「営業アウトソーシング」に関する裁判例(48)平成25年12月12日 東京地裁 平25(ワ)17235号 貸金等請求事件
「営業アウトソーシング」に関する裁判例(48)平成25年12月12日 東京地裁 平25(ワ)17235号 貸金等請求事件
裁判年月日 平成25年12月12日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)17235号
事件名 貸金等請求事件
裁判結果 認容 文献番号 2013WLJPCA12128007
要旨
◆原告が、原告の元代表取締役であった被告に対し、金銭消費貸借契約に基づく貸金の返還及び保証委託契約に基づいて被告の債権者に弁済した売買代金相当額の求償を求めた事案において、原告の被告に対する貸付2の一部は、原告の取締役Cらに対する被告の私的な貸金の弁済に充てるものか、高利のヤミ金業者への返済に充てるという不当な動機に基づくものであるから公序良俗に反し無効であるなどとする被告の主張を退けた上、原告が本件弁済時に被告に通知をしていれば被告は一部弁済できたから、民法443条により原告の求償権行使を拒否できるとする被告の主張についても、通知があれば一部弁済できたという事情は本件債権者に対抗できる事由とはいえないとして、各請求を認容した事例
参照条文
民法90条
民法443条1項
民法446条1項
民法459条1項
民法463条1項
民法587条
犯罪による収益の移転防止に関する法律2条1項
組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律2条4項
裁判年月日 平成25年12月12日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)17235号
事件名 貸金等請求事件
裁判結果 認容 文献番号 2013WLJPCA12128007
東京都渋谷区〈以下省略〉
原告 株式会社X
同代表者監査役 A
同訴訟代理人弁護士 安國忠彦
同 朝吹英太
東京都東村山市〈以下省略〉
被告 Y
主文
1 被告は,原告に対し,852万円及びこれに対する平成24年10月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告に対し,460万円及びこれに対する平成24年11月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 この判決は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は,労働者派遣業等を目的とする株式会社である原告が,原告の元代表取締役であった被告に対し,金銭消費貸借契約に基づく貸金の返還及び保証委託契約に基づく事務処理費用償還請求として,原告が被告の連帯保証人として債権者に支払った売買代金相当額の求償並びにこれらに対する遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提となる事実
(1) 原告は,アウトソーシング事業,労働者派遣事業,有料職業紹介事業等のいわゆる人材派遣を業とする株式会社である(争いのない事実)。
(2) 被告は,平成19年4月20日から平成24年8月28日までの間,原告の取締役に就任し,平成21年3月1日からは代表取締役の地位にあったが,遅くとも平成24年9月12日には原告を退職した(争いのない事実,甲1,弁論の全趣旨)。
(3) 被告とB(以下「B」という。)は,平成23年1月11日,同人所有に係る原告の普通株式500株を合計2180万円で被告に売却する旨合意し,原告は,Bに対し,同年4月12日,被告のBに対する上記売買の残代金支払債務1180万円について,連帯保証する旨書面で約した(甲6)。
(4) 原告は,被告に対し,平成23年12月22日,1000万円を以下の約定で貸し付けた(争いのない事実,以下「本件貸付1」という。)。
弁済方法 平成24年1月から平成37年7月まで毎月25日限り,報酬から控除する方法での分割返済
期限の利益喪失 被告が原告を退任又は退職する時は当然に期限の利益を喪失する。
利息 年3パーセント
遅延損害金 年6パーセント
(5) 原告は,被告に対し,平成24年2月14日,1150万円を以下の約定で貸し付けた(甲4,弁論の全趣旨,以下「本件貸付2」という。)。
弁済方法 平成24年3月から平成25年8月まで各3万円,同年9月から平成30年11月まで各15万円,同年12月から平成31年4月まで各30万円,いずれも毎月25日限り,報酬から控除する方法での分割返済
期限の利益喪失 本件貸付1と同じ
利息 本件貸付1と同じ
遅延損害金 本件貸付1と同じ
(6) 原告及び被告は,平成24年8月1日ころ,被告所有に係る原告の普通株式520株を合計1300万円で原告に売却し,売買代金から源泉徴収税額156万円を控除した残額である1144万円の売買代金債権と,本件貸付1及び2に係る貸金療権を対当額で相殺する旨合意した(争いのない事実)。
(7) 原告は,Bに対し,平成24年11月8日,上記(3)記載の保証債務の履行として,460万円を支払った(甲7,8)。
3 争点及び争点についての当事者の主張
(1) 本件貸付2に係る金銭消費貸借契約は,公序良俗に反して無効であるか。
(被告の主張)
本件貸付2のうち,400万円は,借入れ当日に,いずれも当時の原告の取締役で,かつ被告が借入金債務を負っていたC及びD(以下「Cら」という。)に対する弁済に充てられたところ,本件貸付2は,会社資金を同人らの私的な債権回収のために流用するものに等しいというべきであるから,公序良俗に反し,無効というべきである。また,その余の本件貸付2は,当時被告との間で貸借関係があった高利のヤミ金融業者に対する借入金の弁済を目的とするものであったところ,Cらはその事実を知りながら,被告への貸付けを承認したものであり,かかる事実関係からすれば,本件貸付2に係る金銭消費貸借契約については,その動機に不法があり,かつ原告もそのことを知っていたから,民法90条により無効である。
(原告の主張)
上記400万円のうち,借入れ当日,各200万円が,被告からCらに対して振り込まれたことは認めるが,その余の被告の主張は否認ないし争う。よって,原告は,被告に対し,本件貸付1及び2に係る各金銭消費貸借契約に基づき,元金合計(2150万円)から,既払額(合計154万円)及び上記2(6)記載の相殺額(1144万円)を控除した残額である852万円並びにこれに対する被告が期限の利益を喪失した後である平成24年10月1日から支払済みまで年6分の割合による約定遅延損害金の支払を求める。
(2) 通知懈怠による被告の免責について
(被告の主張)
原告は,上記2(7)記載の弁済をするに当たり,被告に対し,弁済する旨の通知を懈怠した。仮に,原告から通知があれば,被告は自己の資産をもって少なくとも120万円はBに弁済することが可能であったから,民法463条1項,443条の規定により,被告は,同金額について,原告からの求償権行使を拒否することができる。
(原告の主張)
被告の主張は争う。原告は,被告に対し,保証人の求償権に基づき,460万円及びこれに対するBへの弁済日の翌日である平成24年11月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)について
(1) 被告は,まず,本件貸付2のうち,400万円が被告のCらに対する弁済に充てられたことを理由として,本件貸付2に係る金銭消費貸借契約は公序良俗に反し無効であると主張するが,本件貸金2は被告の要求に応じて実現したものである(争いのない事実)上,本件貸金2に係る借入金が原告の取締役であったCらに対する私的な貸金の返済に充てられた点は,被告を含む取締役らの会社(原告)に対する忠実義務違反として問題となることがありうるとしても,これをもって公序良俗違反とまで認めることは困難というべきであるから,被告の上記主張は採用できない。
(2) 次に,被告は,本件貸付2に係る金銭消費貸借契約は,高利のヤミ金融業者への返済に充てるという不法な動機に基づくものであり,かつ原告の取締役であったCらもその事実を知っていたから,同契約は公序良俗に反し無効であると主張する。この点,証拠(乙3,15ないし20)によれば,本件貸付2の借入金を原資とした被告の支払先は,支払の頻度,金額及び振込先の名称等からみて,無登録の金融業者であったことが窺われるけれども,これらの支払先と被告との貸借取引の具体的内容は必ずしも明らかでなく,かかる貸借取引を公序良俗に反する暴利の取引として,直ちに無効と判断するだけの証拠は乏しい。
また,被告の支払先がいわゆるヤミ金融業者であったとしても,ここからの借入れは被告自身の自由な意思に基づくものであり,上記のとおり本件貸付2も被告の要求に応じて実現したものであることや,被告は,平成24年に入ると精神的に不安定な状態となり,同年8月にはうつ状態と診断され,さらに,同年9月12日には遺書を作成して自殺未遂騒動まで起こしていること(甲23,乙1,26,弁論の全趣旨)など本件で認められる諸事情に照らすと,仮に,本件貸付2に係る被告の金銭借入れの目的がヤミ金融業者への貸金返済であり,かつこの事実をCら原告関係者が知っていたとしても,そのことを理由として本件貸付2に係る金銭消費貸借契約を無効とするとすれば,かえって,代表取締役である被告に金銭を貸し付けた原告の犠牲の下に,ヤミ金業者から資金を借り入れた被告,ひいては既に弁済を受けたヤミ金業者を利する結果となり,社会秩序維持の観点からしても相当でないというべきである。
そうすると,被告の本件貸付2に係る金銭消費貸借契約締結の動機が高利のヤミ金融業者への弁済であったことを理由として,同契約を公序良俗に違反し無効ということはできないから,被告の主張を採用することはできない。
(3) ところで,本件貸付2が行われた平成24年2月14日以降,被告名義の全ての銀行預金口座の通帳及びキャッシュカードは原告が管理していたとの事実が認められるところ(争いのない事実),被告は,原告が被告の銀行預金口座の通帳,キャッシュカード及び暗証番号を管理して,被告になりすまし,送金行為等を行うこと,又はそのためにそれらの物品や情報を受け取ることは,「犯罪による収益の移転防止に関する法律」に抵触する行為であるなどと主張するが,その主張の法律的な意味はさておくとしても,被告の銀行預金口座に入金されている預金が,同法2条4項にいう「犯罪収益等」に関連していると思われるべき事情は見当たらないから,上記主張は失当である。
2 争点(2)について
(1) 被告は,上記第2の2(7)記載の弁済をするに当たり,原告は被告に対する通知を懈怠していたところ,仮に原告からの通知があれば,被告は自己の資産をもって少なくとも120万円をBに弁済することが可能であったことを理由として,原告からの求償権行使を拒否することができる旨主張する。しかし,被告が主張する,通知があれば一部弁済することが可能であったとの事情をもって,「債権者」であるBに「対抗することができる事由」(民法443条1項)と認めることはできないから,被告の主張は失当というべきである。
(2) そのほか,被告は,平成24年7月及び8月分の交通費等会社経費の立替金請求債権をもって原告の本訴請求債権と対当額で相殺するとの主張もするが,その自働債権の発生原因事実や数額について,具体的な主張立証をしないから,かかる被告の主張も失当といわざるを得ない。
3 結論
以上によれば,原告の本訴請求はいずれも理由があるから認容することとして,主文のとおり判決する。
(裁判官 本多哲哉)
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