「営業支援」に関する裁判例(49)平成27年 2月17日 東京地裁 平26(ワ)1946号 契約代金本訴請求事件、契約代金反訴請求事件
「営業支援」に関する裁判例(49)平成27年 2月17日 東京地裁 平26(ワ)1946号 契約代金本訴請求事件、契約代金反訴請求事件
裁判年月日 平成27年 2月17日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平26(ワ)1946号・平26(ワ)13704号
事件名 契約代金本訴請求事件、契約代金反訴請求事件
裁判結果 本訴認容、反訴請求棄却 文献番号 2015WLJPCA02178011
要旨
◆ウェブサイトの運営等を営む原告が、本件インターネットショップで物品を販売する被告に対し、同ショップ専用集客支援サービスに関する本件契約(準委任契約に類する契約)に基づき、残代金63万円等の支払を求めた(本訴)ところ、被告が、原告に対し、本件契約は請負契約であるとして、債務不履行に基づき、既払代金相当額63万円等の支払を求め、選択的に、不法行為(使用者責任)に基づき、損害金63万円等の支払を求めた(反訴)事案において、本件契約は、本件インターネットショップ内で顧客がショップを検索する検索機能において上位にランクインされる営業支援を行うという準委任契約に類する契約であるとした上で、原告の債務不履行を否定したほか、被告主張に係る詐欺等は認められないとして、原告の不法行為も否定し、本訴請求を認容する一方、反訴請求を棄却した事例
参照条文
民法415条
民法632条
民法643条
民法656条
民法715条
裁判年月日 平成27年 2月17日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平26(ワ)1946号・平26(ワ)13704号
事件名 契約代金本訴請求事件、契約代金反訴請求事件
裁判結果 本訴認容、反訴請求棄却 文献番号 2015WLJPCA02178011
平成26年(ワ)第1946号 契約代金本訴請求事件
平成26年(ワ)第13704号 契約代金反訴請求事件
東京都新宿区〈以下省略〉
本訴原告・反訴被告 クレイトエージェンシー株式会社(以下「原告」という。)
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 野間啓
高知市〈以下省略〉
本訴被告・反訴原告 八達文化開発株式会社(以下「被告」という。)
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 藤原充子
主文
1 被告は、原告に対し、金63万円及びこれに対する平成26年2月8日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 被告の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、本訴反訴を通じ、被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 当事者の請求
1 本訴請求
主文同旨
2 反訴請求(選択的併合)
(1) 原告は、被告に対し、金63万円及びこれに対する平成25年9月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(2) 原告は、被告に対し、金63万円及びこれに対する平成25年9月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は、(1)ウェブサイトの運営等を営む原告が、インターネットショップ「○○」で物品を販売する被告に対し、○○専用集客支援サービスに関する契約(準委任契約に類する契約)に基づき、残代金63万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成26年2月8日から支払済みまで商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金の支払を求め(本訴請求)、(2)被告が、原告に対し、①前記契約は請負契約であるとして、同契約の債務不履行に基づき、既払代金相当額である63万円及びこれに対する被告の最終支払日の後である平成25年9月28日から支払済みまで商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金の支払を、また選択的に、②不法行為(使用者責任)に基づき、損害金63万円及びこれに対する不法行為発生の日である平成25年9月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案(反訴請求)である。
1 前提となる事実(後掲各証拠で容易に認定できる事実を含む。)
(1) 原告は、ウェブサイトの制作、運営、ウェブプロモーション事業等を営む株式会社である。
被告は、インターネットショップ「○○」において、「△△」という店名(以下「本件店舗」という。)で、携帯電話のアクセサリー等を販売する株式会社である。
(2) 被告は、平成24年12月19日、原告との間で、原告が提供する○○専用集客支援サービス「アッパーヒットR」を、契約期間12か月、利用代金126万円(税込み。月額10万5000円×12か月)で利用する契約が成立した(甲1、2、乙7。以下「本件契約」という。)。
本件契約において原告が提供するサービスは、○○内において顧客がショップを検索する検索機能において、予め指定されたキーワードが入力された場合、依頼した商品が検索結果の上位に表示されることに関して営業支援を行うことである(以下「本件サービス」という。)。なお、これに加えて、本件契約は、原告において上位にランクインさせるという仕事の完成を目的とするものであるかについては、当事者間に争いがある。
原告は、メールで本件契約に係る申込書(甲1)の様式に利用規約(甲2)を添付して送信し(以下「本件メール」という。)、被告が本件メールの内容で了承した旨のメールを返信した。本件メールには、申込内容、注意事項及び添付した利用規約を確認の上で返信するよう、文頭及び末尾のそれぞれ記載されており、本文中には、営業担当者がC、サポート担当がD及びEである旨の記載があるほか、要旨、以下の記載がある。
ア 契約内容
対象URLにおいて、契約キーワードに関連する商品ページの○○検索エンジン最適化
イ 契約期間
初回入金日から12か月
ウ 契約キーワード
「財布 メンズ」、「スマホ 充電器」、「ハンドバッグ 通学」、「iphone アクセサリー」及び「トート エコバッグ」の5項目
エ サービス利用料金
月額10万5000円(税込み)を12か月分
オ 支払方法
毎月27日、口座振替
カ 初回入金日
(ア) 入金予定日 平成24年12月21日
(イ) 入金金額 21万円(2か月分)
キ 特約事項
○○・商品検索結果(標準)においてのトップページ45商品内(以下単に「上位」という。)に、3か月以内に契約キーワード(5項目)のうち、1項目もランクインできなかった場合のみ、契約期間は3か月とする。なお、その期間に発生した対策費用は返金するものとする。
ク 注意事項
(ア) 本件サービスは、○○検索エンジンの「標準」検索結果表示上での表示位置、表示そのもの、対象URLにおける売上等、一切の成果を保証するものではない(以下「本件免責条項」という。)。
(イ) この申込書の定めと異なる定め等がある場合でも、この申込書の定めが優先して適用される。
(ウ) 支払期日を過ぎても被告からの入金が確認できない場合は、原告はサービスを停止する。
(エ) 原告の責めに帰し得ない事由により本件サービスの提供を停止又は終了した場合、被告は契約期間に対応するサービス利用料金全額の支払義務を負う。なお、原告は、被告に対し、既払代金を返金しない。
(3) 本件契約期間のランクインの状況
本件契約期間中、本件店舗の「ハンドバッグ 通学」及び「iphoneアクセサリー」の2項目は上位にランクインしたが、その余の「財布 メンズ」、「スマホ 充電器」及び「トート エコバッグ」の3項目は上位にランクインしなかった。
(4) 原告の報告状況等
原告(F、E、G)は、以下のとおり、被告に対し、ランクインに関する状況報告し、被告代表者からの問い合わせ等に対応した。
ア 平成24年12月26日、本件契約の対策開始前に、本件メールに記載された全てのキーワード(5項目)について上位にランクインがないことをメールで報告した(甲5)。
イ 平成25年1月11日、「ハンドバッグ 通学」で上位にランクインしたことをメールで報告した(甲6)。
ウ 同月31日、「ハンドバッグ 通学」で上位にランクインしたことを電話で報告した(乙4、被告代表者本人)。
エ 同年3月1日、被告代表者から電話があり、「iphone アクセサリー」で上位にランクインしたことを確認した旨の報告を受けた。
オ 同年3月15日、原告がランキング推移報告に関して電話した。このとき、被告代表者から、ボーイング787のトラブルの影響で充電器が輸入しにくくなるかもしれないと言われ、原告は、その場合はキーワードの変更につき協議することも可能である旨回答した。
カ 同年4月10日、原告から被告に対し電話した。被告代表者は、この際、思ったよりもランキングが上がらないことにやや立腹していた。
キ 同月19日、原告が電話した。被告は、この際、同年6月頃までに「財布 メンズ」で上がらなければ全額の返金を要求する旨述べた。
ク 同年5月30日、原告が電話した。被告は、この際、同年6月頃までに「財布 メンズ」が上がらなければ、アカウントも削除して、消費者センターや警察に行って返金を求めるなどと述べた。
ケ 同年6月以降、原告から被告に電話してもつながらなくなった。
コ 平成25年7月25日、ランクインの状況を報告するメールを送信した(甲7、乙1)。同メールには、今月より毎月の状況報告をメールで提出することになったことのほか、同年6月26日から同年7月25日の対象期間につき、「iphone アクセサリー」のみ、期首2商品、期末3商品がランクインしたことが記載されていた。
(甲4、乙4、被告代表者本人、弁論の全趣旨)
(5) 被告の支払状況
被告は、原告に対し、平成24年12月26日に21万円を、平成25年2月27日、同年3月27日、同年5月27日及び同年9月27日に各10万5000円の合計63万円を支払ったが、本件契約に定められた同年4月27日までに10万5000円を支払わなかった。
(6) 被告は、平成25年11月22日付けメールにおいて、原告に対し、債務不履行に基づき、本件契約を解除する旨の意思表示をした(乙3)。
同メールには、解除理由として、連絡がない点(作業内容についての実績報告がなく、電話連絡がないこと)及び支払った金額だけの価値がない点(現在上位にランクインしているのは「iphone アクセサリー」だけであること)等を挙げた上、成果は出ず、さらにはお金だけは取るという不誠実で悪質である旨記載されている。
(7) 原告(H)は、本件係属後である平成26年11月13日、被告に対し、本件訴訟が係属していることを知らないまま、メールで「アッパーヒットR」の勧誘をした。
同メールには、「アッパーヒットR」には、○○トップページの検索ボックスで検索された際に、原告の商品を上位に反映させていくサービスとなっていると記載されている。
(乙13の1、2、弁論の全趣旨)
2 争点
(1) 本件契約は、「検索エンジン最適化(SEO対策)」という事実行為を行う準委任契約に類する契約か(本訴請求)。それとも、上位にランクインするという仕事の完成を目的とする請負契約であるという口頭の合意があり、かつ、上位にランクインしなかったことにより原告に債務不履行があるといえるか(反訴請求の債務不履行)。また、原告が商慣習上要請される誠実な報告をしなかったことから、原告に債務不履行があるといえるか(反訴請求の債務不履行)。
(原告の主張)
ア 本件契約が準委任契約に類する契約であること
本件契約は、顧客がショップを検索する検索結果につき上位にランクインされる営業支援を行うという「SEO対策」という事実行為を行う準委任契約に類する契約である。本件契約の内容は、本件メール(甲1)に明記されており、被告が主張する口頭による合意は存在しない。
キーワードは5項目であり、いずれも最終的に被告の承諾を得て決定したもので、被告から一任されることはない。
イ 原告に債務不履行がないこと
このような本件契約の性質からすると、本件店舗の商品が上位にランクインしなかったことにより、原告に債務不履行があるとはいえない。
また、報告について具体的な回数・態様を定める規定はなく、かかる付随義務による債務不履行もない。
ウ 以上によれば、被告は債務不履行に基づく解除をすることができないから残代金の支払義務を免れず、また、原告は債務不履行に基づく損害賠償義務を負っていない。
(被告の主張)
ア 本件契約は、○○において顧客がショップを検索する場合、「スマホ 充電器」、「財布 メンズ」という2項目(以下「本件2項目」という。)を上位にランクインさせるという仕事の完成を目的とした請負契約である。
被告は、平成24年12月初旬、原告に勤務するCから、本件店舗の商品につき○○でエンジン検索結果の上位に表示させるという勧誘を受けたことから、原告に対し、主たる希望商品は本件2項目であるとして、必ずそれを上位ランクに対策すべきことを口頭で申し出た。原告(C)は、5項目がキーワードとしてセットされていると述べたので、被告代表者は、本件2項目とは別の3項目については原告(C)に任せることとし、結局、本件2項目とは別の3項目を付記することを同意した。また、その際、被告は、原告(C)に対し、代金支払後、少なくとも2か月から3か月以内に上位にランクインすることを確認している(以下「本件口頭合意」という。)。
よって、「上位にランクインする」とは、○○の1頁目の45件(上位)に、被告の指定した本件2項目につき、本件店舗名で被告の商品を表示させることであり、本件メールにおける「○○検索エンジン最適化」とは、1ページ目に表示することを意味する。
イ 原告の債務不履行
(ア) 本件契約期間中、本件2項目につき一度も上位にランクインしなかったことから、原告は、本件契約の仕事を完成させておらず、債務不履行があるといえる。
(イ) また、原告は、平成25年3月頃までいずれの項目についても経過報告はなく、被告からの再三にわたる催促にもかかわらず、誠実な対応も報告もせず、商慣習上要請される誠実な報告・説明義務に違反したことから、原告に債務不履行がある。
(ウ) よって、被告は、原告の債務不履行により解除することが認められ、本件契約の残代金の支払を免れることができ、また、原告に対して、債務不履行に基づき既払額63万円につき損害賠償請求権を有している。
(2) 原告は、原告において上位にランクインさせると虚偽の事実を述べるという被告に対する欺罔行為があったか。また、本件免責条項が付された本件契約は、公序良俗違反、商慣習上の信義則違反、被告の錯誤により無効であるといえるか。(本訴請求の抗弁、反訴事件の予備的請求)
(被告の主張)
ア 原告は、本件契約の締結にあたり、本件2項目を上位にランクインさせる能力がないのに、原告に特別の技術があるかの如く装い、被告に対し、「○○検索エンジン最適化」というサービスをする仕事ができる旨勧誘して欺罔した。原告において本件2項目を上位にランクインさせると被告に対する欺罔行為をしているのに、本件免責条項において被告に代金を支払う義務を負わせるものであり、いわゆる詐欺的な悪徳商法である。
イ 以上により、原告は、被告に対して、欺罔行為をしたものといえ(反訴請求)、本件契約は、①公序良俗違反、②商慣習上の信義則違反、③被告の錯誤により無効である(本訴請求の抗弁)。
(原告の主張)
いずれも否認する。
被告は、本件契約の内容につき、原告において上位にランクインさせることを約束したと被告が誤信したと主張するに過ぎない。しかるに、本件メールに成果は保証するものではないことは明記されているから、原告が被告を欺罔したり、被告が誤信したことはあり得ない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)について(本訴・反訴)
(1) 本件契約の性質について
本件契約につき、原告は、上位にランクインされる営業支援を行うという準委任契約に類する契約であると主張し、これに対して、被告は、本件2項目を上位にランクインさせるという仕事の完成を目的とした請負契約であると主張する。
よって検討するに、本件契約の条項を定めた本件メールによれば、表示位置、表示そのもの等の成果を一切保証するものではないことが明示されていることからすると(本件免責条項)、本件契約は、上位にランクインされる営業支援を行うという準委任契約に類する契約であるといえる。
これに対して、被告は、本件契約の締結当時に、原告(C)との間で、上位にランクインさせるということを仕事の完成を目的とすることを口頭で合意した旨主張する。本件契約を締結するにあたり、原告(C)と被告代表者が交渉した経緯があることは当事者間に争いがないものの、仮に被告が主張するように、原告(C)と被告代表者との間で何らかの合意があったとしても、前記前提となる事実によれば、本件契約の条項を定めた本件メールには、本申込書の定めと異なる定め等がある場合でも本申込書の定めが優先して適用されると明示されており、これに対して被告が承諾したことからすると、本件メール記載の定めが原告(C)と被告代表者との間の合意に優先することになり、これに反する被告のかかる主張は失当である。
よって、本件契約は、原告が主張するとおり、上位にランクインされる営業支援を行うという準委任契約に類する契約であるといえる。
(2) 原告の債務不履行について
ア 被告は、原告において本件2項目につき上位にランクインしなかったことにつき本件契約の債務不履行があると主張するが、かかる主張は、本件契約が準委任契約に類する契約であるにもかかわらず、請負契約であるとするものであるから、被告の主張はその前提を欠いている。
また、被告は、原告従業員との間で、本件2項目のみが本件契約の対象とする口頭の合意がある旨主張するが、前記認定のとおり、本申込書の定めと異なる定め等がある場合でも申込書の定めが優先して適用されると明示されているところ、本件メールによれば、本件契約の対象項目は5項目であるから、その意味においても、被告の主張は前提を欠くものと言わざるを得ない。
よって、本件2項目につき上位にランクインしなかったことを理由に、原告に債務不履行があったとはいえない。
イ 被告は、原告において、平成25年3月頃までいずれの項目についても経過報告はなく、被告からの再三にわたる催促にもかかわらず、誠実な対応も報告もせず、商慣習上要請される誠実な報告・説明義務に違反したことから、原告に債務不履行がある。
しかしながら、被告代表者の供述(乙4、被告代表者本人)においても、被告から原告に対して催告した時期、頻度は明らかではなく、そのほかの証拠によっても被告において再三にわたる催告をしたとは認めることはできない上に、前記前提となる事実のとおり、原告は、被告に対し、平成24年12月から平成25年7月までの間、ランキングに関する経過報告をしていることからすると、原告が商慣習上要請される誠実な報告・説明義務に違反したとはいえず、債務不履行があるとは認められない。
以上によれば、原告は、本件契約につき債務不履行があるとはいえないから、被告における本件契約の解除及び損害賠償請求はいずれも認めることができない。
2 争点(2)ついて(本訴・反訴)
(1) 被告は、原告において本件2項目を上位にランクインさせる能力がないのに、原告に特別の技術があるかの如く装って、被告を欺罔した旨主張する。
しかし、前記認定のとおり、本件契約は本件2項目だけではなく5項目であるから、被告の主張はその前提を欠いている上に、前記前提となる事実によれば、5項目のうち2項目については上位にランクインしたことが認められる。
よって、原告において上位にランクインさせる能力がないのに、特別の技術があるかの如く装ったとはいえない。
(2) 被告は、原告において本件2項目につき上位ランクインさせると虚偽の事実を述べるという被告に対する欺罔行為があったとも主張する。
この点、被告代表者の供述は、原告(C)から、上位にランクインさせると言われた旨供述するところ、前記認定のとおり、本件メールにおいて、本件契約の対象は5項目であり、また表示位置、表示そのもの等の成果を一切保証するものではない(本件免責条項)と明示されており、かかる内容は被告代表者の前記供述と矛盾するものであるにもかかわらず、被告代表者はこれを承諾する旨のメールを送信したことが認められる。このような経緯に照らして考えると、原告(C)から上位にランクインさせると言われたのか明らかではないと言わざるを得ず、原告において本件2項目につき上位にランクインさせると欺罔したとは言い難い。
さらに、被告は、本件免責条項において被告に代金を支払う義務を負わせるものであり、いわゆる詐欺的な悪徳商法であるとも主張するが、被告の主張は原告が欺罔行為をしたことを前提としていることから、その前提を欠く。さらに、本件契約において、原告に有利な条項である本件免責条項がある一方で、前記認定事実によれば、3か月以内に5項目のうち1項目も上位ランクインしなかった場合には、契約期間を3か月とし、原告は、被告に対し、その期間に発生した対策費用は返金する旨の条項があることが認められ、かかる条項は原告に不利益な条項であることを考慮すると、本件契約は必ずしも原告に一方的に有利なものであるとはいえず、本件免責条項があることをもって、直ちに詐欺的な悪徳商法であるとはいえない。
加えて、被告は、本件係属後に原告(H、I)から勧誘された内容(乙10、11の1ないし3、乙13の1、2)からしても、原告において上位にランクインさせるという詐欺行為があったことを裏付けている旨主張する。
しかしながら、そもそも、本件係属後に原告から勧誘された内容は、本件契約の締結時と時期、担当者等が異なるものであるから、かかる内容から本件契約における原告の勧誘内容を直ちに推認することはできないことに加えて、原告からのメール(乙13の1、2)においても「最低5キーワード以上のセット」、「上位に反映させていくサービス」とされているのみで、かかる記載は上位にランクインさせることを目的とするものとはいえない。なお、原告(H、I)が被告代表者に対する勧誘をした内容(乙10、乙11の1ないし3)を検討すると、確かに、被告代表者が絶対に上位に上げるのかという質問に対し、原告(I)が、上位に上げることを約束するような発言をした箇所があるものの(乙11の2の4頁から5頁)、原告(I)と被告代表者との会話の流れを検討すると、被告代表者は、本件訴訟における原告との争点内容を熟知した上で、原告(I)との会話を主導し、原告(I)がこれに対して回答する流れであったことが認められる上に、原告(I)が何か詳細に説明をしようとすると被告代表者が原告(I)の話を遮る場面が複数見られることから、結局、原告(I)が上位に上げることを約束したのか、上位に上げる対策を取ることを約束したのか、その会話の文脈上、必ずしも明らかではないと言わざるを得ない。よって、これら証拠によっても前記認定事実を左右しない。
以上によれば、原告において①公序良俗違反及び②商慣習上の信義則違反がある旨の被告の主張を採用することができない。
(3) 被告は、被告代表者において、本件契約が本件2項目につき上位にランクインするという仕事の完成を目的としている旨の錯誤に陥った旨主張する。
よって被告代表者が錯誤に陥ったのか否かを検討するに、前記認定によれば、本件契約に係る本件メールに対して、被告代表者が承諾したことが認められ、本件メールには本件免責条項が明記されていることからすると、被告代表者において本件免責条項を認識していたと推認できる。これに対し、被告代表者は、本件契約締結時に、3か月以内に上位に1項目もランクインできなかった場合には、契約期間を3か月とし、その期間に発生した対策費用は返金する旨の特約条項は読んだが、本件免責条項は読んでいないなどと供述しているものの、前記前提となる事実によれば、本件免責条項は、かかる特約条項の直後に記載されている上に、あえて「注意事項」という別項目を立てて記載されていることからすると、本件契約締結時に本件免責条項を読んでいないとする被告代表者の供述を直ちには信用することができない。
よって、被告代表者が、前記のような錯誤に陥ったと認めることはできない。
3 結論
以上によれば、被告は、原告の債務不履行を理由に解除することはできないから、準委任契約に類する契約である本件契約に基づき、残代金63万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成26年2月8日から支払済みまで商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金を支払う義務があり(本訴請求)、これに対し、原告は、被告に対して、本件契約に関して詐欺行為をしたとはいえないから不法行為は成立しておらず、また本件契約につき原告の債務不履行は認められないから、被告は、原告に対し、不法行為及び債務不履行の損害賠償請求権を有していない(反訴請求)。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 今泉愛)
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