「営業支援」に関する裁判例(135)平成19年 1月18日 東京地裁 平17(ワ)7089号のロ 損害賠償請求事件
「営業支援」に関する裁判例(135)平成19年 1月18日 東京地裁 平17(ワ)7089号のロ 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成19年 1月18日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平17(ワ)7089号のロ
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2007WLJPCA01188011
要旨
◆ゴルフ会員権の購入に際し、被告銀行が虚偽あるいは値上がりについて断定的な説明を行った、ゴルフ会員権の危険性について説明しなかった、金融機関の優越的地位を利用して販売を行った、ゴルフ会員権の販売媒介行為が銀行法に違反する、などの原告の主張を排斥し、原告の被告に対する損害賠償請求を棄却した事例
参照条文
民法709条
銀行法10条
銀行法11条
銀行法12条
裁判年月日 平成19年 1月18日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平17(ワ)7089号のロ
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2007WLJPCA01188011
千葉県船橋市〈以下省略〉
原告 有限会社オートランドビートル
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 道本幸伸
同 永井均
同 渡瀬耕
同訴訟復代理人弁護士 坂井崇徳
千葉市中央区〈以下省略〉
被告 株式会社京葉銀行
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 山﨑源三
同 新井弘治
同 安部祐志
同 丸島良成
同 小川宏
同 北代八重子
同訴訟復代理人弁護士 木下淳一
同 八木留美子
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,金3500万円及びこれに対する平成2年1月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,ゴルフ会員権の購入に関して,被告から違法な勧誘を受けたことにより損害を被ったと主張して,不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。
1 前提事実(証拠等で認定した事実については,各項の末尾に証拠等を摘示した。)
(1) ゴルフ場の経営主体等
ア 富士カントリー株式会社(以下「富士カントリー」という。)は,昭和46年12月,ゴルフ場の開発とゴルフ場運営会社への出資及び会員権販売請負を目的として設立された。富士カントリーは,自らゴルフ場事業を営むほか,有限会社大多喜城ゴルフ倶楽部(以下「大多喜城ゴルフ倶楽部」という。)を含むグループ企業の中核会社として,グループ企業に対して金融支援,営業支援及び業務支援をしていた。
(甲27の1,2)
イ フジパン株式会社(以下「フジパン」という。)は,富士カントリーの株式を有していた時期があるものの,昭和61年ころ資本関係は解消された。しかし,Cは,昭和26年からフジパンの取締役,昭和40年から代表取締役を務めるとともに,昭和46年から平成15年まで富士カントリーの取締役,昭和52年から昭和56年まで代表取締役を務め,また,Dは,昭和40年から平成15年までフジパンの取締役,昭和48年から平成15年まで代表取締役を務めるとともに,昭和46年から平成16年12月まで富士カントリーの代表取締役を務めており,資本関係解消後も,フジパンと富士カントリー間には,人的な関係が存在した。
(甲1の1,4,5,甲2の1から3まで,甲3の1から5まで,甲27の1,2,分離前相被告D本人)
ウ 大多喜城ゴルフ倶楽部は,富士カントリー大多喜城倶楽部(以下「本件ゴルフ場」という。)の開発・運営を主たる目的として,昭和61年9月,株式会社富士カントリー大多喜城ゴルフ倶楽部の商号で設立され,平成13年8月,有限会社に組織変更し,平成17年8月1日,現商号に変更した。
Dは,平成元年1月から平成11年ころまで大多喜城ゴルフ倶楽部の取締役,平成元年1月から平成6年3月まで代表取締役であった。
(甲5の1から4まで,甲64,甲K29の3)
エ 大多喜城ゴルフ倶楽部は,平成元年7月以降,本件ゴルフ場のゴルフ会員を募集し,その際,富士カントリーが募集代行業者を務めた。
(甲64,70の2)
(2) 被告の勧誘行為
ア 被告は,平成元年12月ころまでに,大多喜城ゴルフ倶楽部との間で,被告が,その取引先等に対して本件ゴルフ場を紹介し,本件ゴルフ場の会員権(以下「本件会員権」という。)の購入希望者に対して,その購入資金を融資するとともに,大多喜城ゴルフ倶楽部が購入希望者の借入債務について被告に対して連帯保証する旨の提携ローンの合意をした。
(乙K1,分離前相被告D本人,証人E)
イ 原告は,昭和60年6月ころ設立された中古車の卸売と小売を主な業務とする会社であり,昭和62年ころから,被告稲毛支店に口座を設けて入出金のために利用していた。
被告稲毛支店渉外担当のE係長(以下「E」という。)は,平成2年1月始めころまでに,原告の事務所を訪問して,原告代表者に対し,本件ゴルフ場のパンフレットを示しながら本件ゴルフ場の説明をし,提携ローンを利用した本件会員権の購入を勧誘した。
その後,Eは,本件会員権購入の勧誘のため,数度にわたり,原告の事務所を訪問したが,富士カントリーや大多喜城ゴルフ倶楽部の関係者が勧誘に関与したことはなかった。
(甲70の1から4まで,甲47,乙K1,原告代表者,証人E)
(3) 会員権の購入
原告は,顧問税理士に相談の上,平成2年1月,本件会員権を3500万円で購入することとし,大多喜城ゴルフ倶楽部宛の入会申込書及び保証申込書を作成してEに交付し,Eは,これを大多喜城ゴルフ倶楽部に送付した。これを受けて,大多喜城ゴルフ倶楽部は,同月30日,原告の入会を承諾した。
原告は,同日,大多喜城ゴルフ倶楽部の連帯保証のもとで被告から本件会員権購入代金の支払のため3000万円の融資を受け,自己資金と併せて大多喜城ゴルフ倶楽部に対して入会金309万円を含む3809万円を支払った。
(甲47,原告代表者)
(4) 大多喜城ゴルフ倶楽部の推移
ア 大多喜城ゴルフ倶楽部は,被告以外の金融機関とも,本件会員権の購入に関して,(2)アと同様の提携ローンの合意を行い,これらの金融機関の紹介により,平成元年以降,特別縁故募集として800名の法人会員を集めた後,追加の第一次募集を行い,平成4年11月30日,本件ゴルフ場を開場した(平成12年ころの公表会員数は法人939名)。
(甲42,64,甲70の2)
イ 大多喜城ゴルフ倶楽部は,ゴルフ場開場後,海外でのプレーを希望する会員への利便性提供の意味を含め,豊富な預託金により富士カントリー関係の海外ゴルフ場等への投融資を行ったが,その後海外のゴルフ場の価額が大幅に下落し,出資会社が大幅な債務超過に陥ったことから,出資金の回収が不能となった。
また,バブル経済崩壊後における経済不況の深刻化・長期化によって,会員権購入のためのローンの支払が困難となる会員が続出した結果,金融機関から,大多喜城ゴルフ倶楽部に対して保証債務の履行請求が相次ぎ,履行ができない状態に陥った。
さらに平成7年当時約1000万円であった会員権相場が,平成15年には250万程度に下落し,預託金券面額を大幅に割り込むこととなり,大多喜城ゴルフ倶楽部は,平成16年12月30日以降に償還時期を順次迎える預託金について,会員権の分割を条件に据置期間の延長を求めたが,その約3割について同意を得ることができず,預託金返還請求に応じられない見込みとなった。
(甲28の1,甲64)
ウ こうしたことから,大多喜城ゴルフ倶楽部は,平成16年12月6日に,当庁に対して民事再生手続開始の申立てを行って倒産し,同月10日に民事再生手続開始決定を受けた。その後,平成17年4月27日,スポンサーとして東急不動産株式会社を選定し,預託金返還請求権について元本等の95%の免除を受けること等を内容とする再生計画について認可決定を受けた。
(甲28の1,甲64,甲K29の1,2,乙C6,8,9)
2 争点
(1) Eによる被告の勧誘行為が,以下のとおり違法なものであって,被告の故意又は過失による不法行為に該当するか(争点1)。
ア 本件会員権に関する虚偽の説明
イ 本件会員権に関する断定的な説明
ウ 本件会員権の危険性に関する説明義務違反
エ 金融機関の優越的地位の濫用
オ 販売媒介行為の銀行法違反
(2) Eによる勧誘行為について,被告は使用者責任を負うか(予備的主張,争点2)。
(3) 原告は,被告の不法行為により損害を被ったといえるか(争点3)。
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(被告の違法な勧誘行為)について
ア 本件会員権に関する虚偽の説明
(原告の主張)
本件会員権の募集当時,フジパンは富士カントリーの親会社ではなく,フジパンが,富士カントリー及びその子会社である大多喜城ゴルフ倶楽部のゴルフ場の経営や預託金の償還について責任を負担したり,保証をしたりする関係にはなかったのであるから,被告は,そのような誤解を与えることのないような説明を行うべきであったにもかかわらず,Eは,勧誘に際して,原告に対し,「大多喜城ゴルフ倶楽部はフジパンが経営している会社」という説明を行い,あたかもゴルフ事業や将来の預託金の償還についてフジパンが責任を負担したり,保証したりするかのような虚偽の説明を行った。
(被告の主張)
Eは,当時,フジパンの名前や本店所在地等の基本的知識を有していたにすぎず,それ以上の説明は行っていない。
イ 本件会員権に関する断定的な説明
(原告の主張)
Eは,原告に対し,「大多喜城ゴルフ倶楽部はフジパンが経営している会社で,フジパンとはマクドナルドのパンを作っている会社です。だから絶対に安全に安全な会社です」とか「二次募集の時には5000万円にもなるから,その時売っても儲かる」などと説明し,本件会員権が資産として安全な価値を有するし,さらに将来の値上がりも期待できると,不確実なことについて断定的な説明をした。
(被告の主張)
Eは,フジパンがマクドナルドのパンを製造していることは知らなかったのであり,原告に対し,「フジパンはマクドナルドのパンを製造しているから絶対につぶれない」などと言うことはない。当時はバブル経済の絶頂期であり,ゴルフ会員権の価格は値上がりする一方だったため,ゴルフ場が後に会員権の償還請求の殺到を受け倒産するとか,ゴルフ会員権が額面を割り込む額まで値下がりするということを心配して購入する者は皆無であったから,Eとしても,殊更に「絶対につぶれない」と説明する必要はなかった。
ウ 本件会員権の危険性に関する説明義務違反
(原告の主張)
被告は,富士カントリーが大多喜城ゴルフ倶楽部の預託金を含めた資金を海外ゴルフ場開発や各種の投資,絵画の購入等の事業に支出しており,それらの事業が頓挫した場合にはゴルフ場経営や預託金の償還に支障が生じることを知っていたか若しくは当然に知ることができたにもかかわらず,Eは,これらの危険性を原告に説明しなかった。また,被告は,ゴルフ会員権の価格暴落の危険が指摘されていることを認識しており,ゴルフ事業の今後について不確定要素が多い状況にあり,長期に亘る預託金の償還については危険性がある状況であったにもかかわらず,Eは,その危険を原告に説明しなかった。
(被告の主張)
当時すでに一部の雑誌ではゴルフ会員権の値下がりについて特集するものもあったかもしれないが,それは「値下がり」の危険の指摘であり破綻の危険ではない上,全体から見れば極めて少数の見解であり,現にEも当該雑誌を読んだことはなかった。当該雑誌の存在をもって,被告にゴルフ場倒産のリスクを説明しなければならない法的義務があるとは到底いえない。また,E個人としても,勧誘当時,大多喜城ゴルフ倶楽部が将来破綻するということは,認識も予測もしていなかった。
エ 金融機関の優越的地位の濫用
(原告の主張)
Eは,著名金融機関の行員としての社会的な信用に加えて,原告との継続的な銀行取引によって培ってきた信頼関係や,原告の経営内容や資産状況などの内情を把握しているという点や,今後も融資の可否を判断する立場という総合的な優越的地位を有していた。被告は,その立場を利用して,Eが原告の事務所を何度も訪問して,本件会員権の販売を媒介した。
(被告の主張)
そもそも原告は,被告から融資は受けていなかったのであり,また特段,被告に対して遠慮することはなかった立場であるので,優越的地位の濫用といった事情は存在しなかった。
オ 販売媒介行為の銀行法違反
(原告の主張)
Eは,単なるゴルフ場の紹介にとどまらず,ゴルフ場の会員契約を直接媒介して入会申込書までも原告から受領した。ゴルフ場関係者による説明や勧誘などが一切介在しない銀行の直接媒介による入会手続は,銀行法や大蔵省の通達によって禁止されている銀行の目的外行為であり,当然に違法である(銀行法12条)。また,こうした銀行による媒介行為に対して,大多喜城ゴルフ倶楽部からは,協力預金という名のもとに対価が支払われていたから,特にその違法性は強い。
(被告の主張)
銀行法違反の主張は争う。
(2) 争点2(使用者責任,予備的主張)について
(原告の主張)
Eが行った勧誘行為は,被告の担当者として被告の事業執行に際して行われたものである。
(被告の主張)
Eが被告の被用者であること,Eが原告との間でした行動が被告の職務に関し行われたものであることは認める。しかし,Eの行動が不法行為を構成することは争う。
(3) 争点3(損害)について
(原告の主張)
被告の違法な勧誘行為がなければ,原告は,本件会員権を購入していないし,ローン契約も締結していないから,当該勧誘行為と以下の損害は因果関係がある。
ア 原告は,平成2年1月30日,大多喜城ゴルフ倶楽部に対して入会金309万円と預託金3500万円の合計3809万円を支払った。原告は,同日,被告との間で,3000万円のローン契約を締結し,平成8年までの支払利息の合計は1022万4233円となる。
その結果,原告は,購入代金と利息合計額の4831万4233円の損害を被った。
イ その後大多喜城ゴルフ倶楽部は倒産し,その民事再生手続の中で,配当として退会者には5%の175万円が支払われることとなった。原告は,会員権の4分割(1口875万円)に応じていたが,そのうち3口分につき退会の申出をして配当(1口当たり43万7500円合計131万2500円)を受けた。残り1口については退会せずに保有しているので,この分については,10年据え置き後に退会の意思表示によって5.6%の返還を受けられる。
結局,現時点での原告が得た配当利益は,175万円と評価される。また,原告に対してDの私財提供という名目で4万0628円の支払がされた。
ウ 原告は,購入代金と利息合計額の4831万4233円に,弁護士費用200万円を加算した合計5031万4233円から受領した179万0628円を差し引いた4852万円(端数切り捨て)の損害賠償請求権を有するので,一部請求として3500万円を請求する。また,遅延損害金起算日は違法勧誘により入会申込みをした平成2年1月30日であるから,同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求する。
(被告の主張)
原告が入会金や預託金を支払い,提携ローンを組んで利息の支払を継続してきたことは認める。しかし,これが被告の不法行為による損害であるとの点は争う。
第3 当裁判所の判断
1 Eによる勧誘行為の位置づけについて
被告は,大多喜城ゴルフ倶楽部との間において,被告が,その取引先等に対して本件ゴルフ場を紹介し,本件会員権の購入希望者に対して,その購入資金を融資するとともに,大多喜城ゴルフ倶楽部が購入希望者の借入債務について被告に対して連帯保証する旨の提携ローンの合意(以下「本件提携ローン合意」という。)をしたことは,前記第2の1(2)アに認定のとおりであり,また,証人Eの証言によれば,被告稲毛支店の渉外担当の係長であったEは,同支店の上司から,優良な取引先に本件ゴルフ場を紹介するように指示を受けたこと,そこで,その指示に基づいて,原告に対して,被告の提携ローンを利用して本件会員権を購入することを勧誘したことが認められる。
そうであれば,Eが,原告に対して行った本件会員権購入の勧誘は,提携ローンの利用を勧誘する目的で,支店の上司の指示に基づき行われたものであり,被告の営業行為そのものであるから,被告の不法行為の成否の検討においては,Eの行った本件会員権購入の勧誘行為は,被告による勧誘行為と解して妨げないというべきである。
2 争点1ア(本件会員権に関する虚偽の説明の有無)について
(1) 原告は,被告が,本件会員権購入の勧誘に際し,あたかもゴルフ事業や将来の預託金の償還についてフジパンが責任を負担したり,保証したりするかのような虚偽の説明を行ったと主張する。
そこで検討するに,被告は,本件提携ローン合意に基づき,取引先等に対して本件会員権の購入を勧誘したものであり,取引先等による本件会員権の購入と被告からの融資は極めて密接な関連性を有しているから,被告は,取引先等に対して自ら本件会員権の内容を説明するにあたっては,信義則上,できる限り正確な説明をすべきであり,購入希望者の判断を誤らせるような虚偽の説明をしたときは,これを信用して本件会員権を購入した者に対し,上記虚偽の説明と相当因果関係のある損害を賠償すべき義務を負うというべきである。
(2) これを本件についてみると,原告は,Eが,勧誘に際して「大多喜城ゴルフ倶楽部はフジパンが経営している会社」という説明を行ったと主張する。
そして,原告代表者は,その調査回答書(甲47)において,「大多喜城カントリーはフジパンが経営している会社」と説明された旨を述べ,代表者尋問においても,大多喜城ゴルフ倶楽部をフジパンが経営していると聞いた旨供述している。
他方,Eは,証人尋問において,フジパンについては名古屋にある会社であるとか常識的な範囲で知っていた,上司からフジパンと富士カントリーが関係があることを聞いたかもしれない,大多喜城ゴルフ倶楽部の経営母体にフジパンが関係していると説明したかについては,言ったかもしれないが,記憶にない旨証言する。この供述等に照らすと,Eが原告代表者に対してフジパンが大多喜城ゴルフ倶楽部の経営に関与している趣旨の説明をしたことは窺われるものの,原告代表者の供述等をもって,Eが,フジパンが大多喜城ゴルフ倶楽部の経営に責任を負うとか,経営を保証している旨の説明したとは認めるには足りない。
そして,本件会員権募集の当時,フジパンと富士カントリー及び大多喜城ゴルフ倶楽部との間において,前提事実(1)イ及びウのとおり,代表取締役や取締役の経営陣が共通していたという人的関係が存在していたことからすると,フジパンが大多喜城ゴルフ倶楽部の経営に関与しているという説明は,その人的関係を説明する趣旨においては必ずしも虚偽とまでいうことはできない。
これに加えて,本件会員権募集に際しEが原告代表者に交付した本件ゴルフ場のパンフレット(甲70の1,2)には,本件ゴルフ場の経営会社は大多喜城ゴルフ倶楽部であることが明確に表示されている一方,フジパンが本件ゴルフ場に関連していることを示す記載は何ら存在しないこと,ゴルフ会員権の購入を検討している一般的な顧客は,当該ゴルフ場のパンフレットに目を通し,それを1つの重要な資料として購入の是非を検討すると考えられるところ,上記パンフレットを読めば,本件ゴルフ場の運営主体は大多喜城ゴルフ倶楽部であることを容易に理解できるものといえることをあわせ考えると,フジパンが大多喜城ゴルフ倶楽部の経営に関与している趣旨のEによる説明内容が,購入希望者の判断を誤らせるような虚偽の説明であったということはできない。
したがって,Eが,本件会員権の内容に関し,原告の判断を誤らせるような虚偽の説明を行ったとはいえないから,原告の主張は採用することができない。
3 争点1イ(本件会員権に関する断定的な説明の有無)について
(1) 原告は,被告が,本件会員権購入の勧誘に際し,本件会員権が資産として安全な価値を有するし,さらに将来の値上がりも期待できると,不確実なことについて断定的な説明をしたと主張する。
そこで検討するに,被告が,その取引先等に対して本件ゴルフ場を紹介し,本件会員権の購入希望者に対して,その購入資金を融資しようとする場合において,購入希望者に対して自ら本件会員権の内容を説明する際には,信義則上,できる限り正確な説明をすべき義務を負うことは2(1)に判示のとおりであり,預託金返還の可能性やゴルフ会員権相場の動向等の投資判断を左右するような重要な事実について,不確実なものをあたかも確実な事実として断定的に説明した結果,購入希望者の任意かつ自由な判断を誤らせたときは,これを信用して本件会員権を購入した者に対し,上記断定的説明と相当因果関係のある損害を賠償すべき義務を負うというべきである。
(2) これを本件についてみると,原告は,Eが,「絶対に安全である」とか「二次募集の時には5000万円にもなるから,その時売っても儲かる」などという説明を行ったと主張する。
そして,原告代表者は,その調査回答書(甲47)において,「マクドナルドのハンバーガーのパンを作っている会社なので全体に安全ですといわれた。」「フジパンが経営しているので安全(マクドナルドのパンですよ)と何回もいわれたので信用してしまった。」「第二次会員は5千万円になるので,今買っておいたほうがいいし,その時点で売却してももおかるといわれた。」旨を述べ,代表者尋問においても,フジパンがマクドナルドのハンバーガーのパンを作っている会社なのでつぶれることはない,二次募集では5000万円から6000万円になると聞いた旨供述している。
他方,Eは,その陳述書(乙K1)において,「フジパンがマクドナルドのハンバーガーのパンを製造している会社だということは,この訴訟に於ける原告の書面を見て初めて知りました。従って,私が当時,そのようなことは言うはずがありません。」「二次募集がより高い金額での募集となるであろうことは,当然,常識として知っていましたし,それが4000万円位になるのではないかという情報は当時聞いていたように思いますので,そのようなことは言ったかもしれません。」と供述し,証人尋問において,フジパンがマクドナルドにパンを提供していることは,訴状を読んで初めて知った,二次募集以降の金額は3500万円よりも上がるということは言った旨証言する。この供述等に照らすと,Eが,原告代表者に対し,二次募集以降の会員権価格が上昇する旨説明したことは認められるものの,原告代表者の供述等をもって,Eが,本件会員権が絶対に安全である旨を説明したと認めるには足りない。
そして,Eが原告に対する勧誘を行った当時において,ゴルフ会員権価格相場は未だ高騰が続いており(甲K12の11),また,ゴルフ会員権の募集方法は,縁故募集,一次募集,二次募集等の経過を辿り,後の募集価格がより高額となるのが通常であって(甲K11の12),Eはこうした状況を背景に主観的な評価を述べたにすぎないと認められる。そして,当時のこのようなゴルフ会員権相場の状況等を考慮すると,Eが二次募集以降の会員権価格の上昇に言及したことが,全く不合理な主観的予測に基づく評価であったとは言い難い。
また,将来におけるゴルフ会員権の価格が経済情勢によって上下することは何ら専門的知識を有しない者でも当然推知し得るものであるところ,原告代表者は「石橋をたたいて渡らない」慎重な性格であることを自認しており,本件会員権の購入の是非を顧問税理士に相談した上で購入を決断したものであって,原告代表者がゴルフ会員権の価格変動により損失を被る可能性を理解していなかったとは到底認められない。そうであるならば,Eの上記発言は,当時の社会情勢を踏まえた上での一般的な予測にとどまり,原告代表者においてもその趣旨は了解可能であったから,これにより原告の任意かつ自由な判断が誤らされたものとは認めることができず,Eが二次募集以降の会員権価格の上昇に言及したことをもって,不法行為を構成すべき断定的説明に該当するものということはできない。
したがって,Eが,本件会員権の内容に関し,預託金返還の可能性や会員権相場等の将来における変動が不確実な事実について断定的説明を行い,原告の任意かつ自由な判断を誤らせたとはいえないから,原告の主張は採用することができない。
4 争点1ウ(本件会員権の危険性に関する説明義務違反の有無)について
(1) 原告は,富士カントリーが大多喜城ゴルフ倶楽部の預託金を含めた資金を海外ゴルフ場開発や各種の投資,絵画の購入等の事業に支出しており,それら事業が頓挫した場合にはゴルフ場経営や預託金の償還に支障が生じることや,今後のゴルフ事業には不確定要素が多く,預託金の将来の償還については危険性がある状況であったことを,被告は知り又は知り得たにもかかわらず,原告にこれらの危険性を説明しなかった義務違反があると主張する。
しかしながら,金融機関の従業員が,その取引先等に対して融資を受けてゴルフ会員権を購入するように積極的に勧誘し,その結果として,当該取引先等がゴルフ会員権を購入するに至ったものの,自ら虚偽の説明や,不確実なものをあたかも確実な事実とする断定的な説明を行ったことにより当該取引先等の判断を誤らせたという事情は存在しない場合においては,当該従業員がゴルフ会員権の預託金の償還が見込まれないことを認識していながらこれを当該取引先等に殊更に知らせなかったことなど,信義則上,当該従業員の当該取引先等に対する説明義務を肯認する根拠となり得るような特段の事情のない限り,当該従業員がゴルフ場運営会社の経営内容や預託金の償還可能性等について調査した上で顧客に説明しなかったとしても,それが法的義務に違反し,当該取引先等に対する不法行為を構成するものということはできないものというべきである。
(2) これを本件についてみると,本件提携ローン合意に基づき,Eは原告に対して本件会員権の購入を勧誘したものであり,原告による本件会員権の購入と被告からの融資は極めて密接な関連性を有していることは前記2(1)のとおりであり,この事実は,上記の特段の事情を肯定する方向の一要素ということができる。
しかしながら,証拠(甲120,甲K11の12,甲K12の2,5から11まで,甲K14の5)によれば,昭和60年ころから,ゴルフ場の開発がブームになり,ゴルフ会員権の相場も高騰を始め,昭和63年ころから平成元年ころにかけては,さらに相場が上昇し,千葉県内のゴルフ会員権が数千万円で販売されることも珍しくない状態であったことが認められ,一部にゴルフ場の供給過剰を懸念する指摘もあったものの,本件会員権購入の勧誘当時において,ゴルフ場を経営する会社の倒産やゴルフ場の開発の著しい遅延という具体的な状況が存し,社会的な問題となっていたという状況はうかがうことはできず,一般に大多喜城ゴルフ倶楽部を含むゴルフ場運営会社が破たんするおそれがあると予見できる状況にはなかったことが認められる。
大多喜城ゴルフ倶楽部が民事再生手続開始の申立てをするに至った原因をみても,その主たる要因は,富士カントリー関係の海外ゴルフ場等への投融資が回収不能に陥ったこと,バブル経済崩壊後における経済不況の深刻化・長期化によって,会員権購入のためのローンの支払が困難となる会員が続出した結果,金融機関から大多喜城ゴルフ倶楽部への保証債務の履行請求が相次いだこと,本件会員権の相場の大幅な下落により会員からの預託金の返還請求が避けられない見込みとなったことによるものであり,いずれも,原告が本件会員権を購入した後に生じたものである。
このほか,本件会員権購入の勧誘当時,大多喜城ゴルフ倶楽部や富士カントリーが,他のゴルフ場運営会社と比較して特に経営基盤が脆弱で預託金の返還の実行余力に乏しいと認識されていたとか,被告が大多喜城ゴルフ倶楽部や富士カントリーの将来における破綻を予測させるような事実ないしその兆候を認識していたと認めるに足りる証拠もなく,これを予測することは極めて困難であったというべきである。
一方,原告代表者は,中古車販売を主な業務とする会社を営み,社会的に豊富な経験ないし知識を有している者であり,Eからの説明を受けた後,顧問税理士に相談の上,自己の意思に従って本件会員権を購入することを決めたこと(以上の事実は,甲47,原告代表者)に照らすと,原告代表者が,本件会員権の預託金の償還可能性について誤った思いこみをしている状況にあったということもできないし,Eが原告代表者の思いこみをしている状況を認識しつつ,放置したということもできない。
以上の諸点にかんがみると,本件において,信義則上,Eの原告に対する説明義務を肯認する根拠となり得るような特段の事情を認めることはできず,Eが大多喜城ゴルフ倶楽部の経営内容や預託金の償還可能性等について調査した上で原告に説明しなかったとしても,それが法的義務に違反し,被告の原告に対する不法行為を構成するものということはできない。
5 争点1エ(金融機関の優越的地位の濫用の有無)について
原告は,Eは,著名金融機関の行員としての社会的な信用に加えて,原告との継続的な銀行取引によって培ってきた信頼関係や,原告の経営内容や資産状況などの内情を把握しているという点や,今後も融資の可否を判断する立場という総合的な優越的地位を有しており,被告は,その立場を利用して,Eが原告の事務所を何度も訪問して,本件会員権の販売を媒介したと主張する。
なるほど,金融機関が,顧客に対し,自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に,不利益な条件での取引を余儀なくさせた場合には,不法行為を構成する余地があるものと解すべきである(独占禁止法2条9項5号,19条及び一般指定14項1号)。
これを本件についてみると,本件会員権勧誘当時の当時の原告と被告との関係は,原告が被告稲毛支店に口座を設けて入出金のために利用しており,Eはその集金のためにしばしば原告事務所を訪問していたというにすぎず,原告が被告からの融資を希望しており,被告がその可否を判断する立場にあるなどの関係にはなかったから,被告が原告に対して優越的な地位を有するという前提を欠くといわざるを得ない。
したがって,被告が金融機関としての取引上の優越的地位を不当に利用したものとは認められず,原告の主張は,理由がない。
6 争点1オ(販売媒介行為の銀行法違反の有無)について
原告は,ゴルフ場関係者の説明や勧誘など一切介在しない入会手続は,銀行法及び大蔵省の通達によって禁止されている銀行の目的外行為であり,その行為に対して協力預金という名のもとに対価が支払われていたから,違法であると主張する。
そこで検討するに,Eは,原告の本件会員権購入に際し,原告から大多喜城ゴルフ倶楽部に対する入会申込書を受領して大多喜城ゴルフ倶楽部に送付したこと,他方,原告は,本件会員権を購入するにあたって,Eから説明を受けたのみで,富士カントリーや大多喜城ゴルフ倶楽部の関係者が関与したことがなかったことは,前記第2の1(2)及び(3)のとおりである。
なるほど,銀行法は,10条1項1号ないし3号において,銀行の営む業務を列挙した上,同条2項において,同項に掲げる業務その他の銀行業に付随する業務を営むことができると規定し,12条において,10条及び11条の規定により営む業務及び担保付社債信託法その他の法律により営む業務のほか,他の業務を営むことはできないと規定して,銀行が法の定める業務のほか,他の業務を営むことを禁止している。
しかしながら,本件において,被告自身はゴルフ場運営事業を営むものではなく,本件会員権購入の勧誘は,被告の業務そのものである融資契約の締結を勧誘する目的で行われたものであるから,本件会員権購入の勧誘行為自体は,銀行法10条2項の定める銀行業に付随する業務とみることができないではない。
また,銀行法が,銀行の行う業務を制限した趣旨は,銀行に無制限の業務を許した場合には,その業務の内容及び遂行如何によって,銀行が多大な損失を被り,経営基盤を危うくする事態も想定されることから,銀行の行うことができる業務を一定の範囲に制限し,もって,銀行経営の健全性を確保することにあると解されるところ,被告の従業員が本件会員権購入の媒介をしたとしても,直接,被告が何らかの債務を負担するものではないから,本件会員権購入の媒介をすることにより,直ちに被告の経営の健全性が損われるおそれがあるということもできない。そうすると,本件会員権購入の勧誘は,大多喜城ゴルフ倶楽部若しくは富士カントリーの関係者の関与がなかったとしても,銀行法12条の趣旨に違反するとまでいうことはできない。
さらに,原告は,本件会員権購入の勧誘が,大蔵省の発出した通達に違反すると主張し,「普通銀行の業務運営に関する基本事項等について」(昭和57年4月1日蔵銀第901号)の別紙1「銀行経営のあり方」1(3)「社会的批判を受けかねない過剰サービスの自粛」中の「他金融機関への過度な預金紹介,顧客に対する金融商品以外の商品の紹介・斡旋,顧客が振り出した他店券の見做現金扱いによる不当な便益供与,顧客の印鑑及び押印済預金払戻請求書の預かりなど正常な取引慣行に反する行為,その他過当競争の弊害を招き社会的批判を受けかねない行為は厳に慎しむものとする。」との記載部分を指摘する。しかしながら,同通達の別紙1は,平成4年4月30日に定められたものであって,本件会員権購入の勧誘当時には存在しないものであったから,原告の主張は,その前提を欠くといわざるを得ない。
したがって,被告の行った本件会員権購入の勧誘が,銀行法12条に違反し,不法行為に該当するという原告の主張は,採用することができない。
第4 結論
以上のとおり,被告の勧誘行為について違法性があるということはできず,その余について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとしし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 鹿子木康 裁判官 小川雅敏 裁判官 進藤光慶)
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