判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(362)平成16年11月29日 東京地裁 平14(ワ)20736号 地位確認等請求、損害賠償請求事件
判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(362)平成16年11月29日 東京地裁 平14(ワ)20736号 地位確認等請求、損害賠償請求事件
裁判年月日 平成16年11月29日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平14(ワ)20736号・平13(ワ)27531号
事件名 地位確認等請求、損害賠償請求事件
裁判結果 甲事件請求棄却、乙事件認容 文献番号 2004WLJPCA11290004
要旨
◆新聞販売等の委託を受けた甲と当該新聞を発行する乙(後に会社分割により乙は脱退し、乙の東京本社である丙が事件を引き受けて参加した。)との間で甲からは委託契約を解除されたことが不法行為であることによる得べかりし利益等についての損害賠償請求事件(甲事件)、丙からは委託契約の契約解除によって他の販売委託店への委託業務引継に要した出費相当分の損害賠償請求事件(乙事件)が提起された事案において、本件契約解除の違法性が争点となり、甲が乙に対する業務報告書に虚偽の販売部数を記載し続けたことは解除事由に当たることから、本件解除には違法性がないとして甲事件の請求を棄却し、乙事件の請求を認容した事例
参照条文
民法709条
裁判年月日 平成16年11月29日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平14(ワ)20736号・平13(ワ)27531号
事件名 地位確認等請求、損害賠償請求事件
裁判結果 甲事件請求棄却、乙事件認容 文献番号 2004WLJPCA11290004
平成13年(ワ)第27531号 地位確認等請求事件(以下「甲事件」という。)
平成14年(ワ)第20736号 損害賠償請求事件(以下「乙事件」という。)
甲事件原告・乙事件被告 X
同訴訟代理人弁護士 長谷川正浩
同 大木卓
同 槙桂
脱退甲事件被告 株式会社讀賣新聞社
同代表者代表取締役 A
甲事件引受参加人・乙事件原告 株式会社読売新聞東京本社
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 神部健一
同 辻佳宏
同 古澤昌彦
同 岡山未央子
同 近藤早利
同 辻希
主 文
1 甲事件原告・乙事件被告の請求を棄却する。
2 甲事件原告・乙事件被告は、甲事件引受参加人・乙事件原告に対し、2713万5236円及びこれに対する平成14年1月20日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、甲事件及び乙事件を通じ、全部甲事件原告・乙事件被告の負担とする。
4 この判決は、第2項及び第3項限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
(以下、甲事件原告・乙事件被告を単に「原告」、脱退甲事件被告を単に「脱退被告」、甲事件引受参加人・乙事件原告を単に「被告」という。)
第1 請求
(甲事件)
被告は、原告に対し、4751万5104円及びこれに対する平成15年9月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(乙事件)
主文第2項と同じ。
第2 事案の概要
原告は、脱退被告の発行する新聞の販売店を経営して脱退被告から新聞販売等の委託を受けていたものであるが、脱退被告から委託契約の解除通知を受けた。そこで、原告は、脱退被告に対し、契約解除そのものが要件を満たしていないことから、脱退被告が解除通知を行ったことは不法行為に該当するとして、得べかりし利益等に相当する損害賠償を求めて、訴訟を提起した(甲事件)。
他方、脱退被告は、原告に対する解除通知は要件を満たす有効なものであると主張するとともに、原告に対し、契約解除によって、他の販売委託店への委託業務引継に要した出費相当分の損害の賠償を求めている(乙事件)。
1 争いのない事実
(1) 脱退被告は、日刊新聞等の発行を業とする株式会社である。
(2) 原告と脱退被告は、平成2年8月25日、以下の条件にて、脱退被告が発行する新聞等の販売、供給等について、脱退被告が原告に対しそれらの販売を委託することを約した(以下この契約を「本件契約」という。)。
ア 原告と脱退被告は、原告が脱退被告の発行する新聞等(脱退被告の発行する新聞以外の刊行物を含む。以下同じ。)を群馬県内の館林南部において、脱退被告の販売店として販売することを契約する。ただし、上記販売区域といえども、購読者の求めにより又は原告と脱退被告との協議によって、脱退被告が直接郵送等をして販売することもできる。
イ 原告は、脱退被告の発行する新聞等の普及に努め、購読者に対して定価を持って販売し、かつ、敏速、正確に個別配達をする。
ウ 脱退被告は、その発行する新聞等を原告の販売所又はその最寄り駅等に輸送する。脱退被告が原告に送付する新聞等は、原告が購読者の求めに基づき脱退被告に注文する部数による。
エ 原告が次の各号の一に該当する場合は、脱退被告は催告を要せず直ちに本件契約を解除することができる。
(ア) 脱退被告の示唆があるにもかかわらず販売成績、経営努力が認められないとき
(イ) 原告が配達その他業務一般につき購読者から不信を被り、又は脱退被告の販売方針に違背したとき
(ウ) 脱退被告又は脱退被告が承認する第三者機関に対して虚偽の申告を行ったとき
(3) 脱退被告は、平成14年1月19日、原告に対し、本件契約を解除する旨の意思表示をした。
(4) 脱退被告は、平成14年7月1日の会社分割により、土地の賃貸に関する営業を除く脱退被告の営業を、被告が承継した。
2 争点
(1) 脱退被告が原告に対し本件契約解除の意思表示をしたことは、違法といえるか(甲事件請求原因)。
(原告の主張)
脱退被告は、本件契約について解除事由がないにもかかわらず、原告に解除事由があるとして、本件契約解除の意思表示をしてきたものであり、これは、違法な行為といえる。
ア 原告は、平成12年4月の時点で、521部の過剰予備紙(新聞販売店において、配達の際に新聞紙を汚した場合に備えたり、定期購読者以外の者が新聞購入のために来店した場合に備えるため、配達予定部数(定数)以上に仕入れておく新聞のことを予備紙というが、販売店が販売成績を粉飾するなどの目的で配達、販売の見込みのない部数の予備紙を脱退被告本社に注文することがあり、それを過剰予備紙という。)を抱えていた。
ところで、原告がこれだけの過剰予備紙を抱えるに至った発端は、平成4年4月、群馬県内の板倉地区が、それまで他の新聞社の販売店に読売新聞の配達を委託していた地域(委託合配区域)から、読売新聞の専売地域になったことにある。そして、その際における販売店相互間の調整が不十分であったため、同区域に配達されるべき86部が、原告の販売店と他の販売店から二重に配達されることとなってしまい、脱退被告から原告に対し、86部の配達を止めるよう指示があった。原告はひとまずこれに従い、脱退被告はその後、原告の86部の配達を認めるようになったが、同時に、原告の販売定数を86部増加させて、依然として86部の余剰部数を生じさせる原因を作出した。
原告は、その後も販売拡充努力を重ねた結果、一時的に定数を増加させたが、短期間の後に再度減少させてしまい、200部の余剰部数を生じさせるに至った。そこで、原告は、脱退被告に対し、定数を200部減少させることを要求したが、脱退被告は、これを拒絶した。
脱退被告は、このように、原告の定数について、何ら配慮することなく、一方的に原告の定数を増加させ、また、原告からの定数減少の申し入れを無視し続けたもので、その結果、原告は過剰予備紙を抱えるに至ったものであり、原告がかような状況に陥った原因は、販売拡張をむやみに推し進めようとする脱退被告の販売体質にある。したがって、原告には、本件契約を解除される要件が存したとはいえないというべきであるが、それにもかかわらず、脱退被告は、原告に対し、本件契約の解除を通知してきたものであり、脱退被告の同通知は、違法性を有する行為である。
イ 原告は、無登録の拡張業者を使用したことは一度もない。脱退被告は、それにもかかわらず、原告が無登録業者を使用したことを、解除事由の一つとしている。
ウ 原告は、暴力団構成員と親しく交際をしたことは一度もない。脱退被告は、それにもかかわらず、原告が○○組系三代目△△組◇◇会会長代行を称するCという暴力団構成員と長期間にわたって親しい関係にあるとして、それを解除事由の一つに挙げている。ちなみに、原告は、Cとは平成4年5月ないし6月に一度会ったことはあるが、同人が毎日新聞町田西部販売所所長を名乗っていたため、新聞販売店経営者であると認識していた。
エ 原告は、経営意欲を喪失していたことも、平成14年1月11日以降連絡不通となったこともない。
(被告の反論)
ア 原告は、平成4年ころから平成12年4月に発覚するまで、脱退被告に対し、原告の販売店における販売部数(購読者数)及び予備紙の部数について、虚偽の報告を続けていた。
なお、脱退被告が原告からの予備紙減少の要請及び定数減少の要請を拒否したことはなく、そもそも、原告からかような要請を受けたことがない。
イ 脱退被告を含め、社団法人日本新聞協会に加盟する各新聞社は、勧誘業務に従事できるのは新聞公正取引協議会に登録したセールススタッフに限ることとして、悪質かつ強引な新聞購読の勧誘が行われないように取りはからっている。それにもかかわらず、原告は、無登録の拡張業者を使用して拡張活動を行っていた。
そして、原告は、購読者に対し新聞代はいらない旨告げて、新聞代に相当する現金を交付するという、現金買収による購読契約を取り付ける拡張行為(これを業界用語で「爆弾」という。)を、セールススタッフもしくは従業員に行わせ、あるいはまた、行っているのを放置していた。
原告は、セールススタッフが「契約カード」に読者からの購読印をもらってくると、これを直ちに現金で買い取り、契約カードの成約数に応じて算定した成功報酬をその場で現金でセールススタッフに支払う行為(これを業界用語で「マルタ買い」という。)を行っていた。
ウ 原告は、○○組系暴力団である△△組◇◇会会長代行である訴外Cと付き合いがあり、しかも、原告の販売店の従業員をあっせんし、舎弟を働かせて、販売店従業員の借金の取立を行っていた。
エ 原告は、平成13年11月ころまでに原告から経営改善(借金の減少)を求められていたにもかかわらず、既に同年10月31日の話し合いの時点で、「新規に読者を獲得するための経費を全く使わずに店をやっていけば、いつかは借金もなくなるでしょう。読者は減るかもしれないが、まさかゼロにはならないでしょう。」と述べるなど、経営意欲を喪失していた。そのため、同年9月に4111部あった購読者数が、平成14年1月には3960部に減少しており、これは、本件契約において定められた解除事由の「示唆があるにもかかわらず販売成績、経営努力が認められないとき」(11条10号)に該当する。
オ 原告は、平成14年1月11日以降、脱退被告からの連絡につき一切応答しなくなり、連絡不通となった。これは、本件契約において定められた解除事由の「正常な業務が遂行できないと認められる場合」(10条)に該当する。
(2) 原告が脱退被告による本件契約解除によって被った損害額(甲事件請求原因)
(原告の主張)
原告は、脱退被告による本件契約解除はその要件を満たしておらず、したがって、解除そのものが効力を生じていないという考えを有しているものであるが、脱退被告が本件契約解除を有効と考えて原告に対する新聞供給を打ち切っている以上、原告が本件契約の存続に基づく経済的利益を逸していることは事実であり、原告は、この違法行為(脱退被告による解除)により、次のとおりの損害を被った。
ア 得べかりし利益
原告は、新聞の頒布、販売を、原告が代表者である訴外有限会社歩に委託し、同社から月額60万円の役員報酬を受けていたところ、平成14年1月20日以降脱退被告から新聞の供給を受けられなくなり、同社への販売委託も不可能になったため、平成14年1月分から同年8月分の合計8箇月分の役員報酬480万円を得られなくなった。
さらに、原告及び脱退被告間の本件契約は、1年ごとに更新されることが原則であるから、原告は、脱退被告による違法な解除がなければ、平成14年8月に本件契約が更新されることによって、訴外有限会社歩から少なくとも1年間引き続き役員報酬を受けられるはずであった。この1年間の役員報酬額は720万円であり、原告は、これについても得られなくなった。
以上により、原告が脱退被告による違法な解除によって得られなくなった役員報酬額は、1200万円となる。
イ 得べかりし代償金相当利益
(ア) 新聞販売店は、多額の経費を支出して購読者を獲得する。したがって、原告が販売店経営主体を他者に譲渡する際には、代償金を受領することができるものであり、その価額は、次のとおり算定する。
a 現在の購読者についての代償金
現在の購読部数×(1箇月の購読料+100円)
b 将来の購読者についての代償金
将来の購読者についての予約カード数(購読申込契約者数)×予約カード取得対価
なお、予約カード取得対価とは、販売店従業員、拡張団団員がそれぞれ契約を取り付けた場合について、予約カードの契約期間に応じて金額に区分が設けられている。
(イ)a 原告の販売店については、現在(平成14年1月期)の購読部数が3960部、1箇月の購読料が2907円であるから、現在の購読者についての代償金額は、
3960×(2907+100)=1190万7720円
となる。
b 将来の購読者についての代償金額は、従業員による契約取付に関しては、予約カード取得対価が4000円の購読者が48名、6000円の購読者が392名、8000円の購読者が153名、1万円の購読者が4名、1万6000円の購読者が2名であるから、合計で384万円となる。
他方、拡張団団員による契約取付については、予約カード取得対価が6000円の購読者が158名、1万2000円の購読者が386名、1万8000円の購読者が129名、3万6000円の購読者が5名、3万円の購読者が1名であるから、合計で811万2000円となる。
(ウ) 以上の金額を合計したところの代償金額総額は、2385万9720円となる。
ウ リース機器解約金
原告は、脱退被告による違法な解除により、原告名義でリース契約をしていた新聞販売のためのリース機器につきリース契約を解除され、次のとおり合計1165万5384円の精算金を支払うことを強いられた。
(ア) 折込機リース精算 302万7200円
(イ) デュプロ印刷機リース精算 64万8000円
(ウ) 包装機リース精算 59万8000円
(エ) コンピューターソフトリース精算 280万9800円
(オ) ファックスリース精算 41万8900円
(カ) 電話リース精算 116万2000円
(キ) コピーリース精算 98万7000円
(ク) サンバーバリース精算 37万6303円
(ケ) アリストリース精算 162万8181円
よって、原告は、脱退被告を承継した被告に対し、不法行為に基づき4751万5104円及びこれに対する不法行為の後である平成15年9月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告の反論)
原告主張事実は否認する。とりわけ、将来の購読者に関する代償金額の根拠については、予約カードの要件を満たしていないのではないかという疑問があるものが少なくない。
(3) 原告には、本件契約についての解除原因があったといえるか(乙事件請求原因)
(被告の主張)
争点(1)における(被告の反論)のとおり。
(原告の反論)
争点(1)における(原告の主張)のとおり。
(4) 脱退被告の被った損害の有無及びその金額(乙事件請求原因)
(被告の主張)
ア 原告は、前記争点(1)及び(3)について被告が主張したとおり、本件契約について解除原因を生じさせた。そこで、脱退被告は、平成14年1月19日、本件契約を解除するに至ったが、解除により、原告の販売店における販売区域内の読売新聞配達業務に中断を生ぜしめるわけにはいかなかったことから、同区域内の約1万軒の居宅を1軒ずつ訪問して読売新聞の購読者であるかどうかを確認する作業(これを業界用語で「拾い」という。)に踏み切らざるを得ず、また、新店舗の取得等の費用を支出せざるを得なくなったりしたこと等から、経済的損害を被った。
イ 損害額の内訳は次のとおりである。
(ア) 「拾い」実行のために直接かかった費用 2871万5534円
脱退被告は、区域内の全居宅一戸ずつを訪問して購読者を調査、確認するために、外部より214名を動員して、平成14年1月19日朝から夕方にかけて「拾い」を実行した。これによる負担が、次のとおり生じている。
a 人員調達費、宿泊費等
(a) 現購読者確認成約費 3224件 1104万3812円
(b) 新機構読者勧誘成約費 364件 292万8912円
(c) 日当、宿泊、交通費 372万7576円
(d) その他 160万9564円
以上合計 1930万9864円
b バイク機材等購入費
(a) プレスカブ 20台 316万円
(b) 作業台 4台 35万3400円
(c) 折込機 1台 390万円
(d) 包装機 1台 72万円
(e) コピーファックス機 77万4000円
(f) その他 49万8270円
以上合計 940万5670円
(イ) 居宅訪問で配布した景品類の購入費用 916万8036円
脱退被告は、区域内の全居宅を訪問して読者を確認する業務を行った際、協力に対する謝礼として訪問先に下記の景品類を配布したため、それによる負担が、次のとおり生じている。
a 洗剤 8000箱(単価274円) 219万2000円
b ビール券 1万2000枚(単価495円) 594万円
c タオル 6000本(単価128円) 76万8000円
d バスタオル 60本(単価942円) 5万6520円
e 球根等 220個(単価約262円) 5万7800円
f 消費税 15万3716円
(ウ) 新店舗開設に要した費用 250万円
脱退被告は、原告が販売店舗引継手続をしなかったために、後任者が新たに店舗を取得しなければならなくなり、その店舗賃借開始に伴う出費及び店舗改装費を支出した。
(エ) 配達業務正常化のために要した一時的費用 795万円
脱退被告は「拾い」を行ったものの、それで購読者すべてを正確に把握できたわけではなく、その後の混乱を乗り切るために、他の販売店等の協力を仰いで急場をしのいだ。それに伴い、脱退被告は、次の費用を支出した。
a 26名の応援配達員調達費 250万円
b 上記応援配達員の宿泊費 230万円
c バイク10台購入費 210万円
d 他の販売店からバイクを借りる際にその運搬に用いたトラック3台のレンタカー費 105万円
(オ) 旧店舗従業員に対する一時金 118万3500円
(カ) 旧店舗従業員に対する平成14年1月分給与 281万3262円
脱退被告は、以上の損害額合計5233万0332円中、2713万5236円を負担した。
よって、脱退被告を承継した被告は、原告に対し、以上の2713万5236円及びこれに対する本件契約解除日の翌日である平成14年1月20日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(原告の反論)
損害の発生については否認する。
また、因果関係については、仮に脱退被告による本件契約の解除が有効であったとしても、原告は、以後新聞を販売、配達する義務を免れるものであり、脱退被告は原告に引継義務の履行を求めておらず、本件契約の書面(甲1)の第14条に定める3日間の猶予期間を待つことなく「拾い」を開始しているのであるから、「拾い」に要した費用は、原告の債務不履行と相当因果関係にある損害とはいえない。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)について
(1) 証人D、同E及び原告本人に加え、以下掲記の証拠によれば、次の各事実が認められる。
ア 原告は、平成2年8月25日、脱退被告との間で本件契約を締結して、館林南部販売所の経営を開始し、その翌日から、脱退被告の発行する読売新聞の販売、配達を行うようになり、毎月、脱退被告に対し、当該月における販売部数、予備紙の部数等について記載した業務報告書を作成して提出していた(甲1)。
イ 群馬県内の板倉地区は、平成4年4月、それまで委託合配区域となっていたところ、読売新聞の専売地域に変更された。原告は、板倉地区が自己の配達区域であると考えて、同地区内の86部を配達したところ、茨城県古河市にある古河中央販売所も、板倉地区において86部を配達してしまったため、同地区で二重配達が生じてしまった。
これを知った原告は、脱退被告の販売局における群馬県担当者であった訴外Fに電話で連絡したところ、同人が古河中央販売所経営者に電話連絡した上、数日後には同経営者と会って板倉地区での配達を打ち切るように勧告してこれを受け入れさせ、その結果、原告が同地区での配達をすることとなった(以上、乙12)。
ウ 原告は、その後、拡張員を使って販売部数を伸ばすことを試み、同年5月から7月の3箇月間において約200部増加させることに成功した。
ところが、この増加部数の購読者の大半が3箇月契約であったため、同年8月1日に契約打ち切りが相次ぎ、結果的に予備紙を200部増加させてしまった。また、この約200部の拡張については、拡張員が新規購読者を獲得していないにもかかわらず、原告に対し「獲得した。」と虚偽の報告をして、原告から成功報酬を受領していたケース(これを業界用語で「テンプラ」という。)が少なからずあったことが判明した(甲29)。
さらに、原告の販売店では、従業員が自己の成績を偽ることを企て、原告に対し、契約を打ち切った読者の数を実際の数より少なめに報告していた(乙2の7)。
エ 原告は、やがて当該従業員が虚偽の報告をしていることを見破ったものの、脱退被告においては、各販売店の保有する適正予備紙の部数について、販売店が脱退被告に注文する部数の2パーセントを限度とする旨定めていたことから、それらを予備紙に計上すると、その数が相当の部数となってしまい、原告がそれを脱退被告本社に伝えると原告自身の責任問題につながることを憂慮したことから、予備紙が増加していることを脱退被告本社に伝えるのをためらい、業務報告書には虚偽の部数を記載し続けていた(乙2の7)。
オ 原告は、平成12年4月度における販売部数について、定数が4213部、うち予備紙が30部である旨、業務報告書に記載していた(甲30、乙2の1)。
ところが、そのころ脱退被告が調査を行った結果、実際には、平成12年5月時点における予備紙の数は、521部であったこと、そして、原告は、平成4年ころから実際の販売部数以上の部数を脱退被告に報告していたことが発覚した(甲27、乙2の7、13)。
カ 原告は、脱退被告に対し、過剰予備紙を解消するために営業努力をするから販売店経営を続けさせてほしい旨申し入れ、平成12年5月、平成13年4月までに予備紙の数を適正数に減少させることなどを記載した誓約書を作成して脱退被告に提出した(甲11、乙2の2)。
原告は、平成12年5月以降、定数を4187部に固定したまま増加させた販売部数を521部存在した予備紙の減少部数に当てて、同年11月には予備紙を341部まで減少させた。
脱退被告は、原告に対し、平成12年12月以降は予備紙の部数を341部に固定させて、増加した販売部数を今度は定数に加算するよう指示した。原告はこれに従って部数増加に向けて活動を行った結果、平成13年3月には定数を従前の4187部から4327部に増加させた(以上、甲31、33の1ないし11)。
ところで、原告は、平成13年4月27日、同年11月には定数を、脱退被告の販売促進に向けられたいわゆる「55作戦」において原告に設定された目標定数4453部にまで増加させる旨記載した誓約書を、脱退被告あてに提出していたが、同年10月度の定数は4101部にとどまった(甲2、31、37)。
キ 脱退被告は、以上の経緯に加え、原告が多額の借金を負っていることを聞き付け、原告に対し自主廃業を求めることとし、原告は、平成13年9月10日に脱退被告販売局販売第4部部員のDから、原告の販売店の経営は危機的状況にあり、もはや原告による販売は限界に達していると考えられるので、自主廃業の方向で検討することを勧められた。原告は、同年10月に入ってから数度Dらと話し合いを重ねたが、自主廃業について納得する様子を見せることもあれば、今一度検討したいとの態度を示すこともあった(乙2の7、14)。
ク 原告と脱退被告は、その後も折衝を重ね、平成13年11月5日に原告が2度目の地位保全等仮処分を申し立ててからは審尋期日における和解交渉も交えてきたが、まとまらず、最終的に脱退被告は、これ以上原告の自主廃業を待つことはできないと考えるに至り、平成14年1月19日に本件契約を解除する旨記載した「通告書」を原告に交付するとともに、同日、原告の販売区域内における「拾い」に踏み切った(甲8、13、16の1ないし3、17の1及び2、乙6)。
(2) 以上によれば、原告は平成4年から平成12年にかけて脱退被告への虚偽報告を続けていたという事実が認められるのであって、これが本件契約の解除事由に該当することは明らかといえる(本件契約についての契約書である甲1の第3条参照。)。
(3)ア ところで、脱退被告が平成12年4月の虚偽報告発覚の後に原告に対してとった一連の行為が、本件契約の解除事由にどのように影響するかが問題となるが、この点は、脱退被告の側で、虚偽報告を繰り返したことにより本件契約を解除されても致し方ない立場に陥った原告に対し、今一度のチャンスを与えようとしたものであると解釈できるのであり、その場合、脱退被告から新たに与えられた条件(平成13年4月までに予備紙の部数を適正にすること及び同年11月までに「55作戦」の目標定数を達成すること)をクリアーできなかったことが本件契約の解除事由にとって替わるというべきものではなく、従前の虚偽報告という事実が依然として解除事由という法的効力を有しているというべきである。
他方、脱退被告から原告に新たに与えられた条件は、それを原告が仮に達成したとしても、それだけで脱退被告による解除が許されなくなるというものではないのであって、これをクリアーしても脱退被告が本件契約の維持に不安があればなお別の条件を提示することも許され、逆に、クリアーできなくともその過程における原告の態度等を勘案して本件契約の維持を決定することも許されるというべきである。
イ 原告は、原告が購読者数を増加してもその数値の計上方法を脱退被告があれこれ指示し、「55作戦」の目標部数の達成を不可能にしていることを問題とするが、「55作戦」の点は、あくまで原告にチャンスを与えるための一つの判断材料とされたにすぎず、仮に目標の達成ができなくとも、予備紙の部数の減少状況いかんによっては脱退被告が本件契約の継続を決定した余地もあったことが考えられるのであって、この点についての原告の問題意識は、本件の判断に影響を及ぼすものではない。
(4) 原告は、過剰予備紙を抱えるに至ったことについて、平成4年4月における板倉地区での二重配達の際に86部の予備紙が生じ、本来であれば原告が板倉地区での配達をするようになった後に86部の予備紙を減少させる手続がなされるべきところ、脱退被告がこれを拒否して、定数を86部増加させたものであり、さらに、原告は、平成4年8月までに定数を200部増加させたものの、購読者が契約を相次いで打ち切り、その際に脱退被告が定数200部の減少手続をとることを拒否したものであるなど、脱退被告には販売店からの定数又は予備紙の減少の申し入れを受けてもこれを受け入れない販売体質があったことにその原因がある旨主張する。
しかしながら、脱退被告の側からすれば、販売店を経営難に追い込むことは、毎日行われる新聞配達業務の実施に支障を来して大手新聞社としての脱退被告の評判を下落させるなどの害を被ることはあっても、有益になる部分があるとは考えにくい。
確かに、脱退被告から各販売店への支給部数が多くなれば、脱退被告の販売実績が高いという印象を世間に与えるといった利点があることが想定されるが、販売店への支給部数が現実の購読者数と大きく異なることが露見すれば、かえって脱退被告の評判を下落させかねないのであり、脱退被告がそのような営業傾向を有していると即断することは、難しい。
実際、原告が多大な部数の予備紙を抱え込むに至ったのは、脱退被告の販売体質よりもむしろ、原告の使用した拡張員が「テンプラ」をしたり、原告の従業員が購読契約打ち切りの事実を原告に隠していたことが大きく影響していることが認められるのであり、さらには、それらの原因は、原告による拡張員及び従業員に対する監督不行届にあるといわざるを得ない。
(5) 原告は、脱退被告が仮処分審尋期日等を通じて話し合いの場を設けている最中に「拾い」に踏み切ったことを非難するが、前記認定のとおり、脱退被告としては、本件契約解除事由の存する原告にチャンスを与えて業務遂行が是正されるのを見届けようとしたものの、現実問題としてその実現が困難であると判断し、直ちに契約解除をするよりも自主廃業を勧めていたが、それもらちがあかないと判断するに至って「拾い」に踏み切ったことが認められるのであり、脱退被告のかような対応は、何ら非難されるべきものではない。
(6) その他、被告が本件契約の解除事由として主張する事実中、原告がCについて暴力団関係者であることを知りながら同人に販売拡張を依頼したかどうか(同人が暴力団関係者であることは証拠上明らかではある。)、仮にそれを知らなかったとしても同人に販売拡張を依頼したこと自体について責任を問われるべきものかどうか、また、原告がその他にも悪質な勧誘業者を使用したかどうか、さらには、原告が経営意欲を喪失しているかどうかといった点については、証拠上今一つ明らかではなく、あるいはまた、それらに基づく原告の責任を肯定できるかどうか必ずしも明確ではない。しかしながら、原告が虚偽報告を続けていたということは前記認定のとおりであり、その一事をもって、本件契約に解除事由があることは十分認定できる。
(7) 以上のとおりであるから、脱退被告による本件契約解除は違法性を有しているとはいえない。したがって、争点(2)について検討するまでもなく(原告の主張する損害中、とりわけイの代償金については、因果関係に疑問があること及び付帯請求の割合を年6分としていることにも付言する。)、原告の甲事件請求は、理由がない。
2 争点(3)及び(4)について
(1) 争点(3)については、争点(1)における事実認定及び法的判断のとおり、販売部数の虚偽・粉飾といった解除原因があると認められる。
(2) 争点(4)については、被告の主張中、イ(イ)の居宅訪問で配布した景品類の購入費用916万8036円に関し、eの球根等につき単価262円で計算すると、220個の金額は5万7640円となり、主張金額である5万7800円を160円下回る。また、球根等の金額を5万7640円とした場合のfの消費税額(bの)ビール券を除いた分の5パーセント)は、15万3708円となり、主張金額である15万3716円を8円下回る。
以上の点を念頭に置きつつ、乙24ないし28及び33を検討すると、脱退被告が最終的に合計2720万7372円を負担していることが認められ、その額は乙事件請求額を上回っているところ、その正確な内訳を示す書証は本件において提出されていない。しかしながら、弁論の全趣旨、とりわけ乙事件請求原因の具体的内訳が客観的事実に反することをうかがわせるような証拠が見当たらないことに照らせば、少なくとも、争点(4)における(被告の主張)の損害額に関する事実は、前記の差額合計168円を除いた限度で認定できるというべきであり、168円の差額は、被告の負担部分に関する認定には影響しない。
なお、原告は、因果関係について争っているが、「拾い」に基づく出費は原告に本件契約解除事由が存在したことにその原因があるのであって、因果関係が認められることは明白である。
3 結論
以上によれば、原告の甲事件請求は理由がなく、他方、被告の乙事件請求は理由がある。
(裁判官 柴崎哲夫)
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