「営業アウトソーシング」に関する裁判例(13)平成29年10月17日 福岡地裁 平25(行ウ)73号 司法修習生の給費制廃止違憲国家賠償等請求事件
「営業アウトソーシング」に関する裁判例(13)平成29年10月17日 福岡地裁 平25(行ウ)73号 司法修習生の給費制廃止違憲国家賠償等請求事件
裁判年月日 平成29年10月17日 裁判所名 福岡地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(行ウ)73号・平25(行ウ)75号
事件名 司法修習生の給費制廃止違憲国家賠償等請求事件
裁判結果 棄却 文献番号 2017WLJPCA10176001
事案の概要
◇司法修習生の給費制の廃止は憲法違反であり、違憲無効であるとして、新65期司法修習生であった原告らが、各1万円の賠償を国に求めた事案
裁判年月日 平成29年10月17日 裁判所名 福岡地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(行ウ)73号・平25(行ウ)75号
事件名 司法修習生の給費制廃止違憲国家賠償等請求事件
裁判結果 棄却 文献番号 2017WLJPCA10176001
平成25年(行ウ)第73号 司法修習生の給費制廃止違憲国家賠償等請求事件(第1事件)
同年(行ウ)第75号 司法修習生の給費制廃止違憲国家賠償等請求事件(第2事件)
当事者の表示 別紙1(当事者目録)記載のとおり
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告らに対し,各1万円を支払え。
第2 事案の概要
本件は,平成16年法律第163号(以下「平成16年改正法」という。)による裁判所法の改正(以下「平成16年改正」という。)により,司法修習生が「その修習期間中,国庫から一定額の給与を受ける」制度(平成16年改正前の裁判所法67条2項本文。以下「給費制」という。)が廃止されたことについて,新65期司法修習生であった原告らが,給費制の廃止は,憲法上保障された給費を受ける権利を侵害し,憲法27条等に違反するものであり,また,原告らと現行65期司法修習生及び新64期司法修習生との間において不当な差別を生じさせるものであって,違憲無効である旨主張して,被告に対し,それぞれ,(1)①主位的に,上記裁判所法67条2項による給費支払請求権に基づき,給与額237万2480円のうち1万円の支払を求め(実質的当事者訴訟),②予備的に,憲法29条3項による損失補償請求権に基づき,上記給与額と同額の損失のうち1万円の支払を求めるとともに,(2)選択的に,国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項による損害賠償請求権に基づき,損害(得べかりし給与額237万2480円及び慰謝料100万円)のうち1万円の賠償を求める事案である。
1 前提事実(争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実。以下,特に明示しない限り,書証の掲記は枝番号を含む。)
(1) 当事者等
ア 原告らは,いずれも平成23年11月27日,新65期司法修習生として司法修習を開始し,平成24年12月,司法修習を終えた者である。新64期司法修習生は,平成22年11月から平成23年12月まで司法修習をした者であり,現行65期司法修習生は,平成23年7月から平成24年12月まで司法修習をした者である(なお,上記のとおり,平成14年法律第138号による改正後の司法試験法により新設された新司法試験に合格し,司法修習生に採用された者を「新65期司法修習生」のようにいい,同改正以前から行われ,同改正の附則7条により平成23年まで実施された司法試験(旧司法試験)に合格し,司法修習生に採用された者を「現行65期司法修習生」のようにいう。)。(乙45)
イ 被告は,後記(3)アのとおり,裁判所法の制定により司法修習生の修習制度(以下「司法修習制度」という。)を創設し,後記(3)ウのとおり,平成16年改正前の裁判所法67条2項により,同項の適用される司法修習生に対して一定額の給与を支給していた。
(2) 原告ら新65期司法修習生の身分等(乙1,39)
ア 司法修習生は,最高裁判所によって採用され(裁判所法66条1項),修習の全期間を通じて,修習に関して,司法研修所長の統轄に服する(司法修習生に関する規則1条)。また,実務修習期間中は,その配属地の高等裁判所長官,地方裁判所長,検事長,検事正又は弁護士会長の監督を受ける(同規則8条)。なお,司法修習生は,公務員ではない。
イ 司法修習生は,少なくとも1年間の修習をした後(後記(3)イ参照),司法修習生考試委員会が行う試験(考試)に合格して初めて司法修習生の修習を終え(裁判所法67条1項),判事補,検事又は弁護士となる資格を取得する(同法43条,検察庁法18条1項1号,弁護士法4条)。
ウ 司法修習生は,修習期間中,その全力を修習のために用いてこれに専念すべき義務(修習専念義務)を負い(裁判所法67条2項),最高裁判所の許可を受けなければ,公務員となり,又は他の職業に就き,若しくは財産上の利益を目的とする業務を行うことができない(司法修習生に関する規則2条)。
(3) 裁判所法の制定及び司法修習制度の創設
ア 大日本帝国憲法(以下「旧憲法」という。)の下においては,法曹の養成は一元化されておらず,判事又は検事の養成を目的とする司法官試補の制度は裁判所構成法に,また,弁護士の養成のための弁護士試補の制度は弁護士法に規定され,いずれも修習期間は1年6月間とされていた。新憲法の下においては,法曹養成のための統一的修習の目的に応ずるために,司法官試補制度及び弁護士試補制度に代わる制度として,後記イのとおり,裁判所法(昭和22年法律第59号。昭和22年4月16日公布,同年5月3日施行)によって,司法修習制度が創設され,将来裁判官,検察官又は弁護士となるべき者には全て,司法研修所がその事務を主管する司法修習生として修習を行わせることとされ,法曹養成が一元化された。(甲A1,4,6,乙1,45)
イ 裁判所法制定時の司法修習については,「司法修習生は,少くとも2年間修習をした後試験に合格したときは,司法修習生の修習を終える。」(同法67条1項),「第1項の修習及び試験に関する事項は,最高裁判所がこれを定める。」(同条3項)とされ,司法修習生に関する規則(昭和23年最高裁判所規則第15号)が定められた。その後,平成10年法律第50号(以下「平成10年改正法」という。)により,同条1項の「少くとも2年間」が「少なくとも1年6月間」に改められ,平成14年法律第138号により,同項の「1年6月間」が「1年間」に改められた。(乙45)
ウ 平成16年改正前の裁判所法67条2項は,同法の制定時から同改正までの間,その本文において「司法修習生は,その修習期間中,国庫から一定額の給与を受ける。」と規定し(なお,平成10年改正法により,上記イのとおり,同条1項の修習期間が短縮されるとともに,同条2項ただし書として「ただし,修習のため通常必要な期間として最高裁判所が定める期間を超える部分については,この限りでない。」が加えられた。),司法修習生には,その修習期間中,国庫から一定額の給与が支給されていた(給費制)。
(4) 平成16年改正法による給費制から貸与制への移行
ア 平成16年改正法により,同改正前の裁判所法67条2項本文のうち,「国庫から一定額の給与を受ける。」が,「最高裁判所の定めるところにより,その修習に専念しなければならない。」に改められ,同項ただし書が削除され,修習専念義務が明記された。
イ 加えて,平成16年改正法により,裁判所法67条の2として下記規定が加えられ,貸与制が新設された。(乙2)
記
67条の2(修習資金の貸与等)
1 最高裁判所は,司法修習生の修習のため通常必要な期間として最高裁判所が定める期間,司法修習生に対し,その申請により,無利息で,修習資金(司法修習生がその修習に専念することを確保するための資金をいう。以下この条において同じ。)を貸与するものとする。
2 修習資金の額及び返還の期限は,最高裁判所の定めるところによる。
3 最高裁判所は,修習資金の貸与を受けた者が災害,傷病その他やむを得ない理由により修習資金を返還することが困難となつたときは,その返還の期限を猶予することができる。この場合においては,国の債権の管理等に関する法律(昭和31年法律第114号)26条の規定は,適用しない。
4 最高裁判所は,修習資金の貸与を受けた者が死亡又は精神若しくは身体の障害により修習資金を返還することができなくなつたときは,その修習資金の全部又は一部の返還を免除することができる。
5 前各項に定めるもののほか,修習資金の貸与及び返還に関し必要な事項は,最高裁判所がこれを定める。
ウ 施行期日等
平成16年改正法(同改正による裁判所法)は,当初は,平成18年11月1日から施行することとされていたが,国会における審議を経て,十分な周知期間を確保するなどの趣旨により,平成22年11月1日から施行することとされた(同法附則1項)。なお,同法の施行前に採用され,同法の施行後も引き続き修習をする司法修習生の給与については,なお従前の例によることとされ(同法附則2項),これに該当する司法修習生には給与が支給された。(乙23,24)
エ 貸与制の内容
上記イの裁判所法67条の2の新設に伴い,平成21年には,司法修習生の修習資金の貸与等に関する規則(平成21年最高裁判所規則第10号。乙3,以下「貸与規則」という。)が定められた(貸与規則は,平成16年改正法と同日に施行することとされた。)。これにより,貸与制の概要は,別紙2(貸与制の内容について)のとおりとなった。
(5) 平成22年及び平成24年における裁判所法の改正
ア 平成22年法律第64号による裁判所法の改正(以下「平成22年改正」という。)により,「67条の2の規定は,平成23年10月31日までの間は,適用しない。この場合において,67条2項中『最高裁判所の定めるところにより,その修習に専念しなければならない』とあるのは『国庫から一定額の給与を受ける。ただし,修習のため通常必要な期間として最高裁判所が定める期間を超える部分については,この限りでない』と」(同法附則4項)することとされた。
イ 前記(4)ウのとおり,平成16年改正による裁判所法67条の2(貸与制)は,平成22年11月1日から施行され,その後に採用された司法修習生(新64期司法修習生)に適用されることになっていたものの,上記アにより,同条は,平成23年10月31日までの間,適用されず,その間は給与が支給されることとなった。
ウ そして,裁判所法67条の2は平成23年11月1日から施行され,その後に採用された新65期司法修習生には,給費制に代わり貸与制が適用されることとなった。
エ その後,平成24年法律第54号による裁判所法の改正(以下「平成24年改正」という。)により,前記(4)イの同法67条の2第3項について,修習資金の返還期限を猶予できる場合として,「修習資金を返還することが経済的に困難である事由として最高裁判所の定める事由があるとき」が加えられ,これを受けて,同年10月26日に貸与規則が改正され,収入金額に基づく事由(7条の2)が定められた。
(6) 給付金制の創設
ア 平成29年法律第23号による裁判所法の改正(以下「平成29年改正」という。)により,貸与制に加えて,修習給付金を支給する制度(平成29年改正後の裁判所法67条の2。以下「給付金制」という。)が創設され,同年11月1日から施行され,同日後に採用された司法修習生について適用されることとなった(なお,平成29年改正により,裁判所法67条の2(修習資金の貸与等)は,「67条の3(修習専念資金の貸与等)」に改められることとなった。)。(甲A35)
イ 給付金制では,「司法修習生には,その修習のため通常必要な期間として最高裁判所が定める期間,修習給付金を支給する。」(平成29年改正による裁判所法67条の2第1項)とされ,「修習給付金の種類は,基本給付金,住宅給付金及び移転給付金とする。」(同条の2第2項)とされ,「基本給付金の額は,司法修習生がその修習期間中の生活を維持するために必要な費用であって,その修習に専念しなければならないことその他の司法修習生の置かれている状況を勘案して最高裁判所が定める額とする。」(同条の2第3項)こととされた。(甲A35)
2 争点
(1) 平成16年改正前の裁判所法67条2項に基づく給費支払請求
ア 平成16年改正法による給費制の廃止の憲法適合性
(ア) 給費制の廃止は憲法で保障された給費を受ける権利を侵害するか(給費制は憲法上の要請であり,給費制の維持は国の憲法上の義務か)
(イ) 給費制の廃止は司法修習生の基本的人権を侵害するものか
a 憲法27条1項,2項違反の有無
b 憲法14条1項違反の有無
c 憲法22条1項違反の有無
イ 平成16年改正前の裁判所法67条2項に基づく給費請求権の成否
(2) 憲法29条3項に基づく損失補償請求
憲法29項3項に基づく損失補償請求権の成否
(3) 国賠法1条1項に基づく損害賠償請求
ア 給費制廃止に関する国賠法上の責任
(ア) 内閣の責任
(イ) 国会議員の責任
イ 損害の発生及び額
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)ア(ア)(給費制は憲法上の要請であり,給費制の維持は国の憲法上の義務か)について
【原告らの主張】
ア 憲法は,その基本理念である司法の権威の確立と国民の基本的人権の擁護を実現するため,その担い手である裁判官,検察官及び弁護士の憲法上の職責を規定した。このように,国家公務員でない弁護士の職責が憲法上で規定されたことによって,その職務は国家事務を行うものと位置付けられたのであり,憲法は,裁判官,検察官及び弁護士を「法曹三者」と位置付け,これらを目指す者を「法曹となろうとする者」として一体化することとなった。
イ そして,憲法は,上記アのとおり位置付けられた「法曹三者」の養成が国の責務であることを当然の前提として,統一修習制及び給費制を憲法上要請される2本柱として,「憲法附属法典」としての裁判所法に,法曹養成に係る制度設計を委託したのであるから,立法府が給費制を廃止することは,憲法の委託の趣旨を超えるものであって,許されない。
ウ 被告は,憲法に法曹養成制度に関する明文規定がないことを理由として,法曹をどのように養成するかは法律事項であって,立法府の裁量によって,その具体的内容を定めることができる旨主張する。しかしながら,このような主張は,司法修習制度の発足に至る経過や裁判所法制定当時の担当者の見解に反するものであり,失当である。また,法令審査における違憲性の判断は,憲法の明文規定に違反するか否かにとどまらず,当該法令の改廃が憲法の基本理念又は憲法が当然の前提としている基本原則に違反するか否かという観点からも判断されるべきであるから,憲法に法曹養成制度(給費制)に係る明文規定がないことから,給費制の廃止が違憲性判断の対象とならないということはない(なお,敢えて違憲の根拠規定を挙げるとすれば,憲法第3章及び第6章の全ての規定ということになる。)。
エ 上記アないしウのとおりであって,給費制は,憲法上の要請に基づくものであり,国には給費制を維持する義務があるから,給費制の廃止は違憲無効である。
【被告の主張】
ア 憲法は,司法権の担い手として法曹三者の存在を前提としていると解されるにとどまり,給費制はもとより,司法修習の方法や在り方,更には法曹養成の方法や在り方について,何らの規定も設けていない。したがって,給費制が憲法上の要請であるとか,憲法の諸規定から導かれると解することはできないのであって,法曹養成制度の具体的内容をどのようなものにするかといった事項は,法律事項として立法府の政策的な判断に委ねられているものというべきである。
イ 上記アのとおり,給費制の維持は国の憲法上の義務ではなく,平成16年改正前の裁判所法67条2項の「給与」は,司法修習生をして修習に専念させるための配慮として支給されていたものにすぎず,憲法上保障された権利を具体化したものではない。したがって,給費制の廃止が違憲無効であるとはいえない。
(2) 争点(1)ア(イ)a(憲法27条1項,2項違反の有無)について
【原告らの主張】
ア 憲法27条1項の「勤労」をする者には,同条項によって賃金支払請求権が保障され,また,同条2項により,賃金等の「勤労条件に関する基準」は法律で定めるべきこととされている。ところで,次のイ及びウのとおり,司法修習生は,同条1項の「勤労」をする者に当たるから,憲法上,賃金支払請求権が保障されており,また,平成16年改正前の裁判所法67条2項(給費制)は,賃金の基準に関する法律の定めとして,司法修習生の賃金支払請求権を実現するものであった。したがって,給費制の廃止は,司法修習生の賃金支払請求権を侵害するものであるから,憲法27条1項に違反し,また,賃金の基準に関する法律の定めを廃するものであるから,同条2項に違反しており,違憲無効である。
イ 憲法27条1項の「勤労」をする者は,労働基準法(以下「労基法」という。)9条の「労働者」と同義であり,この「労働者」に当たるかどうかを判断するに当たっては,「使用される者」であるか否か(使用従属性の有無)が重視されるべきである。そして,使用従属性の有無の判断に当たっては,①仕事の依頼・業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無,②業務遂行上の指揮監督の有無,③時間的・場所的拘束の有無,④業務の代替性の有無,⑤報酬の労務対価性の有無,⑥公租公課関係の源泉徴収の有無が判断要素とされるべきである。
ところで,司法修習生については,①仕事の依頼等について諾否の自由が認められないこと,②修習内容の遂行及び修習生活上の一般事項について,厳格な指揮命令を受けていること,③強い時間的・場所的拘束を受けていること,④業務の代替性が認められないこと,⑤平成16年改正前の裁判所法67条2項の「給与」には,労務対価性が認められること,⑥上記「給与」支給の際,源泉徴収等がされていたことから,使用従属性が認められることは明らかであり,しかも,司法修習生は修習専念義務を負い,兼業・兼職が禁止されており,通常の労働者に比してより強度な拘束を受けているのであるから,司法修習生が「使用される者」に当たることは明白である。
ウ 上記イに関して,被告は,憲法27条の「勤労」は,使用者に対する労務の提供を不可欠の要素とするものであるところ,司法修習生には労務の提供が認められないから,「勤労」する者には該当しない旨主張する。
しかしながら,司法修習生は,司法試験に合格した者の中から最高裁判所により司法修習を命じられ(裁判所法66条1項),高い識見と円満な常識を養い,法律に関する理論と実務を身に付け,裁判官,検察官又は弁護士にふさわしい品位と能力を備えるために(司法修習生に関する規則4条),修習専念義務が課せられ,時間的・場所的拘束を受けながら,修習それ自体を労務として司法修習を行っているといえる。すなわち,司法修習は,司法修習生個人のための教育のみを目的とするものではなく,国が,国民に対して負う法曹養成義務を果たすために設けた制度であり,国は司法修習生に対して司法修習をその「職務」として課し,司法修習生は司法修習の義務を負っているのであるから,国の指揮命令に従って司法修習を行うこと自体が「労務」に当たるといえる。
したがって,司法修習生は,国に対して労務の提供をする者であるといえるのであり,被告の上記主張は失当である。
【被告の主張】
ア 憲法27条の「勤労」は,使用者に対する労務の提供を不可欠の要素とするものであって,使用従属性の要件は,使用者に対する労務の提供が認められる事実関係の下で検討されるべきものである。
イ そして,①司法修習生の司法修習は,法曹に必要な能力を養成するために,実際の法律実務活動の中で行われる臨床教育課程であり,②司法修習において,司法修習生は,裁判官,検察官又は弁護士の職務その他国の事務に関する職務を遂行する権限も義務もなく,司法修習生がこれらの職務を遂行することは何ら予定されていない上,③具体的な修習内容に照らしても,司法修習生は,裁判官,検察官又は弁護士の事務その他国の事務に従事するものではない。
ウ 上記イによれば,司法修習は,使用者(国)に対する労務の提供であるとは認められないから,司法修習生が憲法27条1項の「勤労」をする者に当たるとはいえない。したがって,給費制の廃止が同条1項,2項に違反し,違憲無効であるとはいえない。
(3) 争点(1)ア(イ)b(憲法14条1項違反の有無)について
【原告らの主張】
ア 憲法14条1項は,合理的理由のない差別を禁止するものであるところ,給費制の憲法上の重要性及び個々の司法修習生の生活に係る生存権の保障機能の必要不可欠性に鑑みれば,給費制廃止の憲法14条1項適合性については,厳格な基準をもって判断されるべきである。
イ そして,司法修習の内容及び司法修習生の地位・身分並びにそれに基づく様々な制約について,原告らと新64期司法修習生及び現行65期司法修習生とは同一であったにもかかわらず,新64期司法修習生及び現行65期司法修習生は給与を受給できたのに対し,給費制の廃止によって,原告らは給与を受給できなかったのであるから,このような取扱いは,著しい差異にほかならない。
さらに,給費制の廃止は,司法制度改革及び法曹養成制度の理念との関連性を全く検討することなく決定されたものである。また,国は,給費制の廃止の根拠を国民の理解に求めているものの,給費制の維持について国民の理解が得られないという事実は全く根拠がない。したがって,上記のような取扱いの差異には合理性が認められない。実際,貸与制の開始からわずか6年後の平成29年には給付金制が導入され制度変更がされることになったのであり,その結果,新65期から70期までの司法修習生のみが,単に上記6年の間に司法修習生となったという理由によって,国庫から何らの給付も受けることなく,司法修習を行うということになったのである。
ウ 上記ア及びイによれば,原告らが司法修習生として金銭的給付を受けられなかったことは,著しく不合理な差別に当たることが明らかである。したがって,給費制の廃止は,憲法14条1項に違反する。
【被告の主張】
ア 憲法14条1項は,絶対的な平等を保障したものではなく,合理的理由のない差別を禁止する趣旨であり,事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づく区別は同項に違反するものではない。そして,前記(1)【被告の主張】アのとおり,法曹養成の方法や在り方,法曹養成制度の具体的内容をどのようなものにするかといった事項については,法律事項として立法府の政策的な判断に委ねられており,給費制が憲法上保障されたものとはいえない。したがって,新65期司法修習生と現行65期司法修習生及び新64期司法修習生との間の区別に事柄の性質に即応した合理的な根拠があるかどうかについては,国に広い裁量があることを前提に,給費制から貸与制への移行という立法府の判断に合理性があるかどうかの問題に帰着するというべきである。
イ これについて,平成16年改正による給費制から貸与制への移行は,法曹以外の者をも含めた司法制度改革推進本部(以下「推進本部」という。)(法曹養成検討会)等における長期間にわたる種々の議論や慎重な検討を踏まえた上で決定された方針に則り,法曹の質・量の充実,法曹人口の増加等も含め,新たな財政負担を伴う司法制度改革を推進する中で,①限りある財政資金をより効率的に活用し,司法制度改革全体について国民の理解が得られる合理的な国民負担(財政負担)を図る必要があること,②給費制の創設当初と比較して司法修習生が大幅に増加しており,新たな法曹養成制度の整備に当たり,司法修習生の増加に実効的に対応できる制度とする必要があること,③公務に従事しない者に国が「給与」を支給するのは異例の制度であることなどを踏まえ,司法修習生の「給与」を国民が負担することについて国民の理解を得られるか否かといった観点などによるものであり,合理的な根拠を有していたことは明らかである。
ウ また,給費制に代わる貸与制の内容についても,資力要件及び利息が設けられていないことなど,国の他の修学資金の貸与制度よりも要件が緩和されており,現に貸与を申請した司法修習生は全て貸与を受けることができている。そして,貸与額や返還方法,返還の猶予・免除の制度が設けられていることなどに照らしても,司法修習期間中の生活の基盤を確保するのに十分合理的なものとなっている。
エ 上記アないしウによれば,給費制から貸与制への移行は,合理的な政策判断であると認められ,原告らと新64期司法修習生及び現行65期司法修習生との区別は,事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものといえるから,憲法14条1項に違反するものではない。
(4) 争点(1)ア(イ)c(憲法22条1項違反の有無)について
【原告らの主張】
ア 原告らは,司法修習中,修習専念義務を課され(裁判所法67条2項),兼職・兼業が禁止され(司法修習生に関する規則2条),また,実務修習の場所は司法研修所長によって指定され(同規則5条3項),外国旅行には,あらかじめ司法研修所長(又は実務修習中は,司法修習生が配属された各裁判所,検察庁及び弁護士会(以下「配属庁会」という。)の長)の承認を得る必要があるとされていた(「司法修習生の規律等について」(平成18年4月17日付け司法研修所長通知)第6の1)。
イ 上記アの制限は,司法修習生の居住,移転及び職業選択の自由(憲法22条1項)を侵害するものであるところ,司法修習生に対する給与の支給があって初めて合理性を有するものであり,上記自由に対する制限をそのままにしながら給費制を廃止することは,憲法22条1項に違反する。
【被告の主張】
ア 司法修習は,法曹に必要な能力を養成するために実際の法律実務活動の中で行われる臨床教育課程であり,実務教育の主要部分を担うという重要な位置付けを与えられているものであり,司法修習は,法曹になるという職業選択に資するものであって,司法修習の存在そのものが職業選択の自由を制約し,これを侵害するものであるということはできない。また,修習専念義務は,司法修習制度の目的(司法修習生に関する規則4条)や本質から導かれるものであり,自らの意思で司法修習生となることを選択したことに伴う内在的制約であって,給費制はその対価ないし補償というべきものではない。
イ さらに,司法修習が上記アのとおり臨床教育課程であることからすると,全国各地での分野別実務修習及び司法研修所での集合修習は必要かつ有用であるから,そのために居住場所が一定程度制限され得るのは,司法修習の目的を達成するためやむを得ないものというほかない。したがって,修習地の指定は,司法修習制度の目的と合理的関連性を有するものであり,居住,移転の自由を制約するものであるとしても,自らの意思で司法修習生となることを選択したことに伴う内在的制約であるというべきである。
ウ 上記ア及びイによれば,仮に,修習専念義務等を課され,居住場所を一定程度制限され得ることが,司法修習生の居住,移転及び職業選択の自由を制約するものであるとしても,憲法22条1項の権利を侵害するものであるとはいえず,また,給費制はその対価ないし補償ではないから,給費制の廃止が同条項に違反するとはいえない。
(5) 争点(1)イ(平成16年改正前の裁判所法67条2項に基づく給費支払請求権の成否)について
【原告らの主張】
ア 前記(1)ないし(4)の各【原告らの主張】のとおり,給費制の廃止は,違憲無効であるから,平成16年改正前の裁判所法67条2項等,給費制に係る規定(裁判官の報酬等に関する法律14条ただし書等)は現在もなお有効に存続するものと解される。
イ 上記アによれば,原告らは,平成16年改正前の裁判所法等に基づき,給費制が廃止された平成23年10月時点において,司法修習生の給与に関する規則が定める額(少なくとも237万2480円)の給与の支払を受ける権利を有する。
【被告の主張】
否認ないし争う。
(6) 争点(2)(憲法29条3項に基づく損失補償請求権の成否)について
【原告らの主張】
ア 憲法29条3項については,公共目的により特定の者の財産権について「特別の犠牲」を強いる場合において,補償請求の根拠法規が存在しないときは,同条項に基づき補償請求ができるものと解されている。
イ 司法修習は,司法修習生に対して職業選択の自由や営業の自由を制約するものであるところ,これらの権利は憲法29条1項の保障する財産権的性質を有している。したがって,司法修習生は,司法修習制度という公共目的によって財産権に対して制約を受けているといえ,しかも,1年間にわたり修習への専念が求められていることから,これは「特別の犠牲」を強いるものであるといえる。そして,仮に,平成16年改正前の裁判所法67条2項による給費支払請求権が認められないとすれば,上記「特別の犠牲」に対する補償規定が存しないこととなる。
ウ 上記ア及びイによれば,仮に,平成16年改正前の裁判所法67条2項に基づく請求が認められないとすれば,原告らは,憲法29条3項に基づき,国に対して給与額相当の損失補償を求めることができるというべきである。
【被告の主張】
否認ないし争う。
(7) 争点(3)ア(ア)(給費制廃止に関する国賠法上の責任―内閣の責任)について
【原告らの主張】
ア 給費制は,憲法の要請によるものであり,かつ,司法修習生に憲法27条1項の勤労の権利(賃金支払請求権)を保障するものであって,平成16年改正前の裁判所法67条2項は,憲法27条2項による賃金の基準に関する法律の定めであった。
イ ところが,内閣は,平成13年12月,推進本部を設置するとともに,平成14年3月,「修習生の給費の在り方につき検討を行う」との方針を含む司法制度改革推進計画(以下「推進計画」という。)を閣議決定し,その検討を推進本部の課題として位置付けた上,給費制について検討する役割を担った法曹養成検討会の議論を,財政制度等審議会による「平成15年度予算の編成等に関する建議」等を利用して強力に誘導し,給費制から貸与制への切り替えを内容とする「司法修習生に対する貸与制について」という形で意見をとりまとめ,平成16年改正法を国会に提出した。そして,国会においては,推進本部事務局長が政府参考人として答弁し,内閣自らが給費制廃止の議論を強力に推し進めた経過に口を拭い,あたかも国民の声に従って給費制を廃止するかのような説明を繰り返し,平成16年改正法を可決成立に至らしめた。また,法務省は,本来,「司法制度に関する企画及び立案に関すること」及び「司法試験に関すること」を所掌事務としており,政府部内において,給費制廃止が立法事実を欠いていることを知悉する立場にあった。それにもかかわらず,法務大臣は,国会において平成16年改正法の提案理由を説明するという形で,給費制廃止に加担した。
ウ 内閣総理大臣は一般国務遂行の最高責任者として,かつ,推進本部長として,また,法務大臣は法務省の所管事務の責任者として,憲法尊重擁護義務を負っているところ,内閣総理大臣らは,憲法の要請する法曹養成制度の根幹を侵すのみか,司法修習生の憲法上の給費を受ける権利を侵害し,憲法27条2項の一義的文言に違反する方針を定め,その方針を実現する法案を提出したのであって,このような行為が国賠法の適用上違法な行為であり,内閣総理大臣らの責任が認められるべきことは明らかである。
【被告の主張】
否認ないし争う。
(8) 争点(3)ア(イ)(給費制の廃止に関する国賠法上の責任―国会議員の責任)について
【原告らの主張】
平成16年改正法に係る立法行為については,①憲法に適合する法律(平成16年改正前の裁判所法67条2項)を廃止し,司法修習生に憲法上保障された給費を受ける権利や勤労権(賃金支払請求権)を奪うという積極的な侵害行為であること,②給費制に係る根拠法令の全部を廃止するものであること,③憲法27条2項の一義的な文言に違反するものであることから,国賠法の適用上違法であって,国会議員の責任が認められるべきことは明らかである。
【被告の主張】
否認ないし争う。
(9) 争点(3)イ(損害の発生及び額)について
【原告らの主張】
原告らは,平成16年改正による給費制の廃止により,得べかりし給与額(少なくとも237万2480円)相当の損害を被った。また,給費制の廃止による原告らの経済的負担等を考慮すれば,慰謝料は100万円を下らないというべきである。
【被告の主張】
否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 法曹養成制度における給費制の創設及び廃止に至る経緯等
前提事実並びに証拠(各項に掲記するもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実を認めることができる。
(1) 旧憲法下における司法官試補及び弁護士試補の地位等
ア 裁判所構成法(甲A1)において,司法官試補は,司法大臣の命により区裁判所において「檢事代理の職を勤めることがあり」,実際,司法官試補が「檢事代理をなすことは一般に行はれて」おり,また,区裁判所の判事等の「命に依り書記の事務を臨時取扱ふこと」ができ,さらに,刑事について「官選辯護人たり得る」とされていた(乙43・146及び147頁)。これは,上記各「職務」は比較的簡易軽微なものであって指導の判事又は検事(以下「判検事」という。)の指揮の下であれば過誤なく行い得ることから,実務修習のため司法官試補に「執る」こと(職務の執行)をさせたものであった(同147頁)。そして,司法官試補は,「官吏ではなかったが,奏任官待遇が与えられ」(乙1・384頁),「年俸」が支給されていた(甲A12)。
加えて,司法官試補は,考試に合格すれば,判検事に任用されるべき「権利」を有するものとされ,考試合格者は,直ちに判検事に任用されていた(乙1・396頁,乙43・147頁。これに対し,司法修習生は,考試に合格し修習を終えても,判事補及び検事の任命資格を取得するにとどまり,これらの官職に任命されるとは限らない(前提事実(2)イ)。)。
イ 弁護士試補は,官吏でもなく,官吏待遇でもなかったのであり,国から給与は支給されていなかった。(乙1)
(2) 裁判所法案起草過程における司法修習生の地位等
ア 裁判所法の立法過程においては,司法省民事局(昭和21年当時)によって,数次にわたり裁判所法案要綱案及び裁判所法案が起草され,〔第三次〕裁判所法案要綱(案)(昭和21年8月7日。甲A11の1)において,試補の制度について,「司法官試補及び弁護士試補の別を廃して,司法修習生(仮称)とする。」(甲A11の1・38頁)ことが定められた。そして,裁判所法案において,司法修習生に関する条項案が設けられたところ,司法修習生の地位及び権限等は,次のイないしエのとおり,法案起草過程において大きく変化した。
イ 〔第一次〕裁判所法案(昭和21年8月22日。甲A11の2)において,「第五編 共通規定」に係る第一案では,「各裁判所の長官は,その裁判所で修習中の司法修習生に裁判事務官の事務を臨時に取扱はせることができる。」(第5編18条1項(甲A11の2・163頁))との記述が,同第三案では,「司法修習生は,別に本法その他の法律で定めた権限を有する外,その修習を現に担当する判事,検事又は弁護士の命あるときはその裁判所の司法事務,検察庁の検察事務又は弁護士の事務を取扱ふことができる。」(第5編14条本文(同171頁))との記述が,同第五案では,「各裁判所の長官は,その裁判所で修習中の司法修習生に,司録官の事務を臨時に取扱はせることができる。」(第5編18条1項(同181頁))との記述があった。そして,同第三案では,「司法修習生は二級官吏とみなす。」(第5編12条2項),「司法修習生はその在任中一定額の給与を受ける。」(同条3項(同171頁))との記述が,同第四案では,「司法修習生は,その修習期間中国庫から一定額の給与を受ける。」(第5編第2章3条2項(同176頁))との記述があり,同第五案でも同一の記述(第5編12条2項(同180頁))があった。
ウ また,〔第二次〕裁判所法案(昭和21年10月21日。甲A11の3)では,司法修習生は「裁判所の職員」の一つとして位置付けられ(第5編第8章),「司法修習生は,その修習中国庫から一定額の給与を受ける。」(105条2項(甲A11の3・202頁))との記述が,また,同編第3章(裁判所書記官)において,「各裁判所の長官は,その裁判所で修習中の司法修習生に,裁判所書記官の事務を臨時に取扱はせることができる。」(94条1項(甲A11の3・201頁))との記述があった。
エ ところが,〔第三次〕裁判所法案(昭和21年11月11日。甲A11の4)以降においては,「司法修習生は,その修習期間中国庫から一定額の給与を受ける。」(例えば,〔第三次〕裁判所法案89条2項(同257頁),〔第十一次〕同法案67条2項(乙42・499頁))との記述は残されていたものの,司法修習生に「裁判所書記官の事務」を取り扱わせることができるなど,司法修習生に職務権限を付与する旨の記述はなくなり,さらに,〔第四次〕裁判所案(同月19日。甲A11の5)以降,司法修習生は「裁判所の職員」とは別に位置付けられることとなった。そして,これは,制定時の裁判所法(昭和22年法律第59号)においても同様であった。(甲A11の4ないし6,27・10頁,乙1・377頁,42)
オ ところで,〔第三次〕裁判所法案における「司法修習生は,その修習期間中国庫から一定額の給与を受ける。」という規定(89条2項)について,司法省事務当局者の「メモ」(乙41・403頁。以下「本件事務当局者メモ」という。)として,下記のとおり記載されていた。(甲A10の7・474及び475頁,乙41)
記
「給与」というのは,手当,俸給を含む趣旨である。
司法修習生は,いわゆる判検事のみならず,弁護士にもなれる,というように,司法官試補よりも,ひろい資格が与えられたものと考えれば,従来の試補のように給与を受けることは当然であるし,また,その年限を恩給年限に算入してもよいと考えられる。
もし,弁護士の地位も,国家機関的なものとすれば,弁護士にも,執達吏の場合と同様,国庫から補助を受けることが必要であるとも言い得るであろう。
結局,司法修習生は,裁判官,検察官になるのには,必ず経なければならないものであるから,給与を支給する。また,弁護士も,国家事務を行うものであるから,弁護士になる者についても,同様のことがいえる,ということになる。
カ 上記オに対して,〔第十一次〕裁判所法案(乙42・488頁以下)質疑応答(同976頁以下)において,司法修習生に関する質疑応答の内容は,下記のとおりであった(同1010頁)。なお,同法案における司法修習生の給費制に関する規定(67条2項)の文言(同499頁)は,制定法と同一であった。(乙42)
記
一問 司法修習生の地位は
答 官吏でもなく,官吏待遇でもない。国庫から給与を受ける一種の学生の如きものである。従来の弁護士試補のようなもの。司法官試補は従来奏任官待遇が与えられていた。
二問 司法修習生の修習を終つた後の資格
答 判事補,検察官,弁護士になる資格が得られる。
三問 司法修習制度を設けた理由
答 いわゆる法曹は,何れも同一の基盤から出発するものとし,裁判官,検察官,弁護士の間に互に人事交流ができ易くした。
(3) 裁判所法の成立等
ア 裁判所法案については,第92回帝国議会貴族院裁判所法案特別委員会(昭和22年3月20日)において,B司法大臣が,「御審議を願ひまする裁判所法案に付きまして御説明申し上げます,日本国憲法は其の第6章に『司法』と致しまして最高裁判所に関する事項を初め其の他司法権に関する事項に付きまして重要なる規定を設け,現行憲法の司法に関する規定に著しき改正を加へましたことは,各位の御承知の通りであります,従ひまして現行憲法の下に裁判所構成法に依って定めて居りまする裁判制度も,之に依りまして改正の必要を生じて参ったのでありまして,政府に於きましては改正憲法制定後の短期間内に最大の努力を拂ひまして,國民の期待と國際的関心とを十分に考慮の上に,本法案を立案致した次第であります。」と説明した。(甲A13・1頁,27・10頁)
イ また,第92回帝国議会衆議院裁判所法案委員会(昭和22年3月17日)において,委員から,「本法案は新憲法のもと,立法,行政と並んで完全な獨立を確保する裁判所の構成に関する根本法であり,憲法附属法典の一つをなすものであります。」との発言があった。(甲A14・23頁,27・11頁)
ウ 上記ア及びイの審議等の後,裁判所法が成立し,昭和22年4月16日に公布され,同年5月3日に施行された。そして,同法67条2項では,同法の制定時から平成16年改正までの間,その本文において「司法修習生は,その修習期間中,国庫から一定額の給与を受ける。」と規定され,司法修習生には,その修習期間中,国庫から一定額の給与が支給されていた(給費制)。もっとも,平成10年改正法により,同条項ただし書として「ただし,修習のため通常必要な期間として最高裁判所が定める期間を超える部分については,この限りでない。」が加えられた(その結果,考試に合格しなかった場合,司法修習生の身分を直ちに失わず,修習期間が続くことになるにもかかわらず,給与を受けないこととなった。)。
エ その後,平成16年改正法の成立に至る経緯は,後記(4)ないし(7)のとおりである。
(4) 司法制度改革審議会における検討
ア 司法制度改革審議会の設置
司法制度改革審議会(以下「審議会」という。)は,「司法制度の利用者である国民の視点に立って」(乙6・1頁),「21世紀の我が国社会において司法が果たすべき役割を明らかにし,国民がより利用しやすい司法制度の実現,国民の司法制度への関与,法曹の在り方とその機能の充実強化その他の司法制度の改革と基盤の整備に関し必要な基本的施策について調査審議する」(審議会設置法(乙5)2条1項)ことを目的として,平成11年7月,内閣に設置された(同法1条)。(乙4ないし6)
イ 審議会意見書の提出
審議会は,平成12年11月,それまでの調査審議の結果を踏まえ,改革の大きな方向性,改革の視点や具体的方策の検討の方向等について中間報告として取りまとめた。上記中間報告には,司法修習に関する箇所に,給費制についての記載はなかった。(乙6・20頁)
その後,中間報告について各界各層から様々な意見が寄せられ,審議会においては,それらをも踏まえた上,更に議論を重ねるなどし,平成13年6月12日,審議会意見書(乙7)が取りまとめられた。審議会意見書では,給費制の在り方について,「修習生に対する給与の支給(給費制)については,将来的には貸与制への切替えや廃止をすべきではないかとの指摘もあり,新たな法曹養成制度全体の中での司法修習の位置付けを考慮しつつ,その在り方を検討すべきである。」(乙7・75頁)とされた。(甲A15,乙7)
(5) 司法制度改革推進計画の策定
ア 司法制度改革推進本部(推進本部)の設置
平成13年11月,司法制度改革推進法(乙8)が制定された(同年12月1日施行)。同法は,国の規制の撤廃又は緩和の一層の進展その他の内外の社会経済情勢の変化に伴い,司法の果たすべき役割がより重要になることに鑑み,審議会の意見の趣旨に則って行われる司法制度の改革と基盤の整備について,その基本的な理念及び方針,国の責務その他の基本となる事項を定めるとともに,推進本部を設置すること等により,これを総合的かつ集中的に推進することを目的とするものである(同法1条)。そして,推進本部は,同法8条に基づき,平成13年12月1日,内閣に設置された。
イ 司法制度改革推進計画の策定
平成14年3月19日,司法制度改革推進計画(推進計画)が閣議決定された。推進計画は,審議会意見(前記(4)イ)の趣旨に則って行われる司法制度の改革と基盤の整備(以下「司法制度改革」という。)に関し政府が講ずべき措置について,その全体像を示すとともに,推進本部の設置期限(平成16年11月30日)までの間に行うことを予定するものにつき,措置内容,実施時期,法案の立案等を担当する府省等を明らかにするものである(乙9・1頁)。推進計画においては,給費制の在り方について,「司法修習生の給費制の在り方につき検討を行う。」とされた(同8頁)。(乙9)
(6) 司法制度改革推進本部(法曹養成検討会)における検討
ア 推進本部において,司法修習並びに給費制及び貸与制の検討は,推進本部の下に置かれた法曹養成検討会で行われた。法曹養成検討会は,委員11名の構成で(法曹以外の者も含まれていた(乙10資料1)。),平成14年1月11日から平成16年9月1日までの約2年8か月間にわたり,全24回開催された。そして,給費制及び貸与制は,第7回検討会(平成14年5月10日)以降,議論となった。(乙10ないし22)
イ そして,第23回検討会(平成16年6月15日)において,下記のとおり「意見の整理」がされ,第24回検討会(平成16年9月1日)において,上記「意見の整理」に沿って事務局が検討した貸与制の具体的な制度内容が説明され,立案作業を進めることが確認された。(乙21,22)
記
新たな法曹養成制度の整備に当たり,司法修習生に対して給与を支給する制度(給費制)に代えて,国が司法修習生に対して貸付金を貸与する制度(貸与制)を平成18年度から導入することとする。貸与制の具体的制度設計については,次の点に留意するものとする。
1 貸付額については,司法修習生が修習に専念する義務を負うことを考慮した額とすること。
2 返還は10年程度の年賦等による分割払とし,繰上返還も認めるほか,事情に応じて返還猶予を認めるものとすること。
3 返還期限が経過するまでは無利息とすること。
4 具体的な返還免除や返還猶予のあり方については,関係機関の意見をも踏まえつつ,引き続き検討すること。
5 貸付金に係る国の債権管理,事務処理などについては,アウトソーシングなどによる効率化を図ること。
6 司法修習生に対して旅費(実務修習地や司法研修所との往復など)を支給するものとすること。
(少数意見)
C委員は,「給費制は,厳しい専念義務の下での充実した修習の基礎となり,また公益的活動を支える使命感醸成の効果をもたらしているのであり,経済的事情から法曹への道を断念する志望者が出ることを防ぐためにも,なおこれを堅持すべきである。」との少数意見を述べた。
ウ 上記ア及びイの議論の過程において,給費制から貸与制への移行について憲法違反である又はその疑いがあるなどの指摘がされたことはなかった。(甲A36,乙10ないし22)
(7) 国会における検討
ア 法律案の提出
内閣は,法曹養成検討会の検討結果を受けて,平成16年改正前の裁判所法67条2項の規定を改めて給費制を廃止し,同法67条の2を設けて貸与制を新設すること(前提事実(4)アないしウ)などを内容とする裁判所法の一部を改正する法律案(平成16年改正法案)を国会に提出し,平成16年第161回国会において審議が行われた。(乙44)
イ 衆議院法務委員会における議論等(乙23,24)
平成16年改正法案について,平成16年11月24日及び同月26日,衆議院法務委員会において質疑が行われた。同月24日の同委員会冒頭において,法務大臣が,上記法律案の趣旨の説明として,「新たな法曹養成制度の整備は,多様かつ広範な国民の要請にこたえることができる多数のすぐれた法曹の養成を図ることを目的とするものであり,司法修習生の修習についても,司法修習生の増加に実効的に対応することができる制度とすることが求められております。この法律案は,このような状況にかんがみ,新たな法曹養成制度の整備の一環として,司法修習生に対し給与を支給する制度にかえて,司法修習生がその修習に専念することを確保するための資金を国が貸与する制度を導入することを目的とするものであります。」と述べた。
そして,同委員会での質疑においては,給費制から貸与制への移行の趣旨について,法務大臣から,法曹の質,量ともに充実させるため,司法修習生の大幅な増加が求められており,また,司法制度改革を実現していくに当たっては国民の負担を伴うことについてその理解を得る必要がある状況に鑑みると,「今後もさらに国民の負担をふやして給費制を維持することについて,国民の理解を得ることは困難」であり,「司法修習生が修習に専念できる環境を確保しながら,給費制を貸与制に切りかえる必要がある」との答弁がされた(乙23・2頁)。
さらに,推進本部事務局長からは,司法制度改革に係る財政負担,すなわち,「国民の負担」について「国民の方々の理解を得」る必要があり,その点から,「努力できるものは努力してそこを合理化していく,こういう姿勢が大事である」,このような点から考えて,給費制については,給費制の創設当初(当時の司法修習生は200名台であった。)に比較して司法修習生が大幅に増加していること,公務員ではなく公務にも従事しない者に国が給与を支給するのは異例の制度であり,給費制に対して様々な批判もあったことなどの状況を総合的に勘案し,給費制を維持することについて国民の理解を得ることは困難であり,貸与制に移行することにしたものであり,「単に財政事情が厳しいからというだけではなくて,やはり,司法制度改革を実現するために財政資金をより効率的に投入する趣旨,これで貸与制に移行する」ものであるとの答弁がされた(同2頁)。また,委員からも「司法試験の合格者数を3000人に倍増させるということや,ほかの専門的な職業の養成制度とのバランスを考えると,今後も給費制を維持することは,国民から法曹だけ優遇されているという批判の目,国民からの理解が得られないというようなことがある」ことを承知している旨の発言があった(同7頁)。
このような質疑終局後,委員から,平成16年改正法の施行期日とされていた「平成18年11月1日」を「平成22年11月1日」とする修正案が提出され,その趣旨について,貸与制への移行については,「十分な周知期間を確保するとともに,第1期の法科大学院生に対し,給費制のもとでの修習を受ける機会を確保するとの観点から,施行期日をおくらせることとし,平成22年ころには司法試験の合格者数の年間3000人達成を目指すとされていることにもかんがみ,施行期日を平成22年11月1日とすべき」であるとの説明がされた(乙24・12及び13頁)。
そして,上記法律案(上記修正案による修正部分を除く。)及び上記修正案(以下「修正後の法律案」という。)は,同委員会において,全会一致で可決された(同13頁)。また,修習資金の額及び返還期限等について,委員から附帯決議案が提出され,全会一致で可決された。(乙24)。
その後,修正後の法律案は,平成16年11月30日に衆議院本会議において,賛成多数により可決された。(乙25)
ウ 参議院法務委員会における議論等(乙26,27)
修正後の法律案は,平成16年12月1日,参議院法務委員会において質疑が行われた。同委員会の質疑では,法務大臣及び内閣官房内閣審議官(元推進本部事務局長)から,上記イと同趣旨の趣旨説明及び答弁がされた(乙26・1及び4頁)。そして,質疑終局後,討論の際,委員より反対意見が述べられたものの(同20頁),反対の根拠として,給費制から貸与制への移行が憲法違反又はその疑いがある旨の指摘はなかった。
上記討論後,採決が行われ,修正後の法律案は賛成多数で可決された(同20頁)。その後,同委員会において,委員らから附帯決議案(上記イの附帯決議案に新司法試験に関する項目が追加されたもの)が提出され,賛成多数で可決された(同頁)。
その後,修正後の法律案は,平成16年12月3日,参議院本会議において賛成多数で可決,成立し(乙27),同月10日,公布された。
(8) 法曹養成制度に関する検討ワーキングチームにおける検討
ア 平成22年に,新たな法曹養成制度の問題点・論点を検証し,これに対する改善方策の選択肢を整理するため,法務省及び文部科学省は,両省副大臣が主宰する「法曹養成制度に関する検討ワーキングチーム」(以下「ワーキングチーム」という。)を設置した。ワーキングチームでは,同年3月1日から同年6月25日までの間(乙28別紙2),全11回にわたり,給費制及び貸与制を含む法曹養成制度等について検討が行われ,同年7月6日付けで「法曹養成制度に関する検討ワーキングチームにおける検討結果(取りまとめ)」(以下「ワーキングチーム取りまとめ」という。)が公表された。(乙28)
イ ワーキングチーム取りまとめでは,司法修習生の経済的負担について,「法科大学院入学から司法修習生になるまでに多額の経済的負担が必要となることに加えて,平成22年11月から司法修習生に対する給費制が廃止されて修習資金の貸与制が実施されると,優れた資質を備えた多様な人材が経済的な事情から法曹を志すことを断念せざるを得なくなる事態が拡大することが避けられないという問題があるとの意見があった。この立場からは,改善策として,平成22年11月以降も司法修習生に対する給費制を維持するべきではないかとの意見や,貸与制を導入するとしても返済免除制度を拡大すべきではないかとの意見があった。これらの意見に対しては,貸与制の導入は,新たな法曹養成制度の整備に当たり,法曹人口の拡大を実現する必要があることや,限りある財政資金をより効率的に使用して,司法制度全体に関して合理的な国民負担を図る必要があることから,司法制度改革審議会以来の様々な議論を経て導入されたものであり,給費制を存続するためには国民的理解が必要ではないかとの意見や,貸与制の具体的な内容を見ても,無利子である上,修習終了後5年間の据置期間を設けて,10年間の分割返済としており,返済猶予・返済免除の制度も設けられていることから,返済の負担が過大とはいえないのではないかとの意見があった。」とされた(乙28・22及び23頁)。
(9) 平成22年改正
ア 平成16年改正法が平成22年11月1日施行された後,同月24日の衆議院法務委員会において,同改正による裁判所法の改正を内容とする起草案(前提事実(5)ア参照)につき,委員会提出法律案とすることが可決された。その際,上記起草案の趣旨について,同「月1日に施行された改正裁判所法により,司法修習生に対し給与を支給する制度にかえて修習資金を国が貸与する制度が導入された」が,「昨今の法曹志望者が置かれている厳しい経済状況にかんがみ,それらの者が経済的理由から法曹になることを断念することがないよう,法曹養成制度に対する財政支援のあり方について見直しを行うことが緊要な課題となって」いるという「状況にかんがみ,平成23年10月31日までの間,暫定的に,司法修習生がその修習に専念することを確保するための資金を国が貸与する制度を停止し,司法修習生に対し給与を支給する制度とするもの」である旨説明された。(乙29)
イ 上記アの法律案は,平成22年11月25日の衆議院本会議で賛成多数により可決され(乙30),同日の参議院法務委員会で質疑及び討論が行われ,討論の際,理事から,給費制を維持する実質的な理由がなく,国会での議論が十分になされていないことを理由とする反対意見が述べられたものの,賛成多数で可決され(乙31・11ないし14頁),同月26日の参議院本会議において賛成多数で可決,成立し(乙32・10ないし12頁),同年12月3日に公布,施行された。
(10) 法曹の養成に関するフォーラムにおける検討
ア 平成23年5月13日,内閣官房長官,総務大臣,法務大臣,財務大臣,文部科学大臣,経済産業大臣の申合せにより,法曹の養成に関する制度の在り方について検討を行うため,フォーラム(以下「フォーラム」という。)が設置された。フォーラムは,平成23年5月25日(第1回)から,平成24年5月10日(第14回)まで開催され,給費制及び貸与制については,第1回から平成23年8月31日の第5回まで検討が行われ,同日,「法曹の養成に関するフォーラム第一次取りまとめ」(乙34。以下「フォーラム第一次取りまとめ」という。)が行われた。(乙33)
イ フォーラム第一次取りまとめにおいては,(ア)「司法修習は,新しい法曹養成プロセスにおいて必須の課程。司法修習生が修習に専念できるようにするため,修習期間中の生活の基盤を確保する必要があり,司法修習生に経済的支援を行う必要がある。」こと,(イ)「経済的支援の基本的な在り方」については,「貸与制を基本とした上で,個々の司法修習終了者の経済的な状況等を勘案した措置(十分な資力を有しない者に対する負担軽減措置)を講ずる。」ことなどが指摘された。(乙34の2)
(11) 貸与制の開始
その後,平成22年改正により貸与制を適用しない期限とされた平成23年10月31日までの間に,給費制又は貸与制に関する裁判所法の改正は行われず,平成23年11月から司法修習を開始した新65期司法修習生から,貸与制(前提事実(4))が開始されることとなった。そして,貸与制の下において,貸与を申請した司法修習生は全て貸与が認められている。
(12) 平成24年改正
平成23年11月,フォーラム第一次取りまとめの結果を踏まえ,貸与制について,修習資金を返還することが経済的に困難である場合における返還猶予措置を講ずるための裁判所法の一部を改正する法律案が国会に提出され,平成24年7月27日,貸与制について「修習資金を返還することが経済的に困難である」場合における返還猶予措置を講ずるための裁判所法の一部を改正する法律が成立した(前提事実(5)エ)。(乙38)
2 司法修習生の身分等及び司法修習の内容等
前提事実並びに証拠(甲B1ないし33,乙39,45,原告X17本人,同X22本人,同X27本人,同X28本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実を認めることができる。
(1) 司法修習の目的及び修習内容等
ア 司法修習の目的等
司法修習の目的は,司法修習生において「高い識見と円満な常識を養い,法律に関する理論と実務を身につけ,裁判官,検察官又は弁護士にふさわしい品位と能力を備える」ことにある(司法修習生に関する規則4条)。このように,司法修習は,「法律実務家となるべき者の修習」(乙45・3頁)であり,「法律専門家となるための修業」(同4頁)であって,司法修習においては,「裁判,検察,弁護の各分野に共通して必要とされる,法的問題解決のための基本的な実務的知識・技法と,法曹としての思考方法,倫理観,心構え,見識等(「法曹としての基本的なスキルとマインド」)を習得すること」(同4頁)が第一の目標であるとされている。
そして,司法修習生の修習専念義務(裁判所法67条2項)は,①司法修習が法曹に必須の課程として国によって運営されており,修習内容も法曹に必要な能力を養成するために高度に専門的であること,また,②司法修習が臨床教育課程として,実際の法律実務活動の中で行われるものであることから,司法修習生においても,実際の法曹と同様に中立公正な立場を維持したり,利益相反活動を避けたりする必要があることから規定されており,司法修習制度の本質に由来するものである(乙39・6頁)。
イ 司法修習の構成及び内容
原告ら新65期司法修習生は,まず,あらかじめ司法研修所長の定める実務修習地において,民事裁判修習,刑事裁判修習各2か月間,検察修習2か月間及び弁護修習2か月間で構成される分野別実務修習を行い,分野別実務修習の終了後は,選択型実務修習及び司法研修所における集合修習を各2か月間行うこととされていた(なお,選択型実務修習と集合修習の順序は,実務修習地により異なっていた。)。上記各修習の内容は,後記(2)ないし(4)のとおりであった。
また,司法修習生は,修習期間を通じて,約75人を1組とするクラスに分けられ,民事裁判,刑事裁判,検察,民事弁護及び刑事弁護の各教官1人ずつ計5人の教官が各組の担当教官となって修習指導に当たることとされていた。そして,一つのクラスは一つの修習地又は複数の修習地の組合せで編成されており,司法研修所教官と,配属庁会(司法修習生が配属された各裁判所,検察庁及び弁護士会)の指導担当者とは,緊密な連携の下,司法修習生の指導に当たっていた。
(2) 分野別実務修習
分野別実務修習の順序は,司法修習生によって異なるものの,いずれの修習も,基本的に「生きた事件」を素材として行われていた。
ア 裁判修習
民事裁判修習及び刑事裁判修習においては,配属された部の裁判官の指導の下に,弁論,和解,公判等を傍聴し,裁判長の訴訟指揮や証拠調べなどを見聞することにより,裁判所の訴訟運営と心証形成の過程を知り,起案についても指導を受けていた。この間,家庭裁判所の実務についても修習が行われていた。
そして,司法修習生は,上記指導に先立ち,関係する事件記録を検討するとともに,必要に応じて法令及び判例の調査・検討を行った上で,各種傍聴の前後に担当裁判官との質疑応答や司法修習生同士の討議を行っていた。また,裁判官等から,民事保全,民事執行,令状,家事事件等の裁判実務に関する種々の講義を受け,又は問題研究等を行うこともあった。さらに,司法修習生は,民事裁判修習では,事件の争点及び争点に関する事実認定の要点を簡潔に記載した書面のほか,和解条項案,事件の進行や法律問題に関する調査,検討メモを起案するなどし,また,刑事裁判修習では,事実認定のほか,公判前整理手続における求釈明事項案や争点整理案,法律問題や量刑など,手続の各段階に応じた調査,検討メモを起案するなどし,これらの各種起案について,担当裁判官による添削や講評を受けるなどしていた。
イ 検察修習
検察修習においては,検察官の指導と監督の下に,被疑者,参考人の取調べなどの捜査修習を通して事件処理を修得し,起訴状や不起訴裁定書の起案の指導を受けるほか,検察官の公判立会を傍聴するなどして訴追官の側から見た刑事訴訟手続を修習していた。そして,司法修習生は,検察修習において,具体的な事件について,事案の真相解明のための捜査方針の検討,捜査(証拠収集,取調べ)の体験,終局処分の在り方の検討等を行うほか,証拠整理・証拠開示,裁判所提出書面の起案,公判準備への同席,公判前整理手続,公判手続の傍聴,控訴審査等への同席等を行うなどしていた。
ウ 弁護修習
弁護修習においては,個々の法律事務所に配属され,担当弁護士の指導により,法律文書の起案をしたり,弁論あるいは公判に同席して証人尋問や弁論の要領を見聞したりするほか,交渉,契約締結などの訴訟外活動や捜査段階の弁護活動など弁護士としての実務を修習していた。また,特定のテーマについて合同講義などを受けることもあった。
そして,司法修習生は,弁護修習において,あらかじめ聴取すべき事項や収集すべき証拠等について検討した上で,依頼者との打合せや法律相談,接見等に同席し,必要に応じて法令及び判例の調査・検討を行い,裁判所における期日を傍聴するとともに,これら法廷内外の活動の前後において担当弁護士との質疑応答を行うなどしていた。また,配属庁会の司法修習委員会が主催する合同修習において,講義を受けることなどもあった。さらに,弁護修習において,担当弁護士の指示,同席した打合せ等の結果を踏まえ,訴状や準備書面,弁論要旨等の法律文書を起案し,場合によっては,尋問事項等を起案するなどし,これらの各種起案については,担当弁護士による添削や講評を受けるなどしていた。
(3) 選択型実務修習
選択型実務修習は,配属庁会等において,司法修習生の主体的な選択により,分野別実務修習の成果の深化と補完を図り,又は各自が関心を持つ法曹の活動領域における知識・技法の修得を図るものであって,裁判所,検察庁及び弁護士会などで,それぞれ修習プログラムが提供され,司法修習生は興味と関心に応じたプログラムを選んで修習していた。
具体的には,民事事件及び刑事事件を題材とする模擬裁判を行うプログラム,民事執行や破産等の非訟事件,労働事件や知財事件を集中的に見聞するプログラム,刑務所等の施設を見学するプログラムなどが設けられていた。また,選択した修習プログラムにおける修習先での修習がないときは,原則として分野別実務修習の弁護修習において修習した弁護士事務所において修習を行っていた。
(4) 集合修習
集合修習は,分野別実務修習の体験を補完して,体系的,汎用的な実務教育を行い,法律実務のスタンダードを身に付けさせることを旨として行われ,各科目とも,司法修習の総仕上げと実務家として活動するための準備にふさわしい高度な内容を修習するものであった。
具体的には,司法修習生は,司法研修所において,教官の講義を受け,司法修習生同士の討論や,それを踏まえた教官からの講評を受け,また,即日起案を行い,その講評を受けるなどしていた。
3 争点(1)ア(ア)(給費制は憲法上の要請であり,給費制の維持は国の憲法上の義務か)について
(1) 原告らは,憲法が,国の責務である法曹養成の制度設計について,統一修習制及び給費制を憲法上要請される2本柱として,「憲法附属法典」としての裁判所法に委託したのであるから,立法府が給費制を廃止することは,憲法の委託の趣旨を超える(憲法第3章及び第6章の全規定に違反する)ものであって許されない旨主張する。
ア そこで検討するに,まず,憲法は,第3章(国民の権利及び義務)において,弁護人依頼権を規定する(34条,37条3項)とともに,第6章(司法)において,司法権は最高裁判所及び下級裁判所に属すること(76条1項),最高裁判所が法令等の憲法適合性審査に係る終審裁判所であること(81条)などを定め,司法の担い手として裁判官,検察官及び弁護士を位置付けている。そして,裁判官,検察官及び弁護士は,司法作用を司り,又はこれに携わる者として法曹と総称されるところ,そのいずれか一つの職務遂行が不十分であっても,司法の機能は不完全となることを免れない(乙1・376頁)。したがって,憲法は,司法が実効的に機能し,三権分立(憲法第4章ないし第6章)等,憲法の価値を実現するため,国に対し,司法制度の担い手としての法曹の養成を要請しているものと解される。
イ もっとも,憲法には,法曹養成制度に関する規定は存在せず,給費制はもとより,司法修習の方法や在り方,更には法曹養成の方法や在り方について,何らの規定も設けていない。そして,司法の機能確保のための法曹養成の方法や在り方,その具体的内容は,国及び国民の置かれた歴史的・社会的状況及び財政事情並びに社会的背景等によって大きく異なり得る(例えば,法曹養成に係る給費制又はそれに類する制度の採否や適用範囲についても,国によって様々である(乙17・17及び18頁)。)。
上記によれば,法曹養成の方法や在り方,その具体的内容をどのようなものにするかという事柄は,性質上,国の根本規範である憲法の定めるべき事項であるとは考え難く,法律事項として立法府による合理的な判断に委ねられているものというべきであって,憲法が特定の内容の法曹養成制度を設けることを要請し,又は特定の内容の制度を保障しているものとは解し難いというべきである。
ウ 実際に,裁判所法制定に至る法案起草過程において,法曹養成の具体的内容,例えば,司法修習生の位置付け及び権限等について様々な提案や検討がされており(前記1(2)),裁判所法の立法担当者においても,憲法によって法曹養成の在り方や制度内容が一義的に定められているものではなく,合理的な立法裁量に委ねられているという理解であったものと認められる。給費制についても,その立法理由として,給費制が憲法上の要請である旨の説明がされたことはなく(同エ,オ),その後,平成10年改正法により,司法修習生が給与を受ける期間について制限が課された(同(3)ウ)際にも,その憲法適合性が問題とされた形跡はない。
エ 加えて,給費制から貸与制への移行については,平成11月7月から平成16年9月までの間,審議会及び推進本部(法曹養成検討会)において検討がされ(前記1(4)ないし(6)),同年11月及び12月,国会において質疑及び討論がされ(同(7)),さらに,平成22年3月から同年6月までの間,ワーキングチームによって検討され(同(8)),同年11月,国会において質疑及び討論がされ(同(9)),また,平成23年5月から同年8月までの間,フォーラムにおいて検討された上で(同(10)),同年11月から,給費制に代わり貸与制が適用されることとなったところ(前提事実(5)ウ,前記1(11)),上記各検討等の過程において,給費制は憲法上の要請であるとか,給費制の廃止は憲法違反であり又はその疑いがある旨の意見が出されたこともなかった。
オ なお,裁判所法案の審議の際,委員から,裁判所法について「憲法附属法典の一つ」である旨の発言があったものの(前記1(3)イ),この発言は,裁判所法が憲法規範と同様の性質を有するという趣旨のものとは解されない。すなわち,上記審議の際の司法大臣の趣旨説明の内容(同ア)及び裁判所法の各規定内容等に照らせば,裁判所法は,憲法が旧憲法の司法に関する規定を改めたことから,これに従って裁判制度の改正のために制定されたものであって,裁判所法が「憲法附属法典」であるというのもそのような意味であると解される。したがって,上記発言を根拠として,裁判所法が憲法規範と同様の性質を有し,同法による給費制等が憲法によって義務付けられたものであると認めることは困難である。
カ 上記アないしオによれば,給費制が憲法上の要請であり,又は憲法の諸規定から導かれるものであるとは解し難く,給費制等による司法修習生の経済的支援等を含む法曹養成の具体的内容については,法律事項として立法府の合理的な裁量に委ねられているものというべきである。したがって,原告らの上記主張を採用することは困難である。
(2) ところで,前記(1)ウに関して,原告らは,司法修習制度の発足に至る経緯及び裁判所法制定当時の担当者の見解によれば,法曹養成が法律事項であって,その具体的内容が立法府の裁量に委ねられていたとはいえない旨主張する。
ア そこで検討するに,まず,裁判所法案起草過程において,司法修習生の地位及び権限に係る法案の内容は大きく変遷した。すなわち,〔第一次〕裁判所法案には,司法修習生に対して,「修習を現に担当する判事,検事又は弁護士の命あるときはその裁判所の司法事務,検察庁の検察事務又は弁護士の事務」を取り扱うことができるものとし,司法修習生を「二級官吏とみなす」とすることなどが検討され(前記1(2)イ),また,〔第二次〕裁判所法案においても,司法修習生は「裁判所の職員」として位置付けられ,司法官試補と同様,「裁判所書記官の事務」を取り扱わせることができるとすることなどが検討されていたものの(同ウ),その後,〔第三次〕裁判所法案以降においては,司法修習生に上記のような職務権限を付与することができるとすることは検討対象から外され(同エ),また,〔第四次〕裁判所法案以降は,「裁判所の職員」とは別に位置付けられることとなった(同エ)。
このような経緯及び〔第十一次〕裁判所法案質疑応答の内容(同カ)に照らせば,裁判所法の立法過程において,司法修習生について,当初は,「二級官吏」又は司法官試補に準ずるものと構想されていたものの,その後,「官吏でもなく,官吏待遇でもない」ものであって,「奏任官待遇が与えられていた」司法官試補とは異なるものと構想されることとなったものと認められる。
イ 上記アに関して,〔第三次〕裁判所法案に係る本件事務当局者メモ(前記1(2)オ)において,司法修習生は,「司法官試補よりも,ひろい資格を与えられたものと考えれば,従来の試補のように給与を受けることは当然である」旨記載されていた。
しかしながら,上記アのとおりであるから,司法修習生は司法官試補と同視できず,「従来の試補のように給与を受けることは当然である」とはいい難い。敷衍するに,司法官試補は,考試合格後,判検事に採用される「権利」を得,直ちに判検事に任用されることになるのに対し,司法修習生は,考試合格後,「判事補,検察官,弁護士になる資格が得られる」にすぎない(前記1(1)ア,同(2)カ)。のみならず,司法官試補は,一般に検事代理を行い,官選弁護人となり得るなどの職務権限が与えられ,奏任官待遇が与えられていたのに対し(同(1)ア),司法修習生には職務権限は付与されず,裁判所の職員ではなく,公務員でもない(同(2)エ,カ,前提事実(2)ア)。
上記によれば,司法修習生は,そもそも司法官試補よりも「ひろい資格を与えられたもの」とはいい難い。そして,司法修習生が修習期間中,国庫から一定額の「給与」を受けることは,〔第一次〕裁判所法案から検討されているものの(前記1(2)イないしエ),上記アのとおり,司法修習生の地位及び職務権限の有無に関する法案内容の変遷に伴って,司法修習生は,司法官試補とは地位や権限が異なるものと構想されることになったといえる。そうすると,司法修習生が「従来の試補のように給与を受けることは当然である」ということも困難である。
したがって,本件事務当局者メモの記載内容は採用し難い。
ウ なお,原告らは,本件事務当局者メモ等を根拠として,〔第四次〕裁判所法案において,「司法修習生の地位・身分についての規定ぶりが変わったとしても,職務の対価たる給与が支払われることについては,議論の余地のない,当然のこととされていた」と主張する(原告ら第1準備書面17頁)。
しかしながら,まず,上記イのとおり,本件事務当局者メモの記載内容はそのまま採用し難い。そして,「職務」とは,「国・公共団体その他の団体の役員・職員又は期間がその団体のために担当処理する事務を広く職務という。」とされているところ(「新法律学辞典〔第三版〕」755頁),司法官試補に検事代理などの「職務」権限が与えられていたのに対し(前記1(1)ア),司法修習生には職務権限が与えられておらず,司法修習生は裁判所の「職員」でもないことから,司法修習生については「職務」を観念し難い(後記4(3)参照)。
したがって,司法修習生に対する「給与」について,これが「職務の対価」であるというのは困難であり,法曹の資格要件としての司法修習生の地位の重要性に鑑み,これに人材を吸収し,また,修習に専念させるなどの見地から,司法修習生に対する配慮として支給されていたものというべきである(最高裁昭和38年(オ)第5号同42年4月28日第二小法廷判決・民集21巻3号759頁参照)。
付言するに,平成10年改正法の施行前は,裁判所法67条2項(給費制)によって,「司法修習生はその地位にある限り,常に給与の全額を受けることができ,一般公務員の懲戒や休職の場合のように,給与を減額されることはない」(乙1・398頁)とされていたこと,上記改正により,同条1項の修習期間が短縮されるとともに(前提事実(3)イ),同条2項ただし書として「ただし,修習のため通常必要な期間として最高裁判所が定める期間を超える部分については,この限りでない。」が加えられ,司法修習生が給与を受けるのは,「修習のため通常必要な期間として最高裁が定める期間」に限られるとされたこと(同ウ,前記1(3)ウ)なども,給与が職務の対価ではなく,修習に専念させるなどのための配慮であったことを裏付けるものといえる。
したがって,原告らの上記主張は採用し難いというべきである。
エ 上記アないしウに加えて,前記(1)ウの検討結果のとおりであって,司法修習制度の発足に至る経緯及び裁判所法制定当時の担当者の見解に照らせば,法曹養成の具体的内容は法律事項として,立法府の合理的裁量に委ねられていたものと認められるというべきである。したがって,原告らの上記主張を採用することは困難である。
(3) 前記(1)及び(2)のとおりであるから,給費制が憲法上の要請であり,給費制の維持が国の憲法上の義務であると認めることは困難であり,原告らの前記(1)及び(2)の各主張はいずれも採用し難い。
4 争点(1)ア(イ)a(憲法27条1項,2項違反の有無)について
(1) 原告らは,(ア)司法修習生について,国に「使用される者」である(使用従属性が認められる)から,憲法27条1項の「勤労」する者(労基法9条の「労働者」)に当たる,また,(イ)被告主張のとおり,上記「勤労」の要素として労務の提供が必要であるとしても,司法修習それ自体が「労務」に当たるから,司法修習生は「勤労」する者(労働者)といえる旨主張する。
(2) そこで検討するに,まず,憲法27条1項の「勤労」する者又は「労働者」に当たるというためには,使用者に対して「労務を提供する者」であることが必要である。これは,そもそも使用従属性の有無が「労務提供の形態」(乙47・1頁)又は「就労の実態」(甲A26・8頁)の問題にほかならないことからも明らかである。
(3) この点について,原告らは,司法修習それ自体が「労務」に当たる旨主張し,D教授も,補充鑑定意見書(甲A29)において司法修習生は「修習に専念するという労務を提供」している旨述べる(7頁)。
ア ところで,司法修習の目的及び内容等(前記2(1)ないし(4))に照らせば,司法修習は,司法修習生が法曹に必要な知識やスキルを身に付けるための臨床教育課程であり,司法修習生が被教育者であることは明らかである。もっとも,労基法第7章(技能者の養成)が「技能の習得を目的とする者」であっても労働者たり得ることを前提としていること(同法69条1項)からすると,法は,被教育者であることと「労務を提供する者」であることとは両立し得るものであるという前提に立っているということができる。そして,被教育者である場合であっても,その者が被教育者でない労働者と同様の作業に従事するなど使用者のために労務を提供している実態にあるときは,その者は「労務の提供をする者」であるということができると解される。
イ そこで検討するに,まず,前記3(2)アないしウのとおり,司法修習生は,裁判官(若しくは裁判所職員),検察官(若しくは検察庁職員)又は弁護士(若しくは弁護士事務所職員)の職務権限を有しておらず,法令上,その他の国の事務に関する職務を遂行する固有の権限,義務は定められておらず,また,裁判所等の国家機関が所掌する事務について司法修習生への分配を定める規定も存在しない(なお,裁判所法14条は,司法研修所が司法修習に関する事務を取り扱う旨規定するものであり,司法修習生が国の事務を遂行することを意味しない。)。さらに,司法修習の内容等(前記2(1)ないし(4))に照らしても,司法修習の過程において,司法修習生が裁判官等の職務を遂行し又はこれらの職務に従事することは予定されておらず,そのような職責も負っていないものと認められる。
そして,本件全証拠によっても,原告らがそれぞれの司法修習において,裁判官(若しくは裁判所職員),検察官(若しくは検察庁職員)又は弁護士(若しくは弁護士事務所職員)の職務を遂行し又はこれに従事していたとは認め難く,その他,原告らが上記の者と同様の作業に従事するなど労務を提供している実態があったものと認めるのは困難である。
ウ 念のために付言するに,まず,司法研修所における集合修習(前記2(4))は,所属するクラスにおいて,担当教官の講義等を受け,起案を行い,講評を受けるというものであり,また,選択型実務修習(同(3))は,模擬裁判の実施,非訟事件及び専門訴訟事件の見聞,施設見学等のプログラムから,司法修習生が興味と関心に応じて選択して修習するというものであった。したがって,上記各修習において,司法修習生が上記イに掲げた者と同様の作業に従事するなど労務を提供している実態があったとは認め難い。
次に,分野別実務修習において,司法修習生は,基本的に「生きた事件」を素材として修習に取り組むこととなり,まず,①裁判修習(前記2(2)ア)では,記録検討,法的調査,各種傍聴及び起案等を行い,また,②検察修習(同イ)では,捜査の体験,終局処分の検討,公判準備等への同席及び公判手続の傍聴等を行い,さらに,③弁護修習(同ウ)では,依頼者との打合せの準備及び同打合せへの同席,法的調査,期日傍聴,担当弁護士との質疑応答等,様々な内容の修習を行っていた。そして,集合修習が分野別実務修習の体験を補完して,体系的,汎用的な実務教育を行い,法律事務のスタンダードを身に付けさせることを旨として行われるものと位置付けられていること(同(4))を踏まえると,まず,上記①の裁判修習における各種作業は,個々の司法修習生が具体的事件について裁判所の訴訟運営と心証形成の過程についての理解を深めるとともに,法曹として必要な基本的知識やスキル(調査能力,法的分析能力,事実認定能力,表現能力等)を修得するために行われていたものといえる。また,上記②の検察修習における各種作業は,個々の司法修習生が具体的事件の取扱いについて訴追官の立場から見た刑事訴訟手続を修習することを通じて,上記知識やスキルを修得するとともに,検察官の使命と役割,検察官として必要な心構え及び検察の実務についての理解を深めるために行われていたものといえる。さらに,上記③の弁護修習における各種作業は,個々の司法修習生が具体的事件の取扱いについて当事者の立場から見た民事及び刑事各手続を修習することを通じて,上記知識やスキルを修得するとともに,依頼者の正当な利益の最大化を図る弁護士の実務について理解を深めるために行われていたものといえる。したがって,分野別実務修習においても,司法修習生が上記イに掲げた者と同様の作業に従事するなど労務を提供している実態があったとは認め難い。
エ 上記アないしウのとおりであり,司法修習生の修習について国の事務に従事する職員等に類似し又はこれに準ずる実態があったとは認め難く(前記最高裁昭和42年判決参照),原告らの上記主張及びD教授の上記意見を採用することは困難である。
(4) なお,原告らは,司法修習生に労務の提供が認められることは,裁判所書記官研修等の国家公務員及び民間企業のOJT(実務研修)において,研修を受けること自体が労務の提供とされていることから明白である旨主張する(原告ら第10準備書面50及び51頁)。
ア そこで検討するに,司法修習生は,司法修習の修了後,国家公務員として職務を担当することが予定されておらず(前提事実(2)イ),また,司法修習は,自らの意思により司法修習生となった者が,実務法曹としての資格を取得すべく法曹としての知識やスキルを身に付けるために受けるものである(前記2(1))。これに対し,国家公務員の研修は,国が国家公務員の身分を有する者に対して,その者が今後も国家公務員として身分を保持し,職務を遂行し続けることを前提に,将来担当する職務について有益であるなどの理由から,国が命じて国家公務員に受けさせるものであって,研修を受ける者の知識やスキル向上のみを目的とする行為とはいえない。したがって,司法修習について,国家公務員の研修と同列に論ずることはできないというべきである。
イ また,民間企業におけるOJTについては,その目的,内容及び方法等が様々であり,そもそも司法修習と比較することが相当であるとは考え難い。
ウ 上記ア及びイによれば,原告らの上記主張を採用することは困難である。
(5) 前記(2)ないし(4)の検討結果によれば,司法修習それ自体が「労務」に当たるとは認められず,司法修習生は「労務を提供する者」とはいえないから,憲法27条1項の「勤労」する者(労働者)に当たるとはいい難い。
したがって,原告らの前記(1)の主張を採用することは困難である。
5 争点(1)ア(イ)b(憲法14条1項違反の有無)について
(1) 原告らは,給費制廃止の憲法14条1項適合性については,厳格な基準をもって判断されるべきであるところ,(ア)原告らと新64期司法修習生及び現行65期司法修習生は地位や身分などは同一であるにもかかわらず,給費制の廃止によって,原告らのみ給与を受けられなかったのであって,その差異は著しく,また,(イ)給費制の廃止は,司法制度改革及び法曹養成制度の理念との関連性を全く検討することなく決定され,また,給費制の維持について国民の理解が得られないという事実は全く根拠のないものであって,給費制の廃止には合理性がないから,給費制の廃止によって原告らが金銭的給付を受けられなかったことは,著しく不合理な差別に当たり,憲法14条1項に違反する旨主張する。
(2)ア ところで,憲法14条1項は,絶対的な平等を保障したものではなく,合理的理由のない差別を禁止する趣旨であり,事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づく区別は同項に違反するものではないと解される(最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁,最高裁昭和45年(あ)第1310号同48年4月4日大法廷判決・刑集27巻3号265頁参照)。
イ そして,前記3(1)及び(2)のとおり,給費制は憲法上保障されたものとはいえず,法曹養成の方法や在り方,法曹養成制度の具体的内容をどのようなものにするかという事柄については,法律事項として立法府の政策的な判断に委ねられているものと解される。そして,前記3(2)ウのとおり,給費制は,法曹の資格要件としての司法修習生の地位の重要性に鑑み,これに人材を吸収し,また,修習に専念させるなどの見地から支給されていたものと認められることから,給費制を継続するか,また,給付の内容や条件をどうするかなどについても,国及び国民の置かれた歴史的・社会的状況及び財政事情並びに社会的背景等を踏まえて検討される必要があり,立法府の政策的な判断に委ねられており,原告ら新65期司法修習生と新64期司法修習生及び現行65期司法修習生との間での区別に合理的理由があるか否かは,上記裁量を前提に判断されるべきである。
(3)ア そこで,前記(2)ア及びイの見地から検討するに,平成16年改正法による給費制から貸与制への移行は,法曹以外の者をも含めた法曹養成検討会等における長期間にわたる種々の議論や慎重な検討を踏まえた上で決定された方針(前記1(4)ないし(6))に則ったものである。そして,平成16年改正法に係る国会における議論等の内容(同(7)イ,ウ)及びワーキングチーム取りまとめの内容(同(8)イ)などに照らせば,給費制から貸与制への移行は,①法曹の質・量の充実のため,司法修習生の大幅な増加が求められ,司法制度改革に係る財政負担(国民の負担)について国民の理解を得る必要があるところ,限りある財政資金をより効率的に使用して,司法制度全体に関して合理的な国民負担を図る必要があること,②給費制創設当初と比較して司法修習生が大幅に増加しており,新たな法曹養成制度の整備に当たり,司法修習生の増加に実効的に対応できる制度とする必要があること,③公務員ではなく公務に従事しない者に国が「給与」を支給するのは異例の制度であることなどを踏まえ,今後も更に国民の負担を増やして給費制を維持することについて国民の理解を得ることは困難であり,司法修習生が修習に専念できる環境を確保しながら,給費制から貸与制へ移行させる必要があるということなどを理由とするものと認められる。
イ そして,給費制に代わる貸与制(前提事実(4)エ,別紙2)については,①資力要件及び利息がないこと,②司法修習中,無利息で1か月当たり18万円から最大28万円までの修習資金の貸与を受けられるとするものであること,③返還時期については,修習期間終了後5年間据え置かれ,その後10年以内の分割返還とされていることなどに照らせば,給費制における給与の水準等に鑑みても,司法修習生の修習期間中の生活の基盤を確保し,修習に専念させるために必要かつ十分な内容であるといえ,貸与を申請した司法修習生は全て貸与が認められているのである(前記1(11))。
ウ ところで,上記アに関して,原告らは,給費制の廃止が司法制度改革及び法曹養成制度の理念との関連性を全く検討することなく決定されたものであり,また,給費制の維持について国民の理解が得られないという事実は全く根拠のないものである旨主張する。
しかしながら,法曹養成検討会等及び国会における議論の経緯及び内容等(前記1(4)ないし(8))に照らせば,給費制の廃止が司法制度改革及び法曹養成制度の理念との関連性を全く検討することなく決定されたものとは認め難い。そして,①平成12年11月の審議会の中間報告に対し,各界各層から様々な意見が寄せられ,給費制について「将来的には貸与制への切替えや廃止をすべきではないかとの指摘」もあったことから,審議会意見書では給費制の「在り方を検討すべきである」とされたこと(同(4)イ),②その後,法曹養成検討会における検討(同(6))等を経て,平成16年11月の衆議院法務委員会において法務大臣から,「今後もさらに国民の負担をふやして給費制を維持することについて,国民の理解を得ることは困難」であり,「司法修習生が修習に専念できる環境を確保しながら,給費制を貸与制に切りかえる必要がある」との答弁がされ,のみならず,他の委員(国会議員)からも,「司法試験の合格者数を3000人に倍増させるということや,ほかの専門的な職業の養成制度とのバランスを考えると,今後も給費制を維持することは,国民から法曹だけ優遇されているという批判の目,国民からの理解が得られないというようなことがある」ことを承知している旨の発言があったこと(同(7)イ),③ワーキングチームにおいて,「貸与制の導入は,新たな法曹養成制度の整備に当たり,法曹人口の拡大を実現する必要があることや,限りある財政資金をより効率的に使用して,司法制度全体に関して合理的な国民負担を図る必要があることから,司法制度改革審議会以来の様々な議論を経て導入されたものであり,給費制を存続するためには国民的理解が必要ではないかとの意見」等があったこと(同(8)イ)などに照らせば,給費制の維持について国民の理解を得るのが困難であるという事実には相当の根拠があったものと認められる。
したがって,原告らの上記主張を採用することは困難である。
エ 上記アないしウに加えて,平成22年11月1日の平成16年改正法の施行後,同月24日の衆議院法務委員会において,「昨今の法曹志望者が置かれている厳しい経済状況にかんがみ,それらの者が経済的理由から法曹になることを断念することがないよう,法曹養成制度に対する財政支援のあり方について見直しを行うことが緊要な課題となって」いる状況に鑑み,上記改正法による給費制から貸与制への移行を平成23年10月31日まで暫定的に延期する旨の改正案が提案され,同提案のとおり延期された(平成22年改正(前提事実(5)ア),前記1(9))ものの,同日までの間に,更なる改正案が提案されることはなく,同年11月から,給費制に代わり貸与制が開始されたこと(同(11))に照らせば,平成16年改正法による給費制から貸与制への移行は,平成16年11月から平成23年10月頃において,合理的な判断であったものと認められ,原告らと新64期司法修習生及び現行65期司法修習生との区別は,事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものといえる。
(4) 前記(2)及び(3)のとおりであるから,平成16年改正法による給費制から貸与制への移行に伴う原告らと新64期司法修習生及び現行65期司法修習生との区別について,これが憲法14条1項に違反するとはいえず,原告らの前記(1)の主張を採用することは困難である。
6 争点(1)ア(イ)c(憲法22条1項違反の有無)について
(1) 原告らは,司法修習生が修習専念義務を負い,兼職・兼業の禁止及び実務修習場所の指定等の制限を受けることは,司法修習生の居住,移転及び職業選択の自由(憲法22条1項)を侵害するものであって,司法修習生に対する給費があって初めて合理性を有するものであるから,給費制の廃止は憲法22条1項に違反する旨主張する。
(2)ア そこで検討するに,司法修習生の修習は,「法律実務家となるべき者の修習」であり,自らの職業として法律実務家を志す者が,法曹に必要な知識やスキルを身に付け,法曹資格を得るために行う臨床教育課程であって,「法律専門家となるための修業」である(前記2(1)ア)。したがって,司法修習は,法曹を志す者の職業選択に資するものであって,司法修習そのものが職業選択の自由を制約し,これを侵害するものであるとはいい難い。また,修習専念義務や兼職・兼業の禁止は,司法修習制度の本質から導かれるものであるから(同),自らの意思で司法修習生となることを選択したことに伴う内在的制約というべきである。そして,給費制は,司法修習生が修習に専念できるようにするなどの見地から設けられたものと認められ(前記3(2)ウ),職業選択の自由の制約に対する対価ないし補償というべきものではない。
イ さらに,司法修習が法曹に必須の知識・技法等の修得を目標とすべき臨床教育課程であること(前記2(1)ア)に照らせば,①「生きた事件」を取り扱う実際の法律実務活動の中で行われる分野別実務修習(同(2))と,②分野別実務修習の体験を補完して,体系的,汎用的な実務教育を行い,法律実務のスタンダードを身に付けさせる集合修習(同(4))の組合せは,必要かつ有用であるというべきである。そして,そのために個々の司法修習生の実務修習地が指定され,居住場所が一定程度制限されることになるのは,司法修習生の数や修習内容の性質上,その目的達成のためにやむを得ないものというべきであって,実務修習地の指定は,司法修習制度の性質・目的と合理的関連性があるといえる。
上記によれば,司法修習生が居住及び移転の自由に対して制約を受けることがあるとしても,それは自らの意思で司法修習生となることを選択したことに伴う内在的制約であるというべきである。
ウ 上記ア及びイによれば,平成16年改正法が,原告らの居住,移転及び職業選択の自由を侵害するものであり,憲法22条1項に違反するとはいえない。
(3) 前記(2)のとおりであるから,原告らの前記(1)の主張は採用し難い。
7 争点(1)イ(平成16年改正前の裁判所法67条2項に基づく給費請求権の成否)について
前記3ないし6のとおり,平成16年改正法は,違憲無効であるとはいえないから,その余の点について判断するまでもなく,原告らの同改正前の裁判所法67条2項に基づく請求は理由がない。
8 争点(2)(憲法29条3項に基づく損失補償請求権の成否)について
(1) 原告らは,司法修習生が修習制度によって職業選択の自由や営業の自由に対し制約を受けており,これらの権利は財産権的性質を有するから,司法修習生は修習制度によって財産権に制約を受け,修習専念義務を課されて「特別の犠牲」を強いられているといえるとして,憲法29条3項に基づき,損失補償請求ができる旨主張する。
(2)ア そこで検討するに,憲法29条3項は,「私有財産は,正当な補償の下に,これを公共のために用ひることができる。」と規定するところ,原告らの前記(1)の主張は,修習期間中の司法修習生に対し修習専念義務を課し,兼職・兼業を禁ずることが,「私有財産・・・を公共のために用ひる」場合に当たることを前提とするものであるが,このような解釈は,上記条項の文言からは困難であると考えられる。
イ そして,憲法29条3項の文言及び趣旨から,「公共のために用ひる」とは,財産権を強制的に制限したり収用したりすることによって「特別の犠牲」を強いることを意味するものと解されるところ,前記6(2)アのとおり,原告らは自ら司法修習生になることを選択し,司法修習生としての採用を希望した者であって,また,修習専念義務は司法修習制度の本質に由来するものであるから,修習専念義務や兼職・兼業の禁止によって原告らの職業選択の自由や営業の自由が制約されることになるとしても,それは司法修習に必然的に伴う内在的制約であるというべきである。したがって,司法修習制度によって,原告らの財産権が「強制的」に制限され,又は収用されたものとは認められず,また,原告らにおいて「特別の犠牲」を強いられることになったものとも認め難い。
ウ 上記ア及びイによれば,司法修習制度によって,原告らの財産権が強制的に制限され又は収用されて,原告らが「特別の犠牲」を強いられることになったとはいえない。
(3) 前記(2)のとおりであるから,原告らの前記(1)の主張を採用することは困難である。したがって,その余の点(「公共のために」用いたといえるか,「正当な補償」の額)について判断するまでもなく,原告らの憲法29条3項に基づく請求は理由がない。
9 争点(3)ア(ア)(給費制廃止に関する国賠法上の責任―内閣の責任)及び同(3)ア(イ)(同―国会議員の責任)について
原告らの国賠法に基づく損害賠償請求は,いずれも平成16年改正法が憲法27条1項,2項等に違反し,違憲であることを前提とするものであるところ,前記3ないし6のとおり,上記改正法は,憲法27条1項,2項等に違反するとはいえないから,その余の点について判断するまでもなく,原告らの国賠法に基づく損害賠償請求はいずれも理由がない。
第4 結論
以上のとおりであり,原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
福岡地方裁判所第2民事部
(裁判長裁判官 片山昭人 裁判官 三井教匡 裁判官 川上タイ)
別紙1
当事者目録
東京都世田谷区〈以下省略〉
第1事件原告 X1
福岡市〈以下省略〉
同 X2
北九州市〈以下省略〉
同 X3
宮崎市〈以下省略〉
同 X4
宮崎市〈以下省略〉
同 X5
大分県別府市〈以下省略〉
同 X6
熊本県菊池郡〈以下省略〉
同 X7
宮崎市〈以下省略〉
同 X8
熊本市〈以下省略〉
同 X9
福岡県糸島市〈以下省略〉
同 X10
福岡市〈以下省略〉
同 X11
福岡市〈以下省略〉
同 X12
宮崎市〈以下省略〉
同 X13
那覇市〈以下省略〉
同 X14
佐賀県神埼市〈以下省略〉
同 X15
宮崎市〈以下省略〉
同 X16
福岡県筑後市〈以下省略〉
同 X17
佐賀県神埼郡〈以下省略〉
同 X18
福岡県古賀市〈以下省略〉
同 X19
大阪府寝屋川市〈以下省略〉
同 X20
福岡県筑紫野市〈以下省略〉
同 X21
熊本市〈以下省略〉
同 X22
福岡県久留米市〈以下省略〉
同 X23
佐賀市〈以下省略〉
同 X24
佐賀県武雄市〈以下省略〉
同 X25
熊本市〈以下省略〉
同 X26
大分市〈以下省略〉
同 X27
那覇市〈以下省略〉
同 X28
佐賀県唐津市〈以下省略〉
同 X29
福岡県久留米市〈以下省略〉
同 X30
北九州市〈以下省略〉
同 X31
福岡県直方市〈以下省略〉
同 X32
福岡市〈以下省略〉
第2事件原告 X33
上記33名訴訟代理人弁護士 宇都宮健児
同 渡部容子
同 原和良
同 德田靖之
同 安永宏
同 髙木士郎
同 種田和敏
同 石井誠一郎
同 中田大
同 田邉一隆
同 小林洋二
同 後藤富和
同 板井俊介
同 安東正美
同 岡田壮平
同 亀井正照
同 楠本敏行
同 松田幸子
同 後藤好成
上記33名訴訟復代理人弁護士 寺﨑直史
同 石井衆介
同 清田美喜
同 福永紗織
同 靏野嘉厚
同 高崎暢
同 田上裕輝ほか
東京都千代田区〈以下省略〉
第1事件及び第2事件被告 国
上記代表者法務大臣 A
上記指定代理人 W1
同 W2
同 W3
同 W4
同 W5
同 W6
同 W7
同 W8
以上
〈以下省略〉
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