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「営業代行」に関する裁判例(11)平成28年 9月 2日 東京地裁 平25(ワ)14913号 損害金請求事件

「営業代行」に関する裁判例(11)平成28年 9月 2日 東京地裁 平25(ワ)14913号 損害金請求事件

要旨
◆訴外会社から被告が芸能活動を行うことに関する専属契約上の地位を譲り受けた原告会社が、被告に対し、被告が原告会社との間の契約を解除する旨を一方的に通告し、以後、既に出演予定の番組への出演を拒絶したり、原告会社に無断で番組に出演したりした行為は被告と原告会社との間の契約に違反するものであると主張して、債務不履行に基づき、一部請求として損害賠償を求めた事案において、被告は、訴外会社との間の契約(訴外会社被告間契約)について、訴外会社から原告会社への契約上の地位の移転を黙示に追認したと評価できるが、訴外会社被告間契約の法的性質は、非典型契約の一種であるところ、同契約と同一である原告会社と被告との間の契約については、両者の信頼関係を破壊するような事由が原告会社にある場合の被告の将来に向かっての解除権についても合理的意思解釈により認められるとした上で、原告会社には、同社の実質的経営者が悪質な巨額の脱税により有罪判決を受けるという被告との間の信頼関係を破壊する事由があったなどとして、被告による解除を有効とし、請求を棄却した事例

裁判経過
控訴審 平成29年 1月25日 東京高裁 判決 平28(ネ)4765号 損害金請求控訴事件

参照条文
民法415条
民法627条1項
民法628条
民法651条1項
労働基準法附則附則137条

裁判年月日  平成28年 9月 2日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平25(ワ)14913号
事件名  損害金請求事件
裁判結果  請求棄却  上訴等  控訴  文献番号  2016WLJPCA09028009

東京都港区〈以下省略〉
原告 株式会社X
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 E

住所〈省略〉
被告 Y
同訴訟代理人弁護士 G


 

 

主文

1  原告の請求を棄却する。
2  訴訟費用は、原告の負担とする。

 

事実及び理由

第1  請求の趣旨
1  被告は、原告に対し、1億円及びこれに対する平成25年7月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  訴訟費用は、被告の負担とする。
3  仮執行宣言
第2  事案の概要
本件は、原告が、被告は有限会社aとの間で被告が芸能活動を行うことに関する専属契約(以下「a社被告間契約」という。)を締結し、原告は有限会社aから専属契約上の地位を譲り受けたところ、被告が原告との間の契約を解除する旨を一方的に通告し、以後、既に出演予定の番組への出演を拒絶したり、原告に無断で番組に出演したりした行為が被告と原告の間の契約に違反するものであると主張して、被告に対し、債務不履行に基づき、損害賠償1億円(損害2億6248万6166円のうち一部請求)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成25年7月6日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事件である。
1  前提となる事実は以下のとおりである。
(1)  原告は、平成20年3月6日に設立された、芸能タレントの養成等を目的とする株式会社である。
被告は、芸能活動を行うタレントである。
有限会社aは、平成4年に設立された芸能タレントの養成等を目的とする有限会社である。有限会社aは、商号を、平成20年3月31日、有限会社a1に、平成22年5月31日、再び有限会社aに順次変更した(以下、商号変更にかかわらず、同社のことを「a社」という。)。
Aは、a社の代表取締役であり、平成23年1月31日から、原告の代表取締役でもある(以上について、争いのない事実のほか、甲第1号証、第2号証)。
(2)  被告は、父であるBを代理人として、平成13年1月1日、a社との間で、a社被告間契約を締結した(甲第3号証、弁論の全趣旨)。
(3)  a社は、平成20年3月31日、原告との間で、a社が被告を含むタレントらとの間で締結している所属契約についてのa社の契約上の地位を、同年4月1日をもって原告に移転する旨の契約(以下「本件移転契約」という。)を締結した。
a社は、そのころ、原告とa社が業務を統合したと発表した(以上について、甲第4号証、第25号証)。
(4)  被告は、平成21年5月29日ころ、原告に対し、原告と被告との間のタレント業務マネジメントに関する契約を、同年12月31日をもって解除する旨の通知を送付した(乙第4号証、弁論の全趣旨)。
被告は、平成21年6月11日、上記の解除通知を撤回する旨の書面に署名し、これを交付した(甲第9号証)。
被告は、平成22年11月26日、原告に対し、原告との間の契約を、同年12月31日をもって終了させる旨の通知を送付した(争いのない事実のほか、甲第8号証)。
(5)  東京地方検察庁は、平成21年8月25日、Aを法人税法違反容疑で逮捕し、同年9月15日、A及びa社を法人税法違反の罪で東京地方裁判所に起訴した。
a社とAは、平成22年3月5日、架空の契約書を作成して関連会社からタレントの紹介や移籍を受けたように装い、所属タレントのテレビ出演料等を関連会社に付け替えるなどして、3年間で得た約11億5900万円の所得を秘匿し、約3億4500万円を脱税したとして、法人税法違反により有罪判決(a社につき罰金8500万円、Aにつき懲役2年6月執行猶予5年)を受けた(以上について、甲第40号証の1から4まで、第41号証の1及び2、乙第6号証、弁論の全趣旨)。
(6)  本件に関連する事件は以下のとおりである。
ア 被告は、平成22年12月2日ころ、原告に対し、原告と被告の間に被告の活動を拘束する内容の労働契約が、平成23年1月1日以降存在しないことの確認を求める労働審判手続の申立てを当庁にした(甲第57号証)。
イ 被告は、原告に対し、原告が被告との間の契約関係が継続していることを前提とする業務命令等や人格的利益を侵害する行為の禁止を求める仮処分を当庁に申し立てた(当庁平成23年ヨ第21022号 地位保全仮処分命令申立事件)。
東京地方裁判所は、平成23年7月4日、被告の申立てを一部認容し、が被告に対して業務命令をする行為等を禁止する旨の仮処分決定をした(以上について、乙第5号証)。
ウ 原告は、被告に対し、被告が原告の承諾なくテレビ等に出演することの禁止を求める仮処分を申し立てた(当庁平成23年ヨ第21084号 芸能活動等禁止仮処分命令申立事件)。
東京地方裁判所は、平成23年10月31日、原告の申立てを却下する旨の決定をした。
これに対し、原告が、即時抗告をしたが、東京高等裁判所は、平成24年8月13日、抗告を棄却する旨の決定をした(同庁平成23年ラ第2184号 芸能活動等禁止仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件。以上について、乙第6号証、第7号証)。
2  本件の争点は以下のとおりである。
(1)  原告と被告の契約関係(争点1)
(2)  原告と被告の間の契約の解除の成否(争点2)
(3)  損害及び相当因果関係(争点3)
第3  争点に関する当事者の主張
1  争点1(原告と被告の契約関係)に関し
(1)  原告の主張
被告は、以下のとおり、a社から原告に移籍することについて同意又は追認しており、a社被告間契約がそのまま原告との間で承継されている。また、仮に移籍についての同意又は追認が認められないとしても、原告と被告との間には黙示的に新たな契約が成立している。
ア a社から原告への移籍に同意していること(主位的主張)被告は、以下の各事情から、a社から原告に移籍することについて同意しており、a社被告間契約がそのまま原告との間に承継されている。a社被告間契約は、契約解除の意思表示をしない限り平成13年1月1日から3年毎に自動更新されることになっており、平成16年1月1日、平成19年1月1日、平成22年1月1日に更新されているから、平成25年1月1日までが契約期間となる。
(ア) Aは、被告に対し、a社から原告へ移籍することについて説明をし、被告は異議なく承諾した。そして、被告が原告への移籍を承諾したことを明らかにするために「株式会社X所属タレント」と題する書類に、被告の住所、月額報酬額、氏名を自筆で記載してもらった(甲第5号証)。
(イ) a社から、被告への報酬の支払は、被告の銀行口座への振込で行われていた。本件移転契約締結以降は、原告が、原告の名で、被告に対して報酬の支払を行っていた。しかし、被告から、一切異議や疑問を出されたことはなかった。
(ウ) a社と原告は、実質的には同一であり、その処遇にも変化がないのであるから、被告が移籍について同意しない理由がない。被告以外のa社所属タレントは全員、原告への移籍に同意している。
(エ) 平成20年4月8日、被告の代理人弁護士がa社に対し、a社被告間契約の契約書の交付を求め、a社は、被告の代理人弁護士に対し、契約書の写しを交付したものの、被告の代理人弁護士から契約条件の変更を求められなかった。
(オ) 被告は、契約の終了通知又は解除通知を、a社ではなく原告に対して行っており、原告への移籍を前提とした行動をとっている。
(カ) 被告が移籍について同意していないことを主張するようになったのは、労働審判事件の後に申し立てた仮処分命令申立事件からであり、被告は、原告への移籍を認識し同意していたといえる。
(キ) 被告は、平成21年11月21日、Aの刑事裁判において、嘆願書を提出しており、そこには、原告所属タレントであることが明確に記載されている。したがって、被告は原告への移籍を認識し同意していた。
イ 移籍を追認していること(予備的主張1)
上記アの各事情に加え、平成21年1月13日以降、a社の脱税事件が広く報道され、その結果、原告が設立され、被告がa社から原告に移籍していること及びa社の社名がX社ではなくa1社に変更されていることについて、被告及び被告の代理人弁護士は認識しながら、以後、原告に対し、仮処分事件で主張するまで、移籍に同意していない等の異議を一切述べていないのであるから、遅くとも、被告が、原告に対し契約を終了する旨の通知を行った平成21年5月29日ころ、被告は原告への移籍を追認したというべきである。
原告と被告の間の契約の契約期間は、上記アと同様に、平成25年1月1日までである。
ウ 黙示的に契約が成立していること(予備的主張2)
(ア) 被告は、平成20年4月以降、原告の下でタレント活動を行い、原告から高額の報酬を得ていたのであるから、原告と被告との間には、黙示的な契約関係が成立している。
(イ) a社と被告の間の契約書を、平成20年5月16日、被告の代理人弁護士が受領しながら、その後、被告及び被告の代理人弁護士は報酬の増額やその節税方法について要求を出しただけで、契約書に記載されている他の契約内容についてなんら異議や要求をせずに、契約書の内容にしたがって原告の下でタレント活動を行っていたのであるから、原告と被告間に成立した契約の内容は、a社被告間契約の内容と同一である。
(ウ) 仮に、原告と被告との間の契約の内容がa社被告間契約の内容と同一ではなかったとしても、契約期間が3年間であること、契約を解除する場合は6か月前までに原告に通知すること、契約が終了した場合契約期間中に出演を予定していた出演業務については契約終了後も出演すること、契約期間中は他社を通じてのテレビ等への出演が禁止されていること及び契約期間中被告の出演によって制作された著作物、商品等に関する著作権等の権利が原告に帰属することは、芸能プロダクションである原告にとって枢要であり、これらは新たに成立した契約の内容となっている。
(エ) 上記で成立した原告と被告の間の契約の契約期間は、被告の代理人弁護士がa社被告間契約の契約書を受領した平成20年5月16日から3年間である平成23年5月16日までである。
(2)  被告の主張
ア 前記(1)ア及びイの原告の主張に対し
以下のとおり、被告はa社から原告への移籍について、同意も追認もしたことはなく、原告と被告との間には新たな契約が成立している。
(ア) 原告が甲第5号証として提出する「株式会社X所属タレント」と題する書面に被告が署名した際には、「株式会社X所属タレント」との表題は記載されておらず、当該表題は被告の署名後に事後的に印字をしたものであって、同号証は被告が原告への移籍に同意をした書面ではない。
また、原告は、a社の契約上の地位を原告に対して移転することに同意するとの文言を明確に記載した書面を用意することはなかった。
(イ) 被告はa社から「株式会社X」に社名が変更されるだけであると説明を受けていたため、原告名義での給料の支払や、被告の父との間の契約書の名義が原告であることに疑問を持つはずがなく、これらが原告名義であることをもって移籍について同意をしたことにはならない。
(ウ) 被告の代理人弁護士は、被告から事務所を辞めたいという相談を受けたが、被告が契約書を有していなかったため、a社に対し、契約関係が明らかになるものの交付を求めたところ、原告の代理人弁護士からa社名義の回答書が届いたが、本件移転契約に被告が同意したこと、a社と被告との間には契約が存在しないこと、契約関係が原告と被告との間に存在することなどは記載されていなかった。
平成20年3月31日に、a社被告間契約の契約上の地位がa社から原告へ移転していたとすれば、同日以降、原告の代理人弁護士は被告の代理人弁護士に対してa社被告間契約の契約上の地位の移転に関する説明を行うのが当然であるし、地位の移転元であるa社名義の書面を送付するはずがない。また、Aが被告に対して本件移転契約に関して説明をしていたのであれば、被告は、被告の代理人弁護士に対して、a社被告間契約の契約書の写しの交付を求めることについて相談したはずであるが、そのような相談を被告代理人弁護士は受けたことはない。
これらによれば、被告は、Aから本件移転契約の内容について説明を受けておらず、移籍に承諾したこともない。
(エ) 被告は何度もa社をやめたいと思っていたことに加えて、a社被告間契約には、被告に一方的に不利な内容が記載されていたのであるから、被告は本件移転契約に伴い、契約条件の見直しの機会があることを知っていたのであれば、不利な条件をそのまま受け入れることはなかった。
(オ) 被告が、被告とa社間の契約書を入手してから直ちにa社に対して契約終了を通知しなかったのは、既存の仕事との関係等諸事情を考慮し、契約条件の見直しや解除を一時的に見合わせたにすぎない。
(カ) Aの脱税の刑事事件に関し、寛大な量刑を嘆願する書面に「株式会社Xに所属するタレントである」旨書いてあることをもって、被告が原告への移籍を了承していたことにはならない。
イ 上記アの場合の原告被告間の契約内容及び前記(1)ウの原告の主張に対し
原告と被告との間の契約関係は、a社とは別個に新たに成立したものである。その具体的内容は以下のとおりである。
(ア) 原告と被告との間の契約は、原告と被告が両者間の契約の内容として明確に認識していた内容、すなわち、被告が原告から給与を受け取り、労務を提供するという単純な雇用契約であって、期間の定めのない雇用契約である。
(イ) 仮にa社被告間契約の内容の一部が原告と被告との間でも承継されているとしても、それは、被告において契約内容を明確に認識し、かつ、それが原告に承継されることに異議がないと考えられる部分のみであって、契約の存続期間に関する条項など、被告にとって不利益な内容は、原告との間の契約内容として追認されていない。
2  争点2(原告と被告の間の契約の解除の成否)に関し
(1)  被告の主張
ア a社被告間契約が原告に承継されておらず、原告と被告の間の契約が別個新たに成立した契約である場合
原告と被告の間の契約関係は、a社被告間契約とは別個の、新たに成立した期間の定めのない雇用契約であって、民法627条1項により、いつでも解約することができる。
イ 原告と被告の間の契約がa社被告間契約の枢要部分を承継したものである場合
(ア) 原告と被告の間の契約が期間の定めのない雇用契約である場合
この場合、被告は、民法627条に基づき、原告と被告の間の契約をいつでも解約することができる。
(イ) 原告と被告の間の契約が期間の定めのない無名契約である場合
① 原告と被告の間の契約は、労働契約の性質と、委任契約、請負契約の性質が混合した無名契約であり、その中でも比較的労働契約性の高い類型の契約であって、民法627条1項、651条1項に基づき、いつでも解約又は解除することができる。
② 仮に、請負契約の性質が混合していることにより、当該契約を被告側から解除するに際し、何らかの制限が加えられるとしても、以下の事情から、解除の正当性が認められる。
a 被告は、平成22年11月26日、原告に対し、約1か月の予告期間を設けて契約終了を通知している。
また、被告は、平成21年5月29日、原告に対し、約7か月という長期の予告期間を設けて一度a社被告間契約の終了を通知していることから、契約終了にあたり相当の予告期間を設けている。
b 平成22年11月26日付け契約終了通知により、同年12月31日をもって原告と被告の間の契約は終了しており、被告は、平成23年1月1日以降に原告の指揮命令に従って業務を行う必要はなかった。しかしながら、原告から連絡を受けた業務については、これまで世話になったスポンサー等に迷惑をかけないよう、断ることなく業務を遂行した。これについて給与の支払を受けることなく無償で行ったため、原告に多額の利益をもたらしている。
c a社及びAが脱税により有罪判決を受けたことから、a社と被告との間の信頼関係は破壊されていた。
d 以下のとおり、a社又は原告は、被告に無断で又は虚偽の説明をして、被告の意に反する業務を強制しており、原告被告間の信頼関係は破壊されていた。
(a) 勝手に被告の名前を用いた「焼肉○○」を開店された。
(b) 被告がプロデュースをしていないにも関わらず、被告プロデュースと呼ばれる製品がある。
(c) a社や原告から、長い間、結婚させないと言われ続け、Aから、妊娠したら階段から突き落とすと脅かされた。
(d) 水着の上にエプロンを着て撮影された写真が、Aの了解の下、かつ被告の承諾なく、水着が消されて裸にエプロンを着たような写真として加工され、写真集として出版された。
e 被告が、原告の下で、業務を継続していたのは、信頼関係が破壊された状態が治癒されたからではない。
ウ 原告と被告の間の契約がa社被告間契約の全部を承継したものである場合
(ア) 労働基準法附則137条に基づく解除
労働基準法附則137条は、期間の定めのある労働契約を締結した労働者は、労働基準法の一部を改正する法律(平成15年法律第104号)附則3条に規定する措置が講じられるまでの間、民法628条の規定にかかわらず、労働契約の期間の初日から1年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができると定めている。
このため、a社被告間契約の締結日から既に1年以上経過している本件においては、民法628条に優先して労働基準法附則137条が適用され、原告と被告の間の契約は、やむを得ない事由なくして解除が可能である。
(イ) 解除に何らかの制限があるとしても、上記イ(イ)②のとおり、正当な理由に基づく解除であると認められる。
(2)  原告の主張
原告と被告の間では、a社被告間契約が承継されており、同契約の自動更新条項によって、契約期間が更新されている。そして、被告が契約期間中に自己都合により解除することは認められていないから、被告の平成22年11月26日付け契約終了通知は無効である。
また、以下の理由から、信頼関係破壊を理由とする解除も認められないというべきである。
ア a社の脱税事件は、原告の事件ではなく、また、直ちにタレントに影響を及ぼすものではなく、実際に被告の活動に影響が出ることはなかった。
被告は、Aの脱税の刑事事件の際に、裁判所に対して寛大な量刑を求める嘆願書を提出しているほか、脱税事件後に原告との間で報酬についての交渉をしており、解除通知にも解除原因として脱税事件の記載はない。
これらの事情から、被告は脱税事件について意に介していなかったといえ、脱税事件により信頼関係が破壊されていたとはいえない。
イ 前記(1)イdの被告の主張に関し
(ア) 「焼肉○○」については、平成21年12月、●●のnホテルで、プロデューサーであったCが、被告に対して説明を行い、名前の使用について承諾を得ている。
被告又は被告の代理人弁護士から焼肉店の店名に被告の氏名を使用することを中止してほしい旨の正式な申し入れはなく、被告は、原告からの報酬額や節税方法を気にしていた。
また、被告の氏名使用は、原告又は第三者が企画した広告宣伝活動であり、被告の芸名に関する一切の権利は原告に帰属しているから、原告が焼肉チェーンに被告の芸名の使用を許諾したからといって、問題とはならない。
(イ) Yプロデュースとなっていて、プロデュースという言葉はその概念が広く、消費者に偽りを述べたことにならない。被告から、販売を中止することを申し入れられたこともない。
(ウ) Aは、被告に対し、結婚させない、妊娠したら階段から突き落とすなどとは言っていない。
被告又は被告の代理人弁護士から、Aの言動について抗議を受けたり、撤回を求められたり、謝罪を求められたりしたことは、全くない。
3  争点3(損害及び相当因果関係)について
(1)  原告の主張
ア 主位的主張
被告は、平成23年4月以降、以下のとおり、原告の指示に基づく芸能活動を拒否し、原告を介することなく独自に芸能活動を行い、これによって原告に損害を与えた。
(ア) 出演拒否による損害
① △△番組
原告は、株式会社bとの間で、「△△番組」への被告の出演契約を締結していたところ、被告は、平成23年7月ころ、b社に対して、出演料を直接被告に支払うよう要求し、原告に以下の損害が生じた。
a 平成23年8月から平成24年9月までに、直接被告に支払われた出演料合計616万円(22万円×28回)
b 平成24年10月から期間満了直前の同年12月までの推定出演料合計132万円(22万円×6回)
② □□番組
原告は、c株式会社との間で、「□□番組」への被告の出演契約を締結していたところ、被告は、平成23年7月ころ、c社に対して、出演料を直接被告に支払うよう要求し、原告に以下の損害が生じた。
a 平成23年8月から平成24年8月までに、直接被告に支払われた出演料合計260万円(20万円×13回)
b 平成24年9月から期間満了直前の同年12月までの推定出演料合計80万円(20万円×4回)
(イ) 更新不能等による損害
① d株式会社(以下「d社」という。)
平成22年2月5日、d社との間で、被告出演の広告契約を締結し、さらに平成23年3月31日、契約存続期間を平成24年11月18日までとし、平成23年9月1日以降はd社からの通知により契約を解除できることとした。
被告が、平成23年4月以降、原告と被告の間の契約上の債務を履行しなかったことにより、原告は、d社から、平成24年11月18日をもって広告契約を解除するとの通知を受けた。被告の不履行がなければ平成25年11月18日までの期間、契約が継続するはずであった。
契約が存続していれば得られたであろう12か月分の利益2255万0004円から、原告と被告の間の契約の期間満了後の平成25年1月以降の11か月分の被告の出演料1033万5418円を控除した、1221万4586円が原告の損害である。
② 株式会社e(以下「e社」という。)
平成20年4月ころ、e社との間で、「焼肉○○」及び「焼肉○○弁当(m店)」について、被告のキャラクター及び名称の使用許諾の専属契約を締結した。この契約は、毎年自動更新されており、平成25年3月31日までは有効であった。
平成23年4月以降、被告がe社に対して、直接、ロイヤリティの支払を要求するなどの行為に出たことにより、原告は、平成24年6月以降のロイヤリティの支払を受けられていない。
したがって、平成24年6月から平成25年3月までの10か月分のロイヤリティ合計745万1580円が原告の損害である。
③ 株式会社f(以下「f社」という。)
原告は、平成16年11月4日、f社との間で、株式会社gの宣伝広告に出演する専属契約を締結し、以降自動更新がされていた。本来ならば、同契約は、平成23年11月2日に更に2年間更新されるはずであったが、被告からの申入れにより、直接被告がf社との間で契約を締結したため、原告とf社の間の契約は更新されなかった。
したがって、2年間の間の原告の得べかりし利益である契約料約2年間分3700万円、コマーシャル出演料185万円、スチール写真出演料185万円の合計4070万円から、原告と被告の間の契約が満了する平成25年1月1日以降の被告の出演料に相当する92万5000円を控除した合計3977万5000円が原告の損害である。
④ 株式会社h(以下「h社」という。)
原告は、平成21年8月19日、h社との間で、被告をイメージキャラクターとして宣伝広告に利用する契約を締結し、同契約は、平成22年8月18日に期間1年で更新された。しかし、h社は、平成23年8月18日以降の契約に関し、被告との係争を理由に更新を拒絶した。
被告の行為がなければ、平成23年8月及び平成24年8月の契約更新は可能であったから、原告の損害額は使用許諾料年2000万円の2年分の4000万円である。
⑤ 株式会社i(以下「i社」という。)
原告は、平成22年3月1日、i社との間で、被告が同社の広告宣伝へ出演する旨の専属契約を締結した。契約期間は同年4月1日から1年間で、契約料は1000万円であった。
平成23年4月、同契約が更新されたが、被告との係争により契約料が900万円となり、平成24年4月からの契約更新はされなかった。
平成23年の契約料減額分100万円と、平成24年分の契約料1000万円の合計1100万円が原告の損害である。
また、契約期間1年中1回は出演行為をすることとされており、出演料は255万円であるから、510万円(2年分)が原告の得べかりし利益であるところ、原告と被告との契約が平成25年1月1日に失効することから、最終年分からその半額である127万5000円を控除した、382万5000円も原告の損害である。
これらの合計は1482万5000円となる。
⑥ 株式会社j
原告は、平成19年11月1日、j社との間で、コンテンツ配信に関する契約を締結し、その契約期間は1年間、出演料は月額80万円であった。
また、原告とj社は、特定のウェブサイトに掲載するコンテンツの作製を委託する旨の業務委託契約を締結し、その契約期間は平成22年6月1日から平成23年5月31日まで、出演料は月額190万円であった。この契約は、上記コンテンツ配信に関する契約の従たる契約である。
いずれの契約も、少なくとも平成25年10月までの更新が見込まれたところ、被告が業務の履行を拒絶したため、j社は、平成23年7月31日をもって、コンテンツ配信に関する契約を解除し、これにともない業務委託契約も解除した。
この解除により、原告には以下の損害が生じている。
a コンテンツ配信に関する契約に関する損害
平成23年8月から同年10月までの3か月分の出演料合計240万円(80万円×3)
契約が更新されなかったことによる、平成23年11月から平成25年10月までの24か月分の出演料合計1920万円(80万円×24)
合計 2160万円
b 業務委託契約に関する損害
平成23年4月から同年7月までの4か月分の出演料が、被告の出演拒否により支払われなかったことによる損害760万円(190万円×4)
解除により支払われないことになった平成23年8月から平成24年5月までの10か月分の出演料合計1900万円(190万円×10)
契約が更新されなかったことによる、平成24年6月から平成25年10月までの17か月分の出演料合計3230万円(190万円×17)。ただし、原告被告間の契約期間満了の平成25年1月から同年10月までの10か月分については、被告の出演料相当額として950万円を控除する。
これらの合計は4940万円である。
⑦ 株式会社k(以下「k社」という。)原告は、平成18年6月15日、k社との間で、香水などの宣伝に被告が出演する契約を締結した。契約期間は、平成18年7月1日から平成19年6月30日までであり、契約金は850万円であった。
上記契約は、平成23年3月23日に、同年7月1日を始期として1年間契約が更新されたが、被告との係争を理由として契約金は700万円とされ、差額である150万円が損害である。
また、被告との係争を理由として、平成24年7月の契約更新ができなかったことによる契約金850万円も損害である。
これらの合計は1000万円となる。
(ウ) 無断出演による損害
被告は、平成23年4月以降、別紙「無断出演行為一覧表」記載のとおり、原告に無断で出演をした。
これらの出演行為は原告を介して行うべき行為であって、原告を排除して直接出演することにより、被告は出演料を受領していることから、原告の受け得たはずの金額と同額の損害を原告に与えている。その損害額は、別紙「無断出演行為一覧表」の「損害額」欄に記載のとおりであり、合計1億2574万円である。
(エ) 信用失墜による損害
被告は、平成23年4月以降、原告からの指示を一切拒否するようになった。被告が、原告が出演契約を締結していた会社と同業の他社への出演行為により、原告が契約を締結していた会社との競合が生じるなどして、原告の信用は失墜した。
信用失墜による原告の損害は、少なくとも3000万円を下らない。
(オ) 損害総額
原告の被った損害は、(ア)から(エ)までの合計額3億6188万6166円であるところ、これから被告に支払うべき報酬、経費等合計9940万円を控除した金額である2億6248万6166円が損害である。
イ 予備的主張1
被告の平成22年11月29日付け解除通知は無効であるが、仮に通知後6か月を経過した平成23年5月29日をもって同解除の効力が発生した場合の損害は、以下のとおりである。
(ア) j社に関する損害
① コンテンツ配信に関する契約に関する損害
平成23年8月から同年10月までの3か月分の出演料240万円(80万円×3)
② 業務委託契約に関する損害
平成23年5月の契約更新は有効であるが、平成24年5月の更新は無効となるため、j社の未払分平成23年4月から平成24年5月までの14か月分について、190万円×14の2660万円から被告の出演料となる半額を控除した1330万円が損害となる。
(イ) 無断出演による損害
別紙「無断出演行為一覧表」記載の無断出演行為のうち、平成23年5月29日までの無断出演分合計6300万円
(ウ) 信用失墜による損害
前記ア(エ)と同様に、3000万円を下らない。
(エ) 損害総額
原告の被った損害は、(ア)から(ウ)までの合計額1億0870万円から、被告に支払うべき報酬及び諸経費等合計2137万4000円を控除した8732万6000円である。
ウ 予備的主張2
原告と被告の間の契約が平成22年12月31日で終了している場合の損害及び平成22年11月26日付けの解除通知受領後に、契約期間外となる更新等を不可とした場合の損害は、以下のとおりである。
(ア) d社に関する損害
原告とd社との間の平成23年3月31日の覚書による契約内容の変更が、原告と被告の間の契約終了により無権限の合意として無効であるとすると、契約期間は平成25年2月下旬までとなる。
被告が平成23年4月以降、原告と被告の間の契約上の債務を履行しなかったことにより、d社との契約は平成24年11月18日に解除されたが、上記より、平成24年11月19日から平成25年2月下旬までの3か月分の利益が得べかりし利益として損害になる。
したがって、出演料月額375万8334円の3か月分×50パーセントから、被告の出演料相当額2分の1を控除した281万8750円が損害となる。
(イ) j社に関する損害
① コンテンツ配信に関する契約に関する損害
平成23年8月から同年10月までの3か月分の出演料240万円(80万円×3)
② 業務委託契約に関する損害
平成23年5月の契約更新は無効であるから、存続期間は同年5月末日までとなる。j社の未払いは2か月分であり、合計380万円から、被告の出演料となる半額を控除した190万円が損害となる。
(ウ) 信用失墜による損害
前記ア(エ)と同様に、3000万円を下らない。
(エ) 損害総額
原告の被った損害は、上記(ア)から(ウ)までの合3711万8750円から、被告に支払うべき報酬及び諸経費等合計74万2375円を控除した3637万6375円である。
(2)  被告の主張
ア 原告の主位的主張に対し
(ア) 出演拒否に関する損害
① △△番組
平成23年8月から平成24年9月まで、被告に直接出演料が支払われていることは認める。
しかし、原告と被告の間の契約の解除が有効である以上、平成23年1月以降、そもそも被告に出演義務はなく、また、解除前に出演が予定されていた期間については迷惑をかけないために出演しており、いずれにしても原告主張の損害はない。
② □□番組
平成23年8月から平成24年8月まで、被告に直接出演料が支払われていることは認める。
しかし、解除が有効である以上、平成23年1月以降、そもそも被告に出演義務はなく、また、解除前に出演が予定されていた期間については迷惑をかけないために出演しており、いずれにしても原告主張の損害はない。
(イ) 更新不能に関する損害
① d社
解除が有効である以上、平成23年1月以降についてそもそも被告に出演義務はなく、また、解除前に予定されていた業務については迷惑をかけないために行っており、いずれにしても原告主張の損害はない。
なお、企業広告にどのようなタレントを起用するかは、売り出す商品やタレントの人気に左右されるものであって、原告の主張する契約更新に対する期待権は法的に保護されるものではない。
② e社
解除が有効である以上、平成23年1月以降についてそもそも被告に出演義務はなく、また、解除前に出演が予定されていた期間については迷惑をかけないために出演しており、いずれにしても原告主張の損害はない。
なお、「焼肉○○」は、平成23年9月までに閉店しているので、同年10月以降のロイヤリティが発生する余地はない。
③ f社
解除が有効である以上、平成23年1月以降についてそもそも被告に出演義務はなく、また、解除前に出演が予定されていた期間については迷惑をかけないために出演しており、いずれにしても原告主張の損害はない。
なお、原告は平成25年1月1日以降の被告の出演料相当額として、1年分の出演料185万円の50パーセントを控除しているが、原告の主張を前提としても、同日以降、被告に出演義務はないのであって、全額控除されるはずである。
④ h社
解除が有効である以上、平成23年1月以降についてそもそも被告に出演義務はなく、また、解除前に予定されていた業務については迷惑をかけないために行っており、いずれにしても原告主張の損害はない。
なお、企業広告にどのようなタレントを起用するかは、売り出す商品やタレントの人気に左右されるものであって、原告の主張する契約更新に対する期待権は法的に保護されるものではない。
特に、h社との契約は自動更新条項ではなく、当事者間の合意が成立した場合にのみ更新されるものであるから、法的保護に値しない。
⑤ i社
解除が有効である以上、平成23年1月以降についてそもそも被告に出演義務はなく、また、解除前に予定されていた業務については迷惑を掛けないために行っており、いずれにしても原告主張の損害はない。
なお、企業広告にどのようなタレントを起用するかは、売り出す商品やタレントの人気に左右されるものであって、原告の主張する契約更新に対する期待権は法的に保護されるものではない。
特に、i社との契約には、更新に関する条項は何ら存在しないのであって、この点からも更新に関する期待など一切存在しない。
⑥ j社
解除が有効である以上、平成23年1月以降についてそもそも被告に出演義務はない。また、解除前に予定されていた業務については迷惑をかけないために行っており、実際、被告は、同年4月27日までj社が配信するポッドキャストに出演し、同年10月31日までブログの更新を行っていた。
したがって、原告主張の損害はない。
⑦ k社
解除が有効である以上、平成23年1月以降についてそもそも被告に出演義務はなく、また、解除前に予定されていた業務については迷惑をかけないために行う旨申し出ており、いずれにしても原告主張の損害はない。
(ウ) 無断出演による損害
原告と被告の間の契約の解除が有効である以上、平成23年1月以降、被告がイベント等への出演するに際し、原告の承諾を得る必要は一切なく、義務の不履行はない。
(エ) 信用失墜による損害
否認する。
イ 原告の予備的主張1に対し
(ア) j社に関する損害
原告と被告の間の契約は、平成22年12月31日をもって終了しており、そもそも被告には、平成23年1月1日以降、原告がクライアントとの間で締結した契約に関し、出演する義務はない。
被告が法律上認められている解除権を適法に行使して契約関係を終了させている以上、被告が原告に対して損害賠償債務を負担する理由はない。
(イ) 無断出演による損害
前記ア(ウ)と同様である。
(ウ) 信用失墜による損害
否認する。
ウ 原告の予備的主張2に対し
(ア) d社に関する損害
被告は、法律上認められている解除権を行使して適法に原告との間の契約関係を終了させている以上、被告が原告に対し損害賠償債務を負担する理由はない。
(イ) j社に関する損害
原告と被告の間の契約は、平成22年12月31日をもって終了しており、そもそも被告には、平成23年1月1日以降、原告がクライアントとの間で締結した契約に関し、出演する義務はない。
被告が法律上認められている解除権を適法に行使して契約関係を終了させている以上、被告が原告に対して損害賠償債務を負担する理由はない。
(ウ) 信用失墜による損害
否認する。
第4  当裁判所の判断
1  認められる事実
前記第2、1の前提事実ならびに後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1)  a社被告間契約について
被告は、父であるBを代理人として、平成13年1月1日、a社との間で、以下のとおりの内容のa社被告間契約を締結した(前記第2、1の前提事実(2)、甲第3号証)。
ア 業務内容(第1条、第2条)
被告は、契約期間中、a社のためのみ、以下の業務を行う。
また、a社は被告の代理人である。
(ア) a社の提供するレッスンを技能の習得のために受けること
(イ) テレビ等の媒体にタレント等として出演すること
(ウ) a社又は第三者が企画した出演業務、広告宣伝活動に従事すること
(エ) 被告の行う歌唱、演技、舞踏その他の実録の録音、録画、放送の一切の利用について、a社に独占許諾し、その行使はa社に一任すること
(オ) 上記(ア)から(エ)までのほか、芸能活動とa社がみなす全ての業務
イ 契約期間(第3条)
平成13年1月1日から平成16年1月1日まで
ウ 出演の拘束(第6条)
被告は、契約期間中、前記アの業務及びそれに類似、付随するものへの出演に関して、a社に完全に拘束される。
エ 報酬(第4条)
a社は、被告に対し、業務に対する報酬を支払う。
また、a社は、1年経過するごとに被告の報酬変更を行うことができる。その金額は被告の業績、知名度、稼働年数等により、a社が定める。
オ 芸名及び著作権等に関する権利(第3条、第5条)
被告の出演によって制作された著作物その他のものに関する著作権その他の権利はa社に帰属する。被告が、業務を行う際に用いる芸名に関する一切の権利はa社に帰属する。
カ 契約の更新(第7条)
(ア) a社は、契約終了までに被告に申し入れ、a社被告間契約を第三者に優先して更新することができる。前記イ(第3条)に定める契約期間が満了した場合は、一方が契約解除の意思表示をしない限り、同契約が同一期間、自動更新される。
(イ) 契約解除の意思表示は期間満了の6か月前までに相手方に通知する。
(ウ) 被告が契約解除の意思表示をした場合でも、a社は、a社被告間契約の存続期間を通じ1回限り第3条の期間と同一期間の延長を求めることができる。その場合、契約解除の意思表示を認知後1か月以内に書面にて行う。
キ 契約の解除(第8条)
a社被告間契約の契約期間中、被告が次に掲げるいずれか一つに該当する行為をした場合、a社は契約を解除し、その被った損害の賠償を請求することができる。
(ア) 社会的信用の失墜をきたすような行為を行った場合
(イ) a社の企業イメージが被告により損なわれた場合
(ウ) 被告の責に帰すべき事由により被告の出演が不可能となった場合
(エ) 被告が、髪型など外見の変更を、a社にその旨を告知せずに行い、a社と被告の双方のイメージが損なわれた場合
(オ) a社被告間契約に違反した場合。その他a社被告間契約の履行に支障をきたす行為を行った場合
(カ) 被告の健康上の理由により、業務が不可能、困難な場合
(2)  a社から原告へのタレント移籍に関する事実
a社は、平成20年3月31日、原告との間で、a社が被告を含むタレントらとの間で締結している所属契約についてのa社の契約上の地位を、同年4月1日をもって、原告に移転する旨の本件移転契約を締結した。本件移転契約において、a社は、タレントらから契約上の地位の移転について同意を取得するものとされている(前提事実(3)、甲第4号証)。
また、a社及び原告は、同日ころ、連名で「社名変更及び合併のお知らせ」と題する書面を、a社の取引先である会社等に送付した。同書面には、a社が原告と業務統合し、新会社の社名がX社に変更となり代表取締役が変更となることが記載されている(甲第24号証、原告代表者本人)。
被告は、平成20年4月下旬ころ、「株式会社X所属タレント」と記載された書面に、被告の住所、月額給与、連絡先、氏名を記載し、印鑑欄に氏をサインした。a社に所属していた被告以外のタレントらも、同様の書式に上記各内容を記載した(甲第5号証、甲第17号証の1から38まで、第26号証の1から39まで、原告代表者本人、被告本人)。
(3)  被告が契約書の写しの交付を求めた経緯
G弁護士は、被告の代理人として、平成20年4月7日、a社に対し、被告a社間契約の契約書の写しを送付することを求めた。
これに対し、E弁護士は、a社の代理人として、同月9日ころ、上記被告からの契約書写しの送付の要求については応じかねる旨回答をした。
G弁護士は、同年5月12日、E弁護士に対し、再度、被告a社間の契約書の写しの送付を求めた。
E弁護士は、a社の代理人として、同月13日ころ、G弁護士に対し、被告本人からAに対する直接の接触は避けてもらいたい旨及び現状では写しを交付することはできない旨回答した。
G弁護士は、同月14日、E弁護士に対し、再度契約書の写しを送付するよう求めたところ、同月16日、E弁護士は、G弁護士に対し、契約書の写しを送付した(以上について、甲第14号証の1及び2、第18号証から第22号証まで、乙第8号証から第12号証まで)。
(4)  Aの逮捕等に関する事実
ア 東京国税局は、平成20年2月ころ、a社に対して査察を行った(甲第39号証の1)。
イ 日本経済新聞、読売新聞、朝日新聞及び毎日新聞は、平成21年1月13日、東京国税局が、東京地方検察庁に対し、a社及び同社の代表者であったAを法人税法違反容疑で告発したと報道した(甲第39号証の1から4まで)。
ウ 東京地方検察庁は、平成21年8月25日、Aを法人税法違反容疑で逮捕した。これを報じる同月26日の読売新聞及び毎日新聞の記事中には、a社に所属していた被告を含むタレントらは、東京国税局の査察後の平成20年3月、同月に設立された別会社に移籍している旨の記載がある(甲第40号証の1から4まで)。
エ 東京地方検察庁は、平成21年9月15日、A及びa社を法人税法違反の罪で東京地方裁判所に起訴した(甲第41号証の1及び2)。
オ 被告は、平成21年11月21日ころ、東京地方裁判所に対し、原告所属タレントとして、原告の営業代行をしているa社の社長のAが実刑判決を受けると被告の仕事に重大な支障が生じるので、Aに対し、寛大な量刑を求めるとの嘆願書を提出した(甲第13号証)。
カ a社とAは、平成22年3月5日、架空の契約書を作成して関連会社からタレントの紹介や移籍を受けたように装い、所属タレントのテレビ出演料等を関連会社に付け替えるなどして、3年間で得た約11億5900万円の所得を秘匿し、約3億4500万円を脱税したとして、法人税法違反により有罪判決(a社につき罰金8500万円、Aにつき懲役2年6月執行猶予5年)を受けた(前提事実(5)、乙第6号証、弁論の全趣旨)。
2  争点1(原告と被告の契約関係)について
(1)  a社は、前記1(2)のとおり、原告との間で、タレントらとの間の所属契約に係る契約上の地位の移転に関する本件移転契約を締結している。もっとも、タレント所属契約の契約上の地位の移転については、タレントにとっては、契約の相手方の変更にあたるから、一方当事者であるタレントの同意が必要であり、被告a社間契約についても、被告の同意がなければ、a社の契約上の地位が原告に移転することはないと解すべきである。
前記1(2)のとおり、被告は、「株式会社X所属タレント」と題する書面に署名をしたことが認められ、原告は、これをもって、上記の契約上の地位の移転に対する被告の同意であると主張するので、これについて検討する。
この点、被告は、平成20年4月下旬ころ、「株式会社X所属タレント」との題名は記載されていなかった旨供述するが(被告本人)、当時a社に所属していた他のタレントらも同様の書式により署名をしているところ(甲第17号証の1から38まで、第26号証の1から39まで)、それぞれ印刷がずれているなどの不自然な点も見当たらないから、「株式会社X所属タレント」との文言を後から印刷したと認めることはできない。
一方、Aは、東京国税局からの指導を受け、平成20年4月末頃、被告に対し、a社から原告へ移籍することを説明して、被告に上記「株式会社X所属タレント」と題する書面へ氏名等を記載させたと供述する(原告代表者本人)。
しかしながら、被告は、平成20年4月上旬から同年5月下旬にかけて、G弁護士を代理人として、a社に対し、a社被告間契約の契約書の写しの交付を求めていたのであり(前記1(3))、仮に、Aが被告に対し、a社から原告に移籍する旨の説明をしていたのであれば、被告はG弁護士にその旨伝えるはずであって、またそれを受けてG弁護士は原告に対して契約書の交付や契約内容の確認を求めるものと考えられるところ、そのような行動は一切とっていないことからすれば、当時、被告は、自身が原告に所属しているとの認識を有していなかったものと考えられ、被告に対し移籍の説明をしたとのAの上記供述は信用できない。
そして、上記「株式会社X所属タレント」と題する書面には、a社から原告への移籍について同意をする旨の記載はないのであるから、当該書面に被告が署名をしていることをもって、直ちに被告に移籍に同意する意思があったと認めることはできず、Aから契約上の地位の移転について説明がなかったとしても、a社に東京国税局の査察が行われるというような混乱状況の中で、被告が、a社が社名を改めたと認識するなどして「株式会社X」との文言に特段注意を払わないままこれに署名をした可能性も否定できないというべきである。
したがって、被告が、前記の書面に署名したことをもって、a社被告間契約の契約上の地位を原告に移転することに同意をしたと認めることはできない。
(2)  被告は、平成21年8月26日ころ、Aが逮捕されたことを報道記事で知った。Aの逮捕を報じた記事には、a社に所属するタレントは、a社から別会社(原告)へ移籍していたことが記載されていたことから(甲第40号証の1から4まで、被告本人)、被告は、このころ、自身を含むa社所属タレントが、別会社である原告へ移籍されていた事実についても認識をしたとみるべきである。
そして、被告は、上記のとおり原告への移籍の事実について認識をした後も、従前どおり、原告から業務の指示を受けて継続的に芸能活動を行い、報酬も原告から受け取っていた(弁論の全趣旨)。移籍の事実を認識した後に、a社との契約が原告に移転したことについて、被告が異議や苦情を述べたと認めるに足りる証拠はない。
そうだとすると、被告は、遅くとも、原告への移籍について認識をした平成21年8月26日ころから相当期間を経過したころまでには、a社被告間契約について、a社から原告への契約上の地位の移転を黙示に追認したと評価することができるというべきである。その結果、原告が、平成20年4月1日にa社から被告との間の契約上の地位を承継したことは、被告の追認により、被告との関係においても、同日に遡って効力を生じ、原告と被告の間には、a社被告間契約と同一の契約関係が生じるに至ったとみるべきである。
a社被告間契約は、前記1(1)カの自動更新条項に基づき、平成16年1月1日、平成19年1月1日の各経過時に順次更新された。a社被告間契約を承継した原告と被告の間の契約は、平成21年5月29日ころの被告の解除通知により同年12月31日に契約期間満了するところであったところ、同年6月11日に同解除通知が撤回されていることから(前提事実(4)、甲第9号証、乙第4号証、被告本人)、平成22年1月1日の経過時に再び自動更新がされ、契約期間は平成25年1月1日までとなっていた。
(3)  ところで、争点2(原告と被告の間の契約の解除の成否)について判断する前提として、原告と被告の間での契約、すなわち、a社被告間契約の法的性質が問題となる。
a社被告間契約の内容は前記第4、1 (1)の認定事実のとおりであるから、これを承継した原告と被告の間の契約についても、被告は、原告の指定したテレビ番組等への出演や広告宣伝活動を行わなければならず、かつ、他社を通じての芸能活動は禁じられ、また、被告の出演によって制作されたものについての著作権等はすべて原告に帰属することになっている。
このような被告のタレントとしての芸能活動の一切を原告に専属させる内容のタレント所属契約は、雇用、準委任又は請負などと類似する側面を有するものの、そのいずれとも異なる非典型契約の一種というべきである。
3  争点2(原告被告間の契約の解除の成否)について
(1)  被告は、原告と被告の間の契約が、a社被告間契約を承継したものである場合、これが雇用契約であることを前提として、労働基準法附則137条に基づき、いつでも解除することができる旨主張する。しかし、上記2(3)のとおり、原告と被告の間の契約は、雇用契約そのものではないから、期間の定めのある労働契約に関する同条をそのまま適用することはできないというべきである。
(2)  被告は、さらに、原告と被告の間の契約が雇用契約ではないとしても、正当な理由がある場合には解除が認められると主張する。
前記2(3)のとおり、原告と被告の間の契約は、契約期間中の芸能活動の一切が原告に専属し、被告が行う芸能活動のすべてが原告の指示に服するというものである。しかし、芸能活動は、単に使用者の指揮命令によって提供する労務と異なって、タレント自身の人格とも深く結びついた業務であり、タレントがそのような業務の一切を所属先に委ねるものである以上、原告と被告の間の契約のようなタレント専属契約においては、当事者間の信頼関係が極めて重要な意味を持つものといわなければならない。
そして、これを原告と被告の間の契約(a社被告間契約と同一)についてみると、契約上明文の定めがある被告が社会的信用の失墜をきたすような行為を行った場合その他被告の行為によって契約の存続が困難になった場合の原告の契約解除権(認定事実(1)キ)だけでなく、原告が社会的信用の失墜をきたすような行為を行うなど原告と被告の信頼関係を破壊するような事由が原告にある場合の被告による契約の将来に向かっての解除権についても、原告と被告の間の契約の合理的意思解釈により認められるというべきである。
被告の主張は、このことをいうものとして採用できる。
(3)  そこで、原告の行為によって原告と被告の間の信頼関係が破壊されたか否かについて判断する。なお、原告の設立から平成23年1月31日までの間、Aは原告の役員ではないが、原告はAが全額出資した会社であり、Aがその実質的経営者であったことは同人自身認めるところであるから(甲第28号証)、上記判断との関係ではAの行為をも原告の行為と評価することとする。
(4)  認定事実(4)ウのとおり、Aは、平成21年8月25日、法人税法違反容疑で逮捕され、被告はそれから相当期間経過後に、原告への移籍(a社から原告への契約上の地位の移転)を黙示に追認したものであるが(前記2(2))、そのころ以降、Aは、起訴により刑事被告人となり、懲役2年6月の有罪判決を受けるに至っている。しかも、その犯罪事実たる脱税の内容は、タレントの移籍を装うなどして約11億円もの所得隠しを行い、約3億4500万円を脱税した極めて悪質なものであった。
タレントにとって、その所属先の実質的経営者が、タレントの移籍等を装うことによる巨額の脱税で有罪判決を受けるということは、タレント自身のイメージにも大きく影響する事実であるというべきであり、本件においても、原告の実質的経営者であるAが悪質かつ巨額な脱税事件により有罪判決を受けたという事実は、被告にとって、被告のこれまで積み重ねてきたイメージを毀損しかねないものであり、以後、原告の下で芸能活動を続けていくことについて大きな不安を与える事実であったというべきである。
したがって、平成22年3月にAが有罪判決を受けた事実は、原告の行為により、原告と被告の間の信頼関係を破壊する大きな事情であるといえる。
なお、被告は、Aが有罪判決を受けた後も、原告の下で業務を遂行しているものの、原告に対する契約終了通知を出した平成22年11月26日までの間に、原告との間の信頼関係が回復したと認められる事情はなく、同日時点においても、なお原告との間の信頼関係は破壊された状態であったというべきである。
また、原告は、被告が、平成21年11月21日ころ、Aの刑事裁判について寛刑を求める嘆願書に署名をし、これを東京地方裁判所に対し提出したこと(認定事実(4)オ、甲第13号証、被告本人)をもって、被告は、脱税事件を意に介していなかったと主張するが、被告は、嘆願書に署名をしなければ、自分のせいでAが実刑となるかもしれないと考えたことから、やむを得ず署名をしたのであり(被告本人)、この事実によって、脱税事件によりAが有罪判決を受けたことが原告と被告の間の信頼関係を破壊したと評価することが妨げられるとはいえない。
(5)  被告は、平成22年11月26日付けの原告との契約終了の意思表示について、その他の正当事由があると主張するので、それらの事由が、原告と被告の間の契約について、原告と被告の間の信頼関係を破壊する事情となるかどうかについて検討する。
① 被告は、被告に無断で被告の名前を用いた焼肉店「焼肉○○」が開店されたことが、被告による契約終了の意思表示の正当事由の一つになると主張する。
証拠(甲第55号証、証人C、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、「焼肉○○」は、株式会社lが運営する焼肉チェーンであり、平成20年3月末ころに大阪に第1号店が出店されたこと、l社は、Aと面識のあったe社のCを介してa社から、被告の芸名の使用について許諾を得たことが認められる。
そして、a社が、焼肉チェーンの店名に被告の芸名を使用することについて、被告の承諾を得たか否かについては、Cは、平成19年12月にAの同席の下で被告に説明したというが(甲第55号証、証人C)、Aは、その事実を覚えていないと供述しており(原告代表者本人)、原告が、l社に被告の芸名を使用させることについて、「焼肉○○」の第1号店の開店前に、被告の承諾を得たか否かは、必ずしも明確ではない。
しかし、a社被告間契約及びこれを承継した原告と被告の間の契約にあっては、被告が業務を行う際用いる芸名に関する一切の権利は原告に帰属しており(認定事実(1))、a社及びこれを承継した原告は、契約上、被告の芸名の使用権を有する形になっていること、被告も、遅くとも「焼肉○○」の開店後に、同チェーンで用いるための被告の写真の撮影に応じ、また、同年6月7日には「焼肉○○」o店において「焼肉○○」のPRを兼ねた記者会見を行っており(甲第23号証、第55号証)、開店後は、焼肉チェーンへの被告の芸名の使用を了承していたといわざるをえないことから、上記のとおり、a社が、l社に被告の芸名の使用を許諾したことが、その後、a社の地位を承継した原告と被告の間の信頼関係を破壊する一事情になるとまではいえない。
② 被告は、a社又は原告により、被告の意思を無視した業務をさせられたと主張し、証拠(甲第55号証、乙第1号証、第2号証、第16号証、証人C、証人D、原告代表者本人、被告本人)によれば、平成14、5年ころに出版された被告の写真集において画像処理がされた写真が用いられたこと、平成19年ころから平成22年ころにかけて、e社が被告プロデュースと銘打ったゴルフウェア、部屋着、下着、バッグ等の販売を行っていたこと、平成22年夏ころ、Aが、靴ブランドとのタイアップ記事のための撮影であると説明して被告に行かせた現場が、実は、同ブランドの広告のための撮影の現場であったことの各事実は認めることができる。
しかし、写真集の件は、被告が、原告への移籍を黙示に追認するよりも相当前の事実であるし、プロデュース商品の件や靴ブランドの広告撮影の件は、a社又は原告による被告の出演業務、広告宣伝活動への従事のさせ方として明白に不当なものであるとは認められない。
(6)  もっとも、前記(5)①及び②に掲げる各業務は、被告としては不満のある業務であったことがうかがわれ、被告自身にとっては、a社、原告の各契約期間を通じてそのような出来事が積み重なったことが、原告との間の契約を終了させたいと考えるに至った大きな要因であったと考えられる(乙第1号証、第2号証、被告本人)。
前記認定事実(1)、前記2(2)の判断のとおり、a社被告間契約及びこれを承継した原告と被告との間の契約は、被告が行う芸能活動(被告の芸名の使用を含む。)のすべてが原告の指示に服するというものであり、前記(5)①及び②で判断したように、被告が十分に関与できないところで被告の芸名が飲食店やプロデュース商品に使用されたり、被告が望まない広告に出演させられたりすることも、被告に対する原告の契約違反となるわけではないから、それらがそのまま原告と被告の間の信頼関係を破壊する事情となるわけではない。
けれども、原告と被告の関係が、被告の芸能活動の一切が、契約期間中、原告に委ねられ、被告は時には上記のように不満のある業務にも従事しなければならないという契約関係であるからこそ、原告と被告の間の信頼関係が極めて重要な意味を持つのであり、被告が原告の指示する業務に不満がある場合に明文の契約条項に従って契約期間満了の6か月前までに解除通知をして契約を更新しないことができること(認定事実(1)カ)はもちろん、前記(2)のとおり、原告と被告の信頼関係が破壊されるような事由が原告にある場合においても、被告が原告との契約を将来に向かって解除できると契約を解釈する必要があるのである。
(7)  被告は、a社や原告から、結婚させないと言われ続け、Aから妊娠したら突き落すと脅かされたと主張し、被告本人はそれに沿う供述をするが(被告本人)、他にこれを裏付ける証拠がなく、被告の供述も、脅迫的言辞のあった具体的な時期や状況を特定するものではないので、直ちにその事実を認定することはできない。
なお、被告が原告との契約終了を望んだ事情の一つとしては結婚があったと認められるところ(甲第38号証)、a社被告間契約及びこれを承継した原告と被告の間の契約上、被告の結婚に関しては、それ自体を制約する条項はなく、被告が結婚等のやむをえない事情により休業、廃業を希望するときは事前に原告の書面による承諾を得なければならないとの定めがあるだけである(a社被告間契約の契約書第12条a。甲第3号証)。ただ、被告は、本件においては、結婚を契約終了を正当化する事由として主張しているわけではないので、この点については判断しない。
(8)  以上のとおりであるから、原告には、その実質的経営者であるAが、悪質な巨額の脱税により懲役2年6月の有罪判決を受けるという被告との間の信頼関係を破壊する事由があったのであり、被告としては従前の出来事の積重ねもあり、有罪判決を受けるような違法な行為を行ったAの下で、もはや原告に被告の芸能活動の一切を委ねていくことはできないと考えるのも無理からぬところであって、原告が、平成22年11月26日付け書面で行った同年12月31日をもっての契約終了通知は、信頼関係破壊を原因とする将来に向かっての解除権を行使したものとして有効であるというべきである。
したがって、原告と被告の間の契約は、平成22年12月31日に終了したと認められる。
4  争点3(損害及び相当因果関係)について
原告と被告の間の契約は、平成22年12月31日をもって終了しており、その後に被告に履行すべき債務はなく、その不履行を前提とした損害に関する原告の主位的主張は理由がない。
原告は、原告と被告の間の契約が同日で終了した場合にも、原告に損害が発生していると予備的に主張する。
しかしながら、平成22年12月31日の原告と被告の間の契約の終了は、原告に信頼関係破壊の事由がある場合の被告の将来に向かっての解除権の行使によるものであり、これによって原告が利益を逸失したり、信用を喪失したりすることがあったとしても、被告が損害賠償責任を負う理由がない。
5  結論
したがって、原告の請求は理由がない。
第5  結語
よって、原告の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松村徹 裁判官 坂本康博 裁判官 山崎文寛)

 

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