
「営業代行」に関する裁判例(27)平成22年 9月15日 東京地裁 平22(ワ)14996号 売買代金返還請求事件
「営業代行」に関する裁判例(27)平成22年 9月15日 東京地裁 平22(ワ)14996号 売買代金返還請求事件
要旨
◆原告は被告の従業員のAと名乗る男性(A)から電話連絡を受けるなどして、転売目的でリゾートクラブのタイムシェア利用権1口(本件会員権)を購入したが、本件会員権は転売可能性がない会員権であったとして、原告が被告に対し、本件会員権の売買契約を詐欺により取り消す旨の意思表示をしたなどとして、不当利得に基づき金員の支払を求めた事案において、Aによる詐欺を認めて原告の請求をすべて認容した事例
参照条文
民法95条
民法703条
民法704条
裁判年月日 平成22年 9月15日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平22(ワ)14996号
事件名 売買代金返還請求事件
裁判結果 認容 文献番号 2010WLJPCA09158018
北海道河東郡〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 武部雅充
東京都千代田区〈以下省略〉
被告 株式会社ヘリテージ
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 板垣眞一
主文
1 被告は,原告に対し,195万円及びこれに対する平成21年12月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。
3 この判決は,仮に執行することができる。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
主文と同旨
2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者の主張
1 請求原因
(1) 被告は,レジャー施設(別荘,コンドミニアム,マンション,ホテル等の宿泊施設,ゴルフ場,テニス場,プール等の屋外,屋内施設,娯楽施設及び催事施設),エステティック等の美容施設の企画,建設,経営並びにその施設の所有権,利用権及びクラブ会員権の売買並びに仲介等を業とする会社である。
(2) 原告は,平成21年(以下「平成21年」の表示を省略する。)5月ころ,被告の従業員のBと名乗る男性(以下「B」という。)から電話で「タイのコンドミニアムのパンフレットを送りますので,見てください」との連絡を受け,その数日後,原告宅に郵送されたパンフレットを受け取った。その後,同年6月以降,様々な会社を名乗る人物から原告宅に電話がかかるようになり,原告は,電話をかけてきた人物から「会員権もっていませんか?同じタイのコンドミニアムを買っておくと,リタイヤメントさんに何かあったときでも,ヘリテージさんでリタイヤメントさんの会員権も転売してもらえるので,保険になりますよ」「コンドミニアム1口500万円で買いますよ」などといわれた。
(3) 原告は,同様の手口で,4月22日から6月5日までの間に,転売目的で,リタイヤメントリゾートデベロップメント株式会社(以下「リタイヤメント社」という。)が提供するリタイヤメントリゾートクラブのタイムシェア権合計13口を代金合計1365万円で購入した。
(4) 原告は,7月10日,Bから電話で「北海道地区は,あと2口残っています。もう無い地域もあるので,早い申込みがあれば無くなります」「うちのコンドミニアムを持っている人は,リタイヤメントさんの会員権の分も責任持って転売します」などといわれ,勧誘された。
(5) 原告は,B及び被告の関係者である上記(2)の電話の相手方から,上記(2)及び(4)のとおり,購入するリゾートクラブのタイムシェア権が将来確実に購入価格以上で転売することができ,確実に利益を挙げることができるとの断定的判断を示されて勧誘され,その旨誤信し,7月13日,申込書をファクシミリで被告に送信して被告が提供するプラティナリゾートクラブのタイムシェア利用権1口(その内容は,30年間,毎年14日間,対象物件に宿泊できる権利である。以下「本件会員権」という。)の購入を申し込み,同月16日,その代金195万円を被告の指定した金融機関の口座に振り込んで支払った。
(6) しかし,被告は,それまで自社の転売システムを構築するといっていたにもかかわらず,10月2日,株式会社SMART(以下「SMART社」という。)が被告のタイムシェア利用権の売買を仲介するためのインターネットオークション(http://〈省略〉)を運営する旨連絡してきた。原告は,SMART社に対し,数回にわたって本件会員権を売却するためにオークションへの出品を申し込んだが,原告以外の出品者も含めて,これまで1度もオークションの成立を確認できず,本件会員権は,転売可能性がない会員権であることが明らかになった。
(7) また,本件会員権は,タイの「ウェルネスリゾートinアユタヤ」,「アーバンリゾートinバンコク」及び「ビーチリゾートinホアヒン」の3施設を年間14日間宿泊できる旨宣伝されているが,実際には,被告は,そのような施設を保有しておらず,上記施設を利用することができない。
(8) 原告は,被告に対し,12月4日,本件会員権の売買契約(以下「本件売買契約」という。)を詐欺を理由に取り消す旨の意思表示をし,さらに,本件訴状により,平成22年6月7日,消費者契約法4条1項2号により本件売買契約を取り消す旨の意思表示をした。
(9) よって,原告は,被告に対し,不当利得返還請求権に基づき,195万円及びこれに対する取消しの意思表示が被告に到達した日の翌日である12月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 請求原因に対する認否
(1) 請求原因(1)は認める。
(2) 請求原因(2)のうち,Bが被告の従業員であるとの点は否認し,その余は不知である。被告は,株式会社A&G(以下「A&G社」という。)との間で,6月1日に被告のタイムシェア利用権の販売に関する業務委託契約を締結し,同社に本件会員権の販売を委託した。A&G社に業務委託した内容は,同社が被告の従業員と称して営業を行い,電話連絡先(フリーダイヤル)もA&G社とするものであり,顧客からの問い合わせは一次的にA&G社が対応し,被告は,クーリング・オフの申し出等を除き,直接顧客からクレームを受けたことはほとんどなかった。当時,A&G社は,地下鉄や新聞に大々的に広告を行うなどしており,年商は数十億円ともいわれ,営業代行会社としてはトップクラスであると社会的に認知されていたことから,被告は,その営業力に期待して上記業務委託契約を締結したものであるが,代表取締役の逮捕を機に社内が混乱したためか,顧客からのフリーダイヤルが繋がらなくなり,9月ころから顧客から被告に対して直接タイムシェア利用権についての苦情が持ち込まれるようになり,被告のA&G社に対する調査申し入れに対しても明確な回答がないまま,A&G社は,9月末をもって営業を停止し,平成22年1月に破産開始決定を受けている。
(3) 請求原因(3),(4)は不知である。
(4) 請求原因(5)のうち,原告が被告に対して申込書を送付し,本件会員権の代金を送金したこと,被告が原告に対して本件売買契約の契約書を送付したこと,本件会員権の内容は認めるが,その余は不知である。
(5) 請求原因(6)は不知である。なお,被告は,本件会員権の転売を認めているが,被告において転売システムを構築する予定は当初からなく,被告が販売したタイムシェア権は,利用期間が30年と長期ではあるものの,利用期間が限定されていることから,購入後は価値が減少し,転売により利益が出ることを保証できるものではない。また,被告は,顧客から転売についての問い合わせが重なったため,急遽転売方法を検討し,転売希望の顧客に対してオークションの案内をしたものである。
(6) 請求原因(7)のうち,被告がリゾート施設を保有していないとの点は否認し,その余は不知である。被告は,バンコクにコンドミニアムを2物件,ホアヒンにコンドミニアムを2物件,それぞれ管理しており,アユタヤにも,建設途中であるが,被告管理の物件が存在する。
(7) 請求原因(8)のうち,原告が本件売買契約により本件会員権を購入した事実は認めるが,その余は不知または争う。被告において,詐欺又は消費者契約法4条1項2号所定の行為を行った事実はない。
理由
1(1) 被告がレジャー施設の利用権等の売買等を業とする会社であること,原告が被告から本件会員権を購入し,その代金として195万円を支払ったことは,当事者間に争いがない。
(2) 証拠(甲1,2の1ないし2の3,3の1,3の2,4,乙1)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,6月1日付けで,A&G社との間で,被告のプラティナリゾートクラブのタイムシェア利用権の販売業務を委託し,A&G社が被告の名義で営業活動等を行うことを認めるという内容の「A&G業務委託約款(完全請負型)」(乙1,以下「本件業務委託契約」という。)を締結したこと,原告は,5月ころ,被告の従業員と名乗ったBから電話で「タイのコンドミニアムのパンフレットを送りますので,見てください」との連絡を受け,数日後,被告の本件会員権に関するパンフレット(甲1)が郵送されてきたこと,原告は,4月22日から6月5日までの間に,転売目的で,リタイヤメント社が提供するリタイヤメントリゾートクラブのタイムシェア権合計13口を代金合計1365万円で購入したところ,6月ころから,様々な会社を名乗る人物から「会員権もっていませんか?同じタイのコンドミニアムを買っておくと,リタイヤメントさんに何かあったときでも,ヘリテージさんでリタイヤメントさんの会員権も転売してもらえるので,保険になりますよ」「コンドミニアム1口500万円で買いますよ」との内容の電話がかかってくるようになり,7月10日,Bから,電話で「北海道地区は,あと2口残っています。もう無い地域もあるので,早い申込みがあれば無くなります」「うちのコンドミニアムを持っている人は,リタイヤメントさんの会員権の分も責任持って転売します」などと勧誘を受けたこと,原告は,B等の上記勧誘を受けた結果,本件会員権につき,被告は,自社が販売したリゾート施設のタイムシェア利用権を確実に転売できるシステムを保有しており,本件会員権についても,購入後に上記システムを利用して確実に転売することができるとの認識を有するに至り,被告から本件会員権を購入し,同社に対し,その代金195万円を送金したこと,しかし,実際には,被告において,本件会員権を転売できるシステムは存在せず,将来構築する予定もなく,本件会員権については,権利の性質上,期間の経過によりその価値が減少し,確実に転売できるとの保証もなし得ないものであったこと,被告は,A&G社の営業停止後,転売希望の顧客から転売の申し入れを受け,急遽インターネットのオークション会社を紹介したが,そこでも被告の販売したリゾート施設のタイムシェア利用権を転売できないこと,原告は,12月4日,被告に対し,詐欺を理由に本件売買契約を取り消すとの意思表示をして,支払った本件会員権の売買代金195万円の返還を請求したことが認められる。上記事実に照らせば,Bは,A&G社の従業員又はその委託を受けた販売員であると推認され,被告は,A&G社との間で,本件業務委託契約を締結し,被告名義で営業活動を行うことを許諾していたのであるから,A&G社は,被告の営業に関する履行補助者であるということができる。そうすると,原告は,被告の履行補助者であるA&G社の従業員又は同社から業務委託を受けた販売員であるBから,実際には,被告において,販売したリゾート施設のタイムシェア利用権を確実に転売できるシステムはなく,それを構築する予定もなかったにもかかわらず,本件会員権につき購入後に確実に転売可能であるとの虚偽の事実を告げられ,その旨誤信して,本件売買契約を締結したものであるから,被告に対し,Bの詐欺を理由に本件売買契約を取り消し,不当利得返還請求権に基づき,本件会員権の売買代金の返還を求めることができ,被告は,原告に対し,本件会員権の売買代金195万円及びこれに対する本件売買契約が取り消され,上記売買代金の返還請求を受けた日の翌日である12月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。
2 よって,原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとし,訴訟費の負担につき,民事訴訟法61条を,仮執行の宣言につき,同法259条1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。
(裁判官 宮島文邦)
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