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「営業代行」に関する裁判例(4)平成30年 3月29日 東京地裁 平29(ワ)19660号 損害賠償請求事件

「営業代行」に関する裁判例(4)平成30年 3月29日 東京地裁 平29(ワ)19660号 損害賠償請求事件

事案の概要
◇株式会社CAを吸収合併し、同社から本件各著作物の著作権及び本件各著作物の著作権侵害により発生した損害賠償請求権を取得した原告が、株式会社CAの許諾を得ることなく、本件各著作物をインターネット上の動画共有サイトである「FC2動画アダルト」のサーバー上にアップロードし、不特定多数の者が閲覧できる状態に置いた被告に対し、著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求の一部請求として合計800万円の支払を求めた事案

裁判年月日  平成30年 3月29日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平29(ワ)19660号
事件名  損害賠償請求事件
裁判結果  一部認容  文献番号  2018WLJPCA03299010

原告 株式会社WILL
同訴訟代理人弁護士 竹村公利
同 松下翔
同 仲條真以
同訴訟復代理人弁護士 小澤有季
被告 A

 

主文

1  被告は,原告に対し,115万5000円及びこれに対する平成29年6月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  原告のその余の請求を棄却する。
3  訴訟費用は,これを8分し,その7を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
4  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1  請求
被告は,原告に対し,800万円及びこれに対する平成29年6月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  当事者の主張
1  原告の主張(請求原因)
⑴  原告は,映画・ビデオの映像製作,編集業務,販売及びその企画営業代行業務並びにそのコンサルタント業務等を営む株式会社である。
⑵ 株式会社CAは,別紙著作物目録記載1ないし3の映像作品(以下「本件著作物1」などといい,併せて「本件各著作物」という。)の製作に発意と責任を有する映画製作者(著作権法2条1項10号)であるところ,本件各著作物の著作者である監督(同法16条)は株式会社CAに対してその製作に参加することを約束した上で本件各著作物を製作したため,株式会社CAは本件各著作物の著作権を取得した(同法29条1項)。
⑶ 被告は,株式会社CAの許諾を得ることなく,平成26年4月13日に本件著作物1を,同年5月20日に本件著作物2を,同月24日に本件著作物3を,いずれもアメリカ合衆国法人であるFC2,Inc.(以下「FC2」という。)が管理する,インターネット上の動画共有サイトである「FC2動画アダルト」(以下「本件動画サイト」という。)のサーバー上に,「(省略)(VideoMemberID:(省略))」(本件著作物1)及び「(省略)(VideoMemberID:(省略))」(本件著作物2及び3)という投稿者名でアップロードし,不特定多数の者が閲覧できる状態に置いた。この行為は,株式会社CAの公衆送信権(著作権法23条1項)の侵害に当たる。
⑷  原告は,平成28年12月1日,株式会社CAを吸収合併し,同社から本件各著作物の著作権及び本件各著作物の著作権侵害により発生した損害賠償請求権を取得した。
⑸  株式会社CAは取引先との間でコンテンツ提供基本契約を締結していたところ,同契約においては,本件各著作物の使用許諾の対価としてその売上総額の38%の金額を株式会社CAが受け取ることになっているから,同金額に相当する金額が損害額になる(著作権法114条3項)。
本件各著作物はいずれも動画配信サイトにおいて複数の販売形態で販売されていたところ,そのうちの最も安価な販売形態に基づく一本当たりの販売価格は,本件著作物1につき1980円(ダウンロード+ストリーミング),本件著作物2につき500円(HD版ストリーミング),本件著作物3につき300円(ストリーミング)であり,消費税を控除すると,それぞれ1834円,463円,278円となる。
そして,本件動画サイトにおける本件著作物1の再生回数は2万7557回,本件著作物2の再生回数は1万0035回,本件著作物3の再生回数は2236回であるから,本件著作物1に係る損害額は1920万5024円(2万7557回×1834円×38%),本件著作物2に係る損害額は176万5557円(1万0035回×463円×38%),本件著作物3に係る損害額は23万6211円(2236回×278円×38%)となる。また,弁護士費用相当額は,上記の合計金額である2120万6792円の10%である212万0679円が相当である。以上の合計金額は2332万7471円となる。
⑹  よって,原告は,被告に対し,民法709条及び著作権法114条3項に基づき,株式会社CAから承継した著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求の一部請求として,本件著作物1につき659万円,本件著作物2につき61万円,本件著作物3につき8万円,弁護士費用相当額として72万円(本件各著作物の請求額に応じて案分される。)の合計800万円及びこれに対する不法行為後の日である平成29年6月19日(訴状送達日の翌日)から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2  被告の主張(請求原因に対する認否等)
⑴  請求原因事実は全て否認する。
⑵  被告は,本件各著作物をアップロードしていない。被告は,そもそもFC2に会員登録したことはなく,投稿者名「(省略)(VideoMemberID:(省略))」及び投稿者名「(省略)(VideoMemberID:(省略))」は被告ではない。
また,本件各著作物と本件動画サイトにアップロードされた動画の名称は全く異なるし,アップロードされた動画の画像は張り替えが可能である。
⑶  原告の主張する再生回数の正確性を裏付ける証拠が何ら提出されていない。本件各著作物は,平成29年7月15日では動画配信サイトにおいて,ストリーミングで980円から300円で流通している。
原告は自らが使用許諾をした場合の対価につき契約条項の大半を抹消した契約書の写しを提出するのみであり,現実にいかなる収入を得ていたかは明らかでない。
⑷  FC2の運営会社の社長が逮捕されたこと(乙1)や株式会社CAの社長等が書類送検されたこと(乙2)からすると,FC2の運営会社や株式会社CA自体が公序良俗(民法90条)に反しているから,本件訴訟提起は無効である。
第3  当裁判所の判断
1  請求原因⑴について
請求原因⑴は,証拠(甲1)及び弁論の全趣旨により認められる。
2  請求原因⑵について
証拠(甲2の2の1,2の3の1,2の4の1,5の1及び2)及び弁論の全趣旨によれば,株式会社CAは,本件各著作物の製作に発意と責任を有しており,本件各著作物の監督は株式会社CAに対して製作に参加することを約束して本件各著作物を製作したということができるから,株式会社CAは本件各著作物の著作権者であったと認められる(著作権法29条1項)。したがって,請求原因⑵は認められる。
3  請求原因⑶について
後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件動画サイトにアップロードされた動画は,題名を「(省略)」(甲2の2の2。以下「本件動画1」という。),「(省略)」(甲2の3の2。以下「本件動画2」という。),「(省略)」(甲2の4の2。以下「本件動画3」といい,本件動画1及び2と併せて「本件各動画」という。)であるところ,本件各著作物の一場面の静止画像(甲2の2の3,2の3の3,2の4の3)と本件各動画の静止画像(甲2の2の2,2の3の2,2の4の2)とが一致していることが認められ,本件各著作物の一部と本件各動画との同一性に疑いを差し挟む事情も見受けられないことからすると(被告は,名称が異なることやアップロードされた動画の画像は張り替えが可能であると主張するが,名称が異なるのみでは同一性を否定できず,本件各動画の静止画像が張り替えられたとする根拠は何ら示されていない。),本件各著作物の一部と本件各動画は同一の動画であると認められる。
そして,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件動画1はニックネームを「(省略)」とする者からアップロードされ(甲2の2の2),本件動画2及び3はニックネームを「(省略)」とする者からアップロードされたことが認められるところ(甲2の3の2,2の4の2),原告がアメリカ合衆国連邦地方裁判所ネバダ州地区が発令した開示命令に基づき,FC2からニックネーム「(省略)(VideoMemberID:(省略))」及び「(省略)(VideoMemberID:(省略))」を特定するために十分な情報として開示された住所及び氏名は,被告の住所及び氏名と同一であると認められる(甲6(枝番を含む。)。なお,甲6の3のうち,ニックネーム「(省略)」は一致していないが,VideoMemberID:(省略)は一致している。)。よって,本件各動画は被告によってアップロードされたと認められる。
以上によれば,被告は,本件各著作物の一部を本件動画サイトにアップロードしたと認められ,この行為は,株式会社CAの本件各著作物に係る公衆送信権(著作権法23条1項)の侵害に当たると認められる。
4  請求原因⑷について
請求原因⑷は,証拠(甲1)及び弁論の全趣旨により認められる。
5  請求原因⑸について
⑴  後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 本件動画サイトの本件各動画には,それぞれの動画ごとに「動画の情報」欄がある。同欄には「再生数」欄があり,数字(以下,単に「再生数」という。)が表示されていた。本件動画1は,平成26年4月13日に本件動画サイトに無料動画としてアップロードされ,同年6月18日時点において再生数は2万7557回,本件動画2は,同年5月20日に本件動画サイトに無料動画としてアップロードされ,同年6月3日時点において再生数は1万0035回,本件動画3は,同年5月24日に本件動画サイトに無料動画としてアップロードされ,同年6月3日時点において再生数は2236回であった。(甲2の2の2,2の3の2,2の4の2)
イ 本件各著作物は,いずれも動画配信サイト「DMM.com」において配信されており,複数の販売形態のうち最も安価な価格は,本件動画1が平成26年6月18日時点において1980円(ダウンロード+ストリーミング),本件動画2が同年6月3日時点において500円(HD版ストリーミング),本件動画3が同年2月6日時点において300円(ストリーミング)である(甲2の2の1,2の3の1,2の4の1)。なお,本件各著作物の平成29年7月15日時点での価格は,本件著作物1が590円(ダウンロード+ストリーミング。より安価なHD版ストリーミングは300円),本件著作物2が300円(HD版ストリーミング),本件著作物3が300円(ストリーミング)である(乙5の1ないし3)。
ウ 株式会社CAは,取引先との間で,コンテンツ提供基本契約を締結し,取引先に対して映像作品等のコンテンツの配信を許諾していた。ある取引先との契約では,株式会社CAは,配信の対価として上記コンテンツの売上総額の38%を受け取ることが定められていた。(甲3の1及び2。なお,株式会社北都とは,株式会社CAの変更前の商号である。)
エ 本件各動画は,株式会社CAの要請によって,上記アの後,閲覧できない状態となっている。
⑵  原告は,上記⑴アの再生数に本件各著作物の最も安価な配信価格から消費税を控除した価格を乗じた金額が動画配信による売上額であり,株式会社CAは同売上額の38%を受領できたとして,本件動画1について1920万5024円の内金659万円,本件動画2について176万5557円の内金61万円,本件動画3について23万6211円の内金8万円を請求する。
しかしながら,上記再生数が何らかの方法に基づいて計測されたものであることはうかがわれるが,その正確性を裏付ける証拠は提出されていない。また,株式会社CAが本件各著作物が配信されることにより対価を得ていたことはうかがわれるが,その具体的な金額を算出するに当たり,配信の対価としてコンテンツの売上総額の38%を受け取ることが定められていたことを証する証拠(甲3の1及び2)の信用性についての証拠は提出されていない(原告は,被告が上記の点について疑義がある旨の主張をしているにもかかわらず,何らの主張立証もしない。)。そうすると,原告の上記主張の損害額を直ちには認めることはできない。
したがって,原告が本件各著作物の著作権(公衆送信権)の行使につき受けるべき金銭の額(著作権法114条3項)は,原告が主張する計算式に基づいて算定することはできないが,上記⑴に認定した事情その他本件において現れた事情を総合すると,本件著作物1及び2につき各50万円,本件著作物3につき5万円と認めるのが相当である。
⑶  本件における弁護士費用相当額は,本件著作物1及び2につき各5万円,本件著作物3につき5000円の合計10万5000円と認められる。
6  被告の主張について
被告は,FC2の運営会社や株式会社CA自体が公序良俗(民法90条)に反しているから,本件訴訟提起は無効である旨主張し,FC2の運営会社とされる会社の社長が逮捕され,株式会社CAの社長等が書類送検されたとするニュース記事(乙1及び2)を提出するが,このような事情のみによってFC2の運営会社や株式会社CA自体が公序良俗(民法90条)に反するとか,本件訴訟提起が無効であるとは認められず,他にこれを認めるに足りる証拠は存しないから,被告の主張は認めることはできない。
7  結論
以上によれば,原告は,被告に対し,民法709条及び著作権法114条3項に基づき,115万5000円及びこれに対する不法行為後の日である平成29年6月19日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
したがって,原告の本件請求は主文の限度で理由があるからその限度で認容し,その余は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
(裁判長裁判官 嶋末和秀 裁判官 伊藤清隆 裁判官 天野研司)

別紙

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