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「営業 外部委託」に関する裁判例(3)平成30年12月26日 東京地裁 平29(ワ)4880号 懲戒処分無効確認等請求事件

「営業 外部委託」に関する裁判例(3)平成30年12月26日 東京地裁 平29(ワ)4880号 懲戒処分無効確認等請求事件

裁判年月日  平成30年12月26日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平29(ワ)4880号
事件名  懲戒処分無効確認等請求事件
文献番号  2018WLJPCA12266003

要旨
◆けん責の懲戒処分の無効確認請求につき確認の利益を否定した例

裁判年月日  平成30年12月26日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平29(ワ)4880号
事件名  懲戒処分無効確認等請求事件
文献番号  2018WLJPCA12266003

東京都世田谷区〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 佐藤新
同 豊田泰士
東京都港区〈以下省略〉
被告 株式会社Y
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 中島茂
同 原正雄
同 藤田有紀

 

 

主文

1  原告の訴えのうち,被告が原告に対して平成28年12月9日付けで行ったけん責処分が無効であることの確認を求める部分を却下する。
2  原告のその余の請求を棄却する。
3  訴訟費用は,原告の負担とする。
 

事実及び理由

第1  請求
1  被告が原告に対して平成28年12月9日付けで行ったけん責処分が無効であることを確認する。
2  被告は,原告に対し,220万円及びこれに対する平成28年6月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
1  本件は,被告の従業員である原告が,被告が原告に対して行ったけん責処分が懲戒権の濫用に当たり無効であると主張して,被告に対し,上記のけん責処分が無効であることの確認を求めるとともに,違法な懲戒処分により精神的苦痛を被ったと主張して,不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき,慰謝料及び弁護士費用の合計220万円並びにこれに対する不法行為の日(平成28年6月29日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2  前提事実(争いのない事実,後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)  当事者
ア 原告は,平成2年2月1日付けで被告と期間の定めのない雇用契約を締結し,平成27年当時,被告のa局b部においてシニア・エグゼクティブ・プロデューサーを務めていたものである(その後,平成28年7月1日付けでc局d部に異動)。なお,原告は,被告への入社以前は,昭和60年4月に株式会社e(以下「e社」という。)に入社し,主に同社所属の音楽バンドであるfグループの担当として,アーティスト活動全般を管理するマネジメント業務に従事していた。(甲54)
イ 被告は,放送法に基づく基幹放送事業及び一般放送事業等を目的とする株式会社である。なお,被告の収録部門は,平成27年4月1日付けで被告の100%子会社である株式会社g(以下「g社」という。)に事業移管された(これにより,被告社内の制作技術部が従来担っていた収録業務は,g社へ外部委託されることとなった。)。(乙152,証人B,弁論の全趣旨)
(2)  コンサートツアーの実施及び音楽番組の放映
ア fグループは,平成27年4月11日から同年8月18日までの間,下記のとおり,全国11か所合計23公演を行うコンサートツアー「○○」(以下「本件公演」という。)を実施した。(乙2)
① 4月11日・12日 愛媛県
② 4月18日・19日 宮城県
③ 4月25日・26日 広島県
④ 5月2日・3日 新潟県
⑤ 5月16日・17日 大阪府
⑥ 5月23日・24日・26日 東京都(東京ドーム)
⑦ 6月6日・7日 北海道
⑧ 6月13日・14日 愛知県
⑨ 7月4日・5日 福岡県(以下「本件福岡公演」という。)
⑩ 7月19日・20日 沖縄県
⑪ 8月17日・18日 東京都(武道館)
イ 被告は,本件公演を録音録画し,その録音録画した音声映像を編集して,「△△」と題する音楽番組(以下「本件番組」という。)を制作し,平成27年7月25日,本件番組をテレビで放映した。(乙3)
(3)  本件公演を収録したDVDの発売
e社は,平成28年1月6日,株式会社hを通じて,本件公演に関する音声映像素材を利用した,「□□」と題するDVD及びブルーレイディスク(以下「本件DVD」という。)を発売した。(乙9,10)
(4)  賞罰委員会の開催
ア 被告は,平成28年6月29日,賞罰委員会を開催し(以下「第1回賞罰委員会」という。),本件番組を含む複数の番組における原告の業務に関し,原告に対する「けん責」の懲戒処分を相当と判断し,社長に答申する旨を決議した。(乙46の1)
イ 被告は,同年11月17日,再度賞罰委員会を開催し(以下「第2回賞罰委員会」という。),後記(5)の本件各懲戒対象行為に関し,原告に対する「けん責」の懲戒処分を相当と判断し,社長に答申する旨を決議した。(乙49の1)
(5)  懲戒処分の実施
被告は,原告に対し,平成28年12月9日付けで,本件公演等に関する以下の各行為が被告の就業規則(以下「本件就業規則」という。)61条1項10号及び18号に該当するとして,けん責の懲戒処分(以下「本件懲戒処分」という。)を行った。(甲2)
① コンサートの演出に関わる画出し業務のためのe社との業務委託契約締結及び社内決裁手続を怠った(以下「本件懲戒対象行為1」という。)。
② 被告が著作権を有する映像素材について社内決裁手続を経ずにDVD化を許諾した(以下「本件懲戒対象行為2」という。)。
③ 1億円を超える案件において収録・制作を,事前の見積り入手,事前の決裁及び事前の契約書作成なしに実施した(以下「本件懲戒対象行為3」といい,上記①から③までの各懲戒対象行為を併せて「本件各懲戒対象行為」という。)。
なお,上記①にいう「画出し業務」とは,コンサートの公演会場に設置された大型スクリーンに,実演家の映像を大きく映し出したり,事前に用意したイメージ映像を映し出したりする業務である。「画出し」の目的は,主として①実演家が見えにくい場所や距離にいる観客へのサービスとして,実演家の姿を大きく投影してみせること,②事前に実演家の意向を元に主催者側が用意したイメージ映像をスクリーンに映し出し,演出効果を高めることの2点である。
(6)  本件就業規則の定め
本件就業規則には,以下の内容の定めがある。(甲3)
ア 服務心得(42条)
社員は,常に次の事項(一部略)を守り服務しなければならない。
(ア) 会社の規則,通達,通知等を遵守すること(2号)
(イ) 定められた申請書等は期限内に提出すること(3号)
イ 懲戒(60条)
懲戒の種類は,厳重注意,けん責,減給,出勤停止,停職,諭旨解雇及び懲戒解雇とし,その情状により一つ又は二つ以上を併せて行う。ただし,情状酌量の余地があるか,改悛の情が顕著であると認められるときは,懲戒の程度を軽減することができる。
(ア) 厳重注意 説諭し将来を戒める。
(イ) けん責 訓戒のうえ始末書を提出させ将来を戒める。
(以下略)
ウ 厳重注意,けん責,減給及び出勤停止(61条)
社員が次の各号(一部略)の一に該当するときは,厳重注意,けん責,減給又は出勤停止に処する(1項)。
(ア) 会社の金銭,商品,備品,施設等の管理を怠ったとき(10号)
(イ) 41条から50条までの定めに違反したとき(18号)
エ 諭旨解雇・懲戒解雇(62条1項)
社員が次の各号(一部略)の一に該当するときは,懲戒解雇に処する。
・ 前条で定める処分を再三にわたって受け,なお改善の見込みがないとき(9号)
オ 管理監督者の監督責任(63条)
業務に関する指導並びに管理不行き届きにより,社員が懲戒処分を受けたときは,その管理責任の任にある管理監督者を懲戒することがある。
カ 賞罰委員会(65条)
社員の表彰及び懲戒は,賞罰委員会の議を経てこれを行う。賞罰委員会は,必要の都度これを設置し,審議終了と同時に解散する。
(7)  被告の社内規則
被告には,以下の内容の社内規則が存在する。
ア 業務決裁規程(乙12の1)
(ア) 決裁は,事前承認を受けることを原則とする(4条1項)。
(イ) 業務決裁書には,必要に応じ参考書類を添付する(3条2項)。
イ 業務決裁規程運用基準(乙12の2)
(ア) 事前決裁の原則
業務決裁規程に定める「事前の手続」とは,事前に起案することではなく,決裁事項の実施前に決裁の承認を受けることをいう(条件・内容の詳細が未確定の場合は,方針決裁として起案する。)。
(イ) 参考資料添付の原則
業務決裁書には,決裁事項の条件・内容の詳細(金額,契約内容等)を具体的に説明する根拠となる資料(企画書,見積書,契約書ドラフト等)を添付する。
(ウ) 業務決裁基準
a 業務委託契約については,①1件100万円未満の場合は部長決裁,②1件100万円以上2000万円未満の場合は局長決裁,③1件2000万円以上の場合は会長もしくは社長決裁が必要である。
b 資産の取得・改修・修繕・保守・譲渡・賃貸・賃借及び資産の廃棄・滅失については,①1件100万円未満の場合は部長決裁,②1件100万円以上5000万円未満の場合は局長決裁,③1件5000万円以上の場合は会長もしくは社長決裁が必要である。
c 番組の企画,調達,制作については,①3億円未満の場合は編成局長決裁,②3億円以上の場合は会長もしくは社長決裁が必要である。
d 有料放送収入以外の収入を伴う事業(附帯事業等)については,①100万円未満の場合は部長決裁,②100万円以上1億円未満の場合は局長決裁,③1億円以上の場合は会長もしくは社長決裁が必要である。
エ 重要事項決裁規程(乙13の1)
(ア) 会長もしくは社長決裁は「重要決裁書」にて行い,「重要決裁書」には,必要に応じ参考資料等を添付する(3条)。
(イ) 決裁は,すべて事前決裁を受けることを原則とする(4条・事前決裁の原則)。
3  争点及びこれに関する当事者の主張
本件の争点は,本件懲戒処分が懲戒権を逸脱又は濫用したものとして無効であるか否か(具体的には,本件各懲戒対象行為の有無,懲戒処分の相当性の有無),本件懲戒処分が無効であることの確認の利益があるか否か,本件懲戒処分の不法行為該当性及び該当する場合の慰謝料額であり,各争点に関する当事者の主張は以下のとおりである。
(1)  原告の主張
ア 本件懲戒対象行為1について
(ア) 原告は,本件番組の制作を担当していたところ,被告は,平成27年4月,e社との間で,本件番組の制作,放送及び配信等の権利をe社が被告に付与し,その対価を被告がe社に支払うことを主な内容とする契約(以下「本件放送権契約」という。)を締結した。
本件放送権契約の主な目的は,同年7月5日の本件福岡公演のライブ中継(その後録画放送に変更)を中心に,各公演会場において,被告が公演映像を撮影し,映像を被告の放送番組として中継又は録画放送することであった。公演会場における実際の撮影業務については,被告から被告の完全子会社であるg社に業務委託を行っており,画出し業務も,g社が被告から受託していた。そのため,画出し業務は,e社に対価を支払い,e社から本件公演の放送権等の付与を受けた被告自らが行う業務であり,そもそもe社から逆に対価の支払を受けて被告が受託する業務ではない。
したがって,被告が,画出し業務のためにe社との間で業務委託契約を締結することは,本件放送権契約の内容に照らしてあり得ないことであるから,本件懲戒対象行為1は,懲戒処分を行う理由たり得ないというべきである。
(イ) 被告は,本件公演の収録業務と画出し業務は全く別の業務であり,収録に関する放送権契約と画出し業務の請負契約とは,別個に締結されるのが通常であるところ,原告がe社から画出し業務の依頼を受けるに当たり,社内決裁を経ず,契約書も作成しなかったと主張する。
しかし,被告がg社へ委託した「画出し業務」の業務内容には,被告の主張する狭義の画出し業務だけでなく,本件番組の制作に必要な映像素材の収集,すなわち合計23公演の公演映像を収録する業務も含まれていた。そして,平成27年4月16日に決裁された本件放送権契約に係る契約書においては,本件福岡公演の生中継のほかに,合計23公演を収録して総集編を制作することが決定していたため,当該23公演の公演映像を収録する業務は,本件放送権契約において当然予定され,原告は,これを前提として上記の社内決裁を得ていたものであるから,被告の上記主張には理由がない。
また,本件公演において被告自らが行う収録業務には,e社も必要とする狭義の画出し業務も含まれることから,原告は,e社と協議の上,狭義の画出し業務の費用を折半することとし,被告のg社への画出し業務の発注額の約半額である4000万円を映像技術協力費としてe社に負担してもらうことにしたのであり,実質的にみても被告に損失は生じていない。
イ 本件懲戒対象行為2について
被告は,原告が,本件公演に関し被告が著作権を有する音声映像素材について,e社に対し,社内決裁を経ずに当該素材の利用(DVD化)を許諾したと主張する。しかし,原告がe社に対して上記の利用許諾をしたことはなく,また,原告には当該許諾をする権限はない。
なお,本件番組の制作の際に,e社より,被告に対し,被告が本件公演において撮影したライブ映像の利用について申出があったため,その申出を受けた原告が,社内の承諾権者の最終承認を経た上で,e社との間で,被告がe社から映像制作協力費として4000万円を受け取り,e社と映像の権利を共有する旨の合意をした事実はある。
したがって,本件懲戒対象行為2を理由とする懲戒処分には理由がない。
ウ 本件懲戒対象行為3について
(ア) 原告は,平成27年4月7日起案の決裁書に基づき,同月16日に本件番組の制作のための予算を1億4000万円とする企画について社内の承認を得ている。そして,本件番組に関する最終的な制作費については,1億8650万2500円に確定したことから,同年7月3日起案の決裁書に基づき,同月8日に社内で承認されている。上記決裁過程においては,当時,誰からも何らの異議も出されなかったものであり,原告による決裁手続に何ら問題はない。
(イ) 本件番組を含め,ライブ番組の制作においては,プロモーションや素材映像の収集については早めに動き出す必要があり,最終的な社内決裁に先行して必要な制作に取り掛かることは一般に行われている。被告においては,魅力的な番組を提供することで視聴者の被告への加入を誘引することが業務の中核であり,早い段階からプロモーションを行わなければ番組放送日までに視聴者を獲得することができない。
そのため,被告においては,本件番組に限らず,番組制作を先行させ,制作に関する最終的な支出金額が確定した段階で決裁手続に入る運用が,長期間にわたって広く是認されており,原告が本件において特別な決裁手続を採っていたわけではない。実際,本件番組の制作と同時期の平成27年4月から同年9月までの間,148件の番組において同様の決裁手続が採られている。
(ウ) したがって,本件懲戒対象行為3を理由とする懲戒処分には理由がない。
エ 本件懲戒処分における適正手続の欠如
(ア) 本件就業規則65条1項によれば,被告従業員の懲戒は,賞罰委員会の議を経て行うことになっている。しかし,原告は,賞罰委員会から連絡を受けたことは一切なく,賞罰委員会から告知聴聞の機会も与えられなかった。原告は,懲戒手続とは異なる内部監査手続,人事部及び被告代理人弁護士によるヒアリングに協力しただけであり,いかなる懲戒対象行為について嫌疑をかけられているも明かされることなく,懲戒処分を受けている。
(イ) そもそも,被告は,平成28年6月29日に第1回賞罰委員会を開催して,原告に対する懲戒処分を決定し,同日原告にその旨を伝えている。ところが,被告は,なぜか再び同年11月17日に第2回賞罰委員会を開催し,同年12月9日,原告に対し本件懲戒処分を行っているのである。
被告は,上記二つの懲戒処分の関係について一切説明を行わない。被告は,原告に懲戒処分に関する告知聴聞を行った根拠として,同年7月22日のヒアリング内容を挙げるが,当該ヒアリングは,原告への懲戒処分を決定した同年6月29日以降にされたものであり,当該懲戒処分の判断資料にはなり得ないはずである。
(ウ) 以上のとおり,本件懲戒処分については適正手続が皆無であるから,本件懲戒処分も当然に無効である。
オ 被告の不法行為による原告の損害等
(ア) 上記アからエのとおり,本件懲戒処分は,合理的な懲戒理由を欠き,適正手続を欠いた経緯を経て行われたものであるから,懲戒権を濫用するものとして無効である(労働契約法15条)。
(イ) 被告は,本件懲戒処分が事実無根であるにもかかわらず,シニア・エグゼクティブ・プロデューサーにけん責処分を行った旨を社内の電子掲示板に掲載して従業員全員に告知し,また,平成28年12月14日に実施された全社集会においても,全社員に対し,原告の懲戒処分を触れ回った。
本件懲戒処分及び処分後の被告の上記対応は違法であり,不法行為を構成する。原告は,被告の当該不法行為により,社会的に著しく名誉を傷つけられ,家族も本件懲戒処分の事実を知ったことから,私生活上も多大な影響が出ている。
被告の上記不法行為により原告が被った精神的苦痛による損害は,200万円を下ることはなく,かつ,少なくとも当該損害の1割(20万円)が被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用と認められる。
また,被告が原告に対し最初に口頭でけん責処分を伝えた平成28年6月29日の時点から,原告は精神的苦痛を受けているから,遅くとも同日から被告の不法行為が開始したというべきである。
カ 本件懲戒処分により原告が被る不利益
原告は,本件懲戒処分により,以下の具体的な不利益を被った。
すなわち,本件懲戒処分を受けたことにより,原告は,今後本件就業規則62条1項9号の懲戒解雇理由(「前条で定める処分を再三にわたって受け,なお改善の見込みがないとき」)の適用対象者となってしまう。
また,被告におけるセカンドキャリア制度の適用条件として「在職中誠実に勤務し,当社(被告)の発展に貢献した者」とされていること(セカンドキャリア支援規程3条5号)を踏まえると,原告は,本件懲戒処分により,上記セカンドキャリア制度の利用に支障が出るという不利益を受けることになった。
(2)  被告の主張
ア 本件懲戒対象行為1
(ア) 原告は,e社から,本件公演に関する「画出し業務」を受託し,e社のために画出しを実施した。被告は,e社から受託した上記画出し業務をg社に代金7956万3000円で再委託した。
原告は,上記画出し業務の受託及び実施に際して,被告の社内決裁を経ておらず,また,e社との間で契約書も作成していなかった。
(イ) 被告の業務決裁規程運用基準によれば,有料放送以外の収入を伴う事業について,100万円以上1億円未満のものは局長決裁が必要であるところ,e社からの本件公演に関する画出し業務の受託は,「有料放送以外の収入を伴う事業」に該当し,かつ,本来であれば約8700万円の収入を伴うはずのものであったから,原告は,e社から上記画出し業務を受託する場合,局長決裁を受ける必要があった。
また,被告の業務決裁規程は,「決裁は,事前承認を受けることを原則とする」と定め,これを受けて,業務決裁規程運用基準は,業務決裁規程に定める「事前の手続」とは事前に起案することではなく,決裁事項の実施前に決裁の承認を受けることをいう旨を定めているから,原告がe社から画出し業務を受託する場合には,当該画出し業務を実施する前に決裁の承認を受ける必要があった。本件において,g社は,本件公演がスタートした平成27年4月11日の愛媛県公演から画出し業務を実施していることから,原告は,遅くとも同日より前に画出し業務に関する決裁の承認を受ける義務を負っていた。
さらに,被告の業務決裁規程は,「業務決裁書には,必要に応じ参考書類を添付する」と定め,これを受けて,業務決裁規程運用基準は,業務決裁書には,決裁事項の条件・内容の詳細を具体的に説明する根拠となる資料(契約書ドラフト等)を添付する旨を定めていたから,原告は,e社から画出し業務を受託する場合,画出し業務を実施するより前に,e社との間で契約書案を作成する義務を負っていた。
(ウ) しかし,原告は,被告がe社のために画出し業務を開始した平成27年4月11日の時点で,当該画出し業務の実施について局長からの決裁承認を受けていなかったばかりか,その後も決裁承認を受けることはなく,画出し業務に関する契約書も作成しなかった。その結果,被告は,e社から画出し業務に関する業務委託報酬の支払を受けることができないまま,g社への再委託報酬の支払を余儀なくされるなどの損害を被った。
以上の原告の行為は,本件懲戒対象行為1に該当し,被告の社内規則に違反するものである。
イ 本件懲戒対象行為2
(ア) e社は,平成28年1月6日,本件福岡公演の音声映像素材を利用した本件DVDを発売した。本件DVDに収録された音声映像内容の多くの部分は,本件番組の内容と一致していた。
本件公演の音声映像素材は,被告が本件番組を制作する過程で収録し編集したものであるから,その著作権は被告に帰属する。したがって,e社が当該音声映像素材を二次利用してDVD等を製造販売するには,事前に被告の許諾を得る必要があった。
(イ) ところで,被告の業務決裁規程運用基準では,「資産の譲渡・転貸」について,1件100万円以上5000万円未満のものは局長決裁,5000万円以上10億円未満のものは会長決裁もしくは社長決裁とされているところ,上記(ア)の音声映像素材の利用許諾は,本来であれば5000万円の収入を伴う事業であった。したがって,原告は,e社に対して当該音声映像素材を利用許諾するに当たっては,会長決裁もしくは社長決裁又は局長決裁を受ける義務を負っていた。
また,上記ア(イ)と同様に,決裁の承認は,決裁事項を実施する前に受ける必要があり(事前決裁の原則),かつ,社内の決裁承認を受ける場合には,決裁書に契約書ドラフト等の参考資料を添付する必要があった。
(ウ) 原告は,上記(イ)の義務を負っていたにもかかわらず,社内決裁を経ずに,上記(ア)の音声映像素材の利用(DVD化)を許諾した。また,原告は,e社との間で,当該音楽映像素材の利用許諾について契約書の作成もしなかった。
以上の原告の行為は,本件懲戒対象行為2に該当し,被告の社内規則に違反する。
ウ 本件懲戒対象行為3
(ア) 被告は,制作会社に制作業務等を委託する場合の決裁手続について,社内規則において,①個別に事前の決裁を取ること,②決裁申請は,事前に見積書又は契約書案を作成して決裁書に添付することを定めている。したがって,被告が制作会社に制作業務を委託する場合,事前に契約ごとに個別に見積書ないし契約書案を添付して,社内決裁を得る必要がある。
万一,被告の担当者が上記の社内ルールを怠ると,被告は,制作に要する費用を全く把握することができないため,後になって予期せぬ膨大な費用が発生し,その負担を迫られる可能性がある。また,想定を超えた制作費用が発生した場合,被告担当者が制作会社に対し代金の減額を要求する可能性も否定できないところ,発注者が下請業者に事後的に代金の減額をさせることは,下請代金支払遅延等防止法に違反する行為である。
(イ) 原告は,上記(ア)の社内規則があることを知りながら,事前の見積書取得や契約書の作成をせず,かつ事前に決裁を経ないで,制作会社に対し,本件番組の制作を委託し(委託報酬は最も少額のもので19万円,最も高額のもので7956万3000円),実施させた。なお,原告が起案した平成27年7月3日付け決裁書は,上記社内規則に違反する事後決裁である。
以上の原告の行為は,本件懲戒対象行為3に該当し,被告の社内規則に違反する。
(ウ) これに対し,原告は,同年4月7日起案の決裁書(甲6の1)により,同月16日付けで社内決裁を受けたと主張する。しかし,上記決裁書は,e社との間の本件放送権契約についての決裁書であり,制作会社との間の制作業務の委託契約に係る決裁ではないから,原告の主張は失当である。
エ 以上のとおり,本件各懲戒対象行為は,被告の社内規則に違反するものであるから,本件就業規則42条2号の「会社の規則,通達,通知等を遵守すること」に違反し,同61条1項18号の懲戒事由(41条から50条までの定めに違反したとき)に該当するとともに,同61条1項10号の懲戒事由(会社の金銭,商品,備品,施設等の管理を怠ったとき)にも該当する。
オ 懲戒手続の相当性
(ア) 被告監査部は,平成27年10月頃,監査役から,取締役の職務執行に対する監査を行う過程で,同年4月10日に配信を開始したストリーミング番組「◎◎」の費用の処理について,一部疑義がある旨の指摘を受け,同番組の制作についての監査を開始した。当該内部監査の結果,原告が行った業務に多くの疑義があることが判明した。
(イ) 被告監査部は,原告に対し,平成28年4月1日,本件番組制作等に関する疑義をまとめた質問表を送付し,同月8日,原告から回答を得た。同回答を受け,被告監査部は,原告に対し,同月20日,再質問表を送付し,同年5月7日,原告から回答を得た。以上は,本件懲戒処分に関する告知と聴聞の手続である。
(ウ) 上記(イ)の結果を踏まえ,被告監査部は,原告に係る懲戒処分を発議し,同年6月29日に開催された第1回賞罰委員会は,原告について「けん責」の懲戒処分を相当と決議した。被告人事部は,同日,賞罰委員会の答申がされた旨を原告に伝えたところ,原告はこれに抗議し,更なる調査の実施を求めた。原告からの上記要望等を踏まえ,被告は,懲戒処分の発令を先に延ばして,原告に対して更なる弁明の機会を付与することとした。
(エ) 被告人事部は,原告に対するヒアリング,関係資料の収集,原告からの再度の回答書の受領等の追加調査を実施し,これを踏まえ,本件各懲戒対象行為を問題として捉えるに至った。
平成28年11月17日,第2回賞罰委員会が開催され,本件各懲戒対象行為に基づく懲戒処分の是非及び軽重を審議した結果,原告について「けん責」の懲戒処分が相当と判断し,社長に答申した。被告のA社長(以下「A社長」という。)は,上記答申を踏まえ,原告に対するけん責を相当と判断し,同年12月9日付けで本件懲戒処分を発令した。
(オ) 以上のとおり,本件懲戒処分は,原告に対する告知及び聴聞の機会を十分に与えた上で,賞罰委員会を開催して発令されたものであり,適正な手続を経て行われたものである。
カ 本件懲戒処分による不利益の不存在
(ア) 原告は,本件懲戒処分による具体的な不利益として,今後本件就業規則62条1項9号の適用対象者となる点を指摘する。しかし,同号は,過去に懲戒処分を受けたにもかかわらず全く反省せず,その後も不正行為を繰り返すという悪質な場合を対象とするものであって,けん責の懲戒処分を受けただけで直ちに同号の適用対象者になるわけではない。また,全く反省せずに不正行為を繰り返せば,同号による処分の対象となり得るのは一般論として当然であるから,このことをもって具体的な不利益に当たるとはいえない。
(イ) また,原告は,本件懲戒処分によりセカンドキャリア制度の利用に支障が出るという具体的な不利益を受ける旨主張する。しかし,けん責等の懲戒処分を受けたからといって直ちに上記制度の適用を受けられなくなるわけではなく(実際に被告では,過去に懲戒処分を受けた者でも当該制度の適用を認めた事例は多い。),本件懲戒処分の有無とセカンドキャリア制度の適用とは直接の関係はないから,原告の上記主張は失当である。
第3  争点に対する判断
1  本件懲戒処分の無効確認に係る訴えの適法性
(1)  本件訴えのうち本件懲戒処分の無効確認を求める部分は過去の法律関係の確認を求めるものであるところ,確認訴訟における確認の対象となる法律関係は,原則として現在における法律関係であって,過去の法律関係の確認については,現に存する紛争の直接かつ抜本的な解決のために最も適切かつ必要と認められる場合に限って確認の利益が認められると解するのが相当である。
本件において,原告は,本件懲戒処分が無効かつ違法なものであることを前提に,不法行為に基づく損害賠償請求として,被告に慰謝料等の支払を求める請求をしているところ,当該給付請求をしている以上,過去の法律関係の確認をすることが本件紛争の抜本的解決のために最も適切かつ必要と認めることはできない。
(2)  これに対し,原告は,本件懲戒処分により①原告が今後本件就業規則62条1項9号の適用対象者となってしまうこと,②被告におけるセカンドキャリア支援制度の利用に支障が出るなどの具体的な不利益を被ることから,本件懲戒処分の無効確認の利益があると主張する。
しかし,①については,同号は,「前条で定める処分(厳重注意,けん責,減給及び出勤停止)を再三にわたって受け,なお改善の見込みがないとき」に懲戒解雇に処すると定めているにすぎず,1回けん責処分を受けたことで当該要件が当然に充足されるわけではないから,現時点において原告に具体的な不利益が生じていると認めることはできない。また,被告のセカンドキャリア支援規程(甲20)によれば,セカンドキャリア支援制度を適用する対象者となるための1要件として,「在職中誠実に勤務し,当社の発展に貢献した者」(3条5号)と定められているところ,1回のけん責処分で当該要件を充足しなくなるとは文言上読み取れない上,過去にけん責処分を受けても当該制度を利用した従業員が複数存在すること(乙158)からすれば,上記②についても,本件懲戒処分により具体的な不利益が生じると認めることはできない。
(3)  したがって,本件訴えのうち本件懲戒処分の無効確認を求める部分は,確認の利益を欠くものとして不適法である。
2  事実経過
前提事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
(1)  本件放送権契約の締結を含む本件公演に関する企画については,被告において「fグループプロジェクト2015」という一大イベントとして企画され,平成26年12月の役員会議から議題に上がっており,原告は,本件番組の担当プロデューサーに就任した。(甲54,弁論の全趣旨)
(2)  本件番組制作に関する業務委託等
ア 原告は,本件番組の制作に向けて,平成27年1月頃から,e社との間で本件放送権契約の締結交渉を開始した。当初,本件番組は,同年7月5日に開催される本件福岡公演の生中継を放送する内容とすることが予定されていた。同年3月中には,本件公演のリハーサルが実施され,同年4月11日の愛媛県での公演を皮切りに,本件公演がスタートした。(甲4の1,乙2,147)
イ 被告は,本件番組の制作に当たり,以下のとおり,各制作会社に下記の①に記載された業務を外部委託し,各制作会社は,遅くとも下記の②に記載の日(下記(ウ)を除く。)には被告から委託された業務を開始した。
原告は,下記(ウ)を除く各制作会社が業務を開始した時点において,当該業務委託契約について見積書や契約書を作成せず,社内決裁も得ていなかった(弁論の全趣旨。原告が各制作会社から委託業務に関する見積書等を取得したのは,下記ウの一覧表に記載の日であり,いずれも業務開始後である。)。
(ア) g社 …①本件公演のうち東京公演・本件福岡公演における収録業務及び全23公演における画出し業務,②平成27年4月11日(乙6の3,乙7)
(イ) 株式会社i(以下「i社」という。) …①ドキュメンタリー演出,制作業務等,②同年5月16日(乙11の1,11の3)
(ウ) 株式会社j(以下「j社」という。) …①ライブ本編の演出・企画構成等(乙25)
(エ) 株式会社k(以下「k社」という。) …①録音機材の手配等,②同年5月1日(乙11の2)
(オ) 株式会社h(以下「h社」という。) …①録音エンジニア,整音,その他音楽効果等,②同年6月19日(乙11の4,乙28)
また,原告は,遅くとも本件公演が開始した平成27年4月11日の時点で,e社との間で,被告がe社から本件福岡公演を除く本件公演における画出し業務(公演会場に設置された大型スクリーンに実演家等の映像を大きく映し出す業務)を受託する旨を合意し,g社に対し当該画出し業務を再委託して当該業務を開始させたが,e社との間で上記画出し業務に関する契約書や発注書は一切作成せず,当該業務に関する被告の社内決裁手続を行わなかった(乙162,弁論の全趣旨)。
ウ 原告は,本件番組の制作に関して,各制作会社から,業務開始後である以下の年月日に,当該委託業務に関する見積書を取得した。

年月日 制作会社 業務内容 金額 書証
H27.4.30 g社 23公演ツアー画出し 7956万3000円 乙7
H27.5.14 g社 収録(東京公演) 556万1000円 乙6-1
H27.6.12 k社 録音(福岡公演) 232万2000円 乙11-2
H27.6.15 j社 企画構成等 1671万5160円 乙25
H27.6.18 g社 収録(福岡公演) 2989万5000円 乙6-2
H27.6.22 g社 収録(ツアー画出し) 219万6000円 乙6-3
H27.6.23 i社 制作(東京公演) 1940万0500円 乙11-1
H27.6.23 i社 制作(福岡公演) 2484万円 乙11-3
H27.6.23 h社 音声ミックス(福岡公演) 19万4400円 乙28
H27.6.24 h社 音声ミックス(MA作業) 605万8800円 乙11-4
合計     1億8674万5860円

(3)  本件放送権契約に関する決裁等
ア 原告は,平成27年4月7日,本件番組の制作,放送及び配信等の権利をe社が被告に付与し,その対価として被告がe社に対して3億円を支払うことなどを内容とする契約(本件放送権契約)の締結に関する決裁書を起案し,社内決裁手続に上程した。本件放送権契約には,①被告が本件公演を収録(中継又は録音録画)し,本件番組を製作,放送及び配信する権利を独占的に有すること,②被告が本件公演の中継又は収録の許諾及び番組利用許諾を行う権限を独占的に有していること,③本件番組及び本件番組に関連して収録された映像音声素材の著作権及び所有権が被告に帰属すること等が定められていた。また,上記決裁書には,本件放送権契約に関する契約書案及び「fグループプロジェクト2015(仮)予算について」と題する書面(本件公演を含む平成27年度のfグループ関連プロジェクトに関する予算の概要を示したもの)が添付され,当該書面には,「ライブ中継制作費」として1億4000万円が計上されていた。
上記の決裁は,同月16日に局長まで承認され,当該決裁手続において,担当局長等から何らかの異議が述べられたことはなかった。
(甲4の1,4の2,弁論の全趣旨)
イ 原告は,本件番組の番組制作費が最終的に確定したことから,平成27年7月3日,番組制作に関する制作費を1億8469万2500円及びプロデュース経費を181万円とする社内決裁書を起案の上,決裁を上程した。原告が本件番組の制作費に関する社内決裁を上程したのは,この時が初めてであった。当該決裁に際しては,各制作会社との間の業務委託の見積書等が参考資料として添付され,同決裁は,同月8日,編成局長に承認された。なお,上記決裁書には,「コンサート用映像の共用負担としてe社から4000万円の戻し決定。パッケージ化の場合,素材提供により費用負担を協議中」と記載されていた。(甲6の1,6の2,乙63の1,63の2)
ウ 同年7月25日,本件番組が放映された。本件番組は,同月5日に開催された本件福岡公演の音声映像を主な内容とするものであり,全3時間59分の放映時間のうち1分弱を除き,その余は全て本件福岡公演における音声映像素材が使用されていた。(甲19,乙29)
エ 原告は,同年9月28日,本件放送権契約に基づくe社への1億7000万円の放送権料の支払に関する決裁書を起案し,社内決裁手続に上程した。本件放送権契約では,当初,生中継による本件公演の放送が予定されていたところ,e社側の都合により収録による放送に変更されたことから,原告とe社側との交渉の結果,本件放送権契約に基づく被告からe社への支払金額は,当初の3億円から2億円に減額された。上記決裁は,この2億円の契約金額のうち編成局の所管に係る1億7000万円の予算についての承認を求めるものであった。上記決裁は,同月30日,編成局長の最終承認が得られた。(甲7の1,7の2)
(4)  本件DVDの発売
e社は,平成28年1月6日,本件DVDを発売した。本件DVDの収録時間は3時間4分であり,収録時間の半分以上の部分で,被告に著作権が帰属する本件福岡公演の音声映像素材が使用されていた。(乙9,10,29,82)
(5)  内部監査の経緯
ア 被告の監査部は,平成27年10月頃に実施した内部監査の過程で,同年4月10日から全5回にわたりインターネットで配信されたオンデマンド番組「◎◎」(fグループの新しいアルバムの制作秘話や本件公演の魅力を紹介する番組)における経費の扱いに着目した。当時,被告の常勤役員会も,上記番組や本件番組を含むfグループに関連する一連の放送番組について,高額な費用を要するビッグプロジェクトであることから注視し,関係者にもその旨を伝えていた。このような背景の下,監査部は,上記のオンデマンド番組「◎◎」の番組制作費が通常よりも高額であること,当該番組の制作に金銭的に問題の多いと社内で認識されていた制作会社(株式会社l。以下「l社」という。)が関わっていたことなどから,内部監査を実施した。監査の結果,監査の目的であった関係者に対する財産上の利益供与等の事実は認められなかったものの,高額な制作費や制作会社の面で問題が残っていたことから,監査部は,引き続き上記「◎◎」に関する調査を実施することとし,併せて,平成26年12月から平成27年7月にかけて放送された本件番組を含むfグループに関連する5番組(上記「◎◎」を併せて,以下「fグループ6番組」という。)を対象として調査を実施することとした。(乙3,79,80,103,121,122,124,162,弁論の全趣旨)
イ 監査部による調査の結果,fグループ6番組のうち4番組にl社が起用され,同社への支払総額が多額に上ることが判明した。さらに,平成27年11月頃から約半年間にわたり,監査部がfグループ6番組に関する内部監査を実施したところ,本件各懲戒対象行為を含む多数の問題点が発覚した。(乙46の3,46の4,108,162,弁論の全趣旨)
ウ 監査部は,本件番組を含むfグループの担当プロデューサーであった原告に対し,平成28年4月1日,内部監査で判明した問題点について確認する内容の質問表をメールで送信し,回答を求めた。当該質問表の記載内容は別紙1のとおりであり,本件各懲戒対象行為に関連する質問が含まれていた。原告は,監査部に対し,同年4月8日,当該質問表に対する回答を記載した書面をメールで返信した。当該回答書の記載内容は別紙2のとおりである。(乙40の1・2,42の1・2)
エ 上記ウの原告からの回答を受け,監査部は,原告に対し,平成28年4月20日,原告の回答の一部に関する再度の質問が記載された再質問表をメールで送信した。当該再質問表には,「平成25年の公演では,e社から公演の映像素材利用の対価をきちんと払ってもらっているにもかかわらず,本件公演では,画出し業務の半分のみをもらっているのはなぜか。」,「本件契約書によれば,本件公演の映像素材の著作権及び所有権は被告に帰属するとあり,画出しに関する契約書はない。本件DVDが本件番組とは別物だとしても,一般的には被告の権利が及ぶものである。しかも,福岡ドーム及び東京ドームの各公演の追加カメラは全額被告負担であり,e社は負担していないから,e社には本件DVDで使用する権利はないと思われるがどうか。」等の質問が記載されていた。原告は,監査部に対し,同年5月7日,上記の再質問に対する回答をメールで返信した。(乙43の1・2,44の1・2)
オ 監査部は,内部監査の結果を随時社長や会長に報告していた。(乙46の3,109,127~146〔各枝番を含む。〕)
(6)  第1回賞罰委員会の開催等
ア 被告監査部は,C会長及びA社長に対し,平成28年6月24日,上記(5)の内部監査の結果を踏まえ,「『fグループ関連番組監査』のまとめ」と題する書面を提出した。当該書面には,原告が担当プロデューサーを務めるfグループ6番組中本件番組を含む5番組について,監査で判明した問題点として,①見積書の精査不足,②放送番組と見積書との乖離,③本件公演の画出し業務に関する契約書の不備,④費用対効果の問題,⑤e社によるパッケージ化(本件DVD)の際の問題,⑥事後決裁の点(以下,上記①から⑥を併せて「監査指摘6項目」という。)が指摘されていた。(乙46の3)
イ 同月29日,監査部の発議に基づき,原告に対する懲戒処分案を審議するために,被告会長,社長,専務2名,常務2名,取締役2名及び監査役1名の合計9名で構成される第1回賞罰委員会が設置され,同日開催された(D人事総務局長(以下「D人事総務局長」という。)及びB人事部長(以下「B人事部長」という。)も同席)。当該賞罰委員会に付議された原告の懲戒対象行為は,監査指摘6項目であった。賞罰委員会は,審議の上,原告につきけん責の懲戒処分を相当であると全会一致で決議し,同時に,原告の上司であるa局長及び番組制作の責任者である編成局長についても,原告の決裁の不備を指摘することなく当該決裁を承認したという問題があったことから,監督不行き届きを理由にけん責処分が相当であると全会一致で決議し,社長にその旨を答申した。(乙46の1・2,162)
ウ 上記イの賞罰委員会の答申を踏まえ,同日,B人事部長は原告に対し,賞罰委員会が同日開催され,原告に対するけん責処分の答申がされたことから懲戒が発令される予定である旨を電話で伝えた。これに対し,原告から,懲戒処分に関する具体的な理由を確認したいとの要望があったことから,D人事総務局長及びB人事部長は,同日原告と面談した。D人事総務局長は,原告に対し,第1回賞罰委員会でけん責相当の答申が出たことから懲戒処分がされる予定である旨及び懲戒理由は監査指摘6項目である旨を告げたところ,原告は,収録日前日若しくは番組放送日前日までに決裁を上げ,事後承認を受ければ良いというローカルルールがあったので何ら問題はないとして,懲戒処分に抗議し,懲戒対象行為に関する更なる調査を要求した。(乙162,証人B,原告本人)
(7)  その後の調査及びヒアリングの実施等
ア B人事部長らは,平成28年6月30日,原告と再度面談したところ,原告は,前日と同様にローカルルールの存在等を主張したことから,A社長は,懲戒処分の発令に向けた手続をいったん保留することとし,人事部に対し,原告の主張するローカルルールの有無を含めた追加の調査を指示した。(乙162,証人B)
イ D人事総務局長の後任のE人事総務局長(以下「E人事総務局長」という。)は,同年7月1日,b部長及びa局長に原告の主張する「ローカルルール」の有無についてヒアリングを行ったところ,両名の回答は,収録日前日までに決裁の承認を受けるのが原則であり,収録日前日の起案は認めていない旨,直前決裁は原告の勘違いであるが,番組を放映しないわけにはいかないので,直前に来た決裁の申請を直前すぎるからといって止めることはできない旨の内容であった。(乙162,証人B)
ウ 人事部は,同年7月15日,同月21日及び22日にも原告と面談し,原告の弁明を聴取した。同月22日の面談には,被告訴訟代理人である原正雄弁護士が同席した。また,被告人事部は,e社との間の本件放送権契約に係る契約書,制作会社からの見積書,制作会社への発注書,原告作成に係る決裁書等を確認するなどの追加調査を行った。(甲49,乙147,148,162,証人B)
エ E人事総務局長及びB人事部長は,同年9月21日,原告と面談し,原告に対し懲戒処分の理由を記載した事実確認書(甲9)を交付の上,事実認識や手続に異議があれば,同月27日までに弁明の書面を提出するように告げた。当該事実確認書には,原告の業務執行に関し,関係書類の精査,関係者からのヒアリングを実施した結果確認された事実として,①被告が著作権を有する本件番組に係る映像素材について,社内承認を明確に行わなかったこと,②事前の決裁,事前の契約書の作成なしに,e社から4000万円で本件公演の画出し業務を受託したこと,③本件番組の企画・調達・制作を,事前の見積書入手,事前の決裁,事前の契約書の作成なしに実施したこと,④事前の決裁,事前の発注書なしに,g社に8200万円で本件公演の画出し業務を発注したこと等が記載されていた。これに対し,原告は,上記期限までに弁明の書面を提出する旨を人事部に回答したが,結局提出期限を徒過し,その後約2か月が経過するも弁明の書面を提出しなかった。(甲9,乙47,48,162)
オ 被告人事部は,平成28年11月,原告から聴聞した弁明内容及び第1回賞罰委員会後の追加調査の結果等を踏まえ,原告に対する懲戒処分案を改めて検討した結果,監査指摘6項目のうち本件各懲戒対象行為に該当する3項目を問題として捉えるに至った。本件各懲戒対象行為以外の3項目(見積書の精査不足,放送番組と見積書の乖離,費用対効果の問題)については,不適切ではあるが,懲戒処分の対象とはせず,「マネージメント指導項目」に留めるべきであると判断した。(乙49の2,162,証人B)
(8)  第2回賞罰委員会の開催及び本件懲戒処分の発令等
ア A社長からの諮問を受け,平成28年11月17日,第2回賞罰委員会が開催された。第2回賞罰委員会は,配布された懲戒処分案その他の関係資料,E人事総務局長による説明内容(原告の弁明内容,第1回賞罰委員会後の追加調査の結果等)を踏まえ,本件各懲戒対象行為に基づく懲戒処分の是非と軽重を協議した結果,原告についてけん責の懲戒処分が相当と判断し,社長に答申することを決議し,同時に,a局長と編成局長についても,原告に対する監督不行き届きを理由として,けん責の懲戒処分が相当と判断し,社長に答申することを決議した。また,担当取締役についても社長から厳重注意を行うのが妥当である旨の意見が出された。(乙49の1~49の3)
イ B人事部長は,同日,原告に電話し,けん責処分が相当であるとの答申が出たため,懲戒処分が発令される予定である旨を伝え,処分理由を説明した。B人事部長は,同日午後原告と面談し,改めて第2回賞罰委員会の答申内容を告げ,翌18日に面談したい旨を伝えたものの,原告は,翌日に振替休日を取得するとして,翌日の面談を断った。(乙162,証人B)
ウ 原告は,E人事総務局長に対し,同月18日,懲戒処分理由を確認するメールを送信した。これに対し,同局長は,本件各懲戒対象行為が懲戒理由である旨をメールで回答した。その後,被告人事部は,原告との間で面談日程を調整しようとしたが,原告から回答を得られなかった。(乙52~58)
エ 被告は,同年12月9日,本件懲戒処分を発令した。原告が辞令交付場所に現れず,辞令の受領を拒絶したことから,被告は,原告の自宅宛に本件懲戒処分に係る辞令を郵送した。(甲2,乙4,162)
オ 被告は,同日,「12/9付け懲戒処分について」と題するA社長名義の文書を社内の電子掲示板に掲載した。当該文書には,シニア・エグゼクティブ・プロデューサー(原告の氏名は記載されず)並びにa局長及び編成局長に「けん責」の懲戒処分を行った旨,シニア・エグゼクティブ・プロデューサーという重責にある立場にもかかわらず,費用管理,決裁手続及び権利許諾等をずさんに管理していたことは大きな過失に当たる旨,管理監督責任者及び業務執行責任者であるラインマネージメントが決裁内容の不備を指摘せず承認してきたことは組織上大きな問題である旨,各社員はメディア企業としての社会的責任を改めて認識し,社内規程を遵守すること,各部門の管理責任者には一層の責任を果たすべく業務を適切に管理することを申しつける旨等が記載されていた。(甲10)
(9)  被告における懲戒処分の実施例
ア 被告においては,従業員の決裁手続に不備があった場合等,社内規則に違反する場合であっても懲戒処分を行い,イントラネットを通じてその処分内容と処分理由を社内に周知している。具体的には,平成24年以降に限ってみても,①平成24年11月,被告の承諾なく被告が受託していない業務を行ったとして,技術局長及び同局チーフエンジニアがけん責,制作技術部長が減給の各懲戒処分を受けた例,②同月,車両を利用する際の手続を怠ったとして,営業局長,技術局長及び制作技術部長がけん責の懲戒処分を受けた例,③平成25年9月,私用車利用手続の不備及び不適切な伝票処理により,a局長がけん責,同局b部長が減給の各懲戒処分を受けた例,④平成26年5月,会議費等経費の不適切な処理を見逃していたとして,人事総務局長ほか社内各局の局長らが減給の懲戒処分を受けた例等がある。(乙70の1~70の3,71の1~71の3,154)
イ 原告は,本件懲戒処分以前にも,平成16年8月,チケット転売事件に関連して,けん責の懲戒処分を受けたことがあった。(乙154)
3  本件懲戒処分に係る懲戒理由の存否
(1)  使用者の労働者に対する懲戒は,懲戒をすることができる場合において,当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして無効である(労働契約法15条)。
そこで,まず,本件懲戒処分の処分理由を構成する本件各懲戒対象行為の存否について検討する。
(2)  本件懲戒対象行為1について
ア 上記2(2)イで認定したところによれば,原告は,本件公演における画出し業務をe社から被告に受託させたにもかかわらず,当該業務委託契約に係る社内決裁手続を行わず,被告とe社との間で業務委託契約書等を作成しなかった事実(本件懲戒対象行為1)が認められる。また,本件公演における画出し業務は,公演の主催者たるe社が被告に委託し,被告がg社に再委託したものであり,被告のg社に対する当該画出し業務の再委託費用が7956万3600円であったことからすれば,e社と被告との間の当該画出し業務に係る業務委託費用は,少なくとも上記金額を下らないと認めるのが相当である。
ところで,前提事実(7)のとおり,被告の業務決裁規程は,①決裁は事前承認を受けること(事前決裁の原則)及び②業務決裁書には必要に応じ参考資料を添付することを定め,これを受けて,業務決裁規程運用基準は,①有料放送以外の収入を伴う事業について,100万円以上1億円未満のものは局長決裁が必要である旨及び②業務決裁書には,決裁事項の条件・内容の詳細を具体的に説明する根拠となる資料(見積書,契約書ドラフト等)を添付する旨を定めている。
被告がe社から受託した画出し業務に関する業務委託契約は,「有料放送以外の収入を伴う事業について,100万円以上1億円未満のもの」に該当するから,上記の社内規則上,局長決裁が必要であり,かつ,当該決裁書には,決裁事項の条件・内容の詳細を具体的に説明する契約書ドラフト等の添付が必要となる。それにもかかわらず,原告は,被告とe社との間の当該業務委託契約について,社内決裁手続を全く行わず,契約書も作成しなかったのであるから,被告の社内規則に違反したことが明らかである。
そうすると,本件懲戒対象行為1は,本件就業規則42条2号(会社の規則,通達,通知等を遵守すること)に違反するから,本件就業規則61条1項18号の懲戒事由(41条から50条までの定めに違反したとき)に該当する。
イ これに対し,原告は,①本件公演における画出し業務は,e社に対価を支払って本件公演に係る放送権等の付与を受けた被告自らが行う業務であって,e社から対価の支払を受けて被告が受託する業務ではないから,上記画出し業務について被告がe社との間で業務委託契約を締結することはあり得ない旨,②被告がg社へ委託した「画出し業務」の業務内容には,被告の主張する狭義の画出し業務だけでなく,本件番組の制作に必要な合計23公演の公演映像を収録する業務も含まれているところ,原告は,当該公演映像を収録する業務は本件放送権契約において当然予定され,原告は,これを前提として本件放送権契約に係る社内決裁を得ている旨,③上記②のとおり,被告が自ら行う収録業務にはe社が必要とする狭義の画出し業務も含まれることから,原告は,e社と協議の上,狭義の画出し業務の費用を折半することとし,g社への画出し業務の発注額の約半額である4000万円を映像技術協力費としてe社に負担してもらったのであるから,実質的にみても被告に損失は生じていない旨主張する。
しかし,①については,コンサートの公演会場に設置された大型スクリーンに実演家の映像等を大きく映し出したり,そのための映像を公演会場で収録したりするという意味での画出し業務は,観客に対する顧客サービスや演出効果を高める目的で当該公演の主催者が実施するものであり(乙161,証人B,弁論の全趣旨),本件公演においてもその点に変わりはない(原告も,上記③の主張において,原告のいう狭義の画出し業務をe社が本来行うべきことを自認している。)。そうすると,本件公演における画出し業務は本来被告が自ら行う業務であるとする上記①の主張は,前提を誤るものとして失当といわざるを得ない。
②については,被告とe社との間の本件放送権契約は,被告が本件公演を収録し,本件番組を放送する権利等を取得する対価としてe社に2億円を支払うことを内容とするものであるところ,本件公演の主催者であるe社が本来実施すべき画出し業務についての定めを含むものでないことは,本件放送権契約に係る契約書(乙5)の記載からも明白である。そうすると,本件放送権契約について契約書を作成し社内決裁を得たとしても,本件公演における画出し業務について社内決裁を得たことにならないことが明らかであるから,上記②の主張は採用することができない。
また,③については,確かに,証拠(甲54,乙63の1,63の3,証人B,原告本人)によれば,本件公演における画出し業務については,本件公演の主催者であるe社が被告に発注(業務委託)し,被告がg社に代金約8000万円で再委託しているところ,被告が本件番組の制作上,当該画出し業務で得られた映像素材を必要としていたことから,原告は,e社と協議の上,画出し業務で得られた映像素材をe社と共用することとし,その代わり本来の画出し業務の受託費用約8000万円を折半した4000万円のみを「映像技術協力費」としてe社に請求(画出し業務で得られた映像素材を被告が共用するための費用として約4000万円を被告が負担し,当該金額を控除した残額をe社に請求)する形で処理をしたことが認められる。原告による上記処理は,費用負担の観点からは実質的に被告に損失を生じさせるような内容とはいえず,特段問題があるとはいえないとしても(証人B・43頁参照),社内規則で義務付けられた社内決裁手続を怠り,契約書を作成しなかったことが正当化されるものではない。
かえって,本件では,原告が画出し業務に係る契約書を作成しなかったことに起因して,被告に重大な不利益を生じさせたということができるのである。すなわち,本件では,原告の上記処理により,画出し業務の映像技術協力費としてe社が被告に4000万円を支払うこととされたが,本件公演で被告が収録した映像素材をDVD等のパッケージ化のためにe社に提供する場合には,別途e社に応分の負担額を請求することが予定されていた(このことは,原告が平成27年7月3日付け決裁書に添付した報告書(乙63の3)において,「番組編集データ,映像等をパッケージに提供する場合は,応分の負担額をe社に請求予定」「さらに,福岡ドーム,東京ドーム追加収録分については,パッケージの内容が決定した段階でe社に応分の負担を請求致します」等と記載しているとおりである。)。しかし,e社は,上記4000万円以外の金銭的な負担をすることのないまま,被告に著作権が帰属する本件福岡公演に係る映像素材を利用した本件DVDを発売したのである。この点についてe社は,被告に対する上記4000万円の支払により,画出し業務で撮影した映像及び画出し業務以外で撮影した本件福岡公演等の映像の双方の利用許諾を得たとの認識を示している(乙82)。
このように,被告とe社との間で,本件福岡公演に係る映像素材の使用対価の支払について見解が分かれたのは,原告が画出し業務及びe社からの4000万円の対価の受領について契約書を作成しなかった結果,画出し業務に含まれる業務の範囲及び4000万円の対価の性質が不明確となり,原告とe社の双方がそれぞれに都合の良い解釈をしたことに一つの要因になったものと考えられる。
したがって,上記③の点は,原告が画出し業務に係る契約書の作成や社内決裁を怠ったことを正当化する理由にはなり得ないというべきである。
ウ 以上によれば,原告には本件懲戒対象行為1に該当する事実が認められ,当該行為は本件就業規則61条1項18号の懲戒事由に該当する。
(3)  本件懲戒対象行為2について
ア 上記2(4)で認定したとおり,e社が発売した本件DVDには,被告が著作権を有する本件福岡公演に関する映像素材が使用されていた事実が認められる。
しかし,本件記録を精査しても,被告が著作権を有する上記映像素材について,原告がe社にDVD化を許諾したことを認めるに足りる的確な証拠はない。
イ これに対し,乙第82号証(ヒアリング内容確認書)には,e社の執行役員であるF氏(以下「F氏」という。)から被告が聴取した内容として,①本件公演が始まり,画出し業務が何度も実施された後,本件番組の放送が現実化した平成27年6月頃,原告と画出し費用に関する交渉をしたが,契約書がなく金額も取り決めていなかったので包括的な交渉となったこと,②e社から原告に対し,「DVDを出します」と伝え,原告がこれを受け入れたことから,e社は被告に4000万円を支払うことになったこと,③e社は,被告に対する4000万円の支払で画出し業務の費用負担を完了し,その結果,画出し業務で撮影した映像の原盤権を全て譲り受けたと認識していること,④被告は,e社が原盤権を譲り受けた画出しの映像をe社から譲り受け,番組に使用していることから,被告が画出し業務以外で撮影した映像もお願いしますねということで,e社は被告が画出し業務以外で撮影した映像の原盤権も被告から譲り受けたものであり,e社は画出し業務以外で被告が撮影した映像も使用でき,当該使用料を被告に払う必要はないと認識していること,⑤本件DVDには,画出し業務と同業務以外で撮影した映像の両方を使用しているところ,本件DVDを制作する作業場には原告も来ていたので,原告は映像素材の使用の事実を分かっているはずであること,の各記載がある。
上記①から⑤のうち,原告がe社に本件福岡公演の収録映像(画出し映像以外の映像)を用いてDVD化することを許諾した旨をうかがわせる箇所は,②,④及び⑤である。しかし,②の記載は,DVDの内容については何ら触れていないのであるから,当該記載をもって,原告が画出し映像以外の映像についてもDVD化を許諾していたことの根拠とすることができないことは明らかである。
次に,④の記載は,「被告が画出し業務以外で撮影した映像もお願いしますねということで」という極めてあいまいな表現がされているにすぎず,原告がF氏に対し,いつ,どこで,いかなる文言を用いて本件福岡公演の収録映像の利用を許諾したのかが一切不明であり,かつ,④の内容は飽くまでF氏の個人的な認識を述べたものにすぎないことからすれば,当該聴取内容をもって原告の利用許諾があったと認めることはできない。
さらに,⑤の記載については,当該事実を否定する甲第54号証及び原告本人尋問の結果に照らして,当該記載のみで原告が本件DVDの制作現場に来ていた事実を認めるのはそもそも困難である上,仮に当該事実の存在を前提にしても,原告がe社に対し本件福岡公演の映像素材の利用を許諾したことを推認させるに足る事実であるとはいえない。
以上のとおり,乙第82号証の内容からは,4000万円の負担によりe社が画出し業務による映像素材の利用権限を取得したことまでは認められるものの,これを超えて本件懲戒対象行為2に該当する事実までを認めることはできない。
ウ また,乙第161号証(陳述書)には,B人事部長が,本件公演の映像素材(データ)を実際に管理していたj社のG氏(以下「G氏」という。)から,①j社の担当者は,原告から映像素材をDVD化する旨を伝えられていた,②原告はj社が本件DVDの編集作業を行っていたスタジオに何度か訪れ,DVD編集に立ち会っていた,との話を聞いた旨の記載があり,証人Bの証言中にもこれに沿う部分がある。しかし,上記陳述及び証言内容は,それ自体で原告がe社に対し福岡公演の映像素材の利用を許諾していた事実を直接示すものとはいえない上,飽くまでG氏からの伝聞にすぎず,かつ,乙第161号証は,本件訴訟提起後に,本件懲戒処分に直接関与しているB人事部長により作成された書面であるから,その証明力には限界があるといわざるを得ない。
したがって,乙第161号証の記載内容によっても,本件懲戒対象行為2の存在を認めることはできない。
エ 以上のとおり,原告とe社との間で本件福岡公演の収録映像を含めた本件公演に係る映像素材を共用する旨の協議がされた可能性を完全には排除できないものの,乙第82号証及び乙第161号証をもって原告が本件懲戒対象行為2を行ったと認定するには足りず,ほかに当該事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって,本件懲戒対象行為2に基づく懲戒理由には,理由がない。
(4)  本件懲戒対象行為3について
ア 上記2(2)で認定したとおり,g社,i社,k社等の各制作会社は,原告からの依頼を受け,被告のために,平成27年4月11日から本件公演に係る収録等の業務を順次開始した。ところが,上記各制作会社が被告から委託を受け業務を開始した時点で,原告は,被告と各制作会社との間で委託業務に関する見積書や契約書案を作成せず,かつ,当該業務委託契約に関する社内決裁の申請すらしていなかったものである。原告が上記業務委託契約を含む本件番組の制作費に関する社内決裁を申請したのは,各制作会社が上記業務を開始してから2か月近くが経過した平成27年7月3日であった。原告の上記行為は,本件懲戒対象行為3に該当する。
ところで,上記(2)アで判示したとおり,被告の社内規則は,事前決裁の原則及び決裁における参考資料(見積書,契約書ドラフト等)の添付を義務付けているところ,本件懲戒対象行為3は,上記の社内規則の定めに違反することが明らかである。そして,被告は,イントラネットに前提事実(7)記載の社内規則を掲載し,社内規則を改訂する場合にはイントラネットを通じて全従業員に通知し,各従業員がいつでも閲覧できる状態にしていること(乙69,72,73)に照らすと,原告は上記社内規則の内容を認識し,又は認識し得べき状態にあったと認められる(なお,原告は,平成28年7月22日に弁護士同席の下で実施されたヒアリングにおいて,制作会社に対し事前に発注書を出さなかった理由を問われると,特に理由はない旨を回答している(乙147,148)。)。
したがって,本件懲戒対象行為3は,本件就業規則42条2号(会社の規則,通達,通知等を遵守すること)に違反し,同61条1項18号の懲戒事由に該当する。
イ これに対し,原告は,本件番組の収録・制作業務については,平成27年4月7日起案の決裁書(甲4の1)により,同日16日付けで社内決裁を受けた旨主張する。しかし,甲第4号証の1の「内容」欄には「放送,CM利用,キャラクター契約などの包括契約に関して」との記載,「決裁額 支出」欄(決裁の対象となる金額)には「¥300,000,000」(3億円)との記載,当該3億円の支払先が「e社」,支払内容が「放送権料」との記載があること,当該決裁書への添付資料として本件放送権契約に係る契約書案が添付されていることに照らせば,上記決裁書の決裁対象は飽くまで本件放送権契約であり,本件番組の制作費用の決裁を対象とするものではないことが明らかである。原告は,上記決裁書への添付資料(fグループプロジェクト2015(仮)予算について)に,ライブ中継制作費として1億4000万円の予算の記載があることをもって,当該制作費用も同年4月7日の決裁の対象であったと主張するが,上記判示のとおり,決裁書自体には,本件番組の制作費を対象とする旨の記載が一切ないこと,かえって,「案件ごとの運営費,制作費,実費等は,これまで通り個別に提案し決裁致します」との記載があることに照らせば,原告の上記主張は採用することができない。
なお,原告は,本件懲戒対象行為3につき,社内の決裁手続において不備が指摘されることはなく,当時は問題のない決裁であると認識されていた旨も主張するが,前記認定(2(8)ア)のとおり,原告による上記決裁申請の不備を看過して決裁を承認したこと及び原告に対する監督不行き届きを理由として,担当局長2名も併せてけん責の懲戒処分を受けたのであるから,原告の上記主張は,本件懲戒対象行為3を正当化する理由にはなり得ないというべきである。
ウ また,原告は,被告においては事後決裁が常態化していた旨主張し,その証拠として,甲第31号証を根拠に,平成27年4月1日から同年9月30日までの半年間に決裁の対象となった148番組については,いずれも事後決裁であると主張する。
この点,証拠(乙155,156)及び弁論の全趣旨によれば,甲第31号証に掲載された148番組に関する決裁は118件であるところ,このうち①事前(業務開始前)に決裁を申請し,決裁の承認も得ているケースが62件,②事前に原決裁として実施決裁を経ていたが,その後の事情変更により事後的に第2決裁(修正決裁)を得たケースが23件,③事前に決裁を申請しているが,決裁の承認が事後になったケースが28件,④決裁申請自体が事後であるケースが4件であった事実が認められる。そうすると,上記118件の決裁申請のうち決裁申請自体が事後にされたケース(上記④)は,全体の3%強にすぎず,これをもって事後の決裁申請が常態化していたということはできないから,原告の上記主張は採用することができない。
なお,原告は,第1回賞罰委員会開催後の面談等において,収録日前若しくは番組放送前に決裁を上げ,事後承認を受ければ良いとのローカルルールがある旨を指摘しているところ,上記③の28件は当該ルールに該当しそうである。しかし,今回問題とされている本件懲戒対象行為3は,決裁申請自体が事後(業務開始後)にされた明らかな社内規則違反行為であり(上記④のケースに相当),原告のいう上記ローカルルールにも該当しないから,当該指摘は,本件懲戒対象行為3を正当化する根拠とはなり得ないというべきである。
その他本件記録を精査しても,番組制作を先行させ,制作に関する最終的な支出金額が確定した段階で事後決裁を申請すれば足りるとする運用が被告において広く是認されていたことを認めるに足りる証拠はない。
エ 以上によれば,本件懲戒対象行為3は,本件就業規則61条1項18号の懲戒事由に該当する。
4  本件懲戒処分の相当性
(1)  上記3で判示したとおり,原告には本件懲戒対象行為1及び3に該当する行為が認められ,これらは本件就業規則61条1項18号・42条2号の懲戒事由(社内規則,通達等の不遵守)に該当する。
被告の社内規則が,一定金額以上の番組制作や業務委託契約の締結等について局長決裁等を要求し,当該決裁について事前決裁の原則や参考資料添付の原則を定めている趣旨は,番組制作等に係る業務委託契約その他の契約について,事前に見積書や契約書を作成することにより契約金額を含めた契約内容の適正化を図り,後日の検証を容易にするとともに,当該契約の締結について事前に社内決裁を経ることにより,複数の目で契約内容を事前に検証し,被告が不測の損害を被ることを防止する点にあると解され,当該趣旨は合理的なものといえる。そして,本件懲戒対象行為1及び3は,社内規則の上記趣旨を没却する行為である上,前述したとおり,本件懲戒対象行為1の結果,被告が著作権を有する本件公演の収録映像に関する権利関係がe社との間で不明確となり,被告の明示的な許諾のないままに本件DVDが発売されるという結果を招来したのであるから,原告の責任は決して小さくない。
以上のとおり,本件懲戒対象行為1及び3の態様及び結果に加え,本件懲戒処分が「けん責」であり原告に与える不利益の程度は比較的小さいこと,被告においては,従前から従業員の決裁手続に不備があった場合等には当該従業員及び上司に対するけん責や減給の懲戒処分が実施されており(上記2(9)),本件に限った例外的な対応ではないこと,原告は本件以前にもけん責の懲戒処分を受けたことがあること,本件懲戒処分の発令に当たっては,事前に原告に対する口頭での弁明の聴取及び書面による事実関係の確認が複数回実施される(上記2(5)(7))など,手続の相当性にも欠けるところはないことを併せ考慮すると,本件懲戒処分には相当性が認められるというべきである。
(2)  これに対し,原告は,①被告は,平成28年6月29日に懲戒処分を決定した際に,賞罰委員会において原告に対する告知聴聞の手続を行っていないこと,②被告は,原告に対する告知聴聞を行った根拠として同年7月22日に実施されたヒアリングを挙げるが,当該ヒアリングは本件懲戒処分を決定した同年6月29日以降にされたものであり,本件懲戒処分の理由とはなり得ないことなどを指摘して,本件懲戒処分は適正手続が欠如している旨主張する。
確かに,上記2で認定したとおり,同年6月29日に開催された第1回賞罰委員会では,いったんは原告をけん責処分とするのが相当である旨が決議され,これを受けて,被告の人事担当者が原告に対し懲戒処分が発令される予定を伝えた事実が認められるものの,これは飽くまで懲戒処分の予定を伝えたものにすぎず,これをもって原告に対して正式に懲戒処分を発令したと認めることはできない(第1回賞罰委員会の決議に基づく懲戒処分の辞令も,当然存在しない。)。被告は,その後も原告に対するヒアリングや更なる調査等を実施した上で,同年12月9日付けで本件懲戒処分を発令したものである。
そうすると,同年6月29日に懲戒処分がされたことを前提とする原告の上記①及び②の主張は,前提を誤るものとして採用することができない。
(3)  原告は,被告が恣意的に内部監査手続を本件懲戒処分に利用した旨主張する。しかし,内部監査の過程で発覚した事実を踏まえ,懲戒処分が行われることは何ら不当なことではないから,原告の上記主張は失当であるし,本件全証拠に照らしても,本件懲戒処分が不当な動機や目的に基づくものであることをうかがわせる事実関係は認められない。
なお,原告は,いかなる懲戒対象行為について嫌疑をかけられているかも明らかにされることなく,本件懲戒処分を受けた旨とも主張する。しかし,前記2で認定したとおり,被告人事部は,原告に対し,平成28年6月30日,第1回賞罰委員会の結果を伝えた際,原告の懲戒理由は本件各懲戒対象行為を含む監査指摘6項目であることを伝えている(前記2(6)ウ)上,同年9月27日には,本件各懲戒対象行為を含む原告の業務執行上の問題行為が記載された事実確認書を原告に交付の上,原告の弁明を求めていること(前記2(7)エ)からすれば,原告には懲戒対象行為が明らかにされているということができるから,原告の上記主張には理由がない。
(4)  そうすると,本件懲戒処分は,懲戒権を濫用又はその範囲を逸脱したものとは認められないから,社会通念上相当である。
4  小括
以上によれば,本件懲戒処分は有効であるから,その余の点について判断するまでもなく,原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求は,理由がない。
第4  結論
よって,原告の訴えのうち,本件懲戒処分の無効確認を求める部分は不適法であるから却下し,その余の原告の請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第36部
(裁判官 川淵健司)

 

〈以下省略〉
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