示につながるもので,検察官にとっては重要な事実にもなるところ,その点に関する両名の供述が異なっているということは,検察官による誘導等がなされておらず,乙川及び丁沢とも記憶のとおり供述している証左とみることもできる。
③については,当時の被告人らのスケジュールは弁護人指摘のとおりであるが,実際にスケジュールのとおりであったか否かは不明であり,また,辛井の説明にはそれほど時間を要するとは考えられないことからしても,被告人らのスケジュールのみから,上記4名が同時に同一場所にそろうことが物理的に不可能であるなどということはできない。
④については,弁護人が指摘するような会議の行われた具体的な日にち,時間帯,会議室に集合した順番,イーバンクにいた乙川及び丁沢がライブドアファイナンスに在社していた用件等は,会議の内容とは直接関係のない事項であるから,正確に記憶していなかったとしても,不自然ではない。
(e) したがって,信用性の高い乙川及び丁沢の各供述等によれば,辛井が,平成15年10月下旬ころ,被告人に対し,変更後のクラサワ・スキームについて,辛井の組成する投資事業組合が被告人から貸株を受けたライブドア株式を売却すること,株式交換における株価と実際の時価との差額で利益が生じ,同売却益をライブドアファイナンスで収益計上することなどを説明した事実が認められる。そして,ライブドアファイナンスがライブドアの連結子会社であることは被告人も当然認識していたものであるから,上記ライブドア株式売却益をライブドアファイナンスで収益計上するということは,ライブドアの連結売上げにも計上することが当然の前提となっていたものと認められる。
(f) もっとも,検察官は,被告人が,自己株式売却益を連結売上げに計上することを前提に,これをライブドアの平成16年9月期の連結業績予想に織り込むよう指示した旨主張する。しかしながら,乙川及び丁沢の上記各供述によると,被告人は,辛井から約10億円の利益が出て,それをライブドアファイナンスの売上げに計上できると聞いて,「予算に乗せないとね。」などと言ってはいるが,これは多額の利益が生じることに対する感想に近い言葉であって,この発言をもって,予算計上の指示とまでは認めることはできない。
イ 間接事実②,③について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実②として,平成15年11月10日ころ,被告人が,乙川及び未川に対し,ライブドアの連結経常利益の予想値を20億円として公表すれば,それを市場が好感して株価が上昇し,ライブドアファイナンスがダミーファンド名義で取得予定のライブドア株式の売却益が増加する可能性があるので,是非とも連結経常利益の予想値を20億円として公表するように指示したこと,間接事実③として,平成15年11月16日,未川が,被告人に対し,メールで,「連結予想は,売上高152億円,営業利益21億6000万円,経常利益は20億400万円,当期利益12億200万円となる。このうち,クラサワの株式交換スキームによる売上高及び粗利益はそれぞれ20億円,12億円を見込んでいる。」旨報告し,さらに,同月17日にも,「連結予想の,営業利益を22億円,経常利益を20億4300万円,当期利益を12億2600万円に修正した」旨報告し,被告人が,これを了承したことを主張し,間接事実②は乙川,未川及び丁沢の各供述により,間接事実③は未川及び乙川の各供述によって認めることができるとする。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,間接事実②について,未川が平成15年11月14日に丙谷あてに送信したメールによると,被告人が上記打合せで各事業部営業利益率15パーセント死守と強調していたことが認められるところ,未川が示したという資料には各事業部の営業利益率が全く記載されておらず,営業利益率が議論になる契機がないので,乙川及び未川の供述は信用できないことなどから,同事実は立証されていないと主張し,間接事実③については,未川が平成15年11月16日に送信したメールを被告人は読んでいないことから,同事実は立証されていないと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
a 乙川は,公判廷において,被告人,乙川及び未川は,平成15年11月,当時乙川らが出向していたイーバンクの所在していた大和生命ビルの地下にあるレストランで食事をしながら,ライブドアの平成16年9月期予算案についての打合せを行ったこと,その打合せでは,主として未川が,被告人に対し,連結予算案の記載された書面を使用して,売上高が140億円,営業利益が20億円,経常利益が18億円などと説明したこと,その際,クラサワ・スキームによる売上げ18億円及び原価8億円について,投資有価証券売上高及び有価証券売上原価に計上されていることも説明したこと,被告人は,同年9月期の連結経常利益が18億円という説明を受けて,株価もいいので,もう2億円上乗せしよう,20億円で発表した方が株価も上がっていいのでないかなどと言っていたことなど,上記間接事実②に沿う供述をしている。
b そこで,その信用性について検討することとする。
未川は,公判廷において,平成15年11月10日,大和生命ビルの地下レストランで,被告人,乙川及び未川で予算の打合せをしたこと,未川は,被告人に対し,予算案を見せながら,「クラサワの株式交換スキーム」で,投資有価証券売上高として12月と1月に各9億円の合計18億が,有価証券売上原価として12月と1月に各4億円の合計8億が,それぞれ計上されている旨説明したこと,被告人は,未川に対し,同人が営業利益を20億円としていたので,それだと数字的に少ないとして,経常利益を20億円とする予算案を作成するよう指示したこと,被告人が,経常利益を20億円にできないかと言ったのは,ライブドアの株価に対する反応を非常に気にしたためと思うこと,未川は,収益計上の大きいクラサワ・スキームで売上げを上積みできないか丁沢に相談し,投資有価証券売上高を18億から20億に変更することとし,それを一番大きな修正点とする予算案を被告人にメールで報告したことを供述している。
そして,関係各証拠によると,未川は,被告人に対し,平成15年11月16日午前11時37分ころ,下記⑧のメールを,引き続き,翌同月17日午後9時26分ころに下記⑨のメールを送信し,これに対し,被告人が,同日午後10時19分ころ,下記⑩のメールを返信していることが認められる。

発信日時:平成15年11月16日午前11時37分
発信者:未川
受信者:被告人
件名:2004年9月期予算について
内容:(省略)
2004年9月期の予算について,再度,各事業部長へのヒヤリングを行い修正をいたしました。
その結果,連結予算は,
売上高:15200百万円(前年比40.4%増)
営業利益:2160百万円(前年比47.8%増)
経常利益:2004百万円(前年比52.5%増)
当期利益:1202百万円(前年比146.0%増)
となります。
このうち,クラサワの株式交換スキームによる売上高及び粗利益はそれぞれ20億円,12億円を見込んでおり,クラサワが3Qから連結することによる影響は売上18億円,営業利益18百万円を想定しております。
(以下省略)

発信日時:平成15年11月17日午後9時26分
発信者:未川
受信者:被告人
件名:2004年9月期予算について
内容:EXの予算を一部修正いたしましたので,お送りいたします。
連結予算については,
売上高:15200百万円(前年比40.4%増)
営業利益:2200百万円(前年比50.5%増)
経常利益:2043百万円(前年比55.5%増)
当期利益:1226百万円(前年比150.9%増)
となります。
なお,各事業の予算については内部取引を考慮しないネットの金額となっています。
この金額でよいのであれば連結取引等を考慮した単体予算の作成を行います。

発信日時:平成15年11月17日午後10時19分
発信者:被告人
受信者:未川
件名:Re:2004年9月期予算について
内容:おおむねOKでしょう。
上記⑧ないし⑩の各メールから明らかなように,未川は,平成16年9月期の予算について,再度,各事業部長らと調整して,経常利益を20億円を超える内容のものに修正し,これを被告人に報告していることは明らかであり,未川の上記供述を客観的に裏付けており,同供述は信用性できるということができる。
そして,乙川供述は,未川が,被告人に対し,クラサワ・スキームによる投資有価証券売上高18億,有価証券売上原価8億が計上されている旨説明し,被告人は経常利益を20億円とする予算案を作成するよう指示し,また,同経常利益とすることにより株価が上昇するなどと言ったとする点で,信用性の高い未川供述と符合しているのであるから,乙川供述も信用できるということができる。
c 弁護人は,①未川が丙谷あてに送信したメールによると,被告人が上記打合せで各事業部営業利益率15パーセント死守と強調していたことが認められるところ,未川が示したという資料には各事業部の営業利益率が全く記載されておらず,営業利益率が議論になる契機がないこと,②乙川は,被告人が「あと2億円何とかしようよ。株価もいいし,あと2億くらい利益出るでしょう。その2億乗せようよ。20億で発表した方が株価も暴騰(なお,速記録には「爆騰」とあるが,「暴騰」の誤記である。)していいんじゃない。」と言ったと供述しているところ,未川はその旨供述をしておらず,両者の供述は食い違っていることなどを指摘して,乙川供述の信用性を争っている。
①については,確かに,未川が,丙谷あてに送信したメールには「甲山さんはランチMtgで各事業が営業利益率15%死守!!って叫んでましたが・・・」との記載があり,上記打合せでその旨の話が出たことがうかがわれる。しかしながら,同記載によれば,具体的な予算とは別に会社としての目標を口にしたものであって,各事業部の営業利益率に応じた目標を設定しているわけでもないので,未川が打合せの際に見せたという予算案に各事業部の営業利益率が記載されていないのに,被告人が営業利益率に関する発言をしたとしても,別に不自然ではない。②については,未川は,上記のとおり,被告人がライブドアの株価に対する反応を気にして,経常利益20億円にできないかと言った旨供述するのみで,乙川のように,被告人の発言を具体的には供述してはいないが,乙川の供述する被告人の発言も,指示と受け取れるものではないため,未川が記憶していなかったものと考えられ,不自然ではない。
弁護人の主張はいずれも理由がない。
d 間接事実③について検討すると,関係各証拠によると,未川と被告人との間で,平成15年11月16日から同月17日にかけて,上記⑧ないし⑩のメールのやりとりがなされたことが認められる。
弁護人は,被告人の上記⑩の返信メールは,未川から同月17日に送信を受けた上記⑨のメールに対するものであり,最初に送信を受けた上記⑧のメールについては,読んでいないと主張する。
未川からの上記⑧のメールは,被告人をあて先として送信されたもので,件名が「2004年9月期予算について」となっていることからも,被告人にとって重要性の高いメールであったものと認められる。そして,未川の上記⑨のメールには,前日に未川が送信した上記⑧のメールも引用されており,しかも,同月17日の上記⑨のメールの内容は,連結予算案を一部修正したものであって,修正箇所を確認するためには上記⑧のメールも読まなければならない。さらに,被告人が同月7日に未川あてに送信したメールによれば,被告人は,未川の作成したライブドアの同年9月期予算案についての問題点として,①丑波に関する特別利益が計上されていないこと,②第1四半期に特別損失を一括計上していること,③クラサワが連結対象とされていないことの3点を指摘していたところ,未川が最初に送信したメールでは,被告人の関心事であった上記3点についての説明がされているのである。以上によれば,被告人は,未川から最初に送信された上記⑧のメールの内容も読んでいた可能性は極めて高い。
しかしながら,同月17日に未川が送信した上記⑨のメールにも修正された連結予算の数値が記載されており,弁護人が指摘する上記⑨のメールを受信した際の被告人の状況をも考慮すると,被告人が上記数値のみを見て上記⑩のメールで「おおむねOKでしょう。」と返信をした可能性を排除できず,被告人が未川からの上記⑧のメールを読んだと認定するには,いまだ合理的な疑いが残るというべきである。
e 以上検討したように,間接事実②については,信用できる乙川の供述等によれば,平成15年11月10日に,被告人,乙川及び未川で平成16年9月期の予算案について打合せをした際,未川が,被告人に対し,クラサワ・スキームによる売上げなどが計上されている旨説明し,被告人は,それを前提として,連結経常利益の予想値を20億円にするように指示した事実が認められる。
そして,関係各証拠によると,被告人が,未川の説明を,特段の疑問を抱くこともなく受け入れていることが認められるから,上記事実は,被告人がクラサワ・スキームによってライブドアに利益が生じることを理解していたことを推認させるものである。
f なお,間接事実②について,検察官は,被告人が,連結経常利益の予想値を20億円として公表すれば,それを市場が好感して株価が上昇し,クラサワ・スキームによるライブドア株式の売却益が増加する可能性があるので,上記予想値の公表を指示した旨主張する。
確かに,被告人は,連結経常利益の予想値を20億円に増額すれば,それがライブドアの株価の上昇要因となることを期待していたものと認められる。しかしながら,乙川の供述によっても,被告人は「20億で発表したほうが株価も暴騰していいんじゃない。」ということを言ったにすぎないのであって,同発言からは,被告人が,連結経常利益を20億円にすることによって,クラサワ・スキームによる株式売却益を増大させることまで企図していたとは認められない。したがって,この点における検察官の主張は理由がない。
g 間接事実③については,上記のとおり,未川と被告人との間で,上記⑧ないし⑩の各メールのやりとりがなされたことが認められるが,未川が最初に送信した上記⑧のメールを被告人が読んだと認定することはできず,最初のメールの内容を被告人が了承したという検察官の主張は理由がない。
ウ 間接事実④について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実④として,平成15年11月中旬ころ,丁沢が被告人に対し,自己株式売却の仕組みが発覚しないように,香港の証券会社を通じて売却すると報告したことを主張し,同事実は丁沢及び乙川の各供述によって認めることができるとする。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,丁沢及び乙川の各供述は,不自然に変遷したり,矛盾があったり,内容が不合理であったりして信用できないこと,また,そもそも,丁沢が報告をしたという時期に被告人は海外に出張しており,被告人に報告できるはずがないことなどから,間接事実④は立証されていないと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
a 丁沢は,公判廷において,同人が,平成15年11月中旬ころ,クラサワとの株式交換契約の締結前に,乙川と一緒に被告人の席まで行き,被告人から貸株を受けたライブドア株式の売却について,被告人に対し,辛井の知り合いの香港の証券会社で売却すると報告したこと,被告人が心配すると,乙川又は丁沢が,香港の証券会社の方が売却に関する手口が分かりづらいので大丈夫と答えたこと,丁沢が,その証券会社の口座開設が1週間ほど遅れる旨説明すると,被告人は株価の下落を心配し,それに対し,乙川が大丈夫と答えていたこと,その際,丁沢は,被告人に対し,チャレンジャー1号が直接ライブドア株式を売却すると,辛井がインサイダー取引規制に抵触するおそれがあるので,チャレンジャー1号と市場との間にもう1つ投資事業組合を介在させると報告したことを供述している。
また,乙川は,公判廷において,同人が,平成15年11月ころ,丁沢と一緒に被告人のところに行き,丁沢が,被告人から貸株を受けたライブドア株式の売却について,被告人に対し,辛井のアドバイスを受けて,手口がわからないように,香港のゲインウェル証券で売却することとした旨報告したこと,丁沢は,同年12月ころ,被告人がライブドアファイナンスのオフィスに来た際に,被告人に対し,チャレンジャー1号を組成,管理している辛井がライブドアファイナンスの社長をしていたことから,同人のインサイダー取引に該当しないように,辛井の方でもう1個「箱」を用意して,その「箱」を通してゲインウェル証券でライブドア株式を売却すると報告したこと,丁沢は,投資事業組合のことをよく「箱」と言っていたこと,乙川は,上記報告の際,その近くに座っており,被告人が「大丈夫なの。」などと言っていたので,「まあ大丈夫じゃないですか。」などと答えたこと,丁沢は,口座の開設に2週間くらいかかると説明し,それを聞いた被告人は株価の下落を心配していたことを供述している。
b そこで,上記各供述の信用性を検討するに,丁沢と乙川の各供述は,被告人に対する丁沢の報告内容について,被告人から貸株を受けたライブドア株式を香港の証券口座で売却すること及びその理由,証券会社の口座開設が遅れ,被告人が株価の下落を心配していたこと,ライブドア株式をチャレンジャー1号とは別の投資事業組合で売却すること及びその理由といった,主要な部分で一致しており,互いにその信用性を裏付けている。また,被告人からの貸株の売却に関する事項なので,被告人に対する報告がなされるのが自然であることによれば,丁沢及び乙川の上記各供述は信用できると考えられる。
c 乙川及び丁沢の各供述について,弁護人は,①口座開設遅延の報告について,乙川が平成15年12月に丁沢らの席で報告したと供述しているのに対し,丁沢は同年11月に被告人の席に行って報告したと供述しており,両者の供述が顕著にずれていること,②クラサワの買収資金は,結局,ライブドアファイナンスがライブドアから5億円の融資を受けるなどして用意したところ,同融資については被告人に説明しておらず,重要なことを報告しないで些末な事柄を報告したとする丁沢及び乙川の各供述は不合理であることなどを指摘して,信用できないと主張する。
しかしながら,①については,被告人に対する報告の場面は,本件に関する事項も含めて多数回存在すると推認できるところ,報告の時期,場所等,弁護人が主張するような細部にわたる事項についての供述が一致していなかったとしても,不自然ではない。②については,香港の証券会社で売却することなど貸株の売却に関する事項は,被告人個人にも関わることで決して些末な事柄ではなく,また,ライブドアからの融資については,別途,契約締結稟議や取締役会決議等の手続もあるので,上記報告場面で丁沢が説明しなくても不合理ではない。
次に,丁沢の供述について,弁護人は,丁沢は同年11月19日の直前くらいの同月中旬に被告人に上記報告をしたと供述しているところ,被告人は同月13日から同月19日まで海外出張していたのであるから,丁沢が被告人に報告できるはずがないことを指摘して,信用性を争っている。
しかしながら,丁沢の供述を仔細に検討すると,丁沢は報告時期を弁護人が主張する時期に特定しているわけではないので,被告人の海外出張を理由に,上記報告の事実を否定することはできない。
さらに,乙川の供述について,弁護人は,乙川は,丁沢が報告したときには,ゲインウェル証券の名前も出ていた旨供述しながら,その後,香港に行ったときにはゲインウェル証券の名前は知らなかったかもしれない旨供述していることなどを挙げて,乙川の供述は信用できないと主張する。しかしながら,ゲインウェル証券の名称自体に乙川の関心があったとは考えられないので,その点についての供述に齟齬があったとしても,その信用性を損なうものではない。
弁護人の主張はいずれも理由がない。
d したがって,信用できる丁沢及び乙川の供述等によれば,丁沢が,平成15年11月中旬ころ,被告人に対し,被告人から貸株を受けたライブドア株式を売却していることが発覚しないために,同株式を香港の証券会社で売却すること,チャレンジャー1号がライブドア株式を売却すると辛井がインサイダー取引規制に抵触するおそれがあるので,別途投資事業組合(VLMA1号)を組成し,同組合を経由して売却することを報告したものと認めることができる。
なお,乙川の上記供述は,同年11月と12月の2回に分けて説明がされていることを前提とするが,前記第2認定のとおり,同年11月中にはゲインウェル証券のVLMA1号名義の証券口座に被告人からの貸株が入庫されているので,説明時期に関する乙川の供述は信用できない。
e もっとも,検察官は,丁沢が,自己株式売却の仕組みが発覚しないように,香港の証券会社を通じて売却することを報告した旨主張するが,上記認定のとおり,丁沢の報告は,被告人が貸株をしている事実が発覚しないようにするためと説明しているのであって,この点に関する検察官の主張は理由がない。
エ 間接事実⑤について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実⑤として,平成15年11月下旬ころ,庚崎及び辛井が,被告人の了解を得て,ライブドア株式5100株を被告人名義の証券口座から,VLMA1号名義の証券口座に移管する手続をしたことを主張し,同事実は丁沢の供述によって認めることができるとする。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,被告人がライブドア株式5100株の出庫を了承していたことは認めるが,被告人は入庫先がVLMA1号名義の口座であることは認識していないとして,間接事実⑤は立証されていないと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
前記第2で認定したとおり,被告人は,平成15年11月下旬ころ,自己の保有するライブドア株式5100株をチャレンジャー1号に貸し付ける旨の契約を締結し,同月28日,同株式が被告人名義の証券口座からゲインウェル証券のVLMA1号名義の証券口座に移管されている。また,関係各証拠によれば,同移管手続を行ったのは庚崎であり,被告人はその保有に係るライブドア株式5100株を貸株し,それに伴い同株式が自己名義の証券口座から移管されることも了解していたことも認められるが,被告人が,自己名義の証券口座から出庫されたライブドア株式の入庫先がゲインウェル証券のVLMA1号名義の口座であると認識していたことを裏付ける証拠がないことは,弁護人の指摘のとおりである。
そして,庚崎が被告人の了解の下に被告人保有のライブドア株式を被告人名義の証券口座からVLMA1号名義の証券口座に移管する手続を行った事実は認められるものの,被告人が過去にもライブドア株式の貸株を行っている事情を考慮すると,その認定事実のみから,被告人がクラサワ・スキームを理解し,あるいは乙川らとの間に共謀が存在するとの事実を推認することはできないと考えられる。
オ 間接事実⑥,⑦について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実⑥として,平成15年12月上旬ころ,乙川が,被告人に対し,ウェッブの買収について「クラサワのときと同じ方法でやろうかと思ってるんです。」などと報告し,被告人は,その場合のライブドア株式売却益がどのくらいの金額になるかなどを気にしていたことを主張し,間接事実⑦として,平成15年12月8日ころ,丁沢が,被告人らに対し,ウェッブとの株式交換によりライブドアファイナンスがダミーファンド名義で取得するライブドア株式の売却益として約3億5000万円程度を見込める旨をメールで報告したことを主張し,間接事実⑥については,乙川の供述によって,間接事実⑦については,丁沢及び乙川の各供述によって認めることができるとする。
(イ) 弁護人の主張
弁護人は,間接事実⑥について,乙川の供述は,被告人がライブドア株式の算定価格も聞かないまま株価下落リスクを心配したという供述内容自体が不自然であって信用できず,同事実は立証されておらず,間接事実⑦については,丁沢の上記メールは,ライブドアファイナンスのミーティング用資料であり,被告人に対する報告ではないとして,同事実を争っている。
(ウ) 当裁判所の判断
a 乙川は,公判廷において,同人が,平成15年12月,被告人の席のところに行き,ウェッブの買収について,株式交換を予定していたところ,先方がクロージングの寸前に現金を要求してきて,押し切られてしまったので,クラサワと同じスキームで行う旨説明したこと,被告人は株価が下落したら損をするのではないかと心配したので,乙川は大丈夫ではないかと言い,丁沢にリスクを計算させ,後で報告すると伝えたことなど,上記間接事実⑥に沿う供述をしている。
b そこで,上記供述の信用性を検討する。
関係各証拠によると,丁沢は,乙川,甲川に対して,平成15年12月8日午後7時34分ころ,下記⑪のメールを送付するとともに,被告人に対して,CCで参考送付している。

発信日時:平成15年12月8日午後7時34分
発信者:丁沢
受信者:甲川,乙川
CC:被告人を含むM&A担当者のメーリングリスト
件名:ウェブキャッシング
内容:表題の件,明日のmtgに際しての検討事項です。
リスクとリターンをピックアップしました。
リターン
・全株25万円で売却出来たら3.5億円のキャピタルゲインを得る
・FCがWCの運営主体とることにより,その利益をFCのPLに反映でき,LDFで掛かっているコストを賄える
リスク
・加重平均株価が約17万円であるため,株価下落時(17万円以下)に塩漬けとなる 可能性がある
・FCの短期的な資金繰り悪化:12月末でエッジより最大10億の借入残
上記メールは,丁沢が,乙川らに対し,ウェッブを株式交換で買収するに当たり,ライブドア株式を単価25万円で売却できたら3億5000万円の利益が得られるが,株価が17万円以下となった場合には売却できなくなる旨報告したものであって,同メールの存在は,被告人に対し,ウェッブの買収について,クラサワと同じスキームで行う旨報告した際,被告人が株価の下落を心配したので,丁沢にリスクを計算させる旨伝えたとする乙川供述を裏付けるものである。
この点に関し,弁護人は,上記⑪のメールはライブドアファイナンスのミーティング用資料であり,被告人に対する報告のメールではなく,また,乙川は,上記メールを踏まえて,被告人に対して報告したとは供述していないことを指摘して,乙川の供述は信用できないと主張する。確かに,上記⑪のメールは,その記載からミーティング用資料であることは明らかであるが,乙川の供述によれば,乙川は,丁沢の上記⑪のメールがメーリングリストによって被告人にも送信されていることから,それをもって被告人に対する報告と考えたものと認められるから,乙川が別途被告人に対して報告しなかったからといって,乙川の供述が信用できないものでもない。
これまで検討したとおり,乙川供述は関係各証拠と符合しており,とりわけ,上記のとおり,乙川が被告人に対して丁沢にリスクを計算させる旨伝えたとする部分は客観的な裏付けもあり,信用性は高いということができる。
c 弁護人は,乙川供述について,①被告人が,乙川から単にクラサワと同じスキームで行きますと聞いただけで,算定価格も聞かないまま,株価下落リスクを心配したこと自体が不自然であること,②被告人がクラサワ・スキームを理解していたとすれば,株価が下落したら損をするのではないかと言うのではなく,株式交換におけるライブドア株式の価格が話題になるのが自然であること,③株価の下落を心配している被告人に対し,乙川が根拠もなく大丈夫でしょうと言ったら,被告人もそれ以上は言わなかったというのであり,不自然であることなどを指摘して,乙川供述は信用できないと主張している。
しかしながら,①については,クラサワ・スキームは,ライブドア株式を売却して利益を出すスキームで,同株式の株価が下落すればそれだけ利益が減るのであるから,被告人が,同株式の具体的な算定価格を聞かないままに,株価の下落を心配しても決して不自然ではない。しかも,関係各証拠によれば,被告人は,平成15年12月10日,甲川がウェッブとの株式交換スケジュールをメールで送信してきたのに対し,「交換日って3月じゃないとまずいんじゃなかったっけ?クラサワとかそうだったよね?」などと返信しており,当時,平成16年3月まで株式交換で発行されるライブドア株式を売却できないことを認識していたものと認められるので,その間の株価の下落を心配するのが自然である。②については,株式交換におけるライブドア株式の価格をいくらに設定するかというのは乙川らが検討すべき事項であって,ライブドアの代表取締役社長である被告人がそのことを話題にしなくても不自然ではない。③については,乙川は,丁沢にリスクを計算させ,後で報告すると伝えた旨供述しており,同供述が丁沢のメールで裏付けられているのは前判示のとおりである。
d したがって,信用性の高い乙川の供述によると,間接事実⑥については,乙川は,平成15年12月,被告人に対し,ウェッブの買収を,クラサワ・スキームと同様のスキームで行う旨説明したことが認められる。
e なお,検察官は,間接事実⑥について,被告人が,ウェッブをクラサワと同じスキームで買収した場合のライブドア株式売却益がどのくらいの金額になるかなどを気にしていたと主張するが,前記のとおり,被告人は株価の下落により損をすることにならないのか心配したものであって,売却益を気にかけたものとは認められないから,この点における検察官の主張は理由がない。
f 間接事実⑦については,丁沢は,平成15年12月8日,甲川及び乙川に,上記⑪のメールを送信し,被告人に対して参考送付していることは認められるが,被告人は返信していないのであるから,被告人が上記⑪のメールを受信している事実のみから,被告人がその内容を読んだとまでは認められず,他に被告人がこのメールを読んだことを立証できる証拠はない。そもそも,CCで送信されたメールは,本来の受信者ではない相手に参考として送付されたものであって,当然,受信者が読む可能性を前提として送信されているものであるが,報告するものではない。すると,検察官が被告人に対して,上記内容を報告したと主張している点は,理由がない。
カ 間接事実⑧について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実⑧として,平成15年12月中旬ころ,定例会議において,被告人が,甲川や乙川から,ウェッブとの株式交換によりライブドアファイナンスがダミーファンド名義で取得するライブドア株式を売却する仕組みについて,クラサワとの株式交換の際と同様の仕組みで行う旨の報告を受け,了承したことを主張し,同事実は乙川,甲川及び丁沢の各供述から認められるとする。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,乙川の供述は,上方修正に関して丁沢の供述と一致しないこと,客観的な株価の状況と矛盾することから信用できないなどとして,間接事実⑧は立証されていないと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
a 乙川は,公判廷において,甲川が,ライブドアファイナンスの定例会議で,「全体スキーム鳥瞰図」と題する図面(以下「全体スキーム鳥瞰図」という。)と同様の図面を使用して,被告人に対し,ウェッブとの株式交換に関するスキームを説明し,クラサワとほぼ同じスキームであること,異なるのは,株式交換後に,ニッシンに交換で取得したウェッブ株式の40パーセントを売却する点であるなどと報告したこと,被告人は「またもうかっちゃうかもしれないね。これで上方修正できるね。」などと言っていたことを供述している。
また,丁沢は,公判廷において,甲川が,平成15年12月初旬から中旬ころ,ライブドアファイナンス定例会議で,「全体スキーム鳥瞰図」を使用して,ウェッブとの株式交換に関するスキームを説明し,クラサワと同様のスキームで行うと報告したこと,被告人が,株式交換で得られるライブドア株式を売却できるのが平成16年3月中旬以降なので,その間の株価の下落を心配したこと,乙川がその不安を払拭するようなことを言っていたと思うが,その内容ははっきり覚えていないこと,被告人はスキームについて質問することなく,また,前記図面には投資事業組合がライブドア株式をどうするのか書かれていないが,その点について説明を求めることもなかったことを供述している。
b そこで,上記各供述の信用性について検討する。
甲川は,公判廷において,同人が,平成15年12月11日のライブドアファイナンス定例会議で,被告人に対し,全体スキーム鳥瞰図を見せながら,ウェッブとの株式交換に関するスキームを説明したこと,第1フェーズでは株式交換を行い,ライブドア株式を投資事業組合に売却すること,第2フェーズでは株式交換によって発行される新株が平成16年3月15日以降に発行されること,ライブドアファイナンスに対しウェッブ株式100パーセントを売却し,40パーセントをニッシンに移動することなどを説明したこと,乙川が「クラサワと同じスキームでやる。」というようなニュアンスの言葉を言い,それに対して,被告人は「オーケー,ゴーしなさい。」というような趣旨の言葉を言ったことを供述している。
関係各証拠によると,甲川が,平成15年12月11日午後7時2分ころ,被告人を含むライブドアファイナンスの定例会議出席者のメーリングリストあてに,下記⑫のメールを送信していることは明らかである。

発信日時:平成15年12月11日午後7時2分
発信者:甲川
受信者:被告人を含むライブドアファイナンスの定例会議出席者のメーリングリスト
件名:本日の定例会議議題
内容:ウェッブキャッシング(甲川)
乙川取締役から連絡があり,ニッシン巳山社長,午川常務取締役に訪問して,スキーム・金額について合意する。
第一フェーズ 株式交換,株式売買契約書
第二フェーズ 3月15日以降 FCがWC株100%を買取
40%をニッシンに株移動
このメールは,同日開催予定の定例会議の議題を通知するもので,その内容は,全体スキーム鳥瞰図の内容と一致しており,甲川が同会議でウェッブとの株式交換に関するスキームについて,同図面(又はこれと同様の図面)を使用して説明したものと合理的に推認でき,甲川の上記供述を客観的に裏付けている。甲川の供述は信用できるということができる。
乙川及び丁沢の各供述は,甲川が,定例会議で,全体スキーム鳥瞰図又はこれと同様の図面を使用してウェッブとの株式交換に関するスキームを説明し,その際,クラサワと同様のスキームで行う旨報告されたとする点で信用性の高い甲川の供述と符合している。また,乙川及び丁沢の各供述は,甲川が全体スキーム鳥瞰図を使って説明したことなど特徴的な点において一致しており,相互にその信用性を補強している。したがって,乙川及び丁沢の上記各供述は信用できる。
なお,甲川は,ウェッブとの株式交換についてクラサワと同様のスキームで行う旨報告したのは乙川である旨供述しており,甲川が報告したとする乙川及び丁沢の各供述と相違している。しかしながら,前記のとおり,ウェッブの買収交渉は乙川と甲川とで進めていたもので,クラサワと同様のスキームを採用することを決めたのは乙川であること,また,丁沢が,M&A関係者のメーリングリストあてに,トラインの買収を基本的にクラサワと同じスキームで行う旨記載したメールを送信しているように,当時,「クラサワ・スキーム」という言葉は,M&A関係者の間で,普通に使用されていたものと推認できることからすると,ウェッブとの株式交換についてクラサワと同様のスキームで行うことを乙川と甲川のどちらが報告したかは,乙川らにとって特段記憶に残るべき事柄ではなく,したがって,この点についての相違は,乙川及び丁沢の各供述の信用性を損なうものではない。
c 弁護人は,①乙川は,被告人が「またもうかっちゃうかもしれないね。これで上方修正できるね。」などと言っていたと供述しているのに対し,丁沢はその旨供述しておらず,両者の供述が一致していないこと,②当時,ライブドアの株価は下落傾向にあったので,株価の調子がよかったという乙川の供述は客観的な株価状況と矛盾していることなどを指摘して,乙川の供述は信用できないと主張する。
しかしながら,①については,乙川の供述によっても,被告人の発言は,具体的な利益額等を意識したものではなく,単なる感想に近い発言であって,丁沢がこれを記憶していなかったとしても不自然ではない。
②については,関係各証拠によれば,確かに,上記定例会議の時点ではライブドア株式は下落傾向にあったが,その下げ幅は決して大きくはなく,それ以前の半年間の株価を見れば上昇局面にあるものといえ,また,上記定例会議前日の株価は約25万円で,ウェッブとの株式交換における評価額約17万円よりはまだまだ高額であることからしても,乙川の供述が客観的な株価状況と矛盾しているとはいえない。
d したがって,信用性の高い乙川及び丁沢の各供述等によれば,平成15年12月11日に開催された,ライブドアファイナンス定例会議において,甲川又は乙川から,被告人に対し,ウェッブとの株式交換についてクラサワと同様のスキームで行う旨報告され,被告人がこれに特段の異議を述べず,了承したことが認められる。
e 検察官は,上記定例会議において,「ライブドアファイナンスがダミーファンド名義で取得するライブドア株式を売却する仕組みについて」も報告がなされたかのごとき主張をするので,念のため判断しておくと,関係各証拠によれば,この際,ライブドアファイナンスがダミーファンド名義で取得するとの説明はなされていないのであるから,この点の検察官の主張は理由がないこととなる。もっとも,クラサワ・スキームについての説明はなされていないにもかかわらず,クラサワとの株式交換の際と同様の仕組みで行う旨の報告を受けて,被告人が何ら質問をしていないことから,被告人がクラサワ・スキームの内容を理解しているものと推認することができる。
キ 間接事実⑨について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実⑨として,平成15年12月中旬ないし下旬ころ,丁沢が被告人に対し,被告人から貸株を受けたライブドア株式の売却額が10億円以上である旨報告したことを主張し,同事実は丁沢及び乙川の各供述によって認めることができるとする。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,丁沢及び乙川の供述について,日時等の実際にあった事実ならば当然に付随して記憶が喚起されなければならない状況に関する部分が欠落していること,そもそも,被告人は,ライブドアの株価など丁沢らに聞かなくても確認できること,売却額についての両者の供述が矛盾していることなどから信用できないとして,間接事実⑨は立証されていないと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
a 丁沢は,公判廷において,平成15年12月中旬ころ,被告人が,ライブドアファイナンスの乙川や丁沢の席のそばに来た際,乙川に対し,「株価どうなってるの。」と話しかけたこと,乙川も丁沢に同様の質問をしたので,丁沢は10億円くらい又は10億円を超したなどと返答したこと,被告人は非常にうれしそうに「そんなもうかっちゃってんの。すごいね。」などと言っていたことを供述している。
また,乙川は,公判廷において,平成15年12月,被告人が,丁沢に対し,「どう,どう,どう,どう,株価どう,ファンドすごいことになっちゃってるでしょう。」と聞いてきたので,丁沢は「すごいことになってますよ。」と返事をしていたこと,その際,乙川も同席していたことを供述している。
b そこで,上記各供述の信用性を検討する。
丁沢及び乙川の各供述は,これまで検討したように,関係各証拠と符合し,全体的に信用できるということができる。しかも,関係各証拠によれば,貸株分のライブドア株式の売却額は,平成15年12月中旬ころには約10億円に達しており,丁沢の供述は当時の客観的状況と符合しているばかりか,丁沢と乙川の各供述は,確かに完全には一致していないものの,被告人が株価がどうなっているかなどと尋ね,丁沢が貸株分のライブドア株式の売却額を答えているという主要な部分で一致しており,互いにその信用性を裏付けている。
加えて,丁沢は,公判廷において,平成16年4月のライブドアファイナンスの定例会議で,被告人から「丁沢さんのところのファンドもうかっているね。」と言われ,乙川が「株価の動きはよく分かりませんから。」と言うと,被告人は「株価はまだまだ上がるから。」と言ったなどと供述し,丙谷も,公判廷において,同月ころの定例会議が始まる前に,被告人が,丁沢に対し,「ファンドの利益すごいね。」などと言うと,丁沢はまあまあという感じであったが,乙川が「まあ,そうは言っても,今はライブドアの株価がいいから,上がっているから,利益が出てるだけよ,今後どうなるか分からないよ。」と言うと,被告人は「まあ,それはそうなんだけど,うちの株価はまだまだ上がるから大丈夫だよ。」と言っていたなどと,丁沢の供述に符合する具体的な供述を行っている。これらの供述によると,被告人が,同月ころにクラサワ・スキームによるライブドア株式の売上げに関心があったものと認められる。すると,丁沢及び乙川の上記各供述は,この認定事実にも符合するものであり,信用できるということができる。
c 弁護人は,①乙川及び丁沢の供述は,日時,株価の話になる文脈等,実際にあった事実ならば当然に付随して記憶が喚起されなければならない状況に関する部分が欠落していること,②ライブドアの株価はインターネットで確認すれば足りることであるから,わざわざ乙川や丁沢に尋ねるようなことではないこと,③乙川は,丁沢が「すごいことになってますよ。」と答えたと供述しているのに対し,丁沢は「10億くらいです。」などと具体的に答えたと供述しており,両者の供述が矛盾していること,④丁沢は,10億くらいですなどと答えたら,被告人がそんなにもうかっちゃってんのと言って喜んだと供述しているが,単に10億と言っただけではそれが利益なのか売却額なのか分からないので,それを聞いただけで喜んだというのは不自然であること,⑤仮に,被告人が,ライブドア株式の売却状況を確認したかったのであれば,直截に売却株数,残数,売却額,利益額等を聞けば足りることであって,「株価どう。」などというような聞き方をするはずがないことを指摘して,乙川及び丁沢の各供述は信用できないと主張する。
しかしながら,①については,印象的な会話を記憶し,当該会話がなされた日時,きっかけ等について記憶していなくても不自然ではない。②については,確かに,丁沢及び乙川の各供述によれば,被告人は言葉としては株価を尋ねているが,その供述全体をみれば,単にライブドアの株価を尋ねているのではなく,クラサワ・スキームによるライブドア株式の売却状況を尋ねていることは明らかである。③については,確かに,弁護人の指摘するとおり,丁沢と乙川の供述は,丁沢が10億円くらいとするのに対し,乙川は「すごいことになってますよ。」と供述しており,異なってはいるが,その供述の趣旨からすれば,矛盾しているとまではいえない。④については,丁沢は客観的には売却額を答えているものであるが,同人が被告人に答える際にそれが売却額なのか利益なのか明示していなかったとしても,被告人はその原価(8億円)を理解しているからこそ,利益が出ているものと認識したものといえる。⑤については,被告人は,口頭で尋ねたものであり,また,クラサワ・スキームはライブドアの株価に連動して利益が増加するスキームであるから「株価どうなってるの。」という聞き方をしても不自然ではない。
d したがって,信用性の高い丁沢及び乙川の各供述等によれば,被告人が,平成15年12月ころ,ライブドア株式の売却状況を尋ね,丁沢が約10億円と被告人からの貸株分のライブドア株式の売却額を答えると,被告人が利益が出たなどと喜んでいたことが認められる。
そして,この事実によれば,被告人がクラサワ・スキームによって,被告人が貸株したライブドア株式が売却され,それによって利益が生じることを理解していたと推認できる。
ク 間接事実⑩,⑯,⑰について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実⑩として,平成16年1月19日の戦略会議において,被告人に対し,平成15年12月における,ライブドアファイナンスによる,ライブドア株式売却益がほとんどを占める投資事業組合等管理収入8億6714万0979円の計上が報告されたこと,間接事実⑯として,平成16年4月の戦略会議において,被告人に対し,同年3月における,ライブドアファイナンスによる,ライブドア株式売却益がほとんどを占める投資有価証券売上高14億6485万5904円の計上が報告されたこと,間接事実⑰として,同年7月の戦略会議において,被告人に対し,同年6月における,ライブドアファイナンスによる,ライブドア株式売却益がほとんどを占める投資有価証券売上高14億6542万4906円の計上が報告されたことを主張し,間接事実⑩については乙川及び丙谷の各供述により,間接事実⑯については乙川,丙谷及び丁沢の各供述により,間接事実⑰については乙川及び丙谷の各供述によって,いずれも認めることができるとする。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,被告人が戦略会議資料に記載された投資事業組合等管理収入又は投資有価証券売上高の数字を認識していたことは立証されておらず,同収入等のほとんどがライブドア株式の売却益であったことを被告人が認識したことを示す証拠は皆無であるなどとして,間接事実⑩,⑯及び⑰はいずれも立証されていないと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
a 前記第2で認定したとおり,平成16年1月19日開催のライブドアの戦略会議資料には,ライブドアファイナンスが,ライブドア株式の売却益がその大部分を占める8億6714万0978円(なお,検察官は「8億6714万979円」と主張するが,「8億6714万0978円」の誤りであることは明らかである。)を,平成15年12月(平成16年9月期第1四半期)における投資事業組合等管理収入として計上した旨の記載があり,そのドラフトは,平成16年1月15日,メールで被告人を含むメーリングリストあてに送付され,被告人も同メールを見た上,これに返信している。また,同年4月26日開催のライブドアの戦略会議資料にも,ライブドアファイナンスが,ライブドア株式の売却益がその大部分を占める14億6485万5904円を,同年3月(第2四半期)における投資有価証券売上高として計上した旨の記載があり,そのドラフトは,同年4月22日,メールで被告人を含むメーリングリストあてに送付されている。さらに,同年7月開催のライブドアの戦略会議資料にも,ライブドアファイナンスが,ライブドア株式の売却益である14億6542万4906円を,同年6月(第3四半期)における投資有価証券売上高として計上した旨の記載がある。
b そして,上記投資事業組合等管理収入及び投資有価証券売上高は,いずれも各四半期において高額な売上げであり,通常は損益の部分のみ確認し,売上げについては意味がないのでほとんど見ないなどという被告人の供述はにわかに信用できないが,乙川も,平成16年1月19日開催のライブドアの戦略会議資料に記載されている投資事業組合等管理収入について,被告人に対し,改めてライブドア株式の売却益と説明したことはない旨供述しており,各定例会議の場で,上記投資事業組合等管理収入等について,ライブドア株式の売却益である旨の説明がなされたことを裏付ける証拠はない。
c したがって,上記戦略会議資料の記載のみから,被告人がクラサワ・スキームを理解していたことを裏付けることはできず,検察官の主張は理由がない。ただ,関係各証拠によると,被告人が,各定例会議において,高額な上記投資事業組合等管理収入等に関して,その内容を尋ねたという事実は認められないことから,クラサワ・スキームの内容を被告人に説明したという乙川及び丁沢の供述と矛盾はしない。
ケ 間接事実⑪について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実⑪として,平成16年1月ころ,丁沢が被告人に対し,自己株式売却の仕組みがより発覚しにくいように,投資事業組合の業務執行組合員をHSIから香港の会社に変える旨報告し,被告人が,これを了承したことを主張し,同事実は丁沢の供述によって認めることができるとする。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,丁沢供述は,客観的な事実経過に反していること,丁沢がPSIをチャレンジャー1号の業務執行組合員にすることを被告人に教えるはずがないことから信用できないとして,間接事実⑪は立証されていないと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
a 丁沢は,公判廷において,同人が,ライブドアファイナンスの定例会議の合間に,被告人に対し,証券会社も香港にあるので,資金移動がしやすく,スキームが対外的に分かりづらくなるということで,チャレンジャー1号の業務執行組合員を香港にある辛井の会社に変更する旨報告したことを供述している。
b そこで,上記供述の信用性を検討する。
丁沢の供述は,これまで検討したように関係各証拠と符合していて,全体として信用性の高いものである。加えて,前記認定のように,この時期に,丁沢がトラインとの株式交換で発行されるライブドア株式を個人的に費消しようと考えたとは認められないのであるから,被告人にチャレンジャー1号の業務執行組合員の変更を秘しておく必要性もなく,チャレンジャー1号に関する決裁稟議が被告人の元に上がった場合を慮って,変更の事実を被告人に告げておくべき必要性もあるのであって,丁沢の供述はこの点でも自然かつ合理的であり,信用できる。
c 弁護人は,チャレンジャー1号の業務執行組合員をPSIに変更することは平成15年12月中に行われていたのであるから,平成16年1月になってその旨辛井が言い出したという丁沢の供述は客観的事実経過に反していると主張する。しかしながら,上記業務執行組合員の変更作業と丁沢に対する報告とが若干ずれたとしても特段不自然ではない。しかも,丁沢は,同月19日に辛井あてに,稟議のために必要だとして,チャレンジャー1号の業務執行組合員の変更内容を問い合わせるメールを送信しており,同月になって上記変更を辛井に聞いたという丁沢の供述は信用できる。
d したがって,信用性の高い丁沢供述等によれば,丁沢が,被告人に対し,クラサワ・スキームに関し,ライブドア株式を売却する証券会社も香港にあるので資金移動に便利であること,同スキームの発覚を困難にすることを理由として,チャレンジャー1号の業務執行組合員を香港にある辛井の会社に変更する旨報告し,被告人がこれに特段の異議を述べず,了承したことが認められる。また,丁沢の供述によれば,上記業務執行組合員の変更を辛井から聞いたというのが平成16年1月初旬から中旬にかけてというのであるから,被告人に対する報告がなされた時期もそのころと認めることができる。
コ 間接事実⑫について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実⑫として,平成16年2月2日,未川が,ライブドア株式売却益として15億円の計上を見込んで連結経常利益の予想値を30億円と上方修正する案を作成し,被告人に対し,メールで「ライブドアの平成16年9月期の連結業績予想を連結売上高170億1700万円,連結営業利益32億4600万円,連結経常利益30億円に上方修正する案を作成した。主な修正要因は,従来に比べて有価証券の売上高を27億円,売上総利益を15億円増加させている。」旨報告したことを主張し,同事実は未川,丁沢及び乙川の各供述によって認めることができるとする。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,そもそも,間接事実⑫は被告人の犯意及び共謀を根拠づけるものではないなどと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
a 関係各証拠によれば,未川は,平成16年2月2日午後11時25分ころ,被告人,乙川及び庚崎あてに,下記⑬のメールを送信していることが認められる。

発信日時:平成16年2月2日午後11時25分
発信者:未川
受信者:被告人,乙川,庚崎
件名:業績見通し上方修正案
内容:第1四半期の実績を受けて 連結・単体ともに業績見通しの上方修正案を作成しました。
連結:
売上高:17017百万円(従来比+11.9%)
営業利益:3246百万円(従来比+47.6%)
経常利益:3000百万円(従来比+46.8%)
当期純利益:1762百万円(従来比+43.7%)
※主な修正要因としては,従来に比べて有価証券の売上高を27億円,売上総利益を15億円増加させています。
(以下省略)
b しかしながら,被告人が上記⑬のメールを受信している事実から,被告人が同メールを開披して読んだとまでは認められず,また,仮に,開披したとしても,前記第2で認定したとおり,修正要因となっている上記有価証券売上高等は,クラサワ及びウェッブとの株式交換を利用したライブドア株式の売却益ではあるが,上記⑬のメールの記載からはそのことをうかがうことはできず,同メールにより被告人がクラサワ・スキームを理解していたことを裏付けることはできない。
したがって,この事実から,被告人の犯意及び共謀を根拠づけることができないことは弁護人指摘のとおりである。
サ 間接事実⑬,⑭について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実⑬として,平成16年3月上旬ころ,丁沢が被告人に対し,「壬岡から,監査を通しやすくするためにチャレンジャー1号とライブドアファイナンスとの間にもう一つファンドを介在させた方がよいと言われた」旨を報告し,被告人はこれを了承し,EFC組合が組成されたこと,間接事実⑭として,同月上旬ころ,丁沢が被告人に対し,今後は被告人からの貸株を売却したVLMA1号とは別のダミーファンドでライブドア株式を売却する旨報告し,被告人はこれを了承し,VLMA2号が組成されたことを主張し,間接事実⑬については丁沢及び乙川の各供述により,間接事実⑭についても丁沢及び乙川の各供述によって,いずれも認めることができるとする。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,丁沢及び乙川の各供述は,自己矛盾,相互矛盾等が著しく,到底信用できず,間接事実⑬及び⑭は立証されていないと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
a 丁沢は,公判廷において,平成16年3月初旬から中旬ころ,被告人に対し,図面を書いて,壬岡から監査が通りやすいと言われたらしいとして,辛井のアドバイスを受けて,ライブドアファイナンスとチャレンジャー1号の間にもう一つ投資事業組合を介在させること,また,株式交換で発行されるライブドア株式について,VLMA1号については被告人からの貸株の件があるので,別の投資事業組合を組成することを報告したことを供述している。
また,乙川も,公判廷において,平成16年3月ころ,丁沢と一緒に被告人の席まで行き,丁沢が,被告人に対し,手書きの図面を使用して,辛井が壬岡からその方が監査が通りやすいと言われたからとして,辛井のアドバイスにより,ライブドアファイナンスとチャレンジャー1号の間にもう1つ投資事業組合を入れること,株式交換で発行されるライブドア株式について,VLMA1号は被告人からの貸株を売却するために使った投資事業組合なので,そこでまた大量の株が売却されると被告人が売却していると思われるので,別の「箱」(投資事業組合)を作ってそこを経由して売却すると報告したこと,被告人は「何でファンドなんて要るの。」などと言っていたが,乙川は「大丈夫じゃないですか。」などと答えたことを供述している。
b そこで,上記各供述の信用性を検討するに,乙川と丁沢の各供述は,各組合の組成理由といった主要部分について一致している上,丁沢が手書きの図面を使って説明したなど特徴的な点においても一致しており,相互にその信用性を裏付けている。
さらに,前記第2で認定したとおり,クラサワ・スキームを知った壬岡は,平成16年2月ころ,辛井に対し,このままでは監査法人が困ることを指摘し,その結果,同年3月中旬ころ,EFC組合が日付をさかのぼらせて平成15年11月1日付けで組成されている事実が認められ,丁沢及び乙川の上記各供述はこの事実に符合している。加えて,関係各証拠によれば,EFC組合は,ライブドアも組合員となっており,その組合契約の締結には被告人の決裁も必要と認められるから,丁沢が事前に同組合の組成を被告人に報告するのが自然であることなどの事情を併せ考えると,丁沢及び乙川の上記各供述は信用性に富むものであると認められる。
c 弁護人は,丁沢供述について,①主尋問においては,自分が図面を書いて被告人に説明したと明確に供述しながら,反対尋問では,被告人に説明したのが丁沢なのか乙川なのか断言できないと供述するなど,供述が変遷していること,②丁沢は自分が書いたという図面を再現できないと供述していることなどから,信用できないと主張する。
しかし,①については,丁沢は,主尋問において,誰が説明をしたのか特段明示をせずに供述しており,反対尋問でも,当初「説明したという記憶です。」などと同様に答えていたところ,弁護人から,説明をしたのは丁沢と乙川のどちらかなどと問われたので,「ちょっと,はっきり覚えてないですけれども,・・・いずれかが説明したと。」,「断言できるほどの明確なものはないですね。」と答えているのであって,供述が変遷しているとまではいえない。また,②については,丁沢は「全く同じものをと言われると自信がないです。」と供述しているのであって,手書きをしたという図面を忠実に再現できなくても,不自然ではない。
また,弁護人は,乙川供述について,①丁沢が説明時に書いたという図面を取調べにおいて再現した旨供述しているところ,同図面ではHSIが香港の会社として書かれているが,HSIは日本の会社であり,丁沢がこのような図面を書くはずがないこと,②乙川は反対尋問において丁沢のノートに書いてあったという図面を再現しているが,そのような図面は丁沢のノートにはないことを指摘して,信用できないと主張する。
①については,確かに,乙川が再現したという図面は,点線で区切られており,HSIは,チャレンジャー1号,VLMA2号とともに,香港側に書かれてはいるが,その記載の趣旨は明らかでなく,HSIを香港の会社としているのかどうかも不明であって,弁護人の主張はその前提を欠く。②については,丁沢は,図面を不要となった用紙の裏か何かに書いた旨供述しており,丁沢のノートに書いてあったというのは乙川の記憶違いという可能性もあるから,丁沢のノートに上記図面が記載されていないことのみをもって,乙川の供述が信用できないということはできない。
さらに,弁護人は,丁沢は,被告人が丁沢らの席に来たときに説明したと供述しているのに対し,乙川は,丁沢が一人では行きたくないと言ったから一緒に被告人の席に行って説明をしたと供述するなど,両者の供述が一致しておらず,不自然極まりないと主張する。しかしながら,被告人に対する報告は,本件に関する事項も含めて多数回存在すると推認できるところ,弁護人が主張するような細部にわたる事項についての供述が一致していなかったとしても,その供述の信用性が損なわれるものでもない。
d したがって,信用性の高い丁沢及び乙川の各供述等によれば,丁沢が,平成16年3月初旬から中旬ころ,被告人に対し,壬岡から監査が通りやすいと言われて,ライブドアファイナンスとチャレンジャー1号の間にEFC組合を介在させること,株式交換で発行されるライブドア株式について,VLMA1号は被告人からの貸株を売却しているので,別途投資事業組合(VLMA2号)を組成して売却することを報告し,被告人がこれに特段の異議を述べず,了承したことが認められる。
そして,EFC組合組成の報告は,被告人が,クラサワ・スキームについて,監査のためにさらに投資事業組合を介在させる必要があること,すなわち,そのままでは監査で問題となり得ることを認識したことを推認させるものである。また,VLMA2号組成についての報告は,被告人に対して,クラサワ・スキームではVLMA1号が被告人からの貸株を売却するとの報告がされていたことを推認させるものである。
シ 間接事実⑮について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実⑮として,平成16年3月24日,丁沢が,被告人に対し,メールで,同年9月期第2四半期のライブドア株式の売却状況について,66万8000株を30億7206万円で売却し,21億8376万2128円の売却益が出ている旨報告したことを主張し,同事実は,上記メールに加えて,丁沢及び乙川の各供述によって認めることができるとする。
(イ) 弁護人の主張
これに対して,弁護人は,被告人が丁沢の上記メールを読んだことは立証されておらず,仮に読んだとしてもその記載からライブドア株式の売却益と認識するのは困難であるから,間接事実⑮は立証されていないと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
a 関係各証拠によると,丁沢が,平成16年3月24日午後9時36分ころ,被告人,乙川及び庚崎に対して,下記⑭のメールを送信していることが認められる。

発信日時:平成16年3月24日午後9時36分
発信者:丁沢
受信者:被告人,乙川,庚崎
件名:ファンド保有株売却額概算
内容:M&Aチャレンジャーファンド保有株の第2四半期の売却額等の概算の数字です。
気持ちよいです!
イッてください!
日付 単価 株数 売却額 利益
3月18日 4100 80000 328000000 221617021
3月19日 4038 200000 807600000 541642553
3月22日 4200 120000 504000000 344425532
3月23日 4800 50000 240000000 173510638
3月24日 5470 218000 1192460000 902566383
小計 668000 3072060000 2183762128
残株数 262000株
上記⑭のメールについては,被告人がこれを受信していることは認められるが,被告人がこれを受信したとの事実から,被告人がその内容を読んだとまで推認することはできない。
b 丁沢は,上記⑭のメールに対し,被告人から「気持ちいいですね。」とか「すごいですね。」といった内容の返信メールが送信されてきて,また,口頭でも,上記返信メールと同様の話があったとも供述する。
しかしながら,上記⑭メールに対する返信のメールを被告人が送信した事実はなく,この点に関する丁沢の供述は信用できない。また,返信メールについての丁沢の供述が信用できない以上,それと同様の話が口頭であったとする同人の供述も信用できないといわざるを得ない。
c 弁護人は,丁沢は明らかに事実と異なる供述をしており,これは,同人の供述全般の信用性がないことを示すものであると主張する。
しかしながら,丁沢の供述によっても,被告人が返信した内容というのは,「気持ちいいですね。」とか「すごいですね。」という単なる感想であって,具体性に欠け,特段の重要性を持つ内容ではない。また,メールの送受信をすれば,双方のコンピュータにデータが残るものであり,そのことは当然丁沢も認識していたものと推認できるところ,客観的なデータによる裏付けのない状態で,丁沢があえて虚偽の供述をすることは考えにくい。以上によれば,被告人から返信メールの送信を受けるなどしたとの丁沢の供述について,同人があえて虚偽の供述をしたとまでは認められず,同供述によって,丁沢の供述全体の信用性が損なわれるものではない。
d したがって,被告人が上記⑭のメールの内容を読んだとは認められない。
もっとも,上記⑭のメールは,クラサワ及びウェッブとの株式交換で発行されたライブドア株式の売却について報告されたものであるところ,売却した株式数,売却金額,利益等は書かれているが,チャレンジャー1号で保有していた株式を売却したとの説明がされているのみで,その取引の内容や売却した株式の銘柄さえ記載されておらず,受信者が既に詳細を承知していることを前提とした記載内容である。
また,丁沢は,上記⑭メールを,被告人,乙川及び庚崎の3名にだけ送信しているところ,関係各証拠によれば,被告人はライブドアの代表取締役社長でライブドア・グループの統括者であり,乙川は同社の最高財務責任者の肩書きを有し,株式交換を利用したライブドア株式売却益の連結売上計上のスキームを作った当事者であり,そして,庚崎は,当時,同社経営企画管理本部担当執行役員副社長で,投資家向け広報活動業務等を担当しており,クラサワ・スキームで被告人からの貸株手続を担当し,同スキームについて,丁沢らから一応の説明を受けていたものである。すると,丁沢は,クラサワ及びウェッブとの株式交換を利用したライブドア株式売却益の連結売上計上のスキームを理解しており,かつ,同スキームにより多額の利益が生じたことに関心のある者に対して,上記メールを送信したものと推認できる。
ス 小括
(ア) 故意の内容
虚偽有価証券報告書の提出罪における故意が成立するためには,提出に係る有価証券報告書に重要な事項に関する虚偽の記載があることの認識,すなわち,計上することが認められない何がしかの売上げが含まれていることの認識で足り,その具体的な数額等の認識は不要と解される。本件では,連結経常利益50億3421万1000円が虚偽であるか否かが争われ,この点に関する認識の有無が問題となる。そして,前記のとおり,本件有価証券報告書は,売上計上の認められないライブドア株式の売却益37億6699万6000円並びにキューズ・ネット及びロイヤル信販に対する連結売上げ合計15億8000万円を売上高に含めるなどして上記連結経常利益とした点について虚偽があるところ,上記各売上げのいずれかに,計上の認められない売上げが含まれていることを認識してさえいれば,故意に欠けることにはならないのである。
(イ) 連結経常利益がライブドア株式売却益を前提としていることの認識
前記認定の事実によれば,被告人は,辛井から,平成15年10月下旬ころ,変更後のクラサワ・スキームについて,辛井の組成する投資事業組合が被告人から貸株を受けたライブドア株式を売却すること,株式交換での株価と当時の時価との差額で利益が生じ,同売却益をライブドアファイナンスで収益計上することなどの説明を受け,また,ライブドアファイナンスがライブドアの連結子会社であることは被告人も当然認識していたものであるから,同スキームが,上記ライブドア株式売却益をライブドアファイナンスで収益計上し,ライブドアの連結決算において,この売却益を売上計上することを目的として作られたものであると認識したことは明らかである。
そして,被告人は,同年11月10日,クラサワ・スキームによる利益を前提として,ライブドアの平成16年9月期の連結経常利益の予想値を20億円とすることを指示しているのであるから,ライブドアが,クラサワ・スキームによって発生したライブドア株式の売却益を,同年9月期の連結決算において,売上げとして計上する予定であることを認識していたことも認められる。すると,特段の事情がない限り,その当初の予算に基づいてライブドア株式の売却益が売上計上されることは予想できるところであり,また,被告人は,平成15年12月には,丁沢から,貸株分のライブドア株式が約10億円で売却されたとの報告を受け,実際にクラサワ・スキームによりライブドア株式の売却益が発生していることを認識しているのである。さらに,被告人は,同月,乙川らから,ウェッブを株式交換の方法により買収するに当たっても,クラサワと同様のスキームによることの報告を受けて,その旨認識していたものである。
そして,前記第2で認定したとおり,被告人は,平成16年11月18日開催の取締役会で,連結経常利益を約50億3421万1000円とする連結損益計算書に基づき同年9月期の決算を承認しているが,その際,上記連結経常利益に,上記ライブドア株式の売却益が含まれていることを認識していたということができる。
(ウ) ライブドア株式の売却が実質的にはライブドアファイナンスによって行われたことの認識
確かに,上記ライブドア株式の売却は,ライブドアファイナンスが直接行ったものではなく,投資事業組合の名義で行われ,ライブドアファイナンスでは同組合からの分配金として計上されており,また,関係各証拠によっても,被告人が,前記2(争点⑤)で判示したような各投資事業組合の実態の詳細を認識していたとは認められない。
しかしながら,クラサワ・スキームはそもそもライブドアによるクラサワの買収資金を捻出するために考案されたスキームであり,最初のスキームでは,ライブドアファイナンスがライブドア株式を売却することとなっていたものであって,被告人もそのことは認識していた。そして,その後,クラサワ・スキームは,ライブドアファイナンスではなく,辛井の組成する投資事業組合(チャレンジャー1号)でライブドア株式を売却する形に変更されているが,クラサワの買収資金を捻出するという当初の目的が失われたものではない。また,前記のとおり,変更後のスキームは,ライブドア株式の売却益を最終的にはライブドアの連結売上げに計上することを目的としていたのであって,被告人もそのことを認識していたのである。したがって,被告人は,ライブドア株式の売却が投資事業組合(チャレンジャー1号)によって行われるが,その組合はライブドア株式を売却して,その売却益をライブドアファイナンスに還流させるための存在であることを認識していたものと推認できる。
しかも,クラサワの買収資金,すなわち,クラサワの株主から株式交換で発行されるライブドア株式を買い取る価格を8億円に固定したことから,ライブドアにおいて株式交換における株価を時価よりも低く設定することにより,ライブドア株式の株数を時価に比して過大に発行させてこれを取得,売却することができるのである。そして,上記スキームで,売却するのは被告人からの貸株ではあるが,貸株を利用するのは,株式交換によって発行される株式を売却することによる株価の下落リスクを回避するためで,後に発行される株式で貸株を返還することとなっていたのであるから,経済的実態としては,株式交換で発行されるライブドア株式を時期を早めて売却するのと変わるところはないのである。したがって,クラサワ・スキームによりライブドア株式の売却益をライブドアの連結売上げに計上することは,いわば,ライブドアが新株を発行して,その払込金を売上げに計上しようとしているのと実質的に変わりなく,このことは,被告人も前記説明等から認識していたものといえる。
さらに,クラサワ・スキームにはその後複数の投資事業組合が介在させられているところ,被告人は,丁沢から,平成15年11月に,当初売却を予定していた投資事業組合(チャレンジャー1号)でライブドア株式を売却すると辛井のインサイダー取引規制に抵触するおそれがあるとして,別途組成する投資事業組合(VLMA1号)で貸株分のライブドア株式を売却すること,平成16年3月には,監査を通りやすくするためにライブドアファイナンスとチャレンジャー1号との間にEFC組合を介在させること,VLMA1号は貸株分のライブドア株式を売却しているので,株式交換で発行されるライブドア株式は別途組成する投資事業組合(VLMA2号)で売却することの報告をそれぞれ受け,その旨認識していたもので,上記各組合が,インサイダー取引規制の回避とか,監査を通りやすくするためなど,投資事業組合の本来の組成目的とは別の目的で組成されたことを認識していたものと推認できる。
そして,前記のとおり,被告人は,クラサワ・スキームによって,実際にライブドア株式が売却され,それがライブドアファイナンスの売上げとして計上され,ライブドアの連結売上げにも計上されたことを認識したものである。
以上によれば,被告人は,上記ライブドア株式の売却が,投資事業組合名義でなされてはいるが,実質的にはライブドアファイナンスが売却したものと認識していたことを認めることができ,同売却益について,売上計上が許されないものであることを認識していたものということができる。
(エ) まとめ
ライブドアはその発行する株式を東証マザーズ市場に上場しているから,有価証券報告書の提出が義務づけられており(証券取引法24条1項),売上計上の許されないライブドア株式売却益を連結売上高に含めれば,それを前提とする連結経常利益を記載した連結損益計算書を掲載した有価証券報告書が提出されることになることは,被告人をはじめとするライブドア及びライブドアファイナンスの役員,従業員は当然認識していたものと認められる。
したがって,被告人は,遅くとも,上記連結経常利益が上記ライブドア株式の売却益を前提としていることを認識したと認められる平成16年11月18日開催の取締役会までには,重要な事項につき虚偽の記載のある本件有価証券報告書を提出することを認識,認容したものであって,また,同報告書を提出することにつき乙川らとの間で共謀が成立したものと認めるのが相当である。
(3) 架空売上げの連結売上計上について
ア  ライブドアが平成16年9月期に計上したキューズ・ネット及びロイヤル信販に対する連結売上げ合計15億8000万円のうち,1億0500万円はVCJのキューズ・ネットに対する売上げであるところ,後記5で判示するとおり,同売上げは架空売上げと認められ,さらに,後記6(3)で判示するとおり,被告人は,遅くとも,同年10月25日のVCJ取締役会までには,VCJが,第3四半期通期において,上記架空売上げを前提とする売上高,営業利益等を計上したことを認識したものである。
そして,VCJはライブドアの子会社であり,その売上高等がライブドアの連結売上高に反映されることは,被告人も当然認識していたものと認められるから,この点からも,被告人は,遅くとも上記取締役会までに,VCJの上記架空売上げを前提とする虚偽の連結経常利益が記載された本件有価証券報告書を提出することを認識,認容し,かつ,同報告書を提出することにつき乙川らとの間で共謀が成立したものと認められる。
そこで,以下は,その余のライブドア及びEXマーケティングの架空売上げ14億7500万円の連結売上計上について,被告人の犯意及び共謀の有無を検討することとする。
そして,検察官は,架空売上げの連結売上計上についての被告人の犯意及び共謀の根拠として,以下の間接事実を主張するので,順次検討する。
イ 間接事実①について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実①として,平成16年8月下旬ころ,乙川が被告人に対し,公表した連結経常利益の予想値50億円を達成するのは無理であり,十数億円の利益が足りないので,キューズ・ネットとロイヤル信販に対する架空売上げを計上してはどうかとの提案を行ったところ,被告人が「やりきるしかない。」旨述べて架空売上計上を指示したことを主張し,同事実は乙川及び庚崎の各供述によって認められるとする。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,①平成16年8月下旬の段階では,連結経常利益の予想値50億円は達成可能と考えられていたこと,②乙川が,被告人にその供述どおりの発言をしたとしても,乙川はキューズ・ネット等からの発注が確実に実作業を伴わない架空発注になるとは認識していなかったのであるから,その提案を受けた被告人が架空発注と認識することは不可能であること,③乙川は,「8月終わりころ,被告人に14億ないし15億不足するという話をした。」と供述しているところ,乙川は同年8月下旬の段階では不足額を認識していなかったこと,④乙川の供述は主尋問と反対尋問とで大きく食い違っていること,⑤庚崎の検察官調書の内容は,まだ決算期まで1か月以上残っている同年8月下旬の段階で,架空売上げを提案するというもので,極めて不自然・不合理であって信用できないことから,間接事実①は立証できていないと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
a 乙川は,公判廷において,平成16年8月下旬ころ,ライブドアの経営企画管理本部で,庚崎と一緒に,被告人に報告をしたこと,乙川が,被告人に「インタートレードとかイーバンクとかやっても,まだ足りないんですよね。十四,五億足りません。」などと言うと,被告人が「何かないの。もっと上げるものないの。」と言っていたこと,そして,乙川が「キューズ,ロイヤルから売上げつければ何とかなると思うんですよね。」と言うと,被告人が神妙な顔つきで「やるしかないでしょ,やり切るしかないでしょ。」と答えたこと,また,被告人から「監査,大丈夫。」と聞かれたので,乙川は「しっかり書類整えて対応します。」と返答したことを供述している。
b そこで,上記供述の信用性について検討する。
(a) 庚崎は,検察官調書(甲183)において,平成16年8月下旬の会議の後,会議室に被告人,乙川及び庚崎が残った際に,乙川が,被告人に対し,「キューズとロイヤルを使って売上げを計上します。」というような報告をし,被告人が渋い顔をして「うーん。」などと言った後に,「やり切るしかないよね。」と応じていたこと,同年9月期も残り約1か月で,実体の伴った売上げを計上することは難しくなっていたことから,乙川が言っていたことはキューズ・ネット及びロイヤル信販に対して実体の伴わない架空の売上げを計上することだと分かり,被告人もそのことを分かったからこそ渋い顔をしたものと思ったことなどを供述している。
後記判示のとおり,関係各証拠によると,庚崎は,平成16年9月8日ころ,経営企画管理本部の戊原B介が起案した同年7月から同年9月までの間のキューズ・ネットに対する広告プロモーション契約(月額4500万円)の契約締結稟議書に担当執行役員として決裁し,また,同年10月7日ころ,戊原B介が起案した同年7月から同年9月までの間のキューズ・ネットに対する①ネットワークコンサルティング並びに監視,機器の保守及びメンテナンスの業務委託契約書(合計1億3000万円),②コンサルティング及びサイト設計の業務委託契約書(合計1億8000万円),③マーケティング及びコンサルティング並びに広告プロモーションの業務委託契約書(合計2億1000万円)の各契約締結稟議書に担当役員として決裁して,被告人に稟議を回し,社長としての決裁を得ようとしていたものであり,この事実は弁護人においても争っていないところである。このように,庚崎は,架空売上げに係る契約締結稟議書に担当執行役員として決裁をしており,しかも,同稟議書は,担当部署ではない経営企画管理本部が申請し,契約期間が終了した後に契約締結の承認を求める内容でもあるから,被告人がその異常性に気づく可能性があると認識していたものと考えられる。庚崎があえてこのような契約締結稟議書に決裁し,被告人の稟議に回していることからすると,庚崎は,被告人において,架空売上げを計上することを承知しているものと認識していたと推認できる。さらに,関係各証拠によると,庚崎が,同年11月上旬ないし中旬ころ,被告人に対し,会計士との面接結果を報告し,「社長,このままでは経常利益が十数億円くらい減ることになるかもしれません。」,「証拠となる書類はないのでこれから作らせます。」などと言ったことが認められる。このように,庚崎が,被告人に対して逡巡なく架空売上げの報告を行ったり,その責任の所在を解明することなく報告していること自体,庚崎が上記のような認識であったことを裏付けるものである。
庚崎の検察官調書は,上記推認事実と符合するものであり,また,その供述記載も,被告人の供述内容や表情などについて具体的で,迫真性をもって供述されているのであるから,信用性が高いということができる。
なお,弁護人は,庚崎の検察官調書について,まだ決算期まで1か月以上残っている同年8月下旬の段階において,架空売上げの提案をすること自体が極めて不自然・不合理であって信用できないと主張する。しかしながら,前記第2認定のとおり,この時点で,同年9月期の連結経常利益予想値50億円に約21億円も不足していたのであるから,架空売上げの提案をすること自体が極めて不自然・不合理であるとはいえない。
そして,乙川の上記供述は,乙川が被告人に対し,キューズ・ネット及びロイヤル信販に対する売上げを計上することを提案したこと,それに対して,被告人が「やり切るしかない。」などとこれを了承したことなど,主要な部分で信用性の高い庚崎の検察官調書の供述記載と一致している。
(b) 次に,前記第2で認定した事実によれば,ライブドアの平成16年9月期第3四半期通期(平成15年10月1日から平成16年6月30日まで)の連結経常利益が約34億円であったところ,同年7月の連結経常損益が約3億7700万円の赤字で,同年8月も約1億7700万円の赤字となると予想されたため,同月時点では,連結経常利益予想値50億円を達成するには,経常利益が約21億円不足していたことが認められ,乙川の上記供述は,当時のライブドアの財政状況と整合している。
(c) そして,関係各証拠によれば,当時,売却が検討されていたイーバンク株式については,平成16年8月4日のライブドアファイナンス定例会議で,1株9万2000円での購入の申込みがあり,その場合の利益が約8億円などと報告されてはいるが,同株式を譲渡するにはイーバンクの取締役会の承認が必要であるところ,同社は他の譲渡先を予定しており,交渉は難航すると見込まれていたことが認められ,乙川が,イーバンク株式の売却も模索したものの,結局,十四,五億円の不足があるとする点で整合しているのである。
(d) 関係各証拠によると,インタートレードの株式上場に伴い同株式を保有する投資事業組合に係るライブドアファイナンスの出資持分の売却も検討されたが,同持分は平成15年9月期に利益の先取りをするため,簿価ではなく利益分を乗せた価格でHSIが出資者となっている投資事業組合に相対取引で売却し,翌期に同じ金額で買い戻しているため,簿価が実質的に上がってしまっており,売却しても利益が見込めなかったこと,インタートレードが株式上場するのは平成16年9月16日で,同年9月期末まで2週間程度しかないことが認められ,被告人に「インタートレードとかイーバンクとかやっても,まだ足りないんですよね。十四,五億足りません。」と言ったとする乙川の供述は,当時の客観的な状況と符合する。
この点,弁護人は,乙川は,同年9月24日,ライブドアファイナンスの従業員に対し,期末賞与につき,インタートレード株が予定どおり売却できなかったため通知した金額よりも35パーセント減額する旨通知していること,賞与が全部で1億7300万円になること,この金額及びライブドアファイナンスにおいては賞与は利益の10パーセントとされていることを前提に計算すると,乙川はインタートレード株式で約9億3000万円の利益が出ると見込んでいたと推認されることなどを指摘して,乙川供述は信用できないと主張する。
確かに,関係各証拠によれば,乙川が,同年9月24日,ライブドアファイナンスの従業員に対し,インタートレード株が予定どおりに売却できなかったことを理由に,期末賞与を通知金額から35パーセント減額する旨メールで通知していること,その結果支払われた期末賞与の総額が1億7300万円であったこと,ライブドアファイナンスでは賞与は利益の10パーセントであったことが認められる。しかしながら,乙川がインタートレード関連の利益を前提に期末賞与の金額を決めて,それを通知していたとしても,そのことから直ちに,乙川が同年8月下旬の段階で,ライブドアの連結経常利益の予想値50億円が達成できるか否かの判断をする際に,同利益を見込んでいたとはいえない。
(e) 以上によれば,乙川の上記供述は信用できる。
c 弁護人は,①乙川は,「8月終わりころ,被告人に14億ないし15億不足するという話をした。」と供述しているところ,乙川は平成16年8月下旬の段階では不足額を認識していなかったこと,②十四,五億円不足するとしながら,同年9月9日のメディア事業部に対する発注がわずか1億3500万円にとどまっていること,③同年9月9日の発注に関する乙川の供述は主尋問と反対尋問とで大きく食い違っていることから,乙川の供述は信用できないと主張する。
しかしながら,①については,乙川が,反対尋問で,「明確な数字」が頭になかったのかと質問されて,「ありません。」と供述している点を捉えて,弁護人は乙川が不足額を認識していないと指摘するが,その時点では,期末まで約1か月あるから,不足額が見込みの状態であるのは当然であって,主尋問における「十四,五億足りません。」との供述と何ら矛盾するものではない。
②については,まず,一番赤字が大きく,赤字になることが確実なメディア事業部について架空売上げを計上し,その他の事業部については,不足額が確定してから計上したとしても,不自然ではない。また,金額の点も,架空売上げだからといっていくら計上してもよいというわけではなく,各事業部にそれなりに振り分けているものと推認できるので,メディア事業部の売上げが1億3500万円だからといって,不自然とはいえない。
③については,乙川は,反対尋問で,メディア事業部に対する発注が1億3500万円となった理由について分からない旨答えているところ,主尋問では,売上げを計上する順番について,一番赤字の大きいメディア事業部からと供述しているだけで,特段,矛盾はしていない。
d したがって,信用できる乙川の供述によれば,乙川が,平成16年8月下旬ころ,被告人に対し,同年9月期の連結経常利益予想値50億円の達成には,イーバンクやインタートレード関連の利益を考慮しても,十四,五億円が不足する見込みであるので,キューズ・ネット及びロイヤル信販に対する架空売上げを計上する旨提案し,被告人もこれを了承した事実が認められる。
なお,弁護人は,乙川が,被告人に前記供述のとおりの発言をしたとしても,乙川はキューズ・ネット等からの発注が確実に実作業を伴わない架空発注になるとは認識していなかったのであるから,その提案を受けた被告人が架空発注と認識することは不可能であると主張する。
確かに,乙川は,「金額ありきの発注ですから,場合によっては,実体が伴わない可能性もある。ただ,まあ,8月の段階では,やれるかなとか,ちょっと思ったりはしましたけど。」などと供述しているものの,丁沢が,同年8月下旬から同年9月上旬ころ,乙川から,キューズ・ネット及びロイヤル信販の現預金を使って,ライブドアに利益の付け替えを行うといった内容の話を聞いていること,辛岡も,乙川から,ライブドアの利益が足りないとしてロイヤル信販がライブドアに約4億円を発注したことにして欲しいと頼まれていることからすると,乙川がキューズ・ネット及びロイヤル信販からの発注について,その根拠となる作業を実際に行うことを前提とする行動をとったものとは認められない。
よって,乙川は,前記発言をした際に,実作業を行うことを前提としていなかったものと認められるから,弁護人の主張はその前提を欠く。
ウ 間接事実②,⑩について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実②として,被告人が,平成16年9月8日ころ,経営企画管理本部の戊原B介が起案した同年7月から同年9月までの間のキューズ・ネットに対する月額4500万円の広告プロモーション契約の契約締結稟議書を決裁したこと,間接事実⑩として,被告人が,同年10月7日ころ,戊原B介が起案したキューズ・ネットに対する 4000万円のコンサルティング並びに9000万円の監視,機器の保守及びメンテナンスの業務委託契約書, 1億2000万円のコンサルティング及び6000万円の設計の業務委託契約書, 1億2000万円のマーケティング及びコンサルティング並びに9000万円の広告プロモーションの業務委託契約書の各契約締結稟議書を決裁したことを主張し,これらの事実はいずれも庚崎供述及び各契約締結稟議書によって認められるとする。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,被告人が上記各契約締結稟議書を決裁したことは認めるが,顧問弁護士の承認があれば基本的にそのまま決裁するなどしており,間接事実②及び⑩は,被告人の犯意及び共謀を認定する間接事実とはならない旨主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
a 前記第2で認定した事実によれば,キューズ・ネットの元従業員で,ライブドアの経営企画管理本部に所属していた戊原B介は,平成16年9月8日付けでメディア事業部の売上げに係る同年7月1日から同年9月30日までの間のキューズ・ネットに対する広告プロモーション契約(月額4500万円)の契約締結稟議書を起案して,稟議の申請をし,同稟議は経営企画管理本部の担当執行役員であった庚崎が決裁した上,そのころ,被告人が決裁していることが認められ,また,戊原B介は,同年10月7日付けでいずれも同年7月1日から同年9月30日までの間のキューズ・ネットに対する①ネットワーク事業部での売上げに係るネットワークコンサルティング並びに監視,機器の保守及びメンテナンスの業務委託契約書(3か月間の合計1億3000万円),②コンサルティング事業部に係るコンサルティング及びサイト設計の業務委託契約書(3か月間の合計1億8000万円),③モバイル事業部での売上げに係るマーケティング及びコンサルティング並びに広告プロモーションの業務委託契約書(3か月間の合計2億1000万円)の各契約締結稟議書を起案して,稟議の申請をし,同稟議も庚崎が決裁した上,そのころ,被告人が決裁していることが認められる。
b 庚崎は,公判廷で,契約締結稟議書は,発注を受ける部門が稟議を申請し,その部門の担当執行役員が承認するのが通常である旨供述しているところ,同供述内容は,担当者が契約締結稟議書を起案して,担当執行役員の承認を経る旨の戊原B介の供述及びライブドアの職務権限一覧表の記載とも合致しており,信用できる。しかるに,上記各契約締結稟議書は,いずれも,各業務の担当部署ではない経営企画管理本部の戊原B介が稟議書を起案して稟議の申請をしており,また,業務担当ではない経営企画管理本部の担当執行役員である庚崎が承認をしている。
しかも,平成16年10月7日付けの各契約締結稟議書は,契約期間が終了してから契約締結稟議の申請をしているものである。なお,被告人は,契約期間の終了後に契約締結稟議を申請するということは,特に不自然ではない旨供述する。しかしながら,同供述内容は,当時,ライブドアが株式を上場しており,監査法人等の監査証明が求められることなどからしても不自然である上,被告人自身,自分が営業をやっていたころは契約書をほとんど作らなかったが,他人が営業をするようになってからは基本的に契約書を作成するように指示していたとも供述していることからしても,被告人の上記供述は,本件当時のこととしては,信用できない。
c もっとも,被告人が上記各契約締結稟議書を決裁した事実から,被告人が上記の事情に気づいていたとまで認めることはできないことは弁護人指摘のとおりである。したがって,前記のとおり,庚崎が上記各契約締結稟議を被告人に回すことを承認した事実が,庚崎の検察官調書の供述記載を裏付けるものではあるが,これを架空売上げの計上に関する被告人の犯意及び共謀を根拠づける間接事実とする検察官の主張は理由がないこととなる。
エ 間接事実⑥,⑧,⑨,⑫,⑬について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実⑥として,平成16年9月27日,被告人が,ライブドアのキューズ・ネットに対する, 同年7月から同年9月までの間の月額4500万円の広告プロモーション売上げ, 同年7月から同年9月までの間の月額3000万円のモバイルソリューション売上げ,同年7月から同年9月までの間の月額4000万円のモバイルマーケティング・コンサルティング売上げ, ネットワークコンサルティング売上げ4000万円,同年7月から同年9月までの間の月額3000万円のサーバー監視・保守メンテナンス売上げ, 同年7月から同年9月までの間の月額4000万円のウェブサイトコンサルティング売上げ,ウェブサイト設計売上げ6000万円,合計6億5500万円の売上計上を承認したこと,間接事実⑧として,同年9月29日,被告人が,ライブドアのロイヤル信販に対する, 同年7月から同年9月までの間の月額4000万円のモバイルマーケティング・コンサルティング売上げ, ネットワークコンサルティング売上げ2000万円, 同年8月及び同年9月の月額4000万円のウェブサイトコンサルティング売上げの計上を承認したこと,間接事実⑨として,同年10月3日,被告人が,ライブドアのロイヤル信販に対する広告プロモーション売上げ1億8000万円の売上計上を承認したこと,間接事実⑫として,同年10月14日,被告人が,ライブドアのロイヤル信販に対する合計3億8500万円の売上計上を承認したこと,間接事実⑬として,同年10月20日,被告人が,ライブドアのロイヤル信販に対する広告プロモーション売上げ3億1500万円の売上計上を承認したことを主張し,間接事実⑥,⑨及び⑬は辰上の供述等により,間接事実⑧及び⑫は丑葉H郎(甲83),寅波I介(甲84)及び卯口L吉(甲86)の検察官調書等によって,いずれも認められるとする。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,被告人が上記各売上げを決裁したこと自体は認めるが,その事実は,被告人の犯意及び共謀を認定する間接事実とはなり得ないと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
前記第2認定の事実によれば,検察官が主張するとおり,被告人が,各売上げを電子稟議システムにより決裁した事実が認められる。
そして,ロイヤル信販に対する売上げ合計4億円は,平成16年9月期が終了した同年10月になってから7億円に増額され,同年9月29日に決裁された合計2億2000万円の売上げは(間接事実⑧),3億8500万円に増額されて同年10月14日に決裁され(間接事実⑫),同月3日に決裁された1億8000万円の売上げは(間接事実⑨),3億1500万円に増額されて同月20日に決裁されている(間接事実⑬)。
しかしながら,被告人が各売上げを決裁した事実から,上記事情に気づいていたとまでは認められず,これを架空売上げの計上に関する被告人の犯意及び共謀を根拠づける間接事実とする検察官の主張は理由がない。
オ 間接事実⑦について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実⑦として,平成16年9月下旬ころ,乙川が被告人に対し,「ロイヤルから発注させる件ですけど,向こうが言うことをきかないみたいだから,社長を壬井さんから辛岡に替えようと思うんですけど。」などと報告し,被告人が了承したことを主張し,同事実は乙川の供述によって認められるとする。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,乙川が供述するような会話が被告人との間であったとしても,被告人に犯意があったとする間接事実とすることはできないこと,また,乙川の供述には信用性がないことを主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
a 乙川は,公判廷で,辛岡から,ロイヤル信販の社長である壬井が,ライブドアに対する発注を嫌だと言っているとの報告があったこと,壬井が社長を辞めるなどと言い出したので,辛岡と相談して,社長を辛岡に替えることとしたこと,被告人に対し「ロイヤル信販からの発注に関して,ロイヤル信販の社長が嫌だと言ってるんで,辛岡に社長を交替してやります。」と報告したこと,そして,それを聞いた被告人が「ふうん。そうなの。」などと言っていたことを供述している。
b そこで,上記供述の信用性について検討する。
関係各証拠によれば,壬井は,他の株主とともに,平成16年7月8日付けで,サルベージ1号に対し,ロイヤル信販の全株式を譲渡する旨の契約を締結しているが,その際,最長で同年10月31日まではサルベージ1号の求めに応じてロイヤル信販の代表取締役の地位を継続する旨の合意をし,実際,同年7月30日付けでロイヤル信販の全株式がサルベージ1号に譲渡された後も,代表取締役の地位に残ったこと,ロイヤル信販がライブドアに買収されるのが同年10月12日の予定であったところ,壬井は同年9月27日付けで代表取締役を辞任し,代わって辛岡が代表取締役に就任したこと,そして,同日,丁沢が,辛岡に対し,ライブドアに対する架空の費用計上を指示していることが認められる。
以上の経緯は,乙川の上記供述に符合するものであって,同供述の信用性は高いといえる。
c 弁護人は,壬井は被買収会社の社長で,いずれ退任することは既定の路線であったから,それが多少早まったとしても,わざわざ被告人に報告し,被告人の判断を仰がなければなければならないような事柄ではなく,乙川が被告人に壬井の交替を報告をし,その了解を得たというのは極めて不自然である旨主張する。
しかしながら,乙川は,ライブドアの連結経常利益の予想値50億円を達成するために,ロイヤル信販等から架空発注を行うことを企てていたところ,同社の代表取締役がそれを嫌がって辞任をすることとなったのであり,当初の予定に従って辞任したのとは訳が違うのであるから,それを被告人に報告しても不自然ではない。
d したがって,信用できる乙川の上記供述等によれば,乙川は,平成16年9月下旬ころ,被告人に対し,「ロイヤルから発注させる件ですけど,向こうが言うことをきかないみたいだから,社長を壬井さんから辛岡に替えようと思うんですけど。」などと報告し,被告人もそれを承知したことが認められる。
確かに,乙川の上記発言には,ロイヤル信販からの発注が架空であることを直接示す文言は含まれていない。
しかしながら,関係各証拠によれば,ロイヤル信販は,投資事業組合で買収済みで,ライブドアが株式交換により買収することを予定していた会社であり,被告人にも定例会議でその旨報告されていたところ,乙川の上記報告は,そのような会社の代表者がライブドア側の意向に従わず発注をしようとしないこと,そして,乙川がその代表者をライブドアの従業員に交替させてまで発注をさせようとしていることを内容とするものであって,正常な発注を前提としているものとは考えられない。
そして,乙川が被告人に対しそのような内容の報告をし,被告人もそれを受け入れているということは,乙川は,被告人がロイヤル信販に架空発注を行わせようとしていることを理解していると認識しており,被告人もこれを理解していたものと推認することができる。
カ 間接事実⑪について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実⑪として,平成16年10月上旬ころ,丁沢が被告人に対し,「キューズとロイヤルから付け替える件ですけど,経理処理と送金があらかた終わりました。」などと報告したことを主張し,同事実は丁沢の供述によって認められるとする。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,丁沢は,その報告の理由・趣旨・報告内容の主要部分について何も説明できておらず,そもそも,送金が済んだとか書類が整ったなどという実務的なことはわざわざ被告人に報告すべき事柄ではないのであり,丁沢の供述は極めて不自然であるから,間接事実⑪は立証されていないと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
a 丁沢は,公判廷において,平成16年10月初旬ころ,被告人に対し「キューズとロイヤルからの利益の付け替えの件ですけれども,契約書の作成やキャッシュの振り込みが完了しました。」と報告したこと,被告人は「ああ,そう。」というような反応であったことを供述している。
b そして,前記第2認定の事実によれば,平成16年9月末にキューズ・ネット及びロイヤル信販から資金移動がされており,上記供述は当時の客観的な状況と符合していること,上記報告は,単なる実務的な手続についての報告ではなく,ライブドアの連結経常利益予想値50億円の達成のため,キューズ・ネット及びロイヤル信販に対する売上げを計上しようとしていたところ,その手続があらかた終了した旨の報告であって,被告人にとっても関心のある事柄であると認められるので,丁沢がその旨報告するのは自然であることからすると,丁沢の上記供述は信用できる。
したがって,信用できる丁沢の上記供述等によれば,丁沢が,同年10月初旬ころ,被告人に対し,キューズ・ネット及びロイヤル信販からの利益の付け替えの件について,契約書の作成と現金振り込みが完了した旨報告し,被告人も特段の反応を示さなかったことが認められる。
c 以上によれば,被告人は「キューズ・ネット及びロイヤル信販からの利益の付け替えの件について」として,現金の振り込み等が完了した旨の丁沢の報告をそのまま受け入れており,この事実は,被告人がキューズ・ネット及びロイヤル信販に対する架空売上げを計上しようとしていることを認識していたことを推認させるものである。
キ 間接事実⑭について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実⑭として,平成16年11月上旬ないし中旬ころ,庚崎が被告人に対し,「社長,このままでは経常利益が十数億円くらい減ることになるかもしれません。」,「証拠となる書類はないのでこれから作らせます。」などと言って事後的な虚偽の証憑類作り等を報告し,被告人が,「頭痛いなあ。まあ,庚崎ちゃん,頑張って。」などと言って了承したことを主張し,同事実は庚崎の供述によって認められるとする。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,庚崎の供述によっても,間接事実⑭は認められないと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
a 庚崎は,公判廷で,平成16年11月上旬から中旬にかけて,被告人に対し,「社長,ロイヤル,キューズの件なんだけれども,監査法人から指摘があって,もしかしたら10億円ぐらい経常利益がショートするかもしれません。」と報告し,連結消去の問題と架空性の問題があるところ,架空性の問題については「私のほうで資料のほうを今手配しているからどうにかなると思います。」と言ったところ,被告人は少し苦しそうな表情を浮かべて「庚崎ちゃん頑張って。」と言っていたことを供述している。
b そこで,上記供述の信用性について検討する。
(a) 関係各証拠によると,庚崎は,港陽監査法人の会計士である辛田から,平成16年11月2日に下記⑮のメールを,同月4日に下記⑯のメールを各受信していることが認められる。

発信日時:平成16年11月2日午後4時16分
発信者:辛田
受信者:庚崎
CC:巳上,乙川
件名:連結決算に関しまして
内容:さて,今決算に関しまして御社で貴社で売上計上されている下記取引
キューズネットへの売上 税抜き 920百万円
ロイヤル信販への売上 税抜き 1100百万円
及び
連結子会社であるEXマーケティングからキューズネットへの売上 120百万円
以上つきましては売上計上が株式交換契約締結及以降のものでありかつ売上計上先が平成16年10月時点での子会社でありますので 実質連結子会社との取引になり 少なくとも 連結決算においては当該取引の消去をお願い致します。

発信日時:平成16年11月4日午前10時24分
発信者:辛田
受信者:乙川,庚崎
CC:巳上,丁沢
件名:Re:連結決算に関しまして
内容:現在 監査手続きを進めさせていただいておりますが 下記メールにて
キューズネットへの売上 税抜き 920百万円
ロイヤル信販への売上 税抜き 1100百万円
については 売上の内容 請求書 契約書等についてお願いをさせて頂いておりますが 今 現在 拝見させて頂けていない状況でございます。
(以下省略)
上記⑮のメールは,キューズ・ネット及びロイヤル信販に対する売上げについて,実質連結子会社との取引になるとして,連結消去するよう求めており,また,上記⑯のメールは,同売上げについてその取引の実在性を問題とするメールであって,監査法人の指摘を受けて被告人に連結消去の問題と架空性の問題がある旨報告したとする庚崎の供述を裏付けている。
(b) また,関係各証拠によれば,庚崎は,平成16年11月11日,被告人ほかをあて先として,下記⑰のメールを発信していることが認められる。

発信日時:平成16年11月11日午前11時31分
発信者:庚崎
受信者:卯波,被告人,乙川ら
件名:●重要●ロイヤル・キューズ
内容:月曜日の朝までのお願いです。
非常に重要ですのでご協力お願いします。
コンサル事業部
1.作業工程表
2.最終提案資料
・現状分析とどのようなサイトをつくればいいかが書かれているもの→リニューアル後のサイトと整合性をとってください
(中略)
以上,キューズ,ロイヤルの2社分お願いします。
上記⑰のメールは,キューズ・ネット及びロイヤル信販に対する売上げについて,発注を受けたコンサルティング事業部,モバイル事業部及びネットワーク事業部とも,作業工程表及び最終提案資料を作成していなかったため,当該決算期が終了して1か月以上も経過してから同資料の作成を指示するもので,当該売上げの根拠となる作業が行われていなかったことを強く疑わせる内容である。そして,上記メールは,件名に「重要」とあり,被告人にもCCではなくあて先(TO)として送信されているので,被告人がこれを読んだ可能性は高く,被告人もそれを否定するものではないが,被告人が上記⑰のメールを読んだと認定できるだけの証拠はない。
もっとも,上記⑰のメールの内容は,庚崎の上記供述と符合するものであって,その信用性を裏付けている。
(c) さらに,被告人も,庚崎から,監査法人から指摘を受けているので資料を作らせますと言われた旨供述していることからも,庚崎の上記供述は信用できるものといえる。
c なお,弁護人は,庚崎の供述を虚心坦懐に検討すれば,被告人に対する報告時の状況として,庚崎は,監査法人から架空性の問題を指摘されている旨報告したのではなく,金額が高すぎると言われている旨報告したものであると主張する。
しかしながら,庚崎の供述を仔細に見ると,庚崎は,主尋問において,検察官から,被告人に「連結消去の問題については報告しましたか。」と質問されたのに対して,架空性の問題についても報告した旨供述しているのである。庚崎が「架空性」という言葉自体を発したかどうかは不明であるが,それに続いて資料を作らせる旨の発言をしているのであるから,その趣旨の発言があったことは優に認められる。
また,庚崎は,反対尋問において,弁護人が指摘するとおり,被告人に対して,市場の一般的な取引価格よりも高い金額で受けていることが問題だと報告した旨の供述をしている。しかしながら,同供述は,辛田から送信を受けた上記⑮,⑯のメールの内容と一致しないこと,資料を作らせる旨の発言とつながらないこと,庚崎が,上記供述をする直前にも「実体があったかどうかについて話があるけれども」と言ったなどと,金額の相当性ではなく,架空性の問題を報告した旨供述していたことからすると,被告人に金額が一般的な取引価格よりも高い旨報告したとする庚崎の上記供述は信用できない。
以上によれば,弁護人の主張は採用できない。
d したがって,信用できる上記庚崎供述等によれば,庚崎が,平成16年11月上旬ないし中旬ころ,キューズ・ネット及びロイヤル信販に対する売上げに関して,被告人に対し,監査法人から指摘があって,約10億円経常利益が不足するかもしれないこと,連結消去の問題と架空性の問題があるが,架空性の問題については,庚崎の方で証憑類を作成させるのでどうにかなる旨報告したことが認められる。
そして,庚崎の供述等によっても,上記報告を受けた被告人が,庚崎を叱責等した事実は認められないから,被告人はキューズ・ネット及びロイヤル信販に対する売上げが架空売上げであることを認識していたと推認できるものである。
ク 小括
前記のとおり,被告人は,平成16年8月下旬ころ,乙川から,同年9月期の連結経常利益予想値50億円の達成に不足額が生じているとして,キューズ・ネット及びロイヤル信販に対する架空売上げを計上する旨提案を受け,その旨認識し,同年10月上旬ころ,丁沢から,上記架空売上げの計上について,現金振り込み等が完了した旨の報告を受けたものである。
そして,被告人は,同年11月18日開催の取締役会で,連結経常利益を約50億3421万1000円とする連結損益計算書に基づき同年9月期の決算を承認しているが,その際,上記連結経常利益に,上記架空売上げが含まれていることを認識していたということができる。
したがって,被告人は,遅くとも,上記取締役会までには,重要な事項につき虚偽の記載のある本件有価証券報告書を提出することを認識,認容したものであって,また,同報告書を提出することにつき乙川らとの間で共謀が成立したものと認めるのが相当である。
4  マネーライフ社との株式交換に関する平成16年10月25日及び同年11月9日のVCJの各公表が虚偽であるか否かについて(争点①)
(1) 株式交換比率について
ア 検察官の主張
検察官は,マネーライフ社との株式交換に関する平成16年10月25日及び同年11月9日のVCJの各公表が虚偽である根拠として,マネーライフ社の企業価値はせいぜい1億円であったが,VCJがライブドアファイナンスに支払うべき合併手数料1億5000万円及びVCJによる架空売上げのための利益付け替え分1億0500万円を,マネーライフ社の企業価値に上乗せして,同社の企業価値を約4億円と算定して株式交換比率が決定されたことを主張し,同事実は丙谷,乙川及び戊野の各供述によって認めることができるとする。
イ 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,①マネーライフ社の企業価値がせいぜい1億円であったとの事実が立証できていないこと,②乙川,丙谷及び戊野の3人がマネーライフ社の企業価値についてどのような考えでいようとも,マネーライフ社の企業価値が客観的に4億円と評価し得るのであれば,それを前提に株式交換比率を決定して開示を行っても,その開示内容が投資家の判断を誤らせるおそれはないのであるから,偽計を用いたことにはならず,本件では,マネーライフ社の企業価値を4億円と評価することが不当であったとは立証されていないこと,③企業買収における買収価格は相対で決まるものであるから,当事者が納得すれば他者がとやかく口を出す問題ではないことなどから,合併手数料等をマネーライフ社の企業価値に上乗せすることが不当な行為であるとする検察官の主張は失当であると主張する。
ウ 当裁判所の判断
(ア) 前記第2で認定したとおり,VCJは,マネーライフ社との株式交換に関して,TDnetにより,平成16年10月25日,株式交換比率が1対1である旨公表し,同年11月9日には,VCJの株式100分割に伴い,上記公表に係る株式交換比率を100(VCJ)対1(マネーライフ社)に訂正する旨公表している。
そして,前記第2で認定した事実及び関係各証拠によれば,株式交換比率を1対1に決定した経緯として,次の事実が認められる。
マネーライフ社の買収交渉を担当していたライブドアファイナンスの戊野は,同年3月,乙川及び丁沢とともに,マネーライフ社のデューデリジェンスを実施した。その結果,純資産価格では約3000万円の債務超過であるが,収益等を勘案して同社の企業価値を4000万円から5000万円程度と算定した。その後,同社の株主と交渉した結果,買収金額4200万円で合意するに至った。
その後,乙川は,マネーライフ社をライブドアファイナンスではなく,VLMA2号で買収することに決め,同年6月4日付けで,マネーライフ社の株主から同社の発行済株式全部をVLMA2号名義にて4200万円で買い取る旨の株式売買契約が締結された。
マネーライフ社は,同年7月3日,債務超過を解消するために3000万円の増資を行った。戊野は,VLMA2号名義でマネーライフ社を買収した後,同社の業務を管理していたが,同年8月初旬ころ,VCJの次期社長に内定していた丙谷に対し,VCJでマネーライフ社を1億5000万円で買収することを持ちかけ,丙谷が高すぎるとこれを断ったため,買収金額を1億円に減額した。
当時,VCJはライブドアファイナンスに対しEXマーケティングとの合併手数料1億5000万円を支払わなければならなかった。マネーライフ社をVCJに売却したい乙川と,上記手数料を現金で支払うことによりVCJの損益状況が悪化することを避けたい丙谷は,マネーライフ社の企業価値に上記手数料を上乗せして精算することを合意した。すなわち,マネーライフ社の企業価値を過大に評価し,VLMA2号が受け取るVCJ株式の株数を多くすることで,この株式を市場で売却し,その売却益をVLMA2号,チャレンジャー1号を介してライブドアファイナンスに還元することとしたのである。また,後記認定のとおり,乙川と丙谷は,同年9月中旬ころ,VCJでは第3四半期にキューズ・ネットに対する1億0500万円の架空売上げを計上することとなり,これに伴って移動する現金1億0500万円も,同様に,マネーライフ社の企業価値に上乗せすることとした。
乙川と丙谷は,同年9月末か10月初めころ,株式交換におけるマネーライフ社の企業価値について,本来の価値を1億円と評価し,これに前記合併手数料1億5000万円及びキューズ・ネットに対する売上分1億0500万円を加算し,さらに,株価変動によるライブドアファイナンスのリスク等を考慮して,4億円とした。戊野は,乙川から,マネーライフ社の企業価値を4億円とする株式交換比率算定書を作成するよう指示された。戊野は,他の評価方法ではその価格とすることが困難であることから,DCF法により,企業価値が4億円となるように経常利益及び伸び率を設定して,マネーライフ社の企業価値を約3億8878万円と算出し,株式交換比率を,VCJが1に対し,マネーライフ社が0.7499とした。同人がその結果を乙川に報告すると,乙川から,株式交換比率を1対1とするよう指示されたことから,今度は,マネーライフ社の企業価値は変えず,VCJ株式の評価期間を変えて,株式交換比率が1対0.9191(±10パーセントのぶれを考慮すると,0.8272~1.0111)となる株式交換比率算定報告書案を作成し,JMAMの代表取締役及び所属公認会計士の押印を得るなどして,JMAM名義の株式交換比率算定報告書(以下「本件株式交換比率算定報告書」という。)を完成させたことが認められる。
(イ) ところで,証券市場は公正で自由な市場でなければならず,不公正な行為による人為的な相場が作り出されてはならない。証券取引法において,風説の流布及び偽計が禁止されているのも(証券取引法158条),公正で自由な証券市場を維持して,投資家を保護するためであり,したがって,同条に規定する風説の流布及び偽計における虚偽といえるか否かは,投資家の判断を誤らせ,公正な相場の形成が阻害されるかどうかという観点で判断されなければならない。
そして,関係各証拠によれば,平成16年10月25日に公表された「株式交換による株式会社マネーライフ社の完全子会社化に関するお知らせ」と題する書面は,1項で株式交換による完全子会社化の目的,2項で株式交換の条件等,3項で株式交換の当事会社の概要,4項で株式交換後の状況が記載されており,このうち,2項の株式交換の条件等は,(1)で株式交換の日程,(2)で株式交換比率が記載されている。この2項の株式交換の条件等には注書きがあり,1株式の割当比率,2第三者機関による算定結果,算定方法及び算定根拠,3株式交換により発行する新株式数,4株式交換交付金,5配当起算日が記載されている。このように,2項中の(2)の株式交換比率の記載は「バリュークリックジャパン株式会社(完全親会社)1,株式会社マネーライフ社(完全子会社)1」となっているが,これは前記の注書きと一体となってその意味を伝えているのであって,2項の注書き2「第三者機関による算定結果,算定方法及び算定根拠」には,「第三者機関が以下の方法で算出した結果を踏まえ,両者間で協議のうえ,決定いたしました。」として,マネーライフ社の株価(企業価値)はDCF法で算出した旨公表し,公正な評価方法によって適正な交換比率が決められたことを公表しているのである。したがって,上記公表に接する投資家としては,上記株式交換比率は,公表された方法(DCF法)によって適正に算出されたマネーライフ社の企業価値を踏まえて決定されたものであることを信頼するのであるから,公表された株式交換比率が虚偽であるかは,客観的な企業価値を前提とする株式交換比率と異なっているか否かで判断されるものではなく,公表された方法によって適正に算出された企業価値を踏まえたものであるか否かで判断されることとなる。
しかるに,前記認定の事実によれば,上記株式交換比率1対1は,乙川らが,マネーライフ社の企業価値を実際は約1億円程度と評価していたにもかかわらず,同社の企業価値とは全く無関係なVCJのライブドアファイナンスに対する合併手数料1億5000万円及びキューズ・ネットに対する売上げ1億0500万円を上乗せするなどして,これを4億円と決め,その上乗せした価格を前提にして決定したものである。そして,1対1の株式交換比率を正当化する本件株式交換比率算定報告書はあるが,これは,戊野が,乙川の指示を受けて,DCF法を用い,企業価値が4億円となるように数値を操作したものにほかならない。
したがって,上記公表に係る株式交換比率1対1は,マネーライフ社の企業価値を公表されたDCF法によって適正に算出し,その結果を踏まえて決定した比率ではないのであるから,同社の企業価値が客観的に4億円と評価し得るものであるか否かにかかわらず,虚偽であるといわざるを得ない。
エ 弁護人の主張についての判断
弁護人は,企業買収における買収価格は相対で決まるものであるから,当事者が納得すれば他者がとやかく口を出す問題ではなく,合併手数料等をマネーライフ社の企業価値に上乗せしたことをあたかも不当な行為であるとする検察官の主張は失当であると主張する。
しかしながら,当事者間では買収価格をいくらに決めようとも基本的に自由であるのはそのとおりであるが,公表した評価方法が真実に反するのであるから虚偽となるものである。
(2) 算定機関について
ア 検察官の主張
検察官は,VCJとマネーライフ社との間の株式交換に関する平成16年10月25日の公表が虚偽である根拠として,本件株式交換比率算定報告書は,第三者機関ではなく,ライブドアファイナンスの従業員が作成したことを主張し,同事実は,乙川及び戊野の各供述並びに申川Q介の供述調書によって認めることができるとする。
イ 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,①確かに,本件株式交換比率算定報告書の原案は戊野が作成しているが,作成名義人であるJMAMの申川が,自分の意見に沿わない場合はその内容を訂正する権限を持ちながら,その内容を閲読し,何ら訂正する箇所がないと判断して,それに自己の意思により作成名義人として署名押印した以上,本件株式交換比率算定報告書は,作成名義人であるJMAMによって作成されたものと認められること,②検察官は,JMAMは株式交換比率については一切検討することなく,単に名義貸しをしたにすぎないのであるから,投資家を欺く虚偽に当たると主張するが,投資家は,株式交換比率を第三者機関が算定することに信頼をおくのではなく,株式交換比率が第三者機関も適正なものとして首肯していることを信頼するのであって,JMAMが本件株式交換比率算定報告書の内容を確認し,了承しているのであるから,株式交換比率は第三者機関が算定した結果を踏まえた旨を開示しても,その開示には投資者の信頼に背く意味での虚偽はないことから,検察官の主張は理由がないと主張する。
ウ 当裁判所の判断
前記第2で認定したとおり,VCJは,マネーライフ社との株式交換に関して,TDnetにより,平成16年10月25日,「株式交換比率については,第三者機関が以下の方法で算出した結果を踏まえ,両者間で協議のうえ,決定いたしました。」などと公表している。
そして,前判示のとおり,戊野が1対1の株式交換比率を正当化するような本件株式交換比率算定報告書案を作成しているところ,前記第2で認定した事実によれば,戊野は,JMAMの申川Q介に対し,本件株式交換比率算定報告書に押印するよう依頼し,同社では,形式面の確認をしたのみで,算定内容の正当性等については一切検討することなく,代表取締役及び所属公認会計士の各印を押印したことが認められる。
したがって,本件株式交換比率算定報告書はJMAMの作成名義とはなっているが,その実質的な作成者はライブドアファイナンスの従業員の戊野であると認められるから,株式交換比率は第三者機関が算出した結果を踏まえて決定した旨の上記公表内容は虚偽であるといわざるを得ない。
エ 弁護人の主張についての判断
前記のとおり,弁護人は,投資家が,株式交換比率を第三者機関が算定することに信頼をおくのではなく,株式交換比率が第三者機関も適正なものとして首肯しているということを信頼するのであって,JMAMが本件株式交換比率算定報告書の内容を確認し,了承しているのであるから,株式交換比率は第三者機関が算定した結果を踏まえた旨を開示しても,その開示には投資者の信頼に背く意味での虚偽はない旨主張する。
しかしながら,前判示のとおり,JMAMでは形式面の確認をしたのみで,算定内容の正当性等については一切検討していないのであるから,弁護人の主張はその前提を欠く。
(3) 小括
以上によれば,VCJが,マネーライフ社との株式交換に関して,平成16年10月25日に行った公表は,株式交換比率を1対1とする部分,及び同株式交換比率は第三者機関が算出した結果を踏まえて決定したとする部分について虚偽があるものである。また,同年11月9日の公表は,株式交換比率を1対1とする上記公表を前提に,その交換比率を訂正しているものであるから,先の公表に係る交換比率が虚偽である以上,それを訂正する公表も虚偽ということになる。
したがって,VCJが,マネーライフ社との株式交換に関して,同年10月25日及び同年11月9日に行った各公表は,虚偽の事実を公表したこととなり,証券取引法158条が禁止する偽計及び風説の流布に該当するものである。
5  平成16年12月期第3四半期の業績状況に関する同年11月12日のVCJの公表は虚偽であるか否かについて(争点②)
(1) 検察官の主張
検察官は,平成16年12月期第3四半期の業績状況に関する同年11月12日のVCJの公表が虚偽である根拠として,VCJは,同四半期において,キューズ・ネットに対する合計1億0500万円の売上げを計上したが,同売上げは架空であることを主張し,同事実は己原,丙谷,乙川及び辰口の各供述並びに卯波の供述調書及び供述によって認めることができるとする。
(2) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,VCJのキューズ・ネットに対する1億0500万円の売上げの一部については,実際に取引が行われていることは明らかであるところ,検察官はそれを特定できていないのであるから,1億0500万円全額につき架空と認定することはできず,検察官の主張する事実は立証されていないと主張する。
(3) 当裁判所の判断
ア 前記第2で認定したとおり,VCJは,平成16年12月期第3四半期通期(同年1月1日から同年9月30日まで)において,キューズ・ネットに対し,同年7月から同年9月までの3か月間に,広告売上げ(Meetme)4500万円,メール広告売上げ4500万円及びコンサルティング売上げ1500万円の合計1億0500万円の売上げを計上している。
そして,上記売上げの計上を決めた同年9月当時,VCJの代表取締役社長であった己原は,公判廷において,VCJでは,同年7月から同年9月までの間に,上記売上げに対応する業務を行ったことはないことを供述している。
他方,丙谷は,公判廷において,実際に,VCJではキューズ・ネットの広告掲載等を行っており,同年9月中にも5日程度行われていたかもしれないこと,同年8月後半ころから,キューズ・ネットを担当していた卯波の相談に乗っており,一,二週間に1回くらいの頻度で打合せをしていたことを供述し,また,卯波も,公判廷において,VCJでキューズ・ネットの広告配信が同年9月中に行われたかもしれないこと,VCJの担当者がキューズ・ネットの打合せに出席して,広告についての相談に乗っていたが,それがいつから行われていたかははっきりしないことを供述している。
イ そこで,まず,VCJのキューズ・ネットに対する1億0500万円の売上げに架空部分が存在したか否かを検討すると,この点は弁護人において争っていないところであるが,関係各証拠によると,乙川は,平成16年9月14日,丙谷あてに,下記⑱のメールを送信していることが認められる。

発信日時:平成16年9月14日午後4時27分
発信者:乙川
受信者:丙谷
CC:被告人
件名:バリューへの利益
内容:ですが,今四半期5000万円から1億程度にしておきますか?
1億計上すると,たしか利益が7000万程度出ると思いますが,おそらくそれをすると,10-12月期で1億の利益を出さないと問題になると思います。
(中略)
発注の目的は,キューズネットからの広告代金でどうでしょうか?
上記⑱のメールの記載によれば,乙川らは,VCJが受注する業務内容とは無関係に発注金額を決めており,また,VCJに利益計上することを決めてから,発注の目的を考えるなど,同発注が実取引を伴うものとは考えていなかったことが推認できる。
また,丙谷は,同年9月17日,己原あてに,下記⑲のメールを送信していることが認められる。

発信日時:平成16年9月17日午前8時33分
発信者:丙谷
受信者:己原
件名:契約書と請求書
内容:例のライブドアファイナンスからの1億500万円の売上の件です。恐らくLDFとLD証券の合併の関係で急いでいるのだと思います。
キューズネットからVCJへの広告出稿という形をとりたいとの意向を持っています。
VCJアドネットワークでなく,自社広告メディアなどの提供で対応することは可能でしょうか?例えばMeetMEの広告枠提供と言うことにすれば,MOJOシステムを活用してはおらず,通常計上との際が出る事に対して監査法人にも言い訳聞くかと。
VCJサイドの監査法人対応が面倒くさいのであれば,「コンサルティング契約(これも極めて曖昧ですが)」「Webサイト構築」などに名目をしてもOKだと思いますが,いずれの名目も3500万円毎月だと「怪しい」感じがしますね。。。。」
(以下後略)
上記⑲のメールの記載からすれば,丙谷が,キューズ・ネットに対する上記売上げについて,実取引の伴うものとは考えていなかったことは明らかである。
加えて,関係各証拠によると,上記売上げは,同年9月13日に開催されたライブドア戦略会議を受けて売上計上することとなったものであるところ,同年7月にさかのぼって売上計上されていること,広告出稿依頼書,業務委託契約書等の証憑類も,辰口が,己原の指示を受けて,同年9月下旬から同年10月下旬にかけて,日付をさかのぼらせるなどして作成したものであること,上記1億0500万円については,ライブドアのメディア事業部からキューズ・ネットに対してシステム売却代金一式2億円を発注したことにして,その代金の中からVCJに支払われていることが認められるのであって,キューズ・ネットに対するVCJの上記売上げが,実取引の伴うものでないことは明らかである。
ウ 次に,丙谷や卯波が供述するキューズ・ネットの広告掲載や相談業務が行われたか否かについて検討する。
この点,辰口は,公判廷において,本件発覚後,VCJの社内で,キューズ・ネットに対する売上げに関する調査が実施され,その結果,Meetmeやメール広告については配信等の実績はなく,ただ,別の広告サービスであるアドネットワークでの広告配信の実績が平成16年11月から平成18年1月まであり,これを金額に換算すると1300万円程度であったこと,VCJと合併予定であったEXマーケティングの従業員がキューズ・ネットの打合せに同席していたことを聞いている旨供述している。同人の供述は,事件発覚後に実施された社内調査に基づくものであって,より正確であると考えられるところ,丙谷や卯波の供述は断言したものではなく,特にその時期に関しては曖昧なものに終始している。
エ したがって,信用性の高い辰口供述によると,VCJでは,キューズ・ネットの広告配信を行っていた事実は認められるが,そもそも,それは,アドネットワークでの広告配信であり,上記1億0500万円の売上げの根拠となっている広告(Meetme)及びメール広告とは別の広告であって,しかも,配信が行われたのが平成16年12月期第3四半期ではないのであるから,上記広告配信の事実から,上記1億0500万円の一部について実際に取引が行われたということはできない。また,キューズ・ネットの打合せに同席して相談を受けていたのはVCJの従業員ではなく,EXマーケティングの従業員であって,VCJがキューズ・ネットに対するコンサルティングを行っていたものとは認められないから,上記1億0500万円の一部について実際に取引が行われているということはできない。
(4) 小括
前記第2で認定したとおり,VCJでは,平成16年12月期第3四半期通期において,前記のキューズ・ネットに対する売上げ合計1億0500万円を計上するなどして,同年11月12日,TDnetにより,第3四半期通期の売上高が約7億5900万円,経常利益が約7200万円,当期純利益が約5300万円あり,「当期第3四半期におきましては,前年同期比で増収増益を達成し,前年中間期以来の完全黒字化への転換を果たしております。」旨公表した。
そして,前記のとおり,VCJのキューズ・ネットに対する1億0500万円の売上げは架空売上げであるから,VCJの同年12月期第3四半期の業績状況に関する上記公表は虚偽ということとなる。
したがって,VCJが,同年12月期第3四半期の業績状況に関して,同年11月12日に行った公表は,虚偽の事実を公表したこととなり,証券取引法158条が禁止する偽計及び風説の流布に該当するものである。
6  虚偽事実の公表に関する被告人の犯意及び共謀の有無について(争点③)
(1) 判断過程
VCJの,マネーライフ社との株式交換に関する平成16年10月25日及び同年11月9日の各公表並びに同年12月期第3四半期の業績状況に関する同年11月12日の公表がいずれも虚偽であることは前判示のとおりである。
そして,当裁判所は,遅くとも,被告人が,同年10月25日開催のVCJ取締役会において,1対1の株式交換比率によるマネーライフ社との株式交換契約の締結を承認して,同株式交換に関する公表内容を認識し,また,第3四半期通期の業績の公表額の報告を受け,これを認識した時点で,上記株式交換及び第3四半期の業績状況に関する虚偽の事実を各公表することを認識,認容し,かつ,同各公表につき,乙川らとの間で共謀が成立したものと認めたものである。
そこで,まず,(2)で,マネーライフ社との株式交換に関する虚偽事実の公表についての被告人の犯意及び共謀の有無を検討し,次に,(3)で,業績状況に関する虚偽事実の公表についての被告人の犯意及び共謀の有無を検討することとする。
(2) マネーライフ社との株式交換に関する虚偽事実の公表について
検察官は,VCJとマネーライフ社との間の株式交換に関する虚偽事実の公表について,被告人の犯意及び共謀の根拠として,以下の間接事実を主張するので,順次検討する。
ア 間接事実①について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実①として,平成16年4月27日のライブドアファイナンスの定例会議において,被告人が,戊野及び乙川からライブドアファイナンスがマネーライフ社を4200万円で買収する旨の報告を受けて了承したことを主張し,同事実は,乙川及び戊野の各供述によって認められるとしている。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,①乙川及び戊野の供述によっても,被告人がライブドアファイナンスでマネーライフ社を買収することを了承したとまでは認定できないこと,②仮に,被告人がマネーライフ社を4200万円で買収することを認識していたとしても,その価格はディスカウント価格であり実際の価格はそれより高いものと認識するのが普通であるから,それによって,マネーライフ社の客観的企業価値が4200万円であると認識したことにはならないことなどを指摘して,間接事実①は立証されていないと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
a 乙川は,公判廷において,平成16年4月か5月ころに開催されたライブドアファイナンスの定例会議で,戊野が,マネーライフ社の買収について,相手方は4200万円であれば合意をする旨報告したこと,被告人が,ライブドアではシナジー効果がないので不要であるとの意向を示したため,乙川は,企業再生案件として,投資事業組合で買収することを提案したこと,被告人は,どうでもいい感じで「まあ,ファンドでいいんじゃない。」などと言っていたことを供述している。
b そこで,上記供述の信用性について検討する。
戊野は,公判廷において,平成16年4月27日にライブドアファイナンスの定例会議が開催され,被告人も出席していたこと,戊野は,マネーライフ社を5000万円からディスカウントして4200万円で買収する旨報告したこと,被告人の発言は特に記憶していないが,経営陣で特に異議を唱える者はなく,了承を得たと思っていること,議事録に「LDFで買う」と記載されているのは,経営陣の誰かが,ライブドアファイナンスで買収したらよいとの発言をした記録だと思うことを供述している。
そして,関係各証拠によれば,同年4月27日に開催されたライブドアファイナンス定例会議の議事録には,被告人,乙川及び戊野とも出席しており,マネーライフ社について,「株式簿価50百万円→42百万円までディスカウントしてクロージングに入る。「株式優待大図鑑」でのライブドア証券の露出と「ライブドア・マネーライフ(仮)」の再刊に向けて動く。⇒LDFで買う。」旨の記載があることは明らかである。この事実は,戊野の上記供述を客観的に裏付けており,同供述の信用性は高いということができる。
すると,乙川の上記供述は,マネーライフ社の買収に関して,買収金額が4200万円であることについては,上記議事録の記載や戊野供述により裏付けられ,また,被告人が買収を了承したことについても,上記議事録に「クロージングに入る。」と記載されており,戊野も経営陣で異議を唱える者はいなかったと供述していることなどからすれば,乙川の供述は信用できるということができる。
ただし,買収主体について,乙川は投資事業組合で買収することを提案したと供述するが,上記議事録には「LDFで買う。」と記載されており,戊野も,経営陣の誰かがライブドアファイナンスで買収したらよいとの発言をした旨述べていることから,この点に関する乙川の供述は信用できず,投資事業組合ではなく,ライブドアファイナンスでの買収が了承されたものと認められる。もっとも,乙川の供述の一部に信用できない部分があるとしても,その供述全体の信用性に影響はしない。
c 弁護人は,被告人がマネーライフ社を4200万円で買収することを認識していたとしても,その価格はディスカウント価格であり実際の価格はそれより高いものと認識するのが普通であるから,それによって,マネーライフ社の客観的企業価値が4200万円であると認識したことにはならないと主張する。
確かに,4200万円はディスカウントした買収価格であるが,前記認定のとおり,被告人は,上記価格が簿価5000万円からディスカウントした価格であるとの報告を受け,その旨認識していたものと認められる。
d したがって,信用性の高い上記の乙川供述等によれば,平成16年4月27日開催のライブドアファイナンスの定例会議において,被告人が,戊野からマネーライフ社を5000万円(簿価)からディスカウントして4200万円で買収する旨の報告を受け,同社をライブドアファイナンスで買収することを了承したものと認めることができる。
上記認定事実からすると,被告人は,この時点において,マネーライフ社の買収価格が4200万円であることを認識していたものと認められるから,その後の3000万円の増資等を考慮しても,VCJとマネーライフ社の株式交換の際に,少なくとも,マネーライフ社の企業価値が1億円を大きく超えるものとは認識していなかったことが推認できる。
イ 間接事実②について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実②として,平成16年9月上旬ころのライブドアファイナンスの定例会議において,乙川及び丙谷らが,被告人に対し,VCJがマネーライフ社を株式交換により買収し,この株式交換の際,ライブドアファイナンスがVCJに支払を求めていた合併手数料1億5000万円を上乗せしてマネーライフ社の企業価値を過大評価して,同社の株主であるライブドアファイナンス(VLMA2号名義)に,(ライブドアファイナンスがVLMA2号名義でVCJ株式を売却して利益を得るため)マネーライフ社の本来の企業価値を超過してVCJ株式を取得させることを提案し,被告人が,これを了承したことを主張し,同事実は丙谷,乙川,戊野及び丁沢の各供述によって認められるとする。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,①乙川らの供述を前提にしても,各証人は,せいぜい,平成16年9月の定例会議において,VCJがマネーライフ社を買収するという話及びその代金に合併手数料を乗せるという話が出たことを供述しているにとどまり,その上乗せの目的が,ライブドアファイナンスにより大きな利益を帰属させることであるなどという話が出たとは一言も供述しておらず,また,マネーライフ社の株主が実質的にはライブドアファイナンスでありVLMA2号は単なる名義貸しであることなど一言も出ていないこと,②被告人は,VCJの役員でもあるから,VCJのことを「丙谷さんのところ」と他人ごとのような表現をしたり,小ばかにするような感じで話したりするというのは不自然であり,その旨述べる丙谷及び丁沢の各供述は信用できないことなどから,間接事実②は立証されていないと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
a 乙川は,公判廷において,平成16年9月ころに開催されたライブドアファイナンスの定例会議で,戊野がマネーライフ社をVCJに売却する旨告げ,乙川も「マネーライフ社は丙谷さんのところで買ってもらいます。フィーも上乗せして買ってもらいます。」と言うと,丙谷は「うちで買います。」と手を挙げて答えていたこと,被告人は,「戊野君よかったね。」などと言っていたことを供述している。
また,丁沢は,公判廷において,平成16年9月上旬から中旬に開催されたライブドアファイナンスの定例会議で,戊野が,VCJが株式交換でマネーライフ社を買収すると報告したこと,被告人が「何それ。」といった反応をすると,乙川が「VCJとマネーライフの株交に当たって,マネーライフの企業価値にVCJとEXマーケティングのコンサルフィーを乗っけますんで。」と説明し,丙谷も,その場の雰囲気を和ませるような感じで「私が買います。」と言ったこと,被告人は,「へえ,丙谷さんのところで買うんだ,まあメディア欲しがっていたしねえ。」と,ちょっと小ばかにするような感じで話していたことを供述している。
b そこで,上記各供述の信用性を検討することとする。
関係各証拠によると,乙川と被告人との間で,平成16年11月1日に下記⑳及び のメールのやり取りがなされたことが認められる。

発信日時:平成16年11月1日午後2時54分
発信者:乙川
受信者:被告人
件名:バリュークリックの分割
内容:ちょっとお願いがあるんですが・・・
12月1日にマネーライフをVCJへ株式交換で売却した株式がLDFに到達します。
到達前に権利落ちになるように100分割してほしいんですが。VCJの取締役として賛成していただけないでしょうか。
今回交付される株数は
マネーライフ 1億円
EXとVCJの合併手数料 1.5億円
LDF->EX(VCJ含む)への期末協力金1.5億をマネーライフの株式交換に絡めて株をもらいますので,100分割して10倍になっていただけると,利益が36億円出ます。
権利落ちした際には外国口座を使って,吹かしますので,何とかなるのではないかと思っております。
来期120億程度の経常利益になると思いますが,まだまだ未知数が多く,第1Qは利益が出ない可能性もあるため,仕込みをしておきたいです。
仮に第1Qで利益が30億以上出れば,120億以上利益が出ると思われ,LD株も吹けるため,QZやロイヤルで仕込んでいる分も飛ぶ可能性があり,結果150億が見える角度が高まります。

発信日時:平成16年11月1日午後3時16分
発信者:被告人
受信者:乙川
件名:Re:バリュークリックの分割
内容:了解。
というか早くやりたかったんですが。
取締役会を開催してもらえれば。
被告人が上記⑳のメールを開披したことは明らかであって,被告人が同メールを何処まで読んだかは後に検討することとするが,同メールの「今回交付される株数は,マネーライフ1億円,EXとVCJの合併手数料1.5億円,LDF->EX(VCJ含む)への期末協力金1.5億をマネーライフの株式交換に絡めて株をもらいますので,100分割して10倍になっていただけると,利益が36億円出ます。」との記載を見ても,これのみでは意味不明の文章である。すると,乙川は,このような意味不明のメールを,被告人において理解できるものとして送信していることは明らかであって,乙川は,被告人が平成16年11月1日時点で既にこれに関して説明を受けていると認識して送信していると推認することができる。乙川の上記供述は,この推認事実に符合する。
また,戊野は,公判廷において,平成16年9月中に開催されたライブドアファイナンスの定例会議で,乙川が,VCJがマネーライフ社を買収する際,EXマーケティングとVCJの合併に関する手数料1億5000万円をマネーライフ社の企業価値に上乗せすると言ったこと,丙谷も,VCJの費用がかかることは回避したいからとしてそれを了承していたこと,被告人は「ま,いいんじゃない。」と言っていたことを供述しており,丙谷も,公判廷において,同月上旬に開催されたライブドアファイナンスの定例会議で,まず最初に,戊野からマネーライフ社は株式交換でVCJに買ってもらうことになったとの報告があったこと,被告人が「え,そうなの。」という反応をすると,乙川が「バリュークリックジャパンとEXマーケティングの合併コンサルフィーを上乗せして株式交換で丙谷さんのところに買ってもらいます。」と言ったこと,丙谷も「私の方で買わせてもらいます」と言い,被告人は,あざ笑った表情で「へえ,そうなんですか。丙谷さんのところで買うんですか。あ,そうは言っても,丙谷さん,メディアが欲しいって言ってたもんね,よかったじゃないですか」などと言っていたことを供述している。乙川及び丁沢の上記各供述と戊野及び丙谷の各供述を比較対照すると,同月開催の定例会議で,乙川が,VCJがマネーライフ社を買収するに当たり,合併手数料1億5000万円をマネーライフ社の企業価値に上乗せすると報告したことなど,主要な部分で一致している。
加えて,丁沢の上記供述は,被告人が丙谷に小馬鹿にするような口調で話していたことなど,丙谷の上記供述と符合している。
以上検討したことからすると,乙川及び丁沢の上記各供述は信用できるということができる。
c 弁護人は,被告人は,VCJの役員でもあるから,VCJのことを「丙谷さんのところ」と他人ごとのような表現をしたり,小ばかにするような感じで話したりするというのは不自然である旨主張する。
確かに,被告人はVCJの取締役でもあるが,ライブドアの代表取締役社長の立場が優先されるのは当然であって,同社の完全子会社ではなく,後記認定のとおり,売却予定でもあったVCJのことを,その代表取締役社長に就任することが内定していた「丙谷さんのところ」と言っても不自然ではない。また,VCJがマネーライフ社を買収することを知って小ばかにするような態度を取ったことは,被告人が不要と考えている会社を丙谷が購入するというので,そのような態度に出たものと考えられ,特段,不自然とは解されない。
d したがって,信用できる乙川及び丁沢の上記各供述等によれば,平成16年9月開催のライブドアファイナンスの定例会議において,戊野及び乙川らが,被告人に対し,VCJがマネーライフ社を株式交換で買収すること,その際,VCJがライブドアファイナンスに支払を求められていたEXマーケティングとの合併手数料1億5000万円をマネーライフ社の企業価値に上乗せすることを報告し,被告人がこれを了承したものと認められる。
e もっとも,検察官は,「ライブドアファイナンスがVLMA2号名義でVCJ株式を売却して利益を得るためにマネーライフ社の本来の企業価値を超過してVCJ株式を取得させることを提案」したと主張している。
関係各証拠によると,VCJはEXマーケティングとの合併に際し,ライブドアファイナンスに対して1億5000万円の手数料を支払う必要があるところ,それを現金で支払う代わりに,その精算方法として,VCJとマネーライフ社との株式交換の際に,マネーライフ社の企業価値を過大に評価して,同社の名義上の株主であるVLMA2号に合併手数料に相当するVCJ株式を取得させることを目的としていたことが認められる。ライブドアファイナンスとVCJの合併手数料の精算をVCJとマネーライフ社との株式交換で行うというのであるから,VLMA2号等の投資事業組合を介してその売却益がライブドアファイナンスに還流することの認識は存したものと推認できるが,この時期は,ライブドアファイナンスに利益を得させる目的は認められず,この点で,検察官の主張は失当である。
ウ 間接事実③について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実③として,平成16年9月中旬ころ,乙川が,被告人に対し,VCJについても,ライブドアと同様に,キューズ・ネットに対する架空売上げを計上すること,この架空売上げのための利益付け替え分についても,VCJとマネーライフ社との株式交換の際,マネーライフ社の本来の企業価値に上乗せして同社の企業価値を過大評価し,同社の株主であるライブドアファイナンス(VLMA2号名義)にマネーライフ社の本来の企業価値を超過してVCJ株式を取得させることを報告し,被告人が,これを了承したことを主張し,同事実は乙川及び丁沢の各供述によって認められるとする。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,①乙川供述を前提にしても,乙川は,被告人に「丙谷さんのところなんですけど,キューズから売上げをつけとくようにしましたんで。その分マネーライフに乗っけて返してくれますんで。」と話しただけであるから,このことから,被告人が,VCJのキューズ・ネットからの架空発注について,マネーライフ社の企業価値をその分過大に評価して,株式交換で発行されるVCJ株式を増やして返済に充てるなどといったことまで了解したとするのは困難であること,②被告人と乙川の平成16年9月13日及び同月14日のスケジュールによれば,被告人と乙川が,乙川が供述するような会話をしたことは認定できないこと,③丙谷は,キューズ・ネットから発注された場合は,期ずれになるか否かはともかくできる限り実作業をやろうと思っていたのであるから,キューズ・ネットからの受注分を返すという発想が生じるはずがないので乙川供述は信用性がないことなどから,間接事実③は立証されていないと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
a 乙川は,公判廷において,同人が,VCJに対してキューズ・ネットから売上げをつけることを丙谷と話した当日かそれに近い日に,ライブドアファイナンスの乙川の席で,被告人に対し,「丙谷さんのところなんですけど,キューズから売上げをつけとくようにしましたんで,その分マネーライフに乗っけて返してくれますんで。」と報告すると,被告人は「ああ,そうなんだ。」と言っていたこと,丙谷からキューズ・ネットに対する売上げを1億0500万円にすると言われたので,数日内に,被告人に対し,VCJにはキューズ・ネットから1億円利益をつけておく旨報告し,被告人は,「ああ,そうなんだ」などと言っていたことを供述している。
また,丁沢は,公判廷において,平成16年9月中旬ころ,乙川が,被告人に対して,ライブドアファイナンスの乙川や丁沢の席の近くで,「VCJとマネーライフの株交の件ですけども,マネーライフの企業価値にVCJに付け替えた利益1億を上乗せします。」と報告し,被告人は,「いいねえ,それ。」と言っていたことを供述している。
b そこで,上記各供述の信用性を検討するに,前記⑳のメールの内容は,VCJとマネーライフ社の株式交換に当たり,マネーライフ社の企業価値にライブドアファイナンスからVCJに対する期末協力金を上乗せすることを前提とする内容となっている。前同様,少なくとも,乙川は平成16年11月1日の時点で,被告人がその内容を理解できるものとして上記⑳のメールを送信していることが認められる。乙川の上記供述は,この認定事実に沿うものである。加えて,乙川及び丁沢の各供述は,キューズ・ネットに対する売上げをマネーライフ社の企業価値に上乗せすると報告したという主要部分で一致しており,相互にその信用性を補強している。すると,乙川及び丁沢の各供述は信用できるということができる。
なお,上記⑳のメールには「LDF->EX(VCJ含む)への期末協力金1.5億」と記載されており,EXマーケティングで計上した架空売上げ(1億2000万円)を含むかのようであり,また,金額も異なっているが,前記認定のとおり,EXマーケティングは同日付けでVCJに吸収合併されており,また,金額の点も「1.05億円」とすべきところを「1.5億円」となっているにすぎないことからすると,いずれにしても,乙川の誤記であると認められる。
c 弁護人は,①被告人と乙川の平成16年9月13日及び同月14日のスケジュールによれば,被告人と乙川が,乙川が供述するような会話をしたことは認定できないこと,②丙谷は,キューズ・ネットから発注された場合は,期ずれになるか否かはともかくできる限り実作業をやろうと思っていたのであるから,キューズ・ネットからの受注分を返すという発想が生じるはずがないことを指摘し,乙川供述は信用できないと主張する。
しかしながら,①については,乙川は,被告人に対する報告をした時期について,反対尋問でも,同月13日か14日ころと供述しており,その両日に特定しているわけではなく,また,スケジュールの記載のみから,乙川が被告人に報告できないとはいえないのは,これまで判示してきたところと同じである。②については,前記判示のとおり,丙谷はキューズ・ネットからの発注について,当時から,実作業を行う前提ではなかったと認められるのであるから,弁護人の主張はその前提を欠く。
d したがって,信用できる乙川及び丁沢の上記各供述等によれば,平成16年9月中旬ころ,乙川が,被告人に対し,キューズ・ネットからVCJに対して約1億円の売上げをつけること,その分を,VCJとマネーライフ社の株式交換に当たり,マネーライフ社の企業価値に上乗せすることを報告し,被告人がこれを了承したものと認められる。
エ 間接事実④について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実④として,平成16年9月下旬ないし10月上旬ころ,乙川が,被告人に対し,VCJとマネーライフ社との株式交換の際,マネーライフ社の本来的企業価値約1億円に,合併手数料と架空売上げのための利益付け替え分を上乗せするなどして,同社の企業価値を約4億円と過大評価する旨報告し,被告人は,これを了承したことを主張し,同事実は,乙川及び戊野の各供述から認められるとする。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,①マネーライフ社の買収価格が4億円と聞いたときの被告人の反応についての乙川の供述が不自然であること,②乙川は,もうかる話だったから積極的に被告人に話した旨供述しているが,当時のVCJの株価の客観的状況と符合しないことから乙川供述は信用できないなどとして,間接事実④は立証されていないと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
a 乙川は,公判廷において,同人が,平成16年9月の終わりか,10月に入ってから,被告人に対し,マネーライフ社の企業価値について,「大体,マネーライフが1億くらい,フィーが1億5000万,売上げの付け替え分が1億ちょっとで,ざっくり4億で」という話をしたら,被告人は「おお,いいねえ。」というような感じであったことを供述している。
b そこで,上記供述の信用性を検討する。
戊野は,公判廷において,平成16年9月中に開催されたライブドアファイナンスの定例会議で,乙川が,EXマーケティングとVCJの合併に関する手数料1億5000万円をマネーライフ社の企業価値に上乗せすることが話題となり,被告人が了承し,後刻,戊野は,乙川からマネーライフ社の企業価値を4億円と評価することの指示を受け,高いのではないかと言うと,乙川は「丙谷さん,社長もオーケーだから,大丈夫だから。」などと言っていたことを供述している。乙川としては,この時期,戊野にマネーライフ社の企業価値を4億円と評価して作業を進めるように指示していたのであり,また,被告人の下にその情報が入る可能性もあるから,被告人にあらかじめその旨報告しておくのが自然であるといえる。そうすると,乙川の上記供述は,戊野の供述と符合しているのであって信用できるということができる。
もっとも,前記⑳のメールは,VCJとマネーライフ社の株式交換に当たり,マネーライフ社の企業価値1億円に,合併手数料1億5000万円及び期末協力金1億5000万円を上乗せして評価するとの内容となっている。前記のとおり,期末協力金は実際には1億0500万円であり,「期末協力金1.5億」の記載は誤記であるが,乙川としては,合計金額が4億円であって,これを前提にメールを作成したため,上記のような誤記が生じたものと考えられる。
c 弁護人は,①マネーライフ社の買収価格が4億円と聞いたときの被告人の反応について,乙川が,当初,「それでどれくらいもうかるの。」と言った旨供述していたところ,「何株出てくるの。」とか「何株もらえるの。」と言った旨に供述を訂正し,さらに,検察官から発行株式数はもう少し後で決まったのではないかと指摘されると,「勘違いでした。」と認めており,その変遷が不自然であること,②乙川は,もうかる話だったから積極的に被告人に話した旨供述しているが,マネーライフ社との株式交換で発行されるVCJ株式の株価動向を見なければもうかるかどうかは分からないところ,当時のVCJの株価はおおむね下落傾向にあったのであるから乙川の供述は当時の客観的状況と符合しないことを指摘して,乙川の供述は信用できないと主張する。
しかしながら,①については,VCJとマネーライフ社の株式交換では,発行されるVCJ株式を売却して利益を出すのであるから,「どれくらいもうかるの。」と「何株出てくるの。」は同趣旨の言葉であり,しかも,それ自体で重要な意味を持つ発言ではないから,乙川の記憶があいまいであっても不自然ではない。②については,乙川は被告人に「利益の出る話というのは積極的にしていたと思います。」と供述しているところ,その趣旨は利益の出る可能性のある案件については被告人に報告していたということで,株価がその時点で下落傾向にあったとして,将来上昇に転じる可能性もあり,しかも,前記認定のとおり,乙川らは株価下落によるリスクも考慮してマネーライフ社の評価額を決めているのであるから,当時,VCJの株価が下落傾向であったとして,乙川が,被告人に対し,VCJとマネーライフ社の株式交換の件を,利益の出る可能性のある案件として
報告しても,何ら不合理ではない。
d したがって,信用できる乙川の上記供述等によれば,乙川が,平成16年9月末又は同年10月初めころ,被告人に対し,VCJとマネーライフ社の株式交換に際し,マネーライフ社を,同社の価値約1億円に,合併手数料1億5000万円,キューズ・ネットからの利益の付け替え分約1億円を上乗せするなどして,4億円と評価する旨報告し,被告人がこれを了承したことが認められる。
オ 間接事実⑤について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実⑤として,平成16年10月中旬ころ,乙川が,被告人に対し,VCJとマネーライフ社との株式交換については株式交換比率を1対1にすることなどを報告し,被告人がこれを了承したことを主張し,同事実は乙川の供述によって認められるとする。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,①乙川は,株式交換比率を被告人に報告した理由について非常によい利益が出る内容であったからと供述しているが,利益が出るかどうかはVCJの株価によるのであって,1対1という株式交換比率と利益がでるかどうかは全く関係がないこと,②乙川は,平成16年11月1日,被告人に対して,メールでマネーライフ社の評価額4億円の内訳を知らせているが,もし,乙川供述のとおり,4億円であるとか,1億5000万円や1億0500万円の上乗せを説明していたのであれば,上記メールに同じことを繰り返して記載するはずがないことなどから乙川供述は信用できず,間接事実⑤は立証されていないと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
a 乙川は,公判廷において,同人は,平成16年10月13日から二日以内くらいに,被告人に対し,マネーライフ社とVCJの株式交換に関して,「1対1で1600株もらえることになりましたんで。」などと報告したこと,被告人からは,どれくらいもうかるのかと聞かれたので,4億円くらいと答えると,被告人は「おう,いいねえ。」という話をしていたことを供述している。
b そこで,上記供述の信用性を検討することとする。
戊野の公判供述及び検察官調書(甲33)によると,戊野が,乙川から,マネーライフ社の企業価値を4億円に設定して株式交換比率算定報告書を作成するように指示され,平成16年10月13日ころ,乙川に対して,株式交換比率が1対0.75となることを報告したところ,乙川から,株式交換比率が1対1となるように計算し直すように指示されて,同月14日,株式交換比率が1対1となるよう株式交換比率算定報告書を修正したことが認められる。上記乙川供述はこの認定事実と整合性をもっており,しかも,株式交換比率を被告人に報告したことは一貫している。また,前記第2で認定したとおり,VCJとマネーライフ社との株式交換は,同月25日に開催された取締役会で承認の上,契約締結がされ,公表もされているところ,事前に,VCJの取締役でもある被告人に株式交換比率等の説明がなされるのが自然であることをも考慮すると,乙川の上記供述は,被告人に株式交換比率を報告し,それを被告人が了承したとの事実に関しては信用できるものである。
なお,株式交換比率を報告した際の被告人の反応については,確かに,主尋問ではどれくらいもうかるのと供述していたところ,反対尋問では何株もらえるのと供述しており,異なってはいるが,この点についての供述の変遷等は供述全部の信用性に影響を与えるものではない。
c 弁護人は,①利益が出るかどうかはVCJの株価によるのであって,1対1という株式交換比率と利益がでるかどうかは全く関係がないこと,②乙川が,マネーライフ社の評価額4億円について説明していたのであれば,平成16年11月1日に被告人に送信したメールに,上記4億円の内訳を繰り返して記載するはずがないことを主張している。
しかしながら,①については,乙川らは,VCJ株式を売却して利益を出すことを企図していたのであり,株式交換比率によって,発行されるVCJ株式の株数が変わるのであるから,交換比率と利益が無関係とはいえない。②については,上記⑳のメールは,乙川が,被告人に対し,VCJの株式100分割の了承を求めるものであり,同分割を実施した場合の利益額を説明するに際して,合併手数料等の上乗せについても記載しているのであるから,上乗せについて事前に説明がなされていたことと,乙川が上記メールを被告人に送信したことは矛盾するものではない。
d したがって,信用性の高い乙川の上記供述等によれば,平成16年10月中旬ころ,乙川が,被告人に対し,VCJとマネーライフ社との株式交換について,株式交換比率を1対1にすることを報告し,被告人がこれを了承したことが認められる。
e なお,上記間接事実は,直接,被告人の犯意を推認させるものではないが,この事実は,被告人が,株式交換比率が1対1であることを認識したという限度で,間接事実として意味をなすものと考えられる。
カ 間接事実⑥について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実⑥として,被告人が,平成16年10月25日のVCJの取締役会において,マネーライフ社との株式交換比率を1対1にする旨報告を受けて了承したことを主張し,同事実は丙谷の供述によって認められるとする。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,被告人が,平成16年10月25日に開催されたVCJの取締役会に出席したこと,株式交換比率が1対1であることを被告人が認識していたことは認めるが,その事実から被告人の犯意を推認することはできないと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
a 関係各証拠によると,平成16年10月25日,被告人も出席したVCJの取締役会において,丙谷と辰口が,マネーライフ社との株式交換に関する開示資料を配付して説明するなどした上,VCJを完全親会社,マネーライフ社を完全子会社とし,株式交換により発行されるVCJ株式を普通株式1600株,株式交換比率を1対1,株式交換日を同年12月1日とする株式交換契約の締結が承認されたこと,VCJは,同年10月25日,TDnetにより,上記開示資料を提出するなどして,上記株式交換について,株式交換比率が1対1であり,また,「株式交換比率については,第三者機関が以下の方法で算出した結果を踏まえ,両者間で協議のうえ,決定いたしました。」として,VCJについてはDCF法で株価(企業価値)を算定したことなどを公表したことが認められ,この点は,弁護人においても争っていないところである。
b この点,被告人は,公判廷において,上記取締役会でマネーライフ社の評価額約4億円の妥当性について議論したことがあり,評価額の算定根拠となっている経常利益の達成可能性について,丙谷に質問すると,株主優待大図鑑の発行等により,上記経常利益を上回る可能性もあるとの説明であったので,了承した旨供述する。
しかしながら,前記第2認定のとおり,丙谷がマネーライフ社の企業価値を4億円と評価していないことは明らかであって,被告人に対し,上記のような説明をするとは考えられず,また,前記⑳のメールを被告人が受信し,後記のとおり読んでおりながら,これに対して質問していない点も矛盾する。以上から,被告人の上記供述は信用できない。
c したがって,関係各証拠によると,被告人は,上記取締役会において,マネーライフ社との間で株式交換比率を1対1として株式交換契約を締結する旨の報告を受けてこれを了承し,また,同日の公表内容も認識したものと認められる。
d 上記認定事実から,被告人の犯意を推認することができないことは弁護人が指摘するとおりである。この事実は,被告人が,TDnetにより開示される内容を認識したという限度で,間接事実として意味をなすものと考えられる。
キ 間接事実⑦について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実⑦として,平成16年11月1日,乙川が被告人に対し,VCJとマネーライフ社との株式交換の際,マネーライフ社の本来の企業価値約1億円に合併手数料1.5億円と「期末協力金」を上乗せして同社の企業価値を約4億円と過大評価して,同社の株主であるライブドアファイナンス(VLMA2号名義)に,マネーライフ社の本来の企業価値を超過してVCJ株式を取得させること及びそれを前提とした同株式の100分割による株価上昇で巨額の利益が得られる見込みであることなどを報告する内容のメールを送信し,被告人がこれを了承するメールを返信したことを主張し,同事実は乙川の供述及び被告人の供述調書によって認められると主張する。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,上記メールにより被告人が了承したのはVCJの株式100分割だけであり,間接事実⑦は立証されていないなどと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
a 関係各証拠によると,乙川と被告人との間で,平成16年11月1日に前記⑳, の各メールを送受信していることは明らかである。
弁護人は, のメールにより被告人が了承したのはVCJの株式100分割だけであると主張し,被告人が⑳のメールの全文を読んでいないとしている。
そこで,検討すると,乙川の前記⑳のメールは,「ちょっとお願いがあるんですが」という文章で始まっており,被告人に対する依頼を記載したメールであることは容易に理解できるものであり,被告人がその一部しか読まずに了解を与えるというのは極めて不自然であって,同メールの記載もさほど多くはないことからしても,被告人は,乙川から送信された⑳のメールの内容を全部読んでいたものと推認することができる。
b 弁護人は,①乙川の前記⑳のメールについて,100分割に関する部分は極めて不合理な内容であるから,被告人がその部分を読んでいたとすると,到底了解という返信メールは出さなかったと思われること,②乙川は, のメールを受信した後,被告人から口頭で36億円の計算根拠について質問されたと供述しているところ,もし質問があれば返信メールにインラインで質問文を入力しておけば足りることであるから,被告人がわざわざ口頭で質問するのは不自然であること,③乙川と被告人のスケジュールによれば被告人が乙川のところに質問に行く時間的余裕がなかったことを指摘して,前記⑳のメールの全文を被告人は読んでおらず,これに関する乙川の供述も信用できないと主張している。
しかしながら,①については,確かに,弁護人の主張するように,乙川の前記⑳のメールについて,VCJの株式100分割について記載してある部分は,そのとおりに株式分割を実施すると多額の損害を被りかねない内容とはなっているが,メールの文面によれば乙川は多額の利益を得ることができる方法として記載していることは明らかであり,関係各証拠によっても,当時,被告人がそれを読めば乙川も誤解していた問題点に気がつくことをうかがわせるような事実は認められず,被告人も乙川の提案をそのまま信用していたものと認めるのが相当である。したがって,100分割に関する記載内容が不合理であることを理由に,被告人がその記載を読んでいないとする弁護人の主張は理由がない。②については,乙川の前記⑳のメールは被告人に100分割に賛成することを依頼するメールであるから,それに対する返答をメールでして,直接依頼とは関係のない事項について,別途口頭で質問したとしても不自然ではない。③については,乙川及び被告人のスケジュールは弁護人が指摘するとおりであるが,実際にそのスケジュールのとおりであったか否かは不明であり,利益に関する質問にそれほど時間を要するとは考えられないことからしても,スケジュールの記載のみから,被告人が乙川のところに質問に行く時間的余裕がなかったということはできない。
c したがって,関係各証拠によると,平成16年11月1日,乙川が被告人に対し,VCJとマネーライフ社との株式交換の際,マネーライフ社の本来の企業価値約1億円に合併手数料1億5000万円と「期末協力金」を上乗せして同社の企業価値を約4億円と過大評価して,同社の株主であるライブドアファイナンス(VLMA2号名義)に,マネーライフ社の本来の企業価値を超過してVCJ株式を取得させること及びそれを前提とした同株式の100分割による株価上昇で巨額の利益が得られる見込みであることなどを報告する内容のメールを送信し,被告人が株式100分割を了承するメールを返信したことが認められる。
d 検察官は,被告人が了承した内容を「これ」と表しているので,その内容が不明ではあるが,既に,VCJとマネーライフ社との間の株式交換は終わっているので,株式100分割の件を指しているものと解される。
ク 小括
前記のとおり,被告人は,マネーライフ社の企業価値が1億円を大きく超えるものではないと認識していたところ,平成16年9月のライブドアファイナンス定例会議で,乙川らから,VCJがマネーライフ社を株式交換の方法により買収すること,その際,マネーライフ社の企業価値にVCJがライブドアファイナンスに対して支払わなければならない合併手数料1億5000万円を上乗せすることの報告を受けて,これを了承し,ライブドアファイナンスが,上記株式交換によるVCJ株式を,上記上乗せ分に相当する株数だけ過大に取得し,その売却益を得ることを認識したものである。また,被告人は,同月中旬ころ,乙川から,キューズ・ネットからVCJに対して付け替えた売上げも,上記株式交換におけるマネーライフ社の企業価値に上乗せすることの報告を受け,これを了承した。そして,被告人は,乙川から,同月末か同年10月初めころに,マネーライフ社の評価額を上記上乗せをするなどして4億円とすること,同月中旬ころには,株式交換比率を1対1とすることの報告を受け,いずれも了承した上,同月25日のVCJ取締役会で,上記株式交換比率によるマネーライフ社との株式交換契約の締結を承認し,上記株式交換について,株式交換比率が1対1であり,また,「株式交換比率については,第三者機関が以下の方法で算出した結果を踏まえ,両者間で協議のうえ,決定いたしました。」として,VCJについてはDCF法で株価(企業価値)を算定したことなど,その公表内容も認識したものである。
以上によれば,被告人は,遅くとも上記取締役会までには,VCJとマネーライフ社の株式交換における株式交換比率について,真実は,マネーライフ社の企業価値を約1億円と評価していたところ,VCJの合併手数料やキューズ・ネットに対する売上げを上乗せするなどして4億円とし,それを前提として株式交換比率を1対1としたのに,マネーライフ社の企業価値をDCF法によって適正に算出した結果を踏まえて上記株式交換比率を決定したなど,虚偽の事実を公表することを認識,認容したものであり,かつ,同公表につき,乙川らとの間で共謀が成立したものであると認められる。
(3) 業績状況に関する虚偽事実の公表について
検察官は,VCJの架空売上げに関する被告人の犯意及び共謀の根拠として,以下の間接事実を主張するので,順次検討する。
ア 間接事実①について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実①として,平成16年7月12日のライブドアの戦略会議において,被告人が,己原に対し,粉飾(架空売上計上)によってVCJの同年12月期第2四半期の業績を黒字化するよう指示したことを主張し,同事実は己原,丙谷及び乙川の各供述並びに辰上の供述調書等によって認めることができると主張する。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,①当時のVCJとメディア事業部との間には仕事上の貸借関係があり,上記戦略会議の後に辰上が己原から依頼されたコンサルティングの発注についても,それに該当する作業は行われていないが,通常の「架空発注」とは趣を異にすること,②VCJを黒字化するために架空発注をさせるのであれば,赤字部門のメディア事業部ではなく,ライブドアファイナンス又はメディア事業部以外の利益を上げている事業部門から架空発注させれば足りること,また,己原供述について,③辰上がメディア事業部からVCJに売上げをつけることを躊躇していた旨供述するが,平成16年7月7日に被告人が辰上に送信したメール及び辰上が庚岡あてに送信したメールと矛盾すること,④己原は,同年6月の戦略会議ではVCJの第2四半期が通期で黒字になるか話題になることもなかったなどと供述しているところ,同月28日の戦略会議資料によれば,VCJの第2四半期の業績について赤字が出ない程度であればよいという話が出ていると認められること,⑤己原は,同年7月上旬に,庚岡と一緒に,被告人に対しVCJの第2四半期の損益状況を報告すると,被告人から粉飾をして第2四半期通期も黒字にするよう言われたが,粉飾は第2四半期のみ黒字にする程度にしたいと思い,乙川に依頼して被告人を説得してもらったと供述するところ,当時,乙川は海外出張中であり,また,己原は,被告人に対する報告時期について,取調べ当初は同年8月ころと供述しており,供述が変遷していることなどから信用できないこと,さらに,丙谷供述については,⑥丙谷が上記戦略会議に出席していたことを証明する客観的証拠がなく,信用できないことなどから,間接事実①は立証されていないと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
a 乙川は,公判廷において,平成16年7月10日以降のライブドア戦略会議で,VCJの第2四半期の業績に関して,己原が,第2四半期,通期とも赤字である旨報告したこと,これに対し,被告人は「辰上さんのところで売上げつけんじゃないの,何で赤字のままなの。」などと己原を責め,辰上にも「辰上さんのところでやるんじゃないの,どこからでも売上げつけてなんとかしろ。」と言ったこと,被告人の指示を,架空発注の指示と理解したこと,乙川は「ファイナンスからメディアに対して毎月払っている7000万円に上乗せするから,辰上のところから売上げつけてあげれば。」などと言い,被告人は「じゃお願いします。」と言っていたことを供述している。
また,丙谷は,公判廷において,平成16年7月12日ころのライブドア戦略会議で,VCJの第2四半期の業績に関して,己原が同四半期は営業利益,経常利益とも赤字である旨報告すると,被告人は「何で赤字なんですか,こっちも協力しますから黒字化してください。」などと言い,辰上に「VCJに発注してあげないんですか,発注してあげてくださいよ。」と言ったこと,当時,既に第2四半期は終わっていたので,被告人は架空売上げを計上してでも黒字化するように指示しているものと受け取ったこと,それに対して,辰上が的を射ない回答をしていたので,乙川が,辰上に対し,メディア事業部が赤字事業なので発注しづらいのであろうとして,ライブドアファイナンスから売上げをつけるから,それをVCJに発注するよう指示していたこと,被告人は,「それで黒字化お願いします。よろしくお願いします。」などとと言っていたことを供述している。
b そこで,上記各供述の信用性を検討する。
(a) この点に関し,己原は,公判廷において,同人が,平成16年7月12日ころの戦略会議で,VCJの第2四半期に関し,営業利益,経常利益とも赤字である旨報告すると,被告人は「なんでまだ赤字のまんまなの。」,「うちのメディアに売上げをつけろと言ったじゃないか,ねえ,辰上さん。」などと言い,辰上が躊躇すると,「ちゃんとメディアでつけといてくれよ。」と念を押していたこと,乙川が,辰上に「メディアのマイナス分はファイナンスから利益をメディアにつけるから。」と言い,被告人は,己原に対し,乙川と相談して四半期を黒字にするよう指示し,同年9月には通期で黒字にするよう言い渡したことを供述している。
(b) 関係各証拠によると,被告人が辰上に対して,平成16年7月7日,下記 のメールを送信していることが認められる。

発信日時:平成16年7月7日午前10時32分
発信者:被告人
受信者:辰上
CC:乙川
件名:VCJの利益4-6月期
内容:若干赤字なので,少し売り上げつけてあげたら?
この のメールは,被告人が「うちのメディアに売上げをつけろと言ったじゃないか,ねえ,辰上さん。」と発言したとの己原の上記供述を客観的に裏付けるものである。
この点に関し,弁護人は,辰上が,上記戦略会議の後に己原から依頼されて1500万円のコンサルティングを発注しているところ,それに該当する作業は特になかったが,VCJとメディア事業部とでは日常的に仕事の貸し借りがあったので,特にその1500万円をどれに該当させなければならないという意識はなかったと供述していることなどを根拠に,己原の上記発注は通常の「架空発注」とは趣を異にすると主張するが,仮に,辰上の供述する1500万円の発注が真実であっても,上記 のメールが己原供述を裏付けていることに変わりはない。
なお,被告人は,上記 のメールの趣旨について,記憶にはないが,ライブドアからVCJに対して発注していた広告料金が安く設定されていたので,正規の料金に直すよう指示したものだと思うなどと供述するが,同供述は上記メールの記載に合致せず信用できない。また,被告人は,上記メールのような表現になった理由について,長いメールを打ちたくないからなどとも言うが,被告人の述べる趣旨であったとしても,その内容で簡潔なメールを送信することは可能であって,理由となっていない。
(c) さらに,関係各証拠によると,己原は,上記戦略会議の翌日である平成16年7月13日,丙谷に対して,下記 のメールを送信していることが認められる。

発信日時:平成16年7月13日
発信者:己原
受信者:丙谷
件名:お願い
内容:昨日の戦略会議で,指示があったとおり,バリュークリックの四半期業績を黒字にするために,ライブドア事業部から,コンサルフィーを貰うことを考えています。御社のコンサル契約の雛型を流用させていただきたいと思います。雛型のファイルを送って頂けますか。
上記 のメールの内容は,己原が,上記戦略会議でVCJの四半期業績を黒字化するよう指示があったので,ライブドア事業部(メディア事業部)とコンサルティング契約を締結して手数料を受け取ることを考えているとして,丙谷にコンサルティング契約書のひな形を依頼しているもので,上記メールは,上記戦略会議で,VCJの第2四半期の業績に関して,メディア事業部から架空の発注をして黒字化するよう指示があったとの己原の供述を裏付けている。
このように,己原供述は客観的な上記 及び の各メールの記載ともよく符合しており,信用性が高いということができる。
(d) 己原の供述に関して,弁護人は,①己原は,辰上がメディア事業部からVCJに売上げをつけることを躊躇していた旨供述するが,辰上は,上記 のメールを受信した後,庚岡あてに「あと少しで黒字だと思いますので,こちらから支援したいと思っております。」とのメールを送信しており,メディア事業部からVCJに売上げを立てることを了解していたのであるから,躊躇するはずがないこと,②己原は,平成16年6月の戦略会議ではVCJの第2四半期が通期で黒字になるか話題になることもなかったなどと供述しているが,同月28日の戦略会議資料からもうかがえるようにVCJの第2四半期の業績について話が出ていること,③己原は,同年7月上旬に,庚岡と一緒に,被告人に対しVCJの第2四半期の損益状況を報告した後,乙川に依頼して,粉飾は第2四半期のみ黒字にする程度で済むよう被告人を説得してもらったと供述するが,乙川は同月5日から7日まで海外出張中で,同月3日と4日は土日で休業日であるから,上記報告,説得等は同月1日か2日に行われたことになるが,その2日間で第2四半期の数値の集計ができたとは考えられないことなどを指摘して,己原供述は信用できないと主張している。
①については,確かに,関係各証拠によれば,辰上は,上記 のメールを被告人から受信した後,同年7月7日午後1時3分ころ,庚岡をあて先として,「あと少しで黒字だと思いますので,こちらから支援したいと思っております。後で相談させて下さい。」などと記載したメールを送信していることが認められ,この点は,弁護人指摘のとおりである。しかしながら,辰上は,公判廷で,上記メールによれば,庚岡と調整をしたと思うと供述する一方,その内容等については覚えがないとし,また,いずれにしても,上記戦略会議までには発注していなかったというのであって,被告人の指示を実行していなかったということになる。上記戦略会議で被告人からそれを責められた際に,辰上が発注することを躊躇する態度を見せたとしても不自然ではない。
②については,確かに,関係各証拠によれば,同年6月28日の戦略会議資料には,VCJ第2四半期の営業損益欄等に手書きで丸印がつけられ,「トントンに」などと記載されており,上記記載がなされた経緯は証拠上明らかではないものの,VCJの業績が話題となったこと自体はうかがえるもので,これを否定する己原の供述は必ずしも信用できるものとはいえない。しかしながら,同月28日にVCJの業績が話題になったとして,上記記載のみから,それが特段記憶に残るような出来事であったとまでは認められず,己原がこれを記憶していなくても,必ずしも不自然であるとはいえない。
③については,第2四半期は,VCJがライブドアに買収されて最初の四半期であるし,中間決算期でもあることも考慮すると,同年7月1日と2日の2日間では第2四半期の数値が集計できないとはいえない。
また,弁護人は,己原は,被告人に対する報告時期について,取調べ当初は同年8月ころと供述していたところ,その後,同年7月上旬であったと供述を変遷させており,その供述は信用できないと主張する。しかしながら,己原は,上記変遷につき,上記報告には庚岡と一緒に行ったという記憶があり,庚岡は同年7月末でVCJを辞めているから,記憶違いであることが分かった旨説明しており,その説明は特段不合理とはいえないので,上記変遷を理由に,己原の供述が信用できないとはいえない。
(e) 以上検討したように,己原の供述は信用性に富むものである。
乙川及び丙谷の上記各供述も,信用性の高い己原の供述と符合するのである。さらに,前記第2認定のとおり,上記戦略会議は平成16年7月12日に開催されたものであるところ,同会議では,VCJの第2四半期の業績について,営業損益が約1099万円の赤字で,経常損益も約934万円の赤字である旨報告されていたが,その後,VCJでは,第2四半期の営業損益及び経常損益とも黒字を計上し,同年8月5日の中間決算短信の公表に際し,第2四半期では1年ぶりに営業収益及び経常収益が黒字に転換している旨発表している。この事実は,上記戦略会議で,VCJの第2四半期の業績に関して,被告人がメディア事業部から架空発注をして黒字化するよう指示したとの乙川及び丙谷の各供述を裏付けている。また,乙川と丙谷の各供述は,同年7月の戦略会議で,VCJの第2四半期の業績に関し,己原が赤字である旨報告すると,被告人が辰上にメディア事業部から売上げをつけるよう指示し,乙川が辰上に対しライブドアファイナンスからメディア事業部に売上げをつける旨言ったことなど主要な部分で一致しており,相互にその信用性を裏付けている。
加えて,上記 のメールによれば,被告人が,辰上に対して,同年7月7日の時点で,VCJに架空売上げをつけるように指示していたのであるから,その後の同月12日に開催された戦略会議において,架空売上げの計上を指示するというのはごく自然である。
c 弁護人は,①VCJを黒字化するために架空発注をさせるのであれば,赤字部門のメディア事業部ではなく,ライブドアファイナンス又はメディア事業部以外の利益を上げている事業部門から架空発注させれば足りること,②丙谷が平成16年7月12日に開催された上記戦略会議に出席していたことを証明する客観的証拠がないことなどを指摘して,乙川及び丙谷の各供述が信用できないと主張する。
しかしながら,①については,関係各証拠によれば,VCJは当時メディア事業部の管轄下にあり,しかも,メディア事業部は被告人が直轄する事業部門であったことからすると,被告人がメディア事業部に架空発注を指示することは不自然ではない。②については,己原が戦略会議の翌日の同月13日に丙谷あてに発信した上記 のメールは,丙谷が上記戦略会議に出席していたことを前提とするものであって,このメールからすると,丙谷が上記戦略会議に出席していたことが認められる。
d したがって,信用性の高い乙川及び丙谷の各供述によれば,平成16年7月12日開催のライブドア戦略会議において,被告人が,VCJの第2四半期業績に関し,メディア事業部から発注をして黒字化するよう指示したことが認められ,その時点で既に第2四半期が終わっていることなどからも,その指示が架空売上計上の指示であったことは明らかである。
イ 間接事実②について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実②として,平成16年9月13日のライブドアの戦略会議において,被告人が,己原及び丙谷に対し,粉飾によってVCJの同年12月期第3四半期通期の業績を黒字化するよう指示したことを主張し,同事実は,己原,丙谷及び乙川の各供述によって認められると主張する。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,①架空売上げの計上を指示したとする被告人の発言について,己原及び乙川と丙谷の各供述が食い違っていること,②丙谷が,被告人の指示を架空売上計上の指示と認識したのであれば,それを拒否すれば済むものであること,③丙谷は第3四半期中にできる限り実作業を実施する意思があったと供述しており,実際にも同四半期の後ではあるが作業が行われていることからすると,丙谷は被告人の指示を架空売上計上の指示とは認識していないと認められることなどから,上記各供述は信用できず,間接事実②は立証されていないと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
a 乙川は,公判廷において,ライブドアの戦略会議で,VCJの第3四半期の業績に関して,己原が,同四半期は約1200万円の黒字である旨報告したこと,それに対し,被告人が通期での業績を尋ねると,己原は約2500万円の赤字と答えたこと,それを聞いた被告人は,なぜ黒字にできないのかなどと激しめの口調で言い,己原が無理である旨答えると,「何で無理なの,何とかなるでしょう,ほかから売上げつけてでも何とかなるでしょう。」と言ったこと,四半期でようやく1200万円の黒字が出た後に,2500万円もの赤字を埋めるのを1か月にも満たない期間で行うのは到底不可能なので,被告人は架空売上げを計上してでも黒字にするように指示しているものと理解したこと,そして,己原ができないような口振りであると,被告人は,丙谷に対し「丙谷さん何とかしてあげてください,次期社長なんだから。」などと言ったこと,丙谷は「こっちで何とかしときますわ。」と応じていたことを供述している。
また,丙谷は,公判廷において,平成16年9月中旬ころのライブドアの戦略会議で,VCJの第3四半期の業績に関して,己原が,同四半期が1200万円の黒字である旨報告したこと,被告人は,己原が少し得意げであったことに,少しむっとしたような感じで,通期の業績を尋ねると,己原は二千数百万の赤字で終わる見込みであると答えたこと,それを聞いた被告人は,「なんでなんですか,第3クォーター通期で黒字にするというふうに言ってたじゃないですか。黒字化してくださいよ。」と言い,己原がその時期に二千数百万円の利益を積むことは無理である旨答えると,被告人は「ここまで来たんだから何とか黒字化しましょうよ。黒字化してくださいよ。」と言ったこと,残り2週間で約2700万円もの利益に見合う売上げを計上することは不可能に近いし,第2四半期で架空売上計上の指示があったので,被告人は架空売上げを計上してでも黒字化するように指示しているものと理解したこと,そして,己原がうつむいたままであったので,被告人は,丙谷に「何とかしてくださいよ。黒字化でお願いしますよ。」と言い,丙谷は「はい,分かりました。」と答えたことを供述している。
b そこで,上記各供述の信用性を検討する。
己原は,公判廷において,平成16年9月13日の戦略会議で,VCJの第3四半期の業績に関し,同人が同四半期のみでは黒字である旨報告したこと,それに対し,被告人が通期での業績を尋ねてきたので,営業利益,経常利益とも約二千五,六百万円の赤字である旨報告したこと,すると,被告人は「今回は許さないから,ここまできたら通期で完全に黒字にしてもらう。」などと言い,己原が現状では困難である旨答えると,さらに,「こんな数字じゃリリースできないよ,どこからか利益を作ればいいじゃないか。」などと言ったこと,被告人は架空売上げを計上して黒字化するよう指示してきたと思ったこと,己原が黙っていると,被告人は,丙谷に「丙谷さん,何とかしてくださいよ。」と言い,丙谷は「分かりました。」と答えていたことを供述している。
そして,関係各証拠によると,上記戦略会議は同年9月13日に開催されたものであるところ,同会議では,VCJの業績見込みについて,第3四半期は,営業利益約1243万円,経常利益約1220万円といずれも黒字であるが,同四半期通期では,営業損益が約2702万円,経常損益が約2553万円のいずれも赤字である旨の報告がされており,その後,乙川らがキューズ・ネットに対する架空売上げを計上していることが認められる。
加えて,関係各証拠によれば,当時のVCJの業績は,月間の売上げが約7000万円,営業利益が多くて約700万円であって,残り約2週間で2500万円以上の利益を上げるのは極めて困難であり,しかも,丙谷,己原において,それを達成できる具体的な計画もなかったことが認められる。さらに,前記認定のとおり,被告人が第2四半期の業績に関して架空売上げの計上を指示していることからすると,第3四半期の業績を黒字にするためにも,架空売上げを指示したとしても不自然ではない。
これらの事情を考慮すると,己原の上記供述は関係証拠と符合しており,また,己原がまず黒字を報告すると,被告人がすかさず通期の業績を尋ねたことなど,臨場感に富む供述内容を含んでおり,信用性は高いということができる。
そして,乙川及び丙谷の上記各供述は,信用性の高い己原の上記供述に符合するだけでなく,乙川が同年9月14日に丙谷に送信した前記⑱のメールが,VCJとキューズ・ネットとの間の架空取引を前提としたものであることは前記認定のとおりであって,このメールは,ライブドア戦略会議での被告人の架空売上げの指示に沿う内容となっており,乙川らの上記供述を裏付けている。しかも,乙川及び丙谷の上記各供述は,上記戦略会議で,被告人が丙谷に架空売上げを指示していることなど主要な部分で一致しており,相互にその信用性を裏付けている。したがって,乙川及び丙谷の上記各供述は信用できるということができる。
c 弁護人は,①架空売上げの計上を指示したとする被告人の発言について,乙川及び己原は,被告人が「売上げつけて」とか「利益を作れば」などと言った旨供述しているのに対し,丙谷は,被告人が「黒字化してください。」と言った旨供述しており,供述に食い違いがあること,②辰上の供述によれば,戦略会議は出席者が自分の意見を言える雰囲気であったことが認められ,丙谷の供述によっても,己原は被告人の指示に従わなかったのであるから,丙谷が,被告人の指示を架空売上計上の指示と認識したのであれば,それを拒否すれば済むものであること,③丙谷は第3四半期中にできる限り実作業を実施する意思があったと供述しており,実際にも同四半期の後ではあるが作業が行われていることからすると,丙谷が被告人の指示を架空売上計上の指示とは認識していないと認められることなどを指摘して,乙川及び丙谷の上記各供述が信用できないと主張する。
しかしながら,①については,丙谷は,「黒字化してください。」と言われたが,平成16年7月の戦略会議で被告人がVCJの第2四半期の業績について,架空売上計上の指示をしていたので,同様に解したというのであって,乙川や己原が供述するところと趣旨は同じであり,弁護人の指摘する供述の食い違いは,その信用性に影響を及ぼすものではない。②については,関係各証拠によれば,被告人はVCJの第3四半期通期の業績を黒字にすることを強く求めていたことが認められ,通常の戦略会議における雰囲気と同一に考えることはできず,また,丙谷は,VCJの代表取締役社長に就任することが内定しており,それまでの代表取締役社長である己原とは立場が異なるので,被告人の要求に従わざるを得なかったとしても,不自然ではない。③については,前記のとおり,丙谷は被告人に指示されて計上することとした売上げについて,その根拠となる作業を実施する意思などなかったものと認められ,弁護人の主張はその前提を欠く。
d 以上によれば,信用性の高い乙川及び丙谷の各供述によると,平成16年9月13日開催のライブドア戦略会議において,被告人が,丙谷らに対し,VCJの第3四半期通期の業績に関し,架空売上げを計上してでも黒字化するよう指示したことが認められる。
この点,弁護人は,戦略会議の場で被告人が経営者として黒字化を指示しても,それは経営者として当然のことであって,これが架空売上計上の指示になるというのは,およそ常識はずれであるなどと主張するが,上記認定のとおり,被告人が第2四半期に架空売上げの計上を指示していること,正常な売上げを前提とすると黒字化することは極めて困難であったこと,また,後記認定のとおり,被告人が架空売上げであることを認識していたことを推認させるメールのやり取りがあることからすると,被告人の指示は架空売上計上の指示であったものと認められる。
ウ 間接事実③について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実③として,平成16年9月14日,乙川が,丙谷及び被告人に対し,間接事実②を前提として架空売上計上の名目及び金額等を相談するメールを送信したことを主張し,同事実は,乙川及び丙谷の各供述並びに上記メールの存在によって認められるとする。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,①被告人が上記メールを読んだとの立証はされていないこと,②仮に,乙川が,平成16年9月13日の戦略会議における被告人の指示を受けて上記メールを作成したのであれば,被告人をあて先(TO)として送信するのが普通であり,CCで送信するのは不自然であることなどから,間接事実③は立証されていないと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
乙川が,平成16年9月14日,丙谷に対して,前記⑱のメールを送信していることは明らかである。
前記認定のとおり,上記⑱のメールの記載は,乙川らが,VCJが受注することになる業務とは無関係に,発注金額を決めていることからしても同発注が実取引を伴うものとは考えていなかったことが推認できるものである。
しかしながら,被告人が上記メールを読んだことを裏付ける証拠はないことは弁護人指摘のとおりであり,被告人がこのメールを受信している事実から被告人の故意及び共謀の存在を推認するのは困難である。
エ 間接事実④について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実④として,平成16年9月中旬ころ,乙川が,被告人に対し,VCJについても,ライブドアと同様に,キューズ・ネットに対する架空売上げを計上すること,この架空売上げのための利益付け替え分についても,VCJとマネーライフ社との株式交換の際,マネーライフ社の本来の企業価値に上乗せして同社の企業価値を過大評価し,同社の株主であるライブドアファイナンス(VLMA2号名義)にマネーライフ社の本来の企業価値を超過してVCJ株式を取得させることを報告し,被告人が,これを了承したことを主張し(マネーライフ社との株式交換に関する虚偽事実の公表についての被告人の犯意及び共謀を根拠づける間接事実③と同じ),同事実は乙川及び丁沢の各供述によって認められるとする。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,マネーライフ社との株式交換に関する虚偽事実の公表についての被告人の犯意及び共謀を根拠づける間接事実③は立証できていないから,間接事実④も立証されていないと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
前記認定のとおり,平成16年9月中旬ころ,乙川が,被告人に対し,キューズ・ネットからVCJに対して約1億円の売上げをつけること,その分を,VCJとマネーライフ社の株式交換に当たり,マネーライフ社の企業価値に上乗せすることを報告し,被告人がこれを了承したものと認められ,また,ライブドアファイナンスが上乗せ分に相当するVCJ株式を取得,売却して利益を得ることが当然の前提となっていた。
以上の事実によれば,VCJのキューズ・ネットに対する売上げは,VCJとマネーライフ社の株式交換に際し,マネーライフ社の企業価値に上乗せして,その分,ライブドアファイナンスの取得するVCJ株式を増やすなど,根拠となる実取引が存在する正常な売上げでは考えられないような処理がされており,乙川が上記内容の報告をして,被告人がこれを了承したということは,乙川は,被告人がVCJの上記売上げが根拠となる実取引のないものであることを理解しているものと認識しており,被告人もそれを理解していたと推認できるものである。
オ 間接事実⑤について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実⑤として,被告人が,平成16年10月25日のVCJ取締役会において,同社の同年12月期第3四半期通期の業績の公表額の報告を受けて了承したことを主張し,同事実は同取締役会の議事録等によって認められるとする。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,間接事実⑤自体は争わないが,同事実から,被告人の犯意が認定されるものではないと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
前記第2認定の事実によれば,平成16年10月25日には,被告人も出席したVCJ取締役会において,第3四半期は,四半期ベースで前年比を超える売上げ,利益を回復し,当期純利益としても黒字に転換したなどとして,売上高約7億5900万円,営業利益約7100万円等が報告されたことが認められる。
以上によれば,被告人は,上記取締役会において,第3四半期通期の業績額の報告を受けてこれを了承し,同業績状況に関する公表内容を認識したものである。
なお,弁護人は,上記事実が被告人の犯意認定に役立たないとするが,VCJの第3四半期通期の公表内容を認識する限度で,間接事実としての意味をなすものである。
カ 小括
前記のとおり,被告人は,平成16年9月13日のライブドア戦略会議で,丙谷らに対し,VCJの同年12月期第3四半期通期の業績に関し,架空売上げを計上してでも黒字化するよう指示し,その後,同年9月中旬ころ,乙川から,キューズ・ネットに対して約1億円の架空売上げを計上することになった旨の報告を受けてこれを認識した。さらに,被告人が同年10月25日のVCJ取締役会で,第3四半期通期の業績状況に関する公表内容を認識したものである。
以上によれば,被告人は,遅くとも上記取締役会までには,VCJが,第3四半期通期において,キューズ・ネットに対する架空売上げ約1億円を計上し,それを前提とした虚偽の売上高,営業利益等の業績状況を公表することを認識,認容したものであり,かつ,同公表につき,乙川らとの間で共謀が成立したものである。
7  虚偽事実の公表が,VCJ株式の売買のため,又は同株価の維持上昇を図る目的をもって行われたものか否かについて(争点④)
(1) 検察官が根拠として主張する間接事実についての判断
検察官は,虚偽事実の公表が,VCJ株式の売買のため,又は同株価の維持上昇を図る目的をもって行われたことの根拠として,以下の間接事実を主張するので,順次検討する。
ア 間接事実①について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実①として,被告人は,VCJを買収した当初は,株式交換による完全子会社化を予定していたが,VCJ株式の株価上昇をきっかけに,ライブドアが保有するVCJ株式の売却により売却益を得るとの方針に切り替えたことを主張し,同事実は乙川供述から認められるとする。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,VCJを完全子会社化方針から売却方針へ切り替えたことは事実であるが,その事実が,被告人らに,VCJ株式の売買のため,あるいは,その株価の維持上昇を図るためという動機・目的が存在したことを証明する間接事実にはならないと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
a 関係各証拠によれば,乙川は,VCJを買収した当初は,同社をライブドアの完全子会社にして上場廃止にすることを予定していたが,VCJの時価が増大したため,同社を売却する意向を持ち,被告人もこれを了承していたことが認められ,この点は弁護人においても争っていない。
b 弁護人は,この事実から,VCJ株式の売買のため,あるいは,その株価の維持上昇を図るためという動機・目的が存在したことを証明できないと主張する。
しかしながら,ライブドア全体の方針が,VCJを完全子会社とするのではなく,売却の意向であったということは,マネーライフ社との株式交換でVLMA2号名義で取得されたVCJ株式も市場で売却することが考えられていたということができる。そして,上記事実は,平成16年10月25日の公表時,被告人らにVCJ株式の売買のため,あるいは,その株価の維持上昇を図るためという動機・目的が存したことを推認させるものである。
弁護人の主張は理由がない。
イ 間接事実②について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実②として,平成16年11月1日,乙川が被告人に対し,VCJとマネーライフ社との株式交換の際,マネーライフ社の本来の企業価値約1億円に合併手数料1.5億円と「期末協力金」を上乗せして同社の企業価値を約4億円と過大評価して,同社の株主であるライブドアファイナンス(VLMA2号名義)に,マネーライフ社の本来の企業価値を超過してVCJ株式を取得させること及びそれを前提とした同株式の100分割による株価上昇で巨額の利益が得られる見込みであることなどを報告する内容のメールを送信し,被告人がこれを了承するメールを返信したことを主張し,同事実は乙川の供述及び被告人の供述調書によって認められるとする。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,上記メールでは,VCJ株式の売買のため,あるいは,その株価の維持上昇を図るためという動機・目的を立証することはできないと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
a 乙川と被告人との間で,平成16年11月1日に前記⑳及び の各メールのやりとりがなされ,被告人において,前記⑳のメールの全文を読んでいたことは前記認定のとおりである。被告人が,前記⑳の乙川からのメールを読んで,マネーライフ社との株式交換に伴ってVCJ株式がライブドアファイナンスの下に来て,株式100分割を実施して市場で売却すれば36億円の利益が出るという説明に対して,その方針に異議を唱えていないことからすると,これを是認していたということができる。
b 弁護人は,上記メールからは,VCJ株式の売買のため,あるいは,その株価の維持上昇を図るためという動機・目的を立証することはできないと主張する。
関係各証拠によると,乙川らは,VCJと,VLMA2号名義で買収済みのマネーライフ社との株式交換に際して,VCJがEXマーケティングとの合併に伴いライブドアファイナンスに支払うべき合併手数料,キューズ・ネットに対する架空売上げの計上に伴う資金移動分を上乗せして,マネーライフ社の企業価値を過大に評価し,VLMA2号名義で発行を受けるVCJ株式の株数を多くし,同株式を同組合名義で売却して,その売却益を分配金としてライブドアファイナンスに還流させてその売上げに計上することを企図していたことが認められる。そして,前記⑳のメールは,乙川の上記計画の内容をうかがわせるものとして意味を持ち,また,被告人もその計画を認識していたのであるから,被告人らにVCJ株式の売買のため,あるいは,その株価の維持上昇を図るためという動機・目的が存していたことも推認させるものである。
ウ 間接事実③について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実③として,マネーライフ社について,本来の価値は1億円程度であったが,合併手数料,架空売上げのための利益の付け替え分を上乗せして約4億円と評価して株式交換比率が決定されたという実態が発覚すれば,株価の下落要因となるため,あたかも株式交換比率が適正に算定された上で企業規模の拡大がなされたかのように装って公表したことを主張する。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,①マネーライフ社の真実の企業価値は立証されていないこと,②「企業規模の拡大」は必ずしも株価の上昇要因ではないこと,③検察官は,VCJがライブドアファイナンスに支払うべき合併手数料等を上乗せしてマネーライフ社の評価額を算定し,それに基づいて株式交換比率を算定したことを公表したら,VCJの株価が暴落するのは明白である旨主張するが,差額相当額の債務を相殺した旨公表すれば,損害は発生していないのであるから,株価下落要因にはならないと考えるのが自然であることなどから,検察官の主張は理由がないと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
a 前判示のとおり,VCJが平成16年10月25日に行ったマネーライフ社との株式交換に関する公表について,虚偽であると認定したのは,交換比率がマネーライフ社の企業価値を公表されたDCF法によって適正に算出した結果を踏まえていない点や,同比率を第三者機関が算出していない点である。
b ところで,上記株式交換に関し,真実の公表,すなわち,株式交換比率が,買収対象の本来の企業価値にその価値とは関係のない手数料等を上乗せするなどして算出したものであり,また,それを算出したのが株式交換の実質的な当事者であることを公表したならば,その公表に接した投資家がVCJの企業行動について消極的な評価を下し,同社の株価の下落要因となるものと認められる。しかるに,VCJでは,上記事実を公表しなかったばかりか,第三者機関が公表された評価方法によって適正に評価した価格を前提とする株式交換比率で企業を買収するという,株価の上昇要因となる事項を公表したものである。
弁護人は,完全子会社化した企業の業績が悪ければ,かえって株価の下落要因となるものであるとして,「企業規模の拡大」は必ずしも株価の上昇要因ではないと主張する。
しかしながら,企業が買収を行うのは,当該企業にとって利益になると判断したからであり,その旨公表されれば,投資家としても好意的に受け止めるのが通常である。そして,関係各証拠によっても,VCJがマネーライフ社の買収に関して公表した内容について,特段,株価の下落要因となるような事項は認められない。
c 前判示のとおり,被告人らは,株式交換に伴って発行されるVCJ株式を,市場で売却し,現金化することを予定していたのであるから,同株価が下落すると売却が困難となることは予想しており,また,株価の上昇を期待していたことがうかがえる。丙谷,被告人らが,株式交換比率が買収対象の本来の企業価値にその価値とは関係のない手数料等を上乗せするなどして算出したものであることや,算出した機関が株式交換の実質的な当事者であることなど株価下落要因となる事実を公表しなかったのは,売却を予定していたVCJの株価の下落を防ぐためであって,また,株式交換による企業買収は,確かに,東証の適時開示規則により公表事項とされていたという面はあるが,株価上昇要因であることは否定できず,結局は,この公表は,株価を上昇させるために行ったものということができる。
d したがって,丙谷,被告人らに,VCJ株式の売買のため,また,同株価の維持上昇を図る目的が存在していたと認められる。
また,平成16年11月9日の公表は,株式交換比率を1対1とする上記公表を前提に,VCJ株式の100分割に伴い,その交換比率を訂正しているものである。そして,株式100分割の公表自体も株価の上昇要因となることから,先の公表が,VCJ株式の売買のため,また,同株価の維持上昇を図る目的をもって行われたものと認められる以上,それを訂正する公表についても,同目的等が認められる。
(エ) 弁護人の主張についての判断
a 弁護人は,マネーライフ社の真実の企業価値は立証されていないと主張する。
しかしながら,マネーライフ社の真実の価値いかんにかかわらず上記株式交換比率に関する公表が虚偽となるのは,前判示のとおりである。
b 弁護人は,1億円のものを4億円で買ったと公表すれば,3億円の損害が発生しているのであるから,株価の下落要因になる可能性はあるが,1億円のものを4億円で買う代わりに,3億円相当の債務を相殺してもらったと公表すれば,損害は発生していないのであるから,株価下落要因にはならないと主張する。
しかしながら,単に経済的損失が生じるから株価の下落要因となるのではなく,株式交換に際し,適正な評価手続を踏まえていないということが株価の下落要因となるものであって,弁護人の主張は理由がない。
エ 間接事実④について
(ア) 検察官の主張
検察官は,間接事実④として,上場企業が公表する四半期業績が,好調であれば株価上昇要因となり,不調であれば株価下落要因となるため,業績が好調であるかのように装って公表したことを主張する。
(イ) 弁護人の主張
これに対し,弁護人は,検察官の主張は,株価が複合的要因によって変動することを捨象したものであって,間接事実④は立証されていないと主張する。
(ウ) 当裁判所の判断
前判示のとおり,VCJが平成16年11月12日に行った同年12月期第3四半期の業績状況に関する公表は,キューズ・ネットに対する1億0500万円の架空売上げを計上して,本来であれば赤字となるところを,営業利益,経常利益とも黒字を計上した旨虚偽の公表をしたものである。
そして,業績が好調である旨公表すれば株価の上昇要因となることは明らかであるから,上記虚偽事実の公表は,被告人らが,ライブドア等の利益を図ろうと,売却を予定していたVCJの株価を上昇させるために行ったものといえ,VCJ株式の売買のため,また,同株価の維持上昇を図る目的をもって行われたものと認められる。
(2) 小括
以上によれば,VCJがマネーライフ社との株式交換及び第3四半期通期の業績状況に関して行った虚偽事実の公表は,いずれも,VCJ株式の売買のため,また,同株価の維持上昇を図る目的をもって行われたものと認められる。
8  公訴棄却の申立てについて(争点⑦)
(1) 弁護人の主張
弁護人は,以下のとおり,本件公訴は違法捜査によるものであり棄却されるべきであると主張する。
すなわち,乙川及び丁沢について,トラインとの株式交換で発行されたライブドア株式に関する特別背任あるいは業務上横領の嫌疑が濃厚であるのに何ら本格的捜査が行われず,起訴もされていないという状況等を総合すれば,本件捜査においては,検察官と乙川及び丁沢との間で,検察官が乙川らの別件につき本格的捜査をして公訴提起をしない代わりに,乙川らが本件犯行につきすべて被告人が主導的に乙川らに指示して行わせたとの検察官の主張に沿った供述をする旨の黙契が成立していたことが十分に推認される。
検察官の主張を支える中核的事実の一つである平成15年10月下旬ころの辛井を含む四者会議については,検察官がその存在を主張し,乙川らもそれに沿う供述をしているが,実際には,一種のアリバイが成立しており,同会議が実在しなかったことは極めて明白である。検察官は,上記四者会議が存在しないことを認識していたにもかかわらず,乙川らに同会議の存在を供述させたのである。
また,上記のとおり,乙川らの別件については,捜査らしい捜査は全く行われていない。被告人は,トラインとの株式交換で発行されたライブドア株式が乙川らによって私物化されたことを知らされておらず,検察官は被害者である被告人に上記事実を秘匿していたのである。検察官は,中心人物である辛井が死亡し,乙川らが否認しているから立件起訴しないのは問題がない旨主張するが,明らかに乙川らをかばう主張であり,その主張自体が上記黙契の存在を強く示している。そして,検察官は,別件が起訴されていれば実刑相当事案と思われるところ,証券取引法違反罪のみで,乙川に対しては懲役2年6月,丁沢に対しては懲役1年6月の求刑をしたにすぎない。その一方で,検察官は,辛井が重要人物であることは乙川らの別件と何ら変わらない本件を,被告人が否認しているにもかかわらず,客観証拠に反する供述に基づいて起訴し,有罪判決を求め,懲役4年の求刑をしているのである。この落差はあまりにも不公平であって,この落差こそ,検察官と乙川らとの黙契の存在を示すものである。
検察官は,乙川らに取引めいた発言をしていないのはもとより,検察官がトラインとの株式交換で発行されたライブドア株式の処分状況等について乙川らの供述内容を把握する前に,乙川らは,被告人の関与状況を含め,本件両起訴事実の事実関係の概要を自白していたのであるから,取引の可能性を指摘されるような状況さえ存在しない旨主張する。しかしながら,乙川らは自己の別件を十分自覚しており,強制捜査が入った時点で,別件が露見する可能性を覚悟していたものと推認でき,また,検察官も,乙川らの別件嫌疑を把握することは極めて容易であったと考えられるのであって,重い別件が追及されないのであれば被告人を主犯とする供述も辞さないと考えながら取調べを受けている乙川らと,被告人を主犯として起訴できるのであれば乙川らの別件など捨ててもいいと考えながら同人らを取り調べている検察官がいれば,被告人を起訴できるような供述をすれば,重い別件については本格的捜査・起訴をしないという黙契が成立するのは自然であり,検察官が取引めいた言動などする必要はないのである。
検察官は,乙川らの別件のような事案を把握した場合,厳正公平さを疑われるのを回避するため,正規に立件手続をとった上,捜査を遂げ,しかるべき処分をするのが本来であるところ,乙川らの別件については,本来検察がとってきた厳正かつ公平な手続がとられていないことは明らかであって,そのことからも,検察官と乙川らとの間に黙契が存在することは明らかである。
以上のとおり,被告人に対する本件起訴及び訴訟遂行は,あまりにも不公正あまりにも不正義であって,このような起訴,訴訟遂行が許されるのであれば,法は存在しないに等しい。
よって,公訴棄却を求める。
(2) 検察官の主張
これに対し,検察官は,以下のとおり主張する。
すなわち,検察官が乙川及び丁沢に対し取引めいた発言をしていないのはもとより,検察官が,トラインとの株式交換で発行されたライブドア株式の処分状況やその後の資金の流れ等について,乙川及び丁沢に対して尋ね,両名の供述内容を把握する前に,両名は,被告人の関与状況を含め,本件両起訴事実の事実関係の概要を自白していたのであって,そもそも取引の可能性を指摘されるような状況さえ存在せず,弁護人の主張は前提を欠く。
なお,弁護人の想定する業務上横領又は特別背任疑惑については,乙川及び丁沢のほか,辛井が関与していることとなるが,乙川及び丁沢は,業務上横領における不法領得の意思・横領行為,特別背任における図利加害目的・任務違背行為等を否認している一方,辛井は死亡しておりその供述を得ることができない状況にあって,この関係は証拠収集を十全になすことがそもそも困難な状況にあったのであるから,乙川及び丁沢に関する余罪を立件・起訴しなかったことが不当だという非難は全く当たらない。
(3) 当裁判所の判断
ア 確かに,前判示のとおり,乙川,丁沢,辛井らが,トラインとの株式交換で発行されたライブドア株式を売却して得た金員の一部を個人的に費消したことが強く疑われる状況にある。この点,検察官は,辛井が死亡していることから証拠収集を十全になすことがそもそも困難であったと主張するが,そうであるとしても,検察官の捜査,起訴権限の大きさに鑑みると,慎重かつ公平な運用が望まれているのであって,本件でも,立件の上,不起訴処分にするなど,本件捜査の厳正公平さに対する疑念を払拭しておくことが可能であったといえる。しかるに,本件訴訟に現れた事情によれば,検察官がそのような手続を踏んだものとは認められず,本件において主犯として起訴され,最も重い求刑を受けた被告人が,厳正公平を旨とする検察官に対し,不公平感を抱くのも一応の理解ができないわけではない。
イ しかしながら,弁護人は,検察官と乙川らとの間で,乙川らの別件につき本格的捜査をして公訴提起をしない代わりに,乙川らは本件犯行は被告人が主導的に行ったとの検察官の主張に沿った供述をするという黙契が成立しており,その証左として,存在しないことが明白な平成15年10月下旬ころの辛井を含む四者会議について,乙川らが検察官の主張に沿ってその存在を供述していることを指摘するが,証拠上,上記四者会議の存在を認定することができることは前判示のとおりであって,弁護人の主張はその前提を欠く。
また,関係各証拠によれば,乙川及び丁沢の各供述の主要部分は,丙谷,庚崎,戊野,丑木,癸井,己原等の乙川及び丁沢以外の第三者供述によって裏付けられており,しかも,客観的に存在するメールの記載とも符合しているのであって,架空の罪を被告人に負わせようとの意図はうかがえない。加えて,乙川及び丁沢の各供述によると,両名が,検察官に対し,トラインとの株式交換で発行されたライブドア株式の処分及びその売却代金の流れ等について供述する以前に,本件各犯行への被告人の関与等を供述していたものと認められるから,被告人の関与に関する乙川らの供述が,上記ライブドア株式の処分等についての検察官との取引によって引き出されたものと認めることはできない。
ウ この点,弁護人は,乙川らは重い別件が追及されないのであれば被告人を主犯とする供述も辞さないと考えており,検察官も被告人を主犯として起訴できるのであれば乙川らの別件など捨ててもいいと考えていたのであるから,検察官が取引めいた言動などしなくても,上記黙契が成立するのは自然であると主張する。しかしながら,そうすると,乙川らは,弁護人のいう別件について起訴されないという保証が全くない状態で,被告人の関与につき虚偽の供述したこととなり不自然であって,弁護人の主張は採用できない。
しかも,これまで見てきたとおり,本件各犯行への被告人の関与については,乙川及び丁沢のみが供述しているわけではなく,上記のとおり,丙谷,庚崎,戊野,己原ら多くの関係者も乙川らの供述を裏付ける供述をしているものであって,このことは,上記黙契からは説明できない。
したがって,弁護人の主張する黙契の存在を認めることはできず,弁護人の公訴棄却の申立ては理由がない。
9  結論
以上の次第で,判示第1の事実(偽計及び風説の流布)について,VCJとマネーライフ社との間の株式交換に関する公表(争点①)及びVCJの平成16年12月期第3四半期通期の業績状況に関する公表(争点②)はいずれも虚偽であって,同公表は偽計及び風説の流布に該当するところ,被告人も,同虚偽事実の公表を認識,認容し,同公表につき乙川らとの間で共謀が成立したものと認められ(争点③),また,同虚偽事実の公表は,VCJ株式の売買のため,また,同株価の維持上昇を図る目的をもって行われたものと認められる(争点④)。
また,判示第2の事実(虚偽有価証券報告書の提出)について,本件有価証券報告書に掲載されている連結損益計算書記載の連結経常利益は,売上計上の許されないライブドア株式売却益並びにキューズ・ネット及びロイヤル信販に対する架空売上げを計上していることから虚偽となるものであるところ(争点⑤),被告人も,上記虚偽記載のある本件有価証券報告書の提出を認識,認容し,同提出につき乙川らとの間で共謀が成立したものと認められる(争点⑥)。
そして,弁護人の公訴棄却の申立ては理由がない(争点⑦)。
よって,判示第1及び第2の事実を認定することができる。
(法令の適用)
罰条
判示第1の所為 包括して刑法60条,平成18年法律第65号附則218条,平成16年法律第97号附則21条(同年法律第165号により22条に変更)により,同年法律第97号による改正前の証券取引法197条1項7号,証券取引法158条
(なお,判示第1の所為の虚偽事実の各公表は,VCJの株価を維持上昇させた上で,実質的にライブドアファイナンスが取得するVCJ株式を売却してライブドアの連結上の利益を得ようという同一の犯意の下に行われた一連の行為と認められるから,包括一罪となるものである。)
判示第2の所為 刑法60条,平成18年法律第65号附則218条により同法による改正前の証券取引法207条1項1号,197条1項1号(24条1項)
刑種の選択 各所定刑中いずれも懲役刑を選択
併合罪加重 刑法45条前段,47条本文,10条
(犯情の重い判示第2の罪の刑に法定の加重)
未決勾留日数の算入 刑法21条(40日算入)
訴訟費用の処理 刑事訴訟法181条1項本文(負担)
なお,判示第1の罪については,証券取引法198条の2によれば,犯罪行為により得た財産があれば,必要的に没収又は追徴しなければならないとされているところ,前記認定のとおり,VLMA2号名義で取得されたVCJ株式は,平成17年2月9日から同年7月28日までの間に売却され9億2814万1855円の資金が得られているが,虚偽事実の各公表がなされた時期が平成16年10月25日から同年11月12日までであり,売却時と3か月ないし9か月隔たっていること,VCJの株価は,同年11月上旬から上昇しているが,同年12月中旬から下落に転じ,平成17年2月には公表前の株価を下回っていることからすると,前記売却益は犯罪行為により得た財産とは認められないので,没収の対象とはならず,追徴もしない。
(量刑の理由)
1  事案の概要
本件は,ライブドアの代表取締役社長兼最高経営責任者であった被告人が,同社の取締役兼最高財務責任者であった乙川らと共謀の上,①ライブドアの子会社であるVCJにおいて,同じくライブドアの子会社であるライブドアファイナンスが既に投資事業組合名義で買収していたマネーライフ社を,株式交換によって買収するに当たり,VCJ株式の株価を維持上昇させた上で,上記株式交換によりライブドアファイナンスが取得したVCJ株式を売却して利益を得,さらには,ライブドアファイナンスの親会社であるライブドアに連結売上計上することによって利益を得ようと企て,東証の適時開示制度によって,上記株式交換及びVCJの四半期業績に関し虚偽の事実を公表し,もって,VCJ株式の売買のため及び同株式の相場の変動を図る目的をもって,偽計を用いるとともに,風説を流布したという事案(判示第1の事実)と,②ライブドアの平成16年9月期において,3億1278万4000円の経常損失が発生していたにもかかわらず,売上計上の認められないライブドア株式売却益及び架空売上げを売上高に含めるなどして経常利益を50億3421万1000円として記載した内容虚偽の連結損益計算書を掲載した有価証券報告書を提出したという事案(判示第2の事実)である。
2  本件各犯行について
(1)  本件各犯行は,適時開示において虚偽の事実を公表し,また,重要な事項につき虚偽記載のある有価証券報告書を提出したものであって,いずれも,情報開示制度を悪用した事案である。
近年,我が国の企業の資金調達の方法が,銀行等金融機関からの融資に代表される間接金融から,株式等の発行に代表される直接金融へと移行が進み,また,規制緩和等により個人投資家が大幅に増加している状況にある。そして証券取引において,個人投資家の自己責任が強く求められる一方,これら投資者に対する正確な情報開示は必須のものと位置づけられている。すなわち,有価証券発行者の内部情報にアクセスする手段を持たない一般投資者が,証券市場において,自主的で合理的な判断に基づき,自己の責任において有価証券の売買を行うためには,上場会社等の財務内容等に関する客観的かつ正確な情報の提供が必要不可欠である。仮に,上場会社等で開示された財務内容等に関する情報に虚偽があれば,多くの投資者に経済的損失を被らせるとともに,市場に対する投資者の信頼を失わせ,企業による資金調達を困難にして,ひいては我が国の経済に重大な悪影響を及ぼすことになりかねないこととなる。
証券取引法は,第1条で,その目的として,国民経済の適切な運営及び投資者の保護を掲げ,情報開示制度を中核と位置づけ,その一環として,上場会社等に対し,企業の概況,経理の状況その他事業の内容に関する重要な事項等を記載した有価証券報告書の提出を義務づけて,その開示を求めている(同法24条1項)。
また,東証における適時開示制度も,上場会社に対し,投資判断に影響を与える重要な会社情報を,一般投資者に,遅滞なく,正確かつ公平に発表することを要求し,投資者に対する合理的な投資判断資料の提供を確保している。そして,開示事由が存在しているにもかかわらず,要請される適時開示を適正に行わなかった場合には,東証において,改善報告書の提出を求め,改善の見込みがないと判断されたときには,上場廃止の理由となるものとされているのである。この適時開示制度も,証券取引法の定める情報開示制度と並んで,投資者保護のための重要な制度として位置づけられる。
しかるに,本件各犯行は,その制度の根幹を揺るがすものであって,証券市場の公正性を害する極めて悪質な犯行であるといわざるを得ない。
(2)  判示第2の虚偽有価証券報告書の提出についてみると,ライブドアでは,本業であるインターネット関連事業,特に重点を置いていたポータルサイト事業の業績が上がっていなかったにもかかわらず,平成16年9月期の連結業績予想について,利益計上の許されないライブドア株式売却益を見込んで経常利益を,20億円,30億円,さらには50億円に上方修正する一方で,同年9月期の業績について,真実は約3億円の経常損失が発生していたにもかかわらず,第1四半期から第3四半期にかけて約37億円のライブドア株式売却益を計上したほか,期末に15億円を超える架空売上げを計上するなどして,経常利益を50億3421万1000円にして上記業績予想値を達成し,有望な企業の姿を装ったものである。
本件犯行は,損失額を隠ぺいするような過去の粉飾決算事例とは異なり,投資者に対し,飛躍的に収益を増大させている成長性の高い企業の姿を示し,その投資判断を大きく誤らせ,多くの市井の投資者に資金を拠出させたというものであって,粉飾額自体は過去の事例に比べて必ずしも高額ではないにしても,その犯行の結果には,大きいものがあるとみることができる。すなわち,粉飾した業績を公表することにより株価を不正につり上げて,ライブドアの企業価値を実態よりも過大に見せかけ,度重なる株式分割を実施して,人為的にライブドアの株価を高騰させ,結果として,同社の時価総額を,平成15年9月末には約295億円であったものが,平成16年9月末には約2528億円,平成17年9月末には約4689億円と増大させたものである。一般投資者を欺き,その犠牲の上に立って,企業利益のみを追求した犯罪であって,その目的に酌量の余地がないばかりか,強い非難に値する。
その結果が大きいことは,株式分割等により,平成16年9月末の時点の株主数が約15万4000人に達し,その後も,多数の投資者がライブドア株式を買い付けていたところ,それらの株主は,本件発覚後,株価が急落し,さらには,上場廃止によって投下資本を回収する術も事実上失い,多額の損失を被ったものと認められ,多数の株主がライブドアや被告人らに対し,損害賠償請求訴訟を提起しているといった一連の経過に端的に現れている。
そして,上記のとおり飛躍的な業績向上の姿を仮装した粉飾の手口をみると,まず,ライブドア株式売却益の売上計上については,ライブドアが,株式交換で企業を買収するに当たり,発行するライブドア株式を相手方から投資事業組合名義で一定の金額で買い取ることとした上で,株式交換におけるライブドアの株価を時価よりも低く設定することにより,ライブドア株式を過大に発行させ,これを複数の投資事業組合を介して市場で売却し,時価との差額等で生じた売却益を分配金の形で子会社であるライブドアファイナンスに還流させ,ライブドアの連結売上げに計上するというものである。これは,ライブドアの連結売上げに計上するために,企業会計の潜脱を図ろうとして計画されたものであって,その経済的実態としては,ライブドアが新株を発行して,その払込金を売上げとして計上して業績向上を実現しているに等しく,本来は収益ないし利益の発生し得ないところに利益が発生しているように偽り,見せかけの成長を装っていたのである。
しかも,そのスキームは,企業会計が十分整備されていない投資事業組合を悪用し,会計処理を潜脱したものであり,正に,脱法を企図したことは明らかである。また,公認会計士の指摘を受けて,ライブドア株式売却益がライブドア側に還流していることが発覚するのを防ぐため,日付をさかのぼらせて組成した投資事業組合をスキームに介在させてこれを複雑化するなど,粉飾の手口は巧妙である。
弁護人は,本件は,ライブドア株式売却益をライブドアの連結決算において会計的にどう処理すべきかという技術的な問題であると主張するが,本件犯行は,資本勘定とすべきものを損益勘定にしたという単に会計処理の是非のみが問題となる事案ではなく,前判示のとおり,会計処理を潜脱して,自己株式売却益を売上利益計上し,虚偽の業績を公表して多数の投資者を欺いた悪質な犯行である。
また,架空売上げの計上についても,既にライブドア・グループが投資事業組合を利用して買収済みであったにもかかわらず,連結対象としていなかった会社を利用して,各事業部や子会社から多額の架空売上げを計上し,しかも,公認会計士から粉飾の指摘があったにもかかわらず,意に介せずあえて強行しているのであって,強固な意思がうかがわれる。
加えて,被告人らは,ライブドアの監査を行っていた監査法人の公認会計士らの専門家の助言を得て,投資事業組合をスキームに介在させたり,証憑類を作成したりするなどの隠ぺい工作を行っているのである。監査法人をも取り込んで組織的な粉飾を完遂したものといえ,この点でも犯情悪質である。
(3)  次に,判示第1の偽計及び風説の流布についてみると,被告人らは,上記の自己株式売却益の還流スキームをVCJとマネーライフ社の株式交換にも応用することを企て,株式交換で発行されるVCJ株式を高値で売却して利益を得ようとして本件犯行に及んでいるのであり,その利欲的な動機は強く非難されるべきである。
また,より多くのVCJ株式を取得してその売却益を増大させるべく,株式交換に関する開示内容を,実際には約1億円程度と評価していたマネーライフ社の企業価値について,同社の企業価値とは全く無関係な手数料等を上乗せするなどして4億円と決めて,それを前提にして株式交換比率を決めたにもかかわらず,対外的には,「株式交換比率については,第三者機関が以下の方法で算出した結果を踏まえ,両者間で協議のうえ,決定いたしました。」などと,あたかも株式交換比率が適正に決定されたかのように公表し,適正な株式交換によって企業規模が拡大しているかのように装っている。四半期業績に関しても,真実は,VCJにおいては,経常損失等が発生していたにもかかわらず,被告人の指示の下,組織的に架空売上げを計上することにより,完全黒字化への転換を果たした旨公表している。本件犯行は,株式交換によって取得するVCJ株式を高値で売却するため,虚偽の公表を行って他の投資者を欺き,その投資判断を誤らせようとしたものであって,悪質というほかない。
(4)  企業が社会において果たす役割とその責任の重さに鑑みれば,企業経営者には高い倫理観と遵法精神が求められるのであって,もとより,企業利益のみを追求し,法を無視することが許されるものではないことは論をまたない。ましてや,社外に多数の投資者,債権者等の関係者を抱え,社会性,公共性の強い上場会社においては,廉直かつ公正な,透明性のある経営が要請されているのである。
しかるに,本件各犯行は,多数の子会社等を擁する企業集団の最高経営責任者である被告人や,最高財務責任者の乙川など,企業の最高責任者たる経営陣が自ら直接主導し,あるいは,各事業部門や子会社に対して指示を出すなどして,組織的に敢行されたものである。前記のとおり,ライブドアの時価総額は,平成15年9月末から平成17年9月末にかけて飛躍的に増大しているところ,被告人らにおいては,このような見せかけの成長にこだわり,短期的な企業利益のみを追求したものである。そこには,虚偽情報によって翻弄される投資者への配慮といった,上場企業の経営者としての自覚は微塵も感じられない。
(5)  さらに,本件発覚以前より,被告人が,新興企業,IT関連業界を代表する経営者としてマス・メディアに頻繁に登場し,その言動が注目されていたこともあり,本件の発覚が経済界はもとより一般社会に与えた衝撃は多大なものがある。本件を一つの契機として,投資事業組合についての連結基準が明確化されたり,証券取引法において,風説の流布,偽計といった不公正取引や開示書類の虚偽記載に対する罰則が強化されたりしたことは,その影響の大きさを物語っている。
3  被告人の個別情状について
被告人は,ライブドアの創業者で,当時,唯一代表権を有する代表取締役社長であり,かつ,筆頭大株主でもあって,ライブドア・グループの不動のトップとして君臨し,戦略会議,定例会議等を通じて,グループ内の業務全般を統括するなど,グループ内で絶大なる権限を保持していたものである。
そして,被告人は,本件各犯行のうち,VCJにおける架空売上げの計上については,自ら直接,丙谷らに対し,その実行を指示したものであって,また,それ以外の犯行についても,前判示のとおり,乙川らからの報告,提案を受けてこれを了承し,最終的な決定をする形で関与したものであって,いずれの犯行においても,被告人が中心的な役割を担ったことは否めない。被告人の指示,了承なしには,本件各犯行の実行はあり得なかったものといえる。
また,本件各犯行は,被告人が,ライブドアの平成16年9月期の連結経常利益の予想値について,前年度の実績値である13億円を上回る20億円として公表することを強く希望し,さらに,同予想値を30億円,50億円と上方修正させ,その達成を推進してきた結果にほかならないのである。
加えて,被告人は,ライブドアの大株主であり,本件スキームの実行により株式の保有率自体は低下したものの,筆頭大株主たる地位は失わず,保有する株式の時価総額も増大し,結果的に,本件犯行による利益を享受しているといえる。現に,被告人は,平成17年にライブドア株式約4000万株を売却して約140億円の資金を得ているというのであり,このこと自体から被告人が自らの個人的利益を得る目的のために本件各犯行を行ったとまでは認められないにしても,これを量刑上看過することはできない。
さらに,被告人は,自己の認識や共謀の成立を否定するなどして,本件各犯行を否認し,公判廷においても,メールの存在等で客観的に明らかな事実に反する供述をするなど,不自然,不合理な弁解に終始しており,前記のとおり多額の損害を被った株主や一般投資者に対する謝罪の言葉を述べることもなく,反省の情は全く認められない。
以上によれば,被告人の刑事責任は相当に重いというべきである。
4  結論
そうすると,前記のとおり,VCJにおける架空売上げの計上については,被告人が自ら指示したものであるが,その余の点については,いずれも,乙川が中心となって計画,実行したもので,被告人は乙川らの提案等を受けてこれを了承したにとどまり,検察官が主張するように,被告人が最高責任者として本件各犯行を主導したとまでは認められないこと,本件発覚後,ライブドア・グループのすべての役職を辞したこと,本件により逮捕,勾留され,3か月以上にわたり身柄拘束されたこと,マスコミ等で本事件が社会的に大きく取り上げられ,厳しい非難にさらされるなど,一定程度の社会的制裁を受けていること,前科前歴がないことなど,被告人のために斟酌すべき事情を最大限に考慮してもなお,被告人に対しては,実刑をもって臨まざるを得ず,刑期についても,被告人の責任の重さに照らすと,主文掲記の刑は免れないと判断した。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑 懲役4年)
平成19年4月18日
(裁判長裁判官 小坂敏幸 裁判官 松田道別 裁判官 平野貴之)

 

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